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【オリジナル質雑TRPG】錬金乙女エリクシアン

1 :ソレイユ ◆vTHUCgBFbw :2016/04/10(日) 19:43:41.42 ID:ScqJznbW.net
Libens sum.Dominus.

――わたしはPEX-007“ソレイユ”。
人類発展機関『ビュトス』により開発された『錬金人類(エリクシアン)』です。
本日より貴方をDominusとして登録し、身辺の警護及び生命の保護任務に就かせて頂きます。
わたしのことはお気軽に『ソレイユ』とお呼びください。

わたしはいつの時も、貴方のお傍を離れることはありません。
『デミウルゴス』への対処、ならびに撃退は、すべてわたしにお任せください。
その他、日常生活で何かお困りのことがあれば、何なりとご命令を。
可能な限り、Dominusのご希望に沿えるよう善処させて頂きます。

――では――
只今より、貴方を守ります。

420 :創る名無しに見る名無し:2016/06/03(金) 14:14:12.88 ID:S0eFzABa.net
一方、ここは戦場から水深千メートルに位置する深海海底
そこには、強奪したデザイアの逃走を支援すべく待機していた、組織の潜水艦の姿があった

通信兵「デ、デザイアからの交信、途絶えました…
      同時にデザイアの反応も消失…生存者は居ないかと…」

艦長「またか…これは大きな損失になるな…
    ミスター・メネクの力を借りてもこの結果とは…」

艦長は額を抑え、失望に満ちた表情を浮かべていた

通信兵「艦長、これ以上の長居は…」

艦長「うむ、そうだな…本艦はこれより、急速潜行を開始する!」

黒い船体が深海の闇に溶け込むようにその場を去っていく

421 : ◆vTHUCgBFbw :2016/06/03(金) 19:11:12.69 ID:vxsUaM8w.net
>>419
「!?」

ヴェヌスが処刑するまでもなく、突如として爆散する鉄壁夫人。
そして、間髪入れずの『ベンジェンス・オブ・デザイア』の爆発。凄まじい熱波が、金属片の雨霰がヴェヌスを襲う。
――が、そのいずれもヴェヌスに傷ひとつつけることは叶わない。白の鶺鴒八基が円陣を敷き、ヴェヌスを守っている。

「計画が失敗すれば、実行犯は全員始末……。思い切りがいいですわね」

当初から、強奪計画が万一失敗したときのための備えもしていたのであろう。
喉から手が出るほど欲しい新型戦艦、手に入らないなら海の藻屑にしてしまおうということか。見上げた周到さだった。
船体の中ほどから真っ二つになったデザイアが、黒煙を上げながら沈んでゆく。これでは中の実行犯も生きてはいまい。
実行犯を捕縛し、組織のことを洗いざらい吐かせるというヴェヌスの計画は、これで頓挫してしまった。

「ち……」

旗艦空母こそ守ることができたものの、艦隊は半壊。新型戦艦は二隻とも轟沈。被害は甚大である。
が、ヴェヌスは一瞬忌々しそうに舌打ちしただけで、すぐに踵を返した。空母へ戻ろうとしている。

が、そんなとき、周囲に響き渡る声。
ヴェヌスは大きく腕を振るい、黒煙を振り払ってその声の主を探そうとした。
浮遊するアイボットから、癇に障る声が聞こえてくる。恐らく、今の戦いの一部始終をモニターしていたのだろう。
これが黒幕ということか。憤怒と憎悪に満ちた声が、ヴェヌスの鼓膜を不快に刺激する。
が、ヴェヌスは反論しない。ただ、目を閉じ沈黙している。
ヴェヌスは宙に浮かぶ『ブランシュ』の展開したフィールドを足場に、腕組みして静かに口上を聞いていたが、暫しの間を置いて、

「……どなた?」

そう短く言うと、そのまま答えも聞かずに跳躍し、空母への帰途を辿った。

422 :ソレイユ ◆vTHUCgBFbw :2016/06/03(金) 19:18:16.62 ID:vxsUaM8w.net
――Dominus、決着がつきました。
戦闘はヴェヌス姉さまの勝利です。いいえ……一方的すぎて、これは果たして戦闘と言えたのかどうか……。
姉さまが空母へ帰還しました。これよりわたしも空母甲板へ降り、姉さまと接触します。

「――その必要はなくってよ、ソレイユ」

姉さま!?わたしたち『錬金人類(エリクシアン)』同士の回線で通信を……?

「ずいぶん遅い到着だこと。でもまあ、こちらも丁度今、野暮用が片付いたところですから。丁度よかったですわ」
「これだけ派手に立ち回れば、貴方はかならずここへ来ると思っていましたから。ようこそソレイユ、我が合衆国第十三艦隊へ」

……ヴェヌス姉さまは、わたしをこの場所へ導くために、これほどの大規模作戦を……?
第十三艦隊。対デミウルゴス用に編成された、第七艦隊を凌駕する有史以来最大最強の艦隊です、Dominus。
艦隊司令部はワシントンD.C.――旗艦は『エイブラハム・リンカーンU』。
戦闘部隊はイージス巡洋艦四隻、同駆逐艦六隻、タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦十隻、アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦十二隻。
これらと第十三空母航空部隊との制圧攻撃『エイブラハム・リンカーンU打撃群』により、あらゆる外敵脅威を排除します。
惜しくも『巨神(デウス)』を駆逐するには至らなかったようですが……。

「『巨神(デウス)』も、どこかの小虫の小細工も、所詮は些事。メインイベントはこれからですわ?ねえ、ソレイユ」

やはり……。戦う他ない、ということですか?姉さま……。

「三人の姉を葬って、ようやく飲み込みがよくなってきたようですわね」

わたしは……もう、戦うことを恐れはしません。それが、サテュルヌ姉さまとの約束ですから。
でも、理由もなく戦うことはできません。なぜ、戦いを望むのですか?姉さま!

「それは、わたくしと貴方が『錬金人類(エリクシアン)』だからですわ。わたくしたち姉妹は、会えば殺し合うさだめ――」
「それが。お父さまの定めたルールですから」

お父さまの……定めた、ルール……?
――それは。『どの』お父さまのことなのですか?

423 :ソレイユ ◆vTHUCgBFbw :2016/06/03(金) 19:22:54.17 ID:vxsUaM8w.net
「その問いは、わたくしを倒した後で改めて問いなさいな。何事も成さぬまま何かを得ようなどとは、虫のよいこと」

やはり……。そう来ることは予想できました。愚問でした、姉さま。

「よろしい。――その殊勝な態度に免じて、ひとつだけ教えてあげましょうか」
「わたくしたち五人は、相談したのです。現在の人類のありようを見た上で、今後の旧人類の進むべき道について」

今後の……旧人類の、進むべき道……?

「そう。人類の善意と自浄に期待し、このまま様子を見続けるか。それとも、淘汰すべきなのか」
「結果は2:3。そして――」
「わたくしは『淘汰』の結論を出しましたわ」

――――!!

「わたくしにとっては、アメリカこそが大事。アメリカが世界の頂点ならば、後はどうなってもよいのです。だから――」
「アメリカ人以外は。滅びてしまっても構わないのですわ?」

なんてこと……、ヴェヌス姉さま!

「ちなみに今回の『巨神掃討作戦』の後、この艦隊は日本を攻撃する手筈になっています」
「アメリカがこの惑星の覇権を握るために。ちっぽけなアジアの島国が同盟相手として合衆国と肩を並べるなど、耐え難きこと――」
「ゆえに。日本には、本日をもってこの地球上から消滅して頂きます。それがわたくしの人類淘汰の第一手」

そ……、そんな……!
同盟国を攻撃すれば、日本が!それに他の国々が黙っては……!

「問題ありませんわ?すべて、デミウルゴスの仕業にしてしまいますから」
「『巨神』の攻撃後、日本の太平洋沿岸部各地にデミウルゴスが出現。破壊活動を行なったため、合衆国軍がこれに対処……」
「しかしながら被害状況が激しく、敵の殲滅を優先して戦術核弾頭の使用を断行。日本の消滅と引き換えに、デミウルゴス撃破に成功――と」
「ああ、勿論、予想される世論の非難のため責任を取る人物も選定してあります。今は空母の艦橋におりますわ」

淡々と作戦を語るヴェヌス姉さま。
その抑揚のない、非情な声音に、わたしは小さく慄える。

「そういえば、貴方はDominusと日本に住んでいるのでしたわね」
「大切なDominusを灰にされたくなければ、わたくしを阻んでご覧なさいな。では――艦橋で待っていましてよ」

そう告げるとヴェヌス姉さまは踵を返し、空母の中へと姿を消しました。

424 : ◆vTHUCgBFbw :2016/06/03(金) 19:26:11.05 ID:vxsUaM8w.net
ヴェヌスが艦橋へと戻ってくる。
固唾を呑んで様子を見守っていた通信兵たちを一瞥すると、ヴェヌスは秘書官として司令官の傍にいたときと同じく、司令席の隣に立った。

「行動可能な残存艦艇、ならびに空母内待機中の第十三航空部隊全機に告げる。至急攻撃態勢を取りなさい」
《は……っ!?しかし、目標は――》
「目標は前方20キロ洋上の所属不明飛行物体。撃墜せよ。すべての火力の使用を許可する」
「アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦『アスタファイオス』『サバタイオス』『エローアイオス』SLCM発射用意」
「第十三航空部隊、スクランブル。所属不明機を撃墜せよ」
《り、諒解!》

有無を言わせぬヴェヌスの圧力に、通信兵がすぐさま残存兵力に指示を送る。
駆逐艦のミサイルプラットフォームが開き、洋上に滞空している小さなソレイユに照準を定める。
空母のカタパルトから、戦闘機が出撃する――

「あの子を撃滅した後、当艦隊は日本に攻撃を敢行します。大丈夫、ベンジェンス・ノアがなくとも、この艦隊の破壊力は地球最高」
「日本ごときちっぽけな島国、地図上から綺麗さっぱり消滅させることなど、造作もないこと――」
「お喜び下さいな、司令官。これはすべて司令官の功績ですわ」
「アメリカが地球の覇権を握る、それが司令官のお望みでしたわね?これはアメリカが支配者であり続けるために必要なこと」
「アメリカ最大の障害を排除した英雄として、司令官のお名前は歴史に永久に残されるのですわ」
「さあ――戦端を開くのです!『巨神(デウス)』以上に細心の注意を払い、迅速に撃砕なさい!」

大きく右腕を振り、ヴェヌスが号令する。
ミサイルが、機関砲が、艦載砲が一斉に火を噴き、ただソレイユ一人を狙う。

地球最大戦力、合衆国第十三艦隊対『錬金人類(エリクシアン)』ソレイユ。
『巨神(デウス)』と『機械化人類(メカニゼイター)』を前座とした戦いの本命が今、切って落とされた。

425 :創る名無しに見る名無し:2016/06/03(金) 21:45:26.08 ID:kmpVsvQv.net
今、テレビのモニターには見慣れた顔が映っている。
白のソレイユが映っている。
そして米海軍の艦砲はなべて彼女に向けられている。

こうなることはなんとなく予想していた。
そしてインカム越しに聞こえてくる会話から、その予想が的中したことを確信した。
もしかしたら彼女も、意識的にか無意識的にか、自分からケリをつけに出向いたのかもしれない。
彼女の姉たちが彼女にとってきた行動は、これまで徹底して一貫していた。

いまや地球上最高クラスの練度と装備を誇る艦船と艦載機が、ひとりの少女を狙っている。
だけど我々は知っている。
大人の喧嘩に子供がいくら出張ってきたところで、物の数ではないのだということを。
この大規模な騒乱の結末は、おそらくたった二人の錬金人類に拠るのだということを。

暫くして、各チャンネルの現地中継が次々とブラックアウトしてゆく。
日本の局も、海外の番組を放送していた衛星チャネルも、例外はない。
きっと各国の報道機関に情報統制が敷かれたのだ。
これでは戦況を追いかけることはできそうにない――

いや、違った。
たったひとつのTV局だけが、予定を急遽変更して彼女の姿を追っていた。

――テレ東の誇る装甲カメラドローン。
如何なる妨害も、如何なる権力も彼らの行動を阻むことはできなかった。
平時のアニメ放映を中止しての緊急割り込み生中継――つまり、現事象が"世界の危機"レベルの事態であると判断されたということである。
無数のカメラドローンによる現場の3D解析映像がモニタ前の我々に詳細な現況把握をもたらすのは確実と思われた。

「テレ東が動くか――今回ばかりはヤバいかもしれない」

私はテレビのリモコンを握りしめながら、TV画面とインカムに最大限の注意を払う。

「どうかチャンネルはそのままで!気になる次回はCMのあと!」

クソッ、CMだ!

426 :創る名無しに見る名無し:2016/06/07(火) 08:22:24.98 ID:mxz30LA7.net
アイボット「知らん…だと?ククク…そうかそうか…
       やっぱり俺様に関する記録は伏せられてるみてえだな
       そうだろうなあ…貴様らの創造主の部下だったような者が、
       組織を裏切ってのうのうと生きてるなんざ、これほど都合が悪いことはねえ…
       クククク…まあいい、何れ思い知ることになる」

アイボットを通して聞こえてくる男の声は、状況を楽しむかのようにヴェヌスに言い放つ
しかし、彼女からの返答は一切ない
既に、エリクシアン・ヴェヌスの興味は敗者ではなく、目の前の新たな相手に向けられていた
美しき白の躯体、エリクシアン・ソレイユに

アイボット「ハンッ!てめえの本命はアレかよ
       俺様のメカニゼイターですら前座とは舐められたもんだぜ
       てめえらの性能とやら、直に拝ませてもらうとするか」

尚もアイボットから響いてくる憎まれ口
しかし、その向こうでアイボットを操作するメネクの表情は訝しげであった

メネク(デミ公どもを放置してまで姉妹で潰し合いとはどういう料簡だ?
     あの野郎、何を企んでやがる?あの白いのに何を賭けてやがる?
     昔から何考えてるかまるで読めねえ野郎だったが、不気味なもんだ…
     …まあ何にせよ、時代を変えるのは野郎のエリクシアンなんかじゃあねえ
     俺様の機械人類…その力を何れ分からせてやる…!)

427 :ソレイユ ◆vTHUCgBFbw :2016/06/07(火) 11:46:50.09 ID:ocooDoIP.net
参ります。

>>425
アメリカ合衆国第十三艦隊、エイブラハム・リンカーンU打撃群が攻撃を開始しました。
攻撃目標はわたし――『錬金人類(エリクシアン)』ソレイユ。
現在、そちらではこちらの様子はどうモニターされていますか?

巡洋艦からの最新鋭のトマホーク、SAM、RIR-161スタンダードミサイル。
第十三航空部隊の最新鋭戦闘機、F-35ライトニングUからのAAM(空対空ミサイル)、サイドワインダー。
その他、本来『巨神(デウス)』を撃滅するはずだった兵装のすべてが、わたしへ照準を合わせています。
――ただ。

それを凌ぎ、破壊することは簡単です。
人類の英知の粋たるイージスシステムを破壊し、艦艇を海の藻屑とすることも。
先程『機械化人類(メカニゼイター)』がやったように――
『錬金人類(エリクシアン)』の能力をもってすれば、それはいとも容易いこと。
Dominusでしたら、それは理解して下さると思います。

でも、わたしにそれはできません。
正確には――「やりたくありません」と言うべきでしょうか。
わたしは、人を殺したくありません。できれば、ひとりの被害さえ出したくない……。
姉さまはきっと、そんなわたしの性格を見越して、艦隊を差し向けてきたのでしょう。


……え?テレビ東京が今のこちらの模様を放送しているのですか!?
なんてこと。日本の現人神崩御の際もアニメを放送していたと言われるテレビ東京が、アニメを中断して?
それは……驚天動地の事態ですね。ならば、ますます人の命を危ぶむ真似はできません。
人的被害ゼロで、戦闘力のみを奪います!
Dominus……どうかわたしに指示を!

428 : ◆vTHUCgBFbw :2016/06/07(火) 11:49:40.29 ID:ocooDoIP.net
>>426
「無邪気ですわねえ……。確かに、今回の作戦の主眼は『巨神』討伐に見せかけた、不埒者の撃滅でしたが」
「それはあくまでアメリカの都合。ビュトス機関の用件は、あくまでわたくしとソレイユが戦うことにあるのです」
「機関に見捨てられた落伍者の名など、もはや機関で覚えている者など誰もいなくてよ。さて――」

艦橋でヴェヌスが目を細める。
艦隊の攻撃準備が整うと同時、ヴェヌスは無慈悲に伸ばした右腕を振り下ろした。

「戦闘開始!!所属不明機を撃砕なさい!」

ドドドドドゥッ!!

駆逐艦のミサイルプラットフォームから、矢継ぎ早に艦対空ミサイルが発射される。
空母から発艦したF-35のウェポンベイから、白煙を引いてサイドワインダーが発射される。
オーバーキルとしか言いようのない圧倒的火力が、ただソレイユ一人を狙って殺到する。
が、ソレイユは高機動ブースターユニット『イカロス』の翼によって巧みにミサイルの雨を掻い潜り、手近な艦船に迫った。
音速に達するソレイユの飛び蹴りによって、艦船の機関砲が派手な音を立てて吹き飛ぶ。

「不埒者たちのように、船ごと撃沈させてしまえば楽だというのに。それができないのが貴方の弱さですわね、ソレイユ」

戦闘の様子を見ながら、ヴェヌスが呟く。
ソレイユは無人の箇所を冷静に見極め、人命に配慮した上で兵器を無力化させてゆく。艦艇は一隻として沈めない。
断続的に迫り来るミサイルを回避し、あるいはぎりぎりで受け流してゆく――

ビュゴォッ!

トマホークが突っ込んでくる。が、ソレイユは逃げようとしない。今逃げれば、足場としている艦船にミサイルが炸裂する。
ソレイユは背から武器を抜いた。冷気を漲らせる、凍える刀身。
EXW-055S 絶凍刃『サテュルヌ・タンペート・ド・ネージュ』。
サテュルヌから譲り受けた刀を、居合に構える。ミサイルが命中する寸前、刃の軌跡が弧を描く。

瞬刻の斬撃によって縦真っ二つに分断され、さらに冷気によって完全に凍結したトマホークは、ゴロリと艦船の甲板に横たわった

429 : ◆vTHUCgBFbw :2016/06/07(火) 11:51:55.96 ID:ocooDoIP.net
さらにソレイユは艦艇の機関砲や砲身を絶凍刃で切断すると、別の艦艇へ飛び移る。
白い凍気を迸らせる刃が煌くたび、艦艇が戦う手段を失って沈黙する。
サイドワインダーを両断と同時に凍結させてから、ソレイユは『イカロス』の出力を上げて一気に空中のF-35へ迫った。
すれ違いざま、F-35の右翼を斬る。
キャノピーが吹き飛び、パイロットがシートごと射出されて脱出するのを見届けると、ソレイユはさらに戦闘機を狙う。
跳ぶように。翔けるように。
あたかもギリシャ神話のイカロスそのものであるかのように、ソレイユは縦横無尽に空を舞って戦闘機部隊を駆逐してゆく。
あくまで、人間は狙わぬまま。

「ならば――こういうのはいかが?」

艦橋のヴェヌスがパチン、と指を鳴らす。
と同時、SAM(艦対空ミサイル)が一機、ソレイユの元へと飛んでゆく。
周囲に戦闘機や艦艇はない。ソレイユは危なげなくそれを両断した。
しかし。

ミサイルが無力化すると同時、その影から八基の『鶺鴒』たちが飛び出してくる。
攻撃を司る黒『ノワール』が四基、防御を司る白『ブランシュ』が四基。
鶺鴒たちは獄卒一家を仕留めたときと同じくソレイユの死角に展開すると、すぐに甲高く囀り始めた。
死の閃光がソレイユの装備している『イカロス』を直撃する。

飛行ユニットなしでは、ソレイユは空中機動を維持することができない。
神話に記された、イカロスの最期と同じように。
翼を熔かされたソレイユは墜落し、黒煙を棚引かせながら水柱を立てて海へと落下した。

430 :創る名無しに見る名無し:2016/06/08(水) 00:33:23.91 ID:1v2RpMP6.net
いっそ空母の下まで潜って行って、
超高熱溶断火炎斧『マルス・ティタン・ドゥ・フランム』でも使って空母に穴を開けてしまうってのはどうだろう
じわじわ沈む程度に穴を開けたなら、船員もろとも空母から出てくるだろうからそれを待ち構えるとか
あるいはそこから侵入して接近し(その際は氷とかで穴は塞いで)
狭い空母内では避けられないであろう、前腕部内蔵型高出力粒子砲『ソレイユ・アマ・デトワール』をぶっぱなすとか

431 :創る名無しに見る名無し:2016/06/08(水) 11:41:15.50 ID:VTUGzz0M.net
通信兵「ヴェ、ヴェヌス司令…どういたしましょう?
      当作戦には参加予定のない『ベンジェンス・オブ・ドーン』が、
      作戦海域7306に展開し、超長距離砲支援撃準備を整えているとの報告が…」

※ベンジェンス・オブ・ドーン
ハワイに配備されているベンジェンス・ノア級の5番艦
船体そのものを砲身とする巨大なコイルガン『グランMAC』を備え、
一撃の破壊力ならばベンジェンス・ノア級最強との呼び声も高い
『グランMAC』は専用の特殊合金製弾芯を使用する実体弾砲だが、
巨大な砲弾を、光速の40〜50%をマークする壮絶な速度で撃ち出すので、
その破壊力は一発で都市や島を吹き飛ばし、何もない焼野原に変えてしまうと言われる
その性能から詳細な情報は非公開となっており、表向きは通常のベンジェンス・ノア級と同一の扱いである

元司令官「ハハハ…ドーンを動かしたの私だよ
       ヴェヌス司令、先ほどは取り乱して済まなかったな
       今更遅いかもしれんが、私も改めて腹を括るつもりだよ
       司令の目的に、ドーンの武器は大いに役立つだろう」

自室に軟禁されていたはずの前司令官が側近を引き連れ、
不敵な笑みを浮かべながらブリッジに姿を現していた
いつの間にやら冷静さを取り戻しているが、狂気を孕んでいるような雰囲気を醸している

元司令官「ドーンは私の親父が会長を務めるフロンティア造船が建造を手掛けていてね
       政財界とも繋がりが深いから、コネを介して急遽戦列に加わるよう指示を出したのだ
       ノアとデザイアを失った今、直近で動かせる唯一の戦力でもあったしな
       性能は私が保証しよう…沿岸部の露払いは私に任せてもらいたい、司令」


同時に、響く轟音、何か巨大なものが近くを目にも止まらぬ速度で通り過ぎる音
そして、遅れて沿岸部が激しい光と爆発に晒されている光景が広がった
列を組んでいた重機兵の部隊、味方であるはずのそれらは一瞬で消し飛ばされた
司令官は尚も感情のない声と表情で攻撃の指示を送る

元司令官「彼らには悪いことをした…だが、自衛隊との混成部隊だった以上仕方のないことだ…
       よし、次は港を吹き飛ばせ…最早日本は我が祖国の敵!容赦の必要はない!
       愚かな大衆諸共吹き飛ばしてやれ…以上だ」

そして、その合図を受け、船上からも遥か遠く離れた位置からグランMACガンを向ける
その照準は、式典で集まっていた大勢の民間人の居る港区域に向けられていた

432 :創る名無しに見る名無し:2016/06/10(金) 19:43:27.04 ID:fvuW2ynC.net
今回ばかりはお手上げじゃないか?
金色が操る"白"と"黒"。攻防一体隙がねえ。

"黒"は粒子砲のようだが……無線管理の小型ユニットなら、あんまりデカイ加速器は積めないはずだ。
じゃあどうやって荷電粒子を加速させてんだ?
――テレビの端から時折見える僅かな発光。レーザー。つまりレーザー加速器と光子圧力を使ってんじゃあないか?
だったら赤色の斧で海水を蒸発させて、戦艦まわりに局所雲海でも作ろうか。水蒸気が奴の光を屈折させる。

んで"白"はバリア発生装置か?こいつがどうにも厄介だ。
機械化人類戦じゃあ器用に使ってやがったな。
どんな攻撃にも対応可能な多機能障壁なんだろう。闇雲に切ったり殴ったり撃ったりしたとこでどうにもならねえ。
多数いるから死角も読めねえ。
黒いのを多少弱めたところで白いのを突破できなきゃジリ貧ってもんだ。決定打がないってのはそういうことだ。

そうだなぁ……金色が全部の"白"を使わざるを得ない状況でもなけりゃあ、後ろに回ってブスリ、とはいかんだろうが……。

そうだ。あれでも当てるかい? 例の、ドデカい電磁投射砲。


     次回、錬金乙女エリクシアン「SALUTE OF MAC GUN」

     どうやったらあれの砲口が金色を向くのか、なんてのはさっぱりわからねえがよ。
     ――狂気と凶気ってやつは、割とありふれてる。

433 :ソレイユ ◆vTHUCgBFbw :2016/06/11(土) 00:14:33.50 ID:OZhCnXIo.net
――参ります。

>>430
……ゴボッ……。
高機動ブースターユニット『イカロス』を失ったことで、空戦機動が不可能になってしまいました、Dominus。
幸い、本体へのダメージはゼロです。海面への落下の衝撃も、わたしを負傷させるには至りません。
ただ、これからどう行動すればよいのか……。

――なるほど!さすがはDominusです!
海中にいれば、航空部隊や艦対空ミサイルの攻撃も届きません。
このまま『エイブラハム・リンカーンU』の船底に移動し、内部へ侵入します!

当然のように魚雷が向かってきましたが、この程度の攻撃は物の数ではありません。
魚雷迎撃!船底に接近します!そして――
セキュリティ解除シーケンス発動、特殊兵装を開放!
EXW-091S 超高熱溶断火炎斧『マルス・ティタン・ドゥ・フランム』!!

……Dominus、申し訳ありません。
船底にわたしが侵入できる程度の穴を開ける予定でしたが……出力を誤りました。
マルス・ティタン・ドゥ・フランムで開けた穴から、大量の海水が侵入しています。水の勢いが激しすぎて、塞ぐのは困難です。
ただ、沈没までは時間がかかるでしょうから、乗組員が避難するだけの時間はあるでしょう。
空母内部への侵入成功。機関の戦略衛星を経由し、『エイブラハム・リンカーンU』の艦内図をダウンロードします。
70パーセント、90パーセント、ダウンロード完了。
艦橋への最短ルートを選択。速やかに艦橋へ移動します。

さしものテレビ東京のドローンも、艦内までは侵入できない模様ですね……。
しばらくはインカムの音声のみでご辛抱ください。
状況はわたしが口頭で説明しますので――指示をお願いします!

434 : ◆vTHUCgBFbw :2016/06/11(土) 00:18:13.96 ID:OZhCnXIo.net
>>431
《第六ブロックに被弾!大量の海水流入!》
「ダメージ・コントロール。隔壁を閉じ対処なさい。慌てる必要はありませんわ」
「……さて……。おいでなさいな、ソレイユ」

通信兵の言葉に冷静に対処しながら、ヴェヌスが軽く鼻を鳴らす。
と、そこへ『ベンジェンス・オブ・ドーン』の報告。
やってきた元司令官の言葉に、その姿を一瞥したヴェヌスは軽く眉を顰めた。

「何もできないようにしておけ、と言ったはずですが……。まったく、上が上なら下も下。仕事のできない子供ばかり」
「まあ、よいでしょう。ご厚意は慎んで受け取らせて頂きますわ」

耳をつんざく轟音と共に、沿岸部で待機していた米軍重機兵部隊が消滅する。
地形が変わってしまうほどの威力を誇るグランMACの威力を目にして、ヴェヌスも軽い驚きの表情を浮かべる。

「――なるほど。なかなかの威力ですわ。機関のテクノロジー供与なしでも、ここまでのものが作れるのですわね」
「ならば。速やかに殲滅なさい、この島国を……そうすれば、栄光と名声はすべて貴方のものですわ?司令――」
「あくまで、表向きの司令官は貴方ですから……ね」

くす、と笑うヴェヌス。
『ベンジェンス・オブ・ドーン』の照準が、作戦を見物に来た一般人や軍関係者、各国メディアのいる軍港に狙いを定める。
近くの沿岸部に展開していた部隊が一瞬で消滅したことに対し、彼らはひどく混乱しているように見えた。
グランMACが発射されれば、米軍重機兵部隊と同じく彼らもまた一瞬でこの地上から消え去ることだろう。
止められるとしたら、それは『錬金人類(エリクシアン)』以外にはいない。
そして、肝心の『錬金人類(エリクシアン)』ソレイユは現在空母内におり、グランMACには対応できない。

バギュッ!!!

亜光速で発射される巨大な弾丸。それが海面をモーセさながら真っ二つに割りながら、軍港へと突き進む。
だが、『ベンジェンス・オブ・ドーン』の乗組員も、元司令官も。
そして、ヴェヌスも気付いてはいなかった。

日本には、もうひとり『錬金人類(エリクシアン)』がいるということに。

435 : ◆vTHUCgBFbw :2016/06/11(土) 00:25:30.86 ID:OZhCnXIo.net
《グランMAC発射。4、3、2……弾着、今!》

通信兵が報告する。ヴェヌスは腕組みした。
――が、軍港をモニターした艦橋のメインスクリーンに変化はない。
本来ならば港は弾丸の直撃を受け、跡形もなく消滅しているはずだというのに。
状況をチェックした通信兵が全身を震わせ、唇をわななかせる。

《ほ、砲弾……弾着、していません……!》
「……どういうことですの?」
《…………と…………、止まっています……!砲弾、軍港手前300メートルにて空中静止!動きません!》
「そんなバカな……」

さしものヴェヌスも怪訝な表情を浮かべたが、その特異な状況の原因はすぐに判明した。

《砲弾の前方に何者かが――。この反応は……》

僅かなタイムラグを経て、メインスクリーンに新たな映像が映し出される。
高機動ブースターユニット『イカロス』によって飛翔しながら、軍港目指して猛進していた砲弾に右手を翳す、一人の少女。
膝裏まである漆黒の髪を海風に靡かせる、闇色のアサルトスーツの影――。

「ラ・テール!!」
「それは。させないよ――お姉ちゃん。あたしがここにいる限り」

漆黒の少女、ラ・テールが言う。はるか遠くの洋上、空母の中のヴェヌスを射るように見据える。
さしものヴェヌスも、想定外の新たな『錬金人類(エリクシアン)』の闖入には驚きを隠しきれず、瞠目する。

「く……!なぜあの子が?あの子はお父さまのところにいたはずでは……?」
《グランMAC、再装填完了。発射準備よし――ヴェヌス司令、いかが致しましょう?》
「……おやめなさい、あの子にそんなオモチャは通用しませんわ。待機を指示なさい」
《諒解》

腕組みした指先に、ギリ、と力が籠る。
一方のラ・テールは、砲弾へと突き出していた右手を軽く払う。
と同時、空中で停止していた砲弾はぐらりと傾き、推進力を失って水しぶきを上げながら海に落ちた。

「もう、大丈夫――」

ざわめく人々にそう言って、にこりと笑う。
それから、あたかも守護神のように。大勢の人々がいる軍港を背に。
ラ・テールはふたりの姉妹がいる空母をじっと見つめた。

436 :ソレイユ ◆vTHUCgBFbw :2016/06/11(土) 00:29:14.06 ID:OZhCnXIo.net
>>432
Sic.Dominus.
ヴェヌス姉さまの鶺鴒たち、『ヴェヌス・ベルジュロネット・ドゥ・ブリエ』は攻守共に完璧な兵装。
並の攻撃では、恐らくヴェヌス姉さま本体はおろか鶺鴒たちを破壊することさえできないでしょう。
わたしの現在の兵装はナイフ状のビームエッジ『ソレイユ・エトワール・フィラント』。粒子砲『ソレイユ・アマ・デトワール』。
メルキュール姉さまのEXW-006S 超高圧力式水流鞭『メルキュール・トレント・デ・フエ』。
マルス姉さまのEXW-091S 超高熱溶断火炎斧『マルス・ティタン・ドゥ・フランム』。
サテュルヌ姉さまのEXW-055S 絶凍刃『サテュルヌ・タンペート・ド・ネージュ』。

その中で、ヴェヌス姉さまの鉄壁の守備を破る方法を考えなければ……。
ヴェヌス姉さまが『ブランシュ』を八基すべて使わなければならない状況……ですか……。

ともあれ、艦橋に到達します。ここにヴェヌス姉さまが――。
――。往きます、Dominus!

「来ましたか、ソレイユ。海に叩き落とされたのを逆手にとって、船底から侵入するとはやりますわね」

それは、Dominusの指示です。わたしの考えた作戦ではありません、ヴェヌス姉さま。

「なるほど。メルキュールお姉さまやマルス、サテュルヌを破ったのも、Dominusのアシストあってのことということですか」
「よいコンビネーションですわね。でも、それもここでおしまい。この『錬金人類(エリクシアン)』最美を誇るヴェヌスは破れなくてよ」

それは……。やってみなければわかりません。

「ならば――試してご覧なさいな!」

ビュアッ!

『ノワール』四基、『ブランシュ』四基。八基の鶺鴒が姉さまの背後から飛び出してくる。

――皆さん、逃げてください!戦いが……あぐゥッ!!

防護フィールドを発生させた『ブランシュ』の一基が、わたし目がけて突進してくる。
乗組員の退避に一瞬気を取られていたわたしはその突撃をまともに喰らい、艦橋の窓を突き破って外の飛行甲板へと落下しました。

「そんな無様な有様では、わたくしを凌駕するなど夢のまた夢」
「さあ……お父さまの期待する性能を見せてご覧なさい。金星の女神、このヴェヌスに!」

『ブランシュ』を足場に、姉さまが華麗な身のこなしで甲板へと降りてくる。
時刻が夕暮れにさしかかり、沈みゆく太陽を背に降臨するその姿は、まさに宵の明星――

『錬金人類(エリクシアン)』最高の美貌と、最強の防御力を誇るヴェヌス姉さま。
そんな姉さまとの戦いが、今。幕を開けました。

437 :創る名無しに見る名無し:2016/06/11(土) 21:54:18.42 ID:zto0Je6q.net
手が足りなさそうだから、もう一体出てきそうと思っていたぜ。
ラテールの武装はよくわかっていないんだったな。外形で判断すると運動ベクトルの操作あたりだろうか・・・。
制服姿のヴェヌスさんに踏まれたい。

438 :ソレイユ ◆vTHUCgBFbw :2016/06/13(月) 08:33:15.74 ID:eYo14puE.net
Dominus、参ります。

>>437
ラ・テール姉さまが……?そ、そうでした。
わたしたち七姉妹のうち、わたしとラ・テール姉さまの配属先は日本。
日本でこれだけの騒ぎがあれば、ラ・テール姉さまが来ないはずがない……!

今、ビュトス機関からデータが送られてきました。
『ベンジェンス・オブ・ドーン』……超巨大電磁投射砲、グランMACを搭載した新型戦艦……ですか。
先程の轟音は、そのグランMACが発射された音だったのですね。そして、それをラ・テール姉さまが阻止した。
結果的に、ラ・テール姉さまにはDominusを助けて頂いたことになりますね……。
早く、あの戦艦も無力化させないと!

「わたくしの前で、他のことに気を回している余裕などあって?ソレイユ!」

……く……!
確かにそうです。今は、ヴェヌス姉さまとの戦闘に集中しないと!
とはいえ、姉さまの防御は完璧。半端な攻撃はすべて『ブランシュ』によって防がれてしまう。
そして、常にわたしの死角を狙って展開してくる『ノワール』……!
『ノワール』に包囲されないように、常に動き回るのが精一杯で、攻撃に移ることさえできない!

「マルスは一撃の破壊力を、サテュルヌは速度を。それぞれ極めていましたが、真の強さとはそんなものではないのです」
「真の強さとは、強固な防衛力の上に築かれるもの。始めに防御があってこそ成立するものなのですわ」

余裕の表情で腕組みしたまま、ヴェヌス姉さまが言う。
どんなに鋭い槍や重厚な鎚をも跳ね除ける、絶対の盾。それがあれば、相手に勝ち目はない。
実際、自在に動くメルキュール姉さまの鞭も、万物を焼却するマルス姉さまの斧も。
すべてを凍結させ斬断するサテュルヌ姉さまの刀も、『ブランシュ』を突破することができない……。

どうすれば?
どうすれば、わたしは姉さまに勝てるのでしょう?

439 :ソレイユ ◆vTHUCgBFbw :2016/06/13(月) 08:35:05.69 ID:eYo14puE.net
「攻撃手段がない以上、貴方の負けは確定的でしてよ!執行なさい――鶺鴒たち!」

ヴェヌス姉さまの指示の下、黒い鶺鴒たちが一斉に囀り始める。
死の閃光が、わたしを狙って放たれる――。
わたしは体術の粋を駆使して、鶺鴒たちの閃光を回避してゆく。まずは、この黒い鶺鴒に対処すべき!
Dominusの作戦は、マルス・ティタン・ドゥ・フランムで海水を蒸発させ、水蒸気を発生させて――ということでしたが。
わたしのいる甲板から喫水線までは約12.3メートル。咄嗟には海水を確保することはできません。

――でも――

水蒸気を他のもので代替し、Dominusの仰る作戦を実行することは可能!
セキュリティ解除シーケンス発動、特殊兵装を開放!
EXW-055S 絶凍刃『サテュルヌ・タンペート・ド・ネージュ』!

正眼に構えたわたしの絶凍刃、その刀身から冷気が迸る。
それはやがて霧状になり、ゆっくりとわたしの全身を、そして甲板を覆い隠してゆく――。

「サテュルヌの兵装?く……。小癪な真似をしてくれますわね。けれど、その程度の小細工で!」

ヴェヌス姉さまが黒い鶺鴒八基を差し向ける。
けれど、霧の中へと入った鶺鴒たちの動きは今までと違って精彩を欠く。
絶凍刃の放射する霧はレーザーを屈折させるのみならず、凍気によって『ノワール』の推進装置までも侵してゆく。
霧の中にいる限り、以前のように鋭い機動を発揮することは不可能!
あとは――

霧の中で、絶凍刃が斬撃の軌跡を描く。

八基の黒い鶺鴒、そのうち三基が両断されて甲板上に墜落する。
わたしはさらに鶺鴒狩りをするべく、霧の中を迅りました。

440 : ◆vTHUCgBFbw :2016/06/13(月) 08:39:08.54 ID:eYo14puE.net
《あの『ベンジェンス・オブ・ドーン』のグランMACすらも、効き目がないとは……》

ヴェヌスが出撃した後の『エイブラハム・リンカーンU』の艦橋で、通信兵が誰にともなく呟く。

『ベンジェンス』級戦艦は人類の切り札の一つである。当然、その破壊力には少なからぬ自信があった。
というのに、この結果はどうだ。
先に使用した切り札『カレトヴルッフ』同様、錬金人類には毛筋ほどの傷すらつけることができなかった。

『あなたたちは、わたくしたちという介添えなしにはまだ、一人で立ち歩くことさえ覚束ない赤子』

そう、ヴェヌスは言った。
そのなんと屈辱的なことか。『錬金人類(エリクシアン)』も『機械化人類(メカニゼイター)』も、所詮は人類の派生。
その強さも、存在そのものも、人類の英知という基盤があってこそ初めて成り立つものなのだ。
だというのに、人類の手によって生み出された存在が、人類を赤子扱いしてよいものか?
彼らの方こそが、人類にとっての子供。赤子ではないのか。
そんな者たちに人類が未来を、生殺与奪の権限を握られるなど、あっていいことなのだろうか?

「……司令官。これは、またとない機会ではありませんか?」

甲板で熾烈な戦いを繰り広げる錬金人類たちをスクリーンの映像で眺める司令官へ、側近が耳打ちする。

「軍港にいる『錬金人類(エリクシアン)』には通じませんでしたが、だからといってグランMACが無力ということではありません」
「グランMACの絶対的破壊力は、米軍重機兵部隊を壊滅させたことでも明白」
「ならば……標的を変更すればよいだけのこと。撃つのです、奴を――」
「ウラニア・ポース秘書官を。いや……あの忌々しい『錬金人類(エリクシアン)』ヴェヌスを……ね」

周囲の者には聞こえないように、側近は小声で続ける。

「宜しいのですか?指揮権を剥奪され、あたかも無能であるかのように扱われて。怒りは湧いてこないのですか」
「わたしは、司令官。貴方が愚弄されることに我慢がなりません。同時に人類が下に見られることも」
「覇権を握るのはアメリカ。それは無論のこと。しかし、それを成し遂げるのは人形どもではありません。我々人類です」
「なに、誤射ということで、後からいくらでも言い逃れはできます。さあ……司令官。ご決断を」

側近がゆっくりと、司令官に囁く。
『ベンジェンス・オブ・ドーン』は、次なる標的を求めてじっと指示を待っている。

441 :創る名無しに見る名無し:2016/06/13(月) 20:07:15.99 ID:43iDAT6j.net
そう言えばふとノワールって単語を聞いてて思い出したんだけど、
EXW-0013O 燕型小型電子支援ユニット『ソレイユ・イロンデル・ノワール』ってあったじゃない?
あれ使えば楽勝じゃないだろうか? イロンデルは使用者であるソレイユ自身の兵装(粒子砲)までも
ジャミングによって使えなくしてしまう強力な代物。
同じ機関が造ったものであるから、鶺鴒にも通用する可能性が十分ある。
その点に関してはイロンデルだが異論がでない、筈。
勿論、効かない可能性もあるし、効いたとしてもすぐ復旧して動き始めることも考えられる。
その時々で作戦は分かれる。
効果がない        →イロンデルを可愛がりながらすぐ引っ込める。
効果があるけどすぐ復旧→隙ができたのでヴェヌス本人か鶺鴒を数基潰す。
効果がある        →手数で勝負してた人の手数を封じた喜びを噛みしめながら鶺鴒たちを全部潰すか、
                イロンデルを壊されないよう、ヴェヌスから叩く。
そもそも持ってきてない →仕方がないけどおやつ抜きぐらいは覚悟しておく。

442 :創る名無しに見る名無し:2016/06/13(月) 20:30:04.94 ID:YqsjALXL.net
>>441
きさまこのスレを読み込んでいるなッ!?
もしソレイユがイロンデルを忘れて来た場合はこの俺様自身がイロンデルとなって可愛がられるとしよう。
さあ!



ジュッ!
哀れDominusはヴェヌスのノワールに可愛がられて木っ端みじんになった。
残念、Dominusのぼうけんはおわってしまった!

443 :ソレイユ ◆vTHUCgBFbw :2016/06/15(水) 16:35:11.87 ID:2Fr0IE3v.net
ソレイユ、往きます。

>>441
…………!
そうでした、Dominus!わたしにも……姉さまの鶺鴒たちに負けない『ノワール』がいたのでした!
(すっかり忘却していた、とはとても言えません……)

お、おやつ抜き!?
そ……それは困ります!わたしは――必ずこの戦いに勝って、Dominusと……おやつを!食べます!
イロンデルは通常、わたしのアサルトスーツの背に折り畳まれ格納されていますから、持って来忘れることはありません。
ならば――
EXW-0013O 燕型小型電子支援ユニット『ソレイユ・イロンデル・ノワール』、起動!

「鶺鴒たちの動きが……。これは――ジャミング?く、言うことをお聞きなさい!」

わたしの背から射出された黒く小さな燕が、高空を飛翔する。
燕の飛翔する一帯に存在するすべての機器が、ジャミングによってその性能を著しく鈍麻させられる――。
流石に姉さまの鶺鴒たちを完全停止に追い込むことまでは不可能なようですが……。
絶対強固であった防護フィールドに綻びを生じさせるには充分!!

――姉さま、覚悟!はあああああああああッ!!!

「ぐ……!ソレイユッ!なんということ――」

ビギギギギッ!

わたしの渾身の拳撃が姉さまの前方に展開する『ブランシュ』の障壁と激突し、火花が散る。
イロンデルのジャミングによって結束の緩くなった防護フィールドなら、突破できる!
この『ブランシュ』さえ打ち破れれば――!

Dominus、おやつは商店街のケーキ屋さん「プティ・ドルチェ」の一日20個限定!
あまおうショートケーキ(1ピース980円税別)を希望いたします!

444 :ソレイユ ◆vTHUCgBFbw :2016/06/15(水) 16:38:06.32 ID:2Fr0IE3v.net
>>442
イロンデルのジャミングによって、わたしもあらゆる兵装が使用不能となります。
けれど、わたし自身の機動力および攻撃力の低下はありません。
そして。わたしの身体能力は、鶺鴒たちの制御に特化した姉さま本体のそれを完全に凌駕している――。
鶺鴒を機能不全に追い込んだ時点で、わたしの勝利は――揺るぎません!!

残念ながらイロンデルは常にわたしと共にありますので、置いてきてしまうことはあり得ませんが……。
それはそれとして、帰ったらDominusのことは充分可愛がらせて頂きますから!
ですから今は――わたしに力を!Dominus!

「末の妹が……このわたくしに!暁の女神ヴェヌスに楯突くなど……ありえぬこと、ですわ……ッ!」
「『ノワール』!燕を撃墜なさい、一刻も早く!」

ヴェヌス姉さまの指示を受けた五基の黒い鶺鴒が、高空を飛翔する燕を仕留めようと追いすがる。
イロンデルを撃墜されてしまえば、すべては水泡――何としても守らなくては!

姉さまの鶺鴒と同じく、わたしの脳波によって完全にコントロールされた燕が、回避行動を取る。
ジャミングにより性能の低下した鶺鴒のレーザーなら、イロンデルが回避することは容易。
こちらは姉さまに集中すれば――それでいい!

「こ、こんな……こんなことが!最強最美のわたくしが……!」

わたしの拳の衝撃に、堪らず姉さまが後方へと跳躍し間合いを離そうとする。
でも――そんなことはさせない!前へ、前へ……さらに前へ!そして絶え間なく防護フィールドを攻撃!
このまま攻撃を繰り返していけば、対衝撃限界値を越えた『ブランシュ』は機能を完全に停止するはず!

「しつこくてよ、ソレイユ!離れなさいな!」

離れません!姉さま!

空母飛行甲板上で繰り広げられる、姉さまとわたしの追いかけっこ。
そして、甲板の隅に追い詰められた姉さまが、苦し紛れに空母外の洋上へと身を躍らせた、その瞬間――。

445 : ◆vTHUCgBFbw :2016/06/15(水) 16:39:27.97 ID:2Fr0IE3v.net
ドギュオオオオオオオンッ!!!

空気を震わせ、耳をつんざく轟音。
沖合から発せられたその大音は、最新鋭戦艦『ベンジェンス・オブ・ドーン』からのもの。
超巨大電磁投射砲、グランMACの発射音。
亜光速で射出された巨大な砲弾が、海を裂きながら突き進んでゆく。
その目標は――ソレイユを避けて『ブランシュ』を足場とし、空母を離れて洋上に移動した『錬金人類(エリクシアン)』、ヴェヌス。

「――なッ!?」

ヴェヌスにとっても、その状況はまったくの想定外。
回避は不可能。ヴェヌスは真正面から、自分の身の丈の四倍以上ある巨大な弾丸を受け止めた。

「ぎッ……!せ、鶺鴒たち!フィールド最大開放――!!」

ギャギャギャギャギャギャッ!!

沿岸部の地形を変え、重機兵部隊を一瞬で蒸発させるほどの威力を誇るグランMACと、八基の鶺鴒が激突する。
鶺鴒が万全であったなら、いかなグランMACとてヴェヌスの防御を突破することはできなかっただろう。
だが、今の鶺鴒たちはソレイユのイロンデルにより、著しくその性能を低下させられている。

「ぐ、く……!こんな……旧人類のオモチャ、などに……!!」

両手を砲弾へ突き出し、『ブランシュ』八基の出力を最大開放しながら、ヴェヌスが歯を噛みしめる。
が、砲弾の推進力を無効化しきれない。なおも突撃しようとする砲弾に押され、じわじわと後退してゆく。

「ノワール!!!」

叫ぶ。その瞬間に五基の黒い鶺鴒が囀り、グランMACの砲弾をレーザーによってバラバラに切断する。
細かく寸断された砲弾はそこでやっと力尽き、海面へと落ちていった。

446 : ◆vTHUCgBFbw :2016/06/15(水) 16:40:16.18 ID:2Fr0IE3v.net
――凌いだ。

ヴェヌスが幽かな笑みを浮かべる。
とはいえ、その代償は大きい。グランMACを防ぐのに力を消耗しすぎ、『ブランシュ』の防護フィールドを維持できない。

「……姉さま」

横合いから聞こえる声。
見れば、そこにはいつの間に来ていたのか『ノワール』の一基を足場として宙に佇む、ソレイユの姿。

「ソレイユ……!」
「決着です、姉さま」
「ち……!『ブランシュ』!防護フィールド再展――」
「はああああああッ!!」

すぐに障壁を展開しようとするヴェヌスだったが、ソレイユの方が遥かに速い。
ソレイユの手に握られた絶対零度の刃、サテュルヌ・タンペート・ド・ネージュが解き放たれる。

一閃、血ノ華――

凍える斬撃を無防備なその身に受けたヴェヌスは、ぐらりと身体を傾かせると、真っ逆さまに海へと落ちていった。

447 :創る名無しに見る名無し:2016/06/15(水) 22:15:59.46 ID:c+y8NYRj.net
勝ったか……。
今のうちに「プティ・ドルチェ」のあまおうショートケーキを買いに、商店街まで行ってくるかな。
ソレイユがヴェヌスを連れて一緒に帰って来ることも考えて、ケーキは3つにしよう。

448 :創る名無しに見る名無し:2016/06/16(木) 19:21:46.05 ID:Uob8+y/8.net
やったか!?

449 :ソレイユ ◆vTHUCgBFbw :2016/06/18(土) 10:03:26.90 ID:q9VatUe4.net
>>448
……やりました、Dominus。

「わたくしは……負けたのですか……」

――、はい……姉さま。

海に落ちたヴェヌス姉さまを助け出し、空母の飛行甲板に戻って。
気を失った姉さまが意識を取り戻すと、わたしは小さく頷きました。

「……そう……。このわたくしが、最も強固な防御力を誇るはずのわたくしが……。二度も敗北するなんて……」
「しかも、妹たちに。まったく、笑い話にもなりませんわね……」

海水に濡れてもなお光り輝く美しい髪をかきあげ、姉さまは自嘲するように笑いました。
あの……。姉さま、二度……というのは……?

「メルキュールお姉さま、わたくし、マルス、ジュピテル、サテュルヌの五人の『連金人類(エリクシアン)』……」
「わたくしたちは皆、貴方たちふたりへの『試練』なのですわ」

し……、試練……?
わたしたちふたり……、つまり…、わたしと……

ラ・テール……姉さま……?

「そう。そして、貴方も。そしてラ・テールも、見事その試練に打ち勝った」
「わたくしはあなたにも、ラ・テールにも敗北しました。これで、わたくしの役目は終わり……」

そういえば、かつてマルス姉さまが仰っておられました。
『二度負けた者は用済み』と――。それは、わたしとラ・テール姉さまの両方と戦うという意味だったのですね……。
で、でも!
どうして、そんなことを?試練……?なんのために、そんな試練なんかでわたしたち姉妹が争わなければいけないんですか?
命まで懸けて!

「それは。わたくしたち『連金人類(エリクシアン)』が、人類の未来を決める存在だからですわ」

人類の……未来……?

450 :ソレイユ ◆vTHUCgBFbw :2016/06/18(土) 10:05:30.53 ID:q9VatUe4.net
「人類発展機関『ビュトス』が、今後の人類が進むべき方向を指し示す存在として生み出した、新たなる人類」
「それがわたくしたち『連金人類(エリクシアン)』――」
「三人のお父さまがわたくしたち姉妹に命じたことは、ただひとつ。『自らの意思で、今後の人類のあり方を決めよ』と」
「そこで、わたくしたち五人は相談したのです。人類はこのまま保護されるべきか、それとも淘汰されるべきか――」
「結果は、先に話したとおりですわ」

そ……、それで、ヴェヌス姉さまは人類を淘汰すると……?

「ええ。だって、そうでしょう?この世には、愚かな人間が多すぎる」
「貴方も見たでしょう。他国のものを収奪し、我欲のために振舞う者を。ただ怨讐のために人を殺める者を」
「ちっぽけな自尊心のためだけに、他人を貶める者。厚顔な性情を剥き出しにしても、恬として恥じぬ者――」
「そんな者たちを間引いて、何が悪いというのです?」

確かに……、人類の中にそういった者がいることは事実かもしれません。
けれど!わたしは、美しい心を持つ人々の存在も知っています!
わたしは……Dominusとの生活でそれを知りました。人類は、醜い者たちばかりじゃない!

「では、そういった美しい者だけを残せばよい。美しい者だけが、その美しさを永遠に受け継いでゆけばよい」

…………!!

「サテュルヌは、このまま人類の自浄作用に期待したい――と甘いことを言っていましたが。わたくしたちの意見は別」
「そんなことを悠長に待っているから、有史以来人類はいまだに血みどろの戦いから脱却できていないのです」
「人類は、より優れた種族がその手を取って管理してやらなければならない。それがわたくしたちの結論……」
「そのためには。管理しやすい、適正な数まで人類を調整することが不可欠なのですわ」

それは……驕りです!姉さま!
人類は、自らの力で立って!歩いていくことが出来ます!
わたしたちが人類を導くだなんて……。生まれて一年も経っていないわたしたちに、そんな資格があるでしょうか?

「時間は関係ありませんわ……。わたくしたちはただ、お父さまに言われたことをしているだけなのですから」

……お父さま……。
ビュトス機関の三魔術師、メイザース師、ウェストコット師、ウッドマン師……。
師は、いったい……何をお考えなのでしょうか……?

「そう……。そこで、貴方とラ・テールが重要な鍵となるのですわ」

……わたし……が……。

451 :ソレイユ ◆vTHUCgBFbw :2016/06/18(土) 10:07:55.26 ID:q9VatUe4.net
よろよろと起き上がる姉さま。
わたしは慌てて、姉さまに肩を貸そうとしました。
でも。

「来ては……なりませんわ……!ソレイユ!」

鋭い静止の声と共に、ヴェヌス姉さまの周囲に展開する鶺鴒たち。
『ノワール』の砲口が、わたしを完全に捉えている――。

「わたくしに話せることはここまで……。後は、次の試練に打ち勝って聞き出しなさいな。貴方にはまだ、最後の試練が残っているのですから」

最後の……試練……。
……ジュピテル姉さま。
わかりました、姉さま。姉さまの言う通りにします。
では、傷の手当てを!致命傷は与えていませんが、かといって放置していい傷ではありません。
早急に、Dominusとわたしのおうちで治療をしなければ……。

「……フフ……。優しいのですわね、ソレイユ。その優しさは、まったく変わっていない……」
「でも。わたくしは――二度敗北したわたくし自身を、許すことができません」

姉さまがパチリ、と右手の指を鳴らす。
と同時、一斉に姉さまへと砲口を向ける五基の『ノワール』。
――、姉さま……!!

わたしが止める暇さえなく。
五基の黒い鶺鴒の放った圧縮粒子砲が、ヴェヌス姉さまの身体を貫く。
ベージュのタイトスカートスーツ、アメリカ海軍の士官を表す制服の胸元がはじけ、カドゥケウスが砕け散る。

「……お父さまより命じられた役目を果たし終え、『ベンジェンス・ノア』と『デザイア』を失い……」
「機関に仇なす羽虫にとどめをさせなかったわたくしが、生き永らえる道などありませんわ」
「わたくしは、ただ。自分自身にけじめをつけるだけなのです」

あぁ……、姉さま……!

452 :ソレイユ ◆vTHUCgBFbw :2016/06/18(土) 10:10:56.68 ID:q9VatUe4.net
>>447
姉さま!姉さま!なんてことを……!
Dominusだって、姉さまと会うのを楽しみにしておられたんですよ!?
わたしたちの住む町の、商店街のケーキ屋さんのケーキ……!一緒に食べたいって……!

「甘えたことを言うのはおよしなさいな、ソレイユ。あなたは戦士……それも、この地球の命運を背負った戦士なのですよ」

でもっ……!だって……!

「……他の姉妹たちにも、幾度となくそう言われたでしょうに……。まったく、進歩のないこと……」
「けれど。それが……貴方の最大の長所、なのかも……しれませんわね……」

姉さまの身体が、少しずつ光の粒子となって消えてゆく。
姉さま!ヴェヌス、姉さま……!

「貴方のDominus……見事な作戦でしたわ。空母の船底に穴を開けるのも、イロンデルも。わたくしの完敗です」
「わたくしも……わたくしのDominusとずっと一緒にいられたなら。また……別の道を辿っていたかもしれませんわね……」

覚束ない足取りで、姉さまが飛行甲板のきわまで歩いてゆく。
……姉さま……、何を……!?

「強くありなさい、ソレイユ。強く、美しく――決して、Dominusの期待を裏切らぬよう」
「でなければ……貴方は、ラ・テールと……そのDominusには……決して、勝てな……」

そこまで言って、ヴェヌス姉さまはぐらりと身体を傾がせると、甲板から身を投げました。

「……Dominus……。わたくしの、提督……」
「ごめん……なさ……。貴方の……夢を、叶えられ……な……」

姉さまの身体は、海には落ちませんでした。
海中に没する前にその身体は細かな光の粒子となって、ゆっくりと消えていったのです。

――戦闘終了。通常モードに移行、これより帰投します。Dominus。

長い一日が終わり、夜が訪れる。空に無数の星々が瞬く。
その中で、ひときわ美しく。
姉さまの星――金星は、きらきらと光を振りまいて輝いていました。

453 :創る名無しに見る名無し:2016/06/18(土) 16:23:11.01 ID:x2rapBM6.net
ヴェヌスのDominusはどんな夢を持っていたのかなぁ
それが米国による世界支配なのかはわからんが……何にせよ物悲しいゾ

ところでラテールのDominusはスレ主ってことになるんだろうかね

454 :ソレイユ ◆vTHUCgBFbw :2016/06/20(月) 18:39:22.85 ID:EEd36p7U.net
――参ります。

あの日米合同の『巨神(デウス)』掃討作戦にまつわる惨事は、新型デミウルゴスによるものという発表がなされました。
『巨神』型デミウルゴスの掃討作戦中、第十三艦隊は詳細不明の新型デミウルゴスの反撃に遭遇。
『ベンジェンス・オブ・デザイア』の支配を奪われ、また個別攻撃により甚大な被害を受けた、と。
轟沈艦船多数、死傷者三百名以上の中、作戦指揮に当たっていた『連金人類(エリクシアン)』ヴェヌスが対処。
急遽参戦した『連金人類(エリクシアン)』ソレイユ――わたしですね――の協力もあり、デミウルゴス撃退に成功。
しかしながら、デミウルゴスとの戦闘によってヴェヌスは戦死。
それをもって、作戦は終了――ということのようです。

『ベンジェンス・オブ・ドーン』の港湾攻撃については、デミウルゴスのハッキングによる誤射、という説明がされています。
もちろん……、アメリカによる覇権の掌握、日本殲滅計画に関しては、一切が闇に葬られました。
ただ、今作戦は『巨神に一定のダメージこそ与えたものの、人類側も甚大な被害を蒙った』と。
そのような落とし所で決着するようです。


メルキュール姉さま。マルス姉さま。サテュルヌ姉さま。
……そして、ヴェヌス姉さま。
これで四人……、残るわたしの姉はふたり……。
ヴェヌス姉さまが最期に話してくださったことで、今までわからなかった色々なことがわかってきました。
『連金人類(エリクシアン)』が人類の未来を決める――そんな計画を立てていること。
五人の姉さまたちが、わたしとラ・テール姉さまに試練を与えるということ。
それを命じたのが、お父さま……わたしたちの三人の師であるということ。

だいぶ事情が飲み込めてきましたが、でもまだピースは断片的に過ぎます。残りの情報を集めないと……。
そして……その情報は、最後の試練……ジュピテル姉さまが持っている。


……ジュピテル姉さま……。

455 :ソレイユ ◆vTHUCgBFbw :2016/06/20(月) 18:41:16.36 ID:EEd36p7U.net
――いけませんね、黙っていると、どうもネガティブなことばかり考えてしまいます。
ジュピテル姉さまがどこにいて、どんなことを目論んでいるのか分からない以上、こちらはただ待つしかありません。
といって必要以上に身構えていては、Dominusの心身によくありませんから。
ここは、今までと同じように。普通の生活を続けてゆきましょう。

学校にも行かなくてはいけませんし、もうすぐ期末テストがあります!ぼやぼやはしていられませんよ?
Dominusが赤点など取ることがないよう、わたしがみっちりとお勉強のお手伝いさせて頂きますから!

幸い、デミウルゴスも散発的に出現するだけで、今のところ大きな脅威とはなり得ていません。
今は……ほんの短いインターバル、と考えるべきでしょうか……。

あ、あの……、Dominus。
わたし、また……Dominusと一緒に商店街へ行きたいです。
一緒にアーケードを歩いて。Dominusの作るお料理の材料を選んで。商店街の皆さんとお話しして――
ふたりで、オープンカフェやイートインでお茶したり、して。

海にも、行ってみたいです。実はわたし、あのヴェヌス姉さまとの戦いのときが海初体験だったんです。
でも、先日は戦いの最中でまったく景色を見られませんでしたから……。
Dominus、よかったら、水着を選んでくださいませんか?Dominusのお好きな水着を着たいです。
まだ、気が早いでしょうか?まだ梅雨どきだっていうのに、わたしったらせっかちですね……あはは。

……ずっと戦っていると、自分が自分でなくなってしまう気がして。
自分が、一個の兵器になってしまったような気がして――怖い、のです。

お……、おかしいですよね。滑稽ですよね……。
……でも。わたしは、このままのわたしであることが。
戦士として熟練してゆくわたしが、たまらなく怖い……。

Domius……。
この、わたしの震えは……どうすれば止まるのでしょうか……?

456 : ◆vTHUCgBFbw :2016/06/20(月) 18:46:40.94 ID:EEd36p7U.net
>>453
メルキュール「よい子のみなさ〜ん!メルキュールの『エリクシアンおまけ講座』のお時間ですよ〜!」
マルス「司会はメル姉!そしてオレ!」
サテュルヌ「そして吾、雪ちゃんがお送りする」

メルキュール「今日のおハガキは、ポイントE-54611にお住まいの>>453さん!ありがとうございます☆」
ヴェヌス「わたくしのDominusですか……」
マルス「ごく自然に出てきやがったな、金姉」
サテュルヌ「いくら物悲しき死を遂げても、こちらで何事もなかったかのように出られては台無しですな」
ヴェヌス「そこ、お黙りなさいな。それはさておきわたくしのDominusのこと、特別答えて差し上げてもよくってよ?」
ヴェヌス「わたくしのDominusは、元環太平洋艦隊総司令官、ロイ・マッカーサー大将ですわ」
メルキュール「米軍においては、伝説的な軍人さんと言われている方のようです」
ヴェヌス「ええ。ご高齢でもう退役なさっておられましたが、今なお軍では英雄的な存在と見做されているお方です」
サテュルヌ「で、二の姉上はそのご老人にパックス・アメリカーナを叩き込まれた、と」
ヴェヌス「Dominus……提督は超がつく愛国者で、なんでもアメリカが一番でなければ気が済まないお方でした」
ヴェヌス「スポーツも、経済も、娯楽も、とにかくアメリカがナンバーワン!アメリカ万歳!アイラブニューヨーク!」
ヴェヌス「そう公言して憚らないお方でしたわ。アメリカ人が中東系テロリスト相手に無双する映画を観るのが、ことのほかお好きでした」
マルス「ヤなジジーだな」
ヴェヌス「そんな提督が、今わの際に仰ったのです。ウラニア、アメリカはナンバーワンだ、と」
ヴェヌス「わたくしは、そんな提督の夢を叶えようと――」
メルキュール「うっうっ……なんてこと!お姉ちゃん、涙が止まらないわ……!」
サテュルヌ「映画化待ったなし!まさに全米が泣いた、というやつですな……!」
マルス「えっ!?今の、いい話か?」
ヴェヌス「ところで、ラ・テールのDominusは誰なのか?というお話なのですが」
マルス「それはまだ言えねェが、>>453の言うヤツじゃねェとは言っておく」
サテュルヌ「謎が謎を呼ぶ展開、というヤツですか」
マルス「それから、容量がなくなったら次の場所に移行するから、視聴者のテメェらは速やかに移動してくれよな!」
メルキュール「では、また次回〜☆」


ソレイユ(久しぶりにゆっくりお風呂に入っていたら、当然のように出そびれました……!)

457 :創る名無しに見る名無し:2016/06/20(月) 20:51:30.05 ID:6JjB552T.net
ぬるッとでてくるヴェヌスすき
しかしサテュルヌのDominusといいヴェヌスといいDominusにはどこか突き抜けてるヤツが多いのだろうか
機関に見初められるような人間だし、色々と突出しているということなのだろうか……

ところで水着の件だが、このパッツンパッツンのスク水がおすすめなんだがどうかな(真顔)

458 :創る名無しに見る名無し:2016/06/21(火) 21:34:55.09 ID:bdRqzfy+.net
『巨神(デウス)』掃討作戦より三日後の午前十一時四十五分。一人の少年が近所にあるファーストフード店を目指して歩いていた。
少年はこの日友達と遊ぶ約束をしており、十二時ちょうどにファーストフード店に集合することになっていたのだ。
ふと、現時刻が気になり少年が時間を確認するためスマホを取り出そうとしたところ、道端に黒い球が転がっているのが目に入った。
大きさはピンポン玉程で、単純な黒一色ではなく外側から中心に向かうにつれて黒さが増す色調となっていた。
気になった少年は手に取ってよく見てみようと思い、その黒い球をつまんだ。その瞬間体中に電流が走ったかのような衝撃と共に少年の意識は途絶えた。
ちょうどその頃、各デミウルゴス探知機は一瞬だけデミウルゴスの反応を感知したが、即座に消えたため誤作動として片づけられた。


少年は歩いていた。しかし、目的地であったはずのファーストフード店とは逆の方向へ歩いている。少年が時間を過ぎても現れない為友達が電話をかけるが少年は応えない。
普段の少年からは考えられないような無表情のまま、少年はある場所を目指して歩いていた。

459 :ソレイユ ◆vTHUCgBFbw :2016/06/22(水) 22:13:14.37 ID:DfP8Dil4.net
参ります。

>>457
そうですね……。姉さまたちのDominusは、皆さん人類の発展と躍進に多大な功績を残す、または残した方々。
現代の偉人と言っても過言ではありません。
歴史的に見て、偉人とは大なり小なり一般人と変わったところがある、と言いますし……。
常人の尺度で測れないがゆえの、偉人ということなのでしょう。

ちなみに。マルス姉さまのDominusは、インドの天才少女であったと聞きました。
「ゼロ」という概念を生み出した古代インドの天才を彷彿とさせる、天与の才を持つ少女であったと。
ただ、生まれつき難病に冒されており、病院の無菌室から一歩も出ることができなかった――と。
他のDominusは、どういった方々だったのでしょうね?

水着。わたしが海に行きたいと発言することを予測された上で、予め用意して下さっていたのですか?
さすがはわたしのDominusです!他のDominusにもまったく引けを取っていません!
……あ。も、もちろん、Dominusはご立派、という意味ですよ……?

スクール水着……。嬉しいです。
どういったデザインのものであっても、Dominusがわたしに似合うと思って用意して下さったものなら。
それが、わたしにとっては世界で一番の水着です。
梅雨が開けたら。一緒に、海に行きましょうね?
学校が終わって、夏休みになるのを。カレンダーにマルをつけて、楽しみに待っています。

Dominus、わたし、他にもほしいものがあるんです。
夏用の白いワンピースだとか。サンダルだとか。つばの広い帽子だとか……。
戦闘用のアサルトスーツではなくて。普通の女の子がするような姿で。
貴方と。一緒に歩きたい――。

460 :ソレイユ ◆vTHUCgBFbw :2016/06/22(水) 22:15:14.22 ID:DfP8Dil4.net
>>458
無理を言ってごめんなさい、Dominus。お疲れではありませんか?
でも、久しぶりに商店街へ来て。元気な皆さんのお顔を見たら、嬉しくなってしまって――。
ついつい。たくさん寄り道してしまいました。
お買い物も、いっぱいしてしまって……。だって、欲しいものが数えきれないくらいあるんですもの!
これでも厳選した方なんですよ?……なんて。えへへ。

Dominus、喉は乾いていませんか?少し、休憩しましょうか?
ほら。この並びにあるファーストフードのお店。そこでちょっとだけお休みしましょう。
熱中症にでもなったら大変ですから。
荷物、半分持ちますね?

ああ……、楽しい!
戦いから離れて、なんでもない日常を過ごすこと。それが、こんなにも幸せだったなんて。
このまま、しばらく。――いいえ、ほんのわずかな間だけでいい……。
戦いから離れて、Dominusとのんびり過ごすことができたら。
それだけで。わたしはもう、何も望むことなどないのに――。

さあ、Dominus!おなかがすいたでしょう?何を食べましょうか?
パテが四段になった、スペシャルなハンバーガーを?それとも、ソーセージが30センチもあるホットドッグですか?
お金なら大丈夫!ビュトス機関のクレジットカードの支払上限は、10億円までオッケーですから!


――……?

……今、一瞬デミウルゴスの反応が……。
でも、すぐに消えてしまいました。センサーの誤作動でしょうか……?いけませんね。
後でメンテナンスの連絡を入れておきます。
それより、今はお買い物と休憩ですよ、Dominus!
しっかり休んで、しっかりおなかに食べ物を入れて。
それから、お買い物を続けましょう!

461 :創る名無しに見る名無し:2016/06/23(木) 20:55:32.84 ID:pXFyzjWT.net
ビュトス機関に就職したいお・・・

462 :創る名無しに見る名無し:2016/06/24(金) 06:43:23.10 ID:4X6d/8Ay.net
午後五時、大量の買い物袋を抱えた一組の男女が歩いていた。男の方は特に特徴もない外見だが、女の方は少女のあどけなさを残しつつも美しい顔立ち、膝裏まで伸びた美しい金髪などとても人間とは思えぬほど美しい容姿をしていた。
楽しく会話をしつつ並んで歩いている様は、傍から見ると恋人同士に見える。
そんな仲睦まじい男女の後ろを一人の少年が歩いていた。少年は男女よりも速く歩いているため互いの距離は縮まっていく。
後二、三歩で男女に追いつく距離まで近づいた時、少年がポケットに手を入れ、どこかの文房具店で購入したと思われる新品のカッターナイフを取り出した。
少年は歩きながらカッターナイフをパッケージから取り出し、パッケージを捨て、刃を限界まで出した。そして目の前にいる男女の内男の方へ、思いっきりカッターナイフを突き立てた。

463 :ソレイユ ◆vTHUCgBFbw :2016/06/25(土) 19:42:55.38 ID:vzsZLCec.net
参ります、Dominus。

>>461
ビュトス機関に就職……ですか?
ビュトス機関は人類の中でも限られた、碩学のみが加入を許される組織。
その前身である『黄金の夜明け団』の頃から、それは変わりません。
未来予測演算装置『エル・シャダイ』が人類史に多大なる功績を残すと認定したDominusなら、加入の資格は充分ですね。
ただ、それはまだ先の話。今のDominusに必要なのは、きちんと学校へ行って。しっかりお勉強することですから。
Dominusの守護者として、そちらの方も!きっちり監督させて頂きます!

Dominusが今後、人類にどのような発展と躍進をもたらすのか、詳しいことはわかりません。
けれど、わたしは必ず、Dominusが何らかの偉業を成し遂げると信じています。
それは『エル・シャダイ』がそう導き出したから、というだけではなく――
……わたし自身が。そう願っているから。

もしもDominusがビュトス機関に加入されたら、きっと、もっと楽しくなるはずです!
もちろん、今も楽しいことばかりですが――Dominusが機関の一員となれば、もっと。一緒にいられるから。
任務だから、守護者だから一緒にいるのではなくて……ただのソレイユとして、貴方の傍にいられるから。
少しでも早く、その願いが叶うことを――わたしは、祈っています。

>>462
――……ッ!Dominus!!

突然背後から近付いてきた少年が、不意に振り下ろした刃。
その小さな刃を、わたしがDominusに突き刺さる直前で握り、食い止める。
……貴方は……。何をするのですか!

ベギッ!

わたしは相手からカッターをもぎ取ると、それをバラバラに握り潰した。
そしてすかさずその手首を捻り上げ、地面へうつ伏せにねじ伏せる。

Dominus……、お怪我はありませんか?
それにしても、なんということ……。なぜ、こんな少年が突然Dominusを狙ってきたのでしょうか……?
こんな小さな刃物で、満足に人が殺せるとは思いませんが。
この少年には、聞きたいことが沢山ある――。交番へ連れて行きましょうか?
ともかく、Dominusがご無事でよかったです。

姉さまたちのDominusと違い、わたしのDominusは現在のところ、まったく無名の存在。
だというのに、Dominusを狙ってくるという……その目的はいったい……?
詳しい話は。場所を変えて聞き出しましょう、Dominus。


……せっかくの、Dominusとの楽しいお買い物が……。

464 :創る名無しに見る名無し:2016/06/26(日) 17:30:23.25 ID:oRjivMeM.net
自分が兵器になってしまったような気がして怖いってのは、今の状況を考えれば仕方ない事だと思う。
どんな理由を付けたって、大事な姉妹と命のやり取りをしなきゃならないのは滅茶苦茶に辛い。
それでも自分の気持ちや心を押し殺しながら戦ってれば、
そりゃ心もすり減って、心無い兵器になってくように感じられるのも無理はないと思う。
じゃあ兵器にならないためにはどうしたらいいかってのを考えたんだけど、
姉妹と戦っても、死なせないと言うか守ると言うか、生かそうとする心を持つのはどうだろう?
次に戦うのはジュピテルだろう。その子は自分から死を選びそうにないから、
どっかから攻撃されて死んでしまうとかが予測できる。勝利した後もそれを防ぐとか、そんな感じでさ。
『二度負けたら死ぬ』みたいなルールがあっちにはあるらしいけど、そんなの知ったこっちゃないし、
こっちがその土俵に乗る必要もない。
相手にとっては殺し合いでも、こっちにとってはただの試合。殺さないし殺させない。
そう思えば、少しは気が楽になるんじゃないかな、と。気休めかもしれないけど。

465 :創る名無しに見る名無し:2016/06/26(日) 22:44:29.03 ID:C7j3rR5A.net
ソレイユに手首を捻り上げられ地面に押しつけられている少年は、襲撃前と変わらず無表情のままだった。
少年は拘束を解こうともがくが、エリクシアン相手ではびくともしない。
これ以上は無駄と悟ったのか少年の抵抗がぴたりと止まる。瞬間、少年の眉間からピンポン玉大の黒い球体が飛び出した。
球体はそのままソレイユ達から離れるように飛び去っていく。後を追うソレイユ。しかし、球体の進行方向が突如光に包まれる。
そして光が収まった後には約7mを誇る一体の巨人がいた。巨大な盾と強固な外殻を備えた「オポジット」と称されるデミウルゴスであった。
しかし、進行方向に巨大な壁が現れたにも関わらず、球体は進路を変えようとせずにオポジットの顔面と思われる部位に衝突した。
いや、衝突はしなかった。一切の抵抗を感じさせることなく、球体はオポジットの頭部に入りこんだのだ。
ぴたりとオポジットの歩みが止まる。そしてソレイユの方へ視線を向けたと同時に持っていた盾をソレイユ目掛けて投擲した。
寸での所でかわすソレイユ。盾はソレイユの背後にあった家々を粉砕しながら一直線に飛んで行った。
そして盾の無くなったオポジットは、その巨体からは考えられないスピードでソレイユに迫り、拳を振るった。

466 :ソレイユ ◆vTHUCgBFbw :2016/06/28(火) 18:40:49.51 ID:XFwG8949.net
参ります、Dominus。

>>464
Sic.Dominus.
わたしは姉さまたちと戦う宿命を受け入れ、どういった結末になろうと決して後悔しない――と覚悟したつもりでした。
例え、姉さまたちをこの手にかけることになろうとも……。
でも、そう考えれば考えるほど、わたしの心は摩耗してゆく。
心を守ろうとすれば、それは心を閉ざすことになり、結果、わたしは兵器へと近付いてゆくことになる……。
それでは。いけなかったのですね。

もちろん、今までだって姉さまたちを殺めようとして戦ったことなど、ただの一度もありません。
わたしは……わたしなりに、なんとかして姉さまたちを救えないかと……そう、苦心して……。
わたしはあまりに未熟。何もかもが、あまりに稚拙。
けれど。最後まで、姉さまたちを救うことを諦めはしません。
あくまで、戦うのは試練だから。殺し合いではないから。
ジュピテル姉さまだけは、きっと。きっと守ってみせます!

そんなジュピテル姉さまは、雷を――電気を操る『錬金人類(エリクシアン)』。
その電圧は最大で1億5000万ボルト。自然現象の雷をも上回ります。
けれど、姉さまの最も警戒すべき部分は、雷ではないのです。

……ええと。
なんと言いますか……とても表現しづらいのですが……。
ジュピテル姉さまはその、ものの考えが悪辣というか巧妙というか――
とてもエキセントリックな方なのです。慈愛に満ちたメルキュール姉さまや、直情径行のマルス姉さま。
武人肌のサテュルヌ姉さまや、美しさを第一に考えるヴェヌス姉さまとはまるで違う、と言わざるを得ません。
今も、きっと何かわたしたちの予想だにしない戦いの準備を進めているはず。
そんな姉さまの作戦を打ち破り、勝利を収められるかどうか。

それは――Dominus。貴方にかかっているのです。

467 :ソレイユ ◆vTHUCgBFbw :2016/06/28(火) 18:44:14.02 ID:XFwG8949.net
>>465
……今、この少年から出て行ったものは……?
もしかすると、あの黒い球が何かの原因なのでは?追跡、捕獲します。Dominus!

至近距離に敵性反応、デミウルゴスを感知!……これは……。オポジット級『城兵』?
まさか、こんなところに現れるなんて!

黒い球体がデミウルゴスの頭部に収納される。やはり、あれはデミウルゴスの一種だったのでしょうか?
新種のデミウルゴス……。脅威は『錬金人類(エリクシアン)』や『機械化人類(メカニゼイター)』だけではない……!
Dominus!商店街の方々の避難誘導をお願いします!わたしは――往きます!!
戦闘モード起動!アサルトスーツ転送!

はああああああああッ!!!

投擲される盾、そして規格外の速度で放たれる巨拳。
城兵、ましてオポジット級は鈍重極まりなく機動力など皆無だったはず。それがどうして――
セキュリティ解除シーケンス発動、特殊兵装を開放!

オポジット級の拳が、わたしの上半身を吹き飛ばす勢いで繰り出される。
――けれど。それはわたしの身体には当たらない。オポジット級の拳は、炸裂の寸前で食い止められていた。
わたしの前方に浮遊する、鳥の翼のような……薔薇の花弁のような。
ソフトボール大のユニットが展開した『守勢錬陣』によって。

EXW-0049S 無線式オールレンジ攻撃ユニット『ヴェヌス・ベルジュロネット・ドゥ・ブリエ』!
ヴェヌス姉さまの遺してくれた、わたしの新しい兵装!
姉さまと違い、わたしの性能では『ノワール』と『ブランシュ』を一基ずつしか制御できませんが……。
それで充分!そして――

『ヴェヌス・ベルジュロネット・ドゥ・ブリエ』を解除し、次の特殊兵装を開放!
EXW-055S 絶凍刃『サテュルヌ・タンペート・ド・ネージュ』!!

以前のわたしは、オポジット級にダメージを与えられるだけの兵装を持っていませんでしたが。
今は――違う!!
わたしは伸びきったオポジット級の腕を掻い潜り、瞬間的にその懐に躍り込みました。
そして、居合の構えと共に放つ斬撃――

一閃、血ノ華!!!

マイナス273.15℃の凍気で万象万物を凍結させ、斬断する絶凍刃の前に、物理的な堅牢さは無力!
すれ違いざまにオポジット級の胴体に一撃を見舞うと、わたしはゆっくりと刀を鞘に納めました。

468 :創る名無しに見る名無し:2016/06/29(水) 06:20:57.40 ID:rGZxKjvI.net
ソレイユが納刀した数瞬後、胴体を切断されたオポジットの上半身が音をたてて地面に落ちる。
残された下半身も倒れ、他のデミウルゴス同様崩れ去っていく。
上半身は崩れ始めてはいなかったが、ピクリとも動かず、胴体の切断面は見事に凍りついて…いなかった。
正確には凍りついた外殻、肉が次々と剥がれ落ち、消えていく。そして凍りついた箇所が無くなったと同時に切断面が蠢いた。
そこからは信じられないことが起こった。まるで早送りの映像を見ているかのようにあっという間に肉が生え、外殻を形成し、以前と変わらぬ下半身が出来上がった。
否、以前とは変わっていた。元々は白い外殻に覆われていたが、新しく形成された外殻は青みががった色へと変化していた。
何事もなかったかのように起き上がるオポジット。驚愕し、立ち尽くすソレイユ目掛け、再び襲い掛かった。

469 :創る名無しに見る名無し:2016/06/29(水) 06:21:29.93 ID:rGZxKjvI.net
オポジットの攻撃は単純かつ稚拙であった。殴る、踏みつけ、ローキック。特にコンビネーションを行うこともなく、ただ無茶苦茶に攻撃を繰り返す。
ソレイユが距離を取れば自身の攻撃により生じた大量の瓦礫を投擲するのだが、数を重視してか狙いは甘いため避けることは可能であった。
例えるならば子供の喧嘩のような動きである。しかし、威力が尋常ではなかった。
地面を殴れば陥没し、踏みつけを行えば地面が割れ、ローキックはその衝撃だけで付近の電柱をへし折った。
投擲された瓦礫はどれも凄まじい速度で飛来し、進行方向にある建物を例外なく破壊していった。
だが真に恐ろしいのは驚異的な再生能力と強化能力である。ソレイユが切断した胴から下は以前にもまして強固な外殻に覆われ、
更に『サテュルヌ・タンペート・ド・ネージュ』を持ってしても表面に氷が付く程度となってしまった。
当たれば即死は免れぬ攻撃と、鉄壁の防御とそれを支える再生能力。今のオポジットは「壁」ではなく難攻不落の「要塞」となっていた。

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