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【TRPG】バンパイアを殲滅せよ【現代ファンタジー】

1 : ◆GM.MgBPyvE :2017/02/25(土) 11:07:15.65 ID:3tEC9RJr.net
東京都副都心――新宿

立ち聳える無数のオフィスビルと網の目の移動路線、絶えず行き交う人の群れ。
夜はまったく違う顔を持つこの街の何処かで……あなたは耳にしたことがあるだろうか。
『吸血鬼(バンパイア)は実在する』という噂を。

ある日あなたは目撃してしまう。
眠らぬ街の片隅で、黒い影が倒れた少女に覆いかぶさるのを。鋭く尖る乱杭歯と、光る眼を。
名も知らぬ少女の喉元にくっきりと残された、二つの小さな噛み痕を。
あなたは確信した。そして決意した。この街のどこかに潜むバンパイアという化け物を駆除しなければと。
その手に握る銀の弾頭。
それを彼等の胸に打ち込めるのは――あなただけなのだから。

ジャンル:バイオレンスファンタジー
コンセプト: 現代の日本を舞台にしたリレー小説型シューティングゲーム
ストーリー: 特になし 導入や設定、ネタフリがあれば自然と組み上がるはず
最低参加人数:1名(多くても3名までとします)
GM:あり
決定リール:あり ※詳細は後述
○日ルール:7日
版権・越境:不可(ドラキュラ伯爵でも不可)
敵役参加:なし ただし途中で吸血鬼化した場合はその限りではない
避難所の有無:なし 連絡等は【 】でくくること
注意1:バンパイアは強敵です。普通に撃ってもそう易々と当たってはくれません。要は「工夫を凝らして」
注意2:目的のために手段を選んで下さい。警察もいます。捕まっても良ければご自由に。
注意3:すべての年齢層が見ています。残虐的行動はやむを得ないにしても、それを生々しく「表現」してはいけません。
注意4:あくまでゲームです。周囲の人に当たるべからず。会議中の閲覧禁止。通行人を殴るのは以ての外。

このゲームはフィクションです。実在の人物、団体等とは一切関係ありません

254 :創る名無しに見る名無し:2018/10/17(水) 14:46:48.25 ID:ZU7x6aHX.net
中学生でもできるネットで稼げる情報とか
暇な人は見てみるといいかもしれません
いいことありますよーに『金持ちになる方法 羽山のサユレイザ』とはなんですかね

KF4

255 :脳内妄想 :2018/10/21(日) 06:06:06.13 ID:1hCZoTcX.net
こんな方々に演じてもらえたらなあ……のコーナー(敬称略)

佐井 浅香 綾瀬 はるか
菅  公隆 向井 理
菅  公隆(少年時代)小池 鉄平
水原 桜子 石原 さとみ
水原 秋子 石原 さとみ
麻生 結弦 千葉 雄大
如月 魁人 松坂 桃季
柏木 宗一郎(執事)平山 浩行
柏木 宗一郎(素顔)坂口 賢二
田中 与四郎 時任 三郎(特別出演)
日比谷 麗子 芦名 星
佐伯 裕也 水嶋 ヒロ
水流先輩 オダギリジョー

256 :失礼致しました :2018/10/21(日) 06:12:02.16 ID:1hCZoTcX.net
小池さんは鉄平ではなく徹平ですね、ごめんなさい!

257 :佐井 浅香 :2018/10/21(日) 09:01:00.67 ID:1hCZoTcX.net
しばらく誰も口を開かなかった。
あたしも、麻生も、カイトも。そしてベットに横たわったままこっちを見てる麗子も。
あたしはため息ついて、実験台の横の椅子に座りなおして……あれ? って思った。ここにもう一人、誰か居なかったっけ? って。
でもその時、遠くで馬の嘶く声がしたの。
咄嗟に立ち上がったカイトが、窓際に駆け寄って、少しだけ開いてたガラス窓をぐっと押し上げて――
「あっ!」
思わず叫んだ。吹き込んだ冷たい風が、机に置いてあったルーズリーフを吹き飛ばしたから。
柏木さんがあたしに顔を向けたまま、しかもさっきくっつけたばかりの右手でそれをキャッチ。
(わお! さっすがヴァンパイア!)
それを手渡そうと足を踏み出した柏木さんの前に、麻生が割り込んだ。

「麻生君?」
「状況を確認させて下さい。上層部――つまり副大臣達が、議事堂内にて伯爵を拘束した。そういう事ですか?」
柏木さんが一度目を閉じて、そして部屋に居るみんなを見回した。
「おそらくそうだ。伯爵様を囮とし、全国に散らばるヴァンパイアを招集させる。そこを叩く手筈になっていたからね」
「俺達ハンターへのお達しは? 」
カイトがしきりに耳たぶのあたりをいじりながら柏木さんに問いかけた。
「魁人くん?」
「その……俺の無線、壊れちまったみてぇで」
「君は麻生くんと共に現場に向かいたまえ。麻生は人間として無事生還、作戦に加えるよう上には言っておく」
「それはいいんですが、解らないのはメールの意図です。何故……わざわざ佐井先生を呼び出す必要があるのか」
「そう言えばそうよね。どうして? 柏木さん」
「それは……伯爵様自ら先生の召喚を頼んだのではないだろうか。この期に及び、協会が先生を『目標』にするとは考えにくい」

思い出したようにルーズリーフを手渡そうとした柏木さんの手を、あたしは押し戻した。
え? っていう顔してあたしを見る柏木さん。
「じゃあこの続き、やっといてくれる?」
「は?」
あたしは手書きで書きなぐった部分を指差して見せる。
「いま……グルタールアルデヒドで組織を固定した所……そう、その箇所。その続き、任せたわ」
柏木さんったら真面目&困惑顔。 
「何故わたくしが?」
「議事堂へ行けって言ったのはあなたよ。じゃあこっちの続きは誰がやるのって話よね」
「しかしわたくしは」
「あなたさっき、『もうその事を頼まれたか』みたいな事言ったわね?」
「え? ええ」
「つまりこれは、伯爵に頼まれるであっただろう大事なお仕事。違う?」
「……」
「大丈夫よ! 有能な貴方なら出来るわ! ぜ〜んぶこのマニュアルに書いてあるから!」
って指差した電顕操作その他機器の使用説明書(たった5,6冊)を横眼で眺めた柏木さんが、口をパクつかせて――
「明日になってもあたしが帰らなかったら、電顕写真もプリントしといて! あなた自身の組織写真よ、興味あるでしょ?」

黙り込んで、ノートめくって。何事かブツブツ言い始めた柏木さん。
その肩をポンっと叩いたあたしは、ドアに向かおうとしたけど、でも麗子に止められた。
「麗子! もう動けるの!?」
「おかげさまで。って言いたい所だけど、喜んでる場合じゃないわ」
一度笑った口元を引き締めた麗子が、あたしの腕をぐっと掴む。
「解ってるの? 協会はハンター達に『佐井浅香』の殺害許可を出している。行けば必ず……殺される」
「え? ん……そんな気は……してたけど……」
「柏木局長も局長だわ。そのことを知ってて、浅香を向かわせるなんて……どういうつもりですか?」
結構な剣幕に柏木さんったら困った顔しちゃって……でもあたしには……柏木さんの意図が解った気がして。
「それは、桜子さんの時と同じ理由。そうよね? 柏木さん?」
麗子が眉をひそめてこっちを見る。
「柏木さんはヴァンパイア撲滅を望んでる。でもその一方で、彼らの人間性を尊重してる。でしょ?」
あたしの言葉に柏木さん、やっぱり困った顔をして。
「貴方は言ったわ。お嬢様の魂を救ってくれてありがとうって。伯爵も……そうなんでしょ?」
あたしは柏木さんの頷く顔が見たくて、しつこいくらい柏木さんを問い詰めて……

でもついに柏木さん、首を縦に振らなかった。

258 :如月 魁人 :2018/10/28(日) 09:58:12.80 ID:nGnOQIoQ.net
カシャッとベレッタにマガジンを嵌めこんだ結弦が俺を見る。
ハッとしたね。ハンターが現場に向かう時の眼だった。
現場はハンターに取っちゃあ死地よ。ヴァンパイア相手に生きて帰れる保証なんて何処にもねぇ。
そんな時にそんな顔するてめぇは……やっぱハンターなんだな。

「免状持ちが組むこたぁ滅多にねぇ。お手柔らかに頼むぜ?」

俺ぁ弾薬込め終わったシリンダー戻しながら、奴に向かってニヤリと笑って見せた。
軽口のつもりで言ったんだが、奴は唇噛んで眼ぇ逸らしやがった。まるでこれが今生の別れみてぇな顔してな。
……解らねぇでもねぇ。
俺達ハンターには暗黙の約束事があってな。
ヴァンパイアに噛まれちまったそん時ぁ……仲間だろうが何だろうが互いに躊躇しねぇっていう確約だ。
まあ当然っちゃあ当然だ。噛まれたらもう人間じゃあねぇからな。
でもな、ヴァンプの野郎、あの手この手で来るからな。さっきの伯爵の手管も見たろ? 
ハンターを手駒にする為なら汚ねぇ手も平気で使いやがる。
結弦は迷ったと思うぜ? 俺ぁあん時、まだ噛まれてなかったもんよ。
伯爵が麗子さんから離れたときぁマジほっとしたぜ。上層部もヤル時ぁヤルってこった。

「魁人くん、麻生くん、伯爵様と佐井先生を頼んだよ」

司令の言葉に、俺ぁ頬が引きつったね。
頼むってどういう意味だろうってね。
でも敢えて突っ込まなかった。司令ははっきり「始末しろ」とは云えねえ立場だからな。
協会の人間で、俺達の味方だって事ははっきりしたが、ヴァンプである以上伯爵には逆らえねぇもん。
だから伯爵は始末する。
ただ、女医のこたぁどうすりゃいいんだ? 
(俺らを助けてくれた事に関しては置いとくぜ。ハンターとしての俺らがどう対処すりゃいいかって話だ)
上の指示は「始末していい」だ。
してもいい。つまりサーヴァントになろうがなるまいが、必要に迫られりゃあ殺していいってこった。
理由は彼女がヴァンプ志願者だから。
だがどうもすっきりしねぇ。彼女、結弦や麗子さんのこと、本気で治そうとしてたからな。
これだけははっきり聞いといた方がいいかもしんねぇ。

「あんた、まだ『なりてぇ』とか思ってる?」
「は?」
「ヴァンプになりてぇ気持ちは変わんねぇのかって聞いてんの」
「変わらないわ」

……変わんねぇのかよ。

「はっきり言っとくぜ。俺は恩人でも容赦はしねぇ。ヴァンプとその志願者はハンターの撲滅対象だ」
俺は銃口を女医に向け、その眉間に狙いをつけた。
「気が変わらねぇってんなら、いまこの場で撃ってやるぜ。ヒトだからこそ楽に逝ける急所にな」

259 :如月 魁人 :2018/10/28(日) 11:57:19.06 ID:nGnOQIoQ.net
何か言いたそうに口を動かして、俺の眼を見てた女医が、口を閉じて目を瞑る。
……なんでだよ。なんでそうまでして……ヴァンプなんかになりてぇんだよ。

「俺には……わかんねぇ」
俺の親指は撃鉄の上に軽く乗っかったまま。
「ガキの頃、夜の明けねぇうちに起き出して……馬に乗って浜沿いを走ったもんだ」
女医が目ぇ開けて眉間に皺を寄せやがった。司令も結弦も麗子さんも、おんなじ顔して俺を見る。
……やりにくいぜ……ったく。

「よく晴れた日なんかはな。姫……ああ、俺の馬のことだがな? 彼女が立ち止まってはブルルっと鼻ならす訳よ。
 降りて見れば……一面に生えたキスゲ(エゾカンゾウ)が足元くすぐって……所々ハマナスも咲いててな。
 風はねぇ。刺さるくれぇ冷てぇ空気。そんな中、水平線のヘリにゃあくっきりと……利尻の山が浮かんでる。
 たまに知り合いの漁師が獲った魚持ってくんのよ。ソイって魚がいるんだが、生きじめしたてのそいつをサっと捌いて
 その場で口に入れた時のシャッキリ感と? しつこくねぇ旨味がもう最高なんだぜ? 東京じゃあ味わえねぇ贅沢よ」

誰も、何も口にしねぇ。銃口を女医に向けたまんまの俺はため息をひとつ。

「俺ぁ決めてんだ。ヴァンパイアを一掃できたその日が来たらあそこに戻るってな。
 キリリと冷てぇ早朝に、利尻見ながら、塩味の効いたソイを食うってな。人間で居られる喜びを噛みしめながらな」

何がおかしいんだか、女医がクスッと笑った。何だよ、結弦も麗子さんも……司令まで笑うこたぁねぇじゃねぇかよ。

「あなたの言いたい事は良く解ったわ、えっと……」
「如月魁人だ。魁人でいいぜ」

思わず眼ぇ逸らした。すっげぇ笑顔でこっち見た女医があんまり綺麗ぇだったからな。
……ち……ちげぇよ! 俺が女なんかに惚れるわけねーだろ! 俺には姫っていう大事な相棒が居るからな!

姫の話をすりゃなんとやら。
玄関ですんげぇ音がした。外から大砲でもぶち込まれたみてぇな。
メイド達のすんげぇ声が壁ごしに聴こえたんで、俺達は勢い勇んで廊下に出た。
そしたら居たよ。あの頑丈なドアぶち破って駆けこんだ犯人が。

「姫! お前なにやってんだ!?」

俺の声を聞いた姫は、静まるどころかますます乱気になった。棒立ちになって前足振り上げるわ、尻っぱねて靴置き場壊すわ。
俺は姫の腹下に駆け込んで、彼女の胴体にしがみついた。
(馬ってもんは自分の腹の下には手も足も出ねぇからな)
片手で鬣(たてがみ)掴まえて、片足で地面を蹴って背中に乗っかる。またまた姫が棒立ちになったが、離すもんかってんだ。

「姫! しずまれ! 俺だ!」

さすがに耳元で叫べば聴こえんだろ。やっと前足降ろした姫が、短く鼻ならしてこっちを見た。
「乗れよ結弦! 女医もだ! 早く!」
「待って? まさかそれに乗って議事堂に?」
俺ぁ二人の腕掴んで後ろに座らせた。ちと強引だったかもしんねぇ。でも居ても立っても居られなかったんだぜ。
「地下鉄も車もまどろっこしいぜ! 馬が一番早ぇ!」

さっき……高く嘶いた姫の眼が金色に光って見えたのは……気のせいなんかじゃねぇ。
司令と同じ、ヴァンパイアの眼だ。あの蝙蝠はやっぱ伯爵の手下だったわけだ。

……畜生……伯爵の野郎……ぜってぇに許さねぇええええ!!!!!

260 :柏木 宗一郎 :2018/11/04(日) 09:59:55.64 ID:fKfP6Bqb.net
マニュアル本の見慣れぬ記号、薬物名の羅列を解読しつつ、仕事に励む麗子に目を向ける。
ここに残り、私の補佐を申し出た彼女は、このような自然科学系の仕事も出来るのか。
ここは密かに佐井浅香の後を追い、伯爵様の元へと馳せねばならぬ所だが……

「局長。浅香のことが気になります?」

手を止め、黒目勝ちの瞳でこちらを見上げる麗子。16年前――まだ彼女が学生であった頃と同じ眼だ。

「佐井先生だけじゃない。麻生と魁人のことが心配だ。そしてなにより……伯爵様の事が」
「伯爵……様?」

ゆっくりと控えめにヒールを運び、そっとこの袖を掴んだ彼女がこちらを見上げる。

「人間だった貴方の身体を――貴方のすべてを奪ったそいつが……心配だっていうの?」

腕を掴む、その指に力が籠もる。
私は唇を噛んだまま目を逸らす。
彼女がそっと……手を離す。
ゆるりとカーブを描く前髪がサラリと横に流れる。

「私の事は……どうなの? さっきの『私とは何でもない』……って言葉は……本心なの?」
「君の……あの時私に言ったあの言葉こそ偽りではないのか?」

室内は静まり返ったまま。
再び吹き込んだ秋風が彼女の長い後ろ髪を靡かせる。

防衛省に勤務していた彼女がハンター協会に出向し、この私の秘書となったのは半年前のことだ。
つまり私が麻生結弦の屋敷から逃亡し、協会へと復帰した直後。
沢田防衛副大臣の推薦だと寄越された彼女は、仕事上実に有能だった。
無茶とも言える上からの指示をこなしつつ、ハンター育成業務に奔走していた私を実によくサポートしてくれた。
そんな彼女がある日、この私に対する想いを打ち明けた。
16年前、大学のサークルで顔を合わせた……あの時から一時も忘れる事は無かったと。
衝撃だった。
ヴァンパイアとなってから……いや、それ以前から人としての自分を捨てていた。
悲願達成のためには、恋愛は無論、非合理な感情も生活も不要だと。
そんな私の心を揺るがした彼女の告白。無論、応じられる身ではない。
伯爵からは、彼女への情報は最小限に留めるよう警告されていた。
沢口は事務局長であるこの私を不審い、諜報の目的で彼女を送った節があると言うのだ。
迷った挙句、しかしそれ相応の覚悟で出向いた逢瀬の場。
そこはじき解体を待つばかりの古い道場だった。

「良かった。来てくれないかと思ってた」

なんと彼女は、白の道着に黒の袴――合気道の稽古着を纏い待っていた。

261 :柏木 宗一郎 :2018/11/11(日) 07:14:18.73 ID:beBATOMH.net
床面中央に敷かれた古畳の中央ややこちら寄りに彼女は座していた。
陽が落ちたばかりのうす暗がりの中、時折差し込むヘッドライトの光が彼女の背を照らし出す。
背筋を伸ばし、両手の拳を膝に乗せるその姿勢で……ずっと……ここで私を?
そう言えばあの頃も。
サークル帰りに決まって立ち寄るこの場にて、一番先にここで待ち、そして最後まで居残っていたのが彼女だった。
彼女が何故この場を選んだか。わざわざ聞く必要もあるまい。

神前に向かって一礼し、素足となった足を畳に乗せる。
敷き詰め固めた藁を踏む弾力。あちらこちらがほつれ、擦り切れた畳はまだ温かい。

「遅くなってすまない」

私の声に振り向いた彼女が、はにかむ様な笑顔を浮かべ首を振る。
何も言わず、ゆっくりと立ち上がる彼女。何故彼女はこの場を指定したのだろう。
その井出達は、かつての記憶を共有する為だろうか?
一間(2m弱)ほどの間合いを取り、向かい合った我々は、少し長めの礼を交わした。
16年前のあの時ならば、即座に半身の構えを取るところだ。
ところが彼女は、一向に構えを取らず、ただ腕を横に下げたまま強い視線を送るのみ。そして――

「私が勝ったら……付き合ってくれる?」
「え?」

思わず訊き返した。
どちらかが仕掛け、それを返す。返された側は腕関節と取られ、横受け身を取る。或いは抑え込まれる。
すべてが決まった型で、「演武」と呼ばれる動きだ。通常、合気道では鍛錬として実践的な試合を行わない。
つまり、「勝ち負け」という概念がないのだが。

彼女は戸惑う私になんら構わず、一歩前に出た。
腹下に溜めた右拳をまっすぐに突き出す正拳突き。合気道ではない、空手のそれだ。
私はそれを交わさず左掌で受け、掴み取った。だが彼女は動きを止めず、むしろそのまま前に出た。
左で私の襟を取りつつ。
しばし状況の整理に時間を要した。無様に尻もちを突いた私の上に跨った彼女が得意げに笑う。
なるほど、彼女は私の脚を払ったのだ。
いや、「払い」ではなく、「刈り」というべきか。柔道で言う大内刈りだ。
袴をつけた足はその動きが察知し辛い、と一応は云い訳しておく。

「驚いた。君がまさか、そんな手でくるとは」

クスリと笑った麗子が自分の額を私の額に押し付ける。
「私もよ。意表を突ければ……格上に勝つことも出来るって」
今にも触れ合いそうな彼女の唇と、その吐息の甘い香り。
それはヴァンパイアであるこの身にとってはあまりにも煽動的な知覚情報だった。
私はたまらず彼女の両肩を抱きしめた。その後で私の取った行動は、彼女にとっては「OK」のサインに違いなかった。

262 :柏木 宗一郎 :2018/11/14(水) 07:00:09.47 ID:4WfO08Gx.net
「あの夜の事は忘れないわ。貴方は私を何度も……それこそ数える事を忘れるくらい、抱いてくれた」

取り巻く機器が低く振動する音が、私を現実に引き戻した。
じっとこちらを見上げる麗子。濡れて光る彼女の眼に、この自分の姿が映りこんでいる。

「……今となっては悔やまれる。解体寸前とは言え、神聖なる神前にて……私は君の魅力に負けたのだ」

眼を背けた視界に、再び彼女が飛び込んできた。
感極まったのか。この腕を掻い潜り抱きついてきた彼女を、私はただ抱き返した。

「それが何? いけない事なの? 嬉しかったわ。寝物語に……貴方は身の上を話してくれた」
「……そうだったかな」
「そうよ。美しい長崎の街並のこと。故郷の島を取り囲む海のこと。その島で起こった事件の事も」

彼女の言葉が更なる過去の記憶を呼び覚ます。
寒空に凛と輝く明けの星。朝焼けに染まる礼拝堂。カサリと音を立てる紅葉の葉。
開け放たれた両開きの扉。色濃く漂う……血の匂い。

「貴方はその島での……ただ一人の生存者。だから――」
彼女の顎を上向かせ、唇を重ねた。あの光景を今だけは思い出したくなかった。
この体重に耐えかねるように身を沈める彼女の身体を横抱きにする。触れ合う唇を離さぬまま。
傍の診療台にその身を横たえながら、求める彼女の唇と舌先の感触をしばらく楽しむ。
彼女の手が胸板をくすぐり、やがて脇下から腰に下がり……その指先がベルトの金具を探り当て……
緩急をつけ撫でさするその技法に嬉々として反応する身体。
ふと笑いが込み上げる。
クノイチと呼ばれた、かの時代の女の忍びは、こうして男から情報を得たと言うが。
彼女は防衛省の人間だ。沢口が送りこんだ理由は、この私がヴァンパイアではないかと疑った為だ。
しかし、とうにその事は知れている。彼女は決してその目的でこうしている訳ではない。

「怖くは無いのか?」
唇を軽く触れ合わせたまま聞いてみる。
「君が相手をしているのは……血に飢えたヴァンパイアだ」

あえて両眼に力を込め、彼女の眼を睨みつけた。すべてが黄金に染まる中、彼女の黒い瞳がまっすぐにこちらを見つめ返している。

「怖くなんかないわ。浅香がワクチンを打ってくれたもの」
「そうだった。ならば君から少しだけ……『分けてもらう』のはありだろうか?」
「そうね。少しなら……構わないわ」

私達はしばらくの間、互いの身体を求めあい、確かめ合った。
セットしていたタイマーの電子音が、操作時間を知らせるまで、その行為は続いた。
その間不思議と……血の欲求が性のそれを上回る事はなかった。
あの道場で彼女を愛した……その時のように。

ヴァンパイアはある意味、人間よりも人間的だと言えるだろう。そうと決めた相手には決して『手出し』をしないという点で。

263 :菅 公隆 :2018/11/17(土) 07:11:32.52 ID:mDic8v7R.net
刻一刻と過ぎる時間。
私は椅子の背に身体を預けたまま、心臓を焼かれるような発作の苦痛にひたすら耐えていた。
無言でこっちに銃を向けてるクロイツ達。耳に入るのは彼らの息遣いと、規則正しく動く時計の秒針の音だけ。
時間は10時。1時間も放置プレイなんて酷過ぎる。
そんな時だった。ノックもなしにドアが開いたのは。
沢口だ。彼に続いて入って来たのはクロイツと副大臣だけ。
あれ? 先生は?

「どうですか? 御気分の方は」
ゆっくりとカーペットを踏みしめながら近づいてくる沢口達。
私は何も答えなかった。気分なんていいはずがない。だいたいさ、人にこんな手枷足枷つけといて良くそんな質問出来るよね?
まあね。軽口で返してもいいとこだけどね。
正直、そんな余裕なんかないって言うか。
「たった今、総理に話を通して置きましたよ。貴方がヴァンパイアであり、今の職を全うする権利などない事を」
私は上目遣いに彼を睨みつけてやった。まるで勝ち誇ったような沢口の顔があんまり胸糞悪かったからさ。
視界が黄金に染まる。
今彼らには、この金の眼が見えている。一度でもヴァンパイアを相手にしたことあるなら……この意味が解るはず。
息を呑むクロイツ達。
沢口もハッとした顔して足を止めて……でも流石は副元帥。すかさず手を動かして、クロイツ達に指示を送る。
ゴクリを唾を呑みこみ、それでも意を決したように頷いて駆け寄って来るクロイツ達。
彼らの銃口が、両の米神と胸の真ん中に押し当てられる。
安全装置の外された銃の、トリガーにかかったままの人差し指。一触触発ってのはまさにこの事だ。

「……あの総理が……君の話を信じたのかい?」
気分も体調も最悪だったけど、私は努めて軽い口調で聞いてみた。聞かずには居られなかった。
今現在、総理は二木俊太郎が務めている。首相だった父の補佐役で、私も幼い頃から顔見知りだった人物だ。
私の嗜好症の事も知った上で、色々と世話してくれてさ(こっそりPC貸してくれたり?)、
大臣就任に漕ぎ付けられたのもほとんどこの人のお蔭でさ。
そんな人が簡単に沢口の言う事信じるかなあって……ちょっと疑問に思ったのさ。

沢口は返答するかどうか迷ってるようだったけど、でもぎゅっと口を結んでしまった。
……だよね。
不用意な発言は手の内を知らせる危険がある。
私ならそうする。
そしてもし私が沢口の立場なら……緊急対策本部を立ち上げるよう総理を説得してる。
警察と自衛隊にいつでも出動出来るよう要請し、その上で……拘束したヴァンパイアの長を最大限に利用する。

沢口はずっと私について補佐をしていた男だ。考えは同じはず。
ならば必ず……この状態を続けたまま夜を待つ。
ならば――時間はまだ十分にある。

264 : :2018/11/18(日) 09:10:08.86 ID:YeXrMukX.net
もし終了前に容量が512KBを超えた時は、資料庫に場所を移す予定です
そうならないよう努力はしますが!

265 :菅 公隆 :2018/11/18(日) 09:11:16.24 ID:YeXrMukX.net
誰かがドアを叩く音。近くに居たクロイツがほんの少しだけドアを開ける。
なんだろう。総理からの言伝かな。あの菅くんがヴァンパイアの筈がない! なんて協会側に対抗してくれると嬉しいんだけど。
怪訝に眉をひそめた沢口が私の方をチラリと見る。
彼の肩越しにそっちを見ると、白衣を着た佐井先生が立っていた。
「まさか、あのメールで……本当に来るとはね」
呟きながら、さっき私から取り上げていたスマホを手に取る沢口。……なんて文面で送ったんだか。
「伯爵……菅伯爵は何処なの?」
「伯爵? ああ、菅もと厚労大臣ならあそこですよ」
沢口がまっすぐにこっちを指差して、それを見たクロイツ達が慌てた様子で私から離れる。
先生の黒い眼と眼が合った。
彼女ったら口をパクパクさせて、拘束されたまま椅子に腰掛けてる私の頭から足の先まで眺めて回してさ、こう言ったんだ。

「あはっ! 伯爵ったら、ずいぶんいい格好じゃない!」

ガクッと力が抜けたよ。沢口もクロイツ達も明らかに気押されてる。
気持ちは解るけどね。
まるでおろしたての白衣はパリッと糊が効いてて、ビシッとした往診カバンにショッキングピンク色の聴診器、
ミニスカートから覗く素足はほんと、最高に形が良くて。
キリッと沢口を見返す眼はラメが入ったみたいにキラキラで(この部屋のレトロな照明のせいもあるけど)、
そんな先生が艶々でサラッサラの黒髪をパサってやった時の男連中の顔、みんなにも見せてやりたいよ、ほんと!

「発作がおさまったら知らせて下さい」
「発作?」
「主治医ならご存知でしょう。我々は外しますから御随意に」
「え……ああ、そうね。解ったわ」
随分と神妙な顔つきで頷く先生。沢口がまたまた取り巻きを引きつれて部屋を出る。残ったのは私と先生だけ。
ま、ドア口で窺ってるんだろうけど。もしかしたら、議事堂ごと囲まれてるかも。

「やあ先生」
私は仰向けで背もたれに寄りかかったまま、視線だけで先生を見上げた。
エラそう? 仕方ないじゃない。後ろ手のままだし、ほんと言うと息するのがやっとなくらいだったんだ。
「ちょっと……大丈夫?」
さっきまで余裕の体だった先生の顔つきが変わった。その表情にドキリとした私は思わず眼を逸らした。
らしくないって? それも仕方ないよ。この後私は……この人が田中さんの孫娘だってことを、嫌ってほど思い知ることになるのさ。

266 :佐井 浅香 :2018/11/19(月) 17:46:33.60 ID:QPlVLFTh.net
あたし達(の乗った馬)が議事堂に着いたのは、午前10時ちょうどくらい。
確かに車よりも電車よりも早かったけど、反則よね。信号とか渋滞とかまるっきり無視なんだもの。
不思議よね。パトカーと何度もすれ違ったのに、ぜんぜん注意されなかったのよ?

先に馬から降りてた麻生くんの手につかまって、よいしょって馬から降りて。
3人(プラス馬1頭)で門の前まで歩いていって、あたし、「え?」って思った。
だってだって……いつもなら制服着た衛視さんが立ってる筈の場所に、ライフル担いだ迷彩服の兵士さんが居たんだもの。
ううん、門前だけじゃない。敷地内も。……ほら、あのどーんと構えてる議事堂前の、植え込みとか植え木があるあの広い場所。
(行ったこと無い人も、きっと写真とかで見たことあるわね!)
そこにぎっしり詰めかけてるの。兵隊さんと……ほら、テレビで見かける……特殊部隊(SATのこと)の人達が。
敷地の外側はもう大混雑。
報道関係の車両とかパトカーがたくさん。警官となにやら揉めてる報道陣も居たりして?
四方の道路はほとんど無機能状態。
どおりで……渋滞がすごいわけよね。パトカーに呼び止められなかったのも、きっとそれどころじゃ無かったのかも。

「なんなの……いったい?」
あたしの呟きに、カイトと麻生が顔見合わせた。
「そりゃあ……あれだろ。ヴァンパイアどもが、捕まっちまった伯爵の野郎を……助けに来るかもってことだろ」
「あそっか。その為の武装ね?」
「って事は……上層部はその事を公表するつもりだろうか」
「一応っつーか、閣僚サマの一員だかんな。国民に黙って始末する訳にも行かねぇし、ちゃんとした公開の裁判とかすんじゃねぇの?」

カイトと麻生くんが見せた会員証(?)を見た門番さんがビッと敬礼して、一緒に通ろうとしたあたしは乱暴に腕を引かれた。
「……イッタいわね〜!! なにすんのよ!」
「通行を許可する為の照明、或いは書類の類いを見せて下さい」
「あるわけないわ! っていうか、聞いてないの? 菅厚労大臣に呼ばれたのだけど?」
「お名前は?」

名乗ったら意外にすんなり通してくれちゃって。なに? あたしの格好って……そんなに怪しい?

267 :佐井 浅香 :2018/11/24(土) 06:59:58.49 ID:0uqm5KPY.net
良く晴れた寒そうな空に、くるくるっと舞う黄色い葉っぱ。吹き付ける風がすっごく冷たい。
見て! 梢にしがみついてた葉っぱがみいんな振り落とされちゃって!

議事堂の敷地内がこんなに風情たっぷりだったって知らなかったわ。
門に着く前に通ったお庭(議事堂の前庭のこと)もすごいの! 
さっきお馬さんでさっと突っ切ったんだけどね? 右手が洋風、左手が和風の、ほんと本格的で素敵なお庭!
今度ゆっくり自分の足で散策してみたいわあ……
あたし、こんなお仕事してあんなトコに仕事場持ってるけど、庭園ってものにちょっとした思い入れがあるのよ。
ほら、小さい頃お祖母ちゃんにお茶とか習ってたでしょ?
あのお家にあったお庭もすっごく綺麗で大好きだった。
想像してみて? こんな日の……まだ夜も明けない冷えた朝。カポン! って鳴る獅子脅しの音で目が覚めて。
障子を開けて縁台に出てみると、赤い紅葉の葉っぱが池の上でゆらゆら揺れてるの。
それに見惚れてるあたしに、あ祖母ちゃんが得意げに言うのよ。
『千利休はねぇ……庭を綺麗に掃いたあとで、わざと紅葉を幾枚か散らしたのよ。その方が――』


高く嘶(いなな)く馬の声であたし、いまのこの時に戻った。
顔面まで迷彩模様の兵隊さんとか、真っ黒なゴーグルつけた装甲服の男達でひしめき合うこの場所に。
何も言わず、静かに佇んでる隊員達の視線が、一斉に馬に向く。

「そう言えばカイトくん、そのお馬さん……おかしくない?」

あたし、実はずっと考えてた事を口にした。そうなの。この子、月姫って名前だったかしら。
とにかくすごいスタミナだったのよ。
距離は5〜6km、男2人と女1人だから、200kg近い荷物を乗せて……
しかも通行人とか車両を避けてジャンプしながらほとんど全力疾走。
サラブレットってそんなに体力ないはずよ? だから普通じゃないって思って訊いてみたの。
カイトは少し意外な顔して足を止めた。

「今更……っつーか、俺と姫は仲間内じゃ公認だぜ?」
「いや、そういうことじゃないて」
「あ? じゃあ何処に置いとくかって話か? なら問題ねぇ。ここの中庭ぁ……もともと馬繋ぐためにあるらしいからな」
「違うって! さっきからキバむき出して、白い息をフーフー出したりして……もしかしてこの子――」
「……気付いてたのかよ」
「え?」
「平気だぜ。今んとこ……まだ俺の言うこと聞いてくれっから」

カイトがふうっとため息ついて、それ以上何も云わずに歩き出した。
麻生も内心気がついてたみたい。
深刻な顔してカイトに続いて――あたしはそれ以上何も訊かなかった。
たぶん今までで一番長く感じた時間。
正面より右にそれた玄関口(参議院側の昇降口)に辿り着いた時、カイトが初めて口を開いた。

「俺達はここまでだ。1人でって約束だからな」
「ですね。先生、気をつけて」
「……わかった。行って来るわ」

そう、たぶんこれがあたし達の……金輪際のお別れ。
だってカイトは言ってたもの。あたしが人間をやめる事を諦めない限りは……容赦なんかしないって。

268 :佐井 浅香 :2018/11/25(日) 07:55:03.21 ID:WwktZC8c.net
「ほら、来てやったわよ! 伯爵は何処にいるのかしら?」

玄関前で、彫像みたいにつっ立てる兵隊さんの1人に聞いてみる。
まだ20代前半って感じのその若い彼は、隣の彼と顔見合わせて……その手が肩に担いだライフルの銃身に触れる。
「安心して。あたしはまだ人間よ」
危険を感じて思わず言った台詞だけど、あたし、自分で言ってちょっと笑っちゃった。
だって『まだ』って。
裕也も、柏木さんも、カイトも、みんなあたしを引きとめてくれたけど、でもやっぱり諦めきれない。
それが言葉に出ちゃったから。

両手を上に上げろって言われて、怖い顔した彼らの手で入念にボディチェックされて。
持ち物検査も終わって、ようやく中に通されたあたしは言葉を無くした。
まるであたしを出迎えるようにずらりと並んで近づいてきた背広の一団、その面子に見覚えあったから。
もちろん直接知った人じゃなくて? ……そう! いまの日本の大臣達! 
わお! ほんと、テレビで見るのとおんなじ顔! 当たり前だけど!
その真ん中に立つ、銀髪で中肉中背の、一見どこにでも居そうな、でも何かオーラが違う男の人が、ニコッと笑って右手を差し出す。
え? その手を……このあたしが握る、の? 
そんなあたしの右手を両手でガシ! っと掴んだ総理の手は温かい……間違いなく人間の手。

「内閣総理大臣、二木俊太郎です。佐井浅香先生でいらっしゃいますね?」
「え……えぇ。はじめまして」

あたしの顔も挨拶も、たぶん間が抜けてたわね? こういうの、慣れてないもの!
けどね、総理の次の台詞であたし、緊張って名前の糸が解けたの。

「あなたが菅くんの想い人ですか?」
「え? は!?」
「失礼。この状況でわざわざ呼び出し、そして大変お綺麗でいらっしゃるから、もしやと……」
「違います! あたしは只の――」
「只の……主治医でいらっしゃる? なるほど、大変失礼いたした。どうぞこちらへ」

二木総理はとても……とっても気さくなおじさまだった。

269 :佐井 浅香 :2018/11/25(日) 07:56:50.37 ID:WwktZC8c.net
「さあさあ! みな官邸へ移動して! 官房長官も、防衛大臣もですよ!」
「総理、あなただけここに残すわけには」
「いやいや、何かの時はお二方に指揮を取って頂かなくては。ここは私と副大臣達で十分、さあお早く!」

総理ったら、パッパと人を動かして、あっと言うまに大事なはずの大臣達をこの場から退散させちゃった。
ホントにいいのかしら?
ここ、戦場になるかも知れない場所でしょ? もしかしたら今この日本で一番危ない場所。命の保証も。
閣僚の中で、たった一人だけここに残って、本人はまるでそれを気にしてない風で。
よっぽど肝の据わった人なのかしら。それとも能天気なだけ?

赤い絨毯敷き詰めた廊下をあたしと並びながら、総理はまるで昔から知り合いみたいに話しかけて来た。
その話題は渦中の菅大臣。
「菅くんはね、小さい頃は私も手を焼かされたものだ」
って話から始まって、いかに菅公隆が優秀で、頑張り屋で、正義感の強い人物であるかを延々と語るの。
あたし、変に感動しながらそれを聞いてた。へぇー、人って……見る目が違えば違う物なのねぇって。
そして、もうすぐ3階にたどりつくっていうその時。
「いやはや、彼がヴァンパイアだとは、未だに信じられんのだが」
階段を登る足を止めて、二木総理があたしを見た。背後と横につくSPも一緒に立ち止まる。
「あの沢口君が言うなら間違いないと、対策本部の立ち上げを承諾したものの、あの菅君が人類の敵だとは思えんのだよ」
急に……総理が総理の顔になった、そんな気がした。
「あなたは……どう思われる? 主治医である貴方の眼から見た菅君は……何者かね?」
「彼は……」

あたしは口ごもった。だってあたし、菅大臣の怖い一面しか見てないもの。
柏木さんの腕を斬り落としたり、麗子にとり憑いてカイトの足とか腕とか撃ち抜いたりする一面しか。
ただ一つ、確実な事。それだけは知ってる。

「彼は正真正銘、ヴァンパイアです。それだけは事実です」
「…………そうかね」

一瞬間伏せた眼をぐっと凝らし、総理は3階の床に足を乗せた。
そして黙ってあたしを見送った。促されるままに第3委員会室のドアを叩く、その時まで。

270 :佐井 浅香 :2018/11/26(月) 18:53:49.53 ID:B+FCutQo.net
あたし、自分なりに腹を決めてた。
捕まっちゃった菅伯爵。彼をダシに呼び出された自分。これってある意味最悪な状況。
それでもここに来たのは、伯爵の事情を聞いちゃったから。あたしに出来ることが、何かあるかもって思ったから。
ただ――
この扉の向こうに、ほんとに伯爵が居るとしたら……どんな格好かしら?
掴まえたヴァンパイアは利用するには危険すぎる。だから始末した方が無難だって思い直した指揮官にとっくに殺されてるかも。
でなくてもヴァンパイアが紳士的な扱いを受けるわけがない。
きっと素っ裸で天井から吊るされてるに違いないわ。それとも手足を落とされてる床に転がってるとか。
相手はあの伯爵だもの。いつ拘束解いて反撃してくるか解らないもの。
ていうか、そっちの可能性も?
伯爵に皆殺しにされた人達の遺体で部屋がいっぱいだったら?
あたしってば医者でしょ? 飛び散る血とか千切れた手足とか、そりゃもう生々しく想像出来ちゃうのよ。
だからあたし、何見ても驚かない、大丈夫って覚悟を決めて、そしてやっとノックをしたの。

対応に出たのは黒スーツの男。
とりあえず、後者の線はないみたい。
じゃあ伯爵は? って中のぞいたけど、黒服の男がうじゃうじゃしてて全然見えないの。
だから伯爵は何処かって聞いたら……取り澄ました顔して「あそこだ」って指差す人が。
さっと人が左右に分かれて、そして出来た道の向こうに――居た! 菅伯爵! で思わず笑っちゃったわけ。
少なくとも彼、裸じゃなかった。怪我もしてなかった。
両足前に投げ出して、仰向けで椅子の背にもたれかかって。
手だけは後ろに回ってたけど、でも不貞腐れた顔して。虜囚に甘んじるって態度じゃ全然ない。
あのいつもエラそうな伯爵が、捕まってるクセにやっぱり偉そうにしてる。そんな様子がとても可笑しかったの。
だから思わず

「あはっ! 伯爵ったら、ずいぶんいい格好じゃない!」

な〜んて、思ったことそのまんま口に出しちゃった。
そしたら伯爵、は? って顔してあたしを見て。まわりを見たら、大半が同じ顔してこっちを見てた。
男って……だいたい考えることが一緒なのね。
あたしの顔みて、そして胸、腰、足とだんだん下の方に下がって……そしてまた顔に戻る、その視線の動きがほとんど一緒。
普段はぜったい履かないミニスカートにこんなに効果があるなんて思ってもみなかった。
……仕方ないじゃない! まともな替えがこれしか無かったのよ!

271 :佐井 浅香 :2018/11/26(月) 19:25:56.18 ID:B+FCutQo.net
「発作がおさまったら知らせて下さい」
さっき伯爵を指差した男の人が声をかけてきた。
歳は伯爵と同じくらいで、体育会系の精悍な顔つきの人。イケメンって言うより、ナイスガイって言葉が似合うわね?
「発作?」
「主治医ならご存知でしょう。我々は外しますから御随意に」
そう言えば柏木さん、伯爵の胸の中に銀の弾を置いてきたって言ってたわ。たぶんそのせいで定期的に心臓の発作が起きる事も。
あたしは曖昧に返事をして、男達がぞろぞろと出口に向かって、そして――違う眼であらためて菅伯爵を見たの。
「やあ先生」
ここに来て初めて耳にした菅伯爵の声。その声と顔色見て、彼がどんな容態でどんな気分なのか初めてわかった。
「ちょっと……大丈夫?」
駆け寄って声をかけずには居られなかった。
だってあのメールが届いたのは1時間も前なのよ? それをそんな格好でずっと我慢してたなんて。
駆け寄ったあたしから、伯爵がプイッと視線を逸らした。
たまに居るわね、こういう態度を取る男の人。
たぶん、苦しんでるトコ見られるのがイヤで……突き放した態度を取るんだと思う。
こんな風に、触診しようと差し出した手から、サッと逃げたりもする。
「じっとして! 脈と体温確認するだけだから!」
ビクッと身体を震わせた伯爵。
コツンとあたしの額を伯爵の額とくっつけたら、あらら……まるで初めて病院に連れてこられた子供みたいに硬直しちゃって。
「熱は……ないみたいだけど脈が早いわ。ちょっとだけ楽にしてくれる?」
そしたらあたしの言うとおりに身体の力を抜いたりして。
意外。伯爵ったら可愛いトコあるじゃない。

272 : :2018/11/29(木) 05:36:13.41 ID:gY4ZMJcE.net
そう言えば、したらばだと閲覧出来ないっていう方はいらっしゃいますか?
もしいらっしゃるなら、移動せずこの板に2スレ目を立てますが

273 :佐井 浅香 :2018/11/29(木) 05:36:55.78 ID:gY4ZMJcE.net
「発作の原因は……あれね? 10年前に柏木さんが――」
「……柏木が君に……話したのかい?」

眼を硬く閉じたままぐったりと椅子に身体をあずける彼。もう「平気なふり」をするのはやめたみたい。
白いジャケットの胸元に留められた、紺色の議員バッジが浅く上下している。
吐息だけで絞り出された囁き声が聞き取れたのは、あたしの耳が彼の口元近くにあったから。
「いい? 触るわよ?」
彼が頷くのを確認したあたしは、慎重にネクタイを外した。Yシャツのボタンを開放するために。
眼を閉じたままじっとしてた彼だったけど、胸に手を当てたら流石にちょっと身じろぎして。
「御免なさい。ちょっとだけ、動かないでね?」
胸骨、鎖骨、第1肋骨、と順に手の位置をずらしていく。呼吸を止めていた彼が不意に呻き声を上げる。
……そう、ここが……痛むのね?
あたしも手の平に意識を集中する。眼を閉じて……鼓動の振り幅と強さと、位置関係を把握する。
レントゲンなんて要らない。あたしはずっとこれでやってきた。
「左心(大動脈に血液を送る心室)の一点に『重み』があるわ。銃弾の位置はそこね」
「……へぇ……わかるん……だ……」
うっすらと瞼を開けた伯爵だけど、その焦点は定まってない。
「発作を抑える方法を教えて? あるんでしょ?」
視点を虚空に彷徨わせ、その口が何事かを呟く。
あたしは彼の言う通りにジャケットを裏返して、内ポケットから「それ」を取り出した。
指先でやっとつまめるサイズの白いiPod。もう今は製造されていないスクエア型のミュージックメディア。
ジョギングしながらこれを付けてる人を良く見かけたものだけど。
一緒にどう? なんて訊くから、片方を自分の耳に嵌めてみた。
「選曲は?」
「……このままで。彼の曲だけだ」
爪の先でやっとスライド出来る小さなスイッチを入れると、澄んだ音が耳に流れ込んで来た。
ピアノの音だった。
小刻みに痙攣していた彼の心臓がしっかりした鼓動を刻むまで、あたし達は寄り添ったまま同じ曲を聴いた。

274 :佐井 浅香 :2018/11/29(木) 07:31:58.01 ID:gY4ZMJcE.net
あたし、菅さんがこんなに親しみやすい人だったなんて思ってもみなかった。
そうよ、大体あたし、この人が笑ってるとこ、初めてみた。
発作が収まった反動で上機嫌になっただけかもだけど、でもすっごく話好きで? 話題も豊富!
さっき聴いてたシューベルトの生い立ちから始まって、柏木さんが肝腎なとこで長崎弁だす話とかもう盛りだくさん。
それを身振り手振りで話そうとするもんだから、手と足に嵌めた金属の輪っかがカチャカチャ鳴ってうるさいの。
彼もそれが気になったみたい。

「手錠のここ、外してくれる?」
って言われてよく見たら、単純な留め金が右と左を繋いでるだけなの。ただ押して、引いたらカチャって外れて。
「ありがどう。マシになった」
「いいの? さっきの人に怒られない?」
「いいさ。これは嵌めてる事に意義がある。仕込まれた純銀がヴァンパイアの力を削ぐわけ」
「力?」
「そうだなあ……こうやって立ったり歩いたりは出来るけど、素早くは動けない。因みに開発したのはこの私」
「あそっか! 伯爵ってハンター協会の元帥でもあるのよね!」
「……そんな事まで……柏木も口が軽いなあ」
「だって、柏木さんは人間の味方だもの」
「ああ! もう! そりゃあ最初から解ってたけどさっ!!」

クシャクシャっと髪をかきむしる彼の口調はあくまで軽い。
でもこの人は……こうやって「状況」を受け入れてきたんだと思う。
あたしが……決して明るくない過去を打ち明けた時も、
「あはは! 君も私に負けてないねっ!」って優しく笑ったくらいだもの。

275 :如月 魁人 :2018/12/04(火) 07:48:55.45 ID:wr8JxSHI.net
議事堂の中庭はいけ好かねぇな。
四方がきっちり囲まれってから、馬に取っちゃあまるで監獄だ。なぁ姫、そう思うだろ?
そんな俺の心の声が聞こえたんだな。
甘え声出して鼻摺り寄せてきたんで、首に手ぇ伸ばして撫でてやったんだが……ぎょっとしたぜ。やたらサラッとしたからよ。
こんなの普通じゃねぇ。馬って奴は汗っかきだからな、普通あれだけ走りゃあびっしょりだ。
それが普通に乾いてやがる。バサつきもなければ乱れもねぇ。まるで百貨店で売ってる上等の毛皮だ。
更に気づけば体臭って奴がしねぇ。あの馬独特の匂いがよ。
見れば、結弦は繋ぎ場の石に腰かけてベレッタの手入れの最中だ。俺達の方をチラっとも見ねぇ。

『ごめんな』

俺は声を出さずに呟いた。ヴァンプになっちまった奴ぁ……例え恋人でも躊躇うな。それが俺達の確約だ。
腰のパイソンを抜いて、姫の胸の真ん中にピタリと当てる。
真っ黒ぇ、生まれた時のそのまんまの目で俺を見る姫。俺の髪を甘噛みする、その癖もそのまんま。
……情けねぇ。グリップ握る手が震えてやがる。トリガーに触れる指も強張って動かねぇ。
ポンと肩を叩かれた。いつの間にか結弦がま横に立ってやがる。
ますます情けねぇ……。俺、周り見えなくなるくれぇ……気ぃ張ってたのかよ。

「その時が来たら僕がやるよ。一緒に育ったんだろ?」
「はっ! てめぇもハンター失格かよ!」

俺は姫の頭を両手で挟み込んで……額くっつけてガシガシ擦った。んな顔、結弦に見せられねぇからよ。

「申し出はありがてぇが……ケリはてめぇで付けるぜ。姫が望んでっからよ」

言いながら俺は自分の右耳に刺してあるピアスを外した。これ、特注。馬の蹄鉄のミニチュアだ。
あ? 刺すって表現がおかしいって? 
おかしくなんかねぇぜ。このポストの先端、鋭く尖らせてあっからよ。ブスッと刺してカチっと嵌める。俺のファーストピアス。
これを、姫の右耳に付けてやったんだ。

「魁人?」
「純銀のお守りだぜ。衝動抑える効果くらいあんだろ」

姫が嬉しげに耳を振った。揃いのピアスが気に入ったんだろ。
ポタリと垂れた赤い血が、サラリと風に溶けて消えた。

276 : :2018/12/17(月) 21:18:07.32 ID:uolCqshh.net
年内の投下は無理だと判断しました
来年またお寄り下さい
良いお年を

277 :如月 魁人 :2019/01/06(日) 06:20:17.84 ID:5tCY4VEM.net
「赤絨毯を横切る白馬。なかなか見ない光景だ」
「あ?」

俺は姫を止めて振り返った。
廊下の向こうに高そうなグレースーツの野郎が立ってやがる。
左の襟に光ってんのは菊紋のバッジだ。花びらの数ぁ……ひぃふぅみぃの11枚、んで台座は臙脂。衆議院の議員様だ。
まだ若けぇし、見ねぇ顔だ。少なくとも大臣じゃねぇ。

「美しい馬だ。サラブレッドか?」
そう言って手ぇ後ろに組んだまま近づいてくるそいつのツラぁ……真面目くさった、まるで中学んときの生活指導。
「誰だあんた?」
「私は防衛副大臣、沢口憲一。まず馬から降りたらどうだ? 如月伍長」
「!」

流石の俺も慌てたぜ。
俺の階級知っんのは協会所属の、しかも上の連中だけだからよ。
情けねぇよな。俺らハンターは柏木局長より上の顔知らねぇ、つか知らされてねぇの。
非常勤の結弦はともかく、俺、常勤よ? 正職員よ?
捕まってヴァンパイア化する確率高ぇから? 上の情報漏らさねェようにだとか、んな名目掲げてっけどよ?
要は自分らが危険な目に逢いたくねェだけなんじゃねぇの?

ま、詮索しようと思ったこともねぇがな。どうせ政界財界のお偉方がふんぞり返って座ってるただのお飾りだ。
だから俺は局長のこと、あえて「司令」って呼んでんのよ。畏敬の念を込めてな。

……てぇ……おいおい。結弦の奴、背ぇ伸ばして、ビシッと右肘横に張る軍隊式の敬礼なんかしてやがる。坊ちゃん育ちは違うねぇ。
俺はしねぇよ。自衛隊員でもねぇ俺らにンナ習慣ねぇし義務もねぇ。目礼で十分だぜ。
したら沢口の奴、んなこた全く気にしねぇ風で、そして言ったのさ。

「如月伍長、君にここの指揮を任せる」
「……は……い?」

278 :如月 魁人 :2019/01/06(日) 06:24:04.68 ID:5tCY4VEM.net
面食らったぜ。
上の命令ハイハイって聞かなきゃなんねぇ立場だがよ、頷いていいかどうか迷っちまった。
そんな俺をチラ見した結弦が一歩前に出やがってな?

「お言葉ですが、我々ハンターにクロイツ以外を動かす権限など無い筈です」

……育ちのいい坊ちゃんも、はっきり意見してくれるねぇ。
つまりはそういう事だ。いざって時に自衛隊動かせるのは内閣総理大臣って決まってんだからな。
それを受けた防衛省のトップが指示して初めて自衛隊が出動するんだ。
現場で奴らを指揮すんのも当然自衛官。その場で一番上の階級の人間だ。
奴らだけじゃねぇ、ここにはSATも来てんだ。警視庁管轄のな。俺ごときに務まるかっての。
だが沢口副大臣は結弦の意見に動じた風はねぇ。むしろ得意気に俺らを見比べてな?

「たった今、総理が『緊急事態宣言』を布告された。その総理が私に、敷地内の人間すべてを動かす権限を下さったのだ」
「ならまんま、あんたがやりゃあいいだろ? 適任だと思うぜ?」
「確かに私は防衛省の人間だが、中身はただの代議士さ。大まかな戦略は練れても、現場を指揮する能力も経験もない」
「はあ……」

さっきとは別の意味で面食らったぜ。政治家ってのは見栄と虚勢の塊だと思ってたからよ。
案外こいつ、悪くねぇ人種かも知んねぇ。

「本来ならば柏木曹長に頼むところだが、彼はヴァンパイアだ。人間側に付いてはいるが、そうと知った以上役目は与えられない」
「で、俺ってわけか」
「君以外に出来ないと聞いてるよ。やってくれるかね?」

俺はまたまた面食らって振り向いた。
最後のセリフが沢口のもんじゃねぇ、正真正銘の現内閣総理大臣、二木俊太郎だったからだ。

279 :如月 魁人 :2019/01/11(金) 06:44:45.82 ID:hy9xTk63.net
二木俊太郎。
10年前、俺が東京出てきた時は官房長官やってたと記憶してるぜ。
なんつーか……政治家のくせに妙に人間味のあるおっさんでよ?
言葉遣いが鯱張(しゃちほこば)ってねぇっていうか……その場その場を自分の言葉でしゃべってる感がある。
たぶん官僚の作った原稿も見ねぇで、言いたいことはハッキリ言う。答弁はいつも明瞭明快。んな訳か支持率は割と高ぇ。
へぇ……
間近でみりゃあ……なかなかの眼力(めぢから)だ。
簡単に出せねぇ布告(緊急事態宣言の)出してのけるだけはあるぜ。って……待てよ?

「宣言って事は公表すんのか!? ここが物騒なことになってる……その事をよ!?」

つい総理大臣相手にタメ口で怒鳴っちまったぜ。
……仕方ねぇだろ。本部(=吸血鬼対策本部)は立っても、宣言(=緊急事態宣言)が布告された事なんか一度もねぇんだぜ?

下(した)にそんな口利かれたことねぇんだろ、総理が目ぇ白黒させて沢口に目配せしやがった。
沢口の顔色が見る間に変わってよ?

「申し訳ありません! 部下がとんだ失礼を……」
「構わんよ、少し驚いただけだ。君、続けたまえ」

総理の応対に俺の方が驚いたね。その辺のお偉方なら即「降格だ免職だ」なんて口から泡飛ばすとこだろ。
それが不適な薄笑いまで浮かべて相手の意見を促してやがる。大した器だぜ。
せっかくの機会だからぶつけてやったぜ、感じた疑問をそのままな。

「なんでだ? 今まで何のために穏便に済ませてきたんだ?」

そうだぜ。ヴァンプ関連はすべて秘密裏に処理しろって言って来たのはこいつらだ。
国民の皆様には内緒ってこった。この間のリサイタルの時も、きっちり箝口令が敷かれやがった。
それを……公表するってこたぁ……

「宣戦布告か。あんたらもようやく……おっぱじめる気になったって訳だ」
「その通りだよ、如月君。はやく彼に作戦を伝えてやりたまえ」

総理に右手で促された沢口が俺に一歩近づいた。結弦の奴ぁ逆に一歩下がって距離を取る。
俺? 俺はそのままよ。ちょい引っかかったからな。

「待てよ。その作戦、あんたのか? それとも前の『元帥』か?」
「前……元帥? ……そうか、柏木曹長が話したのか」

俺らにも知らされてねぇ「元帥」の正体だが、幸運か不運かさっき聞いちまったんだよなあ……
流石に黙っちまった沢口の肩を、総理がポンっと叩いた。

「伯爵と元帥が同一であった事実は……他言無用だ。国民に無用な危惧を持たせたくない」
「は! 『危惧』じゃねぇ、『不信』だろ?」
「これは君達の領分じゃない。口を慎みたまえ」
「……んだよ今更」
「今から作戦を伝える。立案は私と柏木曹長だ。何か意見は?」
「……ねぇよ」

ある訳がねぇ。司令の発案なら喜んで従うぜ。
……胸糞悪ぃ伯爵の野郎の考えだっつんならNOって突っぱねるつもりだったがな。

280 :菅 公隆 :2019/01/13(日) 12:26:13.37 ID:cms68UdM.net
「作戦?」
「そう、彼らの作戦だ。このわたしを駒として動かす。その為にわざわざ生かしてるのさ」

大窓の傍に立って外を眺めてた佐井先生が振り向いた。柔らかなレース越しの陽光がその髪を煌めかせる。
不自然に静まり返った部屋の外は、何かがピーンと張り詰める気配。
そんな中で突風が窓を叩いたものだから、わたしは反射的に立ちあがった。自衛隊かSATが撃ちこんで来たかと思ってね。
なのに先生ってば、せっかく本題にも入ったってのに、この顔見てクスっと笑ったりしてさ。
何が可笑しんだか。一応の当事者の癖に、緊迫感ってものがまるでない。
おしゃべりの最中も、天井の照明とか壁の肖像画とか眺めて回って、まるで探検に出てきた子供みたいなんだ。

「あたし、そういうキナ臭いお話、苦手なのよねぇ」
「いいから、こっちに来て座ってくれないかな」

しぶしぶって感じで寄ってきた先生の手を引いて、さっきまでわたしが座っていた椅子に座らせる。
わたしは椅子の肘かけ部分に腰かけて、彼女の耳に口を寄せた。
彼女が期待に満ちた眼でこっちを見る。

「……してくれるの?」
「え?」
「ヴァンパイアにしてくれるの?」
「その時が来たらしてあげてもいいけど、今はまだだ」
「……どうして?」
「いま変われば、奴らはこの場で貴方を殺すだろう」
「そんな事にはならないかも知れないわ。あたし、無敵になるかもだし?」

わたしはため息をついて首を振った。彼女は「まずやってみる」タイプらしい。
やってから方法を、逃げ道を考える。選んでから考える。確かにそんな人間もこの世には必要だ。けど今は……

「賛同出来ないね。仮に貴方がとんでもなく強くなったとして、この場をどう切り抜けるつもりだ?」
「どうって……」
「とりあえず部屋の外に人間を、殺して逃げる?」
「……そう、ね」
「簡単には行かないよ。奴らの数は多い。外は戦闘員だけじゃなく、報道も一般市民も詰めかけている」
「……」
「それも殺すかい? 殺して殺して……殺しまくる?」

先生はしばらくこの目を見返していたけど、俯いたきり考え込んでしまった。
……仕方の無い人だ。
わたしは先生の両肩を掴んで、背もたれに押し付けた。ハッとした顔で身を硬くする先生。その顎を上向かせ、彼女の眼を覗きこむ。

「じゃあさ、試してみるかい?」

吐息だけで問いかける。唇を彼女の口元から……徐々に下げながら。触れ合うか触れ合わないかの距離を保ったまま。
伸びる牙の先端が、彼女の喉元に触れた時、初めて彼女が鋭い悲鳴を上げた。
わたしはやっとの思いで彼女からこの身を引きはがした。
……ギリギリセーフ。彼女が黙って受け入れていたら、この本能を押さえられなかっただろう。

「……それでいい。貴方に死なれたらわたしが困る」
「困る? どうして?」
「貴方は田中さんに頼まれた人だからだ。大事な許嫁だからね」

281 :菅 公隆 :2019/01/14(月) 06:52:32.11 ID:Wk6Fcxbh.net
許嫁(フィアンセ)。

おかしな話だ。自分で言ったその言葉に、わたしはひどく動揺したのさ。直接結婚に結び付く言葉だからか?
彼女から意識的に眼を逸らし、距離を取ったよ。
呼吸を整えつつ、廊下に面した茶色いドアをじっと眺めた。出来るだけ平静を装いながらね。
早鐘を打つ鼓動と、赤く染まりかける視界。彼女の喉元深く食らいついてしまいたい衝動。
わたしは袖をめくった。手首がひどく熱い気がしたからさ。
一見すれば、男物のブレスレットにしか見えない。わざわざそんな風に作らせた銀の手枷。それが赤く発熱している。
ジリジリと肌を焼くその隙間から立ち昇る黒煙。
なんてことだ。ヴァンパイアの力と欲求の抑制のために作らせた枷の方が悲鳴を上げている。
強度の優先などせずに、銀の濃度を極限まで上げるべきだったか。
それとも佐井朝香の恐るべきフェロモンのせいか? 柏木がああなったのも無理ないって!?
佐井先生、あなたは一体――

「待って? 田中さんがどうして?」
「……え?」

振り向いた。ぽかんとした顔の先生と目が合う。

「頼まれたって……許嫁って……何のこと?」
「田中さんから色々聞いてない?」
「何も。ていうか、どうして田中さんがあたしの事なんか頼んだりするの?」
「彼は貴方の唯一の親族なんだろ? わたしは節介すぎると詰(なじ)ったんだが」
「田中さんが、あたしの親戚ですって!?」

彼女が何も――田中さんが祖父だって事すら知らないって知った時は……目眩がしたね。
真実かどうかはともかくさ、彼女に何も話してないってことは、このわたしから全部話を持っていけって……そういう事だろ?
田中さんあんた……どこまでタヌキなんだよ!

「田中さんって何者なの? あたしはあの人がヴァンパイアだって事しか知らない」
「実を言えば、わたしもさ。西の伯爵で、500年近く生きてるって事しかね」

枷の疼きは止んでいた。
大窓を揺らす木枯らしが、黄色い銀杏(いちょう)を窓にいくつも張り付けた。

282 :佐井 浅香 :2019/01/14(月) 07:50:07.52 ID:Wk6Fcxbh.net
ビリビリ揺れるガラスの窓。ハラリと落ちる銀杏の葉っぱ。

菅伯爵はこっちを見たまま立っている。さっきまで押さえていた腕をさり気なく降ろして。
あたし、居ても立っても居られなくて彼に駆け寄った。彼ったら後ずさりなんかして。
大丈夫なのかしら。さっき何だかとっても……痛そうだったけど?

「先生の方はどうなのさ。思い当たる事はないのかい?」
「無い……わけでもないわ。あの人に助けられた時、懐かしい匂いがしたから」

そうよ、お祖母ちゃんが使ってたお香とあの人が同じ匂いだった。
子供の頃に見かけた男の人も……あの長い髪、広い背中。……いま思えば田中さんにしか思えない!
あたしの知らない所で伯爵と勝手に話進めたりしちゃったのは許せないって言うかもう呆れるしかないけど、
でもいざって時にあたしを助けてくれた。きっと何か考えがあっての事よね?

わお! 田中さんがお祖父ちゃん!! むかし習ったステップなんか踏んじゃう!

「何がそんなに嬉しいんだ? 彼に騙されたと言ってもいい状況じゃないか」
「いいじゃない! いい知らせだもの! あたし、天涯孤独の身なんかじゃなかったのよ!」

伯爵はしばらくあたしを眺めてたけど、でも腕組みして近くの椅子の肘かけに腰かけた。
冷静で偉そうでちょっぴり人を見下したような……いつもの伯爵の顔して。

「話を戻そうか。今が危機的状況だって事は知ってるね?」
「戻すって……奴らの作戦がどうとかって話に?」
「そうさ! 先生はこっちの作戦にキモなんだよ?」
「どうして? あたし只の医者よ?」
「そこだよ。医者で、かつ沢口の作戦の範疇に無かったはずの駒だ」
「……駒って……」
「田中さんの血を引いているのはオマケとして……これ以上のキーパーソンは居ないね」

283 : :2019/01/14(月) 09:07:32.99 ID:Wk6Fcxbh.net
×作戦にキモ
○作戦のキモ

284 :佐井 浅香 :2019/01/14(月) 09:43:40.95 ID:Wk6Fcxbh.net
きっぱり言い放った伯爵の眼があたしの眼を真っ直ぐに射ぬいた。
その眼は黒。別に金色でもないし、赤く光ってもいない、でも底なしの闇の色。
それを見た時、さっきの感触――喉に触れたあの牙の感触が蘇って来てあたし、腰が抜けたみたいに座り込んじゃった。
物凄く熱い何かが全身を突き抜けたの。雷に撃たれたみたいな。
恐怖?
違うわ。何だか身体が疼いてるもの。
伯爵ってやっぱり……真祖なんだわ。

あたしはパンパンっとお尻についた埃を払った。伯爵がプイっと眼を逸らす。
近くの椅子に座りなおしたあたしの方を何故か見ようとしない。

「先生は柏木の腕を調べましたか?」
「そりゃね。あれだけの機器と試料が手元にあるもの」
「何か分かりましたか」
「ん……今のとこ血液の一般的な性状までね。その先はせっかく調べ中だったのに、貴方が呼び出すから――」
「悪かったね。わたしの為にわざわざご足労願って」
「大丈夫! 柏木さんに任して来たから」
「柏木に? それってどれくらいかかるの?」
「彼、有能でしょ? 明日までにはきっと終わるわよ」
「明日!? どうしてくれるんだ。この真昼間に動けるヴァンパイアはわたしと柏木だけなのに」

こんどは彼が頭を抱えて黙り込んじゃった。
え……と……あたし、よっぽどまずいことしちゃった?

285 :如月 魁人 :2019/01/14(月) 17:20:22.64 ID:Wk6Fcxbh.net
上の考えた戦略を大まかに言やぁこうだ。

『拘束した伯爵を囮にし、各地に散ったヴァンプ達を全部この場に集める、そこを一網打尽にする』

流れ的には納得だ。すんげぇ解りやすい作戦だもんな。
問題はな? 伯爵をどう使うかだ。奴らを集めるっつったって簡単にゃあ行かねぇぜ?
「ここに来なきゃ伯爵を殺す」的な手口はたぶん佐井先生にしか通じねぇ。
伯爵は奴らに取っちゃあ「救世主」だなんて司令が言ってたが、わざわざ火の中に飛び込むほどの価値があるとも思えねぇ。
頭の代わりはいくらでも居るもんだ。
ほんと、どうすんだろな。そこんとこは沢口達が考えるらしいが。

俺と結弦のやるこたぁ単純だ。こいつら使ってひたすら敵を迎い撃てばいいんだとよ。
味方の心配も救助も無用だ。警察官も自衛官も、そこんとこは覚悟してっからな。無限責任って奴だ。とうぜん俺たちハンターも。
味方に対して非情になれりゃあ簡単だ。数に任せて撃ちまくりゃあいいんだ。
幸いヴァンプは俺らみてぇに「鎧」を着ねぇ。それが矜持だっつんだから偉ぇもんだ。
ただ……なんだろな。
な〜んか……引っかかるんだよな。

俺は手にした水筒をぐいっとあおった。濃いめのブラックが乾いた喉に沁みていく。

「結弦」
「ん?」
「なんか上に伝えなきゃなんねぇ事、なかったっけか」
「なんだ急に」
「ほら、お前ガキが出来たろ? つか最近生まれたろ? そいつが、ほら――」
「人聞き悪いこと言うなよ。出来てもないし、生まれても居ない。……夢でもみたのか?」
「へ? ……んー……そう、だっけ?」

支給された乾パン頬張りながら結弦が笑う。
……だよな。変だな。俺、いったい何考えてんだ?

いっときの緩い休憩中。SATも自衛隊員も和んでやがる。
……ま、今だけだ。日が落ちたその時ぁ……もって一桁。違いねぇ。

286 :如月 魁人 :2019/01/17(木) 05:17:58.80 ID:eTlLCdN6.net
「魁人、ちょっと」

俺の真横でつっ立ってた結弦がこっそり耳打ちしやがった。ちょうど隊員らに指示し終わったタイミングでだ。

「なんだ?」
「いや、ちょっと」

結弦が兵隊の居ねぇ木立の陰に手招きするもんだから、俺は黙って付いてった。
まだ陽は高ぇ。仰いだ空は、雲もねぇのに煙ってやがる。
昼間でも星が見えるくれぇ突き抜けた、あのスッカーンとした寒空が恋しいぜ。
乾いた木の葉がからっ風に巻きあげられて、結弦の肩にヒラヒラっと乗っかった。
それを払う奴の袖口に、キラッと光る緑のカフス。明らかにブランドもん。ブランドの蝶ネクタイにブランドのスーツ。
髪もこ綺麗にセットやがって、これ以上ねぇくれぇお上品にまとまってやがる。

「お前、そのナリのまんま? さっきあいつら(SAT)の装甲(ふく)借りなかったのか?」
「人の事言える?」
「あ?」
「魁人だっていつもの格好じゃないか」
「俺は指揮官だぜ? 一兵卒に混じっちゃあ指示も出せねぇだろ」
「それだけ?」
「まあ……実を言やぁ重てぇ装備はまっぴら御免だ。奴らに遅れを取っちまう」

結弦がそらみろって顔しやがった。
ハンターはもとが一匹オオカミだ。自尊心も強ぇし、自分に一番の恰好ってのにもこだわる。
そこんとこ、俺の方も良〜く解ってるって言ってんのさ。ヤな野郎だぜ。

「……で何だ、話ってのは」
「実を言うとさ、局長に向かって引き金を引く自信が無いんだ」

ポケットに両手突っ込んで空を見上げた結弦のセリフに、俺ぁドキリとしちまった。

「あのリサイタルの夜、僕は撃てなかった。あの時撃っていれば、状況は違ってた」
「無理ねぇよ。あん時ぁ司令がヴァンプって知らなかったんだからな」
「さっき局長の頭を撃った時も、とどめを刺しておけば――」
「いいって! 司令の情報と仲介があって、初めてヴァンプを一掃する目途が立ったんだぜ!?」

何に腹たってんだか自分でも分からねぇ。俺も……結弦とおんなじだからかも知んねぇ。

「司令は言ったぜ。今度こそ遠慮は要らねぇ。そん時が来たらひと思いにやってくれって。司令自身が望んでんだ、ヴァンプ撲滅をよ」

結弦は足元みたまんま動かねぇ。
ブルルっと鼻ぁ鳴らして寄ってきた姫に、俺は飛び乗った。耳のピアスが陽の光をチカチカっと照り返す。
……ったくよ、ヘタレなのは俺の方だぜ。なあ姫?

「……俺も偉そうに言えたガラじゃねぇが、ただこれだけは言えるぜ。『撃てねぇハンターはお呼びじゃねぇ』」

結弦は伏せていた顔を上げて俺の顔しばらく見上げてたが――
腹ぁ決まったんだろ。抜いたベレッタのスライドをガチンと引いたのさ。

287 :菅 公隆 :2019/01/17(木) 06:25:36.26 ID:eTlLCdN6.net
正午を回った。陽が沈むまで、あと4時間。
そろそろ沢口が様子を見に来るだろう。あいつがこの後……どう出るか。

「あの沢口って副大臣。あたし達をどうする気かしら」

外の様子を目で追っていた先生も同じことを呟いた。流石に怖くなったんだろう。

「貴女がヒトである限り下手な手出しはしないよ。ここに来るとこ、マスコミに見られたんだろ?」
「菅さんの事は……?」
「……わたし?」
「そう、あなた」

先生のその眼は、患者を心配する眼なんだろうか。

「ヴァンパイアの長を生かしておく理由などない。でもすぐには殺さないな」
「どういうこと?」
「一閣僚を秘密裏に始末なんか出来ないってのがひとつ。もうひとつは囮」
「おとり? みんなが菅さんを助けに駆けつけるってこと?」
「それを狙ってるから戦闘員を配置したんだろ」
「どうやって? テレビに貴方を出すとか?」
「法廷の場にわたしを引きだすかもしれない」
「ちゃんとした審理をやってもらえるってこと?」
「正式な手順を踏まない只の茶番さ。各地のヴァンパイアを呼びだす為のね」
「みんな来るかしら」
「来ないよ。ヴァンパイアは基本、助け合いなどしないんだ。しかもヤラれると解ってむざむざと出向くものか」

笑って言ったわたしの顔を、彼女は笑わずに見ている。

「ひどいわね」
「我々はそういう生き物なのさ。センチにはならない」
「違うわ、沢口のこと言ってるの」
「沢口が?」
「あなたは元同僚なんでしょ? それを不意打ちでこんな真似して、まして計画に利用するなんて」
「それが奴の仕事だ。人権の無い我等にどういう言う権利もない」
「人権ならあって然るべきだわ。ヴァンパイアは歴とした人間なんだもの」

288 :佐井 浅香 :2019/01/17(木) 19:55:39.48 ID:eTlLCdN6.net
「人権だって? ヴァンパイアが……人間?」

菅さんがピクリと眉を震わせた。
同じこと言ったら麻生くん、哲学的な考察ですか〜なんて聞いたっけ。

「それはどういう意味ですか?」
「そのままの意味よ。貴方も柏木さんも、生物学的には人間なのよ。堂々と権利を主張できるってこと」
「あくまであなたの憶測だろ? 法的には意味をなさない仮定に過ぎない」

あらあら……バッサリ。
でもあたしが文句を言おうとしたら、菅さんがそれを手で遮って。
顎に拳を添えて、首を傾げて、髪をかき上げるあたしの動作をじっと眼で追ったりして、真剣に何か考えこんじゃったの。
でね?

「先生。それって生物学的に証明出来る?」

なんて真剣な顔で聞くの。急ぎ足であたしの前にやってきて、この両肩をぐいっと強く掴んでね?
さっきのあの感覚がまたまたぶり返して、どこもかしこもカーっと熱くなっちゃって、顔もすごく火照っちゃって。
そんなあたしを見た菅さんも見るからに動揺して。
でも強い視線を真正面から送ってきた。
菅さんの眼はやっぱり暗い闇の色……ううん、今は違う。キラキラ光って凄く綺麗。まるで黒い水晶みたい。

「どうなのさ」
「え、……え?」
「ワクチン打ったら如月と麻生が治ったみたいな事言ってたけど、それは証拠になるのかい?」
「決め手には欠けるわ。ちゃんとウイルスの存在を証明しないと」
「それは今、柏木がやってるんだよね? 明日の朝に間に合う?」
「そうね。電顕操作がうまくいけばだけど」
「ありがとう先生。何とかなりそうだ」

顔を紅潮させて何度もうなずく菅さんが、何だかとっても素敵で……
だから手を離そうとした菅さんの腕をあたしはさっと掴んだの。

289 :佐井 浅香 :2019/01/17(木) 20:00:37.49 ID:eTlLCdN6.net
こんな風に男の人に抱き付くの、初めてかも。
ホントよ?
正直に言うとね? 過去の諸々はぜんぶ打算。医者として勇気づける為とか……ヴァンプに変えて欲しいからとか。
でもこれは違う。さっきから何度もドキドキして落ち着かなくて、そしていま触れ合ってみて、「この人だ!」って思った。
歯止めなんか効かない。吸血鬼になって、奴らに殺される事になっても後悔しない。
いまこの時を逃したら、もう二度と会えない。そんな気がして。
だからストレートに聞いちゃった。あたしの事好き? って。

「え?」
「許嫁とか抜きにして、好き? 嫌い?」
「……困ったな。少なくとも嫌いじゃないけど」

困ったなんて嘘。眼が黄金(こがね)に染まってるもの。鼓動がはっきり伝わってくるもの。
……必死に唇を噛みしめて、何かを――たぶん牙を隠そうとするその仕草、裕也もしてた。
彼は言ってたわ。血の欲求は性の欲求に勝るって。そんな人が、相手の血を吸わずにいられる理由(わけ)。
それはその相手をとても――大切に思ってるからだって。

いきなりきつく抱きしめられた。
もう駄目。止められない。



無我夢中で求めあう二人きりの時間。針が時を刻む音。これ以上の時があたし達にあるかしら?
息をはずませ、でも彼は冷静さを無くさない。それともまた……装ってるだけ?
部屋の外には決して漏れない二人の会話。
そうよね、内緒話にはもってこいの体勢だもの。

「沢口が何をしても、何を言ってきても……抵抗しないでくれないか」
「……どうして?」
「わたしは一族を守りたい。そのためには血を流さずに交渉する必要があるんだ」
「……その大事な仲間の中に……あたしも入ってる?」
「そりゃあ朝香は……田中さんに頼まれた人だから……ね」

頼まれた人だなんて。
でもあたしの事を「朝香」って呼んでくれた。照れた顔なんかしてる。
ほんと言うとあたし、ちょっぴり期待してた。その気になってくれないかなって。でも彼は最後まで「血の欲求」を抑えてのけた。


手首に嵌められた銀の手錠が痛むみたい。そっと触れたら、フッと息をついて。
「そのままずっと握ってて」、だって。

290 :佐井 浅香 :2019/01/18(金) 06:04:28.30 ID:2mqhKpjl.net
熱を持った赤い手錠が、ヒンヤリとした冷たさを取り戻した、そんな時だったかしら。
ドアが叩かれ、勢いよく開かれたの。
んもう……デリカシーも何もあったものじゃないわ! 返事も待たずに開けるなんて!

「容体は戻ったようですね。まさかここで……お楽しみとは」

――えっ!? どうして解ったの!? って、あはっ! あたし、シャツのボタン全開だった!

慌ててボタン留めて、髪を撫でつける。
でも菅さんったら、あたしと違ってぜんっぜん悪びれないの。
スッと立ちあがって、ベルトのバックルをカチャッと嵌めながら沢口を見返して、「なにか問題でも?」なんて言い返したりして。
沢口は菅さんの顔睨みつけたまま、後ろの黒服達に顎をしゃくった。

「調べて下さい。首に痕(あと)がないかどうか」

怖い顔したそいつらが駆け寄って来て乱暴に腕を掴んだわ。
髪掴まれて仰向けにされて、そして上から順番にブラウスのボタンを外されたの。
奴らの視線が首や胸元に集まって鳥肌が立ったけど……でもあたしはされるがままにさせた。菅さんの言いつけどおりに。

男達が沢口に向きなおって、首を横に振る。
まさかって顔した沢口があたしと菅さんを見比べて、そして何故だか勝ち誇ったような笑みを浮かべて。

「一緒に来て貰いますよ。貴方の……最後の晴れの舞台だ」

背筋を伸ばしてネクタイを正した菅さんの肩と腕をガッチリと掴まえる男達。
後ろ手に手錠の金具を止められた彼の眼がチラリとあたしを見る。
あたしは……軽く頷いて見せた。

291 :如月 魁人 :2019/01/20(日) 05:41:57.26 ID:yRl8bErO.net
午後1時。
姫の背中に乗っかって広場のど真ん中に陣取った俺は、右耳に装着している無線の通話キーを押した。
敷地外があんまギャアギャアうるせぇからよ。

『ボス、こちら如月だ。外で騒いでる奴らどうすりゃいい?』
『こちら沢口。報道関係者か?』
『そうだ。カメラと記者がウヨウヨ居やがる』
『入れてやれ。今から菅を連れて外に出る』
『正気か!? ここ、戦場だぜぇ!?』
『昼間に出歩く個体は限られている。いいか? 参議院側昇降口だ。我々を優先して報道するよう伝えてくれ』

あんまり楽観的で寒気を覚えたぜ。
確かに昼も夜も動けるヴァンプは希少だ。伯爵、司令、桜子、3体の他に確認はされてねぇ。
桜子は死んだ。司令は例の作業に没頭中。
だが余裕かましても居られねェ。日本は広ぇし、サーヴァントってもんも居んだぞ?
伯爵もだ。沢口は対ヴァンプ用の拘束具って奴を信用しすぎてね? クソったれ伯爵自身が開発したワッパ(手錠)をよおぉ。

『どうした伍長。返答しろ』
『……了解だ。だが後悔すんなよ』

今度は左耳のキーを押す。各小隊長とリンクする無線の方だ。

『如月だ。門番、聞いてるか?』
『こちら、門前の第2小隊、指示をどうぞ』
『報道入れろ。伯爵の野郎を全国の皆さまにお見せするんだとよ』
『……了解しました。彼らの入場を許可します。護衛付けますか?』
『んなコトしたらキリがねぇ、自己責任って言っとけ。サーヴァントは入れんなよ? 以上だ』
『了解。門を解錠します』

門が開く音がしたと思ったら命知らずどもがドっと押し入ってきやがった。
TVじゃ馴染みのアナウンサーに、でけぇカメラ担ぐカメラマン、長ぇマイク持った音声。
NNK……朝テレ……帝都にスポーツ……っておいおい……! スマホかざしたパンピー(一般人)まで入ってきてんぞ!?
正門近くで待機する結弦がこっちうかがってやがる。
隊員らの視線が一斉に俺を向く。第2小隊長は応答しねぇ。対応に追われてんだか、騒ぎに巻き込まれたんだか、
……沢口の事言えねぇぜ。NNKに限定すりゃ良かったのよ。

「本業以外は出てけ! 物見遊山じゃねーぞ!!?」

って怒鳴りつけたが何の効果もありゃしねぇ。
俺や兵士にマイク向ける奴、議事堂背景に自撮りする奴。状況解ってんのか?

歓声が上がった。見りゃあ昇降口んとこに、沢口と黒服の男どもと……あの伯爵が立ってやがる。

292 :菅 公隆 :2019/01/20(日) 08:18:00.59 ID:yRl8bErO.net
フラッシュの眩しい光が網膜を貫いた。たまらず顔をそむけ、眼を閉じる。
すぐ横で張り上げられた沢口の声。

「吸対法に基づく『緊急事態宣言』によりこの場を預かりました、防衛省副大臣 沢口憲一です。
 事前に申し上げた通り、ヴァンパイアの首魁――伯爵と呼ばれる個体の捕獲に成功致しました」

沢口の口上に場が静まる。彼に促されたのか、両脇の男達が後ろ手のままのわたしの身体を前方へと押しやる。
ざわめき立つ群衆。

「副大臣! こちらは厚生労働相の菅公隆氏ではないですか!?」
「この方がヴァンパイアの伯爵だったという事でしょうか!?」

再び焚かれる無数のフラッシュ。
……やめてくれ。霞の向こうから光を届ける……あの太陽の方がまだマシだ。

「御察しのとおり、菅公隆厚労大臣がヴァンパイアであり、その統領でした。我々も驚きを隠せずに居る次第です」
「本当に菅大臣がヴァンパイアなのですか!? 根拠はあるのですか!?」
「彼自身が認めています」
「ヴァンパイアは昼外に出られない筈では?」
「弱点を克服した幹部に関してはその限りではありません。現在、2体の個体が陽の光に耐性を持つと報告を受けています」

再び静まり返る記者達。慌てて下がる者も居る。当然だろう。ヴァンパイアの怪力と性質は広く知られている。

「大丈夫なのですか!? 彼をこの場に置くのは危険ではありませんか!?」
「御安心を。この拘束具はヴァンパイアの弱点である銀を使用したもの。人並み以上の力は出せません」

沢口がわたしの背を記者達に向けて見せながら説明する。
感嘆の籠もるどよめきと共に、彼らの眼がこの手首のあたりに集中する。
カチャリと鳴る冷たい金具。……決していい気分じゃない。

「報道関係の方々、陽が沈めば奴らも動く。ここが戦場となる可能性がある。しかしあの陽が高いうちは――安全です」
「今後の彼の扱いはどうするのですか!? ヴァンパイアとは言え、閣僚の一員であった菅大臣を簡単に処断出来るのですか!?」
「それについては菅大臣もとい菅伯爵殿がご自身の進退についてご説明致します。皆様のご質問に答える準備もあるとの事です」

わたしはさらに一歩、前に出た。いきなり強く背中を押されたんだ。
よろめいて膝を突くこの両肩を抑えつける男達。
言葉とは裏腹な手荒な扱い、このわたしに対して……こんな屈辱的な格好を強いるとは。

……見ていろ。思う通りになどさせるものか。

293 : :2019/01/20(日) 08:53:38.88 ID:yRl8bErO.net
容量が尽きましたので、創作発表板での活動を終了いたします。

以下、下記のスレッドが投下場になります。
終わりまであともう少しではありますが、引き続き御愛読のほど、宜しくお願い致します。
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/9925/1488064303/

294 :予告 :2019/01/20(日) 09:10:35.56 ID:yRl8bErO.net
伯爵はこのピンチをどう切り抜けるのか!?
いまだ明かされぬ田中社主の正体とは!?

次回、「柏木局長がもたらした福音」をお楽しみに!!

295 :埋め立てサギ発動中 :2019/01/20(日) 09:15:49.06 ID:yRl8bErO.net
浅香「なんであたしが予告に出ないのよ! ちょっと! 聞いてる!?」

296 :埋め立てサギ発動中? :2019/01/20(日) 09:17:26.09 ID:yRl8bErO.net
結弦「……先生はまだいいです。僕なんかすっかりNPC化しちゃって」

297 :埋め立てサギ発動中… :2019/01/20(日) 09:19:54.48 ID:yRl8bErO.net
浅香「知らないわよ! 娘ちゃんの事忘れちゃった最悪パパの事なんか!」

298 :もう書き込めないはず :2019/01/20(日) 09:24:31.12 ID:yRl8bErO.net
結弦「え!? 娘って……だれ? ……あ……あたまが……急に……」
浅香「いっけなーい!! このままだとネタばれしちゃうわ! なに!? こんなに頑張ってるのに、どうして落ちないのよ!」

299 :もう書き込めないはず :2019/01/20(日) 10:01:00.95 ID:yRl8bErO.net
菅「それ以上の発言は慎んでもらえますか? 浅香さん?」
魁人「伯爵! てめっ!」
菅「君も居たのか」
魁人「てめぇこそ、とっ捕まったくせにシャシャり出やがって!」
菅「……この汚い手を放すんだ道産子が」
魁人「んだとぉ……北海道バカにしたな? いいトコだぜ? 俺の眼がいいのはあの広大な大地のお陰だぜ? ついでにイモも旨い」

300 :流石にもう書き込めないはず :2019/01/20(日) 10:13:05.22 ID:yRl8bErO.net
菅「残念だが、人間の血液以外に食指が動かないんでね」
魁人「……ほんとかあ? じゃああのネズミとコウモリどもはどうなんだ?」
菅「……は?」
魁人「チューチュー吸ったんだろお? 毛むくじゃらのネズミのをよ? ネズミだけに、ちゅーちゅーってな!」
菅「……貴様。わたしの可愛い……アルジャーノンを愚弄する気か?」
魁人「喧嘩売ったんはそっちだろ! オモテ出やがれ!」
菅「……望むところだ」

301 :佐井 朝香 :2020/10/14(水) 17:04:14.18 ID:imwzn6Dj.net
パリッと糊のきいた黒いタキシード。
麻生君、相変わらずそういうカッコ、似合うわねぇ……

あたしは彼をぼんやり眺めてた。
マイク片手に、「お忙しい中ようこそ」とか、「癒しとなれば幸い」とか言うのを。そして「5曲続けてお聴きください」って。
舞台袖からトコトコ歩いてきた秋桜ちゃんが、彼からマイクを受け取って。
「続けて」って事は、一曲弾くたびに拍手しなくてもいいって事よね?
うっかり寝ちゃっても怒られないって事よね?

え? どうしてそんな事って……ほら、クラシック、しかもピアノの曲とか……ついウトウトしちゃうじゃない?
しちゃうわよ〜
知らない曲は特に。別に退屈とかそんなんじゃなくて、子守唄にしか聴こえないから?
小さい時からそう。
起きてる自信なんかこれっぽっちも。
ほらね、初っ端からこれだもの。透き通るような硬質の……キラキラした音。それがもう……こんなに……遠い。

気付いたらあたし、湖の畔に立ってた。
……また来ちゃった。
あの時。桜子さんのピアノの音を、舞台袖で聴いた、あの時。
灰色の空に、一面の湖面。深い……どこまでも深くて青い湖。
ぐるりとあたしを囲む水平線。もしかしてこれ、湖じゃなくて……海?

どこか遠くで鳴るピアノの音。
音に合わせて、ひとつ、ふたつと重なる波紋。
波間から垣間見える水の底で……誰かが呼ぶの。
ここがあたしの帰るべき場所だって。
足を踏み出す。
あの時は、柏木さんに肩をギュッとされて我に返ったっけ。

触れた水は冷たくなんかなくって。あたたかで。
どんどん身体が沈んでいくのに、まるで抵抗がない。
すっごく馴染む。まるで、自分自身の体液にでも漬かってるみたいに。

でもね、あわや首までって時に、ぐっ! っと左手を掴まれたの。
気付いたらあたし、びっしょり汗をかいて座ってた。
眩しい舞台のライト。
ここはコンサートホール。
光の粒を照り返すグランドピアノ。
座ったまま、手を膝に置く麻生君。

隣を見れば……あたしの手を握りしめたまま……じっと前を向いてる田中さん。
どういう状況かしら。
あたしが居眠りしてる間に、終わっちゃったのかしら。
にしてはおかしいわ。
誰も拍手しようとしないもの。
感動しすぎて……って理由にしても、タメが長すぎない?

そう思って見回せば、座る人達がみんな、舞台を見たままボーっとしてる。
田中さんの向こうに座る、宗とハムくん、そのまた向こうに座る魁人も同じ。
まるで人形みたいに、眼を見開いて。
あの時と同じだわ。
あの時も、桜子さんの音を聴いた人達がこんな――

『音ってもんは……恐ろしいもんや……』

ボソリと呟いた田中さんが、そっとあたしの手からその手を離した。

302 :創る名無しに見る名無し:2022/05/18(水) 15:07:20.96 ID:U2/nV/Bm.net
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303 :創る名無しに見る名無し:2023/09/28(木) 10:33:17.27 ID:tvYoKB8aN
世界最悪の殺人テロ組織公明党国土破壞省齋藤鉄夫によるマッチポンプ工事すぐ福岡小学生3人溺死
力による一方的な現状変更によって滑走路にクソ航空機にと倍増させて都心まで数珠つなき゛で鉄道の30倍以上もの莫大な温室効果ガス
まき散らして気候変動させて海水温上昇させてかつてない量の水蒸気を日本列島に供給させて土砂崩れ,洪水.暴風、熱中症に
白々しく護岸工事だのと人の命を利権に換える斉藤鉄夫によって曰本中コンクリー├まみれ
人が生きる上で全く不必要かつ地球を徹底的に破壞して食料危機まで引き起こしてるカンコ‐とか人の命を換金する明白なテロだろ
創価学会員はこんな私利私欲の権化公明党という外道を支持してることを恥じろよ,ビックモー夕ーが言語道断た゛の人殺しが笑わせる
保険料が上か゛るだのいうが風水害連発させてあらゆる保險料爆上げさせてもはや‐般家庭は風災水災を保険から外すしかなくなってるのが現実
国民の生命と財産を奪って私腹を肥やしてるのが蓄財3億円超のテロリスト斉藤鉄夫
[羽田)tТps://www.Call4.jp/info.php?type=items&id=I0000062 , ttрs://haneda-рroject.jimdofree.com/
(成田]Τtps://n-souonhigaisosуoudan.amebaownd.com/
(テ口組織)ТtРs://i.imgur.Com/hnli1ga.jpeg

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