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茨木敬くんの日常
- 1 :創る名無しに見る名無し:2020/05/06(水) 10:20:19 ID:71TaaVxA.net
- 主人公は茨木敬くん、33歳独身のヤクザです。
顔も身体も傷だらけで喧嘩もメチャメチャ強く、見た目は怖いけど心は優しい人です。
子供、女性、老人は絶対に殴ることが出来ず、スイーツが大好きです。
孤児院出身なので、特に身寄りのない人に対してはとっても優しいです。
そのくせお酒や辛いものも好きで、敵対する人をブッ殺したことも何度もあって、渋みが全身から滲み出ています。
そんな茨木くんの平凡な日常。さて、今日はどんなことが起こるのかな?
- 436 :創る名無しに見る名無し:2020/05/26(火) 07:33:06 ID:BonkuUC2.net
- 隣の部屋を叩いてみたが、ヤーヤもいなかった。
「どこだ?」
茨木は近所を駆け回った。
「どこへ行った!?」
- 437 :創る名無しに見る名無し:2020/05/26(火) 07:42:24 ID:BonkuUC2.net
- 二人が行きそうな場所は限られていた。
茨木はディスカウントスーパーに隣接したおやつショップ『ぱくぱく亭』に息を切らして辿り着くと、店員に聞いた。
「ウチの女房と池沼の息子が来なかったか?」
「あ……」
店員は茨木の顔を見るなり、気の毒そうに言った。
「あっちの公園で……」
- 438 :創る名無しに見る名無し:2020/05/26(火) 07:46:34 ID:BonkuUC2.net
- 公園に着くと、パトカーが何台も停まり、現場は封鎖されていた。
「入れてくれ!」
現場に入ろうとする茨木を警官が止めた。
「ダメです! 関係者以外は……ああっ!?」
警官を投げ飛ばして中へ入ると、顔見知りの速水刑事がいた。
「おお、茨木じゃないか」
歩道にチョークで人間の形が3つ、書いてあった。
- 439 :創る名無しに見る名無し:2020/05/26(火) 07:55:15 ID:BonkuUC2.net
- 警察病院で茨木は3つの遺体と対面した。
一人は知らない女だった。
もう一人は優太だ。胸を何発も拳銃で撃たれ、何かほくそ笑むような顔をして死んでいた。
中條は変わり果てていた。
美しかった顔の真ん中に穴が空き、倒れた時に強打した後頭部がへこみ、自慢の髪も血でべっとりと濡れていた。
- 440 :創る名無しに見る名無し:2020/05/26(火) 07:56:34 ID:BonkuUC2.net
- 「中條」
警官が見ているのも構わず、茨木は主人公の特権を使った。
「生き返れ!」
- 441 :創る名無しに見る名無し:2020/05/26(火) 07:59:46 ID:BonkuUC2.net
- しかし中條は固い死体のまま、動き出しはしなかった。
茨木は何度も繰り返した。
「中條! 生き返れ!」
「中條っ! 生き返れよ!」
「おい中條! てめぇ! 生き返れっつってんだ!」
「バカかてめぇは! あれほど外に出るなっつったろォが! 責任とれ! いきおいで!」
「中條ォォー……! 生き返ってくれ……」
- 442 :創る名無しに見る名無し:2020/05/26(火) 08:01:43 ID:BonkuUC2.net
- 「なぜだ……」
茨木は中條の胸に突っ伏した。
クロの言ったことが頭に甦る。
- 443 :創る名無しに見る名無し:2020/05/26(火) 08:02:30 ID:BonkuUC2.net
- クロは言ったのだった。
「物語の根幹に『そいつが死ぬことが必要』とされた場合は、そのキャラは生き返れない」
「例えばな、そいつが死んだことで主人公のお前の怒りに火がつき、お前がパワーアップしたために強敵に勝った、とかの場合だ」
- 444 :創る名無しに見る名無し:2020/05/26(火) 08:09:21.95 ID:BonkuUC2.net
- 「まさか……」
茨木は怒り狂うほどの憎しみに満ちた目で虚空を睨んだ。
「まさか……。この怒りでパワーアップして剛力に勝てってのか……?」
そしてザクロのようになってしまった中條の顔を両手で抱えると、涙の雨を降らせた。
「馬鹿野郎! そんな物語なら俺はいらねぇ! 俺が欲しいのはお前だけだ! 中條!」
そう言うと、どこが口だかわからない中條の顔にキスをした。
- 445 :創る名無しに見る名無し:2020/05/26(火) 08:15:29.72 ID:BonkuUC2.net
- 部屋に帰った茨木は仰向けに倒れたまま、じっと動かなかった。動けなかった。
隣室のヤーヤはアイドルの仕事に出ているらしく、相変わらず気配がなかった。
剛力組への怒りよりも、悲しみと、そして作者への怒りが勝っていた。
この物語に乗ることに激しく反抗してやりたい気持ちだった。
- 446 :創る名無しに見る名無し:2020/05/26(火) 08:17:12.14 ID:BonkuUC2.net
- ふと床に散らかった鉄道のオモチャを見て、ようやく思い出した。
こっちもたぶん無理だろうと思いつつ、まだやっていなかったので、やってみた。
「優太」
茨木は口にした。
「生き返れ」
- 447 :創る名無しに見る名無し:2020/05/26(火) 08:33:50.02 ID:fCbxiyIQ.net
- しかし、なにも起きなかった。
茨木「…」
優太は死んでいなかった。
正確には何者かが彼の精神を乗っ取り、
死んだふりをしていたのだ。
茨木(生き返れ…!生き返れ…!)
そうとは知らぬ茨木は祈り続ける。
- 448 :創る名無しに見る名無し:2020/05/26(火) 12:54:55.55 ID:z2XJnw6s.net
- 疲れ果てた。
すべてを失ってしまった。
茨木は暗い部屋で、死んだ目をしながら、幸せだった日々のことを思い出していた。
優太はまるで本当の息子のようになっていた。
しかも実年齢の18歳ではなく、5歳ぐらいの。
そいつを二人で育てている気分だった。
籍は入れていなくても既に夫婦のように思えた。
優太が「パパ」「ママ」と呼んでくれるせいもある。
二人の気のいい隣人が自分らを頼りにし、慕ってくれていることもある。
しかし茨木はそれらがもしなかったとしても、中條との日常を、心からかけがえのないものとして感じ始めていた。
顔の美しさなどもうどうでもよかった。
自分に不釣り合いだなどとはもう思っていなかった。
自分の人生を歩いて行くのに、伴侶はもうコイツしか考えられなくなっていた。
- 449 :創る名無しに見る名無し:2020/05/26(火) 13:00:25.94 ID:z2XJnw6s.net
- 「すべて……失くした」
茨木は呟いた。
「……俺も死ぬか」
その時、玄関でチャイムが鳴った。
出る気にもならず放置していると、ドアの鍵がカチャカチャと音を立てて開き、誰かが入って来る。
『……中條?』
茨木が思っていると、入って来たヤーヤが明るく笑顔で振り向いた。
「おとーさん、甘いのケーキ、あるよ。いっしょに食べる!」
その丸顔が、茨木には太陽が入って来たように見えた。
- 450 :創る名無しに見る名無し:2020/05/26(火) 13:03:16.96 ID:z2XJnw6s.net
- 「ヤーヤ!」
茨木は思わず飛び起き、泣き顔で抱きついた。
「フギャーー!?」
ヤーヤはケーキの箱をぺしゃりと落とした。
- 451 :創る名無しに見る名無し:2020/05/26(火) 17:09:48.34 ID:fCbxiyIQ.net
- その後、優太の遺体は安置場から姿を消した
という報が茨木宅に届いた。
茨木「優太は生きていた…いや、誰かが優太の死体を持ち去ったのか…?」
- 452 :創る名無しに見る名無し:2020/05/26(火) 17:26:19.69 ID:n618BH67.net
- まだ17歳の少女なのに、ヤーヤは人の死を身近で見すぎていた。
まず台湾で、親友のムーリンの目の前で、自分自身が殺された。
親友の父親に、身体を八つ裂きにされて。
茨木敬の『主人公の特権』により日本の地に甦らされ、親友でありライバルでもある山本サアヤと出会った。
しかし彼女は狂ったファンにより射殺された。
そして若すぎるが、日本での母のように慕っていた中條あやがまた殺された。
ヤーヤはそれを茨木の口から聞かされた。
- 453 :創る名無しに見る名無し:2020/05/26(火) 17:33:05.79 ID:n618BH67.net
- 「ヤクザだ」
茨木は言った。
「中條はヤクザだったんだ。組を裏切ったため、同じヤクザに殺されたんだ」
「ヤクザ……」
ヤーヤは愕然としながら聞いた。
「そして今だから言うが、山本はファンに殺されたんじゃない。山本はヤクザのアルバイトをしていたんだ」
「サアヤが……ヤクザ?」
「ああ」
茨木は俯いた。
「そして、すべては俺のせいだ。俺がヤクザに狙われたから、彼女らは……」
- 454 :創る名無しに見る名無し:2020/05/26(火) 17:43:31.39 ID:n618BH67.net
- 「おとーさんは」
ヤーヤは真面目な顔で聞いた。
「けいちゃんは、ヤクザか?」
「そうだ」
茨木は俯いたまま、答えた。
「だが、争いたくはなかった。中條とも山本とも、やり合うつもりはなかった」
ヤーヤは茨木の日本語を理解しているのかいないのか、黙って聞いていた。
茨木は構わず話し続けた。
「俺は彼女らと平和に過ごしたかっただけなんだ。たったそれだけの願いが、なぜ……」
「なら、私も、ヤクザになる!」
「へ?」
茨木は思わず顔を挙げた。
ヤーヤは真剣な顔をしていた。
「お願い、けいちゃん。ヤーヤに教える。人の殺し方」
- 455 :創る名無しに見る名無し:2020/05/26(火) 17:50:11.59 ID:n618BH67.net
- 「バカ言うな!」
茨木は叱る口調で言った。
「お前に話したのは敵討ちをさせるためじゃねぇ!」
「やだ! ヤーヤ、闘う! 闘いたい! サアヤとあやちゃんと、ゆーたのカタキもする!」
ふと茨木は思い出した。
台湾で、ヤーヤは細い身体で自分の巨体を突き飛ばしたことがあった。
中国拳法を習ったことがあるとも聞いた。
仲間が出来れば、剛力組と闘う気にもなるかもしれない━━
- 456 :創る名無しに見る名無し:2020/05/26(火) 17:59:45.45 ID:n618BH67.net
- 『待て待て……』
茨木は自分の部谷に顔を叩いた。
『17歳の少女だぞ』
「お願い、おとーさん! ヤーヤに教える!」
「変なこと考えるな」
茨木はヤーヤの肩を掴んだ。
「お前はアイドルに専念するんだ」
「1000年もできないよ!」
ヤーヤは首を横に振った。
「それに、こんな気持ちで笑えない。明日アイドルやめる!」
「じゃあ、ひとつだけ、お前に話したのは出来ることをお願いしていいか?」
「なに?」
ヤーヤは身を乗り出した。
「俺をサポートしてくれ」
「さぽ……? あ、support? なにする?」
「笑ってくれ」
茨木は言った。
「お前の笑顔を守るため、俺は闘う気になれる」
- 457 :創る名無しに見る名無し:2020/05/26(火) 18:12:49 ID:n618BH67.net
- 「だから!」
ヤーヤはさっき言ったことを聞いてないのかと言わんばかりの剣幕でまくし立てた。
「こんな気持ちで笑えない! 笑えないでしょう!? おとーさんは笑えるの!?」
「わかってるさ」
茨木は言った。
「それを笑うのがアイドルってもんじゃねぇのか? お前の闘いを見せて欲しいんだ。悲しくてやりきれない心を隠して、笑ってみせてくれ」
「いやだ!」
大きな瞳から音を立てる勢いで涙を流すヤーヤを、たまらず茨木は抱き締めた。
「それがお前の闘いだろうが」
茨木も泣きながら、ヤーヤの背中を優しく叩いた。
「お前が頑張ってるのを見たら、俺も頑張れる。敵討ちのことはすべて俺に任せてくれ」
- 458 :創る名無しに見る名無し:2020/05/26(火) 18:19:47 ID:n618BH67.net
- 自分の部屋に戻ると、ヤーヤはまっすぐ箪笥に向かい、引き出しを開けた。
知っていた。鍵のついた小箱を開けると、それがそこにあることを。
小箱から山本サアヤの使っていた刃物付きのメリケンサックを取り出すと、ヤーヤは拳にはめた。
「サアヤ、敵はとるよ」
ヤーヤは中国語で呟いた。
「けいちゃんが何と言おうと、私はやる! 台湾のムーリンのためにも、私は強くなるんだ!」
茨木は知らなかった。
主人公の特権により生き返った者は、ある不思議な力を持っていることを。
- 459 :創る名無しに見る名無し:2020/05/26(火) 19:49:01 ID:S0oBwvEk.net
- その時、大きな音とともに部屋は煙と炎に包まれた。
剛力組の襲撃である。剛力組は離反者や敵対者とその身内を徹底的に殲滅することは有名だった。
「ぬわー」
ヤーヤの悲鳴が聞こえた。
「ヤーヤ!」
茨木が叫んだ。
(・・・また、おれは助けられないのか・・・?)
- 460 :創る名無しに見る名無し:2020/05/26(火) 23:15:13.77 ID:n618BH67.net
- ヤーヤはくるくると空中で3回転すると、裸足でアスファルトに降り立った。
敵を見る。
敵は7人の女。
歪んだ顔をして、姿を現したヤーヤを睨みつけている。
武器は……よくわからなかった。知識がなかった。
ヤーヤには『部屋を吹っ飛ばすやつ』としか言えなかった。
恐くはなかった。
身体の奥から何かが湧き上がって来た。
というよりも、身体の中に、何かが、いた。
「たった7人かよ?」
ヤーヤは流暢な日本語で言った。
「私を殺るのにそれじゃ足んねーだろ」
そして顔の前で拳を交差させる。
ヤーヤが『気』を流し込むと、はめているメリケンサックが形を変えはじめる。
- 461 :創る名無しに見る名無し:2020/05/26(火) 23:17:06.41 ID:n618BH67.net
- 「うわっ?」
「なんだあれ!」
剛力組の兵隊達がざわめいた。
ヤーヤの拳から猫のように、ジャキンと音を立てて爪が伸びた。
- 462 :創る名無しに見る名無し:2020/05/27(水) 03:52:01.01 ID:zL2iNGcF.net
- 「あれっ?」
「あれってDTB48のヤンちゃんじゃね?」
女ヤクザ達がざわつき始めた。
「違う」
ヤーヤは否定した。
「私の名前は……貓拳少女ヤンちゃん!」
- 463 :創る名無しに見る名無し:2020/05/27(水) 03:53:17.65 ID:zL2iNGcF.net
- 「文字化けた! やりなおし」
ヤーヤは仕切り直した。
「私の名前は……猫拳少女ヤンちゃんだ!」
- 464 :創る名無しに見る名無し:2020/05/27(水) 09:42:36.73 ID:EGkaq2TD.net
- しかしそのツメは柔らかく、ゴムのようにびよんびよんしている。
- 465 :創る名無しに見る名無し:2020/05/27(水) 12:14:50.34 ID:LPJI66Ad.net
- 「やっぱりヤンちゃんなんじゃねーか!」
「ファンなんだよ! サインくれや!」
「握手させろやゴルァ!!!」
凶悪そうな顔で迫って来る女ヤクザどもにもヤーヤは怯まなかった。
しかし爪が柔らかい。
こんなもので人は殺せない。
「フッ。これはこうやって使うんだよ」
ヤーヤの口がそう言うと、ヤーヤの手が動いた。
腕を振るとその勢いで爪はさらに長く伸び、それは鞭のように女ヤクザどもに襲いかかった。
- 466 :創る名無しに見る名無し:2020/05/27(水) 12:16:49.18 ID:LPJI66Ad.net
- 長く伸びた爪が当たると、ぶるるんという音がした。
爪に撫でられた女ヤクザはたちまち猫になった。
見た目は人間のままだが、目があどけなく黒目がちになり、口が三口になり、そしてその口が鳴いた。
「みゃお」
「みゃお」
「みゃーん」
「はい、猫ちゃん達、並ぶ」
ヤーヤは猫を一列に並ばせると、言った。
「一匹ずつ、握手する。で、サイン。OK?」
「みゃーん!」
猫達は嬉しそうに鳴いた。
- 467 :創る名無しに見る名無し:2020/05/27(水) 12:17:23.66 ID:LPJI66Ad.net
- 外に駆け出して来た茨木は、それを唖然としながら見ていた。
「なっ……」
茨木は声に出した。
「なんて可愛いんだ!」
- 468 :創る名無しに見る名無し:2020/05/27(水) 17:56:41.76 ID:BMgzr1Gd.net
- ヤーヤの部屋は大破した。
隣の茨木の部屋は奇跡的に無事だった。
狭い部屋の真ん中にカーテンをかけ、その向こうでヤーヤが着替えをしている。
茨木は心を無にし、石になることに努めた。
- 469 :創る名無しに見る名無し:2020/05/27(水) 18:10:29.31 ID:Eb1iJMkl.net
- その夜、茨木は夢を見た。
まずは紺に赤の入った法被を着た一人の男が現れた。
華奢だがバネのように力強いその男は、茨木が若い頃に世話になった迎良 菊二郎親分その人だった。
「何メソメソしてんでィ、敬坊」
菊二郎親分はハッパをかけるように、腕組みをしながら言った。
「泣いてる場合じゃねェだろォが!?」
菊二郎親分が消えると、麦わら帽子を被った一人の少女が現れた。
7歳ぐらいの少女は風の中に立ち、横を向いていた。
顔が見えそうで、見えない。
「あや」
茨木は少女の名前を呼んだ。
「あや……だよな?」
「敬くん」
少女が振り返った。
- 470 :創る名無しに見る名無し:2020/05/27(水) 18:20:39.84 ID:Eb1iJMkl.net
- 「中條……」
茨木はその頭を抱き、髪を撫でた。
柔らかくウェーブした長髪が、なんだか短く、お陽様の匂いがした。
目を開けると、カーテンの向こうで優太の布団に寝ている筈のヤーヤの顔が、すぐ目の前にあった。
茨木はヤーヤの頭を撫でていた手をそっと引くと、無言でその寝顔を見つめた。
鼻筋が綺麗に通り、頬がふっくらと丸く、健康的に黒い肌がところどころ赤みを帯びていた。
閉じた瞼の向こうにキラキラとした大きな瞳を想像した。
小さな唇がわずかに開き、寝息を立てていた。
茨木は無意識にその唇に向かって人差し指を伸ばしていた。
- 471 :創る名無しに見る名無し:2020/05/27(水) 18:28:47.29 ID:Eb1iJMkl.net
- いきなり目を開けると、ヤーヤは言った。
「おとーさん」
「……おはよう」
そう言いながら、茨木は伸ばした指をヤーヤの顔の前でゆっくりと回した。
「怖い夢、ヤーヤ見た。タコが、たこやき、食べてた」
「そうか」
茨木はくるくると指を回した。
「この指、なに?」
「……催眠術」
- 472 :創る名無しに見る名無し:2020/05/28(木) 05:15:01 ID:ium6f/ud.net
- 【主な登場人物まとめ】
茨木 敬(イバラキ ケイ)……主人公。「ステゴロの鬼」「不死身の茨木」などの異名を持つ全身傷だらけのヤクザ。
ヤン・ヤーヤ……17歳の台湾人の少女。アイドルグループDTB48の人気メンバー。茨木を『おとーさん』と呼ぶ。
飛島 優太……18歳の若さながら最凶最悪と呼ばれる殺し屋でヤクザ。とんでもないスケベで変態。
剛力あやの……剛力組組長。主人公の座を欲しがり茨木を狙い、茨木の恋人中條あやを殺させた。公家言葉を使う。
上戸あやこ……剛力組若頭。男100人をまとめて吹っ飛ばす剛力の持ち主。
- 473 :創る名無しに見る名無し:2020/05/28(木) 05:18:53 ID:ium6f/ud.net
- 【死亡した人達】
中條あや……茨木の恋人。
山本サアヤ……ヤーヤの親友であり、ライバルだった。
高島あやみ……剛力組のスナイパー。
バフューム……西脇あやや、大本あやよ、樫野あやゆかからなる地獄のテクノポップユニット。
【よくわからない人物】
ヨコヤ……ほぼ名前しかわかっていない。
- 474 :創る名無しに見る名無し:2020/05/28(木) 05:21:21 ID:ium6f/ud.net
- 【謎の人物】
クロ……全身真っ黒でいつも全裸なのに性別すら不明。『主人公』の秘密を握る人物。
ララ……優太の中に入り優太を操っているらしき人物。
- 475 :創る名無しに見る名無し:2020/05/28(木) 05:23:48 ID:ium6f/ud.net
- 「昨日、見たよね?」
ヤーヤは歯磨きをしながら、茨木に言った。
「ヤーヤも闘うの」
「ああ……」
茨木はヤーヤの尻から慌てて目をそらして、言った。
「仲間を集めるぞ」
- 476 :創る名無しに見る名無し:2020/05/28(木) 05:25:21 ID:ium6f/ud.net
- とりあえず茨木は夢に出て来た迎良(げいら)菊二郎親分を頼るつもりでいた。
「親分ならきっと、力を貸してくれる……」
- 477 :創る名無しに見る名無し:2020/05/28(木) 07:31:55 ID:G5BONv2k.net
- チャイムが鳴った。
出てみると、ハーフのような美しい顔をしたおばさんがお辞儀をし、言った。
「中條あやの母です」
- 478 :創る名無しに見る名無し:2020/05/28(木) 07:39:49 ID:G5BONv2k.net
- 中條の母、中條かなこは娘の遺骨を引き取りに来たのだと言った。
「そうですか」
かなこは茨木の話を聞くと、言った。
「あの子、私には『女優をやっている』と言ってましたのよ」
「あ」
茨木は口を押さえた。
「まずかったかな」
「いえ。おかしいと思っていましたもの。親が言うのも何ですけれど、あの子の器量でいつまでも
端役をやらせて貰ったという話もないし、何よりあの子の演技力で女優が務まる筈ありませんもの」
茨木は思い出した。
山本が捕まったと自分に嘘をついた時の、中條のひどすぎる演技を。
- 479 :創る名無しに見る名無し:2020/05/28(木) 07:44:17 ID:G5BONv2k.net
- 「そうですか。あの子がヤクザを」
そう言うと、中條かなこは着物の上着を勢いよく捲った。
「ちょ……お母さん!?」
茨木が慌てた。
「わー」
ヤーヤが喜んだ。
中條かなこの晒した背中には、天に昇る蒼い龍の彫り物があった。
「血は争えませんわね」
- 480 :創る名無しに見る名無し:2020/05/28(木) 07:49:00 ID:G5BONv2k.net
- 「それにしても……剛力組とか言いましたか?」
中條かなこは半分据わった目で、言った。
「そんな聞いたこともない、女ばかりだとかいうふざけた組に、舐められたままではおられまへんどすえ」
「ど、どすえ?」
茨木がたじろぐ。
「どっすえー!」
ヤーヤが喜ぶ。
「天下の緒方組組長未亡人の娘に手ェ出しよったらどないなるか、教えてやらなあきまへんなッ!!!!」
中條かなこは鬼子母神のごとき顔で言った。
- 481 :創る名無しに見る名無し:2020/05/28(木) 07:59:13 ID:G5BONv2k.net
- とりあえずみんな腹ペコだったので、飯を食いに3人で街へ出た。
「何食べたい?」
「パンケーキ」
「パンケーキが食したいどす」
「俺もパンケーキだ。……俺達、息が合ってるな」
一発で意見が一致し、喫茶店に入ることになった。
- 482 :創る名無しに見る名無し:2020/05/28(木) 08:01:49 ID:G5BONv2k.net
- 喫茶店に入ると、奥の席に見慣れた顔があった。
グレーのジャンパーを着て、男装した山本サアヤがパンケーキを食べていた。
「さ、サアヤっ!?」
ヤーヤが思わず大声を出すと、山本サアヤは振り向き、気だるそうに笑いながら、言った。
「ヤンちゃんじゃないか」
- 483 :創る名無しに見る名無し:2020/05/28(木) 08:06:04 ID:G5BONv2k.net
- 「山本……!? お前、生きてたのか!」
茨木も驚いて駆け寄る。
「待つ!」
ヤーヤが『待って!』のつもりで言った。
「サアヤちがう」
「山本サクヤと言います」
グレーのジャンパーを着た男は、弱々しく笑うと、自己紹介した。
「山本サアヤの弟です。姉の遺骨を引き取りに引き取りに昨日、山形から出て来ました。」
- 484 :創る名無しに見る名無し:2020/05/28(木) 08:16:48 ID:G5BONv2k.net
- 「これで四人か」
一気に仲間が増え、茨木は喜んだ。
「出来れば、七人は欲しいな」
- 485 :創る名無しに見る名無し:2020/05/28(木) 11:40:11 ID:G5BONv2k.net
- 茨木は優太の父親に電話してみることを思いついた。
優太の父親は暴力団飛島組の組長である。力を貸してくれるかもしれない。
電話口に出た女性に事情を話すと、飛島組にはまだ優太の死亡が伝わっていないようだった。
取り次いで貰うと、飛島組長はひどく取り乱した様子ですぐに電話に出た。
「む、息子が殺されたというのは本当か!?」
- 486 :創る名無しに見る名無し:2020/05/28(木) 11:46:23 ID:G5BONv2k.net
- 茨木は自分の素性とご子息との関係を告げると、剛力組のことを話した。
茨木の話を聞きながら、飛島組長が悲嘆に暮れているのがわかった。
「心中お察しします」
「あああ……なんということだ」
飛島組長の声は涙に湿っていた。
「飛島組長。息子さんの敵を一緒にとりましょう!」
「うむ。その剛力組とかいう奴ら、許せん!」
「では……! お力を……」
「正太の敵、必ずや!」
「え。なんて?」
- 487 :創る名無しに見る名無し:2020/05/28(木) 11:54:33 ID:G5BONv2k.net
- 「正太が殺されたのだろう?」
「いえ、優太くんです」
「優太? ……ああ! なんだ!」
飛島組長は安堵の声を漏らした。
「優太なのか。優太が殺されたのか……ああ、よかった」
「よ、よかった?」
- 488 :創る名無しに見る名無し:2020/05/28(木) 11:56:10 ID:G5BONv2k.net
- 「私の息子は長男の正太だけです」
飛島組長は嬉しそうに笑いながら、言った。
「二男の優太というのが確かにおりましたが……」
「は、はぁ……」
「アイツは未成年の分際でフロ屋の経営に手を出したり、兄弟分の娘を強姦したり、親を危険な目に遭わせてくれてばかりなので縁を切りました」
「……はぁ」
「茨木さんと言いましたか。ウチでアイツの葬式を出すつもりはありませんし、ましてや敵をとるつもりなどみじんもござんせん」
「そうなんですか……」
「ご面倒をかけますが、死体の処理はそちらに任せます。海にでも放り投げてやってくだせぇ」
- 489 :創る名無しに見る名無し:2020/05/28(木) 11:57:48 ID:G5BONv2k.net
- 「ヤッター! 優太が死んだー!」
と言いながら、飛島組長は電話を切った。
茨木は呟いた。
「だめだこりゃ」
- 490 :創る名無しに見る名無し:2020/05/29(金) 07:22:03 ID:6yeCgf0i.net
- 茨木はやはり迎良菊二郎親分を頼ることにした。
「よく来たな、敬」
菊二郎親分は茨木を迎え入れると、笑った。
10年ぶりくらいに会うのだろうか、黒々としていた髪はゴマ塩のように白髪が混じっていた。
- 491 :創る名無しに見る名無し:2020/05/29(金) 07:24:53 ID:6yeCgf0i.net
- 「わかった」
菊二郎は話を聞くと、すぐに言った。
「力を貸そう」
「ありがてぇ!」
茨木が顔を明るくする。
「ただ、その代わりといっちゃ何だが、こちらにもちと力を貸しちゃくんねぇかな」
「どうしたんです?」
「近々、恒例の『極道大運動会』があるんだが……」
- 492 :創る名無しに見る名無し:2020/05/29(金) 07:28:54 ID:6yeCgf0i.net
- 極道大運動会とは、文字通りヤクザばかりの運動会である。
ただし、それはただの運動会ではない。
その勝敗によって、それぞれの組の覇権やシマの大きさが決まってしまうのだ。
いわばそれは無血の抗争とも言えるものだった。
いや、実際には競技がエスカレートしすぎて殺し合いとなることもよくあった。
- 493 :創る名無しに見る名無し:2020/05/29(金) 07:32:30 ID:6yeCgf0i.net
- 「ウチの組員はジジイばっかりになっちまってな」
菊二郎親分は打ち明けた。
「平均年齢が70歳を超えてる。これでイキのいい敵の若いモンに立ち向かうのは正直、辛ぇ……」
「はぁ……」
茨木はもちろんそのことに気づいたが、敢えて何も言わなかった。
「力を貸してくんねぇか」
茨木の組は訳あって毎年運動会には不参加だった。
そのことを知っていて、菊二郎は茨木に助っ人を申し出たのである。
- 494 :創る名無しに見る名無し:2020/05/29(金) 07:37:24 ID:6yeCgf0i.net
- 「わかりました」
茨木は即答した。
「力を貸しましょう」
「ありがてぇ!」
菊二郎は両手を前で打って感謝した。
「じゃ、早速、練習だ!」
これでもし運動会でいい成績を残しても、茨木には恐らく何の得もなかった。
迎良組にジジイしかいないのなら、剛力組と争うのに力を貸して貰ったところで、ほぼ役に立ちそうになかった。
しかし茨木は菊二郎親分に返しても返しきれない恩義があった。
- 495 :創る名無しに見る名無し:2020/05/29(金) 07:49:53 ID:6yeCgf0i.net
- 一方、剛力組では、茨木敬の抹殺を一旦中止して、極道大運動会の練習にみんなで励んでいた。
「今年こそ優勝して、シマを大幅に拡大し、組の知名度をぶち上げるでおじゃる!」
剛力組長の檄に組員達はハイテンションなシャウトで答えた。
しかし剛力組は山本サアヤはじめ力のある選手を茨木との闘いで多く失っていた。
「助っ人を雇うでおじゃる」
剛力組長は組の中でも中條あやに次ぐ美人と評判の藤あやみに命じた。
「強い男をお前の色気でたぶらかし、ウチの選手にするでおじゃる」
- 496 :創る名無しに見る名無し:2020/05/29(金) 07:51:21.50 ID:6yeCgf0i.net
- 「お任せあれ」
藤あやみは40歳女の色気をプンプン漂わせながら、言った。
「私の艶歌とこぶしで必ずや」
- 497 :創る名無しに見る名無し:2020/05/29(金) 11:57:48.12 ID:K3tcnO3J.net
- 剛力組が美熟女を使って他の組から次々と主力選手を引き抜いている、という噂は、迎良組にも伝わっていた。
「ウチにも来ねェかな」
「どんな美人か一目見てェな」
迎良組の組員達は口々に噂したが、ジジイばかりの迎良組は完全に無視されていた。
- 498 :創る名無しに見る名無し:2020/05/29(金) 12:00:47.30 ID:K3tcnO3J.net
- 「剛力組め。相変わらず汚ぇ手を使いやがる」
茨木敬はタマ入れの練習に励みながら、舌打ちした。
「奴らにだけは絶対に負けねぇぞ。お前らの根性見せてくれ」
「おー」
ヤーヤが拳を挙げた。
「はい」
中條母がおしとやかに言った。
「……」
山本弟は何も言わずにスマホを見ていた。
- 499 :創る名無しに見る名無し:2020/05/29(金) 12:02:37.36 ID:K3tcnO3J.net
- 「ククク」
ヨコヤが現れた。
選手として使って欲しそうだ。
しかし茨木達は誰も気づかずに、それぞれに練習をしたりスマホを見たりしていた。
- 500 :創る名無しに見る名無し:2020/05/29(金) 12:07:23.33 ID:K3tcnO3J.net
- 「ウフフ」
藤あやみは他の組の屈強な男をまた1人虜にし、助っ人契約を結んで帰るところだった。
「私の魅力、歳を重ねてさらに増したようね」
ふと公園のベンチに座っている男が気になった。
ヨレヨレの白いスーツを着て、やる気などまったくなさそうにだらしなく座っているが、
只者でないことは藤には容易にわかった。
- 501 :創る名無しに見る名無し:2020/05/29(金) 12:11:00.21 ID:K3tcnO3J.net
- 「あの子……素敵」
藤は舌なめずりをした。
「きっと名のある選手だわ。私の魅力で虜にしてやろうっと」
「もし」
藤が声を掛けると、死人のような顔をした男は顔を上げた。
「あなたのお名前、聞かせてもらってもいいかしら?」
藤がそう言うと、男は名乗った。
「とびしま……とびしまゆーた」
- 502 :創る名無しに見る名無し:2020/05/30(土) 08:33:56.73 ID:LQ2ZI768.net
- 肉を打つ音が部屋にこだましていた。
藤あやみの尻の穴が丸見えになっていた。
その下で滅茶苦茶に濡れた裂け目に激しく出入りしている自分の肉棒を、優太は見つめた。
「こっ……こんな!」
藤あやみは悔しそうに歯を食い縛った。
「こんな若僧に……!」
自分が虜にする筈だった。
今、自分が虜にされようとしている。
- 503 :創る名無しに見る名無し:2020/05/30(土) 08:42:49 ID:LQ2ZI768.net
- 藤あやみを後ろから突き上げながら、優太の顔にどんどん生気が戻って来る。
「アハハッ」
優太は殻を破るように笑った。
「そーだったよ、俺はこうやって女をいたぶるのが喧嘩と同じぐらい好きだった」
腕を広げ、胸を張りながら腰を動かす。
さらに励み強くなった律動に、藤は碑銘を上げた。
真っ白で新鮮なザーメンを大量に膣内に発射すると、飛島優太は言った。
「おれさま、完全ふっかーつ!」
- 504 :創る名無しに見る名無し:2020/05/30(土) 08:46:27 ID:LQ2ZI768.net
- 「おばさん、なかなか締まり、よかったよ」
そう言いながら、優太はズボンのベルトを締めると、ホテルの部屋を出て行った。
「じゃあね」
「ま……待って」
藤あやみは完全に依存性にされていた。
「おばさんって呼ばないで……。行かないでェッ!」
- 505 :創る名無しに見る名無し:2020/05/31(日) 09:06:04.49 ID:gE1pAIbN.net
- 背が低く気味の悪い男が言った。
「ぷきょきょ……。ここは40年も使われず、ほったらかしになってますてにぃ……」
聞き取りにくい方言まじりの言葉だった。
「なぜ、そんなにも長い間、誰も使わなかったんだ?」
痩身片眼の男が聞いた。
「変なモンでも出るのか?」
「部屋が拒否しておりますてにぃ……」
背の低い男は何やら嬉しそうに言った。
「あんた方のような連中に使われるのを待っておったんですて」
「部屋がか?」
片眼の男は思わず失笑した。
「馬鹿馬鹿しい!」
「いや」
飛島優太は片眼の男をたしなめた。
「俺達にはそれほどの価値があるのさ」
「そうですて」
背の低い男が優しい笑顔を見せた。
「これはきっと、運命ですてにぃ……」
- 506 :創る名無しに見る名無し:2020/05/31(日) 09:12:15.95 ID:gE1pAIbN.net
- 古いビルのいわくのありそうな部屋だったが、優太はここを気に入り、借りることに決めた。
「昭和の匂いがするわ」
藤あやみが言った。
「もっとムードのある綺麗なところがよかったなぁ」
「俺がいればどこでも楽園っしょ」
優太が陽気に言う。
「ん……。そうね」
藤は優太の肩に抱きつくと、笑顔を見せた。
「これからここで……始まるのね」
「おうよ。新飛島組の立ち上げじゃ」
優太は拳を握り、藤あやみが引き連れて来た男達に言った。
「俺が初代組長飛島優太だ! 文句のある野郎はいるか?」
- 507 :創る名無しに見る名無し:2020/05/31(日) 09:25:06.77 ID:gE1pAIbN.net
- 「誰も文句などございませんよ」
片眼の男が代表して言った。
「飛島さんは若いが、ここの誰よりも力があり、そして金があるということはもう皆存分に思い知ってるんでね」
「まぁ、それでも俺1人だったら『こんな若僧に偉そうな口利かれてたまるか』みたいな奴、多かったろうね」
優太は片眼の男に言った。
「本多さんが若頭引き受けてくれたおかげだよ」
「いえいえ」
本多は照れ臭そうに鼻の下をさすった。
「坊っちゃんのことは飛島組にいた時から、何かでかいことをおやりになる方だと思ってましたからね」
- 508 :創る名無しに見る名無し:2020/05/31(日) 09:26:29.10 ID:gE1pAIbN.net
- 「とりあえず今度の極道大運動会で優勝すれば……」
藤あやみがウフフと笑いながら言った。
「一気に広大なシマをゲット。組の知名度もいきなり天下に轟くわ」
「それを充分可能にするだけの戦力がここにある」
優太は藤あやみがたぶらかして引き抜いた各組の猛者どもを目の前に、言った。
「おばさんにも大感謝だ」
「『おばさん』はやめてぇ」
藤あやみは泣きそうな顔をして優太に抱きついた。
- 509 :創る名無しに見る名無し:2020/05/31(日) 09:33:25.48 ID:gE1pAIbN.net
- 「なんと」
剛力組長はマロ眉の下の小さな目を見開いて、言った。
「藤が裏切ったとな?」
報告を届けた組員の若尾あやせは言いにくそうに言った。
「若い男の肉体に虜になり……その男とともに新しい組を立ち上げたらしく……」
「どんな肉体だーーッ!」
若頭の上戸が暴れた。
「あの藤を逆に虜にするほどの肉体ってどんなだァーーッ!?」
「では……引き抜いた精鋭達はそいつに全員取られたということでおじゃるか……」
剛力組長は暫く考え、言った。
「仕方ない。面倒ではあるが、マロと上戸も出場するでおじゃる」
- 510 :創る名無しに見る名無し:2020/05/31(日) 09:45:30.47 ID:gE1pAIbN.net
- 「私どもが出場するのですか!!!!」
上戸はびっくりして言った。
「死人が続出しますぞ!!!??」
「仕方がないでおじゃろう」
剛力組長は頬をポリポリ掻きながら言った。
「他にろくな戦力が残っておらぬでのう……。マロ達二人だけで軽〜く優勝するしかあるまい?」
「では、本気を出してもよいのですなッ!!??」
「おじゃる」
剛力組長は仕方なさそうに頷いた。
「敵の選手が死体の山となるのは気の毒ではあるがのう……ホッホッホ」
- 511 :創る名無しに見る名無し:2020/05/31(日) 12:49:56.93 ID:4t0VNtmL.net
- かくして極道大運動会が始まった。
場所は関ヶ原古戦場跡を勝手に借りて行われた。
- 512 :創る名無しに見る名無し:2020/05/31(日) 22:07:03 ID:UBo1puhx.net
- 茨木が帰国してまもなくこの国の秩序は崩壊した。
理由は謎の集団失踪事件が多発し、それに合わせ地殻変動により既存のインフラも壊滅したからである。
極道大運動会・・・この戦いを制した者が日本の新たな支配者となるのだ!
- 513 :創る名無しに見る名無し:2020/06/01(月) 11:37:13.75 ID:P7Ames9e.net
- 選手宣誓を務めるのは花山組直系の若月組が誇るフレッシュな新人、なかやまくんだ。
- 514 :創る名無しに見る名無し:2020/06/01(月) 11:41:44.89 ID:P7Ames9e.net
- なかやまくん「宣誓! 我々は極道精神に則り、正々堂々などとは言わず、相手の弱みにつけこみ、
水面下で工作を図り、利益の見込める相手にはへつらい、仁義を通し、血みどろの権力抗争に努めることを誓うぞゴルァ!!!!」
- 515 :創る名無しに見る名無し:2020/06/01(月) 15:32:44.14 ID:5L1h+usl.net
- その時、運動会会場は大雨に襲われた。
「うわっ」
「中止だーっ中止ーっ」
豪雨と激しい落雷に浮き足立つヤクザたちの耳になかやまくんの宣誓は届かなかった。
- 516 :創る名無しに見る名無し:2020/06/01(月) 17:12:29.22 ID:P7Ames9e.net
- 「むむうぅ」
剛力あやの組長は大きな蕗の葉で雨を避けながら、それでもびしょ濡れになりながら言った。
「マロは殺る気マンマンであったのに……。なんとかならぬか? クロ」
「大丈夫」
クロは豪雨を物ともせぬ全裸で言った。
「ここには主人公が来てる。主人公の特権その四が発動するさ」
- 517 :創る名無しに見る名無し:2020/06/01(月) 17:23:20.34 ID:P7Ames9e.net
- 「ふぅ……」
迎良菊二郎親分は威厳のある表情を保ちながらも、明らかに絶望の籠る溜め息を吐いた。
「……これでウチの組は終わりだな」
迎良組の老組員達も口々に絶望の言葉を漏らした。
「あぁ……。この大運動会に賭けてたのに……」
「さすがワシら、賭け事にも最弱じゃのう……」
「これでいい成績を残す以外、生き残る道はなかったのに……」
「もはや若い新兵力を募る道は閉ざされ、老いとともに潰れ往くしかあんめぇ」
菊二郎親分は眩しそうに暗い空を見上げた。
「ま、これも運命だ」
- 518 :創る名無しに見る名無し:2020/06/01(月) 17:25:47.14 ID:P7Ames9e.net
- 茨木敬はそんな親分の横顔を見つめた。
何がなんでもこの人を助けたかった。
半ばヤケクソで天に向かって怒号した。
「止まんと殺すぞ、このクソ雨が!」
晴れた。
- 519 :創る名無しに見る名無し:2020/06/01(月) 17:29:54.37 ID:P7Ames9e.net
- 「発動したようだ」
クロが笑った。
「主人公の特権その四『決戦の日はいつも都合のいい天気』が」
「素晴らしい」
剛力組長はうっとりと晴れた空を仰いだ。
「茨木が参加しているとは……。是非とも殺してこの力を奪い取るでおじゃる」
- 520 :創る名無しに見る名無し:2020/06/01(月) 17:38:16.97 ID:P7Ames9e.net
- 極道大運動会が始まった。
参加組は全国から選りすぐられた33組。
これから行われる緒戦の種目の結果により、あっという間に4組まで絞られる。
- 521 :創る名無しに見る名無し:2020/06/01(月) 17:47:45 ID:P7Ames9e.net
- まずはパンチパーマ早がけ競争が行われた。
元々パンチパーマをきつくかけている者ほど有利だ。
スキンヘッドに勝ち目はない。
そして女ばかりの剛力組にも不利なように思われたが、ショートカットの女組員達が組長の命令によって駆り出され、
髪は女の命、パンチパーマなんぞにしてたまるかと泣き叫びながらも、見事なパンチパーマに仕上げられて行った。
茨木が助っ人を務める迎良組は、髪の薄い老人達がその持ち前の髪量の少なさを活かし、
凄まじいスピードで格好悪い白黒まだらのパンチパーマを作って行った。
「見た目がナンボのもんじゃ! 速けりゃいいんじゃ!」
- 522 :創る名無しに見る名無し:2020/06/01(月) 17:55:35 ID:P7Ames9e.net
- 注目を集めたのは興ったばかりの新勢力、新飛島組であった。
元々気合いの入ったパンチパーマをもつ精鋭の組員達が、一旦ほどいて80年代ヴィジュアル系みたいになった髪を、
神業のごとき速さで元に戻し、観客の喝采をさらった。
「マロより目立つとは赦せんでおじゃる」
剛力組長は自ら競技に出場しながら妬ましい視線を送った。
「新飛島組だと?」
本家飛島組組長は苛立ちながら呟いた。
「まさか……優太か!?」
「おいおい」
茨木敬は嬉し涙を浮かべながら、言った。
「生きてたのかよ。でも容赦はしないぞ」
- 523 :創る名無しに見る名無し:2020/06/01(月) 18:01:35.77 ID:P7Ames9e.net
- 次いで『頭突きで氷柱割り』が行われた。
ヤクザとあまり関係なさそうながら、頭の固さ地面の各組組員が喜んで前へ出た。
しかし二人の選手があまりにも突出しており、他は霞んでしまった。
「おりゃ!」
茨木は11個目の氷柱を頭突きで割ると、吠えた。
「次! 持って来いやぁ!」
「ガハハハハハ!!」
剛力組若頭、上戸あやこは12個目の氷柱を頭突きで粉砕すると、豪快に笑った。
「ワシに勝てる♂などおらんのじゃあああ!!!」
- 524 :創る名無しに見る名無し:2020/06/01(月) 18:08:18.93 ID:P7Ames9e.net
- 薬物ハードル(次の段階)競争。
これは参加者が少なかった。
これに参加すると後の種目で使いものににならなくなるからだ。
各組でも一番下っ端の者が駆り出され、次々と廃人になって行った。
「やらないの?」
藤あやみが優太に聞いた。
「あなた、好きでしょ?」
「俺は酒とマリファナぐらいしかやらないからなぁ」
優太は悔しそうに頭を掻いた。
- 525 :創る名無しに見る名無し:2020/06/01(月) 18:13:48 ID:P7Ames9e.net
- 匕首リンゴ剥き競争。
これは剛力組が完全有利だった。
得物を人殺しにしか使ったことのない男達に対し、剛力組の女組員達は家事も心得ていた。
「バカね。リンゴのほうを回すのよ」
女組員は刃物のほうを動かして剥こうと苦戦する男達を蔑むように笑いながら、くるくると剥き、クリアーして行った。
- 526 :創る名無しに見る名無し:2020/06/01(月) 18:18:16 ID:P7Ames9e.net
- 小麦粉リレー。
純度の高い小麦粉をバトンのように手渡しながらリレーして行く。
これには迎良組の助っ人、中條母が特別な才能を発揮した。
「緒方組組長夫人だった頃は、毎日こればかりしていましたもの」
着物の袖を揺らしながら、鮮やかな手つきで小麦粉を捌いて行くその姿に観衆は見惚れた。
- 527 :創る名無しに見る名無し:2020/06/01(月) 18:26:05 ID:P7Ames9e.net
- ヤクザとカタギの二人三脚。
債務の滞っている一般人が泣き顔でヤクザと肩を汲んで走らされた。
「ううっ……! く、屈辱っ!」
カイジも泣き顔で、しかし全力で走った。
ここまでで参加33組は篩に掛けられ、ベストエイトまで絞られていた。
「楽勝でおじゃる」
剛力組長は扇子で顔を扇いだ。
「みんなのおかげだ」
飛島優太は藤あやみの尻を触りながら言った。
「ここまで来れたな」
茨木敬は笑顔で言った。
「こうなったら狙うは優勝だ」
「め、めっそうもねぇだ」
迎良組の老組員達は首を横に振った。
「これで充分だ。これ以上は望まねぇだ」
「てめぇらッ!」
迎良菊二郎親分がハッパをかける。
「どうせやるなら天下を取ろうぜ、死に損ないども!」
- 528 :創る名無しに見る名無し:2020/06/01(月) 18:35:38 ID:P7Ames9e.net
- 「でっ……でも……」
老組員達は及び腰だ。
「ここからは流血の抗争種目ばかりになるだ」
「さて、虐殺するでおじゃる」
剛力組長が目を光らせながら、着物を脱いだ。
「さて俺もそろそろ出るかな」
飛島優太が革靴を磨きながら、言った。
「殺さん程度に暴れるぞ」
茨木敬が拳を鳴らす。
「私も出るね」
ヤン・ヤーヤがメリケンサックを拳にはめた。
「やりたいな……」
山本サアヤの弟、サクヤが物憂げにやる気を見せた。
「殺してもいいんですよね……?」
- 529 :創る名無しに見る名無し:2020/06/01(月) 19:26:06 ID:L/uLRG9V.net
- 山本サアヤを射殺した剛力組の坂本魔あやは、剛力組長の権力により、あっという間に釈放されていた。
山本を仕留めた褒美として、組から毎日豪華なケーキを支給され、豚のように太っていた。
「私はこの可愛い声が命なんだよ!!!」
坂本は吠えた。
「体型なんぞ豚で構わんのじゃ! 豚でも出来る競技寄越せやゴルァ!!!」
剛力組長は坂本に命じた。
「ではロシアンルーレットに出よ」
- 530 :創る名無しに見る名無し:2020/06/01(月) 19:28:42 ID:L/uLRG9V.net
- 坂本魔あやは対戦相手の顔を見て、愕然とした。
「やっ……山本サアヤ!?」
山本サクヤは気怠そうに笑った。
「やぁ。君に殺されたけど、地獄から戻って来たよ」
「ヒッ……ヒィッ!?」
- 531 :創る名無しに見る名無し:2020/06/01(月) 19:33:47 ID:L/uLRG9V.net
- 「弾は運営に頼んで実弾に替えさせてもらった」
山本サクヤはうっすらと微笑むと、言った。
「相手が君じゃないとやる気が出ない。さっさとやろう」
そう言うとリボルバー式拳銃の弾倉を回転させ、自分のこめかみに押し当てると、さっさと引鉄を引いた。
「チェッ……。外れだ。次は君の番。さぁ、どうぞ」
- 532 :創る名無しに見る名無し:2020/06/02(火) 00:03:47 ID:42w9Q7Dx.net
- 「ウッ……ウヒィッ!」
坂本魔あやはたじろいだ。
「べ、ペイント弾でやるのがルールだろ? こんなキチガイみたいなこと、誰がやるかよっ!」
「あれ? 僕はもうやっちゃったけど?」
サクヤは面倒臭そうに言った。
「じゃあ僕、あれで死んでたらバカみたいだったじゃないか」
「変えろ! 弾を変えろ! 運営ッ!」
喚く坂本のこめかみにサクヤは銃口を突きつけると、引いた。
撃鉄の音だけが響いた。
「根性なさそうだったから僕が代わりに引鉄引いてあげたよ」
サクヤはうっすらと微笑んだ。
「おめでとう。弾は出なかったね」
- 533 :創る名無しに見る名無し:2020/06/02(火) 00:09:03 ID:42w9Q7Dx.net
- そしてすぐに自分のこめかみに銃口を当て、躊躇なく引鉄を引いた。
「チェッ。また外れだ。お姉さん、どうぞ」
「幽霊なのか?」
坂本は震えながら聞いた。
「幽霊だったら弾が出ても死なねぇだろ! 不公平だ!」
「地獄から戻って来たって言ったでしょ? お姉さんと同じ生身だよ」
サクヤは冷たい目で睨むと、言った。
「自分で引けないの? なら、また僕が引いてあげる」
- 534 :創る名無しに見る名無し:2020/06/02(火) 00:15:03 ID:42w9Q7Dx.net
- 「やっ……やめろーーっ!」
抵抗する坂本を押さえつけ、サクヤは引鉄を引いた。
銃声は起こらなかった。
「おめでとう。これで4回目で弾は6発だから、次かその次でどちらかが死ぬね」
「山本……っ! 貴様……! 貴様ぁっ!」
坂本は恨むように言うと、一転、許しを乞いはじめる。
「すみませんでした! 私が悪かった! 許してくださあいっ!」
- 535 :創る名無しに見る名無し:2020/06/02(火) 00:23:00 ID:42w9Q7Dx.net
- 「タネ明かしをしよう。僕は君が殺した山本サアヤの弟だ」
サクヤは拳銃を指でくるくる回しながら、言った。
「姉貴とはそれほど仲がよかったわけじゃない。カタキ討ちだなんてするつもりはない」
「なんだ、弟かよ」
坂本は安心したように笑った。
「仕事でやっただけだ。私を恨むのは本当、お門違いだよ」
「でもね」
サクヤは銃口を自分のこめかみに当てると、言った。
「姉貴は誠実に夢を追い、そのために人の知らない努力を重ねてた。そんな命を途中で他人が折ることは……」
サクヤは引鉄を引いた。
弾は出なかった。
「僕の正義が許さない」
- 536 :創る名無しに見る名無し:2020/06/02(火) 00:28:15 ID:42w9Q7Dx.net
- 「さ、君の番だよ」
サクヤは坂本に拳銃を手渡した。
「次は確実だね」
「ど、どうせ弾は入ってないってオチだろ!?」
坂本はバカにするように笑う。
「撃ってみればわかるよ。でも弾が入るないんじゃ競技にならないんじゃない?」
「う……」
「さ、早く。最後だけは自分で引鉄を引いてね」
「うう……」
「根性見せてよ、お姉さん」
サクヤは冷たい目で坂本を見つめた。
「うわーーーっ!」
坂本は引鉄を引いた。
自分のこめかみではなく、山本サクヤを狙って。
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