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リリスについて

1 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/08/22(金) 22:47:20.73 ID:U6wisFqT.net
初めてエヴァ見たんですけど
使徒はリリスを求めて?ネルフに攻撃しに来てるんですよね?
それでさっきミサトさんがいざとなったら一緒に自爆するわ
みたいなことを言ってました

最初からリリスを破壊すれば使徒は来ないのでないでしょうか
それともリリスがいないと何か不都合があるのですか?

スレ違いでしたらすいません

2 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/08/23(土) 12:57:18.50 ID:???.net
不都合があります
なぜかはまだ明かされていません

終了

3 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/08/23(土) 13:42:20.28 ID:???.net
人類補完計画にリリスが必要だからじゃなかったっけか

4 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/10/05(日) 08:50:51.41 ID:???.net
破でゼーレが
「我らの望む真のエヴァンゲリオン」の完成+リリスの復活 で契約の時だって言ってたね
そもそも使徒殲滅もリリスとの契約の一環みたいだし、何かあるんだよきっと


えーと、規制で新スレ立てられなかったので
突然ですがこのスレ乗っ取ります
以降「もしもシンジとレイが双子だったら」スレの続きになります
元の>>1さんごめんなさい

 冬月「十年ぶりの対面か…」
 シンジ「!」
  .レイ「……」
 シンジ「レイ…? 君があの…? どうしたんだよ、そのケガ!」
  .レイ「……(すごく痛そう)」

 シンジ「………」

 シンジ「やります。僕が乗ります!」


前スレ
http://maguro.2ch.net/test/read.cgi/eva/1282838725/115-

5 :前スレの概略・1:2014/10/05(日) 08:55:30.86 ID:???.net
 ..ミサト「一人で…ですか?」
 黒服「そうだ。彼の住居は、このさきの第六ブロックになる」
 ..ミサト「…それでいいの、シンジ君?」
 シンジ「よくないです」
 ..ミサト「ほら、やっぱたった一人でなんて…」
 シンジ「レイを引き取ります」
 ..ミサト「は?!」
 シンジ「あんな父親失格の人のそばになんか置いておけません。 妹は僕が面倒みます」
 ..ミサト「ええ?!」


    ミサト「ぷっはぁあ〜っ! くぅうう〜! 朝一番はやっぱコレよねぇ〜」
   .シンジ「…コーヒーじゃ」
    レイ「ないんですか」
    ミサト「…?
       おっ、二人ともおんなじ顔して睨んじゃってー。やっぱり双子なのねん」
シンジ+レイ「「えっ」」

両者、お互いをじーっ

   .シンジ「…、えっと、その…」
     レイ「……」
シンジ+レイ「「…、ごめん」なさい」
シンジ+レイ「「…あっ」」

笑いこけるミサト

6 :前スレ概略・2:2014/10/05(日) 08:56:25.46 ID:???.net
 .アスカ「ヘロゥ? あなたがイカリ・レイね。プロトタイプのパイロ…
     …ッて、なんで同姓?!
     まさか出来てんの?! 何たる非常識、14歳なのにフケツにもほどがあるわッ!」
  .レイ「……」
 シンジ「待ってよ。違うって」
 .アスカ「何よ、弁解できるものならしてみなさいよ!」
 シンジ「あの…妹なんだ。双子の」
 .アスカ「……ふたご…」
  .レイ「そうよ」
 .アスカ「……」
 トウジ「黙ってもうたな」
.ケンスケ「そりゃ、あれだけ大上段で行ったんだし」
 .アスカ「………
     何よ、それこそ非常識! 碇司令の子供だからって、二人揃ってパイロットなんて
     エコヒイキにもほどがあるわ! この、親の七光りコンビがぁっ!!」
 シンジ「ええっ?!」
.ケンスケ「…引っ込みがつかなくなった、と」
 トウジ「ほんま、エヴァのパイロットって、変わり者が選ばれるんちゃうか」

7 :前スレ概略・3:2014/10/05(日) 08:58:22.16 ID:???.net
 加持『へぇ、二人とも、外に遊びに出るタイプじゃないのか』
  .ミサト「そ。だから、休日っても静かなもんよー。ま、当人たちはそれで充分寛いでるようだし、
     他人が口出すような問題でもないしね」
 加持『おいおい。他人ってお前、一応、二人の保護監督者だろ?
     いいのか、そんなんで』
  .ミサト「だからこそ、よ。あの子たち、二人でいるだけで満足みたいだもの。
     いつまでもそれじゃ困るけど、今はまだ、そっとしときたいのよ。実際、割って入れる
     ような雰囲気じゃないし」
 加持『そうか。
     にしても、そんなに双子の結束が堅いんじゃ、家族三人の共同生活にならないんじゃ
     ないのか? シンジ君はイヤフォンで音楽、レイは本、お前だって長電話。…まったく、
     一つ屋根の下だってのに』
  .ミサト「ああ、それなら大丈夫。あの子たち、いくら集中してても…」

 シンジ「…ん」
  .レイ「…あ」
 シンジ「もうこんな時間か。ミサトさん、そろそろご飯の支度始めますけどー?」
  .レイ「私、お風呂入れてくる」

  .ミサト「我に返るのも、二人同時だから」
 加持『…どこまでも双子だなぁ、そういうところは』

8 :前スレ概略・4:2014/10/05(日) 08:59:33.88 ID:???.net
 シンジ「ありがとう、カヲル君。
     …じゃなくて、ごめん。また遅くまで付き合わせちゃって」
 .カヲル「かまわないよ。どうせこの後も再エントリーの予定なんだ」
 シンジ「そうなんだ…大変だね」
 .カヲル「大したことはないよ。さっきの訓練プログラムと似たようなものさ」
 シンジ「でも、すごいよ、カヲル君は。こうやってシミュレータで教わってる僕なんかより、ずっと
     エヴァのことわかってるって感じがする。…だから、あんなに操縦も上手いんだよね?」
 .カヲル「…どうだろうね。所詮、僕のは仮象訓練だから」
 シンジ「そっか…でも、僕も、君みたいになれたらいいのに」
 .カヲル「いや。それは違うよ。僕はまだ、本物のエヴァに乗ったこともないから。既に何度も
     実戦を経験し、使徒に勝っている君とは、比較にならないよ」
 シンジ「そう…かな」
 .カヲル「早く、君の力になれたらいいのだけどね。
     …そうだ、だからという訳じゃないけど、明日は、夕方には全てのテストが終わるんだ。
     その後なら時間が取れると思う。久しぶりに、器楽室にでも行こうか」
 シンジ「! うん。…あの、ありがとう、いつも」
 .カヲル「ううん、僕も楽しみだよ。じゃ、また明日」
 シンジ「うん。明日」

9 :前スレ概略・5:2014/10/05(日) 09:08:22.73 ID:???.net
   碇「私には責務がある。お前の父親でだけいることはできない。…その時間がない。
     お前もそうだ。エヴァに乗り、使徒を倒す。それがお前の責務だ。
     互いの立場を自覚しろ」
 シンジ「…、僕は、いいよ。
     だけどレイは…レイがかわいそうだって思わないの、父さんは?!」
   碇「いや。彼女に同情や憐憫を感じることはない。そう決めている。
     お前はそんなことでレイに関わったのか」
 シンジ「そんなこと、って…!」
   碇「レイを引き取ると決めたのはお前自身だろう。ならばお前がレイに伝えろ。
     お前の責任だ」
 シンジ「…責任って、僕はそんなふうに、…そんなつもりで一緒にいるんじゃ」
   碇「甘えるな。人と関わることは、それ自体が責任と同義だ。その自覚がないなら
     お前がしているのはただの逃避だ」
 シンジ「……」
   碇「背負いきれないなら最初から手を出すんじゃない」


 シンジ「…ッ、お願いがあります!」
   碇「……」
 シンジ「僕に…僕なんかに、構ってるような時間はないって、わかってます。
     …それでも、お願いします。一分で構いません。一度だけ、電話に出てください。
     何も答えてくれなくたっていい。ただ、切らないで、少しの間だけ、聞いていてください。
     それだけです。…どうか、お願いします」
   碇「…一分だな」
 シンジ「!」
 シンジ「……ありがとう、ございます」

10 :前スレ概略・6:2014/10/05(日) 09:10:37.38 ID:???.net
 アスカ「…この前。悪かった、わね」
  レイ「何が?」
 アスカ「頬っぺたよ。思いっきり叩いちゃって」
  レイ「…別に、もう平気」
 アスカ「そ。なら、いいけど。
    …察しついてると思うけど、3号機のこと。
    あんた、命令じゃなくて、自分からテストパイロットを志願したって聞いたけど…
    わかってんの? 歌の発表できなくなるのよ。練習、してたでしょ。
    伴奏弾くはずの馬鹿シンジが残念がるのだって、目に見えてるでしょうが」
  レイ「…わかってる。でも」
 アスカ「最新鋭の3号機に乗って、何もない自分を、せめてエヴァで、変えたいから?」
  レイ「!」
 アスカ「…やっぱりそんなとこか。でも、駄目よ。まるで話が逆だもの。
    あんた言ったわよね。エヴァは、自分の心の鏡なんでしょ。だったらエヴァで自分を
    変えるなんてできっこない。あんたの方がエヴァの鏡になって、よけい空っぽに
    なるだけよ。そんなのお澄まし人形より始末が悪いわ」
  レイ「……」
 アスカ「3号機には、私が乗る。
    これもあんたの言葉を借りるなら、私には、もうちゃんと自分があるんでしょ。
    だったらもう他のエヴァにだって乗れるわ。平気よ、どんな機体だろうが、乗るのは
    この私だもの」
  レイ「…でも、あなたも、お兄ちゃんと」
 アスカ「わかってる、っつーの。
    ま、一応練習もしたし、それなりに楽しかったし…だけど結局、私にはエヴァが最優先。
    それが私。…それに、あんたこそもう、エヴァに頼らなくてもいい頃よ」

11 :前スレ概略・7:2014/10/05(日) 09:17:10.70 ID:???.net
 シンジ「みんな…」
  .レイ「…どうして?」
.ケンスケ「式波の奴、あんな言い方したけどさ。
     要するに『後は頼む』って、言いたかったんだろ。似合わない憎まれ役まで買って出て、
     カッコつけて。そのぐらい、皆もう気がついてるよ」
 トウジ「そら面と向かって言われたときはムカッと来たやろけど、根は素直な連中やし。
     委員長が『一人でも聴きに行く』て言い出したら、みーんなこうやってついて来よったで」

 .ミサト「そうだ、今日のこと。改めて礼を言うわ、アスカ。…ありがとう」
 アスカ『やめてよ。それじゃまるで、私が馬鹿シンジと妹に譲ってあげたみたいじゃない。
    いいの、そーゆうのは。私は私、エヴァに乗りたいから乗るだけ。妹は、馬鹿シンジと
    歌いたいから残る。単純な話よ』
 .ミサト「そうかしら。ちゃーんと皆のことを思いやった上で、自分の身の処しかたを決める。
    アスカは立派だわ」
 アスカ『…何よ、また子供扱いして』
 .ミサト「そうよー。もうちょっとくらい、私たち大人のことも頼りなさい。
    みんなあなたを支えたいんだから」
 アスカ『…そうね、今なら、少しわかる気がする。…ありがと、ミサト』

 シンジ「…松代のミサトさんたちは無理だけど、もう一人、レイの歌を聞いてもらいたい人が
     いるんだ。実は昨日、頼んできた。…ごめん、内緒にしてて」
  .レイ「…! もしかして」
 シンジ「(携帯に)もしもし、…父さん。今から、始めます」

 アスカ「…そっか。私、人を頼っても、いいんだ」

 シンジ「…あれが…目標、ですか」
   碇『そうだ。お前が倒せ』

12 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/10/05(日) 09:19:31.59 ID:???.net
前スレまでのまとめ
 落下使徒戦までだいたい旧作仕様
  ↓
 レリエルっぽい使徒が襲来、機体相互換実験で初号機に乗っていたレイが取り込まれる
 アスカ、シンジ、カヲル、他スタッフ総動員で一大救出作戦、いちど大団円
  ↓
 カヲルがタブハベースに戻される(この辺から新劇寄りにシフト)
  ↓
 北米の4号機消滅、3号機事件へ
 初号機が野辺山で交戦中(零号機は後方援護)


というわけで引っ越し終わり、次レスから続き投下します
連投規制あるので少しだけ

13 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/10/05(日) 09:20:37.20 ID:???.net
 アスカ(……)

青い影に汚染しつくされた3号機エントリープラグ内
うっすらと意識を取り戻すアスカ
自分の肉体の感覚はほとんどない
ザッと外側から割り込むエヴァの知覚
異様な夕景
初号機と零号機の存在がなぜかわかる

 アスカ(…バカ、シンジ…?)

急に視野が鮮明になる
甦る衝撃と大音響
目の前で押さえ込まれた初号機
その首を絞めている、自分のと同じ形象をした両手

  (明瞭な認識:シンジの目の前で使徒にエヴァを乗っ取られている不様な自分)

アスカの意識が空白になり歪められていく

 アスカ「………ああああ」

14 :1/5:2014/10/06(月) 15:50:07.45 ID:???.net
.3号機『……アアアアアアアア』

総身を激しく震わせている3号機
咆哮し、さらに荒々しく初号機に覆いかぶさる
山腹にめり込む機体

 シンジ「!! うッ」
.3号機『アアアアアアアウウウ』
  .レイ『…!』

猛射する零号機
周囲の山肌にも外れた数発が降り注ぐ
屈みこんだままぐるりと振り返る3号機
初号機の手首を押さえつけていた右手が弾け飛ぶように離れ、視界から消える

 シンジ「…?!」

15 :2/5:2014/10/06(月) 15:51:07.51 ID:???.net
3号機『ウゥゥイイイイイイイイイ』

後方で断続的に地面が鳴り、土砂が一直線上に次々と噴き上がる
零号機の側面で弾ける地面
土煙の中から掴みかかる黒い手
いつのまにか長く伸びていた3号機の片腕が零号機のすぐ傍まで達している

  レイ「!! あっ」

唯一動かせる右腕を掴まれ、その場に引き倒される零号機
接触面から青い亀裂が食い入っていく
汚染警報
苦鳴を洩らすレイ

16 :3/5:2014/10/06(月) 15:51:55.31 ID:???.net
 シンジ「レイ…ッ!!」

シンジの意識が沸騰する
解放された片手を無理やり伸ばす初号機
3号機の剥がれかけた胸部装甲を掴み、それを手がかりに3号機の首筋を捉え、引き戻す
ガンッと初号機の上に引き倒される3号機本体
周囲に飛び散る両機の装甲片
死力を振り絞る初号機
痙攣しながら3号機を引き寄せ、零号機を襲っている腕を握り潰す勢いで力を込めていく
鬼の形相のシンジ
青く染まった3号機のエントリープラグがすぐそこに見えている

17 :4/5:2014/10/06(月) 15:52:54.76 ID:???.net
LCLに溶ける涙の熱さ
食いしばった歯の間から凄絶な声を洩らすシンジ

.3号機『…イイイイイイイイイァアアアア』

3号機の声がヒトに近づく
泣き声に聞こえる

.3号機『ンンンンンムムムィイイイイイイナァアアアアア、イイイィ、デエエエエ』
 シンジ「…?!」

はっとなるシンジ
直感的に、その声を理解してしまう
張りつめていた気迫が崩れる

    (イ・ヤ)
    (ミ・ナ・イ・デ)

無惨な表情になるシンジ

 シンジ「…アスカ…!」

18 :5/5:2014/10/06(月) 15:54:13.51 ID:???.net
力を失う初号機
のしかかる3号機
もはや耐えることしかできないシンジ
零号機を襲う腕だけをかろうじて片手で掴み止めている初号機
その手のひらからも青い侵食
苦痛がシンジの意識を蚕食する
視界が暗くなる
突然、ガクンと全ての負荷が消える

 シンジ「…!」

咳き込んで必死に息をするシンジ
暗転したプラグ内
その薄闇の中で、勝手にシステムが再起動していく
かすむ目をみはるシンジ

 シンジ「…なんだ、これ…?!」

19 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/10/09(木) 07:38:42.92 ID:???.net


20 :1/6:2014/10/09(木) 09:11:13.46 ID:???.net
 シンジ『…! 父さん?!
     何だよこれ、何やってるんだよ…?!』

発令所
主モニター横に大きく図示された初号機のシステム模式図
正規システムに重なった“OPPERATION DUMMY SYSTEM”の表示
両手を組み見つめている碇

.オペレータ「ダミープラグ、全システム起動確認」
.オペレータ「初号機の全神経をダミーに直結完了」
  青葉「強制行動修正プロトコルの全種起動を確認。作動正常」
  伊吹「ダミー、プロトコルの一部を拒絶しています。修正範囲内…ですが、強制認識
      コードによる上書きも不安定です」
  日向「ダミーシステムによる予想活動限界まで、およそ208秒」
    碇「構わん。システム開放、攻撃開始」

主モニターの中で初号機が咆哮する

21 :2/6:2014/10/09(木) 09:12:21.87 ID:???.net
咆哮する初号機
先に倍する力で3号機に抗い、敵の重みに逆らって上体を起こしていく
日没の赤い光の中で立ち上がっていく二機の影
苦痛に耐えながら見つめるレイ

  レイ「?! あ…!」

突然、激しい衝撃が右肩を灼く
悲鳴をあげるレイ
強制パージされた右腕が3号機の手もろとも地面に落下する
が、既に3号機に侵食を続ける余力は残っていない
3号機の腕が黒蛇のようにうごめいて本体へ跳ね戻り、初号機を迎え撃とうとする
そのまま倒れ伏す零号機
警告表示に埋めつくされたプラグ
痛む肩を押さえ、必死に初号機の方を見ようとするレイ
影絵になった戦闘

  レイ「…お兄、ちゃん」

22 :3/6:2014/10/09(木) 09:14:39.47 ID:???.net
  伊吹「…零号機、中破! パイロットが危険な状態です」
  日向「目標、零号機への侵食を停止。右腕を回収」
.オペレータ「零号機へ救護班向かいます」

発令所
主モニターいっぱいに映し出された初号機の映像
襲いかかる3号機を最小の機動でかわし、機械の精確さで行動の自由を奪っていく
人体にはおよそ不可能な急制動、急転回、瞬間的に切り替わる格闘動作
その挙動はまるで精巧な巨大ロボットに見える
圧倒されているスタッフたち

.オペレータ「ダミーシステム、活性上昇。さらにゲインが上がります!」
.オペレータ「監視システムの一部が動作を停止。再起動受け付けません」
.オペレータ「制御リミッターが外されていきます!」
  青葉「ダミー、動作プロトコルを逸脱し始めています。既に8%がモニター不能」
.オペレータ「補助抑制システム、一部が反応なし。予備も作動しません」
    碇「構わん。このまま続けろ」

見守るほかない人々

  伊吹「これが、ダミーシステムの力なの。
     だけどこれじゃ…これじゃまるで、…人が、人がいないわ」

23 :4/6:2014/10/09(木) 09:16:08.76 ID:???.net
見ているほかないシンジ
コントロールは奪われているが、かすかに機体からのフィードバックが伝わってくる
揺さぶられるプラグの感じと合わせて懸命に状況を知ろうとするシンジ

 シンジ(ダミー…システム…?
     何だよそれ、何でそんなものエヴァに、…いや、そんなことじゃない。そうじゃない、
     …この動き方、まるで)

3号機を手負いの動物のように扱う初号機
一動作でプログナイフを抜き、突進する3号機をかわしざま一閃させ、えぐる
ろくに組み合う間もなく3号機の腕が血を噴いて宙に舞う
返り血も浴びずに次の攻撃に移る初号機
速く圧倒的な機動だがどこかぎこちない
本来は滑らかだっただろう動作が、途中から分断されて不自然に継ぎ合わされている
それでも元の端正な動きは窺える
震え出しているシンジ

   カヲル(…ね。わかるだろう、機体との協調なんだ)

24 :5/6:2014/10/09(木) 09:17:54.68 ID:???.net
   シンジ(すごい…! エヴァって、こんな風に動けるんだ)
   カヲル(だけど所詮、僕のは仮象訓練。システム上のシミュレーションだから)
   カヲル(君の訓練プログラムと似たようなものだよ)

強い嫌悪に顔を歪めるシンジ

 シンジ(そうか…
     データ、なんだ。生の操作じゃない。だから違和感があるんだ)
 シンジ(でも、カヲル君の動かし方だ。操縦の記録、…機械に蓄積した操縦データを、
     切り刻んで、勝手につぎはぎして、操縦用のプログラムに作り変えてあるんだ。
     エヴァを外からでも動かせるように。パイロットがいなくても)
 シンジ(言うことを聞かない僕が、いなくても)
 シンジ(…?)
 シンジ(…違う、それだけじゃない)
 シンジ(何か…おかしい、…機械の動きだけじゃない)

本能的に周囲を見回すシンジ
システム出力の異常がしだいに加速されていく
ノイズの混じり始めるプラグ内モニタ

 シンジ「…なんだ…? なんだよこれ…?!」

25 :6/6:2014/10/09(木) 09:24:52.97 ID:???.net
しだいに緊迫する発令所

.オペレータ「ダミー、さらに修正プロトコル拒絶。緊急抑制システム、応答しません!」
  冬月「直結回路を開け。強制的に割り込みをかけろ!」
.オペレータ「…制御信号、拒否されました!」
.オペレータ「全監視システムの八割が動作停止。ダミーに妨害されています」
  青葉「まずいな。今のところは、強制認識コードで無理やり上書きできてるけど…」
  日向「…こりゃ、手に負えないぞ」
  冬月「いかんな…予想より早すぎる。碇、いいのか。このままでは暴走しかねんぞ」
    碇「……」
  冬月「碇…?!」

両手を組んだまま、画面の初号機だけを見つめている碇


>>19 ありがとうございます、精々がんばります

ということで
前スレのカヲルのネルフ本部滞在の理由は
ダミー補助システム構築のためのエヴァの仮想データ取得でした、としておきます
これでシミュレータ漬けだった理由にも学校行ってなかった理由にもなるかなーと(あとづけ)

26 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/10/09(木) 13:57:11.14 ID:???.net
分かりやすい設定だね

27 :1/7:2014/10/10(金) 09:00:05.46 ID:???.net
>>26 ありがとうございます



  しんじあうよろこびを たいせつにしよう
  きょうのひは さようなら
  また あう ひまで

赤い光に覆われていくプラグ
ノイズの増殖するモニター内で加速度的に残虐さを増していく戦闘
行動プロトコルを大幅に逸脱しだしている初号機
移植された動作と内部からの力の衝動がせめぎあい、機体が脈打つように震える
プラグ深部で何かが砕け散る音
引き裂かれるプロトコル
カヲルの残していった操縦動作が獣の凶暴さに塗り潰されていく
真っ赤なノイズが次々とプラグの奥の闇から流出し、焦るシンジの視界を奪う
必死に外を見ようとするシンジ
理性なく屠殺し合う二つのエヴァ
アスカとカヲルの二人ともが目の前で解体される恐怖に襲われるシンジ
逃げ場を求めるようにせわしなく視線が飛ぶ
赤いノイズの隙間から覗く血の光景
めちゃくちゃにかぶりを振って叫ぶシンジ

 シンジ「父さん、やめてよ! もうやめてよ…、嫌だ、こんなのは嫌だ…!!」

28 :2/7:2014/10/10(金) 09:02:34.57 ID:???.net
落日の光
血の帯を曳いてばらばらに地面に横たわっている3号機の三本の腕
次の交錯で膝を断たれ、脚を折られ、土砂をあげて山裾に突っ込む3号機
追い込まれた獣のように頭をもたげる
ヒトの形を模した最後の腕が震えながら身体を支えている
正面によろめき立つ初号機
既にナイフも捨て、挙動からは機械らしさ、そしてヒトらしさがほぼ失われつつある
一瞬身を沈め、生々しい獰猛さで3号機に襲いかかる
激しい衝撃と飛散する赤い破片
山腹に沈む両機
長く血しぶきを撒いて山麓の町に落下する3号機の最後の腕
頸部を砕かれ、血だまりの海で活動停止する3号機
止まらない初号機
全ての抑制を振り払うように両手を、歯を突き立て、装甲もろとも引きちぎり始める

29 :3/7:2014/10/10(金) 09:05:28.02 ID:???.net
恐慌寸前の緊張に覆われた発令所
主モニターから背けた顔を両手で覆っている伊吹

.オペレータ「ダミー、なおも自律状態を維持」
.オペレータ「目標、四肢全てを喪失。胴部中断。腰部破砕。脊椎露出。ほぼ活動不能」
.オペレータ「目標コアの位置を確認。反応は未だ健在」
.オペレータ「初号機は攻撃を続行中。ダミー、さらにシステム活性上昇」
  日向「ダミー、活動限界まで42秒…、しかし」
  青葉「まずいです、直接コマンドも緊急コードも認識しなくなってきています」
  冬月「…いかん、中止だ。システムを強制停止しろ」
  日向「はい!」
    碇「やめろ。必要ない」
  日向「えっ…?!」
  冬月「しかし碇、目標はもう」
    碇「止める必要はない。まだ目標のコアを破壊していない」
  冬月「碇…」
    碇「聞こえなかったのか。システムに問題はない。このまま続けろ」

30 :4/7:2014/10/10(金) 09:07:36.83 ID:???.net
高速で噴き出す真っ赤なノイズに塞がれたエントリープラグ
もはや外の様子は見えない
打ち続くプラグの振動と微細なフィードバックのみが、今行われている暴虐を伝える
顔を伏せているシンジ
動かない両手

 シンジ「…やめてよ」

食いしばった歯の隙間から声が洩れる

 シンジ「父さん、やめてよ。お願いだから…お願いだからもう、やめてよ」

さらに密度を増すノイズ
両こぶしを握りしめるシンジ

 シンジ「もうやめてよ! こんなのッ、こんなのやめてよ!!」

涙声

 シンジ「なんだよ…何なんだよこれ…
     …止まれよ…止まれ、止まれ、止まれ止まれ、止まれ、止まれぇっ!!」

反応しない機体
プラグの上方で、何か硬いものが両側から挟まれて軋む音
はっと顔を上げるシンジ
瞬間、理解する

 シンジ「…!! やめろぉおおおおおおッ!!」

31 :5/7:2014/10/10(金) 09:08:54.30 ID:???.net
空一面の残照
骨まで解体された3号機
湯気をあげる血と肉骸のただなかで、えぐり出したエントリープラグを噛み砕く初号機
ダミーシステムが活動限界に達し停止する

32 :6/7:2014/10/10(金) 09:12:17.30 ID:???.net
  レイ「……」

全てを目撃したレイ
強く自分の身体を抱きしめている
震えが止まらない

  レイ「……」

どれだけ強く両腕を掴んでもわななき続ける両手
シンジの受けた衝撃の全てをじかに体感しているレイ
涙も流せずきつく目を閉じる
無力な操縦席で小さく背筋を丸め、うなだれる

  レイ「……」

静止した戦場
山々に宵闇が降りていく

33 :7/7:2014/10/10(金) 09:17:21.62 ID:???.net
 ..ミサト(……生きてる)

松代
真っ暗なクレーターと化した実験場跡
周囲で続く生存者捜索と救助活動の気配
目を開けるミサト
傍らに加持

 加持「…良かったな、葛城」
  .ミサト「私…、! リツコは…?」
 加持「心配ない。君より軽傷だ」
  .ミサト「そう…、…!」

力なく両目を見開くミサト

  .ミサト「アスカ…は、…エヴァ、3号機は」
 加持「…使徒、として処理された。エヴァ初号機に。
     制圧には、ダミーシステムが使われたそうだ」

言葉を失うミサト
加持から目を逸らす

  .ミサト「…私」

黙っている加持

  .ミサト「私、シンジ君に、何も…、何も、話してあげられ、なかった…」

34 :1/4:2014/10/13(月) 10:10:13.78 ID:???.net
ネルフ本部ケイジ
あわただしく人々が行きかう
修復棟に移されるまで仮に運び込まれている零号機
排出されたプラグから助け出されたレイ
医療チームの移動ベッドに横になって応急処置を受けている
顔を上げる
同じくケイジ内に仮固定されている初号機
ひとまず機体の洗浄にかかる整備スタッフたち
看護師に制されながらも、半身を起こして懸命に初号機を見つめるレイ
洗い流されてかえって鼻をつく3号機の血の臭い
ふいに別の臭いが立つ
厳重に封装された細長い物体が搬入されてくる
中身を察して声を抑えるレイ
沈黙していた初号機外部スピーカーからシンジの声

 シンジ『…待ってください!
     それ、…エントリープラグなんじゃないですか、3号機の』

35 :2/4:2014/10/13(月) 10:11:21.89 ID:???.net
不安げに見送る整備員たちをよそに、無言でどこかへ運搬されていく荷物
必死に言いつのるシンジ

 シンジ『待ってください、アスカは、アスカは無事なんですか?!
     …待ってよ、せめて、…生きてるかどうかくらい、…ッそうだ、父さん、父さんなら
     もうわかるんでしょう?! ねえ、教えてよ、アスカは?! …』

涙まじりのシンジの叫び
応答はない
隔離防護施設の方向へ速やかに運び去られる荷物

 シンジ『待ってよっ! 待って、…アスカ、アスカッ!! アスカ…』

見えなくなる荷物
シンジの嗚咽
無意識に乗り出していたレイの上体から力が抜ける

36 :3/4:2014/10/13(月) 10:12:50.45 ID:???.net
看護師の手でベッドに横たえられ、医療棟へ運ばれていくレイ
何もできずに目を閉じる

  レイ(…身体…違う、心が、痛い)
  レイ(痛くて、つらくて、…そう、私のだけじゃ、ない。これは)
  レイ(…お兄ちゃん)
  レイ(…?)
  レイ(お兄ちゃん…? …待って、…)
  レイ(…だめ)

両目を見開くレイ

  レイ「だめ…!」

驚いて立ち止まる看護師たち
ケイジの方向からにわかにざわめきが消える

37 :4/4:2014/10/13(月) 10:13:54.70 ID:???.net
投光機に照らされたネルフ本部施設の夜景
ピラミッド形の側壁に陥没した登攀痕を残し頂上に足をかけている初号機
付近に火災の煙

 シンジ『…父さん、答えてよ』
 シンジ『どうして、こんなひどいことできるんだよ…
     レイのこと、…少しは気にしてくれたと思ったのに、…なんでなんだよ!
     父さんは、僕らのことなんかどうでもいいの?!』
 シンジ『母さんの墓参りに来てくれたじゃないか。僕からの電話に、出てくれたじゃないか!
     なのに…なのに、どうして!!』
 シンジ『レイも、アスカも、カヲル君も僕も、父さんにはただの道具なの?!』
 シンジ『言う通りにエヴァに乗ってればそれでいい、怪我してもつらくても、嫌な思いばかりでも、
     …死んだって、どうでもいいの…?』

初号機に映る火災の照り返し

 シンジ『…それでも、…、いいさ。
     だけど、僕はエヴァに、この初号機に乗れる。
     父さんがそうしたんだ。捨てた僕をここに呼んでまで。
     だからこんな真似だってできる。してやるさ。僕にはできるんだ』

同じ炎の明滅に浮かび上がる本部施設

 シンジ『…父さんッ!』
 シンジ『黙ってないで何か言ってよ。…答えてよ!!』

ふいに初号機の全身から力が抜け、活動停止してピラミッドを滑落する
下方で水柱
機体回収と消火活動が引き続く

38 :1/8:2014/10/14(火) 09:46:04.65 ID:???.net
近づいて遠ざかる踏切の遮断音
夕陽にかすむ車窓
低い振動をたてて揺れる旧型の列車内
一人腰かけているシンジ
向かい側の座席にレイの姿

  .レイ「…お兄ちゃん」
 シンジ「ん?」
  .レイ「いつもそれ、聴いてるのね」
 シンジ「…うん」

イヤフォンを外してSDATを眺めるシンジ

 シンジ「…これ、父さんが昔使っていたものだったんだ。先生のところに残ってたのを
     僕がもらった。父さんにはもう要らなくなったものだっていうから。
     レイが持ってる、父さんの古い眼鏡と同じだよ」
  .レイ「…私と、同じ?」
 シンジ「ううん」

凍えたような笑みを浮かべるシンジ

39 :2/8:2014/10/14(火) 09:46:45.67 ID:???.net
 シンジ「僕と、同じだよ。
     僕はエヴァに乗るからここにいられたんだ。でも、ダミーがあればもう僕は要らない。
     命令を聞かない僕なんか父さんには要らない。捨てたって構わないものなんだ」
  .レイ「…私だって、何もできなかった。エヴァに乗っていたのに」
 シンジ「そんなことないさ」
  .レイ「お兄ちゃんの声が聞こえてたのに、何もしなかった」
 シンジ「違うよ。レイは父さんの命令に従っただけだ」

レイの前に立つシンジ
夕陽に照らされた表情
片手に、丁寧にイヤフォンのコードをまとめたSDAT

 シンジ「これで耳をふさいでると、父さんが僕を守ってくれる気がしてた。…使徒が襲ってきて、
     エヴァに乗らなきゃいけなくて、他人の目が気になってばかりで…そういう不安なこと
     全部から。これがあるから、僕はここでもやっていける気がしてた。
     …でも、最初からそんな訳なかったんだ。僕の勝手な思い込みだった」

影になったレイの顔

40 :3/8:2014/10/14(火) 09:47:42.33 ID:???.net
 シンジ「これ、良かったら、レイに持っててほしいんだ」

SDATを差し出すシンジの手

 シンジ「レイはこれからも父さんの傍にいて、父さんの言うことを聞いて生きてく。
     だったらこれは、レイが持ってる方が、いいからね」

かすかに顔を上げたらしいレイの動き

  .レイ「…お兄ちゃんは?」
 シンジ「僕…?」
  .レイ「これを捨てて、…それからお兄ちゃんは、どうするの」
 シンジ「…捨てるわけじゃない。僕は」

もう一度力なく笑うシンジ

 シンジ「僕はもう、何も欲しくないんだ。
     僕自身からも。外の世界からも。もう、何も、願いたくない」

膝に置かれたレイの手のひらの上のSDAT
激しく窓外を通過する橋梁の鉄骨群

41 :4/8:2014/10/14(火) 09:49:47.48 ID:???.net
  レイ(……お兄ちゃん…?)

目を開くレイ
本部医療棟の病室
身動きして痛みに顔をしかめるレイ
そのまま力を抜く
白い天井

   シンジ(レイ)
   シンジ(助けなきゃ、アスカを)
   シンジ(約束したろ、アスカは僕たちで助けるって)

    アスカ(…あーあ、ほんっとにウルワシイ兄妹仲でいらっしゃることでー。
       何よ、それじゃあ私のことは誰も守ってくれないわけ。わかってるわよ、
       せいぜい自力で生き残ればーってことでしょ。ばか)

42 :5/8:2014/10/14(火) 09:50:33.24 ID:???.net
   シンジ(…、違うよ)
    アスカ(ん?)
   シンジ(アスカは僕たちで守る。どこまでやれるかわからないけど、でも、絶対守るから)
     レイ(うん。私も)
    アスカ(何言ってんのよ、…やっぱり二人揃って、馬ぁー鹿なんだから)

天井を見つめているレイ
点滴の管の中を薬液が滴る音

  レイ(…約束)
  レイ(…私、守れなかった。…あの子のことも。…お兄ちゃんとした約束も)

   シンジ(レイ、こんなの駄目だ、助けなきゃ…アスカを、見殺しになんてできないよ)
     レイ(わかってる、だけど私も、お兄ちゃんを見殺しにはできない)

  レイ(……私、何を、守ってたつもりだったの)

力なくまぶたを閉じるレイ

43 :6/8:2014/10/14(火) 09:54:12.93 ID:???.net
病室の扉が開き、包帯姿のミサトが入室してくる
既に全て知っている表情
見つめるレイ
どこか無理をしている顔で、優しく微笑むミサト

 .ミサト「…怪我の具合、どう? レイ」
  レイ「…平気、です」
 .ミサト「そう。…良かった。でも、入院、初めてじゃないからって、無理しちゃ駄目よ」
  レイ「…はい」

視線を動かすレイ
包帯されて肩から吊られたミサトの右腕

  レイ「…ミサトさん、も。…怪我、無理、しないで」

息を洩らすように少しだけ笑うミサト

 .ミサト「ん。ありがと」

点滴の音

 .ミサト「…そうだ」

何かを取り出すミサト
小さく目をみはるレイ

44 :7/8:2014/10/14(火) 09:55:37.57 ID:???.net
ミサトの手のひらの上に載せられたシンジのSDAT

 .ミサト「これを預かってきたの。レイに渡してくれ、って」

見上げるレイ
既に痛みを負った目をしたミサト

 .ミサト「今日、シンジ君はこの街を離れるわ。
    …もうエヴァには乗らない。ここにも留まりたくない。碇司令に直接、そう言ったそうよ」

目を伏せるレイ
見守るミサトの息遣いがしずまり、再び揺らぐ

 .ミサト「引き止めるつもり、ないのね…レイ」

45 :8/8:2014/10/14(火) 09:57:25.58 ID:???.net
 .ミサト「どうして…?
    今…シンジ君に何か伝えられるとしたら、あなただけなのよ。
    そう思うの…あなただってつらい思いをしてることはわかってる、だけど」
  レイ「…いいえ」

傷ついたように身を引くミサト
目を伏せるレイ

  レイ「ごめん、なさい。…だけど、…もう、できません。私」
 .ミサト「レイ…」
  レイ「……
    エヴァに乗ることの、ほかには、…何も」
  レイ(…そう、…何も)
  レイ(…なくなって、しまったのね)
  レイ(……)

ただ宙を見つめているレイ
何もかも漂白されて透きとおってしまいそうな眼差
上掛けの上に置かれたSDAT
ほんのわずかだけ添えられているレイの手
何も言えないミサト
沈黙に覆われる病室

46 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/10/14(火) 22:42:13.50 ID:???.net
シンジにとってレイ>>>>>>>越えられない壁>>>>>>>赤猿
レイにとってシンジ>>>>>>越えられない壁>>>>>>>赤猿
結局のところ赤猿はギャーギャーうるさい当て馬ピエロ以外役割無い必要なしの邪魔者なんだし
めんどくさいからはやく二人で殺っちゃう展開の方が良かったのに

47 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/10/14(火) 23:48:01.88 ID:???.net
ここにも頭のおかしい人が来たか

>>46
前も注意したけどそんなこと言ってるとカヲルとくっつく展開にされても知らんぞ

48 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/10/14(火) 23:50:11.40 ID:???.net
基地外に構うなよ

49 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/10/15(水) 01:37:46.52 ID:???.net
>>45
乙です

50 :1/3:2014/10/15(水) 09:58:21.33 ID:???.net
壱中 昼休み
浮かない顔で携帯を切るケンスケ

 トウジ「駄目やったか」
.ケンスケ「ああ」

自席で脱力しているトウジとケンスケ
視線の先には空席のままのシンジの机

.ケンスケ「…野辺山の戦闘で、何が起きたのかもわからない。
     式波と碇妹はずっと休み。シンジは連絡もつかないうちに、いきなり今日付けで転校」

腕組みして天井を仰いでいるトウジ

.ケンスケ「…結局、俺たちにはなーんにも知らされないまま、か。これで全部、終わりなんだ」
 トウジ「終わってへんやろ」

目をやるケンスケ

51 :2/3:2014/10/15(水) 09:59:42.82 ID:???.net
教室の向こう側に級友と一緒にいるヒカリの姿
痛々しいほど表情に力がない

.ケンスケ「…俺たちには終わってなくてもさ。大人たちはもう、終わらせた気になってるんだろ
     ってことだよ。
     何も教えちゃくれない。聞いてもくれない。俺たちにも言いたいことがあるなんて、
     最初っから思っちゃいないんだ」
 トウジ「だからってワシらが素直に従わなあかんて話やないやろ」
.ケンスケ「わかってるよ。けどさ」

一瞬ひどく暗い表情をするケンスケ

.ケンスケ「肝心のシンジがいないんじゃ、もう俺たちにできることはないだろ」

席を蹴って立ち上がるトウジ
びくりとするケンスケ

52 :3/3:2014/10/15(水) 10:00:56.90 ID:???.net
思いがけないほど強いトウジの視線

.ケンスケ「あっ…」

顔じゅうに憤りをあらわにしているトウジ
が、睨んでも仕方ないことも初めから承知している
目を逸らすトウジ
再び椅子に腰を落とす

.ケンスケ「…悪い」
 トウジ「…お前が悪いんやない。けど…くそッ!」

机にこぶしを落とすトウジ
鈍い痛みの音
水を打ったようになる教室
注意しないヒカリ
他の皆も嫌な顔をしない
それぞれに喪失を抱えたまま、これまで通りの日常に戻ろうとする生徒たち

53 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/10/15(水) 18:14:12.99 ID:???.net
ああ・・・

54 :1/3:2014/10/15(水) 20:06:41.49 ID:???.net
本部発令所
いつもの席にいる青葉と日向
沈痛な面持ちで近づいてくる伊吹

 日向「あ、マヤちゃん」
 青葉「どうだった? …その」
 伊吹「うん…」

自席に座る伊吹
椅子ごと傍に寄る青葉と日向
顔を合わせて溜息をつく三人

 伊吹「細胞の侵食痕は、きれいに消えてるんだけど…やっぱり精神汚染の
     恐れは否定できないって、先輩が」
 青葉「そうか…」

55 :2/3:2014/10/15(水) 20:07:33.66 ID:???.net
 日向「じゃ、現状のまま、意識も回復させず、隔離施設内からも動かさず…
     ってことか?」
 伊吹「そうなるでしょうね…
     むしろ、今のままの方が、まだ救いがあるかもしれない…」
 青葉「ああ。…検体に回されたり、『処置』されないだけ、マシかもな」
 日向「おい…! …あ、いや」
 青葉「いいさ。すまん。…わかってるんだけどな」
 伊吹「…、ねえ、シンジ君のことは?
     本当に、行かせちゃうのかしら」
 青葉「本人の意思だからな。けど、レイも引き止めなかったっていうのは…」
 日向「ホントだよ。…葛城さん、参ってる。表には出さないけど」
 伊吹「そうよね…」
 日向「あの二人、結局顔も合わせてないんだ。作戦以来、一度もさ」
 青葉「そうなる…か」
 伊吹「え…じゃあ、そのまま…?」

56 :3/3:2014/10/15(水) 20:09:35.19 ID:???.net
 日向「ああ。
     葛城さん、別々には面会したんだが、レイもシンジ君も、お互いのことは
     自分からは一切口にしないそうだ。訊かれれば答えはするけど」
 伊吹「そんな…だって、あんなに仲がよかったのに」
 青葉「今まで通り、言わなくても通じ合ってるんならいいが…」
 伊吹「! そうよ、…双子、だもの」
 日向「そう信じたいよ。でもさ…あのシンジ君が、黙って出ていくんだ。
     もう、誰かと繋がってる余裕もないんだろう。レイがまた何もしない、言わなく
     なったっていうのは、恐らくそういうことだ。…残念だよ。すごく」
 伊吹「……」
 青葉「とにかく、これでまた、パイロットはレイ一人きりだ」
 日向「振り出しに戻る…かな」
 伊吹「…振り出しより、悪いわ、…ずっと」

黙り込む三人

57 :追加:2014/10/15(水) 20:10:32.97 ID:???.net
足し忘れ

>>53 すみません

58 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/10/15(水) 20:15:15.48 ID:???.net
幸福の科学の声優

子安武人 小清水亜美 吉野裕行 白石涼子 三石琴乃 置鮎龍太郎
掛川裕彦 伊藤美紀 安元洋貴 銀河万丈 千葉繁 三木眞一郎
真山亜子 西村知道 島本須美 柳井久代 青山桐子 大本眞基子
雪野五月

原作・原案:大川隆法『仏陀再誕』
企画・脚本:大川宏洋
監督:石山タカ明
音楽:水澤有一
キャラクターデザイン:佐藤陵、須田正己
美術監督:佐藤勝
編集:古川雅士
音響監督:宇井孝司
VFXクリエイティブ・ディレィター:粟屋友美子
VFXスーパーバイザー:オリバー・ホッツ
アニメーション・プロデューサー:藤田健
アニメーション制作:グループ・タック
配給:東映
制作:幸福の科学出版

59 :1/4:2014/10/15(水) 22:40:33.58 ID:???.net
葛城家
薄暗い無人の室内
玄関で荷物を手に靴をはくシンジ
背後に佇むミサト
差し出した手にシンジの携帯

  ミサト「これ…鈴原君と相田君から、何度も連絡が入ってたわ。心配してるのよ」
 シンジ「…もう置いていったものです。処分してください」
  ミサト「……」

立ち上がるシンジ

  ミサト「レイの容態も、…保護されたアスカがどうなってるのかも、訊かないのね」

答えないシンジ
廊下の奥から小さく呼びかけるペンペン
何度もためらってから再び口を開くミサト

60 :2/4:2014/10/15(水) 22:41:50.37 ID:???.net
  ミサト「シンジ君、私たちは…
     エヴァに乗るあなたに、自分たちの夢、希望、願いを重ねていたわ。それがあなたの
     重荷になってたことも知ってる。あなたが今、エヴァに乗る理由に失望してしまったことも。
     だけど、それでも私たちは、…私は、あなたに未来を見ていたの」
 シンジ「…勝手な言い分ですよね」

初めて振り返るシンジ
自己嫌悪と憤りの軋むような笑顔

 シンジ「でも、僕はもっと勝手だ。
     前はミサトさんたちのことずるいって思ってました。僕らパイロットだけ危ない目に
     遭わせて、自分たちは、地下の安全なところから命令してるだけだって。
     だけど、違ったんですよ。
     僕は、エヴァに乗ってる自分だけが、怖い思いをしてると思ってた。それが一番
     思い上がったことだって、少しも気づかずに」

見つめ返すミサト

61 :3/4:2014/10/15(水) 22:43:46.18 ID:???.net
 シンジ「エヴァの中は、どこよりも安全だったのに。
     自分一人は、武器や、装甲や、街の支援設備や、エヴァのATフィールドで
     何重にも守られてたくせに…戦ってる自分だけがつらいんだって、思い込んで。
     戦いに巻き込まれて怪我した人や、住むところを失った人たちのことも考えずに。
     考えたって深く知ろうとはしなかった。それだって自分が怖いからだ。…だからトウジに
     だって殴られた。あれで当たり前だったんだ。
     …何も見ない、何も知らないふりしたまま、取り返しのつかないことだってやってしまう。
     この前、僕が壊した本部施設の中にだって、人がいたんだ」

悲しい目をしているミサト

 シンジ「今だって…こんな時になってまで、自分のことしか考えてない。
     嫌なことから逃げ出すことしか頭にないんだ。それだって自分でわかってるのに…
     …もう、嫌なんですよ」

足元を睨んでいるシンジ

62 :4/4:2014/10/15(水) 22:50:09.50 ID:???.net
 シンジ「…僕はここにいられません。いたくありません。これ以上守られるなんてできません。
     僕にそんな価値なんてなかった。最初から、ここに来ない方がよかったんだ…!」

精一杯押し殺した声で吐き捨てるシンジ
目を伏せるミサト
沈黙
ふいに顔を上げる
毅然とした表情のミサト

  ミサト「シンジ君。…最後に少しだけ、付き合って」

黙っているシンジの手を、ミサトの手が強く掴む

63 :1/9:2014/10/18(土) 12:23:11.13 ID:???.net
ネルフ本部施設大深度地下
闇の中をどこまでも下降していくエレベータ
階数表示が『EEE』に変わる

  ミサト「私たちが、ターミナルドグマ最深部、レベルEEEへの使徒侵入を許すと…
     ここは自動的に自爆するようになっているわ。たとえ使徒と刺し違えてでも、
     サードインパクトだけは未然に防がねばならない。
     ここにいる人たちは皆、常にその覚悟をもって働いているわ」
 シンジ「…それは何度も聞いてます。もう、僕には関係ない話じゃないですか…
     それより、いいんですか。部外者の僕をこんなところに入れて」
  ミサト「この行動は私が自分の責任でしていることです。構わないわ。
     それに、あなたは部外者なんかじゃない。たとえこの先、ネルフを離れても」
 シンジ「…エヴァに乗った責任は、一生消えない、ってことですか」

悲しい眼差でシンジを見るミサト
エレベータの扉が開く

64 :2/9:2014/10/18(土) 12:24:23.85 ID:???.net
一変する景観
有機物か生体組織を思わせる異相の巨大構造物群が遥か頭上まで林立している
体内のような赤っぽい空間を貫く通路を歩いていく二人
通路の終端で扉の封印を解くミサト
幾重にも頑丈に閉ざされた扉がゆっくりと開いていく
息を呑むシンジ
赤い闇にそびえる磔刑の白い巨人の半身
真っ白な肉に突き立つ長い槍

 シンジ「あれは…、エヴァ…?!」
  ミサト「違うわ。この星の生命の源であり、その終息の要でもある、第二の使徒。
     …リリス」
 シンジ「生命の…源、…神様、なんですか。…使徒が」
  ミサト「そうね。そうとも言えるかもしれない」
 シンジ「そんな…」

無防備に見上げているシンジ
はっとする
素を見せた自分に眉をしかめ、頑なにうつむく

65 :3/9:2014/10/18(土) 12:25:49.64 ID:???.net
 シンジ「…そんな凄いものがあるなら、早く使えばいいじゃないですか。何もエヴァに
     人を乗せなくったって」
  ミサト「いいえ。リリスはね、サードインパクトのトリガーとも言われているの。
     使徒の接触を許す、いえ、それ以前に、下手に私たちが扱うならば世界を
     滅ぼしてしまうかもしれない。
     そういう恐ろしい存在でもあるのよ」
 シンジ「…そんなものがここに、…みんなの足元に、ずっと」
  ミサト「そうよ」

シンジの手を堅く握りしめているミサトの手

  ミサト「私もね、ネルフに入って、ここで、このリリスを見て…
     自ら足を踏み入れてしまったこの現実に、圧倒されたわ。絶望したと言っても
     いいかもしれない。…使徒、エヴァ、そしてリリス。私は、自分が巻き込まれた
     セカンドインパクトの真相と、失った父の面影を求めて、ここに来ただけだった。
     …こんな答えを得たかったわけじゃなかった。
     私たち人類も、しょせん、使徒から生まれた生命の一つに過ぎないなんてね」

未知の粒子が二人の周りを浮遊する
LCLの反映

66 :4/9:2014/10/18(土) 12:26:48.62 ID:???.net
  ミサト「…それから…
     やがてそのことにも慣れて、いつのまにか、自分の目的、使徒殲滅のための
     道具として見るようになっていたわ。…あなたのことも」

自分の痛みを覗かせているミサト

  ミサト「…私だって、自分のことだけなのかもしれない。自分の思い通りに世界を見たい
     だけなのかもしれない。無慈悲な世界で、自分のためにあがいてるだけかもしれない。
     だけどね」

まっすぐにリリスを見上げるミサトの横顔

  ミサト「それでもね…
     それでも、このリリスを守り、エヴァで戦う、…それが私たち、ネルフの使命なの。
     …奇跡が起きて、セカンドインパクトの惨事が全て元通りになる、そんな都合の
     いい夢は今さら見られないけど、…このリリスさえ守り抜くことができれば、いつか、
     人はその生命の謎を解き明かし、この星を癒せるかもしれない。かつてのような
     命溢れる世界に戻していけるかもしれない。
     そのゼロに近いわずかな可能性が、今もまだ、私をここに立たせているわ」

見つめるシンジ
振り払うように目を逸らす

67 :5/9:2014/10/18(土) 12:27:41.65 ID:???.net
 シンジ「…ミサトさんの話はわかりました。
     でも、僕は…今さらこんな大事なもの僕に見せて、結局、ここに残れって
     言いたいんですか」

優しく見下ろすミサト

  ミサト「いいえ。
     ただあなたには、真実を知る権利があると思っただけよ。ここで、本当は何が
     起こっていたのか。あなたがこれまで何を、守っていたのか」

唇を結んでいるシンジ

  ミサト「私たちだって、…他の人たちだって、何の痛みも感じてないわけじゃない。
     私たちネルフは、やっとのことでセカンドインパクトの被害を乗り越えたこの世界、
     そこで生きようと苦しんでる全ての人と生き物に、多大な犠牲を強いている。
     15年前以来ずっとね。みんなそれを知っているわ。知っていてなお、私たちに
     世界の命運を託してくれているの。賭けてくれているのよ。
     そしてあなたも、ずっと逃げずに戦ってくれた。忘れないで。あなたはここで、一生、
     心から誇りに思っていいだけのことを、していたのよ」

再び苦く微笑するシンジ
痛みそのものでしかない笑み
 シンジ「…そういうことは、アスカが目を覚ました時に、彼女に言ってあげてください。
     レイにだっていい。僕はもうそんなことには関係ないんです」

68 :6/9:2014/10/18(土) 12:28:51.01 ID:???.net
  ミサト「違うわ」
 シンジ「…違いませんよ!」

なおも握りしめるミサトの手を突き放すシンジ
うなだれた両肩
きつく結んだこぶしが大きく震えている

 シンジ「あのとき…
     レイが襲われたとき、僕は3号機を、敵だって思ってたんです。
     今までの使徒と同じに見てた。本気で攻撃してた。…アスカが乗ってることなんか、
     全然考えてなかった。…あのままでいたら、ダミーが使われなくたって、僕がアスカを
     殺してたかもしれない。自分の手で。…自分の意志で」

吐き捨てるシンジ
両目に揺れて光るLCLの照り返し
涙になって伝い落ちる

 シンジ「あのとき僕はアスカのこと、忘れてた。忘れてたんですよ…!
     だったら僕も父さんと同じだ。父さんのこと悪いってなじる資格なんかなかったんだ。
     ひどい目に遭わせたアスカに、何て言えばいい。…カヲル君にだって、もう会えない」

幼いような泣き声になるシンジ

69 :7/9:2014/10/18(土) 12:30:08.75 ID:???.net
 シンジ「彼がしてくれたことを、父さんは、僕は、あんなふうに…駄目にした。もう何も言えない、
     言い訳もできない…待ってるからなんて、もう、言う権利、ない。
     …どんな顔して、二人の前に出ればいいって言うんですか。
     僕は…自分の手で、二人を傷つけたのに」

目を閉じるミサト
振り払い、強い表情をする

  ミサト「…そうじゃないわ。
     あなたはエヴァに乗った。それがここであなたを迎えた運命だったから。
     だけど、たとえ望まずにいたことでも、どんな痛みが待っていたとしても、…それでも、
     この街に、いえ、世界中に住む多くの人たちが、今日ある命を、自分たちの
     それぞれの暮らしを、続いていけるかもしれない明日を…かけがえのない生きる
     ことの多くを、あなたに負っている。
     何もできなかったなんてことはないわ。もう関係ないなんてこともない。
     みんなずっと、あなたに守られてきた。あなたを頼りにしてきた。それは、本当なのよ」

見つめるミサト
顔を上げないシンジ
影になった面差

 シンジ「…僕はもう、誰も、頼れません」

70 :8/9:2014/10/18(土) 12:33:07.49 ID:???.net
駅のホームで政府専用列車を待つシンジ
別れ際のミサトの面影が甦る

  ミサト(シンジ君)
  ミサト(さっき、運命って言葉を使ったけど…)
  ミサト(私はね、運命ってものは、他の誰でもない自分自身の意志で選び取ってはじめて、
     真にその人の生きる道になるんだと思うの。だから誰も、運命を強要はできないわ)
  ミサト(今のあなたには酷な言い方になるかもしれないけれど、あなたが自分で選ばない限り、
     他の人には何もできないのよ)
  ミサト(…今さら、こんな保護者ぶったこと言う資格、私にはないわね)
  ミサト(ごめんなさい。
     あなたをずっと、都合よく子供扱いしてきたこと。それでいて人一人が耐えうる以上の
     痛みを、あなたに押しつけてきたこと。何一つ助けてあげられなかったこと)
  ミサト(だけど…それでも、私は、…)

一瞬天を振り仰ぐようにして昂ぶる感情を殺していたミサト

  ミサト(…シンジ君)

71 :9/9:2014/10/18(土) 12:36:15.33 ID:???.net
  ミサト(……
     ありがとう。今まで、本当に。
     ここからは私たちの仕事です。レイのことも、心配いらないわ。…元気でね)

きつく唇を噛んでうなだれるシンジ
誰にもぶつけることができない自己嫌悪の鋭い渦
バッグを掴む両手に力がこもる
黙って送還の電車を待つ以外、何もできない
警報
はっと振り返るシンジ
ホーム中に鳴り響くサイレン
列車の運行表示が一斉にシェルターへの避難指示に変わる
立ちつくすシンジ

 シンジ「…使徒だ」



前スレ読み返してたら流れ的にリリスを見る機会がなさそうだったので追加
以上で書き溜めてた分終了…さあどうするこの先、いや、どうにかします

72 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/10/21(火) 11:44:02.83 ID:???.net
保守しとこうか

73 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/10/21(火) 12:28:53.47 ID:???.net
がんば

74 :1/2:2014/10/22(水) 11:46:17.82 ID:???.net
>>73 ありがとうございます


喧騒のネルフ本部
繰り返される『総員、第一種戦闘配置』のアナウンス
殺気立ったケイジ
右腕切断痕を処置し、左腕の神経を緊急調整中の零号機
挿入準備済みのエントリープラグ内で待機するレイ
プラグの天井方向を仰ぐ
暗闇
小さく呼気の泡を吐き出すレイ
LCLの圧迫感

  レイ(…お兄ちゃんの匂い)
  レイ(まだ、残ってた。少ししか乗ってないのに)
  レイ(…あの人の匂いは、…しない。一緒に乗ったお兄ちゃんの匂いだけが、残ってる)
  レイ(私、もう何もないと思っていたのに)
  レイ(だけど…LCLが浄化されていくうちに、これも、きっと消えてしまうけど)
  レイ(…今は、まだ)

ほんの少し目を閉じるレイ

   シンジ(違うよ、謝らなくたっていいんだ。僕は…レイが、帰ってきてくれただけで、
       それだけでいい。…もう、こんなに身体、冷えちゃって。つらかったろ…)
     レイ(私、それまで自分がどんなに寒かったのか知らなかった。使徒の中で、寒くて、
       一人で、空っぽで、…何も、できなくて)

75 :2/2:2014/10/22(水) 11:47:12.24 ID:???.net
     レイ(寒いことがつらいって、初めて知った。この身体が生きたがってること、初めてわかった。
       ただ、それはみんな、お兄ちゃんがぎゅってしてくれたときに、一度に来たの。…だから、
       一緒にいて、あたたかかったけど、とても怖かった)
    アスカ(追伸。がんばりなさいよ)

揺らぎのない目を開くレイ
プラグ機器が発するかすかな電子背景音

  レイ(私は、こことつながっていたい)
  レイ(大切な何もかもを、この手に持ち続けていくことは、できない。…失うものの方が、きっと多い。
     何をしても。どれだけ願っても。…どんなに、慕わしくても)
  レイ(それでも、ここにいられる限り、まだ、つながっていたい)
  レイ(…だから、私は)
  レイ(自分で望んで、エヴァに乗っている)
  レイ(…お兄ちゃん。心配、しないで。しなくて、いい)

  レイ「…私が、守るもの」

まっすぐ前を見据えるレイ

76 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/10/27(月) 10:47:20.10 ID:???.net
念のため保守ね

77 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/10/27(月) 21:23:49.91 ID:???.net


78 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/10/29(水) 10:04:41.13 ID:???.net
とうとう前スレがdat落ち
お疲れさん

79 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/11/02(日) 08:00:48.95 ID:???.net
ho

80 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/11/06(木) 09:18:40.58 ID:???.net
ho <ニャー

81 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/11/06(木) 22:25:42.34 ID:???.net
リリムについて

82 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/11/07(金) 08:58:30.63 ID:???.net
リリム?
真3のロングヘアでか羽バージョンが好きかな

83 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/11/11(火) 08:59:55.84 ID:???.net
no <ミャー

84 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/11/17(月) 09:00:40.03 ID:???.net
ねこスレになったの?

85 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/11/18(火) 09:40:52.93 ID:???.net
EOE実写シーンに猫が映ってたな

86 :1/4:2014/11/20(木) 12:45:58.76 ID:???.net
>>76-85 ありがとうございます


鳴り渡るサイレン
シェルターへ急ぐ第三新東京市民たち
列を乱し固まって走る壱中生徒たち
砲弾の音がじかに身体に響く
地響きのたびに悲鳴があがり、教師の叱責も近づく爆発音にかき消される
座り込んで泣きじゃくる女子を励ますヒカリ
遅れた生徒を見つけては先へ行かせるトウジ
さすがにカメラを構える余裕もないケンスケ
せめて何ひとつ見逃すまいと視線だけは周囲に走らせている
山稜のすぐ向こうで続いているらしい戦闘
爆発と何かが次々にひしゃげる音
砲撃音の層が段階的に薄くなっていくのがわかる

 ケンスケ(…警報の発令から、強羅絶対防衛線が突破されるのが早すぎる。
      マジに手に負えない敵なんだ。今回は)

ついに市内の迎撃設備の一角が異様な閃光に打たれ、崩落する
一斉にあがる悲鳴
足元が大きく揺れる
固く目をつぶるケンスケ

 ケンスケ(…死ぬかもしれない、これで)

目を開く

87 :2/4:2014/11/20(木) 12:47:47.24 ID:???.net
ヒカリをかばうトウジが視界に入る
怒鳴っているトウジの顔
手が伸びてきてケンスケを引っぱり、指定も区分も関係なく近くの避難経路へ走る
それでも振り返るケンスケ
端から崩れて燃えあがっていく要塞都市
人が扱うものではない異質で美しい光が建造物を撃ち、脆く輝く熱の十字架に変えていく
空の裾を異様な輝きが染めている

 ケンスケ(…ネルフは)
 ケンスケ(ネルフは何やってるんだよ。何で、何でエヴァが出ないんだよ)
 ケンスケ(…違うんだ)
 ケンスケ(出ないんじゃない。出られないんだ、この間の戦闘のせいで)

防護扉が閉まる瞬間、焼けた空が覗く
天の一角、湖上遥かな辺りに黒々と巨大な影
周辺に群がるちっぽけなVTOL隊を光が消し飛ばす
使徒
直後、光景が遮断される

88 :3/4:2014/11/20(木) 12:48:58.80 ID:???.net
めちゃくちゃに混雑した地下への直通列車
窓の外を真っ暗なトンネルの壁が疾過していく
人ごみの中で必死に息を整えるケンスケ
近くにトウジの後頭部
急に振り返る

  トウジ「アホ! 敵に見とれてどないするんや!」
 .ケンスケ「…悪い。あれで、終わりかなって…思ってさ」
  トウジ「どアホ」

押し合いへし合いする人々の間から飛んでくるトウジのゲンコツ
頭を押さえるケンスケ
安堵で少し笑う
普段の倍近い速度で闇へ滑降していく列車
突然、衝撃
ゆるみかけていた車内の空気が再び緊張する
子供の泣き声
なだめる大人たちも浮き足立つ

  大人「…こんな深くまで衝撃が届くなんて、ただごとじゃないぞ」

89 :4/4:2014/11/20(木) 12:50:26.53 ID:???.net
  大人「ここだって危ないんじゃないのか。もっと急げないのか」
  大人「ああ、やっぱり、主人の言う通り疎開してれば良かった。こんな街」

人の隙間で泣きそうになっているヒカリの姿
一瞬迷い、声を張り上げるケンスケ

 ケンスケ「心配ないって、委員長」

周囲の人々が振り返る気配
ちょっと臆するケンスケ
ままよと大声で続ける

 ケンスケ「みんな、このままジオフロントのシェルターなんだからさ。
     パパのデータこっそり見たんだ。街の下に敷設された特殊装甲24層に守られたジオフロント、
     そのさらに地下深くにある特殊シェルター。セカンドインパクトの時の南極のデータを元に、
     それに耐えるように建造されてるんだ。この世で一番、安全だってさ」

広がっていく不信と疑いのひそひそ声
引っ込みもならず胸を張るケンスケの耳がどんどん熱くなる
が、ヒカリはがんばって微笑み、頷く
今度は軽く落ちてくるゲンコツ
振り返ると歯を見せて笑っているトウジ
初めてちゃんと笑うケンスケ
後方、遠い上層部でまた地殻が震動する

90 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/11/24(月) 10:27:15.36 ID:???.net
ho <ニャーン!

91 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/11/28(金) 20:23:01.10 ID:???.net
いちおう保守ね

92 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/12/03(水) 13:39:47.83 ID:???.net
@ <zzz...

93 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/12/03(水) 14:15:46.31 ID:???.net
次がたのしみ

94 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/12/08(月) 22:49:03.42 ID:???.net
保守

95 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/12/11(木) 21:20:53.27 ID:???.net
>>90-94 ありがとうございます、ちょっとですみません


エントリープラグの闇
各補助システムが起動する
徐々に浮かび上がってくるマリの姿
新型プラグスーツに包まれた腕を伸ばしたり引いたりしてみる

 マリ「ふふん、いい感じ。軽いし引っぱられないし、キモチイイ!
   …出撃位置は、っとと、これか」

ジオフロントのマップを電光表示させ、スクローリングするマリ
出撃準備と併行して、各種携行武器が迎撃座標直近に移送されていく様子が次々に追加されていく
輝線で伸びるエヴァ輸送軌条の表示
そのライン上を動く2号機の表示
指を動かすとさらに地表迎撃の状況表示がオーバーレイしてくる

 マリ「いいなぁ…すっごくイイ。この物量規模、この態勢。さっすが本部ぅ、まさに総力戦だね。
   あああ、もう、ゾクゾクするなぁ」

まだ完全に起動していないため暗いままの2号機プラグ内
胸を反らして大きく呼吸するマリ
高速移送される2号機の振動が続いている



月面
長い槍を手に、光輪を頭上に、微光に包まれて音もなく離昇するEVANGELION merk.6
仰ぎ見る先には青い気圏と赤い水圏に潤む地球
エントリープラグ内、顔を上げるカヲル
無音のまま増速してタブハベースの視界から消えるMk.6
一面の星空

96 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2014/12/14(日) 11:09:32.10 ID:???.net
ho !

97 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/12/16(火) 23:24:11.39 ID:???.net


98 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/12/21(日) 09:49:28.13 ID:???.net
@ <…zzz

99 :1/5:2014/12/23(火) 15:52:06.24 ID:???.net
>>98 ねこさんまた寝ちゃった、ごめんなさい
ちょっとだけ行きます


強弱の微震を繰り返すジオフロント地下シェルター
暗めの照明の下で身を寄せ合う第三新東京市民たち
避難当初の混乱は静まり、一応の落ち着きが降りている
一人、シェルターの隅の薄闇に紛れてうずくまったシンジ
固く両膝を抱えている
きつい眼差
またも遠い衝撃が天井を渡り、厚い防護壁を震動させる
人々の抑えた不安げなざわめき
耳をふさいで膝に突っ伏すシンジ


激震に打たれるジオフロント
発令所に交錯する警報

 日向「24層もの特殊装甲を…一撃で…」
 冬月「最強の拒絶タイプか。予想以上の破壊力だな」
 青葉「…いいから、市民の避難を最優先だ。足りなければ特別シェルターの一部を開放しろ!」
 日向「くっ…阻止部隊、N2誘導弾の第三波攻撃も許可する! 直援に回せ!」

駆け込んでくるサト
吊った片腕の包帯が痛々しい

100 :2/5:2014/12/23(火) 16:08:09.94 ID:???.net
  ミサト「エヴァの地上迎撃は間に合わないわ。
    ただちにユーロに協力を要請、2号機を直接ジオフロントに配備して! 零号機は?」
 伊吹「右腕を緊急接合中。かろうじて出せます!」
  ミサト「…こりゃ、厳しいわね。
    処置が完了し次第、2号機の援護に回して。単独先行は危険すぎるわ」
 日向「了解!」
 青葉「ユーロからの、応答を受信。ネルフへの協力を受諾。ですが…2号機の指揮権委譲に
    ついては拒否してきています」
  ミサト「…こんな時なのに! では、2号機パイロットとの通信は」
 伊吹「相互リンクがカットされています。こちらからは…」
  ミサト「そう…、一人で、やりたいわけね」
  ミサト(…アスカと同じか)
  ミサト「もうエゴも体面も構っていられないのに。引き続き、ユーロと平行して呼びかけを続けて」
 伊吹「はい!」
  ミサト「初号機は?」

伊吹を遮るようにして前に出るリツコ
ミサトと同じく、額の包帯がまだ取れない姿

101 :3/5:2014/12/23(火) 16:08:45.78 ID:???.net
  リツコ「初号機は現在、ダミーシステムで起動準備中よ」

一瞬、嫌悪に眉を寄せるミサト

  ミサト「…作業、急いで!」

再び巨大な震動
断続的にノイズに覆われる正面主モニター

 青葉「目標は第5次防衛線を突破! ジオフロント内に侵入されます!」

モニター周縁にまがまがしい赤い光が増える
使徒侵入警報

 日向「…2号機、会敵します!」

画面内、天井都市の残骸のただなかに立つ2号機

102 :4/5:2014/12/23(火) 16:09:55.67 ID:???.net
右腕応急処置中の零号機プラグ内
先に起動させた通信リンクを介して地上からジオフロントへの戦況を見守っているレイ
融解した天井装甲を抜けて降下してくる使徒
頭部と骨格ばかりの身体を覆った黒い膜状構造の外端が何条もの帯状になってたなびいている
地上、武装コンテナに囲まれた2号機

  レイ(…2号機。あの子のエヴァ)
  レイ(でも、乗ってるのは、あの子じゃない)

ライフル二挺を構えて猛烈な斉射を開始する2号機
使徒のATフィールドが弾の熱量を散らしながらはじめて可視化する
幾層にも重なった光の壁がみるまに塔の厚さになり、火箭を押し返す
使徒近傍にすら届いていない攻撃
ライフルを捨てる2号機
武器を変え、跳躍して突っ込んでいく
使徒の真上から電磁スピアを突き立て、一気に放電

103 :5/5:2014/12/23(火) 16:10:43.94 ID:???.net
衝撃
一帯を打つATフィールド
使徒の頭部が覗けるほどのゼロ距離から、間髪入れず肩のニードルを連射する2号機
が、まだ本体には届かない
直後、使徒のATフィールドが加重的に展開し2号機を弾き飛ばす
さらに多重ATフィールドが落下地点に収束し、危うく2号機が飛びのいた瞬間、周囲を圧壊する
後方の廃墟に突き落とされる2号機

  レイ「…!」

一瞬息を止めるレイ
別ウィンドウで再生されている地上戦の記録
抗戦むなしく突破される迎撃施設
芦ノ湖上、全周からN2誘導弾の直撃を受けてものともしない使徒
立ち上がる2号機を見つめているレイ
左手に握られたシンジのSDAT

104 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/12/24(水) 09:08:36.14 ID:???.net
ho no <<ニャーン!!

105 :1/7:2014/12/25(木) 14:08:29.96 ID:???.net
  日向「2号機、武装喪失! 付近の支援設備も大破、機能しません!」
  青葉「目標健在! ダメージは認められず!」
   ミサト「…初号機はまだなの!」
オペレータ『エヴァ初号機、ダミープラグの挿入完了』
オペレータ『改訂プロトコルは最小限の行動矯正種のみを展開。多重制動機構の起動確認』
オペレータ『プラグ深度、固定完了。ダミー、全システム問題なし』
   リツコ「コンタクト、スタート!」
  伊吹「はい!」

警告音
愕然と画面を見直すリツコ

   リツコ「?! どうしたの」
  伊吹「コアユニットが、ダミーを拒絶しています!」
オペレータ『ダミーシステム動作停止。神経接続、74番まで断線されました』
   リツコ「…そんな、なぜ」
  伊吹「駄目です…、初号機、起動しません!」

立ち上がる碇
主画面からの戦場の反映を受け逆光になった後ろ姿
顔は正面に向けたまま口を開く

    碇「冬月。…少し、頼む」

106 :2/7:2014/12/25(木) 14:10:13.44 ID:???.net
  マリ「痛ったたた…にゃろー。なんてヤツ」

ややよろめいて立ち上がる2号機
プラグ内のマリ
正面、中距離に黒い帯を波打たせる使徒の巨躯

  マリ「こんなにいい機体なのに…
    ゼロ距離でも駄目なら、もう打つ手、ないか。今のままじゃ勝てないな。…どっこい」

腰の固定具を外して操縦席に立ち上がるマリ

  マリ「しょっと。…よし、試してみるか。ヒトを捨てた、エヴァの力」

眼鏡を直すマリ
別人のように表情が引き締まる
顔を上げ言い放つ

  マリ「…モード反転! 裏コード『ザ・ビースト』!!」

ガシャンと暗転するプラグ

107 :3/7:2014/12/25(木) 14:11:00.62 ID:???.net
処置中の零号機プラグ内
息を呑むレイ
ジオフロントでもがく2号機の姿
爆裂ボルトが発火し上半身の装甲=拘束具が一部弾け飛ぶ
両肩と脊椎に沿って埋め込まれた制御棒の列がめりめりと機体外へ押し出されていく
ヒトの形を大きく逸脱して変貌していく2号機
声もなく凝視するレイ
張りつめた蒼白な顔
SDATを握りしめる左手に、すがるように力がこもる


軋むプラグ
過負荷で正常に表示されない各種表示
痛みと違和感にガクガク震える2号機を抑えるマリ
自分の身体も暴れ出しそうなのを両こぶしを握って耐える

  マリ「我慢してよ…、エヴァ、2号機…、私も…我慢、する…!」

108 :4/7:2014/12/25(木) 14:12:06.75 ID:???.net
 日向「エヴァに…こんな機能が…」
 伊吹「リミッター、外されていきます。全て規格外。
     …! プラグ内モニター不能、ですがLCLは限界まで圧縮、恐らく…」
  リツコ「…プラグ深度はマイナス。汚染域突入も厭わないとはね。あのパイロット」

泣きそうな顔の伊吹

 伊吹「駄目です、もう、危険です…!」

まがまがしく変相するプラグ内、明滅する各表示
熱い痛みに胸元をかきむしろうとするマリ
圧縮されたLCLの中で暴れる長い髪
途切れ途切れに喉で鳴る喘鳴
こらえきれず痙攣する身体を抱きしめるマリ がくんと上体が沈む

  マリ「…、…
    …には…あ…、する…歌、が…るから…」

突っ伏した面から搾り出される声

109 :5/7:2014/12/25(木) 14:13:28.37 ID:???.net
少しずつ頭をもたげていくマリ
少しずつ力の戻っていく声

  マリ「信じた…このみち、を…ワタ、シは…ゆく、だ、け…、すべては…ココロの」

耐え抜く2号機
全身が強化された腱と筋肉の剛束で膨れ上がり再形成される
体液を滴らせながら、牙の生え揃った大顎が開く
咆哮する2号機

  マリ「…決めたまま、に…ッ!!」

強制パージされたアンビリカルケーブルが背後に舞う

110 :6/7:2014/12/25(木) 14:14:12.56 ID:???.net
瞬発する2号機
両脚だけで駆けるのももどかしく、長大な腕で地を突き飛ばして一気に宙に飛ぶ
振り仰ぐ使徒
激突
真っ逆さまに貫通破砕される多層ATフィールド
が、あと少し届かない
すばやく形状を建て直したATフィールドの多重盾体に弾かれ、再度飛びかかるも何度も阻まれる2号機
四つの眼がぎらつき牙が剥かれる
盾体に取り付いたまま、表層からATフィールド自体を引き裂き始める2号機
巨大な鉤爪と化した腕が次々にフィールドの層を破り、払い捨て、内部へ潜り込んでいく
ほとんど使徒の目前まで入り込む2号機

  マリ「…もウちょい…ッ!」

赤く輝くるつぼと化したプラグ内、もはや獣の凶相となったマリ
はっとする

111 :7/7:2014/12/25(木) 14:15:26.19 ID:???.net
たなびいていた使徒の黒い二本の帯がコア付近まで引き絞られ、圧縮されて円筒状になる
瞬間、二本の剛体が一直線に2号機を撃ち抜く
濡れた重い音
遥か離れた地底湖岸に落下する2号機の片腕
左肩と右脇腹から血を噴く2号機

   マリ「ぐぅうぅぅうウ…ゥアァアアアア!!」

狂騰するLCL
2号機の激痛と憤怒にシンクロしたマリ
闘争心の荒れ狂うまま使徒へ突っ込んでいく
瞬時に引き戻される使徒の前腕
目を見開くマリ
視界に叩きつける黒

 伊吹「…!!」

きつく目を閉じた伊吹
薙ぎ飛ばされ、遠く宙に舞う主モニターの2号機

112 :1/10:2014/12/27(土) 12:20:29.18 ID:???.net
繰り返す避難指示のアナウンス
使徒の侵攻が進み、危険区域に再指定されたシェルター
暗転した構内に出口の表示だけが明るい
もう不安を隠せず、疲労した身体で泣きながら出口に急ぎ向かう人々
懸命に誘導するネルフ保安局員たちの荒い足音
騒然たる人の波の中で一人、走れないシンジ

 局員「君! 何やってる、死にたいのか!」

とっさに立ち止まり叱声を投げつける局員 その姿も人々の交錯の向こうに消える
半分麻痺したような頭のシンジ
身体が動かない
他人事のような周囲の喧騒

 市民「助けて」「いや」「泣かないで」「急げ、こっちだ」「死んでたまるか」「もう駄目だ」「死にたくない」

 シンジ(…死ぬ?)
 シンジ(そう、死)
 シンジ(…なんで生きてるんだ、僕は)
 シンジ(死んだって済まないようなことをしておいて、なんで、まだ生きてるんだ)

113 :2/10:2014/12/27(土) 12:21:59.77 ID:???.net
 シンジ(自分じゃ死ねないから生きてる。
     逃げてるんだ。守られる資格はないなんて言ったくせに、流されるまま逃げ回って…
     ただ死にたくないだけだ。生きていても何にもならないのに)
 シンジ(…だったら、このままここで死んだって)

轟音
すさまじい破砕音とともにシェルターの天井がぶち破られ、大質量の物体が床に激突する
床を波打たせる衝撃 滝となって落下する瓦礫
人々の悲鳴
崩落の中央、地盤に沈み込んで止まる巨大な物体
ジオフロントの外光がなだれ込み、渦巻く土煙の幕を透かして物体を照らす
生々しく血を流すヒトの頭部

 シンジ(…顔。巨きな)

正面でへたり込んでいるシンジ

 シンジ(…エヴァ…!)

変わり果てた2号機の頭部
天井の破片を伝って溢れてくる巨人の血に気づく市民たち
恐怖が場を呑む
常軌を逸するほどの悲鳴、幾つもの叫喚、動揺、目に映るものの否定
ひきつけを起こしたように泣き叫ぶ幼い子供
震えを抑えられないシンジ

114 :3/10:2014/12/27(土) 12:23:08.78 ID:???.net
地に沈んだ2号機
焦燥感を隠せないリツコ

  リツコ「…エヴァの獣化第二形態。ヒトを捨て、闘争に特化させても勝てない。
     これが…私たちの限界だというの」
 伊吹「そんな…」
 青葉「目標は依然健在。本部地上施設に向かってきます」

震えるこぶしを強く握りしめるミサト
それでも前に出る

  ミサト「…レイ、聞こえてる? こうなったら捨て身の一点突破しかないわ」
 日向「えっ…?」

115 :4/10:2014/12/27(土) 12:24:34.70 ID:???.net
両腕の接合処置が完了した零号機
顔を上げているレイ

  ミサト『現状で最も貫通力のある、大型ポジトロンライフル改を一緒に上げるわ。
     同時に残った兵装全てで援護攻撃。弾幕を張るわ。
     零号機は、目標の死角から接近。目標接触と同時に、ATフィールド全開。可能な限り
     目標ATフィールドを中和、ぎりぎりまで喰い込んだ瞬間に、至近距離からコアを撃つ。
     これしかないわ』
  レイ「はい」

プラグ内に映示される出撃位置とライフルの情報
速やかに集中するレイ
素早く視線を走らせる 横に並んだ画面にそれまでの迎撃状況と2号機の戦闘記録
何も言わないレイ
静かに表情が定まっていく

116 :5/10:2014/12/27(土) 12:26:02.70 ID:???.net
もはや日頃の訓練もネルフへの信頼もなくやみくもに逃げ出す市民たち
懸命に職務を遂行しようとする局員たちを呑み込み、潮が引くように退いていく人の波
はっとなるシンジ
2号機が身動きする

 シンジ「…生きてる! …あ?!」

瓦礫と土砂がさらに崩落してシェルター出口を閉ざす
静寂
青白い光と影の中で孤立するシンジ
土砂の合間を浸していく2号機の血
力なく床面を掴むシンジの手のひらにも生ぬるい感触が届く

  .マリ『…ッ…たぁ…、いったたたた…ん』

身じろぎする2号機
動きが鈍い
破損した頭部側面から断続的に血しぶきが飛ぶ

  .マリ『?…なん…で、こんな…とこに、いんの。君』

おののきながら見上げるシンジ

 シンジ「アスカじゃない…でも、2号機だ」
  .マリ『…うん、エヴァ…2号機だよ。ボロッボロ、だけどね…』
 シンジ「この声、…君はもしかして、上の街で会った、…なんで、君が2号機に」

117 :6/10:2014/12/27(土) 12:27:45.18 ID:???.net
  .マリ『…んなこと…どうでも、いいじゃん。
     ていうか、なかなか他が出てこないと…思ってたら、そういうことか…』

ぐっとうつむくシンジ
見開かれた目がさまよい、きつく細められる
頑なに閉ざされる表情

 シンジ「僕は…
     …僕はもう、エヴァには乗らないって、自分でそう決めたから。だから」
  .マリ『そっか…』

いきなり大きく動く2号機 瓦礫が滑り落ちる
巨大な手が伸びてシンジの頭上を覆う

 シンジ「?! 何してるんだよ」
  .マリ『だって、君はもう、…降りたんでしょ。だったら早く逃げなよ。手伝って…あげるからさ』
 シンジ「何…?! うわッ」

掴みかかる2号機の手
思わず目をつむるシンジ
足元が揺れ動いて地面の見当がなくなる
きつく頭を抱えているシンジ

 シンジ「…乗らないって…
     乗らないって決めたんだ。乗らないって決めたんだ。もう自分で決めたんだ…!」

118 :7/10:2014/12/27(土) 12:29:57.39 ID:???.net
   ミサト「機体の出撃位置は第26番非常ゲートに設定。
      ポジトロンライフル改は、電荷の充填リミッターを上限キャンセルして、砲身限界
      までフルチャージ。最終耐久試験が済んでたのは幸いだったわ。急いで」
  青葉「は、はい!」
   ミサト「零号機出撃と同時に、生き残った地上支援兵装の全火力で援護砲撃。可能な限り
      目標を引きつけて」
オペレータ『了解。零号機の直援準備』
  日向「しかし…! それでも目標のATフィールドを突破できるかどうか…
      加えて、今の零号機の状態では、未経験の大出力射撃に耐えられるかどうかも
      不明です!」
   ミサト「だからこそ、至近距離まで肉迫する以外、確実に撃ち込む方法はないのよ。
      一発撃てるだけでいい」
  伊吹「そんな…危険すぎます!」
   レイ『構いません。行きます』
  伊吹「レイ…!」

119 :8/10:2014/12/27(土) 12:31:21.49 ID:???.net
射出シャフトを上昇する零号機

  レイ(葛城二佐の作戦では、恐らく、目標に確実なダメージは与えられない)
  レイ(…同じく、接敵するのなら)

操縦席 毅然と背筋を伸ばしているレイ
決意を秘めた白すぎる顔
透きとおる眼差

  レイ(…私が死んでも)

   リツコ(レイ)
   リツコ(あなたに見せたいものがあるの)
   リツコ(碇司令の意思とは違う。私の独断よ。でも、今後のあなたの処遇を考えると、
      教えておいた方がいいと思ったの)
   リツコ(もしかして、あなたも憶えていたかしらね…これを)

  レイ(わたしは)
  レイ(…今の私に、命がある限りは、まだ、生きているもの)

SDATを胸が張り裂けるほどの優しさで見つめるレイ
ぎゅっと大切に握りしめる

120 :9/10:2014/12/27(土) 12:32:22.14 ID:???.net
衝撃、暗闇
上昇感


   マリ『…エヴァに乗るかどうかなんて、…そんなことで、悩むやつもいるんだ。
      けどさ…そうやっていじけてても、何にも楽しいこと、ないよ』

ゆっくりと開ける視界
灼けた風にまぶたを開くシンジ
息を呑む
2号機の手のひらの上から見渡すジオフロントの惨状
崩落した天井都市
大穴の開いた残骸と化した地上装甲層
ほぼ壊滅した迎撃施設
無防備な本部
聳え立つ使徒
数の減った砲撃がかろうじて続いているが、全くダメージになっていないのがわかる
突然、向こうで出撃ゲートの警告音
はっとして目を凝らすシンジ
丸腰で上がってくる零号機
両腕にきつく巻きつけられた応急バンデージの白い帯

 シンジ「…レイ?! …ライフルも持たずに」

121 :10/10:2014/12/27(土) 12:36:24.51 ID:???.net
   ミサト「?! レイ、何してるの! 
      …ライフルの状況は! 間に合わなかったの?!」
  青葉「いえ、充電、ゲート移送ともに完了しています!」
オペレータ『ポジトロンライフル、ゲート付近に放置!』
オペレータ『零号機、行動開始します』
   ミサト「これじゃエジキにされるだけだわ!」
  日向「くそ…援護砲撃開始します!」
   リツコ「…レイ、何をする気」

最後の火箭の走る下、身を低くしてすばやく後退する零号機
部分破壊されて発射不能になったミサイルサイロに取り付く
拳が焼けた側面パネルを破る
装填ロックが切れ、ゴドンッと外に落下する大型N2誘導弾
不自由な両腕でミサイルを抱え上げる零号機
エヴァの身長を越すほどの長さのあるそれを、しっかりと上体に抱え込み固定する
まっすぐ目標へ向けられた頭部

122 :1/10:2014/12/28(日) 11:00:58.95 ID:???.net
震えているシンジ

 シンジ「何…してるんだよ、レイ…?!」
  .マリ『…エヴァ単機じゃ、目標のATフィールドは突破できない。
     ミサイルの推進力を使って、物理的エネルギーを上乗せする気なんだ』
 シンジ「え…?」
  .マリ『でも、たぶん…あのタイプの誘導弾じゃ、あとちょっと、足りない、にゃ…』
 シンジ「どういう意味…あっ?!」

シンジを地面に降ろす2号機
血の塊を滴らせながら使徒に顔を向ける

   マリ『喋ってたら…ちょっと、頭はっきりしてきた。
     サンキュー。ワンコ君』

瓦礫から這い出そうとする2号機
目ばかり見開いた顔ですがるシンジ
遠ざかる2号機の頭部

   マリ『間に合ううちに、君は逃げなよ。死んじゃうよ。…それじゃ、行くか、な…ッ』

獣じみた怒気を帯びつつあるパイロットの声
訳もわからないまま、追いつめられた表情になるシンジ
必死にかぶりを振る

 シンジ「何ができるんだよ! …無理だっ、そんな、まともに動けないのに!」

123 :2/10:2014/12/28(日) 11:02:13.68 ID:???.net
起き上がる2号機
黒々と血に濡れた背中、腰、膝が地面から現れて高速でせり上がっていく
よろめきながら立つ2号機
視線の先に零号機
ぐっと頭を下げ、弾雨の中をまっすぐ弾頭を構えて使徒へ突っ込んでいく

   マリ『まあ…、無理かもね…
     けどまだ、やれること、あるみたいだから、さ…!!』

脳漿を噴きこぼして咆哮する2号機
零号機を追って飛び出す
2号機の足がすぐそばの地面を蹴り、反動で瓦礫の間に転がされるシンジ
巻き上がった塵埃が顔を叩く
廃墟に激しくぶつかる身体
一瞬息ができなくなる
目を閉じる

 シンジ(…もう何もならないのに)
 シンジ(…2号機)
 シンジ(零号機)
 シンジ(レイ…!!)

身を起こすシンジ
痛みなど無視して駆け出す
巨大な瓦礫の隙間に身を投げ出すようにして両機の姿を探す
ほぼ同時に、零号機が接敵する

124 :3/10:2014/12/28(日) 11:02:49.17 ID:???.net
  ミサト『レイ! やめなさい! …レイ!』
  レイ「…ATフィールド、全開!」

すさまじい光の層を可視化させて衝突するエヴァと使徒のATフィールド
N2誘導弾の推進剤が点火
ミサイルの後部から長大な推進炎が噴き出し、膨大な運動エネルギーを接触点に叩きつける
輝度を増す光の狂奔

  レイ(大切なヒトとつながっていること。ヒトの絆の…誰かを慕う、そのことの、痛み。
     生きている、命の証)

巨大な力の拮抗に耐える零号機

  レイ(この命が、私)

鋭い円錐形に穿孔されていくATフィールド
が、使徒本体までは届ききらない
フィールドが均衡点を越えてたわみ始める

  レイ(私たちは二人で生まれた。…それは、ひとつじゃない。だから…構わない。
     私が消えても、お兄ちゃんさえ、生きていてくれるなら)

125 :4/10:2014/12/28(日) 11:04:43.35 ID:???.net
なおも姿勢を変えない零号機
限界以上の筋力の込められた上腕部から血がにじみ、みるみる広がっていく
弾頭の先が潰れていく
悲痛な目で目標を睨むレイ

  マリ「エヴァ、2号機…ッ!! 最後の…、仕事よ…!!」

限界を超えた気迫で追いつく2号機
残った片手と大きく開いた顎で使徒ATフィールドに取り付く
猛攻
もはやヒトの形を逸した形状の歯を剥いて、じかにATフィールドの層を喰い破っていく2号機
最後の一層が弱まる閃光を散らして引き剥がされる
使徒のコアが露出する
弾頭をまっすぐ送り出す零号機
接触する寸前、使徒のコアを新たな構造物が覆う
目を見開くレイ
着弾
最後の瞬間、零号機の片腕が2号機を掴んで後方へ投げ飛ばす

  レイ「逃げて。2号機のヒト」
  マリ「…!」
  レイ「ありがとう」

臨界

白熱
圧倒的な衝撃と熱量が辺りを覆う

126 :5/10:2014/12/28(日) 11:05:45.36 ID:???.net
爆風を受けた瓦礫の陰に倒れているシンジ
目を開く
耳に何かがかぶさったような静寂 聴覚がはたらかない
かすむ視界
熱に揺らめく遠景
焦土と化したジオフロント
少し前方に見えている2号機の身体
煤と泥にまみれて、よろめきながら立ち上がるシンジ
焦げた衣服 両腕や頬に火傷
盾になってくれた2号機の身体の陰を回って、憑かれたように歩いていく

127 :6/10:2014/12/28(日) 11:07:42.42 ID:???.net
  ミサト「零号機は…?!」

最後の姿勢で立ち尽くしている零号機のシルエット
機体各所から高音の煙が立ち昇っている
辺りを席巻している大量の熱された塵埃の靄
その揺れ動く層の向こうに、変わらず巨大に聳えている使徒の姿
幾つもたなびいている帯状構造のひとつが一閃し、零号機の頭部を両断する
倒壊する零号機
動かぬ残骸となった零号機を放し、本部に向かう使徒
声もない吐息が発令所を覆う

 青葉「…?! 目標、侵攻停止」
 日向「ATフィールドが、不規則に位相変化しています!」
  リツコ「ここを、探っている…?!」


無音の惨劇を凝視するだけのシンジ
侵攻を止めた使徒
黒い帯だけが波打っている
異様な沈黙
突然、使徒の後頭部がぼこりと膨れ上がり、分裂と癒着を繰り返して巨大な歯と口を形成する

128 :7/10:2014/12/28(日) 11:08:58.79 ID:???.net
新しい口吻が後方へ伸びる
一動作で零号機に喰らいつき、呑み下す
シンジの全てが止まる
零号機ごと本体に引き戻され収容される口吻
生の咀嚼音
喰っている使徒
やがて、頭部装甲だけが吐き出されて落下する
地面にめり込む零号機の頭部
息もできないシンジ
両目が張り裂けるほど大きく見開かれていく

 シンジ「……れい」

高音と低音の混じった異様な呻き声を発し始める使徒
ヒトの泣き声にも聞こえる
使徒の巨躯全体が変化していく
頭部を覆う黒い帯の集合体はそのままに、骨格ばかりだった胴部が膨らみ、形を整え、
ヒトの女性の身体を模した巨大な戯画になる

129 :8/10:2014/12/28(日) 11:10:23.03 ID:???.net
引き伸ばされた両腕 膝から下は発育不良の矮小な脚
スケールの狂った、けれどヒトそっくりの生白い胴体
顔に当たる部位に使徒の頭部とコア
極端にディフォルメされた髪のようにたなびく帯状構造
レイの形

 シンジ「……ッ!!」

身体を折るシンジ

 シンジ「…ぐッ…がっ、あ…っ」

全身が拒む
胸の一番奥をもぎ取られるような無痛の喪失感
わななく手が狂ったように持ち上がって空を掴み、シャツを掴み、火傷を掴んで、掴みきらない
何度両手でもがいても、もう掴めないと知る
シンジの動きが止まる
両手がゆっくりと垂れていく

130 :9/10:2014/12/28(日) 11:13:53.90 ID:???.net
  リツコ「そんな…あり得ないわ。使徒がエヴァを捕食するなんて」
 伊吹「…? 変です、目標の識別パターンが…
     零号機に切り替わっていきます!」
  リツコ「何ですって?!」
 青葉「目標、パターン青消失!
     各自律兵装のシーカーもパターン青をロスト、目標を捕捉できません!」
 日向「…生き残った兵装を、全て手動操作に切り替えます!」
  ミサト「やられた…!!
     これで、セントラルドグマに侵入しても自爆機構は作動しない。
     苦もなくリリスへたどり着かれるわ…!」
 日向「そんな…まさか、使徒がここの構造を知っているなんてことが…! いつ、そんな判断が」
  リツコ「…いいえ。情報分析でも論理的判断でもないわ。
     恐らくATフィールドそのものを巨大な知覚器として、微細な電磁パターンから違和感を
     読み取り、思考ではなく感知する…零号機の摂取は、いわば本能的な適応行為なんだわ。
     使徒は私たちの言う意味では認識も理解もしない。ただ生命としての無意識の衝動に従って、
     反応し、行動するだけ…」
 日向「単なる、生命…活動、ってことですか。使徒の」
 青葉「最初から…生物として備えていたってわけか、我々の手立てを凌駕する機能を」
 伊吹「そんな…
     それじゃあ、私たちの築いた科学は、…生き残るためにここまで進歩してきた私たちの科学は、
     人類のテクノロジーは、一体何だったんですか?! 私たちには、もう何もできないんですか?!」

131 :10/10:2014/12/28(日) 11:15:17.51 ID:???.net
全てを絶たれた顔でうなだれているシンジ
焦土を踏む両足
ただそこに立っているだけ
真っ黒な穴のように見開かれ何も見ていない両目
その目が、両手のひらに残る2号機の血の汚れを映す
両手を見下ろすシンジ
暗い目にふいに潤みが戻る

 シンジ「……ああ、…」

力なく両手の指が曲げられる
震えが大きくなり、止まる
立ちつくしているシンジ
光って黒い土に吸い込まれる涙の滴
呼吸するように、背筋と両肩に力がこもっていく
もう一度、両目を見開く
一瞬力いっぱい開いてぐっと痛いほど握りしめられる両手
定まった眼差を上げるシンジ
毅然たる横顔
地を蹴って、全力で走り出す

132 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/12/29(月) 09:51:27.09 ID:???.net
ho no <<ワクワク

133 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/12/29(月) 11:15:20.99 ID:???.net
ほぼ暗転した2号機エントリープラグ
やっとのことで顔を起こすマリ
黒い眺望を睨む
不安定なモニターに映し出された使徒の変容のさま

  マリ「零号機…パイロットごと、取り込まれてしまったんだ…
     …あ…ワンコ君、は…?」

激痛をこらえて視界を探すマリ
廃墟の一角が乱れつつズームアップされる
本部施設へ向かって走っていくシンジがかろうじて映り、直後、2号機の内部電源が尽きる
暗転した操縦席に沈むマリ
力なく笑う

  マリ「…ありゃ。行っちゃったか」

134 :1/5:2014/12/29(月) 11:32:25.28 ID:???.net
本部施設へ向き直る使徒
両目から閃光を放つ
凶暴な光の炸裂
地上部建築が一瞬で吹き飛ぶ

 青葉「本部地上施設、融解ッ!」
 日向「最終装甲、突破されました!」
  ミサト「…まずい! メインシャフトが丸見えだわ!!」

 シンジ「…!」

爆風のあおりを受け地面に倒れ伏すシンジ
すぐ起き上がり、後も見ずにまた走り出す
一面焼けただれたジオフロント
硝煙をあげる地面
作物が真っ黒になった畑、濁った地底湖、焼け焦げて枯木のようになった樹木
黒々とした風景を駆け抜けるシンジ

135 :2/5:2014/12/29(月) 11:34:27.05 ID:???.net
   加持(君自身はどうしたいんだ。今の自分を。それとも、君の周りにいる他人を。
      それは誰も、君の代わりに考えちゃくれない)
   ミサト(運命ってものはね、…他の誰でもない、自分自身の意志で選び取ってはじめて、
      真にその人の生きる意味になる。…だから誰も、運命を強要はできないわ)
   アスカ(あんた馬鹿? 私たちは、使徒相手の戦争の最前線にいるのよ)
    マリ(君はもう、降りたんでしょ)
    碇(背負いきれないなら最初から手を出すんじゃない)
   カヲル(気にしないで。言ったろう、君の力になりたいって。…僕はそれで、充分だよ)
    レイ(…私は)
    レイ(私は…お兄ちゃんがもう、エヴァに乗らなくていいように、したい)

熱く揺らぐ視界
つんのめりそうになりながら走るシンジ
焦土に足を取られ、煙と異臭に咳き込み、涙ぐみ、それでも顔もぬぐわずなおも走っていく
走り続ける
目指す先、防護の消えたシャフトに身を沈めていく使徒の巨影

136 :3/5:2014/12/29(月) 11:38:09.09 ID:???.net
断続的に震動の襲うケイジ
拘束具に囚われたまま身をよじる初号機
脊髄を覆う装甲が開き、ダミープラグが無理やり機外へ排出される
重なる警報
管制室からケイジを見下ろす碇

オペレータ『ダミープラグ、プラグ深度固定不能!』
オペレータ『脊椎伝導機構、作動不安定! 原因不明です!』
オペレータ『神経接続システム停止、リセットが効きません!』
    碇「続けろ。もう一度308からやり直せ!」
  シンジ『…乗せてくださいッ!』

打たれたようになる碇
視線を巡らす
下方、暗い整備ブリッジの上に小さな姿
両膝に手をつき、全身で荒い呼吸をしているシンジ
胸腔をかき回す痛みをこらえて顔を上げる

  シンジ「僕を…僕を、この、初号機に乗せてくださいッ!」

137 :4/5:2014/12/29(月) 11:39:51.11 ID:???.net
見下ろす碇
明るい管制室を背に逆光になった背の高い立ち姿
振り仰ぐシンジ
目に焼きつく黒い長身
脳裏に閃く、捨ててきたはずの幼い日の記憶

 シンジ「…、父さん」
   碇『なぜ、ここにいる』
 シンジ「…!」

一瞬ひるんだ自分を振り捨てるシンジ
膝から手を離し、両脚に今の自分にできる限り力を込めて、精一杯まっすぐに立つ

 シンジ『…父さんッ!』
   碇「!」

わずかに下がる碇

138 :5/5:2014/12/29(月) 11:40:55.43 ID:???.net
煤と泥に汚れた顔を懸命に上げ、射るような決死の眼差を据えているシンジ
固く握りしめたこぶし
今までの自分自身を捨てきった、覚悟の定まった表情
嵐の目の中心のように極限まで張りつめた静けさ
答える言葉を持てない碇

 シンジ「僕は…碇シンジです。碇レイの、双子のきょうだいです。
     レイが最後までやろうとしたことは、…僕が」

シンジの頬をひとすじ伝って落ちる温かな涙

 シンジ「一緒に、終わらせます」

不動の碇

139 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/12/29(月) 11:45:05.18 ID:F3VSFxNm.net
がんばれあげ

140 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/12/29(月) 12:24:21.67 ID:???.net
なんだこりゃ

141 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/12/29(月) 14:07:51.93 ID:???.net
ho no

142 :1/6:2014/12/30(火) 20:31:36.49 ID:???.net
>>139-141 なんだかすみません



警報の響く発令所

 日向「ドグマ内隔壁、突破されていきます!」
 青葉「目標はターミナルドグマ第7層を通過!」
  ミサト「…ここに来るわ! 非戦闘員は全員退避、急いで!」

ミサトの言葉が終わる間もなく、大きく明滅して消える発令所主モニター
投影壁をぶち破って現れるレイの形の使徒
すくむ人々
一人、必死に睨み返すミサト
胸の十字のペンダントを震えるほど握りしめている
生白いヒトの手を床につき、異形の顔を寄せてくる使徒
暗い眼窩が灼熱の光をはらむ
と、側面から別の衝撃
壁を破壊して突っ込んできた初号機が渾身の勢いで使徒に体当りする
宙を走って消えるATフィールドの干渉光
体勢を崩され、半ば倒されて真横へ押し出される使徒
そのまま使徒に組みついていく初号機
目をみはるミサト

  ミサト「…エヴァ初号機…?」

機体の蛍光マーキングが目に入る
ダミープラグではない

  ミサト「…シンジ君!」

143 :2/6:2014/12/30(火) 20:32:33.42 ID:???.net
初号機の目から発令所を一瞥するシンジ
こちらを見上げる小さな人々の姿
中央近くのミサト
初号機を見ている

    レイ(…私が守るもの)

一瞬目を閉じるシンジ
両目を見開く

 シンジ(だから僕も守る。もう、誰も死なせるもんか)
 シンジ『ううぅ…あああああッ!!』

施設を破壊しながら空のケイジへと進んでいく初号機と使徒
大穴の開く拘束具 見上げるようなケイジのシャッターが破られ、音をたてて倒れていく
見据える碇
ATフィールドを再形成する隙も与えられずただ押されていく使徒
こぶしを構える初号機
寸前、使徒の眼光が一閃する

144 :3/6:2014/12/30(火) 20:33:46.37 ID:???.net
中途から切断される初号機の左腕
ケイジ隔壁に血しぶきの帯を描いて激突、落下する
半身をエヴァの血に染めた碇
微動だにせず、初号機を見つめている

 シンジ『!! ぐっ…うおおおおおおッ!!』

いっそう猛り立っていく初号機
隔壁が吹き飛び、ともに崩れ落ちた先にエヴァの発進ターミナルが開ける
全身で使徒を突き飛ばし、組みつきながら、エヴァの地上射出装置に押し込む初号機
かろうじて振り返るシンジ

 シンジ『…ミサトさんッ!!』
  ミサト「! 全固定ロック解除ッ急いで!!」

瞬時に電磁圧がかかり、一気に射出される初号機と使徒
高速で射出シャフトを上昇していく両者
もがく使徒を身体じゅうで押さえ込む初号機
疾過するシャフト内壁に押しつけられて火花を散らす使徒の頭部
躊躇なく使徒を見据えているシンジ
LCLに次々と溶ける涙

145 :4/6:2014/12/30(火) 20:34:57.18 ID:???.net
 シンジ(レイは)
 シンジ(最後まで、守ろうとしてた)

鋭い痛みとなって閃く瞬間的な思考

    レイ(…私は、お兄ちゃんが、もう)
 シンジ(…僕はどうだったんだ)
 シンジ(レイが、もうエヴァで怖い思いをしなくて済むようにって、一度でも考えてたのか?)

ジオフロント地表から射出の勢いのまま宙に飛び出す初号機と使徒
一瞬身を躍らせ、そのまま使徒を地面に叩き伏せる初号機
衝撃がジオフロントを揺るがす

 シンジ(安心してたんじゃないのか…? 同じつらさを知ってる、レイがいたことに。
     …レイがいるから。レイが乗るから。もし本当に嫌になったら自分だけはエヴァを
     降りられるって、心のどこかで、そう思ってたんじゃないのか?)
 シンジ(なら…僕は、最低だ)

146 :5/6:2014/12/30(火) 20:36:50.50 ID:???.net
 シンジ(卑怯で、臆病で、ずるくて、弱虫で…
     ただ逃げるよりずっと、ずっと悪い。
     だって僕は、レイを、身代わりにしてたんだ。自分が嫌なことから逃げ出すための)

伝わることのない思いの奔出
歪むシンジの顔

 シンジ(…だったら、報いを受けなきゃならないのは僕だ)
 シンジ(僕を償うのは僕だ。レイじゃない)
 シンジ(レイじゃいけなかったんだ…!)

 シンジ『うあああああああッ!!』

使徒の頭部をねじ上げ、コアを剥き出そうとする初号機
膜状構造が裂け体表が引き剥がされていく
露出しかけるコア
突然、初号機の動きが停まる

 シンジ「…?!」

プラグ内に響く警告音
内部電源ゼロ
絶望に貫かれるシンジの顔

147 :6/6:2014/12/30(火) 20:37:32.62 ID:???.net
上昇する脱出用エレベータ内のミサト、リツコ、青葉、伊吹、日向
息を呑み端末から顔を上げる伊吹

 伊吹「…初号機、活動限界です! 予備も動きません!」
  ミサト「シンジ君…!」

停止時の姿勢のままくずおれている初号機
動き出す使徒
下敷きになった巨大なヒトの片腕がほどけ、本来の帯状構造を取り戻す
初号機の頭部に巻きつく黒い帯の束
機体全体を高く宙に持ち上げる
壊れた人形のように吊り下げられている初号機
帯腕をひるがえす使徒
蒸発した本部ピラミッドの跡に叩きつけられる初号機
激震する地表
退避壕からジオフロントに走り出るミサトら
瓦礫の間深く沈んだ初号機
頭部から長く噴き上がる血しぶき
ミサトの目に、同じシンジの姿が重なる
多数枝分かれした黒い腕を伸ばし、初号機の胸部装甲を引きむしり始める使徒

  ミサト「…シンジ君…!」

148 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/12/31(水) 19:20:36.58 ID:???.net
ho

149 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/12/31(水) 20:37:14.68 ID:IJ6mIVDH.net
続き早よ。

150 :1/10:2015/01/01(木) 00:04:52.02 ID:???.net
真っ暗な初号機プラグ
激痛だけを残して失われた身体感覚
重いLCLの中、黒っぽく目の前を漂って伸びていく血反吐の帯
揺さぶられている機体

 シンジ(…これで、…終わり、なのか)
 シンジ(何も…できないまま)

戻らない機体の反応

 シンジ(…わかってたさ)

脳裏に閃く情景群
使徒、得体の知れないエヴァ、一人きりのエントリープラグ、見下ろす碇、冷たいミサト
クラスメートたち、ピアノ、去り際のカヲルの笑顔、慰めをはねつけて笑ってみせるアスカ
痛み、傷、夕焼け、3号機の血、使徒、変貌した2号機、侵攻されたジオフロント
一人で使徒へ突っ込んでいったレイ

 シンジ(どんなに必死でやったって上手くいく訳ないんだ。
     願ったって、叶う訳ないんだ。僕一人の心で変わるはずないんだ。…いつだって、
     最後はみんな失ってしまうんだ)

151 :2/10:2015/01/01(木) 00:05:43.98 ID:???.net
闇の中、肩を落とし深くうなだれたシンジ
垂れた面

 シンジ(……だったら)

かすかに動くシンジの頭

 シンジ(…僕は、…もう、待たない)

顔を上げるシンジ
火のような両目

 シンジ「……こんな世界なんか知らない。
     …レイを、今、ここに、返せ…!!」

真っ赤な両眼を見開く初号機

152 :3/10:2015/01/01(木) 00:06:30.70 ID:???.net
再起動
初号機の機体各部のマーキングが赤変していく
異変を察知し帯腕を引き戻す使徒
闇の中、本部跡から身を起こしていく初号機
畏怖に打たれて仰ぐ人々

 伊吹「…動いてる…、活動限界の、はずなのに」
 日向「何が…起こってるんだ」
 青葉「暴走、なのか…?」

初号機から目を離せないミサト

  ミサト「…リツコッ!」
  リツコ「…わからない」

同じく動けないリツコ

  リツコ「…わからないわ…今、初号機に何が、起こっているのか…」

立ち上がる初号機
顎部の装甲が外れ、口が開く
口腔から洩れ出す熱い呼気

153 :4/10:2015/01/01(木) 00:07:21.57 ID:???.net
使徒の黒い帯状集合体が一斉にざわめく
佇立した初号機めがけ、条腕を射かける使徒
残った右手を正面に開く初号機
烈光が弾ける
とっさに身をかばった姿勢のまま目を凝らすミサト
前方、すさまじい輝度で顕現した初号機のATフィールド
エヴァの装甲すら切り裂いた使徒の黒い条腕が、ATフィールド表層に接すると同時に形状溶解し、
大量の黒い泥のように位相境界面を空しく流れ落ちていく
ついに浮き上がり、自ら突っ込んでくる使徒
迎える初号機
ATフィールドに激しく突き当たり、動きを停められる使徒
黒い帯膜が狂ったようにうごめくが、それ以上近づけない
使徒の両眼が光線を放つ
見守るほかない人々
初号機のATフィールドの表面で、何条にも分散され弾かれて輝く使徒の光線
加重されていく光圧
しかし、フィールド表層すら突破できないまま宙に散っていく
使徒を見据える初号機
切断された左手を宙にかかげる
射るような光の粒子が幾重にも収束し、燃える光炎からなる新たな左腕に変わる
直後、光る左腕が爆発的に形態を展開させる

154 :5/10:2015/01/01(木) 00:08:13.29 ID:???.net
輝面で構成された巨大な超立体が高密度に収束し、一瞬で使徒を打つ
灼けたジオフロントへ突っ込む使徒の巨体
頭部を起こす初号機
両眼が虹をはらむ
一閃
使徒のごとく目から光を放つ初号機
間一髪展開される使徒の多層ATフィールド盾
塔ほどの厚みの光の層が一撃で貫通され、位相空間が崩れて吹き飛ぶ

  ミサト「…! あッ」

爆風の余波に耐え、何とか顔を上げるミサト
大きく踏み出す初号機の足
焼けただれた地面を踏みしめる
ぼろきれのようになって倒れた使徒の方へ歩いていく
形を得た光となって輝きをこぼす左腕
未知の圧力が初号機の頭上に集束し、天使を思わせる光輪となる

  ミサト「光輪…、エヴァに、こんな力が…使徒に匹敵する以上の」
  リツコ「…初号機が、ヒトの域を超えている」
 伊吹「初号機、プラグ深度180をオーバー、…もう、これ以上は…!」

155 :6/10:2015/01/01(木) 00:09:37.09 ID:???.net
  リツコ「やめなさい、シンジ君っ! ヒトに戻れなくなる!」

人々から遠ざかっていく初号機
変転する光の潮流に晒されたエントリープラグ
めまぐるしく移り変わる光と影の中、前だけを見据えるシンジ

 シンジ(いつだって、僕は何もできなかった)
 シンジ(いつだって自分のことばかりで、何もかも駄目にしただけだった。他人に都合のいい
     期待をして、一人で勝手に裏切られて、傷ついて、代わりに他の誰かを傷つけて。
     その繰り返しが僕だ)
 シンジ(それでも…もう誰かが傷つくのは嫌なんだ)
 シンジ(死ぬなら僕が死ねばいい。世界が欲しがるのなら、僕が全部なくなったっていい。
     その代わり、レイだけはここに返せ)
 シンジ(レイは…レイだけは、絶対に、取り戻す)

起き直ろうとする使徒
再び眼光を放つ初号機
一直線に伸びた輝線が使徒のATフィールドを両断し、その身体を走る
下腹部、胴、胸部、そしてコアを覆った防護構造が一瞬で切り裂かれる
露出するコア
使徒の両眼窩から血がしぶく
その背後、光線は遥か後方のジオフロントの天井部までも焼き切っている

156 :7/10:2015/01/01(木) 00:10:38.90 ID:???.net
十字架の形に爆発するジオフロント天蓋
すさまじい爆炎が本部跡を照らす
輝きの中に立つ初号機

  ミサト「…行きなさいシンジ君ッ!!」

溢れる思いを込めた両目を初号機に据え、叫ぶミサト

  ミサト「誰かのためじゃない! あなた自身の願いのために!」
  リツコ「…ミサト」

使徒にたどり着き、頭部を踏み潰す初号機
剥き出されたコアに開いた右手を突きつける
長く伸びる咆哮
力が集束していく

青い光の奈落と化したエントリープラグ
輝く奔流がコアの方向から噴き上げてくる
激流に逆らって這い進むシンジ
背中からは白く揺らめく光が翼となってほとばしっている

 シンジ「…レイ!! 答えてよ、そこにいるんだろ?!」

157 :8/10:2015/01/01(木) 00:11:50.56 ID:???.net
闇に沈んだ場所
不定形の暗黒の中から、ぼんやりと白く具象化するレイ
揺らめく顔を仰向ける
遥か上方からシンジの必死の叫び

 シンジ(…レイッ!!)
  .レイ(…あ)

シンジの呼ぶ声が、使徒の中に消えそうなレイの形象をとどめ、維持している
悲しみに覆われるレイの顔

 シンジ「レイ!!」

闇との境界面にたどりつくシンジ
厚く壁のように立ちはだかる使徒の実質
闇の底を透かすように、小さく見えている白いレイの姿
壁を突破しようともがくシンジを見つめ、首を振る

   レイ(…いいえ、駄目)
   レイ(私は、もういなくなったの)

目を見開くシンジ

158 :9/10:2015/01/01(木) 00:13:24.97 ID:???.net
   レイ(もう、私は私だけじゃない。ここと同じ。もう、一つになっている。
     …だから、駄目。このまま、ここと一緒に消えていくのが、今の私)
   レイ(だからもう…呼ばないで)

見上げているレイ

   レイ(私たちは二人で生まれた。だから私がいなくなっても、何も変わらないもの。
     私の形が一つ、消えるだけだもの)
   レイ(私が死んでも代わりはいるもの)
レイたち((((代わりは、いるもの))))

レイの声にかぶる多数のレイたちの声
叫ぶシンジ

 シンジ「…違う! レイはレイしかいない!
     代わりなんかいない、僕の代わりでもない!」

渾身の力で闇に両手を突き立てるシンジ
黒い圏界面が揺らぎ始める

 シンジ「前だって助けた、…だから今も、絶対助ける!!」

大きく両目を見開くレイ

159 :10/10:2015/01/01(木) 00:14:32.27 ID:???.net
赤く染まり円周状に加速していく初号機の光輪
胸部装甲が吹き飛び、コアがあらわになる
一気に広がっていく赤い多重輪

    いま、私の願いごとが叶うならば 翼がほしい
    この背中に、鳥のように
    白い翼 つけてください

   レイ(あ…)

レイを包む闇の空虚な冷たさが揺らぐ
それは初号機の手の下で波紋を走らせ震える使徒のコアの揺らぎでもある
寒いという感覚を思い出すレイ
体温を思い出すレイ
他人の声を思い出すレイ
他人に触れるぬくもりを思い出すレイ
他人の間で生きていた自分を思い出すレイ
みんなと生きていたいという願いを思い出すレイ
溢れる感情が堰を切り、ヒトそのものの表情で揺れるレイの顔
小さく口が開く
初めて肉声になるレイの声

   レイ「…おにいちゃん」

160 :1/7:2015/01/01(木) 09:26:21.37 ID:???.net
 シンジ(僕はもう待たない。世界が、人の願いを叶えることを)
 シンジ(もう何も信じられなくなったって構わない。ずっと信じられないままだっていい)
 シンジ(…そう、僕は、僕が要らない)

シンジの手が闇を突き破る

 シンジ「レイ!! 手を…!」

渾身の力で右手をレイにさしのべる
ついに周囲からの力圧に負け、表層から崩壊し始めるシンジの手の形象
身を灼く痛み
それでも踏みとどまるシンジ

光る左手も使徒のコアに向ける初号機
力を解放する

 シンジ「…、帰るんだッ!!」
  .レイ「…うん…!」

まっすぐ手を伸ばすレイ
黒い鏡に映るように交叉する二人の手
掴む
偽りの鏡面が乱れ、一気にレイを引き寄せるシンジ
闇を抜けるレイ
はためく青白い光の淵
レイの左手に握られたシンジのSDAT

161 :2/7:2015/01/01(木) 09:31:00.74 ID:???.net
   この大空に翼を広げ 飛んでゆきたいよ
   悲しみのない自由な空へ
   翼はためかせ 行きたい

使徒とともに宙に浮かび上がった初号機
コアから噴き出すエネルギーが頭上の赤い輪に吸い込まれていく
さらにとどめようもなく拡大していく赤い渦状輪
加速する渦の中心に口を開けた不可視の領域

 伊吹「そんな…、形状制御のリミッターが、消えています。解析…不能」

端末画面を見つめている伊吹
初号機を見上げているリツコ

  リツコ「ヒトの域にとどめておいたエヴァが、本来の姿を取り戻していく…
     ヒトのかけた呪縛を解いて、ヒトを超えた、神に近い姿へと代わっていく」
 日向「呪縛…?」
 青葉「エヴァの…封印」
  リツコ「そう…あれは装甲板ではないの。全て、ヒトがエヴァを抑えるための
     拘束具。使徒の力を封じるための呪具と、本質的に同じ…」
  ミサト「…あれが、エヴァの、本当の姿」

162 :3/7:2015/01/01(木) 09:33:32.37 ID:???.net
初号機の前で形象崩壊する使徒のコア
弾け飛ぶ使徒の巨体
拡散するLCLが逆巻く空間の中で動きを止め、逆に初号機の前に集束してヒトの形になる
目をみはるミサト

  ミサト「…レイ…!」

初号機と同じ大きさで浮かぶ赤いレイの姿
周囲に舞う地のかけら
頭上を覆う規模に拡大し、全てを巻き込んで激しさを増していく赤い渦状輪
吸い込まれるように見上げるミサト
抑えようもない恐れと忌避が全身を掴んでいる

   …この大空に翼を広げ 飛んでゆきたいよ

  ミサト「…歌」

ミサトの頬を次々と伝い落ちる涙
恐れからか悲しみからか、ミサト自身にもわからない

  ミサト「…レイ」

唯一感得できる途方もない喪失感
自分たちと、シンジとレイとの間に開いていく、二度と取り戻せない距離の痛み

  リツコ「天と地と万物を紡ぎ…
     相補性の巨大なうねりの中で、自らをエネルギーの凝縮体に変身させているんだわ。
     純粋に、人の願いを叶える…ただ、そのために」

163 :4/7:2015/01/01(木) 09:34:49.73 ID:???.net
残骸となったネルフ本部
天を隠す巨大な赤い渦を見上げる加持

 加持「数が揃わぬうちに初号機をトリガーとするとは…
     ゼーレが黙っちゃいませんよ。碇司令」

同じく本部跡に立つ碇と冬月

 冬月「やはり、あの二人で初号機の覚醒は成ったな」
   碇「ああ。我々の計画にたどり着くまで、あと少しだ」

活動停止した2号機から這い出したマリ
片方レンズの割れた眼鏡ごしに初号機を見上げる

  マリ「なるほど…都合のいい奴。やっぱり匂いが違うからかなぁ…
    へっくしゅっ」

164 :5/7:2015/01/01(木) 09:35:55.51 ID:???.net
まばゆい光の淵に浮かぶシンジとレイ
青白く揺らめいて二人を包む光の波
眩しさが視界を溶かしていく
SDATを掴んでいるレイ
ただレイを抱きしめるシンジ

 シンジ「レイ、…みんなのこと、ありがとう」
   レイ「ごめんなさい。…何も、できなかった」
 シンジ「…馬鹿だな、謝らなくたっていいんだよ。レイはレイでいい。僕は、レイが帰ってきて
     くれただけで、…生きててくれるだけで、それでいいんだ」

光に溶ける二人

 シンジ「…それだけで、いいんだ」

165 :6/7:2015/01/01(木) 09:38:12.30 ID:???.net
初号機へと溶け込んでいくレイの形象
まばゆい輝きを放っている初号機のコア
地上 吹き飛ぶ第三新東京市
赤変した空
十文字に裂ける大地
切り開かれた地の十字架の真上に、初号機の頭上のものと同じ赤い渦状輪が現れる
加速する渦へと吸い込まれていく都市と地殻

   悲しみのない自由な空へ 翼はためかせ 行きたい

赤い渦の力の中心に立つ初号機
二つのコアから噴き出したエネルギーが形をとり、巨大な光の翼となって天の渦の中央に向かう
周囲が全て破壊され砕かれて渦の向こうへ吸い込まれていく
思い出すミサト
新たに身を震わせる

  ミサト「…翼、…15年前と、同じ…!」
  リツコ「そう…
     この世界の理を超えた新たな生命の誕生。代償として、古の生命は滅びる…
     セカンドインパクトの続き、サードインパクトが始まる。
     …世界は終わるのよ」

全てを巻き込んでいく赤い擾乱
固く十字架のペンダントを握りしめるミサトの手

166 :7/7:2015/01/01(木) 09:40:42.63 ID:???.net
赤く染まった惑星の一角
中心に巨大な赤い渦
一瞬天地を繋いで渦の中央へ降る槍
貫通される初号機
赤い渦も、光の翼も、輝く左腕も消滅する
通常の色彩を取り戻す夜空
天蓋のなくなったジオフロントから、ぽっかり開けた天を仰ぐミサトたち
光輪を戴き、満月を背に舞い降りるEVANGELION mk.6
エントリープラグのカヲル
悲しげな微笑

 カヲル「さあ、約束の時だ」

地上を、槍に縫いとめられた初号機を見下ろす

 カヲル「…やはり、待っていてはもらえなかったね。
    その望み方では、誰も幸せにできないよ。…シンジ君」



以上で破パート終了です
最後は本編丸写しに近くてつまんなかったですね、すいません
前スレから見てくれた方、昨年は大変お世話になりました
今後も何とかやっていけたらと思います

167 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/01/01(木) 10:46:08.07 ID:???.net
ho no <アケオメ コトヨロ!

168 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/01/05(月) 12:28:29.81 ID:???.net
保守

169 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/01/08(木) 10:43:22.71 ID:???.net


170 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/01/09(金) 18:47:07.58 ID:???.net
@

171 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/01/10(土) 11:01:32.95 ID:???.net
test

172 :1/5:2015/01/12(月) 13:13:27.47 ID:???.net
なかなかQに入れないのでやや現実逃避兼保守の双子ネタ
前スレ、カヲルがタブハに帰る直前辺りだと思ってください


  .レイ「…お兄ちゃん!」
 シンジ「?! どうしたのレイ、そんなに慌てて…わッ」
  .レイ「こっち、早く」
 シンジ「え、何で急…わかったっ、走るから、…レイッ、痛いってば!」
  .レイ「いいから、…急がないと、間に合わなくなる!」
 シンジ「え…?」

 シンジ「…、…、レイ…、ほんとに、ここ…?」
  .レイ「…、いない、…そんな」
 シンジ「レイ…?」
  .レイ「…ごめんなさい」
 シンジ「え?」
  .レイ「ごめん、なさい…」
 シンジ「…、もう、何だよ。
     別に、謝ることないよ。レイが一生懸命してくれたってことは、僕にはわかるから。
     だけど、訳ぐらいは話してよ。レイに大事なことなら、僕もわかってた方がいいかもしれないし」
  .レイ「……」
 シンジ「あ…ごめんよ。何か、聞かない方がいいことなら、もう言わない」
  .レイ「ううん、…そうじゃないの」
 シンジ「…言いたくないこと?」
  .レイ「!」

173 :2/5:2015/01/12(月) 13:14:51.57 ID:???.net
 シンジ「なら、なおさら、いいよ。…それより、そろそろ戻ろっか」
  .レイ「……」
 シンジ「ここって本部のどの辺になるんだろう…とりあえず、上の階に行けばわかるかな。
     エレベーターは、と…レイ?」
  .レイ「…いた!」
 シンジ「え? …うわっ、また?! 今度はどこ行くんだよ、もう!」

 .カヲル「…あ」
 シンジ「! カヲル君!」
 .カヲル「シンジ君、…どうして。もう会えないと思っていたのに」
 シンジ「僕も…でも、レイが、連れてきてくれた、んだ…」
 .カヲル「妹さんが…?」
  .レイ「…、…」
 .カヲル「…こんなに息を乱して。ずいぶん走って探してくれたんだね。…ありがとう」
  .レイ「…!」
 .カヲル「本当にありがとう。…間に合わせてくれて。
     あと少し遅かったら、僕は何も知らずに行ってしまわなければならなかった」
  .レイ「……」

174 :3/5:2015/01/12(月) 13:16:19.31 ID:???.net
 シンジ「レイ、…じゃあ急いでたのって、カヲル君を探して? …なんで」
 .カヲル「わからないかい、お兄さんなのに」
 シンジ「え…?」
  .レイ「……お兄ちゃん」
 シンジ「な、何」
  .レイ「…ぎゅって、してあげて」
 シンジ「え? ぎゅ?」
  .レイ「私が、使徒から助けてもらった時みたいに。
     …この人に、してあげて」
 シンジ「使徒って、この間の作戦の…って、えええ?! なっ何言ってるんだよレイッ」
 .カヲル「? 何のことだい?」
 シンジ「あッいやっ、…そっか、カヲル君は見てないんだ、…あの別にっ、何でもないから」
 .カヲル「…?
     すまない、せっかく来てもらったけれど、もう、行く時間だ」
 シンジ「え…、あ…」
 .カヲル「ごめん。…もう一度会えて、嬉しかったよ」
  .レイ「…!!」
 シンジ「うわッ」
 .カヲル「あっ」
  .レイ「お兄ちゃん、…早く、…お願い!」
 シンジ「………」

175 :4/5:2015/01/12(月) 13:23:36.66 ID:???.net
 .カヲル「…! シンジ君、…」
 シンジ「……
     ごめん、カヲル君。…ちょっとだけ、今だけ、我慢して。すぐ離すから」
  .レイ「……」
 .カヲル「…、我慢なんか、していないよ。
     ありがとう。二人とも」
  .レイ「あ…」
 シンジ「…カヲル君」
  .レイ「…どうして、…わたし、まで」
 .カヲル「僕がこうしたいから、さ。それだけだよ」
 シンジ「カヲル君…」
 .カヲル「…良かった。彼女が、君の傍にいてくれて。
     彼女は心から君のことを、そして僕のことも、気遣っていてくれたんだね…
     彼女を見ていればよくわかるよ。もちろん、君のこともね」
 シンジ「僕の…こと」
 .カヲル「君が、僕の消息が知れなくて不安を抱えていたことを、彼女はよくわかっていた。
     どうすれば、君が安心できるのか、喜んでくれるのか、そのことだけを思ってくれて
     いたんだよ。君の望みは自分が一番知っているから。…そうなんだろう?」
 シンジ「レイ…」
  .レイ「…そうよ。
     私たちは、双子だもの」
 .カヲル「ふふ、そうだったね」

176 :5/5:2015/01/12(月) 13:26:07.99 ID:???.net
 シンジ「…行っちゃったね」
  .レイ「ううん。…ほら、向こう。もうすぐ見えるわ」
 シンジ「ほんとだ。でも、もう遠いね…」
  .レイ「……」
 シンジ「そうだ、…」
  .レイ「…、手を振っても、きっと見えないわ」
 シンジ「わかんないさ。ほら、レイも」
  .レイ「いっしょに?」
 シンジ「その、…双子なんだから、さ」
  .レイ「…うん」
 両者「「あっ」」
  .レイ「今、最後に」
 シンジ「…うん。見間違いじゃないよね」
  .レイ「ちゃんと見えた。振り向いて、…笑ってくれた。お兄ちゃんに」
 シンジ「違う。僕たちに、だよ。
     …ありがとう、レイ。前に言ってくれたこと、守ってくれて。…僕を連れてきてくれて」
  .レイ「…わかってたもの。ずっと」
 シンジ「…うん。
     じゃ、そろそろ戻ろう。きっと上で、ミサトさんが僕らのこと探してるよ」
  .レイ「うん。…行こ、お兄ちゃん」


前スレ見られる方は404-411辺りを参照してください
ていうか、もっと気張れ自分
たぶんつづきます

177 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/01/13(火) 15:18:13.83 ID:???.net
ho

178 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/01/15(木) 10:16:05.88 ID:???.net
>>47が実現しそうな件
まあレイもかわいく描いてるから許すw

179 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/01/16(金) 10:30:27.58 ID:???.net
期待

180 :1/4:2015/01/18(日) 13:45:59.34 ID:???.net
>>177-179 なんかすみません、がんばります


  ミサト「………」
  .レイ「………」
  ミサト「…うーん…
     案外難しいわね。角度とか…こんな感じ? いや、こう…?」
  .レイ「ごめんなさい。自分で、やりますから」
  ミサト「いや、もうちょい! もうちょいでコツが掴めそうなのよ、動かないでよー…」
 シンジ「…何やってるんですか? 二人で」
  .レイ「あ…お帰りなさい」
  ミサト「んー? 見てのとお、り、よー…うーん、こっちから入るのも、なんか違うわねぇ」
 シンジ「ハサミ持って…散髪、ですか? レイの?」
  ミサト「そうよー。そろそろ前髪ジャマそうだから、少し切ってあげようと思ったんだけど…
     なかなか、これがむっずかしくてね」
 シンジ「それで、どのくらい進んで…って、もしかして、まだ、全然…?」
  .レイ「そう、全然」
  ミサト「うーん…」
 シンジ「…、何も、そこまで悩むことないじゃないですか。大体いつもと同じに揃えてあげれば」
  ミサト「なによう、横から簡単に言ってくれちゃって。じゃ、シンジ君やってみて」

181 :2/4:2015/01/18(日) 13:46:35.05 ID:???.net
 シンジ「え?! あ、いや、…はい」
  ミサト「ほーら、言うとやるとは大違いでしょ。…ん?」
 シンジ「レイ、じゃ、いい? 目は閉じてて。危ないからね」
  .レイ「うん」
 シンジ「……」
  .レイ「……」
  ミサト「…あらま」
 シンジ「こんな感じ、かな…レイ、もうちょっとで終わるからね。…はい、いいよ。
     あ、…これ、鏡。どう? 変じゃなかった…?」
  .レイ「楽に、なった。…ありがと。お兄ちゃん」
 シンジ「何だよ、いいよ、このくらい。…ほらミサトさん、やっぱり考えすぎだったじゃないですか。
     普通にやれば、ちゃんと済みましたよ」
  ミサト「……
     あーそーですかー、だ。でも、知らないわよ? 同じ双子だからって、そんな風に
     好き放題にやっちゃって」
 シンジ「…、どういう意味ですか、それ。…いくらミサトさんでも」

182 :3/4:2015/01/18(日) 13:47:46.00 ID:???.net
  ミサト「ごめんごめん、怒った顔しないで。…からかいたい訳じゃないのよ。
     だけど、他ならぬレイの髪だもの。
     そりゃ気を遣うわよ。毎日顔を合わせる以上、碇司令のチェックは避けられないものね」
 シンジ「…!!!」
  .レイ「?! どうしたの、お兄ちゃん」
 シンジ「………」
  ミサト「心配要らないわよー、レイ。これはシンジ君の問題だもの。
     …あら? そういえばシンジ君、ちょっと背、伸びた? レイと並ばなくなってるじゃない」
  .レイ「あ…、ほんとだ」
  ミサト「ふふふ。レイってば、そんなふうに手を当てて背比べしてると、かわいいわよん」
  .レイ「…え」
  ミサト「そうやって、表情も増えてきたしね。…ほんと、二人とも、いつのまにか変わってきたのね。
     双子って言っても全て同じじゃないし、それでいて重なるところも多くて、繋がってる…
     できればいつまでも見てたくなるわ。…なんちゃって、こりゃ大人の余計な感傷だわね」
  .レイ「…、どうして、ですか」

183 :4/4:2015/01/18(日) 13:49:23.19 ID:???.net
  ミサト「え?っと、うーん…、そうね…たぶん、大人は怖がりだから、かもね」
  .レイ「……」
  ミサト「大人になるとね、…どうしても、変わらないものばかり求めたくなるのよ。
     失うことを恐れ、今持っているものを、少しでも譲りたくなくなる、…それはつまり、自分もまた
     程なく失われるだろうってことの自覚の、裏返しでもあるんだけどね。生きてるってのはね、
     大人になればなるほど、抱えるものが増えて厄介よー。なんてね」
  .レイ「…そうじゃなくて」
  ミサト「ん?」
  .レイ「…、ミサトさんは、今、こうして私たちを見てくれている。…みんなで、ここにいる」
  ミサト「…ん」
  .レイ「ずっと、は、無理だけど、…今は、まだ。
     …離れても、失われたりしない。…覚えているもの。人は、…みんなは、ここにいるもの。
     それだけじゃ…だめですか」
  ミサト「……んーん。
     駄目なんかじゃあないわ。…そうね、駄目じゃない。一番確かなのは、今、だものね。
     確かにそうだわ。…ありがとね、レイ。レイのそういうとこ、私は好きよ。
     きっとシンジ君もね」
  .レイ「…お兄ちゃんも」
  ミサト「そうよ。ね、シンジ君。…って、シンジ君?
     いつまでそうやってるの、さっきのは冗談に決まってるでしょー。シンジ君?
     ちょっと、シンジ君ー? …」
  .レイ「………」

184 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/01/19(月) 11:18:04.16 ID:???.net
いつもは誰が切ってたんだろうね
ゲンドウ?w

185 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/01/23(金) 09:57:18.81 ID:???.net
ho

186 :1/6:2015/01/23(金) 23:23:06.88 ID:???.net
>>184 冬月さんか伊吹さん辺りではないかと(リツコさんは刃物持たせると怖そうなので)
引き続き準備中です、すみません


 加持「よ。今、上がりかい」
 .アスカ「そうだけど…何よ、お目当ては私じゃなくてミサトでしょ。こんなところで
     油売ってないで、さっさとカノジョ、捜したら」
 加持「はは、つれない上に、手厳しいな」
 .アスカ「当たり前でしょ。オトコなんかに構う気はないの。この私にはエヴァが最優先、
     それ以外は全部付け足しよ。そんじょそこらのガキどもとは、生き方、違うの。
     一括りにに子供扱いしないで」
 加持「そうか? …子供でいられる時間てのは、思ってるほど長くない。焦ること
     ないさ。それにせっかくの人生の一部、自分から切り捨てるのは勿体ないぞ」
 .アスカ「…何よ、また大人目線でわかったフリして」
 加持「フリから身につくことだってあるさ。学ぶ、習うってことの始まりは模倣だからな。
     何事も人生経験だよ。…たとえば上の中学校じゃ、君は学校一の美貌って
     大評判だそうじゃないか」
 .アスカ「! ちょ…さっすが主席監査官、そんなことまでチェックしてるわけ」
 加持「ま、一通り、な。
     何しろ君らは普通の立場じゃないんだ。何が重要になるかわからないからな」
 .アスカ「あっそ。
     …そういうのは、馬鹿なガキが騒いでるだけよ。私には関係ないわ。
     教室ではいつも一人。周りに合わせる気、ないし」
 加持「らしいな」
 .アスカ「その方が気楽だし。エヴァのパイロットだからって、変に持ち上げられて余計な
     詮索されたくないし。下らないことに余力を使いたくないし」
 加持「皆に余計な期待もされたくないし?」

187 :2/6:2015/01/23(金) 23:23:49.69 ID:???.net
 .アスカ「…、私は私よ。
     ずっと一人で生きてく。それで当たり前だもの。
     今さらフツーのセイカツに溶け込むフリしたり、…どっかのボケ双子兄妹みたいに、
     赤の他人と楽しい家族ごっこなんかしたくないの」
 加持「エヴァに乗ることと自分の戦績以外は、全て余計かい?」
 .アスカ「余分な重荷は要らないだけ。そんな余裕、私の立場にはないの」
 加持「…そうか。
     確かにそうだな。…だが、何だか葛城みたいな言い方だぞ。それは」
 .アスカ「は…? ミサト?! どこが!」
 加持「彼女の器は、常に責務で満杯なんだそうだ。似てないかい」
 .アスカ「全然違うわよ! あんな、ワザとらしい生き方」
 加持「だが偽りじゃない。彼女の選んだ道だ」
 .アスカ「…わかってるわよ」
 加持「どうかな。…上の学校に通う意味もわからないんじゃ、少々怪しいかもな」
 .アスカ「…、コミュニケーション能力の向上、でしょ。適切な人間関係の構築ってやつ。
     …何が適切な関係よ。ただの押しつけじゃない」
 加持「押しつけだと思ううちは、そうだな。自分で体得するしかないからな。こういうことは」
 .アスカ「何をよ」
 加持「自分が他人の間で生きていることの、実感」
 .アスカ「…、真面目に言ってるわけ」
 加持「大真面目だよ」

188 :3/6:2015/01/23(金) 23:26:17.23 ID:???.net
 加持「君は決して一人だけで生きてる訳じゃない。エヴァにしたって、継承された技術と、
     大勢の人間の不断の尽力があって、はじめて動く。…君はその事実を認識は
     してるが、自分に直結したことだとは思っていない。だから一人でいたがるし、
     葛城のことも嫌うのさ。違うかい」
 .アスカ「……」
 加持「葛城の経歴は君も一通り知ってる。世間が知ってるよりも詳しくな。だが、結局
     君のそれは知識以上じゃない。自分のことよりは重要じゃない」
 .アスカ「思い上がるな、って言いたいのね」
 加持「違う。ただ、彼女も、シンジ君もレイも、みんなそれぞれ生きてるってことを、
     もっと知ってほしいだけさ。君が特別な人間だから、なおさらな」
 .アスカ「特別…だから?」
 加持「ああ。君は特別だ。他の大勢の人間より、君ははるかに優先される。でもだからこそ、
     君も本当は彼らと同じなんだと知っていなきゃならない。君の特別な技量、才能は、
     人類が擁する、星の数ほどの特質のひとつに過ぎないんだ。かけがえのない、しかし
     特異ではないものだ。選ばれるっていうのはそういうことさ。…だから、自分で自分を
     孤立させる必要もまた、ないんだ」
 .アスカ「…なによ」
 加持「俺は真面目だよ」
 .アスカ「…わかってるわ。…傲慢だって説教されるかと思ったから、拍子抜けしただけ」
 加持「そうか」
 .アスカ「…あ、…だからなんだ」

189 :4/6:2015/01/23(金) 23:27:57.25 ID:???.net
 .アスカ「私らが、わざわざ上の中学校に通わされてる理由。ちゃんと日頃から接しとけって
     ことなんでしょ。ちゃんと…他の、違う人間と」
 加持「そうだな。同じ場所で勉強して、昼飯食って…挨拶するだけでも、毎日の生活は
     自分が確かに生きてるって実感を育ててくれる。この先、戦いの中で君が本当に
     孤立無援になったとき、それは確実に、君を助ける力になってくれる。保証するよ」
 .アスカ「…そう、なんだ。
     けど…何よ。実戦に出るわけでもないのに、安請け合いしちゃって」
 加持「…そりゃそうだな。すまんすまん」
 .アスカ「いいわよ、そんなの、別に。あ…ミサト」
 加持「お」
  ミサト「珍しい組み合わせじゃない。どしたの、アスカ。こんな遅くまで残ってるなんて」
 .アスカ「…オトナの話。相談に乗ってもらってたの」
  ミサト「加持に? …う〜む」
 加持「おいおい何だ、その変質者を見るような目は」
  ミサト「そのまんまだけどー? あんた、アスカに何か変なこと言ったんじゃないでしょうね」
 加持「あれ? ひどいなぁ。普通に対等な人間どうしの話をしてただけさ」
  ミサト「どうだか。…アスカ、こんな奴の話聞いても、ロクなことないわよ。どうせ責任論とか
     オトコの主観の押しつけなんだから。ったく、監察官なら自分の仕事してなさいよ」

190 :5/6:2015/01/23(金) 23:29:13.44 ID:???.net
 .アスカ「何よ、ミサト。仕事の外まで私の心配することないのに」
  ミサト「するわよ。アスカのことは、全部私の仕事でもあるもの」
 .アスカ「…仕事」
  ミサト「それに、こんなことが全部済んだら、アスカにはちゃんと幸せになって欲しいしね」
 .アスカ「…しあわ…せ?」
 加持「……」
 .アスカ「…ミサト?
     …、ちょっと、やめてよ、何よそれ、急に似合わないこと言わないでよ」
  ミサト「何よ、信じられないー? ま…当たり前か。日頃の行いが行いだものね」
 .アスカ「だから、冗談は冗談って顔してってば。真顔で言われても困るっつーか、…だいたい、
     ミサトが私にそんなこと思う理由、ないでしょ」
  ミサト「あるわよ」
 .アスカ「どんな!」
  ミサト「自分の理由よ。私が、幸せになってほしいの。あなたたちにはね」
 .アスカ「…なんで」
  ミサト「でなきゃ、私が堪らないから、よ。
     …さっ、二人とも立った立った。明日も早いんだからー。特にアスカ! リツコからの
     メール読んだ? 2号機のテストの時間、繰り上がって朝イチからよ」
 .アスカ「え?! 何よそれ、早く言ってよ! もう! …」

191 :6/6:2015/01/23(金) 23:30:06.59 ID:???.net
 加持「…葛城」
  ミサト「…言わないで。…わかってるわ。でも、私は我慢できないのよ。
     どんな責任があろうと、何を背負ってようと、あの子たちは…幸せになっていいの。
     その権利があるの。そうでなきゃ私が人間として、堪らない」
 加持「…ああ。わかってるよ」
  ミサト「……
     さてと、…帰るわ。…二人とももう、寝ちゃってるだろうけど」
 加持「それでも帰ってやらないと、明日の朝、双子が揃って寂しがるぞ」
  ミサト「…違うわ。
     寂しいのは、私。…ただの、私の、身勝手だわ。
     ペンペンのことと同じね。それを偉そうに我が家と呼んでる。ほんと、傲慢な大人」
 加持「今は、家族だろ。それでいいさ」
  ミサト「…ありがとう。…じゃ」
 加持「ああ。また明日」

192 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/01/25(日) 10:12:49.02 ID:???.net
ho

193 :1/6:2015/01/27(火) 14:04:14.68 ID:???.net
朝風呂上がりのミサト
冷蔵庫開けてビールのロング缶を手に取る
片手で髪を拭きながら、もう片手で缶を開け、とりあえず一口
足元にまとわりついてくるペンペンよけながらリビングへ
ちょっと足が止まる
思い思いの姿勢でSDAT音楽鑑賞中+読書中のシンジとレイ
斜めに向き合った二つの背中の間の、あるようでないような親密な距離
ふっと顔をほころばせるミサト
徹夜明けの緊張が両肩から抜けていく感覚に浸る
気配に顔を上げるシンジ
若干照れた顔でイヤフォンを外し、ややあって渋い表情になる
隣で同じ角度で首をかしげるレイ

  ミサト「おっはよう、二人とも。なぁにシンちゃん、怖い顔して」
 シンジ「…おはようございます。またそんな恰好で…せめてバスタオル一枚じゃなくて、
     何か服着てくださいよって、いつも言ってるじゃないですか」
  ミサト「べっつにいいじゃない、何も初めて見る訳じゃないん・だ・し」
 シンジ「初めて…って、そういう話してるんじゃないでしょう! だいたいその右手のビールは
     何なんですか! まったくもう、だらしないんだから」

194 :2/6 :2015/01/27(火) 14:06:00.38 ID:XbuABz2X.net
  ミサト「何よう、昨日遅番だった保護者に向かって、朝からぷりぷりすることないでしょー。
     だいたい、レイには文句言わないじゃないの」
 シンジ「え」
  ミサト「レイが薄着でタオル首にかけてても、ぜーんぜん注意しないじゃない。もう、妹には
     甘々なんだから、お兄ちゃんは」
 シンジ「ッなんでそういう話になるんですか! レイは全然違いますよ、ミサトさんのそれとは」
  ミサト「それって何よー? んー、どこ見て言ってるのかな?」
  レイ「…? 何、踊ってるんですか」
ペンペン「クワックワックワー!!(俺も混ぜろ!)」
  ミサト「……がく…」
 シンジ「〜っもう、いいですよ。はぁ…せっかく掃除も洗濯も済ませて、のんびりしてたのに」
  ミサト「そっか、今日は二人ともオフだっけ」
 シンジ「ええ。レイは、午後から本部ですけど」
  ミサト「あらら、ごめんごめん。せっかくの二人の時間、邪魔しちゃったわね」
  レイ「…ふたり?」
  ミサト「そ、双子二人、水入らず。さっきそっちから見たら、すごくいい感じだったわよん」

195 :3/6:2015/01/27(火) 14:07:00.80 ID:???.net
 シンジ「〜、ミサトさん、すぐまたそういう言い方する」
  ミサト「だって事実だもの。
     でも二人とも、いつまでもそうやってくっついてちゃー駄目よ? いくらかけがえのない
     肉親だからって、いつかは離れて大人になってくんだから。…ま、本当に別れ別れに
     なっちゃう訳じゃないけどね。だけど人間、自立心も大切よん」
 シンジ「ミサトさん…そろそろ酔ってきたんじゃないですか…?」
  .レイ「…大人」
 シンジ「え?」
  ミサト「ん、気になる? レイ」
  .レイ「…はい」
  ミサト「そっか。…大人ってのはね、人間が自分で、自分ってものを引き受ける、…不安も
     短所も全部ひっくるめて、生きることを覚悟するかどうかで決まるのよ。もし途中で
     へこんだりしてもね、その最初の覚悟があれば、何とかやっていけるわ」
  .レイ「…覚悟」
  ミサト「そうよー。…んー、今のシンちゃんとレイなら、夢って呼んだ方がいいかもしれないわね」
 シンジ「? それ、一緒にしちゃうんですか」
  ミサト「一緒っていうのもちょっと違うけどね。
     覚悟は、今を引き受ける自分。夢は、いつか叶えたい自分。未来、でもいいわ」
 シンジ「…なんかそれ、かなり無理やりな気がしますけど」

196 :4/6:2015/01/27(火) 14:08:17.97 ID:???.net
  ミサト「中学生が生意気言わないー。とにかく、未来に、世界に、絶望しないこと。
     人間、これが肝心なのよ…あれ? もう空っぽ。もー、調子乗ってきたのに…よっし、
     も一本、景気よくいっちゃおっと」
 シンジ「ちょっと、ミサトさん?!」
ペンペン「クワーッ? クックックー」
  .レイ「…行っちゃった」
 シンジ「やっぱり酔っ払ってたんだ…レイ、あんまり気にしなくていいと思うよ。
     …レイ?」
  .レイ「……」
 シンジ「……
     なんかさ、…正直、僕もよくわからないよ。ミサトさんはああ言うし、それで当たり前
     だってのはわかるけどさ、…僕らに、未来とか夢とか、そんなもの本当にあるのかな。
     …明日、使徒が来て、死ぬかもしれないのに」
  .レイ「……」
 シンジ「…、ごめん。こんなこと言ってもどうにもならないよな。わかってるんだけど…
     ごめんよ、せっかくの休みなのに、変なこと言って」
  .レイ「…、平気。…私も、同じようなこと、考えてたもの」
 シンジ「…え」

レイを見るシンジ

197 :5/6:2015/01/27(火) 14:09:48.69 ID:???.net
少し目を伏せるようにしているレイ
一瞬生まれた自分の勝手な共感を自覚し、唇を噛みしめるシンジ
目の前にいるレイを見て、口を開く

 シンジ「あのさ、…レイの夢って、何?」
  .レイ「…え」

瞬きするレイ
シンジを見つめ、一瞬視線をさまよわせて目を逸らす
頬の辺りに漂うとまどいとほのかな微笑の気配

  .レイ「…夢?」
 シンジ「うん。叶えたい、自分」
  .レイ「……お母さん」
 シンジ「え」
  .レイ「…お母さん、に…なりたい。…だけど、無理。…私には」
 シンジ「…ッ、そんなことないよ。無理かどうかなんて、まだわかんないだろ」
  .レイ「お兄ちゃん」
 シンジ「ん?」
  .レイ「…、笑ってる」
 シンジ「! あ、いや、…ごめん、そうじゃなくて、…レイのこと笑いたいんじゃないんだ、
     なんか…僕が、嬉しくて」

198 :6/6:2015/01/27(火) 14:11:19.51 ID:???.net
  .レイ「…うれしい?」
 シンジ「うん。レイも、ちゃんと先のこと考えてるんだなって。ちゃんと、今だけじゃなくて先の
     ことも見てるんだなって、…なんだかすごく、安心したんだ。
     ごめん、変だよな…僕の方こそ、もっとしっかりしなきゃ。嫌なことを嫌だって逃げたり、
     未来をただ怖がってないで。…いつか、レイが望んだ自分を叶えられるように。
     それを僕が見られるように」
  .レイ「…わたし、なの」
 シンジ「うん。…叶うよ、きっと。
     だからそれまで、…ずっとは無理だけど、それまでは、もう少し一緒にいさせてよ。
     ミサトさんは双子双子ってからかうし、アスカは怒るし、学校でも本部でも、みんなが
     面白がるし…そんなでも良ければ、だけどさ」
  .レイ「…うん。平気。
     それに、みんなのことも、嫌じゃないもの」
 シンジ「…そっか。…そうだよね」
  .レイ「うん」

突然、キッチンでミサトが何かを落とす音と、ペンペンのわめき声
顔を見合わせるシンジとレイ
ちょっとだけ笑い、揃って立っていく二人


一年くらい前は(前スレ)こういうやりとりばかり書いてたんですね
原点回帰じゃないですが少し気持ちの整理ができた気がします
次回からQに入れればと思います
読んでくれた方、感謝します

199 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/01/29(木) 09:33:15.13 ID:???.net
レイ、自分の身体のことはわかってても
お母さんになりたいんだ…なんか泣けるね
夢って儚いって字と似てるしね

200 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/01/31(土) 11:11:06.56 ID:???.net
ho

201 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/02/03(火) 09:36:33.01 ID:???.net
test

202 :1/6:2015/02/05(木) 13:27:48.42 ID:???.net
>>199-200
遅くてすみません
なんかもう考えてもわからないので、自分なりの見切り発車で行きます


  レイ(…私は、何)
  レイ(この命が私)
  レイ(私たちは二人で生まれた。それは、ひとつじゃない。だから、構わない。
     私が消えても、お兄ちゃんさえ、生きていられるなら…
     だからもう、いいの)

 シンジ(どんなに必死でやったって上手くいく訳ないんだ。
     願ったって、叶う訳ないんだ。僕一人の心で変わるはずないんだ。いつだって
     最後はみんな失ってしまうんだ。
     死ぬなら僕が死ねばいい。僕が全部なくなったっていい。そう、僕は僕が要らない)
 シンジ(だけど…、だから)
 シンジ(だからレイだけは…レイさえ、ここで生きててくれるなら。…それだけで、僕はいいんだ)

 カヲル「…その望み方では、誰も幸せにできないよ、シンジ君」


封鎖された道路跡
変形した山稜
十字形に裂けてまくれあがった大地の輪郭
大破し破棄されたネルフ本部、および寸断されたかつての第三新東京市が風化していく

203 :2/6:2015/02/05(木) 13:28:25.30 ID:???.net
ニア・サードインパクト爆心地、湖となった旧ジオフロント
槍に貫かれたまま凍結された初号機
左腕はなく、自身の結界と使徒封印呪詛柱の環状列に囲まれている
国連およびIPEA主導による再編の進むネルフ
個別に隔離・幽閉される旧ネルフスタッフたち
エヴァと新ネルフに関する一切の情報を遮断され、独り焦燥をつのらせるミサト

窓から斜めに射す外光を正面に立つカヲル
長く影を曳いて彼の前に並ぶ四人のアダムスの魂

天を目指す複数の真っ白い噴射煙
呪詛柱が撤去され空っぽになった湖上
軌道上に配置されていくゼーレ封印の兵器貨物群

建造の進むエヴァ8号機
ゼーレにより極秘裏に用意されつつあるEVA Mk.9-12

204 :3/6:2015/02/05(木) 13:29:25.38 ID:???.net
IPEA監視下、新たに配備されたエヴァ7号機で使徒を迎え撃つマリ
軌道上からの伝導侵食を受け活動不能に陥る
宇宙空間で無人同時起動し、集団戦で使徒を殲滅するEVA Mk.4シリーズ=ネーメジスシリーズ
以後、ネーメジスシリーズは継続して軌道上での全領域型警戒配備となる
破棄される7号機

隔離されたマリ
呪詛文様に囲まれた部屋で目覚める
渡された眼鏡を掛け、そしてまた外す
嫌悪の目で見据える先にレイ
レイの背中に隠れるようにこちらを見ている複数の幼いレイたち

蒼い空の下、横殴りの風の中を進む旅装の碇と冬月

自律型に改修されるEVA Mk.6
険しい眼差でそれを眺めているカヲル
目を閉じる

リリス復活の儀式の執行に移るゼーレ
同時に最後の使徒が襲来する

205 :4/6:2015/02/05(木) 13:30:11.83 ID:???.net
突破されるMk.9、起動前に無力化されるMk.10-12
全ての警戒網をかいくぐりドグマ深部へ侵入する使徒
カシウスの槍を使わざるを得ないカヲル
続いて無人制御へ移行し、ドグマへ投下されるMk.6
見送るカヲル

セントラルドグマ最深部のリリス
その胸に突き立ったロンギヌスの槍
到達する使徒とMk.6

サードインパクトの発動と未遂
不完全のまま中断する人類補完計画

現象収束後、事態の把握を開始するゼーレ
被害範囲の検証
リリスの結界の存在
人工進化の強制を免れた人類圏の掌握が進む

逃亡を続けるミサト
潜伏とかつてのネルフスタッフを探す日々の中、碇および冬月がネルフに召還されたことを知る
見る影もなく破壊された海洋研究所跡の衛星写真を見つめるミサト

206 :5/6:2015/02/05(木) 13:31:08.46 ID:???.net
補完計画の真相、そして人類の生き残るすべを求めて、孤独な暗闘を続ける加持
希望として訪れるミサトの消息
やがて『艦』の建造計画を知った加持の行動が、のちのヴィレが形作られる最初となる

碇と冬月の手で封じ込められるゼーレ
孤立した七つの基板を見上げ、振り返る碇
そこには自ら立ち会ったカヲルの姿がある
後方に一人佇むレイ
天空に聳える塔の上からの、新たなネルフの声なき君臨が始まる

ゼーレ支配の消えた地域を中心に、生き続けることを望む人々が結集していく
自らの生をさらけ出し贖罪を望むミサト
エヴァを見るミサトの目には、かつて使徒に向けたのと同じ憎悪がある

目覚めるアスカ
左目の眼帯に触れる
また昨日と同じ一日が始まる
自らの不変の姿にうなだれるアスカ
気づかないふりしているマリ

そしてなお、時が流れる

207 :6/6:2015/02/05(木) 13:32:10.31 ID:???.net
軌道上
交錯するATフィールド
光が臨界に達し続けざまに炸裂する
激震する改2号機の機体

 アスカ『くっ…このォッ…、何とかしなさいよ、馬鹿シンジ…!!』

閃光
光の輪を切り裂いて伸びる輝線
コアを両断され消滅するEVA Mk.4-B
赤く光る惑星を背に、茫然と漂う2号機の中のアスカ
黒い十字棺の裂け目でゆっくりと閉じていく初号機の眼

夜空を横切って燃える再突入の光
微笑で見守るカヲル

 カヲル「おかえり、シンジ君。…待っていたよ」



…というわけで、どうなるのかわかりませんが、Q行きます
読んでくださった方に感謝します

208 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/02/06(金) 10:54:53.83 ID:???.net
ho <!!

209 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/02/08(日) 11:35:31.52 ID:???.net
黒波出てくるみたいね
双子レイとは別?

210 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/02/11(水) 10:48:24.09 ID:???.net
ho

211 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/02/13(金) 14:45:47.50 ID:???.net


212 :1/10:2015/02/16(月) 13:35:20.58 ID:???.net
>>208-211 いつもありがとうございます、進行遅くて申し訳ないです


   (…これは何? これは、わたし)
   (わたしは、なに)

  (私は、自分)
  (この命が、私。ここに生きているだけでいいんだよって、言ってくれた…
   だから、私は、私でいい。私でいられて、うれしかった)

   (あなた、だれ)
   (…わたしは、なに?)

 (レイ)

   (わたしは、レイ)
   (レイ、…レイ、碇…レイ?
    …何か、ちがう。…誰か、もう一人、そばにいた気がする)
   (…もう一人って、誰)
   (そばにいるって、何)

 (レイ。時が近づいた。マーク9を使い、第三の少年の回収に向かえ)

213 :2/10:2015/02/16(月) 13:37:16.19 ID:???.net
   (ダイサンのショウネン)

  (碇、シンジ)
  (この世で一番近い人。一番近くて、一番不安な、…私の、双子のお兄ちゃん)

   (…『オニイチャン』?)

  (そう、お兄ちゃん)

   (いいえ、そんなこと、私は知らない)
   (…知らないはずなのに)
   (何か…なに、…とても、変。…知らない、空気でもない、水でもない、夜でもない、
    …光と、LCLに、少し似ている。でも…ちがう)

  (その感じが、あたたかいということよ)

   (…『アタタカイ』)

  (そう、私がこの世で一番、大切に感じた思い)
  (自分の命、そのものの中に、見つけたもの。
   生きていて一番、嬉しかった…絶えず揺らいでいるのに、確かで、…慕わしいもの)
  (だから、生きていたかった)
  (…生きていてほしかった)
  (だけど、お兄ちゃんは、…だから、…今)

214 :3/10:2015/02/16(月) 13:38:04.94 ID:???.net
   (…なかないで)

  (いいえ、泣いてるのは、あなた)

   (わたし)

  (そう。苦しいけど、心が痛いけれど、…それでも、あたたかいものが、溢れてくる)

   (…わからない。…知らないもの。
    わたしは、命令の通りに、動くだけ。他には、何も、ない)

  (……)

   (? 答えが…消えた)
   (もう、いないのね)
   (あれは、誰…?)
   (…あれは)
   (あそこにいるのは)
   (そう、第三の少年)

絶叫する風圧
ヴンダー艦体に取り付いたMk.9
各砲座が質量砲撃を浴びせてくるが、体勢を崩さず艦内を探っている

  .レイ(……どこに)

215 :4/10:2015/02/16(月) 13:39:02.59 ID:???.net
 シンジ「…!!」

顔を上げるシンジ
隔離室内のそこここを見回し、振り返り、探す
驚いてそばに寄るサクラ

 .サクラ「碇さんどうしたんです、落ち着いて…」
 シンジ「…レイだ」
 .サクラ「え?」

  レイ(……どこ…)

 シンジ「! やっぱり、レイだ。
     …ミサトさん、レイですよ! やっぱり助けてたんじゃないですか!」

壁の通信装置で艦橋に指示を続けるミサト
振り向かない

 シンジ「…ミサトさんッ!」

リツコが何か操作する
隔離室と接見室を隔てる窓が不透明化され、視界が半減される
アスカのこぶしが残したガラスの亀裂だけが残される
うなだれるシンジ
指が首のDSSチョーカーに触れ、離れる
震える両肩

216 :5/10:2015/02/16(月) 13:39:43.40 ID:???.net
 シンジ「…何だよ…何なんだよ、一体。…こんな、もう、訳わかんないよ」
 .サクラ「碇さん、大丈夫やから、私たちも避難しましょう。さ、こっちに」
 シンジ「…もういい」
 .サクラ「碇さん?」

顔を上げるシンジ

 シンジ「レイッ、ここだ!」

衝撃
引き剥がれ吹き飛ぶ天井
咆哮する蒼天
猛烈な風から顔をかばい、腕の隙間から目をみはるシンジ
すぐそこにいるエヴァ
巨大な単眼

 シンジ「エヴァ…零号機」

破片の舞う中、露出した構造材の間から手をさしのべるEVA-Mk.9
外部スピーカーを通してレイの声

  .レイ『…こっちへ』
 シンジ「レイ…!」

喜色を浮かべたシンジの目の前で、ヴンダーの砲撃がMk.9に次々と命中する

217 :6/10:2015/02/16(月) 13:41:10.25 ID:???.net
傾くMk.9 艦体の破孔に掴まる
目を疑うシンジ

  ミサト「…シンジ君ッ!」

振り返るシンジ
瓦礫と化した壁を乗り越えて迫るミサト
DSSチョーカー起動装置を銃口のようにシンジに向けている

  ミサト「行っては駄目よ。ここにいなさい…!」
 シンジ「…ミサトさんッ、何やってるんですか! どうして攻撃するんですか!
     相手はエヴァなんですよ?!」
  ミサト「ネルフのエヴァは殲滅します」
 シンジ「ネルフのって、…ここだってネルフじゃないですか!」
  ミサト「いいえ。私たちはヴィレ。ネルフの阻止を目的とする組織です」

めくれ上がった甲板装甲に目をやるシンジ
空の青で描き抜かれた『WILLE』の文字
かぶりを振って顔を向けるシンジ

 シンジ「もう訳わかんないですよ、何もかも…
     ミサトさんたちは僕が要らないんでしょう?! なのに、今さらここにいろって言うんですか!」
  ミサト「あなたは何もする必要はないわ。あなたがエヴァに乗る、接触することは一切許しません。
     だけどあなたの身柄は、私たちで保護します」

218 :7/10:2015/02/16(月) 13:43:05.90 ID:???.net
固く両こぶしを握りしめるシンジ

 シンジ「レイを撃ってまでですか」
  ミサト「…レイはもういないのよ、シンジ君」
 シンジ「そこにいるじゃないですか…!」

説得しうる言葉を持たない自分に苛立ちながらも、冷徹な表情を変えないミサト
殴りつける風の下、トリガーの先はシンジにぴたりと据えられている
巨大な手を伸ばすMk.9

  .レイ『こっちへ』

向き直るシンジ
瓦礫の合間にしゃがみこんでいるリツコ
何とか乗り出して声を張る

  リツコ「…初号機よりも優先して確保するということは、まだ彼に、インパクトのトリガーとしての
     価値があるということだわ!
     ミサトッ!! DSSチョーカーを!!』

風に逆らって進んでいくシンジ
その場を動けないまま、さらに腕を伸ばしトリガーを突きつけるミサト
奥歯を噛みしめる
ミサトと同様に片手で必死に壁に掴まっているサクラ

  サクラ「碇さんっ! 勝手もいいですけど、エヴァにだけは乗らんといてくださいよ!」

唯一意思の通じる相手だったサクラの声に振り返るシンジ

219 :8/10:2015/02/16(月) 13:45:38.21 ID:???.net
笑顔の消えたサクラの顔

  サクラ「…ほんま、勘弁してほしいわ」

突き放した目つきに一瞬ひるむシンジ
振り払い、歩いていく
シンジを迎えて両手に包み込んでいくMk.9
突然ミサトが壁から手を離し、全身を風にさらして数歩前に出る
最後に振り向くシンジ
よろめきながら断固として一歩一歩踏み込んでくるミサト
シンジには狂気としか見えない突きつめた表情

 シンジ「…ミサトさん」
  ミサト「碇シンジ君」

激しく荒れ狂うミサトの束ねた髪
片方レンズの飛んだサングラス
精一杯踏ん張った両脚
やおら両手でDSSチョーカー起動装置をはね上げるミサト
感情の消えた目
射すくめられるシンジ

 シンジ「ミサト…さん…?」

動かない右手を左手で握りこむようにしてトリガーを押すミサトの姿が目に映る

220 :9/10:2015/02/16(月) 13:47:17.49 ID:???.net
シンジの意識がノイズを交えたように揺らぐ
首周りを貫く違和感
白熱する視界
痛みの知覚
一切を理解できない、したくないシンジ

  .レイ『……!!』

固く両手で囲い握りしめるMk.9
身を乗り出した直後、甲板からのマリのエヴァ8号機の射撃が頭部を吹き飛ばす
一度がくんと前にのめるが、すぐに立ち直り、背部に大型長距離ロケットを構成、点火する
噴射煙が辺りを席巻する
数秒でヴンダーの視界の果てに遠ざかるMk.9
吹きさらわれるところだったミサトの腕に抱きついて必死で掴まえているサクラ
起き直り、消えていくロケットの光を見つめているミサト
両手に握られた起動装置の表示が『ACTIVATED』から『OUT-RANGE』に切り替わる
立ち上がり、ミサトの横顔を見るリツコ
なすべき質問をする

  リツコ「…起動、したわね?」
  ミサト「いいえ」

凍りついたような無表情のミサト

221 :10/10 :2015/02/16(月) 13:48:19.60 ID:SZ31G1hO.net
  ミサト「レンジアウトで、発効までは見届けられなかった。…確実とは言えないわ」
  リツコ「…そう」

サクラの手を放し一人で立つミサト
全身のこわばりを解けないでいる
痛みと責務が身を引き裂くようにせめぎ合っている、人間の顔
しばし見守り、それから副長として通信機へ修復指示を下し始めるリツコ
青空

ヴンダー上部甲板
全身を縫いとめる風に長い髪を踊らせているアスカ
空の彼方からMk.9のいた破損部へ視線を移す
艦内へ退避していくミサトたちの姿
険しい目になるアスカ
再び吼える風の先を仰ぐ
銃口を下げ回収されていくエヴァ8号機
もう見えないMk.9の光
錯綜する感情を込め、天へ振り上げたこぶしで甲板装甲を殴るアスカ
目を閉じ吐き捨てる

 アスカ「あれじゃ…馬鹿ですらない。…ガキね」

222 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/02/16(月) 14:08:45.88 ID:???.net
ho <…?!

223 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/02/18(水) 12:48:36.47 ID:???.net
ええええ
どうなるのw

224 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/02/18(水) 14:59:43.08 ID:???.net
キター

225 :1/9:2015/02/23(月) 16:36:26.71 ID:???.net
(あなたはもう、何もしないで)

「あの、レイは? レイはどこにいるんですか」
「…? 何ですかこれ…もういいじゃないですか、外してくださいよ」
(絶対に外しませんよ)
(Deification-Shutdown-System。シン化強制遮断機構。
 あなたの頸部に装着したのはその発効装置。あなたの一命を以て新たなインパクトの
 発動をせき止めるということです。自己の感情に溺れ、ニア・サードインパクトを引き起こした
 あなたへの罰。そして、私たちの不信の象徴)
「そんな…僕はただ、レイを助けようとしただけで…そうだ、レイは…?
 あのとき、確かにこの手で助けたんだ。…きっとまだ、初号機のエントリープラグに取り残されて
 るんだ、もう一度よく探してください、お願いします!」
(当然、初号機の機体内はすみずみまで精査済みよ。
 発見されたのはあなたと、あとなぜかこれが復元されていたわ。検査した結果、問題ないので
 一応、返却しておきます)
「これ…あのときレイが持ってた、…やっぱり、助けてたんじゃないか」
(それと、深層シンクロテストの結果、今のあなたと初号機のシンクロ率はゼロ。
 たとえ乗っても、初号機は起動しません)
「…もう僕は要らないってことですか」
(またそれ。相変わらず自分のことばかり気にしてる。…全然、変わってない)

226 :2/9 :2015/02/23(月) 16:37:33.41 ID:kL8gs05r.net
(あれから14年経ってるってことよ。
 人ひとりに、いつまでも大げさね。もうそんなことに構ってる余裕なんかないの。私たちには)
(あんたには関係ない)
(アスカ…どうしてだよ)

(碇シンジ君…で、いいのよね)
(ミサトさん…?)

(いいえ。私たちはヴィレ。人類補完計画を目論むネルフの阻止を目的とする組織です)
(レイはもういないのよ)
(嘘だ!)

 『こっちへ』

(…ほら、嘘じゃないか。ミサトさん)

(あなたはもう、何もしないで)

(嘘だ)
(あなたは何もする必要はないわ。エヴァに乗る、接触することは一切許しません。
 あなたの身柄は私たちで保護します)
(あなたには私の命令に従う義務があるの。わかるわね)
 (乗るなら早くしろ。でなければ帰れ)
(行っては駄目よ。ここにいなさい)
(私の言うことに従えないの)

227 :3/9:2015/02/23(月) 16:38:23.28 ID:???.net
(私の言うことを聞かないなら)
(うそだ)
(嘘なんでしょう、ミサトさん。…ミサトさんッ)
(碇シンジ君。あなたはもう)
(…嘘だッ!!)

白熱する劇痛

(うそだ)

全身をこわばらせて目覚めるシンジ
青白い天井
本部医療棟の見慣れた病室
少し緊張が解けるシンジ
ベッドに横たわったまま、切迫した呼吸が落ち着くのを待つ
無音の室内
身体の実感が奇妙に掴めない
はっきりしてきた目をみはって室内のあちこちを眺めるシンジ
壁も設備も記憶の通りだが、どことなく古びた感じを受ける
けげんに思ってさらに目を凝らすシンジ
頭を起こしてみる
ふいに、首周りに違和感
息を止めるシンジ
弾かれたように手を上げ、震える指で喉に触れる
DSSチョーカーの感触
全てを思い出すシンジ

228 :4/9:2015/02/23(月) 16:39:26.91 ID:???.net
鋭く息を吸い込んでベッドの上に起き直る
何度確かめても、何度外そうとしても、歴然とそこにあるDSSチョーカー
いっぱいに両目を見開いたままうなだれるシンジ
分厚い膜を隔てたように遠ざかる五感
視線だけがさまよう
投げ出された手
はねのけられたシーツ
傍らの椅子に置かれた制服とSDAT
そして白い床に影を落として佇む、黒い見慣れないプラグスーツ姿のレイ
変わらないレイの顔
我を取り戻すシンジ

 シンジ「…やっぱり、助けてたんじゃないか。…ミサトさんの嘘つき」

両肩が震え出す
シーツをきつく握りしめ、しばしうつむいて感情の逆流に耐えるシンジ
何とか嗚咽を喉の奥に押し戻す
やっとのことで顔を上げる
急に意識される不安
何の感情も浮かべていないレイの面
ただ口を開く

  レイ「…こっちへ」

229 :5/9:2015/02/23(月) 16:40:09.81 ID:???.net
巨大な斜面を下る索道車
構造材むき出しの武骨な車内に立つシンジとレイ
とらえどころのない沈黙
そっとレイの顔を窺うシンジ
はっとする
レイもこちらを見ている
確かに繋がっているはずの視線
が、レイは何の表情も見せず、また前を向く
かける言葉を持たないシンジ
汚れた窓の外を見下ろす
眼下に見えてくる、使徒に破壊されたままのネルフ本部施設の眺望
メインシャフトに繋がる凹四角錐形の傾斜構造は丸ごと硬化ベークライトで埋められている
周囲に見えている無数の砲撃痕
明らかに外から攻撃された痕跡なのが見てとれる
呆然となるシンジ

 シンジ「これが、ネルフ本部…? 一体何が…みんな、どうなっちゃったんだよ」

答えないレイ

230 :6/9:2015/02/23(月) 16:40:49.02 ID:???.net
廃墟にしか見えない本部構内を歩くレイとシンジ
そこここに残された交戦の痕
錆と剥落
天井が落ち、壁も拘束設備も半壊したエヴァのケイジを通り抜ける二人

 シンジ「…本当に、14年経ってるんだ」

頭上を振り仰ぐシンジ
深い青空の奥で風がとどろいている

 シンジ「空…? ジオフロントのはずなのに」

かつての整備橋梁から遥か下方を覗き込む
ふと耳を澄ますシンジ
楽音
ケイジの床だった場所に一本の緑の樹木が光を浴びている
その傍に一台のピアノ
鍵盤に向かう後ろ姿
懐かしい旋律
衝動にかられ、深く息を吸い込むシンジ
カヲルが顔を上げる
変わらない微笑
声をあげそうになったとき、ふいに不安がかすめる
振り向くとケイジの闇の奥へ消えてしまいそうなレイの後ろ姿
逡巡し、今は急ぎレイの後を追うシンジ
振り返る
遠ざかる明るい場所

231 :7/9:2015/02/23(月) 16:41:53.53 ID:???.net
  レイ「ここ」

ガシャンと耳障りな大音響がして、闇が照らされる
反射的に身を引くシンジ
今立つ橋梁の前方、数え切れないケーブルやコードの繋がれた、楕円球型のタンクらしき
巨大構造物がそびえている
何層にも堅く内容物を封じ込めたその外観は、ヴンダーで模式図だけ見せられた、初号機を
容れた主機格納構造体にもどこか似ている
上方の足場からかつてのようにこちらを見下ろしている碇の姿
機械的なバイザーに隠され、シンジのいる床面からは目も表情も読めない
それでも確かに十数年分年老いているのを感じとるシンジ

 シンジ「…父さん」
   碇「頸部の復元は問題ないようだな」

びくりとするシンジ
首のDSSチョーカーに触れる
相変わらず不気味な微震動を脈打たせている硬質の感触

 シンジ「父さん…これって、…まさか僕は、あのとき」
   碇「Mk.9のATフィールドがお前を保持した。DSSチョーカーに記録された情報から損傷部位も
     修復済みだ。自力で歩けるようなら問題はあるまい」

232 :8/9:2015/02/23(月) 16:42:28.83 ID:???.net
 シンジ「問題はない、って…待ってよ、じゃあ、これは外してくれないの…?!」
   碇「不可能だ。今のお前の形象の一部はそのチョーカーが内蔵する信号に依存している。
     生きている限り、お前がそれを外すことはない」
 シンジ「…そんな」

また震え出す指
チョーカーを掴もうとしてできず、ただ空を握る
再びヴンダーにいたときの強い孤独と疎外感が全身を捉える
うつむき、構造物の側面に表記された巨大な『EVA-13』の文字にはっとするシンジ

 シンジ「これは…まさか、…エヴァ」
   碇「そうだ。エヴァンゲリオン第13号機。お前とそのパイロットの機体だ」

シンジを見ていないかのような碇

   碇「シンジ、お前は時が来たらその少年とともにこのエヴァに乗れ」

斜め後方を振り向くシンジ
いつのまにかそこに佇んでいるカヲル
視線はシンジではなく上方に座る碇に向けられている
なぜか距離を感じるシンジ

   碇「話は終わりだ」
 シンジ「…!」

ガシャンと落とされる照明
薄闇の底に取り残されるシンジ

 シンジ「ッ、待ってよ父さん!
     僕にはまだ、聞きたいことや、話したいことがいっぱいあるんだ! …父さんッ!」

233 :9/9:2015/02/23(月) 16:44:02.45 ID:???.net
暗闇
シンジ自身の声のこだま
それも消える
ほとんど感じ取れない背後のレイとカヲルの存在
既にそこにはいないのかもしれない
うなだれ、一人きりで唇を噛むシンジ

 シンジ(…結局、僕は)
   シンジ(やっぱり僕は…要らない人間なんだ)
 シンジ(違う。
     誰も僕が要らないんじゃない。それより…そんなのより、もっと、ずっと悪い。
     何のためにここにいるのか誰も教えてくれない、僕は何も知らなくても構わないなんて)
 シンジ(僕は必要だけど、…僕が何かを思うことも、感じることも、誰も、必要じゃないんだ)
 シンジ(…ただエヴァに乗るだけの僕がいれば、それでいいんだ)

強く握りしめられるこぶし
そのくせ何も掴めないことはシンジ自身わかっている

 シンジ(…14年経ったって、何も…何ひとつ、変わってないじゃないか…!)

闇の底で、力の抜けそうな両脚を懸命に支えるシンジ



>>222-224 いつもありがとうございます
細かい箇所をチェックするためにQを見直すのが正直きついですが、がんばります

234 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/02/24(火) 10:18:42.76 ID:???.net
ho <ニャーン!

235 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/02/26(木) 11:13:02.67 ID:???.net
ho

236 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/02(月) 10:08:30.56 ID:???.net
ギコナビだと明日から2ch見れなくなるのか…
うーむ頑張って今日中に続きを書くか、よそを探すか

>>234-235 ねこさんいつもありがとう

237 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/02(月) 10:44:01.70 ID:???.net
test

238 :1/4:2015/03/02(月) 22:29:23.74 ID:???.net
ヴィレ集結地に停泊するヴンダー
周囲には修理・改修のための技術艦が群がっている
足音を立てて通路を行くアスカ
艦長室前に立つ
ロックされた扉

 アスカ「大佐は今日もおこもり?」

腕組みして扉を睨みつける
無言の数分
ややあってインターホンが点灯する

 アスカ「ほら、いたんじゃない」
  ミサト『…アスカね。
     …悪いけど、休息時間の割当中。何か特別な用件がないなら、下がってなさい』
 アスカ「用件ならあるわ」

扉を前に一歩も退かない構えのアスカ
キャップのつばの陰から覗く目

 アスカ「緊急でも任務でもないけど。…わかってるでしょ、ミサト」

さらに沈黙が続き、ロックの解錠音とともに扉が開く

239 :2/4:2015/03/02(月) 22:31:00.39 ID:???.net
憔悴した顔で立つミサト
束ねていない髪が肩口でもつれている
見返すアスカ
二人の間の距離

  ミサト「アスカ、…」

動くアスカ
無言で詰め寄り、何か言う隙も与えず思いきりミサトの頬を張る
乾いた音が響く
手を上げないミサト
やがて腕を下ろして一歩下がり、そのまま、深くうなだれるアスカ
打たれた頬の痛みにも構わず見守っているミサト
ぐっと息を詰める音

 アスカ「…わかってる。
     あの判断で正しかったのよ。あの状況では、あれしか、あれ以外、なかった…
     だけど…どうしても、我慢できないのよ。許せないの。私は」

黙って聞いているミサト
自分のプラグスーツの足元を見ているアスカ

 アスカ「…馬鹿ね、私。矛盾してる。シンジのこと、自分から殴りに行ったくせに。
     ミサトに当たったって、どうしようもないのに」

240 :3/4:2015/03/02(月) 22:31:55.47 ID:???.net
少しうつむくミサトの額に髪がかかる

  ミサト「私もだわ。…今、私がここにこうしていること自体が、矛盾と打算の結果だもの」
 アスカ「…知ってる」

少し顔を上げるアスカ

 アスカ「で、…無理と横車の積み重ねで成り立ってるこのヴィレの、その根本的な矛盾を
     文字通り体現してるのが、この私ってわけ。
     サードインパクトから人類を守れなかった、旧ネルフのエヴァパイロット」

苦い笑いに底知れない自己憎悪が一閃する

 アスカ「…なのに、未だにエヴァに乗ってる」
  ミサト「それがあなたにできる、あなたにしかできないことだからよ。エヴァ2号機…改2の
     パイロットはあなたしかいない。それが事実よ。…未練でも甘えでもないわ」
 アスカ「だったらミサトだって部屋にこもる必要、ないはずよ。
     あれがミサトのするべきことだった。…わかってる。私ももう、恨んでないし」

情の荒れ狂った痕を隠していないミサトの顔
久しぶりに彼女の昔の髪型を見て、髪も頬も痩せたなと目にとめるアスカ
しばらく黙っている二人
やがて再び顔を伏せ、きびすを返すアスカ

 アスカ「…話、聞いてくれてありがと。…休息の邪魔して、悪かった」

241 :4/4:2015/03/02(月) 22:32:53.21 ID:???.net
見つめているミサト
振り向かず歩き出すアスカ
背後で扉が閉まる
歩き続けるアスカ
廊下の先でマリが待っている

 アスカ「…コネメガネ。立ち聞き?」
  マリ「違う違う。第一、こっからじゃ聞こえないよー」
 アスカ「どうだか」

内心の読めない笑みを見せ、両手を組んでアスカに並ぶマリ
前後して歩き出す二人

  マリ「…そんなに思いつめること、ないんだよ。姫は一人じゃないんだからさ」

答えないアスカ
後ろから追いついて、いきなりがばっと肩を組むマリ
乱れた足音がしだいに揃いながら遠ざかる

242 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/02(月) 23:30:33.06 ID:V83HNxH0O
テスト@sc

243 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/02(月) 23:31:37.39 ID:V83HNxH0O
おっとID出るのね
IE使うの久しぶりだなー

244 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/03(火) 09:35:49.53 ID:FuooA2hL0
専ブラからテスト@sc

245 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/05(木) 08:16:32.45 ID:???.net
ho

246 :1/10:2015/03/07(土) 15:14:15.42 ID:???.net
与えられた居室を調べるシンジ
外部と連絡を取れない、室内への呼び出し専用の通信機
剥き出しの床
病院と同じベッド
中からはロックできない扉
溜息をつくシンジ
意識して顔をもたげ、SDATを手に立ち上がる

 シンジ(僕のことはいい。自分でここに来たんだ。ただ、…レイ)

無人の廊下を歩くシンジ
見覚えのある場所、よく知らない場所
そのどこでも、ずっと以前に放棄された物たちが錆び、崩れ、ただ朽ちるままになっている
人の痕跡はない
レイもいない
しだいに入ったこともない深部まで進んでいくシンジ
巨大なオートメーション機構によって無数に生産され続けるエヴァのパーツ
どこか隠された場所から響いてくる低い動力音
動いているのは機械ばかり
いくら進んでも、ここが見捨てられた場所だという認識が強まるだけ
それでもレイを探すのをやめないシンジ

 シンジ(…僕のことは、もうどうだっていいんだ。でも、レイは)
    碇(甘えるな)
 シンジ「…!」

つんのめるように立ち止まるシンジ

    碇(人と関わることは、それ自体が責任と同義だ。その自覚がないなら、お前が
      しているのはただの逃避だ)

247 :2/10:2015/03/07(土) 15:15:29.65 ID:???.net
 シンジ(…わかってるさ。
     だけど、レイのことだけはそうじゃない。レイからは、最後まで逃げずにいられたんだ。
     …あの時、確かに助けたんだ。だから僕はここにいるんだ)

険しく目を細めるシンジ
頑なに歩き続ける

 シンジ(だから…レイ)

見たこともない場所まで迷い込むシンジ
広大な円筒形の空間の底部を占める巨大な設備
それを覗き込む形で、周壁に沿ってぐるりと中二階のような広い通廊が囲んでいる
通廊の一角にぽつんと四角いものが建っている
カーテンに透ける明かりの中で動く人影
少女のシルエット
はっとするシンジ
駆け寄っていく
硬カーテンで囲われた簡素なスペース
入り口とおぼしき箇所の足元に、無造作に置き捨てられたレイの制服

 シンジ「…やっぱり。こんなところにいたんだ…
     レイ!」

一歩足を踏み入れ、目を剥くシンジ
シャワースペースから濡れた裸のまま出てきているレイ
慌てて壁の方を向くシンジ

248 :3/10:2015/03/07(土) 15:17:15.15 ID:???.net
 シンジ「ごめんっ、あのっ、…何やってるんだ僕は、…じゃなくて、早く、服、何か服着てよっ」
  .レイ「…命令?」

背後でひとしきり気配が動き、しずまる
十分以上に間をおいてから恐る恐る振り返るシンジ
呆然とする
来たときに見たのと同じ、見慣れない黒のプラグスーツを着込んでいるレイ
傍の卓上に置かれたランプの炎が揺らめく光で照らしている
かける言葉に迷い、結局小さく息をつくシンジ
黙って見ているレイ

 シンジ「…あの」
  .レイ「何」
 シンジ「あ…いや」
  .レイ「……」

レイの顔を見るシンジ
無表情なほどに落ち着いた面差
誰に語りかけてもらう必要も感じさせず、一人で完結している
対してこの世界で目覚めてから気おされっぱなし、流されっぱなしの自分が情けなくなるシンジ
何とか話題を探す

 シンジ「…あの、ありがとう。迎えに来てくれて。…それから、これも。もう失くしちゃったものだと
     思ってたんだ」

差し出されたSDATを、感情のこもらない視線で一瞥するレイ
興味もないのか再びシンジの顔を見る
ランプの明かりが揺らぐ

249 :4/10:2015/03/07(土) 15:18:38.76 ID:???.net
ちょっと目を伏せるシンジ
がらんと開いた天井を仰ぐ
高い闇の奥を風が吹き抜ける音

 シンジ「レイ、ずっと一人で、ここに? …ここ、部屋にもなってないじゃないか。こんなところで、
     一体何してるの、…って、ごめんよ。レイがいたから、僕はここに来れたんだよな」
  .レイ「…命令」
 シンジ「え?」
  .レイ「命令を、待ってる」

自分が傷つけられたような痛みを覚えるシンジ
平静なレイの顔

 シンジ「…命令」
  .レイ「そう。命令」
 シンジ「…そうなんだ」

レイの静かな眼差に耐えられず横を向くシンジ

 シンジ「零号機で、僕を迎えに来てくれたのも、そうなんだよね」
  .レイ「マーク・ナイン」
 シンジ「…え」
  .レイ「エヴァンゲリオン、Mk.9。私の機体」

視線を戻すシンジ
淡々としているレイ

 シンジ「…零号機じゃ、ないんだ」

250 :5/10:2015/03/07(土) 15:21:13.33 ID:???.net
  .レイ「そう。違う」
 シンジ「新しいエヴァ、か…新しい世界。新しい関係。新しい部屋。…新しいものばっかりだ。
     プラグスーツも新しくなったんだね。似合ってるけど…黒なんだ」

黙って見つめ返してくるレイ
また目を逸らすシンジ

 シンジ「あのさ、…レイはいつ、初号機から戻ってきたの。結構前だよな…それから、ずっとここに?」
  .レイ「ずっと、ここ」
 シンジ「そっか…
     僕はもう、何がなんだかわからないんだ。いきなり14年経ってるなんて言われて、みんなに
     責められて、…初号機は、もう僕が乗れなくなっててえ。一体何がどうなってるんだろう…
     ねえ、レイは何か知ってるの」
  .レイ「知らない」
 シンジ「…そっか」

沈黙をごまかしきれなくなるシンジ
ランプの明かりの強弱だけが変化する

  .レイ「…どうして、私のこと見てるの」
 シンジ「え?」

振り返るシンジ
変化しない距離の向こうから見ているレイ

  .レイ「そうやって、私のこと、見てる。今も」
 シンジ「あ…」

やっと会話らしくなってきて安堵すると同時に、照れるシンジ

251 :6/10:2015/03/07(土) 15:23:49.89 ID:???.net
 シンジ「どうしてって、心配だからに決まってるじゃないか。
     …ずっと心配してたんだよ、レイのこと。目が覚めて、僕一人で、…誰もレイのこと教えて
     くれないし、ミサトさんは嘘つくし、…それに」

続きは呑み込み、小さくかぶりを振ってレイに向き直るシンジ

 シンジ「…僕のことなんかいいよな。
     そう、…ほら、例えば、この部屋だよ。こんなところじゃ寒いし、着替えもないし…
     レイが物に無頓着なのは知ってるけど、それでもミサトさん家で暮らしてた頃は、もうちょっと
     身の回りにも気を遣ってたよ。…父さんも父さんだ。何考えてるんだろ、こんなところに一人で
     放っておくなんて」

答えないレイ
一人で胸の咎めを感じてしまうシンジ

 シンジ「あ…、ごめん、後から来たくせに勝手なことばかり言って。…しょうがないよな、物もあんまり
     ないみたいだし、きっと、いろいろ足りなくて当たり前なんだよな、ここの生活って。
     …大変だったろ。エヴァの準備も、機械ができないところは、レイが一人でやってるの」
  .レイ「そう。一人」
 シンジ「そっか…
     あのさ、僕もここに、ネルフに来れたんだから、…これからは、何か困った時とか助けが要る
     時なんかはさ、僕にできることがあったら、何でも言ってよ。大して頼りにならないかもしれない
     けど、また、レイの力になりたいんだ。前みたいに」

黙って見つめているレイ
しばらく待つものの、結局うつむいてしまうシンジ

252 :7/10:2015/03/07(土) 15:27:05.35 ID:???.net
 シンジ「…ごめん。
     無理ないよな。僕が眠ってる間も、レイはずっと一人でがんばってきたんだものな。…だけど、
     …勝手な言い分なのはわかってるけど、レイの顔見たら、安心した。
     ありがとう、レイ。生きててくれて。…ありがとう」

笑いかけるシンジ
手応えのない沈黙の下で、その笑みもしだいにしぼんでしまう
感情を見せないまま、ただ問うレイ

  .レイ「どうして私のこと見てるの」

ほとんど物理的な痛みを感じるシンジ
何度も瞬きして衝撃に耐える

 シンジ「…レイ」

懸命に胸のざわめきを抑えようとするシンジ
自分に何度も言い聞かせ、説明し、何とかして目の前にいるレイを納得しようとする
涙のこみ上げる目を閉じ、また開く
無理やり笑みを浮かべてみせる

 シンジ「何だよ、レイだって僕のこと見てるじゃないか。
     ここで目が覚めたときも、本部に降りてくる途中でも。今だってほら、そうじゃないか」
  .レイ「違う」
 シンジ「…何が?」

ふっと目を逸らすレイ
初めて表情らしきものがにじむ

  .レイ「見てたのは、…私じゃ、ない」

253 :8/10:2015/03/07(土) 15:28:05.28 ID:???.net
 シンジ「…何言ってるんだよ。確かに見てたじゃないか」
  .レイ「この私じゃない」

かっとなるシンジ

 シンジ「何を言うんだよ! レイはレイだよ、あの時、ちゃんとそう言っただろ…!」
  .レイ「…でも、違う」

訴えるような目を向けるレイ
必死に怒りと癇癪をなだめ、今そこにいるレイの心境を推しはかろうとするシンジ
泣きそうになりながらも訊く

 シンジ「…どこが違うんだよ、…レイは、レイだろ」
  .レイ「よく…わからない。
     この私の、外と内にいる、私を見ている…私。あなたを見たがったのは、その私」
 シンジ「…何言ってるんだよ、…もう、訳、わかんないよ」

こらえきれず下を向くシンジ
ランプがまたたく中、嗚咽だけが続く

  .レイ「…何泣いてるの」

返事できないシンジ
いっそう激しく涙があふれ、ただしゃくりあげるしかできない
わずかに困惑しているらしいレイ
それを感じ取り、強引に両こぶしで目をぬぐって顔を上げるシンジ

254 :9/10:2015/03/07(土) 15:29:38.35 ID:???.net
 シンジ「…ごめんよ。
     でも…レイ、そんなこと言うなよ。言わなくていいんだ。
     だって、レイはレイなんだから。碇レイ。…僕の、双子の妹だ。他の誰でもないんだ」

かすかに両目を見開くレイ
少しだけ笑い、涙に濡れた顔で狭いスペースを見回すシンジ

 シンジ「…やっぱり、この部屋がいけないんだ。こんなところに一人でいるから、何もわからない、
     思い出せなくなっちゃうんだ。父さんも、前から何考えてるかわからない人だけど、ひどいよ。
     ここ、本もないじゃないか」
  .レイ「…本」
 シンジ「うん。時間が空いた時は、よく読んでたじゃないか。難しそうな英語の本まで」

急にまた感情を失うレイの顔

  .レイ「…碇レイなら、読むの」
 シンジ「? うん。…そんなことまで忘れちゃったんだね。
     そうだ、ねえレイ、今度ここの図書室に行ってみよう。一緒に」
  .レイ「…いっしょに」
 シンジ「うん。何か、レイの好きそうなのが残ってるかもしれない。こんな狭いところに閉じこもって、
     一人で我慢してることなんてないんだよ。ここは広いんだから、いろんなところに行って、
     いろんなものを探してみよう。僕も手伝う。一緒に行こう」

瞬きするレイ
今度は自然に笑顔になれるシンジ
ふいに時間の経過に気づく

 シンジ「あの、ごめん、休んでるところだったのに長居して。…もう行くよ。また、誘いに来るね」

255 :10/10:2015/03/07(土) 15:32:39.94 ID:???.net
こちらを見たままのレイ
最後にもう一度笑いかけ、明かりに背を向けて歩き出すシンジ
ランプの光の輪の外、濃さを増した闇に包まれる
振り返ってみるシンジ
明かりの中にまだこちらを見送っているレイの姿が小さく見える

 シンジ「…レイ」

不安と同じくらいの嬉しさを感じてまた歩き出すシンジ
遠ざかるレイの部屋

 シンジ(レイだ。レイだった。レイは、生きてた。ちゃんと、生きてここにいるんだ。
     だったらそれでいいじゃないか)

暗くなった廊下を歩いて居室に戻る
歩きながらふと気づくシンジ
めまいのような違和感が押し寄せる

 シンジ(だけど…
     レイ、一度も僕のこと『お兄ちゃん』って呼ばなかった)

胸の底を突き上げる不安をこらえ、ただ足に力を込めて歩いていくシンジ


とりあえずここに書ける間は書いておこう
その後はその後
>>245 ありがとうございます

256 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/08(日) 09:58:33.54 ID:???.net
ho <クロナミ…

257 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/08(日) 14:34:27.20 ID:???.net
ほんとだ、これは黒波だね
てことは双子レイは初号機の中…?

258 :1/6:2015/03/09(月) 00:13:49.90 ID:???.net
はい、黒波でした
いつもありがとうございます
…それと、今回はもしかしたらかなり気持ち悪いです、気を悪くされたらすみません


旧ケイジ
頭上高くそびえる拘束壁の残骸を見上げながら一人歩いてくるシンジ
この本部に到着した時に見た、明るい場所が見えてくる
光の中で揺れている緑の樹木
傍にあるグランドピアノ
拘束具の落とす影の中で立ち止まってしまうシンジ
すぐそこに見えているのに、進めない
胸のうちで渦巻く真新しい恐れと疑念

 シンジ(レイだった。…レイだったじゃないか。変わってても)
    ミサト(碇シンジ君…で、いいのよね)
    リツコ(あなたへの罰、そして私たちの不信の象徴)
    アスカ(あんたには関係ない)
     碇(話は終わりだ)
     レイ(…どうして私のこと見てるの)

すくんだシンジの頬を伝う冷たい汗

 シンジ(…変わってた。何もかも、みんな変わっちゃったんだ。
     新しい世界。だったら…カヲル君も変わってるかもしれない。…僕を、忘れてるかもしれない)
 シンジ(…耐えられるのか、僕は。…これ以上、失うのを)

259 :2/6:2015/03/09(月) 00:16:36.71 ID:???.net
影の中で、錆びた壁に隠れるように身を寄せるシンジ
どうしても足が動かない
かろうじて逃げ出すことをこらえながら自分の足元だけを睨む

 .カヲル「…ねえ、どうしたんだい? そんなところで」
 シンジ「!」

びくりと顔を上げるシンジ
蓋を開けたピアノの向こうから懐かしい声

 .カヲル「『君、ここは初めてなのかい? 良かったらこっちへおいでよ』」
 シンジ「…え」

何度もためらいながら、結局導かれるままに歩み寄っていくシンジ
黒々と光るピアノを回り込む
グランドピアノの椅子に腰掛けて笑顔を向けるカヲル

 .カヲル「『弾いてみない?』」
 シンジ「え…っと、…あの、…」
 .カヲル「『大丈夫。難しいことなんかないよ。君はただ鍵盤に触れて、感じるままに弾くだけでいい』」

何度か瞬きするシンジ
息を詰めながら、そろそろとカヲルの隣に腰を下す

260 :3/6:2015/03/09(月) 00:19:14.07 ID:???.net
久しぶりに見るピアノの鍵盤
おそるおそる指を触れてみる
最初の音
と、カヲルの指が近くの鍵盤を押し、音を連ねる
とまどいながらさらにその上に続けるシンジ
横でふっと微笑む気配
いきなり、華やかな和音が弾ける
驚いているシンジを横目で気遣いながら、本格的に弾き始めているカヲル

 シンジ「え…?! あ、あの」
 .カヲル「『いいよ、続けて』」
 シンジ「あ…」

明るい空間に広がっていく、懐かしくて新しい連弾曲
しだいに身を入れて弾き始めるシンジ
そのシンジに合わせ、導くカヲル
展開する曲調 響く和声 軽やかな連続音
呼吸と体感
遠慮がちだった音と音がしだいに馴染み、分かちがたくシンクロしていく
弾きながら、カヲルが溜息のように声を洩らすのを聞くシンジ

 .カヲル「…ああ、…君との、音だ」

みるみるシンジの顔が明るくなる

261 :4/6:2015/03/09(月) 00:19:49.66 ID:???.net
もう不安はない
心を一つに合わせて弾き終える二人
最後の和音が長く伸びる
頭上に繁る緑の葉群のざわめきが廃墟の荒景をやわらげる
こぼれる木洩れ陽
穏やかな静寂
満ち足りた静かな笑顔で、ようやく鍵盤から指を離すシンジ
振り向くと、すぐそこで微笑んでいるカヲル
我慢しきれず口を開こうとするシンジに小さく首を振る

 .カヲル「…『僕はカヲル。
     渚カヲル。君と同じ運命を仕組まれた子供だよ。碇シンジ君』」

ちょっととまどい、すぐに了解して笑うシンジ

 シンジ「『じゃあ、君も同じ、エヴァのパイロット…? えっと…渚、君』」
 .カヲル「『候補、だよ。今はまだね。…それと、カヲル、でいいよ。碇君』」
 シンジ「『…じゃあ、僕も、その、…シンジ、でいいよ』」
 .カヲル「『よろしく』」
 シンジ「『うん』」

言葉が途切れる
少しの沈黙の後、顔を見合わせて同時に噴き出す二人
風の鳴る青空へ明るい笑い声が響く

262 :5/6:2015/03/09(月) 00:20:50.36 ID:???.net
やっと笑いやみ、カヲルを見つめるシンジ

 シンジ「何だよ…もう、びっくりした。初め、君まで僕の事を忘れちゃったのかと思ったよ」
 .カヲル「忘れてなかったろう?」
 シンジ「…うん。…それにしても、よく覚えてたね。初めて会ったときのやりとりなんて」

眼差にありったけの好意を込めてシンジを見るカヲル

 .カヲル「忘れるわけがないよ。君とのことだからね」
 シンジ「…、そうなんだ」

素直にはにかむシンジ
鍵盤と、その前に並ぶ二人の両手を見つめる
いたたまれないように再び顔を上げ、カヲルを頭から足元まで何度も眺める
くすりと笑うカヲル

 .カヲル「…どうしたの? 僕は幽霊でも幻でもないよ」
 シンジ「うん…ごめん、ただ、夢みたいで。…やっと、知ってる場所に帰ってこれたみたいで」
 .カヲル「そうだね。…そうだ、まだちゃんと言っていなかったね。
     お帰り。シンジ君」
 シンジ「……」

263 :6/6:2015/03/09(月) 00:23:17.63 ID:???.net
溢れる感情を言葉にできないシンジ
涙がこぼれる
何とかごまかそうとするが唇が震え、耐え切れず顔を伏せてしまう

 シンジ「…ごめんッ、…どうしても、駄目で、…」
 .カヲル「いいんだよ。我慢しなくても」

カヲルの指がそっと伸びて頬を伝う涙をすくう
シンジの両肩が大きくわななく
ずっと耐えてきた感情の堰が切れ、声をあげて泣き伏すシンジ
揺れる背に片手を添えて静かにシンジを見守っているカヲル

 .カヲル「お帰り。…ずっと待っていたよ」

明るい光の中の場景
ケイジの反対側、濃い影の中に佇むプラグスーツ姿のレイ
遠い二人を見つめる
やがて何の表情も浮かべず歩み去る



…Q初見して何も考えずに前スレにカヲルを登場させてしまってから二年ちょっと
やっとここまで来れました
当分、カヲル君と黒波のターンによるネルフの日常(?)が続きます
読んでくださった方、ありがとうございます

264 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/09(月) 11:20:46.81 ID:???.net
わーお
ちょっと…いやかなりドキドキしてしまったわw
良かったねカヲル、待ってた甲斐があったね
しかし黒波はどう出るのか(興味なし?)

265 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/09(月) 11:22:44.90 ID:???.net
書き忘れ
気持ち悪くなんかないよー、続きが気になるよ

266 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/09(月) 12:25:39.71 ID:???.net
ho <デオクレタカ…
no <ナケルアイテガイテヨカッタナ、シンジ

ho no <<ガンバレー

267 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/11(水) 10:56:43.62 ID:???.net
ho

268 :1/5:2015/03/12(木) 15:56:03.40 ID:???.net
261-264 ありがとうございます…というかすみません
もうちょいだけ行きます



 .カヲル「落ち着いたかい?」
 シンジ「…うん。少し」

まだ赤くなった目元をこすりながら照れ笑いするシンジ
穏やかに見守っているカヲル
視線の優しさに安堵すると同時に、消えない不安がかすかにうずくのを感じるシンジ

 シンジ「…あの、ありがとう。
     じゃなくて、ごめん。…せっかくまた会えたのに、いきなり変なとこ見せちゃって」
 .カヲル「気にしないで。それに、無理もないさ」

笑って首を振るカヲル

 .カヲル「君は何の知識もなく、突然この世界で目覚めたんだからね。
     世界は君に何も語らない。君を拒絶しはしないけれど、無条件に優しくもない。君は君自身で
     今の自分を受け止め、新しい世界に対するための心の形を、再構築しなければならない。
     それは簡単なことではないよ。だから君に必要なら、何度、さっきのようにしたって構わないのさ」

269 :2/5:2015/03/12(木) 15:56:45.83 ID:???.net
 シンジ「カヲル君…でも、もうしないようにしなきゃ。あんなことは」

膝の上で両手を握りしめるシンジ

 .カヲル「…怖いのかい?」

両肩で怯えるシンジ
顔を上げる
まっすぐこちらを見ているカヲル

 シンジ「…え」
 .カヲル「他人に、自分の心をさらけ出すのが」

少しためらって目を逸らし、そのまま黙って自分の気持ちを覗き込むシンジ
やがて小さく頷く

 シンジ「…、それも…あるけど。
     リツコさんは、初号機を覚醒させたのは僕の心なんだって言ってた。僕が、エヴァの中で自分の
     感情に溺れたことが悪いんだって…あんなふうに誰からも責められても仕方ないくらいに悪い
     ことだって、言ってたんだ。…だから」

並んだ二つのこぶしに力がこもる

270 :3/5:2015/03/12(木) 15:58:03.28 ID:???.net
 .カヲル「不安なんだね。自分の心が、また何か悪いことを招いてしまう気がして」
 シンジ「…うん」

両膝に突きつめた目を据えているシンジ
目の前に並んだピアノの鍵盤の白と黒

 シンジ「…そう、怖いんだ。…それに」
 .カヲル「それに?」
 シンジ「…、僕がまた、自分のことしか考えなくなったら、それでまた何か、悪いことが起きたら…もし、
     そのせいで誰かを、…君を、傷つけるようなことになったら。…そんなのは、もう、嫌なんだ。
     …今度こそ、僕は耐えられない」

沈黙
不安にかられてカヲルを振り返るシンジ
はっとする
微笑んでいるカヲル

 .カヲル「大丈夫、だよ」

うろたえて何度も瞬きするシンジ

 シンジ「…カヲル君、…だけど」
 .カヲル「平気さ。心配要らないよ。だって、さっきあれだけ泣いたけれど、何も起きなかったろう?」
 シンジ「あ…」

271 :4/5:2015/03/12(木) 15:59:21.63 ID:???.net
 .カヲル「ね?
     君の心だけが悪いんじゃない。それに素直に心のつかえを吐き出すのは、時に必要なことだよ」
 シンジ「…うん」

頷くシンジ
関節が白く浮き上がるほど握りしめていたこぶしから、力が抜ける
見守っているカヲル
ふっと右手を伸ばす
反射的に身を引こうとするシンジ
意識してとどまる
カヲルの白い指が顎の辺りを通り過ぎ、喉元のDSSチョーカーに確かに触れる
息を呑むシンジ

 .カヲル「…これのことは知っているよ。でも他者がかけた呪いと、君自身の心とは、同じではないよ」

呆然とされるがままになっているシンジ
手を離すカヲル

 .カヲル「でも…そうだね。
     君のその不安も、間違いじゃない。自分の心を認めることと同じに、その心を見つめ直すのも、
     今の君には必要なことだからね」

不安を隠すことなくただ見つめているシンジ

272 :5/5:2015/03/12(木) 16:05:36.56 ID:???.net
なだめるように笑いかけるカヲル

 .カヲル「…一度に全てできるようにはならないさ。少しずつ、心の調和を取り戻していけばいいよ」

もう一度頷くシンジ

 シンジ「…、うん。…ありがとう、カヲル君。いつも助けてくれて」
 .カヲル「いいんだよ。話をするくらい、僕で良ければ。
     言葉にしづらければピアノでもいい。いつでもおいで。僕はここにいるから」
 シンジ「…うん。…、あの」
 .カヲル「ん?」

ためらうシンジ
顔を上げる

 シンジ「…カヲル君、…僕は、ここに来られて良かった。また会えて、本当に…嬉しいよ」

精一杯の感謝を込めて向かい合うシンジ
その顔を領していた重たい翳りがゆっくりと晴れる
思いやりの限りを見せて豊かに微笑んでいるカヲルの懐かしい顔
何かしたいという衝動に駆られるシンジ
思い出す

 シンジ「…そうだ、カヲル君。君が本部を離れるときにくれた楽譜…あれの最後に書いてあった曲。
     僕が一人になっても弾けるようにって、残していってくれた」
 .カヲル「うん。…覚えていてくれたんだね」
 シンジ「…うん。
     久しぶりだから上手くはないかもしれないけど、君に聞いてほしいんだ。構わない?」
 .カヲル「うん。聞かせてほしい」

頷き、ピアノに向き直るシンジ
光の射す空間、暮れ始めた高い空に向かって、静かな楽音が立ち昇っていく

273 :1/7:2015/03/12(木) 16:54:21.57 ID:???.net
与えられた居室で食事を摂るシンジ
白いトレイに盛り付けられた数種の栄養ペースト
味は悪くないものの、毎回全く変化がない
小さく溜息をつくシンジ

 シンジ(…カヲル君もレイも、ずっとこんなのを食べてるのか)

汚れたトレイと備え付けの歯ブラシを壁の回収窓に戻し、蓋をする
自働機構でどこかへ運び去られるトレイ
ベッドに戻って腰を下すシンジ
SDATを聞こうとイヤフォンをはめかけて、思い出す
一応、本体のボタンを押してみる
動かないSDAT
ベッドに上体を投げ出すシンジ

 シンジ(…レイ)
 シンジ(ほんとに、ちゃんと食べてるのかな。気を遣ってくれる人もいないのに)

少し迷い、結局立ち上がるシンジ
夜の廊下に出る
ポケットのSDATを確かめ、あの謎めいた地下施設を目指す

274 :2/7:2015/03/12(木) 16:55:10.35 ID:???.net
濃い闇に覆われた広大な地下施設
何かの動力音らしきかすかな重低音の唸り
回廊の一角にあるレイの部屋
明かりはともっていない
落胆するシンジ
部屋の前にいっても人の気配はない
諦めて戻ろうとし、思い直す

 シンジ(…僕はレイに連れてきてもらったんだ。少し待つくらい、当たり前じゃないか)

時間が過ぎる
機械の気配と鳴動する闇の裾
変化のない広すぎる空間
疲労を覚えるシンジ
壁にもたれて座り込み、抱えた両膝に顔を埋めている
足音
近づいてくるまで意味が取れないシンジ
はっとして頭を起こす
部屋に入ろうとしているプラグスーツ姿のレイ
あわてて立ち上がろうとして思いきりよろめくシンジ
何とか踏みとどまる

 シンジ「…レイ!」

初めて振り向くレイ

275 :3/7:2015/03/12(木) 16:55:54.71 ID:???.net
静かな面差を向けられて言葉につまるシンジ

 シンジ「…あの」
  .レイ「何」

必死に会話の端緒を探すシンジ
視線を逸らし、行こうとするレイ
焦るシンジ

 シンジ「レイ! …ちょっと待ってよ」

再び振り返るレイ
闇に溶けてしまいそうな黒い細い姿
とっさに口を開くシンジ

 シンジ「あのっ、ねえレイ、…いつもそれ、着てるんだね。その、黒い、新しいプラグスーツ」

黙って聞いているレイ
シンジの表情が力を失う

 シンジ(…何言ってるんだよ、僕は)

が、急に向き直るレイ

 シンジ「! …あの」

276 :4/7:2015/03/12(木) 16:56:43.09 ID:???.net
  .レイ「…何」
 シンジ「え?! あ、えっと、…もっと他の服も着ればいいのに。いつもそれで、窮屈じゃないの」

表情を変えずに答えるレイ

  .レイ「平気」
 シンジ「…そっか。そうだよな。…それも、父さんが着ろって言ったから着てるの」

黙っているレイ
溜息をつき、うつむくシンジ

 シンジ「…そうだよな」

答えないレイ
何とか話を繋ごうとするシンジ

 シンジ「けどさ、たまには他の服も着てみたらいいんじゃないかな。…確か、部屋の前に
     制服は置いてあったし。ずっとプラグスーツでいることないんだよ」
  .レイ「…それは、命令?」

一瞬何を言われたのかわからないシンジ
慌てて首を振る

 シンジ「え…いや、ごめん、命令だなんて、そんなつもりじゃないんだけど」

277 :5/7:2015/03/12(木) 16:57:42.77 ID:???.net
  .レイ「そう」
 シンジ「それとも…その、命令じゃないと、できないの」
  .レイ「……」
 シンジ「あ…ごめん」

自分の無遠慮さと不器用さに歯噛みする思いのシンジ
ぽつんとレイの声

  .レイ「…命令じゃなくても、するの」
 シンジ「! うん。するよ。…していいんだよ。レイだって、自分がしたいと思うことをしていいんだ」

再び黙っているレイ
たやすく自信を失い、うなだれてしまうシンジ

 シンジ「…、ごめん」
  .レイ「…したいことって、何」
 シンジ「え」

こちらを見ているレイ
不思議と緊張が解けるのを感じるシンジ

 シンジ「それも…わからなく、なっちゃったの」
  .レイ「…知らないの」

278 :6/7:2015/03/12(木) 16:58:34.35 ID:???.net
 シンジ「…、そっか。
     でも、いいんだよ。少しずつ、思い出していけば。だんだんわかるようになるよ」
  .レイ「…わかるように、なる」
 シンジ「うん。
     この間、言ってたじゃないか。レイの知らない別の自分がいるみたいだって。僕を見ようとしたのは
     その自分なんだ、って。…きっとそれなんだよ。レイの、失くした部分。知らないんじゃないんだ。少し、
     わかりづらくなってるだけなんだよ」
  .レイ「……」

少し顔をうつむけているレイ
相変わらず繋がりは捉えられないが、少なくとも、拒絶の意思は感じられない

 シンジ「今は…どんな風に感じる?」
  .レイ「…今」
 シンジ「うん。レイは、たとえばこうやって僕といて、それで、自分ではどんな風に思ってる?」
  .レイ「……
     『アタタカイ』」
 シンジ「…え」

シンジを見るレイ

  .レイ「私は、知らないの。…でも、別の私は、前、これを『アタタカイ』と呼んでた、と思う」
 シンジ「レイ…」

瞬きするレイ
強い表情の欠けたあどけないような白い顔

  .レイ「どうして、そんなに私のこと見てるの」

279 :7/7:2015/03/12(木) 17:01:04.60 ID:???.net
ただかぶりを振るシンジ
笑顔を向ける

 シンジ「…、嬉しいんだ。レイがここにいてくれることが。ただ、そのことだけで、嬉しいんだ」
  .レイ「…ウレシイ」

再び黙り込むレイ
ふいに心配になるシンジ

 シンジ「ごめんね、遅い時間にいきなり来て。ただ、レイが、食事とかちゃんと取ってるのかなって、
     急に心配になってさ。元気そうにしてるなら、いいんだ。…大丈夫?
  .レイ「…ええ。平気」
 シンジ「…そっか。…なら、安心した」

困惑しているらしいレイ
ちょっと笑顔を見せて、離れるシンジ

 シンジ「それじゃ。何度も邪魔して、ごめん。ゆっくり休んで」

かすかに両目を見開いて見送っているレイ
途中何度か振り返りながら施設を出るシンジ
暗い廊下を一人戻っていく
歩調に合わせ、ポケットの中で壊れたSDATが揺れる
一瞬ひどく暗い目をするシンジ

 シンジ(…今日も、『お兄ちゃん』って言わなかったな。…レイ)

280 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/12(木) 20:02:43.56 ID:???.net
ho <乙
no <dat停止秒読みだってさ、職人氏はどっか移住する?

ho <誘導してくれればまた読みに行きます
no <今回は重要事項なんで日本語で喋りますた

ho no <<ニャーン!!

281 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/12(木) 20:57:08.57 ID:???.net
>>280
わわ、ねこさんありがとうございます
とりあえずscに行こうかと思ってます、ログがそのまま継続できますし

scのスレ(○を抜いてください)
リリスについて
ttp://maguro○.2ch.○sc/test/read.cgi/eva/1408715240/

282 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/12(木) 23:15:16.84 ID:???.net
うーん
Live2ch、挑戦してみるべきなのかなぁ
運営系やソフトウェア板ざっと回ってみた程度じゃ決めかねる…
いずれにせよ明日以降の話なんだろうか

283 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/12(木) 23:37:26.61 ID:???.net
ともあれ
ここまで読んでくださった方々に心から感謝します
本当にありがとうございました
今後どうなるかわかりませんが、何とかラストまで語れたらと思います

284 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/13(金) 09:01:53.66 ID:???.net
あれ?
まだ大丈夫みたいよ
どうなってるのw

285 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/13(金) 11:05:15.30 ID:???.net
ho <…

286 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/14(土) 09:03:17.51 ID:???.net
test

287 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/14(土) 13:36:07.38 ID:???.net
まだかな

288 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/16(月) 11:20:13.48 ID:fhLuzHPqA
再びscからテスト
ほんとどっちがいいんだろ…
エヴァ板に関してはnet利用者の方が多いようだし

ただ、現行スレを使う間はnetに書き込むにしても
もし万一次スレが必要な事態になったらそのときはscかなぁ
…そこまで長くならないだろうけども

289 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/18(水) 09:22:47.58 ID:???.net
ho

290 :1/4:2015/03/20(金) 12:56:09.60 ID:???.net
本部を下るほどに深まる多重構造の闇
無人で稼動を続ける地下施設
機械音と低く長い生物的な唸りに幾重にも囲まれ、LCL槽に浮かぶ素裸のレイ
ほのかな暖色の明るみの中でまぶたを開く
LCL槽に至る細い正面通路に佇む人影
かすかに目を見開くレイ
槽壁の外、眼前に立つもう一人のレイの姿

  レイ(…あなたは、だれ)

声もなく、言葉もなく、ただ一心にレイを見つめるもう一人のレイ

  レイ(…私は、何)

強くて儚くて寂しい眼差
自分と同じ、同じはずの顔

   シンジ(レイ、そんなこと言うなよ。…言わなくていいんだ。
       だって、レイはレイなんだから。碇レイ。僕の双子の妹だ。他の誰でもないんだ)

新しくまた両目をみはるレイ

291 :2/4:2015/03/20(金) 12:59:51.87 ID:???.net
   シンジ(…勝手な言い分なのはわかってるけど、レイの顔見たら、安心した)
   シンジ(ありがとう、レイ。…生きててくれて)

もう一人のレイの顔に溢れるほどに湛えられている、言葉にならない情感
大きな両目だけが強く強く何かを訴えている
LCLに浮かぶレイには汲み取れない
稀薄な心をいくら手探っても、何も見つからない
何もない
何もないという自分を認識するレイ

  レイ(…知らないもの)
  レイ(私は、命令に従うだけ。他には、何も、ないもの)
      (この命が、私。生きているだけでいいんだよって、言ってくれた…)
  レイ(『アタタカイ』って、何)
  レイ(知らない)
      (生きていたかった。生きていてほしかった)
  レイ(…それが、『アタタカイ』?)
   シンジ(嬉しいんだ。レイがここにいてくれることが。ただ、そのことだけで)
      (生きていて…うれしかった)
  レイ(あなたは…誰)

292 :3/4:2015/03/20(金) 13:00:50.61 ID:???.net
LCLの微光を透かして、息をつめるようにして目を凝らすレイ
佇んでいるレイの姿

  レイ(…おしえてほしい。わかるように)
  レイ(わかるように…なるの)

何も答えないレイの姿

   シンジ(いいんだよ、少しずつで。だんだんわかるようになるよ)

シンジの面影が重なる
大きく目を見開き、LCLの中で呼吸するレイ
漂う身体にわずかに力がこもる
LCLがさざめく
細かな泡が液中を立ち昇る
外の闇に佇むレイの姿が揺らいでぼやける

  レイ(…まって)

293 :4/4:2015/03/20(金) 13:02:13.67 ID:???.net
  レイ(待って。一人じゃ)

まだそこにある眼差
たとえ届かなくても、さしのべることをやめない、思いというもの

  レイ(なら…どうして、私のこと、見てるの)
   シンジ(心配だからに決まってるじゃないか)
   シンジ(こんな狭いところで、我慢して一人でいることないんだよ。いろんなところに行って、
       いろんなものを探してみよう。僕も手伝う。一緒に行こう)

形にも言葉にもならない何かを心の底に感じるレイ
それは初めて自分の心に触れることでもある
捉えどころもなく揺らめき続ける命
願うことの悲しみ

  レイ(…なかないで)
      (生きていて。どうか)

しだいに密に立ち昇る水泡
激しい泡の幕が目の前を覆い、途切れたときには既に、もう一人の姿はなくなっている
一人のレイ
静まったLCLの中で、いつまでも闇の奥へ目を向けている

294 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/20(金) 18:35:40.61 ID:???.net
続きに期待

295 :1/6:2015/03/21(土) 13:16:31.14 ID:???.net
>284-289、>294 ありがとうございます、いつも励みにさせていただいています
今後も何とかがんばっていこうと思います


ヴィレ集結地
ヴンダーへの資材や発電用燃料、予備大型蓄電槽を運び込む船が続く
当初予想されたネーメジスシリーズの襲撃・追撃は絶えている
ヴンダーが飛んだことが、構成者たちや支援者たちをかつてなく活気づけている
これを機に各居留地のシェルター外外出規制の緩和を望む声
無人地帯にこれまでより深く入り込み、取り残された機材や資源を回収すべきという意見
ネーメジスシリーズの掃討に出るべきと主張する積極派
いずれもインパクト以降耐えてこざるを得なかった抑圧とネルフへの敵意に根ざしている
膨れ上がる不満と希望を抑えるのにかえって苦慮するヴィレ上層部
一人、一切の楽観視を排斥しているミサト

 ミサト「…甘すぎるわ。皆、ネルフがBM-03を強奪した意味をわかっていない」
 リツコ「エヴァにさえ…いえ、初号機にさえ乗せなければ、彼はもはやネルフにとってさえ
    役に立たない。希望的観測も含め、そう見ている者が大半ね」
 ミサト「…そう見たがっている者が、だわ」

296 :2/6:2015/03/21(土) 13:17:41.45 ID:???.net
戦略会議を終えヴンダーの通路を行くミサトとリツコ

 ミサト「DSSチョーカーは発動させたとはいえ、確実に彼を即死させられたとは言えない。
    確かな証拠もないのに、彼への警戒レベルを下げるのは危険すぎるわ」
 リツコ「そのDSSチョーカーへの信頼が、私たちの留任を保証しているのよ」
 アスカ「エヴァの使用もね」

廊下の先で壁にもたれているアスカ
歩みを止めない二人に加わる

 アスカ「ヴンダーに艦載させる前提があるから、改2も8号機も改修して『もらってる』わ。
    エヴァ単体での野戦はいまだ考慮もされず。ま、稼働時間問題も解決してない
    『安全』なエヴァじゃ、どっちみち高が知れてるけど」
 ミサト「…誰もあなたたちのエヴァを責めてはいないわ。むしろ欠くべからざる戦力なのよ」
 アスカ「けど、怖がってるわ。みんな」

キャップのつばを掴み、深く引き下ろすアスカ

 アスカ「コネメガネは、全部了解してる。だから平気でケイジのエヴァの傍か、エントリー
    プラグに自分で引きこもってる。…私は嫌なことは嫌って言うから、衝突するけど」

297 :3/6:2015/03/21(土) 13:18:27.11 ID:???.net
 アスカ「不平を言いたいんじゃない。大佐ももっと一般クルーの心情を理解した方が
    いいと思ってるだけ。…私たちに同情してくれるのはありがたいけど、無駄よ。
    また元ネルフどうしで馴れ合ってるって疑われる。そうなったら終わりなのよ。
    …とにかく、戦力として以上には、心配しないで。私たちは自分で何とかできるし、
    敵のエヴァがいる間は、少なくとも安泰だから」
 ミサト「わかってるわ。…アスカ」

歩調を緩めないミサト
毅然と前を見ている横顔

 ミサト「…ありがとう。…全部終わったら、必ず償うわ」
 アスカ「だから、そういうのはなし。
    …ところで、無駄話はともかく、聞きたいことがあるの」
 リツコ「わかってるわ。それでわざわざ待ってたんでしょうから」

周囲を一瞥するリツコ

 リツコ「この辺りには特に監視機構も増設されてないから、大丈夫よ」
 アスカ「…ありがと。それも確認したかった」
 ミサト「それで、何、アスカ」

一瞬黙り込むアスカ

298 :4/6:2015/03/21(土) 13:20:28.49 ID:???.net
 アスカ「ネーメジス以外のネルフのエヴァ…例えば、シンジを奪回に来たMk.9。
    あれを除いた12号機までの破棄は、確かなのよね」

片手の端末を確認するリツコ
図示されるエヴァシリーズのコアユニット反応

 リツコ「サードインパクト以降14年間、現在に至るまで、ネルフのエヴァシリーズの活動は
    ネーメジス…エヴァMk.4シリーズ以外は確認されていません。あれは全て同一の
    機体のクローン生産。だからコアユニットの反応も全て同じだったの。
    唯一の例外が、あのMk.9。その存在自体は以前から私たちも把握していたわ」
 ミサト「前回のBM-03強奪時に、逃がしたとは言え、ある程度の能力も確認できた。
    あれで全てとは思えないにしてもね」
 リツコ「あと考えられるのはMk.6…恐らくは、リリスとともにL結界深部に封じられている。
    現段階では外界からの一切の観測は不能。でもそれは同時に、ネルフもMk.6を
    利用できないということにもなる。現に再起動は確認されていないわ」

端末画面から目を逸らすアスカ
ちらと視線を走らせるミサト

 ミサト「…そんなことが訊きたいんじゃないわよね」

黙っているアスカ

299 :5/6:2015/03/21(土) 13:22:25.71 ID:???.net
端末を切るリツコ

 リツコ「…ネルフが、新たなエヴァを完成させ、それに碇シンジ君を乗せる可能性」

かすかに肩をひくつかせるアスカ

 リツコ「ないとは言えないわ。しかしDSSチョーカーのロックは既に艦長以外の操作を
    受け付けないよう、何重にも設定済み。その設計意図上、ネルフにおいても
    無傷であれを解除することはできない」
 ミサト「…たとえBM-03がここにいなくても、あれは機能し続けるということよ。
    心配要らないわ」
 リツコ「そしてDSSチョーカーが存在する以上、操作圏内にさえ届けば、あれを付けて
    いる者の所在も状態も、我々は把握できる。完全に彼を失った訳ではないの。
    それに今、私たちには主機がある」

サングラスの陰できつく細められるミサトの両目

 リツコ「主機を利用した観測により、L結界外部からでも、ネルフが新たなエヴァを
    起動すればただちにそれと確認できる。…これまでの状況から総合判断して、
    ネルフが次のインパクトに踏み切るのは、その新型エヴァの完成を待ってから
    だと考えて、ほぼ間違いないでしょうね」
 アスカ「…できるならとっくにMk.9を使ってやってるから、よね」

300 :6/6:2015/03/21(土) 13:24:11.52 ID:???.net
 ミサト「逆に言えば、その時までは私たちにとっても決め手に欠ける。
    つまり、ネルフが動く時が、我々がネルフに攻め入る最後で最大のチャンスになる。
    ヴンダーとエヴァは必ずそこに投入するわ。だからそれまでは動かせない」
 アスカ「…待つしかないってことね」
 ミサト「そうよ」

足を速め、ミサトたちを追い越すアスカ
肩越しに声

 アスカ「…わかった」

角を曲がり、エヴァの仮設ケイジの方角へ歩み去っていくアスカ
一瞬だけその細い背中に視線を預けるミサト
振り払い、また歩き出す



ヴィレ側は書けば書くほどボロが出る気がするのでこのくらいにしとこう…
やっぱり当分ネルフを舞台に進みそうです
がんばれ黒波

301 :1/5:2015/03/21(土) 13:49:27.53 ID:???.net
居室でペーストの食事を摂るシンジ
付属の歯ブラシで歯磨きを済ませ、汚れたトレイと一緒に回収窓へ返却する
自動機構でどこかへ運び去られるトレイ
少しすると新しい着替えが同じ窓に届く
自働で行き来するそれらがどこからやってくるのか、どこへ回収されるのか
無人の廊下をいくらたどって探しても見当もつかない
少しずつ今の本部の構造を頭に入れながら歩くシンジ
新しい廊下を曲がるたびに無意識に人影を捜し、結局うつむく
繰り返す気力がなくなれば居室へ戻るしかない
レイもあの部屋にいるとは限らない
大半の時間を一人で歩くシンジ
どこまでも自分の足音

 シンジ(…ここは、どことも繋がってない。ここだけの場所なんだ)

ミサトの家では当たり前だった毎日の細かい家事の数々
いつも洗濯や洗い物を手伝ってくれたレイ
喜んでくれたミサト
皆にまとわりついてちゃっかり一番居心地のいい場所をキープしていたペンペン

 シンジ(…そう、繋がってない)

感情の消されたような顔をしていた暗闇のレイ
歩みに合わせてズボンのポケットで揺れる、壊れたSDAT

302 :2/5:2015/03/21(土) 13:52:00.19 ID:???.net
深く青い空
鳴り響くピアノの連弾
広い床面いっぱいに射す陽光
微風を受けてちらちらと葉叢をきらめかせる緑の樹木
影の中まで明るいような眩しさに満ちた場景
赤錆びたケイジの拘束壁もかすかに共鳴して震えている
古びた黒いグランドピアノ
長い余韻を残して消える楽音
静止した二人の背中
顔を上げ、まだ夢の中にいるような満ち足りた笑顔で振り向くシンジ
微笑で受け止めるカヲル
理解に満ちた平和が二人を繋いでいる
そのことを何度も真新しく噛みしめるシンジ
嬉しくて怖くて失いたくなくて、けれど言い表す言葉が見つからない
代わりにピアノの鍵盤を一つ、また一つと押す
呼吸そのままのように微笑んで、そこに音を連ねるカヲル
交錯する音階がまた次の連弾を作っていく
何度も静まってはそのたびにまた舞い上がる明るい楽音
そうしてまた一日が過ぎていく
夕刻、辺りが暗くなってやっと立ち上がるシンジ
名残惜しそうに閉じたピアノの蓋を撫でる
それから、ピアノの上に置いておいたSDATを取り上げ、ポケットにしまう
目を留めるカヲル

 .カヲル「…それ、いつも持っているんだね」

303 :3/5:2015/03/21(土) 13:53:42.01 ID:???.net
少しつらそうな表情を見せて頷くシンジ
もうカヲルには隠す必要がない

 シンジ「…うん。もう動かないんだけどね。壊れちゃってて」
 .カヲル「僕が直してみようか?」

えっと顔を上げるシンジ

 シンジ「…できるの? カヲル君」
 .カヲル「動くようにすればいいんだろう?」
 シンジ「うん…でも」

ためらう自分に自分でも驚くシンジ
察してわずかに身を引くカヲル

 .カヲル「…余計なことだったね。
     構わないんだよ、君がいいなら、そのままで持っていても」
 シンジ「! ううん」

慌てて強く首を振るシンジ
底意なく向かい合ってくれているカヲルの顔が胸に痛い

 シンジ「ごめん、そうじゃなくて…けど、なんか、悪くて。…僕ばかり、こんなにいろいろ
     助けてもらってるのに」

304 :4/5:2015/03/21(土) 13:54:38.66 ID:???.net
 .カヲル「気にしないで。それに僕だって、君がいてくれることが嬉しいよ」
 シンジ「…、うん。
     …じゃあ、やっぱり、…その、頼もうかな」

おずおずと手渡されるSDAT
受け取ってしっかりと頷くカヲル

 .カヲル「わかった。預かるよ」

カヲルの笑顔を見て、安堵したように微笑むシンジ
故障したままのSDATと一緒に、ここで目覚めてから抱えた重荷も少しだけ預かって
もらえたような、共感への身勝手な望みが、自己嫌悪とともに胸に沁みていく
それでもカヲルを見るシンジ
理解、少なくとも理解しようとする気遣いに満ちて受け止める、カヲルの眼差
何度でも、安堵と不安でいっぱいになる心

 シンジ(…この人とだけは、繋がっていられるんだ。
     こんな今でも。こんな…僕でも)

自覚の眩しさと重さ
暗闇からこちらを見ていたレイの面影が重なり、胸に沈む
ただ精一杯の笑顔を返すシンジ

 シンジ「…それじゃ、また、明日」
 .カヲル「うん。明日」

305 :5/5:2015/03/21(土) 13:58:00.45 ID:???.net
夕陽の染めるケイジを別々の方向へ歩み去っていく二人
壁の陰に入る前にもう一度振り返るシンジ
赤い光を浴びたグランドピアノ
ひとりでに胸の奥の不安が暖かくほどける
夕風にざわめく樹木
空っぽのポケット
少しの間廃墟を眺め、再び歩き出すシンジ

 シンジ(いいんだ、繋がっていても。…そう思ってても)

顔を上げる
自然に両足に力がこもる

 シンジ(…やっぱり、勝手に諦めるなんて変だものな。
     今日も、行ってみよう。レイのところに。…いなくてもいい。駄目なら、また明日だっていい。
     僕が行きたいから、行くんだ)

急速に暮れてくる空
遠ざかる足音

306 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/21(土) 18:24:17.61 ID:zfbYPHSoO
今さらだけど人減ってるなぁエヴァ板

307 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/21(土) 20:01:10.04 ID:zfbYPHSoO
test

308 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/23(月) 00:02:47.20 ID:lHRI4QLIl
>>306
そうでもないんじゃない
スレごとにまとまってる感じ

scは広くて人少なくてさみしいw

309 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/23(月) 00:10:06.56 ID:lHRI4QLIl
黒波がんばれー
もちろんシンジ君もがんばれw
カヲル君もこのまま幸せでいて欲しいけど
やっぱり本編通りの進行になるのかな…

310 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/23(月) 20:18:06.22 ID:???.net
なんだかThink differentとか新NGワードシステムとか
.netがどんどん物騒な感じになってきたので
今後、続きはscに書き込みます
このスレで今まで読んでくださった皆様、ありがとうございました

ずっとありがとう、2chエヴァ板

scのスレ(○を抜いてください)
リリスについて
ttp://maguro.2ch.○sc/test/read.cgi/eva/1408715240/

311 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/23(月) 20:59:23.40 ID:???.net
>>310
ho <オッケー、ヨミニイクヨ
no <チョットサミシイケド ショウガナイヨニャ

312 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/26(木) 10:34:08.64
ちょっとテスト

313 :1/5:2015/03/26(木) 22:20:14.90
>>308-309>>311 本当にありがとうございます
たとえ壁打ちになってもw何とかこの先も続けていきたいです


既に放棄されて十年以上になる旧食堂
照明もまばらな元厨房を歩き回るシンジ
あまりの惨状に溜息しか出ない
割れた食器類が床に散乱し、倒れた戸棚が通行を妨げる
分厚い埃をかぶった保存食糧の包みを見つけるシンジ
試しに破ったパッケージの中身はあらかた変質していて食用には耐えない
溜息をついて包みを捨てるシンジ
乱雑に積み上がった廃物を片付けて通路を作りながら、シンクやコンロを調べていく
ときどきがらくたの山が何か派手な音を立て、そのたびに顔を上げる
けれど視線の先にあるのはいつも崩れた廃物か床に散らばる容器類
人はいない
深く息をつくシンジ

 ミサト(ありゃ? あっあーっ、あちゃー…)
 ミサト(ごっめーん、わざと散らかしてるわけじゃないのよん。この通り反省、反省)
 ミサト(あら? シンちゃん、こないだ買ってきた新しいビールどこにしまったっけ?)
 ミサト(やっぱシンちゃんのご飯は天下一品だわ。ね? レイ)
  レイ(…うん。一番、おいしい)

動きを止めるシンジ

  レイ(…それは、命令?)

314 :2/5:2015/03/26(木) 22:22:00.30 ID:THm3P16Pb
 ミサト(…私たちは)
 ミサト(私たちは絶対にあなたの監視をやめないわ。それがそのDSSチョーカー)
 ミサト(碇シンジ君。あなたはもう)
 ミサト(何もしないで)

鋭く息を吸い込むシンジ
我に返る
元の廃棄された厨房
大してかいてもいない汗を形だけぬぐって、また探索に戻るシンジ
二時間近くの奮闘の末、かろうじて水の出るシンクが見つかる
コックをひねると蛇口からほとばしる錆まじりの赤茶けた水
しだいに透き通っていく
水が澄むのを待ちつつ、倒壊した保管棚から使えそうなものを発掘しているシンジ
埃と分解した梱包材に咳き込みながら、やっと無傷の箱を見つけて引き出す
汚れて剥がれた表示からは何もわからない
少し迷い、先に水を汲む
恐る恐る味見する
今度は安堵の溜息をつき、思わず乾いた喉を鳴らして飲む
これも唯一動くコンロにケトルをかける
湯が沸くまでの間にとさっきの厳重に包装された箱と格闘する
やっとのことで封装が破れる
期待より落胆を先に覚悟した表情で蓋を開けるシンジ
覚えのある香りが顔を撫でる
小さく口を開くシンジ
こわばっていた肩から力が抜け、少しだけ笑顔が浮かぶ
ケトルが蒸気を噴き始める

315 :3/5:2015/03/26(木) 22:23:45.34 ID:THm3P16Pb
地下施設
部屋の見える辺りまで戻ってきて、ふと目を凝らすレイ
明かりがついている
一度足を止めるレイ
が、弱い光源は部屋の外にあるものらしいとわかる
瞬きし、こだわらずに歩き出すレイ
明かりが近づいてくる
揺らめく光の輪の中で顔を上げるシンジ
傍らにはレイの部屋にあるものと似たランプが置いてある
レイの視線に気づいてランプを持ち上げるシンジ

 シンジ「…これ、倉庫で見つけたんだ。レイのを勝手にさわったわけじゃないから、
     心配しないで」
  .レイ「…私の」
 シンジ「うん。勝手に部屋の中には入ってない」

ごくわずかだけ目を見開いてシンジを見つめるレイ
その表情の変化とも言えない変化も、ランプの投げかける光の中に浮かび上がる
少しだけ笑いかけるシンジ
レイが受け入れてくれるのを待つ
沈黙が肩にのしかかる
巨大な機械類の唸り
ぽつりと問うレイ

  .レイ「…今日は、何」

シンジの顔が明るくなる
同時に、子供のような自分の単純さが恥ずかしくてうつむく

316 :4/5:2015/03/26(木) 22:24:52.94 ID:THm3P16Pb
 シンジ「…あの、…レイ、今日、これから少し時間、取れないかな」
  .レイ「時間」
 シンジ「うん。あ…何か用事とか、やらなきゃいけないことがあるなら、いいんだ」

宙を見つめるようにして考えるレイ
シンジを見る

  .レイ「別に。…待つ、だけ」
 シンジ「待つって…そっか、命令、…か」

直後、口にしたのを悔いるシンジ
恐れを隠した視線をレイに向ける
が、レイは気にした様子もない
相変わらず感情が消されたような白い顔
ともすればくじけそうな気持ちを奮い立たせ、一歩傍に寄るシンジ

 シンジ「…じゃあ、あのさ、この前話した…図書室、行ってみない?」
  .レイ「図書室」
 シンジ「うん。レイの読めそうな本を探しに。…どう、かな」

無言でこちらを見ているレイ
語尾が小さくしぼむ

 シンジ「…もちろん、命令じゃない。…だから、無理にとは、言わないけど」

黙っているレイ

317 :5/5:2015/03/26(木) 22:26:56.68
沈黙
ランプがまたたき、周りにそびえる暗闇がうねり、迫る
耐えきれずうつむいてしまうシンジ
ふと気づく
レイは立ち去ろうとはしていない
思いきって顔を上げるシンジ
目の前、少し先に佇む黒い細い姿
そこにいるレイ

  .レイ「…別に、いい。…行っても」

答えてから、再び小さく目を見開くレイ
痛々しいほどの安堵をあらわにしているシンジの顔
ただとまどうレイ

 シンジ「…良かった。
     じゃあ、行こう。…ほんとに良かった、今日は持っていけるものもあるんだ」

心から嬉しそうなシンジを、理解できないレイ
それでも声に出して答える

  .レイ「…うん」

破顔して頷き、ランプを手に、もう片手にも荷物を提げ、先に立つシンジ
素直に続くレイ
広大な闇の底で、ささやかな光の輪に包まれて歩き出す二人の姿

318 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/26(木) 22:31:09.92 ID:THm3P16Pb
ついでながらscの前スレ
まだ残ってるとは思わなかったです

もしもシンジとレイが双子だったら
http://maguro.2ch.sc/test/read.cgi/eva/1282838725/

319 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/28(土) 08:46:00.00
ho <scニ サンジョウ
no <オツー

320 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/03/30(月) 10:14:25.26
ho

321 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/04/02(木) 09:35:05.74 ID:p7dvPD2nW
ゴジラですかそうですか
じゃあのんびりQ部分やりますか…こっちまで落ち込んできそうです
すごい破壊力
まるで巨神兵…でも原作の巨神兵はかっこよかったのにな

>>319-320
ねこさんいつもありがとうございます
愚痴言ってないでがんばります

322 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/04/03(金) 09:54:33.60
ho <ゴジラ…イマノトコロ セイサクシャノ オモイイレシカ ミエテコナイネ
no <ツクリテノ ジブンガタリ ニ オワラナイトイイネ

323 :1/9:2015/04/06(月) 00:43:08.52 ID:qn4VUUY5C
>>322 ほんと、どうなるんでしょうね
ともあれ久々に続きです、進行遅くて申し訳ありません…


無人の通廊を行くシンジとレイ
堆積した塵埃に吸いこまれて反響しない二人の足音
シンジの手にしたランプの弱い光の輪だけが辺りの薄闇をやわらげる
ときどき振り返るシンジ
無心な表情でついてくるレイ
何か言えば従うものの、何を感じているのか、何を考えているのか、掴めない
こっそり溜息をつくシンジ

  トウジ(まーた双子のシンクロかいな)
 .ケンスケ(ほんと、お前らってタイミング合いすぎだよな)
   ミサト(さっすが双子の面目躍如ねー。でも何でも伝わっちゃう、通じ合っちゃう
      ってのも、難儀なもんね)

怯えた両目を見開くシンジ
意識して思い出を抑えこもうとする
今はまだ向き合えないと、自分に言い訳する
その臆病さも自覚しているがゆえに増す自己嫌悪の連鎖
無理やり前を向くシンジ

 シンジ(…今はまず、ここにいるレイのことだけ、考えないと)

相変わらず黙ってついてくるレイの足音

324 :2/9:2015/04/06(月) 00:46:00.81 ID:qn4VUUY5C
言葉も積極的な反応もなく、周りを包む空ろな闇と変わらないほどの儚い気配

 シンジ(…まるで、一人だけでいるみたいだ。…これじゃ)

唇を噛み、瞬間、そう思った自分を強く憎悪するシンジ

 シンジ(…何考えてるんだよ)
 シンジ(レイじゃないか。ここにいるじゃないか…!
     今はこんなふうだけど、レイだって何も感じてないわけじゃない。こうして来てくれてる。
     僕といるとあたたかいって、そう言ってくれたじゃないか。
     なのに…一体、何が不満だっていうんだよ、…僕は)

自責しながらも、心の奥底、意識と無意識の端境に、ある焦燥を感じるシンジ
恐れ、そしておそらくは予感
理由は掴めないながらその認識を拒絶するシンジ
何を求めるのかもわからないまま、強くレイを振り返る
無言のレイ
静かな面差
何一つ確信を得られず、また前を向くシンジ
SDATのない空っぽのポケット
揃わない二人の足音だけが続いていく

325 :3/9:2015/04/06(月) 00:48:03.46 ID:qn4VUUY5C
埃まじりの匂いの立ち込める図書室
ここも放棄されてから長時間経ているらしく、乱雑に散らかっている
まとめて棚からなだれ落ちてそのままになっている本
ずっと前に切れたきり交換もされていないらしい照明
またも溜息をついてしまうシンジ

 シンジ「…ここって、本当に人がいないんだね」

レイを見る
表情を変えないレイ
それでも広い室内を自分で見回している
ふと気がつくシンジ

 シンジ「レイ、もしかして、ここに来るのは初めて?」
  .レイ「…そう、初めて」
 シンジ「どうして…? あ…そっか、エヴァの整備とか、ミサ…ヴィレ、への対処とかで
     忙しくて、そんな暇も余裕も、なかったよな。…ごめん」

顔を向けるレイ

  .レイ「…いいえ。必要、なかっただけ」

一瞬言葉を失うシンジ

326 :4/9:2015/04/06(月) 00:49:41.00 ID:qn4VUUY5C
何にも動かされないかのようなレイの顔
わかっていても、何度でも、痛みと衝撃は胸に堪える
空しさに屈してしまいそうな心
くじけそうなのをこらえ、何とか会話を継ぐシンジ

 シンジ「…そうだよな。
     ならさ、今日から始めてみよう。少しずつでいいんだ。わかるようになるまで」
  .レイ「…うん」

素直に頷くレイ
その面立ちは以前と変わらない
やっと少しだけ笑えるシンジ
ランプと荷物を手近な机に置いて、それぞれに本棚の間に分かれていく二人
一緒に探そうとは言えないシンジ
一緒に探すことなど思いつきもしないらしいレイ
お互いの姿が背の高い棚の向こうに見えなくなる


机上のランプの投げかける揺らめく光の輪
選んで棚から抜いてきた本が数冊、荷物のそばに積み上がっている
壊れていない椅子を引っぱってくるシンジ
顔を上げる

327 :5/9:2015/04/06(月) 00:51:15.83 ID:qn4VUUY5C
暗い本棚の間から戻ってくるレイの姿
その手は空っぽのまま
小さく息をつくシンジ

 シンジ「…お帰り。良さそうな本、なかったんだ」
  .レイ「…うん」
 シンジ「そっか…仕方ないよな、こんなに荒れ放題だなんて、僕も思ってなかったし。
     だけど、部屋が残ってるだけでも良かった方かもしれない。食堂なんかさ、…」

立ち止まっているレイ

 シンジ「…、どうしたの?」
  .レイ「今、…また、知らないこと」
 シンジ「今…? え…っと、…ごめん、何か変なこと、言ったかな」

暗闇を背にほの白いレイの顔

  .レイ「『オカエリ』って、何」
 シンジ「…え」

手を放された椅子ががたんと床に音を立てる

328 :6/9:2015/04/06(月) 00:53:50.81 ID:qn4VUUY5C
構わずレイの傍に行くシンジ
詰め寄った勢いのまま向き直る
口を開く
けれど、何を言っていいのかわからない
うなだれるシンジ

  .レイ「何」
 シンジ「……」
  .レイ「何、…してる、の」

かすかに息を吸い込むレイ
自分にはこんな時相手にかける言葉もないことを知る
もう一つの別の驚き
自分が何か言いたがっているということ
何も言えないでいるシンジに、それでも、自分が知っている唯一の言葉を言う

  .レイ「…なかないで」
 シンジ「!」

顔を上げるシンジ
表情に乏しいレイの顔
その奥にかすかに揺らいでいるとまどいの気配
ゆっくり自分を取り戻すシンジ

329 :7/9:2015/04/06(月) 00:55:17.24 ID:qn4VUUY5C
 シンジ(…そうなんだ)
 シンジ(今のレイは、このままのレイなんだ。
     いろいろ、随分変わってしまった。だけど、それが今のこの、新しい世界なんだ。
     …今、僕がいる世界なんだ)
   カヲル(一度に全てできるようにはならないさ。少しずつ、取り戻していけばいいよ)
 シンジ(…うん)

胸に戻ってきた温かみを噛みしめ、頷くシンジ

 シンジ(そうだ。…14年だもの、一度になんて無理だ。それで当たり前なんだ。
     何を焦ってたんだ、僕は。レイにも自分で言ったくせに。少しずつだっていいんだ)

こちらを見ているレイ
笑いかけるシンジ

 シンジ「…うん。泣かないよ。…ありがとう、レイ」
  .レイ「……」

それに応える言葉を持たないレイ
困ったように口をつぐむ
受け止めるシンジ
放っておいた椅子を引っぱり、机の前に据える

 シンジ「…結構、時間経っちゃったね。ちょっと休憩しよう。そこに座って」

330 :8/9:2015/04/06(月) 00:56:08.68 ID:qn4VUUY5C
  .レイ「…、うん」

おとなしく腰かけるレイ
声に出しての返事が増えてきていることに気づいて、素直に嬉しくなるシンジ
自分も座って荷物を広げる
ランプの灯明かり
置かれた本に手を伸ばすこともなく、ただ見守っているレイ
厨房で見つけたカップ二つに魔法瓶の中身を注ぐシンジ
湯気が上がり、香りが広がる
瞬きするレイ
カップの一つをレイの前に進めるシンジ

 シンジ「お茶。…厨房でやっと見つけたんだ。これだけは悪くなってなかった」

シンジの顔を見つめ、揺れる液面に視線を落としてカップを引き寄せるレイ

 シンジ「ちゃんと味見してあるから、大丈夫だよ」

先に自分が飲んでみせるシンジ
思ったより熱く、思わず口を離す
何度か吹いてから少しずつ啜り、飲み込んで息をつく
見守っているレイ
自分もカップを持ち上げ、真似して湯気を吹き、そっと口にする

  .レイ「…!」

331 :9/9:2015/04/06(月) 00:57:27.58
びっくりしたような顔をするレイ
あわてるシンジ

 シンジ「! ごめん、熱いよね。もっと冷めてるかと思ったんだけど…
     あ…それとも、苦かった? きっと、お茶も久しぶりなんだよね…ごめん、全然
     気が回らなくて」
  .レイ「……」

黙ってもう一口啜るレイ
ゆっくり飲み下す
半ば身体を乗り出して見つめているシンジ
小さく呟くレイ

  .レイ「…これが、『アタタカイ』なのね。今、…少し、わかった」

息を呑むシンジ
すぐに顔をくしゃくしゃにして笑う
泣いてしまいそうな自分を持て余しながらも、何度も深く頷く

 シンジ「…うん。それが『あったかい』ってことだよ。…レイ」

かすかに頷くレイ
また少しお茶を口に含む
それを見守りながら、自分もお茶の温かさを味わうシンジ
いつまでも淡い光の輪がともっている図書室

332 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/04/06(月) 11:52:03.12
黒波育成計画になってきたw
シンジもレイもかわいいね

333 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/04/07(火) 09:48:09.29
黒波育成計画ワロタ
たしかに両方可愛いな、このまま行って欲しいが、Qだからな…

334 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/04/09(木) 09:26:28.81
黒波育成を語るスレはここですか

でも黒波ってもっと無反応じゃね?とも思う
湯気フーフー可愛いからいいけど

335 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/04/10(金) 10:05:02.85
ho no <<クロナミー!

ho <ツギハ テリョウリダ! シンジ!
no <デモ Qノホンブ ジャ ムズカシイナ…

336 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/04/12(日) 10:45:22.54
ho

337 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/04/14(火) 19:58:54.35


338 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/04/15(水) 00:20:20.17
続き待ち

339 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/04/17(金) 21:38:57.61 ID:XTOGVQmtj
>>332-338 ごめんなさい、少しだけ続きです


闇に沈む地下施設
回廊の一角にともる明かり
部屋に戻って、シンジと選んできた本を見ているレイ
所在なげに表紙を開いてページを繰る
瞬きするレイ
ごくかすかに、もどかしいような落ち着かないような、曖昧な表情が浮かぶ
唐突に本を閉じて卓上に投げ出すレイ
乾いた重みの音
他の本もまとめて押しやる
乱暴とも言えるような似合わない動作
声に出して呟くレイ

  レイ「…知らない」

逆さまに放り出されている本

  レイ(知らない。だから…要らない?)
  レイ(…わからない。でも)
  レイ(これは、私じゃない)

図書室で嬉しそうにしていたシンジの面影
お茶の温かさと湯気の感触が甦る
かすかに息を吸い込むレイ

  レイ(…なら)
  レイ(私は…なに?)

340 :2/2:2015/04/17(金) 21:40:14.02
揺れるランプの明かり

   シンジ(いいんだよ、少しずつ思い出していけば。だんだんわかるようになるよ)

ゆっくり口を開くレイ
髪がうつむいた頬にかかる

  レイ(…ちがう)
  レイ(知らないの)
  レイ(…知らなくても、…わかるように、なるの)
   シンジ(ならさ、今日から始めてみよう。少しずつでいいんだ。わかるようになるまで)
    .レイ(これが…『アタタカイ』なのね)
  レイ(わかるように…なるの)
  レイ(…わかるように、なりたい?)
  レイ(それが、私…?)

自身としては大きすぎるくらいの動作で、目を見開くレイ
我に返ったように顔を上げる
生まれかけていた表情が閉じていく
感じても、理解できないレイ
こらえるように息を吐き出す

  レイ(それも…知らない)
  レイ(…知らないのね、私、…何も)

答えのない暗闇
古びた本の表紙をいつまでの凝視しているレイ

341 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/04/18(土) 11:57:51.94
ho <!!

342 :1/10:2015/04/19(日) 12:47:31.30
旧ケイジ
ピアノの前で行き会うシンジとカヲル
心なしか柔らかい表情のシンジに目を細めるカヲル

 シンジ「おはよう、カヲル君」
 .カヲル「おはよう。今日は、まずこれを返しておくよ」

差し出されたカヲルの手にSDAT
一瞬目を見開き、息を呑むようにして受け取るシンジ
大切に両手で包み込む

 シンジ「…ありがとう」

シンジの笑顔を見て自分も微笑むカヲル

 .カヲル「ちゃんと動くようにしたつもりだけど、どうだろう。君が確かめてみて」
 シンジ「うん」

イヤフォンを片耳だけはめてボタンを押すシンジ
じっと耳を澄ます
表情が明るくなる
SDATを止めてカヲルを振り返るシンジ

 シンジ「…うん。ちゃんと聞こえる」
 .カヲル「そう、良かった」
 シンジ「その…ほんとに、ありがとう。カヲル君」

343 :2/10:2015/04/19(日) 12:48:11.29 ID:7LKdXFias
 .カヲル「いいんだよ。僕も、君の力になれるのは嬉しいから」
 シンジ「…うん」

はにかみつつ微笑むシンジ
本当に嬉しそうなカヲルを見て、逆に胸が痛む
そのことに驚く

 シンジ(…僕は、…本当にカヲル君に何かしてあげられてるのかな。
     自分のことを押しつけてばかりな気がするのに)

いつも受け止めてくれるカヲルの穏やかな眼差
ただ見つめるシンジ
急に照れて視線を逸らし、それでも目でそっと窺ってしまう
変わらないカヲルの顔
小さく笑う

 .カヲル「今日も、弾いていく?」
 シンジ「! あ…うんっ、もちろん」

ピアノの椅子に座る二人
黒光りするピアノの縁にSDATを置くシンジ
ふと口を開く

 シンジ「…そういえば、昨日、レイと図書室に行ってみたんだ」

目を向けるカヲル

344 :3/10:2015/04/19(日) 12:49:58.52 ID:7LKdXFias
 .カヲル「図書室? あんなところに?」
 シンジ「うん、確かに荒れ放題だったけど…何か、レイの読む本があるかなって思って。
     レイを誘って二人で行ってみたんだ。レイも、ほんとは待機してなきゃいけないん
     だろうけど、来てくれて。食堂で見つけたお茶を持ってって、一緒に飲んだりして。
     久しぶりに一緒に過ごせた気がする。…けど」
 .カヲル「…何か、気になることがあるんだね」
 シンジ「…うん」

少しためらうシンジ
カヲルを見る
そこで聞いていてくれるカヲル

 シンジ「カヲル君に、こんなこと話すのも変なのかもしれないけど…
     僕がここに来てから、もうずっとなんだ。レイ、まだ一度も…『お兄ちゃん』って
     呼んでくれないんだ。僕のこと」

少し黙っているカヲル
途端に不安にかられるシンジ

 シンジ「…あの、ごめん、やっぱりこんな…恥ずかしい話、しなくて良かったんだ。
     僕一人の問題だったよね。ごめん」
 .カヲル「ううん、君が話をしてくれるのは構わない。…ただ」

345 :4/10:2015/04/19(日) 12:51:21.76 ID:7LKdXFias
珍しく真顔で言葉を選んでいるらしいカヲル
自分でもわからない怯えを覚えるシンジ
レイといたときに感じた予感めいた焦燥が甦ってこようとする
恐れに目を見開くシンジ
ほんの少し躊躇し、それでも静かに告げるカヲル

 .カヲル「ただ、あれは君が知っている妹さんではないよ。シンジ君」
 シンジ「…!」

頭が真っ白になるシンジ
理性以前の強い拒絶
それを意識すること自体を心が拒否する
自分でも制御できない焦燥を、訳もわからず、目の前のカヲルにぶつけてしまう
鍵盤に手をついて立ち上がるシンジ
不協和音の塊

 シンジ「…ッ、何だよっ、カヲル君まで変なこと言わないでよ!
     レイのこと何も知らないで…、!」

叩きつけるように戻る自覚
立ちすくむシンジ

346 :5/10:2015/04/19(日) 12:52:47.59 ID:7LKdXFias
 シンジ「…あの、…」

見上げているカヲル
その表情にこめられている、咎めや非難ではなく、正直な悲しみ
いたたまれなくなるシンジ

 シンジ「…ッ」

顔を伏せ、その場から逃れようとする
がくんと引きとめられる身体
振り返ってはっとなるシンジ
シンジの腕を掴み止めているカヲルの手
確かに繋がっている他人の感触
逃げ出したい恐れは変わらないのに、それ以上、動けなくなるシンジ
ゆっくり全身から力が抜ける

 シンジ「…ごめん」

小さく首を振るカヲル
自己嫌悪に強く唇を噛むシンジ

 .カヲル「…謝らなければいけないのは僕だよ」

打たれたようにカヲルを見るシンジ
強く首を振る

347 :6/10:2015/04/19(日) 12:55:54.64 ID:7LKdXFias
 シンジ「そんなッ、違う、…僕が、…悪いんだ」
 シンジ(…そう、僕が全て悪いんだ。…だからミサトさんも、父さんも、…レイも)

掴んだ手に少し力をこめるカヲル

 .カヲル「それは…違うよ。違うんだ、シンジ君」
 シンジ「違わないよッ! 違わない、だって、僕が…僕がみんな」

再び深くうなだれてしまうシンジ
肩が震え出す

 シンジ「だって…皆がそう言うんだ。
     僕が全部駄目にするんだ。…僕には誰かのためにできることなんか何もないんだ、
     …そうに決まってる、きっと君にも、ひどいことしかできないんだ。だったら」
 .カヲル「シンジ君」

カヲルの語気の強さにびくっとなるシンジ
手を離さないでいるカヲル
まっすぐシンジの目を覗き込む

 .カヲル「…そんなふうに自分ばかり責める必要はないよ。
     だから、謝らないで。今責められるべきは、君の気持ちを理解していなかった僕が、
     不用意な言い方をしてしまったことだ。…君がまだとても傷つきやすい状態にある
     ことを、わかっていたつもりで、わかっていなかった僕の方だよ。君のせいじゃない」

348 :7/10:2015/04/19(日) 12:56:49.20 ID:7LKdXFias
ただ見つめ返すしかできないシンジ
うつむくカヲル
ほとんど自分のものに近い痛みを感じ取って、ゆっくりと隣に腰を下すシンジ
今目の前で傷ついているカヲルの姿を見つめる
後ろめたさや罪悪感よりも、傍にいて力づけたいという気持ちがまさる
自覚して皮肉を感じるシンジ

 シンジ(嘘だ。本当は、これだって逃げてるんだ。…何かできるかもしれない自分に
     浸りたいだけだ。いつだって力になってもらってるのは僕の方じゃないか)
 シンジ(…だけど)
 シンジ「…ごめん。もう、行かないよ。…ここにいるから」

顔を上げるカヲル
突然、触れられていることを強く意識して反射的に身を引いてしまうシンジ
驚いたように手を離すカヲル
思わず手を伸ばそうとして、結局できないシンジ
再びこみ上げる自己嫌悪
しばらく黙っている二人
遠い空で風が鳴り、樹冠から洩れる陽光がさざめく

 シンジ「…僕は」

振り向くカヲル

349 :8/10:2015/04/19(日) 12:58:30.85 ID:7LKdXFias
 シンジ「僕は…レイのこと、…怖いのかも、しれない。本当は」
 .カヲル「シンジ君、…無理をしなくてもいいんだよ。
     君の準備ができていないなら、無理に今、言葉にする必要はないんだ」
 シンジ「ううん。話させてよ」

逃げ出したいままなのを隠さず、それでも微笑もうとするシンジ
いたわしげに見つめているカヲル

 シンジ「…僕が話したいんだ。だから、…聞いてほしいんだ」

口を開きかけ、また閉じて、ただ頷くカヲル
少しだけ肩のこわばりがほどけるシンジ
膝を掴んでいる両手を見つめる

 シンジ「レイのこと…僕は本当は、何もわかってないのかもしれない。
     でも、それでも、さっきみたいに言われるのだけは嫌だって思ったんだ。カヲル君に
     悪気なんてなかったのは知ってるけど、…あんなふうに、まるでレイがレイじゃなくて、
     ただの…名前もない、誰でもない存在、みたいに。それは、嫌だったんだ」
 .カヲル「…それは、妹さんのことだから?」
 シンジ「よくわからない。…やっぱり、双子だから、なのかな。他人じゃないから…ごめん、
     自分でもはっきりわからないんだ。…変だよね、自分の気持ちのことなのに」
 .カヲル「…そんなことはないよ」

350 :9/10:2015/04/19(日) 13:02:31.95 ID:7LKdXFias
 .カヲル「誰だって、そうさ。僕だってね」
 シンジ「…カヲル君」

カヲルを見るシンジ
いつもこうして共感を向けてくれることを噛みしめる
だから、答えようとする
考えながら少しずつ続きを言葉にしようとする

 シンジ「一つだけ、はっきりわかってることは…
     僕にとって、やっぱりレイはレイなんだ。別に誰でもいいような、知らない他人じゃ
     ない。エヴァに乗るためだけの存在でもない。父さんの言うことを聞いてる、僕とは違う
     いい子のきょうだいってだけでもない。それだけじゃなくて…ただ、レイだけなんだ。
     僕をずっとわかろうとしててくれたのは。…僕の代わりに、死のうとしてくれたくらいに。
     だから僕にとって、レイは、レイしかいない。他の誰でもないんだ。代わりなんていない。
     だから…僕は、あの時エヴァでレイを助けたんだ。それでたとえ、…」

その先は断ち切れる
再び正体の知れない恐れにわしづかみにされるシンジ
その身体に触れようとしてためらい、力なく手を下ろすカヲル
ただ口にする

 .カヲル「…うん。わかっているよ。
     その先は、今はまだ言わなくてもいい。…君自身が覚えている、それだけで
     今は充分だ。君は、自分の心をごまかさずに感じていけばいい。
     まだ少し、時間は残されているから」
 シンジ「…、うん」

351 :10/10:2015/04/19(日) 13:05:38.99
頷くシンジ
下ろした手をもたげ、鍵盤の高音部を静かに引き始めるカヲル
本部を離れる時に楽譜で残していったあの寂しい曲
黙って耳を傾けているシンジ
しばらくして、ためらいがちに指を伸ばし、音を重ねる
ほんの少し振り向いて微笑むカヲル
笑い返すことができないシンジ
無力な自分、自分のことばかりの自分
結局本当には他人に無関心でしかないことの痛切な自覚
それでも今はただ音に身を委ねる
厚みを増した旋律が広い空間に流れていく
錆を噴いたケイジの拘束壁
影の中から遠い二人を見つめているレイ
その眼差に宿るまだ形にならない何か
ふっと目を逸らし、音も立てず立ち去る

352 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/04/20(月) 11:08:36.08

お互い気遣ってる二人、でも本当に全部は伝わらないんだね
なんか読んでて心にヒリヒリ来た…
黒波の反応も気になるってか若干怖いよw

353 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/04/20(月) 12:02:15.71
黒波w
シンジもカヲルもすげー優しいな

354 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/04/20(月) 12:02:41.49
ho

355 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/04/20(月) 12:29:11.58 ID:oAfeHRPZ/
見ろ!黒波が幽霊のようだ!

…って、見本市の映像思い出すと洒落にならんw

356 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/04/20(月) 12:30:27.61
うおID出ちった
半角スペースはアウトなんだな

357 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/04/21(火) 11:44:15.46
黒波を理解しようとしてるのねシンジ
カヲルは真相を知ってるけど、それでもシンジを支えたいんだな
黒波も自分なりにシンジのことわかろうとしてるし
三人ともけなげで辛い…

あと、ここで言うことじゃないかもしれないけど
なんか最近のエヴァ板(netの方ね)怖いよ…
伸びてるスレがあったと思うと罵り合いだけで軽く200くらい埋まってたりする
一時期より人は戻ったみたいだけど、雰囲気がどんどん悪くなってる気がする
早めにscに退避した職人さんは正解だと思う
関係ない話してごめんね

358 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/04/21(火) 22:12:30.55
>>355
黒波どうなるんだろうね
ここの職人さんならQ以降も書いてくれると信じてる!
本編より感情に目覚めてるし(本編もないわけじゃないんだろうけど)

359 :1/6:2015/04/22(水) 00:32:43.87 ID:tzz1oydng
>>352-358 本当にありがとうございます、励みになります
何とか行けるところまで行こうと思ってます
>>357 もうnetはほとんどROMです(エヴァ板に限らず)…このまま、流れのままになんでしょうね
>>358 …が、がんばります


あてもなく廊下を歩くシンジ
両耳にはめたSDATのイヤフォン
突きつめたような目で、荒れた本部の諸相を見ていくシンジ
そこだけ稼動している巨大なエヴァのパーツの自働生産設備
大量に捨て置かれた職員移動用自転車
壊れ、倒れたロッカーや棚
何年も電源が戻っていないだろう塵埃まみれの機器類
何かの汚れが長くなすられた床面
どこまで行っても人はいない
なぜか、最初に連れて行かれた第13号機のケイジには行き着かない
もどかしく思いながらも半ばほっとしているシンジ

 シンジ(…わかってるんだ。あそこに行けてもきっと父さんはいない。
     いても、僕を見ない。…命令通り動くエヴァだけが必要なんだ。父さんには)
 シンジ(父さんにはもう自分の目的しか大事じゃないんだ)
 シンジ(だから、レイもあんなふうになったんだ)

360 :2/6:2015/04/22(水) 00:33:25.15 ID:tzz1oydng
    レイ(必要なかっただけ)
    レイ(オカエリって、何)
    レイ(碇レイなら読むの)
 シンジ(…だからレイが悪いんじゃない。悪いのは父さんだ。レイのことも僕のことも
     ちゃんと見ようとしない父さんだ。…レイは何も悪くないんだ)

つのる苛立ちを抑え込み、乱暴に足を運ぶシンジ
SDATの音楽も今は不安を紛らわせてくれない
顔を上げるシンジ

 シンジ(…カヲル君)

ピアノのある旧ケイジの方向を見る
電気の復旧していない廊下が真っ暗なトンネルになって続いている
うなだれるシンジ

 シンジ(わかってる。行っても、いないよな。こんな遅い時間に)
 シンジ(…それでも)

今会いたいという望みを自覚するシンジ
子供っぽいと苦笑してごまかそうとし、無理だと悟って、自分でやりきれなくなる
立ち止まったら動けなくなりそうな恐怖が背中を追い立てる

361 :3/6:2015/04/22(水) 00:34:25.77 ID:tzz1oydng
むやみに脚を前に出し続けるシンジ
もう足元しか見ていられいない

 シンジ(…ここにいると、一人だ)
 シンジ(誰かにいてほしい。違う、それはもっと怖い。怖くないのは)

レイではなくカヲルの顔が思い浮かぶ自分を強く憎むシンジ
自分を罰する気持ちで急に向きを変える
もう何度も行った経路をたどっていく
虚しさが心を絞る

 シンジ(…結局、一人でいるのが怖いから、だからレイに会いに行くんじゃないか。
     もしカヲル君がずっと傍にいてくれたら、…僕は、レイのこと平気で忘れるんじゃ
     ないのか? 今より全然気にかけなくなるんじゃないのか?)
 シンジ(それじゃ…まるで、父さんと同じだ)

それでも憑かれたように歩みを止められないシンジ
無人の階層を抜け、更に暗い地下施設へと降りていく
回廊の一角に明かり
はっとするシンジ
内部から透ける光に照らされた、部屋の外に立つ細い姿

 シンジ「…レイ…?」

疑問も自己嫌悪もなくして駆け出すシンジ

362 :4/6:2015/04/22(水) 00:36:31.05 ID:tzz1oydng
部屋の前に黒いプラグスーツ姿で立っているレイ
走ってきたシンジを見ている
少し肩で息をしながら、心配顔でレイを見つめるシンジ

 シンジ「レイ…どうしたの? 何かあった?」
  .レイ「…いいえ」
 シンジ「じゃ、どうして…? そうだ、今日はもういいの? その、エヴァの待機とか」
  .レイ「…今日の分、数値クリアしたから、いいの」

レイの様子に特に変わったところはない
小さく安堵の息をつくシンジ
ふと気づく

 シンジ「あの、もしかして…待っててくれた、の…?」
  .レイ「そう」

短く返事するレイ
そこには感情の起伏らしきものは読み取れない
それでも、胸が温かくなるのを感じるシンジ
わずかに両目を見開くレイ
優しい顔で笑いかけるシンジ

 シンジ「…ありがとう」

363 :5/6:2015/04/22(水) 00:41:17.99 ID:tzz1oydng
どうしていいか知らないレイ
ただ困惑する
もうそういうところは特にとがめないことにするシンジ

 シンジ「…その、嬉しいよ。命令とかじゃなく、待っててくれたなんて。
     今日は…何か、する? あ、別に、しなきゃならないって訳じゃないんだ。
     でも、レイが何か、したいことがあれば」
  .レイ「……」

何か言おうとして、自分の答えがないことを初めて危ぶむレイ
口ごもることすらできない
言葉を探しているのだろうと受け止め、自分で続けてみるシンジ

 シンジ「えっと…また、図書室に行く? 昨日持ってきた本、もう全部読んじゃったとか」

首を振るレイ
頼りなさを訴えるような眼差
プラグスーツの片手が無意識に持ち上がり、腹部の前辺りでためらう
初めて見るレイの反応にたじろぎながら、また自分で考えるシンジ
かつてのような勘は簡単には戻らないと自分に言い聞かせる
頼るのではなくて、おしはかろうとする

 シンジ「そっか、そうだよね。当たり前だよな、僕みたいに幾らでも時間がある訳じゃ
     ないんだし。本読むなら、一人の方がゆっくりできるだろうし。
     でもそれじゃ…そうだ、なら、また、お茶だけでも飲もっか。一緒に」

数回、瞬きするレイ

364 :6/6:2015/04/22(水) 00:42:34.10
持ち上げられた手がきゅっと握られる
頷く
頷いている自分を意識する

  .レイ「…うん」
 シンジ「じゃ、行こう。食堂に行けば、まだ何とかお湯は沸かせるんだ。きっと、食堂も
     レイはあまり行ったことないだろ」
  .レイ「…、うん」

声に出して答えるレイに嬉しくなるシンジ
勝手だと自制しようとしても、温かさは胸の底に広がる
せめてレイをちゃんと見ようとするシンジ
レイの顔を、その奥のわずかな心の動きを、見て取ろうとする
わかりたいから考えようとする

 シンジ「なら驚くよ、きっと。ものすごく散らかっててさ、明かりも壊れてるから真っ暗だし、
     何だかよくわかんない臭いとかするし、床が抜けてるところもあって危ないし。…あ、
     そう考えたら、レイが行かなかったのは逆に良かったんだね」
  .レイ「……」

返事はできないけれどシンジを見ているレイ
その顔を柔らかな気持ちで振り返りながら、先に立って歩き出すシンジ
素直に従うレイ
揃いそうで揃わない二人分の足音
のしかかる暗闇の下で、それでも小さく確かに続いていく



前と似たような引きでごめんなさい

365 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/04/22(水) 11:38:33.94
ho <カワイイゾ クロナミ
no <チョットズツ キョリガチヂマッテル?

366 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/04/22(水) 22:15:16.27
乙、がんばれー

367 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/04/25(土) 11:56:15.06
ho

368 :1/9:2015/04/26(日) 14:21:47.62
>>365-367 ありがとうございます、何とかがんばります


元食堂
真っ暗な床と天井を通廊からの照明がかすかに染めている
ガタの来ていない椅子を二つ重ねて元厨房へ運び込むシンジ

 シンジ「よ…いしょ、っと。…ふう」

額をぬぐい、まばらな明かりの方を見る
たった一つだけ機能するコンロの前に佇むレイ
ケトルの口が湯気を吹き始めている
こちらを見るレイ
笑い返すシンジ
汚れの少ない調理台の前に椅子を並べてから自分もそっちへ行く
コンロの青い炎や甲高い音を立てるケトルを不思議そうに眺めているレイ

 シンジ「もういいかな」

コンロを止めるシンジの手の動きを見ているレイ
火が消され、ケトルが鳴りやむ
数回瞬きするレイ
小さく笑い、ケトルをコンロから下ろすシンジ
レイを促して椅子を出した方へ運ぶ

  .レイ「……」

そこだけほの暗く照らされた調理台の上
きれいに洗ったカップが二つと小さなポット
傍にティーバッグの包みが載っている

369 :2/9:2015/04/26(日) 14:23:50.38 ID:trDbZs3ES
熱いケトルを、レイに触れない位置に注意深く置き、ティーバッグを出すシンジ
ポットに湯を注ぐ
立ち昇る湯気
隣の椅子に座ってじっと見守っているレイ
お茶の香りが広がり始める
息を吸い込むレイ
眼差がほんの少しなごんだようにも見える
そのレイを見つめながら、寛いだ笑みをこぼすシンジ
カップにお茶を注ぎ、レイの前に置く

 シンジ「はい、どうぞ。飲んでいいよ」
  .レイ「……」

カップを見下ろし、ゆっくりと両手で包むレイ
そっと持ち上げて口に運ぶ
この前見た通りに何度か湯気を吹いてさますレイの横顔
一口飲んで、身体の底から静かな溜息をつく
ふいにシンジを振り返る
ずっと見ていたのをとがめられたようで慌てるシンジ
が、何も言わないレイ
またカップに顔を寄せる
飲むのではなく、香りと温かさに浸っている
自分もカップを取るシンジ
啜ってみてちょっと顔をしかめる

 シンジ「…この前より、ちょっと香りが飛んじゃったね」

370 :3/9:2015/04/26(日) 14:26:41.42 ID:trDbZs3ES
  .レイ「そう」
 シンジ「これ、すごくしっかりパックしてあったんだ。だからまだ飲めるんだろうけど…
     それでも、やっぱり一度封を破っちゃうと駄目だね。時間は経ってるから、外の
     空気に触れるとすぐに劣化が始まっちゃう。…14年、経ってるんだものな」
  .レイ「……」

どこか残念そうに破れたパッケージに触れるシンジ
カップを抱えたままシンジの横顔を見るレイ
シンジの、自分の心残りそのものを撫でるような穏やかな手つきに視線を移す
じっと見つめるレイ

 シンジ「…仕方ない、よな。
     ごめんよ、この前の方がおいしかったろ。今回は上手く淹れられなかったね」

目を上げてはっとするシンジ
まっすぐこちらを見ているレイ
静かにカップを置き、プラグスーツの手を伸ばして、シンジの手を掴む

 シンジ「?! レイッ、…」

思わず身体を引きそうになって危うくとどまるシンジ
自分から触れているレイ
あまり適当な加減や力の入れ方を知らないようなぎこちない触れ方
偽らない、つくろわない、今のレイの触れ方
力を抜くシンジ
何も言わずただレイの手に任せる

371 :4/9:2015/04/26(日) 14:28:54.44 ID:trDbZs3ES
カップの温かみを残したレイの手の感触
けれど少し遠い
プラグスーツのてらりとした薄い質感が阻んでいる
黙っている二人
ふいにレイが小さく口を開き、シンジの手を引き寄せてそのまま持ち上げる
シンジが理解する間もなくその手を自分の頬にじかに触れさせる
息を呑むシンジ
手のひらに包まれているレイの頬
そのままじっとしているレイ
シンジの手のひらの感触と体温を確かめるようにしている
大きな目が軽く瞬きし、強いけれど無垢な眼差が間近からシンジを射る
目を逸らさないシンジ
確かに繋がっている視線
外界の痛みに閉ざしていた心の覆いが開きかけるのを意識するシンジ
鋭い不安と癒えない恐れ
それでも、同時に温かなものがそれらを浸していこうとする
目の前、すぐそこで確かに息づいているレイの存在
救われる気になるシンジ
救われることができるかもしれないと信じようとする

 シンジ(やっぱり、レイだ。レイじゃないか)
 シンジ(これでいいのかもしれない、…本当に)

震えながら開いていこうとする感情
そこで生きているレイ
自分が本当に求めていたのはこれだったと、身体じゅうで知る

372 :5/9:2015/04/26(日) 14:30:31.20 ID:trDbZs3ES
他人への恐れや後ろめたさも一緒に、いたわりと、気遣いと、緊張と、不安と
溢れそうな自分の感情を精一杯に支えながら、じっとレイと向かい合うシンジ
ひどく人間らしいしぐさで目を伏せるレイ
口を開く

  .レイ「…アタタカイのね」

もう一度深く息を呑むシンジ
目を凝らす
背筋を貫く抗えない安堵

 シンジ(…レイだ)
 シンジ(レイ、なんだ。やっぱりレイなんだ。レイだったじゃないか)
 シンジ(ミサトさんの…嘘つき)
 シンジ(でも…これで良かったんだ。レイが…レイさえ、生きていてくれれば、僕は)
 シンジ(僕の、一番近い、…)

最後の不安がほどけていく
心から微笑もうとするシンジ
その目の前で、無防備な声音で、偽ることなく続けるレイ
そっと洩れる言葉

  .レイ「アタタカイ。他のヒト、って。…知らなかった」

シンジの表情が凍りつく

373 :6/9:2015/04/26(日) 14:33:01.70 ID:trDbZs3ES
息もできない
一瞬で砂を固めたように重くなった全身の感触
目をみはるしかできないシンジ
何気ない面差を見せて、変わらず隣に座って確かに触れているレイ
そこには何もない
何もないと、ようやく知る
走り出しそうな呼吸をこらえ、やっとのことで目をつむるシンジ
痛みですらない心の白熱
今まで懸命に見続けようとしていた幻想が引き裂かれる
砕かれた思いが惨めさに変わる
現実
ここにいるレイの存在が、息遣いもぬくもりもその実感のままに焼きついて、打ちのめす
ぎゅっとまぶたに力を込めるシンジ
無理やりに目を開く
そのまま、声もなくレイの手から手を引き抜いて下ろす
驚いたようにシンジを見直すレイ
黙って隣り合っている二人
力なく離れて置かれた二つの手
ゆっくり顔を伏せていくシンジ
知らないながらもシンジの様子から何か普通でないものを察し、声に出すレイ

  .レイ「…どうしたの」

ほとんど息をひそめるような気遣う声
今はもう、期待も思い入れもなしにその声を聞くシンジ
本当にレイはわからないのだということ
忘れてしまった、もう完全に失ってしまったのだということ
14年前だと言われた、あの時間を覚えているのは、もう自分だけなのだということ

374 :7/9:2015/04/26(日) 14:33:56.71 ID:trDbZs3ES
崩れ落ちた幻想がさらに微塵になっていく
苦い砂を噛むように、自分の心をどこか突き放して眺めているシンジ
答えないシンジに初めて不安を覚えるレイ

  .レイ「…どうしたの」

初めて自分から身を寄せようとする
静かに身を引くシンジ
レイを見る
壊れてしまったどうしようもない優しさで首を振るシンジ
初めて、他人との隔絶を意識するレイ
曖昧だったおぼろな関係がはっきりした距離になる
目を見開くしかできないレイ
それ以外の顔を、知らない
ぎこちなく笑みを作り、耐えきれず目を逸らすシンジ
立ち上がる

 シンジ「…今日は」

息を呑むレイ
ただ見上げる
優しくカップを押しやるシンジ

 シンジ「そろそろ、戻ろうか。あまり遅くなると、きっとレイの身体に障ると思うから」

懸命に見上げるレイ

375 :8/9:2015/04/26(日) 14:36:05.03 ID:trDbZs3ES
微笑んでいるだけのシンジ
卓上には、まだお茶の残っている二つのカップ
それらを置いてゆっくりと出口の方へ向かうシンジ
従う以外知らないレイ
黙ってついていく
かすかに揺らぎ続けているレイの両眼
顔を上げないシンジの手で、一度に全て消される厨房の明かり
完全な暗闇に戻る食堂


レイの部屋の前に立つ二人
普段の通りに佇んでシンジを見ているレイ
優しくレイに顔を向けているシンジ
少しだけこわばった声

 シンジ「今日は、付き合ってくれて、…ありがとう」

それ以上言えずに背を向けてしまう
うなだれたまま、のしかかる闇の底を歩き出そうとするシンジ
背後からレイの声

  .レイ「…また、…一緒に、行っても、いいの」

抑えた声音の中にある剥き出しの問いかけ
ぐっと唇を噛むシンジ
嗚咽が洩れそうなのを懸命に耐える
レイの今の気持ちが、自分勝手な幻想を通さなくても、痛いほどわかる
震え出した両手が固く握り込まれる

376 :9/9:2015/04/26(日) 14:37:03.74
 シンジ「…、いいんだよ。
     そう、…また、一緒に行こう。だけど…今日はもう、遅いから。…明日、いや」

両目をいっぱいに瞠って聞いているレイ

 シンジ「明日は、ちょっと…無理だから、…明後日。…あさってに、しよう」

声が波立たないよう必死で抑えながら喋るシンジ
震えるこぶしの中で食い込む爪

 シンジ「…あさって、また、来るから。それじゃ、…おやすみ」

それだけ言い切って歩き出すシンジ
背後にいるレイの気配
どうしていいかわからないまま、自分の知っている乏しい言葉を口にするレイ

  .レイ「…さよなら」

切りつけられたように立ち止まるシンジ
両肩がわななく
顔を上げかけ、できずにまた歩き出すシンジ
一度も振り返らず去っていく
重たい足音が遠ざかる
後ろ姿が暗闇に消えるまで見送っているレイ
小さく呟く

  .レイ「…キョウ、…アシタ、…アサッテ」

377 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/04/27(月) 10:03:15.66
きっつー…
やっぱり黒波は黒波なのね
シンジ君大丈夫か?

378 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/04/28(火) 10:44:17.19
ho <クロナミ…
no <ツライナ シンジ…

379 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/04/28(火) 21:44:41.05
なるほど、
黒波が心理的に成長して自己に目覚めていくほど
逆にシンジが追いつめられていくことになるのか
Qの他人行儀とどっちが不憫だろうか

380 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/04/28(火) 23:44:36.56 ID:D2KNwtf6s
test

381 :1/7:2015/04/28(火) 23:46:03.76 ID:D2KNwtf6s
一人の部屋にいるレイ
ランプの炎が揺らめく
その隣にもう一つ似たような形のランプが並べてある
シンジが忘れていったもの
火はついていない
二つのランプを見つめているレイ
揺れ動く明かりが、以前よりも複雑な翳りと表情の増えたその顔を照らす
目を細めるレイ
脳裏に浮かぶシンジの面影
レイを見るシンジの顔
レイの些細な挙措に、驚くほど敏感に反応して移り変わるシンジの表情
いつでも精一杯の気遣いに満ちていたシンジの声と言葉
それら一つ一つの意味を、初めて知るような思いで再発見していくレイ
見過ごしていたことの多さにためらう
少し頭を垂れるレイ
思い出されるシンジの手
きびきびと、動かすこと自体を楽しむように手際よくこまごました動作をこなしていた手
手作業するのがどこか楽しそうだったシンジの顔

  レイ(…どうして)
  レイ(何のために。…誰のために)

382 :2/7:2015/04/28(火) 23:46:36.28 ID:D2KNwtf6s
何も知らないレイを見守り、笑いかけてくれたシンジの懐かしい顔
優しさと不安をいつも含んでレイを見ていた目
レイにお茶のカップを差し出す手
ふっと目をみはるレイ
初めて気づく

  レイ(私の…ため?)

身体を起こすレイ
深く見開かれた両目
何を求めるのかも知らず、室内を見回す
自分しかいない場所
初めて、他人を他人と、自分とは別の心を持つ存在だと理解するレイ

  レイ(…知らない)
  レイ(知らなかったもの)

無意識にもう一人の自分の姿を探しているレイ
脳裏には、再びぎこちなく硬くなってしまった最後のやりとりが浮かんでは消える
振り返らなかったシンジの後ろ姿

 シンジ(明日は、ちょっと無理だから…あさって。あさって、また来るから)

383 :3/7:2015/04/28(火) 23:47:27.99 ID:D2KNwtf6s
理由はわからないながら、自分がシンジを拒絶してしまったことを認識するレイ
遠いものを見るようだったシンジの目
互いを隔てる距離そのものになってしまった優しさ
もどかしいレイ
自分の中でざわめくものが何か、知らない
どうすればいいのか、知らない

    (それが、温かいということよ)
    (生きていて。どうか)
  レイ(ちがうの)
  レイ(教えて)
  レイ(わかるように。わかるように、なりたいの)

もう一人のレイの気配はない
巨大な地下施設の暗闇と稼動音の底
小さな部屋でじっと心の揺らぎに耐えているレイ
ランプの明かりが瞬く

384 :4/7:2015/04/28(火) 23:48:05.18 ID:D2KNwtf6s
居室のシンジ
ベッドに横たわっている
片脚を曲げてシーツにうつ伏せになっている身体
おざなりに脱いだ靴が床に転がっている
突っ伏した顔の脇に投げ出された手
その近くで曲を再生しているSDAT
片耳のイヤフォンが外れたままかすかに音を流している
シンジの頭が動いて、おっくうそうに向きを変えてSDATを見る
ふいに眉根が歪む
もう一方のイヤフォンを引きむしり、放り出してぎゅっとシーツを掴むシンジ

 シンジ(どうしてだよ)

黒い新型プラグスーツを着たレイの姿

 シンジ(…本当にみんな忘れちゃったのか。14年の間に)

お茶のカップを抱えてほんの少しだけ嬉しそうだったレイの顔

    レイ(アタタカイのね。他のヒト、って)
 シンジ「…!」

歯を食いしばり、乱暴にまた突っ伏すシンジ

 シンジ(どうしてなんだよ。…父さんが忘れさせたのか。エヴァに乗せるために)

385 :5/7:2015/04/28(火) 23:48:43.30 ID:D2KNwtf6s
    レイ(…私は、お兄ちゃんがもう、エヴァに乗らなくていいように、したい)

強くこぶしを握ってベッドを殴るシンジ
連続する鈍い音
繰り返し叩きつける手の力がふいに緩む

 シンジ(…僕が、いけないのか)
 シンジ(レイの近くにいてやれなかったから。14年間、自分だけ初号機の中で眠ってて、
     レイを一人にしてた僕が…いけないのか)
 シンジ(だから…アスカも)
    アスカ(あんたには関係ない)

突き放すアスカの目
ヴンダーの人々の冷ややかな憤りの顔、顔、顔が甦る
間違いのはずだ、関係ないんだと思い込もうとしていた幾つもの場面
言葉にならない苦鳴を洩らすシンジ
やり場のない衝動は自分自身へ向かうしかない

 シンジ(やっぱり…あそこで皆の言ってたことが正しかったのか?)

386 :番号修正6/6:2015/04/28(火) 23:50:01.98 ID:J3NpZ1mRL
 シンジ(僕が、あのときエヴァの中で自分を見失ったから。初号機を覚醒させたから。
     それが、レイのことも、この世界も、何もかもを駄目にしたのか…?)
 シンジ(やっぱりそれが本当で、僕が、全部いけないのか)
 シンジ(…だから、ミサトさんは)

敵を見る厳しさでこちらを見据えていたミサトの目
険しくこわばっていた顔

    ミサト(碇シンジ君)
    ミサト(あなたはもう)

一瞬熱を帯びて感じられるDSSチョーカーの感触
怯えた両目を見開くシンジ
必死にDSSチョーカーを外そうとかきむしり、叶わないと知ると両手で固く耳を塞ぐ
ミサトの声は消えない
痛みの記憶も消えない
レイの記憶は失われている
心が切り刻まれる
固く両腕で頭を抱え、身体を折るシンジ
腕も背中も震え出すほど必死で全身を丸め、縮める
投げ出されたままシーツの上で作動を続けているSDAT
カチッと音を立てて停止する

387 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/04/29(水) 00:32:39.38
シンジ…

>>379
どっちだろうね

388 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/04/29(水) 10:35:32.46
ho

389 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/04/30(木) 09:27:15.06
やっぱりこうやってうだうだ悩むのがシンジだな…
Q本編でもピアノの合間に実は悩んでたんだろうか?(画面には映ってないが)
それか深く考えると身動き取れなくなるから考えないようにしてたんだろうか
僕は綾波の方に来たんだ、カヲル君も一緒だからもう大丈夫って
なんかシンジの動向が軽すぎて、狙ってなのか脚本が頭悪いだけなのかわからん
シンジに限らずQ全般に渡って言えることだが

あー変な語りすまん、それだからここ読むの楽しみにしてるといいたかった

390 :1/10:2015/05/01(金) 11:40:19.73
早朝の旧ケイジ
見上げる空はまだ半ば白い霧に隠されている
歩いてくるカヲル
ふと足を止める
ピアノの近くに小さな影
膝を抱えて床にうずくまっているシンジの姿
いつも持っているSDATも今日は傍に見えない
少し口元を引き締めるカヲル
足取りは変えず、そのまま近くまで歩み寄っていく

 .カヲル「おはよう、シンジ君。…ずいぶん早いね」

両膝に伏せていた顔をちょっとだけ上げるシンジ
抱えた腕の隙間からやっと答える

 シンジ「…ここしか、いられる場所がなくて」

見つめるカヲル
沈黙に怯え、再び両腕に突っ伏してしまうシンジ
カヲルの足音が近づく
びくりと背中を丸めるシンジ
頭ではわかっているのに、今は他者というだけで身体が拒絶する
いっそうきつく膝を抱えるしかないシンジ
足音が少し離れた辺りで止まり、ついで腰を下ろす気配が伝わる
そっと頭を起こすシンジ

391 :2/10:2015/05/01(金) 11:40:51.31
息をひそめて恐る恐る視線を巡らす
小さく目を見開く
手を伸ばしても届かない程度の距離をおいて、自分も床に座っているカヲルの姿
何か考え込んでいるような横顔
揃えた膝を片方崩して前に伸ばし、両手をついて後ろに体重を移す
カヲルの寛いだしぐさに少しだけ息が楽になるシンジ
それでも目を伏せてしまう
ちらっと優しい視線を走らせ、また前を向くカヲル
無理に促さずシンジが自分で話すのを待つ
甘えを自覚するシンジ
頭上の霧が途切れ、陽が射してくる
冷えた風がピアノの傍の木の葉群をざわめかせ始める
長い影を曳く二人の後ろ姿
やがて意識して身体を緩め、顔を上げて、恐れに満ちた目を向けるシンジ
何でもないように微笑で迎えるカヲル
泣きそうなほどの安堵が胸を浸す
その自分を嫌悪するシンジ
互いの緊密な距離を崩さないよう、そっと口を開くカヲル

 .カヲル「少し落ち着いたね。大丈夫だよ。ここは、他に誰も来ないから」
 シンジ「…え」

目をしばたたかせるシンジ

 シンジ「…訊かないの、何も」

392 :3/10:2015/05/01(金) 11:42:11.29
立てた片膝に無造作に両腕を投げかけるカヲル
膝を引き寄せて軽く顎を預け、そのままシンジを振り返る

 .カヲル「訊かないよ。君が話したくないのならね」

ほっとすると同時に後ろめたくなるシンジ
見透かしたように笑ってみせるカヲル

 .カヲル「…もちろん、その逆ならば聞かせてほしいよ。僕が聞いて構わなければ、だけど」
 シンジ「あ…」

つられて、ほんの少しだけ笑うシンジ
身を噛む自己嫌悪からわずかだけ解放される
胸を塞ぐ重苦しさは消えないが、のしかかるほどの居たたまれなさはここにはない
改めてレイを思うシンジ
地下施設の闇の底の、あの部屋とも言えない部屋に置いてきてしまったレイ
こちらを見ていた無心な顔
シンジの眉根が歪む

 シンジ「…うん。聞いてほしいんだ。
     レイが、…」

それ以上言葉にならない
突然こみ上げた嗚咽が塊になって喉を塞ぐ
止めようもなく、むせるようにその場に泣き崩れるシンジ
抑えても噴き出す涙と情けない泣き声
激情に翻弄されるシンジを、同じ耐える表情で見守るカヲル
何も言わず、触れもせず、ただ待つ
その無言のいたわりと、涙それ自体に押し流されるように泣き続けるシンジ
明るさを増す空間にすすり泣きの声が流れる

393 :4/10:2015/05/01(金) 11:43:38.14
まぶたの裏を木洩れ日が撫でる
澄んだ空気を深く吸い込んで、目を開くシンジ
一瞬自分がどこにいるのか見失う
正面に遠く見えているのはまばらに構材の抜けたケイジの天井と青い空
ゆっくり瞬きするシンジ
頭の下に温かな生きた感触
自分が床に横たわっているのをぼんやり知覚する
真上からカヲルの顔が覗き込む
ふいに状況を理解するシンジ
跳ね起きようとして、できない
照れと甘えの入り混じった溶けそうな快さが身体じゅうを包み込んでいる
膝枕したまま微笑むカヲル

 .カヲル「目が覚めたね。…泣きながら眠ってしまったんだよ。覚えている?」
 シンジ「え、あ、うん、…いや、ううん」
 .カヲル「疲れきっていたようだから起こさずにいたけれど…大丈夫かい? どこか、
     身体に辛いところはない?」
 シンジ「…ううん。大丈夫」

身体を起こそうとしてまだ逡巡してしまうシンジ
感じ取って微笑するカヲル

 .カヲル「いいよ、そのままで。…きっと昨夜はよく眠れなかったんだね。もうしばらく、
     こうしていようか」
 シンジ「…、ううん」

394 :5/10:2015/05/01(金) 11:44:27.09
ようやくはっきり目を覚まし、痺れるような甘さを振り切って床に手をつくシンジ
止めないカヲル
目をこすりながらしっかり起き上がるシンジ
カヲルを振り返る

 シンジ「そんなに熟睡してたんだ…恥ずかしいな、どれくらい寝ちゃってたんだろ」

頭上の空を透かし見るシンジ
太陽はもう天頂に近い
改めて肩をすくませるシンジ

 シンジ「ごめん…ずっと、付き合わせちゃったんだ。脚、大丈夫? 重かった、よね…」
 .カヲル「気にしないで。僕も久しぶりに何も考えずに過ごせたから。お陰でゆっくりできたよ」
 シンジ「…、ごめん…」

何となくそのまま腰を下ろしている二人
樹冠から木洩れ日が落ち、磨耗した床の上を踊る
遠く風鳴りの音がとどろく
ゆるく抱えた膝を見つめ、少し自制を取り戻した顔でカヲルの方を向くシンジ
すぐ気づいて振り向くカヲル

 シンジ「さっき言おうとした話、…やっぱり聞いて欲しいんだ。…その、嫌じゃなければ」
 .カヲル「嫌なんかじゃないよ。でも、君に、負担にならないだろうか」
 シンジ「…大丈夫」

395 :6/10:2015/05/01(金) 11:46:12.11
しっかり顎を引いて正面に視線を投げるシンジ

 シンジ「僕が、自分で話せるようにならないと。でなきゃ、いつまでも君に甘えるままだ。
     勝手に、何でもわかってもらったつもりになっちゃうから」
 .カヲル「僕だって全部はわからないよ。…わかりたいと願っているけどね」
 シンジ「…え」
 .カヲル「だから、君がそうしたいのなら、聞かせて欲しいよ。少しずつでもいい」
 シンジ「…うん」

変わらない微笑を見せているカヲルの顔
落ち着きを取り戻した感情を確かめるようにして、頷くシンジ
少しずつ昨夜の出来事を語り始める
つっかえたり、途切れ途切れになるシンジの話を黙って聞いているカヲル

 シンジ「それで…結局、何もできなくて、もう全部駄目なんだって思い込んで…
     僕はレイから逃げてきたんだ。
     …今思うと、それがどんなに恥ずかしいことかわかる。レイを、また、一人で
     置いてきちゃったんだ。何も言わずに。
     …おかしいよね。もう何度も、同じことで不安になって、何度でも、仕方ないって
     乗り越えてきたつもりだったのに。自分が臆病で頼りないって、心底わかった」
 .カヲル「そんなことはないだろう?
     君は、彼女にまた会いに行くと約束したんだから。何もできなかった訳じゃないよ」
 シンジ「…、うん。
     でも…それが何になるんだろうって、思っちゃうんだ」

396 :7/10:2015/05/01(金) 11:48:17.20
 シンジ「レイは本当に僕のことわからなくなってた。僕と過ごしてた時間を、何もかも。
     だったらレイにとって僕は最初からその程度のものだったのかもしれない。…それで
     どうなる訳じゃないけど、どうしても、そう考えちゃうんだ。…それが嫌なんだ。
     それなら、いっそ全部僕が悪いって思う方が、まだいい」
 .カヲル「…彼女を憎んでしまいそうな自分の心が、怖いんだね」
 シンジ「…うん。怖い。…落ち着かないんだ。
     君の言う通り、レイを恨んでしまいそうな自分が。レイは…変わらないから。
     僕のこと忘れても、全然、何も、変わってないから。僕はずっと気づいてなかった。
     一人ではしゃいで空回りして、馬鹿みたいだ」

答えないカヲル
その沈黙に今は慰められるシンジ

 シンジ「…やっぱり、レイは、僕のこと全部忘れちゃったのかな。
     そんなものだったのかな。一緒にいたことも。アスカやミサトさんや、皆のことも。
     でなきゃレイがここに、父さんとネルフにいる理由がわからない。
     でも…もしそうだったとしても、そう考えるのは、嫌なんだ。どうしても」
 .カヲル「だから、自分を責めるんだね…
     現実に直面し、唯一繋がっていたよすがに幻滅させられて、どう立ち直れば
     いいのかわからずにいるんだね」
 シンジ「そう、どうすればいいのか、わからないんだ。
     …もう何もできないんじゃないかって、怖いんだ。全部手遅れなんじゃないか、
     本当は、僕が初号機の中で眠ってた14年の間に何もかも終わってて、今さら僕には
     何も変えられないんじゃないか、って」

固く胸に押しつけた膝を抱くシンジ

397 :8/10:2015/05/01(金) 11:54:23.83
 シンジ「…何もするなって言われたんだ」
 .カヲル「君自身は何かしたいと、望んでいるのに」
 シンジ「みんなが、もう僕は何もするなって言うんだ。エヴァに乗ることも。ずっとこの首輪を
     付けて、一生監視されてろって言ったんだ。できないなら…死ぬ、って」
 .カヲル「君は彼らに恐れられたり、憎まれたくはなかったのに」
 シンジ「…でも、その方が良かったのかもしれない。
     レイに、結局僕は何もできなかったのなら。…それなのに、レイについてきた」
 .カヲル「誰よりも彼女に、自分を認めて欲しかったんだね。間違ってはいなかったんだと」
 シンジ「…そうかもしれない。…いや、きっとそうなんだ。
     だから、これからどうしたらいいか…こんなになってもまだ、レイに会いに行けるか
     どうか、自分でもわからないんだ。何か…ひどいことして、傷つけてしまいそうで」

ぎゅっと眉根を寄せてうつむいているシンジ
抑えても繰り返しつのってくる自己嫌悪の渦
深い空を仰ぐカヲル

 .カヲル「答えを急ぐ必要はないよ。
     それはもう君の心の中にある。君自身の望みとしてね」
 シンジ「…望むことなんて、もう、わからないよ」
 .カヲル「そう?
     それでもこのまま終わってしまうのだけは、嫌なんだろう。だからそうして悩んでいる」

顎先を両腕の中に埋めるシンジ
ひたすら穏やかに流れるカヲルの声

 .カヲル「心が痛がっているうちは、君の中にはまだ望みが息づいているんだよ。
     どんなに無力に思えたとしても。どんなに自分を嫌いに感じても」

398 :9/10:2015/05/01(金) 11:56:44.02
 .カヲル「全てが終わってしまったわけじゃない。
     君を取り巻く現実は今もまだ続いている。この世界も。彼女とも関わりも。君が
     考え、疑問を持ち続けることを諦めない限りはね」

じっと聞いているシンジ
カヲルの言葉がそのまま自問になる

 .カヲル「だから…そう、自分だけを罰する必要はないよ。いくら自分を否定し、心の中で
     罰を与えても、それは一時的な退避にしかならない。現実は何も変わらないよ。
     変えられるのは、君自身の心と、その現れとなる行為だけだ」

限りない痛みと優しさを込めてシンジを見るカヲル

 .カヲル「今は自分の心を歪めず認めればいい。君が納得できる答えを得られるまでね。
     そして心の余裕を取り戻せたら、約束を果たしに行けばいいのさ」

顔を上げるシンジ
取りすがるようにカヲルを見つめる
泣き笑いの顔で頷く

 シンジ「…うん」

シンジが少し笑うのを見届け、すっと身を起こすカヲル

399 :10/10:2015/05/01(金) 11:57:20.43
急に離されて不安になるシンジ
自分も遅れて立ち上がる
ピアノの傍から振り返るカヲル

 シンジ「…カヲル君」
 .カヲル「もう歩けるね。一度、部屋に戻って食事を摂っておいで。朝の様子だと
     起きてすぐに、何も食べずにここに来たんだろう?」
 シンジ「あ…」

急に空腹を自覚するシンジ
顔を赤らめる

 シンジ「…うん。ごめん」
 .カヲル「彼女だけじゃなく、自分の身体のことも面倒を見てあげないとね。
     大丈夫だよ。僕はここで待ってるから」
 シンジ「…うん」

頷き、固い床でこわばった身体を伸ばしながら歩き出すシンジ

 シンジ「…ありがとう」

はっとするほどの近しさのこもった微笑で応えるカヲル
ようやく素直に笑えるシンジ
歩いていくその背中を、カヲルが弾き始めたピアノの繊細な音色が送る



読んでくださった方、いつもありがとうございます

400 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/05/01(金) 20:09:50.99


401 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/05/01(金) 23:03:43.24
居室のベッドに腰掛けたシンジ
少し乾いてしまったペースト食を急いで詰め込む
きれいに空にしたトレイを回収窓に入れる
いつのまにか全部食べ切れるようになっていたことに気づき、微苦笑するシンジ
それでも身勝手な自分を自分として受け止められることに感謝する

 シンジ(感謝…? 誰に…カヲル君に。
     彼がいなかったら、僕は耐えられなかったかもしれない。ここにいることに)

隠せない痛みと嬉しさを噛みしめるシンジ
その目元が苦しげに歪む

 シンジ(…やっぱり、レイじゃないんだ、もう)
 シンジ(ほんと、勝手だな。レイさえ生きてればそれでいいって思ってたくせに)

初号機の中で抱きしめたレイの感触
宙に浮かぶ初号機を取り巻いていた赤い破壊の渦
初号機を中心に膨れ上がっていく未知の力
多重の翼

 シンジ(僕は…レイを助けたかった。取り戻したかった。そのためなら、僕が引き換えに
     世界に消されてもいいと思うくらいに、強く願ってた)
 シンジ(…レイは、帰ってきてくれた。確かに僕の手を掴んだんだ)
 シンジ(なのに)

何も覚えていないレイ
不信と罰という言葉
全身で重責を背負っていたようなミサトの姿
喉元のDSSチョーカーを意識するシンジ
追いつめられていく思いを振り切るように立ち上がり、部屋を出る

402 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/05/01(金) 23:06:37.91

読んでるよー

403 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/05/02(土) 11:44:53.65
ho <ヒザマクラ カ…クソーフカクニモ

ho <イヤ、ナンデモナイ

404 :1/10:2015/05/02(土) 15:21:51.40
読んでくれた方、いつもありがとうございます
…えーと今回もちょっと気持ち悪いかもしれません、すみません



底知れない青空に響くピアノの連弾
白い雲が深い陰影を見せて流れていく
高くそびえる赤く錆びた拘束壁
同じく錆びた鉄材のラインが縦横に走る床を澄んだ陽光が明るませる
ピアノの傍に繁る緑の木の穏やかな葉擦れの音
隣り合って椅子に腰掛けたシンジとカヲル
互いの呼吸をはかりながら曲を紡いでいく
音を改め、違う和音を試し、刻々と弾き方を変えていく二人の演奏
曲の様相も少しずつ深まり、心を映して移ろっていく
時間が過ぎるのを惜しむシンジ
カヲルの柔らかい微笑み
わずかに底に湛えられた翳りが同じ気持ちでいることを告げている
手を休める間も鍵盤の前を離れない二人

 シンジ「何だかもったいないね。せめて、楽譜に書き留めておければいいんだけど」
 .カヲル「弾き続けるから、変わっていくのさ。同じ曲の完全な反復とは違う」
 シンジ「そうだね。それに、全部残しておこうとしても、そうやって手を止めちゃうと、たぶん、
     逆に余計に追いつけないんだろうな。…上手く言えないけど、そんな気がする」
 .カヲル「そう、弾くことをやめないから、また新しい弾き方も見つかるんだ」

405 :2/10:2015/05/02(土) 15:22:26.70
 シンジ「うん…ずっとやめずにいるから、もっといい音を出せるし、出したいと思い続けて
     いられるんだね、きっと。やめないで続けてるから…
     だけど、焦ってそうしてたり、しなくちゃいけないって決めつけるのとは違うんだ。
     なんか…続けててもいいんだ、まだ諦めちゃうことないんだ、っていうか…似たような
     ことを何度も試してるだけだとしても、まだ、弾いてていいんだ、っていうか…
     ごめん、やっぱり上手く言えないや」
 .カヲル「構わないんだよ。君自身の言い方でいい。少しずつ、続けてみて」
 シンジ「…うん。
     そう、…もちろん、ずっと同じままでいたいんじゃないんだ。もっといい音で、もっと
     思うままに、気持ちよく弾けるようになりたいっていうか。…だけど、先に進みたい
     って気持ちと同じくらいに、今こうしてることが…こうやって自分の手で、一つ一つ
     音を確かめながら弾いて、耳で聞いて、また考えて、もっと次の音に繋げていける、
     そのことが…嬉しいんだ。…うん。感謝…してる、のかな」
 .カヲル「…感謝」
 シンジ「うん。…君に」
 .カヲル「僕に?」
 シンジ「そうだよ。カヲル君が僕に教えてくれたんだ、ここにいて、まだ弾いてられるんだって。
     …僕だって何もできない訳じゃないんだ、って。…そのことが、嬉しいんだ」
 .カヲル「…ありがとう。
     だけど、本当は、僕の方こそ君に、多くのことを教えてもらってるのかもしれない」

406 :3/10:2015/05/02(土) 15:25:03.93
 シンジ「そんな…、そんな訳ないよ、僕はカヲル君には何も…敵わないよ。
     それに僕なんか、いつもちょっとしたことで落ち込んで、それとも勘違いしてる。
     それで結局、また自分が嫌になって。でも君に助けてもらって、少しだけ立ち直れて。
     …それこそ、同じことを繰り返ししかしてないよ」
 .カヲル「それでいいのさ。たとえ反復と回帰を重ねても、もっと良い音を、より良い場所を
     目指そうとする意志さえあれば、その繰り返しすら決して無駄にはならないよ」
 シンジ「繰り返し…でも?」
 .カヲル「そう、君が惜しいと言った、過去の幾多の変奏と同じだよ。
     そこで生まれた新しい音の萌芽は、また次の演奏の中に形を変えて引き継がれ、
     隠された確かな過程、次の変化を促す力になる。何一つ失われはしないよ。
     またそうでなければ、新たに弾き始める意味がない」
 シンジ「弾いてる僕が、無駄にしてないってことか…」
 .カヲル「そう。たとえ一つ一つの音は忘れられてもね」
 シンジ「だけど…
     でももし、他にもう、どうしようもなかったら? 前の繰り返ししかできなかったら…?」
 .カヲル「それでも、さ。
     いや、それしかないのなら余計に、別の可能性を願いながら繋げていくことが
     必要になるんだ。同形反復だからこそね」
 シンジ「そっか…じゃあ、同じ繰り返しになるかもしれなくても、もっといい音を出そうと
     思いながら弾けば、それが少しでも、今の弾き方になる。そういうこと…かな」
 .カヲル「そうだね。それは前の音の否定とも違う。明確な形を残さなくても、消えたそれらの
     積み重ねが、今の音を作っているんだ」
 シンジ「…うん。
     そうだね。…君といると、今は、わかる気がする」

407 :4/10:2015/05/02(土) 15:26:24.49
夕暮れ
燃えるような壮大で静かな夕映えが辺りを染める
蓋を閉めたピアノ
長い影の中に向かい合って立つ二人
立ち去りかねている様子のシンジ
思いきってカヲルを見る

 シンジ「…ねえ、もう少し、ここにいない? その…ここなら、星が綺麗に見えると思うんだ」
 .カヲル「星?」
 シンジ「うん。ここで、星を見ようよ。…一緒に」

口にしてから急に子供っぽい気がして、内心恥ずかしさにまみれるシンジ
やっぱり打ち消そうと顔を上げて、カヲルの表情に言葉を失う
触れるだけで損なわれてしまいそうな繊細な喜びを見せているカヲルの顔
微笑む

 .カヲル「…うん」

自分も素直に嬉しさをあらわにするシンジ
うつむいて笑みをこぼす

408 :5/10:2015/05/02(土) 15:27:44.53
宵闇の降りた旧ケイジ
頭上のまばらな構造材を透かして見えている満天の星
天の川が手に取れそうにはっきり見える
知っている星と星座の名前を一つ一つ声に出して数えていくシンジ
隣に並んで横たわり、耳を傾けているカヲル
身体の底から力を抜くシンジ
星の名前が途切れ、ほうっと息をつく
穏やかな沈黙
目の中になだれてきそうな星々
それとも自分の身体が吸い込まれてどこまでも落ちていきそうな錯覚に襲われる
それも心地よく感じているシンジ
傍らのカヲルの静かな息遣い
紛れもない他人のはずなのに、不安ではなく快い緊張感だけがある
自分から手を伸ばしかけ、我に返って、気づかれないよう引っ込めるシンジ

 シンジ(…こんなことレイにもしなかったくせに)

床を掴む手に、カヲルの手がごく軽く添わされる
息を呑むシンジ
カヲルを見る
何でもないことのように頭上を仰いでいるカヲルの白い横顔
星々を見つめたまま口を開く

 .カヲル「…星が好きなのかい?」

409 :6/10:2015/05/02(土) 15:29:23.00
 シンジ「え…、あ、うん。
     何て言うか…この宇宙は本当はすごく大きいんだって、実感できる気がして。
     僕の抱えてる悩みとか不安なんかちっぽけなものだって思えて…安心できるんだ。
     …そう、小さい頃から、ずっとそうだった。寂しいときも、つらいときも、星を見てると
     みんな忘れられた。この僕だって…このまま、消えてしまえるような」
 .カヲル「…虚無と無慈悲な深淵。そこに、還ってしまいたいのかい?」
 シンジ「わからない…でも、そんなふうに想像すると、何だか安らぐんだ。
     嫌なことしかない世界でも、まだ何とかやっていこうと思えるんだ、少しだけ」

星をちりばめた深い夜空を見つめるシンジ
また一つ溜息をつく

 シンジ「…ありがとう、カヲル君。こんなにゆっくり星を見れたの、随分久しぶりだ」
 .カヲル「僕の方こそ。誘ってもらえて、嬉しいよ。シンジ君」
 シンジ「うん…」

小さく笑うシンジ
ふっと真顔に戻る

 シンジ「…本当に久しぶりだ。なのに、星は何にも変わってないんだね。
     まるで14年過ぎたことなんて、なかったみたいだ」

頭を傾けてシンジの方を向くカヲル
短い間にこの新世界で受けたさまざまな痛みと疲れがその顔に影を落としている

 シンジ「…少し、前の話をしてもいいかな。…僕の話にしかならないかもしれないけど」

410 :7/10:2015/05/02(土) 15:32:30.31
 .カヲル「構わないよ。僕が聞いて良ければね」
 シンジ「ありがとう」

しばらく星に目を預けているシンジ

 シンジ「…あの時本当は、父さんに嫌いだって言うつもりだったんだ。
     あの街に最初に呼ばれた時。正面から嫌いだって言ってやろうって、それだけだった」
 .カヲル「そのとき、妹さんにも会ったんだね」
 シンジ「うん。大怪我してるレイを目の前で見たら、…悔しいけど、何も言えなくなって。
     …だけど、やっぱりそれだけじゃエヴァに乗り続けることもできなかった。だから
     一度逃げ出したんだ」
 .カヲル「街を出たのかい?」
 シンジ「…ううん。単なる家出。我慢できなかったのもあるけど、それよりも意地になって、
     拗ねてたんだと思う。反抗って言うほど大したものじゃなかった。戻ってやるもんかって
     思いながら、心のどこかで父さんか、ミサトさんが、探しに…迎えに来てくれるのを
     ずっと待ってたんだ。
     今も、本当は同じなんだと思う。父さんのことは理解できないし、レイのことや、
     君とエヴァに乗れなんて一方的に言ったこと、それに何でミサトさんが父さんと
     戦わなきゃいけないのか…全然、納得はしてないけど。
     結局、今でもたぶん、…頼ってる、んだ。…絶対に勝てないからって諦めて」

ふと我に返り、浸っていた自分の記憶から抜け出すシンジ
カヲルの方を見る
見つめ返しているカヲル

 シンジ「…ごめん、こんな話、退屈だし気が重くなるだけだよね」
 .カヲル「ううん。聞きたいよ。君が嫌になったのでなければ、続けてほしい」

411 :8/10:2015/05/02(土) 15:34:36.59
 シンジ「それから…
     僕はそのまま、ただ流されてエヴァに乗ってた。…後になってからだけど、アスカに
     よく言われたよ。僕にはパイロットの覚悟も自覚もない、って。…その通りだ。
     その証拠に、その後に攻めてきた使徒にやられて、痛くて怖い目に遭って、
     …それだけでもう、僕が自分の意志だと思ってたものは簡単に揺らいでしまった。
     病室に来てくれたレイに駄々をこねた。もう怖い目に遭いたくない、って。
     …子供だよね。レイは、僕の代わりに初号機に乗る覚悟まで決めてたのに」
 .カヲル「…それでも、君はまたエヴァに乗った。ヤシマ作戦で」
 シンジ「…、うん。
     だけど心はガタガタのままだった。レイは、そんな僕のことでも守るって
     言ってくれたんだ。作戦始動の直前、二人で、停電した街の上の…星がはっきり
     見える、こんな夜空を見ながら」

ほんの少し寂しげな目をするカヲル
夜闇と追憶とで気づかないシンジ

 シンジ「僕はそれでも本当にはわかってなかった。
     作戦で、僕は一番責任重大な砲手担当だったのに、第一射を外したんだ。
     …その後、使徒がものすごい攻撃をかけてきた」
 .カヲル「…うん」
 シンジ「僕はすごく…怖くて、動けなくて」
 .カヲル「うん」
 シンジ「死ぬ覚悟はできてたつもりだったけど、そんなの思い込みだって知らされたんだ。
     だけど…」
 .カヲル「…だけど?」

412 :9/10:2015/05/02(土) 15:36:08.90
 シンジ「同じくらい、…自分が、本当に生きてるんだって、初めて実感できたんだ。
     あの、そこにいるだけで自分が無くなっちゃいそうな、…本物の恐怖と痛みの中で。
     変な話だけど、そのこと…痛みも怖さも、間違いなく、どうしようもなく現実だって
     いうことが、逆にあの時、僕を這い上がらせてくれたんだ。
     それからもう一つ、他の人たちも同じように、本当に生きてるんだってわかれたんだ。
     初めて、自分自身のこととして理解できた。失くしたらもう二度と取り戻せない。
     だからもう誰も死なせたくない。…そう、心から思えた」
 .カヲル「自分が一人じゃないと、気づけたんだね」
 シンジ「うん…」

確かさと寂しさを等量に噛みしめるシンジ

 シンジ「あの時、僕は一人じゃなかった…ちょっと違うな、…僕らは、結局一人でしかない。
     どんなに他人に囲まれて過ごしてても、本当には一人でいるのと変わらない。
     でも、だからなんだ。僕らは一人で生きてるけど、それは、一人じゃないってことと、
     どこかで同じことなんだ、って」

視界の中央を埋めて瞬く星
今がいつだかわからなくなるような吸い込まれそうな浮遊感
カヲルの手がふいに手に重なり、自分の身体の実感を思い出させてくれる
振り向くシンジ

 シンジ「…もちろん、今言ったようなことは後で思い出して、考えたことなんだけどね。
     あの時はただ無我夢中だったから。
     …それから、あの時も。無理なのをわかってて、それでもレイを取り返そうとした、
     同じ初号機の中の、あの時。…14年、前」

413 :10/10:2015/05/02(土) 15:39:07.41
ふっと暗い目になるシンジ
カヲルが手を握りしめてくるのを感じ取って、微笑む
そっと、それからしっかりと握り返す

 シンジ「…ありがとう、カヲル君。こんな、僕だけの話を聞いてくれて」
 .カヲル「いや。…話してくれて嬉しかったよ」

力づけるように微笑するカヲル
急に鋭い傷心を覚えてカヲルを見つめ、怒ったように目を伏せるシンジ

 シンジ「…カヲル君だけだ。…僕のこと忘れないでくれるのは。
     責めたり、一方的に命令したりせずに、ただ、一緒にいてくれるのは」

カヲルの手に唐突なほどの力がこもる
驚き、それでもその手に手をゆだねるシンジ
わずかな緊張に気づいて指の力を緩めるカヲル
すり抜けようとする手をぎゅっと掴んで引き止めるシンジ
互いの息遣いに耳を澄ます
やがて、すがるシンジの手をそっと振りほどいて離れるカヲルの手の感触
見つめるシンジ
横向きにこちらを見ている、泣きたくなるほど懐かしくて近しいカヲルの顔

 .カヲル「…ありがとう。シンジ君」

息をこらえているシンジ
好意の全てをこめて微笑むカヲル

 .カヲル「…僕は君に会うために生まれてきたんだね」

414 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/05/02(土) 15:51:48.44
うわっ来てた!乙!
なんか二人のやり取りが切なすぎてつらいよ…
(こちらこそ気持悪くてごめんなさい)

415 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/05/02(土) 20:41:53.30
乙、幸せそうだなカヲル…
でもここで星を見るが来たってことはこの後はまさか

416 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/05/02(土) 20:59:23.08
>>415 すみません、そんな感じです…
ちょっとだけ続きです
読んでくださった方、ありがとうございます


深更
部屋にいるレイ
寝袋にもぐる前にもう一度立っていって外を覗く
暗闇
巨大な地下施設の稼動音
LCL槽の発する光が下方からぼんやりと闇の裾を染めている
広大な空っぽの空間
人の姿はない
カーテンを閉めて中に戻るレイ
寝床に横たわり、卓上の二つのランプを見つめる
暗闇に手を伸ばして透かし見る
初めて見るような自分の手の形
シンジの手を思う
手のひらをこちら側に向けて、一つずつ指を折る

  レイ「…昨日が、キョウ。今日が、アシタ」

確かめるように声に出すレイ

  レイ「明日が、…あさって。…だから、明日」

ぱたりと手を下ろして闇を見つめるレイ
深く息をつき、目を閉じる

417 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/05/03(日) 09:06:00.83
くろなみー!

418 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/05/03(日) 20:47:30.54
黒波かわいい

いやシンジとカヲルもかわいいけどさ

419 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/05/04(月) 09:31:05.09
ho <ノリオクレタ…

420 :1/5:2015/05/05(火) 00:22:28.68
早朝
居室のシンジ
ベッドに横たわったまま、照明のついた天井を見つめている
伸ばした手に触れる固い感触
掴んで持ち上げるシンジ
結局昨日一日置き去りにしていたSDAT
引っぱられたイヤフォンのコードが垂れ下がり、軽く顔に触れる
じっと見つめているシンジ
起き上がり、コードを丁寧に巻いてベッドの上に置く
朝食を摂って着替える
新しいシャツを広げ、見つめる

 シンジ(…やっぱり新品じゃないし、サイズも昨日のと違う。
     残ってるものを再利用してるんだ。…14年前のを)

黙って袖を通すシンジ
身支度を済ませ、SDATをポケットに入れる
もう一度天井を見上げる
そのずっと上方にあった、かつての第三新東京市を思い出そうとするシンジ
自分の身勝手さに無残に崩れる表情
ぐっとうつむき、内攻する感情を振り切って部屋を出て行くシンジ

421 :2/5:2015/05/05(火) 00:24:10.49
朝の旧ケイジ
透き通った陽光と風
ピアノの前に一人座るカヲル
鍵盤に最初の指を置こうとして、顔を上げる
歩いてくるシンジ
迎えるカヲルの微笑を、眩しいものを見るような自責と憧れの顔で見つめる
その手が掴んでいるSDATに目を留めるカヲル
すぐ傍まで来て、そのままそこに立っているシンジ

 .カヲル「おはよう、シンジ君。今日は気分、いいみたいだね」
 シンジ「…うん。昨夜、カヲル君が話を聞いてくれたおかげだよ」

素直に答えるシンジ
その顔を占めるわずかな翳り
カヲルの視線に気づいて少しうろたえ、それから底に抱えていた決意を現す
見守るカヲル

 .カヲル「今日は…ピアノじゃないんだね。また何か、僕に頼みたいことかい」
 シンジ「うん…」

一瞬口ごもるシンジ
ためらいを振り切るようにまっすぐカヲルを見る

 シンジ「カヲル君は…知ってるんだよね。
     この世界が今、どうなってるのか。どう変わっちゃったのか。…本当のことを」

422 :3/5:2015/05/05(火) 00:27:15.86
 .カヲル「…うん。知っているよ」

同じまっすぐな表情でシンジを見つめるカヲル
真摯な眼差に我知らず気後れするシンジ
SDATを握る手に少し力が入る
励ますようにちょっとだけ笑うカヲル
息を凝らすシンジ
内心に抱えた重圧に堪えず、カヲルの顔を逸れてさまよう視線
何度もためらいながら口を開く

 シンジ「やっぱり…変なんだよ。
     僕はミサトさんたちのところで目を覚まして、訳もわからないままで、…みんな
     僕なんか全然関係ないみたいに、見たこともない敵と戦ってて…しかも敵を
     倒したのは初号機だっていうんだ。…僕が乗ってないのに動く、エヴァ初号機」

聞いているカヲル

 シンジ「レイが迎えに来てくれて、僕はここに来たけど…結局、何でそうなってるのか、
     どうして僕はあんなふうに扱われなきゃならないのか、何でミサトさんたちは
     父さんや、それにレイと戦ってるのか、…ここに来ても、僕は何にも知らないんだ。
     それってやっぱり変なんだよ」

声に出して、わずかに怯えを覚えるシンジ
何も言わず先を促すカヲル

423 :4/5:2015/05/05(火) 00:31:24.54
 シンジ「…みんな僕を置いてけぼりにして、この新しい世界で生きてる。僕なんかに
     合わせてる暇はないみたいに。僕なんか待つ必要はないみたいに」

恨みではなく、悔しさでシンジの目元が歪む
何度も繰り返し考えたことなのを見て取り、静かに頷くカヲル
少し眉の力を抜くシンジ

 シンジ「…でも、きっとその通りなんだ。
     何もするなって、そういうことだったんだ。父さんがエヴァに…あの、第13号機、に
     乗れって言うのも、同じことなんだ。
     …世界は、変わった。だから誰も僕に合わせる余裕がないんだ。…僕のこと覚えてる
     余裕なんて、もうどこにもないんだ」

ちょっと言葉を途切らせるシンジ
剥き出しの傷の覗く笑み
自分の惨めさにじかに触れるようにうつむく

 シンジ「…君だけだ。こんな僕のこと、まだ見ててくれるのは。…カヲル君」

顔を上げ、懸命に覚悟を決めてカヲルを見つめるシンジ
ためらわず受け止めるカヲル
わずかに息がつけるシンジ
声に力を込める

 シンジ「だったらここで何かしたいなら、僕は自分で皆に追いつかなきゃいけないんだ。
     今のこの、変わっちゃった世界に。…でないと本当に何もできないままだ。
     君に甘えてるだけで終わってしまう。それは、嫌なんだ。
     …レイのことも」

424 :5/5:2015/05/05(火) 00:33:07.86
頼りない両足を無理やり踏みしめるようにして言い切るシンジ

 シンジ「君が言ってくれた通りだよ。僕には結局何もできないかもしれない。だけど
     このまま終わらせるのだけは嫌なんだ。だから…
     自分勝手なのはわかってる、でも、知りたいんだ。この世界の、本当のことを」

目を逸らさないカヲル
いつになく白く引き締まった表情

 .カヲル「…知りたいんだね」
 シンジ「…、うん。
     知りたい。ここで何があったのか。…ここにいた人たちは、どうなっちゃったのか。
     ここにいた…前に僕の周りにいた、みんなは」

カヲルの、どこかレイに似た大きな深い双眸に一瞬ひるむシンジ
ふいにその目が伏せられる
初めて見せる侘しげな表情
シンジがいぶかしむ間もなく、真顔に戻り、再びまっすぐ見据えるカヲル
たじろぎを抑えながら見つめ返すシンジ

 .カヲル「…わかった」

どこか翳りのある声を残し、椅子から立ち上がるカヲル



…というわけで、一応穏やかだったネルフの日常はおしまいです
つくづく進行遅いですね、すみません
読んでくださった方、いつもありがとうございます

425 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/05/05(火) 09:21:54.21
ついに来ちゃったか…
続きが見たいような怖いような

このスレのカヲル君って本編に比べてより人間に近い感じするね

426 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/05/05(火) 09:29:29.66
それとシンジが、怖がってるのに主人公ぽく動こうとしててなんかほっとするよ
Qだから動いたところで傷つくばかりなのは知ってるんだけどね(読む側は)…
連レスごめんね
がんばれー

427 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/05/06(水) 09:59:14.98
ho <ショウネンバ ダナ シンジ…
no <オツー

428 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/05/09(土) 12:16:25.95
ho

429 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/05/12(火) 09:18:57.18
@ <…

430 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/05/13(水) 23:14:14.67
保守

431 :1/7:2015/05/14(木) 23:53:01.04
間が空いてしまいましたが、少しだけ続きです
>>425-430 いつも本当にありがとうございます、すみません


下降するエレベータ
着せられた防護服の大仰さにとまどっているシンジ
軽装のまま前に立つカヲル
骨組みばかりのエレベータケイジの側面を透かして、深く暗くなっていく縦坑の壁が見える

 シンジ「…あの、もっと下に行くの?」
 .カヲル「そうだよ。まだ少しかかる」
 シンジ「そっか…」

防護服のフェイスガード越しに見回すシンジ
ふいに胸を貫く痛み
同じように狭いエレベータに乗り、ネルフ本部の最下層へ向かったときのことが甦る
隣で固くシンジの手を掴んでいたミサト
つのる無力感にうつむくシンジ
一度つむった目を開き、周りを見ようとする

 シンジ(…? 何か、雰囲気が違う。
     方向も、本部の真下じゃない。リリスのところに向かうのとは別の経路なんだ)

初めてここに来たときのことを思い起こすシンジ

432 :2/7:2015/05/14(木) 23:53:52.12
レイと一緒に策道車の中から見下ろした今のジオフロントの眺望
四囲を守る巨大な斜めの周壁の底で、ベークライトに沈んでいたような本部施設
廃棄されたダムを連想するシンジ

 シンジ(あの壁に…守られてる?
     …でも、何から? …外の世界、から?)

我知らず身震いするシンジ
脳裏に閃いて過ぎる『14年前』の光景
学校、クラスメート、街、通学路、帰りに寄り道した旧市街、ミサトのマンション

  女子(あ! 来た来た)女子(遅いぞー、碇兄妹!)男子(待ってましたっ)
   .レイ(…みんな)
  シンジ(どうして…? 今日は、誰も残ってないと思ってたのに)
  トウジ(何だかんだ言うて、皆気になっとったんやで。お前らのこと)
 .ケンスケ(それと、式波のこともな)
  シンジ(アスカの…?
      だけど、あんな別れ方して…もう皆、歌のことまで嫌になったんじゃないかって
      思ってた。今も、どうせ僕らだけだろうな、って)
  トウジ(んな訳ないやろ。ま、ほれ、見てみぃ)
  女子(まー、最初はショックだったけどさ)女子(あれで終わりなんて嫌だよ)
  男子(つーか、ネルフのテストと重なったんじゃ、しょうがないじゃん?)
  男子(悔しいけどやっぱカッコイイよな)男子(こうなりゃ意地でも成功させようぜ)

笑っていたみんなの顔

   レイ(! 本部から、非常召集)

433 :3/7:2015/05/14(木) 23:54:51.85
  トウジ(何や、どないなっとるんや!)
 .ケンスケ(もしかして使徒か?!)
  シンジ(わからない、とにかく本部に行かなきゃ。ごめん、委員長と、みんなのこと頼む)
  トウジ(おう、任せとき!)
 .ケンスケ(気ぃつけろよ!)

黒々とそびえる壁の上に見えていた青空と雲の眺め
そこにあったはずの街
防護服の下に着ているシャツの感触を意識するシンジ
14年前に誰かが着ていたシャツ
その誰かの不在
冷たい汗が背筋を伝う
やがて下に着いたエレベータから降り、ほとんど真っ暗な通路を抜ける二人
前を行くカヲルのシャツの背中がぼんやり白く見える
防護服の動きにくさに手間取りながら、何とか遅れないようにするシンジ
行く手に非常灯のともったドア
はっとして目を凝らすシンジ

 シンジ(…やっぱり、壁の外に行くんだ)
 シンジ(…ジオフロントの、外。…今の)

無数の砲撃痕の残っていたネルフ本部の外観

 シンジ(…本部施設すらあんなに被害を受けてたなら、上の街は)

434 :4/7:2015/05/15(金) 00:00:45.63
逃げたがる自分を叱咤するシンジ

 シンジ(…駄目だ。
     自分から知りたいって頼んだんじゃないか。カヲル君に)

執拗につのる恐れを振り払おうとするシンジ
カヲルが扉を開く
そのとたん、吹き込んでくる猛烈な風
とっさに防護服のことを忘れて顔をかばうシンジ
フェイスガードにぶつかった両手の向こうを勢いよく流れる白い奔流
一面影のない眩しい空間
目をみはるシンジ

 シンジ「風…雲、…空?! 壁の地下に出たはずなのに」

カヲルに続いて狭い足場に出るシンジ
踏み出して、思わず足がすくむ
申し訳程度の手すりのついた剥き出しの鉄の外階段スペース
雲の白がめまぐるしく諧調を変えながら視界いっぱいに吹き荒れている

 .カヲル「少し下るよ」

先に立って階段を降りていくカヲル
ふと目を奪われるシンジ
14年前と変わらないカヲルの姿

   シンジ(でも、14年って言ったって、アスカ、その眼帯以外…何も)
   .アスカ(…そう、エヴァの呪縛)

435 :5/7:2015/05/15(金) 00:02:06.87
 シンジ(カヲル君も…なのか)
   .カヲル(…お帰り。ずっと待っていたよ)

叩きつける風
はっと我に返るシンジ
変わらず、少し前を下っていくカヲルの後ろ姿
後に続こうとして再び足がすくんでしまうシンジ
堅い外壁にじかに埋設された鉄の踏み板だけの頼りない階段
手すり代わりなのか、真っ赤に錆びた鉄鎖が壁に打ちつけられている
動けないシンジ
顔を上げる
すかすかの階段をこともなげに下っていくカヲルの後ろ姿
深呼吸し、意を決して、けれど及び腰で下り始めるシンジ
白い冷たい津波となって立体的に外壁を叩く一面の雲の幕
容赦なく打ち据える風
今にも吹きさらわれそうな怯えに背筋を噛まれながら、何とか一段一段降りるシンジ
鉄の踏み板も鎖もかなり前に埋設されたものらしく真っ赤に錆びている
手の中で鎖が滑り、危うく足を踏み外しかけるシンジ
身体の重心がぐらつく

 シンジ「! うわッ」

無我夢中で鎖を握りしめるシンジ
ずるずると止まる身体
かろうじて次の段に引っかかっている足
全身冷たい汗
せわしなく呼吸するシンジ
すがるように前を見る

436 :6/7:2015/05/15(金) 00:02:42.93
振り返らないカヲル
どんどん下っていく細い後ろ姿が、押しかぶさってくる雲の向こうに消える

 シンジ「!! カヲル君…? カヲル君ッ」

焦って立ち上がろうとした瞬間、足の下で踏み板ががくっと傾く
再び体勢を崩されるシンジ
身体が一瞬浮くのを感じる
もう声も出せず必死で目をつぶる
耳を塞ぐ風の咆哮
影もない空間の白さ
しばし、完全な見当識喪失
やがて少しずつ身体の実感が戻ってくる
まだ耳元で唸りをあげている風
両足と腰の下の鉄の階段の凍るような冷たさと固さ
それでも目を開けられないシンジ

 シンジ(怖い)
 シンジ(無理だ、もう、こんな)

脈絡なく頭をかすめるエヴァの操縦感覚

 シンジ(もしエヴァでだったら…このくらい、何てことなかった)
 シンジ(…やっぱり、僕は守られてばかりなんだ)
 シンジ(エヴァ。ネルフ。自分が嫌なものにまで)

437 :7/7:2015/05/15(金) 00:03:21.64
ヴンダーの隔壁を突き破ってさしのべられていたMk.9の巨大な手

 シンジ(いつだって守られる側なんだ。他の誰かに)

DSSチョーカー起動装置を突きつけていたミサトの姿を、Mk.9の指が遮る

 シンジ(守られる…誰かに。…誰に?)

脳裏に浮かぶ、レイではなく、碇のイメージ
鋭く息を呑むシンジ
ふいに、周りを吹き荒れる風の勢いがやわらぐ
恐る恐る目を開くシンジ
眉間の力が抜ける
すぐ前に立っているカヲルの身体が、わずかに風を遮っている
見上げるシンジ
微笑んで手をさしのべるカヲル
一瞬ためらい、ややぎこちなくその手を掴むシンジ
シンジの様子を見ながら慎重に立ち上がらせるカヲル
その優しさに自分を取り戻していくシンジ
自力で立てるようになるのを見届けてから、そっと手を放すカヲル

 .カヲル「大丈夫だね。…さ、もう少しだ」
 シンジ「うん」

頷くシンジ
こわばった顔で少しだけ笑う
無心にカヲルを見つめる眼差に込められた、隔てのない率直な信頼
一瞬目をとどめるカヲル
表情が翳る前に背を向け、再び階段を降り始める
たどたどしく続くシンジの足音

438 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/05/15(金) 22:40:45.20 ID:4O5OssDwL
乙、読んだ
もう本部ってだけでシンジには辛いんだな…

439 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/05/17(日) 10:13:13.78
ho <ガンバレヨ シンジ…

440 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/05/20(水) 21:50:57.05
ho

441 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/05/22(金) 22:45:54.87
ho

442 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/05/25(月) 22:15:07.97 ID:/4s8s246C


443 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/05/30(土) 22:44:51.89
外階段の途中に設けられた展望所のようなスペース
近くに昇降機らしき古い設備が見える
黒々と切り立つ外壁に打ち当たっては砕ける雲の津波
ささやかな段差にへたりこみ、肩で息をしているシンジ
慣れない防護服の不自由さと高所の緊張続きとで張り裂けそうな五感
荒い呼吸をなだめながら顔を上げる
逆巻く風の中にまっすぐ立つカヲルの後ろ姿
あおられてなびく細い髪と制服のシャツ
他でもない彼の存在に幼い安堵を覚えるシンジ
すぐに引き続く自己嫌悪
他人に用意された場所に甘んじ、ただそこにいるだけの自分
目を伏せてしまうシンジ

 .カヲル「…もうすぐ雲が切れる」

カヲルの声
その声音の底にある張りつめた何か
まだ苦しいながらも、何とかちゃんと頭を起こすシンジ
変わらずこちらに背を向けているカヲル
その向こうに渦巻く一面の雲の幕
稀薄な眩しさに一切の遠近感を塞がれた視界
ふいにその白が薄くなる
カヲルの声が続く

 .カヲル「君の訊ねた真実が見えるよ。…シンジ君」

気流に雲が裂かれ、切れ切れになりながら外階段の下方に流れ去る
青く赤く視界が開ける
息を凝らすシンジ
突きつめた両目がゆっくりと見開かれていく

444 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/06/02(火) 21:23:22.79
ho

445 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/06/06(土) 12:27:18.35
待ち

446 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/06/08(月) 20:52:01.87
ho

447 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/06/10(水) 20:56:03.69
ho

448 :1/8:2015/06/14(日) 23:32:59.89
>>444-447 いつもすみません


露呈された世界の相貌
異様な大きさ、または近さの月
しかしかつての面影はない
月面は青く透ける大気と雲に覆われ、血の色の十字線が無数にその表面を区切る
かすかに見える本来の地表、クレーターや月の『海』
それらが間違いなくこれが地球の月であると証している
空から地上に目を転じても安息はない
異形の眺望
遥か地平線まで真っ赤に染まった大地
林立する巨大な赤い十字架
その足元に小さく見て取れるのは、旧来の人の造った建造物らしい
どれもにじみ出すような赤一色に変じている
地表を大きく裂いた巨大なクレバスの縁には人と同形の巨きな歯がびっしりと生え、
真っ暗な深淵となって、赤い大地に文字通り口を開けている
スケールの狂った風景をいぶかしんで近くへ視線を移せば、地表はかすむほどに遠い
十字形に裂けてめくれあがった大地の奥からこちらへ伸びる一本の線
そうではなく、巨大な塔
地上近くでは赤い色が高度を増すにつれて堅牢な黒となり、頂上で逆方錐形に開く
その高い壁に囲まれてネルフ本部は唯一空にそびえている

449 :2/8:2015/06/14(日) 23:33:25.97
塔と壁の周囲を取り巻く高空の雲の層
高高度の風のとどろきが再び周囲を巻く
声もないシンジ
目の映すものから逃げることもできない
防護服のバイザーを繰り返し曇らせる自分の切迫した呼吸
ふと予感に襲われ、再び地表を覗き込むシンジ
赤い十字架群の下にちっぽけに残されているかつての街の残骸
その各所から空へ伸びている赤い棘の森
瞬きするたびに認識が正される
棘ではなく、いびつに尖った赤い塔群
塔ではなく、互いに群がって空を目指す、赤く染まった人型の物体の群れ
極微の世界に等しい視界の中で、何とかその大きさと形状を見て取ろうとするシンジ
数百数千では収まらない数のそれらは皆同じ形をしている
鋭く吸い込んだ息が喉の奥で鳴る

 シンジ「…あれは」
 シンジ「…エヴァ…?」

ビルや家々を突き破るように生え、その姿勢のまま静止している赤い巨人の群れ
まるで大きくなりながら建物の内部から現れてきたように見える
ただ凝視するしかないシンジ

 .カヲル「…君がエヴァ初号機と同化している間に起こった、サードインパクトの結果だよ」

450 :3/8:2015/06/14(日) 23:33:54.40
呪縛を破られたように振り向くシンジ
風の中で赤い地表を見渡しているカヲル
その目には悲しみも憐憫もない
声をかけられないシンジ
わずかに呟く

 シンジ「…こんな…これじゃ、上の街にいた人たちは、…みんなは」

平静なカヲルの声

 .カヲル「この星での大量絶滅は決して珍しい出来事じゃない。
     むしろ進化を促す側面もあるんだ。周囲の環境に合わせて変化していくことこそ、
     本来の生命の本質だからね。
     だがリリンは、自らではなく、世界の方を変えようとする。世界に合わせて変わる
     ことを拒み、今ある形を維持して生き続けようとする。たとえ世界が寿命を迎え、
     限界を超えて変質を始めても、どこまでも自分のままで生き続けることを望む。
     だから自らを人工進化させるための儀式を起こした。ネルフでは人類補完計画と
     呼んでいたよ」

『ネルフ』の名前にびくりとなるシンジ

 シンジ「ネルフが…これを…?」

うなされる者のように呟く

 シンジ「…うそだ」

451 :4/8:2015/06/14(日) 23:35:00.61
 シンジ(…嘘だ。だって)
 シンジ(ミサトさんは)

   ミサト(それでもね…
      それでも、このリリスを守り、エヴァで戦う、…それが私たち、ネルフの使命なの)
   ミサト(奇跡が起きてセカンドインパクトの惨事が全て元通りになる、そんな都合の
      いい夢は今さら見られないけど、このリリスさえ、守り抜くことができれば…
      いつか、 人はその生命の謎を解き明かし、この星を癒せるかもしれない)
   ミサト(私たちネルフは、やっとのことでセカンドインパクトから立ち直ろうとしてるこの世界、
      ここで生きようと苦しんでる全ての人と生き物に、多大な犠牲を強いている。
      15年前以来ずっとね。みんなそれを知っているわ。知っていてなお、私たちに
      世界の命運を託してくれているの。賭けてくれているのよ)

顔をそむけるシンジ

 シンジ「…ミサトさんは、…ずっと、ずっとみんなのために、って…
     そのネルフが、こんなことを…?
     …嘘だ。だってそれじゃ、…みんな、ずっと、…何のために…! 嘘だ…そうだ、
     父さん、父さんなら、…父さんは、ここで一体何をしてるんだ」
 .カヲル「…シンジ君」

言い聞かせるような口調のカヲル
わずかにためらう
気づかないシンジ
再び口を開くカヲル

452 :5/8:2015/06/14(日) 23:35:31.86
 .カヲル「…シンジ君。
     一度覚醒し、ガフの扉を開いたエヴァ初号機は、サードインパクトのトリガーと
     なってしまった。もはやヒトの形にとどまらない新たな生命体へと変化したんだ」

目ばかり大きく見開いているシンジ
その目だけでカヲルを見る

 シンジ「トリガー…、リリスと…同じ…?」
 .カヲル「そう。リリンの言う、ニア・サードインパクト。
     全てのきっかけは、君なんだよ」

シンジの呼吸が止まる
記憶
甦る赤い破壊の渦
ジオフロントの天井を突き抜けて地上へ、さらに空へと拡大した赤黒い多重渦状輪
形象崩壊した使徒から再構成された赤いレイの姿が初号機に溶け込んでいく
コア自体から噴き出していたまばゆい光の翼
全てを破砕し巻き込んでいく赤い渦
その中心に立つ初号機
シンジの目が揺らぐ
わななく口が開いて、必死に心を守るために拒絶する

 シンジ「…違う…、違う、僕はみんなを、みんなを死なせなくなかったから、
     僕が一人にしたレイが、それでも守ろうとしてた通りに、代わりに守りたかったから」

   シンジ(…どんなに必死でやったって上手くいく訳ないんだ。願ったって叶う訳ないんだ)

453 :6/8:2015/06/14(日) 23:35:56.48
   シンジ(だったら僕はもう待たない。こんな世界なんか、知らない)

突き上げる生々しい意志の手応え
胸元を強く掴むシンジ
息が速くなる

   シンジ(僕は僕が要らない。世界が叶えてくれることを、もう信じない)
   シンジ(だからレイだけは…レイを、今、絶対に、取り戻す…!)

 シンジ「…ちがうんだ」

いつか強く両手で頭を押さえて上体全部でうなだれているシンジ
カヲルの方を見られない
足元の赤く錆びた鉄板が風に鳴っている
隙間から見える下方の雲層、そして変わり果てた地上の眺望
必死に目をつむるシンジ

 シンジ「…僕はそんなこと望んでない。そうなるなんて知りもしなかったんだ。
     僕はただ、レイを助けようとしただけだ。一人だけで行ってしまったレイを、もう一度、
     …だってあんなの、あんな…死に方、あんな終わりなんて、ない。…そう思ったから」

454 :7/8:2015/06/14(日) 23:37:44.93
深い悲しみの垂れる目でシンジを見るカヲル

 .カヲル「…そうだね。
     でも、結果としてそれが全てを動かすキーになってしまった。君が何も知らず、何も
     惨状を望まなくても。…いや、何も知らなかったからこそさ。純粋に願ったからこそ、
     エヴァを覚醒させる、最も有効な原動力となってしまったんだ。君の心がね」
 シンジ「…そんな…
     そんなの知らないよ。知らなかったんだ、誰もそんなこと言わなかったんだ! 何も
     言わず何も教えてくれずにただ使徒と戦えって…みんながそう言ったんじゃないか!
     …僕じゃない、僕には関係ないよッ!!」

醜い利己心を自覚しながら抑えられないシンジ
自分がどんどん汚れて醜悪なものに変わっていく焦燥
実は最初からそれが自分の本当の姿だったのではないかという疑念
皆もそうだと知っていたのではないかという恐怖

 .カヲル「だが事実として、リリンは君に罪の代償を与えた。それがその首のものなんだろう」

はっとするシンジ

455 :8/8:2015/06/14(日) 23:38:50.37
今も喉元を締めつけているDSSチョーカー
どんなに忘れようとしても常に自覚させられるその感触と重さ

   リツコ(これは私たちの保険。
       あなたへの罰。そしてあなたに対する、私たちの不信の象徴)

激しくかぶりを振るシンジ

 シンジ「罪…罪って、何だよそれ、何が罪なんだよ! …エヴァに乗っただけじゃないか!
     父さんもミサトさんもリツコさんも、ネルフの人たちも、みんなして僕らをエヴァに乗せて
     おいて…違う、違うんだ、僕も、レイも、…悪くなんかないッ!!」

底なしの青空、変質した月、赤い地上、雲の津波、咆哮する風
周囲の全てを拒絶してうずくまるシンジ
最後にかすかにカヲルの声が聞こえる
自分に言い聞かせているような言葉

 .カヲル「ただ…償えない罪はない。…希望は残っているよ。どんな時にでもね」

頑なに動かないシンジ
再び眼下からせり上がってきた雲の波濤が視界を白く呑み込む
隠されても厳然とそこにある世界

456 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/06/15(月) 22:52:58.28
ho <オツー
ho <ツイニキタカ…

457 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/06/17(水) 17:53:33.36
乙、読んだー
「僕もレイも悪くない」ってとこにちっと考えさせられた
確かにシンジの行動が罪ならその原因たるレイも罪に連座させられかねないからな
ただしシンジがそう捉える可能性があるのは、レイだけは自分の味方だ(下手すりゃ自分と一体化した存在)と見てる場合だな
「僕のせいじゃない、僕には関係ない」とだけ言ったQ本編のシンジはどうだったんだろうな
レイ(黒波)の態度がおかしいから傷つく前に無意識に心理的に距離を置いてたのか、
それとも「レイも悪くない」などと考える手間も必要ないほどレイは無垢だと信じてたのか

とにかく面白かったわ、次も期待して待ってるよ

458 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/06/20(土) 10:18:27.20
おつ

459 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/06/22(月) 22:33:22.23
待ち
続き読みたいよ、がんばれー

460 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/06/27(土) 22:08:43.28
ho <…

461 :1/6:2015/06/29(月) 15:24:39.85
>>456-460 本当にすみません、がんばります


からからに乾いた喉
防護服のフェイスプレートの内側に反響する自分の呼吸音
涙に揺すれる狭い視界
均衡を失いがちな身体の重たさ

 シンジ(…エヴァに乗っただけだ。僕も、レイも)

強く分厚く聴覚を圧してとどろき続ける絶え間ない風鳴り
覆いかぶさっては流れ去る白い雲の波濤

 シンジ(みんなの言う通り乗ってただけだ。僕は。…レイも。
     …カヲル君も、アスカも、2号機のあの子だってきっと。自分から乗るわけない)
   マリ(エヴァに乗るかどうかなんて…そんなことで悩む奴もいるんだ)
   マリ(だったら早く逃げなよ。君はもう、降りたんでしょ)
 シンジ(…違う、逃げたくなかったんだ。だから戻ったんだ、父さんと初号機のところへ。
     せめてレイからは逃げ出したくなかったから)
 シンジ(戻ってエヴァに乗って、戦って、誰もが見捨てたレイを、助けたんだ。
     どうしてそれがあんなことにならなきゃいけないんだよ)

脳裏いっぱいに喚きたてる必死の自分の声の幻聴
論理、いや言葉以前の子供じみた弱音、否定、言い訳、逃避
とぎれとぎれに現実へと焦点を結ぶ意識
大きくぐらついた身体が強く引かれ、再び登攀の軌道に戻される
虚ろな顔のまま瞬きするシンジ

462 :2/6:2015/06/29(月) 15:25:28.13
顔の前で揺れている自分の腕
それを掴む白い手
前に立って頼りないシンジを支え、不安定な階段を登らせている、カヲルの存在
今初めて気づいたかのように見上げるシンジ
少し振り向くが足を止めないカヲル
またぐいと手を引かれ、導かれるままにただ両脚を動かすシンジ
再び雲の津波が逆巻いて視界を呑み、黒い外壁全体が重くどよめく
麻痺した時間
ひたすら身体を上へ持ち上げるだけの繰り返し
何もかもが何重にもぼやけてくる
ぶつかってくる雲の幕も、風にびりびり震える階段の鋼板も、錆びて滑る鉄鎖も
いつのかもわからない砲撃が高い壁に穿った無数の穴も
苦しい息も、破裂しそうな心臓も、疲れて上がらなくなった足も
揺らぎ続ける自分の体感も
頭上のどこかに聳えている異相の月
足の下、雲海の彼方の赤い地表
14年前そこにいた人々
全てが衝撃と疲労でかすみ、どうでもいいことになって遠ざかろうとする
シンジの足が次の段を踏み外す
声もなく無抵抗にその場にくずおれるシンジ
数段ずり落ちて止まる膝と腰
そのままの姿勢で顔も上げないシンジ
唯一持ち上がっている片腕をぼんやりと見やる
腕の先の自分の手
それを堅く掴んで引き止めているカヲルの手
何よりも確かな感触
けれどもう繋いでいることすら億劫で、指の力を抜くシンジ

463 :3/6:2015/06/29(月) 15:26:11.59
カヲルの手にさらに力がこもる
漠然とそれを感じ取るシンジ
なぜ離さないのか、わからない
なぜ見捨てないのか、わからない

 シンジ(……僕は、全部、駄目で、…もう、どうしようもないのに)

顔を伏せるシンジ
長い沈黙
とどろく風圧と雲の白さだけが何度も何度も押し寄せては引き、また席捲する
ゆっくりと瞬きして、目で見ることを思い出すシンジ
あるかなきかに押し殺された自分の呼吸
鈍く頭をもたげる
まだそこに足を止めているカヲル
強く掴む手
無数の白の陰影を見せてはためく雲の壁に向けられた厳しい横顔
その顔が振り向き、シンジを見つめ、けれど何も言わない
ただ変わらずそこにいる
行き場のない嫌悪を胸にうなだれるシンジ
疲れきった全身の重さとだるさ
抗いようのない無気力
果てしなく続くような危うい古い階段

 シンジ「…もう、無理だよ」

呟くシンジ
それでも時間をかけてぎこちなく立ち上がり、よろめきながらカヲルの手を握り直す
再び無言で登り始める二人

464 :4/6:2015/06/29(月) 15:27:10.08
重く軋みながら止まる昇降機
扉が開く
見慣れた本部上部階層の床が広がる
もう一歩も歩けないシンジを抱えるようにして昇降機から下ろすカヲル
最初に目についたベンチに座らせ、防護服のロックを解除してヘルメット部分を外す
塞がれたような視野から解放されて大きく息をつくシンジ
そのまま背後の壁に頭をもたせかける
そこだけは変わらない空白の天井を仰ぐ
上体がふらつき、バランスが崩れる
抗おうとしないシンジ
そのまま横倒しになりかけた身体をカヲルの手が支え、ついで自分も隣に腰を下ろす
引き寄せられるでもなく単に重力のままにカヲルの肩に頭を預けるシンジ
他人の感触に戦慄する
今すぐそこで自分とは別の人間が息づいている
DSSチョーカーに締めつけられた喉が大きくひくつき、わななく
こらえきれず泣き伏すシンジ
外界の見せた全ての暴力的な印象が幾つもの嗚咽の塊になって押し出される
肩に優しく置かれるカヲルの手
全身がどうしようもなく震える
方途を見失った自己嫌悪
自分しかいないのに、その自分を許すことができない
他人は恐怖でしかない
なのに他人の生きた感触は何よりも傷ついた心を和らげる
恐ろしさに砕けそうなシンジ
自分がわからない
わからないのに、生きているしかできない
痛ましさを隠さず見守るカヲル
一人思いに沈む

465 :5/6:2015/06/29(月) 15:27:52.92
居室のシンジ
部屋の隅に脱いだままの形で放置されている防護服
ベッドに突っ伏しているシンジ
両耳にはイヤフォン
が、顔の傍に放り出されたSDATは電源を落としたまま動いていない
のろのろと壁の方へ顔を向け身体を縮めるシンジ

 シンジ「…謝らなきゃ、カヲル君に」

かすれた声
呟くだけで動こうとしないシンジ
何も言わず、振り返りもせず、ただ拒絶して逃げ出してきてしまったカヲルのことを思う
思うだけで慕わしさと恐怖が同等にこみ上げる
ぐっと泣き声を押し殺すシンジ
取り戻したと思っていた自分の意志が、これほど脆いものだったことに打ちのめされる
はれぼったい目がSDATの方を向く
呟く

 シンジ「…レイのところに、行かなきゃ。…約束、今日じゃないか」

小さくなって消える声
上っつらの嘘だと自分でわかる
それでも何度も口を開いて、せめて自分に言い聞かせようとするシンジ
もう声にもならない
断続的に襲う赤い現実の光景
それに重なるレイの面差
今会ったら必ずレイを責める
そうやって懸命にちっぽけな自分自身を守ろうとする、自分の弱さと醜さが露呈する
そしてレイはきっと何も言い返さない
鋭く息を呑み、必死で目をつむり両耳をふさぐシンジ
無人の夜が部屋を包囲している

466 :6/6:2015/06/29(月) 15:28:45.78
室内のレイ
もう何度目か、立っていってカーテンを細く開く
巨大な地下施設の闇
レイの部屋の明かりを目指して向かってくる姿はない
無自覚なごくかすかな溜め息
カーテンを閉じる
プラグスーツの手を持ち上げて指を折るレイ

  レイ「…一昨日が、キョウ。昨日が、アシタ。だからあさっては、今日」

力なく指をほどき下ろされる手
うつむくレイ
自分の中にある初めての重いざわめき
知らない自分
未知の自分
無知の自分
もう一度立っていくレイ
外の暗闇に人影はない
心もち虚ろな表情で戻るレイ
卓上に放置されている数冊の本に目をとめる
シンジと一緒に取りにいった事実以外、自分とは何の関わりもない物体
空っぽの眼差で見つめているレイ

  レイ(これは私じゃない)
  レイ(なら、私は、何)
  レイ(…私は)
  レイ(…わかるように、なりたい)

意識せず声に出して呟くレイ

  レイ「私は、私に、なりたい…?」

467 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/06/30(火) 22:38:52.96
ho <オツー!
no <クロナミ…

468 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/06/30(火) 22:56:05.31
きてたー!乙!
子供たち、しんどいね…

469 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/07/04(土) 09:23:27.48
うお、来てた

カヲルの表情?もなんか気になるな

470 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/07/08(水) 22:19:35.20
ho

471 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/07/10(金) 00:43:40.88
くろなみー

472 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/07/14(火) 00:51:37.79


473 :1/7:2015/07/14(火) 23:37:39.79
早朝の旧ケイジ
蓋を開いたピアノの前に座ったカヲル
両手は膝の上で軽く握られている
冷たい高空の風が傍らの木の枝葉を揺らす
見慣れた鍵盤をどこか虚脱した目で見つめているカヲル
もうずっとこの姿勢を崩せないでいる
ふいに強く目をつむる

   シンジ(何が罪なんだよ! 違う、…違うッ、僕もレイも、悪くなんかない…!)
   シンジ(こんな…これじゃ、上の街にいた人たちは、…みんなは)
   シンジ(前に僕の周りにいた、みんなは)
   シンジ(誰も僕に合わせる余裕がないんだ。だから僕は自分で皆に追いつかなきゃ
       いけないんだ。…何もできないまま終わるのだけは嫌なんだ。レイのことも)
   シンジ(…やっぱりレイは僕のこと全部、忘れちゃったのかな。
       そんなものだったのかな。一緒にいたことも。でもレイのことは、責めたくない。
       …レイが悪いんじゃない。それなら僕だけが悪いって思う方が、ずっとましだ)
   シンジ(僕は…レイのこと、怖いのかもしれない)
   シンジ(…ッ、カヲル君まで、変なこと言うなよ! レイのこと何も知らないで!)

ゆっくりと頭を垂れていくカヲル

   カヲル(…答えを急ぐ必要はないよ。それはもう君の中にある。君自身の望みとしてね。
      今は自分の気持ちを歪めず認めればいい。そして心の余裕を取り戻せたら、
      約束を果たしに行けばいいのさ)

474 :2/7:2015/07/14(火) 23:38:21.46
目を開くカヲル
嫌悪の表情

 カヲル(…嘘では、なかったのに)

   シンジ(レイは、僕のことを)シンジ(僕にとってレイは)シンジ(レイが)シンジ(レイ)

大きく息を吸い込むカヲル
やり場のない胸の底の濁りを吐き出そうとして、果たせない
ただ静かに息をする

 カヲル(…君にとっては、君の周りにいた人たちこそが大切だったんだね。
    今もなお。…そう、わかっていたよ。ずっと知っていた。君が望んでいることだから、
    それは、もう僕には曲げられない)
 カヲル(ただ、君がそうして、いつまでも、かつてあった世界を見ようとし続けるのなら)

   カヲル(お帰り。ずっと待っていたよ)

 カヲル(…僕のことは、いつ、思い出してくれる…?)

喉の奥で苦鳴を押し殺すカヲル
濁った自分への痛烈な嫌悪と悔い
刺すような怒りの涙
異相の月と赤い地表から目を逸らすこともできず震えていたシンジの姿
全て承知してその外界を見せた自分の本当の心
揺らぐ

475 :3/7:2015/07/14(火) 23:39:07.92
苛立ち 不安または憎しみの萌芽 理解されることへの切実な欲求
脆弱に成り下がった自分への失望
ゆっくりと右手を持ち上げ、鍵盤を一つ押すカヲル
一つだけの音が澄んで空間へ伸びていく

 カヲル「…ごめん」

   シンジ(…君だけだ。こんな僕のこと、まだ見ててくれるのは。…カヲル君)
   シンジ(僕は、…ここに来られて、良かった。…また会えて、本当に嬉しいよ)

魂をさらけ出すように率直な信頼をあらわにしていたシンジ
その傷心、自己嫌悪、慰藉への恐怖とわずかな希望
カヲルを見るシンジの眼差
そこにいつも込められていたもの
そこにいつも望んでいたもの

 カヲル「…慰めを与えられていたのは、僕の方だったんだね」

わびしげに微笑するカヲル
深い空を仰ぐ

476 :4/7:2015/07/14(火) 23:39:52.14
地下施設のLCL槽に浮かぶレイ
目を閉じずに待っている
外の暗闇
訪れはない
それでもなお待ち続けるレイ

  レイ(…わたし、なぜここに生きてるの)

もう一人のレイの記憶

  レイ(何のために)

黒々としたイメージの交錯

  レイ(誰のために)

来なかったシンジの面影と、エヴァを離れては何もできなかった自分のこと

  レイ(わたし…何もなかった、そう思っていたのに)

心の中に浮かぶ幾多の像とそれが喚起する揺らぎをどうしていいか知らないレイ
ただ感じ取る

477 :5/7:2015/07/14(火) 23:40:51.07
今この身体が伝えてくることが全て
儚く流れ去るあらゆる感覚
もう一つの身体、エントリープラグを通して繋がるMk.9を思う
Mk.9の手のひらとATフィールドとが包み込んで繋ぎ止めていた、シンジの命

  レイ(前は、エヴァに乗ることにも、何も感じなかったのに)
  レイ(…今は)
  レイ(……まだわからない。ただ、少し、アタタカイ)
  レイ(だから…わかりたい)
  レイ(ここにいるわたしの意味。エヴァに乗れることの意味)
  レイ(…だから、待っている)
  レイ(わたしは)

LCLの泡が立ち昇る
かすかな感触が漂う身体を撫でていく
見開いた両目をいつまでも闇に凝らしているレイ

478 :6/7:2015/07/14(火) 23:41:26.71
SDATのイヤフォンで両耳を塞いだシンジ
あてもなく無人の廊下を歩く
どこまで行っても荒廃の気配のほか何もない
鈍い感覚のままに適当に通路を曲がり、空洞に等しい施設内をさまようシンジ
ふいにつんのめるように足が止まる
ぼんやりと瞬きし、ほとんど痛みとして把握するシンジ
この経路を行けばピアノのある旧ケイジに行き着く
それをどうしても拒む自分自身の身体
麻痺したように動こうとしない両脚
頭を垂れてしばらくそこに佇んでいるシンジ
やがて顔を上げないままに向きを変え、引き返してまた別の経路へ踏み込んでいく
イヤフォンの中は無音
自分の身体の反応だけが嫌というほど知覚される

      碇(また逃げ出すのか)

シンジの口元がひきつり、固く唇を噛む
足運びが乱暴に、投げやりになる
乱れた足音が廊下の空虚に吸われていく

 シンジ(…逃げる以外、何ができるって言うんだよ。…今さら。
     もう、全部、駄目になってたんだって、わかってしまったのに)
 シンジ(父さんは…逃げてないのか)

479 :7/7:2015/07/14(火) 23:42:22.56
 シンジ(レイと一緒にこんなところにこもって。あんな風になった街や地面から離れて。
     またエヴァを造って。…それは、本当に、逃げてないことなのか)
 シンジ(逃げてないなら…一体、何をしてるんだ。…父さん)
 シンジ(わからない。ずっとわからないよ。父さんは何がしたいんだ。僕やレイやカヲル君や、
     エヴァを使って、これ以上、何をしたいんだ。この死にかけた世界に。
     …ミサトさんたちがあんなに止めようとするような、何を)

力なく肩を落とし歩いていくシンジ
もはや惰性に近い動作を自覚するが今さら気もとがめない
全身を圧する無力感
何もできない、何も知りえない、他人の思惑のまま動かされるだけの自分
現実から遊離していく心
レイとカヲルのことだけがわずかに胸に刺さっている
にじむ涙になる
ぼやけた視界に人影
のろのろと目をみはるシンジ
長身の姿がベンチから立ち上がる
シンジを見下ろす冬月
14年の歳月が無残な苦闘の痕を刻んだ顔
変わらず強い目に、会釈して通り過ぎようとするシンジ
背後から呼び止める声

 冬月「…第三の少年。将棋はできるか」



読んでくださった方に感謝します

480 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/07/15(水) 21:58:57.47 ID:l0siabFER
おつ
ついに来ちゃったね…
暑いから無理せずがんばれー

481 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/07/15(水) 22:38:45.83
乙、悔しいけど面白いわ(失礼)
ここのシンジやカヲルや黒波が好きになってきたよ
どんなQになってくのかすげー楽しみ、今後も待ってます

482 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/07/21(火) 22:17:56.18
ho <オクレタケド オツー
no <アツイナー…

483 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/07/25(土) 09:41:09.61
待ち
暑いねえ

484 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/07/29(水) 00:35:23.02
ho

485 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/08/02(日) 21:27:34.60
まだ待ち

486 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/08/05(水) 21:49:56.88 ID:LqF0i234y
ho

487 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/08/09(日) 21:34:05.85
ho

488 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/08/14(金) 21:48:44.68


489 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/08/18(火) 23:16:55.08


490 :1/8:2015/08/20(木) 23:59:17.44
随分長く間を空けてしまってすみません
本当に有り難いというか、申し訳ないです


真っ暗な部屋
室内はかなり広いようだがほとんどが闇に溶けている
一箇所ぽつりとともった灯りの下に対座するシンジと冬月
間には年季の入った将棋盤
駒を取り上げて置く音がぱちりと響く

 冬月「…心を静かに落ち着かせる。戦いに勝つためには必要なことだ」

盤上だけを見つめている二人
ちらりとシンジの様子を窺う冬月
頑なな痛みを見て取り、視線を戻す

 シンジ「…まだ、戦わなきゃいけないんですか」

無言で次の駒を動かす冬月
自分の駒を手に持ったまま少しの間動作を止めているシンジ
やがて、こらえていた息を静かに吐き出す
投げやりに置かれる駒

 冬月「己に望むものがある限りはな。戦って勝ち取るしかないならなおさらだ」

手加減なしにシンジの駒を取る冬月

491 :2/8:2015/08/20(木) 23:59:40.04
 シンジ「望むものって…何なんですか。
     父さんは何が欲しくて、何と戦ってるんですか」

正座したシンジのすぐ脇に、コードが絡んだまま投げ出されているSDAT
手を止める冬月
うつむいているシンジ

 シンジ「使徒とですか。14年も経ってるっていうのに、まだ使徒が来るんですか。
     …それに、仲間だったミサトさんたちとまで、戦ってる。…何のために。誰のために」

言いつのりながらも顔を上げないシンジ

 シンジ「…レイのためじゃ、ないですよね。…今さら。
     本当にレイのこと思うなら、もう、絶対にエヴァに乗せたりなんかしない。
     父さんは何を考えてるんだ。レイや皆を…この世界を、どうしたいんだ」

独白のようにしだいにしぼんでいく声
痛々しげに見つめる冬月
沈黙
ぐっと膝を掴むシンジの手

 シンジ「…また、僕は何も知らなくていいんですか。
     エヴァに乗ってさえいれば、…エヴァさえ動けば、それだけでいいんですか」

492 :3/8:2015/08/21(金) 00:00:12.11
無言の冬月
一人ひび割れたような笑みを浮かべるシンジ
押さえつけられたように深く頭が垂れ、両肩が沈む

 シンジ「…そうですよね」

動じない冬月の気配

 冬月「…31手先で、君の詰みだ」
 シンジ「……」

言葉もなくうなだれているシンジ
思いがけず、困惑したような長い溜息を洩らす冬月
人間らしい動きにはっとなるシンジ

 冬月「老人の趣味に付き合ってくれて、礼を言う。
     …私も臆病でね。こうして君と対面していても、どこから話していいのか、
     いまだに迷っている。こんな口実でもなければ向き合うこともできなかったろう」

落ち着いた動作で用済みの駒たちを集める冬月
盤上へ初期配置に並べ直していく
ただ身体を硬くしているシンジ

 冬月「…君は、お母さんのことを覚えているかね」

493 :4/8:2015/08/21(金) 00:02:23.52
 シンジ「…いえ。…母のものは、写真も全部、父が処分してしまいましたから」

駒を置く音が中断し、シンジの眼前に一枚の写真が差し出される
幼い子供を抱く幸せそうな女性と彼女を囲む人々の姿
目を離せなくなるシンジ

 シンジ「…レイ…?!」

女性の笑顔には確かにレイの面影がある
優しく抱かれている子供を恐ろしい予感とともに凝視するシンジ
ごく小さい男の子は何も知らずに周囲の人々に目を向けている
女性が抱いているのは一人の子供だけ
もう一人の姿はない

 冬月「碇ユイ。旧姓は綾波ユイ。大学では私の優秀な教え子だった。
     今は、エヴァ初号機の制御システムとなっている」

予感が弾ける
息を呑むシンジ
闇の向こうで重たい軋りが響く

 冬月「…ようやくここも電源が復旧したか」

複数の斉射のような音を立てて照明が生き返る
まだらな闇
顔を上げたシンジの視線の先、巨大な管制窓の向こう側に開ける異様な空間

494 :5/8:2015/08/21(金) 00:03:49.67
ネルフ本部のエヴァ起動実験場を思わせるスケールの狂った無機質な部屋
頑丈な特殊鎖が何本も巻き上げられ、磔刑の形のヒトの鋳型を吊り下げていく
どこかエヴァの拘束壁にも似た十字架型に生々しい空洞がうがたれている
ひたすら目を見開いているシンジ

 冬月「ごく初期型のエヴァの制御設備だ。君のお母さんが消えた場所でもある。
     彼女が発案した、コアへのダイレクトエントリーを、自ら被験者となって
     実行した。君も見ていたよ。記憶は消去されているだろうがね」

凍りついているシンジ
閃く記憶の影 巨大な人型の上に犠牲のように吊り下げられた女性の姿
淡々と語る冬月の声

 冬月「結果、彼女は失われた。だが彼女を構成していた情報は残された。
     それが、君とともに母親の消滅を見ていた、君の双子の妹だ」

びくりとするシンジ
小さな自分の手を握りしめる別の小さな手の記憶
照明が切り替わる
冬月の背後の闇に隠されていたものがあらわになる
幾重にも重なる高い棚の列
蜂の巣構造をなす六角形の各スペースにまちまちな向きで置かれている丸いもの
ヒトの頭部
目を開いたまま、崩れてもいない、大量のレイの首
シンジの動きが完全に止まる

 冬月「ダイレクトエントリー以前に進められていた、適格者の開発実験。その行き着いた先だよ」

495 :6/8:2015/08/21(金) 00:05:54.08
 冬月「エヴァと神経接続可能な検体を人工的に造り出し、成長させ、教育を施して
     専属パイロット…いや、生体モニターとする。そういう計画だった。
     しかし胚はどれも育たなかった。ユイ君が自分の子宮に着床させ、自分の子と
     ともに通常のヒトと同じ受胎期間を経験させた、ただ一つを除いて」

シンジの両目がレイの顔たちの上をさまよう
赤い薄闇の中からこちらを見ている目、目、目

 冬月「最初の『レイ」はそうして生まれた。その意味では、君とレイは、確かに同じ母親の
     胎内から一緒に産まれた双子だ。ヒト遺伝子情報としては、そのほとんどが
     ユイ君から転写された彼女の形質を受け継いではいるがね」

首の並ぶ棚を見渡す冬月

 冬月「彼女を複製して造られたのが最初の成功例だ。
     適合検体第一群。
     第一の少女。ファーストチルドレン。『綾波シリーズ』。
     呼び名はさまざまだ。ただ、自ら産んだあの最初のレイ、他の全ての複製体の
     情報基源となったあの子供のことは、ユイ君はあくまで、碇レイと呼んでいたよ」

   冬月(…何という真似をしたんだ! 母胎…君の身体が無事で済む保証はどこにも
       ないんだぞ! 当然、一緒に受胎している君の本当の子供もだ!)

496 :7/8:2015/08/21(金) 00:06:44.24
   冬月(碇も…いや、碇が気づかないはずがない。まさか意図的に…何を考えているんだ、
       あの男は…!)
    .ユイ(いいえ、冬月先生。私があの人にお願いしたんです。
       一緒にあなたの子供が産みたい、と。あの人はその願いをわかってくれました。
       必ず、産んでみせます。それにこの子たちは二人とも、私の子供ですわ)

   冬月(…また、君が自ら被験者になるというのか)
    .ユイ(私が消えても、この子には、明るい未来を見せてあげたいんです)

 冬月「ユイ君は今も初号機の中にいる。君の『妹』であるレイも、今はともにそこに
     保存されている。全て、碇の計画だよ」

震えることもできないシンジ
恐ろしい光景に釘付けにされた両目
将棋の駒を並べ終える冬月
元の通りに整った盤上

 冬月「世界を壊すことは造作もない。だが、それを作り直すとなるとそうはいかない。
     時の流れと同じく、世界に不可逆性はないからな。…人の心もまた。
     だから碇は今、自分の願いを叶えるために他のあらゆるものを犠牲にしている。
     自分の魂さえもだ。それが今も続いている、碇の戦いだ」
 シンジ「……」

ひどく重いものを動かすようにして、ようやくレイたちから目を逸らし、うなだれるシンジ
両膝の上で力なく握られた手
少し目を伏せる冬月

497 :8/8:2015/08/21(金) 00:07:26.96
 冬月「…君には酷い仕打ちだったな。何もかも受け入れ難いことばかりだろう。
     だが、君には少し両親のことを伝えておきたかった。父親の真実も」

やがて、虚脱した動作で立ち上がるシンジ
無意識にSDATを掴み、部屋を出る前に冬月に他人事のように一礼する
背を向ける
既に肌に馴染んだものになってしまった喉のDSSチョーカー

 冬月「…老人の感傷に付き合ってくれて感謝する」

立ち去るシンジの足音
雲を踏むように頼りなく不安定に揺れて遠ざかっていく
彫像のように座した冬月
耳障りな機械音とともに照明が落ちる

 冬月「…厭な役目だ」

盤上に残された写真
切り取られた幸せな過去の一場景
見つめる冬月

 冬月「これで、良かったんだな。ユイ君」

498 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/08/21(金) 07:09:43.37 ID://vyTCG+E
テスト

499 :1/7:2015/08/21(金) 07:23:36.49
闇に沈む地下施設
下層のLCL槽が放つ光がわずかに空間の下部を照らしている
灯りもなく真っ暗なレイの部屋
外壁を背にうずくまっているシンジ
遠くから足音
近づいてくるそれをただ聞いているシンジ
うつむいた顔の前にレイの黒いプラグスーツの足が現れ、立ち止まる
沈黙
圧倒的な闇の底を震動させている機械群の稼動低音
眼前に揃えられたまま、動かないレイの両足
その場を離れないでいる
または、そこにいるだけで何もしない
もうどちらなのかわかりきれないシンジ
投げやりに呼吸する

 シンジ「…なんで、何も言わないんだよ」

押し殺した低い声
無言のレイ

 シンジ「何で来なかったんだって訊くとか、約束破ったってなじるとか、がっかりさせたって
     責めるとか…そういうの、何もないの」

動かないプラグスーツの爪先

500 :2/7:2015/08/21(金) 07:24:22.92
 シンジ「何も…ないんだね」

大きく息を吐き出し、ぎこちなく立ち上がるシンジ
顔は深くうなだれたままレイを見ない
ポケットから垂れ下がっているSDATのコード
黙って立っているレイ
最後の幻想が滅びていくのを感じているシンジ
最初から勝手な幻想に過ぎなかったことを噛みしめるシンジ
目の前にいる見知らぬ少女

 シンジ「…わかったよ」

それでも、繋がっていた記憶にすがりつこうとするシンジ
無駄と知っても言葉に出してしまう

 シンジ「…ねえ、レイはレイだよね」
  .レイ「そう。イカリ・レイ」
   シンジ(レイはレイなんだから)
   シンジ(碇レイ。僕の双子の妹だ。他の誰でもないんだ)

シンジを見つめているレイ
自分の意志でまっすぐに視線を預ける
どうしてシンジがこの問いを発しているのか、理解したいと願う自分を意識する
繰り返す

  .レイ「碇、レイ」

501 :3/7:2015/08/21(金) 07:25:43.64 ID://vyTCG+E
顔を上げないシンジ

 シンジ「…だったら、…あのとき、助けたよね…?」

黙って見つめるレイ
答えを持たない
シンジの望む答えを持っていない
心の中に何もない

 シンジ「…助けたじゃないか。手を掴んで、使徒の中から助けただろ…?
     ねえ、そうだろ? 覚えてるだろ?! ねえレイッ、レイが言うなら信じる。信じるから、
     僕のこと、…お兄ちゃんッて、呼べよ…!!」

面を伏せたまま激昂するシンジ
感情の爆発に自ら突き落とされ、さらに頭を垂れて荒い息をつく

 シンジ「…呼んでよ…」

懇願
まっすぐシンジを見つめているレイ
その顔がかすかに翳る
口を開くレイ

  .レイ「…知らない」

502 :4/7:2015/08/21(金) 07:26:34.86
無心な言葉、嘘のない言述
両目を見開くシンジ
涙が視野に満ちる

  .レイ「…、!」

伸ばしたレイの手が空を切る
正面に立つレイの身体を押しのけるようにしてかわし、重たい足取りで歩いていくシンジ
振り向くことなく立ち去っていく
半身を返してその姿を目で追うレイ
呼び止めるための言葉を持たない
他人を呼んだことがない
知らない
レイの呼吸がわずかに震え始める


ただ歩くために歩くシンジ
交互に足を前に出す
操り人形のような自分の身体
本部施設の荒れた通廊が視界の中でぐるぐる回り始める

 シンジ(…やっぱり、繋がってなんかなかったんだ)

     碇(シンジ、お前は時が来たらこのエヴァに乗れ。話は終わりだ)
        碇(乗るなら早くしろ。でなければ帰れ)

503 :5/7:2015/08/21(金) 07:33:34.19
 シンジ(…父さん)

        碇(レイの食事、お前が作ってるのか。…変わりはないか)
       シンジ(あ…うん。元気だよ、レイ。最近、前よりちゃんと食べるようになったんだ)
        碇(そうか)

    レイ(知らない)

 シンジ(繋がって…なかったんだ)

       シンジ(だったらもういい。だけどレイだけは、今、絶対に、取り戻す…!)
       シンジ(レイ、みんなのこと、ありがとう)
         レイ(ごめんなさい。何も、できなかった)
       シンジ(馬鹿だな、謝らなくたっていいんだよ。レイはレイでいい。僕は、レイが
           帰ってきてくれただけで、…生きててくれるだけで、それでいいんだ)

    レイ(知らない)

 シンジ(…覚えてないんじゃなかったんだ。
     最初から知らなかったんだ。…助けて、なかったんだ。あのとき)

   カヲル(全てのきっかけは、君なんだよ)

504 :6/7:2015/08/21(金) 07:34:26.72
空を貫く赤い力の渦の記憶
不毛の赤一色に変わり果てた地上の眺望

 シンジ(…だから、だったんだ)

    ミサト(あなたはもう、何もしないで)
   アスカ(あんたには関係ない)
    リツコ(あなたへの罰。そしてあなたに対する、私たちの不信の象徴)
   サクラ(エヴァにだけは乗らんといてくださいよ。ほんま勘弁してほしいわ)

    ミサト(レイはもういないのよ)

 シンジ(…最初から、もうレイはいなかったんだ。僕が助けられてなかったから)
 シンジ(助けてなかったんだ。ただ、この世界を壊しただけだった。だから皆は、僕を)
    ミサト(あなたはもう)
 シンジ(何をしても無駄だったんだ。僕だけがわかってなかった。だから誰もが、僕を)
    ミサト(何もしないで)

   カヲル(…現実に直面し、唯一繋がっていたよすがに幻滅させられて、どうしていいか
       わからずにいるんだね。君自身は今も、何かしたいと望んでいるのに。
       彼らに恐れられたり、憎まれたくはなかったのに。恨んでしまいたくはないのに)

 シンジ(そう、初めからそうだったんだ。…僕だけが、何もわかってなかったんだ)

   カヲル(ただ…償えない罪はない。…希望は残っているよ。どんな時にもでもね)

 シンジ(うそだ)

505 :7/7:2015/08/21(金) 07:36:27.45
 シンジ(そんなのは嘘だ。…だって、何にもならなかったんだ)
 シンジ(全部無駄だったんだ)
 シンジ(僕のしたことは…全部)
 シンジ(何もかも)

     碇(エヴァに乗れ)
    ミサト(…もう、何もしないで。あなたはもう、エヴァには関わらなくていいの。お願いよ)
    アスカ(あんたには関係ない。これは、あんたのせいじゃないもの)
       マリ(君はもう降りたんでしょ。だったら早く逃げなよ。エヴァから)
     レイ(…ごめんなさい)
     レイ(知らないの)
     碇(エヴァに乗れ)


 シンジ「何…やってたんだ、僕は」

居室のベッドの壁側に腰を下ろしているシンジ
ベッドと壁の作る狭い隙間に閉じこもるようにうなだれる
固い壁面に押しつけた額
冷たい汗が伝う
重いまぶたをこじ開けるシンジ
さまよっていく視線
目が、身体の脇に投げ出されているSDATを捉える
止まる呼吸
瞬間、絶叫するシンジ
渾身の力で放り捨てられるSDAT
部屋の向こう側の壁にぶつかり、鈍い音をたてて床に落下する
耳を塞ぎ固く目を閉じて、何もない壁面にすがるシンジ
何もない時間の堆積がのしかかる

506 :1/4:2015/08/21(金) 07:48:01.29
光の射す旧ケイジ
明るい静寂
ピアノの前に一人で座っているカヲル
軽い足音が近づき、傍で止まる
動かないカヲル
黒いプラグスーツ姿で佇んでいるレイ
ピアノを見つめる
ためらいながら手を伸ばし、柔らかい艶を放つピアノに触れてみる
感触は何も伝えてこない
傍の樹木の葉が静かにざわめく

 .カヲル「…どうしたんだい?」
  .レイ「…今日は、音、出さないの」
 二人「「!」」

同時に発した言葉が宙で重なり、二人同時に息を呑む
瞬きするレイ
思い出す何もなく、ただ今の出来事に驚いている
そのことに自分で傷ついたように目を伏せる
レイの変化を見て取り、微笑むカヲル

 カヲル「…うん。弾かないよ」

507 :2/4:2015/08/21(金) 07:48:54.09
顔を上げるレイ
言葉を探す

  レイ「…、なぜ?」
 カヲル「音が、走り出さない。…寂しい、のかな」
  レイ「音が?」
 カヲル「そう。二人で弾く楽しさを知ってしまったから、一人ではもう、以前のような喜びを、
    音に感じられない。…そうだね、変わってしまった」

じっと聞いているレイ
鍵盤を離れて両膝の上でやすらっているカヲルの白い手

  レイ「…変わることは、苦しいの」

優しい目を向けるカヲル

 カヲル「わからないのかい?」
  レイ「…知らないの。…まだ」

柔らかく微笑むカヲル
そこにシンジに似たものを感じ取って、ほんの少しだけ安らぐレイ
再び鍵盤に視線を落とすカヲル

 カヲル「そうだね。…変わることは、寂しいよ」

508 :3/4:2015/08/21(金) 07:50:21.89
  レイ「サビシイ」
 カヲル「うん。とても、寂しい。
    魂は前にしか進めないからね。たとえ同じ道を繰り返したどっていても、それは
    以前と同じではない。…だから、寂しいよ」
  レイ「元には、戻れないの」
 カヲル「うん。どんなに懐かしくてもね」
  レイ「…そう」

黙り込む二人
赤黒く傷んだ旧拘束壁の隙間から渡る風
さざめく木漏れ日
ふっと同時に顔を上げる二人
似通った白い顔に、遠雷か鐘のこだまを聞いたような、ある等しい緊張が漂う
カヲルの両手が膝を離れる
素早く目を向けるレイ
静かに下ろされた手が、完結した一つだけの和音を弾く
長く伸びていく音の重なり
カヲルを見るレイ
運命への諦観と悲しみ 透明な矜持と昂揚
相反する感情が複雑にないまざった横顔
見つめているレイ
口元だけで端正に微笑するカヲル

 カヲル「…時が、満ちたね」

509 :4/4:2015/08/21(金) 07:52:50.98
破水する第13号機の建造殻
滝となって流れ落ちる人工羊水の中から吊り上げられていく新たなエヴァ

旧発令所
元あった設備は全て壊れ、雑然とした暗闇に沈む各階層
暗い司令階に立つ碇と冬月

 冬月「いよいよ、最後の執行者が完成したか」
   碇「ああ。これで道具は全て揃った」

厳重に密閉された『ネブカドネザルの鍵』の封印ケース
常に身を離さずにいたそれを手に提げ、バイザーに覆われた目を上げる碇

   碇「…もうすぐ会えるな。ユイ」

発令所の主スクリーンがあった空間
下方から隔壁を突き破り、折り重なって塔をなす赤い人型の大群が聳えている
人型たちは巨大な生白い首を支え掲げている
レイに似た女の容貌
真っ暗にえぐれた両目の痕
顔のない微笑
無言の視線を捧げる碇



読んでくださった方、本当にありがとうございます

510 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/08/21(金) 17:58:09.88
きてたっ
ありがとー!!

511 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/08/21(金) 18:54:25.96
ho no hp <<<オツー!!!

512 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/08/21(金) 20:11:22.41

とうとうQリリス登場か

513 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/08/21(金) 20:13:53.01 ID:???.net
一応保守してみる

514 :1/10:2015/08/21(金) 23:32:38.57
張り裂けるほど両目を見開くシンジ
向き合う壁に激しく額を打ちつける
振り絞るような叫び

 シンジ「…嫌だッ!!
     もうエヴァになんて乗りたくない。エヴァなんてどうでもいい。もう嫌だ!!」

居室の入り口に佇んでいるカヲルの気配

 シンジ「エヴァなんて、僕にはもう、関係ないよ。関係ないんだ。そうだろ…
     …だって、レイを助けられてなかったんだ」

震える声 嗚咽
強く自分の両肩を抱くシンジ
ごつんごつんと頭を壁にぶつけ続ける

 シンジ「エヴァに乗ったって…結局何にもならなかったんだ。
     …ただ、レイに生きててほしくて…だから僕はエヴァに乗ったんだ。そのせいで
     僕は世界を壊したんだ。それで皆に憎まれて…なのに、…レイが生きてないんじゃ、
     そんなの何の意味もないじゃないか!」

宙に散る涙

 シンジ「きっと大勢の人が死んだんだ。…ミサトさんやアスカにも、14年もつらい思いを
     させたんだ。だから生き残った人皆が嫌う…わかってる、全部僕のせいなんだ。
     君だって見せたじゃないか。あの、何もない世界…」

515 :2/10:2015/08/21(金) 23:33:35.50
 シンジ「だけど…だったら、どうしてレイがいないんだよッ!!」

両こぶしで壁を打つシンジ
痛みすらもうどうでもいい
繰り返し自分の身体と心を痛めつける

 シンジ「レイだけは…レイだけは、生きてなきゃならなかったんだ! そのレイがいなくて、
     代わりに僕が生きてるなんて、…そんなのどうしようもないよッ!
     僕なんか死んで良かったんだ。生き残るならレイの方じゃなきゃ駄目だったんだ!
     僕じゃなかった! レイがいないなら、もう、駄目なんだよ…!」

  シンジ(嘘だ)
  シンジ(レイじゃない。全部、自分のためじゃないか)
  シンジ(レイが目の前で使徒にやられて、初号機が活動限界で動けなくなって。
      何一つ思い通りにならない世界、自分も親しい人たちも傷つくだけの世界を、
      ただ憎んだだけなんだ。…そんな気持ちの後には何も残らないはずだってことも、
      本当はわかっていてやったんじゃないか)

    シンジ(わかってたさ)
    シンジ(僕一人の心で変わる訳ないんだ。願ったって叶うはずないんだ)
    シンジ(…だったらこんな世界知るもんか)

516 :3/10:2015/08/21(金) 23:34:39.81
  シンジ(全部自分のための言い訳なんだ。レイのためじゃなかったんだ)
  シンジ(だから、あのレイが『妹』じゃないと知って、自分を騙せなくなったんじゃないか)
  シンジ(あの子を見捨てたんじゃないか)

怯えた目を見開くシンジ
暗い無人の空間、部屋とも呼べない部屋の前に残してきてしまった『レイ』の姿
強くまぶたを閉じるシンジ
誰に対してでもなく激しく首を振る
しだいにその動きが弱くなり、冷や汗に濡れた額を壁に押しつけてうなだれる

 シンジ「…そうだよ。…僕が、死ねば良かったんだ。
     レイを助けられなくて…世界まであんなことになるくらいなら、僕はあのまま何もしないで
     死んでれば良かったんだ。
     …だけどもう取り返しがつかない。…どうしようもないんだ。何もかも無駄だったんだ。
     もう、全部駄目なんだ」

ずるずるとシンジの頭が下がる
涙まじりの呟き声

 シンジ「僕は…駄目なんだ。…もう、何もできない。…僕にはできない。
     どうしようも、ないんだ」
 .カヲル「…でも、君は生きてここにいる」

びくりとするシンジ

517 :4/10:2015/08/21(金) 23:35:56.42
全身で怯える
全てを拒み、頑なにかぶりを振り続けるシンジ

 シンジ「…、そんなの間違いだよ。間違いだったんだ。…僕が死んでれば良かったんだ。
     レイの代わりに、僕が死んでれば、それで良かったんだ。あの時もそう願ったのに…
     結局全部駄目だったんだ。エヴァに乗ったって何にもならなかった。アスカのときと
     同じだ。誰も、助けられなかった」

無力な両手で壁を掴むシンジ
静かなカヲルの声

 .カヲル「…そうやってつらい記憶をたどり続けても、いいことは何も生まれないよ」
 シンジ「いいことなんか、ないよ…!
     もう何もしたくない。僕がエヴァに乗れば、また必ず誰かを傷つける。僕一人の
     つらさや嫌な思いだけじゃ済まされない、他の人を巻き込んでしまう悪いことが、
     きっと起こる。だから乗らない。乗れないよ。乗る資格なんてない。
     …だけど」

急に声が細くなる
大きく上下する背中

518 :5/10:2015/08/21(金) 23:38:25.81
 シンジ「だけど…
     だったら僕には、生きることに、もう、何もないんだ…
     …エヴァに乗らない僕に、意味なんてないよ…もう誰も見てくれない。生きてても
     死んでるのと変わらない。そこにいないのと同じなんだ。最初から、生きてても何も
     ならないって、そう思ってたはずなのに。あの街に来て、エヴァに乗って、…それで
     何かあるのかもしれないって、そう思ってしまった。…僕のせいなんだ」

涙声が震え、幼くなる

 シンジ「…ミサトさんが僕を殺したんだ」

激しくわななく喉を今も締めつけているDSSチョーカー

 シンジ「僕にこれを付けて…言うことを聞かないなら死ぬ、って…あの時、本当にこれで
     僕を殺したんだ…父さんも、これは外せない、って」

いくら吐き出しても止まらない嗚咽

 シンジ「…それで正しかったんだ。死んでれば良かったんだ。皆の言う通りに。
     わかってるんだ。…でも」

519 :6/10:2015/08/21(金) 23:40:41.94
 シンジ「…でも…怖い。怖いんだ…
     あんな死に方、もう、したくない。
     …怖いよ。嫌だ。怖くて…怖くて、どうしようもないんだよ…!」

自分の醜さを残らず吐き捨ててうずくまるシンジ
ふいに降りる静寂
背後から伸びたカヲルの両手がDSSチョーカーに触れ、その呪縛を解除する
深く息を呑むシンジ
忌まわしい感触が離れていくのを身体で感じる
全身から力が抜ける
直後、恐ろしい理解に襲われて振り返るシンジ
チョーカーを自分の首の前に掲げるカヲル
拘束機構が反応し、赤い光を洩らす呪縛の帯がカヲルの白い首を取り巻いて固定する

 シンジ「…!!」

目を開いてシンジを見るカヲル
変わらない微笑
シンジの目にみるみる新たな涙が溢れる

520 :7/10:2015/08/21(金) 23:42:40.99
 シンジ「…カヲル君ッ!!」

固まった身体を無理やり動かして壁際から抜け出す
シーツに絡まれながらベッドを乗り越え、つんのめるようにカヲルの傍に駆け寄る
他人の恐怖も忘れてDSSチョーカーに取りすがる
必死にもぎ取ろうとする
揺さぶられるままに任せているカヲル
指先が喉に喰い込み、爪が硬質の素材を引っかき、けれど固定された輪はびくともしない

 シンジ「嫌だ…ッ、こんなの駄目だ、駄目だよッ、絶対…!」

厳としてカヲルの首を拘束しているDSSチョーカー
幾ら力を込めてもロックは外れない
シンジの荒い呼吸がしだいに力を失い、やがてさっきより静かな嗚咽に変わる

 シンジ「…嫌だよ。カヲル君、嫌だ…」

シンジの手の力が弱まり、ただしがみついているだけになる
緩んだその両手を自分の手で包み込み、そっとチョーカーから離させるカヲル

 .カヲル「気にしないで。シンジ君」

521 :8/10:2015/08/21(金) 23:44:06.67
うつむいたシンジの頬を次々に伝う涙

 .カヲル「君はここで生きている。だからこれでいいんだ。
     リリンの呪いとエヴァの覚醒リスクは僕が引き受けるよ。もともと、僕を恐れた彼らが
     造ったものだからね。いずれはこうするつもりだったんだ」

聞き分けのない子供のように首を振るシンジ
上体がよろめき、大きくぐらついて、そのままカヲルの胸に顔を埋める
拒まないカヲル
お互いの両手は下ろされたまま
シンジの泣き声だけが細く続いている

 .カヲル「…シンジ君。
     君の希望は、ドグマの爆心地に残された二本の槍だけだ。リリスを封じたそれらは、
     補完計画発動のキーにもなっている。僕らでそれを手にすればいい」

静かに語りかけるカヲル
すすり泣きながら聞いているシンジ

 .カヲル「そうすればネルフもフォースインパクトを起こせない。第13号機とセットで使えば、
     世界の修復も可能だ」
 シンジ「…修復」

522 :9/10:2015/08/21(金) 23:45:11.84
 .カヲル「そう。今の君に必要なのは、希望。贖罪と、何よりも心の余裕だよ。
     生きていくためにね」

カヲルの言葉をゆっくりと噛みしめるシンジ
寄り添ったまま小さく笑う

 シンジ「…すごいや。…何でもわかっちゃうんだね、カヲル君は」
 .カヲル「いつも、君のことしか考えてないからね」
 シンジ「……」

そっと顔を上げるシンジ
素直に微笑んでみせるカヲル
泣きはらした顔で小さく笑い返すシンジ

 シンジ「…ありがとう」

感触を惜しむように身を離す
向かい合う二人

 シンジ「…うん。…そうだね。君なら、きっとできるよ」

首を振るカヲル

 .カヲル「君となら、だよ」
 シンジ「え…」
 .カヲル「エヴァ第13号機は、ダブルエントリーシステムなんだ。僕だけでは無理だ。
     君が必要なんだよ」

523 :10/10:2015/08/21(金) 23:47:35.67
 シンジ「僕が…、…乗って、いいの」
 .カヲル「うん。
     二人で、リリンの…いや、君の大切な人たちの、希望となろう」
 シンジ「…うん」

顔をくしゃくしゃにして頷くシンジ
心から嬉しそうに笑うカヲル
片手をシンジにさしのべる

 .カヲル「まだ終わりじゃない。駄目でもない。望むことを、まだ諦めなくてもいいんだ。
     君はまだ、生きているからね。…僕は君と一緒に行くよ。シンジ君」

頷いて、少しだけ目をつむるシンジ
最後の涙が頬を伝って落ちる
しっかりと目を開くシンジ
引き締まった表情
カヲルの手を掴む
繋がれる二人の手

 シンジ「うん。
     …行こう。カヲル君」



10レスぎりぎりでした
自分のイメージを優先してしまったので気持ち悪いです、すみません
次はいつ書けるかわかりませんが、行けるところまで行きたいです
>>510-513
読んでくださって本当にありがとうございます、心から感謝します

524 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/08/22(土) 00:14:30.01
ちょ、、、いきなり怒涛の進行乙ー!
無理しないでいいんだよ、でも続き待ってるからね

525 :1/10:2015/08/22(土) 21:45:39.03
>>524 ありがとうございます
ちょっとだけ残りがあったので投下します
ここまででカヲル君(黒波も?)のターン終了、かもしれません


同型の黒いプラグスーツを身につけるシンジとカヲル
ドグマメインシャフトの上に懸架されたエヴァ第13号機
並んで見上げる二人
機体の周囲を取り巻く見慣れない形状の足場を伝ってエントリープラグへ向かう

 シンジ「また一緒に乗れるのか…実機では、二回目だね。カヲルく…?」

ふと目を上げ、たじろぐシンジ
機体両側に用意されているエントリープラグは二本ある
何となく予想はしていたものの、やはり不安を覚えてしまうシンジ

 シンジ「…、そうだよね。本当は一人、なんだものな。エヴァに乗るって」
 .カヲル「そんなことないさ。またすぐに会えるよ」

振り向くシンジ
隔意のない親しみを見せて笑っているカヲル

 .カヲル「乗ればわかるよ。…さ、行こうか」
 シンジ「え…、あっ、その、…ちょっと待って、カヲル君」
 .カヲル「何だい?」
 シンジ「……」

言いよどむシンジ

526 :2/10:2015/08/22(土) 21:46:35.76
ためらい、目を逸らし、意を決してカヲルを正視する

 シンジ「あの、…今さらこんなこと訊くなんて狡いのかもしれないけど、…カヲル君は
     どうして、こんなに優しくしてくれるの。…そう、ずっと前から、そうだ。14年前も。
     何故…僕なの」

底にある不安を隠さずカヲルを見つめるシンジ
その視線を受け止め、何でもないことのように微笑むカヲル

 .カヲル「君だから、だよ」
 シンジ「…え」

軽く目をつむるカヲル
少しの間言葉を探している
見守るシンジ
まぶたを開き、とても懐かしくて遠いものを見る眼差を向けるカヲル
とまどうシンジ
身体の芯がほぐれるような安堵と嬉しさ、それらと背中合わせににじむ恐怖の予感
全て見て取ってなお、微笑するカヲル

 .カヲル「理由は…あったけれど、それはもう、今の僕にはあまり意味を持たない。
     こうして、ここで生きている君と出会えたからね」

527 :3/10:2015/08/22(土) 21:47:05.14
ひたすら見開いた両目を据えているシンジ

 .カヲル「君だからなんだよ、シンジ君。
     ここで出会えたのが君で…知り合えたのが君で、僕は心から嬉しい。君と、現実に
     出会えたこと。君と話せたこと。ともに音を作り出せたこと。星を見たこと。それだけが
     今の僕にとって本当だ。…だから、君と一緒に行くのが、僕の望みなのさ。
     もし、まだ僕に自らの運命を選択する自由があるのなら、…僕は、君が、君を囲む
     人々と、幸せに生きていける未来がいい」
 シンジ「…、カヲル君」

波立つ胸の奥を抑えられず、声が乱れるシンジ
こんな言葉を他人から向けられることがあり得るのだという驚き
好意の温かさと重さ
この人なら信じてもいいのだという思い、またはそうあってほしいという願い
ただ眩しげに視線を預けるシンジ
少しはにかんで、ふっと破顔してみせるカヲル
引き込まれて微笑むシンジ

 シンジ「…ありがとう。カヲル君」
     こんな僕でも、君のことなら信じられる気がする。…ううん、僕が信じたいんだ。
     だから、信じる」
 .カヲル「…シンジ君」

一瞬、ひどく悲しそうな表情をするカヲル

528 :4/10:2015/08/22(土) 21:49:36.41
うろたえるシンジ
少し遅れて、悲しみではなく溢れるような幸せの顔だと気づく

 .カヲル「…やはり僕は、君に会うために生まれてきたんだね。…それが僕のいる理由なんだ」
 シンジ「…あ…」

胸がいっぱいになるシンジ
慕わしさと恐れがともに逆巻く
衝動的にカヲルに歩み寄り、その身体を強く抱きしめるシンジ
腕の中で深くおののく身体
確かにここで息づいている他人
何も考えられず、精一杯優しく力を込めるシンジ
そっとカヲルの手が回される感触
声よりも響きとして伝わる言葉

 .カヲル「…ありがとう」

ふいに頭が真っ白になりそうな羞恥に襲われ、そろそろと身体を離すシンジ
恐れの顔でカヲルを見る
いつもの通りに微笑んでいるカヲル
頬を上気させたまま、ぐいと前を向くシンジ

 シンジ「…ごめん。でも、もう大丈夫だ。…行こう、カヲル君」
 .カヲル「うん。…シンジ君」

529 :5/10:2015/08/22(土) 21:52:07.88
挿入される二本のプラグ
閾域下に侵入するエヴァの信号
操縦席のシンジ
14年前とは全く違うインテリアにとまどいつつ、ほぼ自働の神経接続シークエンスに身を任せる
膝の上に置かれたSDAT
壁にぶつけてそのままだったのをカヲルが拾って渡してくれたもの
もうレイとの繋がりだけを意味しないそれをじっと見つめるシンジ
プラグ壁が透けて全方位モニターになり、電子の虹の流層が変転しながら洗い去る
赤い視野に浮かんでいる自分を知覚するシンジ
隣に別の存在
目を向けるシンジ
同型の操縦インテリアに座ってこちらを見ているカヲルの姿
エヴァの中がどういう構造になっているのか、二つのインテリアはすぐ傍に停留している
ちょっと笑ってみせるカヲル

 .カヲル「ね。会えただろう」
 シンジ「…うん」

同じく、小さく笑うシンジ
信頼と理解の視線を交わす二人
同時に正面を向く
声が揃う

 二人「「エヴァンゲリオン第13号機、…起動!」」

530 :6/10:2015/08/22(土) 21:53:33.66
 青葉「…!
     信号、来ました! ネルフの新型エヴァです!」
  ミサト「了解。ついに来たわね」

戦闘巡航中のヴンダー
艦橋に立つミサト

  ミサト「総員、第一種戦闘配置。…乗り込むわ」
  リツコ「…最後のチャンスね。生き残ることを望む、私たち人類の」

更に厳しく口元を引き締めるミサト
両目を覆ったサングラスのせいでひどく硬い表情に見える
凜と腕を組んだ立ち姿
少し目を翳らせるリツコ

 日向『2'及び8、投下座標まで80』
  ミサト『…アスカ、マリ。準備いいわね』
  .マリ『ほーい。いつでもオッケー』
 .アスカ「2'、作戦行動確認。戦闘アレイ、最終入力完了。
     …コネメガネ! あんた緊張感なさすぎ」
  .マリ『あ、ひっどいにゃあ』

531 :7/10:2015/08/22(土) 21:54:35.66
 アスカ「鳴くな! うるさい!」

エントリープラグ内のアスカ
脇のフロートスクリーンでエヴァの機体情報を片手でスクロールしていく
ふと指の動きが止まる
改2号機のコア周辺に増設された多重機構
見つめるアスカ
目元が険しく細められる

 アスカ「…私の2号機は絶対に、絶対に覚醒させないわ。…そのためよ」

勢いよくサイドモニターを振り向くアスカ

 アスカ「私には出来ないだろうって思ってるでしょ。わかってる、黙ってるけど皆、そうだもの」
  マリ『え? そんなことにゃーいよぅ』

532 :8/10:2015/08/22(土) 21:55:37.09
心外そうに答えるマリ
既に武装チェックも済ませ、気楽に頭の後ろで両腕を組んでいる
ノリなのか本気なのか判別させない笑顔

  .マリ『私は姫を信じてるもの』
 アスカ「…バッカ」

思わず苦笑するアスカ

 アスカ「…そんなこと言うの、もうあんただけね。
     時間よ。行くわ」
  .マリ『アイアイサー』

映像のマリがおどけて敬礼し、消える
L結界に突入するヴンダー
武装コンテナ数基とともに突入シェルごと投下されるエヴァ改2号機および8号機
急速に眼下に迫るネルフ外壁構造
軽く深く息をするアスカ

533 :9/10:2015/08/22(土) 21:57:25.87
全開された上部ハッチからメインシャフトに降りていく第13号機
懸下策の下端リングに片足をかけ、ケーブルが繰り出される速度に乗せて暗闇の淵へ降りていく
やや上方に、同じようなポーズでケーブルに掴まっているMk.9
8号機に破砕された頭部は復元されていない
空いた手にはエヴァをも両断できそうな巨大な鎌状の武器
つい気にしてしまうシンジ
隣から何気なく声を投げるカヲル

 .カヲル「どうかしたのかい?」
 シンジ「え…別に、…その、行くのは僕らだけでいいんじゃないかな、って」
 .カヲル「Mk.9のことだね。援護だよ。ヴィレの動きを警戒しているのさ」
 シンジ(…ヴィレ)
   ミサト(私たちはヴィレ。ネルフのエヴァは殲滅します)

使徒のように迎撃されていたMk.9のイメージ
唇を噛むシンジ

 .カヲル「そんなに気にすることはないさ。僕らの助けになってくれるよ」
 シンジ「…、そういえば、どうしてあの…パイロット、じゃなくて僕を?
     いや…責任逃れしたいとかじゃなくて、…あの父さんが試さなかったなんて変だな、って思って」

534 :10/10:2015/08/22(土) 21:58:27.78
  カヲル「槍を持ち帰るには、それぞれに魂が必要だからさ。
     二本の槍に、二つの魂。リリンの模造品に過ぎない彼女には無理なんだよ。
     魂の場所が違うからね」

ふっと気遣う口調になるカヲル

 .カヲル「…彼女が近くにいるのが苦痛なのかい?」

一瞬ためらうシンジ
首を振る

 シンジ「…ううん。嫌っていうのとは、違うと思う。…自分でもよくわからないよ。
     ただ…」
 .カヲル「ただ?」
 シンジ「…命令で来てるだけなんだろうな、って。…それが何だか寂しいんだ」
 .カヲル「妹さんと、比べてしまう?」
 シンジ「それも…少し、違う。…だって、そう、比べようがないよ。
     彼女は綾波なんだから」

Mk.9のエントリープラグ
一人シンジを見つめるレイ
突き放しているくせにどこか苦しげなシンジの微笑
虚ろに呟くレイ

  .レイ「…アヤナミ、レイ」

535 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/08/22(土) 22:06:04.73
ho <乙!!

536 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/08/22(土) 22:10:12.22
>>535
早っ
いつもありがとうございます、何とか行けるとこまで行きたいです

537 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/08/22(土) 22:13:08.65
ho <いやいや、ほんと乙
no <黒波ちょっと心配だわ…カヲルも人間味が強いから余計心配だわ
ho no <<次も待ってるぜ! ガンガレー

538 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/08/23(日) 08:05:23.07
DSSチョーカー外そうとするのはこれだ!と思えた(気持ち悪くてスンマセン)
良かったねカヲル
でも絵を想像すると首絞めにしか見えないのがw
黒波は完全に妹レイとは別物だって認識になっちゃったのねシンジ
比べようがないか…ショックを通過して改めて寂しさが出てきたのかな…
初号機の中に保存されてると言われても、要するにお母さんと同じところに行っちゃった
ってことだもんね
この先どうなるのかすごく楽しみ、頑張ってください

539 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/08/25(火) 18:19:17.32 ID:6IlesAD12
確かに首絞めw
そして晴れて双子確定したね、おめでとう(何が)

540 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/08/28(金) 19:47:55.06 ID:ZMdiY98WK
きてたのか


541 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/08/31(月) 12:34:57.09
待ち

542 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/09/03(木) 19:30:16.75


543 :1/8:2015/09/08(火) 16:17:53.38
>>535-542 本当にありがとうございます、励みになります
ちょっとだけ進みます


メインシャフトを降下する第13号機とMk.9
巨大な周壁には非常灯もない
遥か上からの明かりがわずかにシャフトの詳細を見せている
下方にはただ闇
覗き込んで、ぐっと息を呑むシンジ
エヴァまたはそれよりずっと巨大なものが動くために造られたかのような巨大構造
ケーブルが伸ばされていく音だけが頭上からついてくる

 シンジ「…ここって、本部の下に見えた塔みたいな部分だよね。その内側」
 .カヲル「そう。セントラルドグマへ通じる唯一の道」
 シンジ「…でも、本部があんなに空高く持ち上がっちゃったんじゃ、メインシャフトだけじゃ
     地上のリリスまで繋がらないんじゃない? それとも、何か別の…」

闇に没入する両機
第13号機の肩の投光機がともる
小さな光の円が新たな周壁を照らす
目を疑うシンジ

 シンジ「…なんだ、これ…?!」

544 :2/8:2015/09/08(火) 16:19:28.35
メインシャフトの内壁が周囲で尽きる
代わって現れたのは、同径で掘り抜かれた長い円筒状の空間
周囲を埋め尽くす異様なマトリクス
大量の赤い人の形が複雑に組み合い、重なって作り上げている分厚い層
人型は硬く化石したように動かない
大きさはどれも、降下するエヴァ両機とほぼ同じらしい
エヴァを思わせる装甲らしき構造や肩のパイロンを思わせる形状が散見される
ただしどれも頭部ははっきり判別できない
甦る赤い地表の光景
思わず、すがるようにカヲルを見やるシンジ

 シンジ「カヲル君、これってまさか、…地上にもいた」
 .カヲル「そうだよ。皆、インフィニティの成り損ないたちだ。君は気にしなくていい」
 シンジ「気にしなくていい、って…」

瞬きするシンジ
『インフィニティ』たちを見ているカヲル
変わり果てた地上を眺めていたときと同じ、突き放したような冷徹さ
気弱になりかける自分を叱咤するシンジ

545 :3/8:2015/09/08(火) 16:21:30.57
敢えてカヲルをまっすぐ見据えるシンジ
声を励まして問いかける

 シンジ「…これも、ネルフの補完計画が起こしたことなの」
 .カヲル「…ああ。彼らは一つの集合体になることで無限の生命を手に入れようとし、
     サードインパクトの終息によって、それに失敗した。結果、今はただの物体
     同然になっている」

シンジを振り返るカヲル
気遣う眼差

 .カヲル「全て、君が初号機の中にいる間に起こったことだ。…君のせいじゃないよ」
 シンジ「…ううん」

小さく笑って首を振るシンジ

 シンジ「…あのとき望んだこととは違ってても、僕は、知っておかないと駄目なんだ。
     もう一度、こうしてエヴァに乗ってるんだから」

向こうの操縦席で少し身を乗り出すカヲル

 .カヲル「君が責任を感じているのはいいことだ。ただ、重く考えすぎないでいいんだ。
     君がエヴァに乗っていること自体が希望なんだよ」
 シンジ「…希望、…僕が」

546 :4/8:2015/09/08(火) 16:23:15.04
 .カヲル「そう」

深く頷いてみせるカヲル

 .カヲル「人が、エヴァで起こったことを変えられるのは、同じエヴァを使ってだけだ。君には
     その力がある。今はそのための意志もある。…以前は、こうすることが必ずしも
     君にはふさわしくないと思っていたけれど」
 シンジ「…え」

ちょっと目をみはるシンジ
ややうつむく

 シンジ「…そう、だよね。…僕はただ流されて乗り続けてただけだ。君やアスカみたいな
     才能なんてないよ」
 .カヲル「違うよ」

びくっと肩を震わせるシンジ
驚いて振り向く
少し声に出して笑っているカヲル
何となく拗ねる目になるシンジに、優しく首を振る

 .カヲル「そうじゃないんだ。…言葉が足りなかったね。君がエヴァに、じゃない。
     エヴァが、君にふさわしい運命ではないかもしれない、と言いたかったんだ」
 シンジ「エヴァが、僕に…?」
 .カヲル「そう。君には、もうエヴァに乗らない方がいいのかもしれないと思っていた」
 シンジ「エヴァに…乗らない」

突然、深く息を呑むシンジ

547 :5/8:2015/09/08(火) 16:24:29.43
手に触れそうな確かさで甦るレイの面影
あの頃、傍にいて息づいていた、レイのこと
その言葉

   レイ(…私は、お兄ちゃんがもう、エヴァに乗らなくていいように…したい)

胸の奥が新たな痛みに裂ける
懸命に奥歯を噛みしめて自分を抑えるシンジ

 シンジ(…違う)
 シンジ(カヲル君は…レイと同じじゃない。…同じだなんて思い込んじゃいけないんだ。
     レイは一人しかいない。カヲル君だってそうだ。だから僕はもう一度信じたんだ)

黙って見守っているカヲル
シンジが落ち着いたのを見て取り、続ける

 .カヲル「…ただ、今はもうそうは思わない。
     君はエヴァに乗れる。その強さがある。…最初からそうだったんだ。僕には、精々
     一緒の道を行くことしかできない」
 シンジ「…そんな、…カヲル君がいなきゃ、僕には無理だよ。一緒だから…二人だから
     もう一度乗ろうって思えたんだ。カヲル君がいてくれたからだ」

心外さに強くかぶりを振るシンジ
カヲルが微笑むのに安堵する

 .カヲル「…ありがとう」

548 :6/8:2015/09/08(火) 16:25:32.45
 シンジ「…ううん。…僕の方こそ」

はにかんだ笑顔を返し、急に照れたように目を逸らすシンジ
相変わらず続いている赤いインフィニティたちの積層
少し早くなっている動悸を意識する

 シンジ(…なんだろう)
 シンジ(何か…前にも、あった気がする。この感じ)

深く呼吸し、ふいに気づくシンジ
違和感と同義である慕わしさの知覚

 シンジ(…そうだ。…カヲル君の、匂いがするんだ)

恐ろしさと等しい感動が心を満たす
ピアノの連弾で隣り合っていた時間、先刻自分から抱きしめたときの感触
さらには14年前の初号機救出作戦の記憶に埋もれていたのと同じ他人の匂い
不安と恐れ 逃げ出したい衝動の根源
緊張と安らぎの繰り返し 確かさと差異 快い重み 体温
それらと同じものを意味する感覚
他人の実在
もう一度深く息をして、昂ぶってこわばった身体の底がわずかに寛ぐのを感じるシンジ
ふと痛みの目になる

 シンジ(…そうなんだ。…初めてなんだ、レイ以外には)

549 :7/8:2015/09/08(火) 16:26:48.61
再びカヲルを見るシンジ
行く手の暗闇を見据えている横顔
その首には、プラグスーツの頸部パーツに隠されたDSSチョーカーがある
強く意識して気を引き締めるシンジ
まなじりを決する

 シンジ(…レイを、助けられなかった)

何度でも真新しく引き裂ける痛み
シンジのひそめた眉根が震える

 シンジ(だけど…だから、まだ、生きてる。それならこの人だけは)

チョーカーを通して繋がったカヲルの指の感触

   .カヲル(リリンの呪いとエヴァの覚醒リスクは、僕が引き受けるよ)

未だに耳慣れないその概念を心に刻みつけようとするシンジ

 シンジ(僕が自分の心と、このエヴァを制御できればいいんだ。そうしなきゃいけないんだ)

ここに来たときの別の暗闇の光景が脳裏を過ぎる

      碇(そうだ。エヴァ第13号機)
      碇(シンジ、お前は時が来たらその少年とともにこのエヴァに乗れ)
   .カヲル(二本の槍に、二つの魂)
   .カヲル(エヴァ第13号機はダブルエントリーシステムなんだ。僕だけでは無理だ)

550 :8/8:2015/09/08(火) 16:28:34.87
未知のエヴァの体感を全身で確かめるようにするシンジ

 シンジ(エヴァ第13号機。父さんが造った、たぶん最後のエヴァ)
      碇(エヴァに乗れ)
 シンジ(…そう、これだって結局は父さんの思い通りなのかもしれない。父さんが用意した
     エヴァに乗って、父さんが用意した道を行く。父さんが用意した『綾波』も一緒に)
 シンジ(だけど、違う)
 シンジ(僕は自分でこのエヴァに乗ってるんだ。父さんに言われたからじゃない。
     僕は、もう、ネルフのエヴァパイロットじゃない。何もできない、何も知らない道具の
     ままではいたくない。どうしようもなくても、自分の心や、願いがある。なくせないんだ。
     …僕も、カヲル君も、…レイだって、エヴァの部品じゃない)

別の痛みの宿る目をカヲルに向けるシンジ

 シンジ(僕らは、自分で決めてエヴァに乗ったんだ)

ごくかすかに笑うシンジ

 シンジ(そう、レイと同じだ)
      レイ(私が守るもの)
 シンジ(カヲル君だけは…この人だけは、今度こそ、僕が守るんだ。
     あの時、レイが生きた分まで)

操縦桿の上で固くこぶしを握りしめる
シンジの視線に気づいて気負いのない笑顔を向けるカヲル
少しだけ笑い返すことができるシンジ
モニターがまもなくの結界到達を告げる

551 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/09/10(木) 09:22:00.30
乙、カヲル君の死亡フラグがすごいことになってるね…
黒波もがんばれw(何を)

552 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/09/11(金) 19:54:44.41
カヲルも黒波も頑張れ
シンジも…
読んでたらこいつらが酷い目に会うの見たくないと思えてきた
職人乙、頑張れ

553 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/09/11(金) 20:45:10.96 ID:A+ib10tS7
おつ

554 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/09/14(月) 10:49:29.72
待ち

555 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/09/17(木) 20:50:22.63
ho

556 :1/5:2015/09/18(金) 21:26:20.69
>>551-555 ありがとうございます、少しだけ続きます


深い円筒状の空間の底が見えてくる
宙に吊られそこへ降りていく第13号機とMk.9
操縦席から少し身を乗り出すシンジ
下方を一面覆いつくす継ぎ目ひとつない濃い青の平面
新たにまた息を呑むシンジ

 シンジ「…これが、リリスの結界」
 .カヲル「そう。メインシャフトを完全に塞いでいて、サードインパクトから14年間、誰も
     突破できなかった」

カヲルに不安げな視線を向けるシンジ
微笑してみせるカヲル

 .カヲル「大丈夫。そのための第13号機だからね。二人なら、できるよ」
 シンジ「…うん」

緊張しながらも素直に頷くシンジ
もう一度真下の結界を見下ろす
近づいてくる完璧に平滑な円盤
取り付く隙も見えない

 シンジ(まるで…大きなフタみたいだ。…でも、希望はあの向こうにある)

557 :2/5:2015/09/18(金) 21:26:47.30
 シンジ「…パンドラの箱だ」

一瞬息を止めるカヲル
一拍遅れて、口に出して呟いていたことに気づくシンジ
カヲルを見る
共感と決意の眼差で頷くカヲル

 .カヲル「…そうだね。僕らで、その底にある希望を、手にしに行こう」
 シンジ「うん…!」

同じ思いを持てたことに嬉しさをあらわにするシンジ
カヲルと目と目を見交わし、恐れの消えた顔で結界を見据える
迫ってくる青い拒絶
第13号機の起動モードが変更され、エントリープラグ内でインテリアが位置を組み替える

 .カヲル「…呼吸を合わせよう。ピアノの連弾を思い出して」
 シンジ「…うん…」

集中するシンジ
エヴァという、思いのない、限りなく異質で近しい存在へ向かって自分を澄ませていく
今は傍らにカヲルを感じながら心を合わせていく
針のように鋭く透徹する感覚
きっと顔を上げるシンジ
接触

558 :3/5:2015/09/18(金) 21:28:13.37
降下する第13号機
その足先が結界面に触れる寸前、高く澄んだ音が空間を駆ける
波紋のように瞬間的に広がる空間変動
結界表面が凍った水面のように規則的な流動を開始する
変化を目視しつつもあくまでエヴァに没入しているシンジ
第13号機の存在が結界を圧する
渦を巻くように貫入していく結界
物質と化した結界構造が完璧な幾何学的対称性を見せて崩壊する
一気に青い闇が崩れ、なだれ落ちる結界の破片とともにさらに降りていくエヴァ両機
周囲でドグマの防護構造がともに破壊され崩落していく

 シンジ「やった…!」

喜びが一瞬で心を塗り替える
視線を交わすカヲルの顔にも同じ素早い歓喜の色が見える
エヴァと世界への決意は重く意識を領している
それでも今この瞬間はただ嬉しくて、わずかな間だけ心をゆだねるシンジ
カヲルが隣にいることの静かな強さ
眼下の光景が開ける
暗闇の底にある広大な空間

 .カヲル「着いたよ。セントラルドグマの最深部。サードインパクトの爆心地だ」

559 :4/5:2015/09/18(金) 21:30:05.62
 シンジ「ここが…」

ミサトの隣で見た『レベルEEE』とは比べようもない変貌にただ目をみはるシンジ
白っぽい堆積でできた地面
その上に傾いて突き刺さった赤い十字架状の構造物
瞬きし、スケールの異様さに小さく息を吸い込むシンジ
周辺を埋めているのはエヴァのものと同じサイズの大量の頭蓋骨
シンジの両肩がこわばる
シャフトの続きの赤い闇、インフィニティたちの判別できなかった頭部を想起する
暗闇のさらに奥、ゆるやかな白骨の隆起
丘の上にぼんやりと白い巨体が見える
遥か上から降下していく第13号機からはその全体形が見て取れる
片手と両膝を突いて地にくずおれ、もう片手を宙に伸ばしている巨きなヒトの形
理解して唇を震わせるシンジ

 シンジ「…リリス」

淡々と答えるカヲル

 .カヲル「…だったもの、だ。その骸だよ。抜け殻みたいなものさ」
 シンジ「……」

あまりにも変わってしまった世界に改めて打ちのめされるシンジ
感傷を自覚する

 シンジ(あんなに命がけで守ろうとしていたのに…ミサトさん)

振り切ろうと顔を上げ、ふと目を凝らす
首のないリリスの肩に突き立った異様な形状

 シンジ「あれは…エヴァ…?」

560 :5/5:2015/09/18(金) 21:31:06.81
 .カヲル「…そう。エヴァMk.6」

自身に突き刺さった槍を掴んだまま停止しているエヴァ
どこか初号機に似た装甲は全て白化しリリスと一体になっている

 .カヲル「自律型に換装され、リリンに利用された機体の成れの果てさ」

突き放すようなカヲルの言い方をいぶかるシンジ
無関心なような、怒りまじりのような眼差を向けているカヲル
ケーブルが尽きる
脆い白骨の破片を跳ね飛ばして降り立つ第13号機
Mk.9はケーブルにつかまったまま周囲を警戒している
呼び止められたように、宙のMk.9を気にするシンジ

 シンジ(…レイじゃないのに)
 シンジ(『綾波』なのに、…守ってくれるのか。
     何のために…父さんの、命令だから…?)

それだけだと思いたくはない自分をほとんど憎悪するシンジ
それでも消えない思い
暗闇の底にあった部屋とも言えないレイの部屋
交わした乏しい言葉

 シンジ(…それとも、レイになりたい…レイでいたい、のか。…レイじゃなくても。
     僕のこと、何も知らなくても)

痛みを無視して顔を背けるシンジ
ちらっと気遣う視線を向けるカヲル
骨の丘へ頭をもたげる第13号機
正面、おぼろな闇を背景にリリスの巨体で半ば隠された二本の槍

561 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/09/19(土) 11:02:11.28 ID:Jcsp6Td+k
きた!乙!

562 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/09/19(土) 21:21:20.35

焦らなくていいからね、がんば

563 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/09/20(日) 19:05:54.76
ho no <<オツー!

564 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/09/21(月) 20:37:34.15 ID:N+AJ165++
おつおつ

565 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/09/26(土) 13:06:31.73
保守しとこう

566 :1/9:2015/09/29(火) 21:20:35.15
高い暗闇の底
セントラルドグマの時間が止まったような静寂
赤い湖面に累々と堆積して陸地を作るおびただしい頭蓋骨
白骨の丘に埋もれかけた赤い十字架形の平板、かつてのリリスへの身廊
朽ちて脆い骨の傾斜の上に聳えるリリスのほの白い骸
その首のない肩の辺りに突き立った二本の槍とEVA Mk.6

 シンジ「…あれが、目標物」
 .カヲル「そう。ロンギヌスの槍と、カシウスの槍。その二本を持ち帰るための、第13号機の
     ダブルエントリーシステムさ」

白骨の斜面に立つ第13号機の背後、宙に伸びるケーブルにつかまったままのMk.9
巨大な鎌を脇に提げ闇の中で警戒している
一瞥し、振り切って二本の槍を仰ぎ見るシンジ
隣で同じ真剣さでリリスを見据えるカヲル

 .カヲル「…始めるよ」
 シンジ「…うん」

短く声を交わす
脆い白骨を踏みしだいて歩み出す第13号機
久しぶりに体感するエヴァの巨体の重量とそれを裏切るほどの力と機敏さの感覚
振り回されまいと気を引き締めるシンジ

567 :2/9:2015/09/29(火) 21:21:14.15
一歩一歩リリスを目指し登っていく
進むごとにエヴァの量感が自分自身の感覚になる
本当に久しぶりに、自信というものを取り戻していくシンジ
ふいに隣のカヲルが息を呑む気配
振り向くシンジ

 シンジ「どうしたの、カヲル君」
 .カヲル「いや…ちょっと、待って。…変だ。何か、おかしい」
 シンジ「え…?」

登攀の中ほどで立ち止まる第13号機
気遣って少し身を乗り出すシンジ
見たことのない険しい横顔を見せ、目を凝らしているカヲル
不安に掴まれるシンジ
エヴァに乗っているという裏腹な自信が気持ちを急かす

 シンジ「…、どうしたの? 早く行こう、そのために来たんだから。
     結界は二人で、このエヴァで突破できたじゃないか。こうして、ちゃんと動かせてる。
     あとはあの槍を抜いて、無事に持ち帰ればいいんだ。あと少しだよ」
 .カヲル「…うん…そうだ。…だけど」
 シンジ「カヲル君…?」

初めてカヲルの顔に不安を見て取るシンジ

568 :3/9:2015/09/29(火) 21:21:49.64
反射的な拒絶感
訳もわからず、一緒に行こうと言ってくれたカヲルへの信頼にすがろうとする
それは自分の頼りなさを思い知らされる恐怖の前触れでもある
かろうじて自身の危うさに気づくシンジ

 シンジ(…駄目だ。自分で信じるって決めたんじゃないか、カヲル君を。
     けど…だったら、僕が一方的に頼るのもおかしいんだ)
 シンジ(今は…今なら、僕にも何かできるはずだ)
 シンジ「早く、行こう。大丈夫だよ。僕ら二人ならできる。だから」

シンジを見ていないカヲル
ほとんど茫然と呟く

 .カヲル「…おかしい…二本とも形状が変化して、揃っている。
     ロンギヌスとカシウス、対の槍が、ここにはあるはずなのに」
 シンジ「…カヲル君っ」

宙吊りの状態に耐えられなくなるシンジ
精一杯自分を抑えようとする
操縦桿を無意味に握りしめ、力をこめ、それでも足りずにカヲルの方へ身を乗り出す

 シンジ「待ってよ、カヲル君、僕にも聞かせてよ。一緒に行くって言ったじゃないか。
     何が心配なの、…ねえっ、頼むから、教えてよ」

569 :4/9:2015/09/29(火) 21:22:35.96
初めて気づいたようにシンジを振り返るカヲル
その目に湛えられた底知れない恐れの予兆
愕然となるシンジ
聞かされるまでもなく一瞬で不安の冷たさを共有する
空しいエヴァの膂力感
頭上にのしかかるセントラルドグマの闇の圧力
それでも一心にカヲルを見つめるシンジ
必死さが伝わったように、わずかにカヲルの表情が安らいで変わる
胸が迫る
恐らく何かが駄目で、取り返しがつかないほど致命的で、カヲルはそれをもう知っている
なのにひたすらシンジのために何ができるか考えようとしている
言われなくてもわかる
考える前に声が口をつく

 シンジ「僕だって一緒にエヴァに乗ってるじゃないか。
     今なら、君の力にだってなれるよ。…そうなりたいんだ。だから、教えてよ。何が、
     君をそんなに心配させてるの? 僕は何ができる? どうすればいい?」

カヲルの両目がみるみる新たな痛みでいっぱいになる
唇の端が震える
やっと口を開くカヲル

 .カヲル「シンジ君、…」

息を凝らすシンジ
直後、視界の明度差が反転する

570 :5/9:2015/09/29(火) 21:23:24.70
大衝撃が機体を襲う
広大な空間を揺るがす巨大な爆鳴
連続して火球が弾ける
必死で目を開け、振り仰ぐシンジ

 シンジ「なんだ…?! あッ」

渦巻く爆煙の中から真っ逆さまに突っ込んでくる機影
振りかぶった刃が襲いかかる
衝撃
闇を駆け抜けるATフィールドの相互効果
間一髪で射出され、宙で敵の斬撃を受け止めている第13号機の半自律ATF展開装置
何とか敵を見定めようとするシンジ

 シンジ「…エヴァ…?!」

暗闇に慣れた目を射る赤い機体カラー

 シンジ「…2号機…?! …アスカ?!」

宙で力の均衡が崩れ、後方へ跳びしさる2号機改
前面に両刃の薙刀のような武器を構える
機械化された修理箇所に痛々しさすら感じてしまうシンジ
ためらった隙をついて一気に懐まで飛び込む2号機
弾き飛ばされる第13号機

571 :6/9:2015/09/29(火) 21:24:11.63
勢いをかって迫る2号機
瞬間、別の衝撃が2号機を弾き飛ばす

 シンジ「…!」

第13号機の前に躍り出たMk.9
巨大な鎌を手に2号機と対峙する
レイとは違うとわかっていても目を奪われるシンジ
何の躊躇もなく飛び出すMk.9
鎌を振りかぶる
その動作を真上からの狙撃が貫通する
空間に深く響く弾の打甲音
相当な威力の一撃だったことをほとんど本能的に知るシンジ
白骨をまき散らして倒れるMk.9
頭上を振り仰ぐ2号機

 アスカ『援護射撃、いっつも遅い!』
  マリ『めんごめんごー』

はっとなって頭上を探すシンジ

 シンジ(もう一機…!)

闇の天蓋に開けたドグマ侵入口、その周壁の一角に陣取った8号機が目に入る

572 :7/9:2015/09/29(火) 21:25:43.30
そのまま容赦なくMk.9をその場に釘付けにしていく8号機
何度となく銃弾に叩き伏せられ、宙に舞うMk.9
それを目にしながらも今は第13号機を起き上がらせるシンジ
傍らのカヲルに一瞥を投げる
打ちのめされているようなカヲルの顔

 シンジ「…大丈夫、カヲル君?!」

答えはない
立ち上がる第13号機
俊敏に距離を詰めてくる2号機
本気で向かってきているその姿勢が胸をえぐる
叫ぶシンジ

 シンジ「やめろよ! …アスカッ!」

つんのめるように飛び出すタイミングを外す2号機
その動作にまぎれもなく『アスカ』を見て取るシンジ
痛みを押し殺す

 シンジ「何で邪魔するんだよ、アスカ!」
 .アスカ『…ガキシンジ?! …エヴァに乗ってるの?!』

573 :8/9:2015/09/29(火) 21:27:02.73
外部音声を通しても伝わるアスカの動揺
が、それは事態に対する抑制された驚愕であって、感情的な迷いではない
14年の落差を思い知らされるシンジ
悔しさが言葉に出る

 シンジ「そうだよ。エヴァに乗って、もう一度世界を変えるんだ!
     僕が駄目にした。だから償うんだ。このエヴァと、あそこにある二本の槍で!」
 .アスカ『…ガキが』

一言で切り捨てるアスカの声
ぐっと声を洩らすシンジ
何事もなかったように体勢を整える2号機改

 .アスカ『だったら乗るなッ!!』

渾身の一撃が第13号機を襲う
必死に防ぐシンジ
アスカを攻撃したくない
なのに、向こうは倒す気で向かってくる
世界の敵として見てくる
泣きたくなるシンジ

 シンジ「何でわかってくれないんだよ! 僕は自分のためにエヴァに乗ってるんじゃない!
     少しでも、世界を元通りにしたいんだ! それにはあの槍があればできるんだ!」

574 :9/9:2015/09/29(火) 21:29:24.26
 .アスカ『バカガキ! だからガキだって言ってんのよ!
     ガキがガキのまんまでエヴァに乗って、またサードインパクトを起こす気?!』
 シンジ「違う、槍があれば、もう一度世界を修復できる! みんなでやり直せるんだ!」
 .アスカ『そうやって簡単に思い込む。…ほんっとに、ガキね』
 シンジ「違うッ!」

2号機の猛攻に押される第13号機
薙刀に貫通され次々と爆砕するATF発生装置
残機数を確かめるシンジ
一方的な防戦の合間に、懸命にカヲルを見やる
カヲルを守ると思うから戦っていられる
でなければ手もなくアスカの強さと気迫に屈してしまうだろうとわかっている

 シンジ(…カヲル君だけは守らなきゃ)
 シンジ(…もう、何もわからなくてもいい。この先何が起きたって、一緒なら耐えられる。
     この人を失ってしまったら、僕は)

最後のATF発生装置二基が薙刀を食い止め、立て続けに爆発する
新たな勢いで斬りかかる2号機
苦鳴を洩らすシンジ
素手で直接刃を掴み止める第13号機
ぎりぎりと両機の全身が震える
足元の白骨が砕け、その場に倒される第13号機
容赦なくのしかかってくる2号機

 .アスカ『さっさと…やられろォッ…!!』

-------
ここまでです 本当にいろいろとすみません(出来もペースも内容も全部)
読んでくださった方に感謝します

575 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/09/30(水) 08:48:43.78
うわあああああ来ちゃったああああ
この先を読むのが怖い…

…今からでいいからカヲル君生存ルートにしません?なんちゃって、駄目だよね orz
注文付けたい訳じゃないんでこのまま行っちゃってくださいw

576 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/09/30(水) 20:46:13.16
ho <オツー
no <ガンバレー、デモムリスンナヨー

577 :1/10:2015/10/01(木) 12:41:22.93
>>575-576 ありがとうございます
すみません、ここでカヲルを助けたら本編通り3号機で傷つけたアスカに不公平になってしまいます
なのでこのまま行きます 申し訳ありません、でも、ありがとうございます



焦燥が視野を狭める
食い入ってくる刃に火花を散らすエヴァの両手
もう言葉で訴えるしかないシンジ

 シンジ「アスカ! 聞いてよ、アスカ!
     僕らはインパクトを起こしに来たんじゃないんだ! 皆のためになりたいから、
     償いたいから、だからもう一度エヴァに乗ったんだよ! 槍を手にしたいだけなんだ!」
 シンジ(…カヲル君が止めてるのに?)
 シンジ「…ッ、僕らで槍を確保すれば、インパクトは起きない、…父さんの、ネルフの
     思い通りにさせなくて済むんだ! 世界を、これ以上壊したくないんだ!」

全く動じない2号機
さらに体重をかける
痛みに声をあげるシンジ

 .アスカ『ガキの夢物語に興味はないわ』
 シンジ「?! 夢だなんて…!」
 .アスカ『世界を修復? やり直す?
     …要するに、そのためにまた全部壊すんでしょ。新世界のための仕方ない犠牲。
     それがあんたの償いってわけ。いかにもガキの思いつきそうなことよ!』
 シンジ「アスカ…! 違うって言ってるだろ、どうしてわかってくれないんだよ!」

歯噛みしながらふいに悟るシンジ
寒気のような認識

578 :2/10:2015/10/01(木) 12:44:25.99
戦闘の緊張と昂揚で加速された思考の中から、考えてもいなかった疑いが閃く

 シンジ(違うんだ)
 シンジ(アスカには本当にわからないんだ。
     世界を滅ぼしたサードインパクトしか知らないから。それにそのもっと前、世界と
     生物を半分壊滅させた、あのセカンドインパクトしか)
      ミサト(それでもね…リリスさえ、守り抜くことができれば)
 シンジ(リリス…サードインパクトで、骸になった)
 シンジ(…ミサトさん)
 シンジ(だから…アスカたちにはそれで当たり前なんだ。
     僕らがやろうとしてることも、ネルフと同じにしか見えてないんだ。自分の目的の
     ためにエヴァとインパクトを利用しようとしてる、そんなふうにしか考えられないんだ)
 シンジ(僕らは、そんなためにいるんじゃないのに)
 シンジ(でもこれじゃ…通じない)

底なしの寒さを感じるシンジ
誰もに見捨てられるという、あの救いのない感覚
幼い頃に焼きついた痛み
燃えるような2号機の眼光
アスカの語調が冷酷に裏付ける

 .アスカ『どこまでもガキね。
     どんな言葉でごまかしても、あんたのしてることはネルフの意思と同じなのよ。
     自分で全然それに気づいてない。まるっきりネルフの人形だわ。…哀れね。
     あんたこそ、もう、邪魔しないで』

579 :3/10:2015/10/01(木) 12:45:26.74
シンジの眉根が震える

 シンジ(駄目なんだ…もう。
     わかってくれない。伝えきれない。…だったら僕が自分で動いて何とかするしかない。
     それには…僕が、自分でこのエヴァだけは、信じないと)

やみくもにプラグ内に視線を走らせるシンジ
もう武装はない
機体が軋む
と、ふいに2号機が力を失う

 .アスカ『…こんな時に!』
 シンジ「アスカ…?!」
 シンジ(…そうか、内部電源が)

シンジの目に光が戻る
もはや躊躇しない

 シンジ「…アスカ、…ごめんッ!」

もたれかかった2号機を抱え、起き上がりざま全力で投げ飛ばす第13号機

580 :4/10:2015/10/01(木) 12:47:05.75
白骨の丘を転げ落ち、頭蓋骨を薙ぎ散らしながら地に突っ込む2号機
両肩を大きく震わせているシンジ

 シンジ「これで、ちょっとは、時間が…
     カヲル君、…」
 .カヲル「…もうやめよう、シンジ君」

両目を見開くシンジ
カヲルを振り返る
既知の世界全てに裏切られたようなカヲルの表情
それでもなお決然とシンジを見る

 シンジ「…ッ、何言ってるんだよカヲル君、今のうちに」
 .カヲル「もう、やめよう。…あれは僕らの槍じゃない。…もういいんだ」

とっさの否定もできずにカヲルの眼差に捉われるシンジ
さっきアスカが投げつけた言葉が共鳴する
何を語られなくても伝わってしまう
もう駄目なんだという決定的な認識
同時に止めようもなく込み上げる、それに捕まりたくないという必死の思い
信じたくないという生きるための願い

 シンジ「…何言ってるんだよ、…今さら駄目なんて、それじゃ、何のために…僕らは」
 シンジ(…僕は)

581 :5/10:2015/10/01(木) 12:48:20.03
懇願に近い絶望の色を見せて首を振るカヲル

 .カヲル「…わかってる。でも…駄目なんだ。あれは僕らの希望じゃなかった。
     閉じ込めてあるからこその希望だったんだ。暴いても何も得られはしない。
     これ以上はやめよう、シンジ君。…嫌な予感がする。…君がそれに遭うのを、
     僕は望まない」
 シンジ「…カヲル君」

遠い投下音に続き、兵装コンテナが開く音
はっと振り向くシンジ

 シンジ(…そうか、上のもう一機! 2号機の予備電源まで!)

上体を起こしているのもやっとのようなカヲルと、2号機が倒れている辺りを見比べる
そのさらに向こうではMk.9が狙撃に阻まれ動けずにいる
焦燥が背筋に喰い入る

 シンジ「カヲル君、…でも、今はとにかく、ここをしのがないと。
     ここでやめても、ヴィレは僕らのこと敵だとしか思ってくれないよ。絶対に」
 .カヲル「…わかっているよ」
 シンジ「わかってるって…駄目だ、やめてよ、そんな言い方…!」

582 :6/10:2015/10/01(木) 12:49:29.72
ヴィレの人々の冷たい視線が甦る
あそこに戻ったら今度こそ何をされるかわからない
自分だけでなく、一緒にいるカヲルも、『綾波』も
記憶が意識の自由を奪う
取り乱し、どうしたらいいかわからずめちゃくちゃにかぶりを振るシンジ

 シンジ「カヲル君…それでも、何もしないなんて、もう、できないよ…!
     このまま諦めて終わるだけなんて…
     殺される…また。…戦わなきゃ。武器を…そうだ、武器なら」

突然の透徹した認識
リリスの上の槍を見据えるシンジ

 シンジ(たとえあれが、希望も奇跡も起こせなくても)

第二の使徒たるリリスを葬り、Mk.6をも封じている槍

 シンジ(武器になら、なる)

シンジの意図を察して息を呑むカヲル
必死の声

 .カヲル「…駄目だシンジ君、あれに触れちゃいけない」

振り返るシンジ

583 :7/10:2015/10/01(木) 12:52:10.01
既存の自分の全てを根底から覆され、それに懸命に耐えているカヲルの傷ついた目
なのに自身ではなくシンジのことを口にする

 .カヲル「…君はもう一度自分を取り戻せた。僕はそれでもう、いいんだ。
     ここまでだよ。シンジ君」

命じるのではなく、あくまで優しく言い聞かせる声
逆にシンジの目にこみ上げる涙
泣き顔を隠して強く首を振るシンジ

 シンジ「嫌だよ、…まだ終わりじゃないって、君が言ったんじゃないか。
     たとえ駄目でも、このまま何もせずに終わるなんて、できないよ。だって…君が」

シンジの心を映し、ぐるりとリリスへ回頭する第13号機
懸命に言いつのるカヲル

 .カヲル「あの槍を手にしても、恐らく僕らの希望は何も叶わない。…それだけでは済まない
     かもしれない。何が起こるか、僕にも…わからない。でも何より君の幸せになること
     じゃないのだけは確かだ。それだけは、僕は許したくない」
 シンジ「カヲル君…!」

584 :8/10:2015/10/01(木) 12:55:00.53
 シンジ「…、だからって、今さらアスカたちに、ヴィレに下るなんて無理だよ」

わななく声を抑えられないシンジ

 シンジ「だって、僕らは始めちゃったんだ。もう僕らは、自分でエヴァに乗ってこんなところまで
     来ちゃったんだ。ヴィレが許してくれるわけない。…父さんにすがるのも無理だ」

泣きそうな顔でシンジを見つめるカヲル
口にされなくてもわかっている
でも恐怖で口に出さずにはいられないシンジ

 シンジ「わかんないの、カヲル君?! 僕らはもう、世界中の敵になっちゃったんだよ!
     そんなつもりなんかないのに…もう誰もわかってくれないんだ。皆から敵にされる。
     そんなつらいこと、もう嫌だよ…!」
 .カヲル「…それでも、君が生きていけさえすればいい」
 シンジ「そんなのわからないよ! 殺されるかもしれないじゃないか! それに、今度は
     僕だけじゃないんだ。僕は、その方が嫌だ…」

シンジの切羽詰った目に何も言えなくなるカヲル
青ざめた顔が共感と願いに震える
今は何の力も持たないそれらの感傷への絶望
それらも全て、鏡に映したように感じ取るシンジ
カヲルの方へ身体を乗り出す

585 :9/10:2015/10/01(木) 12:56:17.10
相似形の二人の表情
涙ごと吐き出すシンジ

 シンジ「君に、何か悪いことが起きるのが、嫌なんだよ…
     君だけが僕に味方してくれたのに、そのせいで君が酷い目に遭わされる。
     そんなの僕は絶対に嫌だ。…絶対、耐えられない」
 .カヲル「それでも…構わない。もういいんだ。僕のことは、何一つ君のせいじゃない」
 シンジ「そんなこと言わないでよ! …頼むから、こんなところで僕を一人にしないでよ!」
 .カヲル「シンジ君…」

彼方で、コンテナ投下の隙をついて迫ったMk.9が再び阻止されたらしい衝撃音
強く歯を食いしばるシンジ
白く朽ちたリリス
髑髏の丘
赤い水面
それは容易にあの赤い天の渦を思い出させる

     レイ(私は、もういなくなったの。このまま消えていくのが今の私)
     レイ(だからもう…呼ばないで)
 シンジ(レイを、助けられなかったから)
 シンジ(アスカやミサトさんの敵になってしまったから)
 シンジ(…この人だけなんだ。僕には、もう)
 シンジ(だから…僕は、証明しなきゃいけないんだ。今。世界中に)
 シンジ(僕自身の意志で)

586 :10/10:2015/10/01(木) 12:57:54.06
シンジの顔に救いのない決意が昇るのを、見ているしかできないカヲル
自分の弱さを憎む
世界を整備などしていなかったリリンを信じていた自分を恨む

 シンジ「僕はあの槍を手に入れなきゃいけない。
     みんなのためとか、世界を救うとか、そんなごまかしの理由はもう要らない。
     僕らが僕らだって証明するために、世界に伝えるために、僕は槍を手に入れる」

カヲルの悲愴な目はそれを否定している
一瞬ひるみ、それでも前に進むことを選ぶシンジ

 シンジ「希望の槍じゃないかもしれない。だけど、何かは変わる。このまま何もしないで、
     君まで守れなくなるよりは、いい…!」
 .カヲル「…シンジ君!」

再び白骨の斜面を登り始める第13号機
引き裂かれ混乱する制御
何度となく自ら引きとめられ、ぎこちなく身をよじりながらリリスへと向かう
次第にシンジに引きずられるカヲル
リリスに取り付きその身体に登る第13号機
前方に白化したMk.6の巨体



またもや気持ち悪くてごめんなさい

587 :575:2015/10/03(土) 10:53:09.14 ID:AM1i5uSf7
>>577
わかってるよん、わざわざありがとね
信じた通り進んじゃってください
がんばれー!

588 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/10/03(土) 12:00:57.40 ID:cdFAWGsFB
test

589 :1/9:2015/10/03(土) 12:02:07.56
 アスカ『…まずいっ! コネメガネ、妨害物は片付いてる! AA弾の使用を許可!』
  マリ『待ってましたっ!』

通常のエヴァよりはるかに巨きいMk.6の長躯を昇りきる第13号機
頭上からの狙撃が第13号機の両肩付近、上胸部を貫く
ほとんど抵抗もなく機体内に沈む弾体
特段のダメージは認められない

  マリ『ATフィールドがない…?! まさか、この機体』

第13号機の胸部構造が口を開け、折りたたまれていた二本の副腕をさしのべる
槍を掴もうと二対の手を伸ばす第13号機

 アスカ『…やめろ! バカガキ!!』

がくんと機体が止まる
リリスの上で影絵のように凍りつく第13号機

 アスカ『?! 何…あれ…?!』
  マリ『…やっぱりね。もう一人がいたわけだ』

両目を見開いているシンジ
動けない
エヴァだけでなく、自分の身体も動かせない

590 :2/9:2015/10/03(土) 12:02:45.26
機体の意志に逆らって、主腕の両手をそれぞれ反対側の手で掴み止めている副腕
胸の前で交叉した腕が体幹の自由を封じる
カヲルの抱擁としてそれを感じるシンジ
振りほどくほどの意志の暴熱はない
それを持てない
頬を伝う涙
隣で深く頭を垂れているカヲル

 .カヲル「…ごめん。シンジ君。この世界で君に、何も、できなかった」
     レイ(ごめんなさい。何もできなかった)
 シンジ「…嫌だよ…」

同じ制御システム上にいながら交叉しない二人の視線

 .カヲル「僕が望むのは君の未来だ。
     今の僕は、もう君の重荷でしかない。…導こうと考えたことが傲慢だったんだ。
     …ごめん。君には、…僕は、いない方が良かった」

感情を抑えたカヲルの声
聞かされなくても、シンジの全身がその同じ悲しみに引きつる

591 :3/9:2015/10/03(土) 12:03:46.14
識閾に遠くこだまするレイの不在
カヲルまで同じく失うだろうという確信に近い絶望
DSSチョーカーを起動したミサトの酷薄な顔
石のような恐怖

 アスカ『最後のチャンス…! このまま突っ込む! コネメガネ、援護!』
  マリ『あいよっ!』

突如、戦闘音が甦る
ガンッと機体を揺さぶる衝撃
続けてもう一撃、さらに一撃
自分で自分を抱きしめた第13号機に降り注ぐ狙撃
MK.6の上で機体がぐらつく
Mk.9を見捨て、もはやなりふり構わず阻止にかかっている8号機
足元からは活動再開した2号機が迫る
追いつめられ、涙のにじむ目で槍を睨むシンジ
それでも頭の中は恐ろしいほど冴えている
一瞬の心の静寂
何がしたいのか、自分で自分を見定めようとするシンジ
覚悟を決める
自分の意志で強く操縦桿を引く
その顔は碇ゲンドウの面影を透かしている

 シンジ「…ごめん、…カヲル君」
 .カヲル「…シンジ君…?」

プラグに響く警告音
操作系統が変更され、カヲルをシステムから切り離す

592 :4/9:2015/10/03(土) 12:04:22.65
第13号機の二対の眼が真っ赤に染まる
裏切る痛みに総身で耐えるシンジ
叫ぶ

 シンジ「ごめん! でもやっぱり、君のこと失いたくない!」
 .カヲル「シンジ君! 駄目だ!」

統一された意志のもとに二対の腕を開く第13号機
槍に手がかかる

 シンジ「もうこれは僕らの選択じゃない。カヲル君のためでもない…僕だけの、エゴだ。
     だけど、たとえそうでしかなくたって、…僕は、自分の願いを殺すなんてできない。
     もう誰にも殺されたくない、君も殺させたくない!」
 シンジ(…ミサトさんにも)

二本の槍を握りしめ、シンジの思いに合わせて渾身の力をこめるヒトの形
固く埋まっていた槍が動き出す

 .カヲル「シンジ君…!」

めりめりと組織が裂ける音
赤い槍が相次いでリリスの朽ちた身体から引き抜かれる
左右対称に掲げた二本が宙で打ち合う
冴えた音がドグマの空洞にこだまする
生き物のように中途まで二重螺旋をほどき、完全に同一形状の二対の尖端を現す槍
夢中で見上げるシンジ
足元でリリスの骸が蠕動する

593 :5/9:2015/10/03(土) 12:05:23.00
止まっていた時間が流れ出す
組織全体の劣化が一気に進み、真っ赤に膨張して爆発する


旧発令所
佇む碇
目のないリリスの首が赤く膨張し、弾ける
降り注ぐ血を真っ向から浴びて立つ碇
全てを直視する

  碇「…始めよう。冬月」


激しく液体のしぶく音が突然絶える
赤い雨が塗り替えたセントラルドグマの光景
槍を掲げ宙に立つ第13号機の眼下、深紅一色となった湖面に波紋を広げて浮くMk.6
異変を認めるシンジ

 シンジ「エヴァMk.6…なんだ、あれ…?!」

プラグ側面モニターに警告表示
目を疑うシンジ

 シンジ「パターン青?!」
 .アスカ『くそっ! 第十二の使徒がまだ生きてる! …コネメガネ、3番コンテナ!
     サードの続きが始まる前に、あいつを片付ける!』

594 :6/9:2015/10/03(土) 12:06:30.84
不気味に宙でねじれ出すMk.6の身体
直上に浮かび始める天使の光輪
内部でうごめく別の何か
突然、その頭部が斬り飛ばされる
鎌を一閃させたMk.9

 シンジ「綾波…?! まさか、父さんの命令って…!」

頭部と胴体、二つの切断面から黒い奔流が噴き出す
意志を持つもののごとく空中でよじれ、二本の軌道を描き、まっしぐらに第13号機を目指す
高速回転する黒い球状の渦に呑まれる第13号機
何も見えない
利かなくなった操縦桿を何度も引くシンジ

 シンジ「使徒…! くそッ、どうなってるんだよ、槍はこっちが手に入れたっていうのに…!
     何なんだよ、…動け、動けよっ!」

ふいに隣で苦痛か違和感かに身体を二つに折るカヲル
はっとするシンジ
乱暴に額を掴む手指の隙間から見えるカヲルの顔はぞっとするほど憔悴している
プラグスーツの首元に明滅する赤い燐光

 シンジ「カヲル君…?! どうしたんだよ、カヲル君ッ!」
 .カヲル「…まさか」

595 :7/9:2015/10/03(土) 12:08:24.09
救いのない目を宙に据えるカヲル
第13号機の両肩の装甲が自ら吹き飛び、真上に伸びる赤い突起が形成されていく

 .カヲル「…第一使徒である僕が、第十三番目の使徒に落とされるとは…
     始まりと終わりは同じというわけか。…さすがはリリンの王、シンジ君の父上だ」

混乱し、死にものぐるいでただカヲルを呼ぶシンジ

 シンジ「…何、言ってるんだよ、…そんなこと言うなよ、カヲル君!」

理解できない現象を勝手に起こしている第13号機
四つの目が真っ赤に膨れ上がる
使徒の渦が姿を変え、内臓組織を思わせる生温かい膨張が周囲を押し包む
流動する表層に空しく弾を撃ち込む2号機改

  マリ『姫、無駄弾はやめなよ。あれ全部コアだから。私らじゃどうしようもにゃいよ…
     それに最後の使徒を倒したところで、鬼が出るか蛇が出るか…気になるじゃん?』

命令を果たし、使徒の変容を仰ぐMk.9
交錯する異様な鳴き声 新生児の泣き声、幼児の笑い声、少女の含み笑い
巨大なレイの顔になる使徒
呆然とそれを見守るレイ
震え出す身体

  レイ「これは…私、…わたしは、…なに?」

596 :8/9:2015/10/03(土) 12:10:08.92
自ら使徒をねじ曲げていく第13号機
使徒は巨大な胎児の姿をとる
続いてそれ自体が空中の一点にまで圧縮される
第13号機の顔のすぐ前に浮かぶ使徒のコア
エヴァがそれを噛み砕く
体内に取り込まれる虹
使徒の悲鳴に似た高い叫喚をあげる第13号機
その身体が白く輝き、両肩の突起がさらに細長い翼状に伸展する
二重の光輪を背負う純白のエヴァ

 アスカ『こいつ、擬似シン化形態を超えている…?!』
  マリ『DSSチョーカーに反応…存在しないはずの、十三番目の使徒…?
     …ゲンドウ君の狙いはこれか!』

崩れ始めるドグマ
逆流する力
第13号機はリリスの結界の破れを越え、メインシャフトを逆に昇っていく
一直線に地から天へと世界を貫く第13号機
砕け散るインフィニティの塔
ネルフ本部を守る逆四角錐の外壁構造すら貫通し、高空に達する第13号機
その頭上から速やかに広がる赤い環状渦
瞬時に大空を塗り替える
再び真っ赤に染まる地上
重力を無視して渦へと舞い上がる建造物、瓦礫、ばらばらになったインフィニティたち
途切れ途切れに息をするしかできないシンジ
信じたくない

597 :9/9:2015/10/03(土) 12:10:54.13
二度と見たくなかったはずの光景
現実をまざまざと見せつけられる

 シンジ「…何だよ、これ…」

地表でひときわ大きな破砕音
旧ジオフロントを突き破り聳えていく『黒き月』
月面に似た頂部と、明らかに人を超えた建造物を思わせる主幹部
地上にあった全てを払い落として赤い空にそそり立っていく
それら全ての上に浮かんだ第13号機
同じく光輪を負って傍らを守るMk.9
狂った悪夢のような眺望
でも夢でないことは自分自身が一番知っている

 シンジ「…僕が…槍を抜いたから、…これって」
 .カヲル「…フォースインパクト。その始まりの儀式さ」

我に返るシンジ
自分にとって唯一の信じたい現実のよすがを振り返る
悲しげにこちらを見ているカヲル
頸部周辺に、もはや隠しようもなく展開し周回を始めるDSSチョーカーの殲滅機構
目をみはるシンジ
プラグインテリアから身をもがき離し、半身を乗り出してカヲルの方へ手を伸ばす
触れようとした手はプラグ内壁に遮られる
何度手のひらを押しつけても、こぶしで叩いても、二つのプラグは隔たっている
ありありと互いの姿をリアルタイム投影こそしているが、最初から繋がってなどいない
絶望するシンジ
直後、機体が大きく揺さぶられる

 シンジ「?! …ミサトさんッ!!」

598 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/10/03(土) 12:22:21.98
>>587 ありがとうございます、恐縮です…
ほんとに申し訳ないです

確認のために何度かQ見返してますが自分の脳みそではわけわかりません
間違った描写があったらごめんなさい orz

599 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/10/03(土) 13:46:24.15 ID:AM1i5uSf7
ってかきてたー!!

>>598
うーんと…ゼーレの電源切ってないけど、シンジ視点じゃ関係ないかな?
電源OFFの後に13号機が目を見開くカットだったと思う…
でも気にすることないよあんな家電!

600 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/10/03(土) 21:01:06.55
あんな家電wwww

ho <乙、急展開だけど無理すんなよ
no <本編でも、ヴィレの立場はくどくなろうが>>578くらいの説明欲しかったな

601 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/10/04(日) 19:26:07.08 ID:NcC2qTVij
家電ワロス
Q公開当初もさんざ言われてたなw

黒波、正念場だぞ、がんばれー

602 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/10/05(月) 17:30:57.71 ID:9aC8Cqbw7
そうだ!黒波がんばれー

>>598
だいたいわかるから大丈夫っすよ

603 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/10/11(日) 21:08:36.40 ID:NgcqYYhak


604 :1/7:2015/10/13(火) 10:54:37.90
読んでくださった方、保守してくださる方、本当にいつもありがとうございます
>>599 そうでした… orz
今回は貴重なヴンダーの戦闘シーン!です
長い長いと思っていたQですが、いつのまにか終盤になってしまいました



膨大な風の悲鳴
捨て身の速度で艦体をぶつけ、そのまま第13号機を艦首に縫いつけるヴンダー
艦のATフィールドを全開し機体を封じ込めようとする
全周囲から押し潰してくる初号機のATフィールド
一瞬そこにレイを想うシンジ
余計に動けなくなる
めりめりと軋むATフィールドを持たない機体
剛体の壁となってのしかかる速度
背後、向きを変える四基の主砲
一斉射
太い輝線が縛りつけられた第13号機を越えて伸び、前方に展開された曲射フィールドに反射
真っ向から第13号機を打ち据える
激震の下で耐えるしかないシンジ
奔騰し気泡を立ち昇らせるLCL
その幕の向こうに見え隠れするカヲルの姿
悲しみに閉ざされた面持ちでひたすら耐え、それでも諦めずに考えようとている
シンジの目に涙がこみ上げる

 シンジ(…僕のせいだ)
 シンジ(こんなところに…連れてきてしまった、僕のせいだ)

605 :2/7:2015/10/13(火) 10:56:47.33
 シンジ(一緒に行くよって、言ってくれたのに。信じてくれてたのに)
 シンジ(僕は…でも、僕はただ、何かいいことをしたかっただけなんだ)
 シンジ(それだけだったんだ)
   シンジ(みんなが認めて、褒めてくれるようないいことを、だろ?)
   シンジ(それだけなんだ。いつだって、最初から)
 シンジ(違う、償いたかった。僕がしたことを。僕のせいでたった一人になったカヲル君を守りたかった。
     レイのようになってほしくなかった。ただ、それだけで)
 シンジ(…それだけだったから、なのか)

   カヲル(何も知らず、何も惨状を望まなくても。純粋に願ったからこそ、エヴァを
      覚醒させる最も有効な原動力となってしまったんだ。君の心がね)

怯えた両目を見開くシンジ
過ちだったドグマの昂揚が色褪せていく

 シンジ(そうだ。今度は僕だけじゃなかったのに。カヲル君が一緒だった…今も一緒にいる。
     僕一人だけがどうなっても済むことじゃなかったのに。カヲル君は、止めてくれたのに)
 シンジ(そんなことも忘れて…僕は、何を叶えたかったんだ?)
 シンジ(僕の望みって…何だったんだ)

さらにもう一陣の閃光が襲う
再び反転する光と闇、それに続く形ある敵意、あるいは罰の衝撃
咆哮するヴンダーの主砲

606 :3/7:2015/10/13(火) 10:58:08.03
一切手を緩めないミサト
なおも畳みかける
瞬間、別の爆発が主砲基部を直撃する
光輪を帯びて速やかに艦の並行軌道に乗るMk.9
使徒と同じ光線を放つ
首のない肩の間に形成される初号機に似た黒い頭部

 シンジ(レイ…違う、『綾波』…! どうして、…いや)
 シンジ(…これも、父さんなのか)

続けざまに宙に開く巨大な火球
解放される第13号機
白く輝きながらヴンダーから遠ざかる
振り向いてしまうシンジ
赤く咆哮する天地の間で急速に小さくなる炎の光景
被弾し大破するヴンダー
制御を失い、墜落する
風を切る艦体
赤い大地に激突し、ぎりぎり持ちこたえて長く地表面を削る主翼
容赦なく攻撃を加えるMk.9の光
涙でかすむ視界
もう何のために泣いているのか自分でもわからないシンジ
幾つもの顔と思い出が閉ざしていた堰を切り、ただ心から溢れ出す

607 :4/7:2015/10/13(火) 10:59:37.64
自分のものだけではないおびただしい悲しみ 孤独 苦しみ
どんなにしても傷ついてしまう心
生きていく上で逃れようもなく人が抱える罪と嘆き
無慈悲に積み重なる時間
ただ泣くことしかできないシンジ
とめどなくLCLに溶けていく涙の熱
何事もなかったように、人の手を借りず自らの軌道に戻っていく第13号機

艦体を立て直せないまま地表を滑走するヴンダー
追撃するMk.9
艦体中央を見舞う閃光
赤い世界を照らし上げる巨大な爆炎
そのままヴンダー艦体中央、主機格納殻を覆う肋材の上に舞い降りるMk.9
青い燐光を帯びた有機構造がのたうって垂れ下がる
主機格納殻に接触してとぐろを巻く情報索
侵入するデータが初号機をヴンダーから切り離し、新たに制御を上書きしていく
プラグ内のレイ
周囲はゼーレの印章に取り巻かれている
何が起こっているのかわからない
そのことが初めて不安になる

  レイ(なぜ…? リンクが回復しない)

608 :5/7:2015/10/13(火) 11:00:37.03
反応しないエヴァ
既にレイの意思を離れ自律して未知の行動を実行していく『アダムスの器』

    マリ(アダムスの器になる前に、そこから出た方がいいよ)

初めてエヴァを恐れるレイ
自分がエヴァの一部でしかないという不確かさが意識される
初めて、命令を恐れるレイ
他人に支配されている自分
疑問を持たなかった自分
ドグマで見上げた第十二使徒の上に現れた自分と同じ顔

  レイ(…わたしは、なに…?)

断続的な衝撃
向き直るMk.9
激しく揺れる主翼に取りつき、撃ってくる2号機
勝手に反撃するエヴァにとまどうだけのレイ
2号機がMk.9の閃光をかわし、爆炎にあおられて自ら宙に舞う
起動モードを変更し装甲≒拘束具の一部をパージする2号機
脊髄に沿って埋め込まれた形態制御リミッターが押し出されていく
人の形を捨てて咆哮する
人が動かすエヴァ
その中にいる、自分でエヴァを動かしている人

  レイ「…だれ」

609 :6/7:2015/10/13(火) 11:03:41.57
その声を聞くアスカ
獣化形態のエヴァからの情報圧が意識を半ば埋めている
沸騰する心に湧き上がる新たな怒り

 アスカ「…あんたこそ誰よ!!」

襲いくる閃光を噛みしだき飛散させる2号機
長くたくましく伸びた四肢で跳躍する
牙の生え揃った大顎を開いてMk.9に喰らいつく

 アスカ「ぐううううう…!!」

抵抗を突き抜け喉笛を貫く2号機の牙
噛みちぎられてぶらんと垂れ下がるMk.9の首
内部からかすかな声

  レイ『…こんなとき、イカリレイなら、どうするの』
 アスカ「?!」
  レイ『知らない。わからない。どんなことすればいいの』

幼い声に叫び返すアスカ

 アスカ「知るか! …あんたはどうしたいの!」

沈黙
一呼吸おいて、やおらMk.9の脊椎装甲が吹き飛び、エントリープラグが射出される
嵐の合間に飛び去るプラグ
一瞬見送るアスカ
そのまま首の取れたMk.9の肩口から機体内に腕を突っ込んでコアに銃撃を浴びせる
活動停止するMk.9
肩で息をするアスカ
はっとする

610 :7/7:2015/10/13(火) 11:04:20.16
弛緩していたMk.9の身体に力が戻り、角のある頭部が復元される
最悪の展開に歯噛みするアスカ

 アスカ「こいつ、全身がコアか…!
    時間がない、…全部一度に片付けなきゃ、ヴンダーが」

パイロットもなく自力で2号機を押さえ込みにかかるMk.9
揺さぶられるプラグ内を素早く走るアスカの視線
きつく奥歯を噛みしめて面を伏せる
血を吐くような言葉

 アスカ「…ごめん、2号機…!!」

機体の増設機構を起動する
オートエジェクションでプラグごと機体を脱出するアスカ
残された2号機
Mk.9が締め上げる
2号機の体幹が底深い光を放つ
発火

 アスカ「ごめん…、ごめん、2号機…」

暗転したプラグ内で繰り返すアスカ
赤い嵐をついて飛ぶプラグの背後で膨れ上がる2号機の自爆の光
Mk.9の支配を脱するヴンダー
だが、今はMk.9に侵食された主機の復元を待つしかない
彼方の空を仰ぐミサト
未だ天を覆う赤い渦状輪、世界の始まりと終わりを解放するガフの扉

611 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/10/13(火) 23:38:49.39 ID:JgJw8BMOr
きたか、乙
とうとうここまで来ちまったな…
大変だと思うけど、続き待ってるぜ

612 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/10/14(水) 10:19:19.08
ho <…クロナミモ アスカモ ツライナ…ソシテ シンジトカヲル…
no <ヨンデルヨー、コノサキモ ヨムヨ

ho no <<ガンバッテクレ

613 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/10/14(水) 12:32:56.42
来たね…
次はいよいよ…かぁ…

アスカ、お疲れさん、つらかったね
出撃のときマリに愚痴ってたけど、ちゃんとできたじゃん

614 :1/9:2015/10/15(木) 10:09:41.28
>>611-613 ありがとうございます



全天を覆う赤い渦状輪
渦の中心に近づくほどに赤はおぼろな虹の階梯を経て異様なほど冴えた紫に至り、
色彩の輪に囲まれた中央部はぽっかりと黒く開いて、空の彼方への通路となる
ガフの扉
その直下、赤く黒い空の深みにそびえる『黒き月』
頂の真上に浮かぶネルフ本部外構造
逆四方錐形の外周塞壁に沿って突き出した棘部それぞれから赤い光の流れが発して
扉の向こうへ狼煙のようにまっすぐ伸びている
赤い光のラインに囲まれて宙に立つ第13号機
白く輝く全身と赤い二対の眼
両肩から長く伸びた翼状突起
輝きが強烈すぎて真白にしか見えない二重の光輪
その手に掲げられた二本の同形の槍の赤
とてつもなく巨大な力の奔流の中央に立つ人の形
だが、それは既に意味を失っている
他の誰かの思惑の道具でしかない
思い知らされ、打ちひしがれたシンジ
カヲルと自分を隔てるエントリープラグの内壁にすがりついてただ涙する
道具でしかなかった自分
パイロットという名のエヴァの部品以外のものになれなかった自分
後悔 自責 悲嘆 恐怖
すすり泣くその声はもう力を失ってほとんど聞き取れない

615 :2/9:2015/10/15(木) 10:11:15.28
操縦インテリアの真下に描画されているのは『黒き月』の赤く染まった表面
重力を無視して浮き上がった大量の瓦礫とエヴァに似た人型の赤い渦が幾重にも層を作り、
地上は見えない
そのどこかにいるはずのミサトやアスカたち、『綾波』、そして多くの人々
再び壊れつつある世界を震えながら見つめるシンジ
その目に追いつめられた者の、それでも懸命な光が戻る
衝動的にカヲルへ伸ばされる手
空しくプラグ内壁にぶつかり表面を滑る
涙で汚れた顔を起こすシンジ
まっすぐにその視線を受け止めるカヲル
流し尽くしたと思っていた涙がまた新たにシンジの頬に溢れる
ここというどうしようもない時と場所まで、他でもない自分が連れてきてしまった人
最後の友達
その人も間もなく失われることを、既に知っているシンジ
無意識の願い、空しい祈りのようにカヲルを見つめ続ける
目を逸らさず受け止めてくれるカヲル
その首を周回するDSSチョーカーの展開構造
輝面で構成された多面体が今は錐か鉄杭の形となって、細い首、その奥の脊髄へと
無機質な狙いを定めて配置されている
目元から顎を伝いプラグスーツの首元まで何度も流れ下る涙の感触
泣くしかできない自分を強く憎むシンジ
責める意志が言葉になる

 シンジ「…僕の、せいだ。…全部。みんな僕のせいだ。
     僕のせいで…君も」

616 :3/9:2015/10/15(木) 10:13:00.01
 .カヲル「君のせいじゃないよ」

顔を打たれたように目を見開くシンジ
優しくていつもと変わらない、ほとんど明るくさえある口調で言い聞かせるカヲル

 .カヲル「僕が、第十三番目の使徒になってしまったからね。
     僕がトリガーだ」

緩く首を振るシンジ
しだいに激しく、子供のように頑なに何度もかぶりを振って否定する
こらえきれず顔を伏せる
押し殺された嗚咽
けれど居所を奪う恐怖に責められ、すぐにまたカヲルへと視線ですがる

 シンジ「…嫌だ」

カヲルを見つめたまま意固地に言いつのるシンジ

 シンジ「そんなのは嫌だ。嫌なんだよ…
     …何とか、しなきゃ。ねえ、カヲル君、僕はどうすればいい。どうすれば」

言葉が途切れる
自分でももう、自身の虚勢を信じていないシンジ
カヲルの静かな表情にも同じ事実を見て取る

617 :4/9:2015/10/15(木) 10:14:05.44
微笑んでもいないのに同じくらい優しい、いつもと変わらないカヲルの目
最初から答えを知っているシンジ

 シンジ「…どうしようもない」

プラグ内壁を掴む手が力を失って垂れていく

 シンジ「どうしようも…ないんだね。もう。…カヲル君でも。
     …エヴァと、槍があっても」

たじろぎもなくこちらを見つめているカヲルの目
その眼差にいつも包まれていたネルフ本部での日々
既に思い出になってしまった幾つもの光景がシンジの喉を締めつける
しゃくりあげそうになるのを必死でこらえるシンジ
抑えきれず、泣き声になる

 シンジ「また…叶わないんだね。僕の、願ったことは」

    シンジ(死ぬなら僕が死ねばいい。その代わり、せめてレイだけは)
    シンジ(希望じゃなくてもいい。カヲル君まで守れなくなるよりはいい)
 シンジ(そうだ。いつも…願ったことと逆の報いしか、僕には来ないのか)

ゆっくりとうなだれるシンジ

 シンジ「わかってたさ…
     僕は、14年前も、同じ…何一つ変わってなかったんだ。
     一人じゃ何にもできないくせして、何でも自分でできるつもりでいた。そのことも薄々
     知ってて、でも、気づかないふりして…ただ自分を守るためだけに、意地張って」

618 :5/9:2015/10/15(木) 10:15:43.62
 シンジ「その報いが来ても、いつも他の人を身代わりにして、償うこともしないんだ。
     自分が嫌いだから…でも自分だけは殺されたくないから、代わりに他の誰かを傷つける。
     そうしてから初めて本当に傷ついて、また自分を嫌いになって、…何度も何度も、同じ
     思いを繰り返して…なのに、いつだってわかろうとせずに、また、忘れてしまうんだ」
 .カヲル「…君が生き続けていくためには、必要なことだよ」

びくりとするシンジ
顔を上げる
優しい目で全て受け止めているカヲル

 .カヲル「間違いを繰り返しても、そのつらさも痛みにも、時とともに慣れることができるから、
     人は生きていけるのさ。そこから、少しずつでも、気づいて、学べばいい。
     生きていこうとするから…誰かが生きていくと思えるから、希望は生まれ続ける。
     だから忘れてもいい。心の痛みを抱えたまま生きていく強さを、君が得るまではね。
     …いつかその勇気を持てたときにまた、思い出してくれれば、それで、僕は嬉しい」

聞き分けない子供のようにかぶりを振るシンジ

 シンジ「…そんなこと言うなよ。…もう、忘れたくないんだ。
     もうどこにも行きたくない。君と一緒がいい。ずっと、一緒にいたいんだ」

吐き出される言葉
微笑するカヲル

 .カヲル「それは無理だよ。
     永遠は現実の中にはないんだ。魂は、前に進むことしかできないからね」
 シンジ「だけど、僕は君を置き去りにして進みたくなんかない…!」

なりふり構わず泣きじゃくるシンジ

619 :6/9:2015/10/15(木) 10:18:27.00
 シンジ「お願いだから、これでいいなんて言わないでよ! 
     僕なんかより、自分のこと諦めないでよ、こんな…寂しい終わり方、ないだろ…!
     一緒に行くって、一緒に行こうって言ったじゃないか…!
     君は使徒なんかじゃない、僕の、一番大事な友達だ。14年前からずっと」
 .カヲル「…ありがとう。
     僕を…そう呼んでくれるんだね。
     だがその思いが、結果、君に間違いを犯させてしまった。…これは、僕のせいだよ」
 シンジ「違うよ! 違う…!」

黒く開けた天を仰ぐカヲル
強い眼差でガフの扉に向ける

 .カヲル「…魂が消えても、願いと呪いはこの世界に残る。
     意志は情報として世界を繋ぎ、変えていく。いつか自分自身のことも書き換えていくんだ。
     だから…僕は、これでいい」

絶望に掴まれるシンジ
一人で行ってしまおうとするカヲル
すがりつこうとしても手は届かない
言葉も心も止める力にはならない
その理由がシンジ自身のためであること、シンジに生き残ってほしいからであること
それが痛いほどわかる
恐怖

620 :7/9:2015/10/15(木) 10:19:28.14
喪失、その底なしの痛みの予感
涙でかすむ目をカヲルに凝らすしかできないシンジ

 .カヲル「…ごめん。僕の望みは、君を、幸せにできなかったね」

ガフの扉の向こうに白く光る鋭い十字形の構造
回転しながら近づいてくるらしい、遥か彼方からのはかり知れない巨大な異質の意志
厳しい目でそれを見据えるカヲル

 .カヲル「ガフの扉は僕が閉じる。
     トリガーである僕がしなければならないことだ。君は、心配しなくていい」
 シンジ「何言ってるんだよ…!
     そんな、悲しいこと、…どうしようもないなんて、言うなよッ! 
     嫌だよ、ねえ、君がいなくなったら僕はどうすればいい…? こんなところに僕を独りで
     置いていかないでよ…違う、僕がどうでも、君はいなくなっちゃ駄目だ、駄目なんだ!
     僕は嫌だ! 償わなきゃならないのは僕だ、君じゃない! 生き残るなら君の方なんだ!
     だから、ねえッ、カヲル君…!」

向き直り、優しい目でシンジを見るカヲル
幼い訴えが喉の奥で死んでいくのを感じるシンジ

 .カヲル「出会ったら、いつかは別れなければならない。
     それが人の定めだ。でも別れるから、また別のいつか、再び出会うこともできる」

追いつめられた顔を見開いた目ばかりにしてただ見つめるだけのシンジ

621 :8/9:2015/10/15(木) 10:20:55.53
遥かな懐かしいものを見る眼差で見守るカヲル
打ち明けるように口にする

 .カヲル「…この世でたった一人の、僕と運命をともにする者。
     巡り会い、共に世界の至聖所へ行き着くべき、唯一、僕の対となる、魂の双子」

涙が溢れるままのシンジ
ちょっと照れたように笑うカヲル
決意の表情になる

 .カヲル「…それに独りだなんていうのは、君の思い込みだよ。人は必ず人と繋がる。どんな時にもね。
     生きていければ、大丈夫さ」

第13号機の手の中で槍が形状を変える
鋭い一本の赤い線
振りかぶり、自らのコアに槍を深々と突き立てる第13号機
まばゆい菫色の輝きがその周囲に閃く
プラグの中でシンジの身体が苦痛に跳ねる
もう一本の槍をかかげ、十字形に自身を貫くエヴァ
再び苦悶でLCLを吐き、きつく身体を折るシンジ
エヴァを囲んでみるみる数を増していく強烈な白と菫色の閃光
静かなカヲルの表情
DSSチョーカーの幾何学構造小体が周回軌道を描いてきらめく

 .カヲル「君はただ、安らぎと自分の居場所を見つければいいんだよ。シンジ君。
     縁が、…他人との繋がりが、生きていく君を導いてくれる」

622 :9/9:2015/10/15(木) 10:25:03.77
意識を領する苦痛をふりほどき無理やり顔を上げるシンジ
身を噛む恐怖 すなわち絶対に現実になってほしくないすぐそこに迫る未来の姿
まだ何も伝えてない、まだ何も応えてない
泣きながらカヲルの名を叫ぶ
絶叫する
心配そうに見つめ、微笑むカヲル

 .カヲル「…そんな顔をしないで。また…会えるよ」
 シンジ「カヲ…」

閃光
遮断
チョーカーの殲滅機構が周回中心の一点に集束する
光で見えなくなるカヲルの最後の笑顔
直後、生の赤い血しぶきがプラグに弾け散る
思わず両手をかざし身を引くシンジ
はっとして目を凝らす
向こう側のプラグの内部を塗り替えて滴る大量の濃い赤
声を失うシンジ
赤く膨れ上がっていた第13号機の四つの眼が力を失い、その一対が暗くなる
残った一対が天を仰いでいる
落下が始まる


長々と書いてる側の感傷丸出しの愚作にお付き合いいただき感謝に堪えません
読んでくださった方、本当にありがとうございます
シンジにもカヲルにもきっともっとたくさん言いたいことがあっただろうなと思い、こんな長文になりました
次回+もう一回くらいで、長かったQ部分も終了となります
その後は…これから考えます… orz でも、続きます

623 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/10/15(木) 10:28:57.05 ID:MvHiKT6vQ

続いてくれマジで

624 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/10/16(金) 21:10:18.38 ID:oIvCl/lP5
乙、読んだよー

カヲル、お疲れさま…がんばって生きたね
これしか言えないよ

続き待ってます

625 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/10/17(土) 20:43:09.42
ho <…ショクニン オツ
no <ツヅキヲ マツヨ デモ ムリセンデナー

626 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/10/18(日) 09:55:03.80 ID:tvJRVrH7O
>シンジにもカヲルにもきっともっとたくさん言いたいことがあっただろうなと

そうだよね…
職人ありがとう、FFだとしてもちょっとは救われたと思う

627 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/10/18(日) 22:10:06.81 ID:oNypenCcc
hoshu

628 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/10/22(木) 09:55:38.82 ID:1ChaqL2hf
matsuyo

629 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/10/26(月) 09:58:47.21
ho

630 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/11/01(日) 10:12:35.26 ID:TsmmV7LiW
hoshu

631 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/11/02(月) 20:06:53.87 ID:H8t5nxxxw
test

632 :1/8:2015/11/05(木) 20:58:41.44
>>623-631 感謝します、他に言葉がありません


ガフの扉直下
未だ天を覆う赤い虹の渦状環
遥かな高みからまっすぐに降下してくる白い第13号機
プラグ内のシンジ
冷たく無機質なプラグ内壁に身体を押しつけている
強く当てた額が向くのはさっきまでカヲルの操縦席があった方向
向こうのプラグのシステムが切れ、既に現状は投影されていない
だが光景はありありと眼裏に焼きついている
乱暴に赤く塗り潰された、今自分がいるのと同形の操縦席
空しい魂の座
身動きだけでかすかにしゃくりあげるシンジ
既に涙も涸れ声も出ない
腫れた瞼を半ば閉じてひたすらカヲルのいた場所へと眼を凝らしている
痛みが過ぎてもう何も感じない
もう何もしたくない
何もできない
何もできるはずがない
意識にあるのは無力感と消滅への願い
死んでカヲルと同じになることだけを強く望む心

 シンジ(…もう、それしかないよ。カヲル君)

633 :2/8:2015/11/05(木) 20:59:12.96
 シンジ(君は僕が生きることを望んでくれたけど…僕は、…だって)

通奏低音のように感覚の基底を流れる第13号機の活動状態
それとリンクした、未だ閉じないガフの扉の声なき圧力

 シンジ(エヴァが…止まらないんだ)

槍二本を胸に受けた苦悶はまだ続いているのに、完全停止しないエヴァ

 シンジ(なんでだよ…彼の犠牲だけじゃ、足りないっていうのか…?)
 シンジ(それとも)
 シンジ(僕がここにいるから)

暗い刃のようになるシンジの目

 シンジ(なら…僕も。カヲル君と、同じに)

なめらかなプラグ内壁を強く掴もうとする手

 シンジ(でもどうやって…? どうすれば、できる?)

完全にシンジの意志と無関係に今も動き続けているエヴァ
悔しさにシンジの眉間が歪む

634 :3/8:2015/11/05(木) 21:00:40.26
シンジ(何も…できないのか)

怒りとともに自分を強く恥じるシンジ

 シンジ(…僕には、カヲル君がしてくれたことを終わらせることもできない)

何の意味もなく握りしめられる両手

 シンジ(ごめん…ごめんよ、君が命がけで願ってくれたことすら、叶えられないんだ。
     何もできないんだ。ただここに馬鹿みたいに坐ってるだけで)

   (坐っていればいいわ。それ以上は望みません)

かすかに両目を見開くシンジ
昔、聞いた覚えのある言葉
懸命に記憶をたぐり寄せようとするシンジ

 シンジ(…あれは…いつだった…?
     そうだ、…父さんに呼ばれてあの街に来て、初めて、エヴァを見たときだ)

色のない遠い場景
今はもう存在しないエヴァ初号機のケイジ

    ミサト(でも、あのレイでさえ、エヴァとシンクロするのに七ヶ月もかかったのよ?!
        今来たばかりのこの子には、とても無理よ…!)

635 :4/8:2015/11/05(木) 21:01:29.84
    リツコ(坐っていればいいわ。それ以上は望みません。
       今はエヴァとわずかでもシンクロ可能な人間を乗せる以外に方法はないの。
       わかっているはずよ)

震え出す身体
再びシンジの両目から意志の光が死んでいく

 シンジ(そうだ…最初からそうだったんだ。
     僕はエントリープラグに生きて乗っていればいいだけ。エヴァが起動しさえすればいい、
     そのための、エヴァの部品なんだ。初めから、父さんの道具だったんだ)
 シンジ(…きっと、レイとカヲル君と、同じに)

苦く救いようのない笑みに歪むシンジの頬
かすれ声がプラグに落ちる

 シンジ「…どうしようも、ないよ。
     僕は君と同じだったんだ、カヲル君。自分で死ぬ勇気もないけど」

機体の遥か真上で開ききったガフの扉
周囲を舞う赤い瓦礫やインフィニティたちの塵層
見つめるシンジの目が真っ暗に沈み込んでいく

 シンジ(…このままインパクトが止まらず、世界が終わるのなら)

636 :5/8:2015/11/05(木) 21:02:40.46
両手に静かに力をこめる
プラグ内壁に額をさらに強く押し当て、全身ですがりつくシンジ

 シンジ「だったら…
     死ぬこともできないなら、僕はこのままここで、君の傍で、せめて眠りたいよ…
     君しかいなかったんだ。その君ももういないなら、僕には、生きていく意味なんか、ない」

耳の奥に残るカヲルの声が答える

  カヲル(それは、君の思い込みだよ)

きつく目をつぶるシンジ

 シンジ「…嫌だ! 僕にはもう君だけだったんだ! それで良かったんだ!」

  カヲル(人は必ず人と繋がる)

 シンジ「もう誰もいないよ! いるはずない! だから、ねえ、カヲル君…!」

もう答えはない
その代わりのように、機体を新たな衝撃が襲う

637 :6/8:2015/11/05(木) 21:03:53.91
自ら身を躍らせて宙の第13号機を捕まえたエヴァ8号機
ノイズ混じりのマリの声がシンジのプラグに届く

   マリ『…後始末はした! しっかりしろ、ワンコ君!』

瞬間的に憤るシンジ

 シンジ「…何も…済んでなんかないだろ!」
   マリ『だったら君が終わらせればいい! その手で! でなきゃ何のためにそこにいるんだ!』

頑なに表情を閉ざすシンジ
立てた両膝に顔を埋めて、マリの声を遠ざけようとする

 シンジ「無理だ。僕に何も…できるわけない」

はね返るマリの本気の怒声

   マリ『グズるな! せめて姫を助けろ、君は、男だろ!!
     ついでに…少しは世間を知ってこいっ!』

ガシャンと暗転するプラグのシステム
恐怖に顔を上げるシンジ

 シンジ(……いやだ)

638 :7/8:2015/11/05(木) 21:05:08.18
8号機が作動したオートエジェクション
機械構造として設計された通りに無情に射出されるエントリープラグ
世界が破られる
両目を見開くシンジ
遠ざかる、独り佇んだままの寂しげなカヲルの印象
涸れたはずの涙が新しく頬を伝う
名前を呼ぶシンジ
声にならない
第13号機の機体から白い輝きが失せ、通常の自由落下に移行する
元の紫に戻った機体を蹴って跳び離れる8号機
相次いで、黒き月と周辺の廃墟に落下する
逆流する天の虹
すさまじい勢いで収束し閉じるガフの扉
浮力を失い次々と地表に崩落していく瓦礫とインフィニティたち
嘘のようなスケールでゆっくりと傾き、山々の頂をまたいで倒れる黒き月
衛星一つを丸ごと彫り抜いて建造された巨大構造物
恐らくは遠い遠い昔、遥か彼方からようやくこの惑星にたどり着いた、よるべなき舟
異象の痕もなく開ける青天
戻った陽光の下に赤くコア化汚染された地上の眺望が広がる

639 :8/8:2015/11/05(木) 21:06:25.56
どこか隔離された場所
機械に繋がれた緻密な暗闇に囲まれ、坐している碇
傍に立つ冬月が見つめるモニター
ひとまずの終焉の光景

 冬月「…酷いありさまだ。ほとんどがゼーレの目論見通りに運んでしまった」
   碇「だがゼーレの少年を排除し、第13号機を覚醒に導くことができた。
     …今はこれでいい」

顔の前に固く両手を組んだ碇の姿を、幾つもの感情を抑えて見やる冬月


応急処置を終え通常航行に戻るヴンダー
甲板に横たえられた改2号機の残骸と四肢の大部分を失った8号機
艦橋に立つミサト
頼もしく責務をこなすクルーたちの声が交錯する

  リツコ「…誰のおかげかわからないけど、フォースは止まった。
     ミサト、今はこれで良しとしましょう」

答えないミサト
サングラスに隠された両目の表情は窺えない
ただまっすぐに、戻ることのできない前だけを見る



次回でQ相当部分は終了となります
読んでくれた方に心から感謝します ありがとうございます

640 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/11/06(金) 09:37:40.24 ID:d408BcsrD

マリはアスカのことどういう意味で好きなんだろう?とちょっと思った
あと、beautiful worldは反則すぎる
朝から鼻かみまくった
とにかく乙

641 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/11/07(土) 08:59:14.91 ID:Hp8Zhn9G7
乙、読んだよー
こういう形で改めて見るとマリかっこいいね、エピローグのアスカ黒波にも期待!

>>640
前回(>>622)桜流しも使われてたよ… OTZ

642 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/11/07(土) 13:21:58.63
ho <…
no <ガンバレ…

>>641
マジだ…今気づくとか鬱過ぎるだろ…(俺が)
それにしても、Qがつくづく救われない話だと再認識したよ…

643 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/11/07(土) 22:21:56.21
マリは「にゃ」言わない方が男前でカッコイイな

644 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/11/11(水) 11:13:34.94


645 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/11/13(金) 22:36:00.19


646 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/11/16(月) 21:23:30.15
待つよー

647 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/11/20(金) 00:25:07.42
眼帯アスカと黒波まだー?

648 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/11/28(土) 09:19:55.54 ID:TzTeOx4QU
保守

649 :1/10:2015/12/03(木) 12:45:25.15 ID:26fHkhiNJ
>>640-648 本当にありがとうございます


沈滞した闇の底
細長い虚洞 システム停止したエントリープラグ
きつく両膝を抱えうずくまっているシンジ
落下および着地の衝撃もおさまり、プラグの周囲は再び静まり返っている
嘘のような静寂
感覚の麻痺と重なる
せめて身体の痛みだけは手放すまいと、両腕に力をこめ、無理に背中を曲げるシンジ
苦痛があれば少しは胸の空洞がかすむ気がする
それも錯覚だとどこかでわかっている
何ものも本当には喪失を埋め合わせることはできない
嫌だと繰り返す頑なさだけが、空っぽの自分をかろうじて繋ぎ止めている
身体の底を直接えぐるような、カヲルの不在
正確には、殺害

 シンジ(…僕が殺したんだ。カヲル君を)
 シンジ(僕が…やめようって言われたのに、自分のことだけで、槍を抜いたから)
 シンジ(だから、僕が…殺したんだ)

深く折った首筋が断続的に震える
これ以上泣けないと思ったのに、身体がどこか壊れたように、まだ溢れてくる涙
壊れたのが心ならいいと、空しく願ってみるシンジ
自己欺瞞の認識
何故なら、自分はまだここで生きて、自分自身を感じ続けている
ちっとも壊れていない

650 :2/10:2015/12/03(木) 12:46:27.41 ID:26fHkhiNJ
まだ生きて呼吸して、血が通って体温を保っている
壊れてなんかいない
ほとんど罪悪に等しく思える、まだ生き残っているという厳然たる事実
さよならを言わなかったカヲルの面影
カヲルが自らの死と引き換えに願ってくれたこと

   カヲル(生きていければ、大丈夫さ。
      君は安らぎと自分の居場所を見つければいい。…そんな顔をしないで)

もはや声をあげて泣き伏すだけの力もなく、涙が流れるままに任せるシンジ

 シンジ(…カヲル君)

思うだけでまた世界が遠のく
繰り返しわななく身体
せめて自分を痛めつけたくて、疲弊した身体にまた無理に力をこめるシンジ

 シンジ(大丈夫じゃないんだ)
 シンジ(全然、大丈夫じゃない。僕には…もう何もできないよ。生きるなんて無理だ)
 シンジ(だから、お願いだ)
 シンジ「…このまま、傍にいさせてよ」

食いしばる歯が軋る
滴る涙

 シンジ「…なんで、まだ生きてるんだ。…世界が壊れたなら、僕も壊れて当然じゃないか。
     なんで…僕だけが、まだ、生きてるんだよ…」

651 :3/10:2015/12/03(木) 12:47:20.73 ID:26fHkhiNJ

生きている自分を憎むシンジ
そのくせ死を願うこともできない

起動したDSSチョーカーの灼熱の締圧
ミサトの冷たい目
びくりとなるシンジ
勝手に切迫する呼吸 噴き上げる恐怖
生きた自分の身体の反応に振り回されるシンジ
また溢れる涙の熱さ
無力感と罪の自覚

   シンジ(ミサトさんが僕を殺したんだ。怖くて…怖くて…あんな死に方、もう、したくない)
    カヲル(リリンの呪いとエヴァの覚醒リスクは僕が引き受ける。
       これはもともと僕のために用意されたものだ。いずれはこうするつもりだったんだ)
 シンジ(結局…あれをカヲル君に押し付けて、自分は逃げてきただけなんだ)
 シンジ(…何故、僕じゃなかったの、…カヲル君。
     生き残るべきなのは、きっと君の方だったのに。なんで、僕じゃなかったんだ…?
     なんで、僕なんかがまだ生きてなきゃいけないんだ?)

生き残りそのものを意味する罪
罪それ自体である生存
他人の死の上に立っている今の自分

652 :4/10:2015/12/03(木) 12:48:56.05 ID:26fHkhiNJ
   カヲル(それでも、僕は君が生きていけさえすればいい。これでいいんだよ。
      だから、そう、…そんな顔をしないで)
     カヲル(僕は、いつも君が心配だよ。どこにいてもね)
     カヲル(また会おう。それまで、元気で)
   カヲル(また…会えるよ)

泣き声を押し殺すシンジ
次第に嗄れた息遣いだけになる
ふっと目を開くシンジ
ぼやけた視界の隅に黒い矩形
カヲルが直してくれたSDATがコードを巻いたまま転がっている
新たに噴きこぼれる涙
裏腹に暗く冷えていくシンジの目

 シンジ(…このまま、ずっとここにいられれば)
 シンジ(そうしたら…死ぬ勇気がなくても、ここが、僕の棺になってくれるのかな)

再び目を伏せ、顔を両膝の間に埋める
こわばった全身をむしろ快く感じるシンジ
安らぎと無縁な沈黙
死より悪い静寂
抗わないシンジ
時間の流れが麻痺する

653 :5/10:2015/12/03(木) 12:51:17.28 ID:26fHkhiNJ
突然、闇が暴かれる
エントリープラグのハッチが吹き飛ばされ、地面に落下する重い衝撃音
なだれこむ赤と青の外光
強制開放したハッチ口に立ち、プラグスーツ姿のまま両肩で息をしているアスカ
風が長い髪を舞い上げる
操縦席の傍にうずくまっているシンジの姿
寸時無言で見下ろすアスカ
息を整え、両手を腰に当てる

 アスカ「…ガキシンジ」

動かないシンジ

 アスカ「助けてくれないんだ、私を」

自分の痛みに閉じこもっているシンジを見下ろす

 アスカ「…またそうやって自分のことばっかり。黙ってりゃ済むと思ってる。
    めそめそして、一番かわいそうですって顔して。助けてもらえるのをただ待って」

654 :6/10:2015/12/03(木) 12:52:41.72 ID:26fHkhiNJ
淡く重なっていく同属嫌悪
自身もかつてそうだった14歳という純粋な矛盾の形
幾つものやるせなさに軽く目を細めるアスカ
戦闘員の目つきに戻り、ざっとプラグの仕様を観察する

 アスカ「やっぱり、あんたがゼーレの保険だったわけか。止まらないフォースを強制的に
    止めるために、トリガーとエヴァの物理的接触を遮断する。一番早くて確実な、
    例によって力技を選んだのね。コネメガネらしい。…けどそれも、これじゃね」

言い捨ててハッチを離れプラグから身軽に飛び降りる
赤い焦土を踏んで周囲を見渡すアスカ
青空と一面の赤い廃景
無意識に溜息を洩らすアスカ
後戻りできない時を重ねた、28歳の大人の女性の疲れが覗く
風が過ぎていく
赤い塵の幕が広大な廃墟を包む
振り返るアスカ
意識して乱暴な足取りでプラグへ戻っていく

655 :7/10:2015/12/03(木) 12:53:30.11 ID:26fHkhiNJ
とっくに破られた閉塞になおも固執しているシンジ
ここから動きたくない、もうどこに行きたくない、何もしたくない
と、衝撃
痛みとともに視界が横転する
何が起きたのか理解できないシンジ

 シンジ「ぐ…、…?!」

LCLの残りをはね散らし、蹴り飛ばしたシンジに近づくアスカ

 アスカ「まだ甘えてる!」

容赦なく髪を掴んでシンジの頭を持ち上げる
痛みにかすかにもがくシンジ

 アスカ「いい加減にしなさいよ。世界はあんたのために続いてるんじゃないのよ。
    ったくホント、いつまで経っても、手間のかかるガキね!」

そのまま無理やりシンジを起こし、引きずってプラグの外へ連れ出す
ごく弱い抵抗しかしないシンジ
されるがままの無気力に苛立ちを隠さないアスカ
地面の様子をざっと確かめ、柔らかい赤い砂の上にシンジを放り出す

656 :8/10:2015/12/03(木) 12:55:09.72 ID:26fHkhiNJ
続いて自分も飛び降り、もう一度無理に立ち上がらせる
力の抜けたシンジの身体
怒りながら自分をも励まし、反応しないシンジの面倒を見てやるアスカ

 アスカ「ほら、これ着けて。…んもう、立ってるくらい自分でできるでしょ!」

非常脱出時のためのサバイバルパックを強引にシンジの上体に付けるアスカ
ふと振り向く
赤い土の上をすぐ近くまで歩いてきているレイ
ヴィレと微妙に仕様が異なる黒いプラグスーツに、教科書通りに付けた脱出用パック
ふんと鼻を鳴らすアスカ
軽く腰に手を当てて見据える
黙って佇んでいるレイ

 アスカ「…さっきのパイロットね」

わずかに顔の向きを変えるシンジ
素早く一瞥するアスカ

 シンジ「…『綾波』」

657 :9/10:2015/12/03(木) 12:55:55.13 ID:26fHkhiNJ
表情の戻っていないシンジの顔
同じく何の表情もないレイの顔
繋がらない二人の視線を見て取り、あえて粗雑に答えるアスカ

 アスカ「そう、知ってるなら話が早いわ。
     ネルフはなりふり構わずあんたを取り込もうとしたってわけ。綾波シリーズの、こんな
     初期ロットなんかまでわざわざ引っ張り出して。…まんまとそれに騙されて」

答えないシンジ
少し穏やかに息を吐くアスカ
14歳の目に浮かぶ、よるべない子供を見る大人の眼差
突っ立っている二人をそのままに、もう一度プラグに登る
吹き渡る風
黒い眼帯が光を受ける
観測用機器を赤い地平にかざすアスカ
予想通りの表示に顔をしかめる

 アスカ「…コネメガネの役立たず、爆心地の方に射出したんじゃ逆効果だっつうの」

倒れた黒き月の頭頂方向を眺める
恐らくその辺りに埋没しているだろう、覚醒を許してしまったネルフの新型エヴァ
一瞬歯噛みし、今は振り切る

658 :10/10:2015/12/03(木) 12:57:15.72
 アスカ「ここだと、L結界密度が高すぎて助けにこれないわ。
     リリンが近づける場所まで移動するわよ。…よっ、と」

赤い砂の上に飛び降りる
黙って目を向けるレイ
相変わらず身動きもしないシンジ
きっと睨みつけるアスカ
その目に閃く鮮やかな怒りと、その他幾重にも重なり合う人間くさい感情
シンジの手を掴み半ば引きずるように歩き出すアスカ
よろめいて無気力に従うシンジ
振り落とされ、踏み跡にSDATが落ちる
無感動に見下ろすレイ
それでも、手を伸ばして拾い上げ、二人の後について歩き始める
変わらない青空と白い雲
赤く死んだ地表
陽炎の立つ中を黙って進むアスカ、シンジ、レイ
それぞれの生きた身体で呼吸しながら、中断された終焉の続きを歩いていく
ふと振り返るシンジ
遠ざかる第13号機のエントリープラグ
それももう陽炎にかすんでぼやけている
気づいて強く引っぱるアスカの手
転びそうになって危うく前に向き直らされるシンジ
顔を伏せる
もつれあいながらどこまでも長く伸びる三人の足跡



以上でQ編は終了となります
この後は…考えます……でも続きます、意地でも
読んでくださった方、ありがとうございます

659 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/12/03(木) 21:56:51.97
乙!

660 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/12/04(金) 01:11:29.49
ho <キテター!! ナガカッタナ、 ショクニン オツカレサマ
no <ツヅキ マッテルヨー

661 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/12/05(土) 20:19:19.12 ID:TJSesaHPy
エントリープラグが棺かぁ…カヲルはそうなっちゃったのね…
おつかれさまでした…

この先どうなるんだろうか(新劇本編も含めて)

662 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/12/10(木) 00:43:54.07 ID:T7zrBE5Ri
ho

663 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/12/10(木) 21:45:56.15 ID:T7zrBE5Ri
>>658
続いてくれ

664 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/12/17(木) 09:18:44.79
ho <ネンマツー

665 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2015/12/21(月) 00:18:07.81
hoshu

666 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2016/01/01(金) 00:37:13.22 ID:2t73HUuiF
666

667 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2016/01/14(木) 19:42:04.89
667

668 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2016/01/21(木) 09:51:45.48 ID:VEfj/QCCZ
668

669 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2016/01/27(水) 09:57:59.23 ID:8+xjKEGA+
669

670 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2016/02/04(木) 21:38:24.40 ID:AWXlM71Bj
670

671 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2016/02/21(日) 12:23:21.99 ID:8g/gqW0Vz
フェブラリー

672 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2016/03/03(木) 09:31:22.05 ID:AG/uXW+bb
3月

673 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2016/03/17(木) 23:12:47.49 ID:xqeD3KWGU
test

674 :1/7:2016/03/17(木) 23:17:17.75
断続する振動
揺れる視界
交互に踏み出す自分の両足が身体を揺さぶる
足の下は赤い地面
顔を取り巻くのはぬるい空気と周辺視野を刺す強い陽光
足元には黒々と溜まった自分の影
認識はあるのに体感がない
今が昼なのか夜なのかはっきり判別できない
不穏な地鳴り
大気が圧縮され押し寄せる気配
直後、赤い砂塵を舞い上げてとどろき渡る巨大な風
無数の針のような砂の幕が襲いかかり数秒間視界を遮断する
反射的に固く縮こまる全身
つぶった瞼の裏が赤く燃える
呼吸が速くなる
吹き出す汗 裏腹に背筋を伝い上がる寒気
繰り返すせわしない震え
意識とは無関係にどこまでも生きていようともがく自分の身体
何度目かの涙の発作が喉を押し上げる
緩慢な歩みが止まりかける
と、ぐいと強く腕が引かれ、乱暴に先へ連れて行かれる
こわばった顔を上げるシンジ
口が開きかける
一瞬幻視される、同じ手を引かれて導かれた記憶
すぐに現実がそれを破る

675 :2/7:2016/03/17(木) 23:18:07.59 ID:xqeD3KWGU
この腕を掴み引きずっているのはカヲルではなく眼帯をした現在のアスカ
シンジの目の奥で意志が揺らぎ、再び暗く薄れる
肩越しに振り返るアスカ
シンジの無気力を認め、忌々しげに舌打ちする
歩きながら計器を調整し方角を確かめる
再び舌打ち
反応しないシンジ
ふいにアスカの歩く向きが変わり、濃い影を落とす廃墟に向かってシンジを引っぱっていく
黙って従うだけのシンジ
斜め後ろからかぶさってくる別の足音
麻痺した意識のどこかでそれを聞くシンジ
無言で二人に従う黒いプラグスーツ姿の『綾波』レイ
強く無垢で、どこか捉えどころのない眼差

崩れた建物の陰で休む三人
ようやく手を放され、割れた床面にぐったりとへたりこむシンジ
座った姿勢が保てずにそのまま斜めにくずおれる
鈍い音
他人事のような衝撃 頬をこするコンクリートの粗さと冷たさ
弱々しく身体を丸めるシンジ
アスカが苛々と見下ろしているだろう気配
息づまる凝視の感覚
が、それは声をかけることなく離れ、廃墟の開口部まで足音が遠ざかっていく
聞くともなく聞いているシンジ
訓練された軍人らしい規則的な足音が今この時間の経過を刻む
忘我が少し薄れ、ふとまぶたを開くシンジ

676 :3/7:2016/03/17(木) 23:19:18.41 ID:xqeD3KWGU
鉛のような身体を持て余し目だけをさまよわせる
横倒しになった視界の端に、砂まみれの床に腰を下ろしたレイの両脚が映る
何をするでもなくただ膝を揃えておとなしく座っている
ごくゆっくり瞬きするシンジ

 シンジ「…『綾波』」

小さく目を見開くレイ
シンジに向き直る
が、シンジは既に再び目を閉じている
明確な感情もなく、空しさの認識すらなく、うつむいて視線を落とすレイ
立てた膝の陰に支え持ったシンジのSDAT
イヤフォンのコードがほどけたのを拾い上げ、丁寧に巻き直す
埃に汚れた黒いプラグスーツの表面
身体の奥底から静かに息を吐き出すレイ
何もない、何も待たない時間
薄く目を閉じるレイ

荒い足音を隠さず戻ってくるアスカ
幼児のように地面に丸まったシンジを見下し、身動きもせず座るレイを睨む
いちいち足の下で鳴る砂が苛立ちをつのらせる
見上げる天井は暗い
半ば表層材が剥がれて無残に覗く内部構造
ひどく錆びたか劣悪な塗料でもかぶったかのように真っ赤に変質した廃墟の色
サードとフォース、重ねて起こった二つのインパクトが残したコア汚染
普通の人間が足を踏み入れればひとたまりもない
そこに平気で立っている自分たち
アスカの目がほんの少し翳る
ふッと短く息を吐き、気力を立て直す

677 :4/7:2016/03/17(木) 23:20:34.81 ID:xqeD3KWGU
シンジの頭のすぐ傍の床を容赦なく踏み鳴らす
振動と音にびくりとするシンジ
既に目は開いている

 アスカ「まだL結界の深部から脱け出せてない。通信も回復しない…
    現在位置ははっきりしないけど、このペースじゃ恐らく、回収可能地点まで一日や二日じゃ
    済まないわ。歩いてもらうわよ、自分の足で」

横たわったままのシンジ
意志の冷えきった両目
さらに一歩近づいてすぐ傍から見下ろすアスカ

 アスカ「ぐずろうが泣こうが、今さら甘えが許されると思ったら大間違いよ。ガキシンジ」

視線は床に投げたまま、少し目元を険しくするシンジ
かすかに開いていた口が引き結ばれる
鞭打つアスカの声

 アスカ「聞いてんの? せめて起きてなさいよ。情けない。
    そんなざまで、自分の意志で世界を滅ぼそうとした張本人だなんて、笑わせるわ」

石を呑んだような沈黙
ぎりっと眉間に縦じわを刻むアスカ
もう一度叱責しようとしたとき、シンジの腕が動き、続いて上体がのろのろと起き上がり出す

678 :5/7:2016/03/17(木) 23:21:46.32 ID:xqeD3KWGU
酷薄に見下ろすアスカ
少し離れた位置に座るレイを一瞥する
何も言わず見守っているレイ
最初からアスカのことはほとんど見ていない
小さく鼻を鳴らすアスカ
シンジがしっかり起き直るのを待たず、二人の正面に立つ
強迫的な足音にシンジの肩がびくつく
さらに不快そうになるアスカの顔

 アスカ「動けるんなら、歩けるわね。他に手段はないわ。
    食料も水も、あんたたちの…」

顎で、シンジとレイが胸に着けた脱出時用ベルトパックを示す

 アスカ「そのパックに入ってる分だけ。補給のタイミングは私が決める。
    ろくに訓練も受けてないガキのあんたたちに、無理をさせる気もないけど、優しくする
    余裕もないわ。全て私の指示に従うの、いいわね」

黙っている二人
苛立ちをあらわにするアスカ
思った以上に焦っている自分を意識し、深く息をする

 .アスカ「生きのびたかったら、私とヴィレに来るの。それしかないわ」
 シンジ「…生きる」

両目を見開くアスカ

679 :6/7:2016/03/17(木) 23:23:48.93 ID:xqeD3KWGU
首が折れそうに深くうなだれたまま、呼吸だけはしているシンジ

 .アスカ「そ。もうあんたが生きていける場所は他にないの。わかってるでしょ」

顔を上げないシンジ

 シンジ「…生きて、どうなるの…
     何も、できないよ。生きてたって…どうしようも、ないのに」

今にも途切れそうな声
一瞬黙るアスカ
シンジを見下ろす14歳の顔が、暴発寸前の怒りを湛えてかすかに震える
いきなり踏み込むアスカ
一動作でシンジの上腕を掴んで引きずり上げ、垂れた頭を乱暴に揺すって顔を上げさせる
身体は芯から怯えているくせに、虚ろに冷えたシンジの表情のない顔
構わず真正面から睨みつけるアスカ

 .アスカ「いい加減にしなさいよ! 他人のことなんか興味ないくせに、言い訳すんじゃないわよ!」

すぐ傍にあるのにどこか別の場所を見ているシンジの目
身震いするほどの怒りを覚えるアスカ

 .アスカ「…それともまた、いなくなった妹の思い出に逃げ込む?
     死人なら言い返さない。叱らない。これ以上、絶対にあんたを傷つけてこないから。
     けどね! あんたは、まだ生きてるの! 生きてんだから、生きてくしかないの!
     つらくたって見苦しくたって、あんたも、その子も! …私も」

680 :7/7:2016/03/17(木) 23:24:36.21
最後の言葉を切るようにシンジを突き飛ばすアスカ
床に転がるシンジ
再び頭を垂れ、けれど自分で起き上がろうとしていく
這いつくばったシンジを見下ろすアスカ

 アスカ「あんたがどんなワガママ言おうが、歩かせるわよ。
    私はあんたたちとは違うの。丸腰でも、あんたたち二人くらい、すぐに無力化できるわ。
    …今ここで証明しようか?」

答えないシンジ
何とか上体を起こして、どこか痛めたのか低く呻く
ふんと息を吐き出すアスカ
ざっとシンジの動き方を検分し、歩行に支障はないとあくまで冷静に見て取る

 アスカ「今は日差しがきつすぎる。無駄に消耗するだけだわ。しばらくここで休んで、太陽が
    傾いたら、また出発。いいわね」

それだけ言い残して背を向け、油断なく廃墟を観察しながら歩いていく
無言のシンジとレイ
シンジを見るレイ
口元に手をやっているシンジ
倒されたときに切ったのか、触れた手に血がつく
何も言えずただ息を洩らすシンジ
未だ呼吸している自分の身体を、その手応えを確かめるように、少しずつ動かしていく
深く浅く繰り返される息遣い
ふいに背中が大きく震える
弾かれたように両膝を引き寄せ自分で肩を抱えるシンジ
押し殺した涙声が洩れ、噛みしめた歯ががちがち鳴る
見守っているレイ
少し離れたスペースから振り返っているアスカ
突き放すように目を細め、足音を立てて歩み去る

681 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2016/04/03(日) 21:53:39.87 ID:F2SS5H0vz
test

682 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2016/04/07(木) 22:41:45.78 ID:7xcLH+q5n
test

683 :1/9:2016/04/07(木) 23:06:41.43 ID:7xcLH+q5n
再びの、長い歩行の律動
まぶたの裏を刺す日差し 衰えない照り返しと熱気 皮膚を鞭打つ風と赤い砂
意識のほとんどを領している身体の生理的苦痛
半ば閉じられた目で歩くシンジ
虚しさの自覚
泣こうが悲しもうがしょせん、生きている自分
痛みと不快を主張しやまない生物としての自分の身体
焦点を合わせ続けるには重すぎる心をそこに預け、麻痺させているシンジ
前方を歩むアスカの後ろ姿
斜め後ろからついてくる綾波レイの足音と気配
湯の中を無理に動いているようなだるさ
ふいに足がもつれる
立て直すことをとっさに思い出せないシンジ
地面がみるみる迫り、激しく顔を打つ
洩れる呻き
そのまま、立てる気がせずしばらく力を抜いているシンジ
無気力な呼吸
ふとかすかに顔をしかめる
風に飛ぶ砂は顔に当たるのに、匂いがしない
土の匂いも草の匂いもここにはない
無臭の世界
悪い夢の続きのように現実味がない
が、自分自身の体感がすぐにその幻想を裏切る
のろのろと視線を上げるシンジ

684 :2/9:2016/04/07(木) 23:07:46.87
無情の青空 地表の照り返しでうっすら赤く染まった雲底 赤い廃墟
崩れる砂を掴み、上体を起こす
いつのまにかアスカが振り返り見据えている
びくりとするシンジ
すぐに前以上に心が重く凍てつく
こんなところまで来てしまったのにまだ他人の目を気にしている自分

 アスカ「…いつまでそうやってる気? さっさとしなさいよ」

14年前と変わらない、あるいは変わらないように聞こえる、アスカが叱咤する声
息をついて何とか自力で立ち上がるシンジ
ふらつく膝を踏みしめ、ふいにすぐ真後ろにいるレイに気づく
瞬きもできないシンジ
ただ見守っているレイ
何も言わずに離れ、先に歩き出す
同じく無言で、その後について一歩ずつ足を踏み出すシンジ

685 :3/9:2016/04/07(木) 23:09:22.71 ID:7xcLH+q5n
夕刻
赤の上に赤く染まった風景
ぎらつく西陽が視界をすみずみまで浸し判断力を奪っていく
頼りなく呼吸しているシンジ
振り返るアスカ
身をひるがえして間近に詰め寄る
反応する余裕もないシンジ
シンジの顔色を見て表情を変えるアスカ
小さく溜息をつき、レイを一瞥する

 アスカ「今日はもう無理ね。少し早いけど、この辺で野営するわ」

何も見ていないようなレイの目
苛立ちを隠さないアスカ
大きく舌打ちしてシンジを引っ立て、真っ暗な影絵になった廃屋の塊を目指す
と、横をレイが追い越していく
わずかに目を見開くアスカ
すぐに表情を引き締め油断なくレイの動きを注視する
いったん赤黒い廃墟の中に消え、しばらくして戻ってくるレイ
無色の視線でアスカを見る

  レイ「…こっち」

再び目をみはるアスカ

686 :4/9:2016/04/07(木) 23:10:59.22 ID:7xcLH+q5n
ついてくるのも確かめず先に行くレイ
肩で息をしているシンジを半ば引きずって後に続くアスカ
三人の曳く長い赤い影


崩れ残った壁に囲まれたスペース
砂だらけ錆だらけながらも平らな床もある
風は壁列の向こうで咆哮し、薄明の空の覗く天井の破れ目の角で鳴る
星の瞬き始めた空を仰ぐアスカ
視線を戻す
既にぐったり横たわっているシンジと、少し離れた位置で膝を抱えているレイ
ふうと息を洩らすアスカ
床に置いたライトの明かりの輪の中に座り込む
続いて腕を伸ばし、シンジの上体に巻いた脱出時用サバイバルパックをこじ開けて
非常口糧の包みを取り出す
シンジの前に一つ放る
つらそうに目を開けるシンジ
口糧を認めるものの、弱々しく首を振って拒絶する
眉を吊り上げるアスカ

 アスカ「それ食べて。でないと明日、持たないわ」

目を閉じてしまうシンジ
くぐもった声を絞り出す

 シンジ「…できないよ。…食べたく、ない」

687 :5/9:2016/04/07(木) 23:11:43.33 ID:7xcLH+q5n
 .アスカ「食べるの。無理やり口に突っ込まれないとできないってなら、そうするわよ。
     あんたを生きたまま連れ戻さないと意味ないもの」

返答なし
大きな動作でにじり寄り、容赦なくシンジの髪を掴んで顔を上げさせるアスカ
すぐ傍でふらつく、怯えているくせに既に諦めているシンジの両眼
瞬間的な憎悪
きつく眉根を寄せるアスカ
剣幕に押されたかのように、緩慢に両腕をついて自分で身体を起こすシンジ
もうアスカのことは見ていない
乱暴に手を放すアスカ
ふッと息を吐き捨てて元の位置に戻る
うなだれたまま、もそもそと口糧を開けて口元に持っていくシンジ
食べ始めるのを確かめてからレイの方を向くアスカ
自分のパックを開けているレイ
取り出したのは水と、食糧ではなく幾種類かの錠剤らしきもの
一瞬目をみはるアスカ
すぐに納得する

 アスカ「やっぱり、薬でその身体を維持してるんだ。旧型は不便ね」

肯定も否定もしないレイ
淡々とわずかな水と薬剤を口にしてすぐに残りをしまう
入れ替わりに再度パックを探り、今度は通常の口糧を取り出す
目の前に差し出されて瞬きするアスカ

  レイ「…あなたの分」

688 :6/9:2016/04/07(木) 23:12:51.93 ID:7xcLH+q5n
どうしてかかっとなるアスカ
自分でもわからずに衝動的にレイの手を払う
床に飛んで転がる包み
そのままの姿勢でアスカを見ているレイ
同じようにしていた、かつての『碇レイ』の姿をそこに幻視してうろたえるアスカ
顔を伏せ身動きの一切を止めているシンジ
夜風の鳴る音
嫌悪の表情で立ち上がるアスカ
見ているレイ
さっさと歩いて口糧を拾い、握りしめて元の場所に座り直すアスカ
少々荒っぽく包みを引き裂いて食べ始める
咀嚼しながらレイを睨む
何もなかったように膝の前で両手を組んでいるレイ
かすかに息を吐き出して顔をうつむける
と、すぐ眼前に口糧の三分の一ほどが突き出される
目を上げるレイ
まだもぐもぐやりながら怒った顔をしているアスカ

 アスカ「あんたの分。…少し、私が取りすぎちゃったけど」
  レイ「…いい。必要、ないから」
 アスカ「あるでしょ」

重ねてずいっと糧食を突きつけるアスカ
初めて目を見開き、無防備にアスカを見上げるレイ
また嫌悪に似た表情を見せるアスカ

689 :7/9:2016/04/07(木) 23:13:42.34 ID:7xcLH+q5n
 アスカ「あんた、私のことはともかく、そこのバカガキのことは心配してるんでしょ。
    だったらあんたも食べて、ちょっとは体力維持しとかないと、それもできないでしょうが」

黙って瞬きするレイ
アスカが苛立つ寸前、小さく頷いて糧食を受け取る
やや眉をほどくアスカ
乱暴に水のボトルを取り上げてひと啜りし、身体にしみこませるようにゆっくり飲み下す
頭を垂れたまま二人の食事の物音を聞いているシンジ
ようやく肩の緊張がゆるみ、また口に押し込むようにして食べ始める


翌朝、まだ陽が昇りきらないうちから歩き出す三人
計器を見ながら何度も方向を確認するアスカ
意識してしっかり呼吸するよう努めながら遠景を望むシンジ
横腹に雲をまとい山々をミニチュアのように見せて地平に横たわっている巨大な『黒き月』
足の下でざくざくと地面が鳴る
どこまで歩いてもどす赤く染まった汚染領域が続いている
死んだ土を踏みしめて自分の足で確かめていくシンジ
カヲルが見せた外界の光景が甦る
そのカヲルももういない

 シンジ「……く」

洩れかけた嗚咽を押し殺すシンジ
顔を伏せてただ歩みに任せる
肩越しにちょっと振り返るアスカ
呆れ顔で眉をひそめ、また前を向く

690 :8/9:2016/04/07(木) 23:16:03.36 ID:7xcLH+q5n
廃線の踏み切りを渡る三人
どことなく辺りの地形や廃墟の並び方に見覚えを感じるシンジ
ぼんやりと見回して、理解する

 シンジ(…当たり前か。ここは、サードインパクトが起きるまで…いや、僕が初号機を
     覚醒させて最初にガフの扉を開くまで、第三新東京市だったんだ。…あの街だった)

抑えようとしても脳裏に次々と溢れてくる、14年前の人々の顔、姿、生活
苦しくて、目を凝らして14年前にあったはずの風景の名残を探す
迎えるのは赤い廃墟 割れた赤い路面 砂
また暗い目になるシンジ
不調の通信機を試しては毒づくアスカ
その声にしだいに焦りを聞くシンジ
そんなことに気づくようになった自分に半ば驚き、半ば失望する
相変わらず黙ってついてくるレイ
強くなってきた日差しに目を細めながらまた遠い『黒き月』を仰ぐ
あの頂に浮かんでいた第13号機を思い出す
機体を貫いた二本の槍の痛み
落下、そしてエントリープラグの強制射出
開きかけた表情をまたふっと翳らせるシンジ
あのとき怒鳴りつけてきた8号機パイロットの声の記憶

 シンジ(…僕は、本当は、感謝しなきゃいけないんだよな。あの人に。…アスカにも)

プラグスーツの両手を開いて視線を落とす

691 :9/9:2016/04/07(木) 23:17:03.56
埃と砂塵で汚れたスーツの手のひら
生きている自分
シンジの眉根が大きく歪む

 シンジ(感謝、しなきゃ。死ぬこともできずに、ただ他人に生かしてもらってるんだ、今の僕は。
     ……だけど…!)

強く握りしめられる両手
こぶしが震える
きつく全身をこわばらせて立っているシンジ
いくら憎んでも終わらない自分の命
まだ終焉の先をのろのろと続けているこの世界
深く頭を垂れているシンジ
ふっと時間の感覚が戻る
痛む目をしばたたき、熱い空気を吸い込むシンジ
力が抜け、両脇に下がる手
止まっていた歩みを再開する
おぼつかない足取りに、またネルフ本部の外壁から戻ったときの、あの辛抱強く導いてくれたカヲルを思う
反射的に片手がはね上がり腹部を抱きしめる
わななく指
刃を当てられたような感触が背筋を凍らせる
悲鳴を抑え込み、ただ歩くことに集中しようとするシンジ
心は大声で正反対のことを願っている
ここにいたい、もう動きたくない
どこにも行きたくない
本当はそれに従いたいのだとわかっていながら、虚しさを噛みしめながら、それでも懸命になだめて進んでいく
じっと見つめているレイ
右手のSDAT
そっと握りしめる

692 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2016/04/30(土) 10:25:16.36 ID:5tFhzm+HH
ほす

693 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2016/05/14(土) 23:28:30.04 ID:xVx00M8+/
hoshu

694 :1/2:2016/05/14(土) 23:58:31.62 ID:xVx00M8+/
呆然と歩むシンジ
苛烈な日差し
地面から立ち昇る熱気でくらくらする頭
赤い廃墟 赤い路面 赤い焦土
地上の何もかもが赤い
何の匂いもしないよそよそしい夏の風景
熱い風が砂を巻いて叩きつける
思わず目を閉じ、そのまま風をよけて頭上を仰ぐ
飛ぶ砂が頬に当たる感触がやむ
目を開けて、かすかに息を吸い込むシンジ
14年前と同じ青空
深い天に聳え立つ白い積雲
風はやんでいる
ふと意識が澄むのを覚えるシンジ
地上へ目を下ろす
だいぶ近づいてきた山々
白っぽい靄をまとって横たわる『黒き月』の不可知の構造物
そのどこかに墜ちたはずのエヴァンゲリオン第13号機
シンジの目に鋭い影が落ちる
身体の脇で握りしめかけ、すぐに力を失ってゆるくほどける両手
ずっと意識の通奏低音として疼いている自分への深い失望
のしかかる無力感に抗わないシンジ
照りつける日差し
揺らぐ陽炎の中、前方で立ち止まっているアスカ
2号機のプラグから持ち出したのだろう通信機と観測装置を交互に覗き込む
苛立ったのか肩が尖り、一瞬放り投げかけた機械を掴み直して、大股に歩き出す

695 :2/2:2016/05/15(日) 00:00:38.55
手近な壁の崩れ残りによじ登るアスカ
よじれた鉄筋の覗いた壁の突端まで器用に這い上がり、バランスを取って周辺を観察する
見上げているシンジ
ぐるっと大きく見渡したアスカの顔がこちらを向く
無意識にびくりとなるシンジ
見つけるアスカ
顔を歪ませ、すぐに逸らしてまた遠景に見入る
風にふくらむ長い髪
遠い他人を見る眼で見つめているシンジ
いつのまにか斜め後ろにレイが立っている
何を言うでもなく佇んでいる、ごく静かな息遣い
そっと窺って、同じ疎遠な他人を認めるシンジ
かつて知っていた人はもはや手が届かない
手を差しのべてくれた人は消えてしまった

 シンジ(…僕が願った、人との繋がりは、もうみんななくなってしまったんだ)

罪悪感 内罰と裏表の逃避願望
甘えたがる自分を憎みながら、何度でもまた失望しながら、うつむく
頬を伝う冷たい汗
足元に溜まった濃い影
アスカが身軽に壁を滑り降り、幾分疲れた、けれど確かな足取りでこちらへ歩いてくる

696 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2016/06/13(月) 21:39:28.60 ID:q2SYihrZo
test

697 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2016/06/16(木) 23:59:39.00 ID:PM2hfSJq7
test

698 :1/7:2016/06/17(金) 00:02:42.94
風と砂に磨かれて鈍い赤い硬質の光沢を帯びた、コア化した廃墟
赤い砂を踏んで戻るアスカ
うなだれたシンジを見る
濃い影の落ちた顔
虚しく砂塵に汚れた頭部インターフェイス
表情の窺えない暗い両目
それでもそこにいるのは碇シンジ 14年前の記憶と感情を引きずったままの14歳の子供
アスカの顔が少し歪みむ
熱い風に舞い上がった髪がその嫌悪のないまざった表情の波立ちを隠す
もう何度目になるのか、苛立った強さでシンジの腕を掴み、また歩き出すアスカ
背後からついてくる綾波レイの沈黙
何を考えているのかわからない静けさが、次第に無言の問いかけとなって無色の圧迫になる
けれど自分の心理くらいとうに扱い慣れ、今さら振り回されはしないアスカ
かすかに嫌な顔をするだけで歩みを止めない
先の青空を仰ぐ
底なしの天にそびえる巨大な夏雲
変わらない天象 死そのものに変わり果てた地上
一瞬の感傷に溺れることなく、何度でも前方を見つめるアスカの強い右目

赤い砂を踏んで重たるい身体を運ぶシンジ
足元に落ちた自分の影にだけ目を預ける
太陽の傾きにつれて移ろうが常に変わらず眼下にわだかまっている黒い影
そこ以外見る気力が湧かない
それは本当はどこにも進みたくない心の表れだということに、既に気づいているシンジ

699 :2/7:2016/06/17(金) 00:03:42.29 ID:3TQtsTN5U
どうでもいいとは思えない
カヲルの死、そして遥か14年前のレイの喪失によって生きている、今の自分
生き残っている自分が身震いするほど憎い
でも生きるのをやめることはできない
言い訳でなく、生きる身体に引きずられるだけでなく、今は生きることが意識の底にある
動きたがらない足を自分を罰するように前へ前へ動かす
頭の中を巡るのは生き残ってしまったという厳然たる事実
立ちこめる夏の熱気を呼吸するシンジ
この呼吸をやめることはできない

 シンジ(…これ以上失えば耐えられないだろうなんて思ってたくせに、まだ生きてる)

無気力な手を掴むアスカの手の感触
身体の周囲を過ぎていく風

 シンジ(…まだ、生きている。死ねないから。自分で死ぬこともできないから。
     僕は僕が嫌いだ)
 シンジ(でも、死ぬことはできない。…できないんだ)

陽炎の巻く中へのろのろと目を上げるシンジ
大股に行くアスカの背中
それがカヲルの背中でないことが、どうしてもまだ納得できない

700 :3/7:2016/06/17(金) 00:05:24.88 ID:3TQtsTN5U
 シンジ(死ぬことはできない。でも…どうしてなんだ)
 シンジ(どうしてなんだ? 何で、僕じゃなくて、彼じゃなきゃいけなかった?)
 シンジ(どうして、彼じゃなくて、僕なんだ…?)

風景がさらに涙の膜に覆われて揺らめく
嗚咽を押し殺すシンジ
アスカの機嫌を窺う真似をするほどに人心地の感覚が戻ったことを、鋭く深く憎む
それでも後には戻れないことをもう知っている
涙を砂に落としながら歩き続けるシンジ
次第に頭上に覆いかぶさってくる積乱雲の影


赤い砂を踏んでシンジの後をついていくレイ
右手に掴んだSDATから垂れたイヤフォンのコードが歩みにつれて揺れる
黙ってただ足を運ぶ
エヴァの視覚を通すのではなく、初めて自分の目で見る地上
初めて自分の皮膚で感じる風と光と温度
あたたかさとは違う厳しい日差しの酷熱
動く風 動く砂 揺らめく廃墟の反射
何もかもが静まり返って不変だったネルフ本部とはあまりにも異なる風景
けれどそれらはただそこに存在するだけ
それ以上の意味を持たない

  レイ(…意味があるのは)
  レイ(…私に、あるものは)
       (私は、自分)
       (この命が、私。ここに生きているだけでいいんだよって、言ってくれた…
        だから、私は、私でいい。私でいられて、うれしかった)

701 :4/7:2016/06/17(金) 00:07:30.49 ID:3TQtsTN5U
無温だった目を見開くレイ
見渡す遠景のどこにもあの儚い気配は感じられない
虚しくまぶたを伏せる

       (私にあるものは、命、心、心の容れ物、エントリープラグ)
    レイ(…前は、エヴァに乗ることに何も感じなかったのに)
    レイ(今は…まだわからない、でも少し、アタタカイ)
     碇(レイ。時が近づいた。Mk.9を使い、第三の少年の回収に向かえ)
     碇(頸部の復元は問題ないようだな。Mk.9のATフィールドがお前の生命を保持した)
    レイ(まだ、わからない。だから…わかるようになりたい。エヴァに乗っている意味も)
  レイ(…ちがう)

SDATをわずかに握りしめるレイ

  レイ(今は…違う)

見捨ててきたMk.9のエントリープラグ
それより前、飛び去るエントリープラグの背後で改2号機の自爆に呑まれたMk.9
パイロットを必要としていなかった機体

  レイ(…いまは)

前を見るレイ
少し前を行く、アスカに手を引かれて頼りなく歩くシンジの後ろ姿
レイの目がほんの少し翳る
シンジの足跡に寄り添うように赤い砂の上に伸びていくレイの足跡
天を半ば覆う雲の峰

702 :5/7:2016/06/17(金) 00:08:21.70 ID:3TQtsTN5U
 シンジ「…アスカ」
 .アスカ「…何。弱音なら黙ってて」
 シンジ「……」
 .アスカ「……ああもう、何よ。言いたいことあるなら今のうちに言いなさい」
 シンジ「……
     アスカは、さ」
 .アスカ「何よ」
 シンジ「…、ここで…ずっと、生きてきたんだよね。…何もない世界なのに」
 .アスカ「……
     あんたね、また、自分に生きる意味があるのかとか何とか、うじうじ考えてるんでしょ。
     そこがガキだっていうのよ。
     要するに甘えの言い訳欲しがってる。そんな都合のいいもの、あるわけないでしょ。
     単に、命がある間は生きてるってだけよ。他は全部無駄。ただの言葉遊びだわ」
 シンジ「……強いね、アスカは」
 .アスカ「あんたとは違うわ。大人になったの。否応なくね」
 シンジ「…そう、なんだ」
 .アスカ「あんたはどうせ、まだガキのままでいたいんでしょ」
 シンジ「…、わからない」

ちょっと目をみはるアスカ
肩越しにシンジを振り返る
うなだれているシンジ
でも心もち顔が先ほどより上がっている気がする
変わらず暗く沈んだ両目
音もなく次々と涙がこぼれ、汚れた頬を伝い落ちるのを目にするアスカ

 シンジ「…わからない。でも、まだ、生きてる…んだ」

703 :6/7:2016/06/17(金) 00:09:34.71 ID:3TQtsTN5U
寸時目をとどめ、ふいに顔を逸らすアスカ

 アスカ「やっぱりガキね。泣くなら赤ん坊にだって出来るの。
    …ガキは勝手に泣いてなさいよ。だけど歩いて」

相変わらず声を一切出さず泣き続けるシンジの気配
それでもかろうじて歩調を崩さず歩いている
シンジの歩くリズムを感じながら、また前を見て進むアスカ
雲の影が急速に赤い地面を滑ってくる


猛然と鳴る地面 夏の雨
辺りを白く煙らせて叩きつける無数の滴
駆け込んだ建物の陰でそれぞれ濡れた身体を床面に投げ出す三人
雨滴を含んだ前髪を指先で乱暴に分けるアスカ
舌打ちして外を透かし見る

 アスカ「…こりゃ、当分足止めね。仕方ないわ、しばらくここで休むわよ。
     雨が止んだらすぐ出発するから、出来るだけ体力回復させときなさい」

二人を一瞥する
疲労が限界に達しつつあるシンジと、どれほど身体が保つのか不明なレイ
声に出して大きく溜息つくアスカ

 アスカ「…何なら、私が起こすまで、そこで眠ってていいから」

704 :7/7:2016/06/17(金) 00:11:02.37
深く垂れていた頭をかすかに上げるシンジ

 シンジ「…アスカは」

目を見開くアスカ
すぐ厳しい顔つきに戻す

 アスカ「私はあんたたちを見張る。当然でしょ。
    まだ自分の立場がわかってないようだから改めて説明してやるわ。あんたたちはネルフの
    パイロットとして、ヴィレに敵対した。今はこの私の捕虜。私は保護しに来たんじゃなくて、
    あんたたちを連行してるの。…助けてもらおうなんて甘ったれた勘違いしてるんじゃないわよ」

答えず、またうなだれるシンジ
おとなしく壁際に行って粗い床面に横たわる
視線だけ向けるレイ
苛々と息を吐き出すアスカ
二人に背を向けて廃墟の開口部まで出ていく
天地を白く覆いつくした雨
溜息をつき、通信機を再起動させてみる
応答なし
観測装置は未だにL結界深部並みの反応を示している
初めて肩を落とすアスカ
唇を噛む
片手でもう片腕をきつく掴み、少しだけ自分の体温に浸る
我慢できず声に出す

 .アスカ「…こんなとこでグズグズしてる余裕なんてないのに」

705 :1/6:2016/06/17(金) 23:27:47.26
止まない豪雨
廃墟の周囲は急流と化して赤い砂をえぐる
同じような激しい水路の合間に他の建造物の影がおぼろに浮かんでいる
何度目か、立っていって廃墟のまばらな軒下から外を窺うアスカ
苛々と口元に指を持っていく
子供っぽいしぐさに気づいて自制する
雨のせいだけでなく暗くなってきている地上

 アスカ(このまま…いつまで閉じ込められるわけ?)

振り返るアスカ
砂塵で汚れた赤い壁の裾、こちらに背を向けて横たわっているシンジの姿
少し離れて抱えた膝に顔をうずめているレイ
半ば安堵しながら睨むアスカ

 アスカ(…言われた通り、のんきに寝こけちゃって)

絶え間ない雨の音
湿気を吸って床を汚す塵埃
冷えてくる空気
短く息を吐き捨て、自分も床に腰を下ろすアスカ
愚かしいと思いながらももう一度通信機を試す
空電

706 :2/6:2016/06/17(金) 23:28:53.04 ID:3TQtsTN5U
勢いよくスイッチを切るアスカ
そのまま両肩を沈める
焦りと疲労の自覚
緊張続きだった意識が緩み、まずいとは承知しつつ身体の重さを苦痛と感じるアスカ
さかんに廃墟を叩き流れ落ち湧き立つ雨のざわめき
暗い屋内は無音
ふいに薄闇の宙に目を据えるアスカ
表情を消した顔で振り返る
かすかに上下しているシンジの背中
雨音
濁流の響き
ゆっくり、音を立てないように、まといつく空気の中で息を殺してシンジの傍に寄るアスカ
見下ろす
ごくかすかに聞こえてくるシンジの息遣い
険しく目を細めるアスカ
口元が固く引き結ばれる
やおら顔をそむけ、そのままシンジの背に背を向ける格好でその場に横になるアスカ
きつくひそめた眉
負担の減った身体を緩くたわめる

 アスカ(…少しだけ。もう二度と、こんな真似しない)

707 :3/6:2016/06/17(金) 23:30:10.33 ID:3TQtsTN5U
胸に張りつめていた息を深く長く解き放つアスカ
ほんの少しのつもりで目をつむる
自分の鼓動の音
かすかな埃の不快感
身体の下の床の確かさ
背後の他人の体温
再び静まり返る薄闇
勢いのやまない雨音
いつのまにか、規則正しく寝息を立てているアスカ
プラグスーツの両手が軽く握られたまま投げ出されている
ますます暗くなる廃墟の内
気配すらないかのようなレイのシルエット
水の匂い
闇が動く
目を開くシンジ
無言で瞬きする
身を起こし、ごく静かに向き直って、眠るアスカを見つめる
息を窺う数秒
視線の痛み
そっと立ち上がる

708 :4/6:2016/06/17(金) 23:31:20.08 ID:3TQtsTN5U
 シンジ「…アスカ、ごめんよ」

はっと目を開くアスカ
一瞬で意識が覚醒する
雨はまだ降り続いている
予感に襲われ、振り返るアスカ
シンジの姿がない
足をもつれさせながら立ち上がり、廃墟の出口まで駆け寄るアスカ
相変わらず闇を覆って降る白雨
みるみるアスカの肩が尖り、止めようもなく震え出す
きつく握りしめたこぶし
と、異質な音が響く
我を取り戻すアスカ
駆け戻り、床に置き忘れた通信機に飛びついて拾い上げ、ONにする
鳴り止む呼び出し音
耳を傾けるアスカ
近い雨音を透かしてミサトの声

  ミサト『…アスカ! 聞こえてる? 返事して』
 アスカ「…聞こえてるわ」

打ちひしがれた投げやりな目で空っぽの廃墟を見回すアスカ

  ミサト『今、そちらの座標を確認したわ。すぐに回収チームを向かわせるから』

709 :5/6:2016/06/17(金) 23:32:25.44 ID:3TQtsTN5U
  リツコ『L結界深部からは抜けているわ。さすがね、アスカ。合流ポイントを送信しておくわ』
  ミサト『…それで、捕捉対象は』
 アスカ「それは」

身体の脇でこぶしがはね上がり、大きく震え、怒りを制されて垂れ下がる

 アスカ「…対象は、一度確保したものの、現在逃亡。
    所在は不明。…私の不注意のせいよ。
    無理言って時間もらったのに。全部、私の責任だわ」
  ミサト『…いいえ。あなたが無事でいるだけでも良かったわ。
    対象は…単独でいるの?』
 アスカ「いいえ。ネルフの綾波シリーズ、…あのアダムスの器のパイロットが、恐らく同行してる」
  ミサト『…そう』
 アスカ「…、このままじゃ帰れないわ。今ならまだ追いつけるかもしれない、追跡の許可を」
  ミサト『…いいえ、それは許可できないわ』
  リツコ『問題のパイロットが同行している以上、逃亡にはネルフの意図が働いた可能性があるわ。
    あなたまで失う危険は冒せません』
  ミサト『…悔しいだろうけど、帰ってきなさい。…命令よ』
 アスカ「……わかったわ」
  ミサト『アスカ』
 アスカ「……」
  ミサト『ネルフは狡猾よ。あなたが自分だけを責める必要はないわ』

一瞬固く目を閉じ、見開いて夜の雨を貫かんばかりに睨みつけるアスカ

 アスカ「違うわ。
    …あいつは単に、逃げたのよ。この私からね」

回収地点の座標を残して通信が切れ、雨音の鳴り止まない闇に一人残されるアスカ

710 :6/6:2016/06/17(金) 23:33:28.40
激しい雨をついて歩くシンジ
瓦礫につまづき、逆巻く雨水に足を取られ、無数の雨滴に叩かれながらも足を止めない
ぐしょ濡れの身体はもう暗闇と区別がつかない
冷えて感覚のない手足をただ動かして進む
半ば閉じた目に雨が容赦なく注ぎ込み、絶え間ない痛みの棘になる

 シンジ(…この雨なら、アスカも諦めてくれるかな。無駄に追いかけようなんて、馬鹿なことは
     考えないし、しないよな、きっと)
 シンジ(…僕みたいに、馬鹿な子供がするようなことは)

斜め後ろから別の音
一瞬身を固くするシンジ
すぐ力を抜いて、構わず歩き続ける
シンジの背後、少し距離をおいて降りしきる雨の中をついてくる綾波レイ
振り向かないシンジ
唇を噛む

 シンジ(何でだよ…
     僕は…もう、誰とも一緒にいられない。だから)

シンジと同じく悪路によろめきながらついてくる足音
足を速めても、方向を変えても、遠く近く揺らぎながらも忍耐強く従い続ける

 シンジ(だから…ついて来るなよ。来なくて、いいんだ)

推し量ることもできない、今の『綾波』の心情
何度も目をつむって振り切ろうとするシンジ
ただ確かな足音としてそこにいるレイ
濡れしぶく闇の底を無言で歩いていく二人

711 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2016/07/08(金) 09:14:20.62 ID:EyE9gpcgd
ほしゅー

712 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2016/07/24(日) 21:57:07.03 ID:LV/WWTRiC
保守

713 :1/4:2016/07/28(木) 16:25:04.09
雨の夜を歩き続けるシンジ
濡れてぼやけて何も映らない視界
もはや明確な境界の感覚も失せ、ただ鈍い痛みの塊に堕した自分の身体
水気を含んで気色悪い音を立てる両足
何かに蹴つまづく
大きく泳ぐ上体
危うく踏みとどまり、足先の触感だけで地面を確かめて、また歩き始める
足指に残る痛みは無視してただ進む
ただ歩いているだけの自分
歩くという機能だけになったかのような自分
空転する思考
手ごたえのない雑多な心象の波間から言葉が浮き上がる

 シンジ(…これ以上失えば耐えられないだろうなんて思ったくせに、まだ生きてる)

生きて歩いている自分への強烈な違和感
けれど自己嫌悪ではない
溺れたような頭でぼんやりと言葉の先を追うシンジ

 シンジ(自分で死ぬこともできないから、まだ生きてる)

絶え間なく沁みる痛みだけになった両目
雨の感触が次々と伝い落ちる

 シンジ(僕は僕が嫌いだ。でも、死ぬことはできない。
     このまま死んでしまうっていうのは、…それは、違うんだ)

714 :2/4:2016/07/28(木) 16:26:42.23 ID:DsJIbS+Of
 シンジ(…なぜって)

痺れたまぶたをしばたたくシンジ
重く濡れて垂れ下がる闇の奥にかすかに遠近感が戻ってきている
久しぶりに自分の呼吸を意識するシンジ
頭の中の言葉が形をとりはじめる

 シンジ(僕が死んだら…
     そのときは、僕の中にまだ残ってる、僕が失いたくなかった人たちの一部も、
     一緒に消えてしまう。それが、どうしても、嫌なんだ)

息をつくシンジ
目の中に流れ込む雨の滴
痛み
反射的にこわばる肩

 シンジ(僕は僕が嫌いだ。卑怯で、臆病で、ずるくて、弱虫で、人のために何ひとつできない。
     みんな駄目にしてしまった。みんな死なせてしまった。
     もう僕なんてどうなってもいい。今更助けてほしいなんて願えない。
     でもどうでもいいっていうのとは違う。どうなってもいい、だけど、生きていかなきゃ
     ならない、僕は)

身体の両脇でこぶしになる両手
ひどく久しぶりに自分の体温を思い出すシンジ

715 :3/4:2016/07/28(木) 16:31:15.37 ID:DsJIbS+Of
 シンジ(だって僕は、憶えているから。
     僕が失ってしまった人たちのことを、今も。…ずっと。
     僕はもう僕だっていうだけじゃないんだ。その人たちのしてくれたことで、僕だけが
     憶えていることがあって、それを消したくない。
     僕は思い出の器だ。ただそれだけなんだ。その人たちの思い出を守って運ぶためだけに
     今は生きていて、…今は、死ねない。
     ずっと憶えているために。忘れてしまわないために。もしかしたら、いつか、誰か他の人にも
     その人たちの願いや思いを伝えられるように)

よろめいて足を止めるシンジ
前方に目を凝らす
黒一色だった視野がいつしか淡い輪郭を取り戻している
薄れていく暁の闇 雨はやんでいる
夜が明けようとしている
雨の降る前と変わらない荒れ果てた眺望
砂 廃墟 天から降った瓦礫や巨大な人の形 山稜
異質な存在感として横たわっている黒き月のシルエット
なるべく感情に溺れないようにその巨躯を見定めようとするシンジ
何秒も持たない
抑えようとするそばから喉がわななき、止める間もなく涙が溢れ出す
手で口を覆って嗚咽を殺すシンジ
再び熱くぼやける視界
必死に耐えるシンジ

716 :4/4:2016/07/28(木) 16:32:21.72
流れ落ちる涙はそのままに、泣き叫びたい衝動を無理やり飲み下す
少しずつ戻ってくる呼吸
やがて大きく息をつきながら手を離すシンジ
肩を落とし、そのままこらえきれずに両膝に手をつく
幾重にも覆いかぶさる疲労にしばし動けない
背後に気配
うなだれた頭を斜めにねじって振り返るシンジ
少し距離をおいて佇んでいるレイ
シンジと同じく濡れ徹った全身
まっすぐこちらを見据える眼差
一瞬息をこらえ、やがてかすかに吐き出して目を逸らすシンジ
そこにいる人に今はまだ何もできない
何も言わずにまた歩き出す
無言でその後に従うレイ
朝陽が射し、雨に漬かった辺り一帯を照らす
強く鮮やかな光
風景に色が戻る
変質した砂と瓦礫、広い水溜まりに映った朝の空が、地上をまばゆい赤と青の混在に変える
歩いていく小さな二人を包む

717 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2016/09/04(日) 19:54:19.90 ID:OAc9iGGc3
保守

718 :1/3:2016/09/10(土) 00:16:03.44 ID:wT18gpuZ5
雨上がりの廃墟
朝の光の中を降下してくるヴィレの戦闘ヘリ
大小の水溜まりの残る赤い地面に立つアスカ
肩に第13号機プラグのサバイバルバッグを引っかけ、包装を剥いた携行口糧をほおばっている
強まる機体気流が髪を乱す
機を睨みつける目
きつさが少し緩む
まだ風が巻く中を降りてくるバイザーグラスのミサト
まっすぐアスカ目指して歩いてくる
艦長用コートの裾が激しくはためく
止まっていた口の動きを再開するアスカ
赤い地上で向かい合う二人
アスカのバッグに目をやるミサト
軽く肩を上げるアスカ

 アスカ「押収物資。捕捉対象の」

表情を見せないミサト
ごくかすかに息をこらえ、吐き出すのがかろうじてわかる
そのまま機体へ身体の向きを変える

 ミサト「わかったわ。…帰りましょう」

719 :2/3:2016/09/10(土) 00:16:33.98 ID:wT18gpuZ5
 アスカ「…了解」

余計なことは言わず、もくもくと口糧を食べ続けながら後に続くアスカ
狭い機内席に隣り合って座る二人
プラグスーツの指にくっついた口糧の屑を払い落とすアスカ
無言のミサト
離陸する機体の長い振動が二人を揺さぶる
眼下に遠ざかる赤い廃墟
上昇するほど水溜まりの領域が広がり、鏡の青空を映して輝く
機体の回頭に合わせて強い日差が二人の顔を横切っていく
ふと目を向けるミサト
窓に顔を向けているアスカ
震えるような気配
ふいに頬を涙が伝って落ちる
とっさに声をかけられないミサト
右頬だけを次々と伝う涙
言葉を拒む数分
やがて自分で強く両肩に力をこめ、短く息と一緒に屈託を吐き出すアスカ

 アスカ「…何も言わないでよ」

静かに吐息するミサト

 アスカ「今のこの私が泣くなんて、あるわけないんだもの。あっちゃいけないのよ」

まだ少し震える声

720 :3/3:2016/09/10(土) 00:17:11.95
もう一度、深く息をつくミサト

 ミサト「…そうね。
    ただ、…今泣いてるのは、あなたじゃないわ」
 アスカ「え?」

振り返るアスカ
サングラスで覆われた顔をややうつむけているミサト
硬い唇の線

 ミサト「泣いてるのは、14歳のときのあなただと思いなさい。
    恥じることないわ。14年経って、ようやく泣けるようになったのよ、14歳だったあなたは」
 アスカ「…何よ」

言い返そうとしてかなわないアスカ
また顔をそむける

 アスカ「…あのガキのせいよ。…ところ構わずぐずぐず泣いて。男のくせに」

答えないミサト
軽く眉間を押さえて感情を止める
増速し、爆音とともに帰投ルートを遠ざかっていくヘリ

721 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2016/09/26(月) 19:44:55.59 ID:ERix0U2el
ほしゅ

722 :1/8:2016/10/11(火) 23:00:54.78 ID:FhVNf/5rx
単調な赤い風景
踏み込む足裏を地面が押し返してくる感触
崩れる砂の斜面
不安定な自分の体重
熱く揺らめき始めた大気
いくら歩いても少しも近くならない黒き月の色褪せた巨影
青空
涙の残る目で振り仰ぐシンジ
呼吸が速い
少し後ろで気づくレイ
歩み寄る前にその場に崩れ落ちるシンジの身体

ひりつくまぶたを動かすシンジ
乾いたまつげがくっつき合って痛む
ぼんやり瞬きする
天の半ばを覆う影の中にいる自分
やがて焦点が合わさり、あのとき天から墜ちた『インフィニティ』たちの一体の下だとわかる
頭の下に温かな生きた感触
自分が砂にじかに横たわっているのを認識する
ふいに殴られたように身を起こし、半ば這ってその場から逃れるシンジ
恐怖と傷心の貼りついた目で振り返る

723 :2/8:2016/10/11(火) 23:01:22.81 ID:FhVNf/5rx
膝枕していたままの姿勢で無心に見つめ返す、黒いプラグスーツのレイ
驚くでも責めるでもなく、かすかに見開かれただけの目
でも無感動ではない
気持ちが鎮まっていくのを自覚するシンジ
少しだけレイの方に歩み寄り、距離をあけて腰を下ろす
見守っているレイ
独り自分の行為に責められ、そうやって内罰的になる癖そのものに落胆するシンジ

 シンジ(…本当に悪いなんて思っていないんだ。ただ許されたいだけなんだ。
     他人に、じゃない。自分に。大嫌いなはずの自分をただ保つだけのために。
     それなら最初から何もしない方がましじゃないか)

冷たい汗とともに噴き出す自己嫌悪 あるいは憎悪
同時に自分がまだ生きていることを強く突きつけられる

 シンジ(…まだ、生きてる。死ねないから。今はまだ、死にたいとは思わないから)

ふいに目の前に差し出される手
自閉を破られて顔を上げるシンジ
レイが自分のサバイバルバッグから携帯口糧を取り出して手のひらに乗せている
少しよれた表装と、レイの顔に交互に視線を向けるシンジ

724 :3/8:2016/10/11(火) 23:01:57.35 ID:FhVNf/5rx
一度だけ瞬いて口を開くレイ

  .レイ「…あなたの分」

綾波レイに気遣われていることに驚くシンジ
とまどうレイ
剥き出しのシンジの表情にほんの少し目を逸らす

  .レイ「私は平気。あなたのは、あの子に置いてきたんでしょ」

ようやく口を閉じてレイを見つめ直すシンジ
鈍い気恥ずかしさを感じながら頷く

 シンジ「…そうだったね」

抗わずに口糧を受け取るシンジ
半分だけ取ってレイに返す
同じく素直に受け取り、自分も包みを剥いて口にするレイ
一緒に服用するらしい薬の束を盗み見るシンジ
渡された水のボトルから一口飲む
黙って食事する二人
気持ちが沈むのを自覚するシンジ

725 :4/8:2016/10/11(火) 23:02:34.34 ID:FhVNf/5rx
雨の廃墟でアスカの傍を離れるときに何となく手放した自分のバッグ
水や食糧はもちろん、一人でこの荒野を行くには必要になりそうなものばかり入っていた

 シンジ(…死ねないって思ってるくせに、死ぬ気かって思われるようなことばかりしてる。僕は)

それでも、アスカには自分のバッグが無かった
恐らく脱出してすぐ最優先でシンジを捜したのだろうことを今になって理解する
それはレイも同じ
もさもさした塊を飲み下し、レイを振り返るシンジ

 シンジ「あの…さ、…『綾波』」

膝を揃えて顔を上げるレイ
一瞬「レイ」を幻視して強く振り払うシンジ

  .レイ「なに?」
 シンジ「…あの、…ありがとう。ごめん。
     僕を…捜しに来てくれたこと。今もこうやって、面倒見てもらっちゃってる」

答えないレイ
答えたくても答えがないのだろうと今は察せるシンジ

 シンジ「ううん、いいんだ。…アスカにもいつか、言えるようになるのかな」
  .レイ「…『アリガトウ』?」

小さく息を呑むシンジ
苦く弱く笑う

726 :5/8:2016/10/11(火) 23:03:27.98 ID:FhVNf/5rx
 シンジ「…うん。…でも、君はきっと、ありがとうってどういうことかわからないよな」
  .レイ「いえ、わかる。
     あなたが言ってくれたもの。たくさん、私に」

目をみはるシンジ
まっすぐこちらを見ているレイの顔
旧ネルフ本部でのささやかで穏やかだった時間が胸の底でさわだつ
同じ時間の一部を覚えている人が他にいることの、どうしようもない安らぎ
顔をそむけうなだれるシンジ

 シンジ「…本当には言ってなかったよ。本気だったけど、本当には」

黙っているレイ
風の鳴る空を見上げるシンジ

 シンジ「アスカにも、もう、本当にはありがとうって言えないと思う。
     どんなに懐かしくても、…叱って許して欲しくても、僕はもうアスカの傍で生きられない。
     アスカとも、ミサトさんとも。あの人たちに、どんなに生きててほしくても、もう、できない」

シンジの横顔の硬さに少し目を細めて見定めようとするレイ
理解しがたいけれど理解したいと感じている

  .レイ(…今、わたしにあるもの)

息を吐き出してレイを振り返るシンジ
無心にこちらを見つめているレイ

 シンジ(…わからない)

727 :6/8:2016/10/11(火) 23:04:46.48 ID:FhVNf/5rx
 シンジ(レイとそうだったみたいに、気持ちがだぶったりうつったりする感じは、…ない。
     やっぱりレイとは違うんだ。
     …それとも、あの頃も僕がそう思い込んでただけで、繋がってなんかなかったのかな)

埃まみれの黒いプラグスーツを着て傍らに座っている、レイの顔をした見知らぬ人
インフィニティの落とす濃い影の外でじりじりと地面を灼く日差し

 シンジ「…綾波」
  .レイ「何」

少しためらうシンジ

 シンジ「綾波…は、何で僕についてきたの。…父さんの、命令?」

力なく首を振るレイ

  .レイ「いいえ。
     命令じゃない。…命令は、もうない」
 シンジ「…どうして」
  .レイ「命令じゃないことしたから」
 シンジ「命令じゃない…?」

うつむくレイ
細い肩に疲れのようなものを見て取るシンジ

 シンジ「…、僕についてきたこと?」

728 :7/8:2016/10/11(火) 23:06:51.16 ID:FhVNf/5rx
  .レイ「いいえ、それは結果。…その前。私が、エヴァを出たこと」
 シンジ「え」

ふいに思い当たるシンジ
ヴンダーを襲っていたエヴァMark.9
戦うことには手を抜かないアスカが2号機を降りて追いかけてきた意味
ミサトと連絡を取ろうとしていたアスカ
息を呑み、手探りするように訊くシンジ

 シンジ「…綾波、じゃあ、機体がやられても脱出するなって、父さんは命令してたのか」

かぶりを振るレイ
なぜか気持ちが急くシンジ

 シンジ「じゃあ、何て」
  .レイ「何も」
 シンジ「何も、って…」
  .レイ「…命令は、時が来たらエヴァに乗って、あなたたちとドグマに降りること。
     Mark6から使徒を放つこと。…その後は、何も。だから私がエヴァを出たのは、
     命令じゃない」

かっとなるシンジ
荒れた地面を蹴って立つ
驚いたように振り仰ぐレイ

729 :8/8:2016/10/11(火) 23:09:20.10
 シンジ「何言ってるんだよ!
     機体がやられても脱出も何もするなだなんて、そんな命令あっていいわけないだろ!
     綾波は、当たり前のことしただけじゃないか」

困ったように見上げているレイ
砂塵を舞い上げて風が通り過ぎる
ふいに冷めるシンジ

 シンジ(…何やってるんだ)
 シンジ(今さら、この子のために怒るなんてできるのか、僕は?)
 シンジ(そんな真似ができるなら…なんで、どうして、あのときにもっと、この子とレイのこと…
     カヲル君のことも、自分からは何もわかろうとしないで)

暗く揺らぐ眼差
見上げているレイ
衝動を失いぎこちなく座り直すシンジ
レイと同じ顔を正視できない

 シンジ「…当たり前のことだよ。生きてるんだから」
  .レイ「…いきてる」

それ以上世界を受け止めていられなくなり、膝を抱えて顔を伏せるシンジ
何もせず見守るレイ
行き場のない孤独
自分を閉じなければきっと居たたまれない
それでもなお歩き続けようとするシンジを、今はわかりたいと願う心を受け入れ、目を閉じる

730 :1/7:2016/11/19(土) 21:27:28.43
歩く二人
白熱に揺らめく地表と山稜
陽炎の幕の向こうで黒とも白ともつかない影絵になった『黒き月』
強烈な日差の下、同じように色褪せた二人の黒いプラグスーツ
頼りない身体を押し包む暑気
吐くそばから燃え上がりそうな息
よろめきながら続く足跡の列
身体のリズムと呼吸の数に沿って過ぎていく時間
ときどきレイを振り返るシンジ
フォースインパクトで吹き飛ばされずに残った建物
地面に半ばめり込んだインフィニティ
赤変したそれらの落とす濃い影をたどり、少しでも体力の消耗を防ぎながら進む
大した時間稼ぎにはならないだろうと薄々わかっているシンジ

 シンジ(…時間?
     僕の体力が尽きて、動けなくなるまでの時間。それとも、ヴィレにまた見つかるまでの)

後ろめたさともどかしさが一緒になって胸を刺す
肩越しにかえり見るシンジ
ほとんど言葉はなくとも離れずついてきてくれるレイの姿
ヴンダーから連れ出してからずっと、常に守ってくれた
そこに心はなかったとしても

    碇(DSSチョーカーの識別情報とMk.9のATフィールドがお前の形象を保持した)

731 :2/7:2016/11/19(土) 21:28:11.38
   ミサト(レイはもういないのよ…!)
   リツコ(あなたの一命を以て破局を堰き止めるということです)

渦巻く熱気
首元に手をやるシンジ
ネルフ本部にいた日々、ずっと喉を絞めつけていたあの硬い感触を思う
最後はカヲルが身代わりになってくれた、人々の呪縛
不安定な連想がエヴァへと移ろう
カヲルとともに乗った第13号機と、ドグマへの降下に従って傍らにいたMk.9のおぼつかない印象
ドグマの爆心地でリリスと同化していたMk.6
サードインパクトを引き起こした、あるいは身をもって止めたエヴァ
苦痛でぼやけようとする心象を懸命に引きとめ考えるシンジ
これもごまかしなのかもしれないという恐れが浮かんでは薄れる

 シンジ(…考えなきゃ。…せめて僕だけは憶えていなきゃ、思い出せる全部を)

額からこめかみから眉から流れる汗をぬぐうシンジ
押し包むぬるい風の感触が、LCLに包まれたプラグを一瞬幻想させる

   シンジ(あれは…エヴァ?)
   カヲル(そう。自律型に換装され、リリンに利用された機体の成れの果てさ)

732 :3/7:2016/11/19(土) 21:29:43.28 ID:FAP6yAat6
 シンジ(カヲル君はあのエヴァを知ってた。
     ずっとリリスの結界が塞いでたから、知ってたのは…14年前)

鋭く息を吸い込むシンジ
ふいに甦るいつかのカヲルの静かな笑顔
器楽室
失われた眩しさの中でカヲルが楽譜を差し出している
視野が熱くなる
涙を自覚するシンジ
埃まみれの頬を伝い落ちるままに任せる

 シンジ(…そうか)

踏み出した膝が震えて少し足場を逃す

   カヲル(この次会うときには、僕のエヴァを携えて戻ってくるよ。今度こそ君の力になりに)

小さく嗚咽が洩れるのを止められないシンジ

 シンジ(そうだったんだ…
     あのときの約束、守ってくれたんだ。僕がレイだけを助けようとしてた頃にも。
     14年経っても、僕のこと憶えていてくれた。…待っててくれた。他の誰も、僕にいない時に)
   カヲル(…それは、君の思い違いだよ)

優しくたしなめる声音
鮮やかに甦って、びくりと顔を上げるシンジ
予感とともに振り返る

733 :4/7:2016/11/19(土) 21:31:45.43 ID:FAP6yAat6
気遣ってかすぐそこまで距離を縮めてこちらを覗き込んでいるレイ
言葉はない
でも無感動でもない
再び、思い出すシンジ

 シンジ(そうだね。…そうだった)

レイに少し笑いかけてまた歩き出す
黙ってついてくるレイの気配
逃げ出したい痛みをこらえながら、この世界に来てからの時間を一つ一つたどるシンジ
カヲルとの交感 レイとの、衝突まじりの不器用な交流 自分から遮断した碇 暴く冬月
遠いヴンダーの人々

 シンジ(一人きりだったなんて嘘だ。
     いつだって他の人が近くにいたんだ。優しく寄り添ってくれたカヲル君や、僕の話を聞いて
     くれた綾波だけじゃない。…僕が望んでいなくても、僕を憎んでても、他の人はいたんだ。
     閉じこもって、僕だけが一人でつらいって思おうとしてたのは、僕だ)
   マリ(後始末はした! グズるな、君がしっかりしろ!)

鋭い自嘲に口元が歪む
けれどすぐに消えて、恐れとつきつめた決意をたたえた目で、またレイを見るシンジ
問い返すレイの大きな目
焼けつく日差の下でも紛れない強さを持った眼差
細い髪に囲まれた白い顔

734 :5/7:2016/11/19(土) 21:34:33.86 ID:FAP6yAat6
もはやそこに碇レイの幻は浮かばない
そのことを、底知れない寂しさとともに思い知るシンジ

 シンジ(いつのまにか、当たり前だと思うようになってた。そこにいるのが普通だった。
     少しぶつかり合ったって平気だった。だからずっとこのままだと思ってた。…初めて、甘えてた。
     …そのレイは、…僕の双子の妹は、もうここにはいないんだ)

暗い冬月の部屋が脳裏に広がる
蜂窩構造の棚にまぶたも閉じられずに並んでいた無数の綾波レイの頭部
知らない過去の暗がりに沈みこんでいく冬月の声
母親の面影

   冬月(ユイ君は今も制御システムとして初号機の中にいる。君の妹である最初のレイも、
       今はともにそこに保存されている。全て碇の計画だよ)

無心に見つめてくるレイの大きな瞳
小さくレイに頷いて歩みに戻るシンジ
黙ってついてくるレイの気配 一定の速度で赤い砂を崩し続ける足音
胸にたたむように噛みしめ、ふと表情を緩めるシンジ
もう一度レイを振り返る
かすかに息を呑むレイ
侘しい精一杯の笑みを浮かべているシンジの顔

 シンジ「綾波、…傍にいてくれて、ありがとう」

735 :6/7:2016/11/19(土) 21:36:11.67 ID:FAP6yAat6
瞬きするレイ
自分に言われているということがまだよくわからない
どこか信じられない
それを見て取って、少しシンジの笑みが翳る
立ち止まっている二人

 シンジ「…ごめん。いきなりこんなふうに言われても、訳わからないよな。
     ただ、言っておきたかったんだ、君に。…この先、言えなくなる前に」

レイの眼差が逸れる
信じられない
そうできない理由がある

  .レイ「…あなたが、いてほしいのは」

その先を言えない
言えない自分にとまどうレイ
表情のわずかな揺らぎを見て取って、頷いて、ただ微笑するシンジ
自分がカヲルの優しさを真似ようと無様にもがいているのを遠く自覚する
意外に痛みではなく懐かしさが心を包む
懐かしさになっていることが新たに心を貫く
小さく息を吐き出してこらえるシンジ

 シンジ「いいんだ。
     …今は、君がいて、僕は、助けてもらってるから」
  .レイ「…何もしてないわ」

736 :7/7:2016/11/19(土) 21:36:33.49
 シンジ「ううん。してもらったよ、たくさん。本部にいたときからずっと」

目を伏せるレイ
ほとんど聞き取れないくらいの声で呟く

  .レイ「…それは、私のほうだわ」

見守るシンジ
レイとは違うからと、手応えのない見知らぬ相手だと思おうとしていた綾波レイ
今も間近でとまどって迷い考えようとしている
碇レイと信じていた頃の本部でのぎこちない日々と、その佇まいは何も変わらない
自分の思おうとしていた世界の姿がまた一つ剥がれていくのを感じるシンジ
少しだけ大人びて見えるその顔を見つめるレイ
こんな言葉をやりとりするだけで自分を保つのがぎりぎりのお互いを新しい目で見交わす
思いは溢れるのに、どう伝えればいいか、伝えてもいいのかわからずにいる
心は恐れ、気持ちは隠され、世界は一瞬ごとに裏返り姿を変える
確かなものは自分の生きた身体の反応
そこにいる他者

 シンジ「…行く?」

頷くレイ
レイと同じではなく、限りなく似ている、綾波レイのまっすぐな眼差
頷き返して、先に踏み出すシンジ
揺らめく天地の間を歩いていく二人の細い影

737 :1/5:2016/11/23(水) 20:47:28.84
白く眩む真昼
休息の場所を求め、わずかな廃墟の一つに立ち寄るシンジとレイ
ここも地面と同じ錆びて朽ちた赤に覆われている
崩れた壁の裾を回り込んで小さく息を呑むシンジ
割れた床層の底に揺れるきらめき

 シンジ「…水?」

ゆらゆらと廃墟に淡い光の輪を投げかける水面
遅れてシンジの後ろから覗き込むレイ
LCLの記憶に引かれてかほんの少し目を逸らす
周りの様子を見回すシンジ
すでに喉の渇きが甦ってせっついている
床一面を覆う赤い砂塵に難渋しつつ、危なっかしい足取りで水の傍まで下りていく
まぎれもない水の匂いが顔を打つ
ほっと息を洩らすシンジ
どれだけの量が溜まっているのか、影になった奥は建物の基部に隠れて見えない
慎重に足元を確かめながら水際にかがみこむシンジ
そうっと水面に触れる
揺れる膜のわずかな抵抗と突き抜ける感触
持ち上げたプラグスーツの指の間からこぼれて滴る冷たい重み
14年前と何も変わらない水の振る舞い
ネルフ本部の放棄された食堂の光景が心をかすめる
しばらく放心して水の姿を見ているシンジ
ふっと我に返って床上を仰ぎ見る

738 :2/5:2016/11/23(水) 20:48:42.92
無言でこちらを見下ろしているレイのシルエット
逆光にふちどられた顔はどこかためらっているようにも見える
推しはかるように少しの間見つめるシンジ
口元を引きしめ、もう一度水に向き直り、手のひらにすくって、思いきって口に運ぶ
思ったより味のしない生温い感触
恐る恐る味を確かめて飲み下す
喉の奥を下っていく潤い
身体に勝手に生気が戻るのがわかる
ひと呼吸の間目を閉じるシンジ
顔を上げ、レイを招く

 シンジ「綾波、おいでよ。飲んでも平気そうだよ」
  .レイ「…、うん」

わずかな逡巡の後、滑り降りて同じように瓦礫の合間にかがみこむレイ
シンジの動作を真似ながら両手で水をすくって飲む
飲む間にも手の隙間からどんどん伝い落ちていく水
気づいてレイの視線がさまよう

  .レイ「…あ」

思わずしずくを拾おうとしてかえって残りを全部こぼしてしまうレイ
濡れたプラグスーツの手のひらだけが残る
見つめるレイ
波紋の群れを広げてさざめく水面に視線を移す
困ったような顔のままシンジに振り向いて、小さく目を見開く

739 :3/5:2016/11/23(水) 20:52:14.19 ID:0cw5YyjTV
わからずに瞬きし、ふいにたじろぐシンジ
レイの幼い動作に誘われて生まれた素顔の笑みが、そのひょうしに口元から消える
かすかに翳るレイの目
シンジの動作が止まる
とたんに落ちる沈黙
水が廃墟を打つ音
いたたまれなさに襲われ、目を逸らすシンジ

 シンジ「…ごめん」
  .レイ「…何を謝るの」

かぶりを振るシンジ

 シンジ「…、何も。…何でも、ないよ。…大丈夫」

ぎこちない気遣いと痛みを覗かせた目で見つめているレイ
自分にあるものを何ひとつ隠さない顔
正視できずに顔を伏せてしまうシンジ
間近にいる他人と目を合わせているのが、突然ひどく恐ろしくなる

 シンジ(…何で嘘つくんだ? 全然大丈夫なんかじゃないのに)

何か言おうとするレイ
言葉は見つからず、他に何もできないまま、うつむいてただ待つ
肩を落とし深く頭を垂れているシンジ
すぐそこの水面で揺らぐ自分の影
隣に映るレイの影にびくりと身を縮める
もう嫌になるほど馴染んだ自責の念が視野に重なり、すぐに理由も知れない恐怖にすり替わる
きつく両腕を掴むシンジ

740 :4/5:2016/11/23(水) 20:56:00.36 ID:0cw5YyjTV
見せかけの平穏を簡単に突き破ってくる真っ暗な感情の塊
本部にいた頃よりももっと脆くなっている心を今さら思い知らされる
思わず膝を抱え、額を押しつけて必死に自分を守ろうとする
いつも通りの行為に自分で失望する
血の巡る音とせわしない呼吸が耳をふさぐ
そうやって逃げてしまえることを望んでいる

 シンジ(全然…駄目なんだ、まだ。
     人のこと思いやるフリもできない。…すぐ怖くなって、自分で決めたはずのことからも
     逃げ出して、言い訳だけして)
   アスカ(またそうやって自分のことばっかり。助けてもらえるのをただ待ってる)
   アスカ(けどあんたは生きてんの。生きてんだから、生きてくしかないの)
   アスカ(ぐずろうが泣こうが、今さら甘えが許されると思ったら大間違いよ、ガキシンジ)
 シンジ(…わかってるよ、でも、どうしようもないんだ。
     僕にはもう、人と一緒にいるなんて無理だよ。…カヲル君は最期にそう望んでくれたけど、
     そんな資格なんて最初からないんだ。何の価値もないんだ)

雨の闇の底で眠っていたアスカの姿
赤い地表をひたすら引っ張って歩かせてくれたアスカの強い手

 シンジ(…アスカはいいよ。一人で生きていける。でも僕は駄目だ。
     不安で怖くて一人じゃいられないくせに、人と一緒にいるのも怖い。もう信じられない。
     だからアスカを見捨てて、たった一人信じられたカヲル君を身代わりにして、…次は、綾波?
     どこまで逃げれば気が済むんだ、僕は)

741 :5/5:2016/11/23(水) 21:01:51.75
身じろぎもせず一心にシンジを覗き込んでいるレイ
かすかに目元をやわらげる
そろそろと面を上げていくシンジ
熱の感覚のない額から汗が滴る
レイを見る
ほんのわずか、恐れをにじませて目をみはるレイ
真昼の濃い静寂
虚しく呼吸をするシンジ
レイの表情にありありと映された今の自分のありさま
たゆたう水面にそれを確かめる
限りなく人を拒む寂しい笑み
しっかりしなければいけないからとやっと作り上げた、カヲルや14年前のミサトの笑顔の無残な模倣
水滴が落ち、すばやく広がった円紋が像を崩す
無気力に立ち上がるシンジ
ためらって見上げるレイに手を貸す

 シンジ「…ごめん。大丈夫だから。
     ちょっと、休もう」

ただ頷くレイ
まっすぐ見つめてくる大きな眼
無心な信頼
受け止めきれなくて、もう一度弱々しく笑うシンジ
レイの先に立って瓦礫を登っていく
自分の偽善が胸を噛む
優しくするのは気遣うからよりも、これ以上踏み込んできてほしくないから
逃げないでいるのは心を決めたからではなく、もうどこにも逃げ込める場所がないから
何ひとつ変わっていない自分
こわばった微笑のままレイを振り返り、さしのべられた手を掴んで支えるシンジ

742 :1/8:2016/11/24(木) 22:45:23.66 ID:jOBo6vkuv
低い壁の足元にうずくまるシンジとレイ
濃い影の外側は照りつけられた赤い地表が亡霊のようににじんでいる
眼路の果てまで赤をたどれば、一面に雲を浮かべた底抜けの青空
砂まじりの風が頬をなぶる
乾いた空気の中にひとすじ、ひんやりした感触がまじっている
ふっと水のある辺りを見やるシンジ
けれど身体を起こす気力もなく、またうなだれる
隣でひっそりと息をしているレイ
薄膜の安堵と裏側の底深い怯え
レイの存在にその両方を何度となく胸のうちで確かめるシンジ
全身を浸す虚しさに、膝を抱えた手から力が抜ける

 シンジ「僕は…どうすれば良かったんだろう」

顔を上げて振り返るレイ
赤い地面に視線を投げているシンジの横顔

 シンジ「どうするのが一番、良かったんだろう。
     …ミサトさんに言われた通り、何もしなければ良かったのかな。あの船にいたみんなの
     言うことを聞いて、何もしないで、おとなしくただ座ってれば良かったのかな」

見つめているレイ
陽炎がゆらゆらと地の輪郭を泳がせる

 シンジ「そうすれば、…僕が間違わなければ、フォースインパクトは起きなかったし、誰も余計に
     傷つくことはなかったのかもしれない。…全部、僕が、あのとき間違ったから。…だから」

743 :2/8:2016/11/24(木) 22:47:14.87 ID:jOBo6vkuv
半ば閉じたシンジの目のふちにみるみる盛り上がる涙の滴
咳き込むように嗚咽を殺すシンジを見ているレイ
言葉の先を続けられるようになるまで、何も言わずに待っている
こぶしで乱暴に目元をぬぐうシンジ
なおも涙はにじむ

 シンジ「…僕が、自分の不安に耐えられなくて、間違ったから。しなければいいことをしたから。
     僕が何もしないでいれば、あの場所には何も起きないまま、今も静かな時間が
     続いてたのかな。…カヲル君のピアノが聞こえてくるだけの、穏やかで何もない日々が。
     あの、優しくて、何でもなかった時間が」

答えないレイ
しばらく涙の発作に耐えるシンジ
やがて、さっきよりは力のこもった動作で、顔を上げる
見守っているレイ

 シンジ「…そうなのかもしれない。
     だけど、違う。僕が何もしなくても、父さんとミサトさんは別の形で戦ってただろうし、アスカや
     君や、カヲル君や…みんなが傷つく時は、必ず来てた。
     つらいことも、嫌なことも、いつだって起こるんだ。どれだけみんなが望んでなくても」

諦めとは違う、削げたような厳しさを覗かせるシンジの横顔
ほんのわずか目を見開くレイ

744 :3/8:2016/11/24(木) 22:49:03.78 ID:jOBo6vkuv
 シンジ「だから僕が本当にしなきゃいけなかったのは、父さんやミサトさんの言うことを聞くだけでも、
     それにただ逆らうことでもなくて、僕に何ができるか、そしてそれをしたらどうなるのか、
     自分で考えて決めることだった。…アスカやカヲル君が、きっとずっとそうしてきたみたいに」

低い呟きになる声
また重くうなだれるシンジ
わずかな自負は消え、悲しみと内罰に押し潰されそうな14歳の顔がさらけ出される
こらえきれずに両腕に顔をうずめるシンジ

 シンジ「だけどどうすれば…どうしたら、そんなふうにできたんだろう。
     どうして…何で僕だけが、そうできるくらい強く、誰も失わないで済むようになれないんだよ…
     エヴァに乗れるのに、それしかできないくせに、どうして、何もいいことができなかったんだ。
     そのせいで…僕のせいで、カヲル君が」

顔を伏せたまま強くかぶりを振るシンジ

 シンジ「あんなこと、絶対起きちゃいけなかったのに…!」

涙声
見開いた目にかすかな痛みを宿しているレイ
ぽつりと呟く

  .レイ「あなたは、命令で第13号機に乗ったの」

自分の腕の中で目を見開くシンジ

745 :4/8:2016/11/24(木) 22:50:32.74 ID:jOBo6vkuv
殴られたように頭を起こし、レイを見据えるシンジ
ひるまず見つめ返すレイ
自己嫌悪とともに一瞬の憤りを見失うシンジ
再びうつむく

 シンジ「違うよ。…そう、これだけは本当だ。僕は自分の意志でエヴァに乗ったんだ。
     だけど…命令されて乗るより、もっとずっと悪い結果にしかならなかった」

暗く湿った惨めさが押し寄せてわずかな足場をさらおうとする
強く両肘を掴んで耐えるシンジ
精一杯言葉で抵抗する

 シンジ「…カヲル君と、一番いいことが起こせるようにって、必死に考えて決めたはずなのに」
   シンジ(嘘だ)
   シンジ(ただ彼にすがって、自分じゃどうしようもないことの、逃げ場と言い訳にしたんじゃないか)
 シンジ「…そうだ。わかってる。…今は、わかる」
   シンジ(そうだ。そのせいで、彼は)
 シンジ「!」

容赦なく甦る血まみれのエントリープラグ、操縦席の骸
悲鳴をあげようとしてできないシンジ
ただ一人助けを求めたいカヲルは、シンジ自身の行為の結果を代わりに引き受けて死んだ
もう誰も呼べない

746 :5/8:2016/11/24(木) 22:52:05.42 ID:jOBo6vkuv
恐怖に掴まれて全身をこわばらせているシンジ
痺れたように鈍磨し硬直していく真昼の炎熱
引き伸ばされていく時間
ふいにまた、レイの声が沈黙を破る

  .レイ「…命令じゃないのに乗ったら、悪いことが起きるの」
 シンジ「…え」

思いがけない言葉に、感情の縛めが少し緩むのを感じるシンジ
額の冷たい汗が流れ落ちるまま、レイを窺う
今は役に立たないプラグスーツを見下ろしているレイ
どこにも行き場のない子供の顔
震えが鎮まるのを待ってようやく口を開くシンジ

 シンジ「…そんなのわからない。ただ、僕はいつだって、そうだった」
  .レイ「…いつだって」
 シンジ「そう。前も、一度」
  .レイ「…前」
 シンジ「うん…、」

ふいに突き上げる感情にシンジの眉間が険しく歪む
どうしようもなかったことへの怒りはすぐに内罰に変わり、頑なな自己嫌悪になる
14年前の最後の戦いのさなか、初号機のケイジで碇に向き合った瞬間の覚悟
カヲルの差し出した手を取って二人で第13号機に向かったときの決意
ゆるぎない心だったはずのそれらさえ、後に続く惨劇に跡形もなく壊された

 シンジ「…レイを助けられなかった。カヲル君も殺してしまったんだ。
     ミサトさんやアスカや、前にいた人たちみんなを、一緒に長い間苦しめて」

747 :6/8:2016/11/24(木) 22:55:31.63 ID:jOBo6vkuv
シンジの苦悶に何ひとつ言えない自分を見出すレイ
わかるのは自分のことだけ
シンジが繰り返す自責の言葉と何も変わらない、自分のことばかりの、何も知らない自分
他に何もできずに、それを口にする

  .レイ「なら、…命令じゃないのに降りるのも、同じなの」

限りなく自閉する苦痛の殻をもう一度破られて、思わずレイを見るシンジ
信じていないはずなのに響いてくるレイの言葉
聞こうとしている自分
そのことへの驚きと疑い
少しためらうシンジ

 シンジ「そんなの、…誰もわからないよ。
     もしかしてそのことをずっと気にしてるの。命令にないことした、って言ってたけど」

かろうじて頷くレイ
なぜか言葉を続けずにはいられないシンジ
すり切れているはずの心が急く

 シンジ「…そんなふうに思うことないよ。前にも言ったろ、機体が駄目になっても何もするななんて
     命令、あるわけない。パイロットなんだから、脱出するのなんて…当たり前、だよ」

語尾が力を失う
第13号機のプラグにいた最後の瞬間を思い出すシンジ

748 :7/8:2016/11/24(木) 22:57:25.70 ID:jOBo6vkuv
何もできないのにエヴァを離れたくなかった自分
8号機のパイロットがプラグを強制射出したときの絶望と無力感
カヲルの傍を離れることの、身を切られるような拒絶

 シンジ「…当たり前のこと、しただけだよ。綾波は。…何も悪いことなんかしてない。
     君は生きてるのに」

シンジを見つめ、けれどうつむくレイ

  .レイ「…わからない」
 シンジ「…え?」

瞬いて、レイに目を凝らすシンジ
揃えた膝の上に両手を持ち上げ、頼りなげな視線を落とすレイ
埃と砂で汚れたプラグスーツ

  .レイ「わからないの。自分が、生きているのかどうか、私には」

まっすぐシンジに目を向けるレイ
その目の底に沈んだ翳

  .レイ「前は知らなかった。今は、わからない。…エヴァを降りたからかもしれない。
     エヴァに乗っていれば、あなたを守ることができた。命令でも、よかった。
     何かできたと思えたのは、あのときだけだったから」

ただレイの顔を見守るシンジ

749 :8/8:2016/11/24(木) 22:59:07.91
再びうつむいたレイの視線の先で、プラグスーツの両手が何かをくるむような形を作り、ついで力を失う
DSSチョーカーの発動から庇ったMk.9の巨大な手を思い出すシンジ

  .レイ「そう、あのときだけ。…その後は、…何も」

自分の立つ虚無の淵の深さにうなだれるレイ
命令通りにMk.9で斬ったMk.6から溢れ出した第12使徒、それが形作った自分と同じ顔

  .レイ「…わからない」

無意識にシンジと同じ姿勢で、両肘を抱いて自分を守ろうとしているレイ
頬にかかった髪が震えてかぶさり、表情を隠す
胸をえぐられるシンジ
今さらと自分に幻滅しながら、思い当たる

 シンジ「もしかして…だから今、こうやって僕についてきてるの」

答えないレイ
細い肩をなおもこわばらせている
意識の中の綾波レイの像がまた少し変わるのを感じるシンジ

 シンジ(…この子には何もないんだ。あの頃のレイよりももっと)

ほんの少しだけしっかりするシンジの表情
空をとどろかせて風が渡り、赤く朽ちた廃墟にも匂いのない熱が渦巻く
影に呑まれた二つの小さな姿
ぎらつく陽に白く融けそうな山稜 遥かな黒き月の巨影

750 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2016/12/21(水) 21:35:45.82 ID:68Lyos8fy
test

751 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2017/01/03(火) 19:54:49.35 ID:/QjKtNgSU
あけおめほしゅ

752 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2017/01/10(火) 22:44:46.15 ID:x1ZZs7qqZ
今年もシン情報はなしかな

753 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2017/01/27(金) 20:58:53.20 ID:aF+y7WsU/
なさそうだねぇ

754 :1/9:2017/01/31(火) 23:15:10.99
 シンジ「…ルくん」

顔を覆う熱気
いつのまに眠っていたのか、びくりとして目を覚ますシンジ
しばし呆然と宙に視線を預ける
陽炎に揺らぐ赤い地表
眩しい遠景
濃い影
背にした壁の乾ききってとげとげしい感触
口を開くと熱をはらんだ空気が入り込んでくる
全身を緩く掴む疲労感と倦怠
呆けたようにただ呼吸を繰り返し、じょじょに自分を取り戻していくシンジ

 シンジ(…ちがう)
 シンジ(忘れてたいだけだ。逃げられもしないから、少しでも忘れたふりして
     楽になろうとしてるんだ、僕は)

きつく奥歯を噛みしめてうつむくシンジ
赤い夏の眺望から逃れようと顔をそむける
動いた視界に別のものが映る
少し離れて端正に膝を抱えてうずくまる綾波レイの黒いプラグスーツ姿
小さく息を吸い込むシンジ

755 :2/9:2017/01/31(火) 23:16:14.22 ID:1lG8UptcJ
流れる汗が顎の先から滴って、両脚の間の地面に落ちて砂に沁みる
レイを見られないシンジ
今さっきの、もう思い出せもしない短い夢の印象をかたくなに追い求める
今は誰にも傍に来てほしくない
唇がもう一度、カヲルの名前を形作り、力を失う
ぎゅっとまぶたをつむるシンジ

  .レイ「…あの人の名前」

打たれたような衝撃
かっとなって向き直るシンジ
そのまま、自分と他者への嫌悪でどうしようもなくなって動きが止まる
こちらを見ているレイ
シンジの表情を見て取って眼差が揺らぐ

  .レイ「…ごめんなさい。聞こえてしまったの」
 シンジ「…いいよ」

何度か口を開いてはやめるのを繰り返してから、やっと答えるシンジ
いたたまれずに顔をそむける

 シンジ「馬鹿みたいなことだから。…ごめん」

756 :3/8:2017/01/31(火) 23:16:40.29 ID:1lG8UptcJ
レイの沈黙
やがて、ぽつりと声がする

  .レイ「ずっと知らなかった。私」

思わず目を向けるシンジ
抱えた膝に視線を落としているレイ
こちらを見ていないことに安堵し、同時にそんな自分に嫌気がさすシンジ
埋め合わせのように訊ねる

 シンジ「知らなかったって…カヲル君の、こと?」
  .レイ「そう」
 シンジ「…ずっと、一緒にいたのに?」
  .レイ「そう、ずっと」

唇を噛むシンジ
綾波レイならそうなのだろうと納得する反面、なぜかひどくやるせなさがこみ上げる
レイとカヲルがあの閉ざされた場所で過ごした何もない時間の虚無を思う

 シンジ「どうして?」

一度瞬きするレイ

757 :4/8:2017/01/31(火) 23:17:15.96 ID:1lG8UptcJ
  .レイ「…どうして」
 シンジ「…、その、話したりとか、しなかったの」

答えようとして少しためらうレイ
それでも口にする

  .レイ「そういうこと、しなくても良かったから」
 シンジ「…必要、なかったから?」
  .レイ「そう」

レイから目を逸らし、再びうなだれるシンジ
やり場のない虚しさに身体の一番奥を掴まれる
このまま立ち上がれなくなりそうで、怖いのに、あらがう気力が湧かない
深い虚脱
またレイの声

  .レイ「…知ることも、できたのね。本当は。…できたはず、だった」

はっとするシンジ
少し顔を起こす
恐れながら、厭いながら、重い頭を動かしてレイの方を見る

758 :5/9:2017/01/31(火) 23:17:58.39 ID:1lG8UptcJ
こちらを見つめているレイ
視線が合う
どこか鏡のような二人
何かを共有したような一瞬の幻想が現れかけて、消える
相変わらずほとんど表情は見せないものの、以前よりずっと身近に感じられるレイ
レイが自分から何かを話そうとしていることに我知らず励まされているシンジ
二人の間の影の地面に視線を移し、答える

 シンジ「…そうだね。
     僕だって同じだ。カヲル君のこと、…彼がどうして一緒にいてくれたのか、
     何が彼の願いだったのか、知ろうとすればできたはずだった。でもしなかった。
     自分のことだけで精一杯で、カヲル君だけが優しくしてくれるのが嬉しくて、
     嫌なことや不安なことは何も見ようとしないで、ただ頼って、甘えてた。
     それで済むと思ってた」

ドグマでカヲルが見せた悲嘆と絶望を思い出すシンジ
何度でも胸を貫く痛み
独り打ちのめされていたカヲルの顔
彼の言葉を聞こうとしなかったのは自分自身
声を殺し、ただいっぱいに目を見開くシンジ

   カヲル(…ごめん。君には、僕はいない方が良かった)

涙に覆われるシンジの両目

759 :6/9:2017/01/31(火) 23:18:55.15 ID:1lG8UptcJ
強くかぶりを振るシンジ

 シンジ「…違う!
     僕が、いない方が良かったんだ。僕がいなければ、彼も、みんなだって」

   .ミサト(何もしないで)
   カヲル(全てのきっかけは君なんだよ)
   アスカ(あんたこそ、もう邪魔しないで!)

耳の奥で鳴る幾つもの声
必死に耳をふさぎ身体をちぢめるシンジ
ゆっくりと頭を横に振り続ける
滴り落ちる涙と冷たい汗

 シンジ(…それも違う。だって、カヲル君は最後まで逃げずにいてくれた。
     僕も僕をなくすことはできなかった。…そう、僕がいなければ、きっとみんな
     違う風に進んだかもしれない。だけど起こりもしないことを言い張るのは、
     ただのごまかしだ。逃げてるだけなんだ。何よりも、カヲル君から)
 シンジ(…だけど)

うずくまるように動きを止めるシンジ
ずっと考え続けている一つのこと

 シンジ(だったら…僕は、どうすればいい…?)

760 :7/9:2017/01/31(火) 23:19:49.16 ID:1lG8UptcJ
拒絶と絶望に固く身体をこわばらせてしまうシンジ
見守っているレイ
虚しい痛みを覗かせている目
小さく口を開く

  .レイ「…音」

応えないシンジ

  .レイ「あの人の音。…音楽。いつも聞こえてた」

かすかに頭を動かすシンジ
何度か言いよどみ、ためらい、ぎこちなく言葉を続けるレイ

  .レイ「…そう、いつも音がしてた。ずっと。あなたが、来た日まで」

シンジの背中が波打ち、押し殺された嗚咽が洩れる
懸命に涙に抗っているシンジの肩の震え
自分の無力を受け止めるレイ

  .レイ「…、でも、…あなたが来て、変わったの。音が。…楽しく、なった。
     サビシくなくなった。…そう言ってた」

761 :8/9:2017/01/31(火) 23:20:48.23 ID:1lG8UptcJ
息をこらえてゆっくり顔を起こすシンジ
削げたような泣き顔
目を凝らしてしまうレイ

 シンジ「カヲル君、が…?」

つっかえながら訊くシンジ
頷いて、自分でも理由もわからず視線を逸らすレイ

  .レイ「そう。ドグマに降りる前。あなたがあの場所に来なくなってから、あの人は
     一度も音を出さなかった」
 シンジ「どう…して」

カヲルの言葉を思い出そうとするレイ

  .レイ「二人でひく楽しさを、知ってしまったから。変わってしまったから。
     …一人ではもう、音が、走り出さない」

    レイ(変わることは、苦しいの)
   カヲル(そうだね。…変わることは、寂しいよ)

762 :9/9:2017/01/31(火) 23:21:22.73
ほとんど息を止めて聞いているシンジ
その目にみるみる新しい涙が溢れ、次々と頬を伝う
目をそむけたまま続けるレイ

  .レイ「…あなたがいて、あの人は、良かったんだと、思う」

シンジが息を呑む気配
見なくても伝わってくるほどの悲しみ
必死に抑えても洩れる嗚咽
泣き崩れているシンジ
その様子を見ようとして、できないレイ
やるせなく目を伏せる
長いこと泣いているシンジ
それでも少しずつ声が治まり、震えの気配が静まっていく
やがて、咳き上げる涙の名残の底から、声に出して答えるシンジ

 シンジ「綾…波、…ありが、とう」

両目を見開くレイ
強い何かが胸にこみ上げるのに、それが何かわからない
何もできずじっとしているだけのレイ
次第に小さくなる嗚咽をこらえ、静かに呼吸しようとしているシンジ
よく似た姿勢で影の中にうずくまる二人
赤い地表を陽炎が揺らめかせる
滅びた長い真昼

763 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2017/02/26(日) 08:56:57.79 ID:EKjM9zaj0
保守

764 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2017/03/07(火) 23:23:23.35 ID:C2RvQ/snA
ho

765 :1/7:2017/03/19(日) 15:55:26.00
淡く翳り始めた日差
赤く滲み出すような廃墟の長い影
水のほとりに屈み込んでいるシンジ
非常用バッグ付属の携帯容器を反映の波立つ面に浸し、ぬるい水を汲む
崩れ残った廃墟の床の上から見つめているレイ
ためらった後、息を凝らすようにしてそっと降りていく
足音を聞きつけて振り向くシンジ
微かにたじろぐレイ

  .レイ「…いい?」
 シンジ「? …、うん。おいでよ。
     次はいつ、こんなふうに休める場所に着けるかわからないから」

声が沈む
けれど横顔は脆い穏やかさを取り戻しかけている
傍らに来たレイに微笑みかけようとするシンジ
それを見て取って、感情に乏しいレイの面輪にほのかに安堵がともる
シンジの表情も少しだけゆるむ
鏡のようなお互い
今の自分の危うい平穏の均衡点が綾波レイにあるのを自覚するシンジ

766 :2/7:2017/03/19(日) 15:57:50.26 ID:IPywUcaiN
綾波レイをかばおうとすることでバランスを保っている自分の心
それがかつてのレイやカヲルの命を賭けた優しさをなぞろうとする行為であることも承知している
そうしたところで決して彼らを取り戻せはしないことも

 シンジ(でも、今はそうしなきゃならない。
     この子を巻き添えにしたくない。だから自分のことも諦めちゃいけないんだ。
     たとえそれが、アスカやミサトさんや、皆…まだ続いてる現実から逃げてるのと
     同じでも、…今は、これしかできない。
     そう、僕はまだ、僕の心をなくすことはできないでいる。自分の思いたいことしか
     思えない。望めない。…それって、酷いこと、だよな)

淡く揺らめく水面
自分が息をする耳障りな音

 シンジ(卑怯で、臆病で、狡くて、弱虫で、…自分優先で、無神経で、傷つけて、
     都合よく忘れて、逃げ出しては怖くて戻って、何度も、同じ思いばかり繰り返して)

胸の裡に同じように不安定に湛えられて揺らぎ続ける感触
隣にいるレイの気配
きつく目をつむるシンジ
数秒、まぶたの裏に逃げ込んで、また戻る
満たした容器の蓋をかたく閉めようとして、そのまま自分の両手に目が止まる
赤く砂塵で汚れたプラグスーツに包まれた、罪を犯した子供の無力な手
どうしようもないことをまだ望んでいる手
波がさざめく
重なるレイの声

767 :3/7:2017/03/19(日) 15:59:27.25 ID:IPywUcaiN
  レイ「行くの」

瞬きして、視線を返すシンジ
頷く

 シンジ「うん。…行かないと」
  .レイ「…私のことなら、心配、いらないわ」

声音の底に湛えられた決意を聞き取るシンジ
レイの思いやりに胸をつかれる
やっと答える

 シンジ「…、ありがとう。でも、そういう意味じゃないよ。それだけじゃない」

今度はレイがとまどったように瞬きする
そのまま視線を預けるシンジ
わずかに眉根が寄せられる

 シンジ(ヴィレに捕まればこの子は殺される。…最低でも、僕と同じ目に遭わされる。
     エヴァを降りた今はネルフにも戻れない。父さんはこの子に何も望んでないから。
     …どうしたらいいのかなんてわからない。ただ、僕がしたいのは)

不安の拭いきれない、けれど意志の戻った目でレイを見つめ返すシンジ

768 :4/7:2017/03/19(日) 16:01:16.50 ID:IPywUcaiN
 シンジ「僕は、第13号機に行く。
     僕を信じてくれたカヲル君を、独りで残してきてしまったエヴァのところに。
     …行ってどうなるなんて思ってない。行き着けるかもわからない。だけど、
     僕は行きたい。また誰か他の人に捕まる前に、少しでも近づきたいんだ。
     そうしないと、たぶん、僕はもう自分で立って歩くこともできなくなる。
     それはただ死んで終わりになるより酷いから」

聞いているレイ
わかりきれない部分もただ受け止めて、微かに頷く
唇を噛むシンジ
自分の身勝手さと不確かさが、過去の他人の犠牲とともに膨れ上がって記憶を圧する
また繰り返されるかもしれない虚無への恐れ
それでもと望んでしまう自分というものの傲慢
自責の念に急き立てられるようにして、思わず口にする

 シンジ「でも…綾波は、どうしたいの」

言ってすぐ襲いくる自己嫌悪
しょせん言い訳と自己満足に過ぎない惨めな言葉
取り消そうと口を開く
と、その前に答えを返すレイ

  レイ「…わたしは、…わかりたい」

769 :5/7:2017/03/19(日) 16:04:17.18 ID:IPywUcaiN
とっさに答えられずにただ目を凝らすだけのシンジ
まっすぐ目を向けてくるレイ
さっきシンジがしていたように、さざめく水面の反映に黒いプラグスーツの両手をかざす

  .レイ「前はわからなかった。何も、なかった。
     でも、今は、わかりたい。…わかるように、なりたい。私にそうできるのなら」
    レイ(ごめんなさい。何もできなかった)

一瞬目をみはるシンジ
初号機の中で抱きしめたレイの面影が、重なろうとして重なりきらずに、薄れて消える
今目の前で生きている、レイと同じ顔をしたもう一人の少女
限りなく似ているとは決して同じにはならないということ
やっと、この他人とは別の存在として、かつていたレイを思い出せている自分を知るシンジ
数限りないつらさと痛みの溶けた懐かしさ
それはここにいるこの綾波レイのものではない
碇レイの言葉、碇レイのしぐさ、碇レイの行動、碇レイの笑顔がまた少し遠くなる
涙をこらえようとするシンジ
それは同じように失ったカヲルが遠ざかることでもある
思うだけで胸の底を割り沸騰する拒絶
けれど苦痛と悲しみにしがみつくのはカヲルの望みではなかった
自分の感情に閉じこもるのではなく、誰かと繋がるのを諦めないことを言い遺したカヲル
幾重にも輻輳する思いを言葉にできないシンジ
一つだけ口にする

 シンジ「…それで、僕を…僕と、一緒に来たんだ」

770 :6/7:2017/03/19(日) 16:06:49.00 ID:IPywUcaiN
淡くLCLの色に揺れる水面
一瞬その移ろいに目をやるレイ
シンジを見つめる

  .レイ「…そうだと思う。…いえ、そう。
     私は、あなたを知りたい。あなたのこと。自分のこと。エヴァに乗っていたこと。
     生きてるということ」

澄んだたじろぎのないレイの瞳
何もなかった無垢
そこに形をとりはじめた一つの心
それを眩しいものに感じるシンジ
思い知る

 シンジ(…そうだ、…こんな場所でも、まだ、人は生きてくんだ)

何かが意識を開く
初めて、血塗られたものとしてではなく甦る、第13号機プラグでのカヲルの姿
胸を底までえぐるほどに懐かしい笑顔
   カヲル(そんな顔をしないで)
   カヲル(生きていければ、大丈夫さ)
   カヲル(また会えるよ)

771 :7/7:2017/03/19(日) 16:08:04.69
 シンジ(…うん)

面影を胸の裡に抱きしめるシンジ
ふいに頬を伝ったひとすじの涙に、ひそかに息を凝らすレイ
また新しく知るシンジの顔
まぶたを閉じて、深い呼吸とともに開くシンジ

 シンジ(…会いに行くよ。君が約束を守ってくれたみたいに。…カヲル君)
 シンジ「そうだね。行こう、綾波」
  .レイ「…うん」

身体の調子を確かめながら立ち上がるシンジ
レイに手をさしのべ、掴んで、一緒に廃墟の断層を登り始める
影の中に残されていた所持品を分け合って身につける二人
お互いを見交わしながら薄暮の赤い地表に踏み出す
長い影を曳いて歩いていく二つの影
遥か山稜の彼方にそそり立つ黒き月のシルエット
絶望に近い希望を握りしめるようにして、口を引き結んで振り仰ぐシンジ
何も確かなことはない
でも歩みを止めたら、そのままそこで倒れて動けなくなってしまう
結局は未練と恐れだけで歩いている自分
懐かしい人への思い 今ある人への恐れと拒絶 生きて繋がりたいという願い 消せない疑念と不安
決して否定できないそれらを確かに含む自分という矛盾
その自分を、許せなくても受け止めて、前に進む

772 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2017/04/23(日) 19:17:54.70 ID:eSxKYy1Z9
ho

773 :1/3:2017/04/25(火) 20:50:32.09
赤い地上を歩くシンジとレイ
少し重たい足取りで先を行くシンジの後ろにレイが続く
ほとんど言葉を交わさず黙々と歩く二人
何度も手を上げて額の汗をぬぐうシンジ
濡れた髪が気持ち悪い
日暮れが近いはずなのに地表を覆う熱気は薄れないまま

 シンジ(…気候もおかしくなっちゃったのかな。…あの、サードインパクトで)

頭上を仰いで異形の月を探す
沈んだのか昇る前なのか、今はあの赤く分割された狂った姿は空にない
うなだれるシンジ
あのとき隣にいたカヲルを思い出す
その後無気力に自分を閉ざしたシンジの手を引いて上まで連れ戻してくれたことも
なぜ離さなかったのか なぜ見捨てなかったのか
今もわからない

   シンジ(僕は、もう、無理なのに)
   シンジ(そう、ずっと前からそうだ、14年前も…なぜ、僕なの)
   .カヲル(君だからだよ)
   カヲル(理由は…あったけれど、それはもう、僕にはあまり意味を持たない。
      こうしてここで生きている君と出会えたからね。君と現実に出会えたこと、
      …それだけが、今の僕にとって本当だ)

肩越しに緩く目を向けるシンジ
何も言わずついてくるレイ

774 :2/3:2017/04/25(火) 20:51:35.74 ID:X1TTDkXMh
強い西陽に消されてはっきり捉えられない白い顔
それ以上心を向ける気力もなくまた前を向くシンジ
肩が落ちる
耳障りに続く自分の呼吸音

 シンジ(…結局、これも逃げてるだけかもしれない)

汚れたプラグスーツの内側を流れ落ちる汗のぬるい感触
ひたすら息をして足を前に運ぶ自分の身体
絶えず苦痛を訴える筋肉や関節
生きていることへの嫌悪に、シンジの目元が強く歪む

 シンジ(僕が逃げずに、本当に向き合わなきゃいけないのは…きっとあのパイロットが
    言ってた通り、アスカや、ミサトさんや、この変わってしまった世界で今も必死に
    生きようとしてる人たちなんだろう。僕だって死ねないなら、…狡くても生きてる
    つもりなら、その人たちと一緒にならなきゃいけないんだ。一緒になって、…皆が
    生き残れるように、僕ができることを見つけなきゃならないんだ、本当は。
    それが僕のするべきことなんだろう。
    いつまでも、もういない人や自分のことにぐずぐず構ってないで)

右手が震え、ふいにこぶしになる

 シンジ(…だけど)

背後から変わらずついてくる綾波レイの微かな足音

 シンジ(なら…誰がこの子や、僕の代わりにしてしまったカヲル君のことを思い出す…?
    あの場にいて、憶えてる僕以外に、誰が)

775 :3/3:2017/04/25(火) 20:53:05.46
もう一度振り返るシンジ
眩しい光の下で心なしかレイの顔色が青い気がする
少しペースを落とし、わずかにレイとの距離を縮めるシンジ

 シンジ(僕の他に、今のこの子を気遣ってあげられる人なんているんだろうか。…まして、
    もうここにはいないカヲル君や、レイのことを思い続ける人が。
    14年前から…それにあの穏やかだった猶予の時間を憶えてる僕の他に、誰が)

レイの浅い呼吸が聞こえる
気遣いは簡単に恐れへと裏返り、びくりと身を離すシンジ
こぶしが虚しくほどけて緩く空を掴む

 シンジ(…僕は思い出の器だ。…カヲル君は生きるように望んでくれたけど、今は、まだ。
    だからまだ何も捨てられない。まだ、自分だけで生きてけない。
    必要なんだ。失いたくないんだ、…もう、本当はとっくになくなってるとしても、
    何も、捨てたりなんかできないよ…今傍にいて、僕と同じに行き場のないこの子も、
    僕の、一番大事な、最後の友達のことも)

シンジのまぶたが震える
不毛な視界をわずかに潤ませる涙
が、流れ落ちることはない
幾重にも打ちひしがれ、つきつめた目をして、なおも遙かな夕空にそびえる黒き月を求めるシンジ
細く息をしながらその背中を見つめるレイ
二人の足音が夕焼けに埋もれていく

776 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2017/05/04(木) 21:35:45.99 ID:YVZUHFctJ
ほっしゅ

777 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2017/05/08(月) 20:15:20.00 ID:o4XwTCaKa
777

778 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2017/05/21(日) 22:28:00.50 ID:tHPhbIjyc
↑おめ

779 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2017/05/30(火) 20:44:33.91 ID:zxZcjKTWp


780 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2017/06/09(金) 01:14:25.01 ID:xEpRFsF2+


781 :1/4:2017/06/12(月) 23:40:59.82 ID:QMloWdFXB
いつのまにか半ば閉じていた目を開くレイ
揺れる視界
熱気をはらんだまま宵闇に沈んでいく地表
その向こうに、重い足取りで歩き続けるシンジの頼りない後ろ姿
道標を望むように見つめるレイ
呼吸が浅い
軽微ながら執拗に抵抗と違和感を伝えてくる身体
最後にLCLに戻ってからかなり時間が経つ
まぶたの重さに耐えるレイ
彼方の黒き月に焦点を移す
山稜に隠れた下部はシルエットになり、最上部だけが宵空に白っぽく浮かび上がっている
あそこにあるはずの旧ネルフ本部を思い出すレイ
シンジの背中に重なってもう一人の姿が眼裏に浮かぶ
碇ゲンドウ
記憶を手探りするレイ
甦る、今はもうないEVA Mk.9の圧倒的な存在感
ほぼ闇に沈んだ旧ケイジ 機械類の重低音
排出されたエントリープラグから降り立つレイ
真っ暗な通路を行こうとして足を止める
自動機構によって搬入されるMk.9を見上げている碇
レイを見ようとはしない
声だけが投げられる

   碇(第三の少年は)

782 :2/4:2017/06/12(月) 23:41:46.27 ID:QMloWdFXB
  .レイ(先に、医務室へ)
   碇(…ゼーレの少年か。まあいい)

Mk.9の弾けた頭部を見ている碇

   碇(頸部の処置はしておく。定常診断が済んだらお前も医務室へ行け)
  .レイ(はい)

会話が絶える
無言で歩き出すレイ
すれ違う
動かない碇
ふいに背後から声が届く

   碇(お前は大丈夫だな)

意識せず立ち止まるレイ
これも自分では理解しないまま、言葉の続きを待つ
緊密な闇
が、再び声は聞こえてこない
やがて黙ったまま一人歩き始めるレイ

   碇(レイ)
 シンジ(…レイ!)

783 :3/4:2017/06/12(月) 23:45:20.69 ID:QMloWdFXB
はっと目を凝らすレイ
前を行くシンジとの距離が少し開いている
身体の重さをこらえながら、足を速める
肩を落とし、うなだれながらも自分の足で歩き続けているシンジ
再び視界に本部で過ごした時間が折り重なる
シンジの見せた幾つもの見知らぬ表情、レイ一人に向けられた言葉、気遣い、感情の吐露
真新しい感覚を思い出す
今ならばわかること
シンジに心をぶつけられて、自分にも心があると知った
シンジの行為そのものが教えた
レイを心あるものとして対してくれたシンジが、知らなかったこと全ての起点になった
笑いかけるシンジ、涙を流すシンジ、傷つくシンジ
図書室の暗がり、お茶の温かさ
次に会う日の約束

 シンジ(…彼女は、『綾波』なんだから)

言葉が追想を切り裂く
第13号機のプラグにいるシンジの、拒絶より遠い諦めの声
まぶたを伏せるレイ

  レイ(…『私』)
     碇(レイ)
   シンジ(レイ)

ふっと虚ろさを増すレイの表情

  レイ(…『レイ』)

784 :4/4:2017/06/12(月) 23:46:23.71
  レイ(『レイ』、…レイ、…)
  レイ(…碇、レイ?)
     碇(レイ)
   シンジ(『綾波』)
   シンジ(綾波、…ありがとう)
  レイ(…ちがうのね)
  レイ(綾波、レイ)

もう一度、目でシンジの背中を求めるレイ

   シンジ(行こう、綾波)
    レイ(うん)

確かに答えたのは自分
けれど埋まらない空虚さが胸にある

  レイ(…綾波、レイ)

ふいに身震いし、違和感を止められなくて両腕で身体を抱えるレイ
足が止まる
ぐらつく視野
瞬きを繰り返す
気づいて足早に戻ってくるシンジのことも目に入らない
暗くなる世界
ますますきつく自分を抱きしめるレイ

  レイ「…寒い」

785 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2017/07/08(土) 18:48:13.01 ID:diIh+g0Rz
ほっしゅ

786 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2017/07/13(木) 23:47:20.24 ID:efwzKpM6O


787 :1/8:2017/07/28(金) 00:54:21.05 ID:9tdFKXBRy
無意識に息を呑むシンジ
考える前に身体が飛び出している

 シンジ「…綾波っ」

両腕で自分の上体を抱えたままその場に崩れ落ちるレイ
寸前、駆け戻ったシンジが危うく抱きとめる
切迫した呼吸の響き
ぐったりしたレイの身体を精一杯支えながら、何とか踏みとどまろうとするシンジ
とっさにレイの顔を覗き込む
感覚が暴走する
生々しいレイの身体の重み 体温 他人の匂い 感触
過敏になった神経が全て拒絶する
一瞬真っ暗になる視界
シンジの両脚がぐらつき、レイの身体に引きずられるように暗い地表に座り込んでしまう

788 :2/8:2017/07/28(金) 00:55:42.13 ID:9tdFKXBRy
レイから顔をそむけて荒い息をつくシンジ
喉元を突き上げる生理的恐怖
重なる自己嫌悪と内罰 身勝手な慕わしさ

 シンジ(…違う。この子はレイじゃない)
 シンジ(何もできないくせに。僕にはもう人に何かする資格なんてないんだ)

他でもない自分の感覚に苛まれながら、息も殺すようにしてただ耐える
こんなにも近く他人に触れている、それだけのことが辛くてたまらない
苦い涙が眼球を刺す
泣き声になるのを必死にこらえ、何を求めるかもわからずに空を仰ぐ
長い残照も消え無数の星に覆われ始めている広い天
人間が何をしようと変わらない星々
そのまま、顔を仰向けて目を閉じるシンジ
きつく噛み締められた奥歯
ただこの場にいるしかできないことの、無力感

789 :3/8:2017/07/28(金) 00:56:41.76 ID:9tdFKXBRy
長い時間をかけて逆上をなだめ、かろうじて落ち着くシンジ
息をつめるようにして姿勢を変える
恐怖の残る目でレイを見る
無理にそむけ続けていたせいでひどく痛む首筋
力なく横たわったままのレイ
宵闇にそこだけほの白く浮かんでいるレイの顔
わずかな薄明に透かすようにして見つめるシンジ
荒涼とした心
ふいに記憶が押し寄せる
14年前、使徒からサルベージされた初号機の前で抱き上げた碇レイの細い身体
生命維持システムも切れたプラグで冷えきり、衰弱してもなお、シンジを見上げようとしていたレイの顔
二人を囲むミサト、アスカ、ネルフの人々

 シンジ(…そうだ。あの頃は、皆がいた)

心配も安堵も隠せなかったミサト 照れ隠しに不機嫌を装っていたアスカ
それぞれほっとした表情をしていたオペレータたち
零号機の改造エントリープラグから送り出してくれたカヲル
皆の緊張のほどけた笑顔
頬を伝う新たな涙になすすべもないシンジ
再び傷口を開く絶望に声もなくうなだれる

790 :4/8:2017/07/28(金) 00:57:52.43 ID:9tdFKXBRy
昏黒の地上
胸苦しいほど澄んだ一面の星空
闇に包まれて昼間の赤い異形を見せない風景
遠くで唸る風鳴りのほかは無音
生物の気配も痕跡もない地表
意味を失いもはや地形の一部と成り果てている赤黒い建造物の残骸
虫の音も葉擦れの音もしない
ほぼ無臭の砂が崩れる
ごく薄く広がる星明かりを頼りに、レイを半ば肩に担ぐようにしてたどたどしく歩くシンジ
視界のきかない廃墟は避けて先へ進む
荒くなる呼吸に耐え、足先で探るようにして次の一歩を踏み出す
真っ暗な地面の窪みが体勢を崩す
見えない突起物や張り出しが脛を打つ
砂が足裏を滑らせて思わぬ方向へ流される
何度も蹴つまづき、よろめき、レイの重みに引きずられそうになりながら、それでも歩こうとするシンジ
聞く人もいないのにいちいち苦鳴を噛み殺すのを自分で嗤う
ほとんど単なる意地になっているのを自覚するが、足を止められない
が、やがて疲労の限界が来る
とうとう足が上がらなくなり、かろうじてレイを降ろして、自分も近くに倒れ込む
転がった身体が他人のもののように重苦しい
両腕に顔を埋め、しばらくはただ呼吸だけを繰り返す
全身にのしかかる疲労と自棄の思い

791 :5/8:2017/07/28(金) 00:59:21.37 ID:9tdFKXBRy
よそよそしい暗闇
汗と砂に汚れた自分の身体の臭い
何もかも遠ざけたくてきつく目を閉じるシンジ

 シンジ(…もう何も、残ってない)
 シンジ(なら、このまま、僕も)

鈍くなる感覚
まぶたの裏でうごめく血のノイズ
降りてくる夜の冷気
シンジの目元からふっと苦痛と緊張が緩む

    カヲル(シンジ君)

はっと目を開くシンジ
顔を起こす
軋む身体を引きずって起き直る
目ばかり大きく見開いた顔で、闇に塗り潰された地上を見回す
追い詰められたようにさまよう視線の先には誰もいない
幻の姿も声もない
ぎりぎりで張りつめていた最後の頑なさが破れ、嗚咽でくずおれるシンジ
何もできずにただ、泣く

792 :6/8:2017/07/28(金) 01:00:48.91 ID:9tdFKXBRy
星座の位置が変わっている
どのくらい経ったのか、真っ暗な沈黙の中で身を起こすシンジ
両手と膝で這い進むようにしてレイの傍へ寄る
恐れを消せないままその呼吸を確かめ、小さく息を洩らす
細くかすかに息をしているレイ
その隣で膝を抱えてうずくまるシンジ
半ば放心しながらもまたレイを見る
拒絶とすがる気持ち
自分以外にここで生きている唯一の存在
やがて目を逸らすシンジ
心を深く浸す悲しみ
ぼろぼろになった心と同じかそれ以上に荒れ果てたこの星を思う
どれだけ惨劇を経てもこの惑星を離れては生きていけない、ヒトを含めた生命たち
その一つでしかない自分
夜空は遠く澄み、宇宙の深淵を隠さず見せているのに、囚われた生命はそこへは行けない
虚しさが身体の芯を握りしめる
耐えられなくて、もう少しだけレイににじり寄るシンジ
肩が崩れる
非情の空からかばうようにレイの上に上体を倒すシンジ
触れてしまわないよう両肘両膝で体勢を保ち、砂を掴んだ自分の腕に頭の重さを預ける
もう誰のために悲しんでいるのかもわからない
ただ心が引き裂けるように重い
と、小さく声がする

  レイ「…何、してるの」

793 :7/8:2017/07/28(金) 01:04:17.82 ID:9tdFKXBRy
動けないシンジ
わずかに身じろぎするレイ
長い沈黙
シンジの息遣いだけが続く

  レイ「…私は」

顔の見えないレイの声
かすれていた声音が体温を取り戻す

  レイ「私は、あなたの双子の妹じゃない」

うなだれたまま小さく目を見開くシンジ
仰向いたまま言葉を紡ぐレイ

  レイ「私はあなたたちと同じじゃない。私は、誰かと生きられない」

シンジの呼吸が一瞬止まり、やがて力なく吐き出される
自分を覆うシンジの影を見つめて話すレイ

  レイ「あなたは、…もう、私といなくていい」

びくりとシンジの身体が震える
静かに横たわっているレイ
弱々しく上下する黒いプラグスーツの胸
曖昧に甦る冬月の言葉 模造品と呼んだカヲルの声音
人造物のレイの体力が尽きつつあることを、言われずとも悟るシンジ
痛む上体を起こす
見上げるレイ

794 :8/8:2017/07/28(金) 01:05:05.77
ためらいながらその顔を見下ろし、ごくゆっくり首を振るシンジ

 シンジ「…できないよ」

ぼんやりと瞬きするレイ

  .レイ「なぜ?」

もう一度首を振り、がくりと後ろに座り込むシンジ
深くうつむいて見えない顔

 シンジ「…わからない。…でも、生きてるから」
  .レイ「…あなたが?」
 シンジ「違う。…いや」

無心にシンジの答えを待つレイ
涙を拭い、星明かりに憔悴した泣き顔をさらすシンジ
不思議なものを見るように見つめているレイ

 シンジ「…君だって、綾波だって、生きてるよ。…まだ、生きてる。
     だから、一人で放っておけないよ。
     君がまだ生きてて、僕も、生きてるから。…それしか繋がってるところがなくても」

言葉の最後は自己嫌悪に押し潰されて消える
見上げているレイ
動かないシンジ
頭上にはカヲルと見上げたのと同じ、満天の星

795 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2017/08/04(金) 21:18:13.41 ID:7UMJaPEq5
ほっしゅ

796 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2017/08/23(水) 23:44:38.83 ID:0Atr3SyRF


797 :1/4:2017/08/27(日) 12:04:31.82 ID:RWZz9/BRR
怖いほど澄んだ夜空からなだれ落ちそうな星々
宇宙の深淵を思わせる光景
その実、大気を透かして生じる偏光と瞬きに溢れた、この星の景色
あどけないような表情で見上げているアスカ
夜風が顔を撫でて過ぎる
もたげられた左手が無意識に前髪に触れ、あらわになった眼帯を半ば隠す
我知らず洩れる長い溜息
少女とも大人ともつかない呪われた自分を思う
表層の無垢の素直さが消え、疲れた眼差に変わる
足音
瞬時にアスカの表情が張りつめ、ややあって少し緩む
二人分のドリンクを持って歩いてくるマリ
片方をアスカに手渡して隣に並ぶ
しばらく夜風に吹かれる二人
眼下からかすかに届くヴィレ補給基地のざわめき
ふっと投げやりに顔をうつむけるアスカ

 アスカ「…最優先補足対象にまんまと逃げられて」

目を向けるマリ
アスカの髪が夜気に舞う

 アスカ「たったの謹慎三日だなんて、馬鹿げてる。…馬鹿にしてる」

798 :2/4:2017/08/27(日) 12:05:56.69 ID:RWZz9/BRR
ドリンクをすするマリ

   マリ「姫が責任感じるのはわかるけどさ。
     でも、気に病むのはちょっと違うよ。あの状況下で、本人と接触できただけでも
     大したもんだと思わなきゃ。姫の見たところ、すぐに何かやらかせるような
     状態じゃなかったんでしょ? あの二人」

微笑を含んでいるが奥の読めないマリの目を、見つめ返すアスカ
短く息を吸い込む

 アスカ「…ショック受けて自己不信と無気力になってた。けど、何もできないとは言いきれない」
  マリ「本当に無力だったら、姫から逃げ出したりしない、って?」

答えないアスカ
さばけた表情で笑うマリ

  マリ「だとしても、さ。
     どっちにしろ、ワンコ君一人を確保したくらいでどうにかなる段階は、もうとっくに
     過ぎちゃってるしね。…向こうには覚醒したエヴァがある。こっちが回収できない
     あの新型エヴァがね」

険しい目をして顎先を上着の胸元に埋めるアスカ

 アスカ「…わかってるわ。私が自分でこだわってるだけだってんでしょ」

799 :3/4:2017/08/27(日) 12:07:05.73 ID:RWZz9/BRR
 アスカ「わかってるのよ。…情けないったらありゃしない。いつまでもイジイジ…
     ガキは、私かな」
  マリ「そこまで言ってないじゃん。
    …それに、そういう姫、好きだけどな。かわいくて」

がばっと顔を上げるアスカ

 アスカ「…あんたね」
  マリ「あ、いつもの姫だ。そっちもかわいいにゃ〜ん」

恐ろしい目つきになるアスカをよそに、へらへら笑って手すりに上体を投げかけるマリ
基地の建物や移動する車両の明かりを視線で追う

  マリ「とりあえずおとなしくしてようよ。
    暴れたくたって、こっちのエヴァは当分動かせたもんじゃないしね」
 アスカ「…ん」

大破した改2号機と四肢の大半を失った8号機を思って再び溜息つくアスカ
大人の顔で微笑するマリ

  マリ「ま、何とかなるっしょ。私らはずっとそうやってきたんだもの」

800 :4/4:2017/08/27(日) 12:08:38.11
無言で夜を睨むアスカ
胸のうちのやるせなさを吐き出し、もう一度夜空を仰ぐ

 アスカ「…そうね。ありがと」

瞬きして振り向くマリ
アスカの目がちらっと流れてマリを見る

 アスカ「くよくよしたってどうにもならないか。
     …私も、あんたのそういうとこ、ちょっと好きかもね」

一瞬、沈黙するマリ
ついで目に見えて色めきたつ

  マリ「え! ホント?! うっれしいにゃあ〜、姫に褒められるなんて初めてにゃん」

後悔する顔で露骨にうっとうしがりだすアスカ

 アスカ「別に褒めてない。絶対」
  マリ「えー、最高の褒め言葉だよぉー。ね、もっかい言ってみて、もっかい!
     も一回だけ! お・ね・が・い、ね、ねっ?!」
 アスカ「…だぁ、るっさい!! あんたはもう!」

まとわりつくマリをむげに手で払いながらヴンダー艦内に戻っていくアスカ
再び静まりかえる基地の夜空
降るような星々

801 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2017/09/12(火) 21:23:23.40 ID:19tyr44ui
801

802 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2017/09/27(水) 01:12:33.14 ID:5PON3L3wI
hoshu

803 :1/2:2017/10/14(土) 12:18:38.63
荒廃した地平を浸す水明かり
よそよそしく澄んだ大気に光の靄がにじむ
夜明けがくる
身震いして目を冷ますシンジ
つかのま曖昧な薄闇を見つめ、痛む身体にたびたび息を止められながら起き上がる
傍らにレイ
その胸がゆっくり上下しているのを見るシンジ
それだけで、両肩が落ちるほどの重たい安堵の息が洩れる
次第に薄赤く色づいた光が強まっていく
涙に汚れ打ちひしがれた顔を無理に上げるシンジ
幾重もの痛みに強く見開かれた目
日の出
彼方に、白く浮かぶ「黒き月」の姿
そこに残されているはずのエヴァンゲリオン第13号機を思う
現実の鋭さ重さに怯んだままのシンジの表情が少しだけ引き締まる
起き直り、肌寒さに膝を抱えて、レイが目覚めるのを待つ
ふと気づいて、上体に付けたままだったレイの脱出用パックをぎこちなく肩から外す

804 :2/2:2017/10/14(土) 12:19:56.44
しばらく中身を探る
残り少ない非常糧食 水筒 使おうと思いもしなかった幾つかの機器
最後のポケットに小さくたたまれた防水コートを見つけるシンジ
薄手だが目の詰まったしっかりした生地をあらためて息をつく

 シンジ(…寒いって、言ってたのに)

もっと早く気づかなかったことを悔やみながら、広げてレイの身体にかぶせ、あとはただ見守る
長く伸びて地を覆っていた影が少しずつ物の形に添っていく
日の当たる地平に早くも陽炎が揺らぎ始める
黙って眩しい陽光を顔に受けているシンジ
やがて、レイが目を開ける
視線が互いを見つけ、ぶつかる
笑うことはできないシンジ
笑うことを知らないレイ
ただ目顔で不器用に互いを気遣い合い、相手が生きているそのことを深く感じ取る
ためらいながら手を伸ばしてゆっくりとレイを助け起こすシンジ
身体を包む雨具に瞬きしてそっと布のひだをかき寄せるレイ
頭上には吸い込まれそうな悠大な青空と雲の階層

805 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2017/11/09(木) 00:14:15.94 ID:R4119BLmn
hoshu

806 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2017/11/17(金) 23:37:05.29
hoshu

807 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2017/11/27(月) 20:59:22.61
保守

808 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2017/12/17(日) 19:22:13.40
続かないのか

809 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2017/12/31(日) 22:38:39.75 ID:aEiBky9D+
大晦日

810 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/01/10(水) 19:49:24.88 ID:cMo4HZzf+
新学期

811 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/01/30(火) 23:39:37.60 ID:uKe87Vbyf


812 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/02/10(土) 22:07:44.43 ID:WrTCZLqcH
812

813 :1/7:2018/02/18(日) 00:15:08.81
荒野を吹き抜ける烈風
赤い地上と底知れない青い空
圧倒的な二つの色に挟まれて断続する、コア化し大地の赤と融け合った廃墟の列
強い太陽が濃く小さな影を作る
炎暑を避けてそこに身を潜めているシンジとレイ
もとはレイのだった脱出時用バッグを上体に着けているシンジ
心細い所持品の残りを思い出したように数え直してみる
埃っぽい地表から熱気が吹き寄せる
顔をそむけ目をつむるシンジ
少しの間だけ瞼の裏の闇に逃げて、息をついてから再び目を開く
傍らを見る
細くゆっくりと呼吸しているレイ
座り込んだ身体は頼りないくらいに細い
なかば目を伏せた白い横顔
今朝シンジが着せかけた防水ポンチョの生地を、あれから胸元でずっと掴んだままでいる
抗えず目を留めるシンジ
知らずにレイの身体を気遣っている
気づいて自分を憎むシンジ
他者への嫌悪といたわりとが大した葛藤もなく胸の内に共存する、狡くて軽薄な自分の心
その自分についてくることを自ら選んだレイが今、たった一人傍にいる
責めと罪悪感に耐えられなくなるシンジ

 シンジ(…僕は他の人をみんな突き放して、今生きてるのに)

814 :2/7:2018/02/18(日) 00:16:04.75 ID:jn7H8vxAT
 シンジ(この子まで、僕のせいでいなくなったら、…僕は)
 シンジ(どうしたらいい)

抱えた膝に顔を伏せるシンジ
風音にかぶさって耳の奥で鳴る自分の血の脈動
生きていることを呪いたい
でもできない

 シンジ(だって、結局僕は、自分が生きることだけを思ってるんだ)

諦めて薄く目を開けるシンジ
まばゆく視界を二分する天と地の鮮やかな色

 シンジ(レイに…自分の双子の妹に、エヴァを、自分の責任を全部押しつけて、
     自分は逃げて、代わりに酷い目に遭わせて。
     そのレイを取り戻したいっていう勝手な願いで、世界を滅ぼして。
     なのにそれに向き合いたくないからって、もっと身勝手な願いをして、
     助けてくれたカヲル君を、身代わりに死なせて。その間、本当は心の底で、
     自分だけは生き残ることを考えて)
 シンジ(…自分のことがどうでもいいなんて、嘘だ)

815 :2/7:2018/02/18(日) 00:16:39.53 ID:jn7H8vxAT
 シンジ(アスカの言う通りだ。僕はずっと自分のことしか考えてないんだ)

乾ききった唇を開くシンジ

 シンジ「…僕には生きてく資格なんかない。なのに生きることをやめられない。
     最低、だ」

かすれた自分の声を他人のもののように聞くシンジ
その隔絶感も、所詮は生きることに耐えるための都合のいい狡さだとわかる
今レイの隣にいるのもそれと同じ
自己嫌悪にもなれない虚無がのしかかる
ふと予感に目を見開くシンジ
こちらを見ているレイ
羞恥がかすかな血の色になってシンジの頬にのぼる
それもすぐに虚しさの海に溶ける
レイの無心な眼差を無表情に受け止めるシンジ
瞬きするレイ
レイの表情で初めて、刺すような目裏の痛みとともに、自分の涙に気づくシンジ
感覚の遠のいた両手を持ち上げて乱暴にぬぐう
見つめているレイ

816 :4/7:2018/02/18(日) 00:17:31.36 ID:jn7H8vxAT
  レイ「…苦しいの」

目を見開くシンジ
すぐには答えられない
一緒にいるのは、ただ自分の一時的な逃げ場にしているというだけ
気遣うことも責任感も感傷も、言い訳に過ぎない
涙を振るい捨て、ぎこちなく惨めな笑みを作る

 シンジ「…大丈夫。
     どんなにつらいことも、痛みも、悲しみも、…懐かしい人のことだって、自分が
     生きていくために忘れてしまうんだ。自分で死ぬこともできないんだ、僕は。
     だから、平気…だよ」

見守るレイ
うつむく

  レイ「…あなたは、生きてることが、嫌いなの」

うなだれるシンジ

 シンジ「…わからない」

空の底を駆け抜ける風の音
赤い地表を歪ませる陽炎の層
ほんの少しだけ、安らぎを覚えている自分に気づくシンジ

817 :5/7:2018/02/18(日) 00:18:14.17 ID:jn7H8vxAT
この『綾波レイ』といる時間は、少しだけ、カヲルといた時間に似ている
悲しみが襲う
一瞬呼吸が止まり身じろぎすらできなくなるシンジ
風が長く砂煙を立てて過ぎていく

 シンジ「…そう、たぶん、…嫌いなのは、他人を犠牲にして、平気で生きてく自分だ」
  .レイ「平気じゃ、ないわ」

顔を上げるシンジ
意識にのぼった意固地な拒絶はすぐに力を失って消える
レイの言葉の続きを待つシンジ

  .レイ「あなたは、苦しんでる。ずっと。…だから、平気じゃ、ない。
     あの人と、同じ」
 シンジ「…え」

カヲルと接したわずかな時間の、驚くほど稀薄な印象を思い起こそうとするレイ
今なら少しだけわかる気がする
それを伝えておきたいと願う
自分がまだ生きていられるうちに

  .レイ「あの人は、苦しいまま、生きてた。あなたを待って、…耐えてた。
     …前はわからなかったけど、今は」
 シンジ「…違うよ」

818 :6/7:2018/02/18(日) 00:19:11.34 ID:jn7H8vxAT
視野が暗く狭窄する
罪悪感が凶悪な感情暴走になりかかるのをかろうじて認識するシンジ
悲しみと憤りが抑えられない
掴むように顔を覆い、いっぱいに開いた口の形だけで叫ぶ

 シンジ(どうして? 何故なんだ?)
 シンジ(何故、僕じゃなくて、彼だったんだ?)
 シンジ(カヲル君の方が、僕よりずっと、生き残るべき人だったのに)

思いは何度でもそこに行きつき、囚われる
無力感に目を伏せるレイ
それでも溢れてくる言葉を紡ぐ

  .レイ「…私が間違ってるなら、それでもいい。
     でもあなたは、…苦しいなら、せめて、あの人の望んだように生きればいい。
     私は違うけれど、あなたは、知ってるはずでしょ」

かぶりを振るシンジ
顔に押しつけたこぶしの隙間から抑えきれない泣き声が洩れる

 シンジ「…そんなんじゃないよ。…僕は、そんな価値ない。生きてく意味もない。
     ただ、生きてるから、生きてるだけだ」

レイのかぼそい声が背を打つ

  .レイ「なら、生きてればいい。私も、あなたと変わらないもの」

819 :7/7:2018/02/18(日) 00:20:33.36
懸命に嗚咽を飲み込むシンジ
大きく引きつるような呼吸を繰り返す
無理やり顔をもたげてレイを見る
身体の内奥を切られたようなシンジの泣き顔をまっすぐ見つめるレイ

  .レイ「意味なんか、なくていい。私も、ただ、生きたいだけだった。あの時。
     だから、たぶん、自分でエヴァを降りたの」
 シンジ「…綾波」

雨具をかき寄せ、自分の身体を抱きしめるレイ

  .レイ「前はわからなかった。でも、あなたといて、少し、わかるようになった。
     だから今は、あなたに、いなくならないで欲しい」

びくりと震えるシンジ
身体の深くから震えがこみ上げて止まらない
言い終えてから急にとまどったように顔をうつむけるレイ

 シンジ「綾波、…」

何か言おうとするが、言葉にならないシンジ
焦りだけがつのる
同じくにわかに孤絶した心を抱え込むレイ
繋がる予感だけを残して途切れた何か
そのままそれぞれに黙り込む二人
熱された大気の層の上、雲の形だけが移ろっていく

820 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/02/18(日) 19:46:26.13 ID:jn7H8vxAT
kita

821 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/02/18(日) 19:47:34.18 ID:jn7H8vxAT
誤爆 orz

822 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/02/23(金) 22:27:12.24 ID:USC5005eb
一方カラーは新たにゲーム会社を設立していた

ここの方が先に話終わるんじゃね?

823 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/03/01(木) 21:23:15.15 ID:00E33Z9GZ
hoshu

824 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/03/24(土) 18:14:30.80 ID:zGes7uebz
保守る

825 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/04/04(水) 20:56:49.30 ID:6uOXY+Zsq
きょうもほしゅる

826 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/04/24(火) 11:06:29.39 ID:Ls1wtyKYo
保守

827 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/05/06(日) 20:32:12.96 ID:q7tAwrQul
hoshu

828 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/05/20(日) 19:10:51.29 ID:z9HZJloLI
保守

829 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/06/13(水) 10:10:32.60 ID:v+nGQV3k0
保守っと

830 :1/8:2018/06/20(水) 00:08:32.21 ID:978pS5Lm6
長く明るい夕暮れ
昼間の熱気のたちこめる赤い地表
よろめきながら、地面を踏みしめて立ち上がるシンジ
背負われたレイ
防水ポンチョをかぶった身体が細く頼りない
それでも伝わってくる体温と重みを感じながら、一歩ずつ歩き出すシンジ
感覚のぼやけた全身を預けて揺られるレイ
かすかに訊ねる

  .レイ「…どうして?」

思っていた以上の体力の消耗を実感するシンジ
歩みに集中せざるを得ない

 シンジ「そんな、フラフラしてるのに、歩かせられない、だろ」

儚い沈黙を挟んで綴られるレイの声

  レイ「そうじゃない。なぜ、一緒にいるの。…いてくれるの。
    もう、無理なのに」

一瞬びくりと緊張するシンジの背

831 :2/8:2018/06/20(水) 00:09:26.38 ID:978pS5Lm6
  .レイ「…私は、もう、何にもなれない。
     あなたは、私とは違うのに」
 シンジ「違ってたっていい」

吐き出すようなシンジの声音
息を呑むレイ
すぐ間近にあるシンジの髪の埃っぽい匂い
何かを言いかけて果たせず、また沈黙して、重い足を運ぶシンジ
足取りに合わせて揺れる身体、自分がシンジに預けている重さ
全てに意識を集中しているレイ
目を伏せる

 シンジ(そんなことじゃないんだ)

レイの細い息遣いに耳を澄ますようにしているシンジ
この温かみがある限りは、まだ生きている
そう信じていないと立ってすらいられない
荒い息をついて歩き続ける

 シンジ(ただ、自分のためだけなんだ。
     この子を見捨てたら、僕自身が見捨てられた気がする。それが怖いだけなんだ。
     こんなの子供じみた意地で、馬鹿な真似でしかなくて、…もう何度も失敗してるのに、
     まだ、諦められないんだ、誰かの傍にいられることを。
     同じくらい他人が嫌で怖くて、今すぐ逃げ出したくて仕方ないくせに)

832 :3/8:2018/06/20(水) 00:10:31.83 ID:978pS5Lm6
レイの重さ、軋む身体のつらさに重なって甦る、深く傷口を開けた罪悪感
カヲルの死
そのさらに向こうにあるレイの死
滅びかけた世界
誰も助けられない自分
自分を責めることしかできない自分

 シンジ(卑怯で、臆病で、ずるくて、弱虫で。
     自分が生きるためには他人を平気で逃げ場にして、身代わりにして。
     そのつらい思いさえも自分の心を守るのに使って、忘れて、何度も同じ間違いを繰り返して)

絶え間ない負荷に身体のあちこちが悲鳴をあげる
それを罰として感じる自分、楽になろうとする自分を憎むシンジ
痛みにしがみつこうとしている自分を叱咤する
意固地に脚を動かすのではなく、歩き続けられるよう苦心して動きを緩める
止まってしまう方が、怖い
それさえも自分の不安でしかないと自覚する
何度でも、痛感する

 シンジ(僕は、結局僕のことしか考えてない。僕には自分しかいない。
     こんな僕がまだ生きてる。
     だったらこの子が生きられない理由だって、あるわけない。
     生きてたって、いいだろ)

833 :4/8:2018/06/20(水) 00:13:35.87 ID:978pS5Lm6
ときどき乱れながらも規則的に続いていくシンジの足取り
力なく揺られているレイ
宵闇が降りるにはまだ早く、やや翳りをおびてどす赤い地上の諸相
遺棄され忘れ去られたかつての街のまばらな残骸
天から落ちて突き立つ巨大な赤黒い人型の群れ
不毛の山稜 色のない空に浮かぶ赤い積雲
砂混じりの風の執拗な地鳴り それすら呑み込んだ分厚い静寂
無人の風景
現実離れした巨大さで遠くそびえる「黒き月」

  レイ「…待っ、て」

はっとするシンジ
いつのまにか頭を起こしているレイ
細くとぎれがちな呼吸
足が止まってしまう
恐ろしい予感が背筋を噛み、立ちすくむシンジ
全世界を染めた息づまるような残照の赤
かろうじて聞こえる声で続けるレイ

  レイ「…あそこ、へ」

必死に頷くしかできないシンジ
レイの言っているらしい方向へ急ぐ
焦るばかりで悪夢の中をもがいているような両脚

834 :5/8:2018/06/20(水) 00:15:51.13 ID:978pS5Lm6
赤い地面の上、フォース停止時に落下した人型の一つが黒々とうずくまっている
その巨躯の陰へレイを横たえるシンジ
何も言えず、目ばかり瞠って傍に屈み込む
レイの目が宙をさまよい、シンジを見つけて瞬く

  .レイ「…エヴァは、人の、願いの器」
 シンジ「え…?」

ほとんど聞き取れないレイの声に、もう恐れも羞恥もなく間近に顔を寄せるシンジ

  .レイ「…あなたが、教えてくれた。人は、願いで生きている。
     それを叶えたい、のが、私の願い。…初めて、持てた」
 シンジ「…何を言ってるんだよ」

訳もわからないまま抗おうとするシンジ
懸命にかぶりを振る
予感だけが押し潰されそうなほど膨らんでいく
痛々しいくらいに静かなレイの表情

  .レイ「私は、どこにも行けない。
     だけどエヴァなら、あなたを、第13号機まで連れていける。…だから」

音を立てて砂塵を掴むシンジの指

835 :5/8:2018/06/20(水) 00:17:44.04 ID:978pS5Lm6
 シンジ「…嫌だ。嫌だよ。何言ってるんだよ、君だって、生きてていいんだ!」
  .レイ「いいえ。私は、あなたたちと同じには、生きられない。
     だから、エヴァに還るだけ」

震え出すシンジ
両肩が揺れる
抑えていた涙が吹き出して地面に滴る

 シンジ「それでも、…そうだとしても、嫌だよ…!
     レイも、カヲル君も、エヴァで死んだ。
     違う、僕が殺したんだ。一度はエヴァから逃げて、一度はエヴァを間違って使ったせいで。
     もう誰かが、エヴァに関わって…僕のせいでいなくなるの嫌なんだよ」

静かに視線を預けているだけのレイ
嗚咽をこらえるシンジ
頑なに首を振る

 シンジ「だって…だって君は、やっと、自分でエヴァを降りられたのに」
  .レイ「そう、あなたと歩けた」
 シンジ「なら…!」

シンジを見守っているレイ
泣き崩れる寸前のシンジ
一瞬、第13号機に乗る前の、そしてさらに彼方、14年前に別れるときのカヲルの眼差を幻視する
次々に頬を伝う涙
レイの静かな声音がほんの少し揺れて、強さを宿す

  レイ「消えるわけじゃない。ただこの姿形が見えなくなるだけ」

836 :7/8:2018/06/20(水) 00:19:10.82 ID:978pS5Lm6
  レイ「死なないわ。約束する。あなたを守るもの」

シンジの喉が大きくわななく
度を超した苦痛に、涙の発作が力を失う
そのままうなだれるシンジ
待っているレイ
砂に滴る涙の音
やがて、呟くシンジ

 シンジ「…、レイに、そっくりだ」

わずかに目を見開くレイ

 シンジ「…きっと、レイがここにいたら、…君みたいだと思う」

震える腕を止めようとしているシンジ

 シンジ「君は…レイじゃないけど、…そう、レイの双子の妹だ。僕と、同じなんだ。
     ずっと、離れて生きてきたけど、それでも、きっと、そうだ」

息を止めるようにして見つめているレイ
表情が息づく
憔悴した顔をあげるシンジに、生まれて初めて微笑むレイ

  レイ「…ありがとう」

837 :8/8:2018/06/20(水) 00:20:36.31
もう起きられないレイに肩を貸して人型の足下に近づくシンジ
コア化した表面のすぐ傍にレイを座らせ、ためらう
レイの顔を見る
何か言おうとしてできず、ただ赤く腫れた目から涙がこぼれる
やがてレイの傍から退く
かぼそい腕を上げるレイ
最後にもう一度シンジを見る
確かに瞳がシンジを捉える
痛みと悲しみに心を引き裂かれ、それでも苦しみながら生きているシンジの姿
あるかなきかに微笑むレイ

  レイ「ありがとう」
  レイ(…オニイチャン)

レイの指先が人型に触れる
瞬間、硬い表面が流動化して飛び出し、渦となってレイを呑み込んで閉じる
後に残された黒いヘッドセット
痛いほど涙目を見開いているシンジ
足下の変動が一気に全身に及び、巨大な人型が波打って滑らかに動き出す
無意識に数歩あとずさりながら見上げるシンジ
流動しながら形を整え、色を変え、個体として統合されていく人型
首の欠けた肩部がうごめき、ふいに飛び出して頭部を形成する
静かに息を吸い込むシンジ
復元を終え、その眼前に静かにひざまずくEVA Mk.9

838 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/06/22(金) 10:34:09.49 ID:CHAgXrz1u
eee-?!

839 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/06/28(木) 22:14:34.02 ID:5QtXvJ562
保守っとく

840 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/07/12(木) 19:11:58.17 ID:oWDXvdiVj
hoshu

841 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/07/27(金) 19:19:37.54 ID:jhHIom8rC
ほしゅー

842 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/08/02(木) 20:44:35.80 ID:gNTquDRNr
保守

843 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/08/11(土) 20:15:53.25 ID:mBgDusjnd


844 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/08/27(月) 19:36:17.42 ID:2UJuzIPmq
しゅ

845 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/09/16(日) 20:01:29.23 ID:A/0kCLXFq


846 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/10/03(水) 20:03:51.87 ID:S2T668x28
23年前の明日は第壱話放映日

847 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/10/03(水) 20:30:46.78
宵闇が地表を覆う
星が輝きを増し、夜空が降りてくる
一人で見た、二人で見た、同じ星空が何も変わらず天を満たしていく
間近にひざまずく擬Mk.9を振り仰ぐシンジ
赤い線で刻まれた真っ黒なエヴァ
初号機に似て額に角のある頭部 眼窩に光る眼
小さく喉が鳴る
そこに綾波レイがいるはずとわかっているのに、両脚の震えを抑えられない
臆病で無力な心を笑おうとして、できない
無理にこぶしを固く握る
根強い恐怖を自己嫌悪で懸命に押さえ込もうとするシンジ
揺らぐシンジの視線を受け止めるエヴァの無表情な頭部
巨大なヒトの形 汎用ヒト型決戦兵器 あるいは道具としてのヒト
その輪郭が動き、ヒトの動きを模す
流れるように、いつかのヴンダー上でと同じく巨大な片手をシンジにさしのべる
息を呑むシンジ
あの風鳴りの瞬間から始まった幾多の時間と場面が脳裏に閃き、消える
今さらまた風景がぼやける
焼け跡のような心を抱いているほかない自分に、涙ぐんだまま少し笑う
もう失望も諦めも後悔もすり切れた
足を踏み出す
擬Mk.9の手のひらに乗り込むシンジ
足の下で巨大なヒトの形の手が動き、両手で半ば包み込むようにシンジを囲い、ついで全体が大きく揺らいで高速で上昇する
思わず身構えて目を閉じるシンジ
ふいに風の感触
顔をかばいながらまぶたを開ける
満天の星の下に広がる眺望
夜の底に立ち上がっている擬Mk.9

848 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/10/05(金) 23:33:51.27 ID:lXLCZqRv+
つづけー

849 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/10/17(水) 18:58:27.74 ID:h25FqviVm
tuzuke

850 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/10/31(水) 18:48:08.83 ID:+nIvSoENR
tuduke deha?

851 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/11/13(火) 22:02:56.23 ID:gaT7DVBFB
november

852 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/12/01(土) 21:57:32.74 ID:Ji14sec/I
december

853 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/12/05(水) 20:29:59.23 ID:yxesfqoin
ほしゅ

854 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/12/08(土) 19:41:31.51 ID:+PML6LW/9
ほっしゅ

855 :1/4:2018/12/22(土) 21:19:50.67 ID:zM/+GlORs
星明かりの地表
黒々と続く大地の起伏
かつて星空をかすませた都市の明かりは痕跡もとどめていない
それだけは変わらない山々の見慣れた稜線
その上に大きく浮かび上がる『黒き月』の異容
渦を巻く夜風に身体じゅうを包まれながら、目を凝らしているシンジ
ふっと息をついて見上げる
角と多数の眼を備えた擬Mk.9の頭部がそびえている
真っ黒な機体の各所に走る赤いラインで、かろうじてその輪郭が夜に浮かぶ
シンジを乗せた手のひら、周りを囲む巨大な装甲の指が、かばうようにゆるく曲げられている
そこに綾波レイの透明な気遣いを重ねるシンジ
さっき拾い上げたままの黒いヘッドセットに目を落とす
痛みを感じてしまう、自分
この心が疎ましい
でもその心があるから、まだ自分の足で立っていられる

 シンジ(…たくさんの他人に助けてもらいながら、だよな)

苦く思う
既知未知を問わず幾多の人の思いに支えられてきたこの自分という存在
なのに願うのは自分の願いだけ
虚しい結末しか待っていない、自分の現実
足下から湧き上がる風が身体全体にぶつかって体感を掠う
身震いするシンジ
と、擬Mk.9のもう一方の手が巨大な影になって隣を上昇する
通過の振動に身をすくめるシンジ
その頭上にばさっと何かがかぶさってくる

 シンジ「うわっ?! 何…、あ」

856 :2/4:2018/12/22(土) 21:21:36.22 ID:zM/+GlORs
かさばる感触をかきわけて頭を出すシンジ
両手で広げると、それは寒がるレイに着せていた防水ポンチョ
再び擬Mk.9の頭部を仰ぐシンジ
指を開いた手がゆっくり傍らを降下していく

 シンジ「僕に…?」

応えないエヴァの貌
短い沈黙のあと、ぎゅっとポンチョの生地を掴んで上体にはおるシンジ
もう消えているはずの綾波レイの体温が、それでも伝わる気がする
じっと身体ごとポンチョを抱きしめるシンジ
こわばった顔がまた痛みに歪む

 シンジ(こうやって、また、誰かを犠牲にして)

こらえきれずうなだれる
激しすぎて形をとれない幾つもの感情が暴れては力を失い、また吹き荒れる
きつく握りしめたこぶし
もう慣れっこになってしまった、涙が熱く虚しく頬を伝って滴る感触
噛み殺した泣き声が喉の奥で震える
無言で激情が通り過ぎるのを待つシンジ
呼吸が緩んだのを確かめてから、やっともう一度顔を上げる

857 :3/4:2018/12/22(土) 21:22:55.67 ID:zM/+GlORs
変わらない黒い地上の眺望
滅びかけた人の世界

 シンジ(それでも何かを思うことも、願うこともやめられないんだ)

諦めるようにこぶしで涙をぬぐう
彼方の黒き月の残骸を見据える
あのどこかに墜ちたはずのエヴァンゲリオン第13号機
血で閉ざされたエントリープラグ

 シンジ(…ごめんよ。
     今は、…やっぱり、そのことしか、考えられない。間違ってたとしても)

一度だけ振り返り、遠い人々へ痛みに満ちた目を投げるシンジ
背を向ける
待っていたかのように擬Mk.9が動き出す
眼下の見えない地面から巨大な片足が離れるくぐもった音
予感して指の一本にしがみつくシンジ
直後、全身をゆるやかな揺れが揺さぶる
人の動きを遥かに拡大した動作で歩き出している擬Mk.9
揺れのリズムに身体を慣らしてから、指につかまったまま少し身を乗り出すシンジ
息を呑む
揺らめく白昼、レイと二人で歩いてきた距離の何倍もの行程を、ほんの数歩で軽々と移動していくエヴァ
夜が速度を増して背後に流れ去っていく
思わず感嘆してしまっている自分の幼い部分を、少し冷めて意識するシンジ

858 :4/4:2018/12/22(土) 21:24:29.40
はためく夜風の中心にあるのは黒き月の巨大な影
まっすぐにそこを目指しているエヴァ
両足を踏みしめ、巨大な指の側面に手を預けて、表情のないその頭部を振り仰ぐシンジ
形をなくしてそこにいる綾波レイ
少しして目を伏せるシンジ
虚しさとも寂しさともつかない何かが心を流れる
はっきりと言葉にできずに、ただ思ってみる

 シンジ(…エヴァ)
 シンジ(僕やレイや綾波が、ここにいた理由。アスカが誇ってた、自分の居場所。
     本当は何なんだ? カヲル君や父さんが望み、ミサトさんが憎む、…エヴァって、何なんだろう)
 シンジ(何の答えも知らずに、今も、僕はエヴァといる)
 シンジ(…何のために)

確かな量感で夜の底を歩み続けるエヴァ
唇を噛みしめ、無力感を押し殺しながら、黒き月にいつしか目ですがっているシンジ
その自分に、また絶望が水嵩を増す
巨大な星空が頭上でごくゆっくりと傾いていく

859 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2018/12/28(金) 21:25:48.38 ID:J+8vg8ebF
ねんまつほしゅ

860 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/01/02(水) 21:11:58.02 ID:qxCJQ8U53
あけおめ

861 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/01/13(日) 19:11:59.37 ID:ESbW9g4O3
hoshu

862 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/01/24(木) 21:25:46.47 ID:YYp4p6cSr
ほっしゅ

863 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/02/02(土) 18:41:39.13 ID:Zxw/SP2Y9
2月

864 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/02/28(木) 22:44:12.81 ID:ldZ3YQfqx
2月末ほしゅ

865 :1/5:2019/03/03(日) 23:20:44.31 ID:FonrbqAe1
満天の星
星明かりの下、見渡す限り一切の灯火が滅んだ真っ暗な地上
黒い地表を巨大な人影が歩む
わずかに機体各所の赤いラインを浮かび上がらせた擬Mk.9
胸の辺りにかかげられた片方の手のひら
軽くたわめられた五指が夜風からその内側を守っている
一本の指のつけねに背を預けてうずくまり、ポンチョをきつく身体に巻きつけているシンジ
付けっぱなしだった脱出時用ボディバッグを開いてみる
残った携帯糧食、水を詰めた容器、レイのものだった薬品類
一度は手放したのを、レイが拾って持っていてくれたSDAT
視線を移すシンジ
汚れたプラグスーツの膝に乗せてある、主を失った黒いインターフェースヘッドセット
シンジの眼差が揺らぐ
もう慣れきってすり切れたと思っていても、何度でも、揺らいでは生々しく甦る痛み
唇を噛んで衝動をこらえ、丁寧な手つきで一つ一つをバッグにしまって、また上体につける
指装甲にもたれてふっと息を洩らす
遠く傾く星を見上げる
規則的に全身を揺する擬Mk.9の歩みの振動
星々の手前、見上げる距離の先にそびえる頭部のシルエット
わずかに険しさを帯びるシンジの目
けれど嫌悪も恐れもすぐにほどけて消える
痛みと悲しみがシンジの顔を覆う

866 :2/5:2019/03/03(日) 23:22:03.35 ID:FonrbqAe1
視線を預けたまま、歩く擬Mk.9と遙かな星空を仰いでいるシンジ
歩行の振動に合わせて震えるバッグと中身
ほんの少し前までは誰かに属し、あるいは誰かとシンジとを繋いでくれた品物
今は形を失った幾つもの繋がり
他人の不在
声に出したいという衝動が背筋を走り、言葉を得られずに行き迷い、そのまま力を失う
呼びたい人はもうここにいない
遠くにいる人たちにはもう呼びかけられない
かすかに震えるシンジの目の奧

 シンジ(…一人)
 シンジ(だけどそんなの、本当は当たり前だった。
     ただ、他人の優しさや気持ちに触れて、それが嬉しくて…忘れてただけなんだ。
     本当は僕はずっと一人だ。
     でも、僕だけじゃない。カヲル君も、綾波も、レイも。ミサトさんも。アスカも。たぶん、父さんも。
     誰もが本当は一人なんだ。だから、僕は一人だけど、僕だけが孤独なんじゃ、ない。
     それだけで、本当は生きてられるはずなんだ。
     誰かにまた会えるって思ったりとか、そんなささいなことで)
 シンジ(…それが、どうしてこんなところに来てしまったんだろう。
     本当は何がしたかったんだろう、僕は)

867 :3/5:2019/03/03(日) 23:24:07.99 ID:FonrbqAe1
歩き続ける擬Mk.9
その巨躯を歩ませている綾波レイの意思を思おうとするシンジ
熱気に包まれた乾いた赤と青の地上で、少しずつ形を見せていった綾波レイの心
綾波レイの言葉
また、不在の痛みが胸を裂く
それはカヲルの不在にも重なっていく
不在ではなく殺害
曖昧にされたサードインパクトではなく、今度こそシンジ自身の罪過として存在するフォースインパクトとその中断
そのために殺されたカヲル
全身がびくりと震える
必死に息をつめ、両腕でわななく身体を押さえようとするシンジ
食いしばった歯の隙間から声が洩れる
擬Mk.9とともに向かう先にある黒き月へ、無理にでも思いを集中させようとする
まぶたを刺す涙の熱さを憎むシンジ

 シンジ(…わからない)
 シンジ(どうしたいのか、まだ、わからない。
     自分が前に進んでいられてるのかどうかも、全然わかってない。
     …違う、進めてるかなんて、本当はずっと後にならないとわからないんだ。
     だから今自分が向いてる方向に進むしかない。
     今の僕は、その自分を信じられてないだけだ)

赤黒い多重の幻を通して甦るカヲルの死の光景
天を塞ぐ赤い多重渦 ドグマの闇の底の白骨の丘 エヴァ第13号機に乗り込む直前に交わした視線
今はあまりにも遠い笑顔の記憶

868 :4/5:2019/03/03(日) 23:26:15.67 ID:FonrbqAe1
 シンジ(償いたい、のかな。僕は)
 シンジ(カヲル君に。償う…そう、結局、許してもらいたいだけだ。
     自分のことしか考えてない。…でも、何かしたいのも、嘘じゃないんだ)
 シンジ(でも、何を償える…? 
     もう、何も取り戻せないのに。それだって本当は最初からわかってたのに)

本部の闇の底で、碇レイと思い込んで交わした綾波レイとの幾つもの会話
期待とすれ違いと失望
身勝手につのる一方だった思い
冬月に聞かされた真実
累積されていた綾波シリーズ

 シンジ(何もやり直せない。同じに見えたって、同じじゃない。
     一度過ぎてしまったものは、どんなに願ったって取り返せないんだ。
     …そう、全部、取り返しがつかない。それが今の僕がいる、現実なんだ)

顔を上げるシンジ
誰もいない夜空
断続的に身体を揺さぶるゆるやかな擬Mk.9の歩み
迷いながらも少ししっかりするシンジの眼差
それでも進んでいるということ
それを手がかりに、自分を取り戻そうともがく自分の心を意識するシンジ

869 :5/5:2019/03/03(日) 23:27:45.05
 シンジ(…そうだ、それでも、生きてる限り、何か思わずには、願わずにはいられないんだ。
     でないと生きていられないから。…生きていたくはなくたって、死ぬことはできないから。
     だって僕は…まだ、生きてる。
     まだ、カヲル君や、レイや、トウジや…近くにいた人たちのことを、覚えているから。
     それを失くしたくない。たったそれだけだとしても)
 シンジ(何も、やり直せない。
     できるのは、また別の何かを始めることだけだ。
     正しいのか、わからなくても。…自分でも信じてなくても。ただしがみつくためだってわかってても。
     …僕は)

星明かりに擬Mk.9の貌を透かし見る
エヴァの中に宿る孤独
揺れのちょっとした変化に、反射的にこぶしを握りしめる自分の手の感触
自分という形の中に閉じ込められた孤独
繋がっていないから繋がろうとする、それだけのことに過ぎない、人と人の繋がり
頬をまた新たな涙が静かに伝う
誰もいない満天の星空 誰もいないどこまでも続く地表
底知れない寂しさに、ただ目を見開いて呼吸を繰り返すシンジ
エヴァの巨大な歩みが頼りない心と身体ごと夜の底を運んでいく

870 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/03/04(月) 20:07:06.19 ID:iHpO2a79x
ho!

871 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/03/15(金) 21:41:47.18 ID:+DXyjQzwx
ほーしゅ

872 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/04/04(木) 20:08:33.06 ID:iHnjiaSc1
4月ほしゅ

873 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/04/09(火) 22:24:53.50 ID:T8iIQJUkU
ほす

874 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/04/22(月) 19:53:19.92 ID:sJMNzvVAj
ほっしゅ

875 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/05/02(木) 20:13:35.83 ID:JIuHtz/Ir
hosu

876 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/05/22(水) 19:57:00.96 ID:HPG9Nn62f
ho...

877 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/06/01(土) 20:17:25.36 ID:+nDhqrQBv
ほしゅるぜ

878 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/06/12(水) 21:29:36.48 ID:TvgI6H1pK
ほし

879 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/06/21(金) 20:15:34.70 ID:NZYwpn4Xi
ほしゅ

880 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/06/25(火) 09:44:54.56 ID:qzMHNDoco
0706ってどうなの?

881 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/07/04(木) 21:36:27.46 ID:KhJzHCXYj
881

882 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/07/12(金) 11:52:39.74 ID:mLq92oj6k
冒頭10分微妙だったわ

883 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/07/12(金) 13:30:08.95
test

884 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/07/17(水) 22:55:19.48 ID:kvSlSR7b3
続きは?

885 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/07/23(火) 11:44:38.13 ID:EQsz8aLJ2
hoshu

886 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/08/09(金) 10:11:22.01 ID:yXV8PrZce
保守だけで5ヶ月か…

887 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/08/19(月) 22:56:21.38 ID:njrRUQycu
ほっしゅ

888 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/08/27(火) 10:42:32.14 ID:PZ4chEBvu
888

889 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/09/08(日) 20:33:48.39 ID:hm9D3/lcd
889

890 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/09/18(水) 19:39:58.51 ID:OR96reINS
890

891 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/10/06(日) 20:50:16.67 ID:G/9/BCY8G
おくとーばー

892 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/10/26(土) 20:27:52.03 ID:EPyUrSZlh
10

893 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/11/04(月) 20:33:03.10 ID:nH5c4eRmj
のーう゛ぇんばー

894 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/11/17(日) 20:33:24.40 ID:Zjgv4r0yT
894

895 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/11/26(火) 13:43:30.32 ID:lHTh79L++
895

896 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/12/04(水) 19:53:20.41 ID:DAzgISlQI
12月

897 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/12/16(月) 19:24:51.03 ID:Rm+srpsPc
897

898 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2019/12/25(水) 10:53:25.72 ID:1wJmYfOxs
898

899 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2020/01/04(土) 19:42:06.78 ID:ogCTnxzMb
899

900 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2020/01/13(月) 22:31:48.50 ID:OW2oYWD0B
900!

901 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2020/02/15(土) 19:53:32.10 ID:qBCIHycuU
2月

902 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2020/03/10(火) 21:14:30.54 ID:KP8UxdR4n
3月ですよ

903 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2020/03/27(金) 20:29:17.79 ID:TzPcyRlbn
3月尽

904 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2020/04/13(月) 19:34:42.20 ID:Qjsc44Vy4
4月ですよ

905 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2020/05/03(日) 21:46:49.18 ID:KZ+OiKWfG
5月ですよー

906 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2020/05/30(土) 23:36:02.37 ID:1Ad9Ouccd
5月末

907 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2020/06/03(水) 21:22:44.33 ID:Hf/thdixQ
6月ですね

908 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2020/06/28(日) 20:01:46.34 ID:T1LvMjMix
無事公開とはならなかったけど
例えば>>1への答えはちゃんと出るのかね

909 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2020/06/30(火) 20:03:51.31 ID:a3RHXDO+E
出るといいねえ

910 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2020/07/03(金) 20:10:17.45 ID:FHQTHrfus
もう7月かー

911 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2020/08/10(月) 21:27:58.05 ID:ocKNWSCrL
8月になってた

912 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2020/09/06(日) 21:03:52.46 ID:/kFJnG7s4
9月になったか…

913 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2020/09/30(水) 22:48:25.57 ID:6oAmsmeZo
9月尽

914 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2020/10/26(月) 20:37:55.88 ID:jNWT0oUeJ
気がついたら公開日が決まってた

915 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2020/11/01(日) 19:45:10.26 ID:0moA9hCN9
11月ですよ

916 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2020/12/02(水) 20:16:57.43 ID:OurGF4uXg
12月

917 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2021/01/03(日) 21:04:05.54 ID:ZeLLOm9E3
シン年あけまして

918 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2021/01/16(土) 19:47:16.43 ID:qzG/YtFvG
延期発表

919 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2021/02/03(水) 19:50:29.34 ID:qFoWW1Etd
2月

920 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2021/03/05(金) 23:20:13.47 ID:uE4vFPtQC
びくりと身を強張らせて自失から醒めるシンジ
真っ暗な夜の底
怯えきった目がせわしなくさまよう
奈落のような見当識喪失と虚無の恐怖 焦燥
それから雪崩のように、何もかもを失った現実が立ち戻る
凝然と目を見開くだけのシンジ
瞬間、浮遊感に続いて巨大な地響きがシンジの全身を揺さぶる
はっとなるシンジ
現実をまた一つ思い出して、不安定だった視線がかろうじて落ち着く
曖昧だった視野が暗いながらも鮮明になる
押し寄せる暗闇に見えていたのは、シンジを乗せた擬Mk.9の巨大な黒い手のひら
地響きは歩み続ける擬Mk.9の足取り
手のひらの底で起き直ると、見上げる先には、塔のようにそびえる五指に囲まれた淡い星空
星座の位置は憶えているよりも大きく変わり、夜明けの兆しを映して光を弱めている
大きく息を吐くシンジ
両肩から少し力が抜ける
唇を噛む

 シンジ(…あれから、ずっと眠ってしまっていたんだ)

もう一度頭上を仰ぐ
擬Mk.9の黒い頭部がほとんど影になって見えている
その中にいるはずの綾波レイを思うシンジ
少しだけ、絶望した心の痛みがやわらぐ
救いの予感 直後に湧き上がる強烈な自己嫌悪
乏しい荷物を確かめ、外衣の胸元を掴んでよろめきながら立ち上がる

921 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2021/03/05(金) 23:22:20.00 ID:uE4vFPtQC
特殊コーティングに覆われた指の一つに手をかけて外を覗く
曖昧な色の闇に覆われた荒野の眺望と焼け跡のような山稜
死んだ風景のただなかで、既に見上げるばかりに近づいてきている「黒き月」の巨容
自然物とも人工物ともつかない構造体の上縁部は早くも遠い暁光を受けて輝き始めている
痛いほど両目をみはって見つめるシンジ
横倒しになった遠い最上端のどこかに落ちたはずのエヴァ第13号機と二本の槍
あそこに、それとももっとどこか別の安全な場所にいるだろう碇ゲンドウ
無意識に片手で自分の肩を掴むシンジ
指に力がこもるのを制止できない
やがてうなだれる
変わらない歩幅で移動を続ける擬Mk.9の動きが、少しずつ緊張と失望をほぐしていく
そこに綾波レイの無心な佇まいを思い出すシンジ
無理にでも小さく笑い、震える唇を引き締める
朝焼けの先触れのほの明かりの下を歩いて行く擬Mk.9
わずかずつ色を取り戻していく風景
その中に立つ異物
ぎくりとするシンジ
辺りに幾つも突き立っている「インフィニティのなり損ない」の残骸ではない、生きたエヴァ
もしくはエヴァに似た物体がこちらに頭部の欠けた奇妙な身体を向けて立っている
歩みを止める擬Mk.9
こみ上げる恐れと嫌悪に背筋を固くするシンジ

 シンジ「エヴァ…? ネルフ、…父さんの?」

ヴンダーを襲った使徒ともエヴァともつかない敵を思い出すシンジ
ふいに擬Mk.9の指が握り込まれ、ヴンダー艦上でのように固くシンジの周囲を包み込む

 シンジ「…綾波?!」

922 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2021/03/05(金) 23:23:48.01 ID:uE4vFPtQC
うろたえを振り払い、わずかに明かりの射す隙間に飛びつくシンジ
顔を押しつけて外を窺う
まだ動いていない相手エヴァ
と、赤化した地形の連なりに見えていたその背後がにわかに蠢き、風景そのものが鏡のきらめきを放つ幾連もの光のタイルになって裏返って、隠していたものをあらわにする
息を呑むシンジ
先頭の一体とは別のタイプのエヴァらしき物体の無機質な戦列
不動だった群れが一斉に動き出す
擬Mk.9が身をたわめる気配
きつく擬Mk.9の指を掴んでいるシンジの手

冬月「…本当に来るとはな。あの複製体がエヴァを動かしたのも、しょせん予想のうちか」
 碇「死んでいる訳ではないからな。生きている以上、行動はやめられない。それだけのことだ」
冬月「しかし、足止めはしなければならんよ。いいんだな?」
 碇「ああ」
冬月「…無駄かもしれんがね」
 碇「ああ。…そうだ」

923 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2021/03/05(金) 23:24:39.13 ID:uE4vFPtQC
(公開日直前の見切り発車
 改行失敗した…
 どこまで行けるだろうか)

924 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2021/03/08(月) 00:43:33.36 ID:GC30aIDg5
一瞬上体を沈め、飛び出す擬Mk.9
身構える間もなくネーメジス数体が蹴り飛ばされ、続いて次々真上から踏みつけられて転がる
勢いを殺さずそのまま列を突き抜けて疾走する擬Mk.9
エヴァの手とAFフィールドに守られながら、激しく流れる風景を見開いた両目で見守るシンジ
振り仰ぐと、指の隙間から夜明け空と擬Mk.9の頭部が見える
初号機に似た長い角を持つ黒いエヴァの顔
幾つも並ぶ眼窩は正面の二つを除いて黒く空いている
二つだけの赤い眼で背後の敵を一瞥し、前方を見据える擬Mk.9
きつく唇を噛みしめるシンジ
ふいに、周囲を囲う指列が緊張する
はっとするシンジ
擬Mk.9の足取りとは別の地響きが両側を並走し、追いついてくる
速度を上げる擬Mk.9
ただ擬Mk.9の頭部を見上げるしかできないシンジ
無意識に胸元を掴んだ手がわななく
やがて衝撃が襲う
後方片側から ついでもう一方から
振り払おうとする擬Mk.9の速度が乱れ、引き倒される
思わず目をつぶるシンジ
手のひらの暗がりの遥か上で、幾つもの重量がのしかかる
打撃音と破砕音 増す圧力 軋み
両手でシンジを固く包み込み、顔に押し当てるようにして身を丸める擬Mk.9
小さな暗闇の底でATフィールドの震えを感じ取るシンジ
すぐそこの死の予感が全身を縛る
上回る後悔が涙になって眼裏を刺す

 シンジ(僕が、綾波をエヴァにしてしまったから)

925 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2021/03/08(月) 00:44:36.49 ID:GC30aIDg5
 シンジ(自分でエヴァを降りたあの子を、僕がもう一度戦わせたから)
 シンジ(レイのように。カヲル君と同じに)
 シンジ(綾波まで)

死ぬことよりも、またも誰かを身代わりにすることの恐怖
自己憎悪と恐慌と絶望

 シンジ(…ちがう)

顔をぐしゃぐしゃにしながら、無理やり涙を押し拭うシンジ

 シンジ(…僕がここで泣いたって、何もならないだろ)

きっと頭上を仰ぐ
両手を伸ばし、足を掛けて、少しずつ歪み出す擬Mk.9の指の囲いを登るシンジ
揺さぶられ、何度も滑り落ちながらもやめない
わずかに空いた指の隙間
ぎりぎり肩が通るその縁に取り付いて、苦鳴を洩らしながら身体を引っぱり上げる
すぐそこにある擬Mk.9の空ろな眼窩

 シンジ「…綾波…!」

懸命に手を伸ばすシンジ
直後、何度目かの衝撃が視野全体を叩き潰す

 シンジ「…あやな、み…!」

逆巻く暗闇の中で声を振り絞るシンジ
周囲から擬Mk.9の手の感触が奪われる

926 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2021/03/08(月) 00:45:27.42 ID:GC30aIDg5
激しい揺れが止み、代わりに引きつるような緊張が周囲を覆う
何かどろりとした軟らかい触感の中に突っ込んでいるシンジ
まだ生きている
つぶってしまっていた目をこじ開ける
巨大な黒い円い縁に囲まれた視界
シンジを包む軟らかい流動体は堅い曲面の構造に大きく遮られ、その向こうに色褪せた荒野が見える
一瞬の混乱の後に理解が閃く
落ちたのは擬Mk.9の空の眼窩のひとつ、身体を包み守っているのは機能しない眼球が変化した軟組織と涙
エヴァと同じ目線で前を見るシンジ
周囲を囲むネーメジスたち
両手を別々に固定され、両腕を左右に引き絞られた姿勢で拘束されている擬Mk.9
力を込めているがほとんど動けない
砕かれた両足やずたずたになった装甲がかろうじて眼窩の縁から見える
完全に無力化すべく無機質に動作を続けるネーメジス
一体がすぐ傍にまで近づく
身体が剥き出す恐怖をこらえるシンジ
ひたすら目を見開く

 シンジ(動けない、何ができる、この無理やり作ったエヴァで、何が)

脳裏をよぎる光景の断片
宙の第13号機を守ってヴンダーへ光線を放っていたMk.9
そのずっと前、同じヴンダー艦上で、破れた隔壁の向こうに現れた仮頭のMk.9
赤い廃墟に並んで坐っていたレイの姿

927 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2021/03/08(月) 00:46:04.88 ID:GC30aIDg5
黒いプラグスーツの両手を見下ろしていた横顔

   レイ(エヴァに乗っていれば、あなたを守ることができた。命令でもよかった。
      何かできたと思えたのは、あのときだけだったから)

痛みに塗り潰された感情の塊が胸を焼く

 シンジ「…綾波」

噛みしめるように名前を呼ぶシンジ
他に何もできない

 シンジ(また誰か傷つく、いなくなる、…もうそんなの嫌なんだよ…!)

堪えていた涙が次々にこぼれる
擬Mk.9の体組織に落ちて溶ける

 シンジ「…、綾波…!」

928 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2021/03/08(月) 00:47:01.84 ID:GC30aIDg5
擬Mk.9の深部
拡散しかけて稀薄になった綾波レイの意識が形を取り戻す
エヴァたちの形を見渡す

 レイ(…わたしは、なに)
 レイ(…私は)
 レイ(私は…自分。
   この物体が今の自分。私の、今の願いの器。そのための力。私は)
 レイ(EVANGELION Mk.9)

929 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2021/03/08(月) 00:48:06.85 ID:GC30aIDg5
ネーメジスの動きが止まる
擬Mk.9が頭部をもたげる
再び渾身の力で拘束に抗う
全機で押さえにかかるネーメジス
拮抗する力に負けて擬Mk.9の両腕の装甲が裂開していく
組み合ったエヴァたちの体勢が大きく歪み、やがて均衡を崩して擬Mk.9を押し潰そうとする

 レイ(これも、エヴァ)
 レイ(虚ろな器。私と同じ)
 レイ(なら、あなたたちも)
 レイ(私だわ)

攻撃態勢のまま凍りつく全ネーメジス
突然、擬Mk.9の装甲をあらかた剥がれた背中が痙攣し、大きく弾ける
そこから噴き出した何かが大きく伸び上がり、猛烈に旋回して次々に鈍ったネーメジスを打ち倒す
覆いかぶさった機体をはねのける触手様の突起
辺りを払って中央に戻る
地面に両手両膝をついて身を起こす擬Mk.9
背中からヴンダー強襲時の長距離航行ユニットを直接生やしている
伸縮する膜状の突起が群がるネーメジスを一掃し、そのまま端からめくれ上がるように形状変化して
あの時と同じ大出力ロケットを生やす
口を引き開けて潰れた声で咆哮する擬Mk.9

930 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2021/03/08(月) 00:50:05.80 ID:GC30aIDg5
ロケットの噴射口が白熱し、ネーメジスもろとも辺りに赤い砂塵の幕が爆発する
黒き月めがけて一直線に飛び立つ擬Mk.9
びりびり震える眼窩で声を失っているシンジ
傷んだ眼の縁にぎゅっと両手を押し当てる
見る間に高度が上がり、昇り始めた朝日の輝きをいっぱいに受ける擬Mk.9
黒き月のもとの最上部をめがけて増速する
と、急速に近づく最上部の周辺から多数の機影が飛び出してくる
模造ロンギヌスの槍を装備した飛行型ネーメジスの群れ
擬Mk.9の軌道を塞ごうとするが、相対速度過大で捉えることもできずすり抜けられる
朝焼けの空に飛散するネーメジス
みるみる迫る黒き月の表層
目を凝らすシンジ
第13号機の姿は見つけられない
そのまま降下し、短時間逆噴射して、上部岩盤にくずおれるように降りる擬Mk.9
バランスを失って倒れる
何とか衝撃から立ち直り、顔を上げるシンジ
すぐそばに口を開けている巨大な眼窩
傷ついた組織と一緒に流れだした涙がシンジを無事に黒き月に下ろしている
既に形象劣化した背中の突起は力を失い、二つの赤い目も光が弱い
その向こう、明るくなっていく空から反転して戻ってくる飛行型ネーメジスの機影
ぐっと感傷を押し殺すシンジ
精一杯に吐き出す

 シンジ「…ありがとう。…ありがとう、綾波」

931 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2021/03/08(月) 00:50:56.73 ID:GC30aIDg5
もう一度だけ擬Mk.9を見上げ、飛来するネーメジスシリーズを睨み、そして脚に絡みつくエヴァの体液を振りほどいて走り出すシンジ
近くに見えた人工的な開口部へ飛び込む
暗闇の奧へ続く長いトンネル 先は見えない
ひるむ間もなく、背後で衝撃音とともに入り口が崩れ、道を塞ぐ
振り向かず駆けていくシンジ
風の音が背後に遠ざかり、次第に赤っぽい暗闇が深くなっていく

 シンジ(…一緒に歩いてくれた)
 シンジ(傍にいてくれた。話してくれた。…守ってくれた)
 シンジ(綾波、綾波、…綾波)
 シンジ(…ありがとう)

荒い呼吸がいつしか涙に変わっている
構わず走り続けるシンジ
たった一人の足音だけが暗闇の底に響いていく

932 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2021/03/08(月) 00:54:36.94 ID:GC30aIDg5
 レイ(…あなたは)
  レイ(わたし)
 レイ(わたし…?)
  レイ(そう、思い出したの。
    あなたは、私。他のたくさんの私と同じく、私の形)
 レイ(…いいえ、わたしは)
 レイ(あなたの、夢)
  レイ(…そう、あなたは、私の夢。
    碇シンジのいない場所にいた、別の私という、夢。
    碇シンジがいてもいなくても関わりなく存在する私。碇シンジと比べられたり、
    重ねられることのない私。…お父さんだけがいる私)
 レイ(自分にとても近い碇シンジと比べられるのが苦しくて、碇シンジとは別の、自分というものを
   失いたくなくて、…そう願う自分が嫌いで、怖くて、…だからいっそ、何もないエヴァの中に、
   消えてしまいたかったのね)
  レイ(そう。…だけどそこには、誰との繋がりもなかった)
 レイ(寒くて)
  レイ(虚しくて)
 レイ(…私しかいなかった)
  レイ(それを、あなたが思い出させてくれたの)
 レイ(そう、私も、あなたを思い出した。初めてのはずなのに、初めてじゃなかった。
   …だから、ありがとう。夢を見てくれて)
  レイ(ありがとう、夢を見せてくれて)
 レイ(私は…あなたでいても、いいのね)
  レイ(うん。…おかえりなさい)
 レイ(…ただいま)

933 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2021/03/08(月) 00:55:55.61 ID:GC30aIDg5
(駆け込み以上
 先が続くかどうかは明日以降の気力次第…
 書き続けられたこの場所に感謝します)

934 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2021/04/12(月) 22:08:18.69 ID:rbiR5w3F1
公開から一ヶ月

935 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2021/05/04(火) 19:29:29.82 ID:IokceT+zF
5月

936 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2021/06/06(日) 00:24:50.00 ID:F2dtAtNzO
6月6日

937 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2021/07/08(木) 19:12:32.21 ID:JGGuZG4AA
7月

938 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2021/08/04(水) 20:40:10.43 ID:LsUFwN6Vt
8月

939 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2021/09/06(月) 00:22:44.99 ID:h6qFMgD3S
9月

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