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ロスト・スペラー 18

1 :創る名無しに見る名無し:2018/02/08(木) 18:42:15.87 ID:S22fm2qA.net
夢も希望もないファンタジー

過去スレ

https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1505903970/
http://mao.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1493114981/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480151547/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1466594246/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1455282046/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1442487250/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1430563030/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1418203508/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1404902987/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1392030633/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1377336123/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1361442140/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1347875540/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1334387344/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1318585674/
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1303809625/
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1290782611/

516 :創る名無しに見る名無し:2018/06/16(土) 19:50:02.08 ID:s1N22aKl.net
一方、反逆同盟の拠点に戻ったニージェルクロームは、大きく安堵の息を吐いた。

 「助かったよ、ディスクリム」

 「いえいえ、礼には及びません」

ディスクリムは彼の影から這い出し、人の形を取って恭しく一礼する。

 「貴方は同盟の貴重な戦力ですので」

 「……これから、俺はどうすれば良い?」

ニージェルクロームは俄かに神妙な面持ちになって尋ねた。
ディスクリムは一極の間を置いて、淡々と答える。

 「誰しも死は恐ろしい物。
  竜と運命を共にしろと言われて、頷ける者は少ないでしょう。
  繰り返しますが、貴方は同盟の貴重な戦力です。
  失う訳には参りません。
  竜と共に倒れる事は無いのです」

ディスクリムの言葉は、ニージェルクロームを勇気付けた。
竜の力を得たとて、竜に従う必要は無いのだ。
……彼は知らない。
ディスクリムの恐ろしい企みを。
ディスクリムの囁きには、ニージェルクロームとアマントサングインを引き離す目的があった。
それは両者が一体となって力を振るえば、魔導師会をも倒し兼ねないと言う懸念からである。
ニージェルクロームが迷っている限り、アマントサングインは本気を出せない。
神獣である竜との全面戦争に突入するのは、絶対に避けなければならない。
その為には、アマントサングインを不完全な儘で、魔導師会に討ち取らせる必要がある。
ニージェルクロームが巻き込まれて死んでも、それは許容出来る損害。
ディスクリムは主を守る為に、味方を切り捨てる事も厭わない。

517 :創る名無しに見る名無し:2018/06/16(土) 19:50:32.26 ID:s1N22aKl.net
 「それでは、私は今回の件をマトラ様に報告しなければなりませんので」

ディスクリムは一言、ニージェルクロームに断りを入れて、退散する。
残されたニージェルクロームは晴れない気持ちだった。

 (アマントサングイン、話がある)

彼は心の中でアマントサングインに呼び掛けるも、返事は無い。
アマントサングインは不貞腐れて、引っ込んでいた。

 (……悪いが、俺は竜にはなれない。
  俺は俺だ)

ニージェルクロームは一方的に宣言すると、もうアマントサングインの事は気にしない様にした。
竜の力が必要な時は、暗黒魔法で強引に引き出せば良いのだ。
アマントサングインが沈黙した儘でも構わない。
利己的な感情と思考が彼の中で膨張する。
――ニージェルクロームとアマントサングインの精神は同調している。
ニージェルクロームが利己的な思考に走る時には、アマントサングインも又……。
沈黙を続けるアマントサングインに、ニージェルクロームは幽かな不気味さと不穏さを感じていた。
ともかく、彼の「同盟の一員」としての最初の戦闘は、先ず先ずの成果だった。
魔導師会を倒すには至らなかった物の、本拠地であるグラマー市でさえも安全では無い事を、
大陸中に知らしめたのだ。
しかし、この戦いが後々ニージェルクローム自身に、どんな影響を及ぼすか?
そこまでは誰も見通せていなかった。

518 :創る名無しに見る名無し:2018/06/16(土) 19:56:40.62 ID:s1N22aKl.net
緊い/拮い/屹い(きつい)


以前にも解説しました、「きつい」です。
「緊い」と書いて「きつい」と読ませるのが、一般的な様です。
この「緊い」は「人の態度が厳しい事」の「きつい」です。
中国語でも「厳しい」の意味の「きつい」を「緊」で表す様です。
「緊」には「糸をきつく巻き付ける」、「厳しい」、「差し迫る」の意味があります。
「拮」も「緊」と似た意味があります。
こちらは「きつく締める」、「生活に余裕が無い」、「責め付ける」の意味があります。
「屹」は「高く聳え立つ」、「堂々と独立している」、「態度が厳しい」と言う意味があります
(屹立、屹然、屹々)。
「緊」以外の当て字は、漢字の意味と読みから適当に付けた物です。

519 :創る名無しに見る名無し:2018/06/16(土) 19:58:15.24 ID:s1N22aKl.net
拗(くね)る


「蛇行している」、「捻じ曲がっている」と言う意味の「くねる」です。
擬態語「くねくね」の動詞化と言われますが、逆に「くねる」から「くねくね」が生まれたとも言われます。
漢字には他に「曲」、「捩」、「捻」を当てる事もある様です。


「最も」〜「一つ」


強調表現の一種です。
日本語として間違っていると言う人も居ますが……。
明治時代に翻訳の関係で広まったとされており、明治の文豪達は、この表現を多用していますが、
江戸時代の文献にも見られると言う事で、実は歴史は古い様です。
元々「もっとも」は「もとも」であり、語源は「元」や「本」で、「道理に適う」、「本当に」から派生して、
「甚だしい」、「極めて」、「一番」の意味が生じました。
「一番」の意味で固定されたのは、昭和の後半から平成に掛けてになります。
古い広辞苑(第三版)では、『第一に優れて。極めて』となっていました。
「最」と「尤」では日本語では意味が違い、「最」は「一番」、「尤」は「道理に適う」とされていますが、
実は「一番」の意味では両方使えます。
「最」の漢字には、上下や良悪を問わず「極めて」、「甚だしい」の意味があり、「尤」の漢字には、
「良い」、「優れている」の意味があります。

520 :創る名無しに見る名無し:2018/06/16(土) 20:00:52.93 ID:s1N22aKl.net
『海素<バールゲン>』


常温気体の物質。
気体の状態では猛毒。
『塩素<マルコン>』と共に、塩を構成する。
当初、塩は塩で単体だと思われていたが、塩水を電気分解すると、特有の臭いがある気体が、
発生する事から、これを「潮の香りの素」として、「海素」と名付けた。
我々の世界の塩素に相当する。


『変素<ミュートン>』


常温固体の物質。
様々な元素と反応して、様々に変色する事から、この名前が付いた。
単体でも性質の変化と共に、変色する。
液体は赤く、個体は黄色く、燃焼すると青い炎を上げる。
燃焼すると、強力な臭気が発生する。
我々の世界の硫黄に相当する。

521 :創る名無しに見る名無し:2018/06/16(土) 20:02:01.64 ID:s1N22aKl.net
『融素<フルクスゲン>』


常温気体の物質。
気体の状態では猛毒。
様々な物質の融剤として作用する事から、この名前が付いた。
フラックスゲン、フルクシゲン、フリュクスゲンとも呼ばれる。
我々の世界の弗素に相当する。


『塩素<マルコン>』


常温固体の金属。
元は塩その物を単一元素と誤解していた。
後に、塩は2つの物質によって出来ていると判明し、新たに発見された方を「海素」と名付け、
そうでない部分には「塩素」の名前が残った。
古来より、石鹸や塗料として使用されている。
サルソコン、アラコンとも呼ばれる。
我々の世界の曹達(ソーダ)、ナトリウムに相当する。

522 :創る名無しに見る名無し:2018/06/17(日) 18:04:23.34 ID:LpvO0dkr.net
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523 :創る名無しに見る名無し:2018/06/17(日) 18:07:18.52 ID:LpvO0dkr.net
逆様の世界


異空の中世界ダンスダンフ・エスレヴァールにて


小世界エティーの伯爵級悪魔貴族サティと、悪魔大伯爵バニェスは、混沌の海を旅している。
何時訪れるとも知れない「終末」に備え、エティーと似た世界を探しているのだ。
他世界と協力して、終末の時を乗り越える、遠大な計画の為に。
サティはエティーを代表する使者であり、バニェスは旅の友。
今回2人はエティーから余り離れていない「ダンスダンフ・エスレヴァール」と言う中世界を訪れた。
エティーにはダンスダンフ出身の物が滞在しており、その提案を受けて、視察に来たのだ。
混沌の海に浮かぶ、天体の様な球状の世界「ダンスダンフ・エスレヴァール」に近付いた2人は、
先ず弱い斥力を感じた。
これに逆らいながら進むと、徐々に斥力は強くなる。
2人は強い斥力に抗い続け、ダンスダンフの地上に降りた。
しかし、「降りる」と言っても、普通には降りられない。
斥力の所為で、気を抜けば直ぐに、混沌の海に戻されてしまうのだ。
サティとバニェスは「逆様に」、地面を覆う蔦の様な物に掴まりながら、地表を移動した。
ダンスダンフの住民も、皆同じ様に、蔦を掴んで雲梯の如く移動する。
サティやバニェスの様な伯爵級以上の悪魔貴族であれば、混沌の海に放り出されても、
自らの力で遊泳出来るが、それ以外の物は、そうは行かない。
懸命に「大地」を掴んでいないと、「大空」に落ちて、混沌に沈んでしまう。
この世界では上が下で、下が上なのだ。

524 :創る名無しに見る名無し:2018/06/17(日) 18:09:48.99 ID:LpvO0dkr.net
サティはダンスダンフの住民に話し掛けた。

 「今日は」

同じく人型であるダンスダンフの住民は、それなりに親しみを持ち易い。
違いと言えば、振ら下がりの生活に慣れる為に、やたらと腕が太い所。

 「んー?
  中の人か?」

中世的な顔立ちのダンスダンフの住民は、サティを凝視して尋ねた。
ここでは「性別」は意味を持たず、男性も女性も無い。
これは異空にある殆どの世界に共通する。
悪魔達は寿命を持たず、混沌から湧き出る存在の為に、生殖機能を必要としないのだ。
それは置いて、サティはダンスダンフの住民の態度に引っ掛かる所があった。

 「中……とは?」

 「あ、違うのか?
  この『上』にも世界があるみたいでな。
  そこには君みたいな『人』達が住んでいる――んじゃないかなと思う」

サティは興味を持って、更に話を聞こうとする。

 「どんな人達なんですか?」

 「どんなって言われても、困るよ。
  頻繁に会ったり話したりする訳じゃないし。
  本当に時々、中から人が出て来るんだ。
  もしかしたら、そこまで君とは似てなかったも知れないけど」

その口振りから、これ以上は余り有益な情報が得られそうに無いと判断したサティは、
他の人にも話を聞いてみる事にした。

 「そうですか……。
  有り難う御座いました」

 「はー、どう致しまして?」

525 :創る名無しに見る名無し:2018/06/17(日) 18:11:21.43 ID:LpvO0dkr.net
それからサティとバニェスは、他のダンスダンフの住民に、『上』に関する話を聞いて回ったが、
詳しい事は判らなかった。
誰も彼も曖昧な物言いで、中には全く知らないと言う物まで居た。
この世界はファイセアルスで言えば、数街平方の島と同じ程度の広さしか無い。
加えて、基本的に異空は娯楽が少ないので、異変があれば、その話は瞬く間に広まる。
では、どうして明確に『上』の事を記憶している物が居ないのか?
不思議がるサティに、バニェスは言った。

 「物を憶えるのが苦手なのだろう。
  日々に余裕が無いと言うべきか」

 「どう言う事?」

 「ここの連中は、地面に掴まっているだけで精一杯なのだ。
  落ちない様に必死で掴まり、耐え切れなくなると落ちて行く。
  それだけの一生……。
  ここの主は趣味が悪い。
  私はマクナク公様の下に生まれて良かったよ」

どうして、この様に理不尽な法則に支配された世界を創ったのか?
確かに、悪趣味と言えなくも無い。
責めて人型では無く、この逆様の世界に適応した生き物を創れば良い物を。
そう感じたサティは眉を顰めた。

 「ダンスダンフの管理主には、会わない方が良さそう?」

 「それは会ってみなければ判らない。
  意外に話の分かる物かも知れぬ」

 「どっちなの?」

 「何事も決め付けて掛かるのは良くないと言う事だ」

淡々としたバニェスの口振りに、サティは内心を量り兼ねて困惑する。

526 :創る名無しに見る名無し:2018/06/18(月) 19:54:48.29 ID:BtrIpWOB.net
バニェスは小さく体を揺らして笑い、彼女に提案した。

 「とにかく、会いに行こうではないか?
  そうしなければ始まるまい」

 「会いに行くって……」

サティは無言で「上」の地面を指した。
バニェスも無言で頷く。
ダンスダンフ・エスレヴァールの管理主こそが、斥力の発生源なのだ。
自身を外殻で覆い、更に斥力を発生させている、その様は丸で他者を拒絶するかの如き。
本当に会いに行って大丈夫かと、サティは一抹の不安を覚えた。

 「代理の統治者は居ないのかな?
  居るなら、仲介して貰った方が……」

ダンスダンフは余り大きくない世界ではあるが、管理主が表立って君臨しないのであれば、
代わりに地上を管理する物が居るのが普通だ。
大世界マクナクでも、表に出て来ないマクナク公爵に代わり、侯爵級や伯爵級が領地を与えられ、
治めていた。
そうした代理の管理主、領地を預かる者は、地表に暮らしているだけの木っ端の住民とは違い、
創造主に直接働き掛けられる。
不躾に創造主を訪ね、礼を失して機嫌を損ねられたくはないと、サティは考えていた。
そんな配慮は不要だと、バニェスは切り捨てる。

 「この世界は然程大きくは無い。
  恐らく、管理主は侯爵級であろう。
  それも余り力の強くない――となれば、私達の様な存在でも十分脅威となろう。
  普通、そんな物が現れた時には、『出迎え』や『迎撃』がある物だな?
  しかし、配下が登場しないと言う事は、詰まり『居ない』のだろう。
  一世界の主ともあろう物が、私達の存在に気付かない筈は無いからな」

527 :創る名無しに見る名無し:2018/06/18(月) 19:57:00.96 ID:BtrIpWOB.net
バニェスの考えは尤もである。
しかし、サティには未だ迷いがあった。

 「眠っているのかも……」

 「それならば、番人も置かずに眠っている方が悪い」

バニェスは相手が自分と大差無い実力だと見切って、強気になっている。
一世界の主に対して、失礼過ぎる態度だと思うサティだが、これ以上何も出来ないのも確か。

 「分かった。
  とにかく、ここの管理主に会ってみよう」

サティは箱舟形態に変化し、バニェスを収納して、天に向かって地中を掘り進む。
錘状の箱舟をドリルの様に回転させて、サティは上を目指した。
ある程度掘り進むと、開けた空間に出る。
そこには「人」が住んでいた。
外殻の「地面」に掴まっている物達と、容姿こそ同じだが、普通に二速歩行している。
箱舟形態から人型に戻ったサティは、地中から突然の登場した物に驚いている人々に、
自ら話し掛ける。

 「ダンスダンフ・エスレヴァールの主と話がしたいのですが」

 「ここはエスレヴァールで、ダンスダンフとは外殻の事です。
  外殻に勝手に住み着いた物達と、私達は違います。
  『エスレヴァールの創造主』ホノミ様は、あそこに御坐します」

「エスレヴァール」の住民は、天を指して言った。
天上には弱い光を放つ球体がある。
あれがダンスダンフ・エスレヴァールの創造主。
予想通りだなと、サティとバニェスは天を仰いだ。

528 :創る名無しに見る名無し:2018/06/18(月) 19:59:27.23 ID:BtrIpWOB.net
この世界の創造主を見上げているサティに、今度はエスレヴァールの住民が話し掛ける。

 「貴方は……私達と似ていますね。
  もしかして、エトヤヒヤに所縁のある人ですか?」

エトヤヒヤとはエティーが分裂する前の世界の名前だ。
それを聞いたサティは驚いて視線を戻し、尋ね返す。

 「エトヤヒヤを知っているのですか?」

 「ええ、私達はエトヤヒヤの避難民です。
  エトヤヒヤが分裂した際、ホノミ様に助けられました」

 「ホノミ様とは?」

 「エトヤヒヤの一領主だった方です」

サティは少し思案すると、改まって自己紹介を始めた。

 「私は小世界エティーから来た、サティ・クゥワーヴァと言う者です。
  エティーはエトヤヒヤが分裂して出来た、その一欠片の世界です。
  詰まり、私達が似ているのは、偶然ではありません」

 「あぁ、世界の分裂を生き残った物が居たのですね」

エスレヴァールの住民は安堵の息を吐く。
サティは続けて頼み込んだ。

 「エトヤヒヤの話を聞かせて下さい。
  今となっては、昔の事を知る者は殆ど残っていないのです。
  エトヤヒヤに何が起こったのですか?」

何故エトヤヒヤが分裂してしまったのかと問う彼女に、エスレヴァールの住民は困惑する。

 「いえ、それは……分かりません。
  私達の様な『小さな物』には、何が起こったのか全く……。
  エトヤヒヤは『地上』の文化を取り入れた、豊かな世界でした。
  それが行き成り、崩壊してしまったのです。
  ホノミ様ならば、或いは……」

529 :創る名無しに見る名無し:2018/06/19(火) 18:40:20.35 ID:AuKNugqX.net
filler

530 :創る名無しに見る名無し:2018/06/19(火) 18:40:38.52 ID:AuKNugqX.net
エスレヴァールの住民は天を仰いだ。
サティは暫し宙に浮かぶ輝く球体を見詰め、やがて決意して飛ぶ。

 「有り難う御座いました。
  それでは早速お話を伺いに参りたいと思います」

少し宙に浮いた後、彼女はバニェスを一顧した。
バニェスもサティに続いて宙に浮く。
2人は共に、天に輝く球体を目指して飛んだ。
近付く程に光は強くなり、同時に斥力も強くなる。
約2身の距離まで近付いた2人は、その場で静止した。
球体の直径は約5身で、バニェスやバーティの箱舟に比すれば、然程巨大さは感じない。
力の一部を封じられているバニェスは、それ以上接近する事が困難な様子。
サティは少しだけ進み出て、輝く球体に話し掛けた。

 「失礼します。
  貴方が、この世界の管理主ですか?」

そう言いつつ、彼女は内心で、余り圧力を感じていない事を不思議に思う。
これが本当に、この世界を創造した侯爵級ならば、魔法資質の差から、それなりの圧力を受ける筈。
だが、バーティ侯爵の様に「近付く事すら困難な」状況では無い。
その気になれば、光球に突入する事も出来そうだ。
サティの呼び掛けに、10極弱の間を置いて、輝く球体が変形した。
丸で水滴が滴り落ちる様に、緩りと球体の下部が垂下して分離する。
分離した一部は、輝きを失って人型になり、サティに話し掛けた。

 「その通りだ。
  私がエスレヴァールの管理主ホノミ・ユーである」

その容姿は、やはり男とも女とも付かない。
長い黒髪と黒い肌を持つ、やや小柄な悪魔だった。

531 :創る名無しに見る名無し:2018/06/19(火) 18:43:03.74 ID:AuKNugqX.net
エスレヴァールの管理主であるホノミは、淡々と語る。

 「話は分かっている。
  エトヤヒヤの事を知りたいのであろう」

一世界の主は、その世界の事は大抵把握している。
強大な力を持った悪魔が創る「世界」とは、その肉体に等しい物なのだ。
高位の悪魔貴族は魔法資質だけでなく、情報の処理能力も人間の理解を超えている。

 「残念だが、エトヤヒヤが崩壊した原因は、私にも解らない。
  あの時、私たちの理解を超える事が起こった。
  私に言えるのは、それだけだ」

 「……全く何の見当も付かないのですか?」

眉を顰めるサティに、ホノミは不機嫌な顔をして答えた。

 「推測ではあるが、公爵級以上の悪魔が誕生したのだと思う。
  王としては弱い力しか持たない悪魔が、それぞれの領地を緩やかに繋いでいたのが、
  当時のエトヤヒヤだ。
  それが強大な悪魔の誕生で、散り散りになってしまったのだろう。
  地上の物に喩えれば、宛ら鯨に弄ばれる小魚の群れだ」

その話を聞いたサティは、ある事をホノミに提案しようとしたが、先んじて断られる。

 「私達は『君達の世界<エティー>』に合流する積もりは無い。
  この世界は私が身の安全の為に創った所。
  何物にも脅かされる事は無い」

この世界は混沌の海から不意に生まれる、強大な存在から逃れる為の箱舟なのだ。
強力な斥力によって、強大な物の接近を許さない。
その「法」を創るのに、全ての力を費やした。
サティはダンスダンフ・エスレヴァールの住民を哀れんだ。

 「この場所『は』確かに安全でしょう。
  しかし、それだけの様に見えます……。
  責めて、希望者だけでも移住させて頂けませんか?」

532 :創る名無しに見る名無し:2018/06/19(火) 18:45:12.90 ID:AuKNugqX.net
エスレヴァールには娯楽らしい物が何も無い。
人々は無為に過ごしているだけで、無気力に見える。
ホノミは鼻で笑った。

 「希望者が居るとでも思っているのか?」

明らかに嘲る様な口振りに、サティは反感を抱く。

 「ここには何も無いではありませんか」

 「否、『安全』がある。
  皆、恐怖を知っている。
  何の前触れも無く、全てが崩壊する時を」

 「徒(ただ)に存える事に、何の意味があるのですか?」

 「この『異空<デーモテール>』で意味を問うのか?
  混沌の中から無意味に生まれ、死す時も混沌に還るだけの、この異空で!
  エティーも何れ、混沌の海に沈む。
  そんな世界があった事さえ、忘れ去られてしまうだろう。
  ――エトヤヒヤの様に」

ホノミは虚無に囚われていた。
死、即ち、存在が消滅する事に対する恐怖に、心を支配されているのだ。
サティは毅然と言い返す。

 「そうならない為に、私達は混沌の海を渡って、少しずつ世界を広げようとしています」

 「嘗てのエトヤヒヤは、地上の文化を異空に広める発信地であり、数多の世界に影響を及ぼした。
  しかし、滅びた。
  君の語るエティーは、丸でエトヤヒヤの後追いだ。
  同じ結末を迎える事は、想像に難くない」

 「では、より大きく広い世界を目指しましょう」

口の減らない奴だとホノミは呆れ、それ以上は口を利かなかった。

533 :創る名無しに見る名無し:2018/06/20(水) 18:34:45.95 ID:NJZWTIuI.net
話は物別れに終わり、サティはダンスダンフ・エスレヴァールの住民を説得して回る事にした。
だが、エスレヴァールの住民はサティの誘いには乗って来なかった。
誰も彼もエスレヴァールに飽いているのは事実だが、管理主であるホノミに義理立てしている。
混沌の海に投げ出されてしまう所を、ホノミに救われたので、勝手に出て行くのは抵抗があるのだ。
それを義理堅いと見るか、強者に諂阿しているだけと見るかは、人に依る所だが……。
サティがバニェスを連れているのも、エスレヴァールの住民が移住しない理由の一になった。
バニェスは人型ではある物の、その目耳鼻口の無い外貌は特異である。
長らく外界の物と接触しなかったエスレヴァールの住民は、『異種恐怖症<ゼノフォビア>』の気がある。
頑迷な主張をする物には、エトヤヒヤの崩壊さえ、外界の存在の影響だと信じている物が居る。
崩壊直前のエトヤヒヤは多種多様な世界からの来訪者で、溢れ返っていた為だ。

 「私は外で待機していた方が良かったか」

決まり悪そうに問うバニェスに、サティは慰めを言う。

 「いいえ、今のエティーには色々な世界の人が居る。
  それを許容出来なければ、一緒に暮らして行く事は出来ない。
  貴方の姿を見た位で怯むなら、他の物達との共存は到底無理でしょう」

 「そうだな」

バニェスは以後、気にする素振りを見せなかったが、嘗て傲慢で傍若無人な性格だった物が、
他人を気遣える様になったのだなと、サティは少し嬉しく思っていた。

534 :創る名無しに見る名無し:2018/06/20(水) 18:35:48.76 ID:NJZWTIuI.net
一方で、ダンスダンフの住民の反応は、概ね好意的だった。
ダンスダンフの住民は、エスレヴァールの住民とは異なり、ホノミの庇護を受ける存在ではない。
環境の厳しい外殻に住まざるを得ないが、エスレヴァールの住民からは勝手に住み着いた物だと、
冷淡な扱いを受けている。
ダンスダンフの住民の中で、エティーへの移住をしない物達にも、サティは定期的な交流を約束した。
こうしてダンスダンの移民第1団が、サティの箱舟に乗って、エティーの地を踏んだのである。
箱舟がエティーの地上に降りると、ダンスダンフの住民は、揃って地に這い蹲った。
脚力が弱いので、真面に立てないのだ。
ある程度の魔法資質があれば、エティーの重力に対抗するのも難しくは無いが……。
外殻に生まれた物は、それだけの魔法資質も持たない様子。
這ってエティーの地上を移動するダンスダンフの住民に、サティは問うた。

 「エティーは、どうですか?
  やはり勝手が違いますか」

ダンスダンフの住民は、四つん這いで答える。

 「ええ、少し厳しいかも知れません。
  『落ちない』のは良いのですが」

腕や指は力強さと繊細さを兼ね備えているが、脚は体から下がっているだけだった。
時々手を休める為に、大地を覆う蔦に足を掛けたりはしていたが、それ以上の進化は無かった。

535 :創る名無しに見る名無し:2018/06/20(水) 18:36:56.31 ID:NJZWTIuI.net
ダンスダンフからの移民達は、暫く不安気に寝転んだり、立ち上がったりを繰り返していた。
そこに以前からエティーに住んでいたダンスダンフの物が、逆立ち歩きで話し掛けに行く。
この逆立ち歩き、普通とは違い、腹の方に前進する。

 「初めまして、兄弟。
  ようこそエティーに」

 「あ、貴方は……?」

 「私はベテクールデ、君達と同じくダンスダンフの出身だ。
  ある時、誤って混沌の海に落ちたが、幸運にも、この世界に流れ着いた」

そう説明しつつ、ベテクルーデはサティに視線を送った。

 「後は私に任せてくれ。
  同郷の出身だから、ここでの生活に就いて、助言出来る事は多いと思う」

 「……分かった、お願い」

ベテクルーデに説得されたサティは、少し不安に思いながらも、理を認めて任せる事にする。
その前に一言、ベテクルーデに告げておくのも忘れずに。

 「エティーの環境に慣れなくて、ダンスダンフに帰りたいと言い出す人達が居たら教えて。
  ダンスダンフとの往来は、自由にしたいと思っているから」

住めば都とは言うが、全ての物が環境の変化に付いて行ける訳では無い。
それにサティはエスレヴァールの住民を迎え入れる事も、諦めた訳では無かった。
交流が活発になれば、少し位は遊びに行っても良いと思う物が現れる筈である。
何時の事になるか分からないが、エスレヴァールとエティーが地続きになるとまでは行かずとも、
ホノミを含めたエスレヴァールの物達も自由にエティーと往き来させたいと、サティは考えていた。

536 :創る名無しに見る名無し:2018/06/21(木) 19:48:08.70 ID:RkYG5D38.net
ベテクルーデにダンスダンフの移民を任せたサティは、エティーの古老ウェイルの元を訪ねた。
彼女はエティーと他世界との交流を深めるに当たって、定期的に住民を乗せて往来する、
「定期便」を就航させる必要性を感じていた。
混沌の海では、心理的な距離が、物理的な距離に置き換わるのだ。
しかし、混沌の海を渡るサティの体は1つで、分身体を作り出す事も難しい。
そこで彼女は「配下」を欲した。
高位の悪魔貴族は、自分の配下を生み出せる。
マクナク公爵がフィッグ侯爵やバニェス大伯爵を生み出した様に。
そこまで力が強い物で無くても良いので、どうすれば新しい命を生み出せるかを知りたかった。
その旨をサティがウェイルに伝えると、彼は眉を顰めて低く唸った。

 「話は分かった。
  しかし、私も配下の生み出し方は知らない。
  フィッグやバーティに尋ねるべきでは無いかな」

 「……そうしてみます」

如何に古老と言えど、自分の経験外の事は語れない。
悪魔貴族としては下級の準爵相当では、思う様に配下を生み出す事は出来ないのだ。
そこへ先から脇で話を聞いていたバニェスが、割って入る。

 「私には聞かないのか?」

バニェスはマクナクでは大伯爵だった。
これは侯爵級に迫る能力の伯爵級に与えられる称号である。
だが、サティはバニェスが配下を生み出した所を見た事が無い。
バニェスの配下とは基本的に、大世界マクナクのバニェス領に生まれた弱い悪魔だった。

537 :創る名無しに見る名無し:2018/06/21(木) 19:50:40.72 ID:RkYG5D38.net
filler

538 :創る名無しに見る名無し:2018/06/21(木) 19:51:51.06 ID:RkYG5D38.net
頼りになるのかと、疑いの眼差しを向けるサティに、バニェスは体毛と鱗を逆立てて憤慨する。

 「私が自ら配下を生み出さなかったのは、その必要が無かった為だ。
  『出来ない』と、『やらない』は違う」

 「……だったら、どうやるのか『具体的に』教えてくれる?」

サティの問いに、バニェスは堂々と答えた。

 「先ず、混沌の力――そちらで言う所の『魔力』を一箇所に集める。
  どこでも良いが、自分や他者が中心では行けない。
  魔力が集中する中心に、命が宿る為だ」

 「どうやって命を宿すの?」

 「勝手に宿る。
  命は混沌から勝手に生まれる物だからな。
  故に、中々生まれない時もある。
  生まれ易くする方法はあるが」

 「教えて」

 「良かろう。
  魔力を集める中心部は、出来るだけ中空にしておくのだ。
  命は混沌から生まれる。
  能力の影響を受けた魔力は、最早混沌ではない」

サティは感覚的にバニェスの言葉を理解した。
異空に満ちている混沌の力は、何物かの意思に触れて、その通りに動いた時点で、
混沌の性質を失うのだ。

539 :創る名無しに見る名無し:2018/06/21(木) 19:53:58.96 ID:RkYG5D38.net
filler

540 :創る名無しに見る名無し:2018/06/21(木) 19:57:50.33 ID:RkYG5D38.net
バニェスは更に助言する。

 「序でに、注意すべき点も教えてやろう。
  強い配下を求めて、大きな魔力を込め過ぎない事だ。
  生まれた命が、必ずしも己の意に沿うとは限らない。
  軽く遇(あしら)える程度に留めておくのが無難だな」

 「分かった、有り難う。
  でも、混沌の海に出られる位にはしたいの。
  多くの世界を繋ぐ、定期便にするんだ」

サティの考えを聞いたバニェスは、率直な感想を告げた。

 「それは難しいのではないか?」

 「私の実力的にって事?」

 「そうだ。
  大人しくバーティ辺りを頼った方が良い。
  あれならば、伯爵級の配下を生む事も容易であろう」

混沌の海を渡る能力を持たせるには、サティの能力に匹敵する程度には、強く生む必要がある。
不測の事態に備えて、一定の判断力や思考能力も必要だ。
そうなると、とてもサティの手に負える物では無くなると、バニェスは思っていた。

 「……どうしても無理かな?」

 「絶対に無理だとは言わないが、悪い方向に転ぶ可能性が高い。
  『自らが生み出した物に滅ぼされる』とは、よく聞く話だ。
  誰に相談しても、同じ事を言われると思うぞ」

バニェスの忠告を真摯に受け止めたサティは、自らの配下を持つ事を潔く諦めた。
エティーを守る身でありながら、自らの失態でエティーを危険に晒す訳には行かないのだ。
残念ではあるが、仕方の無い事と彼女は割り切った。

541 :創る名無しに見る名無し:2018/06/22(金) 19:34:29.60 ID:mm+9oZ4E.net
and then

542 :創る名無しに見る名無し:2018/06/22(金) 19:36:05.51 ID:mm+9oZ4E.net
それでも定期便が欲しいサティは、バーティ侯爵の元を訪ね、新しい配下を生んで貰えないか、
頼んでみる事にした。

 「成る程、混沌の海を渡る定期便ね……。
  悪くは無いと思うけれど」

何時からか、バーティは砕けた口調でサティと接する様になっていた。
ファイセアルスに似ているエティーの空気が、生前の彼女を思い出させるのかも知れない。

 「どうかな?」

サティは期待を持って問うたが、バーティの表情は晴れず、気懸かりがある様子。

 「何か問題が?」

 「配下は主の性質を持ってしまう物なの。
  私の場合は魅了。
  仮に伯爵級を生んで、定期便の役目を負わせたら、子爵級以下の物を無闇にエティーに、
  連れて来てしまうかも」

それは困ると、サティは眉を顰めた。
意に沿わない移住は、不満を生み易い。
加えて、節度無く大量に住民を連れ出される事を、快く思わない領主も居るだろう。
行く行くは、ダンスダンフ・エスレヴァール以外の世界とも、定期便で住民を往き来させたいのに、
諍いの元になっては困る。

 「定期便は諦めた方が良い?」

残念そうなサティを見て、バーティは思案した。

 「そうねェ……。
  考えが無い訳じゃないんだけど」

妙案と言えるかは不明だが、とにかく何か「案」がありそうだったので、取り敢えずサティは、
聞いてみる。

 「勿体付けないで」

543 :創る名無しに見る名無し:2018/06/22(金) 19:37:46.93 ID:mm+9oZ4E.net
バーティは困った顔で苦笑いし、少しの間を置いて答えた。

 「確実性がある訳じゃなくて、飽くまで『案<アイディア>』の一つなんだけど」

 「良いから」

急かすサティに、バーティは小さく溜め息を吐く。

 「えー、じゃあ……サティ、お母さんになってみない?」

 「は?」

予想外の事を言われて、サティは頓狂な声を上げた。
バーティは誤解の無い様、仕草を交えて説明する。

 「私が魔力を集めて、子供の元を作る。
  そこに貴女の魔力を注ぎ込んで育てる。
  そうすれば、私と貴女、共通の子供が生まれる」

 「あ、あぁ、そう言う事!
  へー、そんな事が出来るんだ!」

魂だけの異空の体で妊娠を経験するのか、相手は誰になるのかと彼女は焦っていたが、
どうやら勘違いで済んだ様で安堵する。

 「本当に出来るかは、一寸未だ判らないけど」

バーティは一応の断りを入れた。

 「えっ、大丈夫なの?」

未経験の事を試そうと言うのかと、サティは俄かに不安になる。

 「確実性は無いって言ったじゃない」

話を聞いていなかったのかと、バーティは呆れた。

544 :創る名無しに見る名無し:2018/06/22(金) 19:39:02.80 ID:mm+9oZ4E.net
サティは落胆を露にして、小さく息を吐く。

 「止めとく。
  暴走されたら困るし」

 「その心配は無いわよ。
  だって、『私達の子』なんだから。
  貴女が制御し切れなくても、私が制御する」

バーティが安全を保証するが、サティは未だ信用し切れなかった。

 「でも……」

 「大丈夫だって。
  『案ずるより産むが易し』って言うし。
  それにね、主が生む配下は、主の心を映すのよ。
  優しい気持ちで、慈しみ育てれば、屹度(きっと)優しい子が生まれる」

バーティの説明は本当だろうかと、サティは疑う。
人間の子供と違い、生まれてしまえば、もう成体と変わり無く、強い力を持て余すのではと、
彼女は危惧していた。
そんな彼女をバーティは揶揄(からか)う。

 「子育てに自信が無いの?
  それとも自分の良心の方かしら?」

配下が主の心を映すのであれば、悪しき心の主からは、悪しき配下が生まれる。
挑発的な言動に不快感を顔に表すサティを、バーティは宥めた。

 「もし使い物にならなくても、私が引き取るから」

それも無責任で、どうかと思ったサティは、中々決断出来ない。

545 :創る名無しに見る名無し:2018/06/22(金) 19:50:34.43 ID:jQXE2Xqg.net
焦るサティさんかわいい

546 :創る名無しに見る名無し:2018/06/23(土) 18:54:07.94 ID:ZghFpvO9.net
バーティは何時に無く躊躇い迷う彼女を見て、どうした物かと一考した後、優しく微笑んだ。

 「サティ、貴女の心配は解るわ。
  でも、どんな子供が生まれて、どう育つか何て、誰にも分からないのよ。
  例えば、貴女の御両親が貴女を産むと決めた時、どんな風に育つと思っていたのかしら?」

ファイセアルスで結婚と出産を経験しているバーティの言葉には、妙な説得力がある。
サティはファイセアルスでは、並外れた魔法資質を持つ者として生まれた。
果たして、彼女の両親が、それを望んでいたかと言えば、否であろう。
魔法資質が高い事は、一般的には「良い」と思われているが、余り高過ぎるのも考え物だ。
魔法資質は生まれ付きで成長しない上に、その差によっては身体能力をも覆す。
だから、大人より強い子供が幾らでも居る。
強過ぎる子供は、親の手に負えなくなり、暴走する事もある。

 「子供は配下とは違うから、思う様な物が生まれないのは仕方が無いの。
  だけど、怖い怖いと言っていたら、何時まで経っても何も出来ないわ。
  ……無理強いはしないけど」

サティは今一つ乗り気にはなれなかったが、他者と協力して強い配下を生み出すと言う試みには、
興味を惹かれた。
上手く育てれば、侯爵級、否、公爵級の代理管理主や守護者を生み出す事も出来るかも知れない。
それは弱い存在達の集まりに過ぎない、エティーにとっては大きな希望になる。
失敗した場合のリスクは恐ろしいが……。

547 :創る名無しに見る名無し:2018/06/23(土) 18:55:47.53 ID:ZghFpvO9.net
暫く思案したサティは、バーティの案に乗ってみる事にした。

 「じゃあ、やってみようかな……。
  でも、最初は小さい子から、お願い」

 「行き成り強い子を育てるのは、流石に怖いか……。
  最初は、貴女の4分の1位ので良いかな?
  何日掛かるか分からないけど、魂が宿ったら預けに来るから。
  どんな子にするのか、確り考えておいてね」

バーティの言葉に、サティは緊張した心持ちで頷く。
彼女は初めて、「親」になるのだ。
自分の意思で生み育てると言う事で、エティーが生んだマティアバハラズールの時とは又違う。
マティアは「エティー全体の子」だが、これから生む物は「サティの子」なのだ。
愈々自分も「親」になるのかと、サティは奇妙な感慨に浸っていた。
しかも、相手はバーティ侯爵。
これから先、他の者とも協力して子を生む事もあろうが、それは浮気になるのか等と、
仕様も無い事を彼女は考えていた。
その後、サティはエティーの古老であるウェイルに、これから育てる事になるであろう、
「子供」の事を説明した。
万一の事態が発生した時には、彼の協力を仰がなければならない為だ。
サティの話を聞いたウェイルは、そんな方法があるのかと感心していた。

 「良いと思うよ。
  エティーの発展に繋がるのなら、反対する理由は無い」

 「しかし、確実性は無いのです。
  私達にとっても初めての試みなので……」

 「待て、バーティも初めてなのか?」

 「え、ええ」

バーティには経験があると思い込んでいたウェイルは、俄かに不安になる。

548 :創る名無しに見る名無し:2018/06/23(土) 18:57:03.11 ID:ZghFpvO9.net
数極、沈黙した儘の彼に、サティは話し掛けた。

 「止めた方が良いでしょうか?」

彼女の問いから少しの間を置いて、ウェイルは問いを返す。

 「……いや、有事に全く何の備えもしていないと言う事は無いのだろう?」

 「はい。
  子の強さは、私の4分の1程度に抑えてくれるそうです。
  どうしても手に余る様なら、バーティが引き取るとも。
  そんな心配は無いと思うのですが」

サティの4分の1でも、ウェイルや他の物にとっては十分な脅威だ。
少なくとも子爵級の強さはある。
だが、その程度であれば、反乱を起こしても、甚大な被害は出ないと、ウェイルは踏んだ。

 「それなら構わないよ。
  しかし、君の求める『配下』とは違うけれど、良いのかい?」

 「はい。
  単純に言う事を聞くだけの存在では、混沌の海を渡るのは難しいでしょうから。
  少なくとも自立した判断が出来なくては」

 「上手く行くと良いね」

 「はい」

ウェイルの了解を得て、サティは我が子の到着を待ち侘びた。
他者が自分の子を運んで来るとは、何とも奇妙な感覚である。
丸で、「赤ちゃんは遠くから来るのだ」と言う子供騙しの言い伝えの様だと、彼女は苦笑した。

549 :創る名無しに見る名無し:2018/06/24(日) 17:57:37.77 ID:MIzIEr4W.net
翌日、ダンスダンフの住民が、どうなったかと言うと……。

 「今日は、サティさん!
  こっちを見てくれ!」

通り掛かりにベテクルーデに呼び止められたサティは、全員で逆立ちして歩いている、
ダンスダンフからの移民達を見た。

 「ベテクルーデさん、ダンスダンフの人達は、ここで暮らして行けそう?」

 「ああ、もう慣れた物だよ」

ダンスダンフからの移民達は、ベテクルーデに倣って、2本の長く太い腕で体を支え、
細い足でバランスを取っている。
頭に血が上らないのかと、サティは心配したが、異空の存在は人間とは違う事を思い出して、
気にしない事にした。
その体に血液が流れているとは限らないのだ。
今のサティの体も殆ど霊体の様な物で、人間と同じではない。

 「ダンスダンフに帰りたいと言う人達は居なかった?」

念の為に問うサティに、ベテクルーデは半笑いで答える。

 「一寸気を抜けば、直ぐに『落ちて』しまう様な所に、好んで帰りたがる人は居ないよ。
  里帰り位はしても良いかも知れないが」

そこまで自分達が生まれた世界を嫌わなくてもと、サティは思う物の、それは他人だから抱く感想。
当人達にとっては、辛く厳しい世界だったのだ。

550 :創る名無しに見る名無し:2018/06/24(日) 17:58:31.29 ID:MIzIEr4W.net
ベテクルーデはサティに問う。

 「ダンスダンフには未だ残っている物達が居るんだろう?」

 「そうだけど」

 「出来れば全員、エティーに連れて来てくれないか?」

「全員」と言われ、サティは困り顔になった。

 「それには同意が無いと」

 「誰の同意だ?」

 「ダンスダンフの住民の同意に決まっているじゃないの。
  本人の意思を無視して連行するのは、誘拐と変わらないよ」

ベテクルーデには同胞を救いたい気持ちと、エスレヴァールに反発する気持ちがある。
必死で外殻に取り付く物達を、エスレヴァールの物達は見向きもしなかった。
その冷淡な態度を、ベテクルーデは恨んでいた。

 「ダンスダンフに生まれた物は、その時点で厳しい運命と向き合わざるを得ない。
  エスレヴァールの住民とは違う。
  こうしている間にも、どれだけの仲間が混沌の海に落ちて行っているか……」

怒りと憎しみの感情を滲ませるベテクルーデに、サティは警告する。

 「ここはエティーであって、エスレヴァールでもダンスダンフでも無いの。
  私が連れて来れるのは希望者だけだし、帰りたいと言う物を止める事も出来ない」

彼女は敢えて厳しい言い方をした。

551 :創る名無しに見る名無し:2018/06/24(日) 17:59:42.03 ID:MIzIEr4W.net
ベテクルーデはダンスダンフの住民の中では、比較的高い能力を持っていた。
その為に、混沌の海に落ちても、直ぐに存在が消滅せず、エティーに流れ着いた。
異空では命は勝手に生まれて、勝手に消える物だ。
そんな儚い存在である事を、ベテクルーデは能力の高さ故に認められない。
――サティはベテクルーデの内に秘めた烈しさを感じ取っていた。
「人道的」、「同胞愛」と言う点では、ベテクルーデの方が「良心的」と言えるだろう。
サティは異空の常識に毒され、能力の低い物の命を軽く見ている。
だからこそ、解る事もある。
ベテクルーデには復讐心がある。
生まれ育った世界を憎んでいるのだ。
エスレヴァールの住民がエティーを訪れる時に、ベテクルーデが一騒動起こすのではないかと、
サティは予感していた。
しかし、どうする事も出来ない。
少なくとも今の内は……。
全てはベテクルーデの内心の問題。
危うき事が無い様にと、事前に心を砕いて説得するよりも、その時に当事者同士で話し合い、
とにかく主張を打付け合った方が、健全では無いかとサティは考えていた。
勿論、大事に発展しない様に、見守る必要はあるが……。

552 :創る名無しに見る名無し:2018/06/25(月) 18:42:41.92 ID:TtTYdHI1.net
next story is...

553 :創る名無しに見る名無し:2018/06/25(月) 18:45:41.95 ID:TtTYdHI1.net
filler

554 :創る名無しに見る名無し:2018/06/25(月) 18:46:03.22 ID:TtTYdHI1.net
師弟の会話


「これは何かな?」

「木です」

「本当に木かな?」

「えっ? 折れて転がった木の幹の一部……、所謂『丸太』でしょう。丸太でも木は木です。
 木の丸太。他の何だと言うんですか?」

「これを椅子にせよと言われたら、どうする?」

「何か工具が必要ですね……」

「そんな事はしなくとも良い。こうして座れば椅子になる」

「確かに、椅子の代わりにはなりますが……」

「では、椅子とは何かな?」

「座る為の物です」

「これは立派に、その用を為しておるぞ」

「あぁ、詰まり、質料と形相ですね。『素材』は何物にもなり得るが、『形状』の制約を受ける。
 素材自体は何物でも無く、形状自体は無実だが、両者は『目的』によって強く結び付けられる。
 目的とは即ち、『名』。椅子とは座る物であり、座れる物は皆、椅子に成り得る。丸太でも、
 切り株でも、石でも」

「古い時代の哲学じゃな」

「逆に、座れない物は椅子とは呼べない。名とは実態その物で、体を以って名付けられる。
 椅子に限らず、実在する全ての物には目的があり、実態を無視しては成立し得ない。
 弟無しに兄には成り得ない。子無しに親には成り得ない。妻無しに夫には成り得ない。
 狩猟をしない狩人は無く、農業を営まない農家は無く、商売をしない商家は無い。
 そして形状は目的の為に純化してこそ最高の物になる。例えば、座り心地の好い椅子の様に。
 物の良し悪しは、如何に目的に適しているかに依る。魂と肉体の関係も、これと同じく。
 肉体は魂の具現であり、魂の向く方へ適う様にと姿を変える――と」

「よう知っとるな」

「これでも僕は――……」

「どうした?」

「いや、何か思い出せそうで、思い出せなくて……。僕には何か誇れる物があった……?」

555 :創る名無しに見る名無し:2018/06/25(月) 18:46:44.25 ID:TtTYdHI1.net
「思い出さんで良い。虚飾を捨てよ。それは君と言う人間の本質では無い」

「僕は誇りを取り戻したくて、過去を思い出そうとしているのでしょうか?」

「知らんよ、そんな事は。自分の事じゃろう?」

「思い出さないと行けない気がします。それが誇れる物じゃなかったとしても」

「後悔するぞ」

「師匠は御存知なんですよね? こうなってしまう前の僕を」

「何も変わっとらんよ」

「そんな事は無いでしょう。性格は変わっていないかも知れませんが……」

「本当に何も変わっとらん」

「……僕は変わらないと行けないんでしょうか?」

「知らんよ、そんな事は。自分の事じゃろう?」

「済みません」

「お前さんが過去を思い出せんのは、自分で蓋をしとるからじゃよ。過去を知りたいと言う心、
 それ自体に偽りは無いんじゃろう。しかし、同時に恐れてもおる」

「僕の心が弱い所為だと……」

「そうじゃな、弱い。強くありたいと願ってはおるが、同時に弱い事も認めてもおる。実に中途半端。
 肉体が魂の具現ならば、心も同じく。弱い儘では、何も変わらん」

「強くなれば良いんでしょうか……? 強さとは一体……」

「難しい事を言ったかな。儂は今の儘でも構わんと思っておるよ」

556 :創る名無しに見る名無し:2018/06/25(月) 18:48:21.95 ID:TtTYdHI1.net
魂の在り処


旧い信仰では、人とは「肉」、「精」、「霊」の三位が一体となって構成されていると言う。
肉とは「肉体」、目に見えて、触れる物の事。
霊とは「魂」、物を思い、感じる心の事。
精とは「気力」、肉体を動かす、内なる力の事。
もう一つ、別の解釈もある。
「肉=肉体」は同じだが、「精=精神」、「霊=霊魂」であり、「精神」とは表層的な「意識」の事、
「霊魂」とは無意識の「本質」を指す。
この解釈では「精」とは人間の意志であり、「霊」とは本能の様な物。
事を成すのは「精」であり、「霊」との一致が重要とされた。
自らの意志の向く先と、自らの本質の向く先が、等しくなる時……即ち、精霊が一致する時に、
大業の達成か可能になるのだ。

557 :創る名無しに見る名無し:2018/06/26(火) 19:04:04.56 ID:7Hvn+uE2.net
魔法暦では肉、精、霊の関係を肉体、魔力、精神と捉える者も居るが、それは明確に誤りだ。
人は魔力が無くても動く。
しかし、悪魔にとっては、強ち間違いとも言い切れない。
悪魔は肉体への依存が低く、殆ど「精霊」で生きている。
即ち、肉体の損壊による死が無い。
魔力が尽きる、又は霊が失われる事でしか、死なない。
肉を持たない事を、如何にも高等の様に吹く者も居るが、それは違う。
確かに、肉体の損壊による死が無いのは、弱点が1つ無くなる様な物。
だが、それ以上に三位の一体は互いを守り合っている。
肉、精、霊は互いに結び付く事で、強固な「存在」となる。
実体の無い物は他の影響を受け易い。
容易に精を失い、霊を傷付けられる。
全ての生物にとって、最も重要な物は霊だ。
物を思い、感じ、考える霊は、自我その物である。
これを失う事は根源的な死を意味する。
肉と精だけでは、「死んでいない」だけに過ぎない。
肉と精は互いと霊を守り合う。
肉は精と霊を守り、精も肉と霊を守る。
肉体を持たないが故に、肉の死を持たない悪魔を、恐れてはならない。
脆弱な精霊のみの存在は、魔力の希薄な地上で自己を保つ事が困難だ。
その場に居るだけで、精霊を消耗して、自滅する。
所詮は魔界の存在。
地上の命は、大法則である「理法」により守られているのである。

558 :創る名無しに見る名無し:2018/06/26(火) 19:05:50.40 ID:7Hvn+uE2.net
教義の言葉より


悪魔(牧場主と羊飼いと羊と狼の喩え)


悪魔とは異界の存在であり、古の征服者である。
一度世界を終わらせた恐るべき物であり、この世界に存在してはならない物であり、
討果されるべき邪悪である。
肉を持たず、老いを知らない、不完全な物である。
悪魔は邪悪な力で、人間を誘惑する。
神の御業(みわざ)を真似て、人間に利益を与えようと囁くが、これに乗ってはならない。
悪魔は地上で活動する為の媒体として、人間を利用しようとしている。
自らは賢い積もりで、悪魔を逆に利用しよう等と考えてはならない。
誠実さの無い人間は、悪魔の餌食である。
神は牧場主であり、聖君は羊飼いであり、人は羊であり、悪魔は狼である。
人の心が神から離れた時、悪魔は人を食らい尽くすであろう。
或いは、賢しくも羊飼いに成り代わり、悪しき心で人を支配するかも知れない。
神は人を見放さないが、人を救う為には、祈られなければならない。
神の存在を忘れ、敬虔な心を失った者の願いは届かない。

559 :創る名無しに見る名無し:2018/06/26(火) 19:07:45.58 ID:7Hvn+uE2.net
神を信じている積もりで、増長してはならない。
慢心し、他者を見下してはならない。
武力も財力も権力も、人の偉大さの証明にはなるが、信仰の正しさの証明にはならない。
それ等は真に偉大な物の前では無に等しい。
人は羊飼いにはなれても、牧場主にはなれない。
貴方こそ牧場主に相応しいと囁く者は、悪魔に他ならない。
神性は万人の内に眠れるが、人は神その物にはなり得ない。
悪魔は悪人を褒め称え、人格者の様に扱う。
凡愚を唆し、悪を行う事こそ善だと誤らせる。
故に、愚かなる事は悪である。
悪魔の囁きによって、凡愚は悪人となり、悪人は悪魔となる。
羊は己を狼の群れに誘う、悪しき羊飼いを見分けなければならない。
羊飼いは己の分を弁え、その身の丈を超えて、羊を導いてはならない。
羊飼いも羊も、他を欺いたり、偽ったり、裏切ったりしてはならない。
羊を害する羊は狼と変わらない。
同じく、羊を害する羊飼いも狼と変わらない。

560 :創る名無しに見る名無し:2018/06/27(水) 18:46:14.13 ID:MSwvqNoJ.net
羊飼いは従順な羊を求めてはならない。
羊は羊であり、羊飼いの物ではなく、牧場主の物である。
羊飼いは羊の世話を任されているに過ぎない。
狼は何時でも、羊の群れを狙っている。
だが、羊飼いは狼を憎む余り、羊を疎かにしてはならない。
従順な羊だけを可愛がり、そうでない羊を軽んじてはならない。
羊飼いは羊飼いの本分を忘れてはならない。
羊は狼を恐れる余り、羊の中から狼を探してはならない。
狼を追い払うのは、羊飼いの役目である。
羊飼いでもないのに、羊飼いの積もりになってはならない。
羊に狼が混じる時、羊飼いは狼と羊の区別をしなければならない。
羊と狼を間違える羊飼いは、羊飼いではない。
羊には良いも悪いも無い。
羊は羊であり、狼は狼である。
他の羊飼いの羊が紛れ込もうとも、それは狼とは区別しなければならない。
狼とは羊に害を為す者である。

561 :創る名無しに見る名無し:2018/06/27(水) 18:47:08.41 ID:MSwvqNoJ.net
羊飼いは羊から選ばれるべきである。
そして、羊飼いは何時か羊に戻らなければならない。
羊が羊飼いに逆らう時、羊飼いは己の分を試される。
羊を従えられない羊飼いは、羊となった己を導く、新たな羊飼いを認めなければならない。
羊飼いは羊を屠ってはならない。
それが、どこの羊であっても。
誰が羊を殺して良いと言ったのか?
羊が羊を殺める事も論外である。
羊を選ぶのは、牧場主である。
羊でも羊飼いでも無い。
羊を殺めた者は狼となる。
狼は羊の群れには居られない。
羊飼いになる事も出来ない。
しかし、狼も罪を悔い改めれば、羊として羊の群れに戻る事が出来る。
重要な事は、罪を認め、悔い改める事である。
己が犯した罪を認めない者、悔い改めない者を、羊として迎えてはならない。
懺悔と恩赦を経ずして、羊に戻る事は出来ない。
そして、悔い改めた者を羊として迎える事は、羊飼いの仕事である。
但し、再び同じ罪を犯した羊は、二度と群れに戻してはならない。
羊と間違えて狼を迎える羊飼いは、羊飼いではない。

562 :創る名無しに見る名無し:2018/06/27(水) 18:49:57.09 ID:MSwvqNoJ.net
残り容量が厳しいので、残りは適当な説明で埋めたいと思います。
実質このスレは、ここで終わりです。

563 :創る名無しに見る名無し:2018/06/28(木) 20:06:37.54 ID:LUWjHMLf.net
古代科学


旧暦には「理法(自然法則)」を解明しようとする運動が、何度か起きた。
水が固まって氷になり、砂が集まって岩になる様に、万物は小さな物の集まりだと言う認識は、
かなり古くからあり、細かな「素(もと)」によって構成されていると信じられていた。
物事の本質は単純であると考えられ、6つの元素で説明出来ると思われていた。


古代に存在すると思われていた元素一覧

ルクラオン(光素) 光の素とされる物質。光子に相当。
ファラーゲン(火素) 燃素に相当。実在せず。後にファラムトン(燐に相当)に割り当てられる。
ウルゲン(風素) 大気の素。後に大気の大部分を占める気体(窒素に相当)に割り当てられる。
ワーリュゲン(水素) 実在。当初は大気中の水分、水蒸気を意味していた。
ゲーニゲン(地素) 土を構成すると考えられた元素。実在せず。後にクストン(石素)が見付かる。
ダグムゲン(闇素) 闇を構成すると考えられた元素。実在せず。

ルクラオンの「オン」は男性名詞の接尾語であり、これは太陽を父とする思想に基づくと言われるが、
単に起源を意味する曖昧発音「エンテ」の転訛とも言われる。
その他の5つの元素の「ゲン」は、大地を意味する「ゲー」と、起源を意味する曖昧発音の「エンテ」で、
母星由来=地上の物である事を表しているとされているが、真相は不明。
最初に名付けられた「ウルゲン」に倣って、「ゲン」を付ける様になっただけとも言われる。

564 :創る名無しに見る名無し:2018/06/28(木) 20:07:42.15 ID:LUWjHMLf.net
6つの元素が提唱されてから長らく、それを特定するには至らなかった。
これ以上は分解出来ないと言う、「元素」が6つ以上発見されたのだ。


近古代に存在すると思われていた元素一覧

スピラゲン(気素) 実在。酸素に相当。
プフォルゲン(力素) 生き物を動かしているエネルギーの正体として考えられた元素。実在せず。
モルトゲン(体素) 生体を構成すると考えられた元素。後にモルトン(炭素に相当)となる。
クストゲン(石素) 後にクストン(珪素に相当)となる。
ブラクスモルトゲン(骨素) 人間の骨はモルトゲンとクストゲンで出来ていると思われていた。
                後に石灰質と判明し、実在しない事が確定。
                カルシウムに相当する新しい元素名は「貝素(シュファルコン)」。
メシャトゲン(魔素) 今日の魔力に似た初めての概念。この世ならざる元素。
グストゲン(秘素) メシャトゲンの不吉なイメージを払拭する為の別名。不思議な力の源。
ステルクゲン(鉄素) 全ての金属の素と考えられていた。後にステルコン(鉄に相当)となる。
ドゥウォリウ(液素) 熱すると液化する物体に潜んでいると考えられた元素。実在せず。
ウースパン(空素) 空間を構成すると考えられた元素。エーテルに相当。未確認。
ゼーオン(雷素) 実在。電子に相当。
プルトゲン(重素) 引力を発生させていると考えられた元素。重力子に相当。未確認。
           架空の重元素「プルトン」由来。


現在では常温気体の物には「ゲン」、常温液体の物には「イウ」、常温固体の非金属には「トン」、
金属には「コン」の接尾語が付く。
素粒子には「オン」、「アン」等が付くが、その違いは特に無く、語感によって決まる。
魔力は旧暦では、その正体を掴むには至らず、今日でも様々な性質は判っている物の、
物質や粒子ではない「力」としか判っていない。

565 :創る名無しに見る名無し:2018/06/28(木) 20:12:06.64 ID:LUWjHMLf.net
以上から実在する元素のみを抜き出す。

ルクラオン(光素)
ゼーオン(雷素)
ワールゲン(ワーリュゲン)(水素)
ウルゲン(風素)
スピラゲン(気素)
モルトン(体素)
クストン(石素)
ファラムトン(燃素)
シュファルコン(貝素)
ステルコン(鉄素)


○○に相当と言う表現は、○○の役割を果たしてはいるが、完全に同質では無い事を意味する。
例えば、スピラゲンは酸素に相当するが、「酸化」や「酸性」の意味合いは微妙に異なる。
人体の主成分はスピラゲン、ワールゲン、モルトン、ウルゲン、シュファルコン、ファラムトンだが、
更にクストンやステルコンも微量とは言えない、少量程度には含まれている。
奇しくも、これは古代に言われていた「水」、「火」、「土」、「風」の元素が、全て含まれている事になる。

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