2ちゃんねる スマホ用 ■掲示板に戻る■ 全部 1- 最新50    

■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

【ファンタジー】ドラゴンズリングV【TRPG】

1 :創る名無しに見る名無し:2017/02/24(金) 01:56:38.09 ID:rXzp6YfF.net
――それは、やがて伝説となる物語。

「エーテリア」と呼ばれるこの異世界では、古来より魔の力が見出され、人と人ならざる者達が、その覇権をかけて終わらない争いを繰り広げていた。
中央大陸に最大版図を誇るのは、強大な軍事力と最新鋭の技術力を持ったヴィルトリア帝国。
西方大陸とその周辺諸島を領土とし、亜人種も含めた、多様な人々が住まうハイランド連邦共和国。
そして未開の暗黒大陸には、魔族が統治するダーマ魔法王国も君臨し、中央への侵攻を目論んで、虎視眈々とその勢力を拡大し続けている。

大国同士の力は拮抗し、数百年にも及ぶ戦乱の時代は未だ終わる気配を見せなかったが、そんな膠着状態を揺るがす重大な事件が発生する。
それは、神話上で語り継がれていた「古竜(エンシェントドラゴン)」の復活であった。
弱き者たちは目覚めた古竜の襲撃に怯え、また強欲な者たちは、その力を我が物にしようと目論み、世界は再び大きく動き始める。

竜が齎すのは破滅か、救済か――或いは変革≠ゥ。
この物語の結末は、まだ誰にも分かりはしない。

ジャンル:ファンタジー冒険もの
コンセプト:西洋風ファンタジー世界を舞台にした冒険物語
期間(目安):特になし (1つの章は平均二か月程度)
GM:なし(NPCは基本的に全員で共有とする。必要に応じて専用NPCの作成も可)
決定リール・変換受け:あり
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり(ただしスレの形式上敵役で継続参加するには工夫が必要)
名無し参加:あり(雑魚敵操作等)
避難所の有無:なし(規制等の関係で必要な方は言ってもらえれば検討します)

新規参加者は常時募集していますので、参加希望の方はまずはこちらのテンプレで自己紹介をお願いします。
(単章のみなどの短期参加も可能)

名前:
年齢:
性別:
身長:
体重:
スリーサイズ:(大体の体格でも可)
種族:
職業:
性格:
能力:
武器:
防具:
所持品:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:

過去スレ
【TRPG】ドラゴンズリング -第一章-
ttp://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1468391011/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリング2【TRPG】
ttp://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1483282651/l50

230 :ティターニア ◆KxUvKv40Yc :2017/07/05(水) 21:53:07.78 ID:Y+4TRv/1.net
>「そんな……どうやって……!?」
>「侵入者です!私の結界を破って何者かが街に……スレイブの逗留する宿に入り込みました。
 巧妙に隠蔽されていたせいで今まで気付けませんでしたが……とにかく現場へ行きましょう」

ケツァクウァトルが突如として異変を察知し、スレイブが危ないと告げる。

>『メアリは――ウェントゥスがシェバト内での破壊工作の為に戦力を欲していると言っていた。
 ウェントゥスや眷属の飛竜には出来ない、都市中枢での破壊活動。標的に一つ、思い当たりがある』
>『都市制御中枢――"エアリアル・クォーツ"。ウェントゥスはスレイブにあれを破壊させるつもりだ』

「そんな……酷すぎる!」

悩み苦しみつつもこの街を護り続けたスレイブに、自らの手でこの街を破壊させようとはなんという残酷なことをするのか。

>「ケツァク様!道向かいのあの酒場ですのね!?どの部屋ですの!?」
>「右から三つ目です!」
>「まだ近くにいるかもしれねえな、ちょっと邪魔するぜ!」

フィリアとジャンに続き、ティターニアも浮遊の魔力を纏い窓から飛び降りる。
駆けつけてみるとそこは酷く荒れており、生生しい戦闘の跡が刻まれていた。
スレイブの姿はすでになく、彼の魔剣バアルフォラスのみが残されていた。

>「バアル君……一体、何がありましたの?」

フィリアに問われ、バアルフォラスは苦しげに経緯を話す。

>『頼む。スレイブを止めてくれるのなら、僕も一緒に連れて行ってくれ。
 ウェントゥスの強力な風魔法に対しても、僕の"呑み尽くし"は役に立てると思う。
 身内の不祥事に力を借りる分際でこんな頼みは身勝手かもしれないけれど……』
>『相棒を……助けてくれ』

>「引き受けた、ですの!」

フィリアが力強く請け負い、バアルフォラスを引き抜いた。
ティターニアも当然だ、と言わんばかりに頷く。

>「……とは言ったものの、わたくし頭が良くないから、これからどうすればいいのかよく分かりませんの」
>「だけど……これだけは。事が始まってから言うのはズルだから、これだけは先に言っておきますの。
 わたくしは……わたくしが善いと思った事の為に動きますの。ワガママを言っちゃうかもしれないけど……許してほしいですの」

231 :創る名無しに見る名無し:2017/07/05(水) 21:54:41.87 ID:l2aHVa/a.net
>「そんな……どうやって……!?」
>「侵入者です!私の結界を破って何者かが街に……スレイブの逗留する宿に入り込みました。
 巧妙に隠蔽されていたせいで今まで気付けませんでしたが……とにかく現場へ行きましょう」

ケツァクウァトルが突如として異変を察知し、スレイブが危ないと告げる。

>『メアリは――ウェントゥスがシェバト内での破壊工作の為に戦力を欲していると言っていた。
 ウェントゥスや眷属の飛竜には出来ない、都市中枢での破壊活動。標的に一つ、思い当たりがある』
>『都市制御中枢――"エアリアル・クォーツ"。ウェントゥスはスレイブにあれを破壊させるつもりだ』

「そんな……酷すぎる!」

悩み苦しみつつもこの街を護り続けたスレイブに、自らの手でこの街を破壊させようとはなんという残酷なことをするのか。

>「ケツァク様!道向かいのあの酒場ですのね!?どの部屋ですの!?」
>「右から三つ目です!」
>「まだ近くにいるかもしれねえな、ちょっと邪魔するぜ!」

フィリアとジャンに続き、ティターニアも浮遊の魔力を纏い窓から飛び降りる。
駆けつけてみるとそこは酷く荒れており、生生しい戦闘の跡が刻まれていた。
スレイブの姿はすでになく、彼の魔剣バアルフォラスのみが残されていた。

>「バアル君……一体、何がありましたの?」

フィリアに問われ、バアルフォラスは苦しげに経緯を話す。

>『頼む。スレイブを止めてくれるのなら、僕も一緒に連れて行ってくれ。
 ウェントゥスの強力な風魔法に対しても、僕の"呑み尽くし"は役に立てると思う。
 身内の不祥事に力を借りる分際でこんな頼みは身勝手かもしれないけれど……』
>『相棒を……助けてくれ』

>「引き受けた、ですの!」

フィリアが力強く請け負い、バアルフォラスを引き抜いた。
ティターニアも当然だ、と言わんばかりに頷く。

>「……とは言ったものの、わたくし頭が良くないから、これからどうすればいいのかよく分かりませんの」
>「だけど……これだけは。事が始まってから言うのはズルだから、これだけは先に言っておきますの。
 わたくしは……わたくしが善いと思った事の為に動きますの。ワガママを言っちゃうかもしれないけど……許してほしいですの」

232 :ティターニア ◆KxUvKv40Yc :2017/07/05(水) 22:00:31.15 ID:Y+4TRv/1.net
おもむろに向き直り、意味深な発言をするフィリア。
彼女は虫の妖精、人間とは違う価値観で動くこともあるかもしれない、ということかもしれない。

「うむ、どのような選択をするにせよ……後悔せぬようにな」

>「フィリア。今お前が持ってるのはその魔剣や虫の力だけじゃねえ。
 その指環もだ。もし認められたなら、戦ってる最中だろうが俺に伝えてくれ。
 一つ策が閃いたんだ、馬鹿の俺でもできる簡単な竜落としの策がな」

ジャンが閃いた策とは、一言で言えば熱して冷ますというものだった。

>「魔術は指環があっても全然俺は使えねえけどよ、冷や水ぶっかけるぐらいなら
 指環の力で空中にいてもぶつけられるぜ」

「魔術というのは必ずしも物理的現象と同じとは限らぬがこの件に関してはそれで正解だ。
冷気と獄炎が備わり最強に見える、という慣用句もあるぐらいだからな。
あとは強力な魔法的加護もあると思われる竜の鱗に対してどこまで通用するかだが――」

>「ダメだったらまあ、俺が滅茶苦茶叫べば空飛ぶぐらいはできるかもしれねえ。
 俺のご先祖様は叫ぶだけで雲を突き抜けるぐらい大きくなれたって言うしな」

半分冗談半分本気のようなジャンの心強い発言に頷くティターニア。

「ウォークライは冗談じゃなく頼りにしておるぞ」

「残念ながらあまりじっくりと策を練っている時間はありません。とにかく風のクリスタルのもとへ急ぎましょう!」

風のクリスタル防衛戦をする前提で話しているケツァクウァトルに、ティターニアが反論するが――

「スレイブ殿が洗脳されるのをなんとか阻止することはできぬのか!? テッラよ、光の指環の在り処は分からぬか?」

《ええ、残念ながら……。高度な隠蔽が施されているようです》

結局居場所が分からぬ以上、現れるであろう可能性が高い場所に待機しておくしか策が無いということで
ケツァクウァトルの先導で、風のクリスタルが祀られている"風の塔"に急ぐ。

「ケツァクウァトルは結界の維持に専念しろ。ウェントゥスに結界を突破されたらおしまいだ、一寸の隙も作るな。
お前達は塔の入り口、屋上、風のクリスタルの前でそれぞれ待機だ。俺は周辺住人を避難させる」

ジュリアンの指示の受け、対空の警戒は魔術師の自分が適任だろうということで、塔の屋上で待機するティターニア。

【すぐに攻めてくる感じでいってしまったが数日かけて洗脳される等なら
数日後に襲撃を感知した一行が警戒しているところに登場とかに変換してもらっても全く問題ない!】

233 :創る名無しに見る名無し:2017/07/05(水) 22:00:32.30 ID:QNsHv/GR.net
恐らく単独で動いていたスレイブを狙い、ウェントゥスの眷属か協力者が暗殺しに来た。
そうジャンは最初考えていたが、魔剣から話を聞くうちに事態はさらに最悪の方向へと向かっていることを知った。

「スレイブの野郎……いやこの場合その女だな。スレイブは別に悪くない。
 下手するとウェントゥスを守りに教団の連中が来るかもしれねえ、集団戦だな」

>「だけど……これだけは。事が始まってから言うのはズルだから、これだけは先に言っておきますの。
 わたくしは……わたくしが善いと思った事の為に動きますの。ワガママを言っちゃうかもしれないけど……許してほしいですの」

ジャンが珍しく頭を使って考えているうちにフィリアは決意を固めたようだが、実戦で指環が認めてくれるかどうかが肝になる。
そうジャンは考えて、フィリアと同じ視線の高さになるようにしゃがんでフィリアと目を合わせた。

「フィリア。今お前が持ってるのはその魔剣や虫の力だけじゃねえ。
 その指環もだ。もし認められたなら、戦ってる最中だろうが俺に伝えてくれ。
 一つ策が閃いたんだ、馬鹿の俺でもできる簡単な竜落としの策がな」

そう言ってジャンは全員の顔を見回して、いつの間にかジュリアンがいることに気づいた。

「お前いつの間に!あ、ケツァルが呼んだのか、そりゃそうだな」

「部下が襲われてそのまま放っておく奴がいるか!それで策とはなんだ、オーク」

「オークじゃねえジャンだ!……策ってのは簡単だ。
 鍛冶屋のおっちゃんに昔教えてもらったんだが、鉄ってのは堅いだろう?
 ところがこいつを真っ赤になるぐらいまで熱したあと、冷たい水をぶっかけると脆くなっちまうんだ」

「竜族の鱗ってのは大体堅くて丈夫だったんだけどよ、たぶんウェントゥスの鱗は
 それに輪をかけて堅いだろうよ。なら、なおさら効くんじゃねえか?」

「魔術は指環があっても全然俺は使えねえけどよ、冷や水ぶっかけるぐらいなら
 指環の力で空中にいてもぶつけられるぜ」

一流の魔術師としてそのような現象にも詳しいであろうティターニアとジュリアンの
返答を待つように、そこでジャンは説明を終えた。

「ダメだったらまあ、俺が滅茶苦茶叫べば空飛ぶぐらいはできるかもしれねえ。
 俺のご先祖様は叫ぶだけで雲を突き抜けるぐらい大きくなれたって言うしな」

【すいません、リアルが納期に追われてえらいことになってたので
 次からはもっと早く書き上げます】

234 :創る名無しに見る名無し:2017/07/05(水) 22:07:32.99 ID:l2aHVa/a.net
おもむろに向き直り、意味深な発言をするフィリア。
彼女は虫の妖精、人間とは違う価値観で動くこともあるかもしれない、ということかもしれない。

「うむ、どのような選択をするにせよ……後悔せぬようにな」

>「フィリア。今お前が持ってるのはその魔剣や虫の力だけじゃねえ。
 その指環もだ。もし認められたなら、戦ってる最中だろうが俺に伝えてくれ。
 一つ策が閃いたんだ、馬鹿の俺でもできる簡単な竜落としの策がな」

ジャンが閃いた策とは、一言で言えば熱して冷ますというものだった。

>「魔術は指環があっても全然俺は使えねえけどよ、冷や水ぶっかけるぐらいなら
 指環の力で空中にいてもぶつけられるぜ」

「魔術というのは必ずしも物理的現象と同じとは限らぬがこの件に関してはそれで正解だ。
冷気と獄炎が備わり最強に見える、という慣用句もあるぐらいだからな。
あとは強力な魔法的加護もあると思われる竜の鱗に対してどこまで通用するかだが――」

>「ダメだったらまあ、俺が滅茶苦茶叫べば空飛ぶぐらいはできるかもしれねえ。
 俺のご先祖様は叫ぶだけで雲を突き抜けるぐらい大きくなれたって言うしな」

半分冗談半分本気のようなジャンの心強い発言に頷くティターニア。

「ウォークライは冗談じゃなく頼りにしておるぞ」

「残念ながらあまりじっくりと策を練っている時間はありません。とにかく風のクリスタルのもとへ急ぎましょう!」

「ケツァクウァトルは結界の維持に専念しろ。ウェントゥスに結界を突破されたらおしまいだ、一寸の隙も作るな。
お前達は塔の入り口、屋上、風のクリスタルの前でそれぞれ待機だ。俺は周辺住人を避難させる」

235 :創る名無しに見る名無し:2017/07/06(木) 01:05:38.82 ID:S9QpAIQ9.net
「そんな……どうやって……!?」

ジュリアンを交えた指環の勇者達の会合に参加していたケツァクウァトルが、不意に蒼白な顔で言葉を零した。
彼女は宿の窓に駆け寄り、その向こうの一軒の酒場の二階を目視して、息を呑む。

「侵入者です!私の結界を破って何者かが街に……スレイブの逗留する宿に入り込みました。
 巧妙に隠蔽されていたせいで今まで気付けませんでしたが……とにかく現場へ行きましょう」

ケツァクウァトルの誘導に従ってスレイブの宿へ向かえば、そこで破壊された部屋と残された魔剣を目にすることだろう。
そこで魔剣は、この部屋で起こった一部始終を皆に伝えることになる。
エーテル教団を名乗るメアリという女が光の指環を伴って現れ、スレイブを倒して拉致していったこと。
彼女は虚無に呑まれたウェントゥスの依頼でスレイブを敵陣営へ引き込む為にここへ来たこと。
記憶の欠落に偽りの記憶を流し込み、指環の勇者の敵として仕立て上げるつもりであること。

『メアリは――ウェントゥスがシェバト内での破壊工作の為に戦力を欲していると言っていた。
 ウェントゥスや眷属の飛竜には出来ない、都市中枢での破壊活動。標的に一つ、思い当たりがある』

ケツァクウァトルの加護で都市に手出しの出来ないウェントゥスが、都市を滅ぼす為に望んでいるモノ。
そして同時に、シェバトがウェントスに対抗し滅びに拮抗出来ている要とも言うべきモノ。

『都市制御中枢――"エアリアル・クォーツ"。ウェントゥスはスレイブにあれを破壊させるつもりだ』

失われしエーテリアル世界の遺産、風のクリスタル。
かつてケツァクウァトルはかの結晶がウェントスとは独立して存在していると言っていた。
虚無に呑まれたウェントゥスにとって、獅子身中の虫であったことは間違いない。
強大な風竜を打ち倒す鍵ともなるべき存在だ。

『頼む。スレイブを止めてくれるのなら、僕も一緒に連れて行ってくれ。
 ウェントゥスの強力な風魔法に対しても、僕の"呑み尽くし"は役に立てると思う。
 身内の不祥事に力を借りる分際でこんな頼みは身勝手かもしれないけれど……』

魔剣の刀身を雫が伝った。
それが結露したただの水だったのか、それとも別の何かであったのか、彼には判断がつかない。

『相棒を……助けてくれ』


【スレイブ:黒曜のメアリに敗北し、偽りの記憶を植え付けられてウェントス陣営へ。
      次ターンからエアリアルクォーツ破壊に向けて動き出します】

236 :創る名無しに見る名無し:2017/07/06(木) 03:26:06.23 ID:lYRzZL7l.net
……いえ、これは、幻?
赤く煌々と輝く、見た事もない都……。

『やぁ、妾の次の所有者は君になるのかな?小さき虫の王女様?』

背後から聞こえる、凛とした声。
振り返るとそこには真紅の翼を生やした、燃えるような赤髪の女性がいましたの。

「……あなたは、確か……イグニス、様……ですの?」

ジャン様とティターニア様から聞いた冒険譚に出てきた、焔の竜。
……竜の指環に力と命を捧げた、世界を愛した、かつての王。

『そう、妾はその指環に宿る力……。その指環に命を捧げた竜、イグニスだ。
 妾の名と、今に至るまでの物語を、君は既に知っているのか。ならば話は早い』

不意に、イグニス様がその右手をわたくしに向けた。
……なんか、すっごく嫌な予感がしますの。
そう思った瞬間、わたくしとイグニス様を隔てるように、業火の壁が立ち昇る。

『……君に力は貸せない。炎の指環は、フィリア……君を持ち主とは認めない。
 例え仮初だとしても。いや……仮初だからこそね』

「な……何故ですの!風竜ウェントゥスは虚無に呑まれたと聞きましたの!
 虚無の使徒を野放しにすれば、この世界は滅びてしまうんじゃないんですの!?」

ジャン様の冒険譚を聞いていた時、ティターニア様は指環の始まりを聞かせてくれましたの。
かつてイグニス山脈で語られた物語……。
祖竜の乱心に、世界の滅びに抗う為に、イグニス様は生を捨て、小さな指環のその存在全てを捧げたのだと。
なのに、虚無に呑まれてしまうウェントゥスも……それを止める為の力を貸してくれない、イグニス様の考えも分かりませんの!
そりゃあ……わたくしは、王としてまだまだ未熟ですけれども……。

『なんだ、分かっているじゃないか。指環の力は救世の力だが……使い道を誤れば乱世を生む力となる。
 かつて何人もの王が、指環の力に野心を燃やして、世を乱し、国を滅びしてきた。
 妾は、王という存在が嫌いだ。その感情をひっくり返せるほど、妾はまだ君を知らない。それに……』

それに……なんですの?

『妾にはウェントゥスの気持ちも、分からないでもないのさ。
 アクアとテッラは真面目で優しいから、多分理解出来ない……そんな考え、思いもよらないだろうけどね』

「ウェントゥスの……気持ち?な、なんですの?どういう事ですの?
 あなたには、ウェントゥスが虚無に呑まれた理由が分かりますの?」

『あぁ、分かるとも。妾達は、同じ世界の為に命を捧げた王だ。分からないものか。
 もっとも……妾がその理由を君に教える訳はないって事は、君にも分かるね?』

わたくしは、何も言葉を返せない。

『とは言え……まったくノーヒントと言うのも可哀想だ。
 一つだけ、教えてあげよう……彼は、ウェントゥスは……虚無に呑まれた今もなお、王の心を失っていない。
 いや……王であるからこそ、ただの指環になり切れなかったからこそ……虚無に呑まれてしまったのかもな』

「……ウェントゥスは、今でも王様のまま」

『あぁ、そうだ。君が彼に並ぶ王になれないのなら……妾が君に力を貸す事はないだろう』

……立派な王になって、虫の王国を作り、人々と共存する。
それはわたくしの夢であり、目標ですの。
いつもそこを目指して、旅をしてきたつもりでしたの。

237 :創る名無しに見る名無し:2017/07/06(木) 17:12:24.52 ID:Em7I0C5l.net
ライトニングウンコッッッ!!!

238 :創る名無しに見る名無し:2017/07/06(木) 22:42:22.57 ID:J5Bnq2Ly.net
チンポッポ?

239 :スレイブ ◆T/kjamzSgE :2017/07/11(火) 19:24:33.06 ID:UD1ndksA.net
テスト

240 :スレイブ ◆T/kjamzSgE :2017/07/11(火) 19:35:29.83 ID:UD1ndksA.net
始めはただ、怖かった。
如何なる大義があったにせよ、人を殺め続けたその罪を問われ、裁かれ、罰を受けることが何よりも恐怖だった。
きっと自分の殺した者達は、自分を赦しはしないだろう。然るべき報いとして、地獄へ堕ちることを望むだろう。
その怒りを、その怨みを、受け止めることが出来なかった。受け入れて、前に進む勇気を持てなかった。

『貴方が気に病むことはないわぁ。力のない者から死んでいくのは自然の道理でしょぉ?』

やがて恐怖は苦悩に変わり、その苦しみから逃れる為に『言い訳』を探した。
殺すことに意味があったのだと。彼らは世界の為に、死ぬべくして死んでいったのだと。
一を殺すことで十を救うことが出来たのだと無理筋な甘言で強引に自分を納得させようとした。

『実際そうだったじゃないのぉ。シェバトの住民はみんな貴方に感謝してるわぁ』

だが、出来なかった。どれだけそれらしい理屈を付けたところで、心に嘘は付けなかった。
自分が薄汚い人殺しであることは、この手が血に染まっていることは、拭い去ることが出来なかった。

『でもぉ、もっと薄汚いのはつらーい汚れ仕事を貴方に押し付けて適当に持て囃してきた人間達よねぇ?』

魔剣を握った時、それを救いだと思った。仮初の忘却は、抗いがたいほどに心地良かった。
何も想わず、何にも囚われず、ただ剣を振るい続けるだけの日々が、己の理想に合致していた。

『みんなが幸せになれるようなやり方なんてあるわけないわぁ。誰かが幸せになる影で、必ず誰かが不幸になる。
 この街の人間達は、貴方や貴方の殺した連中に不幸にさせて、自分たちだけが幸せになってたのよぉ』

おかしいだろ。そんなの不公平だ。

『でもね。全員を幸せにする方法はないけれど……全員を不幸にする方法なら私知ってるわぁ。とっても公平でしょぉ?』

ああ――それはきっと、正しいな。

『貴方にも教えてあげる。自分なりの正しさを貫くやり方をね』

――――――・・・・・・

241 :スレイブ ◆T/kjamzSgE :2017/07/11(火) 19:36:15.25 ID:UD1ndksA.net
<シェバト上空・風竜ウェントゥス体内>

風紋都市の直上を滞空する巨大な竜は、風竜ウェントスの真なる姿であると同時に"居城"でもあった。
内部には無機物からなる空間が存在し、石造りを基調とした神殿めいた建造物が広がっている。
その最奥部に、『玉座』があった。風を司る王に相応しかろうとウェントゥス自身が構築した座間だ。
玉座は艶のある黒檀にしなやかな革を張ってあり、軽い者が腰掛けても仰向けになるくらい沈む。
肘掛けや背もたれには大量の宝石や貴金属が散りばめられていて、仄かな灯りにも乱反射して主の栄華をこれでもかと主張している。

ウェントゥスは凝り性だった。そして見栄っ張りだった。
家具と言うよりかは美術品めいた荘厳さに満ちた玉座に、ふんぞり返らんばかりに深く腰掛ける影が一つ。
鮮やかな薄緑の髪が清流のように煌めく小柄な少女が、床に付いていない足をぶらぶらと所在なさげに揺らしていた。
身に纏っているのは200年前の旧ダーマ王家の礼服だ。瀟洒なドレスの胸元には、不釣り合いなほどに数々の勲章が光っている。
少女の細い指先には、流麗な意匠の指環があった。
――指環を守護する四竜三魔が一角、『風』の属性を統べる風竜ウェントスである。

ウェントゥスの鼓動だけが響く玉座の間に、色のない空間の『凝り』が発生した。
転移の魔法陣が展開し、鈍い光に包まれて一つの人影がそこに出現する。
腰掛けたままうとうとしていたウェントゥスはぱっと顔を輝かせて飛び起きた。

「メアリ!帰ったか!」

ウェントゥスの駆け寄る先で、黒衣の女――黒曜のメアリが魔法陣から歩み出てきた。
彼女はひらひらと手を振ってウェントゥスに応える。

「首尾はどうじゃ?」

「上々よぉ。頼まれてた玩具がよーうやく調達できたわぁ」

「おお!一日千秋の思いで待っておったぞ!よくやってくれたメアリ!飴食べるか!?」

「いらない。あなたのくれる飴って甘すぎてくどいんだもの……いつか病気になるわよぉ?」

「ええ……そこが旨いんじゃろ。糖分は脳味噌のご褒美じゃからな。頭痒くなるくらいゲロ甘なのが儂の頭脳には丁度良いんじゃ」

メアリが魔法陣の中に手を突っ込み、スレイブを引っ張り出した。
自分の足で玉座の間に立つスレイブの姿を見たウェントスは両目をパチクリと動かしたあと怪訝に眉を潜める。

「死んどらんではないか。儂が頼んだのは魔神殺しの死体じゃぞ。話が違うじゃろ。飴やらんぞ」

「いらないってば。それよりこのスレイブ君だけどね、魔導人形にするより良い感じに仕上がってるわよぉ。
 この子は今誰よりもシェバトを、人間を憎んでる。あの街を滅ぼすことに強い執念を持ってるわ。
 全てが虚無に呑まれるまで、止まらない。無感情に破壊を繰り返す人形なんかよりよっぽど素敵でしょう?」

「……ほんとうか?ちゃんとあのシェバトのウジ虫共を根絶やしにしてくれるのか?」

疑いの目を向けるウェントゥスに、スレイブは顔色一つ変えずに頷いた。

「ああ。俺が必ずエアリアル・クォーツを破壊し、シェバトを滅ぼして見せよう。
 ……正義のない平和に甘んじてきた連中を、正しさのもとに、等しく地獄に叩き落す」

「そうか!そうかそうか!よい返事だな!飴をやろう!あまーい飴ちゃんをな!」

大粒の飴玉を真顔で頬張るスレイブに気を良くしたウェントゥスは鼻歌でも歌いそうなくらい弾んだ声を上げる。

242 :スレイブ ◆T/kjamzSgE :2017/07/11(火) 19:37:13.15 ID:UD1ndksA.net
「儂はずっとこの時を待っておった!イグニスのぼけなすもアクアのあほんだらもテッラのばかたれも……
 仮にも属性の王たる者が揃いも揃って腑抜けておる!何が指環の勇者じゃ!
 儂らの子に過ぎぬヒトなんぞに世界の行く末を託した憶えはないわ!連中には誇りと言うものが感じられん!
 ケツァクにしたってそうじゃ。あいつはヒトに寄り添い過ぎた。思いっきり情が移っておるではないか!」

「あらぁ。その話私は黙って聞き捨てちゃっていいのかしらぁ?私達も一応人間なのだけれど」

「"今は"……じゃろう?指環は次々と目覚めておる。祖龍の復活は誰にも止めることは出来ん。
 儂は祖龍より世界を預かった身じゃ。世界が虚無に堕ちし時、誰が指環の全てを手にするか……儂らが選ばなければならん」

ウェントゥスは拳を握り、石造りの空を仰いだ。

「『ティターニア』が生きておればのう……」

「ふぅん?」

メアリは訝しむように声を漏らした。
彼女の知っている"あの"ティターニアとはおそらく別人だ。元よりその名はユグドラシアにおいて代々襲名されるもの。
黎明の時代より世界を見守ってきたウェントゥスが、唯一指環の担い手として認めた存在。
追い求めているのは過去の幻影であり、だからこそウェントゥスはエーテル教団と手を組んだ。

「期待しておいて頂戴。"無色透明な世界"でなら、きっとまた会えるわぁ。
 そのためにも、まずは目の前の問題から片付けないとねぇ。デキる女の秘訣は課題を一つ一つ完璧に解決することよ」

メアリは黒衣の中から細長い包みを取り出してスレイブに差し出した。
中身は鞘に収められたままの長剣だ。使い込まれているが刀身に曇りはなく、スレイブの手によく馴染んだ。

「これは……」

「ダーマ王府の宝物庫から持ち出しておいたわよぉ。良い剣なんだからもっと大事に扱いなさいな」

バアルフォラスと出会うまでスレイブが使っていた愛剣だった。
魔族の刀匠が打った長剣で、特異な能力などは何もないが折れず曲がらず良く斬れる。ただそれだけの剣。
だが剣士の技に良く応え、魔神さえも叩き斬った正真正銘の名剣だ。

「よし。そうと決まれば迅速果断じゃ。お主に『力』をくれてやろう」

ウェントゥスが己の指から指環を抜き取り、スレイブに握らせる。
7つのドラゴンズリングが一つ、"風"の指環。竜に認められし者だけが手にすることのできる絶大なる力の根源。
指環に輝きはない。スレイブが真の意味でウェントゥスに認められたわけではなく、あくまで傀儡でしかないからだ。

「これよりお主は儂の剣じゃ。最初で最後の命令を与える。風紋都市シェバトの制御中枢、エアリアル・クォーツを破壊せよ」

スレイブは右手の中指に指環を嵌め、愛剣の握りを確かめるように二三度振るってから頷いた。

「任せておけ。俺の正しさを、これから証明して来る」

暴力的な甘さの残る飴玉を、奥歯で噛み砕いた。

・・・・・・――――――

243 :スレイブ ◆T/kjamzSgE :2017/07/11(火) 19:37:58.70 ID:UD1ndksA.net
シェバト市街の路地裏に、転移の魔法陣が展開した。
陣から迸る光が二人分の輪郭に収束し、スレイブとメアリの足が同時に地面を踏む。

「……風の塔から随分遠くに出たな」

「守護聖獣の探知網に引っかからない位置だとここが限界なのよぉ。あなただって転移した瞬間囲んでボコられたくないでしょ?」

「そうだな。まぁ構いやしないさ、この街は俺の庭だ。ここからなら最短ルートを踏める」

「そぉ。それじゃ私のお使いはここまでよぉ。あとよろしくねぇ」

「破壊を確認して行かないのか?」

「どうせウェントゥスも指環越しに見てるわよぉ。それに私そんなに暇じゃないし。デキる女は引っ張りだこなの」

「……食えない女だ」

手をひらひらと振りながら転移魔法陣の中に消えていくメアリを目の端で見送ってから、スレイブは風の塔へ向けて歩き始めた。

「静かだな。住民共を避難させているのか」

風の塔周辺からは人の気配が消え、活気のある大通りにすら猫一匹歩いていない。
こちらの襲撃は読まれているようだ。おそらくあの部屋に残してきたバアルフォラスから聞いたのだろう。
正味問題は無かった。閉鎖されたこの街に逃げ場などない。エアリアル・クォーツが破壊されれば街ごと滅ぶ運命だ。

深呼吸をする。作りかけの食事や、石畳の砂塵、干されたシーツ……それら『街の匂い』が鼻をくすぐる。
何千何万回と嗅いできた匂い。スレイブ・ディクショナルという人間が護り続けてきた人の営みの残り香。

「全てが……忌々しい……!」

怨嗟を双眸に滾らせて、彼は風の塔を目指す。
シェバトは中央に向かうにつれて細長い路地が密集した構造だ。真っ直ぐ目的地へ行くのは至難だろう。
しかしスレイブには無用の憂慮であった。魔力を込めて石畳を踏む。鎧に仕込まれた魔術が発動し、彼は空高く飛び上がった。

244 :スレイブ ◆T/kjamzSgE :2017/07/11(火) 19:38:45.34 ID:UD1ndksA.net
スレイブの纏う鎧――ダーマ王府制式魔導鎧『屠竜三式』は、上空を舞う竜種と戦う為に生み出された装備だ。
脚部に施された魔術により跳躍力を超強化し、高所にある竜の逆鱗を直接剣で攻撃する戦術を可能としている。
そしてシェバトのような建物の密集した地形においてはその真価を発揮する。
障害物を無視して街を飛び回れるのだ。

「見つけた」

民家の屋根、塔の先端、風車の羽根を次々に飛び渡り、やがてスレイブは風の塔へと辿り着いた。
教会の十字架の上に立つ彼の目の前には、三人の冒険者が対峙していた。

「やはり立ちはだかると思っていたぞ、指環の勇者たちよ……!」

ティターニア、ジャン、フィリア。かつてスレイブと戦い、魔剣を破り、彼を打ち負かした者達。
だが今のスレイブには風の指環がある。ウェントゥスの強大なる力の後ろ盾がある。

「……お前達も、ヒトの為に戦うんだな。ヒトの願いの為に世界を変えようとしてるんだな」

己の身体の中に、経験したことのない程に巨大な魔力が膨れ上がるのを感じる。
これが指環の力。今だウェントスに認められていないスレイブでさえ、これほどの魔力を手にすることができる。

「自分本位で薄汚いヒトの欲望だ。この街の全ての人間と共に……俺が叩き潰す」

スレイブが指先を宙に翳すと、そこに巨大な魔法陣が展開した。

「『エアリアルスラッシュ』」

呪文を唱えた刹那、風の塔を丸々飲み込まんばかりに巨大な真空の刃が魔法陣から撃ち放たれた。
ティターニアが用いるそれとは比べ物にならないほどの威力を秘めた風魔法。
スレイブは風の塔ごとエアリアルクォーツを叩き斬るつもりだ。


【洗脳完了。ウェントゥスから風の指環を受け取ってエアリアルクォーツの元へ。大規模な風魔法を叩き込む】

245 :ティターニア@時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc :2017/07/16(日) 00:18:15.69 ID:QHOxfV2h.net
最近また規制が横行しているようなのでこちらのスレ
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/3274/1334145425/l50
を暫定的にひとまず規制時の連絡場として指定しておこうと思う
規制されて行方不明者が出てからでは遅いからな

他にもっといい場所がある、あるいは専用スレを立ててほしいもしくは専用板を作ってほしい等の要望があれば遠慮なく言ってくれ
本スレだけ見ればいい今のシンプルなスタイルが気に入って参加している者もいるかと思うゆえ飽くまでも規制対策ということで

246 :スレイブ ◆T/kjamzSgE :2017/07/16(日) 02:40:47.03 ID:ls0nixui.net
【了解でんがな】

247 : ◆fc44hyd5ZI :2017/07/17(月) 04:32:14.00 ID:eKsaiK1r.net
>「うむ、どのような選択をするにせよ……後悔せぬようにな」

「違いますの。後悔しない為に、選択するんですの」

>「フィリア。今お前が持ってるのはその魔剣や虫の力だけじゃねえ。その指環もだ。

「うっ……それを言われると、ちょっと自信が……いえ、必ず自分のものにしてみせますの。
 スレイブ様を助ける為にも、立派なおうじょさまになる為にも」

>もし認められたなら、戦ってる最中だろうが俺に伝えてくれ。
  一つ策が閃いたんだ、馬鹿の俺でもできる簡単な竜落としの策がな」

「……お聞きしても?」

……なるほど。
わたくしには鍛冶も魔法の理屈も分かりませんの。
だけど……多分、要するに、こういう事でしょう?

「誰かを思いっきりぶん殴ってやりたいなら、まずは思いっきり振りかぶってから……そういう事ですの?」

>「ダメだったらまあ、俺が滅茶苦茶叫べば空飛ぶぐらいはできるかもしれねえ。
 俺のご先祖様は叫ぶだけで雲を突き抜けるぐらい大きくなれたって言うしな」
>「ウォークライは冗談じゃなく頼りにしておるぞ」

「叫ぶと、おっきく?……えっ?」

ティターニア様はあっさり聞き流してるけど……えっ?
ここ、疑問に思う方がおかしいとこなんですの?
……立派なおうじょさまになるには、もっと見識を広めなきゃいけないみたいですの。

>「残念ながらあまりじっくりと策を練っている時間はありません。とにかく風のクリスタルのもとへ急ぎましょう!」
>「ケツァクウァトルは結界の維持に専念しろ。ウェントゥスに結界を突破されたらおしまいだ、一寸の隙も作るな。
  お前達は塔の入り口、屋上、風のクリスタルの前でそれぞれ待機だ。俺は周辺住人を避難させる」

……結局、腕が生えてくるのを待つ暇はありませんでしたの。
事前に練っていた策も、スレイブ様なしでは十全には実現出来ない。
だけど……そんな事は、些細な事。
決意を固めない理由には、心を燃やさない理由には、なりませんの!

と……不意に、マントの内側に仕舞った指環がほんの一瞬、熱を帯びる。
だけどすぐに熱は収まり……イグニス様からの声も聞こえてこない。今のは、一体……?

いえ、その答えを自ら見出だせないようでは、指環に認めてもらう事など出来ませんの。
例えこれから戦いに臨むのだとしても……ただ戦い、ただ勝つだけでは足りない。
ウェントゥスとの戦いを見据えるのなら……わたくしは、わたくしは……何かを見つけなきゃいけない。
その何かが何なのかすら、分かっていなくても。

「……わたくしは、クリスタルの前で待っていますの。
 万が一、塔の中まで潜り込まれても……好き勝手になんか、絶対させませんの」

そう言って窓から表通りに飛び降りると、バアル君を一度石畳に突き刺す。
そしてマントの縁を掴み、広げる……その内側から女王蟻の大顎が、かきん、かきんと、甲高い音を奏でた。
その音の意味は、シェバトに住まう虫達だけが理解出来る。

「……虫さん達。わたくしの目と耳になりなさい、ですの」

スレイブ様がどこから来たとしても、わたくしの網から逃れる事は出来ませんの。
バアル君を引き抜いて、風の塔へ向かい、風のクリスタルの真ん前へ。
……背中の羽が、三対六本の腕に変わる。細くたおやかな女王蜘蛛の腕に。
塔の中に蜘蛛の糸が張り巡らされていく。これで少なくとも捨て身の突撃は叶わない。

248 : ◆fc44hyd5ZI :2017/07/17(月) 04:32:46.46 ID:eKsaiK1r.net
クリスタルの前に座り込み、バアル君を横において、わたくしは炎の指環を懐から取り出す。
そして考える。あの紅の都で、イグニス様が語った言葉について。
ウェントゥスは今でも王のままで、彼に並ぶ王になれとイグニス様は言っていた。
……でもウェントゥスがどういう王なのか、わたくし知りませんの。
戦いの中で、それを知る事が出来るのかなって……ちょびっと不安になりますの。

「……ええい!こんなんじゃだめですの!もっと王様らしく!
 なにはなくとも、不安がってる王様なんてぜったいだめだめですの!」

それから暫しの時が流れ……わたくしの触角が、虫達の奏でた微かな合図を捉えた。

「……来ましたの」

塔の外に出て、スレイブ様の姿を認める。

>「やはり立ちはだかると思っていたぞ、指環の勇者たちよ……!」

「……あら、わたくしは別に、指環の勇者じゃありませんの。まだ指環に認めてもらえてないし」

>「……お前達も、ヒトの為に戦うんだな。ヒトの願いの為に世界を変えようとしてるんだな」

一縷の望みをかけて言ってみた冗談に、スレイブ様は何の反応もしませんでしたの。
どんなに敵意を昂ぶらせていても、聞けば答えてくれたスレイブ様は……あそこにはいない。

>「自分本位で薄汚いヒトの欲望だ。この街の全ての人間と共に……俺が叩き潰す」

「えぇ、話はとてもシンプルですの。さっきと何も変わらない。わたくしは、したい事を、するだけですの!」

スレイブ様がわたくし達へと指先を突きつけ、虚空に魔法陣が描かれる。
同時に、わたくしもまた動き出していた。
左手に握り締めたバアル君を、スレイブ様に突きつける。
瞬間、わたくしの左腕がムカデの王と変貌し、放たれた風刃へとバアル君の切っ先が迫る。

……あの時、スレイブ様は確か、こう言っていた。

>「『エアリアルスラッシュ』」

『飲み干せバアルフォラス!』

風竜の加護を得たスレイブ様の魔法を、バアル君が完全に飲み干せるのかは分からない。
だけど完全に吸収出来なくても、ちっちゃくしちゃえばお二人がなんとかしてくれますの!

「……あなたの手の内にあるべきは、その指環じゃない!」

なんて考えをお二人に伝えるよりも早く、わたくしは気がつけば叫んでいましたの。

「覚えているでしょう!あなたの相棒が、誰なのかを!
 この心優しき魔剣が、あなたの手中にない事を……悔しいと、返せと、あなたは思えるはずですの!」




【ひぃ、ひぃ、また遅くなっちゃってごめんなさーい!おしごといそがしかったの……
 避難所の件、了解しました!

249 :ジャン ◆9FLiL83HWU :2017/07/17(月) 21:06:51.41 ID:iWW4dS/s.net
>「ケツァクウァトルは結界の維持に専念しろ。ウェントゥスに結界を突破されたらおしまいだ、一寸の隙も作るな。
お前達は塔の入り口、屋上、風のクリスタルの前でそれぞれ待機だ。俺は周辺住人を避難させる」

「分かった。スレイブの野郎をまた殴るのはちょっとつらいけどよ」

正面から突っ込んでくることに備え、また室内では大柄なジャンは動きづらいだろうということで
入り口近くでジャンはスレイブの襲撃を待つことになった。

既に住人たちの避難は終わり、風の塔の周囲は静かなものだ。
高さの違う石造りの建物が立ち並び、人だけがいない風景。
それはきっと、凄まじい力を持った指環の主が戦うには相応しい場所なのだろう。

「力ある者は孤独である。であれば我ら弱者であるべし。
 ……だったか?どうにも詩ってのは分かりづれえな、なぁスレイブ」

指に嵌めたアクアの指環がかすかに震え、指環に認められずとも指環の所持者が近づいてくることを教えてくれる。
ジャンは建物の屋上を飛び移り、こちらへと殺気をむき出しにして向かってくるスレイブをただ見つめていた。

>「やはり立ちはだかると思っていたぞ、指環の勇者たちよ……!」

「……指環の勇者じゃねえ、ジャン・ジャック・ジャンソンだ。
 その指環、借りてきたんだな。アクアが教えてくれるぜ。
 借り物でいきがってる馬鹿がいるってよ」

アクアの指環がジャンに応えるように強く光る。スレイブが持つウェントゥスの指環も一瞬きらめいて、
素人目にも一目で強大だと分かる魔法陣が空中に展開された。

>「『エアリアルスラッシュ』」

>『飲み干せバアルフォラス!』

あらゆるものを飲み尽くす魔剣と、かつて世界を支配した力の一端が衝突する。
一瞬だけ均衡を保っていた衝突はやがて崩れ始め、飲み尽くせなかった一部が
徐々に周囲へと飛び散り始めた。

250 :ジャン ◆9FLiL83HWU :2017/07/17(月) 21:08:19.08 ID:iWW4dS/s.net
「フィリア!そのまま呼び続けろ!何が起きても、一歩も引くんじゃねえぞ!!」

ジャンは飛び散った風の刃が自分を掠めるのも気にすることなく、力の均衡点に向かって指環を掲げる。

「指環を飲んだナウシトエは認められずとも竜みてえな姿になった。
 指環を借りたお前もこんな魔法が使える。
 だったらよ、指環に認められた俺は……」

その瞬間、指環から湧き出た水がジャンを包む。
水晶のごとく透き通った水が映し出すのは、ジャンの身体が変貌していく過程だ。
大きな身体はさらに大きくなり、竜の鱗のようなものが全身を覆っていく。
手と足には鋭い爪が生え、背中には竜のそれと分かる翼が徐々に形成されていった。
いかにもオークと一目で分かる顔も竜のように角と牙が生え、もはや悪魔と呼んでもよい形相に作り替えられていく。

そして包んでいた水が弾け飛び、指環の力を文字通り身に纏ったジャンが
中から翼をはためかせて飛び上がった。

「完全に、何一つ漏らすことなく力を扱えるってことだよ」

そして背後にスレイブのそれとほぼ同じ大きさの魔法陣を展開し、大きく息を吸い込む。
ウォークライに指環の魔力をありったけ乗せて放つ、竜の咆哮を放つために。

「オオオォォォォガアァァァァ!!!」

普通のウォークライをはるかに超える音圧はもはや衝撃波の域であり、
指環の魔力は真空の刃に容赦なく浴びせられる。
そして咆哮を放った直後、ジャンは続けざまに指環の魔力を開放する。
水を圧縮して作った水流の槍、これを十本ほど瞬時に作り上げてスレイブへと投擲した。

(でかい口叩いちまったが、これ長くは使えねえな……
 腹減ってきたし頭痛が酷い、これだから魔術だか魔法ってやつは!)

しばらくスレイブへと牽制目的で水流の槍を投げ続け、
時折頭痛を振り払うように頭を振って、ティターニアへと念話を飛ばす。

『ティターニア、スレイブ以外の奴はこの辺りにいるか?
 指環のおかげで頭が良くなったのかもしれねえ、さっきから
 嫌な予感がするんだ。スレイブを連れ去った奴が塔に直接来るんじゃねえかとか、
 増援が来るんじゃねえかとかそういう予感が頭をよぎる!』


【避難所の件分かりました、本スレだけで済めばよかったんですが
 今の規制具合じゃ仕方ないですね】

251 :ティターニア ◆KxUvKv40Yc :2017/07/19(水) 23:18:56.32 ID:AyNsAGRq.net
>「分かった。スレイブの野郎をまた殴るのはちょっとつらいけどよ」

>「……わたくしは、クリスタルの前で待っていますの。
 万が一、塔の中まで潜り込まれても……好き勝手になんか、絶対させませんの」

対空攻撃手段を持つティターニアは屋上、パワーファイターのジャンは正面扉、
索敵能力に優れたフィリアはクリスタルの前で、それぞれ襲撃に備える。そして――

《この気配は……風の指環! 気を付けて! ウェントゥスに指環を貸し与えられたようです!》

とのテッラの警告の直後、彼は現れた。おそらく気付いたのは3人ほぼ同時。
建造物を足場にまるで飛ぶように跳ぶ人影が近づいてきて、風の塔正面の境界の十字架の上に屹立する。

>「やはり立ちはだかると思っていたぞ、指環の勇者たちよ……!」

>「……あら、わたくしは別に、指環の勇者じゃありませんの。まだ指環に認めてもらえてないし」

>「……指環の勇者じゃねえ、ジャン・ジャック・ジャンソンだ。
 その指環、借りてきたんだな。アクアが教えてくれるぜ。
 借り物でいきがってる馬鹿がいるってよ」

「ジャン殿よ、こやつに長いフルネームは覚えられまい。ティタぴっぴと愉快な仲間達でどうだ」

フィリアと同じく、洗脳を切り崩せはしないかとほんの僅かな可能性に期待して言ってみるも、当然無意味であった。
元のスレイブならたとえ命のやり取りの最中であろうと即突っ込んできたはずだ。

>「……お前達も、ヒトの為に戦うんだな。ヒトの願いの為に世界を変えようとしてるんだな」

「何、指環を集める旅をしていたら結果的に人助けイベントに巻き込まれているだけだ」

実際に、この三人は全員人間ではない。フィリアに至っては虫族の未来のために行動すると明言している。
ここでいうヒトとは人間という意味ではなく、もっと大きな概念を指すのだろう。
この世界に生きる個々の存在、と言ってしまっていいほど広い概念かもしれない。
そうすると、今のスレイブはその中に含まれない存在の側に立っているということ。
個々の存在の思惑を超越した何か――彼のバックにあるのはそんな存在なのだ。
とはいえ、ウェントゥスとエーテル教団勢力がどこまで一枚岩なのかは未だ不明。
ウェントゥス自体が洗脳されている可能性すらある。

「借り物とはいえウェントゥス自身が貸し与えたものだ……侮れぬぞ!」

>「自分本位で薄汚いヒトの欲望だ。この街の全ての人間と共に……俺が叩き潰す」
>「『エアリアルスラッシュ』」

スレイブが指を翻すだけで、塔が真っ二つになりそうな程のふざけた威力の真空刃が放たれる。
とっさにフィリアが魔剣に呑み尽くしを要請する。

>『飲み干せバアルフォラス!』
>「……あなたの手の内にあるべきは、その指環じゃない!」
>「覚えているでしょう!あなたの相棒が、誰なのかを!
 この心優しき魔剣が、あなたの手中にない事を……悔しいと、返せと、あなたは思えるはずですの!」

考えてみれば知性を食らうなんて物騒な魔剣が、こんな持ち主想いの性格になったとは不思議なものだ。
しかしとある伝説によると、ヒトが知恵を身に着けたことそれ自体が原罪だという。
彼が罪の意識を忘れるために使われたのは必然だったのかもしれない。

252 :ティターニア ◆KxUvKv40Yc :2017/07/20(木) 21:42:01.28.net
test

253 :ティターニア ◆KxUvKv40Yc :2017/07/20(木) 21:42:43.20.net
>「指環を飲んだナウシトエは認められずとも竜みてえな姿になった。
 指環を借りたお前もこんな魔法が使える。
 だったらよ、指環に認められた俺は……」

指環の力によって、ジャンの姿が竜化していく。

《あれは"竜装"――彼はアクアと相当連携が取れているようですね。私達も負けられませんよ! "竜装"――ダイナスト・ペタル!》

>「オオオォォォォガアァァァァ!!!

桁外れのウォークライが、バアルフォラスで防ぎきれなかった真空刃を迎え撃つ。

「――プロテクション」

ティターニアによって塔の前に展開された巨大な魔力壁が、二つの妨害を潜り抜けて到達した真空刃の余波を防ぐ。
通常のプロテクションではなく、大地の指環の力によるものだ。
そしてジャンと同じく、ティターニアもまた姿が変化している。
髪は新緑のような緑色と化し、背には竜の翼が現れ、随所に竜の鱗が現れ籠手や脚絆を身に着けたような姿。
竜装"ダイナスト・ペタル"――大地の属性のうち、植物を司る側面を前面に押し出したものだ。

「これは……!?」

《より心の深いところを見せてくれましたからね――シンクロ率が上がったということです》

ティターニアはジャンが水流の槍を投げるのに合わせ、エーテルセプターを振るう。
そこから伸びた無数の魔力的な蔦がスレイブを拘束せんと襲い掛かる。

>『ティターニア、スレイブ以外の奴はこの辺りにいるか?
 指環のおかげで頭が良くなったのかもしれねえ、さっきから
 嫌な予感がするんだ。スレイブを連れ去った奴が塔に直接来るんじゃねえかとか、
 増援が来るんじゃねえかとかそういう予感が頭をよぎる!』

ジャンが指環を通して念話を送ってきた。
この場に増援が来るとしたら、メアリか、ウェントゥス自身か、といったところだろう。

(テッラ殿、光の指環が近づいている気配は無いか!? それとウェントゥス本体の動向にも注意だ)

そうテッラに心の中で問いかける。
メアリはスレイブ洗脳するだけして去ったと思われるが、そう見せかけて近くで様子を見ている可能性も否定できない。
王様気質のウェントゥスはスレイブが元気な間は自分では出張ってきそうにはないが――警戒しておくに越したことはないだろう。

254 :スレイブ ◆T/kjamzSgE :2017/07/25(火) 23:23:14.73 ID:oJ39ta0S.net
【すまねーちょっと時間かかってて一週間オーバーしちまうかもしんねー!
 必ず書くのでほんの少しだけ待っててくれ!】

255 :創る名無しに見る名無し:2017/07/26(水) 09:23:26.55 ID:rOHkMyY/.net
相変わらず上から目線で
承認欲の強い奴だな

256 :ティターニア@時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc :2017/07/26(水) 12:35:18.86 ID:nmLh87fk.net
>>254
了解だ、慌てなくて良いぞ!

257 :創る名無しに見る名無し:2017/07/27(木) 15:53:13.35 ID:6z3NRaCN.net
>>254
お前が遅筆なのは、毎回アホみてえにクソ長い文章書いてるからだろw
どうせ中身ないんだから、もう少し文章量削ってさっさと投下しろよ
他のやつは皆そうしてるぞ

258 :スレイブ ◆T/kjamzSgE :2017/07/27(木) 18:39:28.05 ID:8Ue6vKhN.net
風の塔を根本ごと切断可能なほどに巨大な真空刃、エアリアルスラッシュ。
巻き込まれれば指環の勇者三人ともが胴体から分かたれるであろう威力に、しかし彼らは怖じることなく迎え撃った。

>「えぇ、話はとてもシンプルですの。さっきと何も変わらない。わたくしは、したい事を、するだけですの!」

フィリアが隻腕を百足へと変じ、真空刃に向けて伸ばす。
その甲殻質な手指には、臙脂色の魔剣が握られていた。

『こうして君へ切っ先を向けるのは二度目だね、スレイブ。これを裏切りだと思うかい?』

>『飲み干せバアルフォラス!』

真空刃と魔剣の刀身とが交錯し、バアルフォラスは鳴動した。
魔法の術式を噛み砕き、純粋な魔力として吸収する魔剣の秘奥、『呑み尽くし』。
エアリアルスラッシュが一瞬停滞し、少しずつ小さくなっていく。

「見込みが甘いぞ蟲の王。たかが魔剣の一振りで風竜の魔力を喰らいつくせるものか」

スレイブは元の使い手として感覚で知っている。バアルフォラスによる魔法の分解には限界があった。
半分ほどの大きさになった真空刃が、魔剣を押し返し始めた。威力はまだまだ健在だ。

「指環とは素晴らしい力だな。ヒト共がこぞってこれを求めるのも……今なら分かる」

スレイブは指環からさらに力を引き出し、真空刃への"追い風"を作り出す。
魔剣ごと叩き斬るつもりだ。

>「……あなたの手の内にあるべきは、その指環じゃない!」

強風吹き荒れる中、フィリアは叫んだ。声は矢のように鋭くこちらまで届く。

>「覚えているでしょう!あなたの相棒が、誰なのかを!
 この心優しき魔剣が、あなたの手中にない事を……悔しいと、返せと、あなたは思えるはずですの!」

「抜かせ。ただ忘れるだけの救いに意味などない」

魔剣の優しき忘却は、確かにスレイブにとって救いになった。
だが、忘れるだけだ。現実は何も変わっちゃいない。押し付けられた苦しみは、消えてなくなったわけじゃない。
現実を、ヒトを、変えられるのは圧倒的な力だけだ。いまスレイブの手の中にはそれがある。

「この苦悩を俺だけが、抱え込まなければならない理由があってたまるか」

『分からないなスレイブ。誰かに苦しみを分け与えれば君は幸せになれるのかい』

「勘違いするなよバアルフォラス。俺は幸せになりたいわけじゃない。皆を不幸にしたいんだ」

スレイブを突き動かすものの根底には、『失望』があった。
彼に全てを押し付けたシェバトの人々への失望。仮初の救いでしかない魔剣への失望。
――追い詰められるだけで何も変えようとしてこなかった自分自身への失望。
それら全てのマイナスを精算する為に、彼は今ここに立っている。

>「フィリア!そのまま呼び続けろ!何が起きても、一歩も引くんじゃねえぞ!!」

ぶつかり合う風と剣の余波が周囲を切り刻む中、刃の嵐をかき分けるようにしてジャンが前に出る。

>「指環を飲んだナウシトエは認められずとも竜みてえな姿になった。
 指環を借りたお前もこんな魔法が使える。だったらよ、指環に認められた俺は……」

むくつけきハーフオークの肢体を水の魔力が包み込んだ。
ジャンの分厚い皮膚が硬質な鱗に覆われ、禍々しい形相へと肉体そのものを造り替えていく。
やがて水の膜が弾け散った時、そこにいたのは一体の竜だった。

259 :スレイブ ◆T/kjamzSgE :2017/07/27(木) 18:39:57.16 ID:8Ue6vKhN.net
>「完全に、何一つ漏らすことなく力を扱えるってことだよ」

目の前で竜へと変じたジャンに、スレイブは眉を立てて唾を呑んだ。

「……何だ、あれは。指環にあんな力があるのか。どうなっている、ウェントゥス?」

指環を通じてリンクしている『風竜』内部のウェントゥスから、困惑の応答が返ってきた。

『え……知らん……なにあれ怖っ……』

指環は竜の力を封じた魔具だ。
肉体が消滅し、存在の全てを指環に移したアクアの力を完全に引き出すことが出来れば、あるいは。
ジャンはその身を依代として、『水竜アクア』を喚び降ろしたのだ。
竜の翼がはためき、背負うようにしてスレイブのもとの同等の魔法陣が展開する。

>「オオオォォォォガアァァァァ!!!」

波濤――否、叩き付ける瀑布にも似た圧が来た。
圧の正体は雄叫び、オーク族の用いる戦術咆哮ウォークライだ。
しかし大気を震わせる砲声には音圧という表現で片付けられない威力が秘められている。
音の速さで殺到する莫大な魔力の壁が、回避の逡巡を待つこと無くスレイブを襲った。

「く……!!」

金管楽器をぶち撒けるような音と共に、スレイブが展開していた魔法陣が盾となって砕け散った。
ウォークライには術者の集中力を削ぎ魔法を妨害する効果がある。
しかし今起きた現象は単なる術式の阻害ではなく、魔法自体の破壊――!

『竜轟(ドラグ・ロア)じゃと……!?ばかな、ヒトの身で扱える技ではないぞ……!』

「魔力を乗せた咆哮か。発動済みの魔法さえも消し飛ばすとはな……先に奴を始末すべきだったか」

スレイブは尖塔を真下へ走るようにして駆け下り、跳躍術式の速力で一気にジャンへと肉迫する。
同時、指環から力を引き出して自分を覆うように小規模な風のフィールドを形成。

「風の鎧を纏って音の壁を突き抜ける。保つのは一瞬だけで良い……一瞬あれば俺の剣が奴の喉に喰らいつく」

『ま、待て!どんな隠し種があるかも分からんのじゃぞ!?』

スレイブは主の忠告を無視して吶喊した。
ヒトならざる膂力を誇るオーク相手に接近戦を挑む。同じく人知を超えた速度域に立つスレイブにならばそれができる。
しかし雇い主の意向とは食い違いがあった。

『ああああもう!〈タービュランス〉!!』

強烈な竜巻が発生してスレイブを横合いから殴りつけた。
スレイブはバランスこそ崩さなかったものの、突進の勢いを削がれて横に逸れる。
直後、それまでスレイブが踏んでいた石畳に無数の水の槍が突き刺さった。
放ったのはジャンだ。鉱石を断つほどにまで圧縮された水が、石畳とその下の地盤さえも穿っていた。

「オークが魔法を使っただと……?」

『こっこのあほーーっ!!あやつのバックにはアクアがおるんじゃぞ!水魔法くらい使えるに決まっとるじゃろ!』

竜轟さえ乗り越えれば近接戦闘の土俵に持ち込めると侮ったのはスレイブの判断ミスであった。
飛来する追撃の水槍を紙一重で躱しながら、彼は悪びれもせずに吐き捨てる。

260 :スレイブ ◆T/kjamzSgE :2017/07/27(木) 18:40:23.87 ID:8Ue6vKhN.net
「次は魔法を考慮に入れて斬る。それだけだ」

『あほ!ばーか!あほ!儂が助けんかったらお主今ので死んどったからな!』

「……余計な真似を。これは俺の戦いだ、手を出すなウェントゥス」

『はぁーーーっ!?お主は儂の傀儡じゃろうが!メアリ!メアリどっかで見とるんじゃろ!?
 お主のくれたこの傀儡全然儂に操縦されないんじゃけど!!じゃから儂死体でくれって言ったのに!!』

指環から聞こえてくる主の罵声を聞き流しながらスレイブは疾走する。
ジャンが間断なく打ち込んでくる水槍をときに伏せ、時に民家の壁を使って回避し、躱せないものは斬り落とす。

「『ブロウネイル』」

戦闘の呼吸を縫うようにしてこちらも負けじと風の刃を応射する。
その全てがウェントゥスが用いる規模の、つまりは一軒家くらい余裕で真っ二つにできる威力の刃だ。
それらはジャンの撃ち漏らした真空刃と融合し、より強力な無数の刃となって風の塔へと降り注ぐ。

>「――プロテクション」

それを阻むかのように巨大な障壁魔法が屹立した。
弾雨の如く突き刺さる風の刃と障壁とが激突し、相殺し、一切合切が霧散する。
障壁を創り出したのはジャンではない。だが、指環の力と拮抗できる魔力の持ち主は指環以外にはない。

「大地の指環……ティターニア!」

『は?ティターニア?』

砕け散った障壁の向こうに、指環の勇者の姿があった。
ジャンと同じように甲殻や翼を現出させ、見た目こそ始めて会った時と少し変わってはいるが……纏う雰囲気に違いはない。
ティターニア。指環の勇者達をここまで導いてきた凄腕の魔導師。

「あんたのその姿……ジャンと同様か。やはり指環の勇者にはまだ俺の知らない力が隠されているらしいな」

剣を向けながらも平静を保つスレイブとは裏腹に、彼の手にある風の指環はひときわうるさく騒ぎ始めた。

『ティ、ティターニア!?儂近眼だからよく見えなかったけど、お主、ティターニアではないか!
 生きておったのか!?最後に会うたのはもう千年近くも前じゃぞ!なんで生きとるんじゃお主!!』

「……何を言ってる。彼女はハイランドのエルフだ。ダーマで千年眠りこけてたあんたの知り合いなわけがないだろう」

『いやだってあれティターニアじゃろ!?ハイランド建国の英雄、ティターニア!お主だってその名を呼んだではないか!』

怪訝に眉を顰めるスレイブを尻目に、風の指環が輝き、光の中からウェントゥスの幻影が飛び出した。

『ティターニア!息災じゃったか!?お主と別れて以来色んな菓子屋を訪ねたが、やはりお主のくれた飴が一番甘かった!
 さぁこっちへ寄れ、こんなポンコツ傀儡よりもよっぽどお主こそが風の指環を持つに相応しい!
 あん?テッラ?旧大陸の穴蔵に引き篭もってた根暗地属性なんぞ捨て置け捨て置け!メアリとかが拾うじゃろ多分!』

だがティターニアの返答は、ジャンの水槍に重ねるようにして放たれた魔力の蔦。
それは大地の、テッラの力であった。
ウェントゥスはいきなりキレた。

『なんっ……で!四竜三魔もケツァクも!どいつもこいつもなんで儂の言うことを聞かんのじゃ!
 儂はちゃんと世界の未来とか考えとるのに!儂だけが、ヒトに丸投げせず儂らで頑張ろうって言うとるのに――』

ウェントゥスの怨嗟が終わる前に、言葉は寸断された。
スレイブの振るった剣が幻影を断ち切り、霧散させたのだ。

261 :スレイブ ◆T/kjamzSgE :2017/07/27(木) 18:41:07.85 ID:8Ue6vKhN.net
「これは俺の戦いだと言った。あんたが千年生きていようが、シェバトを庇い立てするのならば今日がその歴史の終わる日だ」

襲い来る大地の蔦が一瞬にして細切れになり、地に落ちた破片をスレイブは踏みにじる。
そうして彼は指環の勇者達を見た。怨嗟と赫怒に満ちた視線を向けた。

「指環を集めて世界を変えると言ったな。あんた達の都合の良いようにか?それは今この世界で私腹を肥やす為政者と何が違うんだ。
 古龍の力に願ったとしても、この世にあまねく全ての者を幸せにすることなど出来ない。
 それは力に限界があるからではなく、幸せの形が人それぞれだからだ。
 誰かにとっての幸せが、別の誰かの不幸によってもたらされることなど珍しくもない。俺が、そうだったようにな」

争いは多くの者を不幸にするが、その一方で競い争うことで文明は発展し人々の生活は豊かになった。
侵略国家は他人を不幸にするために戦うのではなく、自国の民を幸せにする為に戦うのだ。

「人間も、エルフもオークも、虫精だって変わりはない。お前たちが指環の全てを手にした時。
 お前たちが幸せにしようと願った者達以外の全ての者に不幸が押し付けられることになる。
 ウェントゥスが危惧していたのはそこだろうし、俺も同感だ。指環は不幸しか生まない。不幸しか生まないんだ」

もっともらしい理屈を付けても、スレイブのそれは私怨に限りなく近い。
結局のところ、彼は自分だけが不幸になるのが気に入らないだけなのだ。それだけが、彼を狂気に駆り立てた。

「お前たちがそれでも指環を集めると言うのなら――」

指環に力の火が灯る。より多くの魔力を引き出す為に。
風竜に認められいなくたって、指環に勇者に追いつけるよう、力を寄越せと強く想う。
指環はそれに応えた。

「みんな不幸になれば良い」

魔法陣が展開する。先程までの大きさはないが、今度は無数の魔法陣が重なって多層構造を形成していた。
ジャンの咆哮によって砕かれたとしても即座に次の魔法が発動する、多重術式陣。

「『ブロウツイスト』」

風の塔の上空から地面へ向けて凄まじい強風が吹き下ろす。
打ち付ける滝にも等しい出鱈目な風が石畳を洗い、路肩に放置された馬車が吹き飛んでいく。
下方向へ広範囲に吹き付ける風。スレイブ以外の全ての者を地面に縫い付けるような嵐だ。
体重の軽い――例えばフィリアのように身体の小さな者は石畳へ押しつぶされ、飛ぶことはおろか這いずることさえ困難だろう。
更にスレイブはそこへ無数の風の刃を織り交ぜた。動きを止めれば即座に四肢を切り刻まれる鋭利な真空刃だ。

「この風の中では竜の翼も無意味だ」

更にスレイブはもうひとつ魔法を発動した。
風の指環が司るものは『空気』。それは単に気圧の変動によって風を生み出すだけに留まらない。
大気の組成を組み替える。戦場に立つ彼らが吸い込み吐き出す空気から酸素を減らしていく。
呼吸すればするほど息苦しくなり、やがては酸欠で失神する無味無臭の毒だ。


【スレイブ:上空から吹き下ろす強風で動きを封じ、無数の真空刃を降らせる全体範囲攻撃。
      同時に空気の酸素比率を提げて酸欠にさせる全体デバフ】
【ウェントゥス:ティターニアを見て何故かテンション上がる】

【お待たせしてすまねえ】

262 : :2017/07/31(月) 22:10:46.20 ID:3dVKA1EO.net
>「勘違いするなよバアルフォラス。俺は幸せになりたいわけじゃない。皆を不幸にしたいんだ」

「……認めませんの!あなたが何を望もうと、そんなの関係ない!
 あなたが自分の幸せを望まなくても、わたくしがそれを望みますの!」

そして必ずや、それを現実にしてみせる!

>「フィリア!そのまま呼び続けろ!何が起きても、一歩も引くんじゃねえぞ!!」

言われるまでもなく、ですの!
ここで退けば、わたくしは苦境を前に引き下がる臆病な王になる。
そんな王様に、誰も付いていきたいなんて思ってくれない。
それに、そんな王様になんて、わたくしだってなりたくないですの!

……と、不意に懐の指環が熱を帯びる。ほんの一瞬だけ。
またですの。この熱が、一体何を意味しているのかわたくしには分からない。
だけど……今は考えている暇もない!

バアル君に呑まれ縮んだとは言え、未だ十分な威力を秘めた風の刃に向けて、ジャン様が突き進む。
なんたる無謀……とは思いませんの。
なにせジャン様は指環の勇者……。

>「指環を飲んだナウシトエは認められずとも竜みてえな姿になった。
 指環を借りたお前もこんな魔法が使える。だったらよ、指環に認められた俺は……」
>「完全に、何一つ漏らすことなく力を扱えるってことだよ」

……はっ、一瞬何が起きてるのか分からなくて呆然としちゃいましたの!
ジャン様の体が……まるで竜みたいに……。いえ、姿だけじゃない。
あの威容、威圧感……飛空艇の上で、風竜と相見えた時と比べても遜色ないですの。
あれが……指環の力。

>「――プロテクション」

振り返ってみれば、ティターニア様も竜を思わせるような姿に変貌してますの!
あ、でもこっちはなんかちょっとおしゃれな感じ……。
……指環に宿ってる、えっと……テッラ様とアクア様?とのセンスの差ですの?
イグニス様のセンスはテッラ様寄りだといいな……熱っ!指環が!指環が!
ごめんなさいですの!ちゃんと戦いに集中しますの!

>「……何を言ってる。彼女はハイランドのエルフだ。ダーマで千年眠りこけてたあんたの知り合いなわけがないだろう」

と……なにやらスレイブ様は指環とお話中みたいですの。
この隙を突いて……どうにか出来るほど、スレイブ様は弱くないし、わたくしは強くないですの。
近づいても、ムカデの王を伸ばしても、斬り伏せられる結末しか予想出来ない……。

>『ティターニア!息災じゃったか!?

わたくしが次の一手を打ちかねていると、不意に風の指環から少女の幻影が現れましたの。
あれが……ウェントゥス。
その生の在り処を指環に委ね、虚無に呑まれ……なおも風の王として君臨する者。

>お主と別れて以来色んな菓子屋を訪ねたが、やはりお主のくれた飴が一番甘かった!
 さぁこっちへ寄れ、こんなポンコツ傀儡よりもよっぽどお主こそが風の指環を持つに相応しい!
 あん?テッラ?旧大陸の穴蔵に引き篭もってた根暗地属性なんぞ捨て置け捨て置け!メアリとかが拾うじゃろ多分!』

……わたくしにはウェントゥスが何を言っているのか分からない。
きっとまた、指環の勇者にしか分からない何かが……。
と思ってたらティターニア様が魔力の蔦を放ちましたの。
あれ?どういう事ですの?

263 : :2017/07/31(月) 22:11:20.20 ID:3dVKA1EO.net
test

264 : :2017/07/31(月) 22:12:22.85 ID:3dVKA1EO.net
>『なんっ……で!四竜三魔もケツァクも!どいつもこいつもなんで儂の言うことを聞かんのじゃ!
  儂はちゃんと世界の未来とか考えとるのに!儂だけが、ヒトに丸投げせず儂らで頑張ろうって言うとるのに――』

ティターニア様に無視されたのが相当頭に来たみたいで、ウェントゥスが怒声を散らす。
だけどそれも、最後までは続かなかった。
スレイブ様の剣が、ウェントゥスの幻を切り捨てたからですの。

……それでも、わたくしは確かにウェントゥスの言葉を聞いた。
不完全でも確かに……ウェントゥスの、王としての言葉を聞いた。
ヒトに委ねず、竜たる自分達で世界を導くのだと……。
長い長い時を生きてきた彼らからすれば、この世のどんな王だって、きっと赤子のようにしか見えないんですの。
だから自分達が、自分が導くんだと、そう思う。

>「これは俺の戦いだと言った。あんたが千年生きていようが、シェバトを庇い立てするのならば今日がその歴史の終わる日だ」

それはつまり……わたくしには、逆立ちしたってウェントゥスみたいにはなれないって事ですの。
わたくしには長い生から来る経験も知恵も、竜の種に宿る絶大な力もない。

……そしてそれでもイグニス様は、指環の力が欲しければ、わたくしにウェントゥスに並ぶ王になれと言った。
お前では決してウェントゥスには並べないから諦めろとは、
世界を滅ぼしたくなければジュリアン様に指環を返せとは、言わなかった。

だから……わたくしにも、なれるはずなんだ。
ウェントゥスとは違う、だけどウェントゥスに並ぶ王に。
なにせおバカなわたくしじゃなくて、かつて古竜から世界を預かった王がそう言ったんですもの。

……なんだか、見えてきた気がする。わたくしが、どんな王様になればいいのか。

>「指環を集めて世界を変えると言ったな。あんた達の都合の良いようにか?それは今この世界で私腹を肥やす為政者と何が違うんだ。
  古龍の力に願ったとしても、この世にあまねく全ての者を幸せにすることなど出来ない。
  それは力に限界があるからではなく、幸せの形が人それぞれだからだ。
  誰かにとっての幸せが、別の誰かの不幸によってもたらされることなど珍しくもない。俺が、そうだったようにな」
>「人間も、エルフもオークも、虫精だって変わりはない。お前たちが指環の全てを手にした時。
  お前たちが幸せにしようと願った者達以外の全ての者に不幸が押し付けられることになる。
  ウェントゥスが危惧していたのはそこだろうし、俺も同感だ。指環は不幸しか生まない。不幸しか生まないんだ」

スレイブ様の言ってる事は……全部じゃないけど、間違いじゃありませんの。
だって誰もかもを幸せにする事なんて誰にも出来ない。
ウェントゥスですら、少なくとも自分の望みを叶えながら、わたくし達を幸せには出来ないんだから。

>「お前たちがそれでも指環を集めると言うのなら――」
 「みんな不幸になれば良い」

「だとしても……」

>「『ブロウツイスト』」

わたくしが言葉を紡ぐよりも早く、スレイブ様が呪文を唱えた。
叩きつけるような暴風が、私の体を石畳に縫い付ける。
なんとか体をひっくり返して上を見てみれば、降り注ぐのは追撃の風刃。
左腕からムカデの王を生やして体を覆い、身を守る。
……頑強極まる王の甲殻を震わせる鋭い振動。きっと、いつまでも耐えてはいられない。
だけど、わたくし焦りませんの。

「……関係ありませんの。誰かを幸せに幸せにする事が、別の誰かの不幸になったって。
 わたくしは、わたくしがしたい事をするだけですの」

そして……立ち上がる。バアル君を杖代わりに。
……確かにバアル君には指環の力の全てを飲み干す事は出来ない。
だけど、そんな事出来なくたってほんのごく一部。私の周りだけを『舐め取って』もらえばいい。

265 : :2017/07/31(月) 22:13:45.55 ID:3dVKA1EO.net
test

266 : :2017/07/31(月) 22:15:45.81 ID:3dVKA1EO.net
「誰かの幸せが、あなたを不幸にしたなら、今度はわたくしがあなたを幸せにすればいい。
 それでまた、別の誰かが不幸になるなら……」

そうして続ける言葉の情けなさに、わたくしは思わず小さく笑っちゃいましたの。

「……それは、また別の誰かになんとかしてもらいますの。
 そうやって不幸を消して、幸せを順番に回していけば……きっといつか、みんなが幸せになれますの」

……バアル君がいなければ、わたくしはこの暴風の中で立つ事すら出来ませんでしたの。
イグニス様とウェントゥスがいなければ、自分がどんな王様になればいいのかも分からなかった。
ダグラス様に、ジャン様とティターニア様に出会わなければ……何も始まりすらしなかった。

わたくしは、自分だけじゃ何も出来ない小さなおうじょさまですの。
だから……みんなに助けてもらうんだ。
色んなヒト達と出会えたから、わたくしは今ここにいる。ここまで来れた。

懐に秘めた指環が、熱を帯びる。
今度は一瞬だけじゃない。わたくしを絶えず呼び続けるかのように、ずっと。

「指環の力が生み出すのは、不幸だけじゃない。
 アクア様もテッラ様も、イグニス様も、ウェントゥスだって、この世界の為を思ってここにいる。
 想いの形は、違うかもしれないけど……誰か一人くらい、幸せに出来ないはずがない」

指環を取り出して、それをコインのように指で弾く。
バアル君が生み出した無風の空を指環が舞い、わたくしは人差し指を立てて天を指す。
指環がわたくしの指に嵌まる。
その人差し指を、スレイブ様に突きつける。

「もし、わたくしが選ぶなら……その一人は、あなたでいい」

そして……指環が眩い紅の光を放った。
 
 
 
……光が収まって、視界が戻ると、わたくしはまた紅の都にいましたの。
目の前には、イグニス様が立っている。
大丈夫。答えはもう見つけましたの。毅然と彼女を見つめて、口を開く。

「わたくしだけじゃ、ウェントゥスはおろかスレイブ様にも勝てませんの。
 だから……力を、指輪の力を貸して欲しいですの」

『……あぁ、正解だ。文武共に並ぶ者のない王などそうはいない。
 王が全てのものを抱え込み、こなすなど不可能だ。故に古竜は妾達を作った。
 その妾だって領土の全てを見通し治めるのは難しかったから、代王を立てていたしね』

ウェントゥスの奴は、それすらもしたがらなかったけど。
イグニス様はそう続けて……不意に、その姿が巨大な竜へと変貌する。

『だが……それだけで君を王と認める事は出来ない』

竜の双眸がわたくしを見下ろす。
恐ろしい眼光と威容……身震いを禁じ得ませんの。

267 : :2017/07/31(月) 22:16:35.84 ID:3dVKA1EO.net
test

268 : :2017/07/31(月) 22:17:36.19 ID:3dVKA1EO.net
『全てにおいて君に勝る存在は、いくらでもいる。
 君ではティターニアの智慧にも魔法にも敵うまい。
 ならば君が王として成せる事はなんだ?何を以って君は己を王たらしめる?』

……その問いは、わたくしにとって予想外でしたの。
いえ、と言うよりわたくしにとっては大抵の事が予想外ですの。
だって自分で言うのもなんだけど、わたくしあんまり賢いとは言えませんもの。
だから今から答えを考えていては、きっとその前にイグニス様の我慢が限界を迎える。

『さぁ、答えろ。さもなくば妾は君を喰らい、その体を貰い受ける……』

左手のひらを見せつけるようにして、わたくしはイグニス様の言葉を断つ。
……でもこの問いの答えは、わたくしはもう、考えるまでもなく持っていましたの。
見せつけた左手で右肩を撫でる。
先の戦いで切り落としてしまった右腕の断面を。

「わたくしは、わたくしが王として守るべき人達の為なら……この身を削ぎ落とす事だって厭いませんの」

わたくしの答えを聞いて……イグニス様が、ふっと笑った。

『……それでいい。それこそが王が決して忘れてはならない、王の資格。
 妾達がかつて世界を救う為、指環にこの生を捧げたように。
 国と民、世界あっての王なんだ。我が身の価値を、見誤ってはいけない』

そして巨大な竜は再びヒトへと姿を変えて……わたくしの目の前にまで歩み寄ってくる。

『それはつまり、過剰に安売りしてもいけないって事だぜ。
 そこのところは、もうちょっと勉強が必要かもしれないな、おうじょさま。
 ……まぁ、今のお仲間と一緒にいるうちは心配なさそうだがね』



……気がつけばわたくしは、またシェバトへ帰ってきていましたの。
スレイブ様と相対する戦場へと。

「……指環の力よ!」

わたくしの声に応えるように指環から炎が溢れ……私の体を包み込む。
だけど熱くはない。炎は渦を巻きながら次第にわたくしの右肩へと集まり……更にその先へ。
炎が腕の形を模り……消える。
だけどその場に残るのは虚空じゃなくて……わたくしの、新たな右腕。
炎は生命や意志の力を司る属性。
こうしてわたくしの腕を元通りにするくらい容易い事ですの。

『……ふむ、なんだか気の滅入りそうな空気じゃないか。
 小細工をされてるね。周りの空気が薄くなってきてる』

えぇー!炎の指環が使えるようになったばかりなのにそんなのあんまりですの!
……だけど、わたくしの借りられる力は指環のものだけじゃありませんの。
バアル君を石畳に突き刺し、膝をついてその刀身を見つめる。

「バアル君。ここからはもう、その空気を薄める魔法だけでいい。
 完全にじゃなくてもいいから、飲み込んで欲しいですの」

そうすれば……後はわたくしが、わたくし達が頑張りますの!

わたくしは、死せる王達の力と、魂の欠片の寄せ集め。
だからわたくしが作り出せたのは、あくまでも彼らの模造品。
だけど炎の指環の力があれば……かの王達の生前の力を、完全に再現する事だって!

269 : :2017/07/31(月) 22:17:53.71 ID:3dVKA1EO.net
test

270 : :2017/07/31(月) 22:25:14.53 ID:3dVKA1EO.net
その意志に応じて指環から再び炎が溢れ、わたくしの体を取り囲む。
わたくしを形作る『欠片』と炎が混ざり合って……背中に羽を作り出す。
雷光よりもなお鋭いと謳われた女王蜂の羽を。
右手にはその毒針を、剣のように。
羽にも毒針にも、生前に刻まれた傷跡は残っていない。

風の刃は今もなお、私とスレイブ様の間に降り注ぎ続けている。
わたくしの、虫族の動体視力には、その軌道がはっきりと見えていた。
そして……地を蹴り、羽を羽ばたかせる。

無数の刃が新たに生まれてから、石畳に到達するよりも早く、わたくしはスレイブ様の懐にいた。
これが、雷光よりもなお鋭いと謳われた女王蜂の速さ。
と、スレイブ様へと斬りかかる直前、不意にわたくしの体を炎の膜が包む。

『小細工ってのはこうやるのさ。眩しいし、歪むぜ、その剣閃。
 しかし小細工と言えば、珍しいなウェントゥス。君が自分以外の手足を使うなんて。一体どういう風の吹き回しだ?
 それとも……とうとうボケたか?ついさっきも、いもしないティターニアに喋りかけたりして……』

イグニス様が指環越しにウェントゥスに話しかける。
……けどこれは、情報を引き出すとかそういうアレじゃなくて多分ただの嫌味ですの!
なんか喋り方も笑いを堪えてたり過剰に深刻な感じだし!

でも手助けしてくれたのはありがたいですの。
女王の毒は、掠めただけでもスレイブ様に十分な変調をもたらすはず。
だから速さに任せて……やたらめったら、斬りつける!

271 :ティターニア@時空の狭間 :2017/07/31(月) 22:46:53.61 ID:TwvFk4rz.net
次スレを立てておいたのでこのスレが入りきらなくなってから次に行く感じで!
(我の環境だと近頃はスレが落ちてもURLのリンクを押せば普通に見られるのだが皆そうだろうか
もし見られない者がいたら言ってほしい)
少しでも容量に余裕があるとスレがずっと残ってしまうようだ
ttps://mao.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1501508333/l50

272 :創る名無しに見る名無し:2017/08/01(火) 01:50:51.37 ID:F/CY4bkf.net
>>270
必要なのは
空気を読む魔法、じゃねーのお前

273 :ジャン :2017/08/06(日) 18:05:56.53 ID:3T329o6f.net
>「指環を集めて世界を変えると言ったな。あんた達の都合の良いようにか?それは今この世界で私腹を肥やす為政者と何が違うんだ。

水流を束ねて練り上げた槍を弾き、切り裂き、吹き飛ばしてスレイブが問いかける。
竜と化したジャンは翼をはためかせて槍を飛ばす手を止め、しばし考えた。

>「人間も、エルフもオークも、虫精だって変わりはない。お前たちが指環の全てを手にした時。
 お前たちが幸せにしようと願った者達以外の全ての者に不幸が押し付けられることになる。
 ウェントゥスが危惧していたのはそこだろうし、俺も同感だ。指環は不幸しか生まない。不幸しか生まないんだ」

>「みんな不幸になれば良い」

この暗黒大陸で差別されながら生きて、戦い抜くのはスレイブにとってどれほどの恐怖だったろう。
こうして今、ウェントゥスの尖兵として殺すことしか考えずに戦えるのはいっそ幸せかもしれない。
だが、ジャンは詭弁だと言わんばかりに笑い飛ばす。

「……簡単なことじゃねえか!みんな幸せにしろって指環に願うか、できなきゃ全部どこかに捨てちまうまでだ!
 ジュリアンから教えてもらわなかったか?いらねえもんはとっとと捨てろってな!」

風の塔、その周囲にまき散らされた暴風と風の刃。
水流の壁で3人の周囲はなんとか自由に動けるが、塔全てを覆うには至らない。
塔を守るかスレイブに突っ込むか、ジャンが迷っている内にフィリアが動いた。

>「……関係ありませんの。誰かを幸せに幸せにする事が、別の誰かの不幸になったって。
 わたくしは、わたくしがしたい事をするだけですの」

「……そうだぜ、フィリア。ずっと俺たち冒険者はそうしてきた」

>「……それは、また別の誰かになんとかしてもらいますの。
 そうやって不幸を消して、幸せを順番に回していけば……きっといつか、みんなが幸せになれますの」

後に続く言葉は、まさしくただの理想論。
実現するかどうか定かではない言葉を、この状況でフィリアは言ってのけた。

「ようやく覚悟できたみてえだな!指環を見ろよ、真っ赤に燃えてるみてえだぜ!」

フィリアはまっすぐにスレイブを見つめて、人差し指に投げた指環を嵌める。
疑問ではなく決意を胸に抱いたその姿は、まさしく指環の勇者に相応しい。

>「バアル君。ここからはもう、その空気を薄める魔法だけでいい。
 完全にじゃなくてもいいから、飲み込んで欲しいですの」

「風の刃は俺とティターニアで止められるだろうよ。後は突っ込んで殴り倒す!
 それじゃあ一丁――おっと」

フィリアが一瞬陽炎のように揺らめいて、ふわりと消える。
直後にスレイブの懐に潜り込み、瞬きする間に十は切り裂いただろう。
炎を纏って踊るように切り裂く様は、踊り子のようですらある。

「……たまには俺が後ろに行くか!水流の壁をありったけ張るぞ!」

『――ウェントゥス。君の一人でなんとかしようとする姿勢は偉大だが、
 この世界は既に僕らのものではない。彼らと共に行くべきだろう』

降り注ぐ真空の刃、それらを強烈な水流に巻き込んで無効化する。
詠唱もしなければ触媒もない、有り余る魔力をありったけ叩き込んだ単純な魔術。
水の流れをアクアが調整しつつ、ウェントゥスに念話で問いかける。

『虚無に飲まれるな、とは我らが古竜様の口癖だったろう?
 またあの長い説教を聞きたいのか?』

274 :ティターニア :2017/08/07(月) 23:06:02.31 ID:BYFAfZvO.net
スレイブは時折独り言のようなことを呟いている。否、指環に宿るウェントゥスと会話しているのだ。
更に、その内容からどちらかが完全に主導権を握っているわけでもないことが伺える。
ウェントゥスとしては完全な傀儡が欲しかったようだが、メアリが一枚噛んだ影響で今のところ利用し合う関係となっているようだ。
心の中でテッラにウェントゥスが言っていることの通訳を要請してみるも、『話がややこしくなっても困るので』と渋られた。
こちらのそんな調子に業を煮やしたのか、ウェントゥスが自ら幻影として飛び出して喋りはじめる。

>『ティターニア!息災じゃったか!?お主と別れて以来色んな菓子屋を訪ねたが、やはりお主のくれた飴が一番甘かった!
 さぁこっちへ寄れ、こんなポンコツ傀儡よりもよっぽどお主こそが風の指環を持つに相応しい!
 あん?テッラ?旧大陸の穴蔵に引き篭もってた根暗地属性なんぞ捨て置け捨て置け!メアリとかが拾うじゃろ多分!』

おそらく彼女が言っているのは聖ティターニア――王国時代のエルフの国の最後の女王にして、ハイランド建国の英雄の一人。
もちろん人違いだというのは言うまでもない。
しかしウェントゥスに呼びかけられたティターニアは、束の間の白昼夢を見た気がした。
それは今の状況とよく似た、指環の勇者一行の旅。しかし使う指環は、大地ではなく風の指環。
仲間の顔ぶれも今とは全く違っている。天才少年魔術師ダグラスに、エルフの魔法剣士カドム。
ちなみに大地の指環の使い手は、今のメンバーで例えるとジャンの系統のパワーファイターだったようだ。
ダグラスが外見がそっくりと言っていた通り、自分の姿だけは、今と同じだった。
大地の指環が遥か昔の記憶を見せたのか。
魂縁的には聖ティターニアは現ティターニアの曾祖母にあたるため、縁者である影響か。
あるいはもっと深い繋がりがあるのか――
しかし今はそんなことをじっくり考えている場合ではない。
『ほら言わんこっちゃない』とテッラに現実に呼び戻され、慌てて戦闘に意識を戻すティターニアであった。

>『なんっ……で!四竜三魔もケツァクも!どいつもこいつもなんで儂の言うことを聞かんのじゃ!
 儂はちゃんと世界の未来とか考えとるのに!儂だけが、ヒトに丸投げせず儂らで頑張ろうって言うとるのに――』
>「これは俺の戦いだと言った。あんたが千年生きていようが、シェバトを庇い立てするのならば今日がその歴史の終わる日だ」

「残念ながら似ているが別人だ。ウェントゥス殿の言うティターニアは戦乱に巻き込まれ死んでしまったらしい」

とはいえ、殆どの場合100年も生きられない人間から見れば年齢三桁も四桁もとてつもなく長く生きているという意味では似たようなものかもしれない。

>「指環を集めて世界を変えると言ったな。あんた達の都合の良いようにか?それは今この世界で私腹を肥やす為政者と何が違うんだ。
 古龍の力に願ったとしても、この世にあまねく全ての者を幸せにすることなど出来ない。
 それは力に限界があるからではなく、幸せの形が人それぞれだからだ。
 誰かにとっての幸せが、別の誰かの不幸によってもたらされることなど珍しくもない。俺が、そうだったようにな」

なるほど何かを変えるということ自体、誰かが必ず割を食う行為なのかもしれない。
例えば大部分の人間から見れば最悪な独裁国家を打倒した革命の英雄だって、独裁国家で既得権益を得ていた者にとっては憎むべき悪である。

>「お前たちがそれでも指環を集めると言うのなら――」
>「みんな不幸になれば良い」

>「……簡単なことじゃねえか!みんな幸せにしろって指環に願うか、できなきゃ全部どこかに捨てちまうまでだ!
 ジュリアンから教えてもらわなかったか?いらねえもんはとっとと捨てろってな!」

なんともジャンらしい威勢の良い答えである。

「その通りだ、今までの指環を集めた者が皆つい私利私欲に流れてそう願った前例がないのなら試すだけ試してみる価値はある。
駄目ならその時考えればいい」

>「『ブロウツイスト』」

多重術式陣による暴風の攻撃魔法が解き放たれる。
ジャンが水流の壁で、真空刃による攻撃を防ぐ。
それでも体の小さなフィリアなどは立つのは難しいと思われたが、バアルフォラスの力を借りて持ち堪えていた。

275 :ティターニア :2017/08/07(月) 23:08:22.00 ID:BYFAfZvO.net
>「……関係ありませんの。誰かを幸せに幸せにする事が、別の誰かの不幸になったって。
 わたくしは、わたくしがしたい事をするだけですの」
>「誰かの幸せが、あなたを不幸にしたなら、今度はわたくしがあなたを幸せにすればいい。
 それでまた、別の誰かが不幸になるなら……」
>「……それは、また別の誰かになんとかしてもらいますの。
 そうやって不幸を消して、幸せを順番に回していけば……きっといつか、みんなが幸せになれますの」

「そうだ、この期に及んでまだ公平な社会を実現しようとするとは真面目も度が過ぎるぞ。
今まで散々苦労したのだ、自分だけは幸せになってやろう、そう考えても罰はあたらぬ。
そなたが投げても案外他の者がどうにかしてくれるものだ」

>「……指環の力よ!」

炎がフィリアの体を包み込む。炎の指環に認められたようだ。

>「バアル君。ここからはもう、その空気を薄める魔法だけでいい。
 完全にじゃなくてもいいから、飲み込んで欲しいですの」

>「風の刃は俺とティターニアで止められるだろうよ。後は突っ込んで殴り倒す!
 それじゃあ一丁――おっと」

フィリアが舞のようでもある目にも止まらぬ動きで、スレイブに怒涛の攻撃を加える。

>「……たまには俺が後ろに行くか!水流の壁をありったけ張るぞ!」

真空刃による攻撃はジャンの水流の壁で防げそうだ。ならば、ティターニアが対抗すべきは――

「空気正常化は任せよ! ――ライト」

ティターニアが普段は洞窟探索時などに使われる人工照明の魔術を唱えると、戦闘域全域の地面に緑が広がっていた。
テッラの魔力によって顕現させた概念的な苔だ。
苔であれば日向の植物と比べて、人工照明等の薄暗い場所でも効率的に酸素を供給することが出来る。
これにより、ウェントゥスの力によって奪われた酸素を空気中に供給する。
そうしてバアルフォラスの手があけば、彼の能力を他の事に使う事が可能になる。
そう、彼が最も得意とする知性食らいに回すことが。
知性は素晴らしい物だが、時として仇となる。
色々難しく考え過ぎて本当の願いが分からなくなってしまうことがある。

>『――ウェントゥス。君の一人でなんとかしようとする姿勢は偉大だが、
 この世界は既に僕らのものではない。彼らと共に行くべきだろう』
>『虚無に飲まれるな、とは我らが古竜様の口癖だったろう?
 またあの長い説教を聞きたいのか?』

アクアが竜同士のよしみでウェントゥスに説得をはじめた。これはチャンスかもしれない。

「バアル殿! 余計なものをそぎ落として本当の願いを引き出すのだ。昼間に我にやってくれたように!
――アースウェポン!」

知性食らいの側面も持つテッラの力を上乗せする意味で、バアルフォラスに大地属性付与の魔術をかける。

276 :スレイブ :2017/08/10(木) 18:22:19.27 ID:dkloH3rs.net
>「……簡単なことじゃねえか!みんな幸せにしろって指環に願うか、できなきゃ全部どこかに捨てちまうまでだ!
 ジュリアンから教えてもらわなかったか?いらねえもんはとっとと捨てろってな!」
>「その通りだ、今までの指環を集めた者が皆つい私利私欲に流れてそう願った前例がないのなら試すだけ試してみる価値はある。
 駄目ならその時考えればいい」

「詭弁だな……今度は人間同士で指環の奪い合いになるだけだ。そうなる前に俺が全て破壊してやる……!」

あるいは、それくらいの気楽さで指環を集める彼らの方が正しいのかもしれない。
帝国も、ダーマも、ハイランドも、指環を求める者達の多くは個人ではなく国家や集団としての願いのために動いている。
故にしがらみが多い。事情も血生臭さを帯びる。失敗が許されなくなる。
ティターニアやジャンのような、ある種適当で、ともすれば無責任ともとれる立ち位置だからこそ、目指せる地点がある。
しかしそれは、結果が彼らの善性に大きく依存するというリスクも大いに含んでいるのだ。

上空から瀑布の如く撃ち下ろす風の刃に、たまらずフィリアは五体を投げる。
百足の甲殻が屋根を作って主を護るが、音を立てて軋むその盾に限界は近い。

>「……関係ありませんの。誰かを幸せに幸せにする事が、別の誰かの不幸になったって。
 わたくしは、わたくしがしたい事をするだけですの」

だが、彼女は立ち上がった。
魔剣に身を預け、いまにも押しつぶされそうになりながら、それでも二本の足で地を踏む。

>「誰かの幸せが、あなたを不幸にしたなら、今度はわたくしがあなたを幸せにすればいい。それでまた、別の誰かが不幸になるなら……」
>「……それは、また別の誰かになんとかしてもらいますの。
 そうやって不幸を消して、幸せを順番に回していけば……きっといつか、みんなが幸せになれますの」
>「そうだ、この期に及んでまだ公平な社会を実現しようとするとは真面目も度が過ぎるぞ。
  今まで散々苦労したのだ、自分だけは幸せになってやろう、そう考えても罰はあたらぬ。
  そなたが投げても案外他の者がどうにかしてくれるものだ」

「そんなものは……空論だ。永遠に不幸を押し付け合うだけだ。
 そしていずれは、嫌気が差す。他人のために不幸になることに倦み疲れる」

スレイブは眉間を歪ませて刃の雨に更に魔力を注ぎ込み、威勢を強める。
しかしフィリアが再び膝を屈することはなかった。

>「指環の力が生み出すのは、不幸だけじゃない。
 アクア様もテッラ様も、イグニス様も、ウェントゥスだって、この世界の為を思ってここにいる。
 想いの形は、違うかもしれないけど……誰か一人くらい、幸せに出来ないはずがない」

炎の指環が空を舞い、まるでそこに収まるのが正しいかのように、フィリアの指へと嵌った。
指環を纏った指先がこちらへ向く。

>「もし、わたくしが選ぶなら……その一人は、あなたでいい」

「…………!」

反駁の台詞ならばいくらでもあったのに、言葉が出なかった。
フィリアの想いを、そう想ってくれている事実を、否定したくないともう一人の自分が叫んでいるかのようだった。

>「……指環の力よ!」

叫びに呼応して炎が彼女を巻いた。
失われていた片腕を補完するかのように象どり、やがてフィリアの新しい腕として確定する。
スレイブはその一部始終に敵意のない言葉で迎えた。

「やはりお前は……指環の勇者だ」

>「バアル君。ここからはもう、その空気を薄める魔法だけでいい。完全にじゃなくてもいいから、飲み込んで欲しいですの」

『わかってる。だけど大丈夫かいフィリア?空気を戻したとしても、降ってくる風の刃までは――』

277 :スレイブ :2017/08/10(木) 18:22:50.55 ID:dkloH3rs.net
バアルフォラスの警告を置き去りにして、虫精の女王は跳んだ。
その背にはティターニアやジャンにも劣らぬ『翼』が――女王蜂の翅がある。
魔剣が濃度を戻した大気を叩き、砲弾もかくやの速力でフィリアは飛翔していた。

「見えているのか……!?無数に降り注ぐ風の雨の一粒一粒が!」

フィリアの吶喊に迷いはない。まるではじめから道が開けているかのように、風の刃の全てを躱して疾走する。
虫の――複眼。雲に奔る紫電の一筋に至るまで見分けることが出来るとされる、脅威の動体視力。

「これが本来のお前の疾さか――!」

瞬き一つすら待たずにフィリアはスレイブの懐に入っていた。
かち上げてくる長針はスレイブの喉元を狙う軌道。反射的に受け太刀の構えで迎撃する。

>『小細工ってのはこうやるのさ。眩しいし、歪むぜ、その剣閃』

刹那、フィリアの身体を炎が包む。
確実に食い止めたはずの長針が、陽炎の如くぐにゃりと捻じ曲がり、こちらの剣をくぐり抜ける。
スレイブは咄嗟の体捌きで急所への一撃を躱すが、肩口を僅かに針が擦過していった。

「つ……!」

『イグニス!お主の仕業か……!!』

黙らされたはずのウェントゥスが懲りずに再び指環の中から声を挙げた。
ジャン、ティターニアに続いてフィリアまでもが指環に宿る竜から力を得ている。

『儂に次いでイケイケブイブイだったお主がヒトに与するとはどういう風の吹き回しじゃ!?風だけに!』

「炎だ」

益体もないやり取りをよそに、フィリアの持つ指環から愉悦を堪えるような声が響く。

>『しかし小細工と言えば、珍しいなウェントゥス。君が自分以外の手足を使うなんて。一体どういう風の吹き回しだ?
 それとも……とうとうボケたか?ついさっきも、いもしないティターニアに喋りかけたりして……』

『んじゃとぉ!!』

ウェントゥスはいきなりキレた。二回目だった。

『抜かしよったな小娘がぁぁぁぁ!!!四天王の中でも最弱みたいな立ち位置の分際でよう吠えたもんじゃのイグニス!!
 言いたいことがあるなら出てきて言わんか!!いつまでも指環の中に引き篭もりよってからに!
 帝国のヌルっ風に慣れたお主にゃダーマの風は冷たすぎるか?おおん!!?』

引き篭もっているのはウェントゥスも同じだ。ナチュラルに自分を棚に上げる風竜であった。

『ぜったい許さんからな!おい傀儡!あいつからひねり潰せ!!』

「俺に命令するな」

『むぎゃおおおお!!!』

フィリアが小さな身体を振り回すようにして針の乱打を叩き込んでくる。
スレイブがそれを受け、弾き、ときに後の先をとった斬撃でフィリアに防御を迫る。
そうして数え切れないほどの剣戟が、その数だけ火花を散らして彼らの周りを彩った。

千日手にも思える膠着。
だがそれは永遠ではない。訪れた終わりの予兆は、スレイブの足元。
確かに地面を噛んでいたはずの足が意図せずに滑り、わずかに膝を屈する。
目の前で針を振るうフィリアの姿が微かに滲んだ。

278 :スレイブ :2017/08/10(木) 18:23:41.25 ID:dkloH3rs.net
規制回避

279 :スレイブ :2017/08/10(木) 18:24:27.87 ID:dkloH3rs.net
「くっ……毒針か……!」

最初の一合。陽炎の初太刀はスレイブの肩を掠めていた。
小さなかすり傷と侮ったそのツケは、傷口から流れ込んだ幻惑の毒という形でスレイブに降りかかる。
機を逃さず、畳み掛けるようにフィリアの剣閃が苛烈さを増す。押し切られる。

『イグニスの助太刀がなんぼのもんじゃ!儂の傀儡のほうが強い!儂が憑いとるんじゃからな!!』

風の指環がスレイブの意図を待つまでもなく輝き、広範囲へ無作為に降らせていた真空刃の標的をフィリアへと絞る。
狙いは正確無比に、フィリアだけを掻き消す軌道だ。

>「……たまには俺が後ろに行くか!水流の壁をありったけ張るぞ!」

押し寄せる波濤の如くフィリアへ襲いかかる刃の群れを――『本物の波濤』が飲み込んだ。

>『――ウェントゥス。君の一人でなんとかしようとする姿勢は偉大だが、
 この世界は既に僕らのものではない。彼らと共に行くべきだろう』

水竜アクア。ジャンの身体を借りて顕現した水の守護者が、風の刃を残らず迎撃する。

>『虚無に飲まれるな、とは我らが古竜様の口癖だったろう?またあの長い説教を聞きたいのか?』

『ア、ク、ア〜〜ッ!!一番最初に裏切りおって〜〜っ!!あのネレイド共がそんなに大事か!?
お主はいっつもそうじゃ、いっつも!今度は何だ、そのハーフオークに絆されたとでも言いよるのか!』

「黙ってろウェントゥス……!」

スレイブがふらつく足取りを精神力だけで抑えつけながら忌々しげに吐き捨てる。
すでに剣戟の天秤はフィリアへと傾き、スレイブは防戦一方となっていた。

『傀儡!』

「何故だ……何故剣の鋭さが増している?何故魔法を使える?この酸素濃度で激しく動けば酸欠は免れられないはずだ……!」

ざり、と一歩後ずさる。足の裏から返ってくる地面の感触は、ひび割れた石畳のものではなかった。
眼球だけの動きで視線を遣れば、足元はおろか戦闘領域一帯を覆うようにして広がる、緑の絨毯。

「……苔、だと……?」

>「空気正常化は任せよ! ――ライト」

ティターニアがテッラの力で繁茂させた苔を魔法の光で照らし、光合成をさせていたのだ。
薄められていた酸素が元に戻り、そしてスレイブを有利に傾ける要素の全て失われた。
げにおそろしきは指環の勇者。手にしたばかりの力でこれほどに高度な連携を、おそらくは即席で完成させている。

――否、彼らを強者たらしめているのは、きっと連携の巧拙だけが理由ではない。
ティターニアも、ジャンも、フィリアも、付和雷同に同じ方向を向いている。
スレイブを助け、シェバトを護り、世界を変える……その目的へとまっすぐに進んでいるから。
その歩みに……淀みがないから。
だから強い。

「ふざけるなよ……!」

スレイブの肩口から鮮血が迸った。
彼に深手を負わせたのはフィリアではない。切り裂いた傷は長剣によるものだ。
スレイブは自らの剣で毒針のかすり傷を刳り、打ち込まれた毒を血肉ごと捨て去ったのだ。

「ふざけるなよ、ふざけるな。お前らがそんな風に思えるのは……他人を疑わずにいられるのは!
 お前らが幸せだったからだ。善良な人々に愛され、まっすぐ生きることが出来たからだ!」

総レス数 279
513 KB
掲示板に戻る 全部 前100 次100 最新50
read.cgi ver 2014.07.20.01.SC 2014/07/20 D ★