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コメットは行方知れず ガンダムパロ

1 :創る名無しに見る名無し:2011/10/30(日) 19:47:37.52 ID:OH/PkmG0.net
6月から8月にかけて、某版で書いていましたが、
オチたので、引越ししてきました。

ガンダム世界を背景にしたSF・スペオペパロです。


167 :創る名無しに見る名無し:2012/03/31(土) 01:33:42.64 ID:iCkmoeO3.net
「あのときの映像、まだ【ケイローン】あるんですか?本部のアーカイブ行きになったんじゃなく
て?」
アティアが顔をしかめて言った。
「アティアのナース姿なんてお宝映像を手元に置かないわけがないだろう?まあ、それはとも
かく、やりあう相手の面くらい知っといたほういい」
「イエス・サー」
とオリビエが言う。レーヴェはあいまいにうなづいた。やれやれという風にイリーナが肩をすくめた。
「ですが、記録映像をよく撮ることができましたね」
レーヴェは疑問を口にした。
「あの時は、指揮権が、奪われちまったからな。後から難癖をつけられないための保険だ。事件
を検証するためでもある。セイエンはそういう小細工が好きなんだよな」
「副長がじゃありません。そう言う風に指示が出されているからでしょう?」
アティアがここにいないセイエン副長をかばった。
「映像、あるよ」
ずっと黙っていたグエンがアティアに小さく言った。
「どういうこと?」
「ジョンブリアンのカメラしばらく動いてた。向こうの船の中の映像、少し送られてきてる」
「それはすごい。やったな、グエン、すぐ見せてくれ」
オルシーオがうれしそうにグエンに向かって話しかけた。
急に呼びかけられて、グエンが驚いたように顔を振ったが、すぐにアティアに向かってコクリとう
なづくと、ぱっと駆け出して、パッド式の通信機器を持ってきた。
グエンがそのA4サイズのパッドをアティアに見せる。
「ジョンブリアンのメインカメラ、活きてたのね」
「言葉はあんまり拾えてないけど」
「十分よ」
優しい微笑がグエンに向けられた。前髪に隠れた下半分のグエンの顔がかすかに笑っていた。


168 :創る名無しに見る名無し:2012/03/31(土) 01:41:05.11 ID:iCkmoeO3.net
ジョンブリアンの頭部が敵のモビルスーツに運ばれていくはじめの数分間を飛ばすと、
巨大な空母が、画像に現れた。
「【クローノス】が誇る新造の空母ですね。船名は【ファルトーナ】」
アティアが画面の中で、光を放つ戦艦を見て言った。
「大きいな、グレゴリと名づけたほうがよかったんじゃないか」
「全長、572メートル、常駐としてメインモビルスーツデッキに1個中隊、四つあるサブ
デッキに1個小隊づつ、合計、2個中隊、24機のモビルスーツ、その他に単体戦闘機、
【ウィペット】を6機搭載。ただし、最大可能搭載数は4個中隊、MS48機と戦闘機12機。
上下に二つ戦艦を繋げた様な見かけ通り、戦艦として、二つに分かれることも可能。」
立て板に水のごとく、グエンが言った。
「戦艦が二つになる?」
オルシーオ艦長が信じられんというように首を振った。
「正しくは、今の形が、戦艦二つがドッキングしている状態といえるでしょうね。
単体での名前が【ファル】と【ターナ-】ですから」
アティアがさらに解説を加えた。
なぜ、連邦軍の戦艦について詳しいのかとレーヴェは聞くのは止めにした。
彼女らはモビルスーツ開発を一手に引き受けてきたアナハイム、これから火星開発プロ
ジェクトを推進するハナビシやヴァンダイク・グループとつながりを持つのである。
加えて、概要だけなら、オープン情報として開示されている部分もあった。
そして、肝心なのは、艦の大きさではなく、それを運用する人間だ。
映像が切り替わった。
外から中へ。
敵船のモビルスーツデッキ。メカニック達が動く様子はどの艦も変わりない。
デッキから頭部はドックと思われる場所へと運ばれた。

169 :創る名無しに見る名無し:2012/03/31(土) 01:41:42.73 ID:iCkmoeO3.net
そこに、彼がいた。

170 :創る名無しに見る名無し:2012/04/08(日) 19:26:36.05 ID:HJOHGw9p.net
ダクラン中佐はドックへ持ち込まれたモビルスーツの頭部を見つめている。
傍らに立つマルセルも同様にそれを眺めた。連邦仕様ともジオン仕様とも明確に違う特徴が
それにはあった。
第三の目。
デュアルアイの上に、小さく開くもう一つの瞳が彼らを見返している。
技術士官の一人がマルセル達に近づいてきた。ベルン・マーラー少尉。広い額に黒髪をオー
ルバックにしているが、癖のある長めの髪はおさまりきれずにいる。顔の真ん中にある眼鏡は
かろうじて鼻にひっかっかっている。
「回収したこいつのことなんですが」
ベルン少尉は前触れもなく、ダクラン中佐に話しかけてきた。上官に対するものとしてはやや
ぞんざいな口調でだ。
「仮にミモザと名づけました。」
「ミモザか、つけたものは、詩人だな」
「恐れ入ります」
君かというように軽くダクランがうなづいて言った。
「状況は?」
「ざっとスキャンはしたんですがね。今のところ規約に反するような新技術はでてません」
「そうか」

171 :創る名無しに見る名無し:2012/04/08(日) 19:31:42.56 ID:HJOHGw9p.net
「頭部には光学センサとレーダーセンサ、音波センサを組み合わせたカメラ部分と
おそらく戦闘情報処理のCPU、蓄積メモリが搭載されています」
ベルンが広い額に指を当てて言った。
「タクティクスシステムが頭部にあったか。で?」
ダクラン中佐が話の続きを即した。
「残念ながら、本体と切り離された時点で、最終処理、データ転送とデリート処理が
ほどこされたようで」
「サルベージは?」
「試みますが、必ずできるとは申し上げられませんね」
「分かった。作業を続けてくれ。ただ、あまり時間はとれん」
「8時間いただけますか?それ以上はやっても無意味だと思いますし、傷ついたモビル
スーツの修復も同じくらいかかるでしょう」
「よかろう」
ベルンがダクラン中佐の返事を聞いて去っていった。
「ブリアン少尉、チェン少佐からモビルスーツの被害状況と、完全修復までの正確な時間を
聞いておいてくれたまえ。それと、コルベール少尉とバーダー少尉に執務室に来るようにと」
「承知しました」
マルセルはかかとを鳴らした。

172 :創る名無しに見る名無し:2012/04/08(日) 19:38:20.58 ID:HJOHGw9p.net
ほとんど、白とまがうばかりのプラチナブロンド。襟足につくやや長め髪、青灰の瞳を
カメラが捕らえたと思うと、画面がぶれ、映像が終わった。
カメラ越しにこちらの気配を察したかのような目線だった。
何十キロも離れているだろう二つの場所を透視するかのような視線。
レーヴェは黒紅のモビルスーツと対峙しているような錯覚を得た。
「ベリッシモ」
映像を見たオリビエが口笛を吹く。
「こいつには、姉か妹がいないのかな?」
アティアが少しあきれたような顔をしながらも答えた。
「さあ?今度、会ったら聞いておきますわね」
「よろしく頼むよ」
99%実現しそうもない約束をオリビエとアティアが取り交わす。
「期待したより艦の中の映像が少なかったな」
レーヴェは話を実際的なものに戻した。
「そうですわね。ですけれど、まだ使用されていないモビルスーツがあるのは
確認できました」
「どこにだ?」
オルシーオが問いかけた。
「ここです」
アティアが画面をはじいて、映像を戻した。
ジョンブリアンの頭部がドックへと運ばれる場面だ。レーヴェと交戦したオレンジ色
のガンダムが立っていた。その横には、あの黒紅のモビルスーツがあった。
「これは、回収したパーツと同じものかしら?」
「おそらく」
レーヴェがうなづいた。
「グエン、回収したパーツの解析を6時間で終えられて?」
「4時間でやる」
「頼むわね」
コクリとグエンがうなづいた。

173 :創る名無しに見る名無し:2012/04/08(日) 19:42:19.31 ID:HJOHGw9p.net
「少々、功をあせったか?」
そういうダクランを前にセシルは言葉もなかった。
ダクランの執務室の中にはセシル一人。共に呼び出されたハインリッヒは、ダクランからねぎら
いの言葉をかけられ退出していた。
「申し訳ありません」
謝罪の言葉をやっとセシルは口にする。
「いつも慎重に相手との間合いを取る君にしては、らしくない行動だった」
「敵の射程距離が、想像以上に長く」
「テオドールへの攻撃で、射程距離は予測できなかったのかな」
ダクランの言葉が胸に刺さる。
「見誤りました」
セシルは顔をダクランに向けたが、瞳の色を確認するのが恐ろしく、微妙に視線を外した。
「・・・見誤るとはどういうことか、君は理解しているか?君が被弾したとき、私は部下を失う覚悟
をした」
硬質な声に混じる悲痛な響きを感じ取り、セシルはダクランの目を見る。しかし、細められた瞳は
その色をうかがわせなかった。
「戦場での過信は、もっとも忌避すべきことと肝に銘じたまえ」
セシルは黙って敬礼をした。
「行っていい」
ダクランの言葉にセシルは部屋を出て行く。

174 :創る名無しに見る名無し:2012/04/08(日) 19:49:06.80 ID:HJOHGw9p.net
扉の外に、先に出ていったハインリッヒがいた。
「私らしくないと言われた」
二人で廊下を曲がったところで、セシルがつぶやいた。
「部下を失う覚悟をしたとも」
ふうむとハインリッヒが顎に手をやった。
「で、氷雪の司令どのの瞳は青だったか、それとも灰色?」
「中佐の目をのぞきこめるほどの余裕はなかったわ」
セシルは首をすくめてみせた。半分は本当だが、半分は嘘だ。最後の時に目の色を確認したかった
が、ダクランはそれを許さなかった。
「それに、ダクラン中佐が、瞳の色を相手に見せるのは、それが必要な時だけじゃないかって」
「誰の意見?」
「ルイーズ」
「プライベートでもダクラン中佐とつきあいのある秘書官どのは、よく分かっていらっしゃるってことか」
「下世話な言い方はよして」
ハインリッヒが片頬を少しゆがませた。
「あの二人が士官学校時代に付き合っていたってのは、有名な話だぜ?」
「8年も前の話じゃない。今は仕事上のつきあいしかないってば。ダクラン中佐は同じ艦に乗って
いる人間とは付き合わない主義だそうよ。本人が言ったもの」
「本人から?」
ハインリッヒの言葉にセシルは言いすぎた自分に気がついた。
「誰かにそういってたのを耳にしたのよ」
「ふーん」
疑わしげな顔をするハインリッヒの言葉を、さえぎるようにセシルは言った。
「そうよ。ムキになって、そんなこと聞かなくてもいいじゃない」
何か言いたげだったが、ハインリッヒはそれ以上何も言わなかった。
エレベーターの前に来て、はい、どうぞとセシルを乗らせてくれる。
「俺、ミーティングまで、自分の部屋にいるわ」
エレベーターの扉が閉まる直前に
「どちらがムキになってんだか」というささやきが聞こえた。

175 :創る名無しに見る名無し:2012/04/13(金) 23:10:34.19 ID:VOC7kMtq.net
モビルスーツデッキにオレンジ色のガンダムとコアファイターが入ってきた。
「ガンダム・ヴェスタ」の一号機と二号機だ。
今までの直線的なデザインのガンダムシリーズより、やや丸みを帯びているのは、デザインを
したエンジニアがジオン出身だからだろう。
その名の通り、燃える炎のようなローマ式鎧を身にまとっている、二重装甲のガンダムだ。
人の乗る中心部は厚く保護されて、生半(なまなか)な攻撃では壊れるはずもない。
したがって、頭部にためらいなくライフルを撃ち込んだ、敵、【ケイローン】のレーヴェ・アズナブ
ルは最善の方法を取ったといえる。
サティン・マーマデューク少尉がコアファイターから降りてきた。
2号機のコクピットは開かない。
初めての戦場で、初めての敗北。
デッキで待っていたイルマリはどう声を掛けようかとしばし考えた。
サティンは明らかに荒れている。
頬を紅潮させ、奥歯をかみしめているような顔をしていた。
いつもは元気いっぱいといった小さな体が、悔しさと憤りでいっぱいになっているのが見てとれた。
ダクラン中佐の姿は見えない。お目付け役ともいえるルイーズ補佐官もだ。
「すまなかったな、途中でほっぽリ出すような形になった」
イルマリがサティンに声を掛けると、彼女はふいをつかれたという顔をした。
声を掛けて、初めて彼がいることに気がついたらしい。
サティンが首を左右に振って答えた。
「新型を追うのが当然だも・・・当然ですから」
言い換えたサティンがおかしくイルマリは笑った。

176 :創る名無しに見る名無し:2012/04/13(金) 23:13:16.86 ID:VOC7kMtq.net
「ダクラン中佐もルイーズもいないよ」
と教えてやる。
ともすれば、ダクラン中佐に対してさえ、口調が乱れるサティンは、ルイーズにそれを直すよう
に常日頃から注意されていた。
ほっとした顔のあと、がっかりした顔をしたのは、ダクラン中佐がいないからだろう。
叱られるにしても、まず、ダクラン中佐の顔を見たいと思っていることが分かる。
「イルマリはすごいよね。あの新型やっつけたんでしょ?」
「いや、ヘッドを落としただけ。胴体と足には逃げられた。それも、ネヴィルと二人がかりでな」
「私も二人がかりだったよ。ミラージュとね。なのに、コア・ファイターで逃げだしてきちゃった」
「お前が相手をしていたのは、ダクラン中佐とほぼ互角だった、【ケイローン】の赤い彗星だぞ?
そいつと初陣であれだけ渡りあったんだから、たいしたものさ」
「それもミラージュがいたおかげ」
サティンはもうひとつの【ヴェスタ】を見上げた。ミラージュはまだ出てこない。おそらく中で
調整をしているのだろう。
「それだってお前の力さ」
イルマリは軽くサティンの頭をこづいた。サティンが面映そうに笑う。
しかし、すぐに真顔になり言った。
「次は負けない」

177 :創る名無しに見る名無し:2012/04/13(金) 23:16:09.00 ID:VOC7kMtq.net
「このようなていたらくは、第99部隊、はじまって以来である」
コンラート・ベルガー少佐は、ハシバミ色の目を光らせて言った。
第一会議室に集められたパイロット達は、コンラートを前に悄然としていた。
ダクラン中佐は会議の席には入っていない。少し離れて一堂の様子を見ている。
作戦参謀のマルセルはコンラートの脇にいた。
今回の作戦で、ダクラン中佐が回線を通していくつかの指示はしたが、実行部隊の責任者はコ
ンラートであった。
それが、足止め班はボロボロ、【ニルヴァーナ】を担当した部隊もセシル少尉とマーマデューク少
尉はじめとして、追撃、損壊を受けている。
死傷者がいないのが不思議なくらいだった。
「これを見ろ」
メインコンピューターで、集積、分析された戦闘の記録が、一同に提示される。
数の差では有利であるのに、【ブルークロス】のガードを抜けて、敵艦に取り付けたといえるのは
イルマリと「ヴェスタ」の2機、他にかろうじて攻撃できたのは、セシルとコンラートの2人だけだった。
「一対一の対戦を優先した結果だ」
苦い声でコンラートは言った。しかも、1対1の戦闘で、敵機を撤退させたのは、コンラート自身で
ある。
「ここで間合いをつめずに、撃っていれば、この機は落とせたはずだ」
「艦体運動での攻撃回避はなかなかのものだが、【ニルヴァーナ】の砲撃は、その際に一瞬だが
止まる。それを利用すれば、イルマリ達のように艦へ取り付けた」
戦闘でのポイントをコンラートはそれぞれに指摘した。むろん自分自身の反省点もだ。
「尻振りをした【ニルヴァーナ】に気をとられた。【ケイローン】の連中の方が一瞬早く回避している
のが解るな?」
「それは」
若いウォルター・ブキャナン准尉が何か言いかける。
「相手がニュータイプだからとは、言わんでくれよ。我々は承知で戦いを仕掛けていたのだか
らな」
モンフォール少佐がブキャナンに言った。ブキャナンが乗り出していた身体を元に戻す。

178 :創る名無しに見る名無し:2012/04/13(金) 23:32:31.91 ID:VOC7kMtq.net
画像に黄色いモビルスーツが現れた。
「新型モビルスーツの【ミモザ】が出てきたとき、皆、浮き足立った動きになっている。」
「改めてみると、速いですけど、戦闘にあまり慣れてない動きですね」
最初に威嚇射撃を受けたテオドールが少し首をかしげながら言う。
「そのときは解らなかったですが、イルマリ少尉達はそこに気づいたから、ミモザを損傷しえた
んですね」
「それにしても、敵ながら、イルマリと組みあったのは強いな」
とコンラートは感心した。
「確かオリビエ・ジタンという男でしたよね。・・・よく逃げられたな」とハインリッヒ。
「ダクラン中佐がためらいなく撃てと指示くださったおかげだ」
ネヴィルが淡々と言った。
「俺はあやうく撃沈されるところでしたけどね」
イルマリが言うと
「お前なら回避できるとの信頼だろ」
ハインリッヒが返した。コンラートがダクラン中佐を伺うと、イルマリの言を彼はまったく気にも
留めない様子である。
次いで、初陣であったマーマデューク少尉達の映像に移る。本人は席にはいない。
【ヴェスタ】はサイコミュを極限近くまで使用しており、その身体的負担を調べるために医療部に
行っている。
【クローノス】のパイロット達は、【ヴェスタ】とレーヴェ・シャア・アズナブルの操るコーラルペネロ
ーペの戦闘に見入った。
「サザーラント達との一戦を見るに、単独でも強いのに、レーヴェ、オリビエが組むとさらに厄介な敵
になることは明白だ。次回の作戦では、この二人をどう分断するかが焦点となるな」

反省点の洗い出しを終えると、それまで沈黙していたダクラン中佐が席を立ち上がった。
皆の視線が集まる中、ダクラン中佐がミーティングテーブルに近づく。
「多くは言うまい。だが、相手は人命の尊重を掲げる【ブルークロス】。殺されることはないと高を
くくってはいなかったか?しかし、我々は軍人だ。その意味をもう一度、自分に問いただしてく
れたまえ」
ダクラン中佐が最後に薄く笑いながら付け足した。
「優しい敵で救われたな」

179 :創る名無しに見る名無し:2012/04/16(月) 00:18:22.04 ID:+iESVXVt.net
「これってすごいですよ」
チェン少佐と話をしていたガスパーレに飛びつくように、ベルン・マーラー少尉が話しかけて
きた。
破損著しいモビルスーツの修理でドックは経験したことのない忙しさだ。
ここ数年というもの大規模な戦闘は鳴りを潜めた上、【クローノス】の第99部隊は、戦闘で
常勝といっていいほどの戦歴を重ねてきた。
もっとも、その戦闘は一年戦争を経験したガスパーレにとっては小競り合い程度の話だ。
それでも無傷で帰ってきた、ダクラン率いる部隊の実力は認めるが、ガスパーレが整備
しているモビルスーツの性能の良さが勝率を上げていることも事実だ。
そのモビルスーツがこれほどまでにやられたのである。
整備兵達は、修復におおわらわだった。普段は、興奮したベルンの話を聞いてやる役目の
ガスパーレも眉をひそめたのは同然だろう。
ベルンをあまり認めていないチェン少佐はあからさまに顔をしかめている。
チェン少佐には、【ブルークロス】からの戦利品。【ミモザ】の頭部とセシル少尉の被弾したライ
トニング弾の解析をベルンに取られたという思いもある。
「なにごとかね」
そっけなくチェン少佐が言った。
「カメラ部分の構造を調べていたんですけどね、あれは、ミノフスキー粒子の影響下でも、有
視界のみに頼らなくていいように、設計されてんですよ」
「どういうことだ?」
ガスパーレがベルンに質問する。

180 :創る名無しに見る名無し:2012/04/16(月) 00:21:18.64 ID:+iESVXVt.net
「あのサードアイですよ。あれはソナー発生装置なんです。」
「ソナー?水中でではあるまいし、宇宙ではほとんど無用の長物だ」
完全否定するようなチェン少佐の言葉だった。
「普通ならね。でも、電波がほどんど使えないくらいに濃く、ミノフスキー粒子がまかれたとき
には空間の原子密度はあがりますよね?通常では聞こえないはずの爆発音が、聞こえたり
するのもそのせいじゃないですか」
「ああ。それは連邦の研究者たちも、我々も理解はしている」
「でも、ソナー探査機が使えるほど思わなかった。どんな物質も拡散してしまう宇宙空間と、
一年戦争から続くモビルスーツ戦での有視界戦闘に慣れてしまったせいですよ」
ベルンは自分の頭をコツコツと叩いた。その発想を得なかった自分自身も叱咤するように。
「ソナー探査装置か、盲点だったな。で、使えそうか?」
ガスパールは、ベルンが頭を叩くのを、やめるのを待って言った。
「それが、サードアイの部分はスピーカーの役割で、肝心の音波発生装置は首の部分にあっ
たようなんです。だから、分断されて、破損がすごくて。」
再生は無理とベルンが残念そうに首を振った。
「残ったパーツから、【スクナ】の最新型のソナー診断機の性能を転換して使用しているんじゃ
ないかとの推測はたつんですけど」
ベルンは【ブルークロス】の母体である巨大医療グループ【オフィウクス】の傘下にある医療機
器メーカーの名前を挙げた。【スクナ】は医療機器と同時に、一般向けの映像機器も取り扱っ
ており、世間にもなじみの深い会社だ。
【スクナ】は機器類の小型化・軽量化を得意とする会社であり、光学カメラの分野でもトップクラス。
そして、モビルスーツには欠かせない、映像用部品の特許と技術も持っている。

181 :創る名無しに見る名無し:2012/04/16(月) 00:35:28.24 ID:+iESVXVt.net
「こびとさんの助け手か」
ガスパーレはつぶやいた。
ナノテクに特化した、繊細かつ微細なその技術は、コマーシャルで謳われる
『小さな手の大きな仕事』
のコーポレートスローガンと共に有名だ。
「小さい医術の神」という意味の社名と重なって、
夜になると小人が出てきて仕上げをしているという冗談が、世間一般にまで広まっているくら
いである。
「医療映像で培われた技術の応用か」
チェン少佐がうなるように言った。相手の技術力に感心するとともに、一歩遅れた自分達の歯
がゆさがあるのだろう。
「カメラ部分もすごいですよ」
ベルンが嬉々として言った。この男は優れた技術に出会うと手放しで褒め、喜ぶところがある。
「デュアルアイは、ふくろうを模して単眼視と複眼視ができるようになってるわけですが、そのタ
ペタム(照膜)構造の性能向上とサイコフレーム、あ、【ブルークロス】のはサイコキャスティン
グっていうんでしたよね?の組み合わせで処理能力が【アウローラ】のおよそ1.5倍です」
そして、ベルンは我が事のように胸を張った。
ガストーレは、技術バカなベルンの態度をほほえましいと思うが、チェン少佐は技術者・研究者
であると同時に、軍人であることを誇りに思っているタイプだった。
当然、敵が優れていることを手放しで喜んでいるベルンを見て、苦い顔になった。
「で、なんと、この機能、超音波の方は無理そうですが、カメラは【アウローラ】に付け替えできそ
うなんですよ」
チェン少佐がお小言を言う前にベルンが言った。
「なんだって?」
「サナリィとアナハイム。メーカー仕様が違っているかと思ったんですけどね。互換性があるのに
は正直、驚きました。付け替えれば、アウローラの機能アップ間違いなし」
「「それを早く言え!」」
図らずも、ガスパーレとチェン少佐が同時に言った。ベルンは一瞬、キョトンとしてから、頭をかいた。

182 :創る名無しに見る名無し:2012/05/01(火) 00:25:59.59 ID:6VwmIn3m.net
ピタリと張り付くように【ケイローン】は【ニルヴァーナ】の後ろを取っていた。
船足の速さを誇るように先行していた【ニルヴァーナ】は、完全に【ケイローン】の守護下にいる。
「少し、席を外します。何かあったらハンドフォンで呼び出してください」
艦長代理としてブリッジにいたセイエンは、クルーに一声かけるとモビルスーツデッキに向かった。
アシェンバッハ少佐にすぐに動かせるモビルスーツが何体あるか確かめるためだ。
艦内通信で、状況を知ればいいことではある。しかし、一つところにいるのが、少々苦痛だった。
モビルスーツデッキに下りると、双子達がメカニックに立ち混じり、整備の手伝いをしていた。
「君達も働かされているのですか」
セイエンは双子の一人、ミコトに声をかけた。
セイエンの問いかけに「はい」と彼がうなづく。
「非常時ですから」
精一杯大人びた顔をして答える少年に、置いていかれた不安と憤りを感じるのは、セイエンの心
の投影だろうか。
「何かあったか?」
アシェンバッハ少佐がセイエンに近づいてきた。隊服ではなく、整備用のつなぎを身につけている。
「何もないから、ここに来たんですよ」
軽く頭を振ってセイエンは答えた。
「なら、少し手伝っていくか?」
「そうですね」
整備士達は、眠っていたモビルスーツをベッドから叩き起こして、戦場に送り出す準備をしている。
【ケイローン】が積んでいるモビルスーツは22体。通常稼動するのは、4つのパイロットチーム12
体とセイエン、オルシーオのプラス2体だが、モビルスーツが破壊された時のスペアが8体用意
されていた。モビルスーツをこよなく愛するが、同時に道具と割り切るオルシーオの合理主義の
表れだ。

183 :創る名無しに見る名無し:2012/05/01(火) 00:30:27.36 ID:6VwmIn3m.net
「で、何をしますか?」
セイエンはアシェンバッハ少佐に指示を仰いだ。
「そうだな」
アシェンバッハ少佐は首をひねった。
「ミコト、タケル」
と双子を呼んだ。
「この新参者に、やるべきことを教えてやれ」
アシェンバッハが言うと
「「承知しました」」
と双子は、うれしそうに答えた。
「アシェンバッハ少佐?」
子守を押し付けようというのかといぶかしく思ったセイエンは、アシェンバッハ少佐の名前を読んだ。
「こいつらは、機械にかけちゃ、お前より腕がいいぞ」
セイエンの抗議の意図を正確に把握してアシェンバッハ少佐は愉快そうな顔をした。
「わかりました。では、タケル君、ミコト君、どのモビルスーツを担当すればいいですか?」
「あれと」
「あれです」
双子は同時に二つの機体を指差した。
コーラルペネローペとリック・ディアスV、【ケイローン】の二人のエースのスペアだった。
この二つを、この二人に任せているのか。
アシェンバッハ少佐が大丈夫だと言うように首肯した。メカニックの現場で彼の判断は絶対だ。
セイエンは素直に従うことにした。
「ペネローペの方は、ほとんど終わってって、あと本人の調整だけなんですけど」
Gブロック以外では、床には薄い鉄膜が張ってあり、靴底の微弱な磁石が重力の代わりをしている。
三人は、つま先を使って床を蹴り、三人はモビルスーツに取り付いた。
「ただ、リック・ディアスVはペネローペより苛烈というか、調整が難しいんです」

184 :創る名無しに見る名無し:2012/05/01(火) 00:39:25.00 ID:6VwmIn3m.net
違うよね」
とミコトがいうと
「うん。もっと大雑把かなと思ってた」
とタケルが大きくうなづいた。
大雑把というのは、オリビエのことだろう。見た目はおふざけな格好をしているが、サイコミュに
頼らない操縦技術は、現在の【ブルークロス】でも屈指と言っていい。
「で、その調整を二人はどうしようと思っているのですか?」
「腕の駆動部分を調整すれば、もう少し動きが滑らかになります」
「オリビエ大尉は、抜き撃ちが得意ですよね?それが、5秒くらい早くなると思うんです」
「オリビエ大尉がいたら試してもらえるんだけどね」
「分かりました。私が両方の調整後の動きを確認しましょう」
「「セイエン副長が?」」
「それとも自分達で確認しますか?」
双子はお互いを見合った。
「でも、こんな時に」
「こんな時だからですよ。性能の向上は迅速に行わなければなりません。兵(へい)は拙速(せっそく
)を尊(たっと)ぶ という言葉を聞いたことはありますか?」
「【The Art of War】、孫子ですね」
とタケルが答えた。そうですとセイエンはうなづいた。思った通り、双子はアティアとイリーナ達の蔵
書を読み漁っているようだ。
「敵の襲撃が来たら?」
少し不安そうにミコトが言った。
「我々は、敵のモビルスーツにかなりの打撃を与えました。回復するには、それなりの時間が
かかるでしょう。少なくとも半日は動きはないはずです」
たった半日と二人が思っているのが分かる。しかし、セイエンは何も言わなかった。戦場で半日の
猶予がどれだけ貴重かは、身をもって知らねば解からない。
「ですから、すぐに作業を開始しなくてはならないのでは?」
セイエンの言葉に二人はすぐさま作業に取り掛かった。

185 :創る名無しに見る名無し:2012/05/06(日) 22:07:21.13 ID:qzEILOjW.net
テスト飛行をするコーラルペネローペとリック・ディアスV。
セイエンは愛機であるベータ・ロメオから、その様子を眺めながら、純粋な子供を自分のため
に利用してしまったとセイエンは思った。
モビルスーツに乗りたかったのは、自分なのだ。艦を離れ、虚空と言える宇宙にでたとたん、
自然と意識がとぎすまされていく。
サイ・コミュデバイスが、ニュータイプ能力を拡大させ、一つ一つの事象が際立ってくる。
スクリーンの向こうで双子達が、サーベルを抜いた。次にまた鞘に戻し、二度、三度とその動
作を繰り返す。
「思った通りです」
うれしそうなミコトの声がスピーカから響いた。
「僕のほうも、反応スピードが少しだけ上がりました」
タケルが言った。
アシェンバッハ少佐の言葉通り、双子の機械に対する感覚は優れていた。ボルトの調整とOS
のコマンドソースの少しの改変でマニピュレーターの動きが変化した。

双子を乗せて、宇宙(そと)で試したいと告げた時、アシェンバッハ少佐は反対はしなかった。
万が一を考えて、少しでも双子をモビルスーツに慣れさせておきたいというセイエンの目的を
察したためだろう。
「アティア達に知れたら何を言われるか分からんが、副長命令なら仕方ない」
やれやれと首を振るアシェンバッハ少佐にセイエンは
「たまには権力を行使しませんとね」
とすまして答える。
いつもだろうがというアシェンバッハ少佐のつぶやきは、きれいに無視した。

186 :創る名無しに見る名無し:2012/05/06(日) 22:12:05.87 ID:qzEILOjW.net
「私と闘ってみますか?」
動作を確かめた双子が、すぐさま【ケイローン】に戻ろうするところにセイエンは声をかけた。
画面の向こうで、二人が驚いた表情になった。
「戦闘時に上手く機能するかが肝心なところです。もし、試すなら今しかありません」
「それは、僕たちよりレーヴェ大尉とオリビエ大尉にやってもらわないと」
「そんな時間は取れないでしょうし、戦闘スピードで試さず、実戦でフリーズしたら命に関わります」
セイエンが言い放つと、二つに分割されたスクリーンの中で双子が大きくうなづいた。
「「やります」」
セイエンは微笑し、二人に言った。
「では、おいでなさい」
その言葉が終わるやいなや、ミコトのリック・ディアスVが先に動いた。今までの訓練では、ほとん
ど先制を取らないミコトである。
珍しいなと考えながら、セイエンは難なく攻撃をかわす。
タケルのコーラルペネローペが、ベータロメオの後背をつこうとした。
セイエンはビームライフルを放って牽制し、流れるような動作でミコトにもライフルを撃つ。
それを避けたミコトがサーベルを抜いて突進してきた。シールドでそれを受ける。
力押ししようとするミコトに、シールドを傾けることで、体制を崩させた。襲ってくるタケルのビームライ
フルをシールドで防ぎながら、体制を崩したリック・ディアスVの胴に向かってライフル発射した。
二人のモビルスーツへの対応能力は、目を見張るものがあるが、機体のバランスを保つのはまだ、
上手くない。
ましてや、レーヴェとオリビエ用に調整された二つのモビルスーツは相当な荒馬だ。
体感のまま戦闘できるよう、機械的な制御は、他のモビルスーツと比べて押さえられている。
タケルがミコトを助けるようにライフルを撃ってきた。
「甘いですね」
とセイエンは二人に向かって言う。
「私を本気で倒すつもりできなさい。」
そう言う間にもセイエンは攻撃の手を緩めなかった。
片足でリック・ディアスVを踏みつけるように攻撃すると、そのままコーラルペネローペにライフル
を撃った。返す動作で、リック・ディアスVの足にレーザを放った。
ミコトが辛くも攻撃を避けて後ろへ下がる。かばうようにベータロメオの前にコーラルペネローペが
立ちふさがった。
セイエンの撃つビームの光が、なぶるようにコーラルペネローペの手を、足を、掠めていく。

187 :創る名無しに見る名無し:2012/05/06(日) 22:15:07.48 ID:qzEILOjW.net
「やぱっり、副長が一番、容赦ないな」
ブリッジで双子とセイエンの模擬戦を見ていたクルーの一人が言った。
「あの、柔和な声と笑顔に一度はみなだまされるんだよな」
別の一人が言うと、周りのクルー達は低い笑いをもらして、その台詞を肯定する。
彼らはみな知っていた。
セイエン副長は優しくないわけではないが、甘い人間ではないということを。
そして甘い人間が、【ブルークロス】の幹部でいられるはずもないということを。
宇宙は常に戦場と同じだ。一瞬の油断で命を落とす。
戦時ではなくても、機械のトラブルで、人的ミスで、多くの命が宇宙に散っていく。血を流す人間が
ひしめく修羅場を経験しているクルー達はそれを痛いほど知っている。
戦闘そのものと戦闘現場での救護活動に備えて、クルー全員に、月30時間のモビルスーツの訓
練が義務付けられている組織なのだ。
「子供にだって弾は避けちゃくれないからな」
苛烈な訓練を受ける双子に同情しつつも、クルー達はセイエンの行為の正しさを理解していた。

188 :創る名無しに見る名無し:2012/05/06(日) 22:21:25.99 ID:qzEILOjW.net

目の前の模擬戦と【ニルヴァーナ】の様子に目を配るクルーの中から彼女は一人抜け出した。
ゆっくりとした足取りで向かった先は、予期せぬ二人の客人がいる部屋だった。
事前にメインコンピュータから抜き取ったパスワードで、扉を開く。
座っていた男のほうが彼女を見て、目を見張った。次いで、部屋の四方に視線を投げた。
「大丈夫です。この艦に監視カメラにある部屋はありません」
男はさらに驚いたような顔をしたが、すぐに納得するような顔になった。
「ニュータイプばかりの船だ。逃げ出そうとしたら、すぐに分かるってことか」
彼女、かつて、目の前の男の元で、反連邦活動をしていたトリア・バートンは少し眉をひそめた。
「ニュータイプはエスパーじゃありません」
マフティーのカラスはいぶかしげにトリアの顔を見る。
「エスパーだったら、あなたをこんなところに閉じ込める必要もないでしょう?」
「まあな。ただ、俺は、ニュータイプの化け物じみた戦闘を見聞きしてもいるからな」
それに、小心者で俗物だから、心を読まれるんじゃないかとか思うんだよ、と頭をかいた。
その仕草と口調は、トリアを過去にたち返させる。
「で、俺に何の用がある?トリア。」
昔と同じ口調でカラスが言った。
「聞きたいことがあるんです」
トリアは声を低くしていった。そばに控えた女性、エミーネが不安そうにこちらをうかがっている。
なんだと言葉を即すカラスをまっすぐに見つめる。
「答えていただいきたいのは、ヴァネスは今でもあなたの元にいるのかどうか、です」
カラスの瞳の奥にちらついていた鋭い光が、和んだ。
「ヴァネスか、あいつとはしばらく会っていない」
「連絡は取り合っているということですね」
「まあな。昔みたいに四六時中、ってわけじゃないが。みなかたぎになったからな」
反政府運動はしてはいないとカラスはほのめかす。
さらに、お前が望むなら、会わせてやりたいと付け加えた。
カラスは特有の人好きのする笑顔をトリアに向けてきた。かつてその笑顔を向けられるたびに、
うれしくなったものだった。
ヴァネスに会いたいとトリアは強く思う。
しかし、過去は過去だ。彼と私は今では別の道を行っていると言い聞かせる。

189 :創る名無しに見る名無し:2012/05/06(日) 22:27:54.90 ID:qzEILOjW.net
「【ブルークロス】を辞めて、俺達と自分たちの国を作らないか?」
トリアの迷いを突くように、カラスが真摯な声で語りかけてくる。
「今の組織は5年前とは違う。革命家を名乗って、世直しを口にしながら、やっていることは
人の目をかすめての破壊活動を行っていたあの頃とは」
過去の活動を否定する言葉に反発を覚え、彼女は言った。
「それで救われた人達もいました。私を含めて」
トリアはマンハンターに逮捕される際、抵抗した父親が犯罪者として殺され、自分自身は、
労働条件の悪い資源小惑星に送りこまれるところを、同じ船にいたヴァネスと共にカラス達
に救われた。
船に乗っていた、連邦の言う「不法地球滞在者」は30余名。その大半はマフティーが手配し
た身分証明を携え、コロニーに移住していった。残りは、マフティーの組織の一員として残る
ことになった。
そのとき彼女は13歳、ヴァネス14歳だったが、迷わずマフティーの一員になることを選んだ。
それから4年余り、トリアとヴァネスにとって、マフティーは家族であり、家だったのだ。
「そういってくれると、いくばくか気持ちが救われるよ」
だがなとカラスが笑った。
「十代のお前達を、テロリストとして追われる身にしたことに俺達は悩んでもいたんだ。連邦軍
とのいたちごっこにも自覚はなかったが、疲れてもいたんだろう。そこへあの出来事だ」
きなくさい雰囲気を感じ取り、サイド2から撤退をするときに起こった逮捕劇。
誰かが、自分達の行動を密告したとしか考えられない。裏切りものをいぶりだすために、手に入
れた人質を活用して篭城を決め込んだ。
自分達を見逃す代わりに、警官の起こした不祥事をネタに、サイド2と交渉をしつつ、いよいよ
となれば、先に撤退をしていたメンバーが宇宙港に攻撃をしかけ、その隙に非常用ハッチから
宇宙に逃げる算段もしていたと、カラスはあのときの事情をトリアに明かす。
「もっとも、ここのドクターと看護士さん、でしゃばってきた連邦軍のおかげで段取りがすべて狂っ
たがな。とんだ、シナリオクラッシャーだ」
ドクター達を組織に取り込みたいと考えて、開放をぐずったのが運命の分かれ道だったな
と自嘲するように言った。
「もっとも、後悔はしていない。代わりに新たな指針と目標ができた」
カラスが力強い態度で、トリアに火星での新たな計画を話しはじめた。

190 :創る名無しに見る名無し:2012/05/06(日) 22:30:28.39 ID:qzEILOjW.net
「副長が船を離れた意図が読めないのかな」
まるで、トリアに動いてくださいといわんばかりだ。あからさま過ぎると
【ケイローン】に帰還したアーサー・クロードが、トリアの乗ったエレベーターが止まるのを確認して
言った。
「見逃されていることは感じているんじゃないですか。でも、彼女はあえて動いた」
ブリッジクルーの一人であり、情報技官であるメイリンは言った。
「セイエン副長の期待に正しく応えたとも言えますね」
「そんな考え方もありか」
アーサーがちょっと考えるように言った。
「そもそも、オルシーオ艦長が今の時点で、艦を離れること事態、異常ですよね。加えて副長が少し
の間だけでも艦を離れるなんて、ありえない」
メイリンが、あきれた風を込めて言った。
「普通の軍じゃ考えられないが、【ケイローン】だし。オルシーオ艦長のとっぴな行動は一同なれるか
らね。今回はクライアントの呼び出しもあったわけで。・・・でも、そういえば、第ニ次ジオン抗争では、
シャア総帥自らが出撃してたな」
「それは戦場で陣頭指揮を取っていたってことでしょ。戦略的には懐疑的になるけど、士気の鼓舞
と戦術的見地からは、仕方ない面もありますから」
メイリンの言葉にアーサーがかすかに微笑んだ。
「それにしても、俺は戦闘バカだから、こういうスパイめいた動きは苦手なんだよね。メイリンが一緒
だから、かんばるけど」
顔を近づけてきたアーサーから一歩退いて、メイリンがエレベーターのボタンを押した。
「とりあえず、同じフロアへ降りましょう」
トリアの言葉に、はいはい、とアーサーがうなづいた。

191 :創る名無しに見る名無し:2012/05/20(日) 23:14:05.36 ID:9N38GoHX.net
同じフロアに着いたメイリンは、どう行動するべきか、思案する。
踏み込むか、様子を見るか。
それについて上官の指示はない。唯一の命令と言えば、アーサーと行動を共にしろとオルシ
ーオ艦長が言い残しただけだ。
「これだから、真正ニュータイプは困るのよ。阿吽の呼吸で何もかも通じると思ってる。言葉も
きちんと有効活用してほしいわ」
「ほんとだよなー」
のほほんと言うアーサーをメイリンは上目遣いで睨んだ。エースを張るモビルスーツパイロッ
トが何を言っている、と思ったからだ。
それを見澄ましたようにアーサーが言った。
「レーヴェやオリビエたちの能力と比べたら、一般人もいいとこよ、俺は」
「確かに、そうですね」
メイリンが肯定すると、心なしかアーサーが不服そうになる。「そんなことないですよー」という
返事が欲しかったなら、おかど違いだ。最低レベルのNT能力しか持たない自分に、リップサー
ビスを期待するほうが悪い。
「盗聴器とか監視カメラとか仕掛けなかったの?」
アーサーが聞いてくる。メイリンはノーと首を振った。情報将校として提案はしたのだ。しかし、
オルシーオ艦長が待ったをかけた。
「変なところで道徳心が強いんですもの」
もちろん、オルシーオ艦長の判断は、人として尊敬できる。そんな艦長だからこそ、乗組員が
絶大な信頼をおいているのだということも分かっている。
けれど、その言動は、諜報を軽く見ているためでは、とメイリンは危ぶんでいた。

192 :創る名無しに見る名無し:2012/05/20(日) 23:15:59.69 ID:9N38GoHX.net
【ケイローン】のカエサルはその能力ゆえに、どんな状況でも勝利を手にしてきた。
グリプス戦役でゼダンの門が墜ちた際、他の4人のパイロットと共に、両軍の負傷者
を片端から救い出した救命の若き英雄。
彼らはカエサルとフォーカードとあだ名された。
特にリーダであったオルシーオ艦長の声望は軍人の派手さはないが、関係者の間では根
強い。
フォーカードのうち、オルシーオの両腕とされた、オーギュストとデュオンの二名が、第二次
ネオジオン軍、シャアの反乱の際に、アクシズショクの巻き添えになって、生死不明となっ
た後は、なおのことだ。
高いNT能力をもつオルシーオ艦長は、戦場においては、諜報という行為をあえてしなくても、
敵を知ることができるのだろう。
しかし、いかんせん、クルーの全員がオルシーオ艦長ほどの能力を持っているわけではない。
だからこそ、自分のような存在が必要なのだとメイリンは思う。
メイリンは、手にした黒いケースを持ち直してアーサーと共に、トリアが入った部屋の隣にす
べりこんだ。
「ドクターサキに見つかったら、叱られるかもね」
メイリンが取り出した器具を見てアーサーが言った。
メイリンはすまして答える。
「これも、予防医学の一環よ」
アーサーがなるほどとうなづいて、共犯者の笑顔を向けてきた。

193 :創る名無しに見る名無し:2012/05/20(日) 23:22:12.22 ID:9N38GoHX.net
セイエンがブリッジに戻ると、予想通りトリアの姿が消えていた。
メイリンとアーサーの姿もない。
「オルシーオ艦長からの連絡は?」
通信士のニシカタに問いかける。
「ありません」
彼が短く答える。
どうしたものか。
艦長の不在は艦全体の士気に関わる。オルシーオの言動は軽いが、存在は重い。
ただ、オルシーオが理由もなく長いあいだ艦を離れるはずもない。
【ニルヴァーナ】から、いまだ帰らないのは相応のわけがあるはずだ。
帰投したアーサーの話では、【ニルヴァーナ】の艦長らと話し合いをしているとのことだが。
「・・・新しいモビルスーツと美女二人に夢中になっているわけじゃないと思いますけどね」
セイエンの心を読んだように操舵手の一人であるナディールが言った。
浅黒い顔に映える白い歯をみせて笑っている。
セイエンは肩を軽くすくめてそれに答えた。
新しいモビルスーツを見たときのオルシーオは大好きな玩具を与えられた子供のようだ。
もっともそれは、【ブルークロス】の幹部として新しい技術に敏感だということでもある。
やや、ジオン、いやスペースノイドに肩入れするきらいはあるが、セイエンがどちらかと言えば
連邦よりの見方をするので、バランスが取れているといえる。
だからこそ、オルシーオが若輩と言われた頃から、自分を副官として重用しているとセイエン
は自覚していた。
通信を確認する。【ニルヴァーナ】に異変はない。セイエンは首を回して言った。
「若いパワーを相手にして少し疲れた。医局で栄養ドリンクでももらってくる」
セイエンはブリッジを再び離れた。

194 :創る名無しに見る名無し:2012/05/20(日) 23:26:52.65 ID:9N38GoHX.net
医局に向かい、カウンセラー室に入るとそこにはトリアがいた。
横には、ドクターサキが座っている。
私に話すよりも、ドクターにまず相談したか。
ドクターサキは、クルーの体と心を含めての健康を常に把握している。
定期的にカウンセリングも行っている。レーヴェやオリビエ、アーアーサーを筆頭に、必要
ないと逃げ回っている輩もかなり存在しているが。
そんな連中も、いざ、ドクターサキを前にするとさまざまなことを話し始めるそうなのだから、
クルーに対する彼女への信頼は絶大なものだ。
ドクターがそばにいるせいか、トリアの言葉は滑らかだった。
勝手に、二人の客人に会いに行ったことを詫び、その上で自分の心情を吐露した。
「いますぐに【ケイローン】を降りるつもりはありませんが、カラスの言うことが真実ならば、
できる範囲で、協力をしたいと思っています」
セイエンはトリアに語らせるだけ語らせた。
彼女はカラスが何をしようとしているのか具体的に話していないことに気がついていない。
アナハイムの弁護士をしているが、そのアナハイムと火星で何をするつもりなのか、何故、
今回の【ニルヴァーナ】に同行してきたのか。
相変わらず、慎重な男だ。反政府主義者だった過去を気にしているにしては、過ぎるので
ある。
「話は分かりました。懐かしい顔に会えて、君も興奮しているのでしょう。とりあえずこの
話は私に預からせてください。ただ、」
セイエンは少々困ったという顔をしてトリアに告げた。
「パスワードを抜いたことは、訓戒ではすみませんよ。ブリッジクルーとオペレーター業務は
当面禁止。コンピューターへのアクセス権もしばらく凍結します」
トリアははっとした顔になったが、すぐに納得して「分かりました」と答えた。
「ということで、ドクターサキ、よろしくお願いします」
「ああ、引き受けた」
その会話にとまどったようにトリアが、セイエンとサキの顔を交互に見た。
「うち(医局)でお前さんの身柄を引き受けるんだよ。懲罰房や自室謹慎なんてサボリは
許せないからね」
ドクターサキが当然といった調子で言った。
緊急教護のない医局では、普段は艦の雑用までもこなす。ドクターサキのことだ、トリア
が余計なこと考えられない状態まで仕事をさせるだろう。
頼みますとの言葉を残し、セイエンは席を辞した。

195 :創る名無しに見る名無し:2012/05/30(水) 20:48:05.96 ID:IbM4pOBX.net
ブリッジに向かうセイエンにアーサーは声をかけた。
メイリンは一緒ではない。連れ立って副長室に入れば、何事かと耳をそばだてるものもいる。
【ブルークロス】、特に【ケイローン】では、浮薄なうわさ話を流す輩は少ないし、トリアの事情を
幹部連のほかにも察しているクルーは多いが、事を大げさにしたくはない。
「副長は、地球で脳外科医だったんですよね?」
おやという顔で、セイエンがアーサーを見つめた。
「私を尋問ですか?」
そんなつもりはないと、アーサーはジェスチャーで応じた。
「話の元はアシェンバッハ少佐ですか?なぜかあの人は、私の噂をばらまく癖がある」
困ったものですと言いながら、セイエンが軽いため息をついた。
「私は今でも医師ですよ。たまには当直もこなしていますしね」
それはアーサーも知っていた。一月に1度か2度の頻度だが、ドクターサキからのコールが来ると
医局での仕事をセイエンはこなしている。セイエンの白衣見たさに、わざわざ用もないのに医局に
いく女性クルーもいるらしい。
しかし、救急の現場では滅多に医師としての仕事はしない。止血や簡易な応急処置はするが、
それは他のメンバーも行える程度のこと。救急救命の現場ではドクターサキと配下の医師の独壇
場だ。
「どうしてですか」
普段から疑問に思っていたことをアーサーは口にしてみた。
「救急の現場が苦手なんですよ。若い頃は、お膳立てされた手術ばかりしてましたからね。
データがない患者のバイタルサインを読むのが、あまり得意ではないので・・・」
意外な答えだった。過去に一度だけ遭遇したセイエンの救命処置は的確で早かったと記憶してい
たからだ。
「だから、ドクターサキも私に、救急の現場では3人以上の患者を滅多に振らない」
そういえば、セイエンが治療していたのは、頭骸骨骨折を起こしていた患者2名であったことを思い
出す。
「今では人を治療するより、怪我をさせるほうが得意になってしまったきらいはありますねえ」
とセイエンが自嘲するように言った。
「俺は今も昔も人を怪我させるほうが得意ですからー」
そんな話をしながら、アーサはセイエンと共にブリッジを通って副長用の個室に入った。

196 :創る名無しに見る名無し:2012/06/03(日) 18:52:10.28 ID:WNoN7xch.net
室内に入ってすぐにアーサーは、メイリンが速記したトリアとカラスの会話を渡す。
速記の記号は、【ブルークロス】独自のもので、暗号を兼ねている。
紙面に手書きなのは、本人であるという証明にもなる。
「トリアの告白と矛盾はないですね」
熟読した後、セイエンはシュレッダーにそれをかけた。紙ベースを情報媒体にしている
など、他の組織ではあまり見られないだろう。
「よかったですね」
アーサーが言うとセイエンが、視線をよこす。
「彼女を処分しなくてもよくて」
アーサーはわざと強い表現をしたみた。
「そうですね」
あっさりとセイエンがうなづいた。その声を聞いてアーサーは思わず背筋を震わせた。
【とりあえず、今のところは】という言外の含みを聞いた気がしたからだ。
セイエンの公正な言動は(煙たくもあるが)評価され、清雅な外見と少しの神経質さ、加えて
とっぴな行動を示す艦長に振り回される副官という風情は、クルーの同情といくぶんかの親し
みやすさを引き出していた。
だから、忘れてしまう。セイエン副長が酷薄な物言いをできる人間だということを。
自分で振っておきながら、裏切られたような気分にアーサーはなっていた。
「君は、『カラス』をどう思いますか?」
水を向けられてアーサーは、腕組みをしてしばし考える。
セイエンの望む『答え』を出さないように、心を静穏へと持っていく。
「私は、彼と直接、会っておりませんが」
自然に言葉遣いも改まった。
「でも、あなたのことです。以前の記録はチェックしているのでしょう?」
アーサーはセイエンの言葉にうなづいた。
「だた、記録とは言え、大部分はサイコ・キャストから、構築したイメージ映像的ものですし」
個人の脳波を基にした情報は、主観をまぬがれないとアーサーは考える。
また、記録者の一人であるセイエンを前に、意見を述べるのは少し抵抗がある。
「私の記録、記憶に対しての意見も含めて話して欲しいのですよ。私の『カラス』観が
傍目にはどう見えるのか。あの時、作戦に参加していなかったあなたなら最適です」
「記録を見た際、どちらかと言えば、【クローノス】のメンバーに注目していたので、たいして
参考にならないとは思いますが」
と前置きしてアーサーは意見を述べ始めた。

197 :創る名無しに見る名無し:2012/06/03(日) 19:00:51.35 ID:WNoN7xch.net
「なんというかな、マフティーの【カラス】やつはなかなかの曲者だ」
あてがわれた、モビルスーツデッキ脇の部屋で、支給されたレーションを消費しながらオ
ルシーオ艦長が言った。
「その根拠は?」
同じくレーションを食べながら、オリビエは問いかけた。
【ケイローン】への帰還をオルシーオ艦長は、取得した敵モビルスーツの解析が終わった後
でと宣言していた。
せめて、【ケイローン】に連絡したほうがいいというオリビエとレーヴェの意見は無視だ。
セイエン副長の反応が怖い、というか、対峙すれば、帰還せざる得なくなるからだろう。
尻に敷かれるというのは、夫婦間で使われる言葉だが、二人の関係はそれに近い。
いや、オルシーオ艦長は、セイエン副長を困らせることと、副長に尻に敷かれる艦長という
立場を楽しんでいるように見える。
「カラスは、【ケイローン】に来るまで、アティアとセイエンの正体に気がつかなかったと言った」
ボトルの水を口に含みながらレーヴェが、どういうことです?という顔をした。
「それが嘘だと?」
レーヴェの問いにオルシーオ艦長は「ああ」と答えた。
「【ブルークロス】に囲われて、まるで接触のなかったセイエンだけならともかく、アティアも
というとな」
「カラス、トマス・スティーブン氏が、火星開発プロジェクトを手がける組織と渡りをつけたいと意
図するなら、関係者であるアティアについて、なんらかの情報を得ていなければおかしいと
いうことですね」
レーヴェが納得したように言った。
「そのために、わざわざ、【ニルヴァーナ】に乗ったはずですしね」
とオリビエも相槌を打つ。
「カラスは【クローノス】のダクランとも5年前の事件で面識はあるからな。そのあたりも
疑惑の種のひとつだ」

198 :創る名無しに見る名無し:2012/06/04(月) 00:06:46.89 ID:eU1fVTb0.net
「連邦政府に対する復讐心は拭い去った。という意見は分かるんですが、信念を変節するような
人間には見えない、とうことです」
アーサーの言葉にセイエンが目を細めた
「信念」
「ええ、人類すべてを宇宙に上げるという信念です。通常反政府主義というとジオンをイメージし
ます。しかし、ジオンといえば、一年戦争のスローガンは、『ジオン公国ひいてはスペースノイド
の独立』です。カラスが言った、共同体はどちらかと言えばこの路線に組します。ただ、
ザビ家はザビ家による地球の支配が目的でもあったわけですが。」
でもですね、とアーサは続けた。
「マフティーの本来の信念は違う。シャア総帥の掲げた『全人類を宇宙に引き上げること』でした。
もっとも、シャア総帥が、その先の目標にしていたニュータイプへの変革まで、マフティーが標榜し
ていたかは定かではないですが」
「火星・・・」
セイエンが小さくつぶやいた。
「火星にジオンの残党が移り住んでいるという噂もあるます。それと協合するとやっかいですね」
「ジオンとマフティーが?先にも申し述べたとおり、共に反連邦ではありますが、信義上、ありえな
いと思いますが。」

199 :創る名無しに見る名無し:2012/06/04(月) 00:43:01.08 ID:eU1fVTb0.net
「ありえないとことがありえるのが、この世紀の特徴ではある」
ルイーズは、隣に立つダクランを見上げた。
「200年の昔、まがりなりにも人類が統一政府を実現できると思ったものがいただろうか?」
ルイーズは答えなかった。彼が答えを欲して問いかけたのではないことが分かったからだ。
「ミノフスキー粒子の発見、モビルスーツでの闘争、サイコフレーム、そしてニュータイプ。卑俗な
例をみれば私自身もだ」
「対する陣営のもの同士が惹かれあうのは、昔からよくあることです」
今度はルイーズは声を出した。
「戦場での恋か・・・かつてガルマ・ザビも連邦の政治家の娘と愛し合ったとか。それははかなく
散ったがな。ガルマは死んだ。何故だ?その恋を実らせるためと、シネマでは脚色されていたな」
それは、7年も昔、ルイーズがねだってダクランと見た映画に挿話されていた話だ。
ルイーズは、彼が自分の父と母のことを言っているのか、それとも、白の女王、「アティア」なる女に
向けられたダクラン自身の感情のことを言っているのか測りかねた。
青灰のまなざしが、スキャンをされているサティンとミラージュに向けられた。
「彼女たちもありえないことの一つでもある」
ラボ室の向こうで検査をしていた研究者がオーケーのサインをだした。
彼女たちの心身は損なわれていない
「【ブルークロス】は訓練相手としては最適ですね」
「可能な限り殺生をせずが、社則らしい」
わずかに視線がラボ内から、ルイーズへと逸れた。
「彼女らにとっても、いや我ら全員にとってもな」

200 :創る名無しに見る名無し:2012/06/06(水) 00:30:52.07 ID:PoZ7+hYb.net
閑話
宇宙海賊の名がビシディアン・・・他スレで「ビリディアン」と間違えられてた。
トランプしながらの上司の愚痴シーンもあるとか。
ええーい、いっそ、これから書く予定だった

フォボスとダイモスの要塞化と攻略戦をやってほしい。

201 :創る名無しに見る名無し:2012/06/07(木) 17:24:45.00 ID:1Q+7yhxE.net

http://dt21tr64.at.webry.info/201112/article_4.html

http://www.youtube.com/watch?v=40oYZl2PmYo&feature=plcp

202 :創る名無しに見る名無し:2012/06/13(水) 22:01:54.78 ID:JF2T1mO3.net
 閑話
>201は誤爆?
それとも何かのメッセージだろうか?浅学なので、読みとけない。
申し訳ない。・・・とりあえず、聞いてみた。魔女の呪文のようだった。
あまり、詳しくないので、初めて聞いた。新しい知識をありがとう。
とある言葉をぐぐったら、ニルヴァーナが出てきた。こうして世界は繋がっていると思うとうれしい。

203 :創る名無しに見る名無し:2012/06/13(水) 22:47:42.05 ID:JF2T1mO3.net
「クローノスとマフティーが?」
レーヴェは懐疑的な言葉をオルシーオ艦長に投げかけた。
「何事も先入観は禁物だぞ。なあ?」
とオルシーオ艦長はオリビエに言った。
「おっしゃるとおり、この世界では何事もありうる」
オリビエが最後のパンのかけらを口にした。
「このレーションの品質もしかり。昔じゃ考えられない」
「だよな。昔は料理人がいる船はそこそこのものを食べられたが、二等貨客船や
貨物船なんざ、オートミールみたいなものを啜るだけなんてざらだった」
「こういう時代の変化は歓迎したいですが、レーダー戦への後戻りは歓迎したくない」
オリビエの言葉にレーヴェははっとした。
【クローノス】はミノフスキー粒子を撒かなかった。それは有視界戦闘で圧倒的な強さを誇る
ニュータイプパイロットに対抗する手段であると推測できる。
一年戦争からこちら、兵器はミノフスキー粒子ありきで開発されてきている。
【クローノス】のダクランが取った戦術は、それを覆すものであり、投入されたモビルスーツ
もそれに対応していた。
「ミノフスキー粒子の無効化技術が開発されたということですか?」
「んー」
とオルシーオ艦長がうなった。
「まだ開発はされていないだろうが、視野には入って、研究はされているだろうなあ」
「今回のクライアントに運ぶモビルスーツにも、ステルス機能がついてましたね」
レーヴェは、そのことの意味を改めて気がついた。
レーダーを撹乱させるミノフスキー粒子がばら撒かれれば、それだけで敵対するものが
近くにいると推測される。
一年戦争以来、ミノフスキー濃度によって、敵の有無をある程度、察知するというのは、常識
となっていた。
しかし、ミノフスキー粒子が撒かれなくとも、ステルス機能がついた戦艦、モビルスーツが主
力となれば、今後も有視界戦闘は続くだろう。
ミノフスキー粒子を散布するかしないか、その判断も今後の戦術・戦略面での選択肢となって
いくと予測される。

204 :創る名無しに見る名無し:2012/06/13(水) 22:56:38.09 ID:JF2T1mO3.net
レーヴェがそのあたりの意見を述べると、
「まあ、【ブルークロス】の優位性はそうそう覆されるものではないがな」
とオルシーオ艦長は言った。
ニュータイプの力を過信しているのではと、レーヴェはいぶかしんだ。
その表情を読んだのか、オルシーオ艦長が人差し指を横に振って言った。
「うちの人型ロボットの開発ナンバーの由来をしっているか?」
「MS-039 コーラルペネローペ、モビルスーツの略ではないのですか」
レーヴェは素直に問いかけた。
「ざーんねん。モビルスーツじゃなくて、うちのは、メディカルスーツの略」
うれしげにオルシーオ艦長が答えた。
「オリビエ、お前知ってたか」
レーヴェの振りに、オリビエが薄い笑いで答えた。イエスともノーとも取れる。
オリビエの態度に、少々釈然としないまま、【ブルークロス】の立場、道義性と中立性が
優位性を保ってくれるといことだろうとレーヴェは解釈した。
「でも、みんなモビルスーツって呼ぶのは何でですか?」
オリビエがしごく当然な質問をする。
「俺が好きだからさ。メディカル・スーツなんて長いうえに、カッコ悪いだろう?」
オルシーオ艦長の回答も、(艦長の人となりを考慮すると)しごく当然だった。
オルシーオが表情を少し改めていった。レーヴェとオリビエは一様にうなづいた。
しごく当然だった。
「話が脱線したな。もとの話は、クローノスとマフティーがつるんでいるかどうかだった」

205 :創る名無しに見る名無し:2012/06/28(木) 03:28:12.39 ID:S15Mkl9H.net
「火星にジオン公国の住民が流れていったという話は私も聞き及んでおります」
自分の過去を考慮して、アーサは慎重に答える。
「しかし、再び、反連邦を掲げるには、勢力が少なすぎます。それにミネバも行方不明の今、
旗頭は不在。マフティーとましてや【クローノス】と手を繋ぐことはありません」
「旗頭・・・」
「はい。カラスもそれを分かっているからこそ、セイエン副長を次代の【マフティー】にと望んだ
のでありましょう」
「かいかぶりではありますがね」
セイエンが苦笑し、さらにアーサーに質問をする。
「カラス自身が旗頭になる野心をもったという可能性は?」
「ありえないと考えます。彼は自らを演出家としているふしがあります」
「表立つつもりはないということですね」
セイセンの言葉に、アーサーはイエスと答えた。そして率直な意見を言ってみる。
「副長は、5年前、マフティーとなることに心惹かれたように見えました。」
セイエンの目がわずかに細められる。
「私がマフティーに?」
「あなたは、多分に彼らに同情的だった。アティア嬢がついていくと言えば
あなたはマフティーに身を投じたのではありませんか?ここではない未来を描くために」
「どのような未来を拓きたいと?」
「スペースノイドとアースノイドという立場を超えること、プラス、オールドタイプとニュータイプとの融和
でしょうか?」
「それはもちろん理想ですよ。【ブルークロス】も究極にはそれを目標としている」
「いえ、聡明なあなたにはお分かりのはずだ、【ブルークロス】はニュータイプでありすぎる」

206 :創る名無しに見る名無し:2012/07/05(木) 00:43:34.44 ID:4GrWlNM5.net
ホシュ

207 :創る名無しに見る名無し:2012/07/10(火) 02:56:11.62 ID:G3X6xKo3.net

アーサーはまっすぐにセイエンの瞳を見つめた。
「従業員の8割が通常時でのNT能力を確認され、その他もサイコキャストへの適応力が
高いオールドタイプ。いや、プレニュータイプとでもいうべきものたちで構成されている
組織。オールドタイプを受け入れない素地が【ブルークロス】にはある。そのような組織を
連邦が、いや、普通の人々が警戒しないわけがない」
「旧ジオン以外のスペースノイドを味方につけ、敗れた後もスペースノイド、いやアースノイドの一部に
さえ支持されているシャア・アズナブルもニュータイプのはずですが?」
「シャア総帥はニュータイプではありませんでした。いや、その表現は、御幣があるな。
総帥のNT能力は完全に目覚めてはいなかった。だからこそ、支持され得た」
「ニュータイプとオールドタイプの狭間で揺れていたからこそ両者を惹きつけた、と言いたいのですね」
「ええ、そして、僭越ながら、副長にもその素地はあると俺は考えてます」
「これでも私のNT能力は高いと自負しているのですけどねえ」
「能力の高低ではなく、副長は無意識か意識的にかわかりかねますが、能力の限界を自ら設定
しているように、私には思えます」
アーサー思い切って断言をした。先ほどの、医師としての能力が低い云々もそうだが、セイエン
副長は全能力を傾けて事に当たらないきらいがあった。オルシーオ艦長の余裕とはちがう。引き
気味の態度だ。
そこで、ふとアーサーは気がついた。セイエン副長に話題が逸らされていた。【ブルークロス】とい
う組織についての話が、セイエン副長個人の話になっている。

208 :創る名無しに見る名無し:2012/07/10(火) 02:59:25.84 ID:G3X6xKo3.net

「天秤が傾いた組織である【ブルークロス】は「ニュータイプ」としてのありようは示せても、オールド
タイプとの架け橋にはなり難い。だから、真に両者の融和を唱えるならば、その中間の立ち位置に
いるものが必要とされる」
アーサーは話を戻した。
「それが、マフティー・ナビーユ・エリンというわけですか」
「はい。・・・預言者、人々の思いを代わりに語るもの。けして、集団の代表者ではないもの。
ですから、ジオンの再興を考えるジオンの生き残りと連邦での足場を固めたい【クローノス】。
この二者がマフティーと相容れることはない」
「先入観は禁物ですよ」
セイエン副長が穏やかに言った。その言葉にアーサーは首を振る。
「一度、信奉した思想信念は、捨てることはなかなかできないものです。情熱を持って行動した
過去は美化され、思いは熾火のように、心の中でくすぶり続ける」
「君もですか?アーサー」
アーサーは不意をつかれた。ジオンの名を冷静に受け止めることは、まだ自分には難しいと
思い知る。それでも、アーサーはセイエンに向かって言った。
「遠い夢です」

しばしの沈黙が二人の間におりた。口を先に開いたのはセイエンだった。
「私は半ば確信しています。覚めない二つの夢に踊らされるものが、これからも出てくるだろうと」
「覚めない二つの夢?」
「ニュータイプとモビルスーツ」
もしかしたら、この二つを根絶することこそが、平和への近道かもしれませんね、と冗談とも本気と
もつかぬ顔と声でセイエンがアーサーにささやいた。

209 :創る名無しに見る名無し:2012/07/27(金) 05:11:09.70 ID:zy0qBsDt.net
保守

210 :創る名無しに見る名無し:2012/08/03(金) 22:31:34.72 ID:2HseC5ea.net

「刑に処せられた、マフティー本人ならジオンと【クローノス】と共闘はないと思うのですが、カラスは
マフティーではない」
レーヴェは他の二人に確認するように言った。
「ああ、奴は連邦に対する復讐心を拭い去ったといった。しかし、本当に消え去ったのなら、連邦の枠組み
のなかで、市井の人物として生きる道もある」
オルシーオ艦長の言葉を受けてオリビエが言った。
「ところが、カラスはアナハイムの新型モビルスーツを乗せた船に乗り込んできた。正体がばれたら、
火星への移住を【ブルークロス】とアティアにぶちまける。我々に知ってくださいと言わんばかりに」
「襲撃のタイミングも良すぎるな」
オルシーオ艦長が指摘した。
「お前が二人を【ケイローン】へ連行した直後。我々も少々意識がお留守になったところを見計らってだ」
「アティアはカラスの正体を初めから気がついてましたよね?」
「おそらくは・・・。ただ、あやつは時々どうしようもなく鈍いときもあるから、断言はできん」
「鈍い?」
今までの経緯では、アティアが鈍いとは思えないというように、レーヴェは聞き返した。
「一つのことに集中すると周りが見えなくなる」
「それ、タケルとミコトも言ってました。仕事に夢中になるとしばしば食事も忘れるとか」
オリビエがしたり顔を作った。
「サキの薫陶が行き過ぎてるんだ。・・・言ったサキも、アティアには言うべきじゃなかったと陰で
話したくらいだ」
子供を心配する親といった風情でオルシーオ艦長が頭をこぶしで叩いた。その手がふと止まる。
「アティアは【クローノス】に自分と新型MSが奪われることを望んでいるのかもしれんな。虎穴に入らずんば
って心境でな」
「だとしたら、艦長はどうします?」
両手で顔を覆うように眼鏡を直しながら、オリビエが尋ねた。
「全力で阻止」
「できますか?」
とレーヴェは、疑わしげに言った。
「五分五分ってとこかな」
あっさりとオルシーオ艦長が答えた。

211 :創る名無しに見る名無し:2013/04/21(日) 11:09:25.21 ID:WsbtKPC7.net
八巻正治教育学博士は【好きな人のパンティ】を被ると変態仮面となり、父譲りの慎重さと母譲りのスタイリッシュを武器に悪者を懲らしめ、ピンチの際は仮面姿+キャミソールを身に付ける事で究極の変態パワーを解放するのだ!!

212 :創る名無しに見る名無し:2017/12/27(水) 12:33:08.31 ID:C1Z7QFDy.net
家で不労所得的に稼げる方法など
参考までに、
⇒ 『武藤のムロイエウレ』 というHPで見ることができるらしいです。

グーグル検索⇒『武藤のムロイエウレ』"

KFURX67AOP

213 :創る名無しに見る名無し:2017/12/31(日) 10:50:01.99 ID:VgdSezQt.net
あげ

214 :創る名無しに見る名無し:2018/05/21(月) 06:47:52.73 ID:tRZnwP6O.net
知り合いから教えてもらったパソコン一台でお金持ちになれるやり方
参考までに書いておきます
グーグルで検索するといいかも『ネットで稼ぐ方法 モニアレフヌノ』

ZAO1U

215 :創る名無しに見る名無し:2018/07/03(火) 21:04:23.46 ID:f1dClnnX.net
5UU

216 :創る名無しに見る名無し:2018/10/17(水) 16:21:19.90 ID:ZU7x6aHX.net
中学生でもできるネットで稼げる情報とか
暇な人は見てみるといいかもしれません
いいことありますよーに『金持ちになる方法 羽山のサユレイザ』とはなんですかね

F2B

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