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【長編SS】鬼子SSスレ7【巨大AA】

1 :創る名無しに見る名無し:2013/05/04(土) 09:51:35.61 ID:kF0HSeVY.net
       ノヽ、   ノヽ、
       ) y (   )  (
      )ヽ|/(  )  (              
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         Σ°)<鬼子の話を書こうじゃないか!
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http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1359724513/

運営相談所スレ 萌キャラ『日本鬼子』制作in運営相談所13
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/3274/1364553489/

萌キャラ『日本鬼子』まとめwiki
http://www16.atwiki.jp/hinomotooniko/

279 :プロローグ33:2014/02/03(月) 17:07:52.06 ID:6fj57m52.net
 いっぽう、ミキのほうはというと…

「ふっ・・・。」


 顔の下半分を覆う覆面の上からも解るような表情で閻ニャーを見返す。

 その表情とは―  なんというか―    勝ち誇った顔だ―

 あきらかに、ここに現れたときの、最初のやりとりのことを、根に持っている。

 わざとらしくポーズを取り、これまたわざとらしくため息をつくと・・・


「ちょっと頭に血が昇ったくらいで、忘れてしまうとは・・・・
 鬼子も友達甲斐のない友を持ったものでござるな・・・・」

「そんなことないよ!!! 鬼子ちゃんは閻の大事なトモダチだよ!!!!」

 閻ニャーは、あの猫のものにしては禍々しすぎるあの尾をふるふる震わせて喰ってかかる・・・が―

「ほほう。 では、日本鬼子の好きな食べ物を知っておるか?」

 ミキは、妙に落ち着いた声で問いかける。

「そのくらい知ってるよ!! おにぎりでしょ!!!」

 続けて問う。

「嫌いな物は?」

「いり豆!!!」

「好きな色は?」

「赤!!!」


 ・・・・・・・鬼崎には、 ・・・何となく・・・何となくだが、先の展開が読めた。


「・・・スリーサイズは?」

「スリーサ・・・ え・・・? 何それ?」

「身長は?」

「え? え? ええっと・・ ええっと・・・」

「体重は?」

「え? うーん、と・・・ その・・・」


 やはり・・・・・・・

 今までの疲労感がどっと押し寄せてきたような気がして重くなった頭を、鬼崎が支える。

280 :プロローグ34:2014/02/03(月) 17:31:52.25 ID:6fj57m52.net
 その間も―

「朝起きて顔を洗うとき、最初に使う手は右手!? 左手!?
 風呂では最初に頭を流す派!? それとも肩を流す派!?
 歯磨きのチューブははじっこからつぶしていくのか? それとも真ん中からつぶしていくのか?
 足の爪を切るとき、新聞紙を広げるのか?? それともティッシュで済ますのか?? ・・・」


(・・・・・・・・・・・・・・)


 いろいろと・・・ いろいろと、突っ込みたくなるような質問が次々と浴びせられ・・・

「え? え?? え?? え???」

 不意打ちだったせいか・・・、 質問の・・・そもそものしょーもなさには考えが及ぶことなく、
馬鹿正直に答えようとして答えられず、閻ニャーは狼狽していた。
 その目には、うっすら涙が浮かび・・・ 化鬼猫大主はというと・・・我関せず、を決め込み、
あさっての方向に目を向けていた。


「小日本(こにぽん)と一緒に風呂に入るのは週に何か・・・」
「ちょ・・・! ちょ・・・!! ちょっと待ってよ!!! ミキティー!!!」

 間断なく浴びせられる質問責めに、さすがに耐えかねたか、閻ニャーが静止の声を上げる。


(まあ、さすがにこんな馬鹿な質問に付き合ってはおれんはな・・・)

 鬼崎はそう思ったが・・・・


「ミキティーは鬼子ちゃんのそんなことをみんな知ってるって言うの!!??」


(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。)

 ・・・完全に、術中だった。


「ふ・・・・・・・。」

 閻ニャーの問い返しに、ミキは勝者の余裕の様子で一息つくと、自分の眼の下にくっきりと刻まれた
寝不足の証の隈を示し・・・・


「知っておるわ!!!! なにせ、不眠不休でちくいち、見ておるのだからな!!!!!!!!!!!」

 きっぱりはっきりと、言い放つ。

「いや・・・、 いろいろと駄目だろ。 それは・・・・・・」


「友のその程度の些事(さじ)も知らずして・・・・!!!」

 鬼崎の突っ込みは、しかし、閻ニャーにビシリ!と人差し指を突きつけたミキの、続いて発せられた
声にかき消される。

281 :プロローグ35:2014/02/03(月) 17:57:05.15 ID:6fj57m52.net
「己を『友』と称するなど片腹痛いわ!!!
 恥を知れ!!! 恥を!!!!!」

   「あのな・・・それをお前が言ったら駄目だろ・・・、 お前が言ったら・・・」


 鬼崎は、もしその体の肉付きが良ければ『痴女』と呼ばれてもおかしくないそのコスチュームを
見ながら再度、突っ込むが・・・


「う・・・ う・・・・ う・・・・・・。」


 すでに両目に大粒の涙を溜めた閻ニャーには、どうやら、もう聞こえてはいないようだった。

 そのまま―


「うわああああーーーーーーん!!!!!
 ミキティの馬鹿あああああーーーーーーーー!!!!!!!!!!」


 大泣きしながら、少女はもと来た暗がりへと走り去っていった―

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 少女の去った暗がりを、鬼崎は気まずく見つめていたが・・・


「ふ・・・ 意趣返し、果たせり・・・。」

 ミキのほうは、満足気に、呟く。

「お前な・・・・、 実質の12才児相手に『意趣返し』って・・・・」

 だが勝利の余韻に浸るくのいちにそんな抗議はまったく聞こえてはいないらしかった。


「・・・けど・・・まあ・・・・・」

「?」

 ただ、ふと気付くことがあり、鬼崎が話を換えようとしているのを感じ、ミキは振り返る。

「これであいつもまっすぐ鬼子のとこに行くだろうし・・・
 あいつや・・・鬼子にとっては・・・・ 得体の知れない奴の正体探しなんぞにかかずらうよりは
このほうが良かったのかもしれねえな。」


「・・・・気付いて、ござったか―」

 ミキの表情が・・・・ 忍びのそれに、戻る。

「どういうつもりだ? アイツらと対立する『天魔党』の忍びとしちゃ、わざわざそんなことをしてやる義理もねえ
だろうに?」

「命じられているのは、監視のみでござるし、その対象も日本鬼子のみでござる。 それ以外の裁量範囲で拙者の起こした
気まぐれをいちいち咎めるほど、我が主、ヌエ様は狭量な方でもござらぬ。」

「ふーん…、アイツが、な……。」

282 :創る名無しに見る名無し:2014/02/03(月) 22:56:18.19 ID:byxmwAuS.net
今日の投下も乙です〜
続きが待ち遠しいですな。
8レス制限がもどかしい。
てか、ミキティ大人気ないw

283 :創る名無しに見る名無し:2014/02/04(火) 16:13:34.09 ID:dGef1CMq.net
現在、スレ容量は422KB……ほぼ500KBになると書き込みできなくなり、
その状態で一日経過するとスレは落ちるのでご注意な。

284 :時丸 ◆4GrPAaJY52 :2014/02/04(火) 18:53:57.98 ID:64fo5OAk.net
>「うわああああーーーーーーん!!!!!
 ミキティの馬鹿あああああーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

ってこういう事ですね?
http://ux.getuploader.com/oniko4/download/753/ijimeru-01.JPG

285 :品陀 ◆TOrxgAA4co :2014/02/04(火) 21:42:20.42 ID:TiZ/Wuhl.net
>>283
あ、ありがとうございます。気を付けます。
もう3分の2以上は終わってるはずなのでなんとか収まるとは思うんですが・・・

>>284
どうもありがとうございますww
しかし、こwのwかwおwはwwwww
ミキティ、あまり調子ぶっこいてると後で・・・・・w、といかんいかんw。

>>282
どうもペースも安定しなくてすみません・・・
今日は仕事が遅くなりまして、2〜3レスくらいしか無理っぽいですが・・・
ちょっとでも進めときますね。
以下、続きです。

286 :プロローグ36:2014/02/04(火) 22:19:32.98 ID:TiZ/Wuhl.net
 ヌエ、という名の天魔党幹部にして、この黒丑ミキの上忍たる鬼人には何度か遠目に会ったことが
ある。冷酷そうな面構えなのはお互い様だが、それ以外の・・・なにか深い深いところでいけ好かない
ものを感じるところが、鬼崎にはあり、むこうもおそらくはそうだろうこともまた、思われたのだが、
その意外な一面をうかがわせるミキの言葉にもまた、嘘があるとも思えなかった。


「いや・・・・・・、最初に閻どのに言ったことではござるが・・・・・、ヌエさまは・・・・狭量で
ない、どころなどではござらぬ。
 ・・・本当に、本当に、優しいお方でござる・・・・。
 あの方がおらねば、拙者は・・・、拙者は・・・・」


 鬼崎は、ミキの様子の変化に気付いた。
 いつも何かに目を凝らし、目の下の隈をいっそう深くするその目力が緩み・・・その焦点も
合ってない。
 どこか、遠くを見る目をしている。

 そのただならぬ様子に・・・
 ふと・・・先ほどのあの男との会話と・・・なにより、己の境涯を重ね・・・・


「アイツに・・・ 拾われたのか・・・・? 『牛鬼』の身で・・・・?」


 気付けば・・・言ってはならない『禁句』を口にしてしまっていた。


 キッ!!!


 後悔するよりも早く、ミキが睨み上げており―
 鬼崎は怒鳴りつけられることも覚悟した・・・が・・・―

「ああ・・・・ そうでござる・・・・。」


 ミキは寂しく・・・寂しく笑い、小さくそう答えた―

 そして、まるで、一人そこにたたずみ、そこに鬼崎がいるのを忘れたかのように、つぶやく。


「あの・・・『あやめ沼』は・・・、 何だったのでござろう・・・・・。」

「『あやめ沼』・・・?」

 ふと・・・不可思議なことを言い出したミキの、その言葉を問うが・・・・

287 :プロローグ37:2014/02/04(火) 22:53:44.78 ID:TiZ/Wuhl.net
「拙者は・・・ そうだ・・・ 確かに・・・ あそこで、ただ遊んでいた・・・ ただ、遊んでいた
のだ・・・・、 気付けば、空が昏くなって・・・ それで・・・ それで・・・・」

 ミキには鬼崎の言葉は全く届いてはおらず・・・・
 ただ一人、ブツブツと虚空に向かってつぶやき続けるだけだった・・・・


「あの娘は・・・ 確かに、人の子だった・・・・ 拙者は・・・ ・・それを見ていた・・・
・・ずっと、見ていた・・・・ ただ、見ていた・・・・。 しかし、ただ見ていただけなのなら・・・
どうして『遊べた』というのだ・・・? 拙者が・・・あの娘と遊んだ・・・というのか・・・?
いや・・・拙者はたしかにあのとき、一人だった・・・。
 夜のとばりが降り・・・ 闇が晴れて・・・
 そして― 気付いたときには―
 ヌエさまがおられて・・・ なにか・・・ 哀しむように拙者を見ながら、拙者に手を差し伸べておられて・・・
そして・・・ 拙者は・・・、 拙者は気付けば、牛鬼で・・・!!!
 拙者は・・・!! 拙者は・・・・!!!!」


 ミキは、いつしか、頭を抱え・・・ なかば狂乱状態になりつつ、苦しげに言葉を
つむぎ出していた・・・

「おい!! 黒丑!! 黒丑ミキ!!! しっかりしろ!!!!」

 知らず、鬼崎も声を上げてこことは違うところに行ってしまった少女の心を呼び戻そうとし―
ついで、そんな自分に驚いた。

 彼女がそうなってしまった引き金が、先ほどあの『男』に突きつけられ、今、鬼崎が不用意に発して
しまった『牛鬼』という単語であることは間違いなかった。


牛鬼― その姿を自由自在に換え、人を喰らうという、海に住まう大悪鬼―


 あの男も言ったとおり、「それ」はこの黒丑ミキの属する天魔党の元になった、
戦国時代の国・・・・天里国(あまさとのくに)を滅ぼした存在だ―
 このようにナリは小振りといえど― そんな忌まわしい存在が、そこに在るということが、どういうこと
なのか―

 あの、ヌエ、という・・・どこか、同族嫌悪にも似たいけ好かなさをもよおさせる、青年の姿をした鬼人が思い浮かぶ。
 たしか、そのヌエ、は天魔党にあっては新参者で、
 にも関わらず、実力だけで、天魔党最高幹部、天魔党四天王の一角にまで昇りつめた成り上がり者でもあった筈だったが・・・

(・・・・・ヌエ、お前・・・・・)

 先ほど、ミキが『優しい方』と言ったことに、鬼崎は、合点がいった。

(かばっているのか・・・・・? コイツを・・・・。)


 それしか、考えられない。

288 :プロローグ38:2014/02/04(火) 23:13:07.85 ID:TiZ/Wuhl.net
 ひょっとしたら、「日本鬼子の監視」という名目で本部から遠ざけられていることもまた・・・
その少女を守るための措置なのかもしれない。

 この小さな少女は、おそらく、天魔党本部にあっては・・・ 想像もつかないような差別や迫害を陰に陽に周囲
から受け、彼女もまた、『牛鬼』である己が身の宿命と、それを受け入れているのだろう。

 鬼崎には、この少女が関係ないはずの閻ニャーの身を案じ、のみならず、他ならぬ、己自身までもが、その身を先ほど、
案じてしまった理由をぼんやり、理解した。


(お前も― はぐれ者、なのか―)


 自分のように―、 そして、あるいは、先ほど『鬼子の友じゃない。』という言葉に、珍しくムキに
なってしまった、閻ニャーのように―


 黒丑ミキは― 変わらず、虚空に、焦点の合わない視線を向けブツブツと一人、つぶやいていた―

 放っておけばいつまで彼女はそうしているのだろう―

 そもそもそれは、鬼崎には関係のないことだ。
 そのまま彼女をこの暗がりに置き去って、立ち去ることも出来たはずだった―


「・・・・・・・・・・。」


 しかし、鬼崎は、そこを動けなかった―

(ええか!! 商いはな『関係』が全てや!!!!)

 あのお節介な師の言葉が聞こえたような気がしたが、

 その次の瞬間、鬼崎の頭に思い浮かんだのは―・・・
 鬼崎も、まったく、思いもかけない、
意外な意外なモノ―・・・


 否―・・・



(乳〔ちち〕の話をしようじゃないか―?)





 ナマモノだった・・・・・―

289 :プロローグ39:2014/02/05(水) 21:26:27.97 ID:XN2OJbVF.net
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。)


 そう言い放った、ニワトリのような影が去ったかと思うと―

(ちっぱいは正義!!!)

 小鳥の影がぱたぱたと飛んで行き―

(否。 貧乳は罪。)

 重量感ある七面鳥がのしのし通りすぎ・・・

(パンツをよこ・・・)
(手の冷たい鬼の心は―・・・)


 生臭い足の生えた魚と―… 頭にチョンマゲを結わえたトノサマガエルが通りかかったところで―


 ゲシッ!!! ゲシッ!!!


 心の中で、踏みつけ、黙らせる。

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。)

 とりあえず、哀しい哀しい男の性(さが)を黙って噛みしめ、こらえる。
 どうやら、『日本鬼子』とのいさかいで、何度か関わるうちに、知らず知らず、自分も毒されて
いたらしい。
 もっとも、「心の鬼」である連中はというと、「心の鬼」を売買する自分などは、人間が人身売買者
に対しそうするように、蛇蝎のごとく嫌悪しているはずなのだが・・・


(ほかに・・・・ 手もなさそうだしなあ・・・・)


 完全に、違う世界に行ってしまい、ボンヤリと、ブツブツつぶやくだけのミキを、小突いたり、
つねったり、揺り動かしたり、目の前で手をふったりしながら、鬼崎は小さく嘆息する。


「・・・・・・・・・・・・・・・・。」


 そして、一息ついて、身構え、意を決し・・・・・・



「許せ・・・・!!!! 黒丑・・・・・・!!!!!」


 一気に、その胸を、もみしだく―!!!!!




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」


 変化は、まず、寝不足の隈がばっちり食い込んだ目に起きた。

290 :プロローグ40:2014/02/05(水) 21:53:32.48 ID:XN2OJbVF.net
「・・・・・・・・・・・???」

 少しずつ・・・ 少しずつ・・・ その焦点が合い・・・・

 ゆっくり・・・ ゆっくり・・・ 下に・・・・ すなわち、自分の前でしゃがみこんでいる
鬼崎の、その手のほうへと向き・・・・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 やがて、ぴたり、とその手の先に照準が合わさり・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 続いて、この世のものとは思えない・・・なんとも気まずい表情をした鬼崎と目が合う。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


 沈黙―

 そして、何が起こるか、はあまりにもあまりにも明白だったものの、両手はふさがっている為、鬼崎が心で
耳を塞ぎ、目をつぶると―


「きゃあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」



 案の定の絶叫が響き渡り―


「ごふっ!!!!!」

 続いて放たれたミキの強烈な蹴りが、みぞおちにみごとなまでにめり込み、鬼崎はもんどりうって倒れ
転がり、数秒ほど、呼吸もままならない地獄の苦しみを味わった―


「なななななななななななんというハレンチなことをするでござるか!!!!!???
鬼崎どのおおおおおおおお!!!!!!!!」


「おー・・・、 戻ってきた戻ってきたなー・・・。」

 鬼崎は、しばらく立つことすらもままならなかったのだが・・・妙に安堵した様子で顔を真っ赤にしたミキを
見上げた。


 あとは―


「・・・・・・・・許さぬ・・・。」

 完全に頭に血が昇り、こちらに殺気に満ちたまなざしを向けながら身構えるミキを慎重に
観察しつつ、鬼崎は身を起こす。


(もう一押し・・・かな?)

 ミキは、逆上のあまり、その武器に手をかけようとしている―

291 :プロローグ41:2014/02/05(水) 22:25:06.97 ID:XN2OJbVF.net
(さて― 生盗線鋼〔はえとりせんこう〕―とか使われたらシャレにならんからな―)


 『生盗線鋼』―とは、黒丑ミキがもっとも得意とする武器である。その形状は鞭で、打たれた者の命を
吸い取る力があり、何でもその操鞭術を仕込んだのは似たような・・・というより、完全に上位互換の
『干餓鬼(ほしがき)』という鎖鎌を使う彼女の上忍・ヌエだそうで、その師と組んでの連携殺法は天魔党
最強の戦士・黒金蟲すらも恐れるという。


 もっとも― 肝心の当人はその強さを、まったく自覚していない、というところにこの黒丑ミキという少女
のズッコケくのいち、と呼ばれるゆえんがあるわけであり―


「ほほう。」

 それを知る鬼崎は、つとめて冷静に、余裕を持ってミキに対峙する。

「『許さぬ』とは― 何を、だ?」

「たばかる気か!!! 今・・・、 拙者の・・・ 拙者の胸を、も…も…も…」

 そこで、顔を伏せる。
 どうやら、その先を言うのが恥ずかしすぎて、口に出せないらしい。

「『もんだ』・・・とかか?」

 そういう反応を楽しむプレイもあるのは知ってはいたのだが、そんなことが目的ではなかったので、
すぐさま助け舟を出す。

「そう!! そうでござる!!! よくも・・・!! よくも拙者の胸を・・・・!!!!」


 羞恥心で少し我に還りかけているのが見てとれはしたが、これはよろしくない。
 少しでも怒りの中に冷静さが残っていると、本人は自覚していない最強武器・生盗線鋼で暴れられ、
冗談抜きで、こちらの命も危うくなってくるので・・・

 この娘をいったん怒らせた以上は、とことん怒らせなければならない。

 だから、鬼崎は・・・


「ふ・・・」

 まず、虫けらでも見下すような目つきでわざとらしい嘆息をしてのけ―

「あのな、黒丑・・・」

 小馬鹿にする、とか、上から目線、とかどころではなく、常識を知らない子供に大人がそれを
教えてでもやるかのような口ぶりで―

292 :プロローグ42:2014/02/05(水) 22:42:03.94 ID:XN2OJbVF.net
「『胸をもんだ』ってお前な・・・」


 そこで腕組みし、心底呆れた、という様子でわざとらしく首を振って見せ、大きく
ため息までつき・・・・


「『無い』ものをもんだって、『もんだ』ことにはならないんだぞ?」


 トドメを、冷たく、言い放つ。
 さも、言いにくい真実を言ってやった、という具合に、とびきりに、思い切りに、恩着せ
がましく。


(さーて・・・、 押し切れたか・・・?)

 実のところ、鬼崎にしても心中穏やかではない。しつこいようだが、「冷静に怒った」黒丑ミキは普段のズッコケ
ぶりからは考えられないような、恐るべき手練れだ。
 ここで鞭を手にされたら、こちらも本気で命の心配をしなくてはならなくなる。

 が―


「許さぬ・・・ 許さぬぞ・・・・」


 阿修羅の形相をしたミキがそう言って手にした得物は、
 しかし、忍びの得意とする投擲武器・手裏剣の一種、苦無(くない)だった。
 ミキが忍者であることをかんがみれば、そうおかしくはない選択であり、刃物である
以上、鞭よりも殺傷力は高く、それもまた恐ろしい武器には違いないはずだったが―


(よし!!! やはり、マジギレしてたか!!!!)


 鬼崎は内心でもろ手を上げ、安堵した。

293 :プロローグ43:2014/02/05(水) 23:06:22.59 ID:XN2OJbVF.net
 ダッ!!!!!


 間髪入れず、ミキは地をはね・・・・


「死いいいいいいねええええええええええ!!!!!!!!!」


 やはり阿修羅の形相で・・・無数の、おそらくは、持っているありったけの苦無を鬼崎に
向かって・・・目にも止まらぬ手さばきで、投げつける!!

 無数の刃が閃き迫り・・・ はた目に見れば、明らかに絶体絶命、万事休すの状況だった・・・
が・・・・


 鬼崎は、その場を一歩も動かず、身じろぎひとつもしなかった。


 そして―

トトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトト!!!!!!!!!!


 まるで、夏の通り雨が地面を激しく叩くような音がし―


 タッ!!

 これは、ミキの着地の音だろう。
 その音を境に、本日、何度目かもわからない静寂が、荒れ果てた地下駐車場に満ちる―


 しかし―


「・・・・・なあ、 黒丑・・・」

 鬼崎の、静かな声が、こだまする―
 その体には、かすり傷ひとつもない。

 そして、鬼崎はゆっくりと、振り返り―地面を、見下ろす―

 そこには、地下駐車場の切れかかった裸電灯が投げかける光により、鬼崎の影がくっきりと
映し出されていたのだが・・・・


「・・・俺のさるツテで、ナイフ投げの名人を探してるサーカス団を知ってるんだけどな・・・」

 その声には、先ほどのような、誇張やまやかしは一切なく、それどころか、ミキに対して、本気の
賞賛をもって提案するニュアンスが込もっていた。

294 :プロローグ44:2014/02/05(水) 23:36:42.80 ID:XN2OJbVF.net
「マジな話、 そこでナイフ投げやってみる気は無えか?
 こんだけ『精密に的を外す』芸当のできる奴なんざ、世界中探したって、お前以外にゃまず
いないと思うぞ・・・?」


 鬼崎が視線を落とした先―つまり、鬼崎の影には、ちょうど、その輪郭を縫うようにして、先ほど
ミキが投げつけた苦無が、びっしりと刺さっていた。

 全てが、薄明かりに浮かび上がった鬼崎の影の際(きわ)に・・・それも、規則正しく一分の乱れ
も無い等間隔で突き刺さっている。

 それはつまり、投げつけたすべてが鬼崎の体を奇跡的な紙一重でそれていった、ということを意味
していた。

 集中すれば集中するほど、紙一重で的を外す・・・・

 黒丑ミキとは、そういうくのいちだったのだ。


「いや、角が生えてることなんざ気にしなくていい!! なんせサーカスだ。
 そういう衣装ってことでいくらでも誤魔化しは効くし、お前の容姿だ。 的(まと)役に
可愛い相棒とか用意すりゃ絶対に人気者になるから、客も大入りで大儲けは間違いない!!!
 まあ・・・天魔党の方は気にすんな!!! ヌエの奴には俺から話を通しとくから、ここは
ひとつだな・・・・」


 以前から知ってはいたものの、改めて驚異的な『神業』を目の当たりにさせられ、知らず知らず
のうちに鬼崎は師匠ゆずりの商魂に衝き動かされていた。
 気付けば『本業』も忘れ、いささかの興奮と共に本気で少女をスカウトしにかかってしまって
いたのだが・・・・


「う・・ うう・・・ ううう・・・・」


 ミキは、目に大きく涙を溜め、肩を震わせていた。

(・・・・しまった!!!)

 気付いた時には、もう遅い。
 先ほどの閻ニャーの去りようが、頭をよぎる。

 どうやら、身の安全が保たれた安堵に油断し、少女を不必要に傷つけてしまっていたようだった。
 それも、深く、深く。
 悪気も無かったのだから、なお、タチが悪い。


「うわああああーーーーーーーーーーん!!!!!
 鬼崎の馬鹿ああああああーーーーーーーー!!!!!
 阿呆おおおおおおおーーーーーーーーーー!!!!!!
 おたんこなすうううううーーーーーーーーー!!!!!!
 ヌエさまに言いつけてやるでござるううううーーーー!!!!!!!!」


 既視間を催させるが・・・さらにいく分のバージョンアップをした叫びを上げつつミキもまた
大泣きしながら走り去っていき―

 そして―

 鬼崎だけが、来たとき同様、暗闇に取り残された。

295 :創る名無しに見る名無し:2014/02/06(木) 01:02:07.44 ID:blTqKeeb.net
ミキティwwどんだけ美味しい(いじりがいのある)キャラになってるんだwww

品陀さんのSSを呼んでいると、お釈迦さまの手の中で転がされているような気がするなあ。
それもとびきり大きな海の中で、ざぶーんざぶーんと揺れては戻るような。
思いもよらないところまで行っては帰り、のリズムが心地良いです。

296 :品陀 ◆TOrxgAA4co :2014/02/06(木) 16:08:44.93 ID:gsLUeWYB.net
>>295
あ、ご感想どうもありがとうございます。


 しかし、いくらキャラが良かったとはいえ、ちょっと人様のキャラクターで遊びすぎた感
もあって、ちょっと時丸さんとオキノさんには申し訳ないのですが・・・^^;


 さて、鬼崎以外の主要キャラがみんな退場し、この物語もいよいよ大詰めです。
次の次には終われることと思います。

297 :プロローグ45:2014/02/06(木) 16:27:12.51 ID:gsLUeWYB.net
 さすがに、立て続けにいたいけな少女の泣き去るところを見せ付けられては、気まずすぎて
身動きひとつ出来はしない。

 とりあえず、ポケットをまさぐる―
 吸いかけて消し、溜め込んでいたシケモクが何本かあったので一本取り出し、よく伸ばして火
を灯ける―


「ふー・・・・。」


 その心の鬼の身体をも焼く呪炎を発する火には、鬼の昂揚を鎮める効果もあり、鬼崎は
一息つく。

 得体の知れない男との商談に始まり、師匠の乱入にかしましい娘たちとのやりとり―
と、本当に目まぐるしい時間だった。

 周囲の闇は最初と変わらず、ぽつん、と無雑作に置かれた、あの男の遺したスーツケースと、
手もとのクリアファイルがなければ、今までの一連の出来事がまるで夢ででもあったかのように
思えてくる。

「・・・・・・・・・。」

 鬼崎は、少し離れたところに置いてあるスーツケースに歩み寄ろうとして・・・


「!?」

 異変に気付く。

 足が、動かない。


「???」

 上半身は動くので、きょろきょろと周囲を見回し・・・


「!」

 さきほど、黒丑ミキに縫いつけられた、自分の影、にその変化を認めた。

 見ると・・・

 輪郭をびっしりと縫い付けた苦無の一本がその位置を変え、己の影の膝の部分―
 ちょうど、今、動かすことが出来なくなっている箇所に、刺さっていた―

『影縫い』―

 ミキやその上忍、ヌエのような忍者の鬼・妖怪はもとより、霊力のある古(いにしえ)の忍者も得意
とした、影を縫いつけてその本体も縛る術だ―

298 :プロローグ46:2014/02/06(木) 16:53:56.77 ID:gsLUeWYB.net
 ただ、その苦無の持ち主である黒丑ミキがその術を使うところは、鬼崎の知る限りでは、見たことが
ないし、そもそもその苦無はそんな所には刺さってはいなかったはずなのだが・・・


―その術を使え、そんなことをする者にひとつ、思い当たるところがあり、鬼崎は口を開いた。



「・・・・・何だ、来てたのかよ・・・・・・・・・

 ・・・・・母さん。」



 その― 鬼崎の呼びかけに応えるかのように、突如として、影から白い手が生え出し、「膝」に
刺さっていた苦無を、引き抜く。

 それで、鬼崎の足には自由が戻ったのだが、鬼崎はそのまま立ち尽くして『それ』が現れるのを待った。

 影から長い銀髪に覆われた頭が、肩が、胸が、腹が現れ出・・・
 ほどなく、そこには銀髪に着物姿の女性の全身が現れていた。

 その額の両脇からは、二本の角が伸び、その眉間には一筋の傷跡が走っている。


「……―奈霧(なぎり)。」


 鬼女は、鬼崎にそう呼びかけ、鬼崎は、顔を強張らせる。
 それが・・・ それこそが、鬼崎を拾ったその鬼女が鬼崎につけてくれた最初の名、そして、
本当の名だったのだが、鬼崎はそう呼ばれるのが嫌だった。

 名前が嫌い、というのではなく、そう呼ばれなければならない、この鬼女・・・ 母との時間
が嫌い、というほうが正確なのかもしれない。

「ん・・・、 ああ、見ろよ母さん。 手付け金だが、凄い金だぜ?
 これでとりあえず、仕事前の景気付けでも・・・」

「『指』を見せて。」

 なるべく明るく振る舞おうとした鬼崎― 奈霧の言葉を、しかし、鬼女は無残にさえぎる。

「・・・・・・・・・・・。」

 なかば、諦めがちの面持ちで、鬼崎はその鬼女の望む『モノ』を見せる。

 鬼女もまた、出された鬼崎の指を食い入るように見―

「・・・・・・・流陰鬼(るいんき)、ね。」

 ここに来たとき、鬼崎がその『腕』に飲み込んだ、あの心の鬼の名を口にした。

299 :プロローグ47:2014/02/06(木) 17:23:14.09 ID:gsLUeWYB.net
(グアアアア・・・・・)

 鬼崎が鬼女に見せた指はなかば透け・・・その中であの、飲み込まれた流陰鬼が、もがいていた―
 まるで、地獄に囚われた亡者のごとくに―

 鬼女は、しばらく、それを見つめていたが、

 唐突に―


「あ、ちょっと待っ・・・―」

 ブチッッッ!!!!


 その鬼の閉じ込められた鬼崎の指を、むしりちぎった―

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・。」

 鬼崎が指を押さえ、声にならない声を出すのを尻目に、鬼女はそのちぎった指を懐に入れ、そして、
着物の袖の中から・・・何かのつまった布袋を取り出し・・・


「『鬼土』よ。 補充なさい。」

 淡々と、鬼崎に手渡す。

「・・・・・・・・・・・・・・。」

 鬼崎はそれを黙って受け取り、その口を開け、ちぎられた指のあった付け根を入れ、
中につまった土に、付ける。
 しばらくして、鬼崎が指を引き抜くと、ちぎられた指は元に戻っており、袋の方は、
からになっていた。


「・・・そんな雑魚鬼に使い道なんてあるのかよ?
 売りさばいた方が、まだしもなんじゃねえの?」

 今のように、この『母』の前ではそうそう落ち着いていられるものではなく、それでも、
鬼崎はなるべく軽口になるよう、そう問うのだが・・・

「・・・それは、私が決める。」

 『母』の答えはにべもない。


「・・・・・・・・・・・・。」

 鬼崎はしばらく黙っていたが・・・・

「なあ、母さん。 一体いつから俺の影に潜んで見てたんだ?」

 とりあえずの、一番の疑問をぶつける。 すると・・・


「・・・最初から見てたわ。 『あの男』は、私にも気付いていた。」

 特段の感情も込めず、鬼女はそう答えた。

300 :プロローグ48:2014/02/06(木) 17:41:22.60 ID:gsLUeWYB.net
「!!?」

 鬼崎は息を飲む。
 あの男はこの目の前の己が母―


月本 夜叉子(つきもと やしゃこ)―


 ―を、 明らかに知っており、去り際に『彼女』と呼んで去っていったが―

 まさか、自分も今の今まで気付かなかった夜叉子の存在を看破した上でそう告げていたとは・・・


「・・・・なあ、母さん― アンタには、アイツが― アレが― 何なのか、判るんじゃないか―?」

 そう― 夜叉子は、口をつぐんだあの化鬼猫大主と比べても遜色のない齢を重ねる鬼女だ。
 それならば、知っていても―…

「人間なんか私の知ったことではないわ。
 たとえ、それが『抜け出たもの』だとしても―」



 ?

 鬼崎の心は、疑問符に捉われた。


 『抜け出たもの』 ―?


 夜叉子は― 明らかに、知っている。
 閻ニャーが、『名前が解らない』と言ったモノを― 化鬼猫大主が沈黙のうちに隠したものを―

 あの男が近づいた時の― 無重力空間に投げ出されたような感覚を思い出し―


「『抜け出たもの』って― ?」

 夜叉子に問いかけるが―

「お前には関係ない。」

 ミもフタもなく、疑問はさえぎられた。

 そして―

 気がつくと、夜叉子は、床に置かれたあのスーツケースの前に立っていた―

 じっ、 と冷たい目でアキナイ兎が『べっぴんさん』と呼んだ、『信じられないくらい澄んだ金精』のつまった
ケースを見下ろす。


「・・・何だよ、母さん・・・!!」

 その様子になにかただならぬものを感じ、鬼崎は声を発する。

301 :プロローグ49:2014/02/06(木) 18:01:13.85 ID:gsLUeWYB.net
「あ・・・アイツの話じゃ、この『炭ヶ島』ってとこには心の鬼がすごいわくってんだ・・・!!
 それに・・・ その二百倍の額も使うって大仕事なんだ・・・!!! 母さんが反対したって
・・・・!! 俺はやるぜ・・・・・・!!!!」


 ギンッ!!!


 しかし、夜叉子は、そんな鬼崎の声を一瞥で、黙らせる。

 鬼崎は、知らず、冷や汗をかいていた。
 夜叉子は普段から冷ややかな性格ではあったが、今の眼差しにはあきらかにそれ以上の・・・殺意めいた
ものが、こもっていた。

 鬼崎が黙っていると、夜叉子は再び、ケースにその・・・殺意のこもった眼差しを落とし―


「・・・また・・・・」

 つぶやく・・・

「『また』・・・?」

 鬼崎の訊き返しに応えるわけでもなく、夜叉子は・・・呪詛を吐くように、続ける―


「また・・・・ 私たちを・・・・ 私『たち』を、利用しようというの・・・・・!!!
・・・・人間ども・・・・!!!!!」


 そして、まるで、サッカーボールでも蹴ろうとするように、足を振り上げる―

「!!? ・・・ちょっと待てよ、母さん!!!!」

 鬼崎は、商人の本能に駆られ、とっさに地面へ身を滑り込ませ―


 ガッ!!!!!


 そのまま、スーツケースをかばった背中をしたたかに蹴り飛ばされ・・・

「がはっっっ!!!!」

 十数メートルは、吹き飛ばされる。

(くそ・・・・、 さっきのミキといい・・今日は女によく蹴られる日だぜ・・・)

 そんなことを思いながら、身を挺して守ったスーツケースの無事を確認する。
 鬼の脚力で蹴られたのだ、鬼崎が抱え込んで守らなければ、中身ごと木っ端微塵になっていただろう。

302 :プロローグ50:2014/02/06(木) 18:23:30.58 ID:gsLUeWYB.net
 商人としての、怒りがこみ上げ、よろよろと立ち上がると、夜叉子を・・・母を、睨みつける。

「どういうつもりだ―? 母さん?」

 夜叉子は、冷たく見返すだけで、答えない。


「俺は―… 『あのまま』だったら、ただ朽ち果ててくとこだったのを拾われ、名までも付けて
貰った母さんの息子― である前に、一人の『商人』でもある―…

 『金』を粗末にするなら、母さんだって、許さないぜ―?」


 夜叉子は答えない。

 と― いうより、 先ほど『息子』を蹴り飛ばしたことさえも、 まったく、気にも
留めていない様子だった―

 苛立ちが、余計につのり―


「答えろよ!!! 母さん!!!! 人間が・・・!!、 人間が、いったい、
どうしたってんだ!!!!!!」


 気付けば・・・ またもや『禁句』を口にしてしまっていた―


 ギロ・・・・


 一瞬、夜叉子が、比喩でなしに、夜叉の形相で睨み返したような気がしたが・・・・

「!!?」


 気付けば・・・ すぐ目の前で、感じたとおりの形相で、夜叉子が鬼崎を睨み上げていた―

 影を『渡った』のだ―


 ガシッッッ!!!


 そのまま、鬼崎の胸ぐらを掴み、片手で軽々と、吊り上げる。

「ぐ・・・ 母・・さん。」

 首を絞り上げられ、苦悶の声を上げるが、夜叉子は意に介さない。


「『人間がどうした?』ですって・・・? ・・・奈霧・・・?」

 言い返したい思いはあったが、完全に気圧され、鬼崎が答えられずにいると・・・

303 :プロローグ51:2014/02/06(木) 18:40:07.94 ID:gsLUeWYB.net
「私は・・・・・ 私は・・・・・・・」

 夜叉子は、その場にいる『息子』に、ではなく、天地に遍く万象に、
叩きつけるように・・・・


 叫んだ。



「私は・・・・・!!!! 人間に・・!!! 裏切られたのだ!!!!!!!!!」



 びりびりと空気がふるえ、コンクリートの風化して出来た砂が舞い、どこかで何かが崩れる
音がした。
 いや、建物が崩れたとしてもおかしくない振動だった。

「・・・・・・・・・・・・・・。」

 鬼崎は、言葉もなく、母を見下ろす―

 が― やがて―

 ドサッ!!!

 無雑作に、地に落とされる。

「・・・・・・・・・・・・。」

 それでもなお、何も言えずにいると―


「炭ヶ島―・・・」

 夜叉子が、そうつぶやく。 その手には、あの―男から手渡されたクリアファイルが握られていた。

「!!」

 いつのまにやら、奪われていたらしい。

「・・・・なんだよ、母さん、知ってるのかよ?」

「・・・・・・・・・・・・・。」

 やはり、答えはない・・・・と思われたが・・・


「・・・・『こくりむくりの風』・・の吹くところ・・か・・。
 また・・『神風(かみかぜ)』でも吹かさせようというの―? 『あの子』に―・・・?」

 やがて、夜叉子は謎めいたことをつぶやいた。

304 :プロローグ52:2014/02/07(金) 13:35:32.91 ID:m98/X0Gd.net
「『こくりむくりの風』・・・・?
 『神風(かみかぜ)』・・・?
 『あの子』って・・・ アイツの・・・ 日本鬼子のことか・・・?」

 疑問をぶつけるが、夜叉子はそれには答えず・・・


「!!」

 クリアファイルを投げて寄越し・・・

「勝手にしなさい―…」


 そう言うと、背を向け、立ち去ろうとする。

「お・・・ おい、待てよ母さん!!
 なにか知ってるなら、教えてくれても・・・ 」

 置いてけぼりを喰らったような気がして、鬼崎は母を引き留めようとしたが―


「必要ない。 私も行くから― 」

 返ってきた言葉は、意外なものだった―


「!!??」

 驚愕する鬼崎に―
 しかし、夜叉子はそれ以上、何も言うことはなく―・・・


「鬼子― いい機会かもしれない。 全てを解らせてあげるわ―…… 」


 そんな独り言だけを遺し、闇にかき消えた―

「・・・・・・・・・・・・・――――」

 そして―

 本当の本当に、鬼崎だけが、暗闇にぽつんと、取り残された。

 荒れ果てた地下駐車場に、あるべき静寂が戻り、何ひとつ音を立てるものはない。


 いや―

 ジリジリジリ・・・


 先ほど、鬼崎が火をつけ吹かし、いつのまにか取り落としてしまっていた… あのシケモクが、
一連の喧騒の余韻を告げるかのように、くすぶり、音を立てる。

305 :プロローグ53:2014/02/07(金) 13:55:09.15 ID:m98/X0Gd.net
―すみがしま―

―そこで、近々大きな『祭』がある―

―お前の一世一代の大仕事になるはずや。しっかり気ィ張って商いするんやで?―

―閻、『あの人』を知ってるような気がするんだ―

―あの・・・『あやめ沼』は・・・、 何だったのでござろう―


 知らず、火に見入ると、立ち去った者たちのそんな声がありありと聞こえてきそうではあったが―


―『人間がどうした?』ですって・・・? ・・・奈霧・・・?―

『己の名』を呼ぶ声が・・・・ 心を、えぐる。



―私は・・・・・!!!! 人間に・・!!! 裏切られたのだ!!!!!!!!! ―――



 ガッッッッ!!!


 その余韻をかき消すように、鬼崎はシケモクを荒っぽく踏みつけ、にじり消した―

 これで、完全に静寂が、訪れる。


「・・・・・・・・・・・。」


 もはや、ここに長居する意味はない。

 鬼崎は、今や、この暗闇にあって、一連の喧騒が夢や幻でないことの唯一の証拠であるスーツケースを
握ると・・・


「炭ヶ島―…… いったい、何があるってんだ? 」


 歩き出す。

306 :プロローグ 終:2014/02/07(金) 14:04:41.34 ID:m98/X0Gd.net
 コツ コツ コツ コツ … … …


 歩きながらも、 あの男と夜叉子の言ったことが気になり、 反芻し、 つぶやく。


「『祭』・・・ 『こくりむくりの風』・・・ それに、アイツが『神風』を吹かせる・・・って・・?」


 その問いに答えるものはいない。

 答えは、こうして歩き続けないことには見えはしない。
 程なく、鬼崎の靴音も遠ざかり、消え・・・・・・


 もはや誰にも顧みられることのない、荒れ果てた駐車場の暗闇に、元の静寂が
還ってきた―



    プロローグ  ―了―



   『日本鬼子と神風の島』  ―始―

307 :品陀 ◆TOrxgAA4co :2014/02/07(金) 14:26:52.63 ID:m98/X0Gd.net
 これで、大長編日本鬼子(仮)あらため、

「日本鬼子と神風の島」プロローグは終了となります。

 プロローグだけなのに、54レスもいってしまいましたが、お付き合い下さり、
どうもありがとうございます。

 とりあえず、これで鬼崎は幕間に下がり、次回はいよいよ鬼子さんが主人公の
大長編本編となりますが、まだまだ構想すること、本スレで相談したいことも
たくさんある上、実は神風関連で接点のあるニコニコの漫画、「日本鬼子縁起」
のほうも進めたいので、SSのほうは、これでまたしばしの準備期間とあいなります。

 日本という存在を存立せしめたという『神風』伝承とは? 
 謎の島『炭ヶ島』で鬼子たちを待ち受けるものとは?
 謎の男と夜叉子の因縁とは?


 謎が謎を呼ぶ大河展開に乞うご期待です!!

308 :創る名無しに見る名無し:2014/02/07(金) 21:09:26.96 ID:edYpvY3I.net
乙でしたぁ〜
これから色々とてんこ盛りでどうなるか気になりますなー
これだけの分量でまだプロローグとはw
これからの展開が楽しみです。

309 :柊鰯:2014/02/08(土) 00:49:36.44 ID:e7PIfdc4.net
夜叉子と鬼崎の関係をそうきましたか。これから二人はどう絡んで行くのか楽しみです。
どちらも推したいキャラだったので活躍しそうなのは嬉しいにゃぁ。

おみったんも中々おもしろい立ち位置。本当に今後の展開を期待してますョ。

310 :創る名無しに見る名無し:2014/02/08(土) 23:10:05.48 ID:xib7gKJZ.net
しかし、これでしばらくはまたスレが静かになるなぁ……
手元の完成させたら、投下できそうなのを書かなければ!

311 :創る名無しに見る名無し:2014/03/16(日) 17:02:11.18 ID:QxB9lRfO.net
              Mヘ,   Mヘ,
             |ri ハ.  |ri ハ
     _ _       |ム_ハ─トムハ、
    (j_)j_)     y',        Y
    7_,ハ      リl__l_;__|  |
   '心,ノハ      レ「i;j  i;j|||
   久くム人     ,八"r─ォソ り 个
   乃L」当さィー──汰.オサ炙ノ人‐ヘ
rヘ  んイ   |l   !トj♂  ト、ヽ_人__
レ'   ,ヘ   |l    ツ├─‐K ソ;\ヽ、 ̄
 く了 し,)   |l    | 大只‐ハ,ケ  ヽ、⌒ァ
   人.     |l ...:::人く,イ ト、〉メ、   ミ
   んイ    レ.:::;;rぅ  ハ |l" 人

312 :創る名無しに見る名無し:2014/03/17(月) 00:35:09.59 ID:Du3WnPbV.net
し、シロちゃん……かな?

313 :創る名無しに見る名無し:2014/03/25(火) 12:24:33.52 ID:uB8Qb+ip.net
こにぽんだった?!

314 :創る名無しに見る名無し:2014/05/28(水) 09:53:55.14 ID:SH2+t+x5.net
age

315 :雷球天使プラズマ☆ついな_第1話 参上!プラズマ天使!:2014/05/31(土) 21:58:32.06 ID:S9cJzyjL.net
  ◇ ◇ ◇
──人間界に危機が迫っていた──
 漆黒の空間、玉座の間に5メートルはあろうかという巨大な般若の面が周囲を睥睨していた。その眼前には血のような真っ赤な宝石で飾りたてられた玉座が据え付けられていて、その玉座に腰掛ける赤い影が一つ。

「はぁっはっは!よくやったオマエたち!これで人間界は私のものだ!」
上機嫌で笑っているのは艶やかな黒髪に白い肌の女性だ。ただし頭にはツノが二本生えている。鬼面を模したビキニアーマーを纏い、手足には凶悪な鎧をつけていた。
凛とした張りのある声で上機嫌に喋っているのは鬼子・キュートス。鬼たちを統べる般若党の主だ。
彼女は彼女にかしずく四人のシモベたちをねぎらっていた。

「は。もったいなきお言葉。方相界の『方相の衣』の破壊に成功。これで方相界の精霊どもは当分人間界にはやってこれぬでしょう」
そう応えたのは地蔵将軍。鬼子・キュートス四天王の一人である。彼は厳つい鎧に身を包んだ歴戦の勇士だ。
顔を縦横にはしる傷跡は彼が百戦錬磨の戦士であることを示していた。

「はん、何を自分の手柄のように……厚かましい。この作戦は我が開発せし『心の鬼』どもがいたからこそ成功したという事を忘れとらんじゃろうの?」
そう横槍を入れたのはドクター白狐。彼も四天王の一人である。白衣に身を包んだ白狐の妖怪だ。片眼鏡の向こうから小狡そうな細目が地蔵将軍をねめつける。
彼の心情を表すように白衣の後ろから出ている九つの尻尾がいらだたしげに揺れていた。

「ふん、自ら手を汚さぬ卑怯狐が手柄だけをかすめ取ろうとこざかしいわ」
地蔵将軍は不快感を隠そうともしないで言い放った。
「なんじゃと?!」
白衣の白狐はいきり立つ。だがその二人を諫めるように柔らかな声が割って入った。

「およしなさいなぁ。二人ともぉ。鬼女帝様のぉ御前であることを忘れてやしないかしらぁ?」
妙に色っぽい声である。二人の妖怪は諍いをやめ、声の主を見やった。そこには猫の耳と二股にわかれた尻尾を持つ、紫色の着物に白い上着を羽織った女が立っていた。
四天王が一角、ハンニャー軍師である。彼女は手に持った白い羽根団扇で口元を隠しながら猫の瞳を愉快そうに煌めかせていた。

「ハンニャー軍師。悪いがここは譲れぬ。今日こそこの分からず屋の似非医者めをこの拳で黙らせてやらぬことには気がすまぬ。止めてくれるな」
地蔵将軍がそう言って威嚇するように拳を握りしめた。頑強な鎧に覆われた腕がギシリと軋んだ。

「は。さすが脳味噌まで岩石がつまってると噂高いだけのことはあるわ。そうやって自分が言い負かされるとすぐ拳で台無しにする。そのような体たらくでよくもまあ将軍をやっていられたものよ」
ドクター白狐が細いまなじりをつり上げ、挑発した。

「なんだと!」
地蔵将軍が怒声をあげる。

「だからぁ、お止めなさいな。そもそもぉ、『方相の衣』を破壊できたのはぁ、このぉ、私のぉ緻密な作戦のおかげなんだからぁ。お二方はぁ、私のぉ、言う通りに動いていればいいのよぉ」
ハンニャー軍師が羽扇子で自分を扇ぎつつ、甘ったるい声でそんなことをのたまった。
「「なんだと!!」」
地蔵将軍とドクター白狐が再び同時にいきり立つ。険悪なムードが立ちこめる。

「ま、まあまあ、みなさん。そんなムキにならんと、ここはワシの顔に免じて矛を収めてちょーだいな。な?ななっ」
 そう言って黒い影が三人の間に割って入った。鬼子・キュートスが四天王の一人、烏天狗である。彼は修験者の格好をしたカラス。という姿をしていた。
カラスの頭が他の三人の顔を順番にのぞき込み、くきっと首をかしげた。彼も四天王の一人であり、他の四天王と同等の地位であるはずだ。にもかかわらず、低姿勢で他の三人の仲裁をしようと試みた。だが……

「えぇい!コソコソと覗き見しかできぬ臆病者がしゃしゃり出るでないわ!」
地蔵将軍は怒りを収めようとしなかった。
「そうじゃ!今回ろくに働かなかった無能の出番ではないわ!」
ドクター白狐も唱和する。
「あらぁ、彼の役割は重要よぉ。そんなに無下にするもんじゃないわぁ。あなた達よりよっぽどマシよぉ」
色っぽい声でハンニャー軍師が言い添えた。

「きさま……」
地蔵将軍とドクターが胡乱な眼差しを向けたその時──

316 :雷球天使プラズマ☆ついな_第1話 参上!プラズマ天使!:2014/05/31(土) 21:59:43.23 ID:S9cJzyjL.net
「えぇいっ!いいかげんにせぬか!!」
四人の頭上に雷のような怒号が降り注いだ。彼らの主、鬼子・キュートスが四人の喧嘩に業を煮やしたのだ。
四人のはるか頭上で彼女は怒りも露わに仁王立ちをし、怒鳴りつけていた。その怒声に、四人はあわてて膝をつく。

「「「「はっ、ははぁっ!」」」」

四人のその様子に溜飲を下げたのか大義そうに一息つくと、鬼子・キュートスは真っ赤なマントをひるがえし、再び真っ赤な玉座に向きなおると腰を下ろして足を組んた。

「……ふん、して次の作戦はどうなっておる?ハンニャー軍師!」
名を呼ばれ、ハンニャー軍師は立ち上がり前に出た。

「はぁい☆次の作戦はすでに立ててますわん☆」
そう言うと豊満な胸の間から作戦指南の巻物を引っ張り出した。

「ドクター白狐!心の鬼の開発はどうなっておる!」
ドクターは顔にかけた片眼鏡をキラめかせ、前に出ると一礼した。
「は。丁度、調整が済んだ所です。こたびの心の鬼は傑作ですぞ」

「地蔵将軍!」
「はっ!」
「作戦を遂行せよ!心の鬼を用い、ニンゲンどもからストレスファーガを集めるのだ!」
ストレスファーガとは人の心から抽出される負のエネルギーだ。人の心をストレスに晒したり堕落させたりすることで生み出され、鬼界のあらゆる動力として消費されるのだ。

「ははっ!必ずや御心にかなう成果をお見せいたしましょう!」
地蔵将軍は立ち上がると誇らしげに胸に手を当て、最敬礼をしながら応じた。それに倣うように、他の四天王も最敬礼し唱和した。

「「「「全ては鬼女帝、鬼子・キュートス様の為に!!」」」」
四天王の鬼子・キュートスを称える声はいつまでも玉座の間に木霊していた──

317 :雷球天使プラズマ☆ついな_第1話 参上!プラズマ天使!:2014/05/31(土) 22:00:44.22 ID:S9cJzyjL.net
  ◇ ◇ ◇
 如月家の朝はいつも騒がしい。
「ついな〜?もうそろそろ起きないと遅刻するわよ〜?」
そう二階に声をかけたのは如月 内匠(きさらぎ たくみ)おっとりしたついなの母親である。その風貌は若々しく、とても子供がいるようには見えないとご近所で評判の若奥様だ。
……やがて、二階からドタドタと騒がしく階段をかけ降りる足音が聞こえてきた。

 ドシーン!

大きな音と共に家全体が少し揺れた。
「やれやれ、またか。朝から元気だな」
手にした新聞を広げながらつぶやいたのは如月 与一郎(きさらぎ よいちろう)ついなの父である。精悍な顔つきで新聞を広げている様はまるで若武者のように凛々しい。
歳さえ聞かなければニ十代に間違われるほど若い。二人そろって若作りな夫婦である。
「もぉ、しょうのない子ねぇ。また階段の壁に激突したのかしら。あ。おとうさん、おとうさんは新聞読みながらごはん食べるのやめて下さい。子供達がまねをします」
「ん……スマン」
そこへ頭の両脇に大きなぐるぐるお下げを下げた女の子が鼻をおさえながら入ってきた。
「あたた……パパ、ママ、おはよう」
「うむ、おはよう」
「おはよう。ついなちゃん。お鼻はだいじょうぶ?」
内匠かあさんがあわてて食卓につこうとするついなにそう尋ねた。
「だいじょぶや。だんだん鼻をぶつけんようコツをつかんできたで」
そういってテーブルのトーストに手を伸ばす。
「アホか。そもそも階段にぶつからなきゃいいんじゃねーか」
と、横からついなにボソッと声がかけられた。
「なんやと!」
ついながキッと睨み返した先には、今まで無言で朝食を摂っていた制服姿の人物がいた。
高校生の従兄弟の兄、田中 巧(たなか たくむ)である。彼は事情があって、この家で長いことやっかいになっていた。その彼はモムモムと口の中のものを飲み込んだあと、口を開いた。
「だから、階段をかけ降りたりしなけりゃ、そもそもその低い鼻がもっと低くなることはないって言ってんの。あ、それとも何?鼻をぶつけてブタ鼻になるのが夢かなんか?ブタ鼻ついな〜〜」
「む、むぬぬぬぬ〜〜〜」
ついなの顔が真っ赤になってゆく、痛烈な罵倒がついなの口から怒号として飛び出そうとしたその時、如月家の玄関先でついなを呼ぶ声がした。

「つ、つーいなちゃ、ちゃぁ〜ん、が、ガッコいこ〜」
「あ、あかん!サキちゃん、来てもーた!」
ついなはあわててテーブルの上のトーストを口にくわえると、リュックサックをひっつかみ、「その侮辱、忘れへんで!覚えとき!」と、捨て台詞を残してダイニングを出ていった。
「こら、ついな、お行儀が悪い」
内匠かあさんがそうたしなめた頃には「いってくるで!」と言葉を残してついなの姿は玄関に消えていた。。

「やれやれ、慌ただしいヤツだなぁ」
そう言う巧に内匠かあさんが声をかける。
「そういう巧さんもそろそろ時間ではなくて?」
「いっけね。おばさん、ゴチソウサマ。いってきます」
そう言うと、カバンを肩にかけ、出ていった。
「はい、お粗末様。いってらっしゃい」
内匠かあさんはにこやかに巧を送り出した。

「……ふむ、しかしついなのヤツはまだ関西弁が抜けないのか?」
コーヒーを飲みながら、とうさんがそんな事を言う。
「丁度、物心がつく頃でしたからねぇ。それが今じゃお洒落に関心を持つようにまでなっちゃって……」
頬に手をあてて、かあさんはそう返した。ついなの一家はついなが幼い頃、大阪で暮らしていたのだ。それ以降、何故かついなだけ、大阪弁が抜けなくなっていた。
「そうか。……て、お洒落だと?!ついなのヤツ色気づいたのか!」
「あら、気づかなかったんですか?あの子、耳に小さな赤いイヤリングをつけていましたよ?」
「う、ううむ……しかしまだ早いのではないか」
そういいながら苛立たしげにコーヒーカップを口元に運ぶが、中はすでに無くなっていた。
「あの子だって、女の子ですよ。オシャレの一つもしたっていいじゃないですか。もぉ、何言っているんですか」
「だ、だが変な虫が付きでもしたら……」
「考えすぎですよ。ちょっと耳飾りをつけたくらいで」
そう言われると、渋々黙り込んだ。
「まぁ、元気に育ってくれればいいんですけどねぇ。あ、コーヒーのおかわりは?」
そう言ってコーヒーポットをあげてみせる。
「うむ、いただこう」

318 :雷球天使プラズマ☆ついな_第1話 参上!プラズマ天使!:2014/05/31(土) 22:01:52.40 ID:S9cJzyjL.net
  ◇ ◇ ◇
 ついなとその友人の二人の小学生は肩を並べて歩いていた。今日はいつもと違って足取りが軽い。背負っているのもランドセルではなく、リュックサックだ。

「……へ、へぇー、ついなちゃん所のおにいちゃん、相変わらずなんだ……」
そう相づちをうったのは綿貫 咲(わたぬき さき)ついなちゃんの親友でクラスメイトだ。ちょっと引っ込み思案で恐がりだけど、結構容赦ないツッコミをすることでついなちゃんと気が合うのだ。
彼岸花の髪飾りを大切にしていて、黒く綺麗な長髪を左右にまとめ、よく黒い服を好んで着ている。
「まったく、アカン、ほんまアカんで!あの兄やん、いつかホンキでとっ締めたらなアカンわ!」
怒りもあらわに手にしたトーストにかぶりつくついなちゃん。
如月ついな11歳。みずがめ座のO型。ちょっとおっちょこちょいで泣き虫な女の子だ。……だが、今はおこりんぼうついなちゃんだ。
最近、ちょっぴり人に言えない秘密ができたりもしちゃったが、日々を元気に過ごしている。

「へぇー……ついなちゃん、相変わらずおにいさんのこと、好きなんだねぇ」
「ぶぶぅっ?!」
サキのその一言でついなは歩きながら食べていたトーストを派手に吹き出した。
「ついなちゃん汚い」
少し身を引きながら咲が冷静にツッコミを入れた。
「ななな、なぬな?!あああ、アホなことゆーんやないで?!」
「えー?でも、ついなちゃん。いつもいとこのおにーさんのことばっかりお話しているんだもの。誰だってわかるよ。そんなの」
クスクスと笑って咲がからかう。
「ふ、ふん!それは、に、兄やんがいじわるばっかりするから……」
「またまた〜」
咲の口に手をあてて、にまにまと笑う様子についなは話を逸らすことに決めた。このままでは色々と不利だ。

「そそそ、そんなことより、やな。今日は楽しみやなぁ〜、社会ケンガクどこ行くんやったっけ?」
すると、咲はにっこり笑って話に乗ってきた。
「うん。あからさまに話を逸らされたけど、それでも楽しみ。ついなちゃんはどこが一番楽しみ?あたし最初にいく水族館」
 そう。今日はついな達の学年は『社会見学』にいくことになっていた。それが楽しみでついなはなかなか寝付けなかったくらいだ。……それで寝坊しそうになってしまった訳だが……

「はは……そ、そーやな。うちはお昼の『レストラン・いたりあ』のドリアングラタン定食セットやな〜」
「……あいかわらず色気より食い気だね。ついなちゃん……」
「ぅ…………」
呆れた咲の視線についなはバツが悪そうに黙り込んだ。

  ◇ ◇ ◇
 ──校庭にはすでに大きなバスが何台も到着していた。
「班長〜報告〜みんな揃ってるー?」
そういって点呼をとっているのはついなちゃんのクラスの担任だ。ついなちゃんたちのクラスを受け持つ担任の先生はとても母性あふれる女性で藤木 葛(ふじき かずら)先生といい、通称フジせんせいと呼び慕われている。
……もっとも、口の悪い子達は陰で婚期を逃した局さんとか言っている子もいるが。そこに触れなければとても優しい先生だ。常に笑っているような糸目ぎみの目で笑顔を浮かべ、みんなにいくつか注意喚起をしていた。

「さぁさ、みなさん。これから社会見学に出発します。注意事項は覚えていますね〜」
「「「は〜〜い」」」
「それでは、ゆっくり並んで、みんな走ったりしないで順番に乗り込みましょう〜」
「「「は〜〜い」」」
そして生徒達はゾロゾロとバスに乗り込んだ。
「楽しみだね〜ついなちゃん」
いつもは引っ込み思案なサキも心なしかいつもよりか明るい。
「うん!せやな!楽しみや!ドリアングラタン!」
「……ホントに食い気ばっかりだね……ついなちゃん」

319 :雷球天使プラズマ☆ついな_第1話 参上!プラズマ天使!:2014/05/31(土) 22:02:42.74 ID:S9cJzyjL.net
 ◇ ◇ ◇
──綾樫水族館前公園・駐車場──
 バスはゆっくりとただっ広い駐車場に乗り入れ、逸る生徒達の気持ちとは裏腹にゆっくりとガイドラインに沿って停車した。

「はい〜みなさん。最初の見学場所、綾樫水族館です〜。ここの公園内では四十分の自由時間がありますが〜みなさん、スタッフさんに迷惑をかけないようにしましょうねぇ〜」
「「「はーい」」」
簡単な注意事項を聞いた後、生徒達は喜々としてそれぞれに散っていった。

「ね、ついなちゃん。一緒にいこう。あたし水族館いきたい」
「うん!お魚さんを見るんやな!」
ついなとサキの二人は早速、水族館に向かって歩きだした。しかし……

「あれ?ね、ねぇ……ついなちゃん、キップ切る人がいないよ?」
二人は水族館の入り口に入ってすぐに異変に気がついた。

「ホンマや?あれ〜?どういうこっちゃ?」
館内はシーンと静まり返っている。
「すんませーん?おーい?誰かおれへんのんかー?」
ついなは切符売り場をのぞき込んだ。中に人影はある。しかし動く気配がなかった。目を凝らして見ると……中の人たちはずっと何かに没頭しているようだ。手元の何かにずっと視線を落としていた。
「あの!そこの人!切符!お願いしたいんやけどっ!なあっ」
ついなは窓口に一番近い窓口のオバさんに声をかけた。だが、そのオバさんは面倒くさそうについなをチラ見しただけで動こうとしなかった。口の中でモゴモゴと呟く。
「ちょいとお待ち。ここをこう、もうちょっとやってから……」
そう言うだけだった。それだけではない。そのオバさんの手元からはピコピコと携帯ゲームの音が漏れ聞こえていた。
「? なんやのん?これは……」
次の瞬間、ついなの耳元で特殊な音が鳴り響いた。

 キュピーン キュピーン キュピーン キュピーン……

 ついなの目に緊張が走った。
「あかん、サキちゃん、うちちょっと用事が……っておらへん?!」
辺りを見回すが、友達の姿は見あたらない。

 キュピーン キュピーン キュピーン……

音はだんだん大きくなっていく。
「〜〜〜〜〜っ!サキちゃん、スマン!緊急やさかい、堪忍や!」
そう呟くと、ついなは人通りがなさそうな建物の陰に隠れ耳のイヤリングにそっと触れた。途端、ついなの耳に騒がしい声が飛び込んできた。

『ついなちゃん、ついなちゃん!早ぉ、応答しぃや!これは『心の鬼』の仕業や!』
ついなのイヤリングは通信機のような機能があるのだ。イヤリングの向こうからは謎の人物の声が聞こえてきた。
「こちらついなや!ヤッパこれ、『心の鬼』の仕業なんか!?」
ついなは緊迫した様子でイヤリングに触れて声の主に応答する。

『せや!ここはプラズマ・ついなの出番やで!』
「わかったで!『プラズマぱわー・だうんろーど』やね!」
そういうと、辺りに人のいない事を確認し、ついなは折りたたみ式携帯を取り出した。すると、ポンと軽い音を立ててその携帯が小振りのステッキに変形した。
先が三つ叉に分かたれた矛に見えるがあくまでステッキである。その杖をついなは一振りして高く掲げ、高らかに叫んだ。

「プラズマぱわー・ダウンローーーード!!」

 すると、杖の裏にバリ3が表示され、遙かな方相界よりプラズマパワーが引き落とされ、ついなの身体に満ちてゆく。
ついなの身体の服が光の粒子として消え去り、金色の輝きがついなの身体を包み込んだ。そして方相氏の力が深紅の衣として顕現する。

 シャラララララ〜〜〜〜ン!

「雷球天使!プラズマ・ついな!!」
ここに方相氏の代行者にして正義の使者、プラズマ・ついなが爆・誕した!
 そう、彼女は方相界の正義を執行し人々の心に棲まう『心の鬼』を退治する。正義の味方なのだ!

320 :雷球天使プラズマ☆ついな_第1話 参上!プラズマ天使!:2014/05/31(土) 22:03:38.57 ID:S9cJzyjL.net
「ま、あくまで『見習い』なんやけどな〜」
「そないなこと言うなや!」
 いつの間にか、ついなの隣には赤いぬいぐるみの立体映像がふよふよと浮かんでいた。ついなの相棒、前鬼である。さっきのイヤリングの声の主はこのぬいぐるみだったのだ。
口の減らないぬいぐるみであるが、ついなをサポートする頼もしいパートナーである。
「……多分……」
「?なんやいいましたか?」
「あ、いやなんでもないで!」
あわててついなはよくわからない否定をする。
「……っかし、相変わらずハズかしー格好やなーこれ……」
 ついなは自分の身体を見下ろしてモジモジとする。真っ赤な衣装はヒラヒラがいっぱい付いていて、肩やら足やらがあちこち露出してとてもハズかしい事になっている。
「失敬な。この衣装は由緒ある衣ですがな!かの伝説の『方相の衣』程ではないけど、かなりの防御力を誇るんやで!」
「それはそうやけど……う〜〜〜……ま、ええわ。ほならちゃっちゃと済ませて終わらせるで!」
「よっしゃ!はりきって行きまひょか〜〜っ!」

──来た時は気がつかなかったが、辺りはひどい有様だった。

あっちでも……
「ねぇ、売店のおねーさん、ジュース売って頂戴ってばー」
「……ちょっとまって、ちょっとこのステージクリアしてから……」(ピコピコ)

こっちでも……
「あー……またコモンが出た……なかなかレアでないなークレープなんて売ってる場合じゃないや」(ピコピコ)

「よっし、十五連鎖出たっ!これから怒濤の反撃だ……掃除なんかしてられっか」(ぴこぴこ)

……広場のそこかしこで、大人たちが仕事をさぼって携帯ゲームに夢中になっているのだ。

「前鬼ちゃん、これって……」
「間違いないで!これは『うりぼう鮫亀』の仕業や!この心の鬼に憑かれてまうと、仕事をさぼってゲームばかりをしてまうようになってまうんや!このままやとついなっちが楽しみにしとった社会見学も台無しになるで!」

「なんやて!そんなんやったらレストランとかでもご飯食べられへんやないけ!うちのドリアングラタン定食がっ!!」
「ど、ドリ……?」
聞きなれない単語に前鬼が怪訝そうに繰り返す。
「前鬼ちゃん!ほならこれ、どないしたらええの?!」
今までにないほど積極的な炎を目に宿し、ついなは勢い込んで前鬼に詰め寄った(立体映像だけど)

「あ、あぁ、せやな。まずは心の鬼の影響を受けてる人から心の鬼の力を方相の力で追い出すんや!死なない程度に方相の力をぶつければ、心の鬼の力がでてくるハズやで!」
それを聞いて、ついなは狼狽える。

「え……でも、うちの使える技ってあれしかあれへんで……」
「それでも、なんとかするしかないでぇ!」
「いや、そやけど……」
「とにかく挑戦してみるんや!やる前から諦めたらアカン!」
「う、うん……」

 方相ステッキを握って、ついなは心もとなげにステッキを握ると、手近にいるゲームに夢中になっている兄ちゃんに向かっておずおずとステッキを振るった。

「い……いんぢストラーイク(ボソッ」
小声で呟いたにもかかわらず、ついなちゃんの握っている杖の先端にまばゆいばかりの極大の光球が出現し、またたく間に膨れ上がった。そして轟音をたてながら狙った兄ちゃんの背中をかすめて飛とんでいく。
さらに光球は破壊の衝撃波をまき散らしながらその近くの壁に炸裂した。周囲は爆圧によってすさまじい風が吹き荒れた。

 キュゴゴゴゴゴッ!!

 「ひぎゃぁぁぁあああああっ!!」
凶悪な破壊の嵐が巻き起こり、直撃こそしなかったものの狙われた兄ちゃんは悲鳴とともにもんどりうって弾き飛ばされた。

321 :創る名無しに見る名無し:2014/05/31(土) 22:06:05.06 ID:8PpCFnfk.net
紫煙

322 :雷球天使プラズマ☆ついな_第1話 参上!プラズマ天使!:2014/06/01(日) 16:06:35.46 ID:15QssW3c.net
「あ、あわわわわ……」
ついなは自分の生み出したプラズマ球の威力に改めて戦慄し、硬直していた。振ったステッキを握る手がガタガタと震えている。ただ周囲の人々はこれだけの事がおきながらも、全く関心を示さず、ゲームに没頭していた。

「さぁ!この調子やで!どんどん、みんなの心から心の鬼を追い出すんや!」
「無理!それ無理や!この技やとぎょーさん人死んでまうでっ!」
「そこを何とかっ!」
「ゼッタイ無理やーーーーーーーーっ!」

……そんな問答をする二人を高い所から見下ろす影が二つあった。

「おーーーっほっほっほっほ!相変わらずブザマね!雷球天使プラズマついな!」

「?!」
ついなと前鬼が振り返ると、二人の背後の建物、水族館の屋根に二つの影がたたずんでいた。

「こっ、この声は?!」
「もう一人のへたれ魔法少女の声や!」
「ちょっと……誰がへたれですの誰が!」
前鬼の呼び方が気にくわなかったのか、その人影はムッとした声で聞きとがめた。彼女は長い黒髪を後ろでまとめ、黒いドレスのようなコスチュームに身を包んでいる。どこかついなのコスチュームに似ているその衣装は白い肌によく似合っていた。
そして左手には盾を持っていたが、その盾には恐ろしげな顔をした四つ目の怪人の顔が彫り込まれていた。

「ちゃんとご主人の事は『雷盾天使(らいじゅんてんし)プリズム・プリンセス』とお呼びください」
彼女の横に浮いている小さな影はついなの相棒・前鬼によく似ていた。ただし、こちらは青色のぬいぐるみの姿をしており、言葉遣いや態度は落ち着いたものだった。
「そう!この後鬼の言うとおり。わたくしは華麗にして優美、有能にして超絶!方相氏の力と権能を顕現せし、究極の魔法少女!魅惑の雷盾天使プリズム・プリンセスとはわたくしの事ですわ!」
……若干、何かに陶酔しているような調子で彼女は声高らかに名乗りをあげた。

「へっへーん、いつもついなっちの邪魔ばっかで役に立たへんヘナチョコ魔法少女なぞ、へたれ魔法少女でじゅーぶんやー、べー!」
赤いぬいぐるみの前鬼(の立体映像)がついなの横でひらひらと軽薄な動きで相手をコケにした。
「ちょ、ちょぉ、前鬼、やめんかっちゅーんや」
ついなは小声でたしなめるが、前鬼は黙ろうとしない。
「へーん、毎回うちのついなっちに尻拭いさせとるくせにーやーい、プリプリおんなー」
当然、相手はカチンと来たようだ。
「あい変わらず下品な式神ですこと。それでよく方相界の使者などと言えたものです。ついなさんも大変です」
青いぬいぐるみの式神、後鬼がポツリと呟く。その後鬼の横で黒衣の魔法少女がプルプルと肩を振るわせていた。

「ふ、ふふ、ふ……やはり貴方のような品のないおちびちゃんには『方相の杖』はふさわしくありませんわ!わたくしにその杖!お渡しなさい!シャイニング・ビーンズ!!」
黒い魔法少女の彼女が左腕の盾をじゃき!と、構えると、その盾の怪人の四つ目がカッと開き、そこから豆つぶ状の光球がついなに向け、高速で射出された。

 ドパパパパパパパッ
    ビシッビシビシビシビシッ!
そこかしこで、小さな光球が炸裂する。
「わーっ!!うちが言うたんやなーいっ!!」
ついなは思わず、頭を抱え、物陰に隠れた。一瞬遅れてグルグルお下げも物陰に引っ込む。
「あっ、ついなっち、ついなっち!あれを見て!」
前鬼が、ついなの横の方を指し示した。
「なんやねん!今、忙し……あぁっ!」
ついなの言葉が途切れた。ついなの視線の先で、ずっと携帯ゲームをしていた人々が、彼女の撃った光球に打たれ、昏倒する所だったのだ。そればかりでない。気絶した彼らから何か黄色いモヤモヤのようなものが漂い出てきたのだ。
どうやらあれが人の心に巣くっていた心の鬼の一部のようだ。

323 :雷球天使プラズマ☆ついな_第1話 参上!プラズマ天使!:2014/06/01(日) 16:07:31.57 ID:15QssW3c.net
「これやで!あの女の攻撃を誘導すれば、ついなっちの殺人技を使わずとも対処は十分可能や!ついなっち!あのう○こ女をおびき出して、みんなの中から心の鬼を追い出すんや!」
「ちょ?!せやったら、そないな事せんでも、協力してくれるよう頼めばえぇやないk……」
「やーい、ぷりぷりう○こおんな〜攻撃も超ド下手〜ちぃ〜っとも、当たらへんで〜そないなへなちょこ攻撃、うちのついなに効く訳あらへんやろ〜♪」
「ちょーーーーっ、おまっ?!前鬼ぃ?!」
ついなの意見を聞く間もなく、前鬼はひらひらと軽薄な動きで相手の魔法少女を挑発した。前鬼の挑発で、相手のおでこにビキッと青筋が走る。

「キーーーーーーーーーッ!!方相の盾よ!その厳格なる眼差しで立ちふさがる全ての悪を討て!プリズム・ライトニング!!」
 彼女の持つ盾の目が再び輝き、今度は四条の光線がついなに向け迸った。

「ちょっとぉーーーーーーーっ!」
ついなは物陰から飛び出し、ゲームに没頭する人々の間を駆け抜ける。次々とついなの周囲の人々が光線に撃たれ、ひっくり返っていく。

「ぎゃっ?!」
「ごわぁっ?!」
「ひぎゃぁっ?!」

「止まりなさい!周りの人々を盾にするとはなんて卑怯な!おとなしく、このわたくしに成敗されるべきですわ!」
「そんな無茶苦茶なーーーーーーーっ」
そう叫びながら逃げるついなの頭上から、再び雨あられと光線が降り注いだ。その度に光線の流れ弾が周囲の人々にヒットし、バタバタと昏倒させてゆく。そして人々の頭から黄色いもやもやしたものが離れていった。
そしてそれが徐々に集まり、少しずつ大きな固まりとなっていく。

「あっあれ見ぃや!ついなっち!」
最初に気づいたのは前鬼だった。
「なんや?!」
ついなは前鬼の示した方向を向いてあっと声を上げた。
「マスター。あれを」
「なんですの?」
後鬼の示す先を見て黒衣の魔法少女も絶句した。

四つの視線の先、禍々しい……というにはちょっとユルい感じで、黄色いもやもやしたものは集まり、ぐるぐる周り、やがて巨大な形を形作る。

「な、なんやのこれは……」
ついなが呟く。
「な、なんですの、これは?」
 それは巨大な存在は自らを誇るようにその大きな顎を開き雄叫びをあげた。

 「ぷきゅぅ」

……気の抜けた鳴き声とともに十数メートルはあろうかという心の鬼がそこに出現した。
「かっ、かわいいっ」
ついなはつい、そう呟いてしまう。その心の鬼は巨大ではあるものの、赤くつぶらな瞳に可愛らしいブタ鼻を持ち、ウリ坊の身体に鮫のヒレと亀の甲羅をそなえていた。

「あかんで、ついなっち。いくら可愛くてもこいつは心の鬼や!見かけに騙されたらアカンでぇ!」
前鬼が注意する。
「せ、せやけどぉ〜〜〜」
そんな感じでついなと前鬼がそうこうしている間に、黒衣の魔法少女は水族館の屋根を蹴り、空中に舞い上がった。そして空から心の鬼に猛然と襲いかかった。

「いくら愛らしい容姿をしていようともわたくしはごまかされませんわ!くらいなさい!シャイニング・ビーンズ!!」
彼女の構えた方相の盾のまぶたが開き、雨あられと破魔の光が降り注ぐ。しかし……

「な、なんですって……」
「ぷきゅぅ……」
巨大な心の鬼はその短い前足で攻撃の当たった頭をしきりにこするものの、大して効いていないようだった。
「マスター効果がみられないようです」
後鬼の立体映像が言わずもがなな事をつぶやく。

「おだまりなさい!これで終わりですわ!プリズム・ライトニング!!」
彼女の盾から四つの光条が迸る。

324 :雷球天使プラズマ☆ついな_第1話 参上!プラズマ天使!:2014/06/01(日) 16:08:31.13 ID:15QssW3c.net
「ピギーッ」
今度は心の鬼が悶絶する。
「やりましたわ!」
黒衣の魔法少女はやったとばかりに叫んだ。だが……
「ぷもーーーーーーーっ!!」
これには心の鬼も怒ったようだ。目が怒りの形につり上がる。そして思い切り息を吸い込むと、黒衣の少女に向け鼻から息を吹き出した。

ゴォッ!!
「ひぁっ?!あ〜〜〜〜〜〜れぇ〜〜〜〜〜〜」
彼女は風に煽られ、瞬く間に遠くまで吹きとばされ消えてしまった。
「あぁっ?!プリプリちゃん〜〜〜〜?!」
「あぁ〜あ、よー飛びましたな〜〜」
彼女があっという間に見えなくなった後、怒りの表情のまま心の鬼はついなたちの方をむいた。
「ぷきゅぅっ!」
「ひっ!」
「ぷもーーーーーーっ!!」
似たような格好をしているついなを敵だと認識したのか。再び心の鬼は大きく息を吸うと激しい風を叩きつけてきた。
「ひゃーーーーーっ!!」
ついなは咄嗟に近くの木にしがみつき、吹き飛ばされるのを防ぐ。
「ついなっち気をつけて!この風に飛ばされたらどこまで吹き飛ばされるかわからないよ!」
「言われなくともわかっとるわ!」
必死で、木にしがみつきながら叫び返すついな。周囲の人や物が心の鬼の息吹で面白いようにコロコロと飛ばされてゆく。
と、不意に強烈な烈風が止まった。心の鬼の息が尽きたのだ。
「いっ今や!」
わずかな隙を見出し、ついなはしがみついてた木から飛び出した。地面を蹴り、空中に舞い上がる。再び、心の鬼がついなに向け、息を吹き出した時にはその場所についなはいなかった。
「へっへーん、こっちやこっち!」
ついなは心の鬼の後ろに回って挑発した。丁度、心の鬼の目の高さまで舞い上がっていた。
「ぷきゅうっ!」
挑発されたから。という訳でもないのだろうが心の鬼は再びついなに向け、息を吹きつけた。だが、ついなは華麗な動きで突風を避けて飛び回る。
「せやけど、こないなことしとっても埒が明かへんで?」
空を飛び回るついなの横に平行するように飛んでいる立体映像の前鬼がもっともな事を言う。
「だいじょうぶやて。もうちょっとコレを繰り返すで」
そして、心の鬼の吐き出す烈風を避けては飛び、避けては飛びまわった。
やがて……
「ぷ、ぷきゅぅぅう〜〜〜?」
心の鬼がめまいを起こしたようにフラフラと足元がフラつき始めた。
「つ、ついなちゃんこれは?」
「やっぱりやな!ぎょーさん呼吸のしすぎやで!あんま大きな呼吸を繰り返しとると、頭ン中、くらっくらになるんや!」
そう、ついなは過呼吸によるめまいを誘発したのだ。心の鬼は不覚にもめまいをおこして目を回している。
ついなはここぞと心の鬼の頭上に飛び上がり、杖を突き出した。
「ほなら、行くで〜〜〜〜っ!」
杖の先端に巨大な雷球が発生し、膨れ上がった。

「いんぢ・ストラーーーーーーイクっ!!!」
次の瞬間、膨大な熱量を誇る巨大な光球は、たったの一撃で巨大な心の鬼を無に帰した。

325 :雷球天使プラズマ☆ついな_第1話 参上!プラズマ天使!:2014/06/01(日) 16:09:28.46 ID:15QssW3c.net
  ◇ ◇ ◇
 ガシャーンッ
真っ赤な液体の入ったグラスは床に叩きつけられ、砕け散った。
正面には巨大な般若面の目から出る光によって映像が映し出されていた。その映像はたった今、魔法少女によって心の鬼、『うりぼう鮫亀』が打ち倒された映像だ。

「またあの小娘か!一体、どういうことだ!」
巨大な般若面の前でくつろいでいた鬼子・キュートスは飲んでいた酒を投げ捨て、怒りのあまり玉座から立ち上がった。
「お気を鎮めくだされ、鬼子さま」
「えぇい!これが落ち着いていられるか!」
厳つい顔の地蔵将軍がなだめるが、鬼子の怒りは収まらない。
「奴らは一体、何なのだ!『方相の衣』は破壊され方相界の聖霊どもは人間界にやってこれぬハズであろう!一体、どうなっておる!鴉天狗!!」
その声に応じて彼女の前に黒い影がにじみ出た。

「はっ、御前に」
「早う、彼奴らの事を調べ上げぬか!」
「ははぁっすぐにでも!」
そう一礼するとその場から消えた。
「おのれっ!我らが般若党に逆らうとは……後悔させてくれる……っ」
鬼子・キュートスは拳を握りしめ、いつまでも怒りに震えていた。

326 :雷球天使プラズマ☆ついな_第1話 参上!プラズマ天使!:2014/06/01(日) 16:10:30.25 ID:15QssW3c.net
  ◇ ◇ ◇
 夕方。社会見学を終えたついなとサキの二人は帰路についていた。
「ふーっ、ドリアングラタン定食ウマかったなーっ」
「うん……そうだね……」
「あの独特の風味はやっぱりドリアンならではやっ」
「うん……そうだね……」
「あ、あの?サキちゃん?」
「うん……そうだね……」
ついなが何を話しかけても綿貫咲ことサキはどよ〜んと落ち込んでいた。
「わ!」
ついなはサキの耳元で大声を出した。
「はひゃぁっ?!な、なな、何、ついなちゃん?」
「なぁ、サキちゃん、一体どないしたんや?今日の社会見学、つまらへんかった?」
ついなは心配げに顔をのぞき込む。社会見学は最初の水族館でちょっと騒ぎになったものの、順調に済んだ。ついなの目にはサキも楽しげに各所を回っていたように見えた。

「あ……、う、ううん。そんなことないよ。今日はとっても楽しかった」
長くて黒いお下げと彼岸花の髪飾りをよこに振り、咲はゆっくりとほほえんだ。
「ほなら、なして落ち込んでるんや?」
不思議な顔をして咲の顔をのぞき込む。

「うん……なんてゆーか……楽しみにしていた番組の録画が失敗していた……みたいな?」
「ふーん……?」

──少し前の会話──
「それで、後鬼……今度は私の活躍、ちゃんと撮れていた?」
咲は胸元の青いペンダントに触れ、ペンダント越しに心の繋がった相棒に語りかけた。
「……申し訳ありません、今回の録画も失敗してしまいました」
すぐに相手から返答はあったが、期待していた答えではなかった。
「え……そんな……また……なの?カッコイイ魔法少女になれるって引き受けたのに……」
「申し訳ありません。次こそは必ずや凛々しいマスターの御姿を撮影いたします」
「ねぇ……変身してた時のあたし……カッコよかった?」
「はい。とても凛々しかったです」
「今度こそしっかり撮ってね。あたしちゃんと観たい……」
「はい。必ずや」

──……。
「……んーーー、そーかーそら残念やったなぁ。ほなら、うちに来えへん?ひょっとしたら、うちのレコーダーに録画されとるかもしれへんで?録画しそこねた番組!」
ついなの言葉に咲はハッと我に返った。

「あ……う、うん。それじゃ、おじゃましようかな。ついなちゃんのご家族、会ってみたいし」
「よっしゃっ!ほなら善は急げや!早速いくで!」
そう言うとついなは咲の手を引き走り出した。

「あ……う、うん!」
二つの人影は夕日の中、ついなのお家に向け楽しげに駆け出した。

                                                     ──おわり──

327 :雷球天使プラズマ☆ついな_第1話 参上!プラズマ天使!:2014/06/01(日) 16:12:15.95 ID:15QssW3c.net
>>322-327
さて、とりあえずは、「もうひとつの世界」のついなちゃんのお話はとりあえずは、ここで終了です。
他にも色々と設定はしているものの、予定は未定。ということで……それでは。

328 :創る名無しに見る名無し:2014/06/01(日) 19:33:12.36 ID:D8MmQG01.net
乙です!!
ついなちゃんがしっかりものポジというのが、うん、意外なようで、健気でいいね!
あと、なんか、天魔党の人がほのぼの生活してるっていいね。局先生とか。
そして鬼子・キュートスのイラストがむっちゃ見たいw絶対かっこいいよやばいよ。

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