(P78〜) (前略) She did not come home because it began to rain. 確かに、単純にこの文を見ると、2通りの意味にとることができる。それは「雨が降り始めたので、彼女は帰宅しなかった」と「彼女が帰宅したのは雨が降り出したからではない」である。 前者はnotを単純にcome homeにかけたもの、後者はnot…because…という表現と考えてbecause以下に書かれた理由を否定したものである。 そして多くの文法書の場合、この例文とともに、次のような注意書きが添えられている。 「このように、1つの文だけではどちらにもとれるものがあるので、前後の文脈を考えることが必要だ。」一見なるほどと思わせられる説明であるが、実はここには重大な誤謬が隠されている。つまり、はじめに挙げた例文は、もしそれが単独で使われるとすれば、 意味が1つに確定できないという点で明らかに「誤文」ないしは「悪文」なのである。 もし単独で書くに当たってほかの表記方法がないというなら、それでも仕方がない、ということになるが、 実は、単独で書いてもどちらの意味であるかを明確にする方法があるのだ。具体的には、前者の意味にしたければ Because it began to rain,she did not come home. とすればよい(notは後ろしか否定しないので、Because節が前にあればそれを否定してしまう心配はない)。一方後者の意味にしたければ She came home not because it began to rain. とか It was not because it began to rain that she came home. とすればいいだけのことなのだ。 そういう「よりよい表記方法」があるにもかかわらず、あえてそれを使わずに2つの意味にとりうる文を書いてしまうとすれば、その書き方自体が「下手だ」ということになる。 もう一度断っておくが、はじめに挙げた例文が「悪文」なのはそれが「単独で使われた場合」である。 最初に書いたようにnotの位置がどこでもいいのはあくまで「誤解の無い範囲」であって、はじめに挙げた例文が誤解を招いてしまう以上、これを単独で書くのは明らかに「誤り」なのである。 だが、実際にははじめに挙げた文は文章中に登場することがある。それはなぜだろうか。その理由は少し考えてみれば明らかである。 筆者がその表現でも「誤解のない範囲」に収まっていると考えているからに他ならない(ここでは、「書く人が下手で…」というような愚かしい可能性は考えないことにする)。考えてもみたまえ。 どこの著者が、自分の伝えようとする内容を読者に分かりにくいように書こうとするというのだろうか。自分が誤解されても何のメリットもないというのに。わざわざ読者を惑わせるような書き方は(特定の効果をねらっている場合を除けば)あり得ないのだ。 (後略)