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和風な創作スレ 弐

1 :創る名無しに見る名無し:2010/11/03(水) 12:56:27 ID:eWTAlsEa.net
妖怪大江戸巫女日本神話大正浪漫陰陽道伝統工芸袴
口碑伝承剣客忍者伝奇書道風俗和風ファンタジー戦国
納豆折り紙酒巫女巫女俳句フンドシ祭浴衣もんぺ縄文

とにかく和風っぽいものはこちらへどうぞ。二次創作も歓迎

過去スレ
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1220743518/
↑のHTMLとDATはこちら
http://www26.atwiki.jp/sousaku-mite/pages/866.html

297 :創る名無しに見る名無し:2013/11/30(土) 03:00:28.37 ID:ihTgXAGk.net
おつ

298 :創る名無しに見る名無し:2013/11/30(土) 16:47:13.91 ID:zQ6cvzqi.net
乙でした
彩華の話が久しぶりに読める!
続きをまっておりますよ

299 :『勝負は河原で』 ◆BY8IRunOLE :2013/12/01(日) 20:10:43.87 ID:j13iMkms.net
【二幕 いやなやつ】

「清十郎。道場へいらっしゃい」

 真子が、我が子に自ら声をかけることは珍しい。

「えー。面倒くさい」

 反射的に、そう応える。そうすれば、面倒事は去っていく。

 しかし、今般ばかりはそうもいかなかった。
 母親が尚も優しく声をかける間に、彩華はすたすたと近づくと、

「早く行こう。時間が勿体ない」

 清十郎の腕を掴み、乱暴に引き立てた。少女とは思えないくらいの力だ。



 道場に向かい、竹刀を手に相対する。
 屋敷の中では、なぜか彩華のほうが清十郎に手合わせを願いたいと頼んでいる、という運びになっていて、
それは違う、と彩華は言おうとしたが、真子の目配せにより口を噤んだ。


 清十郎はと言えば、
「ほんなにゆうならやってやってもいいけど。でも、結果は分かっとる」

などというようなことを口にし、一向に構えようともしない。のらりくらりと、文句を言うだけである。


 そんな清十郎に対し、彩華は素早く踏み込んで、容赦なく胴を横薙ぎに打った。

「何すんがけ! まだちゃんと構えてないがに打ってくるなん、無礼やぞ!」

 脇を押さえ噎せながら呻く清十郎に、

「なら早く構えを取ればいいのに」
 彩華は取り合わずそっけなく言い放つと、竹刀の鋒を清十郎にぴたりと付け、じっと見つめた。


 清十郎は、不承不承構えを取った。彩華はそのまま出方を窺う。

 やがて、わぁ、という自棄になったような声を上げて、清十郎が打ってきた。
 型もまったく成っていないし、振りも遅い。

 彩華は清十郎の竹刀を巻き上げ、宙に弾き飛ばした。

「あっ」

 呆然としたその面へ、打突を入れる。
 今までに感じたこともない、強い痛みが襲った。


.

300 :『勝負は河原で』:2013/12/01(日) 20:15:13.01 ID:j13iMkms.net
.
 清十郎は結局、一本も打突を入れられず、彩華に打たれるがままとなったのだった。

 顔といわず体といわず、あらゆる箇所が竹刀の痣だらけになった。そこまで手痛い負けを被ったことはなく、
道場にへたり込んで憔悴していた。

 そこへ彩華が来て、冷たく告げた。

「あれでは一生、わたしには勝てないね」



 痛いのは、身体だけではなかった。

 たかが女にそこまで言われ、しかも清十郎の誤魔化しや言い訳を、すべて見抜いているような眼。
屈辱と恥とで、精神的にもボロボロに叩きのめされていた。


 彩華の方は、良心が咎めたので若干手加減した心算(つもり)ではあった。
 それでも我慢ならないところはあったので、結果として手酷くやり込めるかたちとなった。



〆 〆 〆


.

301 :『勝負は河原で』:2013/12/01(日) 20:25:42.49 ID:j13iMkms.net
.
 茶村真子は、公家の出である。

 奥方様は世間知らず、というのは、勤めて長い者の間では共通の認識であった。

 彼女自身は差し出がましいことは控え、慎ましく暮らしていたので、特に目立った反発もなく、
名家の奥方としては平凡であっただろう。

 しかし、どこの馬の骨とも判らない者をいきなり屋敷に上げて寝泊まりさせるばかりか、
息子の遊び相手につけるという行動は、どこか常軌を逸したものと思われ、それは彼女の
性質によるものと解されていた。

「奥方様は、一体何を考えとるんやろな」
 奉公する丁稚の一人が言うと、もう一人も、

「いよいよ若どのの遊び相手が居らんようなったん違うか」
 そう言って嘲笑う。

 その “客人” であり “遊び相手” でもある彩華はと言えば、よく働いた。

 寒さの厳しい時分にも拘わらず、井戸の水汲みや廊下の雑巾がけ、飯釜の焚きつけなどを率先して行い、
女中や丁稚からは次第に好意的に受け入れられていった。


〆 〆 〆


 清十郎とは、剣の手合わせだけをひたすら繰り返していた。

 初顔合わせの翌日、彩華は
「公平にするために、わたしは片腕だけで勝負しよう。それなら勝てるかもしれない」

 そう清十郎に提案した。

 ひどく侮られた気分だったが、清十郎はそれを呑んだ。

 しかし、片腕の相手にも清十郎は太刀打ちできなかった。
 いつも手酷くやられ、彩華は右手を労うように揉みながら、涼しい顔をしている。清十郎も、意地になった。
片腕の相手に、さらに不利な条件を要求することは出来なかったからだ。



〆 〆 〆


.

302 :『勝負は河原で』:2013/12/01(日) 20:32:15.90 ID:j13iMkms.net
.
 彩華は、屋敷では清十郎と真子の客人、ということにはなっていたが、無宿者であるということも知れ渡ってはいた。
実際にそうであったので彼女自身は気にも留めなかったが、屋敷の者は当初、彼女をどう扱ったものか戸惑った。

 しかし彩華は、実によく働いたのである。朝早くから起きだして仕事を探し、無言で手伝いに加わる。
決まり文句のように
「置いてもらっているから」
と言うだけで、黙々と仕事をこなした。

 程なく彩華は丁稚奉公連中の間で働き者の客人と評判になり、丁稚や仲居の若者に囲まれ、
ときに冗談を言い合いながら仕事をしていった。

 ある時、雪の重みで立木の枝が折れるのを防ぐために、『雪吊り』というものを施す仕業があった。
 この地方ではよく見られるものであり、大掛かりなので村人が総出で行う、一大行事である。
身軽な者、力のある者が集まる。
 彩華は、年配の世話人の話を聞いて概要を掴むと、するすると木に登り、縄をかけ支柱を立てた。


「身が軽いなぁ、お嬢。鳶の娘けぇ?」

褒められたのだが、彩華は

「『お嬢』って言うな」

きっ、と見返し、啖呵を切った。

 それが余計に親爺連中の歓心を買い、彩華は始終「お嬢」呼ばわりされ、その度に彼女はムキになって言い返した。

 だが実際、彩華の働きは並の若い衆以上であった。
 身のこなしが軽く、高いところへも臆せず登るし、それなりに力もあって大抵の荷を任せられる。
あの華奢な身体の何処にそんな力があるのか、誰もが不思議がった。

 その働きっぷりを眺めていた初老の男、近江守(おうみのかみ)永康(ながやす)も、その一人である。


.

303 :『勝負は河原で』:2013/12/01(日) 20:40:50.38 ID:j13iMkms.net
.
――力の入れ具合や勘所を、よく心得ている。

 外見に似つかわしくなく力仕事を難なくやってのけるのは、彩華がそういうことに長けているためと
見当をつけた。

――こういうのを『天賦の才』と言うのだろうな。

 永康は、彩華を評してそう思った。



 彩華は早起きする分、よく昼寝をした。

 仕事の合間のごく短い時間、部屋の隅や布団部屋などで、座ったまま寝ているのだ。けれど、彩華を
怠け者と評するものは誰も居ない。

 剣の鍛錬は怠ってはいなかったからだ。勤めが終われば、彩華は素振り用の木刀を片腕で振り続けていた。
 清十郎と稽古する時のために、である。

 片腕だけで日本刀や竹刀を扱うのは、よほど豪腕のもので無い限り、難しいものだ。
 彩華とて例外ではない。清十郎との稽古の時は余裕そうに振舞ってはいるものの、努力なくして
出来ることではない。


 その片腕の少女剣士に毎日やられている清十郎に、変化が生じた。
 彼は今まで、剣の稽古など真面目に取り組んだことは無かったのだが、素振りを始めたのだ。
 
 屋敷の裏庭で、清十郎は自分の竹刀を持ち込み、素振りをしていた。
 屋敷の連中はそれを驚き、また遠巻きに見守っていた。

 彼の手には血豆ができ、それが潰れて柄を汚した。けれど使える竹刀はこれしか無いのだ。
清十郎は一本の竹刀を振り続け、それは大会まで持って行くことになる。


.

304 : ◆BY8IRunOLE :2013/12/01(日) 20:43:31.87 ID:j13iMkms.net
↑ここまででございます

305 :創る名無しに見る名無し:2013/12/01(日) 21:04:54.01 ID:Pspq9Yp5.net
乙です

306 :創る名無しに見る名無し:2013/12/03(火) 16:50:17.27 ID:ov1Y7b4L.net
乙です
若様が改心されてきている
しかし昼寝してる彩華を盗撮したいなぁ

307 :『勝負は河原で』 ◆BY8IRunOLE :2013/12/09(月) 00:45:31.46 ID:0rsNcGBH.net
【 三幕 あいつと組まなきゃ駄目なんですか?】

 剣術大会は、団体戦である。
 建前上は五人だが、五人に満たなくとも構わない。二人以上で、五人以内に収まっていれば良いのだ。
 勝ち抜き制で、相手方を全て倒した方が勝ち。引き分けならば、残っている手勢の多いほうが勝ち。
 そのような申し合わせのもとで、どの輩も手勢を目一杯の五人に揃えてくるのが常だった。

 嫌われ者の清十郎に、自ら手勢に加えて欲しいと願い出る者がある筈もなく、清十郎自身は
こんな大会など、と見下しており、初端(はな)から出場する気など無かった。


「剣術大会に……?」

 今しがた言われたことを上手く理解できずに、清十郎は聞き返す。

「そうです。貴方もやがてはこの家の当主となる身。茶村家の跡取りとして、日頃の鍛錬の成果を発揮する
またとない機会になりましょう」

 清十郎の母、真子は穏やかに、しかし反論を許さない毅然とした様子で言った。

「で、でも。だって」

 手勢が集まらない、とは言いにくかった。
 それは、自らが人望のない人間であると吐露しているようなものだ。

「心配は要りません」
 清十郎の狼狽を意に介さず、真子は続けて言った。

「彩華どのが手勢に加わって下さいます。二人であれば参加は出来ます」

 清十郎の頭の中は、既に真っ暗である。
 普段、自分にさんざ恥をかかせているあの女が、よりによってたった一人の味方になろうとは。

「ちょ、ちょっこ、待って下さい」

 清十郎は、
「どうしても、あいつと組まなきゃ駄目なが?」

さすがに涙は見せなかったが、泣きたい気分であった。


〆 〆 〆

.

308 :『勝負は河原で』:2013/12/09(月) 00:49:23.00 ID:0rsNcGBH.net
.
 彩華は一応 “客人” の身なので、食事は立派なものを出してもらえる。とは言え、朝は下男連中と一緒に
仕事の合間にささっと済ませてしまう事が多いので、屋敷で食事を出してもらうのは昼と夜である。

 昨晩は鰤を蕪で挟んだ熟鮨(なれずし)を食した。
 脂の乗った寒鰤を蕪でさっぱりと食わせるこの料理に、彩華はいたく感動した。

「これ、すごく美味しい」

 厨で支度を手伝っている最中、姉やが少し摘ませてくれたのだ。
「おいねか。それは良かったがや」

 夕餉にはちゃんとした熟鮨が出され、彩華は喜んで食べた。言葉少なに黙々と
箸を動かす清十郎とは対照的であった。


 剣術大会の出場が決まっても、彩華は特段何をするでもない。いつも通り、屋敷の道場で清十郎と
手合わせするだけだ。

 道場で清十郎を待つ。

 胴着に着替えた清十郎は、彩華に問うた。
「剣術大会に出るそうやが。何を考えとる?」

 彩華は答えない。
 立ち合いの準備を済ませると、短く言った。

「わたしの役目は、きみと一緒に大会に出ることだけ」

右手の竹刀を青眼に付け、清十郎を見据える。

「考えるのは、きみのほうじゃないの?」

.

309 :『勝負は河原で』:2013/12/09(月) 00:59:08.69 ID:0rsNcGBH.net
.
 立ち合い稽古が始まった。
 彩華は容赦なく、清十郎を打ち込む。

 素振りの成果か、清十郎の竹刀は幾分無駄なく振られていた。しかし彩華の片腕から繰り出される打突が、
圧倒的にそれを上回っている。
 初日の巻き上げのような派手さは流石にないが、清十郎の手を悉く潰して、有効な打突を入れる。


 小手を強かに打たれ、清十郎は竹刀を取り落とす。

「そんな様子じゃ、簡単に負けると思う」
彩華が、そっけなく言う。
 それが余計に惨めさを増幅する。

 清十郎は彩華との稽古を通じて、いかに自分に剣の腕が足りないかを
まざまざと見せつけられる格好となったのだった。


――この、底意地の悪い女め。


 忌々しく彩華を見やる。
 黄金色の髪の少女は、どこにも他人を見下したり自分を誇示したりする気配は無い。
 かと言って心配そうでもなく、ただ無表情に、竹刀を拾う清十郎を見つめているだけである。


〆 〆 〆


 清十郎は素振りを続け、剣の振りが明らかに違ってきていた。
 けれど彩華も、片手での剣の扱いに慣れてきており、二人の実力の差は縮まることはなかった。

――もし、片手の素振りをしていなかったら……

 彩華は考えて、少し背中が冷える思いがした。
 鍛錬を続けるということは、そういうことだ。

.

310 :『勝負は河原で』:2013/12/09(月) 01:03:09.33 ID:0rsNcGBH.net
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 清十郎が、面を打たれた。

 いつもの光景、悪態をつきながら蹲る――
そうは、ならなかった。

「まだまだ!」

 痛みに顔を顰めながらも、清十郎は竹刀を離さず、再び構えをとった。
 幾度も萎えそうになる気持ちを必死に奮い立たせる。

――ふふ、そうか。

 彩華はこっそりと笑うと、清十郎が竹刀をようやく構えたところへ、すぐに攻め立てた。

 残心を決して忘れない彩華である、優勢は変わらなかった。
 清十郎が、再び面を打たれる。

「〜〜〜っ、まだだ!」


 打たれても打たれても、清十郎は弱音を吐かず、難癖も言い訳もしない。
 その日の稽古は、いつもより長く続いた。


.

311 : ◆BY8IRunOLE :2013/12/09(月) 01:04:29.59 ID:0rsNcGBH.net
↑今日はここまでです

312 :『勝負は河原で』 ◆BY8IRunOLE :2013/12/15(日) 21:33:14.44 ID:xVXBOKmH.net
【四幕 大会前夜】

 まだ日がある、と思っていたが、“その日”はあっという間に明日に迫っていた。
 清十郎は床に就き、上体を起こしたままため息を吐いた。

――なぜ、こんなことになってしまったのだろう……。

 剣術大会はもともと藩士の質の向上を目的として始まったものだった。今では、年の瀬の押し迫った頃の
恒例行事となっている。
 剣の腕の、今年の一番を決めて、そのまま道場で宴となる。稽古納めの意味もあった。


 彩華という少女。

 あの、ぶっきらぼうでそっけない態度がとても気に入らないが、剣の腕は本物だと感じた。

 彩華の剣は、無駄がない。
 大仰な掛け声も、大層な型もない。速やかに、かつ確実に、相手の急所を捉える。

 中段正面、青眼につけた竹刀の鋒に相対すると、まるで真剣のような凄みを感じる。
 奇を衒わずあくまで基本に忠実なその構えは、どんな熟練者でも攻めあぐねるであろう隙のないものだった。

 清十郎は、その彩華と打ち合い稽古をしている。
 どう攻めていいか分からず、闇雲に竹刀を振り上げる。その瞬間、胴を強かに打ち込まれて息が止まる。
すぐに二の太刀が脳天に直撃する。この立ち会いが真剣であったなら、清十郎は既にこの世に居ないだろう。

 何度手を合わせても、同じである。それほどまでに、彩華の剣と構えは無瑕なものだったのだ。

.

313 :『勝負は河原で』:2013/12/15(日) 21:35:35.77 ID:xVXBOKmH.net
――そう言えば。

 寝床の中で、嫌なことを思い出してしまった。

 稽古の最中、鍔迫り合いになった。力で押した結果でなく、彩華がそう仕向けたのだったが、間近にある彩華の顔が、
一瞬、妖しく微笑んだ。
 次の瞬間、清十郎は肘を掴まれ、捻られ、天地が逆転し、背中に衝撃を感じ、気がついたら道場の床に仰向けになっていた。


――忌々しい、あいつ。

 剣の稽古なのに、いきなり柔の術を繰り出すなんて、卑怯だ。
 投げ飛ばされた清十郎は、猛然と抗議した。

「なに言ってるの? じゃあ戦いの最中に刀を落としたらどうするの。慌てて拾う? 
そんなことしてる間に斬られると思う」

 しれっと言ってのけるその言葉は、なぜか重みがあった。

 彩華の言うことはもっともだ。実戦経験がなくとも、それくらいは想像がつく。

――じゃあ、戦なら砂を掴んで投げつけるとか、やられたフリをして相手を騙すとか、そういう卑怯なこともアリだっていうのか?

 たしか、そんな風に怒鳴ったと思う。

 彩華は、いつも通りあっさりと言った。

「当たり前。そんな小細工が通用しないくらい、此方が強くなれば良いことだし」

 それに対する反論は、何も思いつかなかった。

 清十郎にとってそのやり取りは、悔しさしか残らなかった。


〆 〆 〆

.

314 :『勝負は河原で』:2013/12/15(日) 21:43:22.47 ID:xVXBOKmH.net
 夢を見ている。

 どうやら、戦場(いくさば)のようだ。


 彩華が、何十人いる侍を斬って捨て、清十郎のいる方へ歩いてくる。

 清十郎の周りには大勢の侍が居たはずだったが、今や数えるほどしか居ない。
 彩華は誰にも負ける気配を見せず、抜き身の脇差は血塗れであった。


「どうしたの。何時になったら出てくるの」

 冷ややかな彩華の声に、清十郎は、震えているばかりだ。怖ろしい、ただそれだけしか感じなかった。

「これだけ死んでいるんだけど。きみのせいで」

 彩華が背後を振り返る。


 死屍累々とはこのことだ、と思い知らされる。彩華が斬って捨てた連中の身体が、積み藁のごとく
山になっている。

「まだ屍体を増やしたいわけ?」

 その問いは、今まで聞いたことのない残酷さを持っていた。


〆 〆 〆


 床の中で、自分を認識する。

 寝汗がびっしょりと身体にまとわりつき、心臓が早鐘を打っている。


――なんだ、あいつ……。

 布団の上で、溜息をつく。



 まだ、夢の断片が脳裏に残っている。

 自分のせいで、多くの人が死んでいく……考えたくもないことだった。

 けれど、たしかに有り得る話である。

 清十郎はこの時、初めて自分が名家の生まれで優遇されてきた意味を解(わか)ったのだった。同時に、
否応なく抱えざるを得ない責任についても、朧げながら悟り始めていた。

 彼は、将来を選べない立場なのだ。

.

315 :『勝負は河原で』:2013/12/15(日) 21:47:17.24 ID:xVXBOKmH.net
.
 選べないのなら、覚悟を決めるより他にない。

 どうせ逃げ場は無いし、やる以上は中途半端が一番良くない。

 清十郎が彩華との稽古を通じて思い知ったのは、そういうことだった。



.

316 : ◆BY8IRunOLE :2013/12/15(日) 21:49:40.94 ID:xVXBOKmH.net
↑変な切り方になってしまったけど、今日はここまでで

317 :創る名無しに見る名無し:2013/12/16(月) 12:41:27.69 ID:lhIuIAOG.net
乙です
上に立つ人間としても成長する兆し!
この夢が正夢にならなければいいですのう

318 :『勝負は河原で』 ◆BY8IRunOLE :2013/12/23(月) 01:32:33.45 ID:sL2I+Pil.net
【 五幕 大会当日】

 遊修館は、大きな道場である。
 当代きっての師範代、近江守(おうみのかみ)永康(ながやす)の開いた道場で、礼をとりわけ重んじる
能刀流の一派だ。
 当然、門人も多い。名のある道場が剣術大会の会場となることは、必然であった。



 先鋒を清十郎、大将を彩華としたのは、清十郎の発案である。

「わたしが先鋒の方が」
言いさす彩華を遮って、

「おまえが負けたら、後が無えが」
清十郎は、きっぱりと言った。


 大会で、清十郎は頗る健闘した。
 緒戦は相手方の中堅まで勝ち抜き、その後彩華が大将まで倒して勝ち進んだ。
 次に当たるのは、この大会の本命と目される近江守永康の手勢である。

 腕の立つ連中が集まる遊修館の手勢である、本来ならばいきなり決勝で登場しても良い身分だが、
勝ち抜き制であるこの大会の体裁に則った出場をすべきである、と言ったのは、永康その人であった。

 もっともそれには、遊修館の門人の練度や層の厚さを誇示する意図があったのかも知れないが。

319 :『勝負は河原で』:2013/12/23(月) 01:34:45.88 ID:sL2I+Pil.net
 先鋒は、小柄ながら体格のいい若い男である。
 坊主頭が印象的で、挨拶などは礼儀正しく、快活な印象を与えた。


「ありゃあ若どの、気の毒やな」
 仕合を見物している丁稚の一人が言った。

 件の男は、城下でたいそう呑み癖の悪い男であったのだ。

 酒場で、武士風の男を見るや声をかけ、どっちの腕が上かをけしかける。
 そのまま野良仕合に発展することもある。

 けれど腕が立つので、その男は今のところ無敗だ。
 もちろん道場には伝わらないよう、口止めをしている。こんなことが、礼を重んじる遊修館に伝われば
即刻破門になるだろう。

 男は、外面は模範のような好青年である。
 しかしその内面は、常に自分をひけらかしていないと気が済まないような、器量の狭い男であった。
 清十郎に対しても、上っ面の親切心を演出しながら、蔑み見下していた。

320 :『勝負は河原で』:2013/12/23(月) 01:40:23.86 ID:sL2I+Pil.net
.
 仕合が始まり、清十郎は奮戦した。

 押し切られそうになっても、決して諦めない。
 臆せず、飛び込んで打突を繰り出す。
 仕合は、すぐに熱気を帯びたものに成っていった。


 何度か危ない局面があったが、執念で躱し、防いだ。元来、負けん気の強い性格である。そして、彩華との
稽古を通じて真っ当に努力した。相手を見くびったり、侮ったりもしなかった。

 結果、清十郎は“負け”はしなかった。

 文字通り死力を尽くし、辛うじて小手を取った。
 が、清十郎の体力はそこまでだった。

 仕合のさなか、全身に小さな打突を食らい、身を“削られて”いたのだ。
 一本が告げられようとしたその時、道場に崩れ落ちる清十郎。それを、彩華が素早く駆け寄って支えた。


「……良くがんばったね」

 彩華は清十郎を抱き寄せ、微笑みながら言った。
 それを遠くに聞き、清十郎は気を失った。


 彩華は、清十郎の持っていた竹刀を執った。
 右手に清十郎の竹刀、左手に彩華が使っている竹刀を持つ。


 清十郎が、道場隅に運ばれ寝かされた。それを見届けた後、

「先鋒が倒れた。次はわたしだ」

そう言い、彩華は両手に竹刀を持って道場に進み出た。

.

321 :『勝負は河原で』:2013/12/23(月) 01:46:14.29 ID:sL2I+Pil.net
.
 清十郎の相手は今しがた小手を取られたので、この場合は相討ちである。相手も次鋒が出てくる。

 彩華は右手を斜め下段に、左手を中段に構え、左半身で中央に立つ。

「二刀流……?」

 道場が、ざわめいた。


〆 〆 〆


「所詮、亜流の剣術……舐められたものだな」

 次鋒の男は言い、彩華を睨んだ。
 彩華は黙っている。
 その表情からは、剣の自信も、奇を衒った不敵さも、仇討ちの感情も、何一つ見いだせなかった。

 勝負はあっという間に決した。

 彩華の左手が相手の竹刀を弾き飛ばし、同時に右手で強烈な胴を打ち込んだ。
 男は一本取られてなお、何が起こったか把握しきれない様子であった。


(小娘の、しかも片腕の振りとは思えない剣の重さだ)
 傍で見ていた近江守永康は、思った。

(あの見た目が、油断を起こさせる。邪念が入って、剣に集中しきれていないのだ。
あの童、そこまで計算して……?)


 彩華は中堅との仕合でも二刀流を崩さなかった。左手で防ぎ、右手で打つ。
 小柄な身体にもかかわらず、剣の動く範囲だけ大きく見える。

 中堅の男は、さきの次鋒ほどあっさりとはやられなかった。攻めあぐねてはいたが、打ち合いを通して
攻略する術を見出しつつあった。

 結局、彩華は中堅にも一本を取って勝利したのだったが、副将である豊田外記は仕合を眺めながら、
どう攻めるのが良いか既に見出しており、それは永康も同様であった。


 中堅の男は、それが分かっていた。仕合には負けても、“仕事をした”という顔で引き下がった。
労いの言葉をかけ、豊田が道場中央に進み出る。



.

322 :『勝負は河原で』:2013/12/23(月) 01:49:39.33 ID:sL2I+Pil.net
.
 背が高く無骨な面持ちの、中年の男である。遊修館の筆頭を張るに相応しい、ピリピリとした殺気が漂う。

「いささか手を焼いたが、貴殿の二刀流を破ることはそう難しいことではない」

彩華は黙ったままだ。

「なぜ、不慣れな二刀流で戦うのだ。返答によっては無礼者と見做す」


「この剣は」
右手に持った竹刀を見せつけ、言った。

「清十郎とともにずっと稽古してきた剣だ。これは清十郎の魂でもある。わたしは、清十郎と
一緒に戦っているんだ」

 豊田は、ちょっと意表を突かれたような表情になった。
が、すぐに顔を引き締め言った。

「あいわかった、そういう覚悟ならば、存分にお相手いたそう」

竹刀を斜め上段に構え、鋭く睨みつける。

彩華もまた、二刀流の構えをとった。


 彩華の竹刀は小ぶりである。
 幼い頃の清十郎に与えられた小さな竹刀を借りて使っていたのだ。

 もともと脇差を扱う彩華なので、そのほうが扱い易かった。他の仕合でも、それで遜色なく
立ち合っていた。



 豊田の剣は、無駄なく彩華を攻め立てた。

 長身の体躯から繰り出される打突は一つひとつが重く、さっきまでの連中とは比べ物にならなかった。
 片手で防ぎきれないのは、傍から見ても明白だった。

 左の竹刀で剣を受けた時、それが弾き飛ばされた。

「!」

それを機と見るや、豊田は大きく剣を振り下ろした。


.

323 :『勝負は河原で』:2013/12/23(月) 01:55:17.17 ID:sL2I+Pil.net
.

 その時である。

 彩華は素早く身体を入れ替え、豊田の剣をすれすれで躱した。

 同時に右手の竹刀に左手を添え、すかさず脇腹へ、鋭い突きを入れた。

「っく!」

 一瞬、豊田の動きが止まる。
 そこへ、小手を打つ。

 道場中に響き渡るような、小気味良い音を立てた。

 重い一撃を受け、豊田は危うく竹刀を取り落としそうになる。

 彩華はなおも両手で竹刀を構え、いつでも追撃を打てるかたちで、豊田に相対していた。


「い、一本! それまで」

「待て、喉元以外への突きは禁じ手だ!」

 見物の門人連中から、待ったがかかった。
紛糾しかけたが、

「良い、これは他流試合である。我が流派が禁じているに過ぎぬ」

永康が言うと、場は収まった。


〆 〆 〆


 小手を強かに打たれた豊田外記は、突きの入った脇を擦りながら言った。

「してやられたが……見事であったな。やはり謀っておったか」

そう言って苦笑いした。
 彩華は少し目を見開いたが、豊田の言葉に、すぐに顔を引き締めた。

「次は、俄か仕込みの二刀流は通用せぬぞ。お主のほんとうの剣で、全力でかかられよ」

彩華は道場の端でこちらをじっと見ている壮年の男を見た。


.

324 :『勝負は河原で』:2013/12/23(月) 02:06:44.58 ID:sL2I+Pil.net
.

(二刀流が破られることを承知で、わざと左の剣を落とさせた。それを目眩ましとして懐に飛び込む……。
戦術としては単純だが、なかなか出来ることではない。はじめから狙っていたのなら、あの歳にしてかなりの
敏い頭である。図らずにやったのなら、天性の素質の持ち主だ……。)

永康は豊田外記の仕合を見ながら、思いを巡らせた。


〆 〆 〆


「そっちでなくて良いのか」

 永康は言い、先ほど弾き飛ばされた短い竹刀を顎でしゃくった。

「借り物では済まされまい」

 彩華の使っていたのが短い竹刀だったことを、永康は知っていた。

「これは、清十郎の戦いなんだ」

 彩華は清十郎の竹刀を握り直し、きっぱりと言った。

 柄の部分には、血豆が破れた染みが出来ている。
 彩華に何度も打たれて、鍔はぼろぼろに欠けている。

 青眼に付け、永康に正対する。

 永康も、竹刀をゆっくりと八相に構えた。


.

325 : ◆BY8IRunOLE :2013/12/23(月) 02:15:58.19 ID:sL2I+Pil.net
↑今日はここまで。あと1回で終わりです

326 :創る名無しに見る名無し:2013/12/27(金) 23:07:57.70 ID:UL4/Fhkk.net
乙です
最後はどうなるのか楽しみにしています

327 :『勝負は河原で』 ◆BY8IRunOLE :2013/12/30(月) 17:45:04.87 ID:PHhZmB7Y.net
【 六幕 さよならなんかいうもんか】

「卑怯者!」

 怒声が聞こえる。

 清十郎は、はっと目を覚ました。自分のことを言われたのかと思ったのだ。

 道場の端、一段高い畳の上に、彼は寝かされていた。

 頭が混乱してぼーっとする中、記憶を手繰る。


――そうだ、剣術大会をやっていた。自分は勝ったのだったか、負けたのだったか……。
こうして伸びているということは、きっと無様な負け方をしたのだろう。またあの性悪女に蔑まれるのだ……。


 そこまで考え、急に思い至った。

「彩華は?」

 辺りを見回す。道場中央、人で視界が遮られている方が何やら騒がしい。清十郎は立ち上がり、ふらふらとそこへ向かった。


 人垣をかき分けて見えたのは、信じられない光景であった。

 彩華は竹刀を持って道場の中央に立っている。
 その側に、あの近江守永康が倒れているのだ。

 近江守永康は、藩に数人いる師範代でも一番の実力者と目される人物である。剣の教えを請うべく、遠方からも入門者が来るくらいだ。

 その男が、彩華の前に倒れている。

 襖から入る光が清十郎の立ち位置からは逆光で、真っ直ぐに立つ彩華を影絵のように見せていた。なので、その表情は分からない。
彩華はただ、いつもの通り平然としているように見えた。

.

328 :『勝負は河原で』:2013/12/30(月) 17:49:04.38 ID:PHhZmB7Y.net
「そこまでして勝ちたいが」
「やっぱ、無宿者は碌でもないやがいね」

 彩華に対し、非難の野次が飛んでいる。

――なんだこれ、どういうこと……?


「おや、若どの。もう身体の方はじゃまないがけ」

 側に居た丁稚の一人が、清十郎に声をかけた。さらに、

「悪いこた言おらんがけ、こっからさっさとずらかったほうが御身のためやが」

 苦笑いしながら言う。
 迷っているうち、さあさ早く、と急き立てられ、屋敷へ戻ったのだった。


〆 〆 〆


「いやしかし、痛快やったが」

 丁稚が快活に言った。
 それを聞き、清十郎は切羽詰まる思いで詰め寄った。

「ゆうてま、何があったんてが?」


 丁稚は、彩華の仕合の様子を身振り付きで話した。曰く、

 ――近江守永康は、やはり強かった。彩華は防戦一方である。その前に三人相手にしているし、疲労してもいた。
 何度目かの鍔迫り合いの時。

 彩華はいきなり永康の肘を掴んで、捻ったのだ。

「柔(やわら)のようにも見えたけんど、なにせ遠目にはよう分からんかったなぁ」

 彩華の倍以上はありそうな永康の体躯が一回転して、道場に叩きつけられた。一瞬の出来事であった。
 彩華はすかさず竹刀を永康の首元へ付けた。

 仕合は、そこで一旦中断となったのだという。

.

329 :『勝負は河原で』:2013/12/30(月) 17:56:45.69 ID:PHhZmB7Y.net
.
「まさか、あの師範代を投げ飛ばしちまうとはなぁ! ありゃ誰も出来ることじゃないがいね」

丁稚は、愉快そうに言う。

「遊修館の連中、顔真っ赤でさ。いい気味や、普段は随分と威張りくさってやがるのほやし」



 清十郎は、彩華との稽古で投げ飛ばされたことを思い出した。

 彩華は、勝負には勝ったことになる。けれど仕合には……

「仕合は……どうなった?」

 清十郎は、老いた手代に尋ねた。

「おそらく失格やろうね。卑怯者呼ばわりされとるし、当然やが。連中、矢鱈と仕来りにいじかしいようやし」
「そんな……」
「若どのは無念やろうが、誹りを受けるのはあの童。ま、たかが無宿者のしたことやしな」



 彩華を批判の矢面に立たせ、自分たちは素知らぬ顔をしていれば良い――

 清十郎には、そう受け取れた。 

 居ても立ってもいられなくなり、屋敷を飛び出した。


〆 〆 〆

.

330 :『勝負は河原で』:2013/12/30(月) 17:57:52.99 ID:PHhZmB7Y.net
.

 道場は既に宴の準備に入っていた。

「おや、茶村の坊ちゃん」 

 門人の青年が、清十郎を見つけて声をかけてきた。

「これ、坊ちゃんの竹刀やがいね」

清十郎の使っていた竹刀を差し出す。ボロボロに成ったその姿は、彩華の凄絶な戦いを連想させた。


「彩華は何処に居る?」
「あの不届きな童なら、藩から出て行けと言うてやったんで、どこへでも行ったんじゃないがいね」

「どっちの方角!?」
 ムキになって食い下がる。

「さあ、川沿いを歩っていったようやけど。坊ちゃん、アレは碌でもない、卑しい童やが」
 門人は小馬鹿にしたように言った。

 その言い回しに聞き覚えがある。かつての清十郎も、そのような態度で人と接してきたのだ。

「よくもそんな……、彩華は、うらの仲間やがいが!」

 言い捨て、清十郎は川へ走った。


〆 〆 〆


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331 :『勝負は河原で』:2013/12/30(月) 18:02:30.48 ID:PHhZmB7Y.net
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「先生……」

 豊田外記は、図体に似合わないおずおずとした様子で声をかけた。

「あの娘……厄介かも知れんな」

 永康は、道場に胡座をかいて呟くように言った。

「! では」

すかさず膝を立て、すぐにでも飛び出そうとする。

「待て、そうではない。慥かにあれを此方の手勢にすれば、かなりの働きを見せるかも知れん」

豊田は驚いた表情を見せる間に、永康はすぐ続けた。

「然し、無理であろうな。あれは、雲の如く何処へでも流れて一処(ひとつところ)に留まりはしない。
誰の下にも就かぬだろう」



 門人が、道場の二人を遠慮がちに遠巻きにしている。

「何をしている、さっさと準備をせぬか!」

 豊田が怒鳴り、門人はさっと散った。



「剣の理念や礼、仁は、とても大事だ。しかし一方で、戦場(いくさば)ではそういった物事が通用せぬ」

「……」
 豊田は黙っている。

「勝てなければ、どんな崇高な理念も潰されてしまう。かと言って、勝つために何をしても良い、というのではない」
 永康は、竹刀を握っていた自らの手を眺めて呟くように言った。

「大事なのは、『負けないために、何をされても対処できること』なのだ」

「……!」
 豊田の表情は、いっそう引き締まったものになった。

「儂も、まだまだ未熟者ということよ」
 そう言って永康は、わっはっはと笑った。

 傍らの、神妙な面持ちの豊田とは対照的な、気持ちのよい笑顔だった。


〆 〆 〆

.

332 :『勝負は河原で』:2013/12/30(月) 18:06:55.64 ID:PHhZmB7Y.net
.
 雪が降ってきていた。日も落ち始めている。

 川を左手に見下ろすように土手があり、そこへ登って少し走る。すると、河原を歩く人影を捉えた。

「待て!」
 叫ぶと、人影は足を止めた。

 河原に走り下りて、追いつく。



 三度笠を目深に被り、蓑に身を包んだ小柄な人物。背中に風呂敷包みを背負っている。

「待ってくれよ……」
 息を切らし、呼吸を整えながら清十郎は言った。

「いきなり居なくなるなん、聞いとらんが」

 彩華は笠を上げ、振り返った。

「わたしの役目は終わったよ。そろそろ出て行こうと思っていたし」

「違う」
 きっぱりと遮り、手にした竹刀に力を込める。

「まだ、終わっとらん」


.

333 :『勝負は河原で』:2013/12/30(月) 18:12:03.04 ID:PHhZmB7Y.net
.
「うらとの勝負が、まだやが」

 彩華はぽかんとしていたが、ぷっと吹き出した。

「な、何が可笑しい! ひとを負かしたまま去るなんて、それこそ卑怯やが」

 なおも彩華は笑っていたが、やがて寂しそうな顔を見せた。

「わたしに勝てると思ってる?」
 言いながら、旅装を解く素振りを見せなかった。

 清十郎は目を伏せた。
「……思ってない。けれど、今だけだ」

 目を上げ、彩華をじっと見つめた。

「もっと稽古して強うなって、おまえを負かしてやる。ほやし、さよならなんか、ゆうもんか」
 清十郎は目を潤ませながら言った。

 彩華は微笑んだ。
「そう。じゃあ楽しみにしてる」

 くるりと背を向けて、彩華は歩き出した。

 その背中を見て清十郎は、誰も彼女を引き止められないと悟った。

 だからせめて、声だけでもぶつける。

「逃げるなよ! 絶対やがらな!」

 彩華は背を向けたまま、自分の脇差を高く掲げて振った。



 雪はいつの間にか止み、夕暮れの日差しが辺りを橙色に染め上げていた。

 土手の上には、今しがた遊修館の連中と茶村家の丁稚らが、清十郎を探して駆け着いたところであった。






.

334 : ◆BY8IRunOLE :2013/12/30(月) 18:41:12.03 ID:PHhZmB7Y.net
↑以上でこのお話は終了です

本作品は過去に創発板にあった『目次小説』(だったかな?)スレをもとに書きました

いつもの通り、ネタ元スレのDATのURLを貼ろうと思ったのですが、創発wikiにはなくググっても引っかからない・・・
DAT落ちスレ閲覧サイト「2ちゃんぬる」は閉鎖してしまったようですし

上記スレは小説の目次のみ考えて投下する、ネタ創作系スレでした
センスがあって面白く、けっこう好きなスレだったのですが
(元ネタの詳細はあとがきスレに貼っておきます)


例によってセリフの違和感はネイティブの方には申し訳ない限りです(変換サイトでは限界がありますね・・・)
おかしなところは遠慮なくご指摘頂ければ幸いです


結局、今年は1本しか投下できませんでした
こんな亀筆にもかかわらず読んで下さっているかたには、ただただ感謝です。ありがとうございます



ではでは皆様、良いお年を!

335 :創る名無しに見る名無し:2013/12/31(火) 00:10:52.26 ID:IFApvM+k.net
読みました(あとがきも)!
 「河原での勝負」をワクワク待っていたので多少拍子抜けしましたが
 けど彩華ちゃんを打ち負かせる剣士なんてそうそう居る筈もなく
 ましてや清十郎くんでは、、、そこは彼女のセリフの通りだし
 例の「目次」やタイトルに引っ張られず読めば納得納得の決着でした。
質問1) 今回はどちらのお国ことばだったか正解を教えて下さい。
 私的には四国あたりかなと少しも調べずに予想だけしていました。
 茶村という姓にヒントはありますか?
質問2) 正眼は知ってましたが青眼という用字が見慣れなかったので
 調べたところ青眼/晴眼/正眼いずれも正しいとのことでした。
 青眼は現今の剣道用語だったりしますか?
 または何か時代小説で使われていますか?
書き込み代行をお願いしているので聞き逃げになると思います。
彩華シリーズ作者さんとレス代行さんご両人へ→ありがとう!

336 :創る名無しに見る名無し:2013/12/31(火) 03:07:01.32 ID:/7/7mCdp.net
乙でした!
彩華ちゃんの冒険はまだまだ続くということで、次の物語も楽しみにしています
今回彩華と関わった清十郎君。彼がこれから立派に成長していく姿が見えるような爽やかな終わり方でした
では次の旅が見られることを期待しています

337 : ◆BY8IRunOLE :2014/01/03(金) 16:42:02.37 ID:s9wP+4sj.net
あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。


いつも、感想をいただくたびに「お話の中身をしっかり読んで下さっているなぁ」と実感します
書き手冥利に尽きるとはこのことです!

意外にも、茶村清十郎をよく見ていただいていると分かり、ちょっとびっくりしています
どの作品にも共通に登場するのは主人公(彩華)だけ・・・
つまり他のキャラは一度きりの登場なのにもかかわらず!

他の作品でもそうですが、主役以外のキャラに言及して貰えるのは嬉しいですね

>彼がこれから立派に成長していく姿が見えるような爽やかな終わり方

嬉しい! そういうお話を書きたいと、いつも思っています(でも出来てないw)



つっこんだ質問も、本当に嬉しいです。ありがとうございます!

>質問1) 今回はどちらのお国ことばだったか正解を教えて下さい。
 私的には四国あたりかなと少しも調べずに予想だけしていました。
 茶村という姓にヒントはありますか?


今回は北陸地方、石川県をイメージして書きました。
方言変換サイトでは石川県を中心に、富山・福井も参照しながら変換していった感じです

加賀百万石で有名な石川県ですが、前田家や、その他史実に基づいた考証は出来ていません。
茶村(さむら)という姓は「実在してそうで由緒正しそうな苗字」というイメージで、勝手に作りました
とくに何かに絡めた意図はありません。



>質問2) 正眼は知ってましたが青眼という用字が見慣れなかったので
 調べたところ青眼/晴眼/正眼いずれも正しいとのことでした。
 青眼は現今の剣道用語だったりしますか?
 または何か時代小説で使われていますか?


自分が剣道未経験なもので、経験者の方からすればきっと頓珍漢な描写をしていることだろうと思います
剣道の書籍やサイトを調べながら書いていますが、よく分からなくなることもしょっちゅうで、お恥ずかしい限りです・・・

「青眼」表記についてはご指摘の通りで、現代剣道の用語かどうかは分かりかねます。すみません
中段の正面構えを必ずしも正眼と呼ばない流派もあるようですし、奥が深いですね

山本周五郎の小説が好きで、作中で「青眼」という表記をよく見る気がするので
あやかって、それにしています。



読んで下さってありがとうございます!

338 :創る名無しに見る名無し:2014/11/02(日) 13:42:53.80 ID:mwluIu5G.net
彩華ちゃんシリーズ面白くていっぺんに読んでしまった
作者さん乙です

339 :創る名無しに見る名無し:2015/11/03(火) 23:06:00.63 ID:BJTMa+vj.net
避難所
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/3274/1446557803/

340 :創る名無しに見る名無し:2016/04/26(火) 09:20:52.55 ID:qF/ZPkgy.net
カンタンにTシャツつくれるぞ
http://goo.gl/Ef3JMt

341 :超音波テロの被害者:2016/05/15(日) 15:37:27.71 ID:sinambxn.net
超音波テロの被害にあっています。
卑劣極まりない被害にあっています。

何が起こったかわからないときから、
わかってみれば、
まだ世の中に知られていない超音波テロ。

世の中の多数の振動源・発信源が
システム化され、 ネットワークを通して、
超音波・音波を集中させて
対象を攻撃するらしい。

超音波による物理的な力で、
ものが飛び、ものが壊れる。
それが人間の体に対してまで。

形のあるもの、ないもの、壊され、奪われ、
聞こえる声、音。超音波テロの加害者の声。
卑猥な内容、卑劣な内容、脅しやいたぶり。

身体の表面を突き抜け、内臓を攻撃される。
頭蓋骨を突き抜け、意識を失わされる。
臓器不全やがん、命に関わることまで。
人間の身体を壊そうとする超音波テロ。

日本国中、どこにいても超音波で襲われる。
車に乗っている人間が襲われる。
歩いている人間が襲われる。
自宅で超音波の攻撃を受ける。

人や社会が超音波で襲われ、
罪もない人が超音波で襲われ、
卑劣な被害にあっています。
被害を訴えても信じてもらえない。

「見続けるのがいやだから、殺して終わる」、
「証拠隠滅だ」という超音波テロの加害者の声とともに
強烈な超音波の攻撃。

叫ばされ、いたぶられ、それを口実にまた攻撃され、
超音波テロの、残酷残虐で、卑劣な攻撃の被害にあっています。
心の底から被害を訴え、祈っています。

天に神に届きますように。

342 :創る名無しに見る名無し:2016/08/31(水) 04:38:56.43 ID:cOHXDcjI.net
a

343 :創る名無しに見る名無し:2017/12/27(水) 12:12:59.42 ID:C1Z7QFDy.net
家で不労所得的に稼げる方法など
参考までに、
⇒ 『武藤のムロイエウレ』 というHPで見ることができるらしいです。

グーグル検索⇒『武藤のムロイエウレ』"

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344 :創る名無しに見る名無し:2018/05/21(月) 07:11:36.72 ID:tRZnwP6O.net
知り合いから教えてもらったパソコン一台でお金持ちになれるやり方
参考までに書いておきます
グーグルで検索するといいかも『ネットで稼ぐ方法 モニアレフヌノ』

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345 :創る名無しに見る名無し:2018/07/03(火) 20:41:55.23 ID:f1dClnnX.net
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346 :創る名無しに見る名無し:2018/10/17(水) 16:52:55.13 ID:ZU7x6aHX.net
中学生でもできるネットで稼げる情報とか
暇な人は見てみるといいかもしれません
いいことありますよーに『金持ちになる方法 羽山のサユレイザ』とはなんですかね

HLW

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