2ちゃんねる スマホ用 ■掲示板に戻る■ 全部 1- 最新50    

■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

TRPG系実験室 2

1 :創る名無しに見る名無し:2018/09/07(金) 22:56:07.99 ID:c8v0uQxh.net
TRPG関係であれば自由に使えるスレです
他の話で使用中であっても使えます。何企画同時進行になっても構いません
ここの企画から新スレとして独立するのも自由です
複数企画に参加する場合は企画ごとに別のトリップを使うことをお勧めします。
使用にあたっては混乱を避けるために名前欄の最初に【】でタイトルを付けてください

使用方法(例)
・超短編になりそうなTRPG
・始まるかも分からない実験的TRPG
・新スレを始めたいけどいきなり新スレ建てるのは敷居が高い場合
・SS投下(万が一誰かが乗ってきたらTRPG化するかも?)
・スレ原案だけ放置(誰かがその設定を使ってはじめるかも)
・キャラテンプレだけ放置(誰かに拾われるかも)

194 :K-doll No14 :2019/01/09(水) 14:17:19.96 ID:k5lnXp7n.net
次に気づいた時は椅子に拘束されてヒーロー協会のお偉いさんと思われる男の目の前でした。
黙って解体すればいいのにわざわざ拘束させてまで面会する意味はあるのでしょうか。
でも当時の私はそんなことよりも子供達が心配でした。

「解体サレル前ニ聞キタイノデスガ子供達ハ無事デショウカ?」

「こいつは驚いた!自分の心配よりまず子供の心配かい?」

「先ニシツモンニ答エテクダサイ・・・」

「おっとヘソ曲げないでくれよ・・・子供達は無事さ、あんたのおかげでな」

ヒーロー協会の人間がそういうならもう何も思い残す事はなかった。

「ヨカッタ・・・コレデ安心シテ解体サレル事ガデキマス」

「あーその事なんだがな・・・とりあえずコレをみてくれ」

男がモニターの電源をオンにすると施設にいた子供達が写った映像が流れ始める

【「お願いしますフォーティーンを殺さないでください!」】

子供達が私に助けられた事、一ヶ月友達としていっしょに暮らしていた事。
友達を殺さないでほしいという事を彼女達なりに訴える内容だった。

「理解デキマセン・・・ナンデ・・・ナンデコンナ・・・」

男が画面を切り替えると今度はニュースが流れ始める。
【大手柄!子供達を命がけで守った心優しき殺戮ロボット!敵か味方かヒーロー協会は沈黙】
理解が追いつかない!頭が混乱している中、男が言葉を続ける。

「悪いがここに連れてくる前にあんたの頭の記憶データを全て見さしてもらった」

男はさらに言葉を続ける。

「あんたの無実は証明された、あんたはだれも殺してないって事がな」

「ソレデモ・・・私ハ・・・貴方達ヲダマシテ」

「だがそれはアンタの意思でそうしたわけじゃねえ」

でもと続けそうになった私の言葉を男が遮る。

「たしかに今のあんたの信用は0に近い、いつ裏切るかわからねえからな・・・だがこの街は実力主義だ、だからもしアンタがこの街からヴィランを排除し続けて実績を上げれば・・・あんたを悪く言う奴はいなくなる」

男は不敵の笑みを浮かべる

「そこで、だ・・・あんたヒーローになってみないか?」

答えは考えるまでもなかった。
目からなにかが溢れてくる。

「おいおい最近のロボットは泣く機能もついてんのか!?これじゃおじさんが苛めたみたいじゃないか!やめてくれよ本当に!」

一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一

195 :K-doll No14 :2019/01/09(水) 14:17:53.54 ID:k5lnXp7n.net
規制回避

196 :K-doll No14 :2019/01/09(水) 14:18:48.44 ID:k5lnXp7n.net
そして3年後の現在。
No14は毎日のように現れるヴィランを捕まえて回っていた。
この日も警察にヴィラン達の身柄を渡し、一仕事終え喫茶店に入りNo14は牛乳を飲み座りながらパラパラと本をめくっていた。

「〔だれでも強くなれる一流プロヒーローが教える格闘術〕・・・ナカナカ悪クナイデスネ!コレカラモ、格闘術ハツカッテイキマショウ」

No14はあらゆる人間の事を学習し実践するのが好きだった。
この喫茶店で飲むことも〔一流ヒーローは仕事終わりに余裕を持って酒を飲む〕
という偏っている上に間違えていそうな人間知識からの行動であったが本人は割りと気に入っていた。
ちなみに牛乳なのは酒が入ると人間で言う所の(酔い)に似たエラーを起こしてしまうからである。

「ヒーローハ余裕ヲ持ッテ行動スル!基本デスネ!ソノ点私ハ完璧トイエルデショウ!」

周りの一般人に見られていると知らずに高い椅子のせいで地面に届かない足をぶらつかせ渾身のドヤ顔を披露していた。

「かわいい・・・」「頭なでても怒られないかな・・・?」「なんか椅子ミシミシ音してね?」

特にヒーロー人気をだそうと思っていないNo14の自然な言動が人気の理由だった。
ヒーロー人気とヴィラン退治の功績のおかげで3年経って彼女の悪口を言うものは殆どいなくなっていた。
そんな至福の時間を遮る様にヒーロー協会からの無線が入った。

>「メトロポリスのメインストリートに改造人間タイプのヴィランが出現した。
ヴィランはアウターストリート目掛けて時速300キロで走行しているが可動橋を封鎖して進路を塞ぐ。
ヒーロー各員は直ちに現場に急行してヴィランの制圧にあたってほしい。以上。」

時速300キロ?何かの聞き間違いかと思える無線の内容に少し戸惑う。
救援要請が入るという事は大物もしくは面倒な能力なのは間違いない、という事は時速300キロは本当の事なのだろう。
これはデカイ案件になると確信したNo14は本をしまい、牛乳を飲み干し店員にお礼をしてお金を置いて店を出た。
その時丁度空からヒーロー協会に帰還するために使う予定だった飛行型移動用ドローンがきたので、掴んで移動先をメトロポリスのメインストリートに設定する。

「大物ヴィランノツラヲ、見ニイクトシマショウ!」

手柄を立ててまた子供達に武勇伝を聞かせてあげよう。
そう思いながら自分の首の後ろ側にドローンに掴まれる為の専用パーツを装着し、ドローン掴まれクレーンゲームでアームに掴まれた景品のように空に消えていった。

197 :K-doll No14 :2019/01/09(水) 14:20:45.89 ID:k5lnXp7n.net
「アレデスネ」

No14は橋の上でヒーロー達とヴィラン達を発見する。
どうやらもう交戦しているようだった。
ヒーロー協会との無線回線を開き味方と敵の情報連絡をする。

「ピピピ・・・データ確認・・・リジェネレーター・ザ・フューズ・テスカトリポカを確認シマシタ、スデニ交戦シテル模様デス・・・報告ニナイヴィラント思ワシキ人影が確認デキマス」

確認するとヴィランと思われる人影は2名。
無線では一人しかいないような口ぶりだったのに二人いるではないか。
もう少し情報連絡をどうにかならないものか、と無線を切った後に少し心の中でぐちる。
まだまだ相当な高さがあったがこれ以上ドローンの速度で降下すれば気づかれて攻撃される恐れがある。
のでNo14は飛び降りることにした。

「デハヴィラン退治トイキマショウ!」

首のドローンの連結用パーツを外し降下を開始する。
敵の強さが未知数の為落下途中で武装することにした。

「アタックプログラム起動:ラピッドファイア」

右手を銃に変形させ左手を下にして地面衝突に備えた。
大きな音と共に着地しそして銃を前に着きだしポーズを決めその場にいる全員に聞こえるようにできる限りな大きな声で。

「ワタシハヒーローNo14!私ガキタカラニハモウ問題アリマセン!ヴィランドモ!ソロソロオネンネノ時間ダゼベイビー!」

周りが静まり返った気がする。
自分で考えた最高にかっこいい登場だったのに。
もしかしたらかっこよすぎて言葉がでないのかも!完璧っていうのは辛いですね。

「いい加減にして!今私は機嫌が悪いの!」

ヒーローが設置したと思われるエクトプラズムの刃の中心にいる、自分よりロボットな見た目をした真っ赤なボディの改造人間が叫ぶ。
立ち位置的にトラップの刃を設置したのはのはザ・フューズだろうか。

「オヤ?同ジロボット仲間トシテ先ニ挨拶スルベキデシタネ!コンニチワ!イエ、コンバンワデショウカ?」

「私はロボットじゃないわ!」

「私ガ人間ダト言ッタホウガマダ信用サレマスヨ」

ヴィランのイラつきが見て取れる。
逆上してなにかされる前にこちらから攻撃する事にした。

198 :K-doll No14 :2019/01/09(水) 14:22:04.77 ID:k5lnXp7n.net
「ムム・・・流石ヴィランダケアッテ逃ゲルノガウマイデスネ!」

トラップの刃に当たらないように銃を連射する。
元々室内戦用の精度の悪い銃であったがヒーロー協会の技術サポートと本人の訓練のおかげで中距離をこなせるまでの精度になっていた。
高速で動くファイアスターターに当てるのは中々難しい、がトラップの影響で本気を出せていないのか動きがぎこちない。
このまま続けていればいつか命中するのは確実であった。

「弾切レヲ期待シテイルナラ無駄デスヨ!コノ銃ニリロードハ必要アリマセン!」

本当の事を言えばあまり長時間の射撃は電力も熱も半端ないのでしたくはないが。
心の中で若干焦りつつも確実に追い詰めていく。
素早い動きで翻弄していたファイアスターターだったが脚部装甲に一発命中する。
ヒビのような亀裂がさらに大きくなる。

「素直ニ投降ヲ推奨シマス!アナタデハ私達ニハカテマセン!」

「だれがアンタみたいなガキに・・・!」

ファイアスターターはNo14から距離を取りつつ加速する。
恐らく強引にトラップ外にでてもう一人のヴィランと合流するつもりだろう。
しかしその行動は想定内であった。

「アタックプログラム解除」

ファイアスターターの動きから推測するに、トラップの威力が未知数の為か最大限の警戒をしてると思われる。
ならトラップを破壊しながらの強行突破は考えにくい。
やるとすればトラップの層が比較的薄い部分からの脱出しかない。
No14は武装を解除し人間ではありえないような速度で走り出す。
通常時ならスピードでは絶対勝てないだろう、だが行き先が限定されていて尚且つトラップを避ける為最大スピードは出さずさらに無理な体勢で突っ込んでくるはず。
そして予想通りトラップの隙間を突破し予想通りの勢いで予想通り無理な体勢で飛び出してきたファイアスターターを脚を掴む。

「驚キマシタ?」

脚を捕まれたファイアスターターは少し怯んだが勢いそのままに振りほどこうと反撃を試みる。
しかしNo14は隙を見逃さず両手で脚を掴んだままその場で高速回転する。

「発射!」

小柄な見た目からは想像できないほどの力でファイアスターターを振り回しながら狙いを定めエクトプラズムの刃のトラップ目掛けて投げる。
ファイアスターターは空中で刃に当たらないように体を捻りながら吹き飛んでいく。
しかしNo14の攻撃はこれだけでは終わらない。

「アタックプログラム:ラピットファイア」

投げた後即座に右手を変形させ銃で追撃する。
刃を避けるのが精一杯のファイアスターターに銃弾が連続命中する。
弾丸は装甲を確実に削っていく、が決定打にはならなかった。
エクトプラズムの刃の中心に着地し立ち上がったファイアスターターはこちらを睨み付ける。
装甲の所々が剥げ綺麗な真っ赤なボディは見る影もなかった。

「殺してやるわ・・・絶対に」

No14とザ・フューズに対する殺意をむき出しにする。

「ヤット人間ラシクナリマシタネ?」

【ファイアスターターと戦闘 銃弾が複数命中、その後一度トラップから脱出されるもトラップ内に投げ返す】

199 :神籬明治 :2019/01/11(金) 22:37:30.33 ID:d01qxtaz.net
二人のヴィランに睨まれながら、ヒーローは膠着状態の維持に努めた。
如何に装甲服を着込んでいると言えど二人のヴィランから同時攻撃を浴びれば無傷では済まない。
道路で高速移動するファイアスターターを見かけて慌てて追跡した結果、まさかこんな事になろうとは。
不意に腕時計型端末が明滅する。オービットが機械音声を発し、リジェネレイターに忠告した。

「気をつけろ。特にファイアスターターって奴のスピードは一筋縄じゃ行かないぞ。
 それにしても……奴は一体全体何をそんなに急いでるんだ?」

「まずはこの状況を切り抜けるのが先だ……!」

「オーケーオーケー。やるぞ、リジェネレイター!」

オービットの機械音声に合わせて一気に岩肌の男ロックバインとの距離を詰める。
リジェネレイターのスーツには各種機能が搭載されており、パワーアシスト機能も例外ではない。
身体能力補正を効かせつつ、半身を捻らせて右腕を振りかぶり、腹部目掛けて掌底を放つが――。
突如地面が隆起して円錐状の針となり、リジェネレイターに襲い掛かる。

「うおぉっと!!?躱せリジェネレイター!」

「もう躱した……!」

寸での所で背後に跳躍し、隆起した円錐を回避。
そのままバックステップで距離を開けると、開いた空間を炎が襲った。
仮に油断してその場に立ち止まっていれば火傷では済まなかっただろう。

「うひゃ〜危なかった。お前攻めあぐねてないか?
 あいつら近付かせる気ゼロだぜ」

六代目リジェネレイター、神籬明治の戦闘技術はヒーロー基準で可もなく不可もない。
彼がヒーロー協会に目をつけられたのは生まれ持って備わった共感覚能力のお陰だった。
共感覚――エンパスとも呼ばれるその能力は、他者の感情を読み取る超能力だ。

即ち喜怒哀楽、悪意といったものを敏感に察知できる事。これが神籬の生まれ持った才能である。
この能力を利用すれば遠く離れた人の悪意や恐怖をいち早く察知して迅速に犯罪に対処する事も、
敵の悪意、敵意を"読み取って"素早く攻撃を躱すことができるのだ。

「リジェネレイター、今ヒーロー協会のデータベースにアクセスした。手短に伝えるぞ。
 奴は能力者で構成された非合法組織ミームの能力者で、能力は土壌操作の『テラキネシス』だ。
 理解不能。あいつが操ってたのめっさコンクリートなんですけど!」

200 :神籬明治 :2019/01/11(金) 22:38:11.90 ID:d01qxtaz.net
仮面の奥でもそもそとリジェネレイターが呟いた。

「恐らくコンクリートに含まれている砂利を操っているんだろう。
 そうすれば奴の出現の仕方も、攻撃の仕方にも説明がつく」

「なるほどね。そうか、あの岩肌は能力で土を身に纏ってるんだな。
 天然の鎧って訳か……随分お洒落なコーディネートですね!」

冗談を飛ばしながらも、オービットの機械製の頭脳はずっと戦況を分析していた。
結果、今の神籬の実力では劣勢を覆して二人を鎮圧するのは難しいという計算を弾き出した。
だからといって彼を一概に攻められはしない。擁護すればリジェネレイタースーツにも原因がある。
なにせこのリジェネレイタースーツversion1.0.6は携行性に優れる反面、全く武器に乏しいのだ。
他のヒーローに比べて完全にステゴロ仕様だから接近戦を仕掛け続ける他手段がない。

ならばここは少しでも時間を稼いで他のヒーロー達の救援を待つのが得策だ。
そして現れたのは四肢から爆炎を放ちながらこちらへ突っ込んでくるひとつの影。
人影は炎のヴィランに蹴りを浴びせて地面に着地した。

>「……なんだ。誰かと思えば、目立ちたがりの三流ヴィランか。来て損したかもな」

リジェネレイタースーツの仮面に内蔵されているセンサーを通じて援軍の姿を捉える。
黒いキャットスーツと真っ赤なボディスーツ、炎を模したドミノマスクといった出で立ち。
仮面のヘッドアップディスプレイが弾き出した判定は――

「――げ。悪徳ヒーローのザ・フューズじゃねぇか……」

オービットは顔を顰めた様な絶妙な機械音声を発して黙ってしまった。
界隈の端で戦い続けるかのリジェネレイターもザ・フューズの悪名は聞き及んでいる。
その出自もさる事ながら、未だに悪党とつるんで詐欺を働いているとか――。
その揉み消しを自身の能力を以て公然と働いているとか――。

とにかく黒い噂が絶えない悪徳ヒーローだった。
こうなってはヒーロー協会の審査基準が疑問視されるのも無理はない。
同業者の中にはザ・フューズを信用のできないヒーローとして蔑む者までいるという。

>「怪我したくないでしょ?どいてくれないかしら。手柄ならそっちにもいるわよ、ほら」

>「……なるほど。目立ちたがりのお前が、どうしても早くここから逃げたい。
> 何かは知らんが、なかなか重大な任務に就いてるようじゃないか、え?」

「ご理解頂けたようで何よりね。どいてくれるかしら?
 尻尾を巻いて帰るなら今の愚行、寛容な態度で許してあげる」

蹴りを食らったあたりを払う仕草をとってファイアスターターは余裕の表情を見せる。
速さに絶大な自信を持つ彼女は、戦闘においても同様の自信を持っていた。
彼女は時間の無駄を嫌うので言葉に偽りはない。
ザ・フューズにその意思がないことを見越して言っただけで。

201 :神籬明治 :2019/01/11(金) 22:39:45.16 ID:d01qxtaz.net
>「目立ちたがり屋で、口が軽い。とことん三流だな、お前は」

>「……あなた、生意気ね。たかが生身の人間のくせに」

瞬間、蹴撃とエクトプラズム・プレートが激突した。
プレートは硝子細工のように脆く砕け散り、追加で張った防壁も同様に車輪つきのハイキックが蹴り抜く。
ザ・フューズは衝撃で後方へ吹き飛ぶも、ファイアスターターの脚部装甲には浅い亀裂が走っていた。

>「……私のボディに傷を付けるなんて、許せないわ」

ザ・フューズとファイアスターターが睨み合う。
態勢を崩したまま苛立ちを隠さずに言葉を返した。

>「ほざけ。奪い、傷つけるのはお前達だけの特権だとでも?」

ザ・フューズが空間を撫でると空中に次々とエクトプラズムの刃が出現した。
蚊帳の外のリジェネレイターとオービットもすぐさまその意図を察した。
ファイアスターターの逃走経路を封じ、彼女自慢の速さを殺す気なのだろう。

>「お前達は所詮、社会の寄生虫だ。まともに機能している社会があって初めて存在出来る。
> そんな連中が、許さないだと?思い上がるなよ」

なるほど、高速で鋼鉄の如き刃に突っ込めば無事では済まない。
ファイアスターターはザ・フューズの言葉を聞きながら考えに耽った。
すなわち眼前のヒーローを如何にしてぶち殺すかの思案だ。

>「思い知らせてやるぞ。正義は勝つという事をな」

「貴女に抱えてる正義なんてあったのね、知らなかったわ。
 お生憎様、思い知るのは貴女の方よ詐欺師さん」

カツカツと車輪の踵で地面を叩いて頭部の毛髪上の排気孔を撫でる。
その声色からして苛立ちを隠せずにいるようだ。

202 :神籬明治 :2019/01/11(金) 22:40:37.80 ID:d01qxtaz.net
一方で、リジェネレイターはザ・フューズが言葉に宿した憎悪をその能力で感知してしまっていた。
言葉に宿した冷たい憎悪。それこそが彼女がヴィランと戦う理由なのだろうか――。
心を閉ざした彼にとって他者の気持ちを感じることなど負担でしかなかった。
だが共感覚(エンパス)という能力は感情を意図しない形で読んでしまう。

「ザ・フューズ、その……なんというか……」

「そっちは任せたぜ。こっちのロックバインってのは俺らでやる。構わないよな?」

リジェネレイターの拙い喋りを遮ってオービットが強引に話を纏める。
とにもかくにも、結果としてリジェネレイターは彼女を信用する事にした。

何故ならば――ヒーローとは所詮人々が生み出した偶像に過ぎず、その形態もまた様々であるからだ。
その行動原理がどうあれ、彼女が民衆から支持され、ヴィランと戦い続ける内はきっとヒーローなのだろう。
それが模範的なヒーローの姿なのかどうかはリジェネレイターにも判然とはしないが。

炎を操る両者より少し離れた位置で、ロックバインは持ち上げた円錐を石柱に変えて防御態勢に入った。
態度も手段もまるで守備的な彼は、能力を強化するため脳手術の影響で思考まで散漫になっている。
そんな彼に与えられた任務は、組織を更に拡充するべく女改造人間が入手したケースを奪取することだった。
ケースの中身が何かまでは教えられていない。ただ、未来の技術に関するものだと教えられていた。

「今度は守りに入るつもりか、そうはさせないぞ。
 リジェネレイター、『パワーシリンダー』を使え!!」

説明しよう。パワーシリンダーとはリジェネレイタースーツ唯一の固定武装である。
右腕に増設されている円筒型電動アクチュエーターを起動し、通常の3倍のパワーで攻撃する格闘装備だ。
リジェネレイターがシリンダーを起動すると、右腕装甲の基部が光を帯びた。

「セット完了!一気にぶち抜いちまえ!」

地を蹴って肉薄すると、石柱目掛けてアッパーカットの要領で拳を放つ!
豪快な破砕音を響かせながら粉々に飛び散る石柱が、時を巻き戻したかのように修復していく。
恐るべきはその耐久性ではなく能力による修復性能!石柱は瞬く間に元の状態に戻ってしまった。

「前言撤回。俺達の火力じゃ突破できないな……誰か応援求むー」

これではいかなる攻撃もロックバインを守る石柱を破壊し得ない。
ロックバイン自身はやはりただ口を閉じて様子を窺うだけで、反撃に転じる素振りを見せなかった。
何かを狙っているのか――あるいは待っているのか――ただ防御の姿勢を維持するのみだ。

>「そこまでだよっ☆」

203 :神籬明治 :2019/01/11(金) 22:42:11.76 ID:d01qxtaz.net
ロックバインとの攻防が膠着し始めた頃、声のする頭上を見上げればまたもや一つの影。
街灯に石仮面が照らされて、双眸に燃ゆる強い意志を眼下の二人は認めた。

>「心に悪をもたらす月は、今宵も高く空の上。お天道様の光届かぬ、夜は優しくない世界。
> 枕を濡らす星屑拭って、優しい夢を届けに参上!」

「おおっ、あの声は……!」

オービットが喜色ばんだ声をあげた。

>「魔法少女テスカ☆トリポカ、法定速度で現着完了!
> ――違法行為は許しません!」

魔法少女テスカ☆トリポカ。その名の通り魔法を扱う魔法少女だ。
リジェネレイターとも共同戦線を張った事のある仲でお互い見知ったヒーロー同士だ。
如何なる原理で変身し魔法を行使しているのか科学の塊たるオービットには判断つきかねるが、
このAIのデータ上では過激だが普通のヒーローに該当していた。

>「なんか言ってよぉ!!!」

テスカの華麗なる口上を聞いて尚、ロックバインは喋らない。
ヒーローが一人増えたことで警戒心を増し、石柱の中に閉じ籠ったままだ。
が、その防御策もテスカ☆トリポカの魔法の前には無力だった。
地面から隆起した黒曜石の棘が石柱を押し上げ、籠城を強引に剥がしたのだ。

>「ちぇすとぉーーーっ☆」

木剣を首筋に叩きつけられ、しかしロックバイン本体は無傷。
何故ならロックバインの皮膚は硬度の高い岩を散りばめた『土の鎧』で守られている。

>「テスカ子供だから難しいことはわかんないけど、これだけは知ってるよ。
> 犯罪者は頭を死ぬまで殴り続けると……死ぬ☆」

204 :神籬明治 :2019/01/11(金) 22:43:18.59 ID:d01qxtaz.net
テスカの言葉から次の瞬間、ロックバインの頭部が爆発した。

>「行くよ!リジェネレイター!!」

ロックバインが大きくよろめき、隙を突いてマクアフティルが再び叩きつけられる!
呻き声を上げながらよろよろと二歩、三歩と後退するロックバイン。
流血し、頭部の地肌を晒した彼は頭を押さえたまま膝をついた。

「よ〜し俺達も行くぞ!こっから劇的に反撃開始だ!」

「何かアイデアでもあるのか?」

「ない。後は頼んだぞ」

オービットの調子の良い返答が返ってくるや、何か大きな音が辺りに響いた。
音源の方向へ振り返るとまだ年端も行かない少女が何処で習ったのか決めポーズをして突っ立っていた。

>「ワタシハヒーローNo14!私ガキタカラニハモウ問題アリマセン!ヴィランドモ!ソロソロオネンネノ時間ダゼベイビー!」

どうすればいいのか分からずにリジェネレイターとロックバインは口を閉ざした。
少し間を置いて、オービットが腕時計型端末を明滅させる。

「……正義に目覚めた殺戮ロボット、K-doll No14だな。
 あどけない容姿と天然ぶりで人気を集めるロボットヒーローだ」

>「いい加減にして!今私は機嫌が悪いの!」

苛立っていたところに更に乱入者が現れ、ファイアスターターは怒りを爆発させた。
こんなところで立ち止まっている場合ではないのに、状況がそうさせてくれない。
彼女は遅いことが大嫌いなのだ。こんな任務早く終わらせて然るべきなのに。

205 :神籬明治 :2019/01/11(金) 22:45:22.08 ID:d01qxtaz.net
掛け合いもそこそこにロボットヒーロー、No14が女改造人間目掛けて銃口を向ける。
エクトプラズムの刃に当てないよう銃弾を連射し、ファイアスターターは刃を縫って弾丸を躱す。

>「素直ニ投降ヲ推奨シマス!アナタデハ私達ニハカテマセン!」

>「だれがアンタみたいなガキに・・・!」

吐き捨てながらロックバインと合流すべく強引に刃の圏内から脱出を試みる。
が、脱出しようとした瞬間No14に脚を掴まれ投げ飛ばされた。
更に放たれた銃弾の雨を浴び、ファイアスターターの装甲がガシガシと削られていく。
新品の車のようにメッキで輝いていた赤い装甲は見る影もなく、塗装が剥げ落ち醜い姿となっていた。

>「殺してやるわ・・・絶対に」

>「ヤット人間ラシクナリマシタネ?」

No14の煽りにいい加減冷静さを取り戻したのか、
溜息を吐いてエクトプラズムの刃の上でひとつのびをした。
戦況は彼女に大きく不利だ。数的不利な上に速度も殺された。
勝つための道筋は少ない。相手はどちらも容赦を知らないヒーローだ。

「ねぇ、話を変えるけれど。メトロポリスの能力格差って酷いわよね。
 特別な才能を持たない者が良い学校へ入れて、特別な才能を持つ子が良い学校に入れないの。
 嘆きの極みよね……歪んだ社会構造だわ。メトロポリスには、持たざるが故の特権階級があるのよ」

ファイアスターターはエクトプラズムの刃の上で滔々と語りはじめた。

「けど、私の組織の言うところでは特権階級は進化した人類な訳。
 つまるところ、私達のような人間が――社会の頂点に君臨すべきだと思わない?」

だから既存の社会を破壊し、自分たちに都合の良い社会を再構築する。
それが新興組織レオニダスの目的であり、必要とあらば大量殺戮やテロも厭わない。
人類を進化させ、進化した人類のためなら手段を選ばない。

「そのためには力が要る。金も、権力も、技術もね。
 ボスの為にも、こんなところで立ち止まってる訳にはいかないの」

抱えていたケースを天高く放り上げると、ファイアスターターが跳躍した。
次いで踵の車輪が高速回転し、エクトプラズムの刃の上を器用に滑る。
再び跳躍。別のエクトプラズムの刃に飛び移り――車輪で着地しながらまた飛び移る。
サーカスさながらの、空間に配されたエクトプラズムを逆利用した三次元機動だ。

「ケースが地面に落ちる瞬きの間に、貴女達を殺してあげる!」

立体的な動きはヒーロー達を撹乱し、容易に姿を捕捉させない。
最高速度こそ劣るが、現状選択し得る最も最適な移動方法だ。

「――燃え尽きなさい!私の自慢の炎でね!」

一瞬の隙を突いて、頭部に生える毛髪上の排気管から火炎放射を吐き出した。
炎はエクトプラズムごとザ・フューズとNo14を飲み込もうと襲い掛かる。
鉄をも溶かす紅蓮の炎は、生身の人間は勿論ロボットが食らっても無事では済まない威力だろう。

206 :神籬明治 :2019/01/11(金) 22:47:58.90 ID:d01qxtaz.net
時を同じくして、もう一人のヴィランとの戦いも進展を見せていた。
リジェネレイターはロックバインの背後に素早く回り込むと、力技で組みつく。
いわゆるチョークスリーパーだ。このまま首を絞めあげ失神に追い込む算段である。

「もう戦うのは止せ。君の目的は分からないが、これ以上の戦闘で命の保証はしかねる」

「テスカ☆トリポカはあれで過激派だ。大人しく降参した方が身のためだぞ。
 警察のとっつぁんの代わりにかつ丼差し入れてやるからよ。取り調べではちゃんと喋るんだぞ……!」

「…………!」

敵意の増大を感じてリジェネレイターは素早く飛び退いた。
ロックバインから増大する敵意を危険だと判断して咄嗟にチョークスリーパーを解除したのだ。
見れば『土の鎧』から岩の針のようなものが飛び出していた。
あのまま仕掛け続けていれば串刺しになっていただろう。

ロックバインが土壌操作を再び行使する。
すると、途端に地面が砕け地盤が大きく沈下した。
足場を失いリジェネレイターの態勢が崩れる。
敵意は感知できても、どんな攻撃が来るかまでは予想できない。

「しまった!」

足下が崩壊し地中へ自由落下するリジェネレイター。
その最中で彼は見た。海側の道路から立ち昇る泥の雪崩を!

(……そうか!積極的に攻めてこなかったのはこれが理由……!)

そう、彼はずっと土壌操作で海底の土や泥を集めていた。
そして一気に解き放ち――ヒーロー達を生き埋めにする作戦だったのだ!


【ファイアスターター:エクトプラズムの刃を逆利用して三次元機動からの二人に火炎放射。
 ロックバイン:地盤を沈下させて態勢を崩す。海底の土や泥を集めて雪崩を作り生き埋めにする作戦】

207 :ザ・フューズ :2019/01/13(日) 23:21:15.27 ID:tLRulIu9.net
>「貴女に抱えてる正義なんてあったのね、知らなかったわ。
  お生憎様、思い知るのは貴女の方よ詐欺師さん」

「……そうやって、野良犬のように吠えていろ。お前はもう檻の中だ」

ヴィランと向き合い、啖呵を切り、しかしザ・フューズは動かない。
ただファイアスターターから目線を逸らさず――形成され続ける超能力の刃。

>「そっちは任せたぜ。こっちのロックバインってのは俺らでやる。構わないよな?」

「構わん。こちらはじきに終わるだろうがな」

ファイアスターターの蹴りは二、三枚程度の刃であれば粉砕可能。
だがそれは十分な加速を得た後での話。
ザ・フューズの刃が配置されているのは全て、頭部や腕、胴体や膝の動きを妨げる高さ。
徹底して、ファイアスターターにトップスピードを発揮させない算段。
ファイアスターターも蹴りや裏拳によって刃を破壊してはいる。
とは言え、刃の檻の中で打撃を繰り出す必要があるファイアスターターと、超能力を行使するだけのザ・フューズ。

手数の違いは明白。
ファイアスターターが自由に振る舞える空間は加速度的に削り取られていく。
このまま完全に身動きを封じ、然る後に加熱、加熱、加熱、焼殺。
それがザ・フューズのプラン――だった。

不意に、上空から飛来する小さな影。
そして響く、コンクリートの破砕音。
飛び散る破片に目を細めたザ・フューズの目に映ったのは――白いワンピースの少女。

>「ワタシハヒーローNo14!私ガキタカラニハモウ問題アリマセン!ヴィランドモ!ソロソロオネンネノ時間ダゼベイビー!」

ヒーロー・ナンバーフォーティーン。
一時期話題になった、『自我の目覚めた元、殺人ロボット』。

>「いい加減にして!今私は機嫌が悪いの!」
 「オヤ?同ジロボット仲間トシテ先ニ挨拶スルベキデシタネ!コンニチワ!イエ、コンバンワデショウカ?」
 「私はロボットじゃないわ!」
 「私ガ人間ダト言ッタホウガマダ信用サレマスヨ」

No14が先手を取って銃撃を開始。
元殺人ロボットだけあって、その弾幕は苛烈。
ファイアスターターを翻弄し、痛打する。獣が獲物を狩るがごとく。

>「殺してやるわ・・・絶対に」
>「ヤット人間ラシクナリマシタネ?」

刃の檻に強引に放り込まれ、全身に銃弾を叩き込まれ。
傷だらけのファイアスターターが静かに呟く。
No14は多大な損傷を彼女に負わせた。

しかし――それによってファイアスターターはかえって冷静さを取り戻していた。
エクトプラズムの刃の上に飛び乗り、体勢を立て直し――溜息を一つ。
気づかれている。張り巡らせた罠は、既に浮遊する鉄板以上の脅威ではないと。
ザ・フューズの右瞼に生じる、小さく、一度きりの、神経質的な痙攣。

208 :ザ・フューズ :2019/01/13(日) 23:22:07.22 ID:tLRulIu9.net
>「ねぇ、話を変えるけれど。メトロポリスの能力格差って酷いわよね。
  特別な才能を持たない者が良い学校へ入れて、特別な才能を持つ子が良い学校に入れないの。
  嘆きの極みよね……歪んだ社会構造だわ。メトロポリスには、持たざるが故の特権階級があるのよ」

ファイアスターターはなおも余裕の態度で語り出した。
ザ・フューズが嘲笑の意を込めて鼻を鳴らす。

>「けど、私の組織の言うところでは特権階級は進化した人類な訳。
  つまるところ、私達のような人間が――社会の頂点に君臨すべきだと思わない?」

「いいや。まったく」

加えて返答に宿るのは露骨な不快感。
犯罪者集団が決まって謳いたがる大義名分、その悪臭に耐えかねたのだ。

209 :ザ・フューズ :2019/01/13(日) 23:28:07.61 ID:tLRulIu9.net
>「そのためには力が要る。金も、権力も、技術もね。
  ボスの為にも、こんなところで立ち止まってる訳にはいかないの」

「……それで?お前達が社会の頂点に立った後はどうする?
 強盗や脅迫じゃ経済は回せない。
 時速300kmで走れようと、社会に貢献出来なければ何の意味もない」

返答はない。
ファイアスターターが脚部ホイールから炎を噴射。
舞い踊るかのように全身を一回転――その勢いで天高く投げ放たれるアタッシュケース。

銃火の嵐に晒されても庇い続けていた、彼女の最大の足枷が放棄された。
それはつまり――彼女の全力がついに発揮されるという事。

>「ケースが地面に落ちる瞬きの間に、貴女達を殺してあげる!」

ファイアスターターが地を蹴った。
瞬間、脚部から噴射される火炎。
先ほどまでのような、ジェットエンジンめいた炎ではない。
銃弾が爆ぜるかのような、一瞬の、しかし強烈な炸裂。

それだけでは、時速300km超の最高速度は発揮し得ない。
だが代わりに発揮されるものがある。瞬発力だ。
一瞬の内に加速し、また次の一瞬で別方向へと加速。
その目まぐるしい動きは、常人の――ザ・フューズの目では追い切れない。

加えて、ザ・フューズが周囲に展開した刃の檻。
それを逆に足場として繰り出される立体機動。

ザ・フューズは完全に翻弄されていた。
堪らず、遠隔発火で動きを止めようと試みる――だが叶わない。
ファイアスターターの瞬発力ならば、導火線の火花を見てから十分に回避出来てしまう。
そして後天性超能力者であるザ・フューズには、完全な遠隔発火が出来ない。

ならば、再びエクトプラズムで檻を形成――それも叶わない。
先ほどファイアスターターを封じ込めた時とは状況が違う。
先手を取り、なおかつ用いたのは彼女にとって初見の能力。
だからこそ封じ込めは成功したのだ。

つまり――ザ・フューズの攻撃は、ファイアスターターには最早通じない。

>「――燃え尽きなさい!私の自慢の炎でね!」

そして上空から降り注ぐ、超高温の火炎。
ザ・フューズは咄嗟に右手を頭上へ――エクトプラズムのシールドを展開。
炎は遮断され――しかし直後に響く硬質な破砕音。

蹴り砕かれ飛散するエクトプラズムの破片。
ザ・フューズの目前に降り立つファイアスターター。
広範囲の攻撃により防御を強いて、そのまま炎を目眩ましに距離を詰める。
シンプルで、しかしファイアスターターの性能が十全に発揮される戦術。

ザ・フューズが咄嗟に左手を前へ――狙いは人体発火による近距離爆撃。
直後、折り紙のごとくひしゃげる、ザ・フューズの左手。

210 :ザ・フューズ :2019/01/13(日) 23:29:47.58 ID:tLRulIu9.net
「お」

耐衝撃繊維スーツを物ともせず五指を砕いたのは、ファイアスターターの爪先。
機械の爪先に配置された噴射口が火を噴く。
生じるのは爆炎による強烈な追撃と、超高速の返し刀。

「そ」

膝を支点に半円を描いた爪先がザ・フューズの胸部に突き刺さる。
ボディアーマーが容易にひび割れ、衝撃は更にその奥にまで貫通。
ザ・フューズの肋骨が砕かれ、それだけには留まらず、肺が破裂。

「い」

更に響く四度の噴射音――火花のごとく二度閃いた下段前蹴り。
ザ・フューズの膝が蹴り砕かれる。

「わ」

一際大きな噴射音――放たれる上段蹴り。
自動車を容易く蹴り上げるファイアスターターの、渾身の一撃。

211 :ザ・フューズ :2019/01/13(日) 23:32:21.06 ID:tLRulIu9.net
ザ・フューズは両腕で頭を庇った。
蹴りが見えていたのではない。
せめて致命打を受けまいという足掻きだ。

そして――その足掻きは成功した。
ファイアスターターのアダマス合金製の下腿が、ザ・フューズの両腕に直撃。
骨の砕ける音と共に、彼女は弾き飛ばされた。

「……無駄な足掻きね。即死した方がいっそ楽だったでしょうに」

これが、ファイアスターターの全力であり、全速力だった。
たった一言、「遅いわ」と呟く間に放たれた五連撃。
その一撃一撃が、自動車を蹴り飛ばし、耐衝撃スーツ越しに人間の骨を砕くほどの威力を秘めていた。

むしろ今までが上出来過ぎたのだ。
ファイアスターターは重さと、速さと、力強さ、その全てを兼ね備えた改造人間。
挑発を受けて動きが単調になっていたり、
自慢のドレス――真紅のボディを傷つけたくないという無用なこだわりがなければ、こうなるのは当然の結果だ。

「だけどあなたは、あれよりもっと長く苦しめてから殺すから」

No14に振り返り、凄むファイアスターター。
その足元にかかる巨大な影。
見上げれば、視界に映るのは空ではなく、海に面した道路の下から競り上がる泥。

ロックバインによる土壌操作。
ヒーロー全員と商売敵を一網打尽に出来る会心の一撃。
しかし蠢く大質量を目にしても、ファイアスターターの表情に驚愕の色はない。
泥の雪崩が降り注いでくるまで、短く見積もっても十秒弱。

それだけの時間があれば、ファイアスターターがNo14を仕留めるには十分すぎる。
むしろ十秒足らずしかないからこそ、彼女は勝利を確信していた。
なにせファイアスターターの速力であれば、泥が着弾するその直前まで戦闘行動が取れる。
つまりNo14が土砂から逃れ、あるいは身を護る準備が出来ないよう、ぎりぎりまで妨害が可能。

九秒あれば、ファイアスターターは数十発の蹴りを放つ事が出来るだろう。
自動車を蹴り上げ、人間の骨を跡形もなく粉砕するほどの蹴りを、数十発。

速度で翻弄し、しこたま蹴りつけ、最後に泥の底に沈むNo14を見送る。
ファイアスターターの予定は極めて単純だった。

「最後の一秒まで、じっくりと、いたぶってあげる」

そして――

「……粋がるなよ、馬鹿が。とどめを刺せなかった時点でお前の負けだ」

不意に聞こえたザ・フューズの声。

212 :ザ・フューズ :2019/01/13(日) 23:32:50.28 ID:tLRulIu9.net
馬鹿な、と、ファイアスターターの心中に動揺が生じる。
手足の骨は確実に蹴り砕いていた。
それだけではない。
胸部の奥――肺か、そうでなければ心臓の破裂した手応えさえあった。
まともに喋れるはずがないのだ。

にもかかわらず、ザ・フューズの声には――力強い憎悪が満ちていた。
故にファイアスターターは思わず、そちらへ振り向かざるを得なかった。

213 :ザ・フューズ :2019/01/13(日) 23:35:37.83 ID:tLRulIu9.net
果たして振り向いたその先で――ザ・フューズは立ち上がっていた。
確かに両膝を蹴り砕いたのに、何故。
その不可解がファイアスターターの反応速度、判断力を鈍らせた。

ザ・フューズはすぐさま超能力を行使。
人体発火による爆風の噴射。
エクトプラズム・プレートの三枚同時形成。
足元に、地面と水平に一枚。それを押し上げるように二枚。
瞬間、彼女の真下から競り上がる足場。

二重の推力を得て、ザ・フューズは跳んだ。
泥の雪崩が届かぬ空中へ。
そして――ファイアスターターが放り投げたケースを見た。
瞬間、ケースを囲むように発生するエクトプラズム・プレート。

ザ・フューズが悪辣な笑みと共に地表を見下ろす。
ファイアスターターの表情に、今までにないくらいはっきりと、焦りが浮かんだ。
そして彼女の思考は一つの強迫観念に辿り着く。
全速力をもってザ・フューズに追いつき、アタッシュケースを奪い返さなくては、と。

しかしながら――ザ・フューズ、西田結希は詐欺師である。
そして詐欺とは――基本的に、人間の限定合理性を誘導するものだ。

限定合理性。すなわち不完全な、人間の知能や認識能力の限界に制限された合理性。
息子を名乗る人物からの電話を受けた老婆にとって、
その電話の主に大金を振り込むのが最も合理的な行動であるように。
人間には完全に合理的な判断と行動を取る事は不可能なのだ。
つまり、どういう事かと言えば――

「全て予定通りだ」

今この瞬間。ファイアスターターの限定合理性は、完全にザ・フューズの手中にあった。

無力化したはずの敵が起き上がった事による動揺。
与えられた任務の肝要であるアタッシュケースを奪取された事による焦燥。
衝き動かされるように、殆ど反射的に、ファイアスターターは地を蹴った。

「思い知るのは、やはりお前の方だったな」

その安直極まる、渾身の跳躍に、エクトプラズムの刃が突き刺さった。

「なっ……が……」

刃はファイアスターターの顔面に深々とめり込んでいた。
声にならない悲鳴を零して彼女はよろめく。
致命的なまでの隙――だが彼女も歴戦のヴィラン。
体勢を崩しながらも、その目は直近の脅威であるNo14を捉えていた。

土砂が降り注ぐまで、残り時間は五秒前後。
深追いすれば泥の雪崩に飲み込まれる事になる。

付け加えるなら、ザ・フューズの「予定」に、No14の救助は含まれていない。
何故なら、No14は民間人ではなくヒーローなのだ。
助けを求められたならまだしも、そうでないのなら手助けなど不要。
もし逃げ切れなくてもロボットが酸欠で死んだりはしないだろう。
自分が今するべきは――ファイアスターターが再び土砂から逃れようとした場合、即座に妨害を行う事。
それが、ザ・フューズの合理的な判断だった。

214 :ザ・フューズ :2019/01/13(日) 23:36:42.80 ID:tLRulIu9.net
【ファイアスターター:顔面にブレードが食い込み大ダメージ。ひるんでるけど、まだまだ油断出来ないかも。
 
 全身ぶっ壊されて立ち上がれた理由は、まぁそのうち】

215 :山元 :2019/01/20(日) 22:43:17.87 ID:K546uJqo.net
「とぉーーー☆☆」

自身の背丈とほぼ同じ長さの巨大な木剣。振り回しているのか。振り回されているのか。
とまれかくまれ、魔法少女テスカ☆トリポカはその小柄で剣を遮二無二叩きつける。
ロックバインは鈍重な動きで斬撃を躱し、岩肌に覆われた腕をぶつけて軌道を逸らす。
僅かにでも刀身の黒曜石が食い込み、剥離すれば、それはそのまま小型爆弾を設置されたも同義だ。
頭部に入った爆破の一撃は思いの外ダメージとなったらしく、ロックバインは防戦一方だった。

「へいへいピッチャービビってるぅー?甘えた逃げ方してるとフルスイングしちゃうよっ☆」

後退するロックバイン。追いすがるテスカ☆トリポカ。
カウンターでも受けようものなら一撃で肉片必至の偉丈夫相手に、テスカは半ばノーガードで肉薄する。
吸引したハーブによって暴力行為への忌避感や恐怖がぶっ飛んでいるのだ。

しかし敵もさる者、テスカの大振りな攻撃はなかなかロックバインを捉えられない。
さらに彼は着弾した箇所の岩肌を即座に自らパージすることで、爆破の威力を殺す術を身に着けていた。
相方のファイアスターターと違ってまったく喋らない男だが、戦士としての感性は彼女に劣らない。

「ちょっと!動くと当たらないでしょ!動くと当たらないでしょ!?」

『This was a triumph.I'm making a note here:HUGE SUCCESS.』

『テスカちゃん、気をつけるッピ!あいつ何かやろうとしてるッピ!
 ――と、ケツァルは言っている。ロックバインの念動出力ならば、反撃は容易なはずだ。
 かくも防御一辺倒なのは、異能のリソースを別の作業に割り当てているからなのかもしれない』

「べつのさぎょうって!なに!?」

『それは分からないよ、レディ。第一種特異能力は魔力を使用しない。我々の感覚器で追跡は不可能だ』

メトロポリスで公式に認定されている一般的な異能には大別してふたつの種類がある。
ひとつは第一種特異能力。サイコキネシスやテレパスといったシンプルな、いわゆる超能力に分類される異能。
そして、伝統や儀礼要素の強い、『魔法』や『呪術』などを代表とする第二種特異能力。
ふたつの違いはその発動様式もさることながら、なにをパワーソースとするかによって決定付けられる。

環境に偏在する超常因子、すなわち魔力を利用する魔法とは違い、念動力は術者自身の持つカロリーを消費する。
そのため、異能がどこにどれだけの出力で働いているのか、外部から観測することが困難なのだ。
生れ出づるのは鬼か蛇か。伏せられたカードの裏面は、既に決定されている。

「テスカ知能が低いから先のことはわかんないけど、大体理解したよ☆
 何かしようとしてるなら、何かされる前に殺せばだいじょーぶ!」

216 :山元 :2019/01/20(日) 22:43:40.74 ID:K546uJqo.net
テスカ単独であれば、防御に徹するロックバインを削り切ることは不可能だろう。
しかしこの場に居るヒーローは一人ではない。
ロックバインの集中力がテスカに向けられる中、影を渡るように静かに動く者がいる。
リジェネレイターだ。彼はロックバインの背後から組み付き、その首を締め上げていく。

>「もう戦うのは止せ。君の目的は分からないが、これ以上の戦闘で命の保証はしかねる」

「いいよリジェネレイター、そのままそのまま!顔は可哀想だからボディにするね!」

羽交い締めにされたロックバインの胴めがけて、テスカはマクアフティルを思い切りフルスイングした。
これだけ大きな隙が出来れば、仮にパージで爆破を防がれても、装甲の修復前に二発目を叩き込める。
鋭利な刃で肉を断ち、肋骨をこじ開けて脈打つ心臓を抜き取ればテスカの勝利だ。
太陽神への供物もゲットできて一石二鳥である。

>「…………!」

しかしテスカの刃が装甲を穿つ前に、リジェネレイターはロックバインの元から飛び退いた。
必殺の一撃をスウェーで避けられて、マクアフティルは虚しく空を斬る。

「あ、あれっ?どしたのリジェネレイター」

見れば、ロックバインの背中から槍のように突き出した岩の棘。
リジェネレイターは事前に反撃の気配を察知して、殺傷圏から脱出していたのだ。

『第一種異能の予兆を読んだのか。リジェネレイターでなければあれで死んでいた。
 やはりロックバイン、単なる運び屋のヴィランというわけではないらしい』

「えぁっと☆……つまりどゆこと?」

『彼の実力は我々の想定よりも遥かに高い。
 何か仕掛けてくるとすれば、それは致命の一撃になるということだよ、レディ』

「ちめいの……いちげき?」

『It's hard to overstate my satisfaction.』

『次はガチでヤバいのが来るってことだッピ!――と、ケツァルは言っている』

ロックバインが地割れを生成し、飛び退いたリジェネレイターが亀裂へ落下していく。
その視線は悲運に見舞われた己の着地点ではなく――空を見上げていた。
同様にテスカも横合いに視線を移す。
そして見た。大量の土砂が、高波の如く鎌首をもたげるその姿を!

217 :山元 :2019/01/20(日) 22:44:03.50 ID:K546uJqo.net
「ガチでヤバいのが来たぁーーー!?」

『この攻撃範囲、ファイアスターターも巻き込まれるぞ。彼らは仲間ではないのか?』

「どーでもいいよそんなの☆あの岩雪崩どうにかしないとっ!」

テスカ自身が退避するという意味では難しい話ではない。
彼女には射程2kmを誇る移動魔法『レイラインステップ』がある。
適当な高台や、それこそ内地の安全地帯まで一気に飛ぶことも可能だ。

他のヒーローはどうだろうか。
足場を自在に作り出せるザ・ヒューズは案外自分でどうにかするかもしれない。
女の戦いでボコボコにされていたが元気そうなので放っておいても大丈夫だろう。

彼女と共にファイアスターターの対処に当たっているもうひとりのヒーロー、
元殺人ロボットという異例の経歴を持つ『14』は、現着用のドローンを乗り捨てている。
本体の機動力は未知数だが、ドローンを呼び戻して離脱するだけの時間的猶予はあるまい。
なんか怖いおばさんに目をつけられてるっぽいし。

何より、リジェネレイター。
彼は今、ロックバインの生み出した地割れに挟まっている。
これはもう間違いなく間に合わない。捨て置けば確実に、雪崩に飲まれて代が一つ替わるだろう。

そして、テスカ自身の個人的な都合として、橋を壊させるわけにはいかなかった。
橋の先、アウターストリートにはセーラ・山元の通う学校がある。
通学に使っているこの橋が損壊すれば、学校へ行くためにものすごい遠回りをしなければならない。
始業に間に合わせるには、一時間早起きしないといけないのだ。
それは……困る。すこぶる困る!!!!

「ケッちゃん!コアちゃん!あの雪崩、止めるよ!」

『具体的な手段を問おう』

「レイラインアクセスで、片っ端から全部飲み込む☆」

『無理だよレディ、君の力のキャパシティを超えている。あの雪崩が全部で何千何万トンあると思うね?
 あれを全て地脈に落とすとなれば、地獄の大釜よりも巨大な直径で門を開かねばなるまい』

「無理っていうのはねコアちゃん、嘘つきの言葉なんだよ!
 昔の人は言いました。為せば成る、わりと結構なんとかなる。限界を超えるために魔法があるんだ☆」

『我々の力をどう使おうと君の自由だが……相応の対価はもらうよレディ。
 要求は生きた人間から抜き取った心臓だ』

「用意出来なかったときは?」

『豚の肩ロースとかでも良い』

「おいしいもんね、肩ロース」

218 :山元 :2019/01/20(日) 22:44:23.96 ID:K546uJqo.net
かくして交渉は成立し、魔法少女は宙を舞う。
迫りくる土砂の波濤へ立ち向かうその姿は、紛うことなきヒーロー!
彼女はマクアフティルに魔力を込め、自身の立つ橋に思い切り突き立てた。

「地脈に通じる門よ、そのあぎとを開け!『レイラインアクセス』!」

瞬間、橋を構成するアスファルトを巨大な亀裂が縦断した。
怪物の顎のごとく開いたその向こうは、地脈へ通じる亜空間。
ロックバインの操る泥雪崩がこちらの道路に叩きつけられる瞬間、
吸い寄せられるように地脈の門へと飲み込まれていく。

「うぐぐぐぐぐぐぐ……☆」

大規模な魔法の行使に、テスカ自身にも凄まじい負荷が発生した。
第二種特異能力は環境に満ちる魔力を使用するため、理論上はガス欠になることはない。
しかし魔力に方向性を与え、使役するには一度術者の肉体を通して魔力を取り込む必要がある。
過電流を流した電子回路が時に焼け付きを起こすように、テスカの肉体もまた高圧の魔力に晒されていた。
紫電が衣装を焦がし、フリル代わりの鷲の羽根が何本も抜け飛んでいく。

そして、限界に挑んだ大規模魔法行使は、雪崩の終息という形で終わりを迎える。
飲み込み来れなかった土砂が橋をたわませるが、足場の崩壊だけはなんとか免れた。
地脈の門を閉じ、魔法を終了させたテスカは、疲労困憊といった様子で膝をついた。
素顔を覆い隠す石仮面が、半分近く煙と化して消えている。変身の維持が困難になっているのだ。

「あっ……危ない危ない☆」

テスカが石仮面を一撫ですると、霧散していた魔力が再収束して元の形に戻る。
この辺りには協会の観測用ドローンも飛んでいる。正体を露呈するわけにはいかない。

「リジェネレイター、生きてるぅー?ロボットちゃんもー」

味方の生存確認をしながら、テスカはポケットからパイプを取り出した。
魔力を消費しすぎたせいでトランスが切れかけている。
ケツァルとコアトルの声も今はもう聞こえない。
再び薬草を燃した煙を吸わなければ、まともに魔法を行使することはできないだろう。

「………………!」

パイプの吸口に唇を着けた瞬間、地面から隆起した棘がテスカを襲った。
身を隠していたロックバインによる奇襲だ。
間一髪回避が間に合い、彼女は串刺しの憂き目こそ免れたが、しかし。

「やばっ、パイプが――!」

テスカ☆トリポカの魔法の源となる鷲を模したパイプが手から弾き飛ばされ、瓦礫の中を転がっていく。
急ぎ拾わんと駆けるテスカを、再び姿を現したロックバインが阻んだ。

「……ぴ、ピーンチ☆」

今のテスカは、魔法少女ではなくただの一般魔法使いだ。
ヴィランを相手にして一般人が生き残れるほど、このメトロポリスは甘くはない。

219 :山元 :2019/01/20(日) 22:44:38.05 ID:K546uJqo.net
【レイラインアクセスで泥雪崩を飲み込み、橋とヒーロー達を保護。
 使い果たした魔力の補充に必要なパイプは遠く離れた場所に落下】

220 :K-doll No14 :2019/01/22(火) 20:56:54.75 ID:SsRtz4uD.net
完璧な煽りを入れたNo14は勝利を確信していた。
並のヴィランならば挑発すれば乗って来る。
冷静さを失えばどんなヴィランもタダのザコ。
しかしファイアスターターは並のヴィランではなかった。

>「ねぇ、話を変えるけれど。メトロポリスの能力格差って酷いわよね。
 特別な才能を持たない者が良い学校へ入れて、特別な才能を持つ子が良い学校に入れないの。
 嘆きの極みよね……歪んだ社会構造だわ。メトロポリスには、持たざるが故の特権階級があるのよ」

ファイアスターターは冷静に語り始める。
まずい、このまま落ち着く時間を作らせてはいけない。
だがNo14はこの話題を聞き流せなかった。
ヒーロー総合学院にいる子供達の様な例外は確かにいる、がヒーロー協会に拾われなかった能力を持ってしまった子供達の暗い未来。
その現実を痛い程痛感していたから。

>「けど、私の組織の言うところでは特権階級は進化した人類な訳。
  つまるところ、私達のような人間が――社会の頂点に君臨すべきだと思わない?」

それは違う。
力が正義なんて事を通してしまったら世界の終わりだ。

>「いいや。まったく」

No14の否定の言葉より先に隣にいるザ・フューズが言い放つ。
怒りと不快感を隠そうともしないザ・フューズが続ける。

>「……それで?お前達が社会の頂点に立った後はどうする?
 強盗や脅迫じゃ経済は回せない。
 時速300kmで走れようと、社会に貢献出来なければ何の意味もない」

「私モ同感デスネ!確カニ今ノ制度ハ間違ッテイマス!デモアナタ達ハモットオカシイデス!」

221 :K-doll No14 :2019/01/22(火) 20:57:39.11 ID:SsRtz4uD.net
ファイアスターターは無言。
無言のまま脚部ホイールから炎を噴射し始める。
かっこよく一回転した後に空に向ってなにかを投げる。

「ム・・・アレハアタッシュケース・・・?」

なにかを庇っていたのかはしっていたがケースを隠し持っていたとは。
戦闘に夢中で気づかなかった。

>「ケースが地面に落ちる瞬きの間に、貴女達を殺してあげる!」

ケースをわざわざ手放すという事はあれは戦闘用の物ではなく、なにか重要な物という事なのだろう。
しかしアレを確保する前にファイアスターターを倒さなくては。

ファイアスターターが急加速を始める。
加速するような音はなく爆発音のような音と共にファイアスターターが瞬間移動のような速さで右左へ移動する。
ザ・フューズが周囲に展開した刃の檻を利用した上下の概念が追加された高速移動。
普通の人間には絶対捉えられないだろう。
No14は電力とその他部位に使っている処理を目に回し動きを見る、それで辛うじて見えてるレベルであった。

近くのザ・フューズは完全に混乱しているようだった。
バリアを張るために近くに行こうとしたが、No14よりファイアスターターの方が一手先をいく。

>「――燃え尽きなさい!私の自慢の炎でね!」

上空から降り注ぐ、超高温の火炎。
さすがにあれをまともに食らったらタダじゃ済まないだろう。
全ての変形を解除して防御体制に入る。

「ガードプログラム;アサイラム!」

自分の周囲にバリアを貼る。
本来味方と自分を保護する為の物だが反応が遅れてザ・フューズは範囲外にいた。
炎で視界が塞がれファイアスターターとザフューズの場所がつかめないと焦っていた、その時。

>「お・そ・い・わ」

その声と同時に炎が晴れ始める。
炎が完全に晴れた後No14が見た光景は、血を流しながらぐったりしているザ・フューズだった。
私がもっと早くザ・フューズに近寄っていれば、自分の判断ミスによって起きてしまった事だ。

「ザ・フューズ・・・ソンナ・・・」

No14が後悔に苛まれていると。

>「……無駄な足掻きね。即死した方がいっそ楽だったでしょうに」

たしかによく見ればまだ息がある。
早くファイアスターターを倒して治療をしなくては。
いや倒すことよりもここはザ・フューズを連れて逃げるべきかもしれない。
アタッシュケースを回収しなければ深追いしてこないだろう、と思っていたNo14だったが。

>「だけどあなたは、あれよりもっと長く苦しめてから殺すから」

ファイアスターターの優先順位はこちらが上になっていたようだ。

222 :K-doll No14 :2019/01/22(火) 20:58:17.01 ID:SsRtz4uD.net
その時突然足元に影が映る。
後ろを向くと泥の波。
もう一人のヴィランの存在を完全に忘れていた、もう一人はファイアスターターの仲間だと勝手に思い込んでいた。
どう考えてもこんな大規模の攻撃を相方の許可なしに発動することはリスクを伴う。
と考えればこれはファイアスターターを最初から巻き込むつもりの攻撃。

「狙イハアタッシュケースダケッテコトデスカ・・・!」

果たしてファイアスターターを退けながらザ・フューズを担いで脱出できるだろうか。
なんとしてでも命は最優先させなければいけない。
できるかではなくやるしかなかった。

>「最後の一秒まで、じっくりと、いたぶってあげる」

No14を見つめながら宣言するファイアスターター

「私ハイジメラレル趣味ハナイノデスガ・・・!【アタックプログラム;ブレード】」

近接戦闘での強行突破を試みようとしたその瞬間

>「……粋がるなよ、馬鹿が。とどめを刺せなかった時点でお前の負けだ」

力強い声で聞こえるはずのない人物の声が聞こえる。
目線の先で立っていたのは紛れもなくザ・フューズだった。

ザ・フューズは超能力の攻撃を連続で繰り出す。
そして能力を利用し空に跳ぶと投げられたアタッシュケースを能力で掴む。
ファイアスターターに焦りが生じる。

223 :K-doll No14 :2019/01/22(火) 20:58:55.46 ID:SsRtz4uD.net
>「全て予定通りだ」

ボロボロの体で何を言うのか。
どう考えたって予定通り事が進んでるようには見えない、たしかにアタッシュケースは奪われて敵は間違いなく動揺している。
が、状況は別に好転してるわけではないのだ。
誰がどうみても劣勢なのに。

>「思い知るのは、やはりお前の方だったな」

でも黒い噂から詐欺師と呼ばれる彼女なら。
本当に計算済みなのかもしれない。
だとしたら。

>「なっ……が……」

動揺からか愚直な直進で突撃するファイアスターター。
その動揺を見逃さずエクトプラズムの刃で応戦する。
刃が嫌な音を立てながらファイアスターターの顔面にめり込んだ。

「本当ニ人間ッテ面白イデスネ!」

泥が来る前にファイアスターターにトドメを刺し脱出する。
怯んでいる今しかない。
そう思いNo14が接近しようとしたその時。

>「地脈に通じる門よ、そのあぎとを開け!『レイラインアクセス』!」

その時地震のような揺れと大きな音と共に門が出現する。
門が開き泥の波を飲み込み始める。
職業柄色んな魔法の類を見てきたが門を召喚するのは初めてみる。
小さな魔法少女は泥を全て吸引していく、魔法には詳しいわけではないが、正気の沙汰ではないことはすぐ分った。

「テスカトリポカ・・・サスガニムチャデス!今スグ中止シナサイ!」

No14は中止を呼びかける。
泥がこの橋を落とすようなことがあっては困る、困るがなにも命を賭けてやる様な事ではないからだ。

>「うぐぐぐぐぐぐぐ……☆」

「子供ガ無茶スル必要ナンテナイノニ・・・!」

泥の波の勢いが静かになっていく。
テスカトリポカによって勢いは完全に相殺され、残っているのは少し動きにくいくらいの泥だけだった。

>「リジェネレイター、生きてるぅー?ロボットちゃんもー」

「人ヨリ自分ノ心配ヲシナサイ!私ハロボットデハナクNo14デス!今後一切無茶ヲシナイデクダサイ!子供ハ無茶スル必要ハアリマセン!ダイタイ子供ヒーロートイウ時点デヒーロー協会ハナニヲ考エテイルノカ・・・」

説教まがいの生存報告をしているとテスカトリポカを足元から棘が襲う。
間一髪で避けテスカトリポカは体勢を崩したが直ぐに起き上がりなにかを探そうとする。
しかしロックバインそれを許さない。

>「……ぴ、ピーンチ☆」

ロックバインは大きく手を上げ今まさに少女を潰さんとしていた。
少女は絶対絶命の状況に追い込まれていた。

224 :K-doll No14 :2019/01/22(火) 20:59:43.15 ID:SsRtz4uD.net
「スミマセン!ザ・フューズ!」

No14は走り出す、もちろんテスカトリポカの方に。
見捨てる事などできない。
走った勢いでロックバインに蹴りを食らわせ怯ませる。

「大丈夫デスカ!?」

どうやらテスカトリポカは消耗こそしているものの怪我自体はしていないようだ。
一安心しているとロックバインが立ち上がる。
殆どダメージ与えられていないようだ。

「貴方ナニカ探シテイマシタネ!?ココハ私ニ任セテ、ハヤクソレヲ取リニ行キナサイ!」

大抵の魔法には媒介が必要になる、恐らくテスカトリポカが必死に探していたのは媒介でほぼ間違いない。
そしてNo14とロックバインの相性は最悪だった。
ファイアスターターのようにに力では勝てず、No14が持てるどの武装でも恐らくダメージを与えられないだろう。
他のヒーローの火力に頼るしかない、その為の時間稼ぎくらいならできるだろう。

「サア!岩男サン!私ガ相手デスヨ!」

ロックバインがNo14を見つめる、テスカトリポカの方にいくかと思ったがこちらにくる。
強引に行かれていたら止め切れなかっただろう、と心の中で安堵する。
あまり考える頭がないのかもしれない、脳筋という奴か。

「アタックプログラム;ラピッドファイア」

右手を変形させ連続で銃弾を浴びせる。
まるで蚊にでもさされただけかのように怯まずゆっくりと、しかし確実に接近してくる。

「冗談デショウ?コレヒーロー協会正式採用ノ対改造人間用弾薬デスヨ!?」

分っていた事だが銃弾を浴びせてもダメージを与えるどころか怯む事すらない。
距離を適度に取りつつ射撃していると排熱音と共に射撃が中断される、使いすぎてオーバーヒートを起してしまった。
それを見たロックバインはおもむろに地面に両手を当てる。
手の場所のあたりの地面からボコボコと音が鳴り始め、そしてNo14に向って前進してくる。

「フッソノ技ハサッキミマシタヨ!」

No14はステップで地面のボコボコから距離を取る。
しかしロックバインの狙いは初めからNo14ではなかった。

「ム・・・?・・・!テスカトリポカ!早クニゲナサイ!」

テスカトリポカに攻撃が向っていく。
恐らく彼女は今の時点で一般人と同等の戦闘力しかない、あれを避けるすべを持っていないだろう。

「アブナイ!」

なにかに夢中なのか攻撃には気づいていない。
全力で走りテスカトリポカを吹き飛ばす。

225 :K-doll No14 :2019/01/22(火) 21:00:26.71 ID:SsRtz4uD.net
「ガ・・・ピ」

No14の胴体を先ほど奇襲で使われた物より太い棘が串刺しにする。
ロックバインが少し微笑んだように見えた。

「ナルホド・・・ヤッパリ私狙イダッタンデスネ・・・」

ほぼ無力化できているテスカトリポカを狙ったのではなかった。
私が庇うと分っていて、わざと棘の攻撃が見えるように射出したのだ。
奇襲用の技なのに目で確認できるという時点で気づくべきだった。

「ソレデモ・・・子供ヲ守る・・・ノハ・・・ヒーローノ・・・役目デス」

自分を刺している棘を左手で粉砕して脱出する、しかし。

「エラー!電源ユニット破損!動作不能!他部位保護の為機能停止を開始します!」

No14の体から警告音が流れ出す。
どうやらメインの電源ユニットに傷がついてしまったららしい。
機能停止する前に言わなければ。

「テスカトリポカ・・・アナタガ気ニスルコトハアリマセン、私ハ私ノシタイコト・・・ナスベキ事ヲシタノデス・・・カラ」

テスカトリポカはなにも悪くない。
勇んで飛び出してきて大して役に立ってない私こそ恥じるべきなのだ。

「私コソ・・・役ニ立テズ・・・ゴメン・・・ナ・・・」

No14の意識はそこで消えた。

【ファイアスターターの戦闘を中断しロックバインと交戦 テスカトリポカを庇いカラーコーンぐらいの棘が体を貫通 機能停止 (死んではいません)】

226 :神籬明治 :2019/02/02(土) 00:30:33.58 ID:pBhjqx+A.net
押し寄せる泥の雪崩を眺めながら、リジェネレイターは死を覚悟した。
地割れに挟まれた状態では回避行動も間に合うまい。
各種機能を搭載した装甲服だがジェットパックの類は生憎と装備していない。

>「ケッちゃん!コアちゃん!あの雪崩、止めるよ!」

やや慌てたような様子でテスカ☆トリポカが決然と叫んだ。
このままでは彼女にとって何か困り事が発生するらしい。
リジェネレイターはそんな色の感情を朧気に読んだ。

「頼むテスカ☆トリポカ……!お前に全部賭けるぜ!」

AIである彼に賭けるものはないので途方もなく無責任な物言いである。
ともあれ魔法少女は宙を舞い、猛烈な勢いで迫りくる泥の雪崩に立ち向かう。
数万トンはあろうかという巨大な壁に対し、大規模魔法を行使せんと言葉を紡ぐ。

>「地脈に通じる門よ、そのあぎとを開け!『レイラインアクセス』!」

テスカ☆トリポカの作戦は巨大な地脈を開くことで雪崩を全て飲み込んでしまおうという明快なもの。
自身に降りかかる強烈な負荷も厭わず地脈の門を開き、泥の雪崩が注ぎ込まれはじめた。
門は泥を、砂を、岩を、概ね飲み込むと、ゆっくりとその顎門を閉じた。

テスカ☆トリポカが雪崩を止める間にどうにか地割れから這い出る影がひとつ。
飲み切れなかった泥土を踏み分けながらリジェネレイターは溜息をついた。
彼女がいなければ少なくとも自分は死んでいた。

「ひゃ〜助かった」

オービットの言葉に対する返事はない。
リジェネレイターがまず行ったのは何処かにいるであろうロックバインの捜索だ。
レイラインアクセスは雪崩を見事止めたが、雪崩は目晦ましの効果を果たし、忽然と姿を消した。

>「リジェネレイター、生きてるぅー?ロボットちゃんもー」

テスカ☆トリポカの声がする。
目視しただけではあの屈強な岩男の姿が見当たらない。
レーダーで探知してみると、瓦礫の山に潜む巨大な熱源を捕捉した。

227 :神籬明治 :2019/02/02(土) 00:31:46.91 ID:pBhjqx+A.net
「――くっ!」

レーダーが熱源に照準を当てながら距離を算出。
熱源まで50メートルもない。リジェネレイターは駆け出した。
あれほどの規模の魔法だ。テスカ☆トリポカは確実に消耗しているはず。
この隙を突かれたら如何に魔法少女といえど長くは持つまい。

>「やばっ、パイプが――!」

事態はリジェネレイターが想定していた状況よりも常に悪い方へ働く。
地面から隆起した棘がテスカを襲い、避けた拍子に何かを落とした。
再び姿を現した岩男ロックバインが彼女の行く手を阻む。急がなくては!

>「スミマセン!ザ・フューズ!」

幸いな事に事態に気がついたのはリジェネレイターだけではなかった。
異色のロボットヒーローK-doll No14もまたロックバイン目掛けて走り出し、蹴りを浴びせていた。
ロックバインは少しよろめいて怯んだ様子である。

>「サア!岩男サン!私ガ相手デスヨ!」

右手を銃に変形させ銃弾を浴びせるが、ロックバインの岩肌は傷つかない。
通常の岩肌の更に上からコンクリートを纏い、防御力を向上させていた。

>「アブナイ!」

泰然と距離を詰めるロックバインはテスカ☆トリポカ目掛けて攻撃を放った。
No14はテスカを守るため再び走り、彼女を攻撃から身を挺して守る。
棘を人間ではあり得ない膂力で粉砕するも、警告音が鳴り響いた。

>「エラー!電源ユニット破損!動作不能!他部位保護の為機能停止を開始します!」

228 :神籬明治 :2019/02/02(土) 00:32:40.53 ID:pBhjqx+A.net
「No14はどうなったんだ……?」

リジェネレイターは不安気な様子でオービットに尋ねた。
糸の切れた人形のように地に伏せる姿は、まだ年端もいかない少女の死にも思える。
意外と人間臭いとこあんじゃねぇか――という悪態は不適切と判断し、代わりの言葉を用意した。

「別に死んじゃいねぇよ。電源ユニットが破損しただけみたいだからな。
 人間に例えるなら気を失ってるってとこだ」

No14……ファイアスターターとの戦闘を放棄してまでテスカ☆トリポカを助けに入った。
リジェネレイターはまだ彼女の事を然程知らない。だが、たった一つだけ分かる事がある。
それに、彼女のヒーローをも助けようと駆ける"心"はきっと優しい。
彼にできることはひとつだけだ。

「No14を直すぞ」

リジェネレイタースーツにはナノマシンによる修復機能が搭載されている。
これこそがヒーロー名の由来であり、致命傷を負っても復帰する不死身の所以だ。
もし修復用ナノマシンを自分だけでなく他の機械にも転用できれば。
原理上構造さえ把握していればどんな機械でも直せるはずだ。

「AIとして助言しておくが、適切な判断じゃないな。
 今は戦闘中だ。機能停止したロボットなんて放っておきゃいい」

「ヒーローも助け合いだ。その隙は俺が作ってみせる」

「助け合いねぇ……非合理的な考えが働いてるとしか思えないな。
 ……ったく、お前は言い出したら聞かないからな。仕方ねぇと言ってやるか」

オービットの機械音声と同時。背後から放たれた拳を共感覚で回避した。
仮面に搭載されたHUDが敵を捕捉。ロックバインが殴りかかってきたらしい。
見れば両手にコンクリートのグローブを装着している。あれで殴り合う気か。

「面白ぇ、装甲服着てる奴に肉弾戦で勝てると思ってんのかよ!」

229 :神籬明治 :2019/02/02(土) 00:33:48.40 ID:pBhjqx+A.net
すぐさま立ち上がってパワーアシスト機能を起動する。
走力を強化し、ロックバインとの距離を一気に詰めた。
ローキックを叩き込もうと足を振りかぶるも、軸足が急に沈み込んだ。
格闘戦中、悠長に足下を確認する暇はない。態勢を崩す前に半歩後退した。

「!?」

今度は完全に態勢を崩した。両足に体重を掛けられない。
見れば後退させた足が地面にずっぷりと浸かっている。
言うまでもなく、ロックバインの土壌操作が原因だ。
コンクリートを液状化させ沼のように足場を崩したのだ。

これが彼の接近戦。徹底的に足下を崩して隙を強引に作り出す。
如何に達人と言えど踏み込みを潰されては手も足も出ない。
ロックバインは網にかかった獲物をゆっくり料理すればいいだけだ。

隙だらけのリジェネレイターの頭を掴み、膝蹴りを叩き込む!
ご丁寧に能力で作ったコンクリのニーパッドが仮面の額を砕く。

「ぐっ……!」

怯んだところで二度、三度と顔面に拳を叩き込んだ。予兆は読めても避ける暇がない。
沼のように液状化した足下が今度は硬質化し、リジェネレイターの脛から先を固定していた。
更に、ロックバインは拳のインパクトの瞬間コンクリート製グローブから棘を隆起させていた。
拳を打ち込まれる度に棘が装甲を貫通しリジェネレイターの生身に刺さる。

「おいおい、聞いてねぇぞこんな情報!格闘戦まで出来ちゃうのかよ!」

鮮血を装甲服に滲ませ、リジェネレイターは明確に怯んだ。
ロックバインは両腕で胴体を掴むと軽々持ち上げ、脳天から硬質な地面に叩き落す。
軽い脳震盪をおこしながら、素早く立ち上がってなんとか距離を取った。

割れた仮面と装甲を自動修復しながらリジェネレイターは構え直す。
このままではNo14を修繕する前にお陀仏になりかねない。

230 :神籬明治 :2019/02/02(土) 00:34:37.81 ID:pBhjqx+A.net
ロックバインは地面に手を添えて土壌操作を行使した。
隆起したコンクリートの棘がリジェネレイターを襲う。
共感覚で予兆を嗅ぎ取りながら棘を躱し、避け、いなす。

「オービット……何か打開策はないか?」

「たった一つだけある。この窮地を脱するたった一つの冴えたやり方が……!
 今こそ最後の切り札、アップデートシステムを使え!それしか方法はない!」

――アップデートシステム。
リジェネレイタースーツは搭載されている学習機能と再生機能を用いることで、
スーツの性能をリアルタイムでバージョンアップさせることができる。
ただし、どんな進化を果たすかは当人である二人にも分からない。
あるいは打開策を手に入れられないまま撲殺されてしまう可能性もある。

「お前が今まで蓄積させたきた戦闘データが、そのままお前の力になる。
 これは分の悪い賭けなんかじゃない。お前の中に眠る可能性を爆発させろ!」

瞬間、リジェネレイタースーツの装甲部がナノマシンの粒となって霧散する。
スーツの再構築が開始され、リジェネレイターが生まれ変わろうとしていた。
さながらそれは蛹が羽化して蝶の羽を広げようとする姿に似ている。

「――新たなる力を掴み取れ!リジェネレイターversion2.0!!」

大仰な台詞の割りに外観上の違いは特になさそうだ。
ここで思考がやや散漫なロックバインの特性が災いした。
コンクリート製のグローブを打ち鳴らし、泰然と接近する。

「さぁ、パワーアップしたところを見せてやれ!」

早速土壌操作で足元を液状化させて沼を作ると、ロックバインは鳩尾目掛けて拳を放った。
リジェネレイターはそれを躱せない。格闘戦において体捌きを制約されるのは致命的だ。
そう、従来までは。version2.0には脚部と背部にスラスターが追加されている。
すなわち、空中における姿勢制御が可能となった。

231 :神籬明治 :2019/02/02(土) 00:35:28.40 ID:pBhjqx+A.net
宙を跳んだリジェネレイターは相手の頭目掛けて回し蹴りを放った。
慌ててガードするロックバイン。岩肌越しにびりびりとパワーアシストの威力を感じる。
ロックバインは苦し紛れに拳を振り回したが、それがいけなかった。
流水のように最小限の動きで避けられ、懐に潜り込まれてしまった。
お返しとばかりに鳩尾目掛けて拳を捻じ込む。

「パワーシリンダーッッ!!」

増設された電動アクチュエーターによる拳が岩肌に命中する。
パワーシリンダーはロックバインの巨体を大きく吹き飛ばしたが、撃破には至っていない。
結果的に距離を置くことに成功し、ロックバインは唸り声と共に土の中へ消えていく。

「やったかリジェネレイター!?」

「……いや、地中の中へ逃げたようだ」

地中のロックバインから感じる感情は"敵意""焦燥""怒り"だ。
下に見ていたヒーローに反撃を食らってムッとしているといったところか。
感情分析はさておき、これでロックバインを一時的に追い払うことには成功した。
No14の下まで駆けると、大穴を開けている患部に左手を突っ込む。修復用ナノマシンを散布するためだ。

「よし、そのまま電源ユニットを触れ。今から構造を解析する……」

「わかった」

オービットの構造解析が終わると、ただちに修復用ナノマシンが散布された。
修復用ナノマシンは破損個所をパテ材のように埋め、損傷個所の機能を補完する。
直ぐに目が覚めるかどうかは分からないが、これで電源ユニットは修復できたはずだ。

「!!」

隆起した棘が再び襲ってくるも、リジェネレイターはスラスターを吹かして回避。
おそらく地面に響く振動で探知して攻撃しているのだろう。狙いが大雑把だ。
棘の隆起が連続して襲い掛かって来る。
息が続くまで地中に引きこもって攻撃を仕掛けてくる気か?

「……そうか、地中からまたあの雪崩を引き起こす気か……!」

「完全に時間稼ぎされてんじゃねーかっ。version2.0にドリルも実装しときゃ良かったな!
 今度またあれが襲ってきたら近隣の被害込みでただじゃ済まないぞ!?」

ロックバインは地中でほくそ笑んでいた。今までの攻防は準備を整えるまでの時間稼ぎの一貫に過ぎない。
度重なる強化手術によりローカロリーで大規模な土壌操作を引き起こせる彼にとって持久戦は本領。
ロボットヒーローを倒し、装甲服の男はものの敵ではない。後の懸念は魔法少女くらいのものだが――。
彼の目論見が成功すれば今度こそ一巻の終わりである。戦いは佳境を迎えつつあった。

232 :神籬明治 :2019/02/02(土) 00:40:16.35 ID:pBhjqx+A.net
時間を少し巻き戻す。
顔面にエクトプラズムが刺さる重傷を負ったファイアスターター。
咄嗟にNo14を警戒したが、そのNo14はあろうことかチャンスを潰してロックバインの下へ。

掴める勝利を捨てる者にヴィランは甘くない。
普段なら追い打ちを仕掛けるところだが、自身の傷も浅くない。
地面に着地すると息を切らしたのは疲れによるものではない。
痛みによるものだ。

「好機をふいにするなんてとんだ二流ね、貴女の同僚さん」

ファイアスターターの言葉にはまだ何処か余裕がある。
言葉ほどに余裕はなかった。顔を傷つけるという自分の美しさを著しく損なう愚行。
彼女の後悔はどれほどのものだろうか。

いや、それ以上にケースが奪われたことが何よりの痛手だった。
あのケースを手に入れたのは運命か、はたまた偶然か――。
ファイアスターターが運んでいたモノ。それは時間さえ支配し得る遥か未来の遺産。
『タイムキューブ』。時間跳躍を意のままに行える未来技術の産物。
未来人とされる謎の男がメトロポリスに流した科学の頂点とも言うべきもの。

未来人がなぜ、どうしてこれをこの時代に遺したのかは誰にも分からない。
だがそれよりも重要なのは――今やその時間跳躍の装置は目下ザ・フューズの手中にあるということである。
なぜザ・フューズが五体を叩き壊して生きていられるかなど問題にならない、唾棄すべき致命的な失敗だった。

「物の価値も分からない貴女に一つ忠告しておくわ。"それ"は丁重に扱いなさい」

顔を押さえながらファイアスターターがケースを指差した。
ボスが欲している時をも支配する恐るべき舞台装置の力、是が非とも持って帰らねばなるまい。
タイムキューブが内地で埃を被っていたのには驚かされたが、一体如何なる過程で漂着したのか。
その変遷を辿るのはレオニダスにも不可能だ。

「貴女とは何度か小競り合いをしたこともあったっけね。
 その時からずっと思っていたんだけれど……」

瞬間、ファイアスターターの毛髪状排気孔から炎が噴き出した。
ただし、今度は単に火を垂れ流したのではない。
形状は宙を綿毛のように舞う火球だ。

「貴女にできて――」

ひとたび触れれば人体を燃え焦がす灼熱の火球。
『バックショット』と名付けられた彼女の炎の技だ。
それを大量に空中に振り撒きながらファイアスターターが地面を疾駆する。
振り撒く火球はザ・フューズへの意趣返し。
エクトプラズムの刃のように、空中におけるザ・フューズの動きを阻害するためのもの。

「――私に出来ない事なんて、ひとつもないのよ!」

そして、ファイアスターターは大きく跳躍。
空中で排気孔から業火を噴出させ、大きく方向転換――。
ザ・フューズの顔面目掛けて飛び回し蹴りを放った。


【リジェネレイター:ロックバインを一時退け、No14を修復する。
 ファイアスターター:ザ・フューズを相手に炎で牽制&回し蹴り】

233 :ザ・フューズ :2019/02/04(月) 23:12:40.87 ID:4WOsNvGH.net
顔面に刃が突き刺さり、よろめくファイアスターター。
辛うじて前後不覚に陥らず意識を保っている。
だがその姿は隙だらけだ。
No14が先のような猛攻を仕掛ければ、捌き切れないであろうほどに。

>「本当ニ人間ッテ面白イデスネ!」

「ああ、そうだな。あれだけ偉ぶってた奴がこんな簡単にくたばるんだ、面白いだろう」

ファイアスターターは仕留めたも同然。
これで残る敵はロックバインのみ。
炎を操るザ・フューズならば岩の鎧ごと蒸し焼きに出来る相手だ。
大して手こずる事もなく倒して、状況終了。
それがザ・フューズの『予定』だった――

>「地脈に通じる門よ、そのあぎとを開け!『レイラインアクセス』!」
>「テスカトリポカ・・・サスガニムチャデス!今スグ中止シナサイ!」

――だが、そうはならなかった。
橋を壊されまいと踏み留まるテスカ☆トリポカ。
そして彼女を案じるあまり、死に体のファイアスターターを放置するNo14。

「……ふん、世話が焼けるな」

完璧だったはずの予定を崩され――しかしザ・フューズの声は静かだった。
怒ってはいるものの――しかし一方で満更でもないような、そんな響き。

>「スミマセン!ザ・フューズ!」

「馬鹿が、さっさと行け」

ザ・フューズが右手を眼下へ伸ばす。
瞬間、ファイアスターターの周囲に生じる何重もの刃。
テスカ☆トリポカへと駆けつける、無防備な背中への追撃を封じる為。
結果的にファイアスターターはダメージからの回復を優先したが――

>「好機をふいにするなんてとんだ二流ね、貴女の同僚さん」

「……いいや。あれが一流だ」

静かな、しかし有無を言わさぬ語調。
ザ・フューズは足場代わりのエクトプラズム・キューブからファイアスターターを見下ろす。
それから周囲に追加の足場を形成。
そちらへ飛び移り、踏みつけにしていたアタッシュケースを回収。
見せつけるようにそれを掲げる。

「お使い一つこなせないお前には分からんだろうがな」

>「物の価値も分からない貴女に一つ忠告しておくわ。"それ"は丁重に扱いなさい」

亀裂が刻まれ、苦痛に歪んだ顔に浮かぶ、焦燥と怒り。
中身はよほど重大な物らしい。
ザ・フューズの顔に、悪辣な笑みが浮かぶ。

「安心しろ。お前みたいに勢い余って放り投げたりはしない」

挑発に、ファイアスターターは反応しない。
ただ呼吸を整え、ザ・フューズを鋭く見据える。

234 :ザ・フューズ :2019/02/04(月) 23:12:58.79 ID:4WOsNvGH.net
先の攻防、ファイアスターターは確かに全力で、全速力だった。
しかし――真剣ではなかった。
敵は格下で、自分には「遊び」をする余裕がある――そんなつもりでいた。
その油断が――ファイアスターターの表情からは最早消え去っていた。

>「貴女とは何度か小競り合いをしたこともあったっけね。
  その時からずっと思っていたんだけれど……」

直後、ファイアスターターの排気孔から溢れる炎。
生じるのは炎の奔流ではない。
緩やかに浮かび上がる火球。

>「貴女にできて――」

ファイアスターターが疾駆する。
周囲を高速で走り回り、火球を広範囲にばら撒く。
それらは主の意思に沿うかのように宙を揺蕩い――ザ・フューズを包囲していく。

235 :ザ・フューズ :2019/02/04(月) 23:13:20.38 ID:4WOsNvGH.net
「……ちっ」

ザ・フューズはエクトプラズム・キューブ――防壁と足場を追加形成。
『バックショット』から逃れ、また撃ち落としていく。

だが――ファイアスターターの手数は、ザ・フューズを完全に上回っている。
ザ・フューズの逃げ道は瞬く間に封鎖されてしまった。
上下左右、あらゆる方向に展開されたバックショットの檻によって。

>「――私に出来ない事なんて、ひとつもないのよ!」

必勝の状況を完成させて、ファイアスターターは一際強く地を蹴った。
爆炎の尾を引きながら、一瞬の内にザ・フューズの眼前にまで迫る。

対するザ・フューズは――既に行動を起こしていた。
致命傷を避ける為の防御。
丁重に扱えと釘を刺されたアタッシュケースを盾代わりに、頭を庇う。

任務を帯びたファイアスターターには、ケースごと蹴り抜く事は出来ない。
強引に蹴りを止めるか、軌道を変えねばならない。
それが彼女の限定合理性。

そしてその隙に、全力の一撃を打ち込む。
近距離爆破によって叩き落とし、その落下軌道上にエクトプラズムの刃を形成。
刃を槍のように細くして貫通力を高め――串刺しにする。
まずは完全に身動きを封じ――それでも抵抗するようなら機能停止するまで焼き尽くす。

ザ・フューズはプランを実行に移すべく、ファイアスターターを睨み――そして見た。
ひび割れた美貌、その口元に――邪悪な笑みが浮かぶ瞬間を。

再度響く爆音。
足部、背部の噴射口から迸る爆炎。
生み出された推力がファイアスターターの空中機動を制御する。
ザ・フューズの眼前から、その頭上を飛び越し背後へと移動するように。

ファイアスターターは、アタッシュケースを傷つけられない。
それを逆手に取るという限定合理性を、更に逆手に取られたのだ。
「貴女に出来て、私に出来ない事なんて一つもない」――それを証明するべく行われた意趣返し。

ファイアスターターが今度こそ渾身の蹴りを放つ。
狙いは首。改造人間の装甲と速力であれば生身の人間の首など、容易く刎ね飛ばせる。
五体を砕かれ肺が破裂しなお生きていた理由は未だ不明だが――ならば首だけになっても生きていられるか確かめるまで。

閃く、稲妻のごとき回し蹴り。
常人には決して避け得ぬ一撃。
それ以前に生身の人間では背後へ回り込む空中機動すら見切れない。
ファイアスターターが再びほくそ笑む。

しかし彼女は気付けなかった。
背後に回り込んだが故に当然、見る事の叶わないザ・フューズの表情。
そこに――先ほどよりも更に濃厚な悪意を孕んだ、笑みが浮かんでいる事に。

「予定通りだ」

紡ぎ出された冷酷な呟き。
瞬間、ファイアスターターの視界を爆炎が支配した。

236 :ザ・フューズ :2019/02/04(月) 23:13:37.54 ID:4WOsNvGH.net
己の目前で突如として爆ぜた炎。
その熱は、ファイアスターターにとってはダメージにならない。
その爆風も、やはりダメージにはなり得ない――だが推力には、なってしまう。
空中における姿勢制御を大きく乱す、致命的なオーバーパワーに。

放たれた回し蹴りが、ザ・フューズから大きく逸れて空を切った。
ファイアスターターはそのまま空中ですっ転んだかのように体勢を崩す。

そして――暴力的な金属音。
ファイアスターターの背中から胸へと、エクトプラズムの刃が貫通していた。

237 :ザ・フューズ :2019/02/04(月) 23:14:07.97 ID:4WOsNvGH.net
条件が揃いすぎたのだ。
全速力の回し蹴りの勢いに、ザ・フューズによる爆撃の推力が加わり、更に細く――つまり接触面を小さくする事で貫通力を増した刃。
レオダニスの収集した技術により生み出された、強靭極まる特殊合金による装甲と言えど、耐える事は出来なかった。

「なん……で……」

生身の人間ならば間違いなく致命傷だが、ファイアスターターはステージWの改造人間。
胴体を串刺しにされた状況下においても声を発する事が出来た。

「お前には真似出来ない事もあった。それだけの事だ」

返答と共に、見せつけるように視線を反らすザ・フューズ。
その先にあるのは、足場と防壁代わりに形成されたエクトプラズム・キューブ。

ファイアスターターが注視してみると――その中に、何かが収められているのが見えた。
更に目を凝らせば――それが何であるのかも、すぐに分かった。
まるでホルマリン漬けのように剥き出しの、脳みそと眼球。
百戦錬磨、悪逆非道のファイアスターターの表情が、僅かに引きつった。

「……いや、次からはクローンかスペアの機体でも連れ歩くか?」

愉快そうにほくそ笑むザ・フューズ。
彼女は後天性の超能力者だ。
能力を自在に操る事は出来ず、何年もの間、訓練に訓練を重ねて、やっと二つずつ。
パイロキネシスは近距離、または遠距離における単純な発火現象。

そしてエクトプラズムは、単純なプレートの形成と――もう一つは、人体。
自身をモデルとした人体――それが、ザ・フューズが形成し得るもう一つの物体だった。
五体を砕かれてもなお立ち上がれたのは、体内に予備の『部品』を形成した為。

背後に回り込んだファイアスターターを止められたのは、
周囲のキューブに脳と眼球を――迎撃用の機銃を配備していたが故。
それはつまり使い捨ての、複製された自我。
人道と倫理に著しく反する戦術だが、ザ・フューズは正義の為に手段を選ばない。

「……貴女、ヒーローに向いてないわ」

「なんだ、ヴィランの分際で。随分と生温い倫理観をしてるんだな」

「見た目が最悪だって言ってるのよ、お馬鹿さん」

敗北が決まってもなお、その気位を保つファイアスターターの減らず口、ザ・フューズは笑みを返した。
そして――串刺しにされて身動きの取れないその肩を足蹴にする。

238 :ザ・フューズ :2019/02/04(月) 23:14:26.62 ID:4WOsNvGH.net
「うぁ……が……この……」

「お前との腐れ縁も、ここらで終わりにしたいところだが……
 残念ながら私にはお前を破壊出来るほどの火力はない」

そのまま足裏に全体重をかける。
ファイアスターターの体が、刃により深く突き刺さっていく。
更に無数のエクトプラズム・プレートが、全身の関節を組木のごとく固定。
力の連動と円運動による加速を封じ、万が一の脱出さえ不可能とする。

「だから、せめてここで暫く苦しんでいろ」

完全な拘束が完成すると、ザ・フューズは指を鳴らした。
瞬間、ファイアスターターが炎に包まれる。

「思い知ったか?正義は勝つんだ。このようにな」

ザ・フューズの火力ではレオダニスの改造人間を破壊する事は叶わない。
だが以前、ファイアスターターとは別のヴィランを火炙りにして、気絶させた事ならある。
恐らくは熱暴走か、脳が残っているなら酸欠によって機能が停止させられるのだろう。

ともあれ今度こそ完全な勝利を確信すると、ザ・フューズは地上への階段を形成してそれを下り始めた。

239 :山元 :2019/02/11(月) 23:27:04.96 ID:H3yc1Wnn.net
華奢な少女の身体など一撃で挽肉にできそうな、ロックバインの豪腕。
いやにゆっくりと降ってくる致死の巨大質量を、テスカは回避行動すら取らずに迎えた。
足が竦んで動かなかったからだ。

トランスによる強制的な精神高揚は既に消え失せ、彼女はほとんどただの人。
巨漢を相手に格闘戦を演じた魔法少女の面影はどこにもない。

「や、ば――」

己を待ち受ける運命に認識が追いつかない。
頭を守らんと両腕を掲げるが、それが何になると言うのか。
死が、彼女の首に手をかけた、その刹那。

>「大丈夫デスカ!?」

横合いからロックバインに直撃した飛び蹴りが、彼女の寿命を少しだけ伸ばした。
蹴りの主はNo.14。テスカよりも幼い痩躯が、岩の巨漢を揺らがせる。

「ロボッ――14ちゃん!」

辛うじて喉から出た声が、テスカを救った者の名を呼ぶ。
立て板に水とばかりの饒舌さは、恐怖と恐慌によって失われた。
駆け寄ろうとするテスカをNo.14の細腕が制する。
意識の外から完全な不意打ちを食らってなお、ロックバインは未だ健在だ。
恐るべきタフさ。岩鎧のガードを解く術は今の彼女たちに残されていない。

>「貴方ナニカ探シテイマシタネ!?ココハ私ニ任セテ、ハヤクソレヲ取リニ行キナサイ!」

「で、でもっ……!」

ロックバインから有効打を取るには、魔法少女テスカ☆トリポカの装甲貫徹力が必要不可欠だ。
頭の上では理解できていても、ほぼ生身の状態で敵に背を向けることは、今の彼女にとって恐怖以外の何ものでもなかった。
両足が地面に張り付いているようだ。膝が笑い、立っていることさえ奇跡に近かった。

>「サア!岩男サン!私ガ相手デスヨ!」

しかしテスカの躊躇いなどこの場の誰が忖度するでもなく、戦いは続行する。
ロックバインの、コンクリートに覆われた双眸がぎょろりとテスカを捉えた。

「ひっ――」

そこでようやく、半ば生存本能が身体を無理やり動かして、テスカは振り向き走り出す。
測ったように背後で銃撃音が聞こえた。No.14がテスカを逃がす為にロックバインを引き付けているのだ。

走る。ひび割れた、瓦礫の点在する橋の上に、少女の足跡が刻まれていく。
パイプがどこまで転がっていったのかは分からない。
もしかしたら、亀裂から橋の下へ落ちていってしまったのかもしれない。
地面を注視しながらの逃走は、遅々として進まなかった。

240 :山元 :2019/02/11(月) 23:27:35.58 ID:H3yc1Wnn.net
>「ム・・・?・・・!テスカトリポカ!早クニゲナサイ!」

振り返れば、テスカの足元の地面が波打っていた。
ロックバインが土壌操作を行う予備動作だ。
気づくのが遅すぎた。魔法もまともに使えない今のテスカでは逃げ切れない――

>「アブナイ!」

瞬間、視界の外から何かが飛んできて、テスカをその場から突き飛ばした。
風を巻くその速度とはうらはらに、そっと押しのけるような、やわらかな衝撃。
足をもつれさせたテスカはそのまま地面に転がり、そして見た。
離れた位置で戦っていたはずのNo.14が、先程までテスカの居た場所に立っている。
否、立っているとは言い難かった。彼女の両足は地面に着いていない。

――地面から隆起した棘が胴体を貫通し、モズの早贄のように宙吊りになっていたからだ。
テスカの腰回りほどもある巨大な貫創から、鮮血の代わりに紫電が散った。
胴体を破壊されたNo.14は、だらりと四肢を脱力させてもがく気配すらない。

「14ちゃん!14ちゃん!!……どうして」

どうして?そんなものは決まっている。
彼女がヒーローで、今のテスカは守られるばかりの一市民でしかないからだ。
己の分も弁えない大規模魔法を使い、無力な一般人と成り下がったのは、他ならぬテスカ自身。
No.14の損壊は、テスカが招いた凶事に他ならなかった。

>「テスカトリポカ・・・アナタガ気ニスルコトハアリマセン、
 私ハ私ノシタイコト・・・ナスベキ事ヲシタノデス・・・カラ」

No.14が静かに呟く。まるで今際の言葉だ。
自身の致命的な破損を経てなお、テスカを安心させるように。
電子基板と演算回路から生まれた慈愛は、しかし人の交わすそれを遜色なかった。

人間とロボット、命に値段をつけるなら、無論前者のほうが重要だろう。
ロボットの存在意義とはそういうものであるし、彼女は役目を全うしたとさえ言える。

しかし、No.14がそうであるように、テスカもまたヒーローなのだ。
人命が守られたからロボットは壊れても良いなどと、割り切れるわけがなかった。
もはや言葉は何も出てこず、ただ二筋の涙だけがテスカの頬を濡らした。

>「私コソ・・・役ニ立テズ・・・ゴメン・・・ナ・・・」

それきり、No.14は沈黙。
見開かれたままの両眼のパーツに、テスカはそっと手を這わせて、その瞼を下ろした。

「役立たずなんかじゃないよ、14ちゃん。貴女は誰よりもヒーローだった。それに……」

ヒーローの撃破という戦果に満足したらしきロックバインがゆっくりとこちらに足を踏み出す。
追撃をすぐに放ってこないのは、もはやテスカを倒すべき敵として認めていないからだろう。
活力を消費するテラキネシスなど使わずとも、容易く括り殺せると、そう考えている。

241 :山元 :2019/02/11(月) 23:27:59.79 ID:H3yc1Wnn.net
ロックバインの見立ては、実際正鵠を射ていた。
今なおパイプを拾い直せていないテスカは、やはりただの一般人に過ぎない。
No.14の犠牲の前後で、彼女に違いがあるとすれば、それは――

「ヒーローはまだ、ここにいる」

――覚悟。あるいは勇気。誰かをヒーローたらしめる、最も根源的な意志の炎。
ボディが破損しようとも、自律思考を途絶しようとも、それは確かにそこにあった。
No.14はまだ何も失ってなどいない。
炎は吹き消されることなく、鋼鉄の躯体から魔法少女の胸へと燃え移った!

そして、この場に残るヒーローはテスカだけではない。
土砂雪崩を回避し戦線に復帰してきたリジェネレイターが駆けつけ、ロックバインと格闘戦を演じ始める。
その隙にテスカはNo.14を岩の棘から引き抜き、地面へと静かに横たえた。

>「ぐっ……!」

一方リジェネレイターは、やはり優勢とは言えない。
異能による先読みでロックバインの致命打を巧みに回避してはいるが、
リジェネレイター側も有効打をいなされ続けている。これではどちらかが疲れ切るまで千日手だ。
土壌を操り足場を自在に崩すロックバインを相手に、格闘戦は極端に相性が悪い。

>「――新たなる力を掴み取れ!リジェネレイターversion2.0!!」

だが、リジェネレイターも伊達にプロヒーローではない。
彼のスーツが自己再生とは別のベクトルに蠢き、新たな機能を追加する。
生み出された推進機構は、地に足を着けずとも空中からの連撃を可能とした。
まさにロックバインを相手にメタを張る進化だ。

(そういえば、コアちゃんが言ってたような……)

曰く、リジェネレイターの真骨頂は、先読みや自己再生による耐久力ではない。
その継戦能力によって、敵の能力に対抗する自己進化を生み出せることにある。
すなわち彼は、そのままの意味で、『戦いの中で進化する』ヒーローなのだ。

>「パワーシリンダーッッ!!」

瞬間、二つの影が交錯。
叩き込まれた一撃がロックバインの巨体を吹き飛ばし、彼は瓦礫の中に埋まった。

>「よし、そのまま電源ユニットを触れ。今から構造を解析する……」

「な、治せるの……?」

ロックバインを撃退したリジェネレイターがテスカ達の方へ駆け寄り、No.14の手当を開始する。
こればかりは同じ超科学の申し子に任せるほかはない。
完全に機能停止したかに思われたNo.14が、元通りに復帰できるかどうかは、リジェネレイターにかかっている。

242 :山元 :2019/02/11(月) 23:28:43.57 ID:H3yc1Wnn.net
「リジェネレイター。14ちゃんのこと、おねがい」

そして、テスカとて戦況をただ見守っていたわけではない。
パニックを起こしていた心を落ち着け、冷静に思考を回せば、見えなかったものも見えてくる。
現状を打破する解決の糸口を、彼女は既に掴み取っていた。

第二種特異能力『魔法』は、前述の通り環境に偏在する魔力をパワーソースとする能力だ。
超能力の類とは異なり、魔法の行使を五感によらず観測し、痕跡を確認することができる。
集中して気配を探れば、どこでどんな魔法が使われているのか、魔法使いには知覚出来るのだ。

どこに転がっていったとも知れないテスカのパイプは、彼女が魔法を扱う際の触媒である。
つまり、テスカの魔力が色濃く残っている。
恐慌を来たしていた先程は分からなかった魔力の残滓が、今のテスカになら読み取れる。

テスカはすぐ傍の瓦礫を蹴った。
ごろりと転がった瓦礫の下に、鈍く光る鷲型のパイプが、確かにあった。
拾い上げ、中身を入れ替えて、火を点けて――肺いっぱいに、煙を吸い込んだ。
薬効がトランス状態を引き起こし、太陽神たちの声が再び聞こえるようになる。

『Buddy, you're a boy, make a big noise』

『一時はどうなることかと思ったッピ!――とケツァルは言っている。
 しかし安心にはまだ早いのではないかねレディ。ロックバインは未だ健在、地中から我々を狙っている』

「大丈夫だよ☆ケッちゃん、コアちゃん」

瞬間、コンクリートが再び隆起し、鋭利な棘がヒーロー達を狙う。
リジェネレイターは飛び上がってそれを回避したが、テスカはその場を動かない。
まるで『見えている』かのように、彼女が上体をわずかに揺らしただけで、全ての棘が空を切った。

>「……そうか、地中からまたあの雪崩を引き起こす気か……!」

ロックバインの狙いを看破したリジェネレイターが苦み走った声を上げる。
あの規模の雪崩を再び叩きつけられれば、もはや二度目はない。
テスカにももう一度あのクラスの雪崩を飲み込む地脈開放は使えない。魔力の回路が現界だ。

そしてテスカ自身、あのような力技に頼るつもりは、毛頭なかった。
トランス状態にあってなお、彼女の心は水面のように静かだ。

「ケッちゃんコアちゃん。『大地の結晶』、行くよ」

生成し直したマクアフティルを、地面へ強かに叩きつける。
木剣を通して伝播した魔力が、波紋の速度でアスファルトを駆け巡った。

リジェネレイター、そしてNo.14との断続的な戦闘によって、ロックバインは少なからぬダメージを負っていた。
それは生身の肉体を傷つけ得るものではなかったが、身を護るための岩鎧は見た目以上に破損している。
損傷を癒やし、従来のタフネスを取り戻すために、彼は再び土壌操作で岩鎧を形成し直した。

――テスカが戦場にばら撒き続けた、黒曜石の破片入りの土砂で。

魔法使いは、感覚を研ぎ澄ませることで五感に頼らず魔法の残滓を感知することができる。
テスカには、黒曜石入りの鎧を纏ったロックバインがどこに隠れているのか、手に取るように分かった。

243 :山元 :2019/02/11(月) 23:29:00.01 ID:H3yc1Wnn.net
「いい加減に――出てきなさいっ☆」

地中に生成され、爆発的に膨張した黒曜石が間欠泉の如く地表に吹き出る。
漆黒の剣山と化した巨大な黒曜石の塊が押し上げ、宙に放り出したのは地中に居たロックバイン。
寄る辺なき空中で、岩造りの巨漢が水揚げされた魚のようにもがく。
身にまとった岩鎧、その中に混じる黒曜石が爆ぜて剥離していく。

「もう地面には戻らせないよ!月の光に照らされて……汚い花火になっちゃえ☆」

打ち上げたロックバインは、しかしそれでも未だ戦意を維持している。
仕留めきるには、自由落下で地面に潜り込まれる前に火力を集中させるほかない。

追撃の手段を、テスカ☆トリポカは持ち合わせていなかった。
しかし、今この場で、彼女にそんなものは必要なかった。

「――14ちゃん!」

繰り返しになるが……ここにいるヒーローは、テスカだけではないのだから。


【パイプを取り戻して魔法少女復活。潜ったロックバインを探り当てて空中にかち上げる】

244 :K-doll No14 :2019/02/15(金) 10:41:13.96 ID:NrXjtwp8.net
メインの電源を失ったNo14は予備電源を起動させる。
だが予備電源の力だけでは記憶データを保護したり、周りの状況を確認してヒーロー協会に送信したりする事ができる最低限の機能しか使えない。

ザ・フューズは大丈夫でしょうか。
彼女の作った絶好のチャンスを無駄にしてしまった。
ここからでは様子が伺えない、そんな事を考えているとリジェネレーターが近寄ってきました

>「No14を直すぞ」

私に構わないでください、私は足手まといにはなりたくありません。
そう口を動かそうとしても動きません。

>「おいおい、聞いてねぇぞこんな情報!格闘戦まで出来ちゃうのかよ!」

どうやらリジェネレーターは苦戦している様子。
私を気にしながら戦っていなければもっと状況は違ったでしょう。
なんて私は無力なんでしょうか。

>「……そうか、地中からまたあの雪崩を引き起こす気か……!」

>「完全に時間稼ぎされてんじゃねーかっ。version2.0にドリルも実装しときゃ良かったな!
 今度またあれが襲ってきたら近隣の被害込みでただじゃ済まないぞ!?」

こんどこそロックバインのあの技がきたらここにいる全員、いや橋の先にいる人々も危ない。
それに頼みの綱であるテスカトリポカにこれ以上無茶をさせるわけにはいかない。

私はここで見ている事しかできないのですか。

・・・いや一つだけ方法がある。
今の私が役に立つ方法が。

245 :K-doll No14 :2019/02/15(金) 10:41:51.15 ID:NrXjtwp8.net
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
「No14、驚かず聞いてくれ、君の体には心臓のような腫瘍のような・・・得体の知れない物がある」

3年前ヒーローとして初仕事が始まる前日にヒーロー協会の技術者に言われ、自分の体の中の写真をみせられた。

「これは自我が目覚めた機械に発生する〔アイアンハート〕現象でね、表向きは自我ができるという事になってるけどね、実際の名前の元はこの鉄の心臓のような物が体にできる事からなんだ」

技術者は混乱を招く可能性があるから一般に公表はしていない事、この事をしっているヒーローからはそれで差別を受ける可能性。
そしてこの心臓の事は今のメトロポリスの科学力でも分析することができないという事を教えてくれた。

「デモコノ心臓?ハ特ニ悪サシナイノデショウ?現ニイママデナニモアリマセンデシタヨ」

「いや実はね・・・」

そういうと技術者の男は過去に扱ったアイアンハート事件に関する書類を取り出しNo14に手渡す。

「コノ現象ハ対象ノ能力ヲ強化スル事が確認サレタ・・・?」

「そう、この現象は本来対象が持たない能力をもたらしたり・・・例えば喋る機能がないロボットが喋れるようになるとか、単純に機能を向上させるなどの現象が確認できているんだ。」

No14がすごい!と喜んでいると技術者の男は困り顔をしながら一枚のとあるロボットの事が書かれた紙を取り出す。

「ウーム随分古い工事用ロボットデスネ?」

「彼・・・といっていいのかな、ともかくこの機械の彼はとある工事現場で働いていたロボットだったのだが、新型の登場によりお役ご免になって不法投棄された。」

悲しい事だが日々進化しているメトロポリスならよくある出来事だろう。
捨てずに違うところに回せないのだろうか?などと見当違いな事をNo14が考えていると。

「彼は数え切れないほどのロボットが捨てられた場所で自我に目覚めた。」

ここから復讐の話になるのだろう、そんな場所で、状態で自我に目覚めたらだれもが自分を捨てた奴らへの復讐を誓うだろう。

「でも彼は人間を恨む事なく自分の価値を証明したい。またみんなと仕事がしたい、とそう考え、そして願ったんだ。」

一見いい話に聞こえる、だが手元の紙にはこのロボットは作業員11人を殺害して処分された、とそう書いてある。
話が見えない、なぜそう思ったのに殺害に繋がるのか。

「アイアンハートから与えられた力は本来の性能を超えた力を発揮できる・・・がその影響か暴走してしまうんだ」

「暴走?カナリ雑ナ説明デスネ?」

「心臓自体謎だらけだし暴走したロボットを捕獲して記憶データを覗いてみたが心臓の力を与えられた前後の記録が消失してしまっていてね、だから調べようがないんだ。・・・だから一纏めに暴走と呼んでいる」

「君は喋ることも、戦闘を卒なくこなすだけの能力がある、心配ないとは思うのだが念の為伝えておこうと思ってね・・・」

「心配アリマセン!私ハソンナモノナクテモ!パーフェクトナノデ!」

----------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:1341adc37120578f18dba9451e6c8c3b)


246 :K-doll No14 :2019/02/15(金) 10:42:27.88 ID:NrXjtwp8.net
この心臓の力を借りればこの絶望的な状況もひっくり返せるかもしれない。
だが、余りにも分が悪い賭け。
最悪この場にいる全員だけではなく街の人達にも被害が及ぶかもしれない。

でもこのまま全滅するのを眺めてるのを指を咥えてみているだけならいっそ。

>「リジェネレイター。14ちゃんのこと、おねがい」

なにを考えていたのだろう。
この場にいるヒーローは一人じゃない。
なぜ私はまるで全滅する事前提で考えていたのか。

リジェネレーター・ザフューズ・テスカトリポカ彼らは決して無力な・・・こんな事で心折れるヒーロー達ではない、そんな事わかっていた筈なのに。

(私ハナンテ愚カナノデショウ)

今私がすべき事はこの場に新たな混乱をもたらす事じゃない。
彼らを・・・彼女達を信じる事なのだ。
人間の力を信じる事なのだ。

(ミナサンガンバッテ)

No14が最後の電力を使い果たし完全にシャットダウンする直前。
ロックバインの棘にやられた部位に今まで感じた事のない不快感を感じた。

(コレハ・・・コノ感ジハ・・・!?)

製造されてから感じた事のない現象。
だがNo14には自分の身になにが起きているか、No14の好奇心から得た知識のお陰か、それとも自我をもってしまったが故の本能か、理解できてしまった。

(痛イ・・・熱イ・・・!)

想像絶する激痛に動かないと理解していても抵抗を試みる。
しかし体は動かず、なにが起こっているのか自分の体を診断することもできず、逃げ場のない激痛がNo14の神経をすり減らしていく。


私の身に起きてるこれが心臓の力?発動条件は力を願う事ではなかったのか。
私がこの痛みから解放されたいと願うほど自分が自分でなくなっていくような感覚がある。
つらい、この痛みから解放されたい、意識を手放してしまおうか。

>「ケッちゃんコアちゃん。『大地の結晶』、行くよ」

テスカトリポカが、みんなががんばってるのに私だけ負けるわけにはいかない、そうわかっているのに。
負けるわけには・・・まける・・・わけには・・・。

だが増ししていく痛みに抗う術もなく。
No14の奮闘空しく意識は闇に飲まれていった。

247 :K-doll No14 :2019/02/15(金) 10:42:50.56 ID:NrXjtwp8.net
規制回避

248 :K-doll No14 :2019/02/15(金) 10:43:31.95 ID:NrXjtwp8.net
No14はよろよろと立ち上がる。
ロックバインにやられた傷は完全に直っていた。
その他に異常ないか体全体を動かし確認し、問題ない事を確認すると小さい声で呟く

「私ニ不愉快ナ思イヲサセタアレハ殺ス」

>「いい加減に――出てきなさいっ☆」

潜ったアレを引きずりだす為に歩を進めようとしたその時
奇抜な格好をした、仮面を付けた少女の魔法によって岩のような男が地面から弾き出される。

>「もう地面には戻らせないよ!月の光に照らされて……汚い花火になっちゃえ☆」

少女の攻撃によって勢いよく空に打ち上げられ、岩の鎧が剥げながらも必死に抵抗している。

「コレハ好都合デスネ」

>「――14ちゃん!」

少女がだれかの名前?を叫ぶ。
だれかに獲物を取られてたまるか、こんな好機を逃すわけがなかった。

「覚悟シテクダサイネ――――放電開始」

No14の体が雷を帯び始める。
時間が立つほど纏う雷の量が増えていき、そしてその力を手に集結させていく。
岩男が尋常じゃない異変に気づき鎧を急速に再生させていく。

「ソンナノデ本気デ防ゲルト思ッテルナンテ!チョット甘イデスネ?【アタックプログラム;ブレード】」

左手を変形させ右手に直視する事もできない眩い光を纏わせる。
そして両手を上空にいる岩男に向ける。

「呼吸ノ手間ヲ省イテアゲマス」

まずブレードを射出。
そしてそのブレードが急造の岩の鎧を貫き、そしてその先の生身の部分に突き刺さり、そしてその場所目掛け。

「シネエエエエエエエ!」

一瞬。
ほんの一瞬、夜の明るいメトロポリスの全てが光で包まれるほどの強烈な電撃が発射され。


そして勝負が付いた。

249 :K-doll No14 :2019/02/15(金) 10:44:00.88 ID:NrXjtwp8.net
地面に落ちてきた岩男は死んでおらず辛うじて呼吸していた、拍手をしながら岩男に近寄る。

「今ノデ死ナナイナンテ!」

仰向けに倒れた岩男は瀕死の状況にありながら私を睨みつける。
こんな瀕死の状況でまだ反逆の意思があるなんて、なんて素晴らしいのでしょう。

一体"コレ"はどれだけ私を不快にすれば気が済むんだ。

不愉快極まりない、私の体を傷つけておいてまだ生きてるなんて。
手でブレードを勢いよく捻りながら岩男の体に押し込み、足で顔面を全力で踏みつける。

「・・・サッサト死ンデイタダケナイデショウカ?私モ気ガ長イ方デハナイノデ」

不愉快な顔を何度も、何度も、何度も踏みつける、死ね、しね、シネ。
踏み続けていると後ろがだんだん騒がしくなる。
うるさい、ウルサイ、ジャマをするな。

「アナタタチハ一体ドコノドノタデショウカ?見テノ通リ私ハ忙シイノデ邪魔シナイデ頂ケマスカ?」

後ろの外野は騒ぐことを止めずなにかを言ってくる。
なるほどこいつら岩男の仲間か。

「貴方達コイツノ仲間デスネ?ナラ排除シナケレバイケマセンネ」

踏みつけるのを中断し、一番近い少女の方に近づく。
顔は分らないが身長や声で低い年齢という事がわかる、こんな子供がこんな奴の仲間だなんて。

「言ウ事聞キカナイガキハ殴ッテキカセリャイイ・・・デシタヨネ、ドッカデキキマシタ」

私は拳を握り締めテスカトリポカに狙いを定め・・・・・・?。
なぜテスカトリポカに向けて攻撃を?。
目の前の少女がテスカトリポカだと気づいた瞬間、体全体から力が抜けて、地面に倒れこむ。

「・・・私ハ・・・一体ナニヲ・・・?」

周りを見渡すと場所が変わっていない。
だが傷は完全に塞がっている。
うーむだれかが直してくれたのでしょうか、ま、深い事考えるのはやめましょう。

「ソウデス!ヴィランハ!ヴィランハドウナリマシタカ!?」

よくみると黒こげのロックバインが倒れていた。

「流石デスネ!私ハ完全ニ寝テタダケナノガオハズカシイデス!オ役ニタテズ申シ訳アリマセン!」

・・・・・?周りの反応がおかしい。
たしかにこのメンバーの中に相手を黒こげにするような能力はいなかったはず、私の情報が間違っていなければ、だが。
であればこれはだれがやったのか、他のヒーローはこの近くには存在していない、他のヴィランもいない。


ロックバインの体に突き刺さってるのは紛れもなく私の・・・

250 :K-doll No14 :2019/02/15(金) 10:44:21.40 ID:NrXjtwp8.net
――――――私?

今までの記憶が一気に流れ込んでくる、自分ではないが、間違いなく自分の記憶。
これは少なくとも私ではない、いや私だが私じゃないでもたしかに私だ。
電流を外に放出する事などできない、しかもあの規模、しかも私はあろう事が相手を殺害しようとしていた。
間違いなく自分の意思で実行していた、少なくとも私じゃない私は。
自分で自分が急激に恐ろしくなる。

「私・・・私ハ・・・」

No14は心臓の力に、なぜ自分は記憶を覚えてしまっているのか、次いつこの現象が起こるのか、次は取り返しが付かない事になるのではないか、"次"があるのか、私は本当の私なのか?。
ただ怯えることしかできなかった。

【暴走してロックバインを倒す。寸での所で味方への攻撃を踏みとどまる】

251 :神籬明治 :2019/02/25(月) 22:11:38.57 ID:XkWf1m5R.net
地面に潜ったロックバインを引きずり出す手段はリジェネレイターにはない。
万事休すかと思われたその時、復帰した魔法少女が静かに呟いた。

>「ケッちゃんコアちゃん。『大地の結晶』、行くよ」

木剣マクアフティルを地面に叩きつけ、魔力がアスファルトを駆け巡る。
リジェネレイターが目撃したのは黒曜石に押し上げられ宙を舞うロックバインの姿だ。
身動きの取れない空中で纏っていた土の鎧が爆ぜて剥離していく。

「今までの攻撃は全て布石。周囲に黒曜石を撒き、
 ロックバインの纏っている鎧に潜り込ませるためか……!」

合点がいったリジェネレイターは驚嘆の声を上げた。
敵の策略の盲点を突いてのコンボの断絶、防御手段の除去。
これだけのことを一手でやってのけたテスカ☆トリポカの実力。
第二種特異能力『魔法』の力もさることながら、恐るべき応用力だ。

見ればNo14も覚束ない様子で起き上がり、勝負はいよいよ決着に向かおうとしていた。
無論、完全かつ問答無用に――ヒーローの勝利によって、だ。

>「私ニ不愉快ナ思イヲサセタアレハ殺ス」

だが、"ヒーロー"であったはずの14の姿は、そこになかった。
リジェネレイターは超能力"共感覚"によって感情が読める。
それは自我が目覚めたロボットとて例外ではない。
今まで感じていた優しい、暖かな感情が今の14にはまるで感じられなかった。

「No14……?」

「お、おい……どうした14ちゃんよ。いきなりキャラチェンなんて冴えないぜぇ」

相棒の動揺を察したオービットもまた動揺した。
だが彼らの動揺が落ち着くのを待ってくれるほど戦いは緩やかではない。

>「もう地面には戻らせないよ!月の光に照らされて……汚い花火になっちゃえ☆」

黒曜石にかちあげられて自由落下するロックバインだが、
未だ戦意を喪っておらず、その感情は揺るぎない戦闘の意思に満ちている。
決めるなら地面に潜らせる前に倒す――すなわち空中でケリをつけるしかない。
だが黒曜石を生成し地面を起点に戦うテスカ☆トリポカに空中戦は難しい。

>「――14ちゃん!」

信頼をもって呼んだロボットヒーローに果たして以前と同じ気持ちがあったのだろうか。
獲物を見つけた捕食動物のごとく獰猛に、14は身体に光を帯びさせ、手を一振りの刃に変えた。

252 :神籬明治 :2019/02/25(月) 22:12:53.04 ID:XkWf1m5R.net
No.14は手始めにブレードを射出。
刃が生身を貫いて、その箇所目掛けて電撃を放つ。

>「シネエエエエエエエ!」

目映い光が夜のメトロポリスを貫き――。勝負は決した。No14の手によって。
No14は辛うじて生存していた半死半生のロックバインの顔面を踏みつける。

>「・・・サッサト死ンデイタダケナイデショウカ?私モ気ガ長イ方デハナイノデ」

「どうしちまったんだよNo14!もう戦いは終わった。そんなことする必要はないんだ!」

「落ち着け、オービット。No14は尋常の状態じゃない。
 今の彼女には敵に対する強い不快感と敵意。それしかないんだ」

激しく腕の端末を明滅させていたオービットが黙り込んだ。

>「アナタタチハ一体ドコノドノタデショウカ?見テノ通リ私ハ忙シイノデ邪魔シナイデ頂ケマスカ?」

感情と言動から類推するに目の前のNo14は今までのNo14ではない。
それがリジェネレイターの出した結論だった。

>「貴方達コイツノ仲間デスネ?ナラ排除シナケレバイケマセンネ」

不穏な言動と共にテスカ☆トリポカに近付いてくる。
これがさっきまでのNo14なら、何でもない出来事だっただろう。
でも今は違う。リジェネレイターは咄嗟に二人の直線上に割って入り、立ち阻んだ。
いざという時、仲間を守るために。

……幸いにしてリジェネレイターの心配は杞憂に終わった。
No14は突然地面に倒れ込むと突然起き上がりいつもの様子を取り戻していた。

>「流石デスネ!私ハ完全ニ寝テタダケナノガオハズカシイデス!オ役ニタテズ申シ訳アリマセン!」

253 :神籬明治 :2019/02/25(月) 22:13:50.18 ID:XkWf1m5R.net
電撃を浴びて焼き過ぎたトーストのようになったロックバインを眺めて、14はそう言い放った。
自分以外の誰かが見事な手腕でヴィランを倒したのだと思い込んでの発言なのだろう。
だが土の鎧を貫いているのは紛れもなく彼女が腕から生やしていたブレードだ。
リジェネレイターも彼女の変容ぶりに当惑するしかなかった。

>「私・・・私ハ・・・」

口下手なリジェネレイターに、この場を上手くまとめる能力はない。
ただ黙り込んで様子を窺うばかりだ。オービットも余計な一言を喋りそうなので口を噤んでいた。
程なくして、数台の警察車両とヒーロー協会の公用車が到着した。
制圧した二名をヴィラン専用の特別な留置場に送り届けるため、オービットが手配したのだ。

火達磨の上酸欠になったファイアスターターと、電撃と刺し傷で半死半生のロックバイン。
手酷い傷を負った二人を警察が拘束して、車両の中へと運んでいく。

「終わった、な。とりあえずはだけど……そうだ。
 折角だしファイアスターターが運んでた荷物をご開帳してみるか。
 ヤクとかハジキなら大したことないけどどうせもっとヤバイブツなんだろ?」

オービットはいつもの調子で機械音声を発した。
このナノマシン制御用AIは限りなく人間に近く出来ている。
きっとさっきの出来事を早く払拭したいのだろう。

リジェネレイターはザ・フューズの下まで近付くと、
空中のプレートに固定されているケースを渡してくれるように頼んだ。
内容物次第ではヴィラン二名を尋問する必要も出てくるだろうし、戦いも終わりではないという事になる。

「それにしても一人でヴィランを倒しちまうとは。ザ・フューズ、侮れない奴だ。
 こっちは岩男相手にひぃひぃだったのに。今の内にゴマすっとくかリジェネレイター?」

オービットの軽口を無視してケースを開けた。
中に入っていたのはチェレンコフ光のような青白い光を放つ立方体だった。
ちょうど片手に収まるサイズで、何かのオブジェ以上の感想は出てこない。

「随分派手な置物だ。ヴィランもインテリアには気を遣うんだな」

「黙って解析してくれないか」

254 :神籬明治 :2019/02/25(月) 22:14:37.37 ID:XkWf1m5R.net
左腕の端末から触手のように端子が伸びて立方体に触れた。
オービットの即席の解析結果、何も分からないということが判明した。

「駄目だ。手も足も出なかった。少なくともそいつを構成している物質は地球には存在しない。
 何のために作られたのか、どう使うのか……。それはヴィラン二人にに聞くしかねぇな。
 生憎二人ともあんな状態だから今すぐには無理だろうけど……」

No14の変貌ぶりの気を紛らわせるように、
何かをしてやりたかったが、今この場でやれる事はもうなさそうだ。
つまり、いったんお開きということである。

「俺達はもう帰るぜ。そいつの調査はヒーロー協会に頼んどくか。
 もしかしたらあいつらの所属してる組織が釣れるかもしれないしな……」

「今日は助かった。ザ・フューズ、テスカ☆トリポカ……それにNo14。
 また何処かで会おう。その時は今晩の借りを返させてもらう」

オービットとリジェネレイターはそれぞれ一言話すと、
スラスターを吹かして夜のメトロポリスに消えていった。

―――――……

数日後。今日も今日とてメトロポリスは日常の影に悪意を孕み、
ヴィランが虎視眈々と悪事の発散を狙っていた。
六代目リジェネレイターこと神籬明治にとってここは狂気の祭典。

共感覚能力者にとって、悪意を感じるのはとてもストレスだ。
メトロポリスにいるだけで彼はとても気が滅入ってしまう。
そんな彼だから幼い頃は身体が弱いなどとよく勘違いを受けたものだ。

お昼前、四限目の授業の時間だが、教室内の人はまばらだ。
無理もあるまい。ここはメトロポリスに存在する公立学校のひとつ――。
いつも教室内の空気は悪く、遂には学級崩壊を起してしまったのだ。
今やこのクラスに足を運ぶ生徒は片手で数えるほどしかいない。

255 :神籬明治 :2019/02/25(月) 22:15:47.27 ID:XkWf1m5R.net
昼休みになると神籬は購買で購入したあんぱんを片手に屋上へと乗り出した。
口下手で友達が少ないのもさることながら、オービットが喋りたがって仕方ないので
人目につかない場所へ逃げる傾向が彼にはあったのだ。

「思うんだけどさぁ、高校に行く意味ってある?
 お前が正式にヒーローになるまでの時間潰しじゃん」

AIの癖に不良染みた論理を堂々と披露したオービットは、神籬に窘められた。
あの日以来、ファイアスターターとロックバインに関する続報は一切ない。
何もないという事はあれで一件落着という事で良かったのだろう。
それにしてはしこりが残る出来事ではあったが。

「なんだよ、まだNo14の事気にしてんのか。いいか、明治。
 『アイアンハート現象』に関して俺達に出来ることはないんだ」

あれからNo14について幾つか分かったことがある。
彼女が自我を持つに至った経緯の事や、
アイアンハートに目覚めたロボットには暴走の可能性が付き纏う事を。
あの時神籬たちが目撃したのは、紛れもなくアイアンハートによる暴走現象だったのだろう。

「ドクターカンナギもお手上げだってさ。
 ざっと調べてくれたらしいけど何も出来ることはないって」

「……そうか」

神籬は怪訝そうに眉を寄せた。
オービットの14に対する一種冷徹な対応が原因ではない。
内地側に苦しみや尋常ではない激しい感情の高ぶりを感知したからだ。
場所はちょうどヒーロー協会の本部がある場所。

まさか、何人もの正式なヒーローが常駐する協会が襲われたとでも言うのか。
無論、前例がない訳ではない。だが不思議なことに悪意を感知できない。

「……オービット」

「何だよ藪から棒に?」

「今日の午後は俺達も休むしかないようだ……!」

オービットの返事も待たずに腕時計型端末を起動してスーツを展開。
腕時計より生成されたナノマシンが神籬明治の身体を覆っていく。
秒間0.2秒でリジェネレイターへの変身を終えると、スラスターを吹かして校舎の空を飛んだ。

256 :神籬明治 :2019/02/25(月) 22:17:15.03 ID:XkWf1m5R.net
メトロポリス内地、ヒーロー協会本部。
摩天楼とでもいうべき高層ビルディングに存在するヒーロー協会本部。
ここにはヴィランや非合法組織の情報が集まり、日々その動向を探っている。
その本部のビルに、黒い装甲を纏った巨大な機械が何十体も張りついていた。
機械は蜥蜴のような外観にあらゆる武装を内蔵したロボットだ。

「リジェネレイター、協会の支部から詳細が届いた。
 一人のヴィランが大量のロボットを連れて襲撃を仕掛けて来たみたいだ。
 常駐しているヒーローは返り討ちにあったとみていいってよ。生存の確認も取れてない」

「ロボットは確認した。あの蜥蜴型がそうだな」

「気をつけろよ。改造人間と同じアダマス合金製で並みのヒーローじゃ傷一つつけられねぇらしい。
 ……正確には竜型対人殺戮兵器『ニーズヘグ』って言うんだが……名前長いよな」

「了解した」

敵性兵器をHUDのレーダーで捉えたリジェネレイターはひとまず門前の影に隠れることにした。
数が違い過ぎるため強行突入しようにも迂闊に行えないと判断したのである。
ここは他のヒーローの到着を待ち、協力して行動するのがベストだろう。

「オービット、ヴィランの目的は?」

「ヴィランは俺達が入手した例のケースの返還を要求しているみたいだ。
 あれは『タイムキューブ』っていう時間を自在に跳躍できる代物だったみたいだな」

事もなげにオービットは説明したが、
技術的特異点の産物がその辺に転がっているのは今に始まった事ではない。
おおむね宇宙人や魔術師の産物だったりする訳だが、その度にヴィランとヒーロー間で争いが起きて大変な事になる。

「ヴィランの名は『アンチマター』。簡潔に説明すると、
 時間旅行の研究中、タイムリープに成功してこの時代にやって来た『未来のヴィラン』だ。
 間の抜けた話だけど偶然成功したもんだから帰り方が分からなくてこの時代に居ついたっていう迷惑な話だ」

それからオービットは彼の犯罪歴を語ってくれた。
ヒーロー活動の妨害に始まり、ヴィラン同士の抗争を意図的に引き起こしたり、
非合法組織を乗っ取ったり、反物質爆弾を仕掛けてメトロポリスを吹き飛ばそうとした全科がある。
だが、本人曰く彼の行動は全て『正義』から来る善意であり、悪意は一切ないのだという。

「詳しいな。なぜそんなに知ってるんだ?」

「……あいつは二代目と五代目を殺ってるからな」

苦々しい呟きを聞くや、蜥蜴あらため竜型ロボットが動きを見せた。
目を爛々と光らせ、獰猛な鋼鉄の犬歯を剥いてこちらへ近づいてくる。

「気をつけろ、感情の読めないロボットに攻撃の予兆はないぞ!」

ニーズヘグは頑丈そうな分厚い装甲を変形させた。
中身からせり出してきたのは――巨大な機銃だ。
機銃はマズルフラッシュを焚きながら轟音を上げ、弾丸を吐き出した――!


【ヒーロー協会に襲撃あり。現場へ急行するも発砲される】

257 :ザ・フューズ :2019/03/01(金) 06:12:29.68 ID:9QmeoeW7.net
【突然で申し訳ないんだが、このターン……というかこれ以降、私の順番を最後尾に回して欲しい。
 つまりテスカ☆トリポカ、No14に先に動いてもらいたい。
 理由はと問われれば、諸事情で、としか答えられないが、どうかお願いだ】

258 :魔法少女テスカ☆トリポカ:2019/03/01(金) 10:19:35.77 ID:R1Krk8y+.net
【よろしくてよ。では次は私が書きましてよ】

259 :K-doll No14 :2019/03/01(金) 12:34:53.14 ID:iiA9DS1R.net
【了解です】

260 :神籬明治 :2019/03/01(金) 21:31:43.19 ID:3772V4wa.net
【わかりました!】

261 :山元 :2019/03/04(月) 00:12:33.25 ID:WySYUIx1.net
空中に放り出され、もはや逃げ場を失ったロックバイン。
勝負を決する追撃を、テスカは背後へ求めた。
穿ち貫かれ、しかしリジェネレイターの助力によって復帰できたであろう、No.14へ。

>「覚悟シテクダサイネ――――放電開始」

果たせるかな、応える声が聞こえた。
しかしテスカはビクリと肩を震わせて振り返る。
背後の声は、彼女の知る無機質ながらも慈しみに満ちた合成音声ではない。
内包する感情を丸ごと憎悪にすげ替えたような、底冷えのする恐ろしい声。

>「ソンナノデ本気デ防ゲルト思ッテルナンテ!チョット甘イデスネ?【アタックプログラム;ブレード】」

振り向いた先に居たのは、確かにNo.14だった。
傷は完全にふさがり、被弾前と遜色ない五体。
だが、魔法使いであるテスカの第六感は看過できない違和感を告げた。
違う――これはNo.14ではない。形だけ似た、別のなにかだ。

>「シネエエエエエエエ!」

No.14の生成したブレードが、槍投げの要領で空を射抜く。
ロックバインが急ぎ再生した装甲ごと、彼の肉体を貫いた。
まるで意趣返しとばかりの一撃を見舞って、しかしNo.14の追撃は終わらない。
急速に高まりつつある電圧が、大気の電気抵抗を凌駕して火花を散らした。

『これはいけない。レディ、両眼に遮蔽を。まともに浴びれば光を失うことになるぞ』

瞬間、メトロポリスの端まで届かんばかりの閃光が瞬いた。
光の正体は、落雷もかくやの高圧電流。ロックバインに刺さったブレードを避雷針に、夜空を染め上げる。

「きゃっ……!」

コアトルの警告が辛うじて間に合い、テスカは両眼を両腕で覆っていた。
至近距離で放たれた電流の余波は彼女の身体を容易く突き飛ばし、テスカは再び尻もちを突く。
おそるおそる眼を開ければ、全てが終わっていた。

地に墜ちたロックバインは黒焦げ。甲殻はずたずたに引き裂かれ、隙間から黒煙を上げている。
辛うじて絶命は免れたらしく、浅いながらも呼吸があった。
それでも、勝負は決した。瀕死のロックバインに抵抗の術などあるはずもない。
誰がどう見ても終わりを迎えた戦いに、しかしNo.14はまだ納得していないようだった。

>「・・・サッサト死ンデイタダケナイデショウカ?私モ気ガ長イ方デハナイノデ」

伏せるロックバインに歩み寄り、ストンピングの雨を降らせる。
流石のテスカも起き上がり、泡を食ってNo.14に駆け寄った。

「すとっ……ストップ!ストップ14ちゃん!これ以上はヤバイって!免許なくなっちゃうよ!」

ヒーローはその活動において、限定的ながらヴィランの殺害を許容されている。
暴れるヴィランを無力化する過程で殺してしまうことなど珍しくもない。
だがそれはあくまで『不可抗力』の範疇だ。
殺さなければ迅速に無力化できない場合にのみ認められる殺害である。

ヒーローは、ヴィランを殺すことが目的ではない。
ヴィランを無力化して街の平和を守ることに本質があり、殺害は"やむを得ず"行うものだ。
既に交戦意志のないヴィランを殺したとあっては、ヒーローとしての資質を問われる事態になる。
現場の状況次第では、ヒーロー資格の剥奪さえありえるのだ。

262 :山元 :2019/03/04(月) 00:13:00.57 ID:WySYUIx1.net
>「どうしちまったんだよNo14!もう戦いは終わった。そんなことする必要はないんだ!」

同様にリジェネレイター(の相棒)もNo.14を制止する。
テスカとてヴィランを死に至らしめた経験はあるし、隙あらば心臓を掠め取ろうとはしている。
しかし今はタイミングが悪い。決着がついてしまった以上、必要以上の攻撃は違法行為になりかねない。
違法行為は……駄目だ。

共闘した二人の説得を背中越しに聞いて、No.14は静かに振り返った。
ロックバインに向けられていたのと同じ、あの冷酷な眼光が、テスカ達を射抜いた。

>「アナタタチハ一体ドコノドノタデショウカ?見テノ通リ私ハ忙シイノデ邪魔シナイデ頂ケマスカ?」

「14……ちゃん……?何言ってるの?」

まるで初対面のような対応に、テスカは面食らった。
姿形は同じでも、つい先程まで命がけでテスカを救ってくれた彼女の面影はどこにもない。

『Amazon.com. All rights reserved』
『胴体ブチ抜かれた衝撃でバグってるッピ!――とケツァルは言っている。
 No.14は駆動中枢を修復されたばかりだ。バックアップデータの再インストールに時間がかかっているのかもしれない』

「それって直るの?」

『結論は出せない。No.14はロボットの中でも例外の存在だ。
 スタンドアロンで動いているのなら、そもそもバックアップをとっていない可能性もある。
 もとより彼女は"バグって"ヒーローになった、殺人ロボットだ。
 破壊と修復の影響でそのバグが取り除かれ、元のヴィランに戻ったとしても不思議はない』

「そんな……」

絶望が口をついて出た。
No.14の、鋼に包まれた日溜まりのような優しさや慈しみが、失われてしまう。
それはテスカにとって耐え難い想像だった。
そして、懸念事項は未来のことだけではない。No.14は敵意に満ちた視線でテスカ達を睨めつける。

>「貴方達コイツノ仲間デスネ?ナラ排除シナケレバイケマセンネ」

一歩、No.14が踏み出した。
同時にリジェネレイターが彼女とテスカの間に割って入る。

「リジェネレイター……」

リジェネレイターは異能で敵意や害意を事前に察知できる。
その彼がこうしてテスカをかばうように立ち塞がったということは、
No.14にテスカ達を害する意志があるという、何よりの証左だった。

263 :山元 :2019/03/04(月) 00:13:42.33 ID:WySYUIx1.net
>「言ウ事聞キカナイガキハ殴ッテキカセリャイイ・・・デシタヨネ、ドッカデキキマシタ」

「どこで聞いたのそれ!絶対ヴィランだよそいつ!発言が既に邪悪だもん!」

No.14が拳を握り、振りかぶる。
テスカはどうして良いかわからず、ただ身を縮こませた。
しかし、害意を察知できるリジェネレイターは動かない。
その理由は、拳を握ったまま前のめりに倒れていく、No.14自身にあった。

「14ちゃん!」

地面に激突する寸前でNo.14は足を踏み出しこらえた。
ゆっくり顔を上げ、きょとんとした様子で回りを見回す。

>「・・・私ハ・・・一体ナニヲ・・・?」

その口調と、なにより視線に、先程までの敵意はない。
まるで霧が散るように、彼女の身体から毒気が消えていた。

>「ソウデス!ヴィランハ!ヴィランハドウナリマシタカ!?」

「あー……えぁっと……アレ」

唐突すぎる変化に若干ついていけないながら、テスカはNo.14の背後を指さした。
ロックバインを黒焦げにした張本人は、

>「流石デスネ!私ハ完全ニ寝テタダケナノガオハズカシイデス!オ役ニタテズ申シ訳アリマセン!」

「14ちゃん、覚えてないの……?」

ほんの数分前に自分があれをやったと、No.14は理解していないらしい。
だが、動かぬ証拠がある。ロックバインに突き刺さっているのは、他ならぬNo.14の剣だ。
彼女もそれを見つけて、そして頭を抱えた……ように見えた。

>「私・・・私ハ・・・」

苦悩するNo.14にかける言葉が見つからない。
酸素不足の金魚のように口をパクパクさせたテスカは、助けを求めて横のヒーローをチラ見した。

(なんか言ってよリジェネレイター!)

リジェネレイター、まさかの沈黙。
好き勝手喋りまくるデバイスのスピーカーまで塞ぐという徹底ぶりだ。
沈黙は金雄弁は銀とか最初に言い出した奴は一体誰だ。心臓えぐり出すぞ。

『君が納得しないという前提で、一応の忠告をしておくよレディ。
 これ以上あのロボットと関わるのはやめるべきだ。次またいつ暴走するとも知れない。
 いや、暴走と言うのは正確ではないね。……狂った機械が、正気を取り戻したんだ。
 冷徹な殺人ロボットとしての姿こそが、彼女の本来あるべき形だ』

「ありがと、コアちゃん。ちゃんとわかってる。わかってるけど……やっぱり納得出来ないよ。
 テスカを助けてくれた14ちゃんが、あの優しさが、単なるバグで生まれた誤作動だなんて」

264 :山元 :2019/03/04(月) 00:14:10.03 ID:WySYUIx1.net
怯えるNo.14に、テスカは歩み寄る。
そして、その細い肩を、小さな背中を、抱きしめた。

「大丈夫、大丈夫だよ14ちゃん。あなたはちゃんとここに居る。消えてなくなったりしない。
 あなたが守ったみんなの笑顔は、ウソやごまかしなんかじゃないよ」

なんの根拠もない、気休めにもならない言葉しか出てこないのが悲しくて、悔しい。
もしもNo.14が人間だったなら。
笑顔になれるハーブで悩み事を全部ふっとばしてあげられるのに。
なんかこう、CPUがハッピーになるプログラムみたいなのはないんだろうか。

しばらくして、ヒーロー協会が警察を伴って現場にやってきた。
無力化されたヴィランは異能を封じる特殊な拘束具を嵌められて警察に引き渡されるのだ。
ザ・フューズが仕留めたファイアスターターも同様に運ばれていった。

>「終わった、な。とりあえずはだけど……そうだ。
 折角だしファイアスターターが運んでた荷物をご開帳してみるか。
 ヤクとかハジキなら大したことないけどどうせもっとヤバイブツなんだろ?」

「いいのぉ?開けた瞬間ドカンとかなったらあの世で恨むよリジェネレイター」

口では制止しつつも、好奇心に抗えずテスカもひょいと顔を出した。
ファイアスターターが運び屋になっていた時点で、爆弾ということはあるまい。
あの雑な運び方でも問題ない中身なのだろう。

果たして、御開帳したケースの中身は、不思議な光を放つ立方体だった。
サイズは大きくない。ケースの容量はほとんどが緩衝材だ。

「うわぁ……リジェネレイター、これマジでやばいやつじゃない?
 テスカ子供だからわかんないけど、科学の教科書で似たようなの見たことあるよ。
 これアレでしょ?マイナスドライバーでカタカタやって手が滑って死ぬやつでしょ」

キューブ状のデーモンコアっぽいなにかは、ぼんやりと青白く輝いていた。
これが噂に聞くチェレンコフ光なら、この場にいる全員が既に致死量の放射線を浴びていることになる。
変身やスーツで防御しているヒーローはともかく、協会員や警察はひとたまりもないだろう。

265 :山元 :2019/03/04(月) 00:14:34.84 ID:WySYUIx1.net
『大丈夫だレディ。この立方体は少なくとも臨界状態のベリリウムではない。
 それ以上のことは何も分からないというのはなんとも恐ろしいところだが』

「やばくない説明になってないよぅコアちゃん……」

ともあれ、現状では捜査は手詰まりだ。
ここから先は捕縛した二名のヴィランからゆっくりとインタビューするしかあるまい。

>「今日は助かった。ザ・フューズ、テスカ☆トリポカ……それにNo14。
 また何処かで会おう。その時は今晩の借りを返させてもらう」

「お互い様だよぉリジェネレイター。
 またどこかで、出来ればあの世じゃないところで会えるといいね」

出来上がったばかりのスラスターで夜空に消えていくリジェネレイターに、テスカは手を振った。
そしてNo.14とザ・フューズの方へと向き直る。

「おつかれさま。テスカも帰るね、明日早いんだ。
 14ちゃん。……ありがとう。誰がなんて言おうと、この気持ちは確かなものだよ」

そう言って、テスカは地面を爪先で小突く。
レイラインステップ。地脈の門が小さく開いて、彼女はその中に自由落下していった。
今日もまたひとつの悪を挫き、小さなヒーローは帰路につく。

――鋼の少女から燃え移った、勇気をひとつ胸に灯して。

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 

266 :山元 :2019/03/04(月) 00:14:57.64 ID:WySYUIx1.net
数日後、テスカもといセーラ=山元は自室でトリップを嗜んでいた。
今度こそ誰にも邪魔されずに、ハーブの煙に没入する。
そして、サイケデリックスの薬効がキマり切ったとき、幻覚が"声"という形を得た。

『Click here to see only results uploaded by』
『ようやく喋れるッピ!――とケツァルは言っている。
 トランスを介さねば我々の声が届かないというのは、なんとも不便極まるね』

「ごめんね。魔法がもっとレベルアップしたら、いつでも声が聞けるようになるのかな」

『どうだろう。魔法使いとしての進歩とは方向が異なる気もする。
 我々は言わば魔法少女として戦うための補助輪に過ぎない。
 レディ、君が思春期を過ぎ、一人前になったときには、我々の声が必要無くなるのかもしれないね』

「大人になったらケッちゃんともコアちゃんともお別れしちゃうの?やだよぉ」

『なに、少なくとも今すぐというわけじゃないさ。
 君が大人になるまで、まだ幾許かの猶予がある。ゆっくりと前へ進めば良い。
 我々は、その歩調に合わせよう』

しばらく二つの神と他愛ない雑談をしたあと、不意にセーラは呟いた。

「……14ちゃんの暴走、あれは一体なんだったのかな」

不安定な機械にはよくあることだ、と言ってしまえばそれまでだ。
配線のハンダ付けが甘くて、回路が繋がったりつながらなかったりすることもあるだろう。
しかしNo.14の変貌には、単なるCPUの不具合とは明確に異なる何かがあった。
うまく言語化はできない。まるで……異なる二つの人格が、同居しているような。

『その件については、先んじてヒーロー協会の端末で得られるだけの情報を集めておいた』

協会所属のヒーローに支給される端末には、現在公開されているヒーローのデータも収められている。
現場で協働する際に、相手の能力が分からないままでは連携に支障が出るためだ。
そうでなくとも、人気商売であるヒーローの情報は半ば公然の秘密として流布されているケースが多い。
いくら情報統制をかけようとも、人の口にまで戸は立てられないのだ。

『No.14……正式名称"K-doll No,14"は、とあるヴィラン組織が生み出した殺戮兵器だ。
 そして何故か、14番目の機体だけが超常的なエラーを発し、反旗を翻した。
 ヴィランを裏切り、メトロポリスを守るヒーローとして目覚めた。
 彼女の身に生じたエラーは、俗に"アイアンハート現象"と呼ばれるものだ』

267 :山元 :2019/03/04(月) 00:15:30.73 ID:WySYUIx1.net
「アイアンハート……」

『直訳で、"鉄の心臓"』

「わぁい心臓!セーラ心臓大好き!」

急にテンションが上がったセーラはベッドの上で跳ねた。

『なんとも奇遇な取り合わせだと思わないかね。
 贄として心臓を求める魔法少女と、鉄の心臓を獲得した戦闘ロボット。
 運命というものに、創世神の差配を疑わざるを得ないな』

「でも、鉄だよ?」

『だが、心臓だ』

「そういうもんかなぁ……」

セーラにはいまいちピンと来ないが、心臓大好きな神であるケツァルコアトルははしゃいでいる。
元々心臓の代わりに豚の肩ロースで許しちゃうような神だし、わりと判定はガバガバなのかもしれない。

『機械の心臓か。一度賞味してみたいものだ』

「ダメだよ!悪人ならともかく14ちゃんはヒーローだよ!」

『違法行為ではあるまい。ロボットのエラーを取り除く行為を、誰が咎める?
 あるべき姿に戻すだけだ。結果としてヴィランが一体生まれるが、これはヒーローとして撃滅すれば良い』

「だけどそのエラーは、14ちゃんが14ちゃんであり続ける為に必要なもので……」

アイアンハートを取り除けば、No.14は元の殺人ロボットに戻ってしまうかもしれない。
例え違法でなくても、彼女に芽生えた善の意志が失われてしまうことは、きっと悲しい。
悲しむのは他の誰でもなく……セーラであり、テスカ自身だ。

『珍しいねレディ。君が特定の誰かに肩入れするなど。どういう風の吹き回しだい?』

「わかんない。わかんないけど――」

確かに、暴走の危険のあるヒーローをそのまま放置しておくより、
ヴィランとして処断してしまったほうが結果的には良いだろう。
大局的に見れば、ヒーローとして戦うなら、危険は排除しておくべきだ。

しかし、それでも、セーラはNo.14を失いたくない。
自分の心に訪れた変化を正確に言語化するには、セーラはまだ幼すぎる。
ただ、あえて言葉にするなら、こういうことだろう。

「……友達になりたい、のかも」

零れ出た想いは、ヒーローでも魔法少女でもなく……ただの女子中学生のものだった。

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 

268 :山元 :2019/03/04(月) 00:15:56.75 ID:WySYUIx1.net
ヒーロー協会から緊急要請を受けたテスカが現場に到着した時、
既に協会本部は無数のロボットによって包囲されていた。
高層ビルを埋め尽くすように飛び回っているのは、情報によれば対人兵器『ニーズヘグ』。
機銃に加え、近接武装も搭載した汎用殺戮機械だ。

「リジェネレイター!状況はどんな感じ?」

協会本部の門の影で様子見していたリジェネレーターの足元に地脈の門が開く。
そこから這い出てきた魔法少女テスカ☆トリポカは、手短に情報を交換した。

「レイラインステップで直接協会の中に突入できないか試してみたんだけどね。
 さっすがヒーローの総本山、魔法を弾くバリアみたいなのがあるみたい。
 地脈の途中におっきな壁ができてて、そこから先へは進めなかった」

ヒーロー協会はその特性上、テロの標的にもなりやすい。
当然といえば当然の仕儀として、侵入対策も万全だった。
協会所属の魔法使い達が技術の粋を集めて作成した対魔法プロテクト『コールドウォール』。
同様に、テレポートや飛行能力の類も封じられていると見ていいだろう。

「やっぱ強行突破しかないかなー。他にヒーロー来てないの?
 流石にテスカ達だけじゃあの数はどーにもならないよ☆」

こうも素早く協会が陥落したのは、時間帯によるところも大きいのだろう。
この時間、専業ヒーローは巡回やヴィラン退治に出払っているし、
兼業ヒーローは仕事や学校といった"本業"に勤しんでいる時間帯だ。

協会の護衛として常駐しているわずかばかりのヒーローでは、この圧倒的な物量差にどうにもならなかったのだろう。
まさに人手不足という協会最大の弱点を突いた電撃戦の勝利と言えた。

と、話し込んでいるヒーロー二人に、ニーズヘグの邪悪な眼光が向けられる。
鋼のあぎとが禍々しく開き、内部から機銃がせり出してきた。

「わ!わ!こっち見た!こっち来た!」

こちらの姿を認めた数体のニーズヘグが、機銃を一斉掃射。
瞬間的に生まれた鉛玉の嵐が、テスカ達へと殺到する!

269 :山元 :2019/03/04(月) 00:17:08.57 ID:WySYUIx1.net
「大地の結晶!」

テスカは木剣を地面に突き立て、巨大な黒曜石の山を生成。
直撃した無数の銃弾は、景気よく破砕音を立てながらみるみるうちに黒曜石を侵食していく。

「うっへぁ☆これだから銃は嫌いなんだよぉー!」

喚き立てながらテスカはさらに魔法を行使。
砕けた黒曜石の鋭利な破片が風に巻かれる木の葉のように集団で旋回する。
黒い刃物の波濤は、テスカの開いた地脈の門へと吸い込まれていった。

「もいっかい、レイラインアクセス!」

ニーズヘグ達の足元にもう一つ地脈門が開き、そこから大量の破片が吹き上げた。
黒曜石はたとえ粉末状になったとしても、斬れ味だけは損なわれない。

凄まじい切断力を保ったまま、黒曜石の粉がニーズヘグの給排気口へと滑り込む。
砂塵を取り込まないように取り付けられたフィルターを切断し、内部に潜り込んだ。

「公共の場での銃撃は……違法行為だよ☆」

瞬間、こちらへ寄ってきていたニーズヘグ数体が一斉に爆発した。
内部から黒曜石の破片を起爆したのだ。

「リジェネレイター!ニーズヘグをこっちに引き付けて!
 バリアのせいで敷地の奥の方には地脈が繋げられないから!
 寄ってきた奴を片っ端から爆殺してこ☆」


【ニーズヘグのトレインを要請】

270 :K-doll No14 :2019/03/06(水) 20:43:03.02 ID:5Bu9jt9o.net
リジェネレーターもザ・ヒューズもそして・・・テスカトリポカもまるで化け物を見るような目で私をみる。

――こんな見た目はか弱い女の子を見てこれはあんまりですよね?。

突然頭に言葉が流れ込んでくる。

――ワタシはただヒーローとして戦っただけなのに・・・まあたしかに暴れすぎたかもしれませんけど。

黙れ!。
無抵抗の相手を追い討ちをかける奴はヒーローなんかじゃない!。

――じゃあなたは本当はヒーローではないのでは?

違うお前だ、お前が悪いんだ。
私はなにもやってない!。

――紛れもなくワタシですよ?本当は分ってるんでしょう?だってワタシは・・・

黙れ!黙れ!黙れ!。
聞きたくない!聞きたくない!。

No14が幻聴を消すために暴れようとした瞬間背中から抱きしめられる。

>「大丈夫、大丈夫だよ14ちゃん。あなたはちゃんとここに居る。消えてなくなったりしない。
 あなたが守ったみんなの笑顔は、ウソやごまかしなんかじゃないよ」

なぜだろう、こんなのただの気休めなのに、なのに。
落ち着く。

「テスカトリポカ・・・」

あんな事をした私に気を使うなんて。
この子はなんて強い子なんでしょうか・・・。

「モウ・・・モウスコシコノママ・・・デ」

271 :K-doll No14 :2019/03/06(水) 20:43:55.70 ID:5Bu9jt9o.net
しばらくするとヒーロー協会と警察がやってきた。
持ち帰ってから鑑定するのかと思ったがリジェネーレーターがアタッシュケースを開け始める。

>「終わった、な。とりあえずはだけど……そうだ。
 折角だしファイアスターターが運んでた荷物をご開帳してみるか。
 ヤクとかハジキなら大したことないけどどうせもっとヤバイブツなんだろ?」

>「いいのぉ?開けた瞬間ドカンとかなったらあの世で恨むよリジェネレイター」

二人で楽しそうにあけている姿をみて危ない、と思ったがそれを言うほどの元気も、権利もない事に気づく。
真後ろに警察とヒーローがいたからであった。

――完全にヴィラン扱いですね?今すぐ拘束されないのは他の3人の目があるからでしょう?。

気分はテスカトリポカのお陰でかなり落ち着いた、が幻聴は聞こえ続ける。
だがもうNo14にはどうでもいい事であった。
危険な・・・故障し不要になった機械がどうなるかは明白だからである。

「モウ少シ・・・少シダケマッテクダサイ」

みんなにせめてさようならだけ言わなくては。
子供達にもしたいけどそこまで許可はもらえるだろうか。

リジェネレイターが立ち上がる。
どうやらこの場でできる解析は終了したようだ。

>「今日は助かった。ザ・フューズ、テスカ☆トリポカ……それにNo14。
 また何処かで会おう。その時は今晩の借りを返させてもらう」

>「お互い様だよぉリジェネレイター。
 またどこかで、出来ればあの世じゃないところで会えるといいね」

「アノ世・・・」

――ちょっと私?もしかしてこのまま破壊されるの受け入れるわけじゃないですよね?

>「おつかれさま。テスカも帰るね、明日早いんだ。
 14ちゃん。……ありがとう。誰がなんて言おうと、この気持ちは確かなものだよ」

「リジェネーター・・・テスカトリポカ・・・」

――たしかに3年間の鬱憤を晴らすのも兼ねて全力で暴れてやりましたけど・・・もしもーし?

「アト、ザ・フューズ!今日ハ色々迷惑ヲカケテシマッテ本当ニゴメンナサイ!次カラハ・・・チャントシマス・・・ノデ」

この人の事だ、私がこの後どうなるのか、今私がどう思ってるかも分ってるかもしれない、けど。
気を使わせてはいけない。
だから万遍の笑みで。

「ミナサン!マタアイマショウ!」

272 :K-doll No14 :2019/03/06(水) 20:44:37.08 ID:5Bu9jt9o.net
警察とヒーローに拘束され。各施設で体を弄られ。有名な科学者に"わからない"と首を横に振られ。新聞には【完全に破壊した上で廃棄しろ!】という記事ができ。
そして今No14は廃棄決定の日程が決まるのをヒーロー協会本部どこかの部屋で椅子に拘束されながらまっていた。

――3年間だけとはいえ数多くの人間を救ってきたのにこの仕打ちですか?

うるさい

――さんざん人間様に奉仕してきたというのに!ただ一回派手に暴れたくらいで廃棄なんてひどいですね?

静かにしろ

――ねえ、やっぱり自由に生きましょうよ?私ならこんな拘束簡単に解けるでしょう?

黙れ!!

――ワタシはまだ生きていたいんです、私と違って。死にたいならワタシに体をくれてもいいでしょう?

心臓の力で生まれた得体の知れない奴に体を渡せるわけない!

――本当にそう思ってるんですか?心臓の力でややこしくなっただけで実際は・・・

――人を騙す為に無知で純粋な私。そして相手を殺す、壊す為のワタシ。

――二人で一人なのに

黙れ、と口からだそうとした時、爆発音のような音が響きわたる。

――中々派手な音ですね?

ここはヒーロー協会の本部、ここで派手にやるということはどんな事なるのか、そんなのはだれしもがしっているはず。
・・・ここを襲撃しないといけないほどの大事な用事がある?。

「アタッシュケースノ中身・・・!」

拘束から抜けそうと体をよじりながらもがく。

――おや?この混乱に乗じて逃げるんですね?

ファイアスターターとロックバイン、両方ともヴィランとしてのレベルは必要以上に高かった。
そんな奴らに護衛させないといけなかった代物。
取り返す為に大規模に動く可能性はある。
となれば

「う、うわああああああああ!」

いたる所から銃声・悲鳴。

今現在どれだけのヒーローがいるかは不明だが、少なくとも今いるヒーロー達では対応できない程の戦力で来るのは当然であった。

273 :K-doll No14 :2019/03/06(水) 20:45:33.90 ID:5Bu9jt9o.net
拘束を解き、状況を把握するため通信回路を開く・・・が反応がない。

――当然ですけど通信用のパーツとか取り外されてますよ?

「チッ・・・」

敵の詳細がわからない、味方がどのくらいで到着するかもわからない。
自体は最悪であったが、No14はまだヒーロー、やる事は一つだった。

「ウームヤッパリカギガ掛カッテマスネ・・・セーノ!」

勢いよくドアを蹴り破る。
聞こえる銃声・悲鳴の数が段々少なくってきている、考えてる時間などない。

――やめましょう私一人加勢したくらいじゃ状況なんてかわらないですよ?

助けられるかもしれない命が目の前にあるのに放置できるわけない。
覚悟を決め前進しようとしたその瞬間目の前から子供が二人こっちに向って走ってくる。

「ドウシテコンナ所ニ子供ガ・・・!?」

子供の後ろには蜥蜴のような・・・機械。
少なくともヒーロー協会の公式護衛用ロボットには見えない。

・・・もし本当に護衛用ロボットだったらあとで謝ろう、後があればだが。

「テイッ」

蜥蜴のような機械にとび蹴りを食らわせて吹き飛ばす。
吹き飛ばすだけで特にダメージはないらしい。

「当然ノヨウニ、アダマス合金トハ・・・」

メトロポリスでも中々調達できないような物を全身に纏っている。
それだけアタッシュケースの中身が大切らしい。

「ソコノ二人!ソノ部屋ニ入ッテジットシテナサイ!」

さっきまで自分が入っていた部屋を指差し中に入るように誘導する。
他の部屋でもよかったが今の所敵がいないのを確認しているのがそこしかなかった。
子供達が部屋に入ったのを見届けて戦闘態勢に入る。

「私ノブレードト、貴方ノ体、ドッチガ硬イカ勝負デスネ!【アタックプログラム;ブレード】」

左手が変形してブレードが・・・ない?

――なんで通信用のパーツがないのに武器は取り外されてないと思ったんですか?

274 :K-doll No14 :2019/03/06(水) 20:46:32.82 ID:5Bu9jt9o.net
No14が動揺してる内に変形を完了させた蜥蜴が機銃を発射する。

「【ガードプログラム;アサイラム】」

咄嗟にバリアを貼る、唯一自分の電力だけで発動するこれだけが現在No14の救いであった。
しかし蜥蜴の連続攻撃は止む気配はなく・・・。

No14はバリアを解除し自分が元いた部屋に逃げざるを得ないのであった。

――もう子供を囮に逃げればいいのでは?

右手のマシンガンも使えず、左手のブレードもない。
しかしこれ以上子供達にアレを近づけるのはマズイ。

「もうヒーロー会いたさに忍び込んだりしませんから・・・」

泣き出してしまった子供達の精神状態も相まってこれ以上戦闘に時間を掛けるわけにもいかない。
あの蜥蜴が近寄ってきたら奇襲で一気に倒すしかない。

あんなに聞こえていた悲鳴も、もう聞こえない、静寂だけが辺りを包んでいた。
はやく来い・・・早く・・・!

しかし蜥蜴は予想外の方から現れた、隣の部屋から壁を壊し現れたのである。

「ナッ!?」

一瞬の内にNo14は蜥蜴に押し倒されるような形で組み伏せられる。

「離セ・・・離レロ!」

殴る蹴る暴れる全てを試したが全力を出せない体勢でこの機械を吹き飛ばすだけの力はなかった。

――おや本格的にピンチなのでは?

蜥蜴が大きく口開ける。

――ワタシならなんとかできますよ?

口の中から機銃が現れる。

――ここで私がいなくなったら間違いなくあの子供二人は死にますよ?。

機銃の先が私の方を向く。

――さあワタシに体を預けるか、子供達とここでくたばるか選んでください。


こんな絶望的な状況で・・・私に・・・どんな・・・選択肢があると・・・

275 :K-doll No14 :2019/03/06(水) 20:47:14.78 ID:5Bu9jt9o.net
「イイ判断デスネ・・・」

蜥蜴の機銃を思いっきり強打する。
バランスが崩れた所を抜け出す。

――さっきまでビクトモしなかったのに・・・

「ふふ・・・無知デ純粋ナカワイイ方ノ私・・・貴方ハ何モシラナインデス。」

だって私には必要のないものですから。
殺し方なんて、壊し方なんて。

純粋な私には自分を暴漢から身を守れるだけの最低限の知識と出力が出せるだけの権限しか。
与えられていないのですから。

「見セテアゲマショウ!ワタシガ・・・コノ体ノ本当ノ使イ方ヲ」

蜥蜴がバランス取り戻しこちらを向き口を開け機銃を向ける。

「貴方ノ武器ソレダケデスカ?・・・ナラ」

蜥蜴の上に瞬時に移動し機銃を掴む。
どうやら機銃と接続部はアダマス合金でできていないらしい。

「イケマセンネ!コウユウ所ダカラコソ手ヲ抜クベキデハナイノニ!・・・デハ遠慮ナク」

機銃を蜥蜴の口から引き抜く。

「ウーム!手抜キトハイエワタシノ銃ヨリ強ソウデスネ!」

蜥蜴がNo14を振りほどこうと暴れる。
No14はしがみ付きながら蜥蜴の口に腕を突っ込み電源部を探す。

「オヤオヤ!貴方ノ体ト同ジデ、ワタシノ体モ特殊ナ物デデキテイルノデ、イクラ齧っテモ切断デキマセンヨ!・・・ダカラヤメ・・・ア!コレデスネ?」

電源ユニットと思われる物を握り潰すと蜥蜴の機械は動かなくなった。

276 :K-doll No14 :2019/03/06(水) 20:48:37.82 ID:5Bu9jt9o.net
「サーテコイツノ弱点モ把握デキマシタシ、サッサトココカラサヨナラシマショウカネ」

体に異常がないか確認しつつ逃げるための手段を考える。
蜥蜴を一匹やった時点で敵対してしまったようなものだが。

「ヴィラントヒーロー協会両方ガ敵ナノハサスガニ骨ガオレマスネ・・・」

――子供達を置いていくつもりですか?

「ウルサイ!子供ナンテ面倒ナダケデ得ニナンテ・・・」

No14が言い争いを始めようとした時、子供の兄弟が叫ぶ

「「あぶない!」」

蜥蜴が最後の力を振り絞りNo14に突進してくる。
そしてそれを全力のパンチで打ち落とす

「アラ完全ニ潰シタト思ッタンデスケドネ・・・手抜キロボットニシテハヤリマスネ?」

床に叩きつけられた蜥蜴は今度こそ動かなくなる。
こんな時は・・・えーと・・・私に習って決めゼリフでもしましょうか。

「モウ、オ休ミノ時間ダゼ、ベイビー」

うむ、これを言う理由はよくわからないけどなんとなく気持ちいいのでこれからも採用していこう。

――はやく子供達を保護して安全な所まで・・・

ウルサイ!もう人間に奉仕するのはご免だ!
ワタシは自由に生きていく!

再び喧嘩を始めたNo14に子供の兄弟が寄って来る

「ナンダオマエラ!ワルイガワタシハ」

「「かっこよかった!!」」

「・・・ハ?」

さっきまで泣いて騒いでた子供達は目を輝かせNo14の周囲をぐるぐるし。
具体的にどうかっこよかったとか色んな事を言ってくる。

――まずい

目を閉じ体を震えさせ今にも感情が爆発しようになってるのを感じる。
ワタシが相当キレやすいのはロックバインの時の戦いで十分に分っていた、がまさか子供相手に。

――やめなさい!相手は子供なんですから

「フフーン!ナカナカ見所ガアルガキデスネ!ソウ!ワタシハカッコイイデノデス!」

――は?

277 :K-doll No14 :2019/03/06(水) 20:49:35.99 ID:5Bu9jt9o.net
子供達に自分がいかにすごいのか力説するワタシはとても殺すだとか、壊す。
その為に作られた元AIには見えない。

もしかして3年という時間で性格が私に引っ張られ始めている?。
たしかに口調とか私に似ている気がする。
私はこんなにちょろくないが。

「ヨーシ!見所アルオ前達をワタシノ弟子1号ニシテヤロウ!」

「「わーい!」」

子供によいしょされて上機嫌に勝手に弟子にするとか言い始める始末。
だがこれを上手く利用すれば・・・。

――せっかく弟子ができたんですから、その弟子さんを守るのも師の役目ですよね?

「ショウガナイデスネ!弟子ナラアレクライ倒セナキャダメデスケド、マダナニモ教エテイマセンカラネ!」

――あまりにもちょろすぎる・・・

そんな私の心の声すら聞こえないほど上機嫌なワタシは子供達に取りあえず安全な所にいくと告げ。

「サッキ蜥蜴野郎ガ壊シタ壁ノ部屋ニ窓ガアルノデ、ソコカラズラカリマショウ」

窓から下の様子を見ると凄まじい数のロボットに包囲されていた。
敷地外から様子を見ているのはリジェネレーターとテスカトリポカ。
しかし声を出せば下の蜥蜴に一斉に気づかれ、通信しようにも手段がない以上援護してもらえる確率は・・・限りなく低い。

――ワタシ一人ならなんとかなるでしょう・・・でも子・・・弟子達を連れていたらこれは・・・

「タイミングヲ見計ラッテ、ココカラ敷地ノ外マデジャンプシマス」

無茶だ、もしリジェネレーター達が戦闘開始したのを確認してから飛んでもこっちに反応する個体がいるだろう。
そうなったら逃げ場も遮蔽物もない空中では的にしかならない。

「ソウ・・・ダカラマズ準備ヲシナクテハ」

動かなくなった蜥蜴に近寄ると両腕を変形させ複数の小さな爪のような・・・アームに変形させる。

――なんだこれは?

278 :K-doll No14 :2019/03/06(水) 20:50:30.64 ID:5Bu9jt9o.net
私に教えてあげましょう。
私達を作った博士はこのメトロポリス、いや全世界でもトップクラスの科学者なんです。
ヒーローを心の底から憎んでいなければ本当に世界で、いや宇宙で一番の科学者になっていたかもしれません。
・・・あくまでも可能性ですよ?

両腕の複数のアームが蜥蜴の体を器用に分解していく。

研究に熱心すぎて自分の名前をも忘れてしまう。
そんな人間が人生の半分を使って作った最高傑作、それが私達なんです。

食事を介して電力を確保でき、尚且つどの機械からも生身のように写る体。
人からどう話しかけられても自然に受け答えできるようにセットされたAI。
半端なヒーローなら圧倒できるパワーとスピード。

これだけでもすごいでしょう、でも、あくまでこれでは凄いだけ。

アームが蜥蜴を全部分解し終える。

「私達ノ真骨頂ハ・・・コンナ偽リノ心臓ナンカ必要トシナイ・・・アリトアラユル機械ヲ分解シ、分析シ、自分ノ体ニ取リ込ミ、ソノ一部ヲ、自分ノ力ニデキルコノ能力」

「【アタックプログラム;ドラゴンブレス】【アタックプログラム;アダマスソード】」

左手にアダマス合金でできたソード。
右手にさっき蜥蜴が使っていた機銃。

――知らない!私は知らないこんなもの!。

「ダカライッタデショウ・・・アナタニハ最低限ノ知識シカ与エラレテイナイ、ト。・・・サテ残リノ材料ヲ弾薬ニシテ・・・」

あけた窓から聞こえる機銃の発射音。
どうやら外の連中が戦闘をやっと始めたらしい。

「デハイキマショウ!」

そういうと窓を開け、子供達、もとい弟子二人を掴み勢いよく敷地の外目掛けてなげる。

――ちょ・・・!?。

「マアミテナヨ」

No14本人は下の蜥蜴達に向って飛び降りた。

279 :K-doll No14 :2019/03/06(水) 20:52:11.57 ID:5Bu9jt9o.net
空中に投げた子供達に気づいたのは3・・・4・・・5・・・6体。

「マズハ近クカラ、デスネ【アタックプログラム;アダマスソード】」

電源ユニットの位置は把握済み。
分解した時にアダマス合金が使われていない部位も把握ずみ。
そして間を縫って電源に届くよう剣の長さも調整済み。

着地すると同時に一体の電源ユニットを貫く。
そして子供達を撃つ為上を向いている蜥蜴を順番に潰していく。

周りの蜥蜴達がNo14に気づき射撃を開始する、が多すぎる数のせいで斜線が通らず、またはNo14に避けられ同士討ちの形になる。

「機械ガオ粗末ナラ司令塔ノヴィランモ相当オ粗末ナ感ジデスネ!」

そして子供達を狙っていた蜥蜴達を全部潰したNo14は子供達に向ってジャンプ、そしてキャッチ、そしてそのまま・・・。
蜥蜴と戦闘していたリジェネーターとテスカトリポカのほうに向っていく。

「失礼!ソコノオ二人サン!ワタシ達ノ変ワリニ、アノ蜥蜴ノ相手ヲ、マカセマシタヨー!」

二人に蜥蜴を押し付け敷地外に着地する。

するとマスコミやら野次馬やら警察やらでごったがえしていた。

とりあえず弟子達を下ろすと弟子達のテンションは最高潮。
そして弟子達によいしょされているワタシの機嫌も最高潮。

――私はなにを見せられているんでしょうか・・・。

そして子供達の親らしき大人が警察を押しのけ、こっちに向ってきて子供達を抱きしめる。
親に感謝され、空のドローンからの中継をみていた野次馬から賞賛の声があがり、アレだけ批判していたマスコミからも救世主と褒め称えられ。

「フ、フフーン!マア?ワタシニカカレバ?アンナヤツラ?余裕デスカラネ!」

リジェネレーターとテスカトリポカがすぐ真後ろで必死に蜥蜴と戦ってる中。
ワタシの機嫌は良くなりすぎて限界を突破していたそうな・・・。

そしてリジェネーレーターとテスカトリポカを指差し。

「ソコノ二人!・・・エートダレダッケ・・・ア!」

「オービット、スカとポカ、援護ゴ苦労デアッタ!」

上から目線な上に名前を間違える大変失礼な奴がいるらしい。

【施設から子供二人を救出、中身交代】

280 :ザ・フューズ :2019/03/19(火) 22:27:10.56 ID:jk+yobKF.net
眼下を見下ろす。
視線の先で、地中から宙空へと打ち上げられるロックバイン。
既に半壊した岩の鎧。
アダマス合金製の改造人間にすら通じるNo14の火力なら、容易く破壊、制圧可能。

そして――発射されたブレードが、ロックバインの鎧を貫通。
血飛沫が散り、更にそこへ放たれる追撃の電撃。
空気という絶縁体を貫きなおも威力を発揮する電圧。
異能者と言えど、生身の人間。耐えられるはずがない。
むしろ――オーバーキルだ。今の一撃は致命傷にすらなりかねない。

>「・・・サッサト死ンデイタダケナイデショウカ?私モ気ガ長イ方デハナイノデ」

だがNo14は更に、ロックバインへと追撃を加える。
倒れ伏した彼の頭部を何度も踏みつける、金属の踵。
ザ・フューズは地上へと続く階段の途中で足を止めた。

>「アナタタチハ一体ドコノドノタデショウカ?見テノ通リ私ハ忙シイノデ邪魔シナイデ頂ケマスカ?」

右手を眼下のNo14へとかざす。
地上を見下ろす眼差しは、あくまでも冷静。

>「貴方達コイツノ仲間デスネ?ナラ排除シナケレバイケマセンネ」

No14の注意は眼前の二人に向けられている。
エクトプラズム・プレートで拘束し、焼き尽くす――無力化する事は容易い。
そして――

>「・・・私ハ・・・一体ナニヲ・・・?」

No14は、一線を超える事なく正気を取り戻した。
ザ・フューズは右手はそのままに――小さく、嘆息を零した。

それから暫くして、協会の護送部隊と警察が現場に到着。
制圧された二名のヴィランが回収されていった。
ザ・フューズはその過程に目もくれない。
ただマスクに付属された通信機に右手の指を添えて――

>「終わった、な。とりあえずはだけど……そうだ。
  折角だしファイアスターターが運んでた荷物をご開帳してみるか。
  ヤクとかハジキなら大したことないけどどうせもっとヤバイブツなんだろ?」

>「いいのぉ?開けた瞬間ドカンとかなったらあの世で恨むよリジェネレイター」

「『現場の判断』で行うにしては、横着が過ぎるんじゃないか?リジェネレイター」

歩み寄ってきたリジェネレイターの言葉に返す苦言。
本業詐欺師の思考――押収品の検分は研究班の管轄。
その悪戯は言い逃れが困難。高いリスクを伴う。
しかし――言葉とは裏腹に、右手を通信機から離す。
そうしてテーブル代わりのプレートを形成。
左手のケースを上に置く。

「だが……まぁいいだろう。『お前』には借りがある」

その貸しについて、神籬明治には思い当たる節がないだろう。
そしてそれは正常な反応だ。

281 :ザ・フューズ :2019/03/19(火) 22:28:00.93 ID:jk+yobKF.net
>「それにしても一人でヴィランを倒しちまうとは。ザ・フューズ、侮れない奴だ。
  こっちは岩男相手にひぃひぃだったのに。今の内にゴマすっとくかリジェネレイター?」

「……No14の奇襲で、奴は冷静さを欠いていたからな。
 そもそも奴はヴィランである事の、最大の強みを理解していなかった。
 パワーやスピードなど、ヒーローにだってある……私はどちらも持ち合わせてないが」

ともあれリジェネレイターがケースを開く。
溢れる、念の為に展開したシールド越しにも眩い、青白い光。

282 :ザ・フューズ :2019/03/19(火) 22:29:21.50 ID:jk+yobKF.net
>「うわぁ……リジェネレイター、これマジでやばいやつじゃない?
 テスカ子供だからわかんないけど、科学の教科書で似たようなの見たことあるよ。
 これアレでしょ?マイナスドライバーでカタカタやって手が滑って死ぬやつでしょ」

「……あり得ん。核は、ヴィランの間でもご法度だ。
 このメトロポリスを吹き飛ばして、得られる物が何もない。
 ヒーロー、ヴィラン、両方に敵と見なされるだけだ」

一部の例外を除いて、非合法組織が求めるものは支配や繁栄だ。破滅ではない。
そう分かっていても、やや強張ったザ・フューズの声。

>「駄目だ。手も足も出なかった。少なくともそいつを構成している物質は地球には存在しない。
  何のために作られたのか、どう使うのか……。それはヴィラン二人にに聞くしかねぇな。
  生憎二人ともあんな状態だから今すぐには無理だろうけど……」

何にしても、リジェネレイターの相棒ではこの物質の解析は出来ないらしい。
つまり、これ以上この場に留まる理由はもう何もない。

>「今日は助かった。ザ・フューズ、テスカ☆トリポカ……それにNo14。
  また何処かで会おう。その時は今晩の借りを返させてもらう」

「私はお前に何かを貸した覚えはない」

無愛想な返答。

「……が、どうしてもそれを返したいなら、宛先は私じゃなくていい」

一瞬逸れる視線。その先にあるのは――No14。

>「おつかれさま。テスカも帰るね、明日早いんだ。
  14ちゃん。……ありがとう。誰がなんて言おうと、この気持ちは確かなものだよ」

「上申書を書いてやれ。助けられたと思っているならな」

そう言い残すと、ザ・フューズは協会の護送部隊へと振り返る。
ヴィラン二名は既に護送されていったが、ヒーローの戦闘に負傷は付き物。
負傷者の回収、応急手当――それも護送部隊の任務の内だ。
この場合の負傷者とは――つまり、ザ・フューズの事だ。

四肢と肋骨を蹴り砕かれ、肺は破裂し、彼女は本来なら死んでいてもおかしくない重傷人だ。
ただエクトプラズムによって破損した部品を補完しているというだけで。
だがそれも、いつまでも維持は出来ない。
超能力の行使、維持には体力を消耗する。
早急に、医療チームの処置を受ける必要があった。

>「アト、ザ・フューズ!今日ハ色々迷惑ヲカケテシマッテ本当ニゴメンナサイ!次カラハ・・・チャントシマス・・・ノデ」

「そうだな。お前の判断はご立派だったが、もっとやりようがあったはずだ」

>「ミナサン!マタアイマショウ!」

「……次は、もう少し上手くやってくれ」

護送部隊員の一人がザ・フューズを急かす。
彼女はNo14に背を向けて、それきり振り返らなかった。

283 :ザ・フューズ :2019/03/19(火) 22:30:06.37 ID:jk+yobKF.net
数日後、西田結希はメトロポリス内地に所有するマンションの一室にいた。
マンションのオーナーは、彼女の『他人に知られてもいい』稼業の一つだ。

「……例の件はどうなった」

耳元に当てたスマートフォンへ、西田結希は問いかける。
その端末は個人名義――裏稼業用の物ではなく、ヒーロー協会から支給された物だ。

『芳しくないですね。ある日突然爆発するかもしれない車に、好んで乗り込む人間はいません。
 あのロボットを稼働させ続けるのは、協会にとって不要なリスクでしかないです』

「少なくとも三人のヒーローが上申書の提出か、それに相当する証言をしているはずだ」

『No14が次に暴走した時、罪のない人々を狙わないとは限りません。
 たった三人の証言で、その可能性を無視する事は出来ませんよ』

「百人の命を救う為なら、一人の人間を殺していい訳じゃないだろう。
 少なくともヒーロー協会の公式見解として表明出来る思想じゃない」

『アレが人間ならその通りですが、生憎、Np14はロボットです』

「……アイアンハート現象はメトロポリスの至る所で確認されている。
 それらのロボット全てに、人間への不信感を与える事は、不要なリスクだ」

『……確かに、そうかもしれませんが』

「表向きは処分保留。実際はヒーローの装備ないし支援機扱い。
 これなら世論の釣り合いも取れるだろう。この線でもう一度上申書を作成してくれ」

『分かりました。ですが……今度は一体何を企んでるんです?
 私には、そこまでしてアレを保護する必要があるとは思えませんが』

「……あのロボットはそれなりに高性能だ。支援機として手に入れば、今後の活動に役立つ」

284 :ザ・フューズ :2019/03/19(火) 22:31:02.35 ID:jk+yobKF.net
通話を終了。腰掛けたソファの端にスマートフォンを放り捨てる。
そして――その直後に再度響く着信音。
エクトプラズム・プレートでスマホを跳ね上げ、手元へ。

画面を見てみれば、通話をかけてきたのは自身の担当オペレーター。
つい先ほどまで話していたのと、同一人物。
西田が溜息を零して、画面をタップ。

言い忘れる程度の用事なら、チャットで済ませろ。
そう言ってやろうと口を開き――直後、スピーカーから流れる発砲音、破壊音、悲鳴。

285 :ザ・フューズ :2019/03/19(火) 22:31:49.97 ID:jk+yobKF.net
「……坐間?」

返事はない。
数秒後、一際大きな破壊音と共に通話は切れた。
更に数秒後、協会の緊急通達――非常防衛システム起動に伴う自動メッセージ。

西田はすぐさま、ベランダの大窓を開いた。
ヒーローにとって緊急の出動が日常茶飯事。
耐衝撃スーツと、それを隠すビジネススーツは彼女にとって普段着同然。
マスクやアーマーを纏めたケースも常に携行している。
つまり装備は既に万全。

ベランダの柵を乗り越え空中へ。
同時に火を噴く、四肢に装備した指向性付与ガジェット。
パイロキネシスの爆炎がザ・フューズの体を急加速。
そして空中に設置したエクトプラズム・プレートに着地。
それを繰り返す事で実現される高速の空中移動。
ザ・フューズは数分で現場上空へと到達。

>「リジェネレイター!ニーズヘグをこっちに引き付けて!
 バリアのせいで敷地の奥の方には地脈が繋げられないから!
 寄ってきた奴を片っ端から爆殺してこ☆」

戦況を俯瞰。
爆炎と、無数の敵性兵器――ニーズヘグの残骸によって描かれた「戦線」がよく見える。
それがテスカ☆トリポカの間合いの境目という事なのだろう。
ザ・フューズは通信機に指を添える。

「こちらザ・フューズ、現場上空に到着した。
 これより近接航空支援を開始する。前に出過ぎるなよ」

協会本部が制圧されている以上、通信は傍受されていると見るべき。
だが事前連絡のない火力支援など、友軍への不意打ちも同然。
炎と地形を操るザ・フューズの攻撃は、特にだ。

まずは周囲に二つ、エクトプラズム・キューブを形成。
対空射撃に対する防壁を展開、維持する為の疑似脳だ。

次に地上へエクトプラズム・プレートを形成。
地面と水平に、小さく何枚も。
つまり破壊困難な移動妨害。

そして――爆撃を開始。
もっともアダマス合金製の装甲は、ザ・フューズの火力では破壊出来ない。
ほんの小さなへこみすら、与える事は叶わない。
エクトプラズム・ブレードも、機銃が主兵装のニーズヘグ相手には火力になり得ない。

故にザ・フューズは――爆破するのではなく、燃やす。
高熱の炎に晒され続ければ、内部の電子部品や弾薬を破損させられる。
既にプレートによって協会内部への退路は封鎖済み。
必然、加熱による機能停止を避ける為には前進する他ない。
つまり、テスカ☆トリポカの間合いへと飛び込んでいく事になる。
これで屋外にあるロボットに関しては問題なく制圧可能――

>「マズハ近クカラ、デスネ【アタックプログラム;アダマスソード】」

ザ・フューズがそう判断した直後の事だった。
協会本部の窓から二人の子供が投げ出され、更にNo14が飛び出したのは。

286 :ザ・フューズ :2019/03/19(火) 22:34:09.96 ID:jk+yobKF.net
「なっ……!」

ザ・フューズは咄嗟にプレートを形成――出来ない。
子供達は既に落下による加速を得ている。
硬質なプレートで無理に受け止めようとすれば、それは救助ではなく、殺傷になる。
どうにか死なせずに済んだとしても、空中で彼らを固定してしまえば、それは射撃の的でしかない。

>「失礼!ソコノオ二人サン!ワタシ達ノ変ワリニ、アノ蜥蜴ノ相手ヲ、マカセマシタヨー!」

それでも結果的には、子供達は無事だった。
No14はニーズヘグの一部を蹴散らすと、そのまま子供達を受け止めて、敷地外まで離脱。
そうして残る機体もテスカ☆トリポカの間合いへ追い込まれ、破壊される。

287 :ザ・フューズ :2019/03/19(火) 22:36:55.72 ID:jk+yobKF.net
「……上空から見た限り、このエリアは確保出来た。まずはここの維持に努めるぞ」

ザ・フューズは地上に降りて、リジェネレイター、テスカ☆トリポカと合流。

「重役出勤してくるヌルいヒーローどもがまだいるはずだ。
 ソイツらが到着したらこの場を任せて、中に踏み込む。それでいいか?」

移動、交戦、制圧、確保、移動。
極めて模範的な制圧戦の段取りを提案するザ・フューズ。
その態度は至って冷静。

「それと」

>「オービット、スカとポカ、援護ゴ苦労デアッタ!」

だが彼女がNo14に視線を向けた瞬間、その声と眼光に、二つの感情が宿る。

「……人の命で博打を打つのは楽しかったか?ブリキ人形」

感情の名は、軽蔑と落胆。
 
「私は、お前のごっこ遊びに付き合うつもりはない。
 前衛はお前が努めろ。役に立つ内は援護はしてやる」

あの二人の子供が無傷でいられたのは、ただの幸運だ。
想定よりも多くの敵性兵器が彼らに反応していたら、
あるいはNo14の乱入に十分な反応が得られなかったら、
協会の防衛システムが停止ではなく奪取、再利用されていたら――あの子供達は、死んでいた。
もっと安全で、もっと上手いやり方があったはずだ。

一体いかなる理由でNo14の態度が変化したのかは、ザ・フューズには分からない。
だが、確実な勝利と己自身を擲ってでも人の命を守ろうとした――ザ・フューズが一流と呼んだヒーローは、ここにはもういない。
いるのは、不確実な勝算を頼りに、人命を危険に晒す――三流以下。
それだけで、彼女が落胆と軽蔑を抱くには十分だった。

288 :神籬明治 :2019/04/02(火) 23:41:35.33 ID:kxtS2IWR.net
【すみません、今多忙なので猶予をください!
 金曜日には投下できると思うのでお願いします!】

289 :K-doll No14 :2019/04/03(水) 00:56:15.97 ID:vWBrSMvg.net
了解ですー がんばってください

290 :神籬明治 :2019/04/05(金) 23:51:38.21 ID:yMxGM4mk.net
現場に到着したヒーローと合流するという当初の予定は成功し、
早速レイラインアクセスで駆けつけてきたテスカ☆トリポカと情報を交換する。
協会本部には対魔法プロテクトがかかっているらしく、瞬間移動で突入は不可能らしい。

>「わ!わ!こっち見た!こっち来た!」

話し込んでいる隙にニーズヘグに捕捉され機銃斉射が開始される。
口部より開帳された機銃は弾丸の雨を吐き出しこちらへと殺到してくる。

>「大地の結晶!」

咄嗟にテスカ☆トリポカが黒曜石の山を形成して防御する。
だが機銃の威力を前にガリガリと黒曜石は削られていく。
突破されるのは時間の問題。手早く再度魔法を行使し、飛び散った黒曜石の破片が旋回し始める。
そしてニーズヘグの排気孔へと侵入。内部より魔法で起爆され、斉射を敢行していた数体が爆裂した。

>「公共の場での銃撃は……違法行為だよ☆」

「見事なお手並みだぜ。流石はテスカ☆トリポカ!!」

テスカ☆トリポカの魔法を見てオービットは率直に感想を述べた。

>「リジェネレイター!ニーズヘグをこっちに引き付けて!
> バリアのせいで敷地の奥の方には地脈が繋げられないから!
> 寄ってきた奴を片っ端から爆殺してこ☆」

「了解した」

引きつけるためわざと目立つように飛翔すると、ニーズヘグの内一体が獰猛な機械の瞳を光らせてこちらへ接近してきた。
ニーズヘグは両腕からクローを展開してリジェネレイターの排除を開始した。剛腕を振り上げ飛び掛かって来る。
注釈をつけておくとロボットであるため攻撃の予兆は読めない。が、リジェネレイターとて素人ではない。
長きに渡るヴィランとの戦いで磨かれた格闘能力とスーツの索敵能力があれば並みのヒーローと同レベルには戦える。
カウンターで回し蹴りを浴びせて怯んだところで背負い投げ。竜は横転しながらテスカ☆トリポカの方へと転がっていく。

「こっちだこっち!もっと近づいてこい!」

意味があるのかないのか、オービットも適当に野次を飛ばした。

291 :神籬明治 :2019/04/05(金) 23:52:29.60 ID:yMxGM4mk.net
リジェネレイターに気付いた他の個体達が銃撃の射程まで接近してくる。
口部より機銃がせり出して発砲された時、リジェネレイターは爆裂した個体を引き摺り盾にした。
アダマス合金の装甲と機銃の弾丸が衝突する。

「よっし、悪くないアイデアだリジェネレイター。そのまま敵を引きつけろ!」

鉄塊と化したニーズヘグのなれの果ては順調に弾丸を防いでくれている。
機銃斉射を上手く防御しつつ敵を引きつけていると、にわかに喧騒が広まってきた。
異様を察知したマスコミや野次馬が本部の敷地外に集まり、それを警察が抑えているようだ。

「おおっと人気者は辛いねぇ。民間人を巻き込まないようにしねぇとな」

「俺達を見に来ている訳ではないと思うが」

「うっせぇな、分かってるよ」

>「こちらザ・フューズ、現場上空に到着した。
>これより近接航空支援を開始する。前に出過ぎるなよ」

スーツの通信機に響くザ・フューズの声。
同時、エクトプラズムのプレートが周囲に展開し、前方のニーズヘグ達が燃える。
プレートは協会へと逃げ込む退路を塞ぎ、前進を余儀なくされた状態だ。
機械の竜は灼熱の炎を纏いながらテスカ☆トリポカの射程圏へと接近してくる。

「ザ・フューズも来てくれたのか。ここの制圧は時間の問題だな。
 ……おっと!?気をつけろリジェネレイター、建物から飛来物だ!」

腕時計型端末の明滅と共に協会本部の窓から勢いよく何かが飛び出してきた。
弾丸をニーズヘグの残骸で防ぎながらHUDが捕捉したのはまだ幼い子供だ。
リジェネレイターは思わず頓狂な声を上げる。

「なんだと!?」

向いていた機銃の筒先がリジェネレイターから中空の子供たちへと移る。
恐らく現状に居合わせたヒーロー全員が驚いたに違いない。
幸いにしてニーズヘグが宿した破壊の吐息がその威力を発揮することはなかった。

292 :神籬明治 :2019/04/05(金) 23:53:29.71 ID:yMxGM4mk.net
子供たちと共に窓から飛び出していた影が彼らを狙う瞬時に機械の竜を切り裂いたからだ。
腕から生えた剥き身の剣が一体、また一体と敵を屠り、子供たちを狙う個体を全て潰したところで跳躍。
キャッチしたところで敷地外へと消えて行く。

「まさか――No14!?」

>「失礼!ソコノオ二人サン!ワタシ達ノ変ワリニ、アノ蜥蜴ノ相手ヲ、マカセマシタヨー!」

再び降ってくる弾丸の雨を前に状況説明を求めることもできず、リジェネレイターは気が気でない。
協会本部の周囲に人が集まってきている手前、彼に出来るのは迅速なこの場の確保だけだ。
やがてザ・フューズとテスカ☆トリポカの活躍により、周囲に展開するニーズヘグは全て片付いた。
一段落終えたところで上空にいたザ・フューズと合流する。

>「……上空から見た限り、このエリアは確保出来た。まずはここの維持に努めるぞ」

「ああ……だが敵はヒーロー協会を陥落させたほどの相手。
 所有している兵器があれだけとは限らないはず……。
 次はニーズヘグ以上のロボットを投入してくる可能性が高い」

「早く突入して協会の職員や駐在してたヒーローの安否を確認したいところなんだがな」

>「重役出勤してくるヌルいヒーローどもがまだいるはずだ。
> ソイツらが到着したらこの場を任せて、中に踏み込む。それでいいか?」

「俺とオービットに異論はない。そうしよう」

話が纏まったところで、ザ・フューズの視線が敷地外へと向けられる。
規制線の向こう側ではNo14が子供を助けた救世主として賞賛を浴びている真っ最中だ。
リジェネレイターもなんとなく敷地外の方へと視線を向けるとNo14の声が聞こえてきた。

>「オービット、スカとポカ、援護ゴ苦労デアッタ!」

「お、おう。サンキュー」

見当違いの相手への労いに、オービットは思考パターンをやや混乱させつつそう言った。
No14との関わりは前回の戦闘程度しかないが、性格が少々変わってしまった気がする。
主に口調や仕草といった雰囲気がだ。窓から急に飛び出してくる危なっかしさといい――。
そこまで思考を巡らせたところで、ザ・フューズの感情の色を読んでしまった。

>「……人の命で博打を打つのは楽しかったか?ブリキ人形」

軽蔑と落胆。ザ・フューズの感情は世間が抱いているであろう感情とは真逆のものだ。
No.14のとった行動は人命の救出を齎したが、それは確実な方法ではなかった。
より正確に言ってしまえば、今のNo.14はヒーローとして子供を助けた訳ではなかったのだろう。

293 :神籬明治 :2019/04/05(金) 23:54:06.85 ID:yMxGM4mk.net
>「私は、お前のごっこ遊びに付き合うつもりはない。
> 前衛はお前が努めろ。役に立つ内は援護はしてやる」

「なぁなぁ、フォーティーンちゃんよ。ザ・フューズはおこだけど世間一般はお前の味方だろうぜ。
 【速報】廃棄予定のロボットヒーロー、颯爽と子供たちを救助!!まだ事件も解決してないのにネットは呑気なことで」

No14の救出劇はセンセーショナルなもので、世間を賑わせているようだが実際のところは芳しい状況でない。
何せメトロポリスの治安を守る要が陥落しているのだ。この騒動が続くほど他のヴィランへの対応は遅れ、
反社会勢力の活動を活発化させかねない。ヒーロー協会にとっては大きすぎる失態であり、一刻も早い火消しが望ましい。

「オービット……戦闘中にネットサーフィンはやめないか」

「AIは必要なことしかしない……別に遊んでた訳じゃないさ。世論を読んでたんだよ。
 だから言っておく。さっきの救出劇はセンセーショナルだった。でも結果オーライで済ませる訳にはいかない。
 暴走……いや、ただの殺人兵器に戻っちまってるかもしれないロボットにこれ以上戦闘なんてさせられないからな」

オービットの平坦な機械音声をリジェネレイターは黙って聞いていた。
リジェネレイターはNo14が暴走する危険性を取り除いてやりたいと考えていたし、廃棄にも否定的だった。
オービットもまた同様だ。しかし、それとこれとは問題を切り分けて考えている。
エラーを解消していないロボットの戦闘などヒーローの相棒として看過できない。

「ザ・フューズ、悪いが俺はNo14と一緒に戦うのは反対だな。リスクが大きすぎる」

相棒の意見をひとしきり聞いたところで、リジェネレイターは貝のように重い口を開いた。

「……俺は、No14の意志に任せる。彼女は子供たちを助けた。悪意も感知していない。
 協会の中にはまだ生存している人がいる。俺には感じるんだ。中にいる人が発する苦しみや恐怖の感情が。
 ……No14、その人達を助けるつもりはあるか?もしあるのなら……俺達と一緒に戦ってほしい。君の力が必要だ」

「おい。俺の話聞いてたか?」

「誰かを助けたいという気持ちと、ヴィランに立ち向かう勇気。それがあれば誰もがヒーローだ。
 でもヒーローだって完璧じゃない。だから足りない部分はサポートし合えばいいし……何かあれば止めればいい。
 No14は確かにヒーローだった。いち同業者として、No14のヒーローとしての意志が消えていないと俺は信じたいんだ」

「……分かったよ。お前がそう言うのなら。悪かったな、No14」

沈黙した腕時計型端末から三人のヒーローへと視線を移し、リジェネレイターの行動指針は決定した。
他のヒーローが到着次第、ザ・フューズ、テスカ☆トリポカ、No14と共に協会本部に踏み込む。
そして残されている非戦闘員および負傷者を救出――首謀者たるヴィランを制圧する。

294 :神籬明治 :2019/04/05(金) 23:55:18.01 ID:yMxGM4mk.net
一同が確保した敷地内のエリアに新たな敵性兵器が現れた。
敷地の奥に潜んでいた残りのニーズヘグと、協会本部の中から現れた新たなロボット。
ニーズヘグより一際大きい、四つ足の赤い機械の竜だ。

「あれは対人殺戮兵器『ファーブニル』か……!
 宇宙人の技術を流用して開発された新型ロボットだな」

オービットの機械音声に無言で頷くと、リジェネレイターはニーズヘグの残骸を盾に臨戦態勢に入った。
ファーブニルはニーズヘグと共に口部を開いた。中からせり出してきたのは――敵を焼き殺す強力なプラズマ・キャノン。
スペック上アダマス合金にも通用する威力を秘めた兵器だ。まさにその破壊力を開放せんとした時、鋭い一声が機先を制する。

「そこのまっすぃーん達、ちょった待ったぁ!!」

プラズマキャノンと機銃の放った破壊の嵐はヒーロー達ではなく声のする方へと放たれた。
リジェネレイターは咄嗟に声のした方向へ視線を移したが、誰もいない。
殺戮機械達は虚空へと向けて斉射を行っている。機械に設定された危険度が眼前のヒーロー達より高いからだ。

「あわわ……やっぱりタイム……攻撃激しすぎ……まだ変身してない……」

またもや声だけが聞こえてきた。幻聴の類ではない。
リジェネレイターはこの異様を解き明かすこともできず疑問符だけを浮かべていた。
しかし、事はそう難しい話ではなかった。魔力を感知し知覚できる者なら容易に理解できる。
何もない空間には誰かがいる。魔法を行使し、光を操って姿を消せる者がそこにいるのだ。

そうして姿を消して誰にも気づかれずそろりそろりと敷地内に侵入できたという訳である。
だがファーブニルもニーズヘグも敵を探知する時はカメラだけでなく熱や音といった様々なセンサー類を用いる。
姿を消せたとて即座に存在を認識し、照合して敵味方を識別。攻撃に移行する。

答えを明かしてしまえば、何もないはずの場所では一人の少女が魔法で必死こいて斉射を防いでいた。
銀色のショートヘアにアーモン形の赤い目をしている。ちょっときついが美人の部類だ。
もっとも恵まれた容姿を台無しにする瓶底眼鏡をかけていなければ。セーラー服を着ている辺り公立の女子高生だろう。
女子高生は両手でワンドをぎゅっと握りしめながら、功名心からくる自身の迂闊な行動を呪った。

「ああっ……終わりのないディフェンスでもいいよ。
 消えてる状態で変身するってカッコつかないけど、背に腹は代えられないよね……?」

いずれにせよ、消えてる状態で変身するしかなかった。
敷地外には多数の野次馬や報道機関、警察でごったがえしており、空撮用のドローンも飛んでいる。
ちょっとした遊び心で抱いたであろう"カッコ良く登場してから変身"は実現し得なかった。

総レス数 625
1025 KB
新着レスの表示

掲示板に戻る 全部 前100 次100 最新50
read.cgi ver 2014.07.20.01.SC 2014/07/20 D ★