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あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part323

1 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/28(火) 20:39:23.13 ID:EVBW8bjU.net
もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?そんなifを語るスレ。

(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part322
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1382371127/

まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/
避難所
http://jbbs.shitaraba.net/otaku/9616/


     _             ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
    〃 ` ヽ  .   ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
    l lf小从} l /    ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
   ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,.   ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
  ((/} )犬({つ'    ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
   / '"/_jl〉` j,    ・投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
   ヽ_/ィヘ_)〜′    ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
             ・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!

     _
     〃  ^ヽ      ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
    J{  ハ从{_,    ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
    ノルノー゚ノjし    内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
   /く{ {丈} }つ     ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
   l く/_jlム! |     ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
   レ-ヘじフ〜l     ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。


.   ,ィ =个=、     ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
   〈_/´ ̄ `ヽ      ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
    { {_jイ」/j」j〉    ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
    ヽl| ゚ヮ゚ノj|       ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
   ⊂j{不}lつ     ・次スレは>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
   く7 {_}ハ>      ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
    ‘ーrtァー’     ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
               姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
                 ・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
               SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
               レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。

2 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/01/29(水) 00:29:24.47 ID:0jsxDX3Z.net
スレ立てお疲れ様です
遅くなりましたが、よければ0:35ごろから続きを投下させてください

3 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/01/29(水) 00:35:03.44 ID:0jsxDX3Z.net
 
ここはトリステイン魔法学院本塔・最上階。
 
「もうしない、もう絶対しないから。
 あだっ! 君、年寄りにそんな乱暴じゃから婚期を……あいだっ!」
 
暇を持て余したオスマン学院長が秘書のミス・ロングビルにセクハラを行い反撃を受けている。
いつもの光景だ。
 
そこへ早足で向かってくる足音が聞こえ、続いて扉をノックする音が響いた。
 
ロングビルはさっと机に戻ると何食わぬ顔で業務の続きを始める。
オスマンも素早く起き上がって軽く服を整え直すと腕を後ろに組んで重々しく威厳のある態度を装う。
これもいつもの事で、二人とも手慣れたものだ。
 
「誰かね?」
「私です、オールド・オスマン」
「ああ、ミスタ・ゴートゥヘル君か、はいりたまえ」
「私はコルベールです!」
 
コルベールは仏頂面で扉を開けて入ってきた。
これまた、よくあるやり取りだ。
どうもわざと名前を間違うのはこの学院長の持ちネタであるらしい。
 
「お邪魔して申し訳ありません、学院長。
 実はヴェストリの広場で、決闘を始めようとしている生徒がおりまして……」
「まったく、暇をもてあました貴族ほど性質の悪い生き物はおらんな。
 ……で、君は止めなかったのかね?」
「その、情けない話ですが……、
 止めようにも生徒たちの熱狂がひどくて、どうも」
 
オスマンはそれを聞いてひとつ溜息を吐く。
 
「やれやれ、君はそういうことになるとどうにも気弱でいかんな……。
 それで、誰が暴れておるんだね?」
「はい……、一人は二年生のギーシュ・ド・グラモンです」
「ああ、あのグラモンのとこのバカ息子か。
 オヤジも色の道では剛の者じゃったが、息子も輪をかけて女好きと見えるわい。
 大方他の男子生徒と女の子の取り合いになって、といったところかの?」
「いえ、それが………」
 
コルベールはそこで、言いにくそうに言葉を濁した。
 
「む? なんじゃ、違うのか?」
「相手は男子生徒ではありません、というか生徒でもなければメイジでもなく――メイドです」
「………、なんじゃと?」
「そのため、私以外の教師もどう対応していいものか戸惑っているようで。
 中には止める必要はないと生徒に混ざって傍観している者も……」
 
オスマンはそれを聞いて困惑したように眉間に皺を寄せる。
 
「……平民と決闘……? 何を馬鹿な事をしでかしておるんじゃ。
 性質が悪いにもほどがある」
 
興味深げに横合いで聞き耳を立てていたロングビルの目がきらりと光った。

4 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/01/29(水) 00:38:04.77 ID:0jsxDX3Z.net
 
「学院長、でしたら大事にならないうちに止めた方がよろしいのでは。
 私に宝物庫の鍵を貸していただければ、急いで『眠りの鐘』を用意してきますわ」
「むう、そうじゃな……、」
 
オスマンが考え込みながら杖を振ると、壁にかかった『遠見の鏡』にヴェストリの広場の様子が映し出された。
成程、周囲を熱狂した観衆に取り囲まれたギーシュとメイドらしき少女が今まさに決闘を始めようとしている。
 
オスマンはその様子を見てますます顔をしかめたが、少女の後ろに昨夜この部屋を訪れた亜人の姿を見つけると表情を変えた。
視線を止めて、少し首を傾げながら数秒ほどじっと鏡を見つめる。
 
「……学院長、どうされるのです?」
 
ロングビルに怪訝そうに声を掛けられて、オスマンははっと我に返った。
見ればコルベールも似たような顔をしている。
 
「む、ああ、そうじゃな、ひとまず用意はしておいてくれ。
 ……使うべきかどうかはもう少し様子を見てから判断するとしよう」
 
オスマンはそう言ってロングビルに鍵を渡すと、困惑したような顔のコルベールをよそに鏡の光景をじっと見つめ続けた。
 
一方ロングビルは、鍵を受け取ると一礼して学院長室を足早に立ち去った。
その顔に怪しげな笑みが浮かべながら……。
 
 
 
ヴェストリの広場では、いよいよ決闘が開始された。
シエスタはディーキンの演奏を背に受けながら剣を構えると、小細工も何もなく真っ直ぐワルキューレに斬りかかってゆく。
 
対するギーシュは余裕の姿勢を崩さない。
普通に考えれば青銅製のゴーレムを剣で、それも素人の女性が斬り付けたところで大した傷が与えられるはずがないのだから当然と言えよう。
しかもワルキューレは硬いのみならず、鍛えられた屈強な成人男性以上の腕力と素早さを持っている。
その気になれば防御も反撃も容易いことだ。
 
(よし、振り下ろしてくる剣を余裕で弾いて見せて……、体勢が崩れたところへ軽く一撃叩き込んでやるとしよう)
 
実際に力の差を痛感させれば、あのメイドも目を覚ます事だろう。
ギーシュはそう考え、余裕たっぷりに薔薇の杖をくいと持ち上げてワルキューレに指示を出した。
 
――――が、しかし。
 
「え……?」
 
シエスタの剣はギーシュがその足の速さから想像していたよりもずっと速く、力強く振り下ろされていた。
ワルキューレが主の命令を受けて拳を持ち上げる遥か前に肩口を鋼鉄の刃が捕え、青銅をまるで粘土のように容易く斬り裂いていく。
 
斜めに両断されたゴーレムは瞬く間に形を失って、ぐしゃりと地面に崩れ落ちた。
 
「……!? お、おい、あのメイド、ゴーレムを倒したぞ?」
「せ、青銅ってあんなに簡単に壊れるもんだったのか? なあ、お前土メイジだろ、どうなんだよ?」
「そ、そりゃあ―――出来具合にもよる。 けど、まさか女の子の力で………」
「あのメイド、実は剣の達人だったのか!」

5 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/01/29(水) 00:41:05.96 ID:0jsxDX3Z.net
 
予想外の展開に観衆が一斉にざわめきだす。
シエスタ自身も、自分の攻撃がもたらした結果に少し目を丸くしていた。
ある程度想像はしていたが、まさか自分のような素人同然の娘にここまでの力を……。
 
「……な、なかなかやるじゃないか!
 丸っきりの素人というわけではないらしいね」
 
ギーシュは若干顔をひきつらせながらも精一杯余裕のある態度を装い、薔薇の杖を大きく振る。
複数の花びらが舞い落ちて、今度は同時に六体ものワルキューレが、しかも盾を装備した状態で構成された。
 
全部で七体のワルキューレがギーシュの武器なので、これで数の上では全力を出したことになる。
盾を持たせたのは一撃でワルキューレを斬り倒した攻撃力を警戒したのと、流石に殺傷力の高い武器を持たせて殺し合いにするわけにはいかないためだ。
 
「おおっ、ギーシュが本気を出したか?」
「これで勝負は決まったな」
「そう? でもあのメイド、同じゴーレムをさっき斬り倒していたじゃない」
「いや、どんなに力があってもあれだけの数に囲まれたら、魔法が使えない平民じゃ対応できないさ。
 それに今度は盾を持たせてるしな……」
 
わいわいと沸き立っている観衆をよそに、ディーキンは内心少し感嘆していた。
駆け出しのメイジが中型サイズのアニメイテッド・オブジェクトに類似する人造を簡単に作れるだけでも大したものだが、同時に六体とは。
しかもどうやら任意の武具を装備した状態で作ることも可能らしい。
 
ただ、呪歌でサポートしたとはいえシエスタに一度斬られただけで倒れるあたり、強度や耐久性は少し低いようだ。
青銅ならもう少し硬くてもよさそうなものだが…、そういえば先程の授業で錬金の魔法はどうしても不純物が混じったりすると言っていたか。
作成者の腕もまだ未熟なのだろうし、見てくれはよくても中身が炉でしっかりと精製した青銅には劣るのは仕方ないのだろう。
あのサイズでは瞬殺されるのを見た以上、数を増やすよりもより強い大型のものを出した方が良さそうな気もするが、それはできないのだろうか。
 
そのあたりのことも後でまた、しっかりと調べて――――――。
 
「まずは褒めよう、ここまでメイジに楯突く平民がいることには感激したよ。
 レディーとはいえ手加減は無用のようだ、僕も本気を出すとしよう。
 悪いが君の活躍はここまでだ」
「………はい、最後まで全力でお相手します」
 
ギーシュは一時の動揺から回復して、新たに呼び出した忠実な僕たちにシエスタを囲ませながら一斉攻撃を仕掛けるタイミングを見計らっている。
シエスタは少し険しい顔をして周囲を囲むゴーレムに視線を走らせつつ、いつでも動けるように身構えている。
 
ディーキンは数秒ほど思案に耽っていたが、ギーシュとシエスタのやりとりを聞いて我に返った。
考え込みながらも演奏に全く乱れが無いのは流石といったところだろうか。
まあ、激しく戦闘しながら演奏を続けなければならないバードがこの程度で演奏を乱していたらそれこそお話にならないのだが。
 
この状況は、『勇気鼓舞の呪歌』だけでは少し厳しいかもしれない。
この呪歌では攻撃力は上がっても耐久力や回避力まで上がるわけではないのだ。
これだけの数に囲まれれば恐らくかわし切れずに攻撃を喰らってしまうだろうし、数発も殴られれば一般人と大差ないシエスタの体では持つまい。
そうでなくとも、シエスタにこんなことであまり痛い思いをさせたくはないし…。

6 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/29(水) 00:44:15.94 ID:xjKyM7zb.net
しえん

7 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/01/29(水) 00:45:07.33 ID:0jsxDX3Z.net
 
ならば。
 
「オオ、いよいよ決戦なんだね?
 ちょっと待って、ディーキンもそれに相応しい音楽で応援するよ!」
 
そう宣言して周囲の注目を集めると、歌うようにして素早く二、三の音節を呟き、今まで演奏していたリュートから手を離した。
するとリュートはその場で宙に浮かび、今までと変わらない演奏をひとりでに続ける。
 
おおっ、と驚きの声を上げる観衆をよそに、続けて更にもう一つ呪文を唱えた。
呪文が完成するや、ディーキンの手の中にバイオリンが出現する。
それをさっと構えると、今まで以上に心を高揚させる荘厳で勢いのある旋律をリュートの演奏と重ねて奏で始めた。
 
「せ、先住魔法だ!」
「精霊の力を借りる恐ろしい技だって聞いていたけど…、こんなこともできるの!?」
「いや魔法もすごいが、演奏も……」
 
普段は畏怖している先住魔法(と観衆は思っている)による楽しい演出と、お抱えの宮廷詩人のものだと言っても通用しそうな見事な演奏。
観衆の興奮は最高に高まっている。
 
一見するとただ注目を集めて気分よく歌っているかに見えるが、実のところディーキンの負担はある意味戦っているシエスタ自身よりも大きかった。
2つの呪歌を立て続けに『強化』して歌った反動で、ディーキンの喉には鈍く熱い痛みが走り始めている。
もしシエスタの体にこれと同じ反動を負わせたら、耐えきれずにたちまち昏倒してしまうだろう。
 
だがその苦痛を少しも表情には出さず、胸を張って楽しげに誇らしげに歌い続ける。
ここで苦しそうな顔などしていたら演出が台無しだし、何より実際ディーキンはその表情通りの気分なのだから。
英雄の活躍に立ち会って手伝いまでできるのに、楽しく誇らしく感じないバードがどこにいようか。
 
これで、決戦に向けての準備は整った。
 
「おおっ、何とも気の利いた音楽と演出じゃないか!
 ワルキューレたちの総突撃に相応しい調べだな、感謝するよルイズの使い魔君!」
「…………」
 
ギーシュは先程の焦りなどすっかり忘れて、自分の活躍を引き立ててくれる(と自分では思っている)勇ましい調べに気を良くしていた。
一方シエスタは、自分の中に湧き上がってくる更なる力に驚愕して言葉を失っていた。
 
今までの力でさえ信じられないほどだったのに……。
しかも今度のは、ただ力が漲っているというだけではない気がする。
何か、先程とは違う、今まで感じたことのないような――――。
 
「さて場も整ったことだし、今度こそ覚悟をしたまえ」
「……………! はい、行きます!」
 
ギーシュがワルキューレの布陣を終えて、いよいよ一斉突撃を命じようと余裕ぶって杖を構えたあたりで、シエスタはハッと我に返った。
間髪入れずにばっと駆け出すと、一番手近のワルキューレに向けて先程と同じように剣を叩きつけようとする。

8 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/01/29(水) 00:48:07.03 ID:0jsxDX3Z.net
 
「えっ……!?」
 
先程まで少しぼうっとした様子だった少女があまりに唐突で素早く行動に移ったことで、宣言をしたギーシュの方がかえって不意を突かれた。
ワルキューレは所詮ギーシュの指示を受けて動くもの、ギーシュ自身の命令よりも素早い反応はできはしない。
そして今のギーシュの反応速度はシエスタよりも明らかに遅かった。
突撃を命令しようとしていたのを慌てて防御の指示に切り替えるが、既にシエスタはワルキューレの眼前に迫っている。
しかも重い盾を持たせたためにかえって腕の動きが鈍り、先程以上に速いシエスタの剣を防御するのには全く間に合っていない。
盾に遮られない角度から横薙ぎに斬り付けた長剣が、そのワルキューレの胴体を両断して仕留めた。
 
「くそっ!」
 
ギーシュとて全くの素人ではなく、軍人の家系であるがゆえにゴーレムを運用する戦闘の訓練はそれなりに受けている。
自分が命令しようとしていた個体がもう駄目なのを悟ると、悔しげに呻きながらもすぐに残りのワルキューレに指示を出して体勢を立て直させた。
 
もしシエスタが真に凄腕の剣士だったなら、間髪おかず手近のワルキューレに連続攻撃をかけて、体勢を立て直す前に更に一、二体は仕留められただろう。
だが呪歌で大幅に素早く力強くなっているとはいえ、シエスタの技量自体はやはり素人に毛が生えた程度でしかないのだ。
数秒の内に三体も四体も敵を倒すというような真似は無理だった。
 
「これ以上はやらせない、いけワルキューレ!」
 
ギーシュの命令が飛ぶのを聞くと、シエスタはさっと視線を巡らせて周囲のワルキューレたちの動向を確かめた。
残った五体全てがこちらへ向かってきているが、二体はまだ距離が遠い。
早急に対峙しなくてはならないのは正面に二体、そして背後に一体。
 
シエスタはそれだけ確認すると、攻撃される前に素早く正面右側のワルキューレの懐へと飛び込んで行った。
今度はワルキューレの側も攻撃に対する備えができており、向かってくるシエスタに反応してさっと盾を構える。
しかしシエスタは盾の上から斬り付けるような事はせず、ワルキューレの前で踏み止まると下から盾を思い切り蹴り上げた。
予想外の衝撃に盾を弾かれて体勢を崩したワルキューレの腰をすかさず全力で斬り付け、また一体倒す。
 
一見して見事な戦い方のようだが、見る者が見れば速さと力は並外れているが動作自体はあまり洗練されていないことにすぐ気が付くだろう。
戦い方も実に大味だが、それには単に未熟だからというだけではないちゃんとした理由があった。
仮に剣技を身に付けた人間相手なら、シエスタも未熟なりに牽制や受け流しなどを交えてもう少し技巧的に戦おうとしていただろう。
だが、今戦っている相手は人間とはまったくその性質が違う。
ワルキューレは基本能力はそこそこ高いが剣技などの技巧は皆無で、その代わりに人間と違って痛覚も恐怖もなく体は金属製で硬い。
人間相手なら鎧の隙間を突けば軽い攻撃でも有効打となるし、それゆえにフェイント気味の素早いが軽い突きなどで牽制することもできる。
だが全身くまなく青銅製のワルキューレ相手では力の乗っていない攻撃は有効打になり得ないし、当然それに怯むこともない。
それに数が多いので丁寧に一体ずつ相手にしていては不利になるばかりだ、囲まれて集中攻撃を受けてはたまらない。
ここはできる限り素早く倒して数を減らさなければならない。
ならば躊躇わずに一気に防御を崩しに行き、多少強引にでも隙を作ってそこを全力で斬り付け、一撃で倒すことを狙っていく。
それがシエスタが自分なりに考えて最善と判断した戦い方だった。
 
シエスタは余韻に浸る間もなく残る二体に対峙しようと体の向きを変えた。
しかし振り向いた時には既に一体が目と鼻の先にまで迫っており、今まさに殴りかからんとして盾を振り上げていた。

9 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/01/29(水) 00:51:07.01 ID:0jsxDX3Z.net
 
「………っ!」
 
慌てて地面に転がるようにしてどうにかその攻撃は避けたが、そこに残る一体がすかさず拳を繰り出す。
シエスタは革鎧の小手の部分をその腕の内側に叩きつけるようにして拳の軌道を逸らし、どうにか凌いで体勢を立て直した。
だがその時には既に距離の離れていた二体もシエスタの後ろに回り込んでおり、すっかり体勢を整えたワルキューレたちに取り囲まれてしまっていた。
 
これでは、もうこの囲みから抜けるのは難しい。
今と同じことをやろうとしても、一体に飛び掛かればすかさず残り三体が背後から襲ってくるだろう。
 
(よ…よし! 少し冷や汗をかかされたが、これで何とかなる!)
 
ギーシュは内心で安堵する。
まさか平民の、それもただのメイドがこれほどの使い手だとは思ってもみなかったので、ワルキューレを次々と撃破された時は少々焦った。
だが先程ワルキューレ二体がかりでの攻撃を切り抜けた時は相当際どい様子だったから、こうして四体で囲んで攻撃すれば流石に避けきれはしまい。
いかに動きが速かろうが太刀筋が鋭かろうが、革鎧を着ただけの生身の人間ならば青銅の拳や盾が直撃すれば痛みで動きが鈍るはずだ。
そこへ周囲から数発追撃を入れてやれば一気に逆転、勝負を決められる。
 
だが、ここで気を抜いてまたワルキューレを失えば今度こそ勝利が危うくなるだろう。
ギーシュはここまでの反省から今度は余裕ぶった態度も取らず、周囲を取り囲み終えると即座に杖を振って一斉に攻撃を仕掛けさせた。
 
シエスタは正面から盾で殴ろうとしてきた一体のワルキューレの懐に姿勢を低くして飛び込むと、脚から腰に掛けて一気に斬り上げるようにして倒す。
その勢いのまま、身を捩るようにして横へ飛んだ。
一体のワルキューレの拳は間一髪で脇を掠め、今倒した相手の体を打つ。
だが、身を捩りながら飛び退いた先に向かってきたもう2体の攻撃はかわせない。
シエスタは咄嗟に体を捻って、斜め前方から向かってきたワルキューレの拳を防具の硬い部分で受け止める。
だが背後から迫っていたもう一体が、脇腹を盾で強く殴りつけた。
 
たかが革の防具などでは殺しきれない威力の、常人なら体を折って悶絶するような強烈な一撃だ。
シエスタは攻撃を受けたと悟った瞬間、思わず目をぎゅっとつぶって襲ってくるであろう痛みを必死にこらえようとした。
 
だが。
 
(……………、えっ?)
 
シエスタは覚悟していた苦痛が無い事に気が付いた。
受けた攻撃が決して弱いものでなかったことは間違いない、それは感じ取れた。
だが、その攻撃は実際のダメージをまるで伴わない、形ばかりの痛みと衝撃しかもたらさなかったのだ。
まるで毛布を何重にも厚く体に巻き付けた上から殴られたかのように。
 
(これも、あの人の歌の………?)
 
シエスタはワルキューレたちがここぞとばかりに追撃を掛けようと向かってくるのに気が付くと、困惑を振り捨ててぎゅっと剣を握り直した。
自分を殴りつけた背後のワルキューレを蹴り退け、正面で拳を振り上げたワルキューレの脇をその勢いで駆け抜けざまに斬り捨てる。
相手は苦痛で身動きが取れないと油断しきっていたギーシュは、その予想外の動きに全く反応できなかった。
 
「え……、ばっ、馬鹿な!?」
 
シエスタはギーシュが狼狽して指示を出せないでいる間に、素早く踵を返して先程自分を殴りつけた背後のワルキューレも袈裟懸けに斬り捨てる。
ギーシュは我に返ると慌てて最後に残ったワルキューレを戻らせ、自分をガードするよう命じた。

10 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/01/29(水) 00:55:06.08 ID:0jsxDX3Z.net
 
だが今更守りを固めたところでワルキューレは残り一体。
連携作戦も取れない以上、もうギーシュに勝ち目はない。
血気に逸ったシエスタはそう確信し、一気に片を付けようと突進していった。
今の自分に勝てるものなどいるのだろうか?……歌のもたらす高揚感も手伝って、そんな考えさえ心に浮かんでくる。
 
つまるところシエスタは、やはり素人であった。
 
一流の戦士なら、単純な動きしかできないゴーレム同士での連携よりもゴーレムとメイジの連携の方がずっと脅威であることを失念したりはするまい。
加えて、後がない状況に追い詰められた敵は漸く覚悟を決めて、最後の激しい抵抗に出てくるもの。
ギーシュがワルキューレを自分の傍に寄せた、そこへ攻め込んでいく今は先程までと同様心してかかるべき正念場であり、決して消化試合などではないのだ。
敵に対する然るべき敬意、すなわち警戒心を忘れたものは往々にして手痛い代償を支払わされることになる。
 
シエスタはギーシュの前で盾を掲げて防御姿勢を取ったワルキューレに突撃すると、盾で守られていない側面から一気に斬り裂きにかかった。
狙い過たず、刃は防御姿勢を取ったまま棒立ちのワルキューレに食い込んでいく。
 
事前に防御の態勢を整えていたにも関わらず全く反応せずに棒立ちで両断されていくワルキューレを見て、シエスタは一抹の不安を覚えた。
間に合わなかったのではなく、最初から対応させる気が無いように見えた。
最後に残った一体のゴーレムで必死に対抗しようとせず操作を放棄した?
 
と、すれば、
それは、つまり………。
 
「あっ…………!!」
 
はっとして顔を上げたシエスタの目に、倒れていくワルキューレの陰からこちらに向けて薔薇を突きつけているギーシュの姿が飛び込んできた。
その目には今までのような余裕も、気取りも、女性への遠慮も、焦りも、狼狽も感じられない。
シエスタが駆け寄るまでの数瞬の間で相手の強さを認め、ただ最後まで全力を尽くそうという覚悟と決意とを固めた、その闘志の炎だけが燃えていた。
 
何か対応せねばとは思えど、全力で振り下ろした刃がまだワルキューレの体に食い込んだままで満足に身動きが取れない。
背後のギーシュの動向に対してまるで無警戒であったために、完全に意表を突かれた。
 
「この時を待っていた! くらえ、石礫だァーー!!」
 
杖の先から飛び散った多数の薔薇の花びらがそれぞれ石礫に変化し、高速の散弾となってシエスタに襲い掛かる。
ギーシュが最後に残ったワルキューレを囮として、残る精神力を振り絞って勝負をかけた攻撃だ。
シエスタは咄嗟に剣から手を離し、飛び退きながら顔などの急所をガードしようとしたが間に合わない。
石礫は容赦なくシエスタの体を叩きつけ、何発かは鎧に覆われていない剥き出しの部分に命中した。
普通なら致命傷にはならないまでも打たれた場所が内出血を起こし、骨にはひびが入り、大きな被害を受けるであろう攻撃だ。
 
だがギーシュの顔には快哉の笑みは無く、緊張した面持ちのままシエスタの様子を伺っている。
つい先程同じような状況で油断して反撃を受け、ワルキューレを壊滅状態にさせられた件を忘れるほど愚かではない。
もっともこれに耐え抜かれたらもう油断もくそもなく、精神力はほぼ尽きているし自分の負けは確定なのだが…。
例えそうなるとしても、油断した無様な姿を晒して負けたくはなかった。

11 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/01/29(水) 00:58:16.81 ID:0jsxDX3Z.net
 
果たして懸念したとおり、シエスタは無事であった。
石礫にまともに撃たれても顔をしかめて一瞬怯んだだけで、やはり倒れなかったのだ。
苦痛に怯まないだけならまだしも剥き出しの肌を打っても傷ついた様子がないのは不思議だったが、この期に及んで抗議や言い訳などは無様なだけだ。
 
「……まいった、僕の負けだ」
 
ギーシュは杖を捨て、降伏した。
それを見た周囲の観衆からどよめきや歓声、野次などの様々な反応が巻き起こる。
ディーキンもにこりと笑みを浮かべると、クライマックスを弾き上げて演奏を終えた。
 
だがシエスタは呆然とした様子で打たれた部分を撫で、それから捨てられた杖と手放した剣とを交互に見て……、
やがてゆっくりと首を横に振った。
 
「………、いいえ……、いいえ、ミスタ・グラモン。
 私の負けです、ありがとうございました」
 
そう言って深々とギーシュに頭を下げ、次いで背後のディーキンの方を振り返って、同じように頭を下げた。
せっかく応援してもらったのに勝てなくて申し訳ありません、というように。
 
ギーシュは呆気にとられ、ディーキンは二、三度まばたきして首を傾げた。
周囲の観衆も、あまりに思いがけない展開の連続にがやがやと騒ぎ、首を傾けながら決闘の当事者たちを見守っている。
 
「……い、いや、何を言っているんだね?
 誰が見ても君の勝ちだよ、残念だが僕にはもう、戦う力は残っていないんだ……」
「いいえ、私はミスタ・グラモンが杖を捨てられるより先に、思わず自分の剣を手放してしまいました…。
 決闘で杖を失ったメイジが負けとなるのなら、剣を手放した平民も同じです」
 
シエスタはそう言って静かにギーシュの方に歩み寄ると、先程彼が落とした杖を拾って、もう一度頭を下げてからそれを差し出す。
その敗者らしい礼儀と顔に浮かぶ力のない微笑みを見れば、ギーシュにもシエスタが御為ごかしなどではなく本心からそう言っているのはわかる。
 
だが、それであっさり納得して喜べるほどには彼のプライドは安くない。
ギーシュは差し出された杖を受け取らずに、悔しげに顔をしかめてシエスタを睨んだ。
 
「待ちたまえ、そんなことは事前に決めていなかったはずだ。
 それに剣を手放したと言っても君は無傷で、僕にはもう戦える力が残っていない。
 ……悔しいが、誰が見ても君の勝ちさ。
 君が勝者として僕の降伏を受け容れてくれない限り、貴族としてその杖を返してもらうわけにはいかない」
「いいえ、私がミスタ・グラモンと戦えたのは、ディーキン様が応援してくださっていたからです。
 それなのに……、それに最後まで全力で戦うとお約束したのに、それを忘れて、私は、……」
 
シエスタは口篭もって俯いた。
悔しさに唇をかみしめ、少し震えて、目に涙まで浮かべている。
 
彼女がこの戦いを自分の負けだと感じたのは、本当を言えば剣を手放したからなどという形式的な理由からではなかった。
もしディーキンの歌による援護がなければ、自分はとっくに倒されている。
その援護のお陰で戦えているだけだと知りながら、最後には慢心し、自分のものでもない力に思い上がってしまった。
その結果が最後の被弾である、あれは歌の力によって守られていなかったら致命的だっただろう。
苦痛こそ殆どなかったが、精神的なショックは大きかった。
最後まで全力でお相手しますなどと約束しておきながら、あんな不義で恥知らずな考えを胸に抱いてしまった自分が許せない。
望外の手助けまで得ておきながらこの体たらくだ。
こんなことで、どうして他人の不義を咎める事などできようか―――――。

12 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/01/29(水) 01:03:40.43 ID:0jsxDX3Z.net
 
「……………、」
 
ギーシュは神妙な面持ちで、そんなシエスタの姿を見つめた。
何故ここまで彼女が落ち込んでいるのか、どうして勝ちを受け容れないのか、はっきりと理解はしていなかった。
ただ一つだけ確信したのは、このメイドが高貴な心を持っているという事。
おそらく貴族である自分以上に――――。
 
「…分かった、それではこの戦いには勝者はいないということだ。
 それでも、たとえ君が勝者でなくとも、僕が敗者である事は変わらない」
 
そうきっぱりと宣言すると、人ごみの中にモンモランシー、ケティの姿を見つけて、詫びの言葉を述べてから深々と頭を下げた。
それからシエスタとディーキンにも向き直って、同じように。
 
「すまない、2人とも、僕が悪かった!」
 ……君たちに責任を負わせようとしたのは僕が間違っていた、この通りだ!」
 
それを聞いてシエスタはハッと顔を上げると、慌てて自分も礼を返した。
 
「その……、私の方も、貴族様に逆らうような事をしてしまって申し訳――――」
「いや、あれは悪いのは僕の方だった。君に否はない」
 
ギーシュはその言葉を押し留めると、剣を拾ってシエスタに差し出した。
 
「君は自分が敗者だと言うが、今、僕が否を認められたのは君の……、いやあなたのお陰だということを忘れないでほしい。
 そのあなたが堂々と胸を張っていてくれないと、僕がますます惨めになる」
「あ………、は、はい!」
 
2人がそれぞれ剣と杖を差し出して交換すると、誰かが拍手を始めた。
それを皮切りに、すっかり静まり返って事態を静観していた観衆から満場の拍手と喝采が沸き起こる。
ディーキンは何か場に会った演奏をしようかとリュートに手を掛けたが、それを見てもうその必要もないと悟ると自分も拍手に加わった。
 
こうして、誰も傷つかず、誰もが勝者であり敗者である奇妙な決闘は幕を閉じた。
後に永く歌い継がれる物語を残して…。
 

13 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia 解説:2014/01/29(水) 01:06:19.69 ID:0jsxDX3Z.net
 
武勇鼓舞の呪歌(Inspire Greatness):
何らかの<芸能>技能のランクを12ランク以上持っている、9レベル以上のバードが使用可能。
術者が選択した目標は疑似的に2レベル上のファイターになったかのように、攻撃ロールおよび頑健セーヴへのボーナスと一時的ヒットポイントを得る。
また、ヒットダイスを参照する効果に対しても本来より2ヒットダイス分高いものとして扱われる。
一時的ヒットポイントが残っている限り、ダメージを受けてもそちらが減るだけで本来のヒットポイントを失うことはない。
 
アニメイト・インストゥルメント
Animate Instrument /動く楽器
系統:変成術; 2レベル呪文
構成要素:音声、動作
距離:接触
持続時間:術者レベル毎に1分
 目標となった楽器1つに自動的に演奏する能力を与え、効果持続時間中に術者の演奏を引き継がせたり、術者の代わりに演奏させることができる。
その際の<芸能>判定には術者と同じ修正値を使用する。
これによって呪歌の効果を発揮させることも可能であり、通常は精神集中を要する呪歌であったとしても術者自身の精神集中は不要である。
非魔法の楽器でさえあれば種類は何でもよく、手持ち式の楽器であれば持ち運ばない場合にはその場に浮遊して演奏を行う。
楽器がダメージを受けた場合にはこの呪文の効果は終了する。
 
サモン・インストゥルメント
Summon Instrument /楽器の召喚
系統:召喚術(招来); 0レベル呪文
構成要素:音声、動作
距離:0フィート
持続時間:術者レベル毎に1分
 術者は任意の手持ち式の楽器1つ(呪文の完成時に選択する)を手中または足元に招来する。
この楽器はごく普通の品質のものだが、術者自身にしか演奏できない。
 

14 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/01/29(水) 01:08:19.66 ID:0jsxDX3Z.net
今回は以上です
漸くギーシュ戦が終了しました
戦闘場面を書くのは初めてなので、果たしてどうだったか不安ですが…

出来るだけ早く続きを投下したいと思います
支援いただいた方、ありがとうございました
それでは、どうぞまたの機会にもよろしくお願いいたします(御辞儀)

15 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/29(水) 17:20:45.46 ID:palYwrnq.net
スレ立て&投下乙です
シエスタもギーシュも格好良くて惚れる

16 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/29(水) 18:36:02.22 ID:IRu95TOO.net
守護月天シャオリン
慶光日天ルーアン

二人で七万の軍勢を壊滅させそう。

17 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/29(水) 18:51:35.11 ID:oXi/jmCj.net
万難地天キリュウの朝の目覚ましトラップで毎朝凄まじい被害を受ける女子寮

18 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/29(水) 22:12:52.48 ID:lDL5D40r.net
ディーキンの人乙
こちらのギーシュ戦はバランスの取れた終わりかたですね
>>17
ルイズの癇癪とどっちがましかw

19 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/29(水) 22:27:26.81 ID:OcJwU7VF.net
守護月天とか懐かしすぎて泣いた

20 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/30(木) 15:19:13.34 ID:m7e5jCRI.net
乙!

21 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/30(木) 15:25:02.25 ID:FgAfTbtN.net
いい話だった

22 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/30(木) 15:27:42.67 ID:FgAfTbtN.net
>>21
せやな

23 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/30(木) 16:07:11.50 ID:m7e5jCRI.net
>>22
誰にも突っ込まれないw

24 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/30(木) 16:10:10.12 ID:bUtbCFi8.net
>>23
突っ込みありがとo(^o^)o

25 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/30(木) 18:08:23.45 ID:Av8oMg5+.net
25get

26 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/01/31(金) 23:14:25.16 ID:VYee7tdW.net
スレ立て乙です。前回からの続き、投下します。
開始は23:18からで。

27 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/01/31(金) 23:18:13.86 ID:VYee7tdW.net
ウルトラマンゼロの使い魔
第三十話「ダダVSギギ」
三面怪人ダダ
三面異次元人ギギ 登場

「『ファイアー・ボール』!」
「『ジャベリン』!」
 キュルケが火球を、タバサが氷の槍を放ち、自分たちを取り囲んだギギXY08と09を攻撃する。
「ギギッ!」
 しかしギギたちは足を全く動かさないで、高速で横にそれて二人の攻撃を回避した。そのまま
07と合わせて、五人の周囲を旋回して翻弄する。
「速いッ!」
 キュルケたちは、アルビオンで自分らを軽くあしらったガッツ星人を思い出した。その時と全く同じ、
慣性すら無視した超高速移動だ。しかも今回は、三人もいる。
「これじゃ、こっちから手が出せないわ……!」
 ルイズの杖先が大きく迷う。ギギの動きが速すぎて、狙いを定めることが出来ないのだ。
彼女の爆発は強力だが、狙いの精密性は低いので、こういう敵相手には不利。下手をしたら、
味方に当たってしまうかもしれない。
「ギギギギギ!」
「ルイズ、危ない!」
 戸惑っているルイズの背後から、XY07が光線銃を撃つ。そこに割り込んだ才人がデルフリンガーで
レーザーを受け止めるが、
「うわあッ! あ、相ぼおおおぉぉぉぅ……!」
「デルフ! デルフまで!」
 レーザーは魔法ではないので、デルフリンガーも吸収することは出来ずに豆粒ほどに小さくされてしまった。
剣を失った才人は、代わりにガンモードのウルトラゼロアイを取り出す。
「こっちだ、縞々お化け!」
「ギギギギギギ!」
 才人は威嚇射撃を行いながら、07を引き寄せてその場から離れていった。
「サイトぉ!」
「ルイズ、危ないわよ! ぼさっとしないで!」
 追いかけようとしたルイズだが、そこに08の目から黄色い光線が放たれたので、慌てて
倒れ込むようにかわした。08はキュルケの炎を回避して、ルイズから離れる。
 才人の方は、ルイズたちのところから遠く離れつつ、自分を追ってくる07にゼロアイの
光線を発射する。だが07の動きはやはり速く、当てることが出来ない。
「ギーギギギギギギ!」
「! しまった!」
 気がつけば、背後を取られていた。今からではレーザーをかわすことは出来ない。
「デュワッ!」
 咄嗟の判断でゼロアイを開き、顔に装着した。それとレーザーを浴びるのが同時だった。
「シェアッ!」
 一瞬才人の身体が縮むが、ゼロの姿に変身すると、レーザーを振り払って元の等身大の大きさに戻った。
『ウルトラマンゼロッ!』
『ギギ! 何でお前らが侵略者どもに荷担する! お前らの種族は、凶悪な気質じゃないはずだ!』
 ゼロは07に指を突き立てて詰問した。ギギは元々、他の種族を積極的に攻撃する敵性異次元人ではない。
かつてウルトラマンコスモスの宇宙であるコスモススペースの地球に侵入したのは、それまで生活していた
次元が崩壊の危機に瀕したため、移住場所を探すためだった。現在は新しい住居となる次元を発見したので、
もう侵略行為に出る必要はないはずなのだ。
 そのことに関して、07が答える。

28 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/01/31(金) 23:20:28.84 ID:VYee7tdW.net
『それは腰抜けの科学者たちだけの話だ! 我らギギ軍人は、軍部の完璧な移住計画を妨害し、
派閥の地位を貶めた地球人とウルトラマンコスモスに報復を行う! だが住居の次元では、
科学者どもが目を光らせていて準備を進められない。それ故に、奴らの監視の目を逃れる土地が
必要なのだ!』
 要するに、軍部の地球を新天地にする計画が頓挫し、手柄をギギ科学者たち穏健派に取られたことを
逆恨みしての、派閥争いの延長線上の凶行のようだった。
『そんな身勝手な理由で、ハルケギニアの人々の土地を奪い取ろうってのか! この大馬鹿野郎どもがッ! 
何が論理的で完璧だ! 丸っきり反対だぜ!』
『ほざけ! 邪魔者は誰であろうと排除する! 我らの完璧に傷を入れる者は許さん!』
 ゼロに光線銃を向ける07だが、その瞬間にゼロは腕をバツ字に組んで、ウルトラ念力を発揮した。
「ジュワッ!」
「ギギィッ!?」
 念力によって光線銃からボン! と音が鳴り、黒い煙が立ち昇った。07が引き金をカチカチ鳴らすが、
もうレーザーは出ない。故障した光線銃をかなぐり捨てた07は、来た道を引き返してゼロから逃げていく。
『待てぇッ!』
 すぐにゼロが駆け出し、それを追いかけていった。

 元の場所では、依然としてルイズたちが08と09に苦戦していた。
「ギギギギギギギギギ!」
「くッ……! さっきからギギギギうるさいわね……!」
 嘲笑うように鳴き声を上げるギギたちに、キュルケが苛立って舌打ちした。とそこを、
コルベールに突き飛ばされる。
「危ないミス・ツェルプストー!」
「きゃッ!」
 キュルケの頭があった位置を、09の赤い光線が通りすぎていった。キュルケをかばった
コルベールは杖を構えると、敵の動きをよく見据え、杖の先から炎の鞭を飛ばす。
「ギギギィッ!」
 炎の鞭は08、09を同時に打ち据え、動きを止めた。
「当たった!?」
「意外……」
 喧嘩を一度もしたことがなさそうな見た目のコルベールが、タバサも捉えられなかった
ギギの動きを見切ったことに、ルイズたち三人は驚かされた。
 だがそのコルベールに、舞い戻ってきた07が目から光線を撃とうとする。
「先生ッ!」
『おらぁぁッ!』
 コルベールの危機を、ゼロが流星キックで07の頭部を蹴り飛ばすことで救った。07は吹っ飛び、
青い光線は天井に当たる。
「ウルトラマンゼロ! ありがとう……」
『礼はまだ早いぜ、先生。奴ら、立ち上がってくる』
「先生って知ってるんだ……」
 キュルケがツッコんでいると、起き上がったギギたち三人は高速移動でゼロを翻弄しようとする。
「シャッ! セアッ!」
 だがゼロはその動きを見切り、背後に光線が三方向に分かれるワイドゼロショット、言うなれば
スリーワイドゼロショットを撃った。
「ギギギギィッ!」
 光線は見事ギギたち三人に同時に命中し、大きく弾き飛ばして壁に激突させた。

 ダダの待機している教室では、再びモニターが点き、マグマ星人が命令を飛ばした。
『ウルトラマンゼロだ! 迎撃しろ!』
『了解! ウルトラマンゼロを倒すダダ!』
 命令を受けたダダは、腕に力を込めてガッツポーズを取ると、透き通るようにその姿を消した。

29 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/01/31(金) 23:22:56.75 ID:VYee7tdW.net
 そして直後に、学院の外に巨大化した状態で出現した。
「ダ―――ダ―――――!」
「ゼロ! 敵が外に!」
『分かってるぜ! デュワッ!』
 窓から外のダダを指差すルイズ。ゼロはテレポートをすると、巨大化してダダの後ろに出現した。
「ダ―――ダ―――――!」
 振り返ったダダはゼロへと走っていき、殴りかかる。だが腕を掴まれて、綺麗な一本背負いを
食らって大地に転がった。
「ダ―――ダ―――――!」
 悶えるダダだが、その姿が急に消える。直後にゼロの背後に、髭の生えたような顔のダダが
現れて羽交い絞めにした。
「さっきのと顔が違うわ! あいつも複数いるの!?」
 塔から中庭に飛び出したルイズたちは、ダダの顔を見て疑問を抱いた。しかしそれは違うことを
ゼロは知っていた。
『つまらねぇ真似はよせ! 本当は一人だけなんだろ!』
 ダダを振り払いながら突きつけるゼロ。ダダには顔を三パターンに変える能力があり、
複数いるように見せかけて敵を欺く戦術を得意とする。だがタネが割れている手品など、
何の意味もない。
『ぜああぁぁぁぁッ!』
「ダ―――ダ―――――!」
 三つ目の顔に変わったダダに瞬時に接近し、ボディに連続パンチを入れると、横拳を入れて
大きく殴り飛ばした。ダダは格闘戦に優れてはいないようで、ゼロに一方的に押される。
 その時、学院から新たな敵が飛び出して大地の上に立った。
「ギギギギギギギ!」
「! あれは、さっきの奴じゃない!」
「顔が三つになってる……!」
 新たな敵は巨大化したギギだった。しかし、ただ巨大化しただけではない。三人が重なり合って
合体することで、首の三方向に顔面を持った、プログレスという状態になっている。
『邪魔だ、どけぃ!』
「ダダッ!」
 巨大化、合体したギギは倒れているダダを蹴飛ばして、ゼロへ悠然と近づいていく。ゼロは
その足元にビームゼロスパイクを撃ち込む。
「ギギギギギギ!」
 だがギギは巨大化しても損なわれていない高速移動能力で光弾を回避し、ゼロの周囲を
旋回して翻弄する。背後に回ったところで、正面の顔から青い光線を発射して攻撃した。
「ゼアッ!」
「ギギギギギギギギギ!」
 ギギの左側に逃れるゼロだが、相手の左後方へ回ると、黄色い光線が飛んでくる。反対側へ
転がっていったら、赤い光線を撃たれる。三方向に顔面を持つギギは、直立したまま全方位へ
攻撃することが出来るのだ。360度に隙がなく、ゼロを寄せつけない。
『だったら真上はどうだ!?』
 しかし頭上だけは唯一の死角。それを見抜いたゼロが上から攻撃しようと飛び上がる。
「ギギッ!」
 だがその瞬間にギギが三人に分離すると、07が素早くゼロの後方に回り込み、三人同時に
顔から光のロープを発して左腕、右腕、両足を縛り上げた。
『何!? ぐッ、ぐおおおぉぉぉぉ! 身体が、引き千切れる……!?』
『我らの切り札、重力制御光線グラビトンビーム。このままバラバラにしてくれる!』
 ゼロを空中に持ち上げたギギたちが、グラビトンビームで締め上げる。ゼロは光線から
逃れようともがくが、光線はきつく締めつけて離れない。
『だったらこうだ! うおおおぉぉぉッ!』

30 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/01/31(金) 23:25:37.98 ID:VYee7tdW.net
 捕まった状態でストロングコロナゼロに変身するゼロ。しかしストロングコロナの怪力を以てしても、
グラビトンビームは振りほどけない。
『無駄だ! どんな力があろうと、これから逃れることは出来ない! お前は最早死を待つのみだ!』
 豪語する07。が、ゼロは動じなかった。
『ロープが千切れないんなら……根元のお前らを引っこ抜くッ! おおおおおぉぉぉぉぉッ!!』
「ギギィ!?」
 ゼロは勢いよく大空へ飛翔。それによりギギ三人がビームに引っ張られて持ち上がり、
アメリカンクラッカーのように衝突し合う。そして、
『だりゃああああぁぁぁぁぁぁ――――――――!!』
「ギギィーッ!」
 大空からゼロが急降下したことにより、三人とも大地に激しく叩きつけられた。根元のギギたちが
大ダメージを受けたことにより、グラビトンビームは消滅した。ギギたちがストロングコロナの
パワーに抗えている訳ではない点を突いての攻略法だった。
「ギギギギギギギ……!」
 それでもしぶとく立ち上がったギギたちは再度合体して、プログレスに戻った。敵が完全に
再起する前に、ゼロがとどめの一撃を繰り出す。
『でりゃああああああああッ!』
 赤く燃え上がるウルトラゼロキックが、ギギの頭上に迫る。しかしギギはその瞬間に頭上に
バリアを展開し、ゼロキックを受け止めた。以前に頭頂部の弱点を突かれたことでコスモスと
地球人に敗北を喫した反省から生み出した対抗策だ。
 バリアはストロングコロナのキックすら止めた。が、ゼロの方はそれで止まらなかった。
『メビウス! 技を借りるぜ! うおおおおおぉぉぉぉ――――!』
 飛び蹴りの姿勢のまま、高速きりもみ回転を始めるゼロ。それにより足の炎は再燃し、
バリアがゴリゴリ削られていく。ゼロの先輩となるウルトラマンメビウスが、あらゆる光線を
はね返す身体を持つリフレクト星人を攻略するために、レオの課した特訓を乗り越えて開発した、
摩擦熱でキックの破壊力を高める技、スピンキックだ。
 果たしてスピンキックはバリアを突き破り、ギギの頭頂部に突き刺さった。
「ギギギギギギィ――――――――――!」
 頭頂部から火花を噴いたギギはガクリと崩れ落ちて、大爆発を起こした。
「ダ……ダ―――ダ―――――!」
 元の顔に戻ったダダはギギの敗北を目にして、やけくそ気味にゼロに向かっていく。だが同じく
通常状態に戻ったゼロのエメリウムスラッシュを顔面に食らって大火傷を負った。
「ダ―――ダ―――――!」
 きりきり舞いしてまたも倒れたダダが、テレポートで姿を消した。ゼロは周囲を警戒するが、
ダダは現れる気配を見せなかった。

 それもそのはず、ダダは等身大の大きさで教室に戻っていた。そしてほうほうの体でモニターの
スイッチを入れて、マグマ星人に報告する。
『駄目だ……ウルトラマンゼロは強い……!』
 それを聞いたマグマ星人はしかし、冷酷に命令を下すだけだった。
『速やかに任務を完了させろ! 急げ!』

「シエスタさん……外の状況は、どうなってるんですか……?」
「だ、大丈夫です。すぐにゼロが敵をみんなやっつけますよ」
 ルイズの部屋では、ベッドの上の春奈がシエスタに尋ねかけていた。二人とも、学院に
異常が起こっていることと、外でゼロが戦い始めたことはすぐに気づいた。しかし春奈は
激しく運動させられない状態。そのため、ずっと息を潜めていたのだ。
『シエスタ、危ない! 敵だ!』
「え? きゃあッ!?」
 だが、この場所をダダに突き止められてしまった。いつの間にか部屋の中にダダが侵入し、
火傷を負った顔で光線銃を向けている。
「は、ハルナさん!」

31 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/01/31(金) 23:28:47.18 ID:VYee7tdW.net
 シエスタは春奈を抱えながら、窓際へと追い詰められていく。窓を開放してギリギリまで
ダダから逃れるが、落ちればどっちにしろ助からない。
 にも関わらず、シエスタと春奈は足を滑らせて窓から転落してしまった。
「きゃああああああああああ!?」
「見て! シエスタと、誰かが落ちてくる!」
 キュルケがそれに気づいて叫んだ。タバサが杖を握り直したが、それより早くゼロが動く。
『うおおおおおッ! 間に合えぇッ!』
 ヘッドスライディングするように二人をキャッチ。静かに地面の上に降ろしたので、ルイズたちは
ほっと息を吐いた。
 長く変身しているのでカラータイマーが鳴るが、構わずにルイズの部屋の中のダダを見下ろすゼロ。
それに脅えたダダは、光線銃をバンバン叩いてから引き金を引く。
 故障の直った銃から光線が放たれ、ゼロに浴びせかけられるが、ゼロはそれを振り払うように跳んだ。
と同時に、ダダが部屋の中から消える。
『あだッ!』
 ゼロは光線の効果で人間大まで縮小され、部屋の中に転がった。代わりに、再度巨大化した
ダダが三つ目の顔で外に仁王立ちする。
『こんなもの……デュワッ!』
 身長差を逆転されたゼロだが、気合いを入れて身体を光らすと、元の大きさに一瞬で戻った。
ミクロ化機の効果まで通用しないとなって、ダダはとうとう根を上げたか、透明化して戦場から逃げ出す。
 しかしゼロに、宇宙人連合の刺客をみすみす逃がすつもりはなかった。両目から空へウルトラ眼光を
発すると、空を飛んで逃走しているところのダダの姿を暴き出す。そこに本気のワイドゼロショットを撃ち込んだ。
「ダ―――ダ―――――……!」
 撃たれたダダは黒い煙を立ち昇らせながら墜落。野原にぶつかると、爆発四散した。
 敵を全て倒したゼロだが、まだやることは残っている。ルナミラクルゼロに変身すると、
自分から小さくなってルイズたちの下に立った。
「わッ!? ゼロ!」
『宇宙人たちに小さくされた奴らはそこだな』
 コルベールが運んできたケースを地面の上に降ろすと、ゼロが超能力でギギの使っていた
光線銃を手元に召喚し、更に復元して故障を直した。それから銃の側面のダイヤルの向きを
反対にし、小さくされた者たちにレーザーを照射した。ギギの光線銃は、ダイヤルを逆にすることで
機能が逆転するのだ。
「わああああッ!」
「ふう、元に戻れたぜ。もう小さくなんのはごめんだ」
 すると小さくされた人たちはデルフリンガーも含めて全員、元の大きさに戻った。一気に
元に戻したので、中庭が一気に埋まってしまったくらいだ。
 皆を元に戻すと、ゼロは光線銃を握り潰して改めて破壊した。こんなものがあったら、
また騒動の種になる。
「デュワッ!」
「ありがとーう、ウルトラマンゼロー!」
 何もかもを元通りにしたゼロは、ようやく空へ飛び立って去っていく。それをコルベールら、
助けられた人たちが手を振って見送った。

 さて、学院の侵入者が退治されると、学院はその事後処理を行うことになり、生徒たちは
一旦寮塔に戻ることとなった。才人たちはそのどさくさに紛れて、春奈をルイズの部屋へと連れ帰った。
「よいしょ……春奈、大丈夫だったか?」
 才人がお姫さま抱っこした春奈を、ベッドに戻して寝かせた。その様子を、ルイズがイライラした
様子でながめていて、シエスタはそのルイズに戦々恐々としていた。
「うん……。落っこちた時は怖かったけど、平賀くんのお陰で怪我一つないよ」
 気遣われた春奈は才人に頬を赤く染めながら笑顔を向ける。それで才人は釣られて笑った。
「はは。俺が助けたんじゃないよ。みんなゼロがやってくれたことさ」

32 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/01/31(金) 23:31:12.36 ID:VYee7tdW.net
「それでも、平賀くんも私のために戦ってくれたんでしょ? 嬉しいな……」
「春奈……」
 才人と春奈が見つめ合っていると、ルイズがわざとらしく咳払いして、注目を自分に集めた。
「サイトだけじゃなくて、わたしも一緒だったんだけど? わたしの方には、何かお礼はないのかしら?」
「えッ、えっと……」
 春奈が言いよどむと、才人が顔をしかめてルイズを咎める。
「やめろよルイズ、そんなきつい言い方して。春奈は病人なんだから、もうちょっと気遣ってやれよ」
 と言うと、ルイズはますます不機嫌さを募らせる。
「何よ、随分親切にするじゃない。そこまでハルナが大事なのかしら?」
「何言ってるんだよ、病人なんだから大事にするのは当たり前だろ。もう、そんなに大声出してたら、
春奈の身体に障るかもしれないじゃねえか」
 才人の物言いに、ルイズは更に腹を立てた。
「何よそれ! いくら病人だからって、わたしのことはどうだっていいっていうの? 大体、
わたしには、そんなに優しくしてくれたことないじゃない……」
「だってお前、いつも元気じゃんか。それとも病気になりたいのか? 変な奴」
「変って何よ変って! そういうことじゃないわよ! もう、馬鹿なんだから」
 ブツブツ不平を漏らしていると、春奈がキッと目を吊り上げてルイズを睨んだ。
「いい加減にしてください」
「ッ!」
「平賀くんは、別にルイズさんの道具ではありません。それは一番ルイズさんが知っているはずでしょ?」
「あ……あんたに、そんなこと好き勝手に言われる筋合いはないわよ! それに、何よ! 
病気病気って、そんなに病気が偉いわけ? サイトなんて知らないんだから!」
 春奈に逆上したルイズは、そのまま部屋を飛び出していってしまった。
「あ、おい、ルイズ!」
 追いかけようとする才人だが、シエスタがそれを止めて申し出た。
「わたしが行ってきます。今はサイトさんよりは、わたしがお話ししたほうが良いと思いますし。
サイトさんは、ここで待っててください」
 と才人を部屋に留めると、シエスタも部屋を出ていった。

 部屋から飛び出したルイズは、塔の空き部屋で一人自省をしていた。
「……なに考えてるのよ、わたし。自分でもわけ分かんない。そもそもサイトは悪くないのに……
あんなこと言っちゃって」
 一人つぶやいていると、シエスタが追いついて中に入ってきた。
「ミス・ヴァリエール。ここにいたんですね? 探しましたよ」
「シエスタ……。な、何の用よ」
「サイトさんは、部屋に残ってもらいました。ここにはわたしとミス・ヴァリエール、それと
ジャンボットさんだけです。他の誰にも話は聞かれません」
「へ?」
 急にそんなことを言うシエスタに面食らうルイズ。シエスタはそのまま続ける。
「ミス・ヴァリエール。お気持ちは良く分かります。今のサイトさんは、ハルナさんが現れてから、
彼女のことしか考えていない……。いえ、それは言い過ぎとしても、今はハルナさんのことを
一番に考えてます。もちろん、それはサイトさん本来の優しさであることは、わたしも分かってるつもりです」
「……」
「ハルナさんはどうみても、サイトさんに気があると思って間違いないでしょう。このままでは、
サイトさんはハルナさんに取られてしまいます。いえ、それだけならまだいいのですが……
最悪、時が来たらハルナさんと一緒に元の世界に帰っていってしまうかもしれません」
『それで良いではないか。サイトが故郷に帰るのは、至極当然の権利だ』

33 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/01/31(金) 23:33:12.70 ID:VYee7tdW.net
「ジャンボットさん、今は黙ってて下さい。これは女の話なんです」
 ジャンボットが口出しすると、シエスタにたしなめられた。その声音に言い知れぬ迫力が
あったので、ジャンボットは思わず閉口した。
「ミス・ヴァリエール、率直に言います。今の間だけ、手を組みませんか?」
「あんたの言い分は分かったわ。でも、平民がわたしに指図をするなんて、どうかと思うわ」
 素直にシエスタの申し出を受け入れられないルイズを説得するシエスタ。
「ミス・ヴァリエール。あなたの信条に口出しする気はありませんが、今はそんなに甘い状況ではありません。
ハルナさんはサイトさんと同じ世界の人です。サイトさんは口にはしませんが、きっと、今も故郷が恋しいはずです」
 セーラー服の騒動を思い出すルイズ。才人があんな行動に出たのは、故郷を懐かしんで
という理由もあったのだろう。
「そんなサイトさんにとって、ハルナさんは故郷なんです。きっと、サイトさんはハルナさんに、
特別な感情を持ってるはずです。しかも悪いことに、ハルナさんもサイトさんに故郷を感じています。
そして、それを利用しようとしています」
「り、利用!?」
「たとえば、ハルナさんの病気。触った時分かりましたが、あの時にはもう熱は下がってました」
「え、本当?」
『それは確かだ。私もバイタルチェックをしたが、少なくとも今は自力で立てない状態では
決してない。それなのにサイトに甘えるので、奇妙には感じていた』
 ジャンボットも口添えした。
「……それじゃ、なに? あの娘は、仮病を使ってサイトの親切心につけ込んでるってわけ?」
「そうです。正直もので、優しくて、だまされやすいサイトさんは、それに気づいていません。
ハルナさんは、サイトさんをより占有する方法として、仮病を使ってきました。きっと、
わたし達とサイトさんの関係を見て、勝負をしかけてきたと思われます。このまま放置していたら、
ハルナさんの思うつぼです」
「ふ、ふふ……。わたしの部屋で、そんな真似が許されると思われてたとはね……。ずいぶんと
舐めたことをしてくれるじゃないの」
 怪しい感じに笑ったルイズは、その気になってシエスタに向き直り、固い握手を交わした。
「いいわ。あの性悪女をやり込めるまでの間だけ、休戦といきましょう」
「では、同盟成立ですね。頑張りましょう。サイトさんのためにも!」
「サ、サイトはどうでもいいのよ。ご主人様のこと、ぜんぜん考えてくれないし……。あの
バカ使い魔のことなんか……」
 あくまで意地を張るルイズ。その様子を端から見ていたジャンボットは、はぁとため息を吐いた。
『何やらおかしなことになってきたな……。やはり、有機生命体はよく分からない。私も、
ジャンナインのことをまだまだとやかく言えないな……』

34 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/01/31(金) 23:34:22.63 ID:VYee7tdW.net
以上です。
ちょっとサブタイトル詐欺かもしれませんが、こういう手のものだとVSとありながら戦わないのはよくあることです。

35 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/31(金) 23:58:36.49 ID:MRVPK5mb.net

マジンガーZvs暗黒大将軍みたいなもんかw
さあ女の戦いの勝者は誰だ

36 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/01/31(金) 23:59:27.42 ID:CvJoJz85.net
乙、セブンXへのオマージュもあって芸が細かいのがいい

37 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/01(土) 23:55:16.10 ID:xnOdvRV1.net
ルイズとシエスタが手を組んだか
まあ女狐に対抗するためにハイエナとジャッカルが組んだようなもんだな

38 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/03(月) 19:12:17.05 ID:E32uh4xI.net

ウルトラゾーン借りて観てみたけど、そうとうコアなウルトラファンでなきゃわからん上にシュールだな
魔法学院に等身大の怪獣がいるシーンがつい浮かんでしまった

39 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/02/08(土) 00:25:13.57 ID:3x5sD/dz.net
こんばんは。どしどし投下したいと思います。
開始は24:30から。

40 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/02/08(土) 00:30:10.87 ID:3x5sD/dz.net
ウルトラマンゼロの使い魔
第三十一話「体温3000度の対決」
超高熱怪獣ソドム 登場

 ハルケギニアの世界にやってきた春奈を学院にかくまってから、早三日目。既に昨日、
ダダとギギのタッグが学院に乗り込んでくるなどと、ルイズと才人の周囲には波乱が起こっている。
 そして今日もまた、新たな異常事態が彼らを襲っていた。
「あ〜……あちぃ〜……あちぃよぉ〜……」
「暑い暑い言ってるんじゃないわよ……。余計暑くなるでしょ……」
「そうは言われても、暑いもんは暑いんだよ……」
 ルイズの部屋では、インナー姿の才人が汗だくで「暑い」と連呼するのを、同じように
汗だくで下着姿になっているルイズが咎めた。普段は日中からはしたない姿を晒すことなど
貴族のプライドが許さないのだが、部屋の気温は彼女の強固な矜持を溶かすほどであった。

 その日、魔法学院は、夏にはまだ早いにも関わらず猛烈な暑さに襲われていた。

 ルイズが才人に尋ねかける。
「今、何度?」
「36.5度」
「それ、あんたの体温じゃないの?」
「この部屋だよ。外は普通だってのに、何でこの学院だけ、いきなりこんな暑くなったんだ!?」
 あまりの暑さに苛立った才人がウガー! と叫ぶと、デルフリンガーがぼやいた。
「この程度の気温の変化に参るなんて、人間ってのは不便なもんだね」
「デルフ、お前は平気なのかよ?」
「俺っちは剣だからな。鉄が溶けるような温度でもなきゃヘッチャラなんだよ」
「今だけは、あんたが羨ましいわね……」
 うなだれたルイズが思わずつぶやいた。すっかりダラ〜となっているルイズと才人に、
デルフリンガーが告げる。
「お前さんらより、そこで寝てる嬢ちゃんの方が辛いんじゃねぇの?」
「あッ、そうだった! 春奈、大丈夫か? 脱水症状起こしてないよな?」
 我に返った才人は、慌ててベッドで寝ている春奈の側へ駆け寄っていった。それを目にして、
ルイズがムッとなる。
(もうッ、面白くない! わたしの使い魔のくせに、ハルナのことばかり気に掛けて! あの娘は、
もうどこも悪くないってのに!)
 春奈が仮病を使っていることは、シエスタから聞いた。それを利用して才人の気を引いている
春奈には苛立ちを覚えるが、今は怒りを示す気力も湧いてこない。それほど暑い。
(ハルナには仮病を白状してもらいたいけど、今は先に、この暑さをどうにかしてもらいたいわね……)
 あまりの暑さのせいで、授業は急遽全て休講。教師たちは総出で、異常な高温の原因を調べている。
それまで、多くの生徒は学院の外へ避難しているが、ルイズたちは春奈がいるので、この場から
いなくなる訳にはいかなかった。
 早く原因を突き止めて、気温を元に戻してもらいたい。ルイズは切に願っていた。
「春奈、大丈夫か? ……うわ、すごい汗だ! まぁ、当たり前か……」
 春奈の容態をひと目見た才人は、彼女が自分たち以上に発汗していることに驚愕した。
だが無理のないことだ。ただでさえ高温の室内で、厚手の布団が掛かっているのだから。
「うッ……うーん……み、水……」
「水か? 分かった!」
 苦しそうな春奈のうめきで、才人がコップに水を注いで彼女に飲ませる。だが、その途端に
春奈は咳き込んだ。
「ゴホッ、ゴホッ!」

41 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/02/08(土) 00:32:14.22 ID:3x5sD/dz.net
「春奈!? うわッ、お湯になってるじゃねぇか!」
 暑さのあまり、水は熱湯に変わっていたのだ。
「クソッ! 春奈は安静にしてなきゃいけないのに……こんな暑さじゃ、春奈の身体に障る! 
早くどうにかならないのか……!」
 才人は大きく舌打ちして、事態の早急な解決を願った。才人が春奈のことばかり気にして
自分には目もくれないので、ルイズはますます苛立ちを募らせる。
 そうしていると、才人の願いが天に届いたのか、状況を確認しに出ていたシエスタが戻ってきて、
一番に告げた。
「サイトさん、ミス・ヴァリエール! 教師の皆様が、この暑さの原因を突き止めました!」
「本当!?」
「やった! その原因って何だ? 教えてくれ!」
 ルイズと才人が飛び起きると、シエスタはこう話す。
「それが何と、学院の真下、地下倉庫に怪獣が張りついてたんです!」
「怪獣!?」
 まさかの原因に声を荒げるルイズたち。それから、ルイズが聞き返す。
「でも、怪獣とこの暑さがどう関係するの?」
 その疑問には、シエスタは次のように説明した。
「その怪獣なんですが……体温が異常に高いみたいなんです。推定体温は、何と2500度!」
「2500度!?」
 とんでもない数値に、ルイズも才人も目を見張った。
「その熱が地下倉庫から学院全体に伝わって、こんな猛暑になってるそうなんです……」
 シエスタが額に浮かぶ汗をぬぐいながら伝えた。こんな時でも暑苦しいメイド服を着ているので、
才人やルイズ以上に苦しそうだ。才人はシエスタの苦労を労う。
「ありがとう、シエスタ。けど、2500度も体温のある怪獣なんてな。どんな奴なんだろう……」
 才人が怪獣の正体を推測する。人間の常識を超越した怪獣といえども、そこまで高温なものは
そうそういるものではない。灼熱怪獣ザンボラーか、二日前に出現したグランゴンだろうか?
「それで、先生たちはどうするつもりなのか分かる?」
 ルイズが対策を問いかけると、シエスタはしっかりを調べていた。
「幸い怪獣に暴れる気配はないみたいなので、水系統の教師が中心となって、水の魔法を
浴びせて追い払う作戦が立てられました」
「なるほど。相手が熱いなら冷やせばいいって訳ね」
 納得したルイズは、ひと際大きなため息を吐く。
「早いところ、追っ払ってほしいわ。こうしてるだけでも、溶けちゃいそう……」
「直に作戦が実行されるはずですけど……」
 などと話していたら、急に学院全体が激しい揺れに襲われた。ルイズたちは思わずよろめく。
「きゃッ!?」
「始まったみたいです!」
「わっとッ! 春奈、大丈夫か!?」
 才人は真っ先に春奈のことを案じた。そのことで、ルイズとシエスタは同時にムッと顔をしかめる。
 だがすぐに他のことに気を引きつけられることになる。窓から一望できる、学院を取り囲む
平原の一箇所から、巨大怪獣が土を吹き飛ばして這い出てきたのだ。
「キギョ―――――オォウ!」
 四足歩行の、ゴルゴスのような岩石質の肌を持ちながら、表面が赤く熱せられているという、
見るからに熱い怪獣の出現により、ルイズたちを一層の熱波が襲った。ルイズが思わず叫ぶ。
「あっつ!? 遠くにいるのに、ここまで熱が伝わってくるわ! あいつが犯人で間違いないわね……!」
「あいつは……超高熱怪獣ソドムっていうのか……!」
 才人がすぐに携帯端末で怪獣の情報を調べた。するとルイズが尋ねかける。
「サイト、あれがどういう怪獣なのか、もっと分からないの? もしあいつが凶暴な性質だったら、
学院が危ないわよ」

42 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/02/08(土) 00:34:53.95 ID:3x5sD/dz.net
 それに、才人は否定を返した。
「残念だけど、名前と、体温がすごく高いってことぐらいしか載ってねぇや」
 ソドムは、本来M78ワールドの怪獣ではない。ティガやダイナの故郷、ネオフロンティアスペースの
地球に生息する怪獣だ。ギャラクシークライシスという様々な宇宙の怪獣が多数召喚される事件によって
M78ワールドでも存在が観測されたが、そういう怪獣は生憎と情報が少ないのであった。
「そう。でもまぁ、さっきまで大人しくしてたみたいだし、凶暴じゃないみたいだけど……」
 ルイズがそうつぶやいた矢先に、ソドムはそれを裏切るかのように活動を始めた。
「キギョ―――――オォウ!」
 急に大きく口を開くと、そこから猛烈な火炎を吐き出したのだ! 火炎は学院の咆哮へと
飛んできて、直撃はしなかったものの校舎全体が高熱に晒される。
「きゃあぁッ! 攻撃してきたわ!」
「魔法攻撃を受けて、怒ってるんでしょうか……?」
 思わず悲鳴を上げるルイズたち。そして火炎を吐いたソドムは、ドスドスと激しく足音を
鳴らして学院へと一直線に向かい始める。
「こ、こっちに来るわよ!」
 窓から覗く光景の中では、地下から慌てて地上へ上がってきた教師たちが、ソドムの接近を
阻止しようと魔法攻撃を飛ばし始める。だが体温の高すぎるソドムの周囲は灼熱地獄なので、
近づくことすらままならず、遠くからでしか攻撃できない。そして、大きく距離を開けた位置から
飛ばす魔法では、ソドムにとっては豆鉄砲に等しい威力しか出ないようで、まるで足を止めることは
叶わなかった。
「このままじゃ、学院が危ないわ! サイト……!」
「あぁ!」
 ルイズの目配せを受けた才人がうなずいて、部屋を飛び出そうとする。ゼロに変身して
ソドムに立ち向かおうというのだ。
「ま、待って平賀くん! どこに行くの!?」
 それを、事情を知らない春奈が即座に呼び止めた。才人は彼女に振り返ると、短く告げる。
「春奈、俺たちがどうにかしてあいつを食い止める。お前はここで待っててくれ」
「ほ、本気!? 危険だよ!」
 血相を抱える春奈だが、才人は安心させるように笑いかけた。
「誰かがやらないといけないんだ。何、心配ないって。危なくなったら、きっとウルトラマンゼロが
来てくれるからな。それじゃ!」
「あ、待って……!」
 もう話している時間はないとばかりに、才人がルイズとともに飛び出していくのを春奈が
追いかけようとしたが、それをシエスタに止められる。
「ハルナさんは、ご病気なのでしょう? 安静にしてないとダメじゃないですか」
「うッ……」
 こんな時にシエスタからとげとげしく言われて、春奈は仕方なく浮かしかけた腰を下ろした。
 そして、ルイズと才人が出ていった扉を、羨ましそうに見つめた。

 学院の上空では、シルフィードに跨ったタバサとキュルケが、教師たちがソドムの進撃を
止めようとして、無駄な抵抗に終わっている構図を見下ろしていた。
「ちょっと、これまずいんじゃない? どうしてこう、立て続けに学院の危機が相次ぐのかしら」
 キュルケが焦った様子でつぶやく前では、タバサがソドムの容姿を観察して独白する。
「……間違いない。あれは、伝説の火竜山脈の古代竜。古文書に描かれた姿にそっくり……」
「え? タバサ、あの怪獣を知ってるの?」
 キュルケが驚いて聞くと、タバサはコクリと頷いた。

43 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/02/08(土) 00:37:29.78 ID:3x5sD/dz.net
「地元の伝説では、火の精霊の怒りを静め、火山の噴火から人々を救うと云われている」
 その説明に、キュルケは疑わしそうに顔をしかめた。
「それ本当? 今の状況と真逆じゃない。それに、どうして火竜山脈の竜がこんな場所にいるのよ」
「そこまでは分からない。伝説は、伝説でしかないから、間違っていることも考えられる」
 正直に答えるタバサ。
「そう。まぁそれは置いといて、今は現実の状況よね。こういうピンチの時は、いつも彼が
来てくれるんだけど……」
 キュルケが噂をすると、果たして青と赤の光がどこからともなくソドムの眼前に降りていき、
それがウルトラマンゼロの姿になった。
「やっぱり! 今回も来てくれたわね。ゼロー! そんな怪獣やっつけちゃってー!」
 タバサが黄色い声を出して、ゼロの応援をした。

「キギョ―――――オォウ!」
『ソドム! 何が目的かは知らねぇが、ここから先には行かせねぇぞ!』
 才人が変身したゼロは、すぐさまソドムに飛び掛かっていき、身体を掴んで足を止めようとする。が、
『!? あぢぃッ!』
 ソドムの体表に触れた途端に手の平が焼け、思わず手を離した。体温が2500度もあるソドムの皮膚は、
焼けた鉄板そのもの。如何にウルトラマンゼロといえども、触って無事では済まなかった。
「キギョ―――――オォウ!」
 ソドムは離れたゼロに火炎を吐きつける。もろに浴びたゼロは、後ろへ大きく吹っ飛ばされた。
『うぐあぁッ!』
「キギョ―――――オォウ!」
 更にソドムは、滅茶苦茶な方向に火炎を連発し出す。火炎の一部は学院の方にも飛んでいき、
教師たちやシルフィードが慌てて退避した。
『この……! 何つぅ暴れん坊だ! これでも食らいな!』
 ゼロはまず、ソドムから熱を奪うために、手の平を合わせて大量の水を放出し始めた。
ウルトラ水流。ウルトラ一族の技の中では比較的ポピュラーなもので、類する技を
多くの戦士が使用している。
「キギョ―――――オォウ!」
 ウルトラ水流はソドムに頭から降りかかる。それによって水が蒸発して水蒸気になり、
気化熱によってソドムの体温を下げていく。
『よしよし、上手く行ってるぜ。この調子だ!』
 狙い通りになっていることに満足げに頷くゼロだが、異変はすぐに発生した。
「キギョ―――――オォウ!」
『何!? 体温が逆に上がってくだと!? どうなってるんだ!?』
 ゼロの超感覚が、当初は順調に熱を下げたソドムが、突如ぶり返したばかりか先ほどよりも
更に高い熱を発するようになったことを捉えた。その体温、約3000度。あまりの熱に、
水蒸気の中に巨大なソドムの虚像が浮かび上がるという蜃気楼現象まで発生した。
「キギョ―――――オォウ!」
『ぐおおぉぉッ!』
 体温を3000度まで上げたソドムは、またゼロに火炎を浴びせた。それにより水流が止められる。
ゼロをひるませると、ソドムはより激しく火炎をまき散らし出した。
『くっそぉッ! もう勘弁ならねぇぜ! シェアッ!』
「キギョ―――――オォウ!」
 頭に来たゼロは、肉弾戦に切り替えてソドムを叩きのめし出す。ソドムの身のこなしは鈍く、
ゼロパンチにキックが簡単に追い詰める。
『ぐッ……! やっぱ熱い……!』
 しかし一瞬触れるだけでも、ゼロの肌は熱で傷つけられる。打ち込めば打ち込むほどゼロも
追い詰められていく。
「キギョ―――――オォウ!」
『うわッ!』

44 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/08(土) 00:39:04.60 ID:AFQ7T47M.net
しぇん

45 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/02/08(土) 00:40:09.06 ID:3x5sD/dz.net
 そしてソドムは、殴打を食らう最中も口から火炎を吐く。その熱でも、ゼロはジリジリ
苦しめられていき、カラータイマーを鳴らせ始めた。

 ゼロの苦闘を、学院の城壁の外からながめるルイズは、杖を抜いて『爆発』を使用する準備を整えていた。
「ゼロ、危なくなったら、わたしの『虚無』でそいつを吹っ飛ばすわ……!」

 ルイズの部屋からは、シエスタと春奈も戦いの行方を、固唾を呑んで見守っていた。
「ウルトラマンゼロ、負けないで……!」
 シエスタは静かにゼロの応援をするが……春奈はソドムの方に目をやって、ある疑問を抱いた。
「あの怪獣、何か変……。まさか……!」
 そして一つの仮説を立てたところで、ゼロが巻き返し始めた。それで喜ぶシエスタと対照的に焦る。
「駄目……! 止めなきゃ……!」
 とつぶやいた春奈は、反射的に窓から身を乗り出し、ゼロへと力一杯に叫んだ。
「ウルトラマンゼロ! やめてッ!!」
「ハルナさん!?」
 病に伏せっているということになっている春奈が、こんな行動に出たことに、シエスタは
思わず目を見張った。

 窓から身を出して叫んだ春奈の姿を、キュルケとタバサがしっかりと確認する。
「あら? あの娘、一体誰かしら? あそこは確か、ルイズの部屋よね」
「……昨日も見たような……」
 タバサは、窓からシエスタが落下した際に、一瞬だけ春奈の姿を確認したことを思い返した。

『こいつでフィニッシュだッ!』
 ゼロは突き飛ばしたソドムに、とどめのワイドゼロショットをお見舞いしようとする寸前だった。
そこに、春奈の制止の声が掛かる。
「ウルトラマンゼロ! やめてッ!!」
『春奈?』
 遠く離れているが、ゼロの超感覚は春奈の叫び声を聞き止めていた。振り返ると、春奈が
続けて叫ぶ。
「その怪獣、きっと風邪ひいてるのよ!」
『は? 怪獣が……風邪ぇ!?』
 突飛なひと言に仰天したゼロは、ソドムを改めて観察する。叩きのめされたソドムはまだ
ゴホッゴホッと火炎を吐いているが、その勢いはすっかり弱まり、白い煙に変わっている。
「ほら! その証拠に、咳き込んでる! 風邪で苦しんでるだけなんだって!」
『い、言われてみれば……』
 冷静になったゼロは、ソドムの不可解な行動を思い返し、風邪という理由なら説明がつくことに
気がついた。水を浴びせて逆に体温を上げたのは、冷水を浴びて風邪をこじらせてしまったから。
火炎をまき散らしていたのは、あれがソドムのくしゃみなのだ。動きが鈍いのではなく、風邪で
弱っているのだろう。
 そして実際に春奈の仮説は的中しており、このソドムは風邪引きなのだった。ソドムは
火山地帯の熱い地下に住まう怪獣で、マグマによって作られた変成岩を食料としている。
ソドムが変成岩を食べて横穴が出来、そこにマグマが流れ込むことで、火山の噴火の原因の
マグマの圧力が下がる。これが火の精霊の怒りを鎮めるという伝説につながったのだが、
このソドムは変成岩を食べている内に魔法学院の地下へと迷い込み、ソドムからしたら
寒すぎる環境のせいで風邪に罹ってしまったということなのだった。ネオフロンティアスペースの
ソドムも、似たような状況で風邪を引き、スーパーGUTS基地を灼熱地獄に追い込んだのであった。
『怒りに我を忘れてて、真実に気づけなかった……。俺もまだまだ未熟だな……』
 悪意のない怪獣を叩きのめしてしまったことを、ゼロは深く反省した。そこにシルフィードが
そっと近づいてきて、乗っているタバサが教える。

46 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/02/08(土) 00:42:24.13 ID:3x5sD/dz.net
「ゼロ、その怪獣は火竜山脈が生息域。そこに返してあげて。それで解決する」
「ジュワッ!」
 タバサに頷いたゼロは、ルナミラクルゼロに変身。超能力に特化した形態による念動力で、
すっかり大人しくなったソドムの巨体を持ち上げた。
「デュワッ!」
 ゼロはそのまま空を飛び、魔法学院からはるか彼方、ガリアとロマリアの国境まで一気に飛んでいった。
 そこが火竜山脈。ゼロはその中の火山に目をつけると、上空からソドムを火口へとゆっくり下ろす。
『すまなかったな、ソドム。本来の生活場所で、ゆっくり養生しろよ』
「キギョ―――――オォウ!」
 運ばれたソドムは、ゼロにお辞儀をするかのように頭を下げた後、火口の中に飛び込んで
溶岩の中に姿を消した。
 それを見届けたゼロは反転し、魔法学院へと帰っていった。

「えぇッ!? 春奈、仮病だったのか!?」
 ソドムの一件が解決した直後、ルイズの部屋に戻った才人は、寝巻きから制服に着替えた春奈から、
こちら側の真実を伝えられた。全く気づいていなかった才人は驚愕して目をひん剥いた。
「うん。ごめんね、平賀くん……」
「でも、何で仮病なんて……」
 才人が聞き返すと、春奈は申し訳なさそうに目を伏せた。
「最初は本当に具合が悪かったんだけど、平賀くんが優しくしてくれるから、ついそれに
甘えちゃったの……」
「つい、じゃないわよ! お陰でこっちは迷惑したわ!」
 ルイズがぷりぷり怒ると、才人はルイズと春奈の間に割って入って、春奈を弁護した。
「ルイズ、そんなに怒らなくてもいいだろ。春奈も、反省したからこうやって話してくれたんだ」
「サイト! あなた、騙されてたのよ。それなのに、何でまだかばうのよ!」
 まだおかんむりのルイズが問い返すと、才人は春奈を一瞥してから、こう語った。
「だって、春奈は突然見知らぬ世界に放り込まれて、すごく心細い思いをしたんだぜ? 今まで
見たことのない景色の中で、自分を知ってる奴が誰もいない。そんな状況で、ようやく知り合いに
巡り合えたんだ。そりゃ、頼りたくなっても仕方ないだろ。同じく知らない世界にいきなり
放り出された俺は、その気持ちがよく分かる」
「うッ……」
 真剣な面持ちの才人の言葉に、ルイズは怒りが揺らぐ。
「そりゃ、春奈のやったことが褒められないことだというのは分かる。だから、春奈が謝ってるんだ。
許してやってくれないか?」
 才人の弁護で、シエスタは頬を緩ませる。
「……分かりました。サイトさんの言う通りかもしれません。ハルナさんの件は、もう水に流します」
 才人がルイズに視線をやると、ルイズも頬を赤く染めてそっぽを向いた。
「わ、分かったわよ、もうッ! わたしも、ハルナのことを許すわ。それでいいんでしょ!?」
「二人とも、ごめんなさい。そして、ありがとう……」
 許しを得た春奈は、ルイズとシエスタに深々と頭を垂れた。すると才人が、彼女にふと問いかける。
「でも春奈、急にどうして本当のことを話してくれるつもりになったんだ?」
 それに春奈は、次のように答えた。
「さっきの怪獣を見てて、思ったの。仮病で甘えてるのは楽だけど、それが周りに迷惑を掛けてる。
それじゃいけないって。それに、本当に病気で苦しんでる人に悪いしね」
「ああ、そうだな。仮病なんてするもんじゃない。健康が一番だ」
「それと、もう一つ……」
「?」

47 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/02/08(土) 00:44:01.16 ID:3x5sD/dz.net
「病気でいるより、健康でいる方が、平賀くんと一緒にいれるって思ったから」
「えッ……」
 そのひと言で、才人はドキリとさせられた。その様子を目ざとく見咎めて、ルイズとシエスタは
またも機嫌を悪化させた。
「……仮病が分かっても、結局ハルナに構うんじゃない!」
「そうですね……。これはうかうかしてられませんね……」
 仮病は暴かれたが、結局は春奈に嫉妬心と対抗心を燃やす二人なのであった。

 仮病の一件は綺麗に片がついたのだが、ソドムの騒動は一つ、後日談を残していった。
「サイト……今、何度?」
「41.5度。お前は?」
「わたしは40度ちょうどよ……へっくしッ!」
 ベッドの上で布団にくるまっているルイズと才人が、ガタガタ震えながら言葉を交わした。
それから二人して、大きなくしゃみを出す。
 ソドムが去ったことで、学院は元の気温を取り戻したのだが、すさまじく暑かった状態から
一気に気温が下がったので、学院のほとんどの人間はその温度差で体調を崩し、風邪を引いてしまったのだ。
ソドムがくしゃみと咳で風邪菌をまき散らしたのも悪かったのかもしれない。
「悪意がなくても……いなくなった後まで迷惑な怪獣だったじゃない……へくしッ!」
「今更言っても仕方ねぇよ……はっくしぃッ!」
「平賀くん、大丈夫? はい、お水」
 シエスタまで伏せったので、春奈が才人に水を注いだコップを手渡した。彼女は事前に
病気に罹って免疫をつけたのか、数少ない無事な人間になったのだ。
「悪いな、俺たちの面倒なんか見させちゃって……」
「いいの。これくらいしないと、罪滅ぼしにならないだろうし。何より、こんな私でも平賀くんの
力になれるんだもの。こう言うと悪いかもしれないけど、何だか嬉しい……」
「春奈……」
「ちょっとぉ! 罪滅ぼしなら、こっちも構いなさいよ! うッ、ゴホゴホッ……!」
 何だかいい雰囲気になる才人と春奈に怒鳴ったルイズが、大声を出したことで思わず咳き込んだ。
「なーにやってんだか」
 そんなルイズの様子に、デルフリンガーが今日もまた呆れ返った。

48 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/02/08(土) 00:46:44.79 ID:3x5sD/dz.net
以上です。女の戦い(不発)。
ウルトラシリーズで風邪といえばこいつなので、世にも珍しい風邪ひき怪獣をお送りしました。
次回からは、また宇宙人との戦いが再開する予定です。

49 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/08(土) 13:21:50.11 ID:H7NDHSGY.net

殺さずにすむならそれに越したことはないですね
女の戦いはまだ先かな

50 :ウルトラ5番目の使い魔 ◆213pT8BiCc :2014/02/10(月) 23:13:57.85 ID:8QrA/Pop.net
ウルゼロの人、乙です
皆さんこんばんわ。また遅くなってすみませんが、ウルトラ5番目の使い魔17話投下開始します。
かぶる方がいなければ23:20から始めますのでよろしくお願いします。

51 :ウルトラ5番目の使い魔 17話 (1/12) ◆213pT8BiCc :2014/02/10(月) 23:21:54.86 ID:8QrA/Pop.net
 第十七話
 導かれる世界
 
 超空間波動怪獣 メザード 登場!
 
 
 なにを考えたわけではない。迷いの答えを見出したわけではない。
 だが、彼の者の体は意思を超えて動いていた。
 馬鹿と言うなら言え、陳腐な正義感と呼ぶなら笑え。しかし、極限に追い詰められたときにその人間の本性が現れるのだとすれば、
それが彼の真実であったのだろう。
「おれはどうなったっていい! だから」
 弱きを救おうと、我が身を投げ出したときに希望は応えた。
 光を失っていたウルトラリングが輝き、ふたりの手のひらが合わされる。
 光芒一閃、ウルトラタッチ!
 砂漠と化し、崩壊しつくそうとしている街。砂塵が舞い、人の営みがすべて砂の中に埋没しようとしている無機質な世界に、
正義の意思を持つ戦士が立ち上がる。その姿を知らないロマリアの民は驚き見つめ、その名を知る者は、巻き上がる砂嵐に
自らを染めながらも、希望に胸を躍らせて呼ぶ。
「ウルトラマンAだあっ! よおっしこれで勝てるぞ」
 無邪気に叫ぶギーシュと水精霊騎士隊。彼らの信頼の深さが、その言葉に表れていた。
 希望を背負って立つヒーロー、ウルトラマン。しかしウルトラマンはひとりで立つわけではない。その力と魂を預けられる
人間がともなわなければ光は輝けない。されど、このときエースは確かに人の光の力を得ていた。
 
 
〔おれは、いったい……? はっ、これって、お、おれ、エースに〕
 無我夢中の境地から、光になる感覚に身をゆだねた才人は、自分が知らずのうちに変身していたことに気がついてはっとした。
その彼に、懐かしいあの声が呼びかける。
〔そうだ。ようやくまた会えたな。才人くん、待っていたぞ〕
〔あなたは、北斗さん! おれは、どうして〕
 才人の心に、ウルトラマンA、北斗星冶の声が響いてくる。その力強く熱のこもった声は才人に安心感を与え、なぜ変身が
かなったのかわからないでいた彼に答えを示した。
〔才人くん、君は心に深い迷いを抱えていたね。それが君の中の戦う意思、すなわち君の正義の心とぶつかりあって、無意識のうちに
自分にウルトラマンになる資格がないものだと思い込んでいたんだ〕
〔おれが、そんなことを。いや、確かにそのとおりかも〕
〔自分を責めることはない。自分のありように悩むのは、人間として当然のことだ。私はむしろ、そうして自分自身と向き合って
戦うことのできる人間を、自分を否定されながらも悩み進もうとする君のような人間こそすばらしいものと思う。才人くん、君は
まだ自分を納得させられる答えを見出せてはいないかもしれない。しかし、君はこうして私の声が届くようになった。なぜだと思うかい?〕
〔それは……〕
〔君の心には、迷いを吹き飛ばして有り余る強い意志が眠っていたからだ。自らを失いかける逆境にあってもなお、忘れてはいなかった
それが魂の叫びとなって、君はたった今、自分の心の中にある正義をためらわずに貫いた。私の手のひらの中を見たまえ、それが
君の守ったものだ〕
 才人はエースに言われ、エースの手のひらの上を見た。そこには、建物の崩壊に巻き込まれそうになっていた、あの親子の姿があった。

52 :ウルトラ5番目の使い魔 17話 (2/12) ◆213pT8BiCc :2014/02/10(月) 23:23:27.67 ID:8QrA/Pop.net
〔無事だったのか、よかった〕
〔そう、その苦しんでいる人を捨てておけない優しい心が、戦いに向かう上で大切なんだ。我々ウルトラマンは常に守るために戦う。
その一切の見返りを求めない戦いには、なによりも優しさが必要なんだ。そして、君にはもうひとり、理屈抜きに守ろうとした人が
いるじゃないか〕
 才人ははっとして傍らを見た。そこにはルイズがすねた様子で、才人をじろりと睨みつけていた。
〔あ、る、ルイズ〕
〔やっと気がついたわね。まったく、一年付き合ったわたしよりもぱっと見ただけの他人の心配をするとはいい了見してるじゃないの〕
〔わ、悪い〕
〔バカ、謝ることじゃないでしょ。あんたからお人よしをとったらスケベとバカしか残らないうすのろじゃない。けどいいわ、あのとき
あなたは確かにわたしも守ろうとしてくれた。それよりも、ウルトラマンになったからにはやるべきことがあるんじゃない!〕
 ルイズは照れを隠しながらも力強い言葉で才人の背中を押した。
 そうだ。茫然自失としている場合ではなかった。今、なすべきことは、この街を襲っているあの怪獣を倒すことだ。
 エースは救い出した親子を街の郊外の安全な場所に降ろすと、街の上空を我が物顔で飛んでいるクラゲを見据えた。
 どんな攻撃も効かない幻のような空飛ぶクラゲ。しかし、必ずなにか弱点はあるはずだ。
〔いくぞ!〕
 エースは大地を踏みしめる足に力を込め、その反動で一気に上空高くジャンプしてキック攻撃を放った。
「ヘヤアッ!」
 宙空でエースの体がしなやかに回転し、稲妻のように鋭いキックがクラゲのシルエットと交差する。
 どうだっ? だがエースの必殺キックはやはりクラゲの体をなんの手ごたえもなく透過してしまい。空振りに終わったまま
エースは地上に着地する。
〔直撃したはずなのに! あいつにはウルトラマンの攻撃も効かないっていうのか!?〕
〔うろたえるな。一回攻撃してだめなら、効くまで何度でも試し続ければいい。戦いは、まだ始まったばかりだぞ〕
〔はいっ! よーし、勝負はこれからだぜ〕
 エースのはげましを受けて、才人の闘志も蘇り始めた。そうあっさりと折れるようなやわな心臓を彼らは持っていない。
己のやるべきことを見つけたときの一本気は、才人と北斗は不思議と似ているところがある。ルイズに言わせると、才人は
単純バカということになるのだが、ウルトラ兄弟一番の熱血漢であるエースとはとかく気が合うようだ。
 ウルトラキックをすり抜けさせたクラゲは、やはり何事もなかったかのようにその場に浮いている。こいつは今までも、
魔法から物理まであらゆる攻撃を透過させてきた。本当にこいつにはなにも通じないのか? いや、必ずこいつにも
不死身の秘密があるはずだ。
 その秘密を掴むには、とにかくアタックあるのみだ。戦いの中でヒントを掴めと、エースは宙に浮かぶクラゲを見据えて
指先を頭頂部に合わせて額のウルトラスターにエネルギーを集中させた。
『パンチレーザー!』
 牽制に効果を発揮する中威力の光線が斜め上に向けて放たれ、クラゲに突き刺さるが、やはりこれも効果なくすり抜けてしまった。
 思ったとおり、光線もだめか。ガッツブラスターが効かなかったときから九割方予測できていたことだが、奴は物理もエネルギーも
完璧に無効化できてしまうようだ。この幻を相手にしているような手ごたえのなさに、エースはかつて戦ったある超獣を思い出していた。
〔どうやらあの怪獣は、異次元を操る能力を持っているようだ〕
〔異次元? それってどういう……〕
〔才人くん、君は我々ウルトラ戦士の歴史を勉強していたんだろう? 知っているはずだ。私が地球にいた頃戦った、
実体を持たない超獣のことを〕
〔実体を持たない……アプラサールか!〕
 才人も思い出した。天女超獣アプラサール、異次元エネルギーで体が構成されていた超獣で、タックアローのミサイル攻撃は
おろかエースの攻撃もすり抜けてしまって効果がなかった。完全に同じとはいえなくとも、あの怪獣にも似たような能力が
あるとすれば不死身の説明がつく。

53 :ウルトラ5番目の使い魔 17話 (3/12) ◆213pT8BiCc :2014/02/10(月) 23:25:13.87 ID:8QrA/Pop.net
〔ならば、選ぶ技はひとつだ〕
 敵が異次元能力を持っているのだとすれば通常の攻撃は当たらなくて当然だ。なにせ、実体はここにいるように見えて
本当は別の次元にいるのだから、鏡に映った影を殴りつけているようなものだ。初代ウルトラマンが戦った四次元怪獣ブルトンも
ウルトラマンの手によって異次元干渉能力を破壊されるまではありとあらゆる攻撃を受け付けず、防衛軍も全滅の憂き目にあってしまった。
 敵を自分と同じ土俵に立たせなくては勝負にならない。エースは手のひらをつき合わせて、合わせた指先から白色のガスを
クラゲに向かって噴射した。
『実体化ガス!』
 アプラサールに実体を与え、戦いの糸口となった技をエースは放った。白色ガスを浴びて、クラゲの姿が半透明からほんのりと
色が濃くなったように感じられる。効果があったのか? それを確かめるべく、エースはクラゲに向かって手裏剣を投げつけるようにして
手から光弾を放った。
『スラッシュ光線!』
 光線は一直線にクラゲに迫り、その直前で炸裂して火花をあげた。どうやら奴の周辺の異次元エネルギーがバリヤーの
役割をして命中を防いだらしい。しかし、攻撃のエネルギーはスパークのように広がってクラゲにも襲い掛かり、クラゲは
はじめてしびれたように触手を震わせた。
「効いた!」
 不死身を誇っていた相手に対するはじめての目に見えた打撃に、地上で見守っていた人間たちから歓声があがった。
 奴は決して幻でもなければ不死身でもない。それだけでも証明されたことは大きい。
 しかし、いったんは実体化をしたクラゲだったが、また数秒経つと元通りの半透明に戻ってしまった。これは当然、奴がまた
異次元能力を取り戻してしまったということになる。攻撃はまた効かなくなった。ルイズは、さっきのがぬか喜びになったことに
腹立たしげに口にする。
〔ああっもう! せっかくこれであのクラゲを干物にしてやれると思ったのに! マズいでしょうけど……〕
〔どうやら奴は、ヤプールとは違った形で異次元に干渉しているようだな。一時的に干渉してこの次元に引き寄せるのが
精一杯か。なんとか、奴の秘密を突き止めなくては〕
 クラゲの怪獣にはこれでもまだ決定打にならない。エース、才人、ルイズは考える。どうしたらこいつを倒すことができるのかを。
 
 だが、そうして彼らが目の前の敵に全神経を集中しているとき、戦いの蚊帳の外からエースを見ている目があった。
”ふむ、次元干渉の能力も持っているのですか。これは、メザードを持ってしてもいつまで持つかわかりませんね。
仕方ありません。できればあなたには我々のために役立ってもらいたかったのですが、やはり異世界のものとはいえ
ウルトラマンを利用しようとするのは危険が大きいようです。ですが、少なくともこの場所では、我々に協力していただきましょう。
奇跡を彩るための子羊としてね。ふふふ”
 邪悪な笑い声が空気に溶け、その者を乗せた船はゆっくりと戦いの街へと近づいていく。
 
 陰謀は地を這う蛇、海底に潜むアンコウにも似て、その姿を見せないままで獲物を牙にかけるために忍び寄ってくる。
 光と正義を守るウルトラマンが常に堂々としているのに対して、闇と悪に身を置く者たちは正体を隠して偽りを見せ、
あらゆることに手段を選ばない。

54 :ウルトラ5番目の使い魔 17話 (4/12) ◆213pT8BiCc :2014/02/10(月) 23:29:09.80 ID:8QrA/Pop.net
 それでも、ウルトラ戦士の正々堂々たる姿勢は不動だ。攻撃を受け付けないクラゲ怪獣に対して、勝機を見出すために
戦い続けるウルトラマンA。すでにカラータイマーも点滅しはじめて、余裕は失われかけているが、あきらめることはない。
 しかし、クラゲ怪獣はさきほどわずかなりともダメージを与えられた恨みか、地上で構えるエースに向かって紫色の
破壊光弾を連射してきた。
「ムウゥゥンッ!」
 上空から一方的に打ち下ろされてくる攻撃に、さしものエースも苦悶の声を漏らす。この光弾、時空波というのだが、
一発ごとの威力もバカにならない上に連射もきくために始末が悪い。大きな雹の雨にさらされ続けるようなものだ。
上からの攻撃はしのぎにくいので、エースのダメージも増していく。
〔くうっ、これじゃ弱点を探すどころじゃない!〕
 エースはウルトラ兄弟の中でも異次元戦闘のエキスパートだが、まったく未知の相手に対処するには時間がかかる。
先のアプラサール戦でも、決定打になったのはアプラサールにされた天女アプラサの助言でアプラサールに送られていた
ヤプールの異次元エネルギーを遮断できたから勝てたのだ。このクラゲ怪獣がどういう原理で異次元に潜んでいるかを
解明できなくては、さしものエースでもどうしようもない。
 一方で、もはやロマリア軍はパニックだった。怪獣という、人知の通用しない相手と戦った経験が他国に比べて
圧倒的に不足していたのに加え、間近に迫ってきた負けるという恐怖が彼らの心を蝕んでいった。
「ひやぁぁっ、なんだよあの巨人。おおげさに出てきたくせに全然まったく歯が立たないじゃないかよ。なにが救世主だ、
ふざけんなバーカ、死んじまえクソッタレ!」
 幼稚で下品な罵声がロマリア軍の中からエースに浴びせかけられる。勇気も理性も、生きていてこそ、勝っていてこそ
ありえるものだ。自らを弱者であると認めたくない彼らは、責任転嫁する相手を求めて卑劣にもそれをぶっつけた。
 むろん、エースの聴力ならそれらは聞こえている。しかしエースは動じない。なにを言われてもぐっと耐える。
 けれども、耐えられずに一矢報いる者もいた。ミシェルの拳が、ヘラヘラ笑いながらエースに罵声を向けていた
聖堂騎士団の一人をぶっ飛ばす。彼女は、水色の瞳とは対照的な赤い炎をその眼の奥に燃え滾らせて怒鳴った。
「クズが、貴様らみたいなのでも、死んだら誰か悲しむ人間がいるだろう。そんな悲劇が起きないように、ウルトラマンは
命をかけて戦っているんだ。今度彼を侮辱してみろ、始祖が許してもわたしが許さん!」
 仲間を侮辱されたとき、そいつを叩きのめすことをためらう拳を今のミシェルは持っていない。才人がくれた熱い魂は、
脈々と彼女の中に息づいている。
 だが、もはや限界だ。ロマリア軍だけでなく、エースももう長くは持ちこたえられない。
〔北斗さん、ここは撤退しよう! このままじゃじり貧でやられちまうぜ!〕
 才人が悔しそうに言った。負けず嫌いの彼だが、その反面で自分以外の誰かが無駄に傷つくことは強く嫌う。
彼の昔からの持論だが、死んだら終わりなのだ。それは誰であろうと変わらない。どのみちこの街は無人、ロマリア軍さえ
撤退すればこれ以上の人的被害が出ることはない。

55 :ウルトラ5番目の使い魔 17話 (5/12) ◆213pT8BiCc :2014/02/10(月) 23:31:33.34 ID:8QrA/Pop.net
 ルイズも同感だ。エクスプロージョンが空振りに終わったときから勝機は見限っている。それに、今回は守るべきものが
あって戦っているのではない。
 だが、エースも仕方がないと了解しかけたときだった。クラゲ怪獣の時空波が、今度は周りの人間たちにも
襲い掛かりはじめたのだ。
「うわあぁぁっ!?」
「なんでこっちに! わああっ!」
 エースにもダメージを与える攻撃だ。人間がくらえばひとたまりもないのは明白。至近で爆発する炎にさらされて
逃げ場を失うギーシュたちを守るため、駆けつけたエースは残り少ないエネルギーで青い円形のバリアを作り出した。
『サークルバリア!』
 光の壁が時空波を跳ね返し、逸れたものが爆発してエースを赤く染める。その爆風に体をあおられながら、
九死に一生を得たギーシュたちは息を切らせながら胸をなでおろしていた。
「た、助かった。本気で死ぬかと思ったよ」
「馬鹿者! いつまで腰を抜かしている。すぐに引くぞ、立て!」
 呆然としているギーシュたちにミシェルが怒鳴った。必死に走って、彼女たちは全員水精霊騎士隊と合流している。
彼女たちも今の攻撃でエースに命を救われた点では同じだが、はるかに現実を見据えていた。怒鳴られてギーシュたちが
うろたえる様を見せると、すぐさまギーシュの襟首を掴んで言ったのだ。
「バカめ、まだ教皇陛下のおぼえめでたい英雄気分でいるのか。足手まといになるくらいなら戦うなと教えただろうが。
お前たちがピンチになれば、ウルトラマンAは助けにこないといけなくなる。それくらいわからんのか」
「す、すみませんっ! みんな、走れっ」
 ギーシュはバカだが愚かではない。やるべきことを指し示されたらリーダーとして、すぐさま行動を開始した。
 その後姿を、ミシェルはアニエスと同じ、厳しくも優しい目で見つめていた。
「絶対に死ぬなよ。お前たちの命は、こんなくだらん戦いで散らせていいものじゃない」
 部下を意味なく怒鳴る無能な指揮官と彼女は違う。厳しくとも、その行動にはすべて意味が込められている。
戦いに勝つ、それは大事だが、部下の命も極限まで守り抜く。それが今の彼女の信念であり、今も自分たちを
バリアで守り続けているウルトラマンAへの誓いでもあった。
「私はもう誰の命も粗末にはしない。生き恥をさらしても、未来の幸せに懸ける。そうだろサイト? いくぞお前たち! 
こんなところで死んでたまるか!」
 ミシェルが掛け声をあげ、銃士隊も走る。みっともなくても無様でも一向にかまわない。自分たちの守るべきものは、
名誉や肩書きなんかじゃあない。だから……お前も、絶対に死ぬなよサイト。ウルトラマンA!
 だが、エースがバリアでカバーできる範囲に比べて上空に遷移するクラゲ怪獣の攻撃範囲は広かった。エースの
守れない場所をあざわらうかのように、時空波の攻撃を街から退避しきれていないロマリア軍全体へと拡大して
爆撃してきたのだ。

56 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/10(月) 23:34:06.31 ID:3aOgR6fU.net
しえn

57 :ウルトラ5番目の使い魔 17話 (6/12) ◆213pT8BiCc :2014/02/10(月) 23:34:28.40 ID:8QrA/Pop.net
「うわあぁっ!」
「た、助けてくれぇっ」
「ま、待て、置いていかない、ぎゃあぁっ!」
 メイジも兵士も関係なく吹き飛ばされて宙に舞い上げられていく。走るしかない兵士たちはもとより、メイジたちも
先ほどの後先考えない魔法攻撃のせいで飛んで逃げるだけの余力がない。
 そんな、阿鼻叫喚の地獄のような光景を見せられて、ついに耐えられなくなったエースは、残ったパワーのすべてを
パリアに込めて大きく広げた。
「ヴッ、ヌオォォォォッ!」
 エースの張ったサークルバリアが街いっぱいを覆うほどに広がっていく。
 これは? 才人は愕然とした。こんな技、才人が知っているエースの技の中にはない。
 だが、知らないのも当然。この技は才人の知っている地球でエースが使った技ではない。遠く離れた異世界で、
エースが兄弟たちと力を合わせて作り出した合体バリア、『ウルトラグランドウォール』を応用して作り上げたものだ。
 広域に広がった金色のバリアにはばまれて、無数の時空波がはじかれて消えていく。
 すごい……人々はウルトラマンAの力に驚き、ある者は見とれて、ある者は力を使い果たして倒れる。
 しかし、ウルトラ兄弟の合体技をエースひとりで使おうとして無事ですむわけはない。そのことにいち早く気づいた
ルイズが金切り声に近く叫んだ。
〔やめてエース! こんな力を使い続けたら、あなたが持たない〕
 そう、このバリアのエネルギーは文字通りエースの命を削って維持している。長くは持たないどころか、反動で
燃え尽きたら、エースは二度と立ち上がる力を失ってしまうかもしれない。
 才人も止める。やめてくれ、北斗さんが死んじまうと。
 けれどもエースはやめなかった。
〔すまない二人とも。だが、これが我々ウルトラ戦士の使命。生きとし生ける者すべてを守り抜き、闇に光を照らすのが
俺たちウルトラ兄弟の使命なんだっ!!〕
 今、ここにいる命をひとつもこぼさずに守り、未来をつなぐ。ウルトラの父から受け継いだウルトラ戦士の心がエースの
中で激しく燃える。失われていい命などない、命を落とせば取り返しはつかない。そのためにこそ、自分の命はあると。
 急激にエネルギーを失い、力尽きていくウルトラマンA。才人とルイズはやめてくれと叫ぶが、敵の攻撃は続いており、
バリアを解除すれば時空波は地上の人間たちに降り注ぐ。
 まるで本当に自分の身を燃やしているようなエース。その異常さに、仲間たちも気づき始める。
「おい、なんかエースの様子が変じゃないか?」
 レイナールがぽつりと言ったことは、見誤りではなかった。力を使いすぎたエースの体から、金色の粒子が漏れ出している。
いや……違う!
「崩れてる? ウルトラマンが、燃えて灰になりはじめてる!」
 限界を超えた証だった。雨のように降り注ぐ時空波を止めるためのバリアが、エースの体を跡形もなく焼き尽くそうとしている。
「よせ! そんなことをしてはお前が! やめるんだ」
「エース、やめろ、やめてくれえ」
 ミシェルが、ギーシュが叫ぶ。しかし、エースはやめることはない。

58 :ウルトラ5番目の使い魔 17話 (7/12) ◆213pT8BiCc :2014/02/10(月) 23:44:33.39 ID:8QrA/Pop.net
 カラータイマーの限界。それを超えてもなお、人々を守るのがウルトラマンの、宿命なのだ。
 あと何秒も持たないだろう。その隙に、一人でも多く逃げてくれとエースは願って命を燃やす。
 そして、最後に才人とルイズ……自分のために、ふたりを道連れにはできない。
 エースは自分だけで消えるため、ふたりを分離することを決意した。だが、そのときだった!
 
 空一面に、光が爆発した。
 
〔うわっ! なんだ!〕
 
 暗雲の空に、いきなり太陽が出現したような光芒の奔流がエースと人々の目を貫いた。
 まぶしい、いったいなにが? 網膜を焼かんばかりの白い怒涛に視力を奪われて、思考もなにもかもが一瞬麻痺する。
 こんな光、見たことがない。動揺はエースにも広がる。まるで、蛍光灯の灯りを何百倍にしたような、ひたすらに明るくて
強烈な閃光はエースの目をも焼く。
 あの怪獣の仕業か? それまで夜のような曇天だったのが、今では常夏の真昼のようだ。暗さに慣れていた目は、
いきなりの明るさについていけずにパニックを起こしている。
 そのショックで、バリアを張っていたエースは思わずバリアを解いてしまったのだが、気配だけでも敵の攻撃が降り注いでくる
様子は感じられない。なぜだ? 追撃をかけるには絶好のチャンスであろうに。
 才人もルイズも、わけがわからずに戸惑うしかない。
 だが、何秒が経った頃であろうか。悲鳴をあげていた視神経がようやく自分の役割を思い出すと、すべての人々は
光の指した空を見上げた。
 そして、そこに奇跡の光景を見た。
 
「あ、ああぁぁ」
「て、天使……?」
 
 声にならない声が何百、幾千と流れる。人々の見上げた空には、黒雲から光をまとって降臨する、巨大な白い天使の偉容があったのだ。
 
「天使だ」
「天使」
「女神さま……」
「おお、天使様」
 
 人々の驚嘆の声がうねりとなって唱和されていく。
 空から降りてくるのは、神話に登場するであろう女神と呼ぶにふさわしい姿をしたものであった。全身を白磁のように
白く輝かせ、神々しい光を放って地上を照らし出す様は、この世の光景とは思えない。
「天使様……」
 人々は自然にひざまづき、祈りをささげる仕草をとる。
 ギーシュや水精霊騎士隊。横暴な聖堂騎士団も、まるで毒を抜かれたように祈っている。信仰心の薄いミシェルたち
銃士隊にしても、あまりの光景に呆然として立ち尽くすしかできない。

59 :ウルトラ5番目の使い魔 17話 (8/12) ◆213pT8BiCc :2014/02/10(月) 23:57:09.91 ID:8QrA/Pop.net
 ゆっくりと下りてくる白い天使。広大な空にあって圧倒的な存在感を有するその体は、目算でもゆうに百メートルは
超えていることだろう。下りてくるにしたがって地上を照らす光は強くなり、人々ははっきりと見えてくる天使の、優しげに
微笑む顔に見とれて感嘆の声すら漏らす。
 あれは天使、まさしく天使。我々は今、天使を見ているのだと、人々は涙を流しながらつぶやく。
 そして、ウルトラマンAと、才人とルイズも、突如として現れた巨大な天使に驚き、エネルギー切れ寸前で苦しいながらも
視線を釘付けにさせられていた。
〔サ、サイト、わたし夢を見てるんじゃないわよね。天使、天使様よ!〕
〔お、おれにだって見えてるよ。いったいあれは……北斗さん、どっかの宇宙人が助けに来てくれたのかな?〕
 ふたりにとっても驚くどころではなかった。空を圧して、ウルトラマンの何倍もの大きさを持つ天使が下りてくる。その非現実的
すぎるであろう光景は、クラゲ怪獣の比ではない。才人はまるで、ニューヨークの自由の女神が動き出してきたのかと思ったくらいだ。
 しかし、同じように驚きはしながらも、ウルトラマンAは心の奥では冷めていた。相手の容貌がいくら美々しく見えても、中身が
それと同じとは限らないのはヤプールとの戦いで散々経験している。案の定、エースの心にはなんの感動も響かなかった。
〔いや、あれからは命の気配どころかなんのエネルギーも感じられない。恐らく、あの天使は幻影だ〕
〔幻影? 幻だってのか!〕
 才人は逆の意味で目を疑った。あの神々しさ、目に見えて伝わってくる存在感が幻だというのか?
 ルイズも幻だとはとても思えなかった。空から降りてくる天使は、どんな魔法を使っても再現が不可能であろうほど、
圧倒的な現実感を持って宙に浮いている……いや、なんだ? ふと、ルイズは違和感を感じた。
〔普通の魔法では無理でも……あれなら、もしかしたら〕
〔ルイズ? どうした〕
〔まさか、始祖の祈祷書はネフテスに置いてきたはず。いえ、秘宝はまだあったはず。けど、まさか、そんなことが〕
〔ルイズ!〕
 才人の呼びかけにもルイズは答えない。しかし、なにか深刻なことに彼女が行き当たったのは伝わってきた。
ルイズはあの天使の正体に気がついたというのか? そのあいだにも天使は舞い降りてきて、街の上空の百メートルほどで
宙に止まった。そして、両手を掲げて聖母のような笑みを浮かべ、人間たちを見渡した。
「天使様……」
 人々の興奮は最高潮に達し、もうエースのほうを見ている者はほとんどいない。
 視線を独占して、世界の支配者であるかのように空にそびえる天使。その眼は黒真珠のように光り、感情を
読み解くことはできない。
 いったいこれからどうなるのだ……? 見守る人々の前で、天使は片手をクラゲ怪獣に向かって掲げた。そして、
その手のひらからまばゆい光の帯がほとばしるとクラゲ怪獣を包み込んだ。
「あ、ああ、怪獣が」
「天使様の光の中で、怪獣が溶けていく」
 奇跡を見る感嘆の声が惜しげもなく流れる。あれほどまでに不死身を誇った怪獣が、天使の放つ光の中で朝日を
浴びた亡霊のように薄れて消えていく。
「なんと荘厳なる奇跡だ……」
 聖堂騎士のひとりが涙を流しながらつぶやいた。神話の一部が目の前に現れたような美しさに、人間たちはその魂を
完全にわしづかみにされている。

60 :ウルトラ5番目の使い魔 17話 (9/12) ◆213pT8BiCc :2014/02/10(月) 23:59:34.16 ID:8QrA/Pop.net
 クラゲ怪獣は天使の光の中で、やがて完全に消え去ってしまった。そして人間たちの興奮のボルテージも最高潮に
達して、祈りの声に続いて歓声の大合唱が起こる。
「おーおーおー!」
 もはやギーシュたちやミシェルたち銃士隊も奇跡だと信じて疑っていない。
 だが、その中で唯一ウルトラマンAだけは奇跡を真っ向から否定していた。
〔おかしい、今の光線もなんのエネルギーも感じられなかった。あの怪獣を撃退できるパワーなどないはずだ〕
〔じゃあ幻が怪獣を消し去ったってことか。そんなバカな〕
 ありえない。幻はどこまでいこうと幻。現実に作用する力などあるわけがない。
 しかし、ルイズはすでにひとつの仮説を立てていた。とても恐ろしく、しかし信憑性が高いある可能性を。
〔もしそんなことができれば、この壮大な舞台劇は完成する。まるで絵空事だけど、わたしにはわかる。わたしの中の血が、
わかってしまうのよ!〕
 そんなことは絶対にない。ルイズは才人にもエースにも言えずに自分に言い聞かせる。だが、現実はルイズに時間を
与えずに動き続けていた。
 街の空に、ロマリア空軍の艦隊が現れる。その先頭を進んでいるのは、少し前まで自分たちも乗っていたあの船。
「聖マルコー号。教皇陛下がいらっしゃったんだ!」
 ロマリアの人間なら見間違うはずのないその船影に、新たな歓呼の声が響き渡る。見ると、船先には教皇ヴィットーリオが
ひざまづいて祈りを捧げており、天使は聖マルコー号を慈しむかのように両手を広げて微笑んでみせた。
「おお、天使様が教皇陛下を祝福しておられる」
「教皇陛下!」
「天使様!」
 まさしくこれは神の御手が地上におろされた瞬間であると、人々は涙した。
 天使の祝福を受ける教皇ヴィットーリオ。ブリミル教徒にとって、これほど魂に染み入る光景はないといっていい。
 すると、天使の姿がゆっくりと透けていき、やがて空気に溶け込むようにして完全に消えてしまった。
 天使がいなくなった空で、代わって人々の視線を集めるものは、そう、聖マルコー号と教皇ヴィットーリオしかない。
ヴィットーリオは人々の視線を完全に独占し、やがておもむろに口を開いた。
「我が親愛なるロマリアの民にして、忠実なる神の子たちよ。私は今、神の遣わした天使による祝福と洗礼を受けました」
 おおお、と、人々から大地を揺るがすような歓声が轟く。
「私はこの地へ、この命と引き換えにしてでも闇を払う覚悟でやってまいりました。私のこの身はすべての敬虔なる
ブリミル教徒たちのもの。たとえバラバラに砕け散ろうとも悔いはありません。しかし、神はあえて私に生きて皆さんに
尽くせとおっしゃってくださいました。皆さん、私がここにいられるのはすべて皆さんのおかげなのです」
「教皇陛下! 教皇陛下!」
「天使は私に神の言葉をお伝えくださいました。ヴィットーリオよ、お前の使命はすべての神の使途たちを教え導くこと、
お前の命はそのためにあり、そのために燃やし尽くせと。そして、信徒たちの力を集めて、今この世界を覆っている闇を
払うのだと!」
 群集の声が音の津波となって轟く。
 神の祝福を受け、神の声を聞いた教皇ヴィットーリオの演説はさらに続く。 

61 :ウルトラ5番目の使い魔 17話 (10/12) ◆213pT8BiCc :2014/02/11(火) 00:00:53.50 ID:SSKvUgfS.net
「ロマリアの人々よ、聞いていますか。神は、今この地に天使を遣わして奇跡を起こされました。しかし、天使は言いました。
今のままでは、私がまた現れることはないであろうと。それはなぜか? この世界では始祖への信仰が乱れ、私利私欲のままに
おもむく忘恩の輩が跋扈しています。そうした悪魔に魂を売った人間が満ちる地上を、天使といえども祝福することは
できないのです。ですが皆さんは違います! 私と共に立ち上がりましょう。そして、地上を神の愛で満たそうではありませんか」
「ウォーッ、教皇陛下万歳!」
 人々は完全にヴィットーリオに心酔しきっていた。神の使い、救世主、無理もない。今この場にいる人間は、自らの命に代えても
教皇のために尽くすことだろう。
 確かにヴィットーリオの言うことは美しい。始祖と神への信仰で、地上に救いと平和をもたらすのだ。
 ヴィットーリオの言葉ひとつひとつが、ブリミル教徒たちの信仰心を燃やし、忠誠心を固め、使命感を研ぎ澄ます。
 すべては世界の平和のため。だがそのためになにをすればいいのか? 信徒たちはその答えを教皇に求め、教皇は
人々の熱狂が最大に上がったところで、その答えを与えた。
「ブリミル教徒の皆さん、闇を払うには光が必要です。ではその光とはなにか? 我らブリミル教徒にとっての光とは? 
そう、それこそが、聖地です!」
「おおぉぉぉーっ!!」
「っ! なに!?」
 大多数の人間たちの歓声と、ほんの一部の人間の驚愕が流れた。
 聖地、ハルケギニアの人間にとってその意味は巨大だ。ブリミル教徒にとっての悲願であり、最大の禁忌でもあるその言葉。
しかし人々が考えるよりも早く、教皇の演説は続く。
「神のお言葉は、今こそ人間の手で聖地を取り戻せとありました。思えば、我々は何千年ものあいだ、神の最大の贈り物である
聖地をないがしろにしてきたのです。この世界が闇に閉ざされてしまったのも、我々が神の恩寵を忘れてしまったがため。
聖地こそ、始祖ブリミルの降り立った光溢れる地、それさえ取り戻せば世界は救われます」
「し、しかし……聖地にはあの恐ろしいエルフが」
「懸念される方はもっともです。我々はこれまで聖地を取り戻すために、多くの尊い犠牲を払いました。しかし、その恐れる気持ちが
我々の信仰心を腐らせてしまったのです。考えてください、我々人間が苦しんで誰が得をするのか? そう、エルフです。
あの恐ろしい異教の悪魔たちは、我々から心の拠り所を奪い、我々をじわじわと弱らせたあげくに、ついに今我々人間の世界を
滅ぼそうとしているのです!」
 でたらめだ! と、才人たちは思った。そんなことが絶対にあるはずはない。だが、教皇は絶対の確信があるように続ける。
「我々は今こそ一致団結して異教の悪魔を滅ぼし、聖地を取り戻して世界に光を取り戻すのです。恐れることはありません。
神のご加護は我らの元にあります。そう、神の奇跡を目の当たりにした皆さんに、なんの恐れることがありましょうか? 
今こそ戦いの時です。聖戦の勝利は神によって約束されました!」
 最大級の歓声が大地から天空に轟いた。それを止めることは、このときはもはや誰にも不可能な話であった。
 
 大変なことになる……ウルトラマンA、才人にルイズは、これが壮大な罠というのも生易しい謀略であったことを知った。
”エルフと戦う? 聖戦? そんな馬鹿な、むちゃくちゃだ!”
 だが、それを声を大に叫ぶことはできない。すでに、手遅れであった。
 人々の視線が教皇に集中する隙に、エースは変身を解除して才人とルイズに分離した。
〔才人くん、ルイズくん、気をつけろ。敵は、ヤプール以上に狡猾かもしれないぞ〕
 変身を解く直前にエースはふたりに警告した。ふたりは人間に戻ると同時に、ぐっとこぶしに汗をにじませる。エースが
わざわざふたりにここまでの気を遣うことなど、これまでになかったことだ。つまりは、敵がヤプールのように、力以上に
悪辣な頭脳を持つやっかいな相手だということを示唆している。

62 :ウルトラ5番目の使い魔 17話 (11/12) ◆213pT8BiCc :2014/02/11(火) 00:08:44.97 ID:SSKvUgfS.net
「わかってるよ。嫌な予感が、最悪の形で当たりそうだぜ」
「もしかしたら、本気で滅びるかもしれないわよ、この世界。身内のためにね……」
 世界が滅ぶ……その予感を、才人は、さらに才人の何倍もの悪寒と恐怖をルイズは感じていた。
 今までの脅威とはまるで質の違う形の侵略……いや、侵食というべきだろう。いつから、どうやって? このハルケギニアの
根幹がまさかこんなことになっていようとは夢にも思わなかった。いや……ルイズは今はそんなことを思っている時では
ないと雑念を振り切った。いつだって、カビは知らない間に根を張って猛毒の胞子をばらまくものだ。
「ルイズ、おれも大方の目星はついてるけど、お前はどうだよ?」
「失望を通り越して絶望に近いわね。多分、あんたの百倍は危機感を持ってるわ。いったいどうしましょう……こんなこと、 
みんなに話せないわよ」
「いや、話そうぜ。もうみんな頭も冷えてるだろうし、これから何が起ころうとしてるのかわかったはずだ。心配すんなよ、
みんなだって自分で見聞きしたことを忘れてないって。それに、おれたちは友達を信じないような仲間を持っちゃいないだろ」
「そうね」
 ルイズは少しだけ笑顔を取り戻してうなづいた。自分には仲間がいるという安堵と、その仲間を無条件に信じられる
才人の純粋な心をそばに感じられて、素直に救われた気がしたのだ。
”わたしにとって、いいえきっとわたしたちみんなにとってあなたは希望なのね。こんなことを言ったらあなたは照れるだろうし、
みんなは笑うでしょうけど、それがわたしたちをここまで引っ張ってきた。もちろんわたしも”
 ルイズは、惚れた女のひいき目もあるかと思ったが、もう今更だと自分を笑った。
 少し前も同じ事を思ったけれども、才人は頭も力も特に秀でているわけではない。それは出会ってから大きく成長した今でも
変わりなく、水精霊騎士隊に混ざるとよく言って並といったとこだろう。ガンダールヴの力を失った才人は、銃士隊の一般隊員以下の
戦力しかない。それでも才人を誰も軽視しないのは、こうして才人が誰一人差別せずに仲間として信頼してくれるからだろう。
”わたしやミシェルがサイトを愛するようになったのも、ギーシュたちがサイトに変わらない友情を抱いてるのも、
思えば同じものなのかもしれないわね。サイトは勇気を与えてくれる。キリエルのバカにそそのかされても、やっぱり
サイトの本質は変わらない。まだ迷いがぬぐえてなくても、きっとすぐに答えを見出してくれるわ”
 いっしょにい続け、共に歩む。簡単なことだが、それがいかに強い力を生み、人を成長させていくかルイズは学んでいた。
だから自分は才人のそばから離れない。ずっと才人を守っていくんだと、これからもずっと……そう思うのだった。
 
 それに、今の自分にいるのは才人だけではない。志を同じくする多くの仲間がいる。その仲間たちがいるからこそ、
これまで幾多もの不可能を可能にしてきた。自分の考えている敵の正体は、これまでの中で間違いなく最悪であるが、
皆の力を合わせればなにかの方法は見つかるはずだ。
 
 才人とルイズは、仲間の姿を追い求めて、廃墟の街から郊外へと歩み出た。
 郊外では、いまだにロマリア軍が熱狂を続けており、人でごったがえしていて目のやり場がなかった。しかもよく見ると、
軍隊の人間以外にも、ペンやノートのようなものを持ったインテリ風の人間が何人も歩き回ってメモをとっており、ルイズが
あれは従軍の新聞記者ねと説明した。 

63 :ウルトラ5番目の使い魔 17話 (12/12) ◆213pT8BiCc :2014/02/11(火) 00:09:47.99 ID:SSKvUgfS.net
 ハルケギニアは識字率はさして高くないが、一定以上の富裕層には新聞があり、それを通じて情報は一般層にも
浸透していく。一週間もすれば、ここでの出来事はハルケギニア全土へと知れ渡るだろうとルイズは才人に伝え、
才人は顔をしかめた。
「ロマリアどころかマジで世界ぐるみで事を起こすつもりだってことか。こいつも、最初から計算されてたってのかよ」
「ロマリア宗教庁のお墨付きの記事なんて、特ダネどころじゃないから全世界の新聞社が飛びつくわ。世界中に、
この虫でできた黒雲が広がってるとしたら、不安にかられた人々は間違いなく釣られるでしょうね。国中がそうなったら、
もう女王陛下でも止められるかどうか……はやく、みんなと合流して対策を……なに、あなたたちは?」
 仲間を探すふたりの前に、数人の神官服をまとった男たちが立ちふさがった。
「我々はロマリア宗教庁から教皇陛下の命でやってきた者です。トリステインのルイズ・ド・ラ・ヴァリエール殿ですね。
こたびの働き、まことにご苦労様でした。教皇陛下が、ぜひねぎらいと恩賞を与えたいとお呼びになられています。
ご同行願えますか」
 ルイズは才人と顔を見合わせると、つとめて丁重に答えた。
「まことに光栄です。ですが、我々は今仲間を探しているところです。全員が揃いましてからうかがいますので、
教皇陛下によしなにお伝えください」
「いいえ、至急との要請であります。お仲間は、我らの仲間が探していますのでご安心を。お急ぎください。教皇陛下は
たいへん多忙なお方であります」
 向こうも口調は丁寧だが、拒否は許さないということを強く訴えてきていた。相手は屈強な聖堂騎士団、逃げられないと
悟ったルイズは才人に目配せした。教皇のほうから食いついてきたわ、おおかた用済みのわたしたちを始末しようって
魂胆だろうけど、これは千載一遇のチャンスかもしれない。才人も、わかったと目で答える。
 危険だが、教皇の喉元に迫れる好機だ。教皇の真意と正体を突き止め、絶対にエルフとの戦いなど止めてやる。
「わかりました。ご案内願います」
「承知いたしました。では、こちらへ」
 聖堂騎士に囲まれて、才人とルイズは空に見える聖マルコー号へと歩き出した。これから、竜に乗せられて船まで
赴くのだろう。そうなれば、今度こそ本当に逃げ場はない。
 しかしルイズは信じていた。才人がいれば、自分に恐れるものはない。また、才人もなにがあろうとルイズを守ろうと
強い決意を抱いていた。ふたりの思いがひとつであれば、恐れるものはなにもない。
 
 
 竜に乗せられて、聖マルコー号へと飛び立つふたり。そのころ、水精霊騎士隊と銃士隊は実は少し離れたところにいたのだ。
「みんな、あれ見ろ! サイトとルイズだ」
 誰かが指差した先を、ギーシュたちは大きく見上げた。聖マルコー号に向かって飛んでいく竜の背に、才人とルイズが乗っている。
あのふたりが、なぜ? だがそんなことよりも、それを見たミシェルの胸の奥に突然、言い知れぬ黒いものが湧き出した。
 サイト、だめだ、そこへ行ってはいけない。ミシェルは思わず声を張り上げて叫んだ。
「サイト……? ま、待て。サイト! 行くな! 行っちゃだめだーっ!」
 取り乱して叫ぶミシェルの姿に、部下たちが驚いて静止しようとしてくるが、ミシェルの耳には入らなかった。
 才人が行く、行ってしまう。それは単なる形容ではなく、文字通り……そう、二度と才人と会えなくなる。
予知とかそんなものが自分にあるとは思わない。だが、そんな悪寒が確信めいて、ミシェルの心を捕えて離さなかったのだ。
「サイトーーッ!!」
 
 
 続く

64 :ウルトラ5番目の使い魔 あとがき ◆213pT8BiCc :2014/02/11(火) 00:12:13.37 ID:SSKvUgfS.net
以上です。>>56の方支援ありがとうございました。
超空間波動怪獣メザード、本編ではあっさり気味に対処されてますが、考えてみればこいつも大概チートな怪獣ですよね
さてこの展開、まさかエースの勝利ならずになってしまいました。ヤプールも狡猾ですが、スケールの大きさや手の込み具合ならば
この相手のほうが上でしょう。
人間の心に付け込む。悪の常套手段ですが、これがまた効果的ですから多用されるのでしょうね。ウルトラシリーズでも数多く
あった展開ですが、思えばウルトラシリーズだけでなく、多くのヒーローたちは自分自身の中にこそ戦う敵がいるのだと
教えてくれているのですね。
それにしても、1月中に投下するはずだったのですが、また不実行になってすみません。とりあえず言い訳をさせていただけば、
仕事の配置転換、家の改装、作者提督になる、家族の転職、その他もろもろでのっぴきならない状況だったと言わせてください。
2月からは生活ペースを見直しますので、もう少しは早くできるようにします。

では次回も、ぶっちぎるぜ!

65 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/11(火) 14:40:39.86 ID:INT+7wo2.net
GJでした!
くそう、なんてずるがしこい奴等なんだ!

66 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/12(水) 22:35:31.57 ID:GgOKuePm.net

うわあ、またとんでもなくやばい展開…

67 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/13(木) 00:29:03.25 ID:5yh8PCTy.net
乙です。
根源破滅天使様ご降臨と…。
こいつがこのタイミングでくるとは思わなかったな。
例の小虫達は確かにスケールでかかったわ。

68 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/17(月) 18:54:16.05 ID:XYTxtA5U.net
ガイアの敵はチート設定なのが多かった。防衛チーム側もアルケミースターズというチートがいたからなんとかなったけど他のチームじゃメザードとかアウトだろ

69 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/17(月) 19:48:40.48 ID:nupurKaK.net
それでもナイトレイダーならナイトレイダーなら何とかしてくれる

70 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/17(月) 20:44:40.17 ID:R+CgF+RH.net
異次元のエキスパートたるTACに任せたい

71 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/02/17(月) 23:10:19.92 ID:yMkHJviH.net
皆様、お久し振りです。
遅くなりましたが、よければ23:15ごろから続きを投下させてください。

72 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/02/17(月) 23:15:13.21 ID:yMkHJviH.net
 
オスマンとコルベールは学院長室から『遠見の鏡』で決闘の一部始終を見終えると、顔を見合わせた。
鏡面に映し出されたヴェストリの広場では、未だ鳴り止まぬ拍手と歓声が続いている。
2人の少し後ろの方で、『眠りの鐘』を用意して戻っていたロングビルも興味深げにその光景に見入っていた。
 
「オールド・オスマン、あのメイドが勝って……、
 あ、いえ、勝負無しということにはなったようですが……、」
「うむ……」
 
驚きの表情をありありと顔に浮かべたコルベールとは対照的に、オスマンにはさほど動揺した様子がない。
ロングビルはそれをじっと見て、疑問を口にした。
 
「あの、学院長は……、こうなることを見越しておられたのですか?」
「ん? 何故そう思うのかね、ミス・ロングビル」
「それは、あまり驚かれた様子がありませんし…、これをすぐ使えと言われなかったのも不思議に思っていましたから」
 
そういって、折角運んだというのに出番のなかった掌中の鐘をちらりと見る。
まあ自分にとって本当に重要なのは宝物庫へ入る口実の方だったので、無駄足だったなどとは思っていないが。
 
オスマンは長い白髭を少しさすると、首を横に振った。
 
「まさか。こんなもん読めておったわけがなかろう。
 年を取ると大概の事では動揺を見せなくなるというだけじゃよ、ちゃんと驚いておるしそれなりに感嘆もしておる。
 ……ま、その鐘を使わねばならんような大事にはなるまいとは思っておったが……」
 
オスマンはそう言ってロングビルとの会話を打ち切ると、鏡面を見ながら何やら物思いに沈んでいく。
 
ロングビルはまだ釈然としなかった。
このエロ爺がセクハラ発言のひとつも無しにさっさと会話を済ませるとは、一体何にそれほど注目しているのだろう?
 
……気にはなる、が、今は絶好の機会。
単なる好奇心を満たすより先にもっと重要な事を成すべきだ。
彼女はそう心に決めると、鐘を宝物庫に戻してくると言って再び学院長室を後にした。
 
 
 
一方ヴェストリの広場の方では、盛り上がりが一段落したところでやっと教師たちが介入し、生徒らを促して授業に向かわせだす。
もう昼食時間はとっくに過ぎ、午後の授業を始めなければならない時間になっている。
 
ディーキンは自室へ戻っていくシエスタの後姿をじっと見て、それから自分の元へやってこようとしているルイズの方に向かった。
そしていろいろ質問したそうなルイズを押し留めると、自分は応援した手前もうちょっとシエスタと話がしたいし、
他にも色々やりたい事があるから午後の授業への同行を免除してもらえないだろうか、と願い出た。
 
「はあ? ちょっと、何言ってるのよ!
 勝手にまたこんな目立つことをしておいて、この上まだ何の説明もしないで私を放って……」
 
ルイズはルイズで今の決闘の成り行きとかについていろいろと聞きたいことがあったし、今日は使い魔の顔見せの日でもある。
おまけに仮にも使い魔が御主人様を放ってあのメイドとこれ以上一緒にとか…、とにかく色々と不満だ。
 
したがって怒鳴りつけて即座に却下しようとしたのだが、ディーキンは怯まなかった。
さりとて自分の要求は正当で認められて当然なのだというような偉ぶった態度を取るわけでもなく。
ただ普通に彼女の言い分を聞いて謝るべきところは謝りつつ、それでもあえて自分がそうしたい理由を説明して根気よく交渉する。

73 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/02/17(月) 23:17:03.61 ID:yMkHJviH.net
 
まず、シエスタには決闘に関わらせてもらった縁があるのに何も言わずにさっさと別れるのは礼儀に反すると思う。
ルイズが聞きたいことは同じ部屋で過ごしてるんだし今夜にでもちゃんと話すから、それまで待ってほしい。
教師への紹介は今これだけ目立っていたのだからどうせ顔も名前も知れ渡っただろうし、いらないだろう。
むしろ今ディーキンが教室に行ったらきっと決闘の件で注目されて生徒らに騒がれるし、授業の邪魔になって教師からの心証が悪くなるかもしれない。
それに約束通り今の決闘の歌も考えなきゃいけないし、もしかして考え事に夢中になって鼻歌とか口ずさんだりしたら尚更迷惑だろうし。
ディーキンが教室にいないことで他の生徒らがルイズを嗤うのなら、何故いないのか説明してやればいい。
それでも分かってもらえないようなら、後でディーキンがちゃんとその人に“説明”して分かってもらえるようにするから―――――。
 
もしディーキンが感情的に怒鳴り返したり、自分の要求は認められて当然、お前の意見は愚かだ―――とでもいうような態度を取ったりしていたなら。
おそらくルイズは激怒し、正規契約をしていないとはいえ仮にも使い魔である者の不従順に対して罰を言い渡していただろう。
しかしながらルイズは癇癪を起こしやすく独占欲が強い反面、真摯に誇りを重んじる貴族でもあるのだ。
頭を下げて許可を求めに来て、落ち着いて交渉している相手を一方的に怒鳴ったり無下にするような真似はできない。
 
そう言った点が以前の主人であるタイモファラールに似ていなくもないので、ディーキンにとっては懐かしいというか、対応し易い。
むしろ邪悪で気まぐれなタイモファラールに比べればルイズは遥かに話の分かる相手だし何よりディーキン自身も当時より遥かに成長している。
 
「…分かったわよ、あのメイドもあんたにお礼とかいいたいだろうし…」
 
ディーキンは相手の立場や考えを尊重して、軽々に批判したり見下したりはしない。
かといって卑屈になるわけでもなく、自分の意見はしっかりと主張してくる。
ルイズとしては内心複雑ではあったが、ともかくディーキンが自分の事を軽んじていないのは理解できたし、彼女にとってはそれが一番大切な事だった。
本当はまだ不満はあるし、メイドのところへ行く前にまずこっちに説明してからにするか自分も同行させろ、くらいは言いたいところだ。
だがそんなことをしていたら授業に遅れてしまう。
基本的に真面目な性格かつ実技が壊滅状態なルイズには、やむにやまれぬ事情があるわけでもないのに授業をサボる事などできない。
したがってここは、渋々ながらディーキンの言い分を認めることにしたのだった。
 
「ただし、夜までには絶対に戻って来なさい。約束通り説明してもらうからね!」
「もちろんなの。ディーキンはお泊りなんてしないよ?」
 
 
 
そんなこんなでルイズと別れると、ディーキンはさっそくシエスタの部屋に向かった。
彼女が中にいる気配があるのを確かめてから扉をノックする。
シエスタは部屋に戻ってしばしぼうっと物思いに耽った後、鎧を脱いで着替えをしている最中だったが、ノックの音を聞いて首を傾げた。
 
理由はどうあれ自分は貴族に逆らい、決闘などを承諾して規律を乱す真似をした。
となると学院の教師がやってきたのだろうか、罰を申し渡されるのなら受け入れなくてはなるまい。
でなければ、使用人仲間の誰かが来たのか……?
 
「はい、どなたですか?
 少しお待ちください、取り込み中なので終わりましたらすぐに――――」
「ディーキンはディーキンだよ。
 わかったの、ええと、3分間くらい待ってればいいかな?」
「! ……ディ、ディーキン様?
 す、すみません、すぐに開けます!」
 
シエスタはディーキンの声が聞こえるや、あたふたとドアを開けると膝をついて恭しく頭を下げた。
たとえ貴族に対してでも、ここまで畏まった態度を取ることは滅多にないだろう。
まあ、ドアの前で待たせるより上着が脱げかけた姿で応対する方が礼儀にかなっていると言えるのかどうかはまた別の問題ではあるが。

74 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/02/17(月) 23:20:01.96 ID:yMkHJviH.net
 
一方突然そんな態度を取られたディーキンはきょとんとして、自分の目線と同じくらいの高さにきたシエスタの頭を見つめながら首を傾げた。
 
「……アー、ええと……、シエスタ、もしかしてさっきの決闘で耳がおかしくなった?
 ディーキンはディーキンだよっていったの、別にディーキンは王様だからぺこぺこしろとか言ったわけじゃないよ」
 
そういってもシエスタは顔を伏せたまま、畏まった態度で返答を返す。
 
「それは……、だって、あなたは私を救ってくださった方です。
 それに天使様ですから――――」
「……うん?
 もしかしておかしいのはディーキンの耳の方だったのかな……。
 ええと、シエスタは今、『天使』って言ったの?」
「はい、そうです。
 ディーキン様は、天使様なのでしょう?」
 
シエスタは恭しくそう答えるとますます深く頭を垂れた。
その態度には、決してお世辞や冗談などではない本当の崇敬の念が感じられる。
どうやら本気でそう信じ込んでいるらしい。
 
一方ディーキンは目をぱちくりさせた。
天使とはフェイルーンでいえばエンジェルの事か、それも含めた善の来訪者であるセレスチャル全般を指す言葉だが……。
言うまでもなくコボルドはその中に含まれない。
 
ディーキンは少し考えるとおもむろに屈み込み、シエスタの顔を下からじーっと覗き込んだ。
 
シエスタは突然の事に驚いてどぎまぎした様子でさっと目を逸らす。
ディーキンは横を向いたシエスタの顔の前にささっと回り込むと、今度は爪の生えた指でシエスタの目蓋を広げて目の奥まで覗き込む。
更に額と額を当ててみたり、頬を撫でてみたり―――――。
 
「……ななな……!?
 あああの、何をされてるんですか??」
 
シエスタはディーキンの行動に顔を赤くしたり目を白黒させたり、混乱している。
 
「ンー、見た感じ目は普通だし熱とかもなさそうだけど…。
 ディーキンが天使に見えるってことは目がおかしいか、頭がぼーっとしてるかじゃないかと思ったの」
「……え、あの?」
「アア、それとももしかして、シエスタは天使の血を引いてるけど天使の出てくる物語は聞いたことないとか?
 天使っていうのは綺麗で、きらきらして、ふわふわして、言うことがいつも完璧な感じなんだよ」
 
ディーキンはそこでエヘンと胸を張る。
 
「ディーキンはそりゃ美男子だけど、光ってないし、ごつごつしてるし、ジョークとかも言えるからね。
 天使じゃなくてコボルドの詩人なのは確定的に明らかだよ。
 すごい英雄と悪いドラゴンじゃ同じ格好いいのでも感じが全然違うでしょ?」
 
シエスタはそれを聞いて当惑したように視線を泳がせ、そわそわと身じろぎした。
 
「そんな、でも。それは、その……、」
 
嘘です、と言いかけたが、天使を嘘吐き呼ばわりするなど非礼の極みだと慌てて口を噤み顔を伏せて正しい言葉を探す。
 
「………本当の事ではない、と思います。
 きっと深い考えがあって、隠されるのでしょうけど、私は――――」
 
ディーキンの方は、それを聞いて困ったように肩を竦めた。
どうも何か大きな誤解をされているようだが、原因はなんなのだろう?
 
「ええと……、ディーキンはシエスタに隠し事なんかしてないの。それじゃシエスタは、なんでディーキンが天使だと思うの?」

75 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/02/17(月) 23:22:05.39 ID:yMkHJviH.net
 
そう尋ねると、シエスタはよく聞いてくれたと言わんばかりにばっと顔を上げて、熱弁を始めた。
 
「それは、だって…、天使様の言葉を使っておられて、それで私を助けてくださったじゃないですか!
 おばあちゃんが少しだけ習っていて、聞かせてもらったことがあります。一度聞いたら絶対忘れられない響きです。
 何よりグラモン様が心を改めてくださったのも、あなたがおられたお陰です。
 私を助けてくださるため、正義を護るために神様が遣わしてくださったのでなければ、なんなのですか?
 いえ、それ以外ありえません!」
 
素晴らしい美少女が頬を上気させ、上着が少し肌蹴た状態で、自分に向けてあからさまに憧れとか畏敬とかの念が篭った笑顔を浮かべている。
人間の男だったら誤解を正すのなんかやめて手を出してしまいそうな状態だが、幸か不幸かディーキンはコボルドである。
 
「……あー、シエスタが信じてることは分かったよ」
 
ワルキューレとの戦いの際に呪歌と共に用いた《創造の言葉》が誤解を招いた主たる要因であるようだ。
それは世界創造の時に用いられたという失われた言葉であり、現在のセレスチャルが話す天上語の前身であるとも言われている。
その断片だけでも知っている者は既にセレスチャルの中にも少ないそうだが、シエスタの祖母はたまたま学んだことがあったのだろう。
そんなものを用いて、しかも困難な状況で自分を手助けしてくれたとなれば多少は誤解もされるか。
それにしたってコボルドを天使だの神の使いだのと考えるのは極端だとは思うが、善良で信心深い人はそんなものなのかもしれない。
 
ディーキンはとりあえずシエスタを促して室内へ入り、向かい合うように椅子に腰かけて説明を始めた。
 
「じゃあ、ひとつずつ説明させてもらってもいいかな?
 まず、シエスタがなんて言ってもディーキンはやっぱり天使じゃないし、別に神さまのお使いとかでもないの。
 さっき歌う時に使った天使の言葉はシエスタのおばあちゃんと同じで天使から習ったんだよ」
 
それから、どういう経緯でそうなったのかをリュートを弾きながら物語の形式にして語り聞かせる。
 
アンダーダークで大悪魔メフィストフェレスの罠にかかり、ボスと一緒に地獄へ送られた事。
そこで遥か昔から想い人を待って眠り続ける、『眠れる者』と呼ばれる偉大な天使、プラネターに出会った事。
ボスの尽力あって彼はついに目覚めて想い人に巡り合うことができ、深く感謝してくれた彼とは地獄を逃れた後にも交友が続いた事。
そして彼が年古く強力な天使ゆえに太古の言葉にも通じており、ディーキンが詩人であることを知って《創造の言葉》の秘密を教えてくれた事………。
 
シエスタはそれに熱心に聞き入った。
地獄に送られてなお、悪魔を討って生還してくる英雄たち。
想い人を求めて天上の楽園を去り、寒く昏い地獄の果てで待ち続けた天使。
そんな人たちと一緒に旅をすのは、どんなに素晴らしい事だろう。
どこまでが本当の話なのか……嘘をついているとかではなくて、きっと物語だから脚色もあるのだろうけど……。
 
「―――――と、まあそういう感じなの。
 だから頭とか下げられてもディーキンは困るの、わかった?」
「えっ、あ……、は、はい!」
 
物語の世界にすっかり入り込んで夢想に浸っていたシエスタは、慌てて返事をする。
それから、そっと頭を下げて、言葉を選びながら訥々と続ける。
 
「その、お話、ありがとうございます。
 ディーキン様が天使でないことは分かりました」

76 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/02/17(月) 23:25:05.03 ID:yMkHJviH.net
 
どこまでが本当の話なのかはわからないが、天使に出会って学んだというのはきっと本当なのだろう。
目の前の人物が、種族としては天使ではないのは納得できた。
しかし………。
 
「ですが、私とグラモン様を救ってくださった方であることは変わりません」
 
シエスタにとっては、最善のタイミングで手を差し伸べてすべてを上手く行かせてくれたのがディーキンだ。
そればかりではなく……、まだ話してはいないが、先の戦いの折に確かにこれは運命だと感じさせるような事があったのである。
天使であろうがなかろうが、ディーキンの介入はシエスタにとっては偉大で慈悲深い神や運命の導き以外の何物でもない。
 
「……それに……、いえ、
 つまり、ですからやはり、あなたは私にとっては恩人で、神様の御遣いなんです!」
 
あくまで敬いの態度を変えないシエスタに、ディーキンはちょっと顔を顰める。
 
「ンー……、それはシエスタの考え違いじゃないかな。
 お礼を言ってくれるのは嬉しいけど、いくつか間違ってると思うの」
「えっ?」
 
ディーキンはシエスタの肩をつついて顔を上げさせると、ちっちっと勿体ぶった態度で指を振って見せた。
ちょっと気取って講釈を始める教師のように。
 
「まずね。シエスタは仮にディーキンが神さまのお使いだったとして、神さまの手助けがなかったらさっき、上手くやれなかったと思ってるの?
 ディーキンはただ英雄の活躍を見逃したくなかったから出しゃばっただけで、お手伝いしなくても結局は同じことだったはずだよ」
 
それを聞いたシエスタは、ぶんぶんと首を横に振る。
 
「そ、そんなわけないじゃないですか!
 私が貴族様と戦えたのは、みんなあなたのお力で―――」
「じゃあシエスタはディーキンが応援しなかったとして、あのワルキューレとかいうのにボコボコにやられたら降参して謝っていたの?」
「え…? い、いえ! 間違った事に頭を下げるなんて!」
「シエスタは、あのギーシュっていう人がもし相手が降参しなかったら、死ぬまで殴って絶対謝らない人だったと思ってるの?」
「そんな! あの方は過ちを犯されましたけれど、そんな非情な方では…」
 
それを聞いて、ディーキンは得意げに胸を張る。
 
「でしょ? シエスタはどんなにやられても諦めたりしなかったし、相手は死ぬまで殴るような人じゃなかった。
 ほら、ディーキンがいなくたって、シエスタはちょっと余計に怪我はしたかも知れないけど、結局最後には分かってもらえて上手くいってたよ。
 たとえ力がなくても正しい事ができるのが英雄ってもんなの、絶対にそういうものなんだから!」
 
先程までのシエスタにも劣らず熱っぽい様子で瞳をきらめかせながら、ディーキンは熱弁した。
頬が上気しているかどうかは、ウロコに覆われていて分からないが。
 
「そ、そんな…………」
 
自分が敬う相手から逆にそんな目で見られたシエスタは反応に困って口篭もる。
 
「……その。あるいは、そうかもしれません。
 でも、私が戦う勇気を出すことができたのはあなたが居てくださったおかげです、ですから……」
 
なおも食い下がるシエスタに、ディーキンは腕組みしてキリッとした感じの声を作る。
 
「オホン、……ならば、それは私のしたことではない。
 私を見て何かを学んだというなら、それは君自身の才能と情熱のおかげだ、友よ。
 手柄はあるべき所に帰すべきだ」
「……は? あ、あの、」

77 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/02/17(月) 23:27:07.51 ID:yMkHJviH.net
 
いきなり感じが変わったのにきょとんとしているシエスタを見て、ディーキンは得意げに胸を反らせた。
 
「―――イヒヒ。
 今の、『眠れる者』の真似なの。似てた?」
「は、はあ……?
 いえ、私、その天使様の事を知りませんから………」
 
何とも微妙な顔をしているシエスタに対して、ディーキンは少し真面目な顔に戻って更に言葉を続ける。
 
「それに、ディーキンが本当に天使とか神さまのお使いだったとしても、天使はそんな風に拝んでもらいたいとは思わないよ。
 彼もそういってたし、ディーキンが知ってる他の天使もみんなそうだったからね」
 
パラディンであるボスは最初、今のシエスタのように『眠れる者』に対して敬意を表していた。
だが、彼はそのような扱いに当惑し、自分は身に覚えのない崇拝を望まないと言った。
彼らは真の善の化身であり、その目的は善を奨励する事であり、自分達が崇められるよりその崇拝をより偉大なものに向けさせることを願うのだ。
 
「『私はより偉大な栄光に仕える天使だ。
  私に価値を見出すならば、私よりも高貴な愛や美があることも知るといい』
 
 彼はそういったの、ディーキンもそれに賛成だね。
 ボスやシエスタは大した英雄だからね、天使とかディーキンとか拝んでないで、もっと大きな目標を持って、とんでもなーく凄い人になって。
 そうすればディーキンももっともっといい物語が書けるし、カッコいい詩が歌えるし、みんなが喜ぶでしょ?
 もしディーキンが神さまだったら、シエスタにはきっとそうしろっていうの」
 
ディーキンはそういうとちょっと首を傾げて、シエスタの頭を撫でた。
 
「アー、だから……、つまり、まとめるとディーキンはディーキン様とか呼ばれるのには反対だってことだよ。
 ディーキンはディーキンであってディーキン様じゃないからね、余計なものはくっつけない方がいいの。
 俺様とかって、何か悪役っぽくてよくないでしょ?
 様をつけていいのはご主人様とか王様とかだよ、ディーキンにはつかないよ!」
 
シエスタは英雄なんだから英雄には自分より立派な存在でいてほしい、敬われても嬉しくない……というのはまあ本当だが。
実のところ敬称を遠慮したい理由はそれだけでもなかった。
 
ボスはもちろん、自分を純粋に対等の仲間として扱ってくれる。
だが、今まで上位者として扱われた経験はない。
コボルドをそんなふうに扱う奴は普通同族しかいないし、それにしたところで地位の高いコボルドに対してに限られる。
礼儀作法上とかではなく本心から敬われる、などというのは初めてであって、照れ半分、困惑半分、どう対応していいのかわからないのだ。
 
シエスタは頭を撫でられて少し頬を染めつつも神妙な、若干不満げな面持ちで話を聞いていたが……。
やがて、微笑みを浮かべて頷いた。
 
「……わかりました、ディーキンさ……んがそういわれるのなら、きっとその通りなんだと思います。
 私、もっと善い事ができるように頑張りますね」
「オオ……、よかったの。
 ありがとう、それならディーキンは、これからもシエスタの事を応援するよ」
 
ほっとした感じでウンウンと頷き返したディーキンに、シエスタはしかし、意味ありげに目を細めるとまた頭を深々と下げた。
 
「―――――はい!
 つきましては、そのためにもあなたにお願いしたいことがあります」
「……へっ?」
「私の先生に、なってくれませんか?」
 
ディーキンは目をしばたたかせると、困ったように頬を掻いた。

78 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/02/17(月) 23:30:01.50 ID:yMkHJviH.net
 
「ええと、その………。
 どういうことなのか、ディーキンにはちょっとよくわからないけど」
 
シエスタは顔を上げると、にこにこ微笑みながら質問に答える。
 
「私……、先程の戦いのとき、『声』を聞いたんです。
 グラモン様が考えを改められて、私に剣を差し出してくださった時に――――」
「?? 声……、」
 
ディーキンは唐突な話にきょとんとして、少し考え込む。
が、ふと思い当って首を傾げた。
 
「ええと、それって……、もしかして『召命』の声のこと?
 シエスタはパラディンになれって言われたの?」
「はい!」
 
その時の事を思い返して興奮と喜びに目をきらめかせているシエスタを見て、ディーキンはようやく得心がいった。
なるほど、この状況に加えて更にこれまでの人生一変させるような出来事まで重なったとなれば。
それに大きく関わったディーキンの事を自分に遣わされた天使かなにかだと思い込むのも無理のない事だ。
 
実際、これはシエスタにとっては確かに運命的なものなのかもしれない。
多元宇宙に働く何らかの意志が、しばしばそのような導きをもたらすことはディーキンも知っていた。
 
とはいえ………、
 
「ウーン、つまり、シエスタはディーキンにパラディンになるための勉強を教えてほしいってこと?」
「そうです、私はまだぜんぜん力もありませんし……、パラディンの事も、おばあちゃんを見て教わった事以上には知りません。
 あなたの望まれるような英雄になるためにも、せひ私の先生になってください!」
「いや、ええと、ディーキンはバードなの。
 バードとパラディンは、プレインズウォーカーと頑固爺さんくらい違うの」
 
バードにはパラディンのような生き方はできない。
パラディンの生き方が善き規律に支えられたものであるのに対し、魂に訴えかけるバードの旋律は自由な魂から生まれるものだからだ。
少なくともフェイルーンで、パラディンになるための訓練でバードに師事するなどという話は聞いた事もない。
 
「ディーキンは、たまにボスみたいになるか試すの。
 立派なことだけ考えて、それから、神聖でいようと頑張ってみて……、
 でもすぐおかしなことを考えて大笑いしちゃうの、それがけっこうつらいんだよね。
 だからディーキンは、シエスタの考えてるみたいな立派なパラディンのための先生にはなれないと思うの」
「いいえ、おばあちゃんだってよく笑ってましたし、その『ボス』という方も、あなたのお話からすると朗らかな方なんでしょう?
 真面目に生きるということは、朗らかさをなくすことではないと思います。
 それに、あなたは素晴らしい英雄の方と旅をされていたし、天使様ともお知り合いですから。
 その方々の生き方をもっと歌や話にして聞かせてください、私にとってはそれが素敵な勉強になると思います。
 剣とか、その他の訓練は、もし教えてくださることができないのでしたら自分で頑張りますから」
「ン、ンー……、それは、ディーキンだってぜひ聞いてほしいけど……。
 別に先生とかでなくてもいつだって喜んで聞かせるし、パラディンの訓練なら他にいい人がいるんじゃない?」
 
大体、バードとパラディンは進む道も違えば、能力的にもほとんど似つかない。
どちらも魅力に優れ、交渉などの才を持ち合わせてはいるが、共通点と言ったらせいぜいその程度だろう。
パラディンは若干の信仰魔法を用いる戦士、バードは秘術魔法を使う何でも屋だ。
普通に考えれば同じパラディンに師事するのが最善だろう。
そうでなければ剣の訓練をするならファイターとか、信仰を鍛えるならクレリックとかがおそらく適任。
とにかくバードがパラディンの教師に向いているとは思えない。

79 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/17(月) 23:35:48.41 ID:aW45MKVO.net
しえん

80 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/02/18(火) 01:01:19.08 ID:tCWjd4be.net
 
シエスタはぶんぶんと首を横に振った。
 
「いいえ! ……いいえ、そんなことはないです。
 何と言われようとあなたは私の恩人で、私に可能性を掴ませてくれた憧れなんです。
 私はあなたより先生に相応しい方なんて知りません!」
「う! うーん??
 そ、その、そんなことはないと思うけど、ありがとう。
 ディーキンはなんだか、すごく照れるよ……」
 
詰め寄らんばかりの勢いで熱弁してくるシエスタに、ディーキンもたじろいでいる。
 
「この学院におられるのはメイジの方ばかりです。
 貴族としての誇りを重んじられる立派な方々です、けれど、パラディンの教師に向いておられるとは思いません。
 学院の外でも、強い方と言ったら大体メイジの方ばかりで、剣を使うのは傭兵とかだけですし、そんな達人とかは私は知りません。
 それに私は、おばあちゃんの他のパラディンは一人も知りません。
 おばあちゃんはきっと、この世界には『声』が届かないんだろうっていってました」
「アー…、そうなの?」 
 
初耳だが、よく考えればこの世界にはバードもクレリックもいないのだった。
メイジの力が支配的で、かつ系統魔法と先住魔法しか知られていないというのだから冷静に判断すればパラディンだっているはずがない。
シエスタにだけは召命の声が聞こえたというのは、彼女がアアシマールであることを考えればそれほど不思議な話でもあるまい。
パラディンたり得るものはフェイルーンでも希少だが、天上の血を引くアアシマールにはすべからくその適性が備わっていると言われている。
剣の力についても、確かに昨夜読んだ本ではほとんど触れられていなかった。
大方フェイルーンの古代アイマスカーなどと同じく廃れており、純粋に剣だけで強い戦士はこの世界には滅多にいないのだろう。
概ね低レベルのウォリアーくらいしかいないのだとすれば、シエスタが長期的に師事するには些か不足だ。
そうなると、ディーキンに教えを乞うというのもまんざら悪い選択ではなく、むしろ良い選択なのかもしれない。
 
「ウ〜……、でも、先生なんてディーキンはやったことないの。
 ディーキンが教わった先生は気が向いた時に教えてくれて、
 そうでないときには寝ぼけて体の上にのしかかったり、
 機嫌が悪い時にはディーキンの体を麻痺させて歯を抜いたりする、ドラゴンのご主人様だけなの」
「誰だって最初はやったことがないはずです。
 それにディーキンさんは、そんなひどい教え方はなさらないです、信じてます。
 さっき私の事を応援してくださるって言われましたよね?
 でしたら、さあ、私が立派なパラディンになるために力を貸してください。
 応援するって、そういうことでしょう?」
 
シエスタは、ここぞとばかりに先程のディーキンの発言を持ち出して畳み掛ける。
このためにいったん譲歩してみせて言質を引き出したらしい。
 
パラディンは邪悪な行為をしてはいけないが、最終的に善を推進するためのちょっとした計略くらいは問題ないのである。
 
ディーキンは困った顔をして考え込む。
別に秩序な性格ではないので口約束なんて場合によっては無視してしまうのだが、それでシエスタに嫌われたりするのは嫌である。
かといって大したことが教えられるとも思わないし、それはそれでシエスタを失望させることになってしまわないか不安だが……。
まあ、彼女に教えるのもそれはそれで確かに新しい楽しい経験になるかも知れないし。
何より彼女はボスの話を聞きたいと言ってくれた、それはこちらとしても存分に語りたいことだ。
 
「――――わかったの。
 ディーキンは今ルイズの使い魔をしてるから、お願いしてみないといけないけど。
 いいっていわれたら、シエスタのためにできるだけの事はするよ」
 
シエスタはそれを聞くとぱあっと顔を輝かせて、ディーキンを思いきり抱き締めた。
 
「ありがとうございます、先生! これからよろしくお願いしますわ!」
「オオォ……!?
 ちょっとシエスタ、痛くないの?」

81 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/02/18(火) 01:03:09.31 ID:tCWjd4be.net
 
シエスタは今、上着がちょっと肌蹴た状態でディーキンを強く抱き締め、頬ずりとかしている。
人間の男なら嬉しくてそれどころじゃないかもしれないが、ディーキンは彼女の柔らかい肌が自分の硬いウロコに擦れて傷つかないか心配だった。
 
「………!? あ、わああ、すす、すみません!」
 
そういわれて漸くシエスタは今の自分の格好に気付くと、途端に顔を真っ赤にしてぱっと離れ、大慌てで胸元をさっと覆った。
慌てたり緊張したり、必死に熱弁したりで、今の今まですっかり失念していたのだ。
 
「? 別に、シエスタが謝るところじゃないとおもうけど……、
 それよりディーキンはその、先生っていうのは――――」
「……だって先生は先生じゃないですか、これは誤解とかそんなことは関係なく先生ですから問題ないです。
 学院の生徒の方々だって、みんな教師の方の事はそう呼んでいらっしゃいますわ。
 私だってそうお呼びしないと失礼です、ええ、絶対そうしますから」
 
シエスタは上着をしっかりと着直すと、まだ少し頬を赤くしながらも澄ました顔で得意げにそう答える。
結局、彼女はディーキンをある種の敬称で呼ぶ許可をちゃんと取り付けたのだった。
 
 
 
「ニヒヒヒ……、ウーン、なんか、先生になったの」
 
仕事に戻らないといけないからというシエスタと別れたディーキンは、少しにやけながらぶらぶらと人気のない廊下を歩いていた。
先程は突然の申し込みに困惑していたが、自分が先生などと呼ばれて敬意を払われる立場になったのかと思うと、じわじわと嬉しさが湧き出して来た。
様づけで呼ばれるのはどうにもむずむずするしご主人様みたいで遠慮したいところだが、先生というのはそれとは違う感じがする。
どう違うのか上手く説明はできないが……、なんにせよ何の悪意も含みもない態度で褒められたり認められたりするのは嬉しい事だった。
 
まあ正確にはルイズの許可を得られたらということだが、それについては後程シエスタと一緒に頼むことに決めておいた。
たぶん渋られるだろうが、ちゃんとお願いすれば説き伏せられる自信はある。
 
そういえば元々シエスタの部屋を訪れたのは挨拶がてら約束の歌の件について相談しようと思っていたのだが……。
予想外の話の展開にすっかり元の用件を忘れてしまっていた。
だがまあ別に急ぐ用事でもないし、彼女が生徒になりたいというのなら話す機会はいくらでもあるだろうから、今はいいか。
 
―――――さて、これからどうしよう?
 
まだ大分時間はあるがルイズの授業には今日は出ないと言ってしまったし、図書館へ行くか。
この世界の事はまだまだよく分かっていない、調べたいことならいくらでもある。
あるいはシエスタにどんな授業をするか考えて、その準備をしておくか。
引き受けた以上はしっかりとやりたいし。
 
「ウーン………、ん?」
 
いろいろと考えながらふと窓の外に目をやると、妙な人物が目に留まった。
 
タバサだ。
 
今は授業中のはずだが、何故か空を飛んで学院の外の方へ向かっている。
他に生徒はいないようだし課外学習という風にも見えない。
遠目ではっきりとはわからないが何だか急いでいる様子だ。
 
何かあったのだろうか?
 
こういう事があるとすぐに首を突っ込みたくなるのが冒険者の、そしてバードの、何よりディーキンという人物の性分である。
好奇心の命じるままにぴょんと跳び上がって手近の窓を開けて外へ飛び出すと、そちらの方に向かって翼を羽ばたかせ始めた………。
 

82 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia 解説:2014/02/18(火) 01:05:04.80 ID:tCWjd4be.net
 
セレスチャル:
善の属性を代表するさまざまな種類の来訪者を総称してこう呼ぶ。
アルコン(秩序にして善)、ガーディナル(中立にして善)、エラドリン(混沌にして善)、エンジェル(いずれかの善属性)などの種別が有名。
 
《創造の言葉(Words of Creation)》
[高貴なる特技]
前提条件:【知力】15以上、【魅力】15以上、基本意志セーヴ・ボーナス+5以上
 創造の言葉は今は失われた言語の断片であり、現在セレスチャル達が用いている天上語の前身であると言われている。
世界が創造された時に話されていた言葉であるとされ、あらゆる創造の手続きを強化することができる。
歌にすればいかなる地上のメロディーをも凌駕する天界の音楽の荘厳さが木霊し、それが呪歌であれば効力を倍増させる。
創作の際に用いればそれが魔法によるものであれ手作業によるものであれ、創作物をより完璧なものにする。
[善]の呪文や魔法のアイテムを発動させるときに用いれば、その効力を一層強くする。
全てのクリーチャーが持つ【真の名】を研究すれば、それを使って対象を拘束することもできる。
定命の存在には本来口にできない言語であり、用法によっては使用者は非致傷ダメージを受け、大きく消耗する。
善属性でない者がこの言葉を口にしようとすれば、直ちに発狂するか即死する。
 
『召命』:
パラディン(聖騎士)となるべき者がいつの日か聞く、運命の呼び声のことである。
多くのパラディンは若い頃にこの声を聞くが、必ずしもそうとは限らない。
パラディンになるとは慈悲と信念を持って悪を討ち、善と秩序を守るべしという召命の声に答えること、すなわち自分の運命を受け容れることである。
どれほど勤勉な者、意志の強い者であっても、そのような素質無くしてパラディンになることはできない。
しかし召命の声、すなわち自分の運命を拒否して、他の何らかの人生を送る道を選ぶ者はいる。
全てのパラディンはこの召命の導きを通して互いの間に文化、種族、宗教さえも超越した永遠の絆を認め、自分たちは仲間だと考える。
 

83 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/02/18(火) 01:08:08.12 ID:tCWjd4be.net
今回は以上です。
相変わらずのんびりした進行ですが、こんな具合でやっていこうかと思っております。

またできるだけ早く続きを書いていきたいと思います。
支援してくださった方、ありがとうございました。
では、失礼いたします(御辞儀)

84 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/18(火) 19:04:55.04 ID:gZ9VKV1E.net
乙!
これからシエスタがどう成長していくのか楽しみです

85 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/18(火) 19:39:10.62 ID:mjW8mYpw.net
ディーキンさん来てた!乙!

86 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/20(木) 20:29:06.27 ID:6DCYIyPv.net
ディーキンはなんだ、ああいうのはかっこかわいいとでもいうのかな

87 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/21(金) 14:19:14.31 ID:uBjzr+Ol.net
なんか、転載禁止とかいろいろ騒がれているけど
SSもまとめに乗せるの禁止かな?

88 :ゼロのルイズと暴君怪獣:2014/02/21(金) 20:55:27.10 ID:0kTEgI/F.net
9時から第一話を投稿します。
初心者ですがお許しください。

89 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/21(金) 20:58:34.60 ID:0kTEgI/F.net
追記:ウルトラシリーズから暴君怪獣タイラントを召喚します。

90 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/21(金) 21:00:29.97 ID:0kTEgI/F.net
これから投下します。

91 :ゼロのルイズと暴君怪獣@:2014/02/21(金) 21:03:43.21 ID:0kTEgI/F.net
01ー暴・君・召・喚
ハルケギニア大陸トリステイン王国トリステイン魔法学院
現在、ここでは今年の春に晴れて二年生になった生徒達の『春の使い魔召喚の儀式』が行われている。
召喚されるのは例えば隕石形態のアクマニア星人みたいなひとつ目の生物、巨大な土竜、青いドラゴン、再生怪獣じゃない方のポ○モンのヒト○ゲみたいなサラマンダー等であり、残りの生徒はルイズただ一人である。

(大丈夫、次こそは上手くいくはず)

そのルイズは今、7回目の召喚を行おうとしている。この儀式は成功させなければ二年生に進級することが出来ない重要なものである。他の生徒なら一発で成功することだがルイズの召喚はことごとく失敗し爆発するだけであった。

92 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/21(金) 21:08:42.59 ID:0kTEgI/F.net
「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ! 神聖で美しくそして強力な使い魔よ!  私は心より求め訴えるわ! 我が導きに答えなさいっ!!」

ルイズが呪文を唱えると今までよりも大きな爆発が起こる。

「また失敗かよ!ゼロのルイズ!」

他の生徒から罵声が来るが、ルイズは感じていた。

(確かに手応えはあった…!)

土煙が消えた時、そこには異様な生き物がいた。

「これは…」

その生き物の身長は2メイル程で顔はドラゴンの様だが鼻先から大きな角が生え、二つの大きな耳、右手には鎌、左手には刺の付いた鉄球、五角形の口が付いた腹、トウモロコシの様な鱗の足、何本も刺が生えている背中、横に刺の生えている長い尻尾を持っていた。
その生き物はハルケギニアには恐らく存在しない。
それは、別世界の宇宙で怪獣、超獣、星人の怨念から生まれた怪獣、『暴君怪獣タイラント』だった。

93 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/21(金) 21:10:51.60 ID:XIx3vI9s.net
>>91
文の区切りが短いのは文字数制限なんかの理由でもあるんですか?
まさか書きながらの投下じゃないですよね?

94 :ゼロのルイズと暴君怪獣B:2014/02/21(金) 21:14:31.04 ID:0kTEgI/F.net
 
この召喚よりも少し前、とある宇宙のとある惑星。

「グギャオガァァァ!」
「ゼェットォン…ピポポポポポ…」

暴君怪獣タイラントと宇宙恐竜ゼットンが戦闘を繰り広げようとしていた。
戦闘といっても縄張り争いの様なもので、タイラントとゼットンの強さは互角といったところだろうか。

「グガアァァァァ!」

先に攻撃を仕掛けたのはタイラントだ。タイラントが鎖鉄球を飛ばすが、ゼットンはテレポートで回避し、攻撃に入ろうとする。
その時であった。
ゼットンがいたところの後ろに丸い鏡の様なもの(直径50メートル)が現れ、その中にタイラントの鎖鉄球が入ってしまった。タイラントはすぐに鎖鉄球を戻そうとするが、逆に鏡に吸い込まれてしまった。

「グギュオォォォォ!?」
そして、その鏡の様なものは跡形もなく消え失せた。
「ピポポポポポ…?」

いきなり目の前から敵が消え、ゼットンには一体何が起きたか分からなく、ただタイラントがいたところを見ているだけだった。
 

95 :ゼロのルイズと暴君怪獣C:2014/02/21(金) 21:30:26.56 ID:0kTEgI/F.net
 
さて、場所はトリステイン学院に戻る。

(え!?何なの!?この生き物は!?)

ルイズは自分が召喚した見たことのないその生き物に内心戸惑っていた。

「おい!あそこに何かいるぞ!」
「ゼロのルイズが使い魔を召喚したわよ!」

気付いた生徒達がルイズに召喚された使い魔に驚く。

「これは見た事の無い生き物ですね…詳しい事は図鑑等で詳しく調べないと分かりませんが、 とにかく、サモン・サーヴァントの成功です。おめでとう、ミス・ヴァリエール。さあ、儀式の続きを」
「あ、有り難う御座います!コルベール先生!」

儀式を監督していた教師のコルベールが使い魔に視線を送りつつ、ルイズを称賛した。
教師に褒められた事が魔法関係で皆無に等しかった彼女は内心戸惑いながらも喜んだ。
そして未だに周りの騒ぎに気付いかず現在の状況に驚き呆然としているタイラント(なぜか2メートルに縮小)にルイズは言った。

「わ、我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ。」

言葉と共に杖を振り、慎重にその牙だらけの口に自らの唇を重ねた。
 

96 :ゼロのルイズと暴君怪獣:2014/02/21(金) 21:41:21.70 ID:0kTEgI/F.net
>>93
始めに書いたように自分はド素人でして、一応書き貯めはしましたが、こんな感じです…
まだまだこんな素人ですが皆さんのご意見、質問を待っています。





好きな怪獣はバジリスです(ボソッ

97 :ゼロのルイズと暴君怪獣:2014/02/21(金) 21:50:57.72 ID:0kTEgI/F.net
追記:タイラントとの身長差を忘れてました。コルベールにレビテーションしてもらったと脳内補完してください。
なるべく早く投下するよう善処します。

98 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/21(金) 23:02:42.52 ID:04JolZpY.net

ディーキンさんが来てなかったらこのスレはウルトラ作品専門になったのかと思うとこだな

言いたいことはいくつかあるが

・sage進行と>>1に書いてあるはず
・他の作品を見ればわかるだろうが一話はもう少し長く書くべき
・あらかじめtxtにでもまとめて推敲が済んだ文章を投稿すること
・タイラントなんか召喚してちゃんと話が続くの?

99 :ゼロのルイズと暴君怪獣:2014/02/21(金) 23:37:09.66 ID:0kTEgI/F.net
申し訳ございません。
sageるのを完全に忘れてました。タイラント自体はガンダールヴの効果で強化されている設定にするつもりですが、腕の問題でデル公と破壊の杖は犠牲になります。

100 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/22(土) 00:50:27.15 ID:ZWf6DcPG.net
さっき第9地区見たんだけど、もしあの宇宙船が来たのがアフリカじゃなくトリスタニアだったらどうだろうか。

101 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/23(日) 23:11:01.65 ID:6HRL7Q4X.net

間違いは改めて、少しずつうまくなっていけばいいんです

102 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/24(月) 23:07:16.35 ID:I/JVElAR.net
>>96
3〜40行くらいずつドバッとコピペするといいよ

103 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/02/26(水) 16:45:02.04 ID:L5p4H02M.net
タイラントねえ
ちょっとゾフィーチャンネル視聴してくるわ

104 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/03/02(日) 20:13:04.36 ID:QQoc+Ev5.net
皆様お久し振りです。
よろしければまた、20:30頃から続きを投下させてください。

105 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/03/02(日) 20:30:05.44 ID:QQoc+Ev5.net
 
…… あー、タバサ! まって、まって! ……
 
フライの呪文で空を飛んで魔法学院の厩舎へ向かっていたタバサは、思いがけず背後から聞き覚えのある声を掛けられて僅かに顔を顰めた。
 
今でなければむしろ歓迎する(彼女を知る者にとっては驚くべきことだが)ところだ。
先程の決闘についてや彼の故郷の話など、聞きたいことが沢山ある。
だが今、自分は急いでいるのだ。
彼とのんびり話し込んでいる暇などない。
無視してしまおうか?
 
しかし、すぐに思い直した。
彼とは今朝から縁があるし今後聞いてみたいことも多いし、自分の使い魔とも仲良くしてもらうつもりだ。
なのにここで無視したりして印象を悪くしたくはない。
それに彼は、自分が今急いでいる理由とも無関係ではないのだから。
 
やむなく止まって声のした方へ向き直ったが、幸いそう待たされることはなかった。
ほんの数秒後には声の主であるディーキンがタバサの傍に到着する。
その様子を見ていたタバサは内心少し驚いた。
体格と翼の大きさの比率から見て大したスピードは出せないと踏んでいたのだが予想外に速い。
おそらく最速の部類の馬にも引けを取らないだろう。
 
ちなみにディーキンがこれだけ速く飛べるのは移動速度を増加させるマジックアイテムを常時着用しているお陰である。
本来はこの半分くらいの速度だ。
 
「何の用?」
「ンー…、ディーキンはタバサが急いでどこへ行くのかと思ったの。
 今は授業の時間じゃないの?」
「急用ができただけ」
 
一言だけ答えると、すぐに元の方へ向きを変えて飛ぶのを再開しようとする。
先程授業中に好奇心と気遣いから声を掛けてくれたのはありがたかったが、今は逆に迷惑だった。
一時も惜しい時に、単なる好奇心で呼び止められて無駄に時間を浪費したくはない。
 
ディーキンはタバサの相変わらず無表情ながらも相当急いだ様子を見て首を傾げた。
 
「ウーン…、もしかしてタバサの使い魔がどうかしたの?」
 
それを聞いたタバサはぴくっと眉を動かして、厩舎の方へ向かって飛びながらもちらりと背後に目をやった。
ディーキンは翼を羽ばたかせて、しっかりと自分の後ろについてきている。
 
「何故?」
「ええと、さっきのお話でタバサは使い魔が今お使いに行ってて、たぶんお昼頃までには戻って来るって言ってたよね。
 でも、急ぎの用事でドラゴンがいるなら普通は自分で飛ばないでそれに乗って出かけるでしょ?
 もうお昼はとっくに過ぎたのにまだ戻って来てないのなら、その使い魔に何かあったのかなって思ったの」
 
――――やはりこの亜人は鋭い、と、タバサは内心で唸った。
 
フェイルーンという地のコボルドが皆そうなのか彼が特別に優秀なのかは分からないが、観察力も洞察力も優れている。
なのに自分の使い魔ときたら……、いや、それはもう考えまい。
 
「感覚の共有で調べた。あの子は今、人攫いに捕まってる」
「……? ええと、この辺にはドラゴンを捕まえるような人攫いがいるの?
 それって巨人とかデーモンとかなのかな」
 
ドラゴンを捕まえるというと、成体になる前の白竜(ホワイト・ドラゴン)を番犬に使う霜巨人(フロスト・ジャイアント)のような連中か…。
もしくはある種のフィーンドなら徒党を組んでそんなこともやるかも、というくらいしか想像できない。

106 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/03/02(日) 20:32:02.73 ID:QQoc+Ev5.net
 
そういえば前の主人も以前に霜巨人に痛い目に会わされたことがあったとかで苦手意識を持っていたな、と思い出す。
自身はカニアの氷原でその霜巨人を大勢倒しているのだが、それでも自分は前の主人より遥かに強いとはまったく考えないあたりがディーキンらしい。
 
「ただの人間、おそらくメイジが含まれている。
 見てなかったけど多分、人間に変身している間に騙されて捕まっただけ。
 向こうはドラゴンだとは知らないはず」
「ああ……、でも、ドラゴンなら自分で逃げられないの?
 そんなにすごい人攫いなのかな」
「あの子は経験の浅い幼い竜。
 縛り上げられたら一人で逃げるのは難しいし、周りに他にも捕まっている子がいる」
 
タバサは飛び続けながらも淡々とディーキンの疑問に答えていく。
彼には既に自分の使い魔の事を打ち明けているのだし、事実を説明しても構うまい。
そうこうしているうちに厩舎の傍まで来たので、タバサは高度を下げた。
 
「つまり、タバサは自分の使い魔を助けに行くんだね。
 どこに行けばいいかは分かってるの? ちゃんと間に合う?」
「連中は攫った子を荷馬車で運んで、ゲルマニアに売り飛ばすつもり。
 荷馬車はちゃんとした道以外は走れないから国境の関所を通らなければならない。
 馬でそこへ向かう」
 
もちろん関所では積荷を改められるが、普段からこういった仕事に手を染めているのなら担当の役人は買収済みだろう。
ならばこちらは単騎の馬で最短距離を通って先に関所へ向かい、現場を押さえて一網打尽に捕えてやればいい。
 
「オオ、なるほど…… タバサは頭いいの」
 
ディーキンはタバサの明確な方策に素直に感心する。
しかし、タバサは間に合うのかという質問には答えなかったことにもちゃんと気が付いていた。
話をする間も止まろうとしないこの急ぎようからすれば、かなり危ういのだろう。
 
実際、タバサは果たして間に合うかどうか確証が持てていなかった。
もっと早く気付いていればと、内心で歯噛みをする。
いくら道草や買い食いをしていたにせよ、昼食の時間を過ぎてもなお戻らない時点で本来ならば気が付いていてよかったはずだ。
だが昼食中に突然始まった決闘に気を取られ、終わった後にもそこで見た多くの出来事について考えに耽り。
漸く自分の使い魔の事を思い出して感覚共有を行ってみた時には、既に間に合うかどうか怪しい状況になってしまっていた。
 
(いまさら悔やんでも始まらない)
 
タバサは自分にそう言い聞かせる。
今はとにかく全力で急ぐしかない、それで間に合わなければ国境の外まででも追いかけていく覚悟だ。
ガリア本国にいる自分の仇たちには不審がられてしまうかも知れないが、他にどうしようもない。
メイジとして自分の使い魔を見捨てるわけにはいかないのだから。
 
ディーキンはタバサの横に並んで地面に降り立つと、厩舎へ向かおうとするタバサの袖を引っ張る。
 
「待って。ねえタバサ、もしかして間に合わないかもしれないの?
 だったらディーキンがお手伝いするよ」
「………、手伝い?」
 
それを聞いて、手を振り払って先を急ごうとするタバサの動きが止まった。
 
「ディーキンが馬よりも早く移動する方法を用意するよ。
 それと、一緒について行ってその人攫いを退治するお手伝いをするの、どう?」

107 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/03/02(日) 20:34:44.56 ID:QQoc+Ev5.net
 
それを聞いて、タバサは少し考え込んだ。
どんな方法なのかは想像もつかないが、この亜人がいろいろと不思議な魔法を使えるのは間違いない。
それに頭もいいし、信頼のおける人物だとも思っている。
だから馬よりも早く移動する方法を用意できると彼が言うならばそれは事実なのだろう、その点は疑ってはいない。
力を借りるかどうかという点についても、悩むような話ではない。
間に合わなければ使い魔の命に関わるのだ、早く行ける方法を用意できるというのならばこちらから頭を下げてでも頼むべきところ。
唯一の問題は―――――。
 
「………その方法は、あなたが一緒についてこなければ駄目?」
「ン? アー、いや……、そうでもないけど」
「それなら、ぜひお願いする。
 けど、行くのは私一人でいい。あなたはここに残って」
 
それを聞いて、ディーキンは顔を顰めた。
 
「なんで? ダメだよ、ディーキンを連れてって!
 一緒に行かなかったらあんたの物語が書けないよ、ディーキンは自分の使い魔をカッコよく助けるメイジのお話が書きたいの」
 
タバサは抗議するディーキンに対して淡々と理由を説明する。
 
「これは私の問題で、あなたはルイズの使い魔。
 相手は人攫い。あなたを私のために危険な目にはあわせられない」
 
それに彼は奇妙な魔法を使うとはいえ幼児のごとく小柄な亜人だし、実戦で役に立つのかどうかもよくわからない。
相手はメイジを擁する人攫いで、おそらくは傭兵崩れか何かの集団だ。
自分は一人で戦うのに慣れているし、敵の実力にもよるが奇襲をかければ十分勝てる自信はある。
戦力か足手纏いかも未知数な者を下手に同行させない方が間違いが起こらなくていい、とタバサは考えている。
 
ディーキンはしばし首を傾げていたが、やがてまた口を開いた。
 
「タバサはディーキンに、自分の使い魔と仲良くして欲しいって言ってたよね?
 つまり、友だちになってくれってことなの、そうでしょ?」
 
タバサが首肯したのを見て、ディーキンは続けた。
 
「だったら困ってる時に助けに行かないなんて駄目だと思うの。
 人攫いに捕まってるのに助けに行かないとか、そんな友だちがいるの?」
「別に、必ずしも自分が助けに行かなくてもいいはず。
 自分にできることをすればいい。
 だからあなたは私に早く行く方法を貸してくれればそれでいい、後は私が助ける」
 
そう、何も力が無いのに無理に助けに行って殺される危険を負わなくても、自分にできることをすればいい。
平民なら、友人が人攫いに捕まった時は近くの貴族に知らせるとかするだろう。
それは賢明な対応であって、決して冷たい対応ではない。
自分は貴族であの子の主人なのだから、あの子を助けるのは私の役目だ。
 
「ふうん、それって、ディーキンにはタバサと一緒に行く力が無いって思ってるってこと?」
「そうはいわない。けど、私にはあなたの力がよくわかっていないのは確か。
 だからどのくらいあなたが助けになるのかわからないし、一人でもやれると思う」
 
ディーキンはそれを聞いて、ひとつ首を傾げるとじっとタバサを見つめた。

108 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/03/02(日) 20:38:23.44 ID:jminZEc0.net
 
「なら、タバサは賢いし強そうだけど、冒険者には向いてないの」
「? ……どういうこと」
「冒険者なら、みんなと力を合わせるってことだよ。
 自分の持ってない力を持ってる仲間と協力できない冒険者は生き残れないからね」
「……私は一人で戦う方が慣れている」
「ボスだって一人でも十分強いけど、自分だけで旅をしようとはしないよ。
 一人でも強い人がみんなと力を合わせたら、もっともっと強いの。
 ディーキンはボスやみんなと力を合わせてきたから、今もこうして生きてるんだよ」
 
自分一人でやれると思って単身でダンジョンへ踏み込んで行く冒険者など、ものの数分でモンスターの餌か罠の錆になるのがオチだろう。
どんなに強かろうと戦士や魔法使いには罠は外せないし、罠を外せる盗賊には護衛が必要だ。
 
熟達した冒険者なら、多少事情は違うかもしれない。
だがしかし、どんなに腕の立つ冒険者であろうともミスは必ず犯すし、運が悪い時もあるものだ。
そうしたときにフォローしてくれる仲間がいなければ、ほんの少し歯車が狂っただけでもすぐに命を落としてしまうことになる。
 
ディーキンはタバサがそんなことにならないか心配なのだ。
それに彼女がそれなりに強いだろうことはわかっているが、一人で何でもできるほど強いとも思えない。
敵の強さもよく分かっていないというのに、彼女一人で大丈夫だろうなどと高をくくってそのまま行かせるなどありえない話だ。
 
なお今回の話と関係はないが、ディーキンがタバサが冒険者に向いてなさそうだと思った理由としては眼鏡をかけている事も挙げられる。
冒険者にとって<視認>の技能は大変重要であり、目が悪い冒険者なんてまず見かけないのである。
 
「―――でも、……」
 
タバサは思わず少し感情的な反論を口にしそうになって、慌てて口を噤んだ。
彼の機嫌を損ねてやっぱり手助けしないなどと言い出されては元も子もない…まあ、まずそんなことは無いとは思うが。 
いやそれよりも、こんなふうに押し問答をしている暇はないのだ。
彼を説得するのは難しそうだしそうしている時間もない、どうしたものか。
 
そんなタバサの内心を知ってか知らずか、ディーキンは更に交渉を続ける。
 
「ディーキンがルイズの使い魔だからタバサの手助けはダメっていうのも違うの。
 使い魔が攫われて一人で助けに行こうとしてる友達を黙って見送るなんて、ルイズならしないはずだよ。
 だから、ディーキンだってそんなことはしないの。
 それこそルイズに対して恥ずかしいことだからね、そうでしょ?」
「………友達?」
「そうだよ、タバサはディーキンの友達だからお手伝いをさせてほしいの。
 それにタバサもきっと英雄になれる人だと思うし、ディーキンは親しい英雄の物語ならぜんぶ見逃さずに書きたいからね」
 
そう言ってぺこりと御辞儀するディーキンを、タバサは不思議そうな目で見つめた。
この子はどうして先程知り合ったばかりで何の恩義もなく、同族でさえない異種族の娘を疑いもなく友達と呼ぶのだろう?
どうして危険も顧みずに手助けを申し出てくれるのだろう?
そういえば先の決闘の時にも物語を書きたいからなどと言っていたが、そんなことが彼にとってはそれほど大切なのだろうか。
彼の種族は皆こうなのか、それとも彼自身の性格なのか………。

109 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/03/02(日) 20:40:10.85 ID:jminZEc0.net
 
タバサはしばし急いでいることも忘れ、無表情な顔を微かに曇らせて悩む。
ディーキンは彼女にとって、様々な面から少なからず心をかき乱す存在だった。
深く考えると、ともすれば心がぎすぎすとささくれ立ちそうにさえなってくる。
 
けれどタバサはそこでふと、一年程前に親友から『友達になってあげる』と言われた時の事を思い出した。
先程の『タバサはディーキンの友達』という言葉がそれと重なる。
それらの言葉を胸の内で反芻しているとなにか、あの時と同じ温かい感情が沸き起こってくるような気がした。
 
ささくれ立ちそうになった気持ちが急速に鎮まっていく。
俯いたタバサの顔からすっと陰りが消え、代わりに口元に僅かにはにかんだような微笑みが浮かんだ。
 
「……わかったから、顔を上げて」
 
そうだ、今はそんなことを悩んでいる場合ではなかった。
そしてゆっくりと感傷に浸っている場合でもない。
 
タバサはディーキンが顔を上げるのを確認すると地に片膝をつき、同じ高さで向かい合うと今度は自分の方から頭を下げた。
 
「頼むのは私の方、よろしくお願いする。
 あなたの主人には後で私から説明して謝る、だから急いで準備を」
「やった! ディーキンは英雄と友達のためならいつでもでかける準備はできてるよ!
 それにいい物語とか、ケーキとか、あったかいポテトシチューのためでもね。
 ええと、あと、他にも」
「急いで」
「ああ、うん――― ごめん、ディーキンは急ぐね…」
 
ディーキンは急かされてあせあせと背中の荷物袋に手を突っ込むと、一本のロッドを取り出す。
それを見たタバサは、少々首を傾げた。
 
(杖を使う?)
 
確かに彼の呪文は先住魔法ではなく歌の魔法であり、どちらかといえば系統魔法に近いという説明は既に受けている。
だが先程の決闘でメイドを魔法で手伝った(そうに違いないとタバサは確信している)時には楽器を手に持っていて、杖などは使っていなかったはず。
だから先住魔法と同様杖が無くても使えるものだとばかり思っていたのだが…、そうとは限らないのだろうか。
またひとつ後で聞きたいことが増えた、とタバサは内心でひとりごちた。
 
なおディーキンが取り出したのは、《呪文持続時間延長の杖(メタマジックロッド・オヴ・エクステンド)》というマジックアイテムである。
この杖を通して発動した呪文はその持続時間が2倍に伸びるという便利な代物で、冒険者には愛用している者が多い。
関所に到着するまでどの程度かかるのか分からないため、万一にも途中で効果が切れたりしないように念の為使っておくつもりなのだ。
 
ディーキンは取り出した杖を握ると、それでコンコンと二、三度地面を叩いて歌うように呪文を詠唱し始めた。
朧な影のようなものが呪文に応じて湧きだし、固まって、何かを形作っていく。
 
「……………!」
 
タバサは驚きから僅かに目を見開いた。
これは、系統魔法の錬金などとは明らかに様子が違う。

110 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/03/02(日) 20:42:10.33 ID:jminZEc0.net
 
数秒の後に呪文が完成すると、そこには一体の生物が形成されていた。
体は黒く鬣や尾は灰色で、奇妙な煙で彩られた蹄を持ち、鞍やはみ、手綱などをしっかりと身に着けている。
 
それを見たタバサの顔が、今度は困惑でやや顰められた。
多少奇妙な見た目ではあるが………これは明らかに、
 
「…馬」
「そうなの」
「あなたは馬より速い移動手段を用意すると言ったはず」
「大丈夫、この馬は普通の馬なんかよりずっと、ずうーっと速いの。
 空を走ることだってできるんだよ!」
 
ディーキンが胸を張って自信たっぷりに請け負うのを見て、タバサは考え込む。
確かに魔法で作り出したのだから普通の馬とは違うのだろうが、構造が馬そのものである以上そこまで極端に速さが違うものなのだろうか。
 
彼の使う呪文自体が今のところかなり不可解な要素の多いものなので考えても仕方ないのかもしれないが、それでも気になる。
何分タバサは、知識欲も好奇心も強い性質なのだ。
 
系統魔法のゴーレムは普通の生き物と変わらないように動かす事が非常に難しく、大型であるほど目に見えて動きがぎこちなくなる。
人間大ならばギーシュのワルキューレのように概ね人間と同じような動きをさせることも可能だ。
だが馬は人間よりは大型だし、四足歩行なので人間にとって馴染みがない動作をさせねばならない点もネックになる。
普通の馬と同様に走れる馬型ゴーレムとなると、スクウェアクラスの熟達したメイジでも即席の呪文ひとつでは作れるかどうか。
ましてや普通の馬より遥かに速いものとくれば……。
 
(―――でも、それは普通の馬のように脚で走る場合のこと)
 
翼もないのに空を飛べるということは、フライの呪文と同じようなものがかかっているということだろうか。
それなら肉体構造と速さは関係なく、馬よりずっと早く飛ばすことも不可能ではないかもしれない。
彼が嘘をついているとも思えないし……まあ、少し大げさに言ってはいるのかも知れないが。
 
「分かった。あなたは私の後ろ?」
 
タバサは気を取り直すと出てきた馬の様子を確かめながらそろそろと跨り、ディーキンに確認を取る。
馬は一頭だがディーキンは人間の幼児ほどの大きさだし、タバサ自身も小柄だ。
もしかすると自分の翼で飛んでいくかもう一頭出すつもりなのかもしれないが、相乗りで十分だろう。
 
ディーキンは少し考えてから、首を横に振った。
タバサとの相乗りが嫌だとかいうわけではなく、この幽体馬(ファントム・スティード)には作成時に指定した一人しか乗れないのだ。
 
「ウーン、タバサが案内してくれたら、ディーキンは自分で飛んで着いて行くの。
 ちょっと待ってね……」
 
タバサの胸とか背中にしがみ付いて行くことはできなくもあるまいが、自分が小さいとはいえ流石に辛いものがあるだろう。
今日は既に結構呪文を使ってしまっているし本来なら節約したいのだが仕方ない、と結論してディーキンはもうひとつ呪文を唱えた。
歌うような詠唱に伴って体をほのかな光の帯が包み、光に霞んでぼやけた輪郭がみるみる縮んで変形していく。

111 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/03/02(日) 20:45:06.27 ID:jminZEc0.net
 
「…………!」
 
それを目の当たりにして、タバサは先程以上の驚きに目を瞠った。
 
変形が終わって光が消えると、ディーキンは僅か数秒の間にまったく別の形態に変貌していた。
鏡のようにきらめく美しい純白の鱗と、大きな翼、長い尻尾を持ち、四足歩行するそれは見た事もない種類ではあるし、大きさもあまりに小さい。
けれども間違いなく、これはドラゴンの一種であろうと認められるような姿であった。
 
博学なタバサは、韻竜が“変化”と呼ばれる風の先住魔法で自分の姿を変えられることは知っている。
風韻竜である自分の使い魔もその呪文を習得していることは確認済みだ。
 
しかし……、今の呪文はそれとは明らかに違う。
 
まず、彼は変身する前には鎧やら荷物袋やらを沢山身に付けていたはずなのに、影も形もない。
普通に考えれば術者は姿を変えれても着用していたものは変化しないから、壊れるか脱げ落ちるかするはずだ。
少なくとも変化の先住魔法ならそうなる。
それがどこにも見当たらないとは、一体どうなっているのだろう?
 
全部が全部なくなったわけではなく装身具などの中には残っているものもかなりあるが、それがなおのこと不思議だ。
どうして残るものと無くなるものがあるのか?
しかも残っているものも、明らかに元の姿の時とはサイズや形状が変化している。
呪文にそういう不可思議かつ便利な効果があるのか、それともそんな効果のあるマジックアイテムでも使用しているのか……。
 
しかも変化の先住魔法と違い、変身時に風の力が働いたような様子はなかった。
一体力の源は、原理はどうなっているのだろう?
 
あのドラゴンにしても、これまで読んだどんな本でも見た覚えのない種類だ。
翼や尻尾は目いっぱい伸ばせばかなり大きそうだが、胴体部分はネコくらいしかない。
まだ幼生の竜である(とはいえおそらく100年以上は生きているだろうが)自分の使い魔でさえ全長6メイルはあるのに。
生まれたての赤子か何かなのか、それともああいうとても小さい種類の竜なのか。
 
タバサの数々の疑問をよそに、ディーキンは変化した自分自身の姿を入念にチェックしている。
爪を見て、体を見て、翼をばさばさ動かしてみて、尻尾をぱたぱたさせてみて……。
首をあちこちへ回してそれらの様子を一通り眺め終わると、満足そうに胸を張った。
 
ディーキンが誇らしげにしているのは、この姿が彼が憧れを抱いていた形態、以前の主人と同じ白竜のそれであるからだ。
もちろん主人はもっとずっと、比べ物にならないくらい大きかったが。
 
「エヘン! どう、ディーキンはかなり、かなーり格好良くなったでしょ?
 今のディーキンはさしずめズーパーディーキンといったところなの、ヘッヘッヘ!」
「………」
「うーん、それとも“ディーキン・ザ・ズーパーマン”のほうがいいかな?
 超人みたいで格好良いし、ルイズやキュルケの名前もなんかそんな感じだったね」
「………。時間がない、ついてきて」
 
タバサはコメントに困ったので、とりあえず大義名分を盾にディーキンを促すと、手綱を握ってさっさと出発した。

112 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/03/02(日) 20:47:17.50 ID:jminZEc0.net
 



 
「すごい……」
 
空中を疾走する影の幽体馬(ファントム・スティード)の手綱をしっかりと握りながら、タバサは思わずそう呟いた。
 
何という速さだろう。
最初急ごうと思って全力で駆けさせた時には、速過ぎて危うく振り落とされかかったほどだった。
一旦馬を止まらせてから呪文で体に当たる風圧を遮断するシールドを張り、今度は慎重に手綱を握って幾分か抑えた速度で再度出発させた。
それでも余裕で使い魔を乗せた荷馬車より先に関所へ到着できるだろう。
ごく普通の馬の3倍…、いや4倍か、あるいはそれ以上にも速いかもしれない。
ペガサスやヒポグリフ、グリフォンなどといった幻獣類でさえも余裕で凌駕するであろう速さだ。
 
しかし、この不思議な馬にもまして驚きなのは…。
 
タバサはちらりと後方に目を向ける。
ディーキンはそのネコのように小さな体に比して大きい、幅2メイルを超える翼を高速で羽ばたかせて今も幽体馬の後ろをぴったりとついてきていた。
特に息を切らせたりしている様子もなく、十分に余裕がありそうだ。
 
「……シルフィードより、ずっと速い――― かも」
 
タバサはぽつりとそう呟いた。
 
この馬も、そして彼も。
まだ召喚して間もなくあまり乗ったこともないから確かには言えないが、風韻竜とはいえ幼生である自分の使い魔よりおそらくは速いだろう。
あるいは竜騎士が跨る火竜でさえ凌ぐかも知れない、しかも火竜よりも遥かに小さいため小回りも効くはずだ。
 
なんかうちの使い魔って本気でこの子に勝ってるとこ何もなくね?
とタバサは思い始めた。
メイジとしてそのような考え方はあまりよろしくないかも知れないが事実は事実、現実は非情である。
なんせ自分の使い魔は召喚してこの方こちらを舐めているっぽいし、愚痴っぽいし、馬鹿だし、勝手に金を使い込むわ迷惑はかけられるわ――――。
 
だからといって使い魔交換したいとかそんなことはメイジとして決して思わない…、いや多分思わない……、思わないように努力はするつもりだが。
 
そんなタバサの内心など露知らず、ディーキンが後ろから不思議そうに声を掛ける。
 
「タバサ、シルフィードってなんなの?」
 
高速で飛びながら今のつぶやきが聞こえるくらいにはディーキンは耳がいい、まあ冒険者なんだから<聞き耳>は取っていて何の不思議もない。
タバサは前を向いたままその疑問に答えた。
 
「私の使い魔」
 
ディーキンは少し首を傾げた。
 
「ええと……、タバサがイルククゥに別の名前を考えてあげたってこと?」
 
タバサがこくりと頷く。
 
「“風の妖精”って意味。先住の名前では不審がられる」
「オオ……、いい名前だね! それに気付いて名前を用意してあげるなんて、タバサは頭がいい上に優しい人だよ。
 それに詩人にも向いてるかもしれないの」
「そう」
 
大して興味なさそうに返事をするが、タバサの顔には若干照れたように頬に赤みが差していた。
ともあれ、目的の関所まではもうすぐだ……。
 

113 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia 解説:2014/03/02(日) 20:49:18.63 ID:jminZEc0.net
 
ファントム・スティード
Phantom Steed /幻の乗馬
系統:召喚術(創造); 3レベル呪文
構成要素:音声、動作
距離:0フィート
持続時間:術者レベル毎に1時間
 術者は半ば実在する馬のようなクリーチャーを創造する。
この乗馬には術者1人か、術者が他人のために作成した場合その人物1人が騎乗することができる。
ファントム・スティードは体が黒く灰色の鬣や尻尾、煙で彩られた音を立てない非実体の蹄を持ち、鞍やはみ、手綱のように見えるものを着けている。
この乗馬自身は戦うことはないが、普通の動物は皆これを避けようとし、交戦を拒む。
乗馬のACは18、hpは7+術者レベル毎に1ポイントで、hpを全て失うと乗馬は消える。
移動速度は術者レベル毎に20フィート(最大240フィート、普通の馬の移動速度は種類によるが40〜60フィートなのでその4〜6倍相当)である。
最高速度の乗馬が全力で疾走した場合の速度は計算すると170km/h以上で、竜騎士が乗る火竜は約150km/hとされているためそれを上回る。
また、術者レベルが上がるにしたがって乗馬は地形による移動制限を無視したり、水面を疾走したり、空中を走ったりといった様々な特殊能力を得ていく。
バードの呪文リストには含まれていないが、シャドウ・カンジュレーションでの効果模倣ならばバードにも使用できる。
 
オルター・セルフ
Alter Self /自己変身
系統:変成術(ポリモーフ); 2レベル呪文
構成要素:音声、動作
距離:自身
持続時間:術者レベル毎に10分
 術者は自分と同じクリーチャー種別でサイズ分類の差が1段階以内である、術者レベル毎に1ヒットダイス(最大5HD)までのクリーチャーに変身する。
どのような姿に変身しても能力値やクラス・レベルなどの元の姿の能力の多くはそのまま維持される。
術者は変身先の姿の持つ移動能力や肉体武器、外皮によるACボーナスなどある程度の能力を得るが、超常能力や呪文能力は一切得られない。
変身先の姿に合わない装備品は変身中は肉体に融け込み、機能しなくなる。
術者は変身する種族の正常範囲内でなら、髪や肌の色や質感といった細かな肉体的特徴を選択できる。
この呪文を<変装>のために用いると、判定に+10のボーナスを得られる。
なお、普通のコボルドは種別が人型生物なので人間やエルフなどの人型生物に変身するがディーキンの場合は種別が竜なので竜に変身する。
ただし5HD以下でサイズ分類が超小型〜中型(猫〜人間程度)の、非常に限られた範囲の竜にしかなれない。
例えば何種類かの真竜のワームリング(ホワイト、カッパーなど)やスードゥ・ドラゴン(偽竜)などに変身が可能である。

114 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia 解説:2014/03/02(日) 21:06:34.11 ID:jminZEc0.net
 
ホワイト・ドラゴン(白竜):
表記は白龍と書く方が格好良いような気もするが、最近はその表記ではメンタルが豆腐な感じに思われそうなのでとりあえず白竜としておく。
フェイルーンの真竜族の中では最も小柄で知性が低い種であり、彼らは一般的に知性より本能を重視する動物的な捕食者である。
しかし年かさの者は少なくとも人間と同程度には賢く、幼い者でさえ単なる肉食動物とは一線を画する知性を持つため、愚かな生物と考えるのは間違いである。
彼らは住処の周囲数マイルに渡って最上の待ち伏せ場所を全て知っており、戦闘時や己の縄張りを守る際などには特に狡猾に立ち回る。
全身を純白に輝く鱗が覆っており、その顔つきからは狩猟動物の如きひたむきな凶暴さが窺える。
彼らは火には弱いが冷気に対しては完全な耐性を持ち、蜘蛛のように凍った表面を滑らず自由に登攀する事ができる。
凍結させた食べ物を好み、広範囲に極低温のブレスを吐いて敵をまとめて凍らせるとそのまま平らげてしまう。
ある程度以上高齢の個体は呪文や疑似呪文能力も使いこなす。
霜巨人(フロスト・ジャイアント)はよく幼い白竜を捕えて番犬として使う。
しかし白竜が成年以上に達すると力関係は逆転し、逆に白竜が霜巨人の部族を服従させるケースもある。
D&Dでは年齢が0〜5歳の段階のドラゴンの事をワームリング(雛)という。
100歳を超えるとアダルト(成年)に達するがその後も成長は続き、“黄昏”と呼ばれる最晩年を迎えるまで衰えることなく強大化し続ける。
彼らは真竜としてはもっとも寿命が短い種であるが、それでも寿命は平均で2100年以上である。
ホワイト・ドラゴン・ワームリングの体の大きさは猫ほどしかないのだが、長い首や尾を含めると全長は4フィート、翼を広げた最大翼幅は7フィートにもなる。
成年のホワイト・ドラゴンは全長31フィート、最大級の個体は全長85フィートにも達し、翼幅はそれ以上にも大きくなる。
彼らは移動能力全般に優れており、ワームリングでさえ地上を最も早い乗用馬に匹敵する速度で走り回り、その2.5倍もの速さで空中を飛ぶことができる。
加えて走るのと同じ速さで水中を泳いだり、人間の地上移動速度に匹敵する速さで地面を掘って移動したりすることもできる。
主人がホワイト・ドラゴンであったためにディーキンはこの種に思い入れがあるようで、原作中でも自分の翼が白でないことを残念がる様子が見られた。
 

115 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/03/02(日) 21:12:06.79 ID:jminZEc0.net
今回は以上になります。

なおNWNはD&D3.0版時代のゲームですし、TRPG版3.0と比較してもルール自体も大分違いがあります。
この作品では基本的にNWNゲーム準拠ではなく3.5版準拠で、呪文その他の習得枠などもそのに準じて見直しております。

できるだけ早く続きを書いていきたいと思いますので、またの機会にもどうぞよろしくお願いいたします。
それでは、本日はこれで失礼します(御辞儀)

116 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/02(日) 21:38:17.41 ID:oPUCOYB7.net
up乙

未だ3.5版を遊んでいる身としては、今一番の期待作です。

117 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/03(月) 19:22:52.27 ID:peSPIB7V.net
おお、速い目にディーキンの続き来てた乙ー
ところで、スーパーでなくてズーパーなのは、
ディーキンの口調が訛ってるの?

118 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/03(月) 20:02:09.06 ID:iHdkH0/Y.net
>>117
『LOCKE THE ZUPERMAN(ロック・ザ・ズーパーマン)』および/もしくは『ズーパーアドラー』
ネタ気味の発言だと思われる

119 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/04(火) 01:18:11.36 ID:q98Ma9c1.net
乙でした
>>112
良かった、サラマンダーじゃなくて……

120 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/04(火) 01:51:12.49 ID:cFDlnv4W.net
ディーキンはバード知識の賜物なのか結構地球知識っていうかネタ的な発言もしてるよね

白龍で豆腐というと……マギか

121 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/03/04(火) 22:42:26.01 ID:UDeh3CVW.net
一ヶ月ぶりくらいの投下させてもらいます。ウルゼロ魔の人です。
投下は22:45から。

122 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/03/04(火) 22:45:22.85 ID:UDeh3CVW.net
ウルトラマンゼロの使い魔
第三十二話「爆弾魔星人」
サーベル暴君マグマ星人
銀河星人ミステラー星人(悪)
緑色宇宙人テロリスト星人 登場

「……平賀くん」
「んんッ……」
「平賀くんってば」
 春奈の声に呼ばれて、才人は目を開いた。
「ああッ、ごめん……。トリスタニアに着いたんだね?」
 顔を上げながら問いかけると、目の前の春奈が苦笑を浮かべた。
「全く……。何を寝ぼけてるの? もう下校時間でしょ」
「……!? あれ、ここは学校じゃないか」
 目をこすって辺りを見回した才人は、一気に寝ぼけ眼が覚めた。今彼がいる場所は、ハルケギニアに
召喚される前には毎日通っていた高校の教室。春奈も自分も、着慣れた制服を着ている。だが、
どうして学校? 才人は今日の出来事を思い返す。
 まず、ソドムの事件の際に春奈が目立ったことで、学院に春奈の存在が発覚。その件で
校長のオスマンに呼び出されたのだ。学校の掟を破ったルイズたちなのだが、春奈が才人の
世界の人間であること、才人のクラスメイトだということ、理由は分からないが宇宙人たちに
狙われていて、それでかくまっているということを必死に説明すると、オスマンは理解を
示してくれて、特別に春奈の滞在を許可してくれた。
 それで一件落着かと思いきや、その場でオスマンから、アンリエッタがルイズたちを呼んでいることを
話した。それでルイズと才人は、すぐにトリスタニアに発つことになった。春奈のことを報告する
ちょうどいい機会ということもあり、春奈も連れていくことにした。シエスタは留守番のはずだったが、
春奈と、主に才人の処遇を心配した彼女は便乗してきてしまい、放り出す訳にもいかずに、結局一緒に
行く羽目になった。
 こうして四人で馬車に揺られながら一路トリスタニアを目指していたが……それがどうして
こんな状況に?
「放課後になっても、平賀くんずっと寝てるんだもん。授業全部寝てたんじゃない?」
「え……寝てた?」
 春奈の呼びかけで、才人は混乱した。まさか、ハルケギニアでのこと全てが、自分が見ていた
長い夢だったのか?
「平賀くん、今日の日直でしょ? 早く学級日誌を書かないと」
「あれ、そうだっけ?」
 春奈に言われて、首をひねる才人。そんなこと言われても、才人には今日学校で過ごした
記憶は何もないのだ。困っていると、春奈は怒った顔になる。
「そうだっけって……今日は私と日直だったじゃないッ! 仕事、ほとんど私がやったんだからね」
「そうだったんだ……ごめん」
 怒らせてしまったことで、才人は慌てて謝った。が、彼女に怒りを収める様子はない。
「もう、平賀くん、ボサッとしてばかりだよ。……そんな平賀くんには、お仕置きしちゃうんだから」
「お、お仕置き?」
 ルイズみたいなひと言が飛び出たので、才人が驚いて春奈の顔を見返すと、更に驚く光景を
目にすることになった。
 春奈の顔にいつの間にか、白いおたふく顔の能面が被られていたのだ。
「は、春奈!?」
 しかもその能面の口から、火炎が噴射された。硬直していた才人は炎を全身に浴びる。
「待ってくれ、春奈! やめるんだぁ! うわあああああッ!!」

 自分の絶叫で、才人は馬車の中で飛び起きた。目の前には、ルイズの驚いた顔。
「サイトッ? どうしたの? 寝てたと思ったら、いきなり声を上げて」

123 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/03/04(火) 22:48:09.12 ID:UDeh3CVW.net
「サイトさん、悪い夢でも見たんですか?」
 隣のシエスタが尋ねた。斜向かいには、水筒の水を飲んでいたところの春奈が同じく驚いた目を
こちらに向けている。
「ここはどこ?」
 ぜぇはぁと息を切らす才人が聞くと、ルイズがすぐに答えた。
「まだ街道よ。それがどうしたの?」
「サイトさん、汗すごいですよ? どんな悪夢だったんですか?」
「平賀くん、もしかして、まだ風邪抜け切ってないの?」
「い、いや何でもない……」
 シエスタの質問を、才人はごまかした。春奈が攻撃してくる夢を見た、なんて言っても、
空気を悪くするだけだろう。
(どうしてあんな夢見たんだろう。春奈が怪物になって俺を襲う? そんな馬鹿な……)
「……?」
 才人の視線に気づいて、春奈は不思議そうに小首を傾げた。

 それから数刻後、トリスタニアに到着した四人は、早速トリステインの王宮を訪問した。
「わぁ、すっごく綺麗なお城! まるで、ファンタジーの世界に入り込んだみたい!」
「ふふ、当然よ。ここは由緒正しきトリステイン王国の、歴史のある王宮なんだからね。
城自体が、トリステインが各国に誇る財産の一つなのよ」
 廊下で春奈が、元の世界ではまず見られない光景に興奮してキョロキョロ辺りを見回すと、
ルイズがさも自分のことかのように胸を張った。だが、春奈はすぐに肩を落として寂しそうに
顔を曇らせる。
「春奈?」
「本当に……私、知らない世界に来ちゃったんだね。みんな、今頃元気にしてるかな……」
 現実世界と大きくかけ離れた光景は、却って春奈の孤独感をかき立ててしまったようだ。
それでルイズとシエスタも表情を落とすと、才人が春奈を元気づけた。
「そんな心配するなって、春奈! この世界にもウルトラマンが来てるんだ。侵略者たちを
撃退したら、きっと元の世界に帰してくれるさ」
「そうかな……?」
「ああ。だから、くよくよしてないで元気出そうぜ!」
「……うん! ありがとう、平賀くん」
 才人の激励で、春奈は少しだけ気力を回復させた。その様子を見ていたゼロは、心の中で
決意を固める。
(早いとこ、宇宙人連合とヤプールをとっちめて、春奈を元の世界に戻してやらないとな。
もちろん才人も……)
 そこまで考えて、才人は、どうするつもりなのだろうか……と、ふとそんなことを考えた。
普通なら、すぐにも地球に帰ることを選ぶだろうが、今の才人はルイズの使い魔の立場なのだ。
果たして、いざ帰れる日が来た時に、彼はどっちの道を選ぶのか?
 などと考えている間に、一行がアンリエッタに謁見する時がやってきた。

 人払いをされた謁見の間で、アンリエッタが一人でルイズたちを待っていた。ルイズの顔を
ひと目見たアンリエッタは、喜びを顔に浮かべて腰を浮かす。
「ああッ、よく来てくれましたね! ルイズ・フランソワーズ」
 ルイズはすぐにひざまずき、アンリエッタに頭を垂れる。
「姫さま、ご機嫌麗しゅう」
「ルイズ。あなたも相変わらず元気そうですね。顔を上げて下さい」
「はい……」
 自分を律しているのか、相変わらず最初はかしこまるルイズに苦笑したアンリエッタが
許可を出すと、ルイズは言われた通り顔を上げて立ち上がった。
「そちらの使い魔さんも、変わらないようですね。それと、そちらの女性は?」
 ルイズから才人たちに目を移したアンリエッタは、初対面のシエスタと春奈に目を留めた。
まずはシエスタが名乗る。
「はい。わたくし、魔法学院で給仕を務めております、シエスタと申します」
「あ、あの……。今回はわたしの給仕としてこの城へと連れてきています」
 勝手についてきた、とはさすがに言えないので、ルイズはそう言い訳した。アンリエッタは、
特に気にしなかったようだった。

124 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/03/04(火) 22:51:10.53 ID:UDeh3CVW.net
「シエスタさんとおっしゃるのね。どうぞよろしく。それと、もうひと方の彼女は……あまり
この辺では見かけない顔立ちのようですけど?」
「あ、あのッ、彼女は……」
 ルイズが説明に窮していると、春奈が緊張した様子で、自ら名乗った。
「あのッ……。初めてお目に掛かります。わたくし、高凪春奈と申します」
「タカナギハルナさんとおっしゃるのですね。学院長から報告のあった、使い魔さんや
ウルティメイトフォースゼロと同じ、このハルケギニアではない異世界から来られた方なのかしら?」
 アンリエッタは既に、オスマンからある程度のことを聞いているようだった。ルイズが
気を取り直して口を開く。
「そのことについては、これよりわたしが全てをお話し致します。姫さま、どうか落ち着いて
耳をお傾け下さい」
「分かりました、ルイズ。あなたの告白を、素直に受け止めましょう」
 それからルイズは、春奈を偶然拾ってから今日までのことを、隅々まで説明した。全てを
聞き入れたアンリエッタは、おもむろにうなずく。
「なるほど、大体のことは分かりました。学院長のおっしゃる通り、タカナギハルナは、
使い魔として召喚されたのではなく、ウチュウ人に拉致され、つけ狙われる理由も未だ
分かってないというのですね」
「はい」
 確認を取ったアンリエッタは、判断を下す。
「分かりました。タカナギハルナの身柄は、引き続きルイズ・フランソワーズに一任します。
ただし、事情が事情ですので、異世界から来たことを公にすることは禁じます。よからぬ陰謀を
抱く人たちに利用されるかもしれませんから」
「姫さまにご理解を頂けましたことを、深く感謝致します」
「女王様、ありがとうございます」
 ルイズと春奈が礼を告げると、アンリエッタが春奈に向き直った。
「ハルナさん」
「はい」
「いきなり異世界での生活。大変かもしれませんが、頑張って下さい。この使い魔さん同様、
いつか帰れる日が来るはずです」
「ありがとうございます!」
 アンリエッタとの、春奈の話がひと段落着いたのを見て、シエスタが口を開く。
「良かったですね。これで無事解決でしょうか?」
「ああ、そうだな」
 才人も頷いたが、ここに来てアンリエッタは、話題をガラリと変えた。
「ところで、ルイズのことをこうしてわざわざ呼び出したのには、別の理由があります」
「えッ……。そうなのですかッ!? わたしはてっきり、ハルナのことで呼ばれたのかとばかり……」
「いいえ。ハルナさんのことは今日初めて知りました。これからお話しすることは、ある意味、
深刻な問題です」
 目つきをやや鋭くしたアンリエッタは、春奈とシエスタの二人に告げる。
「ハルナさん、シエスタさん。すみませんが、席を外して下さいませんか?」
「はい、分かりました」
「それでは、失礼致します」
 二人には聞かせられない、物騒な内容の話のようだ。春奈とシエスタの二人が謁見の間から
退出すると、アンリエッタは面持ちを正す。
「では、本題に入ります。実は、先日の四体の怪獣の出現前後から、トリスタニアの各地で
爆弾によるテロ行為が続発しているのです」
「そうなのですか!」
 ルイズが驚きの声を上げると、ゼロがボソリとつぶやいた。
『道理で、街の被害地が多かった訳だ』
 アボラス、バニラ、グランゴン、ラゴラスの四怪獣との戦闘後に見下ろした街の景色と比べて、
トリスタニアの街並みは、崩壊した箇所が増えていたのだった。

125 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/03/04(火) 22:53:29.19 ID:UDeh3CVW.net
「犯人像は、未だに特定できていません。そして爆発の痕跡を調査した結果、爆弾はハルケギニアに
ない技術で作られたもののようなのです」
「とすると……それも宇宙人の仕業ということですか?」
「その可能性が高いでしょう」
 才人の問い返しに首肯したアンリエッタだが、そこで疑問を一つ提示する。
「しかしそうだとすると、やり方が迂遠なように思えます。始めにいきなり総攻撃を仕掛けて
ハルケギニア全土を落とそうとした時と比べたら、特に」
「そうですね……。今までは、もっと直接的な手段に訴えてきましたしね」
 これまでの侵略者の動向を思い返して同意するルイズ。ゼロを倒してハルケギニアを侵略しようと
目論む宇宙人たちが、街を爆弾で破壊するような遠回りな方法を取るとは思えない。
「モット伯の件もあります。ひょっとすると、狙いはトリステインそのものではないのかもしれません。
そこでルイズと使い魔さんには、爆弾魔の調査と、出来れば確保をお願いしたいと思います」
「お願いだなんて、とんでもありません。ラ・ヴァリエール公爵家が三女、ルイズ・フランソワーズが、
貴族の名に懸けて爆弾使いを姫さまの御前に連れて参りますとも」
 アンリエッタの頼みを、ルイズはすぐに請け負った。
「本当でしたらこんな危険なことを、友人であるルイズなどには頼みたくないのですが、
ウチュウ人に対抗できるのはウルティメイトフォースゼロ以外では、『虚無』の担い手の
ルイズと異世界人でガンダールヴの使い魔さん以外にいません。どうか、お願いします……」
「もったいないお言葉です。必ず、姫さまのご期待にお応えします」
「姫さまは、俺たちの吉報を楽しみに待っていて下さい」
 申し訳なさそうなシエスタに、ルイズと才人が胸を張って告げた。
「まぁ、頼もしいですわ。ルイズと使い魔さんの働き、信じていますよ」
 アンリエッタがにっこりと微笑んだその時に、異常事態が早速発生した。
 王宮の外から、激しい爆発音が起こり、それに合わせてかすかな震動が謁見の間に響いたのだ。
「んぅ……!」
「きゃあッ!」
「何!?」
 驚いた三人が反射的に悲鳴を上げた。才人が険しい目つきで顔を上げる。
「噂をすれば影が差す……とは、このことか!」
「上等じゃない。行くわよ、サイトッ! 姫さまは、安全なところに逃げて下さいッ!」
「ルイズッ!」
 才人とルイズが、すぐに謁見の間を飛び出そうとすると、アンリエッタがルイズを呼び止めて、
ひと言告げた。
「無理だけはしないと約束してね」
「もちろんですとも。さあ、早く奥へッ!」
 ルイズが毅然とした顔つきで了解した。一方の才人はデルフリンガーを早くも抜刀する。
「デルフ、ここからは俺たちの出番だ」
「ノってきたな、相棒ッ! 相手が相手だ。油断するんじゃねえぜ?」
「ゼロも、敵が本気で襲ってきた時は頼む」
『分かってるさ!』
 ゼロも応答すると、才人は爆音のした方向を一瞥し、ルイズに呼びかける。
「ルイズ、こっちだッ!」
「ち、ちょっと待ちなさいよ! 爆弾魔の奴、今に見てなさい。絶対に捕まえてやるんだからッ!」
 ルイズは気炎を吐いて、先行する才人の背を追い掛けていった。

 王宮を飛び出した才人とルイズの二人は、ブルドンネ街の爆発があったと思しき地点へ
たどり着いた。
「ここかッ!」
「ひどい……。辺りが滅茶苦茶じゃない」

126 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/03/04(火) 22:56:46.90 ID:UDeh3CVW.net
 ブルドンネ街は、爆発のあったことで多くの人々が右往左往して逃げ惑っている。そんな中で、
二人は吹き飛ばされた家屋の数々の跡に目をやって、ルイズが胸を痛めた。だが、周辺に目を
配りながら一つ疑問を浮かべる。
「でも、どうしてわざわざこんな民家を狙うのかしら? 特に、この辺りは怪獣の攻撃で、
最初からボロボロなのに」
 爆発のあった場所は、アボラスの攻撃で破壊された地点のすぐ脇だった。そのために、
この辺には元から人も集まっていない。テロ行為のつもりならば、何故被害の少ない場所を
わざわざ選ぶのか。
『ハハハハハハ! お前ら、また現れたな! ナターン星人に、ダダとギギが世話になったなぁ!』
「! その声はッ!」
 唐突に、二人に聞き覚えのある声が掛けられた。デルフリンガーが才人に呼びかける。
「相棒、屋根の上にいるぜ」
 爆破された家屋の通りの反対側の家に、サーベルを手に嵌めた宇宙人が乗っていて、こちらを
見下ろしていた。最初に春奈を狙い、ダダとギギにも指令を出していた悪しき侵略者、マグマ星人だ。
「マグマ星人! またお前か!」
 宇宙人が姿を現したことで、民衆は悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
才人とルイズはその場に残り、マグマ星人を厳しい目つきで見上げる。
『今日はお前らに用があったんじゃないんだが、ちょうどいい! ついでにお前らを消して、
あの娘を頂いて帰るか!』
 マグマ星人は屋上から一気に通りに降りてきて、サーベルを向けてきた。それに対抗するように、
才人もデルフリンガーの切っ先を向ける。
「そんなことさせるもんか! 今度も返り討ちにしてやる!」
「ハルナに続いて、この爆発テロ! 一体何をたくらんでるのか、全部吐いてもらうわ!」
 才人とルイズが叫びつけると、マグマ星人がニヤリと笑う。
『ふッ、この前と同じように行くと思ったら大違いだ。今日は、ナターン星人どもみたいな
役立たずとは違う、戦いのプロを連れてきてるんだよ!』
「戦いのプロだと!?」
『出てこい! ミステラー、テロリスト!』
 マグマ星人の命令で、通りの陰から二人の宇宙人が更に飛び出してきて、マグマ星人と合わせて
ルイズたちを取り囲んだ。一人はタツノオトシゴのような首を持った赤い宇宙人で、もう一人は
反り返った片刃剣を右手に握った、全身緑色の奇怪な容貌の宇宙人だ。
 才人がすぐに新たな宇宙人たちの情報を検索した。
「ミステラー星人にテロリスト星人。どっちも、宇宙でも有数の好戦的種族か……!」
 マグマ星人の言った通りだと分かり、顔を歪める才人。ミステラー星人は、アテリア星を
始めとした数多くの星と星間戦争を行っている戦闘種族。一方のテロリスト星人は、ガスを
食料とする種族なのだが、そのガスを他の惑星に求め、惑星の住人を虐殺した上で残らず
強奪するという、非常に貪欲な殺人強盗なのだ。そして両者とも、その性質故に戦闘能力に
優れているという。
 強力な敵であるということを聞き、ルイズが額にジトッと脂汗を浮かべた。それを察した才人が、
小さく問いかける。
「……怖いか、ルイズ?」
「……ん。……平気」
 ルイズはそれに、はっきりと答えた。
「サイトが……ちゃんと守ってくれるなら平気」
「分かった。それを聞いたからには、ちゃんと守るしかないな!」
 デルフリンガーの柄を握り直す才人。その左手の甲のルーンが、より強く輝き、才人の体に
一層の活力を与える。
「相棒、相手も来るぞ」
「ああ。戦闘開始だ!」
 才人とルイズの動きを見張っていた三人の宇宙人に動きが起こる。それによって、才人も
足を踏み出して、敵に斬りかかっていった。
「うりゃあッ!」
『ふんッ!』

127 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/03/04(火) 23:00:31.75 ID:UDeh3CVW.net
 疾風のような、超人の域の速さを出して剣を振るう才人だが、テロリスト星人が斬撃を片刃剣、
テロリストソードで受け止めた。さすがに戦闘のプロと呼ばれるだけあって、人外の反応速度だ。
『シャアッ!』
 テロリスト星人に止められた才人に、右からマグマ星人が飛び掛かってきた。サーベルの
刺突が迫ることを、才人はデルフリンガーに教えられて、左に跳んで逃れた。
 逃げた才人に向けて、テロリスト星人は左手を向ける。そこに埋め込まれた銃、テロファイヤーが
火を吹いた。才人は凶弾からギリギリのところで逃れる。
『グワッハッハッハッ! 貴様らを始末すれば、この星に眠る天然ガスは全て我らテロリスト星人のものだ! 
何とも簡単な仕事よ!』
 聞かれてもいないのに、テロリスト星人が豪語した。やはり、ハルケギニアのガスを報酬に
宇宙人連合に雇われているようだ。
『娘! お前は私が息の根を止めてやろう! どうせその体格では、戦士にも使えそうにない!』
 才人がテロリスト星人とマグマ星人に二人掛かりで狙われる一方、ルイズの方にはミステラー星人が
腕を広げて襲い掛かっていた。先の二人と違って特に武器は持たないミステラー星人だが、腕力は
人間よりもはるかに上で、それだけで十分な武器になる。ルイズは小柄な体躯を活かして、ミステラー星人から
上手く逃げ回る。
(こういう時は、不本意だけど、この体で良かったって思えるわね……)
 杖を抜いて魔法で反撃しようとするルイズだが、メイジは呪文を唱える間は無防備。『虚無』の担い手は、
その弱点が顕著だ。攻撃しようとすれば、たちまちミステラー星人の格好の的になってしまうだろう。
 だがルイズは、それが分かった上で、呪文の詠唱を始めた。詠唱中は、才人が守ってくれる。
そう信じているからだ。
『足を止めたな! 馬鹿めッ!』
 当然、ミステラー星人はここぞとばかりにルイズに飛び掛かる。メイジの弱点は、宇宙人たちも
しっかり把握している。呪文が完成する前に仕留めようというつもりだ。
 だがその時、才人がミステラー星人の動向に気づいて即座に動いた。今の彼は、ルイズの
詠唱を聞くことで、更にガンダールヴの力を引き出していた。
「はぁッ!」
 残像が残るほどのスピードで一気にミステラー星人の前方へと割って入る才人。彼を狙っていた
マグマ星人とテロリスト星人は目で追うことが出来ず、才人が消えたように見えて目をひん剥いた。
「ルイズに手出しはさせねぇーッ!」
『がぁッ!?』
 デルフリンガーの切り上げが入り、ミステラー星人は綺麗に弧を描いて迎撃された。マグマ星人と
テロリスト星人は慌てて狙いを直すが、その時には才人はもう眼前に迫ってきており、薙ぎ払いで
一挙に二人とも吹っ飛ばされた。
『ぐはぁッ!?』
『な、何だこいつ! 本当に地球人なのか!?』
 地面の上に転がったマグマ星人が気を動転させながらわめくと、才人が叫び返した。
「言っただろ! 俺はただの地球人じゃない、ゼロの使い魔だってな!」
 そして、ルイズの呪文が完成した。
「『爆発』!」
『ギャアアアアアァァァァァァァァァ―――――――――――!!』
 通りを激しい輝きが包み込み、マグマ星人たちを爆発が呑み込んだ。だがルイズと才人は全くの無事だ。
「やったか!?」
「ううん。精神力の問題で、タルブ村の時のような威力は出せないから、きっとまだ……」
 光が収まると、ルイズの予測が的中した。宇宙人三人は、いつの間にか40m以上の体躯に巨大化していた。
『ガキどもぉッ! 遊びはおしまいだ! 粉々に踏み潰してやるッ!』
 激昂したマグマ星人が怒鳴るが、そんなものでひるむ才人ではない。ウルトラゼロアイを取り出すと、
ウルトラマンゼロに変身して戦う役目を交代してもらう。
「デュワッ!」
 ゼロは変身と同時に巨大化し、敵三人の間に両腕をぐっと振り上げて仁王立ちした。
『全く懲りねぇ奴だな、マグマ星人。誰を連れてきたところで、このウルトラマンゼロが
纏めて成敗してやるぜ!』
 ファイティングポーズを取ったゼロはそう宣言して、三人を同時に相手取る姿勢を見せた。

128 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/03/04(火) 23:04:41.03 ID:UDeh3CVW.net
以上です。そろそろ小悪魔と春風の協奏曲編も折り返しです。

129 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/05(水) 12:49:40.79 ID:jr3gNPNc.net
保守

130 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/06(木) 22:01:54.24 ID:8VMwIDlI.net
>118
おおー解説サンクス

131 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/07(金) 16:17:40.99 ID:ZxrxKEUe.net
サイヤを楽しみに一年ぶりくらいに来てみたけど更新なしか
その他も殆ど更新なしだしやっぱり原作未完ってのは影響デカイな

132 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/07(金) 16:21:25.72 ID:SKRzucAq.net
ゼロ魔復興の一助になればと超ヒロイン大戦に期待してみたけど動画サイトで見て絶望した
作画はひどい戦闘アニメは茶番だわ、あんなもん作って給料もらう人間がいると思うとノボルがかわいそうだ

133 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/07(金) 17:18:50.41 ID:09IbrHoj.net
カネも落とさず復興の一助w
勝手に絶望してろやw

134 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/07(金) 17:20:33.34 ID:8Nvt1dTi.net
トリステインって某島戦争の某共和国をゆるくしたように見える
ルイズとかエレオノールはどう控えめに見ても傲慢な人間
ティファニアやカトレアの天使振りが奇跡に見える

135 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/07(金) 17:27:49.92 ID:93810dtq.net
場違いな話は自分の脳内でやってくれ

136 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/08(土) 12:54:03.41 ID:/I3bEyxz.net
マグマ星人はゾーンやギンガの影響で完全にネタキャラだな

137 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/08(土) 17:49:00.72 ID:RlY1D8sY.net
誰かリーガルハイの古美門先生が召喚されてゼロ魔世界でギーシュ罵り倒したり
フーケを脅して大金ふんだくったりする話書いてくださいお願いします

138 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/09(日) 04:06:52.36 ID:PNtvpoz6.net
ディーキンの言う「冒険者は一人でやっていけるもんじゃない」ってのはまさにその通りなんだけど
でもTRPG版ならともかくNWNは結構主人公一人でもやれちゃったりするんだよな
っていうか味方のAIは馬鹿だし治療とかすんのウザイし、味方はいつも後方待機させて一人でやってた覚えがあるわw

139 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/09(日) 04:31:26.68 ID:6cThEc+q.net
atwiki全体がセキュリティ爆発四散につきハックされ放題状態の模様
悪質スクリプトの仕込みなどがあり得るそうだからまとめwikiへのアクセスは控えるべきかも

140 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/09(日) 20:08:05.38 ID:p0y0Z6W2.net
もしもサモンサーヴァントが大型艦建造だったら

ルイズ「世界のどこかにいる私のしもべよ。強く美しく気高い使い魔よ、4500、6000、6000、2500の呼びかけに応じて現れなさい!」

山城「あの、扶桑お姉様見ませんでしたか……?」

ルイズ「……あっちにいっぱいいるわよ」

141 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/09(日) 20:28:07.21 ID:bu8rWbbD.net
ヤマグチノボル先生が最後に参加していたグランクレストRPGのリプレイが発売された
だけど、ノボル先生のRPは撮りなおしになってて書かれていない…

142 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/09(日) 20:41:32.35 ID:4p7Pzh3L.net
螺鈿迷宮の白鳥圭輔召喚でハルケにもその煽りスキルを発揮してスピーディに物事を解決して頂きたい

143 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/10(月) 11:27:01.65 ID:Dygk2Ivj.net
>>141
天の夢小説みたいにオンラインで載せてはくれないものか・・・

144 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/10(月) 21:34:25.00 ID:+HMG+K8N.net
艦これもそのうち釘宮声の艦娘が出てくるのかな

145 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/11(火) 18:35:31.08 ID:cjNAsFcX.net
放置してたのを再開させようと思ったらトリップ忘れてしまったという状況

146 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/11(火) 18:58:00.45 ID:qEpeA+rg.net
トリップなぞつけんでもいいんじゃない?
再開大歓迎ですよ

147 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/03/11(火) 21:16:46.26 ID:VZAja39O.net
>>136
レオ時代で既にネタキャラだった気が。主に30話のせいで。

前回の続きの投下を始めさせてもらいたいと思います。開始は21:20から。

148 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/03/11(火) 21:20:05.08 ID:VZAja39O.net
ウルトラマンゼロの使い魔
第三十三話「マグマ星人の復讐」
サーベル暴君マグマ星人
銀河星人ミステラー星人(悪)
緑色宇宙人テロリスト星人 登場

『現れやがったなぁ、ウルトラマンゼロぉッ!』
 才人から変身したゼロに、巨大化したマグマ星人は大きく歯ぎしりをして、憎々しげな
視線を浴びせた。
『何度も何度も俺様たちの侵略を邪魔しやがって! 今日という今日は勘弁ならんッ! 
バラバラに切り裂いて地獄に送ってやるッ!』
 マグマ星人の恫喝に、ゼロは下唇をぬぐいながら返した。
『勘弁ならねぇってのは、こっちの台詞だぜ! テメェら全員、ハルケギニアから叩き出してやる!』
『抜かせッ! この間の復讐だ! 今からぶっ殺してやらぁッ!』
 マグマ星人がサーベルを振り上げたのを合図とするかのように、侵略者三人が一斉にゼロへ
飛び掛かっていく。
「ギョロロロロロ! ガアオオオオオオ!」
『ふんッ!』
 ミステラー星人が腕を広げて飛び掛かってくるのを、ゼロが横拳を入れて押し返した。
それから素早くゼロスラッガーを両手に取り、マグマ星人のサーベルとテロリスト星人の
剣を受け止める。
「シャッ!」
『ぬおッ!?』
 右手でサーベルを弾き、のけ反らせたマグマ星人に一発キックを入れて蹴飛ばした。同様に
テロリストソードも弾いたが、テロリスト星人はのけ反らず、右手のスラッガーの水平切りも
上半身を引いてかわす。
 テロリスト星人が剣を引き戻して、ゼロへ斬りかかっていく。それに対してゼロもスラッガーを
振るい、相手の斬撃を弾き返した。そのままソードとスラッガーが繰り返しぶつかり合い、激しく
火花を散らす。
『ちッ……やるじゃねぇか。剣の腕だけは認めてやるぜ』
 テロリスト星人は、マグマ星人と異なり、剣の腕前は一流で鍛え抜かれたゼロと張り合うほどであった。
さすがは、ガス田を守りながらであったので全力が出せない状態だったとはいえ、ウルトラマンタロウを
ギリギリまで追い詰めたことのある星人だ。
『食らえぃッ!』
「ギョロロロロロ!」
 しかし敵はテロリスト星人だけではないのだ。剣戟を行っていて手が離せないゼロに、
マグマ星人のサーベルビームとミステラー星人の突き出た口吻から発射されるロケット弾が
襲い掛かる。
『あッ! ぐぅッ!』
 ビームとロケット弾をまともに食らい、悶絶するゼロ。しかし隙を見せようものならテロリスト星人が
ここぞとばかりに剣を差し向けるので、そちらを回避ないしは防御する暇はない。ゼロは三人の宇宙人の
攻撃に晒され、早くもピンチになる。

「あぁッ! ウルトラマンゼロが危ないです!」
 王宮の廊下からは、春奈とシエスタが窓からゼロの苦戦を見ていた。シエスタは一旦春奈から
離れると、メイド服の袖をまくって、ジャンボットのブレスレットを露出した。
「ジャンボットさん、ゼロを助けてあげて下さい!」
『了解した! すぐに向かう!』
 シエスタの要請に、ジャンボットはすぐに応じた。

 ハルケギニアの衛星軌道上に待機していたジャンバードは、直ちにトリスタニアに向けて
一直線に急降下していく。
『ジャンファイト!』

149 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/11(火) 21:22:46.15 ID:ueb37FbB.net
ウルトラシリーズもトラウマネタ多いがレオも相当だよね
ゲスト隊員がよく戦死したり惨殺されたり
挙句がシルバーブルーメ…

150 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/03/11(火) 21:22:56.28 ID:VZAja39O.net
 降下の途中でジャンボットに変形し、地上に迫ると、ゼロへと剣を振りかざしているテロリスト星人を
睨みつける。
『ジャンナックル!』
『!?』
 テロリストソードが振り下ろされるのを制して、ロケットパンチで横から殴り飛ばした。
テロリスト星人はトリスタニアの、怪獣に破壊されてからまだ手つかずになっている無人の
区域の上に倒れ込む。
『ゼロ、あの星人は私が引き受けた! 残る二人は頼む!』
『助かるぜ、ジャンボット!』
 左腕を戻したジャンボットはゼロにひと声掛けてから、すぐに起き上がったテロリスト星人へと
駆けていく。
『ジャンブレード!』
 右腕からジャンブレードを出すと、テロリストソードとの切り結びを始めた。
「シェアッ!」
 ジャンボットに助けられたゼロは、構えを取り直してミステラー星人とマグマ星人のタッグと
対峙した。
『ウルトラマンゼロめ、我がミステラー星の誇る兵器、MTファイヤーを受けてみろ!』
 叫んだミステラー星人の口から、またロケット弾が連射された。だがゼロはふた振りの
スラッガーで、相手の弾を全て切り落とした。
『やめろ! そんな腕で俺を狙っても無駄だぜ!』
 ロケット弾を凌いだゼロはスラッガーを投擲する。ふた振りの宇宙ブーメランはそれぞれ
マグマ星人とミステラー星人へ、宙を切って飛んでいく。
『うがぁぁッ!!』
「ガアオオオオオオ!」
 一方はマグマ星人の顔面に命中して大きく吹っ飛ばし、もう一方はミステラー星人の口吻を
切り落とした。MTファイヤーの発射口を失ったミステラー星人は口のあった箇所に手を当てて狼狽する。
『ミステラー星人! もうこんな戦いはよせ! 俺は知ってるぜ。宇宙一の戦争好きと呼ばれる
お前の種族にも、平和を愛する心があることをな!』
 ゼロはウルトラ兄弟の四男、ウルトラマンジャックから、地球にひっそりと暮らすミステラー星人の
亡命者の話を聞いたことがあった。その個体は、かつてミステラー星で最も射撃の腕が立つ戦闘部隊の
エースであったが、30年以上も続くアテリア星との戦争に心身ともに疲れ果て、地球に亡命した。そして
地球と地球人を愛し、争いを捨てて平和に生きることを選んだのだ。
『お前も、不毛な戦いはやめて、平和に生きる道を選んだらどうだ!』
 とゼロは勧告したが、ミステラー星人はそれを一笑に付す。
『馬鹿なことを言うな! 俺は誇り高きミステラー星の戦士! そんな戦争に怖気づいた
腰抜けと同じ、無様な生き様など真っ平だ!』
 更にはゼロに向かって言い放つ。
『俺はこの星の征服の暁には、人間どもを捕獲し、宇宙戦士としてミステラー星に送るのだ! 
そして、泥沼の消耗戦に入ったアテリア星との戦争の駒になってもらう!』
『何! またアテリア星との戦争を始めたのか! 分からず屋め!』
 説得に応じないミステラー星人に、ゼロが拳法の構えを取り直す。
『そんなことは許さねぇ! テメェらの自分勝手な野望は、全部打ち砕いてやるぜ!』
 一見すると、まだ余力を残すゼロに対して、一番の武器を失ったミステラー星人が圧倒的不利に
見えるが、ミステラー星人は隠し玉を残していた。
『果たして出来るかな!? ウルトラマンゼロ、見ろ! 宇宙戦士の、攻撃を!』
 ミステラー星人が空の彼方を見上げて叫ぶと、王宮の方角から、竜騎士の一団が戦場へと飛んでくる。
トリステインの魔法衛士隊だ。
 だが、竜騎士たちは見るからに様子がおかしかった。騎士も飛竜も身体に霜が降りていて、
青い顔をしている。そしてゼロに纏わりつくと、彼に魔法で攻撃し始めた!
『うおッ!? こいつは……!』
 ゼロはすぐに、魔法衛士隊の身に起こっていることを見破った。
『ミステラー星人め……既にこの人たちを捕らえて、操ってるのか!』

151 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/03/11(火) 21:25:52.53 ID:VZAja39O.net
 かつて地球に、先述の平和的なミステラー星人の他にもう一人侵入した者がいた。その者は
亡命したミステラー星人の所属していた戦闘部隊の隊長で、長期に亘る戦争で消耗し切った戦力を
補うために、地球を守っていたジャックと防衛隊MATの隊員を宇宙戦士として拉致、利用しようと
画策していた。そのミステラー星人は生物を氷漬けにして操作するという不可思議な術を使っていた。
今回も同じ手段で、騎士たちをいいように操っているのだろう。
『くッ……!』
 ゼロは、正気を失ってミステラー星人の言いなりになっている竜騎士たちに手を出すことが出来ない。
魔法攻撃を前に、身を固めて防ぐことしか出来ないでいると、そんなゼロをミステラー星人とマグマ星人が嘲る。
『フハハハハハ! 無様な姿だな、ウルトラマンゼロ! 反撃して身を守ればいいだろうに、
所詮それが、偽善者の貴様の限界なのだ!』
『ハァーッハッハァッ! こいつはいいぜ! 守るべき対象に追い詰められるなんて、皮肉なもんだなぁ!』
『ぐぅッ……!』
 圧倒的優位に立ったのをいいことに、好き勝手にのたまう星人たちに歯ぎしりするゼロだが、
騎士たちが邪魔で攻撃することは出来ない。そうしている間に、カラータイマーが鳴り出す。
『フハハハハ、いっそのこと、もっと苦しむがいい! 見ろぉッ!』
 ミステラー星人は、ゼロに攻撃を加えようとせず、代わりに近くの建物を踏み潰し、蹴り飛ばして
破壊し始めた。マグマ星人もサーベルを振るい、次々と切断していく。
「きゃああああああッ!」
「うわああああああああ!」
 二人の破壊行為で、街からは避難する人々の悲鳴が大きくなる。
『なッ、やめろ! そいつらは関係ねぇだろうがッ!』
 狼狽したゼロが叫ぶが、ミステラー星人は冷笑を浴びせた。
『無関係ではない。貴様が守ろうとする者は、全て我々の敵だ! この哀れな人間どもを
苦しめるのは、貴様自身なのだよ、ウルトラマンゼロ!』
『外道どもが……!』
 卑劣な手段を平気な顔で取る星人たちに、ゼロは一層怒りを深めた。

『ふッ! はぁッ!』
『ぬぐぅ……!』
 ジャンボットとテロリスト星人は、剣と剣の斬り合いを続けていたが、だんだんとテロリスト星人が
追い詰められていった。生身のテロリスト星人に対し、ジャンボットはロボットなので疲労を知らない。
それ以上に、正義に燃えるジャンボットの気迫は、所詮浅い欲で動くだけのテロリスト星人のそれを
大きく上回っているのだ。テロリスト星人はジャンボットに押され、剣の切れが鈍っていた。
『降参しろ! 侵略を諦め、大人しくこの星から退散するのなら、命までは取らない!』
 優勢のジャンボットはジャンブレードの切っ先を突きつけ、降服を勧告した。それにたじろぐ
テロリスト星人だが、諦めた訳ではなかった。
『ぐぬぬ……こうなれば、こうだぁッ!』
 テロリスト星人は急に、テロファイヤーを横に向ける。その銃口の先にはトリスタニアの街並みと、
逃げ遅れている人たち。
『何!? まさかッ!』
 一気に焦ったジャンボットはテロリスト星人の左側に回り込む。そして、テロファイヤーの
砲火から人々の盾になった。
『ぐおおおぉぉぉぉッ!』
 炸裂弾の雨を浴びては、鋼鉄のボディのジャンボットとはいえただでは済まなかった。
激しくうめくと、テロリスト星人は一瞬で勢いをぶり返して更に弾丸を浴びせる。
『ふははは! 形勢逆転だぁッ! 食らえぇ!』
『ぐぅぅぅ……!』
 背後に大勢の人がいるので、ジャンボットは逃げることが出来ない。苦しまぎれに、テロリスト星人を
罵倒する。

152 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/03/11(火) 21:27:58.33 ID:VZAja39O.net
『狼藉者め……! 市民を巻き添えにしようなど、貴様には戦士の誇りがないのか……!』
 その言葉を、テロリスト星人は鼻で笑った。
『誇りに何の価値があるものか! 戦いは勝った方の勝ちなんだよ! それが全てだッ!』
『下衆め……! ぐぅッ!』
 弾丸を食らい続けたジャンボットは、耐え切れなくなったか片膝を突いてうなだれた。
それでテロリスト星人は勝利を確信する。
『見捨てればいいものを、馬鹿めが! とどめは、この剣で刺してやる!』
 テロリストソードを振り上げ、動かなくなったジャンボットににじり寄る。間合いを十分に詰めると、
一段と剣を掲げて一気に振り下ろそうとする。
『今だッ!』
 その瞬間に、ジャンボットは黄色い目を強く輝かせて、電光石火の速さで起き上がった。
そしてジャンブレードを切り上げて、テロリストソードを弾き飛ばす。
 剣を失ったテロリスト星人は瞬時に狼狽した。
『な、何ぃッ!? 騙したのかッ!? 卑怯者ぉッ!』
『貴様が言うなッ!』
 ジャンボットはもうテロリスト星人を許さず、ブレードを薙ぎ払って、真っ二つに切り裂いた。
『がぁッ……! こ、このテロリスト星人が、こんな奴に敗れるとはぁ……!』
『貴様は私にだけ負けたのではない。驕り高ぶった己の心にも負けたのだ』
 ジャンボットのひと言を最後に、テロリスト星人は爆散した。

「ゼロ! ゼロのピンチだわ!」
 地上から、竜騎士たちに襲われるゼロを見上げたルイズは、杖を取り出して助けようとする。
 竜騎士たちはミステラー星人の術で操られている。だが魔法ではないので、『ディスペル』は
効かないだろう。ならば、『爆発』を使うか? 上手く行くかどうかは分からないが、『爆発』なら
騎士たちの縛めだけを消し飛ばせるかもしれない。
 と、考えるルイズだが、彼女の行動を察したゼロは、テレパシーで呼びかけた。
『ルイズ、援護はいらないぜ!』
「えッ!?」
『コスモスとダイナから授かった力は、侵略者の姑息なたくらみよりもずっと偉大なんだよ!』
 そんなことを告げたゼロは、魔法攻撃を受けながらも胸を張って立ち上がり、身体を青く輝かせる。
『ルナミラクルゼロ!』
 青く変身したゼロは、周囲を飛び回る騎士たちに、手の平から発せられる光の粒子を浴びせ始めた。
『フルムーンウェーブ!』
 フルムーンウェーブ。それは、荒ぶる魂を鎮める癒しの力を持つコスモスのルナモードの
特性を最も色濃く引き継いだ、ルナミラクルゼロの浄化光線。これを浴びた竜騎士たちは一斉に
動きを止め、凍りついた身体が解凍されていった。
「あ、あれ……? 俺たちは一体何をして……?」
「確か、目の前に奇妙な亜人が出てきて、それからどうなった?」
 同時に正気を取り戻して、頭を振った。
『な、何ぃッ!?』
『おいおいおいおい!? 解放されちまったじゃねぇかぁ!』
 一瞬で術が破られたミステラー星人と、マグマ星人が破壊活動の手を止めてうろたえた。
するとそれに目をつけた騎士たちが、状況を把握する。
「侵略者だ! 攻撃開始!」
 魔法衛士隊は直ちに星人たちの方へ飛んでいき、炎や氷の槍を振るい出した。マグマ星人も
ミステラー星人も集中攻撃を浴び、頭を抱える。
『うぎゃあッ! いてぇーッ! 何が宇宙戦士だ、この阿呆がッ!』
『き、貴様、このミステラー星の戦士を侮辱するか――はッ!?』
『戦士が聞いて呆れるぜ! 戦士だったら姑息な手を使わないで、正々堂々勝負しろってんだッ!』

153 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/03/11(火) 21:31:54.75 ID:VZAja39O.net
 ミステラー星人が気配を感じて振り返ると、ストロングコロナに再変身していたゼロが、
その身体をむんずと掴んでいた。そして超怪力で、頭上高く投げ飛ばす。
『ウルトラハリケーンッ!』
「ギョロロロロロ! ガアオオオオオオ!」
 きりきり舞いして空高く飛んでいったミステラー星人に、ゼロが拳を振り上げてとどめの一撃を見舞う。
『ガルネイトバスター!!』
 燃え上がる光線を食らったミステラー星人は、空中で木端微塵に爆裂した。
 ミステラー星人がトリスタニアの空に散ったのと、テロリスト星人が撃破されたのはほぼ同時であった。
『うおおぉぉッ!? お、おのれぇウルトラマンゼロ! この借り、その内に必ず返してやるぞぉ! 
あいたたッ!』
 連れてきた仲間を全て失ったマグマ星人は、魔法攻撃に追い立てられながら、瞬く間に
尻尾を巻いて逃げていく。背後に跳ぶと、稲光とともに黒雲の中に紛れて姿を消した。
『ちッ。逃げ足だけは速い野郎だ』
 あまりの逃走の早さに、手出しできなかったゼロが舌打ちする。その脇に、ジャンボットが
近寄ってきた。
『ジャンボット、助かったぜ。ありがとうな!』
『私の力が必要な時は、いつでも呼んでくれ』
 短く言葉をかわしたジャンボットは空に飛び上がり、ジャンバードに変形して宇宙へと
帰っていった。
「ジュワッ!」
 それを追いかけるように、ゼロも飛び立ってトリスタニアから去っていった。

 ゼロから戻った才人は、ルイズの下へと駆け戻っていく。
「ルイズ! 無事だったか?」
「うん、わたしは何ともないけど……」
 久しぶりに才人に心配されたような気がして、やや赤くなるルイズ。しかし、すぐに辺りを
見回して顔を曇らせる。
「でも、街の被害が広がっちゃったわね……」
「そうだな……。くッ、宇宙人どもめ、やってくれるぜ……!」
 マグマ星人とミステラー星人が暴れたことで、トリスタニアの被害は拡大し、壊滅した地域が
広がってしまっていた。より痛ましくなった街の光景を目の当たりにして、才人は歯ぎしりして悔しがった。
 だがここで、ルイズが疑問を口にする。
「でもあの宇宙人たち、本当に何が目的なのかしら? 戦闘の最中にわざわざ敵から目を離してまで、
街を壊して何の利益があるの?」
「確かに……」
 マグマ星人たちはゼロへの攻撃のチャンスを捨てて、街を蹂躙した。挑発行為とも取れるが、
それよりゼロに直接ダメージを与えた方が早いだろう。ルイズと才人はマグマ星人たちが街の破壊に
こだわる理由を掴めず、首を傾げた。
 だがいくら考えても、答えは出てこない。そこで才人がため息を吐いて、ひと言提言した。
「とにかく、敵はとりあえず退けたんだし、城へ戻ってお姫さまに報告しよう」
「うん、そうね」
「どうやら無事に帰れそうだなぁ。相棒も、娘っ子も、もう一人の相棒もご苦労さん」
 二人が足を王宮へと向けると、デルフリンガーが彼らの奮闘を労った。

 王宮のアンリエッタの下へと戻ってきたルイズたちは、彼女に爆弾魔の正体がやはり侵略者で
あること、爆発の現場で交戦したことなどを報告した。
「そうでしたか。ルイズも使い魔さんも、よく戦ってくれましたね。市民に成り代わり、
お礼を言わせて下さい」
「そんな、もったいないお言葉です。結局は、ウルトラマンゼロに助けられましたし」
 感謝の気持ちを寄せるアンリエッタに、ルイズが謙遜した。才人がゼロであることは、
アンリエッタにも秘密のことだ。

154 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/03/11(火) 21:34:57.77 ID:VZAja39O.net
「それでもです。被害を最小限に食い止められたのは、あなたたちの活躍もあってのことだと
わたくしは思っています。本当にありがとう」
「いやぁ、そんなぁ」
「こら、はしたないわよ!」
 あまり褒められるので才人が頬を緩ませると、ルイズに咎められた。
「もう日も暮れます。今宵はこの王宮に留まって、疲れをゆっくりと癒して下さい」
「ありがとうございます、お姫さま」
 アンリエッタの申し出に感謝の言葉を言う才人。それに続いて、ルイズも礼を口に出す。
「ありがとうございます、女王陛下」
「そんな、いいのですよルイズ。大切な友人までも、危険に晒そうとするような愚かなわたくしに、
せめてもの償いをさせてちょうだい」
 アンリエッタは、まだルイズに危険な任務を任せていることに引け目を感じているようだった。
そのため、ルイズが反論する。
「わたしたちは、この前申し上げた通り、自分の意思で行動しています。姫さまが悪いことなど、
一つもありません」
「うん……。ありがとう、ルイズ」
 ルイズの言葉に、アンリエッタは一瞬、親しい友人としての顔を見せた。しかしすぐに、女王の顔つきに戻る。
「では、わたくしは色々と後始末をせねばなりませんので。これで失礼します」
 アンリエッタが謁見の間から退出すると、ルイズと才人も二人を待っているシエスタたちの下へと移動していった。

 王宮の客室に移ると、待っていたシエスタと春奈がすぐに席から立ち上がった。
「サイトさんッ!」
「平賀くんッ!」
「やぁ、二人とも無事だったか?」
 才人が一番に聞くと、シエスタがうなずき返した。
「はい。お城の兵士さんがちゃんと避難させてくれましたから」
「平賀くんは大丈夫だった?」
「大丈夫。あってもかすり傷くらいだから」
 春奈に才人が答えると、ルイズが春奈に声を掛ける。
「姫さまのお話、ハルナのことじゃなくてよかったわね」
「ありがとうございます、ルイズさん。お礼だけでも言わせて下さい」
 学院でも王宮でも弁護しようとしてくれたルイズに感謝の念を寄せる春奈。
「別にいいわよ、気にしてないから。これで、ハルナのことに関して魔法学院と王宮は解決した訳だけど。
でも、まだ、問題は残ってるわ」
「はぁ? まだ、何かあるのかよ?」
 唐突なルイズの言葉に、才人が怪訝な顔を作る。
「ええ、そうよ。これは極めて重大な問題よ」
「それは一体何なんですか?」
 シエスタが尋ね返すと、ルイズはキッパリと言った。
「それはお金よ。平民とはいえ、女の子が一人増えたのよ? 今の生活費だけじゃとても足りないわ」
「へぇ〜。ボクとはえらい待遇の違いですねぇ、ご主人様」
 才人が嫌味を唱えたが、ルイズは何食わぬ顔。
「あら、何か思い違いをしてるようね? あなたは使い魔でしょ。そんなの、当たり前じゃないの」
「……」
 憮然とする才人だった。
「使い魔を養っていくのは飼い主の務めだから。それはいいんだけど。でも、ハルナは……」
「そうですね。早く私の問題が解決すればいいんですけど……」
「ホント、そうだよなぁ……」
 才人が心から同意したが、現実はそう行かないのだから仕方ない。春奈の生活費で困っていると、
シエスタがこんな提案をした。
「あッ、そうですよ! ハルナさん、わたしたちと一緒に魔法学院で給仕の仕事を手伝いませんか?」
「おおッ……。そうか、その手があったじゃないか!」
 妙案だと才人が賛同したが、春奈自身は逡巡する。
「う〜ん。でも私、身の回りのことは、全て親に任せっきりだったから。本当に、何か出来るかどうか……」
「そんなこと、心配いりませんよ。みんな優しくて親切な方ばかりですから。一つずつ、
丁寧に教えてくれます」
 自信のなさそうな春奈を、シエスタが励ました。
「ハルナさんがもしその気になったら、いつでも声を掛けて下さいね」
「はい……。ありがとうございます」
 最後の問題もひとまずは片づいたようなので、ルイズたちはその日はもう休むことにした。

155 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/03/11(火) 21:37:25.77 ID:VZAja39O.net
以上です。

>>149
シルバーブルーメの全滅が目立つけど、何気にアトラー星人が同じだけの被害出してるんですよね。ゲンとダン以外全滅。
何故あんなに人が死ぬ作劇にしたのかが分かりません。

156 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/11(火) 22:01:02.70 ID:ueb37FbB.net
>>155
乙です
さっきは割り込んじゃってスイマセンでした
MAC全滅はオイルショック等の問題で予算がやばくなったからだっけ
それでもやはり他にやりかたなかったのでしょうか
とにかく人を死なせれば相手の恐ろしさや悲劇を強調できると思ってたのかな

157 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/11(火) 22:54:50.52 ID:FDBhk4OB.net
ウルトラでトラウマといったらワイアール星人は小さい頃夜眠れないほど怖かった
あとはアリブンタに襲われた地下鉄の乗客が白骨化するとことか、列伝ではカットされたけど大人の今でもぞっとする
レオはシルバーブルーメより、むしろアトラー星人やデモスのほうが怖かった

158 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/03/13(木) 00:59:43.25 ID:RCMt2Gxb.net
皆様お久し振りです、深夜遅くに失礼いたします。
よろしければ、1:10あたりから続きを投下させてください。

159 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/03/13(木) 01:10:12.83 ID:RCMt2Gxb.net
  
「きゅい………」
 
夕方にはまだ少し早いくらいの時間帯、トリステインからゲルマニアへ向かう人気のない峠道。
がたごとと揺られる馬車の荷台で、タバサの召喚した使い魔である風韻竜のイルククゥは悲しげに呻いた。
 
今朝主人に本の買出しを命じられてトリスタニアという人間の街へ初めて行った彼女は、ふらふらと道草を繰り返すうちにすっかり道に迷って。
食欲の赴くまま入り込んだ食堂で預かっていたお金を使い込んでしまい(お金は使ったら無くなるということを知らなかったのだ)。
主人からの罰を怖れて、お金くださいなのねーとか往来でわめいていたら通行人に可哀想な目で見られた挙句人攫いに騙されて御覧の有様というわけである。
 
騙されて縛り上げられ、これから物のように売買されるのだと理解した彼女は、激昂して変身を解こうとした。
しかしロープには魔法が掛かっていて容易には切れず、膨れ上がる体に食い込んで激痛が走ったために断念せざるを得なかったのだった。
今の彼女は若い人間の女性の姿に変身したままの状態で縛り上げられ、馬車の荷台に詰め込まれている。
周りには、同じように縛られて嘆きや諦めの表情を浮かべた女の子が何人もいた。
 
それに、マスケット銃と酒瓶を握りしめた見張りの男が一人。
 
男は時折手近の少女の体をじろじろと眺めては下卑た笑いを漏らしたりしているが、手は出さなかった。
高値で売る予定の大切な商品に下手に手を出して値打ちを落としたら損だし、それで仲間のメイジどもの怒りを買うのも御免だ。
どうせ平民の自分は大した分け前はもらえまいが、上等なゲルマニア女とたっぷり楽しむくらいの贅沢はできるはずだ。
何もこんなしみったれたガキどもに手を出す必要はない、お楽しみは一仕事した後だ。
 
(へへへ、それに酒と飯もだな……。
 ゲルマニアに着いたら極上のやつをたらふく飲んで食って……)
 
男はうきうきと皮算用を立てて満足感に浸りながら、酔い潰れない程度にちびちびと安酒を煽っていた。
 
イルククゥはそんなろくでなしの見張りを睨みながら、どうにかならないかと一生懸命に考える。
だが、何もいい方法は思いつかなかった。
 
先住の魔法は杖を要しないが口語と身振りによる精霊への呼びかけは必要で、このように縛り上げられていては使うことができない。
それに今は高度な“変身”の呪文を維持しているので、たとえ動けても他の魔法はまともに使えない。
何とかして変身を解くしかないが、丈夫な魔法のロープで縛り上げられていてそれもできないときている。
 
しかも人攫いは一人ではなく集団で、今自分が乗っている荷馬車と、後続のさらに大きな馬車とに分かれて乗っている。
その中には幾人かのメイジが含まれている上に、目の前の見張りのような武装した兵隊もいるようだ。
人間は弱いがメイジだけは油断ならないと両親から聞かされている。
たとえ自分がなんとかして元の姿に戻っても、勝ち目は薄いかもしれない。
 
イルククゥは自分が何も知らない、無知で無力な存在にすぎなかったことを痛感した。
 
「ああ、とんでもないことになったのね……」
 
外の世界を見てみたい好奇心から召喚に応じてみれば、主人はいけ好かないちびすけだわこんな目に会うわ、もうさんざんである。
人間の召喚なんかに答えないで故郷の“竜の巣”で大人しく暮らしていればよかった。
 
両親が助けに来てくれないだろうかとも思ったが、ここは故郷から何千里も離れた場所である。
到底叶う話ではないと諦めて、溜息を吐いた時―――――――。
 
突然、馬が嘶いて、馬車が大きく揺れた。
 
「ぐわあぁあぁ!?」
「ひぃぃ! な、なんだあぁ!?」
 
続いて御者台に座っていた人攫いたちが悲鳴を上げる。
馬車はしばしがたがたと揺れながら進んだ後に、どしん!と何かにぶつかったような衝撃があって動きが止まった。
見張りの男はしばらく狼狽えていたが、ハッと我に返ると何があっても動くなと少女たちに凄んでから銃を構えて荷台の外に飛び出して行った。

160 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/03/13(木) 01:12:25.65 ID:RCMt2Gxb.net
 
「な、何……」
「まさか、誰かが助けに来てくれた?」
 
にわかに少女たちがざわめき始める。
もしや、本当に両親が助けに来てくれたのだろうか?
イルククゥは興奮して、ぐるぐる巻きに縛り上げられて自由が効かない全身を一生懸命に捩って外の様子を伺った。
 
自分たちの乗った馬車はどうやら路肩の樹木にぶつかって止まっているようだ。
馬と馬車を繋ぐくびきが何者かによって断ち切られたらしく、馬たちが嘶いて逃げ去っていくのが見える。
そして、御者台にいた連中はどこからともなく現れた大きな竜巻状の風に巻き上げられて宙を舞っていた。
 
ちがう、両親じゃない。
あれは精霊の起こした風じゃない。
 
だけど凄い竜巻だ、いったい誰がやったのだろう。
イルククゥは一生懸命に首を動かして、術者の姿を探した。
 
そうこうしているうちに竜巻が収まった。
人攫いたちは竜巻が消えると同時に宙に放り出され、馬車の傍の立ち木に衝突して地面へと崩れ落ちる。
激しい砂埃の舞うその奥から、ゆらりと小さな影が現れた。 
 
「ち、ちびすけ………?」
 
それは遠く離れた魔法学院にいるはずの自分の主人、タバサであった。
 
タバサは相変わらず無表情で、ぼんやりした眠そうな目をしている。
だが、その体から立ち上る雰囲気というか、発するオーラが並々ならぬものであることにイルククゥは気が付いた。
これまでは頭から見下していたのもあってさっぱり感じ取れていなかったが、仮にも韻竜である。
臨戦態勢に入った今のタバサの強さは流石に察知できた。
 
(――――こ、このちびすけ、只者じゃないのね!)
 
その時、後ろの馬車からゆらりと一人のメイジが降り立った。
道中で人攫いたちが“頭”と呼んでいた人物だろう。
 
イルククゥはそいつを見た瞬間、震えが走った。
 
そいつはまだ若い女性だった、おそらく年の頃は二十を過ぎたばかりだろう。
だが長い銀髪の下には鋭い目を光らせており、全身から発されるオーラもタバサに劣らぬ雰囲気を醸し出している。
杖を構える仕草も堂に入っており、相当に強そうだ。
元は名のある貴族だったのかもしれない。
 
「あ、あねご!」
 
地面に倒れていたメイジの一人が、彼女を見て哀願するような声を上げる。
彼女は肩を竦めて、冷たい目でそいつを睨んだ。
 
「まったくだらしがないねえ。油断するなといつも言ってるだろうに」
 
それからタバサの方に目を向けると、唇の端を持ち上げて冷笑を浮かべる。
 
「おやおや、あんたは正真正銘の貴族のようだね。
 こりゃあ好都合ってもんだね」

161 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/03/13(木) 01:15:04.69 ID:RCMt2Gxb.net
 
タバサは表情を変えるでもなく、無言でその女頭目と対峙した。
すると彼女は頼まれもしないのにぺらぺらと自分の身の上話などをし始める。
どうやらタバサの視線を、どうして貴族が人攫いなどに身を堕としたのか、という無言の問いかけだと解釈したらしい。
 
曰く、自分は三度の飯より“騎士試合”が大好きで伝説となった女隊長のように都に出て騎士になりたかった。
しかし親に猛反対されたため、やむなく家を出て好きなように試合ができる傭兵を始めたのだ、という。
 
もちろんタバサには、誇張だらけか嘘八百と相場が決まっている犯罪者の身の上話などに関心はない。
それに例え本当だとしたところで、結局のところこの連中のやっていることは。
 
「ただの人攫い」
「ははは、そりゃあ食うためには仕方がないさ。
 あんたみたいなお嬢ちゃんにはまだわからない話かもしれないけどね」
 
女頭目が嗤ってそう言うのを、タバサはそっけなく聞き流す。
それよりもこの女頭目が話で時間を稼ぎながら、まだ倒されていなかった見張りの部下に横目で合図した事の方に注意を払っていた。
それを受けた部下は、マスケット銃を構えたまま気取られぬようそろそろと馬車の荷台の方へ戻っていく。
 
いつもなら即座に話を打ち切って問答無用であの男へ呪文を飛ばし足を止めるところだが………。
しかし今回は、その必要はないはずだ。
 
タバサは小さく口を動かして何事かぼそぼそと呟くと、ほんの微かに笑みを浮かべた。
女頭目はそんな事には気付かず、にやついた笑みを浮かべたまま言葉を続ける。
 
「……さて、騎士同士の決闘には順序と作法ってもんがあるだろう?
 正々堂々といこうじゃないか」
「私は騎士じゃない」
 
ましてあなたは尚更、とは心の内だけで続けて、タバサは杖を構える。
女頭目はそれを見ると首を振って、指で馬車の方を示した。
馬車の傍に立った見張りの男が下卑た笑みを浮かべながら、マスケット銃を荷台に向けている。
 
「この騎士試合に付き合わないっていうんなら、あいつが女たちを殺すよ」
 
女頭目はそう言ってじろりとタバサの顔を睨む。
少し考えると、タバサは小さく頷いて了承の意を伝えた。
女頭目は満足そうににやりと笑って、杖を構えると優雅に一礼する。
タバサはまた小さく口を動かしてぼそぼそと何事か呟くと、どうでもよさげに杖を構えてそれに合わせて礼を返した。
 
その瞬間、女頭目は素早く杖を振るうとタバサめがけて魔法を飛ばす。
 
先程の竜巻から見て魔法の実力はおそらく自分と同程度、見た目に似合わず手強い相手と踏んで隙をついて確実に勝とうとしたのだ。
騎士試合云々などというのは所詮、そのための方便に過ぎない。
先手を打つのは戦いの常識、ただ漫然と杖を構えて敵が来るまで白痴のように待つなど、本当の殺し合いを知らぬ木偶のすることだ。
自分はお行儀のいい騎士様などではなく傭兵だ、子供相手だからと舐めてかかって不覚をとるような愚かな真似はしない。
 
―――だが結局、彼女は自分が目の前の少女をそれでもなお過小評価していたことを思い知らされる破目になった。
 
放たれた風の刃がタバサの胸を襲おうとした瞬間、彼女は驚くべき反応速度で横に飛んでその攻撃をかわしたのだ。
必殺を確信していた女頭目の目が驚きに見開かれる。
素早く呪文を完成させたタバサは、次の瞬間にはその体術に驚愕して隙だらけの女頭目に魔法の矢を放っていた。
矢は狙い過たず女頭目の杖を切り裂き、その服を地面に縫い付ける。
 
勝負はついた。

162 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/03/13(木) 01:17:11.56 ID:RCMt2Gxb.net
 
一瞬にして打ち負かされた女頭目は、信じられないと言った顔でタバサを見上げた。
体捌きの速さ、呪文詠唱の素早さ、そしてコントロールの正確さ、そのいずれもが驚嘆に値する。
自分が互角だったのはただ魔力の強さだけで、それを扱う腕前には天と地ほどもの大差があった。
 
「あ、あんた、一体何者……」
「ただの学生」
 
タバサはまるでいつもと変わらない様子で、淡々と答えた。
女頭目は悔しげに歯ぎしりをしていたが、やがてまた幾分か余裕を取り戻して先程と同じように笑みを浮かべた。
 
「はっ、とんでもない学生がいたもんだ!
 まったくあたしもツキがなかったね、わかったよ、誰を助けに来たのか知らないけど、そいつは返してやるよ。
 だけどあたしたちはこのまま見逃してもらうよ、でないと―――」
 
そう言いながら先程人質を取るために向かわせた部下の方に目を向け……、
 
「………は?」
 
次の瞬間、その笑みが凍りついた。
 
「オオ、タバサはやっぱりすごいね。
 どう? ディーキンの言ったとおりになったでしょ?」
「ほ、本当にすごいのね………」
 
そこに立っていたのは、奪い取ったマスケット銃を弄びながらタバサの戦いを見て喜んでいるディーキン。
それと、彼の手によって戒めから解放され、荷台から顔を出してぽかんとした顔で主人の戦いを見守るイルククゥであった。
先程の部下は、いつの間にか2人の足元で伸びていた。
 
「……あ、あの亜人は……、あんたの使い魔かい?」
 
がっくりと項垂れる女頭目の問いに、タバサは今度は心なしか嬉しそうな声で答えた。
 
「私の仲間」
 
 
-------------------------------------------------------------------------------
 
 
人攫いたちが襲撃を受ける少し前のこと。
 
 
タバサは関所までもう間もなく到着できるというあたりで、時間にまだ大幅な余裕があることを確認して当初の待ち伏せ作戦を変更した。
救出は早いに越したことはないし、関所で騒ぎを起こせば役人を巻き込むことになり敵が増え、後の始末や事情の説明も面倒になる。
予想外に早く着けそうだし、これならば道を辿ってさっさと馬車を奇襲する方がよい、と判断したのだ。
賄賂を受け取って人身売買を見逃していた役人の名前は、人攫いを捕えた後で聞き出せばいい。
 
そうして人攫いの馬車を発見すると、ディーキンは慌てて襲いかかったりはせず、まずは襲撃の算段と役割分担を決めようとタバサに提案した。
 
ディーキンのその落ち着きのある場馴れした対応に、タバサは彼が実戦でもあてにできる人材であることを確信する。
とはいえまだ彼に具体的に何ができるのかはよく分かっていないし、攫われたのは自分の使い魔。
やはり最も危険な役目は自分が勤めるべきだ、という思いもあった。
 
そこでタバサは、自分が敵に奇襲をかけた後正面からの掃討を担当するという作戦を提案した。
ディーキンの役目はタバサに敵の注意が向いた隙に人質の元に辿り着いて彼女らを護り、状況に応じてタバサを援護すること。
 
今回のような状況では人質を取られるのが最も厄介である。
傭兵崩れの人攫いなど一人でも掃討できる自信はあるが、それだけは警戒せねばならないゆえにディーキンの役目も重要なものだ。
丁度小さくて素早いドラゴンの姿に変身しているディーキンはその役目にうってつけだ、と説明する。

163 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/03/13(木) 01:20:04.46 ID:RCMt2Gxb.net
 
ディーキンとしても特に異論はないので、すんなりとその提案を受け入れた。
タバサの思惑も概ね分かってはいたが、別に不満はなかった。
自分はタバサの活躍を見届けたいのであって、別に彼女の見せ場を奪って大暴れしたいのではない。
だから、むしろ望ましいことだといえた。
 
 
そうして案が纏まると2人は別れてめいめい襲撃に適した適した位置につき、タイミングを見計らった。
タバサの感覚共有で、攫われた子らは前の馬車に乗っており、御者台に乗っている2人がメイジで、荷台には見張りが一人いることが分かっている。
荷台の見張りはディーキンに任せるとして、まず厄介なメイジを優先的に片付けねばならない。
 
タバサはまず、人攫いたちに見られない死角から風の刃を放って、馬のくびきを断ち切ることで襲撃の口火を切った。
突然の事に御者台のメイジ2人の体勢が崩れる。
そこへ、続けて素早く巨大な竜巻を放つ。
馬の制御に気を取られていた彼らは、攻撃に気付いて対応する暇もなく宙を舞った。
 
その様子を見て、ディーキンは改めて感心した。
 
攫われた子たちに害を与えないよう馬車を止めつつ敵の数を速やかに減らす手並み、呪文の威力、狙いの正確さ、遅滞のない的確な行動。
そのいずれもがまだ幼いと言ってもいいくらいの年齢の少女としては並外れており、想像していた以上に凄かった。
 
まあ幼いと言っても人間としてはの事で、実際のところ自分より年下なのかどうかとかはよくわからないが。
なんにせよ同じ学生でもあのギーシュという少年とは比較にならない、厳しい戦いを随分と潜り抜けて来たのに違いない。
 
そう感心しながらも茂みに隠れつつ、まず変身を解除する。
続いて不可視化すると、素早く馬車の傍へと移動して様子を伺った。
タバサとしては変身したまま体の小ささと素早さを利用して馬車に潜り込む事を想定していたのだろうが、不可視化しておく方がより確実だろう。
 
そうして見張りが去ったのを確認すると、入れ替わりに素早く荷台の中に入り込んだ。
 
 
あとは、女頭目とタバサが話していた間にイルククゥに事情を手短に説明して。
何も知らずにのこのこ戻ってきた見張りを隙を見て後ろから締め上げて昏倒させると人質の束縛を切って解放した、というわけだ。
 
もちろん襲撃に先だって、ディーキンはタバサに先の授業中にも使った《伝言》の呪文を掛けていた。
彼らはそれを解して襲撃の間中お互いの状況の進展を小声で知らせ合っており、自分達や敵の動向はすべて把握していたのだ。
タバサが手出し無用といったので、騎士試合とやらの間はディーキンは彼女を信頼して見学していたのである。
 
 
-------------------------------------------------------------------------------
 
 
タバサはディーキンと協力して人攫いを全員捕縛すると、彼らを手短に訊問する。
その結果彼らはやはり以前から関所の役人に賄賂を渡して人攫いを黙認してもらっていたことが判明した。
所詮欲得だけの関係ゆえに義理立てして隠し通そうとするはずもなく名前も簡単に吐いたので、彼らを引き渡す時一緒に報告すればよいだろう。
 
解放した少女たちを女頭目の使っていた馬車に乗せ、厳重に縛った人攫いたちを荷物用のスペースに詰めて、馬に乗った経験のある少女に手綱を任せる。
それが済んだタバサは人目のないところで元の姿に戻った自分の使い魔に跨って、馬車と並んでトリステインへ向かうように言った。
イルククゥも今度は文句を言わずに素直にそれを受け入れた。
タバサとしては内心ディーキンの出してくれた幽体馬にまた乗りたい気持ちもあったが、今はまあ、自分の使い魔の方に乗るべきだろう。
 
ディーキンは念のため人攫いを見張るのと少女たちの受けたショックを和らげる役に立ちたいからと言って、今は一緒に馬車に乗っている。
最初は命の恩人とはいえ見た事もない異様な姿の亜人に怯え気味だった少女たちも、じきに彼の人懐っこさに馴染んだようだ。
少女たちは今ではもう酷い目に会った事など忘れたかのように、彼の弾き語りにうっとりと聞きいっている。

164 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/03/13(木) 01:22:11.78 ID:RCMt2Gxb.net
 
タバサもまた普段のように本を開くこともなく、馬車と並走する使い魔の上で密かに耳を傾けていた。
内容は旅と恋に関する詩のようで、聞いたことのない内容だが美しい調べだった。
 
 

 
 砂漠のあの子に会いたけりゃ
 4つの砦の真ん中に
 
 海のあの子に会いたけりゃ
 ふたつの月の輝く海に
 

 
 ………
 
 
―――ともあれ、後はトリスタニアで官憲に人攫いと少女たちを引き渡して、事情を説明すれば一段落だ。
帰った後ルイズに事情を説明して(すべて正直に伝えるべきかはともかく)詫びなければならないが、まあそれは後で考えればよかろう。
 
今しばらくは余計な事を考えずに彼の歌でも聞いてリラックスしよう……。
そう考えていたところへ、使い魔が鳴き声を掛けてきた。
 
「きゅ、きゅい、きゅい…、」
 
イルククゥはそう鳴きながら、何かを訴えるようにタバサの方を見たり、馬車の方をちらちらと見たりしている。
どうやらタバサとディーキンに助けられた礼を言いたいらしい。
が、口を聞いてはいけないと言われているのでどうしようかと迷っているのだろう。
 
「……………」
 
タバサは無言で杖をくいくいと上の方に向けた。
イルククゥはきょとんとした顔をしたが、すぐにその意図するところを悟って急上昇していく。
そうして今朝話をしてもいいと言われた高度に達すると、早速口を開いた。
 
「あ、あの……、タバサさま。どうもありがとう、助かったのね。
 それにあの子……ええと、ディーキンさんにも」
「彼とはちゃんと話をつけておいた。
 お礼は後で、一緒に話しながらすればいい」
 
タバサがそう言ってやると、イルククゥは自分を助けに来てくれた上にちゃんと朝の約束も守ってくれていたことに驚き感激した様子だった。
さらにどうして自分の場所が分かったのかとか、何であの子も一緒にきたのかとか、色々質問してくる。
タバサはそれらの質問にひとつひとつ簡潔に答えてやった。
イルククゥはしきりに主人の賢明さに感心したり、新しい友だちがまだろくな面識もない自分を助けに来てくれたことに感動したりした。
 
それから本を買うのを失敗したことについて謝罪もされたが、タバサはそれについて特に罰を与える気はなかった。
確かに勝手にお金を使い込んで買い食いされたのには腹も立ったが、まあ使い魔の知能や知識の程度を把握していなかった自分にも問題がある。
仮にも韻竜だからそのくらいできようと思っていたが、どうやら思っていた以上に精神が幼く、人間社会に関する常識も皆無らしい。
いつまでも愚痴っていてどうなるものでもないし、自分から謝ってくれたのだから咎めはすまい。
 
それに人攫いを捕えて被害者を助け出したのだから多少は礼金も出るだろうし、使い込まれた金貨一枚分くらい余裕で埋め合わせられるだろう。
何よりも今回の一件でディーキンと協力したのはタバサにとっては喜ばしい、得難い経験であったのだから。

165 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/03/13(木) 01:25:09.83 ID:RCMt2Gxb.net
 
話を打ち切って下に戻ろうかとしたところで、タバサはひとつ彼女に伝えておかなくてはいけないことがあったのを思い出した。
 
「シルフィード」
「え? それ、なんなのね?」
「あなたの名前。“風の妖精”という意味。ここでは先住の名前は目立つ」
 
「…………!!」
 
イルククゥはもう、あれだけ反抗的で失礼な態度を取った上仕事にも失敗した自分に名前まで考えてくれていたと知って、感極まった様子だ。
 
「素敵な名前なのね! きゅい、きゅいきゅい!!」
 
タバサも自分の使い魔の予想以上の喜びように嬉しくなり、照れたのを誤魔化すように本を開いた。
自分の主人の頬に差す微かな赤みに気付いて、ますますイルククゥ、改めシルフィードは心をくすぐられる。
 
「可愛いのね! 私も嬉しいのね! なまえ、なまえ、あたらしいなーまえー!
 きゅいきゅい、るーるるるー♪……」
 
陽気にはしゃぎ、歌とも言えないような珍妙なメロディーを口ずさみ始める自分の使い魔を見てタバサは微かに苦笑めいた笑みを浮かべた。
 
(……歌も下手)
 
本当に、何から何まであの子とは大違いだ。
けれど陽気で素直で、こちらまで暖かい気持ちにさせてくれるところだけは似ているかもしれない。
 
この子が使い魔でよかったと、タバサは召喚して初めて、心からそう思えた。
 
「ねえねえ、タバサさま!
 わたし、タバサさまのことをお姉さまって呼んでいいかしら?
 私の方が体は大きいけど、なんだかそう呼ぶのが相応しいような気がするのね!」
 
タバサはその唐突な申し出に少し首を傾げたが、じきにこくりと頷いた。
シルフィードは興奮して、きゅいきゅいとはしゃぎ続ける。
 
「あ! それに、ディーキンさんのこともお兄さまって呼ぶのね!
 あの方も小さいけど、さっきはすっごく格好よかったわ!」
 
ディーキンはタバサのような明らかな強さ、凄さを見せてくれたわけではない。
 
けれど先程助けに来てくれた時に、突然声を掛けられて事情が掴めず騒ぎ出しそうだった自分を止めて焦らず落ち着いて説明してくれたり。
戻ってきた見張りをてきぱき昏倒させて、強そうな女頭目と対峙するタバサを信じ切った態度で見守っていたり。
戦いが終わった今も、攫われた子たちの事を気遣って素敵な音楽を演奏してあげていたり…。
 
そんな彼の姿にシルフィードは頼もしさを感じ、憧れを抱いたのだ。
自分もあんな風に落ち着いた素敵な竜に、そしてこの素敵な主人のお役に立てる使い魔になりたい、と。
 
タバサはまた少し首を傾げて考え込んだ後、小さく頷く。
 
「彼が、嫌がらなければ」
 
……あれこれ話し込んでいるうちに、そろそろトリスタニアの街が見えてきた。
赤みがかった日の光に照らされて目を細めながら、タバサは興奮冷めやらぬシルフィードを促して高度を下げさせた……。
 

166 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia 解説:2014/03/13(木) 01:27:32.89 ID:RCMt2Gxb.net
 
インヴィジビリティ
Invisibility /不可視化
系統:幻術(幻覚); 2レベル呪文
構成要素:音声、動作、物質(1本のまつ毛をゴムに封入したもの)
距離:自身あるいは接触
持続時間:術者レベル毎に1分
 術者が接触したクリーチャーあるいは物体を不可視状態にする。呪文の受け手が装備を持っている場合はそれも一緒に見えなくなる。
地面に下ろした物や落とした物は目に見えるようになるが、拾った物も服やポーチの中にしまっておけば不可視にできる。
ただし受け手の匂いや立てる音、移動時に残した足跡等の痕跡まで消してくれるわけではない。
静止している不可視状態のクリーチャーは<隠れ身>の判定に+40、動いている場合には+20のボーナスを得る。
この呪文は対象が何らかのクリーチャーを攻撃した瞬間に解けるが、その際の攻撃一回に関しては不可視状態の利益を得られる。
ここでいう“攻撃”には敵を目標とした呪文や効果範囲に敵を含む呪文等も入る。
なお、誰が“敵”であるのかは不可視化したキャラクターの認識による。
誰も装備していない物体に対して何らかの行動をしても呪文が解けることはない。
また、間接的に害をなすことは攻撃とはみなされない。
もっぱら味方に作用を及ぼして利益を与える呪文は、たとえ敵も効果範囲に収めていたとしても攻撃とは見なされない。
したがって、透明化した者は扉を開け、話をし、物を食べ、階段を登るなどしても不可視状態が解除される心配はない。
怪物を召喚して攻撃させ、敵が渡っている最中の吊り橋のロープを切り、罠を作動させるボタンを押し、敵陣の井戸に毒を投げ込んでも差し支えない。
もちろん、味方に強化や回復の呪文を掛けて回っても一向に構わない。
この呪文はパーマネンシイでその効果を永続化させることができるが、物体を対象とした場合に限られる。
 

167 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/13(木) 01:33:15.76 ID:xx9HHVFF.net
乙ー。そういや以前属性の解説してたけど、
ダークエルフ物語のロディとザクが二人とも混沌中立で噴いた
かなり広範囲差すんだなあ……

168 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/03/13(木) 01:34:46.45 ID:RCMt2Gxb.net
今回は以上です。
タバサ編は――――もう少し続くかも。

今回はディーキンにどの程度活躍させるべきかちょっと悩みました。
弓矢とかクロスボウとかで、何人か倒させようかとかも思ったのですが…。
でも原作ではタバサが一人でちょちょいと片付けた連中ですし、アグレッシブに出しゃばるのはバードらしくないよね。

それでは、今回はこれで失礼します。
できるだけ早く続きを書いていきたいと思いますので、次回もどうぞよろしくお願いします(御辞儀)

169 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/03/13(木) 08:14:01.10 ID:RCMt2Gxb.net
>>167
ありがとうございますー。

属性解説はまだ全属性はやってなかったですね。
全部完成させてまとめるべきかとも思うのですが物語の本筋と今のところあまり関係ないのでどうしたものかと。

ザクネイフィン父さんは確かに、混沌中立って感じじゃないなあと私も思いますがw

170 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/14(金) 01:27:23.82 ID:s2D2UTOn.net
ディーキンの人乙です
遂にNWN買ってしまった。ディーキンに会えるのは先になりそうだけど楽しみですw

171 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/14(金) 01:28:26.81 ID:B0Sjfszs.net
宝箱は属性武器で開けるもの

172 :Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2014/03/14(金) 01:43:58.77 ID:vGVGLNXg.net
>>170
ありがとうございます、大変喜ばしい事であります。
ちなみに(ご存知かもしれませんが)ディーキンは拡張シナリオのSoUとHotUに出てくるキャラで、本編には出ませんので。

173 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/17(月) 00:08:31.94 ID:Lg4xpMEx.net
NWNはPCゲーだからバトル連続だもんね
テーブルトーク的に作戦たてたり直接戦闘に役立たない呪文使ったりは雰囲気が違って新鮮な感じ

174 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/22(土) 13:00:43.81 ID:Cauf2KxY.net
atwikiのトラブルってもう落ち着いたんだろうか

175 :ウルトラ5番目の使い魔 ◆213pT8BiCc :2014/03/24(月) 01:10:13.09 ID:M7tWJUaH.net
皆さんこんばんわ。こんな時間になんですが、ウルトラ5番目の使い魔18話投下準備できましたので始めます。
予約して、10分後の1:20から始めますのでよろしくお願いいたします。

176 :ウルトラ5番目の使い魔 18話 (1/12) ◆213pT8BiCc :2014/03/24(月) 01:20:58.23 ID:M7tWJUaH.net
 第十八話
 引きちぎられた絆
 
 剛力怪獣 シルバゴン 登場!
 
 
 竜から降り、足を着けた聖マルコー号は異様なほど静まり返っていた。
「まるで幽霊船ね……」
 ふたりを乗せてきた竜が飛び去り、甲板にルイズの声と、ふたりの靴底が船板を叩く乾いた音が小さく響く。
 だが、それだけで、船の上には生気のかけらすら感じられない。船べりから覗けば、まだ地上では天使の奇跡に湧く人々の
騒ぎが見て取れ、歓声がここまで聞こえてくるというのに、まるで別世界のようだ。
「船員はどこに行ったんだ……? 前は、大勢いたはずだろ」
「気をつけてサイト、人の気配がまったくないわ。この船、ほとんど無人で動いてるみたい……教皇陛下のお召し艦に、そんなことがあると思う?」
「おれでもそんなヘマはしねえよ。どうやらもう罠だということを隠す気もないみたいだな……ちっ」
 才人は舌打ちして、ごくりとつばを飲み込んだ。もう、教皇がただの人物ではないのは、ここを見たことで九割九分九厘の確信に
変わっている。教皇が座上するにしては不自然すぎる船上を見たからには、ただで帰れるとはとても思えない。帰りの竜もいない
今の状況で助かるには、元凶を叩く以外に方法はない。
「こんなところに、ルイズとふたりで……ん?」
 才人がそう思ったとき、背中でカタカタ鳴る音に気づいた。それで、「あ、やべえ」と思って背負っていたデルフリンガーを抜くと。
「よお相棒、やっと抜いてくれたねえ。ずいぶん、ほんとーにずいぶん久しぶりで俺っち感動で泣いちゃいそうだよ! ったく、
相棒と来たら、やっとお前の背中に帰ってこれたってのに使うどころか抜いてもくれねえんだもんな。今度のガンダールヴは
冷たいよ。剣にだってハートってものがあるんだぜ! こんなんだったら武器屋の片隅で親父を相手にくだ巻いてるほうがよかったよ。
聞いてる相棒? やっと戦闘になって出番があるかとワクワクしていた希望を打ち砕かれた絶望がお前にわかる? ひとりぼっちは
寂しいんだよ。鞘の中でサビで真っ黒になっちゃいそうだったぜ。あー外の景色が懐かしいぜ。わかる? 俺のこの感動をさ!」
「デ、デルフ……いけね、そういえばここ最近忙しすぎて、返してもらったけど暇なときに抜くのも忘れてた」
 抜いたとたんに一気にまくしたててきたデルフに、才人は冷や汗まじりで答えた。
「な、なあデルフ? お前もしかして、ルイズとふたりだけって言ったの、怒ってる?」
「べぇつぅに! 俺っちはどこまで行っても剣だし、頭数に入ってなくても当然だもんね! それに相棒にはすっげえ強い銃が
あるもんね。しょせん剣は飛び道具には勝てませんもんね。別に気にしてませんからね俺っちは」
「あーあ、すっかりすねちゃって。サイト〜、自分の武器の手入れもろくに出来ないなんてサイッテーね、あんた」
「ル、ルイズ、お前まで言うか?」
 思いも寄らぬところで二対一で責められてしまい、才人は困り果ててまいってしまった。
 しかし、本気で困った顔をする才人を見てルイズが笑っているのに気づいて、才人は自分が遊ばれていたことに気がついて苦笑いした。
「そういやお前もいたよな。悪い、おれたちはふたりだけじゃなかったな。頼もしい仲間がもう一人、お前も合わせて三人だった」
「へっ、わかりゃいいんだよ。なんかめちゃくちゃヤバいことになってきたみたいじゃねえか。まったくお前らは、ろくでもない運命を
引き当てるくじ運だけはすげえな。だから俺が忠告したろ、この国はろくなもんじゃねえってな」
「ああ、おれも心からそう思うよ。けど、まさかここまでなんて思うかよ。お前のくれるヒントは役に立つようでどっか抜けてんだからな」
 それに関しては、デルフもすまねえなと詫びた。思い出そうとしているのだが、まだ記憶が完全に戻っていないのですまないと。

177 :ウルトラ5番目の使い魔 18話 (2/12) ◆213pT8BiCc :2014/03/24(月) 01:23:37.25 ID:M7tWJUaH.net
「あとちょっと、なんかのきっかけがあれば思い出せると思うんだけどな。そしたら娘っ子、お前さんの隠された力の残りも大方
わかると思うんだが、面目ねえ」
「わたしの力、わたしの遠い遠いご先祖様、始祖ブリミルから受け継いできた虚無の魔法。ねえボロ剣、虚無の魔法はわたしが
今覚えているもののほかにもあるんでしょう?」
 ルイズが尋ねると、デルフは少し考えるように沈黙すると、少し疲れたような声で言った。
「ああ、ブリミルは偉大なメイジだった。奴が呪文を唱えるたびに、あらゆる奇跡が起こったよ。なにせ、あいつの魔法には
今のメイジの系統なんて制限がなかったからな。それでも、二個や三個の魔法でどうにかなるほどブリミルは楽じゃなかった。
あいつはそれこそ、命を削って虚無を使い続けた。その数は、始祖の祈祷書の余白を思い出してみればわかるだろう?」
「そうね、始祖の祈祷書の残りのページ数は百はゆうにあったわ。その全部に呪文が記されてるわけじゃないにしても、
あのエクスプロージョンさえ初歩の初歩に過ぎないなら、後の数と質はバカでも見等がつくわね。それで、次は回りくどいことなしで
簡潔に答えなさい。わかってるんでしょ? わたしたちの見た、あの”奇跡”を起こせる魔法が、あったの?」
「ああ、あった」
 デルフは観念したように認め、その魔法の詳細を話した。
「やっぱりね、そんな魔法があれば、どんな”奇跡”だって演出できる。なんで早く言わなかったのよ」
「お前さんもわかるだろう? 俺にだって、認めたくない現実ってもんはあるんだよ。それよりもお前ら、わかってるだろうが
相手は娘っ子よりもはるかに格上の使い手だ。しかも、向こうはこっちの手の内はお見通しだ。勝てる見込みは少ないぞ」
 だろうな、とふたりは思った。この先に待っている相手は、ある意味自分たちの天敵と言える、しかしすでに腹をくくったふたりに
迷いはない。互いのことを支えあっているふたりには恐れもない。
 
 目の前には、船内へと続く入り口が口を開けている。中からは魔法のランプの明かりが漏れてくるが、やはり人の気配はなく、
へばりつくような薄気味悪い妖気が漂ってくる。
「サイト、行くわよ」
 ルイズは先頭に立って行こうとした。手には杖をぐっと握り締め、いつでも戦える体勢に自分を置いている。
 才人はそんなルイズの度胸にいつもながらの頼もしさを覚えたが、ぐっとこらえて呼び止めた。
「ルイズ、ちょっと待て。こいつは、お前が持ってろよ」
 そう言って才人は懐のホルスターから、あるものをルイズの手に取り出して握らせた。
「えっ? これ、あなたの! サ、サイト、この銃って」
「ああ、おれのガッツブラスターだ。エネルギーカートリッジは新品に換えておいたから心配すんな」
「違うわよ! これ、あなたの武器でしょ。き、貴族のわたしに銃なんて、いえそれより、これはサイトの世界から持ってきてもらった大事なものじゃないの!」
 ルイズは愕然とした。この光線銃は才人がずっと使い続けて、何度も窮地を乗り越えてきた、片腕ともいうべき武器だ。けれども
才人は真剣な表情で言った。
「いいから持っとけって。お前、平気そうな顔してるけど、さっきのエクスプロージョンで魔法の力はほとんど尽きてるはずだろ。
余力があるんだったら、とっくにテレポートで一時撤退してるもんな?」
「うっ、あんたってほんと妙なとこで鋭いわね。しょうがないわね、こ、今回だけはあんたに従ってあげる。けど、あんたは
これなしでどうする気よ?」

178 :ウルトラ5番目の使い魔 18話 (3/12) ◆213pT8BiCc :2014/03/24(月) 01:24:31.68 ID:M7tWJUaH.net
「おれにはデルフがあるさ。ま、なんやかやで姉さんたちに剣技も習ったし、これ以上こいつをスルーしたら、それこそ二度と
抜けなくなるかもしれねえしな。そいつの使い方はわかるよな?」
「バカにするんじゃないわよ。まったく、あんたのおさがりに頼らなきゃいけないなんて、とんだ屈辱だわ」
 ルイズは才人の優しい気遣いがうれしく、肝心なときに十全に力を発揮できない自分が恨めしかった。
 だが、足手まといになるのだけは嫌だ。ルイズは才人から借り受けた異世界の武器をぐっと握り締め、船内の闇の果てを凝視した。
 
 人の気配のしない聖マルコー号の船内。その廊下を、二人は木の床がきしむ音だけを共にして進んでいった。
 目的の場所は考えるまでもない。待っているといって招待されたのだから、教皇のいるべき場所はひとつだけだ。
 船内中央部、聖堂の間にその男たちはいた。
「ようこそおいでくださいました。お忙しい中呼びつけてしまいまして恐縮しております」
「教皇さん、ここまできてつまらない学芸会はやめようぜ。おれたちは遊ぶのは好きだけど遊ばれるのは大っ嫌いなんでね。
ついでに言うと、今日限りで二度とお目にかかりたくない。エルフを相手に戦争なんて、お前たちは悪魔だ」
「そういうことよ。まさかまさかと思って、今日までじっとしていたけど、もう私はあなたたちを許さない。ハルケギニアを
あんたたちのおもちゃにさせないわ」
 丁寧な物腰で語りかけてきたヴィットーリオに、才人とルイズは正反対の態度と口調で応えた。腹の探りあいなどは一切なし、
最初から遠慮なくケンカを売っている。しかしヴィットーリオは気分を害した様子もなく、にこやかに笑いながら言った。
「ふふ、どうやらかなり嫌われてしまっているようですね。できれば、あなたがたとはずっと仲良くしていきたかったのですが、
実に悲しいものです。私たちはこんなにも世のためを思っているというのに、そうでしょうジュリオ?」
「ええ、好意が相手に伝わらないというのは実に悲しいです。僕たちは何度も君たちを手助けしてあげたじゃないか? ねえ」
 けれども才人もルイズもそのくらいでごまかされたりはしない。
「しらじらしいぞエセイケメン野郎。手助けどころか手回しがよすぎるんだよ、まるで予定されてたみたいにな。最初から全部、
今日のために仕組んでたんだろう?」
「まったく、よくこれだけ大掛かりに仕組んだものだけど、考えてみたらロマリアの力なら簡単よね。ガリアのジョゼフ王とも実は
つるんでるんじゃない? あの戦争自体、あんたたちの仕組んだ自作自演だった。違うかしら!」
 ふたりの推理は証拠があってのものではない。しかし、すでに正体を隠すつもりのなくなっていたヴィットーリオは楽しげに
拍手をして褒め称えた。
「いやいや、おふたりとも見事な洞察力です。実にすばらしい。下で浮かれ騒いでいる愚かな人間たちに聞かせてあげたいくらいです」
「どうとう本性を表したわね。教皇、ヴィットーリオ・セレヴァレ、あんたの正体は何? 人間とエルフの戦争を作り出して、
なにを企んでいるの!」

179 :ウルトラ5番目の使い魔 18話 (4/12) ◆213pT8BiCc :2014/03/24(月) 01:27:12.78 ID:M7tWJUaH.net
 才人がデルフリンガーの柄に手をかけて、ルイズが懐にガッツブラスターを隠しながら杖を向けて教皇を問い詰めた。
 すると、教皇はそれまでの人のよさそうな笑顔をどけて、口元をゆがめると、いままでとは逆にぞっとするくらいおぞましい
笑い顔を浮かべた。
「うっくっくく、企んでいるか? ですか。そうですね、確かに企んでいるといえばそうなるでしょう。私たちは、ある役割を
受けてこの星に送り込まれた者です。そう、遠い昔より、我らはこの星を見守ってきました」
「やっぱり、宇宙人か。テファのお母さんの前に現れたのも、てめえだな。そんな昔から侵略の機会をうかがってやがったんだな」
 才人が怒りを込めてヴィットーリオを睨みつける。しかしヴィットーリオは、やれやれとばかりに首を振る。
「侵略? 私たちはそんな下卑なことはいたしません。我らの主は、ただ昔からこの星をじっと見ておられました。この星は
美しい……主は、この美しさをとても大切に思っておられます。けれども、同時に主はとても憂いておられました」
「なんですって?」
「ルイズ、惑わされるな。侵略者の常套手段だ。どうあれ、こいつらが戦争を起こそうとしてるのに変わりはないんだ。
おとなしくハルケギニアから手を引けばよし。さもなければ」
「ふふ、さもなければ?」
 決意を込め、抜き身のデルフリンガーの切っ先を突きつけて宣告する才人にもヴィットーリオは余裕の態度を崩さない。
才人は、平和的解決の可能性がほんのわずかもありえないことを知りつつ、それでも最後の望みと、鬼になる覚悟を
込めて言い放った。
「ここで、死んでもらう」
「うふふ、ははは、大きく出ましたね。世のしくみもわからない無知な生き物が、我らに挑もうとは本当に呆れ果ててしまいます。
その野蛮さが、やがてすべてを滅ぼすとも知らずに。仕方ありません、ジュリオ、少々相手をしてあげてください」
 交渉は決裂した。そして、口出しこそしてこなかったが、隙なくヴィットーリオを護衛していたジュリオが剣を抜きながら前へ出てくる。
「ではサイトくん、ご命令なんでね、僕が君を殺してあげよう。こう見えても、剣には少々の自信があるんだ。
最初から真剣にこないと、首が飛ぶよ」
「なめんな」
 次の瞬間、ふたりの剣が閃いて火花をあげた。
 空気を切り裂いて進むデルフリンガーと、それを迎え撃つジュリオの鋼鉄の剣。鍛え抜かれた金属が高速で激突するたびに
鋭い音が鳴り、次の瞬間には攻守を逆転させて、ジュリオの斬撃がデルフリンガーにさえぎられて、才人とジュリオは
激しい剣戟の応酬を重ねた。
「やるね。君に血反吐を吐かせたらルイズくんを屈服させられると思ったんだけど、どうもそれなりの剣術を持ってるらしいね」
「なめるなよ、こっちゃハルケギニアで一番と二番の剣士のコーチつきだ。ルイズ、こいつはまかせろ! お前はそっちのニヤケ面を
やっちまえ!」
「わかったわ!」
 才人がジュリオを抑えているあいだにと、ルイズはヴィットーリオと向かい合う。しかし、ルイズはいきなり攻撃を仕掛けることはせずに、
十数歩ぶんの間合いを置いてヴィットーリオを睨みつけたままでいる。

180 :ウルトラ5番目の使い魔 18話 (5/12) ◆213pT8BiCc :2014/03/24(月) 01:29:56.57 ID:M7tWJUaH.net
「どうしました? 私はこのとおり丸腰ですが、かかってこないのですかな?」
「うかつに飛び込んで吹き飛ばされるのはイヤですからね。あんた、私が気がついてないとでも思ってるの? あんたがさっきみんなの
前で演じた茶番劇の手品、もうとっくに見抜いてるのよ」
「ほう? 先ほどのというと、私が天使の祝福をこの身に受けたことですか。ふふ、まああなたなら直感的にわかるでしょうね。
そう、この世界の人間は魔法という特別な能力を持っていますが、反面魔法でもできないことがあると簡単に奇跡だと
信じ込んでしまいます。増して、私という信仰の対象であればなおさらです。ですが、あるのですよね、魔法でも起こせない
奇跡を起こすことのできる魔法が」
「……始祖ブリミルは、自分の遺産である四つの秘宝を子孫たちに分けて残した。ひとつはトリステインの始祖の祈祷書、
あとのふたつはそれぞれガリアとアルビオンに伝えられ、残るひとつはロマリアに……あなた、虚無の使い手なんでしょう」
 断言したルイズの視線がまっすぐにヴィットーリオを見据える。その眼光は鋭く、もしも心に偽りを持つ者であれば
耐えられずに視線を逸らしてしまうであろう。だが、ヴィットーリオはにこやかにルイズに向けて微笑んだ。
「ご明察です。我がロマリアには、始祖の円鏡が伝わっております。そして、私の身には始祖ブリミルの血脈があるのです。
すなわち、私はあなたと同じ虚無の担い手。時代に選ばれた神の使途というわけですよ」
「……ペテン師のくせに偉そうに。間違っていてくれればと思ったけど、わたしたちの仲間のひとりが敵だったなんて。
虚無の担い手の体を乗っ取ったのか、それとも担い手が魔がさしたのか。どっちでもいいけど、虚無の力でさっきの
天使の幻影を作り出したのね」
「そのとおり、あなたはまだ啓示を受けていない虚無の魔法で、名を『幻影(イリュージョン)』と言います。効果は読んで
字のごとく、イメージしたものの幻影を作り出すことができるのです。大きさから動きまで、自由自在にね」
「まさしくペテンにふさわしい魔法ね」
 たっぷり嫌味を込めてルイズは言った。しかし、使いようによってはいくらでも応用が利く魔法でもあるわねと思った。
もちろんよい方向にも、しょせんどんな力も使い手の意思の善悪次第で価値が決まる。偉大な始祖の遺産も、悪の手に
渡ってしまったのでは道端の石ころほどの値打ちもない。
「始祖も天国でさぞ嘆いておられるでしょうね。仕方ないわ、身内の不始末の責任は、わたしがこの手ですすいであげる。
始祖の御許に送ってあげるから、土下座して謝ってきなさい」
 ルイズも決意した。自分の仲間であるはずの虚無の使い手が敵であったという事実は受け入れがたかったが、こいつらを
野放しにしておけば何万という命が無駄に散ることになってしまう。
「エクスプロージョン!」
 ほぼ同時に、ルイズとヴィットーリオは杖を振るった。両者のあいだの空間が爆発し、ふたりの体が爆風にあおられて
髪とマントがたなびく。
 ルイズはほんのわずかに残った精神力を使った、詠唱をともなわないエクスプロージョンの暴発をぶっつけようとしたのだが、
ヴィットーリオはまったく同じ魔法でこれを相殺してきたのだ。

181 :ウルトラ5番目の使い魔 18話 (6/12) ◆213pT8BiCc :2014/03/24(月) 01:33:20.07 ID:M7tWJUaH.net
「ほう、無詠唱にも関わらずになかなかの威力ですね」
「くっ、わたしと同じ虚無……当然ね、わたしと同じ血統なら、わたしと同じことができる、か」
「同じではありません。あなた以上ですよ」
 ヴィットーリオの言ったとたん、ルイズのすぐそばで爆発が起こった。ルイズも詠唱を気づけなかったほどの早業で、
ルイズの上着の左肩がこげてマントが舞い落ちる。遅れてきた痛みにルイズは顔をしかめ、ヴィットーリオが口だけでは
ないことを知った。
「やるわね。こんなに詠唱が早いメイジは、わたしの知る限り数人もいないわ」
「それは光栄。しかし、あなたも鍛錬を積めばこの程度はすぐにできるようになるはず。あなたとは友人になりたかったのですが、
残念でなりませんよ」
「ふん、利用するための関係を友人なんて笑わせてくれるじゃない。あんたこそ、これほどの力を悪用するなんて、まったく惜しいわ」
「……それは、どうでしょう? この世界にとっての真の悪とはなにか、考えたことはありませんか?」
「そんなの決まってるわ。勝手に人の家に上がりこんで、あまつさえ我が物にしようとするあんたたちみたいな侵略者よ」
 ヴィットーリオの問いかけに、ルイズは隙を見せないように注意を払いながらも、売り言葉に買い言葉で答えた。すると、
ヴィットーリオは悲しげな表情を見せて。
「残念です。あなたもまた、そのような狭い考え方しかできないのですね。私は、この世界にとっての悪と言ったのです。
この広い世界に住んでいるのは人間だけではありません。いえ、むしろ人間などは少数派でしょう。にも関わらず、人間は
この世界になにをしてきたと思いますか?」
「……なにを言ってるか、さっぱりわからないわ」
 正直、ルイズはヴィットーリオの言うことを理解できなかった。それよりも、才人の言うとおり、適当な言いがかりで
こちらを惑わせてくるのだろうと、攻撃の隙をうかがうことに神経を使う。しかしヴィットーリオは気にした様子もなく
話を続けた。
「かつて、始祖ブリミルの時代にこの世界は一度滅びました。その時の様は、大地は荒れ果て、空は濁り、生命の
存在を拒絶する不毛の荒野がただひたすら続いていたといいます。それから数千年、大地はその偉大な力で森を生み、
動物や鳥や虫を育ててきました。これはまさに神秘でしょう」
 ルイズの記憶に、虚無の力が以前見せてくれた過去のビジョンが蘇る。
「しかしながら、人間は森を切り開き、山を削り、我が物顔で己のテリトリーを広げ続けています。そこに、どれだけの
生き物がいて、住処を追われているのか、考えたことはありますか?」
「それは、わたしたち人間が生きるうえでもしょうがないことよ。動物同士も生きるために他者を食い、縄張りを広げていくわ。
人間だけがなにもせずに生きていけるわけがない。その生き物たちは、かわいそうだけど人間との競争に負けたのよ」
「人間は度が過ぎるのです! いえ、この世界の人間たちはまだその自覚すらないのですね。ならば少し教えてあげましょう。
このハルケギニアでは、まだその兆候がはじまったばかりですが、人間たちは自らの手で自分の世界を破壊することを
なんの罪悪感もなくおこなっているのです。例えば、先年のアルビオンの内乱がおさまるまでのあいだに、軍船を作るための
木材を伐採するために広大な森林が消えました。トリステインでもガリアでもゲルマニアでも、この近年ですさまじい勢いで
森が消えていっています! 森が、どれだけの年月を経て育つのか、あなたはご存知ですか?」

182 :ウルトラ5番目の使い魔 18話 (7/12) ◆213pT8BiCc :2014/03/24(月) 01:35:43.38 ID:M7tWJUaH.net
「な、なにを言っているのよ! 森なんてハルケギニア中にいくらでもあるじゃない。ちょっとやそっと使ったところで変わりゃしないでしょ」
 取り付かれたように熱弁をふるうヴィットーリオに、ルイズはうろたえながらも言い返した。しかし、ヴィットーリオは嘆き悲しむように
整った顔を歪めて語る。
「ああ、なんという愚かな! やはり人間に未来などはない。無制限に増え続け、世界の隅々まで蔓延して、あらゆるものを
食い尽くすまで止まらないのです。無知とは恐ろしい! あなたは知らないのですね、森を削られ住処を追われたオークや
トロルがよその土地で暴れて起きる被害を、戦争のための大砲を作る製鉄所の石炭の煙で病に苦しむものを、そして
高価な薬をとるためだけに無慈悲に命を奪われていく竜や幻獣たちの嘆きの叫びを!」
 それは、まさに鬼気迫るとしか言いようのない叫びであった。教皇として信者に教え諭すときとはまったく違う、搾り出すような
怒りと嘆きの怨念の声。
 ルイズは圧倒され、喉が凍ってなにも言い返すことができない。
 だが、才人はジュリオと切り結びながらも、ヴィットーリオの叫びは耳に響き、その意味を知っていた。ヴィットーリオの言うこと、
それはかつての地球人類が刻んできたのと同じ歴史をハルケギニアも刻もうとしていることであり、同時に同じ過ちも再現しようと
しているということであった。
”ハルケギニアでも、人間による自然破壊が始まっている。しかも、この世界の人々には自然保護という概念がまだない”
 社会科の時間で習った、森林破壊や生物の大量絶滅の歴史が蘇る。二十世紀中ごろから二十一世紀初頭にかけての
地球は環境破壊や東西冷戦での度重なる核実験による影響で、いつ地球が滅亡してもおかしくないという危機感が
常に人々の胸のうちにあった。
 いや、そんな被害者意識は傲慢であろう。人間は間違いなく、ほんの少し前の時代には地球を滅ぼしかけていたのだ。
 そして、このロマリアに来る前にたどり着いたエギンハイム村で聞いた話では、利益を拡大しようとする村人と原住民である
翼人の間に争いがあったという。
 才人は思った。こいつらは、いずれハルケギニアが地球と同じようになると思っている。それを未然に防ぐために、この世界の
人間を抹殺しようというのが、奴らの大義名分なのだ。
「だが、そんなもん、身勝手すぎるぜ!」
 才人は吼えた。確かに、ハルケギニアの人間も地球人と同じ愚行の道を歩みつつある。だからといって、こんな一方的な
行為を是認するわけにはいかない。ジュリオとつばぜり合いをしながら、才人はヴィットーリオに向かって叫んだ。
「おい教皇さん! 人間を、まるでばい菌みたいに言ってくれるじゃないか。確かに、人間は欠点だらけの生き物だ。この世界も、
下手すれば遠くない将来、ひどいことになるかもしれねえ。だが、悪い物と決め付けてバッサリと切り取ろうなんて、てめえに
そんな権利があるのか? ハルケギニアの将来は、ここに住む人間たちのもんだろ!」
「ええ、本来ならそのはずです。けれども、人間たちは力を持てば持つほど増長して、己のために平然とほかの生き物を
犠牲にしていきます。いずれこの星に飽き足らず、宇宙そのものまでを……私たちも滅ぼされたくはないのです!」
 間違ったことは言っていない。才人にもそれはわかった。 

183 :ウルトラ5番目の使い魔 18話 (8/12) ◆213pT8BiCc :2014/03/24(月) 01:38:25.68 ID:M7tWJUaH.net
 かつての地球でも、人類の際限ない増長に反発するかのように、自然界から幾多もの脅威が現れた。住処を追われ、
眠りを妨げられてしまった怪獣たちの逆襲。怪獣頻出期の初期からそれは始まり、ゲスラ、ザンボラー、ステゴン、
ハンザギラン、シェルター。これらはほんの一例であり、皆人間の被害者だ。
 また、それにも増して救いようもなく凄惨だったのが放射能の恐怖だ。核エネルギーは、本来は平和利用の大きな力として
扱うべきなのに、この偉大なパワーはただ兵器として開発され、広島長崎から始まる悲劇の連鎖を生んできた。
 レッドキングによる水爆の持ち出しは地球壊滅の危機を生み、ビキニ環礁での核実験は生き延びていた古代恐竜を変異凶暴化させ、
その猛威によって、ようやく戦後から復興を遂げていた東京は再度灰燼に帰すことになった。さらにその後も、各国の核実験は
エスカレートの一途を辿って宇宙にまで拡大し、ギエロン星獣やムルロアの脅威が地球を滅亡の危機に追いやった。
 中には、そんな地球人を脅威に思って攻撃してきたマゼラン星人や、地球人の卑劣さに単純にキレたピッコロのような
宇宙人もいる。愚かな地球人という宇宙人の罵り文句は、一面においては完全に正しいのである。
 現在でも、東西冷戦が終わって沈静化してはいるが、愚かなことにいまだ一部の国では核開発がおこなわれている。自国を
守るためにある程度の武力は必要だが、身の丈を超えた力を欲するのはならず者と臆病者のやることなのである。
 才人は思う、地球人は馬鹿だった。そしてハルケギニア人にも同じ資質があるだろう。地球人はギリギリで回避できたが、
ハルケギニア人がいずれ自分でこの世界を滅ぼす可能性は十分以上に存在する。
「あんたらの言いたいことはわかったよ。でもな、そういうあんたらが人間以上に高尚な生きもんだって証拠がどこにある。
むしろ、やり口の悪辣さはあんたらもひでえじゃねえか。人間にとって変わって、今度はあんたらがハルケギニアを滅ぼすか?」
「私たちは、この星をあるべき自然の姿に返すだけです。今度こそ、人間という汚れた存在のないきれいな星を作るために」
「この、いかれたエコロジストが!」
 才人の激昂の叫びが轟いた。
「てめえらがどれだけ進んだ文明を持っていようと、この星の行く先はこの星に生まれたもののもんだ。そっちの勝手な好き好みで
きれいだの汚いだの見るのは勝手だが、ハルケギニアを自分の箱庭だとでも思ってるのか?」
「人間こそ、この星の絶対的な支配者だとでも思っているのですか! この星は今、人間というウィルスに犯されているのです。
互いに憎しみあい、騙しあい、殺し合いながらも決して死滅せずに増殖し続ける悪性のウィルスに。今、これを取り除かなくては
手遅れになってしまいます」
「ふざけんな! てめえは人間の悪いとこしか見ちゃいねえ。いや、自分にとって都合のいいところだけを強調して、侵略の口実に
使っているだけだろ」
「私はロマリアの人間として、長い年月をかけて人間たちを見てきました。どれだけ年月を重ねようと、彼らにはなんの進歩もない。
もはや破滅だけが彼らに残された救いなのです」
 怒りが、抑えようもない怒りが胸に満ちてくるのを才人は感じた。ジュリオの剣をデルフで受け止めながらする歯軋りは、
力を込めるためのものだけではなく、どこまでも偉そうに上から目線のこいつらへの憤りによるものだ。

184 :ウルトラ5番目の使い魔 18話 (9/12) ◆213pT8BiCc :2014/03/24(月) 08:22:49.54 ID:M7tWJUaH.net
「サイトくん、無駄な抵抗はやめたまえよ。この星から人間がいなくなれば、動物や植物が大地に満ち、自然を大切にする亜人たちが
それを守っていく。すばらしいユートピアじゃないか」
「ああ、確かにそりゃそうだろうな。けど、そんなもんはまやかしだ!」
 ジュリオの攻撃を振り払い、才人は大きく息を吸う。そして、ルイズに向かってはっきりと告げた。
「ルイズ、聞いてたろ! こいつらは、なんともすばらしい聖人たちだよ。本気ですばらしい世界とやらを作ろうとしてらっしゃる。
けど、こいつらの頭には未来への希望がねえ。邪魔者を削るだけで、新しいものを作ろうって気がねえようだ」
「ええ、わたしも感じたわ。あなたたちは、ただ過去を懐かしんで、美しい思い出を蘇らせようとしてるだけだわ。時間を逆流させ、
停滞させようとしてるだけで、なんの進歩も示さないあなたたちにわたしたちの未来を奪う権利なんてない。覚悟なさい……
あなたたちは、わたしたちが倒す!」
「よくおっしゃいました。ですが、私たちはあなたたちウィルスの進化など許すわけにはいきません。次は本気でいきますよ」
 意思はすれちがい、決裂した。後は、戦う以外に道はない。
 
 剣と剣をぶつけ合う才人とジュリオ。
「ほんとうに、いいかげん素直にやられてくれたまえよ。手足を切り落とされるのは、けっこう痛いと思うんだけどね」
「ざけんじゃねえ、てめえらみたいに人の痛みをヘラヘラしながら見てられる奴らに絶対負けるかよ!」
 
 杖を抜き放つヴィットーリオに、小柄な身をかわして反撃の機会をうかがうルイズ。
「なかなかすばしこいですね。虚無の使い手としては未熟でも、場慣れはかなりしているようで、あまり長い詠唱はさせていただけそうも
ありませんねえ」
「余裕しゃくしゃくで褒められてもうれしくないわよ。こっちこそ、詠唱のためにちょっとでも気をそらせばたちまち吹き飛ばされる。
始祖の力で、これまでどれだけ悪事を働いてきたの!」
 教皇ヴィットーリオが、なぜ絶対的な支持を集めているのか、その一端がわかった気がした。全てではないにしろ、彼が虚無の
力を利用して成り上がって来た事は想像にかたくない。それは虚無の力を私欲のためには使わないと決めたルイズとは
対照的で、ルイズはなにがなんでもこの男を倒そうと心に決めた。
 
 拮抗する才人とジュリオ、反撃の隙を狙いながらも追い詰められていくルイズ。両者の戦いは、ルイズたちの側が不利に見えた。
 だが、ルイズはエクスプロージョンの機会をうかがうように見せながらも、たったひとつの隙を狙っていた。
”ほんの一瞬でいい。サイト、その隙を作って!”
 ヴィットーリオは強い。このまま勝負を続けていたら、遠からず自分はエクスプロージョンの直撃を受けて死ぬ。しかし、
たったひとつだけ自分に勝つ手段がある。だがその一瞬を逃せば終わりだ。それに、ヴィットーリオは自分の一挙手一投足を
念入りに観察していて隙がない。だから、ヴィットーリオの注意を少しだけでも他に逸らさなければいけない。
 ルイズの体力は長くは持たない。それに、才人の技量もジュリオに勝っているわけではなく、長引けば才人が不利だ。
 余裕の表情で才人を追い詰めるジュリオ。だが、才人にも一度限りの隠し球があった。

185 :ウルトラ5番目の使い魔 18話 (10/12) ◆213pT8BiCc :2014/03/24(月) 08:29:02.04 ID:M7tWJUaH.net
 ジュリオが才人の首を狙って剣を振り下ろしたとき、才人はデルフリンガーの柄に特別なひねりで力を込めた。
「わあぁーーーーっ!!」
「っ!?」
 いきなり、それまでずっと黙っていたデルフが大声をあげたことで驚いたジュリオの剣閃が鈍った。その瞬間を逃さず、才人は
全力で横なぎに切り払った。
「くらえぇぇっ!」
「しまっ、うわぁぁっ!」
 手ごたえあり。ジュリオは部屋の隅まで吹っ飛ばされ、起き上がってはこない。致命傷かはわからないが、才人はそれよりも
ルイズを援護するために叫んだ。
「ニヤケ野郎、次はてめえの番だ!」
「ぬっ! ジュリオ」
 その瞬間、ヴィットーリオの注意がわずかに逸れ、ルイズは間髪いれずに懐からガッツブラスターを取り出して撃ち放った。
「うわあぁぁぁぁぁっ!」
 初めて引く銃の引き金。ビームが空気を裂く音が響き、青い光の矢がヴィットーリオの胸に突き刺さる。
「うっ、がっ……ま、まさか、あなたがその武器を。ぬ、ぬかりました」
「はぁ、はぁ、覚えておきなさい。わたしたちは、誰かを利用して戦ったりはしない。互いに、持てる力を合わせて戦う。
人間を、なめるんじゃないわよ」
 起死回生の大博打が成功した脱力でルイズはひざを折って大きく息をついた。
 だが、これは確実に効いたはずだ。たとえ奴が宇宙生命体の変身でも憑依体でも、怪獣にもダメージを与えられる
ガッツブラスターの直撃を受けたのだ。あと一発食らわせればこいつを倒せる。教皇が消えて、ロマリアは大パニックに
なるだろうが、エルフとの戦争が起こるよりはましだ。
 しかし、今まさにとどめを刺されようとしているヴィットーリオの顔に、不敵な笑みが浮かんだ。
「ふ、ふふふ、どうも少々遊びすぎてしまったようです。あなたを、いえあなたたちを見くびっていたことを謝罪しましょう。
そしてわかりました。あなたちの力が互いの結束にあるのなら、それを奪えばよいということを。見せてあげましょう。
あなたのまだ知らない虚無の魔法を」
「なんですって、そうはさせるものですか!」
 詠唱をはじめたヴィットーリオを阻止しようと、ルイズはガッツブラスターの銃撃を再度撃ち放った。だが、なんと光線は
ヴィットーリオの直前で、稲光のようなものにはじかれて逸れてしまったのである。
「銃弾を、はじいたの!?」
「電磁波シールド……くそっ、化け物め」
 いつの間にかヴィットーリオは自分の周りに不可視のバリアーを張り巡らせていた。それが、今の攻撃をはじいてしまったのだ。
苦し紛れに才人がデルフリンガーで斬りかかるがそれも通用せず、ヴィットーリオの詠唱が不気味に響き渡る。

186 :ウルトラ5番目の使い魔 18話 (11/12) ◆213pT8BiCc :2014/03/24(月) 08:34:51.47 ID:M7tWJUaH.net
「ユル・イル・ナウシズ・ゲーボ・シル・マリ……」
「くっ、くっそぉ。ルイズ、いったい奴はなんの虚無魔法を使おうとしてるんだ!」
「わたしにもわからないわよ。でも、この詠唱の長さと威圧感、下級であるはずがないわ。少なくとも中級、気をつけてサイト」
「気をつけろって、なにをどうすりゃいいんだよ!」
「こいつは、まずいぞ相棒! 今すぐ逃げろ!」
「逃げ場所なんてねえよ!」
 見守るしかない才人たちの前で、ヴィットーリオの詠唱は続き、ついに彼は詠唱を完成させた。
「お見せしましょう。中級の中の上、その名を世界扉。これがあなたたちの最後に見る魔法です」
 ヴットーリオの振り下ろした杖の先、そこに小さな光る粒が現れたのが始まりだった。
 粒は見る間に風船のように膨れていき、まるで銀色の鏡のような姿へと変わる。その大きさは呆然と見守る才人たちの
見る前で、手鏡大から姿見の大きさ、さらには鏡の壁とさえいえる大きさへと膨れ上がっていき、さらに巨大化を続けていく。
「なっ、なんだよこれは! ち、近づいてくる」
「これが虚無? まるで生き物。教皇、いったいなにをしたの」
 銀色の球体は巨大化を続け、才人とルイズへと迫ってくる。それはまるで銀色のアメーバのようで、とても魔法とは思えない。
 教皇は、肥大化する銀色の球体の影になかば隠れながら、ふたりをあざ笑った。
「ふふふ、これは確かに虚無の魔法ですよ。移動をつかさどる虚無のひとつ世界扉、本来ならばこの世界と別世界とを結ぶ
次元ゲートを発生させる高位な魔法です」
「じげ、なんですって」
「次元ゲートだって? つまり、この銀色のグニャグニャの先は別の世界につながっているってのか!」
「そのとおりです。まあ、本来は莫大な精神力を消耗する物なのですが、それは脆弱な人間の話です。それよりも
気をつけたほうがいいですよ。私は行く先のイメージをせずにこの魔法を発動させました。つまり、このゲートをくぐった先に
どんな世界があるかは、私にもわからないのです。ふふ、ははは」
「なんだとお!」
 愕然とする才人たちに向かって、次元ゲートはさらに速さを増して迫ってくる。その大きさは歯止めを失い、とうとう船室を
飲み込み、船そのものをも侵食しはじめた。
「サイト大変! 船が、このままじゃ墜落するっ!」
「畜生、なっなんだ! 吸い込まれるっ!」
 突然、ゲートから引力のようなものが発生してふたりを引き込み始めた。まるで、急な坂道にいきなり立たされたかのような
吸引力に、才人はデルフリンガーを床に突きたてて耐えようとするが、じりじりと吸い寄せられてしまう。
「教皇ぉっ!」
「フフフフ、どうやら異常な発動をしてしまった虚無の暴走が生贄を求めているようですね。偉大なるあなたがたの始祖の遺産で
消えれるなら本望でしょう。あはははは」
 嘲笑するヴィットーリオの前で、才人とルイズは船をも破壊しながら肥大化していくゲートに吸い込まれていく。だめだ、このままでは
ゲートにふたりとも飲み込まれてしまう。才人は片手で支えになっているデルフを持ちながら、ルイズにもう片手を差し出した。

187 :ウルトラ5番目の使い魔 18話 (12/12) ◆213pT8BiCc :2014/03/24(月) 08:37:37.55 ID:M7tWJUaH.net
「ルイズ、掴まれ! おれたちは、いつもふたりで一人だ」
「サイト、サイトっ……あぐっ!」
 才人の伸ばした手をルイズが握ることはなかった。その直前に、火薬の破裂する音とともに、一発の銃弾がルイズの体を
貫き、彼女の体は力なく崩れ落ちたのである。
「ルイズ? ルイズ! ジュリオっ、てめえ!」
「あははは、さっきの仕返しさ。君たちの絆とやらはやっかいそうだけど、一発の鉛球にはかなわないんだね。さあ、そのまま
ふたりとも、どこともしれない次元のはざまでさまよい続けたまえ。もう互いに、二度と会うことはない」
 ジュリオに胸を撃たれたルイズは、そのまま落ちるようにして次元ゲートの銀色の海の中へと吸い込まれていった。
「サ、イト……」
「ルイズーッ!!」
 次元のかなたへと落ちていくルイズを追って、才人は迷わず飛び出した。重力の感覚が消え、目の前にひたすら不気味に
うごめく銀色の海が広がるその中へ。
「相棒、相棒ぉーーーっ!」
 床に突き刺さったままのデルフが見守るその前で、ルイズと才人の姿は次元ゲートの銀色の光の中に消えていった。
 残ったのは、高笑うヴィットーリオとジュリオの声。そして、暴走する世界扉の次元ゲートは聖マルコー号の船体を飲み込み、
優美な船はやがてバラバラの木片となって空に散っていった。
 
 
 そして、いかばかりの時間が流れたのか……才人は目を覚ました。生きて、それが幸運だったか不幸だったかは別としても。
「う、お、おれは……ここは、どこだ? な、なんだこりゃあ!」
 目を開けた才人が見た景色は、どこまでも続く荒野だった。草一本ない砂漠に等しい大地、濁った空……明らかにハルケギニアとは
違う光景に、才人は自分が次元を超えてしまったことを理解した。
「おれは一体、どこに来てしまったんだ? うっ、ごほごほっ! なんだ、このひでえ空気は」
 喉をひっかかれるような痛みに才人は顔をしかめた。この世界は大地と空だけではない、大気までまるでスモッグの中のような
ひどさだ。才人はとっさに、持っていたハンカチで口を覆ってなんとかしのごうとした。
「なんなんだこの世界は……そ、そうだ! ルイズは。ルイズーっ!」
 気がついた才人は、とっさに周りを見回した。しかし、周囲にはルイズのあの桃色の髪のあざやかな色の気配はなく、どこまでも
無機質な荒野ばかりが続いていた。
 しかもそれだけではない。ルイズを呼ぶ声を聞きつけたのか、地中から地響きをあげて巨大な怪獣が飛び出してきたのである。
「今度は怪獣かよっ! くそっ……しまった! ガッツブラスターもデルフも。ちくしょう、なんでこんなときにっ!」
 自分が丸腰だと気づかされた才人にできることは逃げることだけだった。
 荒野の上を、必死で走る才人。しかし、現れた屈強な体つきを持つ銀色の怪獣は雄たけびをあげて才人をまっすぐに追ってくる。
才人も全力で走ったが、しょせん人間と怪獣では歩幅が違いすぎる。
 もうダメか……才人がそう思いかけた、そのときだった。
「あなた、伏せて!」
 突然才人は誰かに押し倒されて地面に押し付けられた。
 いったい誰だ? ルイズ? いや違う。頭を押さえつけられながら見上げたその相手は、きらめくような薄い金髪をしていたからである。
「な、なにすんだよ。はやく逃げないと怪獣に踏み潰されるぞ!」
「しっ、黙って。だいじょうぶよ、あいつは動くものしか見えないの。じっとしていたら、そのうち行ってしまうわ」
「そ、それはどうも……えっ!」
 少し頭を動かせるようになり、あらためて相手の顔を見上げた才人は絶句した。その相手は、翠色の瞳を持つ、見惚れてしまうほどの
美しい女性だった。だがそれ以上に、彼女の長く伸びた耳は、才人にとっても忘れられない種族のものだったからである。
 
”エルフ!? どうなってるんだ、ここはハルケギニアじゃねえのか? ほんとに、いったいおれはどこに来ちまったんだ……ルイズ”
 
 
 続く

188 :ウルトラ5番目の使い魔 あとがき ◆213pT8BiCc :2014/03/24(月) 08:40:12.92 ID:M7tWJUaH.net
今回はここまでです。読んでいただければわかったと思いますが、かなりぶっとびました。
けど、この展開はかなり前から予定はしていまして、教皇のキャラ設定などはその名残です。
この後からかなりの伏線回収にしていくつもりです。それがすんだらハルケギニアでまた続きを、しばらく出番のないセブンやヒカリも
出したいし、まだ使っていない原作のストーリーなどもありますのでそれを消化していきます。
あと半月でヤマグチノボル先生の一回忌ですね。何度も読み返しながら、ゼロの使い魔という作品を題材に真似てssを作ることは出来ても、
これを一から作り出すことは私にはとても無理だと実感します。物書きとして、尊敬の念を抱くとともに本当に惜しい才能の早すぎる
旅立ちを残念に思います。
そのリスペクトを持って、これからも投稿を続けていきたいと思いますので、これからもよろしくお願いいたします。

189 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/24(月) 13:09:59.04 ID:tqU4yTyB.net
一回忌ではなく、1周忌ですよ。

ちなみに来年は3回忌です。

190 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/26(水) 21:52:56.55 ID:eDznLpPG.net
>>188
ちくしょー! ここで引きとか生殺しだよこんなろー!!
続きが楽しみでたまらんじゃないですかー!!

ここまで縊り殺したくなる教皇とジュリオはひさしぶりだわ。

191 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/04/01(火) 22:34:10.05 ID:FyH5zGP4.net
今日はエイプリルフールですが、この投下は嘘じゃありません。
投下は22:37からです。

192 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/04/01(火) 22:37:06.76 ID:FyH5zGP4.net
ウルトラマンゼロの使い魔
第三十四話「凶刃の侵略者」
光波宇宙人リフレクト星人
高速宇宙人スラン星人
奇怪宇宙人ツルク星人
暗闇宇宙人カーリー星人 登場

 マグマ星人率いる宇宙人軍団を撃退した翌日、ルイズ、才人、シエスタ、そして春奈の四人は、
パトロールのためにトリスタニアの街の捜索を行うことにした。侵略者たちの破壊工作の目的が
不明な以上、今日もまた敵が爆破騒ぎを起こすかもしれないからだ。
「あの憎き侵略者たち、また現れたら、今度はとっ捕まえて何の目的があるか吐かせてやるんだから!」
 ルイズは俄然張り切っているが、才人はそれをなだめるように言い聞かせる。
「あんまり血気に逸って、無茶するんじゃないぞ。まだ侵略者たちに、どれだけの戦力が
あるか分からないんだ。昨日みたいに、戦いに優れた奴が出てくるかもしれない。いつも
無事に勝てるとは限らないんだぜ」
「何よ、その言い方。わたしを子供扱いするつもりなの!?」
 才人の物言いにルイズは、興を削がれたような気分になって不機嫌になった。
「実際、宇宙人からしたら子供みたいなもんだろ。敵はそれだけ恐ろしいんだ」
「な、何よぉ! ご主人さまの力が信じられないって訳!?」
「だから、油断をするんじゃないってことを言ってるんだって――!」
「お二人とも、落ち着いて下さい。天下の往来ですよ……」
 些細なことで言い争いになるルイズと才人を、シエスタが慌てて止める。その構図に、
水筒の水をあおった春奈はハァとため息を吐いた。
「ふぅ……こんな調子で大丈夫なのかな……?」
 ぼやきながら、ふと視線を脇へそらすと、突然目を見開いた。
「あッ、あの鞄!?」
 と発すると、急に踵を返してどこかへ走り去っていこうとする。
「えッ!? ハルナさんどちらへ?」
「ち、ちょっと! ハルナ、どうしたの?」
 当然ルイズたちは驚き、すぐに春奈の背中を追いかける。才人が一番に追いつくと、
何事か問いかけた。
「どうしたんだよ春奈? いきなり血相抱えて」
 春名はそれの、すぐに返答した。
「わ、私のバッグを持っていた人がいたの!」
「バッグ? それがどうしたのよ?」
 ルイズには鞄に執着する理由が読めなかったが、春奈はそれについてこう語る。
「ただのバッグじゃないの。……私がこの世界に連れてこられた時に、持ってきていた
唯一のバッグなの!」
 地球からの春奈の持ち物を持っていた人がいたという。その証言に驚く才人。
「そ、それを早く言えよ。どっち行ったんだよ! そのバッグを持った奴って!」
「ええと……。あ、あっちの方!」
 焦る春奈は、鞄を持っているという者の後ろ姿が路地裏に入っていくところを目にして、
自身もその路地裏に入っていく。才人たちは出遅れてしまった。
「ま、待てって春奈! 罠かもしれないんだぞ!」
 追いかけながら警告したが、もう遅く、気がつけば春奈も見失ってしまい、無人の裏通りに
迷い込んでしまっていた。
「く、くそう! どこ行ったんだよ!」
「ハルナさん、一人で大丈夫でしょうか……?」
 才人とシエスタが周囲に目を走らせて春奈の姿を探していると、突然ゼロが声を上げた。
『ちょっと待て。様子が変だぜ』
「え?」
『まずいな……。罠に掛かったのは俺たちの方だったみたいだ。囲まれてやがる!』
『キエエエエエッ!』

193 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/01(火) 22:38:19.47 ID:fJpgIvJG.net
しえん

194 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/04/01(火) 22:39:52.79 ID:FyH5zGP4.net
 ゼロの言葉の直後に、通りの陰から、丸いシルエットが三人に飛び掛かってきて、剣を
振り下ろしてきた。
「危ないッ!」
「きゃッ!?」
 才人が反射的にデルフリンガーを抜いてルイズとシエスタをかばい、影の剣を防御した。
丸い影は背後へ下がり、石畳の上に着地する。
『フッフッフッ、地球人のくせに私の剣を受け止めるとは、なかなかやるものですねぇ』
 影の詳細な姿が、白日の下に晒される。いくつものトゲが生えた銀色の丸いボディに、
手足が生えているという、一見するとコミカルな姿だが、トゲや手の甲から伸びる剣は
紛れもない凶器だった。
「何あの、ウニみたいな奴!」
『お前は、リフレクト星人!』
 ゼロは宇宙人のことを知っていた。過去にウルトラマンメビウスがなすすべなく敗れたことがある、
強敵武闘派宇宙人、リフレクト星人だ。
『如何にも、私はリフレクト星人。下等な虫けらの諸君、御機嫌よう。もっとも、すぐ
お別れすることになりますがね』
「む、虫けらですって!?」
 リフレクト星人の口ぶりとは正反対の無礼さに、ルイズがプライドを傷つけられて憤怒した。
が、リフレクト星人は構わずに続ける。
『それと、連れの者たちも紹介しましょう。出てきなさい!』
「グウオオオオオ!」
 ルイズたちのいる場に、細身のシルエットがどこからともなく飛び出てきた。だが新手の影は、
移動スピードが信じられないほど速く、ルイズやシエスタの目では残像しか捉えられなかった。
才人がウルトラゼロアイで射撃するが、新手は難なく回避し、三人の背後に来てようやく停止する。
「キュキュウーイ!」
「ファア―――!」
 敵はそれだけではなかった。更に左右から、両手に刃を生やした怪人と両肩に三日月状の
とがった角を取りつけた怪人の二人が襲い掛かってくる。
「きゃああッ!」
「ぐぅッ!」
 さすがに二人同時の攻撃は防御し切れない。才人を含め、ルイズたちは咄嗟に転がって、
向かってきた刃をかわす。才人は端末で、新たに出現した敵三人の情報を引き出した。
「スラン星人! ツルク星人に、カーリー星人!」
 どれもが攻撃性の高い、凶悪な宇宙人だ。才人たちは四人もの宇宙人に囲まれてしまい、
逃げ場を失ってたじろいだ。そんな中で、リーダー格であるリフレクト星人が口を開く。
『あなた方のことはよく聞いてますよ。つい昨日も、我々宇宙人連合の計画を妨害してくれたとか。
そういうことですので、まずは邪魔者を片づけてからゆっくりと計画を遂行するために、私たちが
派遣されたという訳です』
「くッ、先に俺たちを狙うことにしたのか……!」
 脂汗を浮かべて歯軋りする才人。この状況はまずい。狭い空間に敵が四人など、この場で
ゼロに変身したとしても、ルイズとシエスタを守り切れるかどうか分からない。
『雑談はこのくらいにしましょう。さっさと仕事を片づけさせてもらいますよ!』
 リフレクト星人たちは考えを練る時間も与えてくれずに、四人一斉に飛び掛かってきた。
それで才人はいちかばちか、ゼロアイで変身しようとする。
 その瞬間に、頭上から火炎と氷の槍が宇宙人たちに降りかかり、足を止めて才人たちの窮状を救った。
『何!? 誰だッ!』
 リフレクト星人が顔を振り上げると、彼らの上空に、一匹の風竜が漂っていた。そして
その背の上に乗っているのは、もちろん……。
「キュルケ! タバサ!」
「ハァイ、ルイズ。あなたたちは、いつもピンチの真っ只中にいるわね」
「間一髪」
 いつものキュルケとタバサのコンビだ。ルイズがすぐに尋ねかける。

195 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/01(火) 22:40:15.17 ID:/AGmJDhd.net
エイプリルフールだったっけ
何年か前にゼロが名指しで警告してた契約宇宙人がまだ元気そうなんでしばいてきてくれませんかね

196 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/04/01(火) 22:42:47.45 ID:FyH5zGP4.net
「もう大体予想つくけど、どうしてここにいるのよ?」
「そりゃもちろん、あなたたちが王宮に呼び出されて、日付が変わっても帰ってこないから、
また面白そうなことに関わってると思って……」
「グオオオオ!」
 キュルケが話している途中で、スラン星人がシルフィードへと光弾を発射した。シルフィードは
スイッと下がって、光弾を回避する。
「ちょっと、レディの会話をさえぎらないでもらえる? 育ちが悪いわね」
「言っても無駄」
 タバサがひと言つぶやくと、キュルケとともに炎と氷の攻撃を宇宙人たちに降り注ぐ。
リフレクト星人は前腕に装着した盾で防ぎ、他の三人は素早く飛びすさってよけた。
『ええい、うっとうしい! 虫けらは虫けららしく、踏み潰してやりましょう!』
 キュルケたちの加勢に苛立ったリフレクト星人が高く跳躍すると、スラン星人たちもそれに
続いてジャンプする。
 そして四人の宇宙人たちは、40メイル級に巨大化してトリスタニアに降り立った。ツルク星人と
カーリー星人は、蜥蜴人間のような容姿に変化までしている。
「もう、ウチュウ人ってすぐこれなんだから! 卑怯じゃない!」
「退却」
 瞬く間に各地で悲鳴が沸き上がる中、タバサたちはルイズたちを回収するために一旦降下する。
才人はシルフィードの上にルイズとシエスタを乗せると、彼女らに告げた。
「お前たちは、春奈を探してくれ! あいつも狙われてるかもしれない! 俺はその間、
宇宙人たちを引きつける!」
「無理しないでよ!」
 リフレクト星人が迫ってくるので、シルフィードはすぐに飛び立って退却していった。
一人残った才人は、巨大化した剣が自分へ振り下ろされるのを見上げながら、ゼロアイを装着した。
「デュワッ!」
 直ちに変身したウルトラマンゼロは、ゼロスラッガーで剣を押し返しながら巨大化し、
リフレクト星人と激しくにらみ合う。
『ウルトラマンゼロォ……! 我がリフレクトの同胞の、ウルトラ一族への恨み、ここで
晴らしてやりましょう!』
『やれるもんならやってみなッ! 二万年早いってこと、教えてやるぜ!』
 リフレクト星人と鍔迫り合いするゼロだが、その横からスラン星人、ツルク星人、カーリー星人が
攻撃を加えようとする。
「グウオオオオオ!」
「ゲゴオオオオオオウ!」
「ギャーアーゴ―――!」
 スラン星人の手の甲から伸びた刃、ツルク星人の腕の剣、カーリー星人の肩の角がゼロへ差し迫る。
一方のゼロは、リフレクト星人と押し合っていて無防備。ゼロのピンチ!
『はぁッ!』
 その時、街の家屋のガラス窓が輝いた。そして銀色の光の中からミラーナイトが飛び出し、
ツルク星人に飛び蹴りを入れる。
『ジャンファイト!』
 はるか上空からはジャンボットが降下してきて、スラン星人にタックルを決めて弾き返す。
『ファイヤァァァァ―――――――!』
 そしてカーリー星人の眼前にグレンファイヤーが登場し、顔面にパンチを浴びせて突進を止めた。
「あッ! ウルティメイトフォースゼロだぁ!」
 トリスタニアのどこかで、子供の喜びの声が上がった。四人の宇宙人相手に、ウルティメイトフォースゼロも
四人全員出動したのだ。
『あなた方のお相手は、私たちがしましょう』
『ゼロにも人々にも、手出しはさせん!』
『さってと、とっとと始めようぜぇッ!』

197 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/04/01(火) 22:45:57.22 ID:FyH5zGP4.net
 仲間たちが敵三人を止めてくれたので、ゼロは心置きなくリフレクト星人と対決することが
出来るようになった。ゼロは依然鍔迫り合いしながら問いかける。
『やい! お前ら宇宙人連合は、春奈をこの世界にさらってきたり、爆弾で街を破壊したりして、
何をたくらんでるんだ! 知ってることを話しな!』
 すると、リフレクト星人はせせら笑いを返した。
『ふふ、私は知りませんねぇ。作戦はマグマ星人の立案したもの。我々はただ、教えられた役割を
果たすだけ。どういう作戦かには興味がありませんねぇ』
『そうかい……。だったら、もう遠慮はしねぇぜ! ぶっ飛ばすッ!』
 甲高い金属音を鳴らして、ゼロスラッガーと剣が離れる。それに合わせるように、ゼロと
リフレクト星人も距離を取った。
「ジュワッ!」
 後ろへ下がったゼロはエメリウムスラッシュを発射。しかし緑色のレーザーは、リフレクト星人の
丸盾で防御されると、折れ曲がってゼロへ戻っていく。ゼロは上半身を横に傾けてレーザーをかわした。
『ちッ。お前の種族には光線技が効かないっての、ホントなんだな』
『その通りです。光線が武器の輩には、私は天敵なのですよ』
 ゼロのつぶやきに、リフレクト星人は自信満々に肯定した。
 リフレクト星人の身体は、誘電体多層膜ミラー構造という、光線の吸収率が全くない
特殊な造りをしている。そのため、ウルトラ戦士の必殺光線すら完全に通用しないのだ。
ウルトラマンメビウスはリフレクト星人との初戦時、この特性によって攻撃がことごとく
はね返され、完敗を喫したのだった。
 だがゼロは、光線技が効かないことにひるみはしなかった。
『光線技が駄目なら、それ以外で倒すだけだぜッ!』
 離した距離を再び詰め、ゼロスラッガーで剣戟を繰り広げる。
 そう、ウルトラマンレオ直々の手ほどきを受けたゼロは、近接戦闘にも優れている。
メビウスもレオに課せられた特訓の成果により、リフレクト星人を破ったのだ。ならば
同じレオに育てられたゼロが負ける道理はない。
『ふぅんッ!』
 だと思いきや、リフレクト星人の剣によって、ゼロスラッガーが両方ともゼロの手中から
弾き飛ばされた。宙を舞ったスラッガーはゼロの頭に戻る。
『何ッ!』
『フッフッフッ。考えが甘いですね。私の剣技はリフレクト星でも随一! 私の方こそ、
近接戦闘を得意としているのですよ!』
 驚くゼロに堂々と言い放つリフレクト星人。どうやら、自身の防御性能に慢心せずに、
直接の戦闘能力も鍛え上げているようだ。これは強敵だ。
 しかし、それでもゼロは動じない。むしろ逆に、より闘志をかき立てる。
『面白いじゃねぇか! だったら剣での勝負と行こうぜ!』
 対抗心を燃やしたゼロは、円盤生物戦の時のように、巨大化させたデルフリンガーを出して
柄を握り締めた。今度は、デルフリンガーでリフレクト星人と斬り合う。
『はぁぁぁぁぁッ!』
『キェェェェェッ!』
 ゼロとリフレクト星人が気合いを発し、剣と剣を交えた。
「ゲゴオオオオオオウ!」
『はッ! たッ!』
 ゼロがリフレクト星人と戦っている一方で、ミラーナイトはツルク星人の両腕の刀から
繰り出される斬撃をかわしていた。流麗な動きで、見事に敵の攻撃を回避する。
「ゲゴオオオオオオウ!」
『……見た目に反して素早い身のこなしと太刀筋。これは厄介ですね……』
 しかし同時に、なかなか反撃に出ることも出来ずに手をこまねいていた。ツルク星人は
両手の刀を交互に繰り出す素早い二段攻撃を得意とする。その連続技の完成度は、実戦経験が
不足で未熟だった頃とはいえ、格闘の達人のレオが一度なす術なくやられたほどなのだ。
 だがミラーナイトも技巧派の戦士。連続の斬撃の間のかすかな隙を見つけ、宙返りしながら
高く跳び上がる。
『やッ!』

198 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/04/01(火) 22:49:05.00 ID:FyH5zGP4.net
「ゲゴオオオオオオウ!」
 空中からミラーナイフを放つが、ツルク星人が顔面の前で交差した刀に易々と防がれた。
ツルク星人の刀は、切れ味も硬度も天下一品。攻守ともに使える恐ろしい武器なのだ。
「ゲゴオオオオオオウ!」
 そして落下してきたばかりのミラーナイトに、その凶器を振るう! ミラーナイトにかわす暇はない!
 ……が、刀が叩き込まれると、ミラーナイトの姿が粉々に砕け散った。今斬ったのは鏡。
ミラーナイフを防御したことでツルク星人の視界が塞がれた一瞬の間に作った身代わりなのであった。
「!?」
『私はここですよ! はぁッ!』
 割れた鏡の後ろから、本物のミラーナイトが飛び出す。そして両手のチョップでツルク星人の
刀と腕のつけ根を打ち、刀をへし折った。ふた振りの刃が宙を舞う。
『とぁッ!』
 ミラーナイトはもう一度ジャンプし、舞った刀を指ではっしと掴む。そして落下の勢いを乗せて、
ツルク星人の胸に深々と突き刺した。
『お返ししましたよ』
 ミラーナイトが短く告げると、ツルク星人は背後にバッタリと倒れ込んで、そのまま絶命した。
己の自慢の武器が死因となる、皮肉な最期だった。
 また他方では、ジャンボットとにらみ合っているスラン星人が、ジャンボットに問いかける。
『ウルティメイトフォースゼロよ、何故この星の人間を守ろうとする。この星の人間に、
守るだけの価値があるのか?』
『何? それはどういうことだッ!』
 ジャンボットがきつい口調で問い返すと、スラン星人はこう語り出した。
『このハルケギニアは美しい星だ。だがこの星の人間は、大地を、空を汚し始めている。
星の悲鳴が聞こえないのか』
 ハルケギニアは魔法文明なので、工業は地球と比べればほとんど発達していない。しかし
資源の大量採掘や森林伐採、工場の排煙による大気汚染などの環境破壊はゲルマニアなどで
徐々に進行している。いずれは、地球と同じように環境問題に頭を悩ませるようになることだろう。
『その前に、我々スラン星人がこの星をもらい受けることで、この星を救うのだ。星を苦しめる者どもを
守ることに何の価値があるというのだ!?』
 と突きつけるスラン星人に、ジャンボットは言い返した。
『侵略行為による救済など、間違っているぞ!』
『何だと!?』
『確かにこの星の人間は、貴様の言うような過ちを犯している。だが人間には、過ちを正そうという
心がある。人間は自らの手で、星を、自身を救えるはずだ。私は信じている!』
 惑星エスメラルダを護ってきたロボット、ジャンボットは見届けた。外宇宙から現れた
「ベリアル」という最大の脅威を、人間たちが紡ぐ「光」が打ち破ったことを。その未来を
掴む「光」は、ハルケギニアの人々の心にも宿っているはずだ。
『昨日今日やってきただけの外来者に、この星の未来を語る資格はない!』
 ジャンボットに言い切られると、スラン星人は頭をかきむしって憤慨した。
『黙れ、屑鉄ロボットが! 何と言おうと、我々がこの星を頂くのだ!』
『ふッ、どれだけ言葉で飾ろうと、貴様は所詮傍若無人な侵略者に過ぎないのだな! 態度が
物語っているぞ!』
『えぇい、うるさいッ! 我が動きについてこれるかッ!?』
 スラン星人は体勢を直すと、超高速で横にスライドし出した。ジャンボットは一瞬にして、
周囲全てをスラン星人の残像に取り囲まれる。
『むッ!? 何というスピードだ!』
「グウオオオオオ!」
 スラン星人は超高速移動を行ったまま、両腕から光弾を連続発射する。移動と発射の合わせ技により、
ジャンボットは360度から攻撃を食らう。
『ぐううぅぅぅぅぅぅッ!』

199 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/04/01(火) 22:52:02.85 ID:FyH5zGP4.net
 相手のあまりの速さにより、どこから撃ってくるかが見切れず、ジャンボットは食らうがままになる。
しかし鋼鉄のボディと熱い正義の心を持つ彼は、それしきの逆境ではくじけない。
『私は鋼鉄の武人、ジャンボット! その程度の目くらましでは、私は翻弄されないッ!』
 レーダーと電子頭脳をフル活用して、スラン星人の動きのパターンを捕捉する。そして
左腕を上げて、相手の残像の一箇所に狙いを定める。
『ジャンナックル!』
 ロケットパンチが飛んで、残像の列に飛び込むと、見事スラン星人の実体を殴り飛ばした!
「グオオオオオ!?」
『ビームエメラルド!』
 すかさず頭部から発射口がせり上がり、必殺レーザーを照射した。ビームエメラルドは
狙い違わずスラン星人に命中し、一撃で粉々に吹っ飛ばした。
「ギャーアーゴ―――!」
 カーリー星人は腰を折って両肩の角を前に突き出すと、その姿勢のままグレンファイヤーへ
一直線に突進を仕掛けた。グレンファイヤーは速く、同時に重い突進攻撃を正面から食らう。
 カーリー星人の最大の武器は、角を活かしたこの突進。その威力は、ウルトラマンレオの
巨体を軽々と吹っ飛ばしたほどもある。
『へッ! 今のが体当たりのつもりなのかよ!』
「ギャーアーゴ―――!?」
 だが、グレンファイヤーは角をガッシリと掴んで、突進を受け止めていた。捕らえられた
カーリー星人は、拘束を振りほどくことが出来ずに慌てふためく。角から電撃を放つも、
それでもグレンファイヤーの手は離れない。
 グレンファイヤーはパワー型の熱血戦士。肉体を駆使した正面対決ではカーリー星人の方が、
分が悪かったようだ。
『テメェの突進なんて、ジープなんかと比べりゃちっとも大したことねぇぜ! ファイヤァァァァァ――――――――!』
「ギャーアーゴ―――!」
 グレンファイヤーは胸のシンボルを浮き上がらせ、全身を燃え上がらせる。その炎はカーリー星人に
燃え移り、そのまま大爆発を引き起こした。
『へっへーん! ざっとこんなもんよ!』
 カーリー星人を爆散させたグレンファイヤーは、頭部の炎をかき上げて見栄を切った。
 他の三人の宇宙人は倒され、残るはリフレクト星人だけである。そのリフレクト星人は、
ゼロと激しく火花を散らして切り結んでいた。
『うりゃあッ!』
 だがゼロがデルフリンガーを大きく振り上げると、それと衝突したリフレクト星人の剣が
半ばからへし折れ、地面に突き刺さった。
『ば、馬鹿な! 私の剣が、人間如きの剣などに!?』
 大ショックを受けるリフレクト星人に、ゼロが告げる。
『デルフはただの剣じゃねぇ! 俺たちの仲間だ! テメェの魂のこもってない剣なんかじゃ、
勝てっこなかったのさ!』
『くぅぅ……! こうなったらぁッ!』
 武器を失ったリフレクト星人は、突如左腕を避難中の市民たちに向けると、丸盾からチェーンを
発射した。彼らを人質に取ろうという考えだ。丁寧な口調を使いながらも、リフレクト星人も本質は
ルール無用の侵略者。追い詰められて、化けの皮を剥がしたのだ。
「きゃあああぁぁぁぁ!」
 狙われた市民が悲鳴を上げる。だがチェーンは横から飛んできたゼロスラッガーに弾かれ、
力なく街の狭間に落下した。
『何ッ!?』
『どうせそんなことすると思ったぜ! 見え見えなんだよ、せこい考えがッ!』
 そしてこれはリフレクト星人の失策だった。気が市民にそれたことでみすみすゼロに攻撃の
チャンスを与えてしまい、懐に飛び込まれてしまう。
 そして、リフレクト星人は胴体をZ字に切り裂かれた。

200 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/04/01(火) 22:53:30.23 ID:FyH5zGP4.net
『フィニッシュ!』
『うぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――!!』
 リフレクト星人は断末魔を上げ、花火のように爆発四散した。
「やった! ウルティメイトフォースゼロの勝利だ!」
「やっぱりゼロは強いやぁ!」
 刺客の宇宙人が全て倒されると、子供たちを始めとして、トリスタニアの人々が歓喜の声を上げた。
それを受けながら、ミラーナイトらがゼロに呼びかける。
『ゼロ、ハルナを探してるところだったのでしょう。早く彼女を見つけてあげて下さい』
『他に敵はいないようだが、伏兵が潜んでいるかもしれない。側にいた方がいいだろう』
『また敵が出たら、いつでも呼んでくれよ! じゃないと退屈だしな!』
『ああ、分かった。ありがとな、お前ら!』
 仲間三人が空へ飛び立つと、ゼロは縮小化し、才人の状態に戻っていった。

 ゼロから戻った才人は、すぐに春奈と、彼女を探しに行ったルイズたちの捜索に戻った。
「と言っても、春奈たちはどこなんだろうな? シルフィードが飛んでたら、目立っていいんだけど」
 戦いが終わったことで、街には人の波が戻ってきた。それに呑まれないように、裏通りを選んで走る。
しかし春奈たちの居場所に見当がつかないので、実際には右往左往していた。
 と、そんなところに、噂したばかりのシルフィードと、跨っているタバサとキュルケが近くに飛んできた。
「ダーリーン! ハルナって言ったかしら? その娘を見つけたわよー!」
「本当か!? どこだ、案内してくれ!」
「ついてきて」
 タバサの指示通り、才人はシルフィードの後を追いかけていく。そしてたどり着いたのは、
大きな劇場前だ。
「ここって確か、劇場? こんなとこに春奈が……」
 つぶやいた才人の目に、早速春奈とルイズ、シエスタの後ろ姿が映る。
「わ、私の大切なバッグなんです!」
 先頭に立つ春奈が、見知らぬ女性相手に必死に訴えていた。その女性の手には、日本で
一般的に使用されている通学鞄が握られている。
「何だか穏やかじゃない物言いね。まるで、わたしがこのバッグを奪ったみたいじゃない?」
 だが、相手の女性は春奈の訴えを退けようとしているようだった。才人は、女性の容姿をよく確認する。
 短い金髪の、顔立ちが整ったかなりの美女だ。だがそれ以上に目を引く部分が、頭頂部に存在する。
その女性は、髪の間から猫のような耳を生やしていたのだった。

201 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/04/01(火) 22:55:12.45 ID:FyH5zGP4.net
以上です。
今回の敵チームは、スラン星人だけ仲間外れみたいだ。

202 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/03(木) 14:43:33.76 ID:Sbuugu53.net
お疲れさまです。毎回楽しく読ませていただいてます
スラン星人仲間はずれwww

203 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/04(金) 21:46:58.43 ID:hGChoota.net
一年か……

204 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/04(金) 23:32:03.47 ID:q0lOKlc7.net
ゾフィー兄さんに新しい命を持ってきてほしいね

205 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/06(日) 19:32:21.53 ID:Mw47qmRJ.net
スパイダーマンとのクロスできないかな

206 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/06(日) 21:02:13.61 ID:QeMERAMM.net
ソードピッカーでゴーレムを一撃か

207 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/06(日) 22:05:08.06 ID:OxfLUjgx.net
>>204
MXでやってるタロウの再放送が来週からバードン編なの思い出した
タロウもゾフィーも倒すバードンさん強すぎ
>>206
オーバーキル過ぎw

208 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/06(日) 22:39:41.46 ID:XyXEpQm9.net
>>205-206
短編で既にあったよーな…

209 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/06(日) 22:58:47.04 ID:tDJvsT5/.net
>>205
東映版のなら短編であった気がする

210 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/04/08(火) 23:14:51.27 ID:NDqaZl9L.net
こんばんは。先週の続きを投下させてもらいます。
投下開始は23:18からで。

>>206
それ親愛なる隣人じゃなくてダーマッの方じゃないですかやだー。

211 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/04/08(火) 23:18:15.71 ID:NDqaZl9L.net
ウルトラマンゼロの使い魔
第三十五話「故郷のない女」
サーベル暴君マグマ星人 登場

 爆弾騒ぎを引き起こす宇宙人たちを捕らえようと行動を起こしたルイズたちだが、その直後に春奈が、
自分のバッグを持っている人を見たと言って、それを追いかけていってしまったので、ルイズたちは
仕方なく春奈を探すことになった。途中で宇宙人たちの襲撃があったが、ウルティメイトフォースの力で撃退した。
 そして、才人が春奈を発見した場所は劇場前。そこで春奈は、獣耳を生やした女性にバッグを
返してくれるよう懇願していた。その女性の正体とは……。

「そこッ! だらしなく歩かないで! 些細な動きでも、メリハリをつけることを一時も忘れるなッ!」
「は、はいぃッ!」
 劇場内の舞台の上で、獣耳の女性が、歩行の練習をしている才人に厳しく怒鳴りつけた。
その後は、タバサを叱りつける。
「そんな声で観客に聞こえると思ってるの!? 声は腹から出しなさいと言ったでしょうッ!」
「……大きな声を出すのは苦手……」
「言い訳しないッ!」
 その次は、演技の練習中のルイズに矛先を向けた。
「腕はもっと大きく、身体全体で動かす! あなたは身体が小さいんだから、その分他の人より
大きく動かないといけないわよッ!」
「ひ、人のこと小さいって、あんな堂々と……くぅッ……!」
 叱られたルイズは怒りで震えるが、何かを思い直すと、しぶしぶ言う通りに動きを直した。
だが不平は漏らす。
「全く、何だって貴族のわたしが、演劇の役者にならないといけないのかしら……!」
「ごめんなさい……。私のせいで、皆さんを巻きこんじゃって……」
 練習を続けながら、春奈が小声でルイズに謝った。その春奈を、才人が励ます。
「春奈が悪いんじゃないって。あの人、ウェザリーさんが頑固なのがいけないんだよ」
 才人が春奈をかばうと、ルイズは不機嫌になって彼に当たる。
「全く、ハルナにはとことん甘いわね! そもそも、ハルナがバッグなんて持ってこなかったら、
こんなことにはなってなかったのよ!」
「おい! そんな言い方はないだろ……!」
「そこッ! 私語をする暇があるのなら、発声練習をしなさいッ!」
「は、はいッ!」
 ルイズと才人が言い争いになりかけたが、ウェザリーの叱咤が飛んできたので、二人とも
思わず背筋を伸ばした。
 しかしルイズは、懲りずに不平不満を垂れ流し続けた。
「ウェザリーもウェザリーだわ。わたしたちが役者をしないとバッグを返さないなんて、
何考えてるのかしら……!」

 春奈の鞄を持っていた女性の名はウェザリー。今度劇場で舞台を開く劇団の団長だという。
春奈は彼女に、鞄を返してくれるよう説得を試みたのだが、それにより、事態は思わぬ方向に転がった。
 ウェザリーは鞄を、私が拾ったものだから私のものだ、の一点張りで返してくれる気配がなく、
春奈のものだという証拠があるのかと反論してきた。春奈は中の隠しポケットを調べれば分かると
主張したのだが、それをしようにも、ウェザリーは触らせようともさせてくれない。あまりの頑迷さに
ルイズたちが手を焼いていると、ウェザリーは何を思ったか、こんな交換条件を出してきた。
 曰く、ルイズたちが次の劇のキャラクターのイメージにピッタリ合うのだという。それで、
役者として舞台に上がってもらえるのならば、鞄を返してもいいと提案してきたのだ。
 当初、ルイズたちハルケギニアの人間は嫌がった。この世界では、劇団や役者の社会的地位と
信用は低く、貴族がやるようなことではないのだ。しかし、春奈の大切なものが入っているというので、
才人が必死にルイズたちを説得し、どうにか条件を呑んでもらうことになった。

212 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/04/08(火) 23:20:37.37 ID:NDqaZl9L.net
 こうしてルイズ、才人、春奈、シエスタ、それから巻き込まれたキュルケとタバサが、
ウェザリーの鬼のような舞台稽古を受ける羽目になったのだった。

 長時間の厳格な指導がひと段落つき、ようやく休憩の時間がやってくる。だがその直前に、
ウェザリーがルイズを呼んだ。
「ミス・ヴァリエール。休憩の前に一つ話があるの」
「もう、何よ! まだ演技指導!?」
 すっかり嫌気が差しているルイズだが、話の内容はそうではなかった。
「いいえ。ミス・ヴァリエールの知り合いだという方々が、飛び入り参加を希望されてるのだけれど……」
「……知り合い? 誰?」
「わたくしよ。ルイズ」
「俺たちもいるぜぇー!」
 ルイズが聞き返すと、舞台袖から、涼しげな女性の声と、それと反対に暑苦しい男の声がした。
「今の声、まさか……!」
 ルイズと才人は、聞き覚えのある声により、目を見開いた。そして舞台に上がってきたのは……。
「あああぁぁぁぁッ!?」
(アンリエッタ姫さま! それにウェールズ……じゃなくて、グレン!)
 ドレスは着ていないものの、明らかにアンリエッタその人。その後ろには、赤い瞳のウェールズ、
つまりグレンファイヤー。それともう一人、ギーシュをはるかに上回るほどである、非常に美形な男性、
計三人がルイズたちの目の前に現れた。キュルケは早速、三人目に見とれて熱い視線を送る。
 三人目は誰だろうと才人が思っていると、それを察したのか、グレンが近寄ってそっと囁きかけた。
(あいつな、ミラーちゃん)
(ミラーナイトか!?)
 正体を教えてもらった才人は、ミラーナイトに小さく尋ねかけた。
(ミラーナイト、人間に変身したんだな。でも何だって……その……やたらと目立ちそうな顔立ちを
選んだんで?)
(私はエスメラルダに仕える騎士。どんな時も、エスメラルダに恥ずかしくないよう身だしなみに
気をつけるよう心掛けてますので)
(変身も、身だしなみに入るのか……?)
 それに何だか、それだけが理由じゃないような気がする。才人は、ミラーナイトがどういう性格なのか、
ちょっと把握した気になった。
 ルイズたちが目を丸くしていると、アンリエッタがフフフと笑った。
「『お友達』に意外なところで会ったからって、そんなに驚かなくてもいいのに……」
「え、ええと……」
 ルイズは言うべきことに困り、目を泳がせた。才人は今の言葉の意味を考える。
(『お友達』って……つまり、お忍びだって言いたいのか。それにしたって……何考えてるんだよ! 
あのお姫さまは!)
 才人も、こんな場所に国の元首がいることに頭が痛くなった。一方で、ウェザリーが
アンリエッタについて問いかける。
「ミス・ヴァリエールのご友人とは……こちらも魔法学院の生徒? どこかでお見かけしたような気が……」
「ま、魔法学院の生徒ではないのですが、わたしの、幼馴染……というか、親友です」
 ルイズは必死に設定を考えてごまかした。ウェザリーは、特に怪しく思わなかったようだ。
「名前は……聞いた通り「リエッタ」「グレン」「ミラー」でいいんですね?」
「はい。今後、リエッタとお呼び下さい」
「俺も、そのまんまグレンでいいぜ! 堅苦しいのは嫌いだ!」

213 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/08(火) 23:22:27.69 ID:d8PiL+Yz.net
ウルゼロの人に支援する男、スパイダーマン!

214 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/04/08(火) 23:23:56.01 ID:NDqaZl9L.net
「私も、どうぞミラーと」
 何のひねりもない名を名乗る三人であった。才人は思わず肩を落とす。
「役者がちょうど三人分足りなかったから、ちょうどよかったわ。それでは、休憩が終わったら、
早速あなたたちにも練習に加わってもらいます。では、一旦解散」
 アンリエッタたちの加入が認められると、休憩に入る。ルイズと才人、シエスタは、すぐに
アンリエッタに駆け寄って密談を始める。
「姫さま! どうしてこんな下賤な場所におられるのですか!?」
 真っ先にそれを尋ねるルイズ。するとアンリエッタは、ルイズの心中とは反対ににこやかに答えた。
「ちょっと事情があって、身分を隠して街へ出てるの。そしたら、ルイズ、あなたが劇団に
入ったなんて話を聞いたものだから……わたくしもやらせてもらおうと思って」
「思ってって……そんな気軽に……。もう少し、ご自身のお立場というものをお考え下さい……」
「もう、そんな固いこと言わないで。お城にも許可はもらっているのよ。上層部からだけだけどね。
それにこうしていると、何だか子供の頃に帰ったみたいで面白いじゃない」
 楽しそうにはしゃいでいるアンリエッタに、ルイズは脱力させられた。
「それと、わたくしがアンリエッタということは秘密よ。劇団にいる間は、普通に接してちょうだいな」
「言われなくとも、承知してますとも……。こんなこと、他言できる訳ないじゃないですか……」
 アンリエッタの指示に、ルイズは頭を抱えてうなずくしかなかった。
 才人は、グレンとミラーの方に質問をする。
「そっちは、どうしてここに?」
 それに他には聞こえないように気を配りながら、ミラーが答える。
「あなた方ばかりに、侵略者の動向を探ってもらうのは気が引けたので、私たちもお手伝いしようと
思って出てきたんです。それで女王様と同じく、あなた方がここにいると知りまして。どうやら
お困りのようでしたので、こうして力を貸しに来たのですよ」
「ヘッヘッ、ちょっと楽しみだな。演劇なんて生まれて初めてだぜ。どうせだから、目一杯楽しもうぜ!」
 グレンが呼びかけると、ジャンボットやゼロが二人を羨ましがった。
『むぅ、人間に変身できるというのはいいものだな……。私にも自由に行動できる身体があったならば、
サイトたちの手助けが出来るのに』
『俺も才人と合体してなくちゃいけない状態じゃなかったら、一緒に演劇に出れるのになぁ〜。
なぁ才人、身体はそのまんまでちょっとだけ俺と代わってくれよ』
「何でそんなノリノリなんだよ、ゼロ……」
 真面目なジャンボットは補佐が目的のようだが、ゼロは明らかに楽しもうとしていた。
それで才人はため息を吐く。珍しくボケとツッコミの立場が逆だった。
 話し込んでいると、キュルケがミラーの方へとすり寄ってきた。
「ねぇ〜、ミラーさん? アタシともお話ししましょうよ〜。アタシ、ゲルマニアのキュルケって言うのぉ。
ミラーさんのこと、色々と教えてほしいなぁ〜」
「いいですよ。お話し出来る範囲であればね」
 色香をたっぷりに振り撒いて媚を売るキュルケだが、ミラーは色仕掛けをサラリとかわした。
ギーシュなんかとは異なり、身持ちは固いようだ。
 グレンの方には、アンリエッタがもじもじと頬を赤らめながら近寄る。
「あの、ウェールズ様……いえ、グレン様。よろしければ、わたくしとお話ししていただけますか……?」
「おう、もちろんいいぜ。けど、俺には「様」はいらねぇよ。グレンで結構だ」
「はい……グレン」
 アンリエッタは頬を朱に染めたまま、そっと目を伏せた。

 アンリエッタ、グレン、ミラーの三人を加えて稽古を続行することになったルイズたちなのだが、
すぐにまた新たな問題が発生した。練習数日目に、ひたすらきつい稽古の繰り返しにキュルケが、
嫌気が差したと言って稽古を放り出してしまったのだ。劇場から飛び出していくキュルケを、ミラーが
「説得してみます」と追いかけていった……。

「お待ち下さい、キュルケさん」

215 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/04/08(火) 23:26:45.91 ID:NDqaZl9L.net
 ブルドンネ街の裏通りに入ろうとしていたキュルケを、ミラーが呼び止めた。振り返ったキュルケは、
ミラーの顔を確かめてパッと笑顔を作った。
「あらぁ、ミラーさん。あなたに追いかけてもらえるなんて、アタシ、とっても嬉しいですわぁ」
「キュルケさん、どうして稽古を投げ出すような真似をしたんでしょうか? ウェザリーさんが
おかんむりでしたよ」
 キュルケの媚売りをかわし、ミラーはすぐに尋ねかけた。するとキュルケは肩をすくめる。
「さっき言った通りですわ。アタシ、あんなに地味で苦しいだけの練習ばかりするのは、性に合わなくて」
 と言うと、ミラーに逆に肩をすくめられた。
「ここには私とあなたしかいませんし、嘘を吐く必要はありませんよ」
「え?」
「あなたは稽古を、それほど苦に思ってません。顔を見れば分かりますよ。稽古を脱け出したのは、
別の理由があるんでしょう」
 そう指摘されたキュルケは、驚きつつも素直に認めた。
「鋭いですねぇ……ええ、その通りですわ。ちょっと気になることがありまして、それで」
 キュルケの「気になること」を推理するミラー。
「この先は、爆弾騒ぎの一番新しい現場ですね。もしやキュルケさんは、ルイズたちに代わって
爆弾事件の調査をするつもりではないでしょうか」
「……本当に鋭いですわね。ご明察、正解ですわ」
 当てられたキュルケは、感心したように息を吐く。
「メイドの話じゃ、ルイズったら、爆弾事件を調べに来たはずなのに、ここ数日は舞台稽古に
掛かりっきりでしたでしょう。だから、あの中では出来がいい方のアタシが補ってあげようと思ったんですわ」
「なるほど。しかし、それならそうとルイズたちにはっきり言えばよかったではないでしょうか? 
わざわざ嫌われるような真似をせずとも」
「とんでもない。ルイズのことだから、それを言ったら、自分の仕事なんだから自分でやると言って
聞かないでしょう。それに、部外者のウェザリーにこの話を聞かれるのはよくないと思いますので」
「確かに。キュルケさん、あなたは普段の態度とは違って、とても思慮深い方なのですね」
「うふふ。口説いてるのなら、前半は不要ですわよ」
 キュルケと顔を合わせて微笑し合ったミラーは、彼女に告げる。
「しかし、そういうことならば、キュルケさんではなく私がその役目を引き受けますよ。
私は幸い、筋がいいようなので、キュルケさんよりも打ってつけと言えるでしょう」
「そうですわね。ミラーさんは素人とは思えないと、ウェザリーも絶賛してましたわね」
 ウルティメイトフォースゼロ一の技巧派のミラーナイトは、演劇の腕前も相当なものだった。
体力は戦闘のために鍛え上げているので問題なく、演技力も抜群だった。ウェザリーからも、
基礎稽古が必要ないくらいだと判断された。
「ウェザリーさんに上手く言って、調査の時間を作ってもらいます。ですのでキュルケさんはご心配なく、
練習にお戻り下さい。その方が、みんな喜びますとも」
「お心遣い、ありがとうございます。けど今日一日だけは、あなたのお手伝いをさせてもらいますわ。
あんなこと言ったばかりだから、さすがに戻りづらくって。いいでしょう? ミラーナイトさん」
「おや、私の正体に気づいてたのですか?」
 ミラーナイトは驚いた様子を見せたが、軽い演技だとキュルケには見破られていた。
「またまた。グレンの正体を目の当たりにしたアタシが、あなたの正体に気づけないなんてことは
ありませんわよ。分かりやすすぎじゃないですか」
「ですよねぇ。グレンとともにいる私のことに気づかない訳ありませんよねぇ」
 クスクスおかしそうに笑い合うキュルケとミラー。それからふとキュルケが尋ねかける。
「ところであなたたちがいるのなら、もしかしたらウルトラマンゼロやジャンボットも人間の姿で、
この近くにいるのかしら? 誰がそうか、教えては下さらないかしらぁ?」

216 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/04/08(火) 23:29:58.03 ID:NDqaZl9L.net
「おっと、それは秘密にさせてもらいますよ。誰が聞いてるとも分かりませんので、みだりに
口にすることは出来ません」
「そうおっしゃらずにぃ。ヒントだけでも下さらないかしらぁ?」
「ふふ、いけません」
 キュルケのおねだりをかわし続けたミラーは、自分が調査に出る許可をもらうために、
一旦ウェザリーの下へ戻ることにした。

 キュルケが飛び出した後でも、ルイズたちは練習に励み続けていた。と、その中で、歩行練習中の
アンリエッタがつまずいて転びかける。
「あッ!?」
「おっと、危ねぇ!」
 そこをすかさずグレンが抱き止めた。
「大丈夫か? 女王さ……あぁいや、リエッタさんよ」
「は、はい……! ありがとうございます、グレン……」
 支えられたアンリエッタは頬を赤く染めて立ち上がる。そのまましばらくポーっとしているので、
グレンが心配した。
「おい、大丈夫か? もしかして、熱があるんじゃねぇよなぁ」
「は、はい! 大丈夫です」
 声を掛けられて、アンリエッタは身体をビクリと震わせて我に返った。それから、グレンに向かって
言い訳するように取り繕う。
「ね、熱なんてありません。ただ、今この瞬間に、ウェールズ様に抱き止められたということが
嬉しくて、それで……」
「そうなのか? そういや、ウェールズはあんたの恋人だってことだったな」
 今のウェールズの身体を見下ろしたグレンは、表情を曇らせてアンリエッタに向き直った。
「……すまねぇな。こいつを完全に助けてやれなくって」
「え? ど、どういうことでしょうか」
「リエッタさん、俺にちょくちょく複雑な顔向けてるだろ。それくらい分かるぜ。俺が完全に
ウェールズじゃねぇから、つき合い方に困ってるって感じだ。……こいつの意識が起きてる状態で
助けられてたら、そんな顔しなくて済んでただろうに。ほんとにすまねぇ」
 グレンに謝られると、アンリエッタは慌てて首を横に振った。
「と、とんでもないです。グレンが謝ることなんてありません。確かに、わたくしの知る
ウェールズ様と雰囲気が大きく異なるのには未だ戸惑いがありますが……本当だったら、
そのウェールズ様は死んでいるはずなのです。それを、身を挺して救ってくれたあなたには、
感謝の気持ちしかありません。ですので、どうぞそんな顔はなさらないで下さい。あなたに
悲しまれたら、ウェールズ様がお目覚めになった時に、わたくしが命の恩人に失礼を働いたと
叱られてしまいます」
「そうか? じゃあ、そのお言葉に甘えさせてもらうぜ」
 頼まれたグレンは、あっさりと気分を切り替えた。根はかなり単純なのだ。
「それに、ウェールズ様とこうして一緒に演劇が出来るなんて、今までからしたら考えられないことです。
グレン、どうぞわたくしに、ウェールズ様との素敵な思い出を作らせて下さい」
「よっしゃ、了解だぜ。俺たちで最高の劇にしようじゃねぇか!」
 笑い合って誓いを交わしたアンリエッタとグレンだが、稽古中に雑談しているところが
ウェザリーに見つかり、叱られて泡を食うことになるのだった。

 その日の練習が終了した直後、才人はウェザリーと春奈の二人と一緒にいた。ウェザリーは
キュルケのことを思い出して、はぁと大きなため息を吐く。
「全く、彼女には困ったものだわ。せっかく光るものを持ってるのに、もったいない……」
「ウェザリーさん、そうキュルケを悪く思わないでやって下さい。確かにちょっと軽い性格を
してるけど、あれで結構友達思いのいい奴なんです。ミラーが説得してくれたみたいだし、
明日にはまた稽古に戻ってくれますよ」
 才人がキュルケを弁護すると、ウェザリーはうなずいて応じた。
「私としては、演劇に熱心になってくれるなら、それでいいわ」

217 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/04/08(火) 23:32:21.18 ID:NDqaZl9L.net
 と語るウェザリーに、コップに注いだ水を飲んだ春奈がふとこんな質問を投げかけた。
「ウェザリーさんって、とても演劇に熱心なんですね。そんなに劇がお好きなんですか?」
「む。私が、劇が好きかって……?」
 質問を受けたウェザリーは、ややうつむき気味になりながら、回答を始めた。
「……演劇が好きなのは事実よ。だがそれ以上に……私には、これ以外にまともに生きる術が
ないのでね。それで熱心にならざるを得ないのよ」
「えッ……どういうことでしょうか」
 ウェザリーが打ち明けたことに、才人も春奈も驚きを見せた。ウェザリーは詳しく身の上を語る。
「私はこう見えても、貴族の家の生まれなのよ。だが、家は取り潰しになってしまってね。
一家は離散し、私は路頭に迷うことになった」
「ど、どうしてお取り潰しになんて……」
 予想外に重い話に、才人たちは戸惑う。ウェザリーは自分の獣の耳を指しながら、理由を話す。
「確かめた訳じゃないが、きっとこれが原因でしょう。見ての通り、私は獣人の血が入っている。
父は獣人の母を娶ったのよ。しかし、獣人の血は忌むべきもの。それで貴族の地位を剥奪されたに違いない。
更に私は、この見た目のせいで差別に遭い、ろくに職にありつけなかった。それで仕方なく、多くの
流れ者が行き着く演劇の道に入ったの。この世界で今のところやっていけて、本当に安心してるのよ」
「そうだったんですか……」
 ウェザリーに獣の耳が生えているのは、魔法が現実のハルケギニアならおかしくないものなのかと
思って才人たちは突っ込まなかったが、実際は差別されるものだと知って、彼女に同情を寄せた。
「今回の劇は、なかなか役のイメージに合う役者が見つからなくてね。困っていたら、天の恵みのように、
私の眼鏡に適う君たちがやってきた。是非とも舞台に上がってもらいたいと思って、少々強引な手で
引き受けさせてしまった。そのことについては謝るわ」
「い、いえ、いいんです。ウェザリーさんの生活が懸かってるなら、こちらから協力させてもらいます」
 不意に謝られた春奈は、思わず気が引けてしまった。
「ありがとう。約束通り、舞台が終わったら鞄を返す。それまでは、私のわがままにつき合ってほしい。
……それと、今話したことは、他の皆には内緒にしてちょうだい。貴族が多いからね、こんな気分が
悪くなる話をしたくないのよ」
「分かりました」
 ウェザリーの頼みに、才人と春奈は二つ返事で了承した。

 それからルイズたちは稽古に打ち込み続け、遂に役柄の発表の日がやってきた。ウェザリーの前に、
ルイズたち全員が集まる。
「それでは配役の発表をします。まず、王子ケイン役には……」
「きっとミラーさんね」
 キュルケが顔立ちから予測するが、ウェザリーが呼んだ名前は、
「サイト!」
「あら、意外」
「ほ、ホントに俺でいいんですか?」
 ミラーを差し置いての指名に、才人は思わず聞き返した。それにウェザリーはうなずき返す。
「私が、あなたが一番役に合うと判断したの。自信を持ちなさい」
「は、はい……!」
「私とミラー、グレンは敵国の貴族役よ。それで、ヒロインのノエル王女役なんだけど……」
「……!」
 主役の片割れの発表を、ルイズ、春奈、シエスタ、キュルケ、タバサ、アンリエッタが
固唾を呑んで待つ。そして、呼ばれたのは……。
「ミス・ヴァリエールにお願いするわ」
「わたし……!?」

218 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/04/08(火) 23:34:03.00 ID:NDqaZl9L.net
 ルイズが口を開いて、顔を思い切り輝かせる。が、春奈から声を掛けられると、すぐに我に返った。
「おめでとう、ルイズさん」
「と、当然よ!」
 顔を取り繕って、鼻息荒く胸を張る。その様子をながめて、キュルケが肩をすくめた。
「あ〜あ、ヒロインを射止めてルイズを地団駄踏ませようと思ったのに」
「まぁ、決まったものは仕方がありません。与えられた場所で最善を尽くしましょう」
「それじゃ、その他の配役も発表していくわよ。育ての親の老貴族は……」
 主役の二人を発表したウェザリーは、その流れで全員分の役柄を発表した。

 それからルイズたちは本稽古に励み、その努力が実って、素人ばかりの演劇は何とか成功を収めた。
そして春奈は、約束通りにウェザリーから鞄を返してもらうことに成功するのであった。

「ふぅ……。みんな、よく頑張ってくれたわね。劇が大盛況でよかったわ……」
 夜更け、劇の幕が下り、ルイズたちが帰っていった後の劇場の廊下で、ウェザリーが満足げに
息を吐いた。そして、楽屋の前までたどり着くと扉を開ける。
『おぉ、帰ったか。いやぁ、原始的ながらなかなか楽しい演劇だったぞ。俺様も、観客に混じって
楽しませもらった』
「!」
 楽屋には既に人がおり、入ってきたウェザリーに向かって声を掛けた。その相手を見返した
ウェザリーの目が見開く。
 椅子の上にふんぞり返ってウェザリーを待っていたのは、マグマ星人であった。
「……まさか、その姿で中に入ってきたの? 誰かに見られてはいないでしょうね。目撃されたら、
大変なことになるわよ」
『おい、俺様を馬鹿にしてるのか? そんなヘマをするか。当然、ずっと人間に化けてたさ。
誰にも不審に思われてないはずだ』
 明らかな怪人が出迎えたのに、ウェザリーはそのことに全く動じず、それどころか会話を行う。
「それで、わざわざ劇の感想を言うために、私を待ってたのかしら?」
『まさか。大事な報告があるんだよ』
 ウェザリーが問いかけると、マグマ星人はわざとらしく肩をすくめ、椅子から立ち上がると、こう告げた。
『いよいよ計画が最終段階を迎える。最後の攻撃が始まるのさ。お前も準備を整えな』
 それを耳にして、ウェザリーの身体が一瞬強張った。そして、マグマ星人におもむろにうなずく。
「……分かったわ。遂に来るのね。私の家を潰した……トリステインに復讐する時が!」
 と発したウェザリーの目には、冷たい怒りの炎が燃え盛っていた。

219 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/04/08(火) 23:49:23.81 ID:NDqaZl9L.net
今回は以上です。どんな劇だったかは、ゲームプレイして確かめて下さい。
次回からは、いよいよ小悪魔と春風の協奏曲編のクライマックスの予定です。

220 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/11(金) 16:05:33.24 ID:QdTp7Fk1.net
ルイズがスクープ7号を召喚
うん、普通に学院が全滅して終わりだな

221 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/11(金) 19:44:58.33 ID:aqijS5ln.net
このスレにアンドロメダがわかる奴なんていないだろ

222 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/11(金) 19:51:10.03 ID:hvh4Y1hN.net
アル中が助かる宇宙病原菌がなんだって?

223 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/11(金) 20:46:24.08 ID:A//ae8GS.net
アル中病棟から吾妻ひでおを召喚するとな?

224 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/11(金) 21:31:09.27 ID:aqijS5ln.net
悪いな、正直なめてたわ

225 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/11(金) 21:58:12.30 ID:Ul3gINr8.net
このスレの住人たちの年齢と知識は本当にあなどれないw
投下でにぎわってたころはクロス先の作品の話だけでなくそれに関わる色々な豆知識や
(歴史や魔術、科学など)考察で溢れ返ってた

226 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/12(土) 10:31:04.12 ID:HDH5BHwY.net
投下された直後のリトルボーイを召喚
学院は核の炎に包まれた
そして…

227 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/12(土) 11:27:08.49 ID:LOMVBL43.net
フレイムが放射熱線を吐くようになりシルフィードがマッハ1.5で飛ぶようになるのですね

228 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/12(土) 14:01:11.74 ID:Ykct1VRB.net
そいつらの足下でモヒカン頭の生徒達がヒャッハーしてるわけだ

229 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/12(土) 16:57:17.80 ID:jZxSmuvJ.net
良い狩りを、ストーカー

230 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/12(土) 17:42:06.85 ID:2WSVLgLS.net
ストーカー「それでは皆さんお待ちかね!ガンダムファイト・レディーゴー!」

231 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/12(土) 17:49:39.00 ID:fVgsdVp1.net
好きなように生きて、好きなように死ぬ
誰のためでもなく それが、俺らのやり方だったな

232 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/12(土) 18:33:38.19 ID:LOMVBL43.net
スプリガンにもそんな二人組がいたっけな

233 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/12(土) 20:39:19.22 ID:jZxSmuvJ.net
俺達が地獄だ

234 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/12(土) 20:52:06.66 ID:AwPUr8Eu.net
ナルトから死後の長門召喚だったら
使い魔になってくれるかも

235 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/14(月) 23:56:06.54 ID:XFNdbazx.net
ディーキンの世界のニンフとかフェアリーとか、ハルケギニア人が見たら驚くだろうな
ハルケギニアには精霊はいるけど妖精は伝説の生き物らしいし

236 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/15(火) 16:18:43.76 ID:5lGccJCz.net
見た目のインパクトなら妖精なんてケチなものよりご立派様や北野くんのほうがでかいで

237 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/15(火) 20:48:19.34 ID:OwMzmc54.net
北野くんは天使だろあんないいこを悪魔扱いなんてなんてひどい話だw

238 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/19(土) 22:06:35.08 ID:bq4pk97f.net
マーベラスとディケイドを召喚

239 :ウルトラ5番目の使い魔  ◆213pT8BiCc :2014/04/21(月) 01:30:21.52 ID:FIcOcqpj.net
皆さんこんばんわ。、ウルトラ5番目の使い魔19話投下準備できましたので始めます。
大丈夫と思いますが、念のため10分後の1:40から始めますのでよろしくお願いいたします。

240 :ウルトラ5番目の使い魔 19話 (1/13) ◆213pT8BiCc :2014/04/21(月) 01:42:43.92 ID:FIcOcqpj.net
 第19話
 はるかな時代へ
 
 剛力怪獣 シルバゴン
 友好巨鳥 リドリアス 登場!
 
 
 聖マルコー号の突然の爆発は、眼下で勝利の喜びに湧いていた信徒たちに大きな衝撃を与えていた。
 
「なっ、なんだ! 聖マルコー号が、聖マルコー号がぁ」
「教皇陛下のお召し艦が。そ、そうだ教皇陛下は、教皇陛下はご無事なのか!」
 
 天使の奇跡の余韻も吹き飛ぶ衝撃に、ロマリアの将兵たちは一時完全なパニックに襲われた。
 教皇、ヴィットーリオ・セレヴァレ陛下。ブリミル教徒にとっての象徴であり、いまや神の祝福をその身に受けた偉大なる聖人である。
迷える子羊を優しく教え導き、ゆくべき道筋を明るく照らし出してくださるその存在は信徒たちにとって太陽にも等しい。その敬愛すべき
お方のおわす船が砕け散ったことは、親兄弟を失ったも同然の衝撃であった。
 右往左往する人々、絶望にうちひしがれる者、発狂したようにけたたましく笑い出す者もいた。
 このままでは、あと数分と持たずにこの場の何万という人間たちは地獄絵図を作り出していただろう。しかし、彼らの狂気が限界を
越える前に、望んでいた救いの御言葉は舞い降りてきた。
 
「皆さん、我が敬虔なるブリミル教徒の皆さん。私の声が聞こえますか? 嘆くのをやめ、空を見上げてください。私は、ここにいます!」
「お、おおおおおぉぉぉぉ!!」
 
 割れんばかりの歓声が天空に轟いた。
 空に舞う一頭のドラゴン。ジュリオが操るその背に立ち、人々を見渡しているのは間違いなく誰もがその無事を祈っていた教皇陛下であった。
 
 教皇陛下! 教皇陛下! おお教皇陛下!
 
 狂喜乱舞の大合唱。しかし、この中にわずかだが教皇ではない人間を案ずる者たちがいたとしたら、その者たちは悪であろうか。
「教皇、生きていたのか……くそっ、サイトたちは、サイトたちは無事なのか」
 教皇の姿を見て吐き捨てたのは、粉塵に体を汚した女騎士と少年たちだった。ミシェルにギーシュ、銃士隊と水精霊騎士隊。
ともに女王陛下の名において、神と始祖に忠誠を誓った誇りある騎士団であるが、今の彼らに教皇を敬愛の念で見る目はない。
疑念は確信に変わり、聖人の皮をかぶって世界を我が物にせんとする”敵”の正体を彼らだけが知っていた。
 先ほど、聖マルコー号に向かって飛んでいく竜に才人とルイズが乗っていたのを彼らは目撃していた。きっと、あのふたりも
教皇の正体を知って、化けの皮をはぐために行ったのだろう。
 船が爆発したとき、彼らは皆才人たちがやったのだと信じ、ふたりが戻ってくることを信じていた。なのに、姿を現したのは教皇……
才人たちはどうしたんだ? 背筋を走る氷の刃……友を、仲間を、愛する人を思うが故のぬぐいきれない不安が彼らの胸中を支配していた。

241 :ウルトラ5番目の使い魔 19話 (2/13) ◆213pT8BiCc :2014/04/21(月) 01:44:24.96 ID:FIcOcqpj.net
「サイト、サイト……まさか、まさか」
「大丈夫ですって。あいつのことだからきっと無事ですよ。きっとぼくらの見えないところで脱出してるに決まってる」
 ギーシュがつとめて明るくミシェルを励ました。いまでは、ミシェルが才人に特別な想いを抱いていることを知らない者はいない。
その理由について詮索する無粋をする者はいなくても、きっと才人の一本気で熱い心が彼女のなにかを響かせたのは容易に
想像がついた。
 ルイズなどがいい例で、ここにいる誰もが多かれ少なかれ才人からは影響を受けている。ルイズもで、彼女の後ろを向くことを
許さない前向きさは、皆のひとつの羅針盤となっていた。今までも、そしてこれからも、だからあいつらがやられるはずなんてない。
 
 けれど教皇は、そうして友の身を案ずる彼らの心を踏みにじるように、黒い笑顔を作り上げた。
 そして彼は両手を広げて人々に静まるよう身振りで諭すと、魔法で増幅された声で穏やかに伝えたのである。
 
「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。実は、私の船に神の意思をさえぎろうとする異端の徒が忍び込んでいたのです。
その者は私を黄泉の道連れにしようとしました。しかし、勇気ある者が幸運にも私の船にいたおかげで、私はこうして命を永らえる
ことができたのです。ご安心ください、私は、生きています! ですがそのために、尊い犠牲が出てしまいました」
 
 ヴットーリオがそう言うと、ジュリオは群集に見せ付けるようになにかを掲げた。最初はそれがなにかよくわからず、
ギーシュやミシェルたちもなんとなく焼け焦げた棒のようにしか見えなかったが、目を凝らしてそれの形を確かめると、
それが壊れた剣であることがわかり、さらにそれの特徴的なつばの形が見えてきたとき、悲鳴があがった。
「デルフリンガー!?」
 視力の良い銃士隊員の絶叫が、全員を凍りつかせた。言われてみれば、それは刃の部分が真ん中から折れているが確かに
才人の愛刀であるデルフリンガーのそれであった。それが、見るも無残に破壊されている。全員の顔から血の気が引き、
無意識のうちに体が震えだす。
 そんな、バカな……だが、教皇の高らかな演説はそんな彼らにとどめを刺すように続いた。
 
「残念ながら、聖マルコー号で生き残ったのは私とこの護衛ひとりだけです。とても悲しい、悲しいことです。皆さん、
信仰のために勇敢に命を散らせた勇者のために祈ってあげてください。ですが、我々がしなければならない弔いは、
なによりも彼らが守ろうとした信仰の道を全うすることなのです! 神の祝福を受けた私を守るために命を落とした、
はるかトリステインからやってきた勇敢な騎士サイト・ヒラガとその主人ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール嬢に惜しみない感謝と
尊敬の涙を! その意思を継いで私は全世界のブリミル教徒に平和と繁栄をもたらしましょう!」
 
 歓呼のオーケストラが轟き響き、教皇の身振り手振りで指揮者に操られているかのように旋律を変えて大気を震わせる。
 その中で流れる十人にも満たない人間の悲嘆の声など、何万の歓声に軽々と吹き消されてしまう。

242 :ウルトラ5番目の使い魔 19話 (3/13) ◆213pT8BiCc :2014/04/21(月) 01:46:07.11 ID:FIcOcqpj.net
 教皇陛下、我らの希望。教皇陛下、彼らの救世主!
 
「ありがとうございます。あなたがたの深い信仰の叫びは、必ず神に届くことでしょう。ですが、我々にはまだ果たさねばならない
大きな使命があることを忘れてはなりません。さあ、戻りましょう我々の信仰の都へ、そして聖地を取り戻す神聖なる使命を
万人に伝え始めるのです」
 
 教皇のこの言葉で、それまで雑然としていたロマリア軍は秩序を取り戻して動き出した。
 隊列を整え、帰途に着く。いまや、心から熱烈な神の使途となった彼らは聖戦になんの恐れもなく、その意思をまだ知らない人々にも
伝えることに強い使命感を抱くようになっていた。
 その様子を、ヴィットーリオは満足げに眺め、ジュリオも静かに笑みを返している。すでに、先の戦いで受けた傷は問題ではなくなっているようだ。
「これで、すべては計画どおりですね、陛下」
「ええ、世界を汚すウィルスは自ら食い合って滅ぶ。これがあるべき姿というもの……私は約束どおり、これからハルケギニアに
平和と繁栄をもたらします。ただし、人間という一点だけを排除した形で、ね」
 たった今まで奇跡と希望に沸いていた人々が聞いたら戦慄するであろうことを愉快そうにしゃべりつつ、ヴィットーリオと
ジュリオは冷たい目で人間たちを見下ろしていた。今日から盛大な破滅の序曲が始まる、その楽譜を書くのは自分たちなのだ、
憂鬱になろうはずもないではないか。
「やがて醜いものがなくなり、美しく生まれ変わるこの星の姿が楽しみです。おや? そういえばジュリオ、あなたいつまで
そのゴミを大切に持っているのですか?」
「ん? ああそうですね。これはもう必要ありませんでした。まあせめて、最期くらいは仲間のところへ返してあげますか」
 ジョリオはそう言うと、まだ持っていたデルフリンガーを、まるで空き缶を捨てるように無造作に投げ捨てた。
 くるくると宙を舞い。真ん中からへし折れたぼろ刀と成り果てたデルフリンガーは、草地に落下して二・三回バウンドすると
ぽとりと落ちて止まった。
「デルフ!」
 捨てられたデルフリンガーへ銃士隊と水精霊騎士隊が駆けつける。ミシェルが拾い上げると、デルフは無残に刃がへし折られ、
さらに焼け焦げさせられた残骸も同然の姿で皆は戦慄し、これではもう、とあきらめかけた。
 だが、もうどうしようもないくず鉄かと思われたデルフのつばがぎちぎちとわずかに動き、あのおどけた声が小さく流れてきた。
「よ、よう、お前ら……ぶ、無事だったかよ」
「デルフ! お前、生きてたのか」
「へ、へへ、武器に生きてるも死んでるもありゃしねえよ。だ、だけど今度ばかりはきちいかな。は、はは」
「しっかりしろ! いったいなにがあったんだ。サイトとミス・ヴァリエールはどうした?」
 途切れがちなデルフの声を励ますようにミシェルは叫んだ。ほかの皆も、心配そうに覗き込んでくる。
「す、すまねえ。俺は、敵の手の内がわかってたはずなのに……あいつらを……て、敵は、ぐっ!」
 そのとき、デルフの声の源であるつばの留め金の釘がはじけとんだ。同時にデルフの声も小さく弱弱しくなっていく。

243 :ウルトラ5番目の使い魔 19話 (4/13) ◆213pT8BiCc :2014/04/21(月) 01:47:51.70 ID:FIcOcqpj.net
「て、敵は……お前ら、逃げろ。かなう、相手じゃねえ」
「おいしっかりしろ。サイトたちはどうなった! お前も男なら、この程度で負けるんじゃない!」
「ち、ちくしょうめ、今にもくたばりそうなのに、もう少し優しい言葉はないもんか。あ、相棒も将来苦労するぜ」
「バカ言ってる場合か! お前は剣だろう。剣が死ぬわけないだろうが」
「死ぬ、はなくても壊れるはあるのさ。いいか、俺はもうすぐ壊れる。お前たちは、いっこくも早くこのクソいまいましい国から
出て行くんだ。奴は、教皇はハルケギニアのすべてをぶっ壊すつもりだ……は、早く。早く」
 デルフの声はどんどんか細くなっていく。大勢の人間の最期を看取ってきたミシェルたちは、それが人間の死と同じ事で
あることがわかる。胸を焼く焦燥感と虚無感。人間でないにしても、デルフもまた長くを共に戦ってきた戦友のひとりだ。
その命が尽き果てようとしているのが愉快なわけがない。
「デルフ! もういい。このままどこかの鍛冶屋に持っていってやる。刀身を打ち直せば、恐らく治る」
「あ、りがと、よ……だが、もう無理だ。それに、俺は助かる資格がねえ……相棒と、娘っ子を、俺は守ることが……
できなかった。あいつらを、俺は」
「な、に? おい、嘘だろ。サイトたちが、サイトがそんな」
「へ……お、まえさん……ほんと、相棒のこと、が……けど、あいつらはもう、二度と、帰っては……すま……ねえ」
 そのとき、デルフのつばが砕けて落ち、乾いた音を立てた。
「デル、フ?」
「……あ……ばよ」
 それを最後に、もう二度とデルフリンガーからはなんの声も響くことはなかった。
 残されたのは、半端な刃のついただけの包丁にも使えない鉄くず同然の刃物が一本のみ。あまりにあっけない、しかし
インテリジェンスソードとしては当たり前の終わりであった。
 ただの”モノ”と化したデルフの姿を、皆はしばしじっと見つめていた。そうすれば、またあのおどけた声で「冗談に決まってんだろ」
とでも言ってくれるような気がしたからだ。だが、デルフはもはや何も言わず、耐え切れずギーシュがつぶやくように言った。
「な、なあ、デルフリンガー、くんは……その」
「死んだよ」
 ひとりの銃士隊員が、冷酷に反論を許さずに現実を突きつけた。それをすぐには飲み込めず、いや飲み込むのを
拒絶して少年たちは立ち尽くした。ただ、一本の剣がガラクタに変わっただけだと以前の彼らなら言ったかもしれない。
しかし、才人の背中ごしに彼らも少なからずデルフとは親しみあっており、彼の明るさとひょうきんさには何度も笑わされてきた。
 失ってはじめてわかる。体験してはじめてわかる。仲間の死という現実が、覚悟していたはずの彼らの未熟な心を打ちのめす。
 だが、デルフの残した言葉と、デルフの無残な姿は、皆に認めたくないもっとも残酷な現実を突きつけていた。
 口に出すこともはばかられる……それを認めた瞬間に、心が大きくえぐられる現実が彼らを待ち構えている。

244 :ウルトラ5番目の使い魔 19話 (5/13) ◆213pT8BiCc :2014/04/21(月) 01:49:00.80 ID:FIcOcqpj.net
「なあ、デルフリンガーがこうなったってことは……サイトたちも、教皇陛下のおっしゃったとおり、死ん……」
「レイナール!」
 ギーシュが、不用意にレイナールがつぶやこうとした言葉をとがめた。誰だって、それは口には出さないだけでわかっている。
あえて口にしなかったのは、自分たちが心の準備をしているだけでなく、今その現実を突きつけてはいけない相手がいるからだ。
レイナールは人より頭がいいが、それゆえに人が当たり前にできることができないところがある。もちろんそれに悪気はないのだが、
今回はそれが最悪の目に出た。
「サイト……サイトが、死……?」
 震えた、抑揚を失った声が漏れ聞こえたとき、そこにいた皆の背筋を冷水がつたった。
「うそだよ、な……お前が、うふ、あはは」
 生気を感じられない、腹話術士が壊れた人形にあてるような狂った声。しかしそれは幻聴ではなく、ここにいる誰しもが
その声の主を知っていた。
 壊れたデルフリンガーを握り締めたまま、うつむいて顔を上げないミシェル。彼女のかわいた唇から、常の彼女のものとは
まるで違うひきつったような声が響いてしだいに大きくなっていき、ギーシュたちは戦慄した。理屈じゃない、本能的に恐怖を
呼び起こす狂った音色。
「ふ、副隊長、どの……?」
「くふふ、くはは、あははははは!」
 そのときのミシェルの表情を、端的に表す言葉はないと言うべきだろう。ただ、そのとき一瞬でも彼女の顔を見てしまった
少年の感想を述べるならば、正視に耐えないという一言であろう……
「あはははは! ああっはっははは!」
 髪を振り乱し、涙を滝のように流しながら、彼女は泣きながら笑っていた。人の心を家に例えるならば、そのはりや屋根を
支える柱を一気に抜き取られてしまったようなものだ。どんな強固な屋敷でも、辿る運命は崩落のひとつ……けれどそれを、
誰が軟弱や柔弱の一言で片付けられるだろうか。
 そして、絶望にとり付かれた心はすべてを投げ出させる。ミシェルの手にはまだ、デルフリンガーの残骸が残っていたのだ。
武器としては使い物にならなくても、まだ凶器としての鋭さはじゅうぶん残っているそれが彼女の喉元へ押し付けられたとき、
彼女の部下たちの必死の制止がなければ、彼女の命は鮮血とともに絶たれていただろう。
「副長ぉ、やめてください!」
「離せっ、死なせてくれっ、サイトの、サイトのいるところへ行くんだあっ!」
 羽交い絞めにして止めながら、ミシェルの部下たちはミシェルのなかば幼児退行まで起こしてしまっている惨状を、
歯を食いしばって悲しみ、そしてミシェルにとって、才人の存在がいかに大きかったか、いやどれだけ深く才人を愛して
いたかを痛感していた。

245 :ウルトラ5番目の使い魔 19話 (6/13) ◆213pT8BiCc :2014/04/21(月) 01:51:13.20 ID:FIcOcqpj.net
「副長……失礼しますっ!」
「うっ、ごふ……」
 当身で気絶させたミシェルの体を抱きとめて、銃士隊員のひとりは自分もつらさをこらえるようにぐっと歯を噛み締めた。
 歴戦を潜り抜けてきた銃士隊の隊員たちは、戦場で仲間の死を実感してしまった人間がどうなるかを知っている。どんなに
屈強な兵士も、親友を、兄弟を目の前で失ったときに平静でいられるとは限らない。戦友を通して、恋人や夫に戦死された妻が
後を追った話も伝え聞いている。
 悲しみに殺されかけ、疲れ果てて眠るミシェルを銃士隊員は背中に担いだ。そして、呆然と見つめているギーシュたちに
向かって告げた。
「行くぞ、もうこの場所に用はない」
「はい、えっと、あの……その、副長、どのは」
「しばらくは指揮をとるのは無理だろう。当分は、代理に私が指揮をとる……だが、いずれは立ち直らせる。いや、立ち直ってもらう。
でなければ、我々こそサイトたちに申し訳が立たん」
 銃士隊は才人に何度も借りを作っている。ツルク星人のとき、才人がいなければ全滅していたかもしれないし、リッシュモンとの
戦いで傷ついたアニエスとミシェルが一命を取り留めたのも、才人が関わってきたおかげだった。
 その借りを返すまではと、皆思っていたのに……しかし、今は自分たちのことが問題だ。
「サイトがやられたかどうかはともかく、今、我々の目の前にいないことが重要だ。あいつが無事なら、必ず我々の前に戻ってくるはず。
しかしそれよりも、これからの我々のほうこそ大変だぞ。サイトとミス・ヴァリエールの抜けた穴は戦力的にはたいしたことはない。
だが、これから我々は敵地となったロマリアを縦断してトリステインに帰り、ロマリアでなにがあったのかの真実を伝えねばならん。
最低、ひとりでも生き残ってな! いいか」
「っ、はいっ!」
 ギーシュたちも、責任の重さと前途の困難さを自覚した。もうロマリアは味方ではない。この、悪魔的な力を持つ国から脱出し、
国に待つ仲間たちに真実を伝えることがいかに難しく、かつ果たさねばならないことであるかはとつとつと語るまでもない。
 この場にいないモンモランシーとティファニアは無事だろうか、明敏なルクシャナがついているからもしものことがあってもと思うが、
彼女たちにこのことを伝えねばならないのは気が重い。さらに彼女たちを守りながらの帰路がどれほど困難となるか、しかし他に
道はない。そのためには、たとえこの中の誰がどうなろうともだ。
 しかし……と、ミシェルを背負った銃士隊員は、消沈した様子ながらついてくるギーシュたちと語りつつ思う。
「サイト、あのバカめ、うちの大事な副長を泣かすとはとんでもないことをしてくれたな。アニエス隊長に報告して、一から根性を
叩きなおしてやるから覚悟しておけよ……」
「あれ、戦場ではくたばった仲間のことはすぐ忘れるのが鉄則と教わりましたがね。それじゃ、あなたこそ隊長にどやされますよ。
しかし、たったふたりが欠けただけで、こうもガタガタになるとは、情けないもんですねぼくたちも」

246 :ウルトラ5番目の使い魔 19話 (7/13) ◆213pT8BiCc :2014/04/21(月) 01:54:15.14 ID:FIcOcqpj.net
「ふん、銃士隊も昔は正真正銘の鉄の隊だったのに、誰かのおかげで我々も甘くなったものだ。生存が絶望的な人間を
あきらめきれんとは……生きて帰るぞ、でなければ私たちが地獄でサイトに怒鳴られる」
「ええ、それがサイトとルイズへの唯一の弔いでしょうからね……」
 デルフは死んだ、才人とルイズは帰ってこない。そう自らに言い聞かせて、彼らは枯れた草を踏みしめて、なにもない荒野を
遠いトリステインへ向かって歩き出した。目に映るのは、意気揚々としたロマリア軍の幾万の行進。しかしその数に比して、
彼らはあまりにも孤独だった。
 目をやれば、この戦いでの負傷者が運ばれていくのが見える。教皇の茶番で何人が傷ついたのか、街ひとつが崩壊し、
運ばれていく人間の中には軍属だけでなく、街にわずかに残っていた人間なのか、町人風の親子の姿も見える。
 しかし、教皇の野望を砕かなければ、いずれ世界中がこうなってしまうだろう。そうなれば、ロマリアの人々も自分たちが
世界を救うどころか世界を滅ぼす企みに手を貸していたことに気づくだろうが、もはや手遅れでしかない。一刻も早くトリステインに戻り、
アンリエッタ女王に聖戦不参加を決めてもらわねばならない……だが、その道のりは果てしなく、足取りは鉛のように重い。
 
 
 そして、絶望的な帰路に旅立つ彼らの姿を、ヴィットーリオとジュリオは冷たい眼差しで見下ろしていた。
「どうやら、まだあがくつもりのようですね。どうします? 悪い芽は育つ前に摘んでおくべきかと思いますが」
「ふふ、ジュリオは慎重ですね。ウルトラマンへの変身者を片付けた以上、あんな連中になにができるでしょう? ですが、大事が
控えている今、危険要素は徹底して取り除くべきですね。面倒でしょうが、始末しておいていただけますか」
「承りました。彼らは誰一人として、祖国にたどり着くことはないでしょう。最後の旅を、せいぜい楽しく演出してあげますよ」
 利用価値を失ったものに対して、彼らはもはやなんの情も抱いていなかった。彼らは今現在、ハルケギニアにおいてもっとも
強大にして無比、対してトリステインを目指す一行は敗残兵も同様に無力だった。
「真実などを探そうとしなければ、少しでも長生きできたでしょうに。この流れはもはや、誰にも止めることはできません。
それなのに無駄なあがきをするのは、彼らの救いがたい性ですね。あなたもそう思うでしょう?」
「ええ、ですが油断は禁物です。人間という生き物は、どれだけ念入りにつぶしても隙を見ては我々をおびやかします。
覚えておいででしょう。この世界以前にも、我々はかつてもウルトラマンを倒し、世界を闇に閉ざしました……ですがそれで、
完全勝利とはいかなかったのです」
「そうですね。しかしあのときと違い、この星の人間たちにそこまでの力はありません。ほかのウルトラマンたちはまだ
気づいていませんし、気づいたときには手遅れです。さあ、今度こそ失敗は許されませんよ。この星を浄化して、次は
今度こそあの星を手に入れるのです」

247 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/21(月) 02:16:13.92 ID:GMRDDhb4.net
しえん

248 :ウルトラ5番目の使い魔 19話 (8/13) ◆213pT8BiCc :2014/04/21(月) 04:13:58.39 ID:FIcOcqpj.net
 教皇とジュリオはハルケギニアを通じて、青く輝くもうひとつの星への想いをめぐらせていた。
 
 
 幾年月にわたる壮大な計画は人間の尺度をはるかに超え、いまだその全容を見せない。しかし、ハルケギニアの窮地を
救うために戦い、戦ってきた戦士たちは謀略に落ちて、その牙を大きく砕かれてしまった。動き始めたロマリアの陰謀を
止める者は、この時点では誰一人として存在しない……
 
 
 そして、時空のかなたへ追放されてしまった才人とルイズ、その行方を知る者もこの世界には一切いない。
 宇宙は無数の別次元に分かれており、ヴィットーリオが開いた世界扉のゲートは、その境界をこじ開けるのみで行く先を
設定されてはいない。つまり、世界地図に目を閉じてダーツを投げるも同じで、どの国に刺さるかなど誰にもわからない。
いやむしろ、どこかの世界にたどり着ければ幸運なほうで、投げたダーツが海に刺さってしまったときのように、永遠に
どこにもたどり着けずに時空のはざまをさまよい続けるということもありえるのだ。
 そんなところに、なんの道しるべもなく放り出された人間の行く末など知る方法はない。まして、帰還の可能性などは
限りなくゼロに等しい……ヴィットーリオとジュリオ、彼らに破壊されたデルフが死と同義に考えてしまったのも無理からぬ
ところであったと言えよう。
 しかし、その絶望的な可能性の壁を超えて、人知れず希望の命脈は保たれていたことも、まだ誰も知らない。
 
 
 次元の壁を超えて、才人は奇跡的にどこかの世界へとたどり着いた。
 けれども、それを幸運と呼ぶべきかはわからない。なぜならそこは、まるで生き物の生息を許すとも思えない荒涼とした世界だったのだ。
 なす術もなく……一人で放り出された才人は、ただルイズの姿を探そうとするものの、突然現れた怪獣に襲われてしまう。
 凶暴な怪獣、シルバゴンの前に丸腰で、ルイズがいないためにウルトラマンAへの変身もできずに逃げるのみで
追い詰められてしまう才人。だが、絶体絶命の彼を救ったのは、なんとハルケギニアの星にしかいないはずのエルフの少女であった……
 ここはいったいどこなのだ? 何ひとつ理解できない中で、才人のたったひとりの旅が始まろうとしていた。
 
「う、ううん……ふわぁぁ……」
 目をこすり、あくびとともに体を起こした才人の目に入ってきたのは小さな村の光景だった。
 いや、村という表現もややオーバーかもしれない。なぜなら、日本人の感覚で”家”と呼べるような建物はなく、木と布で出来た
テントがいくらか並んでいるだけで、才人も最初見たときはモンゴルのゲルだったかパオだったかいう遊牧民の移動式住居
みたいだなと思っていた。

249 :ウルトラ5番目の使い魔 19話 (9/13) ◆213pT8BiCc :2014/04/21(月) 04:15:25.03 ID:FIcOcqpj.net
「ふうわぁぁ……よく寝た。ってか、寝すぎたかなこりゃ」
 毛布をぬぐい、空を見上げるとどれくらい眠っていたのか、とっぷりと墨汁をぶちまけたような闇が周りを包んでいる。しかし
厚い雲のせいか星は見えずに、村の中央の広場でパチパチと音を立てて燃えている焚き火だけが、鈍いオレンジ色に自分たちを
染め上げて闇に抵抗していた。
 なにもかもが見慣れぬ風景。才人は、なにもかも夢であってくれればと目が覚めるときに願っていたが、やはりすべては現実だったの
だなとため息をつくしかなかった。
 そう、教皇との戦いで自分たちは負けた。そして、この世界に飛ばされた。それが現実、変えようのない現実だ。
 と、そこへ小気味よく軽い足音がしたかと思うと、才人の前にあの少女が小皿を持ってやってきた。
「いいかげん目を覚ますころだと思ったわ。どう、具合は? 悪いところがあったら遠慮なく言いなさい。薬ならあるから」
「いえ、一眠りしたらだいたい治ったようで。あっ、でも多少筋肉痛があるかなあ、あててて」
「それならよく働く男の勲章みたいなもんだから大丈夫よ。けど、本当にあなた泥のように眠ってたわ。よっぽど疲れていたのね。
夕食のスープの残りだけど、薬草を混ぜ込んであるから疲れがとれるわ。食べなさい」
 単刀直入かつ無遠慮な彼女の物言いだったが、スープの皿を差し出してきた手は優しく、才人はまだぼんやりしていた脳みそを
目覚めさせて受け取った。使い込んである様子で古ぼけた皿に入れられたスープは、薄い味付けに、言ったとおり薬草の苦味が
染み出してきて決してうまいとはいえない代物だったが、空腹が極致に達していた才人は夢中でスプーンをすくった。
「そんながっかなくても、誰も取ったりしないわよ」
「すんません。でも、手が止まらなくって」
 呆れた様子で彼女に見られる才人だったが、胃袋の欲求はマナーを忘れさせた。それでも多少なりとて口に運ぶと
理性が主導権を回復し、手を休めて才人に礼を言わせた。
「ありがとうございます。見ず知らずのおれに、わざわざメシまで用意してくれて」
「気にすることはないわ。困ったときはおたがいさまだもの。それに、ちょうど長々と帰ってこないやつがいて、一人分余っていたの」
「どうも、ええっと……」
「サーシャよ。ヒリガー・サイトーンくん」
「平賀才人です。よろしく、サーシャさん」
 才人は名前を間違われたことを軽く修正し、恩人の名前を深く心に刻んだ。
 そう、このサーシャという美しいエルフの少女がいなければ、自分は今頃この世にいなかったに違いない。
 あのとき、突如現れた銀色の怪獣に追い詰められていた才人を、たまたま通りかかったという彼女が助けてくれた。それこそ、
踏み潰される寸前のこと……死に物狂いであがこうとしていた才人を、サーシャが力づくで伏せさせてくれたおかげで助かった。
『あいつは動くものしか見えないの。じっとしていたら、そのうち行ってしまうわ』
 そのとおりに、銀色の怪獣は動かずにいるふたりが目の前にいるというのに急に見失った様子で、キョロキョロと戸惑う様を
しばらく見せると、くるりと振り返ってそのまま去っていってしまった。再び生き物の気配がなくなった荒野で、才人はやっと
自由にしてもらって立ち上がると、そこには恩人の呆れたような眼差しがあった。
「大丈夫? このあたりは、ああいう乱暴なのがうろうろしてるのよ。あなた旅人? よく今まで無事でいられたわね」
 ぐっと正面から見据えてくる相手の顔を間近に見て、才人はやっぱりエルフだと確信を強くした。
 薄い金色の髪に翠色の瞳、ティファニアを少し大人っぽくしてルクシャナに少し子供っぽさを足したような容姿。以前行った
エルフの都で何百人と見たエルフの特徴そのものだった。

250 :ウルトラ5番目の使い魔 19話 (10/13) ◆213pT8BiCc :2014/04/21(月) 04:16:30.76 ID:FIcOcqpj.net
「エ、エルフ!?」
「あら? 私を知ってるの? へえ、珍しいわね。私はサーシャ、あなたの名前は? 旅人さん」
「あ、ひ、平賀才人っていいます。旅をしてるわけじゃないんだけど、ええと、説明すっと長いんだけど……そうだ! エルフが
いるってことは、ここはハルケギニアなんですか?」
 戸惑いはしたものの、慌てて才人は疑問の核心を訪ねた。エルフがいるということは、ここはハルケギニアのどこかか近辺である
可能性が高い。だったら、異世界に飛ばされたわけでないのであれば時間はかかるが帰還の方法もあるだろう。
 しかしサーシャから帰ってきた答えは、才人の期待を完全に裏切った。
「ハルケギニア? 聞いたこともないわね」
 才人は愕然とした。博識なエルフが知らないということは、ここはハルケギニアからはるか遠くだということになる。
 いや、それならまだいい。恐る恐るながら、才人はもう一度尋ねてみた。
「じゃ、じゃあ、サハラか、ロバ・アル・カリイエ?」
「サハラね、懐かしい名前を聞いたわね。なるほど、あなたもその口なのね」
「サ、サハラを知ってるってことは……えっ?」
 一瞬、才人の心に喜びが走ったが、サーシャが続けて言った言葉の意味を理解して凍りついた。
「私も前にね、あいつのおかげでこーんな何もないところに連れてこられたのよ。まったく、なんで関係のない私が」
 ふてくされたように言うサーシャの話で、才人は理解した。ここは、やはり異世界……目の前の彼女もまた、サハラから
なんらかの方法で連れてこられたんだろうということが。
 そうとわかり、希望が失われた才人は全身の力が抜けてひざからがっくりと倒れこんだ。
「ちょ、ちょっとあなた大丈夫!?」
「あ、はは……ちょっと気が抜けちゃって……あの、すみませんが、このあたりにもう一人おれくらいのピンク色の髪をした
女の子が来てませんでしたか?」
 気力が折れそうなところを、才人はなんとかこらえてルイズの行方を聞いた。帰還の可能性が閉じてしまった以上、
気になるのは重傷を負ったままで消えていったルイズのことだけだ。あの傷、手当が遅れたら命に関わるかもしれない。
けれども、才人の期待はことごとくがかなえられなかった。
「ピンクの髪の女の子? いいえ、悪いけど見ていないわね」
「そう、ですか……捜さないと……」
「なに言ってるの! あんたよく見たらボロボロじゃない。それに、このあたりにはさっきの奴以外にもなにが潜んでるか
わからないのよ。えいもうっ、仕方ないわね。この近くに私たちの村があるわ、とりあえずはそこに帰ってから話しましょう」
「で、でも、早く見つけてやらないと」
「死にに行くようなもんだって言ってるの。見捨てていけば私は楽だけど、いくらなんでも寝覚めが悪すぎるから無理にでも
来てもらうわ。ほら!」
 サーシャにぐっと腕を掴まれて、才人は引きずられるように連れて行かれた。抵抗しようとしたが、サーシャは意外にも
かなりの力持ちで……いや、女性の力にも対抗できないほど才人が弱っていたのもあるだろう。

251 :ウルトラ5番目の使い魔 19話 (11/13) ◆213pT8BiCc :2014/04/21(月) 04:18:00.96 ID:FIcOcqpj.net
 才人はそのまま、近くに隠してあったサーシャの馬に乗せられて、彼女たちの村に連れて行かれた。
 裸の馬の乗り心地は悪く、気を張ってないとずり落ちそうな中で才人は必死で意識を保った。それでも、村の様子が
見えてきたところで最後の気力も尽き、意識が途切れる寸前に才人はサーシャの声を聞いた。
「ほら、もう着くから我慢しなさいって、無理かあ。わかったわよ、あんたの連れの子は私が捜しておいてあげるから……」
 その後にもいくらか続いたようだが、すでに才人の意識は深遠の淵へと落ちていた。
 それが、この世界に来てからの漏らさぬ真実。才人はサーシャという、地獄の仏に会えたことに感謝しつつ、残りのスープに口をつけ、
あっという間に平らげてしまった。
「はふぅ……ごちそうさまでした」
「よほどお腹が減ってたのね。最近は材料がたいしたものがとれなくて、こんなものしかなくってと思ったんだけど、あなた普段から
ろくなもの食べてないんじゃない?」
「はは、当たりです。最初の頃ルイズにもらうメシはほんとひどかったなあ。おかげで味のハードルが下がって、今じゃ食えるだけでも
ありがたいって……すみません。おれ、どのくらい眠ってたんでしょうか?」
「おおよそ半日というところね。相当疲れていたんでしょう、まるで死人のように眠り込んでいたわよ」
 そうですか……と、才人は腹が膨れてやっと回るようになった頭で考え出した。
 疲れていた、か。確かにそうだ。戦って戦い抜いて、自分でもよくあれだけ戦えたものだと不思議に思うくらい戦った。保健体育で、
人間は興奮状態では脳からアドレナリンというものが出て疲れを感じなくさせると習ったが、たぶんそうだったのだろう。けれども、
体のほうは忘れていた疲れを覚えていて、そのツケはきっちりと帰ってきた。
 それにしても、人間というやつはおもしろくできているもので、どんなとんでもない事態になろうとも眠気と食い気には勝てないらしい。
戦士たるもの、食えるときには食いたくなくても食っておけと、皆といっしょに訓練の一環の心得として教わったが……なぜか、涙が溢れてくる。
「どうしたの? どこか具合の悪いところでもある?」
「いえ、なんでもないです。それより……」
 今は思い出に浸るときではないと、才人は涙をぬぐった。そして、立ち上がって体にぐっと力を込めて相手の顔を正面から
見据えると、彼女はすまなそうに話した。
「ごめんなさい、あなたのいたあたりを中心に探してみたけど、やっぱりあなたの言う女の子は見つからなかったわ」
「そうですか……すみません、こちらこそ初対面なのに無理を言ってしまって」
 やはりルイズの行方はわからないか、と、才人は肩を落とした。
 予測はもうついていた。この世界に来てから、何度試してもウルトラマンAとの会話はできないし、テレパシーも伝わらない。
ということはつまり、ルイズはテレパシーも届かない別の世界に飛ばされてしまったとしか考えられない。
 これからいったいどうしたものか……? まったく先の見通しが立たずに意気消沈する才人。すると、サーシャはそんな才人を
気遣うように言ってくれた。
「まあ、あなたにもいろいろ事情があるみたいだけど、行くところがないなら、ここにいればいいんじゃない?」
「えっ、でも。そんな、見ず知らずのおれのためにそこまでしてもらったら」
「いいのよ、どうせ私も無理矢理こっちに連れてこられた口だから。そもそもこの村は行き場をなくした連中の寄り合い所帯
みたいなもんだし、気にする必要なんかないない」 

252 :ウルトラ5番目の使い魔 19話 (12/13) ◆213pT8BiCc :2014/04/21(月) 04:19:22.19 ID:FIcOcqpj.net
「あ、ありがとうございます! ようし、掃除洗濯なんでもやりますからまかせてください」
 感激して才人はぐっと頭を下げるとともに、持ち前の前向きさで気持ちを切り替えた。頼るものもなく見知らぬ世界にひとりぼっちで
放り出されたのはルイズに召喚されたとき以来だが、同じことなら二度目のほうが気が楽だ。それに、今度はあのときより考えるものが
多い分はるかに力強くいられる。
「あなたって、単純とかお調子者とか言われない?」
「あははは、よく言われます。すみません、長居することになるかもしれませんから、ここがどういうところだか教えてもらえますか?」
「ええ、それはもちろんかまわないわ。けど、その前に一応ここのリーダーに会っておいてもらいたいの。あいつ……ようやく帰ってきたみたいだから」
「えっ? うわっ!」
 才人は、突然横殴りに吹き付けてきた突風になぎ倒された。砂塵が巻き上がり、転んだ才人の目に、風にあおられて大きなテントが
まるで紙細工のようにはためいているのが映ってくる。
 だがしかし、才人を驚かせたのはそんなものではなかった。空から、青い巨大な鳥が降りてくる。いや、あれは鳥の怪獣だ!
しかも、才人はその怪獣の姿に見覚えがあった。
「あの、怪獣は!」
「心配いらないわ。あの怪獣は人を襲ったりしないから」
 サーシャの言うことは才人にはわかっていた。なぜなら、才人は同じ怪獣を見たことがあったからだ。
 以前、東方号でサハラへ旅したとき、アディールでのヤプールとの決戦で現れたあの怪獣とそっくり。いや、サイズは少し小さいが
赤いとさかや骨のような翼といい同種の怪獣なのは間違いない。
「おかえりー、リドリアス」
 唖然としている才人の前に、鳥の怪獣は着陸し翼を畳んだ。地上にいるサーシャが手を振ると、喉を鳴らして応えてくる。
この鳴き声もまったく同じだ。
「リ、リーダーって、この怪獣っすか?」
「あはは、まさか。まーリドリアスは賢いけど、そういう柄じゃないよね。うちのリーダーは、ほらアレよアレ」
 そう言ってサーシャが指差す先を見ると、リドリアスの背中からロープが降りてきて、それをつたって人が降りてくる。彼は地面に
ストンと、というほどきれいにではないが降り立つと、待っていたサーシャのもとにとことこと駆けて来た。
「や、やややや、遅くなってすまない。食料を集めるのに手間取ってしまって、つい遠出をしてしまった。お腹すいたよ、夕食あるかな?」
「ないわよ」
「え?」
「村の警備だってあるのにダラダラと外をほっつき歩いているようなバカに食わすものはないわ。リドリアスも連れまわして、この子はまだ
子供なのよ。これだから蛮人は、その程度の配慮もできないんだから」
「そ、そんなぁー」
 と、彼は情けない声を出してへたってしまった。  

253 :ウルトラ5番目の使い魔 19話 (13/13) ◆213pT8BiCc :2014/04/21(月) 04:20:17.64 ID:FIcOcqpj.net
 なんというか、小柄で若いどこにでもいそうな普通の男だった。才人は、このさえない男がリーダー? と、怪訝に思ったが、それも
いた仕方がないといえるだろう。サーシャに怒鳴られてペコペコしてる様は威厳などとは無縁で、アニエスのような凛々しく頼りになる
リーダーを想像していた才人の予想とはかけ離れていたからだ。
 どうやら見る限り、彼よりサーシャのほうが強いらしい。なんとなく自分とルイズの関係を連想してしまう。どこの世界にも似たようなのが
いるもんだと、才人は妙な感心をした……ところが。
”ん? なんだ、おれ……この人と、どこかで会ったような……?”
 突然そんな感覚を才人は覚えた。今日ここではじめて会うのは確実なはず……誰かと似ていたっけと思ったけれど、記憶にそんな人物は
いくら思い出そうとしてもいなかった。そういえば、サーシャとも最初に会ったときからなんとなく他人の気がしなかった。まだ、疲れているのだろうか?
 けれども、取り込み中のところ悪いが、このままでは話が進まない。才人は空気を読んでないのを承知で、仕方なく割り込むことにした。
「あの、すみません。もうそろそろよろしいですか?」
「ん? 君は、はじめて見る人だね」
 そこで、才人はようやくサーシャから砂漠の真ん中で拾われたことなどを説明してもらった。
「えっと、平賀才人っていいます。おれ、行くあてがなくて、少しの間ここに置いてもらっていいでしょうか?」
「もちろんかまわないさ! いやあ、僕たち以外の人間と会うのは久しぶりだ。喜んで歓迎させてもらうよ」
 満面の笑みを浮かべて彼は才人の手を握ってきた。才人は、ほっとするといっしょに、良い人だなと今日はじめて会ったばかりの
自分を受け入れてくれた彼の度量の大きさに感謝した。が、しかし次に彼が口にした言葉を聞いたとき、才人は愕然とするだけでは
すまない衝撃を受けた。
「おっと、自己紹介がまだだったね。僕の名前はニダベリールのブリミル」
 えっ! と、才人は耳を疑った。その名前、聞き覚えがある。いや、聞き飽きるほど聞かされた名前だ。
 始祖ブリミル。ハルケギニアで信仰されているブリミル教の開祖の名前だ。ただ同名なだけの人? いや、まさか、まさか。
 才人の心に、少しずつ湧きあがってきていた仮説が急速に形を整えてできあがってくる。エルフの存在、以前見たのと同じ怪獣、
そして伝説の聖人と同じ名前の人物の存在。まさか自分は、別の世界に飛ばされてしまったのではなく、時空を超えてしまって……
「おれ、六千年前のハルケギニアにタイムスリップしちまったんじゃないのか……?」
 夢なら早く覚めてくれ……才人は、急展開すぎる状況についていけず、がっくりとひざをついてしまうしかなかった。
 
 
 続く

254 :ウルトラ5番目の使い魔 あとがき ◆213pT8BiCc :2014/04/21(月) 04:25:32.08 ID:FIcOcqpj.net
以上です。あー眠いですが、明日は(もう今日か)投下の時間が取れそうもないのでちょっと無理して投下しました。
またまた遅くなりましてすみません。書いていて、少々テンションが下がりがちなシーンでしたので……
構成上必要でも、暗いシーンを書くのはつらいものですね。
というわけで、ロマリア編はこれをもって終わり、次からはパーティを分けてそれぞれ進めていきます。
にしても、これを書くにいたって当然のように14巻を片手にしましたが、ブリミルとサーシャの話はいろいろと想像力を
かき立てられました。ロマンスというものが書けるほどうまくないですが、この二人のことも少なからず描いていこうと思います。

けど、やっぱり才人たちが派手に活躍する話や、ウルトラマンが勝利する話を早くお送りしたいと思っています。
それでは、次回までしばらくのあいだ、さよなら、さよなら、さよなら。

255 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/22(火) 21:23:52.49 ID:2QquJ2P1.net
>>254
デルフー!!(号泣)
復活劇があるのかないのかわかりませんが続きを楽しみにしております。

256 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/26(土) 23:10:31.02 ID:w/tGQGcB.net
シドニアの騎士もアニメ化したし、BLAME!の再開する頃合かな
もとい忘れていたのをふと思い出した

257 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/27(日) 23:11:09.50 ID:k2NPKr1o.net
そもそもゼロ魔にロマンスなんかあったっけ?

258 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/28(月) 19:59:32.64 ID:zyxTL6rH.net
ラブロマンスと言うよりギャグロマンス

>>256
シドニアは重力子放射線射出装置をガウナで生み出そうとするところまで続くのかな

259 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/28(月) 23:29:18.54 ID:wOAeIOSa.net
ウル忍からマンを召喚。ルイズにメシ抜きを命じられるが腐ったまんじゅうを食えるので問題なし

260 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/29(火) 22:35:59.07 ID:7Gi4+sRU.net
ドラえもんの女神の泉をルイズたちが使ったらどうだろう?きれいなジャイアンのごとく変わる面々を想像してみた
おしとやかなルイズとエレ姉、よい意味で紳士なサイト、ギーシュ、マリコル、淑女なシエスタ、アンアン
タバサだけはどうなるか見当つかなかった

261 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/05/01(木) 21:52:56.87 ID:RS/Jgm/c.net
こんばんはー。小悪魔と春風の協奏曲編、クライマックス突入の36話、投下させてもらいます。
開始は21:56から。

262 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/05/01(木) 21:56:21.66 ID:RS/Jgm/c.net
ウルトラマンゼロの使い魔
第三十六話「怪しい職人」
ロボット怪獣ビルガモ
異次元宇宙人イカルス星人
四次元ロボ獣メカギラス
ロボ怪獣メガザウラ
侵略変形メカ ヘルズキング 登場

 トリスタニアの住宅街。怪獣たちの襲撃や宇宙人の攻撃、更には爆弾事件により街の各地が
見るも無残に破壊されたが、幸いなことにゴルドンから採取された黄金が豊富にあり、
その一部を復興資金に充てることで、再建が急ピッチで進められていた。ただ、職人の手が
トリステイン国だけでは全く足りなかったので、国外から職人を大勢招いての再建となっている。
 そしてその日々の中で、住宅街に暮らす少年が寝室から、隣の復興現場に建てられた仮設住宅を
長いこと観察していた。彼は怪獣の脅威からウルトラマンゼロに救われて命は拾ったのだが、
足を骨折して自宅で療養している。しかしその中で、仮設住宅の職人が不審な行動を見せていることに
気づいたのだ。
 彼の視線の先の、仮設住宅内の職人の影は、長時間座ったままであった。
(あの男、何をしてるんだろう? あそこに座ったまま、もう24時間になる。いつ食事をするんだろう? 
僕が眠ってる間に眠り、食事をしたんだろうか? いや、僕は何度も目が覚めた。あの男はずっと
座ったきりだ。何をしているんだろう……。何か作ってるぞ。何を作ってるんだ?)
 少年は職人の手元にあるものをよく観察しようと身を乗り出したが、職人のいるところは薄暗く、
彼の視力では何なのか確認することが出来なかった。
 職人の手元では、怪しい発光体が規則的な点滅を繰り返していた。

 ウェザリー主導による演劇から数日後。侵略者たちの起こす連続爆発事件の調査を続行した
ルイズたちだったが、結局成果はなし。そのため仕方なく、学院に帰還することになった。
 だがルイズと才人は、アンリエッタからの招集により、すぐにまた王宮へ向かうことになった。
何でも、火急の用事なのだという。もしや、連続爆発事件に何か進展があったのか。ルイズと才人は
はやる気持ちを抑えて、王宮のアンリエッタの下へと駆けつけた……。

「皆さん、これをご覧下さい」
 アンリエッタは王宮の会議室で、ルイズや才人、他多くの軍人に見えるように、テーブルに
一枚の大きな地図を広げた。
 王宮に到着したルイズと才人はすぐに、大勢の将校が集められた会議室に通された。
二人が会議に混ぜられるや否や、アンリエッタは爆破事件についての会議を開始した。
「これはこの王宮の所在地、トリスタニアの地図です。知っての通り、現在トリスタニアでは
侵略者による爆破事件が相次いでいます。しかし、現場はほとんどが戦略上の価値が全くない
ところばかり。実に不可解な行動です」
「相手はどこから現れたかもよく分からん連中。そんなのの考えることですから、我々では
予想もつかないようなものなのではないでしょうか?」
 一人の将校がお手上げだと言わんばかりにぼやいたが、アンリエッタは首を横に振る。
「安易に決めつけるのはいけません。わたくしは敵の意図を探るべく、密かに街に降りて
調査をしていました」
 今の言葉で、才人は劇場にアンリエッタが現れた理由を悟った。彼女もまた、ルイズたちだけに
任せるのではなく、自ら独自調査を進めていたのだ。
「その結果、爆破事件の理由について、一つの仮説が出来上がりました。まずは、今までに
起きた事件の現場を地図に記します」
 皆の視線を地図に戻すアンリエッタ。
「最初にここ、次にここ……。皆さん、何かに気づきませんか?」
 全ての現場に相当する部分を赤色で塗り潰すと、皆に尋ねかける。ルイズが一番に察した。
「現場の全てが……王宮から同じ程度離れた場所ですね」

263 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/05/01(木) 21:59:33.27 ID:RS/Jgm/c.net
 ルイズが今言った通り、事件現場は全てが、王宮から等間隔の地点で発生していたのが、
地図に印すことで判明した。アンリエッタはうなずく。
「その通りです。しかし、破壊された場所はこれで全てではありません。怪獣やウチュウ人自らが
蹂躙した場所も、ここに描き込むと……」
 先に現れたアボラス、バニラ、グランゴン、ラゴラスの四大怪獣やマグマ星人たち宇宙人連合の者に
破壊された場所にも色がつけられると、全員が驚愕した。
「壊されたところが、この城を取り囲んでる!」
 才人の叫びに首肯するアンリエッタ。
「そうです。爆破事件は、街の破壊された箇所を繋ぐようにして起きていたのです。ただの
偶然とは思えません」
 全ての街の壊された部分が赤く塗られると、王宮が360度、赤色で囲まれていることが明らかになった。
だがこれに関して、ルイズが疑問を上げる。
「偶然ではないとしたら、一体……?」
 これだけではまだ、宇宙人連合が何のためにそんなことをしたのかが不明だ。それを尋ねると、
アンリエッタは話を変えた。
「今回の爆破事件の現場を修復するに当たり、この国の職人たちだけでは人手が足りません。
故に国外の者も多く呼び入れられています。わたくしが確かめたところによると、その国外の
職人たちは非常に仕事が早く、我が国の者をはるかに上回る腕前なので、今やほとんどの場所の
修復を担当しているとか」
 それだけ聞くと良いことのように思えるが、アンリエッタは眉間を寄せる。
「しかしその者たちは全員、素性が完全に不明で、現地の者と親交を全く取らないとのことです。
更に、修復の合間に何やら不審な動きを見せているという話も何人もの人の口から聞きました」
 アンリエッタの話した内容で、ルイズが顔を青ざめた。
「それってつまり、その職人たちは、ウチュウ人たちの送ってきた工作員ということでしょうか……!?」
「その可能性は十分にあります。最初に都を破壊し、それを直す職人を装ってトリスタニアに
堂々と侵入する作戦。それが、爆破事件の真相なのでは……。職人を装えば、何らかの危険物を
組み立てていても、家屋の修繕に見せかけてごまかすことも出来るでしょう」
「馬鹿な! ありえませんぞ!」
 将校の一人が、信じられないというより認めたくないという様子で叫んだ。
 だが、それを否定するかのように、直後に激しい揺れと轟音が会議室を襲った。
「きゃあッ!?」
「な、何事だ!?」
 ルイズらが悲鳴を上げると、衛兵が会議室に駆け込んできて、泡を食って叫んだ。
「ほ、報告します! 先般の爆破事件のあった現場に建てられた家屋が崩壊し……金色の、
奇怪な金属製の建造物が出現しました!」
「何ですって!?」
 耳を疑うばかりの内容に、アンリエッタやルイズたち、将校らは我先にと廊下に飛び出して、
窓から外の光景を確認した。
 果たして、衛兵の報告通りの光景がそこにあった。トリスタニアの街並みの真ん中に、
正面の中央部分に、先に行くほど細くなっている円筒を張りつけたような窓のないビルらしき
物体がそそり立っていた。明らかに中世風のトリスタニアの風景に似つかわしくない高層建造物だ。
 しかもその建造物に、どこからか飛んできた棒状のロケットと目玉のような円盤がジョイントした。
そして建造物が火を噴いて浮き上がると、その下に二本の巨大な鋼鉄の柱が入り込み、それとも結合して
柱を脚部に変えた。
 全ての合体手順が済むと、奇怪な建造物は黄金色の巨大ロボットへと姿を変えた。ルイズが
声を張り上げる。
「あの合体の方法……タルブ村で見た、ウチュウ人の巨大ゴーレムに似てるわ!」
 ゼロはロボットの正体を知っていた。
『あいつはビルガモ! 完成まで建築物に成り済ます、破壊活動用ロボット兵器だ! 
あれをトリスタニアに持ち込む計画だったって訳か……!』

264 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/05/01(木) 22:02:12.83 ID:RS/Jgm/c.net
 これが、宇宙人連合の恐るべき作戦であった。卑劣極まるロボット怪獣ビルガモ作戦。
ビルガモは、トリスタニアの街の全滅、王宮破壊、トリステインの全国民と、ウルトラマンゼロの
壊滅の使命を帯びた、悪魔の使者であったのだ。
 ビルガモは頭頂部のアンテナから破壊光波を発射し、足元の家屋を複数ひとまとめに爆破した。
街はたちまち市民たちの悲鳴に包まれる。
「何てこと! 直ちに魔法衛士隊を迎撃に出すのです! どうにか被害を抑えて!」
 アンリエッタが急いで命令を下すが、衛兵が冷や汗を垂らしながら返した。
「それが、あまりに突然で前兆のないことでしたので、まだ招集も出来ておりません!」
「そんな!?」
「非常事態は、これだけではありません!」
 衛兵はもう一つ、悪い知らせをもたらす。
「ゴーレム出現に前後して、レコン・キスタの空中艦隊がトリステインを目指して動き始めたと、
偵察隊からの報告が!」
「何だと! レコン・キスタめ! 先日の大敗をもう忘れたか!」
 将校の一人が憎々しげにうめいた。
「現在の位置から推測するに、艦隊がトリステインの領空に入るまで、二日と少々という
結果が出ています! そちらも今から対処せねば、迎撃が間に合わなくなり、領土に侵入されます!」
「何てこった……!」
 動揺して舌打ちする才人。空中艦隊にトリステインに侵入されたら、シエスタの故郷の
タルブ村がまたも焼かれてしまう。アンリエッタも二つの脅威に同時に迫られ、表情を歪ませた。
「……仕方ありません。こちらの空中艦隊をラ・ロシェールに配備、残る部隊は全てゴーレムの
迎撃と住民の避難誘導を! この二つを同時に進行させるのです! 急いで!」
「はッ!」
 命令を受けた将校たちは慌ただしく会議室前から散っていった。
「アニエス、あなたも銃士隊を率いて、トリスタニアの部隊の応援に!」
「はッ!」
 アンリエッタは側近のアニエスも送り出した。その後で、ルイズがアンリエッタに呼びかける。
「姫さま、わたしたちにもご命令を!」
 振り返ったアンリエッタは、彼女と才人には次の命令を出す。
「あのゴーレムも、通常手段では歯が立たないような強敵でしょう。ルイズには最終手段として、
『虚無』の魔法でゴーレムを破壊する任を与えます。使い魔さんはルイズを守って下さい」
「かしこまりました! すぐに現場に赴きます。わたしの『爆発』に掛かれば、あんな鉄人形なんて……!」
 血気にはやるルイズだが、アンリエッタにそれを押し留められる。
「お待ちなさい。これだけの前準備を掛けた作戦です。敵戦力が、今いるだけではない恐れが
十二分にあります。そのため、最終手段と申しました。本当に後がないほどの状況になるまで、
『虚無』を使用してはなりません」
「そ、そうですか。申し訳ございません。早計でした」
 過ちを認めて謝るルイズ。『虚無』の魔法は威力が絶大な分消耗がひどく、連発が出来ないことは
アンリエッタも把握していた。
「分かってもらえたのなら、早く街へ。この王宮も安全とはいえません」
「承知しました!」
 アンリエッタに促されて、ルイズと才人はその場を離れる。二人きりになったところで、
才人がルイズに首を向けた。
「ルイズ、気張る必要はないぜ。俺たちには、ゼロがついてるじゃないか」
『ああそうだ! ビルガモの一体や二体、この俺が侵略者のたくらみごと粉砕してやるぜ!』
 才人とゼロの呼びかけにうなずき返すルイズ。
「そうだったわね。ゼロ、お願い! トリスタニアの人々を守って!」
『もちろんだ! 行くぜ才人!』
「ああ! デュワッ!」

265 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/01(木) 22:04:37.34 ID:NgZsSrZT.net
しゅわっち

266 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/05/01(木) 22:05:24.90 ID:RS/Jgm/c.net
 才人は即座にウルトラゼロアイを装着した。彼の身体が青と赤の光に変わり、王宮を飛び出していった。

 ビルガモはトリステイン軍の抵抗をものともせず、破壊光波を放ち続けて街を火の海に変えていた。
その破壊の勢いは怒濤の如くで、火の手はビルガモの周囲一面を丸々包んでいる。
 その暴威を阻止し、人々の命を救う使者が今、ビルガモの面前に降り立つ。ウルトラマンゼロが
炎の中に立ったのだ。
「あッ! ウルトラマンゼロだ!」
 火に追われて避難している人々は、ゼロの姿を目にすると、絶望の表情が一瞬に希望の顔つきに変化した。
ゼロはそれに応えるために、果敢にビルガモに向かっていく。ビルガモもまた、攻撃の矛先を街から
最大の障害に切り替えて、ガコンガコンと駆動音を鳴り響かせながら突進していった。
 そして激突する両者。その結果は、ゼロが弾き飛ばされるという形になった。
『ぐッ! 重い……!』
 ビルガモは元々、宇宙有数の科学力を持つバルタン星人が設計したロボット。その性能は、
あのキングジョーにも匹敵するほどと言われる。ロボット特有の超重量を全て乗せた突進攻撃の威力は、
ゼロを易々と押し返すほどであった。
 そしてビルガモはよろめいたゼロに、破壊光波とボディ中央の発光部、腕の先端からの
フラッシュ光線をひたすら浴びせ出した。雨あられの攻撃による爆発が、ゼロを呑み込んでいく。
『うおおぉぉぉッ!』
 絶え間ない光線の連射に、ゼロは瞬く間に追い詰められる。その火力は、ゼロの脚に火を点けるほど。
ゼロは側転することで脚の炎を振り払った。
『はぁ、はぁ……くそッ、あんまりなめるんじゃねぇッ!』
 炎と熱に炙られて早くも息切れするゼロだが、反対に思考は冷静になり、逆転のチャンスを探る。
そしてビルガモのアンテナから破壊光波が発射される寸前に狙いをつけた。
『今だぁッ!』
 破壊光波の軌道を読み、その上にウルティメイトブレスレットを乗せる。するとブレスレットが
光波を反射し、ビルガモ自身のボディに命中した。
 発光部に当たり、ビルガモは自分が炎に包まれた。バタバタ右往左往している隙をゼロはもちろん逃さない。
素早くストロングコロナゼロに変身し、ビルガモをがっしりと掴んだ。
『うおりゃあああぁぁぁぁッ!』
 ストロングコロナゼロはビルガモを軽々と持ち上げ、地面に投げつけた。背部から叩きつけられた
ビルガモがフラフラ起き上がっている間に、ゼロはゼロスラッガー投擲の態勢を取る。
「シェアッ!」
 ふた振りの宇宙ブーメランが宙を切り裂いて飛び、ビルガモの両腕も接合部から切断した。
ビルガモは強固なボディを持つが、関節部も頑丈とはいかなかったようだ。
『これでフィニッシュだぁッ!』
 腕を失いよろめいているビルガモに、ゼロは必殺のワイドゼロショットをお見舞いした。
発光部に食らったビルガモはその部分から爆発を起こし、仰向けに倒れて完全に動かなくなった。
 強敵相手でも勢いに乗ったままあっと言う間に勝利したゼロ。が、彼の勘は、これで戦いが
終わりとは告げていなかった。修復現場の仮設住宅の一つに目をつけると、指を突きつけて叫ぶ。
『ビルガモを操作してた電波は、そこから出てるな! 姿を現しな、侵略者ッ!』
 と叫ぶと、仮設住宅から白い煙が噴き上がり、不気味な笑い声が沸き起こる。
『イカカカカカ! さすがはウルトラマンゼロ。よく我輩がここにいると分かったじゃなイカ!』
 白い煙の中から現れたのは、灰色の肌で耳がやたらと大きい魚面の巨大宇宙人だった。
首の周りには髪と髭が一体化したかのような黒い毛が肩と胸に掛けて茂っており、何故か両手を
顔の位置まで高く挙げている。侵略者のはずだが、どことなくコミカルな印象すら受ける容姿だ。

267 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/05/01(木) 22:08:36.20 ID:RS/Jgm/c.net
『どうも。我輩、ビルガモ作戦の責任者のイカルス星人です』
 侵略者イカルス星人は、実際とぼけているような口調で名乗った。ゼロは相手に人差し指を突きつける。
『イカルス星人! お前らの作戦は失敗だ! とっとと宇宙に帰りなッ!』
 そう言いつけると、イカルス星人は突然哄笑を上げた。
『イカカカカカ! イカカカカカ! イカカカカカカカカカッ!! お腹痛い』
『何がおかしい!?』
 ゼロが問い返すと、イカルス星人は笑いを止め、告げる。
『まだ勝った気になるのは早いんじゃなイカぁ? 勝負はまだ一回の表! 逆転こそ我が命! 
ビルガモは前座。本番はここからじゃなイカ!』
『何だと!』
 イカルス星人の宣言の直後に、街に次々と異変が発生した。
「キィ――――――!」
 ゼロたちがいる東地区から離れた北地区に、何もない虚空からぬっと、恐竜型怪獣をそのまま
機械にしたかのようなロボット怪獣が出現した。バム星人製の異次元移動機能のあるロボット怪獣、
メカギラスだ。
「ギャアアァアアアアァ!」
 西地区からは、ビルガモと同じように仮設住宅を破壊して、怪鳥型ロボットが発進した。
顔のパーツが一切なく、首は三連ビーム砲となっている。暗黒星人バビラーの主力兵器、
メガザウラである。
「ゴオオオオオオオオ!」
 南地区からは青いテトラポッド型の円盤が現れたかと思いきや、すぐに無数の破片に分裂し、
それらが再構築して人型巨大ロボットとなった。ベリル星人の侵略用の戦闘メカ、ヘルズキング。
 以上の三体のロボット怪獣が、トリスタニアの街中に出現した。
『これだけのロボットを仕込んでやがったのか……!』
 さすがのゼロも一瞬戦慄したが、ビルガモは既に倒したので、相手の頭数は四。ウルティメイトフォースゼロ
全員を招集すれば、決して手に負えない状況ではない。
『それに、結局はお前を倒せばそれでいいはずだぜ!』
 司令官はイカルス星人。ゼロは狙いをイカルス星人から外さずに攻撃を仕掛けようとするが、
イカルス星人はまたも不気味に笑う。
『イカカカカカ! そう焦るな。我輩、お前と直接戦うなんて、ひと言も言ってないじゃなイカ』
『何だと? まさか、まだロボ怪獣を残してるのか!?』
 どうやら、敵戦力はこれでも終わりではないようだ。しかも、イカルス星人は次のことを言い放つ。
『それも、これから出すのが本命なのだ! 出でよぉ〜!』
 イカルス星人の呼び声によって、大空の彼方から、ヘルズキングのように人型のロボットが
ゼロの前へと降りてくる。そのロボについて、イカルス星人が説明する。
『ウルトラマンゼロぉ! あのロボットは、お前を倒すのに実にふさわしい相手じゃなイカ! 
何しろアレは、正真正銘、地球人の造ったロボットなのだからな!』
『何ぃ!? 地球製の……ロボット!?』
 ゼロは驚いて、新たに出現したロボットを見上げる。
 人型の機体は、モザイクのような模様に覆われている。左腕にはガトリングガン、右腕には
ビーム砲とシザーアームが備えつけられている。胸部の中心には蓋があり、何をその下に
隠しているのかは不明だが、物々しい雰囲気を放っている。顔面は液晶パネルのようになっていて、
ピピピピと電子音を鳴らしながら放射状に並ぶ赤い線を光らせている。
 ゼロはこのようなロボットの存在を、ダイナから聞いていた。彼が忘れることの出来ない敵の一つ。
侵略者の計略により、よりによって彼の故郷のネオフロンティアスペースの地球人類が生み出してしまった
強力無比の無人ロボット兵器。今上空から降りてくるロボットは、その兵器に特徴が一致していた。
『まさか、あれが……!』
 ゼロに代わって、イカルス星人がその名を唱えた。
『電脳魔人、デスフェイサー! お前はウルトラ戦士が愛した地球人の造った兵器の手で、
あの世に行くのだぁ〜!』
 ネオフロンティアスペースの負の遺産、デスフェイサーが今、ゼロへの最大最強の刺客として
トリステインの地に蘇った。

268 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/05/01(木) 22:31:21.30 ID:RS/Jgm/c.net
以上です。春のロボット怪獣祭り開催。
今回から一気に協奏曲編のラストまで行く予定です。と言っても、一気に投下するって意味ではないのであしからず。

269 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/01(木) 23:35:00.06 ID:lJdiQFk4.net
UFC 128 - エリック・コク vs. ハファエル・アスンサオ
https://www.youtube.com/watch?v=n2CcU1A1i-0

270 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/02(金) 00:02:52.93 ID:nBXWzWr0.net
乙ですー!

271 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/02(金) 19:43:09.43 ID:CtjDjQ1S.net
マシタ会長がハルケに召喚されプラフスキー粒子が満ちてればガンブラバトルも不可能ではない…筈

272 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/02(金) 22:58:04.67 ID:gVo+LoCp.net

スーパーロボット好きとしては悪ののロボット軍団大進撃な展開は胸熱

273 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/02(金) 23:55:28.14 ID:nZnnBh8O.net
乙、ウルトラマン2作品並列になってるけどいい意味で作風が違ってておもしろい

274 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/03(土) 11:06:22.36 ID:eowYLR3Y.net
もしもルイズたちのクラスの担任が殺せんせーだったら

275 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/03(土) 17:49:08.34 ID:JbY2RQUG.net
妖怪ウォッチのバクロ婆を召喚したらタバサやらおマチさんの素性がバレて学院が阿鼻叫喚の騒ぎになる

276 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/03(土) 18:11:12.61 ID:+Crvts/9.net
>>274

「大変です!双月のひとつが破壊されました。我々はもう一生ひとつの月しか見られないのです!」


殺せんせー「ヌルフフフフ、私が月をやった犯人です。来年にはもうひとつの月も、再来年にはハルケギニアも破壊するつもりです。今日から君たちの担任になりましたのでどうぞよろしく」

ルイズたち一同「まず5・6個ツッこませろ!」


ルイズたちを矯正するには一年では足りないと思って2年にしてみた。

277 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/06(火) 10:07:35.52 ID:Y/K5zKJs.net
もし大隆起の阻止が不可能だったらハルケギニア民族大移動みたいになるのかなで、キングゲイナーを連想した

「ルイズーっ! 好きだーっ! エクソダスをする前からry

278 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/07(水) 12:50:30.50 ID:PhgGT2m+.net
世界三大恥ずかしい告白のひとつか、原作でもそういうテンションで締めてもらいたかったな

才人とヒロインの誰かで二つの月に相合傘を刻むもよし、エンシェントドラゴンをラブラブ天驚拳で吹き飛ばすもよし、全世界に向かって大声で叫ぶもよし

279 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/11(日) 22:41:21.04 ID:QF/TEK3X.net
エンシェントってアニメオリジナルだっけ?

280 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/11(日) 23:22:07.28 ID:3df0zrHY.net
>>279
アニメオリジナル
世界を滅ぼすとか大げさに言われながらミサイル程度で致命傷食らう雑魚
ぶっちゃけイグアナゴジラと同レベル

281 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/11(日) 23:24:33.84 ID:6Z9dp0hQ.net
マグロ食ってるようなダメなやつでも
ファンタジーの世界だったらそれなりに脅威だろう・・・

282 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/11(日) 23:54:55.13 ID:3df0zrHY.net
いまどきのアニメのラスボスにしちゃ弱すぎだろ

283 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/12(月) 01:48:47.08 ID:3Os+HDbt.net
エンシェントドラゴンは魔法に強くて科学に弱かったんだよ

284 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/12(月) 01:54:42.09 ID:IBJ1rd4a.net
科学相手には無敵でも魔法には全く耐性の無いアメコミヒーローもいることだしな
しかし「ミサイル程度」とか相変わらず日本の二次元界隈ではミサイルの威力は過小評価され過ぎw

285 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/12(月) 06:59:20.97 ID:E6R3WRdN.net
Fのあれって対艦ミサイル?

286 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/12(月) 08:56:48.77 ID:TAlvW8PW.net
>>285
最初に撃ったのが翼端の対空ミサイルAAM-3、あとから対艦誘導弾のASM-2を
ぶっ放してるね。
装備から航空阻止用のスクランブル待機機を奪ったらしいな。

287 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/12(月) 08:58:07.96 ID:TAlvW8PW.net
ASM-2じゃない。AAM-2だ。こっちも対空ミサイルだね。

288 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/12(月) 08:58:53.99 ID:TAlvW8PW.net
また間違えた。航空阻止なら主翼のミサイルはASM-2であってる。
>>287は忘れて。

289 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/12(月) 10:57:07.13 ID:E6R3WRdN.net
対空ミサイルかよ、流石ガンダールヴって言うべきか良く当てられたなw
まあ順当に考えればそうだよな
スクランブル発進用に待機していた機体を奪っていったとしか考えられないから

290 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/12(月) 19:00:19.42 ID:z/bJO+Mx.net
一応海上10cmの的に命中するほど精度が高いけどな
本来これって船に積むサイズのもんで戦闘機に積むサイズのもんじゃなかったりする

291 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/12(月) 19:21:57.16 ID:TGIj72w5.net
>>281
あれ、映画で出てきた子供が全て成長してアメリカ全土に散らばったら
ゾンビ映画並に酷いことになりそうではあるw
増殖率がハンパではない

292 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/12(月) 19:44:30.90 ID:ybaMD418.net
>>291
増殖ってもデストロイアやメガギラスに比べたらなにほどのことがあるよ

293 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/13(火) 23:35:09.48 ID:G899jpm1.net
ぶっちゃけエンシェントドラゴンってカマキラス程度なんじゃないか?
ゴジラとやりあえば瞬殺されるだろうし、アンギラスやゴロザウルス、バランにすら勝てそうもない

294 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/05/15(木) 20:24:52.70 ID:kwrA6Acg.net ?2BP(1000)
こんばんは。三十七話、投下させてもらいます。
開始は20:28からです。

295 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/05/15(木) 20:28:18.54 ID:kwrA6Acg.net ?2BP(1000)
ウルトラマンゼロの使い魔
第三十七話「ゼロが死ぬ時!トリステインは壊滅する!」
電脳魔人デスフェイサー
異次元宇宙人イカルス星人
四次元ロボ獣メカギラス
ロボ怪獣メガザウラ
侵略変形メカ ヘルズキング
反重力宇宙人ゴドラ星人
サーベル暴君マグマ星人 登場

 ネオフロンティアスペース。それはマルチバースに存在する宇宙の一つであり、ウルトラマンティガと
ウルトラマンダイナの故郷である。この宇宙の地球は、超古代怪獣との戦いに勝利した七年後、宇宙進出をして
ネオフロンティアと呼ばれる時代を築いた。その時代こそが、その地球の最も繁栄した黄金期である。
 しかしそんな黄金期にも――いやだからこそと言うべきか――負の面が存在していた。
宇宙進出を果たした人類に、それを快く思わない宇宙生命体スフィアが侵攻を掛けてきたことを
始めとして、凶悪怪獣の出現や敵性宇宙人の侵略行為が相次ぐようになった。
ネオフロンティアスペースの人類はそれに対抗すべく軍事に傾向していき、それが行き過ぎて
自らの首を絞めてしまう事態が発生したこともあるのだ。
 デスフェイサーの存在こそ、それの証明である。ネオフロンティアスペースの地球平和連合TPCの
過激派が、侵略者の陰謀が絡んでいたこともあったが、「完全無欠の防衛兵器」として、不安定な心を
一切持たない、電脳制御の無人宇宙戦艦プロメテウスを建造した。過激派はプロメテウスを
「新たな人類の希望」にするつもりだったが、プロメテウスは完成直後に侵略者に奪取され、
心を持たない冷酷無比の、悪夢の巨大ロボットに改造されたのだ。
 心を持たない力は、人間の敵にしかならない。そしてその力は、今この瞬間も、ウルトラマンゼロと
トリステインに牙を剥く。電脳魔人デスフェイサーが蘇ったのだ。

『デ、デスフェイサーだと……!』
 自分とイカルス星人の間に降り立ったデスフェイサーの威容を目の当たりにしたゼロは、
思わず言葉を失った。デスフェイサーは静かにたたずみながらも、言い知れぬ不気味な
威圧感を放っている。
『イカカカカカカカ! 驚いてるようだなぁ〜、ウルトラマンゼロぉ!』
 イカルス星人は動揺しているゼロの姿で、心底愉快そうに笑い声を上げた。
『デスフェイサーイカ、あいや以下のロボット怪獣たちは、ヤプールが怪獣墓場に眠ってたのを
解析、その科学力で再現したものだ。パワーはオリジナルとほぼ同じ、あるいはヤプールの改造で
それ以上になってるじゃなイカ! いくらお前でも、ビルガモを倒した直後で、この恐るべき
最強ロボ、デスフェイサーに勝つことは出来ないじゃなイカぁ〜!』
 怪獣墓場。それはあらゆる宇宙で死亡した怪獣たちの魂の行き着く超常の世界。そこには
生物の怪獣だけではなく、宇宙人やロボット怪獣の魂も眠っている。ロボットに魂があるのか? 
という疑問もあるかもしれないが、実際にキングジョーブラックの魂が漂っていたのが
観測されたという実例がある。
『ちッ……そんなの、やってみなけりゃ分かんねぇぜ!』
 ゼロは下唇をぬぐって精神を落ち着かせると、イカルス星人に言い返した。それにイカルス星人は
こう応じる。
『だったら、やってみようじゃなイカ! ロボット怪獣たちよ、暴れ出せ〜!』
 命令により、デスフェイサーたちロボット怪獣が各々動作を開始する。そして本格的に
暴れ出す直前に、イカルス星人は足の先から透き通るように消え出した。異次元空間を介した
空間移動により、どこかへ去っていこうとしているのだ。
『我輩はひと足先に行かせてもらおうじゃなイカ〜』
『待て! どこに行く気だ!?』
 ゼロが問いかけると、イカルス星人は不気味な笑い声とともに告げた。
『イカカカカ! お前もよく知ってる、トリステイン魔法学院じゃなイカ!』
『何だって!? 学院に何をするつもりだッ!』

296 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/15(木) 20:30:02.60 ID:hL8RnapB.net
しえん

297 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/05/15(木) 20:32:08.65 ID:kwrA6Acg.net ?2BP(1000)
『それは自分の目で確かめに来るんだなぁ。もっともぉ、出来たらの話だけどぉ〜! 
それじゃおさらば〜!』
 挑発を残してから、イカルス星人の姿が完全に消える。と同時に、ロボットたちが遂に
トリステインへの攻撃を始めた。
「キィ――――――!」
「ギャアアァアアアアァ!」
「ゴオオオオオオオオ!」
 メカギラスとヘルズキングが足を前に出し、家屋を蹴り飛ばして破壊。メガザウラは宙に飛び上がり、
機首の三連ビーム砲から地上へレーザーを発射し、爆発を起こした。一度はやんだ人々の悲鳴が再び巻き起こる。
『はぁッ!』
『ジャンファイト!』
『おらぁぁぁぁぁぁッ!』
 破壊活動を始めたロボット怪獣たちの前に、ウルティメイトフォースゼロの仲間がすかさず駆けつけた。
ガラスの反射光からミラーナイトが飛び出し、空の彼方から飛んできたジャンバードがジャンボットに変形、
グレンファイヤーが街中から立ち上がって、それぞれメカギラス、メガザウラ、ヘルズキングの前に立ちはだかった。
『これ以上の狼藉は許さんッ!』
『おうよ! こんな危ないもんはスクラップにしてやるぜ!』
『こちらは私たちが引き受けます。ゼロはそのロボットを!』
『あぁ!』
 ミラーナイトたちが三機のロボットの相手を始めると同時に、ゼロもデスフェイサーとの
戦闘の火蓋を切った。
「みんな、頑張って……!」
 ルイズは地上から、ウルティメイトフォースゼロの戦いを見守っている。
 初めは、ゼロがビルガモを難なく倒したことで、今回も侵略者のたくらみを無事にくじいたものだと
安心していた。が、それ以上の数の敵が現れた。ハルケギニア上では長く戦えないゼロの状態に
一抹の不安があるが、きっと大丈夫だろう。これまでもゼロは、いくつものピンチを切り抜けた。
相手は強力そうだが、単純な力の勝負で、凄腕の戦士のゼロを上回るとは思えない。
『はぁぁぁぁッ!』
 そして、ゼロが気勢を上げてデスフェイサーに挑んでいく。正面から飛び込んで間合いを取り、
正拳突きを繰り出す。
 しかしデスフェイサーは機敏にシザーつきの右腕を盾にして、正拳を受け止めた。ゼロは
すぐに上段蹴り、チョップなど電光石火の連撃を仕掛けていくが、デスフェイサーは全ての
打撃を見切り、腕を回してさばき切った。その上でシザーの刺突でゼロを突き飛ばす。
『ぐわぁッ! 何だと……!?』
 自分の宇宙空手の動きがさばかれたことに驚くゼロ。技を見切るのは、力があるだけでは不可能。
同じレベルの格闘の技量がなければいけない。それをロボットの身でやってのけるとは。
 おまけに、デスフェイサーは非常に機敏で精緻な動作を見せている。ロボット怪獣は、
たとえばキングジョーのように、その超重量のせいで動きが鈍くなりがち。しかしデスフェイサーには
その欠点がなかった。さすがに、ダイナが忘れられない敵に選ぶだけのことはある。
 デスフェイサーは電子音と駆動音を鳴らしながら、左腕のガトリングガンを前に突き出して、
弾丸の雨をゼロに浴びせた。
『ぐッ……! 動きが速いなら、こっちはもっと速く動いてやるぜッ!』
 弾丸を耐えたゼロは、ルナミラクルゼロに変身。その念力による高速移動で、デスフェイサーの
周囲を動き回って撹乱を狙う。
 だがデスフェイサーは少しも動じなかった。しばしゼロの動きを観察してから、右腕を振り上げる。
『レボリウムスマ……ぐあぁッ!?』
 そしてゼロが右方で立ち止まってレボリウムスマッシュを決めようとした瞬間に、シザーの
鋭い一撃でカウンターを食らわせた。不意を突かれたゼロは大きく弾き飛ばされて倒れ込んだ。

298 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/05/15(木) 20:35:55.83 ID:kwrA6Acg.net ?2BP(1000)
『なッ……ルナミラクルの動きまで、完璧に見切られてる!?』
 立ち上がりながらもショックを受けるゼロ。彼の動揺が表れたかのように、カラータイマーも点滅し出す。
 デスフェイサーは、TPCの技術の粋を集めて開発された超高度な電子頭脳を搭載している。
その頭脳が、ゼロの挙動を完璧に捉え、攻撃の軌道を計算するのだ。その上に、ゼロのこれまでの
戦闘データも電子頭脳に記録されている。そのためあらゆる攻撃に対処可能。先にビルガモと
戦わせたのも、データの補充が目的の一つだったのだ。
 ゼロが苦戦しているのと同じように、他の三人も、ロボット怪獣たちに苦戦を強いられていた。
『せやッ! ……くぅッ!?』
 ミラーナイトはメカギラスにチョップを仕掛けるが、メカギラスの前方には目に見えない
バリアが展開されており、それに阻まれてしまう。身体全体でぶつかりに行っても、弾き返された。
 メカギラスのバリアは元々異次元空間でのみ使えるものであったが、ヤプールの手によって
改造された結果、三次元空間でも使用できるようになっていた。それが今、ミラーナイトを苦しめている。
『とぁッ! シルバークロス!』
 ミラーナイフやシルバークロスも試みるが、それらも呆気なく反射されてメカギラスに届かなかった。
「キィ――――――!」
『うわぁぁッ!』
 それでいて、メカギラスの放つロケット弾はバリアをすり抜け、ミラーナイトを爆撃する。
バリアは、メカギラスの攻撃だけは都合よく透過するのだ。
『くッ……! こんな、こっちは手出し出来ないのに、向こうは自由に攻撃出来るなんてことが
起きるなんて! 一体、どうやれば勝てるんだ、こいつに……!?』
 圧倒的に不利な状態に、ミラーナイトは思わずそうつぶやいた。
「ギャアアァアアアアァ!」
『うぐぅッ!』
 ジャンボットは、空を自在に動いてレーザーを絶え間なく撃ってくるメガザウラに、なかなか
反撃に転ずることが出来ずに追い込まれていた。メガザウラはエネルギーに底がないのではないかと
思わせるくらいの怒濤の攻撃を続けている。
『くぅッ……ジャンミサイル!』
 このままではやられるのを待つだけ。ジャンボットは懸命に攻撃を耐え、ミサイルの連発を
繰り出した。だがそれらは、即座にメガザウラに撃ち落とされた。
「ギャアアァアアアアァ!」
『ぬぅッ……! 何て奴だ……!』
 反撃の一手があっさりとはねのけられ、ジャンボットはたじろぐ。相手は常に離れた位置から
レーザーを撃ってくるので、ジャンブレードやバトルアックスは届かない。しかしこちらの射撃武器は、
簡単にかわされるのだ。
『あの動き……奴も、高度な感情回路を積んでいるな!』
 メガザウラの動きから、そう判断するジャンボット。事実、それは的中していた。
 侵略者の兵器としては珍しいが、メガザウラはジャンボットのように人工の心、感情回路を
組み込まれている。それにより、普通ロボットが出来ない、直感的な反応を可能としている。
その効果で、より素早い攻撃への対処を実現しているのだ。だから、ジャンボットも反撃の糸口を
掴めずに手を焼いている。
「ギャアアァアアアアァ!」
『ぐわぁぁぁぁッ!』
 そしてメガザウラの感情に、情け容赦はない。ひたすらレーザーを撃って、ジャンボットの
動きを封じ込める。
「ゴオオオオオオオオ!」
『おわぁぁぁッ! いっでででッ!』
 グレンファイヤーも、ヘルズキングが手の甲の装甲から出したビーム砲の光弾の連射を
食らって一方的に追い詰められていた。ヘルズキングは凄腕のガンマンの如き早撃ちで
彼を追い立てる。

299 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/05/15(木) 20:38:22.93 ID:kwrA6Acg.net ?2BP(1000)
『くっそぉ! なめんじゃねぇぜ! うおおおぉぉぉぉッ!』
 だがそこは熱血漢のグレンファイヤー。光弾の雨を強引に突っ切り、ヘルズキングに接近して
パンチを仕掛けようとする。
「ゴオオオオオオオオ!」
 するとヘルズキングは手の甲の装甲を閉じ、腕を振り上げてグレンファイヤーに逆にパンチを食らわせた。
『んなぁぁぁッ!?』
 文字通りの鉄拳を顎に食らい、グレンファイヤーは返り討ちに遭う。
『くっそぉ! 殴り合いも出来んのかよッ!』
「ゴオオオオオオオオ!」
 頭を振って毒づいていると、ヘルズキングは拳を胸の前に持ち上げ、ボクシングのような
ファイティングポーズを取った。
『受けて立つってか? 生意気なッ! やってやろうじゃねぇか! うおおおおおぉぉぉぉぉぉッ!』
 グレンファイヤーは間合いを詰めてひたすら相手のボディを殴りつけるが、鋼鉄のボディは
彼の怪力でもびくともしない。逆に、ヘルズキングの反撃のラッシュで叩きのめされる。
『うぐおぉぉッ! くそ、遠近と攻守、どっちもイケるって、どうすりゃいいんだッ!』
 一方的な戦いの運びに、グレンファイヤーは怒鳴るように吐き捨てた。
「なッ……! みんながッ!」
 ウルティメイトフォースゼロ全員が追い詰められている様を目の当たりにして、ルイズは
大ショックを受けた。これまでも敵の策略で窮地に陥ることはあったが、まさか正面切っての
対決であの四人が苦しめられるとは、今まで思いもしていなかった。
「こうなったら……『虚無』を使うわ! みんなを助けるのよ!」
 ルイズは発奮して杖を掲げた。タルブ村で起こした規模の『爆発』を今一度発動すれば、
キングジョーの軍勢のように、今のロボット怪獣たちも纏めて吹き飛ばせるはずだ。
 精神力を極限まで高めて、呪文を詠唱する。
「ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル……」
 しかし、呪文の途中で一瞬気が遠のき、ふらついた。詠唱も途切れ、『爆発』は起こらない。
「だ、駄目……。とてもじゃないけど、精神力が足りない……」
 何とか踏みとどまったルイズがうめく。あの時は、それまで『虚無』に目覚めていなかったので
精神力がありあまっている状態だったから、あれだけの爆発を起こせた。だが今は、度々『虚無』の
魔法を使っていることもあり、十分な精神力が残っていなかった。半端な威力で撃っても、ロボットたちには
通用しないだろう。
「『ディスペル』は意味ないし……何か、この状況を打破できる魔法はないの!?」
 他の魔法を求めて祈祷書のページをめくるが、生憎、敵は新しい魔法の発見を待ってくれなかった。
 相変わらずゼロを追い詰めていたデスフェイサーが突如ジェット噴射で空に飛び上がり、
胸部の蓋を開帳したのだ。その下からは、巨大な砲口が迫り出してきて、地上に照準を向ける。
『あ、あれは……あそこを中心に、とんでもねぇエネルギーが集まってる……!?』
 デスフェイサーの大砲にエネルギーが充填されていくと、それを察知したゼロがおののいた。
彼の戦士の勘が、あれは非常にまずいものだと告げている。
『くそッ! 撃たせるかぁッ!』
 ゼロは発射を阻止しようと、足に力を込める。
「キィ――――――!」
 その時、ミラーナイトに向けて進撃していたメカギラスが、歩きながらその姿をかき消した。
ミラーナイトは驚く。
『なッ! どこへ行った!?』
 その答えはすぐに出た。メカギラスは虚空から、ゼロの背後に出現し、飛び上がろうと
しているところの彼にロケット弾を浴びせたのだ。メカギラスは空間を跳躍する機能も持っていて、
このような奇襲も出来るのだ。

300 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/05/15(木) 20:41:22.11 ID:kwrA6Acg.net ?2BP(1000)
『うおおぉぉッ!?』
 完全に不意を突かれたゼロは前のめりに倒れ込む。
『し、しまった!』
 ミラーナイトが慌ててミラーナイフを発射してメカギラスに攻撃するも、メカギラスは
また空間移動し、ミラーナイトの背後から彼を殴り倒した。
『く、くそ……!』
 フラフラと立ち上がるゼロだが、デスフェイサーのエネルギー充填はもう終わり、砲口が激しく輝き始めた。
『ま、まずい! 間に合わねぇッ! くそぉッ!』
 ゼロは咄嗟に通常状態に戻ると、ゼロスラッガーをカラータイマーにつないでゼロツインシュートを
発射した。狙う先はもちろん、デスフェイサー。
 だがデスフェイサーも、とうとう大砲から絶大な光の奔流を発射した。ネオマキシマ砲。
デスフェイサーの搭載する中で最も強力な破壊兵器で、その威力は、最大で星を砕くほど。
 ゼロの最大の光線と、星を抹消する超絶破壊光線が、真っ向からぶつかり合った。
『うッ……ぐッ……ぐうううぅぅぅぅ……!』
 ネオマキシマ砲が直撃すれば、間違いなくトリスタニアは消し飛ぶ。大勢の人間が死ぬ。
それだけはさせまいと踏ん張って光線を放ち続けるゼロなのだが、彼の必死の思いとは裏腹に、
ネオマキシマ砲はゼロツインシュートをどんどんと押していく。それほどの威力なのだ。
 そして遂に、ゼロは押し切られた。
『うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――!!』
『ゼロぉぉぉぉぉぉッ!?』
「サイトぉぉぉぉ―――――――!?」
 ゼロの絶叫が巻き起こり、爆発が彼を呑み込む。大勢のトリステインの民が絶句し、仲間たちが、
ルイズが、悲鳴を上げた。
 爆発が収まると、ゼロの立っていた場所に、ポッカリとクレーターが開いた。ゼロの姿は、
なくなっていた。
「そ、そんな……嫌ぁぁぁッ!?」
 ルイズは最悪の想像をして、顔面蒼白となった。
 ゼロがいなくなると、デスフェイサーは勝利したと判断したのか、そのまま高度を上げて
空の彼方へ飛び去っていく。メカギラスは空間移動で瞬時に消え、メガザウラはデスフェイサーの
後を追い、ヘルズキングはテトラポッド状に戻って、メガザウラ同様空の彼方へ消えていった。
『ま、待て……うッ……!』
 引き上げていく敵を追いかけようとしたミラーナイトたちだが、満身創痍の状態のため、
それは叶わなかった。仕方なく、彼らもトリスタニアから退散していった。
 後に残されたのは、未だ火の手が各地でくすぶっているトリスタニアの街並み。それが全て
更地になることは、ゼロの尽力で食い止められたが……彼のいた場所に開いたクレーターが、
痛々しく街の真ん中に晒されていた。

「サイト! サイトッ! どこに行ったの!? 返事してッ!」
 ルイズは脂汗を滝のように垂らして、なりふり構わない様子でクレーターへと走っていた。
ゼロが消えたということは、同化している才人も……。
 考えたくない考えが頭の中に浮かび続けるが、幸いそれは裏切られた。クレーターの方から、
才人がボロボロになりながらも歩いてきたのだ。
「サイト! だ、大丈夫!?」
 慌てて彼を支えるルイズ。ひどい状態に心配するが、同時に安堵もしていた。とりあえず、
生きてはいるのだ。
「くッ……ル、ルイズ……」
 才人は意識もはっきりしていた。何とか身体を支える彼は、ルイズに告げる。
「学院が、危ない……! すぐに、帰らなきゃ……!」
「えッ!? 学院が!?」
 目を見張るルイズだが、才人が一人で歩いていこうとするのを慌てて制止した。
「ま、待って! そんな身体で学院に戻るなんて無茶だわ! せめて、ひと晩でも身体を
休ませないと……」

301 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/05/15(木) 20:43:10.49 ID:kwrA6Acg.net ?2BP(1000)
「でも、イカルス星人が言ってたんだ……。学院に向かうって……。宇宙人たちなら、今こうしてる間にも、
学院を襲ってるはず……。俺が行かなきゃ、みんなが……!」
 焦る才人を、デルフリンガーが諌める。
「相棒、気持ちは分かるが、ここは我慢の時だぜ。そんな身体で行ったって、学院にたどり着く前に
どっかで倒れるのがオチさ。娘っ子の言う通り、せめて普通に馬に乗れるようになるまで休みな」
「けど……!」
 気持ちが急く才人なのだが、身体は追いつかず、ガクリと膝を折ってしまった。
「ほら、そんなんじゃとても学院まで行けないわ。ゼロだって、傷だらけのはずよ。とりあえず、
トリスタニアから敵は引き上げたし、姫さまに頼んで治療を受けさせてもらいましょう」
「ご、ごめん……」
「謝る元気があるなら、早く回復するのよ」
 ルイズは才人を気遣いながら、ともに王宮へと足を向けた。

 その頃、魔法学院では、才人の懸念通りのことが起きていた。宇宙人連合が、学院に侵入、
襲撃を掛けていたのだ。
「きゃああああああああッ!」
「うわああああああああッ!」
 学院のあらゆる場所に、エビに似た頭部を持つ宇宙人の軍団が踏み込み、生徒や教師らを
捕獲していた。種族はゴドラ星人。反撃を試みようとする者もいたが、ハサミから発射する銃撃、
ゴドラガンの早撃ちには、詠唱に時間の掛かる魔法では太刀打ち出来なかった。
 そして学院長室では、マグマ星人がオールド・オスマンにサーベルを突きつけていた。
「……学び舎を制圧して、一体何が目的かね?」
 オスマンは切っ先を喉に向けられても、毅然とした態度で尋ねかけた。それにマグマ星人が
口の端を吊り上げて答える。
『なかなか肝が据わってるじゃねぇか。それに免じて教えてやるよ。ここを我らの作戦の
最後の仕上げ、ウルトラマンゼロの墓場にするのさ!』
 と宣言すると、自身の背後に控えている女性に呼びかけた。
『作戦はいよいよ大詰め。成功すりゃ、その次は約束通り、お前の復讐を手伝ってやるぜ。
それまでは、もうひと働きしてくれよ。なぁ、ウェザリー!』
「……えぇ。分かったわ」
 頭に獣の耳を生やした女性、ウェザリーは落ち着いた声音で応えた。

302 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/05/15(木) 20:43:47.97 ID:kwrA6Acg.net ?2BP(1000)
以上です。
そして戦いの舞台は、トリスタニアから魔法学院へ。

303 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/17(土) 21:18:16.95 ID:BfvxUOqF.net
げえーー
みんなどうなってしまうん?
ウルトラシリーズは結構救いのない話し多いからいくらクロスSSとはいえ不安だ

304 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/18(日) 19:51:17.81 ID:R9XytPcp.net
ウルトラマンゼロの使い魔の作者さま乙でした

305 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/19(月) 14:21:47.48 ID:eN4iaF+Q.net
誰もいらっしゃらないようなので作品を投下させていただきます

魔法少女おりこ☆マギカ 外編から 美国織莉子を召喚。

306 :第一話:2014/05/19(月) 14:22:22.53 ID:eN4iaF+Q.net
 わたしことルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは
 キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・ フォン・アンハルツ・ツェルプストー……
 と表記するのは長いので、以下はルイズとキュルケでお送りします


 などと誰に言っているのかわからない心の声にうんざりとしつつも
 わたしは前日キュルケとの間で賭けをしていた。

「ねえルイズ、賭けをしない賭け」
「キュルケ、またどうせ大したこともない賭けなんでしょう?」
「うっふっふー、まあそれもいいけどね、でも明日はサモン・サーヴァントの試験」
「なに、どっちが大きな使い魔を呼べるかどうかでも争うつもり?」
「自信満々ね、ルイズ」
「なんですって」
「いーっつも失敗ばかりのあなたが使い魔なんて召喚できるわけ無いでしょう!」
「おいまていまなんて言ったこのおっぱい色情魔」

 閑話休題。

「ぜぇ、ぜぇ……要するにわたしが何らかの使い魔を召喚すればゼロのルイズと呼ばれることはなく

なるということね」
「ええ、まあ、あたしだけだけど」
「で、わたしがもしも負けたら……」
「小間使いとして学園に残らせてあげても良いわよ」

 そうなのである。
 二年に進級するための使い魔召喚試験、いわゆるサモン・サーヴァントで失敗をすると
 わたしは荷物をまとめて実家に強制連行されてしまうのである。
 そこでお姉さまやお母様のお小言を言われるだけならまだいいけれど
 ちい姉さまに悲しげな表情をされてしまうのは絶対に嫌だった。

「まままままあ、よもやわたしが失敗するなんてありえないけど!」
「その動揺を少しは察せられないように努力しなさいよ」
「うるさいわね! やってやろーじゃん!」
「あなた貴族とは思えない口の悪さね」

 どう反応せいと。

307 :第一話:2014/05/19(月) 14:22:48.87 ID:eN4iaF+Q.net
 そして現在にいたる。

「何度失敗をする気だね」

 ミスタ・コルベールもちょっと怒りを抑えきれなくなってきている。
 わたしはそんな姿を眺めながら。

「お待ちくださいミスタ・コルベール、呪文名は間違っていない、しかし爆発が起きて失敗をしてし

まうということは」
「ということは?」
「今日は女の子の日ということで調子が悪いというのはいかがでしょう」
「君は先日の実技試験もそんなことを言っていなかったかね」

 さすがに言い訳をするには苦しかったか。
 
「では、これが最後の呪文だ、ミス・ヴァリエール。集中して使い魔を召喚しなさい」
「えー」
「えーじゃない、どれほど時間を取っていると思っているんだ、次の授業の時間が差し迫っているん

だ。これ以上君のために試験を行っている場合じゃない」
「うー! にゃー!」
「ねこの真似はいいから、さっさと呪文を詠唱しなさい」

 ごまかせなかった。
 さすがに優柔不断気味とはいえまっとうな教職者であられるミスタ・コルベールが、融通を利かせ

るなんて手段をとってくれるわけがなかった。

「我が名はルイズ。五つの力を司るペンタゴン。我の運命(さだめ)に従いし、使い魔を召還せよ!」

 ――手ごたえを感じた。
 何かが引っぱり出されるような、そんなフィッシングに似た感覚が左手に伝わっている。
 まあ、タクトを持っているのは右手なんだけどね。

「お、おお……ミス・ヴァリエール、これはやったのではないかね!」

 心なしかミスタ・コルベールも嬉しそうだ。
 そうだやったのだ、私は賭けに勝ったのだ!
 これでキュルケからゼロのルイズと呼ばれることはなくなるのだ!
 って、ちっちェーなこの賭け!

308 :第一話:2014/05/19(月) 14:23:17.86 ID:eN4iaF+Q.net
「キマシタキマシタキマシタワー! さあ、わたしの使い魔ちゃん! サラマンダーかなあ、それで

もウィングドラゴンだったりして? それとも大陸全土を包み込むようなガーゴイルだったりして!


「ルイズ、嬉しいのはわかるけど、少し落ち着きなさい」
「さあ、さあ! 姿を成せ! 姿を成すんだ! ジョー!」
「ジョーって誰なのよ……」

 はしゃいでいると光の粒子になっていた使い魔がどんどん人の形と成していく。
 ……人の形に?

「我が名はルイズ……」
「待ちなさいミス・ヴァリエール」

 そうして人の形をした使い魔というのは……女の子だった。
 一言で言うと白い。
 大きな帽子にマントをしている。

「あ、あ、どうしましょう、ミスタ・コルベール! き、貴族を拉致……!」
「う、うむ……交渉事は私に任せなさい」
「ああ……こんな時だけ頼りに思えますミスタ・コルベール」
「……君一人で交渉をするかね?」

 そそくさと生徒の人垣まで撤退。
 私はキュルケのおっぱいに向かって話しかける。

「ねえキュルケ、オチとしてはどうよ」
「まさか人を呼びだしちゃうとはねえ……さすがのあたしも予想外だったわ」
「ドレスのような衣装に頭には大きなバケツみたいな帽子、髪の毛はふわふわでスタイルもあたしと

同じくらいでいい感じだし、あんた女の子を使い魔にする趣味でもあったの?」
「そんなインモラルな教育はヴァリエールでは行ってません!」

309 :第一話:2014/05/19(月) 14:24:07.73 ID:eN4iaF+Q.net
 そう話している間でも、使い魔として呼び出された少女とミスタ・コルベールの折衝交渉はまだ続

いているらしい。
 とは言っても女の子の方は自分に何が起きたのかわからないという印象で、首を傾げたりぽつんと

空を見上げてみたりをしている。
 ちょっとのんびりとした女の子なのかな? 

「ミス・ヴァリエール」
「はい!」
「彼女は使い魔となることを了承してくれたようだ」

 ……ようだ?

「はじめまして、ルイズさん、私は美国織莉子、あなたに使い魔として呼び出された者です」
「ああ、これはご丁寧に、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します

、その、ご趣味は?」
「唐突にお見合いを始めるんじゃない」

 この場の空気を軽くしてあげようとしただけじゃないかよぅ。

「趣味はお菓子作りを少々……不器用なんですけどね」
「まあ、お菓子作りなんですの、そういうのは使用人にやらせなければよくって?」
「はい、ミス・ヴァリエールがミス・オリコにコントラクトサーヴァントをするまで3秒前」

 君とキスをする3秒前!?

「それではオリコ、私ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、あなたにコ

ントラクトサーヴァントをいたします」
「使い魔の刻印が身体に刻まれるんですね、ああ、まるでこれではルイズさんの所有物になってしま

うかのようですね」
「我が名はルイズ。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

 オリコの話を聞いているととても長いことになりそうだったので、さっさと口づけを交わしてしま

う。女の子同士という気安さもあってなのかここまではスムーズに済んだ。

「終わりました」
「ふむ……サモン・サーヴァントは何回も失敗したが、コントラクトサーヴァントは一度で成功をし

た様子だね」
「あの、ルイズさん……私ファーストキスでした」

 そんな報告はわたしもだからいい。
 ……いや、いいってことはないんだけれどもね! こっちも相当恥ずかしい思いしているんだけど

さぁ。

310 :第一話:2014/05/19(月) 14:24:46.08 ID:eN4iaF+Q.net
「いたっ、いたっ、えぅぅぅぅぅ!?」
 
 そうだ、使い魔には刻印が刻まれてしまうんだと思った時にはもうすでにオリコは悲鳴を上げてい

る最中だった。

「オリコ! 女の子の痛みよ! これで一つあなたは大人になった!」 
「ミス・ヴァリエール、誤解をさせるようなことを言わない。ミス・オリコ、それは使い魔のルーン

が身体に刻まれているんだ、だが心配はいらない、長い間続く痛みではないから」
「男の人はそういって先っぽだけとか言って女の子に挿入しようとするから注意するのよオリコ!」
「ミス・ヴァリエールは退学がお望みらしい」

 すみませんでした。

「本当、鋭い痛みが身体の中に違和感を生じさせたと思ったら、すぐに済んだわ」
「そうなのよ、経験則じゃないけど男の人は……痛いのは一瞬だよ……なーんちゃって!」
「まあ、この痛みをお与えになられたのはルイズさんなんですけどね」
「すんませんでしたー!」

 さっきから謝り通しである。

「珍しいルーンだね」
「あら、そうなんですか?」
「うむ、教師をして長くなるが、このようなルーンを見るのは初めてだ、少し恥ずかしいね」
「いえいえ、人間が使い魔として召喚されたんですもの、古今東西ありえない形を持ったルーンがあ

っても仕方がないです」

 わたしもオリコの左手の甲に刻まれたルーンを眺めてみるけど、たしかに知識の中では該当するも

のがなかった。

「さて、待たせてしまって申し訳なかったね、皆も次の授業が始まる、教室に戻ろう」

 多くの生徒達が飛ぶときにわたしに嫌味を言いながら去っていく。
 それを見ながらオリコはぼんやりとした様子で。

「メイジっていうものは飛ぶものなんですねえ……」
「……え?」

311 :第一話:2014/05/19(月) 14:25:12.74 ID:eN4iaF+Q.net
 オリコと詳しい話をしていくと、彼女は貴族ではなくて平民であることが判明した。
 何だもう、と思う時にはもうすっかり彼女と話友達になっていて、

「ところでルイズ、使い魔って何をすればいいのかしら?」
「ああ……そういえばそんなことも考えないとねえ……」

 オリコの話は面白くてついつい長い間話していたものだから頭がぼーっとし始めていた。

「身の回りのお世話でもすればよろしいでしょうか?」
「うーん、せっかくの友達にそんなことをさせるのもねえ……かと言って……あ」
「あ?」
「ベッドが一つしかないわ! 使用人に言って……ああ、駄目だベッドを置くスペースがないわ」

 部屋の中にあるテーブルや棚を片付ければもう一人分のベッドも置けそうだけれど、片付けさせる

のに時間はかかるし、わたしにも勉強をするスペースが必要になる。
 どう考えても教科書やノートをしまうスペースは必要で、図書室から借りてきた本なども置かなく

てはいけなかった。

「客間などがあればいいんですね」
「うん……ただ、あなたは使い魔ってことになるから、貴族の客室には泊められないし、かと言って

使用人達の眠るところには置きたくないし」
「いえいえ、眠るスペースがあれば文句はありませんよ、さすがに雑魚寝は勘弁ですけど」

 まったくだ。
 そんなことをさせるのはわたしのプライドが許さなかった。

「仕方ないわ、使用人達の一番いい部屋をオリコ専用にさせてもらいましょう」
「そんなことができるの?」
「できるできる。ヴァリエールの名前を出せば一発よ、家名っていうのは重いものがあると思ってい

たけれど、まさかこんなところで有効活用ができるなんてね」

 さっそく使用人の部屋に赴き、オリコに上等な部屋を与えた。
 彼女はどことなく恐縮している様子だったけれど、わたしの中ではいいことをしたと胸を張って言

えるのであった。

312 :第一話:2014/05/19(月) 14:25:56.04 ID:eN4iaF+Q.net
 翌日。
 そういえば使い魔を召喚したんだっけ、なんてことを考えながら起き上がると、
脱ぎ散らかしておいたはずの下着のたぐいが全部なくなっていた。
 
「……ああ、きっとオリコが気を利かせて洗ってくれてるのね」

 昨日親友の誓いをたてたのにもかかわらず扱いがぞんざいなのではないかと思ったのは、制服に着

替えて髪の毛をブラシで梳かしている時だった。
 ……ちなみに、ブラシはオリコが。

「ほんと、ルイズって髪の毛がさらさらね、私なんてくせっ毛で」
「ああ、気持ちが良いわ……ってちゃうねん!」
「え。なにか痛いところでもあった?」

 オリコはキョトンとした瞳でこちらを見る。
 ちょっと彼女は天然が入った部分があるからしっかりと注意しないと。

「……そのまま続けて」
「はい、ご主人様♪」

 楽しげな様子で鼻歌なんかを歌いながら髪を梳いてくれているのを見て、
 それはダメなんだよと注意を出来る人がいるのならば見てみたいものだ。
 あと、ご主人様っていう名称は辞めてほしい。

313 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/20(火) 14:05:22.66 ID:Dm+Tm8t1.net
続きなし?

314 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/21(水) 21:36:58.67 ID:uA7Q2hVw.net
当時はあれでも使いやすいかったんだろう

ごめん、嘘

315 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/21(水) 21:42:22.07 ID:uA7Q2hVw.net
誤爆・・・

316 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/22(木) 19:26:51.36 ID:t7K+22R6.net
       ノ L___
       ⌒:::\:::::/::\
      /=⊂⊃=⊂⊃=\   
     /    (__人__)   \   焼き犬はもう飽きたお!キャプテンの帰国はいつだお!
     |       |::::::|     |
     \       l;;;;;;l    /l!|
     /     `ー'    \ |i
   /          ヽ !l ヽi
   (   丶- 、       しE |    ドンッ!
    `ー、_ノ       ・ l、E ノ >
               レY^V^ヽl19時半から

317 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/22(木) 19:27:33.66 ID:t7K+22R6.net
ごめんなさい誤爆です

318 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/23(金) 02:46:09.33 ID:nZgKPUuP.net
皆さん、こんばんわ。こんな時間ですが、ウルトラ5番目の使い魔20話の投下を開始いたします。
五分後、50分からはじめますのでよろしくお願いいたします。

319 :ウルトラ5番目の使い魔 20話 (1/13) ◆213pT8BiCc :2014/05/23(金) 02:52:02.00 ID:nZgKPUuP.net
 第20話
 彼の人はブリミル
 
 友好巨鳥 リドリアス
 カオスヘッダー
 古代怪獣 ドルバ
 カオスドルバ 登場!
 
 
「それでは、君は未来から来たというのかい?」
「ええ、自分でも頭沸いてんじゃないかなーとは思うんですが。おれの……ぼくのいた世界の六千年ほど前に、あなたと同じ名前の
偉人がいちゃったりするんですよね」
 才人は、自分でも何言ってるんだと思うようなことを、なかばため息交じりで説明するはめに陥っていた。
 ヴィットーリオの虚無魔法で次元を飛ばされてやってきたこの世界。初めて訪れるはずなのに、次々と既視感のある出来事に
出くわして、あげくの果てにブリミルという名前の青年まで現れてしまった。
 ここまで来ると、いくら鈍い才人でも気がつく。この世界が、ハルケギニアの過去なのではないかということが……
”おれの人生って、とことん破天荒だなあ”
 あまりの急展開に力が抜けて、また気を失いそうになった才人は、ブリミルの家に担ぎこまれてそのまま介抱された。そして、
君はどこから来たんだいと問われ、嘘の苦手な才人は仕方なしに自分の感じたままを正直に話したのである。
 そんなブリミルが才人のことを珍しそうに見つめてくる。いや、笑っていた。
「う、くくくく。すまない、笑うつもりはなかったんだが、そんなに突飛なことを聞かされたらね」
「でしょうねえ。サーシャさん、笑いたいなら思いっきり笑ってくれていいですよ。そんな震えるくらい笑いをこらえられたら逆に
傷つきますって」
 殺風景なテントの中に、ブリミルとサーシャのこらえた笑い声が流れた。
 とはいえ、なにをやってんだろうなおれ、と、才人も笑いたいくらいなのである。
 この、目の前にいるブリミルという青年とエルフの少女サーシャを見ていると、才人の中に妙な感覚が湧いてくるのだ。なんというか、
どこかで会ったことがあるような、デジャヴュのような不思議なそわそわした感じが離れない。もしも、目の前のブリミルが才人の
思っているとおりの始祖ブリミルなら、これはルイズの魔法の残滓が自分の中にあるからなのだろうか?
 そんなことを思いながら、才人はテントの中を見渡した。粗末なテーブルと椅子くらいしか調度品はなく、ベッドはわらぶきだし、
自分がルイズの部屋で使っていたのと大差ない。これが本当に伝説の聖人の住まいかというと、まったく信じられなくても
しょうがないだろう。
「あー、うん。とりあえず、君の話が本当かどうかは別として、違う世界から来たというのはあながち嘘でもなさそうだね。
でなければ、こんなところを丸腰で歩いてられるわけもない」
「ですね。確かに、あのときサーシャさんに助けてもらわなかったら間違いなく死んでましたよ。いったい、この世界はどうなってるんですか? 
なんで、こんな人がまともに住めないようなくらいに荒れ果ててしまったんです?」
 才人は率直に疑問をぶつけた。どのみち、サーシャに説明してもらおうと思っていたことだ。
 するとブリミルは、目を伏せて悲しげに首を振った。
「本当に、君は僕たちとは違う世界から来たのかもしれないね。この世にヴァリヤーグの脅威を知らずに生きている人がいるなんて
思えないもの」
「ヴァリ、なんですって?」
 初めて聞く単語に、才人は思わず聞き返した。
「ヴァリヤーグ、恐ろしい奴らさ。この世界は、元はとても美しい世界だった。けれど……」
 言葉を詰まらせたブリミル。一方才人は、そのヴァリヤーグこそが諸悪の根源であろうとあたりをつけた。 

320 :ウルトラ5番目の使い魔 20話 (2/13) ◆213pT8BiCc :2014/05/23(金) 02:55:46.87 ID:nZgKPUuP.net
「わかりました。ヴァリヤーグってやつが、この世界をこんなに荒らしちまったんですね!」
「あ、うん。まあ、それも、そうでもあるが……」
 そのとき直情的な才人は、ブリミルが言葉を濁した意味に気がつかなかった。
「いったいなにものなんです? そのヴァリヤーグって、怪獣ですか?」
「怪獣か、それも正しいといえば正しいし、違っているといえばそうなるな。なんというべきか、一言で説明するのは難しいが……」
 困った風にブリミルは腕を組んで考え込んでしまった。どうやら事情は複雑なようで、才人はコレ聞いちゃっていいのかな? と、
思いはしたものの、ここまできて知らぬままでいるわけにはいかない。また、サーシャも言い渋るブリミルにじれて割ってきた。
「言いつくろったってしょうがないわよ。彼は私たちの仲間になるんだから、知るべきことは知っていてもらわないと信頼してもらえないわよ」
「いや、そうはいってもねきみ。なにも知らない人に、今の世界のことを説明するのは非常にデリケートな。いや、君の言うことももっとも……うーん」
 どうもブリミルの歯切れが悪い。なにか説明すること自体を躊躇しているような様子に、才人も少し不審を抱き始めたとき、テントの
入り口のほうで物音がしたので振り返ると、小さな女の子がこちらを覗きこんでいた。
「大丈夫だよ、ノルン。こっちにおいで」
 ブリミルが呼ぶと、ノルンと呼ばれた女の子は少し恐る恐るな様子で入ってきた。十歳くらいのかわいらしい子で、遊牧民風の
粗末な服を着ているが、腰に巻いたカラフルな布が女の子らしいおしゃれを感じさせて微笑ましい。そして、手に持った土鍋を
テントの奥にしつらえてあるかまどの上にトンと置いた。
「ああ、ペストーレを持ってきてくれたんだね。ありがとう」
 ペストーレというのがその料理の名前らしい。次にその女の子は懐から杖を取り出すと呪文を唱えてかまどに火を入れた。
「わあおっ! 小さいのに魔法が使えるなんてすごいな。みんな貴族なのか?」
「貴族? よくわからないけど、僕らマギの族はみんなこれができるよ。もっとも、ニダベリールの村はあちこちの生き残りが少しずつ
集まったものだから、純粋なマギの民はもう少ないけどね」
 そう語るブリミルの横顔に、才人はここがハルケギニアの過去ならば、そのマギの族というのが将来のメイジの先祖になるのだろうかと思った。
 しかし、ブリミルの横顔は寂しそうで、現在のこの百人もいなさそうな村から将来のハルケギニアの繁栄を連想することはできない。
 サーシャはノルンに、後は私がやるからとねぎらって帰し、数分後に才人たちの前に温められた料理の皿が並べられた。
「さあ味わってくれ。たいしたものは出せないが、新しい仲間の歓迎だ」
 屈託のないブリミルの笑顔で、才人はこの世界で二度目の食事をとることになった。さっきのスープから時間はさして経っていないが、
若い胃袋の欲求は深い。才人に遠慮などできるわけもなかった。
「うめえ、こんな料理はじめて食うぜ」
「それはうれしいね。ところで、食べながらでいいけど話をしよう。君はさっき、自分は未来から来たようだと言っていたけど、
それはまだそう思っているのかい?」
「……ええ、偶然にしちゃできすぎてんですよね。ブリミルって名前は、おれのいた時代じゃ知らない人はいないし。さっき、
あなたが乗ってきた怪獣と同じのを、おれの時代でも見たことがあるし。それに、どうもおれはあなたと初めて会った気が
しないんですよねえ」
「ふむ、冗談で言える話ではないようではあるね」
 ブリミルはそこで初めて考え込む様子を見せた。今までとは違う、真剣な表情にサーシャも気がつく。
「ちょっとあなた、こんな突拍子もない話を信じるつもり?」
「信じるも信じないも、それはこれからさ。彼の話を聞いて、筋が通っていれば参考にして矛盾があればとがめていく。
それで矛盾が多くなれば彼の悩みは杞憂だったということで万々歳、そうでなかったらそのときだよ」
 明快なブリミルの答えに、サーシャは黙るしかなかった。才人は感心し、後に始祖なんて呼ばれるような人なら馬鹿の
はずはないだろうなと、少し安心した。
「さて、じゃあ気楽に答えてくれ。君がここを過去だというなら、当然僕たちのことを知っているはずだね。僕が未来で有名なのは
聞いたけど、具体的にどういうふうに有名なのか教えてくれたまえ」
「うーん……それについては、笑わないでくれっていうか、怒らないでくれといえばいいのかなあ」

321 :ウルトラ5番目の使い魔 20話 (3/13) ◆213pT8BiCc :2014/05/23(金) 02:57:17.87 ID:nZgKPUuP.net
 才人は悩んだけれども、知っている範囲でブリミル教のブリミルに関する伝承を語った。もちろん、ブリミル教徒ではない才人は
教義などを教わったことはなく、ルイズたちからの受け売りがほとんどである。
 それらを聞いたブリミルは、呆れたというか困ったというか難しい様子で考え込んでしまった。無理もない、自分が世界中で
信仰される宗教の始祖になるなんて言われたら普通は困惑する。というよりも非現実的すぎて、サーシャなどは爆笑していた。
「あっはっはっは! ブリミルが神の子? こいつが、このどんくさいのが始祖? 教祖様? こいつをあがめれば天国に
行けるっての? あーはっはっはっは!」
「サーシャ、君ねえ、いくらムチャクチャな話だからってその笑い方はないんじゃないかい? そりゃ僕だって自分が救世主なんて
柄じゃないのはわかってるつもりだけど、さすがに傷つくよ」
「だってだって! この田舎くさい蛮人がって、ダメこらえきれない、ひっひゃひゃひゃ!」
 腹を抱えて笑い転げるサーシャと、がっくりとしょげてしまったブリミルを見て、才人はなんか悪いことしちまったなと思った。
どうやらブリミルがルイズたちの言う”始祖”と呼ばれる人物になるまでには、まだしばらくの時間が必要なようだ。だったら
ブリミル教のことは、この時代のブリミルにはあまり説得の材料になりそうもない。
「あの、なんか、どうもすいません……」
「いや、いいさ。君に悪意がないのはなんとなくわかるよ。けど、嘘にしても本当にしてもすごすぎて」
「まあ、六千年も経てば伝承もけっこう派手になるでしょうしね。ぶっちゃけ、あなたがそんなすごい魔法使いには見えませんし」
「君もけっこうはっきり言うね。一応、僕は……では、僕の魔法について話してくれないか?」
「あなたの?」
 才人が怪訝な表情をすると、ブリミルはこくりとうなづいた。すると、笑い転げていたサーシャが真顔に戻り。
「ちょっとブリミル、あんたの魔法って言ったら!」
「いいさ、僕の魔法は僕たちの仲間しか知らないんだ。もしも彼がそれにも詳しかったら信憑性は高いことになるじゃないか」
「そういうんじゃなくて! まったく、ほんと好奇心だけは強いんだから」
 サーシャは止めても無駄だろうなと、呆れ果てた様子であきらめてしまった。ブリミルの魔法の詳細が、見ず知らずの人間の
口からペラペラと出てきてしまったらかなり問題だろう。しかし彼は気にした様子も無く、才人もまずったかなと思いつつも、
いまさら引っ込みもつかないので、今度は一応言葉を選びながら話しはじめた。
「ええっと、まず、ブリミルさんの魔法はこっちの時代じゃ虚無の系統って呼ばれてます……当たってますか?」
「ううむ。いや、実は僕はまだ自分の系統に名前をつけてはいないんだ。けど、虚無の系統か、なかなかいい響きではあるね。
では具体的に使っていた魔法についてはどうだい?」
「ええっと、ルイズが使ってたのだと、爆発を起こすエクスプロージョン、瞬間移動するテレポート、テファの忘却……
あっ、教皇の使ったイリュージョンに世界扉に……知ってるとこだとそれくらいかな」
「……なかなか興味深いね」
 ブリミルの表情に真剣さが増していた。はっきり当たっているとも違っているとも言わないが、隣で聞いているサーシャの
様子も目に見えて変わっていた。
「ブリミル、彼の言ってることって」
「しっ、少し黙っててくれ。なるほどなるほど、聞くからにすごそうな名前ばかりだ。おもしろいじゃないか」

322 :ウルトラ5番目の使い魔 20話 (4/13) ◆213pT8BiCc :2014/05/23(金) 02:59:46.62 ID:nZgKPUuP.net
 口調は笑っているが、彼の目は続けてくれと言っている。真っ直ぐにこちらの目を見据え、わずかな嘘の兆候も見逃すまいと
しているだけでなく、才人はその視線に、なにか逆らいがたいものを感じて、この人は見た目どおりとは違うと評価を入れ替えた。
「えっとそれから、虚無の担い手は四人の特別な使い魔を従えてたそうで……えーっと、やたら小難しい名前ばっかだったからな。
こんなことならルイズの話をもっとしっかり聞いとけゃよかった。まず、武器を扱うのが得意なガンダールヴと、あとは確か
ルイズが調べたミョ、ミョ? と、うぃんど? あーっ! ダメだ。ガンダールヴ以外わかんねえ」
「まあまあ落ち着きたまえ。なら、そのガンダールヴだけでもいいから、もっと詳しく言えるかい?」
「はぁ、まあガンダならわかります。こう、左手の甲にルーンが刻まれてて、なんでもいいから武器を持ったらガーッと強くなるんです。
役割は、主人が魔法の詠唱を完成させるまでの時間稼ぎだったはず。まあ、なにもなくてもけっこう強いけど」
 そう言い、才人はかつてガンダールヴのルーンのあった自分の左手の甲を見つめた。以前、戦いで命を落としたときに
契約が解除された後、自分たちは再契約をしなかった。それは、絆をつなげるならば魔法などに頼りたくはないという
思いからであり、今でもそれは間違っていなかったと思うが、ここでルーンがあればよい証拠になっただろうと思うのは
残念である。
 しかし、才人はそのとき視線を左手に逸らしていたために、ブリミルとサーシャの表情がほんの一瞬ではあるが、変化していたのに
気づかなかった。
「ん? あ、すいません。話の途中でよそ見しちゃって」
「いや、いいさ。話をしてもらってるのはこっちなんだから。そうだ、話してるうちに料理が冷めてしまったね。先にいただこうよ」
 ブリミルに薦められて、才人はすっかりぬるくなってしまったスプーンの中身に口をつけた。今まで食べたことのない、けれども
決してまずくはないことに、作った人の腕のよさと料理への愛情が感じられた。
”ここにデルフがあったらなあ……焦って手を放しちまったけど、あいつがいたら”
 この時代の生き証人なのだから、いろいろと助かったろうにと才人は自分のうかつさを恨んだ。そういえば、この時代のデルフの
姿が見えないところからすると、あいつはこの後に作られたのかもしれない。もし元の時代に戻れたときはブリミルに会ったことを
思い切り話してやろうと思った。
 そのときであった。才人は、飲もうと手に持っていたコップの水面が不自然に波打つのを目撃し、次いで腰から頭にかけて
強烈な揺れに貫かれてよろめいたのは。
「っ! なんだ?」
「族長! 大変です」
 血相を変えた若い男が飛び込んできた。サーシャの表情が鋭く変わり、ブリミルがすっくと立ち上がる。
「来たか、早いな。もうここを感づかれたか」
 早足でブリミルはテントを出て行き、サーシャも身なりを正して続く。才人はそれに、わけがわからないままいっしょに
続いて外に出ると、そこには村中の人たちが集まっていた。
 これはどう見てもただごとではないと驚いていると、サーシャが説明してくれた。
「あなた、運がいいわね。いえ、運が悪いのかもしれないけど、さっきのあなたの質問の答えが見られるみたいよ」
「さっきの? まさか!」

323 :ウルトラ5番目の使い魔 20話 (5/13) ◆213pT8BiCc :2014/05/23(金) 03:01:25.01 ID:nZgKPUuP.net
「ええ、来たのよ。ヴァリヤーヴが」
 
 
 才人の体を、ハルケギニアで染み付いた戦士の緊張感が包んだ。
 ヴァリヤーグが来る。その正体は知らなくても、敵がやってくるということだけは才人にもわかった。
 始祖ブリミルがいて、村人はメイジで、エルフまでいるこの村を襲う相手とはなんだろう。怪獣? 宇宙人? それとも別の
何か? わからないけれども、根が単純な才人は、すぐに自分で考えるよりも、その目で見れば簡単だと割り切った。
 村は大混乱になっていて、男たちが杖を持って集合している。ブリミルは彼らになにやら指示を出すと、自分はサーシャを
連れて村はずれの丘に登った。むろん、才人もふたりに着いていった。
「ブリミルさん、ヴァリヤーグは?」
「すぐに見れるよ。ただ、見たら君はすぐに逃げ帰ったほうがいい。僕らでなければ戦えない相手だ」
 そう言い、ブリミルは丘の先を指差した。
 広がるのは、ひたすら続く不毛の荒野と濁った空の織り成す寒々しい風景。しかし、そのかなたからまるでモグラのように
地面を盛り上がらせて、なにか巨大なものが近づいてくる。すごいスピードだ!
「あれは、まさか!」
 そう才人が叫んだとき、巨大ななにかは彼らの前方数百メートルで地中から姿を現した。
 太い二本の足で大地を踏みしめ、長い尻尾に丸っこい頭を持つ恐竜のような巨大生物。それがなにかの正体だったのだ。
「怪獣だ。あれがヴァリヤーグか!」
 叫び声をあげる怪獣を前に、才人は身構えた。たとえ武器がなくても、才人はもういっぱしの戦士だった。
 しかし、合点がいったとはやる才人に、ブリミルは冷静に告げた。
「違うよ。あれはただの怪獣だ。ヴァリヤーグじゃない」
「えっ? でも、今ヴァリヤーグを見れるって」
「そうさ。奴らが来た……だが、ヴァリヤーグは人でもエルフでも怪獣でもない。あれがそうさ!」
 ブリミルの指差した先、そこに才人はとうとうヴァリヤーグの正体を見た。
「あれは、なんだあの光は?」
 怪獣の周りを、なにか虹色に輝く小さなものが無数に飛んでいる。まるで虹色の蛍の大群のようなそれは、怪獣の体を
取り巻いて渦巻き、その中で怪獣が苦しそうに叫び声をあげていた。
 あの光はいったいなんだ? 群がるブヨのように、まるで生きているような光の渦。あれがヴァリヤーグなのか。
 だがそのとき、才人はまたしてもデジャヴュを感じた。この光景、前にもどこかで……そうだ!
 思い出した。あれは、アボラス・バニラと戦ったときに垣間見た過去の世界で、ブリミルたちが戦っていた光景……
あのときもブリミルたちは怪獣たちと戦い、その中であれと同じ虹色の光が現れた。デルフが光の悪魔と呼んでいた
それは怪獣たちに取り付いて……あのビジョンのとおりだとしたら、これは!

324 :ウルトラ5番目の使い魔 20話 (6/13) ◆213pT8BiCc :2014/05/23(金) 03:02:56.84 ID:nZgKPUuP.net
「怪獣が、変わる!」
 あのときと同じに、怪獣の肉体が変化していく。丸っこく温和そうだった頭に大きなとさか状の角が生えて、凶暴な
顔つきに変わる。あれが、あれが……!
「あれが、ヴァリヤーグ!」
「そう、生き物に取り付いて悪魔に変える光の悪魔。あれのせいで、この世界は……そして、我々をしつこく追い回している敵さ」
 ブリミルの声に怒りが混じっていた。怪獣は、明らかにこちらに敵意を持った様子で近づいてくる。あんなのに襲われたら
村はひとたまりもなく全滅だ。あの光が、この時代のハルケギニアをめちゃめちゃにした元凶だったのか?
「いったい何者なんですか。怪獣を凶暴化させて操るなんて」
「我々にもわからない。奴らはある日突然現れたんだ。しかし、我々がヴァリヤーグと名づけたあの光の悪魔が我々を
始末したがっていることは事実。さあ戻っていたまえ、ここは我々が引き受ける」
「引き受けるって、相手は怪獣ですよ!」
「君の時代では、私は伝説の魔法使いなのだろう? まかせてくれ、僕らは決して負けはしない。サーシャ、行くぞ!」
「仕方ないわね。ならいつもどおり、ぐずぐずやったら後で容赦しないわよ!」
 ふたりに恐れはなかった。ブリミルが杖を持って魔法の呪文を唱えだし、サーシャが剣を抜いてブリミルの前に立つ。
 
”エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ”
 
”怪獣相手に剣なんて。いや、それよりもこの呪文は”
 才人はブリミルの唱えだした呪文に覚えがあった。いや、忘れられるはずもない、ルイズが一番の得意とするあの魔法だ。
しかし、あれは詠唱から発動までに相当な時間を必要とするはずだ。とてもそんな時間は……いや、これが虚無の戦い方
だとすれば、主を守るために!
 そのとき、怪獣がこちらに向かって地面を蹴り上げた。大量の土砂が舞い上げられ、鋭く尖った矢のような岩が無数に
飛んでくる。あんなものを食らったら全身ズタズタにされて即死だ! だが、サーシャは臆した様子もなく剣を握って立ち、
向かってくる岩の群れを見据えたとき、その左手の甲が輝きだした。
「ガ、ガガ、ガンダールヴ!」
 見間違えようがなかった。自分の左手にあったものとまったく同じルーンがサーシャの手にもついている。つまり、この時代の
ガンダールヴはサーシャ……エルフだったのだ。
 サーシャはぐっとかがみこんでから、一気に三メートルほども跳び上がると、剣を振るってブリミルと才人に当たりそうな岩を狙って打ち落とした。
「す、すげえ!」
 才人は思わず見とれてしまった。宙を舞いながら剣を振るうサーシャの姿は美しく、かつすさまじく、金髪がなびく姿とあいまって
夕日の中で木の葉を舞い上げる秋風のようだ。以前の自分をひいきめに言って疾風だとするなら、彼女はいわば太刀風、
これがオリジナルのガンダールヴなのか。

325 :ウルトラ5番目の使い魔 20話 (7/13) ◆213pT8BiCc :2014/05/23(金) 03:04:08.52 ID:nZgKPUuP.net
 だが、いくらガンダールヴのサーシャがすさまじい剣の使い手だとしても相手は巨大な怪獣だ。斬りかかったところで勝ち目が
あるわけがない。だがそのとき、サーシャは口笛を吹き、剣を高く掲げて叫んだ。
「リドリアスーッ!」
 その叫びに応えて、飛んできたリドリアスが怪獣に体当たりを食らわせた。
 倒れる怪獣カオスドルバ。その隙に、サーシャはリドリアスの背に跳び上がり、リドリアスはサーシャを乗せて飛び立った。
「うぉっ!」
 風圧で吹っ飛ばされる才人。飛び上がったリドリアスは空中からカオスドルバを見下ろし、見下ろされるカオスドルバは
怒ったような咆哮を空に向かってあげる。この後どうするのか、才人は固唾を呑んで見守っていると、サーシャはリドリアスの背で
槍を持ち、それをカオスドルバの足元に向かって投げた。
 槍はカオスドルバの足元に刺さり、そこから大地が隆起して足元を突き倒す。
「せ、先住魔法だ」
 以前ビダーシャルが使っていたものと似ているが、こちらが元祖なのだろう。考えてみればエルフなのだから先住魔法が
使えて当然なのだ。
「すげえ、ガンダールヴが魔法まで使えたら完全無欠じゃねえかよ」
 自分なんぞ及びもつかない、これが本物のガンダールヴなのかと才人は戦慄した。
 サーシャはリドリアスに指示をし、怪獣に挑発を繰り返して注意を引き続けている。おかげでブリミルは今のところはまったく安全だった。
 そういえば……と、才人はさらに記憶を呼び起こした。あのヴィジョンでは、ガンダールヴはこれと同じように怪獣たちと戦っていた。
あの光景が、これの過去か未来かはわからないが、彼らはそれだけの戦いを生き延びてきたのだ。自分たちよりも、はるかに
苛酷な戦いを……
 サーシャがリドリアスとともに時間を稼いでいるおかげで、ブリミルの詠唱も半分ほど進んだ。このままの調子で行けば
ブリミルは無事に魔法を完成させることができるだろう。才人は期待に胸を膨らませた。
 
 だが、リドリアスに翻弄されているかに見えたカオスドルバもまた武器を隠し持っていた。
 挑発のため、下降したリドリアス。それを待ち構えていたかのように、カオスドルバは口から火炎弾を吐き出して迎え撃ってきたのだ。
「危ないっ!」
 とっさに才人とサーシャが反応し、リドリアスは右に旋回して直撃を免れた。
 しかし、カオスドルバはこのときを待っていたとばかりに、スピードを落としたリドリアスに火炎弾を吐きかける。いくらリドリアスでも
すぐにはトップスピードを出すことはできない上に、この時代のリドリアスはまだ若い。飛ぶ力も弱く、回避しようと必死に飛ぶが、
ついに一発の火炎弾が直撃コースに乗った。当たる!
 息を呑む才人。しかし彼の見ている前で、リドリアスの背に乗るサーシャは勇敢にも剣を抜いて、向かってくる火炎弾に立ち向かっていった。
 一閃! サーシャの振りぬいた剣が空を切り、その風圧でもって火炎弾をも切り裂いた。だが、サーシャの身の丈の倍ほどもあった
火炎弾は切り裂かれてもなお無数の灼熱の破片となって、リドリアスに降り注ぐ。致命傷ではないが、傷つけられたリドリアスは
悲鳴をあげ、体から煙を吹いて落ちていく。 

326 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/23(金) 05:28:17.64 ID:EcDl7yM6.net
しえん

327 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/23(金) 05:37:47.08 ID:ENwYjHbc.net
支援

328 :ウルトラ5番目の使い魔 20話 (8/13) ◆213pT8BiCc :2014/05/23(金) 10:41:56.48 ID:nZgKPUuP.net
 そして、サーシャはリドリアスの背から振り落とされ、地上に真っ逆さまに落ちていくのを才人は見た。いけない! あのままでは
数百メートルの高さからまともに地上に叩きつけられる。早く魔法を使って脱出するんだと才人は念じたが、サーシャは気を失っているのか
ぴくりとも動かない。なのに、ブリミルも詠唱をやめて助けようとはしない、なぜだ。
 だが、思わず駆け出そうとしたとき、才人は信じられないものを見た。落ちていくサーシャの手が高く伸ばされ、その手に掲げられた
青い宝石からまばゆく美しい光がほとばしったのだ。
 
「コスモース!」
 
 青い光がサーシャを包み込み、一瞬くらんでつぶったまぶたを開いたとき、才人は大地に土煙をあげて降り立つ青い巨人を見た。
「あの、ウルトラマンは!」
 才人は覚えていた。忘れられるはずもなかった。あのリュティスの最終決戦で現れた青い光の巨人。
「ウルトラマン……コスモス」
 間違いない、絶対に。そして才人は今度こそ完全に、ここがハルケギニアの過去だと確信した。
 物覚えの悪い才人でもすべてを思い出した。あのとき、コスモスはかつてこの星を訪れたことがあったと語った。それが、この時代……
そして、この時代でコスモスに選ばれた者こそが……
 
「シュゥワッ!」
 
 コスモスは墜落するリドリアスを受け止めると、優しく地面に横たわらせた。
 対して、凶暴に吼えるカオスドルバ。コスモスは立ち上がり、カオスドルバに向かって構える。
「シュワッ!」
 戦いが始まった。突進してくるカオスドルバを、コスモスはその勢いに無理に逆らうことなく受け流し、側面から掌底をかけてよろめかせる。
 逆襲に太い尻尾が迫ってきても、コスモスは受け止めるだけではなくて、体を回転させて、その勢いで相手を引き倒す。
 あの、パワーに頼らず、むしろ相手のパワーを利用して戦う合気道のような戦い方、やはり間違いない。拳を握らず、怪獣を
傷つけないように戦うあのスタイル……覚えている。覚えている!
 コスモスはカオスドルバの胸を目掛けて連続して掌底を打ち込んだ。
「ヘヤッ! セイッ! エイヤァッ!」
 胸を連打され、カオスドルバはじりじりと後退させられた。拳を使っていないためにダメージはないものの、巨体がなすすべもなく
動かされているという事実はカオスドルバのプライドをいたく傷つけた。
 カオスドルバ逆襲の頭突きがコスモスを襲う。カオス化により武器のように大型化した頭部の一撃は、さしものコスモスでも
無傷で受けきれるものではない。
「ウワアッ!」
「コスモス!」
 まるでハンマーで頭をぶっ叩かれたようなものだろう。動きの止まったコスモスをカオスドルバの鋭い爪が生えた太い足が
蹴り上げる。 

329 :ウルトラ5番目の使い魔 20話 (9/13) ◆213pT8BiCc :2014/05/23(金) 10:43:38.61 ID:nZgKPUuP.net
 しかし、コスモスも見事なもので、吹っ飛ばされて間合いが空いたのを幸いにすぐに体勢を立て直した。
「ヘヤッ!」
「いいぞっ、さっすが」
 才人は思わずガッツポーズで歓声をあげた。コスモスは大丈夫だ、こんなことではなんてことはない。
 けれども、怒りに燃えるカオスドルバはさらに猛攻を仕掛けてくる。
 迎え撃つコスモス。爪を振りたてての攻撃を、腕と足ではさんで受け止め、鋭いチョップで相手の姿勢を崩しにかかる。
そこへ背中を狙ったルナ・キックの一撃が決まる! だがこれも攻撃を狙ったものではなく、相手の姿勢を崩して転倒させることを
狙ったものだ。
 怪獣は、その攻撃的な性質ゆえに重心の高いものが多い。つまり武器を多く持った怪獣ほど体が重くなり、不安定になる。
ましてカオスドルバは頭部が大型化しただけに元のドルバのバランスが崩れている。例えるなら、慣れない人に鎧兜を
着せてもすぐよろけてしまうのと同じ。
『パームパンチ!』
 コスモスの掌底を使ったパンチがカオスドルバを打つ。一撃は軽いが怒涛のような連打が注ぎ込まれ、カオスドルバは押されていく。
ムキになったカオスドルバが闇雲に反撃に出ても、コスモスは二度は同じ手を食わず、余裕を持ってかわし、さらにはジャンプして
カオスドルバの頭上を飛び越えて背後に出る。
「イヤッ!」
 尻尾を掴んで振り回し、さらに相手が振り向いてきたところで投げ技『ルナ・ホイッパー』をかけて再び転がせた。
 これら一連の取り回しで、すでにカオスドルバはフラフラだ。けれども、カオスドルバの肉体的ダメージはほとんどないといっていい。
痛めつけるのではなく、相手の力を受け流して疲れるのを待ち、傷つけることなく取り押さえるのがコスモスの戦い方なのだ。
「すごいな。おれにも、おれにもあんな戦いができたら」
 人間の視点で見て、あらためて才人は目からウロコが落ちる思いを感じていた。
 怪獣を倒さず無力化する、命を大切にするあの戦い方は自分たちも含めてほかのウルトラマンにはできない芸当だ。
力で悪を倒すことは極論すれば誰にでもできる。しかし怪獣も命ある生き物には違いなく、その命を正義のためだからといって
奪ってよいことはない。そもそも、敵を排除することでしか守れない正義とはなんだろうか?
 才人は、そのひとつの答えを見せてもらった気がした。優しさから始まる強さ……
 
 コスモスの動きに翻弄されて、カオスドルバの動きは目に見えて鈍っていた。元々、そんなに戦いが得意な怪獣では
なかったのだろう。そんな怪獣を無理矢理凶悪な姿に変えるとはと、才人は怒りを覚えた。
「がんばれーっ、ウルトラマンコスモース!」
 才人は、ただウルトラマンにあこがれていた子供の頃に戻って応援した。
 胸に、ワクワクとドキドキが蘇ってくる。負けるな、がんばれ、ウルトラマンは、ウルトラマンは絶対に負けない。
 コスモスは、才人の応援が聞こえたのか、少し彼のほうを振り向いた。そして、少しのあいだ才人を見つめていたが、
彼の純粋な眼差しに応えるように静かにうなずくと、再びカオスドルバに相対した。 

330 :ウルトラ5番目の使い魔 20話 (10/13) ◆213pT8BiCc :2014/05/23(金) 10:48:24.86 ID:nZgKPUuP.net
「シュゥワッ」
 だが、カオスドルバもまだ負けたつもりはなかった。起き上がり様の突進と見せかけたフェイントで、口から吐く火炎弾を
ぶっつけてきたのだ。
「ヌワァッ!」
「汚ねえ! だまし討ちなんてずるいぞ」
 ダメージを受けてのけぞるコスモスを見て、才人は思わず憤って叫んだ。
 火炎弾をカウンターの形で浴びてしまったコスモスは体勢を崩し、カオスドルバは追い討ちの火炎弾を次々と吐き出してきた。
コスモスは爆発に包まれながら耐えている。まるで噴火口の中にいるようだ。
 だがそのとき、才人の耳に虚無の呪文の最後の一小節が響いた。
 
”ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル……”
 
 ブリミルは杖を振り下ろし、虚無は完成した。
 白い光がカオスドルバの眼前で膨らみ、巨大な爆発となってカオスドルバを飲み込んだ。
「うわっ!」
 爆風に襲われて、才人は小石のように転がって腰や尻を打ってしまった。
 怪獣との距離はかなりあったはずなのに、これだけの余波を食ってしまうとはすごい威力だ。だが、顔を上げた才人は
意外なことに、爆発を至近で浴びたはずの怪獣がほとんどダメージを負ったようには見えないことに気づいた。
「えっ? おかしいな。ルイズがエクスプロージョンを使ったときは、怪獣に致命傷を負わせたはずなのに」
 オリジナルの虚無がそんな程度のはずはないと才人はいぶかしむ。
 しかし、彼の疑問はすぐに目に見える形で答えが示された。エクスプロージョンを受けたカオスドルバの体がブルブルと
震えだし、体からあの光の粒子が漏れ出しているように見える。
「もしかして、怪獣の体の中のヴァリヤーグだけ攻撃したんですか! ブリミルさん」
 まさか! と思って才人はブリミルに向かって叫んだ。エクスプロージョンの性質を考えればありえない話ではないが、
そんな精密なことが可能なのか?
 するとブリミルは、ふぅと軽く息をついてから才人に笑顔を向けた。
「よくわかったね。そのとおり、あの怪獣は操られているだけだ。だから私は、あいつの体内に潜り込んだヴァリヤーグのみに
魔法を浴びせたんだ。しかし、つい先日まではこれでヴァリヤーグを倒せていたんだが、奴はしだいに私の魔法に対して
強くなっていった。だがまだこれくらいの効き目はある! さあ、後はまかせるよ」
 そう言うとブリミルは、信頼を込めた眼差しでコスモスを見上げた。
 コスモスも、ブリミルの援護で力を取り戻し、再びカオスドルバの前に立って構える。
 
 けれど……と、才人は思った。始祖ブリミルの魔法を持ってしてもなお倒しきれない、あの光の悪魔はいったい何者なのだろうか?
 現代で、エルフの間に残されていた伝承からも、あの光の悪魔が大厄災の一因だったのは確かだ。そして伝承のとおりなら、
あの光の悪魔は今後もブリミルたちを苦しめ続け、一度世界は完全に滅亡する。それは、現代のコスモスも言っていたことで
ほぼ間違いない。 

331 :ウルトラ5番目の使い魔 20話 (11/13) ◆213pT8BiCc :2014/05/23(金) 11:01:30.67 ID:nZgKPUuP.net
 六千年の時を超えてなお途切れない戦いの因果。その始まりこそがこの時代、ならばこの戦い、片時も目を離すわけにはいかない。
 
 才人はあらためて怪獣を見上げた。しかし、結論から言えばすでに勝敗は決していた。ブリミルのエクスプロージョンは、
怪獣と取り付いているヴァリヤーグのつながりに確実なダメージを与え、いわば糸のほつれたマリオネットにも似た
状態に陥れていたのだ。
 痛々しく、すでにカオスドルバはフラフラだ。しかし、ドルバに取り付いたものによってなおも戦いを挑んでこようとしている。
なぜだ? なぜそこまで戦わせようとする? ヤプールのように侵略を企んでいるのか? 才人は、いくら怪獣とはいえ
命を弄ぶような行為に腹立たしさを覚えた。
 コスモスは構えをとったまま仕掛けようとはしない。もう、カオスドルバの余力はほとんどないことを知っているからだ。
 だが、カオスドルバは残ったエネルギーを集めて火炎弾をコスモスに放ってきた。
「危ない!」
 火炎弾はまっすぐに進んでコスモスを襲う。しかしコスモスはその攻撃を避けずに体で受け止め、エネルギーごと
はじき返した。
「セアッ!」
 火炎弾のエネルギーは粉々になって飛び散り、コスモスにダメージはない。
 そして、今度こそカオスドルバの余力は尽きた。
 もう、いいだろう……コスモスは光のエネルギーを集め、伸ばした右手のひらからカオスドルバに向けて送り込んだ。
 
『ルナ・エキストラクト』
 
 優しい光を放つ光線がカオスドルバに吸い込まれ、光の粒子が追い出されるように空に散っていく。
 そして、その身を操っていた元凶が消滅したことで、カオスドルバも鋭角化していた体つきが元に戻っていく。やがて、
戦う意味がなくなって、疲れきったドルバは礼を言うようにコスモスに頭を下げると、眠そうな様子で地底へと帰っていった。
 戦いは終わった。怪獣を死なさずに、コスモスは皆の命も同時に守りきったのだ。
「やった、やったぜコスモス!」
 才人は子供のように喜び、歓声をあげた。
 怪獣を倒すのではなく、命を救って帰すことにこれだけの充実感を得られるなんて。守るための戦いには、必ずしも
力だけが必要じゃないということを才人は改めて学んだ気がした。
「シュアッ!」
 ドルバが帰っていくのを見届けたコスモスは変身を解いた。丘の上のコスモスがいた場所に、髪をはらってサーシャの
姿が現れ、才人は思わず駆け寄っていった。
「すごかったです。まさかサーシャさんがウルトラマンだったなんて、おれ感激しちゃいました」
「あ、ありがと、あなたこそ怪我はなかった?」

332 :ウルトラ5番目の使い魔 20話 (12/13) ◆213pT8BiCc :2014/05/23(金) 11:04:49.14 ID:nZgKPUuP.net
「はい! このとおりピンピンしてます」
 興奮して話す才人に、サーシャは少しひいた様子だったが、それでもすぐに明るい笑顔を見せて言った。
「あなたって変わった人ね。けど、悪い気はしないわね。あっそうだ、それはともかくとして……っ!」
 突然サーシャは鋭い目つきになった。眉間にしわがより、凶悪とさえいえる顔つきになる。
 才人が思わず、ひっとあとずさってしまうほど怖くって、どうしたんだろうと思っていたら、そこへブリミルがとことこと駆けて来て。
そして……
「や、やあやあやあ、ご苦労様だったねサーシャ。今日も見事だったね、リドリアスも無事みたいだし、ヴァリヤーグも
しばらくはやってこないだろ、う?」
「この、蛮人がーーーーっ!」
 サウンドギラーも真っ青な大声がサーシャの喉から放たれ、次いでブリミルのこめかみあたりにすさまじい速さの
右回し蹴りがクリーンヒットした。
「ぐばはっ!」
 丸太のようにブリミルは転がり、すたすたと歩み寄ったサーシャはその頭を思いっきり踏みつけた。
「遅いのよあんたの魔法はいつも! 威力があるのはたいへんけっこうなことでしょうけど、どうしてイライラするくらい
長い詠唱をつけて作るわけ? 今日という今日は我慢できないわ。リドリアスはケガしちゃったし、毎回フォローする私たちの
身にもなりなさいよ」
「い、いやそれは。高度な効果を発揮するためには、やはり時間をかけて練り上げなきゃならないんだよ。それにさ、
君たちを信頼しているからこそ、僕はあえて確実に魔法を使いたいわけで」
「何十回も聞いたわよそのセリフ! だいたいその魔法の開発にだって、記憶を消してみる魔法ができたからかけさせてくれだの
遠くへ行く扉を作れるようになったから潜ってくれだの、実験台は全部私じゃない。あんたのせいで私がこれまでどれだけ
苦労してきたかわかってるの? ええ?」
「ご、ごめんなさい。けど、ほかに頼める人がいないから仕方なく……」
「聞き飽きたわよ、その「仕方なく」は! なにより、そのご立派な魔法に頼りすぎて、大変なことになりかけたのを
危うくコスモスに助けられたあのときのこと、忘れたとは言わさないわ。この蛮人! いえ、あんたなんか蛮人以下の
ムシケラよこのーっ!」
「ぶぺらっ!」
 サッカーボールのように蹴り上げられたブリミルが、そのまま地面に叩きつけられてボロ雑巾のようになるのを
才人は呆然と眺めていた。

333 :ウルトラ5番目の使い魔 20話 (13/13) ◆213pT8BiCc :2014/05/23(金) 14:18:01.28 ID:nZgKPUuP.net
 いやあ、これが初代の虚無の使い手とガンダールヴ。まるっきり、自分とルイズの関係そのまんまだな、立場は
正反対だけど……
 才人は、荒い息をついて怒っているサーシャを見ながら、やれやれとため息をついた。
 始祖ブリミル、伝説上の聖人がどんな人かと思っていたが、実際見てみるとなんのことはない普通のお兄さんだった。
それが、たぶんこの後も長い戦いを経て伝説と呼ばれるにふさわしい業績をあげていくのだろう。
 才人はおそらく、自分がこの時代に飛ばされてきたことは偶然じゃないと感じた。教皇は無差別に飛ばしたと言っていたが、
もしかして虚無の魔法の教皇でさえ知らない秘密のなにかか、自分をここに導いてくれたのかもしれないと。
”もしそうだとすれば、おれはこの時代でやらなきゃならないことがあるんだ。そして、いつか必ず帰れるときがやってくる”
 現代の世界の混乱はすべて、この大厄災の時代から始まっている。その因果を断ち切るには、考えてみたらこの時代に
直接訪れること以上に真実に近づく方法はない。才人は行くあてもなく途方に暮れていた前途に、大きな光明を見た気がした。
「ブリミルさん!」
「うわっ! えっ! なな、なんだい?」
「もっとここのこと教えてください。おれも今日から一生懸命働きますから、どうかよろしくお願いします」
「う、うん、わかったよ」
 目を白黒させているブリミルの、これからの人生が平坦なものではないことは歴史が証明していた。そこに飛び込んだ
自分がなにを知り、なにを為すべきなのか、すべてはこれからであった。さらに未来人を加えて、歴史が狂いはしないのか、
一抹の不安はあるが、才人は気楽に思うことにした。
”おれがこの時代で体験した経験が、きっと未来を救うことになる。だからみんな、待っていてくれ。きっとおれは帰るから。
そしてルイズ、お前はどこにいっちまったんだ……けど、死ぬなよ。生きていれば、いつかきっとまた会えるから”
 ブリミルの足首を捕まえて、ズルズルとひきづっていくサーシャを追って才人は駆け出した。
「あんたは今日から、私の子分その一ね。仕事は山ほどあるから、覚悟なさいよ」
「はい!」
 才人は力強く答え、将来ハルケギニアと呼ばれるようになる大地の上を駆けた。
 
 
 続く

334 :ウルトラ5番目の使い魔 あとがき ◆213pT8BiCc :2014/05/23(金) 14:23:53.19 ID:nZgKPUuP.net
20話、いかがでしたでしょうか。>>326>>327の方、支援ありがとうございました。
始祖ブリミルとサーシャに関するハルケギニアの過去の物語、2部から伏線を張ってきましたが、ここでひとつの答えを示させてもらいました。
もう気づいている人もいるようですが、この世界はひとつのウルトラ世界と世界観を共有しています。
なぜサーシャがウルトラマンに? という答えも、物語の上で重要な位置を占めてきます。
自分の思うところですが、ゼロの使い魔は出番の少ないキャラクターも想像力をかきたてられる、いい味を持った人が多いように感じますね。


ところで、重要なお話なのですが、実はこのスレッドでこのまま連載を続けていくことに迷いを感じるようになってきました。
理由はふたつで、まず単純に住民の減少により読んでくれる人が少なくなったことです。大変身勝手だと自分でも思いますが、
私にも物書きとしての欲求として、多くの人に読んでもらって声を聞きたいというものがあります。
もうひとつは、2ちゃんねるの書き込みシステムの都合上、私くらいの文量では投下量の限界によって一時ストップがかけられてしまうため、
すべてを投下しきるのに何時間もかかってしまうということです。その際、終わるまでスレッドを停止させてしまうことになるし、
現在は代理投下も正直期待できません。
避難所での投下も、ひとつめの問題で二の足を踏んでしまいます。
これまでも書き込み規制などいろいろ乗り越えてきましたが、まだ当分ストーリーが続く中で、このままで大丈夫なのかと思うところが
強くなってきた次第なのです。

自分で考えている今後としては、思い切って移転するかマルチ投稿を許可している投稿サイトへの同時投稿で具合をみていくかのふたつです。
その場合はハーメルンが有力ですが、いずれにせよこちらでいままでに掲載した分の削除は考えていません。

決定は次回の投下時、また何週間か後にはしますので、アドバイスをいただけるのであればお願いします。ただし、荒れるのを
防ぐため、読んで参考にはしますが返信は次回投下時までしません。
優柔不断をお叱りされるかもしれませんが、こちらでのお付き合いも長いので割り切れない思いがあるのをご理解いただけたら幸いです。

335 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/23(金) 16:11:36.37 ID:SgU85nyT.net


まあ、それも仕方ないのかもしれない
人少なくなったし

336 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/23(金) 20:45:14.79 ID:ENwYjHbc.net

投下に時間がかかるわ、規制やらなんやらで人少なくなったものねえ
感想少ないのは確かにモチベーション保てないわな

337 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/23(金) 23:35:28.65 ID:Nhi5hCW3.net
まさかカオスヘッダーがヴァリヤーグと呼ばれることになろうとは、
この吾輩の節穴な眼をもってしても見抜けなんだ。

連投規制や書き込み量の限界で止まっちゃうのはつらいですよね。
スレと投稿サイトへの同時投稿が個人的には理想ですが、
完全移転でも5番目さんが決めたことなら文句は言いません。
最後までついていきます。

338 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/24(土) 16:28:06.01 ID:pDmWUbQ5.net
そうか
読み専だったから忘れてたが今だと投下規制で投下する側としては面倒くさいんだったね
そのせいかほかのSSスレも過疎ってるしこれも時代の流れか

339 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/24(土) 21:25:47.06 ID:NQ1gAlPU.net
そうだね無理にやりづらい環境でエタるくらいなら
よりモチベの上がる環境に行くべきかと

340 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/26(月) 11:37:22.02 ID:zgy90VHt.net
オワコン

341 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/26(月) 14:40:21.59 ID:FGfq4SAE.net
昔と違って今は使いやすい大手の投稿先が結構あるし
2ちゃんは過疎ったり荒れたりして住民が逃げたらもう戻ってこない場合が多いしな
まだしたらば系は管理が効くからなんとかなってるが今の2ちゃんは投下には適してないし仕方ないね

342 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/26(月) 19:35:51.96 ID:4QfXJa+2.net
2chその物の運営体制とそれに付随する投下物の権利の問題も出てるから面倒なんだよね

343 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/27(火) 02:55:44.35 ID:BVI12Cyy.net
大手投稿サイトの感想荒らしに耐性があるなら
そっちでやるのもありかもね

344 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/27(火) 10:18:29.85 ID:9sCXNR+/.net
でも、今まで投下した文をそのままほかのサイトに掲載ってのは大丈夫なのかな?

345 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/27(火) 15:29:29.89 ID:HSfdhhnG.net
そのサイトの考え方もあるけど自分で投下したやつなら大丈夫なんじゃないの
自分で投下したと証明できるんならやってみればw

346 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/27(火) 20:34:34.36 ID:9sCXNR+/.net
トリ使っているから大丈夫だな

347 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/05/31(土) 00:57:57.20 ID:GYMQAi5T.net ?2BP(1000)
まだスレの容量は大丈夫でしょうか。投下します。
開始は01:00から。

>>334
私はウル魔の人さんの好きなようにされるのが一番だと思います。ご自身の作品をどうするかは、自身の決定が何より優先されることだと思いますので。

348 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/05/31(土) 01:00:13.43 ID:GYMQAi5T.net ?2BP(1000)
ウルトラマンゼロの使い魔
第三十八話「狙われない少女」
電脳魔人デスフェイサー
四次元ロボ獣メカギラス
ロボ怪獣メガザウラ
侵略変形メカ ヘルズキング
カプセル怪獣ウインダム
カプセル怪獣ミクラス
反重力宇宙人ゴドラ星人
サーベル暴君マグマ星人
異次元宇宙人イカルス星人
憑依宇宙人サーペント星人 登場

 ある日突然現れた、マグマ星人ら宇宙人連合に狙われる地球人の少女、春奈を保護した才人とルイズ。
それから連合の刺客を撃退する日々を過ごしている中で、二人はアンリエッタにトリスタニアへと招集される。
実はトリスタニアの街の修理工に宇宙人連合の工作員が混じっていることが発覚したのだが、時既に遅し。
侵略者の作戦は発動し、トリスタニアが強力なロボット怪獣軍団の襲撃を受ける事態になってしまった。
すぐにウルティメイトフォースゼロが出動したが、そこに出現したのが、ネオフロンティアスペースで造られた
最強ロボットのデスフェイサー。デスフェイサーの圧倒的な力の前にゼロは惜敗。更に別働隊の宇宙人たちに
魔法学院が制圧されてしまった! トリステインそのものにもレコン・キスタの魔の手が迫る中、才人とルイズは
学院の仲間たちを救うために、一路魔法学院を目指すこととなった……。

「くッ……!」
 ロボット怪獣のトリスタニア攻撃の翌朝。学院へと続く森の中の一本道を走る馬の上で、
才人が苦しそうに脇腹を抑えた。昨日はゼロに変身している時に、デスフェイサーに叩きのめされた。
そのダメージが才人の身体にも影響しているのだ。ウルトラ族の超回復能力で、ひと晩でかなり
回復したが、それでもまだダメージが残っている。
「サイト、大丈夫!?」
 脂汗を浮かべる才人に、並走しているルイズが案じて呼びかけた。
「あ、あぁ……。このくらい、平気さ」
 才人は努めて明るい声を出すが、顔を見れば、無理をしているのが明らかだった。それで
ルイズはますます心配する。
「やっぱり、傷が治り切ってないんじゃない。こんなに飛ばしてたら響くでしょう。急がなきゃいけないのは
分かるけど、せめて、もう少しスピードを落としたら……」
 と気遣うが、才人は頑なに断った。
「駄目だ。今こうしてる間にも、学院のみんなが危ないかもしれないんだ。何より……学院には
春奈を残してる!」
 春奈の名前が才人の口から出ると、ルイズは密かに眉をひそめた。
「宇宙人たちはどういう訳か、ずっと春奈を狙ってた。春奈が一番危ないんだ。あいつが
何かされる前に、何とか助けないと……!」
「……そうね……」
 口では同意するものの、ルイズは才人に心配され続ける春奈に、こんな時でも嫉妬した。
(サイトの馬鹿……。気持ちは分かるけど、今隣にいる、あんたのご主人様のことを少しは考えなさいよ……)
「どの道、宇宙人たちを追い払わなきゃ、トリステインは救われないんだ。モタモタしてる暇はない」
 才人はルイズの気持ちを少しも察せず、彼女の嵌めている『水のルビー』の指輪を通して
ミラーナイトに尋ねかけた。
「ミラーナイト、本当に侵略者たちは学院を制圧したんだな?」
『ええ。鏡越しに偵察して確かめました』
 ルビーからミラーナイトが肯定した。

349 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/05/31(土) 01:02:38.29 ID:GYMQAi5T.net ?2BP(1000)
『リーダーはマグマ星人。トリスタニアに出現したイカルス星人の姿もありました。学院の各地には、
エビ型の宇宙人が多数配置されています』
『ゴドラ星人だな……親父から聞いてるぜ』
 ゼロがエビ型という特徴から言い当てた。
「みんなはどうなってる? 春奈は? シエスタとか、キュルケたちは?」
『ほとんどは食堂に集められて見張られています。シエスタはジャンボットが誘導して逃がしたようですが、
ハルナは……すみませんが、確認できませんでした。あまり踏み込めば、鏡越しでも敵に気取られる危険が
ありますので。申し訳ございません』
 肝心の春奈の安否を突き止められずに謝罪するミラーナイト。
「いいんだ。それより、もうすぐ学院だ。どこか、敵に気づかれずに入り込めそうな場所を教えてくれ」
 森を抜けて、いよいよ学院が見えた。これから乗り込もうとする才人とルイズなのだが、
その時に突然二人を地揺れが襲う。
「きゃッ! な、何!? 敵!?」
 地揺れに驚いて、馬が足を止めてしまう。そしてルイズたちの正面の大地が突然裂け、
下から目下の最強の敵、デスフェイサーがせり上がってきた!
「し、しまった! 俺たちを待ち伏せしてたのか!」
 進行方向をデスフェイサーに遮られた才人とルイズは横にそれようとしたが、左右と背後も、
はるか上空や異次元から出現したメカギラス、メガザウラ、ヘルズキングに塞がれてしまった。
「キィ――――――!」
「ギャアアァアアアアァ!」
「ゴオオオオオオオオ!」
「ま、まずいわ! 逃げ場がない!」
 四方をロボット怪獣たちに囲まれて、ルイズらは立ち往生する。しかし、すぐに二人の仲間が
助太刀に駆けつけてくれた。
『はぁぁぁッ!』
『ジャンファイト!』
『テメェらー! リターンマッチさせてもらうぜ!』
 ルビーの輝きからミラーナイト、空の彼方からはジャンボットとグレンファイヤーがやってきて、
メカギラス、メガザウラ、ヘルズキングにぶつかって食い止めた。だがまだデスフェイサーが残っている。
才人は学院を乗っ取った宇宙人と戦わなくてはいけないので、ゼロに変身することは出来ない。
「こんな時は……行けウインダム! ミクラス!」
 そのため才人はデスフェイサーの前にカプセル怪獣を召喚した。それも今回は二体だ。
「グワアアアアアアア!」
「グアアアアアアアア!」
 カプセルから解き放たれ、大地に立ったウインダムとミクラスは、即座にデスフェイサーに
向かっていってその両腕にしがみつき、進行を抑え込む。
「頼んだぞ、ウインダム、ミクラス!」
「早く行きましょう! みんなの頑張りを無駄には出来ないわ!」
 仲間たちが足止めをしてくれている間に、才人とルイズは戦場をすり抜け、学院へと急いだ。
『さっきミラーナイトから侵入口を聞いた! 俺が誘導するぜ!』
 そしてゼロの導きにより、二人は学院の内部への侵入を決行した。

 トリステイン魔法学院は、多くのメイジ、つまり貴族の子息が集まる教育機関。そのため、
彼らを狙うテロリストへの対策がいくつも用意されている。その一つが、噂ではコルベールが
密かに利用しているという地下の隠し通路。そこはマグマ星人たちの目を逃れていた。
 そして才人たちはそこを通り、無事に学院内への侵入に成功した。
『……よし、敵はまだ俺たちの侵入には気づいてないみたいだ』
 校舎内の廊下に忍び込むと、ゼロが超感覚を働かせて近くの敵の有無を調べた。それから
才人とルイズに告げる。
『その辺にいる奴らをいちいち相手してたら、人質に危険が及びかねない。ここは一気に
首謀者のマグマ星人のところまで行くぞ。ミラーナイトの話じゃ、学院長室を占拠してるみたいだ。
まずはそこまで……』

350 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/05/31(土) 01:04:57.95 ID:GYMQAi5T.net ?2BP(1000)
 話の途中で、廊下の先から、二人分の足音がコツコツと響いてきた。
「誰か来るわよ! 敵じゃない!?」
『いや、これはゴドラ星人の足音じゃない……。こいつは……』
 ルイズたちの元に歩いてきたのは、キュルケとタバサの二人組だ。すぐに才人が呼びかける。
「キュルケ、タバサ! お前たち、無事だったんだな!」
 二人に近寄ろうとするが、それをデルフリンガーに制止された。
「近づくな相棒! 何だか様子が変だぞ。……妙な魔法の気配がしやがる」
「魔法ですって!?」
 驚くルイズと才人に向けて、キュルケとタバサは杖を向け、炎と氷の魔法で攻撃してきた!
「うわぁッ!?」
 才人は咄嗟にデルフリンガーを盾にして、魔法を吸収した。だがキュルケたちは前に乗り出し、
更に激しく魔法を飛ばしてくる。才人はルイズをかばいつつ、どうにか攻撃をしのぐ。
「くッ、どういうことだ!? どうして二人が俺たちを攻撃するんだ!」
「きっとウェールズ殿下みたいに、魔法で操られてるのよ! 敵にメイジが混じってるんだわ!」
「二人に反撃する訳にはいかないし……ルイズ、『ディスペル』を頼む!」
 魔法を解く『ディスペル』を詠唱し出すルイズだが、その途端にキュルケとタバサは攻め手を
より強めて、爆発の衝撃で詠唱を妨害した。
「きゃッ! これじゃ『虚無』が使えないわ!」
 狭い廊下では、ルイズを二人の攻撃の届かないところまで逃がすのは無理がある。どうしたものか、
と才人が下唇を噛み締めていると、ゼロが申し出た。
『才人、一瞬だけ俺に代わってくれ。ウルトラ念力で二人を止める!』
「え? でも、一瞬だけ止めても意味ないんじゃ……」
『説明してる暇はない! とにかく、俺に任せてくれ!』
 ゼロがそう頼むので、才人はその通りに従った。意識が表面に出たゼロは、即座に精神を
集中させてウルトラ戦士共通の超能力、ウルトラ念力を発動する。
「むんッ!」
 目に見えない力がキュルケとタバサの身体を縛り、一瞬だけ完全に動きを停止させた。その瞬間、
「今だシエスタ君! 行くぞッ!」
「えーいッ!」
 曲がり角の陰からコルベールとタバサが飛び出し、キュルケとタバサの耳に耳栓を嵌め込んだ。
すると二人がガクリと崩れかけ、すぐに目に光を宿して起き上がる。
「あ、あら? どうしてルイズがいるの? アタシたち、どうしてたのかしら……?」
「確か……敵と戦ってて……そこから、記憶がない……」
「ミスタ・コルベール!? シエスタまで! これってどういうこと?」
 突然現れたコルベールたちの姿に、ルイズと才人は驚愕する。いささか混乱する二人に、
シエスタらが状況の説明をする。
「順を追って説明しますね。お二人が王宮に向かった昨日、学院をウチュウ人たちが占領しました。
わたしはジャ……いえ、運良く魔の手から逃れて、コルベール先生に助けてもらいました」
「わたしは今、侵略者から学院を取り返そうと動いてるところだ。その途中で騒ぎを聞きつけ、
この場に出くわしたという訳だ」
 続いて、キュルケの説明。
「アタシも同じよ。タバサと一緒にウチュウ人たちと戦ってたんだけど、そこに誰が現れたと思う? 
ウェザリーよ! ウェザリーは侵略者の、レコン・キスタの仲間だったの!」
「ウェザリーが!?」
 意外な名前を耳にして、仰天するルイズと才人。

351 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/05/31(土) 01:07:25.42 ID:GYMQAi5T.net ?2BP(1000)
「まぁアタシは演劇してた時から、彼女が怪しいと思ってたけど。劇団ということを差し引いても、
ウェザリーの周りには怪しい奴らの影が見え隠れしてたから。結局、後手に回っちゃった訳だけど……」
「ウェザリーが現れてから……記憶が一切ない。きっと、彼女の催眠魔法。それも、一般の
社会に伝わってない、独特なもの。わたしたちは、それにやられてしまった……」
「で、ミスタ・コルベールたちが耳栓をしたら、元に戻ったのね」
 タバサの説明で、ここまでの状況を納得するルイズ。
「でもミスタ、よく敵の魔法の正体が分かりましたね。それも、耳栓で解けるなんて」
「いや、わたしが暴いたんじゃないよ。先に敵がオールド・オスマンを操ろうとして失敗したことで、
学院長が突き止めたんだ。それを学院長の使い魔のモートソグニル越しに、対抗策も含めてわたしに
教えてくれたんだ。耳栓には特殊な風の魔法を掛けてるから、一時的に催眠魔法を無効化する。
君たちもつけていきなさい」
 ルイズと才人はコルベールから耳栓を受け取り、耳に嵌めた。その直後に、廊下の奥から
ゴドラ星人の集団がこちらに向かってきた。
「いかん、今の騒ぎで敵に気づかれてしまった! 戦いは嫌いだが……やむをえん、ここは
わたしが食い止める。ミス・ヴァリエールとサイト君は、学院を解放しに来たんだろう? 
敵のリーダーがいる、学院長室に急いでくれたまえ!」
「不死身のダーリンなら、ウチュウ人たちをやっつけてくれるわよね。学院をお願いするわね!」
「わたしたちは、ミスタ・コルベールと時間稼ぎをする」
「分かった! ありがとう!」
 シエスタは戦う力がないので避難しようとするが、その前に一つだけ、才人たちに伝えた。
「ハルナさんのことですが、わたし、ハルナさんが学院長室に連れてかれるのを見ました! 
早く行ってあげて下さい!」
「本当か!? あぁ分かった、春奈は絶対救い出す! シエスタも気をつけてな!」
 コルベールらがゴドラ星人の足を止めている内に、才人とルイズは学院長室への階段を
急いで駆け上がっていった。

「グワアアアアアアア!」
「グアアアアアアアア!」
 学院の外では、カプセル怪獣にウルティメイトフォースゼロが、ロボット怪獣軍団に苦戦していた。
ウインダムはデスフェイサーのシザーアームに首を締め上げられ、ミクラスはガトリングガンの連射を
食らって横転した。
「キィ――――――!」
『ぐぅッ!』
 ミラーナイトは次元移動で背後に回ったメカギラスに側頭部を強かに殴りつけられる。
「ギャアアァアアアアァ!」
『ぬおおおおッ!』
 ジャンボットはメガザウラの大火力に拘束される。
「ゴオオオオオオオオ!」
『ぐはぁッ!』
 グレンファイヤーはヘルズキングのパンチに見せかけたビーム砲の近接射撃を食らい、
吹っ飛ばされた。
『くぅッ……ゼロ、急いで下さい……!』
 敵に翻弄される中で、ミラーナイトがゼロたちに向けてつぶやいた。

「うりゃあーッ! だりゃあッ!」
 才人は移動の途中、あちこちから飛び出てくるゴドラ星人を斬り捨て、またはゼロアイのビームで
撃って返り討ちにしながら、道を突き進んでいった。ルイズはその後に続く。
「サイト、すごい……」
 破竹の勢いで敵を蹴散らす才人に驚嘆するルイズだが、彼が頑張る理由が春奈にあると
意識すると気分が沈む。それを慌てて払いながら、才人についていった。
 そしてほどなくして二人は、学院長室にたどり着いた。才人はすぐに扉を蹴破り、中に踏み込む。

352 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/05/31(土) 01:09:46.47 ID:GYMQAi5T.net ?2BP(1000)
『おいおいおいおいッ! 地球じゃノックは足でするもんなのかぁ!?』
『イカカカカカ! デスフェイサーを相手にしてひと晩で、ここまで来られたのは褒めてやろうじゃなイカ! 
イカカカカカカ!』
 中で二人を待っていたのは、マグマ星人とイカルス星人に、ゴドラ星人が一人。そして、壁際にウェザリー。
「ウェザリー! 本当に、宇宙人たちの味方に……!」
「ウェザリー! どうしてそいつらに肩入れしてるの! そいつらがどういう連中か分かってる訳!? 
わたしたち人間の敵なのよ!」
 ルイズが詰問したが、ウェザリーは何も答えず、黙ったままたたずんでいた。
 そして学院長室の床には、気絶した春奈が倒れていた。
「春奈! お前ら、春奈に何かしたんじゃないだろうな!?」
 才人が怒りを露わに、宇宙人たちを問い詰めると、ゴドラ星人が肩を上下に揺らしながら答えた。
『クックックッ……どうだろうなぁ『イカカカカカ!』? 自分の目で、その娘が『イカカカカカカカ!』
どんな状態か、確かめてみたらどうだ『イーカカカカカカカカカ!』うるさいぞイカルスッ!』
 しつこく笑い続けて台詞を妨害するイカルス星人に憤怒するゴドラ星人。そんなものは放置して、
才人は宇宙人たちを警戒しながら春奈を抱き寄せる。
「春奈! 春奈! 大丈夫か!?」
『完全に気絶してるな……だが、命に別状はないみたいだ』
 ゼロが春奈の容態を診察した。ウェールズなどの前例があるので、敵の変身や懐に怪獣を
潜ませているかも調べたが、そんな様子はなかった。
 しかしだとすると、分からないのが、何故敵があれだけ執着した春奈をこうもあっさり返したかだ。
才人が春奈を背後に寝かせると、ゼロはマグマ星人らに問う。
『そろそろ教えてもらうぜ。お前ら、どうして春奈をこの世界にさらってきた。そして今は、
何をしようっていうつもりだ?』
『クックックッ……』
『イカカカカカカカ!』
 するとマグマ星人たちは意味ありげにこちらを嘲笑する。ゼロたちが怪訝に思っていると、
マグマ星人が言いつけた。
『そいつは、後ろのそいつに直接聞いてみることだなぁ!』
『何だと……!?』
 背後から突如殺気を感じて、才人は慌てて振り返った。だが、その時にはもう遅かった。
「がはぁッ!?」
「サイトぉッ!?」
 才人は振り向いた瞬間に、胸に青白い怪光線を食らい、床に大の字に倒れ込んだ。
「ふふふふふ……」
 才人に怪光線を撃ち込んだのは、春奈だ。ルイズは絶句した。
「は、ハルナ! 一体どうしちゃったの!?」
「私は、高凪春奈ではない。M9球状星雲からやってきた、サーペント星人だ」
 春奈がポケットから取り出した銀色のカプセルが、手の平の上で溶ける。その溶液が春奈の
全身を包み込んで、銀色の甲冑を身に纏ったような宇宙人の姿に変貌させた。
『ただし、身体は高凪春奈のものだがね。私は憑依能力を持つ種族なのだよ』
「ひ、憑依!?」
『そういうことだったのか……!』
 ルイズが愕然とし、ゼロは宇宙人連合の作戦をようやく理解した。
 マグマ星人たちは、春奈を狙っていたのではない。その振りをして、サーペント星人を
取り憑かせた彼女を、この瞬間のために才人に近づけるのが目的だったのだ。肉体は間違いなく
地球人のものなので、ゼロの目を以てしても正体を見抜くことは出来なかった。しかしゼロは悔やむ。
『くっそ、どうして気づかなかったんだ……! ヒントはあったじゃねぇか……! ウルトラマンゼロ、
一生の不覚だぜ……!』

353 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/05/31(土) 01:12:04.36 ID:GYMQAi5T.net ?2BP(1000)
 サーペント星人は肉体の90%以上が水分で出来た生命体。そのため乾燥に非常に弱く、
憑依された者は頻繁に水を飲むようになる。思い返せば、春奈は病から回復してからも、
事ある毎に水分を補給していた。それが、サーペント星人が身体の内に潜んでいる証だったのに……。
『ヒャーハッハッハッハッ! 気づくのが遅すぎるぜぇウルトラマンゼロッ!』
 不意打ちを食らって立ち上がれなくなった才人とゼロの姿に、マグマ星人たちは堰を切ったように
馬鹿笑いを上げた。マグマ星人は計画の全容を暴露する。
『その娘は、ウルトラマンゼロ、テメェを確実に抹殺するための駒だったのさ。知らない世界に
放り出された、悪い侵略者につけ狙われる哀れな少女を、お人好しのウルトラマン様は放っとかないだろう? 
より同情を誘うために、わざわざその身体の知り合いを選んだんだぜ。そして油断し切ったところを、
後ろからバッサリ! 全て上手く行った! 連戦の上に深刻なダメージを受けて、もうまともに動くことも
出来ねぇだろう! いいザマだぜぇ!』
「そ、それなら、ハルナへの刺客は何だったの!?」
 ルイズが疑問を口に出すと、マグマ星人はヘラヘラ笑いながら答えた。
『追っ手がなけりゃ怪しまれるだろうからなぁ。それも演技の内だったんだよ。もっとも、
追っ手自体にゃこのことを教えてなかったがね。真剣に娘を狙ってもらわなきゃ、偽装が
バレかねないからな』
「た、たったそれだけのために、仲間を平気で犠牲にしたってことか……! ゆ、許せねぇ……!」
 あまりの卑劣振りに怒りに燃える才人だが、ダメージが大き過ぎて、立ち上がることすら出来なかった。
そしてその腕を、サーペント星人が踏みつける。
「ぐぁッ!」
『無駄なあがきはよせ。貴様はもう完全に終わりだ。助かる可能性は全て潰した』
 ルイズは才人を踏みにじるサーペント星人に杖を向ける。
「卑怯者! サイトから離れなさいッ!」
 だが杖先が震える。サーペント星人の肉体は春奈のものなのだ。傷つけることなど出来ない。
 そして躊躇っている内に、サーペント星人に殴られて倒れ込んだ。
「きゃああッ!」
「ルイズッ!」
『サーペント星人! 物のついでだ、そのガキもあの世に送ってやりな!』
 と命令するマグマ星人に、ウェザリーが初めて口を開いた。
「待って。あなたたちの目的は、サイトを仕留めることまででしょう? 何も彼女を道連れに
する必要はないじゃない」
 そう言って、マグマ星人たちを止めようとする。
「それより、私との約束を果たしてちょうだい。私と私の家を迫害した、トリステインへの復讐を……」
『うるさいじゃなイカ! 女ぁッ!』
 だがその瞬間に、イカルス星人が手の平から放ったアロー光線によって壁に叩きつけられた。
「あぁぁッ!?」
「なッ!? 何を……!」
 宇宙人たちの暴挙に目を剥く才人とルイズ。マグマ星人は倒れたウェザリーに、冷酷に告げる。
『ウェザリー、お前はスパイとしてなかなか役に立った。だが下等種族の出番はもう終わりだ。
なぁに、心配するなよ。復讐の代行はちゃんと果たすぜ。元より、この星の原住民は皆殺しに
するつもりなんだからな! お前も含めてッ!』
「ぐッ……それが本性だったのね……!」
 歯ぎしりするウェザリー。しかし彼女ももう立ち上がれなくなってしまった。
「グワアアアアアアア!」
「グアアアアアアアア!」
 更に外からは、ウインダムとミクラスの悲鳴が上がった。デスフェイサーを抑えていた二体だが、
とうとう敗れてしまった。二体が仰向けに倒れ、障害のなくなったデスフェイサーは学院の校舎に接近する。
「くっそぉ……! もう、本当にここまでなのか……!?」
 自分もルイズも倒れ、春奈の身体は人質にされ、外も中も敵しかいない。一切の希望が見えない
最悪の状況に、才人は悔しがって大きな歯ぎしりを立てた。

354 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/05/31(土) 01:12:44.68 ID:GYMQAi5T.net ?2BP(1000)
以上です。
アキナなんていなかった。

355 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/31(土) 21:47:56.14 ID:f6XEG2b9.net
久し振りに見てみたらウルトラしかいねえのか
もう個人サイトなりでやってスレ落とせよ見苦しい

356 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/31(土) 22:40:31.77 ID:c56YzRX5.net
それはお前が決めることじゃない

357 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/31(土) 23:00:33.87 ID:iEI9n1hF.net
ウルゼロの人乙
でも480KBを踏んだ人が次立てるのがルールなのでスレ立てしていってくださいね

358 :ウルトラマンゼロの使い魔:2014/05/31(土) 23:20:20.44 ID:GYMQAi5T.net
一日くらい遅くなりましたが、帰ってきたのでパート324立てました。

359 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/06/01(日) 02:48:30.45 ID:I9FQ+kqP.net
ウルトラの人乙
自分もネタはあるけどエタる可能性あるからやらない

360 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/06/01(日) 12:07:21.03 ID:fvpo0fvH.net
>>359
気が向く度にメモ帳に書いていって完結してから晒すという手もあるぞ!

361 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/06/01(日) 13:01:57.65 ID:tN9jmgTP.net
エタるやつはなにやっても完結しないから無理

362 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/06/02(月) 09:54:23.35 ID:clIyY+8A.net
このスレでその発言は滑稽
まとめ問題で途中の取り下げて一気に人が居なくなった場所だからな

363 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/06/03(火) 04:00:12.05 ID:1rctloUs.net
次スレ誘導ないので貼っとく

あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part324
http://maguro.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1401545944/

364 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/06/05(木) 12:20:58.57 ID:1naiJ+TR.net
埋めついでに召喚されてほしいキャラでも出していくか
神撃のバハムートからルシウス

「あんたは私の使い魔よ」

「やった!念願のジョブゲットだ!」

365 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/06/05(木) 20:14:16.88 ID:/3UME+hj.net
じゃあ定番の返しをひとつ。

>>364
自分で書け。

366 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/06/05(木) 23:18:19.81 ID:jYE5LsLJ.net
バハムは7割以上残念なイケメンだから誰を呼んでもルイズはがっくりすることになりそう

367 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/06/06(金) 01:43:36.06 ID:OvYw/6pa.net
ヴァンピィちゃんを呼んだら声を間違いそうだな

368 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/06/06(金) 08:45:01.61 ID:xpGnDdZE.net
バハムート、と聞いてバハムート・ラグーンを思い出した。
ビュウがルイズとワルドを見て、トラウマ(ヨヨとバルバレオス)を思い出すんだろうな……とも。

369 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/06/06(金) 22:38:00.99 ID:awD5mPMz.net
>>367
ルイズと同じ声の吸血鬼だったな。すさまじくややこしいことになりそうだ

370 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/06/07(土) 21:32:46.03 ID:gUieQCA4.net
ルイズが高槻やよいを召喚

「やよいが私の使い魔だなんて。脳みそ沸騰しそうだよう」とキョドる

371 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/06/08(日) 21:01:16.20 ID:d6Se4PQ1.net
残り10KB位になった時の微妙な間

372 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/06/09(月) 02:57:48.17 ID:lvmJyQAY.net
気にせず会話でもして埋めてりゃいいんだよ
AA埋めとかはアウト行為に一応なってるし

373 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/06/10(火) 10:56:53.42 ID:8yhSGoZ0.net
しかし速度落ちたとは言っても半年で一スレ埋まる辺りすごいなぁ。

374 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/06/11(水) 14:09:38.15 ID:HDBbZHQ2.net
アイデアはあるがかき上げる気力がない

375 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/06/13(金) 02:10:33.12 ID:4vOHeCkf.net
書きたいネタはあるのだが如何せん原作を読んでいないものでな……
それでもおっけーなら今まで読んだ二次創作で積み上げた半可通以下の知識で書き始める用意がある

376 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/06/13(金) 02:13:54.37 ID:J3vm6ayK.net
いや原作読めよ

377 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/06/13(金) 03:10:24.90 ID:4vOHeCkf.net
巻数の多さと永遠の未完とで追っかける気が、ちょっと

378 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/06/13(金) 09:13:06.23 ID:NhYySzC3.net
せめてアニメ見ろ

379 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/06/13(金) 19:31:54.99 ID:J3vm6ayK.net
あの程度の巻数で根をあげるなら一々知らない作品で書く必要無いだろ
他の知ってるのでやれよ

380 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/06/13(金) 23:13:25.97 ID:2tpFlfw9.net
>>375
小ネタていどならいいんでね。


まぁ個人てきには読めよとか硬いことはいわんが、所詮ラノベだし20巻以上っても読むのはさほど苦でないよ

381 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/06/13(金) 23:54:26.34 ID:T6KtmLw6.net
アニメもいくつかの動画サイトでまるごと見れるし、わざわざレンタルする必要もないから適当に見るといいよ

382 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/06/14(土) 00:11:48.11 ID:HRBnbp9c.net
読まないでも描けるだろうが本編の世界背景知らないと後半厳しくなってくるぞ
特に戦争始まるあたりの展開から

383 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/06/14(土) 01:22:37.51 ID:alFdaOLD.net
ネタはあるけど批判されるのが怖いから投下しないって言うチキンも居るんだよ

384 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/06/14(土) 01:42:44.94 ID:hONg7xUW.net
数年前ならともかく、今はよほど幼稚な文章かひどい原作レイプでもない限り批判は出ないだろうよ

385 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/06/15(日) 21:48:44.75 ID:HbPdJ9XN.net
いくつかでも新作がでてきて進行中の作品が増えたら
エタってる作品も復活しやすくなるんでね

最近寝ながら朧村正とのクロスを妄想する日々が続いてる
ルイズ甚九郎に乗っ取られないかな…

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