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死がテーマの小説を作るスレ 2

265 :435201:2015/09/24(木) 16:01:10.33 ID:froNlSAL.net
その後しばらくして、北辺の太守 陳緯が王室を軽んじて不穏な振舞いを見せたので
討伐することが決まり、孟然自身も一軍を率いて征旅に加わった。

陳緯は兵数が少ない事を悩みとしていたため、思い余って外境に威を張る異民族の
遂戎を手を結びその兵を招き入れたが、北周軍は礫原の野でその連合軍を大いに
破って陳緯を虜にした。 危機に陥った遂戎の単宇 ( 部族の長 ) 参址被は偽って
降伏の意と条件を伝え、使者を往復させて時をかせぎつつ少数の部下を迂回させて
礫河の堤を数里にわたって決壊させ、北周軍を水攻めにした。

北周兵は上・中軍もろともなす術もなく激しい水流に呑まれ、下流で待ち受ける
遂戎の者たちにその多くが捕らえられたり打ち殺されたりしてしまった。

孟然も濁流に翻弄されながら必死に戦ううち配下ともはぐれただ一人となっていたが、
体が泥水の渦に引き寄せられ沈みかけたその刹那、鎧の腰に巻いた戦帯が上からの
何かに支えられて冷たい水の中で浮き上がるのを覚えた。

片が来たのである。
「 片よ、私を救うか 」 孟然はにわかに力を得て喜んだが、すぐに表情を曇らせた。
風に漂う犬の息吹きにはかつてのような力強さや猛々しさがない。 流れに逆らって
孟然を水面に保とうとする見えない顎の力も、徐々に失われていくようであった。

戦帯と鎧越しに伝わってくる犬の苦しみと震えを察するうち、孟然は以前に屋敷を
訪れたまじない士の残した言葉を思い出し悟った。

これは水難が今まさに片の魂を蝕んでいるのであろう、と。

「 もう良い 」 犬と過ごした想い出が孟然の心にあふれた。
「 片よ、もう良い 」
孟然は穏やかに語りかけて、何もない宙に手を伸ばして決して触れることの
できない犬を撫でた。
「おまえはここに居てはならない。 すぐに私から離れよ。 ここを離れ、天へと
帰るがよい。 このまま流れの中にあるとおまえは消えてしまうぞ 」

その言葉に応えて、迷うような、あるいは別れを告げるような一筋の物悲しい遠吠えが
地から天へと向って伸び、やがて溶けるように静まった。

孟然の体はあっという間に泥でにごった奔流の中に沈み、気を失って下流の岸に
至るとそのまま遂戎の捕虜となった。

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