「いいニュースがある。トランプの選挙活動はこう終わると思う」
米大手紙ニューヨーク・タイムズ（ＮＹＴ）のコラムニスト、ロス・ダウサット氏がこのほど、短文投稿サイトのツイッターにこんなメッセージを流した。「トランプ」とは、米大統領選の共和党指名争いで独走する不動産王のドナルド・トランプ氏を指す。
末尾には、ある映像につながるリンクが添付されていた。１９８３年に封切られた米スリラー映画「デッドゾーン」の一コマである。交通事故のショックで超能力を持った、架空の米国人男性が映画の主人公だ。周囲で起きた事件を解決したり、事故を未然に防いだりするが、議会上院に立候補していた地元の政治家に会ったときに、不吉な未来を予知してしまう。
「政治家が議員を経て米大統領に上りつめたとたんに、むちゃな核戦争を引き起こし、大勢の人がなくなる」
という内容の予知夢を見るのだ。衝撃を受けた主人公は「大惨事の芽を事前に摘むべきだ」と決心し、政治家の暗殺を決意する−という筋書きである。
要するに、ＮＹＴのダウサット氏は、トランプ氏の暗殺シナリオをほのめかしたのだ。その後、「不謹慎だ」とネット界で騒ぎになり、ダウサット氏はメッセージを削除し、謝罪に追い込まれた。（ＮＹＴにコメントを求めたが、２月２５日時点で回答を得られなかった）
白熱する米国の大統領選だが、トランプ氏の「身の危険」を予想するメディア関係者が増え始めた。若者に人気のある米ネット・メディア、バイス・ニュースの編集者も、トランプ氏が暗殺される可能性を指摘している。
トランプ氏は高い支持率を誇るが、差別的な発言などが引き金となり、反対派の割合も同様に大きい。交流サイト（ＳＮＳ）では、トランプ氏に危害を加えることを予告する声明が書き込まれている。
米メディアによると、トランプ氏の陣営には昨年から脅迫状が届いている。このため、トランプ氏が公の場に出る際には防弾チョッキを着ているそうだ。
米国では建国以来、現在のオバマ大統領まで４４人の大統領が就任したが、４人が暗殺されている。暗殺未遂、または暗殺の計画が明らかになったのは、公の記録に残っているだけで、歴代１６人に上っている。
最高権力者の「身の危険」が杞憂（きゆう）で済まないお国柄なのだ。トランプ氏の場合、３月１１日にイリノイ州で予定していた遊説を「保安上の理由」で中止。
翌１２日にオハイオの郊外で開いた集会では、反対派の男性がトランプ氏の演説中に壇上に駆け上がろうとした事件が起きた。
トランプ氏の演説会では、支持者と反対派が殴りあう暴力事件も続発している。ニューヨークの小学校では、「子供にトランプ氏の演説を見せるのを自粛すべきだ」（アッパーウエスト地区のＰＴＡ）との声も出始めた。
米国民の「怒り」を原動力とするトランプ氏だが、反対派の「怒り」をも増幅させた。今年の米大統領選は何かと物騒である。（ニューヨーク駐在編集委員 松浦肇）
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