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【シェア】みんなで世界を創るスレ8【クロス】

1 :創る名無しに見る名無し:2011/11/13(日) 20:05:57.63 ID:Tcu0XgNi.net
このスレは皆でシェアードワールドを創るスレです

※シェアードワールドとは※
世界観を共通させ、それ以外のキャラ達を様々な作者がクロスさせる形で物語を進める事です。
要するに自らが考えたキャラが他作者のSSに出たり、また気に入ったキャラを自らのSSにも出せる、
という訳です。

現在すでに複数のシェアードワールドが展開されています。それぞれの世界で楽しんでみたり、新しい
世界設定を提案してみてはどうでしょう。
分からないことはどんどん質問レスしよう、優しいお兄さんやお姉さんが答えてくれるかもしれないよ。
さぁ、貴方も一緒にシェアードワールドを楽しみませんか?

前スレ
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1287900390/
避難所(規制等の際はこちらへ):みんなで世界を創るスレin避難所その2
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/3274/1276257878/
まとめwiki
http://www26.atwiki.jp/sousaku-mite/pages/286.html#id_a459e271

現在このスレでは 4つぐらいの展開されてるよ。この世界、俺が盛り上げてやろうじゃん!て人は
気軽に参加してみたらいいんじゃない?

・閉鎖都市
あらゆる社会から隔絶され、独自の発展を遂げていく「閉鎖都市」。
そこで暮らす様々な人々と文化を作り出そう!
・異形世界
日本を襲った大地震。同時に突如として現れ、人々を襲う「異形」。
異形たちが持つ特殊な元素「魔素」を巡る対立を描こう!
・地獄世界
強大な権力を持った小さな少年、閻魔殿下を中心に繰り広げられる笑いあり、涙ありの物語。
なんでもありの「地獄」で楽しもう!
・温泉界
蒸気沸き立つ謎の世界「温泉界」に住む一人の少女「湯乃香」。
彼女が退屈しのぎに始めたのは、なんと異世界からの住人召喚!?
他スレからの参戦も歓迎だ!あんな人とこんな人が風呂でまったりしちゃう!?
・???界
閉鎖都市・異形世界・地獄世界を監視している境灯の世界。
基本的に何をしても良いので灯ちゃんのせいにして好き勝手しよう。
特に展開はない!


2 :創る名無しに見る名無し:2011/11/13(日) 20:19:47.34 ID:EJyuMLq+.net
>>1

こんなのもあるよ!

創発シェアワスレクロス企画(仮)
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/3274/1320313119/

3 :創る名無しに見る名無し:2011/11/14(月) 07:37:43.29 ID:PtOX4wux.net
>>1乙です!!


4 :創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 02:20:49.86 ID:ZO9kmgYn.net
新スレに先鞭をつけるぜ!

5 :白狐と青年「拒絶の目覚めと確認の一歩」 ◆mGG62PYCNk :2011/11/16(水) 02:23:20.46 ID:ZO9kmgYn.net


             


 ほとんど物が置かれていない部屋がある。平賀の研究所の二階にある一室で、クズハが研究所に住んでいた時に与えられた部屋だ。
 部屋には外から中を窺われないように薄いカーテンが引かれている。
 所員全員にその所在が知れ渡っために自身の部屋に移送されたクズハが眠っているベッドの近くに椅子を置いて、
匠は淡く透けてくる午後の日差しの中で、部屋の本棚に収まっていた本を読んでいた。
 ゆっくりとページを手繰っていくのは≪魔素≫や魔法について書かれた本だ。
おそらくこの研究区に居る人間の半数以上は一度は目を通したことがあるであろう、
平賀と蘆屋の共著による一冊で、対立する事の多い二人の間に安倍が入って実現したという珍書だ。
クズハが操る魔法の基礎原理もここから学びとったものなのだろう。
それを理解するのにどれほどの苦労をしたのだろうかと思いつつ、匠は本を閉じた。
 ……数少ない私物もこんな感じの小難しい本ばかりか。
 何が彼女にここまでさせるのかについて思いを馳せながら、匠は椅子の上で伸びをした。
 クズハの事を研究所の皆に知らせた次の日に彰彦が行政区の調査に出発してから5日が経過していた。
 この5日の間、研究区内は表向きは普段とほとんど変わる事のない状態だった。
 研究区を頼って流れて来る異形の流入は依然としてあるが、
それも行政区が異形排斥の行動を起こし始めた当初に比べれば随分と緩やかになっており、
元々異形の往来の多いこの町は、流入してきた者達を含めて、生活にある程度の慣れが現れ始めていた。
 大阪圏内で生活するために行っていた仕事をなんとか再開する者や、
それが叶わない者は研究区内の人間が斡旋してくる日雇いを中心とした仕事を行い始めたのだ。


6 :白狐と青年「拒絶の目覚めと確認の一歩」 ◆mGG62PYCNk :2011/11/16(水) 02:25:52.24 ID:ZO9kmgYn.net
 異形達がそれぞれの生活を再び営み始める一方、
武装隊と研究所を中心とする研究区の間では緊張状態が続いていた。
 研究所は5日前の夜に決めた通り、曖昧な対応を武装隊に対して続け、
武装隊も研究所の主張を鵜呑みにするような事はせずに幾度か研究所内への調査を打診し、
それと同時に街を見回る事によって区内の異形に対する緩やかな牽制を行っていた。
 治安の維持という点ではこの見回りは平賀としてもありがたく利用し、
その一方で武装隊に対する目付け役として、そして区内の異形や、以前から住んでいた住人などの調整役として、
明日名とキッコが動いていた。
 3日前から動けるようになった明日名は以前からの住人や武装隊等の人間同士の意見の調整を、
キッコは異形達の調整を主にそれぞれ担当して研究区内全体の調整を行っていた。
この人選の結果として意外だったのが、
 ……キッコが異形達を上手くまとめている事か。
 キッコは元々信太主として信太の森で異形達をまとめていたためか、区内の異形をまとめるのも見事なものだった。
 ……伝えられる指示がおおざっぱだったりするんだがな。
 しかしそのある意味における適当さが、表向きは平穏でもその実ストレスから来る緊張を孕んでいる今の研究区と異形、
そして武装隊の間を上手く取り持っているらしかった。
 彼女は町中を見回っている武装隊にフランクに話しかけては、
異形に対して敵意を持っている者の多い武装隊の隊員相手にも会話をこなしているらしい。
 一応の均衡を保っている研究区、しかし、それぞれが抱える不安や懸念のようなストレスは日に日に募っていくようで、
それは徐々に報告され始めた町中でのケンカの発生や小さな事件という事で現れてきていた。
 匠の膝の上に畳まれている研究区の事を扱った今朝の新聞にも、
ケンカ騒ぎについて書かれている。少しずつ研究区が抱え込む事になった歪みが顕在化してきているのだ。
 ……あまり悠長には構えていられないか。
 彰彦がそろそろ戻ってくるはずだ。彼が得て来る行政区内部の状況も気になるし、
平賀の方でも行政区相手にいろいろと話しを持ちかけているようだ。彼等の手伝いができない所がもどかしいが、
今は彼等を頼るしかない。そう思っていると、近くのベッドから小さなうなり声が聞こえてきた。
 ――――!
 これまで静かだった室内で発生した音に敏感に反応した匠は、本を棚に戻してクズハの顔を見た。
 彼女の、これまで力が抜けていた目元に力が入っている。目覚めようとしているのだ。


7 :白狐と青年「拒絶の目覚めと確認の一歩」 ◆mGG62PYCNk :2011/11/16(水) 02:28:32.25 ID:ZO9kmgYn.net
「クズハ」
「――ん」
 返答のような呼気と共に、クズハの体に力が入った。
 周囲を確認するように左右の耳が小さく動く。次いでまつ毛が揺れ、目が薄く開いた。
カーテン越しであっても光が目に強いのか、縦長の瞳孔が細くなる。
手を翳して光を遮ろうとしたところで、彼女は自分の掌を見て疑問の声を上げた。
「……あ、れ?」
「クズハ、起きたか」
「匠さん?」
 クズハは匠を見上げて表情を緩め、そして怪訝そうな顔をした。
 手をついて上半身を起こそうとする。匠の支えを受けて身を起こしたクズハは、周囲を見回して戸惑った声を上げた。
「……呪符もない……それにここ、私の……部屋、ですか?」
「ああそうだ。覚えているか? 庁舎の地下捕まってた所を連れ出して来たんだ。
ここは平賀のじいさんのとこ、今はちょっと騒がしいことになってるが、すぐに収まるだろう」
 割合しっかりとしたクズハの反応に内心ほっとしながら、匠は続けざまに言葉をかける。
 クズハは俯き、匠の言葉を咀嚼する数秒の後、顔を上げ、
「…………」
 匠をじっと見つめ、また顔を伏せた。
 顔を伏せたクズハは、思い悩むように口元を歪めた。やがて再び顔を上げて匠を見ると口を開く。
「匠さん、出て行ってもらえますか?」
 突然発された拒絶の言葉に、匠は虚を衝かれた。
「――は?」
「すみません、少し、考えたい事があるので部屋から出ていってください。
あ、そこの新聞は置いていってくださるとうれしいです」
「新聞……か?」
 匠は椅子の上に畳み置かれている新聞に目をやる。
その新聞には最近の大阪圏の情勢や研究区の状態について書かれているため、
 ……クズハには今あまり渡したくはないんだが……。
「だめですか?」
「いや……」


8 :白狐と青年「拒絶の目覚めと確認の一歩」 ◆mGG62PYCNk :2011/11/16(水) 02:31:48.32 ID:ZO9kmgYn.net

 どちらともとれない反応を匠が示す間にクズハの手が新聞を手に取った。
新聞を胸前で抱えたクズハは、再び拒絶の言葉を放つ。
「出て行ってください」
「ああ、それは分かったが……クズハ、お前なにかあった、か?」
 あまりにも頑なクズハの様子を心配した匠がクズハに手を伸ばす。
頭に伸ばされたその手を払いのけて、クズハは小さく言った。
「すみません……」
「い、いや……」
 幾度目かの驚きに目を見開き、しかし匠は立ち上がって部屋の扉へと歩いて行く。扉に手をかけ、
「じゃあ、皆にクズハが起きた事を知らせるから出て行くけど、何かあったら言えよ?」
「……はい」
 言葉自体は肯定のものだが、発された声の質は硬い、拒みの色の強いものだ。
匠は新聞に目を落としているクズハに、何かあったら声をかけるようもう一度言い置いて、扉を閉じた。


            ●


 匠が出て行き、静けさが降りた部屋の中でクズハは閉じた扉を見て小さく呟く。
「もう、ここにはいられないですよね……」



9 :白狐と青年「拒絶の目覚めと確認の一歩」 ◆mGG62PYCNk :2011/11/16(水) 02:34:18.78 ID:ZO9kmgYn.net


            ●


 秘密通路から研究所の敷地内へと帰還した彰彦は、
報告のために訪れた平賀の居室内に漂う空気に一瞬足を止めた。
 匠がどことなくぼんやりとした椅子に座りこみ、明日名、平賀が難しい顔をしている。
 ……何があったんだこりゃ……?
 なんとなく声を発しづらい状況に二の足を踏んで入り口付近に立っていると、平賀がこちらに向かって手を上げてきた。
「お帰り彰彦君、無事でなによりじゃよ。……それで、どうだったかのう?」
「いや、その前に今のこの部屋の状況について話してくれねえか? なんか物スゴイ居づらいんだけど」
 平賀はそうじゃのうと言って口を開いた。
「クズハ君がじゃな、目覚めたんじゃよ」
 平賀の言葉に彰彦は、は? と言葉を生んだ。
「なんだよそりゃ、いい事じゃねえか」
 平賀の言った事と、この部屋内の空気が噛み合わない。
疑問に思う彰彦の様子に、平賀が「それがのう……」と匠の方に視線を向けた。
匠は小さく頷いて、どこか呆然とした声で、
「クズハがな、俺やじいさんを部屋に入れてくれねえんだよ」
「……どういうことだ?」
「どうもクズハに拒絶されたみたいでね」
 明日名の言葉を聞いて、彰彦は先の匠の言葉をもう一度考える。そして、
「……え?」
 間の抜けた声が出た。
 ……クズハちゃんが? 他を追い出すことはあっても匠を拒絶するなんてまずありえねぇと思うんだが……。
 だとしたら捕らえられている間に何かしらの手が加えられたのだろうかと思い、
「術とか、そうでなけりゃなんか薬盛られたとか、何かが憑いてるとか、暗示とかにかかってんじゃねえのか?」
「……だと最初は思ったんじゃがのう、どうもどれもハズレっぽいんじゃな」
 平賀がそう言ったという事は、一通り再検査をしたという事だろう。
 ……そして術や他の影響も出なかった、と。
 だとすれば、
「他に何か心当たりとかはあんのか? じいさん」
「何故庁舎の地下に居たのかという所は話してもらったんじゃが、
独居房から庁舎地下の研究施設までクズハ君を連れて行ったのは変なマスクで顔を覆った男のようでな、
声の方も変えておったようで、結局詳しい事は分からんでなあ……。
クズハ君が行政区に行った後の短い時間で薬や術の反応を出さずに洗脳というのも土台無理な話じゃ。
だとしたら何か吹きこまれてクズハ君がわしらから離れてしまったと考えるのが現実的かのう」
「匠やじいさんを拒絶したくなるような事を吹きこまれたってか?」
 彰彦は何をクズハに吹きこんだら彼女の考えがそこまで極端に変化するだろうかと思案して、
「……だめだな。何をどう吹きこんだらそんなになんのか見当もつかねえや」
 尚も頭を回して考えようとした彰彦に匠の声が飛んだ。彼は頭を一度左右に振って気持ちを入れ替えるようにすると、
「彰彦、ともかく今はお前の報告を聞きたい。何か行政区で掴んできたのか?」
「え? あ、ああ」
 匠の一言に押される形で、彰彦はこの部屋の様子に気押されて後回しになっていた報告を始めた。


10 :白狐と青年「拒絶の目覚めと確認の一歩」 ◆mGG62PYCNk :2011/11/16(水) 02:36:21.05 ID:ZO9kmgYn.net


            ●


 匠の様子を確認しながら彰彦は口を開く。
「行政区内は内部の異形を完全に追い出す算段のようでな、
俺が言った時にはもうほとんど行政区内に居た異形の連中は追い出されてたよ。
俺も腕の事があるし、裏で動いてる奴に襲われるのも避けたかったからあまり人に会わないように
注意しながら知り合いの武装隊の所に行ってな、そこで内情とかを聞いて来た」
「どうだった?」
 明日名の促しの言葉に彰彦は頷いて、
「一つ、気になる話が出た。
武装隊内でここ数週間の間に行方が分からなくなってる奴らが何人もいるらしい。
行政区の街の外に哨戒に出てた連中が戻らないそうだ」
 それは、と匠が呟く。
「異形の仕業か?」
「それがな、何者の仕業かもはっきりとは分かんねえみたいだ」
「何者の仕業かすらも分からない? 捜索はしてるんだろ? 
本人が見つからなくてもせめて何か痕跡とか見つからないのか?」
 良い疑問だ。頭の切り替えはしっかりと出来ているらしい。
そう思いながら、彰彦は旧知の武装隊から聞いた話を口にする。
「捜索はしようとしてるらしいが、研究区や各地の検問、
それに農場とかの管理をしていて安易な排斥が利かない異形達の監視に武装隊を動員しまくってるせいで
人手が足りねえらしい。行方不明者はおそらく異形に襲われたんだろうって事に武装隊内ではなってる。
武装隊が何人も消される程には強く、そして場合によっちゃ賢い異形だ。
匠達が行政区に居た時に行政区を襲った異形の群れのリーダーじゃねえかとか言われてたな。
武装隊の想像通りに犯人が異形だった場合、そいつは以前行政区内に大量の異形を侵入させた異形って事になる。
行政区の中にそんなものを入れないように今行政区は以前にも増して守りを固めてる最中って話だった」
「ただでさえ武装隊が検問などを作っている中。姿を悟られずに武装隊を襲うなんてのはただの異形には難しいだろう。
行方不明者たちはおそらく朝川達と同じ手の者に連れ去られたんだろうね。武装隊の警備範囲等の内情に通じている物が最初から狙った犯行だろう」
「だろうな。もしかしたら俺や俺の部下みたいに何かの実験の材料にされてるのかもしれねえ」


11 :白狐と青年「拒絶の目覚めと確認の一歩」 ◆mGG62PYCNk :2011/11/16(水) 02:38:35.56 ID:ZO9kmgYn.net
 苦々しく言って拳を握り込む彰彦に明日名が言う。
「通光の事は何か分かったかい? 彼も武装隊の警備含めて色々な内情を把握している人物の一人だ」
 彰彦は首を横に振った。
「いや、通光や他の庁舎詰めのお偉方はここ数日そろって庁舎の中に籠ってお仕事中らしい。
奴らは自前の警備や護衛をそれぞれ抱えてるから、裏で何かやってても武装隊じゃ気付けねえかもな。
俺も探ってみようと思ったんだが、あそこは今お偉方が一か所に集中してるせいで警備の密度が
スゴイ事になってやがって侵入は無理だった。匠がクズハちゃんを助けに行った時とはまるで様子が違うっぽいな」
 匠が深夜に庁舎に侵入した時は警備は散漫だったと聞いた。
その後にクズハの脱走や留置施設の職員の殺害、施設の破壊を受けて、
行政区の重役達を一か所に集めた方が守りやすいと武装隊なりどこかの議員なりが考えたのだろう。
 そう考えながら彰彦はしかしまあ、と嘆息した。
「結局、登藤通光が怪しいっていう証拠は掴めずじまい。それが俺の見知って来た事の結論だな」
 武装隊の行方不明、現在研究区を囲んでいる行政区の息のかかった武装隊、
徐々に対外的な防御を固めて行く行政区。はっきりとしたことは相変わらず分からないが、
状況は依然として動き続けている。その気配を感じながら彰彦は簡略な報告を締めくくる。
部屋の中にはそれぞれに彰彦の報告を思案するような沈黙が降りる。と――
「邪魔するぞ」
 平賀の居室の扉を開ける者があった。金髪金瞳の女、キッコだ。
 彼女は手にしていた通信用の符を懐にしまって部屋を見回すと、金の目を細めた。
「おお、彰彦が戻って来ておったか。そうだの――とりあえず、先に彰彦の仕入れた情報を聞かせてもらおうかの」






12 :白狐と青年「拒絶の目覚めと確認の一歩」 ◆mGG62PYCNk :2011/11/16(水) 02:40:35.96 ID:ZO9kmgYn.net


            ●


「……ふむ」
 彰彦の話を一通り聞き終えたキッコはなるほど、と頷きを作った。
「相手も尻尾をなかなか出さんということだの」
「厄介だよな」
 キッコに答える彰彦。二回目の彰彦の説明を聞いていた明日名が平賀に問いかけた。
「平賀博士、行政区相手の交渉はどうなってますか?」
「もう少し、といったところじゃな。彰彦君の話にあった武装隊の行方不明事件の事もあるんじゃろう、
異形共存派、それに一部の異形排斥派が研究区の助言を得たい事案があると言ってきておってな、
なんとか話し合いの席を作る事くらいはできそうじゃ」
「じゃあ、じいさんの方は進展しそうなんだな? 研究区の皆のストレスもいい感じに溜まって来てるみたいだから急いだ方がいいと思うぜ」
「そうじゃな……急がなければならんな。この調子だとそろそろ向こうさんも次の手を打ってくるぞい」
 平賀の呟きが重く響く。そんな空気の中、キッコがところで、と呟いた。
「匠よ、クズハが目覚めたと明日名から聞いて戻って来たのだがの、何故お前はそんなに沈んだ顔をしておる」
「あ」
 地雷を踏んだキッコの言葉に彰彦が反応する。キッコは彰彦の反応に対して首を傾げ、
「なんだ? 何かあったのかの?」
 問いかけの視線を向けられた明日名が僅かに口ごもった。
「うーん、ちょっと、ね」
 キッコは目を鋭く細めた。
「話せ」
「……分かったよ」
 息を一つ吐くと、明日名はクズハが謎の拒絶行動に出た事を話した。彼の話を聞いたキッコは目を丸くして、
「クズハが、拒絶……? それも匠をかの?」
「一応わしも拒絶されとるのじゃがなぁ……」
 平賀を無視してキッコは唸る。
「術……は有り得ぬな。我もあの子からはそのような痕跡を感じはしなかった。
薬も、平賀が調べたのなら違うのだろうの」
 しばらく難しい顔で考えていたキッコは、やがて顔を上げると身を翻した。
「キッコさん?」
「彰彦も、それに明日名も来い。お前たち二人はまだ目を覚ましたクズハを直接見てはおらんのだろう? 
実際にクズハを見てみようではないか。じかにこの目で見れば何か違和感にも気付く事もできようて」
 そう言うと、キッコは半ば強引に彰彦と明日名を引き連れてクズハの部屋へと向かった。



13 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2011/11/16(水) 02:42:38.77 ID:ZO9kmgYn.net
このような感じで、問題がわらわらと

14 :創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 05:29:54.92 ID:PTvmfM9Z.net
・世界観 ・・・ 現実社会。 ある意味ファンタジー好きにとっちゃ、一番見たくないもの。

 現実逃避のためのファンタジー世界で甘美な夢に浸るも、それじゃ何も解決しない。
 現実の卑小で下らない自分・・・でもそんな自分から逃げちゃだめだぜ!

・ストーリー ・・・ ファンタジー作家志望のキモヲタロリニートの求職活動日記。

・つい最近、役所に生活保護費受給を申請したのだが、あっさり拒絶されたので、とりあえず生活のために仕事を探すのが目的。

・マップは日本を元にした全47サーバーからできている。というより、どんな地方でもいいからとりあえず仕事を・・・。

・キャラクターの能力
 なにせ本人は自分をドワーフだのエルフだの巨人だの伝説の剣士だの魔法使いだのと思い込んでるファンタジーお花畑脳。
 「お前の履歴書は全部真っ白じゃないか!一体いままで何をしてきたんだ!?」
 「・・・・・・ファンタジー小説家志望で、今までがんばってきたんですけど・・・その・・・」
 ということでキャラの能力は以下 ↓
   最終学歴 偏差値50に届くか届かないあたりの高校をとりあえず卒業(ロリヲタレベルによってはFラン大学中退が加わる)
   職   歴 アルバイトのみ。(キモヲタレベル次第ではブラック派遣の履歴が二つくらい付く)
   資   格 とりあえず賞罰は何もなし。ロリなので街中で幼女を見て半分くらい勃起するも、犯罪ではないし。変態だが。
   趣   味 VRMMORPG・・・というけど、基本はエロゲ。萌え系キャラにはこだわりある(この辺がキャラの特性)。
   身長体重 お好きに・・・まあキモヲタだし。

・職業は基礎四種(魔法職、戦士職、盗賊職、生産職)からの派生・・・と言ってるあたりで、痛々しさがわかると思う。

・モンスターは現実にいる動物がもとになってる・・・らしい。
 まあ主人公はアキバでカツアゲされたりしているので、ヤンキーなんかはモンスターの範疇に入る。
 あと、街中で女子高生から「何、あのキモオタ、キモくない?」てな視線が・・・ってことでこれもモンスター。
 ハロワの受付で主人公の履歴書(の空欄)を見て、嘲るような目線で主人公を見下ろした受付のやつもモンスター。
 バイト先で主人公にネチネチ苛めたりする同僚もモンスター。その他いろいろ・・・。
 ラスボスとしては、「今の世の中間違ってる!」と叫びながら自分をクビにした会社に突入して逮捕されるので、とりあえずその辺り。 

・現実で人口が多い場所の周辺にはレベルが高いモンスターが出やすい。
 だがアキバは同類が多い。世間から見たらここに集うようなキモヲタの方がモンスターって話。
 
・モンスターの強さは妖怪>絶滅>絶滅危惧種>希少種>外来種>害獣>従来種・・・
 というけど、主人公のスペック(※上記参照)は、かなりの弱者の部類になる。
 一発逆転を狙ってファンタジーラノベ作家(萌え系)を目指すも、今のところ門前払い。

15 :創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 05:32:16.68 ID:PTvmfM9Z.net
・就職のための資格取得のためには資格試験をクリアして実用資格を持っているプレイヤーがパーティーに1人は必要。
 だがそんなの持ってるキャラは、そもそもこんな底辺ゲームには参加しない。

・捕獲したモンスターを動物園に連れていくとさらに報酬がある・・・プッ!
 こんな風に、どこかのゲームの企画をパクるレベルの人間がクリエイターを目指すって事自体がそもそも・・・いや、なんでもない。

・運よく採用面接にまでたどり着く(とてもレアイベント)も、趣味はエロゲくらいしかなく、会話が弾まずあっさり不採用・・・
 ・・・結果、再び現実から逃走してモンハンやらラノベやらエロゲに没頭する日々。

・モンスターに倒された場合・・・というか、現実に打ちのめされた場合。
 ステータスの1割がゲーム時間で2時間の間ダウンと今回のログインから手に入れた経験値の5割消失。
 ・・・そんな時間あるなら仕事しろよ。

・ログアウトを決まった場所(宿や自宅)でしないとプレイヤーがログアウトしてから10分間硬直時間が生じる。
 ・・・てか、基本自宅警備員なので、その心配はご無用。人生はデッドエンドぎみだけど。

・生産職は装備品以外に生活実用品や科学系の機械なども作れる。
 とはいえ基本は底辺ライン工。流れ作業で部品を組み込むだけの、馬鹿でも出来る仕事しかできない。

・科学系生産職は大気汚染や土壌汚染を引き起こすと罰則クエストか罰金を受けることになる。
 というけど、要するにこれ、産業廃棄物処理工場に派遣されたというイベントだからさ。

・路上にアイテムを放置するとロストして罰金が発生する(路上売りをしている生産職が結構引っ掛かる)
 つまり、主人公は仕事が得られないと路上生活者になる。アイテムを放置すると別の路上生活者に取られちゃうぜ。

・路上アイテム放置に引っ掛からないようにするには商売用テントか商売用シートを生産する必要がある。
 ・・・通称、ブルーシート。だけど都内の公園では既に多くの先住者がいて、中々場所がないのでがんばろう。

・いつまでファンタジーなんていう現実逃避が続けられるかがポイント。
 落ちぶれてもファンタジックな夢を忘れなければ、それはそれで幸せかもしれない。


      現  実  社  会   君たちに一番必要なのは、それを直視する勇気だ。



16 :創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 17:41:08.44 ID:o4JO9UQ9.net
投下乙
クズハちゃんどうして思いつめちゃうんだろう…

17 :創る名無しに見る名無し:2011/11/17(木) 01:43:04.72 ID:Rp8PMukd.net
現実がおしよせてきたからかな?
ファンタジーと現実は相容れないからなあ

18 :創る名無しに見る名無し:2011/11/17(木) 12:06:32.61 ID:pC9ip49s.net
投下乙!! もう40話超えたか……

19 :創る名無しに見る名無し:2011/11/18(金) 05:00:20.32 ID:6C6HVosr.net
【ファンタジー作家さまの冒険  〜 ファンタジーのレベルが上がれば上がるほど、現実の自分のレベルは下がるよねw】

・・・目の前の面接官の一人が、突然話を始めた。
「では、自己紹介を始めてください。名前、出身大学とその専攻・・・」

自己紹介? 何のことだ?
それよりここはどこだ?
こんな世界をシェアした覚えはないぞ!

ファンタジー作家さまは淡々と事務的に話をする面接官の方を見た。
窓を背にこちらを向いて話す面接官・・・パリッとしたスーツと、怜悧そうな銀縁のメガネを掛けている。
その両隣に座る面接官たちも、やはりしっかりとスーツを着込み、真顔でファンタジー作家さまの方を見つめている。
一人は女性。おそらく年のころは三十台半ばといったところか。
絵に描いたようなキャリアウーマンでかなりの美人だが、まるで隙が見当たらない、きつそうな女性であった。

もう一人も同じくらいの男性で、髪をオールバックに撫で付け、ダブルのスーツを身に纏っていた。
眉をひそめた厳しい表情で、手に持っている書類とファンタジー作家さまを交互に見つめている。
その書類は、写真が貼られているところを見ると、どうやら履歴書が身上書のようだ。

みんなきちんとした社会人だ。
ファンタジー作家さんみたいに、現実逃避してるだけの冴えない人間とは偉い違いだ。

「どうしました? 自己紹介をお願いしますよ」
銀縁のメガネの男は言った。言葉遣いは丁寧だが厳しい口調だ。

「あ、あの・・・ここは一体、一体なんなんですか?」
ファンタジー作家さまは、そう尋ねた。
正直動転していた。額にうっすらと冷や汗が浮かぶのを感じる。

数秒の間が空く。その沈黙が一斉にファンタジー作家さまにのしかかる。
沈黙がここまで重いものだとは、今までファンタジー作家さまは知らなかった。

すると、女性の面接官が呆れたような口調で、
「ここは当社の採用試験の面接会場ですが・・・お忘れですか?」
と語った。やはり言葉使いは丁寧であるものの、刃のような鋭さが含まれている。

目の前の面接官たちの視線が、針のようにファンタジー作家さまを刺し貫く。
動悸が早くなり、ドキドキという鼓動が鼓膜まで伝わる。口の中はもはやカラカラ。
沈黙は更に重みを増し、ファンタジー作家さまの貧弱な精神は今にも押しつぶされそうだ。

「あ・・・あ、あの」
「どうしました? 早くお願いしますよ」
面接官はファンタジー作家さまを丁寧に促す。
だが何故だろう、その言葉の中に苛立ちが含まれているのが解った。

「な、名前は、『天才ファンタジー作家さま』です。出身大学・・・ではなく県立商業高校を卒・・・じゃなくて二年次に中退です。
専攻は・・・その・・・。趣味はアニメと漫画、それとエロゲ・・・じゃなくてゲームです。」
ファンタジー作家さまは答えた。まるで搾り出すような声で。
これは戦いだ、悪辣なモンスターとの戦いなんだ、と己に言い聞かせて。

だが、なぜだろう、こんなに恥ずかしいのは!
だが、なぜだろう、こんなに切ないのは!
おそらく彼らの手元にある履歴書は、殆ど白紙に近いはずだ。

20 :創る名無しに見る名無し:2011/11/18(金) 05:01:04.66 ID:6C6HVosr.net
「・・・そうですか。ではファンタジー作家さま、当社に入社したいと思われた動機について、語ってください」
面接官は言った。
口調は相変わらず丁寧だが、ファンタジー作家さまをあざ笑っているように聞こえるのは気のせいなのだろうか?

「動機? 動機ですか?」
そんなの知らない。というより、ここの会社が何をやっているのかすら知らないのだから。
すると、四人の視線が一斉に勇者さまに襲い掛かってきた。

それはどんなモンスターの物理攻撃よりもファンタジー作家さまにダメージを与えた。
それはどんなドラゴンのファイヤブレスよりもファンタジー作家さまを弱らせた。
それはどんな魔法使いの魔法よりも、ファンタジー作家さまを徹底的に痛めつけた・・・主にプライドを。

「御社の・・・その、御社のですね。企業活動に共感?してですね、あの・・・」
「当社の企業活動のどのあたりに、共感を覚えましたか?」
体格の良いスーツ姿の男が尋ねてきた。もう嫌がらせのように丁寧な口調だった・・・。

ファンタジー作家さまは、ここより先の記憶が無い。
どうやらファンタジー作家さまの精神は、ファンタジーの世界に現実逃避してしまったようだ・・・。


・・・憶えているのは、ふと気付くと区立公園のベンチに座って夕日を眺めていたことだ。
手には飲みかけの缶コーヒーと、不採用通知の書類。

そしてファンタジー作家さまは泣いていた。
あふれ出る涙を抑えることができなかった。

ファンタジックなシェアワールドで天才ファンタジー作家だった自分が、何故今、こんな場所にいるのだろう?
そしてなぜ、こんな屈辱的な境遇に落とされたのだろうか?

そんな悩めるファンタジー作家さまを、公園で遊んでいる子どもたちが指差して笑っていた。
「しっ、いけません。失礼でしょ!」と母親たちは、そんな子どもをたしなめる。
だがその母親たちの目にも、ファンタジー作家さまに対して明らかな侮蔑の色が浮かんでいた。

ファンタジー作家さまが我に返ったのは、夜になってからだった。
公園内の電灯に照らされ、ファンタジー作家さまは先ほどと同じ姿勢のままでベンチに座っていた。
涙はもう流れていなかった。というよりも涙は既に枯れ果ててしまっていた。

「これからどうしよう・・・」
ファンタジー作家さまはそうつぶやいた。
一円にもならないシェアワールド作品を投下し、自己満足している日々。
現実逃避のファンタジーにはまればはまるほど、現実で生き抜く能力はどんどん減じてゆく。

そして自分の絶望的な未来を思い浮かべ、その不安に恐れおののいた。
馬鹿げたファンタジーの世界に現実逃避できたあの頃に、戻れるものなら戻りたかった・・・。

21 :創る名無しに見る名無し:2011/11/18(金) 05:29:57.10 ID:6C6HVosr.net
 < 第一章 ファンタジー作家さまのお目覚め >

・・・ファンタジー作家さまは目覚めた。

全身のあちらこちらがズキズキと痛む。
それとブン殴られでもしたのだろうか?奥歯がガタガタであった。
「・・・うぐっ!」
切れた口の中の傷の痛みに、ファンタジー作家さまは思わず呻いた。

ゆっくりと目を開けると、染みだらけのコンクリートの壁が立ちはだかっているのが見えた。
そしてその壁の高い場所に、鉄格子ががっちりとはまった窓が一つ。
窓からは・・・おそらく朝なのであろう、穏やかな光が室内に差し込んでいた。

「ここは、どこだ?」
ファンタジー作家さまは痛むからだを起こしながら、そうつぶやいた。
八畳ほどの広さの部屋の中に、自分の他、五人ほどの人がいた。
壁に寄りかかってうつむいている者や、床に寝転がって寝息を立てている者などがいる。
コンクリートで囲まれた殺風景な部屋・・・さすがのファンタジー作家さまも、そこがどういう場所か解ってきた。

そう、ここは留置所だ。おそらくはここは警察署の署内だろう。

だが、ここで疑問が芽生える。
なぜ自分がここにいるか、という疑問だ。
ファンタジー作家さまは昨晩の記憶を思い返してみた。

シェアワールドを作り、そこで天才ファンタジー作家を気取っていたところ、
突如、どこかの会社の面接会場に連れてこられ、あっさりの不採用が決定。
職にありつけず金もなく途方に暮れて泣いていたところを、ヤンキーにカツアゲされてぶちのめされて・・・。

「・・・おお、お前さん目覚めたか?」
ファンタジー作家さまに、声を掛ける人物がいた。
ファンタジー作家さまはその声の主の方を振り返る。

そこにはだらしない格好をした中年男がいた。
小太りでハゲかけ、スーツはヨレヨレ。おそらく自殺防止のために没収されたのだろう、ネクタイは無かった。
ノーネクタイ姿のその中年男は、壁に背を持たれ、顔だけこちらに向けながらニヤニヤ笑っていた。

「ここは、ここはどこです?」
解りきった質問であったが、ファンタジー作家さまは思わず尋ねた。
すると中年男は、「そりゃもちろん、ここは留置所だよ」と答える。

ファンタジー作家さまは再び聞いた。
「ここはどこの警察署?」

そうなのだ。
今自分がどこに(更に言えばいつの時代に)居るのか、それがわからないのだ。
今まではヒマで冴えない中学生が妄想したようなファンタジー世界に没頭していたはず。
だがいきなり超現実的な世界にすっとばされて、仕事の当てもなく素寒貧で放り出されたのだ。


22 :創る名無しに見る名無し:2011/11/18(金) 05:31:00.05 ID:6C6HVosr.net
正規の仕事、給与、保険料、年金、源泉徴収明細票・・・
そんなものは、今まで呑気に過ごしてきたファンタジーシェアワールドには無かった。

最終学歴、今までの職歴、アルバイト先、資格、失業保険、ハローワーク・・・
次から次へと思い浮かぶ単語に、ファンタジー作家さまは慄然とした。

何だこの恐るべき言葉の数々は! 何かの呪文なのか?
そしてそれらは「現実」という色彩を帯び、一斉にファンタジー作家さまに押し寄せてきた。

「馬鹿げた夢なんて見てるんじゃねーぞ、そろそろ現実みろよ!」
それらの現実が、口々にそう叫びながらファンタジー作家さまを取り囲み、一斉にあざ笑った・・・。

「・・・ここか? ここはだな、現実社会警察署ってとこだ。お前さん、初めてかい?」
中年男はそう答えた。

「現実社会? それはどういう・・・?」
「現実社会は現実社会だよ、あんた。・・・ところであんた、名前は何て言うんだい?」
中年男が尋ねる。

「ボクの名前は、『シェアワールドでファンタジー作品を書いてるファンタジー作家さま』と言いますが」
ファンタジー作家さまは答えた。

そう、それが自分の名前のはずだ。
だがなぜだろうか。突然、今のこの自分の名前に違和感を感じた。
ファンタジー作家さま、ファンタジー作家さま・・・確かに名前としてはどこかおかしい。

すると、
「なるほどね、お前さん『ファンタジー作家さま』か・・・ここは『現実社会』なんだよ。それ以上でもそれ以下でもなく」
中年男はそういうと真顔になった。
「だから俺は、ここではただの『中年男』だよ。おそらく『汚らしい』とか『だらしない』とかキャラ属性が引っ付いてるかもしれんがね」
そう言って中年男はせせら笑った。

ファンタジー作家さまには理解ができなかった。
確かにファンタジー作家さま程度の知能と学力では無理も無い。
そりゃ、いい年してファンタジーなんかに没頭しているくらいだし。

しかしたった一つ、ファンタジー作家さまはわかったことがあった。
そしてそれは、今までの自分のアイデンティティーを否定しかねない、重大な考えであった。
それは、自分がもはや『(天才)ファンタジー作家さま』ではない、ただの人に成り下がっているという事実だ。

今まで自分は特別な人間だと、そう思い込んできた。
だから自分はファンタジー作家さまであり、今ここで自分から『ファンタジー作家さま』と名乗っていたのだ。
何せ今までは自分は主人公だったのだ。この世界において唯一、特別とも言える存在だったのだ。

しかし今は違っていた。今のファンタジー作家さまは、ただの人。いや、ただの変人に成り下がっていた。
この現実社会において、大した学歴も資格も技能もない、一円にもならないファンタジー作品を紡いでる社会的落伍者。

その事実は、今のファンタジー作家さまにはとても受け入れることができない確かな現実だった・・・。

・・・ただの無職の冴えない男。
・・・ろくな学歴も資格も無い男。
・・・お金も無く解消も無い男。

・・・そんな現実から目を背け、妄想じみたファンタジー世界に逃避している、つまらない男。

23 :創る名無しに見る名無し:2011/11/18(金) 16:07:56.28 ID:6C6HVosr.net
「将来はメキシコで作る車を北米市場に輸出することも検討しなければならない」と述べ、
円高対応には海外移転が避けられないとの見方を示した。基調講演後の質疑応答で答えた。
マツダは、メキシコで2013年度に稼働を始める新工場の建設を進めている。
http://www.yomiuri.co.jp/atcars/news/20111118-OYT8T00227.htm?from=yoltop

円高で生産シフトも=米が輸出拠点に―トヨタ社長
http://www.asahi.com/business/jiji/JJT201111180011.html

ホンダ、12年初めからカナダ工場で新型「CR―V」生産
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-24232620111117

スズキ、中国の合弁工場拡張=15年めど、50万台に倍増
http://www.asahi.com/business/jiji/JJT201111180032.html

パナソニックがマレーシアに太陽電池工場 500億円を投資
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/111118/biz11111810300008-n1.htm

・・・と、このような具合に製造輸出産業が海外移転し、国内の雇用空洞化が加速している昨今。
例えば以下のような悲痛な叫びが、どこぞに残されていた。

36 名前: 名無しさん@12周年 [sage] 投稿日: 2011/11/18(金) 12:58:22.42 ID:92SIo3Ij0
田舎だと最近は土方もない時代。車の免許を持っていたとしても、そもそも求人がない。
あるのはタクシー位だけど手取りが月270時間働いて10万程度。
非正規広めないと国内の雇用が無くなると騒ぎ、企業は人件費浮かせて海外投資。
非正規労働者は薄給で蓄えもないまま簡単に切られて失職。これぞ構造改革!

そんな中・・・、

製造業派遣「原則禁止」削除…民自公が大筋合意
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20111115-OYT1T00381.htm

そうなのだ。こうして政権与党は製造業という奴隷制度を容認せざるを得なくなったのだ。

そんな状況にも関わらず、ファンタジー作家さんは今日もファンタジーに熱を上げている。
妄想世界でのレベルが上がれば上がるほど、現実の自分のレベルはどんどん下がっていくというのに・・・。

「そうだぞ、ファンタジー作家さま。ファンタジーに興じているヒマがあるなら、何か仕事を見つけるかしなきゃなあ」
中年男は、そう言うと大きく溜め息をついた。人生にほとほと疲れ果てた、といった具合に・・・。

ファンタジー作家さまは動揺した。自分の未来に立ち込める暗澹とした絶望を、一瞬垣間見た。
だが、ファンタジー作家さまはそれを直視できなかった。

シェアワールドという現実逃避のぬるま湯の中で、甘美で虚しい夢を追い続けた日々・・・。
そんな中二病っぽい妄想を延々と書き連ねていたその時間と労力を思った。

「・・・ううっ!」
ファンタジー作家さまは唸った。そして思わず目を閉じ、顔をそむけた。

このシェアワールドの妄想ファンタジー物語を否定してしまったら、
今まで勉強も仕事もろくにせず、没頭してきた己に対する自己否定になってしまう、そのことの気付いたのだ。


   妄 想 世 界 で の レ ベ ル が 上 が れ ば 上 が る ほ ど 、
 
      現 実 の 自 分 の レ ベ ル は ど ん ど ん 下 が っ て い く・・・ああっ!



24 :創る名無しに見る名無し:2011/11/19(土) 17:25:36.18 ID:Cn9/mSa8.net

 < 第二章 シェアワールド作家さまの動揺 >


>『就活戦線もう過熱…2か月短縮の短期決戦化が逆効果、焦る学生 - 大学のサポートも前倒しされ「学業に専念」からは程遠い実情』

>再来年の春に卒業する現・大学3年生の就職活動のスタートが、今年から2か月遅い12月となった。
>学生が学業に専念できる時間を増やそうと、経団連が採用活動に関する倫理憲章を改定して申し合わせたためだ。
>ところが就職活動の短期決戦化に焦りを感じる一部学生で就活塾は以前にも増して盛況となり、
>大学のサポート活動も前倒しされるなど、かえって戦線は過熱。「学業に専念」からはほど遠いのが実情だ。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20111116-OYT1T00622.htm

「・・・ど、どうしよう」
食卓で朝食をモグモグ食べていたシェアワールド作家さん。
ふと目にした読売新聞の当該記事を読んだ瞬間、心臓がキュッ!と締め付けられる思いがした。

そう、このシェアワールド作家さんは、現在、Fラン大学の二年生。
上記の記事によれば、いよいよ来年の今頃は就職戦線に突入するのだ。
だけど果たしてその時、シェアワールド作家さんはこの戦いに生き残れるのだろうか?
シェアワールド作家さんの中二病な脳味噌の中で、不安と恐怖がグルングルンと渦巻き始める。そして・・・、

>『大学新卒就職内定率が史上二番目の低水準』

>来春卒業予定の大学生の10月1日時点の就職内定率は59.9%で、
>前年同期に比べて2.3ポイント改善したことが18日、文部科学省と厚生労働省の調査で分かった。
>現在の方法で統計を取り始めた1996年度以降では最悪だった昨年度に次ぐ低い水準。
>2000年代前半の就職氷河期を下回り、厳しい環境が続いている。
http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C93819695E3E5E2E1838DE3EAE3E3E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2?n_cid=DSGGL001

「・・・・・・。」
シェアワールド作家さんは、沈黙した。

現役で上位私大を狙うという失策をやらかし、見事に全滅したシェアワールド作家さん。
親が老後の資金にとコツコツ貯めた定期預金を解約し、数十万もする予備校の授業料を支払い、
それでもシェアワールドの妄想世界で一円にもならない書き込みを繰り返し、
貴重な時間と労力を見事に浪費し、ようやく入学したFラン大学(文系)。

周りは中学生レベルの算数はおろか、アルファベット全部書けるかすら怪しい連中ばかり(もちろんシェアワールド作家さんも)。
そんなDQNだらけのキャンパスでは、シェアワールド作家さんみたいなヲタ系キャラはヒエラルキーの最下層。

もちろんシェアワールド作家さんにも特技がある。
例えばラノベチックな近未来アクションやら魔物やら異世界ファンタジーあたりの知識や技能は結構あるのだ。
それらはシェアワールド作家さんにとっての教科書といえるラノベとアニメと漫画とエロゲから学び取ったものだ。
もちろんこんな知識など、世の中では殆ど役に立ちそうにない。
それこそ本業の作家さんになれるなら別だが・・・なれるのかな?

25 :創る名無しに見る名無し:2011/11/19(土) 17:28:02.34 ID:Cn9/mSa8.net
台所で洗い物をしている母が、お皿を洗いながら言った。
「あんたも来年就職なんだから・・・いつまでもマンガやアニメの本(※ラノベのことらしい)なんかもう止めなさい」

チクリときた。それこそ今までシェアワールド作家さんが目を背けてきた辛い現実そのものなのだから。
Fラン大学文系卒のヲタで、実社会で役に立つ知識も技能もないシェアワールド作家さま。
そんな卑小な自分から逃げるために、ますますシェアワールドという仮構の妄想に世界にはまってゆく・・・実に寂しい青春。

すると向かいの椅子に座っていた父が言った。
「そう、母さんの言うとおりだぞ。お前もそろそろ進路をちゃんと決めなきゃならない時期に来てるんだぞ」

「・・・うっせーんだよ!」
気付いたらシェアワールド作家さんは大声で叫んでしまっていた。

驚いた顔でシェアワールド作家さんの顔を見上げる父。
洗い物をしていた母もまた、突然の息子の反抗に怯えるような表情を浮かべている。
食卓は沈黙した。テレビの音だけが虚しく部屋に響いた。

「何だよ!進路とか就職とか!どうだっていいじゃんかよ!」
いつもどおり、内弁慶を大爆発させたシェアワールド作家さん。
そのまま食べかけの朝食を放り出し食卓から離れ、自室へと逃げ込むと扉をバターン!と叩きつけるように閉めた・・・。

・・・部屋の中には、シェアワールド作家さんの現実逃避の世界が広がっていた。

本棚にはラノベ・・・電撃、富士見ファンタジア、スニーカー文庫。
それらの表紙には、パンツ見えそうなミニスカの美少女キャラが、実にカラフルに描かれていた。
実は最近、ハヤカワや創元文庫まで読むようになり、SFや幻想文学にもちょっと興味津々。
シェアワールド作家さんも、ちょっとだけ大人になってきたのだ(もち間違った方向だけど。就活の本でも読めばいいのにね)。

そして童貞のシェアワールド作家さんの最高の恋人は、長いことやってるエロゲ。
パソコンには海外サイトからダウンロードしたAVが増設HDDにみっちりと詰まっている。

このように、シェアワールド作家さんは、現実逃避の王道をひた走っていた。
そう、ここは天国なのだ・・・「現実」さえ押し寄せなければ。
シェアワールド作家さんにとっては悪夢であり絶望そのものである「現実」
この、虚構に満ちた天国を打ち崩す、恐怖そのもの。

シェアワールド作家さんの心に、一瞬、激しい自己嫌悪が現れた。

「おい、お前、シェアワールドでくだらねえ妄想こいてるヒマなんかあるのかよ」
心の中にいるもう一人の自分が、そう囁いた。

シェアワールド作家さんは、思わず目を閉じた。
その表情は、苦渋に満ち溢れている(ブサイクなのは仕方ないけど)。
そのまま一分ほど、沈黙する・・・。


   妄 想 世 界 で の レ ベ ル が 上 が れ ば 上 が る ほ ど 、
 
      現 実 の 自 分 の レ ベ ル は ど ん ど ん 下 が っ て い く・・・ああっ!


・・・そして一時間後。

シェアワールド作家さんは、ベッドの上に横になってラノベを読んでいた。
今日もまた、日が暮れてゆく・・・。

26 :創る名無しに見る名無し:2011/11/21(月) 16:26:21.71 ID:DOb/UijS.net

 < 第三章 シェアワールド作家さまの絶望 >


「・・・では、こちらのグラフをご覧になってください」
Fラン大学の大教室で行われた、来年度に向けての就職ガイダンス。
大学の就職担当の職員の男が、プロジェクターで映し出されたグラフを指差した。

 >少子化なのに大学定員は増え続けてる
 >http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/52/224298556ccc04d275de60146b9db0d6.jpg

Fラン大学の学生であるシェアワールド作家さんは、
プロジェクターで映し出された上記のグラフを食い入るように見る。

「ご覧のように、昭和25年以降、日本では大学の数が増加し、大学全体の定員も右肩上がりで増えています」
そう言って、就職担当の職員は、レーザーポインターでグラフに描かれた右肩上がりの曲線をなぞった。
戦後は僅か二万人ほどだった大卒者が、現在は五十万人超。これは確かに多い。

「一方、内定率についてですが、これは景気動向にも大きく作用されるので一概には言えませんが・・・」
職員はグラフの青線の部分をレーザーポインターで指し示した。
「大学生の増加にそれなりに対応してきたことはわかります。」
バブル景気が弾ける平成三年度までは、おおむね八割台で推移してきたことを説明した。

すなわち、戦後は大学および大学生の数が急増してきたものの、
戦後50年近くは日本は右肩上がりの経済成長を続けてきたので、
雇用市場はその大学生の増加に対応できだけの需要を生み出せてきたのだ。

「だけどですね・・・みなさん」
ここで職員は声を落とした。そしてほんの数秒、無言となる。
ガイダンスに参加した学生たちが、その突然の雰囲気の変化に、僅かに動揺する。
沈黙はしばらく続いた。空調の音が、大教室の中でやけに大きく響く。

シェアワールド作家さんもまた緊張した。職員が今まで話した話の、大体半分くらいは理解できた。
何せ普段からラノベとエロゲとアニメとマンガで鍛え抜かれた頭脳なのだ。
ヲタレベルという点では、自分の周りにいるFラン学生たちとはちょっと違う。

職員は、学生たちの反応を充分見計らった上で、ようやく口を開いた。
「もう、戦後の経済成長神話は終わったんです。バブル経済の終焉とともにね」
そして職員は、軽く机を叩いた。
「すなわち、今の大学生の多くは、就職市場にとっては余剰な人たちなんです」

いいですか、既に単純な右肩上がりの経済成長は終わってるんです。
さらにグローバリズム化が進んだ昨今、大企業を中心として生産拠点を人件費の安い海外へ移転させています。
特に製造業・・・人件費はじめインフラ等固定費が掛かってしまう産業は、現在積極的に海外へ事業展開してます。
つまりどういうことかというと、国内の雇用が空洞化している、ということです。
もっと解りやすく言えば、あなたがたの就職口はどんどん減っているんです。

語尾をピシリ!と叩きつけるように職員は言うと、グラフを再び指し示した。

大企業などでは大卒は原則、幹部候補生のみの採用にシフトしつつあります。
さらにグローバリズム展開を想定して、こうした幹部候補生たちも外国人を採用するケースが目立っています。

「・・・英語や中国語を話せないと、もうダメかもしれませんね」
と続けて、職員はちょっと笑って見せた。だが、学生は誰一人笑うものなどいなかった。
それはもうジョークにすらならないのだ。何せここはFラン大学なのだから。

27 :創る名無しに見る名無し:2011/11/21(月) 16:27:27.15 ID:DOb/UijS.net
そして、そんな話を聞かされているシェアワールド作家さんはというと、何故かもう呆然としていた。
就職とか結構ヤバイんだな、ということは話を聞いていて何となくわかるのだが、
それをよそに既にシェアワールド作家さんの脳内は現実逃避を始めていたのだ。

架空、仮構の世界は、現実逃避をした者たちのゆりかご。
そこはかりそめの甘い夢や、ぬるま湯のような妄想が交錯する社会的弱者たちの楽園。
現実に向き合わない、という一点において、決して揺らぎの無い世界。

非現実的な設定の数々・・・異世界、終末世界、破滅世界、基本女キャラは美少女、都合よく出てくる敵。
このシェアワールド作家さんのように他人性というものと渡り合えない弱者たちのために、過剰に守られた設定。
決して破られることのない予定調和の虚構の中では、現実と向き合うべき文学性が芽生えることなど当然なく、
現実社会から切り離された虚しい夢の中で、いつまでも醒めることの無いさらなえう夢の続きを紡ぎ続け、取り繕い・・・、

「・・・労働集約型産業、例えばですね、介護職など、具体的な資格を持つことも選択肢の一つなんです」
職員は相変わらず続けていた。最も、この種の仕事は所得は低くならざるをえないのですが、と付け加える。
周囲の学生たちは真剣な面持ちでメモをとったり、ガイダンス用に渡されたレジュメに目を通していた。

大学が増えすぎたことにより、かつては高校を卒業して就職したであろう人間すら、大学に行くようになった。
だが、先ほども申し上げたように、もう国内の労働市場ではこういった学生の受け皿はもうなくなってきているんです。
本来、高卒で就職すべき人材すら、増えすぎた大学に吸収されてしまったという現実があります。
(「うちのようなFラン大学にね」とは、さすがに言わなかった)

だが、もうそういった言葉は、シェアワールド作家さんの耳には届いていなかった。
都合のよい美少女との掛け合いが繰り返される、ぬるま湯のような物語世界へとジャンプしていたのだ。

・・・中小企業を中心とした就職ガイダンスが近々開かれます。みなさん積極的に参加してください。
実は中小企業全体の求人数を見れば、結構進路はあるんです。後は皆さんの決意と覚悟なんです。
名前だけの大企業を目指してもダメです。企業のブランド名に惑わされないでください。

そう言って中小企業就職ガイダンスのスケジュールを黒板に書き付ける職員。
くわしくはここにパンフレットがありますから、ガイダンス終了次第、とりにきてください、と告げながら。
Fラン大学ならFラン大学で、とりあえず学生たちの行く末を心配はしているのだ。

一方で・・・ツンデレやらヤンデレやらの美少女たちと、なにやらモンスターっぽい敵と戦う己がいた。
そこは実に都合の良い試練や、実に都合の良い危機が主人公に襲い掛かり、
実に都合よく苦しみながら、ついには勝利したりするのだ。そしてお決まりの、美少女キャラとの掛け合い。
それは文学でなく、商業小説にすら成り得ない、ただの下らない、瓦礫の山のごとき夢のおはなし。


   妄 想 世 界 で の レ ベ ル が 上 が れ ば 上 が る ほ ど 、
 
      現 実 の 自 分 の レ ベ ル は ど ん ど ん 下 が っ て い く・・・ああっ!


終わり無き日常を生きよ!

28 :ヴぉお将軍 ◆JDhsVOOkg6 :2011/11/21(月) 18:20:50.38 ID:e1yaMPZb.net

            %ヘ、
           ≦/::::::\
           ≦/:::::::::::::ヽ__
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      ./ /    ,r   ,r   ヽ`ヾ 、:::::::::::::!≧',
     / /    /   /`ヽ   `、 `、\::::/≧. ヘ
     / /  /  .|.  , .|  `、  ト、_ヾ`゙''、〈  ヘ
    /./  |  ̄/!`''ト、|  ,.t‐'"7"\ ヽヽ \   ハ
    /./   |  / |_/| .|   | /_  \! \ `、! |
   //.   |  r====x、|   ,,r=====ゥ| /'\ヽ、.|
  ∠.|  | i! .《 |!::::i|レ    |!::::::::::i|. ‖! /、.  ト、ヽ
    .|  ii ll lヾ、!::’:|     l!::::’:‖././/9 !  ,' .\ヽ
    .|  ∧ |.! ! !弋;;ノ     弋;;,ノ "./〆./  /  .| \ヽ
    .|  | .! ! ト、| |    `       //,ノ'!  /  |  ヾ 、
    ! .! .!.l |  ヽ、          /::::/ /  ,イ   ヽ、
    ∨l レ |. ....:::丶、  ´`   ,,r''´!:::::/ /:::   |    ヽ、
     ∨、  /  .....:::::::::`>-r'' ´   |::::/ ./:::::::   |     `、
     ヾヽ,/ ::::::::::::::::::::::,.r‐|     |>' /:::::::::::   .|      \
      \、:::::::::::,.-‐一'ハ'/    //'、_:::::::::::   |
      / ヽ、/    .|. \  _,ノ/' |  `丶、   |

29 :創る名無しに見る名無し:2011/11/21(月) 19:14:04.40 ID:DOb/UijS.net
【参考:TPP諸国の2010年国民所得(国民一人当たりGDP) 単位:ドル】
http://members3.jcom.home.ne.jp/takaaki.mitsuhashi/20110209-1.jpg

日本と関係が深いベトナムの国民所得(国民一人当たりGDP)は、2010年の数字で1155ドルです。
それに対し、日本は42345ドル。その差、実に36倍以上になります。

TPPに加盟すると、「労働者の移動の自由化」も原則的に保証しなければなりません。
別にベトナムに含むところは全くないですが、国民所得が日本の36分の一以下の国の労働者と、
我が国の労働者は「真っ向対決」しなければならなくなるわけです。
まさしく、アラン・トネルソン氏の言う「底辺への競争」が始まることになります。

ちなみに、TPP諸国の中で本格的な製造大国は日本しかありません。
TPPによりベトナムの労働者たちが向かう先は、圧倒的に日本が多くなるでしょう。

国内工場において、国民所得36分の一の国の労働者と、日本の労働者が「底辺への競争」を繰り広げる。
もしかしたら、経団連のお偉方は「人件費が下げられる」と喜ぶのかも知れませんが、
果たしてこれが「国民経済の目的」にかなっていると言えるのでしょうか?



30 :創る名無しに見る名無し:2011/11/21(月) 19:16:07.06 ID:DOb/UijS.net

 < 第四章 ファンタジー作家さま、いずこへ? >


「・・・・・・。」
ファンタジー作家さまは沈黙した。
たった今、ファンタジー作家さまは派遣切りを喰らったばかり。

「生産調整」というその魔法の言葉は、桁外れに強力な攻撃力を秘めているらしく、
ファンタジー作家さまを始め、同じ工場内に勤めていた派遣工たちのHPを軒並みゼロに減らして見せたのだ。
もちろん、この現実世界にはセーブポイントはない。
というか、セーフティーネットがないと言い換えるべきか?

だが、もう遅かった。
すでに「辛い現実」は「生産調整」と名を変え、ファンタジー作家さんの抱くファンタジーを見事に打ち砕いてしまった。
というより、ファンタジー作家さんの生活基盤そのものを根絶やしにしてしまったのだ・・・。


・・・実はかつて、ファンタジー作家さんの働いていた組み立てラインのライン班長さんが、
前にこの件に対して動こうとしたことがあった。
この班長さんは一応、請負契約という形で、この会社に直接に雇用されているシステムエンジニアである。

その班長さんが、ファンタジー作家さんら、ラインで働いている人たちを集めて、
会社の労組と掛け合って自分たちを組合に参加させるよう頼むべきだと言ったのだ。
その時、ライン工のみんなの顔に浮かんだのは、困惑の表情だった。
何だかめんどうくさい、と小声でつぶやく者すらいた。

そんな中、班長は必死にライン工たちに訴える。
我々は不当に搾取されているのだが、団結していないが故に、会社に対して労働環境改善を訴える手立てがない、と。
本当のことを言えば、我々のような立場の人間で団体交渉すべく、組合を作りたいのだが、法的根拠が現在無い、と。
それゆえ、我々は会社の正社員による労組に参加を打診し、彼らと共闘して自分たちの要求を訴えるべきだ、と。

ここにいるライン工たちは、実は契約関係は一様ではない。
例えばファンタジー作家さんのように、人材派遣会社という奴隷斡旋所に登録して働いている派遣工もいる。
これらの派遣工は工場との直接の雇用関係を持たず、経理上はあくまで「モノ(=労働力)」でしかない。
彼らはまさしく生産計画の変更に伴い、簡単に採用及び解雇が可能な、ある意味リスクを担う労働者なのだ。

その他にも「期間従業員」という形で、会社とは直接の雇用契約を締結しているライン工もいる。
これらの期間従業員たちの雇用契約期間は、最長で二年十一ヶ月。
三年間の直接雇用の事実があれば正規雇用にしなければならないので、一ヶ月減らしているのだ。
ただしその間、社保は会社によるものの適用があり、その経費その他も会社持ち。
さらにこの班長さんみたいな請負契約の人もいる。

もちろんラインには高卒で本社直接採用され、ラインに並んでいる正社員もいる。
主に地元の工業高校や高専からの採用(地元縁故枠)である。
地縁があるせいか、待遇その他は、ファンタジー作家さんのような奴隷とは桁違い。
そんな正社員ライン工たちは、当然ながらこんな馬鹿げた集会には参加していない。
第一、会社に内緒で待合室を勝手に占拠している違法集会なのだから。

ファンタジー作家さんもまた戸惑っていた。
正直、今の生活は辛い。ファンタジー世界に現実逃避して、己を慰めなければ恐らく潰れてしまう。
ギリギリの生活と絶望的な将来を見据えながら、それでも今まで必死に搾取的労働に耐え忍んできたのだ。
薄給に耐え、過酷なノルマに耐え、正社員たちの侮蔑の視線にも耐え・・・。

・・・しばらくすると、熱心に語る班長さんの熱意に煽られたのか、賛同するものも出てきた。
そうだ、こんなにきつい仕事をしてるというのに、こんなに給料が少ないのは可笑しいよな、そう言いだすものもいた。

「ならば、これから労務部に行って組合に参加させてくれるよう、訴えてくるよ」
班長はそう言うと、にこやかに笑った・・・。

31 :創る名無しに見る名無し:2011/11/21(月) 19:17:20.01 ID:DOb/UijS.net
・・・数日後、班長はいなくなった。

一体どうしたのだろう?とファンタジー作家さんは思った。
ライン班長には、地元採用の正社員の工員がかわりになった。
絵に描いたようなDQNで、ライン工を前に威張り散らし、時折携帯いじってサボっている。
何でも地元の工業高校からの採用で、実家は建設会社でそこの三男坊との話だ。

「班長、契約切られたらしいよ」
隣にいたライン工の男が言った。ちょっとイノシシっぽい顔をした、オタク系の男だった。
年齢は三十になろうか、というところか?年齢の割りに髪がかなり薄くなっている。

「・・・・・・えっ?」
ファンタジー作家さんは、作業の手を止めないよう注意しながら返事をした。
班長が契約解除って、結局労組への参加がダメだったってことか?

すると、イノシシぽいオタク男が続けた。
「ライン工全員の労組への参加を訴えたんだけど、その労組自体に突っぱねられたらしい」
オタク男はつぶやくようにそう言うと、ベルトコンベアに流れてきた製品に、部品を器用に取り付けて戻した。

「突っぱねるって、どういうこと? 労組って労働者の権利を守ってくれるんじゃないの?」
ファンタジー作家さんは、聞き返した。
正直言えば、班長さんの話の大半は理解不能だったのだが、
班長さんの言うことをきいていれば、今よりも仕事が楽になったり、給料が増えるんじゃないかと少し期待していたのだ。

「まさか。会社の正社員の労組は、機械連合って労組の連合の一セクトで、正社員の権利しか守らないんだよ」
オタク男は言う。オタク男もファンタジー作家さんと同じく派遣のライン工だ。
ただファンタジー作家さんよりも一年くらいキャリアが長い。

「じゃあ、僕らみたな非正規雇用のライン工は・・・?」
「守ってくれるわけないじゃん。第一、ラインで同じ仕事してても、正社員のが手取り上なんだぜ?

オタク男が言うには、正社員の雇用条件は派遣工に比べて格段によい。
手取りもさることながら、様々な経費や補助、福利厚生に至るまで、派遣工には得られない待遇が保障されている。
同業種同賃金の原則、という言葉があるのだが、それは日本の派遣労働においては完全に無視されている。

会社からみると、実は正社員一人に掛かる固定費よりも派遣工一人に掛かる経費の方が多いというのだ。
ファンタジー作家さんは、それを意外に思った。正社員よりも多くの金が掛かっているのに、何で僕らのところに回らない?

「・・・そんなの決まってるじゃんか。その分、全部、人材派遣会社がハネてんだよ」
つまり俺たちは奴隷さ、とオタク男は嘯き、尚も作業を続ける。
驚きのあまり手を止めたファンタジー作家さんに、おい、手を動かせよ!と声を掛けた・・・。

32 :創る名無しに見る名無し:2011/11/21(月) 19:18:05.35 ID:DOb/UijS.net
・・・その数日後。
ファンタジー作家さんは、派遣切りで工場から出てゆくことになった。

「生産調整」という言葉は、まさしく最強の魔法であった。
その大手機械メーカーの工場に勤務する50名ほどの派遣労働者の仕事を、一瞬にして奪い去ったのだから。

当然、寮として斡旋されたレオパレス21の安アパートは、出てゆかねばならない。
その猶予期間はわずか・・・・・・3日。

次の仕事はあるのですか?と派遣会社の担当者に電話で尋ねる。
だが、担当者は「最近は不況でね」と冷たく言い放ち、「あればそのうち連絡する」と言って電話を切った。
おそらくその電話は、永遠にやってこないであろう。

ファンタジー作家さんは、安アパートの己の部屋を見た。

最低限の生活必需品のほかに、ファンタジー作家さんの大好きなファンタジー系ラノベやエロゲが転がっていた。
それは辛い現実社会を生きるファンタジー作家さんの、殆ど唯一と言ってよい慰め。

将来もなく、結婚どころか女性との出会いもなく、金も無い。
完全に行き詰まったファンタジー作家さんの、最後の慰め。

そして決して満たされることのない、悲しい慰め。
現実の自分を何も変えることのできない、ジャンクの集積のような、悲しい夢。

カラフルなアニメ絵で描かれた美少女が、そこでは微笑んでいた。
ファンタジー作家さんも、こうした作品を書きたいと望んでいた。

だが、それも、今や夢の残骸。


   妄 想 世 界 で の レ ベ ル が 上 が れ ば 上 が る ほ ど 、
 
      現 実 の 自 分 の レ ベ ル は ど ん ど ん 下 が っ て い く・・・ああっ!


虚しい現実の波が、ファンタジー作家さんを侵し、壊してゆく。
今回は「生産調整による派遣切り」という、巨波だったというだけだ。

床の上にうずくまり、ファンタジー作家さんは泣いた。
大切にしていた美少女フィギュアを、思い切り壁に投げつけた。

窓からは初冬の日差しが柔らかく差し込んでいた・・・。

33 :創る名無しに見る名無し:2011/11/21(月) 19:23:05.83 ID:DOb/UijS.net
ああ、ファンタジー作家さんよ!シェアワールド作家さんよ!
君たちは一体、何を目指しているのか!
君たちに救いは訪れるのだろうか?

虚像のアイドルや、虚構の美少女キャラは、決して君たちに微笑みかけてはくれないというのに!
偽りの笑顔で君たちを惑わせるだけの、ただの消費財でしかないというのに!

それでも君たちは、君たちは!
それでも君たちは仮構の世界を愛するというのか!

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34 :創る名無しに見る名無し:2011/11/21(月) 19:23:47.51 ID:SKHO3ZQa.net
>>28
乙!!

35 :創る名無しに見る名無し:2011/11/21(月) 19:35:52.63 ID:DOb/UijS.net
>>34
乙!!

36 :創る名無しに見る名無し:2011/11/21(月) 20:31:33.49 ID:DOb/UijS.net

 < 第五章 ファンタジー作家さまの崩壊 >


「・・・ああ、またも工場閉鎖なのか」
ファンタジー作家さまは求人登録票を握り締めながらそう思った。
ロビーの隅にあるテレビで流れているニュース番組は、以下のニュースを報道していた。


 どんどん進む 「職場消失」の恐怖! パナソニックだけでなく、ここへきて工場の売却や閉鎖、海外脱出が相次。
 http://news.infoseek.co.jp/article/24gendainet000157422/


実に1000人規模のリストラ、とその記事にはある。
もはや国内の雇用市場は溶けている、と言ってもよい。

現在の雇用溶解の主因は急速な円高によるものではあるが、
そうでなくても、やはり企業の海外脱出という傾向は変わらなかったであろう。

受付は長蛇の列で、ファンタジー作家さんの順番は当分回ってこないだろう。
すでにファンタジー作家さんは疲れ切っていた。

今日はおそらく仕事はない、そう思ったファンタジー作家さんは、とりあえずロビーの長椅子に座った。
椅子の上には新聞があり、最近新聞を買う金すら惜しんでいたファンタジー作家さんは、何気にそれを手にとった。

最初に目に入った記事は、以下のようなものであった。


 非正社員の割合は38.7%と過去最高(昨年10月時点)

 >厚生労働省が29日発表した「就業形態の多様化に関する総合実態調査」(2010年10月時点)によると、
 >全労働者のうちパートタイムや契約社員など非正社員の割合は38.7%となり、過去最高を更新した。
 >企業の人件費抑制が背景にあり、07年の前回調査(37.8%)から0.9ポイント上昇。
 >厚労省は「景気の影響で非正社員の比率上昇はしばらく続くのではないか」とみている。
 >http://www.jiji.com/jc/c?g=eco_30&k=2011082900662


「・・・・・・。」
確かに最近は、この非正規雇用の口すらおぼつかなくなっている。
円高のせいで輸出産業や製造業全般が低迷し、製造業派遣の口が急減しているのだ。

事に地方の衰退は激しく、所得の低いサービス業や介護などがやっと。
しかも自治体から補助金受け取りながら細々と雇用を支えている現状というありさま。

資格無し、技能無し、学歴無し、職歴はほぼ非正規派遣・・・
唯一といっていい能力は、アニメやラノベやマンガで培った異世界ファンタジーの知識。
正直、この過酷な現実社会の中では、全く役に立ちそうも無い。

既に絶望はファンタジー作家さんの精神を崩し始めていた。
かつてあれほど甘美で魅力的だった、ファンタジー作家さんの妄想世界が、何故か色あせて見える。

つい最近、役所に申請した生活保護は却下された。
寮を追い出されて以来、住所自体がないのだから、当たり前といえば当たり前だ・・・。

37 :創る名無しに見る名無し:2011/11/21(月) 20:32:19.63 ID:DOb/UijS.net
・・・受付では、自分と同じような風体の男が、担当者に怒鳴りつけていた。
「何で無いんだよ! お前ふざけんなよ! もう今月金ねえんだよ!」
担当者は顔を顰め、丁寧な口調でその男を宥めている。
男は手にした求人票と履歴書を、担当者の男の顔めがけて投げつけた。
それらは担当者の胸の辺りに当たり、そのままカウンターの上にハラリと落ちる。

列の後ろの方から、おい、仕事無いんなら早くどけよ!後ろつかえてるんだよ!と、イラついた声が次々と上がる。
その声は返って男の気持ちをかき乱したらしく、ロビー全体に響き渡る声で怒鳴り散らし始めた。
担当者が押し留めようとすると、男は担当者のネクタイを掴み、「仕事ちゃんと紹介しろよ!」と叫ぶ。

すると入り口当たりに立っていた制服姿の警備員が駆けつけ、男を担当者から引き剥がす。
男は尚も抵抗し、喚き散らしながら「ふざけんな! 離せ、クソッ!」と暴れる。
暴れる男を取り押さえようとする警備員。職員の何人かがそれに加担し、男を押さえつける。
男はそのままロビーから外へと連れ出された。

そして、男が連れ出されて一分も経たないというのに、ロビーは再び落ち着きを取り戻した。
あれほどの騒ぎだったというのに、職員はネクタイを直して再び席に座り、次の求職者の対応を始める。
列に並んでいる人たちも、特に何事も無かったかのように、静かに順番を待っている。

それはまるで、機械仕掛けのように思えた。

諦観に満ちた整然さが、一つ一つ効率的に事務的に処理されてゆく。
その一連の所作の中に、ファンタジックな要素が入り込む余地など一切なかった。
それほど、現実は確かな存在であり、揺らぎも隙も無かった。
ましてやファンタジー作家さんのような、中二病的ファンタジー妄想など、入り込む余地などあるわけが無かった・・・。

ファンタジー作家さんは、思わず想像した。

今、ここに巨大なドラゴンか何かが現れ、灼熱の炎を吐きながら、この街を破壊してくれないだろうか?と。
別に宇宙人でも構わない、いや、世界が崩壊し、暗黒世界から何か魔物たちが復活してくれても構わない。
とにかく何でもよいから、今、目の前にあるこの現実を吹き飛ばしてくれないだろうか?と。

そう思いながら、ファンタジー作家さんはしばらく当たりを見つめていた。

だが、目の前の光景は、何も揺らがなかった。
事務的に、手際よく、淡々と全てが処理されてゆく。

その流れに乗れなかったものは、事務的に、手際よく、淡々と捨てられるのだ。
今の、ファンタジー作家さんのように・・・。


   妄 想 世 界 で の レ ベ ル が 上 が れ ば 上 が る ほ ど 、
 
      現 実 の 自 分 の レ ベ ル は ど ん ど ん 下 が っ て い く・・・ああっ!


・・・まもなく、日が沈む。

38 :創る名無しに見る名無し:2011/11/21(月) 20:37:29.84 ID:DOb/UijS.net

            %ヘ、
           ≦/::::::\
           ≦/:::::::::::::ヽ__
          ≦/::::::::::::::::::\ ̄ ` >-‐''"´ ̄!≧
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       / / ̄`       - 、ヽ:::::::::::::::::::〉≧
      ./ /    ,r   ,r   ヽ`ヾ 、:::::::::::::!≧',
     / /    /   /`ヽ   `、 `、\::::/≧. ヘ
     / /  /  .|.  , .|  `、  ト、_ヾ`゙''、〈  ヘ
    /./  |  ̄/!`''ト、|  ,.t‐'"7"\ ヽヽ \   ハ
    /./   |  / |_/| .|   | /_  \! \ `、! |
   //.   |  r====x、|   ,,r=====ゥ| /'\ヽ、.|
  ∠.|  | i! .《 |!::::i|レ    |!::::::::::i|. ‖! /、.  ト、ヽ
    .|  ii ll lヾ、!::’:|     l!::::’:‖././/9 !  ,' .\ヽ
    .|  ∧ |.! ! !弋;;ノ     弋;;,ノ "./〆./  /  .| \ヽ
    .|  | .! ! ト、| |    `       //,ノ'!  /  |  ヾ 、
    ! .! .!.l |  ヽ、          /::::/ /  ,イ   ヽ、
    ∨l レ |. ....:::丶、  ´`   ,,r''´!:::::/ /:::   |    ヽ、
     ∨、  /  .....:::::::::`>-r'' ´   |::::/ ./:::::::   |     `、
     ヾヽ,/ ::::::::::::::::::::::,.r‐|     |>' /:::::::::::   .|      \
      \、:::::::::::,.-‐一'ハ'/    //'、_:::::::::::   |
      / ヽ、/    .|. \  _,ノ/' |  `丶、   |


39 :創る名無しに見る名無し:2011/11/21(月) 21:39:04.00 ID:DOb/UijS.net

 < 第六章 シェアワールド作家さまの・・・玉砕 >


「では、順番に名前と大学名をお願いします」
面接の担当官はそう言うと、椅子に座るリクルート学生たちの一番右に座っている青年を促した。

青年は椅子から立ち上がろうとした。
すると担当官は、「あ、座ったままでいいですよ」と言う。

青年はちょっと慌て、僅かに苦笑いを浮かべながら再び椅子に座った。
緊張した面持ちを浮かべているのが傍から見てても解る。
唾を呑み込んだらしく、せり出した喉仏が大きく上下に動いた。

「・・・名前は、現実太郎と申します。現在、私は現実大学法学部法律学科の三回生です」
青年はハキハキとした声で、そう話し始めた。
その声は朗々としており、この面接室全体に響き渡るようであった。

高校の教室くらいの広さのこの部屋には、現在、現実太郎君を含め、学生が五名ほどいた。
全員、横一列に並べられた折りたたみ椅子の全員座っている。
もちろんきちんとしたリクルートルックだ。

彼らの目の前には、企業の採用担当の面接官たちが並んでいる。
歳は若い・・・一次面接だからだろうか、一人40代らしき人を除けば、残りは学生とさほど変わらない若さだ。
おそらくは入社数年、といった若手なのだろう。

そんな中で、最初に自己紹介をすることとなった青年は、尚も朗々と話を続けている。

法学部では現在、会社法のゼミに所属しております。
卒論は、取締役の第三者に対する責任について、をテーマにしております。
学生時代はバトミントンをやってました。現在も大学のバトミントン部に所属しております。
高校時代は、バトミントンで個人で県大会ベスト4まで進んだことが、今の自分の自信につながっていると思います。
また、ボランティアサークルにも所属し、夏休みを利用して被災地での瓦礫撤去のボランティアに参加しました・・・。

40 :創る名無しに見る名無し:2011/11/21(月) 21:39:57.61 ID:DOb/UijS.net
・・・青年の話を脇で聞いていたシェアワールド作家さんは慄然とした。

あまりにもスペックが違いすぎる、そう思ったからだ。
自分は何を言おうか、と、シェアワールド作家さんは(貧弱な)脳味噌で必死に考え出す。

だが、出てくるのはツンデレ系の美少女戦士が水浴びしているシーンを思わず目にしてしまい、
そのツンデレ美少女に思い切りぶん殴られるという、何とも下らない妄想。

いやダメだ、もっとまともなことを。

だが、出てくるのは清純派の白魔法使いのお嬢様と添い寝をせざるを得なくなり、
朝、そのお嬢様キャラの目の前で朝立ちしているのを見つかってキャーと叫ばれ・・・

いやダメだ、もっとまともなことを。

だが、出てくるのは、遅刻しそうになって必死に走っていたら、交差点でボーイッシュな美少女とごっちん!
ひっくり返ったと同時に、そのボーイッシュな美少女のスカートの中が見え、そこにはクマさんのパンティー・・・

いやダメだ、もっとまともなことを。

同級生の眉目秀麗な美少女は実は魔法使いであり、この学園に巣食う魔物を退治するために送りこまれ、
たまたま彼女の着替えのシーンをみて体に刻まれた紋章でそのことを知った自分は彼女と一緒にバトルに巻き込まれ・・・

いや、ダメだ、もっとまともなことを。
いや、ダメだ、もっとまともなことを。
いや、ダメだ、もっとまともなことを。
いや、ダメだ、もっとまともなことを・・・・・・。

41 :創る名無しに見る名無し:2011/11/21(月) 21:41:48.93 ID:DOb/UijS.net
・・・面接はどんどん続いていた。

我らが主人公、シェアワールド作家さまは、一番最後。
シェアワールド作家さまが馬鹿げた妄想の興じている間に、面接はどんどん進んでいたらしく、今や四人目。
すなわちシェアワールド作家さまは、この次なのだ。

「・・・ではお名前からどうぞ」
面接官がそう言うと、その細身の青年は、よく通る低い声で話し始めた。

「名前はホー・グェン・サップと申します。ベトナム出身の留学生です」
と、とても流暢な日本語で話し始めた。殆ど訛りなしの、キレイな日本語。

「日本語が大変流暢で驚きました。日本に来られてどれくらいになりますか?」
「はい、今年で三年目です。日本語は母国の高校時代にも第二外国語として専攻してましたので、得意な方だと思います」

「話せるのは日本語だけですか?」
「いえ、母国語と日本語のほか、フランス語はわかります。なお、TOEFLは910点でした」

「凄いですね。」
「ありがとうございます」

・・・シェアワールド作家さまは恐怖を覚えた。

自分の脇にいる、この賢そうなベトナム人留学生は、自分なんかとは比べ物にならないスペックの持ち主。
確かに秀でた額や鋭い眼光は、とても賢そうに見える・・・ってほんの数年でこんなに日本語話せるって!

ベトナム人青年は更に続けた。
「・・・私は、東京大学工学部を一昨年卒業し、現在は東京大学大学院工学研究科修士課程二年に在籍しております」

・・・東京大学?それはあの東京大学のこと?
と、シェアワールド作家さんは眩暈がした。

「東大生の方が、なぜ大手ではないわが社にわざわざ?」
と、面接官が苦笑いしながら尋ねる。すると、

「御社の製造部門の工場が、実は私の故郷にもあります。小さい頃から私は、その工場を見ながら育ちました」

ベトナム人青年によると、市場開放以降、外資が次々とベトナムに拠点を構えるようになったという。
それは大企業だけではなく、今、シェアワールド作家さんが入社試験を受けてる中小の製造業でも例外ではなく、
青年の故郷には、規模が小さいながらも、この会社の工場が建設され、近隣の村落に雇用をもたらしたという。

「叔父がその工場で働いていました」
ベトナム人青年はそう話、少し照れるように笑った。

すると、今まで押し黙っていた唯一40代というベテラン社員の面接官が前に乗り出して話し始めた。
「ベトナム工場のことを知っていたとは意外だよ。あそこはわが社にとっては東南アジアにおける生産拠点だからね」

「はい、叔父はそのことを自慢げに話しておりました。残念ながら三年ほど前に病気で他界しましたが」
少し目を落とす青年。一瞬だが、理知的な彼の中に、悲しみの感情が現れた。

42 :創る名無しに見る名無し:2011/11/21(月) 21:42:33.71 ID:DOb/UijS.net
「ただもちろん、御社に入社したいと思ったのは、近所に工場があったからという理由だけではありません」
青年はしっかりとした口調で話しを続ける。

今後、急成長を続ける東南アジアおよび南アジアの市場を視野にいれ、
主に電子部品や精密機械工作機器の製造ノウハウを持つこの会社の事業展開に関わりたい。
現在も既にインドシナ半島は、世界の工場としての地位を獲得しつつあるが、
今後はこうしたハイテク産業の生産拠点として発展を続ける見込みが高いはずです。
なお、会社においては幅広い事業を展開するより、現在における主要事業の一つである精密加工技術をメインに据え、
さらにそれに関連したソフトウェア開発に特化すべきだと考えております・・・。

ベトナム人留学生の青年は、このように次々と話を進めてゆく。

それはシェアワールド作家さんにとっては、もはや呪文同然だった。
HPはさほど減らないものの、精神的ダメージはもう計り知れないほどの、強烈な呪文・・・。


  外国人留学生参戦で「新卒採用戦線異状あり」 〜東商の合同企業説明会より。
  > 東商は28日、外国人留学生向けの合同企業説明会を東京都内で開いた。
  > 日本で就職を希望するアジア各国の留学生約450人に対し、
  > メーカー、専門商社、情報企業など21社がPRした。
  > 中国、ベトナムなど19カ国・地域から来た学生たちは9割が日本の大学や大学院を修了見込みの高学歴で、
  > リクルートルックに身を包み流暢(りゅうちょう)な日本語を話す。
  > 説明会で提示された待遇はほとんどが日本人新卒と同待遇。
  > 「グローバル化時代の採用は国籍にこだわらない」「真面目な留学生は即戦力」
  > 「日本人の新卒を育てるより効率的」と会社側も採用に積極的だ。
  > 中堅・中小企業の新卒採用戦線は外国人留学生も加わって熾烈さを増している。
  http://sankei.jp.msn.com/economy/news/111028/biz11102819110030-n1.htm


ああっ!


「・・・では、最後の方、自己紹介をお願いします」

「はい、私の名前は、シェアワールド作家さま、です・・・」
シェアワールド作家さまの声に、力は無かった。目もうつろ、態度もどこか挙動不審。

・・・私は現在、・・・Fラン大学の社会科学部・・・文化創生コミュニケーション学科というところにいます。
あの、その・・・えっと三年生です。あ、一浪しましたけど・・・えっと。
その、専攻は、その、この間はどこかの部族の文化と比較するとかいうレポートを出して・・・その。

趣味は、その・・・えっと、ライトノベルを読むことです。
今のライトノベルは、もう文学と言ってもいいくらいに、凄くおもしろい本です。
それと、エロゲ・・・じゃなくて恋愛シュミレーションゲームで・・・その。
あと、スポーツは、中学校時代に卓球部にいましたが・・・。

・・・この後の記憶は、全く残っていない。


   妄 想 世 界 で の レ ベ ル が 上 が れ ば 上 が る ほ ど 、
 
      現 実 の 自 分 の レ ベ ル は ど ん ど ん 下 が っ て い く・・・ああっ!


・・・二次面接へ来てください、という連絡は、ついに無かった・・・当然だけど。

43 :創る名無しに見る名無し:2011/11/21(月) 22:40:40.69 ID:SMVTvWA3.net
>>28
乙です!

44 :創る名無しに見る名無し:2011/11/21(月) 23:17:11.55 ID:0t0UNdfA.net
この子誰だったっけな

45 :創る名無しに見る名無し:2011/11/22(火) 02:03:04.21 ID:JhQ60tcQ.net
北条院さんではないかなと思う

46 :創る名無しに見る名無し:2011/11/22(火) 02:55:42.04 ID:iLdiUFj/.net
>> ID:DOb/UijS
オタクは意外と公務員とかやってる堅実な人間が多いよ
オタクやってる人間は金を結構使うから無職だと無理

あとかなり面白かった
ここの住人はこういうのを無視すると思うけど

47 :創る名無しに見る名無し:2011/11/22(火) 22:04:02.37 ID:rgHBh/9W.net
>>45
さんくす

48 :創る名無しに見る名無し:2011/11/23(水) 16:34:42.18 ID:qZ0JercZ.net
>>30
個人の請負契約のが派遣よりやばいんだよ
福利厚生も労災もないからな
偽装請負でggr

49 :創る名無しに見る名無し:2011/11/24(木) 15:46:17.98 ID:lb220tpo.net

            %ヘ、
           ≦/::::::\
           ≦/:::::::::::::ヽ__
          ≦/::::::::::::::::::\ ̄ ` >-‐''"´ ̄!≧
          ,r''"~ ̄`゙''ー-、/ ̄`〉´::::::::::::::::::::/≧
        /         ヽ、,ノ::::::::::::::::::::::/≧
       / / ̄`       - 、ヽ:::::::::::::::::::〉≧
      ./ /    ,r   ,r   ヽ`ヾ 、:::::::::::::!≧',
     / /    /   /`ヽ   `、 `、\::::/≧. ヘ
     / /  /  .|.  , .|  `、  ト、_ヾ`゙''、〈  ヘ
    /./  |  ̄/!`''ト、|  ,.t‐'"7"\ ヽヽ \   ハ
    /./   |  / |_/| .|   | /_  \! \ `、! |   < 残念、天草五姫よ
   //.   |  r====x、|   ,,r=====ゥ| /'\ヽ、.|
  ∠.|  | i! .《 |!::::i|レ    |!::::::::::i|. ‖! /、.  ト、ヽ
    .|  ii ll lヾ、!::’:|     l!::::’:‖././/9 !  ,' .\ヽ
    .|  ∧ |.! ! !弋;;ノ     弋;;,ノ "./〆./  /  .| \ヽ
    .|  | .! ! ト、| |    `       //,ノ'!  /  |  ヾ 、
    ! .! .!.l |  ヽ、          /::::/ /  ,イ   ヽ、
    ∨l レ |. ....:::丶、  ´`   ,,r''´!:::::/ /:::   |    ヽ、
     ∨、  /  .....:::::::::`>-r'' ´   |::::/ ./:::::::   |     `、
     ヾヽ,/ ::::::::::::::::::::::,.r‐|     |>' /:::::::::::   .|      \
      \、:::::::::::,.-‐一'ハ'/    //'、_:::::::::::   |
      / ヽ、/    .|. \  _,ノ/' |  `丶、   |

50 : ◆JDhsVOOkg6 :2011/11/24(木) 15:47:40.04 ID:lb220tpo.net
 r-、,___.,,r-‐-、_,.-‐一《        |.〕
 \〉\       `ヽ| ,.-‐''"´ ̄ ̄`゙''ー、|ノ
  `ゝ-ヽ       _,r''"           \
    `ν、     ./            、 ̄`゙''-、
    /ヽ>-、____/         ,     \ -、 .ヽ
   ./   `ヽ-,/       ,  / r   ヽ. ヽ \ ヽ
   |      ‖    / / ./  |     ',.  i  `、 ',
.   ',     ,'   ,r'  ‖ ‖  〉、   ,r-|‐‐|-、.  ', !
   ヽ.    | ., /   十‐‐!‐‐/‐ヽ  ' ., .|ヽ.|   .!/
    ヽ ,  | .| |.   ', /! ./   !  /,,ィ==rx   .i!
     〉.!  ', ! !.   ,,ィ=====x、 ! /'' J:iii:i|┃ ‖
    / ∧.  ', ', ',   ┃ .づiiii!:!| //  |l::lll:i|┃ / ヽ、
    ', l  ', ∧ 、 、   ゞ .|l::lllll::!|"   .辷!ク‖〈.   ',
     `'' ,ノ /  \ ヽ  !. 弋ェェク       .|  ヽ  /
       ( (    \!  !        ’   ,ノ、  ヽ'  < 北条院はこっち
       ヽ)    ‖   ',、    -- ‐  /  )   )
        "    /   ./ `r.、     ./  /  /
            |   / ,,.rl  `  ̄ト、  (  .r'´
.            ',  .(,,ィ" ,ノ     ',! ヽ、 `ヽ)
             >-ゝ| ヽ.      ) ヽ\
          .,.-''"    \\    /  |  \

51 : ◆JDhsVOOkg6 :2011/11/24(木) 15:48:29.98 ID:lb220tpo.net

             ._,.-‐―ー‐--、__
         _,.-‐''"´.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.`ヽ--、
       ,r''".:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.丶、\
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   ‖.::/      /゙''===/>t.--< ,,/.:.:.:.:./、`゙''、==''".:.:.',
   ‖/      〈.:.:.:.:.:.:.:!r''/|   ./,イ.:.:./ /ー-',.:.:.:.:.:.:.:.|
  ./''        〉.:.,r''´i / |_,.-'',.-''‖'´ ./    `ヽ.:.:.:.ヽ、
           /.:/ //!'~`ヽ/  /  ,ノ       ヽ、.:.:.:.|
           ヾ!‖| //>''"´  /.-''" !        \.:.:\

52 :創る名無しに見る名無し:2011/11/24(木) 18:32:03.02 ID:xMpzYEBd.net
>>49
天草だったかw
間違えたよ悔しい

53 :創る名無しに見る名無し:2011/11/24(木) 18:37:11.63 ID:h2zsnqJS.net
>>49-51
乙!!!
素晴らしい!もっとやれ!


 < 第六章 シェアワールド作家さまの・・・素敵な月曜日 >

 >・・"平均年収800万" 市職員、することないので勤務時間中に楽しく野球…神戸市・環境局
 >
 > 神戸市環境局北事務所(神戸市北区)のごみ収集担当職員らが勤務時間中、
 >事務所敷地内でキャッチボールやノックをしていたことがわかった。
 >
 > ※以下はスクープしたMBSの報道特集より。
 >   ・3mのフェンスで中が見えない駐車場で野球。
 >   ・現場を知る男性「朝のゴミ収集が終わると終業まですることがないので、時間潰し」。
 >   ・午後2時ごろから4時頃まで、ゴルフの素振り、サッカーのリフティング、
 >    ノックしてのフライキャッチ練習、ピッチング練習などで楽しむ職員たちの姿。
 >   ・4時半すぎに職員たちは車に乗り門の前に待ち構える。4時45分の終業チャイムと同時に発車、帰宅。
 >
 > ※神戸市職員の平均年収は800万円。
 >
 >http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20111122-OYT1T01238.htm


「・・・やっぱ公務員最高だよな」
妄想ファンタジーという現実逃避ワールドをひた走るFラン大学生ことシェアワールド作家さまは、溜め息をついた。
平均月収800万円、なんと素晴らしい響きではないか。

何でも、ヲタをやっている人間は堅実な人間が多いらしい(※>>46さんの情報より)。
公務員とかしっかりとした仕事を持ってる人じゃないと、何だかんだで散財しがちなヲタを続けるのは難しい、とのこと。

ならば、と、シェアワールド作家さんは思った。

自分も公務員を目指せばよいではないか。
もうあんなきつい就活なんぞせずに、公務員試験を受けて自治体の職員になってしまえば・・・

「・・・年収800万円で、休み時間とり放題かあ。その間妄想ワールドで萌えとハーレムでファンタジーできるな」
パンツ見えそうなミニスカートを履いたアニメ絵の美少女が描かれたラノベの表紙絵を見つめながら、そうつぶやく。

確かにヲタ道は金が掛かる。

自分の作り上げた妄想世界・・・その現実逃避の揺り籠により都合の良いリアリティを与えるためには、
様々なアニメやマンガの伝奇モノや軍事モノや劣化ファンタジーから設定やネタをパクら無ければならないのだ。

ありもしない魔法や空想科学技術の設定を、とにかく無駄に細かく作り上げてゆく。
そのためにファンタジー系RPGやそのメディアミックス版のコミックやラノベ当たりを蒐集したり。
とりあえず美少女キャラとファンタジックな魔物相手に軍事モノをやってみるのもいいかな、なんて思ったり。
そんでエクソシズムや悪魔祓い、魔物退治みたいな異形の怪物を描きこむためには、やはり伝奇モノか。

んじゃとりあえず京極夏彦の本を数冊読んでみたり、でもやっぱり萌えとハーレム必要だよな、とラノベに戻ったり、
猫耳の萌えキャラと旅に出る妄想や、学園の中に魔物が現れて美少女と共闘して退治してみたり、
そんなこんなで就職活動のための会社研究やらず、採用試験のガイダンスの申し込みメールなんかもほっぽりだし、
まあどうせ出したところで「既に定員に達しております」なんて返事が来ることはわかりきってるわけだし、
大学の同級生(殆ど友達なんかいないんだけど)たちは、みんな就活に齷齪する最中にも、
シェアワールド作家さんだけ余裕ぶっこいて妄想世界で萌えキャラとハーレムパーティー組んで異形魔物退治・・・。

・・・てな具合で、ヲタはお金と時間が必要なのだ。
凄く勉強になった、ありがとう!とシェアワールド作家さまは、神こと>>46と上記のニュースに深く感謝した。


54 :創る名無しに見る名無し:2011/11/24(木) 18:38:46.98 ID:h2zsnqJS.net
・・・さてさて、都合のよい美少女キャラたちと異世界で冒険を繰り広げるために、
公務員を目指すことを決めたシェアワールド作家さま。
とりあえず公務員になるためには何をしたらいいのか、を調べなきゃならない。

でもそれは、就活という現実を直視しなきゃいけないわけで。
ひたすら現実から逃げまくっていたシェアワールド作家さまには、こんな簡単な作業すら苦痛だった・・・。


・・・さて、数時間ほどエロゲの世界に没頭して、デジタル情報でしかない美少女にうっとりしたシェアワールド作家さま。
ようやく重過ぎる腰を上げて、地方公務員の試験情報を探し始めた。


 >「教養試験」 
 > [必須:25問くらい]
 >   文章理解、英文理解、判断推理、数的処理、資料解釈、空間概念
 >
 > [選択:20問中から15問程度の選択。解るのをやればよい]
 >    ・人文科学(化学・生物・物理・地学)
 >    ・自然科学(日本史・世界史・地理・思想・芸術)
 >    ・社会科学、社会事情、社会政策
 >
 >「専門試験」 
 > [選択:50問中から40問程度の選択。これも解る問題優先で]
 >     ・憲法、行政法、民法、労働法
 >     ・経済原論(ミクロ・マクロ)、経済政策、経済史
 >     ・財政学、政治学、行政学、社会学、経営学、国際関係
 >      場合によって、会計学、刑法、商法 等々
 >
 >これらは5択のマークシートで、最低7割。安全圏なら8割くらい。6割だと厳しい。
 >それに加えて「教養論文」、場合によって「専門記述」

55 :創る名無しに見る名無し:2011/11/24(木) 18:39:36.41 ID:h2zsnqJS.net
「・・・・・・。」
眩暈がした。

シェアワールド作家さまのご専攻なされてる文化創生コミュニケーションなんとか、なんて科目などどこにもない。
つか、その文化創造ディスコミュニケーションうんぬんという己の専攻分野だって、一体なんのことかわからない。
実はこんなのFラン大学が馬鹿学生相手に資金集めのために無理やり作った学部でしかないのだが、そんなことはわからない。
とらいえず大卒って学歴はやるが、学費はたんまりいただくし、卒業後の進路はまあがんばってね、ってやつね。

その金だけ吸い取られて何ら教養も身につかない四年間を、見事に無駄に浪費してみせたシェアワールド作家さま。
今更地方公務員なんて目指すとかほざいても、正直遅いって。
県庁や政令指定都市、県庁所在地の地方上級なんて、地方旧帝や早慶レベルUターン組の人間と争うことになるんだぜ?
大学生活の殆どを妄想世界に浸りきり、脳味噌が茹で上がっちゃったシェアワールド作家さまに勝ち目なんかねーよ。

教養試験出題例[一般知識(1) 社会科学・人文科学]
http://www.tokyo-ac.co.jp/koumuin/kc-kyoyoEX2.html
教養試験出題例[一般知識(2) 自然科学]
http://www.tokyo-ac.co.jp/koumuin/kc-kyoyoEX3.html
教養試験出題例[一般知能]
http://www.tokyo-ac.co.jp/koumuin/kc-kyoyoEX1.html
地方上級公務員試験の出題内訳
http://www.tokyo-ac.co.jp/koumuin/kc-gaiyo1_pattern1.htm

シェアワールド作家さんはだんだん気持ち悪くなってきた。
眩暈だけではなく、吐き気と頭痛が激しくなってゆく。

何か嫌な汗が額に滲んできている。こんなの嫌だ!こんなつらい現実なんてみたくない!と本能が訴えいている。
でも、妄想美少女たちと異世界ファンタジー世界を冒険するためには、こういう堅い仕事やらなくちゃ・・・
他にも中級職や初級職ってのもあるらしい。短大や高校卒業者を対象としているらしいけど。
もうそんなの関係ないよ、何でも良いから公務員に食い込めば楽な仕事で年収800万で、
そのお金でマンガとアニメDVDとラノベ全巻大人買いとエロゲ没頭の時間と、それから、それから!

地方初級公務員試験 年齢制限 17歳〜20歳
http://www.tokyo-ac.co.jp/koumuin/k3-nenrei-pref.html

ああっ!
・・・。

・・・気付いたら、シェアワールド作家さんは、青年誌のグラビア(最近はAKBばかり)でオナニーをしていた。
高ぶる不安と恐怖を紛らわせるために、二次元ではなく三次元の女にトライすることにしたのだ。

猫耳美少女でもない、現実の女。
きわどいビギニを身にまとい、こちらにアンニュイな表情を向けてたたずんでいるアイドル。

たまには三次元の女もいいよな。
そう思いながら、シェアワールド作家さまは射精した・・・。

56 :創る名無しに見る名無し:2011/11/24(木) 18:40:16.97 ID:h2zsnqJS.net
>>52
バーカ
間違えてやんのwww
出直してこいやクズwww

57 :創る名無しに見る名無し:2011/11/24(木) 18:41:49.46 ID:h2zsnqJS.net
http://pype.org/thumbnail/1290753937/1290753937-35-5.jpg
ちなみに>>52の顔はこれです
男前ですね

58 :あぼーん:あぼーん.net
あぼーん

59 :あぼーん:あぼーん.net
あぼーん

60 :あぼーん:あぼーん.net
あぼーん

61 :あぼーん:あぼーん.net
あぼーん

62 :創る名無しに見る名無し:2011/11/25(金) 15:42:58.63 ID:9H3kDu10.net
>>59
確かにそういう萌えキャラはみんなオタのための娼婦だよ
オタはコミュ障で複雑で大人な女性を相手にできないので自分に害の及ばないロリ幼女や萌えキャラに逃げるんだ
オタは実社会に向き合えないので空想や妄想の世界でそんな萌えキャラたちと戯れるんだ
みんなそういうのはわかってるんだよ
わかっててどうしようもないんだよ
でもこうした萌えキャラがオタたちのリビドーを受け入れて処理しているのも事実だよ
彼女たちはそのために生まれて消費される消費財なんだ
そういう意味でそのAAの萌えキャラの女の子は立派に娼婦としての役割を果たしているんだ
誰にも迷惑はかけていないんだよ
犯罪ではないんだよ
現実に存在しないからね
それに彼女たちはそれなりに愛されてるんだよ
空想や妄想だからといって何から何まで悪いわけじゃないわけ
たしかに空想にはまるのは一種のオナニーだけどオナニーは全部悪いわけじゃないだろ

63 :あぼーん:あぼーん.net
あぼーん

64 :あぼーん:あぼーん.net
あぼーん

65 :創る名無しに見る名無し:2011/11/26(土) 17:20:34.15 ID:h+LVbYsR.net
「・・・か、かあさんに、何てことを言うんだ!」
父親が、ついに怒鳴った。
最近、老いが目立ち始めた父。髪に白いものが混じり始め、頬には確実に皺が刻まれている。
気苦労とストレスをぐっと耐え忍ぶことで、父は若さと精気を確実に奪われている。
その気苦労の要因の一つが、間違いなくシェアワールド作家さまこと自分自身なのだ。

父はシェアワールド作家さまを睨んでいる。だがその瞳は、怒りの色ではなく、悲哀が浮かんでいた。
何とか、この息子をちゃんと社会に送り出してやりたい、というそういう思い。

マンガやアニメやライトノベルに興じ、エロゲの萌えキャラとの虚構の恋にはまる馬鹿息子。
ヒマさえあれば妄想でしかないシェアワールドに逃げ込み、そこでありえない夢を見続けるダメ息子。
そんなどうしようもないFランの息子でも、息子は息子なのだ。

恐らく父の中の何かも、もはや限界に近いのだろう。
それは、シェアワールド作家さんもうすうす察しがついている。

だが、・・・だが。

シェアワールド作家さんには、その現実と向かい合う勇気はなかった。
非現実世界(シェアワールド)に逃げ込み、美少女たちと一緒に冒険して魔物と戦ったり、
ファンタジックな妄想世界の中で二次元娼婦たちとご都合主義のドラマに興じたり、
とにかく現実逃避のありとあらゆるジャンクを詰め込んだ甘き夢の世界に逃げ込み、
そこで己を徹底的にスポイルし続けてきたのだ。


   妄 想 世 界 で の レ ベ ル が 上 が れ ば 上 が る ほ ど 、
 
      現 実 の 自 分 の レ ベ ル は ど ん ど ん 下 が っ て い く・・・ああっ!


もはや、目の前の小さな現実を受け入れるだけの強さは、シェアワールド作家さまに残っていなかった・・・。

・・・気付くとシェアワールド作家さまは、母親を足蹴にしていた。

年老いた母親の体は、とても小さく弱々しい。
かつて自分を抱きしめてくれた母親の、そのやわらかい肉は、既にしぼんできていた。
だが、シェアワールド作家さまは、母親に暴力を振るわずにはいられなかった。
もちろん何かを叫びながら、泣き喚きながら、振り上げた拳を母親に向かって振り下ろす。

母が自分に抵抗できないことを、ちゃんと悟った上で。
それをわかった上で母を打ち据えることが、途方も無い甘えであることを、シェアワールド作家さまは悟った。
だが、もう、どうすることもできなかった。妄想世界に逃げ込むことでスポイルされた自分に、強さは残ってなかった。
もはやシェアワールド作家さまは、泣き喚き甘えることでしか、己を支えられなくなっていた・・・。

・・・父が自分を押さえ込んでいる。

その父の、かつてより腕力を失ってしまった父の腕の中で、シェアワールド作家さまは喚き散らしていた。
「やめてくれ!もうやめてくれ!」
父は叫ぶ。すぐそばで叫んでいるにも関わらず、どこか遠くから響いてくるように聞こえた。
目の前で母は床に突っ伏していた。母の背中が震えているのが見えた。
その母の背中の小ささに、シェアワールド作家は慄然とした・・・。

66 :創る名無しに見る名無し:2011/11/26(土) 17:21:19.11 ID:h+LVbYsR.net
・・・ようやく、正気を取り戻した。
そして、今、自分がやってしまったことへの恐怖が、一気にシェアワールド作家さまの精神に襲い掛かる。
母は泣いていた。くぐもったようなか細い泣き声が、シェアワールド作家さまの耳に届いた。

「・・・わああーっ!」
一際大きな声で、シェアワールド作家さまは叫んだ。
それと同時に、自分を羽交い絞めにしようとしていた父を振りほどき、食卓から駆け出した・・・。


   ・・・ところでシェアワールド作家さま、貴方は一体どちらへ向かわれるのですか?

   目指すは・・・そう、決まってる。

   シ  ェ  ア  ワ  ー  ル  ド

   全てが都合よく作られた妄想世界の中に、再び逃げ込むのだ。
   辛き現実から目を逸らし、甘き夢だけが虚しく漂う、あの虚構の世界。

   シェアワールド作家さまと同じような人間たちだけが集う、現実逃避者たちのパラダイス。
   ネットという仮想空間のみでつながった逃避者たちの、切なく儚い集い。

   そこには、卑小な自分を決して傷つけない都合のよい虚構が待っている。
   そこには、卑小な自分を脅かさない都合のよい冒険が待っている。
   そこには、卑小な自分を決して裏切らない、二次元の美少女たちが・・・待っているのだ。


┏━━━━━━━━━━━━━━━━
┃・二次元キャラ達はお前に微笑んではくれない。
┃・二次元キャラ達はお前に語りかけたりはしない。               ほらね!
┃・二次元キャラ達には温もりが無い。                        こうやって誤魔化せばいいのよ!
┃・二次元キャラ達はいざというときにお前を助けてもくれない。
┃・でもそれってリアルの女も同じじゃね?                  -――- 、
┃  だったら二次元キャラでいいじゃね?               , ‐'´         \
┃                           人          /            、 ヽ
┃                          .<. 。>         |l l /〃 ヽ ヽ} |  l  ',
┃                      バシ!! 彡V \          ljハ トkハ  从斗j │ ハ
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━  彡 \         .l∧}ヾソ V ヾソ !  ! ヽ \
                                 \ __  __ リ.人  v‐┐ /" ト、  ヽ ヽ
                                   {心下ヽ /"  >ゝ-'<{   Vl   } }
                                   ゝ<}ノ \  (:::::Y Y:::::!   ヽヘ  { {
                                      7´ ̄ )   )::∨::__::ヽ   }::\ \丶、
     シェアワールドだって                   /  /  /ィ'´ヽ:::::::::ノ  /:::::::::ヽ ヽ `ヽ
        同じような誤魔化しなんだしw           ! ≦∠__ノ:::| /ハ::::/   ゝ、:::::::::`、 リ ノ
                                      |   .:.:::::::::::l  __ヾ\    ≧:::::::::'、ヽ {
                                     l_ .:.:::::::::/ >v'  l \::ヾ  ̄::::::::::::::::', }>

・・・二時間後、シェアワールド作家さまは、妄想ファンタジーの甘き夢を見ていた。

現実社会の時間は確実に流れてゆく。
だが、その確実に刻まれる時の流れは、シェアワールド作家さまの妄想には届かなかった・・・。

夜が更けてゆく。

67 :あぼーん:あぼーん.net
あぼーん

68 :あぼーん:あぼーん.net
あぼーん

69 :あぼーん:あぼーん.net
あぼーん

70 :創る名無しに見る名無し:2011/11/27(日) 04:21:00.50 ID:MQb4CuKx.net
「・・・か、かあさんに、何てことを言うんだ!」
父親が、ついに怒鳴った。
最近、老いが目立ち始めた父。髪に白いものが混じり始め、頬には確実に皺が刻まれている。
気苦労とストレスをぐっと耐え忍ぶことで、父は若さと精気を確実に奪われている。
その気苦労の要因の一つが、間違いなくID:h+LVbYsRこと自分自身なのだ。

父はID:h+LVbYsRを睨んでいる。だがその瞳は、怒りの色ではなく、悲哀が浮かんでいた。
何とか、この息子をちゃんと社会に送り出してやりたい、というそういう思い。

マンガやアニメやライトノベルに興じ、エロゲの萌えキャラとの虚構の恋にはまる馬鹿息子。
ヒマさえあれば妄想でしかないシェアワールドに逃げ込み、そこでありえない夢を見続けるダメ息子。
そんなどうしようもないFランの息子でも、息子は息子なのだ。

恐らく父の中の何かも、もはや限界に近いのだろう。
それは、ID:h+LVbYsRもうすうす察しがついている。

だが、・・・だが。

ID:h+LVbYsRには、その現実と向かい合う勇気はなかった。
非現実世界(シェアワールド)に逃げ込み、美少女たちと一緒に冒険して魔物と戦ったり、
ファンタジックな妄想世界の中で二次元娼婦たちとご都合主義のドラマに興じたり、
とにかく現実逃避のありとあらゆるジャンクを詰め込んだ甘き夢の世界に逃げ込み、
そこで己を徹底的にスポイルし続けてきたのだ。


   妄 想 世 界 で の レ ベ ル が 上 が れ ば 上 が る ほ ど 、
 
      現 実 の 自 分 の レ ベ ル は ど ん ど ん 下 が っ て い く・・・ああっ!


もはや、目の前の小さな現実を受け入れるだけの強さは、ID:h+LVbYsRに残っていなかった・・・。

・・・気付くとID:h+LVbYsRは、母親を足蹴にしていた。

年老いた母親の体は、とても小さく弱々しい。
かつて自分を抱きしめてくれた母親の、そのやわらかい肉は、既にしぼんできていた。
だが、ID:h+LVbYsRは、母親に暴力を振るわずにはいられなかった。
何かを叫びながら、泣き喚きながら、振り上げた拳を母親に向かって振り下ろす。

母が自分に抵抗できないことを、ちゃんと悟った上で。
それをわかった上で母を打ち据えることが、途方も無い甘えであることを、ID:h+LVbYsRは悟った。
だが、もう、どうすることもできなかった。妄想世界に逃げ込むことでスポイルされた自分に、強さは残ってなかった。
もはやID:h+LVbYsRは、泣き喚き甘えることでしか、己を支えられなくなっていた・・・。

・・・父が自分を押さえ込んでいる。

その父の、かつてより腕力を失ってしまった父の腕の中で、ID:h+LVbYsRは喚き散らしていた。
「やめてくれ!もうやめてくれ!」
父は叫ぶ。すぐそばで叫んでいるにも関わらず、どこか遠くから響いてくるように聞こえた。
目の前で母は床に突っ伏していた。母の背中が震えているのが見えた。
その母の背中の小ささに、ID:h+LVbYsRは慄然とした・・・。

71 :創る名無しに見る名無し:2011/11/27(日) 04:25:13.49 ID:MQb4CuKx.net
・・・ようやく、正気を取り戻した。
そして、今、自分がやってしまったことへの恐怖が、一気にID:h+LVbYsRの精神に襲い掛かる。
母は泣いていた。くぐもったようなか細い泣き声が、ID:h+LVbYsRの耳に届いた。

「・・・わああーっ!」
一際大きな声で、ID:h+LVbYsRは叫んだ。
それと同時に、自分を羽交い絞めにしようとしていた父を振りほどき、食卓から駆け出した・・・。


   ・・・ところでID:h+LVbYsR、貴方は一体どちらへ向かわれるのですか?

   目指すは・・・そう、決まってる。

   シ  ェ  ア  ワ  ー  ル  ド  ス  レ

夜が更けてゆく。



こいつの駄文、読みづらいわ

72 :創る名無しに見る名無し:2011/11/27(日) 05:54:49.08 ID:1vsfvxdB.net
>>69
主語を入れ替えてるだけだから、あまり上手くはないなぁ
むしろこいつに餌を与えただけだよ

こいつさ、ラノベやアニメやエロゲという言葉を使ってるけど、具体的な作品名が全然ない
おそらく知らないんだよ
そもそもこいつが書くオタのキャラ付けも、何かカリカチュアっぽい

たぶんオタを過剰に偏見してる一般人だろうな

73 :創る名無しに見る名無し:2011/11/27(日) 06:17:23.41 ID:p0/UL64D.net
>>71
そうだよな。
なんかさ、文章表現が気持ち悪い。
まともな小説書いても生理的に受けつけない気がする。

74 :創る名無しに見る名無し:2011/11/27(日) 19:37:36.83 ID:MQb4CuKx.net
>>68
おい、何か書けよ
亀レスすんなやカスが
ゴミカスが

75 :創る名無しに見る名無し:2011/11/28(月) 01:28:55.67 ID:1ohsDNUm.net
まあ、今の今までずっと荒らし認定して放置してたけど、こうなった以上言ってもいいよね。

お呼びじゃないって気付かなかったのかな。下らない劣悪な自己満足の垂れ流しはいつになったら終わるんだろうなってずっと思ってたんだよこっちは。

無論やっちゃいけないとは言ってない。ただ、やりたければ自分でスレ立ててそこで勝手にやってろって話。そうすれば誰も文句は言わないだろうから。

言いたいことはそれだけ。俺の言葉が理解できたのならさっさとここから出てってね。

76 :創る名無しに見る名無し:2011/11/28(月) 14:55:04.02 ID:6l1DeNhQ.net
たぶんそれVIPの住人

オタク叩きと称して方々で冷やかしに来てるだけ

気にすんな


77 :創る名無しに見る名無し:2011/12/05(月) 01:10:41.58 ID:nqzHiahn.net
てす

78 :創る名無しに見る名無し:2011/12/06(火) 15:40:22.63 ID:LELXYVIs.net
スレの展開ぶっ飛んでてワロタw

ファンタジーと就職活動とか、
魔法と地方公務員試験とか、
萌え美少女とハローワークとか、

絶対合わないもんなw

79 :創る名無しに見る名無し:2011/12/09(金) 15:34:19.62 ID:jzxpDLf8.net
図星だったってことだろ

80 :創る名無しに見る名無し:2011/12/10(土) 16:13:03.31 ID:rU2c1q39.net
>>78
むしろ斬新にみえるんだが

81 :創る名無しに見る名無し:2011/12/12(月) 16:10:40.65 ID:vUQ2PB34.net
>>78
就職活動するけど中々内定のとれないライトノベル作家志望
事務派遣で働いていたけど突然派遣切りにあって失業する自称魔法少女
ハロワに通いつめる三十を過ぎた軍事アクション小説家志望
製造業派遣で製造ラインで働くファンタジー小説家志望
フリーター生活から抜け出せない伝奇SF作家志望

何か凄く切ないよ(´・ω・`)

82 :創る名無しに見る名無し:2011/12/15(木) 04:13:16.59 ID:UcfzO5FX.net
>>79
確かに
ざっと流して読んだけど
この見事な消えっぷりを見ると
言っちゃ悪いが本当に図星だったんだと思う

>>81
思うんだけど
ラノベとかファンタジーは、そういう人たちの心の拠り所だったんだろうな
だから上のやつは下手な荒らしより全然タチが悪いわけ
そりゃ誰もいなくなるよ

83 :創る名無しに見る名無し:2011/12/18(日) 02:52:02.15 ID:IQDyPKLA.net
軍事アクションってフォーサイスとか?ラドラムとかスティーヴンハンターとか?
あれって取材力いるんで低学歴無理だよ。
それに伝奇小説もSF小説も教養が問われるジャンルだから低学歴無理。
ライトノベルというのは、そういうのをぬるくしたものだと思う。

84 :創る名無しに見る名無し:2011/12/18(日) 03:01:54.24 ID:IQDyPKLA.net
>>81
リンク忘れたわ。
それとファンタジーなんか徹底的にテンプレ化されてる。
ドラクエとかRPG見れば一目瞭然だと思う。
それでライトノベルというのは、こうした商業コピーを繰り返した果てに生まれたんだよ。
ラノベの場合、最初からメディアミックスを想定して作られてるからストーリーも設定もキャラ造形もテンプレ化の極みになってる。

85 :創る名無しに見る名無し:2011/12/18(日) 03:10:12.63 ID:IQDyPKLA.net
まあいいや。
何かどぎついのが投下されてるんでちょっと思っただけ。


86 :あぼーん:あぼーん.net
あぼーん

87 :創る名無しに見る名無し:2011/12/20(火) 16:55:07.54 ID:5/A4TJ9J.net
>>86
何だこれ?

88 :創る名無しに見る名無し:2011/12/21(水) 16:10:04.15 ID:E82Qy6SW.net
>>84
ライトノベルの例↓
上の>>5あたりから書かれてるのあるだろ
それと文体とか女の子が出てくるとことか、とにかく色々と似ている
今はこういうライトノベルのコピーや模造品が溢れ返ってるんだよ

81 名前: 名無しさん@恐縮です 投稿日: 2010/04/04(日) 20:08:28
 楓の中で怒りがフツフツとこみ上げる。
「あの娘を、沙姫を傷つけずに何とかしてやってくだせェ」
 翁が力なく言い終えた時。既に楓は刀を振りかぶっていた。
一瞬で五馬もあった賊達との距離を詰め、一番先頭の小柄な男の真上にいたのだ。投げ捨てられた楓の編み笠が陰鬱な空を縫うようにして舞っている。
「……来っ――」
 賊の最初の犠牲者、短い末期の声である。その声があがるのと同時に、投げ捨てた楓の笠は地面に軟着地した。
楓は冷静だった。いくつかの悲鳴があがった時には、既に賊の四人を斬り結び、それらは地に伏していた。
(残り十人……)
 すぐに七人が踵を返して逃走した。
(三人残ったか。烏合の集だな所詮は)
 まず一人目、屈強そうな大男が雄たけびを上げ、楓の左から大きな鉈で切り込んでくる。
(はじめて斬りかかって来たか)
楓は低い姿勢で一歩踏み込んで相手の間合いを殺し、そのまま相手の左脇を抜けて横に払った。
「遅い」
「ぐぅぅぉぉっ……!!」
 たしかな手ごたえが楓の体の芯まで伝わる。
(あと二人)
 楓の眼前の髭面はここまでの出来事に呆気に取られ、まだ準備が出来ていない様子だった。
楓は先程大男を払い抜いた刀を流れるようにして刃を返す。そして髭面のようやく踏み出した右のひざを突き刺した。
その後、刃はすぐに切っ先を地に伸ばし、這うような低さから斜めに跳ね上がる。そして髭面の丸太のように太い左腕の肘から先を切り飛ばしていた。
肉塊が宙に舞う。
それが鈍い音をたてて地面に転がると、髭面はそこに視線を落とした。己の腕がそこにある事を理解した時は、楓に首を刎ねられる直前だった。
「う、うぁ――」
「黙れ」
 痛みを知ることも、断末魔すらも許さなかった。
 さて、と楓は少し意気の上がった呼吸を整える。刀についた血を祓う。
最後に腹から、ふっ、と息を一つ吐き少女・沙姫を羽交い絞めにしている坊主の男と対面した。
楓は坊主の目から明らかな恐怖を感じとった。
少女を見ると首元に鎌を突きつけられ顔は紫色に硬直し、目には今にも零れ落ちそうな涙を浮かべて必死で堪えている。震えが止まらない様子だ。
「ふう……うぅぅ」
 掠れた少女の息が漏れる。目が合った。
楓は胸を矢で射られたように痛みを感じた。心の中で沙姫に呟く。
(すいませんお嬢様。人を斬るところを見せてしまった……だが、必ず助ける)
 多勢に手加減をする余裕を見せ不殺(ころさず)をやりきるまでの力量が自分にないのを知っていた。
(歯痒いな……)
 少女は心の傷を負ったかもしれない。楓に己への戒めが芽生えた。だが、同時に胆も据わった。
その思考、刹那。楓は沙姫に微笑んだ。
彼女がこれから先の人生、他人に見せられないような傷をつけられないように。この可憐な姿、無傷で助け出す。
 楓はじりじりっと坊主との間合いを詰める。絞めた調子ではっきりと発した。
「その娘を放せ」
 賊の反応はない。楓は続けた。
「そうすれば、斬ることはしない。少しでも傷をつけてみろ――」
 坊主の賊の眉がぴくりと動く。
「――冥府に送る」
 その言葉の矢は、楓に強い意思を込められて坊主に射られた。
 途端、坊主のどす黒い眼が右顧左眄(うこさべん)する。明らかに狼狽していた。

89 :創る名無しに見る名無し:2011/12/21(水) 16:12:17.49 ID:E82Qy6SW.net
>>86
意外と馬鹿にはできんよ
それを書いたのが高校生とかならかなり痛いけど
小学校高学年くらいならクリエイターの才能はある
デッサン力とかは経験と訓練でなんとかなるから

90 :創る名無しに見る名無し:2011/12/23(金) 03:38:27.37 ID:sRx1fGad.net
>>86
それはラノベというよりも少年漫画。

ラノベというのはもっとこういう感じ
http://img.f.hatena.ne.jp/images/fotolife/h/honokajimon/20081228/20081228190103.jpg
http://gamerssquare.otoshiana.com/shinkan1110.htm
http://gamerssquare.otoshiana.com/shinkan1111.htm

オタ知識を前提にした上で、SFやアクション、ファンタジーとかのネタを組み込んだ作品
戦闘する美少女なんかが出てきたらまずラノベとみてよい

91 :創る名無しに見る名無し:2011/12/23(金) 17:30:05.82 ID:TBX4lB/f.net
シェアワールド作家さまの話、結構面白かった。

Fラン大学生の就職難なんて、大戦争が終わって疲弊しきった
国の貧民街に産まれた子供が騎士になる夢を見るって感じかな。
戦争中なら夢をみたままあっさり戦死もできるけど、疲弊した社会
だと、夢を捨てながら生きていかなきゃならない。それは、死ぬほど
つらくて地道な生き方だから、自殺しちゃう奴もいるけど、大部分は
何とか折り合いをつけながら野たれるまで生きていく。

これはこれで、一つの世界といえるんじゃないかな。
希望の見えない世界での精神的危機を描くのもよし、そういった
世界に風穴をあけるようなヒーローを描いてもおもしろいかも。

92 :創る名無しに見る名無し:2011/12/24(土) 15:04:29.55 ID:jcku7KvG.net
>>91
上のシェアワールド作家さまとかの話は
ファンタジーの世界に現実逃避を続けてるおたくを揶揄してるだけでしょ
荒らし同然のあてつけで

たぶんこういう主人公の末路は
現実逃避を繰り返した挙句についに行き場をなくすんだと思う
風穴を開けるといっても多分アキバの加藤みたいになるんじゃないかな


>>90
眩暈がした

93 :創る名無しに見る名無し:2011/12/25(日) 16:54:13.46 ID:eqrS+609.net
>>53
地方だと公務員は勝ち組だぞ


94 :創る名無しに見る名無し:2011/12/25(日) 17:59:25.51 ID:EsGGXgrV.net
物語形式で露骨に邪揄するというう手の込んだ荒らしだけど
彼にはそうしなければならないほどのモチベーションがあったはず
それがなんなのか、初めてこのスレを見た自分にはわからない

95 :創る名無しに見る名無し:2011/12/25(日) 18:25:10.45 ID:EsGGXgrV.net
物語を現実逃避として消費するってのは実感を伴った理解だと思った。
そう考えると、自己嫌悪とか、自己投影とか、そんな向きもあったのかも知れない。
自分は『シェアードワールド作家さま』とは違う存在であるとするために
『シェアードワールド作家さま』を否定する。
『シェアードワールド作家さま』はかつての嫌いな自分だからだ。みたいな。
そんな中二病を否定する高二と同じような心理の動きを感じた。

今更書き込むようなことじゃないですねすみません。エンターが滑りました。

96 :創る名無しに見る名無し:2011/12/25(日) 18:54:58.75 ID:mLnzIi6f.net
ひとりぼっち

97 :創る名無しに見る名無し:2011/12/26(月) 01:45:19.06 ID:B9O9pX88.net
>>95
物語の消費やデータベースの消費という考え方は、最近の評論でよく語られる。
大塚英志や東浩紀あたりだったかな?
それにからんで気付いたんだけど、上の荒らしの書いた文章って結構パターン化されてるんだよな。
こいつも無自覚に物語構造というパターンを消費してるんだよ。
まずオタクが今の自分に危機感を覚えて何とかしようとする。
けど結局ダメで、再びファンタジーに現実逃避するというパターン。
これはこれで広い意味での物語論やデータベースの消費なんだと思う。
その上で君が言うところの中二病と高二の違いというのを考えると、こういうラノベ的なセンスをよしとするか否とするかの差じゃないかと思う。
http://img.f.hatena.ne.jp/images/fotolife/h/honokajimon/20081228/20081228190103.jpg


98 :創る名無しに見る名無し:2011/12/26(月) 20:06:39.28 ID:b0iuopPm.net
そもそもファンタジーって通常の小説と何が違うんだろうかとふと考えた。

俺が思うに、一般的な捉え方は世界の成り立ち(魔法や、人外の種族
の存在)が違うだけで、そこに生きる人の喜びや葛藤といった心理は現実
世界と同じという前提で、大抵のファンタジー作品ができてると思う。

価値観が基本的に現実と同じだから、魔法や神の力による、ご都合修正が
入っても、それは物語をより劇的にするための演出で、根本的には普通の
小説と伝えることは変わらない。

まったく価値観の異なるというか、価値観すらない世界ってのはどうなるんだろう?
数学の教科書みたいになるんだろうか。まったく感情移入できないから、
人間が読んでも面白く無いと思うが、そういう世界もあると思う。
ただ、それをネタに書こうと思っても思いつかない・・・

こんな駄文はともかく、ここらで誰か新規投稿が欲しいところだね。

99 :創る名無しに見る名無し:2011/12/27(火) 07:30:19.07 ID:UT4voPId.net
>>98
ファンタジーというジャンルはリアリズム文学に背を向けたジャンルなんだよ。
19世紀から20世紀当時の写実主義文学や自然主義文学は近代的自我や、そのあり方を描いてきたわけ。
だが社会は産業化され、資本主義が肥大し、第一次世界大戦など従来とは比較にならない規模の戦争が起きるようになった。
そうした近代という世界の中で、近代的自我の重みに耐えられなくなってきた人も出てきた。
このようにこの時代は、近代的自我というものに対する考え方を再考する必要性が出てきた。
その結果生まれたのが、例えばフロイトらの精神医学であり、ユングらの分析心理学であった。
また社会学という分野や、民俗学、宗教学というジャンルが飛躍したのもこの時期だった。
前者は、理性だけでは説明のつかない人間の本能的衝動を探求し、「無意識」という概念を見出すにいたる。
後者は、目の前で激しく動く社会を分析し、社会問題の根源を探求する試みであった。
これらはその後、構造主義みたいのにも連なってゆく。
一方で、こうした社会と批評的に向き合う態度を避け、純粋に娯楽や慰撫のために作られたのがファンタジーという文芸だった。

ファンタジーは、冒頭で言ったとおり当初は児童文学や大衆小説で花開いた。
オズの魔法使いや不思議な国のアリス、ピーターパンなどがそれにあたる。
近代という時代の到来によって消滅してしまった「昔話」や「おとぎ話」の代替物として、子供に与えられた空想世界の物語だ。
実は近代以前、子供はおとぎ話や昔話によって、生活基盤と密着した世界観やタブー、および成長の雛型を与えられていた。
だが近代でそれらの文化が否定されてしまい、その代替物としてビルドゥングスロマンや、こうした児童文学におけるファンタジーが与えられた。
またラブクラフトはこのあたりの時代の人間だ。クトゥルー神話というシェアワールドはこの時代に既に存在してた。
だが英雄コナンの話なども含め、このころのファンタジーは大衆向けの純然たる娯楽でしかなかった。

そしてファンタジーはトールキンやルイスらの登場によって様相が変わる。
彼らによって新たな神話やクロニクルの創設という世界観を作り出すファンタジーが出来上がった。
もともと言語学者であるトールキンは、完全に架空の宗教や言語を、学識を駆使して編み上げて、ロードオブザリングを作り上げる。
これはユングの心理分析やプロップの神話分析と同じく、後の構造主義の考え方の先駆となるメゾッドだったのだろう。
この神話の再創造という考え方は後にキャンベルを通じてハリウッドの正しく継承されることになる。
だがその後、ファンタジーのこうした手法はSF小説にお株を奪われる。
科学万能の時代と信じられていた頃だったので、おそらく科学技術を駆使した世界観の方がより魅力的に写ったのだろう。
アシモフのファウンデーションシリーズなどはSFを舞台に移しただけで、神話の再創造そのものだ。
こうして第二次世界大戦後はファンタジーは下火になる。

だが、60年代の政治の季節を終え、新左翼運動が敗れ去ったころに再び復活する。
政治運動は終息に向かい、それと入れ替わるように一気に大量消費社会が押し寄せてきた。
そうした現実の到来を前にして、サブカルチャーのジャンルでファンタジーが息を吹き返す。
例えばこのころにロードオブザリングやラブクラフトらのブームが復興してたりする。
ファンタジーではないが、機動戦士ガンダムのように世界観や年代記を一から作り上げるジャンルがどんどん出てきた。
彼らにしてみればSFでも良かったのだろうし、ここではないどこかの世界であれば何でもよかったのだ。
とにかく現実から離れた架空の世界観や年代記の中に、理想とした世界を描くようになっていった。
そしてそれは現実を超越した超能力や、現実から遊離した新宗教のブームにも連なっていった。
魔法や神の力というご都合主義的修正に惹かれ、現実となんら変わらない演出とでも認識したのだろうか?
例えば地下鉄サリン事件のオウム真理教は、この二十世紀後半のファンタジーブームとぴったり併走している。
彼らはアニメやマンガをネタ元にして、神と超能力をキーワードに架空のファンタジー神話の教義を作り上げてしまった。

100 :創る名無しに見る名無し:2011/12/27(火) 07:31:21.74 ID:UT4voPId.net
また同時に、大量消費社会に適応する形でマンガやアニメ、ゲームなどにファンタジーが氾濫するようになる。
その手法も徹底的にマニュアル化されたのも、ちょうどこの時代だ。
キャンベルの神話分析の手法はそのままハリウッドスタイルの脚本製作の基礎となってゆき、他ジャンルにも積極的に応用されてゆく。
リオタールは確かポストモダンの時代を象徴と記号の大量消費と言ったんだが、まさにファンタジーは一番それに合致し利用されてきたんだ。
ロールプレイングゲームのように、極めて構造化された世界観を描くのに都合が良かったためでもある。
なぜならトールキンや神話学者キャンベルらの手法がそのまま生かせるジャンルだったからだ。
その結果、大量消費社会から回避する形で出てきたファンタジーは、皮肉にも大量消費社会のコンテンツとして徹底的に消費されてゆく。
ドラゴンクエストやファイナルファンタジー、ロードオブザリングの映画化etc...
こうしてシナリオや世界観設定、キャラクター設定に至るまで徹底的にマニュアル化されたコンテンツが無数に登場することになった。
ライトノベルもは大量消費コンテンツビジネスの極地ともいえるメディアミックスを前提としたソフト。


まとめるとこうだ。

現代におけるファンタジーは、文学のような社会批評ではなく、そこから逃れて児童文学や大衆娯楽のジャンルで始まった。
その後、架空の神話の再創造という手法が用いられるようになると、その手法が徹底的に研究された。
そのためのツールとして神話学や民俗学、心理学などのアプローチが試みられた。
その研究の結果が上に書いたような形で結実し、それらは商業作品を作る際に徹底的に利用され、消費されるに至った。
そして現在もこれらはハリウッドのシナリオ製作の基礎技術や、メディアミックス向けコンテンツの基本的な手法として用いられている。
つまり物語の商品コンテンツ化のきっかけはファンタジーだった。

商品であるファンタジーでは、例えばキャラクターの喜びや葛藤といった心理のレベルまで手法化された。
そもそも現代におけるシナリオ技術は、ユングらの心理学をベースに作られている。
例えば登場キャラクターは心理学でいう集団的無意識のアーキタイプを元に作られている。
それは例えば主人公、賢者、援助者、誘惑者、影、父権性や母性の象徴、トリックスターなどがそれにあたる。
ストーリーラインもまた元型神話に基いており、多くの場合、物語は三幕形式を採っている。
その内容は例えば日常からの出立と越境、試練、仲間、敵、最大の試練とその克服、逃走、日常への帰還など。
例えば「主人公の葛藤」はストーリー上、「最大の試練」とされ、自分のアイデンティティーの向き合うイベントとして解決される。
つまり心理学を応用して物語やキャラクターを創造しているのだから、「価値観」が同じというのは当たり前なのだ。

101 :創る名無しに見る名無し:2011/12/27(火) 07:32:29.87 ID:UT4voPId.net
それと現在はこのスレではなく、避難所の方が本スレになってる。

みんなで世界を創るスレin避難所その2
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/3274/1276257878/

また上の荒らしみたいのが暴れにくるかもしれないので、ここは基本的に放置プレイ。

102 :創る名無しに見る名無し:2011/12/28(水) 00:55:20.69 ID:FKI0c7kA.net
ファンタジー作家さまの主人公でこれを埋めてみてくれよ

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━━━━━━┓
┃氏  名 :                                       .┃性別 :
┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫
┃現在の職業 :
┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫
┃住  所 : ○○○(都道府県)○○○(市町村)○○○−○○○−○○○
┃tel : *** - ***** - *****
┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫
┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫
┃                      学  歴 もしくは 職  歴           .                ┃
┣━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫
┃ ○○年○○月    ┃○○市立○○小学校   卒業
┣━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫
┃ ○○年○○月    ┃○○市立○○中学校   卒業
┣━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫
┃ ○○年○○月    ┃○○県立○○高等学校   中退
┣━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫
┃ ○○年○○月    ┃その他 職歴 ○○○
┣━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫
┃(特性):
┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫
┃特技、資格 : 
┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫
┃賞    罰 :
┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫
┃備    考 :
┣━━━┯━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫
┠───┘0000年00月:状況:
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛


103 :創る名無しに見る名無し:2011/12/28(水) 00:56:02.70 ID:FKI0c7kA.net
ファンタジー作家さまの主人公でこれを埋めてみてくれよ

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━━━━━━┓
┃氏  名 :                                       .┃性別 :
┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫
┃現在の職業 :
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┃住  所 : ○○○(都道府県)○○○(市町村)○○○−○○○−○○○
┃tel : *** - ***** - *****
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┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫
┃                      学  歴 もしくは 職  歴           .                ┃
┣━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫
┃ ○○年○○月    ┃○○市立○○小学校   卒業
┣━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫
┃ ○○年○○月    ┃○○市立○○中学校   卒業
┣━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫
┃ ○○年○○月    ┃○○県立○○高等学校   中退
┣━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫
┃ ○○年○○月    ┃その他 職歴 ○○○
┣━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫
┃(特性):
┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫
┃特技、資格 : 
┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫
┃賞    罰 :
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┃備    考 :
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┠───┘0000年00月:状況:
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

104 :創る名無しに見る名無し:2011/12/28(水) 00:57:36.11 ID:FKI0c7kA.net
>>99
長い
五行くらいにしてくれ

105 :創る名無しに見る名無し:2011/12/28(水) 00:59:39.29 ID:FKI0c7kA.net

┌────┬─────────────────────┐
│雇用情勢│                     0000年00月 現在│
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|\│  │  │  │  │  │  │  │  │  │  │電器 ◎ │
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|  │\│  │  │  │  │  │  │  │  │  │機械 ○ │
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|  │  │\│  │  │  │  │  │  │  │  │金融 − │
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|  │  │  │\│  │  │  │  │  │  │  │銀行 ▲ │
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|  │  │  │  │\│  │  │  │  │  │  │商社 × │
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|  │  │  │  │  │\│  │  │  │  │  │小売 ∧ │
├─┼─┼─┼─┼─┼─\─┼─┼─┼─┼─┤        │
|  │  │  │  │  │  │\│  │  │  │  │建設 ∨ │
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|  │  │  │  │  │  │  │  │  │\│  │運送 乂 │
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106 :創る名無しに見る名無し:2011/12/28(水) 01:00:32.76 ID:FKI0c7kA.net
忘れた
縦が求職者数
横が募集人数で

┌────┬─────────────────────┐
│雇用情勢│                     0000年00月 現在│
├─┬─┬┴┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬────┤
|\│  │  │  │  │  │  │  │  │  │  │電器 ◎ │
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107 :創る名無しに見る名無し:2011/12/28(水) 16:06:29.70 ID:In84dy0H.net
>>101
ありがとう。

純粋な娯楽のために始まったファンタジーが商売になると分かったから
どんどん売れ筋を作る手法が発達して、大筋似たり寄ったりの商品が
乱立してるってことか。物語の構成要素(世界・キャラ等)とアルゴリズム(シナリオ)が
全て人の手による心理学的分析の派生なら、この商業ベースのファンタジーはいずれ
マンネリ化するだろうね。(もうしてるか)

俺はファンタジーは、やはり純粋な娯楽という素晴らしい原点を忘れちゃいかんと思う。
作る方も読む方も、現実世界を忘れて楽しめるというのが最高だね。
言い方は悪いかも知れないけど、現実逃避による娯楽空間というものは重要な
ものだと思うう。けじめが大事だけど、そういうことはみんな分かってるでしょう。

108 :創る名無しに見る名無し:2011/12/28(水) 16:16:14.67 ID:In84dy0H.net
>>103
自分の履歴書書いてみたら不安になったから、みんなのも見せてってこと?
もしくは、下賤な民共が享楽にふけってるのは許せんという暴君の怒り?

109 :創る名無しに見る名無し:2011/12/28(水) 18:06:53.83 ID:FKI0c7kA.net
>>108
いや
ファンタジー作家さんのシリーズに協力してあげようと思っただけだよw


110 :あぼーん:あぼーん.net
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128 :創る名無しに見る名無し:2011/12/30(金) 04:58:49.02 ID:ZmAjYHt4.net
恐れ入りました。

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140 :創る名無しに見る名無し:2012/01/01(日) 03:32:59.51 ID:C8/QQEZq.net
こりゃ意外だな
それにラノベとも違うな
ただ何か変

141 :創る名無しに見る名無し:2012/01/01(日) 22:10:42.10 ID:GqpoYS9R.net
※エロ・18禁等の作品はお絵描き・創作板、エロパロ板へお願いします。

142 :創る名無しに見る名無し:2012/01/02(月) 00:13:43.45 ID:S/fFRKNx.net
>>139
ただ単純に読書量が足りないヤツはこういう文章書くが、
さらに残念なことに独創性とか光るモンが全くねーなぁ…
典型的に作家諦めたほーがいいヤツだわ(笑)

143 :創る名無しに見る名無し:2012/01/02(月) 02:01:29.87 ID:9A+9nM5I.net
>>142
同意なんだが
この板で独創性とか光るモンあるやつなんているか?

144 :創る名無しに見る名無し:2012/01/02(月) 02:24:17.94 ID:9A+9nM5I.net
>>139
「小説って内面や情景描写は邪魔、会話と役に立つ情報があればいい」 by 堀江貴文         
                                   
ということだ。                               
                                        
今はライトノベル的なキャラ同士の会話の掛け合いをベースにして、             
どっかで調べてきた魔法や民俗学、軍事、歴史、SFその他のネタを色々と散りばめればいいんだよ。
上の>>5とか見てごらん。これなんかモロに「これがライトノベルだ」という書き方してるけど、今はこういうのが主流。
それと君は三点リーダー(「…」というやつ)とか知ってる?余韻とか間とかそういうの表現するんだ。
あと会話の「」の中では終わりの句読点は打たないんだ。                    
とにかくそういう基本がなってない。それに文章も全般的に荒い。               
まあ短期間でそんだけ書ける根性は大したもんだ。                      
だけど独創性とかは気にするな。                                   
こういうところに来てるやつでそういうのを持ってるの見たことが無いから(笑)。      
                                                       

145 :創る名無しに見る名無し:2012/01/02(月) 03:30:55.95 ID:9A+9nM5I.net
>>144の続き
閉じようとしてたまたま目に入ったんだが、これなんかもうキャラのセリフの掛け合いしかない。
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1324297918/l50          
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1324291592/l50          
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281238832/l50          
このようにキャラクターの会話だけつなげるだけの方が今の作家さんの標準だな。
この板のアベレージが大体この辺だと思っていい。                     
これを基準にすると>>139くんの文章は内面描写や情景描写が邪魔。         
元々文章も荒いので、君の文章のように色々と詰め込むと読むのに難儀しちゃうんだ。
                                                      
たとえば、この
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1324291592/l50
のスレから一部を抜粋してみよう。以下次レスへ。

146 :創る名無しに見る名無し:2012/01/02(月) 03:31:58.89 ID:9A+9nM5I.net
114 :創る名無しに見る名無し:2012/01/01(日) 15:18:29.52 ID:j/22TzCi
§数日後・桜田ジュンの部屋                          
                                            
蒼星石「……で、痛みに耐えて毎日カビキラーを塗りたくったにも関わらず
     快方に向かうどころか、いっそう水虫が悪化したから僕に助けを……」
                                             
翠星石「め、面目ないですぅ」ボリボリ                     
                                             
蒼星石「やれやれ、ドールが水虫になるなんてこと自体が異常事態なんだから
     連絡するならもっと早く連絡してくれないと」             
                                            
真紅「まったくもって蒼星石の言う通り。私たちの認識が甘かった」    
                                             
蒼星石「で、水虫はどこまで広がったんだい?」                
                                             
ジュン「くるぶしのあたりまでだな」                        
                                           
蒼星石「ッ!? いくらなんでも広がりすぎでしょ!?」            
                                              
雛苺「ハワイがだんだん日本に近付いているように              
    毎日ちょっとずつ進んでいたから異常さに気づかなかったの」      
                                                 
蒼星石「いやいやいやいや、水虫と地殻変動を同レベルで語らないで!」    
                                                  
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1324291592/-114 より。

147 :創る名無しに見る名無し:2012/01/02(月) 03:33:26.73 ID:9A+9nM5I.net
おそらくこれを書いた作家さんはプロの作家を目指している優秀な方だと見受けられる。
                                                      
たとえば冒頭に、                                           
                                                      
”§数日後・桜田ジュンの部屋 ”                                 
                                                      
とある。たったこれだけでこのレスから始まるドラマの場面を全て説明しているわけだ。
君の場合と違って、この人の場合はたった一行で全てを描写している。
なぜなら必要な情報は全てこの”§数日後・桜田ジュンの部屋 ”という文章に入っているからだ。
つまり>>144で僕が書いた。「会話と役に立つ情報」の「情報」に該当する。
                                                       
さらに読み解いてゆこう。ここで蒼星石というキャラクターが出てくる。            
ここで蒼星石というのはただの石ではないことをあらかじめ注意しておく。          
蒼星石というのはウィキペディアによると以下のように説明されている。           
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%92%BC%E6%98%9F%E7%9F%B3#.E8.92.BC.E6.98.9F.E7.9F.B3
当然読者はこの知識を持っているため、ここで蒼星石と書くだけで誰のことかがすぐにわかるのだ。
つまりこの作家さんはセリフの前に蒼星石と記すことで、これから書かれるセリフが誰のものかを示しているのだ。
たった三文字で充分なのである。これも「情報」に該当する。
                                                       
言うまでも無いことだが、「役に立つ情報」というのは、                     
                                                        
 1、作者が作品を書く上で、どっかで調べてきた魔法や民俗学、軍事、歴史、SFその他のネタ。
   それを読者が読むことで、例えば薀蓄のような知識を得ることができたりする。
 
 2、作品を進める上で必要な情報。例えば上記の”§数日後・桜田ジュンの部屋 ”や”蒼星石”というのがそれに当たる。
   これは小説を書く上で重要な要素である「いつ」「どこで」「だれが」「なにを」「どのように」という情報を示すために用いる。
   俗に言う5W1Hというやつで、ストーリー上のインデックス的な役割をする。

この作家が、こうした手法をたくみに活用しているということがおわかりだろうか?

148 :創る名無しに見る名無し:2012/01/02(月) 03:36:13.53 ID:9A+9nM5I.net
そしてこのレスの文章の白眉ともいうべきは、以下の会話だろう。
重要と思われるのでここで再び掲載する。              
                                         
>蒼星石「で、水虫はどこまで広がったんだい?」         
>                                       
>ジュン「くるぶしのあたりまでだな」                 
>                                       
>蒼星石「ッ!? いくらなんでも広がりすぎでしょ!?」     
>                                        
>雛苺「ハワイがだんだん日本に近付いているように
>    毎日ちょっとずつ進んでいたから異常さに気づかなかったの」
>                                       
>蒼星石「いやいやいやいや、水虫と地殻変動を同レベルで語らないで!」
                                          
この文章は、この短いレスの中でのクライマックスとなっていることをお分かりだろうか?
その前にここのジュンというキャラクターについてはこのウィキペディアを参照してほしい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%92%BC%E6%98%9F%E7%9F%B3#.E6.A1.9C.E7.94.B0.E3.82.B8.E3.83.A5.E3.83.B3
この主人公ジュンに蒼星石が水虫の広がりを聞く。ここがネタフリである。
それに対してジュンは水虫は既にくるぶしの辺りまで広がっていると答える。
                                              
通常水虫というのは白癬菌の作用によるものであり、特に足に生ずるのは足白癬という種類のものである。
この足白癬は足の指を中心に発症するものであり、それ以外のところに伝播することは殆ど無い。
だがジュンはこの足白癬が「くるぶし」まで広がっている、と答えるのである。
すなわち現実にはありえない病状がここに発生しているのだ。
ここがまず一つ目の笑いどころである。このあたりにこの作家さんの独創性とキラリと光るモンが感じられる。
>>142さんがおっしゃるような独創性や光るモノというのはこれである。
プロの作家を目指す人間であればこういう笑い所を作る能力は必須であろう。
                                               
だがこの作家さんはそれだけでは終わらない。さらに笑いどころを用意してくれているのだ。
まずジュンが「水虫がくるぶしまで広がっている」という答えに対し、蒼星石が驚いてみせる。
これは当然の反応といえる。なぜなら前述のように足白癬であればくるぶしまで病巣が広がることはないからだ。
もちろんここで、ジュンの水虫が足白癬ではなく体部白癬だと指摘することも可能であろう。
だがそう指摘しては面白くはならないのだ。あくまでジュンの水虫が足白癬であるという設定を曲げないで置いておく。
それがその次のボケへのフリになっていることに注意してほしい。

149 :創る名無しに見る名無し:2012/01/02(月) 03:36:53.37 ID:9A+9nM5I.net
そしてついにこのレスの到達点とも言える会話が交わされる。
ここも大変重要だと思われるので、ここに再び掲載する。
                                     
>蒼星石「ッ!? いくらなんでも広がりすぎでしょ!?」
>                                   
>雛苺「ハワイがだんだん日本に近付いているように
>    毎日ちょっとずつ進んでいたから異常さに気づかなかったの」
>                                     
>蒼星石「いやいやいやいや、水虫と地殻変動を同レベルで語らないで!」
                                       
                                    
……見事である。全く持って見事というほかは無い。     
                                       
まず蒼星石が「ッ!? いくらなんでも広がりすぎでしょ!?」と答える。
これはジュンの言っていたくるぶしまで足白癬が広がっていることへの驚きを表明である。
それと同時に次の雛苺が繰り出すギャグへのフリとなっているのだ。
なお雛苺というのは、このローゼンメイデンという作品のキャラクターの一人である。
詳しいことは以下のウィキペディアを参照にしてもらいたい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%9B%E8%8B%BA#.E9.9B.9B.E8.8B.BA
                                             
そしてこの雛苺は、ハワイが地殻変動で日本に近づいてくることと、ジュンの足白癬がくるぶしまで広がっていることの比喩として用いる。
まるでジュンの足白癬が地球規模で行われている地殻変動と同じレベルの問題なのだ、と言わんがごとくである。
                                              
ちなみにハワイ諸島はアメリカ合衆国の一州である。そして太平洋プレートという巨大なプレートの上に乗っている。
これは北アメリカ大陸の沖合いから発生し、年間数センチレベルで東から西に向かってゆっくりと移動している。
当然ハワイ諸島もこの動きに従い、毎年数センチほど西に移動している。
そしてこの太平洋プレートは日本海溝やフィリピン海溝にもぐりこんでいるため、
遠い将来、ハワイ列島はこのいずれかに呑み込まれる運命であることを一応しるしておこう。
                                              
この作家は、こうした地球規模の運動とジュンというさえない主人公の青年がわずらった水虫を同列に語ることで、
この両者にあるギャップを鮮明に浮かび上がらせたのだ。
                                     
そしてラストで、この雛苺の壮大なボケに対して蒼星石が見事な突っ込みを入れる。
それについてはもうこれ以上説明しない。おそらく殆どの読者がここで大爆笑するところだからだ。
わざわざ説明するまでのこともなかろうと思う。
                                                            
個人的にはこの作家さんは独創性と光るモノに溢れた作家であり、ぜひプロの作家を目指してもらいたいと思っている。
彼の才能があれば将来、日本人三人目のノーベル文学賞も獲れるのではないか、と個人的に思わずにいられない。

>>139さんも、ぜひこの作家さんのような独創性と光るモノを持てるように励んでいただきたい。

150 :創る名無しに見る名無し:2012/01/03(火) 15:35:28.44 ID:NZm+EAZS.net
>>142-149
この板は職業作家志望の板ではありません。
作家志望の方々を対象とした論評・講義であれば下記のスレッドが適当であるかと思います。
そちらへ行かれては如何でしょうか?


ライトノベルが書きたいからアドバイスくれろ
http://toro.2ch.net/test/read.cgi/bun/1315140221/l50

皆で文章を評価するスレ
http://toro.2ch.net/test/read.cgi/bun/1303010671/l50

ファンタジー総合
http://toro.2ch.net/test/read.cgi/bun/1287587240/l50

あなたの文章真面目に酷評しますPart71
http://toro.2ch.net/test/read.cgi/bun/1314684706/l50

【電撃用】自作を晒して感想をもらうスレ
http://toro.2ch.net/test/read.cgi/bun/1286789199/l50

30歳以上の小説家志望のためのスレ
http://toro.2ch.net/test/read.cgi/bun/1314232548/l50

TPPの影響
http://toro.2ch.net/test/read.cgi/bun/1320480457/l50


あなたのされている行為は、スレの趣旨と異なった批評のみならず、悪意のある揶揄および嘲笑であり、
スレッド利用者の感情を著しく害しています。

しかも、他のスレッドの話題をここでする必然性は無いのに、わざわざコピー&ペーストし、
それについて批評を行なっていることにおいて、二重にスレ違いなのです。

そのようなことがしたいのならば、上記該当スレッドにて行うのが適当であると考えます。
このレスを無視し、同様の行為を働くのならば、荒らし行為であると判断します。

よろしくお願いいたします。

151 :創る名無しに見る名無し:2012/01/03(火) 16:47:09.69 ID:YkfpC/p3.net
>>141
露骨な性描写はなくしましたよ。一応チェックしてみてくだはい。ダメならもっとへらしまう。

§数日後・ワンボックスカーの運転席

則和「また渋滞かよ! 全然進まないじゃないかよ」

少女A「……まあまあおちつきなされ。どう?お茶でも」

則和「……わっ! 何だお前は! いつの間に現れたんだ?」

少女A「わらわか? わらわはここから四行前(※改行空白分を含む)に登場したのだが、何か?」

則和「何かじゃねえ! 俺は今一人で車を運転してたんだよ」

少女A「いや違うな則和。今はわらわと二人じゃ。旅のお供にわらわのような美少女がいるのも悪くなかろう?」

(少女A、助手席で足を組みかえる。少女Aの制服のスカートは極端に短い)

少女A「おや則和。きさま今わらわの美脚をじっとりとながめおったろう? このドスケベ」

則和「見てねえよ!!」

少女A「いや見ただろう。わらわはこの太ももの絶対領域のあたりに則和のスケベな視線をヒリヒリと感じたぞ」

則和「見てねえって言ってんだろう!!!!」

少女A「則和はわらわとしたいか? 上で滝田真奈美とか片岡美里とかいうおなごとしてたみたいに?(にやり)」

則和「知るか!」

少女A「どうやら興奮してきたようだな、則和」

(少女A、短いスカートの裾をさらに上げる。雪のように白い生肌がどんどんあらわになる)

則和「おい止めろ! 人が見たら誤解するだろ!」

少女A「何を言っているんだ? ここはワンボックスカーの車内だぞ? 人の目なんてどこにもないだろ?」

則和「となり走ってるダンプの運ちゃんが見てるだろうが!」

(少女A、則和が指をさした方をみる。ダンプカーの運転台から則和の車を覗き込んでいる運転手を確認)

少女A「あいつ危ないやつだな。前を見て運転すべきだな。……なあ則和。あの運転手のわらわと則和の愛を見せ付けてやらないか?」

(少女A、則和の方に乗り出す。)

152 :創る名無しに見る名無し:2012/01/03(火) 16:48:00.95 ID:YkfpC/p3.net
則和「わっ! 馬鹿! 止めろ! こっちも運転中だ! 高速道路で時速150キロだ! 死んじゃうぞ!」

少女A「それは死ぬほど気持ちいいことなのか?」

則和「そうじゃねえよ! つーかお前誰だよ! 何でいきなり現れたんだよ!」

少女A「なぜ? なぜとは愚問だな。則和は日々そんな哲学的なことを考えながら生きているのか? 我々はなぜ生まれたのか?
我々はなぜ生きているのか? 我々はなぜご飯を食べるのか? 我々はなぜ排泄をするのか? 則和はなぜいい女とセックスばかりしているのか?
則和はなぜああも簡単にいい女をいかせまくるのか? 則和はなぜわらわのような抜群の美少女がすぐ隣にいるというのに手をだそうとしないのか?
則和はなぜ……」

則和「うっせーそれよりも運転中に腕によりかかるな! おいやめろ! 運転中だぞ! 何でベルトのバックルに手を掛けるんだ! この痴女め!」

少女A「お前のようなエロしかできない男に痴女よばわりされるとは不愉快だな。わらわは乙女ぞ。男のケガレをしらぬ可憐な美少女だぞ?」

少女Q「ちょっと待ったあああ!」

少女A(……ちっ!)

少女Q「そこで止めなさい少女A! あなたの目論見はわかっているのよ!」

則和「な、何だあ? 何だお前は!」

少女Q「「お前」とは失礼な言い方ね!私は少女Q。あなたを助けに来たというのに!」

則和「助けるって何だよ! 何の話だよ! つーかお前ら何者だよ! 何で俺の前に現れたんだよ!」

(少女A、少女Q、しばらく無言。二人は並んで則和を見つめる)

則和「何だ? 何やってんだお前ら?」

少女Q「……則和って、無駄にいい男ね」

少女A「おぬしもそう思うだろ? 今わらわも則和に初斬をお願いしたのだが、則和は運転中だと言って断ったのじゃ」

少女Q「則和はね、年増の女が好きなのよ。片岡美里も滝口真奈美も四捨五入したら三十路だし。
則和ってあんなおばちゃんが好みなの? マジで信じられないんだけど?
ぴちぴちの美少女二人が超絶ミニスカートでいるっていうのにね。
あたしたちみたいなミドルティーンの美少女はお気に召さないみたいね。なんかくやしくない?」

少女A「やはりそうか。則和は羊水が半分腐ったような女が好みなのか。わらわもおぬしもまだぴちぴちだしのう。
則和がキモオタっぽい男だったなら、わらわたち二人はもうザーメン塗れだったはずなのにのう。惜しいのう……」

153 :創る名無しに見る名無し:2012/01/03(火) 16:50:05.01 ID:YkfpC/p3.net
則和「おいお前ら!!! 何を勝手なこと言ってんだよ!」

少女A「お? 則和はわらわを女にしてくれる気になってくれたのか?」

則和「馬鹿言ってんじゃねーよ! 話が全然進まないじゃないかよ! お前ら出てけよ!」

少女Q「いや、そういうわけにはゆかないわ。もう私は則和の旅のお供なんだし」

少女A「わらわの方が先だぞ少女Q」

少女Q「順番なんて関係ないでしょ? どっちが則和を早く振り向かせるか勝負よ!」

少女A「おぬしはわらわに勝てるのか? ツンツンしているだけでは男はよってこないぞ?」

少女Q「あんただってまだオボコでしょ! 決めるのは則和よ!」

少女A「それよりもわらわたちはあの片岡美里とか滝口真奈美とかいうおばさんをなんとかせねばなるまいな」

少女Q「……そうね。そこは同意できるわ。」

少女A「なにゆえ則和があんな年増とオールドミスにぞっこんなのか不明なのじゃ。
世間からみればあんなおばさんよりもわらわたちのようなミドルティーンの方が魅力的なはずじゃがの」

少女Q「でも私たちくらいの年齢の少女が好きなのはロリって話よ。則和はロリじゃないみたいだから困るのよ」

少女A「いや、ロリというのはローティーンの娘たちを対象としている変態だろ?」

少女Q「年齢一桁の小娘を好きになるようなガチの変態もいるらしいわ。ちょっと気持ち悪いよね」

少女A「ということは、わらわたちもその変態ロリからすると行き過ぎているのかの?」

少女Q「そうねえ。もう月のものもあるし、生えるものも生えちゃってるしね」

少女A「ちゃんと処理はしているのだが。やはりパイパンくらいにしなきゃだめなのかの?」

少女Q「……それよりも、まさか幼児ポルノ条例のせいかしら? 則和が18歳未満の私たちに手を出そうとしないのは?」

少女A「まさかの。だが則和は殺人事件を引き起こして懲役刑を喰らってるくらいの無法者ぞ?
幼児ポルノ条例の規制くらいで怯むような男ではあるまい」

154 :創る名無しに見る名無し:2012/01/03(火) 16:51:35.62 ID:YkfpC/p3.net
則和「……お前らさっきから何を勝手なことを言ってるんだ?」

少女Q「あ、則和。私と少女A、どっちを選ぶ?」

少女A「無論わらわだろ? 則和」

(則和、無言でワンボックスカーを路肩に寄せる)

少女Q「何のつもり? 則和」

(則和、路肩でワンボックスカーを停車させる)

少女A「トイレ休憩ならあと十キロほど先にサービスエリアがあるぞ?」

少女Q「それにここ高速道路よ、則和。駐停車は原則禁止って教習所で習わなかった?」

則和「……降りろ」

少女Q「降りろ? 降りろとな何よ。私たちをこんな場所に放置するって言うの?」

少女A「外は凄く寒いぞ則和。わらわたちは風邪を召してしまうではないか」

則和「つべこべ言うな降りろ! 第一お前ら何なんだよ! 突然勝手に出現しやがって!
それに見ろ! 構成とか全部変わっちゃったじゃんかよ! セリフと適当な説明しかなくなっただろ!
お前らのせいだろこれ! いい加減にしやがれ、とっとと二人とも消えうせろ!」

少女Q「何よ! 私たちみたいな美少女が二人ともやる気まんまんだっていうのに怯んじゃって!
則和はそれでも男なの? この臆病者!」

則和「……は? 一体何を……」

少女A「それにだ則和。こんな場所にわらわたちのような素晴らしい美少女が二人放置されたら、
どんな狼たちに狙われるかわかったものじゃないぞ?いいのか則和。
わらわたちが見知らぬ男たちの欲情の捌け口にされて、散々ひどい目に遭わされても?」

少女Q「そうよ! こんな場所に私たちを放り出すなんて人間の所業とは思えないわ! 最低よ則和!
そんなにあんなおばん二人の方がいいって言うの!」

少女A「わらわはここに捨てられたらすぐにお巡りさんに連絡して、則和に誘拐されたと証言するぞ?
則和がわらわと少女Qの二人を拉致して車内に監禁していろいろといやらしいことをやったと証言するぞ?」

少女Q「……そうね、それいいアイデアだわ。中々凄いこと考えるじゃない少女A」

少女A「おぬしほどではないわ」

少女Q「則和、わたしも少女Aのアイデアに乗ったわ。
私もすぐに警察に連絡して則和に強引にさらわれて、それで犯されたと言ってやるから。
車の中で押し倒されて服を引き裂かれて裸にされて抵抗しても許して貰えず、
則和に肉体を弄ばれて汚されたと思いっきり言いふらしてやるから。」

少女A「そうだぞ則和。おぬしはまずいのではないのか?
確かおぬしはつい数日前まで結城刑務所の重犯罪者監房に収監されていたはずだ?
今だって仮釈放中の身であったはずだ。つまり仮釈放中に何か起きればすぐに収監されるはず」

則和「……き、貴様ら。どこまで汚いんだ」

155 :創る名無しに見る名無し:2012/01/03(火) 16:53:34.86 ID:YkfpC/p3.net
少女Q「私たちが汚い? お生憎さま、私も少女Aもまだ全く穢れの無い乙女よ。だってついさっき生み出されたばかりだし。
それにね則和。仮釈放中に二人の未成年の美少女を拉致して強制的にわいせつ行為を働いたとなったら、
もう懲役5年とかじゃすまないでしょ? おそらく今度は悪名高い棚橋刑務所で懲役十年……」

少女A「いや懲役三十年。下手すれば終身刑。しかも仮釈放なしの」

少女Q「そう、それくらいの重い罰を受けることになるわよ。いいの則和?
そうなったら則和は棚橋刑務所にいるスーパー極悪人のホモ囚人たちに肛門が破壊されるほど犯されるわよ。
二度とお尻からうんちができなくなるくらいにね。則和みたいな女好きにはたまらない世界でしょうね」

少女A「そうなるころには則和もホモに目覚めてるだろう。あの英彦とか宏和とかいう変態と同類になってるだろうな」

(則和、呆気に取られてしまう。)

少女A「ようやくわかってくれたか則和。わらわはうれしいぞ。なにせ則和は将来のわらわの婿どのだからの」

少女Q「あら? 何をおっしゃっているの? 則和は私の許嫁ですよ? あなたのような悪知恵ばかりの性悪女に渡すものですか」

少女A「何を言うのじゃ少女Q。おぬしのような単純直情で強情な女子は則和の好みじゃないはず」

少女Q「は? 私のどこが? ……それよりも今はあの片岡美里と滝口真奈美を何とかしないとダメだわ」

少女A「そこはわらわも同意じゃ。あのおばさん二人は年の功で則和をだまくらかしているに違いないのだから
あの二人の中年女、伊達に歳くってるわけじゃないようじゃの。」

(するとワンボックスカーの扉がかちゃりと開けられた)

少女Z「――あの、瀬内則和さんはこちらにいらっしゃいますよね?」

少女A&少女Q(……チッ!)

少女Z「――やっと出会えましたぁ。(少女Z、涙ぐむ) こちらの世界に来たとたん、迷っちゃって」

(そう言いながら少女Zは車に乗り込んでくる。少女Aと少女Qはそれを邪魔しようとするが失敗する)

少女Z「ようやく則和さんに会えて、本当にうれしいです。だって則和さんは私の未来の夫ですもの」

少女A「……おぬしは何を言っておるのじゃ?」

少女Q「あんた何しにきたのよ? それに来ていきなり何を勝手なことをほざいているのよ」

(少女Z、おびえた表情を浮かべながら少女Aと少女Qを見る)

少女Z「――あの、則和さん。こ、この二人は何なんですか?」

(則和、呆気にとられて何も答えられない。三人の娘たちを驚愕の表情で見ている)

少女Z「――ま、まさか則和さん。この二人に既にお手をつけてしまったんですか?そんな……(少女Z、涙ぐむ)」

156 :創る名無しに見る名無し:2012/01/03(火) 16:54:39.84 ID:YkfpC/p3.net
(則和、急に我にかえる)

則和「んなわけないだろ! つかお前誰だよ! 何で高速道路の路肩に突然現れるんだよ!
俺がこんなとこに車止めるってあらかじめ分かってたんか! 
てか、お前ら二人(少女Aと少女Qを指差す)もどうやってここに来たんだ?」

少女A「……おぬし、この状況でわらわたちにそんな馬鹿げた質問をするのか?」

少女Q「どうやってここに来たかですって? 愚問だわ。
則和ったら何も分かってないのね。色ボケしすぎてるんじゃないの?」

(少女Z、きょとんとした表情を浮かべる。そうしつつも荷物を積み込むとドアを閉める)

則和「おい、待て! 何勝手に乗り込んでいるんだよ!」

少女Z「――(顔を赤らめながら)ふつつかものですがどうかよろしくお願いいたします」

少女A「ほれ則和。そろそろ出発したほうがよいぞ?」

少女Q「そうね。もたもたしてたら誰かが警察に通報しちゃうかもしれないでしょ?」

少女A「まあそうだな。超ミニの制服姿の娘はそれだけでエロいのにな。それが三人もいるのだからな。」

少女Q「制服モノのAVの撮影とか思われるんじゃないかな?」

少女A「半分正解だな。何せわらわはこれから則和に抱いてもらって一人前のおなごになるのだからな」

少女Z「――あの、則和さんは私の未来の夫ですので。その……」

少女Q「……その話はあとでじっくりしましょう。それよりも則和。そろそろ出発しなければまずいんじゃないの?」

則和「お前らで勝手に話を進めるんじゃねえよ!」

少女A「何を言っているのだ則和。最初から話は何も進んでおらんぞ」

少女Q「まあそうよね。長々と書いてるけど、それって私たちが則和の車に乗り込んできた場面を描写しただけだしね」

少女Z「――わたくしも揃いましたし、そろそろ物語をスタートするころだと思うのですけど……」

少女A「よし出発じゃな。ほら則和、早く車を発進させるのじゃ。こんな辺鄙なところでボーっとしててもしょうがあるまい」

157 :創る名無しに見る名無し:2012/01/03(火) 16:56:55.29 ID:YkfpC/p3.net
(すると突然、則和の携帯が鳴った)

少女Q「則和。電話が鳴ってるわよ」

少女A「宏和からだろうな。あの男はホモで、多分則和のことを狙っているんだろうな」

少女Z「――則和さん、大丈夫なんですか? 宏和みたいな汚らわしい男に狙われて大丈夫ですか?」

則和「お前らうるさいんだよ! 黙ってろ!」

少女A「則和は亭主関白なのだろうな。則和がそう望むならわらわも夫唱婦随でゆくつもりだぞ」

少女Q「あら? あなたみたいな底意地の悪い女がそんなのできるの? 私じゃなきゃ無理よ」

少女Z「――私はその則和さんの命令ならどんなことでも出来ます。宏和を殺せといわれればすぐにでも……」

則和「黙れ! 電話に出れないだろが!」

少女A&少女Q&少女Z「…………」

則和「……ったく、何だってんだよ。(携帯を取り出して)もしもし?」

滝口真奈美「あの、則和さんですか?」
(途端に、後部座席に押し込んでおいた三人娘から凄まじい殺気が沸き立つ)

則和「……ん、ああ俺だよ。どうしたんだい?」

滝口真奈美「その、今お時間ありますか?」
(則和、後部座席の殺気を背中に感じ、冷や汗が出る)

則和「ちょっとだけなら。で、どうしたの?」

滝口真奈美「その、則和さんから頼まれてた公安諜報部の資料が手に入りました」

(則和、ちょっと驚く。その資料を頼んだのはたった二日前だったからだ)

則和「本当なのか? よくそんなに早く入手できたね。凄いよ真奈美」
(真奈美が電話の向こうで息を飲む気配がした。おそらく感じてしまったと思われる)

滝口真奈美「いえ、大したことはなかったです。山室先生の顔があれば色々なことができるんです」

則和「ありがとう真奈美。こっちの仕事を終えたらすぐに(ブチッ! と音がして電話が切れた)」

則和「わっ! 何だ!」

少女A「則和。その女と会うのか?」

少女Q「出張から帰ったらそのおばさんとアバンチュール? そんな年増の行かず後家と? 信じられないわ!」

少女Z「――(無言。目には涙が溢れている)」

(三人娘から沸き立つ殺気に気圧される則和。冷や汗を流しながら思わず苦笑いを浮かべる)

少女Q「笑って誤魔化す気なの? 則和。私という許嫁がいながらよくも……」

少女A「則和。おぬしの女好きや浮気癖は分かっているが、最後にはちゃんとわらわを娶って責任を……」

少女Z「――(殺気に満ちた目で携帯を睨みつけ) その女、私は許すことはできませ……」

則和「ちょっと待てえええ!」

158 :創る名無しに見る名無し:2012/01/03(火) 16:57:31.38 ID:YkfpC/p3.net
(三人娘、疑惑と嫉妬に満ちた目で則和を睨みつける。則和はその視線に怯むが、何とか踏みとどまる)

則和「お前ら何だよ、俺が真奈美と寝ようが美里と寝ようがどうでもいいだろうが! お前らには関係ないこ……」

少女A「いや関係あるぞ。わらわの婿の女性関係なのだからな」

少女Q「男ってなんでそんなにスケベでエッチなの? そんなにあちこちの女としたいわけ? しかもあんなおばんと」

少女Z「――浮気なら私にばれないようにしていただかないと困ります。ばれてしまったら私はもう怒りを抑えることが……」

則和「俺の話を遮るな! 勝手に結婚の話なんか進めるな!」

少女A「いや、初めから全くといってもいいほど話は進んでいないのだが……」

則和「それもこれも全部お前らのせいだろ! せっかく順調にドライブしてたってのに……」
(再び則和の携帯が鳴りだした。三人娘の殺気モードが先ほど比三倍増。則和は緊張する)

少女Z「――まさか、またあの女ですか?(それと同時に氷のような殺気が立つ)」

ヒソヒソ話:少女A→少女Q
「……なあ、あの娘が一番やばいと思わぬか?」
「……そうね。おとなしそうな顔してるけど、あの娘、心の中にとんでもない鬼がいるみたいね」

(則和、緊張しながら電話を取る)
則和「もしもし?真奈美か?」

有田宏和「……残念だったな。俺だ」

則和「何だ、宏和か」
(途端に後部座席の三人娘の殺気モードがさらに三倍増。当初比9倍に。則和は「え、何で? これ宏和だぞ?」と驚く)

宏和「ん? どうしたんだ則和。何かあったのか?」

則和「あ、いや。何も無いよ宏和。大丈夫だ。とにかく今新潟に向かっているから大丈夫だ。
多分到着は午後の五時か六時くらいになると思……」

(則和が言っている途中で宏和がそれを遮る)
宏和「いや中止だ則和。やつらに見つかった。今すぐ引き返せ。危険だ」

少女Z「――あの、ところであそこに見えるのは、何なんでしょうか?」

少女Q「どうしたの? それよりもさ、あんたって大人しそうに見えるけどそうとうやばい娘よね。……え、あれ?」

少女A「……あれは、一体なんじゃ?」

(三人娘はフロントガラスの向こうを見ていた。そこは真っ直ぐ走る高速道路がある。
道路の脇は山で、高速道路のすぐ脇まで森林が茂っている。その道路わきの森林に無数の黒い影が蠢いていた)

則和「……見つかったってどういうことだ? 既に群馬に入るところまで来てるんだぞ?」

宏和「やつらはお前の居場所も把握している。とにかくすぐに逃げろ、殺されるぞ。
俺も英彦もお前を助けるために動いてるとこだが、おそらくもう間に合わない。……死ぬな則和。無事を祈る」
(そういって宏和の電話が切れた)

159 :創る名無しに見る名無し:2012/01/03(火) 17:32:05.40 ID:CLXi/bBx.net
>>149
断言するが、お前は夢諦めろ。
その程度じゃ駄目。

160 :創る名無しに見る名無し:2012/01/03(火) 18:44:14.74 ID:YkfpC/p3.net
>>159
>>150
わかった?
荒らしさん

161 :創る名無しに見る名無し:2012/01/03(火) 20:17:46.56 ID:zvJ/OWtZ.net
>>160
こいつのIPくせぇ…

162 :創る名無しに見る名無し:2012/01/04(水) 19:51:40.61 ID:FvoM9EYz.net
やっぱ得ろが出るんでここから退去しますわ
んじゃ

163 :創る名無しに見る名無し:2012/01/09(月) 00:18:57.76 ID:ffboDpgg.net
避難所に書き込めなかったのでこっちで

仲間の名前ワロタw
これは期待

164 :創る名無しに見る名無し:2012/01/30(月) 20:59:48.02 ID:miT1x8LW.net
あげ

165 :創る名無しに見る名無し:2012/03/14(水) 13:42:14.01 ID:b4f2dCTC.net
新スレ立てるの?

166 :創る名無しに見る名無し:2012/03/14(水) 23:45:51.35 ID:RKVMVFAc.net
まだ容量残ってるじゃないですか

167 :創る名無しに見る名無し:2012/03/15(木) 07:21:10.57 ID:iNiGJYow.net
いや、避難所行きになってるからさ

168 :創る名無しに見る名無し:2012/03/15(木) 14:56:45.89 ID:Q5YObB06.net
変なのが来てたからな
そろそろこっちに戻ってきても大丈夫じゃないかと思うけど、書き手次第になるのかな

169 :創る名無しに見る名無し:2012/03/16(金) 00:50:38.75 ID:5eisx8kP.net
じゃあぼちぼち戻ってみようかね

170 : ◆mGG62PYCNk :2012/03/17(土) 16:10:11.40 ID:ACF61e6x.net
では久しぶりにこちらに投下をば

171 :白狐と青年「接敵2」 ◆mGG62PYCNk :2012/03/17(土) 16:11:33.80 ID:ACF61e6x.net


            ●


 庁舎の階段を上っていた匠は、呼び出し音を発し始めた通信機を取り出して、移動を一時止めた。
 壁を背にして、クズハとそれぞれ左右に伸びる通路を見張り、通信機からの声に耳を傾ける。
「こちら匠」
『彰彦だ。状況が動いた。手短に説明するぞ』
「ああ、頼む」
 よし、と彰彦の声は応えて、言葉を連ねた。
『地下に行ったキッコさんと明日名兄さんが、庁舎の地下に更にもう一つ地下があるのを見つけた。
お前がクズハちゃんを見つけたとこよりもっと下だ。そこに例の実験施設があったみたいでな、異形もそこに溜まってやがった。
 二人は今そいつらと、あと通光んとこの部下の朝川と戦ってる。異形が行政区内に直接現れたわけも方法も分かった。
地下の、今は使われてない前文明の旧下水道を使ってやがった。
俺たちはそっちに対応できるように旧下水道の詳しい地図を引っ張り出して、武装隊に連絡回してるとこだ。
南区の方に現れる前に手を打たねえと、また混乱が起きちまうからな』
「そうか。こっちはほとんど抵抗らしい抵抗に遭うこともなく上ってこれてる。いっそ不気味だよ」
『おお、なんかそりゃ裏がありそうだな』
「笑いごとじゃない」
 言いながら、匠は彰彦の言葉を考える。
 実験でどれだけの人や異形が犠牲になったのだろうか。少なくともここしばらくの間に発生した行方不明者分の犠牲は出ているだろう。
「明日名さんやキッコは大丈夫だろうか」
『あの人達ならどうにかするさ』
 さて、と彰彦は言葉を送って来た。
『そっちも気を付けろよ、こっちはこっちでちょっとこれから忙しくなるからよ』
「忙しくなる?」
『ああ、団体さんが出てきてんだよ』
「団体……?」
『おうよ。まあ、お前らが帰ってくる場所はきっちりと守っといてやるから安心しとけ』
 通信機の向こうから異形のものであろう雄叫びが聞こえてきた。
その数は通信機越しの音声からも相当の数だと分かる。それに対抗するように人の鬨の声が聞こえ、
『じゃ、一戦やってくるわ』
 そう言葉を残して通信が切れる。
 しばらくはこちらから連絡しても通じはしないだろう。


172 :白狐と青年「接敵2」 ◆mGG62PYCNk :2012/03/17(土) 16:12:46.15 ID:ACF61e6x.net
「匠さん、彰彦さんは……」
 クズハが窺うように匠を見る。通信の声が聞こえていたのだろう。
心配そうな顔を元気づけるように匠は頷きかける。
「地下も地上も、皆がんばってくれている」
 おかげで挟み撃ちに遭う心配も軽減されているし、戻るべき場所がはっきりしている、
そこまで行けばいいと分かっているというのは気分的に楽でいられる。
「皆さんが助けてくれていますね」
「ああ、負けないように、俺たちは俺たちの仕事を果たそうか」
「はい」
 周囲を確認して、二人は再び階段を駆け上る。
 もう随分と上って来た。その間、一階で襲ってきたような異形化した人間による襲撃もほとんどなく、誘われているような印象も受ける。
 何が待っているのだろうかと考えているうちに、議員たちによって会議が行われていた会議室がある階にまで辿りついた。
 階段から離れ、通路の様子を確認する。
「匠さん?」
「一応、確認の為に会議室を覗いてみようか。平賀のじいさんが助けられなかった人たちがまだ残ってるかもしれない」
「え、あ、はい」
 クズハが戸惑い気味の反応をするのは他の階を見ていないのにここだけ見ようとしているからだろう。
 他の者と議員達とで救出対象としての価値が違うという事を示している事になるのだ。
クズハとしては違和感を感じる事なのだろう。
 聡い子だと思いながら、匠は通路を進む。
 人質を多くとったところで交渉対象が定まっていない現状ではただ荷物にしかならない。
人質を取るとしたら必要最低人数だろう。そうなれば利用価値の高い者が人質になる事になる。
 今日この街に居た人物の中であらゆる意味で利用価値が高いのは、様々な情報や人脈や権力を持っている、会議に参加した議員達だ。
 そしてその利用価値はイコールで生存率の高さにも繋がっている。
 ……おそらく、庁舎が占拠された時に逃げる事ができなかったここの職員達はもう生き残っちゃいない。
 死自体見慣れたものになってしまっていたが、それでもいくつもの死体をいちいち見ていては気が塞いでしまう。
他の階の確認は全てが終わった後に武装隊に任せればいいと匠は割り切っていた。
「俺たちの目的は通光の拿捕と議員の救出だ。俺たちだけじゃどのみち全部の階を回るなんて無理な話だし、他はまた後で武装隊にでもやってもらえばいいさ」
 クズハに誤魔化すようにそう言っている間に、半壊している会議室の扉に着いた。
 両開きの扉は片方が吹き飛んでいる。匠は吹き飛んだ扉から跡から顔だけを出して会議室の中を窺った。
 会議室の中は、異形が暴れただけあって荒れに荒れていた。
崩れた天井に、落下物によって砕かれたらしき机、資料として使われていたものらしき紙の束が割れた窓から入ってくる外気に舞っていて、
それらの上に、あるいは下敷きになって異形の死体が転がっている。
 生きている者の姿はない。


173 :白狐と青年「接敵2」 ◆mGG62PYCNk :2012/03/17(土) 16:14:06.93 ID:ACF61e6x.net
 ……ここにはいないか。
 匠が緊張を僅かに緩めていると、魔法で周囲の気配を探索していたクズハが小さく呟いた。
「下で戦いが起きています」
「……信じるんだ」
 匠には下の様子はよくわからない。
そのため戦況なども判断する事はできないが、それでも匠はそう言ってクズハの頭に手を乗せた。
 複雑そうな、眉尻を提げた顔で頷くクズハに笑みを向け、匠は階段に戻ろうとして、
 突然室内に残っていたスクリーンが起動した。
「な――!?」
「え?」
 身構えた二人はスクリーンに注目する。
 スクリーンには映像が出力されており、立派な席についた一人の初老の男が映っていた。
 初老の、眼光が鋭い総白髪の男だ。
見た目以上の活力を感じさせるその男の姿を、匠もクズハも写真などの資料で確認した事があった。
 匠はその男の名を呼ぶ。
「登藤通光だな」
 どこかで音声を拾っているのか、映像の向こうの男は匠の言葉に応じた。
「そうだ。お初にお目にかかるな、坂上匠。それに、子狐――今はクズハ、という名前だったか」
 軽い挨拶じみた言葉の後、通光は話を続けた。
『議員か、それとも私を捕らえに来たのかな? どちらにせよそこには私も議員も居はしない』
 何か罠でも仕掛けられているのかと警戒する匠の反応を見たのか、スクリーンの中の通光は笑んだ。
『私も議員達も最上階に居る。来るかね青年? 
そこでおとなしくしていれば、少なくとも私たちが大阪圏を掌握した、その直後までは安全を約束するが』
 匠は通光を睨みつけた。
「すぐに行く。そして議員を助けてこの馬鹿げた騒ぎも止めさせる」
「若いな」
 そう言って通光は問いを投げた。
「武装隊は辞めており、英雄扱いの平賀博士の養子ではあるが特に公の機関に所属している人間でもない。
元々お前はこの件に積極的に関わる理由はないと思うのだがな。
クズハを狙った事がお前がこの件に深くかかわることになった原因だとしても、
今でこそお前はクズハの保護人ではあるが本来は他人でしかない。何故この危険地帯にまで足を踏み入れる?」
「理由なんてたくさんある。ともかく、俺はお前のやり方が許せん。
そこら辺の判断は平賀のじいさんの教育の賜物じゃないか? それとだ、クズハはもう他人じゃない。
キッコ風言うならつがいな関係だ」


174 :白狐と青年「接敵2」 ◆mGG62PYCNk :2012/03/17(土) 16:15:30.21 ID:ACF61e6x.net
 通光はふむ、と頷く。
「この庁舎の地下の実験の事はもう知っているな? それに今大阪圏内に放った異形の正体も。
クズハの件も含めて、それらに対する、それは義憤というものか?」
 通光は目を細めた。
「真っ直ぐなのは嫌いではないが、な」
 口端を吊り上げる通光に、クズハが言った。
「あなたは私を留置施設からこの建物の地下に連れて行った人、ですよね?」
『ほう……分かるか?』
「はい。声の震えが同じです」
『良い耳だ。では平賀博士が示した証拠は正しかったという事だな。やはりお前は逸材だ。手放さなければよかったか』
「それについて、気になってた事がある」
 匠はそう言葉を差し挟んで問う。
「何故わざわざ研究区で強引な手を使ってまで連れて行ったクズハを、あんなに容易く手放した?
 朝川を留置施設まで派遣してきたんだ、実際には俺があの地下に侵入した事にはあの時点で気付いてたんだろ?」
『思ったよりも頭が回る』
「余計なお世話だ」
 通光は軽く表情を引き締めた。
『あの動きを利用して武装隊を行政区から減らす事、平賀博士を筆頭とした異形擁護派を抑え込む事、
お前に手を出す事で決戦が早まってはここまでの大規模な混乱を引き起こせなかったためと、理由は多い。
それに、あの時点でクズハから得られるデータは手に入れていたのでな。彼女は私が望む成果に限りなく近いようでいて、
その実違った成果を出していた。類似品ではあるのだが、発生した結果だけ見ればほとんど正反対なのかもしれん』
「正反対?」
 通光の実験の目的と建前は人類を種として一歩先に進めるというものだったはずだ。
人と異形、その両方の特性を見事に受け継いでいるクズハは通光が求めた結果そのもののように思われた。
『その娘は体内に異形の血肉を直接繋いだ事で、元々あった過去の異形の血が活性化したのだろう。
先祖返り。過去に立ち変える事によって得られた特殊な結果だな』
 通光の言葉にクズハが戸惑いの声を放った。
「え……? 先祖返り……? 過去の異形の血って……私の、昔の事を知っているんですか?」
『そうか、お前は過去の記憶が無いのだったか。あそこまで頭部が損壊していればそれも当然か』
 通光は興味深げに呟く。
『クズハ。その名、知らずに付けたのだとしたら面白い偶然だな。
かの家系には葛の葉という白狐の血が混ざっているという話だった』
「葛の葉……」
『ああ、安倍の血の末流、お前は安倍の家の者だ。そして、平賀のもとにいる安倍明日名の妹にあたる』
「え……?」
 クズハが確認するように匠を見る。
匠は、ことここに至ってはもう隠す事もできないだろうと考えてクズハの疑問を肯定した。
「そうだ。明日名さんやキッコから俺は話を聞いた。あの二人は、
今はクズハとして生きているお前に無理に過去を語って負担を背負わせる必要もないと言って、黙っているように頼まれた」
「そう、なんですか、私が……明日名さんと」
 突然告げられた事実を受け容れようとしているのか、俯きながら呟いているクズハに覆いかぶせるように通光の言葉が続く。
『安倍の血であるが故に、異形の血肉を移植しての実験の成功率も高いものと考えて様々な手段を用いて検体を手に入れ、実際成功したのだ。
その身が保持している高位の異形並みの≪魔素≫、正直なところ、これほどの成果が出るとは思わなかった。
ここまでの結果は未だ他にはでていないのだ。しかし、クズハは私の研究の本義である人類の進化とは決定的に違う結果を出した。
データを採ったとはいえ未だ優秀なサンプル、手放したくはなかったが、どうしても手元においておかねばならないいという程のものでもなくなったのだ。
そのため、被験体として以外の、平賀博士の類縁に近しい者という立場を利用したのだ。こちらは思ったよりも成果は上がらなかったがな。
失敗の結果として、こうして準備が完全に整う前に奇襲を仕掛けざるを得なくなってしまった。
が、一方でお前のデータをもとにした私の研究は進んだよ。後は数を揃えて実験を繰り返せば完成できるだろう段階まできている。
この大阪圏の制圧はそのための準備だ。邪魔はしないでもらいたい』
「ふざけるな」
 匠は墓標を床に突き刺した。
「すぐに行って実験も何もかもけりをつけてやる。首洗って待ってろ」
 匠はスクリーンに背を向け、クズハの肩を軽く叩いて扉に向かった。
 その背を通光は映像の中で黙って見送っていた。



175 : ◆mGG62PYCNk :2012/03/17(土) 16:16:08.73 ID:ACF61e6x.net
こっちも久しぶりだなぁ
ともあれ、そろそろ接敵です
ここにきて匠は通光と初めて言葉を交わすぞ
通光は御伽の人と過去に何か関わりがあったのかもしれないとそんな妄想

176 :白狐と青年「上階の会戦」 ◆mGG62PYCNk :2012/03/22(木) 16:42:57.31 ID:Ria/Bdt/.net


            ●


 階段を走り庁舎最上階に辿りついた匠とクズハは、扉も何もない。広々とした空間に出た。
 庁舎最上階は第一次掃討作戦当時の作戦指揮に必要だった様々な機材を集中させるために
1フロアをぶち抜いて一つの広大な空間になっていた。
現在は当時の機材も片付けられ、特に使用される目的も無いデッドスペースになっていたはずであったが、
今回の事件に際して運び込まれたのであろう、いくつかの機材が空間内には配置されて作動中である事を示す不気味な光を灯していた。
 機材の周囲には番をするように異形が複数配置されており、突然の侵入者である匠たちに獰猛な目を向けている。
空間の奥の方には、これもまた機材周辺の異形と同じような目を向けて来る異形の姿が複数見えた。
 それらに対して構えていると、クズハが部屋の一隅、匠たちの居る位置から左奥の方を指さした。
「匠さん、あそこ」
 クズハの指さす先には、捕らえられた議員たちの姿があった。
どうやら一塊に縛りあげられていて身動きがとれなくなっているようだ。その周囲を異形が監視するように囲んでいる。
 それらを確認して、匠は部屋の奥、異形たちが囲い込むようにして護衛している位置にいる人物に言葉を投げた。
「議員たちを解放してもらうぞ、登藤通光」
「これだけの異形に囲まれていてよく言えるものだ。無条件ではそれはできない相談というものだな」
 通光は映像の中で座っていた席から立ち上がって、オーケストラの指揮者がそうするように、腕を大きな動きで振った。
 その動作に応じるようにして部屋中の異形たちが匠とクズハに敵意を向けた。
 腕を振るう動きに合わせて通光の腕に光る魔装の光に匠は注意を向ける。
「その魔装……」
 ……あれが指揮用の魔装か。
 そう思う匠の横でクズハの耳がピクンと動いてその目が通光を見据えた。
「あの魔装から感じる響き、和泉の時と似たような響きです」
 侵入者に対して敵意を向ける異形の群れを制御しながら通光は頷いた。
「異形の喉を用い、ある種の音波を流す事によって脳に直接働きかけ、
低級の異形ならば強制的に支配下におくことができるものだ。
簡単な命令しかできんが、なかなかに便利ではある」
 クズハが僅かに声を震わせた。
「彼らの意思を無視して、操り人形のように……」
「知能がなければ操られる苦悩も屈辱もありえんよ」
 そして、と通光はクズハに向けて腕を二三度振ってみせた。
「意志があれば今のお前のように何の影響を受ける事も無い。この魔装はその程度のものにすぎん。
本来ならば廃棄されるしかなかった者たちを再利用してやろうというだけだ」
「貴方は命を何だと思っているんですか……っ」
「お前の考えるような道徳的な返答はできんよ。それよりも、だ」
 あしらうように言って、通光はクズハに問いかけた。
「その身を私のためのサンプルとして提供する気はないか?」
「何を――」
 匠が口を挟む。それを意に介さずに通光は続けた。


177 :白狐と青年「上階の会戦」 ◆mGG62PYCNk :2012/03/22(木) 16:44:06.12 ID:Ria/Bdt/.net
「そうすれば、そうだな、ここから黙って立ち去るのならば匠と、そこにいる議員たちも無傷で解放しよう」
 まるで恫喝するように異形たちの輪が狭まる。匠は短く吐き捨てた。
「クズハ、耳を貸すな」
「選ぶのはクズハだ。そうだろう? さあどうする? 私のもとにくれば、とりあえずの安心がその身一つで買えるぞ。
その――人と異形の間にある中途半端な体でするにしては十分な買い物だと思うが?」
 クズハは数瞬迷うそぶりを見せ、問いを返した。
「私にはそれだけの価値があるんですか? 貴方が求める結果と私が出したという結果は違っていたと、そう先程うかがいましたよ?」
「それでもその血は、その膨大な≪魔素≫を操る素養は、
上位の異形の血肉を取り込み蘇生に近しい回復を遂げた肉体は貴重なサンプルだ。
今私が大阪圏に対して持つカードを幾いくつか切る程度の価値はあろう」
 匠が周囲の異形を牽制するように墓標の先を向けながら警告する。
「騙されるなクズハ。議員がいなければ大阪圏を異形で侵略・支配できたとしても他の自治都市との折衝がこなせない。
俺たちは無視する事はあったとしても、議員たちを解放など、絶対にしないはずだ」
「確かにな。しかし議員がいなければ何もできなくなるわけでもない。――と言っても信じんか。ではこれではどうだ?」
 そう言って通光は天井に何かの図を映した。描かれているのは何かの設計図のようだ。
「これは……?」
 周囲から注意を逸らさないようにしながら素早く天井に視線を走らせた匠の呟きにクズハの声が答えた。
「墓標の改造図ですね?」
 通光は頷いた。
「その魔装の構造は武装隊内の坂上匠のデータから取得している。
≪魔素≫を棒に刻まれた紋に流す事によってある種の魔法のような術を行使する形式の武器だな。
元は父親の武装だったとか、元々は彼に合わせて作成された武装のせいか、いまいち調整が完成していないように見える、
改良の余地がある。この設計図をやろうではないか。クズハ、これでどうだね?」
「今のままでもお前を止めるには十分だ。そんなものはいらん」
「決めるのはクズハだと言ったろう」
 苦笑して通光は誘い文句を並べたてた。
「クズハよ、分かるか? 坂上匠は大阪圏の外に対してほとんど政治的な利用価値が無い。
私は今この場での安全とお前というサンプルが手に入るのならば、少なくとも匠は確実に解放するだろう。
その匠には新たな力が与えられる。
 分かるな? 男の戦いの人生に力を添える事が出来る――役に立てるという事だ」
 通光の言葉を吟味しているのか、クズハはしばし天井の図を見上げて、やがて口を開いた。
「私などで匠さんのお役に立てるのならば、是非ともこの身を捧げてしまいたいと、そう思います」
「クズハ!」
 クズハの持つ負い目を通光は把握している。そう悟った匠はこのまま話しを続けさせないよう、
強引に何らかの動きを作ろうとして、続くクズハの言葉に制止された。
「ですけど、私と匠さんはつがいなんです。少なくとも、私自身はそう自惚れてもいいと思える言葉を匠さんから賜りました」
 ですから、とクズハは決然とした口調で告げる。
「私は匠さんと離れたくありません」
 通光の方を向き、胸を張ってそう宣言したクズハに匠は内心で安堵した。
「……まあ、そういう事だ。さっきも言っただろ、俺たちはもう離れない。
どうせ徒労に終わるんだから人の女をこれ以上誑かそうとしてくれるな」


178 :白狐と青年「上階の会戦」 ◆mGG62PYCNk :2012/03/22(木) 16:45:59.73 ID:Ria/Bdt/.net
 通光は嘆息して首を振った。
「まったく、平賀博士も、お前も、精神が思ったよりも丈夫だったクズハにも、予定が狂わされる。
しかしそれでも今回の事が成功すれば異形に対する忌避感も第一次掃討作戦以前程には蓄えられよう。
そうなれば人の進化によって異形を排斥し尽くそうという口実のもとに被験体も集まる」
「人の進化……今の人をも滅ぼすつもりなんだな」
「何故現在の人の形にこだわるのかが私には分からん。
異形の出現によって世の中が現在のようになってしまった以上、
人もこの異形が跋扈する世界に対応して変わらねばならない。
例え強制的であろうとも進化を迫られているのだ」
「そのために行われるお前の実験で多くの犠牲が出た。
今俺たちを囲んでいるこの異形化した人たちも犠牲の一つの形だ。
これだけの犠牲を積んでお前は何が有られると言うんだ?」
「進化に対応できない者は死ぬしかないのは自然の摂理ではないかね? 
それに進化した人類は格段に優れた能力を持つことになる。
異形の体を自身の器官として持つ事によって得られる身体的なものから、
膨大な≪魔素≫を操る素質等の力の才能ともいえるものをだ。クズハを身近に置くお前ならば分かるな、
坂上匠。そのような小さな娘に上位異形に匹敵しうるだけの≪魔素≫、彼女の場合は先祖返りという特殊事例が絡んではいるが、
研究が進めばこれに似た結果として高確率で生み出す事も可能ではないだろう。そうなれば人類は全体的な種としての力を上げる。
異形を滅ぼし尽くす事ができるのだぞ、今後異形によって現在の人類が払う事になるう犠牲の数と比べたら、今後支払う事になる犠牲の少なさが分からんか?」
 ……やはり通光は異形排斥派か。
 それも人を種として強化して異形も、ついてこられない人間も全て犠牲とした形で排斥を完了とする極まれたタカ派、
否、異端の思考の持ち主だ。この男の行おうとしている事は人にも異形にも劇薬過ぎる。させてはならない。だから、と匠は言葉を放つ。
「通光、人と異形は共存していける。各地で起こっている共存しようとする動きを知らないわけがないだろう。お前はせっかく出来かけたこの動きも完全に潰す気か?」
「そのような動きも軋轢を生んでいる。今回の件で研究区に避難してこなければならなかった異形の者がどれだけいたのか、知らないわけがないな?」
「それは貴方がたがそうするしかないように状況を仕組んだからです」
「そうだな、大阪圏の状況を異形の排斥へと動かしたのは私だ。しかし実際にそのように動いたのは私の預かり知らぬ大阪圏内の者たちだ」
 クズハが押し黙った。自分自身確かに排斥の流れの中にその身をさらした事があるからこそ、反論がしづらいのだろう。それでも、とクズハは声を絞り出した。
「それでも、助けてくれた人たちはたくさんいました」
「しかし争いの芽はそれで潰えたわけではあるまい。
今度は異形と異形を守ろうとした者と異形を排除しようとする者とで争いが起こる。
根本から違う生き物に対して、人には滅ぼすか滅ぼされるかの二択しかない」
 通光は匠に向けて皮肉げな笑みを向けた。
「第二次掃討作戦において異形を大量に屠ってきたお前が共存などというのもまた笑える話だな」
「話し合えばわかりあう事が出来るものと知った。
異形だって全員が全員殺し合いを望んでいるわけじゃない事くらいは昔から知っていたさ。
手を携えていけるならそうしたい。第一次掃討作戦と第二次掃討作戦を通してようやく互いの事がわかってきているんだ。
理解の道を閉ざす事もないだろう」
「異形の中にも人の死を望む者も多い。知能の低い異形にしてみれば基本的に人は餌でしかない。
そのような者の手によって人が食われたとしても、その被害者を知る者からしてみれば異形は全て憎しという流れにもなる。
いくらでも火種はあり、そして次々に生み出される」
「知能をもっていてコミュニケーションがとれる異形と、
コミュニケーションを取れない異形がいる事を教え広めて誤解が生まれないようにしていけばい。
共存の道は閉ざされはしない。せめて互いに殺しあわなくても済む道を探す事くらいはできるんだ」
「平賀博士の思想……いや、異形だと思われていた娘と睦まじくあるお前とクズハの生き様か。青いな」


179 :白狐と青年「上階の会戦」 ◆mGG62PYCNk :2012/03/22(木) 16:46:58.00 ID:Ria/Bdt/.net
「そんな青い考えでもいくらかの異形や人は賛同してくれるらしいからな。
俺はそれを掲げ続けるさ。そしてお前のやろうとしている人と異形を滅ぼして新しい生き物を創り出そうって考えには反対だ。
そりゃ危険な考えだと言ってやるよ」
 匠は墓標の先端を通光に向けた。棒の全体に≪魔素≫が伝って紋様が浮かび、青みがかった光が纏われる。
「止める。そして今回の異形の暴動の件を明るみにしてもらうぞ、それで必要以上の排斥運動も抑え込めるはずだ」
「その結果、今度は人が二分して相互いに争う事になってもかね? 
人の手で全てが起こっていたと知れば今回のいわれの無い差別を受けた異形は黙っていないと思うが?」
「そこら辺はあのたぬき爺が適当に収めるんだろうさ。あのじいさんならしれっと情報の操作くらいやる」
「なるほどな」
 苦笑気味に通光は頷いた。
「懐柔できないとなれば、坂上匠。ここで潰させてもらおう。これまで積み上げてきた事実も、
それらが生み出す真実も、全ては人の新たな形のためのものであり続ける事が私の望みなのだからな」


            ●


 ほぼ同時のタイミングで、通光は匠達を圧し潰そうとするように、
周囲の異形たちを放ち、匠は通光へと向けた墓標の先端から≪魔素≫を刃の形にして伸ばした。
 通光を狙って伸長する≪魔素≫製の刃は、進路上の異形を次々に貫いていくが、刃にかかる負荷に顔をしかめた。
 ……異形の数が多い。
 異形達は壁なのだろう。刃に対して何の抵抗らしい抵抗もせずに大人しく刃に刺さって来る事からもそれは分かる。
 ……このままでは刃を掴まれるな。
 匠は舌打ちをして刃を自壊させた。
 絶命した異形たちは、刃という支えを失う事によって体制が崩れて床に倒れ伏す。
倒れ伏した異形たちの奥に通光の姿が見えた。
 匠は通光を狙って再度刃を伸ばす。先程も、そして今度も通光は匠が伸ばす刃に対して満足な反応ができていない。
元々通光は戦闘を行うような立場の人間ではない。目も反応速度もそれほど早いというわけではないのだろう。
ならば異形達を貫ききれば通光に刃を届かせる事ができる。
 そう判断して匠は刃を自壊させては再度発射するのを高速で二、三度繰り返した。
 それでも通光までは刃は届かない。壁になるような、体表が堅いか筋肉が異常発達しているような異形が多いのだ。
 ……防御を主体に考えた布陣できてるな、これは。
 通光のいる正面以外から接近していた異形が、既に至近に迫って来ている。
匠はひとまず通光を狙うのは諦めた。刃を数メートルの長さで伸ばして固定し、更に全身に≪魔素≫の光を宿す。
「クズハ、伏せろ!」
「はい!」
 返事を聞くか聞かないかのタイミングで匠は床を踏みしめて、気合いの声を張り上げながら刃ごとその場で一回転した。
 硬い肉の手応えと共に、異形が奇声を上げて断ち切られる。
 ――まずは、この異形共を全部斬り捨てる!
 速攻で勝負を決める事を諦めて異形すべてを相手する事に決めた。
それを行うには四方から異形に囲まれる今の立ち位置は不利だ。匠はクズハに言う。
「議員たちの所へ!」
「分かりました、道を開きます!」
 返答と共に、それまで組んでいた魔法陣をクズハは議員たちが一塊に囚われている方へと向けた。
 魔法が放たれ、両手にそれぞれ展開した陣の中央から銀に近しい色合いをした炎が奔った。
 放たれた炎は異形達を呑みこんで議員たちへの道を拓く。


180 :白狐と青年「上階の会戦」 ◆mGG62PYCNk :2012/03/22(木) 16:48:20.72 ID:Ria/Bdt/.net
 クズハは議員たちの所にまで駆け寄って、匠を呼んだ。
「匠さん、早く!」
「ああ!」
 呼びかけに応じながら匠は議員たちの方へと下がりながら墓標を振るった。
 クズハの気配を近くに感じられるまで下がった匠は、攻め寄せて来る異形達を相手にしながら問いかけた。
「議員たちは?」
「皆さん、何か……多分魔法とは別の方法で眠らされているみたいです」
「分かった」
 とりあえず議員たちは生きている。それが確認できただけで収穫だ。
匠は直近の犬に近い造形の顔を持つ異形の鼻面を斬って怯ませ、刃を返す動作で目の辺りから頭部を切断した。
 次の異形に対して意識を向けながら、通光へも視線を振る。
 匠達は議員たちの近くへと移動している。議員たちは壁際に一塊にされていたため、匠達は今背を壁に向けている事になる。
先程まで議員たちを意識しつつの四方からの攻撃を捌かねばならなかった状況に比べれば、
これは精神的にも実際の仕事量にしても圧倒的に楽だ。攻め寄せて来る異形達を払っていれば、やがては通光にも刃が届くようになるだろう。
 匠の考えに気付いたのか、異形達からの攻撃の波の勢いが衰えた。異形達はこちらを囲い込むようにして威嚇してきている。
 ……戦力を減らさないようにしてm、持久戦にもっていく気か?
 あるいは遠距離攻撃を仕掛けてくるのかもしれない。どちらにしてもやられれば戦況はこちらの不利になる。
「クズハ、議員たちを守りつつ、彼らの拘束を解いてくれ。できれば気付けもできればいいんだが」
 クズハは遠巻きに囲い込みを始めた異形達に向けて陣を向けながら頷きを返した。
「分かりました。でも、気付けの方は……その、少し乱暴な事になってしまいますけど」
「構わない」
「はい」
 返事と共に陣から放たれた幾条かの雷光が異形を焼いた。クズハは陣の一つの構造を崩して単純化したものを掌に乗せた。
淡く放電現象を起こしている魔法陣を議員たちに押し当てるのだろう。
火傷の痕が残りそうだが、この際彼らには我慢してもらう事にする。
クズハの仕事に期待しながら匠は雷光に怯んだ異形達に一歩近づいた。
 クズハは議員たち同様に通光が欲している人材だ。
利用価値がある限り、たとえそれが死体を利用したサンプルとしての利用価値であろうとも、下手な損壊を望む事はないはずだ。
 ならばそんな利用価値のある人材を一か所に集めておけば、この場での安全度は上がるはずだ。
 そう考えながら匠は異形へと次々刃を叩き込んで行く。
 何体か発生する討ち漏らしに対してはクズハが魔法で対処してくれる。
どうやら議員たちへの気付けは成功したらしい。
地面に寝転がっていた議員たちがふらふらと起き上がろうとしている光景を視界の端に映し、
クズハの防衛状態が万全だと判断した匠は、更に歩を進めて異形を能動的に狩りに向かった。
 後方を気にしなくても良いため、安心して異形の中へと斬り込んで行ける。異形を全滅させるまでにそう時間はかからなかった。
 顔についた異形の血を拭って、匠は今度こそ通光に墓標の先端を向けた。
 多少の距離があろうとも、墓標の刃は伸びる。通光は首元に刃を突きつけられたに等しい状態だ。
そのまま油断なく通光を睨み据えながら匠は宣告する。
「手駒は無くなったぞ。諦めて降参しろ」


181 :白狐と青年「上階の会戦」 ◆mGG62PYCNk :2012/03/22(木) 16:49:57.97 ID:Ria/Bdt/.net
 用意していた異形を全て斬り捨てられた通光は、武器を突きつけられてもいっこうに観念した様子も無く、言祝ぐように言う。
「まさに英雄のごとき奮戦だ。私のもとにいる兵器も、そう生きたかったのかもしれんな。だがまだだ、坂上匠」
 瞬間、通光の腕に装着されている、異形を操るための魔装が破裂した。
「――?!」
 何ごとかと匠は身構え、直後に魔装が破裂したという自身の認識が誤りであったと気付いた。
 通光の両の腕部は、鈍く光を反射する鋼の腕に変貌していた。
 ……腕が……、これは――
「機械化……?」
「元々はこちらの研究をしていたのでな」
 通光の言葉が終わるより早く、匠は墓標から刃を発射した。
 通光の足を狙った一突きは、身を一歩横にずらすことによってあっさりとかわされた。
 先程は満足な反応ができていなかった通光の行った危なげの無い回避行動に、
匠は機械化した腕を展開した時に薬でも摂取して反応速度を上げたのだろうと予測する。
 ……だが――、
 匠は回避行動を終えた通光を刃先にかけようと伸ばした刃を振った。
 通光は兵士としての経験はないはずだ。
単調な中距離からの一撃は目で見て回避を行う事ができるかもしれないが、
しつこく追いすがる攻撃ならば目では追えてもどこに身体を動かすか判断する思考の方が付いてはこまい。
 そう思っての一撃は、しかし余裕をもってかわされた。
更に通光は長く伸びた刃の腹に機械の腕を押し当て、そのまま刃の内側へと滑りこんできた。
 急速に匠へと接近してくる。
 ――早いっ。
 相手の実力を見誤った。そう悟った匠は、瞬時に刃を自壊させた。
砕音と共に刃が≪魔素≫の破片となって宙に散る。
機械の手の甲を刃に当てていた部分が消失したが、通光はよろめく事も、速度を緩める事もなく迫ってくる。
 匠は先端に槍の穂先程度の長さの刃を再形成して、接近してくる通光を払うように左側面からのカウンターを打ち込む。
 通光は迫る穂先に対して左の腕をぶつけた。
 いくら機械化しているとは言ってもこの勢いだ。機械化した腕部は破壊されるだろうと匠は考えた。
しかし、機械化された左腕は確かに穂先を受け止める。
 刃を受け止めた機械化した腕からは≪魔素≫製の刃が伸びていた。
「魔装っ!」
「なかなかの出来だろう?」
 通光は墓標の本体、金属棒の内部にまで踏み込んできた。穂先を処理した左腕とは逆、右腕からも≪魔素≫が収束する気配がある。
 匠は反射的に通光の進路から跳び退った。
 斬り捨てた異形の血に足をとられそうになりながら、匠は先程まで自身が居た空間を≪魔素≫製の刃が断ち切っていくのを空気の動きとして感知する。
 通光は身体能力も、思考の方も間違いなく戦い慣れたもののそれであった。それも相当な手練の動きだ。
なるべく傷つけずに捕らえることも考えたが、そのための手加減などできない。
 再度追いすがって来た通光と匠の間を炎が通りぬける。クズハの魔法だった。
 仕切り直しの機会を得た匠は、クズハと、次々と目を覚ましている議員たちの方にも注意を振り向けている通光の両腕に注意を向ける。
 ……あの腕、まだ何か機能があったら面倒だ。機能を発動させられる前に――
 墓標の連続運用で疲労してはいるが、あと一息。一気に攻め寄せて決着を付けようと匠は決断した。
 炎が晴れた瞬間、通光へと向けて地を蹴る。
 墓標を振り上げて通光を狙いに行く。
 通光は匠の懐に飛び込もうと姿勢を低く、そして刃先を突き出して突進の体制をとっていた。
上からの振り下ろす形の匠の攻撃よりも、真っ直ぐ突き刺す動きの通光の攻撃の方が早く相手に到達しようとする。
その時、墓標の先端の刃が大斧についているような、肉厚の刃へと変形した。


182 :白狐と青年「上階の会戦」 ◆mGG62PYCNk :2012/03/22(木) 16:51:00.33 ID:Ria/Bdt/.net
 刃の分リーチが伸び、同時に急激に重さを増して振り下ろしの速度が上がった匠の攻撃は、
通光の攻撃が匠を貫くよりも早く彼に喰らいつこうとした。
 通光は低かった姿勢を更に低くし、両腕部の≪魔素≫製の刃を収めると、両手を床に付けて強引に身を横に跳ね飛ばした。
 匠の一撃は目標を外して床に轟音を立てて刃を喰い込ませた。
 匠の視界の端、跳ね飛ばした体の姿勢を危ういところで制御した通光は、
振り下ろしの一撃が外れた隙を狙うように上体を跳ね上げながら両腕に再び≪魔素≫を収束させ――
「――?!」
 床面に突き刺さった刃を自壊させてほとんど動作の停滞無しに通光を追った匠の打撃の軌道に瞠目した。
 振り下ろしの力の流れを強引にねじ伏せての一撃だ。通光からしてみれば予測よりも遥かに少ない隙で追ってきた一撃だろう。
一度崩しかけた態勢から起きあがって反撃を行おうとしている通光と既に横薙ぎに振り抜きかけている匠とでは、通光の方が動作が遅い。
 通光は更に体勢を崩す事を承知してか、前に出掛けていた体を無理矢理体を反らせた。
 匠の墓標の先端が通光から外れ、力尽くで振るわれた長物は目標を外した勢いで匠の体を引っ張る。
匠はその力の流れに逆らわず、右足を軸にして体を一回転させる起動にもって行った。
 視界の外、≪魔素≫を収束させ終えて刃を生成した機械の腕を振り上げて通光が力に流されている匠の背を斬りつけようとしているのを感じる。
 ……次!
 匠は体を回しながら、墓標の、これまで尻の側になっていた方の先端に三日月状の刃を形成した。
 刃の重さの分遠心力が増し、勢いがついた匠の体は、回転速度を上げて、三日月状の刃を通光に叩き込んだ。
 肘と腰に確かな手応えを得た瞬間、背後で何かが砕かれる音を耳に聞く。
 匠は回転する動きの中で今の一撃の影響を受けた通光の姿を確認した。
 彼は匠の身が回転していた方向、視界の左側に数歩分の距離を打ち飛ばされていた。
 左腕が砕けている。どうやら匠の一撃に対して左腕を盾としたようだ。先程の手応えと砕音の正体は左腕を砕いた時のものだろう。
 彼はこの瞬間、膝をついて完全に体勢を崩している。
 匠は更に己の身体を回した。
 三日月状の刃は次の一回転の半ばで破砕。
そして逆の先端、自身の視界の先の方にある先端へと今度は人一人分は優にある巨大な、
そして先程の大斧の刃よりも肉厚な刃を生んだ。
 より重い先端を得た回転は勢いをいや増しに増し、高速の追撃が通光を再度捉えようとした。
 通光は咄嗟の動きで刃を生成していた右腕を刃の盾として翳した。
 刃が機械化した右腕に喰らい付く。
「終わりだ!」
 腰を落として墓標を思い切り振り抜いた匠の視界の中、機械化された通光の右腕は衝撃にひしゃげ、その内部で≪魔素≫が爆発した。
 爆発の勢いで通光は部屋の奥にまで吹き飛んでいき、床を滑って異形の死骸に激突してようやく止まった。
 刃を砕き、回転運動に残っていた慣性を腰を深く落として殺した匠は、
吹き飛んで行った通光を見る。両腕を失った彼は、地面に伏せたまま、動く気配はなかった。








183 :白狐と青年「上階の会戦」 ◆mGG62PYCNk :2012/03/22(木) 16:51:34.88 ID:Ria/Bdt/.net
クズハの事を人の女とか言ってる匠からそこはかとなく犯罪臭が漂っておる
異形世界は一時期人間の数が減り過ぎたために
「産めるようになったらすぐ仕込むぜ!」
な雰囲気な地域もあるはずだ(と今妄想した)から大丈夫なはず

通光戦、とりあえず終了です
他の所がどうなってるかなとか次回辺りで見て行きます

184 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 02:43:45.60 ID:gjZWr3hp.net
ご無沙汰です

 ちょいと新生活などが始まりまして、ネット環境とかそこら辺を整えておりました
 そしてこのたび本編の残りの文章を書きあげる事ができましたので、まとめて投下してしまおうと思います
 いささか以上に投下分量が多いので、気長に投下が終わるのをお待ちくだされば幸いです

185 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 02:45:43.85 ID:gjZWr3hp.net


            ●


 よくしなるムチのように、勢いの乗った尾の一振りが朝川の身体を殴打した。
 殴打の勢いのままに跳ね飛ばされた朝川は、腕と足からアンカーを打ちこんで身体を地面に縫いとめる。
 着地し、アンカーを回収するのと並行して胸部から≪魔素≫の光を凝縮したような光弾がキッコに向かって放たれる。
 その光弾から身を逃したキッコめがけて次は腕に仕込まれた銃器から弾丸が飛んだ。
「この……!」
 キッコは弾丸に向けて炎弾をぶつける。
 炎弾に撃ち落とされた弾から≪魔素≫の光が現れ、弾丸を受け止め包み溶かそうとするキッコの炎を網のようなものが更に包み込んだ。
 朝川がキッコに対して先程から放ち続けている、捕縛の魔法が仕込まれたと思しき魔弾だ。
 弾丸一つ一つから現れる捕縛術は大したものではない。
しかし次々と放たれる銃弾は幾重にも術を重ね、結果、術の効果を何倍にも引き上げてる事になる。
そうして多重にかけられる捕縛の術は、キッコでも無視することはできない強度の術だった。
 炎に落とされたにもかかわらず、尚キッコを狙って伸びて来る捕縛の網を退けてながら、キッコは内心で舌打ちする。
 ……やはりアレはよくないの……。一度捕らわれれば次から次へと術を重ね続けられて抜けだすのは手がかかる。
術から逃れるのに苦労している間、我は手も足も出せんの。
 炎の残滓を貫いて、脚部の推進機から強力な推力を得た朝川が突っ込んで来た。
彼の両手には≪魔素≫の光が圧縮されて輝いている。
「まったく、次から次へと。絡繰りの仕込みは一体いくつあるのやら!」
 振るわれた双の腕部を、キッコは同じく≪魔素≫の光を纏った両腕で受け止めた。
 組み合った両者の掌から互いが纏う≪魔素≫が拮抗し、干渉しあって光が散る。
「我などよりお前の方がよほどか異形だの」
「人を模した化け身でよく言う。――これは人が行きつく一つの果てだ」
「そのような結果はつまらぬ」
「機械が気に食わないか? 獣」
「まさか、絡繰り細工自体は面白いものよ」
 そう応じたキッコの耳に、朝川の腕が内部で組み替わる微かな機械音が聞こえた。
 反射的に朝川の近くから離れようと、キッコは干渉し合っていた両者の掌の間の≪魔素≫の圧力を一気に下げた。
 拮抗していた≪魔素≫のバランスが崩れ、爆発が起こる。
 爆圧に半ば飛ばされ、半ば勢いに乗る形で朝川から距離を置いたキッコの視界の中、朝川の左腕部から雷撃が奔った。
 ……魔法……? 魔装と仕組みは同じか?
 地を這い宙を焼いて飛来する雷撃を払う為に、キッコは炎を撃ち込んだ。


186 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 02:47:21.87 ID:gjZWr3hp.net
 炎が雷撃を焼こうとした瞬間、雷撃が突然その身を網のように広げた。
「――?!」
 網のように広がった雷撃はその中心を炎に撃ち抜かれ、
しかしその穴を瞬時に後に続く雷で補いながらキッコを包むように覆いかぶさった。
 ……これは。
 雷撃には先程の弾丸に込められていたのと同じ、捕縛用の術が反映されていたようだ。
そう悟った時にはキッコは稲光に全身を包みこまれていた。
 ≪魔素≫を体表に沿うように発して雷網に対処するが、それでも端々から身体が焼かれる臭いがした。
熱した鋼線にがんじがらめにされたように、身体が締め上げられると共に焼かれているようだ。
 身体を勢いよく振りながら≪魔素≫を放射して網を払おうとするも、いっこうに雷網はキッコから離れる気配が無い。
 ……ッ、捕まったの。
 忌々しくそう思っていると、朝川がキッコに向かって左腕の雷網を放ち続けながら接近してきた。
「通光様が目指される別の形――異形の要素を取り入れた結果として訪れる人類の進化はお前の趣味に合う事と思うがな、異形」
 疾走してくる朝川の右腕からは雷撃とは別の、先程キッコと組み合った時に行われていたような≪魔素≫の圧縮の気配がある。
直撃をもらうのは危険だとキッコの判断は働くが、時間の経過と共に多重に重ねられ続けて行く雷網の捕縛はキッコをなかなか放してはくれなかった。
 ならば、とキッコはこれまで体表に纏って締め上げと雷撃から身を守っていた≪魔素≫を解放した。
 身体中を熱が覆い尽くしてくる。それらが与える痛みを堪えながら彼女は怒声を張り上げた。
「そもそもの在り方を捻じ曲げた末の歪な結果を我は快くは思わぬわ!」
 言葉と共に雷網が引きちぎられる。
 身体中から≪魔素≫を解放したキッコの身体は、
自身を人の形に変化させていた術の為に纏っていた≪魔素≫をも解放する事になり、
変化が解け、キッコは本来の金毛の大狐の姿になっていた。
 キッコの体積が急激に膨れ上がったために、雷網は捕縛を続けることができなかったのだ。
 朝川は突然の変化に一瞬目を見開き、しかし突進を止めようとはしなかった。
 キッコは新たにその身を捕らえようと朝川の左腕から飛来してくる雷撃の網を丁寧確実に炎で対処していきながら、
人化していた時と同じ、鋭い金の瞳で、抜き手をキッコに撃ち込もうとしている朝川を捉えた。
 尚も身体中を這いまわって毛を焦がす、先程までの雷撃の残滓を振り払うように右前肢を朝川めがけて振り下ろした。
 朝川は頭部を砕こうとする大狐の前肢を身をよじって避けた。頭部を外した前肢は、彼の左肩を抉り取りにかかる。
 機械の身体を砕く硬い感触を得ていたキッコは、その爪の一撃が相手を抉りきる前に前肢にかかる重さが無くなったのを感じた。


187 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 02:48:24.82 ID:gjZWr3hp.net
 朝川が左肩から脇にかけての身体の部品を自ら取り外したのだ。
 爪が勢い余って床面を砕く。
 朝川は崩れかかった体勢を何らかのバランサーでも仕込んでいるのか、瞬時に整えた。
そしてほとんど突進の勢いを殺す事なく、残った右腕を抜き手の形で突き込んだ。
 キッコは胸部に侵入してくる異物の感覚を得る。その異物が内臓を深く傷つけるより早く朝川を振り払う為に、キッコは全身から≪魔素≫を放った。
 炎の形で広がる≪魔素≫の波に晒された朝川は、波に流されるようにしてキッコから距離をとった。
右腕が突き込まれていた所からの出血がキッコの金毛を血色に染めていく。
 傷は内側から破裂したかのように抉れており、手指が軽く刺さっただけにしては異常な状態だった。
 ……≪魔素≫を爆ぜさせおったか。
 喉の奥から血の味が駆けあがってくる。内臓も少しく損傷したらしい。
 血の塊を吐き捨てながら自身の状態を把握していると、朝川がキッコを見据えながら呟いた。
「そもそもの有り様か。機械は面白いと言い、しかしこの体は否定する。獣の思う事は分からんな」
「我にはお前の考えこそが分からん。何故機械化などその身に施した?」
「……お前達異形が現れる前の話だ。
当時発展していた技術に病んだ身体の部位を機械で代用する、というものがあった。
それが高じて機械化は長命化や身体能力の強化のような目的にも扱われるようになった」
「昔から人が望む事は変わらぬの」
「全身を機械化すれば半永久的に生きられると、そのような考えも生まれるわけだが」
「争いが起きたのだの」
「然り」
 朝川は応答しながら、右腕に先程左腕の纏わせたものと同じ雷撃を発生させた。
「人体に機械を仕込む技術は戦いの道具にもなった。
その方面専門の技術屋が現れてより戦いに特化していった結果、機械化技術を自身に施した人間は、そう、正に人の皮を被った異形に化けていた。
 私も、さる政治家のもとで兵器として買われていたのだが、誰も彼もが化け物でも見るように私を見ていたものだ」
 朝川は雷撃をキッコに向かって放射した。
「故に、あのまま異形が現れなくても、機械化技術は広くは広まらず、一部の富豪のような、
特殊な層が持つ技術になっていただろう。機械化という事象自体に忌避感を抱く者もまた多かった」
 雷撃は網となって再びキッコを捕らえにかかるが、キッコは危なげなくそれを避けて行く。
「無駄ぞ、もうその網では我は捕らえられん。腕も片方を失くした状態、もう貴様に勝機はない」
「……それでもあがいてみたいのだ」
 そう言いながら、雷網を丁寧に焼き払うキッコに向けて朝川は言葉を続けた。
「しかし、今は異形という敵に対抗するためというもっともらしい理由で否応無しに人の変化を促す事ができる。その機会を奪う事もない」

188 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 02:49:36.84 ID:gjZWr3hp.net
 朝川のもの言いに、キッコは首を傾げてみせた。
「同胞がいなくて寂しいのかの?」
「まさか。私には私が望む形での終わりがあるというだけだ。
 私は戦いの道具としての機械化を選んだ。通光様に調整は受けてきたのだが、今では入手が困難な部品も多い。
そろそろ不調も出て来てな、このままでは全ての機能を失って私は朽ちてしまう。
そうなる前に、戦いの場で果てる事が出来るのならそうしたい。そのための大義名分として通光様の考えは私にとって好ましかった」
 雷撃が勢いを増す。
「それに、人の道から外れてしまっているかもしれないが、私は人間が好きなのでな。
人の為に戦えるのならば、それは私にとって嬉しい事だ。
 だから、人に馴染む事の叶わぬ異形よ、滅んでもらうぞ」
「我もこれで結構人を好ましく思っておるのだがな」
 キッコは壁のような密度で押し寄せる雷撃に炎を壁のように広げて対処した。雷撃の勢いは尚高まって行く。
 相手の動力が切れるまではこのまま防戦に徹した方がいいかと思考しているキッコの耳が奇妙な音を拾った。
 音の発信源は朝川だ。彼の身体から、何かが軋むような音が聞こえてきた。
そのうえで更に、キッコの気を引く音を彼の身体は発していた。
 それは先程も間近で聞いたことのある、
 ……機械が動作する音……かの?
 先程までは間近でもほんの微かにしか聞こえてこなかった朝川の身体の動作に伴う機械の駆動音が、
今やキッコの耳にははっきりと聞こえる程の大きさになっていたのだ。
 気が付けば朝川の表面を人間に見せている表皮が溶け崩れている。その内に隠されていた機械製の中身は赤熱化していた。
「これは――」
「人の敵を討つために果てる兵器、美しかろう」
 そう言うと、朝川は雷撃と炎がせめぎ合う中に強引に踏み込み、炎の壁を突き抜けた。
 完全に表皮を失った朝川が接近してくる。キッコは咄嗟に反応して朝川に前肢を叩き付けた。
 巨大な前肢の一撃を受けた朝川は、しかし弾き飛ばされる事なく、雷網を前肢に絡めてキッコにしがみ付いた。
「――吹き飛べ異形」
 瞬間、赤熱化した朝川の体内で高まった処理しきれない熱が爆発の形で解放された。


189 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 02:51:46.76 ID:gjZWr3hp.net


            ●


 明日名は上階から追いすがってくる異形達を
旧下水まで下るまでの狭い通路内で一体ずつ倒していきながら、旧下水道内にまで辿りついた。
 追ってくる異形達の気配はまだ通路内から感じるが、旧下水道内には生きている異形の気配はない。
元々ここに居た異形達は既に行政区内に散って行ってしまったのだろう。
 旧下水道は文明崩壊以降、閉鎖されてしまってほとんど顧みられることもなかった施設だ。
もっと空気が淀んでいたりするものだと考えていたが、それほどひどいものでもない。
 ……さっきまでの臭いが酷過ぎただけか。
 異形達の食事の場と化していた上階の状態を思い出して嘆息し、魔装による光が淡く照らしだす地下へと目を走らせる。
 庁舎の地下からここまで下って来た通路にしてもそうだったが、どうやらこの旧下水道は相当手が入れられているらしかった。
 通路の出口から、少なくとも淡い光の中で明日名が見通すことができる範囲内までは通路が拡張されている痕跡が延々とある。
壁面の崩れた土の様子を見て、魔法で相当強引に手早く作業したのだろうと推測する。明日名は下水内に目を凝らした。
 視界の中には幾つもの喰い千切られたと思しき、異形のものとも人のものともつかない残骸があり、
それらに紛れるようにしてなんらかの情報が記載されているであろう書類や、壊れた実験器具の類がある。
 残骸になっている生物の身体の中には行方不明として認識されていた者達も少なくない数含まれているだろう。
 静かに瞑目して、明日名は符を取り出した。
「望むと望まざるとに関わらず、研究に巻き込まれた人たちの供養を兼ねて、完全に消してしまおうか」
 そう言う明日名の前に、下水の奥の方から人影が現れた。
「待った、ここのデータは消してしまうにはあまりに惜しい」
「誰だ?」
 警戒の目を向けると、男は無抵抗を示すように両手を挙げた。
「俺は通光様の研究を手伝っていた研究者の一人だよ。
他の連中はそれぞれ散っていったみたいだけど、ここの研究データは完全には持ち出せていない。
まだ消されちゃ困る。ここのデータがどれだけ貴重かは……そう、昔妹を生き延びさせようと必死になってた研究者ならわかるだろ?」
 費やされてきたであろう命の総数で計ろうとするのなら、ここにあるデータは、確かに貴重なものなのだろう。
そう思いながら、明日名は男の言い分を切って捨てた。
「分かりたくはないな」
 付け加えるようにして、
「でも、こそこそと火事場泥棒をしているような人間に渡していいような安い代物ではないんだろうね」
 言い渡された皮肉に男は不愉快そうに舌打ちした。

190 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 02:52:39.94 ID:gjZWr3hp.net
「じゃあコイツらに食われちまえ」
 言葉と共に、男の腕に魔装の光が宿った。
知能を持たない異形化した人間達を使役するために作成された魔装の光だ。
 魔装の光に導かれるようにして男の背後から異形が現れた。
 行政区内に散っていく途中の異形達でも回収してきたのだろう。
「本当に火事場泥棒のようだ」
 苦笑しながら明日名は手持ちの符を全て宙に浮かべた。それらは急速に≪魔素≫の光を帯びて行く。
「な、なんだ、その≪魔素≫量……!? お前、ただの研究者じゃ……」
「俺のものではないよ。これはキッコの協力を得て作った符だ。並みの異形では太刀打ちできないよ」
 答えながら、片手間に通信機を取り出して起動させる。
 応対したのは平賀だった。周囲や上の階で展開している≪魔素≫のせいで音声が通じづらいなか、短く要件を告げる。
「明日名です。庁舎から旧下水道に続く道を完全に潰します」
『了解じゃ。地上に出る影響は気にせずにやってしまっとくれい』
 話が分かる上司の返事に満足していると、明日名の言葉を聞いた男がぎょっとした。
「おい、お前、止めろ!」
「そうはいかない。やっと一矢報いることができるんだ」
 符が宙を飛んで下水路のあちこちに張り付く。
 男は指揮下にある異形達に急ぎ指示を出した。
「行け異形ども! 殺せ!」
 男が発した攻撃的な言葉に反応して異形達が明日名に殺到しようとする。
 その異形達の前に青白い狐の群れが割り込んだ。
「――安倍の、式?!」
「異形達もまとめて荼毘に付す。動きを止めておいてくれ」
 言葉の応じて狐たちは異形の群れに挑みかかった。
小さな狐型の式達は次々に潰されて行くが、
既に設置が終わった符を起爆させるまでの時間を稼ぐには彼らが稼いでくれるわずかな時間だけで十分だった。
 清音を立てて胸前にて柏手を一拍。
 それで符に込められた≪魔素≫が残らず起動した。
「安らかに眠ってくれ」
 符に青白い光が強く灯る。その光の色に染められた蒼白な顔で男が叫んだ。
「貴様、ここで幾つかの情報の流出を防げたとしても既に多くのデータは――」
「分かっているさ」
 ここにあったであろうデータは大方が既にどこかに移されたか破棄されたかだろう。
研究者の姿がほとんどないことからだいたいの予想はつく。
実験場にしても、明日名や彰彦が関係していたような場所があったように、他にも幾つもあるはずだ。
「それなら、通光に協力した研究者たちがもうこんな実験を行う気が起こらないように、全て破壊してまわるよ」
 男が何か叫んだが、その言葉は異形の咆哮と符が起爆する爆発音と直後の旧下水道の崩壊音にかき消された。



191 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 02:54:13.17 ID:gjZWr3hp.net


            ●


 爆発と崩落の後、明日名は瓦礫の山に半ば埋もれるようにしながら立っていた。
 崩落の衝撃と瓦礫の山から守ってくれた式が力を使いはたして消滅していく。
 爆発によって発生した粉塵が庁舎から旧下水道への入り口へと続いていた通路に流れて行く。
その流れに晒されている明日名は口許を手で覆って内心でほっと息をついた。
 ……危なかった……結構大規模に崩れるものなんだね。
 地下内を見回す。
 照明がほとんどイカれてしまって薄暗くなったなか、生き残りの微かな明かりと、
式が放つ青白い光とで見る限りでは、濃くたちこめる粉塵の中で何者かが動くような気配もない。
 異形達も、そして恐らくは、彼らを使役していた男も瓦礫の下だろう。
 ここまで完全に埋まってしまえばデータも何も回収するのは難しいだろう。
紙片の一枚や二枚は落ちているかもしれないと残り数匹になった式を放っておきながら、
明日名は上の方から聞こえていた戦闘音が消えている事に気付いた。
 ……さっき旧下水道を破壊した時の衝撃で耳が聞こえなくなっているわけじゃないね。
 念の為に足元にある石ころを拾って当てもなく投げてみると、たしかに瓦礫の山のどこかに当たって地面に転がる音が聞こえた。
 ……俺の耳が大丈夫だとすると……上の戦いが決着したって事になるんだろうけど。
 その音以外に、もう一つ聞こえなくなっている音があった。
 ……庁舎からの通路に残っていたはずの異形達の気配がなくなってる。
 通路の方には狭い通路内で足止めが行える程度の数しか式を置いてきてはいない。
そもそも直接指示を出せない位置に居たあの式達ではあの数の異形達倒しきれるとも思えない。
 ……上の戦闘音も無くなってるし、キッコがやってくれたのかな。
 思うと同時に上階から爪が擦れる音を鳴らして足音が下りてきた。
 足音の主は人化を解いたキッコだろうと予想してはいても、わずかに身を強張らせてしまうのは、こういう場に慣れていないせいだろう。
異形の生き残りが下りてきていた時の為に庁舎から旧下水道への通路から身を離して、データの痕跡を探させていた残りの式達を呼び戻す。


192 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 02:56:22.60 ID:gjZWr3hp.net
 しばらくして現れたのは器用の階段を下りて来る大狐状態のキッコだった。
 周りに通路内で異形達の相手をしてくれていた式の生き残り達を従えた彼女は、身構えていた明日名を見て説教を始めた。
「また符を全て使いきりおったな。
お前は術に長けているわけでもないのだ、あまり景気のいい使い方をして身を護る術を失くすような事をするな」
「ごめんキッコ、でもこれくらいしないとここを崩すのも、異形達をなんとかするのも無理だったんだよ」
「お前はたまに思い切りが良すぎるきらいがあるの……」
 そう言って、キッコは僅かに顔を俯かせた。大狐の状態の為か、感情が普段よりも読みとりづらい声で問いかけてくる。
「なあ、明日名よ、我等は居ては迷惑かの」
 明日名は首を傾げた。
「キッコ……?」
「我等ならば、隠れ里を用いて人と交流を持たずに暮らす術もあるのだ。
実際、我の眷族は多くが信太の森に住んでいて、未だ外との交流を避けておる」
 たしかにその通りだ。匠や彰彦から聞いた話では相当数の異形が森の中の隠れ里にはいるらしいが、
その中でも森の外と関係を持っている者はほとんどいないという事だった。
「でもその一方で、最近は何体かの異形達が和泉の人たちと交流をもってるって話も聞くけど?」
「ああ、その何体かの異形が我や、それに多少流れは違えどクズハもそういう扱いになるかの」
 キッコは自身が引き連れてきた式達に、既に明日名が指示した仕事をこなすようにいいつけながら言葉を続ける。
「人の中で生活するのは色々と刺激になる。その面白さに我などは惹かれたものなのだが、やはり正体がばれれば忌まれる事もままある。
そのような扱いを受けようとも我は気にはせぬのだが、クズハ、あの子は人から排斥されたら傷付こう。我はそれを見たくない」
「クズハを森の中に囲い込もうとでも言うのかい?」
「……必要ならそれもよかろうよ」
 狐の状態であっても、困惑と分類できる口調で言葉を紡いでいるということは長い付き合いでわかる。明日名は存外に心配性な狐に微笑した。
「何を弱気になっているんだ? 俺も君も、今井君や博士がいて、そして坂上君があの子の良人としてあってくれる。
そこまでしてくれる人たちがいるのにあの子を囲ってしまおうなんてだめだよ。
あの子にとっては人のいる場所がこれまで暮らしてきた場所なんだ。
いきなり異形ばかりの場所に連れていかれても、自分が人だった事を知った今のあの子はやっぱり孤独を感じてしまうだろうし、
何より今のあの子は坂上君とは離れたがらないだろうしね」
 以前の依存とはまた違った意味で今のクズハは匠から離れたがらないだろう。見ているほうが恥ずかしくなるような告白を見せつけられた身としてそう思う。
「かと言って坂上君もあの森に囲うというのも酷だね。彼は第二次掃討作戦の件で森の異形の何人かには敵視されているだろう?」
「ああ、そういえばそうだったかの。森の者達の感情までは我も統御できぬしする気もさらさらない」
 キッコはふむ、と頷いた。
「どうも、らしくなかったかの」
「身内には優しいからね、君は」
 もっともらしく言う明日名。キッコは鼻面に皺を寄せた。
 やがて身を軽く振ると、≪魔素≫を全身に纏って人の形へと化けた。
「人は面白いが時々面倒だ」
 そう呟くキッコは衣服を戦闘で失っていて全裸だ。
申し訳程度に金毛の尻尾で身を隠しているがほぼ全身が見える。
明日名はそのキッコの身体が全身傷と火傷だらけだという事に気付いて慌てて状態を訊ねた。
「うわ、ちょ……キッコ、大丈夫かい? なんかすごい傷だけど」
「ふん、身体の作りが違うのだ、そのうち治る。あの機械人形とへんな術はもう見たくはないがな」
 そう言ってキッコは天井を見上げた。その肩に外套代わりに着ていた白衣をかけてやりながら明日名は彼女の独白を聞いた。
「さて、他の者は上手くやったのかの……?」



193 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 02:58:33.48 ID:gjZWr3hp.net



            ●


 倒れて動かない通光に距離を置きつつ墓標の先端を向けて、匠は通光の様子を観察した。
 先程通光を打ちすえた攻撃は彼の腕によって受けられた。
その後、彼は生じた爆発によって吹き飛ばされており、匠が振るった刃自体は通光の身体には当たってはいない。
 彼が吹き飛ばされた先も硬い壁や床面ではなく異形の肉塊のただなかだ。死んではいないだろう。
 気を失っているのか、あるいはこちらが不用意に近付くのを待っているのか、そのどちらかを判ずるには異形の肉塊が影になっているため分からない。
 様子をうかがいながら距離を詰め、匠は別の要件を済ませる事にした。
「クズハ、この部屋の中にある計器の類を完全に破壊できるか?」
「あ、はい」
 目を覚ました議員たちを護衛するようにして複数の陣を構築していたクズハは、その幾つかに手を加えながら応えた。
「ある程度以上の電気を流せば壊せますよね?」
「そのはずだ。さっきの戦闘でもうほとんど壊れてるとは思うが、念には念を入れてくれ」
「分かりました。他の実験施設の位置などの情報が残ってるかもしれませんけど、それはいいんですか?」
「じいさんが庁舎内にウイルスを流してる。もし情報があったのならそれでもう回収できたはずだ。気にしなくていい」
「はい」
 クズハは手を加えて内部の式を組み替えた陣を両掌で捧げ持つようにして起動した。
 陣から咲いた雷花が、部屋の壁を伝うように迸り、通り道にある先程の戦闘の中で生き残っていた計器を次々に破壊していった。
 計器が破壊されていく音を聞きながら、匠は通光に近付いた。
 その時、俯いたままの通光の声が聞こえた。
「まったく、貴重なデータがいくつも封じられているというのに」
「――!」
 瞬時に体を緊張させた匠の眼前、両腕を失くした通光は立ち上がった。
 足元がおぼつかなく、肩で息をして、半顔を流れ落ちる血を拭う事も出来ずに左目を閉じている彼は、異形の肉塊から床の上へと降りた。
 匠はそんな通光の首筋に墓標の先端から生成した刃を押し当てる。


194 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 03:01:08.35 ID:gjZWr3hp.net
「動くな、じきに下からも人が来る。大人しく捕まれ」
「問答無用で殺さないとは……甘いな」
 そう言う通光の、開いた右目の眼光は鋭い。降参する気はなさそうだった。
 しかし、意志は下る気はなくても身体の方はもう満足に動かす事も出来ないだろう。
 そう判断して匠は通光まで残り数歩の距離を詰める。
と、そこで、議員たちに現在の状況を説明していたクズハが出し抜けに叫んだ。
「匠さん! ≪魔素≫が通光さんから――これは異形の……っ」
 匠も一拍遅れて気付く。
 異形の死体から残り香のように漂ってくる≪魔素≫に紛れて判別しづらかったが、通光を中心にして≪魔素≫が渦を巻いていた。
 疲弊した様子で不安定に体を揺らしながら、バランスを取るように、そして無くなった腕を広げるように両肩を左右に開いている通光に危険を感じる。
 彼を制圧にかかろうとした匠は、いつの間にか彼の肩口から新たな腕が生えているのを視認した。
 生えてきたのは、鉄のような鈍い色をした、異常発達した筋肉をもつ異形の腕だった。
 異形の腕、それが通光の失われた腕から生えてきた意味を匠は直感した。
「異形の身体を、自分にも仕込んでいたのか……?」
 通光は徐々に生え伸び、肥大化していく腕に振り回されるように身を痙攣させながら頷いた。
「そもそも初めの実験体は私だ。万全を期した筈の異形への対抗手段だったのだが、
そこの子狐――クズハに起こったような侵食が起こるとは当時は思いもしなかった。
これまでは機械で異形の血肉の侵食を抑えていたのだがな、それも破壊されてしまった今となっては侵食されるままに任せるしかない」
「じゃあ、お前はもう……」
 生え伸びる腕の太さが通光の胴を上回った。同時に彼の身体自体が腕の太さに合わせるようにして急速に巨大化していった。
 侵食され巨大化していく体の各部の翻弄されながら、通光は狂気じみた笑みを浮かべた。
「さて、忌まれるべき異形として、人々の記憶に恐怖を刻みつけよう」
「お前……っ」
 通光の首を狙って墓標から刃を伸ばすが、伸長した刃は腕の一振りで軌道を逸らされた。
 異形の肉塊に刃が突き刺さる音を背景に、通光は告げた。
「変じた私がどのような姿になるのかは未知数だが、大阪圏の中枢を破壊する事ができれば混乱も広がろう。
データ自体はほとんど協力者の間に散っている。私が消えても恐怖を刻みつけられた人々は力を求めて実験に手を出すだろう」
 急速に侵食されていく通光の巨体は、天井まで届こうとしていた。
 匠は危機感を得て叫んだ。
「クズハ! 天井をぶち抜け!」


195 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 03:08:16.63 ID:gjZWr3hp.net



            ●


 彰彦は庁舎前に現れた男が持つ多節の腕を避け、異形化した人間の男の腹部に拳を打ち込んだ。
 骨を砕く手応えを感じとると同時に男は吹き飛ぶ。
 男は体勢を大きく崩しながらもなんとか着地すると、自身を殴った男の腕が異形のそれである事を確認して叫び問うた。
「貴様、その腕をもっていて、何故そっち側につく?!」
 言いながらも男は多節の異形の腕を伸ばして多方向から打ち込んでくる。
腕の先端にある鋭い爪が彰彦の死角から急所を狙うが、彰彦はそれらの攻撃を最小限の動きで回避する。
「なんでって、そりゃあ」
 呟きながら男の方へと彰彦は駆けた。
「望んで手に入れた腕じゃあねえしな!」
 この腕を負い目に感じていた時もあったのだ。しかし、
 異形の腕を、異形の腕で捌いて男の懐に侵入する。
「でも忌々しく思っちまう程不便でもないんだよな、この腕!」
 掌底を打ち込む。
人体というよりも、甲虫の外骨格を砕くような手応えを得ながら、彰彦の掌に溜められた≪魔素≫が掌打の衝撃と共に男の心臓を貫いた。
「――――ガッ?!」
 血を吐いて頽れた男がもう動かない事を確認して、彰彦は男の心臓を打ち貫いた状態で硬直させていた体を息を一つ吐くと共に弛緩させた。
 周囲を見渡して呟く。
「とりあえず、こっちは大丈夫そうだな」
 周りでは庁舎からあふれ出てきた異形達を壊滅させようとしていた武装隊達が、指揮役の敗北を確認して、気勢を上げていた。
「皆が手助けに来てくれて助かったな」
 既に戦闘をひと段落させた後衛の武装隊達は逃げた異形に相手の掃討戦を行う部隊編成を行っている。
行政区内の侵略する異形とそれに対する者達の勢力図は順調に塗り替えられていた。
 ……大勢は決したって感じだな。あーしんどかった。
 そう思っていると、通信機に連絡がきた。
「うむ? 誰かのう?」
 平賀が通信機をとる。
 先程まで旧下水道の位置を知らせるために使われていた拡声器越しに声が響く。
『明日名です』
 キッコと共に庁舎地下へと侵入していた明日名からの連絡だった。平賀がどうしたのかと問うと、明日名は疲労の滲む声で報告した。
『地下、行政区内のあちこちに異形達を侵入させる道になっていた旧下水道を封鎖。
これで行政区に異形が新たに出没する、という事もないと思います』
「おお……!」
 喜びの声が方々で上がる。それらの声を聞きながら、彰彦は庁舎を見上げた。
 これで後は議員たちを助けて、あわよくば通光の身柄も押さえる事ができれば万々歳だ。
「もうここを離れても大丈夫そうならいっそあいつらの手伝いにでも――!?」
 彰彦は言いかけていた言葉を途切れさせて、視界に移った異形の姿に鳥肌を立てた。
「あんなもんがいやがったのか……?」
 庁舎の頂上が破壊され、その中から鈍色の巨体が現れていた。
 庁舎の頂上は遠く、明確にはその姿は視認できないが、巨体の頭頂には双の角があるのが陽の光の照り返しでわかる。
「ありゃ、鬼か……?」
 正体を見定めようとする間にも破壊された庁舎からは瓦礫が落下してきている。彰彦は周囲の人々に警告を叫んだ。
「おい! 頭上瓦礫注意! ――庁舎ぶち抜いて鬼が出たぞ!」
 声に反応した武装隊達が鬼の出現に驚愕し、直近に迫っている瓦礫の落下という危険に反応できた幾人かが防御用の術を展開した。
 立ちあげられた防壁に瓦礫が受け止められていく。
「おいおい……」
 地上で起きた異変を察した明日名達が何が起こったのか訊ねてきた。
『これは、随分と強大な異形が現れたようだの?』
 キッコの声が拡声器越しに聞こえて来る。相手に見えない事を承知で頷きながら、彰彦は呆然と呟いた。
「生きて帰ってこいよ。匠、クズハちゃん」

196 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 03:09:33.86 ID:gjZWr3hp.net


            ●


 異形化の過程で巨体となった通光は、それなりの大きさの異形が問題なく動く事ができ、
長物を得物とする匠が不自由を感じる事なく立ち回る事ができていた庁舎最上階の天井をぶち抜いた。
 瓦礫が建物内外にばら撒かれていく。
匠の咄嗟の叫びに反応して天井が通光の身体によって破壊されるより早く、
自身の真上の天井を破壊して瓦礫を外に弾きだしていたクズハの近くへと避難した匠は、
近くに落下してくる通光の破壊によって落ちてきた瓦礫を払いながら、つい数秒前まで人間であったその異形の巨体を見た。
 もはや見上げる状態になった通光の身体は暗灰色をしており、巨体を支える肢体は丸太のように太い。
そして頭部に存在する一対の角。まるで鬼のような風体だった。
 いや、狐の異形の身体を移植されたクズハには狐の異形の影響が如実に現れている。
おそらく通光も鬼の異形の身体を移植したが故に、今のような姿になったのだろう。
 鬼の目は、見上げる匠を見下ろしてきた。
 その目に意外にも理知的な光が宿っている事に気付き、こちらの様子を下に伝えるために通信機を操作していた手が止まる。
 あの鬼からは目を逸らしてはいけないと本能が訴えていた。
 鬼が口を開く。
「意外な事だ。意識が残るとは」
「意識が……?」
 鬼という異形が元々人と似た容姿を持つ者が多いという点を考慮すれば、
今の通光にはもう人としての外見は残されていないと言っても差し支えない程に彼の姿は変貌していた。
今までも人と異形の、両方を連想させる容姿をした人間とは言葉を交わしたことはあるが、
これほどまで完全に異形の侵食を受けた人間とはっきりと言葉を交わしてきたのは、匠にとっても初めての経験だった。
 鬼――通光は、重く、響くような声で言葉を吐き出した。
「平賀博士によって会談が設定された時点で事が明るみに出る事はある程度覚悟はしていた。
いくつか手を打っていたのだ。各地への異形化した人間の派遣や、異形の侵食があろうとも私の中の意識が異形の血肉に食い潰されないための措置などな」
 苦笑するような声音で続ける。
「結局ほとんどは失敗に終わったが、これだけは成功したようだ。
私としての意識を保ったまま、かつて恐れ、憎み、そして憧れさえした異形そのものとなれるとは。この姿を新たな人々の恐怖の記憶として刻みつけよう」
「させねえよ」
 言うが早いか、匠は墓標から通光を狙って刃を伸ばした。
 顔面を狙って放たれた≪魔素≫製の刃は防御に回った通光の腕に激突して、軋んだ音とともに砕かれた。
 ……硬いっ!
 舌打ちと共に単純な感想を抱きながら、匠は通光へと接近する。
「≪魔素≫の扱いはこのようにするのだな、機械に頼りっぱなしだった私には不思議な感覚だ」
 通光は自身の身体の丈夫さに満足するように砕け落ちた刃の残滓を振り払うと、
腕に≪魔素≫の光を集中させ、匠が次の攻撃に出る前にその腕を振り下ろした。

197 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 03:11:50.91 ID:gjZWr3hp.net
 頭上からの、匠の全身をすっぽりと掴めてしまいそうな拳を先端とした一撃を、匠は改めて全身に≪魔素≫の光を纏って墓標で受け止めた。
 ――っ!
 衝撃に歯を食いしばって耐える。
 しまい損ねた通信機が床に落ちた。
 そっちに視線を持って行かれると、足元に亀裂が入っている事に気付いた。
 その亀裂は見る間に匠の周囲に刻まれて行き、
「……っ!」
 どうにかする時間もないまま、匠は砕かれた床から階下へと落下した。
 一階下に落とされた匠は、床面に叩きつけられる事なくなんとか着地して頭上を見上げて、
天井を砕いた時に落下してきた鉄筋を手に匠のいる階へと飛び下りて来る通光の姿を視界に映した。
 匠は通光の落下軌道から退避して、墓標に≪魔素≫を集めて数メートルの長さの刃を作成する。先程通光に突きだした刃よりも強靭になるよう、特に≪魔素≫を固めた刃だ。
 そして、着地した通光の持つ鉄筋を、もう長物として役に立たないよう真ん中あたりから切断した。
 高音を上げて切断される鉄筋。匠は更に返す刀で通光へと斬り付けた。
 今度の一撃は刃が砕かれる事もなく、傷を付ける事も出来た。
しかし刃は肉に少し食い込んだところでやはり筋肉の壁に阻まれてしまい、与える傷は浅い。
「くそ、通らないか!」
 即座に傷を塞いで行く通光の身体を見て吐き捨てる。
 ここまで墓標を使用して戦い詰めてきた匠には、
もうあまり自身の≪魔素≫の量に余裕がない。その事に焦りを感じながら、匠は再び素手に戻った通光の動きを窺う。
 と、通光の掌へと≪魔素≫が集まりはじめた。先程自分をこの階へと叩き落とした殴りつけが来るのだろうと考えた匠は受け流す構えをとり、
「こういうのはどうだね!?」
 次の瞬間に掌から撃ちだされた圧縮した≪魔素≫の塊に、匠は瞠目した。
 掌が叩きつけられる場合に経ることになったであろう幾つかの動作を飛ばした一撃を、
匠はなんとか墓標の本体、金属製の柄で受けた。
「――っ」
 受け止めると同時、≪魔素≫の塊は破裂して匠を壁に向かって弾き飛ばす。
 墓標を突き立てて壁に叩きつけられる事を回避した匠に向かって、通光は突進を開始していた。
 ――やば、
 猛スピードで接近してくる巨体に抵抗する為に即座に体勢を整えようとして、
匠は上階から滝のように落下してきた炎の奔流が通光を叩き打つ光景を見た。
「何――?!」
 炎に押しつぶされた通光が疑問の声を上げる。
炎は質量を持ち通光の身を抑えつける程の力を持っていた。自然の炎ではない。魔法の産物だ。
 ……クズハか。
 思いながら、匠は動きを止められた通光に大上段から一撃を叩き込んだ。

198 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 03:13:28.84 ID:gjZWr3hp.net
 加えられた衝撃は通光の巨体に下敷きにされていた床を打ち砕き、先程の匠を再現するように、通光は階下へと落下した。
 通光が落ちて行った穴から距離をとり。匠は頭上に顔を向けた。
 穴の縁に薄れゆく魔法陣が見える。その向こうにクズハの姿があった。
 彼女は下階へ落下した通光を探るように視線を向けながら、匠に訊ねる。
「これで倒せましたでしょうか……?」
「いや、あれじゃだめだ」
 数度打ち合っただけだが、その手応えから匠は通光のあの身体は本家の鬼以上の丈夫さを秘めているとみて間違いないと判断していた。
 今はなんとか階下にあの巨体を叩き落とす事に成功したが、すぐに復帰してくるのは明らかだ。
「クズハ、この建物の上層階はかなり危険な状態だ。
せっかく解放した議員連中に死んでもらっちゃ骨折り損だ。彼らを連れて早く庁舎から脱出してくれ」
「匠さんは?」
「俺は通光を止めておく。下の、じいさんや彰彦、武装隊の連中に合流したら通光の様子を伝えてくれ。
鬼、それも上位の異形を相手にする準備をしておいてくれってな」
 クズハは何か言いたそうに口を開きかけたが、下の階から瓦礫を跳ねのける音が聞こえてきて、咄嗟に身を翻して議員たちのもとへと走っていった。
 よし、と匠が頷いた直後。
 階下から放たれた圧縮された≪魔素≫の塊が一直線に空へと駆け抜けて行った。



199 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 03:15:44.64 ID:gjZWr3hp.net


            ●


 階下に通じる穴から突きぬけて行く高密度に圧縮された≪魔素≫の塊を目の当たりにしたクズハは、嫌な汗が全身を伝うのを感じた。
 ……魔法でもなんでもない、ただの≪魔素≫の圧縮塊……。
 全身にあのレベルの高密度の≪魔素≫の圧縮体を纏う事が出来るという事は、
それだけ肉体の強靭さを補強できるという事でもある。
匠が先程一方的に加えることができた一撃の後で、
尚決着は付いていないと確信していたのはこれをじかにその身で味わって知っていたからだろう。
 遠距離攻撃の手段を持っている以上、あの鬼の視界に映る位置に居るのは危険だ。
クズハは背後に庇っていた議員たちを一刻も早く退避させることにした。
「皆さん、あちらに私達が上って来た階段があります。そこに早く」 
 今ここで起きている事態を辛うじて把握している議員たちは、異形擁護派も異形排斥派もとりあえずか関係なくクズハの指示に従った。
 クズハはその事に内心でほっとしながら、既に割れていた階段踊り場の明かり取りのための窓を狐火のひと吹きで完全に窓枠だけの状態にした。
「階段を使って下りるのは時間がかかりますし危険です。ここから飛び下りましょう」
 さも当たり前のような感じで発せられた言葉に議員の一人が慌てた声を上げる。
「ま、待て! 私達はほとんど魔法など扱えん。飛び下りたら死んでしまう!」
「あ、いえ、魔法は使えなくても大丈夫です」
 そう言ってクズハは懐から符を取り出した。以前、明日名と匠が行政区から脱出する際に使用した、落下速度を軽減する符だ。
 その符を議員たちに配って簡単に使い方を説明し、クズハは言伝を頼んだ。
「これから、もしかしたら鬼の上級異形が地上に降りて来るかもしれないので、対処のための準備をしておいてもらえるように頼んでください」
「う、うむ。構わないが、君はどうするのだね?」
 階下から響く解体工事現場のような破壊的な戦闘音に身を竦ませながら議員が問いかけてくる。
「私は――」
 クズハは議員の質問に答えかけ――
「――ッ!」
 匠の苦悶の声を聞いた。
「匠さん!?」
 振り向くと、床に開いた穴から弾き飛ばされてきた匠の姿が見えた。
彼は空中で姿勢を取り戻しながら、半ば程で折れてしまっている墓標の刃をそのままに、最上階に残っている床面の上に横たわる異形の肉塊の上に着地した。
「皆さん、早く飛び下りてください!」
 クズハは性急に議員たちへと注文して、匠と、そして匠を追うように階下から跳び上がって来た通光に注意を向けた。
 匠は命や戦闘にすぐに差し支えを及ぼすような大きな怪我はしていないようだったが、全身が小さい傷だらけだ。
 その匠を追うように現れた通光は、その全身にほとんど傷が見られない。
 ……匠さんは戦い詰めで、≪魔素≫を使いすぎている。
 半ばで折れた刃を再構成しないのはそこまでの余裕が無くなっているからだろう。
 クズハは匠の不利を確信した。
「では、私も行くよ。お嬢さん」
「――あ、はい」
 最後に残っていた議員が表情と同じくらい硬い声で、
背後の戦闘やこれから飛び下りる高さを出来るだけ意識しないように前方だけを見たまま窓から飛び下りて行く。
 符が飛び下りた人数分確かに発動している事を感じとって、クズハは彼らはこれで大丈夫だと頷いた。
 そして匠と通光の方へと全ての意識を向け、クズハは決意した。



200 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 03:16:30.94 ID:gjZWr3hp.net


                     ●


「疲弊しているな。動きが鈍ってきている」
「まだ、いける」
 通光の指摘に強引に笑みを作って答えながら、一方で匠はこのままでは目の前の鬼に敵わないと悟っていた。
 ……庁舎の入り口の辺りまで行ければ武装隊もいる。数で囲いこめばなんとかなるか……?
 いや、と匠は否定を内心に思った。
 ……地上に行かせたら通光に逃げられる。
 いくら地上の武装隊たちと協力して囲い込もうとも、この巨体だ。
未だ異形が暴れていて万全の陣を構える事ができない行政区内では、包囲しきるのは難しいだろう。
 そしてこんな巨体に街を逃走されたらどこでどのような被害が出るか分かったものではない。
 ……逃がすわけにはいかないか。
 せめて先に地上に行ったクズハたちが地上の人々に状況を伝えて通光を逃さないよう、
準備を整えるまでの時間は稼ごうと匠は考え、突進の勢いのままに振り下ろされた通光の剛腕から大きく一歩退いた。
 顔面に飛んできた床の破片を首を振って避けながら、匠は半ばで折れた刃を、振り下ろされた通光の肩口へと叩き込んだ。
「無駄な事を!」
 刃は鬼の暗灰色の肌に食い込み、僅かに肉の中へと潜り込んだところで厚い筋肉に止められた。
 刃を引こうと力を込め、その負荷に耐えきれずに刃が異音とともに更に欠ける。
 匠はボロボロになった刃に眉を歪め、通光からの次の一撃が来る前に距離をとった。
 通光の傷口に刺さって残った刃が≪魔素≫の光に還元され、開いた傷口は急速に塞がれていく。
 ……再生能力もやっぱり高いか。
 力自体は鬼の身体に傷を付けるにあたって不足しているわけではない。
 ……あとは武器の強度がもう少しあればいいんだが……。
 無残な姿になった刃を分解してもう一度新たな刃を作成しようとも考えるが、
現在構成している刃以上の強度を持つ刃を形成するには、もう匠自身の残りの≪魔素≫量が心許ない。
 通光の巨体から放たれる攻撃に耐える為に身にまとう≪魔素≫の分も考えると、再構成はしない方が良いだろう。
 そこまで自身の状態を分析し、さてどうしたものかと匠は思考する。
 ……あの剛腕、≪魔素≫で防備を固めようと、まともに受けたら俺の身体は耐えられないな。
 思う間に通光の掌から先程と同じ、圧縮した≪魔素≫の塊が放たれた。
 動く壁のような威圧感をもって迫ってくる攻撃を避けると、回避位置を狙った第二撃が打ち込まれて来た。
「――!」
 墓標を地面に突き立てた反動を利用して、際どい姿勢で二撃目を一撃目が飛んできた位置にまで跳び避ける。
 そこに、通光の巨体が駆けてきていた。
 二発の圧縮≪魔素≫弾を囮にしての狙い澄ました一撃だった。
 生身一つであの鬼の一撃を喰らってしまえば無事ではすまない。
 匠は直撃だけはなんとしても避けるために身を捻るが、崩れた姿勢を矯正しきることはできない。


201 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 03:17:11.64 ID:gjZWr3hp.net
 ――くっそ……ッ!
 このままでは回避する事は不可能だと諦めた匠は、
せめて腕による直撃を受けるのだけは避けようと、墓標を翳して腕を受け止めようと覚悟を決めた。
 来るべき衝撃に対して体を緊張させたところへ、
 床から飛び出した氷柱が、通光の身体へとその先端を向けた。
「クズハか!」
 暗灰色の身体に殺到した氷柱の先端は刺さる事はなく、当たる傍から次々に砕かれていく。鬼の身体に対して強度がまったく足りないのだ。
「――邪魔だッ」
 それでも、氷柱の群れに塞がれた床を掻きわけるように進んでくる通光の動きは確かに鈍くなった。
 匠はこれ幸いと体勢を立て直し、
 同時に、砕かれて行く氷柱の根元に刻まれていた紋様が新たな術を起動した。
 氷柱が悉く溶かされ、水へと変化する。
「これは――」
 氷柱の真ん中を走っていた通光は体中に水を被る結果となっている。
その通光が言葉を漏らした直後、床の、氷柱の根元があった位置に刻まれていた別の紋様が更に≪魔素≫の光を帯び、直後に宙空が破裂した。
 発生した破裂は瞬時に破裂の発生源とその周囲の空気を押しのけ、更に白色の霧のようなものを発生させ、匠にもその余波を届けた。
 匠は自身に触れる余波を受けながらその正体を呟いた。
「冷気……?」
 白色の霧は極小の氷の粒のようだった。それに匠が気付くのと時を同じくして周囲を包んでいた霧が晴れる。
 晴れた霧の中には、水浸しの身体を氷の中に封じられた通光の姿があった。
「凍結、魔法……」
 通光の不意を打つ形でここまで攻撃を喰らわせたのはクズハだろう。
両腕に≪魔素≫が集中され始めているが、今ならば動きを封じられた通光を攻撃する事ができる。 
「匠さん!」
「ああ!」
 後方から聞こえてきた自分を呼ぶ声に応じるように、匠は墓標の刃で通光を一鎚した。
 反動で砕け欠けていた刃が完全に砕け散った。
 そして、大穴が空いていた上に、
氷柱を発生させたために更に脆くなっていた庁舎最上階の床面はこの一撃の衝撃によって呆気なく崩れ、通光は階下へと落下していった。




202 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 03:19:45.03 ID:gjZWr3hp.net


            ●


 通光が凍結された上で階下へと落下していったのを目でしっかりと確認し、
自身は床面の崩壊範囲に入らないように数歩下がりながら、匠は背後を振りむいた。
「クズハ、今の攻撃でも通光はくたばっちゃいない。早く逃げろ!」
 振り向いた匠に見えるように首を左右に振って、クズハは匠に近付いてきた。
「クズハ――」
「匠さん、随分疲れてらっしゃいますよね」
 通光が言っていたのと同じような言葉だった。今度は匠も否定する事はしない。クズハは言葉を続けた。
「途中で砕けた刃を作り替えませんでしたよね。もう扱える≪魔素≫の限界がきているんじゃないんですか?」
「分かってるんなら早く地上に行ってくれ、クズハ」
 匠は苦笑気味に言って、クズハがこの場所を去りやすくなるような理由を提示する。
「地上にいる皆に、通光の変じたあの鬼を討伐するための準備をしてもらうよう言って来てくれ」
 匠の言葉に笑顔で返答が返って来た。
「それはもう、先に行ってもらった議員のひとたちに頼んでしまいました」
 そして、
「匠さんの今の状態を分かっているからこそ、私はここから離れません」
「クズハではあの素早い動きに対応できないだろ」
「見て攻撃を避けるだけなら私にもできます。それに鬼が強いからこそ、私も一緒にいた方がいいですよ」
 匠は顔をしかめた。
「……あまり困らせないでくれ」
「あまり無茶をしないでください」
「……」
 数秒黙り込んでしまった匠にクズハは更に言葉を重ねた。
「匠さん、私はきっとお役にたてますよ?」
「前までのように、俺の役にたつことに躍起になってるんじゃないだろうな?」
 匠の懸念の言葉に首を横に振って、クズハは刃を失って未だ新たに≪魔素≫を再装填されていない墓標を手に取った。
「……匠さん、私は……守られているだけじゃなくて、どんな時でも匠さんと一緒にいられたらって思っているんです。
それが危険な時や場所でも、一緒の場所で並んで、どんな苦難にでも立ち向かっていきたいんです」
「それは、言いたい事は分かるが……」
「いいえ、匠さんは分かっていません」
 ぴしゃりと言うと、クズハは手に握っている金属棒へと≪魔素≫を流し込んだ。
 墓標を緩やかにクズハの≪魔素≫が包み込む。
 淡く光を帯びる墓標を注意深く見つめながら、クズハは言葉を寄越した。
「匠さんが苦しんでいる時に一緒にいられないなんてことにはなりたくありません。
それではこれまでと変わらないじゃないですか。それはつがいじゃないと思います」


203 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 03:21:20.18 ID:gjZWr3hp.net
 クズハは顔を僅かに俯けた。
「それに、自分だけ安全な所に遠ざけられているうちに匠さんが死んでしまったら、その後私は生きて行くのがとても辛くなってしまいます」
 匠はクズハの説得の言葉の方向性に困惑した。
 とんだわがままだとも思い、同時にクズハをこれまでずっと被保護対象として見てきていたせいか、侮っていたとも思う。
 ……だが、クズハがここに残ったとしても通光を倒すには火力が心許無い。
 時間をかけて陣を築けばあるいは凄まじい強度を誇るあの体に痛打を与える事も可能かもしれないが、
時間をかけて大量の≪魔素≫を展開していたら通光が見逃さないだろう。
 それに、
「クズハの言い分は理解したけどな、俺としてはクズハには傷をあまり負って欲しくないってのもあるんだよな。せっかくきれいな身体してるんだからさ」
 クズハは墓標から目を離して、笑顔で匠の顔を見上げた。
「匠さんなら守ってくれるって信じてますから」
「……誰かの悪い影響が最近とみに出始めてると思うんだが」
「多少強引にしないと匠さんは分かってくれないってキッコさんが言ってましたから」
 匠は唸り、諦めたように息を吐き出した。それを了承のサインと受け取ったクズハは、笑みと共に感謝の言葉を呟いて再び墓標に注意を向け直した。
 そのクズハの様子に何の意味があるのか問いかけようとしたところで、階下から何か巨大なものが動いて瓦礫を押しのける音が聞こえてきた。
 匠は表情を硬くして、階下からの声を耳にする。
「あれで私を抑え込めた気でいたのか坂上匠、クズハ」
「それでも少しは疲弊してるだろうよ」
 匠は小さく吐き捨て、クズハに顔を向けた。
「じゃあ、一緒に戦おうか、クズハ」
「はい!」
 クズハは嬉しそうに匠へと墓標を返しながら応じた。
 クズハの手から彼女の≪魔素≫の残滓を纏っている墓標を受け取って、匠は考える。
 実際の所、通光に対して有効な武器を持っていない事になる今の匠では、
戦ったところで時間稼ぎくらいしかできる事はない。
だからこそ、それを行って地上の迎撃準備が終わるのを待とうとしていたのだが、
 ……さっきも考えたが、クズハなら、時間さえかければ通光に有効な攻撃を行えるか……?
 少なくとも、通光の身体に傷を付ける事ができる程の強度の刃を後何度も生成する事はできないであろう匠よりは
クズハの攻撃の方が勝ちの目があるだろうと結論して、匠はクズハに指示を出す。
「通光の動きを引きつけておくからクズハは魔法を用意しておいてくれ。さっきのやつよりも強力な、クズハが撃てる最大威力の魔法を頼む」
「分かりました」
「任せた」


204 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 09:43:31.98 ID:gjZWr3hp.net
 匠は階下から近付いてくる音の主に対抗するために床に空いた穴へと向かう。
 その背にクズハが言葉を投げかけた。
「匠さん、墓標の方に、あの、匠さんが扱い易いように調整をしておきました」
「調整……?」
 内心で首を傾げ、匠は自身の手の中にある武器を観察した。
 以前までと変わらない、魔装としての効用がある紋様が刻まれた金属棒があるように見える。
 ……クズハが墓標にやたらと集中してたように見えたのはその調整のためか……。
 しかし何がどう調整されたのかは軽く目を通しただけでは分からない。
 詳しく訊ねようにも、階下からの音はすぐ近くにまで来ている。もう話しこむ時間もなさそうだった。
 ……クズハがやったのなら信頼できるか。
 そう思い、墓標を構える匠に、クズハが階下の音に対して急いた様子で言葉を寄越した。
「きっと役に立って、助けになってくれるはずです」
「ああ、期待してるぞ!」
 そう返事をした瞬間、階下から通光が踊り上がってきた。
「そのまま地上に逃げなかったことは評価してやるよ」
「たわけた事を、お前達を人質にして平賀博士あたりが指揮を執っているであろう地上の兵を黙らせる」
「じいさんはそこまで甘くはないぞ」
「試してみるまでは分かるまい?」
「どうだかな、そんな事をさせる前に俺たちがお前を倒すつもりなんだが」
 会話を続けながら、匠はとりあえず実際に使用していきながらクズハが墓標に施したという調整を理解しようと決めた。
 会話の流れと共に次第に高まって行く好戦的な緊張が頂点に達する前に戦う準備を整えようと、
匠は墓標に残り少なくなった自身の≪魔素≫を流し込む。
 と、そこで違和感を覚えた。
 ……これは。
 墓標に流し込まれていく≪魔素≫。その、流し込む量に対する効果がつい先ほどまでと比べて格段に大きくなっているのだ。
 ……疲れ過ぎて俺の≪魔素≫に対する感覚が狂ってるってわけでもないな。
≪魔素≫の吸収効率が良くなっている。これがクズハが施してくれた調整か。
「やっぱりクズハは天才だ」
「……なに?」
 勝機が見えてきたことに幾分か強い笑みを浮かべ、匠は墓標に流し込んだ≪魔素≫を操作して刃を形成した。
 疑問を呟く通光に対し、鋭い呼気と共に叩きつける。


205 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 09:45:06.81 ID:gjZWr3hp.net
「――ッ!」
 刃は≪魔素≫による強化を受けた通光の身体を裂き、更にその奥、筋肉の塊とも言うべき腕内部へと侵入した。
「――――!?」
 驚いたように匠から一歩跳び退って距離を稼ぐ通光。その身体からは暗い色をした血液が噴き出している。
 匠は墓標に形成された刃に欠けが無い事を確認した。
 感覚として把握する限り、流し込んだ≪魔素≫に対して形成される刃の強度はこれまでの数倍にも及んでいる。
 ……申し分ない強度だ。
 匠は刃の先端を通光に突きつける。通光はその刃の先端を見て、姿勢を低く、すぐに動けるようにしながら呟いた。
「私が示した改造の結果と同じような効果が表れていると見てよいようだな。
短時間にここまでの改造を行うとなると、クズハが魔法で紋の書き換えと共に魔装内部の術式を調整したといったところか。
私が示した改造図を眺めていたようだが、あの短時間で改造図の全容を把握したのか、だとしたら恐ろしい事だが――」
 通光はいや、と自身の言葉を否定する言葉を呟く。
「あの図は魔法の他に機械による調整も加えた結果としての図だ。
魔法だけで、それも私が氷を抜けだすまでの短時間であれだけの事が行えるのだろうか?」
 最後の疑問は陣を組み上げ始めているクズハに対して向けられていた。
 言葉と同時に≪魔素≫を圧縮した塊が充填された腕先を向ける通光。
クズハは狙われている事も気にせず陣を築く速度を下げる事もなく言葉を返していく。
「――私は憧れていたんです。匠さんの手の中にあって、命を預けられる、武器というものそのものに。
私は、あの武器を、もっと匠さんに合ったものに変えることもできるのではないかといつも思っていました。
以前から匠さんは≪魔素≫の燃費があまりよくないとおっしゃってましたから。
それでも平賀さんの手による武器を弄る事にはこれまで抵抗があったんです。
でも、先程あの設計図を見て、私が考えている事は間違ってはいないと思いました。あなたのおかげです、通光さん」
 そう言ってクズハは、彼女にしては珍しい、挑発的な笑みを浮かべた。
「短時間で改造を行う事は簡単なんですよ? 私はそもそも、匠さんの役に立つために魔法を学んだんですから」
 通光は本当に面白いとばかりに声を上げて笑った。
「はははは! たいした執念だ。ここまで坂上匠に心酔するとは、いささか以上に想定外だ。なあ、坂上匠、お前はこの執念をどう思う?」
 問われた匠はクズハと通光の射線上に立って距離を詰めながら答える。
「最高のパートナーだろ?」
 放たれた圧縮≪魔素≫弾にやや横合いから刃を叩きつけて塊を切断、霧散させ、強大な≪魔素≫塊を相手にしても破砕しない刃を更に振るう。
「これでこの魔装も生まれ変わったってことだな」
 振るわれた刃は通光の手指に生える爪に受け止められた。
 それに刃を食いこませていきながら匠は続ける。
「なら名前も変えようか。墓標ってのも辛気臭え」
 つばぜり合いになって押しつぶされるのを避けるために下がりながら言葉を紡ぎ続ける。
「今この瞬間から、この魔装の名は葛の葉だ!」


206 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 09:46:28.97 ID:gjZWr3hp.net
 呼号が響き、葛の葉と名を改められた金属棒の先端から生み出された刃が伸ばされ、通光の身体に突き刺さった。
「――ッ」
 刃が身体の奥深くにまで侵入するより早く、通光は長く伸びた刃の腹を鬼の膂力で殴りつけた。
 硬度を増したとはいえ、長く刀身が伸びた事と鬼の圧倒的な膂力をまともに受けて耐えられるわけもなく、刃は砕音と共に破砕した。
 ≪魔素≫へと還元されていく刃の残滓の中、匠は刃を再生成して通光へと駆けた。
「武装が変わってもこれまでの疲労が無くなるわけではなかろう!」
 通光は接近してくる匠を無視する形で腕に生んだ≪魔素≫の圧縮体をクズハへと連射する。
 二発三発はクズハも構成した陣を維持したまま回避するが続けざまに放たれる巨大な弾丸は逃げ場を奪う。
匠はクズハが逃げる場所を失う前に攻撃の射線上に体を割り込ませた。
 ……保たないか!
 連撃が刃に加えてくる負荷は刃に亀裂を入れるには十分なものだった。
 ……また刃を作り替えて――くそ、これじゃあ結局ジリ貧か!
 刃が痛んだのを察したのか、通光が射撃を続けながら接近してくる。
 匠は続けざまに加えられる攻撃の合間を縫って刃を作り替え、
肉薄した通光の巨体が掌底の形で突き出してきた剛腕を真正面から受け止めた。
「……っぐ!」
 自身の身長並みの大きさもある掌の一撃を正面から受け止めるには、匠は疲弊し過ぎていた。
 腕の振りを地面に踏ん張って耐える事ができず、匠の身体は吹き飛ばされる。
「匠さん!」
 飛ばされて行く匠の身体を正面に見る事になったクズハが叫び声を上げる。
 通光は吹き飛ばされていく匠と、その先に居るクズハへと向けて、一際強大な≪魔素≫の圧縮塊を放った。
「――――!」
 飛んでくる≪魔素≫の塊に対してクズハは壁を立ちあげて防ごうとするが、立ちあげられた壁は次々と破壊される。
 破壊する事も防ぐことも叶わなかった≪魔素≫の塊は狙われた二人もろとも、
既に崩れかかっていた庁舎の壁を破壊して外へと飛び出した。


207 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 09:51:56.60 ID:gjZWr3hp.net


            ●


 階段があった一面を完全に破壊した一撃は、庁舎の上部の崩壊を加速させた。
 落下物を鬱陶しそうに払いのけながら、通光は匠とクズハが吹き飛ばされていった面へと歩み寄った。
「普通に考えればこの高さから落下したのならば死ぬのだろうが……」
 二人は議員たちを救出する時に落下速度を抑える魔装か何かを渡していた。
幾つ所持しているのかは通光には窺い知れないが、自分達が脱出する分は最低限所持していると見ていいだろう。
 ならばこのまま墜落死するという可能性は低いと見ていい。
「あの攻撃で気絶している、という事ならば墜落死もありうるかもしれんが」
 希望的観測はこの際しない方が賢明だろう。
「追いつめてもなかなか屈しない者たちだ。生きのこってはいるだろう。
このまま地上に行けば彼らと、武装隊も相手にせねばならんことになるのだろうな」
 人質として匠とクズハの身柄を抑える事も出来なくなった。こうなっては逃亡を図るしかないが、
「さて、平賀博士がそれを許してくれるかどうか……」
 自嘲気味な笑みに通光は鬼の身を軽く震わせた。
「ならばせめて人々にとって異形の恐怖の象徴になれる程に暴れるだけ暴れるというのも一興か」
 そう呟いて庁舎の縁に立った通光を、≪魔素≫の刃が貫きに奔った。
 ――これは……ッ!
 心に驚きを生みながら通光は急速に迫ってくる刃に対して≪魔素≫を集中的に集めた腕を盾代わりに掲げた。
 受け止めた刃の腹を拳で叩き壊した通光は、刃の出所を見た。
 そこにあったのは、空中に仁王立ちに立って葛の葉の先端を突きつけている匠の姿だった。


            ●


 一瞬、空中に匠が何の足場もなく立っているのかと錯覚した通光だが、
よく見て見ると、彼は空中に生み出された刃の上に立っていた。
 その様子を見て、しかし通光は眉間に皺を寄せた。
 ……どういうことだ?
 匠は≪魔素≫にその身を包み、手には葛の葉を携えているが、その先端には刃は形成されていない。
 では今匠が乗っている刃は一体どこから現れたものだろうか。
 ……坂上匠は魔法を修めていなかったはずだ。
 ならば、と通光は匠が乗っている刃の形成者の名を口にした。
「クズハの魔法」
「まあな」
 匠が乗って足場にしている刃の根元には≪魔素≫によって描かれた陣がある。
空中に投げだされた時にクズハが周囲に浮かべていた陣を起動させたのだろう。
「私を狙ってきたあの刃もクズハによるもの……」
「それはどうだろうな」

208 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 09:52:57.66 ID:gjZWr3hp.net
 匠は薄く笑んで答える。ざっと見回した所でクズハの姿は見えない。
匠を立たせている刃の維持のためにある程度近くに彼女の姿はあるはずだと、通光はクズハの姿を探して視線を彷徨わせる。
 庁舎よりは多少高さが下がる近隣のビルあたりに隠れているのではないかと探りを入れる通光の視界の端で、匠が葛の葉を振った。
 即応できるように通光は注意を匠に向け直し、そこで疑問の言葉を吐き出した。
「魔法、だと?」
 匠が葛の葉の先端を使って円を描くように空中をなぞると、その軌跡を追うようにして円陣が描かれていくのだ。
 先端が一周する僅かな間に描かれた陣の数は直径数十センチ級の円陣が6つ。普通の魔法使いが描ける速度を遥かに逸脱している。
 ……坂上匠は魔法を学んではいないはずだ。これは――
 通光が疑問の回答を自身の中に見出そうとした瞬間、描かれた陣を縦に真っ二つにするように、
陣の直径と同じ刃幅を持つ刃が飛び出した。
 ……魔装の改造によって行えるようになった攻撃だとして、
坂上匠の武装の燃費が良くなったとはいってもあれ程の量の刃を連射するだけの余力が残っているとは思えん。
 身体を狙って一直線に進んでくる刃の切っ先の群れを回避する通光は、
通光に葛の葉の先端を照準しようとしている匠と刃の根元となっている陣の背後に銀の髪が揺れるのを見た。
「――なるほどな、足りなくなった≪魔素≫の補填を行っているのか」
 クズハは匠の背後に立っていた。
 彼女の周囲には≪魔素≫の光溢れる陣が多重に描かれており、それらの光は更に幾重もの帯となって匠の身体を淡く包み込んでいた。
 クズハが保有する膨大な≪魔素≫。それが匠の攻撃の燃料になっているのだろう。
「坂上匠の武器になれたというわけだ! さぞ本望だろう!」
 次々と庁舎に撃ちこまれる刃の群れは通光から庁舎内での回避場所を塞いだ。
 通光は刃を破壊して逃げ場所を確保するよりも、自ら刃の発生源を叩く事にした。
 刃の上に≪魔素≫を集中させた足で刃の上に立つ。
 そのまま、次々と打ち込まれてくる刃の切っ先を避けながら通光は細く鋭い刃の上を走り、あるいは跳躍しながら移動する。
 庁舎から刃伝いに空中に身を躍らせた通光は、匠とクズハに着実に接近していった。


209 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 09:56:02.20 ID:gjZWr3hp.net

            ●


 刃伝いに接近してくる通光の手には≪魔素≫の光が強く集中している。
 匠は葛の葉に≪魔素≫を流して刃を形成して、接近してくる彼への対処を考える。
 ……あの身体能力じゃあ、足場にしてる刃を破壊して落とすってのもできない。
――落下しても死ななそうだしな。
 現在射出している刃を全て破壊して、通光がこちらに接近してこれないようにしてしまえば、
刃が無くなった庁舎の中に通光は戻ってしまい、結局は同じ事を繰り返して状況は千日手になるだろう。
 いや、疲弊している匠達からしてみれば、戦闘時間が長びいてしまう事はそれだけ自身の不利に繋がる事になる。
「なら、このまま近付かせるしかないな!」
 飛来してくる≪魔素≫の弾を葛の葉の刃で切り払う。
その背後で、葛の葉を中心にして展開している魔法の制御を行っているクズハが先程の通光の言葉に応じた。
「匠さんの武器になれた事は嬉しいです。でも、今の私はそれだけじゃ満足できなくなってしまっているんです。
 役に立つために得た力で、並んで戦いの場に立って苦労を一緒に背負う事が出来るようになるのが、
今の私の夢です。――叶えてくださいますか?」
 最後の言葉は匠へ向けられた言葉だった。匠はああ、と頷いて言葉を返す。
「むしろこっちから頼みたいくらいだ。共に戦ってくれ、クズハ」
「はい! 一緒にがんばりましょう」
 匠はクズハの言葉にもう一度頷いた。
「ああ、一緒に鬼退治だ」
 言いながら匠は葛の葉を振り上げて自身の≪魔素≫を僅かに流し込む。
その行為は匠自身を包み込んでいる光の帯と陣を通してクズハに伝わり、
意を汲んだクズハが匠が流し込んだ≪魔素≫の数倍の≪魔素≫を葛の葉に流し込み、空中に陣が描かれる。
 一秒とかからず次々と描かれて行く陣の秘密は作成される陣が葛の葉に仕込まれている紋を転写し、陣として応用しているがためだ。
 それでもこの速度でそれを行うのは尋常の事ではない。実際、匠は驚嘆していた。
 作成された陣は込められた≪魔素≫の量に応じた質の刃を生みだし射出する。
 その射出のタイミングは匠とクズハ、どちらかの意思によって決定されるもので、
鬼の歩数にして残り数歩の位置にまで接近していた通光を牽制するために匠は描いた陣から即座に通光を狙う刃を伸ばし、
クズハが通光の≪魔素≫弾の壁になるような形で刃の腹を翳す。
 刃の腹に≪魔素≫の弾丸が命中して爆ぜる裂音が木霊し、その音の余韻が周囲に響き渡るよりも早く、通光の拳が刃を砕いた。


210 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 09:58:16.45 ID:gjZWr3hp.net
 砕かれ散っていく≪魔素≫の光の中を通光は駆けながら腕を振りかぶった。
「頼り頼られ共生して一部の者達が生きていけたとしても、
異形が過去から現在に至るまでに人々に与え続けた恐れは消えはしない。
異形の恐怖に対抗するために、人は今のままではいられん!」
 言葉を放ちながら腕を振るう。
 匠はクズハを片腕に抱えて足場にしていた刃から別の刃へと跳び上がって移動した。
 攻撃を空振りした通光が追撃として≪魔素≫弾を放って来るのを新たに生み出した刃で防ぎながら、クズハが反論する。
「異形のみなさんにたいして優位になろうとするそのやりかたはあまりにも犠牲がでます! 
運良く私のような例がでても、それすら異形でも人間でもない新たな種として争いの理由になりかねません。
人と異形を掛け合わせる技術が確立されたとしても、それは新しい禍根にしかなりません!」
「何より、今ある共存を壊す事を俺たちは許さない」
 そう言いながら、匠はクズハを離して、自身は通光が居る位置へと飛び下りた。
 光の帯は距離が空いた匠とクズハを確かに繋ぎ、
匠の手にある葛の葉には自身の身長の二倍以上はある、頼もしい強度の刃が形成される。
「異形が人にもたらす恐怖も人が異形にもたらす害意も、皆で手を携えて払っていくさ。
その為の技術も機構も、幾つかの街では整い始めている」
「それが広まるまで待てというのか!」
「新しい争いを起こすよりもよっぽど安全策だろうよ!」
 頭上からの振り下ろしの一撃を通光は払い飛ばした。
葛の葉と共に弾き飛ばされた匠は弾き飛ばされる過程で描いた陣を起動して追走してくる通光の動きを阻む。
「それに、その機構や技術や共存って考え方が広まるまでの間は武装隊や俺みたいのが戦う力を持ってねえ奴を守る!」
 着地した匠が通光に突進していく。
「だから憂いを捨てて眠っちまえ、荒んだ理想を持つ鬼!」
 突進からの刺突を僅かな動きで避け、通光は刃の腹を打ち払った。
 衝撃に再び飛ばされる匠に≪魔素≫弾を見舞いながら、通光は言葉を紡ぐ。
「それでどれだけの数が守れるものか、はなはだ疑問だな」
 ≪魔素≫弾を葛の葉で強引に斬り砕いて匠は口端を吊り上げた。
「まあな、でもお前の考えだとそんな弱い人間はどっちにしろ生き残れないんだろ?」
 なら、と傲慢不遜に言い放つ。
「守れた奴がいるなら、それだけ俺たちの考えがやさしいってことだ!」
 言葉と共に刃を振るい通光が受ける。
 その一撃で葛の葉に生成されていた刃に亀裂が入った。
 匠が刃を再構成する間を与えず、通光は刃を割り砕く。
「力不足であれば犠牲は増えるだけで意味などない!」
 無くなった距離の分を通光が詰める。匠の身長数個分の距離など彼にとってみればほとんどない距離に等しい。
 十分に通光の腕が届く範囲になる。
匠は葛の葉の本体を翳して通光の攻撃からの盾にしようとしているが、
正面からの激突は匠にとって不利である事はこれまでの交戦からも明らかだ。
 重い一撃が匠の身体を殴り飛ばす。
そう思われた時、通光は鬼の一撃の衝撃をどう受け流すかを考えていなければならないはずの匠の顔には笑みが浮かんでいた。


211 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 09:59:38.61 ID:gjZWr3hp.net
 気付いた通光が警戒の表情を浮かべる眼前、葛の葉に≪魔素≫の輝きが集う。
 と、同時に先程砕かれた刃、それを構成していた≪魔素≫の残骸が強い光を帯びた。
 次の瞬間にはそれらの残骸は通光と匠の全周をとり囲むように展開する無数の円陣に包まれていた。
「力不足は互いに補えばいい。一人で何事も成そうってわけじゃないんだからな」
 通光の一撃が、横合いから割り込むようにして突き出してきた刃に止められた。
 全周をとり囲む陣の群れ。その意味を直感した通光はその場から離脱しようとするが、それを阻むように匠が葛の葉を叩き付けた。
 足場となっている刃と振り下ろされた刃の間で動きを抑えつけられている通光へ、匠は言葉を続けた。
「何が正しいのかとかは俺には分からねえ、だけど俺は共に在るって考えが好きだ。ならそれが俺の答えだよ」
 葛の葉が匠の言葉に呼応するように強く光を帯びる。クズハの支持を受けて、匠は力強く唱えた。
「魔装、葛の葉・絶技――」
 通光の動きを抑えていた刃を自壊させ、砕いた刃の破片が更に陣を多重に敷いては匠と通光を囲んで行く。
「――――――!」
 通光が両手を広げて≪魔素≫弾を放ち、陣と、そこに込められた術式が起動する前に砕いて行く。
しかし通光の攻撃で破壊されるのを上回る速度で新たな陣が形成され続けた。
 葛の葉が振り上げられ、その先に数メートルの長さの刃が構成される。
 匠は葛の葉を腰だめに構えた。
 攻撃の為の初動。その動きに対して通光が何らかの動きをとろうとし、その動作を圧してクズハの声が凛と木霊した。
「――ソハヤノツルギ!」
 その言葉と共に周囲に展開していた陣全てから同時に刃が射出された。
 幾重にも描かれていた陣から放たれた刃は、その切っ先の向かう先となった通光を瞬時に呑みこんだ。
 通光の全身に突き刺さる刃は、一本一本では強靭な鬼の身体を貫き通すには強度が不足していても、
一本が折れたら次の似た軌道を描いていた別の刃が。それが折れてもまた次の刃がと次々に刃の貫通範囲を拡げて行く。
 血が飛沫き、新たな傷が鬼の身体に出来た。
 回復も間に合わない速度で通光の身体は傷付いて行く。
 そうやって身体を複数の刃に貫通された通光は、刃の空間の中央に縫いとめられた。
 その通光へと匠は腰だめに構えた葛の葉をそのままに跳躍し、その首に向けて葛の葉の刃を振り抜いた。





212 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 10:02:16.63 ID:gjZWr3hp.net


            ●


 庁舎から脱出させられた議員たちを後方に護送する武装隊達に庁舎上の戦いの余波が及ばないように警戒していた彰彦は、
街中に響き渡るような鬼の咆哮を聞いた。
 宙空に現れた、≪魔素≫製の刃で出来た結界じみた空間。
その中に取り込まれた、庁舎から脱出させられてきた議員たちの話によれば通光が変化したものとも通光が変化していたものともとれるらしい鬼の上げた断末魔の咆哮だった。
 宙に磔られた鬼の首を切断した者は確かに彼の親友だ。
 それらの光景を目に焼き付けながら、彰彦は思った事をそのまま呟く。
「しっかし、なんだあの刃物の数は、クズハちゃんの魔法か? いや、でもあの≪魔素≫の感じは匠っぽい気もするんだが」
 彰彦が呟いている間にも、空中に存在している刃群は次々に砕けては≪魔素≫の光となって消えて行く。
数を減らしていく刃を見て、地上に帰還していたキッコが明日名に支えながら口を開いた。
「あれは基本的にはクズハのものが構成しておるようだが、匠のものも感じる。どうにも二人の≪魔素≫が混ざっているようだの」
「てーと、つまりあの刃物は匠は少ししか作ってなくて、残りのほとんどクズハちゃんが作ってるって事でいいのか?」
「一本一本の制作者が違うわけではないみたいだ。
全ての刃に二人それぞれの≪魔素≫を合わせた刃を作っている。
おそらくは二人がそれぞれの≪魔素≫を使って一つの魔法を構築していると見ていいと思う」
「明日名の言う通りだの。匠が持っておるあの魔装、あれを中心にして結ばれた魔法だろうて」
「なるほどなあ……これまで一度もあんなことができるなんてアイツ言ってなかったってことは、もしかしてぶっつけ本番でやったのか?」
 だれともなく口にして、彰彦はそのくらいの無茶でもやらないと危険な相手だったのだろうと動きを止めた鬼の骸を見上げた。
「でもこれでとりあえず行政区の戦いは完全に俺たちの勝ちってことだな」
 やれやれと息を吐く。周りに居る者たちも最も厄介そうだった鬼が討伐された事に安堵しているのが分かる。
 ほとんど崩れてしまった庁舎の上階付近にいる二人をどうやって迎えに行ったものか相談しようと彰彦は平賀の方に目をやり、
 あ、という顔をしている平賀を見た。
 その顔は上空に向けられている。どうしたのかと思っていると、キッコの声が聞こえてきた。
「む、落ちて来るの」
「は?」
 声に反応して即座に視線を上に戻す。
 そこにはもう先程まで存在していた刃の群れの姿はなかった。
 そして、キッコの言う通り、宙に刃で支えられていた鬼の骸も、刃の上に乗っていた匠とクズハも、等しく地上に向けて落下を開始していた。


213 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 10:04:27.37 ID:gjZWr3hp.net
「げっ?!」
 巨体と呼べる大きさの鬼の骸が落下してきたら何人が下敷きにされるのか。
結末を考えて思わず口もとを引き攣らせる。ともかく落下物たちをどうにかしようと彰彦はキッコたちと手早く相談しようとして、
あまりにものほほんとしている彼女らの姿に慌てた。
「ちょ、キッコさん! 余裕こいてないであのでっかいのどうにかしようぜ!」
「慌てるな。上を見てみい」
「あん……?」
 目線をまた上げる。
 鬼の骸は淡い≪魔素≫の光に包まれてゆっくりと落下してきていた。
同じように、クズハを抱えた匠もゆっくりと落下してきているのが見える。その手には符が構えられている。
「あー、符か。まだ持ってたんだな。心配させやがって」
 まったくじゃと頷いて、平賀が武装隊の指揮役に声をかける。
「医療班と、通光君の死体を回収する為に何人か武装隊を用意しておいてもらおうかな」
「了解しました」
 指揮役の指示を受け、鬼の討伐を受けて弛緩していた空気が慌ただしさを取り戻していく。
 そんな中、匠とクズハは鬼の骸と共に地面に降り立った。


            ●


 鬼の方へと駆けよって行く武装隊たちの流れからはずれて、彰彦は着地するとそのまま力尽きたように寄り添って地面に座りこんだ二人に駆け寄った。
「おい、大丈夫か?」
「……かなり疲れた」
「少し、休みたいです」
 二人とも、特に匠は全身血染めでひどい有り様だが返事も返ってきたし、意識も保っているようだ。後ろからやってきたキッコや平賀にも焦っている様子が無い。
 大事はないのだろうと結論し、彰彦は匠の頭を平手で叩いた。
「ずいぶんと派手にやりやがったなおい!」
「んむ、よくやった」
 キッコがクズハに触れて無事を確認する。自身に触れる手を見たクズハがキッコの身体についた傷を見て眉尻を下げる。
「キッコさんの方こそ、大丈夫ですか?」
「なに、生き残ってしまいさえすればこの程度の傷など大したことはない」
 カラカラと笑ったキッコに明日名が口を挟んだ。
「それでも一応は重傷者なんだからあまり元気よく動かないでくれ。見ている側が心配になってくる。後服もしっかりと着てくれ」
「ふん、うるさいものよ」
 キッコが適当に明日名の言葉に応じる。


214 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 10:08:46.65 ID:gjZWr3hp.net
 それに対して何か苦言を重ねるために言葉を発しかけた明日名は、
しかし言葉を止めた。何か言いたそうに視線を向けているクズハに気付いたのだ。
「クズハ? どうしたんだい? 俺に何か気になる所でもあるかな?」
 訊ねた明日名の肩に平賀が手を置く。
「これは、ばれたかのう」
「まさか……」
 小さな声で囁き交わす二人にクズハは短く訊ねた。
「明日名さんは……お兄、ちゃん? ……なんですか?」
「――――」
 一瞬目を瞠り、明日名は匠に問いかけるような視線を向けた。それを受けた匠は地面に座りこんだまま言葉を紡ぐ。
「通光が安倍の家の狐の血の話も含めて、全部話してしまいました」
「……そうか」
「クズハに起こったのは先祖返りのような現象だろうとも通光は言っていました」
「ああ、俺は古い狐の血に縋った。成功率を少しでも引き上げようとしたんだよ」
 明日名はまいったね、と呟いて困ったように笑った。
「俺としては、全部忘れてクズハという新しい人格を生きてもらいたかったのだけどね」
「……私は、これからもクズハとして生きていこうと思います。
それでも私は私自身の過去を知りたいです。自分の今までとこれからに自信を持てるように。
 いろいろと、教えてくださいますか? 以前の私の事、両親の事、お兄ちゃんの事も」
「ああ、わかった。全部話そう。クズハが望むままに、それが君の幸せになるのなら」
 小さく答える明日名の言葉を聞きとった彰彦が場を和ませるように言葉を放る。
「そうと決まれば知りたい事はなんでも聞いちまうか。
いつまで兄妹一緒に風呂入ってたとか、実際のところクズハちゃんの齢は幾つなのかとかな」
「あー……そういうのはまた今度の機会にね」
 曖昧に笑う明日名。それに追い打ちの質問が飛ぶ前に、平賀が口を開いた。
「話もまとまったようじゃな。こっちの方も、なんとかまとまりそうじゃよ」
 平賀はそう言って、匠たち全員に聞こえるように告げた。
「ある程度以上の思考能力を持たない異形達を操っていた通光君達が倒れ、今回の事件の首謀者たちもこうして討伐された。
現在大阪圏内で発生しておる異形侵攻の騒ぎも、
大元の指揮者が居なくなったためか統率感が無くなって後はもう収束するのは時間の問題だそうじゃよ」
「本当ですか! よかった……」
 クズハはそう言うと、匠の腿に倒れ込むようにして身体を横たえ、ぐったりと力を抜いた。
 匠も大きく深呼吸をひとつして、地面に仰向けに倒れ込んで力の抜けた笑みを浮かべた。
「ああ、これで安心して休める……!」
 適度に力の抜けた発言を聞いた平賀が呆れたように言う。
「かなり無茶をしておったのう、二人とも≪魔素≫も体力もほとんど残っておらんじゃろう」
「やったかいはあったと思うんだけど?」
「それは、まあたしかにそうじゃな」
 そう応えた平賀の顔が狸爺の笑みになっている事を確認して、匠は苦笑した。
「その笑顔が出てるって事は色々と任せても大丈夫なんだろうけど、あんまりあくどい事をしないでくれよ、じいさん」
「まあ、諸々の後始末はわしに任せておくとええ。悪いようにはせんよ」
「とりあえず任せるよ。起きた時にどうなってるのか楽しみだ」
 そう答えて、匠は全身を包む疲労やら苦痛やらに抵抗するのをやめて意識を手放した。



215 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 10:12:31.60 ID:gjZWr3hp.net



 太陽の光が厳しくなってきた夏の道、和泉へと続く道を歩む人影が三つある。
 一つは肩に担った葛の葉に荷物を吊るした匠、一つは長い銀髪と銀毛の尻尾を陽光に光らせるクズハだ。
 彼らは、同道している最後の一人、旅の僧侶と言葉を交わしていた。
「ではお二人は昨年大阪圏で発生した異形と人が起こした乱に関わっていたのですか?」
「そうなるかな、あまり深いところは知らないんだけどな」
 そう答えた匠に僧侶は穏やかな声で言う。
「匠殿は大分お強い様子、さぞ活躍されたのでしょうね」
「んなことないさ。それに強いつったらあんただって相当なものだろ? クズハが魔装を見て驚いてたよ」
 クズハが頷いて僧侶に言う。
「あれほどの魔装、それを扱う事が出来る腕も含めて、相当な方だと思います」
「僕なんてまだまだですよ」
「俺たちが探りを入れようとしていた研究施設を先に訪れて、とっとと閉鎖に追い込んでたのにか?」
「あれは彼らが危うい実験に手を出していたのです。僕はそこをつついただけですよ」
 そう言って緩やかに笑んだ僧侶は手にした錫杖をシャン、と音立てて足を止めた。
 道がすぐそこで二手に分かれていた。
 分かれる道の間には看板が立てられ、どの道がどこへと繋がっているのかを示している。
「このまま右へ行けば大阪圏内――和泉ですね」
「そうですよ。そろそろ納涼の祭りが行われる季節です。しばらく滞在してはいかがでしょう?」
「それはいいですね。クズハくんと匠殿は和泉に長く住んでいたのですよね?」
「はい、私にとっては和泉や信太の森は生まれ故郷のようなものでもあります」
「縁が深い場所なのですね」
「はい、とっても」
 噛み締めるように呟くクズハに微笑みを浮かべて頷き、僧侶は見当違いの方に目をやっている匠を見やる。
「言葉は素直に受け取った方がいいですよ?」
「正面から言われると恥ずかしい事もある」
「それでもこんな世の中ですからね、想いはしっかりと受け取っておくべきです。無碍にする気はないのでしょう?」
「……まあな」
 決まり悪そうに言って頭を掻く匠。その様子に莞爾と笑んで僧侶は話題を変える。
「大阪圏はここ最近で随分と異形に対する風当たりが緩くなったとか」
「ああ、自治政府が方針を転換したんだ。この前の異形と人が組んで争いを起こした時、
一方的に異形の側を迫害しそうな流れになってな。その反省か、罪悪感か……何にせよ俺たちにとってはありがたい話だ」
「それは――佳い事ですね」
「ああ、本当に」
 匠はクズハに目を向けた。気付いたクズハが彼に微笑み返す。
「本当に佳い事のようだ」


216 :創る名無しに見る名無し:2012/04/14(土) 10:40:56.35 ID:p1xiyhnR.net




217 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 11:00:53.32 ID:gjZWr3hp.net
 嫌味無く笑う僧侶を雑にあしらって、匠は和泉へと続く道の先を示した。
「ここを真っ直ぐ道なりに行けば和泉だ。近くの異形との交流も最近は多くてな、
そういう環境に居なかった者にとっては多少面食らうところもあるだろうが、まああんたなら大丈夫だろ。
 向こうに着いたら誰かから適当に道場の場所を訊いてくれ。
道場に行ったら坂上匠の名前を出してくれれば待たせてくれるだろうから、そこでまた会おう。ただで宿を紹介するよ」
「いいのですか?」
「構わないさ。――ただ、この時期だと祭りの準備の手伝いをさせられるかもしれんが、そこは耐えてくれ。
代わりに飯はグレードアップさせるよう交渉する」
「期待していますよ。ところで、あなた方はここから直接和泉には行かないんですか?」
 僧侶の言葉に匠は苦笑を浮かべた。
「俺たちは信太の森で少し野暮用があるんだ」
「信太……あそこは確か封印指定を受けていた地域のような気がしますが」
「その封印守をしてる異形と知り合いなんだ」
「私にとってはお姉さんのような人なんです」
 クズハの言葉に僧侶は僅かに息を呑む。
「どちらかといえばあれはおばあさんとか、そんな所だろうに」
「そんな事言うとキッコさんにまた怒られてしまいますよ?」
「くそ、あいつは普段はおおざっぱなくせにこういう事には細かくて困る」
 ため息交じりに言う匠に僧侶は愉快げに笑った。
「はは、それは大変だ。ですが姑の相手は古今東西大変なものですよ。お二人で仲良く乗り切ってください」
「姑……」
 言葉の意味を読み取っていささか弾んだ調子で呟いて尻尾を振るクズハの頭に掌を置いて、匠は頷いた。
「クズハは溺愛されてるからな、きっと大丈夫だろ」
「匠殿は気に入られるようにしませんとな」
 僧侶はそう言って和泉へと続く道へと足を向けた。
「まあ、よくある話です。頑張ってください」


218 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 11:02:18.39 ID:gjZWr3hp.net


            ●


 僧侶が和泉へと進んで行くのを見送って、二人はもう片方の道へ進んで行った。
 看板に書かれているのは信太の森だ。
「キッコさんも森の皆さんも、普段匠さんがあまり顔を見せないからきっと首を長くして待ってますよ」
「あそこは俺にはものすごくアウェーだから行きづらいんだよ」
 うんざりしたように言いつつ、匠は信太の森の封印守をしてる異形が
第二次掃討作戦の時には討伐対象とされていたなどと知ったらあの僧侶は驚くだろうかと考える。
 ……あれからいろんなことが動いたもんだ。
 通光を討伐する事によって終わりを迎えた昨年の異形の大侵攻。
あの事件の後、クズハは明日名から失ってしまった自身の記憶を聞いていた。
その上で彼女は未だに匠が名付けたクズハの名を名乗っている。戦いの後、気を失う前に言っていたように、元の名を名乗る気はないようだ。
 過去を話として聞く事はできても、失ってしまった記憶を実感として取り戻す事はできないようだから、
それも良いだろうと匠は思うし、それ以上にクズハがクズハとして生きてくれるという事に思っていたよりも遥かに嬉しさを感じている自分がいた。
 自分の中の知らない部分を発見した気がして思わず顔が緩む。その顔を見たクズハが首を傾げる。
「どうされたんですか?」
「いや……あの事件からいろんなことがあったなと思ってな」
 数か月の期間を用いて大阪圏全体に広がって、あの日に爆発、収束した事件は、
大阪圏を乗っ取ろうとする人間と、それに協力した異形が組んで起こしたものとして処理された。
 少なくとも世間的には人と異形、両者の手によって起こされた事件となっている。
 実際の所は人の側が起こした事件であり、
そこに異形も一枚噛んでいたとするのはあまりにも人にとって都合のいい結論の出し方だが、
今回の事件の真実を知った場合、謂われなく排斥活動に晒された異形の側が報復を起こし、
ただでさえ疲弊しいている現在の大阪圏をこれ以上荒らすのは得策ではないと平賀達は判断した。
 その代わりというように、事件以後、大阪圏での異形の待遇は、平賀の研究区意外の大阪圏中央付近でも大幅に改善されているらしい。
 異形も事件には関わっていたが、それ以上に人間の手引きが大きく作用していたために今回のような事件が起こったにもかかわらず、
人間側が異形に対して一方的に迫害を行った事への反省と警告を込めて大阪圏の議員に異形を何名か迎えて今後このような事が無いように相互理解を図って行くとのことだ。
 ……通光の死体が人間の姿に戻らなかったから鬼の異形と通光が手を組んでいたと言ってしまっても通じるからなぁ。
 必要な証拠もきっともう平賀が捏造してしまっているだろうからこの真実は事実になって今後語り継がれていくだろう。
 ……じいさん、上手く立ち回ったなぁ。結局、異形擁護派が議会でも最大勢力になったんだっけか。
 あの事件の後各地に散らばって通光の研究を支援していた研究所を匠や彰彦、明日名は潰して回っている。今も、その活動を行った帰りだ。
 気を付けないと平賀のいいように利用されてしまうかもしれない。
養父とはいえ、匠にも何に代えても守りたい者がいる。必要最低限の警戒はしておこうと思う。


219 :白狐と青年 ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 11:03:34.08 ID:gjZWr3hp.net
「――さん? 匠さん?」
 名を呼ぶ声で、考えに沈み込んでいた匠は意識を現実に引き戻した。
「ん? どうしたクズハ」
「今夜、何か食べたいものありますか? 
あの、数日ぶりに器具が整っている調理場を使えるので、できるものならなんでも作りますよ?」
 変わった事といえば身近にもあった。
 クズハは以前にもましてこちらの世話をしようとする傾向がでてきたようだ。
 接し方に迷って遠ざけてきた部分があったこれまでの反動だろうと思うが、
匠としてもクズハを好いている自分を意識してからは常に傍に彼女の気配がある事が好ましい。
 彰彦や翔などはその様を指してバカップルなどとのたまっていたが、そこまでひどくはないと匠本人は思っている。
「そうだな……」
 クズハが作るものならなんでもいいんだが、と内心で口にしながらある程度具体的な内容を挙げて行く。
「放っておいても祭りの前祝いとか言って肉が狐たちの間で焼かれるだろうから、
それに付け合わせる感じに夏野菜で何かさっぱりしたものを食べたいな。あとは味噌汁とか主食を――」
 匠は一度言葉を区切ってクズハに顔を向けた。
「主食には稲荷を食べたい」
「―――はい!」
 輝くような笑みを浮かべたクズハに匠も笑みを返す。
 近くに見える森の中では人間達の祭りに合わせるように異形達の祭りの準備の気配がある。
今年は信太の森と和泉の共同開催だったはずだ。
 また賑やかな祭りとなる事だろう。
 匠は親しみ深くなってきた森の中へと足を踏み入れた。



end


220 :白狐と青年 あとがき的なアレ  ◆mGG62PYCNk :2012/04/14(土) 11:06:01.04 ID:gjZWr3hp.net

 最後、安流さんを使用させていただきました。
 繁盛記との兼ね合いもありそうですので問題があるのならば彼の部分を修正しますので言ってください。

 ともあれ
 これで終了!

 途中でかなり期間が空いたり他諸々、未熟な感じがするものですが無事に完結できましてよかったです。
 いやほんとに

 この話を書いている間にwikiのいじり方や自分なりの書き方の方式が組めたので得るものは多かった
 その点充実してたと思います
 描いて頂いた絵なども全部保存してたりして宝物です!
 またどっかで何か書きたいなと考えつつ、これにて一度筆を置かせていただこうと思います

 みんなで世界を創るスレ、異形世界。「白狐と青年」にお付き合いいただき、ありがとうございました!

221 :創る名無しに見る名無し:2012/04/18(水) 00:34:10.33 ID:+AirFgtP.net
お疲れ様です。

二人の仲が結ばれて、世界も丸く収まって、
やっぱり大団円が一番です。

白狐と青年はこのスレの中心みたいな感じだったから、終わるのが寂しかったり。

またどこかで、できればここで、次の作品をお待ちしてます。

222 : ◆mGG62PYCNk :2012/04/18(水) 23:51:27.82 ID:AkBqTGnz.net
>>221
大団円を迎えさせてあげられてほっとしてます
終わるのを惜しんでいただけるだけで書いたかいがありました
またどこかでお会いしたらよろしくお付き合いください

このスレと世界と板の発展を願って乾杯!

223 :創る名無しに見る名無し:2012/04/30(月) 01:51:41.36 ID:W9TB6Mx6.net
連載終了超乙
そして新作期待上げ?

224 :創る名無しに見る名無し:2012/05/19(土) 11:03:04.38 ID:vUo/Pm8F.net
これは乙

また次回作も素晴らしいものになればいいですね♪

225 :創る名無しに見る名無し:2012/06/16(土) 16:03:26.61 ID:6xktTzp2.net
執筆中なのですが、閉鎖世界に魔法を出すのは、アウトですかね……?

226 :創る名無しに見る名無し:2012/06/16(土) 17:18:55.51 ID:kGhGYEQ0.net
閉鎖都市設定には魔法も固有能力もありらしいので問題ないかと

227 :創る名無しに見る名無し:2012/06/17(日) 02:46:23.58 ID:T8UowzIv.net
>>220
読み終わった!
王道展開で良かったよ
それにしてもこのバカップルめw

228 : ◆mGG62PYCNk :2012/06/17(日) 14:52:33.17 ID:Sw4lnBDJ.net
ありがとうございます
なんだかんだで大団円でハッピーエンドな王道はいいものです
どうせ人間の女性には匠はもてないので二人にはもうずっとバカップルでいてもらいますw

229 : ◆Warlock/sw :2012/06/21(木) 23:29:57.89 ID:V7t/ejrS.net
スレのみなさまはじめまして
異形世界で作品を書きたくてやってきました。
魔素などの世界観の解釈があってるかわかりませんが、勉強しつつ
書いていきたいと思います。では投下します。

230 :小角診療所の診察日誌 ◆Warlock/sw :2012/06/21(木) 23:31:02.81 ID:V7t/ejrS.net
『第一話 小角診療所はアットホームで楽しい職場です』


 あー……初っ端からこんなことを見ず知らずの人間に打ち明けるのは、やっぱりさすがに気が引けるのだけど。それでも
もう、白状せざるを得ない。いやむしろ誰かに聞いてもらいたい。言ってくっきりすっきりしてしまいたい。僕は今そんな
心もちだから、どうか運と星の巡り合わせが悪かったと思って聞いてほしい。軽く聞き流してくれてもいいから聞いてほ
しい……いや、ごめんやっぱり少し真剣に聞いてほしい。

 何を隠そう、僕は今猛烈にイライラしている。何べん挑んでも縫い針の穴に糸が通らないばかりか、果敢に挑み過ぎた挙
句糸の先端がほつれてボサッてなっちゃってますます難易度を上げてしまった、そんな状況に匹敵するレベルでイライラし
ている。だって僕、不器用ですから。
 
 何をそんなにイライラしているんだ少年、と冷めた反応が返ってくるのは至極当然だと僕自身思うのだけど、ここはしば
し猶予をもらって、状況の説明をさせてもらいたいと思う。そうすればきっと、僕のこのさざ波のごとくそこはかとなく寄
せては返す苛立ちについて理解してもらえるはず。

 と、いけないいけない。まずは僕のことを知ってもらわなきゃいけないじゃないか。名前も知らない馬の骨に共感してく
れるお人よしがどこの世界にいるってんだ。じゃあまあ、正式な自己紹介はそのうちするとして、今回は略式で。
 僕の名前は厳島雲雀(いつくしまひばり)。多くの人は雲雀くんって呼ぶよ。あそうそう、ため息が聞こえそうだけど、
れっきとした男だ。最近18になったばかりで、まあまだまだケツの青いガキってわけだよ。

 以上が簡単な僕のプロフィール。と言っても実はこれ以上言うべき情報もなかったりするんだけど。まあそれはひとまず
置いといて、ここからが本題だ。実は今僕は仕事中だったりするんだ。それはとてもとても神経を使う、大変で大切な仕事
なわけだ。集中力命な作業なわけだ。失敗したら偉大なうちの大先生が大好きなお酒と、面倒面倒言いながらみんなで育て
た無農薬野菜がまるまるパアになってしまう、シビアでタイトな責任ある作業なわけだ。さあ、そういう作業がいよいよ佳
境にさしかかろうとしていた、まさにそんな時にだよ。

「あっ……せ、先生……気持ち、いいですっ……」

 などという甘ったるい女性の声が隣の部屋から聞こえてきてしまったんだから。
 ああ、もちろん最初はね、空耳かとも思ったんだ。隣の部屋っていうのは第一施術室と言って、何にもいかがわしいとこ
ろなんてない部屋なのだし。まあ……ベッドはあるんだけど。ともあれ、僕も一応年頃の男だし、無意識の願望的な何かで
そういうピンク色の耳鳴りがすることぐらいあるのかなー、ということで片付けようとしたのさ。ところがですよ。

「あんっ……せ、せんせっ……強い、ですぅ……」

 自分の耳鳴りと断じて集中しようとした僕に、さらにこんな追い打ちが飛んできたもんだ。
 でも僕もね、我ながら強情な男なんだ。今診察を受け持っているのは僕の旧知の友人であり、僕の弟弟子にあたる男
なんだけど、まさか彼が医師と患者という力関係を盾に……その、ほら、あれ……アレなことをするような奴では絶対に
ないのだから、まさか隣の部屋からこんないかにも真っ最中ですみたいな声が聞こえてくるはずがない、だからこれは幻聴
だと、あくまでそういうことにして、これも片付けたわけだ。なのにですよ。

231 :小角診療所の診察日誌 ◆Warlock/sw :2012/06/21(木) 23:32:05.59 ID:V7t/ejrS.net
「あっ、ああっ! だめっ……だめっ……! せんせぇっそれ以上はもうっ……」

 自分の幻聴ということで処理して再び集中しかけた僕に、さらなるダメ押しが下されてしまった瞬間なのでした。
 確かに、僕は実に健全に育った18歳の男子だ。そういうことへの興味は人並みにはあると言わなければ嘘になる。
だがしかし、あくまで人並みであって猿並みではないんだ。こんなドピンク色の耳鳴りやら幻聴やらを合計3回聞くような
人間は、それこそ人並みではなく猿並みに発情しているような奴じゃなかろうか。正直僕はそこまで貪欲に発情している
と自信を持って言い切れるほどには、女性への興味はないと思っている。ここに至りようやく僕は、『鬱屈した性欲がもたらし
た大人の階段昇るドピンク耳鳴り説』の呪縛から解放されることになったわけだ。

 でもそうなるとだ。むしろとんでもないことだ。事態は最悪の方向へと進んでしまうんじゃないだろうか。さっきも触れた
けど、隣の部屋では、旧友であり弟弟子でもあるあの彼が診察をしてるはず。その彼がまさか患者さんを……いや、だが待て。
ひとつ忘れていたことがあった。とても大切なことを。

「あ……せんせぇ……優しくなった……んふ」

 とこのタイミングでまたまた切ない声。そうだった。何を隠そうあの男は超さわやか系イケメンでプレイボーイなのだった!
医師と患者という関係を利用、なんてとんでもない。適当に甘い言葉でもばらまきつつ、嫌味なほどに爽やかな笑顔をふりまけ
ば、大抵の女性はコロリと落とせるあいつのことだ。なんだ和姦じゃないか。めでたしめでたし。

 ……ってそうはいくか! 危うく納得しかけるとこだったわ! 無理矢理か和姦かってそんな問題じゃねえ! 今は仕事中
だ! 僕もあいつも仕事中だ! 同じ金貰ってんだ! なんで僕がこんな暑っ苦しい部屋で汗だくになりながら風邪薬作ってる
隣であいつはお愉しんでやがるのだ!?

「ん、せんせぇ……なんだかジンジンしてきちゃった……」

 ちょっと聞いた今の!? 乙女をジンジンさせおってぇあの野郎ぉ! 腹立つ! イライラするぅ! 僕の集中力を削いだ
上に仕事場でお愉しみおってぇ! 許さん。もう許さん。乗り込んでやる。現場を押さえてやる。

 ……という流れがあって、冒頭のイライラしている僕が出来上がったわけですが。さて、お話を聞いて貰えたことで、僕
自身は幾分冷静になることができた、と。
 いや、さすがに乗り込むのはまずいな。女性に恥をかかせてしまうだけだしな。ここはやはりいっそ、見ない聞かない関し
ないを貫くべきか……
 いやでもなぁ、やっぱりああいうことはよくないし……だって仕事場だろここ……少ないとはいえ給料だって出てるし……

「ふぅ。先生、ありがとうございました。今日もすごく気持ちよかったです」
 今日「も」、だと……? 僕が気付いてなかっただけで、しょっちゅうしていた、と言うのか? しかも感謝されとるし。
ダメだ……やっぱりこれはダメだよ……春人、お前はいつの間にそんなに汚れてしまったんだ……これじゃお前はもう、ただ
の、落ち医者じゃないか……

232 :小角診療所の診察日誌 ◆Warlock/sw :2012/06/21(木) 23:32:47.57 ID:V7t/ejrS.net
 あんまりに残酷な事実を突きつけられて、僕は打ちひしがれるばかり。これで今までずっと同じ給料を貰い続けてきたのだ
と思うと、ますますやるせない。なんという裏切り。なんという背信行為。
 それでももう、僕にはどうすることもできない。もうどうする気にもなれない。いろんな意味で終わったことだ。「さっきは
おたのしみでしたね」とか嫌味ぐらいは言えるかもしれないけど、そんなことしたってきっと虚しいばかり。

 ……はあ。とりあえず、すっかり放置になってる調薬を再開するか。ようやく静かになったのだから、きっと集中できるよ。
 そうして数分ぶりに僕が集中を取り戻した、矢先。
 キィィッ、と建てつけが悪い上に蝶番にすっかり年季の入ったドアが開く音がした。この音がするドアは診療所通路側の
ドア、ではなくて。

「よう雲雀、患者さんがお帰りだから。いつもの湿布出しといてあげてくれ」

 さっきまで白昼の情事が繰り広げられていたその部屋、第一施術室につながるドア。事後だというのに恥ずかしげもなく顔
を出した落ち医者風情は、これまた悪びれもせず僕に指示をよこした。まったく白々しい。湿布だと? いったいどこに貼ら
せるつもりだこのバカめ。湿布が必要になるほどどこに何をしたというんだこの色情魔め。という心の声を、できるだけソフト
に聞き返すことにした。鎌掛けってやつだ。

「湿布? なんで湿布がいるんだ?」
「なんでって……そりゃ貼るからだろう」

 うん、まあ当然だよな。湿布を飲み薬として出すやつはたぶんいるまい。こんなものは小手調べだ。次が本題だからな。
「へえ。参考までに聞きたいんだけど、どこに貼るんだ?」
「どこって……腰だけど」
「こ、腰、だと……」
 確定。こいつはクロ確定。信じたかった……姉川春人(あねがわはると)、僕はお前を信じたかった……。でも、ダメ
だったよ。腰って、腰ってお前……

「腰の打撲で2週間前から通院してる女の子がいるだろ。あの子だよ」
「……え? 腰の打撲?」
 おや? なんだか雲行きが怪しくない?

「そうだよ。ほんとなら花蓮(かれん)にやってもらうべきだったけど、生憎あいついなかったからさ。途中で担当は変わ
らないほうがいいってんで、俺が治療してた患者さん」
「あ……ああ、そういや、いたっけそんな子……」
 ……いた気がする。あ、じゃあ湿布を腰に貼るのは、ほんとにただの治療ってわけか。

「雲雀お前な、自分が受け持ってないからって患者さんのこと忘れんなよな」
「うぐっ。ご、ごめん」
 ……怒られちゃった。落ち医者に怒られちゃったよ。うう、なんか気まずい。とりあえず、さっさと湿布を用意しよう。
 湿布湿布……おおこれこれ。さて薬袋薬袋……はい押し込め押し込め。よし、用意完了っと。

233 :小角診療所の診察日誌 ◆Warlock/sw :2012/06/21(木) 23:33:34.88 ID:V7t/ejrS.net
「はい春人、湿布だよ」
「おう、サンキュー」
 怒ったそばから、今度はにっこりと爽やかな笑顔。この笑顔で幼女から老婆まで、数多の女性を虜にしていると噂の必殺
スマイル。まあ確かにまぶしいね。まばゆいね。でも僕はだまされないよ。聞くべきこと聞いちゃうよ。

「あのさ春人。湿布をどう使うかは納得したよ。でもさ、さっきのあの声は何?」
「あの声?」

 シラを切るつもりか。この期に及んで見苦しくもシラを切るつもりか。そういうことなら僕にも考えがあるぞ。いやでも
思い出させてやるからな。シラを切ったことを必ず後悔させてやるからな。

「あっ……せ、先生……気持ち、いいですっ……」
「うわっ気持ち悪っ! 雲雀なんだお前いきなり!」
 厳島雲雀渾身の名演技! 効果は抜群ッ! 畳みかけるぞ!

「あんっ……せ、せんせっ……強い、ですぅ……」
「キモいキモい! わかったから! お前の言いたいことはわかったから!」
 見たか! これぞ歴史に残る名演技! 効いている! だがまだやれる!

「せんせぇっ……そんな太いお注射……こわいですぅ」
「捏造すんなや! アホかっ……あ」
 とどめの一撃決まった! もはやこいつには戦う気力も反論する気力も残ってはいま……ん? なんだ? なんで春人
は、僕とは全然違う方を向いて固まってるんだ……? 春人の視線の先には……?

 そこには顔を真っ赤にして俯いている女の子の姿が!
 なんだ? どういう状況なんだ? かなり控えめに想像して、これはもしかしてまずい状況だったりするんじゃないのか?

「あ、あ、あのっ……姉川先生。わたし……」
 サーッと、熱が冷めていく。頭が急速に冷静になっていく。
 これはどういう状況なんだろう。僕はやっぱり、かなりまずいことをしてしまったんじゃないだろうか。自覚があったにせ
よなかったにせよ、彼女は自分が端から見てどういう声を上げていたのかを、僕の再現率100%の名演技によって見せつけられ
てしまった。いや、自覚があったなら確信犯だ。それはそれで春人に食べられたい女の子だというだけのことかもしれない。
いや十分ダメだけど。ダメだけどこの場合はまだマシだ。

 問題は自覚がなかった場合だ。自覚なく上げていた声が、実はアレな感じになっていて、しかも第三者に聞かれていた、と。
 ……最悪じゃないか。みすみす僕がそれをバラしてしまったということになるじゃないか。なんという迂闊。なんという
残念。なんというドジっ子。な僕。

 彼女はきっとそれに気付いてしまったから、あんなに顔を真っ赤にして、あんな震える声でようやく言葉を絞り出したんだ。
やらかしてしまった者として、何かフォローをしてあげたい。けど、こんな時僕は一体どうしていいのやら、まるで思いつか
ない。

234 :小角診療所の診察日誌 ◆Warlock/sw :2012/06/21(木) 23:34:20.12 ID:V7t/ejrS.net
 ああ、情けないな……医者が患者に嫌な思いをさせて、そのくせ何のフォローもできないなんて……そこまで思考を巡らせ
た時、目の前の男がさっと動いた。

「山崎さん、あのいかにも頭悪そうな男の気持ち悪い迷言集はさっさと忘れようね」
「で、でも……さっきわたし、あの人と同じこと」
「同じじゃない。全然違うよ。君は何か聞き間違えてるよ」
「でも……」
「眠い時に眠いって言う。美味しいものを食べたら美味しいって言う。気持ちよかったら気持ちいいって言う。そんなの普通だ。
誰だってそうだよ。俺だってそうだ。そうじゃなきゃ、人生なんて途端につまらなくなっちゃうからね」

 ……かっこいい。春人のやつ、かっこいいよ。そりゃメロメロになるよ。

「……姉川先生。ありがとう」
「うん。さ、笑ってバイバイしよう。そして次もまた、笑ってここに来るんだよ」
「うんっ。次で最後ですけど、よろしくお願いしますっ」

 ぺこりとお辞儀をして。上げた顔は満開の笑顔で。泣きそうな顔で俯いていたさっきの子とはまるで別人の女の子は、がらが
らと引き戸を閉じて、姿を消した。
 姉川春人。白昼の情事事件を帳消しにする、100点満点のフォロー。

「はあ。さすが春人。手慣れてる」
「人聞き悪いこと言うな。雲雀お前、ちょっと師匠と花蓮にお説教喰らったほうがいいな」
「え? いやちょっとそれは勘弁してくれ……ってああぁっ!」
「うるさい! なんだよいきなり大声出して!」
「調薬……すっかり放置しちゃった……」

 調薬作業には時間制限がある。そんなに急ぐ必要はないが、かといってタラタラやっていていいものでもない。でもどうだ
ろう。だいぶタラタラしてしまった気がする。

「なんだかんだで15分経ってるぜ。15分……ああ、無理だな。残念雲雀。ますます説教の種が増えるぞ」

 ……言い訳はできなさそうだ。割と全体的に僕が悪いような気はしてる。春人の白昼の情事もバラしてやりたいけど、僕の
想像力の豊かさを開帳するだけになりそうな気もしてる。ああ、久しぶりだよこんなに失敗したの。今日の診察日誌、書くこ
と多そうだなー…

235 : ◆Warlock/sw :2012/06/21(木) 23:35:23.75 ID:V7t/ejrS.net
今回の投下は以上です。
ちょくちょく投下したいと思いますので、よろしくお願いします。

236 :創る名無しに見る名無し:2012/06/22(金) 00:45:25.46 ID:edjQi6Nf.net

どう異形世界の設定と絡んでいくのか期待

237 :創る名無しに見る名無し:2012/06/22(金) 01:02:21.64 ID:uS1Dzvs3.net
乙でした
これからの異形世界での展開に期待しております


238 :創る名無しに見る名無し:2012/06/22(金) 15:08:49.97 ID:8m/c+E2r.net
期待
新しい予感

239 : ◆Warlock/sw :2012/06/24(日) 00:36:23.09 ID:FBmZXnCG.net
>>234の続きを投下します。

240 :小角診療所の診察日誌 ◆Warlock/sw :2012/06/24(日) 00:37:34.16 ID:FBmZXnCG.net
『第二話 小角診療所は今日も平和です』


 奈良圏。実際には京都以上に古い歴史を持つにもかかわらず、いつも京都の陰に隠れてその後塵を拝し続けていたこの
不遇の土地。そのまたはしっこの地域の、だいぶうら寂れかけた小さな町の一角に、「小角診療所」はどしんと建っている。
 
「小角診療所」は通称であって、行政区に上げた公的な文書上の登録名称は「小角魔素医療研究所付属病院」となって
いるんだがねと、大先生はどうでもよさげに教えてくれた。まあ、実際正式名称なんてどうでもいいものだ。
「小角診療所」だけで十分、「小角先生」がやってる「診療所」だということは誰にでも伝わるのだから。

「小角先生」というのが、僕が言うところの大先生であり、僕の師匠でもある人だ。現代魔法体系の基礎を作り上げた五の
氏族のひとつ「小角」に名を連ねる、それはそれは立派な人。僕の命の恩人で、僕の憧れ、僕の目標だ。本人は「自分は
所詮ボウリュウ(どんな漢字かわからない。従って実は意味もわかってない。えへ)だよ」なんて言っていたけど、ボウ
リュウだろうが亜流だろうが主流だろうが、大先生のやってることはとても立派だ。

 真面目な話、今現在のこの国の医療、特に都市部からちょいとでも離れた地域の医療は危機的状況にある。先時代、高度
に発達していた日本の医療は、各種のハイテク機器によって立っている面が大きかった。でも十数年前の災害によってそれ
らの大半は失われてしまった。それだけならまだなんとかなったのかもしれないが、さらにその後に発生した異形とかいう
ものの出現によって、医療物資の確保はさらに難しくなってしまった。……と、この辺は全部大先生からの受け売り。だって
僕まだガキだしね。この辺の事情はよくは知らないんだ。

 電気もまともに通ってなかったりするから、当然ハイテク機器なんて仮に残っていたとしても使えない。ガンなんかの重
病は、治療はおろか発見さえ困難。風邪薬なんかの基本的な薬品類さえ、他国との国交が途絶えた今の日本では貴重品。
でも貴重品だからって出し惜しみはできないし、いずれ枯渇するのがものの道理。

 そこをなんとかできないか。医療の整備は、荒れ果てた国を再興するためには最も優先して行うべきことではないのか。
何より、異形などという物騒な生物まで湧いてきて、人間はまるで作り話のようにバカげた窮屈な生活を強いられること
になった。異形が媒介する未知の病なんてものだってあるかもしれない。ないなんて誰が言い切れると言うのだ。むしろ
それがあったなら、異形に襲われるうんぬん以前の問題で、人間はなんの抵抗もできずに死滅するかもしれない。
 させない。そんなことには絶対にさせない。
 変えて見せる。私が。この小角氏真(おづのうじざね)が。この国に新しい医療をもたらして見せる――

 大先生の中でこんな男前な葛藤があったのかどうかは、僕はまったく知らない。以上はまったくもって100%僕の妄想だ。
妄想であり、願望なんだ。これぐらいの理想を抱いて、大先生は「未知の物質魔素を医学に応用する研究」を始めたんだと、
僕は勝手にそう思っている。これぐらいの意思がなければきっと務まらないことだと思う。根気が必要だし、その根気を折
られるほどの失敗だってしょっちゅうする。うまくいくことの方が珍しい、それを思うと到底割には合わない。

 まさに今だってそうだ。

241 :小角診療所の診察日誌 ◆Warlock/sw :2012/06/24(日) 00:39:01.66 ID:FBmZXnCG.net
「う、ううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
 前回の恥ずかしい失敗を取り返すべく、せっせと調薬作業に勤しんでいた僕の耳に届く、呪詛でもこめられたようなうめき声。
背後からいきなりこんな声が聞こえてきてしまっては、やれついにゾンビタイプの異形でも現れたのかと身構えるのが最適解
かもだけど、今回に限ってはその必要はないとわかっている。

 振り返って見れば、青白い……というのも生易しく、もはやすでに紫がかっているという形容がしっくりくる、それはもう
10人に聞けば8人が「ゾンビ!」と力強く解答してくれそうなほどにゾンビ然とした血色の長身痩躯の男が、これまたゾンビ然
とした焦点の合わない虚ろな目をしてゆらゆらと立ちつくしていた。
 実際のところ、これが知り合いでなければ僕は間違いなく自警組織を呼び、ゾンビタイプの異形として全力で排除をお願い
すると思う。そうじゃないことはわかってるし、なぜそうなっているのかも知ってるから、僕はそのゾンビライクな男性に
努めて普通に声をかける。

「お疲れ様です大先生。またトイレ行ってたんですか? 何回目?」
 そう、初登場がゾンビライクな姿なんていうかなり可哀想なこの人こそ、我らが大先生小角氏真(おづのうじざね)さん。
顔色が少し悪いのとやせ気味な体型はもともとだからいいとして、この危ないクスリキメたみたいな目つき。大先生の今後の
ためにも、せめてモザイク処理くらいは施してあげたいと思ってしまう……なんて考えてる間、大先生はぷるぷると震える手
を胸ぐらいの高さに掲げ、
「いち、にぃ……」
 と紫色の指を折りながら、霊魂吐きだしてるんじゃないかというおぞましい声で数を数えはじめた。ほどなく右手が一杯に
なり、左手の力も借りる。

「はち、きゅう……」
 あ、飛んだ! ろくとななが飛んだ! これは思っていたより重症だ。思考能力までゾンビ並みになってるじゃないか。
いや、笑いごとじゃないな。新薬の効きすぎか、副作用か……どっちにしたって流石に心配……

「ああぁ、すまん雲雀。もう何回トイレに行ったかも覚えとらん」
 今や限りなくゾンビに近づいていると思しき大先生は、そう言って薄く笑った。その声はさっきまでほどには不気味じゃ
なく、また目つきもモザイクの助けはいらなさそうだった。安定期に入ったのか。よろよろのそのそとやっぱり人間離れした
足取りで、僕の向かいの席に腰掛ける。落ち着いたのか、ふうっと大きく息をついた。

「大先生、昼前に見た時よりさらに干からびてるっす。ちゃんと飯食いました?」
「飯なんて食ったら……ますます元気に出ちゃうだろうが」
「そりゃそうかもだけど……じゃあちゃんと水分取ってます?」
「水分なんて取ったら……ますます元気に出ちゃうだろうが」

 うう〜んまるでオウムのごとき単調な会話のバリエーション。知的でウィットに富んだいつもの大先生、早く帰ってきてく
ださい。小角診療所がアホの寄せ集めだと思われるのも時間の問題ですよ。
 しかし「医者の不養生」とはよく言ったもの。お腹ピーピーが続く時はまずしっかり水分を補給しないといけないって、
腹痛の患者さんが来たら必ず念を押せって言ったのは他でもない、このゾンビな人だってのに。

242 :小角診療所の診察日誌 ◆Warlock/sw :2012/06/24(日) 00:39:54.80 ID:FBmZXnCG.net
「とりあえず、はいお水。置いときますから。飲んでください。つーか飲め」
「うぐぅ。腹壊してる人間に水飲ますとか……とんだ鬼畜野郎だ」
「大先生がそうしろって言ったんでしょう!」
「……腹を壊してる時でも水分を取らなくても大丈夫になる薬を作ろうか。売れるぞ」
「ニッチすぎる!」

 ゾンビ化した大先生との不毛なやりとりは続く。大先生の言うことはわからんでもない。確かに僕自身も、カキの食当たり
で数日腹を下したことあったけど、水分を取るのが嫌だった。「どうせすぐに出てくじゃん!」という感じで。だがそうは
言ってもやっぱり喉も乾いてくるし、なんか頭痛くなってくるしで、結局水分は取るんだけど。

 しかしまあ、今回の大先生のは食当たりでもなく、まして昨夜腹丸出しで寝ていたなんていう自業自得でダサダサの不注意に
よるものではまったくない(ちなみに僕は週一のペースでやらかしてる)。それに今回のは腹下しという形で表れているが、大先
生にこういった異変が表れるのはとくに珍しいことでもなかったりする。こういう大先生の姿を見るにつけて、この人の情熱も
理想も意思も、間違いなく本物なんだということを僕は実感させられたりするのだ。

「大先生、今回の便秘薬って、ちゃんと動物実験はしてましたよね」
「もちろんしたさ。結果も良好だった。モルモットでは快腸だった。プリプリ出てたよ」
「で、大先生が飲んでみたら……」
「ご覧の有様だよ」
 
 大先生の腹がギュルと鳴る。また発作か? と思ったが、大先生は特に動じていない。どうやらちょっと慣れつつあり、
トイレに行くべき時と行かなくてもいい時の区別がつけられるようになってるらしい。すごいな人間の適応力。

 基礎的な薬さえ枯渇の一途をたどる今、それをなんとかするには自前で薬を調合するしかない。もはやこの国は何時代に突入
したんだって話だけど、この大先生は真面目にそう考えた。そう考えて本当にそれをやってしまえるのだから、意思あるところ
に力も宿るというのは本当かもしれない。

 それでもどうしようもないのは、目的の薬を調合するための途方もないトライ&エラーを繰り返す過程と、調合に成功した薬
を使って効果を試すという実験だ。もう言わなくてもいいかもだけど、大先生はこの試薬の実験を自分の体を使って行っている。
 初めて知った時は真剣に止めた。今回みたいに腹痛で済めばかわいいもので、下手をすれば死ぬ危険だってあるんだから当然だ。
それでも僕がそれを知った時には、すでにいくつかの薬は完成していた。それまでに廃棄されたものも含めて、大先生には
すでにいくつもの「前科」があったわけだ。

 僕は二人の兄弟弟子と一緒に、みんなで大先生に詰め寄った。頼むからやめてくれ。師匠に何かあったら、魔素医学はどう
なる。その時、大先生はこんなことを言った。

『もし私に何かあったら、その時は弟子たちが助けてくれる。そうだろう?』

 いつもと変わらない無表情で言ったその言葉を、今でもはっきりと思い出せる。それきり僕たちは何も言えなくなった。
大先生はかなり勝手なことを言ってると思う。きっと冗談のつもりなのかもしれなかった。それでも、少しでも真面目にそう
思ってるんだとしたら、それに応えたかった。だからあれ以来、僕はそれまで以上にがんばるようになった……回想終わり。

243 :小角診療所の診察日誌 ◆Warlock/sw :2012/06/24(日) 00:40:37.78 ID:FBmZXnCG.net
「やっぱり難しいんですね、薬品の調合って」
「ああ、本当にな」

 短くそう言って、大先生は机に視線を落とした。僕が絶賛作業中、やいのやいのと騒ぎながらもなんとか練り上げた風邪薬
の結晶が、今ようやく仕上げの時を待っていた。いや、僕前回失敗しちゃったからね、今回は何が何でもがんばらなきゃと思って。

「大先生みたいに、酒と何を組み合わせたらどんな薬が作れそうかって、僕は全然思いつかないんですよ」
「ふふん、そうか」
「そうか、じゃないですよ。何かすごい薬作れないかなって、考えてはいるんですけど」

 いつもそう考えている。これまでに大先生は、風邪薬、傷口に塗る外用薬、目薬、喉薬、点滴液、疲れたあなたの栄養ドリ
ンクといったものを、魔素を用いた調薬術によって完成させた。そして今回便秘薬に挑み、あえなく激しく腹を下し、半ゾンビ
化の憂き目を見た。

 魔素を用いた調薬術は、大先生の開拓した医療魔法のほんの一部分にすぎないけど、調薬術ですごい薬を作れれば、それ
が一番なんじゃないかと思ったりしてしまう。何せまだほとんどわからないことだらけの「魔素」を取りいれた薬なんだ。
これまでの常識や理解を越えた効果が発揮されても、何も不思議じゃないって思うんだ。でも……

「雲雀。この薬の主成分の3分の2は既存の物質なんだ。魔素にどれだけ秘められた力があったとしても、『すごい薬』なんて
のはできっこない」

 いつも大先生にはこう言われてしまう。そしてそれはもっともだ。さらに大先生はこの後、必ずもう一文付け加える。

「それにな。面白くないだろう。仮にそんな『すごい薬』なんてのができてしまって、どんな病気もそれさえ飲めばコロリと
治せるなんてことになったら。そこで私たちの研究はお終いだ」

 決まり文句だ。そして、これもまたもっともだ。もしかしたら本当は作れるのかもしれない『すごい薬』は、こうして僕た
ちの中では夢の存在、理想の中にしかないものになっていく。たぶんそれでいいんだろう。どこかでそう納得しているから、
僕は今日もこうしてちまちまと、風邪にしか効かない風邪薬を汗水たらして調合しているのだから。その薬で、少しでも早く
風邪が治る人たちが確かにいるのだから。

「……便秘薬、早く完成するといいですね。でも何が悪かったんでしょうね?」
「効果の方向性は間違っていない。ただ、少し効果が出すぎているんだな……」

244 :小角診療所の診察日誌 ◆Warlock/sw :2012/06/24(日) 00:41:12.62 ID:FBmZXnCG.net
 情けないけど、僕には何ひとつ意見を出せないし、改善案も出せない。調薬術を修得こそしているものの、その原理はまる
で理解できていないから。だからその辺は今はもう、大先生に任せてしまっている。その分、大先生が調薬に成功した薬に
ついては、せめて失敗することなく量産していこうと思う。ちょうど今まさに完成しそうな、この風邪薬みたいに。
よかった、今回はちゃんと成功しそう。やったねひばりん、汚名返上! 名誉ば

 バンッ! と、本来聞こえるはずの蝶番が軋む音もかき消す勢いで、前回白昼の秘め事の舞台となった隣室第一施術室の扉が
乱暴に開く。ほぼ同時に
「雲雀手伝って! 急病人! ちょっとあたしだけやときついわ」
 と、これまたドアの音に負けじの大音量、でも耳には心地いいちょっと低めの女声。大声張り上げても耳障りに聞こえない
声って素敵だよね……と落ち着いてる場合じゃない。急病人なんて久しぶりだし、彼女に助けに呼ばれるなんてのもかなり珍
しい。こりゃただ事じゃないって。

「すぐ行く!」
 それだけ言って支度をする。扉のほうにチラッと目を向けると、珍しくほんとに余裕なさそうな顔が見えた。
 こりゃ相当だ。僕で足りるのか? そう思っても、行くしかない。それが僕の仕事だ。薬を作るだけが能じゃないし、それ
で許されるはずもない。それで満足するわけもない。むしろこの時こそ、この仕事の本領だと思ってる。
 ……あ。でも待て。待ちなさいひばりん。大事なこと忘れてないか? あ、調薬……今ここで調薬を放置したら……

「また風邪薬の調薬失敗するぅぅぅぅっ!」
 おいおいマジかよ。勘弁してくれよ雲雀。お前風邪薬の調薬もロクにできないのかよ。あのイケメン色情魔はきっとこう
言って僕をなじる。
 ほんま、こんな基本的な薬作んのに2回も失敗するやなんて……ほんまに使えへん愚図やね雲雀は。僕に助けを求めてきた
彼女はきっとこう言って僕を責める。……なんだろう、少し胸が躍るような気もする。なんだこの気持ちは。

 いずれにしても、調薬連続失敗とか僕自身が嫌だ。まあ今回のは仕方ない、間が悪かったと言えなくはないけど、それでも
やっぱり釈然としない。どうにかしたい、どうにかできないか。どう、にか……あ。なんだ、簡単じゃないか。
「大先生! 僕は花蓮さんの手伝いに行きますんで、調薬の仕上げお願いし大先生!?」

 厳島雲雀一生のお願いをしようとした矢先、大先生は腹を抱えて通路側のドアへ一目散にダッシュ!
「す、すまん雲雀。さっきの花蓮のでかい声で、胃腸がびっくりしたらしい」
 なんて丁寧に言い捨てて、大先生はトイレへと消えていった。こうして、僕の風邪薬調薬はまたしても失敗する線が濃厚と
なった。もう、漏らしてしまえばいいのに。

245 : ◆Warlock/sw :2012/06/24(日) 00:42:53.94 ID:FBmZXnCG.net
今回の投下は以上です。
設定さらしもちょくちょくしていこうと思います。

246 :創る名無しに見る名無し:2012/06/24(日) 15:01:38.29 ID:DwXNWqoC.net
乙おつ

>なんだこの気持ちは。
ドMですねわかります

247 :創る名無しに見る名無し:2012/06/24(日) 23:51:57.38 ID:212Q2yG+.net
書ける人とか設定を作り込める人だけしか、参加できないのでしょうか。

当方は、思いついた時にエクセルで設定を書いていくだけスタイルです。

248 :創る名無しに見る名無し:2012/06/25(月) 00:02:23.99 ID:XzfYME0Q.net
ttps://box.yahoo.co.jp/guest/viewer?sid=box-l-2zlooonvtuwycv67tp25d4sexi-1001&uniqid=7a9e8f8b-2d9f-4c39-a19f-b227d73b3041&viewtype=detail

YahooBoxから公開しました、自分のエクセルブック集です。
クリエイティブ・コモンズの画像を同封してあるので、著作権フリーです。

これを使ってシェアれますでしょうか。

249 :創る名無しに見る名無し:2012/06/25(月) 00:37:17.80 ID:KXzuiMoZ.net
ストーリーの設定ならいいけど
新しい世界を作る最初の段階以外で世界観に関わる設定をどんどん言ってくるっていうのは避けた方がいいと思う
完全に設定だけで進むってスレもあって
↓の上の方は個人で、下の方は皆で作るスレだからご参考に

設定を紹介するスレ
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1283869805/

異世界設定つくらない?2
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1294583646/



とりあえず>>248を見てもエメスという人物についてしか書かれてない上に
関係無い二次創作のメモが混じっててどういう世界観か全く分からない

250 :創る名無しに見る名無し:2012/06/25(月) 00:55:52.20 ID:6U2xgDUL.net
>>245
乙でした
五大派閥も結構でてきたなあ

>>248
いまいちデータの見方がわからぬ

251 :創る名無しに見る名無し:2012/06/25(月) 01:19:15.35 ID:XzfYME0Q.net
>>250
すいません。やっぱり、レクチャーが無いと難しいですよね。

252 :創る名無しに見る名無し:2012/06/25(月) 13:32:25.02 ID:XzfYME0Q.net
注意:「並び替え」をするときは、「並び替え」用にブックをコピーしてください。
   参照先のシートは、先頭行しか自動的には値が並び替えられません!

それと、複数人分のブック集を一つに統合するとき、やっぱり人力でやるのが無難です。
自分にとっては、カイジではありませんが「至福の雑用」です。
誤字脱字は、フォントの色や形が他と変わりない限り勝手に修正させていただきます。

253 :創る名無しに見る名無し:2012/06/25(月) 14:14:45.83 ID:cCOB4HRP.net
何を言っているのかさっぱりだ

このエクセルなに?

254 :創る名無しに見る名無し:2012/06/25(月) 14:21:19.03 ID:XzfYME0Q.net
ttps://box.yahoo.co.jp/guest/viewer?sid=box-l-7wlsbrgm4vbtt4elo2sfjj33za-1001&uniqid=68d36b14-e5d9-4ce0-b44d-16af927234f3&viewtype=detail

URL変わりました。

>>253
いろいろな設定を、エクセルで管理していこうぜ、ってなもんです。
管理ついでに、共有して行けたらな、と。

255 :創る名無しに見る名無し:2012/06/25(月) 15:50:00.69 ID:cCOB4HRP.net
ああ、なんだこいつマルチだ


256 :創る名無しに見る名無し:2012/06/25(月) 23:17:16.59 ID:XzfYME0Q.net
はい、いろんなスレでお仲間を募ってます!

塵みたいな実力(才能・知識量・経験・使える余暇などの総合結果)を、出し合って。
俺ら延べ1,000人でプロ1人分みたいになれたら、サイコーだと思います。

257 :創る名無しに見る名無し:2012/06/26(火) 07:30:28.89 ID:AajMaNcU.net
まあ、創作発表板に描き手が1000人もいないだろうね


258 :創る名無しに見る名無し:2012/06/26(火) 19:55:49.67 ID:0WnUmOB8.net
わざわざ他人まで塵呼ばわりとは大胆なやつだなぁ。

259 :創る名無しに見る名無し:2012/07/04(水) 08:06:51.68 ID:3QQ1CTCt.net


260 :創る名無しに見る名無し:2012/07/04(水) 22:50:08.26 ID:mEmvqpth.net
白狐さん、完結してたんだね……
見事としか言いようがない!
皆いなくなって自分だけはいなくならないと思っていたのに
身の回りが忙しくなると結局来なくなってた
だけど白狐さんは変わらずずっと書き続けていたんだなぁ……
本当にお疲れ様。そして素晴らしい作品をありがとう

261 :創る名無しに見る名無し:2012/07/05(木) 00:01:36.06 ID:B04cL5Rb.net
避難所も少し動いてるし、ひさびさに小ネタでも書いてみるかな。

262 : ◆mGG62PYCNk :2012/07/05(木) 00:42:45.58 ID:bvuAav2y.net
>>260
ありがとうございます
なんとか完結できまして、ありがたいことに時間が経っても感想をもらえています
これほど嬉しいこともなかなかないです

>>261
小ネタも長編も続きも、全部楽しみにしています

263 :創る名無しに見る名無し:2012/07/05(木) 01:23:33.70 ID:48hCvBf/.net
第14話 回想〜セオドール・バロウズ

ハロー、ヘロー、読み手のみなさんこんにちは。ブルー・スカイハイのヴォーカル、みんなの人気者(笑)、セオドール・バロウズだ。
さて、『白狐と青年』、相も変わらずに更新速度が速いね、俺たちなんて半年ぶりだぜチクショウ。ときに気になってんだけどさ、この『白狐』って
ビャッコ、って読むのかそれともシロキツネ、って読むのかずっと気になってたんだよな。まあ、そんなのは作者さんに聞けばいいことなんだけどよ。
まあ、クズハちゃんもいろいろ思うところがあるようで、やっぱこの辺は人間と同じように年頃女の子らしい繊細さが伴ってさ、
扱いが結構難しいんだよな。たとえるならドミノ倒し。一つ一つ少しずつ関係をドミノのピースのように並べていくんだけどさ、ちょっと失敗しただけで
すべてが台無しになっちまうよな。匠くんなんて正にその典型だよな。これまでいい関係だよなって見守って来たのにある日突然このザマさ。

けど、倒れたドミノはまた並べればいいだけの話で、これからも注目させてもらうよ。実をいうと俺とクズハちゃんってある意味似た者同士なんだよな。
まあ、こんな感じでこれから毎話ごとに俺たちが他の話に感想をつけようって話になった。なに?メタ発言じゃないかって?細かいことを気にすると女にもてない、以上。
あと、もう一つ変更点な。今までは俺らの周りの誰かさんからの視点で物語が進んでたと思うんだけど、これからは俺たちの目線で話が進むようになった。
その目線っつーのも話ごとに違ってくるわけで、各話ごとに違った価値観や解釈が生まれると思うんだけど、その辺はまあ気にしないで大目に見てやってほしいわけ。
で、今回その記念すべき第一回目がこの俺、セオドール・バロウズの担当に大決定したぜイエイ!…すまん、一人で勝手に盛り上がっちまったな。

んで今回俺が話すのは、俺の昔話さ。昔話っつーか、生まれてから今までの俺の回顧みたいなもんかな。もともとは、ついおととい行ったモニカちゃんとの
昼食の席で話そうかと思ったんだけど、予想だにしないアクシデントのせいで話せなくなっちまったんだよな。まあ、考えてみれば昼飯の席で
話す様な類の内容でもないし、結果的にこれでよかったんだろうけどな。それじゃ、閉鎖都市昔話〜セオドール・バロウズ〜のはじまりはじまり〜

今俺がいるのは、閉鎖都市のライブハウス。一週間に一度ここでライブをやって、CIケールズのお偉いさんに助けてもらってほとんど無料に近い料金で
やれてるんだってことは前にも話したと思う。まあ、いい機会なんでここで俺たちブルー・スカイハイのメンバーを紹介しよう。
ヴォーカルの俺、セオドール・バロウズ、ベースのマイケル・ジャスティン。歳は俺と同じ21で、まあ寡黙な男さ。感情をほとんど表に出さない。
表情もまあ無表情。こいつの笑った顔とか見たことねえもん。ただ、このバンドに対する情熱は紛れもなく本物で、ここをこうしようとか的確な提案を
毎回のようにミーティングでぶつけてくれる男さ。次にギターのジェイソン・ローレンツ。こいつはいっこ下の20歳。幼い時に顔に大やけどを負ってそれ以来
いろんな有名人の顔を模したパーティーグッズのマスクをつけてるから今の素顔は俺たちもわからない。だけどすげえいい奴で、ライヴでも圧倒的な演奏力で
観客のみんなを魅了してくれる、まさにエンターテイナーさ。次はドラムの佐伯小夜子。歳は19歳だったかな。なんつーか、すごいおっとりした口調で話すんけど
ドラムのステッィク捌きはそれとは正反対で、そのギャップに萌えるファンもいるくらい。ステージ衣装もゴスロリだしな。

お次はキーボードの馬場聡也。俺たちの中じゃ最年少で18歳だったっけ。学生時代はピアノのコンクールで優勝するくらいで、将来を嘱望されてたんだけど
どういう風の吹き回しか俺たちと一緒にバンドがやりたいって言い出して、こいつのために本来無かったキーボードのポジションを作ったんだよな。
ま、結果的にそれで表現の幅が広がったから俺は大いに満足してるんだけどさ。そして裏方の霧島沙希とフレディ・スターク。
沙希ちゃんは俺たちのマネージャーで歳は最年長の23歳。スケジュール管理や、廃民街の外でのライブの交渉に回ってくれる敏腕マネージャーだよ。
一方のフレディは、俺たちの楽器の整備、調律を担当してくれてる。なにせ絶対音感の持ち主だからな。歳は俺と同じ21歳。
あ、絶対音感っていうのは、簡単に言うと、ドレミファソラシドとその半音を一つ聞いただけでどの音階かを判別できる能力のことだよ。

264 :創る名無しに見る名無し:2012/07/05(木) 01:24:57.90 ID:48hCvBf/.net
でも、極端に無口で滅多に言葉を発さないのがたまに傷なんだよな。とまあ、これでメンバー紹介は以上だが、今俺たちが何をしてるかっていうと
ライヴの後の打ち上げさ。成人してるメンバーは酒を口にするけどそうじゃない聡也と小夜子はソフトドリンク。
まあ、楽屋でスナック菓子やら惣菜やら並べてみんなでお疲れ様って盛り上がる楽しみなイベントだよ。

「セオドール、今日も最高の歌声だったわよ、次もこの調子でお願いね」
「おう、任せとけよ」
「頼りにしてます。それはそうと、俺の演奏方法なんですが、もうちょっと激しい方がいいですか?ピアノを弾いてたときの癖がどうにも抜けなくて」
「いいんじゃないか、無理にフォームを変えて演奏に支障を来すよりは余程マシだ。お前はただお前らしくあればいいんだよ、聡也」
「私もそう思います〜」
「俺も右に同じく」

てな感じで他愛もない雑談を繰り広げるこの何ともないような時間がたまらなく幸せなんだよな。ちなみに上の会話の順番は、
沙希、俺、聡也、マイケル、小夜子、ジェイソンの通り。実はジェイソンの後にフレディも頷いてたんだけどさ。
そんなこんなで話は進み、酔いも回ってきたところで唐突に各々の来歴を語ることになった。来歴っつっても俺ら全員幼馴染なんだから語るまでもないと思うんだが、
酒も回ってるせいか、語り上戸になってべらべら話し出す周りのメンバー(フレディ除く。こいつは蟒蛇だ)。
ま、そんなこんなで連中が自分の生い立ちから今までに至るまでを語って、そして最後に俺の番がやってきた。じゃあ、語ろうか。俺の過去の話をさ。

まず、俺は捨て子だった。前にクラウスたちが道端に捨てられてた赤ちゃんを拾ったことがあっただろ。あんな感じで俺も捨てられてたんだよ。
もちろんそん時の記憶はない。俺を拾って育ててくれた恩人から聞かされた。まずはその恩人の話から始めようか。
その人の名前はクリーシェ・バロウズ。今はこの廃民街の娼館の女将をやってる人だよ。と同時に俺の名付け親でもあるわけで。
当時クリーシェさんはなんと12歳。その時すでに娼館で働いてたっていうんだから驚くしかないよな。つってももちろん男の相手をするわけじゃなくて、
娼館の掃除だとか、娼婦さんたちの身の回りの世話をしたりして生計を立ててたらしい。でもさ、普通に考えて12歳の娘をよりによって娼館で働かせるかねえ。
親は何を考えてんだろうな。まあいい。話を続けよう。それで娼館での仕事が終わったある日の帰り道、クリーシェさんは道端に捨てられた俺を見つけた。
クリーシェさん曰く、その時は本当に捨てられたばかりの状態でまだ健康状態もなんら問題はなかったそうだ。不幸中の幸いってやつだな。


265 :創る名無しに見る名無し:2012/07/05(木) 01:25:58.19 ID:48hCvBf/.net
そんで、俺を拾ったクリーシェさんはどうするか迷ったそうな。このまま家に帰っても親にまた捨ててこいって言われるのは目に見えてる。
まるで子供が野良犬や野良猫を拾ってきたときのようにな。常人ならあり得ないことなんだけど生憎ここは廃民街。常識が通用しないことなんざ多々あるのさ。
悩んだ末にクリーシェさんが取った行動は、俺を拾い元来た道を引き返すことだった。たどり着いた先は、勤め先の娼館さ。
そこでクリーシェさんがなにをしたかは語るまでもないことだとは思うけど、一応話しとくよ。

「面倒は全部私が見ます、だからこの子をここに匿ってください」

って当時の娼館の女将さんに頼み込んだんだよ。12歳とはとても思えない行動力だよな。その時の女将さん、キセルをくわえて目をつむって
いかにもそれらしく悩んでたってさ。で、女将さんは俺を匿うのを許してくれた。こうして考えるとこの女将さんも恩人といえるんだろうな。
恩人と言えば、この当時娼館で働いてた娼婦さん全員が該当するんだけどな。どういうことかって?
12歳の娘に赤子のお守りは荷が重いって娼婦さんたちが代わる代わる俺の面倒を見てくれたんだよ。もちろんその最中にクリーシェさんに子育ての仕方を伝授しながらさ。
やっぱ娼婦さんたちも職業柄こういうのに憧れたたんじゃないかって思うんだよ。だってそうだろ、どこの男のものともわからない子供を身籠るわけにゃいかない。

だから娼婦さんたちは全員ピルを毎日服用してたんだ。ピルっていうのは、簡単に言うと避妊薬。膣内に放たれた精子を殺すための薬だよ。
でもそれが原因で好きな男ができてもその男との間に子を授かることができない。娼館をやめればいいって思うかもしれないけど、やめてまた食い扶持が
稼げるほどこの廃民街は甘くないんだよな。だから結局食い扶持を稼ぐために娼婦を続けるしかないわけで、普通の女のような付き合いはとうの昔に諦めてるって
当時の娼婦さんたちは語ってたそうだぜ。でもそこにある日突然下働きの娘が赤ん坊を連れてきた。多分その時の娼婦さんたちはこう思ったんじゃないかな。
この子をみんなで育てることでその瞬間だけは全うな一人の女性でいられるって。そんなこんなで俺は娼婦さんたちみんなに育てられることになったんだけど、
名前は拾ってきたクリーシェさんが決めろってことになったらしくて、クリーシェさんが俺に付けた名前がセオドール・バロウズって訳さ。

そんでクリーシェさんと娼婦さんたちの愛情を一身に受けて育った俺は7歳になった。小学校入学の時期になったんだけど、俺も物心がついて
周りの環境がどんなものかってのを幼心に理解してたんだよ。それで、みんなに迷惑をかけたくないってんで小学校入学を諦めたんだけど、
それを女将さんに話したら、まあ笑う笑う。

「ガキが変な気を回すもんじゃないよ。アンタはアタシたちのようにはしない。全うな人間に育ててみせるさ」

って女将さんが自腹を切って小学校に入れてくれたんだよ。在学中のいろんなお金も娼婦さんたちがみんなカンパしてくれたんだよな。
で、小学校に通学した俺だけど、娼婦に育てられてるって知られた途端、いじめられ…はしなかったな。いや、そうなりかけたんだけどさ、言ってやったんだよ。
お前たちの親は、娼婦を見下せるほど誇らしい生き方をしているのかって。そしたら連中、ぐうの音も出ないでやんの。
そりゃそうだよな、下手すりゃ犯罪に手を染めなきゃ生きてけないこの廃民街で誇れる生き方を送ってる人間が果たしてどれほどいるのかってことだよ。
そんなこんなで小学生の時の俺は娼婦さんたちと関わる中で身に着けた社交性を武器に多くの仲間を作ったんだよ、学年を問わずな。


266 :創る名無しに見る名無し:2012/07/05(木) 01:26:35.51 ID:48hCvBf/.net
そう、ブルー・スカイハイのメンバーと出会ったのもこの小学生の時で、放課後にもなると日が暮れるまで校庭で遊んだもんさ。
で、俺の小学校は、1年〜6年、要するに全学年でクラブがあってさ、俺たちは全員音楽クラブに入ったんだよ。で、俺たちでチームを組んで、音楽室の備品の楽器を
使ってバンドの真似事をやったりしたものさ、ここにブルー・スカイハイのルーツがあるのは間違いないね。
余談だけど、俺のいっこ下にすごい可愛くてブロンドの髪が印象的なバイオリンのうまい女の子がいたんだよ。
まあ、誰の事かは言わなくてもわかるだろうし、俺自身当時はまだその子と話したこともなかったし、ましてや今みたいにお近づきになるなんて
夢にも思わなかった訳なんだけどな。話を戻そうか。そんなこんなで小学校の6年間を無事に過ごした俺だが、事件は俺が中学2年の時に起こった。

中二病を患ったとかそういうんじゃねえからさ。今でこそこの街は『王朝』が完全統治してるけど、当時は『王朝』の支配体系を転覆させてやろうと
いろんなマフィアやギャングが抗争を繰り広げてたんだよ。それと俺の言う事件っていうのがどんな関係かっていうのを今から説明しよう。
その抗争の煽りを受けて俺を育ててくれた娼館がマフィアの襲撃に合ったんだよ。襲撃っていうか、その襲撃したマフィアのアジトを増やすのにその娼館の場所が
ピッタリだったらしいんだ。それである日突然マフィアの連中が乗り込んできやがって、一方的な明け渡しを要求してきやがったんだが、
女将さんは当然二つ返事で拒否したもんだから、逆上したマフィアたちが手当り次第に壁やら備品やら扉やらを壊し始めたんだよ。
娼婦さんたちも必死に抵抗したんだけど勝てるわけもなし、みんな殴られたりして気を失ってたよ。俺がその場面に出くわしたのは中学の帰りだったっけ。
目の前の光景が信じられずにただ感情に任せてマフィアの連中に向かっていったのは覚えているけど、マフィアなら当然銃くらい持っている訳で。

掴みかかれもせずに銃弾を何発も浴びて、俺の意識は一度そこで途切れた。でも、死ななかった。そりゃそうさ、そこで死んだら今こうしてその出来事を
語ってる俺はなんだってことになるからな。この出来事を聞いて、なんで娼婦さんには銃を撃たなかったのか疑問に思うだろうけど、
男と違って女にはいろいろと利用価値があるものだろ?ましてや娼婦となりゃなおさらだ。もちろん俺自身がこう思ってる訳じゃないぜ。
そこんとこ誤解しないでくれよな。ただ、いかにもマフィアなら考えそうなことな訳で、大方娼婦さんたちはあとでまとめて売り飛ばすつもりだったんだろうな。
…話を戻そうか。銃弾を浴びて意識が途切れた俺だけど、次に目が覚めたのは、病院だった。目が覚めるとそこには医者と看護師の他に、
クリーシェさんと、見たことない爺さんと黒い長髪のお姉さんと、銀髪でボブカットのお姉さん、俺とそんなに歳の変わらなさそうな女の子と男の子がいたな。
要するに、ケビン爺さんとアリーヤ、シオン、アスナ、クラウスのことだけど。

ケビン爺さんがアリーヤに何か耳打ちをした後、部屋から出てってな。聴いたところだとCIケールズの役員会の時間が迫っていたそうだぜ。
だから事後処理、もとい俺を告死天使(センテンストゥ・デス・エンジェル、俺が勝手に命名したが、仲間からの評判はいまいちよろしくない)に
引き入れるかどうかを任せたんだろうな。クリーシェさんの話だと、俺が意識を失った直後に騒ぎを聞きつけたケビン爺さんたちが駆けつけて、
マフィアたちをバッタバッタとなぎ倒していったそうだ。ケビン爺さんはのちにフィオの手に渡ることになる二丁拳銃、グレイス・グローリーを駆使してマフィアどもの
獲物、要するに拳銃のことな。を次々とピンポイントに弾き落としたそうだ。で、弾き落としたところをアリーヤ、シオンたちが取り押さえて駆け付けた自警団に
身柄を引き渡したそうだぜ。幸い死者は出てなかったから、マフィアたちもアズバック刑務所に5年間くらい服役するくらいで済んだそうだぜ。


267 :創る名無しに見る名無し:2012/07/05(木) 01:27:16.84 ID:48hCvBf/.net
尤も、その一件で急速に勢力を後退させたそのマフィアは事実上消滅したわけだけど。というのも、構成員のほとんどが服役して、幹部級のメンバーしか
残らなかったそのマフィアは、後日王朝にその残った幹部連を次々と暗殺されたそうだぜ。エグイことをするなとも思ったが、俺からしたら完全な自業自得なわけで。

話を戻そうか。寝覚めで目の焦点がいまいち合ってなかった俺の目を、アリーヤの澄んだ瞳が見つめていたよ。そして、その口からこう語りだされたんだ。

「そこのクリーシェさんから話は聞いた。聞けば随分と無茶なことをしたようだな。命が惜しくなかったのか?…まあいい。少なくとも、お前のその勇気は
称賛に値するものであることは素直に認めよう。そこで提案なのだが、セオドール・バロウズよ、私達の仲間にならないか?」

聞けばアリーヤもシオンもクラウスもアスナもそれぞれ違う理由で告死天使に加わったっていうしな。その理由は本人たちのプライベートに関わるから伏せておくけどよ。
俺の場合は…そうだな。何も考えずにがむしゃらにマフィアに向かってって銃で撃たれてあっけなく意識不明。無様ったらないよな。
アリーヤは勇敢だと評したが、無謀なことをすれば勇気の証明になると思っているのか、ガキめ!と叱責される展開も大いにあり得たんだよな。
実際そのあと女将さんにそう言われてへこんだ記憶があるからな。そこで、こいつらと組めば鍛えてもらえる、強くなれる、大事な人を守れるようになる。
何より、無様な自分の姿を晒さなくて済む。そこには俺の弱さを隠したいというチキンな部分もあったわけだけどさ。俺は首を縦に振ったよ。
その時はまだ撃たれたショックで満足に言葉を発せられる状態じゃなかったからな。それを見て満足そうに頷いたアリーヤは自己紹介を始めたよ。

「そうか。ならばこれからその傷を癒すことから始めなければいけないな。まずはゆっくりと休むことだ。そういえば、自己紹介がまだだったな。
私の名はアリーヤ・シュトラッサ―(Aaliyah Strasser)という。これからよろしく頼む。それでこの銀髪が」
「シオン・エスタルク(Sion Estalk)だ。アリーヤさんは少々性格が厳しいが、私はそうでもない。口調は堅いがね。それでこの黒髪の少年が」
「初めまして、僕はクラウス・ブライト(Claus Bright)。よろしくね。君の一個下になるのかな。そういえば、小学校の時に音楽クラブで見た気がするよ、いや、奇遇だね。
まあ、その話はさておいて、このポニーテールが似合う女の子が」
「アスナ・オブライエン(Asuna O'Brien)だよ、よろしく。今年中学3年生だから君の一つ先輩ってことになるのかな。にはは…じゃあ、私たちはこれで帰るから
ゆっくり休みなよ」

そうして、5人は出て行った。でも、クリーシェさんの同意を得ずに俺がそんなことを一人で決めてよかったのかっていうのもあるね、
なんやかんやでクリーシェさんは俺にとって絶対的な存在だしさ(育て親としてな)、クリーシェさんにかすれた声で問うてみたのさ。

「…なあ、さっきの彼女の問いに勝手に答えちまったけど、あれでよかったのかな?」

そんな俺の問いにクリーシェさんは

「きみも一人の男なら自分の生きる道くらい自分で決めてみろ。さっきのアリーヤさん。の問いに答えた時もきみはいろんなことを考えたはずさ。
きみが考えて出した結論なんだから最終的にはきみが責任を負うものだし、私もきみのその決断は正しかったと思ってるよ」

って、やや突き放し気味ではあったけど俺の結論を認めてくれたよ。そしてクリーシェさんも娼館のみんなの見舞いに行くってんでその後すぐに席を外したっけな。
後に残ったのは医者と看護師だけだったな。その医者から驚きの発言が飛び出してきたのさ。


268 :創る名無しに見る名無し:2012/07/05(木) 01:27:55.34 ID:48hCvBf/.net
「ああ、セオドールくん。銃で撃たれたそうなんだけど、不思議なことに手術の執刀直後にその傷がみるみる内に塞がって行ってね。我々医師たちも長年手術に
携わってきたけどこんな経験は初めてだよ。一応君の体内に残った銃弾を摘出しなければいけないからメスを入れさせてもらったんだけど、
そのメスの傷も銃弾を摘出し終えた後、すぐに塞がってしまってね。奇跡としかいいようがないよ。あまりにも興味深かったから勝手だけど君の血液を採取して成分を調べさせているところだよ」

医師の言葉に驚いた俺は、パジャマをめくって腹のあたりをまじまじと見つめる。するとそこには手術直後で本来あるはずの手術痕が綺麗になくなっていたのさ。
それに…俺の血液?普通の人間となんら変わらない俺の血に特別な力なんてあるわけないさ。その時はそう思っていたんだよ。
けど、退院してしばらくしてその医師から連絡があってね。驚愕の真実を知らされたよ。その話はまた後日にしてやるさ。
ケビン爺さんのもとで積んだ修行の話も含めてな。さて、そのあとから2年前の貴族たちの粛清していくわけだが…って俺がその武勇伝を悠々と語ろうとしたとき、
ライブハウスのドアをノックする音が聞こえたのさ。まるで、クラウスたちがジョセフさん暗殺犯を探しに俺たちを訪ねてきたあの時のようにな。
あの言いだしっぺは神谷さんだったってな。まあ、あのおっさんならそんな発想もできなくはないよな。寧ろそうじゃなきゃ探偵なんざ勤まらないだろうし。

と、俺は仲間を待たせて入り口に向かい、あの時と同じように扉を開けて、

「誰だい?準備中の札がかかってるはずだけど」

と、明るい(っていっても曇りだけどな)外に出ると、そこにいたのは、見たこともない女の子だったよ。およそ廃民街には似つかわしくない綺麗な服をきて
それを完璧に着こなしてる長身の女の子。歳は10代後半ってとこかな。顔もすごくかわいくてさ、思わず見とれちまったよ。ハッとなって、要件を聞いたんだ。

「それで、何のようだい?ライブなら週末だからまた来週にならないとやらないぜ」

すると女の子は慌てて要件を口にしたのさ。

「あの、すいません。実は『神谷探偵事務所』という場所を探してて、手当り次第に声を掛けてみたんですけど誰も教えてくれなくて…」

そりゃあ、見ず知らずのヤツ、しかもどう見ても廃民街の住人じゃないこの女の子においそれと道を教える住人はこの街にはそういないだろうな。
むしろ、手当り次第に声を掛けて無傷でここまでたどり着けたってのがまず奇跡に等しい訳で。まあ、大方外にボディーガードでも待機させてるんだろうよ。

「お嬢ちゃん、名前は?この街じゃ名前も先に名乗らないようなのに教えることなんざ何もないぜ」
「はっ、これは申し遅れました。私はベアトリーチェ・チェンチと言います。齢18になります」
「ふうん…まあいいさ。探偵事務所なんて別にこの街じゃなくてもいくらでもあるだろうけど、わざわざここに来たってことはかなりのわけありなんだろうしな」

と言って、俺はあの日神谷さんから渡された名刺をベアトリーチェと名乗った眼前の少女に手渡した。

「ここが神谷探偵事務所の住所だよ。ただ一つ忠告だ。道中黒いコートを被った大男に出会ったら絶対目を合わせないようにそのまますれ違うことだぜ」
「はあ…取り敢えずご忠告感謝します。それでは」

とだけ言ってベアトリーチェは去っていったよ。だけど、どうにも不穏な雰囲気をその少女から感じ取った俺は、神谷さんに連絡を取ってみた。

「ああ、神谷さん。セオドールだよ。今からベアトリーチェっつう可愛い女の子が難しそうな案件抱えてそっちに向かうから対応してやってくれ。
但し、警戒は怠らないでくれよ?まあ、アンタなら大丈夫かもしれないけどさ」

ってな。まあ、「トランスポーター」としての顔も持つあのおっさんならうまいこと立ち回るだろうさ。


269 :創る名無しに見る名無し:2012/07/05(木) 01:31:09.24 ID:48hCvBf/.net
という訳で、本当久しぶりの投下になりますか。
さて、いよいよ次回から動乱が幕を開けますよ。今度は神谷さん視点から描かれる
ことになりますか

270 :創る名無しに見る名無し:2012/07/06(金) 07:30:39.81 ID:6e61NnAa.net
投下乙です。次回はいよいよ、神谷さんが活躍か!!

271 :創る名無しに見る名無し:2012/07/06(金) 21:36:15.64 ID:4cDIwwx+.net
ひさびさの閉鎖都市。乙です!

272 :創る名無しに見る名無し:2012/07/06(金) 23:55:57.57 ID:VkfVjh9O.net
いや、本当に久々ですよね。僕も私生活が多忙なのと、なかなかアイデアが湧かないのとで
遅筆なんですが、一日にWord1ページ進めるってことで少しずつ進めて行きますよ

273 :創る名無しに見る名無し:2012/07/07(土) 21:11:23.45 ID:dvcXBfST.net
乙です
神谷さんは各所で大活躍ですが、今回はどんな働きをしてくれるのだろうか


余談ですが、白狐の読みはびゃっこです

274 :創る名無しに見る名無し:2012/07/09(月) 03:43:36.86 ID:S8w2pHEo.net
雌狐……ホワイト・フォックス……

275 : ◆dmfu//97yw :2012/07/17(火) 22:29:02.13 ID:apTlUb6W.net
避難所に投下した新規です。設定的な奴をちょいとばかし。

・『事務所』
バイエニアル傘下の何でも屋。オーナーはユリウス・カエサリオン。
元々は宗教地区殲滅戦で人員不足になったバイエニアル側が設立した殺し屋。
当時は十九名が在籍していたが、今は当時のメンバーは“チームリーダー”のみ。

・バイエニアル
有名な香港マフィアを襲撃し、勢力を伸ばしたイタリアマフィア。
閉鎖都市西部では最大勢力だが、宗教地区殲滅戦前に比べて衰退している。
ちなみにバイエニアルとは英語で「2年周期」を指す美術鑑賞会のこと。

・宗教地区殲滅戦
バイエニアルの構成員が宗教地区の教会にて破壊したことが発端で発生した事件。
報復行動により両者による殲滅が決行された。そのため、情報規制が行われている。
王朝側が参戦したことやアンク側が宗教地区に武器を横流したため事態は泥沼化。
宗教地区とバイエニアル側がほぼ強制的に停戦協定を組む形で終結した。

・宗教地区
閉鎖都市最大のキリスト教教会がある町。
南部は廃墟の町で地雷原となっており、殲滅戦の反対派により今も尚、戦場と化している。

・鉄道保安部隊
鉄道局側が地下鉄建設の際に結成された私兵部隊。精鋭守備部隊として知られる。
宗教地区殲滅戦により計画は中止となり、一度も戦わないまま、部隊は解散した。

・コーサ・ノストラ
閉鎖都市最西部にある町。一番街から四番街まである。
裕福な二番街以外は、貧しく層が多く治安が悪い地域の一つとして有名。


こんな感じで中二っぽい設定。
出来たら今月中に一本投下して、来月に二本投下したいな。

276 :創る名無しに見る名無し:2012/07/18(水) 21:46:54.59 ID:/1ECbnWs.net
「アイデア・ツイーティ」で、投下してください。

こんなスレで小出しにしてても、勿体無いよ。

277 :創る名無しに見る名無し:2012/07/19(木) 10:01:05.37 ID:Aw6kLPFz.net
こんなスレとか言うぐらいならわざわざ見にこなくていいのに
時間の無駄でしょ

278 :創る名無しに見る名無し:2012/07/19(木) 13:37:26.92 ID:9HQdkoTD.net
>>276
新規はここに投下するな、てことか?

279 :創る名無しに見る名無し:2012/07/20(金) 14:10:08.60 ID:oJJ+tooa.net
て言うかここが荒らされるのって、新しくなってから三回目
なんでこうも、マルチと荒らしが湧くのかぎ分からないな

280 :創る名無しに見る名無し:2012/07/20(金) 20:22:56.37 ID:wLg1ZWGv.net
まあ、スルーすれば諦めるのは過去の例が示してるので気にせずいきたい

281 :創る名無しに見る名無し:2012/07/21(土) 08:09:22.02 ID:V/Raf/1J.net
白狐と青年の連載が終了した今、次のこのスレの牽引作はどれになるかな…

282 :創る名無しに見る名無し:2012/07/21(土) 15:09:20.69 ID:oqTkRl0P.net
正義の定義、ゴミ箱の中の子供達、NEMESIS辺りかな?
と言っても、このスレは良作が多いので、全部と言ってもいいよね


283 :創る名無しに見る名無し:2012/07/28(土) 18:05:04.21 ID:87Hy8yvc.net
羨ましい限りだ。余裕があったら俺もこっちでやりたかったぜ。

284 :創る名無しに見る名無し:2012/07/28(土) 19:20:55.11 ID:8/AboXV/.net
今からでも構わないのよ?

285 :創る名無しに見る名無し:2012/07/29(日) 18:39:21.66 ID:Cq/U4Uf8.net
新入りさんは大歓迎なのよー

286 :創る名無しに見る名無し:2012/08/01(水) 06:29:37.65 ID:ZuaG/90x.net
>>285
夕闇通り探検隊のクルミの語り口を彷彿とさせるねww

287 :創る名無しに見る名無し:2012/08/03(金) 21:29:34.86 ID:rR6rAVmc.net
>>286 ちょww年代がww

288 :創る名無しに見る名無し:2012/08/04(土) 17:59:17.50 ID:GhyqQIf9.net
ひらめいた、閉鎖「都市」だけに閉鎖都市の都市伝説を解明していく夕闇通り探検隊ばりの
三人組の中学生の話を作ろうか。

いつぞや誰かが描いた王朝に殺された家族の話とか、シェアードワールドらしくネタにできそうなものも多々あるし

289 :創る名無しに見る名無し:2012/08/06(月) 22:10:48.62 ID:X/cGdo46.net
貧民街でそれをやるとなんか三人組こそが都市伝説の一部に組み込まれてしまいそうだw

290 :創る名無しに見る名無し:2012/08/07(火) 12:16:08.78 ID:zSxZShMT.net
富裕層出身の三人組が謎を追ううちに貧民街に関わってアジャパーとなる!
みたいな!

291 :創る名無しに見る名無し:2012/08/08(水) 22:05:15.94 ID:Lw8MA5uB.net
三人組って珍しいよね。白狐も二人か四人だったし

292 :創る名無しに見る名無し:2012/08/08(水) 22:25:09.11 ID:J/Q5TXRo.net
男女混合で三人組にしてしまうと動かしづらいとかありそう

293 :創る名無しに見る名無し:2012/08/16(木) 00:07:20.00 ID:0PFsskRL.net
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org3315510.jpg

294 :創る名無しに見る名無し:2012/08/16(木) 21:27:32.73 ID:nCLVh6xS.net
>>293
画像フォルダ保存余裕でした。

295 :創る名無しに見る名無し:2012/08/16(木) 21:38:36.48 ID:xfgUrqKq.net
ふむ
hshsすればいいのだね?
任せたまえよ!

296 :創る名無しに見る名無し:2012/08/17(金) 23:19:01.04 ID:GMUMXB74.net
復活

297 :創る名無しに見る名無し:2012/09/01(土) 09:36:45.15 ID:nWdfAZDL.net
各作品の書き手さんに許可を取りたいのですが、みんつくのキャラクターを犯人役にした
古畑任三郎や刑事コロンボのような作品を考えているのですが、使用許可はいただけますでしょうか?

298 : ◆mGG62PYCNk :2012/09/01(土) 17:33:01.91 ID:H4BpZEG1.net
どこの世界か言ってくれれば反応も返しやすいのではないかと思う

うちの子たちならだれでもいいのよ

299 :創る名無しに見る名無し:2012/09/22(土) 20:55:04.76 ID:4qtJORLn.net
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1343026593/398
今こんなの考えてるんですけど、このスレでやっていいですか?

300 :創る名無しに見る名無し:2012/09/23(日) 00:18:21.20 ID:of6DhCCc.net
一つくらい世界が増えたって問題ないと思うのでいいんじゃないかな

301 :創る名無しに見る名無し:2012/09/23(日) 00:32:54.62 ID:uIoiJelO.net
ありがとうございます
1日程他にも意見を待ちます

302 :創る名無しに見る名無し:2012/09/23(日) 00:33:25.51 ID:uIoiJelO.net
そうだageておこう

303 :創る名無しに見る名無し:2012/09/27(木) 17:28:52.75 ID:c7++6LYX.net
宇宙へ行けるくらいサイバーパンクした世界ってことでおk?

304 :創る名無しに見る名無し:2012/09/27(木) 21:56:37.86 ID:iWTC/A3O.net
サイバーパンクでググったけどなんか違う気がする
詳しくは議論全体の流れを見てもらった方が分かりやすいかもしれません

http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1343026593/362-554

305 :創る名無しに見る名無し:2012/09/27(木) 23:10:28.20 ID:c7++6LYX.net
宇宙を題材にした世界をシェアワしたいってわけね
ってきり攻殻みたいな世界だと思ってたが、カウビとかコブラみたいな世界なのか
個人的には面白いと思うんですが、他の住人さんはどうなのかな?

306 :創る名無しに見る名無し:2012/09/28(金) 02:59:36.11 ID:Ls2YOiif.net
>>305
斬新でいいと思うよ、今までの3つの世界になかったのってSF(サイエンス・フィクション)だし。


307 :創る名無しに見る名無し:2012/09/28(金) 16:05:57.25 ID:U9CBB6CR.net
>>304
SFの世界を初めるなら、様子を見て参加するよ( ̄^ ̄)ゞ

308 :創る名無しに見る名無し:2012/10/07(日) 00:11:49.15 ID:amEX0m+c.net
あれ、レスしたつもりになって放置してた

>>305-307
皆さんありがとうございます
とりあえず上のスレが落ちてるのでwikiにまとめてきます

309 :創る名無しに見る名無し:2012/10/07(日) 00:43:51.06 ID:amEX0m+c.net
すごくやっつけですが…
http://www26.atwiki.jp/sousaku-mite/pages/1234.html

310 :創る名無しに見る名無し:2013/01/09(水) 23:41:22.90 ID:L8nw/+dP.net
あげ

311 :創る名無しに見る名無し:2013/01/15(火) 00:42:45.11 ID:WnMPUozE.net
ここに限った話じゃないけど寂しくなっちゃったな

312 :創る名無しに見る名無し:2013/01/15(火) 09:35:05.44 ID:VyY87S7n.net
冬眠してるんだよ

313 : ◆mGG62PYCNk :2013/02/13(水) 14:29:56.62 ID:BOCfDiUn.net
『ばれんたいんの一日』

「ばれんたいん……ですか?」
 みたらし団子を食べ終えたクズハが、銀髪を揺らして小首を傾げる。
「異形が出ててくる前はわりと国中で有名なイベントだったんだぜ。な?」
 バレンタインなるイベントについてクズハに語って聞かせていた彰彦が周囲に同意を求めるように言う。
 ちょうど甘味処『鬼が島』内にいた桃太郎と門谷が応じた。
「ああ、チョコを渡して相手に日頃の感謝や敬愛の気持ちを伝えたりするイベントだな。俺はあまり縁がなかったが」
「隊長なら部下の男共にモてるんじゃないか? ――おっとそんな目をしちゃいけねえ、俺は落とせねえぜ?」
 団子の串が飛んで桃太郎がそれを避ける。
「あれだな。明日はそんなイベントなわけだ。クズハちゃんもうちの厨房使ってチョコ作ってみるか?」
「え、いいんですか?」
「おう、今の時代、チョコレートはちょっと珍しい代物だが、
栄養補給しやすくて配れば現地人からも喜ばれやすいから今でも軍隊では大量に持ってんじゃねえの?
 な、隊長さん?」
「そうだな。支給された俺の分のチョコレートが余ってる。そいつをやろう」
「お、さっすが門谷さん。話が分かる」
 膝を打つ彰彦にクズハはおずおずと問う。
「何から何まで用意してもらって、すみません」
「ああ気にするなそれを見て俺たちも楽しむから」
 あっけらかんと言う桃太郎に門谷はもう一本串を飛ばす。
「せっかくだから手作りさせてもらいな。
愛を込めて表現する本命チョコが手作りなら男ってのは喜ぶもんだ」
「そうだな。匠の奴に改めて愛を伝えるにはいいイベントだと思うぞ。
たまにはこういうイベントをやっておくのも刺激になるだろうしな」
 それぞれに言って盛り上がっている男たちをよそに、クズハは今教えられたばかりのイベントについて反芻し、
「気持ちを……伝える。……愛」
 頬を赤く染めた。

314 : ◆mGG62PYCNk :2013/02/13(水) 14:30:45.54 ID:BOCfDiUn.net
     ●

 和泉の道場の敷地内にある離れの自分の部屋の入り口。
 そこで匠は突然の訪問者が目の前に差し出したチョコレートを見て、面食らっていた。
「…………」
 どう反応したものかと迷うような沈黙の後、匠は目の前の異形の少女に訊く。
「えーと……これは……?」
「ばれんたいんの贈り物です」
 笑顔で言って両手に捧げ持ったチョコレートを再度差し出す銀髪の少女。
 匠はそうか、と頷いてそんなイベントもあったな、となんとはなしに思う。
「で、そのチョコを、俺に?」
「はい! 本命ですよ?」
 透明なラップに包まれたチョコレートを見る。
両手で持ってなお手に余る大きさのチョコは手作りなのだろう、少し形がくずれたハートの形をしていた。
 匠はそのチョコレートを確認して、再びその持ち主を見て、相手の意を取りかねたように問いかけた。
「いったい何が目的だ?」
「え? 何のことですか?」
 首を傾げる少女に匠は短く問う。
「言えないのか?」
 呆れたように言う匠に訴えるように少女は言葉を続ける。
「えっと、だから……これはばれんたいんっていう日の贈り物で。好きな人にちょこれーとを渡したくて……」
 言葉は尻すぼみになり、少女は不安そうに目を潤ませた。
「あの……私の気持ち、受け取ってもらえませんか?」
 銀毛に覆われた耳も尻尾も少女の表情を反映するようにぺたんと下がる。
「……う」
 哀れな様子に、匠はひきつった顔を手で覆って呻いた。
「頼むからクズハそっくりの顔と声でそんなことを言わないでくれ」

315 : ◆mGG62PYCNk :2013/02/13(水) 14:31:38.37 ID:BOCfDiUn.net
 弱った匠に、目を潤ませていた少女は一転して意地の悪そうな強気の笑みを浮かべてみせる。
「――ふむ」
 満足そうに一つ頷いて顔を上げると、少女の瞳は金色に変わっており、手を払う動きと共に銀髪の色も金へと一瞬で変わった。
 手の動きで払い落とされたように≪魔素≫の光が散る。
 尻尾も一振りで金毛のそれに変化させると、少女は金瞳を実に楽しそうに細めて匠に詰め寄った。
「我の変化では騙せぬか。うむ、重畳重畳」
「それくらいの年齢にも変化できたんだな、キッコ」
 名を呼ばれた金髪の狐娘は「おおよ」と応じる。
「この年恰好では裸でもどことなく窮屈に感じるのであまりならぬがな」
 匠を胸の辺りから見上げる形になったキッコは、匠の腰に腕を回して体を押し付ける。
「どうだの? 欲情するか?」
「いやまったく」
 即答に、キッコは「動じぬな」と呟く。
「幼ければいいというわけではないのだの」
「なんかものすごい失礼なことを言われてるよな」
「なに、気にするな。このような見目愛らしい童女を見ても欲情せんのならお前は本物ではないことになる。
 好きになった子がたまたま幼かっただけだもん――と平賀が言っておった」
 キッコは身を離すと匠に見せつけるように体を一回転させる。
「その服、クズハのだな」
「分かるかの」
「ああ、さっき近づかれた時クズハの匂いがした」
「……おぉ」
 キッコが唸り、何故か少し目を逸らす。
「そ、そうか……その、なんだの……だいぶん、極まってきたの」
「そう褒めるな」
 匠は穏やかに言ってキッコの眼前に葛の葉の先端を向けた。
「――で、その着物、今日クズハが着てた奴だな?」
「うむ、その通りだの」
「なんでお前が着てるんだ?」
「ふふふ、そんなもの剥いだからにきまっとろ」
 片目をつぶってのたまう女狐に匠は魔装の先端を気持ち押し付け、
「クズハをどうした?」
 キッコは≪魔素≫が流されていない魔装の側面を艶めかしい手つきで撫でる。
「意気地がない仔には少し反省してもらおうと思っての、今ごろ平賀謹製の緊縛符で抑えられとるよ――」
 言葉が終わる直前、部屋の戸が勢いよく開け放たれた。
「キッコさん! 何をするんですか?」

316 : ◆mGG62PYCNk :2013/02/13(水) 14:33:00.32 ID:BOCfDiUn.net
「もう抜け出したのか、やりおる」
 襦袢姿のクズハを気軽に迎えたキッコは懐に収めていたチョコレートをクズハに渡した。
「ほれ」
「わっ――」
 チョコを受け止めたクズハは、手の中のチョコと状況に取り残され気味の匠を交互に見て、
顔を赤く染めるとチョコを不安げに差し出した。
「あの、私、こういうものを作るの、初めてで……ちょっと形がおかしいかもしれませんけど、よろしかったらどうぞ」
「ん、ああ……」
 匠は葛の葉を壁に立てかけ、差し出されたチョコを両手で受け取ると、
なんと反応したらいいか迷うように口をもごつかせ、
やがて片手でチョコを持つと、空いた手でクズハの頭をなでた。
「ありがとう。嬉しいよ」
「――はいっ!」
 クズハは心底嬉しそうな顔で尻尾を振って匠に抱き着く。
 それを受け止めて口元を緩めている匠を眺めて、キッコはおもむろにクズハの襦袢を尻尾の生え際辺りまでまくり上げた。
「――ひゃッ?!」
 驚いて振り向くクズハをキッコは正面から抱き寄せる。
「ほらの? そんなに気にせんでも匠は喜んで受け取っただろう?」
「そうでした。御迷惑をおかけしました」
「うむうむ、気にするな」
 そのままキッコ主導でくるくる回り始める二人を見て匠は途方に暮れた顔で呟く。
「あー、どういうことだ?」
「うむ、匠よ。クズハはの、昨夜ずっとあの甘味処で菓子を作っておっての。
結果として用意ができたのはいいが、いざ渡す段になっていきなり恥ずかしいからやっぱり渡すのはいいと言いおっての」
「だって、愛を表現するお菓子って……難しいんです」
「難しく考えすぎだの。芸術品でもあるまいし」
「うーん、いつも飯作ってもらってるんだ。それと大して違わないって」
 そう言うと、キッコは温度の低い目で匠を見やる。
「こういう儀礼と普段を同じと考えるあたりがダメなのだの」
「……す、すまん」
「あ、いいんですよ、匠さん。私も楽しかったですし」
「クズハは甘いの。この甲斐性なしのどこがいいのやら」

317 : ◆mGG62PYCNk :2013/02/13(水) 14:38:44.35 ID:BOCfDiUn.net
 キッコは包み紙を取り出して匠に放り投げた。
「ほれ」
「え?」
 包みを見て疑問の表情を浮かべる匠にキッコは指さし説明する。
「義理ちょこ、だ。知らぬ仲ではないからの」
 クズハが疑問する。
「義理……ですか?」
「うむ、他にも友ちょこやら世話ちょこやらホモちょこやら……なんぞいろんなちょこがあるらしいの。
クズハは本命しか知らぬのだな」
「誰も他の種類のチョコを教えてくれませんでした……」
「それでよい。最初は一番好きな者に渡すたった一つでよい。その方が男は嬉しかろ?」
「そうなんですか?」
 まっすぐ見つめられ、匠は頭を掻きつつ頷いた。
「あー……まあ」
 クズハは花が咲くような笑みを浮かべた。
 キッコも莞爾と笑い、では、と言ってチョコレートの包みを次々と取り出す。
「さて、それはそれとして、我はちょこをたくさん持っておる。クズハよ、一緒に配って回らぬか?」
「はい」
 どこから取り出したのか疑問になる量のチョコの山を見て、匠は慌てて問う。
「おいまて、そのチョコはいったいどこから持ってきた?」
 キッコは昂然とのたまう。
「考えるでない――むさい男共に配られるより我らが配った方が幸せだろう」
 そのままクズハの手を引いて外に出て行こうとするキッコに手を伸ばす。
「あ、まて! あとクズハは服着ろ」
「では我のものを」
 一動作で着物を脱ぎ捨てるキッコに匠は指を突き付ける。
「お前は脱ぐな!」
「欲情せんのだろ? なら問題なかろ?」
「人には公序良俗ってもんがあるんだよ!」
 クズハはキッコの体を見て、その上で匠に言う。
「私の体型ではだめですか?」
「いや、そうでなく――」
「育ちたいなら揉んでもらうといいと聞くぞ。ちょこを刷り込んでもらうとええ」
「変なことを教えない!」
 妙な疲労を感じながら、狐二人に振り回される一日は流れる。

318 :創る名無しに見る名無し:2013/02/13(水) 14:39:35.30 ID:BOCfDiUn.net
まあ今年のバレンタインデーは中止なんですけどね
ね!

319 :創る名無しに見る名無し:2013/02/13(水) 17:47:06.49 ID:BOCfDiUn.net
まえがきを忘れました。
白狐と青年の本編終了後のいつかのある日にあった話ということでお願いします。

320 :創る名無しに見る名無し:2013/02/13(水) 22:35:32.52 ID:Pj2SRZJP.net
クズハちゃんかわいいもふもふ

321 :創る名無しに見る名無し:2013/02/13(水) 23:34:10.07 ID:qTkNC2Vd.net
本当に義理なのかと勘ぐってみるロリババア万歳

322 :創る名無しに見る名無し:2013/02/16(土) 19:57:23.27 ID:XFh4DB8H.net
ぎぎぎ…
匠…
虫歯にれ…
蟻にたかられろ…

323 : ◆LBaComaxgI :2013/03/04(月) 14:18:07.03 ID:rrVrpqY0.net
第15話 Omen(予兆)

「忠告、感謝する。それとたまにはクリーシェさんのところに顔を出せよ。売れっ子だから忙しいのはわかるがな」

と、告死天使メンバー兼ブルースカイハイメインヴォーカルのセオドールから忠告の電話を受けとった俺は、愛用の拳銃を懐にしまい、
有事の時にはすぐにでも逃走できるようにガレージのCNX53をアイドリングさせておく。依頼人というと、聖ニコライ孤児院のゲオルグ以来か。
別に以来と依頼をかけたわけじゃない。誤解のないように。まあアイツはアイツで裏でやばいことやってるわけだが、俺に危害が及ばなければ何をしようが
そんなのは俺の知ったことじゃない。そうやって斜に構えてないと、この廃民街では生きていけないんだ。
おしゃまなレディが依頼人ってことで、俺は洗面台の前に立つと、少し伸びてきた髭を剃る。水でシェービングクリームを洗い流すと、ステファンにコーヒーの用意をさせた。

「ステファン、もうすぐ来客だ。コーヒーをアメリカンで3人分用意しておけ、あとは、セオドールの話だと何かヤバそうらしい。いつでも車に駆け込める準備をしておけ」
「了解だよ、神谷さん」

と、事務所の手狭な台所に入るステファンを見送ると、俺は応接間に据え付けられたプラズマテレビをつける。つい最近までは小さなブラウン管テレビだったんだが、
この前ついに寿命を迎えたらしく、いっそのこと最新式のテレビに新調したって訳だ。本業の探偵の方の収入はスズメの涙だが、
副業として「トランスポーター(運び屋)」をやってる。運ぶものに制限はない。依頼があれば何でも運ぶ。そしてそれ故にヤバいものも運ぶこともザラだが、
その分報酬も非常に大きい。このプラズマテレビはその収入の一部で買ったものだ。まあ、俺の副業の話などここではどうでもいい。テレビをつけたはいいが流れるのは
他愛ない芸能関係のニュースばかり。誰だれが結婚しただの浮気しただの。廃民街に住む俺たちは何の興味も関心も抱かない。

俺たちというか、人間は自分の興味のないことにはどこまでも冷酷になれるというのが俺の持論でね。ある特定の事柄について好きであろうが嫌いであろうが
共通しているのは「それ」に対して何らかの関心を寄せているということで、その結果対象を好きになったり嫌いになったりする訳だ。
俺の中では「好き」という言葉の対義語は無関心だ。いや、俺だけじゃなくこの街に住む連中は大抵そうだな。
などと感慨に浸りながらテレビを見ていると、唐突にノックもなしに事務所の扉が開いた。誰が入って来たのかは見るまでもなく明らかだ。

「よう、サルカドさん。今日はなんのようだい?」
「いやなに、お前さんの事務所の前を巡回中に通りかかったらエンジンがつけっぱなしだったからな。盗まれるといけないだろうと思って忠告しにきたんだ」
「生憎、カギを回した後更に4ケタのパスワードを入力しないと動かないようになっててね。心配ご無用だよ」

彼はミシェル・サルカド曹長。歳は50になる自警団廃民街方面支部のベテラン刑事だ。俺がこの探偵事務所を開業してかれこれ10年。
そのころから世話になってるというか、腐れ縁でつながってる気のいいおっさんだな。おっさんという言葉は俺にも当てはまるのか?この場合。まあいい。

「そうだな…今日はこれから来客の予定が一つあってね。部外者がいると変に警戒されて調査に必要な情報を聞き出せなくなるかもしれない。俺の寝室にでも
隠れててくれないか?俺の手に追えそうにない内容だったらパラダイス・ロストかアンタたち自警団に回すことになるわけだからな」

324 : ◆LBaComaxgI :2013/03/04(月) 14:18:50.50 ID:rrVrpqY0.net
手におえない内容ってのは、例えば先日廃民街東ゲート付近で惨殺死体が見つかったっていう事件。この廃民街でもその現場の惨状は異質で
自警団本部に特別捜査部隊が結成されたそうだ。更に自警団第一課の特殊部隊、通称8492も独自に行動を開始したという情報も入ってきてるしな。
サルカドさんの話じゃ、その事件が起きた当日にパラダイス・ロストのアンネローゼに事情聴取をしたそうだが、アイツが噛んでいたとしたら死体を置き去りにするなんて
ヘマはやらかさないだろう。
俺もその事件の事は気になってはいるが、入ってきている情報が少なすぎるのと俺の本能がこの事件に深く首を突っ込むなと警告している。

まあ、いずれ自警団が何とかするだろうな。捜査に何か進展があったらサルカドさんからそれとなく聞きだせばいい。
そう結論付けた時、事務所の扉をこんこんと二回ノックする音が聞こえた。来客の知らせだ。俺はサルカドさんを無言で寝室に潜むように促し、
それを確認したのち、扉の向こうの人間に返事をする。

「空いてるが」

そして入って来たのは、なるほど。セオドールの話の通りのこの街の住人とは思えない綺麗な服に身を包んだ齢18ほどの美少女だった。

「立ち話もなんだから、そこのソファーに適当に座っていてくれ。今コーヒーを用意させてる」

と、俺は人差し指をちょいちょいと動かして、ステファンに用意させたコーヒーを応接間まで持ってこさせた。
そのままその少女と対面するように俺たちもソファーに腰掛け、早速本題を切り出す。

「それで、ご用件は?」
「はい、実は2年前にこの廃民街を救ったという英雄的存在の方たちがいると聞いて、その人たちに会いたいのです」

クラウスたち告死天使に会いたい?依頼を受ける前にその真意を確かめておく必要があるな。

「…見たところ御嬢さんはこの街の住人じゃないようだが、そりゃまたどうして?」

「それは、お話しできない複雑な事情があるのです。どうでしょう、引き受けてくれますか?」
「まあ、俺のところに来る客は皆わけありだ。深くは追及しない。今回の話を引き受ける前に報酬の話をしよう」

と、俺は料金表を取り出す。

「今回の依頼は、単刀直入に言って人探しになるな。そうすると、料金はだいたいこのくらいか」

俺は、できるだけ見やすくカラーで彩られた料金表から、今回の依頼に基づく報酬を掲示する。何度も言うが、俺の主な収入源はトランスポーターの方だから、
こちらの方は『比較的』安価に抑えられている。と言っても廃民街の住人には高く感じられる料金設定のようで、それはこの前やってきた聖ニコライ孤児院の
ゲオルグが顔をやや顰めていたことからもわかる。そして、今回の客はというと。

「わかりました。では前金でこの半額をこの場でお支払いしましょう。もう半分は情報が入手できた時で構いません」

325 : ◆LBaComaxgI :2013/03/04(月) 14:19:23.06 ID:rrVrpqY0.net
と、設定金額の半額を鞄の中から取り出して、俺の方に差し出す。俺もかれこれ長いことこの仕事をしてきたが、前金を払われたのはこれが始めてだ。
まあいい。俺は、その札束、と言っても5枚程度だが、を懐にしまうと、契約書をファイルから取り出し、サインを求めた。こういうことはきっちりしておかないとな。

「それじゃここにアンタの名前を書いてくれ、そうすれば契約成立。早速調査に取り掛かる」
「わかりました、えっと、ここですね」

少女らしい綺麗な字で、つづられていく彼女の名前。

『Beatrice Cenci(ベアトリーチェ・チェンチ)』

イニシャルはB.Cか。紀元前(Before Christ)を想起させるな。まあいい。

「これで契約成立だ。調査帰還として1週間程度ってところか。その頃にまた来てくれ。ところで、この街はいろいろヤバい。東西南北のゲートまで車で送っていくか?」

するとベアトリーチェはにこりと笑って、

「御気になさらずに、一人で帰れますから」 
といって、事務所を後にした。まあ、無事にここまでたどり着けたのなら無事に帰れるか。しかし、俺もセオドールと同じくあの娘に妙な違和感を感じた。

「サルカドさん、アンタはあの娘をどう思う?礼儀正しいように見えてその実何かを隠してそうな気がするんだが」
「私もお前さんと同意見だね、告死天使に会いたいとはまたどうして、とも思ったが。お前さん、素直に教えるつもりかい?」
「前金をもらった以上中途半端な仕事はできない。それにあいつらなら、ヤバい事があっっても並大抵のことならしのげるだろう。
それ以上の事は俺や、パラダイス・ロストがフォローすればいいだけだ」

パラダイス・ロストの社長・アンネローゼ・レジネッタは告死天使リーダー、アリーヤ・シュトラッサーにも勝利する剣の腕前だしな。
他にも曲者ぞろいのアイツらに事情を話して、金さえ積めば簡単に味方に引き込める。まずは、告死天使各メンバーに連絡し、各々に警戒を呼び掛ける必要があるな。
ベアトリーチェが帰り際に盗聴器を仕掛けていった可能性も考慮して、電波探査機で彼女が座った周辺を重点的に探索したが、それらしい反応は見られなかった。

だが、念には念を入れて、ここで連中に直接連絡するのは避けた方が無難だ。直接会って伝えに行くのも手だが、それだと非効率すぎる。フィオラートなどは、
自警団の重職という社会的立場もあるからな。アポイントメントを取らないといけないというのは正直面倒だ。尤も、最初に会いに行ったときはアポなしだったが。
さて、どうする?となった時、それを打開する人物が現れた。今日三人目の来客となるか。

「はあい、神谷くん。元気?って答えは聴くまでもなさそうだけどさ。アハ、アハハハ」

この唐突に現れたふざけた女の名は「ベアトリックス・レストレンジ」。この街で情報屋をやってる女だ。通称ベアト。レストレンジという名前からもわかるようにこいつは
フィオラートの従姉妹に当たる人物で、父アルセリオ・レストレンジの兄の娘だ。歳は27になるから、フィオラートの10個上に当たるわけだな。
フィオラートはこいつのことを「面白くて好きなお姉ちゃんだよ」と評していたが、俺からすれば頭のネジが2・3本足りないな。俺は単刀直入に言ってこいつの事が苦手だ。
そんな俺がなぜ、こいつと関わっているかというと、それはその情報の精度にある。俺が客の依頼を受けて調査し、情報を得るのに対し、こいつは
独自にこの廃民街で起こった事件を調べて得た情報を俺たち探偵や、時には自警団にも売り込みに行くんだ。
かくいう俺も依頼を受けて調査に当たる際、何度かこいつの世話になったことがあるしな。
さらに、パラダイス・ロストのシュトレーゼン・ヴァルヴァトスとも
一対一で渡り合える人物としても有名だ。

326 : ◆LBaComaxgI :2013/03/04(月) 14:19:54.32 ID:rrVrpqY0.net
「それで今日は何の用だ?さっき俺の事務所から出てった娘を見て情報を売り込みに来たのなら徒労だぞ。俺一人でも解決できる」
「あらそう。いやいや、私が今日来たのはねえ、この前起きた廃民街東ゲートで起きた事件についての新情報なんだけどさ。これはまだ自警団も入手してない
ほやほやのネタだけど、どう、欲しいでしょ?」
「それで、いくらだ」

そう聞くと、レストレンジは手のじゃんけんのチョキの形にする。

「20万?今回はやけに吹っかけるな。それだけ高いからにはさぞかしいい情報なんだろうな」
「いやいや、0が一つ多いって。2万でいいわあ。私もあまり高いお金を一度に得るのは趣味じゃないからねえパクられでもしたら事だし」

レストレンジの提示した金額に俺とサルカドさんは顔を見合わせて、財布からそれぞれ一万円を取り出し、レストレンジに手渡した。

「毎度ありい。それじゃあ話したげるわあ」

そして、レストレンジの口から語られる件の事件の最新情報だが、なんでも事件のあった日の数日前から東ゲート付近に見慣れない車が数台、
特定の時間に駐車してあったという。その時間というのが、惨殺された奴らの死亡推定時刻と一致するのだと。
情報源は、ナンバーも把握していたようで、俺たちにも教えてくれたが、

「情報源は車にはあまり興味がなかったようだ。ナンバーは把握できていたようだけど、車種までは掴めなかったってさ。車に疎いのは私もだけど」

そうだ、この女は自分の興味・関心のないことにはどこまでもそうだからな。これまでだってそうだったし、これからもそうなのだろう。
一方、新情報をレストレンジから掴んだサルカドさんはというと、

「情報提供感謝するよ、早速このナンバーを元に当該車両を突き止めなくてはね。それじゃあ、私は支部に戻るよ。またな」

なんてそそくさと出ていった。サルカドさんが出て行った後、俺もレストレンジにあることを依頼する。レストレンジが入手した情報を聞いている最中に
したためたメモを手渡し、

「レストレンジ、そのメモの通りに行動してほしいんだが、頼めるか?」
「私は別に構わないけどさ。この程度なら神谷くんでも楽勝じゃない。まあ、さっきの依頼の件もあるだろうしね。特別にロハで引き受けたげるわ」
「ああ、盗聴されてる可能性もあるからな。これから一週間の行動は何処か他の場所を拠点にすべきだろう」
「その方が賢明ねえ。精々健闘を祈ってるわ。英語おかしいか。アハハハ」

327 : ◆LBaComaxgI :2013/03/04(月) 14:20:25.72 ID:rrVrpqY0.net
…などと軽口をたたいてレストレンジは事務所を後にしていった。さて、別の拠点とはいうが目途としては…エスタルク医院だな。
シオン、クラウスの2人がいるからな。俺はステファンに手荷物を纏めさせ、車に乗り込んでエスタルク医院に向かった。
…エスタルク医院には10分ほどでたどり着く。果たしていつも通りの白いペンキが所どころはがれて元のグレーの壁の色が見えている年季を感じさせる2階建ての建物の
屋上に当たる部分に掲げられたエスタルク医院の文字。ただし、医院の文字だけがかなり色あせていることから、前は違う名前だったということがわかる。実際シオンが2年前に開業するまでは、違う医者が病院の経営に当たっていたわけだが。
高齢による引退を期に、シオンに病院を譲り渡したってところだな。まあ、エスタルク医院の経緯はこの際置いておくとしてだ。
俺とステファンは玄関の扉を開き、待合室へと足を踏み入れる。今日は平穏無事ってところだな。待合室は無人で、受付の奥で看護師たちが事務作業に精を出しているのが
見える。受付の窓口に立ち、看護師を呼ぼうと口を開きかけた、その時だった。

「あら、神谷さんとステファンさんじゃないですか。今日はどうされたんですか?」

と、背後から声を掛けられた。この声の主は、そう、その顔を目にするだけで幸運と言っても過言ではない
(実際、あまり外出しないから目にする機会もない。たとえるならオーロラみたいなものだ)セフィリア・ブライトだった。

「ああ、セフィリア。君は確かここで住み込みで働いてるんだったな。クラウスと一緒に。実はシオンに折り入って頼みたいことがあってな。
今日来たのはそのためなんだが」
「シオン先生なら診察室にいると思いますよ。私はこれから夕食の支度をしますが、よかったら一緒に食べていきませんか?兄さんも喜ぶと思います」
「ああ、そうだな。せっかくだからご馳走になっていくとしよう。さて、俺はシオンと話をつけてくる。ステファン、お前はセフィリアの手伝いを」
「了解だよ神谷さん。時に今夜の献立は何かな?セフィリアさん」
「金曜日なので、カレーを作ろうかと思います。横須賀海軍カレー」

なぜセフィリアがその単語を知っているのかはこの際置いておくとしよう。プラチナブロンドの長い髪をなびかせて調理室の方へ向かっていったセフィリアとステファンを
見送ると、「第一診察室」とプレートが掲げられた扉をノックする。

「どうぞ」

中からシオンの声がした。俺は扉を開くと、デスクに腰掛けてコーヒーをすすっている女、シオン・エスタルクを一瞥し、患者用のイスに腰掛けた。

「観たところ診察に来たわけではないようだが…今日はどういったご用件で?神谷さん」
「ああ、実は今日俺の事務所にとある客が来てな。どうやらアンタたち告死天使の事を嗅ぎまわっているようだ。セオドールから連絡を受けてな。
不穏な気配がするから気をつけろというが、俺も同様の雰囲気を感じ取ってな。盗聴器を仕掛けられた可能性がある以上、あの事務所を拠点にするわけにもいかない。そこで」
「私のところに来た、という訳か。空き部屋などまだいくつもあるし、この件が片付くまではいてくれていいよ。ただし、それ相応の対価は払ってもらうがね」
「…具体的には何をすればいい?金か?」
「ぶしつけだね、そんなものにはさして興味はないさ。まあ、朝昼晩の食事の支度でもしてくれればそれでいいよ。クラウスくんもセフィリアさんも病院の
仕事、まあ掃除だとか結構大変だからね。家事は分担しないと」
「その位で済むなら安いものだ。食事の支度以外に何かすることはあるか?」
「いや、特にはない。神谷さんに私の仕事の手伝いを頼むというのも正直無理があるだろうしね」

328 : ◆LBaComaxgI :2013/03/04(月) 14:21:42.60 ID:rrVrpqY0.net
「フッ、違いないな。さて、クラウスとアンタには会えたが、後の8人はどうしたものかな。レストレンジに頼んで、俺が接触するのが難しいのには
代わりに警告を頼んだが…」

先日、CIケールズ創始者、ケビン・F・ケールズ氏の遺言で、CIケールズ社のSPであるヨーゼフ・ラッツィンガーの息子、ジェネシスと
これは俺の調査でも解らなかったが、どこから来たのか不明の朝倉霧香なる女性がメンバーに加わった。だから今は全部で10人ってことになるのか。
もう一人増えればサッカー・チームの出来上がりだな。まあいい。

「ああ、アリーヤさんとベルクトくんと朝倉さん、それにアスナさんの四人は夕食を共にしないかと声を掛けたら来ると言っていたね。
夕食の席でその件を伝えるといいだろう。残る四人、フィオさんとセオドールくん、ジェネシスくんにシュヴァルツくんに関しては、彼女に任せるといいだろう」
「なるほど。つながりが太い、というのは救いだな。となると、セフィリアとステファンが夕食を完成させるのを待っていればいい訳だ。
しかし、ただ時を無為に過ごすのも味気ないな。何か手伝えることはないか?」
「ふむ、そうだな…おっと、誰か来たようだ」

診察室の中に来客を伝えるベルが「ピンポーン」と鳴り渡る。その後数秒も経たないうちに受付役の看護師が診察室にやってきた。

「先生、ベルクトさんと朝倉さん。そして見慣れない女性がお見えになっていますが…」
「何だろう、夕食の時間にはまだ早いと思うのだが…それに見慣れない女性?まあいい。彼らが一緒ならまあ大丈夫だろうさ。神谷さんもついてきてくれるか?」
「わかった」

俺とシオンは診察室を後にし、応接間にいる見なれない女性とやら、の正体を確かめに行った。なるほど、応接室には日雇いの仕事の帰りか厚手のつなぎを来たベルクトと、
カジュアルだが同時に落ち着きのある大人の女性を演出する服を身に纏う朝倉の姿と、先ほどの看護師が言っていた見慣れない女性、の姿があった。
俺もこの街で探偵業を営んで長いが、こんな女は観たこともないな。レストレンジとの会話の中にも出てきたことは一度としてない。ただ服装から判断するに、
廃民街の住人でないことは確かだろう。それに…なんだ?診療所のガラス扉の向こうに見えるのは、リヤカーか?しかも大量の荷物が積まれていると来た。
こんな大量の荷物を抱えてよく略奪にあわなかったな、と不思議に思ったが。その理由はベルクトが説明してくれた。

なんでも、日雇い労働が終わり、アリーヤの道場に向かい、一緒に行こうと誘ったがどうやら弟子たちの稽古中だったらしく、先に言っているように言われたのだとか。
そこで、アリーヤの道場でアシスタント役を務めているこの朝倉が一緒に行くことになったのだがその道中、リヤカーを引いて廃民街メインストリートを進んでいた
この謎の女と遭遇したらしい。略奪にあわなかったのは、そこがちょうど自警団廃民街方面支部局の真正面だったからだ。さすがに国家権力のおひざ元で犯罪に手を染める馬鹿はいないよな。ベルクトは別に気に留めることなくスルーしようとしたらしいが
そこは朝倉がなぜかおせっかいを焼きその女に話しかけ、あれこれ話を聞いたらしい。その話によると、この女の名は「今空都(いまから いく)」といい、
この閉鎖都市とは違う世界から来たのだそうだ。にわかには信じられない話だが、そうでなければ廃民街のメインストリート、それも中心部まで略奪にあわずにたどり着けたことの説明がつかない。

そこへ行くと、別の世界からやってきて、たまたま現れた場所がそこだった、と考えれば少なくともこの状況に対する整合性はあるな。
で、この女の素性が解ったところでベルクトと朝倉が取った行動は…「今空をこの診療所に連れてくること」だったわけだ。
まあ、この廃民街において腰を据えて落ち着ける場所など数えるほどしかないしな。その数えるほどしかない場所、の一つがここ、という訳か。

329 : ◆LBaComaxgI :2013/03/04(月) 14:22:15.03 ID:rrVrpqY0.net
「それで、今に至るという訳だが、シオン。夕食まだできないだろ。コイツの住処なんとか都合できないか?オレが世話を焼く義理は本来無いはずなんだが
乗りかかった船だしな。ここではいさよならってのも寝覚めが悪いだろ」
「そうだな…二階の一番奥にかれこれ1年手つかずの部屋があるかな。掃除をすれば使えるだろうさ。そこで暮らしてもらうといいだろう。ただし」
「対価は払ってもらう、だろ?」

シオンはそこで頷き、診療所前に止めてあるリヤカーを指さし、対価を提示した。あの荷物の一部とか言い出すのかと思ったが、そうじゃなかった。
シオンが提示した対価、それは、あのリヤカーの荷物を出来るだけ有効活用してお金を継続的に稼ぐこと、だった。
継続的にってことは、要するに売ったらいけないってことだな。ただ、この条件だと…まあいい。さて、一方の今空はどう出る?

「ふふふ、私だって誰かにおんぶにだっこになるためにこの世界に来たわけじゃないよ。それくらいは言われるまでもないね。交渉成立ってことでOKかな?」
「ああ、問題ない。では、部屋に案内しよう。こっちだ」

シオンは今空を連れ立って二階へと消えていき、受付の広い空間には俺とベルクト、それに朝倉が残された。何故俺がここにいるのか不思議そうな表情でこちらを
見るベルクト。受付の時計を眺めながらソファに腰掛ける朝倉。10秒程度の沈黙を経て、その沈黙を壊したのは…朝倉だった。

「神谷さん、と言いましたね。皆さんから聞きましたが、探偵業を営んでいるとか。私がどこからやって来たのか、不思議に思っているでしょう?」

俺は内心驚きを隠せなかった。仕事柄考えや感情を表情やしぐさに出さないことには自信はあったが、こうも容易く看破されるとは…この女、何者だ。

「…まあ、な。気にならないと言えば嘘になるが、アンタこそなぜ急にそんなことを切り出す?」
「簡単な話です。私も今空さんと同様に、別の世界からやってきた人間ですから。別に隠しておく必要もないですし、いい機会ですので暴露しておきました。
私の事を後にいちいち詮索されるのも嫌ですしね」

と、すまし顔で自分の素性(と言えるほど大層なものでもないか)を暴露する朝倉。しかしな。

「俺がいちいち自分の気になったことを相手のプライベートに関わらず詮索するような男だと思われていたとしたら、少々不愉快だが」
「ああ、ごめんなさい。決してそういうつもりで言ったわけではないのです。怒らせてしまったのなら謝ります。申し訳ありません」

…何かこの女と一緒にいると調子が狂うな。正直レストレンジよりも苦手なタイプかも知れん。

「気に障ったのは確かだが別に怒ってはいない。アンタこそいちいち気にするな。さて、今度はベルクトの疑問に答えるとしようか」

俺は夕食の席では話すつもりだった先ほどの来客の件を2人に伝えた。その反応はというと、朝倉は顎に手を当てて何か考え込んでいる様子だが、
ベルクトは全く興味ない、という風にあさっての方向を向いている。人間は自分の興味のないことにはどこまでも冷酷になれる生き物だが、
ことさらこの「ベルクト・ニコラヴィッチ」という男にはその傾向が強いように思える。さらにその興味のないものの対象が非常に多いと来ている。
コイツの性格を一言で表現するなら、「厭世的」なんだ。

「それをわざわざ伝えにね、ご苦労なことで。まあ、そのベアト何とかってのがオレ達の事を嗅ぎ舞わってるってことはつまり、オレ達に何か「ちょっかい」を
掛けたいってことだろ。悪い意味でね。そうなら神谷さん、アンタも気を付けた方がいいぜ。情報を渡したはいいが、その瞬間に「消される」可能性だってあるんだぜ」

330 : ◆LBaComaxgI :2013/03/04(月) 14:22:48.92 ID:rrVrpqY0.net
ま、オレにはどうでもいいが。と付け加えてベルクトは奥の厨房の方へと消えていった。一方の朝倉も

「私もベルクト君と同意見です。ですが、私達はそう簡単にやられたりはしませんよ。仲間がいますから。神谷さんこそ、気を付けてくださいね。
では、私も夕餉の支度を手伝ってくるとしましょう」

さて、そこからいくばくかの時が流れ、舞台は夕食の席だ。俺、ステファン、クラウス、セフィリア、アリーヤ、ベルクト、シオン、朝倉、アスナ、
そして今空の10人だ。横須賀海軍カレーだけあって、様々な魚介類が入っていてとても美味い。
サラダやスープ、ゆで卵なども添えて合って、栄養バランスがしっかり考えられた作り手の愛情が感じられるメニューだな。
俺は本来、この席で件の来客の話をするはずだったが、今空都という思わぬ人物の来訪により話が弾み、どうにも切り出せる空気じゃなかったな。

「お粗末様でした」

セフィリアが食べ終わり、口をティッシュでふきながら一言。ちなみに、これを言っていいのはその料理を作った人間だけだ。
食べさせてもらった側がこれを言うと大変失礼に当たるから注意が必要だな。さて、洗物も終わり、一息ついたところで、俺は今日ここに来た理由を話すことにした。

「…という訳なんだが。まあ、お前たちの事だから大丈夫だとは思うがな」

話し終えた俺が一同を見渡すと、全員考え込むような表情をしていた。しばし訪れる沈黙。それを壊したのは、よりにもよって今空だった。

「ベアトリーチェ・チェンチね。私のいた世界の歴史にそんな名前の女の子が出てくるのさ。イタリアの貴族の娘なんだけどね」

そして今空の口から語られる、今日の来客と全く同じ名前の少女の話。その少女の父親は精神的に倒錯していて、役人たちと諍いが絶えなかったようだ。
家に帰れば家族に手をあげ、端麗な容姿をしていた少女は何度も性的虐待を受けた。それに耐えられなくなった少女は、当局に父親を告発したが、
当局は何の対策も講じることはなく、それを知った父親によって、家族ともども幽閉されてしまった。この時点で、家族たちは父親の殺害を決心し、実行に移されたが
当時のローマでは尊属殺人(要するに親兄弟を殺すこと)は極刑に値することだったらしい。今空の住む国でもつい最近まであったようだが、憲法違反ということで
改定されたそうだ。

「…そして、処刑されたって訳だね。彼女が何のためにこの世に生を受けてきたのか、果たして私には解らないけどね」

と、締めくくった。今空の言うように、この少女は毎日のように性的暴行を受け、怯える毎日だっただろう。手を差し伸べてくれるものもなく、逃れるために
父親を手を掛けたら、今度はその罪で処刑されてしまう。徹頭徹尾、救いがないな。俺がまた一同の表情を伺うと、やはりというか、殆ど悲しい表情をしていたな。

「まあ、彼女がその後怨霊とかになって、ローマが災いに見舞われたとか、そういう話はないけどね。私の住む国にはあったけど。三大怨霊っていうんだけどね。
その話はまた今度してあげるよ。それじゃあ、私は荷物の整理とかしなきゃだから、お先に部屋に戻ってるね。ブライトさん、ご馳走様でした」

とのたまって、今空は一足先に食堂から出て行った。まあ、今空はこの件に関しては部外者だからな。俺たちの親類縁者って訳でもなし、いる意味はないだろう。

「…何かきな臭い匂いがするな。二年前を思い出すぞ、この感覚」

アリーヤ・シュトラッサーが呟く。2年前、こいつら告死天使はヤコブの梯子上層部や財政界の大物たち(通称・貴族)が計画した廃民街浄化計画、
要するに廃民街に毒ガスを散布して住民を皆殺しにする、というものだった。しかし、その計画は彼らに露呈し(なぜそうなったかはわからないが)
結果、貴族たちは彼らに「裁かれ」、さらにその計画の全貌とそれを裏付ける動かぬ証拠が白日の下にさらされ、この一件は閉鎖都市史に残る一大汚点となった。

331 :創る名無しに見る名無し:2013/03/04(月) 21:19:12.40 ID:5sjNV5tx.net
世界が驚いた神バンド Atlanta Girl!!!
海外からの注目も高くサウンドクラウドの再生数の10%はアメリカが占めている
君たち流行に遅れてアトランタ・ガールを聞き逃すのか?!!!!
日本の次世代インディーはこれでキマリだ。(&#9593;&#9697;&#9593;)

PV http://youtu.be/4AP6ArPoX7s
ライブ動画 http://www.youtube.com/watch?v=zIGTO1RnjpM
公式Twitter https://twitter.com/AtlantaGirl2
音源 http://soundcloud.com/atlanta-girl

【統失】最注目バンドAtlanta Girl 2【キチガイ】
http://awabi.2ch.net/test/read.cgi/minor/1362124969/

332 :創る名無しに見る名無し:2013/03/24(日) 06:32:34.11 ID:9WGvb4KY.net
ttps://www.youtube.com/watch?v=TD5ymePpRpo&feature=youtube_gdata_player

333 :創る名無しに見る名無し:2013/05/16(木) 23:40:51.71 ID:iE5ZZeVR.net
age

334 :創る名無しに見る名無し:2013/06/11(火) 03:09:32.30 ID:3PvAK3qY.net
再動期待あげ

335 :創る名無しに見る名無し:2013/06/14(金) 03:59:54.14 ID:Q9hs3/Qw.net
これ設定だけ落としてもいいの?と聞きつつage

336 :創る名無しに見る名無し:2013/06/15(土) 00:42:41.74 ID:o/UP3dah.net
いいと思うよ

337 :創る名無しに見る名無し:2013/06/15(土) 02:20:05.69 ID:8aFR0qsf.net
ぜんぜんいいと思う

338 :335:2013/06/15(土) 17:17:50.31 ID:trvmyoPz.net
だれか執筆出来る人が現れるまで貯めておくぜぃ

339 :創る名無しに見る名無し:2013/07/27(土) NY:AN:NY.AN ID:j8gz7656.net
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org4369241.jpg

340 :創る名無しに見る名無し:2013/07/27(土) NY:AN:NY.AN ID:QMLqRJmZ.net
>>338
ネタもわからないのに書くとは言えないっすよ

341 :創る名無しに見る名無し:2013/07/27(土) NY:AN:NY.AN ID:mtfNa2xK.net
ようじょあざといようじょ

342 :創る名無しに見る名無し:2013/08/17(土) NY:AN:NY.AN ID:DGWY2ua3.net
避難所に久々の投下だよ

343 :創る名無しに見る名無し:2013/11/09(土) 02:01:38.36 ID:EwGprRn1.net
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org4649556.jpg

344 :創る名無しに見る名無し:2013/11/12(火) 04:50:42.65 ID:D/fSFBk/.net
http://i.imgur.com/XAziJUE.jpg

345 :創る名無しに見る名無し:2014/08/07(木) 20:04:25.00 ID:cvwwFOf7.net
Age

346 :創る名無しに見る名無し:2014/08/11(月) 15:29:38.81 ID:tEs/y6UI.net
3670
3364
2532
3285
3726

347 :創る名無しに見る名無し:2014/08/11(月) 17:17:05.23 ID:tEs/y6UI.net
1468
2129
2162
2844
2143
1356
2356

348 :創る名無しに見る名無し:2014/12/13(土) 01:55:16.55 ID:1MWn22ie.net
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org49854.jpg

349 :創る名無しに見る名無し:2014/12/13(土) 01:59:01.77 ID:k1YAm3kK.net
ふぉおおお!!

350 :創る名無しに見る名無し:2014/12/13(土) 02:10:13.08 ID:U4t3nagf.net
かわいい

351 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2014/12/14(日) 05:46:44.47 ID:Lt0KHfv1.net
なんと可愛らしい!
彼でも待ってるんですかねえww

352 :創る名無しに見る名無し:2015/01/01(木) 15:56:35.91 ID:Bzd7OQEP.net
あけましておめでとうございます

そろそろ復活してもいいんだよ?
だよ?

353 :創る名無しに見る名無し:2015/01/03(土) 01:19:18.43 ID:V/qK91XD.net
新年復活祈願age

354 :創る名無しに見る名無し:2015/01/26(月) 23:06:44.18 ID:YNQEmtja.net
再開祈願

355 :創る名無しに見る名無し:2015/01/27(火) 16:50:10.92 ID:9AaLNHus.net
http://jbbs.shitaraba.net/sports/42269/

356 :創る名無しに見る名無し:2016/02/04(木) 06:59:13.92 ID:2y0f0RbK.net
あなたは曲成分所属事務所降板スデカ40代リオ☆ですか☆ドーハの悲劇80代「国中ルーキー」「穀中ヨーキシャ」ですか?

それともSAVEいくつですか?☆huluさん☆?カジュアル客機ツアー

それともSAVEいくつですか?☆huluさん☆?

それともSAVEいくつですか?☆huluさん☆?(堺アイガン試飲運転)わしんトン財家税納同然

357 :創る名無しに見る名無し:2016/05/14(土) 13:14:07.25 ID:8C7h8pUl.net
こんな世界観どーすか?

スターウォーズの様な超科学文明から数十万年後の剣と魔法の世界。
遺跡から時折ライトセイバーの様な超古代文明の遺物が出て来る。

358 :創る名無しに見る名無し:2016/05/16(月) 21:55:09.05 ID:MaRZned4.net
設定だけ言われてもありきたりで面白みもないかな
その世界の成り立ちとか聞きたい、超科学文明が滅んで魔法もあるのにどうして剣が有効で使われてるのかとか
超科学文明が滅ぶに至った理由とか魔法が一般化なり普及なりした理由とか

359 :創る名無しに見る名無し:2016/05/18(水) 05:42:42.50 ID:71EGRtL8.net
他者を思うが故に孤立している村?邑?
というのもおもしろそうな気がする

そういうやつは、そうであるがゆえに問題を解決できないのではないか
という、この数年の思いがある
個人的には、問題解決能力がねえだけだ
という思いもまたある

とっくにあるような気もしてきた

360 :創る名無しに見る名無し:2016/05/18(水) 05:46:15.97 ID:71EGRtL8.net
違うのか
能力があってもする気になれないやつら
でもあったりしてもいいのか
どこか、いいテーマにもなるかもしれない
……やっぱりすでに既存な気がする

361 :創る名無しに見る名無し:2017/07/10(月) 04:54:59.22 ID:ugHrL6M5.net
☆ 日本人の婚姻数と出生数を増やしましょう。そのためには、☆
@ 公的年金と生活保護を段階的に廃止して、満18歳以上の日本人に、
ベーシックインカムの導入は必須です。月額約60000円位ならば、廃止すれば
財源的には可能です。ベーシックインカム、でぜひググってみてください。
A 人工子宮は、既に完成しています。独身でも自分の赤ちゃんが欲しい方々へ。
人工子宮、でぜひググってみてください。日本のために、お願い致します。☆☆

362 :創る名無しに見る名無し:2017/12/27(水) 10:20:36.47 ID:C1Z7QFDy.net
家で不労所得的に稼げる方法など
参考までに、
⇒ 『武藤のムロイエウレ』 というHPで見ることができるらしいです。

グーグル検索⇒『武藤のムロイエウレ』"

94C5HCHEO2

363 :創る名無しに見る名無し:2018/05/21(月) 08:47:54.12 ID:tRZnwP6O.net
知り合いから教えてもらったパソコン一台でお金持ちになれるやり方
参考までに書いておきます
グーグルで検索するといいかも『ネットで稼ぐ方法 モニアレフヌノ』

IQLGV

364 :創る名無しに見る名無し:2018/07/03(火) 19:09:37.29 ID:f1dClnnX.net
H0F

365 :創る名無しに見る名無し:2018/10/17(水) 19:08:18.33 ID:ZU7x6aHX.net
中学生でもできるネットで稼げる情報とか
暇な人は見てみるといいかもしれません
いいことありますよーに『金持ちになる方法 羽山のサユレイザ』とはなんですかね

FU1

366 :創る名無しに見る名無し:2018/12/08(土) 11:16:20.17 ID:Tf3aOeYM.net
今更このスレ見つけて、ざっとwiki斜め読んで思ったことは
地獄も異形も閉鎖も「和を本筋に含む」世界観という縛りで展開してるのに、
あまりそれらを感じさせない自由奔放さ
こういう企画って大抵、「和製洋ハイファンタジー」で
だいたい似たような世界観になっちゃうのに、
そこのところかつての執筆者たちは頑張ったなと

出会ったのが遅すぎたがいい刺激をありがとう
できれば全盛期に進行を拝みたかった

367 :創る名無しに見る名無し:2019/01/07(月) 09:53:37.59 ID:LGArpaJT.net
今でも見る人がいるとは
良い所感をありがとうございます

368 :創る名無しに見る名無し:2022/05/18(水) 21:34:14.73 ID:U2/nV/Bm.net
https://i.imgur.com/VYEqh8O.jpg
https://i.imgur.com/Dcw8tia.jpg
https://i.imgur.com/HcKn2aF.jpg
https://i.imgur.com/NmGqnCn.jpg
https://i.imgur.com/KlGLdT5.jpg
https://i.imgur.com/GKeMTDU.jpg

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