TRPG系実験室
- 1 :創る名無しに見る名無し:2016/11/19(土) 22:06:01.00 ID:qBV+iLA/.net
- TRPG関係であれば自由に使えるスレです
他の話で使用中であっても使えます。何企画同時進行になっても構いません
ここの企画から新スレとして独立するのも自由です
複数企画に参加する場合は企画ごとに別のトリップを使うことをお勧めします。
使用にあたっては混乱を避けるために名前欄の最初に【】でタイトルを付けてください
使用方法(例)
・超短編になりそうなTRPG
・始まるかも分からない実験的TRPG
・新スレを始めたいけどいきなり新スレ建てるのは敷居が高い場合
・SS投下(万が一誰かが乗ってきたらTRPG化するかも?)
・スレ原案だけ放置(誰かがその設定を使ってはじめるかも)
・キャラテンプレだけ放置(誰かに拾われるかも)
- 392 : :2018/09/01(土) 15:07:39.51 ID:TwDmUf/F.net
- >「や、やあ、桐山君。その……久しぶり」
八木優樹。同じ学年で、かつてはゲーム部に所属していた。
実力は確かなものだ。あまりこの競技に真剣ではなかったとはいえ、四人を相手にたった一人で圧勝してみせるほどだ。
しかし、当時のゲーム部に生じていた不和を決定的にしたのもまた彼だ。
入部してから使いこなせない武装やパーツのデータ作成を押し付けてくる先輩たちがやり込められるのは
横から見ていて胸がすくような気持ちにはなれたが、当時の部長は彼らが退部していくのを止められなかった。
結果として部員どうしの対立が始まり、それにうんざりした当時のエースや中堅は次々とゲーム部を離れていった。
もちろん全国大会常連という実績にあぐらをかいていた先輩たちにも問題はあったが、
八木の発言や態度が引き金となったのは確かだ。
だが桐山としては、彼個人のことはそんなに嫌いではなかった。
彼に助けられたということもあるが、態度に見合うだけの実力はあると桐山は思っている。
発言には控えるべき点があるとも思っているが。
「……ああ、久しぶりだね。
今月のヨーロッパ大会配信見た?フランスとドイツの機体はかっこいいよ」
部活や学校絡みで何を言っても皮肉に受け取られかねない以上、
桐山は無難に海外大会の話でお茶を濁す。
>「……もし君達が良ければ、僕もチームに入れてくれないかな。
自分で言うのもなんだけど、僕、結構上手い方だし……役に立つよ。
今回、運営の人達も結構ガチっぽいし……ソロはしんどそうだからさ」
>「先輩が二人もいれば百人力ですね!一緒に頑張りましょう!
私もゲーム部一年として底力を見せますからねー!」
「八木がいるなら大丈夫だよ。彼の実力は本物だし、マシンナリーもサバイバル戦に向いている」
と、そこまでを方丈寺と水鳥に言うと、桐山は八木のARデバイスに一通のメールを送信した。
『水鳥君も方丈寺君も初心者だ。かつての先輩たちのような経験だけのファイターじゃない。
試合が終わっても助言にとどめておいてほしい』
他人に見えないプライベート設定で送ったそれは、最悪の事態に備えてのことだ。
序盤で敗退ということになったときの備え、念のための予防線。
>「すみません、友達も来てるはずなんですけど……
もしサバイバルマッチで見かけたら一緒に戦ってあげてください」
「その子との合流を急いだほうがよさそうだね。
一機だけではサバイバルどころじゃない」
どうやら水鳥の友人も来るはずだったようだ。
幸い試合途中での共闘はサバイバル戦では認められている。
早めに見つけて合流するべきだろうと桐山は考えた。
- 393 : :2018/09/01(土) 15:07:54.59 ID:TwDmUf/F.net
- >「今ここに、我らトラフィックゴーストの実験台達が集った!
これよりロボットバトル・サバイバルマッチを開幕する!」
開始時間となったのか、バイザーを付けた男のアナウンスが会場に響く。
それに合わせて桐山もあらかじめ待機状態だった「マシンナリーファイターズ」を起動し、
目の前に仮想UIを展開していく。
「マクシミリアン、出る!」
彼が仮想操縦桿を握りしめれば、中世の騎士のような鎧を纏った巨人が
細身の大剣と無骨なデザインの小銃を持って彼の傍らに現れる。
真紅に染め上げられたその甲冑、フルフェイスヘルムのスリットから見える六つのカメラアイ。
そして背中に折り畳まれた巨大なレーザー発振器。
こうして参加するファイターの準備が全員整ったところで、司会の宣言と共に戦闘が始まった。
>「ロボットバトル・サバイバルマッチ、スタートです!!」
このステージは障害物は少ないものの、その障害物の利用が重要なポイントだ。
『キューブ』と名付けられた破壊不能な立方体型の物体が一定のパターンで動き、足場にも壁にもなりうる。
「キューブを盾にして水鳥君の知り合いと合流しよう!
まだ始まったばかりだ、弾薬の消耗は避けたい」
こうしてマクシミリアンは大剣をしまい、小銃を構えてキューブに張りつきながら移動する。
序盤の消耗を避け、終盤にありったけを叩き込む。
きわめて基本的な戦い方に、桐山は則って動いた。
【改めてよろしくお願いします!】
- 394 :紫水晶 :2018/09/02(日) 09:08:58.22 ID:QgXpmEuh.net
- >「――このつつじヶ丘アリーナは、我々『トラフィックゴースト』が乗っ取った!」
「む。始まったわね」
熱気溢れる会場を突如貫く警報音。
追って響く謎組織からの丁寧なアナウンスを、紫水晶は露店のうどんをすすりながら聞いた。
トラフィックゴースト。
マシンナリーファイターズの大会運営が時折ゲリラ的に開催する観客参加型のイベントだ。
連中の辞書に接待バトルなどという文字はなく、スタッフの駆る機体にはガチビルドが多い。
なにぶん運営のやることなので、敵として立ちはだかるスタッフはもれなく仕様に精通しているのだ。
会場に集まる参加者の動きはふたつに別れた。
ひとつは腕試し、あるいは純粋にイベントを楽しむべくトラフィックゴーストとの戦いに挑む者たち。
そしてもうひとつは、その戦いを観察して環境トップメタビルドを読み取らんとする者たちだ。
晶は前者だった。
彼女は肩に提げたポーチからARデバイスを取り出すと、うなりを付けて放った。
宙を舞うそれをキャッチしたのは対面でうどんを盛り付けていた店主だ。
「参戦するわ。登録証をちょうだい」
「ほう。私がトラフィックゴーストの一員だと見破るとはな……」
「ふふっ……上手く擬態していたようだけれど、私の鼻は誤魔化せないわ。
匂いがするのよ。お出汁の香りの奥に潜む、血に飢えた決闘者の匂いがね……」
うどん屋もとい大会運営スタッフは、鍋から立ち上る湯気で曇ったVRゴーグルの奥でニヤリと笑った。
匂いもクソも、デバイス付けてうどん茹でる人間などいないので自明の理であった。
「ククク……我が牙の前に自ら躍り出るその蛮勇を讃えて、私から餞の言葉を贈ろう。
――登録はこれにて完了です。楽しんできてくださいね」
「ありがとう」
うどん屋が放り返したVRゴーグルを二本指で受け取り、晶は自身の両目にそれを取り付ける。
そして、ポーチから取り出した軍帽(レプリカ)を目深に被って踵を返した。
「さて……流れで参戦したは良いけれど、周ちゃんはどこに居るのかしら」
デバイスのメーラーを起動してメールの着信をチェックする。
トラフィックゴーストによる会場ジャックが起きたとき、同時にデバイスに一通のメールが届いた。
>件名:もうアリーナに来てる?
送り主は同じつつじヶ丘高校のゲーム部に所属する、晶の友達だ。
彼女とは、今日の大会に、一緒に参加しようと待ち合わせの約束があった。
しかし会場内で合流する前に、ゲリライベントが始まってしまった次第である。
一応「どこ?」とだけ返信を入れておいたが、今の所返事はない。
おそらく既にバトルが始まっていて、メーラーを開いている場合ではないのだ。
とはいえ、サバイバル形式のゲリライベントは限られたコロシアム内で行われる。
会場広しと言えども流石にコロシアムに入れば見つけることは容易かろう。
- 395 :紫水晶 :2018/09/02(日) 09:09:49.60 ID:QgXpmEuh.net
- 「そう言えば周ちゃん、チームを組んでいると言っていたわね……」
メールの末尾にはこう書いてあった。
>『元ゲーム部の桐山先輩と八木先輩に同じクラスの方丈寺君もいるよ。』
- 396 :紫水晶 :2018/09/02(日) 09:12:16.80 ID:QgXpmEuh.net
- test
- 397 :紫水晶 :2018/09/02(日) 09:13:08.34 ID:QgXpmEuh.net
- 元ゲーム部の先輩二人にクラスメイト一人。
うちクラスメイトの方は当然晶も面識がある。というか友達だ。
気取り屋の晶と邪気眼遣いの万丈寺は夢見る世界観は違えど波長が合う。
万丈寺がマシンナリーをやっているのは意外だったが、顔見知りが居るのは素直に心強い。
一方で、先輩二人のことは名前すら知らない。
晶が今年の春にゲーム部に入った頃には既に二人とも部にはいなかった。
ちょっと前にゲーム部が人間関係の問題で空中分解したというのを伝え聞いた程度だ。
(……それ、混ぜちゃって大丈夫な人たちなの?周ちゃん)
元ゲーム部と言うからには、彼らは『出ていった』側の人間だということだ。
二人は被害者と加害者の関係かもしれないし、現役のゲーム部員に思うところもあるだろう。
後の災いになる気がしてならない。
……まぁ、なるようになるだろう。
所詮は一期一会のチームアップ、この先何年も付き合っていくわけじゃない。
晶は適当にそう結論付けて、コロシアムの中に降り立った。
「ARデバイス、セット。――私の声に応えなさい、『微塵改』」
音声認識によって該当マシンナリーがインベントリから呼び出され、虚空に輪郭が描かれる。
降って湧いた鋼の偉丈夫は、ずどんと重い音を立てて地面に着地。
各関節のショックアブソーバーから吸収剤が蒸発して白煙を立てた。
――紫水晶のマシンナリー・三拾式仮想剣闘機『微塵改』。
オリーブドラブの機体色と、丸みを帯びた重機に似た外観をもつ人型ロボットだ。
手に持つのは鈍く光る直剣と、全身を覆う巨大なライオットシールド。
警察機動隊と古代ローマの剣闘士をごちゃ混ぜにしたような無節操なデザインである。
「さて、まずは急いで周ちゃんと合流しなくちゃね」
目の前に表示された仮想操縦桿を操作して、微塵改を前進させる。
地響きのような音を立てて、鋼の巨躯は一歩前に出た。
これが微塵改のトップスピードだ。装甲を分厚くしすぎたせいで、まともに走ることすらままならない。
そして、戦場のど真ん中で巨体がゆっくり動いていれば、当然発生する事態がある。
「フハハハ!本日最初の獲物が現れたようだな!」
――それすなわち、敵とのエンカウントである。
微塵改の前方には三体のマシンナリー。いずれも表示される認識票はトラフィックゴーストのものだ。
三体の敵機は、微塵改の進行方向を妨げるようにして広がった。
- 398 :紫水晶 :2018/09/02(日) 09:13:49.85 ID:QgXpmEuh.net
- 「冥土の土産に自己紹介しておこう!私は物販ブースの矢崎!我が研究の礎となってもらおう!」
「会場交通整理の富沢!来なさいお嬢さん、私の機体で可愛がってあげるわ!」
「お子様迷子案内所の槇村!"シャバゾー"がぁ〜〜ッ!"調子(イキリ)"くれてっと"ベコベコ"にしてやんヨ!?」
「なんか柄悪いのが混じってない……?」
「「「問答無用ッ!」」」
モータルと呼ばれたゴーストの部下達は、一斉に微塵改へと攻撃を仕掛けた。
左右からあられの如く押し寄せる機銃の十字砲火。地を這うように迫りくるミサイル。
どの方向へ躱そうが、残る一機の振るうエナジー・ランスの白刃が不可避の一撃を見舞う三段構えの連携だ。
微塵改は避けなかった。足が遅すぎて避ける暇などあるはずもない。全部被弾した。
「まず一匹――!」
立ち上る爆煙エフェクトに、モータルの勝ち誇る声が響く。
しかし煙の晴れたとき、彼らの顔から笑みが消えた。
怒涛の波状攻撃をすべて受けてなお、微塵改の機体耐ゲージはわずかにしか減っていない。
ライオットシールドの表面が焼け焦げ、凹んだ程度である。
「隙あり!シールドバッシュ!!」
至近距離で槍を突き出していたモータルの機体に、微塵改はシールドをぶち当てた。
盾に設定されているノックバック属性により、敵マシンナリーはわずかに後ずさる。
そこへ更にシールドを叩きつけた。
「バッシュ!バッシュバッシュ!追撃のぉぉぉ――シールドバッシュ!」
「ちょっ!ちょっと待て!ゴリ押しはやめろ!もっと操縦者同士の駆け引きをだな――」
モータルの抗議も馬耳東風に、晶はひたすら単調なバッシュをかまし続けた。
攻撃も回避も、出がかりをノックバックで潰されれば強制的にキャンセルされてしまう。
やがて蓄積されたノックバック値によって、敵機は大きくバランスを崩した。
「そこっ!」
すかさず微塵改は剣を抜き、よろめいた敵機の胴めがけて一閃。
胸部装甲を刀身が埋まるまで貫かれた敵機は、損傷部から火花を上げて沈黙した。
バッシュでバランスを崩すのを辛抱強く待って反撃。微塵改唯一の必勝パターンである。
晶は眉一つ動かさずにガッツポーズした。
- 399 :紫水晶 :2018/09/02(日) 09:15:04.40 ID:QgXpmEuh.net
- 「成し遂げたわ。」
「馬鹿な……こんな塩試合があるか……」
「後学のために覚えておくことね。素人のガチャプレイがラッキーパンチを引くこともあると」
「公式大会に来る奴の台詞かそれ……!?」
- 400 :紫水晶 :2018/09/02(日) 09:16:05.85 ID:QgXpmEuh.net
- 動かなくなった敵機から剣を引き抜き、微塵改は再び盾を構える。
三人組モータルのうち、一人は始末した。残りは二人。
そして残った二人は、バッシュに影響を受けない後方射撃型だった。
「……待ち合わせがあるの。じゃあこれで」
「逃がすか!」
自身の不利を1秒で悟った晶は速攻逃げの一手を打った。
とはいえ微塵改は話にならないレベルのドン亀である。
背後からはまさに嵐のように機銃とミサイルが吹き荒れ、微塵改の背面に鉛玉と爆炎が突き刺さる。
いかに分厚い装甲が地面の微塵改といえども、耐久バーがゴリゴリ減っていくのがわかった。
誠に遺憾だが、微塵改に反撃の手段は最早ない。
遠距離型にはめっぽう弱いのがこのビルドの最大にして当然の弱点だ。
タンクプレイをするにも、火力を担当する仲間が要る。
具体的には愛すべき友人、水鳥周子。一刻も早く彼女と合流しなければ。
キューブを盾にしながら気の遠くなるような長い長い1分程度の逃避行の末、ついに晶は光明を見つけた。
周子だ。周りに居るのは万丈寺と、それから件の先輩方だろう。
ようやく会えた友達の姿に晶はパッと顔を明るくして、すぐにいつものシニカルな表情を取り戻す。
「周ちゃん!万丈寺君!あと先輩方!助けて!怖い人達に追われているの!」
後方から上がる「えぇ……」というスタッフの素のリアクションを尻目に、晶は叫んだ。
「一発殴っただけなのに!!」
などと意味不明な供述をしながら、晶は抱えた敵二人をチームの仲間に擦り付けた。
【モータルの集団と遭遇し、タゲ取りながら仲間のもとへ逃げてくる】
- 401 :紫水晶 :2018/09/02(日) 09:16:31.84 ID:QgXpmEuh.net
- 【遅くなってごめんなさい!改めてよろしくおねがいします!】
- 402 :紫水晶:2018/09/02(日) 19:26:08.36 ID:uwWhkqZf.net
- 【×VR
○AR
でした!失敬しました!】
- 403 : :2018/09/05(水) 12:31:39.12 ID:IspHlbvo.net
- 停電復旧しておらずスマホからなので酉違うかもですが方丈寺です
申し訳ないですが抜けますね
体は無事てすが家のほうがちょっと
すいません
- 404 :水鳥 :2018/09/05(水) 19:13:18.25 ID:zIOQm0dq.net
- >>403
災害で大変な中ご連絡くださってありがとうございます。
方丈寺さんとご一緒出来ないのは残念ですが、承知致しました。
方丈寺さんが抜けてしまいましたので、次のターンは八木さんになります。
〇日ルール的には一応今日から数えて10日以内になります。(>>366参照)
なにとぞよろしくお願い致します!
- 405 :紫水晶 :2018/09/05(水) 23:16:06.76 ID:WpW4qJUz.net
- >>403
oh...
大変だとは思いますが、どうか無理はなさらずご自愛ください
また落ち着いたらぜひご一緒しましょう
- 406 :桐山 直人 :2018/09/06(木) 13:16:54.33 ID:Q1mWHzK0.net
- >>403
自然災害はどうしようもないですし無理はなさらず
またご一緒できる機会を待っています
- 407 :八木優樹 :2018/09/06(木) 21:12:31.23 ID:vJHOnM8w.net
- >>403
一日でも早く元通りの生活に戻れますようお祈り申し上げます
またどこかで、もしかしたらここで、お会いしましょう
- 408 :八木優樹 :2018/09/06(木) 23:02:37.34 ID:74aXVch3.net
- >「先輩が二人もいれば百人力ですね!一緒に頑張りましょう!
私もゲーム部一年として底力を見せますからねー!」
優樹の心配はどうやら殆ど杞憂だったようだ。
水鳥は持ち前の快活さを幾ばくも曇らせる事なくそう答えてくれた。
>「八木がいるなら大丈夫だよ。彼の実力は本物だし、マシンナリーもサバイバル戦に向いている」
桐山も特に不快感を示すような事はなかった。
もっとも、その態度と言葉がただの社交辞令的なものである可能性を、優樹には否定し切れないのだが。
それでも、表面的に見えているものを疑い出すと、切りがない。
優樹は意図して、その事について考えるのをやめた。
と――不意に彼の簡易デバイスにメールが届いた。
>『水鳥君も方丈寺君も初心者だ。かつての先輩たちのような経験だけのファイターじゃない。
試合が終わっても助言にとどめておいてほしい』
その内容は要するに、あの時のように言い過ぎないようにしてくれという事だ。
もちろん、優樹にもそのつもりはない。
自分がした事のせいで、あの事件とは全く関係のない一年の女の子が心無い言葉を投げつけられている。
彼がチームへの加入を申請したのは、その事に対する負い目、罪の意識からだ。
暴言など吐けるはずもない。
優樹は桐山に目線を向けて、小さく頷いてみせた。
>「すみません、友達も来てるはずなんですけど……
もしサバイバルマッチで見かけたら一緒に戦ってあげてください」
ふと、先ほどまで何やらデバイスの操作をしていた水鳥が、桐山と優樹に声をかけた。
優樹は周囲を見回すが――顔も知らない相手を探す事の無意味さにすぐに気づいて、やめた。
水鳥の友人も会場には到着しているらしい。
だが会場はゲリライベントによって慌ただしく人が行き交っている。
選手席もそれは例外ではない。試合開始までに合流するのは難しいようだ。
>「その子との合流を急いだほうがよさそうだね。
一機だけではサバイバルどころじゃない」
「フレンド登録はしてあるんだよね?だったら互いに救援要請を出しときなよ。
……ちゃんと、帯域をフレンド限定にするのを忘れないようにね」
これから始まるサバイバルマッチでは、プレイヤーは救援要請を発信する事が出来る。
二年ほど前のアップデートで試験的に追加され、そのまま定着した機能だ。
サバイバルマッチは基本的に『勝利条件が満たされるまで生き残れば勝ち』のゲームモードだ。
今回であれば「トラフィックゴーストの全滅」。
つまり極論を言えば、参加者全員が協力して勝利を目指す事も出来る。
逆に救援要請を利用して他のプレイヤーを誘き寄せ、スコアを稼ぐ事も出来る。
救援要請はそういった協力プレイ、または駆け引きを可能にしてくれるのだ。
>「今ここに、我らトラフィックゴーストの実験台達が集った!
これよりロボットバトル・サバイバルマッチを開幕する!」
会場に響き渡る声。
同時にステージの上、ゴーストを照らし出すようにスポットライトが点灯する。
その背後にはデバイスを装着した不審な男達の姿。
実際、大型のゴーグルとエプロンやワイシャツ、ネクタイを着合わせた姿はとても不審だ。
- 409 :八木優樹 :2018/09/06(木) 23:03:11.09 ID:74aXVch3.net
- >「ルールは先程告げた通り殲滅戦だ。私達トラフィックゴーストを見事全機撃墜してみせよ!
もし君達が私と部下のモータル達を倒せたならその健闘を讃えアリーナを開放しよう!
そして、決戦の地となるバトルステージは――コロシアムステージだ!!」
- 410 :八木優樹 :2018/09/06(木) 23:06:25.62 ID:74aXVch3.net
- コロシアム――古代ローマの闘技場をモデルにした円形のフィールドに、
何らかのステージギミックが追加される、一般的なステージだ。
ギミックには幾つか種類があり、それによってマップ名の最後にアルファベットが追記される。
(どのギミックが来るかな……出来れば、Aがいいんだけど)
優樹はそんな事を考えつつ、リュックサックからARデバイスを取り出した。
大型のヘッドセットと幅広のバイザーが一体化した、よりゲーム用に改良されたデバイスだ。
残念ながら交通安全上の懸念により街中で付けて歩く事は出来ない。
>「ARデバイス、セット!」
前髪を左右に分けて、デバイスを装着し、スリープモードを解除。
マシンナリーファイターズを起動。
優樹の視界が瞬く間に操縦席と、その外側に広がる戦場へと塗り替えられていく。
>「ロボットバトル、スタンバイッ!」
会場内にも、拡張現実が投影されていく。
アリーナは巨大なキューブが移動、浮遊する円形闘技場に。
(コロシアムBか……個人的には、Aの方が好きなんだけど……仕方ないか)
観客席もハニカム構造のシールドが展開された、近未来風の様相へと。
これにより、観客達はまるで目の前でマシンナリーが戦っているかのような臨場感を得られる。
>「準備は整ったようだな……実験台達よ、精々抵抗するがいい……!」
>「ふふふ、見るがいい。モータルの実力というものを……!」
「……さて、やるか」
優樹のマシンナリーは、まるで置物のようにフィールドに立っていた。
前のめりになって、見えない壁に手のひらを当てて体を支えているかのような姿勢。
その状態のまま微動だにしていなかったピエロ型のマーシナリーが――ゆっくりと、直立の姿勢を取り戻す。
全身に金属光沢を帯びた、すらりとした細身の道化師。
それが優樹のマシンナリー、クラウン・ノイジーモデルだ。
>「ロボットバトル・サバイバルマッチ、スタートです!!」
参加登録をされたマシンナリー達が一斉に消失する。
フィールド上のどこかにランダムにワープさせられたのだ。
事前にチームアップしていた水鳥達は同じ地点に転送されたが――水鳥の友人、紫水は違う。
>「キューブを盾にして水鳥君の知り合いと合流しよう!
まだ始まったばかりだ、弾薬の消耗は避けたい」
「上手い事、早めに合流したいね。あ、桐山君。このマップは上にも気をつけてね」
コロシアムBに設置されているキューブは破壊不可能オブジェクトだ。
だがその表面にはロボットが掴める程度の凹凸がある。
また定期的な移動を繰り返すキューブは、空中に床を、或いは天井を織り成す。
マップに上下の概念が生まれれば、プレイヤーはより戦術的で、独創的なゲームメイクが出来るからだ。
比較的狭い会場でも大人数が戦える戦場を作る為の工夫でもある。
ともあれ一行は水鳥の誘導に従って、彼女の友人、紫水の回収に向かう。
そして数分もしない内に、その目的は達成された。
ただし――敵勢力二機のおまけ付きで。
- 411 :八木優樹 :2018/09/06(木) 23:08:04.24 ID:74aXVch3.net
- >「周ちゃん!万丈寺君!あと先輩方!助けて!怖い人達に追われているの!」
>「一発殴っただけなのに!!」
「……面白い子だね。自分の世界を持ってるタイプだ」
AAR(完全拡張現実)マッチング――いわゆるネット対戦をしていると、たまに遭遇するタイプだ。
マシンナリーファイターズはただのゲームではない。
拡張現実を通して、プレイヤーは自分自身が戦いに臨む。
だからそのプレイヤーの、人間性が強く出る――と、少なくとも優樹は思っている。
向いてない人間はいつまで経ってもすぐにパニックを起こすし、
人が変わったように冷徹に、攻撃的に――猟奇的になる者もいる。
しかし、それならば自分はどうだろう――と、そこで優樹は考える事をやめた。
今は試合中で、前方には既に敵が見えているのだ。
考えるべき事は他にもっとある。
例えば、現在の状況について。
まず――前方には敵機。こちらはキューブを使って身を隠している。
加えて紫水の機体、微塵改は常に後方からの射撃に晒され続けている。
つまり敵機はどちらもオーソドックスな射撃特化型。
センサーのような特殊な兵装は持っていないだろうと推測出来る。
「……よし、じゃあアレ。やっちゃおうか」
- 412 :八木優樹 :2018/09/06(木) 23:11:29.83 ID:74aXVch3.net
- 優樹は事もなげにそう言った。
言葉を紡ぎ終えた時には、既に準備は完了していた。
クラウン・ノイジーモデルの左手人差し指、その先端が膨れ上がっている。
薄いゴム質の膜と、その中で揺れる液体。水風船だ。
もっとも中の液体は水ではなく、爆薬。
バルーンボム。射撃特化型クラウンの基本兵装である。
クラウンの右手が、バルーンボムをまるで果実のようにもぎ取る。
そしてそのまま振りかぶり――右腕で大きく弧を描くように、前方へと放り投げた。
クラウンの細くしなやかな機体フォルムは、高く、更に遠くへ、投擲物を届けられる。
投擲された水風船は、当然だが発射音など伴わない。
推進剤を使っていないのだから、エネルギー反応もない。
APS(アクティブ防護システム)も、速度が遅すぎて反応しない。
つまり――バルーンボムは一切の前触れなしに、敵機の頭部へと降り注いだ。
高い、笑い声のような爆音が響く。
爆炎が晴れると――微塵改を追跡していた敵機の片割れ、その胸部装甲より上が、僅かな装甲片と骨格を残して吹き飛んでいた。
高い射撃能力と平均以上の機動力で率先して敵を倒しにいくアサルトスタイルの装甲では、バルーンボムの直撃は耐えられない。
「……あぁ、当たった。まぁ……まぐれ当たりだけどね。誰にも邪魔されなかったし」
壁越しの爆弾投擲はクラウン・ノイジーモデルの基礎技術だ。
だが――10メートルを超える距離でそれを成功させるのは至難の業だ。
実際、優樹ももう一度同じ事をやれと言われても、あれほどのクリーンヒットは狙えないだろう。
しかし一方で、全く狙っていなかった訳でもない。
最初に一発、突拍子もない攻撃を叩き込むのは戦術として有効だからだ。
外れて当然。もし当たれば――敵チームのテンポを崩し、有りもしないジョーカーの存在を警戒させられる。
もちろん、失敗しても問題のないようリスク管理をした上での話だが。
「もう片方は多分逃げるよ。同じゴースト内なら別チームに編入出来るから」
果たして敵機の行動は――優樹の言う通りになった。
「キューブの動き次第だけど、今なら追いかけて背中を撃てる。
だけどアイツらはここに来るまで散々銃声を鳴らしてきてる。
他の参加者達が集まってくるはずだから、そっちも警戒しないと」
サバイバルマッチは条件を満たせば全プレイヤーが勝利出来るルール。
だが一方で――参加者同士の戦闘に意味がない訳ではない。
スコアが稼げる。そのスコアが特に意味を成す訳ではない。
一定以上のスコアを稼ぐ事で賞品が得られるマッチもあるが、今回は、少なくとも事前にそのような告知はなかった。
それでも――これはゲームだ。
ゲームをプレイしていて、より多くのキル数を稼ぐ。
それは至極当然の目的だ。それ自体がメリットなのだ。
勝利を度外視したスコア稼ぎはハイエナと呼ばれ、忌避される行為だが、これは野良試合だ。
存在する以上は、諦めて受け入れるか――然るべき対処をしなければならない。
クラウンが周囲を見回す。
遠くに見える、緩やかな移動を繰り返す、キューブ群。
その陰に向かって、優樹は幾つかのバルーンボムを投げた。
爆弾は緩やかな軌跡を描いて、半分はそのまま落下して爆発した。
もう半分は――放物線の頂点に達した所で、銃撃によって爆破された。
やはり、既に別の参加者が近くにまで寄ってきている。
ならば、選択が必要だ。
「……どっちをやろうか。ゴーストか、まずはハイエナからか。
リーダーは水鳥ちゃん、君だ。決めてくれるかい」
- 413 :水鳥 :2018/09/07(金) 22:57:50.14 ID:c8v0uQxh.net
- 容量が450KBを切ったので僭越ながら次スレを立てておきました。
TRPG系実験室 2
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1536328567/
- 414 :水鳥 :2018/09/07(金) 22:59:08.78 ID:c8v0uQxh.net
- >「キューブを盾にして水鳥君の知り合いと合流しよう!
> まだ始まったばかりだ、弾薬の消耗は避けたい」
桐山が手馴れた操作で機体を動かし、マクシミリアンはキューブに身を隠した。
片手には小銃が握られており、トラフィックゴーストや他の参加者の来襲にも万全の構えだ。
>「上手い事、早めに合流したいね。あ、桐山君。このマップは上にも気をつけてね」
エクスフォードの足元のキューブが音もなく上へ移動していく。
破壊不能オブジェクトが天へ上っていくのを眺めながら、周子は八木に言われて出した救援要請を確認する。
友人側も救援要請を出してくれており、レーダーマップを覗くと青い点が映った。
「友達の居場所が分かりました。私が先頭になりますね!」
そうしてキューブを利用しつつ移動すること数分、遂に友人のマシンナリーを発見した。
レーダーと認識票、眼前に映る機体を忙しく確認しながら、やはり彼女だという事を確信する。
「晶ちゃん!探し――――」
>「周ちゃん!万丈寺君!あと先輩方!助けて!怖い人達に追われているの!」
周子が呼びかけるより早く、件の友人、紫水晶(しみずあきら)は叫んでいた。
何と背後にトラフィックゴーストと思しき機体を二機引き連れているではないか。
>「一発殴っただけなのに!!」
なるほど、追いかけている側が激昂してそうなのは倒しちゃったからなのね。
白兵戦に特化した微塵改が一撃を加えれば相手もタダでは済まない。
周子は一瞬にして紫水の凶行を悟るに至った。
エクスフォードの機動力なら微塵改と敵機の間に割って入るのは難しくない。
そのまま微塵改と協力して撃墜することも恐らく可能。
だが、状況次第でエクスフォードは小破程度の損壊を免れないだろう。
(けど万能型のマクシミリアンと射撃型のクラウンの力も借りれば……
うん、損傷はなしで晶ちゃんを助けられるはず!)
こうして周子が脳内シュミレート終えようとした時、八木は事もなげに言い放った。
>「……よし、じゃあアレ。やっちゃおうか」
クラウンのグローブがぷくっと膨らむと、膨らんだそれを右手でつかみ取る。
これがクラウンの武器、バルーン・ボムだ。見た目は水風船のようだが、中身は爆薬だ。
それを投擲すると、バスケ選手の3Pシュートのように奇麗な放物線を描きながら敵機に着弾した。
結果、敵機は胸から上が吹き飛び、無惨なスクラップへと成り果てた。
>「もう片方は多分逃げるよ。同じゴースト内なら別チームに編入出来るから」
八木の言う通り僚機は何処かへ逃げていく。
周子が長々と考えていた救助作戦を八木は一瞬で終わらせたのだ。
そのまま八木の言葉が続く。
>「キューブの動き次第だけど、今なら追いかけて背中を撃てる。
> だけどアイツらはここに来るまで散々銃声を鳴らしてきてる。
> 他の参加者達が集まってくるはずだから、そっちも警戒しないと」
他の参加者に警戒する。即ち、同じ参加者を狙ってスコアを稼ぐタイプに注意せよという事だ。
ただでさえつつじヶ丘高校は微妙な評判が轟いている。手持無沙汰に一発撃ってくる輩がいないとは限らない。
バルーン・ボムの威力を見ての通り、マシンナリーファイターズというゲームはリアル感を重視している。
よって一発の被弾が命取りになりかねない場合もままあるのだ。
- 415 :水鳥 :2018/09/07(金) 23:02:02.81 ID:c8v0uQxh.net
- 八木の台詞は極めて冷静だった。そして、周子はある事実に気づいた。
ゲーム部で集団戦を体験したことが未だかつてなかったという事を。
部員数名程度の現在の部では、一対一で練習することは多くあれど、
チーム戦やサバイバル戦のような大人数の戦いの練習は一切経験がない。
否、経験出来ないのだ。
>「……どっちをやろうか。ゴーストか、まずはハイエナからか。
> リーダーは水鳥ちゃん、君だ。決めてくれるかい」
経験の浅い周子がリーダー。
本来ならチーム結成を最初に持ち掛けてくれた桐山や、実力の高い八木がなるべきポジションだ。
周子流の解釈では、先輩に気を遣わずこのサバイバルを楽しめ、という気遣いだと判断した。
単純に元ではなく現ゲーム部が収まるのが相応しいと考えたのかもしれないが、答えは分からない。
「は、はい……!でででは逃げたモータルを追いかけましょう!
他の参加者まで狙うとスコアを稼げる分、こちらの消耗が大きくなります。
勝利条件であるトラフィックゴーストを着実に減らしていきましょう。
もしハイエナのファイターが襲ってきた場合は応戦するという事で……!」
いきなりリーダーに任命され、気恥ずかしさを隠せない。
しゅ〜っと湯気を立てかけながら、ぶんぶん首を振る周子なのだった。
モータルとの小競り合い、リーダーと行動指針の決定。
目まぐるしく状況が動いたが、まずは晶と合流できたことを喜ぶべきだろう。
「とにかく、晶ちゃんが無事で良かった!心配したんだからね!」
エクスフォードが微塵改に接近すると、やや損傷しているのが分かった。
ライオットシールドや機体のそこかしこが凹んでいるではないか。
あれだけ射撃機の猛追を食らいながら撃墜されてない事自体が驚きなのだが。
合流したのもそこそこに、早速逃亡を図ったモータルを追跡する。
具体的には敵が合流するより前に確実に仕留める。合流されればお礼参りは確実だからだ。
自機のツインアイで周囲を索敵すると――幸いだ。まだ逃げたモータルを見失ってはいなかった。だが不幸もある。
「合流が早い……!」
フィールドが狭いせいか、運がないのか、その両方か。逃げた機体は付近のモータル達三機と即座に合流したようだ。
合流したチームの二機は逃げた機体と似たような外観だが、一機だけ違う。
今まで見た事もない機体だ。武者のような装甲に大薙刀を背負っており、その威容に気圧されそうだ。
「あれは……!ベンケイ!?」
追加予定の新型マシンナリー体験会で試運転できるはずだった機体。
このイベントがなければ開催されていたロボットバトル会場の目玉イベントのひとつだ。
恐らくはデモンストレーションも兼ねてイベントスタッフ側が参戦させたのだろう。
無論、あの様子では参加者側ではなくトラフィックゴースト側のようだが。
ふと、ベンケイの双眸がこちら側を見つめると、にわかに急接近してきた。
- 416 :水鳥 :2018/09/07(金) 23:03:35.10 ID:c8v0uQxh.net
- 「こちらに気づいているみたいです。応戦しましょう!!」
記憶する限り、宣伝で触れこんでいたベンケイの特徴といえば、
多数の格闘武器による連撃と、強化レーダーによる高い索敵能力だったはずだ。
とすれば、撃墜された味方の付近に現われるのも、こちらに気づくのも何ら不自然ではない。
周子は仮想操縦桿を捻ると、幾つもあるウェポンスロットの一つを選択しタップ。
武装コンテナが開き、エクスフォードはショットンガンを構えた。
エクスフォードは格闘機だが、背中の殻型コンテナに沢山の武器を収納している。
追尾式のマイクロミサイルにワイヤーアンカー、広範囲の敵を圧し潰す重力爆弾ブラストボム。
このコンテナのお陰で、格闘を主眼に置いておりながら高い対応力を発揮できるのである。
周子はこの殻型武装コンテナを『ハーミットアーマリー』と名付けている。
「くくく、先程は仲間が世話になったな。
だが君達には最新鋭機のサビとなる栄誉が与えられた!
存分に体感せよ!そして、震撼するがいい!ベンケイの性能を見てなっ!!
だが悲しむことはない。サバイバル戦では雑魚から消えていくのが鉄の掟……」
まだ長台詞を喋りそうな雰囲気だったので周子は容赦なくショットガンをぶっ放した。
命中の手応え確かにエクスフォードがガシャッと薬莢を排出して弾丸を再装填する。
「小癪な……!そんなものが通用するかァ!!」
機体が纏っている鎧は傷ついているのに本体にダメージが全く通っていない。
恐らく鎧は着脱式の追加装甲だろう、と周子は推測した。よくある防御策だ。
あの手の装甲はパージさせないと本体のマシンナリーにダメージが通らない仕様なのだ。
向かってくるベンケイの両隣にはぴったりとモータルの機体が二機、随伴している。
彼らの機体『コープスブライド』は、格闘型、射撃型、万能型etcとバリエーション豊かな機体だ。
武装に小銃と剣を携行しているあたりから随伴している二機は万能型らしい。
合流した射撃型はベンケイ達のやや後方に位置したまま援護する構えだ。
「ベンケイは追加装甲の鎧でがっちりガードしているみたいです!
一撃で倒すのは難しいかも……!!」
【逃げた射撃機は即座に仲間と合流。ベンケイを引き連れて戻ってきた!】
- 417 :桐山 直人 :2018/09/08(土) 14:58:04.09 ID:NH4m3+ZP.net
- >「上手い事、早めに合流したいね。あ、桐山君。このマップは上にも気をつけてね」
「大丈夫だよ、このマップは最近練習しているんだ」
レーダーマップに時折表示される赤い点――敵機のことだ――がこちらから離れるのを注意深く観察し、
キューブの移動に合わせて行動する。
位置が判明した水鳥の友人と合流するための行軍は、数分で終わった。
前方から平均的なマシンナリーよりはるかに遅く走ってくる重装備の機体と、それを追いかける射撃型の機体二体。
>「周ちゃん!万丈寺君!あと先輩方!助けて!怖い人達に追われているの!」
>「一発殴っただけなのに!!」
「いい子だ、追われている状況で自分のキャラを貫ける。
大成するよ、いやまったく」
八木と一緒に感想を述べた後、桐山は戦闘に移る。
彼のマシンナリー、クラウン・ノイジーモデルと違い桐山のマシンナリーは距離を選ばない。
こちらへ向けて放たれたミサイルを視線照準でロックし、腰部に搭載された散弾砲がそれに合わせて放たれる。
散弾がミサイルに突き刺さり、マクシミリアンに当たることなく爆散した。
>「……よし、じゃあアレ。やっちゃおうか」
クラウンのバルーン・ボムの投擲に合わせて、マクシミリアンの97式突撃小銃がこちらを見ろとばかりに唸りを挙げて斉射される。
格闘戦用の出力で大きな反動を無理矢理抑え込み、短い間隔を置いて決して無視できないダメージを敵機に与えていく。
的確に当ててくるマクシミリアンへ対処しようとバルーン・ボムへの注意を怠れば――
>「……あぁ、当たった。まぁ……まぐれ当たりだけどね。誰にも邪魔されなかったし」
バルーン・ボムのマシンナリー上半身への直撃は増加装甲パーツや重装甲タイプでない限りほぼ一撃の、必殺と言ってもいい火力だ。
それは運営の機体であっても変わらず、下半身だけを残して見事に消し飛んでしまっている。
>「キューブの動き次第だけど、今なら追いかけて背中を撃てる。
> だけどアイツらはここに来るまで散々銃声を鳴らしてきてる。
> 他の参加者達が集まってくるはずだから、そっちも警戒しないと」
さて、これからどう動くか。桐山も次の目標を素早く思考する。
コロシアムマップはキューブという障害物があっても射線が通りやすく、集中砲火されやすいのだ。
下手に動けば十字砲火の中心地に自分たちから突っ込むことになるだろう。
>「……どっちをやろうか。ゴーストか、まずはハイエナからか。
> リーダーは水鳥ちゃん、君だ。決めてくれるかい」
「僕たちはそれに従おう。どちらにせよ、正しい選択だと僕は信じている」
- 418 :桐山 直人 :2018/09/08(土) 14:58:48.10 ID:NH4m3+ZP.net
- >「は、はい……!でででは逃げたモータルを追いかけましょう!
他の参加者まで狙うとスコアを稼げる分、こちらの消耗が大きくなります。
勝利条件であるトラフィックゴーストを着実に減らしていきましょう。
もしハイエナのファイターが襲ってきた場合は応戦するという事で……!」
リーダーに突然任命されたにもかかわらず、水鳥はどもりながらもしっかりと目標を定めてみせる。
その姿にかつてのゲーム部員たちを見たような気がして、桐山は水鳥が一瞬眩しく見えた。
だがそれも首を振ればすぐに消え、とりあえずは新しい仲間との合流を喜ぶべきだろう。
「僕は桐山直人、機体は万能型。君の機体は……かなりの重装だね、あれだけの攻撃を受けてそれだけのダメージなんて」
マクシミリアンが大剣と小銃を背中と腰のマウントラックに収納し、微塵改に敬礼のエモートアクションをしてみせる。
マシンナリーファイターズは戦闘だけではなく様々なパフォーマンスやコミュニケーションにも使われるため、
こういった身振り手振りのモーションも用意されているのだ。
こうして自己紹介が済んだ後、逃走していたモータルを追跡に入る。
全員が逃げ込んだ先に到着してみれば、そこにいたのは二機の『コープスブライド』と呼ばれる市販モデルと先程戦闘した一機。
そして、鎧武者のような見た目と通常のマシンナリーよりも大きな体格。
おそらくは噂されていた新型マシンナリー『ベンケイ』であると桐山は判断した。
>「こちらに気づいているみたいです。応戦しましょう!!」
「ただの新型じゃない……!骨格も新モデルだ、パワーも段違いのはず!」
台詞の最中にエクスフォードのショットガンが全弾直撃しても怯むことなく立ち続けている。
つまりはバズーカや大型ミサイルのような高火力武器でなければ押し切れない、典型的な重装甲タイプをさらに推し進めたものだ。
近年流行している高機動中火力型によるチマチマとした削り合いによって試合がダラダラと長引くのを嫌い、
これからは重装甲と高火力の派手なぶつけ合いで観客を楽しませるつもりということだろう。
>「ベンケイは追加装甲の鎧でがっちりガードしているみたいです!
一撃で倒すのは難しいかも……!!」
「先に護衛から落とすのは――難しいようだね」
マクシミリアンが小銃を構えて随伴機を狙えば、彼らは即座にベンケイの陰に隠れる。
大剣を引き抜いて接近戦に移ろうとすれば、ベンケイが大薙刀を振るってこちらへと向かう。
「やるなら両方狙った方がいい。一斉攻撃だ。どちらかを狙えばどちらかをカバーしてくる。
……まったく、ここまで流行を叩き潰すような機体を出してくるとはね!」
三度目の打ち合いの末、マクシミリアンにベンケイの注意は向いている。
だがマクシミリアンは元々腰を据えて殴り合うマシンナリーではない。
相手の前線に突撃し、かき乱すことを主眼に作られているのだ。そのため薙刀と大剣で打ち合うたびに徐々に押されていく。
「撃ち込むなら今だ!」
だが桐山はチャンスを見逃さず、チームへ向けて叫んだ。
ベンケイがマクシミリアンとの近接戦に夢中になり、他の三機は援護に躍起になっている今ならば。
【いわゆる総攻撃チャンス!】
- 419 :紫水晶 :2018/09/09(日) 00:37:20.16 ID:s/akwz9K.net
- てすと
- 420 :紫水晶 :2018/09/09(日) 00:38:19.13 ID:s/akwz9K.net
- 三拾式仮想剣闘機『微塵改』は、著しく足の遅い重装機体だ。
出力をフルに使っても小柄な晶が早歩きする程度のスピードしか出ない。
ロボットバトルはオペレーターがマシンナリーの傍らに立って操縦と火器管制を行うわけだが、
気を抜くとマシンナリーの方が晶のスピードについて来れずに自機とはぐれる珍事が発生する。
「いやーっ!このままでは卑劣な連中に数の暴力でタコ殴りにされてしまうわ!」
「ならもっと気合を入れて逃げんか!」
――従って、追走される緊張感に晒されながらも、紫水晶はのんびり歩いていた。
多分、合流したチームメンバーがこっちに来る方が百億倍早いだろう。
背後から間断なく射撃を加えてくるモータル達も、迂闊に自機を前進させると距離を詰めてしまうのかやり辛そうにしている。
「速力に圧倒的な差がありながら、未だ追いつかれていないこの状況!
ふふっ、まさにウサギと亀とアキレス状態というやつね」
「混ざってる上に何一つ言い表せてない……」
そのとき、微塵改の前をトロトロ歩いている晶の横を何かが通り過ぎた。
ふわりと虚空に放物線を描く、それは縁日などでよく見る水風船。
水鳥周子と共にいた件の「先輩」、彼の駆るピエロめいた機体が放り投げたものだ。
水風船は音もなく宙を舞うと、微塵改を追いすがっていた敵機の一つに直撃した。
甲高い笑い声に似た爆音と共に炎が敵機を飲み込み、その上半身を一撃で消し飛ばした。
一部始終を見送っていた晶は静かに舌を巻く。
「手榴弾!この距離で、あの低速で、しかも動いている目標に……アタリを引いたわね、周ちゃん」
狙いすましたような爆撃に片割れを撃墜されたモータルは、おそらく素で驚いたのだろう。
微塵改への射撃を中断し、踵を返して撤退を始めた。
耐久ゲージをこれ以上削られなくて済んだことに、晶はほっと胸を撫で下ろす。
「助かったわ。どうやらオペレーション・釣り野伏は上手くいったようね」
さも計算通りですと言わんばかりにしたり顔で晶はコメントした。
晶を助けたピエロの主はことさらに戦果を誇るでもなく、周子へ方針を問う。
>「……どっちをやろうか。ゴーストか、まずはハイエナからか。
>リーダーは水鳥ちゃん、君だ。決めてくれるかい」
爆弾先輩(仮称)は経験者のようだが、どうやらこの場は周子をリーダーとするようだった。
主導権を任された周子は、挙動不審になりながらも明確な行動指針を提示する。
目標は依然としてモータルの殲滅。他プレイヤーに対しては専守防衛を貫く構えだ。
晶に異論はなかった。元より彼女はこの手のパブリックイベントには初参加だ。右も左もわからない。
>「とにかく、晶ちゃんが無事で良かった!心配したんだからね!」
「ごめんなさい周ちゃん。本当はバトル開始前に合流を済ませておきたかったのだけれど……。
私の想定不足だったわ。ここのうどんは、想像しているより遥かに熱々だったのよ」
待ち合わせの前に軽く腹ごしらえでもしようと屋台でうどんを購入したわけだが、
極度の猫舌である晶にとって出来たてのうどんはあまりにも熱すぎた。
良い感じに冷めるのをふーふーして待っているうちに、ゲリライベントが始まってしまった次第である。
- 421 :紫水晶 :2018/09/09(日) 00:39:25.47 ID:s/akwz9K.net
- 正直待ち合わせすっぽかしてうどん啜ってる時点でぶん殴られても文句は言えない。
それでも非難より先に無事を安堵する言葉が出てくるのが、水鳥周子という少女の人間性である。
気取り屋で、ともすれば疎ましがられがちな晶をなにかと気にかけてくれる、彼女の大切な友達だ。
- 422 :紫水晶 :2018/09/09(日) 00:40:00.75 ID:s/akwz9K.net
- 友人との再会を喜ぶ晶へ、爆弾じゃない方の先輩が声をかける。
同時に彼の騎士めいたマシンナリーがエモートで敬礼を見せた。
>「僕は桐山直人、機体は万能型。君の機体は……
かなりの重装だね、あれだけの攻撃を受けてそれだけのダメージなんて」
「よろしく桐山先輩。私は紫水晶。むらさきすいしょうと書いてしみずあきらと読むわ。
親しみを込めて"アメジスト"と呼んでくれても良いのよ。返事をするかはお約束しかねるけれど」
ドがつく初心者の晶はエモートのコマンドがどこにあるかわからなかったので、
代わりに自分自身が桐山の機体へ向けてスカートをつまんだ会釈を送った。
「ご明察の通り、私の『微塵改』は白兵戦特化の超重装ビルドよ。壁役は任せて頂戴」
こっちの先輩が桐山ということは、爆弾先輩の方が八木ということだろう。
端的に言葉を交わし合う二人に、ゲーム部離散の過去を思わせるようなわだかまりは見られない。
当事者ではないということなのか。あるいは単にお互い大人の対応をしているのか。
自己紹介もそこそこに、晶を加えたチームつつじヶ丘はフィールドを前進する。
逃走を図った敵機の生き残りには、比較的すぐに再び相まみえることができた。
……三体の新手を余計なおまけにして。
>「あれは……!ベンケイ!?」
いち早く敵機の姿を確認した周子が叫ぶ。
彼女の視線の先には、身の丈ほどもある長大な薙刀を背負った鎧武者が仁王立ちしていた。
――ベンケイ。
まだ一般に公開されていない完全新作で、今日のイベントでお披露目になるはずだった機体だ。
歴史上の豪傑、武蔵坊弁慶の如く『七つ道具』と呼ばれる多彩な格闘武器と、
極めて高い索敵能力がウリのフラグシップモデルである。
>「くくく、先程は仲間が世話になったな。だが君達には最新鋭機のサビとなる栄誉が与えられた!
ベンケイのオペレーターがノリノリで前口上をぶつ。
それをぶった切るように、周子のマシンナリー『エクスフォード』がショットガンをぶっ放した。
「ああ周ちゃん……そこは最後まで言わせてあげなさいよ……」
ロールプレイ派の晶は気の毒そうにベンケイに目を遣る。
至近距離でショットガンの全ペレットが直撃したにもかかわらず、ベンケイの耐久はミリも削れていなかった。
おそらくは、本体と独立したタイプの強化装甲だ。
>「ベンケイは追加装甲の鎧でがっちりガードしているみたいです!
一撃で倒すのは難しいかも……!!」
>「先に護衛から落とすのは――難しいようだね」
「ベンケイが殿を務めて壁となり、後ろの連中が好き放題撃ってくる……まさに元ネタの通りね。
それなら武蔵坊の方の弁慶さんよろしく、立ち往生してもらうのが良いかしら」
- 423 :紫水晶 :2018/09/09(日) 00:40:50.97 ID:s/akwz9K.net
- ベンケイとの接敵によってチームの進軍が止まり、そこでようやく足の遅い微塵改は追いついた。
既に桐山のマクシミリアンはベンケイと刃を交わし、敵がどう動くかを読み取り始めている。
互いに威力偵察の段階とはいえ、4対1で立ち回れているあたり、やはり桐山も「強かった頃の」ゲーム部の一員なのだ。
>「やるなら両方狙った方がいい。一斉攻撃だ。どちらかを狙えばどちらかをカバーしてくる。
……まったく、ここまで流行を叩き潰すような機体を出してくるとはね!」
「あら、私は好きよそういうの。勝てる機体、勝てる戦術で順当な勝ちを収めたって楽しくないもの。
勝利への道筋に舗装は必要ない。誰かに用意されたお仕着せの美酒は、薄味だわ」
紫水晶は極めて尖ったタイプのエンジョイ&エキサイティング勢である。
もちろん勝てれば嬉しいが、研究され尽くした必勝法に頼りたくはない。
劣勢を覆すという快感を得たいがために、わざと自分を追い込む節がある。
そして大抵の場合は覆せずに敗北するわけだが、それを悔しいと思ったことは一度もなかった。
>「撃ち込むなら今だ!」
ベンケイと打ち合っていたマクシミリアンが少しずつ後退する。
一見すれば桐山が押されているようにとれるが……既に敵は桐山の掌の上にあった。
「桐山先輩、『スイッチ』するわ。周ちゃん、爆弾先輩、フォローをお願い」
スイッチとは、俗に前衛を張る機体を交代する戦術のことを指す。
耐久の削れた壁役を元気なメンバーが引き継いだり、高速機体が足留めした敵を重装機体が抑えたりと作戦意義は様々だ。
機動力のあるマクシミリアンがベンケイを前線に引きずり出してくれたおかげで、超ドン亀な微塵改でも戦いに参加できる。
「零式牽引索条『呑竜』――起動!」
微塵改の両腰に搭載された二門一対のワイヤーアンカーが射出され、ベンケイの外部装甲をホールド。
油圧モーターがワイヤーを巻き取れば、ベンケイと微塵改は至近距離で互いの位置を固定する。
晶はライオットシールドでベンケイの猛攻を凌ぎながら、武装切り替えのトリガーを引いた。
背部のハードポイントから抜き放ったのは、炸薬を内蔵したスレッジハンマーだ。
「ベンケイの弱点と言えば……昔から"ここ"と相場が決まっているわよね……!」
二式炸裂戦槌――爆発力で打撃威力を倍増させたハンマーを、微塵改は横薙ぎに大振りする。
狙うのは、ベンケイの脚部パーツ。そこは人間で言うところの向う脛だ。
またの名を……弁慶の泣き所。
大人でもガチ泣きするレベルの急所めがけて、ハンマーによる強烈な足払いを叩き込む。
- 424 :紫水晶 :2018/09/09(日) 00:41:17.44 ID:s/akwz9K.net
- 【ワイヤーアンカーでベンケイを拘束し、弁慶の泣き所をハンマーで痛打】
【次スレ立てありがとうございますー!】
- 425 :八木優樹 :2018/09/11(火) 18:28:57.13 ID:ehPIKIyj.net
- >「は、はい……!でででは逃げたモータルを追いかけましょう!
他の参加者まで狙うとスコアを稼げる分、こちらの消耗が大きくなります。
勝利条件であるトラフィックゴーストを着実に減らしていきましょう。
もしハイエナのファイターが襲ってきた場合は応戦するという事で……!」
「うん……じゃあそれで行こうか。落ち着いて、一つ一つの動きを丁寧にこなしていこう。
そうすればきっと上手くいくよ。運営側としても……」
運営側としても、ハイエナが暴れ回って参加者を減らしまくった挙げ句、ゴーストの勝利なんて寒い展開は避けたいはず。
だからハイエナが僕らを狙ってきても、きっとあっちが率先して潰してくれるよ。
そう言おうとして、しかし優樹は思い留まった。
それが無粋な発言であると気づいたからだ。
「……いや、まずは移動を始めようか」
優樹がそう言うと、クラウンが前進を促すエモートを水鳥と桐山へと見せた。
クラウンは敵の意表を突く事で真価を発揮するマシンナリーだ。
故にチーム戦においては前衛ではなく中衛、後衛の位置に立っている事が好ましい。
それに、チームの主導権は自分にあるべきではないとも、彼は考えていた。
>「とにかく、晶ちゃんが無事で良かった!心配したんだからね!」
前を譲ると、水鳥はすぐに友人、紫水晶へと駆け寄っていった。
すぐに、そして念入りに損傷がないかを確認して、それから安堵の滲む声でそう言った。
>「ごめんなさい周ちゃん。本当はバトル開始前に合流を済ませておきたかったのだけれど……。
私の想定不足だったわ。ここのうどんは、想像しているより遥かに熱々だったのよ」
対する紫水は――なおも自分のペースを崩さない。崩れない。
実のところ、優樹は彼女のようなタイプが苦手だった。
どうしてもゲームに集中していないように見えてしまうからだ。
また、そのアクの強い言動が自分に向いた時、どう応対していいかも分からない。
元々、優樹はネット対戦でも必要最低限の事しか喋らない。
自分の得意ロールを伝えたり報連相は出来ても、彼は根本的にコミュ障なのだ。
>「僕は桐山直人、機体は万能型。君の機体は……かなりの重装だね、あれだけの攻撃を受けてそれだけのダメージなんて」
>「よろしく桐山先輩。私は紫水晶。むらさきすいしょうと書いてしみずあきらと読むわ。
親しみを込めて"アメジスト"と呼んでくれても良いのよ。返事をするかはお約束しかねるけれど」
(桐山君、怯まず行ったなぁ……かなり癖のある子なのに。
AARマッチだったら……僕は正直、ミュートしてるかもしれない)
>「ご明察の通り、私の『微塵改』は白兵戦特化の超重装ビルドよ。壁役は任せて頂戴」
「僕は……僕の機体は、さっきみたいに爆弾を使うタイプの射撃型なんだ。接近戦はあまり趣味じゃないから、助かるよ」
結局、優樹は今ひとつ紫水への話しかけ方が分からなかった。
彼女がもしゲーム部を崩壊させた先輩の名を知っていたら、とも考えた。
故に自機の概要を軽く説明して、自己紹介もしなかった。
「じゃあ、改めてアイツを追っかけよう。桐山君と水鳥ちゃんが先行して、
あー……紫水さんは、後ろを警戒しつつ、頑張ってついてきて」
前衛を桐山と水鳥に任せ、優樹は中衛の位置を保ちながら前進する。
紫水は――やや後方を泰然たる足取りで歩いていた。
微塵改はタンク型の機体だが、前衛を務めるには足が遅い。遅すぎる。
彼女の足に合わせていては追いつけるものも追いつけない。
まずはマクシミリアンにいち早く敵を視認させて、回り込むなり、銃撃するなりして敵の足止めをしてもらう必要がある。
優樹はそのように考えたのだが――
- 426 :八木優樹 :2018/09/11(火) 18:30:10.51 ID:ehPIKIyj.net
- >「合流が早い……!」
逃した敵機は、既に別チームとの合流を果たしていた。
更に付け加えるなら――明らかに水鳥達がいる方角に攻撃態勢を取っている。
警戒ではない。エクスフォードがキューブの陰から一瞬顔を覗かせただけで銃撃が飛んできた。
幸いにも被弾はしなかったが――敵は既に、水鳥チームを捕捉している。
- 427 :八木優樹 :2018/09/11(火) 18:30:48.03 ID:ehPIKIyj.net
- >「あれは……!ベンケイ!?」
「ベンケイ?ベンケイが導入されてるの?ベータテストは志願者だけでやって欲しいなぁ……」
ベンケイは本来なら本日以降に全国、またはネット上でテストプレイが開催されるはずだった。
それによって使用感、被使用感のフィードバックを集め、修正を加え、次にベータテストを実施。
新型のマシンナリーはそのようなプロセスを経て正式リリースされる。
しかしマシンナリーファイターズの開発、N社はたまにこういう事をしてくるのだ。
この手のサプライズは一般的なプレイヤーには好評で、定期的に開催されている。
だが、一度調整不足のオーバーパワーな機体に叩きのめされて以来、
優樹はあまりベータテスト前のアーマリーと対戦するのは好きではなかった。
事前に公開されていた情報では、ベンケイのウリは多彩な格闘武器と高性能センサー。
格闘機があまり好まれないネット掲示板では「センサー引換券」などと呼ばれていた。
しかし――その前評判は、どうやら間違いだったようだ。
もしベンケイがただの「索敵能力に長けた格闘機」ならば、待ち方がおかしいのだ。
その性能を活かすならば物陰を使った、不意打ちを率先して狙う必要がある。
そうしていないという事は――何かがあるのだ。
事前に公表されていなかった、リーク情報さえ出回っていなかった、何かが。
「ここは一旦……」
>「こちらに気づいているみたいです。応戦しましょう!!」
引いて様子を見た方がいい。
優樹がその言葉を口にするよりも早く、水鳥が叫んだ。
「……うん、そうしようか」
いや、駄目だ。逃げた方がいい。
そう心の中で思っても――優樹はそれを口にはしない。
優樹にはゲーム部を台無しにしてしまった負い目がある。
自分にその完全な償いが出来るとは思っていない。
それでもせめてこの試合くらいは楽ませてあげなくては。
そう思うと――彼女の決定に口出しする事は出来なかった。
>「くくく、先程は仲間が世話になったな。
だが君達には最新鋭機のサビとなる栄誉が与えられた!
存分に体感せよ!そして、震撼するがいい!ベンケイの性能を見てなっ!!
だが悲しむことはない。サバイバル戦では雑魚から消えていくのが鉄の掟……」
エクスフォードがキューブの陰から素早く体を出す。
直後、背部コンテナから取り出されたショットガンが火を噴いた。
吐き出された散弾がベンケイの胸部に直撃し――
「小癪な……!そんなものが通用するかァ!!」
しかし、ベンケイはまったく怯まなかった。
散弾は全て装甲に弾かれ、機体の耐久値はこれっぽっちも削れていない。
>「ベンケイは追加装甲の鎧でがっちりガードしているみたいです!
一撃で倒すのは難しいかも……!!」
>「ただの新型じゃない……!骨格も新モデルだ、パワーも段違いのはず!」
「骨格から新モデル?……まさか、エンハンスド・フレーム?
とうとう実装する気になったのか。これはまたフォーラムが荒れるぞ」
- 428 :八木優樹 :2018/09/11(火) 18:31:46.89 ID:ehPIKIyj.net
- 強化骨格、エンハンスド・フレーム。
今から一年ほど前に、実装されるかもしれないと噂されていた新システムだ。
マシンナリーは本来、骨格そのものの改造は出来なかった。
ルールの穴を突くような改造や、極端に当たり判定の小さい機体の製造を封じる為だ。
しかしN社はある時、こう考えた。
ユーザーによる骨格の改造は許可出来ない。
だが開発側で幾つか骨格のバリエーションを用意するのは面白いんじゃないか、と。
そしてそのようなシステムを開発していますと告知されたのだが――それ以来ずっと、新しい情報はなかった。
殆どのユーザーが忘れていたシステムが、やっとベータテストにまで漕ぎ着けられたのだ。
優樹は、一年前に開発がぼんやりと語っていた展望を思い出す。
強化骨格はより尖った機体の製造を可能にする――そう言われていた。
具体的には、特定の武器種に対する適性、不適性の付与。また――
「確か、強化骨格はステータスに割合でバフ、デバフが乗ったりするんだっけ。
もしかして……装甲値のバフが、素の装甲と追加装甲で乗算になってるのか?」
もしその通りなら、確かに可能になるだろう。
射撃能力がない代わりに、十分な格闘性能を持ち、
恐ろしく堅牢な装甲を纏いながら、自分から白兵戦を仕掛けに行ける移動能力を持った機体の製造が。
「く……クソすぎる……一度のアプデで二つも三つも新システムを実装するなよ。バランス取れる訳ないだろ」
優樹は思わず素で愚痴を吐いた。
「ああ、クソ……どうしたもんかな……」
>「先に護衛から落とすのは――難しいようだね」
「だろうね。トーチカ・システム……僕らが小学生の頃の戦術なのに」
トーチカ・システム、あるいはバンカー・システム。
チーム全体が一つの機能を成立させる為に機体を構築し、動く戦術。
すなわち守りを固め、腰を据えて敵を撃ち、遅い来る敵を払い除ける。
各々が自分の役割を完璧にこなす事で、チームを一つの軍事拠点とするのだ。
かつて、それこそ十年ほど前は、トーチカ・システムは王道――所謂メタと呼ばれる戦術だった。
一人一人がするべき仕事が明確なこの戦術は、マシンナリーファイターズの黎明期において多くの人に好まれた。
だが――プレイヤー達のゲーム理解が進むにつれて、トーチカ・システムは廃れていった。
トーチカは一人でも友軍が欠けると十全の機能を発揮出来なくなる。
それは上手いプレイヤー達にとってはつまらない事だった。
彼らはチームメンバーが欠けても戦い続けられる戦術を模索して――やがてメタは、塗り替えていった。
(……一旦、落ち着こう。久々のクソマシンと骨董品の戦術に面食らったけど、所詮はトーチカ・システムだ。
弱点は何も変わってない。遠くから囲まれて、一人を集中狙いされると、仲間を守り切れない。
それはあの新骨格のマシンでも同じだ)
優樹は小学生になる頃には既にARデバイスと、それで遊ぶゲームを与えられていた。
幼い頃から培ってきた経験、戦局眼は、この場において最も効率的であろう戦術を見つけ出す。
>「やるなら両方狙った方がいい。一斉攻撃だ。どちらかを狙えばどちらかをカバーしてくる。
……まったく、ここまで流行を叩き潰すような機体を出してくるとはね!」
だが――桐山の見出した戦術は、優樹のそれとは一致しなかった。
桐山は言うや否や、マクシミリアンに大剣を抜かせて突撃してしまった。
- 429 :八木優樹 :2018/09/11(火) 18:32:23.46 ID:ehPIKIyj.net
- 「桐山君!?ちょっと待っ……」
優樹が慌てて制止するも、間に合わない。
間に合ったとしても聞き入れられていたかは分からないが。
>「あら、私は好きよそういうの。勝てる機体、勝てる戦術で順当な勝ちを収めたって楽しくないもの。
勝利への道筋に舗装は必要ない。誰かに用意されたお仕着せの美酒は、薄味だわ」
「っ……あり得ない。そんな、雑な戦法……もっと簡単に勝てるはずなのに」
優樹は悪態を零した。通信用のマイクはオフにしてある。
AARマッチで、味方のミスに我慢の限界が来た時、いつもしている事だ。
彼のぼやきはボイスチャットには乗らない。
- 430 :八木優樹 :2018/09/11(火) 18:33:19.43 ID:ehPIKIyj.net
- マクシミリアンは四人を相手に渡り合っている。
『クイックステップ』だ。足捌きを多用して、常に敵の射線を切りながら擬似的な一対一を作り出す基礎技術。
だが――優樹が覚えている限り、桐山の実力はそう高くない。
少なくとも、強かった頃のゲーム部の中では。
爆発力はあるが、自前の導火線を持っていない。そんな印象を受けた。
そしてベンケイは防御にも長けた機体。
そう遠くない内に均衡は崩れる。桐山にとって、良くない方向に。
>「撃ち込むなら今だ!」
「駄目だ。仕留めきれなかったら次がなくなる。一度距離を……」
>「桐山先輩、『スイッチ』するわ。周ちゃん、爆弾先輩、フォローをお願い」
優樹はマイクを有効にして二人を再び制止する。
だがその言葉が聞き入れられる事はなかった。
十年前の骨董品の戦術。セオリーから大きく逸脱した立ち回り。
優樹には状況が読めなかった。
どうすればいいのか分からない。
分かるのは精々、このままでは自分達が不利だという事。
現状は奇しくも、トーチカ・システム同士のぶつかり合い。
人数は同じ。編成は、重装格闘機が一機。万能機が一機。
エクスフォードは格闘偏重機だが、敵の万能機はベンケイのカバーを強く意識している。
実質、射撃による不意打ちの出来る格闘機だ。
つまり彼我の編成は、三機までは殆ど同一と言える。
だが、最後が違う。
敵の『コープスブライド=Gunner.ed』はビーム兵器やミサイルが主兵装。
対して優樹の『クラウン・ノイジーモデル』は、爆弾を生成し、投擲する事が攻撃手段。
それが何を意味するか――手数が違うのだ。
クラウンはほぼ全ての攻撃に準備が伴う。
つまり――乱打戦への相性が極端に悪い。
ただ勢いに任せて突撃しても、自分達は勝てない。
だが遠間から爆弾を投げても、フリーで動ける一機がそれを迎撃するだろう。
優樹の考えが纏まっていく。彼にとっては望ましくない形にだが。
>「零式牽引索条『呑竜』――起動!」
>「ベンケイの弱点と言えば……昔から"ここ"と相場が決まっているわよね……!」
「今のは、上手い……だけど、それだけじゃ……」
微塵改のスレッジハンマーが、ベンケイの脚部装甲を爆破する。
遠目からは正確な損傷具合は分からない。
だがどれほど損壊が激しかろうと――その傷がベンケイの致命傷になる事はない。
マシンナリーに痛覚はない。脛を打たれようが戦いは問題なく続く。
脚部装甲が破壊されているという優位点も、ビギナーの紫水に活かし切れるとは思えない。
微塵改の装甲の厚さのおかげでそれなりに長引くだろう。
だが――事態を好転させる材料は、少なくとも優樹には見つけられない。
- 431 :八木優樹 :2018/09/11(火) 18:33:42.49 ID:ehPIKIyj.net
- (……逃げるか?)
一番望みのある選択肢は、それだった。
クラウン・ノイジーモデルには爆風を利用した逃げ足がある。
逃げに徹しながら罠を置き続ければ、敵のミスを延々と待って人数を削る事が出来る。
この攻防で、たった一機しか残らなかったとしても――その後で、勝ちを掴める可能性は十分にある。
だが――
- 432 :八木優樹 :2018/09/11(火) 18:34:25.17 ID:ehPIKIyj.net
- (駄目だ!それじゃ前と何も変わらない!)
優樹は小さく首を振る。その選択肢は、彼には取れない。
それでは一年前ゲーム部をぶち壊して、そのまま消えていった、あの時の自分と変わらない。
変わらなくてはいけない。あの頃の自分が、自分の中からいなくなって欲しい。
その為に、このチームに入れてくれと願い出たのだ。
優樹の思考が高速で回転する。
(……?なんだ、今の、考え……何か、おかしかったぞ……)
しかし、不意に何かが彼の意識に引っかかった。
自分の考えに、自分で違和感を覚えた。
少し考えると――その正体が何かは、すぐに気づけた。
(僕は……水鳥ちゃんを、せめて勝たせてあげようって……)
ゲーム部を台無しにしてしまった、せめてもの償い。
優樹は、自分が水鳥に声をかけた理由をそう思っていた。
だが――改めて思い返してみると。
水鳥が他校の選手に陰口を叩かれ、桐山に声をかけられていた時。
(僕は、何を考えていた……?)
あの時、優樹はこう思ったのだ。
このまま見て見ぬふりして、彼らと戦っても楽しくない。
だから――チームに入れてもらおう、と。
つまり、八木優樹は――最初から、自分の事しか考えていなかった。
冷静さを保てない咄嗟の思考回路の回転が、自分自身の無意識の嘘を暴いたのだ。
(……そうだ。僕は……僕は)
八木優樹は、気づいていた。一年前から。
自分は――嫌な奴だと。
いくら負ける原因が相手にあったとは言え、何度も礼を欠いた言動を繰り返した。
実力に大きな隔たりがあると知っていて、先輩の面子を潰す為に勝負を挑んだ。
自分が原因でゲーム部を崩壊させておいて、その気まずさに負けて自分自身も部を去った。
(僕は……変わりたかったんだ……)
後輩が自分のせいで陰口を叩かれていても、
彼女を助ける気持ちよりも、自分の楽しみを追求する気持ちの方が上回っていた。
どこに出しても恥ずかしい、嫌な奴だ。
優樹は操縦桿から左手を離して、パーカーの胸元を握り締めた。
目を閉じて、深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
そして目を開く。
操縦桿を握り直し――機体を操作。
- 433 :八木優樹 :2018/09/11(火) 18:35:06.05 ID:ehPIKIyj.net
- 「……ゲームは、勝たなきゃ面白くない」
クラウンの両手に爆弾が実る。
右手に二つ。左手に二つ。
細く長い指がそれらを指先から、転がすように手のひらの中へと運ぶ。
「僕は今でもそう思ってる。だから……」
レーダーを見る。クラウンのレーダーは平均的な性能しか持っていない。
距離がありすぎて敵機は映っていない。
だが――チームアップした友軍機の位置は、青い三角形によって表示されている。
それだけで十分だった。
クラウンが大きく右腕を振りかぶる。
キューブ越し。敵機は一切視認出来ていない。
- 434 :八木優樹 :2018/09/11(火) 18:41:03.46 ID:ehPIKIyj.net
- (……良い奴に、なりたい。優しい人間に)
それでも構わず、優樹は爆弾を投擲した。
まずは二つ。機体を回転させて、その勢いのまま、残る二つも。
「悪いけどこのゲーム、どうしても勝ってもらうよ」
爆弾は静かに回転しながら、空中に放物線を描く。
フリーの立ち位置にいるモータルの射撃機は――それを撃ち落とさなかった。
その軌道が、あまりにも低かったからだ。
ゴースト側の機体にはとても届かない。
精々、エクスフォード、マクシミリアンの背後、その辺りにしか届かない。
そんな軌道だった。
それこそが優樹の狙いでもあった。
「桐山、水鳥、次の一撃は絶対に当たる」
極度の集中が無意識に、優樹の頭の中から敬称という概念を消し去る。
そして――投擲された爆弾が地面に到達し、爆ぜた。
機体が吹き飛ぶほどの衝撃波は生じなかった。
装甲を溶かすほどの熱と炎も。
バルーンボムの炸薬は、試合中でも各種ステータスを再設定する事が出来る。
威力を極限まで抑え、代わりに優樹は別の数値を増強させていた。
一つは、燃焼時間。
もう一つは――発光量を。
バルーンボムはエクスフォード、マクシミリアンの後方左右で、照明弾のように燃えていた。
光を背負う形になる友軍二機は、その影響は殆ど受けない。
だがゴースト達は――その眩い光を直視する事になる。
強烈な光による目の眩み。二つの光源によって誘発される蒸発現象。
間違いなく隙が生じる。
そしてそれによって友軍機がやられるか、不利になれば、ベンケイにも隙は伝染するはず。
(……これで良かったのか、僕には分からないけど)
本当は、直撃弾を狙う事も出来た。
閃光弾をあえて撃ち落とさせれば、二発目以降を撃墜されずに爆撃出来ただろう。
(でも……それじゃ面白くないよね。もちろん、手を抜いた訳じゃない。
ノールックで、味方の位置から敵の位置を予想して投げるのは、まぁまぁ難しいし。
……後でちゃんと説明した方がいいのかな。これも、分からない)
八木優樹は自分自身の望みを理解する事は出来たが、それでコミュ障が治る訳ではない。
彼が取った戦法も、結局、紫水にしてみればただのお仕着せと変わらないかもしれない。
だが――それについては、今考えても仕方がない。
思い悩むのをやめて、優樹はキューブの陰からクラウンの顔を覗かせた。
狙撃されるリスクは問題ではない。
どのみち、ここで戦況をひっくり返せなければ鈍亀微塵改を抱えるチームに先はない。
ならばいっそ、こうして彼らの戦いをしっかりと見ようと思ったのだ。
いつの間にか、自分だけが生き残り勝利を目指すという選択肢が頭の中から消えていた事に、優樹は気づかなかった。
【好みのテーマだからつい僕の中の設定厨が色々暴走してしまったけど、
ただの雰囲気作りが目的だったので無かった事にされても全然OKです】
- 435 :水鳥 :2018/09/15(土) 20:10:15.36 ID:7U+Tn/hy.net
- てすと
- 436 :水鳥 :2018/09/15(土) 20:12:31.23 ID:7U+Tn/hy.net
- ……あれ!?まだ書き込めたのか……
すみません、誤って次スレに投下してしまったので
こちらにも投下しておきますね
- 437 :水鳥 :2018/09/15(土) 20:14:27.51 ID:7U+Tn/hy.net
- ベンケイはエクスフォードのショットガンをものともしない。
更に随伴機とベンケイはフォーメーションを組んで行動しており、
随伴しているコープスブライドから撃墜を狙っていくのも難しい。
>「先に護衛から落とすのは――難しいようだね」
>「だろうね。トーチカ・システム……僕らが小学生の頃の戦術なのに」
「トーチカ・システム……」
先輩の所感から聞いたことのある単語を聞き取り、なんとか鸚鵡返しする。
記憶が確かなら機体タイプから厳選し守りを固める戦術だったはずだ。
その攻略法までは周子に分からないので、先輩方の判断に任せる事にした。
>「やるなら両方狙った方がいい。一斉攻撃だ。どちらかを狙えばどちらかをカバーしてくる。
> ……まったく、ここまで流行を叩き潰すような機体を出してくるとはね!」
高機動中火力型有利の現環境を真っ向から潰す次世代機を前に、桐山は皮肉を込めてそう言い放った。
桐山が立てた作戦は、ベンケイも随伴機のコープスブライドもまとめて狙ってしまうというものだ。
リーダーながら戦略眼に欠ける周子は言われるがまま肯定し、それを承認した。
>「あら、私は好きよそういうの。勝てる機体、勝てる戦術で順当な勝ちを収めたって楽しくないもの。
> 勝利への道筋に舗装は必要ない。誰かに用意されたお仕着せの美酒は、薄味だわ」
晶は流行りや環境というものを好まず、自分なりの勝ち筋を模索する性分だ。
加えて逆転勝利を常に狙う節があるのであえて自ら窮地に追い込む事すらある。
彼女の戦闘は見ていてハラハラする事も多いが、カタルシスを感じるのも確かだ。
敵の猛攻を凌ぎ、逆転の一撃を叩き込む!微塵改は彼女の理想を体現していると言えよう。
前を見ればマクシミリアンが大剣を持って敵陣に切り込み、四対一で渡り合っている。
足捌きで常に敵の射線を切り疑似的に一対一を作る『クイックステップ』で巧みに敵を捌いていく。
『クイックステップ』――すなわち銃口から敵の射撃を予測し、回避するのは機動力のある機体ならそう難しくはない。
だが、四対一ともなれば射線を切り続けるのも難しくなってくる。初心者にはまず出来ない芸当だ。
>「撃ち込むなら今だ!」
一人で前衛を受け持っていたマクシミリアンがベンケイの薙刀に押され後ずさる。
そして打ち合いが三度目を迎えた時、ベンケイの随伴機は完全に桐山だけに意識が向いていた。
>「駄目だ。仕留めきれなかったら次がなくなる。一度距離を……」
「え!?……どっち!?」
ARデバイスを通して八木の声が響く。八木の判断は桐山とは違っていたようだ。
リーダーとしてどちらを選択して良いものやら、周子の引き出しには判断材料がない。
何もせず悩んでいる間にARデバイスの通信が晶に切り替わった。
>「桐山先輩、『スイッチ』するわ。周ちゃん、爆弾先輩、フォローをお願い」
晶は桐山の立てた作戦通りに行動することにしたらしい。
また、ベンケイはマクシミリアンとの攻防に熱心なあまり、前に出過ぎている。
晶の微塵改は足の遅い機体だが、スイッチなら自然な形で前衛を交代できる。
- 438 :水鳥 :2018/09/15(土) 20:15:37.89 ID:7U+Tn/hy.net
- >「零式牽引索条『呑竜』――起動!」
微塵改がベンケイにワイヤーアンカーを撃ち込んで接近戦に持ち込む。
ライオットシールドで薙刀の猛攻を防ぎつつ、背中からスレッジハンマーを抜き放った。
>「ベンケイの弱点と言えば……昔から"ここ"と相場が決まっているわよね……!」
拘束された不意を突いて、向う脛目掛けてスレッジハンマーを振り下ろす!
打撃エフェクトが豪快に火花を上げ、追加装甲をぶち抜いて脚の装甲が爆裂した。
足払いの一撃で脚部が破壊された事で、ベンケイは膝をつき、耐久バーが減っていく。
「やった!ダメージが通ったよ晶ちゃん!」
>「今のは、上手い……だけど、それだけじゃ……」
八木の呟き通り、ベンケイを操縦する彼の表情は何ら崩れていない。
脛を破壊されたといっても、骨格は無事。駆動系にも支障はなかった。
モータルは平然とした様子で機体の損傷を確認し終えて、戦闘に意識を向け直す。
「後が続かないようだな……? これで終わりなら勝機はないと思う事だ」
モータルが気取った様子でくっくっくと笑う。
バラバラのチームつつじヶ丘の様子を見て舐めているのだ。
ファイターとしての勘が告げている。このままでは押し切られて負ける。
(このままじゃ八木先輩の言った通りだ……!)
もっと八木の言葉に耳を傾けておけば良かったと、周子は途端に後悔した。
長年このゲームに親しみ、経験を積んで来た八木だからこのシナリオは目に見えていただろう。
安易に応戦せず、逃げて様子を見守るという手段だってあったはず。
リーダーとして、ファイターとして完全に判断ミスをしてしまった。
操縦桿を握る手が汗で滲む。いつもの明るい表情に翳りが見え始める。
ゲームもまだ序盤、こんな所で負けたくない。負ける訳にはいかない。
(このまま押し込まれる前に……なんとかしないと……!)
リーダーとしての責任を感じながら、周子は頭を巡らせた。
問題はこの一斉攻撃で相手のトーチカ・システムを如何に崩せるかだ。
(駄目だ……エクスフォードだと援護射撃で耐久を削れても一気に盤面を返せない)
通常の射撃機と違いエクスフォードは元来格闘機だ。
正味なところ、射撃兵装の威力は然程高いものではなかった。
たとえ一発当てたところで敵機を撃墜できるほどの火力がない。
『ハーミットアーマリー』内の射撃武器を連続で命中させれば話は別だが、
万能機相手には躱されたり防がれてしまう可能性もある。
(不用意に射撃しても焼け石に水……どうすれば……)
周子が悩んでいたところに、不意にARデバイス越しに声が響いた。
>「……ゲームは、勝たなきゃ面白くない」
それは八木の声だった。
>「僕は今でもそう思ってる。だから……」
やや後方に位置していたクラウンの両手が再び膨らみ、爆弾を四つ形成する。
だがクラウンの前はキューブで塞がっており、本来投げるのに不利な位置だ。
- 439 :水鳥 :2018/09/15(土) 20:16:14.70 ID:7U+Tn/hy.net
- >「悪いけどこのゲーム、どうしても勝ってもらうよ」
構わず投擲し、爆弾は低い放物線を描いて飛んでいく。
その着弾地点はモータル達より遥か手前。エクスフォードとマクシミリアンの後方左右だ。
>「桐山、水鳥、次の一撃は絶対に当たる」
周子とエクスフォードの背後でクラウンの投げた爆弾が爆ぜた。
ただの爆弾ではない。背後からでも分かる目映い輝きと、あまりに長い発光時間。
クラウンが投擲したのは最初に見せてくれた爆弾ではなく、閃光弾なのだと気づいた。
前方にいるモータル達はあまりのまぶしさに目が眩んでいる様子だった。
「八木先輩――!」
翳りを見せていた周子の顔がぱっと明るくなった。
八木はゲームが上手い。元ゲーム部の桐山がそう言っていた。
このゲームについて運営並みに熟知していて、色々な事を知っているのだろう。
周子達の素人くさい立ち回りに言いたい事は山となるほどあるはずだ。
それでいて尚、最高の援護を入れてくれた。
「――ありがとうございます!」
エクスフォードがショットガンを構え直し、万能機を狙って射撃。
撃ち尽くすまで引き金を引き続け、放たれた散弾が全弾命中する。
「このまま火力を集中させる!」
操縦桿を捻り武装選択画面から『マイクロミサイル』を選択した。
『ハーミットアーマリー』のちょうど上側が開き弾頭が顔を覗かせる。
レーダー上の標的をロックオンし、トリガーを引いて三発発射。
煙が微かに尾を引きながら万能機へ飛来、命中。
耐久バーが0になったことで盛大な爆発音を上げながら機体が爆散する。
「やった! これで一機撃墜!」
崩れ落ちる万能機が爆散する発光を受けて、エクスフォードの装甲が鈍く輝く。
桐山の方はどうかと、周子はマクシミリアンへ視線を向ける。
トーチカ・システムを崩してしまいさえすれば、後の懸念はベンケイのみだ。
「ちぃっ、まぶしい……!」
ベンケイを操縦するモータルは目が眩みつつも尚、操縦桿を動かして武器を変更した。
大薙刀を背中にマウントし、新たに武器を取り出す。それは『太刀』と『大鋸』だ。
隙を見せはしたが、ベンケイの追加装甲である鎧も健在。多少のダメージなら支障はない。
目が眩む前の敵の位置もなんとなく把握している。
眼前にいた足の遅い機体――微塵改なら、確実に攻撃できる。
攻撃範囲の広い二刀流なら多少動き回ろうが攻撃を当てられる可能性は高い。
「どこだ! 敵はどこにいる……!?」
ベンケイは太刀と大鋸を滅茶苦茶に振り回し、微塵改を探す。
無闇に暴れ回っているだけだが格闘機のベンケイが暴れれば嵐に等しい。
【念入りに撃って万能機を一機撃墜。ベンケイが二刀流で滅茶苦茶に暴れまわる】
- 440 :水鳥 :2018/09/15(土) 20:19:48.97 ID:7U+Tn/hy.net
- 【今は512KBまで書き込めたんですね……
余計に待たせてしまって申し訳ありません】
- 441 :桐山 直人 :2018/09/18(火) 17:02:59.98 ID:bUx8czeD.net
- >「桐山先輩、『スイッチ』するわ。周ちゃん、爆弾先輩、フォローをお願い」
「頼んだよ紫水君!」
クイックステップと呼ばれるテクニックは、ある有名プレイヤーが編み出した基礎テクニックの一つだ。
ある程度の機動力がある機体ならばロックオン警告に応じてスラスターを使わず、機体の動きのみで
回避するのは難しくはないとされていたが、歩行と走行アクションを使い分けて変則的な速度で動くことで
予測射撃を意図的にずらすのがこのテクニックの大きなメリットだった。
これによって桐山はベンケイと打ち合いながらも被弾を抑え、
運営チームはベンケイの巨体を盾にされたことで射線が通らず、ベンケイが前に出てマクシミリアンと打ち合うしかない。
>「ベンケイの弱点と言えば……昔から"ここ"と相場が決まっているわよね……!」
そうして露骨な格闘戦を誘ったところで、重装甲かつ格闘戦が可能な微塵改が前に出る。
ワイヤーアンカーで離脱を阻止し、スレッジハンマーが脚部装甲を粉砕した。
「取ったっ!これならベンケイを仕留め――」
格闘戦において部位破壊はほとんど敗北と同義だ。
今までに発売された重装甲タイプのモデルは全てその弱点を突かれ、公式大会における使用率は全体の三割を切る。
もちろんそれを補った上で暴れ回るプロもいるが、公式への要望に重装甲タイプの強化は根強く存在している。
>「今のは、上手い……だけど、それだけじゃ……」
だがベンケイは違う。装甲破壊分の貫通ダメージが骨格まで通らず、その巨体は微塵改の前に立ちふさがったままだ。
重装甲ファンの強化要望を詰め込んだ理想の機体――それがベンケイなのだ。
マクシミリアンの小銃も精度はあまりいい方ではなく、何度か破壊部位を狙って追撃として撃ち込むが全て重装甲の前に弾かれる。
おそらく残弾がなくなるまで撃ち続けても倒しきれないほどの防御力だろう。
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