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ジョジョの奇妙なバトルロワイアル 3rd 第十部

1 :創る名無しに見る名無し:2014/11/18(火) 12:00:36.53 ID:Yt6uDbqE.net
                __.....  -- ―‐ --  ....__
                filヽ、_        _,r'il゙i
                | ll ll ll`「TT''''''TT"「 ll ll |
                |ヾ ll ll. l l ll  l l l / //|
                |=rヾ ll l l ll   l l l,r''ヽ=|
                |=|  ヾ l l ll  .l.l /   |=|
                |=l    ヾl ll  lレ′  |=|        進行が遅くても
                |=l      ヾ,ヅ     |=|      ジョジョロワは俺の祖国なんです
               r、V             Vヘ       ・・・パロロワには思い出がある
               |ヘl(      、 li r     )lイ|       何処へ行っても必ず読んでしまうものなんです
                |.ト| `r‐toッ‐ィ_}l_ノr toッ‐ァ゛|ノ|
              l.ト|  " ̄´":i  ヾ" ゙̄` |ノ|
            ヾ|ヽ    { |        / |<      投下があったら呼んでください・・・
              ノノll U  ', :L.     U lト,ヽ     どこでもすっとんで駆けつけますよ
           f⌒>{.ll lU    ヾノ     Ul l } <⌒i
          ヽr゙ |l.| ',l   ー‐--一   l/ l.| ゙tノ
            ,r'"ヾ|   ',   ====="  /  リ`ヽ、
        /   |    ',   t=   /   |   \_
__.... -‐''"  ̄     l     ヽ________/    l    /:::::::`:`ァ- ....__
       ー-- 、      ヽ     /        /:::::::::::::/
           `ヽ、    ヽ   /     ,. -―/:::::::::::::/


このスレでは「ジョジョの奇妙な冒険」を主とした荒木飛呂彦漫画のキャラクターを使ったバトロワをしようという企画を進行しています
二次創作、版権キャラの死亡、グロ描写が苦手な方はジョセフのようにお逃げください

この企画は誰でも書き手として参加することができます

詳細はまとめサイトよりどうぞ


まとめサイト
http://www38.atwiki.jp/jojobr3rd/

したらば
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/15087/

前スレ
ジョジョの奇妙なバトルロワイアル3rd第九部
http://maguro.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1399093617/

457 :創る名無しに見る名無し:2015/09/01(火) 19:56:56.21 ID:2lcl62Pa.net
832 :さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:28:47 ID:JYUYwMcI

噴上裕也は『勇気』あるものだった。
噴上はノミと違い、自分が相手をするのは人間をはるかに超越したものだと理解している。
だがそれでも彼は自らを奮い立たせた。噴上はバックドアを蹴り開けた。

「ここでガタガタ震えているのはカッコ悪いことだぜッ! 『ハイウェイ・スター』!」

マシンガンが鳴り響く音にまぎれ、鉄が捻れ、ちぎれ飛ぶ音が聞こえた。
火花が散り、高笑いが聞こえる。死がシュトロハイム捉えた。鈍い爆発音。
そして噴上はッ! 自らその暗さに飛び込んでいった……!

「エルメェス君」

一匹の馬が車と併走する。カウボーイハットを抑えながらマウンテン・ティムが言う。
エルメェスはギュッと目を瞑ると、ティムがもう一度名前を呼ぶまでそうしていた。
ハンドルは握ったまま、窓越しに二人は顔を合わせる。
ティムは柔らかに微笑んでいた。観念したように、エルメェスは天を仰いだ。

「君ほどガッツ溢れた女性は俺の周りにいなかった」
「あんたほど男前な保安官もいなかった。ムショにいるのがみんなあんたのような奴だったら良かったんだけどな」
「同僚に伝えておくよ」

固い握手が解かれると、車は前に進み、ティムは後ろに下がり始めた。
後部座席、窓越しにシーラEとティムの目線がかちあった。互いに頷くと最後の挨拶を交わす。


「アディオス、セニョリータ」
「さようなら、保安官ティム」


背後でまた音がした。背筋が冷たくなる刃物の音。三人の動きが止まった。
何かが力任せに切り裂かれた音。ねじ切られる音とすりつぶされた音。痛みに泣き叫ぶ噴上の声が聞こえた。

458 :創る名無しに見る名無し:2015/09/01(火) 19:57:49.36 ID:2lcl62Pa.net
833 :さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:29:07 ID:JYUYwMcI


「行け……行くんだッ! 君たちは希望ッ! 君たちは生き延びなければならないッ!」


止める暇もなく、ティムが車から離れていく。手綱を強く引くと、興奮のあまり馬が高くいなないた。
エルメェスには何もできなかった。エルメェスにできたことはハンドルをしっかりと握り締め、前を向いて運転を続けることだった。
ただアクセルを踏んだ。できるだけ強く、できるだけ速く。
何度か光が点滅するのと銃撃音が後ろから追いかけてきたが、かじりつくようにひたすら前に進んだ。
後ろの座席でシーラEがドアを力任せに叩く音が聞こえた。

「畜生……ッ」

悔しさのあまり、うめき声が漏れた。繰り返し、繰り返し口の中で言葉を殺した。

突然強風が吹き、風に飛ばされたカウボーイハットが眼前を横切った。フロントガラスを一度だけ叩くと、後方へと吹き飛んでいく。
今止まれば、まだ間に合うかもしれない。一瞬そんなことを考えたが、エルメェスはためらわずアクセルを踏んだ。
ただ踏むしかなかった。今更止まることなんてできなかった。

再び加速した車は平原を飛ぶように突っ切っていく。
一対のヘッドライトは闇を切り裂いていき、やがて影に紛れて見えなくなった。





【シュトロハイム 死亡】
【噴上裕也 死亡】
【マウンテン・ティム 死亡】

【残り 27人】






459 :代理:2015/09/02(水) 19:52:46.72 ID:Io/9LrBz.net
834 :さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:29:30 ID:JYUYwMcI
【5】


「うおろろォォオオオおおおおオ―――――ッ!」

意味不明な言葉を叫びながら滑空する影に、カーズは弾き飛ばされた。
反射的に蹴飛ばそうともがいたが、シュトロハイムは蟹のようにしがみついて離れなかった。
ひとつの塊になったまま芝生を転がり続ける。ようやく弾き飛ばした時には車は遥か遠くまで距離を稼いでいた。


 逃したか?/逃げ切ったか?  「いや、まだ間に合う距離だ。」 ここでこいつを 切り伏せる/食い止める!


カーズは腕から刀を抜くとシュトロハイムを無視し、跳躍した。

「貴様の相手は、我がゲルマン民族の魂の! 結晶である……この私だァああアア―――ッ!」
「馬鹿の一つ覚えか……サルめ」

薙ぎ払うように放たれた無数の弾丸。横走りしながら、無造作に腕を振るう。高速回転する刃が次々と弾を切り刻んいった。
切って、切って、切って……埒があかない。カーズは舌打ちをすると、顔の前で腕を交差した。
必要最低限のガードを残し、残りを体で受け止めた。シュトロハイムが放った84発全てを食らうと流石に足元が揺らぐ。
銃弾は全てカーズを貫通し、芝生を吹き飛ばすッ! 地面には蜘蛛の巣のようなひび割れが無数に出来上がった!
だが……ッ!

「こんな生っちょろい攻撃でこのカーズが止められるとも?
 こんな見え透いた、サル知恵のような武器で、このカーズが止・ま・る・と・で・もォォオ〜?」

カーズは一瞬だけ体をぐらつかせたが……倒れずに、急反転。
追いすがるシュトロハイムに一気に迫る。突然の方向転換にシュトロハイムは虚を突かれた。
だが、それでいい。これがシュトロハイムの狙いだ。自らの命を撒き餌さに、時間を稼げればそれで問題ない。
シュトロハイムは目を見開き、カーズに弾丸を叩き込み続ける。

「むろぉぉおおおオオオおおおおお――――――ッ!!」

雨あられと降り注ぐ銃弾を雨風のように受けながら進むカーズ。一歩、一歩確実に距離を詰めると最後に強く地面を蹴る。
闇にまぎれ、その影が消えた。そしてシュトロハイムが気がついたときには既に振りかぶられていた。
月を反射した光が妖しく輝く。それが最後に見た光景。

金属が絶ち切れたとき、淡い火花が一瞬あたりを照した。シュトロハイムの体は美しいほど真っ二つに切り裂かれた。
右半身、左半身がそれぞれ重力に引っ張られ……無残にも転がった。

460 :代理:2015/09/02(水) 19:54:20.44 ID:Io/9LrBz.net
835 :さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:31:04 ID:JYUYwMcI


「シュトロハイム――――――ッ!!」


絶叫。手遅れのように思えるタイミングで新たな横槍が入る。
ハイウェイ・スターは限界まで体をばらすと、カーズの上下左右、すべてを包囲する。
幾つもの『足跡』に囲まれながら、カーズは余裕を崩さない。全身をスタンドが覆い、その養分を喰らわれようとも! 

「このカーズ相手に『吸収』勝負か? 小癪な」

スタンドを引きちぎり、弾き飛ばし、カーズは進む。月明かりにその生身を晒したとき、噴上は縮み上がった。
自分が相手するものの強さを改めて知ったとき、彼ははっきりと理解した。

俺はここで死ぬ。

いくらカッコつけようとも、いくら自分のスタンドを信じようとも!


「フフフ…………フハハハハハ――――――ッ!」


未来は変えられない。ここで俺の人生は終わる……!

その圧倒的なまでの耐久力に足が震える。自分の攻撃が通じない無力感はまるで猫を前にしたネズミの気分だった。
それでも、噴上は一歩も引かない。一歩たりとも下がったりはしないッ!
恐怖に足がすくむのはもうたくさんだ。ビビってゲロを吐く寸前までもいったってそれでも立ち向かうと決めたのだ。
だから後悔はない……。たとえここで殺されるようなことがあろうとも、噴上に後悔はないッ!

カーズは養分喰らい尽くすハイウェイ・スターを相手に自らその肉体を差し出した。
一つ、二つ始末したところでスタンド使い本体にダメージが通らないことを理解したのだろう。
戦法を変えよう……カーズはその有り余る巨体を縮めていく。そして次の瞬間、その体を自らあたり一面に撒き散らしたッ!


「そぉれ……くれてやるッ!」


『憎き肉片』ッ! 飛び散った肉片が今度はハイウェイ・スターを取り囲んだ!
肉片まみれで動きが止まるハイウェイ・スター。動きが止まったところを各個撃破でカーズは確実に息の根を積んでいく。
噴上の頬から血が吹き上がる。足元から出血が! 腕に痛みが! 本体へのフィードバックは確かにダメージを与えていることの証明ッ!
噴上は本能的にスタンドを引っ込めた。これ以上のダメージを受けては戦闘不能は避けられない……ッ!

「ほう、いいのか……? ガードががら空きだが?」

しかし、重りを失ったカーズはたった一歩で噴上のもとへたどり着いていた。
間一髪スタンドのガードが間に合った。が、その一寸の隙に噴上の左腕は切り飛ばされていた。
腕が飛び、アバラが折れる。衝撃はそれだけにとどまらず、数メートル吹き飛ばされ、噴上は大地に叩きつけられた。
今まで経験したことのない痛みが噴上を襲う。噴上は泣き叫び、地面を転がった。

461 :代理:2015/09/02(水) 19:55:44.98 ID:Io/9LrBz.net
836 :さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:31:31 ID:JYUYwMcI
「ああああああああぁああぁアアああああ―――――ッ!!!!」
「軟弱軟弱ゥ! ……むッ!?」
「上出来だ、ユウヤ!」

馬の嘶き、ヒヅメの音。トドメを刺そうとしていたところ、またしても横槍。急速に近づく、ヒヅメの音をカーズの耳は捉えた。
カーズは振り返ろうと身構え……左腕に違和感を感じる。更に強引に振り返ろうとして……体がうまく動かないことに気がついた!

一本のロープがカーズの体を貫いていたのだ! それはどんな槍よりも、刀よりも確実に! カーズの動きを止めていた!
『オー!ロンサム・ミー』を発動ッ! ティムがロープをたぐると分解されたカーズの体がその上を伝っていく。
ついに捉えた……! 馬上からティムは銃を放ち、さらに距離を詰める!

「!?」

だから次の瞬間、ティムは仰天した!
通常『オー!ロンサム・ミー』をくらえば相手は縄から逃れようと必死でもがく!
あるいは突然のスタンド攻撃に動揺し、動きが止まる! しかしカーズはッ!


なんとそのロープを自ら断ち切ったのだッ!


「柱の男の回復力を舐めるな、人間ッ!」


ロープが断ち切られたことでその肉体は無残にも芝生に撒き散らされた。
だが『その程度』だ。いくら肉体が切られようと、焼かれようと、打ち抜かれようと!
ティムの銃弾は雀の涙も同然だった。カーズが肉体を元の形に戻した頃に処分できたのはおよそ五分の一にも満たない肉片。
カーズにとっては少々動きづらくなった、と呼べるだけだ。

「化物め……ッ!」

ティムの目の前で肉片が集まり、肉体として積み上がった。
さすがのカーズも体力を消耗している。呼吸は荒い。だがまだ戦える。動きづらいが、まだ跳べる。
カーズとティムは沈黙の中向き合った。車のエンジン音が遠くどこかから聞こえた。馬の息の音が不規則に、不自然なまでに大きく響いた。


ティムは思った。勝負は一瞬だッ! そして一点のみッ!
この化物相手に勝利するには首輪を打ち抜くしかない。切っても撃っても喰らっても……カーズ相手ではあまりに足りない。
撃ち抜くんだ、カーズよりも速く……3センチ幅に勝機を託してッ!


ガンマンのように二人は向き合う。沈黙。睨み合い。
刃越しにティムの帽子が揺れる。ピストルの射線上、カーズのマントがはためいた。
そして……ッ!

462 :代理:2015/09/02(水) 19:57:55.44 ID:Io/9LrBz.net
837 :さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:32:05 ID:JYUYwMcI
「なにッ!?」

その一瞬! カーズは驚愕のあまり何が起きたか理解できなかった。
カーズの動きが止められた! ティムの弾丸を喰らわなかった足、左足首をがっしりと掴んだ機械の手!
シュトロハイムは半身で最後の力を振り絞った。スパークが飛び、目の役割を果たしていたライトが急速に点滅する。
同時に、ハイウェイ・スターがカーズを包むように展開される。逃げ場はない。地面にも、空中にもカーズは逃れられない!
ティムが愛馬にムチを振った!


「うおおおおおおおおおおおおおお!!」


一発、二発、三発、四発! ライフルの残弾数は残り一発!
カーズは徹底して首輪を守っている。そこだけが彼ら人間の、細い勝機とわかっているから。
すれ違いざまの一撃で、ゴーストライダー・イン・ザ・スカイの体に真っ赤な線が浮き上がった。
腹を切り裂かれた馬は鳴き、倒れる。地面が震えた。ティムは直前に飛ぶと再びカーズと向き直り、また走り出す。


「馬鹿の覚えのように突っ込んでくるか! 策がないぞ、原始人どもッ!」


カーズは叫び、そして違和感を覚えた。
ティムの眼は自分に向いていない。狙うべき首輪、カーズの光る刀。どちらも見据えていない。ならば―――なにを?


ティムの視線はカーズの後ろに向けられていた。虫の息の噴上と視線が合う。頷く。意思は伝わっている。

薄く消えかかったハイウェイ・スターの手が握っていたのはナチスご自慢の手榴弾。
カーズの頭上、わずか数メートル。そして、暗闇にまぎれ見えなかったが……ティムの左手に握られたのは同じ型のもう一発の爆弾!

カーズの目にはすべてがスローモーションのように映った。ティムの左手から放たれた手榴弾が弧を描いてカーズの元に飛ぶ。
切ることも、弾くこともできずカーズは反射的に足を止めた。この戦いの中で初めてカーズは後退を選択しようとした。
だがそれをシュトロハイムが許さない。機械の体、人間の意地。


腕の一本や二本、足の一本や二本をちぎられようとも……そして例え死んでもだッ!
一度食らいついたら決してその手から勝利を離さないッ!


両手でライフルを構えたティムが、手榴弾の向こうで見えた。ためらいは見られなかった。
二つの爆弾、噴上とシュトロハイムの首輪。それらが誘爆すればここら一体は塵なく吹き飛ぶというのに。
振り上げられたライフルは的確に、ハイウェイ・スターが持つ信管を打ち抜いた。 そして―――…………!





463 :代理:2015/09/02(水) 20:00:25.35 ID:Io/9LrBz.net
838 :さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:32:29 ID:JYUYwMcI
【6】

徒労だった。男三人が命懸けで挑み……そして敗れ去った。決して離さないと誓ったロープは短く、ちぎれてしまっていた。
爆発とともに吹き飛んだティムの下半身をつなぐことはもほや不可能。一秒ずつ、確実にティムの命は失われていく。
そしてカーズは……そのティムの、噴上の、シュトロハイムの肉をくらい再生する。

「無駄に勇み足をふみよって……このカーズ相手に」

視線の先で目を開いたまま噴上が事切れていた。残された片腕を投げ出し、無抵抗にカーズに喰らわれるがままになっている。
その向こうでは爆発の直撃を受けたシュトロハイムが火を上げる鉄くずになっていた。
カーズに盾にされたその体は、もはや判別不可能なほど、黒く徹底的に壊れてしまっていた。
三人は柱の男を前に敗れ去った。全ては、ただの徒労に終わってしまった。

爆発の際に吹き飛んだティムの帽子が風に舞い、戻ってくる。
泥だらけであちこちが折れ曲がっている。決して地に付けないこと誇りに思っていたはずの一品。
カーズは帽子に一瞥をくれたが、興味をなくし食事に戻る。噴上の肉体はもはや肉片一つ残っていない。

(これが……俺たちの、最期か)

エルメェスは無事だろうか。ほかの襲撃者に会うことなく、休息を取れる場所にたどり着けたならばいいが。
康一は目を覚ましただろうか。シーラEは再び立ち上がれるようになるのだろうか。
康一は戦いの果てに心をすり減らしてしまっていた。ティムの後悔といえば、そんな彼にまた重荷を加えることになってしまったことだった。

すまない、そうティムは呟く。口がうまく動かなくなっていた。言葉にならず、風が過ぎ去っていく。

噴上を取り込んだカーズはいくらか体力を取り戻す。
ふらついていた体を立て直すと、その足がティムの方へと向かってくるのが見えた。
ついに自分の番が回ってきた。体力の限界と、そして恐怖がティムの瞼を重くする。
くすんだ視界で死神の姿が大きくなっていく。カーズが近づいてくる……近づいてくる……。



 ―――そして…………




464 :代理:2015/09/02(水) 20:02:52.12 ID:Io/9LrBz.net
839 :さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:32:59 ID:JYUYwMcI
【7】

黒焦げの死体、上半身だけの死体、首から上と下半身が爆発で吹き飛んだ死体。
カーズはしばらくの間、じっと三つの死体を見つめていた。ちょうど待ち合わせの時間を待っている人が時計を見上げるかのように。
右手の人差し指と中指でこめかみをゆっくり撫でる。やがて決心がついたように唇をきゅっと横に結ぶと、カーズは諦めたようにため息をついた。
足元に転がったシュトロハイムの残骸を蹴り上げ、残りの肉片の回収を始める。首輪の謎は深まるばかりだった。

マウンテン・ティムを用いた首輪の実験。
死にかけのマウンテン・ティムの傷口をカーズは自らの肉片で止血し、生きながらえさせた。
そして体を地面に固定し、首輪に必要以上の負荷をかけてみたのだ。ちょうどロープで首輪を無理やり外すような動きを加えて。
予想通り、あっけなくマウンテン・ティムの首輪は爆発した。小気味良い音を立てて、マウンテン・ティムは脳髄をばらまき、そして死んだ。

そこまではいい。
死者の首輪であろうと、生者の首輪であろうと関係なく爆発は起きる。
主催者、ファニー・ヴァレンタインは断固として首輪の中身を見せたくないのだろう。

不思議なのは爆破の規模だ。
仮に首輪の中身を見せたくないがゆえに、そして禁止エリアで参加者の動きを制限したいがゆえに爆弾を仕込んでいるとしたならば……どの参加者であろうと均一に爆薬を含んでいるはずだろう。規模は違えど『参加者を殺す程度の爆発はどの首輪であろと起こる』はずだ。
つまり『こちらの首輪は爆発するが、あちらの首輪は爆発しない』なんてことは起こってはならない―――はずだ。

ティムと噴上を食べ終えたカーズは、ゆっくりとシュトロハイムだったもののもとへ足を向ける。


ところが『ここ』に『例外』が存在した。
戦闘の途中、カーズはシュトロハイムを『首輪ごと』一刀両断した。
だが爆発は起きなかった。シュトロハイムの体は美しいほど真っ二つに切り裂かれ、右半身と半身がそれぞれ散り散りに転がっただけだ。
首輪は何ら反応を示すことなく、綺麗に切り裂かれてしまった。もっともその後の爆発の余波で中身を確認することはできなかったのだが。

なぜシュトロハイムの首輪は爆発しなかったのだろう。
シュトロハイムが半人間、半機械だから? シュトロハイムの首輪だけ特別仕様だったのか?
カーズがシュトロハイムの脳天を切り裂き、生命活動を終わらせてから首輪を断ち切るまでの時間は短い。
ほとんど同時と呼んでいいくらいだ。その上、実際のところシュトロハイムは首輪が外れてから即『活動停止』とは至らなかった。
すくなくともカーズの足首を捉えるほどの働きはした……。これが意味することは一体何だろうか。

カーズは口を閉じたままシュトロハイムの残骸をじっと睨んだ。
そうすればまるで首輪の謎が自然と浮かび上がってくるかのように。切実に、ずっとにらみ続ける。
時折黒焦げになった機械部分と肉体部分の継ぎ目を指先でなぞってみた。
だがカーズにはその機械部分が何の役割を果たし、何のためにそう作られたのか理解はできなかった。


あるいは……『何らかの作用』が働いて首輪がうまく機能しなかったのか? ではその『作用』とは一体何だ?
首輪の爆発はすべて主動で行われているのか? 参加者150人全員を?

こめかみを抑え、神経を集中させる。だがいくら考えても答えは出てこない。
不確定要素が多すぎて、考えても考えても、思考がバラバラと崩れ落ちていくのカーズにはわかった。

465 :代理:2015/09/02(水) 20:07:20.11 ID:Io/9LrBz.net
840 :さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:33:31 ID:JYUYwMcI


「……忌々しい」

風が吹き、カーズのほどけた髪が額にかかる。カーズはほとんど反射的にそれをかきあげた。
月が影を落とし、芝生の上に複雑な模様を描いた。目的を持たない、長く不規則な動きで髪の毛が揺れる。
苛立ちがまた少し降り積もっていくのがカーズの中で感じ取れた。
人間三人を仕留めたにもかかわらず、その代償がこれでは……カーズのプライドは収まらなかった。
カーズは辺りに散らばった荷物をまとめようと、足を進めた。気持ちは既に次に向いていた。

新たな獲物を探しに、その場で反転し―――




『心が迷ったなら……やめなさい。ここで立ち止まるのは……カーズ、貴方にとって敗北ではない』



背後に立たれた感覚。耳元で囁かれた言葉。穏やかな息遣い。神々しい光。
カーズの左腕より刃が伸びる。電流を流されたかのように反応する。体を反転させ、背後を切りつける。
そして―――


「…………!? ……!? !?」


カーズの刀は空振りに終わった。何もない空間を切り裂いた刃先が、ほんの微かに、震えた。
振り返って、暗闇に目を凝らす。人影ひとつ見当たらなかった。息遣いも聞こえない。生命を感じさせる熱すらもそこには存在していなかった。

だが確かにいたはずなのだ……! カーズは間違えない。天才は間違わないのだ……ッ!
背後に立たれた感覚は確かな実態を持っていた。スタンドでも波紋でもない。それを超えた超能力でもない。
ありえない……! カーズは怒りすら感じながら辺りの捜索を続ける。
確かにいた! このカーズの背後に立っていた! 背後に立ち、そしてそっと語りかけ…………―――

466 :代理:2015/09/02(水) 20:10:07.92 ID:Io/9LrBz.net
「……MU?」


人影は見当たらなかったが、代わりにカーズは自らの体に起きた変化に気がついた。
『傷』が治っていた。つい今しがた人間たちとの戦いでつけられた体中の傷が!
カーズには理解ができない。それが『遺体』が起こす『奇跡』と呼ばれる現象だということに。
そして、彼に起こった『もうひとつの変化』にも……カーズは気がつきもしなかった。


「―――どういうことだ」


カーズのつぶやきに答えたのは空を覆い尽くす星空たち。淡く点滅を繰り返し、カーズの言葉は空へと消える。
そしてその首元に取り付けれた首輪も―――不規則な点滅でカーズの問に答えていた。

しばらくその場に立ち尽くしていたカーズだったが、やがて暗闇に姿を沈めていく。
腑に落ちない淀みをうちに抱え、カーズは新たな獲物を探し、また進みだす。
内に潜む何者かの力に気づくことなく……。そしてそれが、自らの問いに対する最大のヒントであることも知らず……。


カーズの頭上で登ったばかりの月が彼を見下ろしている。柱の男を縛り付ける首輪は、ひどく頼りげなく、寂しげな光を放っていた。






467 :創る名無しに見る名無し:2015/09/02(水) 20:21:03.66 ID:P5jYGABQ.net
841 :さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:33:56 ID:JYUYwMcI
【G-2 中央部/1日目 夜】

【チーム名:AVENGERS】
【広瀬康一】
[スタンド]:『エコーズ act1』 → 『エコーズ act2』 → 『???』
[時間軸]:コミックス31巻終了時
[状態]:右二の腕から先切断、極度の貧血、気絶
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2(食料1、パン1、水1消費)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.???

【エルメェス・コステロ】
[スタンド]:『キッス』
[時間軸]:スポーツ・マックス戦直前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.カーズから逃げ切る。
1.運命への決着は誰も邪魔することはできない……。
2.ジョジョ一族とDIOの因縁に水を差すトランプ使いはアタシたちが倒す?

【シーラE】
[スタンド]:『ヴードゥー・チャイルド』
[時間軸]:開始前、ボスとしてのジョルノと対面後
[状態]:両腕に裂傷(中)、貧血、身体ダメージ(中)、疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×3(食料1、水ボトル少し消費)
[思考・状況]
基本行動方針:ジョルノ様の仇を討つ。
0.カーズから逃げ切る。
1.康一の治療と自身の治療に専念する。
2.ジョースター家とDIOの因縁に水を差すムーロロ、アタシが落とし前をつける?
【備考】
※参加者の中で直接の面識があるのは、暗殺チーム、ミスタ、ムーロロです
※元親衛隊所属なので、フーゴ含む護衛チームや他の5部メンバーの知識はあるかもしれません


【チーム全体の備考】
※全員がカンノーロ・ムーロロについての知識をシーラから聞き、情報を共有しました。
(参戦時期の都合上シーラも全てを知っているわけではないので、外見と名前、トランプを使うらしい情報チーム、という程度です)
※シュトロハイム、噴上、ティムの基本支給品、トンプソン機関銃(残弾数70%)、破れたハートの4。以上のものは車内に放置されています。
※シュトロハイムが持っていたドルドのライフル(予備弾薬を含む)、ティムのポコロコの投げ縄、琢馬の投げナイフ二本は爆発で跡形もなく吹き飛びました。
※ティムの最後のランダム支給品は「ジョルノがカエルに変えた盗難車のうちの一台」でした。
 現在康一、エルメェス、シーラEが乗車しています。
※康一の最後の支給品は「シュトロハイムがサンタナ戦で自爆に使った手榴弾×2」でした。
※ゴーストライダー・イン・ザ・スカイは死亡しました。

468 :創る名無しに見る名無し:2015/09/02(水) 20:21:40.40 ID:P5jYGABQ.net
842 :さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:34:35 ID:JYUYwMcI
【F-3 南西部 牧草地帯/1日目 夜】
【カーズ】
[能力]:『光の流法』
[時間軸]:二千年の眠りから目覚めた直後
[状態]:身体ダメージ(大)、疲労(中)
[装備]:遺体の左脚
[道具]:基本支給品×5、サヴェジガーデン一匹、首輪(由花子)、壊れた首輪×2(J・ガイル、億泰)
    ランダム支給品1〜5(アクセル・RO:1〜2/カーズ+由花子+億泰:0〜1)
    工具用品一式、コンビニ強盗のアーミーナイフ、地下地図、スタンド大辞典
[思考・状況]
基本行動方針:柱の男と合流し、殺し合いの舞台から帰還。究極の生命となる。
0.参加者(特に承太郎、DIO、吉良)を探す。場合によっては首輪の破壊を試みる。
1.ワムウと合流。
2.エイジャの赤石の行方について調べる。
3.第四放送時に会場の中央に赴き、集まった参加者を皆殺しにする。

【備考】
※スタンド大辞典を読破しました。
 参加者が参戦時点で使用できるスタンドは名前、能力、外見(ビジョン)全てが頭の中に入っています。
 現時点の生き残りでスタンドと本体が一致しているのはティム、承太郎、DIO、吉良、宮本です。
※死の結婚指輪がカーズ、エシディシ、ワムウのうち誰の物かは次回以降の書き手さんにお任せします。
 ちなみにカーズは誰の指輪か知っています。死の結婚指輪の解毒剤を持っているかどうかは不明です。
 (そもそも『解毒剤は自分が持っている』、『指示に従えば渡す』などとは一言も言っていません)
※首輪の解析結果について
 1.首輪は破壊『可』能。ただし壊すと内部で爆発が起こり、内部構造は『隠滅』される。
 2.1の爆発で首輪そのもの(外殻)は壊れない(周囲への殺傷能力はほぼ皆無)→禁止エリア違反などによる参加者の始末は別の方法?
 3.1、2は死者から外した首輪の場合であり、生存者の首輪についてはこの限りではない可能性がある。
 4.生きている参加者の首輪を攻撃した場合は、攻撃された参加者の首が吹き飛びます(165話『BLOOD PROUD』参照)

※遺体の左脚の入手経路は シーラEの支給品→シュトロハイム→カーズ です。
※カーズの首輪に「何か」が起きています。どういった理由で何が起きてるかは、次以降の書き手さんにおまかせします。


※康一たちとカーズの移動経路はE-4→ F-4→ F-3→ G-3→G-2 です。
 その間に夜(〜20時)までに発動する禁止エリアは存在しませんでした。

843 :さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:35:09 ID:JYUYwMcI
以上です。誤字脱字、なにかおかしな点があれば指摘ください。

469 :創る名無しに見る名無し:2015/09/03(木) 01:04:48.57 ID:BPAM1f1+.net
投下、代理投下、乙です
衝撃の放送の後最初の投下でまたもや衝撃の事件
希望に殉じたヒーローズ、敗走のアベンジャーズ、聖なる遺体を取り込んだ柱の男
目を覚ました康一がどうなるか

470 :創る名無しに見る名無し:2015/09/04(金) 23:00:29.75 ID:xTmQmvmJ.net
投下乙!
うわーおもしろい!
とこも痺れるんだけど、特にマウンテンティムとシーラEのやり取りがグッドだ
しっかしどうなるんだこれ

471 :創る名無しに見る名無し:2015/09/04(金) 23:02:08.91 ID:bn6Y7cGt.net
カーズ絶望しかない

472 :創る名無しに見る名無し:2015/09/05(土) 02:46:25.52 ID:oj6b/9g9.net
投下乙です
ここまで欠けることのなかったHEROS、ついに脱落者が…彼らの死は無駄ではなかったが、しかし柱の男の手に遺体が渡り、戦闘でのダメージも回復してしまうということに
そういやシーラEはまた(カーズから)生かされたことになるのか…

473 :創る名無しに見る名無し:2015/09/15(火) 07:37:00.18 ID:eZBIcJib.net
月報です

話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
184話(+3) 27/150 (-3) 18.0 (-2.0)

474 :創る名無しに見る名無し:2015/09/30(水) 21:54:52.73 ID:nizNLMDv.net
保守

475 :創る名無しに見る名無し:2015/10/05(月) 00:03:11.72 ID:fIx7mUGc.net
保守

476 :創る名無しに見る名無し:2015/10/11(日) 08:56:04.91 ID:uJQqgdrB.net
太一はがばかばだった

477 : ◆yxYaCUyrzc :2015/10/18(日) 20:28:48.82 ID:eVFh4ub6.net
本投下、開始いたします

478 :葛藤 その1 ◆yxYaCUyrzc :2015/10/18(日) 20:33:05.23 ID:eVFh4ub6.net
さて、君らに質問するのは何度目になるかな――おいおい、聞く前からそういう顔をするなよな。
とにかく聞くぞ?今回の問題は……

『君らは何かに“迷った”ことはあるか?』だ。

――え?「今この答えになんて言うか迷ってる」?
それは違うだろ。俺に言わせるなら、それは“悩んでる”んだ。
答えが全くないところから導き出す『悩む』と、
いくつかの答えがあり、そこから選択する『迷う』じゃあ、結構違うと思うぞ、俺は。

ま、とにかく今回はそういう話だ。迷わずに聞いていってくれると幸いだな。
もう一つ聞いておきたいこともあるが――まあ、それは後にしようか。


●●●


「まったく――いつまでそうしているんだ?」
指をこちらに突きつけたまま動かないジョニィに対しため息混じりにそう呟いた。

「お前を倒すその瞬間まで、だ」
瞳に映る漆黒は『倒す』よりむしろ『殺す』と、そう言っている。しかし――

「だったら早く撃てばいいじゃあないか。
 このDioを殺して上の戦いに加勢するんだろう?
 ジョナサン・ジョースター。
 ジョセフ・ジョースター。
 クウジョー・ジョータロー。
 トウホウ・ジョージョ――ん?ヒガシカタ・ジョースケだったか?ククク……
 ジョルノ・ジョバァーナ。
 クウジョー・ジョリーン。
 どいつもお前と同じじゃあないか。なあ?『ジョジョ』ォッ?」

479 :葛藤 その2 ◆yxYaCUyrzc :2015/10/18(日) 20:36:57.10 ID:eVFh4ub6.net
「僕のことをその渾名で呼ぶんじゃあない。
 大体、お前が黙って撃たれるとも思ってないからな……」

安い挑発には乗らないか。まあ知ったことではない。そして今のやりとりでハッキリと理解したことがある。
『コイツは“今すぐに”撃つ気はないらしい』。

「ほう――それは褒め言葉として受け取っておこうか。だったらオレは、その“信用”を逆手にとって、少しノンビリさせてもらおう。
 ここでお前と戦っても負ける気はないが、そのせいで直に始まる放送を聞き逃しちゃあたまらないからな。
 上での戦いの決着、オレは放送を介して知るとしよう」
そう言ってワザとらしく伸びをしてみせる。ジョニィの警戒の眼差しは変わらないが、指先が少しだけ下を向いたのを見逃すほどこのDioはマヌケではない。

「……悔しいが、放送を聞き逃したくないのは僕も同じだ。だが、そう言って隙を見せるフリをするのもいいが、狙われてることを忘れるなよ」

「ああ、肝に銘じておくとしよう」


●●●


オイ――

「ホウ、どうやら決着はジョースター一行の勝利だったようだな。おめでとう。なぁジョジョ――っと、この渾名はタブーだったか?フフ」

オイオイ――

「しかし驚いたな。いや、これはマジだ。お前がジャイロ・ツェペリの死に全く動揺を表さないとはな」

オイオイオイ――

「もっとも、問題なのは禁止エリアか。こればっかりはこのDioもお手上げだな。さてどうしたものか」

オイオイオイオイ――

「なんとか言ったらどうだ?指先がすっかり見当違いの方を向いているぞ、ジョニィ?」

……――

「フゥー……そこまで動かないつもりならこちらから動くとしようか、どれ」

「――動くんじゃあない。動いた瞬間に撃つ」

480 :葛藤 その3 ◆yxYaCUyrzc :2015/10/18(日) 20:45:26.20 ID:eVFh4ub6.net
やっと絞り出すことができた一言は随分と在り来りなセリフになってしまった。

「おっと、やっと整理がついたかい?それにしちゃあ、随分間抜けな顔をしているぞ、ジョ――」
「ジャイロの死は僕がこの目で確かめた。そしてその『意思』は今僕のこの手の中にある。
 そして、お前こそ『ディオ』の死に驚いてないようだ。最初からこうなることがわかってたんじゃあないのか?」
「まさか。そんな訳ないだろう?さっき言ったとおり、オレはお呼びじゃあなかった。だからその先は知ったこっちゃあないのさ」

短い会話の中でもチラチラと視界に入るディエゴの牙がワザとらしい。
だがそれを気にしている場合じゃあない。問いたださなければならないことがある。
「それからもう一つ……お前はさっき『放送を待つ』と言ったな?
 それは“こうなること”を知っていたのか?」

……ディエゴはこれまたワザとらしく大きなため息をついた。
「スティール氏が殺されて大統領が表舞台に顔を出したことについて言ってるのか?それこそまさか、だ。
 ま、オレに言わせれば遅かれ早かれ“こうなること”は目に見えていたってところだな」

たしかに大統領ならやりかねない。しかしそれを放送の場で、つまり自分自身を危険にさらすような真似をしたことになる。
それが何を意味するのか、Dioを警戒しつつも頭の中で考えがぐるぐるとループする。

「ともあれ、だ。こうなった以上オレにはこの場にいる理由がなくなった。
 もしお前がオレを撃つ気がないのなら――いや、いずれにしてもと言うべきか。サッサとしてくれ。
 オレには『行って、確かめるべきこと』が出来たもんでな」

思考を遮ったのはそんなディエゴの一言だった。
今コイツは何と言った?確かめる?まるで明確な目的地があるかのような言い方だ。

「どういう――意味だ?」


●●●


たまらずジョニィのやつが質問してきた。そりゃあそうだろう。
オレが自分からその考えを話そうとしていること、その意図が分かりかねると言った感じだ。
もちろん、文字通りにその考えそのものを知りたいということもあるだろうが。

手札を切るべきは今、このタイミングだ。間違ったらこのオレとてただではすまない。無論、負けはしないが。

「『聖人の遺体』」

481 :創る名無しに見る名無し:2015/10/18(日) 20:53:56.25 ID:rRJzMeEd.net
支援

482 :葛藤 その4 ◆yxYaCUyrzc :2015/10/18(日) 20:54:14.01 ID:eVFh4ub6.net
たった一言、というより単語一つ口にしただけでジョニィが思い切り目を細める。実にわかりやすい。

「おっと――その前にその物騒な爪の回転を止めてくれないか?
 せっかくこのDioが今回の放送を踏まえての考察を話してやろうと言うんだ。対等な状態での会話をしたいもんだな。
 もちろん恐竜たちに襲わせるような真似はしない。もっとも、この場にはさっきお前が撃ち殺した以外の恐竜はいないが」

ジョニィは顔を動かさず視線だけで左右を確認し、ゆっくりと手を下ろす。
「話を聞く間だけだ。聞き終わったらその瞬間襲ってくるような真似はお前ならやりかねないからな」

「フン――どう思おうと勝手だが、そのピリピリの警戒心でマトモな思考ができるものか疑いたくなるな。
 まあいい。話してやろう。

 聖人の遺体。さっきオレはそう言ったな?
 どうも『上で戦ってた方のDIO』はそれを“この会場内で見つけた”らしいぞ?
 そしてこう言ったのさ。
 
 『あえて助言を与えるとしたならば……カバンをチェックしたまえ。名簿を見よ、地図を見よ!
  さすれば与えられんだろう……おおいなる、勝利の約束がね!』

 ……とな。そこでピンときた。
 主催者は――いや、大統領はと言うべきか。奴は聖人の遺体を支給品に紛れ込ませている、と」

反論やら何やらを挟ませず一息に言い切り、ジョニィを見下ろす。
立ったままのジョニィを座っているオレが見下ろすというのも妙な表現ではあるが、この場ではオレが『上』だ。
無論、自分が今『左目』を持っていることなど言うわけがない。言う必要がない。

「つまり、大統領はこの殺し合いを介して聖人の遺体を参加者に集めさせている」
ジョニィの顔にじわりと汗が浮き出すのがよくわかる。しかし――

「ハズレだマヌケ……いや、半分は正解という方が正しいかなァ?
 お前ほどの男ならすぐに気付くと思ったぞ。もっと根本的なことに。
 もう一度言うぞ。大統領は聖人の遺体を支給品に紛れ込ませている。
 
 つまり――

 奴は『一度全ての部位を集めきり』、そして『もう一度それをバラバラにして』支給品にした。

 ――そういうことだろう?まさか、このゲームを始めたら勝手に混じってました、なんて事はあるまい?
 スティーブンのやつにできる芸当だとも思えない。話が逸れるが、スティーブンが消されたのも、そういった部分を知りすぎたということも要因じゃあないかと思う」

483 :葛藤 その5 ◆yxYaCUyrzc :2015/10/18(日) 20:59:23.61 ID:eVFh4ub6.net
細められたジョニィの目が今度は大きく見開かれる。オイオイ、マジで気付かなかったのか。
まあ、オレ自身もこの推測に至ったときは自分で自分の考えに冷や汗をかいたものだが……

「か、可能性の一つでしかないッ!なにより大統領の意図が読めないッ!
 そして……それがお前の『行って確かめる』に繋がるとは思えない!
 僕相手に交渉したかったらもっとハッキリ言ったらどうだ!?」

「フン、ハッキリ言ったら言ったで何かと疑うだろう、お前やジャイロのようなお人好し共は。
 そして大統領の意図なんかオレにだってわかるものか。そんなものは本人に聞け。しかしせっかくだから言ってやろう。

 『ルーシー・スティールの身柄を確保している』

 安全は保証してある、何しろ恐竜というボディーガードがついているんだからな」

ジョニィがハッとしたように腕を持ち上げ、再びオレに指先を向ける。
爪は……まだ回転していない、か。
「ルーシーだと……?
 スティール氏が殺された現状、彼女に向けられる視線と攻撃はどうなるんだ?まさかお前の恐竜が守るとは僕には思えない」

「話は最後まで聞くんだな。
 たしかにオレの可愛いペットたちを危機に晒してまで敵の攻撃からルーシー・スティールを守る気はないさ。
 だが――みすみす死なすのも勿体無い。お前がどこまで知ってるかは疑問だが、彼女は一度は遺体に見初められた存在だからな」
話をやや深いところまでシフトさせる。言いすぎたなどとは思っていない。
ここまでくればジョニィのヤツは勝手に俺の言い分を推測し、それを口にしてくる。

「遺体が彼女のもとに集まると言いたいのか」

まったく――まったくもって予想通りの回答だ。

「好きに解釈してくれて結構だが、ここから先はお前の決断だ。
 このまま放っておけばルーシーは死ぬだろう。敵の攻撃はともかく、少なくとも禁止エリアの危険が(ま、これは参加者全員だが)ある。つまり何が言いたいかというと……

 お前が合流すべきは、

 『上でDIOとの戦いを終え、満身創痍にしてるジョースターの連中』なのか。

 それとも、

 『このDioの下にいて、危険にその身を晒すルーシー・スティール』なのか。

 ……さあ、どうする、ジョニィ・ジョースター?」


●●●

484 :創る名無しに見る名無し:2015/10/18(日) 21:03:45.31 ID:rRJzMeEd.net
支援支援

485 :葛藤 その6 ◆yxYaCUyrzc :2015/10/18(日) 21:05:53.04 ID:eVFh4ub6.net
さて。ここで君らにもう一つ質問しよう――まあ、この話を聞いてる以上はわかると思うけど。

『迷ったとき、君達なら一体どうするか?』

結論から言うと――ジョニィ・ジョースターはディエゴ・ブランドーを撃たなかった。撃てなかった訳ではないのに。

つまりはそういうことさ。ジョニィの精神の――心の中には一つのルールがある。

『迷ったら、撃つな』

それこそ遺体である“お方”から直々に言われたんだ。守らなきゃあバチが当たるってもんだ。
あの瞬間、間違いなくジョニィの心は迷った。ゆえに撃たなかった。

そして現在――ジョニィはディエゴの後を付いて地下のある場所を歩いている。
余裕綽々で無防備な背中を晒すディエゴも流石だが、これはやはり彼なりの確信があるんだろう。

だが戦況とは刻一刻、というより一瞬先には状況が180度ひっくり返ってることだってある。
つまり――この先、ルーシーと合流したら、あるいはそれ以前だろうと。どこでジョニィの迷いがなくなるかは誰にもわからないってことさ。


ちなみに――俺は迷ったら、迷いながらも前に進もうとするだろう。結果として失敗することや後悔することばかりだけどな。
迷った時に『進む』でも『来た道を戻る』でもなく『立ち止まる』選択ができる人たちが羨ましいよ、本当。

――え?聞いてない?あ、そう……



【D-3 南西部(地下) → ??? / 1日目 夜(放送数十分後)】

【ジョニィ・ジョースター】
[スタンド]:『牙-タスク-』Act1 → Act2 → ???
[時間軸]:SBR24巻 ネアポリス行きの船に乗船後
[状態]:疲労(ほぼ回復)、困惑&驚愕、ディエゴに対する疑念
[装備]:ジャイロのベルトのバックル
[道具]:基本支給品×2、リボルバー拳銃(6/6:予備弾薬残り18発)
[思考・状況]
基本行動方針:ジャイロの無念を――
0.ディエゴに同行、ルーシー・スティールと合流する
1.しかしディエゴは信用できない。同行は監視を兼ねたもの、迷いが晴れたら撃つ――?
2.ジャイロ……すまない。 バックル、貸してくれ
  そして放送、一体今どうなってるんだ!?
3.第三回放送を目安にマンハッタン・トリニティ教会に出向く
4.ジョナサン!?僕の本名と同じだ。僕と彼との関係は?
[備考]
1.Act3が使用可能かどうかは次の書き手さんにお任せします。
2.また、ジョルノの蛍から目を離したのでAct2の使用がやや困難かもしれません
  (抜け目なく蛍を確保しているのか、ディエゴの恐竜を見るのか、または……?以降の書き手さんにお任せします)
3.空条邸にてジャイロの死体を確認。そこからベルトのバックルを入手しました。

486 :葛藤 その7(状態表) ◆yxYaCUyrzc :2015/10/18(日) 21:09:56.31 ID:eVFh4ub6.net
【ディエゴ・ブランドー】
[スタンド]:『スケアリー・モンスターズ』+?
[時間軸]:大統領を追って線路に落ち真っ二つになった後
[状態]:健康、自論(仮説)に自分で驚愕
[装備]:遺体の左目、地下地図
[道具]:基本支給品×4(一食消費)鉈、ディオのマント、ジャイロの鉄球
    ベアリングの弾、アメリカン・クラッカー×2
    カイロ警察の拳銃(6/6) 、シュトロハイムの足を断ち切った斧
    ランダム支給品11〜27、全て確認済み
   (ディエゴ、ンドゥ―ル、ウェカピポ、ジョナサン、アダムス、ジョセフ、エリナ、承太郎、花京院、犬好きの子供、仗助、徐倫、F・F、アナスイ、ブラックモア、織笠花恵)
[思考・状況]
基本的思考:『基本世界』に帰り、得られるものは病気以外ならなんでも得る
0.ジョニィを言葉でねじ伏せたぞ、ククク……
1.ルーシー・スティールのところに行き、遺体の情報、その真相を確認
  放送の件も含めてルーシーから情報を聞き出す。たとえ拷問してでも
2.なぜかわからんがDIOには心底嫌悪を感じた、特に遺体なんて絶対渡したくなかった。死んでくれてなによりだ
[備考]
1.ルーシーには監視役の恐竜を付けて別行動中です。居場所は(何事もなければ)常に把握しています。
  (※ジョニィをまっすぐルーシーのもとに連れて行くとは言っていない)
2.DIOから部下についての情報を聞きました。ブラフォード、大統領の事は話していません。
3.教会地下に散乱していた支給品は全てディエゴが『奪い』ジョニィは自分の持っていた道具以外何も手にしていません。


[二人の備考]
・現在、ディエゴが場所を知っているというルーシー・スティールのもとにたどり着くため地下通路を移動中です。
 移動経路、合流場所等はのちの書き手さんにお任せします。
・とは言っても、お互いがお互いを信用している訳ではないので、いつ崩れるかわからない同盟関係です。
・二人が立ち去ったことは教会で戦っていたジョースター一行には気づかれていないようです。少なくとも二人は伝言や書置きなどを残してはいません。

487 :創る名無しに見る名無し:2015/10/18(日) 21:18:38.34 ID:rRJzMeEd.net
sien

488 :葛藤  ◆yxYaCUyrzc :2015/10/18(日) 21:25:12.55 ID:eVFh4ub6.net
以上で本投下終了です。
仮投下からの変更点
・ディエゴの一人称をカタカナの「オレ」に修正、その他「DIO」「Dio」「ディオ」の表現を修正
・誤字脱字、一部表現を加筆(内容に変更はありません)

◆c.g氏のSSから一文を拝借いたしました。仮投下時には言いませんでしたが、この場を借りて御礼申し上げます。
また、◆HAS氏は私の仮投下で少なからず執筆作品に影響が出たものと思います。リレー小説とはいえ、ご迷惑をおかけしました(この表現もおかしいですが)

引き続きご指摘等ありましたらコメントください。wiki収録までに修正させていただきます。
◆HAS氏の作品の感想は本投下があった際に改めて。それでは次作でノシ

489 :創る名無しに見る名無し:2015/10/20(火) 15:11:26.99 ID:X7WBiLp+.net
ジョジョはジョジョ、SBRはSBRで一旦話が別れる形になるな

490 : ◆HAShplmU36 :2015/10/21(水) 23:25:09.84 ID:6Ch1UvH8.net
本投下開始します。

491 : ◆HAShplmU36 :2015/10/21(水) 23:27:42.18 ID:6Ch1UvH8.net
ベッドの上で聞いたその結末に少女は泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、やがて泣き疲れて少しだけ眠り―――――




――――――……そして目を開けた。



◆ ◆ ◆



「え〜DIO死んじまったのか〜」
「お? DIOなんかシラネって感じですぐ興味なくすと思ってたけど案外未練あるんだな」
「おれDIOんトコ戻ったらもっかい死体集めて、でーっかい作品作りたかったんだよう。それにDIOは頭イイし、色々教えてほしかったんだよなあ」
「……」
「なら次はここから近いDIOの館ってとこに行ってみるか。お前の興味を引くものもあるかもしれんぜ」
「死体?」
「あるかもな」
「角砂糖は?」
「たぶん台所には」
「ならいこーぜ!」
「……」
「お前もいいだろ? ああ別にここで別れてもいいんだぜ、妹ちゃんを確実に探し出せるのも監視できるのも俺だけだろうがな」
「……」
「んじゃ決定な」



三人の男たちは西を目指す。



◆ ◆ ◆

492 :ブレイブ・ワン ◆HAShplmU36 :2015/10/21(水) 23:29:03.56 ID:6Ch1UvH8.net
どうやら眠ってしまっていたようだ。トリッシュは顔にかかった数本の髪を手で払うと傍らに置いていた時計を見て、反射的に飛び起きた。

「もう18時を過ぎちゃってるじゃない!! 放送は? どうなったの!?」
「安心しなよ、俺も玉美もちゃんと聞いてる。トリッシュこそ起きて大丈夫なのか?」
「私ならもう大丈夫よ。それより放送は……」

こちらに、と放送内容の書かれた紙をうやうやしく差し出してくる玉美。さっと目を通そうとして―――4人目の名前に視線が強張る。

(ミスタ……何てこと……)

ショックだった。あまりにも生々しいショックが身体を貫き、トリッシュは再びソファに沈み込んだ。

(彼がいつの時間から連れてこられたのか、私と同じ世界の彼だったのか、わからない……わからないけど)

誤解を恐れずに言うならばアバッキオやブチャラティは既に死んでいる人物で、ブチャラティとの再会と別離は神様が与えてくれた奇跡とでも
美しく飾る事だってできる。だがミスタは他の二人と違う、トリッシュと同じ『今』を生きている人物だったのだ。明日会いに行こうと思えば会えるはずの
人間がいつの間にか死んでしまった。もう会えない、声も聞けないのだ。トリッシュにとっては三度目の仲間との永遠の別れ。慣れる訳が、ない。

「早く読みなよ、続き」

ナランチャが硬い表情で促してくる。
急いで読み進めようとしてミスタの名前以降の筆跡が違う事に気付いた。きっと最初はナランチャが、続きは玉美が書いたのだろう。
そうだった、彼はまだここに集められた人たちの時間や時空の差異を理解しきっている訳ではない。自分以上にショックを受けていてもおかしくないだろうに
取り乱しもせず、ただぎゅっと引き締められた口元が余計痛々しい。
幸いミスタ以外の知り合いは名を呼ばれてはいなかったが、その代わりにスティーブン・スティールの死とファニー・ヴァレンタイン大統領の存在。
更に次の放送までの禁止区域が発表されなかったことと合わせて、衝撃に次ぐ衝撃に別の意味でくらくらしてくる。


「……どうでもいいんだ」
「え?」
「死んだジジイも、大統領ってやつも俺にはどうでもいいんだ」

ナランチャは俯き気味に、自らに言い聞かせるように言葉を噛みしめてゆく。

「いきなりこんな変な所に連れてこられて、いろんな奴らが現れてはどっかに消えちまって、未来だとか過去だとかもう訳わかんないことだらけでさ……
 ハハッ、俺今、本当は不安で一杯なんだ。身体のどこかしこがブルっちまってる」

気持ちを吐きだした直後、ナランチャは意を決したようにトリッシュの手を取って立ち上がらせ、そのまま視線を真っ直ぐぶつけてくる。
弱気な言葉とは裏腹に両の腕を掴んでいる手のひらは熱く、震えてはいなかった。 

「俺頭悪りぃから一体何がどうなってるのかさっぱりわかんねえけど、今やらなくちゃいけない事は知ってる。
 俺の任務はトリッシュ、君を守ることなんだ」

ともすれば年下の悪ガキくらいにしか思えなかったナランチャがギャングの、男の顔をしていた。ほんの少し自分より高い目線に、
自分より背が高かったのだとトリッシュは初めて意識した。

493 :ブレイブ・ワン ◆HAShplmU36 :2015/10/21(水) 23:30:09.57 ID:6Ch1UvH8.net
「これでチームの中で生き残ってるのは俺とフーゴとジョルノ。今トリッシュの傍には(玉美もいるけど)俺しかいない。
 ブチャラティ程頼りにならないかもしれないけどさ、少しは頼りに、てか信頼して欲しいんだ。だから……今度こそ教えてくれよ。
 俺の知らない事、フーゴとトリッシュが隠してたこと、全部さ」

ナランチャは決して愚鈍な少年ではない。分かりやすく言葉にする術を持たなかっただけで、仲間が自分に隠し事をしていたことも、
自分への態度にぎこちないものがあることも感じていたのだ。もしかしたらその僅かな違和感が疎外感に変わり、彼を弱気にさせてしまったのかもしれない。
ナランチャが本来辿るはずだった結末を受け止めきれるのか計りかねて口を閉ざしていたが、今の彼ならもうその必要はなさそうだ。
フーゴもきっとそう言ってくれるだろう。

「ありがとうナランチャ、あなたの事は信頼してるし隠し事をしていたことも謝るわ。でも私どちらかというと、
 守られるよりも仲間として一緒に戦いたい気分なのよね。それでよければ……改めてよろしく」
「トリッシュ……」
「はーいはいはい! ちょっと通りますよー!!」


サラリーマンよろしく手刀を振り回しながら二人を引き離しにかかった玉美。身体が自由になったトリッシュのヒールが顔面に沈み込んでも
ヘコたれずナランチャに食って掛かる。

「てめー放送んときメッチャ落ち込んでたから人がせっかく気ぃきかせて黙っててやったのとゆーのに、
 さっそくトリッシュ様にベタベタしてんじゃねーよこのボケガキが!!」
「何だとこのクソチビ野郎! おめーなんかに気を使われなくたって俺はいつでもバッチリハイテンションだっつーの!!」
「ハン! トリッシュ様が起きるまでぽけーっと口開きっぱなしでブルってたくせに!」
「言ったなこの野郎ー!」

(この二人……意外とかみ合ってるのかしら)


それはそれで頭が痛いのだが、とりあえず取っ組み合いを始める前にナランチャに説明だけはしないといけない。
少しだけ考えたトリッシュは玉美をスタンドで殴って柔らかくしカーペットで簀巻きにして転がすと、見てはいけないものを見てしまった顔のナランチャに
手短に事情を話したのであった。



◆ ◆ ◆



――――――トリッシュ達と時を同じくして

494 :ブレイブ・ワン ◆HAShplmU36 :2015/10/21(水) 23:31:15.78 ID:6Ch1UvH8.net
『至急帰還しろ』という事だったが、ジョースターご一行より早く到着しろとは言われていなかったので少しばかり遠回りしながら
急いでいたムーロロの元に届いたDIOからの最後の指令は『ジョースター共が到着したようだ。奴等を片付けるまで教会に近づくな』だった。
異論はあるだろうが、ある意味ムーロロは最後までDIOに忠実に従ったと言えるだろう。DIOに預けていたジョーカーも
サン・ジョルジョマジョーレ教会内で途中まで戦闘の様子を中継していた。建物が倒壊する直前に手元に退避させたので
結末は放送で知る事となったが、あの場にいた約半数が死んだ事実も特にムーロロの心を動かしはしなかった。
むしろ生き残りの人数と面子を考えると依然油断はできないというのが結論だ。

(DIOが消えたのは相当大きいが、まだカーズ、ワムウが残っている。ジョースターの内一人しか道連れにできなかったってのも痛いな。
 そろそろ俺も本腰入れて主体的に動かないとヤバい頃合いだ、遺体の検証と、まずは現状の把握もしたいとこだが……)

館に辿り着いてから一階をざっと探索し終え、ムーロロと琢馬の二人は二階へ上がる階段の前に立っていた。
ここに来ることを提案したのはDIOに未練を残すセッコを駒として引き留めておくためでもあり、一度落ち着いて体制を整えるためでもあった。
琢馬は妹の事がよっぽど堪えたらしく、あれから一言も口を利かなくなってしまった。使い物にならないなら捨てるか処分するのがセオリーだが、
千帆が生きている限りは多少のリスクを負ってでも手駒に加えておく方がマシだと判断して、アヌビス神も持たせたままにしてある。

(面倒だが、落ち着く前に掃除が必要なようだ)

一度来た場所だし血なまぐさい戦闘の痕跡が残る場所などに腰を落ち着ける輩などいないと踏んでいたのだが、どうやら物好きな奴、
いや獣が二階のギャラリー一帯を陣取っているらしい。
抱えた亀にそこらで千切った葉っぱを与えながらのんびり待っていると場違いな声が響き渡る。

「おいスゲ〜〜ぜ恐竜がいた!! 」

柱の中を通って偵察に行っていたセッコが戻って来るなり突拍子もないことを言い出したのだ。

「恐竜ねえ。何匹いた?」
「でっかいのが二匹だ。あんなん噛まれたらマジ一発だぜ!」

言いながらもなんだか嬉しそうな顔をしている。念の為ウオッチタワーも一枚忍び込ませていたが、間違いないようだ。
さらにセッコは気付いていないが、恐竜たちは好き勝手に動いている訳ではなく、あるドアを守るようにのろのろと往復している。
恐竜を使うのはディエゴ・ブランドーだが、奴はDIOの傍にいたはず。教会から離れる理由があるとしたら遺体絡み。
遺体は場合によっては人体に取り込まれる。琢馬もそうだ。なら遺体を取り込んだ人物を戦闘に巻き込まぬよう移動させたのだろう。
おそらくドアの奥にいるのは――――


「あれブッ倒すのかムー……お? ムーロロどこ行った?」









世界は滑らかに一変する

495 :ブレイブ・ワン ◆HAShplmU36 :2015/10/21(水) 23:34:15.83 ID:6Ch1UvH8.net
(ドアの奥にいるのは―――――――――…………)


瞬きすらしていなかった。ただ思考を内側へと向けた刹那、ムーロロがいたはずの固い廊下は毛足の長い絨毯に、
目の前の階段は天蓋付きのベッドに変わっていた。あまりにも自然に変わる世界に思考が追いつかない。

「ここは……どこだ……」

それが軽率な事だと気付いた時にはもう、ベッドを挟んで奥側の端に腰かけた誰とも知れぬ少女に声を掛けてしまっていた。


「怖がらなくても大丈夫よ、私にも経験があるわ」

暗がりの中、こちらに背を向けたまま優しい声色で返してくる。
怖がってなどいるものか。と憤慨しかけて我に返り、素早く周囲を見渡す。壁の質感や内装からいってここはまだ館の中。
更に扉の向こう側から聞こえる重々しい足音も合わせると間違いない、恐竜に守られたあの扉の内側に自分はいるのだ。

「遺体は遺体と引き合おうとしているの……あなた達がこの館に向かっていた時から『感じていた』」

少女はおもむろに立ち上がると窓の方へ向かい、カーテンを開けた。
差し込む月明かりに照らされた腹部は若い身体には不釣り合いに大きく緩やかな弧を描き、どこか背徳的な淫靡ささえ感じさせる。

「遺体の全てを得るのに最もふさわしいのは私。大統領でも、他の誰でもない……私」

「ルーシー・スティール……」

ゆっくりとこちらを振り向いた少女の視線がムーロロを捕えた。
唇をうっすらと開いた表情はルノワールの描く少女のように可憐で、フェルメールのように神秘的で……
ムーロロは微笑んでいるようにも見えるルーシーの瞳に吸い込まれそうな錯覚を覚えながらも、その奥についぞ感情を見つける事が出来なかった。



◆ ◆ ◆



なるべくナランチャの頭から湯気が出てこないように易しい言葉を選んで話したつもりだが、チームのメンバーがそれぞれ別の時間から
連れてこられたこと、少なくともトリッシュの認識ではアバッキオだけでなくブチャラティ、そしてナランチャはボスとの戦いで命を落としている事を
納得してもらうのは何とも骨の折れる手間で、フーゴの気持ちが痛いほど理解できた。

「じゃあ俺は別に幽霊って訳じゃないんだよな。んで、大統領をぶっ殺したら全部元に戻るし俺はサルディニアに戻ると。
 こっちじゃボスが死んでるけどあっちでは死んでないからまた戦わなくちゃいけないってのは面倒だよな……うんうん」

自分の言葉だけで喋っているのでかなり分かり辛いが、内容は何とか詰め込むことに成功した模様だ。
独特の理解の仕方をしているような気がしなくもないがトリッシュはとりあえずこれで良しとすることにした。

「トリッシュ様、さすがにそろそろ移動した方がいいですぜ。19時まであまりありやせんし」
「禁止区域のことよね。でも、こればかりはどこにいたって変わらないんじゃない? 運を天に任せるより無いわ」
「それについて、あっしに考えがありやす。とりあえずついて来て下さいませ」

もう敬語についてツッコむ気は無いが、玉美が珍しくマトモな事を言いだした。確かにトリッシュ自身禁止区域への対処方なんて
考えもしなかったのは事実なので物は試しとついて行ってみる。

496 :ブレイブ・ワン ◆HAShplmU36 :2015/10/21(水) 23:42:20.94 ID:6Ch1UvH8.net
「で、あと5分もないけどこれで助かるの?」
「少なくとも被害は最小限に済みますよ。ほら、地図を見て下せえ」

やって来たのはとある交差点。少し歪んでいるので正確に東西南北に分かれている訳ではないが、地図と照らし合わせると
E-4・E-5・F-4・F-5、四つのエリアの丁度境目にあたる。三人は今、道で分けられたエリアにそれぞれ一人づつ立っていた。

E-4にはトリッシュ。
「なるほど、これなら万が一爆発しても犠牲はひとりで済むって訳ね。考えたじゃない」

E-5には玉美。
「ト……トリッシュ様からお褒めのお言葉! 玉美もう死んでもイイ!!」

F-4にはナランチャ。
「げ、気持ち悪ぃなーお前が爆発すりゃいいのに」

また口ゲンカが始まったが、トリッシュも止めに入らない。実際三人とも内心気が気ではないのだから。そうこうしている内に残り10秒を切った。
もうできる事は両手を合わせて祈ることだけだ。静寂の中トリッシュはギュッと目を閉じて全員の無事を祈る。

「9、8、7……」
「6、5……」

(4、3、2、1………………0!)





『禁止区域にくせ――ゴミはいらねェ――スからねェ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜どーにか処理しねーとよォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ』


「あ!? あわっ、あわっ、アワワ〜〜〜〜〜!!」

首輪からメッセージが響き渡り、玉美は慌ててトリッシュの方へと猛烈な勢いでダッシュする。
すると道を越えた辺りで繰り返されていた音声がぷつりと止まり、さらに勢い余った玉美が建物の壁に勢いよくぶつかった音が響き渡った後
再び辺りはしんと静まり返る。ようやく緊張から解き放たれたナランチャも急いで駆け寄ってきた。

「おい大丈夫かよ玉美! トリッシュもさあ、こういう時くらい避けずに黙って受け止めてやっても罰は当たらないんじゃないかと思うんだけど」
「だ、だって思いきり私の胸を目指してたから……それより今のってもしかして、禁止エリアに入ってもすぐには爆発しないの?」
「そういう事になりヤフね……ガクッ」

これは大きな収穫だ。これなら禁止エリアが設定される時刻毎にエリアの境界上に立ってさえいれば簡単に避けられる。
けれども良い事ばかりじゃない、と地図のE-5に大きく×をしながらナランチャが言った。

「地下に入ったらどこが境目かわかんなくなるじゃん。あと5時間は移動できる場所が地上だけ。半分になっちまったってことだぜ」
「確かに地下道で迷ってしまう可能性も考えたら地上にいるのが無難かもしれないわ。大統領が禁止区域を秘密にしたのは
 殺すためというより私達の行動範囲を抑制して出会いやすくする、なんて目論見だったりしたのかもしれないわね」
「いーや、あの野郎単純に俺らを馬鹿にしてスカッとしたかっただけだと思いやすよ」
「そうなのか? まあ怒ってはいたけど馬鹿丁寧だったし、い……インキンプレーな奴としか思わなかったけどなあ」
「慇懃無礼だろ、ホントお前って低能だよなー。いやド低能か」
「んだと玉美〜お前ちょっといいアイデア出したからって調子こいてんじゃねーぞ!」

またまた何やら始まった。怒鳴りつけようかとも思ったが、爆発の恐怖から解放された安心感から余裕の出てきたトリッシュは
少しばかり微笑ましいとさえ思いながら見守ることにした。

「はっ、嫉妬かよ。まあ俺はトリッシュ様の為に何度も命を張ってるし? お前より断然トリッシュ様の護衛に相応しいけどな」
「ビビッて逃げただけのくせに命を張っただなんてよく言えるよな〜俺だったらもっとヤバくなるまで堪えて制限時間を調べるくらいするぜ?」
「ビ、ビビッてねーし俺だってその位できるわ! 丁度今やろうかなーなんて思ってた所だし!」
「じゃあどっちが長く禁止エリアに入っていられるか勝負な、負けた方は護衛失格だぜ!」
「望むところだああ!!」
「やめなさあぁぁぁぁぁぁぁぁあああい!!」

497 :ブレイブ・ワン ◆HAShplmU36 :2015/10/21(水) 23:45:08.77 ID:6Ch1UvH8.net
そんなこんなでグダグダとしていた三人だったが、遠く聞こえる急ブレーキと再びスピードを上げてゆくエンジン音によって、弛んでいた空気が
一気に緊迫したものへと変わる。

「ナランチャ、レーダーは!?」
「さすがに遠すぎるぜ。ただ音は……南に行っちまった。ど、どうするよ?」
「どうするも何も車に追いつけるわけねーだろ! それより気付かれてないならさっさと離れるべきだぜ。ね、トリッシュ様?」
「そうだな。フーゴも探さなきゃいけねーし、一旦戻ろうぜ!」

これからの行動方針をまさに考えようとしていた所だけに面食らってしまったトリッシュだったが、やはり最優先すべきは仲間である
フーゴとの合流だ。自分たちが知り得た禁止エリアとその対処法を伝えなければ。それに彼に会えたらその頭脳で考察して欲しいこともある。

「そうね。車の事は気になるけど今はフーゴたちを探しましょう。とりあえず彼が向かったらしいサン・ジョルジョ・マジョーレ教会へ――――」

『北ヘ……』

(え、なに?)

『教会カラ北ヘ…………DIOノ館ヘ、私ヲ助ケテ…………トリッシュ!!』


ナランチャと玉美の方を見るが何も変わりがない。この声はトリッシュだけに、トリッシュの脳内に直接響いたのだ。
地図を取り出して確認する。DIOの館といえば先刻トリッシュが倒れた際にカーペットに現れた地図上で星が『4個』固まっていた場所だ。
そして星よりも重大な事がある。あの声の主はよくわからないが、口調からしておそらく女性。そして自分に助けを求める可能性のある女性は
一人しか思い浮かばない。





(ルーシー……あなたなの?)





◆ ◆ ◆

498 :ブレイブ・ワン ◆HAShplmU36 :2015/10/22(木) 00:03:44.47 ID:9KJvVVZO.net
【E-4(移動中)/一日目 夜】

【小林玉美】
[スタンド]:『錠前(ザ・ロック)』
[時間軸]:広瀬康一を慕うようになった以降
[状態]:健康
[装備]:H&K MARK23(0/12、予備弾0)
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:トリッシュを守る。
0.トリッシュ様のお役に立てた!バンザーイ!!
1.トリッシュ殿は拙者が守るでござる。
2.ナランチャは気に食わないが、同行を許してやらんこともない

【ナランチャ・ギルガ】
[スタンド]:『エアロスミス』
[時間軸]:アバッキオ死亡直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)
    不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者をブッ飛ばす!
0.誰も爆発しなかったぜ、ラッキー〜
1.早くフーゴとジョナサンを探しに行こう
2.玉美は気に入らないけど 、まあ一緒でもいいか

【トリッシュ・ウナ】
[スタンド]:『スパイス・ガール』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』ラジオ番組に出演する直前
[状態]:健康
[装備]:吉良吉影のスカしたジャケット、ウェイトレスの服、遺体の胴体
[道具]:基本支給品×4
[思考・状況]
基本行動方針:打倒大統領。殺し合いを止め、ここから脱出する。
1.今の声……ルーシー!?
2.フーゴとジョナサンを探しに行きたいけど、DIOの館に行くべき?
3.地図の中心へ向かうように移動し協力できるような人物を探していく

[備考]
※19時に設定された禁止エリアはE-5でした。
※トリッシュを中心とした地図は他の遺体の点在箇所を示しています。部位は記されておらず、持っている地図に書き写されました。
  DIOの館以外に星が記されているかどうかは以降の書き手さんにお任せします。



◆ ◆ ◆

499 :ブレイブ・ワン ◆HAShplmU36 :2015/10/22(木) 01:00:52.84 ID:9KJvVVZO.net
(そうよ……あの男がやっていたのと同じ。私にだってできて当然だったのよ)

ベッドの上で少女は腹部を一撫ですると、いとし子に語りかけるように口を開いた。





『心が迷ったなら……やめなさい。ここで立ち止まるのは……カーズ、貴方にとって敗北ではない』




(あの化け物は神なんて信じてなさそうだけど、どんな声で聞こえているのかしら)

自分の時は大統領の仕業だと会うまでわからなかった。まあ、いかにも『それらしい』声で聞こえるのだろうと勝手に解釈して
手に持っていた『右眼球』を両手で包み込む。開いた時には先程までシーツの上に映っていた映像は消え、ただの干からびた遺体の一部に戻っていた。

「ありがとう。お返しした方が良いのかしら?」
「いや、俺はどうやら遺体に嫌われてるみたいなんでね。お前が持っていろ」

そう、トリッシュの遺体が生み出した地図は間違っていなかった。この場には遺体の部位が『4つ』あったのだ。

(DIOへの交渉カードとして隠し持っていた右眼球だったが、あっさり見破られちまった。この女、一度遺体の全てを取り込んだというのも頷けるな)



扉の外で足音が増えた



時刻は19時を少し回ったところ。
ムーロロは少し前から館周辺を数枚のカードに警戒させると参加者への監視を一旦全て解き、可能な限りのエリアにカードを飛ばして
次の禁止エリアを探っていた。会場の端から追い込んでゆくこれまでのエリア設定からして、このC-3が設定されている可能性はかなり低いと見ていたが、
結果はE-5と少し内側に食い込んできた。これを踏まえ今後の予測に脳内で修正を加えてゆく。

早くも回避策を編み出したグループがいたが、ここまで生き残った人間なら何ら不思議な事でもない。
むしろトリッシュ・カーズという二人の遺体所有者が新たに判明したことの方が重要だ。だが彼等の顛末を見届けたのは
薄っぺらいトランプの目ではない。ルーシーが右眼球を通して『見て』『話しかけた』のだ。

「お前が俺に大統領についての情報を洗いざらい吐いたのはこの為か」
「そうでもしなきゃ右眼球を渡して貰えそうになかったもの。でも、これでわかってくれたでしょう?」
「ああ。しかし犠牲を出し過ぎたな。もう少し早くカーズを見つけていれば良かったが、残りが逃げたなら良しとするか」
「片方だけだからかしら、視界が悪くて見辛かったわ……あの化け物は邪魔以外の何物でもないわ。どこか遠くへ誘導できたらいいのだけど」
「同感だ。まあおいおい考えればいい」



ステップを踏んで飛び回る足音と、重厚な足音、時折唸るような咆哮が混じる

500 :ブレイブ・ワン ◆HAShplmU36 :2015/10/22(木) 01:02:49.41 ID:9KJvVVZO.net
途切れていた会話は新たな情報を得たムーロロから再開した。

「ジョニィとディエゴを捉えた。偵察用の恐竜を想定して遠巻きに追跡しているから会話は聞き取れないが、おそらくこちらに向かっている。
 まああの辺りは随分崩落しているし、真っ直ぐ来ようと思ってもそれなりに時間がかかるだろうがな」

禁止エリアの確認と同時にトランプたちを再度参加者たちの追跡へと戻すと早速と言おうか、案の定近くにいたディエゴが一番に補足できた。
ジョニィが同行している理由は不明だが、一度は大統領を倒した男と大統領の後継たる器を認められた男の組み合わせは中々に面倒だ。

「それは大変ね。ねえムーロロ、あなたはこれから私をどうするつもりかしら」
「無意味な質問はよせ。今のところ俺達の利害は一致している、利用でも協力でも名目は何でも構わん」



咆哮は次第に甲高く、苦しそうなものへと変わる。時折金属音も響く。



どうやら自分は思った以上に今回のゲームの真相に近づいているのかもしれない。
遺体と深く関わり合った以上、最悪対大統領も視野に入れてディエゴとジョニィ、どちらかと協力関係を築きたくはあるが、
敵対している二人と同時に交渉するとなると必ずその場でどちらかと決裂しなければならない。
できれば一人とだけ交渉したい。どちらかが死んだ後ならなお望ましい。ならば今はルーシーを連れて奴らを避け、遠くから時に誘導しつつ
つぶし合いを眺めるのが最上と言えるだろう。
ディエゴから離れるという選択はルーシーも同じはずだ。既に彼女の行動が全てを物語っている。

「お前、トリッシュをディエゴに差し出す気だな」
「彼女は遺体を所有しているんですもの、出会ってくれればあの男の気を十分引いてくれるはずだわ。殺されはしないでしょう」
「餌を与えて時間稼ぎ、奴からより遠ざかる寸法か。大したタマだな」

一時は交流し、同世代の女同士通じるものもあっただろうに。何も知らない者を躊躇なく利用する姿は悪と呼べるかもしれないが
三人がこちらに来るならジョースターやフーゴ達に近づくことにもなるし、何気に後でカーズと鉢合わせしないルートをもう一度伝えていた。
仲間との合流のチャンスを作ってやったという点では善と呼べなくもない。



「ムーロロ、『幸福』とは何だと思います? 『天国』とはどこにあるのかしら?」




ひときわ大きな断末魔が響き、巨体が倒れ伏す音が聞こえてきた



◆ ◆ ◆

501 :ブレイブ・ワン ◆HAShplmU36 :2015/10/22(木) 01:03:25.39 ID:9KJvVVZO.net
唐突な質問にムーロロが答える事は無かった。代わりに切り裂かれた扉が音を立てて倒れ、
血塗られた洋刀を持った男と、口元を真っ赤に染め上げた男が二人の眼前に立ちはだかった。

「ムーロロみ〜つけた! おめー迷子かよダッセ〜な〜」
「……」

二人の後ろに恐竜の姿は無い。ただ血の海の中、身体を何か所も食いちぎられた白人男性と輪切りにされた黒人男性の二人が転がっていた。

「聞いてくれよ〜こいつら死んだら恐竜じゃなかったんだぜ! これってカラスだろ―……? インコ? スズメ?」
「サギだろ」
「そうサギだぜサギ! あれ、その女の子なんだー!?」
「私はルーシーよ。セッコ……よね。DIOから話は聞いていたわ」
「おーDIOの! じゃあ殺しちゃだめだよな。あれ、何でだったっけ?」

がぜん騒がしくなった。角砂糖は……ここに来るまでに無くなったんだった。
その面倒くさそうな顔を見て琢馬が無言で新しい角砂糖の袋を差し出してくる。とりあえず放り投げてセッコを黙らせた。
わざわざ探してきたらしい。なら琢馬の精神もまだ別の世界に逝ってしまった訳ではないようだ。

「これじゃあなた達、まるで東方の三賢者ね」
「まだ産まれていないだろ。お前から産まれると決まった訳でもない」
「いいえ、遠からず産まれるわ。今に私の元に全てが集まり、産まれて……そして……―――」



(狂った訳でも自棄になった訳でもなさそうだが……危ういな。次の一手はしまっておくか)

遠くを見つめるルーシーの瞳は善と悪、聖と邪、それらの境界を越えた遥か遠くを見据えているようで、未だ捕えどころが無い。
それがムーロロには不可解で、彼女を確実に揺さぶるだろう『スティーブン・スティール』について追及するのは避けた。

「ここの恐竜が死んだことはディエゴにもすぐ伝わるはずだ。早速だが移動するぞ。セッコ、また頼む」
「どこ行くんだ?」
「さて、どこへ行こうか……」



血まみれの歯をむき出しにして笑うセッコ
ルーシーの口から出た『幸福』『天国』というキーワード



(やれやれDIOめ、遺体だけでなく面倒なものまで遺してくれたもんだぜ)



◆ ◆ ◆

502 :ブレイブ・ワン ◆HAShplmU36 :2015/10/22(木) 01:09:28.94 ID:9KJvVVZO.net
【D−3 DIOの館/一日目 夜】


【ルーシー・スティール】
[時間軸]:SBRレースゴール地点のトリニティ教会でディエゴを待っていたところ
[状態]:処女懐胎
[装備]:遺体の頭部
[道具]:基本支給品、形見のエメラルド 、遺体の右眼
[思考・状況]
基本行動方針:??
0.ディエゴから離れる
1.ムーロロ達を利用し遺体を集める

※遺体の右眼をムーロロから譲渡されました。(サンタナの不明支給品でした)
※遺体を通してトリッシュ・カーズに声をかけています。(カーズに対しては『あの方』を装っています)
  トリッシュをディエゴの元まで誘導し、二人が出会うよう目論んでいます
※その他の遺体所有者を把握しているか、話しかけられるかは不明です

【蓮見琢馬】
[スタンド]:『記憶を本に記録するスタンド能力』
[時間軸]:千帆の書いた小説を図書館で読んでいた途中
[状態]:健康、精神的動揺(大)
[装備]:遺体の右手、自動拳銃、アヌビス神
[道具]:基本支給品×3(食料1、水ボトル半分消費)、双葉家の包丁、承太郎のタバコ(17/20)&ライター、SPWの杖、
不明支給品2〜3(リサリサ1/照彦1or2:確認済み、遺体はありません) 救急用医療品、多量のメモ用紙、小説の原案メモ
[思考・状況]
基本行動方針:他人に頼ることなく生き残る。
0.??
1.自分の罪にどう向き合えばいいのかわからない。
2.ムーロロ、セッコと行動。隙があれば始末する?

【備考】
参戦時期の関係上、琢馬のスタンドには未だ名前がありません。
琢馬はホール内で岸辺露伴、トニオ・トラサルディー、虹村形兆、ウィルソン・フィリップスの顔を確認しました。
また、その他の名前を知らない周囲の人物の顔も全て記憶しているため、出会ったら思い出すと思われます。

また杜王町に滞在したことがある者や著名人ならば、直接接触したことが無くとも琢馬が知っている可能性はあります。
ミスタ、ミキタカから彼らの仲間の情報を聞き出しました。
拳銃はポコロコに支給された「紙化された拳銃」です。ミスタの手を経て、琢馬が所持しています。
※スタンドに『銃で撃たれた記憶』が追加されました。右手の指が二本千切れかけ、大量に出血します。何かを持っていても確実に取り落とします。
 琢馬自身の傷は遺体を取り込んだことにより完治しています。

503 :ブレイブ・ワン ◆HAShplmU36 :2015/10/22(木) 01:10:03.41 ID:9KJvVVZO.net
【カンノーロ・ムーロロ】
[スタンド]:『オール・アロング・ウォッチタワー』(手元には半分のみ)
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』開始以前、第5部終了以降
[状態]:健康
[装備]:トランプセット
[道具]:基本支給品、ココ・ジャンボ、無数の紙、図画工作セット、川尻家のコーヒーメーカーセット、地下地図、遺体の脊椎、角砂糖、
     不明支給品(2〜12、全て確認済み、遺体はありません)
[思考・状況]
基本行動方針:自分が有利になるよう動く
0.遺体を揃えるためルーシーと行動。ただし警戒は怠らない
1.ディエゴに気付かれる前にこの場を離れる
2.セッコ、琢馬を手駒として引き留めておきたい

【備考】
現在、亀の中に残っているカードはスペード、クラブのみの計26枚です。
会場内の探索はハートとダイヤのみで行っています。 それゆえに探索能力はこれまでの半分程に落ちています。


【セッコ】
[スタンド]:『オアシス』
[時間軸]:ローマでジョルノたちと戦う前
[状態]:健康、血まみれ、興奮状態(小)
[装備]:カメラ(大破して使えない)
[道具]:死体写真(シュガー、エンポリオ、重ちー、ポコ)
[思考・状況]
基本行動方針:??
0.角砂糖うめえ
1.DIOが死んでしまって残念
2.人間をたくさん喰いたい。何かを創ってみたい。とにかく色々試したい。新しい死体が欲しい。
3.吉良吉影をブッ殺す

【備考】
『食人』、『死骸によるオプジェの制作』という行為を覚え、喜びを感じました。
千帆の事は角砂糖をくれた良いヤツという認識です。ですがセッコなのですぐ忘れるかもしれません。

※扉を守っていた恐竜はポコロコとスループ・ジョン・Bの遺体でした。ディエゴが本来監視に付けていた恐竜は現在ディエゴの元に向かっています。

504 : ◆HAShplmU36 :2015/10/22(木) 01:12:56.43 ID:9KJvVVZO.net
以上です。
仮投下から口調を多少変更、琢馬が角砂糖を寄越してくるシーンを少し加筆しました。
タイトルはジョディ―・フォスター主演の同名映画から。
作中でルーシーを表現したルノワール、フェルメールはそれぞれ『イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢の肖像』『真珠の耳飾の少女』をイメージしました。

ルーシーの時間が割と進んでしまったので後々ディエゴ&ジョニィを書かれる方には内容に制限が出てしまうのではと
危惧しておりましたが、◆yx氏がまさかのタイミングで書いてくださった為スムーズなリレーができました。
内容に多少の影響はありましたが良い影響でした、改めてお礼申し上げます。今後もジョジョロワを盛り上げてゆきましょう。

ここまで勝利続きで上手く立ち回ってきたディエゴですが、原作同様ジョニィにも勝利できるのでしょうか?
そしてジャイロの死を二度受け止めたジョニイ、痛々しくも強いです。今はディエゴに振り回されっぱなしですが遺体を手にする時がくるのか?
残りの遺体が僅かなこの状況、あれだけの支給品を持ちながらディエゴ涙目の展開も微レ存…w

505 : ◆yxYaCUyrzc :2015/10/23(金) 22:41:14.21 ID:sghuOGXV.net
投下乙です。
ルーシーの覚悟が何処に向かうのか…でも原作中でも「やる時はやる子」でしたから、案外自然なのかも!?
そして覚悟といえばナランチャも。トリッシュが彼の身長に気づくなど細かい描写も素敵でした。そしてブレない玉美w
禁止エリア確認も人数が多いからこそのアイデアで見事でした。

さて、私の作品「葛藤」をwiki収録しました、不足ありましたらご連絡ください。

506 :創る名無しに見る名無し:2015/10/25(日) 00:42:41.99 ID:NIKydcRK.net
お二方投下乙です!

・葛藤
うーむ相手があのDioとわかっていながら丸め込まれるジョニィ、話術でその場を乗り切るDioは流石と思いつつ恐ろしくもありますね
しかし目的のルーシーは…
放送の没案を拾ったのは「お前が言うんかいw」と突っ込みつつ良かったと思います

・ブレイブ・ワン
うわああ旦那の死を聞いてルーシーが覚悟完了しておられる…ムーロロとも手を組みこれからどういう行動に出るか戦々恐々です。
トリッシュ組が癒しではあるがルーシーの導きで今後の行動はどうなるか?フーゴやジョースターと合流できればいいが…

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