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ロスト・スペラー 19

1 :創る名無しに見る名無し:2018/07/05(木) 21:21:14.20 ID:79tLuu1L.net
何時まで続けられるか


過去スレ

https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1518082935/
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1505903970/
http://mao.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1493114981/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480151547/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1466594246/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1455282046/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1442487250/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1430563030/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1418203508/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1404902987/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1392030633/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1377336123/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1361442140/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1347875540/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1334387344/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1318585674/
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1303809625/
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1290782611/

439 :創る名無しに見る名無し:2018/11/10(土) 01:24:55.82 ID:kUKzkAiZ.net
フェレトリさんが萌えキャラになる予感!

440 :創る名無しに見る名無し:2018/11/10(土) 18:33:02.29 ID:pScZZT0X.net
next story is...

441 :創る名無しに見る名無し:2018/11/10(土) 18:36:26.87 ID:pScZZT0X.net
恋猫ニャンダコーレ


第四魔法都市ティナー ラガラト区にて


恋猫(恋人の猫、ラバーズキャット)とは、恋の仲介をする猫の事である。
猫が恋仲を持ってくれると言う迷信が、何時発生したのかは定かでは無いが、これは要するに、
飼い猫、或いは、その辺を徘徊している野良猫を通して、意中の人に近付こうとする物である。
最初は「猫を通して理想のパートナーと偶然に知り合う」と言う夢の様な話だったが、
賢い使い魔の「化け猫」、「魔猫」が登場してから、意図的に知り合える様になり、
夢の欠片も無くなってしまった。
その代わりに実用度は上がったのだが、完全に使い走りである。
魔法道具店にて使い魔が売られる様になってから、魔猫の売り上げは魔犬と共に常に上位であり、
特に上述の恋猫伝説から女性人気が高かった。
使い魔を飼う為の条件が厳しくなった現在でも、魔猫の需要は衰えず、寧ろ魔犬に比べて、
体が小さく世話が容易なので、逆に購入者が増えている。
こうした多くの魔猫は部屋飼いだが、中には不心得者の飼い主もおり、真面に世話をしなかったり、
飽きて捨てたりして、野良化した魔猫が市内にも郊外にも溢れている。

442 :創る名無しに見る名無し:2018/11/10(土) 18:37:41.01 ID:pScZZT0X.net
殺処分される猫も多い中で、こうした現状に心を痛めて、猫を引き取る慈善団体もある。
魔法道具店も販売責任者として、捨て猫の回収をしている。
しかし、捨てられた魔猫は人間に不信感を持って中々馴れず、新しい飼い主を見付ける事は、
大変難しい。
中には自ら飼い主の下から出奔する例もある。
こうした魔猫は人間に頼らず(とは言っても残飯を漁ったり、人に餌を強請ったりはするが)、
徒党を組んで街を徘徊し、可愛い顔をして悪事を働く。
生塵を漁り散らかしたり、時と所を構わず鳴き喚いたり、その程度なら未だ可愛い物だが、
集団で人を襲って物を奪ったり、住居を占領したりもする。
憖、賢いが故に、その被害は大きい。
よって、普通の猫は見過ごされても、使い魔の猫は駆除される。
その結果、都会から地方に魔猫の群れが逃れて、畜獣を襲ったり、田畑を荒らしたりして、
農家に被害を与える例があり、こちらも深刻な問題となっている。
今や恋猫は「昔話」になりつつあり、人々は半ば妄想で恋猫の物語に夢を見ている。

443 :創る名無しに見る名無し:2018/11/10(土) 18:41:41.73 ID:pScZZT0X.net
ニャンダコーレは旅の雄化け猫である。
当人は妖獣の化け猫では無く、その仇敵ニャンダコラスの子孫を自称しているのだが……。
果たして自称は嘘か真か、その堂々たる体格は、立ち上がった状態で半身もあり、
大型の化け猫にしても未だ大きい。
流暢に人語を喋り、同時に人語を解して、人と会話も出来る。
更に、羽根付き帽子を被り、マントを纏った異様な風貌には、駆除業者も手出しを躊躇う。
このニャンダコーレを見掛けて、「化け物が出歩いている」と通報する者も少なくはないのだが、
大抵は見過ごされる。
先ず、彼は執行者や都市警察を呼ばれても逃げない。
人間と変わらず話し合いが出来る上に、堂々と振る舞われると、捕獲して良いのかと、
執行者も都市警察も判断に困る。
結果、特に問題が起こっていないなら、それで良しとされて終わる。
ニャンダコーレも各地を旅する身で、長らく一所に留まらないので、その内に忘れられる。
彼が旅をしているのは、宿敵の子孫である妖獣が悪さをしていないか、監視する為なのだが、
それが偶々人間社会で問題を起こし難い生活になった。
その意味では、彼は幸運なのかも知れない。

444 :創る名無しに見る名無し:2018/11/11(日) 19:03:13.77 ID:Wi80fJ+0.net
ラガラト区の狭い路地を歩いてる時、ニャンダコーレは目の前を横切った、風に舞う一枚の紙切れを、
反射的に捕まえた。

 (ニャ、コレは手紙……?)

罫線の引かれた片面には、手書きの文字が書き込まれており、裏面は白紙だ。

 (誰かが捨てた物ですかな、コレ)

細かい字が苦手なニャンダコーレは、最初読もうと言う気も起らなかったが……。
爪が紙に引っ掛かったので、中々手から離れない。

 (コレ……コレッ!
  ヌヌー、爪が伸び過ぎたな……)

爪の手入れを怠っていた事を彼は後悔して、両手を使って紙を爪から外す。
その序でに、何が書かれているのか読んでみようかと言う気になった。
完全に気紛れである。

 (フムフム、何が書いてあるのですかな、コレ……)

目を凝らして文字を読んで行くと、どうやら恋文らしい事に気付く。

 (ニャー、コレが世に言う所の恋文ですか、コレ……。
  想いをコレ、言葉にして認める。
  人間の風流と言う奴ですな、コレ)

この恋文が如何な性質の物か、ニャンダコーレは気に掛けた。

 (コレは本当に塵として扱って良い物ですかな、コレ?
  もしや、コレ、誰かの大切な物では?)

445 :創る名無しに見る名無し:2018/11/11(日) 19:04:29.38 ID:Wi80fJ+0.net
彼は本気で悩み始める。

 (……どうした物か、コレ……)

本当に大切な物であれば、持ち主を探すべきだ。
しかし、何等かの理由で捨てたのであれば、そっと眠らせておくべきである。
長々と悩んだ末に、ニャンダコーレは閃いた。

 (コレ、人間の社会には交番と言う便利な物が、コレあるではないか!)

「落し物は交番へ」と言う文句を単純に解釈して、彼は交番を探して歩いた。
そして都市警察の交番を発見すると、喜んで駆け込む。

 「今日は、コレ、失礼します」

ニャンダコーレが交番の壁を軽く叩いて来訪を知らせると、机で勤務日誌を付けていた男性警官が、
徐に振り向いて……。

 「どうし……ど、どうし……まし……?」

二足歩行する大きな化け猫を見た途端、彼は驚いて硬直した。

 「コレコレ、大丈夫ですかな?
  どこか、コレ具合でも悪くなりましたか……?」

 「いや、具合は悪くないけど……」

 「コレ、それは結構。
  世には、コレ、猫アレルギーや猫恐怖症と言う物があるらしいですからな、コレ」

 「あ、ああ、そう言うのじゃないから安心(?)してくれ」

警官はニャンダコーレに近付き、真面真面と観察する。

446 :創る名無しに見る名無し:2018/11/11(日) 19:06:03.85 ID:Wi80fJ+0.net
ニャンダコーレは自分の髭を撫でながら、警官に言った。

 「コレ、落し物を拾ったのですが」

 「落し物……?
  この紙が?」

襤褸襤褸の紙切れ一枚を示されて、警官は首を捻る。

 「コレは手紙です」

 「はぁ、手紙……」

彼は手紙を受け取り、その文面を読んで、「あっ」と小さく声を上げた。

 「これって――」

ニャンダコーレは小さく頷く。

 「道端で、コレを拾いまして、コレ扱いに困ったのですが」

警官は困った顔で、彼に幾つか質問をする。

 「どこで拾いましたか?」

 「コレ、そこの狭い路地ですな」

ニャンダコーレは自分が通って来た道を指した。

 「落とし主を見ましたか?」

 「いや、コレ、見ておりませぬ」

447 :創る名無しに見る名無し:2018/11/12(月) 18:25:56.76 ID:7rgnDU/r.net
警官は両腕を組んで、低く唸る。

 「えーーーーーーーーと、そのですね……。
  落とし主も宛先も分からない手紙を持って来られても、どうにも出来ない訳ですが……。
  いや、誰に宛てた物かは書いてありますが……。
  名字まで書いてないと、同じ名前の人は幾らでも居るので……」

 「ええ、コレ、それは仕方がありませんな。
  その位は承知しておりますとも、コレ。
  しかし、落とし主に落としたと言う自覚が、コレ、あれば、もしかしたら、コレ、
  探しに来るかも知れません」

ニャンダコーレの話は正論だが、丸裸の手紙を落とす事があり得るのか、仮に落としたとして、
拾いに探す物だろうかと、警官は訝った。
普通の手紙なら未だしも、恋文である。
文面を拾い主に読まれている事は間違い無い。
それを落とし主は「私が書いた物です」と言い出せるのか?
そんな事をする位なら、新しく書き直した方が良い気がする。
他にも警官には、もう一つ気になる事があった。

 「あの、それと、この手紙の宛名ですが……。
  『マテュアス』……。
  これ、私の名前と一緒なんです」

 「ニャー、そんな事があるんですなぁ」

ニャンダコーレは偶然だろうと思っていたが、警官の方は仮に自分宛てだったらと動揺していた。

 「私の事だったら、どうしましょう……」

彼は独身で付き合っている女性も居ない。

448 :創る名無しに見る名無し:2018/11/12(月) 18:27:44.30 ID:7rgnDU/r.net
そんな事を聞かれても困ると、ニャンダコーレは迷惑そうな顔をする。

 「コレ、落とし主が現れるのを待つしか無いのでは……?」

 「その確率は低いと思っています。
  ……どこで拾ったのか、詳しい場所を教えて貰えませんか?」

 「コレ、構いませんが……。
  交番をコレ、留守にして大丈夫ですかな、コレ……」

 「直ぐに行って、直ぐに帰れば、少し位は大丈夫でしょう。
  恐らく、多分」

警官に責っ付かれ、ニャンダコーレは恋文を拾った狭い路地に向かった。
ニャンダコーレは恋文を拾った状況を再現する。

 「ここをこう歩いていましたら、コレ、こんな風に手紙が目の前を、コレ、横切りまして。
  反射的に、こう、コレ……」

警官は入り組んだ路地を見回した。
風向きから、手紙の飛んで来た方向を探しているのだ。

 「向こうの大きな通りから、風に運ばれて来たんでしょう。
  ここら辺はビル風が強いですから。
  裸の手紙が風に飛ばされる様な状況は限られます。
  恐らく、開けっ放しの部屋の窓から、風に乗って……」

 「コレ、窓の開いている部屋を訪ねれば良いのですかな?」

 「いや、手紙が風に飛ばされたら、当然窓を閉めるでしょう。
  ……結局、分からんと言う事です。
  一応、手紙は預かっておきますね。
  万が一、もしかしたらと言う事もあるでしょうから」

449 :創る名無しに見る名無し:2018/11/12(月) 18:30:35.34 ID:7rgnDU/r.net
そう言うと、警官は手帳を取り出した。

 「所で、失念していましたが、貴方の名前は?」

書類を作成する為の情報を書き留めようと、彼はニャンダコーレに尋ねる。

 「吾輩はニャンダコォーゥレです、コレ」

 「はい、ニャンダコーレさん、名字は?」

 「コレ、ありません」

 「え、えーと、飼い主さんの名前は……」

 「コレ、そんな物は居りません!」

 「飼い主じゃなくて、御主人様かな?」

 「居らぬと言っておりましょう、コレ!」

 「……野良なんですかね?」

 「私は旅の身であるからして、コレ、そう言う意味では野良でしょうが、コレ野生とは違います。
  そこらの猫と一緒にしてくれますな、コレ」

ニャンダコーレをどの様な存在と定義して良いか、警官は悩んだ。

 「あのー、住所はありますか?
  出生地は?」

 「ある事はありますが、コレ、この街からは遠く離れた所ですな……。
  しかし、そんな事を知って、コレ、どうしようと言うのですかな?」

 「もし持ち主が現れて、お礼をしたいと言う事になったら、連絡先が無いと……」

 「ニャー、そんな物は要らないので、コレ、もう行って良いですかな?」

そうニャンダコーレは尋ねたが、この怪しい化け猫を解放して良いか、警官は少し迷う。

450 :創る名無しに見る名無し:2018/11/13(火) 19:34:04.05 ID:N5OIGe5p.net
野良の化け猫であれば、駆除業者に連絡すべきなのだが、そう悪質な様にも思えない。
そもそも彼が今まで見て来た化け猫とは、全く違う。
大きさにしても、話し方にしても、態度にしても。
飼い化け猫は人間に忠実で、人に馴れているか、或いは主人以外には懐かない。
野良化け猫は人間に媚びるか、逆に人間を警戒しているか、どちらかだ。
所が、ニャンダコーレは人間と対等に接している。
それが却って問題とならなければ良いがと、警官は心配した。
人間も出来た者ばかりでは無い。
使い魔を含めた妖獣を一段低く見て、真面に取り合わない者、不当に扱う者も多い。
事実、多くの法律は使い魔や妖獣を知能に関係無く「物」として扱っている。
では、自分に何の権限があって、この化け猫を止めようとしているのかと、警官は自問したが、
当然そんな権限は無い。

451 :創る名無しに見る名無し:2018/11/13(火) 19:34:58.56 ID:N5OIGe5p.net
彼は駆除業者では無いし、然して妖獣に詳しい訳でも無い。
何より、ニャンダコーレは未だ人に危害を加えていない。

 「……お気を付けて。
  旅の御無事を祈っております」

 「コレ、どうも」

ニャンダコーレは帽子を取って会釈すると、その場から立ち去った。
警官の手には「自分と同じ名前の者に宛てた」恋文が残る。

 「参ったな、こりゃ」

そう彼が独り言つと、背後から足音が聞こえた。

452 :創る名無しに見る名無し:2018/11/13(火) 19:35:54.53 ID:N5OIGe5p.net
誰だろうと彼が振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。
彼女は警官を認めると、見る見る蒼褪める。

 「あ゛あ゛ーーーーーーーーーーっ!!!!」

突然発せられた、この世の物とは思えない悲鳴に、警官は吃驚して身を竦めた。
彼が怯んだ隙に、女性は雷光の如き素早さで、その手から恋文を奪う。
警官は全く反応出来なかった。
女性は恋文の文面を確認して、再び悲鳴を上げる。

 「キャーーーーーーーーーー!!!!」

そして、その場に倒れ込んでしまった。

 「えぇ……何……?」

警官は暫し呆気に取られていたが、市民をその儘にはしておけないと、彼女に近付いて声を掛ける。

 「もしもし、大丈夫ですか?
  ……失礼しますよ」

返事が無いので呼吸と脈拍を診たが、どちらも確りしており、直ちに命に関わる状態では無い。
警官は安堵したが、重い病気の可能性も考えて、魔力通信機で救急馬車を呼ぶ事にした。
一見した所、女性の身元を確認出来る様な物は無い。
恐らくは普段着であろう緩い綿の『襯衣<シャツ>』に、同じく綿のズボンを穿いている。
履き物もサンダルで、全体的に楽な格好である事から、近所の住民だろう事が判る。
手には先程警官から奪った恋文を、確りと握り締めている。
これだけは離すまいと言う、強固な意思を感じる。

453 :創る名無しに見る名無し:2018/11/13(火) 19:36:44.06 ID:N5OIGe5p.net
警官は彼女を大きな通りの近くまで、静かに抱えて運び、救急馬車の到着を待った。

 (彼女が手紙の落とし主なんだろうか……)

顰めっ面で時々魘されている彼女を、警官は哀れに思った。
もし、この女性が恋文を書いた本人であれば、風に飛ばされた恋文を誰にも見られない内に、
回収してしまおうと、急いで外出したのであろう。
恋文を渡そうとしていた相手が誰なのかは分からないが、それが警官だったとしても、
不意に見られては恥ずかしいだろうし、警官では無かったのであれば、尚の事。
そもそも、これが渡そうとしていた恋文なのかも判らない。
中々良い文章が思い付かず、捨てようとしていた物が風に飛ばされたのかも知れない。
失敗作だからと言って、それを回収しない訳には行かないだろう。
否、失敗作なら尚の事か……。
年齢は20〜30の間と見られる。
薄い赤毛で中肉中背。
如何にも文学を趣味としていそうな感じでは無い。
人の顔で性質までは判らない物だが……。
手紙を奪う動きは目にも留まらぬ程だった。
警官は彼女が自分に好意を持っているのか悶々としながら、その顔を凝(じ)っと見詰めていた。
やがて救急馬車が到着し、彼女は病院へと運び込まれた。

 (無事なら良いけど……)

恋文の宛先が誰であれ、倒れ方が尋常で無かった事から、無事に回復すれば良いがと、
警官は心配した。

454 :創る名無しに見る名無し:2018/11/14(水) 18:32:32.83 ID:YmYSQNC+.net
それから1週後、恋文の事を警官が忘れた頃に、例の女性が交番に訪ねて来た。

 「今日は」

確りと粧(めか)し込んだ彼女が誰だか、警官は最初判らなかった。

 「はい、何か御用でしょうか?」

警官は徐に立ち上がって近寄るが、当の彼女は俯き加減で何も言わない。

 「……どうされました?
  道が分からないとか、人探しをされているとか?」

交番に来たは良い物の、警官を前にして緊張し、物を言えなくなる人は偶に居る。
道が分からないと言うのは、要するに迷子になったと言う事。
良い大人が迷子になるのは恥ずかしい事だと思っている人も居る。
人探しをしていると言うのは、誰かと逸れたと言う事。
相手が迷って逸れたのか、自分が迷って逸れたのかは、敢えて問わない。
問い掛けても何も答えない女性に、警官は提案をする。

 「取り敢えず、立ち話も何ですから、中で座ってて下さい。
  落ち着いてから話を伺いましょう」

 「いえ、それは悪いです……」

 「しかし、ここでは人目もありますし」

そう言われて女性は辺りを窺った。
通行人の中には、何事だろうと彼女を見ている者も居る。

455 :創る名無しに見る名無し:2018/11/14(水) 18:34:02.65 ID:YmYSQNC+.net
やや恥ずかしさを覚えた彼女は、警官の言葉に従う事にした。

 「それでは失礼します」

交番の中には女性の警官が居て、退屈そうに魔力ラジオウェーブ放送を聞いている。
女性警官は来客に気付くと、慌てて席を立ち、姿勢を正して咳払いした。

 「ええっと、何でしょうか?」

 「その、あちらの人に、お話があって来たのですが……」

女性は先の男性警官マテュアスを指して言う。

 「はぁ、えー、そうですか……。
  一寸待ってて下さい」

女性警官は直ぐに男性警官を呼んで、代わりに通りに近い席に座った。
男性警官は不思議そうな顔をして、女性に尋ねる。

 「私に、お話があるそうですが……」

女性は思い切って言った。

 「はい、お礼を言いたくて……」

 「何の事でしょうか?」

何かあっただろうかと考えていた男性警官は、思い当たって小さな声を上げた。

 「あ、もしかして貴女は、あの時の……。
  えー、その、あの、急に大声を上げて倒れられた……」

落ちていた恋文の事に触れる訳にも行かず、彼は誤魔化し誤魔化し言う。

456 :創る名無しに見る名無し:2018/11/14(水) 18:34:42.90 ID:YmYSQNC+.net
女性の顔が見る見る真っ赤になる。

 「その件は本当に御迷惑をお掛けしました……!」

 「ああ、いや、それよりも……貴女は大丈夫でしたか?」

 「あっ、大丈夫、大丈夫です、大丈夫でした!
  この通り元気です、後遺症とかもありません!」

 「そ、それは良かった」

勢いに圧されて怯みながらも、警官は頷いた。
そこから再び沈黙が続く。
未だ用事があるのかと警官は訝り、彼女は恋文の事を気にしているのではと思った。
だが、どう対応するのが正解か分からない。
恋文を読みましたよと言うのは、流石に悪手だろう。
それだけは分かる。
取り敢えず、この気不味い空気を何とかしようと、警官は考えた。

 「お茶、淹れて来ます」

しかし、女性は彼を止めて、自ら話を切り出す。

 「いいえ、お構い無く!
  あの、それよりも……貴方が持っていた手紙の事ですが……」

警官は出来るだけ平静に見える様に努めて応えた。

 「あー、あれが何か?」

457 :創る名無しに見る名無し:2018/11/15(木) 18:49:31.38 ID:jzMitmMT.net
女性は単刀直入に尋ねる。

 「読みましたか?」

どう答えたら良いか、警官は心の中で考えた。
裸の状態で落ちていた手紙なのだから、読んでいても不思議は無いし、特に咎められる事も無い。
それでも素直に読んだと言えば、彼女は恥ずかしい思いをするだろう。
では、恥ずかしい思いをさせない為に嘘を吐くのか、それが本当に「良い」事と言えるのか?
読んでいないと嘘を吐いても、信じて貰えるかは分からない。
逆に、読んでいない方が不自然では無いかと、疑われる可能性がある。

 「読んだんですね……」

女性は低く落ち込んだ声で言った。
その確信を持った様子に、警官は否定しても不信感を抱かれるだけと察して、正直に肯定した。

 「ええ、裸の状態で届けられた物ですから……」

 「えっ、届けられた……?」

女性は赤面から青白い顔になって、呆然とし始める。
警官は慌てて彼女に声を掛けた。

 「だ、大丈夫ですか!?」

女性は何とか遠退く意識を繋ぎ止めて、呻きながら机に突っ伏す。

 「大丈夫……では無いかも知れません。
  一寸、いえ、かなりショックです……」

458 :創る名無しに見る名無し:2018/11/15(木) 18:51:14.39 ID:jzMitmMT.net
どうにか彼女を慰めようと、警官は経緯を説明した。

 「あの手紙を届けてくれたのは、猫なんです」

女性は僅かに顔を上げて問う。

 「猫……?」

 「はい。
  一寸、いえ、大分変わった化け猫でした」

 「化け猫って事は、誰かの使い魔ですか……?」

彼女は再び顔を伏せて、落ち込んだ。
警官は説明を続ける。

 「いえ、野良の……と言うか、旅の身だと言っていましたね……」

 「猫が旅……?」

 「はい。
  二足歩行で帽子を被った、大きな白黒の化け猫です」

女性は作り話では無いかと疑う。
そんな化け猫が存在するとは思えないのだ。
だが、警官の表情は至って真面目である。
騙そうと言う意思も、揶揄おうとする意思も感じられない。

 「その化け猫が私の手紙を……?」

 「そうです。
  風に飛ばされて来たのを拾ったと言って――」

459 :創る名無しに見る名無し:2018/11/15(木) 18:51:39.58 ID:jzMitmMT.net
半信半疑の女性に、警官は全く信じられていない訳では無いのだと、少し安心した。

 「どこで拾ったのかと聞いた所、あの路地だと。
  そこに貴女が現れて――、その後は……」

 「あっ、はい、あの時は本当に済みませんでした」

女性は再び赤面して俯く。
警官は小さく息を吐いて言う。

 「でも、良かったです、安心しました。
  手紙の持ち主が見付かって。
  正直な所、落し物として届けられても、どう仕様も無かったですからね」

彼は肩の荷が下りた気分だった。
これで1週間前の事は何も彼も解決した……筈だ。
しかし、女性は未だ帰ろうとはしない。
彼女は警官に問う。

 「……お巡りさん、手紙の文面を覚えていますか?」

 「一言一句ではありませんが、大体の内容は……」

2人の胸は同時に高鳴って行く。

 「お返事を聞かせて下さい、マテュアスさん」

恋猫とは恋文を届ける使いである。

460 :創る名無しに見る名無し:2018/11/16(金) 19:19:22.20 ID:bTa6UvTx.net
次の話に進むには少し容量が足りないので、適当に語ります。

461 :創る名無しに見る名無し:2018/11/16(金) 19:25:43.64 ID:bTa6UvTx.net
もう2、3スレ……延びても4スレ位で逆襲の外道魔法使いの主要な話は終わらせたいと思っています。
5スレは掛けたくない感じ。
1スレの消化に4月は使っているので、それでも最低1年半は続きますが、2020年内には何とか……。
しかし、今のペースだと後5年は掛かりそうな……。

462 :創る名無しに見る名無し:2018/11/16(金) 19:28:35.30 ID:bTa6UvTx.net
以下、本筋に余り関わらない設定

463 :創る名無しに見る名無し:2018/11/16(金) 19:29:55.78 ID:bTa6UvTx.net
旧暦 黄道12星
黄道上に輝く、季節毎の12の星


シーゾス 始まりの星 涙星、雪解け、悲しみを癒す優しさを表す、3月の星
ベルデス 次なる星 誕星、萌芽、希望と生誕を表す、4月の星
カロメス 喜びの星 嬉星、成長、喜びを表す、5月の星
カタイギダス 逆風の星 嵐星、試練、避け得ぬ障害を表す、6月の星
アクティス 輝きの星 輝星、拡大、増大、輝きを表す、7月の星
イシストス 繁栄の星 栄星、最高潮、最盛期を表す、8月の星
スタテロス 安定の星 王星、安定、平安、落ち着きを表す、9月の星
ボーリアス 落日の星 鎮星、鈍化、落下を表す、10月の星
シクロス 冷たい星 衰星、衰え、冷却を表す、11月の星
ブラディス 夜の星 宵星、闇、暗さ、挫折を表す、12月の星
(プセウド)メノス 眠りの星  死星、休眠、終わりを表す、1月の星
アルゴス 怠惰の星 忌星、不活発、葬儀、葬送、喪中を表す、2月の星
クリフトス(クリプトス) 隠れた星 13番目の星、後になって発見された

464 :創る名無しに見る名無し:2018/11/16(金) 19:31:25.60 ID:bTa6UvTx.net
それぞれの星は星座を構成する中心的な役割を果たす。

シーゾスは麦穂座の穂の中心。
ベルデスは揺り籠座の支点。
カロメスは踊り子座(小鳥座)の頚部。
カタイギダスは戦士座の剣の柄。
アクティスは竪琴座の中心。
イシストスは馬座の前脚。
スタテロスは王笏座の柄頭。
ボーリアスは鎌座(これは収穫を意味する物で、決して死神の鎌では無い)の目釘。
シクロスは豚座(猪座)の鼻。
ブラディスは機織り座の編み串。
メノスは釣鐘座の舌(ぜつ)。
アルゴスは猫座の瞳。
クリフトスは角笛座の歌口。

465 :創る名無しに見る名無し:2018/11/16(金) 19:32:21.50 ID:bTa6UvTx.net
クリフトスは他の12の星と比較して、明るさの弱い星だった。
クリフトスは魔法大戦で失われており、現在は元々クリフトスのあった位置の近くにあった、
明るさの弱い別の星が、「クリフトス」と言う事になっている。
この際に名前も改められ、「エナラギス」と呼ばれている。
詰まり、クリフトスが無くなったので、近くにあったエナラギスをクリフトスと呼んでいた事にしたのだ。

466 :創る名無しに見る名無し:2018/11/16(金) 19:33:55.43 ID:bTa6UvTx.net
星座の意味


星座の決定は、聖君の登場よりも古いとされる。
星と星を線で結ぶと、そう見える物もあるが、大概が故事付け。
古代の人々は星座の出現を、「神が季節の訪れを地上に知らせる為」と解釈した。
麦穂座の出る頃に春麦を植える。
揺り籠座の出る頃に子を産む。
踊り子座の出る頃には鳥が歌う。
戦士座の出る頃には嵐が吹く。
竪琴座の出る頃に祭りをする。
馬座の出る頃に旅をする。
王笏座の出る頃に王を選ぶ。
鎌座の出る頃に畑の作物を収穫する。
豚座の出る頃に屠畜をする。
機織り座の出る頃に内職に勤しむ。
釣鐘座の出る頃に教会の式典に参加する。
猫座の出る頃に鼠を始末する。

467 :創る名無しに見る名無し:2018/11/16(金) 19:34:21.87 ID:bTa6UvTx.net
これ等の中にも、特に意味の無い物や故事付けがある。
踊り子座の出る頃に鳥が歌うから何だと言うのか?
馬座の出る頃に旅をすると言うが、態々夏の暑い時期に遠出する理由は無い。
王笏座の出る頃に王を選ぶのも、一般人には殆ど関係が無い。
古くから、そう言い伝えられているだけである。
王笏座の周りには、王冠座と椅子座があり、全てが明瞭に目視出来る晴天日を、
即位の日に定める習慣の時代もあったと言うが、何時頃かは定かでない。

468 :創る名無しに見る名無し:2018/11/17(土) 19:15:53.76 ID:VsSLo/Pg.net
反逆同盟のメンバーリスト(時系列順)


「巨人」アダマスゼロット:死亡
「奇跡の魔法使い」チカ・キララ・リリン:離脱→死亡
「魔性の狐」ヴェラ・リサ・エグゼラスカ(エグゼラの狐):新規加入
「魅了の魔法使い」バーティフューラー・トロウィヤウィッチ・ラントロック:離脱
「未知の魔法使い」ヘルザ・ティンバー:離脱
「怪魚人」ネーラ(ネーラ・リュマトーナ):離脱
「怪鳥人」フテラ(ハルピュイア・エピレクティカ):離脱
「予知魔法使い」ジャヴァニ・ダールミカ:死亡
「予知魔法使い」スルト・ロアム:新規加入
「魔獣」テリア:離脱
「吸血鬼」フェレトリ・カトー・プラーカ:捕囚
「暗黒魔法使い」ニージェルクローム・カペロドラークォ(ハイロン・レン・ワイルン)
「暗黒魔法使い」ビュードリュオン・ブレクスグ・ウィギーブランゴ
 ?
「石の魔法使い」バレネス・リタ
「血の魔法使い」ゲヴェールト・ブルーティクライト(ヴァールハイト・G.ブルーティクライト)
「昆虫人」スフィカ
「使い魔」ディスクリム
 ?
「悪魔子爵」サタナルキクリティア:死亡
「呪詛魔法使い」シュバト
 ?
「悪魔公爵」マトラ(ルヴィエラ・プリマヴェーラ)

469 :創る名無しに見る名無し:2018/11/17(土) 19:19:59.67 ID:VsSLo/Pg.net
魔導師会と連携しているメンバーリスト


「魔楽器演奏家」レノック・ダッバーディー
「緑の魔法使い」ルヴァート・ジューク・ハーフィード
「影人間」シャゾール
「ポイキロサームズ」アジリア(蜥蜴女)
「ポイキロサームズ」ヤクトス(蛇男)
「ポイキロサームズ」ヴェロヴェロ(蛙男)
「ポイキロサームズ」コラル(亀女)
「ポイキロサームズ」ヘリオクロス(甲虫男)
「新しい魔法使い」ワーロック・アイスロン
リベラ・エルバ・アイスロン
「精霊魔法使い」コバルトゥス・ギーダフィ
「巨人魔法使い」ビシャラバンガ
「隠密魔法使い」フィーゴ・ササンカ
「魅了の魔法使い」ラントロック・アイスロン(B.T.ラントロック):新規加入
「未知の魔法使い」ヘルザ・ティンバー:新規加入
「鳥人」フテラ:新規加入
「獣人」テリア:新規加入


※:その他の旧い魔法使いは直接は魔導師会と協力していない。

470 :創る名無しに見る名無し:2018/11/17(土) 19:24:40.48 ID:VsSLo/Pg.net
魔法資質の高さ(参考)


マトラ>>(公爵級の壁)>>ニージェルクローム(竜化)>レノック>アダマスゼロット>
フェレトリ(強化)>チカ>フェレトリ>ヴァールハイト>サタナルキクリティア>
ビシャラバンガ>アダマスゼロット(弱体化)>ニージェルクローム(竜の力)>コバルトゥス>
ラントロック>リタ>ビュードリュオン>ネーラ>フテラ>ディスクリム(平時)>
テリア>スフィカ(以下団栗の背比べ)>フェレトリ(弱体化)>ワーロック


マトラが生み出したディスクリムと呪詛魔法使いシュバトは可変。
ディスクリムはマトラ以下、シュバトは上限無し。
ヴァールハイトとゲヴェールトは別扱いで、ゲヴェールト個人の力は強くない。
ニージェルクロームは竜の力が無ければ、その他大勢に含まれる。
実際には相性の問題があるので、強ければ勝つと言う物でも無い。

471 :創る名無しに見る名無し:2018/11/17(土) 20:57:58.64 ID:uhJZaL03.net
このリスト……ありがたい!

472 :創る名無しに見る名無し:2018/11/17(土) 21:04:55.86 ID:uhJZaL03.net
サティさんやジラさんの魔法資質はどのくらいのあたりになるんだろう

473 :創る名無しに見る名無し:2018/11/18(日) 01:02:54.86 ID:f+dnwrkX.net
神聖魔法使いは別枠扱いっぽいけどクロテアさんも気になるところ

サロスは多重人格者の人格毎の尊厳みたいな話を思い出して興味深かったです

474 :創る名無しに見る名無し:2018/11/18(日) 19:04:56.45 ID:ygEWt5QE.net
サティはサタナルキクリティア以上のフェレトリ未満。
ヴァールハイトより少し上って所です。
ジラはフテラとテリアの間か、もう少し下でしょうか……。
ラントロック、リタ、ネーラ、フテラ、テリア、スフィカ、ディスクリムは魔法資質の高さよりも、
特殊能力が厄介な面があります。
コバルトゥスは精霊の力を借りて、自分の魔法資質以上の魔力を操れます。
テリアからスフィカの辺りが平均的な魔導師の能力になるでしょう。
魔導師であれば魔法資質でテリアを上回る人は少なくありません。
より高い方の人であれば、ビュードリュオンをも上回るでしょう。
一方でビシャラバンガより高い者は殆ど居ません。
弱体化したフェレトリでも一般人の平均よりは低い程度なので、そんなに弱くありません。
クロテアも素の状態ではニージェルクロームと同じく、普通の人と余り変わりません。
しかし、聖君の性質で「神」の力を借りられる上に、人の祈りを集めて強くなれます。
それと協力者の中にニャンダコーレを加えるのを忘れていました。
彼の魔法資質は団栗の背比べの中です。
魔性を得た物には及びませんが、妖獣を含めた動物の中では高い方になります。

475 :創る名無しに見る名無し:2018/11/18(日) 19:08:06.12 ID:ygEWt5QE.net
ルヴィエラの来歴


悪魔伯爵嬢ルヴィエラは異空デーモテールと地上世界の狭間にある夢幻の世界で誕生した。
夢幻の世界はエトヤヒヤと同じ様な物だが、より地上に近い。
その影響で夢幻の悪魔は、悪魔ながら男女が交わって生まれる。
しかし、ルヴィエラの属する種族は、網を張る蜘蛛の様に、女が圧倒的な力を持って優位に立つ。
しかも古い悪魔と同様に分身を生む事も出来る為に、種としての男の存在価値は殆ど無い。
但し、分身は親と同じ性質しか持たないと言う欠点があり、全く新しい命を創造する事が困難なので、
その為に他種でも何でも良いから、自分と違う物が必要だった。
詰まりは、多様性の確保の為に、男と言う種類が必要だったのだ。
例えば、女と女で子が欲しければ、片方の女が分身として男を生み、それを元に新しい子が造られる。
夢幻の世界には他種の悪魔も存在しており、何体もの悪魔貴族が領地を支配していた。
悪魔侯爵だったルヴィエラの母は、狭い領地での争いを嫌って、自らの力を削り地上に近い辺境に、
新しい領地と夢幻城(アールチ・ヴェール)を築いた。
その為にルヴィエラの母は力を失い、伯爵級にまで衰えた。
後にルヴィエラの母は、愛子であるルヴィエラの為、自らの命と引き換えに、領地を確たる物とした。

476 :創る名無しに見る名無し:2018/11/18(日) 19:15:31.49 ID:ygEWt5QE.net
ルヴィエラは旧暦の生まれではあるが、それが何時と言う事は明確には言えない。
夢幻の世界と地上世界では時の流れが違うのだ。
だが、旧暦の古い時代と言う事だけは確かである。
生まれた時から悪魔伯爵に相応しい実力を持っていた彼女は、暫くは夢幻城で平和に暮らしていた。
時折、地上に現れる事もあったが、飽くまで伯爵級の力しか無く、大きな混乱を引き起こす事も無く、
悪事と言えば、気紛れに気に入った物を勝手に奪ったり、人間を夢幻城に誘って翻弄する程度だった。
この頃から罪悪感と言う物は皆無で、夢幻城で死人が出ても、全く気にしていないが……。
ルヴィエラが頻繁に地上に姿を現す様になったのは、8代聖君以後の比較的平和な時代である。
彼女は悪魔らしくも慎ましく暮らしていたのだが、それを一変させたのが伯叔母の襲撃だった。
ルヴィエラが悪魔として成人すると、母の加護は領地を世界に維持するだけの物になり、
彼女は自分で母が生み出した土地を、守らなければならなくなった。
悪魔の成人は自らの分身を生み出す事によって確認される。
悪魔貴族は溢れる魔力、即ち混沌の力を用い、領地を配下で埋め尽くして、自らの領地を守る。
その為に、分身を生み出す事が成人の証となるのだ。
悪魔公爵と悪魔侯爵の二人の伯叔母は、ルヴィエラの母の加護が弱まる隙を突いて来た。
成人したばかりのルヴィエラは抵抗も出来ず、城の外に追い出されてしまった。

477 :創る名無しに見る名無し:2018/11/19(月) 19:25:41.64 ID:AxKLhDyS.net
伯叔母は名をエニルヴァネットとドゥールビィと言う。
ルヴィエラの母オブラットは大悪魔プレーチェ三姉妹の次女であった。
城を追放されたルヴィエラは、更に逆襲が出来ない様に城に入れない呪いを掛けられる。
そこで彼女は幾つもの国を放浪して、城を取り戻すのに協力してくれそうな勇者を探した。
伯叔母は地上進攻の拠点として夢幻城を砦にする積もりだった。
これを知っていたルヴィエラは、人間に化けて予言者に扮し、地上世界の危機を訴えたが、
全く相手にされなかった。
失意の彼女は夢幻城へと続く森の近くにある街に戻り、その美貌で通行人を誘惑しながら、
その日暮らしをしていたが、ある日ボースティン・バドマフと言う勇者に出会う。
誠実で人が好く、少々思慮の足りない彼はルヴィエラの話を信じて、城を取り戻すのに協力した。
ルヴィエラは城に入れない自分の代わりに、母の遺した犬型の使い魔キング・アンゴルゴンを、
ボースティンに託して伯叔母の討伐を依頼した。
ルヴィエラは直接は戦えない物の、キング・アンゴルゴンを通じてボースティンを助け、
見事に伯叔母を打倒し、その力を吸収して悪魔公爵となった。
夢幻城を取り戻したルヴィエラは、夢幻の世界でも敵う物が無い程の領主となり、
以後彼女を脅かす物は現れなかった。

478 :創る名無しに見る名無し:2018/11/19(月) 19:27:29.51 ID:AxKLhDyS.net
ボースティンの正体は、勇敢ではあるが、それだけの男だった。
冴えない傭兵崩れで、仕事も無く街を彷徨いていた所、ルヴィエラに声を掛けられて、
選ばれし勇者と煽てられ乗せられた。
彼はルヴィエラに一目惚れしていた。
性格は純朴な田舎者であり、頭が切れると言う事も無く、傭兵仲間には間抜けと笑われていた。
しかし、それでも生き延びているので、運は悪くなかった。
剣の腕の方は、それなりに立つのだが、然りとて無双の剣豪と言う訳でも無い。
ルヴィエラと協力しても、高位の悪魔貴族である伯叔母を倒せる実力は無かった。
これには裏があり、実は夢幻城にはルヴィエラの母であるオブラットの魂が宿っており、
ルヴィエラやボースティンを守って、伯叔母を打ち倒す為に力を添えていた。
ルヴィエラが母の加護に気付いたのは、ボースティンを夢幻城に送り込んだ後であり、
当初彼女はボースティンを使い捨ての駒としか考えていなかった。

479 :創る名無しに見る名無し:2018/11/19(月) 19:33:18.18 ID:AxKLhDyS.net
城を取り戻した後に、ルヴィエラは褒美としてボースティンを自らの永遠の下僕にして、
死ぬまで側に置いた。
絶大な力を得ながら、彼女が地上の支配に乗り出さなかった理由は、ボースティンにある。
彼は地上をくれてやろうと言うルヴィエラに対して、それよりも共に平穏な日々を送る事を願った。
ボースティンは地上が戦乱に巻き込まれる事を望まず、愛する者と幸せな家庭を築くと言う、
平凡な夢を選んだ。
これをルヴィエラは詰まらない事だと思っていたが、勇敢なボースティンに惹かれていた彼女は、
彼の望む儘にした。
以後、ボースティンとルヴィエラは、それぞれバドとレラ(レラ・ダイナモーン)と名を変えて、
勇者と魔法使いの2人組の冒険者として活躍する。
尤も、公爵級となったルヴィエラが圧倒的に強く、ボースティンは彼女に守られる事が多かった。
それでもルヴィエラはボースティンを立てる為に、裏方に徹していた。
ボースティンが年老いると、ルヴィエラは彼に永遠の命を与えると言ったが、彼は不死を望まず、
愛する者の傍で永遠の眠りに就く事を選んだ。
ルヴィエラはボースティンに免じて、再び地上世界への進攻を企てる事をせず、悲しみに暮れながら、
夢幻の世界に引き篭もっていた。
彼女がファイセアルスに現れたのは、嘗ての地上が全て海に沈んだ為でもある。
ボースティンの愛した世界が失われ、誓いを守る価値を感じなくなったのだ。

480 :創る名無しに見る名無し:2018/11/20(火) 18:34:28.95 ID:DgvjHvqa.net
地質学


地質学は歴史に関係する物でありながら、魔導師会の制限を受けない数少ない学問である。
地中から発掘された歴史的な価値のある遺物の鑑定は、考古学の扱いになるので、その調査には、
魔導師会が待ったを掛けるが、土その物を調べる事は自由である。
人類史は魔法大戦で断絶しているが、星の歴史は続いている。
過去の真実を求めて土を探る者は、それ程は多くないが、土地の状態を正確に知る事は、
天災や水害を防ぐ為にも、大規模工事を行う場合にも、大きな意味がある。
こうした者達は大半が専門学校の教授である。
「唯一大陸」が如何なる経過を辿って誕生した土地なのか、将来に如何なる変動が起こり得るか、
解明する事は、学会の主要な研究課題の一である。

481 :創る名無しに見る名無し:2018/11/20(火) 18:36:17.36 ID:DgvjHvqa.net
唯一大陸の性質


唯一大陸に関しては不明な事が多いが、その大部分が嘗ては海中にあった事は事実と認定されている。
その証拠に地中から海洋生物や植物の死骸が多数発掘される。
地殻変動によって海底にあった物が隆起して、地上に現れたと言うのが、大体の見解である。
だが、大陸の各所に残る嘗ては陸地だった部分を見ると、不自然な部分が幾つかある。
先ず、唯一大陸は北半球から赤道に掛けて存在しているが、幾つかの遺跡や植生は、
旧暦には南半球にあった物と類似している。
又、唯一大陸の南方に旧暦の北方文化圏の物と思われる遺跡がある。
この事に関しては、幾つかの仮説があった。
最も現実的と考えられていた物が、「地軸傾斜」説である。
魔法大戦の後、或いは最中か直前に、地軸が傾いたと言う説だ。
「天体の落下」、「地上での大爆発」、「超巨大地震」等、原因に関しても様々な説があるが、
多少の違いこそあれ、とにかく地軸が傾斜した事に間違いは無いとされて「いた」。

482 :創る名無しに見る名無し:2018/11/20(火) 18:40:40.47 ID:DgvjHvqa.net
しかし、ガンガー北極原に遺跡が発見され、その解明が進んだ魔法歴400年以降になると、
この不自然な部分は、少なくとも地軸の傾きが一因ではある物の、それだけが理由だとは、
言えなくなって来た。
北極圏に旧暦の遺跡があると言う事は、そこに幾許かの住民が居て、何等かの文化的活動を、
行っていた事を意味している。
地軸の傾きに就いて、これまでの説では、赤道付近に南半球の「引き裂かれた王都」が、
キーン半島に北方の文化と思しき「神殿跡」が、殆ど同緯度にあった事から、その方向は、
唯一大陸を正面に見て、反時計回りに数十度歪んだと考えられていた。
所が、北方の遺跡の構造が旧暦の赤道付近の文化に類似している事が判明して、学会は衝撃を受けた。
これ以前にも、幾つかの遺跡が旧暦の文化分布と一致しないと言う指摘はあったが、何分、
旧暦の事で余り資料も残っていない事から、未発見の文化か、或いは地理的誤差の範囲とされた。
「地軸傾斜」では説明し切れない事実に、これまで単純な誤りや誤差とされていた物も見直され、
その結果、誕生した新説が「大陸撹拌説」である。
旧暦の地上は魔法大戦によって分裂し、撹拌されて、出たら目な配置になってしまったとする説だ。
この説は唯一大陸に、旧暦の多くの文化や人種が集まっている理由とも合致する。

483 :創る名無しに見る名無し:2018/11/21(水) 18:39:02.86 ID:3CwLoLXf.net
だが、この説も確定と言う訳では無い。
魔法大戦で地上が荒廃する事が有り得ても、大規模な地殻変動が起こったとしても、
「大陸撹拌」が現実的に有り得るかは別問題だ。
伝承にある魔法大戦の内容にしても、どれ程のエネルギーがあれば、それが可能かと言う問題は、
常に付き纏う。
地殻変動に関して、唯一大陸は3つの大きなプレートに乗っている事が知られており、
それぞれボルガ・プレート、ガンガー北プレート、大大陸プレートと呼ばれている。
大陸撹拌説が事実であれば、何時プレートが再構築されたのかと言う問題がある。
この事から大陸撹拌を否定して、飽くまで自然現象の延長であるとする「大陸大移動」説や、
それも非現実的と見做した「新地軸傾斜」説がある。
前者は何等かの働きで、地中の活動が活発化し、一時的にプレートの動きが加速したとする説。
後者は地軸傾斜が主要因で、その他の小さな要因が積み重なり、現在の地形になったとする説。
他にも表層移動説や大破壊説がある。

484 :創る名無しに見る名無し:2018/11/21(水) 18:44:41.53 ID:3CwLoLXf.net
では、地質調査では何が判ったのかと言うと、唯一大陸の地下の大部分は、やはり海底であった事と、
遺跡の周辺の地質が他とは明らかに異なっていた事、更に同じく海底にあったと見られる地形でも、
地層が連続していない「断裂した」と見られる不整合があった事の3点である。
以上から、嘗ての大地は破壊されて、遺跡が唯一大陸の近辺に再配置されたと見るべきではあるが、
先述した様に唯一大陸上のプレートは3つしか無い。
よって地上の表層的な部分だけが移動した可能性が高く、表層移動説や大破壊説が有力になるかと、
思われたのだが、地層の不連続(不整合)は一部マントルにまで及んでいた。
これにより大破壊説を上回る「終局的大崩壊」説が誕生した。
大破壊説は地上の破壊によって、地表にあった建造物が遠くに飛ばされたと言う物だが、
終局的大崩壊説では建造物のみならず、大地その物が寸々(ずたずた)に引き裂かれたとする。
何れにしても、全ての説で何かしら整合の取れない問題があるので、言ってしまえば、
どの説も確定はしていないし、今後より説得力のある新説が発表されるかも知れない。
旧暦の地形を忠実に再現して、現在との変化を比較しようと言う試みもあるが……。
そもそも旧暦と魔法暦でプレートの構造が変わっている可能性もある上に、魔導師会が一部史料に、
閲覧制限を掛けている事から、その解明は困難と見られている。

485 :創る名無しに見る名無し:2018/11/22(木) 18:45:09.42 ID:AGxNSnRe.net
詐欺


唯一大陸に於ける詐欺の形式には様々な物がある。
投資詐欺、魔法詐欺、商品詐欺、募金詐欺等々、年々新しい物が生まれ、数え切れない。
その主な『標的<ターゲット>』は老人、若者、そして魔法資質の低い者である。
主として、判断力の弱い人間が狙われる。
これに対抗する為に愚者の魔法を利用出来るのだが、事は簡単では無い。
先ず、愚者の魔法を相手に掛けると言う事が難しい。
見知らぬ相手に行き成り魔法を掛けるのは、失礼な事とされている。
だからと言って、当たり前の事だが、「掛けて良いですか?」「はい、どうぞ」とはならない。
縦しんば、相手の了解を得たとしても、素直に掛かってくれると思うのは早計だ。
相手に知られたくない事があれば抵抗するし、それは当然の権利で違法な事でも何でも無い。
寧ろ、相手の了解も得ずに愚者の魔法を掛ける方が、法的には危うい。
然りとて、相手に信用して貰わなければ、詐欺は成立しないので、詐欺師も手を考える。

486 :創る名無しに見る名無し:2018/11/22(木) 18:45:43.84 ID:AGxNSnRe.net
その一つが嘘を吐かない事である。
詭弁だろうが何だろうが、嘘さえ吐かなければ、愚者の魔法も効果は無い。
詐欺師、又は詐欺を働こうとする者は、これを十分に承知している。
詐欺の実態を知らない第三者を介する事もある。
単純に使い走りを用意する場合もあるが、無限連鎖講――所謂「鼠講」も、これに該当する。
愚者の魔法に掛かったと見せ掛ける事もある。
魔法資質が十分に高く、魔法知識に優れた詐欺師は、これを得意とする。
最も厄介であり、魔導師崩れや元魔導師だけでなく、現役の魔導師が詐欺を働く事もあった。
理由は大抵、金に困っていたとか、仕事が無かったと言う物である。
結局の所、愚者の魔法も詐欺を完全に見抜ける物では無い為に、十分注意しなければならない。
究極的には、詐欺から自分の身を守るのは、自分自身の知恵と勇気なのだ。

487 :創る名無しに見る名無し:2018/11/22(木) 18:46:47.10 ID:AGxNSnRe.net
詐欺師が魔導師会の関連人物や企業、研究を語る事は少ない。
これは魔導師会が絡むと、敵対行為と見做されて、徹底的に追及される為である。
では、魔導師会の関連する事柄ならば、絶対安心なのかと言うと、そうでも無い。
この類は発覚しなければ問題無いと言う考えから、徹底的に悪辣になるので、一般の詐欺より怖い。
酷い場合には、精神支配の魔法を掛けて、逆らえない様にする事もある。
他、記憶を奪ったり、暗示を掛けたりと、容赦が無く、非人道的な行いをする。
どんなに用心深い人物でも、魔法によって信用を刷り込まれると、大事な鍵や財布を渡してしまう。
金を奪われても、金があったと言う記憶が無ければ、奪われたと気付かない。
そもそも都市警察や魔導師会を頼ると言う選択肢を消されてしまう。
それが最も恐ろしい事なのだ。
こうした犯罪は大抵は家族や友人の指摘によって発覚するのだが、一人暮らしをしている人間は、
十分に気を付けなければならない。
行き成り見知らぬ友人や恋人、家族が現れて、貴方の財産を奪って行くかも知れない。
そして、貴方は見知らぬ存在を受け容れて、警戒する事も出来ないのだ。

488 :創る名無しに見る名無し:2018/11/23(金) 18:32:04.23 ID:Ktett4Oe.net
これの対策の為に市民のコミュニティの結束は強い。
新しい土地では必ずと言って良い程、所謂「近所付き合い」を強制される。
それは互いの為なのだ。
コミュニティの規模は団地毎だったりアパート毎だったりと様々である。
独り暮らしは特に危険なので、最低でも両隣の住民とは付き合わなければならない。
田舎だろうが都会だろうが同じである。
そうした背景からコミュミティは「自警団」を結成する事もあるし、緊急手段として、
地下組織の手を借りる事も厭わない。
都市警察も巡回や戸別訪問を行っているが、戸別訪問では無理遣り踏み込む事も出来ないので、、
都市警察を信用しない様に洗脳されている場合や、元から都市警察を信用していない人、
対人恐怖症の人には余り効果が無い。
それに都市警察も人間なので、巡回も戸別訪問も形式だけの物になり易く、謂わば、
「仕事をした」と言う証拠作りの為に、重大事件を見過ごす事がある。
どうしても人付き合いは嫌だ、面倒臭いと言う人は、少なからず居る。
こうした者達は治安の維持に非協力的な「困った人」扱いされ、人付き合いが悪いだの、
根が暗いだのと言われる程度なら未だしも、最悪の場合、住民をより「良い人間」に入れ替える為、
追い出される事もある。
コミュニティを伝って、こうした「困った人」の噂は広がり易く、詐欺師は人の噂から、
孤立した者を狙って来る。

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