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ジョジョの奇妙なバトルロワイアル 3rd 第九部

1 :創る名無しに見る名無し:2014/05/03(土) 14:06:57.93 ID:cOlgs+zG.net
                       _
                   /-‐-\
                    ノ ,=u=、ヽ、        __人__人__人__
        /~ト=.   //      \\      )         (
       /ヽ_ノノ三  〈 ,/ o二〔咒〕二o `、 〉   )  場 読  (
      , く   _/三.__   \_ト、_______,.イ_/    )   合 ん   (
    /   ./三./ ノ }三 ハ|テェェv:レェェラレ.、      )   か ど   (
    /、__ /=/`ー' /三..ヾ〈   「|_|〉   〉ソ     )   | る   (
   /   ,/丶 /三三三. |  l'ニミ!  |'l      )    ッ    (
   /  /ヽ、 /三三三. - .」\`==-'/i|       )       (
  /,/ _,∠ -┬―‐┬┬‐=="'' ‐<..,,_|_|"'''‐-、  ⌒Y⌒Y⌒Y⌒
,.-:「  ;:'''       !   :! L..ノノ三- 、_  ハ.  iヘヽ、
 /|:! ,!   ::::-=二王 ̄三 ̄ ̄        `'′入oヽ ´‐\
 |:|:! | i'''"""    !  ̄ !丁 ヽ三.  ト、 ̄o ̄]ニヽ ヽ'''""ヽ
 || ! ! ,|   ,;:::-┬―――三'三.   |  ̄ ̄ lニヽoヽ__,,,...`、
 || !| |    ::::  l三|=  |三.      |     ノ_,ヽ. ヽ_,,,.|
 ヽ|l,l|l___;;;;;__ノ三!=  /三三      ̄ ̄_,,.. -ヽ. ヽ
    ̄ ̄::::三三/= /三三三    """ ̄


このスレでは「ジョジョの奇妙な冒険」を主とした荒木飛呂彦漫画のキャラクターを使ったバトロワをしようという企画を進行しています
二次創作、版権キャラの死亡、グロ描写が苦手な方はジョセフのようにお逃げください

この企画は誰でも書き手として参加することができます

詳細はまとめサイトよりどうぞ


まとめサイト
http://www38.atwiki.jp/jojobr3rd/

したらば
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/15087/

前スレ
ジョジョの奇妙なバトルロワイアル3rd第八部
http://maguro.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1377772518/

353 :創る名無しに見る名無し:2014/08/24(日) 05:29:04.09 ID:yOel5lw8.net
ジョジョの奇妙な冒険が好きな喪ジョ9
http://kanae.2ch.net/test/read.cgi/wmotenai/1401120098/
ジョジョの奇妙な同人33
http://kanae.2ch.net/test/read.cgi/doujin/1405342058/
ジョジョの奇妙な化粧板
http://wc2014.2ch.net/test/read.cgi/female/1234613003/

354 :創る名無しに見る名無し:2014/08/24(日) 11:27:29.17 ID:YPGJjZCW.net
新作投下待ってます!

355 :創る名無しに見る名無し:2014/09/08(月) 03:09:55.68 ID:0aSQHTT6.net
初めてきたけど、セッコかわいいなあ
まさかDIO様に従っているとは

DIO様が生きてくれてるこの幸せ
…何だかヴァニラが上の方でやられている気がする…辛い

基本行動方針というのも面白いですね

356 :創る名無しに見る名無し:2014/09/10(水) 12:54:28.65 ID:sxWaL5Ds.net
ようこそ、ジョジョロワの世界へ

357 :創る名無しに見る名無し:2014/09/15(月) 07:59:40.97 ID:p8Qp13YZ.net
月報です
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
173話(+1) 37/150 (-0) 24.7 (-0.0)

358 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 00:35:51.27 ID:E5j3fgBd.net
DIO、ディエゴ・ブランドー、ルーシー・スティール、プロシュート、双葉千帆、カンノーロ・ムーロロ、蓮見琢馬、スクアーロ、セッコ
LvAk1Ki9I.氏のご許可を頂きましたので、先に投下させていただきます。

359 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 00:40:43.87 ID:E5j3fgBd.net
「そんな身体じゃ辛いだろう。こいつに乗った方が楽だと思うがな」
「結構よ……あなたの気遣いなんて不快なだけだわ」
「言うねえ。だがそうやってチンタラ歩いてたんじゃいつ背後の敵に追いつかれるかわかったもんじゃないぜ。
 行く先を邪魔しようって訳じゃないんだ。『聖女』様の護衛くらいさせてくれないか」

言うなりディエゴはルーシーを抱え上げ恐竜に乗せる。実際のところルーシーにもほとんど体力は残っていなかったようで、
特に抵抗もなく乗せられると恐竜はなるたけ揺らさないように、しかし確実に速度を速め進んでゆく。
ルーシーの懐胎を確認後、二人は既に2時間近く地下をさまよい続けていた。途中目を覚ましたルーシーが恐竜から降りたため
距離的にはさほど進んだわけではないが、目的地がわかっているかの様に進むルーシーを見て、ディエゴは思考を巡らせる。

(そうと決めつけるにはまだ早いのかもしれんが……スティーブン・スティールとその背後にいる大統領は
 遺体を使って何かを企んでいる。恐らく頭部と眼球以外の部位も支給品あるいは何らかの形で会場内のどこかにあるだろう)

SBRレースは遺体を集めるために開催されたものだった。しかしあれ程大がかりかつ多数の犠牲者を出してまで集めた遺体を
今回わざわざ殺し合いの舞台を用意した上でばら撒いた理由については現時点で全く見当がつかない。

(優勝者への褒美がどんな願いでも叶う、というのも遺体のパワーを手に入れることとイコールなら、もしかしたらあながちウソとも
 言えんのかもな。まあ優勝したとたん背後からズドン! ってのが関の山だろうが)

一方ルーシーもただ闇雲に進んでいる訳ではなかった。内なる遺体からの『声』に導かれ、従っている。

(フィラデルフィアの時と同じ……。いいえ、思えばいつもこうだったわ。夫を助けようといくら努力しても結局は捕えられ、
 利用されるばかり。無力な私はただ流れに身を任せ、誰かに助けられてばかりだった……
 でも! 必ずチャンスは巡ってくるはず。ディエゴ・ブランドーを出し抜くチャンスは!)

マンハッタン・トリニティ教会で生首を手にディエゴを待ち受けると決めた時の気持ちを再び思いだす。
幸せになる為に、その為なら人の道を外れた所業もやり遂げてみせると誓ったあの時を。
ディエゴに捕らわれ、遺体を取り込んで……色々あったせいで気弱になりかけていたのかもしれない。
自身を奮い立たせるとディエゴに指示を送る。疲労は大きいが精神的にはすっかり気丈さを取り戻した。

「次の分かれ道を左へ、その後まっすぐ進んで頂戴」
「仰せのままに」

途中戦闘があったとおぼしき崩落した個所もあったが、脇道やがれきの隙間を縫いながらひたすら進みつづけ、
やがて突き当りからどこかの建物の地下室に辿り着いた。
どうやら教会の納骨堂のようだ。位置的にもサン・ジョルジョ・マジョーレ教会だろう。
無機物と死者だけのはずの空間で、冷ややかな空気に混じる生の証――――血の臭いがここでも戦闘があったことを示していた。
ぽつりぽつりと灯るロウソクの明かりを頼りに足音を響かせながら慎重に進む。人の気配は感じられないが……


「妊婦に恐竜とは、また変わった組み合わせだな。まったく、人と人とが引き合う引力とは面白いものだ」

360 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 00:42:47.01 ID:E5j3fgBd.net
***


いつから居たのか――――気付かなかった。
ルーシーを乗せた恐竜を後ろに下がらせると柱の影から声の主を伺う。

「そんなに警戒しなくてもいいさ……さしあたって君たちに危害を加えるつもりはない。お互い自己紹介とでもいこうじゃあないか」

10メートルほど先に背の高い男の姿が見えた。顔はこの薄明りでは見えないが、シルエットに見覚えはない。声にも聞き覚えはない。
だが、妙に穏やかで甘く、安らぎさえ感じる声だ。常人ならばそのまま油断して近づいてしまったかもしれないだろう。
だが、そんな甘さはこのディエゴには通じない。
社会的弱者だった母を、幼い自分を利用し踏みにじるようなクズ共を踏み越え社会の頂点に立ってやると決めた時から
一体どれ程の悪人と渡り合ってきたことだろう。優しさの裏には打算が、甘さの奥底にはどす黒い嘘と欲望がある。
自分を上から見下ろす者に手を伸ばしては引き裂き、奪ってきたディエゴは殆ど本能で男の本性を見抜いていた。

(こいつは! 俺を"見下ろし"  俺から"奪おうとしている"!!)

「スケアリー・モンスター! やれっ!恐竜どもよ!!」





「まぁそうカッカするなって、私は君のことを知りたいと思っているんだ。
 実は今友人も部下もみな出払っててね……話し相手になってくれると嬉しいんだが」

声はディエゴの耳元から聞こえてきた。

(な……何がおこった? コイツは確かに俺の前にいたはず……)

「もちろん、君も一緒に」
「あ……ああ……うう……」

デイエゴが振り返るとさらに後方、ルーシーを腕に収めた男の全身がようやく露わになる。
どこか自分に似た顔を持つこの男に……ディエゴは既視感や親しみよりも先に、嫌悪を感じた。


***

361 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 00:46:20.66 ID:E5j3fgBd.net
千帆の五感の内最初に戻ったのは聴覚だった。
音の羅列が勝手に耳に入ってくる。

(こ、コーイッテンでもっとイイモノつくれねぇかなぁ!? )
(だったら今殺すなよ。DIOは血も欲しがってるんだろ?)
(テメェ……人の妹分になにしてくれてんだ)

次に戻ったのは触覚。どうやら何者かの腕に抱えられているらしい。
しきりに髪や頬をいじくってくる刺激のおかげでぼんやりとだが徐々に思考も戻ってきた。
たしか荷物を整理しおえてカバンの口を閉じようとしたら急に"床下から伸びてきた腕"に捕えられ、そのまま自分ごと
壁に向かって突進して――――そこまで考えて、自分が気を失っていたことに気付いた。

残りの感覚も全て目覚め、そろそろと薄目を開けるとプロシュートの顔が視界に入ってきた。最初に見た時と同じような、
目つきだけで人を殺せそうな形相をしている。一瞬だけこちらに視線を向けて意識が戻っていることを確認すると、
今度は遠くを睨み付ける。
そしてセッコの足元で何やら手足の生えた薄っぺらい物――――トランプが素早く動くのも今度こそ視界にとらえた。

「プロシュート……見つけたぜ、ティッツアの仇!」

さらり、と刃物を抜く音と共に真後ろから聞こえたのはやはり聞き覚えのない声だが、
とにかくプロシュートを殺そうとしている事はハッキリしている。

「あ? いきなり出てきやがってなんだコイツら? あとはDIOんトコ帰るだけだッつーのに訳わかんね〜なあ〜〜
 あ〜そういや甘いのも全然食ってね〜な。イイのがつくれたらDIOは褒めてくれるよな〜もしかしたらご褒美くれっかな?
 3個? いや5個とか? ひっひ!」

何の脈絡もない興奮気味な独り言にどう反応したらいいのかわからなかったが、とにかくこの全身スーツの男はプロシュートととも
刀の男とも面識がないらしい。一通り状況の把握はできたが、身動きの取れない千帆にはそれ以上どうする事もできない。
頼みの銃はポケットにしまってあるが、この状態では取り出せそうにもない。せめてスーツ男を刺激しないように
気絶したふりを続けるが、文字通りお荷物になってしまった自分が情けなくて、無意識に千帆の顔が歪んでゆく。

(生き残るために戦うって言ったのに……このまま何もできずに殺されて終わるの?)

諦めさえよぎった千帆の頭の中に唐突に、声が響いた。



『作品の主人公はこの状況でいったいどんな行動が可能だろうか?』

362 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 00:53:02.82 ID:E5j3fgBd.net
***



『一人は味方で二人はそれぞれ別の敵。主人公は敵の内一人に捕えられてしまい、自分を中心にそれぞれにらみ合った
 三すくみの状態だ。更にそれぞれ武器や超能力が使えるが、主人公だけは何の力もない。この状況で、主人公にできることは?』

・味方が助けてくれるのを信じてじっと動かない。
・必死に抵抗を試みる。
・恐怖で何もできず、ただ震えている。あるいはパニックを起こす。
・突如何らかの能力に目覚め、敵を倒してしまう。


咄嗟に考えついたパターンとその結果を頭の中で何通りもシュミレーションしてみるがどうにも上手くいかない。
もともと戦闘を主体としたアクション小説は千帆の分野ではないのだ。
千帆が書いているものはもっと人と人が対話し、触れ合いながら心の距離を測っていくような恋愛小説だったり
夢あふれる児童向けファンタジーなのだから。

(発想を変えなきゃ。私の小説の主人公はそもそも戦ったりしないもの。主人公に、私にできるのは……)

思考のスピードを上げる。
自分を捕えた全身スーツの男。どうやらこの男の自分に対する扱いは一般的に男が女にするものではないような気がする。
むしろ虫やカエルを手にした男の子が、どうやってコイツで遊んでやろうかとワクワクしながら撫でまわす感覚が一番近いと
言えるだろう。そんな、原始的かつ純真な残酷さを千帆はセッコに対して見い出した。
しかし、逆に考えればその子供のような性格は上手くすれば利用できるのでは?

(そういえば私の事を何かを作るための材料だって言ってた。イイのができたらDIOにご褒美を貰えるかもって……)

作品。ご褒美。甘いもの。DIOに従う残酷で純真な男。情報を余さず考察することでついに千帆は一つの仮説に辿り着く。
そして賭けに出る事にした。できるだけ刺激しないように、けれど対等以上になるように。優しい笑顔で語りかける。

「あの、甘いの……好きなんですよね?」
「うおっ起きた。ってか何でオレが甘いの好きだって知ってんだよ?」

興奮状態のセッコは案の定自分で言った事だと気付かない。

「私、持ってます。チョコレートとかじゃないけど……角砂糖ならたくさんありました。糖分は貴重なので近くに隠したんですけど」
「角砂糖!?」

角砂糖と聞いて目に喜色が浮かぶ。どうやら当たりを引いたようだ。

「みみみ3つ? 3つよりたくさんか? 投げてくれんのか?」
「たくさんですよ。それにそこにいるスーツの人は私より上手く投げられます」
「うへーっ! お、オレ5個でも口でキャッチできるんだぜーっ!!」
「それは凄い特技ですね。よかったら作品と一緒にその技をDIOさんにも見せてあげましょうよ。あ、でも先にこの状況を
 何とかしないといけないですよね。後ろの武器を持った人が私達を殺そうとしているから……もし倒してくれるなら、
 後で角砂糖を持ってきてあげます」
「お前DIOのことも知ってんのかよ! 作品もだけどオレの特技もDIOなら褒めてくれるよなぁ〜〜絶対ィイ!
 ようし、じゃあアイツすぐぶっ殺してくるからここで待ってろよお前……え〜と? 」
「双葉千帆です。あなたは?」
「セッコ」
「じゃあここは任せましたよセッコさん」
「りょーウかーいチホっ!!」

千帆を解放すると勢いをつけて地中に飛び込むセッコ。
こうして三つ巴からセッコ対スクアーロに構図が変わった。否、千帆が変えたのだ。

363 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 00:57:19.09 ID:E5j3fgBd.net
現時点でセッコはDIOを『自分に色々教えてくれて褒めてくれる、一番大好きなヤツ』と認識している。
ただしそれはイコール『DIO以外の者には全く興味が無い』という訳ではない。程度こそあれ自分にとって心地よい物を
提供してくれる人物にはそれなりに好意的になる。すなわち自分に目的を与え、評価し、褒めてくれる人物だ。

千帆はまずご褒美という単語からDIOという人物とセッコの関係性を考察した。恐らくDIOはセッコに命令ないし目的を与え、
セッコはそれを素直に遂行することで褒美を受け取り喜ぶ。一見不可解で異常な関係のようだが、無邪気な猛獣とその飼い主。
あるいは調教師とでも置き換えれば問題ない。
そこでまず角砂糖という具体的な褒美を鼻先に用意してセッコの興味を引き、乗ってきたところでDIOの名を出した。
信頼している人物の名をいきなり出された(と思っている)セッコは千帆をDIOの知り合い、あるいはDIOに同調している者とでも
位置づけたのだろう。千帆自身にはカリスマや圧倒的な力こそ無いが、少なくとも名前を聞いておこうという位にはセッコに
興味を持たれたのだ。ここまでくればもう千帆の言葉を疑うことはない。
自分たちの邪魔をする敵がいるのだと口にするだけでセッコは『自主的に』敵を排除しに行ってくれる。
全くの偶然だが、セッコがこの舞台に飛ばされてからまだ一度も角砂糖を口にしていない事も後押ししていた。
こうして運をも味方につけ、一時的にではあるが千帆はセッコを掌握することに成功したのだ。



***



琢馬は内心苛立っていた。

「はいDIO様、何でしょうか……はい、はい……」

戦いは既に始まっているらしく、音こそ聞こえてくるが直接状況を確認できないもどかしさに加え、状況を把握できる能力を持つ
ムーロロはまたDIOから通信が入ったらしくこっちには目もくれない。
千帆が殺されるのだけは阻止したいが、いざ戦うとなっても絡め手の通用しない純粋な戦闘向けのスタンドに対抗できる自信は無い。
よしんば助け出せたとしてもその後が問題だ。自分に興味を持っているというDIOから逃げ切れるだろうか。
だがそれでも、千帆だけは……
決断を迫られた琢馬の耳が異変を感じた。ムーロロの声が段々低くなり、歯切れの悪そうな口調に変わってゆく。
通信が終わったら今度は急いで外の様子を探らせている。小さくチッ、っと舌打ちしたのが刻まれたのを確認すると一旦本を仕舞い
何かあったのか、と問いかけた。

364 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 01:02:55.86 ID:E5j3fgBd.net
ムーロロは内心焦っていた。

セッコとスクアーロ、二人に気付かれぬようトランプを引っ込めたところにDIOからの通信だ。
指令を聞き終えてから急いで外を確認すると、状況はムーロロにも意外な方向に展開していた。
何かあったのか、と問われてはじめて自分が舌打ちをしたことに気付き、ばつが悪そうに琢馬に説明する。

「DIOからセッコを探して回収、のち至急帰還するようにとの命令だ。だがどういう訳かスクアーロは復讐相手を放っぽって
 たまたま居合わせたセッコとドンパチやりはじめた。ひどい偶然もあったもんだぜ。さてどうしたもんか……」

半分は嘘だ。DIOからの命令の内容自体は本当だが、セッコとスクアーロを前情報なしに出会わせたのは自分なのだから。
三人の内誰が死んでも問題はなかったが、このままプロシュートに逃げられ誰も死ななかった場合、まずい事になる。
もちろんスクアーロの事だ。
仮に仲裁に成功し二人と合流したとして、ムーロロにここまで誘導されてきた事をスクアーロの前でセッコが口にしたらどうなるか。
自分の仇討ちを邪魔されたと知ったら形ばかりの協力関係も崩れてしまうだろう。タイミングによってはDIOからの信頼にも
響きかねないし、最悪スクアーロに襲われる危険もある。ここで誰かが死ななくては大きな火種を抱えてしまうだろう……

セッコが死ねば口封じができるがDIOの命令を遂行できず不興を買うかもしれない。
プロシュートが死ねばスクアーロは満足する。セッコがしゃべる前に別れても問題ない。
スクアーロが死ねばDIOの命令は遂行できる。プロシュートは放置しても問題ない。さてどうしたもんか……
そんな自分の心中を図ってか、琢馬が一瞬ニヤリと笑ったような気がした。 気がしただけだし、実際には二人とも無表情なのだが。

「ムーロロ、取引をしたい」
「……条件次第だがな」

非常に気に入らない展開ではあるが、ムーロロは琢馬の土俵に上がることにした。

365 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 01:09:53.88 ID:E5j3fgBd.net
***


(やってくれたな……!)

まさか口先の駆け引きだけで敵を味方にしてしまうとは。それもセッコという異常者を相手にこの状況でやってのけた
千帆の胆力にプロシュートは内心舌を巻く。
戦う力が皆無に加えて芯こそあれど根っこは甘ちゃんかつ夢見る少女だと思ってばかりいたのに、蓋を開けてみれば
不意打ちで捕えられてもパニックを起こさず、あまつさえ敵を観察、分析し言葉のみで自分に都合よく動くよう誘導する。
冷静さや思考力、判断力に加えてある種の非情さや冷酷さも無ければできない行動だ。
どうみても平凡な人生しか送ってこなかっただろう少女が一体何故?と思うと同時に、彼女が連れ去られたことに
激高しておきながら助け出す算段が未だ整っていなかった自分を恥じる。これではまるで立場が逆だ。
だが以前危機的状況な事に変わりはない。ひとまず無駄な思考を頭の隅に追いやるとセッコ達から距離を取り、気になっていた件を確認する。

「プロシュートさん! 私……」
「よくやった千帆。このまま急いで撤退したいところだが、ここは慎重にいかなきゃならねぇ。なにせ『五人目』が近くに
 潜んでやがるかもしれねえからな」
「はい。気が付いたら消えてましたけど、あのトランプはセッコさんに私の事を殺すなと指示していました。仲間なのは間違いないと
 思います、私達が逃げたと知ったらすぐ追いかけてくるかも」
「だろうな。セッコ、DIO、トランプのスタンド使いと合わせて最低でも三人以上のチームだ。偵察能力のある奴に目を付けられた以上
 無暗に逃げ回るのは危険だが、とにかく準備はするぞ。俺はバイクを持ってくる。お前も荷物を持ったらここで待ってろ、セッコの
 視界から消えたら怪しまれるからな」

プロシュートに続いて千帆も素早く民家に入ると、コーヒーを入れる際に見つけていた角砂糖の袋を取り出しカバンに詰める。
セッコに嘘は言っていない。もし自分たちを追ってきたらこれを使って宥めるつもりだ。
最後に床に落ちていた万年筆を拾い上げたとき、不遜な漫画家の顔が浮かぶ。
今となっては彼がこの舞台でどう行動し、どのような最期を遂げたのかを知っているのは千帆だけとなってしまった。
何となく身に着けておきたくなって、彼からの手紙もポケットにしまいこむ。


(露伴先生、ありがとうございます……)


「オイ、双葉千帆!」
「えっ?」
「こっちダ、コッチ!」

366 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 07:32:31.64 ID:E5j3fgBd.net
***


ムーロロとの取引が成立し亀の外に出た琢馬はまずスクアーロとセッコの戦いを避け、近くの通りに移動した。
そのまま待機しているとトランプに先導された千帆がやって来る。最後に見たのと同じ格好で、どこもケガはしていないようだ。
最悪の事態が回避されたことに安堵すると同時に、自分がこんなにも千帆に執着していたのかと驚きもした。
千帆も大体同じような心境なのだろう。表情から安堵と戸惑いが感じられる。
第一声は何がいいか、思考が浮かんでは消えてゆくが結局口にしたのは極めて事務的な言葉だけだった。

「俺は向こうで戦っているヤツの仲間と行動を共にしている。ひとまずお前の安全は保障されるよう話を付けたから一緒に来い」
「一緒に……でも、プロシュートさんが」
「悪いがお前だけだ。こっちに火の粉が飛んでくる前に行くぞ」

強引に腕を引っ張ったので千帆のバッグが地面に落ちたが、構わず足を進める。
が、きっかり10歩目を踏んだ時、炸裂音と共に足元が小さく爆ぜた。

「必死こいてナンパ中のところ水を差して悪ぃが、そのまま動くな。質問に答えてもらおうか」

振り向くとバイクにまたがった男が硝煙を上げる銃を構えていた。
距離はおよそ6メートル。『本』の射程にはまるきり足りないが、ミスタの時と同じように付け入る隙があるかもしれない。
とりあえず銃を降ろしてもらうためにも琢馬は先に自分の立場を表明した。

「プロシュートだな、俺は蓮見琢馬。誤解の無いように一応言っておこう、千帆から聞いてるかもしれんが俺たちは兄妹だ。
 今まで妹を保護してくれて感謝する。今後の事だが、あいにく俺の同行者は……この近くにいるんだが、あんたと行動することを
 望んでいない。礼代わりにここは俺がとりなしておくから、このまま――――」

喋りながら念の為隠し持ってきた銃を確認しようと自然を装って右手を動かしかけたところ、プロシュートは無言で二発目の弾丸を
撃ちこんできた。一瞬の冷たさの後に指先に燃え盛る様な痛みが襲ってきて、苦痛のあまり喉から押し出されるような声が漏れる。

「俺は手を動かせとは言っていない、口だけ動かしてりゃいいんだ。 いいか? 質問は二つある。
 『お前はトランプのスタンド使いか?』 『お前の同行者がトランプのスタンド使いなのか?』
 ひとつの質問には一言で答えろ。答えなければ三秒ごとに一発づつ弾丸を撃ち込む。デートに行きたきゃとっとと答えな」
「プロシュートさん!」

367 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 07:35:02.59 ID:E5j3fgBd.net
すみません。続きは今夜投下します。

368 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 20:21:28.96 ID:E5j3fgBd.net
千帆が抗議の声を上げるが、プロシュートが本気だと解っているのだろう、射線にまでは割り込んでこない。
この男はスクアーロと同類だと琢馬は理解した。スタンドがどうのこうのではなく、殺人にも拷問にも一切の躊躇がない人間に
対して琢馬はただの弱者でしかないのだ。小細工も考える隙も与えられない今、琢馬は素直に従うしかないと判断した。

「一つ目の答えはノーだ。二つ目は……イエス」
「なるほど。じゃあ最後の質問だ。千帆、お前はこいつと行くのか?」

琢馬の方を向いたままプロシュートは千帆に問いかける。

「俺は今ここにいる全員を相手にするつもりはない。さっき言った通り撤退させてもらう。俺と行くかこいつと行くか、
 自分の行き先は自分で決めろ」
「…………」

千帆はただ無言で立ち尽くしていた。
数秒の沈黙の後にそうか、と一言だけつぶやくとプロシュートは琢馬の横をすりぬけ、走り去っていった。


***


「千帆」

呼びかけても返事はない。

「早く来い、千帆。あまり待たせるな」
「先ぱ……に、いさん」
「……全部知っているんだな、父親から聞いたのか」

千帆が無言でうなずく。
想定はしていたが、千帆と自分にはほぼ時間差は無かったようだ。自分が図書館に行くまでの間に父親から真実を
聞かされたのだとしたら、丁度辻褄も合う。

「……私……」

血の気の無い顔でこちらを見つめてくる。
何故そんな顔をする。まさか俺がお前を殺すとでも疑っているのか?
いやわかってる。恋人だと思っていた男が実の兄で、父親に復讐するために自分に近づいたのだと知ってしまったのだ。
真実を知った自分にも危害を加えないか警戒するのは当然の反応じゃないか。
それでもお前はここにいる。あの男より俺を選んだのだから。話したいことも山ほどあるだろうが、邪魔が入らないところで
決着を付けるくらいの時間はあるさ。ああわかってる、全ては俺が仕組んだ事だ。だからもう見せるな。
お前の目は―――俺の―――を――――――――


そう、その時琢馬は確かに動揺していた。だから迫ってきたエンジン音を自分でも馬鹿げたことに、迫り来る運命の音だと思ったのだ。
『お前に未来などあるものか』と嘯きながら呪われた血の運命が背後から手を伸ばしてきたのだと。
だから琢馬は振り返る。運命などに追いつかれてたまるものか、自分はこれから未来へと進むのだから!


「っぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」


運命の輪はバイクの車輪だった。プロシュートが猛スピードで突っ込んできたのだ!


「「  千帆!!  」」


琢馬とプロシュート、同時に手が差し出される。
千帆は手を伸ばし――――

369 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 20:23:38.23 ID:E5j3fgBd.net
***


一方、スクアーロとセッコの戦いも続いていた。

地中から首を出したセッコが遠距離から高速で噴き出した泥が矢となってスクアーロを襲う。
大半はアヌビス神の刀で叩き落されてはいるが何本かはスクアーロの体をかすめ、少しづつだがダメージを負わせていく。
だが直接攻撃を仕掛けて決着をつけたくとも、アヌビス神が真っ二つに切り裂こうと待ち構えているため容易には近づけない。
スクアーロも同様だ。自身のスタンド『クラッシュ』を喉元に食い込ませたいところだが、泥は移動手段として認識されない為
当たりを付けた地面をアヌビス神でモグラ叩きの様に切り裂くことしかできない。それでもパターンを繰り返すうちにセッコの動きを
予測して何発か当てることはできた。
この互いに決め手を欠いたままの膠着状態を崩したのも、また千帆だった。

「あ―――っっ!! チホ――――!!!」
「っつ、プロシュートの野郎!!」

バイクの音に気付いて顔を向けると、丁度プロシュートが女と逃げるところだった。
セッコは悲鳴を上げてスクアーロとの戦いを放り出すとすぐさまバイクを追って通りの角を曲がり消えていく。
スクアーロは呆然とその光景を見送るとやがて力の限りアヌビス神を地面に叩きつけた。
最悪だ。せっかく見つけた仇には逃げられ、自分は無駄に傷を負った。
いつの間にかスペードのエースが一枚足元に寄ってきて、ムーロロが声をかけてくる。

「まぁ落ち着けよスクアーロ、確かに奴らは逃げちまったが行き先はわかってるさ。また追えばいい。それよりDIOから
 緊急の指令が入ったんだ。とりあえずこっちに戻ってこいよ」

人の気も知らず何を呑気な事を。だが引き続きこいつのサポートが必要なのも事実。浮かんだ悪態をぐっとこらえると
荷物の方へと戻る。いつの間にかバッグから抜け出していた亀の傍に琢馬が俯いて立っていた。右手から大量に出血している。
あちらにも事情があるようだが、声を掛けてやるような仲でもない。
無視して亀を拾おうとしたスクアーロの目に、甲羅を覆うようにして紙が貼ってあるのが見えた。
『古本を破いたようなページ』の文字の羅列が目に入った瞬間――――

「ゴホッ……が……あ!?」

急に激しい悪寒と頭痛、筋肉痛がスクアーロを襲った。体中を激しい高熱で包まれ意識が朦朧としてくる。
精神力だけで何とか立ち続けようとするも、あまりに急激な体調の変化に体がついて行かず、ついに咳き込みながら膝をつくと
地面に倒れ込んだ。眼前にトランプがやって来る。

「まぁお互い契約はきっちり果たしたからな。哀れ復讐相手に返り討ちにあったとしても、俺のあずかり知らぬところよ」
「千帆があいつと一緒に行動するならお前は今始末しておかなけりゃならない。復讐の為なら無関係な人間も見境なく
 殺せるお前は危険だ」

370 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 20:35:36.03 ID:E5j3fgBd.net
スペードのエースは不運と死の象徴。嵌められたのだと気付いた時には既に手遅れだった。
琢馬がアヌビス神を拾い上げると無造作に背中を一突きする。心臓を貫かれ、間もなくスクアーロは絶命した。





【スクアーロ  死亡】
【残り 36人】


***


「終わったか。こっちも連れ戻してきたぜ」

スクアーロの死亡を確認後、紙を剥がすとムーロロが亀から出てきた。遅れてセッコが騒々しくわめきながらやって来る。

「うおっ、おっ、チ、チホが逃げちまったじゃあねーかクソ!! 角砂糖くれるって言ったのに許せねーぜあの嘘つき女!殺す!
 殺すコロス殺す!!」
「おーいセッコよ、これでも食って一息つかねーか」

ムーロロが琢馬の持つ千帆のバッグを奪うと中から白い塊を取り出しひとつ投げる。
地団太を踏んでそこら中を殴りまわっていたセッコが反射的にぴょんと跳躍し、見事に口でキャッチした。

「あり? これ角砂糖じゃねーかよ!!」
「俺が双葉千帆から預かっといたんだぜ。お前がいつまでもスクアーロを倒せないもんだから先に行くってよ。それでもちゃんと
 角砂糖用意してくれたし良い子じゃねーか。どうせ殺す予定じゃなかったんだし、もう放っといてもいいんじゃねーか?」
「うああ、おっうおっ、おお――ッ!」
「何、もっとか? お前ひょっとして角砂糖くれれば誰でもいいのかよ……」

ひとしきり角砂糖を投げて遊んでやるとセッコは実に大人しくなってくれた。
ムーロロがなだめすかしてくれた効果で、ひとまずセッコの中で千帆は良い奴という事にもなったようだ。もっともあの頭で
きちんと記憶し続けられるかどうかは非常に疑わしいが。

「しかしお前の能力はよくわからんな。『雑誌』の一ページを目に入れただけで行動不能になるとか。どうなってんだ?」
「俺の能力は取引に入っていない。余計な詮索はよせ」
「へいへい。んじゃ改めて一緒に来てもらうぜ。取引不成立とか言うなよ『お兄ちゃん』?」
「言わない。取引は完了した」

こちらに放り投げられたバッグを拾うと、びっしりと書き込まれた紙が数枚こぼれ落ちた。

『ムーロロにとって不要な人物の始末に協力する代わりに、千帆の確保に協力してもらう』
これが二人の間で交わされた取引だった。
ムーロロとスクアーロが共にDIOの命令に従うだけの、ドライな関係だとは最初から分かっていた。
DIOに従う理由も単に生き残る為で忠義心などない。ならば殺せるときに殺すチャンスがあれば乗って来るだろうと琢馬は踏んだ。
琢馬としては誰でも良かったが、やむを得ず千帆との関係を明かしたことで結局ムーロロはスクアーロを指名し、その上
千帆も一緒にDIOの元に連れて行くことを要求してきた。どのみちムーロロの追跡から逃れることは難しかったため、これを了承。
庭の本から破ったページの上から『本』のページを工作セットに入っていたセロテープでくっつけて亀の甲羅に貼り付ける。
後はムーロロがスクアーロを亀まで誘導してくれれば勝手に倒れてくれるという算段だ。
自分の能力の本質を知られる危険を冒しはしたが、まだ『本』自体は見られていないし、『記憶』を武器にしている事もバレてはいない様だ。

371 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 20:42:28.04 ID:E5j3fgBd.net
琢馬は、紙束を読みもせず見つめていた。
小説というよりも走り書きのメモにはところどころ水滴が乾いた皺があり、どんな顔で書いたのか容易に想像がつく。
こんな所でも千帆は書いている。この先も書き続けるに違いない。
それ程に千帆にとって小説を書くという行為は支えであり、書き続ける限りきっとこの困難の中でも前を向いて歩んでいくのだろう。
自分には復讐がそれだ。いや、それ『だった』。
人生と共にあった目標を失った今、会って決着を付けることで何かが変わるかもしれないと思い探し求めた妹は
しかし自分との会話を拒み、自分を置いて去っていった。
あの瞬間感じた安堵と後悔が徐々に琢馬を苛んでゆく。原因は『本』など見なくてもわかる、自分こそが逃げたのだ。

永遠の別れと思ってペンダントをかけてやったあの時、彼女に自分の復讐に生きた人生全てを読ませたいと思った。
記憶や感情を植え付ける前と後ででどう変わるのか、その時はただの想像だったが、
自分の行いとその意味を知ったごく普通の少女は図らずも想像通り、いや想像を超えて変わってしまっていた。
折れそうなほど細い体と愛らしい顔立ちはそのままに、どこまでも深い闇を、いや深淵を抱えてしまった彼女の
冬の夜空の様に暗く澄み切った瞳に見つめられた琢馬は恐怖し、もっと伸ばせたはずの手を止めてしまったのだ。

元の世界での織笠花恵の殺害は復讐の過程でしかなかった。
この世界で老人やエリザベス、スクアーロを殺害し、ミスタやミキタカを襲ったことも自分が生き残るための手段でしかなく、
そこには罪悪感も無ければ達成感もなかった。
だが千帆にしてきた事は、その結果千帆を変えてしまった事は、



――――――――罪だ。


なぜか自宅に貼ってあるポストカードに印刷されていた緑色の草原の情景が脳裏に浮かび、消える。
いつか行きたいと思っていたあの場所が、今の琢馬には決して辿り着くことのできない楽園のように思えた。

372 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 20:49:25.28 ID:E5j3fgBd.net
***


「ここ……スペイン広場、ですよね。階段もあるし。テレビで見たことあります」
「観光地としちゃ定番中の定番だからな。 するとここはB-5、いやC−5か。結構北に来ちまったな」

噴水の脇にバイクを置いて、階段を中央付近まで上がる。普段は観光客で埋め尽くされている空間に今は二人きりだ。
これが二時間映画のカップルならジェラートでも食べるとこだが、あいにくそんな場合ではない。そもそもヘップバーンの時代と違って現在この場所は飲食禁止なのだから。
敵を振り切ってここまで逃げてきたはいいが、トランプのスタンド使いがいる限り再び追ってこないとも限らない。かといって闇雲に
バイクを走らせて燃料と精神力を消耗させるのも得策ではない。丁度襲撃に対応しやすい開けた空間でもあった為、二人は休憩を
取ることにした。プロシュートは警戒を続けながらも踊り場に腰を下ろして一息つく。

「お前の荷物……置いてきちまったな」
「はい。でも大事なものは持ってきましたから……」

千帆は万年筆を握りしめたまま俯いている。そのまま何となく居心地の悪い沈黙が続いた。

なぜ俺の手を取った、とは聞かない。
きっと本人にもわからないだろうし、わざわざ今の千帆の心を乱してやる事もないからだ。
それに――――『なぜ、戻ってきたんですか』と聞かれたくもなかった。理由はプロシュート自身にもわからないし、
深く考えたくもなかったから。

「たぶん、怖かったんです」

ぽつりと千帆の口が動く。

「もしかしたら兄さんが、私の知らない人になってるんじゃないかって。真実を知る以前の私と今の私がまったく
 違ってしまったように……それが怖くて、無意識に考える事から逃げてました」

千帆から聞き出したのは家族を含む知人の名前数名と簡単な関係性くらいだ。
兄だという蓮見琢馬の名を口にした時に苗字の違いから、ありふれている程度に訳ありの関係だとは思っていたが、
やはり何かあったようだ。

「やっと会えたのに、結局何の覚悟もできてなくて、何も話せなくて……プロシュートさんを逃げ場にしちゃいました。
 兄さんは手を―――っ、伸ばしてくれたのに!」
「言ったはずだ。逃げが間違いだっていうのは『間違い』だってな」

悲しみと悔しさを滲ませる千帆にプロシュートもまた静かに口を開く。

「お前の兄貴と過去のお前にどういう事情があったか知らんが、お前も聞いてただろう。
 少なくとも奴の同行者であるトランプ野郎はあのセッコと行動を共にしている。DIOとかいう奴とも繋がっているはずだ。
 もしあのままついて行ったとしてもお前の命がどこまで保証されるかはわからん。そんなつもりじゃなかっただろうが、
 確実に自分の身を守ることを最優先とすればお前がとった行動は間違いじゃねえ」
「……」
「何よりお前には小説を書くって目標があるんだろ」

はっとした千帆と目が合う。

373 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 20:54:56.07 ID:E5j3fgBd.net
「いいか千帆、目先の出来事に囚われて目的を見失うな。
 物事には優先順位をつけろ、何が何でも成し遂げたいことがあるなら尚更だ。どの道切り捨てることのできないお前だしな。
 殺したくない、けど死にたくないなら逃げたって良いんだ。逃げて、また機会を待てばいい」

任務のため、仲間のため、自分のため。優先したものはその時々だったが、プロシュートは時に色々なものを切り捨てる事で今まで生き延びてきた。
だが千帆はそうじゃない。むしろ切り捨てる事をしないからこそ開ける道があるのではないか。
結果論でも、誰も殺すことなく危機を乗り切るという自分にできない事をやってのけた千帆を見て、そう思い始めていた。

「ついでに言っとくと、お前がセッコを味方につけなけりゃ俺一人でさっきの戦闘を切り抜けることは難しかった。
 所詮は周り中から愛されて何不自由なく暮らしてきたお嬢さんだと、お前のことをずいぶん過小評価していた。悪かったな」
「なんかそう褒められると恥ずかしいんですけど……でも、私はプロシュートさんが思ってるほどきれいな人間じゃないですよ」
「そりゃ人間だからな。生きてれば何かしらの罪くらい犯すだろう」
「……ここに連れてこられたのは父を殺そうと決めて包丁を手に取った時でした。私には優しい父でしたが、兄さんにとっては
 自分の人生を根こそぎ狂わせた悪魔だったんです。きっと真実を知った私に殺させるまでが兄さんの復讐だったんでしょうけど、
 何より私自身が父を許せなかった。覆しようのない殺意を持ったんです。未遂でしたけど、精神的には私は殺人者です。
 あと、琢馬兄さん……兄さん、だけど……恋人だったんです。私のすべてを捧げた大事な男性だったんです」


親友に恋した相手をこっそり打ち明ける様に、はにかんだ笑顔で千帆は罪を告白した。


「千帆…………」

衝撃だった。
カトリック・キリスト教の総本山をいただくイタリアに生まれ育ったプロシュートは自身の信仰心はともかく、
それがどれ程の重罪かは十分承知している。
裏社会に生き、神をも恐れぬ所業を散々見てきたからこそ、平和な国に生まれた千帆の罪はたとえば二、三日家出をしただとか
家族や友人とケンカして傷つけただとかいった千帆らしい、ささやかで愛に満ちた罪なんだろうと思ってしまった。そう思いたかったのかもしれない。

しかしそれでもやはりこちらを向いた千帆の瞳は変わらず、いや、より一層輝いている。
殺し合いという舞台の上で自身の運命を弄ばれながら、それでも決然として前を向く。なぜスタンドも持たない無力な少女から
こんなにも美しく凄絶な凄味を感じたのか。なぜ同じように神に背く罪を犯しながら自分と千帆は違うのか。
自然に、ごく自然にプロシュートは心で理解した。
罪を犯し、罪を受け入れ、罪を背負う。その一方で他者の罪すら受け入れ、許し、慈愛を注ぐ。自分を汚し堕としめた男ですら
苦しみながらも受け入れようとする。確かそういう聖女がいたような気がする。

374 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 20:59:10.88 ID:E5j3fgBd.net
恥ずかしいのか早足で階段を駆け下りる千帆に上からプロシュートが呼びかける。

「『覚悟』を決めたぜ」
「?」
「お前はお前の行きたい所へ行け、俺はお前と共に行く。もう隠し事もなしだ。スタンドについても教えてやるし、もちろん
 敵に遭遇したら一緒に戦う。見捨てたりはしねぇ。俺の勘が、お前について行くのが最善だと言ってるからな」

千帆を追い越して階段を降りる。すれ違う千帆の顔は実にぽかんとしたものだったが、すぐにはっきりとした声が降ってきた。

「私、もっと人に会いたいです。このゲームを壊そうと頑張ってる人、殺人を楽しんでる人、とにかく生き残りたい人、
 色んな人と話をして、まとめて、小説にします。ここで起こったことが誰の記憶から消えてしまっても、小説という形で残るように―――
 やっぱり私にはこれしかないですから。
 そして、その過程でもしまた兄さんと会えたなら、その時はちゃんと話します。兄さんがどんな人であっても、たとえ敵になったとしても
 話せる相手から逃げる事だけはもう絶対にしません」
「そう決めたんならそれでいい。もしお前がやっぱりビビって一歩を踏み出せなくなっちまったら、俺がお前の背中を
 蹴り飛ばしてやるさ。何ならまた兄貴の手でも足でも弾ぶち込んで、逃げられねぇ様にしてやってもいいぜ」

最後の言い方がツボに入ったらしく、ぷっと吹き出す千帆につられてプロシュートも口を開けて笑った。
こんな表情をしたのはもういつ振りになるだろうか。


千帆が『持っているヤツ』な限りそばに置いておこうと思っていた。
『持っていないヤツ』になった時は切り捨てればいいと。
だが、それすらもうプロシュートには出来ない。二人は今、本当の意味で『仲間』になったのだから。


「行こうぜ、千帆」

プロシュートが差し出した手にぎこちなく千帆の手が重なる。
もしもその場に観客がいたとすれば、
信仰心を持った者が見たのなら、その一瞬について後にこう語ったかもしれない。




『まるで聖女の祝福を受ける戦士の様にも見えた』とーーーー

375 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 21:02:43.22 ID:E5j3fgBd.net
【C-5 スペイン広場/1日目 夕方】

【プロシュート】
[スタンド]:『グレイトフル・デッド』
[時間軸]:ネアポリス駅に張り込んでいた時
[状態]:ダメージ・疲労はほぼ全回復、覚悟完了。
[装備]:ベレッタM92(13/15、予備弾薬 30/60)
[道具]:基本支給品(水×3)、双眼鏡、応急処置セット、簡易治療器具
[思考・状況]
基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還
0. 双葉千帆と共に行動する。
1.とりあえず千帆の希望通り人を探す。
2.この世界について、少しでも情報が欲しい
3.残された暗殺チームの誇りを持ってターゲットは絶対に殺害する
※千帆にスタンドの知識と自分の情報(パッショーネ、護衛、暗殺チームの人間について)道すがら話す予定です。

【双葉千帆】
[スタンド]:なし
[時間軸]:大神照彦を包丁で刺す直前
[状態]:健康、強い決意
[装備]:万年筆、スミスアンドウエスンM19・357マグナム(6/6)、予備弾薬(18/24)
[道具]:露伴の手紙
[思考・状況]
基本行動方針:ノンフィクションではなく、小説を書く
1.プロシュートと共に行動。人と会って話をしたい
2.川尻しのぶに会い、早人の最期を伝える
3.次に琢馬兄さんに会えたらちゃんと話をする
4.露伴の分まで、小説を書く

376 :創る名無しに見る名無し:2014/09/24(水) 22:41:38.03 ID:EgqFOO/p.net
支援

377 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/25(木) 00:31:33.71 ID:h2lgfJue.net
***

ジョルノとの会談に使ったのとは別の小部屋でDIOが椅子に腰かけている。
少し離れてディエゴとルーシーもそれぞれ距離を置いて座っている。
ルーシーの呼吸は安定している。腹の大きさから臨月くらいだろうが、生まれる気配はまだ無い。

「遺体の部位は全部で十。内二つ、右眼球と頭部がここにある」
「ああ、こいつを取り込んでいる間は自分のスタンドの他に発現する能力がある」
「未知なる能力か……ムーロロが戻ってきたら私も試してみる事にするよ。先程の報告ではさっそく支給品をいくつか開けたところ
 脊椎、右腕が出てきたそうだ。銃で撃たれた者がいたんだが、右腕が彼に取り込まれた途端に千切れかけの指が二本完治した。
 これはいわゆる奇跡という部類に入る。君の言う通り『聖なる』遺体だな」
「そんなに支給品をため込んでるヤツがいたとはな。良い手駒をお持ちのようだ」
「どうも。君たちと手を組めたことも嬉しく思っているよ」
「言っておくがこれはビジネスだ。遺体を全て揃えるまでのな。その後は好きにさせてもらう」
「お好きに」

ブラフォードを置いてきた今、ロクに動けないルーシーを抱えたままDIOと敵対するのは非常に危険だとディエゴは判断した。
ジョニィやジャイロといったレース参加者がいる以上、再び争奪戦が始まる前にDIOの部下を使って遺体を集めるのが先決と
一時手を組むことにしたのだ。内心腹の底までDIOへの嫌悪で一杯ではあるが、その感情をぐっと押し込んだまま損得だけで
動ける程度にはディエゴはクレバーな思考ができる男なのだ。

一方DIOは思索にふける。

(聖なる遺体……このDIOが天国へと向かうための新たなパーツかもしれん。興味が沸いてきた。
 このルーシーという女もな)

遺体を『懐胎したかのように』取り込んだルーシーに、DIOはより強い興味を示した。
母親、エリナ・ペンドルトン、空条ホリィ。
いつでも自身の人生を邪魔してきた聖なる女がまたひとり増えた。
だが今回は少し違う。ディエゴから聞いたルーシー・『スティール』の名と、主催者との婚姻関係も多少面白いとは思ったが、
それ以上に彼女の目に母親やエリナと同じ輝きと混じって決定的な異質さを感じ取ったからだ。

378 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/25(木) 00:32:08.97 ID:h2lgfJue.net
(聖女……聖なる者として信仰を受ける女の事だ。
 最も有名な聖女である神の子の母マリアは純潔を守ったまま出産したことから、「清らかさ」の象徴といわれている。
 しかし、一説には娼婦であり、罪を犯したと言われるマグダラのマリアもまた神の子の復活を目撃した聖女だ。
 聖女の条件とは何か。純潔であることか? 処女懐胎をはじめ奇跡を起こすことか?いや違う。)

「ミセス、体調はどうかね」
「あなたたちさえいなければいつだって最高よ」
「いいね、実にいい。本当はこのまま側に置いておきたいところだが、私はこの後来客があるかもしれん。
 そうなったらこの崩れかけた教会は君には少しばかり危険だ。もう間もなくだろうが、部下が戻りしだいトンネルを掘って
 近くのわが屋敷に移動してもらうことになるだろう。聖女に納骨堂は失礼だからな。寝心地の良いベッドで出産に備えたまえ」
「聖女だなんて言わないで頂戴。後悔なんてしてないけど私は罪を犯したわ、おぞましく深い……罪よ」
「いいや君は聖女だ。人類はすべからく原罪を背負っている。罪の有無は君から聖者の資格を奪いはしない。
 それに罪は深ければ深いほど……このDIOにふさわしい」

(聖なるもの、聖女とは、『導くもの』なのかもしれない。困難な運命に立ち向かう者に進むべき道を指し示す。
 この罪深い少女はきっと自分を天国へと導き、押し上げてくれるだろう。)
(全てそろった遺体は所有者に『吉良なるもの』だけを集める……最終的に私の元に遺体が集まった時がチャンスよ。
 必ず幸福になってみせる……!)

DIOの手がルーシーの頬をゆっくりと滑ってゆく。
おぞましいその手を払う代わりにルーシーはDIOを真っ直ぐに見つめ返す。
その様子をディエゴは観客にでもなった様に冷めた目で見ていた。
信仰心など持ち合わせていないが、見るヤツが見たらこう言うだろうなと想像する。

『まるで神の祝福を受ける聖女の様にも見えた』と――――

379 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/25(木) 00:32:35.73 ID:h2lgfJue.net
【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会 地下/1日目 夕方】

【DIO】
[時間軸]:JC27巻 承太郎の磁石のブラフに引っ掛かり、心臓をぶちぬかれかけた瞬間。
[スタンド]:『世界(ザ・ワールド)』
[状態]:全身ダメージ(中)疲労(小)
[装備]:シュトロハイムの足を断ち切った斧、携帯電話、ミスタの拳銃(0/6)
[道具]:基本支給品、スポーツ・マックスの首輪、麻薬チームの資料、地下地図、石仮面、リンプ・ビズキットのDISC、スポーツ・マックスの記憶DISC、予備弾薬18発『ジョースター家とそのルーツ』『オール・アロング・ウォッチタワー』のジョーカー
[思考・状況]
基本行動方針:『天国』に向かう方法について考える。
1.ムーロロらと合流、遺体を集める。集めた後ディエゴをどうするかは保留
2.遺体とルーシーを使って天国へ向かう方法の考察をする
3.ジョジョ(ジョナサン)の血を吸って、身体を完全に馴染ませる。
4.承太郎、カーズらをこの手で始末する。
[備考]
※携帯電話にヴォルペからの留守電が入ってます。どのような内容なのかは後の書き手様にお任せします。
※ジョンガリ・Aのランダム支給品の詳細はDIOに確認してもらいました。物によってはDIOに献上しているかもしれませんし、DIOもジョンガリ・Aに支給品を渡してる可能性があります。
※サン・ジョルジョ・マジョーレ教会が崩壊しかかってます。次に何らかの衝撃があれば倒壊するかもしれません。
※ディエゴから遺体の情報とSBRレース、スティーブン・スティールについて情報を得ました。
※セッコ達と合流次第ルーシーをDIOの館に移動させるつもりですが、同行させるメンバーやDIO自身が移動するかは未定です。

【ルーシー・スティール】
[時間軸]:SBRレースゴール地点のトリニティ教会でディエゴを待っていたところ
[状態]:処女懐胎、疲労【中】
[装備]:遺体の頭部
[道具]:基本支給品、形見のエメラルド
[思考・状況]
基本行動方針:スティーブンに会う、会いたい
0.遺体が集まるのを待つ
1.DIO、ディエゴを出し抜く

【ディエゴ・ブランドー】
[スタンド]:『スケアリー・モンスターズ』+?
[時間軸]:大統領を追って線路に落ち真っ二つになった後
[状態]:健康
[装備]:遺体の左目、地下地図
[道具]:基本支給品×4(一食消費)鉈、ディオのマント、ジャイロの鉄球
    ベアリングの弾、アメリカン・クラッカー×2
    ランダム支給品0〜3(ディエゴ:0〜1/確認済み、ンドゥ―ル:0〜1、ウェカピポ:0〜1)
[思考・状況]
基本的思考:『基本世界』に帰る
0.遺体が揃うまでDIOと協力。その後は状況次第
1.なぜかわからんが、DIOには心底嫌悪を感じる
2.ルーシーから情報を聞き出す。たとえ拷問してでも
※DIOから部下についての情報を聞きました。ブラフォード、大統領の事は話していません。

380 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/25(木) 00:36:10.96 ID:h2lgfJue.net
【 ??(DIOの元に移動中) /1日目 夕方】

【蓮見琢馬】
[スタンド]:『記憶を本に記録するスタンド能力』
[時間軸]:千帆の書いた小説を図書館で読んでいた途中
[状態]:健康、精神的動揺(大)
[装備]:遺体の右手、自動拳銃、アヌビス神
[道具]:基本支給品×3(食料1、水ボトル半分消費)、双葉家の包丁、承太郎のタバコ(17/20)&ライター、SPWの杖、不明支給品2〜3(リサリサ1/照彦1or2:確認済み) 救急用医療品、多量のメモ用紙、小説の原案メモ
[思考・状況]
基本行動方針:他人に頼ることなく生き残る。
0.千帆……
1.自分の罪にどう向き合えばいいのかわからない。
2.ムーロロ、セッコとDIOの元に向かう。隙があれば始末する?
3.ムーロロの黒幕というDIOを警戒
【備考】
参戦時期の関係上、琢馬のスタンドには未だ名前がありません。
琢馬はホール内で岸辺露伴、トニオ・トラサルディー、虹村形兆、ウィルソン・フィリップスの顔を確認しました。
また、その他の名前を知らない周囲の人物の顔も全て記憶しているため、出会ったら思い出すと思われます。
また杜王町に滞在したことがある者や著名人ならば、直接接触したことが無くとも琢馬が知っている可能性はあります。
ミスタ、ミキタカから彼らの仲間の情報を聞き出しました。
拳銃はポコロコに支給された「紙化された拳銃」です。ミスタの手を経て、琢馬が所持しています。
※スタンドに『銃で撃たれた記憶』が追加されました。右手の指が二本千切れかけ、大量に出血します。何かを持っていても確実に取り落とします。
 琢馬自身の傷は遺体を取り込んだことにより完治しています。

【カンノーロ・ムーロロ】
[スタンド]:『オール・アロング・ウォッチタワー』(手元には半分のみ)
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』開始以前、第5部終了以降
[状態]:健康
[装備]:トランプセット
[道具]:基本支給品、ココ・ジャンボ、無数の紙、図画工作セット、川尻家のコーヒーメーカーセット、地下地図、遺体の脊椎、角砂糖、
     不明支給品(3〜13、うち数個は確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:DIOに従い、自分が有利になるよう動く
0.スクアーロを始末でき、自分に損がなかったことに満足。
1.セッコ、琢馬と共に急いでDIOの元に戻る。
2.千帆とプロシュートはとりあえず放置。状況により監視を再開するかも
3.琢馬を監視しつつ、DIOと手下たちのネットワークを管理する
【備考】
現在、亀の中に残っているカードはスペード、クラブのみの計26枚です。
会場内の探索とDIOの手下たちへの連絡員はハートとダイヤのみで行っています。
それゆえに探索能力はこれまでの半分程に落ちています。
※遺体の右腕はペッシ、脊椎はペット・ショップの不明支給品でした。脊椎は今のところ誰にも取り込まれていません。

【セッコ】
[スタンド]:『オアシス』
[時間軸]:ローマでジョルノたちと戦う前
[状態]:健康、血まみれ、興奮状態(小)
[装備]:カメラ(大破して使えない)
[道具]:死体写真(シュガー、エンポリオ、重ちー、ポコ)
[思考・状況]
基本行動方針:DIOと共に行動する
0.角砂糖うめえ
1.ムーロロ、琢馬と共に急いでDIOの元に戻る。
2.人間をたくさん喰いたい。何かを創ってみたい。とにかく色々試したい。新しい死体が欲しい。
3.吉良吉影をブッ殺す

【備考】
『食人』、『死骸によるオプジェの制作』という行為を覚え、喜びを感じました。
千帆の事は角砂糖をくれた良いヤツという認識です。ですがセッコなのですぐ忘れるかもしれません。

381 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/25(木) 00:37:17.30 ID:h2lgfJue.net
勢いで投下→規制→解除されたと思ったら朝だったorz そしてしたらばの転載スレに依頼しましたが、規制解除されたので自分で投下。
長々と占拠してしまいすみません。

仮投下からの修正は二点です。
・時間帯を午後→夕方に
・角砂糖をムーロロの所持品に追加
角砂糖は完全に失念しておりました。ご指摘ありがとうございます。

リレー小説も掲示板に投稿するのも批評を頂くのも全て初めてでしたが、どれも素晴らしく楽しかったです!
wikiの編集もたぶん時間かかるでしょうから、ご指摘等があればお願いします。

382 :創る名無しに見る名無し:2014/09/30(火) 22:03:37.10 ID:24wwmmZM.net
遅くなったが投下乙。
プロシュートが完全に兄貴だなあ。琢馬の立つ瀬がない・・・のか?
そしてブレないのはムーロロ、とある意味でセッコ。ついに手に入れた角砂糖がどうなることやらw

とても新人とは思えない細かい書き込みに一気読みと、読んだ後の「はぁ・・・感」がたまりませんでした。
キャラの今後にも、そして氏の今後にも期待できる作品でした。

383 : ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 01:03:58.46 ID:9O/IGBoB.net
改めて投下乙です。
一般人枠でありながら成長を見せた千帆と、それに驚く兄貴達がいいですね。
そんな中プロシュートに触れられもせず退場したスクアーロに合掌……
一方ディエゴたちもサン・ジョルジョ・マジョーレに辿り着き、この後ここで一体
何が起こるやらとても楽しみになりました。

それでは、遅れたとかいうレベルではないですが
カーズ、宮本輝之輔
投下開始します。

384 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 01:10:45.49 ID:9O/IGBoB.net
―――走って、走って、走り続ける。
聞こえてきた放送も碌に頭に入れず、途中にあった遺跡も素通りし、ただひたすらに地下を逃げ続ける。
長時間の運動に慣れていない足が鈍痛を訴えるも、半ば引きずるように前へと進む。
これ以上は走れないという自身の限界に到達した辺りでようやく、宮本輝之輔は足を止めた―――

(ガ………ハァァ………グッ………)

『紙』の中から水を取り出し一気に呷ろうとするが、思うように飲み込めず半分ほど零してしまう。
同時に限界を向かえた脚も体を支えていられなくなり、ガクリと地面に両膝をついた。

(フゥー………フゥ………)

数分ほど経ってようやく落ち着きを取り戻すと、周りを見回し耳を澄ます―――誰もいないし、何も聞こえない。
追っ手が迫っていないことを信じながら息を潜めつつ、乱れた呼吸を整える。
だが、安堵できるほど状況が好転していないことも理解していた。

(……いない、よな………?)

もう一度後ろを振り返り、注意深く観察する。
地下が薄暗いとはいえ誰かを見逃すほどでは無いが、それはあくまで相手が『目に見える』場合だ。
先ほどまで彼を捕まえていた男―――ワムウは透明になることが出来る以上、油断はできない。

(………………万が一ヤツがぼくを殺しに追って来たとしても、一言ぐらいはかける………と思うが)

彼は黙ってその腕を振り下ろすような相手ではない―――そういう意味で宮本はワムウを『信用』していた。
それでも、会いたくないのに変わりはないが。

(放送はほとんど聞き流してしまったけど……ワムウも、噴上や仗助達の名前も呼ばれなかったように思う………
 である以上、あいつらがぼくを追ってくる可能性は十二分に存在する……さしあたっては)

時計を取り出し、現在時刻が昼頃であるのを確認する。
柱の男は太陽の下には出られない―――ワムウも陽のあたる場所に出ようとはしなかったし、自分さえ地上に出れば彼との遭遇は避けられるだろう。

(出口は、どこだ………?)

だが、辺りを見回しても上がれそうな場所―――階段や梯子といったものは全く見つからない。
しかも無我夢中に逃げたため自分が今どこにいるのかすらわからないというおまけ付きだ。
宮本は自分の記憶を思い返し、逃げる途中に通過した地上と繋がる遺跡を思い浮かべるが………

(ダメだ、後戻りは『賢い行い』ではない……あいつらがぼくを追ってきていて、鉢合わせるかも………)

論理的に、というよりは恐怖に駆られてその案を却下し、前方を眺める。
目の前にあるのは満足な明かりすら存在せず、どこまで続いているかもわからない道が一本だけ。

(落ち着け、出口は必ずある………慎重に、慎重に行こう………)

一刻も早く地上に出たいという気持ちはあるが、遭遇に備えて体力は回復させておかなければならない。
決断した宮本は自分に言い聞かせつつ再び歩き出した………未だに痛む足を引きずりつつ、ゆっくりと。

数歩ごとに後ろを振り返り、時折立ち止まって前方のその先に誰もいないことを確認し………
確実に歩を進めてはいたものの、その速度はまさに牛歩といってよかった。

385 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 01:18:34.47 ID:9O/IGBoB.net
#


………悪いことは重なるもので。
歩き始めてから一時間近く経っても宮本は地下から脱出できていなかった。

(………くそっ)

進む先は一本道だが歩けど歩けど出口は見当たらず、宮本は軽く舌打ちする。
ひょっとしたらこの先は行き止まりであり、結局出られずに引き返す羽目になるのではないか。
あるいは既に何者かのスタンド攻撃を受けており、進んだと思ったらいつのまにか戻っていて、同じ道を何度も歩いているのではないか。

(そんなはずが無い……ッ! よく思い出せ……確か…)

ネガティブ思考を必死に振り払い、理由を考えなおす。
方位磁石で確認するに、自分がいるのは東西にほぼ真っ直ぐ続く一本道。
ホテルで見せてもらった地下地図のメモと照らし合わせると―――

(A-5からA-7のどこか、だろうな……さっきワムウと通った道を逆戻りってワケか)

地図の中に納得できる場所を見つけ、僅かに落ち着きを取り戻す。
だが、不安が全て取り除かれたわけでもなかった。

(逆に考えろ、これはラッキーなんだ……噴上は『におい』で追跡が可能な能力者………
 あいつが来ないということは、ぼくは『逃げ切った』ってことじゃあないか………)

無理やりそう思いつつ、さらにしばらくして。
なおも歩き続ける宮本の耳に微かな物音が飛び込んできた。

―――ぺらり

(………?)

注意深く耳を澄ませる。
しばらくして、再び音は聞こえてきた。

―――ぺらり

(紙………いや、本のページをめくる音、か?)

―――ぺらり

音と音の間隔はやや不規則ながら短すぎず、長すぎず。
それはまさに『誰かが本を読んでいる程の』間隔であった。

(誰かが………いる!?)

音の発生源を注意深く探ると自分の前方、ゆるく曲がるカーブの先からその音は聞こえてきていた。
だが、それと同時に宮本は違和感を覚えて思考する。

(注意深く考えろ、選択を誤ったら………)

386 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 01:25:29.28 ID:9O/IGBoB.net
宮本は音を立てないように辺りを観察する………先にいる誰かと接触するべきか、立ち去るべきか判断するために。
すぐに、彼は違和感の正体に気付いた。
多少目が慣れたとはいえ、ここは地下―――当然、常に薄暗い。
だが音が聞こえてくる先は………少なくとも、宮本自身が本を読めるほど明るいようには見えなかった。

(そうだ………曲がり角の先から『明かりが漏れてきていない』………!!
 それならこの先にいる誰かは、明かりも無しにどうやって『本を読むことが出来る』っていうんだ!?)

理由が全く思いつかないわけではない。

例えば、点字の本を読んでいるとか。
または、暗視ゴーグルか何かを装着しているとか。
あるいは、ページをめくっているだけで、内容など見ていないとか。

………だが、今の状況でそんな希望的観測など出来るわけがなかった。

(この暗さでも、本を読めるだけの視力を持つ奴………まさか、ワムウッ!?)

導き出された結論は最悪のもの。
よしんば違ったとしても、この先にいる誰かが『人外』の可能性は非常に高い。
いち早く判断した宮本は今来た道を戻るべく音を立てないように体の向きを変え―――


                     「どこへ行く、人間」


―――一歩も踏み出さないうちに呼び止められた。
宮本の背中に冷や汗が伝い、痛みが引いたはずの足は震え始める。
彼は今、自分が『人間』と呼ばれたことで理解していた―――声の主はまたしても『怪物』であると。

「………………」

逃げても無駄だと悟った宮本は再び振り返り、声がした方へと進む。
諦めたわけでもなく、覚悟を決めたわけでもなく………ただ、行かねば殺されるという『恐怖』に駆られて。
ゆるやかな角の先、宮本の目に飛び込んできたのは悪い意味で誰かに似た格好の大男だった。

(まさか、こいつがワムウの言っていた………)

相手はまさにワムウに『似ている』男。
そのとき宮本は思い出した―――残る柱の一族は、たった二人というワムウの言葉を。

(………やるしかない)

どうにかせねば殺される―――瞬時に理解し、自分が優位に立てるチャンスは今しかないと判断する。
精一杯の虚勢で平静を装いつつ、相手に向かい口を開き………

「………カーズ」
「ほう………きさまもまた、このカーズを知っているか」

387 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 01:32:58.38 ID:9O/IGBoB.net
………会話で先手を取ろうとするも、失敗。
相手の正体は予想通りだったものの、おそらく彼は自分を一方的に知る人物と既に遭遇した後。
結局、最初の一手ではアドバンテージを得られなかった。
だがその程度の事態は想定済み………宮本は静かに言葉を続ける。

「………忠告しておくが、ぼくと戦う気ならやめておいたほうがいい」
「ふむ?」

宮本の次なる一手は、ハッタリ。
ワムウがそうであったように、彼らはおそらく『スタンド』に関する知識は持っていない。
どこかで聞く機会があったとしても、まさか自分の能力が詳細に知らされている可能性などまず存在しない。
それらを踏まえ、宮本は自分でも驚くぐらいに大胆な発言を開始した。

「あえて説明するなら、お前たちが持っている支給品を紙に閉じたのはぼくの能力………ぼくは主催者側の人間だ」
「………………」

心臓が破裂寸前なほど激しく鳴っているのがよくわかる。
だがひたすらそれを押し隠し、近くに転がる一抱え以上もある岩を『エニグマ』でファイルし、紙にしてみせる。
続いて、折りたたまれた紙におもむろに指をかけ………

「そしてこのようにやぶいてしまえば、岩も簡単にバラバラにできる。
 ………岩だけじゃなく、生物も例外ではない」

ビリビリにやぶかれた紙から岩の欠片が零れ落ちてくる。
相手に驚いた様子は見られなかったが、その口からほう、という呟きが漏れ出たのを宮本は確かに聞いた。
………まだ相手の『恐怖のサイン』を見つけたわけではなく、完全にブラフである。
だが、支給品の紙に何故か自分の能力が使われているのはまぎれもない事実。
この『賭け』に勝算は十分あると宮本は睨んでいた。

―――果たして、相手は再び手の中の本に視線を戻し、言った。

「フン……まあよい。先へ進みたいなら勝手に行けばよかろう」
「………………」
(成功……した……?)

まさかの『通行許可』が出されたことに顔には出さずとも驚く。
とはいえ、喜び勇んで素通りしようなどとはさすがに思わない。
宮本が黙ったまま動かず、用心深く思考しているとカーズは再び声をかけてきた。

「どうした、行かぬのか? それともきさまのほうこそ、このカーズとの戦闘を望むか?」
「いや………」
(間違っても怖気づくような相手じゃあないはずだけど、何らかのリスクを避けたのかもしれない……
 それに相手はワムウと同じ怪物………身体能力も同等ならそれこそ一瞬でぼくを殺してしまえる……
 なのに襲ってこないのは、本当に通ってもいいっていうこと………だよな?)

自分なりに結論を出すと、あくまで無表情を貫き通しながら宮本はカーズの前を横切って奥へと進む。
内心は今にも後ろから奇襲を受けるのではないかとビクつきながら、ありったけの精神力で体に震えが出ないように歩く。
十歩ほど進み、彼が勝利を確信しかけた………その時。


                  『おめ〜 すでにはいってたな……禁止エリア…だ…』


―――宮本の『首輪』から『声』が発せられた。

388 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 01:41:39.25 ID:9O/IGBoB.net
「………!!!!?」

反射的に体を引き、勢い余って尻餅をつく。
その体制のまま後ずさりし、数秒たった時点でようやく『声』が止まっていたことに気付いた。
冷や汗を流しつつ首輪を確かめる宮本に後ろから声がかけられる―――とても愉快そうに。

「ほう、足を踏み入れても即座に命を奪われるというわけではないのか………なるほどなァ〜〜」
「あ、お、お前ッ………! 知ってて………」

禁止エリア―――『声』の内容的にそれで確定だろう。
そして今の言葉からすると、よりにもよって自分は『実験台』にされたのだ………!
慌てて顔を相手の方に向けると、カーズはニヤニヤ笑いながら口を開いた。

「ンン〜? このカーズは『先に進みたければ勝手に行け』と言ったまでよ。
 そもそも、禁止エリアがわからんのはきさま自身の責任ではないのか?
 放送を聞き逃したのか、それとも自分の位置すらわかっておらぬのかは知らんがなァ〜〜?」
「グッ………」

宮本は何も言い返せなかった。
この場において非があるのは、放送をしっかり聞いていなかった自分なのだから。
立場は一瞬にして逆転………いや、元から自分の方が圧倒的に下だったのだろう。

「どれ、こちらも試してみるとするか………」

一方カーズはこともなげにそう呟くと本をしまい、自分も禁止エリアへ足を踏み出してゆく。
その脚にあわや蹴られそうになった宮本が身をかわすのに目もくれず、エリアの境界と思われる場所をカーズが越えた途端………


        『カーズ様が! おおおおおカーズ様がアアアーッ!! 禁止エリアにはいった―――ッ!!』


彼の首輪から宮本のとは違うメッセージがやけに大きな声で響く。
カーズは首輪の音声による禁止エリアへの侵入を聞いて方向転換、同じように音がやむのを確認する。
………そして宮本へと近づき、声をかけてきた。

「さて……きさまが本当に主催者の手下か単なるハッタリか、そんなことはどっちでもよい………
 ここへ来たからには、少々このカーズに付き合ってもらおうではないか」
「誰が―――」
「ンン〜? それとも、このカーズの手で地獄に落ちるのが望みとあらば、すぐにでも叶えてやろうかアア〜〜?」
「………………」

ワムウの方がまだマシだった―――心底そう思える。
目の前の男、カーズは間違いなくワムウと同等以上の力を持っているようだが、二人には決定的な違いがあった。
それは人を傷つけることに『何も感じない』ワムウに対し、カーズは『愉悦を覚える』という点。
いざとなれば一息で命を奪ってしまえるだろうに、どうすれば相手が困るか、苦痛を感じるか……そのようなところを陰湿に攻めてくる。

(まちがいない………これでまちがいない、『柱の男カーズ』…『この男』は………)


                              (『性格が悪い』)

389 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 01:50:30.68 ID:9O/IGBoB.net
趣味は人間観察、特に『恐怖』を観察するのが好きな自分と『同じタイプ』だからこそわかる。
このような者が『恐怖』するとすれば『自分より上に立たれる』か『未知のものに遭遇する』ぐらいだということが。
だが口先で上に立つのは失敗し、スタンドを見せても精々驚く程度。
他の方法における勝ち目などありえそうにない………ではどうするのかというと。

(つまり、ぼくが生き残るために今すぐやるべきことはッ………! 表面上だけでも『恭順』する……それしかないんだ……)

相手は何やら自分に用がありそうな点を利用………付け入る隙を狙うと言えば聞こえはいいが、実際はおとなしく従うという情けない方法。
それでも、命には代えられないと宮本は先ほどの発言に対して渋々返答する。
すると………

「………ぼくに何をしろっていうんだ?」
「フフフ…きさまにやってもらうこととは……これよ」
「……? まさか………首輪ッ!?」

宮本は仰天する―――自分達に付けられているのとまぎれもなく同じ首輪がその手に乗せられているのを見て。
ただし、本来首輪を装着している参加者の姿は無く首輪「だけ」。
元の持ち主がどうなったのか………想像して再び宮本の背中に冷たいものが走る。
だが、その程度の驚きなどほんの序章に過ぎなかった。

「………よく見ていろ」

ゴクリと唾を飲み込んだ宮本の前でカーズは首輪を軽く上へと放り投げる。
続いてその腕からバリバリと音を立てて『刃』を出し―――


―――首輪目掛け、ためらいなく振り下ろしたッ!


(えっ…………?)

その瞬間、宮本の頭は真っ白になった。
参加者の首を吹っ飛ばした首輪……それが今、目の前の男によって無理やり破壊されようとしている。

(そんなこと………すれば………)

やけにスローに感じられる世界の中で、宮本は何も出来ず呆然と立ち尽くす。
彼の目の前で、首輪は闇の中で光り輝く刃により真っ二つに切断され―――





                   反射的に、宮本は両目をつぶり―――





                  ―――パン、と乾いた音があたりに響いた。

390 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 01:58:24.17 ID:9O/IGBoB.net
「あ………」

生きている。
目を開けると自分も、カーズも傷ひとつない。
首輪の爆発は想像していたような規模ではなく、ずっと小さなもの。
真っ二つになって地面へ落下した首輪はそれきり、何の反応も示さなかった。

カーズは落ち着いた手つきで首輪を拾い上げると、切り裂かれた断面を下にして軽く振る。
すると、切断面の中に見える空洞より細かい金属片がぱらぱらと零れ落ちてきた。

(………爆発は、首輪の中身が弾けとんだ………だけ?)

先ほど何が起きたのかを再確認していると、カーズが宮本に壊れた首輪を差し出してくる。

「多少頑丈ではあるようだが、このカーズにとっては子供騙しよ。
 だが主催者もそこまでマヌケではないらしい………この通り、破壊すると中身が弾けとぶというわけだ………
 さて、人間………残った破片ですらこのカーズには未知のものが混じっているため理解し切れんのだが………どう見る?」
「ど……どう見るって………」

そこでようやく、宮本は自分の意見が求められていることに気付いた。
未知のもの………すなわちカーズは中身の『機械』がよくわからないから、人間である宮本の意見を聞きたいのだと。
不運続きの宮本だが、この場においてはまだ運があったというべきだろう。
もしカーズがもう少し後の時代―――人間の文化をよく知った後から連れて来られたならば、彼は禁止エリアの実験だけで『用済み』だったのだから。

(首輪を調べる? ぼくが? ………でも、断ったらたぶん―――)

―――殺される。エンジン音だけ聞いてブルドーザーだと認識できるようにわかる。
仕方なく宮本が首輪を受け取るとカーズは再びデイパックに手を突っ込み、今度は既に壊れている首輪を取り出す………それも二つ。
首輪自体の大きさは宮本の持つそれと微妙に異なるものの、振って出てきた破片から見てどうやら中身は同じようだった。

「大きさは参加者によってまちまちだが、仕組みはどれも変わらぬらしい………
 それ以上のことはきさま次第だが………何やら、思うところがあるようだな?」
「ああ………」

カーズ本人は信用できないが、首輪の解除に協力するのは宮本としてもやぶさかではない。
安全面に関しても首輪に直接手を出したカーズが無事である以上、観察して考える程度ならばと開き直る。
むしろ首輪を何個も持っているカーズの方が危険度は上であるため、彼に逆らいたくなかった。

(外側の金属は……よくわからない。破片は結構量があるけど……爆薬の残りカスらしきものを除けば、ほとんど金属片か………
 よく考えろ、どこかに『謎』を残しておかないとぼくは『用済み』になる……かといって、嘘はリスクが大きい………)

懐中電灯で照らしながらこねくりまわし、中を覗き込み、欠片に目を近づける。
その一方で、自分を生かしてもらえるように情報をどう制限するか考えるのも忘れない。
ひとしきりの調査と思考が済んだ後、宮本は慎重に意見を述べ始めた。

「位置確認のセンサーや声を出すスピーカー、それに爆薬と点火用の装置。最低限これだけは入っていそうだけど………
 誰かのスタンドで代用している部分もあるかもしれない………このスペースならよっぽど小型化しないと入りきらないからな………
 少なくとも、ぼくの時代の科学技術だけでこれと同じ物は作れない………と思う」
「……それで終わりか?」
「いや……機械の種類よりもっと重要な問題がある………この首輪の中身には『爆薬が少なすぎる』ッ!」

391 :創る名無しに見る名無し:2014/10/01(水) 02:46:13.92 ID:rQ8XapEP.net
支援

392 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 11:02:39.20 ID:9O/IGBoB.net
カーズの手で壊された首輪を一目見たときから、宮本はおかしな点に気付いていた。
それは自分達が傷ひとつないことと、切断部分を除き首輪自体の形状が変化していないこと。
すなわち首輪を壊した際の爆発は『殺傷力がなく』『首輪そのものは吹っ飛ばなかった』という点。

「首輪の仕組みを調べられると困るから、無理に壊すと中身が自動的に爆発する………それはわかる。
 だけど、外側すら壊れない程度の爆発しか起きないのはどう考えても妙だ………
 これっぽっちしか爆薬が無いなら………最初に実演した、参加者の首をふっ飛ばしたあれはなんだったんだ?」
「………………」
「残った中身は単なる機械の破片みたいだし、切断面を見てもこれ以上の空洞は無さそうだ……
 ……断言できる。この首輪だけじゃあ『参加者を始末できない』ッ!!」

結局、情報の制限はしなかった―――首輪は想像以上に謎が多すぎたのだから。
話を聞き終えると、カーズは静かに目を閉じる。
宮本は知らない………目の前にいる存在が単に性格が悪いだけの男ではなく『天才』であることを。
彼の頭の中でどのような思考がめぐらされているのか、また自分の意見がどのように使われているのか宮本には想像すらつかなかった。
時間にしてわずか数秒後、カーズはゆっくりと目を開き喋り始める。

「………よく聞け。このカーズはたったいま、きさまの疑問を説明できる『仮説』を三つほど思いついた………
 一つ目は首輪そのものが爆発するようになっており、爆破は別の場所………おそらくは主催者側が任意で行うというもの。
 二つ目はこの首輪の持ち主が命を落とした時点で、首輪の何らかの………スタンドが関わる爆発機能が失われたというもの。
 そして三つ目は………そもそも最初に首が吹っ飛んだ人間達の首輪は、われらに付いているのとは全くの別物というものだ」

宮本自身では数十分考えて、やっと出せるかどうかという考えをすらすらと述べるカーズに内心舌を巻く。
彼の言う『仮説』が正しいかどうかはともかく、その頭の回転速度は相当なものだと認めざるを得なかった。

(こいつ、本当に何なんだ………? けど今は『首輪』のほうが重要か……)

一見ワムウと同じ肉体派の怪物と思いきや、脳筋どころかむしろ頭脳派といっても過言ではないことに驚きを隠せない。
だがひとまずは置いておき、気になった点―――最後の説について聞き返す。

「別物って…………まさか、首輪が爆発して死ぬなんてのは主催者のハッタリだっていうのか!?」
「あくまで可能性のひとつよ。だが―――」

やや結論を焦る宮本をたしなめつつ、一呼吸おくとカーズは言った。
聞きようによっては『希望』になり得る言葉を。

「―――今言ったどれかが正しければ、首輪をはずすことができるやもしれん………それにはもう一手間が必要だが」
「ほ、本当なのかッ!? ………一手間っていうのは?」
「無論、首輪破壊時における参加者の生死の違いを確かめることよ………」

その言葉の意味を宮本は一瞬では理解しきれなかった。
順に考えていくとカーズの言葉からして、彼は既に死体と化した参加者の首輪を外してきたということ。
ならば、生きている人間から首輪だけを外そうとするとどうなるのかを確かめる必要があるのだと。

となれば、その『生きている人間』として一番手っ取り早いのは『自分』―――

「――――――ッ!!!?」

気付いた宮本は反射的に距離をとり……カーズはそれを見てつまらなさそうに言葉を続けた。

393 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 11:26:49.39 ID:9O/IGBoB.net
「フン、そう警戒せずともきさまを実験台にしたりなどせぬ。
 きさまには別に『伝言』をやってもらうのだからな………」
「実験台にしない……? どの口がそれを言う………ッ!」

先ほど受けた仕打ちは勿論、相手の口ぶりからしてまだ何か自分に強要するつもりらしい。
となれば文句の一つも出てくるのは当然であったが、言われたカーズはどこ吹く風で呟いた。

「フムウ………では、生きたまま首輪を壊される役目のほうを選ぶか?
 我が輝彩滑刀ならば痛みすら感じさせず一瞬で切り裂くなど容易なことよ」
「え、遠慮しておく……そもそも首輪がハッタリだと決まったわけじゃあない………」

言外に『反抗するなら殺す』と脅されれば宮本にはどうしようもない。
現在の自分は相手の気まぐれか何かで生かされているに過ぎないのだから。
尻すぼみになった言葉を了承と勝手に捉えたのか、カーズは話を元に戻した。

「では、参加者どもに伝えるがよい………『第四放送時、会場の中央に来た者は首輪をはずしてやる』とな………
 相手の素性や人数は一切問わん、きさまが連れて来たくない者には声をかけんでも構わんぞ」
「………………!?」
(なッ……その『伝言』! いくらなんでもシンプルすぎるッ………! 信用できるほどの中身がないだろうがッ!)

先ほど見せた頭脳はどこに行ったのかと疑うくらいの簡素な内容に宮本は愕然とする。
特に不安を感じるのは他の参加者に信じてもらえるのかという点―――なにせ『どうやって首輪をはずすか』に一切触れていないのだから。
心の中で密かに憤るが……怒りを露にするわけにもいかず、ひとまず聞き返した。

「………伝言はわかったが、誰も来なかったらどうする気なんだ?
 はっきり言って、こんな怪しい誘いに乗るのはどう考えても『賢い行い』じゃあない」
「そのような奴らは勝手に殺し合いを続け、命を落としていくだけのこと………
 リスクを恐れ、脱出の可能性を自ら捨てる者にはどの道未来など無かろう」

ワムウはどうなんだ、と宮本は言い返そうとしてやめた。
彼らの正確な関係がわかっていない以上、下手に首を突っ込むべきではない。
それよりも、彼はカーズの言葉に『希望』を見出していた。
誰も来なくて構わないのなら自分も指定の場所に行く必要はない、すなわち自分は解放されるということなのだから。

(そうだ……首輪にしたってわざわざこんな怪物に頼る必要なんて、これっぽっちも存在しない………
 一旦従う振りをして、二度と会わないようにするのが『賢い行い』だ)


―――だが、宮本の目にそんな微かな希望の光が宿ったのをカーズは見逃さなかった。

「ふむ……きさまは今こう考えているな…『このまま逃げてしまおう』と………
 こちらとしても黙っていなくなられると、ちょっぴり困ったことになる………
 そうならぬよう、きさまに『儀式』をほどこしておくとしようか」
「………『儀式』? これ以上何を――ッ!!?」

カーズはいきなりその腕を宮本の胸にズボォと突っ込み、引き抜いたッ!
何が起こったのかわからない宮本が慌てて手をやるも、そこには傷ひとつない……
だが、一見何も無いというのが逆に不安ッ!!

394 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 11:37:25.65 ID:9O/IGBoB.net
「お、お前ッ! いま何をしたッ!!」
「なに、チョイときさまの心臓の動脈にリングを埋め込ませてもらっただけよ………『毒薬入り』のな」
「………ッ!!!?」

宮本は再び胸元に手をやるが、体の内部までは手を伸ばせぬため何の意味もなさない。
そんな彼を眺めつつカーズは言葉を続けた。

「そのリングは名づけて『死の結婚指輪』………元々我らの使っていた物だが、どうやら主催者がこの殺し合い用に作り変えた支給品らしい………
 およそ半日後にリングの外殻は溶け出して毒が体内にまわり、命を落とす………助かる方法はただひとつ、リングに対応した解毒剤を飲むことのみよ」

にわかには信じ難いことを平然と言ってのける。
勿論当事者の宮本にとってはシビれもあこがれもせず、ただ相手に問いただすのみ。

「げっ、解毒剤は………」
「欲しければ先ほどの伝言を参加者どもに伝え、きさま自身も指定した時間に会場の中心へと来るがよい………
 言っておくが、手術などで無理に取り出そうとすればあっという間に毒が流れ出す仕組みになっておる」
「……そ………んな!」
「なにをそんなに慌てておる? 毒といってもリングが溶け出すまではきさまの体に影響など一切及ぼさぬ………
 きさまが俺の言伝てを果たしさえすれば、何も問題など無い上に首輪も外せるかもしれん………悪いことなど何一つ無かろう?」

カーズの表情はどう見ても本気のそれではない。
相手はこちらが逆らえないことも、言いたいことも全て理解した上で自分を小馬鹿にしているのは明白だった。

「………………くそッ!」
(まただ………またしても、ぼくは誰かの手の上だ………これ以上の『最悪』なんて無いと思っていたのに………)

心の中で悲しみと怒りが爆発寸前までにもなるが結局どうしようもなく、宮本は悪態をつきつつ頷くしかなかった。
まずは現在時刻とタイムリミットを確認するべく、時計を取り出す。

「第四放送は確か、今夜12時………」
「時間が足りんということは無かろう? 暇ならば、きさまのやりたいことでもやっているがよい」
「………………えっ?」

それはカーズにしてみれば何気ない一言だったかもしれない。
しかし、その言葉は妙に深く宮本の胸へと突き刺さった。

(やりたいこと………ぼくが………?)

この殺し合いが始まってから、そのようなことは考えすらしなかった。
そんな余裕が無かったというのもあるが、ただ『死にたくない』という一心で行動し………いや、それすら違う。
思えば最初から自分で行動を決定し、進んだ場面など無い。


              ―――ただ他人の意志と行動に流され、そうでなければ逃げ隠れしていただけだ。


「ほう……その顔は知っているぞ………
 両手両足を失い、胸に穴が開いて死を待つばかりの人間と同じような表情だ………
 進退窮まりどうしていいかわからない、だが死にたくも無い……そんな人間のな………
 五体満足、しかもスタンド能力まで健在の者がそのような顔をするとはなァ〜〜〜?」

395 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 11:48:03.74 ID:9O/IGBoB.net
「………………」

カーズの皮肉も宮本の頭には入っていかず、沈黙が訪れる。
ただ虚ろな灰色を示すその目からは、先ほど宿った光は既に消え失せていた。
数分が経過したころだろうか………宮本は遂に了承の言葉を返し、立ち上がる。
―――ただし、ひどくやる気の感じられない声で。

「第四放送時に、会場の中央だったな………いいよ、やってやる」

信用したわけではない、というか今でもカーズを信じるなど狂気の沙汰だと思っているほどである。
しかし、彼には縋るものが全く無く………目の前に一本しかない『道』を歩かざるを得ないのだ。
カーズも彼の投げやりに近い口調を妙に思ったようだが、同時に深く気にするほどではないと考えているようだった。

「物分りが良いのか、ただのやけくそかは知らんがまあよい………
 ……そうそう、きさまがワムウという男に出会ったならば、このカーズの名と指輪のことを伝えるがよい。
 我らの間で指輪は再戦を望む儀式ゆえ、少なくともあやつに黙って殺されることはなくなるはずだ……
 きさまの場合再"戦"にはならんだろうが、指輪も本来の物と異なる以上細かいことはよかろう」
「ああ、それはどうも………」

相手の言葉にかなりいいかげんな返事をしつつ、ふらふらと歩き出す宮本。
……カーズの言うとおり、理由はどうあれ自分はカーズと別れた後、再度会わなければ命に関わる。
そうなるようにした張本人に一片たりとも良い感情など湧くはずも無かった。

そして宮本が歩き出した直後、彼の後ろでカーズもまた立ち上がり同じ方向へと進み出す。
同行するつもりかと思いきや、カーズはあっさり彼を追い抜いていった。
その背中に向かい、宮本は声をかける。

「………おまえは、どこへ行くんだ?」
「知れたこと………先ほどの仮説を確かめるため、参加者を生かしたまま首輪を破壊してみるのよ………
 さしあたっては、太陽が落ちる前に地下に残る吸血鬼や人間どもを探すといった所か………」

―――生きた参加者の首輪を無理やりはずそうとすると、どうなるか。
宮本は今までそのような事態に遭遇したことは無かったが、例え知っていたとしてもカーズには話さなかっただろう。
カーズが試行する過程で他の参加者………例えば仗助達を殺害しようが、逆に返り討ちに遭おうが自分に損は無い。
それに極端な話、結果がどちらでも―――解除に成功しようが、爆発して誰かが命を落とそうが構わなかった。


              何故ならば、この会場内に宮本の『味方』など一人も存在しないのだから。


先を行くカーズは振り返りも立ち止まりもしなかったが、一度だけ言った。

「きさまが何を考えているかなど知ったことではないが、死にたくないのならば進むしかあるまい?
 このカーズの言葉、ゆめゆめ忘れぬことだな………『エニグマの少年』」
「………ああ」
(『だが断る』とでも言えれば、少しはスカッとしたかもな………『あいつら』だったら、言えるんだろうか)

宮本は今、軽く絶望していた。
前方から顔を背け、まとまらぬ思考のままゆっくりと歩く。
その手の中にはカーズから渡されたままの壊れた首輪がひとつ―――自分達が首輪の解除に一歩踏み出した唯一の証。

396 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 11:58:22.62 ID:9O/IGBoB.net
(………………どうすればいいんだ)

話す最中に『恐怖のサイン』を見つけられないかと相手を観察してはみたのだが、やはり無駄だった。
カーズは自分の力と頭脳に絶対的な自信があるのか『恐怖』は勿論『不安』すら見せようとしないのだから。

―――結局何故自分はすぐ殺されずに済んだのか。
―――さっきまで奴が読んでいたのは何の本だったのか。
―――何故カーズが自分のスタンド名まで知っていたのか。

頭の中はどうでもいいことで溢れ、これから何処に向かいどうすべきなのか………先のことは、何一つ思い浮かばない。
宮本はほとんど『考えるのをやめていた』。

「やりたいこと………ぼくは―――」

第三者が見れば無防備極まりない姿であったが彼の前にはカーズ、後ろは禁止エリアにより実質行き止まりの一本道。
遭遇する誰かなど存在するわけも無く、ただただ歩き続けるだけでも危険は無かった。
そのうちカーズの後ろ姿も見えなくなり、さらに時間が経過してほとんど無意識のうちに遺跡から地上へと出たとき。


                        「―――『自由』になりたい」


宮本の口からはそんな言葉が出ていた。
その言葉を聞いた者は誰もおらず………それが意味の無い呟きなのか、確固たる意志の元で発せられた決意の言葉なのかは、彼自身にしかわからなかった。

ただ、これだけは言える。
彼がカーズの指示通りに動くのか、それとも他の方法を探してカーズを出し抜こうとするのか。
どちらを選ぶのかは少なくとも宮本の『自由』だろう。


【A-5 ピッツベルリナ山 神殿遺跡(地上) / 1日目 午後】

【宮本輝之輔】
[能力]:『エニグマ』
[時間軸]:仗助に本にされる直前
[状態]:恐怖、やや放心ぎみ、左耳たぶ欠損、心臓動脈に死の結婚指輪
[装備]:コルト・パイソン
[道具]:重ちーのウイスキー、壊れた首輪(SPW)
[思考・状況]
基本行動方針:???
0.???
1.カーズの指示に従う? カーズを出し抜く方法を考える?
2.体内にある『死の結婚指輪』をどうにかしたい

※この後どこに向かうかは次の書き手さんにお任せします。
※第二放送をしっかり聞いていません。覚えているのは152話『新・戦闘潮流』で見た知り合い(ワムウ、仗助、噴上ら)が呼ばれなかったことぐらいです。
※カーズから『第四放送時、会場の中央に来た者は首輪をはずしてやる』という伝言を受けました。
※死の結婚指輪を埋め込まれました。タイムリミットは2日目 黎明頃です。

397 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 12:10:05.59 ID:9O/IGBoB.net
#


「………………フン、あんな虫けらごときがどこまでやれるやら」

平然と呟く。
聞こえるはずが無いし、聞こえたとしても何も問題など無い。
先ほど出会った少年はカーズの中でそれほどちっぽけな存在でしかなかった。

主催者側の人間という戯言など最初から信じていなかった。
あの少年は『何も知らない』―――首輪を破壊して見せたときの反応からしても間違いないだろう。
いまや生かさず殺さず、使い捨ての『駒』というのがカーズにとっての少年―――名前すら知らない少年。
カーズは自分の知りたいことを聞いただけで、情報交換すらしていないのだから。

では何故カーズは少年のスタンドを『エニグマ』と言い当てられたのか?
その答えは先ほど彼が読んでいた一冊の本にあった。

(それにしても、このカーズともあろうものが迂闊であった………これほど有用なものを見逃していたとは………)

誰が想像できようか。
本の名は『スタンド大辞典』―――参加者全員のスタンド能力が記されているものであったことを。
天才といわれたカーズが乱戦による傷を癒すため、動かずにいた間にその内容を全て覚えきってしまったことを。

数千年以上『自信』を積み重ね『恐怖』など存在しないカーズにとって『エニグマ』は『謎』でもなんでもなく、単なる無力なスタンド。
だからこそ少年を脅しつけ、『駒』にするほうが自分にとって有用になると考えたのだった。
もし少年のスタンドが万が一にでも自分を倒しうる可能性を持っていたならば、カーズはためらい無く首輪を切り裂いていただろう。

そう、宮本の『殺されないためにあえてスタンドを明かす』という策は成功していたのである。
………彼が意図したのとは真逆の理由であったが。

(ヤツは地上を行くか………追うことはできんが指輪ははずせぬ、指定場所には必ずやってくるだろう………
 それまで生きていられれば、だがな)

後ろにあった少年の気配は先ほど離れていった……遺跡から地上に出たのだろうと判断する。
先程暗闇の中で見た少年の目はほとんど死んでいる、だがちょっぴり生きている程度の生気しか感じられないものだった。
だが少年と話すうちにカーズは確かに見た………自由を手にしたいという意志の片鱗が、目の奥に宿っているのを。
しかしだからといって、少年に期待しているわけでは全くなかった―――彼には『あらゆる恐怖を克服する』といったような先に進む意志が欠如していたのだから。

(最初見たときはそこらのドブねずみのほうが、よっぽどいい目をするのではないかと思ったが……場合によっては化けるやもしれん。
 とはいえ、くれてやれる命は精々半日………それで変われなければ文字通り虫けらのように殺されるのが関の山であろう………
 大して頭が回るとも思えんし、果たして首輪の解除などという甘い言葉で寄ってくるマヌケが何人見つかることやら………)

そもそも首輪の解除という話自体、参加者を釣る餌に過ぎない。
先ほどの乱戦後、誰かの攻撃か落石が命中でもしたのか………理由は不明だが、持っていた首輪が壊れているのを見て思いついた策略。
勿論、自分に限れば首輪の解除がどうでもいいというわけではないが。

カーズが簡単な『伝言』だけを命じ、助言すら碌に行わなかったのはそのためである。
戦闘に入る前だろうが殺される直前だろうが、少年が参加者に話せばいいだけならしくじる可能性は皆無。
その後少年がどうなろうと知ったことではない―――自分は伝言の結果、ノコノコとやってきた参加者を奇襲するだけだ。

398 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 12:21:32.85 ID:9O/IGBoB.net
「しかし、その前にやらねばならんことがある………」

このまま隠れていれば参加者は再び出会い、争い、勝手にその数を減らしてゆくだろう。
だがやはり、自分に屈辱を与えた者たちを許しておくわけには行かなかった。
頂点に立つものはひとり、自分以外に存在してはいけないのだから。

「待っておれ、吸血鬼に人間どもよ……このカーズが受けた屈辱、必ず味わわせてやる………
 スタンドとかいう妙な力にはもう、遅れはとらぬぞ………」

傷はほぼ完璧に癒えたし、相手の手の内も読めた。
太陽こそ沈んでいないものの、自分が敗北するなど万に一つも考えられない。

一見無表情に見える顔、その目の奥に静かな怒りを潜ませつつ、カーズは進んでいった―――


【A-4 南東(地下) / 1日目 午後】

【カーズ】
[能力]:『光の流法』
[時間軸]:二千年の眠りから目覚めた直後
[状態]:身体ダメージ(ほぼ完治)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×5、サヴェジガーデン一匹、首輪(由花子)
    ランダム支給品1〜5(アクセル・RO:1〜2/カーズ+由花子+億泰:0〜1)
    工具用品一式、コンビニ強盗のアーミーナイフ、地下地図、壊れた首輪×2(J・ガイル、億泰)
    スタンド大辞典
[思考・状況]
基本行動方針:柱の男と合流し、殺し合いの舞台から帰還。究極の生命となる。
0.参加者(特に承太郎、DIO、吉良)を探す。場合によっては首輪の破壊を試みる。
1.柱の男と合流。
2.エイジャの赤石の行方について調べる。
3.自分に屈辱を味わせたものたちを許しはしない。
4.第四放送時に会場の中央に赴き、集まった参加者を皆殺しにする。


※スタンド大辞典を読破しました。
 参加者が参戦時点で使用できるスタンドは名前、能力、外見(ビジョン)全てが頭の中に入っています。
 現時点の生き残りでスタンドと本体が一致しているのはティム、承太郎、DIO、吉良、宮本です。
※死の結婚指輪の解毒剤を持っているかどうかは不明です。
 (そもそも『解毒剤は自分が持っている』、『指示に従えば渡す』などとは一言も言っていません)

399 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 13:23:29.76 ID:9O/IGBoB.net
首輪の解析結果について
1.首輪は破壊『可』能。ただし壊すと内部で爆発が起こり、内部構造は『隠滅』される。
2.1の爆発で首輪そのもの(外殻)は壊れない(周囲への殺傷能力はほぼ皆無)→禁止エリア違反などによる参加者の始末は別の方法?
3.1、2は死者から外した首輪の場合であり、生存者の首輪についてはこの限りではない可能性がある。


【備考】
・生きている参加者の首輪を攻撃した場合は、攻撃された参加者の首が吹き飛びます(165話『BLOOD PROUD』参照)
・死の結婚指輪がカーズ、エシディシ、ワムウのうち誰の物かは次回以降の書き手さんにお任せします。
 ちなみにカーズは誰の指輪か知っています。


【支給品】

死の結婚指輪(第二部)
元は山岸由花子の支給品。

柱の男が誰かと再試合を望むとき、相手が逃げたままでいられないように埋め込む「儀式」のリング。
リングの中には毒薬が入っており、外殻が溶け出す33日以内に埋め込んだ張本人を倒して解毒剤を入手しなければ助からない。
手術などで取り出すのは(人間の外科医学では)不可能。
毒の種類はひとりひとり違うので複数埋め込まれたら全員の解毒剤を飲む必要がある。

ロワでは33日だと長すぎるため、外殻が溶け出すのは12時間後になっている。


スタンド大辞典(現実)
元は虹村億泰の支給品。

ジョジョロワ3rd参加者が参戦時点で持つスタンドの名前、能力、外見(ビジョン)が書かれている本。
ただし本体名は一切記されていないため、誰がどのスタンドを持っているかはわからない。
イメージとしてはコミックスの合間にあるスタンド紹介のページから本体名だけ消した感じ。

400 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 15:33:36.57 ID:9O/IGBoB.net
以上で投下終了です。
本投下が1ヶ月以上遅れたことでご迷惑をおかけした事をお詫び申し上げます。

仮投下からは指摘にあったカーズの備考について追加したくらいで大きな変更はありません。

首輪に関して自分なりの案は一応ありますが、一人が一話で全部決めてしまうのも……
ということで仮投下スレ>>883氏の言うように、まだどうとでもなる程度の考察にしたつもりです。

>ジョジョベラーのアレ
大元のネタとしてはYESです。勿論アレほど詳しくはありませんが。
読む人の中には持っていない方もいると思われるため、説明文にはコミックス云々としてあります。

それでは誤字脱字、その他ご意見などありましたらよろしくお願いいたします。

401 :創る名無しに見る名無し:2014/10/06(月) 22:11:36.11 ID:Cs30udm2.net
遅くなったが投下乙。
宮本は頭いいんだか悪いんだかホント難しい立ち位置だなあw
そしてブレないカーズ様は流石です。
結婚指輪の設定も問題なさそうですし、首輪の推測もどれも理にかなってる。
確かに一人で突っ走るにはちょっと、かもですがみんなで議論しながら首輪の謎に迫りたいものですねぇ。

402 :創る名無しに見る名無し:2014/10/12(日) 20:43:19.37 ID:nVW3uIDI.net
とんでもなく出遅れたけど投下乙です。

・されど聖なるものは罪と踊る
4・5部組は主にキャラの心境が、教会側は遺体という新要素追加による立ち位置がそれぞれ新しい展開を迎えていてこれから彼らがどうなっていくのかとドキドキしました。
ムーロロ達はDIOの所に向かっているが果たしてどうなる?個人的には女の子組(千帆・ルーシー)を応援したい

・窮鼠猫を噛めず
カーズ様ここでスタンド知識を……!スタンド持ちには痛いこの知識面強化、そして宮本は変わらず翻弄されるままだなあ
首輪の謎にもせまりつつありなんとなく終盤の入口に差し掛かっているような気がします。

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