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【ファンタジー】ドラゴンズリング5【TRPG】

1 :ティターニア@時空の狭間 :2018/01/23(火) 01:33:04.93 ID:Uq/HO4fB.net
――それは、やがて伝説となる物語。

「エーテリア」と呼ばれるこの異世界では、古来より魔の力が見出され、人と人ならざる者達が、その覇権をかけて終わらない争いを繰り広げていた。
中央大陸に最大版図を誇るのは、強大な軍事力と最新鋭の技術力を持ったヴィルトリア帝国。
西方大陸とその周辺諸島を領土とし、亜人種も含めた、多様な人々が住まうハイランド連邦共和国。
そして未開の暗黒大陸には、魔族が統治するダーマ魔法王国も君臨し、中央への侵攻を目論んで、虎視眈々とその勢力を拡大し続けている。

大国同士の力は拮抗し、数百年にも及ぶ戦乱の時代は未だ終わる気配を見せなかったが、そんな膠着状態を揺るがす重大な事件が発生する。
それは、神話上で語り継がれていた「古竜(エンシェントドラゴン)」の復活であった。
弱き者たちは目覚めた古竜の襲撃に怯え、また強欲な者たちは、その力を我が物にしようと目論み、世界は再び大きく動き始める。

竜が齎すのは破滅か、救済か――或いは変革≠ゥ。
この物語の結末は、まだ誰にも分かりはしない。

ジャンル:ファンタジー冒険もの
コンセプト:西洋風ファンタジー世界を舞台にした冒険物語
期間(目安):特になし
GM:なし(NPCは基本的に全員で共有とする。必要に応じて専用NPCの作成も可)
決定リール・変換受け:あり
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり
名無し参加:あり(雑魚敵操作等)
規制時の連絡所:ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/3274/1334145425/l50
まとめwiki:ttps://www65.atwiki.jp/dragonsring/pages/1.html
       
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(単章のみなどの短期参加も可能)

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簡単なキャラ解説:

過去スレ
【TRPG】ドラゴンズリング -第一章-
ttp://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1468391011/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリング2【TRPG】
ttp://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1483282651/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリングV【TRPG】
ttp://mao.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1487868998/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリング4【TRPG】
ttps://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1501508333/l50

253 : :2018/05/01(火) 19:52:53.09 ID:JILRKLMa.net
「ん……ふああ……」

私達がなんとか鏃の雨を凌ぐと、黒蝶騎士が大きな欠伸と共に、ハンモックから体を起こしました。

「……あれ?誰?あなた達。こんなに近くに寄ってきて、なんで生きてるの?」

……自分から救難信号を送っておいて、何を寝ぼけた事を。
私は預かっていた漆黒の矢を彼女に見せる。

254 : :2018/05/01(火) 19:53:38.34 ID:JILRKLMa.net
「あ……そっか。じゃああなたが……ええと、うーん……あっ!ジャンソンさん!」

「どうしてそーなるんですか!私はシャルムです!シャルム・シアンス!ジャンソンさんはこちらですよ!」

一応、何度か顔を合わせた事があるはずなんですがね……。
魔導拳銃の売り込みで軍部を訪ねた時とか……。
いや、やめましょう。彼女のペースで会話をしても不毛なだけです。
私は魔導拳銃を抜き、黒蝶騎士に銃口を突きつける。

「……答えて下さい。あなた、何故ここにいるんです?」

「えー?なんでだっけー……ああ、そうそう。キーゼルさんにお願いされちゃったんだよねぇ。
 指環の勇者なんかやっつけてえ、指環全部もらっちゃおうよーって」

「……確か、帝国陸軍の少将の一人です。
 権限的には、独断で黒騎士を動かすのは不可能じゃありません」

小声で、ジャンソンさん達に向けてそう呟く。
……もっとも、本来は他の将校が制止をかけます。そんな独断が通るはずはないんですが。
人の記憶を操る光の竜に、世界に破滅をもたらす虚無の竜……でしたっけ。
何か、良からぬ事が起きているのかもしれません。
ですが今は……目の前の事に集中しないと。

「では……救難信号は私達を呼び寄せる為の罠だった、という事でいいんでしょうか」

突きつけた銃口は微動だにさせないまま、問いを重ねる。

「んーん、違うよ。実はねー……もう一人、いるっぽいんだよね」
「……なにがですか?」
「ここに忍び込んでる、悪い子ちゃん」
「……馬鹿な。昨夜の魔力反応は一度だけだった」
「あ、やっぱりあなた達も知らないんだ。うーん、じゃああの人誰だったんだろ」

……彼女は、人柄が独特すぎて今ひとつ言葉の真偽が分からない。
真意も、見えてこない。
結局彼女は何がしたくて私達を……

「でもよく分かっちゃった。結局、あなた達もまったく状況をコントロール出来てないんだね」

不意に、彼女の口調が変わった。
見た目通りの、年頃の少女の声音が……冷たい黒騎士の声に。

「だったら私が全部引き継いじゃった方が、手っ取り早く終わらせられそう」

瞬間、私は『賢者の弾丸』を放っていた。
私の中にある直感が、私に撃てと声を張り上げていた。
黒騎士を死なせる訳にはいかない。なのに弾頭を制圧用の電撃弾に変える事すら忘れていた。
そして……

「私、急いでるのよね。早く全部終わらせて、お家に帰りたいの。
 軍閥とか、政権とか、どうでもいいのに……」

黒蝶騎士シェリー・ベルンハルトは、自らの得物……月蝶弓をこちらに向けていた。
私の放った弾丸を、その弓の弦で受け止めて。

「だから……不死の女王も、虚無の竜も、私が全部仕留めといてあげるからさ」

……言葉が出ない。本当に同じ人間かと疑いたくなるほどの、技量なんて言葉では説明出来ない凄まじさ。
受け止められた弾丸に、黒蝶が宿る。

255 : :2018/05/01(火) 19:55:28.12 ID:JILRKLMa.net
「その指環、私に貸してくれない?」

……正直なところ、私は状況を楽観視していました。

256 : :2018/05/01(火) 20:01:23.78 ID:JILRKLMa.net
シェリー・ベルンハルトは黒騎士とは言え、弓使い。
これだけの人数で防御を代わる代わる行いながら進めば接近出来ないなんて事はないと。
実際にはもっと容易く接近出来て、この距離なら彼女も十全の力は発揮出来ないだろうと。

だけどそれはとんでもない見当違いだった。
彼女はどんな戦闘でも敵の接近を許す事はなかった。
それはただ単に、相手が接近する前に全ての戦いが終わってしまっていただけで……。
接近戦における彼女の能力、実力は……全くの未知数。

そして……弾丸が射返された。
プロテクションを二重展開……一枚が完全に打ち砕かれ、二枚目にも深い亀裂が走る。
私が発射した時より、威力が高い。
弦を用いた防御、相手の攻撃を本来以上の威力で射返す技量……とことん、デタラメですね。

シェリー・ベルンハルトが再び弓を構える。今度は、あの漆黒の矢を番えて。
来る……決して狙いを誤る事のない必中の狙撃が。

それに、これは……黒蝶が次々に宙に現れて、周囲に広がっていく。
数え切れないほどの蝶……これら全てに、あの体の自由を奪う強制力が宿っている……?
私も結構な天才だと自負していますが……彼女も、とんだ怪物だ。

「……散って下さい!可能な者は対呪防御を最大限に!」



【きな臭くしたかっただけー】

257 :スレイブ :2018/05/04(金) 01:35:48.19 ID:TlCcoAOi.net
>「おうともよ!行くぜアクア―――『トルレンス』」
>「――”リフレクション”! 我の推測が正しければこれで……」

ティターニアがマナの供給を切断し、そこへ寸毫の狂いなく叩き込まれた風と水の指輪の一撃。
無限の再生を封じられた大型不死者は頭から真っ二つになり、両片は波濤の魔力によって細切れとなった。
股下まで雷鳴と同速で駆け抜けたスレイブが風の魔力でふわりと着地すると同時、不死者の破片が雨あられと地面を打つ。
その一片一片に、再び蘇りうごめく気配はない。

>「――やはりな。都市のどこかに何らかの魔力の供給元があるらしい。おそらく、これから向かう竜の神殿か――
 今のは魔法反射の魔術の応用で結界の外からの魔力の供給を遮断した、というわけだ」

「ということは……この不死者共を操っていたのはやはり女王パンドラか。
 俺達の居所が知られたのは良くないな。うかつに野営はできなくなる」

やはり適当な建物に築城するのが無難だろう。
先行して抜け目なく残党を打ち払っていたアルダガが戻ってきた。

>「……掃除完了ですね。じきに夜が来ます、今夜はこのキャンプに宿をとりましょう」

>「冒険者的にはこれでも一晩過ごすのに十分な環境なんでしょうか。
 私としては……もう少し清潔な環境で寝泊まりしたいものなんですが」

「任せてくれ。故あって俺はこうした廃墟の掃除にも覚えがある。ジュリアン様の居室の掃除も俺の仕事だったからな」

「待て、廃墟の掃除と俺の部屋の掃除が何故結びつく……そんなにか?」

ジュリアンが珍しく戸惑ったような声を漏らし、スレイブは目を伏せて首を逸らした。
愕然と絶句する上司の方を見ないようにしながら、スレイブは腕鎧を外してインナーの袖をまくる。

「日が暮れる。迅速果断にとりかかろう」

キャンプ・アンバーライトの清掃作業には夜までかかった。
壁をびっしりと覆うツタを山刀で切り離し、湧いてくる羽虫を払いながら外へと放り出す。
石畳を割って生えている雑草の根は、出力を抑えた火炎魔法で焼き払う。
山積みになった瓦礫はジャンに頼んで破壊してもらい、小石ほどのサイズにして風魔法で掃き出した。

>「あれ、外に出るんですか。そこの魔法陣、踏まないようにお願いしますね。
 今踏むとすごい勢いで魔力を吸い上げられますよ」

「あんたは何をやってるんだ、掃除もせずに……これはブービートラップか?夜戦築城そのものだな……」

スレイブ達が掃除に明け暮れる一方で、シャルムはキャンプの外周に何やら細工を施していた。
ここは敵地だ、用心をしておくに越したことはない。
研究畑というにはやけに手慣れたトラップの構築を眺めていると、シャルムはこちらの視線に気付いたようだった。

>「……いえ、決して遊んでた訳じゃないんですよ。
 ただ不死者達が捨て身の特攻をしてくる可能性を考えると、ある程度の築城は必要かと思いまして」

「異論はない。明日の朝、俺達がここを出るときに引っかからなければな」

全方位にトラップを設置した結果、拠点から出られなくなったというのは兵士によくある失敗談だ。
シャルムがその愚を犯すとは思わないが、まるで積み木を並べる子供のように生き生きとした表情を見ると少しだけ不安になる。

>「あっ、ほら、夕飯の準備はまだなんでしょう?急がないと日が暮れちゃいますよ」

「そうだな。俺はそこの川で魚でも捕ろうか。ジャン、狩りに出るなら付き合うぞ」

258 :スレイブ :2018/05/04(金) 01:36:46.07 ID:TlCcoAOi.net
魚を捕るにせよ、獣を捕らえるにせよ、風の指環の魔力は大いに役に立った。
小規模な竜巻の中に獲物を捉えて動きを封じ、宙に浮かせて首を斬ればその場で血抜きも出来る。
木の上にある果物は、スレイブが跳躍術式でジャンプしてもぎり取る。
ほんの小一時間その辺をうろつくだけで、同行者全員が腹を満たせる程度の収穫があった。

『指環の力はこんなことに使うためにあるわけじゃないんじゃがの……』

獲物の血抜きを行うスレイブの手際を眺めていたウェントゥスが、複雑な表情でぼそりと漏らした。

「なにも戦争や敵を斃すためだけに指環があるわけじゃないだろう」

『それはそうなんじゃが、便利な十徳ナイフ程度に扱われるのもなんかすごい屈辱じゃ』

「そう言うな。ほら、あんたのお陰で捕れた新鮮な魚だぞ。流石は風竜、人々の役に立つ素晴らしい力だな」

『雑な宥め方じゃなあ!』

両手一杯の収穫を持って拠点に戻ると、既に夕飯の下準備は済んでいるようだった。
アルダガが床に蝋石で文様を描き、そこへ食材を置いて女神への祝詞を捧げる。

>「これは、女神への感謝ではなく、祈りなんです。糧となった者達が、無事に女神様の元へとたどりつけるよう。
 そして、今後の生まれ変わりに便宜を図ってもらえるよう、女神様にお願いしているんですね」

「……ダーマにはない価値観だな。暗黒大陸の神は、供物と力を酷い天引き率で交換する邪な神ばかりだ」

ダーマ魔法王国は数多の種族がその数だけ別々の神を奉じる多宗教国家だ。
土着の神――『魔神』は確たる存在として生息し、その土地から供物を吸い上げて生きている。
そして、国家に仇なすとみなされた魔神の討滅も、暗黒大陸においては日常茶飯事だ。
"知性"を供物とする魔神バアルフォラスが、かつてスレイブによって殺されたように。

神と直に触れ合うことのできるダーマでは、帝国のように超越した存在として神を崇拝することはない。
ダーマの神は、そういう生態をもった一つの生き物に過ぎないのだ。

>「おまたせしました、早速食べましょう!――宗教上の理由でお酒が飲めないのは、とても残念です」

「う……酒の話はやめてくれ。俺はもう生涯酒は呑まない。絶対に、絶対にだ。
 ……少なくとも帝国にいるうちは呑まない。あ、いや、星都の攻略中は呑まない」

『意志が薄弱過ぎるわ……』

どんどん決意のハードルを下げるスレイブを、ウェントゥスが半目で切り捨てた。
そうして焚き火を挟んだ晩餐をみなで摂っていると、不意にキャンプの二階で物音が聞こえた。
ティターニアがピクリと反応すると同時、スレイブも脇に置いてあった剣を掴んだ。

>「パック殿、様子を見てきてくれ」
>「あ、拙僧も行きます。結界があるとはいえ、ここは敵地ですから……ご一緒しますね、パック殿」
>「……念の為、私もご一緒します。前衛、よろしくお願いしますよ」

「頼んだ。俺は地上からの接敵を警戒しておく」

シャルム、アルダガ、パックの三人が物音の正体を確かめに階段を上がっていく。
スレイブはティターニアの傍まで移動して、静かに長剣を鞘から抜いた。
刃渡りのまっすぐな長剣は、納刀状態からの抜き打ちには向かない。
同時にバアルフォラスもシースから取り出して、いつでも戦闘に入れるよう身構える。

しばし息の詰まるような緊張が場を支配して、階上へ向かった連中が突入する音が聞こえた。
先んじて戻ってきたパックが警戒の要を伝え、追ってシャルムも階段を降りてくる。

259 :スレイブ :2018/05/04(金) 01:37:21.09 ID:TlCcoAOi.net
>「侵入者はいませんでしたね。代わりに何か、バフナグリーさんが見つけたようですが……」

シャルムの言葉にスレイブはようやく息を吐いて剣を鞘に戻す。
最後に一同のもとへと帰ってきたアルダガは、一本の大きな矢を手に持っていた。

>「先程の物音の正体です。このキャンプの二階に、この矢が撃ち込まれていました」

「黒の……矢羽。俺も人伝いにだが聞いたことがあるぞ」

>「……『黒蝶騎士』ですね。シェリー・ベルンハルト。
 帝国陸軍大将、ディアマンテ・ベルンハルトの推挙によって黒騎士に名を連ねた帝国軍人です」

「黒蝶騎士……!やはり侵入者というのは黒騎士だったか……!」

道中でアルダガの告げた"侵入者"の兆候。
その隠蔽に元老院が関わっているとすれば、送り込まれたのは元老の息のかかった戦力であると踏んでいた。
そして、指環の勇者に黒鳥騎士、主席魔術師まで含んだ一行へのカウンターとして放つなら、同等の戦力が必要となる。
それが黒蝶騎士。シャルムによれば大陸間の狙撃さえも完遂させた、掛け値なく人類最強の弓使い。

>「一番の問題は――この矢が攻撃用ではなく、連絡用のものだということです。
 より具体的に言うなら、赤い光は帝国軍式の魔術暗号で、『救援要請』を示しています。
 つまり、黒蝶騎士はどこかから、キャンプにいる拙僧たちへ向けて、救援を求めているということ」

アルダガが黒の矢に魔力を流すと、赤の光が部屋の中を染め上げた。
否応なしに警戒を強めさせられる仰々しい色合いは、帝国式の信号弾のものだという。

「黒蝶騎士が、助けを求めている……?秘密裏に侵入したにも関わらず、俺達にその存在を知らせてまでか?
 解せないな。再生だけが取り柄の不死者程度に、黒騎士が追い詰められるとも思えない」

>「罠、と見るのが最も妥当かもしれません。しかし、罠にしては誘いがあまりに安直です。
  黒蝶騎士を窮地に追い込めるような存在がこの地に居るなんてことは想像したくもありませんが……
  拙僧達や、皇帝陛下の預かりの及ばない場所で、もっと厄介な何かが起きている可能性があります」

「頭が痛いな……いや、酒が残ってるわけじゃなくてな。世界の危機だというのに頭痛の種が増えるばかりだ」

黒蝶騎士のバックに居るのが何者であれ、指環の勇者とは別の思惑で指環に関わろうとしている者がいることは確かだ。
虚無に堕ちた女王パンドラでさえ不死者を指揮する厄介な相手だというのに、この上黒騎士まで相手取らなければならない。
正直言って、黒蝶騎士はこのまま見捨てておいたほうが色々とスムーズに行くとさえ思える。

>「っ……!」

と、黒羽の矢を調べていたシャルムが、不意に痙攣した。
すわ何事かとスレイブは再び剣に手をかけるが、どうやら大事には至らなかったようだ。

>「……極めて強い、強制力を感じます。ひとまずはレジストしましたが」

「クロ、だな。敵意と害意がこの矢には盛りに盛られている。これはもう完全に罠だろう」

矢に込められた魔法はおそらく、救援信号を受け取った者を有無を言わさず自分のもとへ呼び寄せるもの。
魔法に触れたのがシャルムでなければ、たとえばスレイブなら、万難を排して黒蝶騎士の方へと向かったに違いない。

>「……この救難信号、明日の明朝に確認に向かいましょう。
 黒蝶騎士がもし私達の敵なら、このまま神殿に向かうのはあまりに危険です」

「場合によっては後ろから撃たれることもあり得るということか……そいつは、ぞっとしないな」

大陸を縦断しての狙撃さえも可能な黒蝶騎士の弓さばき。
このセント・エーテリアならどこにいたって彼女の射程範囲内だ。
放置して女王パンドラとの戦いに挑むには、危うすぎる後顧の憂い。

260 :スレイブ :2018/05/04(金) 01:37:41.25 ID:TlCcoAOi.net
>「……それにもし敵でないのなら、味方に出来れば、彼女は心強い戦力です」

――それは、あまりにも希望的すぎる観測だと。
思いはしても、スレイブは口に出すことができなかった。

・・・・・・――――――

261 :スレイブ :2018/05/04(金) 01:38:13.65 ID:TlCcoAOi.net
翌朝。昨晩の残りを温め直した簡単な朝食を摂ると、一行はキャンプ・アンバーライトを出立した。
向かう先は矢を撃ち込んできた黒蝶騎士の居所。奇しくも先方の目論見通りだ。
シャルムが捉えた黒蝶を案内人として、鬱蒼と茂る密林を再び切り拓きながら進んでいく。
しばらく代わり映えのない景色が続いていたが、ある時を境に視界の色合いがガラリと変わった。

「……不死者の遺骸。再生も、分裂さえも許さず一撃で仕留められているな」

地面を染め上げる夥しい赤黒い血痕と、その主たる不死者の残骸。
無数のそれらは、たった一本の矢によって大木に縫い止められ、尽くが絶命していた。
矢の尻には、黒の矢羽――この死体の山を作り上げたのが黒蝶騎士であるという、何よりの証左だ。

一体如何なる技量を用いれば、無数の不死者を一撃の矢で全て仕留めることができるのか。
想像の及ばない世界の一端を垣間見た気分になって、スレイブは寒気を覚えた。

>「……バフナグリーさん、あれは」

先導するアルダガの後ろについていたシャルムが、声を低くして何かを示す。
その指の先には、木々の間に渡したハンモックで眠る、一人の女の姿があった。
若い。歳はスレイブやラテとそう変わらないだろう。少女から女性へと変わる過渡期のような、あどけなさを残している。

そして、黒騎士の代名詞とも言えるブラックオリハルコン製の鎧――
弓士らしく、軽鎧として仕立てられたその鎧には、色鮮やかな宝石が散りばめられている。
無骨な鎧に宝石の装飾というミスマッチが、しかし奇跡的なバランスによって両立し、確固たる存在感となっていた。

「あれが黒蝶騎士――!随分と若いな、俺より歳下なんじゃないか」

この期に及んで益体もない感想が漏れるのは、目の前の光景にどこかお伽噺めいた現実感のなさがあったからだ。
木漏れ日のなか、まるで休日の令嬢のように眠る黒蝶騎士の姿は、一枚の絵画のように美しい。

>「防御の準備だけは万端にしといて下さいよ……」

シャルムに促され、ようやく現実へと戻ってきたスレイブは、音を立てないよう静かに剣に手をかけた。
帝国最強戦力、黒騎士。帝国全土で7つしかない席の一つを占める者。
そしてスレイブたちは、その眠れる虎の尾を、今から踏み抜きに行くのだ。
アルダガが一歩踏み出して、その足元で微かに何かが弾ける音がした。

>「『プロテクション』」

刹那、何かがアルダガ目掛けて飛んできて、シャルムがそれを防護魔法でキャッチした。
矢もかくやの速度で飛来したのは、何の変哲もない小枝。

>「……あの黒蝶を使った即席のトラップでしょうか。
 気をつけて下さいね。同様の物がまだまだ仕掛けられて……」

「なっ――!?」

シャルムが言葉を終えるよりも先に、周囲の大気が大きく震えた。
音の正体は、そこかしこから飛び上がった枝に小石に骨の欠片。
夥しい量のそれらは一度空へと浮かび上がると、まるで号令をかけられたかのように一斉にスレイブ達へと降り注いだ。

「挙動をトリガーとした多段トラップ……!この物量、まずいぞ!押し切られる!!」

>「プ、『プロテクション』!手、手を貸して下さい!これは持ちません!」

一つ一つに込められた魔力は礫としての威力を確実に引き上げ、シャルムの重ねがけした防御壁が見る間に削られていく。
スレイブは指環に魔力を走らせ、掌を空へと掲げた。

「逆巻く風よ、礫を弾け――『エアリアルシェル』!」

262 :スレイブ :2018/05/04(金) 01:39:01.94 ID:TlCcoAOi.net
テスト

263 :スレイブ :2018/05/04(金) 01:39:56.03 ID:TlCcoAOi.net
シャルムの防御壁より一回り大きな竜巻のドームが出現し、強風が飛来する礫の軌道を逸らす。
スレイブ達を中心とした円形状に地面が穿たれ、抉り取られていくさまは、トラップの常軌を逸した威力を十分に思わせた。

>「……あれ?誰?あなた達。こんなに近くに寄ってきて、なんで生きてるの?」

耳元で展開される地獄絵図を、まったく意に介すことなく眠り続けていた黒蝶騎士。
彼女は今まさに起きたとばかりに起き上がると、大きくけのびをしてハンモックから降りた。

「ご挨拶だな、あんたが俺達を呼んだんだろう。それともその月蝶弓の使い手が帝国に二人と居るのか?」

>「……答えて下さい。あなた、何故ここにいるんです?」

シャルムが油断なく魔導拳銃を構え、黒蝶騎士に問う。
返って来た答えは要領を得ないが、要約するに黒蝶騎士が星都へ侵入したのはやはり帝国上層部の差金だったようだ。
皇帝の意に反する差配がまかり通っているのは、帝国内が祖龍復活に揺らいでいるからか。

>「では……救難信号は私達を呼び寄せる為の罠だった、という事でいいんでしょうか」
>「んーん、違うよ。実はねー……もう一人、いるっぽいんだよね」
>「ここに忍び込んでる、悪い子ちゃん」

「侵入者は黒蝶騎士だけじゃ、ない……?どういうことだ、まさか別の黒騎士も入り込んで来ているのか?」

晩餐会で皇帝さえも黒鳥騎士アルダガの所在を把握できていなかったことから察するに、
黒騎士の居所は軍事機密として極僅かな者を除いて伏せられているのだろう。
仮に黒蝶騎士の協力を得られたとしても、事態の全貌は彼女さえも知りはしないのだ。
そして、黒蝶騎士もまた同じ結論に達したようだった。

>「でもよく分かっちゃった。結局、あなた達もまったく状況をコントロール出来てないんだね」
>「だったら私が全部引き継いじゃった方が、手っ取り早く終わらせられそう」

――お互いに情報不足なら、協働体制を取る利点はない。
黒蝶騎士にわずかに残っていたあどけなさが完全に消え失せ、百戦錬磨の武人の顔が表に出る。

刹那、シャルムが射撃した。
不死者の胴に一撃で大穴を空けたあの魔導拳銃が、黒蝶騎士へ向けて仮借なく火を吹く。
しかし――黒蝶騎士が致死の弾丸に穿たれることはなかった。

「弦で――弾を――受け止めただと――!?」

音よりも速く飛翔する弾丸を、こともなげに振るった弓の弦が捉えていた。
人智を超越した技巧に、スレイブは己の眼を疑わざるを得ない。
炸裂するはずの術式が機能せず、代わりに黒の蝶が弾丸に宿る。

>「その指環、私に貸してくれない?」

弦の張力によって跳ね返された弾丸が、発射元であるはずのシャルムへと飛んだ。
咄嗟に彼女の張った二枚重ねのプロテクションのうち、一枚は完全に貫通し、もう一枚にも大きな亀裂が入る。
信じられないといったシャルムの表情を見るに、弾丸の威力は発射された時よりも格段に上昇していた。

>「……散って下さい!可能な者は対呪防御を最大限に!」

既に黒蝶騎士は二の矢を弓に番えている。
加えて無数の魔力で編まれた蝶が周囲を飛び交い、彼女の制空権を確たるものとしていた。

「ティターニア、蝶共の駆除はあんたに頼んだ!俺は全ての魔力を攻撃に費やす――そうでなきゃ、生き残れない」

矢に比べれば遥かに軽量な銃弾を、それも不安定な態勢で跳ね返してなお、あの威力。
番えられ、今まさに放たれんとしているあの矢をまともに受ければ、それこそ木に縫い留められた不死者たちの二の舞だ。

264 :スレイブ :2018/05/04(金) 01:40:27.17 ID:TlCcoAOi.net
「ウェントゥス!」

『わかっとる!』

言葉一つで意図を伝えあった指環の勇者と竜は、お互いに現在の魔力で可能な全ての魔法をその身に行使する。
跳躍術式、回避術式、幻影術式、防御術式。魔力の篭った風がスレイブの全身と、構えた長剣を包み込んだ。
風魔法は飛び道具と相性が良い。これだけ重ねがけした障壁ならば、いかに強力な矢であっても阻めるはずだ。

「行くぞ!」

対空起動剣術の跳躍力で、黒蝶騎士目掛け突進するスレイブ。
凝縮した時間感覚の中で、引き絞られた矢が長弓から放たれるのが見えた。

「――――ッ!!」

風切り音すら遅れて聞こえる超速の射撃。
もはや一筋の黒い閃光と化した矢が、スレイブを包む風の結界に突き刺さる。

『あ?あああ?ウソじゃろ!!?』

ウェントゥスが悲鳴を上げる。
黒の矢は、幾重にも張り巡らされた風魔法の障壁を一切の遅滞なく貫いた。

「馬鹿な……!」

それでも僅かに軌道が逸れ、スレイブの肩口を切り裂いた矢が背後へと抜けていく。
風の中を鮮血が舞い、それが地面に落ちると同時、矢が飛んでいった方向から爆発じみた轟音が響いた。
矢が壁に着弾した音だと理解するのを脳が拒む。一体どれほどの力が込められているのか。

「あれ、外しちゃった?寝起きで弓引くもんじゃないね」

『飛び道具に儂の風魔法が押し負けた……?どういう張力しとるんじゃあの弓!』

だが、初撃はなんとか命に届かなかった。
肩口は大きく切り裂かれたが、急所は無事だ。問題なく剣を振れる。
そしてスレイブは、黒蝶騎士を長剣の間合いに捉えた。

265 :スレイブ :2018/05/04(金) 01:41:05.11 ID:TlCcoAOi.net
黒蝶騎士がシャルムの銃撃に対応したのと同じように、剣の軌道へ弓を置く。
受け止めるつもりか。だが銃弾とは違い、こちらが振るうのは剣だ。

(その弓の弦を断ち斬る――!)

鋼鉄さえも切断する鋭さを持ったスレイブの長剣が、弧を描いて月蝶弓の弦に直撃した。

――斬れない。
斬撃は手応えすら返らないほど完璧にいなされ、弓の弦でピタリと止まる。

「なっ……!?」

「良い剣だね。でもちょっと矢にするには重すぎるかな」

表情一つ変えずに剣を受けきった黒蝶騎士は、剣に弦を添えたまま弓を引き絞った。
ギリギリと悲鳴じみた音を立ててしなる弓は、ただならぬ張力を秘めていることを否応なしに伝えて来る。
これから起きるであろう現象を、スレイブは悟ってしまった。

「品評終わり。はい、返すね」

『剣を構えたスレイブ自身』を矢に見立てた、月蝶弓による射撃。
音の速さで撃ち出された剣の柄がスレイブの胸当てに着弾し、ミスリルの板金を容易く歪ませる。
慣性は余すことなくスレイブの全身へと伝わり、彼は矢と同じ速さで吹っ飛ばされた。

(人間一人を丸々矢として撃ち出しただと……!)

黒蝶騎士。人類最強の弓使い。
黒鳥騎士アルダガのようなある意味分かりやすい怪力ではなく、その深奥は卓越した体捌きと力の制御だ。
少女の細腕で引けるはずもない剛弓を引き、弾を受け止め、斬撃をいなし――人一人さえ射飛ばして見せた。

「気をつけろ……こちらの振るう力さえも奴の支配下だ――!」

警告を最後に、スレイブは壁に叩きつけられて深く埋まった。
奇しくも先に飛んでいった矢と同じ場所への着弾で――おそらくはそれも、黒蝶騎士の狙い通りだった。


【黒蝶騎士と戦闘開始。剣ごと矢として撃ち出されてかべのなかにいる】

266 :ジャン :2018/05/06(日) 16:25:03.99 ID:1hO1ktT1.net
>「お見事です、流石は指環の勇者……拙僧と戦ったときよりもずっと強く、指環を使いこなしているんですね」

「……そっちも強くなったみてえだな、メイスの一振りで吹っ飛ばされそうだぜ!」

迷いや躊躇いを感じさせないアルダガの戦闘はとても力強さを感じさせるものであり、
腕力に限らず純粋な力を奉ずるオーク族では尊ばれる戦い方だ。

冒険者となったジャンも例外ではなく、自由都市での戦闘からさらに強くなったアルダガとの
戦闘に期待し、その嬉しさからアルダガに威勢よく返答を返す。

>「……掃除完了ですね。じきに夜が来ます、今夜はこのキャンプに宿をとりましょう」

>「そうですね……ところで、ジャンソンさん。このキャンプ・アンバーライトなんですが。

帝国が放棄したおかげで長年掃除もされず、不死者たちがねぐらにしていたせいで謎の肉塊があちこちにあるこのキャンプ・アンバーライト。
冒険者として馬小屋や骸骨が転がっている遺跡で寝泊まりしたジャンにとっても、なかなかつらい環境だ。

「瓦礫とか邪魔なもんはまとめて壊しちまおう。肉の塊は……ちょっと食べる気分じゃねえな。
 掃除は水で流して火で乾かして、風で吹き飛ばせばすぐだろうよ」

単純な魔力の容量では世界最高峰の遺物であろう指環も、冒険者が使えばただの便利道具。
水を垂れ流したり親指ほどの火で焼く程度なら消費も少なく、あっという間にきれいになっていく。

>「あれ、外に出るんですか。そこの魔法陣、踏まないようにお願いしますね。
 今踏むとすごい勢いで魔力を吸い上げられますよ」

『ジャンがさっきからぐったりしてるのはそういうことかい。
 元々魔力の少ないオーク族にはつらいどころではないだろうね……』

>「おつかれさまでした!キャンプも綺麗になったことですし、お夕飯にしましょう!」

>「あっ、ほら、夕飯の準備はまだなんでしょう?急がないと日が暮れちゃいますよ」

>「そうだな。俺はそこの川で魚でも捕ろうか。ジャン、狩りに出るなら付き合うぞ」

「お、おう……ようやく動けるようになってきたぜ……」

その後のスレイブとの狩りで幾分調子は戻ってきたが、ジャンはどこか身体に気だるさが残ったままであった。
遺跡や洞窟に潜る際、いかに罠の知識が重要かを痛感しながら焚火を皆と囲む。

夕食の直前、アルダガが何かの儀式をしていた。
それは女神への祈りであり、防毒と浄化の法術も兼ねた実用的なものだ。

>「これは、女神への感謝ではなく、祈りなんです。糧となった者達が、無事に女神様の元へとたどりつけるよう。
 そして、今後の生まれ変わりに便宜を図ってもらえるよう、女神様にお願いしているんですね」

>「……ダーマにはない価値観だな。暗黒大陸の神は、供物と力を酷い天引き率で交換する邪な神ばかりだ」

「俺たちオーク族は神様なんていねえな。むしろ他の種族の神様を俺たちの英雄がぶん殴る逸話しか聞いたことねえや。
 空を飛ぶ魔神を天まで吹っ飛ばして星にしたとか、炎を操る魔神を地面に埋め込むぐらい殴って火山になったとかそういうやつ」
 
暗黒大陸には古代文明よりも昔から、古龍と同じかそれ以上に古くから生きる生物が存在している。
彼らは皆一様に魔神と名乗り、加護の代償として生贄や宝石といった即物的な供物を好む。

オーク族はダーマ建国以前からそういった魔神の横暴に苦しむ他種族へしばしば魔神への反乱に傭兵という形で手を貸し、
自らは魔神を持たず、ただ英雄と先祖を奉ずる戦闘と放浪の民として知られてきた。

267 :ジャン :2018/05/06(日) 16:25:45.39 ID:1hO1ktT1.net
こうして夕飯と共に会話を続け、ちょうどジャンが川で釣ってきた二匹目の焼き魚を食い終えた辺りだ。
何かが硬いものを貫いたような音と、刺さった矢がしなる独特の音が上階から響く。

アルダガとパック、そしてシャルムが階段を上がって正体を確かめに向かい、
それ以外のメンバーは焚火がパチパチと燃えて弾ける音の中、それぞれの武器を構えて辺りを注意深く見回す。

やがて降りてきた三人が伝えてきたのは、帝国が誇る最高戦力の一人である黒蝶騎士が矢を撃ち込んできたということ。
それも救難要請を示すものだと分かり、一行は議論を交わす。

>「……極めて強い、強制力を感じます。ひとまずはレジストしましたが」

すると、矢を調べていたシャルムが痙攣と共に体がぐらついた。
矢には救難信号と共に行動を強制する呪いじみたものがあり、耐性のない者が触れば抜け出せない類のもののようだ。

「俺やスレイブが触ればあっという間にフラフラ出て行って、矢で撃ち抜かれて一丁あがりってわけだな。
 こりゃ話し合いの余地はなさそうだ……」

このまま放っておけば女王との決戦に横槍どころか女王ごとまとめて射抜かれかねない。
そうなる前に、黒蝶騎士をどうにかしなければならないということで結論となり、明朝すぐに向かうこととなった。

地下で朝が分かるのも奇妙なものだが、この都市を照らす人工太陽は
日の出の時間になれば徐々に明るくなり、日の入りになれば徐々に暗くなるようだ。

真上から降り注ぐ人工の光を浴びながら、一行は黒蝶騎士が眠る場所へとたどり着く。
そこは不死者の死体というより残骸、欠片とも言うべきものが散乱し
血液が辺りを赤一色に染め上げる凄惨な狩場となっていた。

さらに一行が近づけば即席の罠が一行を襲い、スレイブとシャルムがそれをなんとか防ぐ。
捕縛するための狩猟用の罠ではなく、明らかに殺意の込められた罠。

>「あ……そっか。じゃああなたが……ええと、うーん……あっ!ジャンソンさん!」

>「どうしてそーなるんですか!私はシャルムです!シャルム・シアンス!ジャンソンさんはこちらですよ!」

「おう!俺の名前はジャン・ジャック・ジャンソン……といつもなら名乗るんだが。
 さすがに殺意むき出しの相手に喋る名はねえな」

268 :ジャン :2018/05/06(日) 16:26:05.38 ID:1hO1ktT1.net
シャルムとスレイブが事情を問いただせば、もう一人がこの遺跡に侵入し、さらに協力する気はないと黒蝶騎士は宣言する。

>「その指環、私に貸してくれない?」

その言葉と同時にシャルムが放った弾丸は跳ね返り、触れたものを自在に操る黒蝶が辺りに広がる。

>「……散って下さい!可能な者は対呪防御を最大限に!」

>「ティターニア、蝶共の駆除はあんたに頼んだ!俺は全ての魔力を攻撃に費やす――そうでなきゃ、生き残れない」
     ・・・
『アクア、沈むぞ』

スレイブが指環の力を開放し、あらゆる強化魔術と共に一陣の風となって突撃する。
幻影も合わせて同時に多方向から襲い来る斬撃は、達人ですら本体を見切れないはずだった。

だが、黒蝶騎士はそれをまるで意に介さずただ一本の矢で本体を掠める一撃を放つ。
それに動揺こそしたものの、怯むことなくスレイブは再び斬りかかる。

>「品評終わり。はい、返すね」

相手の獲物を眺める余裕を見せつけると共に、黒蝶騎士は弓の弦で受け止めたスレイブを
矢として放つという超人めいた芸当をやってのける。

吹き飛ばされたスレイブは近くにあった建物の壁に叩きつけられ、残骸の中に埋もれる形となる。
その状況の中、ジャンは指環の力を使い、自らを血液そっくりの液体に変化させて黒蝶騎士の背後へと向かっていた。

(スレイブのおかげでなんとか背後に回り込めた……後はサクラメントで首を取る!)

背後という死角に潜り、即座に擬態を解いて聖短剣サクラメントを鞘から抜き放つ。
そして黒蝶騎士の首筋、頭と胴を繋ぐ部分に向けて迷うことなくその刀身を振り下ろした。

「見えてるよ」

振り向くことなく黒蝶騎士が放ったその一言は、ジャンを動揺させ、行動を躊躇わせるのに十分な一言だった。
そしてその躊躇った代償はそのままジャンへと跳ね返る。
黒蝶騎士の華奢な身体が一瞬揺らめいたかと思うと、強烈なハイキックがジャンの顎を蹴り飛ばす。
ぐらついて崩れ落ちるジャンの腹に今度は膝蹴りを叩き込み、骨が砕ける音が辺りに鈍く響く。
一見すれば防御を捨てたともとれる軽装の鎧は、格闘の際には最も効力を発揮する武器だったのだ。

「がはっ……!」

「オークはやっぱり頑丈だね、まだ気絶しないんだ」

槍を支えにジャンは何とか立ち上がろうとするが、未だ身体に残る鈍痛が相手の実力を如実に伝えてくる。
すなわち、一人では絶対に勝てないということ。

269 :ティターニア :2018/05/08(火) 02:15:55.19 ID:KoZWHamK.net
廃墟の本来の意味での掃除は滞りなく進んだ。
ティターニアは指輪の力を少しばかり使って建物内にはびこる植物や土や小石を一網打尽にする係だ。
続いてリフレクションを張っていると、シャルムによって廃墟はいつの間にかちょっとした要塞と化しており、
外に出ようとしたジャンが早速罠に引っ掛かったりしていた。
スレイブとジャンが狩りや漁をしている間、ティターニアは木の実を採集する。
テッラは植物属性も管轄しているので食用の木の実の在り処が分かる、なんていう地味な特技もあるのだ。
こうして十分な量の食料が集まり、晩餐が始まった。まずアルダガが浄化魔法兼祈りを捧げる。

>「自分たちが得た食事への感謝を女神様に捧げるなんて、奇妙だと思いませんか?
 拙僧もそう感じて、聖女様と夜通し討論したことがあります。あれは本当に疲れました……。
 これは、女神への感謝ではなく、祈りなんです。糧となった者達が、無事に女神様の元へとたどりつけるよう。
 そして、今後の生まれ変わりに便宜を図ってもらえるよう、女神様にお願いしているんですね」

「そうか。我は神官ではないがなんとなく分かるぞ。
きっと女神様というのは我々にとっての神樹ユグドラシルのようなものなのだろうな」

アルダガが言う女神というのは、帝国の人間が信仰しているメジャーな神のことらしい。
彼女らが神術という独自の系統の術を実際に行使している以上、その力の程はともかく何らかの力の源泉は存在するのだろう。
食べ物となった動植物まで気に掛ける女神が人間至上主義なのは一瞬疑問に思うが、それが本来の女神自体の思想とは限らない。
宗教は時が経つうちに国家の思惑などが取り込まれて教義が変化するのはよくある話である。

>「……ダーマにはない価値観だな。暗黒大陸の神は、供物と力を酷い天引き率で交換する邪な神ばかりだ」
>「俺たちオーク族は神様なんていねえな。むしろ他の種族の神様を俺たちの英雄がぶん殴る逸話しか聞いたことねえや。
 空を飛ぶ魔神を天まで吹っ飛ばして星にしたとか、炎を操る魔神を地面に埋め込むぐらい殴って火山になったとかそういうやつ」

「改めて凄いな……暗黒大陸……」

週一ペースで邪神が現れては英雄に倒される、は大袈裟だがもはやそれに近い世界観なんじゃないだろうか。
帝国は帝国で表の顔は皇帝万歳の独裁国家、内情を垣間見たら見たで権謀術数渦巻く権力闘争に明け暮れているし、
帝国や闇黒大陸と比べてのハイランドの平和さを改めて実感するティターニアであった。
和気藹々と食事をしていたところ、上階で物音がしたのでアルダガとシャルムとパックが偵察に行き、
パックがすぐに戻ってきて残ったメンバーに警戒を促す。
厳戒態勢で待機していると、二人が降りてきた。差し当たっての危機はないようだが、厄介な物が飛んできたようだ。

>「侵入者はいませんでしたね。代わりに何か、バフナグリーさんが見つけたようですが……」
>「先程の物音の正体です。このキャンプの二階に、この矢が撃ち込まれていました」

アルダガやシャルムの話によると矢の主は黒蝶騎士で、それは何故か救援要請を示すものらしい。
罠か、はたまた黒蝶騎士ですら救援要請を出さざるを得ないような何かが起こっているのか――

270 :ティターニア :2018/05/08(火) 02:22:31.81 ID:KoZWHamK.net
>「このまま祖龍の神殿を目指すか、救援信号の主を追うかは、指環の勇者殿にお任せします。
  どのみち、動き始めるのは夜が明けてからとなるでしょう。拙僧は二三日寝なくても大丈夫なので、見張りに立っています」
>「……ちょっと待ってもらえませんか、バフナグリーさん。
 この矢、少し調べてみますが……一応、神術の準備をお願いします」

271 :ティターニア :2018/05/08(火) 02:22:57.25 ID:KoZWHamK.net
シャルムに黒蝶騎士の矢についてどれ位予備知識があるかは分からないが、
少なくともティターニアよりは帝国事情に通じている彼女に任せてみることとする。
シャルムが矢に魔力を流し込むと、押し出された魔力が黒い蝶の形を取って出てきた。
シャルムはなんとそれを直接触って解析するという大胆な手段に出る。

>「……極めて強い、強制力を感じます。ひとまずはレジストしましたが」
>「とりあえず……この蝶々、捕まえておきましょう。
 さっき感じた強制力は、もしかしたら術者の場所へ私を誘う為のものだったのかもしれません」

>「クロ、だな。敵意と害意がこの矢には盛りに盛られている。これはもう完全に罠だろう」

「しかし敵ならこんな手の込んだことをせずとも普通に狙撃してしまえば話は早いだろうに。
どうしても呼び出したい理由があるのか……単に狙撃したら指輪を回収に来るのが面倒というだけか?」

>「……この救難信号、明日の明朝に確認に向かいましょう。
 黒蝶騎士がもし私達の敵なら、このまま神殿に向かうのはあまりに危険です」
>「……それにもし敵でないのなら、味方に出来れば、彼女は心強い戦力です」

「なんにせよ行ってみるしかなさそうだな……」

行ってみれば分かるということで議論は切り上げられ、一行は食事の後片付けをして眠りについたのであった。

*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*・*:.。. .。.:*・*☆*

>「……バフナグリーさん、あれは」
>「間違いなく、黒蝶騎士、シェリー・ベルンハルトです。あんな鎧、見間違えようがない」
>「あれが黒蝶騎士――!随分と若いな、俺より歳下なんじゃないか」

「うむ、あれは黒蝶というより童話の世界のカラフルな蝶だな――」

黒蝶という言葉から妖艶な夜の蝶のような妙齢美女を想像していたティターニアだったが、
少しばかり趣が違ったようで、まだあどけなさの残る少女であった。
それを言ったらアルダガだって黒騎士というよりは聖騎士の方が似合うのではないかという話になるし
そもそも黒騎士が全員黒で統一されているのはヴィットーレン一世の趣味から始まっているので仕方がない。
どうしてこの危険地帯で無傷で寝ていられるのか――その答えはすぐに分かった。
容赦ない罠が一行を襲う。

>「プ、『プロテクション』!手、手を貸して下さい!これは持ちません!」
>「逆巻く風よ、礫を弾け――『エアリアルシェル』!」

シャルムと共にプロテクションを展開するティターニア。
プロテクションだけでは追いつかず、スレイブの指輪の力を使った風の魔法でようやく安全が確保される。
――まだ相手は寝ているというのに、近づくだけで一苦労であった。

272 :ティターニア :2018/05/08(火) 02:25:42.62 ID:KoZWHamK.net
>「ん……ふああ……」
>「……あれ?誰?あなた達。こんなに近くに寄ってきて、なんで生きてるの?」
>「あ……そっか。じゃああなたが……ええと、うーん……あっ!ジャンソンさん!」
>「どうしてそーなるんですか!私はシャルムです!シャルム・シアンス!ジャンソンさんはこちらですよ!」

ようやく目を覚ました黒蝶騎士。
そのキャラは強烈なもので、天然というレベルを通り越してツッコミどころしかない不思議系であった。
彼女の潜入は、キーゼルという帝国陸軍の少将の命令によるものらしい。
そしてもう一人侵入者がいるらしく、その情報を持っていないかと思い一行を呼び出したようだ。

>「でもよく分かっちゃった。結局、あなた達もまったく状況をコントロール出来てないんだね」
>「だったら私が全部引き継いじゃった方が、手っ取り早く終わらせられそう」

「待て、落ち着け! 生憎指輪は一人一属性までという縛りが……」

ティターニアが駄目元の説得を試みている間にもいちはやく危機を察知したシャルムが弾丸を撃つ。
しかし次の瞬間、信じられない光景が展開されていた。
飛んできた弾丸を剣で切って回避というのは稀によく聞くが、その更に上を行く凄業だ。

>「弦で――弾を――受け止めただと――!?」

>「私、急いでるのよね。早く全部終わらせて、お家に帰りたいの。
 軍閥とか、政権とか、どうでもいいのに……」

黒蝶騎士が一行に戦いを仕掛ける理由は、崇高な使命感でも権力への野望でもなく「早くお家に帰りたい」というぶっ飛んだものであった。
もしや望んで黒騎士になったわけではなくあまりに強すぎて強制的にさせられてしまったのだろうか。
これには流石にティターニアも、話が通じない相手だということを悟る。

>「だから……不死の女王も、虚無の竜も、私が全部仕留めといてあげるからさ」
>「その指環、私に貸してくれない?」

撃ち返された弾丸を、シャルムは二重のプロテクションで辛うじて防ぐ。
シェリーが矢を番え、宙には黒蝶が舞う。

>「……散って下さい!可能な者は対呪防御を最大限に!」
>「ティターニア、蝶共の駆除はあんたに頼んだ!俺は全ての魔力を攻撃に費やす――そうでなきゃ、生き残れない」

「蝶の駆除か――ならば……ブラッディ・ペタル」

戦場のいたるところに、魔力で出来た巨大な深紅の花と獲物を捕らえる触手から成る植物が顕現する。
触手が黒蝶を捉えると、花弁の中に放り込んで食らう。魔力の蝶に魔力の食虫花で対抗する手段に出たというわけだ。
一方、スレイブが風属性の障壁をまとい先陣を切って突撃する。
竜の指輪による風の障壁がよもや突破されるとは思われなかったが、それでも肩を切り裂かれるのと引き換えに長剣の間合いに到達。
いくら黒騎士とはいえ弓使い相手なら、至近距離まで接敵してしまえば有利に進められると思われたが――

273 :ティターニア :2018/05/08(火) 02:32:08.39 ID:KoZWHamK.net
>「良い剣だね。でもちょっと矢にするには重すぎるかな」
>「品評終わり。はい、返すね」
>「気をつけろ……こちらの振るう力さえも奴の支配下だ――!」

274 :ティターニア :2018/05/08(火) 02:33:02.90 ID:KoZWHamK.net
シェリーは剣による斬撃さえも弦で受け止めると、スレイブ自身を矢のように弾き飛ばして見せた。
しかしその隙に、指輪の力で液体と化したジャンがシェリーの背後に迫る。

>「見えてるよ」

頑強を誇るジャンを突き崩したのは、あろうことか何の小細工も弄しないシンプル過ぎるハイキックであった。
続いて容赦のない膝蹴りが見舞われる。

>「がはっ……!」
>「オークはやっぱり頑丈だね、まだ気絶しないんだ」

いい加減弓使いだから接近戦は苦手ではないかという常識は捨てないといけないようだ。
むしろ力の制御が彼女の能力の本質だとすれば、格闘戦は得意とするところかもしれない。
かといって距離を取り過ぎれば遮るものがない上空からの狙撃で一撃でやられる。
よって消去法から導き出されるとるべき戦術は、障害物がある環境での中距離戦――

「――ストーンウォール! ジャン殿、今のうちに距離を取れ!」

随所に隠れ場所兼盾とするべく障害物を配置――複数の石の壁が地面からせりあがる。
それをシェリーとジャンの間にも出現させ、ジャンが退避するための間を作った。

「ラテ殿とシノノメ殿は光と闇で攪乱を! フィリア殿とジュリアン殿は魔法で攻撃だ!
アルダガ殿、スレイブ殿とジャン殿を診てやってくれるか」

弾丸だろうと剣だろうと物理的な物を介した攻撃は漏れなく弾き返されて返り討ちに合う事が立証済みなので、
ひとまず魔法を主な攻撃手段とした中距離戦に持ち込んで、神官のアルダガが前衛勢を復活させる時間を稼ぐティターニア。
次々と砕かれるストーンウォールの再配置をしつつ、”シェリーと同じ黒騎士に名を連ねるアルダガなら
もしかしたらシェリーとの共闘経験もあって何らかの弱点を知っているかもしれない”と一瞬思うのであった。
尤もシェリーの性格からして他人と共闘が可能かは大いに疑問なのであまり期待はできないが。

275 :ティターニア@時空の狭間 :2018/05/09(水) 21:01:30.96 ID:9/lXBGIZ.net
少し早めに次スレを立てておいたが
ギリギリまで埋めないとスレが落ちないのでこっちに書けなくなってから移動で
ttps://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1525867121/l50

276 :アルダガ :2018/05/10(木) 03:36:33.98 ID:F9RsHmAw.net
黒蝶騎士から送り込まれた謎の救援信号。
その真意を計りかね、まんじりともせず夜を明かした一行は、翌朝蝶の案内に従って再び行軍を開始した。
いつどこから狙撃されるとも知れない緊張のなか、アルダガは行く手を阻む木をへし折って道を作っていく。
やがてたどり着いた黒蝶騎士のねぐらでは、苛烈なトラップによる洗礼が一行を待ち受けていた。

如才なく罠の急襲を退けた指環の勇者達は、樹上で眠る一人の少女と邂逅する。
帝国最高戦力・黒騎士が一角――『黒蝶騎士』シェリー・ベルンハルト。
まるで物音はうるさいからたった今起きたと言わんばかりの彼女は、状況を把握して一言こう漏らした。

>「だったら私が全部引き継いじゃった方が、手っ取り早く終わらせられそう」

応じるようにシャルムが発砲する。
シェリーは信じられないことに発射された弾丸を弓の弦で受け止めて、そのまま弾き返した。
そしてそれが、黒騎士と指環の勇者たちとの、開戦の狼煙となった。

>「……散って下さい!可能な者は対呪防御を最大限に!」

「防御は拙僧にお任せを――なっ!?」

防壁神術を張ろうとしたアルダガであったが、にわかに眼の前が黒く埋め尽くされる。
足元の落ち葉に紛れて潜んでいた無数の蝶たちが一斉に飛び立ち、全方位からアルダガを包み込んだのだ。

(これは……昨晩シャルム殿を操ろうとしたものと同じ術式――!)

遮られた視界の向こうで、剣と魔法、そして矢の飛び交う炸裂の音が轟いた。

>「気をつけろ……こちらの振るう力さえも奴の支配下だ――!」
>「がはっ……!」

斬り掛かったスレイブは突進の力をそのまま跳ね返されて壁へと埋まる。
その隙に指環の力で背後へと回り込んだジャンであったが、やはり奇襲でシェリーの首を獲ることは叶わなかった。
彼女の周囲を飛び交う蝶、その一匹一匹が彼女の『眼』を兼ねる。
地平線の彼方からでも正確に標的を撃ち抜くことができるのは、高精度での観測が可能だからだ。

>「――ストーンウォール! ジャン殿、今のうちに距離を取れ!」

ティターニアが魔法で地面を隆起させ、戦場に石の壁を林立させる。
地に伏せ、仮借ない打擲を受け続けていたジャンが、這いずるようにしてシェリーの傍から退避した。

「あーあ、背中見せて逃げてくれればサクっと楽にしてあげたのに」

シェリーは無感動にそう吐き捨てると、矢筒から新しい矢を取り出して月蝶弓へとつがえる。
ぎりぎりと悲鳴じみた音を立てて引き絞られていくさまは、放たれる矢の威力をありありと想像させた。
ティターニアが優秀な術士であることは疑うべくもないが、あまりにも相性が悪すぎる。
音を追い越して風を貫く矢は、石壁をどれだけ重ねたところで全てぶち抜いて彼女の命へと届くだろう。

「なるべく痛くないようにするけど、どうしても辛かったら介錯は他の人に頼んでね」

如何なる魔法防御も貫通する致死の矢が、ティターニアに照準に合わせて放たれる。
大気を破る破裂音が響き、白い水蒸気の尾を引いて黒の矢が迸った。
行く手を阻む石壁はもはや布を裂くように容易く穿たれ、都合三枚の石壁に大穴が空いた。

「……忘れていませんか、拙僧の存在を」

最後の石壁を貫通した矢がティターニアへと届かんとした、その刹那。
横合いからうなりを付けて振るわれたメイスが、シェリーの矢に直撃した。
雷鳴にも似た音が響き、矢とメイスの接触点を中心に突風が吹き荒れる。
さながら爆心地の様相を呈しながら、強引に軌道を逸らされた黒の矢は明後日の方向を穿って果てた。

277 :アルダガ :2018/05/10(木) 03:37:25.27 ID:F9RsHmAw.net
アルダガが、総身を覆う黒蝶の群れからようやく脱出して、ティターニアを襲う凶矢を叩き落としたのだ。
シェリーはわずかに眉を動かして、自身の攻撃の結果に鼻を鳴らした。

278 :アルダガ :2018/05/10(木) 03:37:48.21 ID:F9RsHmAw.net
「忘れてないよ、黒鳥さん。だから最初にあなたを仕留めたはずだったんだけどな。
 一匹でも竜とか動けなくする魔法だったんだけど、どうやって跳ね除けたの?」

「触れた者に強力な強制力を付与し、傀儡へと変える黒の蝶、ですか。シャルム殿の分析でそこまでは把握していました」

アルダガがメイスを握っていない方の手を掲げると、掌の上で一匹の蝶がもがいている。
シャルムが全神経をかけてレジストした強制力が、しかし素手で蝶に触れているアルダガには作用していない。
アルダガが聖句を唱えると、掌の上の蝶から細い光の鎖が伸び、再びアルダガを襲わんとしていた黒蝶の一匹へと繋がる。
さらにその蝶からも鎖が伸び、無数の蝶は連鎖する無数の鎖によって繋ぎ止められた。

「強制力には優先順位があります。より強く重要な別の強制力があれば、あなたに従わされることはありません。
 ――拙僧は女神の尖兵。我ら戦闘修道士にとって、女神の思し召しは全てに優先します」

アルダガは掌の上の蝶を握り潰す。
瞬間、宙を飛び交う黒蝶のうち、光の鎖で繋がれた者たちが、空中で一斉に潰れた。
まったくの同時に――まったく同じ潰れ方で。

教皇庁制式神聖法術が一つ、『ルラシオン』。
鎖でつないだ対象同士で受けた傷を共有し、繋がれた数でダメージを分かち合う神術だ。
本来は一人では耐えきれない強力な攻撃を頭割りして受けるための防御魔法。
しかしアルダガの凄まじい握力によってもたらされた破壊は、無数の蝶たちが全員で分かち合ってなお、致命傷となる威力だった。

「ティターニアさん、ジャンさんとディクショナル殿を拙僧の後ろへ。神術で治療します」

アルダガは首に提げたロザリオを外し、ティターニアの傍の地面へと投じる。
地面に突き刺さったロザリオを中心に半球状の光の領域が発生した。
『祝福の杖』。領域内に居る者の治癒力を向上させる回復神術である。

「――!」

回復の聖句を唱えた瞬間、アルダガの腕が再び残像を伴って動いた。
抜け目なくシェリーから放たれた追撃の矢を、再びメイスが弾き落とさんと迎撃する。
しかし、今度の矢は真っ直ぐ飛ばなかった。巧妙に捻りを加えられた軌道はメイスを空振りさせる。
アルダガはメイスを振るいながら握りを変えて、柄尻で矢を捉えた。
再び衝撃波が爆風となって吹き荒れ、黒蝶騎士と黒鳥騎士の技量がせめぎ合う。

「満たせ。地を奔る楡の根、極北を攫う凍ての風、煉獄を舐めし炎の舌よ。我が指の示す先へ集え」

アルダガが懐から出した小瓶をメイスで叩き割り、中に詰められた聖水が弾ける。
聖句によって力を与えられた聖水の飛沫は、無数の氷柱となってシェリーへと殺到した。

「魂穿つ雫よ来たれ――『ディバインレイン』!」

波濤の如く押し寄せる氷柱の群れをシェリーは横っ飛びで回避し、避けきれない分は黒蝶をぶつけて相殺する。
蒸発した氷柱から発せられる蒸気が密林を覆い、それを突き抜けて黒の矢が飛ぶ。
アルダガは飛んできた矢を素手で掴み取ると、親指の力だけでそれをへし折って疾走した。

アルダガがシェリーをメイスの間合いに捉えるまで、歩幅にして十を数える間。
シェリーは実に20もの矢をアルダガへと射掛け、アルダガはそれを全て見切ってメイスで弾き飛ばす。

大気を叩き割りながら打ち下ろされたメイスが、頭上からシェリーを襲った。
油断なく弓を構えたシェリーはスレイブにしたのと同じように、弦を使ってメイスの衝撃を完全に殺す。
増幅された威力がそのままアルダガへと跳ね返るが、しかし彼女がスレイブのように吹っ飛ばされることはなかった。

「『ナーフレクト』」

――弱体化の神術。
対象の身体能力を著しく低下させる術を自分自身に行使することで、メイスの一撃を限りなく弱めたのだ。
間断なく弱体化を解除し、弱々しく跳ね返ったメイスを受け止めたアルダガは、強烈な蹴りをシェリーの足へ叩き込んだ。

279 :アルダガ :2018/05/10(木) 03:38:38.10 ID:F9RsHmAw.net
テスト

280 :アルダガ :2018/05/10(木) 03:38:49.18 ID:F9RsHmAw.net
「わっ」

足払いを食らったシェリーは地面から浮いて仰向けに引っくり返る。
しかし黒蝶騎士もさる者、地面へと叩きつけられる前に自ら両手で地を叩き、反動を使って逆立ちのまま蹴りを繰り出す。
胴へとクリーンヒットした蹴りで、アルダガは僅かに後退。
その隙を突いてシェリーもまた後方へと身を起こしながら下がった。

「……ジャンさんに喰らわせた蹴りと言い、弓使いなのに随分と足技がお達者ですね」

「狙撃手って機動力も大事なんだよ。足速くないと追いつかれちゃうでしょ、今みたいにさ」

アルダガがメイスを構え、シェリーもまた弓に矢を番えてこちらへ向ける。
黒蝶騎士と黒鳥騎士。それぞれ異なる武の頂点を戴く者同士の、卓越した技の応酬であった。

「織り込み済みかと思いますが、黒騎士同士の私闘は当然ご法度です。
 如何にキーゼル少将の指令と言えども、皇帝陛下の制定された帝国陸戦法規を覆す理由にはなり得ません。
 『作戦区域内で武装集団に遭遇し、友軍と気付かず交戦してしまった』……という名目が立つのはここまでですよ。
 これ以上戦闘を続けるおつもりなら、今度は拙僧が、黒蝶騎士を反逆者として処理しなければなりません」

アルダガの言葉に、シェリーの眉が再び僅かに跳ね上がる。
シェリーから発せられた気配が圧力を伴って大気を叩き、風に舞う木の葉がピシリと断裂した。

「出来るの?飛び道具にめっぽう強い黒亀さんが居るならともかく、聖教のコネで黒騎士になっただけのあなたが」

「……それ、わざと言ってます?」

「かったいなぁ黒鳥さん。そこはブーメランだろ!ってツッコミが欲しかったよ。
 ……まぁ実際、コネでなれるほど甘くはないよね、黒鳥も――黒蝶も」

「とにかく!」

黒蝶騎士の言動に惑わされそうになったアルダガは、メイスの握りを確かめるように数回振るう。
それだけで周囲に群生した草が根ごと吹き飛んだ。

「拙僧がいる以上、指環の勇者達にあなたの矢は届きません。
 双方の力量が拮抗しているならば、数の上で勝る我々に分があります。戦闘を続ける利はないでしょう。
 そしてそれは、拙僧たちにとっても同じことです」

キャンプに矢が撃ち込まれてから頭の隅に引っかかっていた違和感がある。
陸軍少将の命令で指環を奪うためにセント・エーテリアへ送り込まれたという黒蝶騎士。
しかし彼女の行動には合理性を欠いた部分が多い。

例えば、わざわざ救援信号を撃ち込んでまで勇者たちに黒蝶騎士の存在を知らせたこと。
彼女は狙撃手だ。自分の存在や位置を教える愚は最も嫌うところだろう。
なにより、勇者たちが女王パンドラとの戦闘を終えた段階であれば、疲弊した彼らを仕留めるのは容易だったはず。
それでなくとも、星都の探索が長引き、兵站の枯渇したところを狙うこともできたはずだ。

この不合理が示唆する真相とはすなわち――『救援要請』が、本物であったということ。
不死者を相手取るにはあまりに過剰なあの罠の数にも合点がいく。
彼女もまた、何者かに追い立てられ、この場所から動けずにいたのだ。

だから指環の勇者たちをここへ呼び、状況の打開を図った。
勇者たちが何かを知っていればそれを聞き出し、何も知らなければ指環という戦力を簒奪する。
最悪、指環の勇者にまだ見ぬ『敵』をぶつけ、この場を脱出することも可能だ。

「教えてください。一体この地で何が起きているんですか。……あなたは、何に追われているんです」

281 :アルダガ :2018/05/10(木) 03:39:10.07 ID:F9RsHmAw.net
【黒騎士同士のバトル勃発。膠着状態を作ったうえで状況を問う】

282 : :2018/05/11(金) 22:31:02.03 ID:Wk578mQs.net
>「防御は拙僧にお任せを――なっ!?」

足元に潜んでいた黒蝶の群れが、バフナグリーさんを覆い尽くす。
驚くような事じゃない。私だって彼女の立場なら最初の一手はそうするでしょう。
ですが……援護は不要ですよね。黒鳥騎士ともあろう者が、こうも呆気なくやられるなんてあり得ません。
と言うより、まずは私自身が射抜かれないよう気をつけないと。

>「ティターニア、蝶共の駆除はあんたに頼んだ!俺は全ての魔力を攻撃に費やす――そうでなきゃ、生き残れない」
>「蝶の駆除か――ならば……ブラッディ・ペタル」

ティターニアさんの発生させた疑似植物が、周囲を揺蕩う黒蝶を捕食していく。
シンプルで、だけど的確な対応です。
魔法の効力にはイメージの強さが少なからず影響する。
割られるかもと思いながら張った防御魔法と、絶対守り抜くと思いながら張った防御魔法。
二つが同じものである訳がない。
同様に、魔力の蝶々を駆除したいなら、魔力の食虫花。そのイメージは確かに功を奏している。

黒蝶が食い散らかされた事で、戦場に自由な空間が増える。
前衛職の方々が動く道が生まれる。
次の瞬間には、ディクショナルさんは地を蹴り出していた。
黒蝶騎士の放つ征矢に肩口を切り裂かれながらも、長剣の間合いに彼女を捉えた。

そして剣閃。切り落とした不死者の手首を空中で細切れにするほどの高速剣。

>「良い剣だね。でもちょっと矢にするには重すぎるかな」
>「品評終わり。はい、返すね」
>「気をつけろ……こちらの振るう力さえも奴の支配下だ――!」

その一撃が……添えるように差し出された月蝶弓の弦に、制止された。
それどころか、そのままディクショナルさんごと弾き飛ばして……つくづく、化物じみてますね。

>「見えてるよ」

更に、背後を取っていたジャンソンさんを迎え撃ったのは鋭い上段の回し蹴り。

>「がはっ……!」
>「オークはやっぱり頑丈だね、まだ気絶しないんだ」

追撃の膝蹴りまで、余念がない。
やはり……接近戦も難なくこなしてきてきましたか。
間合いを問わず隙がない……指環の勇者を相手にしてもこの盤石さ。
ほんの十秒にも満たない時間で、実力の程を見せつけられた。
このまま真っ向勝負を続けるよりは……何か策を講じなければ。

>「――ストーンウォール! ジャン殿、今のうちに距離を取れ!」
 「ラテ殿とシノノメ殿は光と闇で攪乱を! フィリア殿とジュリアン殿は魔法で攻撃だ!
  アルダガ殿、スレイブ殿とジャン殿を診てやってくれるか」

ティターニアさんは既に無数の石壁を作り出して皆さんの援護に回っている。
……ですが、それでは不味い。
あなたが一流の術士である事は知っています。指環が秘めている凄まじい力も。
だけど、それでも……シェリー・ベルンハルトは黒騎士なんです。
彼女が放つ矢は、たかが「皆を守るついでに行われる自分の為の防御」など容易く貫く。
そして恐らくこの黒蝶を経由して……既にティターニアさんの立ち位置は、彼女に把握されている。

283 : :2018/05/11(金) 22:31:38.92 ID:Wk578mQs.net
>「あーあ、背中見せて逃げてくれればサクっと楽にしてあげたのに」

私は咄嗟にティターニアさんに駆け寄った。
私が防御しなければ。
魔導拳銃をホルスターに仕舞う。出力の限られた魔道具では黒蝶の矢は止められない。
右手を前に突き出して構える。
彼女が黒蝶騎士なら、私は主席魔術師だ。
帝国魔術師の頂点……その私に、止められない訳がない。
防ぐ事も逸らす事も出来ない?だからなんだと言うのです。幾らでもやりようはある。
彼女の矢がどんな魔法をも貫くのなら……それをも凌ぐ、新たな魔法を生み出すまで。

「……『審判の鏡(プロセ・ミロワール)』」

用いる術理は類感呪術。
つまり……姿や性質の似通ったものを魔術的に結びつけ、相互に影響を及ぼさせる。
敵を模した人形を切り刻む事でその傷を相手に反映させたり、
逆に己を模した人形に本来自分が負うはずだった傷を肩代わりさせる。そのような魔術、呪術の事です。

魔力を成形して無数の鏡を作り出し、そこに術式を組み立てていく。
呪術の対象はこれらの鏡に映り込んだもの。発動条件は鏡を破壊する事。
鏡……そこに映る鏡像という完璧な類似物を破壊させる事で、矢の威力をそのまま、矢そのものに跳ね返す。
鏡の持つ反射のイメージが、この術理を補強する。
複雑な術式になりますが、私なら……

「う……」

……心臓が、重く跳ね上がる。
息が苦しい。目眩がして、自分が今まっすぐ立てているのか、分からなくなってくる。
怖い訳じゃない。焦っている訳でもない。
ただ……いや、余計な事を考えるな……とにかく、術式を間に合わせないと……

>「なるべく痛くないようにするけど、どうしても辛かったら介錯は他の人に頼んでね」

黒蝶騎士の殺気が一際膨れ上がる。
必殺の狙撃が来る……術式が、間に合わない。

>「……忘れていませんか、拙僧の存在を」

瞬間、目の前で空気が爆ぜた。
眩い火花と共に生じる、金属音と突風。
バフナグリーさんのメイスが、漆黒の矢を弾き飛ばしていた。

……彼女の援護がなければ、私は死んでいた。
冷や汗が止まらない。心臓が、胸が苦しくなるくらい暴れまわっている。

>「ティターニアさん、ジャンさんとディクショナル殿を拙僧の後ろへ。神術で治療します」

「……すみません。ティターニアさん、お願いします」

気分が悪かった。
少し気を抜けば、吐いてしまいそうなくらいに。

284 : :2018/05/11(金) 22:32:21.67 ID:Wk578mQs.net
「……いや、本当に申し訳ないです。恥ずかしながら私、自分より強い相手と戦うのは初めてでして。
 どうも殺気に当てられてしまったみたいで……ああ、もう情けない」

……嘘です。本当は……本当は、私は……複雑な魔法を使おうとすると、いつもこうなってしまうんです。
主席魔術師になってから私はずっと……人間の進化の道標であろうとしてきました。
ジュリアン・クロウリーがいなくても、人間は進化していける。
いずれは誰もが私のように魔法が使えて、私のように戦えて、帝国を守れるようになる。

……ジュリアン・クロウリーがいなくても、帝国は、人間は、強い。
ダーマの魔族達が付け入る隙などない。亜人達が反旗を翻そうと勝ち目などない。
その事を証明するのが、証明し続けるのが、私の使命だと思ってた。

ずっと、ずっと、そう考えながら毎日を過ごしていて……気付けば私は、こうなっていました。
私が一人の魔術師として、魔術の深奥を覗き込む事を、私自身が罰するかのように。
……こんな事、彼らに気付かれる訳にはいきません。
先生……いえ、ティターニアさんには……特に、気付かれたくない。

>「拙僧がいる以上、指環の勇者達にあなたの矢は届きません。
  双方の力量が拮抗しているならば、数の上で勝る我々に分があります。戦闘を続ける利はないでしょう。
  そしてそれは、拙僧たちにとっても同じことです」

>「教えてください。一体この地で何が起きているんですか。……あなたは、何に追われているんです」

……二人の黒騎士の戦いは、気付けば膠着状態に陥っていました。
いえ……バフナグリーさんが膠着状態に持ち込んだと言うべきですね。
黒騎士同士の私闘は軍規違反。
ここを落とし所にしなければ、後はもういずれかが息絶えるまで続く死闘になる。
そして、シェリー・ベルンハルトは……

「あーあ……正直、私もそれが知りたいからあなた達を呼んだんだけどなぁ」

そう言いながら構えを解いて、溜息を零した。
この場を満たしていた肌を突き刺すような緊張感が霧散していく。

「……私の元々のプランはね、あなた達がパンドラさん?をやっつけたところを、
 後ろから狙撃して指環もらってお家に帰ろー、いえーい……って感じだったんだけど」

そして彼女は順を追うように、まずそう言った。

「どーもね、もう一人、いるっぽかったんだよね。ここ。しかも大分前から。
 お互いに姿は見てないんだけど、足跡とか、枝とか草に残った痕跡とか?
 ほら、そーいうのでさ、なんとなく分かっちゃうじゃん?」

……ここまでは、戦闘が始まる前になんとなくですが聞いた話ですね。
要領を得ない喋り方は、どうやら彼女の素のようなので我慢するしかありませんね。

「だから、とりあえず矢で射ってみたんだけど」

「……防御されたんですか?それは、確かに迂闊には近寄れない……」

「ううん、違うの。当たった手応えはあったの。
 私くらいの弓使いになるともう的を見なくたって当たったかどうか分かっちゃうんだけどさ。
 確かに私の矢は命中していた。防御出来たとは思えない、そういうタイミングだった」

285 : :2018/05/11(金) 22:32:46.05 ID:Wk578mQs.net
……矢は命中した。だったら……それはもう、終わった話なんじゃないですか。
やっぱり彼女は何を言わんとしているのか、よく分からない……

「でもね、生きてたの。その人……あっ、足跡見たから人ってのは間違いないと思うよ。
 生きてて、こっちに向かってきたの。私もー怖くってさぁ、慌てて逃げ出しちゃったんだよねぇ」

「……ここに生息している、不死者の一種という事は」

「ただの不死者なら、私は一撃で仕留められる。あなたも見てきたでしょ?」

……そう、ですよね。
彼女の矢なら、不死者を不死たらしめる術式そのものを破裂させる事だって可能でしょう。
実際、そのようにして絶命した不死者の死体がいくつもあった。

「……ね、不気味じゃない?ナグリーちゃん。
 考えてみてよ。防御されたならまだしも、あなたのメイスが頭にごつーんとクリーンヒット!
 なのに相手は生きててこっちに向かってくるの。ただの不死者よりずっと怖いよ」

……長い沈黙。
シェリー・ベルンハルトは腰の水筒を口に運んで、一息吐いて……

「……あの、続きは?」

「え?今ので終わりだけど」

「……は?」

「私達があなたを呼んだのは状況が知りたかったから。
 それと……あなた達を横取りされない為。狙撃じゃ、戦利品だけ持ってかれちゃうかもしれない。
 ここで仕留められなかったのは残念だけど……これで、あなた達は自分で自分の身を守れるでしょ」

……確かに私達はもう、この場にいる誰でもない、第三者の存在を知っている。
その第三者も指環を狙っているというのはただの憶測でしょうけど、
今この星都にいる時点で指環絡みだろうというのは確かにその通りです。

弓使いである彼女が自分の居場所を明かしてまで嘘を吐く理由はない。
騙されている可能性は……低いと思います、けど……。

「パンドラを倒して、正体不明の第三者を退け、
 最後にあなたの狙撃を凌ぎながらこの星都から脱出しろ、と?」

ここであなたと最後までやり合うのが好ましくないのは確かですが……いくらなんでもそれは分が悪すぎる。

「それだと戦闘が……んーと、三回かぁ。それはちょっと良くないかな」

「……どういう意味です?」

「言ったでしょ。私、早くお家に帰りたいの」

瞬間、彼女は大きく後ろに飛び退いた。

「……今回の任務。なるはやで終わらせた方がいいよ、ナグリーちゃん。
 あまり時間を掛けると……クーデターが起きちゃうかも。あるいはそれ以上の事が。
 せっかちな人達はもうこの戦いが終わった後の準備を始めてる」

……それはつまり、指環を総取りした事を前提とした開戦の準備。
帝国がそのような動きを見せれば他二国も備えを始めなければならない。
皆が皆、戦いに備えて、後は誰かが勇み足をすれば……
指環にまつわる何もかもが未解決のまま、戦争だけが起こる事になる。

286 : :2018/05/11(金) 22:33:49.81 ID:Wk578mQs.net
無論、皇帝陛下はそのような事をお認めにならないでしょう。
だからまずクーデターが起こる……もしそうなれば軍の上層部も、一部は取って代わられる事になる。
早くお家に帰りたい……ですか。確かに、私も俄然そんな気持ちになってきました。

287 : :2018/05/11(金) 22:34:10.53 ID:Wk578mQs.net
「……あっ、それともう一つ」

何かを思い出したように声を発した彼女の周囲に、黒蝶が溢れる。

「私が射抜いたはずの、不死者よりも不死身な誰かさん。その時、一度反撃してきたんだけどね
 確かに、こう言ってたよ……『指環の力よ』ってね。
 炎の魔法だった。でも……そこのおチビさんの声じゃ、なかったかなぁ」

黒蝶が彼女の姿を塗り潰していく。

「もっと低い、男の声だった。どういう事なんだろうね?
 ……こっちはこっちで、探り回ってみるよ。手分けしないと、時間がないからね」

そして黒蝶が消え去ると……彼女はもう、そこにはいなかった。
……指環の力?私は思わず、フィリアさんを見下ろす。

「へ?……いやいや!わたくし、そんなの身に覚えがありませんの!」

彼女は慌てて両手を振って身の潔白を主張する。

「ああ、いえ……失礼。別に疑ってた訳じゃありません。
 ただ……二つ目の炎の指環が存在する可能性はあるのか、気になりまして」

『……妾達、竜の力と命。それら全てを注ぎ込んで作ったのがこの指環だ。
 二つ存在する事はあり得ない。贋作くらいなら、作ろうと思えば作れるだろうが』

「……ですよね。ううん……駄目ですね。何を考えようにも情報が足りない。
 結局、謎が深まっただけ……あえて思考の余地があるとしたら……」

こんな事、考えたって何の意味もないんですけど。

「まだ見ぬ第三者。その男が、どこからこの星都にやってきたか……。
 可能性としては……完全な秘匿性を保った上で転送魔法陣を使ってきたか。
 またはこの世界の原住民なのか。或いは……」

私は魔道拳銃を抜いて、四方の空に向けて弾丸を放つ。

「私達が使ってきた魔法陣以外にも、実は入り口が存在するのかも」

弾頭に秘められていた炸薬と炎魔法が爆発して、四度、大きな音が響く。だけど、

「……反響音がまったく聞こえません」

ここが地下なら、壁に音が跳ね返って聞こえるはずなのに。

「ティターニアさんが言っていた通り、ここは本当は地下じゃないのかもしれない。
 星都は帝都の地下にあるという情報自体が、間違っているのだとしたら」

『あるいは我々の世界とは異なる位相に存在する異空間なのかもしれない』……でしたっけ。

「つまり、ここエーテリアル世界と我々の世界は……なんて言えばいいんでしょう。
 あー……建物の一階と二階とか、ケーキのスポンジと生クリームのように、
 完全に隣り合わせになっているのかもしれません。上か下かなんて話は視点の違いでしかない」

指環やエーテリアル世界にまつわる伝承の中には確か、
エーテル属性のみで構築されていた旧世界の上に、四属性と光と闇が上塗りされて今の世界が出来た。
そんな内容のものがあったはず。その事が碑文なりなんなりに書き残されていて、
それを当時の学者が誤訳したと考えれば……。

288 : :2018/05/11(金) 22:34:27.51 ID:Wk578mQs.net
「二つの世界を繋ぐ扉、或いは階段は、一つしかないとは限らない。
 むしろあの扉が当時のこの世界の住人にとってのいわゆる非常扉だったなら、
 扉が一つしかない方が不自然だ。だから……」

だから、ええと……。

289 : :2018/05/11(金) 22:35:00.10 ID:Wk578mQs.net
「……駄目ですね。ここで行き止まりです」

上手い事、何か閃くんじゃないかと思っていろいろ連想してみましたが……。

「仕方ありません。結局、今の私達に出来る事をするしかないって事ですね。
 つまり……ひとまず、女王パンドラの元へ向かいましょう。
 黒蝶騎士が遭遇した第三者については……」

このまま黒蝶騎士の方に向かってくれればそれが一番なんですが……。

「もしこちらを追ってくるとしたら……その時は私に考えがあります。
 まずは、全竜の神殿を目指しましょう。やりやすい地形があるといいんですが……」

……そうして暫く密林の中を進んでいくと、不意にバフナグリーさんの手を借りる事なく視界が開けました。
建築物が密集していて、蔦や草くらいの植物しか侵食出来ていない……。
ここはかつてはどんな場所だったんでしょうね。
病院?学校?それとも政庁でしょうか。

ここは……キャンプ・グローイングコールですか。
全竜の神殿まで大分、近づきましたね。

「……とりあえず、掃除をしましょう。簡単に出来る方のね。
 終わり次第ティターニアさんはリフレクションと、指環の準備を。
 それと……ディクショナルさんも、指環の準備をしておいた方がいいですね」

全ての準備が終わると……私は魔導拳銃を構えました。
狙いは、私達が今まで通ってきた密林へ。
弾頭には炸薬と炎魔法を……それを立て続けに撃ち込んでいく。
密林が燃えていく。これも、戦場で何度も見た光景……。
……気分が、悪い。

「私達を追ってきているのなら、今頃は穏やかな陽気に包まれているでしょうね。
 追ってきてなければ……この先は、見晴らしのいい道を通れますよ」

気付かれる訳にはいかない。
いつもよりも努めて不遜に皮肉を連ねる。
炎は瞬く間に燃え広がっていき……

「……指環の力よ」

不意に、どこからか声が聞こえた気がした。
瞬間、密林に広がっていた炎が渦を巻いた。
まるで風呂の栓を抜いたみたいに……ある一点へと吸い込まれて、消えていく。
……どうやらこちらを追ってきていたようですね。
さぁて……不死者よりも不死身な、見知らぬ指環の所有者様。
前評判のケレン味は十二分。どんな顔をしているのか拝んでやりましょうか。

「……は?」

そして、思わず私は気の抜けた声を漏らしてしまった。
草葉が燃え落ちて見晴らしのよくなった密林の奥。そこにいたのは、

「……アルバート?」

クロウリー卿が、呆然とした声音で呟いた。
そう、漆黒の板金鎧は身に纏っていないし、髪も伸びていますが……あの顔立ちと、深い青色の瞳。
そこにいたのは……間違いなく、黒竜騎士、アルバート・ローレンスでした。

290 : :2018/05/11(金) 22:35:21.16 ID:Wk578mQs.net
「お前、なのか?」

こちらへと歩み寄ってくる彼に、クロウリー卿が問いかける。

「……ああ。見ての通りだ」

291 : :2018/05/11(金) 22:35:43.03 ID:Wk578mQs.net
赤黒く薄汚れた布服に身を包み、魔剣レーヴァテインを背負い……
そして左手に大振りの指環を帯びたその男は、静かに、そう答えた。
クロウリー卿は……何も言葉を続けない。ただ、目の前に現実を必死に理解しようとしているように見えた。

……だけど、私にそれを待っている理由はない。

「何故、あなたがここにいて、炎の指環を手にしているのですか」

魔導拳銃をアルバート・ローレンスに突きつける。

「……私達を、つけてきた理由は?」

彼は答えようとしない。
私は二丁の拳銃の片方を、クロウリー卿に突きつける。

「答えて下さい」

「……覚えているか、カルディアで聞いた、舟歌を」

アルバート・ローレンスはジャンソンさんとティターニアさんを、まっすぐに見据えていた。

「あの時、俺には……あの歌の続きが聞こえていた。
 少女の声ではなく。海の底の、その更に奥底から響くような女の声で。
 あれは……女王陛下の声だった。俺に何かを思い出せと歌っていた」

……今、二人に説明を求める訳にはいきません。
分かる部分だけを掻い摘んで理解していくしかなさそうです。

「そしてその何かを思い出した時、俺は気付けばここにいた。そうだ。俺は思い出したんだ」

あーあー、なんかもう、ろくでもない内容が続きそうな気がしてきました。
けど、聞かない訳にもいかないんですよね。

「俺は、元々この世界の人間だった」

「……何を馬鹿な。あなたは、ローレンス家の長男でしょう」

「俺は女王陛下の秘法によって、あちらの世界に転生した。
 その時に、一度記憶が失われたのは……予定外の事だった」

「なるほど、記憶喪失。便利な言い訳ですね。
 ですが……では、一体何の為にそんな事を?」

「取り戻す為だ」

「……何を」

「全てだ。炎、水、大地、風、光、闇……この世界から失われた、全てを」

「属性?エーテリアル世界は、エーテル属性のみで構築された世界のはず」

「違う。かつてはこの世界にも属性があった。何もかもがあった」

……どういう事でしょうか。
確かにエーテリアル世界は名前の有名さとは裏腹に、殆ど情報が残っていません。
僅かに言い伝えられてる既知の知識も、確証がある訳ではないですが……。

292 : :2018/05/11(金) 22:36:00.59 ID:Wk578mQs.net
「だがある時、虚無の竜がどこからか現れ……この世界を喰らい始めた」
 俺達は必死に立ち向かい、勝利したが……
 その時には既に、この世界の殆どが奴に食い尽くされていた」

……やはり、考えるより彼の言葉を待った方が良さそうです。

293 : :2018/05/11(金) 22:37:04.69 ID:Wk578mQs.net
「それでも……希望は残っていた。あらゆる属性を食い尽くした虚無の竜の死体は、
 この世界に覆い被さるようにして、新たな世界となった。多くの者がそちらへ移り住んでいった。
 だがついていかなかった者達もいる。虚無の竜に喰われ、属性を奪われた者達だ」

294 : :2018/05/11(金) 22:37:19.80 ID:Wk578mQs.net
だけど……その、ついていかなかった者達の正体は……私にも分かった。
属性がないという事は、燃え上がる事も流れ行く事もない。
つまり……成長する事も、老いる事もない者達。

「俺達がずっと正気でいられる保証はなかった。
 欠落した属性を埋める為に、仲間を襲い出す可能性は否定出来なかった。
 だから……ここに残った」

アルバート・ローレンスの視線が、ふとフィリアさん……その右手に移った。

「どうだ。思い出したか、イグニス……アクア、テッラ、ウェントゥスも」

彼はそう尋ね……しかし彼らの答えを待とうとはしない。
すぐに目を逸らす。

「……だが、それが間違いだった。あの時、虚無の竜と戦う事なく生き延びた奴らに
 あの世界をくれてやるべきではなかった……!。
 俺達はずっと見てきた。奴らが何世紀にも渡って蔑み合い、拒み合い、争い続ける様を……」

ただその一瞬、彼の目の奥で光ったのは……私にも分かるほどの、ただならぬ憎悪の眼光……。

「……そんなにも闘争が恋しいのなら、奴らが虚無の世界に住めばいい」

アルバート・ローレンスが、左手を掲げた。

「指環の力よ……」

瞬間、周囲の建物から、地面から、何かが指環へと吸い取られていった。
これは……魔力だ。大地の、魔力だ。

「このセント・エーテリアが今も形を保てているのは、ここが全竜の膝下だからだ。
 辛うじて虚無の竜に喰われずに済んだ、最後の土地。だが……」

大地の魔力を奪われた建物は白く色褪せて、自重に堪えきれず半壊していく。
地面も同様に白く染まり……まるで真砂、いえ……塵か灰のように頼りない、感触に。
魔力の吸引は密林の方にも広がっていく。
焼け残った植物も……やはり白く、枯れ果てていく。
白一色の……ただ崩れ行くだけの世界。
それに……あの指環は、一体……。

「これが、この世界の本当の姿だ。完全な喪失……それだけが唯一この世界に訪れる変化。
 滅びゆく事にしか執着出来ない、愚かな連中の墓場に相応しいと思わないか」

「……やめろ、アルバート。それ以上は」

……クロウリー卿が、やっとの事で絞り出した、そんな声で呟いた。

「ああ、後戻り出来なくなる。それこそが目的だ。俺は全てを断ち切らねばならない」

アルバート・ローレンスが、魔剣レーヴァテインを抜いた。
……興味深い話でしたが、これ以上話してはもらえなさそうです。

「俺は、この世界の指環の勇者だ」

そして彼は……長い深呼吸の後に、そう言い放った。

295 : :2018/05/11(金) 22:38:41.18 ID:Wk578mQs.net
「お前達を殺し、指環を奪い……いずれはあちらの世界から全ての属性を取り戻す。この虚無の指環でな」

瞬間、私は魔導拳銃を発射していた。
クロウリー卿に突きつけた銃口からは、強烈な電撃を帯びた弾丸を。
こんな不意打ちが通じるほど動揺しているなら、あなたはただの足手まといだ。
それに……

「お二人は親友なんでしたよね。今、裏切られたら洒落にならない。
 ……あり得ない話じゃないでしょう。その人は、前科があるんですから」

そして今度は二つの銃口をアルバート・ローレンスに向けて……再び銃声が響く。
発射したのは炸裂弾。先ほどの戦闘の反省を活かして狙いはあえて曖昧に。
防御されても、命中しなくても関係ない。
無数の爆風が彼を包囲し、押し潰す。

爆炎が晴れて、アルバート・ローレンスは微動だにせずにそこに立っていました。
……女王の手によって転生したという彼の言葉を信じるとして、
彼の肉体が不死者のものなのか、人間のものなのか。
あるいはその中間にあるのかは分からない。
ですが仮に完全な不死者の肉体があったとしても、それだけでは黒蝶騎士の矢は耐えられない。
つまり彼が今もなお平然と立っている理由は単純に、

「純粋な身体能力と、精神力?……そんな馬鹿な」

あまりに荒唐無稽な結論……ですがそれ以外に言い表しようがない……。
アルバート・ローレンスは私の銃撃など意にも介さず、ゆっくりと、指環を帯びた左手をこちらに向けた。
吸い込んだ炎と大地の魔力が溢れ出てくる。
二つは混ざり合いながら空へと昇っていき……星の数ほどの燃え盛る石礫が、私達の頭上を飾った。

「何もかもを埋め尽くせ……『バリアル・メテオ』」

そしてそれらが一斉に私達へと降り注ぐ。
咄嗟に三重のプロテクションで防御しましたが……周囲には地面の塵が舞い上がる。
何も見えない……だけどアルバート・ローレンスが何をしようとしているのかは分かります。
この塵を目眩ましにした……レーヴァテインによる必殺の一撃。
私は深く身を屈めて、被弾し得る面積を最小限にした上でより小さく分厚いプロテクションを展開。
他の皆さんは……各々、自分の身を守ってくれることでしょう。
少なくとも私には、他人を庇っている余裕はなさそうです。

296 : :2018/05/11(金) 22:39:34.58 ID:Wk578mQs.net
 
 
 
【つまりどういうこと?
 エーテリアル世界は、遥か昔に虚無の竜に食べられちゃうまではちゃんと属性があったんだって。
 今の世界は、旧世界の属性を食い尽くした巨大な虚無の竜の死体らしいよ。
 せっかく恵まれた世界に逃げ延びたのにいつまでもしょーもない争いをしてるから
 不死者になった女王様とかも愛想を尽かしちゃったんだってさ。
 
 なんか今までの話と違くない?
 きっと遥か昔のことだから正しい情報が残ってなかったんだよ……。
 エルピス辺りは教団をうまく回すためにわざと嘘を吐いたりもしてたかもね。

 アルバートくんって何がすごいの?
 まず魔剣の攻撃力がヤバイじゃん。
 黒騎士水準の剣術もあるじゃん。
 不死者よりも不死身なんじゃないかってくらい我慢強いじゃん。
 ついでに属性を吸い取る虚無の指環を持ってるよ。多分あらかじめレーヴァテインから炎の属性を補充してる。

 まとめると?
 風呂敷広げたかっただけー。】

297 :スレイブ :2018/05/14(月) 04:44:28.63 ID:Gz6+LW/p.net
【次スレへ投下しました】

298 :ティターニア@時空の狭間 :2018/05/14(月) 19:00:23.11 ID:UADfmSVn.net
多分730kbまで埋めないと落ちないのだ
もう少し入ると思うので少し時間軸が前後するがジャン殿はこちらから始めてみてくれ

299 :スレイブ@携帯:2018/05/14(月) 19:31:20.44 ID:nkJpgd24.net
【誠に御座るか。これはあい失敬申した
 ジャン殿が投下する前に次スレの拙者の投稿を移植いたしても構わぬだろうか。今日の11時頃までに移植作業は可能に御座る】

300 :ティターニア@時空の狭間 :2018/05/14(月) 19:44:14.59 ID:7cUtZGEI.net
いや、全然大した問題ではないのだがやっぱり順番が前後すると分かりにくくなるからそれでお願いしようかな
多分最初の数レスを移植すれば埋まると思う
ジャン殿は普通に次スレの続きから書いてくれればOKだ

301 :スレイブ :2018/05/14(月) 22:30:16.93 ID:Gz6+LW/p.net
崩落した壁へと叩きつけられたスレイブは、風魔法によるクッションでどうにか直撃を回避する。
致命傷は避けられたが、左肩が衝撃で脱臼してしまった。
ほうほうの体で壁の穴からまろび出た時には、ジャンが黒蝶騎士に容赦なく蹴りを入れられ続けている最中だった。

「ジャン!」

>「――ストーンウォール! ジャン殿、今のうちに距離を取れ!」

ティターニアが石の壁を創り出し、黒蝶騎士とジャンとの間を阻む。
激痛を発する左腕を抑えながらも跳躍術式で前線へ飛び戻り、ジャンの襟首を掴んで後ろへと下がった。

>「なるべく痛くないようにするけど、どうしても辛かったら介錯は他の人に頼んでね」

石壁によって閉じられる視界の先で、黒蝶騎士が再び弓を引き絞るのが見える。
軋みを上げて引き絞られる弦の様子を見ただけでわかった。
あの矢は石の壁など濡れ紙の如く引き裂いて、容易くこちらへと届くだろう。
矢羽から手の離れたその時が、ティターニアとジャン、シャルム、そしてスレイブ、その誰かが命を落とす瞬間となる――

>「……忘れていませんか、拙僧の存在を」

果たして、致命の想定は現実とならなかった。
石壁を突き破って踊り込んできた矢がこちらの鼻先に届かんとした瞬間、横合いからメイスが弧を描く。
質量と質量、慣性と慣性のぶつかり合いは火花どころか爆風じみた風を生み、周辺の草が耐えられずに散っていった。
弾かれた矢がどこかへと飛んでいき、再び石の砕ける音が轟く。

そう、この場に居る黒騎士は一人だけではなかった。
――黒鳥騎士アルダガ・バフナグリー。人類最強の弓使いに並び立つ、帝国最強戦力が一人だ。

>「ティターニアさん、ジャンさんとディクショナル殿を拙僧の後ろへ。神術で治療します」

如何なる手段を用いてか黒の蝶を無効化し、殲滅さえもし果せたアルダガは、スレイブ達を守るように前へ出る。
地面に突き立った十字架から放たれる癒やしの波動によって、脱臼した左肩がみるみる動くようになった。

そこから先は、スレイブが介入することさえままならない戦技の応酬だった。
黒蝶騎士は巧妙に軌道を逸らした矢を放ち、アルダガは巨大なメイスを手足のように操って叩き落とす。
アルダガが神術で攻撃すれば、黒蝶騎士はそれを身体の捻りだけで躱し、黒の蝶の群れで撃墜する。
反撃とばかりに撃ち込まれた黒の矢を、アルダガは――

「素手で掴み取った……だと……!?」

幾重にも張られた風の防壁をものともしなかった致死の弓を、あろうことか素手で掴んだアルダガ。
小枝を折るかのように真っ二つにされて放られた矢は、自由落下の勢いだけでも地面に大穴を穿った。

そうして両者は激突。
スレイブの二の轍を踏むかに思われたアルダガは弱化神術を応用して跳ね返しをこらえきり、
二人は強烈な蹴撃を交わし合って距離を開ける。

これが黒騎士。これが帝国最高峰の戦闘者達。
シャルムの銃弾に端を発した一分にも満たない攻防は、黒騎士同士の拮抗をもって終わりを告げた。

>「教えてください。一体この地で何が起きているんですか。……あなたは、何に追われているんです」

>「あーあ……正直、私もそれが知りたいからあなた達を呼んだんだけどなぁ」

油断なくメイスを構えたアルダガの問に、黒蝶騎士は露骨に肩を落とした。
番えられた新たな矢は放たれることなく、彼女の背負った矢筒へと収まる。
それが小競り合いを終える合図だとでも言うように、張り詰めていた空気が弛緩していくのがわかった。

「なるほどな……シアンス。あんたが指環に固執しない理由がわかった。まざまざと見せつけられたよ……」

302 :スレイブ :2018/05/14(月) 22:30:42.49 ID:Gz6+LW/p.net
スレイブは早鐘を打つ心臓をどうにかこうにか抑えつけて、滝のように流れる冷や汗を拭う。
風の指環を得て、古今無双の力でも手にしたような全能感をおぼえていたところに、冷水を浴びせられた気分だ。

目が覚めた。指環の力などなくても、人類はここまでやれる。
黒蝶騎士は、6つの指環を相手取って一歩も引かなかった。その強さに、古代人の遺産は無関係だ。
同時に恐ろしくもある。ただでさえ人類最高峰の戦力が揃った黒騎士に、指環の力まで加わったら。
もはや帝国を止められる国は、大陸には存在しないだろう。

>「……私の元々のプランはね、あなた達がパンドラさん?をやっつけたところを、
 後ろから狙撃して指環もらってお家に帰ろー、いえーい……って感じだったんだけど」

黒蝶騎士が訥々と語る。
陸軍少将から指令を受けた彼女は、指環の勇者たちが女王パンドラから全竜の指環を奪取したところを闇討ちし、
指環の総取りを狙うべくセント・エーテリアに潜伏していた。

しかし、星都には先客がいた。僅かに残った痕跡から侵入者にあたりをつけた彼女はこれを狙撃。
確実に当たった手応えを得たにも関わらず、『先客』は生きていた。
不死者の術核さえ消し飛ばす一撃を受けてなお健在のその先客の接近を恐れた黒蝶騎士はこの場所へ立て籠もり、
そして状況を知るべく指環の勇者達へと救援信号を送って……今に至る。

「黒蝶騎士すら知らない不死身の第三勢力か……ぞっとしないな。帝国上層部の単なる内ゲバの方がよほどマシだった」

この状況で最も芳しくないのは、スレイブ達指環の勇者が完全に後手に回っているという点だ。
そもそも黒蝶騎士がこうして星都に侵入している事実さえ、事前に知らされてなどいなかった。
そして、情報戦において一歩リードしているはずの陸軍省すら、『不死身の先客』に見当が付いていない。
第三者のバックにいるのが何者であれ、皇帝とも陸軍省ともまったく異なる勢力がこの件に一枚噛んでいるのだ。

「一枚岩じゃないにもほどがあるだろう、帝国……この歪み切ったパワーバランスでよく云百年存続できたな」

あるいは、砂の上に城を築くが如く不安定に積み上げられた帝国を、必死に支え続けてきたのがジュリアンやシャルムなのだろう。
だがジュリアンは亡命し、祖龍復活の動乱は国家の基礎を大きく揺らがせている。
時間の問題だった崩壊が、単純に早まっただけの結果なのかもしれない。

>「……今回の任務。なるはやで終わらせた方がいいよ、ナグリーちゃん。
 あまり時間を掛けると……クーデターが起きちゃうかも。あるいはそれ以上の事が。
 せっかちな人達はもうこの戦いが終わった後の準備を始めてる」

黒蝶騎士が極めて一方的にそう告げると、彼女の周囲に黒の蝶が飛び交い始める。
すわ再戦か――スレイブは身構えるが、アルダガやシャルムに警戒する様子はない。

>「……あっ、それともう一つ」
>「私が射抜いたはずの、不死者よりも不死身な誰かさん。その時、一度反撃してきたんだけどね
 確かに、こう言ってたよ……『指環の力よ』ってね。炎の魔法だった。でも……そこのおチビさんの声じゃ、なかったかなぁ」

「指環だと……!?」

最後の最後に意味深な一言を残して、黒蝶騎士は蝶の群れに包まれた。
黒の帳が晴れた頃には、そこにはもうなにも残されていない。
黒蝶騎士がその場から消え、今度こそスレイブは臨戦の緊張を熱い吐息と共に解いた。

>「へ?……いやいや!わたくし、そんなの身に覚えがありませんの!」

炎の指環を使った第三者。
思わず誰もがフィリアを見て、彼女はぶんぶんと首を振って否定する。

>「ああ、いえ……失礼。別に疑ってた訳じゃありません。
 ただ……二つ目の炎の指環が存在する可能性はあるのか、気になりまして」

「『分霊』の線はどうだ?例えばソルタレクで力を取り戻すまで、俺の風の指環は本体とは言えなかった。
 同じように、イグニスの力の一部を切り取ってそれっぽく指環の体裁を整えることは出来るんじゃないか」

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