ＬＧＢＴなど性的少数者の子どもたちは、どんな思いで学校生活を送っているのか。
当事者の大学生が主宰する「名古屋あおぞら部」に集う高校生らの姿を全８回で描く。
（登場する人の名前は、原則として仮名にします）
春風が吹く日曜日の昼下がり、名古屋市の繁華街近くにある公民館は、若者ログイン前の続きたちでにぎわっていた。
１２畳の和室で、３０人ほどがクッキーを食べながら笑い合っている。
えび、ふうか、ずんば、こうき……。
一人ひとりが、「呼んでもらいたいあだ名」を書いたネームタグを首からぶらさげている。
会の名称は「名古屋あおぞら部」。
ＬＧＢＴなど性的少数者がありのままの自分でいられる居場所を作ろうと、愛知県に住む大学１年生のリィナ（１９）が昨年１０月に始めた。
月１回、週末の日中に開いている。
高校生ら５人が集まったテーブルは、アイドルの話で盛り上がっていた。
「うちは、（男性アイドルグループの）ジャニーズＷＥＳＴの追っかけやってます。（メンバーの）桐山照史みたいになりたくて」。
高校の卒業式を終えたばかりのミサキ（１８）が言った。
メガネをかけ、髪はショートカット。
生まれつきの性は女性だが、自分を女性とも男性とも思っていない。
ジーンズにトレーナーを合わせ、胸を平らにつぶすシャツを着ている。
「うん、私もジャニーズ好き。友だちにもそう言ってるから、まず疑われない」。
会を主宰するリィナが続けた。
白いワンピースにクリーム色のジャケットをはおっている。
恋愛の対象は、自分と同じ女性だ。
「でも、何年か前にドラマで（嵐の）マツジュン（松本潤）と石原さとみがキスした時、『私のさとみに何するの！』って思っちゃって。もう後戻りはできないな、って思った」
「なるほどー」。
輪の中にいた高校２年生のネネ（１７）がうなずく。
ストレート（異性愛者）だが、好きになる性が女性という同級生と一緒に来た。
別のテーブルでは中学教員のユキナ（４０）が高校２年生のソウイチ（１７）と話をしていた。
「期末試験はどうだった？」
「ばっちり、ではなかったけど、赤点は回避できそうです」
２人とも、体と心の性が一致しないトランスジェンダー。
男性に生まれたユキナは女性として、女性に生まれたソウイチは男性として生活している。
恋バナや部活の話で盛り上がるグループ、親にどうやってカミングアウトしたらいいか真剣に話し合うグループ、メンバーが持ち寄ったＬＧＢＴ関連の本を読みふける人……。
あっという間に３時間が過ぎていった。
女の子が好きかも――。
リィナがそう思い始めたのは、小学校高学年くらいからだった。
オネエタレントがテレビに出ていると、「気持ち悪い」と言う家族。
男子同士が仲良く歩いていると、「あいつらホモじゃね？」と笑う同級生。
自分は一生、こうやって後ろ指を指されて生きていかないといけないのか。
不安な気持ちをだれにも言えず、高校時代には何度か自死が頭をよぎったこともある。
どん底から救ってくれたのが、ツイッターだった。
思いを吐き出し、ＬＧＢＴの当事者ともつながったことで、前を向こうと思えるようになった。
昨春、大学に入学し、運動系のサークルに入った。
いずれ周囲にカミングアウトできたらいいな。
そう思っていたある日、同級生の一人が言った。
「中学の時、女子同士のカップルがいたんだけど、変だよねー」。
否定する人はだれもいない。
淡い期待が、消えた。
「彼氏いるの？」「どの男の子がかっこいいと思う？」
異性愛を前提とした同級生たちの女子トークも、最初ははぐらかしていた。
ある日、面倒になって「遠距離恋愛の彼氏がいる」と言ってしまった。
高校時代の男友だちと撮った写真を見せたら、みんな納得していた。
ＬＧＢＴ仲間と会う時は、「これからバイト」とうそをついてごまかす。
本名と「リィナ」の「二重生活」はつらい。
でも、受け入れてもらえなかったら、大学で居場所がなくなってしまう。
それが怖くて、今もカミングアウトできずにいる。
「人生をリセットして、カミングアウトした状態で生きられたら楽だろうな、って思う」
もやもやした気持ちを気兼ねなく話したい。
そして、かつての自分のように悩んでいる高校生たちに、仲間と出会ってもらいたい。
そんな願いから始めたのが、名古屋あおぞら部だ。
＊
２月下旬、名古屋市内で名古屋ＬＧＢＴ成人式があった。
成人の辞を読んだ大学２年生の野末成（じょう）（２０）は、生まれつきの性に違和感を抱き、男性として生活している。
２年前、高校の卒業式で女子は全員タイツを着用とされた。
どうしてもはきたくない。
休もうと思ったが、同じクラスだった渡辺歩（あゆみ）（２０）が学校と交渉してくれ、靴下で出席することができたという。
男性用のスーツを着た野末は、壇上で力を込めて言った。
「カミングアウトがいいことだと軽く言うことはできませんが、あなたにもきっとすぐ近くに支えてくれる人がいます」
動画を見たリィナは、涙が止まらなかった。
今年、２０歳を迎える。
新成人として来年のＬＧＢＴ成人式に参加する時、目の前にどんな風景が見えているのだろう。
＝敬称略
（杉山麻里子）
■ＬＧＢＴと言えず悩む
自分はＬＧＢＴかもしれないと気づいても、社会の偏見などから周囲に言えず、思い悩む子どもが少なくない。
ＬＧＢＴ支援団体「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」（東京）が２０１３年に１０〜３０代のＬＧＢＴ当事者約６００人に行った調査によると、いじめや暴力を受けたことがある人は６８％。
ＬＧＢＴをネタとした冗談やからかいを見聞きした人は８４％にのぼる。
また、小学生から高校生の間に、自分がＬＧＢＴであることをカミングアウトした相手が「０人」と答えた人は、生物学的女子の３１％、生物学的男子の５３％だった。
話さなかった理由で最多だったのは、「理解されるか不安だった」の６割。
「いじめや差別を受けそうだった」を選ぶ人も目立った。
カミングアウトしている場合、相手は「同級生」が約６〜７割と最多だった。
両親や学校の先生など大人に話した人は、性別違和のある当事者では約２〜３割いたが、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルなど「非異性愛者」は１割前後にとどまった。
東京都内で１０代〜２０代のＬＧＢＴ当事者の集まり「にじーず」を開いているトランスジェンダーの遠藤まめたさん（３０）は、
「大人からは見えにくいところで、子どもたちはカミングアウトしたりされたりしている。
当事者が孤立するのを防ぐためのキーパーソンは同級生。学校の中で子ども同士が支え合う環境を作るためにも、ＬＧＢＴについて正しい知識を伝えるべきだ」
と話す。
（いま子どもたちは）カミングアウト：１ ありのままを話したい：朝日新聞デジタル
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12854801.html
こんなんあるん？
別の病気な気がするのだが