福しん🍜 [189127987]

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https://mainichi.jp/articles/20210123/ddl/k28/040/245000c

農福連携共同体の結婚式　人と大地に支えられて＝吉田敦彦　／大阪

「よい夫婦は、お互いのスペースを尊重します。もたれ合わず、神殿の柱のように少し離れたところに立って、しっかりとお互いを支え合います。相手の陰に入ってしまうと、糸杉やカシの木も大きく育ちません」

　牛が草を食（は）む牧場の、一本の大きなカシの木の下で、結婚式があった。これは、そのときのスピーチの一節だ。適度な距離をとって、つながること。１世紀前のハリール・ジブラーンの詩からの引用だが、ウイズコロナのテーマにも通じる。

　この結婚式は、昨年６月、米ニューヨーク州北部の「キャンプヒル（Ｃａｍｐｈｉｌｌ）」というコミュニティーであった。障害を持つ人と持たない人が、農業・牧畜・木工・食品作りなどの仕事をしながら、共に暮らしている共同体。「キャンプヒル・ムーブメント」として世界に広がり、２２カ国に１００以上ある。ボツワナ国のキャンプヒルは２０１９年、パリのユネスコ本部からＥＳＤ（持続可能な開発のための教育）の世界的な賞を授与された。日本で農林水産省・厚生労働省が「農福連携」（農業と障害者・高齢者等の福祉との連携）を推進しているが、その先進的なモデルとなりえるものだろう。

　このキャンプヒルに住み込んで、国際ボランティアとして働きながら学んでいた娘から連絡があった。同じようにエジプトから来ていた青年と出会い、結婚する。でもパンデミックになったから通常の挙式はできない。家族が海外から参列できる見通しもなく、寂しいことになりそうだ、と。

　ところが、事情を知ったコミュニティーの人たちが、自分たちの手で祝福してくれることになった。広々とした農場では、自前でいろいろな食材や果物が採れるし、ベーカリーや工作場もある。野には花々が咲き誇っている。ウエディングケーキも花飾り・ブーケ、ランチなども、また当日の器楽演奏や唄、カメラ撮影も、すべて手作りで用意してくれた。

　３密を避けるための野外結婚式。毎朝、牛たちを牧場まで連れていくのが彼女の仕事なので、式の当日も牛舎の扉を開けてオープニング。花輪が付けられた牛たちにエスコートされて、新郎新婦が牧場に向けて歩き出す。その後ろを、距離を保って仲間たちが一緒に歩く。牧場の真ん中に堂々と立つカシの大樹の木陰が、メイン会場。ここで、いつも親身に二人を見守ってくれている大先輩のカップルが、宣誓式を執り行ってくれた。そのときに頂戴したスピーチに、冒頭の一節があった。

　海を越えて送られてきた写真、その様子を語る娘の話。胸が熱くなり、参列できなかった残念な思いが消え失（う）せていく。コミュニティーの力の有り難さを思う。こんなつながりの中で出会い、支えられている二人なら、何より安心なことだと思った。

　「ここには、人と大地に結びついた生活がある。それぞれ自分にできることで貢献する暮らしがある。一日の終わりに振り返って、しみじみと大切なことだと思う」。かつて一年のキャンプヒル生活を終えて、滞在の延長を決めた娘は、こう語っていた。

　生きていくのに必要なものを、自分たちの手で作り出せる人は、地に足がついている。そして、適度な距離をとって、支え合っている。コロナ時代でも持続可能な生活とは、このような暮らしかもしれない。

　できること、できないことは、人によって違う。キャンプヒルのミッションは、みんな違う多様なすべての人が、誰も取り残されることなく、自分なりの貢献をして尊厳ある生活を営める社会づくりだという。「農福連携」政策も、農場での就業支援や福祉支援、農業の人手不足解消という捉え方だけでは狭いと思う。若者スタッフを含む多様な人たちが、補い合って支える暮らしを学び、新たなライフスタイルや価値観を生み出すところまで発想を広げて、それに公的な助成もできれば面白い展開になりそうだ。