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消費者運動・原宿東京都粗悪なマッチ、主婦が動いた

ＪＲ原宿駅の竹下口を出て、横断歩道を渡れば、すぐ竹下通りに入る。スイーツ店や雑貨店が連なり、ティーンズ向けのファッション、カワイイキャラクターやコスメブランドが店頭を彩る。平日の午後だけれど、お祭りのよう。
５０代の私はまったく場違いだと気後れしつつ歩いていると、「やっぱり人が少ないね～」と言いながら高校生らしい女の子が２人、脇をすり抜けていった。にぎやかさはあるとはいえ、海外からの観光客も途絶え、やはりコロナ前とは雰囲気が変わっているのだろう。
約３５０メートルの細道は、ファッションビルが立ち並び、車の往来が激しい明治通りに突き当たって終わる。このすぐ近くで、消費者運動の出発点とも言える集会があったと知る人は少ない。７２年前のことだ。
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「お宅のマッチはよくつきますか。燃えないマッチを持ちよって良質のものと取替させ今後の対策を講じましょう」。１９４８（昭和２３）年９月２日、車に乗った女性たちがメガホン片手に東京都内の街頭で、翌日に開く「燃えないマッチを持ちよる会」を宣伝し、ガリ版刷りのチラシを配って回った。
敗戦で戦火におびえる日々は終わったものの、食料や物の不足はむしろ深刻になり、配給品は粗悪でヤミで品物が横行していた。当時のマッチは生活必需品。朝、まずマッチで火をおこさなければ炊事ができなかった。だが１日１人あたり数本の計算で配給されるマッチは擦っても折れたり火薬が付いていなかったり、まるで「爪ようじ」だと評される始末。質の良いものはヤミで高い値段がつけられていた。
呼びかけは人々の心をつかむ。翌３日、会場となった明治通り沿いの社会事業会館には、マッチを風呂敷に包んでやってきた数百人の女性が殺到、次々と取り換えてもらった。
会にはマッチ会社の代表十数人、商工省、経済安定本部の担当者が出席。彼らを前に、女性たちは粗悪品を使わねばならない苦労を訴え、責任を追及した。「１合の酒を９合の水で割って１升で買い取らされたのと同じ」との声に拍手が湧く。居並ぶ企業は謝罪し「以後不良品は作らない」と約束する結果となった。
「まだ女性がそんな集会をするなんてまったく考えられなかった時代に、メーカーや行政を前にはっきり意見を言い、粗悪品を取り換えさせる大会を開いたというところに意味があったと思います」。会を呼びかけた奥むめお（１８９５～１９９７）の娘、中村紀伊は、後年のインタビューで話している。母を手伝って当日会場にいた。奥は当時５２歳、戦前から社会・婦人運動に携わり、前年の第１回参院選挙で当選した国会議員だった。
マッチをきっかけに各所で生活の疑問や不満を語る集会「主婦大会」が開かれた。駅前の広場で、学校の校庭で、空き地で。配給の担当係官を呼び、洗濯で縮んだシャツや石のように硬いジャガイモを手にして抗議や質問をする。奥は集会に呼ばれると「さあ、ここで思っていることを出し合いましょう」とあいさつし、女性を勢いづけた。
■自分らしさを、消費から表現
ただ、後に「不良マッチ追放主婦大会」として知られるこの催しには、女性の力だけではなく、国のバックアップもあったようだ。当時、経済安定本部や物価庁が、ヤミを抑え物価を安定させる国民運動を展開しようとしていた。奥の自伝によると、４８年春に経済安定本部から「主婦の経済的関心を高める方法を考えて欲しい」と相談を受け、主婦を動かす運動に取り組んだという。
大会前に商工省に抗議に行き、不良マッチの取り換えを求めた際には「メーカーには十分材料を与えているのに、ヤミに流している」と役所も協力的だった、と書いている。交換用の良質マッチを集められたのは、そのおかげと考えても不自然ではない。
集会に参加した主婦たちは各地で主婦の会、婦人会といった団体を作る。こうした動きが結集し主婦連合会が発足、奥が会長に就いた。不当値上げに反対し、商品テストで製品の欠陥を検証。表示のごまかしを問う。主婦連は復興、高度成長期を通じ消費者運動を広げていった。
暮らしの実感を重視する奥の姿勢は、戦前からのものだ。福井県出身で日本女子大学校卒業後、社会活動を始める。平塚らいてう、市川房枝らと女性の政党や政治集会参加を禁じた治安警察法第５条の改正に取り組んだ。２０代の奥は幼い長男を背負った姿で陳情に歩くこともあった。
２２（大正１１）年に改正は実現したものの、一般の女性が集会に参加することはほとんどなく、関心も低かった。衝撃を受けた奥は生活に根差した活動に方向転換。職業婦人を支援し、昭和初期に託児所を開き、婦人消費組合協会を組織した。