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死がテーマの小説を作るスレ 2

279 :創る名無しに見る名無し:2020/08/03(月) 01:39:26 ID:GJ9Gwyiy.net
『最後の賭け』

今日の妻は、どのような服装をしていただろう。
そんな事が今この瞬間にわからないというのは、人生で一番悔しい事実だ。
これでは全身の姿が思い描けないのだから。
もし妻が、この自殺を目撃したならばどういった思いを抱き、そしてどういう行動に出ただろうか。
死にたい者はどうぞ死なせてあげましょう、なんて現代じゃ一般論と言っても過言ではないほどに、世間の人情は全体的に冷めている。
もしかすると、妻もその一人なのかもしれない。
自殺志願者を間一髪救ったところで、その者にとって死ぬよりも悪い未来が無いとは言い切れない。
だが良い未来が無いとも限らない。
人間とは常に、その博打で後者にすべてを賭けて、勝敗を見守る為に息をする生物ではなかろうか。
前者にはびた一文賭けていないのだから、いくら心配してみても、負けて儲けることは無いのだ。
人生の最後にはどうしても、妻の姿を鮮明に思い出したい。
「あなた、いってらっしゃい」
とっくに飲み干した挽きたての豆で淹れた珈琲の香る玄関先で見送ってくれた、濁りのないまっすぐな声、瞳。
その目は、僕の気持ちをとらえ、共感してくれるだろうか。
そして僕の行為を許してくれるだろうか。
左の耳に、軋みながら轟々とレールを鳴らす電車が迫ってくるのを感じて、そっと瞼を閉じる。
人生の最後に焼き付けた人の姿は、最愛の妻ではなく、今しがた、僕が反対側の線路へと突き飛ばした、自殺志願者の少年だった。

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