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ストライクウィッチーズワールドSS総合スレ

1 :創る名無しに見る名無し:2011/03/01(火) 21:55:17.98 ID:nYg396mk.net
ストライクウィッチーズワールド(原作:島田フミカネ&Projekt Kagonish(プロイエクト カーゴニッシュ))
をベースにしたオリ設定や二次創作のSS総合スレです。


過度の百合などは専用スレがありますのでそちらでどうぞ
ストライクウィッチーズでレズ百合萌えpart32
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/lesbian/1288876593/

84 :SC38 ありがとう:2012/12/20(木) 22:23:13.31 ID:ApxlnV37.net
「真の姿?」
「人の営み……文明の程度は違っても、きっと――昔の人も変わらなかっただろうって。そう思うんだよね。何かの縁で出会った
男女が、家族になって、子孫に次代を繋いで。まあ、細部まで知ることは出来ないだろうけれど……互いを愛する気持ちがずっと、
ずっと続いて今に至って、これからも続くって。文化文明はその余録」
「何処まで続くのかしら?」
「……空間と距離を超越する時まで。あ、笑わないでくださいよ、ミーナさん」
「ううん、違うの。ごめんなさい……ええとね、貴方の話を聞いたら、すっと軽くなったの。私の心がね。私は近視眼的に考えすぎて
いるって解ったの。空間と距離を超越ってもしかして、他の太陽系?」
「……うん。人類が諦めなければ、他の恒星系にいけるのかなってね」
「そうなるの?」
「多分……一つだけ、絶対的な条件があると思うけれど」
「条件?」
「国籍や民族に囚われない、広い心を持てること」
「広い心、ね……難しいものですよね」
「アメージングストーリーを読みすぎた、空想好きの馬鹿が言う事だと思ってください。現実には難し――」
 認めて欲しくない。彼の言葉を遮った。私の隊では上手くやっている。
「いいと思う……いつか、きっとそうなるわよ。いえ、そうなって欲しい」
「うん……僕らの曾孫の世代かな」
「それでも、繋がる。未来に……ね、俺さん。貴方のご家族は?」
「両親は健在。早く恋人に会わせろと騒いでるよ。あと、妹が二人」
 微かな笑みが艦長の顔に浮かぶ。それにめざとく気付いたミーナも微笑んだ。
「あら、妹さんが好きなのね。妹さんが気になるの?」
 ミーナの微笑みに釣られた艦長が声を出して笑う。
「いやいや、幸せになってくれれば、それでいい。もうすぐかな」
「もうすぐ?」
「ボーイフレンドが出来たとか、手紙で教えて貰ったんですよ。いい奴だといいんだが」
「あらあら、妹さんが選んだ相手だもの、大丈夫よ。ケリーには?」
 顔を強張らせた彼が床を見詰めた。失敗に気付いたミーナが口を開く前に、静かに艦長が口を開いた。

85 :SC39:2012/12/20(木) 22:32:40.34 ID:ApxlnV37.net
「ダートマス空襲で……いや、恋人じゃない……付き合っても居なかった。手紙を交わす間柄でも無い。彼女にとっては、大勢の
中の一人ですよ。顔を覚えて貰えたのかも怪しい」
 苦笑いで終えた艦長に、ミーナの居心地が更に悪くなる。
「……ごめんなさい」
「いや、もう……素敵な人でした。笑顔が好きだった……」
「……私も同じ……恋人じゃなかったのかもしれない。でも、大事な人だった」
 無意識に出た言葉に自分自身が驚いた。別に傷口を舐め合いたいとは思わない。なんでだろう。
「そう思えるなら、そういうこと。そうでないなら、忘却してしまうでしょう」
「ええ……忘れることは出来ません」
「それがいい……その人はそれを望んでいる、私はそう思う」
「ええ。その人ね、私がウィッチ隊に志願した時、自分も戦うって」
「……彼も君と戦いたかったんだよ」
「その気持ちを忘れたくない。私達だけじゃない、みんなで戦う、戦って抜く、そして……そうしていれば……」
「……すぐの未来が、遙かな未来に繋がる」
 小さく頷いた。すぐの未来。ネウロイ戦への勝利。でも、死んでしまった人は決して生き返らない。その時、私は何を目的に生きれば
いいの……ケリーは何を言いたいの……大学に行けなかった私には解らない。私の世界は広いようで狭い。
 静かにカップを乗せたソーサーを机に置いた艦長が立ち上がる。
「長居してしまった。コーヒー、有り難――」
「あの、もうちょっと……お話しません? 忙しいですか?」
「まあ、二十四時間うろうろ体制だから……ちょっと待ってくれるかな」
 ミーナの頷きをうけた俺が、インターカムで司令塔に自分の居場所を告げるのを見て安堵した。もうちょっと話をしたい。返答に
割り込んだ軍医が、休息しないなら飯に薬を盛るぞ、と騒ぐのを無視してスイッチを切ったケリー。思わず笑ってしまう。
「有難う、ケリーさん。その人のこと、話してくれる?」
 静かに頷いた艦長が、ポツリポツリと話し始めた。
「彼女に初めて会ったのは、地元の方々との交流パーティで……ピアノでアベマリアを……あれはグノーかな。音楽に疎い私でも
聴き惚れた。歌を聴いて泣いたのは初めてでした……歌い終わったとき、恥ずかしげに会釈されて……」
 真剣に話を聞く彼女は自然と自分の話も挟む。徐々に話しが深いところに行くが、抵抗なく話を続けた。話すことが心地よい、
とミーナは気付いた。この人は理解してくれる。この人も自分と同じ囚われ人。

86 :SC40:2012/12/20(木) 22:36:06.50 ID:ApxlnV37.net
 二時間後、副長が艦長室に顔を出した。バンクでミーナ中佐の肩にもたれて寝ている艦長の姿に仰天する。無精ひげの生えた頬に
涙の痕がはっきり判った。ミーナはそっと艦長の肩を撫で続け、副長に眼で囁いた。頷いた副長は静かにドアを閉めようとしたが躊躇する。
副長がおずおずとミーナを見る。その様を見ていたミーナが小さく頷いた。
 畏まって椅子に座った副長がつっかえつっかえ、話し始めた。暫くして坂本がドアを開けたが、話し込む二人と寝ている艦長の姿に
足を止める。顔を赤くした副長が入るように促した。頬を赤らめて副長の肩に手を置いた坂本が、毅然とミーナを見つめる。二人を
交互にみたミーナの眼に驚きと喜び、そして微かな落胆の色が浮かんだ。


 501指揮官と艦長がいい感じ、と噂を聞いた乗員の多くは内心で応援している。いい意味でシーキャットの兄貴だ。赴任直後に
乗員全員の名前だけで無く家族構成をも覚えた。怒鳴りもせず権威を笠に着たことも無い。理想の艦長像そのもので怖いくらいだ。
ただ、仕事に励みすぎる点だけが心配されている。身体を壊すのが落ちだ、と賭の対象になっていたがそれも止んだ。現在無休記録
更新中だ。賭にならぬ。胴元は艦長に恋人が出来るかどうかをネタに暗躍しはじめたが、皆の意向が一極集中なので成立しそうもない。
 副長もなにやら蠢いているらしい。この副長も己の立場をわきまえず、乗員と組んで盗みまくった過去が大きく評価されている。
一番の大物は艦載蓄電池だった。それを盗んできたトラックに満載して堂々と工場から出てきた。そしてくそ重いバッテリーを艦長共々
汗みずくになって据え付けたのだ。副長も艦長同様女癖が悪いわけでもないので、乗組員は気にしない。不真面目な奴なら決して
許さないが。こちらは賭の対象となった。相手が誰なのかという単純な掛けだ。盗みが上手いからなのか、ヒントも漏らさない。
 乗員の殆どはウィッチーズと何気ない日常の会話を交わせる様になったことに満足している。病気にかかったものは治癒魔法の
使い手に治療を受け、彼女の笑顔に心を蕩かせている。ただし、余りに突っ込んだ会話を試みるチャレンジャーは、カールスラントの
美少女将校に蹴散らされている。一方、その毅然とした態度を好む連中の他、その妹分のちゃらんぽらんな性格を好む連中は
秘蔵の嗜好品を持ち寄って目立たないように楽しんでいる。占い好きの連中はスオスムの美少女に占いを申し込んで楽しんでいる。
占いは楽しみが二倍になる。オラーシャの美少女が横で微笑んでくれているからだ。オラーシャ美少女が音楽を好むと聞いた連中は、
レコード盤を持ち寄ってミニコンサートを開いている。ガリアの美少女は一見とっつき難そうでありながら、その実細やかな神経の
持ち主である事が高評価となり、崇拝者を集めている。リベリオン・ロマーニャそしてブリタニアの美少女は妹を欲する乗員にとって女神だ。

87 :SC41:2012/12/20(木) 22:45:59.64 ID:ApxlnV37.net
「婚約者!? おい、それは一体どういうことだ!」
 深夜、浮上航走中の前甲板で話し込んでいた二つの黒い人影。その一つが急に声を荒げた。
「ウィラード副長。私を騙していたのか? 嘘を吐いていたのか!」
 激昂した声の後、乾いた音が一瞬響く。踵を返した一つの人影がハッチに飛び込んだ。残された人影はたたずんだままだ。
周囲には誰もいない。艦橋には見張りがいるが、海風がじゃまして声は届かなかったようだ。
 どれくらいそうしていたか。ハッチを登ってくる声に副長は我に返った。深呼吸して頭をスッキリさせる。頬が熱いが、それは
無視した。どうせ暗いのだ。上がってきた三人に、他に甲板には誰もいないことを申し送ってからラッタルを下る。一旦下層に下り、
電池室のチェックをする振りをして司令塔をやり過ごした。誰にも見られたくない。半泣きの顔なんぞ! シャツの袖で顔を乱暴に
擦った。俺は平静だ。ここなら誰も来ない。少し落ち着こう。平静になれ。
 メンテナンスハッチを左腕で押し上げる。その重量が途中で急に消えた。顔を上げると、シャーリーの心配げな顔が覗き込んでいた。 
「大丈夫? わたしに着いてきて。隊長が呼んでいるんだよ」
 なぜここに、と問いたいが黙って従うことにした。なぜここに、よりも何故解ったのかの方が大事だろう。いや、もう終わってしまったのかもしれないが。
 案内されたのは医務室だった。カーテンを捲られて中に押し込まれる。中にはミーナ中佐が待っていた。椅子を指し示されたので、
素直に従う。大尉は入ってこなかった。
「少佐と何かあったの? 教えて下さい」
 言いたく無い。が、中佐は彼女の上官だ。それに、先に二人のことを話して了解して貰った立場もある。
「彼女を怒らせてしまいました。自分の過去を洗いざらい説明しておこうと思ったのです。ですが、説明の途中で……その……」
 頷いた彼女が黙って治療台に腰掛けた。そのまま黙っているので、概略をつっかえながら説明する。少佐に説明する決意をした
ときより、言葉が続けて出ることに内心驚いた。ミオと違うからか。そうだな、所詮第三者。赤の他人。上級者であっても、ずっと
一緒に勤務するわけでも無い赤の他人だ。
「婚約者……婚約を破棄されたのは、あなたが理由。世間一般ではそうなるわけね」
 無言で頷く。
「でも、あなたには納得できない。だから傷となって残っている」
「ええ……私が彼女に会ったとき、私は既に海軍士官で……仕事です、海上任務は。家庭を理由に……退役するか、軍務を
取るかを……既に戦争中なのに……式の直前彼女にそう迫られて、私の気持ちは冷めました」
「そうよね……騙されるのは嫌だ、というのはそれだったのね。少佐にはどこまで?」
「婚約者が、とまで。いたんだ、と言葉が繋がらず、その、言葉が出なくなってしまって……」
 微かな溜息が聞こえたような気がする。

88 :SC42:2012/12/20(木) 23:02:58.81 ID:ApxlnV37.net
「解ったわ。有り難う」
 中佐が立ち上がった。戸惑いながら自分も椅子から立つ。
「副長。私は事情を知りました。少佐とあなたの間の事柄ですので、仲介も仲裁も出来ないの。あなたたちが解決することです。でもね……」
 何を言いたいのだろう、と中佐を見詰めた。
「少佐には、初めての恋だとおもうのよ。だから、彼女の気持ちも汲んでやって欲しいの。あなたが彼女に真剣な気持ちを抱いているなら、
あなたには其れが出来るはず。あなたは立派な人よ」
 小さく頷いた。解決案は全く解らないが。それに、好きな人を泣かせた奴が立派なわけも無いだろうに。でも、有り難い。
「では、話はお仕舞い。来てくれて有り難う、ウィラードさん」
 頷きを返事に替えて通路に出た。敬礼が必要な場面でも無かろう。少し離れたところでシャーリーが壁により掛かっていた。心配げに
俺を見詰めている。俺には頷くことしか出来ない。疲れた。疲れたが……顔を洗ったら発令所に戻ろう。その方がいい。
「隊長、どうだった?」
 医務室に入ったシャーリーが尋ねた。困惑を露わにしたミーナが溜息をつく。
「少佐の勘違いね。副長は恥じる行為はしていない。過去のことも副長が悪いとは思えない。引きずっていた過去を馬鹿正直に話そうと
したのが原因よ。最後まで聞かない少佐も悪いと思うけれど、免疫というのかな、其れが無い彼女だから仕方が無いわ」
「ふうん」
「二人とも真面目だから。でも、私達には何も出来ないの。そっとしておいてあげることしか出来ない」
「解った。でも、さすが隊長だね。私はそっちは苦手でさ」
「あら、私だって恋ぐらいするわよ。あなたも知っていると思ったけど?」
 一瞬黙ったシャーリーが小さく頷いた。先に戻るよ、と告げて部屋を出る。
「過去形ならよーく解るんだけど?」



 艦内時間の夜、また艦長が部屋を訪れた。きっちりとシャツの第一ボタンを留めたミーナがドアを開く。
「少佐が就寝中です」
「静かに済ませます」
 囁き声とはいえぬ小声で二人が会話を交わした。部屋の中にもう一人。バルクホルン大尉が本を読んでいる。目を上げた彼女も
艦長に目礼した。すぐに椅子に座り、航海日誌を開く。暫く万年筆の滑る音だけが部屋に流れた。其れが済むと持ち込んだ別の
フォルダーを開く。素早く目を通し、署名していく。書類を捲る音の後、ややあってペンが滑る。

89 :SC43:2012/12/20(木) 23:15:45.52 ID:ApxlnV37.net
 ふとバルクホルンが目を上げた。バンクに腰掛けたミーナは、何をするでも無く艦長の後ろ姿を見詰めている。穏やかなその表情から
目を離せなくなった。段々と自分が邪魔者のような気がしてくる。落ち着かない。本に栞を挟み、立ち上がった。ミーナと目が合う。
食堂でコーヒーを飲んでくる、と小声で告げると頷きが返った。
 ドアを静かに閉め、寄りかかる。ミーナが何を考えているのかは解らないが、彼女がこの時間を大事にしていることは感じ取れた。
じゃまをする者が来ないよう、暫くここにいよう。二人が会話を始めたら、食堂に行けば立ち聞きにならないし。
 黙然と寄りかかっていた大尉がふと気付いた。坂本少佐、なにか塞ぎ込んでいる。どうしたのだろう。少し前まで、ちょくちょく部下
の顔を見に行っていたが、最近はベッドに潜り込んでいることが殆どだ。ミーナが心配していないので気付くのが遅れたが。ミーナは
何か気付いているのか。そうだ、それしか無い。ミーナは私とは違う。私が口を挟まない方がいいのだろう。


「ペリーヌさん、それでお話とは?」
 ここではなんですのでシャワールームにと要請したペリーヌ。その目が坂本が寝ているはずのバンクに注がれたのを見て、ミーナは
頷いて同行した。
「有り難うございます。坂本少佐の事です。何かご存じなのでは?」
 真剣な目がミーナを見る。心配そして何かに対する畏れが読み取れた。
「あなたが気付いてくれて、ある意味ほっとしているの」
「おっしゃることがよくわかりません。少佐はご病気なのですか?」
「そうね……ある意味、病気よ。でも、心配しなくても大丈夫。美緒は自分で答えを出すでしょう。そういう病気なの」
「おっしゃることが全然解りません!」
「ペリーヌさん。あなた、恋をしたことは?」
「いえ、わたくしはその……まさか!」
「ええ。そう。少佐は初恋で悩んでいるのよ」
「誰ですか、その相手は!」
「私の口からは言えないの。でもね、美緒が真剣に悩める相手、それが彼女の相手。その人も真剣に考えているわ。だから、
心配はしなくていい」
「隊長だって少佐のことを! 違うのですか?!」
 半分叫ぶように言う彼女を、ミーナは静かに見詰めた。
「ええ、美緒が好きよ。あなたが美緒を思う気持ちに負けないくらい好き」

90 :SC44:2012/12/20(木) 23:28:06.68 ID:ApxlnV37.net
「何故そんなに落ち着いておられるのですか!」
「好きという気持ちにもいろいろあることが解ったの。ねえ、ペリーヌさん。あなたのご両親のことを思い出しながら考えてみて。
お父様とお母様、どちらが好きと断言できる? 好きという気持ちに順番はあるのかしら?」
「そ、それは……意味が違うと思うのですけれど」
「そうね。でも、その対象があなたの好物料理だったら? これはその時の気分で簡単に決められるでしょう?」
「はい。それは対象が人間か料理かですから、比べることは出来ないと思うのです」
「そうよ。人間だと簡単に優劣を決められなくなる。好きな人、愛している人が対象ならばそうなるの。私が美緒を好きな気持ちは
事実よ。でもね、別の人を好きになることもあるのよ」
「それは浮気です!」
「浮気になるかどうかは、その本人次第でしょうね。あなたも私に気持ちを晒してくれたのだから、私もあなたに心を見せるわ。
私はあなたも大好きだから構わない。美緒を好きな同士だから、ともいえるけれど」
 混乱がペリーヌの顔に浮かび上がった。意外だという気持ちも一緒に。
「うまく説明できるといいのだけれど……私は美緒もあなたも好きよ。正直に言って、501の皆が好き。姉妹のような間柄というの
かな……分け隔て無く好きなの。私があなたを見て思う気持ちは、妹を見る様な気持ち。美緒を見て思うのは、頼れる双子の姉を
見るような気持ち……美緒は私達を妹として愛してくれている。大事な家族なのよ。だから皆が幸せになるように祈るし、不幸に
なると思ったら決して握った手を離さない。護りたいの。美緒は私を護ってくれる。そう解るから信頼して全てを任せることが出来るの。
あなたは私を信じてくれる。だから信頼できるし、それに全力で応えたい」
「でも、美緒が私以外の人を好きになることもある。正直淋しいわ。でも、彼女がそれを望むなら、私は黙って見守る……多分、
美緒には初恋なの。初恋が実るかどうかは解らないけれど、一つだけ解ることがある。相手が真剣なら、邪魔はしちゃ駄目だって。
美緒も真剣に悩んでいる。だからこの恋が実らなくても、彼女の未来には大事なことなの。彼女が決めることだから手出しが
出来ない。それは残念だけれど、彼女がそれを決める。私達は少し離れたところで黙って見守るしか無い。もし彼女が傷ついて
一人震えるようなことになったら、私達二人が中心になって美緒を抱き締めて暖めてあげましょう。大事な姉妹ですもの」
「わたくしには……正直解り……解りたくありません! ずっと坂本様のお側にいたい、それだけを願って!」
「あなたがそう望むなら、それは可能よ。でも、あなたが美緒の側にいる人を選別することは出来ないの。美緒が側にいて欲しい
と望む相手だけが、美緒とともにこれからを過ごすことが出来る」
「でも……でも……」
 声に出さないよう必死に耐えているペリーヌの目から、涙が堰を切ったように滴り始めた。震える細い肩をミーナが抱きしめ、背中を繰り返し擦る。

91 :創る名無しに見る名無し:2012/12/20(木) 23:41:52.96 ID:Jqeh1O1C.net
C

92 :SC45 助かります:2012/12/20(木) 23:46:01.14 ID:ApxlnV37.net
「あのね、私もある男性に惹かれているの。相手の人は気付いていない。それでいいの。両思いになったらその時は嬉しいと思う
だろうけれど、後で苦しいこともあるでしょう……片思いでいいの……そんな私だから、美緒の恋を見守っていたいの」
「隊長の思い人はグランド少佐、でしょう?」
 抱きしめられたペリーヌが呟いた。一瞬ミーナが背中を強張らせ、すぐに力を緩める。
「気付いていたのね……ええ、あの人よ」
 必死に堪えていたペリーヌの泣き声が徐々に大きくなる。大きく震える身体をミーナは黙って抱きしめた。彼女の目にも涙が溢れる。
 シャワールーム前で立っていたシャーリーとルッキーニが目を見合わせて頷き合う。黙って左右に散った。少し離れた場所で
立ち止まる。隊長達がでてくるまで誰も通さない。


「艦長?」
「ん?」
「そろそろ、浮上航走の時間です」
「そうだったな。私は後ろで見ている。副長が指揮を執れ」
「アイ、サー! 潜望鏡深度へ!」
 急に慌ただしくなった発令所。後ろに置かれた海図台/射撃方位プロット板に寄りかかった艦長は静かに溜息をついた。制帽を
とり、頭をかきむしる。疲れた。そろそろ、大きな失敗をする前に退役する頃合いじゃないのか。自分の集中力と勘に自信が持てなく
なってきた。潜水艦の艦長は決して失敗を許されない。部下を失う訳にはいかない。部下も彼女達も! 彼女達は決して失うことの
出来ない重要な人々だ。その一人は特に。必ず陸に無事に届けなければならない。
 でも、その時はお別れだ。否、お別れが無事に出来るならそれは幸せなことだ。水死体になった彼女の姿など見たくない! 
でも、陸に戻れば彼女達は戦場に戻る。彼女達に頼らねばならない現実を呪った。急に胃が痛み始めた。目立たないように腹部を
押さえる。コーヒーを飲み過ぎたか? でも、軍医が制酸剤を無理矢理飲ませてくれている。おかしい。なに、すぐに痛みは消える
だろう。我慢だ。汗は出しても声は出すな。艦長は毅然としていなくてはだめだ。部下に不安を与えてはだめだ。しっかりしろ、痛み
は生きている証だ。しっかりしろ!

93 :SC46:2012/12/20(木) 23:56:36.64 ID:ApxlnV37.net
 艦の後部で轟音が轟くのと同時に、ハッチから新鮮な空気がなだれ込む。コートを取ろうと振り向いた副長は、海図台の基部に
凭れるようにしている艦長をみた。寝ちまったよと一瞬思ったが、シャツの胸が赤く染まっているのに気付いて肝が冷えた。
艦内インターカムに飛びつき、夢中でスピーカー兼マイクに怒鳴り込む。
「軍医、至急発令所へ! 艦長が倒れた、急げ!」
 発令所要員も艦長に気付いた。手空きのものが走りより、艦長をそっと床に横たえた。真っ先に走り込んできたミーナ中佐が屈み込み、
すぐにシャツの首元とズボンのベルトを緩める。続いて飛び込んできた軍医がミーナを押しのけた。通路に収納された担架を持って来る
ように指示が飛ぶ。血に染まった両手にも気付かず、祈るような格好で艦長を案じる中佐に誰も声を掛けられない。
 運ばれていく担架を唇をかみしめた副長が見送った。呆然としていたミーナの肩に手を掛けて真っ正面から覗き込む。蒼白な彼女の
目に脅えが見えた。
「中佐、私は指揮を執らなくてはならない。艦長を頼みます!」
 いいざまに彼女の身体の向きを変え、医務室に押しやった。つんのめった彼女がすぐに自分で走り出す。それを見届けること無く副長は
ラッタルに飛びつき、罵りながら駆け上った。艦を揺らしてはだめだ。でも、最低限の充電と蓄気をしなくては!


 艦長がうっすらと目を開けた。彼を覆っていた青白い光輝が萎んで消える。
額に汗を浮かべた芳佳が一瞬よろめいた。素早くリーネが支える。
「宮藤さん、ご苦労様。部屋で休んで……」
 何か言おうとした芳佳の唇に人差し指を当ててミーナが首を横に振る。
「とうにあなたの限界は超えていたわ。だから今は休んで……有り難うね」
 ミーナの後ろから歩み出たバルクホルンが芳佳を横抱きにした。ミーナに頷き、部屋を出る。リーネも後を追った。
「艦長、聞こえますか?」
 目を瞬いた艦長が頷くが、見下ろすミーナの顔を不思議そうに見詰めた。混乱しているようだ。
「おい、死に損ない。聞こえているはずだ。医者として言うぞ。休養が必要だ」
 制服の上に白衣を羽織った軍医が乱暴な口調で告げる。一瞬後、艦長の目がかっと見開かれた。
「駄目だ。帰港するまでは――」
 どこか舌足らずな返事に軍医がせせら笑った。
「アホ抜かせ! 言い張るなら海軍規則に則ってお前の指揮権を剥奪する。軍医の俺には、それを宣言する資格があるんだぞ?
大人しく養生して任務に戻るか、それとも海兵隊員の監視が付いた方がいいか。さ、選べ!」

94 :SC47:2012/12/21(金) 00:06:25.53 ID:YftXON4C.net
 ミーナが艦長の胸に手を当てて首を横に振る。
「胃潰瘍ですって。無理をしては駄目です。あなたは指揮官です。責任がある。無理をして判断を誤ったら、乗員の命でそれを贖う
ことになるのですよ。私も軍医の意見に賛成です」
「……解りました。おい、藪医者。一日で治せ」
「たわけ! これが何か解るか? あ?」
 鼻で笑った軍医は、スタンドに吊られたパックを指さした。輸血パックが連結してぶら下がっている。
「どれだけ出血したと思っているんだ。最低二日は動いちゃ駄目だ。宮藤軍曹のおかげで出血は止まった。でも、無理をしたら治療が
無駄になる。いいか、不調を隠していた馬鹿者のせいで大事になったんだ。誰が悪い? お・ま・え・だ! ここから出て行けないよう、
鎮静剤もぶち込んでいる。諦めが付いたか、くたばり損い」
「くそったれ。戻ったらケツを蹴っ飛ばして追い出してやる」
「けっ。とりあえず、艦の風紀を守る為にだな」
 軍医が輸血パックから分岐した白い液体が入ったガラス瓶に手を伸ばす。点滴間隔調整具を弄った。滴の間隔が短くなる。
「海軍士官が暴言を吐くのは見過ごせねえ。薬漬けにしてやらあ。騒げるものなら騒いでみろ」
 薬の効能はすぐに判明した。罵りまくっていた艦長がうつらうつらし始める。溜息をついた軍医がミーナの肩を叩く。
「中佐。職務上聞くんだが、この馬鹿のことはどう思うかね。好きかな」
「え? ええと……あの」
 不意を突かれたミーナが言いよどんだ。微笑んだ軍医がミーナにいう。ストレスが原因なので、目を覚ましているときはそれから
気を逸らして貰いたい。でも仕事馬鹿なので、インターカムを切ることも出来ない。なので、側にいて雑談しながらストレスを発散
してやって欲しい、と。
「ええ、解りま――」
 ミーナの返事をサイレンが遮った。ディーゼルノイズを凌いで怒号が飛び交う。緊急潜行だね、と軍医が呟いた。ディーゼルの
轟音が止むのと同時に風が止まった。艦が急激に傾く。
 慌てたミーナが軍医を見るが、彼は平静そのものだ。鈍感なのか、と呆れたミーナが手首を強く握られて艦長を見た。薬の効果
を義務意識が押さえ込んだようだ。
「状況を」
 頷いたミーナが手をふりほどき、発令所に走った。ずぶ濡れになったサーニャ達に出くわす。てきぱきと報告が為される。中型の
ネウロイを探知。その直後、ネウロイが進路をこのシーキャットに向けた、と。謝意を述べ、着替えるように二人に促す。二人の先に
立って医務室へ走った。

95 :SC48:2012/12/21(金) 00:19:35.66 ID:YftXON4C.net
「空襲警報です。中型ネウロイ一機を探知、当艦に接近中。周辺に艦船や航空機無し。目標は我々でしょう」
「ネウロイか。連中の武装は?」
「我々には大口径のビーム兵器で対抗してきます」
「……君達はスクリーンというか、バリアみたいな物でそれを遮るんだよな」
「ええ、シールドです。でも、艦内ではそれは使えないの!」
「だろうね……熱性か、それとも分子破壊的なものか、解る?」
「高熱を感じるわ。海面にビームが当たると水蒸気爆発を起こすし。でも、シールドで食い止めるとショックも受ける。分子を破壊する
ものなら、海面に穴が空くだけよね?」
 考え込んだ艦長が、インターカムに手を伸ばした。ミーナがそれに先んじる。発令所を呼んだ。
「副長、敵の攻撃手段は、収束されたインパルス熱線兵器だと思う。艦を深度七百五十フィートに。下げ舵及び速度最大。繰り返す、
三十ノットだ」
『え? あの艦ち――』
「軍機なんぞ無視してぶっ飛ばせ。彼女達は仲間だ。最大深度となったら速度そのままでZ字運動開始。変針タイミングはずらして
読まれるなよ。同時に海水の温度をワッチしろ。なお、上昇水流が出来る可能性が大。深度の維持を最優先し、温度が上がったら
教えてくれ。回避指示を出す」
 艦長の話す間に、急激に床が傾いた。軍医とミーナが二人がかりで艦長が転げ落ちないように支える。意識は別として、身体に力が入らないようだ。
『アイ、サー。命令を遂行中。あの、よろしければ理由を教えて貰えますか』
「収束ビームであるからには、高密度対象を通過すれば減衰する。大気よりも海水のほうが密度が高い。だから、深度を取れば
取るほどビームは威力を急激に失う。最大深度でビームに炙られても、その威力は激減するはずだ。ならば最大速度で航行した
ほうが艦体へのダメージも少なくなるだろう。推測ばかりだが、物理的に間違いじゃ無いはずだが、アメージングストーリーの
ネタパクリなのが正直なところだ。間違いだったらあの世で詫びる」
『なる程。そういうことですか。敵機、推定到着時刻を十秒経過。現在深度六百を通過。オーバー予防に速度と角度を下げます。
速度二十ノットに減、当て舵プラス!』
『アイアイ』
 ギシッと艦体が軋む。現在百八十メートル。目標深度は……二百二十? 暗算したミーナの背筋が寒くなった。でも、抱き留めて
いる艦長は心配していない。だから大丈夫。大丈夫。
『副長、おかしいです。沈降率が安定しません!』
 傾きが水平に近づいた。艦長の身体に抱きつくようにして押さえていたミーナがほっとする。ほら、大丈夫よ。でももう一寸押さえて
いよう。その方が私は怖くない。

96 :創る名無しに見る名無し:2012/12/21(金) 00:19:43.70 ID:/K2l9S2u.net
C

97 :SC49:2012/12/21(金) 00:31:09.56 ID:YftXON4C.net
「副長、上昇水流だ。ビーム兵器で海中が煮えたぎっているんだ。下げ舵を当てて安定させろ。多少深度がオーバーしても大丈夫だ。
設計チームは必ず安全マージンを見込むからな」
『アイ、サー。茹でられるのも真っ平です。魚には気の毒ですな』
「茹でた鱈は生臭くて苦手だよ、Z字運動中止。速度そのままで取り舵にて円運動開始。熱湯を盾にしろ。この海域を離れるな」
 茹で鱈ね……お母様もよく作って下さった。私が最初に覚えた魚料理。でもケリーは嫌いなのか。あ、でも生臭さは消せるわよ。
私が作ったら食べてくれるかしら。
『アイ、艦長。私は茹で鱈好物ですよ。探知されませんかね』
 あなたは美緒に作って貰いなさい。仲直りできるといいけど。
「さあな。磁気探知か温度探知か、はたまた質量探知か。光線兵器を使う連中だ、重力波異常でも検知しているかもな。まあ、
煮えたぎった海面が邪魔してくれることを祈ろう」
『敵も永遠に飛べるわけも無いでしょうし』
「まさかと思うが。ソナー手、海面に注意。万が一激突音がしたら副長に知らせろ。副長、その時は尻に帆を掛けて逃げちまえ。
しつこい相手は袖にするに限る」
『ああ、だから出航直前にダッシュで艦に逃げ込むんだ。って、艦長は全然もてないじゃ無いですか! 嘘はいけませんよ』
 大勢が爆笑する声がインターカムから流れ出した。ミーナも笑う。やられた、と気付いた。一連の会話は乗組員の負担を減らす
為の心理戦だったんだ。腹を抱えて笑っていた軍医が、コーヒー飲んでくると言って出て行った。
「藪医者が。サボってばかりだ」
 ミーナが苦笑した。結構口が悪いんですね、と言われた艦長も弱々しく笑う。
「男所帯ですから勘弁して下さい。ああ、中佐。リトビャク中尉達によろしく伝えて下さい。助かりました」
「はい、必ず」
「一つ質問していいかな」
「一つと言わず、なんでも……」
 ミーナの囁くような答えに、血の気を失っていた艦長の顔色が若干よくなった。彼女がじっと待つ。
「中尉が言っていた『尻尾も大丈夫』という意味がよく解らないんだ。失礼なことをしてしまったのかな」
 ああ、と微笑んだミーナが立ち上がる。見て、と呟いた彼女を燐光が包んだ。耳が現れる。続いて長ズボンのベルトを緩め、後ろ
をずらす。尻の直上から尻尾が滑らかに飛び出した。変ですよね、と囁くと耳と尻尾も動いた。恥ずかしげに艦長を見る。
「……とても可愛いし、とても綺麗だ」
 艦長の呟きを聞いたミーナが固まった。首から上が真っ赤に染まる。暫くして目を開いた彼女が微笑んだ。ベッドの端に腰掛け、寝込んだ艦長の汗をハンカチでそっと押さえる。
 報告しようとやってきたペリーヌがビタリと足を止めた。微かな歌声が聞こえる。グノーのアヴェマリア……。

98 :SC50 感謝:2012/12/21(金) 00:39:31.82 ID:YftXON4C.net
「艦長、無線復旧できません。非常用無線機から移植した電源部も死にました。どうにも……」
 潜望鏡から離れた艦長が、帽子を直しながら毒づいた。連続勤務の禁止を条件に医務室からの脱走を遂げた。
「拙いな、そりゃ」
「艦長、ウィッチーズのインカムを使わせてもらっては?」
「バッテリー切れだそうだ。分解も出来ない。駄目だな。目的地を前にしているのに、さて、どうしたものか」
「ハイドロフォンには遠すぎますし。あの連中、どうします?」
 副長の言うあの連中とは、港の沖で遊弋している警戒艦隊の一群だ。至近にいるのに連絡の手段が無い。潜行したままで通過
することは認められていないし、すぐに浅瀬となる。
「撃沈しちまう……わけにもいかないか」
「……艦長、やけくそっておられませんか?」
「上官を侮辱するのかね、コー?」
 ササッと一歩退いた副長は、静かに命令を待った。考え込む艦長の瞼は微かに痙攣している。いくら神経が太い艦長でもな、と
内心で溜息をついた。指揮官としての重責、間もなくいなくなってしまう愛しの中佐さん。ダブルの重圧。きっと彼女に未練がましい
と思われたくなくて、でも未練があるから……この人も人の子なんだ。俺も人のことは言えないけれど。結局ミオと関係改善は――
手紙書いてみようか。言葉よりその方がよかったのかも。
「浮上後速やかに警戒艦隊に発光信号、そして入港だ。真っ昼間に寝ぼけている見張りはいないさ。ウィッチを降ろして、さっさと
次の任務に就こう。上昇率一フィート毎秒にて浮上開始」
「アイアイ、浮上開始! メインタンク、ブロー! 塩分濃度が低いぞ、トリムに気をつけろ!」
 浮上後、オーティス発光信号機に手を伸ばしたのが先か、はたまた警戒艦隊のコルベットが放った砲弾が至近で炸裂したのが
先か。いや、発砲に気付かなかったのだから、奴等の手の方が早かったと言うことだ。カーティス副長は頭から飛沫を浴びて
ずぶぬれになった。続けざまに挟撃される。やばい、距離を掴まれた。
「撃たれています!!」
「緊急潜行!! 全速前進下げ舵一杯! くそったれ共が!」
 ラッタルから海水が百リットル単位で雪崩れ込んだ。サイレンがようやくやむ。
「艦隊の馬鹿たれ! ボンクラの戦闘童貞共! ハイドロフォン用意! ボンクラをシバキ上げてやる! 各部、被害報告!
舵水平と為せ!面舵一杯、回頭後全速!」
 怒り狂った艦長の言葉に、素直に頷いた兵曹長がボタンを押し込んだ。しばらくたって、真っ青な顔で振り向く。
「艦長! ハイドロフォン故障!」

99 :SC51:2012/12/21(金) 00:50:16.07 ID:YftXON4C.net
 一瞬唖然とした艦長と副長は、周囲で轟きだした爆雷の衝撃で転んだ。司令塔要員も椅子に座っていたものも含めて床に突っ伏す。
周囲に剥げたペンキの破片が雪のように舞い散り、照明が消える。一瞬置いて、非常照明が引き攣った一同の顔を照らし出した。
操舵手が慌ててハーネスを締めて椅子に身体を固定する。

「底なしの馬鹿野郎共が! 海中にネウロイがいた前例があるか! 現在位置の水深知らせ!」
「浅瀬です! 海底まで三百フィート! 現在深度二百二十!」
 罵り声が艦長の唇から飛び出した。シーキャットの性能で逃げることが出来ないという事だ。前回より強い衝撃が真下から襲った。
皆、天井近くに放り上げられ、次の瞬間床にたたきつけられる。悲鳴と苦痛の叫びが沸く。航海長の足が折れた。損害報告の合間
を縫って、軍医を呼ぶ声が響く。
 爆雷攻撃が始まって三十分が過ぎた。コルベットは一向に攻撃を止めない。海中をのたうち回るように回避機動を続けている
シーキャットは水漏れするぼろ樽になっていた。蓄電池室に漏水被害が出、バイパス回路で対処しているが残存電力が三割を切った
ことが最大被害だ。蓄気タンクもいつまで持つか。
「深度百に!」
「浅すぎませんか、艦長!」
「深く潜ると思い込むさ! 敵も爆雷でソナーは使えない。百フィート! 急げ!」
「アイアイ!」
 続けざまの猛烈な爆発に艦体が軋む。漏水箇所を補修する要員は大童だ。唇をかみしめた艦長が問うた。
「ソナー、敵艦は四隻だったな?」
「アイ、艦長! 四隻です!」
「現在も測的できるか?」
「はい、スクリューと機関音がばかでかいですから!」
「雷撃測的開始せよ! 砲雷長、プロット開始!」
 司令塔にいる全員の視線が艦長に向いた。ミーナそして坂本達の顔もある。皆、真っ青だ。微かに震える声のやりとりがソナー手と
砲雷長の間で交わされる。
「魚雷室へ、イチからヨン番まで魚雷装填用意! 調定、速度最大、常時直進。雷走深度設定無し。信管調定、接触起爆。艦首を
限界一杯にあげて発射する。各員、備えよ」
 誰もが沈黙した。遠ざかった爆雷の破裂音だけが艦体を叩く。ややあって、副長の引き攣った声が響いた。
「艦長! 奴等はくそったれですが友軍ですよ!」
「ウィッチを傷つける奴は敵だ! 責任は私が取る! どうせ連中は全速航走だ。狙って撃った方があたらない。当たったら仕方が無い! 装填、急げ!」

100 :SC52:2012/12/21(金) 01:00:38.05 ID:YftXON4C.net
 応答が返った。爆雷の切れ間ない炸裂音と頭上を疾駆するコルベットの轟轟たるスクリュー音が耳朶を打つ。
「ソナー、連中の航跡から攻撃パターンを推測しろ。データーを私に!」
「アイ! 現在四時方向から接近中。数は二。挟撃するコースです。クローバーリーフでしょう!」
「取り舵六十! ソナー、敵進路が六時となったら教えよ。魚雷調定まだか!」
「調定ヨシ、魚雷四本装填完了!」
 ヘッドフォンを装着した副長が振り向きざまに報告した。顔色が悪い。
「発射管扉、開け!」
「……開きます」
「コン、ソナー! 六時! 直上まで四分!」
「舵戻せ!」
「アイ! 直進、ヨーソロー!」
「総員傾聴。こちら艦長。これより、垂直状態となって魚雷を発射する。総員、確り何かに掴まれ。連中は自分が攻撃している相手が
何者か気づくはずだ! 緊急浮上がその後に続く」
「ケリー、止めて! 相手は味方よ!」
 脅えた囁きが静寂を貫いた。どうにかこうにか発令所に辿り着いた一団の代表者だ。上陸に備えて制服を着ている。
振り向きもせずに艦長が吐き捨てた。
「君達を殺そうとする相手は、誰であろうと敵だ! 部屋に戻れ!」
「駄目! 止めて! 何か手段はあるはずよ!」
 艦長の右腕を握ったミーナが懇願する。渋々の態で艦長が脇を見た。赤い非常灯に照らされた二人の視線が絡み合う。
ゆっくりと艦長の首が振られた。
「時間が無い!」
 腕を振り払われたミーナが呆然と立ち尽くした。泣きそうな顔で頭を振る。
「艦長。連中、私達を新型のネウロイだと思い込んでいるんだよナ?」
 割り込んだ独特のイントネーションの持ち主を、艦長の鋭い視線が捉えた。
「占うまでも無いな、ユーティライネン少尉!」
「ニンゲンだと解ったら?」
「止めるだろうさ、だから魚雷で馬鹿連中の間抜けケツを蹴飛ばす。当たらなくていい。海上に飛び出した魚雷を見りゃ、幾ら連中が
救いようのない馬鹿でも理解出来るだろう。馬鹿相手だから確約は出来ないが」
「でも、命中したら被害が出るわ」

101 :SC53:2012/12/21(金) 01:09:31.70 ID:YftXON4C.net
「びびりまくって血迷った馬鹿相手に何が出来る? 識別の手間すら惜しんでぶっ放した腰抜けが相手なんだ。時間が無い。
中佐、君達の命が最重要だ。次は乗員の命だ。それさえ叶うなら、銃殺だろうが絞首刑だろうが喜んで責任をとる!」
「魚雷発射管、何本あるんダ?」
「六だ! 興味があるなら海軍に入り直せ!」
「じゃあサ、二本使わせてヨ。空いているならイイだロ?」
 グランドとユーティライネンの目線が激しく絡まった。どちらも譲らない。ミーナの震える声が割って入った。
「ケリー、私からもお願い。エイラさんの言う事、聞いて。お願い……」
 グランドの眼がミーナを見つめた。グランドの傍に近寄ったミーナが、そっと艦長の左手に右手を絡めた。何か囁きかけるが、
爆雷の轟音で周囲には聞こえなかった。艦長は顔を背けて状況盤の点滅を睨みつけている。ややあって頷いた。
「何をする気だ? 君が魚雷の代わりに収まって潜水して、なんてのは駄目だぞ。爆雷の衝撃波でゼリーになっちまう!」
「ある物を打ち出して欲しいんダ。それを見れば攻撃が止むヨ。それだけインパクトがある物を使うかラ!」
「廃油とか廃材なんてのはおとぎ話だ。連中、ぶるっちまってるからな。とどめを刺そうと集中攻撃掛けるのが落ちだ」
「うん、解っているヨ! なあ、頼むっテ!」
「ソナー、直上まで何分だ?」
「アイ、二分です!」
「ユーティライネン少尉、許可する。測的を続行し、射撃板へのプロット続けよ!」
 パッと笑みを浮かべたユーティライネン少尉が、ミーナとバルクホルン大尉そしてイェーガー大尉を引っ張って艦首に走り始めた。
首を傾げた坂本少佐達が残される。
「爆雷、着水!」
「艦長、何をするのか、聞いて解りましたか? 私にはさっぱりです」
「わからん! ……でも、中佐の言う事を信じたい。貴様も少佐の言葉を信じたいだろう? 違うか――」
 爆雷が至近ではじけた。皆床にたたきつけられ、天井から防音剤のコルクが粉となって舞い散った。非常用の赤灯が点滅する。
もがくように立ち上がった坂本が、副長をじっと見つめた。ややあって眼帯を外す。両目でまじまじと副長を見つめ、微笑んだ。
「艦長、副長。きっと大丈夫だ。私達を信じろ……」
 副長が坂本を見つめた。ややあって頷く。艦長も頷いた。
「解ったよ、少佐。ただし、用意はしないとな。ソナー?」
「アイ! 次の二隻、後方で旋回中。今回と同じでしょう。予想攻撃時間、六分後」
「了解、各、待機」
『艦長、魚雷室。五番、六番用意よし!』

102 :SC54:2012/12/21(金) 01:22:04.96 ID:YftXON4C.net
「五番六番、用意」
 砲雷長が手を添えたコンソールを、チラリと艦長がみた。五と六に指が当てられている。頷くと引き攣った笑みが戻った。
「同発、放射開始!」
「五六放射!」
 圧縮空気が一度に放出され、乗組員の鼓膜に圧力が掛かった。
「発射扉閉鎖! 発射管点検開始! イチからヨン、スタンバイ!!」
「ユーティライネン少尉、こちら艦長。何を撃った?」
『人間の証ダヨ、艦長!』
『ミーナです。危険はありません。棚を一つ使わせて貰いました。それと……後で説明します』
「浮き上がる、ということで考えればいいのか?」
『ウン。だから一寸待ってヨ。海面に浮いたら、あんぽんたんにも解るサ。だって私らの――』
『ちょっと、エイラさん!!』
 ユーティライネン少尉のぶっきらぼうな声、そして焦り気味な中佐の声がスピーカーから流れた。それを聞いた艦内に引き攣った
笑いが沸く。発令所要員から横目で見られた艦長が鼻を鳴らした。
「なにをやらかしたやら。となると、この位置から離れたら駄目だな。副長、木材の自由浮上速度、知っているか?」
「習った覚えがありませんよ。二フィート毎秒程度でしょうか。あ、抵抗がなければもっと早いかな?」
「何を出したのやら」

 前部からミーナ達が戻ってきた。恥ずかしそうにシャツの裾と胸元を押さえる彼女達だが、艦長と副長以外は頭上の脅威に気を
取られて、全く気付かない。ミーナが艦長の耳に何事か囁いた。愕然とした艦長が慌ててジャケットを脱ぎ、彼女に羽織らせる。
バルクホルンから耳打ちされた坂本も慌てて副長の袖を引っ張った。
「艦長、コルベットの推力、絞られました…………爆雷着水!」
「了解! 速度最大、取り舵一杯!……推進器、停止用意! 推進器停止と同時にアップトリム、深度80フィートに向けて面舵
一杯とせよ! 副長、トリム任せる! 推進器停止! 舵とれ! 総員、確り掴まれ!」
「アイ! 面舵及びアップ中!」
 行き詰る数瞬の後、下からの突き上げを喰らった皆が宙を舞う。しがみ付いたミーナを抱きしめた艦長は、背中を強打して身体を
捩った。腕の中の彼女を見るが、彼女は震えてしがみついている。めくれ上がったジャケットとシャツの隙間から、照明に染められた
臀部が見えた。慌てて隠した。それに気付いたのか、ミーナが目を開けて覗き込む。細い彼女の体を思い切り抱きしめ、囁いた。

103 :SC55:2012/12/21(金) 01:34:09.83 ID:YftXON4C.net
「深度80! 傾斜率プラス50超えました! あ! 大丈夫ですか、艦長!」
「深度保て! アップ最大! 魚雷発射用意にて待機! ソナー、アクティブソナーをモールスで打て。文面は任せた!」
 背中の海図台に手を突いて身体を起こそうとしたが、走った激痛に身動きがとれなくなった。喘ぐ。気付いたミーナが血相を変えた。
叫ぼうとするのを目で制し、口を手で覆った。頭を振って黙らせる。
「ソナー、確認は?」
 普段と変わらぬ声を張り上げた艦長を心配げにミーナが見る。その頬を撫でて笑って見せた。
「アイ、余熱中。最大出力でやります! 開始!」

 洋上で円を描きながら爆雷を投射していたコルベットの艦橋で、見張りが叫び声を上げた。
「右舷、水泡とともに浮遊物。数、三から五! 白、赤それに……なんだ、ありゃ?」
「浮遊物だと? やったか? 爆雷投射中止! 浮遊物を回収せよ!」
 命令が伝達される前に、重々しいとどろきが艦尾で起きる。爆雷投射機の音だ。
「アイアイ!」
 見張りがうさんくさげに水泡が浮き上がる海面を見詰めた。爆雷でかき回しまくった海面は泡と海水がわき上がり続けている。
確認する前にとどめを刺すべき何じゃ無いのか。俺は家に帰りたいんだ。
「艦長! 浮遊物ですが……そのぉー」
「報告は簡潔明瞭に!」
「木材と……ブラジャーとズボンであります、サー!」
「な! 兵器を安全に! 機関停止! ……えらいことをしちまった……」
 報告した中尉の顔色も蒼白だ。
「ソナーよりブリッジ。モールスを聴信しました。読み上げます。『ど阿呆共に告ぐ まる 俺達の天使を殺そうとしやがったな まる
動いたら魚雷で貴様等のケツを地獄まで吹っ飛ばす まる ビリ動きもするな』 署名はUSL387ソナー担当、以上です!」
「ソナー、同様に返答してくれ。文面、済まなかった、と……署名は本官だ」
 ブリッジに沈黙が流れた。皆消沈している。
「今までそれに気付かなかったとは……しくじった」
「爆雷をたたき込み続けていましたから、ソナー手は責められません」
「私の責任だ……副長、指揮を執れ。公式記録に私の過ちを明記してくれ」

104 :SC56:2012/12/21(金) 01:43:52.87 ID:YftXON4C.net
 少尉がブリッジの窓から外を眺めた。俺が最初に見つけた。海面に浮上する物体アリ、と俺は叫んだよな。俺にも責任あるのかな……
誰がネウロイだと断定したのか……思い出せない。
 物思いにふける少尉の眼前に潜水艦が浮上してきた。艦体がぼこぼこにへこんだ潜水艦をまじまじと見る。こんな潜水艦、初めて見た。
潜水艦って、両手を合わせたような艦首なのに……全体が丸い。水滴型なのか。でも、ちゃんと艦橋は付いているし、そこに白文字で
書かれた識別番号もはっきり見える。なんで最初にそれが見えなかったんだろう。なぜ……
「発光信号! 読みます。『重傷含む負傷者多数 まる 最優先にて入港を求む まる 救護班待機されたし』以上。応答は?」
 ネウロイと戦う為に軍に入ったのに……味方撃ちしちまった……

***********

「グランド少佐、傷も癒えていないのに済まない。規定なので我慢してくれ」
 言葉とは裏腹に、面倒くさいという内心の思いが提督連中の面に浮かんでいるのは馬鹿でも解る。面倒なら、車椅子に載せられた男を
呼び出さなければ済むことだ。呼んだなら給料分の仕事をしろ。美人まで役得で揃えやがって。左程の美人で無いからいいというわけでも無いぞ。
「いえ、義務ですから」
「結構。辛くなったら言ってくれよ。マイクを用意した。小声で構わんからな。では、五〇一統合戦闘団を救助した時点から確認させてくれ。頼む」
 録音して、死刑台に送る男が騒げないようにしたいんだろ。
「はい。ウィッチをスオスムに送り届けた帰路でした。部外者もいなくなったことから、ルーティンテストを目的として、遠回りして主要航路から
外れた海域を選択しました。潜行中、ソナーが前方海域で生じた爆発音を探知。それを探る為に最大潜行速度で――」
 あの日、あの海域に居てよかった。そう、海軍から追放されても、それは断言できる。もうあの人に会えない事は淋しいけれど、これからも
彼女は生きている。それでいい。笑ってくれるなら最高じゃ無いか。
「ルーティンテストについてはどのように対処したのかね」
「艦体の強度テストが主体となりました。出航前に提出した報告書に詳細を記しましたが、補修作業で正規部品の入手に困難を来した為、
臨機応変に対処しました。それ故、一部機器はテストする意味を失いましたので。ただし、潜行、水中航走、浮上についてはオリジナルと
違う部分がありませんので、その点についてのテストとなりました」
 提督共が揃って笑う。何所まで調べた?
「かなり面白い改修作業だったようだね。在ブリタニア補給部から、行方不明になった物品のリストが山のように届いた。握りつぶしたから
心配無用。頑張ってくれた乗組員一同に礼を言うよ。有り難う」
 これが曲者なんだ。こういう甘言の後にナイフが抜かれる。
「義務を果たしただけであります」

105 :SC57:2012/12/21(金) 01:52:42.30 ID:YftXON4C.net
「質問だ。航海中ネウロイから空襲を受けた。覚えているね? 君はその時、軍機を五〇一の隊員に明かしてしまったようだが」
 ほら来た。
「はい。最大潜水深度および水中速力。それを明言しました。認めます」
「必要があったのかね」
「当時、私は医務室におりました。胃潰瘍で倒れたのです。意識が戻ったとき、空襲を受けました。必要と判断し、医務室から指揮
を執りましたが、その時に五〇一隊員が横に居ました。鎮静剤を投与されておりましたので、頭はともかく身体が動かせません。
時間、目的、義務を勘案した結果、最良と判断してインターカムにより指示を出しました」
「ふむ。速度そして深度の指示は言葉にしなくては伝わらないからね。五〇一隊員を部屋から出すという選択肢は?」
「インターカムは全艦放送としていました。指示を瞬時に聞き取り、その上で乗員が復唱を聞いて確認する。これが一番確実で
迅速だからです。同室していた隊員が指揮官であったというのも、その時の判断に影響したと思います」
「なるほど。副長は君が『仲間だからいい』というニュアンスのことを言ったと証言していたが」
「撃沈されれば、ともに戦死です。戦友です」
 専ら質問していた提督が副官に手を振った。回っていたオープンリールが停止する。
「公式記録に残したくないのでな。君はその指揮官に私的な思いを持っているのかね」
「私的な、といいますと?」
「仲間や戦友以上の気持ちだ。つまり惚――」
「軍務に関係の無い私的な事は、コメントを拒否します」
 おい、なにジジイが顔見合わせて笑ってるんだ。
「拒否、か。命令することも出来るんだよ、少佐」
「受命するまえにこの場で職を辞します。逮捕して下さい」
 いいざまに右手で左肩の肩章を引き千切った。左手が利かないので、無理をして右肩のそれも右手で掴む。連邦刑務所決定、上等だ。
「待て。早まるな。済まなかった。ギース大尉、済まないが少佐の制服を縫ってくれ。この後もその格好では困る」
 テープレコーダーの番人がヒールの足音を立てて近寄り、微笑みながら問答無用でボタンを外す。なんなんだ。制服を抱えた彼女が
部屋から出て行った。部屋の隅で座っていた別の婦人将校が移動してレコーダーのスイッチを入れた。揃って美人を副官にしたものだ。
椅子に座って戦争か。けったくそ悪い。
「とある筋から頼まれたんだ。依頼する相手を間違えているよ。続けていいかな、少佐。では。最後の日だ。君は魚雷を発射しようとした。
意図はわかる。信管を不活性とせず、触発起爆と指示したね。その理由は?」
「激怒していたからです。血迷った馬鹿の攻撃能力を奪う必要がありました」
 ああ、順番を間違えた。もう、どうでもいい。

106 :SC58:2012/12/21(金) 02:02:50.84 ID:YftXON4C.net
「まあ、正当防衛だな。コルベットは本気で攻撃したのだ。十二分に逃げ回った挙げ句の選択だし。反撃する権利はあるだろう」
 今まで黙っていた一人が軽く言う。残り二人が彼に顔を寄せた。密談かよ。
「じゃあ、そういうことにしよう。少佐、休憩したまえ。次は二十分後。各国の代表も来る。機密に関することは証言を拒否してよい。
ということで頼むぞ」
 あっけにとられた俺をおいて、三人が席を立つ。椅子に座って見送るのは初めてだな、と思いついた。美女が一人戻ってきた。
テーブルにコーヒーカップをおいて微笑みかける。ああ、彼女と同じ目の色だな。元気にしているかな。
「頑張って下さいね、少佐」
「いや、本心から退役したいんだ。疲れた」
「いえ、それは……私達三人、少佐と副長を応援していますから」
「ええ、と?」
「事情は知っています。長く待つのは辛いと思いますが。頑張って」
 事情って何だ、と戸惑ったとき、ドアが開いた。俺のジャケットを抱えたさっきの副官だ。彼女を出迎えたコーヒー副官が、
ジャケット副官に何か囁いた。歩調を合わせ、微笑みを浮かべて俺に近づく。なんだ?
 何か言うのかと身構えたが、二人がかりでジャケットを着せたら帰っちまった。訳がわからん。

 各国代表査問委員は、お茶を濁して時間を潰すことに専念していた。ブリタニアの提督が公式に詫びを述べたのが最大の山場だ。
気にしていないと虚飾に満ちた言葉に満足しているんだから始末が悪い。人員に被害が出なければと言う前提で二三隻は沈めるべき
だったのかもしれないな。猫でも大事な人を護る為には虎になるんだぞ。
 待てよ。連中、先に副長と話をしたようだ。ならば、副長は坂本少佐への思いをぶちまけている可能性がある。軍機を漏らした件を
喋っちまったくらいだ。それについては気にしないが、上手く情報を引き出された可能性が。あのくそジジイ共が!
「何かお忘れ物でしょうか、少佐」
 俺が無理に振り向くものだから、椅子を押してくれていた初々しい少尉が足を止めた。
「いや、古狸に文句を言いたかっただけ。すまん」
 息を呑んだ少尉が、すぐに吹き出した。まあ、副長も元気らしい。入港直前に意識を失った俺は、それ以来誰にも会っていない。
事実上の軟禁病室暮らしだ。皆、大丈夫だろうか。少尉は思い出したかのように笑い続けている。その笑い声が脳内で別の笑い声と
笑顔に変換された。彼女は軟禁されたりしていないだろうな。俺達と違って、名前のしれた人だから大丈夫だろう。
「私、出入りした将官の一人を見て心臓がどきどきしたんですよ。ガランド少将。あの人に憧れて軍に入ったんです。私には
ウィッチ特性がありませんが、もしかしたらあの人に会えるかもって。夢が叶いました。国のお母様に手紙で知らせなくちゃ――」
 あの歌声は夢だったのかな……会いたい。

107 :SC59:2012/12/21(金) 02:08:43.59 ID:YftXON4C.net
 そっとカラー印刷されたページを撫でる。進水式の後か公試の際か、ともかく新品の時に写した写真。乗組員がきっちりと制服に
身を包み、艦上に整列している。ミーナが最後に見た艦体は、爆雷に叩かれて外皮が凹みめくれていた。目を凝らして制帽と
士官服に身を包んだ一人の顔を見詰める。
 各国が示し合わせて、誤射の件はうやむやにされた。それがばれる前に一割の真実が含まれた情報を政府筋から流した。公表
されていなかったこの写真とともに、五〇一隊救出の物語を大幅に盛って盛りまくっている。これで二週間近く鳴りを潜めていた
五〇一が置かれていた状況が周知される。そんな状況におかれていたのだから、出撃が途絶えていたのもしょうが無い、となることを
計算した奴がいる。危うく全員遭難死するところだったことも書かれていないし、爆雷マッサージがなければ四日早く復帰できたことも
書かれていない。嘘ばっかり、と呟いた。
「ありがとう、シャーリーさん。嬉しいわ」
「いいって。坂本少佐にも一冊渡すよ。皆で読む分も買ったから」
「気が利くのね」
「そりゃ、まあ。二人を見ていれば大体解ったしさ」
 頬を染めて目を雑誌に落としたミーナに、明るくシャーリーが笑いかけた。
「で、どうするの。なんなら、コネ使って少佐の居場所とか探すけど」
「今まで通りですよ」
「え?」
「今まで通り、男女交際厳禁。今はそれしかないの」
「そう……うん、解った。今は、だよね」
「ええ。私も坂本少佐も、やるべき事が今あるから」
「連絡を取る気になったら、私に言って。リベリオン海軍に伝があるんだ」
「ええ……覚えておくわね」
 部屋を出たシャーリーが頭をかきむしる。坂本少佐も! 石頭が三人も! その勢いに通路で待っていたルッキーニが目を瞬いた。
 長い間写真を見詰めていた彼女が静かに雑誌を閉じた。引き出しに丁寧にしまった。そっと人差し指で涙を拭う。

「私を撃つのか」
 冷静に問われた。脅えも焦りも……何も無い。私が美緒を愛していること、そして私が美緒の意思を尊重することを絶対として受け入れている言葉。

108 :SC60 紺屋はここまで:2012/12/21(金) 02:15:25.94 ID:YftXON4C.net
「ミーナには解って貰えるはずだ。ダニーも解ってくれる」
 照準が揺れた。戻ってきてから始めて、美緒の口から彼の名前を聞いた。私の願いはただ一つ。防備が出来ないなら、それを
甘受してウィラード大尉の元に向かって欲しいだけ。でも美緒はまだ戦うことを選んでいる。大尉は納得できるのだろうか。私には
出来ない。だから、決意として銃を向けたのに。美緒の考えていることが全く解らない。
「美緒、もう十分よ。彼の元に行きなさい」
「まだその時では無い。それに、彼もグランド少佐も……我々の側に居る」
 どういう意味、と問うまでも無かった。
「戦闘後、真下にいつも影が居た。あれは彼等だ。私も海軍だ。ある程度の知識はある。あんなシルエットの潜水艦はいないから……」
 拳銃を上げていられなくなった。全く気付いていなかった。そうだったの。すぐ側に居てくれたんだ。
「私は決して自棄になっているわけじゃない。今の私には、まだやるべき事がある。解って欲しい」
 小さく頷いた美緒がドアに向かう。閉める前に振り向いた。
「私は彼に手紙を書く。いや、遺書なんかじゃ無いぞ。未来を書く。ミーナもそうしろ」
 殆ど無音で閉まったドアを見詰める。拳銃の重みに耐えられず落とした。板張りの床に重い音が響く。その音が自分の愚行の程を
改めて実感させた。人に銃を向けた。大事な人に。私はとんでもないことを……
 どれだけそうしていただろう。月明かりが窓から差し込む角度がかなり変わっていた。疲れた。もう寝よう。頭が重い……。
 翌朝、私室のドアの下に差し込まれた封筒が一つ。腫れた瞼を無理に開いて中を見た。
 階段で歌うドレス姿の私。トゥルーデが焼いてくれたのだろう。それを持って執務室に入った。万年筆を握り、写真の裏に一言だけ
書いた。封筒にそっとしまう。彼の立場を考えると、封はしないほうがいい。万が一にも、あの人に迷惑は掛けられない。見られてもいい。

109 :SC61:2012/12/21(金) 06:44:23.62 ID:yWsuNebf.net
 ミーナが嗚咽を漏らした。新たな配属命令も暫くは来ない筈、と気楽に歓談していた皆が一斉に彼女を見る。ベネツィア解放の見出しが
第一面に躍る新聞を握りしめた彼女が、マラリアにかかったかのように震えている。
「どうした、ミーナ」
 坂本が声を掛ける。新聞を下ろしたミーナの目が坂本を見詰めた。わななく唇が開かれるが、嗚咽が漏れるだけだ。
「……ミーナ?」
「し……シーキャット……」
 声を絞り出した彼女の目から涙が滴る。突っ伏したミーナに皆が駆け寄った。坂本が新聞に手を伸ばすが、その手は虚空で停まった。
バルクホルンが震える手で潰れた新聞を開く。損失被害のページだ。リベリオン国籍の欄に目を走らせたバルクホルンの唇からうめき声が漏れた。
「USL387 シーキャ……救助中に被弾轟沈……艦長Kグラント少佐以下絶……そんな馬鹿な!」
 震え声の呟き。坂本が床にへたり込んだ。皆も放心する。手から離れた新聞が床で乾いた音を立てた。

 大事な人をまた奪われた。ネウロイが憎い。再会を熱望していたあの人に二度と逢えない。別の自分が泣き喚く。もう一人の自分は一つの
ことだけを悔やむ。こんな事になるなら、あの人と一緒にあの時死んだほうがましだった……。

「あ……なんか来た」
 ルッキーニの呟きは、窓を震わせる単発機のエンジン音を受けてのことだ。
「シュトルヒだ。命令書を運んできたんだろ。ほっとけよ」
 窓から覗いたシャーリーが投げやりに呟く。
 灯も付けない部屋で、何もせずに無言で膝をつき合わせる隊員達。殆どの隊員は何も気付いていなかった。それだけに受けたショックが
大きかった。数時間ぶりの会話が終わる。

 あの時一緒に死ねればよかったというのは間違い。皆を巻き込んでいい訳が無い。
 担架を見送ったあの時、苦しかった。でも、囁いてくれたあの言葉があった。たった一言。とても素敵で……重い一言。
 あの一言が私の未来になった。私とあの人の……
 でも、あの人は私を残して行ってしまった。
 もう耐えられない。
 独りぼっちは嫌。
 大事な仲間が今も側にいてくれる。未来を分かち合いたいのが仲間。未来を一緒にいたいと願うのはあの人。私はあの人と一緒にいたいと願う。

110 :SC62:2012/12/21(金) 06:58:04.20 ID:yWsuNebf.net
 あの人の思い出で生きていける? 無理。私はあの人の気持ちに飢えている。受け取りたいものが沢山あって……受け取って貰いたいものが
沢山あった。もう一寸我慢すればそれが満たされると思って耐えてきた。だから耐えられた。それが果たせない夢なら、もう……
 ネウロイを一体でも倒して死のう。憎い。憎い!
 私はそれでいい。でも仲間は私を信じて付いてくる……皆には未来がある。彼女達の未来を奪うことは出来ない。それは駄目。
 どうすればいいの。ケリー……あなたに逢いたい……
 そうだ。
 机の抽斗から取り出して眺める。
 宮藤さん、あなたの言った言葉を覚えていますか。護るだけじゃ無い。これが私の救い。
 引っ張った左手を離す。堅い金属音が心を落ち着かせてくれた。
 場所を確認する。持ち替えたそれを据え、左手を添えた。
 あなたに怒られてもいい。側に居たい。
 親指に力を込めた。一気に引き金の重さが消えた。

「ミーナ」
 ずっと聞けなかった声。でも決して忘れることも間違えることも無い声。
 振り向く。ドアから差し込む明かりを背にした人の影。顔は見えないけれど。
「ケリー……許してくれるのね……迎えに来てくれたのよね」
 逢いたかった。あなたに逢いたかった。
 彼を抱きしめたい。彼に両手を差し伸べた。抱きしめて欲しい。でも、身体が言うことを聞かない。床に倒れ込んだ。
 焦る。早くしないと彼が行ってしまう。言うことを聞かない身体。両手を突いて彼を目指す。銃はもう要らない。
 軽くなった右手を彼に差し伸べた。行かないで! あの人の影が霞む。いや!
 強く抱きしめられた。安堵する。間に合った。私も両手で抱き返す。頬と耳に垂れた熱い滴が首筋に伝った。ケリーも……。
「時間が掛かってごめん」
 ううん、もういいの。大丈夫。もう大丈夫。
「艦を取られて。皆移動したんだが……広報の記録、更新できなかったみたいで」
 お仲間とは一緒ではないのね。でも、私が居るから……
「嬉しいよ。新聞、昼前に気付いたんだ。慌ててここに電話をしたんだけれど、回線がパンクしていて」
 こっちに電話を? それは無理よ。

111 :SC63:2012/12/21(金) 07:13:37.81 ID:yWsuNebf.net
「待っていても埒があかないから、命令書を偽造して小型機で飛んできたんだ。心配させてごめん」
 神様の命令書を偽造してまで……ありがとう、ケリー。
「いいよ。重営倉だろうが不名誉除隊で軍刑務所だろうが。君が一番大事だから」
 え? 天国も戦っているの? あなたも戦うの?
「天国? ええと……」
 ケリー、あなたと一緒なら地獄でも構わないの。一緒ならそれでいいの。
「決めるのは神様だけど。ミーナと一緒なら何所でもいい」
 うん、そうよね。死んでよかった。あなたにやっと逢えたんだもの。
「え? ミーナ、誰が死んだって?」
 ケリーと私よ。私拳銃で……だからあなたとこうして再会出来て……。
「ミーナ、確りして。二人とも生きている。な?」
 温かい掌が私の頬を撫でる。私も彼の頬を触ってみる。ちくちくと髭の感触、暖かい……困ったような、でも嬉しそうな彼の笑顔。
逢えた喜びに安堵が重なる。私は何か失敗した。行き違いになるところだった。彼の顔が霞んで真っ暗になった。でも恐怖も
淋しさも無かった。
 横抱きにしたミーナをベッドに横たえ、毛布で覆ってくれた。頬に張り付いた髪の毛を優しく整えて。いい奴だ。
「少佐。ミーナは一体……」
「意識混濁かな。何時知った?」
「今朝九時頃でした」
「そうか……すまん」
 向き直った少佐が床から拳銃を取り上げた。素早く確認したそれを、私の掌に落とす。
「弾倉が無い……よかった」
 まじまじと拳銃を見た。顔が強張るのが自分でも解る。まさか、そんな!
「私を追おうとしたんだ」
 男が号泣するのを初めて見た。私も泣いた。

 グランドをミーナの私室に残したバルクホルンは、彼を案内してきたハルトマンと共に談話室に戻った。少しの間を置いてペリーヌと
宮藤も戻ってきた。ウィラード大尉も坂本に付き添っている。思い思いの位置でぐったりする。
 配置転換で三週前に殆どの乗員が入れ替わった。艦長と副長そして機関長の三人だけが引き継ぎで四日前まで新乗組員とともに
乗艦していたが、作戦前に降りていた。本来、リアルタイムで更新されるはずの乗員名簿が滞ったままだった。三週前からオブザーバー
になっていた旧艦長の名前で発表されたのだから、どうにも言い訳できない失態だ。

112 :SC64:2012/12/21(金) 07:29:51.50 ID:yWsuNebf.net
「撤退戦で混乱の極みというならまだしも。いい加減すぎだ、リベリアン」
「まるっと同意するよ。我が母国ながら呆れた。馬鹿すぎる」
「悲しむ人が二倍になったんですよ。許されませんわ!」
 全員が呼吸を合わせて大きく頷いた。旧乗員は全員生存。でも、新乗組員は死んだ。喜びたいのに喜べない。顔を知らない
から涙が出ないだけの話。
「ロマーニャ軍、大丈夫かな。うちも適当だから……あ、また何か来たよ。大型機だ」
「ユンカース五二の音だ。うちのだろ」
 誰も覗こうともしない。溜息をついたリーネがキッチンに立っただけだ。目を真っ赤にした宮藤とペリーヌも手伝いに立った。
ペリーヌと共にずっとドアの外に居たバルクホルンが、両手で顔を覆った。
 皆にカップが配られたとき、ドアが開いた。皆意識してそっちを見ない。隊長か、それとも――
「やあ、遅くなった。宴にしよう」
 聞き覚えの無い声。この場の雰囲気にそぐわない溌剌とした声。皆が一斉に頭を動かした。
「ガランド少将!」
 バルクホルンの声がひっくり返った。皆飛び上がる。三人を従えた女性が気軽に手を上げた。
「うん。ガーランドじゃないよ。あれ、ヴィルケと坂本は? いい香りだな、一杯所望しようか。宮藤軍曹は君だね。ちょっとおいで」
 リーネが走る。おずおずと宮藤が近寄った。身長差で仰ぎ見る宮藤をガランドが抱き寄せた。
「ひぇっ!」
「よく頑張った。礼を言う」
「いえ、私はその――」
「私の妹になれ。いいね」
「え、あ、はあ」
 皆あっけにとられて二人のやりとりを見る。平静な顔をしているのは三人の従卒だけだ。髪の毛を撫でていた少将がやっと
手を離した。何事も無かったかのように、背後の三人に呼びかける。
「テーブルの準備を始めてくれ。終わったら寝床を探してからここに戻れ。皆で祝おう」
「かしこまりました、お姉様!」
 三人の従卒が揃えた声で返答する。尉官が二人、一人だけ曹長。
「げっ! ヘルマ」
 ハルトマンがびくりとした。後ずさる。

113 :SC65:2012/12/21(金) 07:43:44.83 ID:yWsuNebf.net
「お久しぶりです、バルクホルン大尉殿! おめでとうございます!」
「や、やあ、レンナルツ曹長。どうして少将殿と?」
「ああ、嗅ぎ付けて直訴してきたんだ。面白いから連れてきた」
「面白い、ねえ?」
「真っ直ぐないい子だよ。どうした、エーリカ」
「なんでもありません、少将殿」
「あ、そ。司令部からやっと抜け出せたんだ。堅苦しいのは止めてくれ。私も普通にやらせて貰うから。バビー、あのバスケットの中の
物、ちゃっちゃっとテーブルに出してくれ」
 ハルトマンの頬をツンツン突いて笑う。赤ちゃんと呼ばれた彼女が頬を膨らませるとおもしろがって更に突く。
「可愛いなあ。バルクホルン以外も手伝ってやってくれ。シャンパンも冷やしてくれよ。ぬるいシャンパンなんてションベン以下だ。
さてバルクホルン、通夜の如きこの状況を説明しなさい。どうしたんだ」
 大尉が考え考え説明を始めた。リーネがおそるおそるおいた紅茶の香りを嗅いでにっこり笑う。戸惑い顔で微笑んだリーネの
手を引いて膝に座らせた。噂は聞いているよ、今度私の直属にならないか、と口説きながら髪の毛をもてあそぶ。説明を中断して
戸惑うバルクホルンに続きを促す。
 口説きながら説明を聞き、的確なタイミングで双方にまともな質問をする。器用な様子だ。
「リーネも私の妹だからね。うん、よし、お代わり頂戴。状況は解った。胴体着陸にぎりぎり成功ってところか。じゃ、いいじゃん。
目出度い話だ」
「いいと思います、はい」
「そうと知ってりゃ、ナイティ持って来るんだった。初夜用のエレガントでセクシーな奴。くそ、失敗だ。妹達の最高の思い出を手助け
できたチャンスだったのに!」
「はい?」
「恋人同士が初めての夜を迎えるのにふさわしい衣服。知らんのか、ねんねだなあ。よし、宴の後で私がみっちり仕込んでやろう! 
予備知識は必須じゃん」
「いや、そのくらいは! いえ、そうではなくてですね」
「構わないじゃんよお。二人がそう決めたのなら、誰にも邪魔は出来ない。邪魔する奴がいるなら私が相手をする。個人でも国家でも
知ったことか。ぶっ潰す」
 準備を進める従兵以外の手が止まった。唖然とガランドを見る。一人一人に目を合わせたガランドが静かに微笑んだ。
「余り多くを背負うなよ。自分自身でさ、十分やったと思った時は軍を去れ。力の限り、というのはそういう意味だ。精一杯やったと
自分が思うならそれでいいのさ。民衆に対する貢献というのは無限じゃない。私達も人間だよ。区切りは自分自身で決めていいんだわ」

114 :SC66:2012/12/21(金) 07:56:46.09 ID:yWsuNebf.net
「精一杯やったならそれでいい。大丈夫、ちゃんと次の世代が居る。肩肘張らず、もっと自然に考えろ。戦った後は幸せを掴め。その準備を
何時始めたって構わねえさ。国家のプロパガンダに振り回されんなよ。純粋真っ直ぐはやばいぜ。そんな汚ねえもん、さっさと捨てちまいな」
「坂本がよちよち歩きのウィッチだった時を知っている。その後でミーナに出会った。二人とも眩しかった。満足に飛ぶことも出来ないのに
頑張っていてな。そして今日まで戦い抜いた。強くなりたい、強くならねば何も守れないと理解して努力したからさ。二人とも十分すぎるほど
戦った。あとは二人が信頼できる相手とそれぞれ考えりゃいい。特にミーナだが、ここでリタイアするもよし。もうちょっと踏ん張るもよし。
だから今夜キメめても、あたしゃ祝福するだけだ。ハネムーンベビーが出来たら更に嬉しいね。私が言いたいのはそれだけ」
 皆、黙って聞いていた。三人の従卒の手も止まっていた。
「おーい、マリア。シャンパン冷えたかあ?」
「はい! フィーネ様」
 大尉の階級章をつけた黒髪の少女が頷いた。
「よーし。バケツの氷を入れ替えてくれ。あと、皿に料理を取ってくれ。ロマンティックな盛りつけで頼むよ。二人前プラスで二セットな」
「お任せ下さい、お姉様。カーラ、ヘルマ、手伝ってくださる?」
 三人の従卒がてきぱきと手を動かす。
「少将殿、私もプロパガンダに毒されているのでしょうか」
「フィーネ」
「は?」
「フィーネだ。妹に少将なんて呼ばれたくないね。蕁麻疹が出ちまうじゃんか。掻き毟っちまうと治りが悪くてさ、年を実感するよ。おい、ここ笑うとこ」
 皆が義理で微笑むとガランドも破顔した。その調子で、と続けたので、皆が本音の笑顔となった。
「は、はあ。フィーーーネさん。どう……でしょう」
「不器用だね、トゥルーデは。そこが可愛い。お姉さんなら呼びやすいかな」
「お姉さ……ま」
「よし、それでいこう! そうだね、トゥルーデは真面目すぎ。そろそろ気をつけた方がいい。利用されるぞ? まあ、すぐに心配したなら安心じゃん」
「フィーネ様、準備できました。苺も氷に乗せました」
「おっしゃ。シャンパンバケツは私に任せなさい。よし、付いてこい! トゥルーデ、話の続きは後だ。まず、ミーナの部屋に案内しな」

115 :SC67:2012/12/21(金) 07:59:22.49 ID:yWsuNebf.net
「私が持ちます、お姉様」
「お、調子出てきたじゃん。これは私の得物だっての。二人が肩を寄せ合って惚けていたら、その耳元でぶっ放す! ベッドイン
していてもぶっ放す! 安全外せ!」
 ガランドの指がワイヤーを緩め始めていた。
「いや、お姉様?」
「むかつくじゃん! シェイクしてシャンパンシャワーしちまうか!」

 見送った全員が溜息をついた。
「すっげぇインパクト……堅物が一瞬で墜とされたぜ」
「逆らえないんです」
「本当にやる気でしょうか」
「やるでしょうね。坂本様……やっぱり悔しいですわ」
「姉御に任せておけば大丈夫でしょ」
「お姉様のおっぱい、すっごい……顔が見えなかった」
「私も妹に……」
「ワタシも! カウハバのアレとは違うお姉様だヨ」
「おなかへったぁ!」



 ※アドルフィーネ・ガランド少将のキャラクターイメージは旧帝国海軍少佐野中五郎です

116 :創る名無しに見る名無し:2012/12/21(金) 10:28:28.74 ID:cOYcTey9.net
>>115


117 :創る名無しに見る名無し:2013/09/17(火) 10:28:53.80 ID:reaSAqqQ.net
>>112
毎日米の飯を食って屋根の下で寝て壁の付いたトイレで用を足して
最低限に文化的どころかかなり恵まれた贅沢だと思いますが
格好付けた服着たり美術や音楽に親しんだりスポーツに励んで友情を築いたり恋愛を楽しんだり
それは最低限じゃないでしょう。かなり高度に文化的な生活だと思いますよ
君のお父さんは君が子供の頃そんなこと許した?
それはこの国の常識ではちょっと考えられないな
世間の感覚とだいぶズレてるんじゃないのか

118 :創る名無しに見る名無し:2013/10/26(土) 15:52:09.08 ID:lqxNLgBF.net
誤爆だろうか

119 :創る名無しに見る名無し:2015/07/25(土) 23:04:06.51 ID:7B5yJPGZ.net
中国S級トップモデル 李琳?(Lee LingYue)の彼氏が撮影した無修正猥褻画像が流出しているようです。
中国共産党の幹部、長老の性的ペットでもある彼女の画像を撮影流出させた彼氏は現在行方不明…。

【全流出画像】
http://www.newsinfo.gq/leechina.html
【全流出動画】
http://www.newsinfo.gq/leevideo.html

120 :創る名無しに見る名無し:2015/08/01(土) 00:18:05.40 ID:vUvOnhlv.net
ミスコリアのフェラ・生挿入動画が出回ってるらしいのですが、本物ですかねこれ?
韓国大嫌いではあるけど、それにしてもすげーいい女…。
http://bloadcastnews.xyz/miskorea.jpg

121 :創る名無しに見る名無し:2015/10/15(木) 15:28:14.10 ID:6aZjMf9d.net
http://rightsnetwork.net/become/?kid=81d3fd86817f-1444882083

122 :SC61:2016/05/21(土) 22:45:23.97 ID:G9Vlc4bg.net
>>109-110の間で一つ飛ばしていたので。今更ごめんなさい。

 ミーナが嗚咽を漏らした。新たな配属命令も暫くは来ない筈、と気楽に歓談していた皆が一斉に彼女を見る。ベネツィア解放の見出しが第一面に躍る新聞を握りしめた彼女が、マラリアにかかったかのように震えている。
「どうした、ミーナ」
 坂本が声を掛ける。新聞を下ろしたミーナの目が坂本を見詰めた。わななく唇が開かれるが、嗚咽が漏れるだけだ。
「……ミーナ?」
「し……シーキャット……」
 声を絞り出した彼女の目から涙が滴る。突っ伏したミーナに皆が駆け寄った。坂本が新聞に手を伸ばすが、その手は虚空で停まった。バルクホルンが震える手で潰れた新聞を開く。損失被害のページだ。リベリオン国籍の欄に目を走らせたバルクホルンの唇からうめき声が漏れた。
「USL387 シーキャ……救助中に被弾轟沈……艦長Kグラント少佐以下絶……そんな馬鹿な!」
 震え声の呟き。坂本が床にへたり込んだ。皆も放心する。手から離れた新聞が床で乾いた音を立てた。

 大事な人をまた奪われた。ネウロイが憎い。再会を熱望していたあの人に二度と逢えない。別の自分が泣き喚く。もう一人の自分は一つのことだけを悔やむ。こんな事になるなら、あの人と一緒にあの時死んだほうがましだった……。

「あ……なんか来た」
 ルッキーニの呟きは、窓を震わせる単発機のエンジン音を受けてのことだ。
「シュトルヒだ。命令書を運んできたんだろ。ほっとけよ」
 窓から覗いたシャーリーが投げやりに呟く。
隊員の殆どが明かりも付けずに固まっていた。殆どの隊員は何も気付いていなかった。それだけに受けたショックが大きかった。数時間ぶりの会話が終わる。

 あの時一緒に死ねればよかったというのは間違い。皆を巻き込んで言い訳が無い。結果論でも、皆一緒に生き残った。だから駄目。
 担架を見送ったあの時、苦しかった。でも、囁いてくれたあの言葉があった。たった一言。とても素敵で……重い一言。
 あの一言が私の未来になった。私とあの人の……
 でも、あの人は私を残して行ってしまった。
 もう耐えられない。あの人が消えてしまった。
 独りぼっちは嫌。
 大事な仲間が今も側にいてくれる。未来を分かち合いたいのが仲間。未来を一緒にいたいと願うのはあの人。私はあの人と一緒にいたいと願う。

123 :創る名無しに見る名無し:2016/07/31(日) 13:03:08.42 ID:5lRAlRmI.net
いいねぇ
ちょっとずつでも良いと思うよ

124 :創る名無しに見る名無し:2016/10/01(土) 23:15:19.41 ID:tmB9B0ej.net
ようやく創作スレを見つけた

125 :創る名無しに見る名無し:2016/11/05(土) 01:19:42.76 ID:oSplNji/.net
k

126 :創る名無しに見る名無し:2017/12/27(水) 12:22:35.74 ID:C1Z7QFDy.net
家で不労所得的に稼げる方法など
参考までに、
⇒ 『武藤のムロイエウレ』 というHPで見ることができるらしいです。

グーグル検索⇒『武藤のムロイエウレ』"

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127 :創る名無しに見る名無し:2018/05/21(月) 07:03:35.21 ID:tRZnwP6O.net
知り合いから教えてもらったパソコン一台でお金持ちになれるやり方
参考までに書いておきます
グーグルで検索するといいかも『ネットで稼ぐ方法 モニアレフヌノ』

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128 :創る名無しに見る名無し:2018/07/03(火) 20:49:53.24 ID:f1dClnnX.net
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129 :創る名無しに見る名無し:2018/10/17(水) 16:41:16.73 ID:ZU7x6aHX.net
中学生でもできるネットで稼げる情報とか
暇な人は見てみるといいかもしれません
いいことありますよーに『金持ちになる方法 羽山のサユレイザ』とはなんですかね

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130 :創る名無しに見る名無し:2020/10/12(月) 21:46:26.33 ID:5GTQR6CJ.net
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131 :創る名無しに見る名無し:2022/05/19(木) 11:51:59.59 ID:7VLUlcRY.net
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132 :創る名無しに見る名無し:2022/07/10(日) 22:11:16.58 ID:dfDXtKwz.net
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133 :創る名無しに見る名無し:2024/04/03(水) 11:42:04.45 ID:fNxNGt7LN
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「自称」「思い込んで」た゛のプロパガンダ丸出しのテレビ放送廃止,さらに今どき深夜に騒音まき散らして近隣に多大な損害を与えながら
新聞配達させてる情弱知障も非難して人の住居上空を飛ふ゛害虫を皆殺しにする気で報復しよう!
(rеf.) ttps://www.call4.jp/info.ρhp?tуРe=items&id=I0000062
ttps://haneda-project.jimdofree.com/ , ttps://flight-route.com/
ttps://n-souonhigaisosyoudan.amеbaownd.com/

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