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https://mainichi.jp/articles/20210121/k00/00m/040/293000c

警視庁担当記者が過激派「中核派」のアジトに入り、見た世界とは

かつて多数のテロ・ゲリラ事件に関与し、犠牲者を出してきた過激派組織「中核派」。今も暴力を辞さない共産主義革命を唱え、警察当局の監視対象となっている。組織の活動家が共同で生活を送る拠点（アジト）が東京都内にある。秘密のベールに包まれた活動の一端を知ろうと取材を申し込み、案内を受けながら中に入った。
破られない鉄扉
中核派は、成田空港建設や天皇制への反対を掲げ、爆発物などを使ったゲリラ事件を繰り返してきた過激派組織。アジトは「前進社」と呼ばれ、東京都江戸川区の住宅や工場が建ち並ぶ一角にあり、出版物を発行している。以前は豊島区にあったが、活動費を捻出するために売却し、1994年に民間の工場があった現在の場所に移転した。鉄骨造の4階建て（本館）と5階建て（新館）が密接し、内部で行き来ができる。
2020年12月18日午前10時に訪れてインターホンを押すと、スタジャンにジーンズ姿の青年が扉を開けた。活動家の石田真弓氏（33）で、「（中核派が）実態の分からないものとして扱われているので」と取材を受けた理由を明かした。
新型コロナウイルス対策として記者の検温をした後、石田氏が約50メートル離れた駐車場に停車している白いキャンピングカーを指さした。フロントガラスには日よけがあり、中の様子はうかがえない。「警察の車両で、24時間365日、こちらを監視しています」。警戒ぶりが伝わる。
記者は20年8月に警視庁記者クラブの公安担当になったばかりだが、目の前にある新館ビル1階の赤茶けた鉄の扉には見覚えがあった。警視庁が10月に行った家宅捜索の様子を取材していたからだ。機動隊員が鉄扉にエンジンカッターを向けて火花を散らしている最中に、隣の別の出入り口がバタンと開いて活動家が出てくるという不思議な光景を思い出した。
重そうな扉には傷が修復された跡が無数に残る。傷が付けられても溶接が得意な活動家が修理しているという。捜索を受けた時に、なぜ最初から隣の出入り口を開けないのだろうか。石田氏は「警察だって（最後には横の扉が）開くと分かっているので、エンジンカッターはパフォーマンスなのでしょう。こちらも扉を開けないことで対決の姿勢を示すという意図もあります」と答えた。中に入ると、扉の裏側はかんぬきで三重に堅く施錠されていた。
ビル4階に焼却炉がある理由
前進社は、中核派独自の主張を展開する機関紙「前進」を週に1回発行している。発行部数は公表していないが、月額1400円の購読料は資金源の一つになっている。機関紙の印刷機は本館1階にあった。2階は食堂、3階は図書室、4階は簡易な板張りの居室がある。新館の2～5階は居室や会議室だという。居室の前の通路には洗濯物が干されていた。

ビル内には20～80代の活動家50人以上が生活しているという。若い活動家はコンビニ店員や料理宅配サービス「ウーバーイーツ」などで得た収入、高齢の活動家は年金の一部を、活動を支える「運動費」として納めているが、その額は明かされなかった。ただ、約3時間の取材中、すれ違うのはほとんどが高齢者だった。取材用カメラのレンズを向けられるのを嫌がる人もいた。
本館4階の居室隣の屋内スペースには焼却炉があった。煙突は屋根に突き抜けている。なぜこんなところに焼却炉が。石田氏は「いろいろと処分する必要があるので……」と言葉を濁した。
後日、捜査関係者に取材すると、警察の捜索を受けた時に見られたくない書類を焼却するためだとみられていることが分かった。警視庁は捜索時に煙が上る様子を確認したという。ビルの入り口に鉄の扉を設置し、焼却炉を4階に置くのには、捜索を受けた時に書類などを処分するための時間稼ぎをするという理由も考えられる。
中核派はメモ用紙として水に溶ける紙を使うことも知られている。これも証拠を残さないためとみられるが、10月の捜索時には活動家の連絡手段に関するルールを記した水溶性用紙が施設内で押収された。処分し損なったのだろうか。
廊下には50人以上の警察官の顔写真
本館2階にある食堂では、居住する活動家が当番制で調理し、1食250～400円ほどで1日3食を提供している。この日の朝食メニューは、ひじきの五目煮、納豆、味付けのり、みそ汁、白米。調理が簡単なカレーが定番メニューだという。冷蔵庫にはアルコール飲料の缶が並び、350ミリリットルは150円、500ミリリットルは200円と手書きの紙が張られていた。
新型コロナ対策も行われていた。出入り口近くに手洗い場を新設し、6人掛けのテーブルは「1テーブル3人まで」「食事中の会話を控える」との注意書きもあった。