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【防衛】要塞を守りきれ!ファンタジーTRPGスレ3

1 : ◆ELFzN7l8oo :2016/04/08(金) 04:36:31.50 ID:Qk6jaXPx.net
 ロールプレイ(=想像上のある役柄を演じる事)によりストーリーを進める一種のリレー小説です。
(スレッドタイトルにTRPGとありますが、ダイスを振る本来のテーブルトークRPGとは異なります)
文章表現にはこだわりません。台本風(台詞とト書きによるもの)も可。重要なのは臨場感……かと。
なな板時代の過去スレが存在しますが、ここは創作板。なりきるのはストーリー内のみとします。
プレイヤー(=PL)はここが全年齢対象板であることを意識してください。過度な残虐表現も控えること。

過去スレ
【防衛】要塞を守りきれ!ファンタジーTRPGスレ
http://tamae.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1454123717/

【防衛】要塞を守りきれ!ファンタジーTRPGスレ2
http://tamae.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1457645564/

266 :百鬼将軍ボリガン ◆khcIo66jeE :2016/09/10(土) 08:54:08.52 ID:JNpI3IC0.net
オークとは、貪婪、強欲、残忍を絵に描いたような種族である。
エルフやドワーフのような他の亜人種のように、作物を栽培したり鍛冶技術を発展させたりという生産的行為は一切しない。
欲しいものは奪う。略奪、強奪、収奪――それがオークにとって唯一と言ってもいい掟である。
その掟はしばしば同族であるオーク間でも適用され、同胞同士の血で血を洗う殺戮劇が起こる。
えてしてこのような種族は繁栄などしないものであるが、しかしオークは厳然とこの世界に存在しており、その数が減ることはない。
それは、いったいなぜか。

答えは、このオークという種族の頂点に、絶対的な王権を有する支配者が存在しているから――。
百鬼将軍ボリガン。齢3000歳を超える、オークの伝説的な大酋長(グランチーフ)である。
豚面の魔神オルクスを起源とするオークの中でも、始祖たる魔神の直系と言われる、オークの帝王。
この規格外のオークがすべてのオークを支配し、統率し、導いているがゆえ、オークは滅びを知らないのだ。

オーク族は、元々魔王の軍には属していなかった。同じ闇の属性を持つとはいえ、オークはあくまで独立した一種族であった。
が、ボリガンが魔王との戦いに敗れその配下となったがゆえ、支配下にある一族も併せて魔王軍に組み込まれたのである。
とはいえ、一敗地にまみれ魔将の地位に甘んじても、オークの王たるボリガンの威厳は些かも輝きを喪失してはいない。
――いや、それどころか増してさえいる。
眷属であるオーク(豚頭鬼)の他、魔王より与えられた『食人鬼(オーガ)』『小鬼(ゴブリン)』『獣鬼(トロール)』の戦力。
この世に蔓延る鬼たちを統べる、百鬼将軍として。

そんな百鬼将軍ボリガンが、自ら一軍を率いてエスメラインとラファエルを追跡している。
いかにも鈍重そうな外見だが、しかし意外とその行歩は速い。悪路を走破する方法を熟知しているがゆえだ。
すでに、獲物は視界に捉えている。逃がしはしない。

「そろそろドワーフの穴ぐらに到着するか……」

地響きを立て、地面に大きな足跡を刻みながら、ボリガンは片手で顎鬚をしごいた。
ドワーフ。2000年前には魔王の勅使として思う様に蹂躙し、凌辱し、殺戮してやった相手である。
魔王が封印されてからは自らも軍属の戒めを解かれたため、表だってことを構えることはしなかったが、2000年間小競り合いは続いている。
魔王が復活したならば、以前のように蹂躙する以外にはない。ボリガンの意識はもう、戦いが終わった後の饗宴に向いている。

――男は奴隷として魔王にくれてやればよい。だが、女はもらう。全員、我が眷属の孕み腹にしてくれよう。

そんなことを考える。オークを統べる大酋長として、優先すべきは一族の反映。それしかない。
オークに雌はいない。生まれる仔はすべて雄であり、オークは他種族の雌を孕ませることで殖える。
母体の種族を問わず、オークの種は絶対にオークになる。いかなる種族を母体にしても増殖する、それがオークの強みだ。

ゴブリンの斥候が、獲物が古森に入ったと報告してくる。
ボリガンも率先して森に入る。前方に、人間の小さな姿が見える。

《捕えよ!!》

唸り声のようにも聞こえるオーク語で命令する。オークたちが途端に嘶きながら、エスメラインとラファエルへ駆け出してゆく。
が。
追い詰められた獲物は何を思ったか、前方の滝へと身を躍らせた。
自殺にも等しい行為だが、といって安心してもいられない。せめて死体は確認すべきだろう。
それに、ここまで軍団を率いてわざわざやって来ておきながら、こんな結末ではお粗末に過ぎる。
軍を統率するに最も必要な要素とは、『旨味を与えること』――これにつきる。

「……フン」

ボリガンは滝壺を覗き込み、一度鼻を鳴らすと、すぐに踵を返した。

《穴ぐらへ向かうぞ。全軍に伝えよ、今のうち腹を減らしておけ……とな!》

267 :百鬼将軍ボリガン ◆khcIo66jeE :2016/09/10(土) 08:56:16.99 ID:JNpI3IC0.net
名前:百鬼将軍ボリガン
年齢:不明(少なくとも3000歳以上)
性別:男
身長:320cm
体重:780kg
種族:オーク
職業:魔将軍(百鬼将軍)
性格:一見粗野だが、その実計算高く知恵が回る
長所:鷹揚、王の威厳を持つ
短所:オーク至上主義、息がくさい
特技:性豪、絶倫
武器:無数の髑髏が埋まった巨大な棍棒『黒髑髏(チェルノタ・チェーリプ)』
防具:なし 
所持品:八大魔将のひとりを示す九曜のメダイ
容姿の特徴・風貌:
銀灰色の巨躯、張り詰めた固太りの丸い腹、丸太のような双腕と安定感のある短い脚
首や両腕、十指にこれ見よがしに煌びやかな装飾品をつけ、虎皮でできた脛丈の腰布を巻く
右腕から右胸にかけてトライバル模様の刺青あり。頭にオークの王を示す小さな王冠
ブタそのものの顔つきだが、ブタにしては精悍。長い顎鬚。下顎から一対の長大な牙が生えているが、右の牙は半ばから折れている

簡単なキャラ解説:
魔王軍八大軍団のひとつ『妖鬼兵団』を統べる八大魔将のひとり『百鬼将軍』。
オーク族の伝説的な大酋長(グランチーフ)であり、元々はオークを束ねる王として西域に君臨していた。
2000年前、魔王との戦いに敗れその軍門に下る。
表向き臣従しているが、忠誠心といったものはさらさらなく、魔王のことは同盟相手程度にしか思っていない。

268 :皇竜将軍リヒト ◆khcIo66jeE :2016/09/10(土) 09:00:53.87 ID:JNpI3IC0.net
>こ奴の処遇、其処許に任せる

魔王がそう告げ、玉座に腰を下ろす。
ルカインにそうしたように心臓を抉り出し、糧とするかとも思ったが。意外な判断にリヒトは一度目を瞬かせた。
しかし、それならそれで一向に構わない。リヒトは一度恭しく礼をすると、

「――弟の不始末の責任は、兄に取らせるが筋」

と、静かな声で言った。
立ち上がり、うつ伏せになっているミアプラキドスを見下ろすと、リヒトは血色のマントをばさり、と翻した。
途端にぶわり、と漆黒の波動が溢れ、のたうち、強い風となって謁見の間に吹き荒れる。
が、それもほんの短い間のこと。無軌道に荒れ狂っていた波動はやがてリヒトの眼前で凝縮され、虚空に穴を穿った。
リヒトはためらいもなく穴の中に右腕を入れる。そして、引き抜いた腕が掴んでいたものは――

ベテルギウスが纏っていた黒い魔導衣と、魔法の義手。

左腕をミアプラキドスへと翳す。ふわり、とエルフの長老の身体が宙に浮かぶ。
右手に持っている魔法の義手を、ミアプラキドスの左肩に押し当てる。ジュウウ、と肉の焼ける不快な臭い。
ミアプラキドスが呻く。が、斟酌しない。
魔法の作用か魔気の働きか、ベテルギウスが身に着けていたときには右腕であった義手が、瞬く間に左腕へと変化する。
さらに、リヒトは漆黒の魔導衣をミアプラキドスに着せる。フードが長老の頭を目深に覆い、顔を濃い闇で隠してしまう。

義手と魔導衣には、魔王の闇の波動がたっぷりと染み込んでいる。ベテルギウスを魔将たらしめていたのは、このふたつの働きが大きい。
一介のエルフにすら、高位魔族なみの力を与える魔導具――。
今後はこれらがミアプラキドスの肉体を通して降魔兵団へ魔力を供給することになる。
ミアプラキドスにとっては、着用しているだけでも想像を絶するほどの苦痛を伴うであろう。
だが、死ぬことはできない。魔導衣がミアプラキドスを拘束、支配しようとすると同時、生命維持の役割も果たすからである。

義手の部位が左右逆であることを除けば、無影将軍に瓜二つな姿へミアプラキドスを変貌させると、リヒトは再び魔王に一礼した。
そして、自らの居場所――魔王の玉座の傍らに控える。

――エルフの長老ミアプラキドス。貴方が真にこの世界のことを憂うならば、この呪詛に打ち克ってみせるがいい。
――呪詛に屈し、新たな無影将軍として魔に服するならばそれまで。勇者の血は絶え、世界は闇に覆われよう。
――だが。もしも光によって呪詛を退け、希望を未来に繋げることができるなら……。

禍々しい兜の奥から静かにミアプラキドスの姿を見つめ、リヒトは考える。
魔王への造反を意図しているわけではない。自分は皇竜将軍であり、魔王の側近。魔王への忠誠が揺らぐことはない。
だが、リヒトには八大魔将とは別の。もうひとつの役目がある。



『裁定者』としての役目が。

269 : ◆ELFzN7l8oo :2016/09/13(火) 06:26:47.31 ID:22CVRzhj.net
苦痛のあまり床を這い、時折獣のような唸り声を上げるエルフの長。彼の中で【光】と【闇】とが鬩(せめ)ぎ合っているのだ。

魔王は2,000年前、ベテルギウスに同じ処置を行っている。
すでに闇を宿していたベテルギウスはこれほどに苦しまず、あっさりと魔王の魔気を受け入れた。
しかしその兄は違う。実弟を手にかけた僅かな曇りはあるものの、その魂は清らかなる清流の如し。
闇に侵される苦痛は比較にならぬ程に絶大だった。
次第に美しい銀髪が白髪となり、魔道衣から除く手指の爪が鋭く伸びた。白い肌は灰の色に染まっていく。

「リヒト。恐ろしい男よ。この者にとっては……今この場にて処断されるが幾許か楽であろうものを」

半ば独り言のように呟き、王座に背を預ける魔王。
無論、心中は言葉通りでは無い。むしろ赤い眼は爛々と輝き、背の翼は至上の喜びに打ち震え、口元は愉悦に歪む。
完全な精神体である魔王が糧とするのは、何も血や心臓に限ったことではない。
生けとし生きる者が発する負の感情――負のエネルギー。
悲嘆にくれる者や肉体的苦痛を受ける者、そして死への恐怖に慄く者の苦鳴、絶叫もまた、美味なる糧のひとつ。
特にその贄が聡明で気高く、かつ美しい者であれば尚更だ。
ミアプラキドスは1,000年の月日を経た大老クラスのエルフ。一部の者にハイ=エルフと云わしめ、かつその血筋は高貴。
今まさに闇に落ちんとするその様相は、古に魔と契約しダーク=エルフとなった者達と良く似ていた。

リヒトはただ合理的かつ理知的なる判断を以て、ミアプラキドスにベテルギウスの荷を負わせたのだろう。
或いは別の……とある意図を以て事を運んだだけかも知れない。
しかし、玉座前にて繰り広げられるそれは、王の征服欲・支配欲を満たすに十分な光景であった。
それが勇者の心臓に匹敵するエネルギーと成る得ると、誰が予想しただろう。

恐ろしい咆哮が謁見の間を揺るがした。
漆黒の濃い霧が空を満たす。
王と同じ魔気を持つリヒトには見えただろうか。王の背に――四対目の翼が生えていたのを。

270 : ◆ELFzN7l8oo :2016/09/13(火) 06:27:39.32 ID:22CVRzhj.net
「陛下!! そろそろ宜しいかと!!」

ラファエルが滝の轟音に負けぬ声で叫ぶ。
両の手で彼の腰にしがみついていた王が手を離し、突き出た岩の端にストンと降りた。
ラファエルもそれに習い、飛び降りる。引き抜いた魔剣の柄が、リンと鳴る。
飛び降りる振りをして岩壁に剣を付き立てやり過ごす。良くある手だが、急な角度が幸いしオークの眼に止まらずに済んだようだ。
眼前に広がる光景を改めて眺める。
滝の幅は650ヤード(約600m)はあるだろう。その高さも、遥か下方を流れる川の幅も相当だ。
おそらくは大陸で最も大規模の瀑布。いかに強靭な足腰を持つオーク達も、道を回るに時間を要するに違いない。
崖からは枯れかけた木の幹や根がいくつも顔を覗かせていた。王がその幹へと狙いをすまし、身を躍らせる。
純白の衣を翻し、ヒラリヒラリと飛び移る様はまるで……天女。
などと放心する彼の頭上から、パラパラと振りかかる石砂。見上げた先にはこちらを見下ろす数匹のオーク。
見張りとして残したのだろうが、その突き出た腹が邪魔なのか足腰に自信がないのか、下に降りてはこない。
しかし目撃されたのは事実。急がねばならない。

「陛下ーー!! こちらです!!!」
腹の底から発した声に、女王が呆れ顔で振り向く。
「そこまで大声でなくとも聞こえる」
世にも珍しい王のぼやき。
一見ただの切り立った岩壁に、アルカナ=ブレードの柄頭をかざす。この石が元へ帰る意思があるのなら、鍵は開くはず。
ややあって人一人通れる幅の穴が開いた。

何処までも続く闇の洞窟。否、人工の通廊は、滝の下を潜り、ドワーフの地下神殿へと続く最短の道だった。
速足で駈けていく二人。
おそらくはルーク達と同じか、遅れても少々と云った所だろう。

271 :ルーク ◆ELFzN7l8oo :2016/09/13(火) 06:29:05.59 ID:22CVRzhj.net
――グリフォンってこんなに高く飛ぶんだ!! 凄いなあ!!
でっかい大河に青い山脈、どっかの古い街並。とにかく絶景!!

俺達三人がしがみついてるグリフォンが、それに答えて雄叫びを上げる。――いやいや、その声だけは勘弁して!!
と思ってったとたんに急降下。……また降りる?  山のてっぺんで休むの、これで10回目だよ。
文句を言うのもグリフォンに悪いんで、俺はその度にライアンや父さんを質問攻めにしていた。
こんな時じゃないと聞けない事、いっぱいあったからさ。

「父さん。あのでっかいゴーレムに弱点はあるの?」
少し考えて父さんが口を開く。
「ルーク。ストーンゴーレムにあって、我々に無いものは何だ?」
「……桁違いの腕力、かな」
「では彼に無く、我々にあるものは?」
「呪文……とか?」
父さんがニヤリと笑う。
「それはそうだが、奴等は魔力耐性があるからな。一番の違いはスピードだ。奴等は我等より『遅い』」
「逃げたり避けたり出来るってこと? でもそれじゃ結局勝てないよね」
「最強の盾と矛の話を知ってるか?」
――そりゃあちっちゃい頃父さんが聞かせてくれた子守話だからね。え? それがヒント?

グリフォンが翼を広げたんで、慌てて首にしがみつく。再び空高く舞い上がった俺達。チラリと見えた大滝の音が耳に届く。
「すごい!! あの滝のそば、通ってみたい!!」
「アホか。物見遊山じゃないんだぞ」
答えたライアンの顔が強張った。――なに? 何か居るの?
彼の視線を追って、目を凝らした。大滝の向こう側にプディングみたいに形のいい岩山がひとつ。
その山に城壁が張り付いている。良く天然の谷合とか山を掘って要塞にするって聞くけど、あれもそうなのかな。

「ライアン! もしかしてあれ、ドワーフの!?」
「そうだ! 地下都市の入り口だ! あれを見ろ!」
指差されたその先。城壁に向かってぞろぞろ動く何かの……大群?
「あの旗印、魔王の軍だ。……約50(万)。やけに多いが……古竜でも相手にするつもりか?」
「あの刺青は百鬼将軍ボリガンに違いない。オークにゴブリン、オーガにトロール。化け物のオンパレードだ」
……ライアンも父さんも、どんだけ目がいいんだよ。俺には黒っぽい点にしか見えないよ。

その黒点が大小様々の人の形を取り始めたその時、城門の扉がゆっくりと開いた。
野太い雄叫びを上げてどっと溢れだしたのは、鎧に身を固めたドワーフ達。こっちもなかなかの数。
子馬に跨り、でかい斧を振り上げたドワーフが一人、何か叫んでる。
ドワーフ語は良く解らないけど、あの感じだと、ここは通さん! とか、返り打ちにしてやる! とか言ってるんだろう。
着込んでるのはラファエルみたいな派手な銀ピカの鎧。王様なのかな? 
両軍を分けるように一文字に駆け抜ける王様。それに答え、盾を壁にしたドワーフ達が横一列の陣形を取りはじめる。

「降りるぞ」
父さんがいきなり俺の背中を押した。え? と思った時には、俺は開いた城門目がけて逆さまに落ちていた。
――うーん久しぶり! 父さんってば、主塔のてっぺんから良くこうやって俺を突き落としてくれたよね? 
あの遊び、こういう時の為だったんだ! 

地面すれすれで唱えた【浮遊】の呪文。フワリと浮く感覚。浴びる怒号。――え?
俺に気づいたドワーフ達が、斧を構えて襲いかかって来た。そりゃまあ……怪しいの極致かもだけど、いきなりは無いんじゃない?
「待って! 俺の話をうわああああ!!」
俺は振り下ろされた斧をすんでの所でかわし、開いた城門から中に飛び込んだ。

「ちょ・何だよ! ドワーフって気ぃ短過ぎ!!」
さらに外へと流れる大量のドワーフ達を飛び越え、誰かの兜の上に着地、そのままジャンプを繰り返す。
頭を踏まれたドワーフが怒って腕を振り上げている。――ごめん! 丈夫そうだったんで……

そうこうしてる内にドワーフの波が引いた。俺のまん前に立ってたのは、神官服を着込んだ白髭のドワーフ。
「貴方が……ルーク殿じゃな?」
いつの間にか、俺の両脇に父さんとライアンが立っていた。
「話は聞いとりますじゃ。こちらへ」

272 :シャドウ ◆ELFzN7l8oo :2016/09/13(火) 06:32:00.50 ID:22CVRzhj.net
エルフに負けぬ……いやそれ以上の見事な彫刻が施された石壁、柱。
エルフのそれは白と銀を基調とする。対し、ドワーフの神殿は集茶と金だ。素晴らしく重厚かつ絢爛。
松明の明かりで照らされた広い空間はまるで大伽藍の内部のようだ。そんな空間を幾つも抜け、通廊はやや狭く、下りとなる。

「そう言えば父さん、あの人達を放っといて良かったの?」
「ワシらを……案じられとるのかの? 勇者どの」
白髭の老神官が振り返る。
「加勢は無用じゃ。昔からの因縁、我々ドワーフの戦でもあるのじゃ。王も望むまいて」
「でもさ、魔王軍の数、ハンパ無かったじゃん! 王様死んじゃうよ!?」
「ご案じ召さるな。我等が王も歴戦の勇者。そう簡単にはやられぬじゃろう」

いったい何処まで続くのかと思われた通廊が途切れた。
ひと際広い……神聖なる大聖堂。
祭壇に置かれた石の棺。『戦士の石』を納める棺に違いない。

カツン……

祭壇の後ろの扉が不意に開き、現れた人影はやはり……
「ラファエル! ……と綺麗な女王様!」
――ルーク。思った事をすぐに口にするその癖、直さねばな?

「シャドウ。何故貴様らがここに?」
小馬鹿にした体で我等を見下ろす、もと上官。その横に立つ美貌の王。今更敵に回るとは思えぬが……
「『戦士の石』をお渡し願いたい。魔王を封ずる結界のひとつ、願いは同じ筈だが?」
「さて……どうしたものか……」
ラファエルと一戦交えるのは御免だ。あの鎧はミスリル。対抗出来得るは圧倒的な破壊力を持つストーンゴーレムか或いは……

しばし睨みあう。
突如響く轟音。やはり来たか。予想より遥かに早い。
「……でか……!」
ルークの呟きが聖堂内を木霊した。身の丈は我等の倍を超すだろう、灰色の巨体がこちらを見て笑った。

273 :百鬼将軍ボリガン ◆khcIo66jeE :2016/09/15(木) 22:23:11.15 ID:4mezei/r.net
ルークたち一行とアルカナンの女王エスメライン、そしてラファエル。
ドワーフの神殿の中で邂逅した者たちの視線、その先に。
両開きの重厚な扉を黒光りする棍棒の一撃で蝶番ごと吹き飛ばし、巨大な銀灰色のオークが現れる。

「2000年前の戦いでは、徹底的に破壊してやったものだが……。よくもここまで復興させたものよ」
「善い。なれば、今一度灰燼に帰せしめようぞ。我が妖鬼兵団の力でな……ブッフフフフフッ」

片牙の生えた分厚い唇を笑みに歪め、巨大なオーク――百鬼将軍ボリガンが嗤う。
その背後から、バラバラと配下のオークやトロールたちが現れては、神殿を我が物顔で占拠し一行を取り囲む。
ボリガンは感慨深げに猪首を巡らせ、ドワーフの神殿を眺め回していたが、ゆるりとルークたちに視線を向けると、

「ベルゼビュートの落とし種を狩りに来て、勇者と鉢合わせるとは。これは僥倖……太祖オルクスの加護は今も余にあると見ゆる」

そう、愉快げに言った。

「やりたいことは色々あるが、先ずは魔王との約定を果たさねばなるまい。――ベルゼビュートの落とし種よ、『戦士の石』を渡してもらおう」
「肯(うべな)うならばよし、格別の慈悲をもってその方らの命は助けよう。しかし……」
「非と返すならば、殺す。我が眷属に命じ、ありとあらゆる阿鼻と叫喚を交え、その方らにこの世に地獄を味わわせてくれようぞ」

ルークの腕より太い指をエスメラインへと向け、王者の風格さえ漂わせて、ボリガンが告げる。
兵団のオークやオーガ、ゴブリンたちが下卑た笑みを漏らす。
それは一見提案のように聞こえはするものの、恫喝以外の何物でもない。
エスメラインが石の譲渡を拒絶するのなら、ボリガンは躊躇いなく言った通りの行動に移るだろう。
降魔兵団のストーンゴーレムなどと比べ、妖鬼兵団の個々の戦力は決して高くはない。
が、だからといって妖鬼兵団が降魔兵団に劣っているということは決してない。
第一に、その活動するために必要なエネルギーのすべてを魔王からの魔力供給に頼っている降魔兵団と違い、妖鬼兵団は独立独歩の兵団である。
第二に、ただ個々で暴れるだけの降魔兵団と違って、妖鬼兵団は隊伍を組み組織的な軍事行動を取ることができる。
第三に、これが妖鬼兵団の最大の強みなのだが――妖鬼兵団は『多い』。
その数は魔王軍にあっても最多。ボリガンがドワーフ攻略に用いたこの50万さえ、妖鬼兵団の一部に過ぎない。
例え仲間が殺されても、屍を乗り越えて続々と押し寄せる。人海戦術ですべてを押し潰す。
その戦い方で、2000年前もボリガンらはこの世界で猛威を振るったのである。

「で……。その方らが無影将軍を葬った勇者の一行か。このような輩に遅れを取るとは、知恵袋などと言っても所詮エルフよな」
「まあ善い。その方らも後で相手をしてやろうゆえ、隅で控えておれ。石を得たのち、腕前を検分して遣ろう」
「この、オークの帝王ボリガンがな――!!」

けばけばしい、とも言える五指の指輪をこれ見よがしに突き出し、オークの支配者が荘重な様子で言葉を紡ぐ。
外では血で血を洗う戦いが繰り広げられている。神殿は魔王軍が包囲している。
選択肢は、ふたつにひとつ。



石を渡して傅くか――死ぬか。

274 :ルーク ◆ELFzN7l8oo :2016/09/17(土) 17:05:45.28 ID:m3zUtfFq.net
「あれは……」

壊した扉から中に入って来た……灰色に光る……
「トロール?」
「顔つきを良く見ろ。オークだ」
――うそ! あれがオーク!? 腕なんか俺の胴回りより太いんですけど!
「もしかしてあいつが百鬼将軍!?」
「そうだ。あのボリガンこそ、かつて大陸の西域を支配していたオークの親玉だ」
ボリガンがギラッと眼を光らせてこっちを見た。
ごわごわっとしたオスの山羊みたいな顎髭に、ちっさいトゲトゲの王冠。いかにも大自然の酋長って感じ。
どうして長ネギ咥えてるんだろうって思って良く見たら、はみ出した白い牙だった。右の牙は誰かに折られたのかな?
胸から肩にかけて走る、ぐるぐる巻きの変な模様の刺青はちょっとカッコよかったり。

「ルーク。見とれてる場合か……?」
いつの間にか俺達をズラリと囲んでいた下っぱのオーク達をぐるりと見回し、ライアンがグラディウスを抜く。
一匹一匹はたいした事なさそうだけど、その数が凄い。倒してもキリ無さそう。

>2000年前の戦いでは、徹底的に破壊してやったものだが――

ボリガンが悠々と話し出したんで、俺はちょっぴり拍子抜けした。
だってオークって、知能低そうじゃん? (オークの読者が居たらごめん! あくまで俺個人の見解だから!)
話合いとかするイメージ無い。だいたい公用語、しかもあんな古めかしい言葉話す威厳たっぷりのオーク。……なんか凄い。
そのボリガンが、棺の前に立つ女王をピタリと指差した。

>ベルゼビュートの落とし種よ、『戦士の石』を渡してもらおう
>肯(うべな)うならばよし、格別の慈悲をもってその方らの命は助けよう――非と返すならば――殺す。

高らかに笑う声が女王の答えを遮った。ラファエルだ。
ガチャリ……と鎧の音を立てながら、落ち着いた足取りで女王の前に進み出る。

「笑わせるな。薄汚い豚の分際で我等と交渉など――億万光年早いわ!」

ズラリっと腰の大剣――アルカナ=ブレードを抜いて、切っ先をボリガンの眉間に合わせるラファエル。

――うわお! とっても解りやすい宣戦布告!

プッと噴き出した父さんとライアン。女王とドワーフの神官までもがゲラゲラ笑いだした。
バツが悪そうに俺達を見つめるラファエル。
ごめんごめん、若輩の俺だって笑っちゃったよ。あんまり真っ直ぐでさ。
偽物渡して誤魔化すとか、相手の弱みに付け込むとか、そういうのしないんだ。いいじゃん! 真っ向対決! 
そう思ったら、急に腹の底が熱くなってきた。
ボリガンに「隅にひかえてろ」なんて言われても構うもんか。徹底的に援護するよ! ラファエル!

父さんがジリリと後退し、棺の横に屈みこんだ。ブツブツ呟く声。……このスペル……【解錠(アンロック)】?
何度か違うスペルを試してるとこ見ると、この棺には複雑な魔法の【錠】が掛ってるみたい。
つまり、鍵を解かない限り、父さんは戦闘に参加出来ない。魔法使えるの、俺だけって事だ。良し!

【熱き炎の精霊よ いまここに集い火を灯せ 矢となりて敵を撹乱せん】

俺お得意の炎の矢。あのオーク達が近づかないように火矢を周りに旋回させるつもり。20本くらいで足りるかな。
パチンと指を鳴らすと同時に光る矢が出現。それを見たラファエルとライアンがボリガン目がけて走りだした。

「覚悟しろ! 陛下には指一本触れさせぬ!!」

ラファエルが吠える。剣を上段に構え高く跳躍し、ボリガンの眉間目がけて振り下ろす。
ライアンは低い姿勢のままボリガンの横に回った。むき出しの膝下を狙い、剣を横に薙いだ。

275 :百鬼将軍ボリガン ◆khcIo66jeE :2016/09/18(日) 18:43:13.66 ID:Vmkhxtc8.net
「ほう……。慈悲などいらぬと申すか。かつての同胞(はらから)の裔(すえ)と思い、情けをかけたつもりだが」
「善い。ならば、こちらも遠慮なく――我ら本来の流儀にて、罷り通るだけのことよ」

血気盛んなラファエルの挑発に、ボリガンがニタリ……と分厚い唇をの端を吊り上げて笑う。
剣を抜き放ち、一気に駆け出してくるラファエルとライアン。その鋭利な切っ先が、ボリガンを狙う。
――が、ボリガンは身構えることさえしない。長い顎鬚をしごき、悠然と嗤っている。
ラファエルのアルカナ=ブレードが、ボリガンの眉間めがけて振り下ろされる――

しかし。

「陛下には指一本触れさせねエ――サルどもが!その言葉、そっくりそのまま返してやるぜェ!」

アルカナ=ブレードの刀身が、ラファエルとボリガンの間に割って入ったオークの胸板を深く斬り裂く。
血飛沫を撒き、どう、と倒れるオークの尖兵。同様にライアンの膝下狙いの一撃も、他のオークによって阻まれてしまう。
幾度やっても、結果は同じ。ただ、増えるのはラファエルたちの前方に積み上がってゆく、オークの死骸のみ。
文字通り身を捨てて主君の盾となり、死んでゆくオークたちの姿を一瞥し、ボリガンが嗤う。

「善い。善いぞ、忠勇なる我がしもべたちよ。その方らの忠義満足である、後は安らかに太祖オルクスの懐に抱かれるが善い」

帝王の言葉に呼応するかのように、新たなオークたちがわらわらとラファエル、ライアンの行く手を遮る。
ボリガンは何も、恐怖や暴力によって無理矢理一族を支配しているわけではない。
オークは『迷信深い』。
一族の祖、神話の魔神オルクスの目がいつでも自分たちを見ていると疑わず、その加護を望み、祟りを畏れる。
そして、オルクス直系を公言し、3000年の時を生きる規格外のオーク――ボリガンの存在は、そんなオークたちの目にはまさにオルクスそのもののように映るのである。
よって、ボリガンの盾となって死ぬことさえ厭わない。
ボリガンの、そしてオルクスの為に死ぬことは誉れであり、オークにとっては喜びですらあるのだ。
なお、名誉の死を遂げたオークはオルクスの膝元である冥界で美女(ブタ)に囲まれ、酒池肉林の毎日を過ごせるという。

「ブフフフフ……どうした?我が家臣はまだまだおるぞ、いつになったら余に覚悟とやらをさせるつもりか?」
「その方らの刃は、余には届かぬ。しかし我が威光は遍く世を照らし、新たなる妖鬼の世界を形作る礎となる――」
「まずは。我が吐息にて、この穴居人どもの神殿から糜爛させてくれようぞ!」

多勢に無勢。人海戦術で自らの前に分厚い肉の壁を形成すると、ボリガンは徐に得物の棍棒を掲げた。

276 :百鬼将軍ボリガン ◆khcIo66jeE :2016/09/18(日) 18:49:37.60 ID:Vmkhxtc8.net
「此れぞオークの至宝、『黒髑髏(チェルノタ・チェーリプ)』。今ぞ、その力の一端を開帳せん!」

ボリガンが右手に携えた巨大な棍棒を大きく掲げる。
棍棒は全長2.5メートルはあろうか。太さはルークが両腕で抱えても手が回りきらないほどに太い。
てらてらと黒光りするその胴部には、口を大きく開いた無数の髑髏が埋め込まれており、よりその禍々しさに拍車をかけている。
そんな巨大な棍棒を頭上で一度回転させると、何を思ったかボリガンは得物の柄尻を口に銜えた。
そして一気に、

「ブフゥ――――――――――――――――――ッ!!!」

と、まるで喇叭でも吹くかのように自らの息を吹き出した。
その途端、『黒髑髏』に埋め込まれた無数の髑髏の開いた口から、茶色の突風が凄まじいばかりの勢いで放出される。
それはボリガンが放った吐息だった。『黒髑髏』を通して拡散された吐息が、瞬く間に神殿を満たしてゆく。

ボリガンの息は『臭い』。
そのにおいは尋常ではなく、飛ぶ鳥を落とし、生きとし生けるものを悶絶させる。
『臭い』ということは、脅威である。
度を越した悪臭は催涙効果を及ぼし、嘔吐を誘発し、呼吸困難、混乱、盲目、麻痺、毒など複数のステータス異常を同時に発症させる。
そして、最終的には死に至る。それはドラゴンの炎の息、氷の息などブレス攻撃と比べてもまったく遜色がない、否――より厄介ですらある。
そして、同族であるオークはボリガンのブレスを嗅いでも活動に支障をきたさない。
つまり――
オークはこの神殿内においては、くさいいきに苦しむルークたちをペナルティなしで攻撃できる、ということである。
仮に風の魔法を用いて拭き散らそうと試みても、ここは屋内である。においは撹拌されるばかりで消えはすまい。
また、このブレスはボリガンの体内で生成された腐敗ガスが主成分の為『燃える』。
ブレスとルークの炎の矢が接触すれば、その瞬間に爆発するであろう。

「ふん……。2000年のうちに、我が恐怖の伝説を知る者も死に絶えたか。余のことを知悉さば、提案を断るなどという選択肢はそもそも出ぬであろうにな」
「まあ善い。余は約定は守る。ベルゼビュートの落とし種よ、それではありとあらゆる阿鼻と叫喚を交え、その方らにこの世の地獄を味わわせて呉れようぞ」
「此れよりが、地獄の旅の一里塚。もはや、その方らの進退窮まったわ!」

筆舌に尽くしがたい悪臭の芬々と漂う神殿内で、オークの帝王が嗤う。
ラファエルへ、ライアンへ、オークが――ゴブリンが、オーガが、トロールが――妖鬼兵団の軍勢が雪崩を打って襲いかかる。

重厚かつ剛健な、黄金の神殿の中。
醜悪な鬼たちのおらびが、幾重にもこだまして聞こえた。

277 :創る名無しに見る名無し:2016/09/19(月) 21:47:40.48 ID:EdUL1/YM.net
ルカインとベリルの子はどうなったん?

278 : ◆ELFzN7l8oo :2016/09/21(水) 17:50:16.66 ID:UwS5r674.net
【遅れていて申し訳ありません。投下は明日になります】

279 :シャドウ ◆ELFzN7l8oo :2016/09/22(木) 05:57:32.32 ID:eLjYJXqi.net
二つの剣が肉を裂き骨を絶つ。上がる血飛沫。――しかし……

「なんとっ!!?」「なにっ!?」

驚愕と失望の入り混じる声。ボリガンが防いだのでは無い。手下のオークが肉の壁となったのだ。
二人共に生粋の剣士。スピードも呼吸も一流だ。それを――止める? 自身の肉体を盾としただと?
彼等とボリガンの間隙に割って入る素早さもさることながら、真に驚くべきは「何故にそのような行動を起こしたのか」だ。
オークとはこれほど忠義に厚い生き物だったか? 

>――その方らの忠義満足である、後は安らかに太祖オルクスの懐に抱かれるが善い

――なるほどオルクス。直系を名乗るボリガンに真祖オルクスを見ているのか。
して彼が為に死してこそ抱かれるその懐は……相当に魅惑の地であるのだろう。でなけでば合点がいかぬ。
次々とその身を晒し、剣を受け息絶えるその姿に何故に悲愴の色が無いのか。むしろ嬉々としているのは何故なのか。
本当に楽園があると信じ、殉ずるオークとは……なんと一途な生き物だろう。
桃源郷というものが本当にあるならば、是非にも行ってみたいものだ。美しい池、花。其処此処に侍る美しい女人達(エルフ)。

「シャドウ。鍵は開かぬか」

女王の声で我に帰る。つい思考が脇道に逸れるは悪い癖だ。
呪文を唱えつつ、チラリと棺脇に座るドワーフの神官を見やる。黒く長い眉が目元を覆い、表情が見て取れぬ。
本来であれば棺の鍵を開ける役目は彼のはず。施錠の手段が魔法なら、それを解くスペルか魔道具を持って然るべきだが……何故?
ドワーフがこの視線に気づき暗い笑みを浮かべた。黒い髪がザワリと波打つ。
――? この神官、先程まで白髪ではなかったか? 

そう思った矢先、ボリガンが手にした棍棒を翳すのが見えた。
桁外れに巨大な武器、表面にあしらわれた骸骨がいくつも口を開ける――あれは噂に聞く『黒髑髏(チェルノタ・チェーリプ)!
そのあまりの様相に集中を削がれたか、ルークの放つ火矢がすべてあらぬ方角へと飛び、消える。
――しかしそれは幸いだったのだ。奴の吐息は――

「ルーク! 息を止めろ!!」
呪文を中断し叫ぶ。喧騒の中、この声が届くかルーク!!

280 :ルーク ◆ELFzN7l8oo :2016/09/22(木) 05:58:52.82 ID:eLjYJXqi.net
俺の放った炎矢はオークやトロール達を十分過ぎるほど牽制していた。
矢の操作って簡単そうに見えるけど、20本ともなると結構大変。敵の眼の前で行ったり来たり。旋回してみたり。
もちろん味方に当たらないように気を使う。――ほらほら、どう? 凄いでしょ! 触ったら火傷じゃ済まないよ?
魔術オタクの父さんをして「真似出来ない」と言わしめた俺の技! 俺の「唯一」の自慢!!

――ザシュっ!!(×2)

よっしゃ! 二人の剣が同時に肉を斬る音に、思わずガッツポーズをした俺。
でも良く見たら倒れてるのは別のオークだった。ボリガンにはかすり傷ひとつ付いて無い。
うそでしょ!? オークって……自己犠牲の精神とかあるの!?
自分とボスの価値の差だとか、この状況じゃあそれが一番いい方法だって事とか、考えてやったにしても凄いけど、
そもそも異様なのはその光景。飛びだしたオーク達が何故かとっても嬉しそうに斬られてる。なんで? オークって……マゾ?

>ブフフフフ……どうした?我が家臣はまだまだおるぞ、いつになったら余に覚悟とやらをさせるつもりか?

あいつの言うとおりだった。
斬っても斬っても出て来るったら。見る間に築かれるオークの山。息を切らし、悔しそうに山を見上げるラファエルとライアン。
矢のコントロールが乱れてきたんで、そっちの方に頭を戻す。
だけどボリガンが見せつけた武器は俺の眼を釘付けにした。

――なにあれっ! 
あれをもし棍棒と言い張るなら、俺達の使う棍棒はホットミルクのかき混ぜ棒だよ!!
しかも「しゃれこうべ」とかいっぱい付いててまじキモ……!!!!!
コントロールを失った炎の矢があらぬ方向へと飛び去り、床に、壁に当たっては消える。

「ルーク! 息を止めろ!!」
「え?」

暴走する矢をハラハラしながら見ていた俺。父さんの言葉がすぐに理解出来なかった。
ボリガンの棍棒から放たれた「それ」を思い切り吸いこんでしまったのは言うまでもない。

っ……!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

ガーンと鼻と頭を殴られたようなショック。
救急箱の中に入ってるアンモニア水に鼻近づけた事ある人なら、俺の気持ちが少しは解るかも。
父さんは良くあれを気付け代わりに使ってたけど、これはそんなもんじゃない! 殺人ガスだ!
のたうち回らずには居られない! 涙も止まんないし、頭ん中ガンガンでもう何が何だか!! 

オーク達がわらわら集まってのしかかったんで、俺は潰れたカエルみたいに床にへばりついた。
ラファエルとライアンのくぐもった叫び声。たぶん俺と似たような状況なんだろう。
臭いし苦しいしもう最悪!
うう〜〜〜……『勇者とその一行、オークに乗られ圧死』なんて歴史書に載ったら嫌だなあ……
毒素の中和のスペルもあったと思うけど、肝心の毒の種類は? 塩素系? 硫黄系? ……データ不足。

『ルーク! そのままで火を起こせ! 空中でだ!』
父さんの声が頭に直接届いた。
『何で!?』
『ガスの組成が複雑過ぎて中和は困難だ! 燃やすが手っ取り早い!』

そっか! なるほど!
迷わず炎の精霊に力を借りる呪文を口ずさむ。呪文って言ってもただの点火だ。軽い想起と【起炎】の一言でそれは発動した。

281 :シャドウ ◆ELFzN7l8oo :2016/09/22(木) 06:03:50.83 ID:eLjYJXqi.net
小刻みに振動する床。
上に乗るオーク達に遮られ、爆音も熱もほとんど伝わってはこない。
しばしの――静寂。

動かなくなったオーク達の下から何とか這い出る。
微かな硫黄の匂いは残るものの、先程の強烈なガスはほぼ消え去っていた。天井の吸気口がもたらす空気が芳しい。
あの吐息、口元で火を近づければ炎のブレスとなると聞く。
ここは閉鎖した空間だ。空気と吐息(毒ガス)が良い比率で存在し、そこに点火すると……こうなる。
大半のオーク達は方々に飛ばされ、壁に、床に、天井に紫色の染みを作っている。
生きている者も居るが、爆風の衝撃で平衡感覚を失ったのだろう。フラリとよろめいては座り込んでいる。
扉付近に築かれたオークの死骸が、上手い具合に外からの侵入を防いでいる。好都合だ。
オークの山のひとつがぐらりと傾き、崩れる。難なく脱出したのは、輝く魔剣を手にしたラファエル。
その前に静かに佇む……魔将ボリガン。吹き飛ばされた王冠と焼かれた髭以外は、先程となんら変わっていない。

ルークと皇子の無事も確認したいが、石棺の解除が先だ。ラファエルがボリガンに挑む様を尻目に、再び呪文を口ずさむ。
女王とドワーフが棺の陰からそっと身を起こすのが視界に入る。

『カチリ』

時を知らせる柱時計に似た音と共に、石棺の蓋が青白く光る。女王とドワーフの神官が満足気に頷き、こちらを見た。
三人の力でどうにか石の板を横にずらす。てっきり空だと思っていた石棺だったが――
横たわるは40がらみの男。かたく閉じられた眼に被さる野太い眉に、野性的な黒い髭。無造作に伸びる黒髪。
胸の上で組まれた両の手も、堂々たる裸身も、人狼と見紛える剛毛に覆われている。
この男は一体誰か。はたとその正体に思い当たり、身体が強張る。
「まさか……」
「そうよ。このお方こそ、我等王族の始祖」
女王が愛おしげに中を覗きこみ、頭を下げた。

「堕天使にして八大魔将が一人、ベアル……ゼブル……!」

282 :シャドウ ◆ELFzN7l8oo :2016/09/22(木) 06:15:32.08 ID:eLjYJXqi.net
その名を口にすべきでは無かったのだ。
ニヤリと笑ったドワーフの姿が不意に霞となり、棺の男の身体に吸い込まれた。
カッ! と見開く黒い双眸。不意に突き出た剛腕が、この喉笛をガシリと掴む。

「……名を呼んでくれてありがとよ、賢者の魔法使い」

声を聞いたラファエルが剣を振るう手を止め、ボリガンから距離を取った。
ガラリと石蓋をどかし、身体を起こした――八大魔将、ベアル・ゼブル。
ベルゼビュートとも呼ばれるこの魔将、種族は『天使』。それ故か覇狼や百鬼などの名を冠さぬ魔将だ。異名も多い。
恐るべきはその能力だ。
「魂の操舵」と「魔力無効化域の作成」。ルーンとアルカナンの王族に受け継がれた二つの力。
無論その規模は王族の比ではないのだろうが……今は使えぬのだろう。でなければ魔導師の首を押さえる真似はするまい。

「まだ殺さねぇから安心しな。『賢者の石』の作り方を教えてもらわねぇとなぁ」
よっこらせ、とベアル・ゼブルが石棺の縁に腰かける。その膝上に頭だけ乗せられ身体が弓なりになる。
「くっ!」
首にかけられた手を掴んでみたがビクともしない。もがく程に軋む頸椎。
首を掴む手や身体が見る間に大きくなって行くのが解る。剛毛もより多く多層化し、鎧の如く身体を覆った。
女王がその横に立ち、この額に掌を翳すが、黒い手が遮った。
「やめとけ。俺の血を引いちゃあいるが、お前さんは所詮人間だ。賢者の魔紋は毒だろうがよ」

「ヴェル!」「父さん!」
いつの間にか脱出した皇子とルークがこちらの異変に気付いたようだ。
無論近づきはしない。人質を取られているのだ。ボリガンも動かず、じっとこちらに眼を向けている。
ベアル・ゼブルはしばらく自分の頭に生えた巨大な角を叩いたり撫でたりしていたが――

「ようボリガン。なんで今頃……って顔してんなぁ」
バサリと何かを翻す音。見るとその背に巨大な翼が生えている。片翼のみの翼からハラリと落ちる黒い羽根。
「2,000年前とちっとも変わっちゃいねぇ……あ? ちっとは老けたか?」
答えぬボリガン。睨みつけるその眼には何故か殺気が宿っている。

「そう凄むなよ。あん時は悪かったよ。なあ? 手を組まねぇか? 早い話、リュシフェールの封印に協力しろってこった」
「ま、アシュタロテを滅ぼされた時点で……俺の肚(はら)ぁ決まってたんだがなぁ」

283 : ◆ELFzN7l8oo :2016/09/22(木) 06:20:48.28 ID:eLjYJXqi.net
>277
【どうしましょう。正直、まだ何も考えてません】
【容量オーバーして次スレ……なんて事になったら活躍の機会があるかもですが】

284 :百鬼将軍ボリガン ◆khcIo66jeE :2016/09/24(土) 10:52:12.45 ID:yRKDKRfI.net
「……ぬうん……」

ボリガンは地の底から響くような低い声音で唸った。
よもや勇者達がブレスを爆発させ、それを妖鬼兵団のオークたちを盾にしてやりすごすとは。
物量作戦で兵を神殿内に入れすぎたのが災いした。これは失策というべきであろう。
しかし、今はそんなことはどうでもいい。もっと憂慮すべき事態は、別にある。
ボリガンは歯を食いしばり、怒りのこもった眼差しで前方を見た。
石棺の中から姿を現した、ひとりの男――かつての同胞、元八大魔将の一翼ベアル・ゼブル。

>ようボリガン。なんで今頃……って顔してんなぁ

「ここへ来るまでの間、ずっと感じていたその方の気配……そこな落とし種のものかと思っていたが、その方自身のものであったとは」
「余の鼻も鈍ったものよ……まったく、面倒な者が出てきおったわ」
「まさか、穴居人どもがその方を匿っておったとはな。ベルゼビュート……!」

ギリリ、と奥歯が軋む。巨体から殺気が漲る。
爆発の衝撃からいまだ抜けきらないながらも、生き残ったオークたちが新たな盾にならんとボリガンの前方に展開する。

>そう凄むなよ。あん時は悪かったよ。なあ? 手を組まねぇか? 早い話、リュシフェールの封印に協力しろってこった

飄々とした様子のベアル・ゼブル。その人を食ったような物言いに、一度鼻を鳴らす。

「目覚めて早々、抜け抜けと言いおるわ。余に魔王を裏切れと申すか?あいも変わらず人を喰った男よ」
「確かに、余は魔王に対して恩義もなければ、忠誠もない。単に、魔王につくが得策と思うがゆえに与しておるだけのこと」
「相応の『旨味』があれば、魔王と袂を分かつのもやぶさかではない……が――」

にい、とボリガンが嗤う。
が、それも一瞬のこと。すぐにオークの帝王は憤怒を満面に湛えると、野太い指でベアル・ゼブルを指した。

「しかし。その上で、その方と手を組むという選択肢はない」
「2000年前、その方が余と我が眷属にしたこと。そのような軽い謝罪ひとつで許すつもりなどないし、また許されもせぬ」
「この片牙の恨みと、同胞数万の怨嗟の声は、2000年の時を経てなお余の腹中にてとぐろを巻いておるわ!!」

ゴアッ!

ボリガンの怒声と共に、全身から魔気が迸る。
ボリガンもまたオークの神祖の直系ということで、れっきとした魔の眷属である。
魔王やリヒトのものには遠く及ばないが、その放つ怒りを宿した魔気は常人を昏倒させるに充分な威力を持っている。

>ま、アシュタロテを滅ぼされた時点で……俺の肚(はら)ぁ決まってたんだがなぁ

「2000年の時が過ぎようとも、口を開けば出てくる名はあの売女か……。まったく、度し難き愚かしさよな」

ベアル・ゼブルの独語に近い呟きを聞き、ボリガンが侮蔑を多分に含んだ表情を浮かべる。

「思えばあの売女がすべてのきっかけであったな。あの女さえ余計なことを考えなければ、すべてがうまく行っていた」
「魔王の統治のもと、我らオークも存分にその恩恵に浴していたというに。あの女がそれをすべて台無しにしたのだ」
「その方も、魔王も、皆そうだ。誰も彼もがあの売女に狂っておった。そして、肝心の世界の歯車までもが狂ってしまった」
「余には皆目わからぬ。あの女のどこがよかったのだ?容姿か?声か?まさか内面などと言うのではあるまいな?」
「……まあ……確かに、見目はよかったがな」

285 :百鬼将軍ボリガン ◆khcIo66jeE :2016/09/24(土) 10:53:55.04 ID:yRKDKRfI.net
「それにしても……余に離反をほのめかすということは、完全に魔王とは敵対する肚と。そう思ってよいのだな?」
「かつて全力を出してさえ無理だったものに、衰弱した今の有様で勝とうとは。冗談としても度が過ぎるわ、ベルゼビュート!」
「――嗤え!!」

ボリガンが左腕を挙げて号令すると、取り巻きのオークやゴブリンたちが一斉に嘲笑する。

「さて……魔王は敵対者を決して許さぬ。まして、腹心たる魔将の叛逆ともなればな……。わかっておろう?」
「とはいえ、だ。いかに衰弱しておるとは言え、この場でその方を仕留めようとするならば、我が軍もただでは済むまい」
「それは余の望むところではない。余の第一はあくまで、一族の繁栄なるがゆえ」
「まずは、魔王に報告するとしようぞ。面倒な者が目を醒ました……とな」
「今回のところは退く。しかし、また遠からぬ未来にまみえるとしようぞ。その時を楽しみにしているがいい」

ズン、と地響きを立て、ボリガンがゆっくりと踵を返す。
オークたちも、警戒しながら退却を始める。
死体を蹴散らし、ボリガンの巨体が神殿から出てゆく。が、ふと何を思ったのか、ボリガンは不意に振り返ると、

「そう――勇者たちよ、そしてベルゼビュートの裔(すえ)よ。老婆心ながら、一言忠告しておいてやろう」

と、嗤いながら告げた。

「そ奴はその方らの味方などにはならぬぞ。そ奴は自分自身のことしか考えぬ。『自分にとって具合がいいか悪いか』そ奴の価値観とはそれだけよ」
「よしや協力を得たとしても、それは『ていよく使われているだけ』に過ぎぬ。敵の敵は味方などと、安易には考えぬことだ」
「もし万が一、そ奴が魔王を封じたとしても。魔王の代わりにそ奴が世界を支配するだけのことなのだからな――!」

眷属のオークや他の鬼たちを引き連れ、帝王ボリガンがドワーフの神殿から撤退してゆく。
血と臓物と汚物の臭気と、夥しい数の死体。
それらを置き去りにしたままで、妖鬼兵団は姿を消した。

286 :創る名無しに見る名無し:2016/09/26(月) 08:53:18.80 ID:ttn46jqZ.net
どこかで打ち合わせでもしてるのか?
悪い意味じゃなく、やたら相手の設定に踏み込んでるし、しかもそれがうまく噛み合ってる気がしてな

287 :創る名無しに見る名無し:2016/09/26(月) 22:12:37.25 ID:3Axurg81.net
名前:ベルク・ビョルゴルフル
年齢: 42
性別: 男
身長: 198cm
体重: 130kg
スリーサイズ: 130 110 130
種族: 人間
職業: 王
性格: 雄壮であり気宇壮大
特技: 騎馬
長所: 誇り高く勇気があり恐れを知らない
短所: 挫折を知らない所
武器: 巨大な槍
防具: 鎧
所持品: 北方の王だけが付けることを許される王の指輪
容姿の特徴・風貌: 赤い髪、赤いヒゲを生やす、目はタカのように鋭い、筋骨隆々の大男
簡単なキャラ解説: 北方の領主連合の王として君臨する赤髪の偉丈夫
北方の王は世襲ではなくその力を領主達に認められることで合議で決まる
王としての素質を持ちその決断力は素早く揺るがない
そして決して力だけに頼ることをせずしっかり戦略を画き行動する
右腕であり優秀な参謀であるエミル・オグムンドゥルを信頼している
魔王の復活を知り対抗するためにアインランド連合軍【北星十字軍】を組織する
さらにかつて北の大地を荒らしまわった極北の大峡谷に封印されている氷の巨人を復活させて切り札として魔王を倒そうと計画している

288 :ルーク ◆ELFzN7l8oo :2016/09/27(火) 06:41:12.61 ID:jH2mjrls.net
口元に風を感じた。床を伝って入ってくる新鮮な空気。
ガンガンしてた頭の痛みが嘘のように引いて行く。鼻の奥のヒリヒリも。
上に乗るオークの体臭が鼻をついたけど、あのガスに比べりゃ屁みたいなもん。って……あれ? 
首を動かして横を見ると、さっきまで俺に乗っかって威嚇してたオークが白眼剥いて泡を吹いていた。鼓動も弱い。
――なんで気絶してんの? さっき地面が揺れたのと関係ある? そういや上の人数、ちょっと減った?

軽くなったオークの山から何とか抜けだした俺の眼に映ったのは、紫の血と肉片で汚れた壁と天井。
フラフラよろめくオークにオーガ、目と耳を押さえて呻くトロール。
そっか、ただ燃えたんじゃない。爆発したんだ。ある種のガスは、空気中に1割ある時が一番爆発しやすいって……

扉付近はオークの死体でいっぱいだったけど、ボリガンは普通に立ってた。全然ダメージなさそう。
その向こう側に、青く光る剣を握ったラファエル。
ライアンが死体の山から出て、ふらりと立ちあがるのが見える。良かった。二人とも無事で。
でも様子が変だ。ラファエル、どうして戦わないの? ボリガンもラファエルも、俺の後ろの何かを見てる。
ライアンもそれに気付いたみたい。嫌な予感。そっと……振り向く。

――――――――誰!!?

棺の蓋が外され、その縁に見知らぬ何かが座ってた。
初めでっかいクマかと思ったけど違う。ぐねぐねした角があるし、黒い羽根も生えてる。右の羽根は無い。
もしかして……魔王? 
いやいや、こんなトコに居るはずない。魔王は絶対に王の間を出ないって長老も言ってたもの。
じゃあ誰? 羽根……角……魔王と同じ堕天使って確か……ベ……ベ……誰だっけ?
そうそう! ボリガンがさっき「ベルゼビュートの落とし種」って女王に向かって言って……え?
って事は女王様はベルゼの子供? だからあいつの横にピッタリくっついてんの? まんま美女と野獣みたい!
そういや父さんは? って良く見ると、ベルゼの膝の上に――

「父さん!」「ヴェル!」
俺が叫んだのと同時にライアンも叫ぶ。
奴の体毛(だか鱗だか)に埋もれて、しかも色も似てて今まで気付かなかったんだ。
首を掴まれてぐったりしてる父さん。ピクリともしないけど――もしかして……死んじゃった!?
棺の鍵を開けたのはたぶん父さん。――そっか!
フタ開けてみてあんなのが入ってたらそりゃびっくりするよね! んでもって腰抜かしたとこをやられちゃったんだ!!

『腰を抜かすは余計だルーク!』

――あ。生きてた。

『奴の狙いは賢者の石だ!』
『賢者の石!?』

またまた出てきたよ賢者の石! もうどんだけ重要アイテムですか!?
どうしよう。父さんを助けたいのは山々だけど、どうすりゃいいの? 確か女王様、魔力無効化の結界張れるよね?

俺がどうすることも出来ずにまごついてると、ベルゼの奴、ボリガンに手と組もうなんて言い出した。
リュシフェール、つまり魔王を一緒に封印しようねとか。で魔王に盾突く理由がどうも、「アシュタロテ」をやられた腹いせみたい。
な〜んだ。天使とか魔将って偉そうに言ってても、頭ん中は俺達と変わんないだね。

――で? 肝心のボリガンの答えは? ワクワクして待ってたら、「NO!」だって。
ちょっと意外だった。オークってなんか義理がたいイメージないし、自分さえよけりゃいい生き物なのかな〜って思ってたから。
その疑問の答えはすぐに返って来た。魔力の突風がダイレクトに俺にぶつかってきたからだ。

――怒ってる怒ってる! あいつ、ボリガン達によっぽどの事したんだ! あの牙もあいつのせい! そりゃ断るって!

289 :ルーク ◆ELFzN7l8oo :2016/09/27(火) 06:41:47.28 ID:jH2mjrls.net
ボリガンが退いた。
「当てが外れたなぁ。あいつが居りゃあちっとはマシな戦力になったんだが」
ぽりぽりと頭をかくベルゼ。
俺はボリガンが残した言葉の意味を考えていた。
アシュタロテ。彼女を知る奴はほとんどがその虜になったって……どんなヒトだったんだろ。
清楚で笑顔が素敵で家事とか得意で、困った時に助けてくれたり耳かきしてくれる女神系?
綺麗だけど相手の弱点突いてきて、困ったフリして無心したりいざって時は身体使って男を誘惑する悪魔系?

『おそらくは前者だ。水鏡の横で父と話す彼女は、女神そのものにしか見えなかった』
……こんな時にこんな話に乗ってくる父さんって、ホント女好き。首絞められてるくせに、良くそんな余裕あるよね。
『性分だ。仕方ない』
……開き直ったし。でどうすんの? あいつ(ボリガン)、ベルゼは味方にならないって……
『ルーク!!』
いたた……いきなり大声で・
ビクリと身体が硬直した。首の後ろにヒヤリと冷たいものが触ったからだ。鋭く硬い……振り向かなくても解る――剣の先。
「……ライアン…………どうして?」
答える代わりのように、切っ先が強く押しつけられた。ゴクリと喉が鳴る。

「すまねぇなあ。ボリガンの言ったとおり、俺達ぁ『勇者』の味方じゃねぇんだ」
ベルゼビュートがこっちを見てニヤリと笑う。
「そ……それはまあ解るっちゃあ解るけど、なんでライアンまで?」
ライアンがどんな顔してるのか確かめたかったけど、首を動かせない。
「ライアン! 俺のこと何度も助けてくれたのは何だったの!? 戦士になるって言ってくれた時だって――」

「お人好しは転生しても変わんねぇなあ。アウストラ・ヴィレン。いや、今は『ルーク』か」
「――はっ? ――えっ!?」
ラファエルが大股で近づいてきて俺を見た。
「小僧。ルーンとアルカナンはもともと同じ血だ。我等が始祖、ベアル・ゼブル様の血を引く末裔よ」
「――そうなの!?」
「少しは考えろ。魂の操作や交換などと言う技が、魔族以外に使えるかどうかをな」
「そう言われれば、人間にしちゃあ変な力使うなあって……」
力だけじゃない。ライアンの行動はいつだっておかしかった。裏切られたの、何度めだろう。
でも今度こそは信じようって思ったんだ。それなのに……
「ライアン! 何か言ってよ! 魔族だろうが何だろうが関係ない! あんたは俺の選んだ戦士だろ!?」
ライアンは相変わらず黙ったままだ。
「何度聞いても無駄だ」
ラファエルが俺の眉間にピタリと剣先を合わせた。とたんに頭の中がま真っさらになる。
――口が……利けない。魔剣の力? それとも……同じ血をもつ……ラファエル自身の力?
「我等は2,000年も前から我等が君主の為に動いてきたのだ。『賢者の石』を得んが為、エルフの長ミアプラキドスとも結託した」
ミア・ええーー!!?
「嘘だ!! 長老が魔将なんかと手を組むはずない!」

「だから……お人好しだっつってんだよ」
ベルゼが右手で胸元をまさぐっている。ゴワゴワびっしり生えた剛毛の中から取り出したのは、手の平サイズの水晶球。

「奴がくれた情報は……実に役に立ったぜぇ?」

290 :シャドウ ◆ELFzN7l8oo :2016/09/27(火) 06:42:17.80 ID:jH2mjrls.net
ベアル・ゼブルが手にした水晶球は、確かに父ミアプラキドスのもの。
そう言えば父は言っていた。要塞を攻撃させたのも、皇子に要塞の情報をリークさせたのも、すべて自分だと。
今も何かを映しているのかと注視するが……球は曇った灰色の空を映すのみ。まさか――父はすでに――
「ほう? 解るかい」
こちらを見下ろし、皮肉な笑みを浮かべる魔将。
「奴の形見にくれてやらぁ。もはや『主を失いし只の鉛玉』だがな」
無造作に放られた球を両手で掴む。酷く冷たい。やはり父は……死んだのか。やはり叔父上が? 封印はどうなった?
「奴の「気」が消えたとたんにこれだ。参ったぜ。情報が入らねぇってのは……不便なもんでなぁ」
「――で、早ぇとこ『勇者を連れて来い』と命じたわけよ。とりあえずこの傷が癒えりゃあ怖いもんは無ぇ」
ポタリと床に落ちる水音。
おそらくは奴の背、リュシフェールにもぎ取られた翼の傷から滴る血液だろう。
「解るよなぁ? 魔王が与えし傷を癒すは勇者の心臓だけだ」
その言葉は命となって部下に届いたようだ。ラファエルが剣を構え直し、切っ先をルークの左胸に向けるのが見える。
『逃げろルーク!』
懸命に思念を送るが、ルークは棒立ちのまま動かない。否、動けないのだ。
後ろのライアンの剣と、アルカナ=ブレードを介したラファエルの力が、彼の身体を縛っているのだろう。
「勇者ルーク! 我が主の完全なる復活の為、その心の臓を貰い受ける!」

――万事休すか!? ――ルーク!!!

魔剣が胸を抉る音はせず。代わりにしたのは微かな芳香。いつの間にか、ルークとラファエルの間に何者かが立っていた。
純白のドレスを纏う――銀髪の女性。ラファエルがぎょっとして後ろに下がる。
「だめよ? 彼の心臓は陛下のものだもの」
鈴の鳴る声。
「エレンディエラか。てめぇも『今頃』だなぁ。そのメダイ、どうやって取り入った?」
特に驚いた様子も無く、悠々と話しかけるベアル・ゼブル。
「……そうねぇ。覇狼のお零れに与ったってとこかしら?」
首に下げた金鎖を指に絡め、九曜のメダイに愛おしげに口づけするエレン。

内心驚く。実は彼女と会ったことがあるのだ。
10年以上も前のこと。ルークに魔法を教えるか否かでマキアーチャと口論になり、勢い要塞を飛びだした。
城下の下町で巡回中の白狼に襲われ、良く良く考えれば魔法は使えず、逃げ回った末に飛び込んだ娼館に彼女は居た。
金貨の持ち合わせが無いところを彼女に呼び止められ、「お代は持つから」と言われ止むを得ず一夜を共にした。
彼女が……魔族? しかも八大魔将だと!?

「考え直さねぇか? リュシフェールに与した所でうま味はねぇぜ?」
「そうねぇ……。貴方もとっても魅力的だけど……」
エレンがルークの首に腕を回し、ラファエルと皇子ライアンを交互に見つめた。躊躇い勝ちに剣を引く二人の男。
――そう。この女の眼に捕えられ、逆らえる男など存在しない。「抱いて」と言われて躊躇なく抱いたはあの眼のせいだ。
決して望んだわけではない! 本当だマキアーチャ! ――うっ! 誓う月が今は見えない!
ふっと笑ってこちらを見たエレン。
「ねぇ。その人も離してあげたら? アルカナンの女王を前にして、一体何が出来ると言うの?」

「ふん。そんなとこがアシュタロテとそっくりだぜ」
「当然よ。私は彼女のすべてを受け継いだ。記憶も――すべて」
しばらく顎髭を撫でながら考え込んでいたベルゼが左手を離した。半ば潰れていた喉が開き、冷えた空気が肺と気管を刺激する。
たまらず出た激しい咳がなかなか止まらない。
「ただの『人形』だったてめぇを動ける魔物にしたのはビショップだ。悔しくねぇのか? ビショップを殺ったのは魔王だろ」
「哀しいわ。とても」
「なら・」

やおらエレンがルークの首に回す手をマントの下に差し入れた。
眼を丸くしたルークが身じろぐが、上手く身体を動かせないでいる。彼は素肌に直接マントを羽織っている。
彼女の手がルークの首や胸元をいやらしく愛撫する様子が見て取れた。その手がさらに下へと下がり……
「ちょっと……エレン! やめ・」
ルークの言葉をエレンの口づけが遮った。ふと「初めてでは?」と思ったが気にしている場合ではない。
しかし――
「……っ!」
声にならぬ声を上げ身を引いたのはエレン。彼女の口から赤い血が滴っている。赤い唇の端がニマリと吊り上がった。

291 :ルーク ◆ELFzN7l8oo :2016/09/27(火) 06:42:42.47 ID:jH2mjrls.net
「――ほら、ね?」
エレンが肩をすくめてみせる。
「てめぇの言ってる事もやってる事もさっぱり解んねぇんだが……?」
――同感だよ! ベリル姐さんも「良く解んない」って思った事あったけど、この人は更に倍だよ!? いきなり舌入れる!?
エレンが煙るような青い眼をこっちに向けた。
「この眼。その気になった私の眼から逃れられた者は、魔王と勇者と――賢者だけだった。こう言えば解る?」
――いや余計……不可解です! 「天使系」じゃないのだけは解ったけど!

エレンの眼が青く光った。ガチリと剣の落ちる音。
「すべての男は我が虜にならねばならぬ」
「ふん。百鬼の野郎はあいつの事、『売女』って言ってたぜ」
「……そう。オークは魔族でも人間でもない、亜人とも呼べない……ただのブタ。あのブタが好きなのは雌ブタのみ」
――いやいや、ブタってそりゃそうかもだけど、ものには言い方ってものが……

コツン……とこの世のものとは思えない靴音を立てて、エレンが立ちすくむラファエルに歩み寄った。
「脱げ」
彼女を潤んだ眼で見つめたまま、徐(おもむろ)に鎧の留め金を外し始めるラファエル。
彼女の手が魔剣を拾う。――まさか……!?

止める暇も無かった。くぐもった苦鳴。
エレンが抜いた剣が不気味に唸り、ラファエルの胸から吹き出した血を、吸い上げている。
まだなんだかぼうっとしたまま、ラファエルが床に倒れた。剣の唸りが止む。
「『戦士の石』よ、元が場に戻るが良い」
剣から緑色に光る玉が飛び出す。
――うひゃっ! ヤな音!! 
ビュンビュン飛びまわる光る玉。ベルゼや父さんが石の棺から飛び退くのが見える。
――あれ? いつから居たんだろう。黒いカラスが一羽、ギャアギャア喚いて飛んでいた。
自分から玉にぶつかって……黒い煙を上げながら床に落ちた。なに? 誰か召喚した?

しばらく嬉しそうに(?)跳ねていた緑の玉が鬨(とき)の声を上げたかと思うと、空の棺に勢いよく飛び込んだ。

――――――――イイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!

揺れる地面。ビシリと壁や天井に亀裂が走る。降り注ぐ砂埃。
「逃げろ!」
父さんの声が遠くで聞こえる。エレンが駆け寄り、俺の手をしっかり掴んだ。
「次なる場は――ナバウル王城」
呟くエレンの声がはっきり聞こえた。


後から知った。エルフの神殿でもまったく同じ事が起こっていた事。

292 : ◆ELFzN7l8oo :2016/09/27(火) 06:43:13.13 ID:jH2mjrls.net
謁見の間に響き渡る魔王の絶叫。
絨毯脇に控えるすべての騎士が、もがき、倒れる。

≪ おのれ……!!!≫

黒く変色した両腕を戦慄かせ、さらに魔王が咆哮する。
脇に控える魔将リヒトが顔を上げる。……と今一人、無影将軍と成り果てたミアプラキドスに感情の色はない。
王座の前に立つ魔王が、やや下方にて傅く魔将に眼を向ける。

「百鬼よ。如何なる事だ? ベアル・ゼブルを見逃し退くが良策と……?」
「オークの行く末などこの先どうとでもなろう。おのが成すべきは彼奴を葬り、石を奪う事であったはず」
魔王の声にいつもの余裕も落ち着きも無い。
「さらなる不可解。奴の動向を探らせしエレンディエラが姿を見せぬ。我が『眼』も――戻らぬ」
苦痛の声を漏らしつつ、王座へと腰かける魔王。


「百鬼将軍ボリガン。無影と共にベスマの地下回廊に向かえ。『賢者』もろとも、ベスマそのものを消し去るのだ」
「リヒト。済まぬが北へ向かってくれぬか? 不穏な『気』がある。ここはエルダーの竜どもに任せて良い」

293 : ◆ELFzN7l8oo :2016/09/27(火) 06:46:12.76 ID:jH2mjrls.net
>286
【打ち合わせはしたいけどしない。ってのがここの方針です。ネタも出したもん勝ち。こんなんで終われるかな? ちょい不安】

>287
【このタイミングで入るなんて奇特な方ですね! 嬉しい悲鳴!】
【順番は◆khcIo66jeEさんの後でお願いしたい所ですが、どうでしょう?】
【終盤ですし、こればっかりは打ち合わせ必要かと思いますが】

294 :百鬼将軍ボリガン ◆khcIo66jeE :2016/09/27(火) 21:13:15.98 ID:wZSDX2Pw.net
魔王の両腕が、みるみるうちに黒く変色してゆく。
それを、百鬼将軍ボリガンはただ黙して見つめている。

>オークの行く末などこの先どうとでもなろう。おのが成すべきは彼奴を葬り、石を奪う事であったはず

焦燥と憤怒に満ち満ちた魔王の言葉。
それを聞くと、ボリガンはブフッ、と一度鼻を鳴らした。

「魔王よ、心得違いを起こしてもらっては困る。余の大事はあくまで、我が一族の繁栄」
「いかな手負いとはいえ、そなたに匹敵する力を持つベルゼビュートを仕留めようとすれば、我が方の被害は甚大」
「それは余にとって不利益と思っただけのこと。――それに余がそなたならば、ここはこう申すところぞ」
「『よくぞ彼奴の誘いを跳ね除け、報告に戻ってきてくれた。褒めて遣わす』とな――」

命令無視を悪びれもせず、そんなことを言う。
そこには、魔王軍の尖兵の中でも最大の数を誇る軍団の支配者という絶対の自負がある。
ベルゼビュートの言うとおり、もしもボリガンが寝返っていたならば、それは魔王にとっても脅威であっただろう。
それを知っているがゆえ、こうまで尊大な態度が取れるのだ。

(あたら臣下の命を浪費するわけにはいかん。黙っていればまた生えると、藁のように扱われては堪ったものではないわ)

>百鬼将軍ボリガン。無影と共にベスマの地下回廊に向かえ。『賢者』もろとも、ベスマそのものを消し去るのだ

「ベスマか……。狭苦しい穴倉よりは、要塞の方が拓けていて我が軍も暴れやすい。が――」
「問題は賢者の魔法だ。彼奴は多勢を屠る手段に長けている。こちらの軍勢をゾンビにされてはかなわぬぞ」
「その新たな『無影将軍』――、使えるのであろうな?」

ボリガンは胡乱な眼差しでミアプラキドスを一瞥した。
エルフの長、その力ならば知っている。攻撃手段こそ持ち得ないが、防御においては大陸一だと。
ただ、先日まで敵であった人物である。いかな魔王の支配下にあるとはいえ、手を噛まれはしないものか?
――だが、魔王が連れて行けと言ったのだ。そこには自身の支配力への絶対の自信があるのだろう。
でなければ、石が所定の場所へ納まり、余裕がなくなった今、敢えて無影将軍を伴えとは言うまい。
まして、ベスマ要塞は要衝の地。魔王にとって賢者は何にも勝る撃滅対象であろう。

「フン」

ボリガンは巨体を揺らして立ち上がると、魔王を見た。

「善かろう、ならば無影と共にベスマを攻める。さっそく出立しようぞ」
「案ずるな、造反はせぬ。我らは2000年来の付き合いであろう?ならば、余の性情を知らぬそなたではない筈――」
「闇には、闇の救い主が必要だ。余はそなたがそれであると思う。ゆえに、そなたを裏切ることはない」
「では、な――そなたはベルゼビュートに注意しておれ。彼奴はまこと、喰えぬ奴よ。悪食の余をもってしてもな……」

ズシン、と地響きを立て、巨大な黒光りする棍棒を携え。
無言で佇立する無影将軍ミアプラキドスを伴い、オークの帝王は王城を出た。

295 :皇竜将軍リヒト ◆khcIo66jeE :2016/09/27(火) 21:17:46.04 ID:wZSDX2Pw.net
この大陸には、いくつかの伝説がある。
赤眼の魔王の伝説。北方に眠る氷の巨人の伝説。どれも恐るべき伝承であり、人々の間で連綿と語り継がれている神話である。
そんな伝説のひとつに『竜戦士の伝説』というものがある。
竜戦士とは、神代の昔にドラゴンの祖、エンシェント・ドラゴンたる黄金竜プロパトールが自らの眷属として生み出した者。
ドラゴンの力と魔力、生命力を有する『人のかたちをしたドラゴン』である。
竜戦士は黄金竜の仔、エルダードラゴンの鱗や牙を用いて作られた武具を携え、万物を破壊する力を有するという。

そんな竜戦士の職能とは『裁定者』。

世界規模の大きな戦いが起こるとき、竜戦士は姿を現す。
そして戦う者たちを見定め、どちらか正しいと思った側にその力を貸す。
2000年前の戦いでは、先代の竜戦士ドレイクは魔王リュシフェールに共鳴し、皇竜将軍として人間やエルフたちを攻撃した。
ドレイクは恐怖で世を統べんとする魔王よりも、人間たちの方を撃滅すべき『悪』と判断したのである。
が、そんなドレイクも先の大戦で勇者たちに敗北し、戦死。
主を欠いた竜帝兵団も、瓦解したかに見えた。

が、今から24年前、魔王復活と魔王軍の再編成に血道をあげる前無影将軍ベテルギウスが、とある実験をした。
それは『竜戦士の複製』。
攫ってきた人間の赤子にドレイクの亡骸から抽出した『竜の因子』を移植し、プロパトールを介さずに竜戦士を生み出すという計画。
さらに、ベテルギウスは赤子に魔王リュシフェールの抜け落ちた羽根を用い、魔王同様の魔気をも宿らせることに成功した。
そうして誕生した、竜戦士と魔王両方の力を持つ新たな手駒。それが現在の皇竜将軍リヒトである。

>リヒト。済まぬが北へ向かってくれぬか? 不穏な『気』がある。ここはエルダーの竜どもに任せて良い

魔王の勅命が下る。リヒトは軽く一礼すると、すぐに踵を返して謁見の間から出た。
リヒトにとって、魔気を授かった魔王は肉親にも等しい存在である。その忠誠心に揺らぎはない。
ただ、同時に裁定者として戦いの趨勢を見届けるという役目もある。

――もしも、人間たちが光を求め、よりよい世界の構築のために尽力するというのなら――

内心で、リヒトはそんなことを考えている。そして実際、人間たちに期待をかける行為をしてもいる。
ミアプラキドスがそうだ。賢人であると評価するがゆえ、敢えて首を刎ねず呪縛を与えた。
この呪縛を乗り越え、魔王のもたらす恐怖の介在しない真の平和へと至る道筋を模索してくれるのなら……と。

ともあれ、今の自分は魔将の一角。魔王の望みを叶えることこそが第一。
リヒトは兜の奥で軽く転移の呪文を唱えると、瞬く間に姿を消した。
供を連れずに単身向かった先は、北方アインランド。
魔王の言う「不穏な気」が竜戦士、裁定者としての自分の眼鏡に適うならよし、適わなければ――




――潰す。

296 :黒狼戦姫フェリリル ◆khcIo66jeE :2016/09/27(火) 21:21:48.49 ID:wZSDX2Pw.net
「ぅ〜……う、……ん」

帷幕の中で身を丸めた白狼に凭れ、毛皮にくるまって眠っていたフェリリルは、小さく呻くとうっすら目を覚ました。
アルカナンからやや離れた森に位置する、魔狼兵団の陣。
そこで百頭ほどの魔狼たちに囲まれ、フェリリルはここしばらくの時間じっと待機していた。
その任務は、勇者の追跡。より具体的に言えば、聖アルカヌス闘技場から逃げ出したホンダの追跡である。
ホンダのにおいは分かっている。現在は、斥候の魔狼がホンダの行く先を確認しているところであろう。
そして、ホンダが他の勇者たちと合流したのを確認してから強襲し、一網打尽とするのがフェリリルの狙いである。
が、そのためにはとにかくホンダという餌に勇者たちが喰いつくのをじっと待たなければならない。
フェリリルは自分自身でも驚嘆するような忍耐力を発揮し、とにかくその機を待った。

人狼のひとりが、状況の定期報告にやってくる。無影将軍の死と代替わりや、ベアル・ゼブルの復活、等々。
――が、フェリリルは寝ぼけ眼をこすると、

「どうでもいい」

と、その報告を跳ね除けた。基本、戦って勝利する以外に興味のない娘である。
寝台代わりに使っていた白狼が大欠伸をすると、フェリリルもつられるように欠伸をした。ついでに伸びもする。
姫さま、と他の人狼が嗜めるような声を出しても、フェリリルは一向に取り合わない。逆に退屈そうに胡坐をかくと、

「そういう報告はおまえたちが把握しておればよい。わたしが知りたいのは、今が戦うべき時なのかどうかだけだ」
「ふん……こんなことなら、陛下の仰られたとおりベスマ要塞に行っていればよかったか……?」
「いや。頭でっかちの賢者など相手にしても面白くない。わたしはあくまで、この爪と牙で戦える相手と戦いたいのだ」

くふっ、と目を細めて笑う。つりがちの大きな瞳が印象的な、幼さの抜けきらない少女の顔が、やけに獰猛に見える。
フェリリルは傍らに置いてある師剣に手を伸ばすと、それを軽く掲げてみせた。

「そう……この、わたしの新しい牙を存分に振るえる相手とな……!」

漲る闘気を隠そうともしないフェリリルの様子に、取り巻きの魔狼たちさえもが慄く。
と、そこで帷幕の中へ新たな魔狼が入ってくる。至急の報告だという。
フェリリルはまた報告か、とうんざりしたような表情を浮かべたが、ホンダがナバウルに向かっていると聞くや否や、

「ナバウルか!東方の王国、そこに勇者も現れるはず……ということでよいな!?」

と、身を乗り出して言った。

「待ちかねたぞ、その報を!みな支度せよ、すぐにナバウルへ向かう!」
「話では、エレンが八大魔将のひとりになったということだったな?丁度いい、寿いでやろう……あれはわたしの友達だ」
「ナバウルで勇者どもを血祭りにあげることでな!アッハハ……アハハハハハハハハッ!!」

一頻り愉しげな哄笑を響かせると、フェリリルは勢いよく立ち上がり、師剣コンクルシオを虚空に突き出した。
身に纏っていた毛皮が、立ち上がった拍子にはらりと足許へ落ちる。

「ゆくぞ!魔王軍第一の武功をあげるのは、この魔狼兵団!覇狼将軍フェリリルよ!!」

が、雄々しく吼えたフェリリルを、取り巻きの人狼が引き止める。

「ひ、姫さま!」

「なんだ!」

「まずはお召し物を……!」

「……んっ?」

覇狼将軍フェリリル。睡眠は裸で取るタイプである。

297 : ◆khcIo66jeE :2016/09/27(火) 21:24:08.91 ID:wZSDX2Pw.net
>>293

>終盤ですし

まだ中盤くらいかと思っていました……。

298 : ◆ELFzN7l8oo :2016/09/28(水) 06:02:26.86 ID:9/1kqxXw.net
>>297
中盤!? マジですか!!

ではあの時のプロポーズを受けて下さる、と勝手に解釈致します。行くとこまで行くという事で。

299 :創る名無しに見る名無し:2016/09/29(木) 13:07:31.07 ID:pFdR3Fgv.net
もう終盤ってことでいいんじゃね?
長引いてても観客がついてこんよ

300 :創る名無しに見る名無し:2016/09/29(木) 17:01:42.65 ID:wnjpSztC.net
だな
次スレ立てるのは仕方ないにしてもこれ以上話広げるのは勘弁

301 : ◆ELFzN7l8oo :2016/10/04(火) 14:55:25.89 ID:nuANlkWj.net
>287
もしかして、ですが……新規参入希望でなくNPCキャラの御提供でした?
だとしたら申し訳ない! 勘違いで1週間も放置してしまいました!
レスは明後日にでも。

↓待機中に描いた挿絵です(提示期間は30日)。◆khcIo66jeEさんもリクエスト等あればどうぞ。

http://img3.imepic.jp/image/20161004/532100.jpg?7a101db9a5ca067ae78daf34f9a4eaf5

302 : ◆ELFzN7l8oo :2016/10/05(水) 17:27:18.43 ID:QYB3UrYB.net
大陸の北方に位置するアインランド連合国の、さらなる北。
季節を問わず猛烈な吹雪が見舞うこの地に足を踏み入れる者は滅多にない。
切り立つ岸壁は氷河が覆い、冷たい潮風が流れ出でる大河を瞬く間に凍らせる極寒の地だ。
大河を挟むように聳え立つのは鋭い頂きを備えた二峰の山。この山に名こそ無いが……この峡谷を知らぬ者は居ない。
かつて北の大地を荒らし、蹂躙した氷の巨人が眠る死の峡谷を。


「閣下! 御覚悟は宜しゅう御座いますか!?」

馬から降り、吹き荒れるブリザードに負けじと声を張り上げたのは王の側近――エミル・オグムンドゥル。
如何にも魔導師然とした、黒地に銀刺繍のかっちりとした衣服を着こなした背の高い男だ。
エミルの声に答え、深く頷いたのは、見事な黒鹿毛の馬に跨る堂々とした赤髪の偉丈夫。
鷹の如き鋭い眼に王の風格を備えた男、名をベルク・ビョルゴルフル。
もとルーン帝国領であった北方の大地に秩序なく散在する小国を「力ある国家」として纏めた当の本人だ。
領主達に当然のごとく「北の代表」として選出された彼は、この地におけるあらゆる事案を行使する権限を持っている。
「北方の王」としてアルカナンやナバウル、エルフやドワーフの王達と懇意となり、外交を行ってきた彼である。
魔王の復活。
2,000年来の大事に成すべきは何か。

「賽は投げられた。勇者達の助けとなろう」

対する応(いら)えか、ベルクの馬が高く嘶き、前足にて凍てつく大地をガリリと掻いた。
背に星の十字を背負う騎士達がぐっと手綱を握り締め、峨々と聳え立つ岩山を仰ぎ見る。
未だその輪郭をうっすらと留めるかつての宿敵。透き通る氷の鎧を纏う氷の騎士。彫刻ならばこれほど美しい作品もあるまい。
その大きさも――かの無影の魔将が動かすストーンゴーレムの十数倍はあろう。

騎士達の表情は硬い。実を言えばこの巨人、魔王が腹心――無影将軍が動かす手駒のひとつ。
賢者の手で「主」との繋がりを絶たれ、動かぬ巨像となっては居るが――その脅威は世代を超え語り継がれて来たのだ。
果たしてこの巨人を起こして良いものか? 再びこの地を踏み、荒らすのではないか?
類稀なる召喚術師、エミルを信じぬ訳ではないが、今一つ釈然としないのが実情だ。
――が……魔王目覚めた今、彼等が頼れるものはこの巨人のみ。王の決断に縋るより他は無い。
エミルの両の足がザリっと氷地を踏みしめる。

【――出でよ!!】 

エミルが、交差させた両の拳をゆっくりと広げると、掌に刻まれた十字の印が輝きだした。
それに呼応するかのように、巨人の鎧に描かれたルーン文字や幾何学図形、絵紋様が青白く浮かび上がる。
賢者の魔紋を見知る者が見たならば、絵文様の多くがその特徴を備える事に気付いただろう。

【凍てつく大地が生み出だしし古の精霊よ いま一度その器に聖なる魂を宿せ 誇り高き魔人よ いま一度この地を踏まん】

303 : ◆ELFzN7l8oo :2016/10/05(水) 17:35:24.74 ID:QYB3UrYB.net
ブリザードが唸りを増した。対し、巨人はしばしの沈黙。
ピシリと岩肌に亀裂が走った。轟く轟音。雪と氷が崩れ、巻きあげられ、一帯が雪の煙にて模糊(もこ)となる。
ズシリと響く重い音。何者かが地を揺るがす音。
馬達が銘々に嘶き、上体を逸らした。歯を剥き出し耳を伏せ、まるで幽鬼でも見たように怯えている。回頭する馬も多数。
「どうどう!」
慌てて馬を諌めはじめた騎士達を、突如眩い光が照らした。雲間から差した陽光か――否。彫像自身から発せられる光だ。
「おお……!!」
畏怖の象徴である筈の氷の彫像。その神々しい姿に己が存在すら忘れ放心する騎士達。
彼等を正気に戻したのは魔導師エミルの紡ぐ呪文の詠唱だった。

【凍れる騎士――ブリザード=ナイトに告ぐ 我等と共に魔を滅ぼす矛とならん】

――――巨人が吼えた。
峡谷が振動し、鎧の奥の眼が理知の光を宿す。
ベルクその他の騎士達を順繰りに見渡した騎士ブリザード=ナイトが、手にした巨大な剣を胸前にかざす。

「閣下。この『ナイト』は我が命令より閣下の命を優先し実行致します。何なりとご命令を」
ベルクが見上げるブリザード=ナイトの眼に敵意は無い。

「良くやったエミル。流石は我が参謀よ。其方を推したエルフ評議長に感謝せねばな」
微笑むベルクの顔を眩しげに見上げたエミルの顔が強張った。ベルクが察したように頷く。

「気付いたか。先程から我等を監視する御仁がおられる事を」
王の視線の先を追った騎士達が半ば即座に剣を抜いた。

急峻な岩肌の、ほんの握りこぶし程度の出っ張りに足を乗せ立っていたのは、漆黒の鎧と緋のマントを纏う一人の騎士。
今まで気付かなかったのは、彼がまったく「生命」の気を持たず、岩山に同化していたからだろうか。
敵か否かは問わずとも明白。首元の九曜のメダイが、彼が魔王直属の部下である事を物語っている。
だがベルクはいきなりブリザード=ナイトをけしかけたりはしない。たとえ魔族であろうと、問答無しで闘う相手とは限らない。
彼は右手に握る手綱を引き、馬を回頭した。他の騎士もそれに習う。

「我が名はベルク。北方の王を任されし者。魔王に似た黒き御仁よ。まずは御用向きをお尋ねしよう」

304 : ◆ELFzN7l8oo :2016/10/06(木) 13:54:59.19 ID:Vo60VRjW.net
ベリルを口説くルカイン

http://img3.imepic.jp/image/20161006/498510.jpg?2285f09ee7607acba9c4631346f139da

305 :創る名無しに見る名無し:2016/10/07(金) 09:45:58.95 ID:2v9ZGHQT.net
普通に上手いね

初期にいたイルマとかも描いてほしい

306 :皇竜将軍リヒト ◆khcIo66jeE :2016/10/07(金) 21:20:04.34 ID:acCSLJtc.net
ベルク・ビョルゴルフル率いる一団が封印された氷の巨人を蘇らせるのを、皇竜将軍リヒトは凝然と見下ろしていた。
氷の巨人のことなら、知っている。伝承としても、そして無影将軍の創造した駒としての役目も。
前無影将軍ベテルギウスの手によって生み出された、魔王の兵器。
そういう点では、氷の巨人とリヒトは兄弟と言えるかもしれない。

>【凍れる騎士――ブリザード=ナイトに告ぐ 我等と共に魔を滅ぼす矛とならん】

―――オオオオォォォォォ……ンンンンン……

男の詠唱に応じ、氷の巨人が永きに渡る眠りから目を醒ます。
その咆哮が極北の峡谷に響き渡る。
巨人――ブリザード=ナイトの力は強大無比。勇者側の持ち駒には、これほどの巨躯と膂力を持つ存在はふたつとあるまい。
これが真に勇者側に与すれば、魔王軍にとっては看過できない脅威となるはずだが、リヒトは動かない。
ただじっと、兜の面貌の奥から覗く双眸で一部始終を見届けるのみである。

>「我が名はベルク。北方の王を任されし者。魔王に似た黒き御仁よ。まずは御用向きをお尋ねしよう」

しばらく様子を見ていると、不意に声をかけられた。
リヒトは足場としていた場所からふわりと飛び降りると、全身鎧を身に着けているとは思えない軽やかさで着地する。
血色のマントを翻すと、ちゃり、と胸元のメダイが鎧に触れて澄んだ音を立てる。
視認できるほどに濃い漆黒の魔気を芬々と漂わせ、リヒトはベルクと対峙してなお沈黙していたが、

「――三つ問う」

すい、と流れるような仕草でベルクへと左手を突き出すと、親指と人差し指、中指を立てて告げた。

「ひとつ。なぜ我が王の奉戴を拒む?」
「ふたつ。“それ”は元々我が王の手駒。知った上で御せると思ったか?」
「みっつ。『平和』とは、一体なんだ?」

まるで、神話にある人面の獅子の謎かけのようにも聞こえるそれ。
それをベルクへ向けて言い放つと、リヒトは左手をマントの内側へと降ろした。
むろん、単なる問いかけではない。ベルクがこれから告げるであろう答えによっては、リヒトはこの場の全員を殺す気でいる。
殺戮は速やかに、一方的に、容赦なく遂行されるであろう。

裁定者として、リヒトには戦う両者を見定める必要がある。
どちらの言い分により正当性があるのか。どちらの方が、世界にとって有用な存在であるのか。
消えるべきは魔王か、それとも勇者か――。

307 : ◆khcIo66jeE :2016/10/07(金) 21:24:12.21 ID:acCSLJtc.net
>>301>>304
素敵な絵ですね。初期の富士見ドラゴンブックス関連の書籍の挿絵を思い出しました。
ルークくんのそこはかとない頼りなさや、ベリル女史の女傑ぶりが遺憾なく表現されていると思います。
リクエストということでしたら、わたしも>>305さんに同意です。
彼女の存在あってこその要塞と思いますので……。

308 : ◆ELFzN7l8oo :2016/10/08(土) 05:25:40.14 ID:PcnIYFOo.net
イルマ嬢かあ……
「イルマは賢者とセット」で行きたいと思ってましたが、肝心の賢者のイメージがなかなか湧かなくて困ってました。
頑張って描いてみます。


とりあえず既に手をつけていたラファエルとエスメラインの2ショットをば
http://img3.imepic.jp/image/20161008/189040.jpg?c0f84bf6131b8bf7c405fbb70b6a4138

(ソードワ○ルドとか超懐かしいんですけど!)

309 :創る名無しに見る名無し:2016/10/08(土) 11:41:43.24 ID:fhVCjlAB.net
>>308
良いね!イルマ&ワイズマン、超〜期待してます!

310 : ◆YXzbg2XOTI :2016/10/08(土) 18:48:54.33 ID:IDn3UwQJ.net
>>308

>賢者のイメージがなかなか湧かなくて

わたしにもよくわかってないので無理もありません
イルマさんのピンでよいのでは……

強いて言えば、宝石やら何やらでゴテゴテに飾り立てた魔導師が紙袋かぶって顔をすっぽり隠してるイメージです

311 :創る名無しに見る名無し:2016/10/09(日) 01:35:08.71 ID:8CINZfZn.net
>>310
イルマのピンでも充分です!
是非是非!

312 : ◆ELFzN7l8oo :2016/10/10(月) 07:23:31.86 ID:uh2oHuRJ.net
フワリと降り立つ漆黒の騎士にたじろぐ騎士達。底の知れぬ魔気を肌に感じ、馬も人も総毛立った。
名乗りを返さず、用向きも伝えぬ沈黙の魔将。その視線を受け、ベルクも負けじと静かなる視線を返す。

魔狼、豚人族等の魔族を目にする事はあったが、このタイプの魔族、それも魔将クラスと見(まみ)えるのは初めてである。
角度によっては深い紫色に光る重鎧。古竜の鱗か。佩く剣も竜を象る重厚なる品。智慧の光を宿す澄んだ瞳。
大陸中何処を探しても、これほどの存在感を持ち合わせるものなど居まい。
ただ一点だけ、何処となく合点が行かぬような……漠とした不安。
蒼い眼が湛える捕え所の無い光。
――以前、これと同じ眼を見たことがある。女だ。抗いがたき光を宿すあの女の眼に同じ。この魔将――いったい?

不気味に沈黙を続ける魔将。こちらから切り出すべきかと思案し始めた矢先、低い、錆を含む声がした。

>――三つ問う

立てられた3本の指。必要最小限の言葉で綴られる三つの『問い』。
交渉などでは無い、一方的な……まるで天上の神が人を推す、そんな問いだ。この魔将、自らを‘神’と?

エミルが唇を噛み、こちらを見上げる。攻撃するか否か指示を仰いでいるのだ。他の騎士達も焦燥なる視線を送ってくる。
魔将の問いに答えるは容易だが、何故そんな問いするのかが解らぬ。答えが気に入れば良し。さもなくば殺すと?
左腕を降ろし、再びじっと沈黙する魔将。どこまでも口数の少ない男だ。取りつく島も無い。
これでは隙を見つける事も出来ぬ。しゃべればしゃべる程にボロを出す……各国の王族達のようには行かぬ……か?

ベルクはしばし思案した。
魔族は人に非ず。魔将ともなれば無論、我々人間が力で敵う相手では無い事は承知。
北の十字を背負う騎士達が命を惜しむとも思えぬが、犬死にはさせられぬ。

揚げた右手を後方へと下げた。退けという合図である。騎士達がどよめき、互いに顔を見合う。
「なりませぬ閣下! 我等はともに闘い、死ぬ誓いを立てた者!」
銘々頷き、剣を掲げる騎士達。
しかし振り向いたベルクの眼に確乎たる意思を見、皆押し黙った。一人、二人と剣を納め、手綱を取りはじめる。
騎士達の後退を確認し、ベルクはヒラリと馬から降りた。面綱を解き、首筋をポンと叩く。
「其方も行くがいい。いつかの日、共に野を駈けようぞ!」
一声嘶き、駈け出す黒鹿毛の馬。

彼等の姿が遥か彼方の平原へと消える頃、ようやくベルクは口を開いた。付き従うは参謀の魔導師エミル、ただ一人。


「お待たせ致した。古の黒き竜を象る御仁よ。早速に我が答えを示そう」

313 : ◆ELFzN7l8oo :2016/10/10(月) 07:25:51.70 ID:uh2oHuRJ.net
「ひとつ。何故魔王の奉戴を拒むか」
ぐっと魔将の眼を見据え、バサリとマントを翻す。
「我等は魔族に非ず。故に魔族の王は頂けぬ。他に理由が?」
問いを返すもその答えを期待しては居ない。眼を逸らさずに次を続ける。

「ふたつ。巨人が魔王の駒と知った上で、御せると思うか」
ベルクは眼を硬く閉じ、胸前で腕を組んだ。
「その答えは……彼に任せるとしよう」
ベルクの言う「彼」が自分のことだと気付き、エミルが咎める視線を王に送った。
当の主人は腕を組み、眼も閉じたまま。一度発した言葉を決して覆さぬベルクである。

深くため息をついたエミルは背後に膝をつく巨大な氷の像を仰ぎ見た。

「我が王に代わり、お答え致す。ブリザード=ナイトの纏う鎧に刻まれた魔紋を御存ならば、自ずと答えはあろうかと」

ブリザードの再来を告げる突風が、細かな氷の粒を逆しまに巻きあげた。
陰りはじめた陽光に照らされ、美しいダイヤモンド・ダストの如き景観がブリザード=ナイトを包みこむ。

「あの魔紋は賢者の魔紋。エルフの長と共に、古よりこの大陸の行く末を見守る賢者を知らぬ貴方ではありますまい」
「ただの無機に命を吹き込む技、そして他者がかけた術を封じ、我がものをする技。いずれも賢者に及ぶ者は在らず」

相も変わらず勿体ぶった言い方だとベルクが眉を顰めるが、口は出さず。
研究一辺倒の学者連中にはこういった者が多いのだ。エミルの口上は続く。

「賢者はあの魔紋にて無影の魔将による支配を完全に解かれた」
「さらに魔紋の上下左右に散りばめられしルーン文字。それは賢者自身の手によるもの」
「御せるか否かはすなわち我等次第。我等の意思が賢者の意に適えば良し。さもなくば我等人の棲み処を滅ぼさん――と」

とどのつまり、賢者の眼鏡次第ということかとベルク自身納得する。実を言えば良く知らなかったとは言えない。
エミルが口を閉じるのを見計らい、ベルクが組む腕を解いた。

「最後の問いの答え。『平和』とは何か」

懐に手を差し入れ、剣を取り出す仕草をした王に驚いたエミルがハッとして身構えた。
しかし王が取り出したのは一輪の白い花だった。
「残念ながら、その答えは未だ解らぬ」
「解らぬが……思う世はある」
「この花が剣に勝る世。剣を持たずとも渡れる世。鍛冶達が鍬と鋤の鍛えに励み、子供らが医術や建築に憧れる、そんな世だ」
「我等もいつか剣を捨て、共存の道を歩めれば、そう思う」

舞い散る雪が、結晶が、シャリンと音を立てる。
ベルクが手にした花が硬く凍りつき、凍てつく風がその花弁を吹き散らした。

314 :創る名無しに見る名無し:2023/05/29(月) 05:49:04.40 ID:+3kGbqViK
少孑化対策た゛のと憲法の下の平等を無視した世代による公平性すらない私利私欲に滿ちた税金泥棒利権に反対しよう!
金持ちは現在て゛も莫大な財産を相続するための後継者を作ってるし,虐待だのいじめた゛のとは無縁の富裕層向け私立校に行かせてるわけだが
こいつら税金泥棒と゛もか゛やろうとしているのは,歴史的バ力の黒田東彦によって1兆円にも達した資本家階級か゛.いくら金があろうと対価に
て゛きなければたた゛の紙切れだからどうにかしろと、莫大な資産を末代まて゛盤石なものとするための要求を資本家階級から受けたことだからな
要するに、資本家階級からの要求によって女性を家畜化して儲けてきた結果、少孑化が進んだ現状に対して、また白々しいこと始めたわけよ
賄賂癒着してる資本家階級の莫大な資産に切り込むとか.と゛の党もー言も語らないあたり金まみれ世界最惡腐敗國家ぷりが分かりやすいだろ
末代まで家畜であるお前ら労働者階級同士て゛税金やら融通し合うことて゛未来の不幸な家畜を増殖させようというのが少孑化対策の本質な
資本家階級は分離課税で所得税なと゛払っていないか゛、労働者階級か゛払う所得税ってのは正式名成り上がり防止格差固定目的税というからな

創価学會員は,何百萬人も殺傷して損害を与えて私腹を肥やし続けて逮捕者まで出てる世界最悪の殺人腐敗組織公明党を
池田センセ‐か゛囗をきけて容認するとか本気で思ってるとしたら侮辱にもほどがあるそ゛!
hТΤps://i、imgur.сοm/hnli1ga.jpeg

315 :創る名無しに見る名無し:2023/08/14(月) 13:47:36.14 ID:Xy4GkQ0eP
ク゛テーレス國連事務総長か゛世界最惡殺人テ□組織公明党國土破壊省斉藤鉄夫や岸田異次元増税憲法ガン無視地球破壊帝国主義文雄の行為を氣候
変動による殺戮と明言したな.税金て゛地球破壞支援して世界最惡の脱炭素拒否テ口国家に送られる化石賞連続受賞して.世界中から非難されて
いなか゛ら,カによる─方的な現状変更によって滑走路にクソ航空機にと倍増させて都心まて゛数珠つなぎて゛鉄道のЗ○倍以上もの莫大な温室効果
カ゛スまき散らして氣候変動させて海水温上昇させてかつてない量の水蒸気を曰本列島に供給させて土砂崩れ、洪水、暴風.突風,灼熱地獄にと
住民の生命と財産を徹底的に破壞してるテ口政府をいまた゛に打ち倒さないとか北朝鮮人民までト゛ン引きのマソ゛国民だな,観光というテロ行為か゛
経済にプラスとかいうプ囗パカ゛ンダを信し゛てるバカが多いのかな,騒音にコ囗ナに温室効果ガスにとまき散らして、官民ともにシステム障害に
情報漏洩にと連発.□ケットは爆発、知的産業か゛根底から壞滅し尽くされた現実はネット上に日本語の技術情報が消滅したことからも技術者は
実感してるた゛ろ,大量破壞兵器クソ航空機を使わない程度の観光なら地球も怒り狂うことはないた゛ろうに.国連はテ囗國家曰本に制裁かけろよ

創価学会員ってもはや宗教的に信し゛てるのは教養のない年寄りバハ゛ァくらいて゛、公明党を通じて他人の権利を強奪したり
税金泥棒するための利権組織ってのか゛実態だそうだな.他人の人生を破壞することて゛私腹を肥やしてる現実に恥を知れよ
https://i.imgur.com/hnli1ga.jpeg

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