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ジョジョの奇妙なバトルロワイアル 3rd 第九部

1 :創る名無しに見る名無し:2014/05/03(土) 14:06:57.93 ID:cOlgs+zG.net
                       _
                   /-‐-\
                    ノ ,=u=、ヽ、        __人__人__人__
        /~ト=.   //      \\      )         (
       /ヽ_ノノ三  〈 ,/ o二〔咒〕二o `、 〉   )  場 読  (
      , く   _/三.__   \_ト、_______,.イ_/    )   合 ん   (
    /   ./三./ ノ }三 ハ|テェェv:レェェラレ.、      )   か ど   (
    /、__ /=/`ー' /三..ヾ〈   「|_|〉   〉ソ     )   | る   (
   /   ,/丶 /三三三. |  l'ニミ!  |'l      )    ッ    (
   /  /ヽ、 /三三三. - .」\`==-'/i|       )       (
  /,/ _,∠ -┬―‐┬┬‐=="'' ‐<..,,_|_|"'''‐-、  ⌒Y⌒Y⌒Y⌒
,.-:「  ;:'''       !   :! L..ノノ三- 、_  ハ.  iヘヽ、
 /|:! ,!   ::::-=二王 ̄三 ̄ ̄        `'′入oヽ ´‐\
 |:|:! | i'''"""    !  ̄ !丁 ヽ三.  ト、 ̄o ̄]ニヽ ヽ'''""ヽ
 || ! ! ,|   ,;:::-┬―――三'三.   |  ̄ ̄ lニヽoヽ__,,,...`、
 || !| |    ::::  l三|=  |三.      |     ノ_,ヽ. ヽ_,,,.|
 ヽ|l,l|l___;;;;;__ノ三!=  /三三      ̄ ̄_,,.. -ヽ. ヽ
    ̄ ̄::::三三/= /三三三    """ ̄


このスレでは「ジョジョの奇妙な冒険」を主とした荒木飛呂彦漫画のキャラクターを使ったバトロワをしようという企画を進行しています
二次創作、版権キャラの死亡、グロ描写が苦手な方はジョセフのようにお逃げください

この企画は誰でも書き手として参加することができます

詳細はまとめサイトよりどうぞ


まとめサイト
http://www38.atwiki.jp/jojobr3rd/

したらば
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/15087/

前スレ
ジョジョの奇妙なバトルロワイアル3rd第八部
http://maguro.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1377772518/

2 :創る名無しに見る名無し:2014/05/03(土) 14:07:40.66 ID:cOlgs+zG.net
名簿
以下の100人に加え、第一回放送までは1話で死亡する(ズガン枠)キャラクターを無限に登場させることが出来ます
※第一回放送を迎えましたので上記のズガン枠キャラクターは今後の登場は不可能です。

Part1 ファントムブラッド
○ジョナサン・ジョースター/○ウィル・A・ツェペリ/○エリナ・ジョースター/○ジョージ・ジョースター1世/○ダイアー/○ストレイツォ/○ブラフォード/○タルカス

Part2 戦闘潮流
○ジョセフ・ジョースター/○シーザー・アントニオ・ツェペリ/○ルドル・フォン・シュトロハイム/○リサリサ/○サンタナ/○ワムウ/○エシディシ/○カーズ/○ロバート・E・O・スピードワゴン

Part3 スターダストクルセイダース
○モハメド・アヴドゥル/○花京院典明/○イギー/○ラバーソール/○ホル・ホース/○J・ガイル/○スティーリー・ダン/
○ンドゥール/○ペット・ショップ/○ヴァニラ・アイス/○ヌケサク/○ウィルソン・フィリップス/○DIO

Part4 ダイヤモンドは砕けない
○東方仗助/○虹村億泰/○広瀬康一/○岸辺露伴/○小林玉美/○間田敏和/○山岸由花子/○トニオ・トラサルディー/○ヌ・ミキタカゾ・ンシ/○噴上裕也/
○片桐安十郎/○虹村形兆/○音石明/○虫喰い/○宮本輝之輔/○川尻しのぶ/○川尻早人/○吉良吉影

Parte5 黄金の風
○ジョルノ・ジョバァーナ/○ブローノ・ブチャラティ/○レオーネ・アバッキオ/○グイード・ミスタ/○ナランチャ・ギルガ/○パンナコッタ・フーゴ/
○トリッシュ・ウナ/○J・P・ポルナレフ/○マリオ・ズッケェロ/○サーレー/○プロシュート/○ギアッチョ/○リゾット・ネエロ/
○ティッツァーノ/○スクアーロ/○チョコラータ/○セッコ/○ディアボロ

Part6 ストーンオーシャン
○空条徐倫/○空条承太郎/○エルメェス・コステロ/○F・F/○ウェザー・リポート/○ナルシソ・アナスイ/
○ジョンガリ・A/○サンダー・マックイイーン/○ミラション/○スポーツ・マックス/○リキエル/○エンリコ・プッチ

Part7 STEEL BALL RUN 11/11
○ジャイロ・ツェペリ/○ジョニィ・ジョースター/○マウンテン・ティム/○ホット・パンツ/○ウェカピポ/○ルーシー・スティール/
○リンゴォ・ロードアゲイン/○サンドマン/○マジェント・マジェント/○ディ・ス・コ/○ディエゴ・ブランドー

JOJO's Another Stories ジョジョの奇妙な外伝 6/6
The Book
○蓮見琢馬/○双葉千帆

恥知らずのパープルヘイズ
○シーラE/○カンノーロ・ムーロロ/○マッシモ・ヴォルペ/○ビットリオ・カタルディ

ARAKI's Another Stories 荒木飛呂彦他作品 5/5
魔少年ビーティー
○ビーティー

バオー来訪者
○橋沢育朗/○スミレ/○ドルド

ゴージャス☆アイリン
○アイリン・ラポーナ

3 :創る名無しに見る名無し:2014/05/03(土) 14:15:35.82 ID:cOlgs+zG.net
711 : ◆c.g94qO9.A:2014/05/02(金) 02:56:18 ID:rNPueYv2
容量オーバーで新スレ立てようとしたんですが……なんかうまくいきませんでした。
AAも何選べばいいかわからなかったし。
とりあえずこっちに一回投下します。





なぁ、億泰。お前、『ゾンビ』って知ってるか。
でかい鳥……お前が言いたいのは『トンビ』だろ、このマヌケ。
ゾンビってのは死んでるくせに生きてるような人間のことだ。
わけのわからん呻き声をあげながら腐った目をして歩き回る輩のことを言うんだ。

「この俺のように、な」

形兆は自虐的に笑うと右腕を上げた。それを合図にバッド・カンパニーが一斉に銃を目標へと向けた。
青い顔をしたまま動かないシーザーに狙いを定める。


考えてみれば俺の人生は生きながら死んでるも当然だった。
親父を殺した時やっと俺の人生は始まるんだ。それはつまり殺すまでは始まってもいないってことだ。
生きているのに、生きていない。傍から見たらくだらねェと言われても仕方ないだろうな。

けどなァ、億泰……あいつは違ったな。あのクソッタレな仗助は違ったんだ。
あのでか頭のせいで俺は思っちまったんだ。希望を持って生きることを、望むことを許された気がしちまったんだ。

「戦隊整列ッ!」

だからだろうな、あの電気のスタンドが見えたときドジこいてお前を助けるなんてことしちまった。
笑えるぜ! あんだけぞんざいにお前を扱ってたくせに今更この俺が兄貴面とはな!
さらに笑えるのが救ったはずのお前が先に逝っちまったってことだ!

なんのために……って気がしたぜ。俺は間違ってる、そう神様に面と向かって唾かけられた気分だ。
せめて死ぬのは俺のはずだろう? お前は何もしちゃいないはずだ。
後戻りできないとこまでいたのはこの俺のはずだ! おっかぶるのはこの俺だったはずなんだ!

「かまえッ!」

ああ、そうとも。俺は裁かれて当然の極悪人だ。
まっとうに生きれるはずがない宿命の人間だ。
なら! ならばこそ! 生き延びちまった今!
あんときお前をかばったように、今日だって誰かを救うために行動したいと思うだろうがッ!


「うて――――ッ!」

4 :創る名無しに見る名無し:2014/05/03(土) 14:16:53.90 ID:cOlgs+zG.net
712 : ◆c.g94qO9.A:2014/05/02(金) 02:59:17 ID:rNPueYv2

合図とともに民家の影からも、足元に広がる兵士たちも、上空を旋回する兵器たちも。
一斉に銃口から火を吹かせ、耳をつんざくような音が辺りにこだました。
銃弾はシーザー、ではなく、その後ろに立つ二人に向かって放たれた。

周りに重音と硝煙が立ち込める中、形兆は懐から一枚のトランプカードを取り出した。
それはカンノーロ・ムーロロのスタンド。DIOが形兆にかした首輪。
それを形兆はためらうことなく、バラバラに引き裂いた。

形兆は反逆する。
DIOの操り人形であることを拒否し、生きながら死んでいくことを否定する。



「聞いてんだろ、DIOッ! 俺はあんたに忠誠なんか誓わないッ!
 アンタは恐怖で人を操れると思ってんだろう。洗脳して、人を征服した気分になってんだろう。
 けれども! 人の心まで好きにできると思うなッ!」



煙が晴れたころ、そこに立っていたのは無傷の男二人だった。
サーレーとディ・ス・コの額に張り付いた肉の芽がざわり、と身をよじらせた。

「形兆、お前…………!」
「話はあとだ。来るぞッ!」

二人のゾンビは命じられるまでもなく、己の使命を悟る。
裏切り者には死を。クラフトワークが宙に固定した銃弾を乱暴に殴りつけた。
シーザーと形兆の頭上を弾丸が飛び交っていく。
そして、それに合わせるようにディ・ス・コが指を振るうと銃弾は向きを変え、二人の脳天めがけ降り注いだ。
体制を低くしたまま二人は転がるように散開する。

スタンド、クラフトワークとチョコレイト・ディスコ。形兆のバッド・カンパニーではすこぶる相性が悪い。

「シーザー、走るぞッ!」
「何か策があるのか?」
「ある。あることにはある。だが……」

あらかじめ逃走ルートに潜めていた兵士たちが援護するよう、銃を放つ。
苛立ち気な悪態を後ろに、形兆とシーザーは走っていく。
シーザーは形兆を見る。暗く、冷たい目は変わらないままシーザーを見つめ返していた。

それは確かに覚悟を決めた目だった。己の命をかけてでも守るべきものを見つけた、男の目!

シーザーは頷く。
『信頼』ッ! シーザーの中に芽生えたのは形兆に対する、赤子が親に持つような信頼関係だった。
どんな無茶をしようとも。どんな危険を冒すことになろうとも。
そして! 例えどちらかが死ぬことになろうともッ!
シーザーの中に後悔はなかった。一度ならず二度、救われた命。形兆を助けるにはそれだけで十分な理由だった。

形兆はシーザーが頷くのを確認すると、策を伝える。
しばらく走ると、二人はそのまま二手に分かれた。
追手を振りほどこうと緑の兵士たちが殊更懸命に銃を放っていく。
サーレーとディ・ス・コが十字路にたどり着いた頃には、二人の姿は影も形も見当たらなかった。



5 :創る名無しに見る名無し:2014/05/03(土) 14:17:26.62 ID:cOlgs+zG.net
713 : ◆c.g94qO9.A:2014/05/02(金) 03:00:27 ID:rNPueYv2
「ちくしょう、どこ行った!?」

後方から放たれた銃弾を固定しながらサーレーは喚く。
苛立たしい相手だった。銃撃の元をたどったところでいるのは形兆でなく、そのスタンド。
その上バッド・カンパニーを一体、二体潰したところで形兆へのダメージは薄い。
かと言ってやみくもに走り回ったところで本体を見つけることはできない。

「ゲリラ戦法だ」

ディ・ス・コがぼつり、とつぶやいた。わかってることを耳元で言われて余計苛立ちが募った。
使えねぇ相方だ、あえてそう聞こえるよう毒づいたがディ・ス・コの返事はなかった。
サーレーは胸ポケットから一枚のカードを取り出す。ダイヤのジャックは沈黙したまま返事をよこさない。

ムーロロのウォッチタワーとバッド・カンパニーでは数が違う。
情報戦では敵わない。逃げにまわられた今、サーレーとディ・ス・コには打つ手がなかった。


まかれたか。


怒りと屈辱が二人の心に湧き上がる。同時に心臓を鷲掴みにされたような恐怖も。
二人はムーロロを通してDIOより、形兆の監視とシーザーの抹殺を任されていたのだ。
任務の失敗はDIOの失望を招く。それは考えたくもない、足元が崩れるような恐怖だった。

それだけは……! それだけは絶対に避けなければならないッ!

しかし焦れば焦るほど形兆の作戦は効力を発揮した。
撃っては姿を隠し、気を抜いた頃を見計らって銃撃する。サーレーとディ・ス・コはがむしゃらに走るほかなかった。
湧き上がる感情をひた隠し、二人は走り続ける。それでも形兆とシーザーは見つけられなかった。

やがて二人がすっかり疲弊しきった頃。諦めと絶望に徐々に体を蝕まれた頃。
考えたくもない未来を、二人が考え始めたまさにその瞬間。
その時、道の先から声がした。

「全隊、一斉砲撃ッ!」

考える間もなく、サーレーは反射的にスタンドを構えた。
ディ・ス・コはサーレーの後ろに隠れ、同時に後ろからの射撃を叩き落としていく。
形兆が姿を現していた。その足元に黒い影がわだかまる。
黒い影が次第に濃さと広さを増していく。宙に浮かぶ者もいる。タイヤを転がし這うものもいる。
バッド・カンパニーの全兵力がそこには集まっていた。兵士も、タンクも、アパッチも、パラシュート部隊も。

形兆はここでケリをつける気だった。後先を考えない、全兵投入だッ!


「うて――――ッ!」

6 :創る名無しに見る名無し:2014/05/03(土) 14:23:25.23 ID:cOlgs+zG.net
714 : ◆c.g94qO9.A:2014/05/02(金) 03:01:44 ID:rNPueYv2
サーレーの周りに止めきれないほどの銃弾が固定されていく。
固定された銃弾が放たれた銃弾に押され、玉突きのように徐々に押し込まれていく。
ディ・ス・コの周囲3メートルにはびっしりと銃弾が散りばめられている。
どれだけ素早くスタンド能力を発動しても後から後へと兵士が湧いてくる。ディ・ス・コの表情にはっきりと恐怖が浮かび始めた。

弾丸が土埃を巻き上げ、硝煙が辺りを霧のようにおおった。
攻撃はまだやまない。空薬莢が雨のように降り注ぐ音があたりに響いた。
サーレーとディ・ス・コは気がつかない。目の前の攻撃を凌ぐことに懸命で、形兆の狙いに気がつかない。
土煙にまぎれ、迂回する影。ディ・ス・コのそば、わずか1メートル足らずの位置まで近づく。


「!?」


影から伸びでた手がディ・ス・コの手首を掴む。
咄嗟のことに驚き、固まった隙に形兆がもう片方の腕でディ・ス・コを抱きかかえるような体制を取る。
顔と顔がつきそうな程の至近距離。
ディ・ス・コの目に映ったのは血走った形兆の目、歯をむき出しにした凶暴な笑み。

形兆の背後から銃声が響いた。
バッド・カンパニーの銃弾は正確無比に形兆を突き抜け、ディ・ス・コの体を打ち抜いた。
ディ・ス・コは何が起きたか訳も分からず、喉の奥から血を吐き出した。
続けざまに放たれる銃撃。今までよりもさらに激しく放たれた銃弾が形兆とディ・ス・コの体を揺らし、あたりに血の海を作っていく。

チョコレイト・ディスコに飛び道具は効かない。全て撃ち落とされ、無効化される。
ならば撃ち落とされない距離で撃ち抜けばいい。ゼロ距離で死角からの一撃。
形兆の覚悟は自身の命をかけた一撃だった。文字通り体を張った攻撃。
そしてそれはまだ終わっていない。

「シーザー!」

咳き込みながら形兆が叫ぶ。血の海に倒れ込みながら、形兆は合図を送った。次なる狙いはサーレーだ。

クラフトワークの能力は触れたものを全て固定する能力。打撃、斬撃、銃撃ではダメージを与えられない。
サーレーの足元まで伸びた血の海に手を突っ込むと、シーザーは波紋の呼吸を練った。
形兆の血を伝い、しびれがサーレーの体に走る。

だが固定されない攻撃ならば! 直接ふれず、モノを媒介しない波紋ならばッ!
されど痺れは一瞬だろう。血の海といったところでそこから出れば波紋から解放される。足を離せば逃れられる。

「それを……待っていたッ!」

7 :創る名無しに見る名無し:2014/05/03(土) 14:24:25.41 ID:cOlgs+zG.net
715 : ◆c.g94qO9.A:2014/05/02(金) 03:02:08 ID:rNPueYv2

しかし形兆にしてみれば、その一瞬で十分だった。
サーレーの動きが止まったと同時に、生き残っていた兵士たちが一斉に狙いを放った。
サーレー目掛け、でなく、その首輪めがけ火を噴く銃口。
縦断を放ったところで、体に触れれば固定される。しかし火薬が詰まった首輪ならば! サーレーの体に触れない首輪ならば!

弾丸が迫るのをサーレーはただ見ることしかできなかった。
しびれを振りほどこうと、必死で手をあげようとするが無駄だった。
狙撃兵が放った銃弾は几帳面な形兆らしく、一ミリも逸れることなくサーレーの首輪に着弾する。

短いボンッ、という音に続いてどさりとなにか重いものが倒れる音が聞こえた。
サーレーの首と、サーレーの胴から新たに勢いよく血が噴き出した。
地面を覆うように広がっていく生暖かい感触を感じながら、形兆はそっと目を瞑る。

ようやく終わった。そう感じるとどっと疲労が押し寄せてきて、形兆は意識を手放しかける。
満足したわけではない。父を殺してもいないし、癒してもいない。
やりきったと胸を張るには不十分だと分かっていたが、それでもここでおしまいだとどこかで囁く自分がいた。

暗くなる視界の中、鬼のような形相で叫ぶシーザーが見えた。
形兆は最後になにか言ってやろうかと思ったが、血がこみ上げ、言葉が出ない。

耳元で必死に叫ぶシーザーの声が聞こえる。それも徐々に遠くなる。
そして……―――








8 :創る名無しに見る名無し:2014/05/03(土) 14:27:01.44 ID:cOlgs+zG.net
716 : ◆c.g94qO9.A:2014/05/02(金) 03:03:18 ID:rNPueYv2
「これで満足かよ」

誰もいない道の真ん中で、シーザーはそう呟いた。
血で手を真っ赤にしながら、誰に言うでもなくそう言った。
返事をする者はいない。先まであたりを走り回っていた小さな兵士たちも、姿を消してしまった。

策を聞いた時点でこうなることは分かっていたはずだった。
ゼロ距離から自分の体を死角に一人目を始末。自らの血で辺りを覆い、波紋で足止め。
動けなくなった二人目を形兆のスタンドがトドメをさす。完璧だった。
ただ一点、形兆が死んでしまったという点を除いては。

形兆は自ら死を望んだのだろう、と思った。
シーザーは天を仰ぎ、そっと自らの胸元に手をやった。
そこには形兆が一ミリのズレもなく鮮やかに打ち抜いた銃創の跡が残っている。
形兆の体を打ち抜きながら、且つディ・ス・コに致命傷を与える。それができるほどの技術を形兆はもっていたはずだ。

「あばよ」

立ち上がりがけに、シーザーはそっと形兆の顔に手をやった。
安らかに目を閉じさせ、頬を歪めて唇を動かす。形兆の死に顔が僅かな微笑みに変わった。

俺は死なない。死んでやるもんか。
シーザーはそっと呟いた。そんな安易な道を選んでなるものか。不用意に手放してなるものか。
生きて、生きて、生き抜いてみせる。泥臭くても、血生臭くても、しがみついて這って進んでやり遂げてみせる。

そうでなければ示しがつかないのだ。リサリサに、スピードワゴンに。そして虹村形兆に。

その気持ちだけはありがたく頂戴しておこうと思った。
立ち去りかけたとき、微量の波紋が足元を伝わせ、三人の体に波紋を流す。
サーレーとディ・ス・コの額に張り付いた肉の芽は、しばらくもがいた後、砂となって消えた。

シーザーはもう振り向かない。目指す先は東。DIOの館へ、そして川の上流へ。

「待ってろ、DIOッ!」

かすかに残ったシャボン玉が、血の池から湧き上がる。
三つの遺体が残された街路地。
真っ赤に染まったシャボンが宙を舞い、ゆらり、ゆらりと揺れていく。





【ディ・ス・コ 死亡】
【サーレー 死亡】
【虹村形兆 死亡】

【残り 49人】

9 :創る名無しに見る名無し:2014/05/03(土) 14:32:13.93 ID:cOlgs+zG.net
717 :BLOOD PROUD    ◆c.g94qO9.A:2014/05/02(金) 03:04:29 ID:rNPueYv2
【C-2 カイロ市街地 北西/ 一日目 日中】

【シーザー・アントニオ・ツェペリ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:サン・モリッツ廃ホテル突入前、ジョセフと喧嘩別れした直後
[状態]:胸に銃創二発、体力消耗(大)
[装備]:トニオさんの石鹸、メリケンサック
[道具]:基本支給品一式、モデルガン、コーヒーガム、ダイナマイト6本
    シルバー・バレットの記憶DISC、ミスタの記憶DISC
    クリーム・スターターのスタンドDISC、ホット・パンツの記憶DISC
[思考・状況]
基本行動方針:主催者、柱の男、吸血鬼の打倒。
0.???
1.ティベレ川を北上、氾濫の原因を突き止める?
2.ジョセフ、シュトロハイムを探し柱の男を倒す。
3.DIOの秘密を解き明かし、そして倒す。
4.DISCについて調べる。そのためにも他人と接触。

【備考】
※シーザーは形兆の支給品、装備、道具を回収しました。
※サーレー、ディ・ス・コの死体の周りにデイパック及び所持品が放置されています。
 ディ・ス・コが所持していたシュガー・マウンテンのランダム支給品も放置されています。
※カイロ市街で大規模な銃撃戦が起こりました。あたりに銃声が響き、建物に銃創が数多く残っています。

718 :BLOOD PROUD    ◆c.g94qO9.A:2014/05/02(金) 03:09:22 ID:rNPueYv2
以上です。誤字脱字、矛盾点ありましたら教えてください。

>星環は英雄の星座となるか?
ハードボイルド承太郎が好きです。
それに対する仲間たちのリアクションもベネ。
康一君の一言とか、ティムの観察眼とか、仗助の気遣いとか、ジョセフのワンパンとか。
HEROES大集合で大所帯ですが、さてどうなることやら。
今の予約が来れば空条邸にほとんどの参加者が集まるので期待です。

>血の絆
DIOvsジョルノのお膳立てが完全に整ったので次の人が書きやすそうと思いました。
こういうパスは私としては舌なめずりするほど美味しいと思いました。
あとそこにジョナサンを突っ込むというのも美味しい。さらにジョルノ+フーゴも美味しい。
さらにさらにここにヴォルペが入ってきたらもう止まらない。
そんなこんなでこっちも続きが楽しみです。

10 :創る名無しに見る名無し:2014/05/03(土) 20:49:33.14 ID:ajucyc8h.net
スレ建て、代理投下、乙です

11 :創る名無しに見る名無し:2014/05/03(土) 22:10:11.28 ID:Y2zG/Eff.net
投下アンドスレ立て乙
形兆も意思を貫ぬくことができたんだな・・・

12 : ◆vvatO30wn. :2014/05/12(月) 02:11:58.81 ID:UnKwq1PC.net
遅くなってしまい、非常〜〜〜〜に申し訳ありませんでした。
予約した作品ですが、なんとか完成しました。
一応メイン書き手である自分が、予約期限をぶっちぎるのがデフォルトになってしまっている…… 本当に申し訳ないです。
最後にもう少し推敲したいので、投下は本日5/12の午後9時頃から行いたいと思います。
またしても長めな作品なので、支援に来ていただけると助かります。
それでは、よろしくお願いします。

13 :創る名無しに見る名無し:2014/05/12(月) 07:13:45.45 ID:qxbhKFk8.net
その心意気やよし。
支援させてもらおうじゃないか!

14 : ◆vvatO30wn. :2014/05/12(月) 21:14:55.97 ID:UnKwq1PC.net
ぼちぼち始めていきます。
あまり時間がないので、もしさるさん食らったら、したらばの転載用スレを利用しますので、そちらもよろしくお願いします。

ウィル・A・ツェペリ、モハメド・アヴドゥル、花京院典明、ラバーソール、吉良吉影、川尻しのぶ、ジャイロ・ツェペリ、ビーティー、ドルド  投下します。

15 :創る名無しに見る名無し:2014/05/12(月) 21:25:29.80 ID:j+3ZU+eS.net
支援

16 : ◆vvatO30wn. :2014/05/12(月) 21:26:19.22 ID:UnKwq1PC.net
.




Und der Haifisch, der hat Zahne
und die tragt er im Gesicht
und Macheath, der hat ein Messer
doch das Messer sieht man nicht.




.

17 :創る名無しに見る名無し:2014/05/12(月) 21:30:15.31 ID:qxbhKFk8.net
ドイツ語…?
支援。

18 : ◆vvatO30wn. :2014/05/12(月) 21:34:23.94 ID:UnKwq1PC.net
.

空条承太郎。DIO。カーズ。

誰も彼も、普通の人間とは思えない超常的な能力を持っていた。
あれだけ激しい戦いをなんとか逃げ延びはしたが、吉良吉影は重傷であった。
放送を終え、互いの生存を確認する。
あの戦いでは、誰も命を落とさなかったようだ。

ちぃッ、と、吉良は心中で舌を打ち鳴らす。
せめてDIOかカーズ、どちらかでも消し飛ばすことができていれば……
左手首が痛む。無理して『シアー・ハート・アタック』を酷使し続けた結果だ。
その代償を払った成果が得られなかったとこが、何より悔しい。
いや、あの場を生きて逃れられただけでも幸運と考えるべきなのだろうか。


「なにが起きたか…… ですか」


さて、どう答えるべきだろうか。
川尻しのぶと名乗ったこの女。おそらく川尻浩作、早人という2人の親族だろう。
親? 兄弟? 旦那? 息子?
近しい人間を亡くして間もないというのに、随分と気丈に振舞っている。
なにか他に、心の支えになるものでもあるのか。
ともかく、女の本性の見えぬうちに、下手なことを話すべきではない。

そう考え、吉良がすっとぼけた回答を返そうとしたちょうどその時、玄関から物音が聞こえた。
引き戸を開ける音だ。
そして、かすかに聞こえる足音。何者かが、この屋敷に侵入したのだ。

「誰か来ますね」
「え……ええ………」

しのぶを後ろ手に庇うような形で、吉良は侵入者への対応に備える。
開きっぱなしになった応接室の戸口から、緑色でスジのある光ったメロンのようなスタンドが顔を見せる。
スタンドは警戒を強める吉良を目に捉え確認すると、今度はその本体と思われる人間が姿を見せる。
赤く長い髪をした、日本人の学生のようだ。


「2人か?」

首肯する吉良。

「……承太郎はいないのか?」


続く少年の問い。今度は首を傾げつつ、黙ってしのぶの表情を伺う。

「……はい」

自然な受け答えだ。
と同時に、自分と承太郎のつながりを隠しつつ、しのぶと承太郎のつながりを確認する吉良。
この少年は、空条承太郎の仲間だろうか。
たしかに、ここは『空条邸』。空条の名に親しいものが集まってくるのは必然ーーー
こうなる可能性も十分にあった。
考えが甘かったか、と吉良は思い返す。

19 :創る名無しに見る名無し:2014/05/12(月) 21:47:32.65 ID:j+3ZU+eS.net
支援支援

20 : ◆vvatO30wn. :2014/05/12(月) 21:50:19.80 ID:UnKwq1PC.net
「心配は無用。我々に敵意はない」


前置きもなく、突如背後から言葉が投げかけられる。
少年が現れた反対側。
吉良は振り向くと、庭に面した縁側に別の男がスタンドを携えて立っていた。
学生服の方は囮だった。本命はこちらだ。

(危なかった…… 有無を言わさず学生服を攻撃を仕掛けていれば、こちらの男に倒されていたかもしれない……)

身体の怪我もあり、即決即断の戦闘態勢を取れなかったことが、逆に幸いしていた。
この侵入者、あらかじめ吉良たちの位置をだいたい掴んでいたようだ。
そして、屋敷に侵入してものの数秒で挟み撃ちを仕掛けてくる。

なかなか侮れない。

「突然、奇襲のような真似をしてしまい申し訳ない。だが、状況が状況だ。
安易に他人と接触することは命取りになる。勘弁して頂きたい……」

そうはいいつつ、2人ともスタンドは出したままだ。
完全に警戒を解いたわけではないようである。
まあ、言葉のひとつふたつを交わしただけでは、吉良たちを信用するにはまだまだ足りないのは当然であるが。

だが、とりあえず、問答無用の戦闘だけは避けられた。
泥スーツの男といい、空条承太郎といい、吉良が最近出会ったのは問答無用の敵ばかりだった。
ここに来てようやくまともな人間が現れたことに、吉良は息を吐いて安堵する。

「おおそうだ! まずは名乗っておこう。そっちのは花京院典明。そして私は、占い師のモハメド・アヴドゥルだ」


だんまりを決め込む花京院を余所に、でかいアフリカ人のブ男、アブドゥルがそう自己紹介した。



★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

21 : ◆vvatO30wn. :2014/05/12(月) 22:02:12.43 ID:UnKwq1PC.net
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少々、時は遡る。



「これで全ては闇の中……か」

放送を終えた直後、ビーティーは静かに項垂れる。
すぐそばに座り込んだジャイロ・ツェペリも、大きく肩を落としていた。
麦刈公一を殺した犯人、その容疑者として最も疑わしい存在だったスティーリー・ダンは、既にこの世の者では無かったのだ。

ツェペリも表情に悲しみを見せる。直接会って、問いたかったのだ。
自らをスタンド攻撃した意図を。そして、自分たちに見せた善良な彼の姿は、偽りだったのかを。
そして、ストレイツォ。
若き日を共に過ごした旧友の死は、すでに戦士としての生命を奪われた老兵には大きなダメージだった。

各人が放送の結果に重苦しい反応を示している中、ドルド中佐のみが、内心苛立ちを見せていた。

(たったの18人か…… 最初は一気に半分も減ったというのに、やはり人数が少なくなるにつれ、ペースが落ちていくのは必然か……)

はやくゲームが終わって欲しいドルドにとって、この死者の数は物足りなかった。
仲間も居らず、優勝することしか頭にないドルドにとって、放送の結果などそんなものだ。
名前がわかる唯一の存在である橋沢育朗は、とっととくたばって欲しいのだがなかなかしぶといようなのだ。


「さて、もういいな。悔やんだところで始まらない。では、放送前に話し合った通り、まず俺ひとりで空条邸に出向く。
危険が無いことを確認すれば、合図を送る。その後、改めて全員でこちらに来てくれ」

立ち直りが早かったのは、モハメド・アヴドゥルだ。
彼とて、この放送には思うところが多々あった。
ポルナレフの遺言にあった、ブローノ・ブチャラティ。彼も死んでしまった。仲間であるアバッキオも一緒に。
見せしめでジョルノも死んでしまったので、残るは3人。彼らのうち何人が、レクイエムのことを知っているのだろうか。
だが、悔やんでも仕方がない。一刻も早く彼らと接触するためには、行動を止めるわけにはいかぬのだ。

空条邸より北東1kmほどにある小さなビルで放送を迎えた一行は、次の目的地をそこに選んでいた。
広いローマの地図のど真ん中に位置する施設であり、しかもそれは参加者の殆どに縁のある空条承太郎の実家なのだ。
いかなる理由をもってしても、立ち寄らない理由は存在しない。

22 : ◆vvatO30wn. :2014/05/12(月) 22:15:10.15 ID:UnKwq1PC.net
「本当にひとりで大丈夫か? なんならオレも―――」

ジャイロが手を挙げて名乗り出るが、アヴドゥルはにべも無く返答する。

「いや、気持ちだけ頂いておこう。誰と遭遇するか分からぬ以上、この人数で動くのは危険だ。
ビーティーは戦うことはできないし、シニョール・ツェペリにも、無理はさせられない。
そんな中で、あの男から目を離すわけにはいかないからな」

アヴドゥルがドルドを一瞥する。ジャイロにも睨みつけられ、ドルドはやれやれといった雰囲気で肩をすくめた。
ズッケェロを始末したことを、まだ根に持ってやがるのか。
あんな野郎を生かしておこうとしたお前らの方がどうかしているだろう。
何を言っても、ドルドはそんな態度を変えなかった。

確かに正論かもしれない。間違っているのはアヴドゥルたちなのかもしれない。
だが、だからといってこの男の言うことを軽々と受け入れるわけにはいかなかった。

「気をつけてな、アヴドゥル」

ツェペリが拳を握り、檄を飛ばす。
アヴドゥルは笑顔で手を挙げて答えた。

「アヴドゥル…… 油断するなよ?」

ビーティーは自らの脇腹を親指で示しながら、注意を促した。
アヴドゥルは釣られて、ビーティーと同じように自分の脇腹に手を添える。
そこには、ビーティーから賜った『戒めのナイフ』を差してあったのだ。

「ああ、わかっている。『過信』はしない。―――行ってくる」

アヴドゥルはひとり、空条邸を目指した。
『空条』の名は我々にとっての正義であると同時に、多くの悪にとっての敵でもあるのだ。
スティーリ・ダンやJ・ガイルは死んだがしかし……
ラバーソール。ホル・ホース。最悪の場合、DIOがそこにいることまで想定して動く必要がある。

油断して殺されないように、か。
ふた回りも歳が離れている子供に、まさかこんなことを教えられるとはな。
アヴドゥルは自嘲し、しかしその言葉を心に噛み締めながる。

バイクに跨り、アヴドゥルは一路目的地を目指した。



★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

23 : ◆vvatO30wn. :2014/05/12(月) 22:25:31.13 ID:UnKwq1PC.net
ローマの街には似つかわしくない、本格的な日本庭園。
その敷地内に足を踏み入れると、そこにはさらに似つかわしくない高級リムジンが停車している。
『法皇の緑』が目撃したものに間違いない。

「まさか自宅に戻っているとはな…… リムジン通勤とは、随分と結構な身分じゃあないか」

花京院が軽くジョークを飛ばし、ラバーソールがその隣で「ククク…」と小さな笑いを零す。
承太郎を殺せば、さぞ高得点だろう。
あわよくば花京院と相打ちにでもなってくれれば、それがラバーソールの最も希望する結末である。
まずは、『法皇』を屋敷の床下へ潜行させる。
普段はドブネズミどもの住処になっている軒下から、屋敷内の気配を探る。
屋敷にいるのは、2名。男ひとりと女ひとりだ。
承太郎だろうか…… いや、迷う必要はない。問答無用で、襲撃し制圧する。

ラバーソールがその手を、屋敷の引き戸に伸ばす。その時―――

「待て」

花京院はこちらへ近づいてくる、僅かなエンジン音を聞いた。
この音は―――オートバイだろうか?
北東の方角から、ゆっくりこちらへ近づいてくる。

ラバーソールへ目線で指示を出し、花京院たちは一旦屋敷の玄関前から退き、離れとなっている書庫の陰へと身を隠した。

やがて現れたのは、オートバイに跨った大柄な黒人男性。
その手には、長物の銃火器。おそらく、猟銃。

(モハメド・アヴドゥル―――!)

先の放送から生存確認は取れていたが、ここで遭遇するとはタイミングがいいのか悪いのか……
確かに彼は承太郎に匹敵する重要な標的のひとりだが、強敵だ。
中に承太郎がいるかもしれない。彼らふたりを同時に相手にするのは骨が折れる仕事だ。
前もって気が付いてよかったと、花京院は思う。
承太郎とアヴドゥルに挟み撃ちにされるのは御免である。

(しかし、ここで逃すのも惜しい相手だ。承太郎と手を組まれるとしたら面倒だし、始末しておきたいが……)

花京院は考えを巡らせる。
そして、ひとつの妙案に辿りついた。



★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

24 :創る名無しに見る名無し:2014/05/12(月) 22:35:45.27 ID:2uC4z73Z.net
支援

25 : ◆vvatO30wn. :2014/05/12(月) 22:38:14.89 ID:UnKwq1PC.net
屋敷の玄関前に辿り着き、アヴドゥルは『魔術師の赤』を出現される。
誰かに見られている気配を察したのだ。
元々、誰かと接触するのを覚悟の上で、オートバイなどという目立つ乗り物で屋敷に来たのだから。
善良な者なら歓迎であるし、悪意ある者ならば排除するまでだ。
アヴドゥルにはその自信と実力がある。そして、やらねばならぬ使命もあるからだ。
どこからの攻撃にも対応できるようアヴドゥルは臨戦態勢に入り、周囲を見渡す。
すると観念したかのように、離れの陰からひとりの男が現れた。

「やれやれ、降参だ。さすがだな、アヴドゥルさん」

花京院典明だった。そばには、彼のスタンド『法王の緑』。
思いがけぬ仲間との再会に、アヴドゥルの緊張が緩んだ。
ポルナレフが死亡し、承太郎も見せしめとして殺された。
ツェペリがワムウから聞いた話によると、ジョセフ・ジョースターも同時に死亡している可能性が高い。
だとすれば花京院(とイギー)は、唯一残されたアヴドゥルの仲間なのだ。
再会が嬉しくないわけがない。

「あなたも承太郎の家に来ているとは思わなかったですよ。ここで―――」
「待て花京院」

だがアヴドゥルは冷静だ。
簡単に流されはしない。熱くなりやすい性格だと自分でわかっているだけに、常に冷静であろうと心がけている。

「疑うようですまないが、お前のスタンドを、私の手の届く距離まで寄越してはくれないか?」
「えっ?」

突然の尋問のようなアヴドゥルの態度に、花京院は固まる。
しばし逡巡するも、アヴドゥルの有無を言わさぬ眼光に刺観念し、黙って『法皇』をアヴドゥルの元へと操作した。
下手な動きをすれば命取りだと、花京院は理解していた。
アヴドゥルは『法皇』のスタンドヴィジョンへと手を伸ばす。

(触れられない……)

本物だ。
アヴドゥルが警戒したのは、ラバーソールの『黄の節制』。
承太郎より聞いた話によると、ラバーソールが花京院に化けていた際、『黄の節制』は『法王の緑』の姿さえも完全に再現していたそうだ。
だが、『黄の節制』は実態のあるスタンド。アヴドゥルが手を伸ばせば、そのヴィジョンには触れられるはずだ。
つまり、この『法皇』は本物であるということ。

ならば……

「花京院……。その長い前髪を上げて、額を見せてくれないか?」

そこまでするか…と、花京院は嫌な汗を流す。
だが、黙って従うしかない。前髪を右手で抑え、額を露わにする。

肉の芽は―――――― 無い。

26 :創る名無しに見る名無し:2014/05/12(月) 22:44:16.65 ID:2uC4z73Z.net
支援

27 : ◆vvatO30wn. :2014/05/12(月) 22:47:22.89 ID:UnKwq1PC.net
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(やれやれ、どうも神経質になりすぎていたようだ……)

ようやく、アヴドゥルは肩の荷を下ろす。
他人に化ける―――特に、過去に花京院に化けたことがある、ラバーソールという可能性。
もしくは、参加者たちの時代の差により生じうる、DIOの刺客だった頃の花京院であるという可能性。
ビーティーに感化されてか、それともバトルロワイアルの緊張感からか、つい疑り深くなってしまった。

「すまない、花京院。君を疑うような真似をしてしまった」
「いえ、仕方がない。この状況下ではむしろ当然でしょう。さすがだ、アヴドゥルさん」

頭を下げるアヴドゥルに、花京院はなんてことない素振りを見せた。
だがその内心は、今にも心臓が止まりそうなほどに、緊張が収まらなかった。

花京院―――否、彼に化けたラバーソール。

花京院の仕組んだ策は、偽物の花京院でのアヴドゥルとの接触である。
実際に花京院に化けて承太郎を襲撃しようとしたラバーソールの方が、「アヴドゥルの仲間である花京院」を演じることに長けているだろう。
それが、花京院の狙いだった。
(実際にはラバーソールが花京院に化ける際は、そのキャラクターまで似せるつもりはなかったのだが)

当然、ラバーソールは拒否したが、花京院は有無を言わせなかった。
ただでさえ花京院に対し痛い目をみた直後である。
最悪、花京院が敵側に着いたとすれば、花京院とアヴドゥルの二人を同時に相手にするハメになる(さらに屋敷には承太郎もいるかもしれない)。
あまりにも分が悪すぎる。ラバーソールは従うほかなかった。

『黄の節制』による外見の変装は完璧である。当然、額に肉の芽など現れないのだ。
ならばなぜ、アヴドゥルは『法皇』のヴィジョンに触れることができたのか?
その答えは至って簡単……
この『法皇の緑』は『本物』なのだ。

『花京院』の側ならば、『法皇』のヴィジョンが宙を浮いていても不自然はない。
情報をラバーソールに独占させない為、且つラバーソールを見張る為、且つ隙あらばアヴドゥルに奇襲をかける為、花京院は『偽花京院』の側に自らのスタンドを配置したのだ。
射程距離の広いスタンド使いならではの奇策である。

(花京院の野郎―――ッ! こっちは冷や汗もんのスレスレ演技だぜッ!! 調子に乗りやがってよォ―――!!)

まさかアヴドゥルが肉の芽の確認と、『黄の節制』の確認までしてくるとは思わなかった。
偶然が重なり、ラバーソールはアヴドゥルの追求を逃れることができた。
だが、これは逆に好機である。
始めにこれだけ疑われておけば、もはやアヴドゥルの信用は勝ち取ったも同然。
寝首をかくには、むしろ好都合といえる。

その後、アヴドゥルと花京院(ラバーソール)は二手に分かれて空条邸に進入。
吉良吉影、川尻しのぶの両名との接触を図るのだった。



★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

28 : ◆vvatO30wn. :2014/05/12(月) 23:07:42.71 ID:UnKwq1PC.net
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新たに3人、屋敷に現れた。
ウィル・A・ツェペリ、彼を背負うドルド中佐、それにビーティーの3人だ。

吉良らとの接触後、アヴドゥルはすぐに付近に隠れさせていた仲間たちを呼び寄せた。
空条邸の庭にでたアヴドゥルの『魔術師の赤』は火の玉を打ち上げた。
まるで打ち上げ花火のように花火のように、2発。
オレンジ色のそれは、日中ではさほど目立つ物ではなく、この周辺の空を注意してみていなければ気が付かないものだった。
事前の打ち合わせ通り、火の玉が1発なら危険、来るな。
2発なら、早急な危険は無し、来い。
という意味だ。
このことから、アヴドゥルは吉良、しのぶ、そして花京院についての警戒は(ある程度)必要ないと判断したとわかる。

「あれだけ死亡フラグまがいの別れのシーンの後で、随分あっけない再会になったな」

軽口を叩きながら、ビーティーはアヴドゥルに歩み寄る。
アヴドゥルは苦笑いを浮かべつつも、怪訝な表情を見せる。

「……ジャイロは外だ。用心のため、保険として待機させておいた」

アヴドゥルにしか聞こえない声で、ビーティーは囁いた。
ツェペリも、アヴドゥルの顔を見て頷く。

なるほど。
ドルドにツェペリの介助を任せたのは些か不満があるが、そういう役目ならばジャイロが適任だろう。
花京院はともかく、残り2人はまだ出会ったばかりだ。
男の方は大怪我をしていた。彼がどんな人物であれ、これまでの経緯などは聞いておきたい。

アヴドゥルに迎えられる彼らを、庭に面した応接室から吉良が睨む。
花京院に扮したラバーソールもまた、苦虫を噛みつぶしたような表情を必死に隠していた。
そして……

(面倒だな………)

離れの書庫に隠れ潜む本物の花京院もまた、予定より多い登場人物の数にイライラしていた。
これだけの数の仲間が潜んでいたのならば、アヴドゥルと接触すべきではなかっただろうか?

(しかし、あの川尻しのぶという女は、承太郎について何か知っているような様子だった……)

もう少しだけ、観察してみるか?
『法皇』で承太郎の行方さえ聞き出すことができれば、自分一人だけで追いかけるか。
正直、承太郎さえ仕留めることができれば、ラバーソールがどうなろうと、この場がどうなろうと、どうでもいいのだ。

29 : ◆vvatO30wn. :2014/05/12(月) 23:09:05.20 ID:UnKwq1PC.net
空条邸の応接室に集合したのは、全部で7人。
アヴドゥルの一行のリーダーは意外なことに最年少のビーティーだった。
彼を中心に、向かって右隣にアヴドゥル。
アヴドゥルが脇に置いた猟銃を挟んで、川尻しのぶ。
吉良と、彼の左腕を治療するツェペリが並び、ツェペリの介助をするドルド。
最後に花京院(ラバーソール)、そしてビーティーに戻る形で円形に陣取った。
出会ったばかりの人物に無償で治療を行うことにビーティーは難色を示したが、ツェペリが頑として譲らなかった。

『魔術師の赤』の姿はアヴドゥルの意思によりとっくに消えているが、『法皇』はまだ花京院の側に佇んでいる。
花京院は素知らぬ顔をしており、他の者も、それについてとやかく言うことはない。

(花京院、どうかしたのか? ひどく落ち着かない様子だが…)

そんな中でビーティーだけが、例外的に、彼の挙動に若干の違和感を覚えていた。

「さて、蓮見さん。治療を受けながらで構わない。話してもらえないかな。その怪我はいつ、どこで、いったい誰にやられたのだ?」

『蓮見』と呼ばれたのは、吉良吉影だ。
アヴドゥルとの遭遇後、吉良は名前を問われ、そのとき蓮見琢馬と答えたのだ。
ストレイツォらといた時とは、状況が違う。
あの空条承太郎の中で、吉良吉影と言う人物が殺人鬼であるということは等式で結ばれていた。
承太郎のように顔を見て吉良とは認識されなかったが、吉良の名前を知っているかもしれないと思い、偽名を使った。
実際に承太郎から吉良吉影の素性を聞かされていた川尻しのぶもおり、吉良の判断は正解だった。
問題は、偽名でなんと名乗るか。
名簿にない名を名乗るわけにはいかない。
第2放送までの生存者の中で、日本人男性とはっきりわかるのは、11人。
その中から、吉良吉影、空条承太郎、花京院典明を除外。
良平、億泰のような親族がいる東方ジョウ助、虹村形兆も意識して除外。
残る6人の中から、無作意で蓮見琢馬の名を選んだ。
これは一つの賭けであったが、吉良は無事に突破した。
ここでツェペリと面識のある宮本の名でも挙げていたなら、吉良は嘘が即座にばれて窮地に陥っていただろう。

閑話休題。

「……地下の洞窟で、3人の戦いに巻き込まれました。とても人間とは思えない、化け物でした。
たしか、名前はわからないがコートを着た男と、後の2人は、カーズ、それにDIOと名乗っていたと思います」
「DIO――!」

ツェペリの波紋による治療を受けながら、吉良はこれまでの経緯を説明する。
意図的に承太郎の名前を隠し、さらに吉良自身はやはり無力な一般人を装った。
偽名を使った以上、近いうちに全員始末する必要がある。
ならば、わざわざ『キラー・クイーン』を見せてやることもない。
DIOの名を出したことで、アヴドゥルたちの興味はそちらに移った。
さらに奴らの詳細を話し、ツェペリからカーズがワムウの同族であることが推測された。
吉良にとってはワムウというのは新たな情報。
あのカーズと同等の危険人物とは気が滅入るニュースであったが、情報が得られたこと自体は幸運だ。

30 : ◆vvatO30wn. :2014/05/12(月) 23:10:02.34 ID:UnKwq1PC.net
「しかし、DIOたちの戦いに巻き込まれて、よく無事でいられたものだ」
「はい。幸運でした……」
「だが、それだけでは説明が付かんな? 蓮見、その左手首の傷は普通じゃあない。毒か何かで溶かされたようだが?」

鋭い目付きでビーティーが睨む。
ドルドはその歪な形の手首に、杜王駅に見たバオー鼠の能力を連想する。
吉良はビーティーから目線を外らし、沈痛な面持ちを浮かべて語り始めた。

「こちらのは、別です。体に泥を纏った……スタンド使い……でしたか、それに襲われました。ストレイツォさんが身を挺して守ってくれなければ、私の命はなかったでしょう」
「なんと―――っ! そうか、ストレイツォが君と……」

必要のない嘘は付かず、そして自分にとって都合のいいストーリーを吉良は創作して話す。
ツェペリがストレイツォと知り合いである事も気が付いており、彼の名を出す事でストーリーにも真実味が増す。

(まただ。話題を逸らし、深い追求から逃れ、煙に巻いた。蓮見琢馬、この男、やはりどこかおかしい)

だが、ビーティーだけは吉良の言葉の不自然さに気が付いていた。
続いて川尻しのぶが話を始めたときも、吉良の不自然さは現れた。
吉良はしのぶの動きを常に気にしていた。
それは、今のしのぶが触れたものを爆破させる起爆材であり、不用意に他人と接触させたくないからである。
不自然の無いよう振る舞ってはいたが、ビーティに疑問を持たせるには十分だった。

「それで、空条さんはカーズという男に戦いを挑みました。私はこの空条邸で待つと、彼に約束を―――」
「なるほど。蓮見さんの巻き込まれた戦いのもう一人は、承太郎か。しかも、俺より年上の時代の承太郎とは…」

しのぶの話がだいたい片が付いた。
これまでの承太郎の動向。
ツェペリの気にしていたスティーリー・ダンと思われる人物を無慈悲に惨殺したことや、アヴドゥルが看取ったポルナレフの遺体を見つけたことまで、何一つ隠し事はしなかった。
そして、吉良吉影という男について。
吉良本人も知り得ない、未来の吉良としのぶの関係について。
吉良が川尻浩作に扮し、しのぶとひとときの結婚生活を送ることまで。
あまりの内容に吉良は呆気にとられた。

「しかしその承太郎って男は、蓮見がいながら構わずDIOたちとの戦いを続けたのか? 」
「…………」
「ああ、あり得るな。話を聞く限り、今の承太郎は何かがおかしい。まるでダーティハリー症候群だ。このまま放ってはおくわけにはいかん」

吉良に不信感があるビーティーが承太郎に対し不平を漏らすが、アヴドゥルはむしろ承太郎の現状に不安を感じている。
そして吉良は、綱渡りのような情報交換に疲弊していた。
今のところ致命的な矛盾は無いが、このままではいつかボロが出るだろう。
何か手を打たなければならない。

「だが、その承太郎が生きているという事は、同じように見せしめとなったジョセフ・ジョースターもまだ死んでいないということだろうか?
それにジョルノ・ジョバァーナも―――」
「うむ。花京院、君の意見を聞こう」

31 :創る名無しに見る名無し:2014/05/12(月) 23:16:29.21 ID:Q5GIQaqq.net
支援
もう少しスピード上げてもいいかも
規制引っかかったら代理投下しますよ

32 :代理:2014/05/12(月) 23:28:38.08 ID:Q5GIQaqq.net
720 :---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:14:44 ID:G9cHNUZg
情報交換の指揮はアヴドゥルとツェペリが中心となり、他の者は黙って質問に答える側だ。
ドルドに対しはなんとも思わないが、沈黙を保つ花京院にはビーティーだけでなくアヴドゥルも違和感を覚えていた。

「……さあ。私からはなんとも言えないな。君と違ってシンガポールまでしか知らないし、ここへ来てからもろくな人間と出会っていない」

話を振られ、ラバーソールはなんとか切り抜けようとした。
だがその後すぐに、今度はラバーソールがこれまでの経緯を話をするターンが回ってきた。
花京院からはほとんど何も聞かされていないため、彼も過去を創作する。
水のスタンドを使うアンジェロと言う外道を始末した事、その際に、川尻しのぶの夫らしき人を死なせてしまった。
などと言う内容などだ。
吉良の語ったカバーストーリーと比べて出来が悪く、ビーティーから鋭い指摘がある度に、言葉を詰まらせていた。

(やはり、この花京院も、何かを隠している……)
(畜生ッ! このビーティーとか言うクソガキをぶち殺してやりてえ! しかしこの人数相手に、妙なことは出来ねえ……)

ラバーソールは焦燥を誤魔化し、『法皇』を見る。
スタンドには変化はない。

(花京院ッ! もう限界だぜ! なにか指示を寄越せッ! このままじゃあ――――――)

その後、今度はアヴドゥルたちが自分たちのこれまでの経緯を話し始めた。
ポルナレフの死、ホテルでの出来事、ワムウという男、ドルドの駆除対象である危険生物バオーについて等だ。
ビーティーに巧みな話術によりジャイロの存在はうまく隠され、ジャイロ無しでは知り得ない情報(主催者スティールの事など)も当然出なかった。
一通りの話が終わった頃、時計の針は既に午後2時半を回る頃だった。

「では、このままここで待機する。承太郎の帰還を待つのだ。異論のある者はいるか?」

アヴドゥルの言葉で、情報交換は締めくくられようとしている。
川尻しのぶの言葉を信じるならば、承太郎は必ずここへ戻ってくる。
まずは、それを待ち、合流の後にその後の方針を決定するという流れだ。
異論がでるはずもないが、若干1名は納得していなかった。
無論、ラバーソールだ。

(冗談じゃねえ… この人数に加えて、承太郎まで…… 花京院の奴は一体何をしているッ?)

そんな2人を余所に、アヴドゥルはビーティーを見る。
そろそろジャイロを呼び出していいんじゃないか?
そう問いたいのだろう。

まだ屋敷内にも不安要素は残っているが、ここらがビーティーとしても譲歩のし時だ。
いつまでも門の外で待たされ、ジャイロもそろそろ我慢の限界だろう。
ビーティーは目線でドルドに指示を送る。
アゴで使われることにやれやれとため息を付き、しかしドルドは静かに従う。

33 :代理:2014/05/12(月) 23:30:14.33 ID:Q5GIQaqq.net
721 :---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:18:14 ID:G9cHNUZg

「少し外の空気を吸ってくる」

適当にそう言って、ドルドは立ち上がった。
ビーティーにとっての不安は蓮見(吉良)と花京院(ラバーソール)の2人だ。

彼らについて、アヴドゥルに注意を促しておくべきか?
蓮見は、ツェペリからの波紋の治療を終え、軽く体を動かしている。
溶かされた左腕はそのままだが、それ以外は普通に動くに問題ないほどにまで回復しているようだ。
花京院は……

(ム? 『法皇』の姿が無いーーー)

ドルドに指示を送った隙にだろうか?
常に花京院の傍らに構えていた『法皇の緑』の姿が、いつの間にか消えていた。
室内を見渡すも、その姿はない。
花京院が消したのか、それともどこか遠くへ操作させたのか?
いや、違う。
ビーティー同様に、花京院(ラバーソール)もきょろきょろとあたりを何かを探しているのだ。

(花京院? クソッ! 『法皇』はどこに行った? 花京院は何を考えている?)
(なんだ? 花京院も『法皇』を探しているのか? 自分自身のスタンドを――? 奴が自分で消したんじゃあないのか?)

「おや? 川尻さん、どうしました?」

ビーティーの考えは、アヴドゥルの言葉に遮られる。
川尻しのぶが突然立ち上がり、生気のない表情を浮かべている。
その手には―――

「川尻さんッ! あんた何を?」

猟銃だ。

情報交換の間、アヴドゥルが小脇に置いていた猟銃。
川尻しのぶは猟銃を水平に構え、そして射撃した。
発射された散弾は、縁側から庭へ出ようとしていたドルドの背中を打ち抜き、胸に大きな風穴を生み出した。


★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ☆

34 :代理:2014/05/12(月) 23:33:48.95 ID:Q5GIQaqq.net
722 :---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:18:52 ID:G9cHNUZg

(なんだ? 銃声か!?)

屋敷内で、なにか異変が?
ジャイロ・ツェペリがビーティーの指示により空条邸の敷地外部にて待機をして小一時間が経過していた。
そろそろ待たされる我慢も限界に達していた頃、屋敷内から聞こえてきたのは、1発の銃声。
おそらく、アヴドゥルのもっていた猟銃だろう。
中で一体、なにが……?
ドルドが暴れたのか。それとも、別の敵か?

(どうする―――? 行くか? だが―――)

迷うジャイロ。
そこへ、さらに2発目の銃声が鳴り響く。
躊躇うことはない。ビーティーが自分を外に残したのは、こういう事態が発生した時を想定したからじゃあないのか?

ジャイロは鉄球を握りしめ、屋敷内部へと駆けだした。


★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ☆

35 :代理:2014/05/12(月) 23:39:25.85 ID:Q5GIQaqq.net
723 :---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:19:51 ID:T2JU4awg
「グハァッ!」

ドルドの機械仕掛けの胴体の風通しは良くなり、そのまま動作を失い地面に倒れた。
突然猟銃を放った川尻しのぶは、うつむいてなにかブツブツと呟いている。

「川尻さんっ! あんた何をしとるんじゃあ! なぜドルドを撃った!?」
「その猟銃をこっちに寄越すんだッ! さあ早くッ!」

川尻しのぶによる突然の暴挙。
これには流石のビーティーも想定外だ。
何かしでかすとしたら花京院か蓮見だと思っていたからだ。
完全に油断していた。

「猟銃? 猟銃ですってぇぇぇ……?」

しのぶが口を開く。
目は虚ろで、呂律も回っていない。

「アヴドゥルさぁん! あなたにはこの『棒っきれ』が、『猟銃』に見えるのぉおお!?」

足下がふらつき、口からは涎が垂れる。
そして猟銃を再度構え、銃口はビーティーに向けられる。

(いかんッッ!)
「それじゃあっ! ちゃんと! よく見なさぁい!!」
「『魔術師の赤』ッ!!」

アヴドゥルはビーティーを庇って前に飛び出し、スタンドを繰り出した。
銃声が鳴り響くと同時に、『魔術師の赤』も高熱の炎を吹く。
牢屋の鉄格子すら一瞬で焼き付くす炎で、飛来する弾丸を相殺させるのだ。
このゲーム開始直後、屍生人たちから同じ猟銃で狙われたときも、この炎によって防ぎきった。

「ぐゥゥ……」

だが、あの時より至近距離で、しかもとっさにビーティーを庇った直後の銃撃だった。
しかも相手は女性で、ここは学校の教室よりも狭い空条邸の応接室だ。
そのため対応が遅れ、すべての散弾を防ぎきることはできなかった。
急所は守り抜いたが、散弾の一部が炎のガードを避けて、アヴドゥルのわき腹に命中した。

(くそっ なんて事だっ! 腹をやられた。これでは、炎のパワーも落ちてしまうッ! だが―――)

「スタンドだッ! 彼女はスタンド攻撃を受けているッ!」

ビーティーが叫ぶ。
アヴドゥル同様、彼もその結論に辿り着いていた。
川尻しのぶは何者かに操られている。
それが何者の仕業か?
それは、今のやり取りですべてわかった。

36 :代理:2014/05/12(月) 23:40:54.52 ID:Q5GIQaqq.net
「花京院ッ! キサマかァッッ!?」

承太郎から聞かされた話でしか知らなかったが、花京院はDIOの配下だった頃、承太郎の高校の校医を操り、襲わせている。
そのときと状況が告示している。
肉の芽の有無は確認したはずだった、どうなっている?
だが、情報交換中も、花京院はどこか様子がおかしかった。
なぜもっと早く手を打たなかったのかと、アヴドゥルは悔やむ。

アヴドゥルは『魔術師の赤』の手刀を、花京院に叩き込む。
しかしーーー

「―――くそッ!」

花京院の腕が黄色いスライムで覆われ、攻撃は防がれてしまった。
ラバーソールの『黄の節制』である。

724 :---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:21:07 ID:G9cHNUZg

「「何だとッ?」」

アヴドゥルとビーティーが同時に叫ぶ。
スタンドは一人につき一体だ。
花京院にこんな芸当ができるわけがない。

蓮見が絡んでいるのか?とビーティーは視線を切るが、彼もまた事態を飲み込み切れていない様子で、腰を落として身を引いているだけだ。
突然の事態に、考えがまとまらない。

そして、アヴドゥルに攻撃されたラバーソールは、それ以上に焦っていた。

(畜生ッ! とっさに守っちまったッ! 花京院の野郎、俺を見捨てて、おっ始めやがったなッ!?)

すべては外にいる花京院の仕業だった。
『法皇』によって情報交換の様子を観察していた花京院は、空条邸での大乱闘を始めさせた。

承太郎がここに来る。
それは彼をターゲットとする花京院にとって好都合だったが、敵側であるアヴドゥルらの集団に行動されては、迎え撃つに都合が悪い。
花京院は、集団を崩壊させるプランを進めることにした。
ドルドが席を立ち、全員の意識がそちらに向いた隙をついて、『法皇』を川尻しのぶへ憑依さる。
そして、まず部屋を出ようとしていたドルドを銃撃。
その後、情報交換中にもっとも厄介だと判断したビーティーを始末しようとしたのだ。

『法皇』による操作を疑われるだろうが、問題はない。
なにせ、現場には『花京院』がいる。
罪はすべてラバーソールが被ってくれるというわけだ。
ラバーソールなどどうなっても問題はない。
『法皇』が暴れている以上『花京院』は言い逃れられないし、ラバーソールが正体を明かしたところで、アヴドゥルにとっては元々敵なのだから意味は無い。

そして、川尻しのぶがとりつかれている以上、『法皇』を攻撃できない。
アヴドゥルが花京院本体(ラバーソール)と交戦している隙を付き、『法皇』の攻撃でアヴドゥルを仕留める。
これで、花京院の勝利は確定する。

「アヴドゥルさぁぁん!! これは猟銃じゃあないわよねぇぇぇぇぇ!!!」

再度、弾を装填し、川尻しのぶがアヴドゥルを狙う。
炎の防御壁の威力は予想以上だった。
ビーティーから先に始末するつもりだったが、予定変更、アヴドゥルが先だ。
今の攻防でビーティーに身を守る能力がないのも明白である。
ここでアヴドゥルさえ押さえてしまえば、後はどうとでもなるだろう。

37 :代理:2014/05/12(月) 23:47:58.87 ID:Q5GIQaqq.net
725 :---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:21:41 ID:G9cHNUZg

(まずい! もう一度攻撃されたら、今の俺では散弾を防ぎきれないっ! いや、花京院に捕まっているこの状態では、満足に動くこともできんッ!)

「パウッッッ!!!」

その刹那、ツェペリが飛び上がった。
座ったままの姿勢。腕の力だけでのものすごい跳躍で、ウィル・A・ツェペリは宙を舞った。

「やめんかァ―――っ!!」

(何ッ?)

花京院の予想を超える、ツェペリの超身体能力。
下半身不随と聞いて、侮っていた。
これが波紋の戦士の能力か。
飛び上がったツェペリの身体は川尻しのぶの身体を抱き留め、地面に押さえつけようとする。

だが―――


カチリ


(なんじゃとッ!?)

彼女の身体が床面に達するよりも早く、彼女の身体が起爆材となり、ウィル・A・ツェペリの身体は木っ端微塵に消し飛んだ。



「ウィル――――――ッッ!!」


奇しくもそれは、ジャイロ・ツェペリが応接室の縁側に辿り着くのと、ほぼ同じタイミングであった。



★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ☆

38 :代理:2014/05/12(月) 23:49:56.54 ID:Q5GIQaqq.net
726 :---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:24:39 ID:G9cHNUZg


ローマ文化の町並みから、門をくぐればそこは日本庭園。
豪華な高級自動車に、アヴドゥルのバイク。
離れの書庫に、大きな池。
それらを横目に庭内を走り抜け、銃声のした屋敷の縁側を目指す。
ジャイロ・ツェペリが最初に見えたのは、縁側の廊下で倒れているドルド。
知らない奴とスタンド同士で取っ組み合いになっているアヴドゥル。
そして、自分と同じ姓を持つ異世界の友人、ウィル・A・ツェペリの身体が吹き飛ぶ光景だった。

(馬鹿がッ―――! 何故ノコノコ現れた? 何のためにお前を外に残したと思っているんだッ!? 
こういう場面になってこそ、伏兵のお前の存在が活きてくるのに―――ッ! もっと慎重に動けッ! 愚か者め!!)

心中で憤るビーティー。
どんな時も冷静沈着な彼とは違い、ジャイロは結構熱くなり易いタイプだ
銃声を聞いて、いてもたってもいられなくなってしまったのだろう。
本当ならばもっと現れるタイミングを図って欲しかったが、出てきてしまったのならば仕方がない。

「くそっ! どうなってやがるッ? どいつが敵だッ!?」

見極めないまま考え無しに飛び出してきたジャイロには、攻撃対象が定められなかった。
一発しか無い鉄球を構え、ジャイロは思案する。
ツェペリが爆死した側でうずくまる女か?
高そうなコートを着込んだ、見慣れぬ金髪男か?
いや、やはりアヴドゥルと組み合っている、長い前髪の少年が怪しいかッ!?

「女だジャイロ! 女を狙えッ!!」

ジャイロの迷いを、ビーティーの指示が一蹴した。
花京院が何かをしたのは間違いない。
だが、鉄球は1発だ。
謎の防御スタンドを繰り出した花京院の正体がわからぬ以上、貴重な攻撃手段を無駄に使うことはできない。

「女の腹に鉄球を叩き込めッ! その女は何者かに操られているッ!
お前の『回転』ならば、吐き出させる事もできるはずだッ!」
「お おうッ!」

まず優先して無力化すべきは、猟銃を持つ川尻しのぶだ。
猟銃には残弾が5発あった。
ドルドに1発。アヴドゥルに1発。弾はまだ3発も残っている。
しのぶが本当に『法皇』に操られているならば、解放してやらねば。
そうでないとしても、鉄球でしのぶを倒してしまえば、とりあえず猟銃の驚異は無くなるだろう。

「うおおおおおっ!!」

ツェペリの体当たりを喰らい倒れていた川尻しのぶを狙い、ジャイロの鉄球が放たれた。
回転する鉄球が身体を起こしかけていたしのぶの腹部に突き刺さる。
しのぶは低い呻き声を上げ、そして大きく開けられた口から、先ほどから見失っていた『法皇の緑』のヴィジョンが姿を現した。

『何ィィ―――ッ!?』

『法皇』を操る花京院にとっては想定外の攻撃だ。
しのぶの体内から『法皇』が強制的に引きずり出される攻撃など、予測できるわけがない。

身体から飛び出した『法皇』などよそに、側にいた吉良は、鉄球を喰らったしのぶを抱き留める。
そして、無防備に投げ出された『法皇の緑』―――。
アヴドゥルがそのヴィジョンを確認し、そして深い悲しみに襲われる。
やはり、花京院の仕業だったのだ。

39 :創る名無しに見る名無し:2014/05/13(火) 03:23:40.11 ID:fXuCwUlb.net
支援

40 :創る名無しに見る名無し:2014/05/13(火) 03:36:29.32 ID:tGwQg+5H.net
支援

41 :代理:2014/05/13(火) 10:54:15.97 ID:Vz9I8jK1.net
727 :---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:26:06 ID:G9cHNUZg


(花京院―――ッ! 何故だッ! 何故お前が―――ッ!?)

「うおおおおおおお――――――ッッ!!!」

『黄の節制』に腕を捕まれたまま、アヴドゥルは吠えた。
身体を捻らせ、力の限りを尽くした回し蹴りを、無防備な『法皇の緑』の胴体へと叩き込む。

『グバァァァ!!』

強烈な一撃に見舞われ、『法皇』は苦しみを見せる。
やがて『法皇』のヴィジョンは力無く地面に落ち、そしてその姿を消した。

(よしッ! 『法皇』は仕留めたッ! あとは―――)

ビーティーとアヴドゥルは、同時に『花京院』へ視線を送る。
奴はまだ、『魔術師の赤』の手刀を黄色いスライムで防いだ状態のままだった。
つまり、『法皇』へのダメージが届いていない。
この『花京院』は『法皇』の本体では無かったッ!

ジャイロはまだ事の成り行きを把握できず呆然としている。
だがアヴドゥルは、既にすべてを理解しつつあった。
花京院とラバーソール。どういうわけかは知らないが、彼らがグルになって仕掛けていたのだ。
『黄の節制』のスタンド使いを知らぬビーティーも、ここで何が起こったのか、だいたいの予想が付いてきた。

こうなると、ジャイロの考え無しの参戦も、結果オーライで済ませられるだろう。
こちらの人的被害は、厄介なドルドと足手纏いのツェペリだけで済んだのだ。

あとは、アヴドゥルとジャイロの2人がかりで偽の花京院を倒して仕舞う。
そしてどこか近くで倒れているであろう、本物の花京院を押さえてしまえば、すべてが終わるのだ。
















本当に、そうだろうか?

42 :代理:2014/05/13(火) 11:01:30.29 ID:Vz9I8jK1.net
728 :---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:26:50 ID:G9cHNUZg
.

何か見落としている気がしてならない。
ビーティーは、事件の経緯を振り返る。

そうだ。
これではツェペリが爆死した事に対し、説明が付かない。
彼は川尻しのぶの身体に触れたとたん、爆死した。
明らかにスタンドによる攻撃だ。
だが、これは誰の能力だ?
どこかに潜んでいるであろう花京院の能力は、間違いなく『法皇の緑』である。
そしてこの偽花京院の能力は、おそらくこの黄色いスライムだ。
スライムを変形させて身体に纏い、変装すると同時に身を守るスタンドだろう。
どちらのスタンドも、条件に合わない。
アヴドゥルも知らぬ『法皇』の隠れた奥の手という可能性もあるが、やはり現実的ではない。
可能性として高いのは、更なる別の敵スタンド能力の存在。

ここで、未知の攻撃についてもう一度振り返る。
ツェペリは川尻しのぶの身体に触れたことにより、爆死した。
普通なら、ここでしのぶに触れる事が危険だと、誰だって思う。
だが、奴は違った。
鉄球に弾き飛ばされたしのぶを、真っ先に抱き抱えた奴。
それも、彼女を気遣っての行動ではない。
彼女の持つ武器、猟銃を手に入れるため。
そしてその他の状況を考慮しても、消去法でも、爆破の能力の本体は、奴以外には――――――



「さて、聞かせてもらうか? キサマはいったいーーー」
「アヴドゥルッ! 蓮見だッッッ!!!」

ラバーソールへ尋問するアヴドゥルの言葉を遮る、ビーティーの叫び声。
そしてそれと同時に鳴り響く、もはや聞きなれた轟音。
猟銃を水平に構えた吉良吉影の放った弾丸は、モハメド・アヴドゥルの胴体を撃ち抜いた。


★ ★ ★ ★ ☆ ☆ ☆ ☆

43 :代理:2014/05/13(火) 11:13:21.81 ID:Vz9I8jK1.net
729 :悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:29:45 ID:G9cHNUZg
.





こいつは鮫だ こいつにゃ歯がある
   その歯は面に見えてらあ

こいつはメッキース こいつにゃドスがある
   だけど そのドスを見た奴はねえ





.

44 :代理:2014/05/13(火) 11:23:12.16 ID:Vz9I8jK1.net
730 :悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:30:14 ID:G9cHNUZg

ラバーソールは窮地に陥っていた。
アヴドゥルの蹴りを防いだことによって変装がばれてしまった。
それでも花京院がアヴドゥルを倒してくれれば何とかなったかもしれないが、乱入してきたジャイロによって阻止され、『法皇』は『魔術師の赤』に倒された。
敵は、アヴドゥル、ジャイロ、そして得体の知れないビーティーという少年。
酷く不味い状況だった。

だが、その戦況は、一変した。
予想外中の予想外。まったく無警戒だった男による銃撃を受け、アヴドゥルは目の前で倒された。

(もしかして、助かったか?)

一瞬、ラバーソールがそう思ったのも無理はない。
だが、現実は甘くなかった。
未だ煙の立ち上る銃口は、続けざまにラバーソールに向けられる。
この猟銃は、2連発だ。
2発までなら、弾を込め直すことなく続けて撃つことができる。

(オイ! オイオイオイオイ! 待て待てッ! ふざけんなッ! やめろ!)

『黄の節制』に弱点はない。
ラバーソールは自らのスタンドについてそう豪語している。
ある意味では、それは正しい。
彼は油断することなく、もっと狡猾に戦っていれば、承太郎の『星の白金』にさえ遅れを取る事はなかっただろう。
ただし、それには「対スタンド」についてという条件が付随する。

『黄の節制』は弾力と柔軟性があり衝撃に強く、そして実体があり、触れた生物の肉を喰らう事ができるスタンド能力である。
相手が生物であれば、たとえ相手がスタンドだとしても、『星の白金』の壮絶なラッシュですら、防ぎきる事ができる。
また熱や冷気にも強く、その防御力の高さは全スタンドの中でも随一であろう。

ただし、『黄の節制』で喰らう事ができるのは、あくまで「生物」に限定される。
質量を持った無生物による、物理的、現実的な攻撃手段に対して、その防御力は発揮されない。
そして弾力ある物の弱点は、貫通力のある武器、すなわちナイフや銃器の類。
すなわち、猟銃という武器を向けられた『黄の節制』のラバーソールは、何の能力も無い一般人と変わらないのだ。

「待―――ッ!」

吉良の放った散弾が『黄の節制』のガードをいとも簡単に撃ち抜き、ラバーソールの頭部を腐ったザワークラウトの用に破壊した。
淡い野望を秘めたラバーソールという名の小悪党は、志半ばにその最後を迎えた。




★ ★ ★ ☆ ☆ ☆ ☆

45 :代理:2014/05/13(火) 11:35:26.52 ID:Vz9I8jK1.net
731 :悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:31:30 ID:G9cHNUZg



「あ…… アヴドゥル………」

敵は前髪の男じゃあ無かったのか?
続け様にその前髪も射殺され、ジャイロは呆然とする。
ビーティーに蓮見と呼ばれた金髪男。
猟銃に最後の1発を装填し、その銃口はジャイロに向けられた。

「ジャイロ!」

ビーティーの声で、ジャイロは目覚める。
ドルドやツェペリが誰に殺られたかはわからない。
前髪の長い青年が何者だったかもわからない。
だが、この野郎は目の前でアヴドゥルを殺しやがった。
何がなんだかわからないが、その事実だけは間違いない。

「キサマァァァ―――ッッ!!」

激昂したジャイロが鉄球を放る。
もはや3発目の射撃になる吉良は手慣れた構えで猟銃を向けるが、引き金を引く寸前に鉄球が炸裂し、猟銃を弾き飛ばした。

「チッ―――」

吉良は舌打ちをする。
鉄球は猟銃に当たった後、嘘みたいな軌道を描き、綺麗にジャイロの掌に収まった。

(面倒な技だな、あの鉄球…… スタンドではないようだが、ツェペリの波紋と同様、人知を越えた超技術と言うわけか……
だが……)

「『キラー・クイーン』………」

吉良がここにきて、初めてスタンドを繰り出した。
猫を思わせる耳を持つ、女性的なフォルムを持つ人型のスタンドヴィジョン。
どこが無力な一般人だ、とビーティーは憤る。
これが奴のスタンド能力『キラー・クイーン』。

(ツェペリを一瞬で爆殺したスタンド能力――― その発動条件は―――?)

ビーティーの考えのまとまらぬまま、ジャイロは身構える吉良へ再び鉄球を投げ付ける。
猟銃を失った吉良に残された攻撃手段は、自らのスタンド能力だ。
弧を描く軌道で迫る鉄球に対し、『キラー・クイーン』は
ハエ叩きのように右腕を振るい、鉄球を叩き落とした。
だが……

「ヌゥ―――?」

鉄球は回転している。『キラー・クイーン』の掌が鉄球に触れた瞬間、回転のエネルギーにより両足の力を一時的に麻痺させた。
さらに回転の勢いに飲まれ、吉良の身体は大きく転倒する。
この一投は囮だった。
ジャイロはまず足を奪い、吉良が動けなくなったところで、次の鉄球で勝負を決めるつもりだったのだ。

46 :創る名無しに見る名無し:2014/05/13(火) 12:16:45.73 ID:JqwxGWRf.net
支援

47 :代理:2014/05/13(火) 13:25:37.63 ID:Vz9I8jK1.net
732 :悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:32:26 ID:G9cHNUZg

「待てジャイロ! その鉄球は―――ッ!?」


だが吉良の考えは、さらに上を行った。
鉄球は標的に命中した後、正確無比な軌道を描き、投擲手の元へ返っていった。
そう、鉄球は攻撃の度に、本人の手元に戻っていくのだ。

「……その鉄球は既に『キラー・クイーン』が触れている。」
「その鉄球に触れると爆発するッ!!」
「何ッ!?」

ビーティーの声は間に合わなかった。
否、もはやそれも関係無かったかもしれない。
吉良は鉄球を「起爆材」でなく「爆弾」に変えていた。
ジャイロが鉄球に触れずとも、『キラー・クイーン』がスイッチを押せば、鉄球はジャイロの至近距離で爆発を起こす。
鉄球を『キラー・クイーン』の掌で触れられた時点で、ジャイロは既に詰んでいたのだ。

「くそったれが……」

『第一の爆弾』の直撃を受け、ジャイロは吹き飛ぶ。
もはや戦闘を続けられる状態ではない。
吉良吉影は鉄球によって転ばされたものの大したダメージもなく、起きあがるとスーツの皺を治し、ネクタイを正し始めた。
そしてビーティーの方をチラリと見た後、猟銃を拾い上げ、ジャイロに歩み寄る。
ダメージは大きいが、即死には至らなかった。
だが無意味だ。
『キラー・クイーン』はジャイロ・ツェペリの身体に触れ、皮膚の表面を爆破する。
確実なとどめを刺され、ジャイロ・ツェペリは死亡した。

ビーティーは唇を噛み、頂垂れる。
もはやどうしようも無い。戦える人間は、もう誰も残っていない。
ビーティーは、負けたのだ。




★ ★ ☆ ☆ ☆ ☆

48 :代理:2014/05/13(火) 13:26:55.02 ID:Vz9I8jK1.net
733 :悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:33:34 ID:G9cHNUZg



吉良吉影は、空条邸に集まった参加者たちの処置について悩んでいた。
問題なのは、偽名を名乗らざるを得なかったことだ。
他人の名前を語ってる以上、どうしてもいつかはボロが出て、バレる。
そうなる前には、必ず始末をつける必要がある。

空条邸に集まった全員を皆殺しにする案は初めからあった。
だが、吉良にとっての最大の危険人物は空条承太郎だ。
川尻しのぶによれば、承太郎ももうじきここへ現れるかもしれない。
一筋縄では行かぬかもしれないが、川尻しのぶの接触爆弾さえうまく利用すれば、承太郎を倒せるという自信もあった。
承太郎さえなんとかすれば、あとはどうとでもできるだろう。
それならば、その時が来るまで沈黙するという選択肢も大いに有効だったのだ。

アクシデントは、花京院による反乱行為。
彼が戦闘を開始したため、穏やかに承太郎の帰還を待つという道は断たれてしまった。
そして、「引き返し不能点(ポイント・オブ・ノー・リターン)」は、ツェペリが川尻しのぶの接触爆弾によって死んでしまった時だ。
それまではしのぶを誰にも触れさせないように注意していたが、戦いが始まり、しのぶが猟銃をとって暴れたことで、防ぎ切ることができなかった。
これで、承太郎を川尻しのぶで殺害するというプランはほとんど実現不可能となった。
さらに、ツェペリ爆死の原因を探られれば、吉良は必ず容疑者として疑いをかけられる。
こうなってしまっては、全員殺す以外、選択肢はなかった。

ここまでくればビーティーとしのぶは無視できる。
戦闘能力の高いアヴドゥル、何を考えているのかわからない花京院(ラバーソール)を続けざまに射殺。
最後に残ったジャイロ・ツェペリを、1対1の勝負で見事下した。

49 :創る名無しに見る名無し:2014/05/13(火) 13:40:47.83 ID:DxsHc0VP.net
支援

50 :代理:2014/05/13(火) 13:43:09.44 ID:Vz9I8jK1.net
734 :悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:33:57 ID:G9cHNUZg



すべてを終えた吉良は、無表情に肩をすくめる。
そんな彼に、足元から消えそうなほどに力のない小さな声が聞こえてきた。

「蓮見…… キサマ………」

吉良は目を丸くして驚いた。
まさか、まだ息があったとは……

腹に散弾を喰らったはずのアヴドゥルだ。
おそらく、銃撃の瞬間にスタンドで防御し、即死を免れたのだろう。
実に見事なものだ。

アヴドゥルはまだ、諦めたはいなかった。
吉良の足元で、短剣を握り、振り上げている。
ビーティーより賜った、『戒めのナイフ』だ。
アヴドゥルにとっての最後の武器―――だが、アヴドゥルには、もう力を込め、振り下ろすだけの気力が残されていなかった。
もはや戦士としては引退せざるを得ないが、その根性だけは立派なものだ。
敬意を払い、教えてやる事にした。もはや、隠す意味も無い。

「すまないな、アヴドゥルさん。蓮見琢馬と名乗ったが、あれは嘘だ。私の本当の名前は―――」

猟銃の最後の1発を、瀕死のアヴドゥルの脳髄に撃ち込んだ。

「―――"Killer"だ。」

おっと、このタイミングの名乗りだと、聞こえる前に死んでしまっていたかな?
などと思い、吉良は笑った。



★ ★ ☆ ☆ ☆

51 :創る名無しに見る名無し:2014/05/13(火) 21:31:15.29 ID:mW2B1QOG.net
735 :悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:34:41 ID:G9cHNUZg



「やはり、あなたが、吉良吉影だったのですね……」

アヴドゥルに留めを刺したあと、吉良は女性の声に呼ばれ、振り向いた。
いつの間に意識を取り戻したのか、川尻しのぶが起き上がり、床に座ったままこちらを見ていた。
死んだような目で、吉良の殺人をじっと見ている。
おそらく今なにが起こっているのかも、何となく理解しているだろう。
その上で、川尻しのぶは取り乱すことなく吉良を見ていた。

吉良は迷ったが、全員の死亡確認を先に済ませることにした。
ジャイロとアヴドゥルにそれぞれとどめを差し、花京院(ラバーソール)の様子も見るが、彼は即死していた。
残る一人。吉良は縁側の廊下を見る。
最初に川尻しのぶに銃撃されたドルドだ。
驚くことに、吉良が目線を向けた瞬間、彼はピクリと動いた。
生きているとは驚きだ。
傷口から機械が見える。
どうやら彼はサイボーグだったようだ。
今更だが、吉良はこのバトル・ロワイアルの参加者たちの多種多様な常識外れさに、やれやれと肩を落とす。

(畜生…… なんてことだ…… こんなハズじゃあなかった……のに……)

ゲーム開始時からのドルドの行動方針は、お人好しの集団にとけ込み、馴れ合い、そして隙をついて優勝することだった。
ビーティー、アヴドゥル、ツェペリ、ジャイロというメンバーは、彼にとってその理想を体現したような連中だった。
その後合流した3人も、同じようなタイプの人間だと思ってしまった。
身を隠すには絶好の、羊の群れ。
その羊の群れの中に、イレギュラーな存在が紛れ込んだのだ。
花京院と言う、肉食の羊。
そして吉良吉影と言う、羊の皮を被った怪物が……

吉良は猟銃内に残った空薬莢を爆弾化させ、指で弾き飛ばした。
放物線を描き、爆弾は正確にドルドを攻撃する。

「やめっ―――」

身体を引きずってでも逃げようとしたドルドであったが、吉良吉影は甘くはない。
ドルド中佐のちっぽけな野望は、白く光る閃光と共に、永遠に葬られた。



★ ★ ★ ☆

52 :創る名無しに見る名無し:2014/05/13(火) 21:40:19.74 ID:mW2B1QOG.net
736 :悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:35:06 ID:G9cHNUZg


「あなたに会いたいと…… あって話をしたいと、ずっと思っていました。
でも、実際に会ってみると、何を話していいんだか……」

川尻しのぶは、再び吉良に語りかける。
吉良もしのぶの目を見つめ返し、そして優しく問いかけた。

「何故、私が吉良吉影だと……?」
「……承太郎さんの言っていた特徴に合う、というのも確かにあるんですけれど…… それ以上に、雰囲気が……
ミステリアスというか、ロマンチックというか、言葉では言い表せない不思議な感覚が、あの時のあの人によく似ていたから……」

それに、と川尻しのぶは付け加える。
アヴドゥルたちが始めに屋敷に現れた時、吉良はしのぶを庇うような動きを見せた。
それが、猫草に襲われた時に自分を助けてくれた、夫の姿と重なったのだと言う。

吉良には理解ができなかった。
川尻浩作となった自分としのぶの結婚生活の話は聞いていたが、だからと言って殺人鬼である吉良を肯定する理由にはならない。
だが同時に、吉良はしのぶの話を聞き、味わったことの無い安らぎを感じていた。
川尻しのぶ…… 彼女は、一体何者なのだ?
人生で初めて、両親以外の人間から、『理解』されたような気がした。

「………吉良、さん。」

思わず吉良は、しのぶの右手を取る。
この人を殺してしまって良いのだろうか。
これまで一度たりとも殺人を躊躇ったことのない吉良にとって、初めての迷い。
このまま、しのぶと2人で生き残ることはできないだろうか。
あのボニーとクライドのように、ふたりきりで。
他の誰にも理解されなくとも、ふたりで生きていくことはできないだろうか。



(………なんてな)

馬鹿な事を考えるんじゃあない。
そんな事、できるわけがない。
そんな未来に、明日はない。

川尻しのぶの美貌は、その手首だけを残して綺麗に消滅した。
足手纏いを抱えて生き残れるほど、このゲームは甘くない。
そもそも一人しか生き残れないこのゲームにおいて、他者を助けるなど愚の骨頂である。
だが、これだけは間違いない。
川尻しのぶと言う名の女性は、吉良吉影にとって永遠に忘れられない存在となっただろう。



★ ★ ☆

53 :創る名無しに見る名無し:2014/05/13(火) 21:41:08.08 ID:mW2B1QOG.net
737 :悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:38:09 ID:G9cHNUZg
.


さて、あと一人。

「逃げようとは、考えなかったのかな?」
「おまえがそれを許すとは思えなかったからな。少しでも長く生きるためには、何もしないことが最善だと思っただけさ」

あわよくば、わずかに稼いだこの数分間に空条承太郎が帰還することを願っていたが、それも叶わず終いだった。
じっと睨みつけるビーティーに対し、しのぶの手首を懐にしまいながら歩み寄る。
そしてビーティーがスタンドの射程距離に入ったところで立ち止まり、問いかけた。

「何か言いたいことはあるか……?」

「……貴様、これまでに、いったいどれだけの人間を殺してきた?」

吉良の質問に対し、ビーティーは臆することなく質問で返す。
今までの吉良の殺人を見て、その手際の良さに驚いた。
バトル・ロワイアルだから殺しているんじゃあない。
この男は、本物の反社会性人格障害<サイコパス>だ。

ダイイングメッセージを遺したところで、意味はないだろう。
この吉良吉影という男が、証拠を残すとは思えない。

「ふぅむ、そんなものが最期の言葉でいいのか? 実のところ、覚えていない。
お前は今までした自慰行為の回数を覚えているのか?」

ビーティーに対し、吉良はフザケた返答をする。
ブラックなユーモアに例えたジョークに、吉良は笑った。
だが、ビーティーはそんな吉良のくだらない戯れ言を一蹴する。

「違うな。その例えは、見当違いもいいところだ。
貴様にとっての殺人は、自慰行為なんかじゃあ無い。ただのゴミ掃除だ。
ただ、自分の犯行が露呈する事を恐れた、逃げの手段に過ぎない。
大方、川尻しのぶにやったように、女の手首を持ち帰るためだけにやっているだけだ。
死体愛好趣味の、変態ヤローが!」

54 :創る名無しに見る名無し:2014/05/13(火) 21:41:44.99 ID:kAdAjr0a.net
C

55 :創る名無しに見る名無し:2014/05/13(火) 21:54:29.21 ID:mW2B1QOG.net
738 :悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:40:00 ID:G9cHNUZg

吉良の表情から笑みが消えた。
自分の衝動と異常性癖を簡単に見破られ、しかもそれを罵倒された。
と同時に、大量殺人鬼としてのちっぽけさを、叩きつけられた。
確かに吉良に、チャールズ・ホイットマンの気持ちは分からない。
彼にとって殺人とは手段であり、目的ではない。
そしてそれの主な用途は、証拠隠滅だ。
その事実を突き立てられることは、吉良にとって想定外の侮辱だった。

犯罪者としての誇りなどが持ち合わせているつもりないが、吉良は如何ともし難い苛立ちを、自分の半分の時間も生きていない少年に対し、覚えていた。



ビーティーは悔しかったのだ。
吉良吉影の不審さには、はじめから気が付いていた。
ただ、それ以上に目立つラバーソールの存在と花京院の暗躍に気を取られ、一手遅れを取ってしまった。
また、自分に戦う力があれば、こうはならなかった……
敵の不審さに気が付いても、それをアヴドゥルたちに伝えるタイムラグで遅れをとってしまった。

この男のやり口を見るに、公一を殺したのもポルナレフを殺したのも、この男ではないだろう。
結局自分は、なんの真相にもたどり着けぬまま、ここで死ぬのだ。

ビーティーはアヴドゥルの遺体を見やる。
彼の手元からこぼれ落ちた、『戒めのナイフ』―――

『過信』していたのは、自分もだった。
自分の知力さえあれば、どんな困難にも立ち向かえるものだと、自惚れていた。
この敗北は、どう考えても自分の力不足。
それが、何より悔しかった。

「小僧―――ッ!」

吉良吉影に胸ぐらを捕まれて、持ち上げられる。
体が小さく力も弱いビーティーは、反抗することもできない。

「イカレた変態の糞野郎に、しかるべき報いを……!」

56 :創る名無しに見る名無し:2014/05/13(火) 21:55:59.14 ID:mW2B1QOG.net
739 :悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:40:29 ID:G9cHNUZg


心臓を爆破され、ビーティーは息絶えた。
精神的には、ビーティーは勝っていたかもしれない。
だが、それだけでは何の意味もない。
知力も、推理力も、精神力も、圧倒的な暴力の前には何の意味も持たない。
名探偵は、策を弄する「殺人犯」には勝つことができるかもしれない。
だが、常軌を逸した「殺人鬼」にだけは、どうやったって適わないのである。



【ウィル・A・ツェペリ 死亡】
【ラバーソール 死亡】
【ジャイロ・ツェペリ 死亡】
【モハメド・アヴドゥル 死亡】
【ドルド 死亡】
【川尻しのぶ 死亡】
【ビーティー 死亡】

【残り 42人】


★ ☆

57 :創る名無しに見る名無し:2014/05/13(火) 21:57:31.55 ID:mW2B1QOG.net
740 :悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:40:55 ID:G9cHNUZg


最後の最後でビーティーに思いも寄らぬ反撃を受けたが、しかし気にしていても仕方がない。
今すぐにでも、承太郎が現れたっておかしくはないのだ。
川尻しのぶという武器を失った以上、このまま承太郎を迎え撃つのは厳しい。
なにより、今の大量殺戮で体力を消耗しすぎていた。
だが、このまま立ち去るわけにはいかない。
ここには、「吉良吉影の戦闘形跡」が残りすぎている。
処理しなくてはならない。
証拠隠滅のシナリオはもう考えてある。
だが、ビーティーに指摘された事をまた繰り返さなければならないという事が、非常に頭にきた。

時計を見ると、もうすぐ午後3時になる。
10分で…… いや、5分で片付ける。

まず、室内から必要な物をかき集める。
情報交換に使った資料、アヴドゥルの持っていたバイクのキー、ラバーソールの所持品からは首輪、しのぶの持っていた地下の地図など。
未開封の支給品ももちろん回収した。
ドルドの所持品の中にライターがあったのは、特に都合がよかった。
それらを纏めてデイパックに積め、庭に放り投げる。
所持品は準備完了だ。

次は、犯人とヒーローを作る。
アヴドゥルとジャイロの遺体を担ぎ、吉良は庭へ出た。
ジャイロの遺体にはもう一発爆発を食らわせ、身体を丸焦げにさせる。
まるで、『魔術師の赤』にやられたかのような、燃死体が
できあがった。

ジャイロの遺体を屋敷のそばに仰向けに放置し、傍らには猟銃を捨ておく。
空薬莢も当然ばらまいておく。

そしてアヴドゥルの遺体は、ジャイロの正面にある庭の池の中に放り込んでおいた。
『バトル・ロワイアル』が幻覚であると思い込んだ犯人モハメド・アヴドゥルは、空条邸に集まった参加者の皆殺しを決行。
全員を焼き殺すも、最期の最期で猟銃を持ったヒーローのジャイロ・ツェペリと相打ちになり、池に沈んでしまったのだ。
ジャイロの遺体に銃痕は無いし、アヴドゥルの遺体には猟銃による傷しかない。
ジャイロは丸焦げだし、アヴドゥルは水没。
遺体から正確な死因は調べられないだろう。

58 :創る名無しに見る名無し:2014/05/13(火) 21:58:58.14 ID:mW2B1QOG.net
741 :悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:41:18 ID:G9cHNUZg

次に吉良は、庭に止められている自動車に向かった。
キーはつけっぱなしだった。
少し移動させ、屋敷外壁に隣接するように停車する。
そして『キラー・クイーン』の腕力によって車体を小破させ、ガソリンタンクを取り出した。

吉良はタンクを持ち、屋敷内に戻る。
邸内を少し見て回り、家主である空条貞夫の衣装タンスを見つけた。
川尻しのぶによれば、承太郎が吉良の容姿の特徴を他人に話しているかもしれない。
返り血にまみれたスーツをいつまでも着ているわけにはいかないので、吉良は着替えることにした。
戸棚から適当な衣服を選ぶ。空条貞夫の休日用のラフな服装だ。
普段の吉良のイメージとはかけ離れたスタイルだろう。
ついでに髪型や髪の色も変えたいが、残念ながらそこまでの時間はない。
吉良は脱ぎ捨てた服を一つに纏め、ガソリンをかける。
そしてそのままタンクを担ぎ、そのまま屋敷の廊下を一周、ガソリンを巻いて回る。
吉良吉影の痕跡は、残りの遺体と共に焼き付くされてしまうのだ。
そう、狂ったモハメド・アヴドゥルの『魔術師の赤』によってな。

ガソリンタンクを邸内に捨てる。
準備完了。
自動車が破壊されているが、屋敷に隣接して停車したので、どうせ炎が燃え移り、その痕跡も無くなる。
庭に放ったデイパックを拾い上げ、アヴドゥルの使っていたオートバイに跨る。
そしてキーを刺し、エンジンを掛けると、ドルドの所持品から失敬したライターを点火させ、屋敷内に放り投げる。

時計を見ると、午前3時を少し回った頃だった。
5分かからずだ。間に合った。
短時間に7人もの人間を殺害した吉良吉影は、何食わぬ顔で空条邸を去っていった。



★ ☆

59 :創る名無しに見る名無し:2014/05/13(火) 22:00:54.50 ID:mW2B1QOG.net
742 :悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:42:07 ID:G9cHNUZg


異様な暑さに、花京院典明は目を覚ます。
ここは空条邸の離れの書庫だ。
意識が戻って最初に気が付いたのは、自分が拘束されていないという事実。

気を失う前の事を思い返す。
『法皇』を川尻しのぶへと憑依させ、ドルドを射殺。
次にビーティーを狙ったところをアヴドゥルに阻止される。
その後何故かツェペリが爆死し、乱入してきた新たな男によって『法皇』はしのぶの体内から吐き出されてしまった。
そして身構えるまもなく『魔術師の赤』の回し蹴りをくらい、気を失ってしまったのだ。

作戦が失敗した今、花京院はアヴドゥルらに尋問でもされるものだと思っていたが、どうにもその様子はない。
時計を見ると、午後3時過ぎ。
気を失っていたのは15分かそこらのようだ。

(しかし、なんだ? この暑さは?)

とにかく情報が欲しい。
おそるおそる引き戸を開け、庭に出た花京院の見たものは―――


「なッ!!」


大炎上する空条邸の屋敷。
花京院が気絶している間に、屋敷の本邸は業火に包まれ崩壊しつつあった。

(どういう事だ? あの後、ここでいったい何が起こったのだ?)

吉良吉影の犯した1つ目のミス。
それは、本物の花京院典明の存在に気が付かなかった事だ。

元々『法皇の緑』や『黄の節制』のスタンド能力を知るアヴドゥルや、類稀なる推理力と洞察力を持つビーティーと違い、吉良吉影には屋敷に現れた花京院が偽物であることに最後まで

気が付いていなかった。
せめて、アヴドゥルを撃つのがあと10秒遅ければ。
もしくはラバーソールが散弾を受けたのが頭部でなかったならば、結果は違っていたかもしれない。

そして当然、屋敷の離れに潜んでいた本物の花京院典明の存在も、知らぬままだ。
離れであるが故に火の手も届かず、吉良吉影は虐殺の現場に(吉良の犯行を見ていないとはいえ)生存者を残してしまったのだ。

(池に沈んでいるのはアヴドゥルか? 奴がこれを? いや、しかし奴には動機がない。
池と屋敷の間には、焼死体が一体。これだけやられていては
他の連中は? 全員、炎の中か? 全員死んだのか? 何人か逃げたのか?)

60 :代理:2014/05/13(火) 22:47:36.28 ID:Vz9I8jK1.net
735 :悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:34:41 ID:G9cHNUZg



「やはり、あなたが、吉良吉影だったのですね……」

アヴドゥルに留めを刺したあと、吉良は女性の声に呼ばれ、振り向いた。
いつの間に意識を取り戻したのか、川尻しのぶが起き上がり、床に座ったままこちらを見ていた。
死んだような目で、吉良の殺人をじっと見ている。
おそらく今なにが起こっているのかも、何となく理解しているだろう。
その上で、川尻しのぶは取り乱すことなく吉良を見ていた。

吉良は迷ったが、全員の死亡確認を先に済ませることにした。
ジャイロとアヴドゥルにそれぞれとどめを差し、花京院(ラバーソール)の様子も見るが、彼は即死していた。
残る一人。吉良は縁側の廊下を見る。
最初に川尻しのぶに銃撃されたドルドだ。
驚くことに、吉良が目線を向けた瞬間、彼はピクリと動いた。
生きているとは驚きだ。
傷口から機械が見える。
どうやら彼はサイボーグだったようだ。
今更だが、吉良はこのバトル・ロワイアルの参加者たちの多種多様な常識外れさに、やれやれと肩を落とす。

(畜生…… なんてことだ…… こんなハズじゃあなかった……のに……)

ゲーム開始時からのドルドの行動方針は、お人好しの集団にとけ込み、馴れ合い、そして隙をついて優勝することだった。
ビーティー、アヴドゥル、ツェペリ、ジャイロというメンバーは、彼にとってその理想を体現したような連中だった。
その後合流した3人も、同じようなタイプの人間だと思ってしまった。
身を隠すには絶好の、羊の群れ。
その羊の群れの中に、イレギュラーな存在が紛れ込んだのだ。
花京院と言う、肉食の羊。
そして吉良吉影と言う、羊の皮を被った怪物が……

吉良は猟銃内に残った空薬莢を爆弾化させ、指で弾き飛ばした。
放物線を描き、爆弾は正確にドルドを攻撃する。

「やめっ―――」

身体を引きずってでも逃げようとしたドルドであったが、吉良吉影は甘くはない。
ドルド中佐のちっぽけな野望は、白く光る閃光と共に、永遠に葬られた。



★ ★ ★ ☆

61 :代理:2014/05/13(火) 22:49:32.26 ID:Vz9I8jK1.net
すまぬ誤爆した

62 :創る名無しに見る名無し:2014/05/13(火) 23:42:54.07 ID:DxsHc0VP.net
支援

63 :悪の教典 ◆vvatO30wn. :2014/05/13(火) 23:48:20.28 ID:pgO+xsvY.net
考えたところで答えは出ない。
そんな中、花京院ひとり残された空条邸に、ある乗り物が到着した。
遠くからでもわかる火の手を確認し、スピードを上げて駆けつけた救急車のようだった。




【D-5 空条邸の庭 / 一日目 午後】

【花京院典明】
[スタンド]:『ハイエロファント・グリーン』
[時間軸]:JC13巻 学校で承太郎を襲撃する前
[状態]:腹部にダメージ(小)、肉の芽状態
[装備]:ナイフ×3
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:DIO様の敵を殺す。
1.空条邸で一体なにが起こった?
2.空条承太郎を追跡し、始末する。
3.ジョースター一行の仲間だったという経歴を生かすため派手な言動は控え、確実に殺すべき敵を殺す。
4.山岸由花子の話の内容、アレッシーの話は信頼に足ると判断。時間軸の違いに気づいた。


※ラバーソールから名前、素顔、スタンド能力、ロワ開始からの行動を(無理やり)聞き出しました。
※空条邸は炎上し、崩壊中です。屋敷内を探ることは常識的に考えれば不可能です。
※空条邸の庭にジャイロの遺体(身元がわからないほどの火傷)、そのそばに空の猟銃と薬莢、池の中にアヴドゥルの遺体が放置されています。





★ ★

64 :悪の教典 ◆vvatO30wn. :2014/05/13(火) 23:49:51.06 ID:pgO+xsvY.net



何者かに付けられている?
はっきりとした確信はないが、なんとなくそんな気がする。

バイクでの逃走を図った吉良吉影は、目的地に杜王町エリアを選んだ。
身体を休めるには慣れ親しんだ町並みが楽であろうという口実の他に、地下通路がほとんど通じていないというのが大きな理由だった。
ツェペリによれば、DIOもカーズもワムウも、太陽の光に弱い。
そして承太郎も、彼らを標的としている以上は地下に通じる場所付近にいる可能性が高いだろう。

そう思い東へ進路を取った吉良吉影だったが、先ほどより背後から視線を感じるのだ。

(何者かわからんが、もし空条邸での出来事の目撃者ならば、今までの全てが水の泡だ。
始末せねばならない………)

急ハンドルを切り、路地裏に入る。
物陰に隠れ、追跡者の正体を探ろうとした。
だが、「影の中」はまずかった。この追跡者にとっては独擅場だ。


『おまえ…… 再点火、したな―――?』

「何ィ―――?」

吉良吉影の犯した2つ目のミス。
火種の選択肢を誤った。

「『キラー・クイ』………ッッ!!」

闇の中から現れた『ブラック・サバス』の弓と矢が、「キラー・クイーン」の掌を突き破った。



【E-7 杜王町エリア 路地裏 / 一日目 午後】

【吉良吉影】
[スタンド]:『キラー・クイーン』
[時間軸]:JC37巻、『吉良吉影は静かに暮らしたい』 その@、サンジェルマンでサンドイッチを買った直後
[状態]:左手首負傷(大)、全身ダメージ(小)疲労(中)
[装備]:波紋入りの薔薇、空条貞夫の私服(普段着)、
[道具]:基本支給品 バイク(三部/DIO戦で承太郎とポルナレフが乗ったもの) 、川尻しのぶの右手首、
    地下地図、紫外線照射装置、ランダム支給品2〜3(ドルド、しのぶ)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する。
0.空条承太郎を殺す。
1.なんだこいつ(ブラック・サバス)は?
2.優勝を目指し、行動する。
3.自分の正体を知った者たちを優先的に始末したい。
4.サンジェルマンの袋に入れたままの『彼女の手首』の行方を確認し、或いは存在を知る者ごと始末する。
5.機会があれば吉良邸へ赴き、弓矢を回収したい。

※波紋の治療により傷はほとんど治りましたが、溶けた左手首はそのままです。
※不要な所持品は空条邸に置いてきました。炎に飲まれて全て燃えてしまいました。
※キラー・クイーンが弓と矢に貫かれました。どうなるかは今後の書き手にお任せします。

65 : ◆vvatO30wn. :2014/05/13(火) 23:59:20.45 ID:pgO+xsvY.net
代理投下してくださった方、支援に参加して下さった方、ありがとうございました。
したらば投下時に変更し忘れていた吉良の現在地を修正しました。

このタイトルで吉良メインの話は、書いてみたいとずっと思ってました。
ジョジョを知っていれば、貴志祐介著「悪の教典」を読んだことある人は、だいたい吉良吉影を連想するかと思います。
実写映画は個人的にイマイチなのですが、原作とコミック版は本気で面白いので、この機会にお勧めします。

1話でこれだけ殺すのは、2ndの最終回を除けばジョジョロワ新記録のようです。
さすがにこれだけ一気に落とすのは、緊張しますね
いろいろ考えながら書いたので、裏話でも語る機会があれば、いろいろ説明したいかなあと思っています。

ではまた次回作でお会いしましょう。

66 :創る名無しに見る名無し:2014/05/14(水) 08:17:22.58 ID:p7O/koom.net
投下アンド代理投下乙です
ここまで大量に脱落者が一気に出るとは
花京院はこのままだとHEROSプラス承太郎に遭遇しそうだが果たして

67 :創る名無しに見る名無し:2014/05/14(水) 13:01:37.19 ID:qJdP2+F9.net
投下乙です。

気になったのですが、ハイエロファントがしのぶに入ったとき、爆破されないのでしょうか?

68 :創る名無しに見る名無し:2014/05/14(水) 13:39:43.49 ID:3Zn92yjf.net
投下乙です
なんという大量殺人回…
吉良の邪悪さはケタ外れですな

ウィルもジャイロも死んでしまったか
時代を超えて出会えたツェペリの男2人が同じ相手に殺されるなんて、嫌な運命を感じる
放送を聞いた後、シーザーは自分と同じ姓を持つ者の死に何を思うんだろう

ビューティー達は最善を尽くしたと思うんだけど、どこが不味かったんだろう

69 : ◆3yIMKUdiwo :2014/05/14(水) 16:24:14.10 ID:ICc8euvr.net
投下及び代理投下乙です。
大量殺人回になってはいますが…HEROESがスタンド能力も含めて有能、かつ承太郎がアヴドゥルの性格を知っているので誤魔化されない可能性も高いなと。
花京院がどう出るかもポイントか。
欲を言えばこのままHEROESvs.DIO軍団が見たい所ですが、どうなるやら。

70 : ◆vvatO30wn. :2014/05/14(水) 23:37:28.14 ID:N9QM5+Ts.net
>>67
苦しいかもですが、法皇が触れているのは体の内側だからセーフという事でお願いします。
侵入前は(スタンドだから)実体がないので触れないという事で

71 :創る名無しに見る名無し:2014/05/15(木) 03:48:50.19 ID:jGzkaVIj.net
投下乙!
心理戦あり乱戦あり人間ドラマあり、いやー楽しかった!
文字通り火薬庫が大炎上、そして矢に貫かれるKQ、えらい展開になってまんなあ・・・。
キャラそれぞれに見せ場があったのが良かった。特にしのぶさんを操る法皇。あれは肉の芽花京院じゃあないとやらない技だろうからなー。
吉良とビーティーの最後の掛け合いの台詞回しに原作のオマージュが効いてて良かったし、あとバトルロワイアルが幻覚と思い込んだマーダーアヴドゥルってのも、確かジョジョロワ1stの設定だっけか?こういうニヤリと出来る要素が多いってのも嬉しかった。

72 :創る名無しに見る名無し:2014/05/15(木) 07:36:25.42 ID:9vtRJD88.net
そしてその1stでジョースター卿が大活躍した後全然2ndと3rdで振るわないっていう

73 :創る名無しに見る名無し:2014/05/15(木) 13:21:00.52 ID:pUqziMiQ.net
投下乙です
なんという大 虐 殺
ビーティー組が一気に全滅かあ
咄嗟の事態でも吉良の立ち回りがうますぎる
…まあ吉良は今ピンチだしシーラEが何が起こったかわかっちゃうし一時凌ぎでしかないのだろうけれども
そういう意味では花京院がこの後どうなるか期待ですね
1stのマーダーネタにはクスリとさせられましたw

月報もおいときますね
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
166話(+8) 42/150 (-11) 27.3 (-7.4)

74 :創る名無しに見る名無し:2014/05/15(木) 19:32:23.25 ID:UoilvBN1.net
正しくは、
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
166話(+8) 41/150 (-11) 27.3 (-7.4)

ですね。
BLOOD PROUDの時点から1ずつカウントがズレてるようです。

星環は英雄の星座となるか? で残り51人
BLOOD PROUD で残り48人
悪の教典 で残り41人になります

75 : ◆c.g94qO9.A :2014/05/19(月) 23:28:09.83 ID:Tt5LDhGX.net
投下します。

76 : ◆c.g94qO9.A :2014/05/19(月) 23:29:16.15 ID:Tt5LDhGX.net
サン・ジョルジョ・マジョーレ教会の地上部分。
巨大なステンドグラスを背に、椅子に座った大男が一人いた。
大男タルカスはその巨大な体を縮め、窮屈そうに横長のベンチに腰掛けていた。
足元にはボストン・テリアの犬、イギーが気だるげな様子で横たわっている。

ジョルノがDIOの元を訪ねてから十数分。
その間戦いが起きるようなこともなく、外から誰かが訪れてくるようなこともなかった。
まったくの平穏な時間。ステンドガラスが少しだけ傾いた日光の灯りを激しく反射させている。
風は無風でほのかに緑の匂いがしていた。混じって漂うのは教会特有の古めかしい匂い。
木と香料とカビが混じった匂いだ。タルカスは目を閉じると大きく息を吐いた。
体は休めつつも、精神は張り詰めたままだ。ほんの一瞬でも気を抜けはしない。
タルカスはジョルノから預かったブローチを握りなおした。特別変わった様子は見受けられなかった。


「長いな」


そう言うと、大きな手で乱暴にイギーの頭を撫でる。イギーは小さく唸ると、不機嫌そうに顔をしかめた。
可愛げのない仕草だったが、どこか人間臭いその仕草に思わず頬がゆるむ。
持て余した時間をそうやってなんでもないことに費やしながら、穏やかな時間を満喫していた……その時だった。

「……?」

かすかに、そしてゆっくりと―――地下へと続く階段から物音が聞こえた。
重たい何かを引きずるような音、小さな呟き、そしてまた引きずる音。

「ヴァニラ・アイスか?」

返事はなかった。だがタルカスの呼びかけを合図に物音は止まり、つぶやきも聞こえなくなった。
なにかおかしい。タルカスは脇に立てかけてあった槍を取ると、立ち上がる。
うずくまっていたイギーも顔を上げ、異変を嗅ぎ取ろうと鼻を鳴らしている。

「誰かいるのか? ヴァニラ・アイスか? DIOの手下か?」

地下へと続く階段は暗く、見通しが悪い。
あいかわず返事はなく、誰がそこにいるのかもわからない。
タルカスは階段の脇に吊るされたロウソクを見た。
壁に影は映らない。もしやタルカスに気がついて上がるのを躊躇しているのだろうか。

77 : ◆c.g94qO9.A :2014/05/19(月) 23:32:49.10 ID:Tt5LDhGX.net
「お前はここで待っていろ。入口を見張っていてくれ」

低い声でイギーに指示を出す。今やタルカスの心臓はバネにはじかれたみたいに喉元まで飛びあがっていた。
暗闇から一斉目をそらさず、忍び足で階段に近づいていく。
階段に近づくにつれて手のひらが湿り気を帯びる。ぐっと槍を握りなおす動きに合わせて大きな影が壁の上に揺れた。

階段の一番上から暗闇を見下ろすと、螺旋状に下へと向かう階段はまるで底なし沼のように思えた。
一段一段を慎重に、噛み締めるように降りていく。右手に持っていた槍を左手に持ち替える。
息がつまりそうなほどの、緊張感だ。数旬の後、タルカスは意を決して一気に階段を駆け下りた……!


「……気のせいだったか」


しかしタルカスの予想に反し、階段には誰もいなかった。
一番下まで降り、辺りを見渡してみたが人影らしきものも見つからない。
ジョルノたちはどうやら納骨堂の奥の小部屋で話し込んでいるようだった。
ドアの隙間から漏れる光と会話から目をそらすと、タルカスは登ってきたばかりの階段に戻る。

神経質になりすぎていただろうか。確かに聞いたはずだったのだが……。

「……?」

だが踊り場にたどり着いた瞬間、タルカスは角の暗闇に目を奪われた。
子犬が蹲った影。最初はそう思えた。だが近づくにつれ、それが自分の勘違いだと気がついた。
片膝を付き、慎重にそれを拾い上げてみる。それは奇妙な形にねじ上げられた何者かの右腕だった。
死んでそれほど時間が経っていない、何者かの死体。

それを理解した瞬間、タルカスの全身から汗が吹き出した。
頭の中で警報が鳴り響き、今登ってきたばかりの階段を駆け下りる。
力の限り叫びながら、納骨堂の奥を目指す。一秒でも早く、この緊急事態を伝えるために。

「ジョルノッ! 聞こえないか、ジョルノッ! ここはまずい、何かただならぬことが起きて――――」

そこから先は無言だった。
タルカスの言葉をかき消すようにガオン、という音が響いた。
音が削れる音。音が無音になる音。
タルカスの体がひとりでに傾いていく。何がなんだかわからないまま、ただ重力に従い、タルカスの首が下を向く。
彼の目に映ったのは削られた右半身。吹き上がる血の滝。そして健康でたくましく脈打つ、自分の内臓たち。


「うおああああああああああああああああ―――ッ!!」





78 : ◆c.g94qO9.A :2014/05/19(月) 23:35:29.28 ID:Tt5LDhGX.net
―――十数分前

「かけたまえ。楽にしていいから」
「失礼します」

古い扉がきしむ。甲高い音が響く。ロウソクが作った影が天井まで伸び、ゆらゆらと揺れている。
納骨堂の奥、長い間人に忘れ去られたような小部屋に二人はいた。
足の高いコーヒーテーブルを挟むように置かれた椅子を指差すと、DIOは片方の椅子に腰を下ろした。
ジョルノもつられて対面に座る。いつもの堂々とした様子はなく、緊張がジョルノの顔には浮かんでいた。

目の前にいるこの男が自分の父親。
手を伸ばせば直に触れることができるこの男性が、血を分けた本当の家族。
ジョルノにはまだ実感がわかなかった。
理屈でなく、本能が目の前の男のことを父親だと叫んでいても、どこか夢心地のような気がしていた。
それほどまでに、ジョルノにとって父親という存在は大きく、遠いものだった。

「……君は今、いくつになった? 何年生まれ?」
「4月で15になりました。生まれは1985年です」
「……そうか、そうだったな」

ぎこちない雰囲気が続いた。
会話は一方的で、したくもない腹の探り合いが机を挟んで行き交っていく。
聞かないでもいいような、会話のための会話。DIOがぼそぼそと問いかけ、ジョルノは短く、簡潔に答える。
時間が奇妙な流れ方をしていた。それほど長い時間は話していないはずなのに、やたらと秒針の回転が速いような気がした。

いくつかのくだらない質問を終えると、DIOがぱたりと口を閉ざした。沈黙が漂う。
どちらも息を殺すように、静かに呼吸をしていた。しばらく黙った後、DIOが言う。
その顔には困惑と、自虐的な笑みが浮かんでいた。

「まいったな、こんな時だっていうのに……。
 情けないな……それに恥ずかしいよ。一人の男としてこんな恥ずかしいことはない。
 ジョルノ……、私を許して欲しい。
 息子とせっかく会えたというのに何を話せばいいかわからないんだ。
 父親としてこういう時に、何を言えばいいかわからないだなんて!」

しゃべりすぎたと思ったのか、そこまで一息で話すとDIOは黙り込んだ。
少ししてから、ジョルノが口を開いた。
ジョルノは一言一言噛み締めるような、話し方をした。

「面を食らうのも無理はありません。それに……戸惑っているのは僕もです。
 僕はあなた以上に今うろたえていますし、戸惑っています。
 六歳の子供が初恋の相手を前に話すときだって、こんなまごつきはしないでしょう」

二人は互いに目を合わせた。
突然のことに困惑する気持ち。肉親との不意の再会に対する不安と喜び。
それを互いの目の中に見つけ、自然と笑みがこぼれる。
柔らかに微笑む父親を見てジョルノも笑った。その笑顔は年相応の、少年が浮かべるような笑みだった。

79 : ◆c.g94qO9.A :2014/05/19(月) 23:37:58.15 ID:Tt5LDhGX.net
空気がはっきりと和らいでいく。DIOは膝の上で指を組み直すと、ゆっくりと言った。
先よりよっぽどリラックスした口調で、だが、責任感を感じさせる堂々とした喋り方をした。

「私はひどい父親だった。いや、父親と名乗ることすらおごがましい男だ。
 私は今こうやって君と向かい合っているが、正直言って君の母親の顔すら思い浮かばない。
 誰が君の母親かもわからない生活を、私は送ってきたんだ」
「…………」
「父親面するつもりはない。その資格は私にはないし、きっとそれはお互いを不幸にするだろう。
 だけどもしも君が許してくれるならば、君の幸せを祈らせてくれないだろうか。
 私の出来る範囲で君の人生を前向きなものにしたいんだ」

こんな殺し合いなんていう場で幸せなんて言ってもおかしな話だが。DIOが笑いながら最後にそう付け加えた。
その言葉を聞いた瞬間、ジョルノの胸を刺すような痛みが走った。
ジョルノは目を瞑り、気持ちを落ち着かせた。右手で心臓のあたりを鷲掴みにし、鼓動を整える。
喉もとまで、ほとんど出かかった言葉を飲み込んだ。

これから親子としての関係を作り上げていけばいいじゃないですか、と。
これからお互いのことを理解して、より深い関係になっていけばいいではないでしょうか、と。
ほんとうはそう言いたかった。でも言わなかった。

再び目を開いた頃、その目に迷いはなかった。
落ち着いた、理知的ないつものジョルノ・ジョバァーナがそこにはいた。

「それならばさしあたり一つ、お願いがあります」
「言ってご覧」
「僕のことはジョルノ、と呼ばずジョジョと呼んでください」
「……わかったよ、ジョジョ」

親しみの言葉に返事をするDIO。その顔は間違いようもないほどに、父親の顔をしていた。
その隙だらけのDIOに向かってジョルノは―――ゴールド・エクスペリエンスの拳を叩き込んだ。





80 : ◆c.g94qO9.A :2014/05/19(月) 23:38:45.68 ID:Tt5LDhGX.net
暗黒空間はすべてを飲み込む。
モノも人も、なにもかも。核爆弾だって飲み込めるかもしれない。

「がッ、はァ…………ッ!」

冷たい床に顔を打ち付けながらヴァニラはもがき、苦しむ。
そう、すべてを飲み込む暗黒空間。スタンド『クリーム』の内部につながる暗黒空間。
だがしかし……増幅され続けるエネルギーはどうなる?

クリームはタルカスを襲った際、ジョルノが作ったブローチを飲み込んだ。
生命を宿したブローチが破壊されるとき、そのエネルギーは倍増され跳ね返る。
だが跳ね返る先はヴァニラのスタンド内だ。出口を失ったエネルギーは果たしてどこへ行き着くのか。

「つ……、ああッ……!」

すくなくともこの舞台ではエネルギーは暗黒空間内に少しずつ、飲み込まれていったようだ。
時が経つとともに次第に痛みは失せ、ヴァニラは這いつくばりながら呼吸を整える。
呼吸は緩やかに落ち着き、視界もクリアになっていく。
その視界に映ったのは、タルカスを引きずっていった跡。真っ赤な線はヴァニラを無視し、階段を登っていく。


 『―――同行者を、始末しろ―――』


(確実に仕留めなければ……。あのお方の、DIO様の期待を裏切るわけには……ッ!)

ほうっておいても死に行く身だとは分かっている。
半身をもぎ取り、血を滝のように流した後なのだ。もうどうやったって間に合わない。
だがヴァニラは震える足を無理やり動かし、階段を上っていく。
まだそれほどの時間は経っていないはずだ。まだ間に合う。
この手で直接、確実に始末してやる……!
任務を達成しDIOに直々にお褒めの言葉をいただくために、ヴァニラは体にムチをうち、階段を上る。

81 : ◆c.g94qO9.A :2014/05/19(月) 23:39:36.16 ID:Tt5LDhGX.net
(くそったれ、手間かけさせやがるぜ……)

そのタルカスを担ぎ、イギーは出口へと走っていた。
階段を上り切ると、一目散に光の射すほうへ駆けていく。
ジョルノを助けようとは一切思わなかった。助けている暇なんぞ一秒もない。
タルカスを助けてやったのはほんの気まぐれだった。腐れ縁というやつだ。
執着はなかったが、今目の前で助けられる奴をほうって置けるほどにイギーは『落ちた犬(人間)』ではなかった。

血を含んだ砂は操るのに力がいる。
人二人分の重さをもつタルカスを運ぶのはいくらザ・フールといえど容易ではない。
ヴァニラ・アイスのスタンド能力は不明。それに加えてDIOもいる。状況は最悪だ。
イギーは人間の争いに興味がない。故にいま目指すべきはこの場を逃れること。
一歩でも遠く、DIOとヴァニラから離れること。


(げエッ! い、いつの間にッ!)


だがイギーの目論見は砂の城のように、もろくも崩れる。
顔に降りかかった影に顔を上げて、イギーは驚いた。
教会の入口の前、待ち構えるようにヴァニラ・アイスが姿を現していた。
回り込まれるなんてありえなかったはずであるのに。階段から入口までは脇道などなく、一本道だったのに。

咄嗟のことにイギーはスタンドを構えてしまった。本能的に戦いの構えを取り、ヴァニラに対して威嚇のポーズをとる。
相手に命を見逃してもらうよう請うことはイギーのプライドが許さないことだった。
だがそれでももう『バカ犬』の振りはできない。イギーは覚悟した。戦いは避けられない……!
出口までの距離を計算し、タルカスをかばいながらどう戦うか考える。
だがどれだけ考えても、このまま無傷で教会から脱出することは不可能に思えた。

(ち、ちくしょう……! )


しかし、息を詰めたような沈黙が流れ―――ヴァニラはイギーの予想だにしない行動をとった。
スタンドを引っ込めると、まるで道を譲るように入口を離れたのだ。
それどころか、もはやイギーたちは目に映らないかのように、そのまま階段へと向かっていく。
突然の行動にイギーは唖然とする。ヴァニラ・アイスとすれ違った瞬間、そっとその表情をのぞき見た。

ヴァニラはイギーたちのことを一瞥もしなかった。
ただまっすぐと階段に向かっていくその表情は何を考えているのか全くわからなかった。

(こ、コイツはありがてェ! 何が起きたかわからねぇが今のうちにずらかるぜ!
 ヴァニラ・アイス、あいつはやばいッ! 真正面からぶち当たったらとてもじゃねぇが無事じゃすまねぇ!)

タルカスを砂で持ち上げ、教会の外へ。背後からの攻撃を警戒したが、無事に外へと出ることができた。
ほんの少ししか経っていないというのに太陽の光を浴びるのがとても心地よかった。
イギーは改めて自分が死線をくくり脱げてきたことを喜び、生き残った安堵のため息を吐いた。

(こうしちゃいられねぇ。もう間に合わねぇかもしれねぇがおっさんの手当をしてやらねぇと)

82 : ◆c.g94qO9.A :2014/05/19(月) 23:41:08.16 ID:Tt5LDhGX.net
足裏にレンガを感じながら路地を急ぐ。ここまでくれば一安心だ。
もはやなんの心配もいらない。いや、まったく今度ばかりはさすがにダメかと思った。
もう二度とあんな死線をくぐり抜けることはできないだろう。もう一度やれと言われてもきっと無理なはずだ。
タルカスにとっては不運だったが、こればかりは仕方ない。せめてどこか静かな場所で看取ってやろうか。
そうイギーが考えていた時だ。


本当にそうだろうか。


イギーは足を止め、振り返る。入口に待ち構えていたヴァニラ・アイスは姿を消していた。
どうやら本気でタルカスとイギーを見逃す気らしい。
匂いもなし。忍び足で近づいてくるような音も聞こえない。ためしにあたりに砂を飛ばして探ってみたが、こちらも空振り。

イギーは考える。
なんのつもりだ。一体何を企んで、どんな策にはめようとしているのか。
なぜさっき殺さなかった。これ以上ない絶対のチャンスだったはずなのに。
答えはわかっている。ほんとうはとっくにそれにたどり着いていた。
ザ・フールに一粒の涙がこぼれてくる。担いだタルカスの頬を伝い、乾いたスタンドを濡らしていく。

(あの野郎……ッ!)

半身をえぐり瀕死の大男。恐怖にすっかり縮み上がり、臨戦態勢を取った犬。
ヴァニラにとってイギーたちは始末する価値すらなかったのだ。
もしかしたら、万が一、億が一もないがこれらを始末する隙をつかれDIO様に危険が及ぶかもしれない。
そのほんのわずかなリスクの前に、イギーたちは敗れ去ったのだった。

タルカスは身も心も、文字通り張り裂けてしまいそうだった。
死んでも死にきれない気持ち。無念、その気持ちでいっぱいだった。
戦士としてこんな屈辱はない。戦いの土俵にすら上がれず、なんの結果も残せないまま自分は死んでいく。
惨めで情けなくて、でもどうしようもなくてタルカスは泣いたのだった。
命の最後の最後を振り絞って泣き声を喉の奥で噛み殺し、そうして彼はゆっくりと砂の上で冷たくなっていった。

イギーは何もできなかった。せめて安らかにタルカスが逝けるよう、傷口を砂で覆ってやるのが精一杯。
冷たくなった大男を地面に横たえた時、イギーを焦がすような怒りが湧き上がってきた。

(この俺が喜んだ……。ヴァニラ・アイスという人間に慈悲をかけられた時……。
 俺はあの一瞬、ホッとしちまったんだ。
 馬鹿な犬だと思われてよかった。これで助かる、俺は生き延びたッ!
 そう思っちまったんだ。そのザマがなんだッ、くそったれ!
 見ろよ、コイツの顔をッ! 見ろよ、この悔しそうな顔をッ!)

尻尾を向けていた教会へと向き直る。
ザ・フールを呼び出すと、イギーはフルパワーでスタンドを絞り出した。
街中の砂という砂を……川を越え、街を越え、ありとあらゆる場所から呼び寄せていく。
力を振り絞ったあまり、頭が割れんばかりに痛んだ。目の前がぼやけてみえ、足もとがふらつく。

(だがよォ……!)

83 :創る名無しに見る名無し:2014/05/20(火) 02:06:12.14 ID:J0PtUQBJ.net
C

84 :◇c.g94qO9.A代理:2014/05/20(火) 05:56:26.41 ID:WHHfN6ck.net
「……なんのようだ」

教会の横長のベンチに腰掛けたヴァニラがそう問いかけてきた。
入口から差し込む陽を背に、イギーは無言のままスタンドを出す。
体を膨らまし、唸り声を上げる。
威嚇ではない。怯えでもない。怒りだ。自らへの怒り。戦士の誇りを踏みにじった、ヴァニラへの怒り。

「…………」

ヴァニラはしばらく無言のままだったが、やがて答えるようにスタンドを構えた。
憐れむように見るでもなく、退屈そうに見るのでもない。
仕方ない、と言いたげな様子でクリームを繰り出す。イギーは砂を操ると、いつもの犬の形ではなく人の形でクリームを迎え撃った。

砂の手が床に転がっていた槍を取る。砂の大男はその体を膨らまし、ヴァニラを飲み込まんと叫んだ。
教会全体が震え、ステンドガラスが砕け散る。ヴァニラはまるでそよ風を受け止めるように穏やかな表情だ。

(ちっ、別に恩返しだとかじゃねぇからな。
 大サービスだ。あんな悔しげな様子で逝かれちまったらよォ〜、俺だって後味悪いからなッ!
 さぁ、どっからでも来いッ! この槍でけちょんけちょんにしてやるぜッ!)

小手調べとばかりに放った濁流を無尽蔵に飲み込むクリーム。
それが戦いの合図だった。
街中から集まった砂は天から降り注ぎ、教会の屋根をぶち壊しながらヴァニラの頭上に降り注いだ。
イギーの操る大男が槍を振り下ろす。空振りに終わった一撃は床板を砕き、天井を揺らし、建物全体を破壊していく。




【D−2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会 地上/一日目 午後】
【イギー】
[時間軸]:JC23巻 ダービー戦前
[スタンド]:『ザ・フール』
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:ここから脱出する。
1.ヴァニラ・アイスをぶっ飛ばす。
2.花京院に違和感。
3.煙突(ジョルノ)が気に喰わない

【ヴァニラ・アイス】
[スタンド]:『クリーム』
[時間軸]:自分の首をはねる直前
[状態]:健康
[装備]:リー・エンフィールド(10/10)、予備弾薬30発
[道具]:基本支給品一式、点滴、ランダム支給品1(確認済み)
   『オール・アロング・ウォッチタワー』 のダイヤのK
[思考・状況]
基本的行動方針:DIO様のために行動する。
1.イギーを始末する。

85 :◇c.g94qO9.A代理:2014/05/20(火) 05:59:25.65 ID:WHHfN6ck.net
ゴールド・エクスペリエンスが放った拳は確実にDIOを捉えていた。
不意を付いた一撃目をボディに叩き込み、体制が崩れたところに、すかさず二発目をねじり込む。
そして三発目がDIOの表面に触れたまさにその瞬間。
一秒の隙もなく、コンマ五秒の時差もなく、完全に―――ジョルノの攻撃は空をきった。

ほんの一瞬前までそこにいたはずのDIOの体をすり抜け、ゴールド・エクスペリエンスの拳は虚しく宙をかく。

「どういうつもりかな、ジョジョ」

ジョルノは内心の驚きを隠しながら、すぐさま振り向いた。
視線の先には黄金のスタンドを脇に従え、こちらを見下すDIOがいた。

「僕はあなたたちとは相容れない存在だということです」
「理由を詳しく説明してもらおうか」
「ならば逆に問いましょう。なぜタルカスさんを襲ったのですか」

右胸のポケットに入れたブローチをそっと撫でる。
二つ対で作ったブローチの内一つはジョルノが持ち、片方はタルカスに渡した。
そのタルカスに渡したはずのブローチが『消えた』のをジョルノはスタンド越しに感じた。
反射するのでもなく、激しく揺れるのでもなく消滅。
それが意味すること、そしてそれが可能なもの、それをする理由を持つもの。
全ての元凶と思われるものは、目の前にそびえ立つ存在のみ。

二人の間を沈黙がしばらく流れ……DIOは嘲るように笑いを漏らした。

「君は羽虫を踏み潰すのにいちいち理由を求めるのかね?」

ジョルノは床を強く蹴り、DIOに向かって跳んだ。
怒りが頭の中で火花を散らし、視界が赤い靄で覆われる。
自分の勘違いであるという可能性は潰えた。DIOになんのことだかわからない、と困惑して欲しい希望は消えた。
この瞬間、ジョルノは父を失った。

父を好きになれるか不安な気持ち。
無条件の愛を注いでくれる家族という存在。
孤独感、正義の心、怒り、悲しみ、屈辱、諦め……。
ほんの一瞬のうちにジョルノの中で感情がうずまき、破裂した。

望んだはずの結末は最も残酷な形で終わりを迎えた。
抱いた夢は一瞬で崩れ落ち、こぼれ落ちる砂のように、二度とその手に戻ることはない。


「「無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」」


二つ重なった声が納骨堂に響き渡る。二人の間を無数の突きが行き交っていく。
互いの能力が朧げにしかわからない今、共に強く前に踏み込むことはしない。

「フン、蛙の子は蛙か……だが甘い。まさかまだこの私に思慕の念を抱いているのか、ジョルノ?」
「あなたは吐き気を催す、最悪の邪悪だ」
「褒め言葉として受け取ろう」

地面を拳で打つと、あらかじめ仕込んでおいた能力が花開く。
石畳の隙間から蔦が伸び、力強く咲いた木が天向かって伸びていく。
何もかもが崩れていく。ガラガラと豪音を立て、壁が、天井が、床が壊れていく。

そんな中でも二人は拳をぶつけ合う。
降りしきる瓦礫をもろともせず、崩れ落ちる足元を意に介さず。
全身全霊を持って二人は対峙する。

それぞれの信じる『己』を証明するために。

86 :◇c.g94qO9.A代理:2014/05/20(火) 06:01:08.92 ID:WHHfN6ck.net
【D−2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会 地下/一日目 午後】
【DIO】
[時間軸]:JC27巻 承太郎の磁石のブラフに引っ掛かり、心臓をぶちぬかれかけた瞬間。
[スタンド]:『世界(ザ・ワールド)』
[状態]:全身ダメージ(大)疲労(大)
[装備]:シュトロハイムの足を断ち切った斧、携帯電話、ミスタの拳銃(0/6)
[道具]:基本支給品、スポーツ・マックスの首輪、麻薬チームの資料、地下地図、石仮面、
    リンプ・ビズキットのDISC、スポーツ・マックスの記憶DISC、予備弾薬18発
   『ジョースター家とそのルーツ』『オール・アロング・ウォッチタワー』 のジョーカー
[思考・状況]
基本行動方針:『天国』に向かう方法について考える。
1.ジョルノ・ジョバァーナの血を吸って、身体を馴染ませたい。
2.承太郎、カーズらをこの手で始末する。
3.蓮見琢馬を会う。こちらは純粋な興味から。
4.セッコ、ヴォルペとも一度合流しておきたい。


【ジョルノ・ジョバァーナ】
[スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』
[時間軸]:JC63巻ラスト、第五部終了直後
[状態]:体力消耗(小)
[装備]:閃光弾×3
[道具]:基本支給品一式、エイジャの赤石、不明支給品1〜2(確認済み/ブラックモア)
    地下地図、トランシーバー二つ
[思考・状況]
基本的思考:主催者を打倒し『夢』を叶える。
1.DIOを倒す。
2.ミスタ、ミキタカと合流したい。
3.第3回放送時にサン・ジョルジョ・マジョーレ教会、第4回放送時に悲劇詩人の家を指す
[参考]
※時間軸の違いに気付きましたが、まだ誰にも話していません。
※ミキタカの知り合いについて名前、容姿、スタンド能力を聞きました。






【タルカス 死亡】

【残り 40人】

87 :◇c.g94qO9.A代理:2014/05/20(火) 06:03:21.82 ID:WHHfN6ck.net
以上です。誤字脱字、矛盾点等ありましたら指摘ください。

代理投下終了です。

88 :創る名無しに見る名無し:2014/05/21(水) 13:02:45.94 ID:kmqPG5xR.net
投下乙
戦えず死んだことに涙するタルカスも、それに義憤を感じるイギーも良い!!
イギーvsヴァニラアイスか…
原作ではポルナレフがいたが、今はイギーだけ。どうなるか

DIOはこうくるか・・・
ジョルノがただただかわいそうだ。色々な気持ちを裏切られたな
勝って欲しい

89 :創る名無しに見る名無し:2014/05/21(水) 21:25:02.38 ID:5Xk6zQ0S.net
投下乙です
原作のバトルが再びこんな形で再現されるとは
ジョルノはジョジョとしてDIOと戦うことを選択した事を本当はしたくなかったんだろうな
ジョナサン、フーゴは間に合うのか

90 :創る名無しに見る名無し:2014/05/22(木) 09:01:23.52 ID:XpC3I4kN.net
そういや、ジョナサンとフーゴがまっすぐ西に向かってるってことは…空条邸の近くを通るな。
問題はいつ通るかだ。隠蔽してる最中ならスルーだろうけど。

91 :創る名無しに見る名無し:2014/05/28(水) 19:45:03.66 ID:VZmDEE8N.net
今の予約が来たら、動いてないのはカーズだけか

92 : ◆LvAk1Ki9I. :2014/05/29(木) 00:14:00.47 ID:JhKvNPE5.net
ジョセフ・ジョースター、ルドル・フォン・シュトロハイム、花京院典明、ペット・ショップ、東方仗助、広瀬康一、噴上裕也、空条承太郎、エルメェス・コステロ、ジョンガリ・A、マウンテン・ティム、シーラE
投下開始します。

93 :Trace ◆LvAk1Ki9I. :2014/05/29(木) 00:20:26.78 ID:JhKvNPE5.net
盲目の狙撃手―――ジョンガリ・Aは静かに佇んでいた。
彼の視線………いや、顔を向ける先には五人の男女。

彼は決していなくなったわけではなく、相手のスタンドの射程距離を予測してギリギリ射程外から付かず離れずで追っていた。
というのも、ジョンガリ・Aにはどうしても気になる人物がいたのだ。
自らが監視する五人組、その中でも特に背の高い青年―――ただし、その名前すらジョンガリ・Aにはわからなかったのだが。

ほとんど視力の無い彼であるが、スタンド能力で相手の外見についての判別はできる。
可能なのは相手の身長や体格程度………しかし、それ故に理解してしまったのだ。
青年のそれは、記憶の中にあった自らの主と『同一』の部分が多すぎるということを。
無論、隅から隅まで同じというわけではない。
首から上などは明らかな違いがあるし、なにより自身の主は太陽の下には出てこない。
よく似た別人という線も十分あり得る。

だが、ジョンガリ・Aは青年―――ジョナサン・ジョースターの正体を知りたいという誘惑を払いのけられなかった。
もしかしたら、主と何か繋がりがあるのではないか………名簿を読めず、事情も知らぬ彼が一纏の望みを持つのは無理からぬことであった。
しかし、集団自体が敵か味方かもわからないこと、五人という大人数であること、数を減らそうにも残弾数の関係上無駄玉は使えないこと―――
そういった諸々の理由から彼らが別の参加者と遭遇するか、あるいは確実に仕留められそうなタイミングを待つ………
要するに状況が変化するまで監視し続けることを選択していたジョンガリ・Aだったが、意外にも先に状況が変化したのは自分の方だった。


第二放送の直前だったろうか、ジョンガリ・Aは『それ』に気付きすぐさま自身の背後へと狙いを定めた。
銃口の先、はるか上空にいたのは一羽の鳥。
首元にはスカーフ、頭には飾りつきの兜という、およそ鳥には似つかわしくない格好に彼は覚えがあった。
主の館の見張り役を務めており………おそらくは『しくじった』ハヤブサ。

一片たりとも油断はできなかった。
相手の凶暴さはよく知っていたし、なにより年月がたった今では向こうが自分を知り合いだと認識できるとは思えない。
だがそんな心配をよそに鳥は上空近くまで来ると『何か』を落とし、そのまま飛び去っていった。
やや離れた場所に落ちた後、ジョンガリ・Aの元まで歩いてきたそれは………一枚のトランプだった。

ジョンガリ・Aは風に飛ばされたトランプの位置を一枚残らず正確に把握できる能力の持ち主である。
いかに小さかろうが、いかに隠密行動をしようが、『空気の流れ』に関わる以上は認識が可能なのだ。
彼は瞬時に、落ちてきたトランプが『ずっと前から』会場のあちこちを動き回っていたのと同一のものだと理解した。

(何者かはわからないが、これまでの行為を考えても友好的でないことは確実………
 接近してきた以上は先手を取って始末するべき………)

だが無言のまま引き金を引こうとした次の瞬間、あろうことかトランプは人間の言葉で喋りはじめ………

『あーっ、待った、待った、ジョンガリ・A………人違いじゃあないよな?………DIO様がお呼びだ』
「………………!!」

向けられていた銃は、一瞬のうちに下ろされた―――

94 :Trace ◆LvAk1Ki9I. :2014/05/29(木) 00:30:34.39 ID:JhKvNPE5.net
#


空を舞うハヤブサ、ペット・ショップは捜し人をしていた。
第二放送の少し前、DIOはカンノーロ・ムーロロというこの上ない『情報』を手に入れた。
だがそれにより、ペット・ショップは『ジョースター捜索命令』を実質お役御免となってしまったのだ。
変わりに命じられたのは伝言………というべきか。

―――ムーロロの情報によって残りの参加者のほぼ全員が把握できた中、DIOは残る部下であるジョンガリ・Aとコンタクトを取ることに決定した。
聞いた話では彼の外見は大きく変わっているようだが、それはおそらく『彼は相当な未来から来た』ということ。
今なおDIOへの忠誠心が残っているかはわからなかったが、うまくすれば戦力になるだけでなく『未来』の情報が手に入る可能性もあるのだ。

だがジョンガリ・Aの位置は微妙に遠く、他の参加者達もそれぞれが徒党を組み始めている以上、あまり時間をかけすぎると彼が戦闘に巻き込まれ命を落とす可能性もある。
そこで、伝言役となる『ウォッチタワー』のトランプを最も速く彼の元まで運ぶことが出来るペット・ショップが選ばれたというわけだ。
ペット・ショップ自身は正直この仕事に何の面白みも感じていなかったものの、DIO直々の命令となれば無視することもできない。
凶暴な性格とはいえ『戦ってはならない相手』は理解できるのだ―――


さて、特にトラブルもなく目的の人物の元へトランプを落とした(というよりもトランプの方から飛び降りていった)ペット・ショップ。
身につけるスカーフの中に潜むもう一枚のトランプから聞こえてきた声によれば、次の命令は―――空条承太郎の抹殺。
無謀というなかれ、この命令が出された時点では承太郎は一人きりであったのだから。
勝算はある―――少なくとも、かすり傷すら与えられずに殺される程愚かでも弱くもないという程度にはペット・ショップは信頼されていた。

トランプが指定する場所まで向かい始めるペット・ショップだったが、すぐに問題が発生する。
それは承太郎を見張らせていたトランプが気付かれて『始末』されてしまったこと。

元々ムーロロが探索に出しているのは赤スートの二十六枚、その内およそ四分の一は各地に散ったDIOの部下に持たせられていた。
地上と地下の区分もある以上、残りのカードで会場全体の参加者を把握するとなると、どうしても一方面に回せる枚数は少なくなる。
早い話トランプが始末されたことにより、ムーロロは一時的に承太郎を見失ってしまったのだ。

ムーロロにとって不運だったのは、この間承太郎が常に『乗り物』で移動していたこと。
『ウォッチタワー』が如何にスタンドといえど、本物のトランプを媒介にしている以上瞬間移動はできない。
トランプの移動速度では、乗り物に乗る承太郎を見つけても追いかけ続けることができないうえに、同乗して近づきすぎればまた『始末』されかねない。
この時点で、ムーロロが承太郎を監視し続けることは実質不可能となっていたのだ。
さらに言えば、ムーロロとしても他にやるべきことは山ほど存在するわけであり………
結果、ティムの馬で、そして救急車で知らないとはいえ甘くなった監視の隙間を縫うように承太郎は進んでいた。


一方ペット・ショップにしてみればあちらへ飛べ、今度はこちらに飛べと言われ、挙句の果てには謝罪の言葉と共にわからなくなった、である。
『マニック・デプレッション』の治療により疲労をほとんど忘れているため体力的には問題ないが、元々気が長い方ではないペット・ショップの精神面は荒れ狂っていた。
こんなことなら、妙な紙切れに頼るのでなく最初から自分だけで探せばよかった、と。
イライラは頂点に達し、トランプを引っ張り出して引き裂いてやろうかと思った矢先、視界にあるものが入ってくる。

―――それは、会場の一点から立ち上る煙であった。

95 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 00:31:47.93 ID:3q5cK9EG.net
支援

96 :Trace ◆LvAk1Ki9I. :2014/05/29(木) 00:41:09.12 ID:JhKvNPE5.net
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一路空承邸へと向かう救急車の車内。
運転を女性二人にまかせ、後部に乗り込む男達はつかの間の休息を取っていた。
外で併走するマウンテン・ティムを除けば六人。
走り始めてしばらく、すぐ襲い掛かる脅威は無いと判断した彼らは後方確認と左右の窓に一人ずつ、計三人まで見張りを減らし、残りは今後に備えてじっくりと体を休めていた。
特に、疲労が蓄積しているうえ碌に睡眠もとっていない康一などは死んだように眠りについている。

(承太郎さん………)

そんな彼らを順に治療する東方仗助は、左の窓から様子を伺う承太郎を眺める。
表情は相も変らぬポーカーフェイスだったが、その目は明らかに自分が今まで見たことのない目であり………
今の空条承太郎が自分の全く知らない一面を現しているということを否応無く理解させられた。

(俺も、こんな風になってたかもしれねえ………アンジェロにじいちゃんを殺されたときに
 髪型をけなされる以上にブチ切れて、家具どころか所構わず八つ当たりを繰り返すようなことに………
 そうならずに済んだのは、あんたがかけてくれた言葉のおかげなんですよ、承太郎さん………)

あの時の言葉、『生命が終わったものはもう戻らない』………
理由があるとはいえ、他者の命を奪い続ける今の彼から同じ言葉を聞かされたとして、納得はできるだろうか?
………できるわけがない。

(俺が………いえ、俺達があんたを止めますよ………
 あんたをこの殺し合いに乗ったクソッタレ野朗なんかと一緒にだなんて、絶対にさせやしません)

仗助が決意を固めたその時。
シュトロハイムと交代して右の窓から外を見張っていた噴上裕也が首を傾げつつ声を発した。

「おい、妙だぜ………妙な『臭い』がしやがる………」

その言葉に起きている者全員が彼に注目する。
応えたのは承太郎。

「妙………何の『臭い』だ?」
「………間違いねえ、こいつはガソリンの『臭い』だ。それもかなりプンプン臭ってきやがる」

敵襲なのか、それとも別の問題なのか。
判断しかねた仗助はとりあえず思いついた可能性について口に出してみる。

「………この車のガソリンが漏れてるって事か? なら俺の『クレイジー・ダイヤモンド』で―――」
「そうじゃあねえ………この救急車じゃなく、ずっと先のほうから臭ってきやがるんだ………」

噴上の返答が終わるや否や、運転席側にいたエルメェスが叫び声を上げる。

「ヘイッ! 大変だ! 遠くで煙が上がってやがるッ………あれはたぶん、火事だッ!!」
「「「「!!?」」」」
「………スピード上げるみたいよ。寝てるやつは放り出されないよう、叩き起こしときなさい」

続くシーラEの言葉を受け、慌てて後部の男達は眠る者を起こし始める。
―――休憩の時間は終わりだ。

97 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 00:41:33.13 ID:3q5cK9EG.net
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98 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 00:42:56.59 ID:ysWZgXMS.net
支援

99 :Trace ◆LvAk1Ki9I. :2014/05/29(木) 00:49:52.62 ID:JhKvNPE5.net
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「離してッ! お願いだからッ!!」
「バカ言ってんじゃあねえッ! どう考えても二次災害になるに決まってるだろうがッ!!」

燃え盛る空条邸の門前。
近くで救急車を降りて徒歩に切り替えた一行は、ここで意見が分かれていた。
―――『突入』すべきか否かで。

「中にいるやつが怪我してうごけねーなら、俺がなおしてやらなきゃならねえだろうがッ!」
「わかってるから落ち着けよバカ息子ッ! クソッ、どっかに消防車支給された奴はいねーのかッ!!?」

人数が多いとはいえ、残念ながら瞬時に火事をどうにかしてしまえる能力を持つ者はいない。
ならば、体を張ってでも中の様子を調べる必要があると主張する仗助や康一。
対して安全策を講じるべきであり、今は様子を見るべきだと主張するジョセフや噴上。
シュトロハイムが突入しようとする者を半ば力づくで押さえつけている間にも火の勢いは弱まることなく、屋敷を飲み込み続ける。
一方承太郎とティムは議論には加わらず、屋敷の庭や周囲など比較的火事の影響が少ない箇所を調べるため別行動を取っていた。

そして、同じく議論をよそに門の下でなにやらやっているのは女性二人………主にシーラE。

「エリィッ!」

彼女は『ヴードゥー・チャイルド』の拳で門の柱や、近くの地面を次々に殴りつける。
ひび割れたそれらは能力で唇の形になり、喋りだしたのだが………


『……………は命……めるだけ………』   『………ン通勤……………と結構………じゃ………か』

       『…………人数…多………………』      『…は今か…………踏み………………からそ………………ぶち…………もり…』

  『………………京院………疑………な真似………しまった』          『……………………ラ、ピ……モ………レラ♪』


「………ダメね、火事の音が邪魔で碌に聞き取れたもんじゃないし
 第一こんな入り口で重要な会話がされたなんて思えないわ」
「チッ、どっちにしてもこの火を何とかしないといけねーってワケか」

何らかの手がかりにならないかと思いスタンド能力を行使してはみたが、そもそも何を言っているか聞こえないのではどうしようもない。
ひとまず二人は結果を伝えるべく、未だ議論を続ける仲間の元へと戻る。
そこへ、屋敷の外周をぐるりと一周して様子を見て来た承太郎達も帰ってきた。

「承太郎さん、あんたの意見を聞きましょうッ!!」

彼ならば、中を調べる良いアイディアのひとつやふたつ思いついているのではないかと期待を込めて仗助は呼びかける。
だが承太郎が発したのは………予想外の一言。


              「………ここに来たのは完全な無駄足だった。すぐに出発するべきだ」

100 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 00:51:12.44 ID:ysWZgXMS.net
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101 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 00:51:15.31 ID:3q5cK9EG.net
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102 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 00:56:22.02 ID:KM3n7h5M.net
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103 :Trace ◆LvAk1Ki9I. :2014/05/29(木) 01:00:32.34 ID:JhKvNPE5.net
突入するでもなく、火事をどうにかするでもなく、『無視』するという意見。
驚かれるのは予想の範囲内だったらしく、当然のように承太郎は言葉を続ける。

「時間がもったいないから手短にいくが………重要な点は三つだ。
 ひとつ、多少距離があったとはいえ、爆発音らしき音は誰も聞いていないこと。
 ひとつ、噴上によればガソリンの臭いがしたこと。
 ひとつ、すぐかけつけたにも拘らず家の全体にほぼ満遍なく火の手が廻っていること………
 どれをとっても、戦闘中に偶然引火して火事が発生したにしては不自然すぎる」

納得した者、いまいち理解しきれなかった者と反応は様々だったが………
仗助が結論を促す。

「ってことはまさか………」
「そうだ。出火原因は『放火』と見て間違いない」

言いつつ承太郎は歩き出し、他の皆も彼について行き次の言葉を待つ。
一分かそこらで承太郎は目的の場所に辿り着くと、そこにあったものを指して言った。

「納得できないって顔してる奴がいるな………仗助、これを『なおして』みろ」
「え、これって………いえ、わかったっス」

彼らの目の前にあったのは外壁隣に止めてあった、僅かに破損した自動車。

―――車が燃えるという話はテレビのニュースなどでよく聞くかもしれない。
だが車両火災の最も大きな原因はガソリンに引火することである。
それを除けば、自動車の外装はほぼ金属―――可燃性の部分も無くはないが、それでもごく一部。
すなわち、ガソリンタンクが丸ごと無い車はそう簡単に燃えたりなどしないのだ。

この車は1980年代の物とはいえ高級車であり、火災への安全対策も決しておざなりではなかった。
そして彼らの到着が比較的早かったため犯人の思惑ははずれ、車はまだ『燃えていなかった』―――

「『クレイジー・ダイヤモンドッ』!!」

仗助は車の壊れた部分にスタンドの拳を叩きつける。
すると………なおされたことにより、屋敷内から焦げたガソリンタンクがブッ飛んできたッ!
ガソリンそのものは全て燃えつきていたものの、十分高温であろうそれを慌てて皆が避ける。

「見ての通り、ガソリンタンクだけが家の中にあった………これで十分だな?」
「………………」

犯人は車からガソリンタンクを持ち去り、屋敷内にガソリンを撒いて『放火』した―――一目瞭然、というよりそれ以外には考えられなかった。
ほとんどの者が押し黙る中、反論したのはティム。

「『原因』はわかったが、それとこれとは話が別だ。中に生存者が残されている可能性は―――」
「人間がどれだけの時間で焼け死ぬかは個人差があるだろうが―――」
「………!!?」

彼の言葉をさえぎり、突然承太郎は『星の白金』の指でティムの首を抑える。
シュトロハイムやシーラEは一瞬だけ身構えるも、他の者が見ているだけ―――彼らを信用していることに気付き警戒を解いた。

「―――こうやって首をへし折るほうが、ずっと速い」
「―――!!」

104 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 01:01:41.65 ID:ysWZgXMS.net
支援

105 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 01:03:02.83 ID:KM3n7h5M.net
支援

106 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 01:04:56.62 ID:KM3n7h5M.net
承太郎……
支援

107 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 01:05:03.82 ID:N7Ihp+Mi.net
 

108 :Trace ◆LvAk1Ki9I. :2014/05/29(木) 01:10:13.29 ID:JhKvNPE5.net
その一言でティムも彼の言いたい事を理解した。
外の車までガソリンを取りに行き、屋敷に満遍なく撒いて火をつける………そんな暇があるなら生存者など簡単に始末してしまえる。
むしろ犯人からしてみれば逃げられる可能性がある以上、生かしておく選択肢など無い、ということ。
車を『壊して』タンクを取り出した以上、まさか犯人が人間一人殺せないほど非力というわけでもないだろう。

「つまり、この火災は誰かを焼き殺すためではなく『証拠隠滅』が目的ということだ。
 後はこうやって集まってきた誰かの『足止め』も兼ねてるってところか………
 どちらにせよ、中に生存者がいる可能性は限りなくゼロに近いだろうな」

ようやくティムの首から指をはずし、承太郎は結論を述べる。
そんな彼に次に口出ししてきたのは………康一だった。

「でも、それって………」
「そうだな、すべては『推測』に過ぎん………
 ひょっとしたら誰かが火の中で動けず、必死に助けを待っている可能性も無いとは言い切れないだろう………
 俺にお前たちを止める権利は無い、どうしても調べたいというのなら勝手にやれ。
 だがその場合………俺は抜けさせてもらう」
「………なんで」

冷静な言葉………だが、康一にとっては『冷酷』に聞こえたのだろう。
康一の肩が震えだした次の瞬間、彼の口から堰を切ったように言葉が溢れ出てきた。

「なんでそんなこと言えるんですかッ!? 頭の中だけで完結して、行動も起こさずにッ!!
 それに、ここって承太郎さんの家じゃあないんですかッ!? なんとも思わないんですかッ!!?」
「そう思うなら、今すぐ中に飛び込んでみればいい………言ったとおり、俺は止めやしない。
 そしてここは世界のどこにもあるはずのない、デタラメな場所………建物も、似ているだけだ」
「………………!!」

まっすぐ康一の目を見ながら、淡々と承太郎は答えた。
睨み返すように彼の目を見返した康一は………一瞬、気圧される。
怒りなのか悲しみなのか、それらが混ざったものなのか、はたまたどれでもないのか………康一には判別できない感情がそこにあったのだから。
承太郎から視線を外した康一は最後の足掻きとばかりに『エコーズ』を出し、燃える屋敷に向かってありったけの声量で叫んだ。


              「誰か、いませんかーーーッ!!? いたら返事してくださーーーいッ!!!」


『声』は屋敷内へと吸い込まれていき………それきりだった。
数秒待ち、反応がないのを確かめた承太郎はさっさと救急車を停めた場所へと引き返していく。
周りのものも、彼らにどう言葉をかけていいかわからず………ひとり、またひとりと承太郎の後を追い始めた。

「………康一」

最後まで残った康一の肩に、仗助がそっと手を置く。
彼もまた納得しきれてはいなかったが、それ以上に康一も承太郎もひとりで行かせてしまうわけにはいかなかった。

「どうしても家の中に行くってんなら俺も付き合うぜ………
 そうじゃねえなら、こんなとこでボーっとしててもしょうがねーだろ?」
「仗助くん………」

仗助も………いや、おそらく全員が何も出来ない辛さを隠しているのだろう。
自分がこんなところで立ち止まり、彼らの歩みまで止めてしまうわけにはいかない………
そう考えた康一は結局………振り返りつつも、空条邸を後にした。

109 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 01:11:39.48 ID:ysWZgXMS.net
ペース上げても大丈夫なんじゃないかな支援

110 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 01:13:49.62 ID:KM3n7h5M.net
外で待ってる間にこっそり歌ってたジャイロにわろた支援

111 :Trace ◆LvAk1Ki9I. :2014/05/29(木) 01:19:31.74 ID:JhKvNPE5.net
「さっきまで火の側にいたせいか、妙に寒く感じるわね………エルメェス、早くエンジンかけてよ」
「ちょっとまてシーラE………なんか、かかりにくいんだ」

もやもやする気持ちは残りながらも一行は救急車へと引き返していた。
最初に乗り込んだエルメェスは何度もキーをひねるが、うまくエンジンがかからない。
そんな運転席の後ろで、次々に男達も再び救急車へと乗り込む。
馬に乗るティムは別なので、六人全員が乗り込んだのを確認し、康一が後ろの扉を閉めた。

「ひい、ふう、みい………うん、全員乗ってるよ」
「あ……康一、後ろは閉めないほうがいいんじゃあ………」
「……ごめん、わがままになるけど今は―――」

外の様子を見たくない………続く言葉でなんとなく察した仗助も話題を変える。

「………まあいいか、それで承太郎さん、これからどうするんスか?」

話を振られた承太郎は窓の外へと向けていた視線を戻し、床に地図を広げる。
禁止エリアや各人の進んできたルートが細かく記されているそれを全員が覗き込んだところで承太郎の説明が始まった。

「………ここにいる全員の情報を合わせれば、地図の中央部付近と北方面、東方面はあらかた調査したことになる。
 残りの方角は未知のエリアだが………正直行くべき場所の当ては無い。
 それに問題はもうすぐ陽が沈むことだ………できればその前にDIOを見つけて、けりをつけておきたい。
 だから―――おい、まだ動かないのか?」

話の途中、エンジンが未だにかからないのに気付いた承太郎は運転席へと呼びかける。
その後ろでは残った者達が議論の続き………というよりは話の中心にいた承太郎が抜けていたため、単なる会話をしていた。
だが………

「………にしても、なんか寒くねーッスか? 俺だけ?」
「ブァァァカ者がァアアア! 戦場では苛酷な環境での行軍もある! これしきの寒さでへこたれるなど、軍人の風上にも置けんわァアアア!!」
「軍人はアンタだけだろッ! ………けど、確かにちっと寒いな。エアコン入れっぱなしだったか?」
「噴上くん、エンジンかけないとエアコンは………」
「………………待て」

話の途中、突如承太郎が口を挟む。
明らかに口調が変わった彼に他の者も会話をやめてそちらを向き………次の瞬間、承太郎が叫んだ!

「………全員、急いで降りろッ! 俺たちは『嵌められた』ッ!!」
「!? は、はい………あれ?」
「どうした、康一ッ!?」

最もドアに近い位置にいた康一が驚きながらも彼の言葉に従おうとして、その動きを止める。
振り向いた彼は………悲痛な叫び声を上げたッ!!

「大変だッ! 扉が『開かない』ッ!!」
「「「「なッ!!!」」」」

「危なァ―――い! 上から襲って来るッ!!!」

外からティムの声が聞こえた次の瞬間、救急車の車体は押しつぶされていた―――
上空から降ってきた巨大な『氷塊』によって!!

112 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 01:21:16.91 ID:ysWZgXMS.net
支援

113 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 01:22:17.56 ID:KM3n7h5M.net
支援支援

114 :Trace ◆LvAk1Ki9I. :2014/05/29(木) 01:24:44.73 ID:JhKvNPE5.net
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油断していた―――はっきりそう言えるだろう。


数分前………空条承太郎は救急車の後側に乗るものの中では最初に乗り込み、窓際に座って考え事を始めた。
内容は勿論、空条邸の火事について。

庭の池で見つけた死体は………モハメド・アヴドゥルのものだった。
やはり涙は出てこない……今の自分には悲しみで泣いている時間などないのだから。
自分もよく知る彼のスタンド能力は炎を操ること………だがおそらく火事そのものには無関係だ。
彼は自分の意志でスタンドの炎を消してしまえたし、なによりガソリンの説明がつかない。

一方、庭に倒れていた誰かもわからない丸焦げの死体。
ティムはアヴドゥルがやったと考えていたようだが、あの死体の焦げ方には覚えがあった。
なにしろ自分も一度『そうなりかけた』のだから。

そして、このクソッタレな殺し合いの場では、どこそこに死体が転がっていようとなんら変哲のないことのはずなのだ。
にもかかわらず、証拠隠滅のためとはいえわざわざ目立つ火事を起こした以上、犯人はよほど自分の犯行を隠したかったということになる。
―――そんなことをする奴の心当たりなど、ひとつしかなかった。

推測は一本の線となり、一人の人物が浮かんでくる。
そう、話題に挙がることはなかったが、承太郎には犯人の目星がついていた。
犯人の偽装工作は決して下手なものではなかったが、アヴドゥルと犯人の両方をよく知る承太郎を騙すには至らなかったのだ。

(ムカつくが、奴はまんまと逃げおおせて今頃高笑いでもしてるってところか―――吉良吉影ッ………!)

彼ならばこういう『処理』には相当慣れている………屋敷内に自分がいた証拠なんて残していないだろう。
また車を放置していった以上、それに代わる乗り物があったか、あるいは追跡が困難な逃走経路………例えば地下を使ったか。
いずれにせよ、まだ近くをウロウロしているなんてことは考えられない。

そしてシーラEのスタンド能力で犯人がわかったとしても逃げた方角まではおそらくわからないだろうから、火事が治まるまで待つのは時間の無駄だ。
だから承太郎はさっさと出発するべきだと提案したのだ………始末するべき敵は、彼だけではないのだから。

(………吉良、か。そういえば『彼女』は………)

次に思い浮かぶのは川尻しのぶのこと。
時間的にはとっくに空条邸に辿り着いていただろうが、彼女が吉良相手にうまく立ち回れたとはとても思えない。
来ていなかったとしても、それはそれでトラブルに巻き込まれたということであり………どちらにしても、彼女の生存は絶望に近い。

『空条邸で待ってますからッ! 二時間でも、三時間でも……どれだけ待たされようとも待ってますからッ!』

………最後に聞いた彼女の言葉を思い出したとき、ふと承太郎の脳裏に燃え盛る空条邸の全景がよぎる。
頭の中で空条邸は次第に火が消え、焼け落ちた建物も元通りになり、玄関には『彼を待つ』母親が現れ………元の姿を取り戻していった。

(………………………)

窓から外を見る。
彼の目に映ったのは、相も変わらず炎に包まれる屋敷―――現実だけであった。

115 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 01:25:58.19 ID:ysWZgXMS.net
支援

116 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 01:27:50.15 ID:KM3n7h5M.net
支援

117 :Trace ◆LvAk1Ki9I. :2014/05/29(木) 01:29:47.07 ID:JhKvNPE5.net
―――別に生涯全てをそこで暮らしたわけではない。
―――それに大事なのは建物そのものではなく『思い出』だ。
―――なにより『あれ』はよく似せたただの作り物………本物の家がこんな場所にあるはずがない。

そんな言い訳が浮かんでは消えていく。
だが結局、目の前で見た光景は否応無く彼の心にのしかかってきていたのだ。


                   空条承太郎は、生まれ育った『帰るべき家』も失ったのだと。


もう何度目かなど数えるのも忌まわしい、心にいくつもの空洞がポッカリと開いたような気分。
仗助達に説明する間、微かに感じる寒気もそんな空虚な思いが寒さとなって表れているのかもしれない………そう思っていた。
―――周りにいる者達も同様に寒さを訴え始めるまでは。

気付いて見れば自分らしくもない、感情に流されるという単純なミス。
如何に炎の近くから移動して来たからといって、そこまで体感温度に差が出るはずも無いのに。
だがもう遅い、後ろの扉が開かないのもエンジンがかからないのもおそらくは敵の仕業………寒いことを踏まえると『凍らされて』いるからか。
『敵』は自分達をこの救急車に閉じ込め、一網打尽にするつもりだろう。

「危なァ―――い! 上から襲って来るッ!!!」

聞こえてきたのはただひとり外にいたティムの声。
そして承太郎にとってはそれこそが欲しかった情報―――攻撃の来る方向さえわかれば、自動的に回避の方向も決定するのだから。
さすがに運転席側までは手が廻らないが、そちらはそちらでどうにかしてもらうほかないだろう。


                        「スタープラチナ ザ・ワールド」

瞬時に時を止める―――

「オラオラオラオラオラ―――ッ!!!」

ひとりひとり放り投げる暇などありはしない。
救急車内にいる者たちを次々に扉の方向へと『殴り飛ばすッ』!
間髪いれずに自分も扉へと跳び、足を踏み込むと同時にスタンドの拳を振りかぶるッ!!

「オラア――――――ッ!!」

手加減無しのラッシュを扉へと叩き込む。
扉は外に張られていた分厚い氷ごと吹っ飛んで行き―――再び時は動き出す。

殴られた者達が次々に風通しのよくなった救急車の後ろから外へと吹っ飛んでいく。
残りの動作は自分が車外へ飛び出ること、それのみだったが………

(………一足、遅かったか)

扉を確実に破壊するため、手前で一旦踏みとどまったのが仇となった。
承太郎の体は前へと倒れこむのが精一杯であり………

氷塊が、着弾した。

118 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 01:30:07.43 ID:ysWZgXMS.net
支援

119 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 01:31:57.81 ID:KM3n7h5M.net
支援

120 :Trace ◆LvAk1Ki9I. :2014/05/29(木) 01:35:07.25 ID:JhKvNPE5.net
#


「ぐあっ!」     「うぎゃっ!」
      「痛ッ!!」
  「ヌグハァッ!!」   「ぶげっ!」


ありのまま、今起こったことを話せば『救急車に閉じ込められたと思ったら、いつのまにか宙を舞っていた』―――それが全員の正直な感想であった。
何がなんだかわからない中硬い地面に投げ出される瞬間、各自が反射的に受身を取ったり、スタンドでガードしたりとどうにか対応する。
そして転がる体が止まった時点で、彼らはようやく自分達が外にいることに気付く。

「皆、無事かッ!!?」

混乱する男達の元に走り寄ってきたのはマウンテン・ティム。
彼もまた自分が氷塊を避けるので精一杯であり、一旦馬を逃がしてから救急車へと戻ってきていたのだ。
その言葉を受けていち早く我にかえったシュトロハイムが声高く叫ぶ。

「ぬゥゥゥこれしきィィィイ!! ティムッ! 敵はどこだッ!!?」
「敵は………『上』だッ!!」

瞬時に顔を上へ向ければ、見上げる先には一羽の鳥。
周囲に氷があることから見ても、おそらく先ほどの罠を仕掛けた犯人―――鳥だが―――なのは確実だろう。

「動物のスタンド使い………! どう見ても、話し合いでなんとかなりそうな雰囲気じゃあねえな………」
「おまけにあんな小細工を仕掛ける知能があるってことは、ネズミ並みに厄介そうな相手ってことッスよねぇーー!」

男達が次々に起き上がり鳥へと向き直る中、シュトロハイムは周囲を確認して気付く。
細かく数えずとも、一目でわかる事実がそこにはあった。

(………人数が足りん。車から脱出し損ねたか………?)

それでも仲間の半数以上がこの場にいるのは不幸中の幸いか。
多少戦力を分散させてもなんとかなると踏んだシュトロハイムは、指示を出した。

「JOJO、ジョースケッ! お前たちは救急車の方へ行けいッ!
 フンガミは周囲の警戒だ! 敵があれだけとは限らんッ!
 残りの者であの鳥公を仕留めるぞッ!!」

「「お、おうっ!」」 「任せろッ!」 「はいっ!」 「わかったっ!」

彼らは力強く返事をすると共に、自分の仕事を果たすべく駆け出す。
その様子を見下ろしながら、鳥―――ペット・ショップも攻撃を開始した。
溜まった鬱憤を晴らすべく、標的はもちろん他の者も『皆殺し』にするために。

121 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 01:36:20.98 ID:ysWZgXMS.net
支援

122 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 01:36:36.59 ID:KM3n7h5M.net
しえん

123 :Trace ◆LvAk1Ki9I. :2014/05/29(木) 01:39:48.24 ID:JhKvNPE5.net
#


「ええっと、いたのはシュトロハイムと康一と噴上とティムで―――足りねえのは………」
「姉ちゃん二人と承太郎のヤツだよッ!!」
「じょ、承太郎さんまでッ!!?」

親子二人は全速力で潰れた救急車へと走る。
その車体につきささる巨大な氷塊にあらためて驚愕しつつ………三人の姿を探す。
すぐに目に飛び込んできたのは、車の後部から上半身だけを覗かせる承太郎の姿だった。
仗助はすぐに彼の元へと駆け寄り、ジョセフは残り二人を探すべく氷塊の裏―――車の前へと走る。

「承太郎さんッ!!」

目立った出血は無さそうだが、見えない下半身側が無事かどうかなど不安要素は尽きない。
悲痛な叫び声に承太郎は視線だけを上げ………あくまでも冷静に喋り始めた。

「仗助か………致命傷ではないが、とっさに頭をかばって両腕が折れたようだ………すまんが自力では抜けられそうにない」
「そうなっちまったのって、俺たちのために………すぐ―――」
「オイ、仗助ッ! 大丈夫そうならこっち来てくれ! ヤバイ状況だッ!!」

会話の途中でジョセフの声が割り込んでくる。
ヤバイ状況―――そう聞いた仗助はほんの一瞬だけ迷い………

「スイマセン、ちょいとだけ我慢しててくださいッ!!」
「………………やれやれ、だ………」

一旦承太郎の元から離れ、前へと回る。
そこには完全に潰された運転席へ手を伸ばすジョセフと、さらに前方からふらつきながらも立って歩いてくるエルメェスの姿があった。

「エルメェスさん、無事ッスか!?」
「あ、あたしは平気だ………それよりシーラEが………」

―――氷塊が落ちてきたあの時、エルメェスとシーラEは咄嗟に両側のドアから外へと飛び出そうとしたのだが、周到なことにこちらのドアも凍らされており、開かなかった。
瞬時にドアが駄目と判断した二人はどうしたかというと、示し合わせるでもなく同時に『前』へ進もうとした―――すなわち、フロントガラス。

動かないわけではない、負傷者の手当てが先、といった理由で『なおされて』いなかった救急車のフロントガラスにはヒビが入ったまま―――割れやすい状態だったのだ。
二人は己のスタンドでガラスをブチ割り、飛び出そうとした………が、二人のスタンドの破壊力に差があったのと、氷塊が元々車の前方を狙っていたという事実。
結果、エルメェスはギリギリながらうまく脱出できたのに対し、シーラEは遅れてしまったのだ。
そして衝撃で吹き飛ばされ、起き上がったエルメェスの目に映ったのは………


               助手席にて半身を押しつぶされた、ピクリとも動かない少女の姿だった―――


「うおおおおおおおおお!!」
「ドラァァ―――ッ!!!」
「………よし、今だッ!!」

それは正に瞬速の連携―――エルメェスが『キッス』で氷塊の一部を砕き、仗助がひしゃげた車体をなおして広げるッ!
そこに滑り込んだジョセフが慎重かつ迅速にシーラEの体を引っ張り出し、地面に横たえるッ!
すぐさま、ジョセフの波紋と仗助のスタンドによりシーラEの治療が開始されたッ!

124 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 01:41:08.31 ID:ysWZgXMS.net
支援

125 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 01:42:58.12 ID:KM3n7h5M.net
ああ・・・

126 :Trace ◆LvAk1Ki9I. :2014/05/29(木) 01:45:30.61 ID:JhKvNPE5.net
「オイッ! シーラEは生きてんのか!? 助かるのかッ!!?」
「ええい、ちょっと黙ってやがれッ! 今死なねーように全力でやってんだろーがッ!!」

パニックを起こしかけているエルメェスの前で、ジョセフも仗助も必死だった。
どれだけ出血しているのか、まだ魂はつなぎとめられているのか………そんな複雑なことなど一切考えず、ただ全力で目の前の少女を生かそうとする。
ひょっとしたら手遅れだったのではないか、もう二度と彼女が目を覚ますことはないのではないか………そんな不安が頭をよぎった瞬間。
―――シーラEの唇が、微かに動いた。

「クラ……ねえ……さま………ジョル……………さ………ま………
 ………必…………カタ……キ………とる………………E………エリ……ン……ニ………」

目は閉じたまま、動く気配も無くなにやらブツブツつぶやいている。
治療する二人には何を言っているのかよくわからなかったが………確かなのは、彼女が死んでいないということだった。

「………こりゃ、自己暗示ってやつか? この嬢ちゃん、おっそろしく強い思いだけで生にしがみついてやがる………………ん?」
「グレート………若いのにスゲーぜ。川尻早人みてーに、歳のわりにはスゲー精神力を持ってるじゃあねーか………………おっ?」

どうやら彼女は助かりそうである………その事実を確認し、ひとまず二人は安心する。
同時に後ろで見ていたエルメェスは………彼女の呟きをただ一人理解していた。

(カタキをとる………そうか、ようやくわかった………
 シーラEがあたしとどこか似てると思ったのは、彼女も『復讐者』だから………)

『ねえさま』………言葉から察するに彼女もまた『姉』を殺されたのだろうか。
そして『必ずカタキをとる』ということは………復讐は、まだ果たされていない。

(だけど、二人? クラ……なんとかって名前は名簿に無かったはずだし、ジョルノは生きてるかもしれないって話があった………
 なんとなく、なんとなくだが………そこもあたしの『覚悟』と少し似てるように感じる………
 あの時―――放送で『スポーツ・マックス』の名前が呼ばれたと知った時みたいに、宙ぶらりんに………)

と、そこまで考え今はそれどころではないことに気付く。
エルメェスは治療を続ける二人に声をかけるが………

「あたしはどうすりゃあいい?」
「「………………」」
「………? どうしたんだ、二人とも………」

二人とも手を休めてはいないものの、何故か放心状態で宙を眺めていた。
不思議に思うエルメェスも辺りを見回すが、誰かがいるわけでも攻撃を受けているわけでもない。
エルメェスがもう一度、今度は大声で呼ぶと二人もさすがに気付いたらしく、慌てて仗助が返事をしてきた。

「ヘイッ! 聞いてんのかッ!!? あたしの役目はなんだッ!?」
「え?………そ、それじゃあ後ろにいる承太郎さんの方、お願いできますか? ショージキ、こっちはまだ手が離せそうにないッスから」
「おう、わかったッ!!」

駆けて行くエルメェスを見送った直後。
どこか様子がおかしいながらも治療を続ける二人は互いに顔を見合わせ、呟きあう。

「なあ、ジジイ………」
「おめーもか、仗助………」

―――彼らの戦闘参加には、いましばらくの時間が必要そうであった。

127 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 01:45:47.66 ID:ysWZgXMS.net
支援

128 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 01:47:13.74 ID:KM3n7h5M.net
支援だ

129 :Trace ◆LvAk1Ki9I. :2014/05/29(木) 01:50:19.60 ID:JhKvNPE5.net
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「ぬゥゥ! この鳥公めが! 降りてこんかァァァ!!」
「いくらなんでも速すぎる! それにあの鳥、さっきから疲れを知らないのか!?」

一方、戦闘に入った者達は苦戦を強いられていた。
シュトロハイムの機関銃、康一のスタンド、そしてティムが構えるシュトロハイムから渡された銃―――上空の敵に攻撃できる手段は元々限られている。
しかも相手は数回の攻防でそれらを見切ったらしく、シュトロハイムの射線からはずれつつ単発攻撃である康一とティムの攻撃を巧みに避け、いくつもの氷のミサイルを降らせてきていた。

「左へ避けろ康一ィ!! シュトロハイムは二歩ほど前進だッ!」
「はい………危ない! はじけ『エコーズッ』!」
「ぬゥゥ! 撃ち落し損ねたかッ!!」

互いにフォローしあい敵の攻撃をかわし続けているものの、状況はまさに防戦一方………
それでも必死の抵抗で、今も救出や治療が行われているであろう救急車に敵を近づけさせることがないのは流石というべきか。
しばらくして、状況を打破するべく先に行動を起こしたのは鳥―――ペット・ショップの方だった。
上空で相手の射撃をかわした直後………氷のミサイルを放つと同時に急降下を行うッ!

―――ハヤブサは一説によれば『地球上で最速の生物』とも言われている。
だがその『最速』とは、水平飛行のことではない。
真にハヤブサが最速と言われているのは―――『降下速度』!

氷に気が行った相手に時速300kmを超える速度で迫り、すれ違いざまに眼球を抉りとろうとする!
その狙いは―――シュトロハイム!

「ぬゥゥゥゥッ!!?」

シュトロハイムはすれ違いざまとはいえ輝彩滑刀の秘密を理解できる程の眼力を持つ。
………だが、それですぐさま目の前の事態に対応できるかは別であった。

彼の機関銃は氷のミサイルを撃ち落したもののペット・ショップ本体は捉えきれない!
腕を伸ばして迎撃しなければ、上体をひねってかわさなければ………そう考えるも、体は動いてくれなかった。
ただその表情だけが驚愕に染まり―――


                    「させるかよォ―――――ッ!! 『ハイウェイ・スターッ』!!」


―――ペット・ショップの攻撃は空を切っていた。
突如現れた新たなスタンド―――噴上裕也の『ハイウェイ・スター』が瞬間移動し、ペット・ショップを攻撃したのだ!
敵の軌道が逸れたことによりシュトロハイムは助かったのだが………
あざやかな奇襲だったにもかかわらず、ペット・ショップもまた驚異的な反応で攻撃を回避していた!

「噴上くんッ!」
「とりあえず、ちょっかいかけてきそーな奴は周りにゃいねーぜ。
 しかし、やっぱおれがいねーとしまらねーなぁ? シュトロハイムさんよぉ〜〜!!」
「ぬかせッ! 先ほど単なる『紙』に動揺していた貴様に言われたくないわァァァ!」
「まったく、きみは相変わらずおいしいところを持っていくな………
 思い返せば、タンクローリーの時もこの四人で戦ったんだったか………つくづく縁があるものだ」

―――HEROES初期メンバー、再集結。

130 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 01:51:19.34 ID:ysWZgXMS.net
支援

131 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 01:51:44.96 ID:KM3n7h5M.net
熱すぎるだろ!支援!

132 :Trace ◆LvAk1Ki9I. :2014/05/29(木) 01:54:54.08 ID:JhKvNPE5.net
ひとまず辺りの警戒を終えた噴上が、そして康一とティムもシュトロハイムを援護するべく集まってきていた。
再び上空を見上げ………羽ばたきながらこちらを睨みつける鳥の姿を確認する。
その周りに大量の氷柱が精製されていくのを見て四人は警戒するのだが………

「気をつけてッ! また氷が飛んでくるッ!!」
「わかって………ン!!?」
「………これはッ! オレたちの足元が『凍って』………」
「ぬうう!? おのれこのような小細工でェェェェ!!」

全員が驚愕する。
なんと、いつのまにか自分達の足元が凍りつき、移動ができなくなっていた!
ペット・ショップが先程行った急降下………攻撃自体は囮で、本当の目的は地面に接近して密かに凍りつかせ、足を封じることだったのだ!
彼らがどうにかしようとする間にも氷柱の数は増えていく―――防ぎきれないほどに。
それでも四人は必死に抵抗を試みる。

シュトロハイムは氷柱を可能な限り撃ち落とそうと機関銃を上に向けていた。

ティムは防御に徹するため武器をロープに持ち替えようとしていた。

康一はドジュウの音で足元の氷を溶かそうとしていた。

噴上はやられる前にやれとばかりにスタンドをペット・ショップ本体へと向かわせていた。


―――そして、ぺット・ショップはそれらのいずれも間に合わないと確信し、ニタリと笑った。


氷柱が、一斉に放たれる―――







              ―――かと思われた瞬間、ペット・ショップはナイフに囲まれていた。



「ギッ………!!?」

何故、いつの間に、どうやって?
思考がそのまま驚愕となって顔に表れると同時に、その身体はナイフに貫かれていた。
動きを止めたペット・ショップにすかさず『ハイウェイ・スター』が踊りかかり………一瞬で、その首をへし折る!
薄れ行く意識の中、落下しながらペット・ショップは理解した。

―――自分が相手にしていた者の中に、主と同じく『戦ってはならない相手』がいたのだと。

激闘の末にというにはあまりにもあっけなく……地獄の門番は、自分だけが地獄に落ちた。

133 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 01:55:44.35 ID:ysWZgXMS.net
めっちゃおもしれえ!支援

134 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 01:56:34.15 ID:KM3n7h5M.net
お前がそれをやるんかい!支援!

135 :Trace ◆LvAk1Ki9I. :2014/05/29(木) 01:59:31.32 ID:JhKvNPE5.net
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氷柱が次々に落下していくのを見て、噴上はようやく一息ついた。
最初に気になったのはやはり、先ほどのナイフである。

「ありゃあ、一体………」
「承太郎さんだよ」

ふと気がつくと康一が側におり、彼の呟きに答えていた。
噴上の足元の氷を溶かしつつ、承太郎の能力をよく知らない彼に説明を行う。

「時間を止めて、あの鳥に向けてありったけのナイフを投げつけたんだと思う………たぶん」
「たぶんって………なんつーか、助かったのはいいけど、エグイっつーか………」
「そう言わないの。さっき救急車に閉じ込められたときだって承太郎さんが助けてくれたんだから………きっと」
「きっと!? まあ、確かにそれ以外考えられないけどよ………」

よくよく見れば確かに、刺さったナイフの中には仗助やシーラEが持っていたのと同じものが混ざっている。
おそらくは彼らの持っていた分も攻撃に使用したのだろう。
そして救急車の時も理解は出来ないがおそらくそうなのだろう、という奇妙な納得があった。

(あの人が味方で、ホントよかったぜ………)

気がついたら攻撃を受けている―――『時を止める』能力をあらためて恐ろしく思う。
自分たちが全く攻撃を当てられなかった相手を、即座に戦闘不能にまで追い込んでしまえる能力。
他人の言葉を借りるが、その能力の前にはハヤブサの超スピードでさえ『チャチな』ものになってしまうのだから。

(ん? そういや他の皆は………)

辺りを見渡す。
シュトロハイムとティムは救急車の前で残された巨大な氷塊を眺め、なにやら話し合っている。
そのすぐ近くではエルメェスが地面に横たわったシーラEを看病していた。

(………エルメェスさんが落ち着いてるって事は、ちゃんと生きてるってことだよな………
 よかったぜ、俺たちは誰一人欠けちゃいねえ―――いや、ちょっと待て)

「………終わったよ噴上君、もう歩けるはず―――」
「サンキュー康一! すぐ戻るからここよろしくな!」
「―――え?」

そして、視界に目的のものを見つけられなかった噴上は康一に一声だけかけると、すぐさま走り出した。


救急車の残骸から少し離れた地点を三人の男―――東方仗助とジョセフ・ジョースター、そして空条承太郎が歩いている。
彼らはどういうわけか戦闘が終わっても一行の輪の中に入ろうとせず、それどころかまるでこっそり離脱するかのように移動していた。
そんな三人を見つけた噴上は後ろから追いつき、呼び止めようとする。

「オイオイ、そこのお三方? おれたち置いてどこ行こうってんだァ?」
「………噴上か。やっぱ、お前には見つかっちまうか」
「よう噴上ちゃん、全員無事だったか? 誰かケツの穴にツララを突っ込まれた奴とかいねーよな?」
「………怖えーこというんじゃねえ! 背筋にゾクっときただろーがッ!!」

136 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 02:01:24.14 ID:ysWZgXMS.net
何が起こるんだ…支援

137 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 02:01:58.49 ID:KM3n7h5M.net
支援

138 :Trace ◆LvAk1Ki9I. :2014/05/29(木) 02:04:41.85 ID:JhKvNPE5.net
応える彼らの口調には別段変わった様子などない。
だが話す間にも彼らは歩みを止めることはなく………戻る気がないことを噴上は理解する。
とはいえ理由も聞かずハイそうですかと引き返すわけにはいかなかった。

「ちょっとそこまで………って感じでもなさそーだし、遠出するんならオメーが救急車を直してくれれば―――」
「………悪りぃ、そういうわけにはいかねーんだ」
「………?」

訝しげな顔をする噴上に対して仗助は言う。
その表情はいつになく真剣なものに変わっていたが、対照的に言葉はどうも歯切れが悪かった。


           「俺たちは、この先に行かなくちゃならねーんだ………そこに『誰か』がいる………と思う」


明らかに説明不足な、曖昧すぎる目的。
だがジョセフも、承太郎もその言葉を補足しようとはしなかった―――彼らも、現時点でそれ以上の説明は出来なかったのだから。
当然、噴上としては言いたいことが山ほどあった。

「………んなことがどうしてわかるのか、はひとまず置いといてだ。
 なんでおれたちに黙って三人だけで行っちまおうとするんだよ?
 シーラEは怪我したけど、看病には四人も必要ねーぜ」
「………言ったら、おまえたちが着いてきたがるからだ」

黙っていた承太郎が口を挟んでくる。
顔すら向けずに淡々と話していくが、その表情に変化がないことは他の者にもよくわかった。
そして彼は、冷徹ともいえる言葉を発する。

「あんな鳥一羽にてこずるような奴らは必要ない。かえって足手まといだ」
「………オイ空条さんよォ〜〜、今のはさすがにムカッときたぜぇ?
 アンタに助けられたっつーのは認めるけどよ、おれたちの戦いっぷりを見てなかったわけじゃあねえだろう?
 本気でそういってんなら………さっきの鳥のスタンドの十倍は冷てー男に思われちまうぞ」

バッサリと切り捨てられたことに不満を感じた噴上は反論する。
だがそれでも、承太郎は彼のほうを見ようともしなかった。
代わってフォローするのはジョセフ。

「あー、気にすんなよ噴上、コイツ照れてるだけだからさ………
 さっきナイフ投げたときだって『あいつらは本当に頼りになるやつらだ、そしてやれやれ間に合ったぜ』って言ってたくらいだからな」
「………おいジジイ、承太郎さんはそんなこと一言も言ってなかっただろーが」
「………………」

ツッコむ仗助と、付き合いきれないとばかりに沈黙する承太郎。
本当に噴上達を足手まといと考えているのか、それとも危険なことに巻き込まないために遠ざけようとしているのか………判別はできなかった。
ややあって、承太郎は先ほどの寸劇など無かったかのように話の続きを始める。

「………あの鳥を仕留めるきっかけとなったナイフ………俺がやったことだが………
 あれはかつて、俺が『ある敵』にやられたことを再現したものだ………軽く、だがな」
「『ある敵』?………まさか」
「俺たちが向かう先には、おそらくその敵がいる」
「………………DIO!!?」

139 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 02:05:49.94 ID:ysWZgXMS.net
支援

140 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 02:06:27.09 ID:KM3n7h5M.net
支援

141 :Trace ◆LvAk1Ki9I. :2014/05/29(木) 02:09:32.27 ID:JhKvNPE5.net
ゴクリ、と噴上は唾を飲み込む………彼は先ほど承太郎の能力を目の当たりにし『味方でよかった』と考えたばかりである。
あの鳥さえも驚愕させた、どうやっても回避できそうにない攻撃。
彼らについていく場合、同じ………いや、承太郎の言葉によればそれ以上の攻撃を自分が受けることになるかもしれない。
目の前にいる彼がどのようにしてその攻撃を生き延びたのかはわからないが、果たして自分の力であれをどうにかできるだろうか?
―――少なくとも噴上には、自分が生き延びるイメージがまったく思い浮かばなかった。

「奴は掛け値なしに『強い』………有象無象が束になってかかろうが、死体が増えるだけだ………
 それに奴は圧倒的な力を持つだけでなく、人間の弱い部分につけこんでくる………
 いまのお前のように『恐怖』など見せようものなら、それだけで終わりだ………
 だからはっきり言わせてもらう―――『来るな』噴上…お前では生き残れない」

最後の言葉で噴上は無意識のうちに下アゴへ指が伸びていたことに気付き、自分が『恐怖』した―――言い負かされたのだと、理解してしまう。
だが、それでもまだ納得はできなかった。

「仗助ッ! オメーは………ジョースターさんもだ! 二人はなんで空条さんに着いていけるんだよッ!?
 ………怖くないのかよッ!!?」
「………そうだな、まったくもって怖くないっていやあ、嘘になるけどよ………」

頭に手を当て、よく似たポーズで親子はそれぞれ考えて返答する。
だが、その内容は………

「今の承太郎さんを放ってはおけねーし………何よりシーラEをなおしてる時に『呼ばれた』気がするんだよ。
 俺の中の何かが言ってるんだ―――『今』『そこ』に行かなくてはならない―――ってな」
「おれもだいたいそんな感じだな。これから会う奴は、おれが産まれた時から会うことが決まってた………
 たとえここで行かなくたって、巡り巡っていつか会うことになる………そんな奴だ。
 うまく言えねーが………おれはそれを『知っていた』」

正直言って、噴上には全く理解できなかった。
二人の言葉は、ほとんど何の説明にもなっていなかったのだから。

「………なんだよそりゃ………………何いってんのかさっぱりわからねえぜ!!?」
「だろうな、俺だってよくわかんねー………けど、ここで引いちまったらたぶん、一生後悔することになりそうな気がする………そう思えてならねーんだ」

その答えに噴上は次の言葉をなくしてしまった。
自分と彼らの間には何か見えない、決定的な『壁』があるのだと。
そして承太郎が二人が着いてくることを黙認しているのは、おそらく二人もまた『壁』の向こう側の人間だから。
他者の立ち入りを許さない、彼らだけの事情のために三人は進んでいくのだと理解させられた。

「おめーも康一達も、誰一人足手まといだなんて思ってねえ………けど、こればっかりは巻き込むわけにはいかねーんだ………
 用事が済んだら第四放送までにはもう一度空条邸に戻ってくる………みんなにもそう伝えといてくれや」
「………………」

それだけ言うと仗助は正面に向きなおる。
これ以上は会話を続ける気がないと悟った噴上も不必要に食い下がりはせず、彼らにくるりと背を向けた。
自分がどうするにせよ、彼らのことを他の皆に伝えないわけにはいかないのだから。

去り際に噴上は服のポケットに手を入れ、そこにあるものを確かめる。
一枚のトランプ―――先ほどの鳥がつけていたスカーフの中にあったもの。
絵柄はハートの4………『命』に『死(四)』をもたらすという見敵必殺を体現したペット・ショップへの暗示であろうか。
承太郎から話を聞いていた噴上自身が真っ二つに破ったそれは、おそらく彼らの向かう先にいる者と無関係ではない存在。

………彼の嗅覚はそれに染み付いた『臭い』もまた、しっかりと嗅ぎ取っていた―――

142 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 02:11:01.39 ID:ysWZgXMS.net
支援

143 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 02:11:36.68 ID:KM3n7h5M.net
支援

144 :Trace ◆LvAk1Ki9I. :2014/05/29(木) 02:15:00.49 ID:JhKvNPE5.net
【ペット・ショップ 死亡】
【残り 40人】


【D-4 中央部 / 1日目 午後】

【『ジョジョ』トリオ】

【ジョセフ・ジョースター】
[能力]:波紋
[時間軸]:ニューヨークでスージーQとの結婚を報告しようとした直前
[状態]:健康
[装備]:ブリキのヨーヨー
[道具]:首輪、基本支給品×3、不明支給品4〜7(全未確認/アダムス、ジョセフ、エリナ)
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえずチームで行動。殺し合い破壊。
1.自分の感覚が示す先へ向かう。
2.悲しみを乗り越える、乗り越えてみせる。

【東方仗助】
[スタンド]:『クレイジー・ダイヤモンド』
[時間軸]:JC47巻、第4部終了後
[状態]:左前腕貫通傷(応急処置済、波紋治療中)、疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る気はない。このゲームをぶっ潰す!
1.自分の感覚が示す先へ向かう。
2. 承太郎さん…
3. 第四放送までには一度空条邸に戻る。
[備考]
クレイジー・ダイヤモンドには制限がかかっています。
接触、即治療完了と言う形でなく、触れれば傷は塞がるけど完全に治すには仗助が触れ続けないといけません。
足や腕はすぐつながるけど、すぐに動かせるわけでもなく最初は痛みとつっかえを感じます。時間をおけば違和感はなくなります。
骨折等も治りますが、痛みますし、違和感を感じます。ですが"凄み"でどうともなります。
また疲労と痛みは回復しません。治療スピードは仗助の気合次第で変わります。

【空条承太郎】
[時間軸]:六部。面会室にて徐倫と対面する直前。
[スタンド]:『星の白金(スタープラチナ)』
[状態]:痛み(大)と違和感、疲労(小)
[装備]:ライター、カイロ警察の拳銃(6/6 予備弾薬残り6発)
[道具]:基本支給品、スティーリー・ダンの首輪、ランダム支給品3〜5(承太郎+犬好きの子供+織笠花恵/確認済)
[思考・状況] 基本行動方針:バトルロワイアルの破壊。危険人物の一掃排除。
0.…。
1.自分の感覚が示す先へ向かう。

※氷塊に押しつぶされた傷は歩きながら仗助が治療し、痛みはジョセフが波紋でやわらげています。

【備考】
・三人はアザの感覚に従いD-2サン・ジョルジョ・マジョーレ教会に向かっています。
 また、三人はそこにDIOがいると考えています。

145 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 02:15:15.93 ID:ysWZgXMS.net
支援

146 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 02:15:47.81 ID:KM3n7h5M.net
支援

147 :Trace ◆LvAk1Ki9I. :2014/05/29(木) 02:19:42.03 ID:JhKvNPE5.net
【D-5 空条邸付近 / 1日目 午後】

【チーム名:HEROES+α】

【ルドル・フォン・シュトロハイム】
[能力]:サイボーグとしての武器の数々
[時間軸]:JOJOとカーズの戦いの助太刀に向かっている最中
[状態]:健康
[装備]:ゲルマン民族の最高知能の結晶にして誇りである肉体
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、ドルドのライフル(5/5、予備弾薬15発)
[思考・状況]
基本行動方針:バトル・ロワイアルの破壊
0.柱の男だけが脅威ではないのか…?
1.空条邸の火事をどうにかして、何があったかを調べたい。

【広瀬康一】
[スタンド]:『エコーズ act1』 → 『エコーズ act2』
[時間軸]:コミックス31巻終了時
[状態]:貧血気味、体力消耗(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2(食料1、パン1、水ボトル1/3消費)、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1.色々考える事はありそうだけど…まず空条邸の火事をどうにかして、何があったかを調べたい。
2.仲間たちと共に戦うため『成長』したい。
3.協力者を集める。

【噴上裕也】
[スタンド]:『ハイウェイ・スター』
[時間軸]:四部終了後
[状態]:健康
[装備]:トンプソン機関銃(残弾数 90%)
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1(確認済)、破れたハートの4
[思考・状況]
基本行動方針:生きて杜王町に帰るため、打倒主催を目指す。
1.仲間のところに戻り、仗助達の行動について伝える。
2.1の後仗助達を追うか、それとも自分達で独自に行動するか考える。
3.協力者を集める。

※トランプからカンノーロ・ムーロロの臭いを覚えました。
 臭いを追跡して彼の元へ行けるかもしれません。

148 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 02:20:03.90 ID:ysWZgXMS.net
支援

149 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 02:22:08.25 ID:KM3n7h5M.net
支援

150 :Trace ◆LvAk1Ki9I. :2014/05/29(木) 02:24:38.10 ID:JhKvNPE5.net
【エルメェス・コステロ】
[スタンド]:『キッス』
[時間軸]:スポーツ・マックス戦直前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況] 基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.シーラEが目を覚ますまで守る。
1.空条邸の火事をどうにかして、何があったかを調べたい。
2.F・F…おまえなのか?

※ジョセフから余っていた基本支給品を貰いました。

【マウンテン・ティム】
[スタンド]:『オー! ロンサム・ミー』
[時間軸]:ブラックモアに『上』に立たれた直後
[状態]:体力消耗(小)
[装備]:ポコロコの投げ縄、琢馬の投げナイフ×2本、ゴーストライダー・イン・ザ・スカイ
[道具]:基本支給品×2(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況] 基本行動方針:殺し合いに乗る気、一切なし。打倒主催者。
1.空条邸の火事をどうにかして、何があったかを調べたい。
2.協力者を探す。

※自分の能力+承太郎の能力で首輪が外せないか?と考えています。ただ万一の事があるのでまだ試す気にはなっていません。

【シーラE】
[スタンド]:『ヴードゥー・チャイルド』
[時間軸]:開始前、ボスとしてのジョルノと対面後
[状態]:気絶中、痛み(極大)、貧血、精神的疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×3(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1〜2(確認済み/武器ではない/シ―ラEのもの)
[思考・状況]
基本行動方針:ジョルノ様の仇を討つ
0.気絶中。
1.空条邸の火事をどうにかして、何があったかを調べたい。
2.このまま皆で一緒にいれば、ジョルノ様に会えるかも?

※ジョセフと仗助により傷自体は完璧に治されたため、このまま死んだりはしません。
※参加者の中で直接の面識があるのは、暗殺チーム、ミスタ、ムーロロです。
※元親衛隊所属なので、フーゴ含む護衛チームや他の5部メンバーの知識はあるかもしれません。


【備考】
・D-5空条邸付近にペット・ショップの死体が大量の氷柱と共に放置されています。
 死体にはドノヴァンのナイフ、家出少女のジャックナイフ、DIOの投げナイフ×4、ナランチャの飛び出しナイフが刺さっています。
・D-5空条邸付近に巨大な氷塊で押しつぶされた救急車があります。
 仗助によって一部は直されましたが、動くような状態ではありません。
・『オール・アロング・ウォッチタワー』のハートの4が破かれました。スタンドとしてはもう使えません。

151 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 02:25:07.40 ID:ysWZgXMS.net
支援

152 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 02:29:24.28 ID:KM3n7h5M.net
シーラEが無事でなにより

153 :Trace ◆LvAk1Ki9I. :2014/05/29(木) 02:30:00.23 ID:JhKvNPE5.net
#


噴上裕也の嗅覚は猟犬ほど……あるいはそれ以上かもしれないが、彼はひとつ見落としていた―――やや離れた場所から、仗助たちを密かに追跡する者の存在を。
その人物の臭いも噴上は嗅ぎ取っていたものの、彼らがいたのはまだ空条邸の近く………屋敷はもちろん、人が焼ける臭いも充満している『鼻が利きにくい』場所である。
さらに屋敷内にいた者は全員噴上の知らない人間であったため、彼に個人の判別は不可能であった。
そのため、屋敷で嗅いだ臭いがなんとなく漂ってきている気がするという認識しかなく、まさか誰かがこっそり追跡してきているとは夢にも思わなかったのだ。

―――追跡者の正体は花京院典明。
空条邸の火事で『犯人』を除けば唯一生き残った者である。
先ほど彼は駆けつけた救急車から捜しつづけていた承太郎が出てくるのを発見し………

「くそっ、人数が多すぎる………」

………こっそり毒づいた。
遠目に確認した相手は実に九人、しかもスタンド能力すら全くわからない者が大半。
いくらなんでも手の打ちようがない―――彼はペット・ショップのように、人数差を気にせず挑むようなことは出来なかった。

戦力差を悟った花京院は次にどうしたかというと………空条邸の裏に回り、逃げ出していた。
相手に探知の能力を持つものがいたりすれば、確実に存在はバレる。
ラバーソールもいない以上、先ほどアヴドゥルを欺いた手も使えない。
最後に残った手札、『自分がジョースターの仲間になった』ことを温存するためにも、まだ見つかるわけにはいかなかったのだ。

結果だけ見れば、その判断は致命的なミスだったと言えよう。
その場を離れてしまったことにより、彼は数分後にあった『怪我をして動けない承太郎が一人きりになる』というこれ以上無いほどの好機を逃したのだから。

とはいえそんなことは露知らず、花京院は誰も追ってこないことから発見されずに済み、自分以上の探知能力を持つ者はいないと判断。
続いて巨大な氷塊の落下を確認して現場付近に様子を見に戻り………彼は見た。
たった三人だけで歩く承太郎たちを―――


(三人………冷静に考えろ、どうにも出来ぬ訳ではない………)

そして現在―――花京院は悩みに悩んでいた。
先程彼らに仲間の男が寄ってきていたが、すぐに離れていった。
だがそのうち男が残りの者も引き連れて、承太郎たちと合流してしまうかもしれない………そうなる前に行動すべきではないのか。

(向こうは三人………わたしは………わたしは………)

だが一方で、戦力の問題もある。
九人に比べればマシとはいえそれでも相手は三人、しかも承太郎を含めてだ。
発見されていないというアドバンテージはあるが、戦闘になれば圧倒的に不利なのは確実であろう………『戦闘になれば』だが。
すぐ動くべきか、策を講じるべきか………そして花京院の心には、現状の打破以上に大きく燃え上がる感情があった。

154 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 02:31:29.02 ID:ysWZgXMS.net
やっと花京院来たか!支援

155 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 02:32:25.80 ID:KM3n7h5M.net
支援

156 :Trace ◆LvAk1Ki9I. :2014/05/29(木) 02:34:47.94 ID:JhKvNPE5.net
(何故、こんなにも近くにいるのに、指をくわえて見ていることしかできない………?
 何故、わたしは一人きりなのに、ヤツには仲間がいる………?
 何故、ヤツはたかだか数時間で何人もの仲間と合流することができた………?
 何故、わたしは今の今までDIO様の足跡すら掴むことができない………?

               何故、なぜ、ナゼ――――――)


心の底から次々に湧き上がるそれは『寂しさ』か、はたまた『嫉妬』か。
いずれにせよ、彼の感情は『肉の芽』によってドス黒く塗り替えられ………決してプラスの感情に変わることなどなかった。

そんな花京院の元にトランプは………姿を見せない。
彼を信用できる確証が無いのか、それとも別の理由でもあるのか。
とにもかくにも花京院典明は、ひとりぼっちだった。


【D-4 南部 / 1日目 午後】

【花京院典明】
[スタンド]:『ハイエロファント・グリーン』
[時間軸]:JC13巻 学校で承太郎を襲撃する前
[状態]:腹部にダメージ(小)、肉の芽状態
[装備]:ナイフ×3
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:DIO様の敵を殺す。
1.空条承太郎を始末するため、どうすべきか考えつつ彼らを追跡する。
2.空条邸で一体なにが起こった?
3.ジョースター一行の仲間だったという経歴を生かすため派手な言動は控え、確実に殺すべき敵を殺す。
4.山岸由花子の話の内容、アレッシーの話は信頼に足ると判断。時間軸の違いに気づいた。

※ラバーソールから名前、素顔、スタンド能力、ロワ開始からの行動を(無理やり)聞き出しました。

157 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 02:36:33.53 ID:ysWZgXMS.net
支援

158 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 02:36:40.39 ID:KM3n7h5M.net
支援

159 :Trace ◆LvAk1Ki9I. :2014/05/29(木) 02:39:47.22 ID:JhKvNPE5.net
#


全身のダメージは未だ治っていないが、一瞬ならば忘れられる。
ライフルを固定する『骨』は勿論、『筋肉』にすら余分な動きは一切ない。
心理面における問題点は皆無………ストレスを感じるどころか、あるのは真逆の感情ばかり。
付近の気流も特に異常は見られず、穏やかだ。

状態は万全とは言い難いが、問題ないレベルである。
………狙撃を行うには。


―――トランプの案内は実に適切だった。
ジョンガリ・A自身も気流を読むことにより他の参加者との接触を避け、最短ルートで目的地へと走る。
結果、盲目とは思えないほど短時間で彼はサン・ジョルジョ・マジョーレ教会へと辿り着いていた。

はやる気持ちを抑え、地下へと通された彼は………遂に、かつて失ったはずの主と『再会』を果たす。
まぎれもないDIOが自分のことを忘れず、わざわざ呼びつけてくれたことは彼にとって何事にも変え難い至上の喜びであった。
すぐに自らの持つ情報や道具をさらけ出し………質問に答えていく。
一通りの情報交換が済んだ後、彼は新たな命令を受けた。

「―――かしこまりました。それではわたしは『番人』としてDIO様をお守り致します」

―――命じられたのは地上にある教会の門番役。
当然、ジョンガリ・Aは二つ返事でそれを引き受ける。

(あの鳥も、ヴァニラ・アイスも結局はDIO様をお守りできなかった無能………
 そんな連中など小間使いのようにあちらこちらを走り回っていればいい………
 オレがDIO様から最も近しい位置に置かれるのは当然だ)

ジョンガリ・AはDIO配下の中では、最も『未来』から来た者。
それ故他の者が『敗れた』ことも当然知っており、彼は他の部下達を全く信用していなかった。

「DIO様、ひとつ質問することをお許しください―――」

出発間際、彼はDIOに対して知りたいことを問う。
内容は他ならぬ、先ほど遭遇したDIOとそっくりの青年について。

「………ジョースター? 奴は憎むべき血統の一員だったとおっしゃられるのですか!?
 そうとわかっていれば、彼のものの首を手土産に致しましたのに―――」

予想外の返答が返ってきたことにいささか驚くも、疑ったりはせずに彼は下がる。
自分の主にはそういう部分―――不可思議というか、気まぐれというか―――があることはよく知っているのだから。

「………はい。それでは、行って参ります―――」

160 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 02:41:46.21 ID:ysWZgXMS.net
支援

161 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 02:42:26.94 ID:KM3n7h5M.net
支援

162 :Trace ◆LvAk1Ki9I. :2014/05/29(木) 02:44:34.98 ID:JhKvNPE5.net
―――そして、今に至る。
通すよう指示した者以外は容赦なく撃て、と命じられたジョンガリ・Aは位置に着き、待ち続けていた。

(………派手にやっているようだ)

とはいえ彼も、何もせずじっとしているほど怠惰な男ではない。
『マンハッタン・トランスファー』を高所に出し空気の流れを見張っていた彼は、遠くで空気の流れが大きく動くのを読み取る。

「局地的な上昇気流、無数の細かい塵が舞っている………火災と判断。付近に何人かいるようだが………」

熱せられた空気が上昇する―――そのせいでスタンドが降りてくれず、地上にいるものの詳細がわからない。
とりあえず、炎自体は距離的に自分達のいる教会まで届きようがないことを確認してからしばらくして………
火災の近辺でまたもや異常が発生したことを読み取る。

「巨大質量を持つ何かが落下、空中に鳥を確認………そうなると落下したのはスタンドの氷か。
 援護の必要は無し………勝手にやっていればいい」

正確とまではいかないが、おおまかに何が起きているのか把握した彼はスタンドを戻し、教会入り口へと注意を移す。
先ほどヴァニラ・アイスが二人と一匹の同行者を連れ、教会の中へと入っていった。
同行者はヴァニラが始末するとのことなので自分の役目は変わらず、外部から教会へ侵入しようとする者の狙撃ということになる。

(誰であろうが関係ない………我が主に仇なす者は、確実に仕留めるッ!)

サン・ジョルジョ・マジョーレ教会の最も高いところ―――鐘楼の中で、狙撃手は標的を待ち続けていた………


空条承太郎、花京院典明、そしてジョンガリ・A。
それぞれ理由は異なれど、この三人は元々信頼できる者のみを頼りにし、近くの他人を信じきれていないという部分で共通していた。
そういった者は得てして孤独な存在になりやすいものだが、彼らの周囲はまさに三者三様―――

信頼できる者すら拒絶してなお、孤独にはならぬ承太郎。
信頼できる者に拾われることで、孤独から脱したジョンガリ。
そして信頼できる者を見つけられず、未だ孤独な花京院。

彼らの行く末がどうなるかは―――おそらくはこれも三者三様であろうが―――まだ誰も知らない。


【D-4 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会 鐘楼 / 1日目 午後】

【ジョンガリ・A】
[スタンド]:『マンハッタン・トランスファー』
[時間軸]:SO2巻 1発目の狙撃直後
[状態]:肉体ダメージ(小〜中)
[装備]:ジョンガリ・Aのライフル(30/40)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済み/タルカスのもの)、『オール・アロング・ウォッチタワー』 のダイヤのA
[思考・状況]
基本的思考:DIO様のためになる行動をとる。
1.教会入り口を見張り、侵入者を狙撃する。
2.ジョースターの一族を根絶やしに。

※DIOと情報交換を行いました。
※ランダム支給品の詳細はDIOに確認してもらいました。物によってはDIOに献上しているかもしれません。

163 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 02:47:26.45 ID:ysWZgXMS.net
これで全員かな?支援

164 :Trace ◆LvAk1Ki9I. :2014/05/29(木) 02:50:13.42 ID:JhKvNPE5.net
以上で投下終了です。
支援感謝致します。

タイトルのTraceにはなぞる、追跡する、突き止めるなどの意味があり、
いくつかそれに合った展開を入れたつもりです。

それとここまで書いてなんですが、現在の予約と矛盾が出るようなら時間やジョンガリの位置をチト修正するかもしれません。
その他、矛盾、意見などありましたら遠慮なくお願いいたします。

165 : ◆LvAk1Ki9I. :2014/05/29(木) 02:52:28.70 ID:JhKvNPE5.net
後最後、サン・ジョルジョ・マジョーレはD-2でした。

166 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 14:09:45.71 ID:9eDlQJVt.net
投下乙です
熱い展開の連続に燃える空条邸以上に燃えるしかなかった
ジョナサンが気づいたなら承太郎たちも気づくのは当然っちゃ当然だよなあ
このままいくとジョースター家勢揃いになりそうでwktkせざるを得ない
花京院の悲哀もいいしますます先が楽しみになるSSでした

167 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 17:02:00.12 ID:BRw/e7vc.net
投下乙です。

このままいくと「ドキッ!ジョジョだらけのDIO決戦!首ボトリなるか!?」みたいな感じ。

168 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 21:59:54.84 ID:FdJ+v2Lq.net
投下乙です
見所たっぷり、読み応えばっちりの最高の作品でした。
ペット・ショップも決して噛ませという感じでなく、たった一匹で何人ものスタンド使い相手に立ち回る強者の雰囲気がにじみ出てて良かったです。
承太郎の少し遠まわしだけど、実直な言葉遣いもグッド。
仗助、ジョセフ、シュトロハイムの漫才会話もさらにグッド。
HEROES再集合とトリプルジョースターはわかっていてもグッと来る展開でした。
まさに……グレートですよ、こいつは!

この引き方も続きが気になる終わり方。さりげなく散りばめられたフラグに書き手魂が踊ります。
次の予約でもはや終盤が見えてきそうな予感……はたしてどうなることか。
続きが楽しみですね。


一点だけ、不思議に思ったことがあります。
ジョンガリ・AはどのタイミングでDIOに出会ったのでしょうか。
ジョルノ+ヴァニラが来る前? ならば誰も通すなに矛盾が生まれてしまいそうです。
かと言ってジョルノ来訪後では会うこともできず。
さらに言えば、イギーとヴァニラの戦いで教会の屋上が破壊されてしまってます。
ジョンガリはいったいどうなってるのか、その点だけ気になりました。

169 : ◆LvAk1Ki9I. :2014/05/29(木) 23:05:57.62 ID:JhKvNPE5.net
感想、ご意見ありがとうございます。
指摘について説明させていただきます。

ジョンガリに出された命令は誰も通すなではなく
>>162の二行目にあるように『通すよう指示した者以外は容赦なく撃て』です。
ヴァニラたちは通行許可が出ていたため、ジョンガリはスルーしました。
(本文中には書いていませんが、連絡手段としてジョンガリは『ウォッチタワー』を持っています)

ジョンガリがDIOに出会ったのは『デュラララ』で部下に指示を出してからジョルノ+ヴァニラが来るまでの間で、上記の理由により矛盾は無いはずです。

教会の屋上について、検索して写真を見てもらえればわかりやすいのですが
サン・ジョルジョ・マジョーレの鐘楼はイギーとヴァニラが戦闘開始した入り口付近から少し離れた場所にあるため、入り口付近の屋根が壊されてもジョンガリのいる鐘楼に影響は無いはずです。
『建物全体を破壊していく』とある以上戦闘の余波で今後影響があるかもしれませんが、その辺りは次の書き手さんに任せるということでは駄目でしょうか。

とりあえず新人書き手さんの投下待ちということになりますが、引き続きご意見などお待ちしております。

170 :創る名無しに見る名無し:2014/05/29(木) 23:20:57.12 ID:KM3n7h5M.net
投下乙でした
いやあ面白かったです。
ペットショップもHEROES初期メンバー4人に対して圧倒していたのに、やはり承太郎だけは相手が悪かった感じですね
一つ指摘として、ペットショップ死亡で、今回で残りは39人だと思います。
しかし最近死者が多いなぁ

171 : ◆LvAk1Ki9I. :2014/05/30(金) 00:31:05.75 ID:kQ0FuOPb.net
ペット・ショップは鳥なので残り『人』数には………嘘です。
ご指摘ありがとうございます。
wiki収録時には修正しておきます。

172 :創る名無しに見る名無し:2014/05/30(金) 01:51:54.14 ID:ec5kUjBv.net
投下乙です
本当にウォッチタワーは便利な能力だなー、使役する側的にも書き手と読み手的にも。
ジョンガリ空気問題をちゃちゃっと解決しよった。

HEROESの熱さは言わずもがなだが、花京院の悲壮っぷりもグッド!
本編しかり、ロワ2ndしかり、カプンコの格ゲーしかり、人はどうして彼を不幸にしたがるのか…さすが人気キャラクターといったところか。
承太郎とジョセフという本編で救ってくれた面子はそろっているが…はたして今の承太郎は彼を救ってくれるのだろうか。

173 :創る名無しに見る名無し:2014/05/31(土) 02:12:07.06 ID:42ScZcjx.net
第二回ジョジョロワ3rd人気投票を開催します
詳細はしたらばの投票専用スレにて!

174 : ◆c.g94qO9.A :2014/06/09(月) 15:28:48.98 ID:GdSg1f9q.net
この前の予約分がようやく出来たんで突然ですけど投下します。

ブラフォード、ディエゴ・ブランドー、ルーシー・スティール、橋沢育郎
投下します。

175 : ◆c.g94qO9.A :2014/06/09(月) 15:29:44.62 ID:GdSg1f9q.net
暗い洞窟を歩き続ける一人の青年。
放送が鳴り響いたわずかな時間だけ、育郎は歩みを止めた。
読み上げられた死亡者を書き取り、放送後はしばしの間死者へ黙祷を捧げる。
それが終わると、すぐに育郎は歩き始めた。バイクを押しながら、悪路をゆっくりと進んでいく。

アバッキオとの戦いが育郎をさらなる『戦士の領域』へと押し上げた。

12時間前、億泰と共に戦った怪物、カーズ。
サンモリッシ廃ホテルで自分を叱咤激励した巨大な戦士(ワムウ)。
人間でありながら肉体を乗っ取られ、ただ自分を証明するために戦った『アバッキオ』。

どれもが規格外の怪物だった。
圧倒的な身体能力と回復力は怪物と呼ぶにふさわしい。
彼らはまさに人間を超越した、超生物なのだ。

自分だけが彼らを相手にすることができる……!
あのカーズを、巨大な戦士(ワムウ)を、この場にのさぼらせておくわけにはいかないッ!

育郎の瞳の中で、黒く熱い炎が燃え上がる。
それは覚悟を決めた目だ。もはや自分はどうしたって『普通』に戻れない。
それはたまらなく寂しく、そして、苦しい事実。
それでもその道を歩み続けることを決めた、男の目。


そこまで考え、育郎は不意に立ち止まる。
高性能に発達した聴覚が右の暗闇の物音に反応した。
慎重に、気配を殺しながら進む。
少し開けた場所まで進んだのを確認すると、くぼみの中にバイクを隠してあたりを用心深く伺う。

今度は左側から物音がした。どこまでも広がっていくような左側の暗闇に目を凝らす。
しかし何も見えなかった。そして、何も聞こえなかった。
あたりに充満するのは強烈な悪意と……一線を超えた殺意。
育郎の全身がざわつく。戦いを前に、彼の中の怪物がゆっくりと顔を出す。

一歩、二歩と前に進み―――そこで完全に育郎の足が止まる。

176 : ◆c.g94qO9.A :2014/06/09(月) 15:30:39.02 ID:GdSg1f9q.net
「………………」

振り向かないでも……そこに誰かが、何かがいるのは気配で分かった。
高く伸びた天井に張り付く、一つの人影。水溜りに写ったおぼろげな影。
自慢の髪の毛を、まるで蜘蛛の脚かのように使い、ブラフォードは育郎の頭上をとっていた。
逆さ吊りで目をギラつかせながら、育郎の首筋にそっと忍び寄る。
何十にも伸ばした髪の毛が、命を刈り取らんと宙を漂いながら。

育郎は落ち着いた表情で、じっと動かない。今動けばそれは大きな隙になるとわかっていたから。


無音があたりを漂っていく。
長い時間をかけて水滴となった雫が、音を立てて水溜りに落ちていく。



 ―――戦いは一瞬だった。



「SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

天井を強くけったブラフォードが襲いかかる。育郎は振り向くと同時に飛び下がり ――― 一閃。
すれ違いざまに一瞬だけバオーの力を解放した。左腕から伸びた刃がブラフォードを袈裟斬りにする。
地面に落ちたブラフォード。一瞬でバオーから姿を元に戻した育郎。
そして……沈黙の後、眩い光がブラフォードの体から溢れ出た!
苦悶に満ちた叫びが洞窟をみたし、ブラフォードの体はバチバチと青白い光に包まれるッ!

これが、これが! 育郎の新しい力ッ!
体細胞から発生される電気を刃で貫くとともに一点放出! 切り裂かれた敵は全身を電流に包まれる!
バオー・ブレイク・ダーク・サンダー・フェノメノン『改』!

「この俺が……この俺が、負けるなどォォォオ……OOOOOOOOOHHHH!」

肉体を焼きこがされ、それでも戦うためにもがくブラフォード。
変身を解除した育郎は暗い目でその様子を見つめていた。
覚悟はある。育郎はこのためにここにいるのだ。大いなる驚異を取り除くため、戦わなければならないものから育郎は逃げない。

ズブリズブリと崩れる体。なぜだ、とブラフォードは思う。まだ死にたくないと、そう思う。
もがき、あがき、叫べば叫ぶほど死は近づく。全身を貫く『痛み』が迫り来る死を明確にする。
これしきの痛みで止まってなるものか……! これしきの苦しみがなんだというのだ……!


「俺は死なん……、死なんぞ!」


育郎はためらわなかった。無慈悲に、残酷なまでに己の役割を果たした。
ブラフォードに近づくと、叫び声を遮るように刀を振るった。
ザクッ ――― 肉を切り裂く残酷な音が響いた。育郎が、バオーが振り下ろした刃は的確に肉体を切り裂いた。



―――ブラフォードをかばうように突然姿を現した、恐竜の肉体を。

177 : ◆c.g94qO9.A :2014/06/09(月) 15:32:44.36 ID:GdSg1f9q.net
「!?」
「ディオ様……、あのお方のためならば、この俺はもはや……! もはやッ!
 騎士であることも! 誇りを持つことも! 『人間であった』こともやめてやるッ!」

もろく崩れたブラフォードの体に訪れる、異変。
真っ黒に焼きこげた肉体が剥げ落ち、つやつやとしたウロコが生え伸びる。
わずかに人間味を残していた顔が変わっていく。牙が伸び、眼光は黄色に変わり、細長の爬虫類のような顔に変わっていく。

育郎は大きく後ろに飛び下がる。目の前で起きている出来事が信じられない。
ブラフォードの体は大きくなり続け、最後には3メートルを超えるまでになっていた。
ウロコをまとい、頭部からは長く伸びた髪の毛を振り回し、片腕で軽々とスレッジハンマーを持ち上げる。
冷たい汗がこめかみを伝っていくのを感じた。育郎は思う。
この『化物』相手に、勝つことなんかできるのだろうか、と……。

全身から放たれる底なしの悪意と殺意。
目の前のブラフォードだったものは制御装置を失った殺戮マシーンそのものだった。
言葉にならない叫びを上げながら、恐竜は育郎に襲いかかる。早く、鋭い攻撃だ。

間一髪のところで横っ飛び。続けて放たれる髪の毛の拘束を振り切り、育郎はバオーへと変身する。
二人の怪物が対峙する。望まざる力を得た怪物、望んでさらなる力を得た怪物。
元人間同士の戦いの火蓋が、切っておろされる。



【D-5 北東部 地下/1日目 日中】

【橋沢育朗】
[能力]:寄生虫『バオー』適正者
[時間軸]:JC2巻 六助じいさんの家を旅立った直後
[状態]:バオー変身中、全身ダメージ(大:急速に回復中)、肉体疲労(大)
[装備]:ワルサーP99(04/20)、手榴弾セット(閃光弾・催涙弾・黒煙弾×2)
[道具]:バイク、基本支給品×2、ゾンビ馬(消費:小)、打ち上げ花火、
    予備弾薬40発、地下世界の地図、不明支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルを破壊
0:目の前の悪意を打ち倒す
1:少年(ビットリオ)を追う?

【ブラフォード】
[能力]:屍生人(ゾンビ)+恐竜化
[時間軸]:ジョナサンとの戦闘中、青緑波紋疾走を喰らう直前
[状態]:恐竜化、腹部に貫通痕、波紋ダメージ(小)
[装備]:大型スレッジ・ハンマー
[道具]:地図、名簿
[思考・状況]
基本行動方針:失われた女王(メアリー)を取り戻す
0:恐竜化&凶暴化中。ただ目の前の存在を始末するのみ。
1:ディオ様のために戦う。
2:次こそは『ジョナサン・ジョースター』と決着を着ける。





178 : ◆c.g94qO9.A :2014/06/09(月) 15:34:03.01 ID:GdSg1f9q.net
「そうだ、それでいい……それでいいんだ……」

暗闇の中、誰に言うでもない呟きを、ディエゴは一人こぼしていた。
見えるはずのない暗闇に目を凝らし、ディエゴはじっと待ち続ける。
聞こえてくるのは壁を震わす衝撃音、人のものとは思えない凶暴な叫び、そして……背後から一定のリズムを刻む呼吸音。

暗闇から目をそらすと後ろに待たせた恐竜の上を見る。
横たえられているのは気絶したルーシーだった。
呼吸は浅いが止まっていない。外傷もなく、見た目にはただ眠っているように思える。
ただ一点、不自然な箇所を残しては。


「スティーブン・スティール……」

恐ろしいやつだ、とディエゴは思った。
乗馬ヘルメットを外し、流れ落ちる汗を拭いながら、思わずその男の名前を呼んでしまった。
自分の妻を殺し合いに参加させる。それだけでも常識外れのイカレ野郎だ。

しかし、殺し合いという常識を逸したスティールはさらなる狂気に足を踏み入れたとディエゴは思った。
ルーシーの膨らんだ腹部をさすりながら、ディエゴは一人身震いする。
あのディエゴ・ブランドーが怯えているのだ。人を人と思わぬ行為を繰り返す、あのディエゴが。


「『神』すらこの殺し合いに巻き込み……一体お前の目的はなんなんだ? スティーブン・スティール」


ルーシーの腹部に宿ったのは遺体の頭部。そして今ディエゴの左の視界を移すのは……遺体の左目。
そのどちらもがディエゴがもっていた誰かの支給品に紛れていたものだった。
支給品を確認したとき、ディエゴは自らの目を疑った。あるべきはずでないものが何故ここに。
しかし時間が経つにつれ、はっきりとわかった。
その美しさと気品……いま自分が目にしてる、宿してる遺体は、間違いなくあの『お方』の遺体だと。

背後をブラフォードに任せ、ディエゴは向かう。
これも全てスティールの手のひらで踊るに過ぎないとわかっていても、今は引かれるまま進むしかない。
そう、遺体が呼ぶ何者かの方へ……。ディエゴは恐竜の鼻先を叩くと、足が向かうままに洞窟を進んでいく。
遺体が示す引力のままに、どこへと知れず歩みだす。


瞬間―――ディエゴの視界は『全てが止まった』ように映って見えた。


歩き出せばそれは気のせいで、ディエゴは気にもとめず、また進みだす。
それが内なる何者かの力と知らず……。そしてそれが、自らの中で芽生えつつあるもうひとつの力と知らず……。
ディエゴは後ろに跳ねた髪の毛をなでつけた。首筋にはうっすらと星型のあざが、いつの間にか浮かび上がっていた。

179 : ◆c.g94qO9.A :2014/06/09(月) 15:35:23.45 ID:GdSg1f9q.net
【D-4 東部 地下/1日目 日中】

【ルーシー・スティール】
[時間軸]:SBRレースゴール地点のトリニティ教会でディエゴを待っていたところ
[状態]:気絶中、処女懐胎
[装備]:遺体の頭部
[道具]:基本支給品、形見のエメラルド
[思考・状況]
基本行動方針:スティーブンに会う、会いたい
0.気絶中
1.ディエゴを出し抜く

【ディエゴ・ブランドー】
[スタンド]:『スケアリー・モンスターズ』+?
[時間軸]:大統領を追って線路に落ち真っ二つになった後
[状態]:健康
[装備]:遺体の左目、地下地図
[道具]:基本支給品×4(一食消費)鉈、ディオのマント、ジャイロの鉄球
    ベアリングの弾、アメリカン・クラッカー×2
    ランダム支給品0〜3(ディエゴ:0〜1/確認済み、ンドゥ―ル:0〜1、ウェカピポ:0〜1)
[思考・状況]
基本的思考:『基本世界』に帰る
0.引力の向かう方へ
1.ルーシーから情報を聞き出す。たとえ拷問してでも
2.別の世界の「DIO(ディオ)」に興味
[備考]
・遺体の頭部はンドゥール、遺体の左目はミラションの不明支給品でした
・二人は遺体の引力のままに進んでいます。どこに向かうかは次以降の書き手さんにおまかせします。

180 :ミッドナイト・バーサーカー    ◆c.g94qO9.A :2014/06/09(月) 15:41:46.92 ID:GdSg1f9q.net
以上です。誤字脱字、矛盾点などありましたら教えてください。

空条邸、サンジョルジョ・マジョーレ教会の二つが騒がしくなってきましたね。
最近ちょっとした時間の隙間に続きを考えるのが楽しみで仕方ありません。

181 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 00:42:13.35 ID:dCnjqC14.net
投下乙です。
短いながらも、止まっていたパートが動き出しただけでワクワクしますね。
これで放送後に動いていないのはカーズ様のみになりましたが、はてさて

とりあえず気がついたのが。
「育郎」ではなく「育朗」、「サンモリッシ」ではなく「サンモリッツ」
この二つの誤字でしょうか?

182 :代理:2014/06/10(火) 08:22:53.81 ID:oGBC7zka.net
752 :トリニティ・ブラッド −カルマ− ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 00:33:37 ID:RvLBe2q6




「……───離れていっている」


「え?」

ジョニィが漏らした発言に、トリッシュは思わず上擦った声をあげてしまった。

フーゴとジョナサンが「落とし物を拾いに行く」という名目で外に出てすでに数十分、トリッシュたち5人は2人の帰りを待つついでに休憩をとっていたのだが、
遅い帰りに「なにかトラブルでもあったのでは」と誰からともなく疑念を持ち始めたころ、ジョニィがポツリと冒頭の言葉を発したのだ。


「ジョニィ、どうしたの?離れていっているって…」
「ジョナサンの気配がどんどん遠ざかってるんだ、多分…走ってどこかへ向かってる」
「! やっぱなんかあったのか!?」

西の方角へ体ごと視線を向けるジョニィに対してトリッシュは不安そうに声をかけ、それまでソワソワと不安そうに座り込んでたナランチャがジョニィに食って掛かる。
彼にとって親しみを覚える2人がそろって出て行ってしまったことに戸惑っていた矢先の事態であるため、嫌な予感がナランチャの胸を駆け巡った。

「まさかあいつら、なんかやましいことがあって逃げたんじゃあねーだろーな」


ドゴッ!!


「玉美!ふざけたこと言ってると蹴るわよ!!」
「も……もう蹴ってますトリッシュ様…ぐふっ」

脇腹にまともに蹴りを入れられ悶絶する玉美、それを尻目に玉美以外の4人は話を続ける。

「敵に襲われて逃げているとかか?」
「いや、それにしては動きが直線的だ。闇雲に走っているというよりかは何かを「目指して」いるように思える…あっちの方には何があったっけ?」

アナスイの問いにジョニィは答え、西の方を指差す。それにトリッシュは地図を取り出した。

「ええっと、地図によると……一番近いので「空条邸」、少し北にずれると「マンハッタントリニティ教会」、そのさらに先に……「サン・ジョルジョ・マジョーレ教会」があって、川を渡れば「サンピエトロ大聖堂」があるわ」

地図に指をなぞりながら順番に該当する施設の名前を上げる。三番目の施設を答える時に無意識に少し間が空くが、そこはトリッシュやナランチャ、フーゴたちブチャラティチームにとって関わりの深い場所だったからだ。
ジョニィは地図を覗き込む。

「絶対とは言い切れないが、空条邸は通りすぎてるから違う、マンハッタントリニティ教会も方向的に微妙だ。となると」
「────サン・ジョルジョ・マジョーレ教会?」
「……だろうと思う、サンピエトロ大聖堂の可能性もあるが、さすがにこれ程遠いと2人で行くのは危険だと戻ってくるだろう」
「…………」

偶然とは思えない一致に、トリッシュは嫌な予感がした。

「で、でもよぉー、もし本当にそこ目指してるんなら、なんだって2人だけで行くんだよ!」
「そこまではわからない、けど……」
「けど?」
「もし、何かを見つけたのだとしたら……いや、「感じた」のだとしたら……」


ジョナサンがジョニィを「感じた」ように、ジョニィがジョナサンを「見つけた」ように
ジョナサンが「それ」を再び察知したのだとすれば

183 :代理:2014/06/10(火) 08:23:50.46 ID:oGBC7zka.net
753 :トリニティ・ブラッド −カルマ− ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 00:34:48 ID:RvLBe2q6

「…!」
「じゃあ、ジョナサンは血縁者の気配を感じて、フーゴと2人だけで行ってしまったってこと?」
「推測だけどね、もっとも僕は何も感じないが……(距離が遠すぎるのだろうか?)」
「確かに、ただ事じゃないのに戻ってくるなりしないのはおかしいしな」

共有した時間は僅だが、ジョナサンと交流した者であるならば分かるはずだ、彼の紳士的な振る舞いと同時に感じる彼の優しさを、
そんな彼が血縁者かもしれない者の気配を感じとれば、いてもたってもいられなくなるのは無理もない。放送の直後であるのなら、尚更。

「こうしちゃいられねぇ!早く追いかけようぜトリッシュ!」
「ナランチャ!待ちなさい!」

今にも駆け出しそうなナランチャを寸のところでトリッシュが腕を掴み引き止める。

「な、何で止めるんだよ!」
「……」

ナランチャの焦りが見える言葉には返事をせず、トリッシュはジョニィへ目を合わせる。

「………ジョニィ」
「ああ、さっきも言った通り僕は急いでいる、探している人がいるんだ。申し訳ないとは思うが、面倒事が起こっているならそれに関わっている時間はない」

淡々と、しかし確固たる意思をもってジョニィは返答する。

ジャイロ・ツェペリ、ジョニィの探し人。詳しくは聞いていないが、とても大切な人らしいことは話の節々からよく分かった。察するにトリッシュにとってはある意味ブチャラティに相当するくらいの存在なのだろう。
だからこそそれほどの存在を目の前で失った彼女にはジョニィの心境が理解出来る。今こうしている間にもその人に命の危険が迫っているのだと思うと……

「途中までなら同行してもいい、けど」


ずっと一緒には、いられない


「……ええ、分かっているわ」

ジョニィの言わんとしていることを理解し、トリッシュは頷く、そして2人を追いかけるために支度を始めた。それを皮切りにジョニィとアナスイも荷物をまとめ始める。
ナランチャは慌てながらジョニィとトリッシュを交互に見やり、なにか言いたげに口を僅かに開けるものの、ぐっと堪えるように顔を引き締め同じように荷物をまとめていく。

「玉美、いつまで踞ってるの。さっさと支度しなさい」

はい!トリッシュ様!とさっきまで悶絶していたのが嘘のように勢いよく立ち上がり、玉美は元気よく返事をした。本当に犬のようである。
それほど時間はかからず全員支度を終え、メンバーは休息地点であった民家を後にしようとする。トリッシュは念のためナランチャに声をかけようとするが

「ナランチャ?どうしたの?」
「トリッシュ、俺………」

顔が髪でうまく見えないほどうつむき、声も力がなくモゴモゴと何かを言おうとしているが、絡まった糸をどうほどいていいのかわからないかのように言葉につまっている。先程の勢いとはうって変わった対照的な雰囲気となっていた。

184 :代理:2014/06/10(火) 08:25:40.94 ID:oGBC7zka.net
754 :トリニティ・ブラッド −カルマ− ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 00:36:14 ID:RvLBe2q6

「なんて言っていいのかわかんないけど……最初にジョナサンと会ったときに、似てるって思ったんだ。ジョルノに」
「ナランチャ……」

ようやく絞り出された台詞に、トリッシュはふとある出来事を思い出す。

放送前、ジョナサンに先の戦闘の傷を癒してもらったとき、体に波紋したその力に、トリッシュもまたジョルノを思い浮かべた。
命無きものに生命を与える者、命有るものに生命を注ぐ者、どこか共通する要素を持つ2人

「ブチャラティもアバッキオも死んじまって、ジョルノもどうなってるかわかんねぇのに、フーゴもジョナサンもいなくなって………俺もう、誰もわけわからないままいなくなってほしくねぇよォ………」

わけがわからないまま、いなくなる

その事実に、一体どれほどの人が苦しんでいるのだろう、苦しめられているのだろう。
その機会はこの場の誰もが晒される。
友達が、家族が、恋人が、己にとって親しい人が、知らない場所でいつの間にか死んでいく────考えるだけでもおぞましい想像に、頭が砕かれるような、体の内側が侵略されるような、己を形成するすべてを否定されるような、そんな感覚が魂を蝕む。

トリッシュはその感覚をよく知っている。ブチャラティ、アバッキオ、ポルナレフ、この殺し合いで出会ったウェカピポ、そして────目の前にいる少年こそが、トリッシュにとって「いなくなってしまった人」なのだから

その想像にとりつかれているナランチャの肩を、トリッシュの手が優しく包む。ナランチャは顔を上げ、トリッシュと目線を合わせる。

「ナランチャ、あたしも同じ気持ちだわ」
「トリッシュ……」
「大丈夫よ、きっと大丈夫」

その言葉はナランチャに、そしてトリッシュ自身にも言いきかせるようだった。トリッシュはナランチャの肩からするりと手を離すと、行きましょう、とナランチャを促す。ナランチャは一瞬心配そうにトリッシュの顔を見るが、黙ってトリッシュに従った。

そして5人は家を出る。久方ぶりの眩しい光に、5人は腕で顔を隠したり、目をパチパチと瞬いたりしていた。日はまだ落ちてはおらず、青い空の中で輝いていた。
トリッシュはその空を見上げながら、一人思う。

どうか、あの空が落ちてきませんように……と


  □■□■


サン・ジョルジョ・マジョーレ教会
そこはフーゴにとって「恥知らず」だった頃の記憶を思い起こさせる最たる場所である。
ボスがブチャラティの心を裏切り、ブチャラティがファミリーを裏切り、そしてフーゴがブチャラティチームを抜けた場所

あらゆる裏切りが渦巻いていたそこは────しかし既に2人が着いた頃には「なれの果て」と化していた。


ザアァァァ──────…………

砂が滝のように流れ落ちる音が、2人の男の耳に届く。

「な……なんだこれは……!?」
「フーゴ!こ……これはまさかッ……!」

D−2のサン・ジョルジョ・マジョーレ教会を目前に、フーゴとジョナサンは異様な光景を前に愕然としていた。
この場にたどり着くまでに2人が見たものは、川を越え街を越え、この殺し合いの会場全土からかき集めるかのように大量の砂がまるで意志があるかのように唸りをあげ、暴力のような嵐を生み出ながらサン・ジョルジョ・マジョーレ教会を押し潰さんとしているところだった。

今は鎮静化し砂は魂が抜けたかのように力を失っているが、それによってサン・ジョルジョ・マジョーレ教会全体は今にも崩れ落ちそうな見るも無惨な姿になっている

(ジョナサンはここから2人分の気配がすると言っていた、さっきはそれでジョニィに会えたから今度も信頼できる人物に会える可能性があると踏んでいたが……早計だったのか?)

185 :代理:2014/06/10(火) 08:27:46.54 ID:oGBC7zka.net
755 :トリニティ・ブラッド −カルマ− ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 00:37:27 ID:RvLBe2q6

教会を見上げ、フーゴは思考する。
この現象がスタンド能力によるものなのは間違いない、もしもこれが教会内にいると思われる人物の手によるものなのならば、この場にいるのはあまりにも危険すぎる。
フーゴはジョナサンにそのことを知らせるべく、教会から視線をはずす。

「ジョナサン、今教会に入るのは危険です。一端ここから離れま─────」

しかし、隣にいるはずの彼の方に顔を向けるも視界に映るのは砂にまみれた街並みの景色のみ。思わず言葉が途切れ慌てて探すも、見つけたのは今まさに教会へと入ろうとするジョナサンの背中であった。

「ジョナサン!?」

いつのまにか小さくなっていたその背に驚き、フーゴは急いで後を追う

(マズイッ!今のジョナサンは身内が危機に晒されているかもしれないという恐怖にとりつかれて冷静な判断が出来ていない!今すぐ止めなければ!)

砂に足をとられそうになりつつも、フーゴは既に教会内に入ったジョナサンに声を張り上げて呼び掛ける。

「ジョナサン!戻ってきてください!教会内にスタンド使いがいるかもしれない!下手をすれば貴方も──────」

風が 吹いた

ねめつけるような、鋭い刃を突き立てられたような、尖った針を全身に向けられたような、そんな風がフーゴをなぜる

『殺気』という名の、 風が

「ッ! 『パープルヘイズ』ッ!!」

反射的に己のスタンドを呼び出し防御体制になった直後、スタンドで守られていた頭部を中心にとてつもない衝撃がフーゴを襲った。

「ぐ……おぉ!」

吹き飛ばされ、地面を転がりつつもなんとかその反動を利用して立ち上がり、衝撃が来た方向へ臨戦体制をとる。ゴッ!という固く重い物が落ちたかのような音がして、一瞬ちらりと視線を向ける。

石だ。拳よりも一回り大きい程度の石
それがものすごいスピードでフーゴを襲ったのだ。普通の人間ではあり得ない所業、ともすれば

(スタンドによる襲撃か?このタイミングでなぜ?教会に入ろうとしたからか?それならなぜジョナサンを攻撃しなかった?なぜ僕だけを攻撃する?今のは明らかに僕を殺す気だった。ジョナサンは無視し僕だけを攻撃する理由…………僕を殺そうとする理由……

まさか…………!)

ざっ ざっ、と砂を踏みしめながらこちらへ近づいてくる足音がフーゴの耳まで届く。
足音の主はフーゴを見た、フーゴもまた足音の主を見た。
パサパサとした長い髪、骨ばった長身、そして、どこまでも表情の欠落した瞳────
なにも変わっちゃいなかった。なにも、なにもかも

それは本来ならあり得ない事象だった。あり得ないはずの遭遇だった。
生者と死者、勝利者と敗北者、殺した者と殺された者、どうしようもない生死の壁を、しかしいともたやすくそれはぶち壊され、そして────彼らは再び出会った。

「パンナコッタ・フーゴ……」
「……マッシモ・ヴォルペ…………」

塵一つ残さず消え去ったはずの級友の姿が、そこにあった。


  □■□■

186 :代理:2014/06/10(火) 10:11:24.44 ID:oGBC7zka.net
756 :トリニティ・ブラッド −カルマ− ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 00:38:30 ID:RvLBe2q6



時は遡る。

「…………クソッ」

軽く悪態をつきながら、マッシモ・ヴォルペは耳に当てていたものをはずし、目線を落とす。
それはヴォルペが持っていた支給品、携帯電話だった。元々はこの殺し合いが始まって間も無くヴォルペの能力によって麻薬を注入され、DIOに血を吸われ殺害された名も知らぬ女性に支給されたものだ。
もうこの動作を一体何度繰り返せばいいのか、ヴォルペはモヤモヤとした気持ちを吐き出すかのようにため息をつく。

これまでの経緯を説明すると、彼は空条承太郎との僅かな邂逅の後、地下の洞窟をさ迷いつつ、空条徐倫(の姿をした何者か)を連れ地上へと出ていた。
さ迷いつつ、というのは、単純にヴォルペは地下の地図を持っていなかった(DIOに渡した)こと、また地下でのDIOと空条承太郎、他2名の大乱闘で辺り一帯が崩落し、思ったように地下道を進めなかったのが原因だった。
結局2人は進んだり来た道を戻ったりしつつ、ようやく地上への階段を見つけて地下から脱出することに成功したが、その時既に時間帯はとうに午後を回っていた。
……この時ヴォルペたちが地下で誰とも接触しなかったのは、ヴォルペが来た道を引き返すうえで空条承太郎を含む危険人物たちを警戒しつつ進んでいたことによる時間差が大きな要因となっている。

ともあれ、時間をとられた以外は地下で大きな問題は起きず地上に出た2人だが、問題はそこからだった。
ヴォルペはDIOが今どこにいるのかを把握しておらず、有事の際の言うなれば集合場所というのもきいていなかった。
故にヴォルペはこうゆう事態になったときのためのDIOとの連絡手段、携帯電話を使うことにした。地下では周囲の警戒もあって使えなかったそれをとりだし、DIOへと発信する────が、何度コールしても、DIOが出る気配はない。
実はこの時既にDIOは息子であるジョルノと対面しており、彼が持っている携帯電話はジョルノに不要な不信感を与えないように音が出ないよう設定にしてデイバックの奥底にしまわれていた。
その後十分ほど粘ってコールしてみたものの、やはり携帯電話はとぅるるるるるんというコール音しか鳴らず、ヴォルペは連絡を一旦諦め留守電を残したのち、DIOが現在どこにいるのかの大体の目星をつける。

────地下の乱闘があったのはDー4中央一帯、そこから離脱したのなら、ずっと地下道にいるはずもないので地上に通じているどこかの施設にいるはず、
また元々一時の拠点にしていたGDS刑務所からも近い方が都合が良いと思われるので、周辺でその条件に見合うような施設は────

おおよそかいつまんでこんな考えをしたヴォルペは、その条件に該当する施設、サン・ジョルジョ・マジョーレ教会へと足を運んでいる。

ヴォルペ自身、結構強引なものの考え方だと思っている。
地上から地下に通じてる施設なんて他に吐いて捨てるほどあるし、一時の拠点といってもDIOはあのGDS刑務所に特にこれといった思い入れもないだろうから、都合が良いというのは
もしDIOがヴォルペと同じようにDIOからはぐれた連中がいるなら似たような思考になりDIOと合流しやすくなると判断をするかもしれないという
あくまでヴォルペ視点での「都合が良い」だった。
だからもしかしたらまったくの検討違いかもしれない、さっさとGDS刑務所に戻ってるかもしれないし、他の施設にいるかもしれない、なんらかの事情で未だ地下道に留まっているかもしれない。
けれどヴォルペは足を止める訳にはいかなかった。例えもし向かおうとしている場に誰もいなかったとしても、歩みを止めたくはなかった。

187 :代理:2014/06/10(火) 10:13:29.38 ID:oGBC7zka.net
757 :トリニティ・ブラッド −カルマ− ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 00:39:57 ID:RvLBe2q6

「…………」

ヴォルペはもう一度ため息をつくと、携帯電話をデイバックの中に仕舞い、再び歩きだす。留守電を残したとはいえ、流石にこうも連絡がとれないと心配になり、ついつい電話をかけてしまう。
仕事先の彼氏にしつこく電話やメールを送りつける彼女か俺は、と自虐気味に自身を評価し、ちらりと歩きながらヴォルペは顔だけ背後へと振り替えり、人影を捉える。

「おい、もう少し速く歩け」
「………ああ」

ヴォルペの五メートル程後ろを歩く「空条徐倫」に対し、そう告げる。

(いや、正確には「空条徐倫モドキ」、か)
ヴォルペは無関心気味にそう思った。
空条徐倫────の肉体を持つF.Fは、ヴォルペの言う通りに少しだけ歩くスピードを速め、ヴォルペについていく。どこかぎこちなさを感じるその動作を見て、ヴォルペは彼女の正体に気付きはじめていた。

(外っ面の肉体は空条徐倫本人のもの、しかしその肉体はとうに死んでいる……おおよそ殺したか殺されていた空条徐倫の肉体を今の「中身」になっているスタンドが乗っ取った……というところだろう)

肉体の生命活動に影響を与えるスタンドを有することもあってか、鋭い観察眼でヴォルペはそう結論付けた。
しかし、そこまでだ
「中身」のスタンドの正体はなんなのか、なぜ「中身」が空条徐倫の肉体を乗っ取ったのか、一体これまで空条徐倫としてなにをしてきたのか、などということについてヴォルペは塵ほども興味がなかった。
当たり前だ、ヴォルペにとって彼女はただの駒、己の憎しみをぶつける空条承太郎を苦しめるためのただの道具に過ぎない。そんなものに向ける意識などクソの役にも立たない。

ヴォルペの心を占めている人物はただ2人、
敬愛とも尊敬とも親愛とも呼べぬ、しかしそれら全てに当てはまるような感情を向けるDIOと、憎悪と嫉妬と歓喜をないまぜにしたような感情をぶつける空条承太郎だけだ。

「…………」

だがヴォルペの心には、それとは別のある一抹の不安がよぎっていた。
それはヴォルペの現在の行動のそもそもの要因、すなわち『DIOとの合流』のことについてだ。
ヴォルペは無意識に歩くスピードを上げる。

もし、このままDIOと合流できなかったら?
もし、合流できずにDIOに見捨てられてしまったら?
もし──────

「…………ッ!!!」

いくつものIFが、ヴォルペの思考を侵食していく
あり得ない、あり得ないそんなこと
ヴォルペとDIOは奇妙な引力によって引き合ってきた。最初の出会いも、互いが持っていた支給品も、スタンド能力の相性も。なにもかもが偶然とは思えない、まさしく『運命』とも呼べる縁によって導かれてきたはずだ。
だからきっと今度も引力によってDIOの元へたどり着けるはずだ。

きっと

……しかしそう思おうとすればするほど、ヴォルペの心は焦りの色が濃くなり、それを打ち消さんとするかのように歩みは速くなっていく。
立ち止まってはならない、歩みを止めてはならない、進んでさえいればきっと、DIOへとたどり着ける。
そう信じて、ヴォルペは前に進んでいく。

188 :代理:2014/06/10(火) 10:17:01.62 ID:oGBC7zka.net
758 :トリニティ・ブラッド −カルマ− ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 00:42:23 ID:RvLBe2q6



「………」

その背をF.Fはじっと見つめていた。
いや、違う。その姿の遠く向こう側にある感覚────「ジョースターの血統」の気配を、彼女もまた感じ取っていた。
空条徐倫の身体を通じて伝わってくる血の気配。それは地下で自身が「父さん」と呼んだ人物と出会った時と同じものであり、空条徐倫の知性を理解するために必要なものだということを、F.Fは確信していた。

(私は……あたしは「空条徐倫」として、空条徐倫の知性を知りたい。あたしは「あたし」という唯一の存在として生きていたい、存在していたい……)

だからきっと、空条徐倫から感じるこの感覚をたどれば、空条徐倫という存在をより本能的に知ることになる、知性を得ることが出来ると、F.Fは信じて疑わなかった。
F.Fの心は、己が知性と呼ぶそれは、今だに冷たく暗い牢屋の中にでもいるようだった。彼女はそこから出ようとしている。空条徐倫を知ることで、光の中に、日の光の当たる場所へと出たがっている

(だからあたしは会わなきゃならない、DIOに、あたしが「許してはならない」と言ったはずの、あの男に────)



本当に、そうだろうか?


「おい」

はっ とF.Fの意識は現実に引き戻される。前方をみれば先程と同じように顔だけ振り向いた、しかし先程よりも小さくなっているヴォルペの姿に、F.Fはようやく自分が立ち止まってしまっていることに気が付いた。


ヴォルペは不機嫌な顔を隠そうともせず「空条徐倫」を黙ったまま睨み付ける。やがて「空条徐倫」が歩き出すのを見ると、自身もまた歩き出した。そのスピードは変わらず早いままだった。

2人がサン・ジョルジョ・マジョーレ教会にたどり着くまで、あと少し。



……結論からしてみれば、ヴォルペの推察通りDIOは確かにサン・ジョルジョ・マジョーレ教会の地下にいた。
ヴォルペの判断は間違っておらず、事がうまく運んでいればヴォルペはDIOと再会し、空条徐倫を引き合わせ、これまでの経緯やこれからの方針に関する話に花を咲かせていたはずだった。


けれども
「引力」は一歩手前で役割を放棄してしまった。



ヴォルペの持つ別の因縁の「引力」と、引き合ってしまった。

ヴォルペが教会にたどり着くのがもう3分でも早ければ、あるいは「彼」がもう3分到着が遅れていれば、いや、「彼」がDIOと因縁のある「ジョースターの血統」を連れ出していなければ、こんなことにはならなかったはずだ。

けれどもその「引力」は、会うはずだったDIOとの縁を、運命を、なにもかも持っていってしまった。

その「引力」の名は──────


「パンナコッタ・フーゴ……」

「……マッシモ・ヴォルペ…………」



  ○●○●

189 :代理:2014/06/10(火) 10:21:24.54 ID:oGBC7zka.net
759 :トリニティ・ブラッド −カルマ− ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 00:43:40 ID:RvLBe2q6
「どこだ?どこに……ッ!」

サン・ジョルジョ・マジョーレ教会内、フーゴの制止に構うことなく、ジョナサンは血が訴えかけるままにそこを駆けずり回っていた。
教会内部は外見以上にひどい有り様だった。砂の圧力によって教会全体は軋み、また直径が大人一人分はあろうかという円形の穴が壁、床、天井問わず至るところに空いている。
スタンドに関する知識と経験がほとんどなくとも分かる、これがスタンド使い同士による戦闘の跡なのだと。

「どうか……どうか、無事でいてくれ…………!」

悲痛に染まるジョナサンの祈りが、ボロボロになった教会にこだまする。
やがてジョナサンは地下へ続く階段を見つけ、降りていく。2つの気配は地下から感じていた。

「誰か!誰かいないかッ!!」

ジョナサンの声が冷え冷えとする地下に反響する。そうしながらもその丸太のような足は走ることをやめていない、やがて下へ下へとおりてゆき、ジョナサンは気がつけばとあるドアの前にたどり着いていた。
ジョナサンはじっと感覚を鋭くさせる。

(ここからだ………ここからずっと感じていた気配がする)

この扉の向こうにいる2つの命、2つの鼓動、2人の人物。自分に繋がっている知らない家族。それがジョニィと会ったときよりも濃く強く感じられた。

波紋の呼吸は乱れていない。いつどんなことがあろうと乱れてはならないと鍛えられたのは伊達じゃない、しかし胸の内にある感情は、心臓は、今まで経験したことのないほど激しく揺れていた。
意を決し、ドアに手をかけ、開ける。
ギイィ…と普段なら気にも止めないような小さなドアの軋む音が、やたらと耳の奥をくすぐる。

ドアが開け放たれ、ろうそくの僅かな光が部屋の内部を照らし出す。

そして

───────そこに誰かいた

「…………ディオ?」


  ●○●○


崩れていく 壊れていく

けれど、挫けてはならない、砕けてはならない ────折れてはならない

「無駄ァ!!」
「ふん」

ジョルノが打つ『ゴールド・エクスペリエンス』の拳を、DIOの『ザ・ワールド』は軽く受け止め、そのまま力を受け流しながら背後へと投げ飛ばす。

「 ッは!」

吹き飛びざまジョルノは握っていた石ころをツバメに変化させ、DIOへと突進させる……


「 無駄、無駄だジョジョ」

突如としてDIOの姿は消え、突進したツバメは空を切り、そのまま壁へと激突し元の石ころへと戻る。

「く……!」

ジョルノは『ゴールド・エクスペリエンス』に自身をキャッチさせ、地面に足をつけると消えたDIOの姿を探す。

(まただ……DIOに攻撃が当たると思った瞬間DIOの姿が消えた。確実に捉えていたのにも関わらずだ。単なる超スピードや催眠術なんかじゃあ断じてない、これは……これはまるで────)

190 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 10:42:23.93 ID:Q3sAymzJ.net
しえ

191 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 10:42:59.64 ID:Q3sAymzJ.net


192 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 10:43:29.36 ID:Q3sAymzJ.net
支援

193 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 10:44:05.63 ID:Q3sAymzJ.net
しえん

194 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 10:45:10.52 ID:Q3sAymzJ.net
親子対決いいね支援

195 :代理:2014/06/10(火) 11:03:46.91 ID:WL36T3N3.net
「どうしたんだいジョジョ、もう戦う気力が失せたかな?」
「……僕が貴方と戦う理由が無くなるのは、貴方を倒した時だけです」
「ほーう?」

感心したかのようなDIOの声が頭上から降り注ぐ、視線を上げれば、DIOはジョルノが生み出した木の枝に足を組んで悠々と座っていた。

「このDIOのスタンド能力をほんのちょっぴりでも体験してまだそんなことが言えるとはな……さすがは我が息子と言ったところか?」
「心にもない薄っぺらなことを言うんじゃない、本当は僕のことはいつでも殺せるのでしょう?」
「ほう、中々に父のことが分かってきたではないか」

760 :トリニティ・ブラッド −カルマ− ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 00:44:58 ID:RvLBe2q6

DIOのその言葉に、再びジョルノの視界が赤く染まる。頭の、心の奥底に熱の激流が生まれる。
こいつは『悪』だ。他人を、ましてや身内を踏み台にしても塵ほども罪悪感を持たない、ドス黒い『悪』だ────!

そんなものがジョルノの父だった。

「それで?君は一体どうやってこのDIOを倒そうというのかな?」
「いつでも殺す事のできるのにそうしないのは僕を殺さないほどの理由があるのでしょう?ならばそこに付け入る隙があるはずだ」
「殺さない理由……か」

DIOが意味深げにジョルノの言ったことを復唱する。

「……なあジョジョ、君は自分が何者のなのか考えたことはあるかい?」
「何者か……?」
「子供のころに考えたことのあるちっぽけな夢でもいいさ。例えば自分はどこかの国の王子さまだとか、例えば空を飛ぶことのできる魔法使いだとか、例えば────」

DIOがするりと音もなく枝から身を降ろし、地へと自然な動作で足をつける。そのままゆっくりと姿勢を正すと、ジョルノと視線を絡める。その顔は見るものを魅了するような、艶めかしい笑みを称えていた。

「────100年の時を生きた吸血鬼の息子、だとかな」

196 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 11:09:19.48 ID:FFyuBeMR.net
支援

197 :代理:2014/06/10(火) 11:09:53.04 ID:WL36T3N3.net
「……何?」

意図が不明なDIOの答えに声を上げるも、しかしDIOの視線はジョルノから既に外されていた。
代わりにDIOが見つめているのは、この納骨堂の入り口、先程ジョルノがヴァニラに連れられて入ってきたドアだ。2人からよく見える場所にあるそこを、ジョルノもまたDIOと同じようにを見つめる。
DIOがなぜジョルノと戦闘中にも関わらず戦闘を止めてまでそんなことをするのか、ジョルノはなんとなく分かっていた。
DIOは「待って」いるのだ。そこを開けるであろう、この場にたどり着くであろう存在を。戦いが始まる前に既に感じ取っていたその人物を


「──────!」


やがて間もなく納骨堂の外から声が響いてくる。聞いたことのない男の声、だが何故だかジョルノの心には不可思議なざわめきが波紋する。
何故だろうか、きっと会ったこともない人なのに、ずっと昔からこうなることが決まっていたような気がする。思い出せないほど昔に約束したことを掘り起こしているような、そんな感覚がジョルノの身体を駆け巡る。

気がつけば、ジョルノもまたDIOと同じように待っていた。お互いにドアを見つめ、感覚をたどり、近付いてくる足音に耳を澄ませ、やがて……ドアが小さな軋む音とともに開かれた。

外から入ってきたのは、やはり男だった。筋肉に恵まれた大きな身体、けれど威圧感はまったくと言っていいほどなく、むしろその姿勢や僅かな動作から紳士的な印象を受けた。
その男とジョルノの視線が、繋がる。


(……────似てる)


誰に?
自分に?

それとも……DIOに?


率直に思ったことにジョルノはひどく動揺した。見ず知らずの人間に、自身やDIOを重ねるなど
けれど何故かその事を否定しきれない、その男に対しどこか親しみを覚えてしまう心を止めることができない。
やがて男はゆっくりとジョルノから視線を外す。ジョルノはゆっくりと息を吐いた。何もされていないはずなのに、その瞬間だけが切り取られ、とても長い時間のように感じられた。
男の視線はジョルノの正面に立つDIOの方へと流れ行く、しかしジョルノは未だ男から目を離すことができない。いや違う、DIOの方へと顔を向けることができない。

198 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 11:09:53.91 ID:FFyuBeMR.net
支援

199 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 11:11:36.20 ID:FFyuBeMR.net
支援

200 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 11:12:53.66 ID:FFyuBeMR.net
支援

201 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 11:13:33.55 ID:FFyuBeMR.net
しえん

202 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 11:14:27.73 ID:FFyuBeMR.net
しえん

203 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 11:15:05.16 ID:FFyuBeMR.net
支援

204 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 11:22:34.39 ID:VXWk8QRE.net
支援

205 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 11:24:36.53 ID:VXWk8QRE.net
支援

206 :代理:2014/06/10(火) 11:24:53.92 ID:WL36T3N3.net
男とDIOの視線がぶつかり合う、男の目が見開かれ、瞳孔が開き、全身に衝撃と動揺がジョルノにも分かってしまうほど伝わっている。
やがてその男は口からこぼれ落とすかのように言葉を漏らした。


「…………ディオ?」


……それは確かに父の名のはずなのに、父ではない誰かの名のような気がした。同じ言葉のはずなのに、違う色を秘めているような、そんな感じが。

「 『ジョジョ』 」

DIOが己を呼ぶ、それにジョルノは機械的に反応し、DIOへと顔を向ける。DIOもまたジョルノを見る。その瞬間


────ぽろり と、ジョルノは胸の中から何かが落ちるような音を聞いた気がした。それはジョルノの中にあった小さな小さなもので、でもしがみつくように残った最後の一粒で、
慌ててそれを拾おうとしても身体がそれを拒むかのように動かなくなり、ジョルノは黙ってそれが落ちていくのをぼんやりと見ているしかなかった。

カリスマの溢れる立ち振舞い
ゆれる冷たい金の髪
男とは思えぬ白い肌

DIOの一つ一つの動作が、ゆっくりと、しかし鮮烈にジョルノの脳裏に焼き付けられる。

──────こないでくれ


こらから起きるはずの事柄にそう祈っても、時は止まってくれるはずもない。ただただジョルノは、『その時』がくるのを、沈黙をもって受け入れるしかない

そして    時は動き出す



「お前はもう────用済みだ」



最後に残った一粒は 地に落ちた
落ちて────砕け散った

207 :代理:2014/06/10(火) 11:29:03.15 ID:WL36T3N3.net
────その瞬間の出来事を、ジョナサンは正確に認識することができなかった。

部屋の中は何故か植物で溢れかえっており、そこに2人の人物がいて、どちらもジョナサンの知っている顔だった。
一人は最初の会場で首を吹き飛ばされ死んだはずの少年────ジョルノ・ジョバァーナで、彼の仲間からよく聞かされていたこともあったせいか、初めて会ったような気がしなくて、しかしなんと声をかければいいのか分からず仕舞いで、結局その少年には声をかけられなかった。

そしてもう一人は、7年間の青春を共にし、奇妙な友情を描き、そして……この殺し合いに呼ばれるまでは、その青春に決着をつけるために戦いを挑もうとしていた宿敵だった。
けれども


「…………ディオ?」


彼のその姿に、ひどく違和感を覚えた。
確かに見知った顔のはずなのに、なんと言うか、ちぐはぐなのだ
ジョナサンの中のディオと目の前のディオとの違い、それを一言で表すならば、そう、職人が長い年月をかけて技術を習得し、それを研ぎ澄ましていくような、いわゆる『洗練さ』があった。
帝王としての立ち振舞い。人を虜にする圧倒的な存在感。
ジョナサンは彼との間に、『時間』の積み重ねによる越えようもない何かがあるのではないかと、直感的にそう思った。
けれども、それだけでは説明できないもっと別な違和感がジョナサンの意識を掠める。
────じゃあ今まで感じていた気配がどうしてディオから感じる?

だから、自分と彼との間に横たわるこの違和感は何なのか、一体目の前の男はいつの彼なのか、彼にとってジョナサンは一体いつのジョナサンなのか
それらをどう形にしていいかも分からず、しかしそれでも言葉にしてしまわないといけないような気がして、心に溜まった思いの丈を吐き出そうと口を開こうとしたその瞬間────それは起こった。

208 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 11:33:35.65 ID:YqTNiYg3.net
支援

209 :代理:2014/06/10(火) 11:38:54.63 ID:WL36T3N3.net
「 『ジョジョ』 」

「お前はもう────用済みだ」


気がつけば、ジョナサンの視界からディオは姿を消していた。代わりに重々しく生々しく、何かが弾けるような音がジョナサンの耳に届く。
ジョナサンは音がした方へ瞳を向ける。そこは調度ジョルノが立っていた場所で、程なくジョナサンの視界にジョルノとディオの姿が入る。

同時に、ディオの傍に立つ精神のビジョン────スタンドも

ジョナサンは一体何をしているのか、何が起こっているのか分からなかった。ジョルノがいて、ディオがいて、ディオの傍に黄金色のスタンドがいて。それらの事実は認識しても、それらが引き起こしている事象を繋ぎ合わせられない


「…………あ……───」


その引き絞られた声はジョルノのものだったか、ジョナサンのものだったか、あるいは両方のものだったか。けれどもその声と、鼻にこびりついてくるその臭いで、ジョナサンはようやく目の前の出来事を理解することができた。


ディオのスタンドの腕が

ジョルノの腹を────正確に貫いていた


がくんと、ジョルノの身体から力が抜けていく。生命が失われていく。
すべての音を拒絶したかのような静寂、その一瞬の後、ディオのスタンドはジョルノを貫いたまま腕を大きく振りかぶった。
ジョルノの身体からスタンドの腕は抜け、勢いよく吹き飛ばされる。腹部から血肉を撒き散らしながらジョルノの身体は草木の中へ無抵抗に突っ込んでいき……やがて見えなくなった。

210 :代理:2014/06/10(火) 11:53:00.69 ID:WL36T3N3.net
「──────ッ!!!!」

全身から血の気が引く、声にならない声が肺の底から突き抜ける。そこまできてようやく石のようになっていた身体が金縛りから解け、ジョナサンは己が意識する前にジョルノが消えた所へ駆け出そうとする。だが

「時を隔てた邂逅というわけか……ジョジョオオ……!」
「 はっ!」

いつの間にかジョナサンの正面にディオは悠然と立っていた。同じ高さにある彼の目線とぶつかる。そこでようやくジョナサンは違和感の一端に気付いた。
ディオの身長は自分と同じ程だっただろうか、確かに2人とも恵まれた体格をしていたが、それでも身長はジョナサンの方が高かったはずだ。
いや……それどころか、これはまるで────

「随分なマヌケ面をさらしているじゃあないかジョジョオ?それともオレが生きているのに驚いているのか?」
「ディオ……君は……君は一体…………

何をしたんだ……?」

それが今のジョナサンの言えるたったひとつのことだった。

それは何に対する問いなのだろうか
たった今目撃したものについてか
血を巡るこの感覚についてか
それとも────

「…………よかろう、このDIOが尊敬する唯一の友よ、100年越しの再会を祝してこのオレがすべてを語ってやろうではないか
すべて、をな」



────それは誇り高き血統と欲深き血統の、数奇な運命を辿る奇妙な物語



  □■□■

211 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 12:01:04.20 ID:VaxSDmtr.net
支援

212 :代理:2014/06/10(火) 12:36:20.20 ID:WL36T3N3.net
「ハァー……、ハァー……!」

サン・ジョルジョ・マジョーレ教会よりやや南東方向の街中で、パンナコッタ・フーゴは狭い路地の物陰にうずくまりながら荒々しい呼吸を漏らしていた。
教会前で死んだはずの麻薬チームの最重要人物、そしてフーゴの級友であったマッシモ・ヴォルペと接触後、彼らはそのまま戦闘に入り街中をかけていた。
壁の穴や地面のクレーター、ひしゃげた標識や電灯、散らばるガラスなどの破片、その一つ一つが2人の戦闘の激しさを象徴していた。
現在はお互い見えない位置に隠れ、次なるチャンスを待っているといったところか

「くそ……やっぱり本物のヴォルペなのか……」

信じられない訳ではない、確かにヴォルペはフーゴが確実に始末したはずだが、名簿にもその名は記載されていたし、死んだはずの人間がこの場においては何人もいるということをフーゴは知っていた。実際、フーゴはヴォルペよりも以前に亡くなったナランチャに会っている。

「よりにもよって何故あのタイミングで…………」

お陰でフーゴはジョナサンと離ればなれになり、それまで教会内で何が起こったのか、今現在何が起こっているのか結局分かっていない。

「だが、こうして会ってしまった以上は仕方がない…………奴は確実に始末する」

フーゴは音もなく立ち上がると、ヴォルペの位置を探るために移動を開始した。その目は既に決断を済ませた『漆黒の殺意』が宿っている。
周囲に警戒を張り巡らしながら、ゆっくりと路地を歩いていく。己の位置をバラようなことはせず、かつ相手の位置を探るためにどんなに小さな違和感をも見逃さないような慎重さと注意力を同時に展開する。

────奴を見失ってからそれほど時間も経っていない。奴もまた僕を殺しにくるから絶対に近くにいる

薄暗い路地を着々と進んでいく、しばらくすると、フーゴは『あるもの』を見つけその前で立ち止まった。

「…………?」

『それ』は民家の壁に空けられた『穴』だった。直径が人一人分はありそうな程の大きな穴、フーゴとヴォルペの戦闘中につけられたようなものではなく、ぽっかりとくり貫かれたようなきれいな円状の穴だった。
そこから民家の中を覗き混めば、床壁天井家具といわずあらゆる場所に削り取られたような跡と円状の穴が空いていた。妙なものはそれだけではなく、何故か民家の内部全体がまるで砂嵐でも巻き起こったのではないかと思うほど砂によって覆われていた。

213 :代理:2014/06/10(火) 13:14:12.47 ID:WL36T3N3.net
(まさか、僕たちよりも前にここでスタンド使いの戦いがあったのか?
しかもこの砂……まさか………)

明らかに異常な現場に対しフーゴはある推察を立て始める。

「教会のあの状態……砂を操るスタンド使いが別のスタンド使いと教会で戦闘になってあの惨状になったのだとすれば説明はつくが、その跡がここにもあると言うことは、まさかまだこの近くで……」

ざり、と思わず1歩だけフーゴは後退りしてしまう。


────瞬間


    ボ ゴ ォ !!

「なにっ!!」

掘り起こされたような音と共にフーゴの足下から手が伸び、フーゴの右足首を捕らえた。

「ぐおおおおお!!!」

伸びた腕はフーゴの右足首を握り潰さんとギリギリと握力を強めていく。その激しい痛みにフーゴは吠えるかのように叫んだ。

「パープルヘイズ!!地面を殴れえぇぇ!」

『うばぁしゃああああああああ!!』

フーゴのスタンドが地面に対し容赦のない拳の雨を降り注がせる。が、相手が寸のところで退いたのか手応えは空振りに終わり、地面には人一人分の穴が埋まりそうなだけが空いていた。

「くっ!」

フーゴは穴に足を取られそうになるも、すぐさま引き抜き距離をとる。右足首は潰されずにすんだが、それでも結構なダメージを食らってしまった。
ボコ、ボコとフーゴからやや離れた位置の地面が盛り上がる。やがてそこから手が出てきて、次に頭が出てくる。
その顔はやはり級友のものだった。

「…………」

のっそりとヴォルペは完全に地面から姿を表し、フーゴを睨み付ける。フーゴもまたヴォルペを睨み付ける。

214 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 13:22:02.52 ID:VaxSDmtr.net
支援

215 :代理:2014/06/10(火) 13:52:08.89 ID:WL36T3N3.net
「…………」
「…………」

沈黙
互いに何も語らない。そんなものを聞く耳はないし、語らう口もいらない。
お互いに知るのは、聞くのは、見るのは………相手の断末魔だけでいい

────2人の戦いが、再び切って落とされた。


「シッ!!!」

先攻をとったのはまたしてもヴォルペの方だ、拳程ある石ころを、『マニック・デプレッション』で強化された腕をもって投球する。

(教会で襲撃を受けたときと同じ……!だが!)

ズキリ、と最初に石をガードした右腕が僅かに痛む。

(あの石ころはスタンド能力が注入されているからかスタンドで受けてもダメージがある、慎重にいきたいところだが同じ手を二度も奴はするだろうか?必ず何か手は打っている、……かわすべきか?ガードすべきか?)

迫り来るそれに対する対処法を考え、そして一瞬で決断する。

(狭い路地でかわせば動きが読まれてそこを叩かれる、ここは……!)

迫りきったそれを、スタンドの腕で弾き飛ばした。また腕が痛むが凄みでそれを抑える。
すぐさまヴォルペに接近しようとして────訪れたのは、腹部の激痛と、全身への衝撃

「ご、はあ!?」

フーゴは理解が追い付かないまま、吹き飛ばされ地面に背中を強く打ち付ける。

216 :代理:2014/06/10(火) 13:54:06.35 ID:WL36T3N3.net
(ば……バカな!石ころは打ち落としたはずなのになんで……!)

打ち落としたのなら、フーゴにその石ころは着弾することなくこのように地面に叩きつかれることもないはずだ。
………投げられた石ころが一投だけだったなら

(ハッ! まさか奴が手に持っていた石ころは2つ!スポット・バースト・ショットのように一つ目を投げた直後に後を追わせるように二つ目を投げたのか……!)

フーゴは自身な起こった現象を推察し、まさしくその通りのことをヴォルペは行っていたのだか、……時既に遅し

「ぐっ……!」

フーゴは体制を立て直そうとするも、ヴォルペはフーゴとの距離を縮めんと既に駆け出していた。

二十五メートル

(速いッ!マズイぞ……!こちらはまともなダメージを食らっているが奴は体力を少し消耗しているのみ、まともに近距離でやりあって対処できるか?)

十五メートル

(殺人ウイルスを使うか?だめだもう遅いッ!この体制とダメージと時間で使用することはできない!)

────十メートル

(やるしか、ない!)

フーゴは上半身を起こした状態で戦闘体制に入る。そんな体制でまともに戦えるとは思えないが、距離が縮まっている以上どうしようもなかった。
距離が十メートルを切り、両者の視線がぶつかる。互いになんの迷いもない、黒々しい殺気を宿している。

そして距離は五メートルを切ろうとした───その時

217 :代理:2014/06/10(火) 13:54:41.35 ID:WL36T3N3.net
    ガ  オ   ン ッ  !!


「!?」

「なっ!?」

突如として両側の民家の壁、それもちょうどフーゴとヴォルペの間の壁が円状に消失した。ヴォルペはバックステップで一気に距離を離し、フーゴはなにが起こったのかさっぱり分からないままとにかく立ち上がろうとする。が

「痛っ!」

先程ヴォルペに捕まれた足首に激痛が走り、体制を建て直し損ねる。そうしている間にも異常な事態は進行しつつあった。


 ガ  オ ン ッ !!

               ガ  オ  ン ッ!!
      ガ オ   ンッ  !!


フーゴが先程目撃民家の様子と同じことが、今目の前で起こっていた。

「マ……ズイ…………!!」

フーゴが立ち上がった時、ヴォルペの姿はどこにもなかった。奴にとっても予想外の事態だったのだろう。
そして突然……フーゴからそう離れていない空間から『何か』が現れた。

「す……スタンド………!?」

何もなかったはずの空間からそれは除々に姿を現していき、やがてその中からさらに何かがこちらを覗いていた。
それは人間だった。長い髪にハートの飾り、厳つい顔をした男が、こちらを睨んでいた。

「…………」

その男の目を見た瞬間────フーゴは全身に鳥肌がたった。
真っ黒いクレバスをイメージさせる眼、『漆黒の殺意』とも『どこまでも感情の欠落した』ものとも違う、底知れぬ暗黒がそこに広がっていた。
本能的にフーゴはそこから逃げようと身体を翻す。が、

218 :代理:2014/06/10(火) 17:08:21.21 ID:WL36T3N3.net
「……え」

そこには、フーゴの行く手を阻むかのように、砂で構成された大男が立っていた。
フーゴが状況を理解を飲み込むよりも早く、大男は両腕でフーゴの身体をがっしりと掴む

「は?」

フーゴの身体は大男に持ち上げられ、視界と重心がぐるりと反転する。
そして────大男はフーゴを肩に抱え、そのまま走り出した。

「…………ええええええ!?」

まったくさっぱり理解の追い付かないフーゴの叫びが、路地に響いた。


  ○●○●


「クソッ!! クソッッ!あともう少しで奴をッッ……!クソ!!!」

ガン! ガン! と力任せに拳を壁に打ち付ける。加減をしていないせいで皮膚は破け肉は抉られ血が流れるが、それもスタンド能力であっという間に治っていく。

「ハァー……ハァー……!」

今のヴォルペの脳裏には、たった一人の人物だけが浮かんでいた。

パンナコッタ・フーゴ
ヴォルペから拠り所としていた人────コカキとアンジェリカを奪っていった少年

ヴォルペにとって心を許せる相手だった。必要とし、必要とされ、互いに寄りかかるような、そんな存在だった。
それは端から見れば依存と言える関係だったかもしれない。それはマイナスなことで、本来なら克服すべきものだったかもしれない。
だけど、そんなの知ったことか
世間なんて知らない、常識なんて知ったことじゃない、そんなものに当てはめっこない関係が、ヴォルペたち麻薬チームの中にはあった。
なのに、なのにあいつらは、あいつはすべてを持っていってしまった。
コカキとアンジェリカは殺され、ビットリオは石仮面を取りに行ったきりどうなったか分からない、そしてヴォルペ自身も……
何もかもバラバラになった、何もかも持っていかれた。

「……許さない」

胸の中の溢れんばかりの感情を到底形に出来るわけがないと分かりつつも、それでも言葉に乗せて吐き出していく。

「オレは……フーゴを………許してはならない──────!」

……それはヴォルペの記憶の中の少女が言っていた言葉とよく似ていた。
けれども肝心の少女のことは欠片も思い出さないまま……空虚を抱えた青年は一人暗い路地に取り残された。


  ○●○●

219 :代理:2014/06/10(火) 17:09:06.75 ID:WL36T3N3.net
「……あー……」

先程の路地とは別の暗い路地、砂の大男に連れ去られたフーゴは、その事だけはようやく飲み込めたものの、やっぱり今の現状について理解が追い付いていなかった。
痛む足首を庇うように座り込む彼の目の前には……

「ワン」

……一匹の犬

「……まさかお前が砂のスタンド使い?」
「ワン」
「教会をあんな風にしたのも?」
「ワン」
「今まであの得体の知れない男と戦ってたのか?」
「ワン」
「…………」

220 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 17:13:36.62 ID:1OJkGqm9.net
支援

221 :代理:2014/06/10(火) 19:12:21.19 ID:WL36T3N3.net
肯定してるのだろう、合いの手のように犬はフーゴに返事をする。
あの教会を飲み込むほどの砂を呼び寄せるなど、並大抵のスタンド使いではないとは思っていたが……

(正体も並大抵じゃなかったか……)

スタンドというのは精神のビジョン、だから強い精神を持つのであれば動物でも発現することも稀にある。実際フーゴもかつてトリッシュの護衛任務時に亀のスタンド使いを用いていたことがあった。

「で?何で僕を連れ去ったんだ?ただ単にあの男から助けるためだけじゃあないんだろ?」

話が早いと言いたいのか、犬は返事の変わりにフン!と鼻を鳴らす。

「………助けた代わりにあの男を倒すために協力しろ、か?」

ただ流石にフーゴも犬の言葉は分からないので、とにかく犬が言いたそうなことを代弁してみる。

「ワン」

するとやはりそれは当たっていたようで、犬はまた鳴き声で返事をする。

「…………」

だが、フーゴは当たっていたことで逆に頭を抱えた。
いくら助けられたとはいえ、フーゴもまたヴォルペと現在交戦中なのだ。正直「そんなの知るか、そっちで勝手にやっててくれ」ぐらいのことは言いたい。
だが、今は状況がそれを許してはくれない。先程のヴォルペとの戦いにおいて優勢だったのはヴォルペの方で、さっきのイレギュラーなことが起こらなければ負けていたのはフーゴの方だっただろう。
そして今の状態でヴォルペと会っても、フーゴには勝ち目が薄い。
だが、この犬とうまい具合にタッグを組めば、あるいはヴォルペを倒すことはできるかもしれない。
……まあ見たところ頭のいい犬のようだから、そこまでうまくことが運べるかは分からないが
それにあの正体不明の男には犬と(正確には砂の大男と)いるところをバッチリ見られたので、男はフーゴが犬の仲間だと認識してしまっているだろう。
男の容赦のないスタンド攻撃、それにこの足で逃げられるかは……まあ無理だろう
頬に手のひらを当て、やや考えてみたものの、やはり犬の要求をつっぱねるのはあまり得策でないような気がする。

222 :代理:2014/06/10(火) 19:13:00.83 ID:WL36T3N3.net
「あ〜〜〜、とりあえず分かった。いいよ、一先ず一緒に戦ってやる」
「フン」
「ただし、多分見てただろうけど僕もお前とは別の敵と戦っている。そっちが現れたら僕はそっちを優先する。できればお前の協力も欲しいんだが……」
「…………」
「…………」

めちゃくちゃめんどくさそうな目で見られた
久々にキレていいだろうか。

「はぁ……」

フーゴは思わずため息をつくが、どのみちヴォルペもあの男もフーゴにとって、いや互いにとって「敵」なのだ。今逃げたところでまた戦うことになる。それならば他に被害が及ばぬ内に倒しておくべきだろう。

「乗りかかった船ならぬ乗らされた船だが……やるしかない、か」

どうやら教会に戻るのは、もう少し先のことになりそうだ。
フーゴは一人の青年を思い浮かべ、その青年のことを案じる。

(ジョナサン……どうか、無事でいてください)

はたして、フーゴの祈りは青年の元へと届くのだろうか。

223 :代理:2014/06/10(火) 19:19:56.43 ID:WL36T3N3.net
(かっ、思わず助けちまったぜ……おっさんのおせっかい癖が移ったか?)

座って思い耽っているフーゴの横で、イギーは身を休めながら軽く毒づく。

(まあいいさ、俺はお前みたいなお坊ちゃんみたいな奴は嫌いだが、せいぜい役立ってくれよな)


────そもそも何故イギーが教会より少し離れたここにいるのか
タルカスがヴァニラ・アイスに殺された直後、イギーはありったけのスタンドエネルギーを使い大量の砂を教会にかき集め勝負に臨んでいたのだが、ヴァニラのスタンド『クリーム』の暗黒空間による予想以上の性能に砂はどんどんと飲み込まれていった。
そこでイギーは方針を変え、砂のダミーによる撹乱作戦を実行した。
ヴァニラの攻撃パターンから暗黒空間に身を潜ませている間は外の様子が分かっていないことを確信したイギーは、スタンドでイギーの姿をした砂のダミーを作り、ヴァニラにそのダミーをイギーだと思い込ませ追わせるように誘導した。
作戦は成功し、油断したフリをしてわざとダミーを暗黒空間に飲み込ませ、始末したとヴァニラが油断し外に出た隙に砂の大男が持つ槍でヴァニラを襲った。
残念ながら寸の所で気付かれ槍は左肩を貫通させるに留まったものの、ようやく与えた一撃にイギーは渾身の笑みでヴァニラを挑発した。
これにはヴァニラもプッツン、『クリーム』を発動させ怒りのままに無差別に辺りを暗黒空間に飲み込んでいった。
流石にイギーもここまで見境なしの相手に打つ手はなく、ヴァニラが削りとってできた穴から外に飛び出し一時的な逃走を図る。
それに気づいたヴァニラもまた周囲を飲み込みながら外へとイギーを追い、そしてデッドオアアライブの追いかけっこを続けている内にヴォルペと戦闘中のフーゴを発見し……今に至ると言うわけだ。

(おっさん、もう一度宣言しとくがな、これはおっさんへの恩返しでもなければ敵討ちでもねぇ、ただ俺がおっさんに死なれて後味悪ぃってんで勝手にやってるだけだ)

イギーは教会に置いてきたタルカスの姿を思い浮かべ、その心の奥底にある感情を奮い立たせる。

(待ってろよあのクサレ脳みそ野郎……必ずこのイギー様がキッチリとオトシマエつけてやっからな……!)

イギーのその瞳は、かつてないほどに熱で満たされていた。



(にしても……)

「ん?……なんだジロジロ見て」

(こいつまだあのヤローと戦ってもいねーのになんで服がそんなに穴だらけなんだっつーの)

「?」



  □■□■

224 :代理:2014/06/10(火) 19:22:19.59 ID:WL36T3N3.net
もくもくと天に昇っていく黒煙を、その5人は目撃していた。

「なあ!やっぱりあれって火事……だよな?」
「ええ、おそらく他の参加者の仕業ね。事故か意図的かは分からないけど、ただごとじゃないことは確かだわ」
「しかもあれかなり大規模だなぁ〜〜家一軒ぐらい燃えてんじゃねーの?」

ナランチャの疑問に対しトリッシュが答え、玉美がそれを補足する。
5人が現在いるのはE−6北部、サン・ジョルジョ・マジョーレ教会へと続く通りの途中である。
フーゴとジョナサンの行方を追うために移動しつつあったトリッシュたち5人は、現在彼女たちのいる場所から離れた位置に発生した火災の煙を発見した。

「オレ最近知り合いの家が燃えた事がありやしてね〜、だから多分あれ家一軒丸々火事になってますよトリッシュ様」
「そう……やっぱり単なる事故じゃなさそうね、あの煙遠くからでも見えそうだから他の参加者も集まってくるかも…………アナスイ?」

玉美の話を聞きながらトリッシュは煙について少し考えるが、その時煙を睨みつけながら険しい顔をしているアナスイに気がつく。

「アナスイどうしたの?そんな恐い顔して……」
「……悪いが俺は今すぐにあの煙の所までいく、お前たちとはお別れだ」
「え!?」
「なっ……いきなりなに言ってんだよオメェ!!」
「あの煙の場所、空条邸かその周辺からのぼってるよな?」
「え、ええ……おそらくね」

アナスイの突飛な離脱宣言に一同は驚くものの、その表情はただならぬ事情があるのだと訴えかけている。

「俺の探している人があそこに向かっているかもしれない、だとすれば俺はすぐにそこにいかなくてはならない」

もし火事が起こっているのが『空条邸』ならば、その名から明らかに縁があるであろう、そしてアナスイの探し人である「空条承太郎」が来る可能性がある。一度別れたきり以降行方がさっぱり分かってなかった男を探し当てるのには絶好の、そしてまたとない機会であった。

「でもあなたまだケガが治りきっていないのよ?一人でいくなんて無謀だわ!」
「そうだぜ!空条邸なら教会に行くまでに前を通りかかるからそこまで一緒にいた方がいいって!」

トリッシュとナランチャは必死にアナスイを説得するものの、しかしアナスイは首を縦に振ろうとはしない。

「……俺はもう手遅れなんてごめんなんだよ」

ぽつりとそれだけ言い残し、アナスイは他の4人を置いて一人空条邸の方角へと走り出して行った。

「「アナスイ!!」」
「おいおいおいおい、本当に行っちまうかよ普通」

トリッシュとナランチャがアナスイを呼び止めようとするもアナスイは振り向かず、その背はどんどんと小さくなっていき、玉美は信じられないと目を瞬かせる。
トリッシュは行き場のなくなった手を降ろし、ジョニィの方へと顔を向ける。

「……アナスイは行ってしまったけど、ジョニィ、貴方はどうするの?……ジョニィ?」

トリッシュはジョニィに声をかけるが、肝心のジョニィはどこかぼんやりとした様子でサン・ジョルジョ・マジョーレ教会の方角を見ていた。
それに対し玉美が声をあげる。

「おい!トリッシュ様が話しかけてんのになんだその態度は!この!」
「ってぇ!!なにすんだこの小男ッ!」
「ああぁ!?やんのか!?」
「やめなさい2人とも!」

玉美が蹴りを入れたことでジョニィは正気に戻るものの、玉美と喧嘩腰になりかけトリッシュはそれを諫める。玉美ははい!トリッシュ様!と言うまでもなくそれに従い、ジョニィもかなり釈然としない表情であったものの渋々言われた通りにした。

225 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 19:41:09.75 ID:VaxSDmtr.net
支援

226 :代理:2014/06/10(火) 19:46:08.89 ID:WL36T3N3.net
「で、どうしたのジョニィ?なんか様子が変だったわよ」
「ああ……」

ジョニィは再びサン・ジョルジョ・マジョーレ教会の方へと向く。

「今、また気配を感じたんだ。多分ジョナサンのものだと思う」
「ジョナサンの!?」

ジョナサンの名を聞き、ナランチャがまた食って掛かる。

「ジョナサンは無事なんだよな!?」
「そこまでは分からない、けど……」

ジョニィは無意識に左肩へと手を伸ばす。
先程は距離が離れすぎたせいか一度ジョナサンの気配が途切れてしまったものの、今また途切れる前と同じ気配をおぼろ気ながらだが感じた。
けれど何故だろうか、先程とは違って、ジョニィの中の何かが訴えかけている。ジョナサンの身にに今ただならぬ事態が振りかかっていて、ジョニィへと助けを求めているのではないかと、根拠も何もないのに不思議とそんな確信がある。

「やっぱり今ジョナサンは危ない目にあってんのか?」
「だからそこまでは分からないって」
「……ねぇジョニィ、貴方これからどうするの?」
「どうするって……」
「あたしたちとしては一緒に来て欲しいわ。でも貴方も探してる人がいるんでしょう?」
「…………」

もちろん、ジョニィはジャイロのことを忘れた訳ではない、ジャイロを探すことはジョニィにとって何よりも優先すべきことであり、その順位は覆されることはないと思っていた。
けれどどうしたことだろうか、ジョニィは今それを理由にしてジョナサンの後を追うことを拒むことができなくなっていた。今ジョナサンを追って行かなければきっと後悔することになると、ジョニィは自然とそんな思考になっていた。
不思議な繋がりを感じる、自身と同じ名を持つあの青年を追うか。マイナスをゼロにする旅を共にし、戦いの果てに命を落とした親友を探しに行くか。


「僕……僕は────……?」


ジョニィ・ジョースターは、決断を迫られていた。



  □■□■

227 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 20:55:51.01 ID:1OJkGqm9.net
支援

228 :代理:2014/06/10(火) 20:58:01.61 ID:WL36T3N3.net
「…………」
「…………」

重々しく張りつめた沈黙と静寂がその空間に広がっている。
それはまるで割れる寸前までパンパンに膨らんだ風船が目の前にあるような緊張感に似ている。もう少し空気が入るか、ちょっとした衝撃があれば容易く割れてしまうような、そんな感覚がずっと続いている。
いやむしろ、彼────ジョナサンはそれを望んでいるのかも知れない。誰かがそれを割って、この醒めない夢でも見ているかのようなこの感覚を終わらせてくれる事を、彼は願っているのかも知れない。

「ジョ〜ジョ?もしかしてお前、そこでそんなアホみたいに固まったままで待っていれば誰かがお前を助けに来てくれると……そんなこと考えている訳じゃないよなァ?」

けれどその心境はよりにもよってこの空気を生み出した男によって暴かれてしまった。そう、ジョナサンの宿敵、ディオ・ブランドー……DIOによって

771 :トリニティ・ブラッド ?リライト?  ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 01:01:42 ID:RvLBe2q6


ジョナサン・ジョースターはすべてを知った。
戦いの結末
己の最期
その後のディオの行方
そして────一世紀以上にも渡るディオとジョースター家の、壮大な因縁の物語を

「…………」
「黙ってないでなんか言ってみろよな。どうだジョジョ、100年後の自分の「肉体」とご対面した感想は?」
「…………」

ディオはわざとらしい笑みを浮かべながら、ジョナサンの正面に堂々とした姿勢で立つ。ジョナサンはそんな彼を、まだ夢でも見ているかのようなぼんやりとした、どこか虚ろな目で見る。

「……君は、」
「ん?」
「君はどうしてそんなにしてまで…………生きようとするんだ?」

229 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 21:04:42.88 ID:1OJkGqm9.net
支援

230 :代理:2014/06/10(火) 21:08:37.11 ID:WL36T3N3.net
ようやく言葉を発したジョナサンの問いに対し、ディオはくだらないと言わんばかりに鼻を鳴らす。

「ふん、何を言うかと思えばそんなことか、簡単なことだジョジョ、人は生きているうちにあらゆるものを欲する、それは名声であったり支配する力であったり金だったりする。
友人であったり結婚であったり人の役に立つことであったり愛と平和のためであったりする
だが何故人はそれを求める?何故求めてまで生きようとする?」
「何故……?」

コップに水が入っていくかのように、不思議とDIOの言葉はジョナサンの心に入り込んでくる。
ディオはジョナサンの周囲を回るようにゆっくりと歩きながら話しを続けた。

「それはなジョジョ、『安心』を得るためだとオレは思っている。
名声も支配も金も友人も結婚も人の役に立つことも愛も平和も、すべては自分が『安心』するために求めるのだ。『安心』こそが生きる上での『幸福』なのだ。
ではその反対に位置する感情、『恐怖』とは何だろうか?『恐怖』とは一体どんなときに沸き起こる?
それは『安心』を得られなかったとき、求めるものを得られなかったときだ。人はそれが起こったとき絶望し、『後悔』という形で心に刻み込み、何かに挑むことに『恐怖』するようになる
そうだろ?努力の末路がゼロになるだなんで誰だって思いたくないものだ
そうして人はどんどんと『恐怖』を心に抱えていく、挑むという行為をしなくなっていく。
しかし、人は大きな『恐怖』に直面すると、それまで得てきたものを失うかもしれないというそれ以上の『恐怖』を感じ、
目の前の『恐怖』を振り払うために全身全霊をかけて積み上げてきたものを失うまいと何かを成し遂げようとする。それの連続によって人は『恐怖』を克服していくのだ。
……だがどれ程得ようとも、どれ程失おうとも、人の最後には必ず『死』が待ち受けている。それは人が抱える最大にして回避しようもない『恐怖』だ。『死』はなにもかもを台無しにしてしまう、それまで得てきたものをすべて無価値にしてしまう最悪の『恐怖』だ。
では真に『安心』を得るためには何をすべきだと思う?人にとってなにもかもを無にしてしまう『死』をいかに回避するか、あるいは『死』から……いや、あらゆる事柄から『恐怖』を取り払うには一体どうすべきだと思う?
……オレはそこにこそ生きるということの真理があると思っている。そしてそこに到達したとき真に『安心』を、『幸福』を得ることができるのだ。」

231 :代理:2014/06/10(火) 21:10:20.29 ID:WL36T3N3.net
大衆を前に演説をする独裁者のような姿のディオに、ジョナサンは『恐怖』を覚えた。
ジョナサンの知っているディオと、目の前にいるディオには圧倒的な差がある。
もうこのディオはジョナサンの手の届かない場所にいるのではないか、ジョナサンの理解の範疇を越えた先に行ってしまったのではないか、……そんな気がした。

「このDIOは人を超越した……死を克服し、永遠を生きる唯一無二の存在となった。だから死の恐怖はこのDIOにはない
だがまだだ、まだオレは『幸福』を得ていない
故にオレは生きるのだ、真なる『安心』、『幸福』を得るために、『幸福』がある『天国』へと到達するためにな
真の勝利者とは『天国』を見た者のことだ……どんな犠牲を払ってでも、オレはそこへ行く」
「どんな犠牲を払ってでも……だって?」

ディオの言い放った言葉に、ジョナサンはぴくりと反応を返す。

「その犠牲が……例え血を分けた家族であってもか………?」

それはディオから話を聞いて以降、初めて感情の籠った言葉だった。

「なんだジョジョ?まさかお前「アレ」をずっと気にかけていたのか?無駄なことを……アレはオレが『天国』へ到達するための駒にするために作ったものだ。どうしようとオレの勝手だろう?」
「勝手……だと?ディオッッ!!彼は……ジョルノは君の血を引いた子どもだと言っていたじゃないかッ!自分の子どもを殺してまで得るものに虚しさを感じないのかッッ!!父の手で殺された彼の絶望に罪悪感はないのかッッ!!!」

ジョナサンの脳裏にはまだ色濃くこびりついている。ディオのスタンドがジョルノの腹を貫いたときの、ジョルノの愕然とした絶望に染まった顔が
それを歯牙にもかけないと言わんばかりのディオにジョナサンは嫌悪と怒りを持って声を荒げる。だがなおもディオは涼しい顔のまま、ジョナサンの言葉を切り捨てる。

「ほう、アレの名を知っていたか、まあそんなことはどうでもいい。血を分けた家族だからと言ってそれがどうだと言うのだ?どれ程血が繋がっていようと他人は他人、己とは異なる存在だ。違うかな?
それに忘れたのか?オレはジョースター家にくる前に父親を殺してる……今更身内殺しなんてなんでもないさ」
「 ッ!ディオ……!君は……君は……ッ!!」
「ああ、お前はそういうやつだった。家族には愛があって然るべき、親を伴侶を子を愛することこそが真の幸せだと思っている……そんなヘドが出るような思考の持ち主だった。だがなぁジョジョ
エリナ・ジョースター
ジョージ・ジョースター
ジョージ・ジョースターU世
リサリサ……もとい、エリザベス・ジョースター
空条ホリィ
空条徐倫
おっと、肉体的にはお前の息子でもあるアレもそうか」
「……ッ!」
「気付いたか?そうだ、いずれもお前と血の繋がりのある者、或いはその伴侶である者たち、それもこの殺し合いで死んだ者たちの名だ…………なあジョジョ


お前の愛が、やつらの一体何を救ったと言うのだ?」

232 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 21:14:50.31 ID:1OJkGqm9.net
支援
ルーツに載ってないがために全く触れられないリキエルの悲哀

233 :代理:2014/06/10(火) 21:16:26.52 ID:WL36T3N3.net
鋭く冷たく尖った刃を傷口に差し込まれ、ズタズタに引き裂かれるようだった。滅多刺しにされ、バラバラにされ、元の形がなくなってしまうほどぐちゃぐちゃにされていく。……なにもかもが崩れていってしまう。

「あ………」
「お前の愛がやつらを守ったか?いやそんなことはない、守らなかったからこそやつらは死んでいったのだからな
結局愛なんてものはそれほどまでに無価値で無為で無力なものなんだよ
一体やつらはどれ程の恐怖を抱えながら死んでいったのだろう?どれ程の絶望にまみれながら死んでいったのだろう?
……そして何故お前はこうしてのうのうと生きているのだろう?」

言葉の刃が、ジョナサンの心に止めを刺しに来る。
ガツンと頭を殴られたようだった。足元に確かな足場がない。手を伸ばそうにも灯りなんて何処にもない、そこは暗闇の荒野だった。地図もない、どこにいけばいいのかも分からない場所に、ジョナサンは放り出されてしまった。

「………………」
「……ああそうだ、お前が望むのならばひとつ……チャンスをやろう」
「チャンス……?」
「そう、チャンスだ。失ったものを取り戻せる唯一のチャンスだ
なぁに、簡単なことだ。『最後に生き残ったものがたったひとつだけ願いを叶えることができる』……覚えがあるだろう?
そう、この殺し合いを生き延びることだ。それこそがお前に残された最後のチャンスだ。だがそれを許してくれるほどこのゲームは甘くない……とうにそれは知っているな
だからこそ、ジョジョ
オレと同盟を組まないか?」
「…………同盟、だって?君と……?」
「そう、このDIOとだ。」

ディオの言っていることの意味が分からず、ジョナサンはディオの言葉を何度も心の中で反復させる。

「いまいち分かりづらかったかな?つまりはだジョジョ、オレとお前が協力して脅威となる参加者を始末して回るんだ
幸いにも今のオレは部下と『友人』に恵まれていてな、この会場にいる参加者のほとんどの居場所を突き止めることも可能だ
無論、その中には殺し合いに乗っている者や、反対に殺し合いに乗ることを是としない連中もいる、そいつらはこの殺し合いで生き残る上で邪魔な存在だ。分かるだろう?
そいつらの居場所をオレがお前に教え、お前はそいつらを始末する。シンプルだろう?
……ああもちろん、生き残れるのはひとりのみだ、だからそういう連中を全員排除できれば、その時点で同盟は解消、その後生き残れるかはお前次第だ
だが悪くないだろう?少なくとも今お前がおかれている状況よりかは失ったものをチャラにできるチャンスに恵まれているのだからなァ?」

暗闇の荒野に、光が差し込む。
それはひどく魅力的で、甘く、暗闇に閉ざされた心ではすがり付きたくなるほどの蠱惑的な光だった。

けれど、
どれ程綺麗であっても、どれ程強い光であろうと────所詮それは幻影でしかない
だが、頭では理解していても、心がそれを訴えてくれない。他の道が見えない以上、それにすがり付くしかない。

「…………」
「どうだジョジョ?うまくいけば取り戻せるどころか、大切な者と……エリナと永遠を生きられるぞ?」
「────ッ!!」

234 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 21:20:47.93 ID:1OJkGqm9.net
支援

235 :代理:2014/06/10(火) 21:21:42.81 ID:WL36T3N3.net
エリナ
もう会えない……本当に大切な人

ディオがジョナサンの正面に立つ、彼の言葉がジョナサンの心を締め付ける。

「  会いたいだろう?  」

けど、もう一度会えるかもしれない
大切な人たちと、また会えるかもしれない、取り戻せるかもしれない

エリナ

僕はもう一度

君と────

──────────

───────────────







「違う」



☆★

236 :代理:2014/06/10(火) 21:23:43.63 ID:WL36T3N3.net
「違う……?何が違うと?」
「失ったものを取り戻せるから殺す?失っても取り戻せるから殺す?……そんなのは、違う、絶対に間違ってる」

確かな意思をもってジョナサンはディオの目を見つめ返す。
その目は暗く染まってなどいない、虚ろな目などではない。
その瞳の奥にあるのは────黄金の輝きを放つ、誇り高き意思。
ジョースターの『黄金の精神』が、確かにそこにあった。

「僕はもう……どんな形であろうと、大切な人を、家族を失いたくない!!」

足は地を踏みしめている。暗闇の中には、己にしか見えない、しかし信じることのできる光輝く道が見えている。
迷いなどない。ジョナサンの心には、爽やかな風が吹いていた────
その時のジョナサンは不思議なことに────本人はちっとも不思議に思っていなかったが────ある一人の人物を思い出していた。

ジョニィ・ジョースター
同じジョースターの姓を持つ、繋がりを感じて出会った始めの一人
ジョニィは偶然と言っていたけれど、きっと彼とどこかで繋がりがあるとジョナサンは確信していた。
あの繋がりは断たれてはならない、助けられなかったジョルノのように……そんな未来は、絶対にあってはならない

「ディオ!!君が無為に他の人の命を奪うと言うのなら、僕の家族を奪うと言うのなら!、
僕は君との青春に、決着をつけてやるッッ!!!」

コオォォォ と波紋の呼吸を発する。ディオに対し戦いの覚悟を示す。態勢はすでに臨戦状態へとなっている。
ディオは変わらず涼しい顔をしていたが、しかしその瞳からは何を考えているのか読み取ることができない。
パチパチパチ、とディオは拍手をジョナサンに送った。

「……さすがだ、ジョジョ。これほどまで突き落とされても折れぬとは、叩けば叩くほど伸びるのは本当に変わらんな。やはりジョースターは侮れん


だがなぁジョジョ」

ディオの声が背後からする。ジョナサンの視界からはとうにディオの影はない。急いで振り向くものの、そこにもディオの姿は影も形もない。

「お前はこのDIOを倒せはしない……既にオレは世界を支配する力『ザ・ワールド』を得ている。
そんな生っちょろい貴様の波紋ごとき、このDIOに届きさえもしない。フーフー吹くなら……死に逝く者への地獄のラッパでも吹いているほうが似合いだぞ?」

至るところから声がする、それなのにその姿を捉えることができない。

(こ……これがディオのスタンドの能力なのか!?一体僕の身に、何が起こっている!?)

反響しているわけではない、だがどれかが本物で、それ以外が偽物の声なんていう子供だましのようなものでもない。
ジョナサンがディオのスタンド能力を見分けるには、圧倒的にスタンドに対する知識と経験が足りなかった。

「本来はこれは「アレ」の役目だったのだがな……ジョジョ、オレはこれからお前の血を吸い、この肉体を馴染ませる。なにせこれはお前自身の体だ、これ以上ないまでに馴染むだろう。そこに余計なものなど一切必要ない」
「! そんな理由でジョルノを殺したのか!!」
「お前の血がある以上、アレの存在はオレにとって『天国』への道を阻む障害でしかない……だから始末したのだ」

淡々と事実のみを語るディオに対し、ジョナサンの怒りで握っている拳をさらに握りしめ、掌へと爪を食い込ませる。心は熱の激流で満たされていく。

237 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 21:24:38.38 ID:1OJkGqm9.net
支援

238 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 22:08:58.57 ID:TY67lY8S.net
支援

239 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 22:12:51.92 ID:bFA2+jA9.net
支援

240 :代理:2014/06/10(火) 22:18:32.14 ID:WL36T3N3.net
「さあジョジョ、無駄な時間はここまでだ。
お前の血は我が永遠の糧となり、お前の肉体は我が未来であり続ける……

そしてその血を吸った暁にはジョジョオオ!!貴様に連なる者どもを根絶やしにしッ!我が『天国』への踏み台にしてくれるわ!!!」

ディオの姿が突如としてジョナサンの目の前に現れる、ディオの腕が振り上げられ、その指はジョナサンの血を吸うべく首筋へと向かおうとしている。驚愕しとっさに反撃しようとするも……

「もうおそい!回避不可能よッ!お前の血は我が永遠の糧となり、お前の肉体は我が未来であり続けるのだ、ジョジョオオォォ!!!」

ディオの手がジョナサンの首へと伸びる。もう届くまで数瞬もない

(そんな────僕はここで終わるのか……?何もできずに、何も成し遂げられずに、ただディオに血を吸われて死ぬのか……?)

それは絶対に回避するべき事象だった。けれどももう術はない。勇気も策も、圧倒的な力の前ではなす術もなく押し潰されるのみ。ただ惨めに、潰された姿を晒すしかない。

(エリナ…………すまない…………)

ジョナサンにはただ一言、愛しい人に何も出来なかったことを悔い、謝るしかなかった。

そして────



─────ブゥン!!!

241 :代理:2014/06/10(火) 22:20:22.43 ID:WL36T3N3.net
「ぐおぉ……!?」
「……な……?」

ジョナサンに最期の時は訪れなかった。
代わりにジョナサンの元へ現れたのは……一匹の「蠅」

「い……今、一体……?」

ジョナサンの首筋にディオの指先が届く瞬間、まるでそれから庇うかのように一匹の蠅がディオの指先に触れ、ディオの指を弾き返した。

(この会場に来てから虫なんて見てはいない……じゃあこれはスタンドによるもの?誰が、一体どうして……?)

ジョナサンの中に渦巻く疑問は、しかしほとんど間を空けることなく解決することになる。

ザッ  ザッ

何故ならその蠅を産み出した本人が────死んだと思われていたその少年が、草木を踏みしめその陰から再びその身を現したのだから



「…………ジョルノ?」
「………………」

ジョナサンはその少年の横顔を捉えながら名を呼ぶ、しかし少年────ジョルノはそれが聞こえていないかのようにぴくりとも反応しない。
顔は青白く、歩みもおぼつかずふらついている。貫かれたはずの腹の傷口は何故か埋まっていたが、所々出血していた。

だがその顔だけは、激情に燃えるその瞳だけは、目の前の一人だけを映していた。

「DIO……貴方は……貴方は僕にとって……」

カラカラになった喉から、それでも彼は言葉を紡ぐ。
そして、目の前の『父だったもの』に言い放った。



「倒すべき、『悪』だ」



─────それは決別の宣戦布告だった。



☆☆★

242 :代理:2014/06/10(火) 22:24:07.36 ID:WL36T3N3.net
「……面白いことを言ってくれるじゃあないか、我が息子よ。そのセリフ、鏡を見てからもう一度言ってみてくれないかな?」
「…………」

ダメージを反射された指をぷらぷらと揺らしながらDIOは挑発する、しかしジョルノの瞳はまったく揺らぐことはない。
だがDIOの言葉は事実を示しており、今のジョルノの姿は誰がどうみてもまさに満身創痍と言えるものだった。

「…………ええ、今の僕では貴方に勝てません。貴方のその『時を止める』能力に勝つ方法が、僕にはまだ分からない」
「ほほーう、我がスタンド能力を見破ったか、ひょっとしてかつて似たようなスタンド能力を持つ者と遭遇していたか?
……まあいい、ではこれからどうする?まさかまた殺されに舞い戻って来たわけでもあるまい?」

ジョルノの瞳がほんの少しだけ揺らぐのを、ジョナサンは確かに見た。けれどそれは本当に少しの間だけで、次の瞬間には元のはっきりとした覚悟を湛えた眼に戻っていた。

「そうですね、僕がこうして出てきたのは、ほんのちょっぴりの時間稼ぎです。」
「時間稼ぎだと?」
「ええ、そろそろ聞こえませんか?」

ジョルノの言いはなったその直後に、ジョナサンの耳に何かの音が聞こえてきた。


ブブブブ─────

「時間稼ぎ、そうです。いくら時を止めようと関係ない、僕が考えた精一杯の『逃走経路』」

ブブブブブブ─────

「例え時を止めようと……視界が防がれてしまえば意味はないでしょう?」

ブブブブブブブブブ─────!!

「ではまた近いうちにお会いしましょう───それまではさようなら、『父さん』」


そして
DIOとジョナサンの視界は、────ジョルノの産み出した大量の『虫』によって真っ黒に閉ざされた。

243 :代理:2014/06/10(火) 22:25:24.07 ID:WL36T3N3.net
ぐい、と何かに腕を引っ張られ、思わず足がもつれそうになるも、腕を引かれるがままジョナサンはなんとか駆け出した。
耳は大量の虫が生み出す羽音に埋め尽くされ、視界もまた虫によって防がれているため一体何が起こっているのかさっぱり分からず、ジョナサンは己の身を引く存在に進む方向を委ねながら走り通した。
やがてジョナサンは階段を昇っていき、それが地上へと続いている階段だと気づいたころに大量の虫は一気に姿を消した。

「────はぁーーー!」

ほどなくして階段を昇りきり、ジョナサンは息を吐く、何せ走っていたうえに虫のせいで呼吸もままならなったのでここにくるまでずっと息苦しかったのだ。
呼吸が落ち着いた頃、ジョナサンは顔を上げる。そこはサン・ジョルジュ・マジョーレ教会の地上で、ジョナサンが訪れた時のまま、今にも崩れ落ちてしまいそうなほどボロボロであった。
その様子を少しだけ見渡し……間もなくジョナサンの視線はうずくまる金髪の少年の姿を捉えた。

「ジョルノ!!」

急いで傍まで駆けつけ、ジョルノの様子を確かめる。顔は先程よりも血の気がなく、腹の出血もひどくなっている。慌てて波紋を流し込み治療をする。それによりなんとか気色は良くなり、出血もかなり抑えられた。

「……う……」

ジョルノが小さく呻き、床に手をつき立ち上がろうとする。が、腕に力が入らず、足も震えており、立つどころか体を起こすことすらままならないようだった。

「無茶をしてはだめだ、今は体を休めて……」
「…………た……」
「え?」

ジョルノの口が微かに震え、何か言葉を紡ぐものの、ジョナサンの耳にはほとんど聞こえない。
耳を澄まし、ジョナサンはジョルノに聞き返す。

244 :代理:2014/06/10(火) 22:30:53.66 ID:WL36T3N3.net
「すまないジョルノ、今なんて……」
「……貴方、どうして……僕の名前を、知ってるんですか……?」

DIOはジョナサンの前でジョルノの名前を直接呼んでない。
ジョナサンにジョルノのことを語っていた際も、始終「アレ」呼ばわりで決してジョルノの名を明かそうとしなかった。
にも関わらずジョナサンはジョルノのことを前もって知っていたかのようにその名を呼び、DIOに食って掛かっていた。
ようやく途切れ途切れに聞こえてきたジョナサンに対する疑問に、ジョナサンは素直に答える。

「あ……ああ、君のことは君の仲間から聞いていた。ナランチャにフーゴ、それにトリッシュも」
「…………彼らは……」
「ああ、今は離れ離れになってしまったけど、みんな無事だ」

ジョナサンの返答に対し、ジョルノは安堵したかのように息を吐く、彼が今まで出会った人の中で知り合いだったのはグイード・ミスタ一人のみで、
放送で呼ばれたブチャラティとアバッキオ、ポルナレフ以外の仲間の行方はまったく分からなかったので、ジョナサンの口から彼らの名前が出たのはジョルノにとって喜ばしいことであった。
しかし、今の状況では手放しに喜ぶことはできない。ジョルノはなおも力の入らない体で立ち上がろうとする。

「ジョルノ!今は動かなくて良い、移動したいのなら僕が君を抱えるから無茶は────」
「……今、立たなければ、ならないんです……」
「……ジョルノ?」

震える体で無理矢理立ち上がろうとするジョルノに対し、ジョナサンは気づきはじめる
先程のDIOに対するあの姿勢は、精一杯の虚勢だったのだと
彼の心が、その見た目以上に、ボロボロになっているのだと
そして今もなお、その事実をひた隠し、崩れ落ちそうになりながらも立ち上がろうとしているのだと
ジョナサンはそんな彼の様子を見、胸の奥がズキリと痛む。

(ジョルノはきっと強い子なんだ、今までも数々の困難を乗り越えて来たに違いない
けど……今は逆にそれが足枷になっている。どんなに傷つこうと、どんなにボロボロになっても、決して心は折れることはない……折れることを、自分自身が許さないんだ)

だったら、彼のために、自分は何ができる?


『お前の愛が、やつらの一体何を救ったと言うのだ?』


ディオの言葉の刃が、ジョナサンの胸に突き刺さる。
ジョナサンは一度、眼を閉じる。

(僕は……何もできなかった。大切な人が苦しんでいたときに、そんなことも知らずにのうのうと息を吸っていた……
けど、そこで立ち止まってはだめなんだ。今を生きている以上、いなくなってしまった人たちの分の意思を無駄にしてはならない
去ってしまった人たちの意思は、受け継いでいかなくてはならない、さらに先に進めていかなくてはならない)

(エリナ……今の僕に、ジョナサン・ジョースターに、できることは─────)


ジョナサンは眼を開く、その心に光が降り注ぐ
その瞳に映るのは─────


☆☆

245 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 22:35:06.16 ID:xScc2tym.net
支援

246 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 22:36:01.10 ID:1OJkGqm9.net
支援

247 :代理:2014/06/10(火) 22:36:43.79 ID:WL36T3N3.net
どれ程崩れてしまいそうになっても、壊れそうになっても、挫けている時間はない、砕けるようなことはあってはならない、……折れるなんてもってのほか。


────たった一歩だけでいいんだ

────一歩踏み出して立ち上がるだけでいい

────それだけで僕はまた立ち向かえる

────『悪』に、立ち向かう勇気が出てくる

────ブチャラティ、アバッキオ、ポルナレフさん……ウェザー、彼らの意思を……

────タルカスさん、彼も恐らく、もう…………本当に、すみません

────けど、立ち止まっては行けない、僕は立ち上がらなければならない

────一歩、たった一歩だけでいいんだ、それだけで勇気が湧いてくる

────一歩、だけで……


『お前はもう────用済みだ』


────………………




「ジョルノ」



☆☆

248 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 22:40:12.57 ID:VaxSDmtr.net
支援

249 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 22:41:43.05 ID:1OJkGqm9.net
支援

250 :代理:2014/06/10(火) 22:42:45.22 ID:WL36T3N3.net
己の名前が聞こえて、顔をあげる。
瞳に映ったのは、さっき会ったばかりの男
……そういえば、名前もまだ知らなかった。

「君は本当に強いな。……僕がディオに血を吸われそうになったときも、君は僕を庇ってくれた。もう自分のことで手一杯だったろうに、地下から僕を引っ張ってここまで僕を導いてくれた。本当の覚悟と勇気がなければ、こんなことできっこない」

男の手がジョルノの手を握る、とても大きくて、それでも不思議と暖かさを感じる手

「……参ったなあ。情けないけど、こんなときどんなことを話していいのか分からない
何か話せばいいのか何も言わない方がいいのか……
話すなら何を話せばいいのか、慰めればいいのか元気付ければいいのか、好みの音楽のことを語ればいいのか……
いや、ごめんよ、変なことばっかり言ってしまって
でもジョルノ、僕から君に言えることで、たった一つ確かなことがある。これだけ言わせて欲しい…………信じて欲しい」

男の口から不思議な呼吸音が聞こえる。
けれどもちっとも不快はない、男の握っている手から暖かな感覚が広がっていく。全身に染み渡っていく。……空いた隙間が満たされていく。



「僕は、君の味方だ」



ジョルノは男の手を無意識に握り返す。胸の奥が熱い何かで満たされ、溢れかえってくる。全身の芯に生命が注がれていくような感覚がする。……足はもう、震えていない。
男が立ち上がる。自然とつられてジョルノもまた立ち上がる。その動作の一つ一つがまったく苦にならない。男に支えてもらっているからだろうか、それとも……

「君が立ち上がりたいときは、僕も一緒に立ち上がろう
君が立ち向かいたいというなら、僕も一緒に立ち向かう
一人でなにもかもしようとしないでくれ、……僕が、君と一緒にいる」

ジョルノは顔をあげる、高い位置にある男の顔は穏やかだった。ジョルノが今まで見てきた色んな人のどの顔よりも、優しい顔
ジョルノの心には、いつか感じた爽やかな風が吹いていた。

251 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 22:44:45.74 ID:xScc2tym.net
支援

252 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 22:45:33.73 ID:1OJkGqm9.net
支援

253 :代理:2014/06/10(火) 22:49:59.50 ID:WL36T3N3.net
「どうして」
「……なんだい?」
「貴方はどうして、そんなことが……」

ジョルノはDIOの息子で、DIOの体は男の体を乗ったもので。つまり男からしてみれば、ジョルノは愛した人ではない人との間で勝手に産まされた子で……

「やっぱり聞いてたんだ、ディオの話」
「……」
「そんなことは関係ないよ、君は僕を『救って』くれた、それだけで十分さ」

ゆるゆると男は首を振る。

(…………あ)

そしてひどく今更に、気づいた
なんで気がつかなかったのだろう、DIOの存在があまりに大きかったからだろうか、ジョルノが男のことをまったく知らなかったからだろうか。……とにかく、ジョルノはその時ようやく、その事実に気がついた。

(じゃあ、この人は僕の…………もう一人の────)


────父親


それは夢見心地なんてものじゃない、曖昧で漠然としてて、ぼんやりとした感覚でしか知覚できないことであった。
でも、それでも、本人たちに自覚がなくても、お互いに好みの音楽どころかその存在を知ったばかりだったとしても


『僕は、君の味方だ』


────その言葉はジョルノにとって、血の繋がりがある『家族』からの、初めての暖かな言葉だった。

「…………貴方は……」

なんと言えばいいのか分からないのはジョルノもまた同じで、それでも男のことをなにか知りたくて、形にしきる前に言葉に乗せようとして────



────……ブゥン

254 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 22:53:39.58 ID:1OJkGqm9.net
支援

255 :代理:2014/06/10(火) 22:54:28.55 ID:WL36T3N3.net
一匹の『蠅』が、ジョルノの元へとたどり着いた。

「……あれ?これはさっきの?」

男はそれを見て、きっと先程の逃走の際の、消えきっていなかった虫の一匹だと思ったのだろう。
でも違う、その蠅はもっとずっと以前にジョルノが生み出したものだった。ここにくる以前に『ある男』の元へと辿り着くよう向かわせたはずのものだった。

ジョルノは男から手を離し、代わりにその蠅を握る。次にジョルノが手を開けた時にはその蠅は姿を消し、手のひらには二つの『切れ端』があった。
一つは場所が書かれているメモ、一つは『ある男』のブーツの切れ端
本来ならその蠅はブーツの切れ端の持ち主の元へとたどり着くはずだった。けれど蠅は持ち主を見失い、主人の元へと戻ってきた。そのことが意味するのは……

「…………ジョルノ?」


────その蠅は『グイード・ミスタ』の死を知らせた、文字通りの「虫の知らせ」となった。



☆☆ ☆



ふらり ふらりと彼女は教会の中へと入っていく
己の思うがままに、体の感ずるがままに

やがて彼女の視界には、2人の人影が映る
2人とも何かに気をとられているようで、彼女には気がついていない
彼女は思う、あの2人から「気配」を感じると、ずっと知りたかった「空条徐倫」のルーツがあると
その内の一人に、彼女は記憶の中の影を重ねた

(………『父さん』………)

────彼女は2人に、ゆっくり近づいていく

256 :創る名無しに見る名無し:2014/06/10(火) 22:56:11.41 ID:1OJkGqm9.net
支援
ああ☆の意味ってそういう………

257 :代理:2014/06/11(水) 09:19:42.98 ID:q97fT70N.net
780 :トリニティ・ブラッド −リライト−  ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 01:12:19 ID:RvLBe2q6
【E−6 北部/一日目 午後】
【ナランチャ・ギルガ】
[スタンド]:『エアロスミス』
[時間軸]:アバッキオ死亡直後
[状態]:額にたんこぶ(処置済み)&出血(軽度、処置済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者をブッ飛ばす!
0.ブチャラティ、アバッキオ…!!
1.放送まちがいとかふざけんな!!
2.よくわかんないけどフーゴについていけばいいかな
3.フーゴとジョナサンを追う

【トリッシュ・ウナ】
[スタンド]:『スパイス・ガール』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』ラジオ番組に出演する直前
[状態]:肉体的疲労(中程度までに回復)、失恋直後、困惑
[装備]:吉良吉影のスカしたジャケット、ウェイトレスの服
[道具]:基本支給品×4、破られた服、ブローノ・ブチャラティの不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:打倒大統領。殺し合いを止め、ここから脱出する。
1.ルーシーが心配
2.地図の中心へ向かうように移動し協力できるような人物を探していく(ただし情報交換・方針決定次第)
3.フーゴとジョナサンを追う
4.ウェカピポもアバッキオも死んでしまったなんて…
5.玉美、うっさい

【小林玉美】
[スタンド]:『錠前(ザ・ロック)』
[時間軸]:広瀬康一を慕うようになった以降
[状態]:全身打撲(ほぼ回復)、悶絶(いろんな意味で。ただし行動に支障なし)
[装備]:H&K MARK23(0/12、予備弾0)
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:トリッシュを守る。
1.トリッシュ殿は拙者が守るでござる。
2.とりあえずトリッシュ様に従って犬のように付いて行く。
3.あくまでも従うのはトリッシュ様。いくら彼女の仲間と言えどあまりなめられたくはない。
4.トリッシュ様に従い、2人(フーゴとジョナサン)を追う。
【備考】 彼らはSBR関連の事、大統領の事、ジョナサンの時代の事、玉美の時代の事、フーゴ達の時代の事、この世界に来てからの事についての情報を交換しました(知っている範囲で)

【ジョニィ・ジョースター】
[スタンド]:『牙-タスク-』Act1
[時間軸]:SBR24巻 ネアポリス行きの船に乗船後
[状態]:疲労(小)、困惑
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、リボルバー拳銃(6/6:予備弾薬残り18発)
[思考・状況]
基本行動方針:ジャイロに会いたい。
1.ジャイロを探す。
2.第三回放送を目安にマンハッタン・トリニティ教会に出向く
3.ジョナサン!?僕の本名と同じだ。僕と彼との関係は?
4.ジョナサンを追う?それとも……
[備考]
※現在ジョナサンと共鳴しあってますが、距離が遠く他に気配が複数ある(DIOとジョルノ)ことに気がついてません。

258 :代理:2014/06/11(水) 09:20:22.31 ID:q97fT70N.net
【ナルシソ・アナスイ】
[スタンド]:『ダイバー・ダウン』
[時間軸]:SO17巻 空条承太郎に徐倫との結婚の許しを乞う直前
[状態]:全身ダメージ(中程度に回復)、体力消耗(中)、精神消耗(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:空条徐倫の意志を継ぎ、空条承太郎を止める。
0.徐倫……
1.情報を集める。
2.空条邸へ向かう
【備考】
ジョニィとアナスイは、トリッシュ達と情報交換をしました。この世界に来てからのこと、ジョナサンの時代のこと、玉美の時代のこと、フーゴ達の時代のこと、そして第二回の放送の内容について聞いています。

781 :トリニティ・ブラッド −リライト−  ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 01:14:00 ID:RvLBe2q6



【D−3 西側、街中のそれぞれどこか/一日目 午後】

【ヴァニラ・アイス】
[スタンド]:『クリーム』
[時間軸]:自分の首をはねる直前
[状態]:左肩貫通、プッツン
[装備]:リー・エンフィールド(10/10)、予備弾薬30発
[道具]:基本支給品一式、点滴、ランダム支給品1(確認済み)『オール・アロング・ウォッチタワー』のダイヤのK
[思考・状況] 基本的行動方針:DIO様のために行動する。
1.イギーと、一緒にいた少年(フーゴ)を始末する。


【マッシモ・ヴォルペ】
[時間軸]:殺人ウイルスに蝕まれている最中。
[スタンド]:『マニック・デプレッション』
[状態]:健康、怒り
[装備]:携帯電話
[道具]:基本支給品、大量の塩、注射器、紙コップ
[思考・状況]
基本行動方針:空条承太郎、DIO、そして自分自身のことを知りたい。
0.DIOの下に『空条徐倫』を連れて行く。
1.空条承太郎、DIO、そして自分自身のことを知りたい 。
2.天国を見るというDIOの情熱を理解。しかし天国そのものについては理解不能。
3.フーゴを殺す
[備考]
※現在怒りで3以外の事柄がほとんど頭にありません。時間が経つかなにかきっかけがあれば思い出すでしょう。
※携帯でDIOへ留守電を残しました。どのような内容なのかは後の書き手様にお任せします。

259 :代理:2014/06/11(水) 09:22:42.95 ID:q97fT70N.net
【どう猛な野獣タッグ 結成】

【イギー】
[時間軸]:JC23巻 ダービー戦前
[スタンド]:『ザ・フール』
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:ここから脱出する。
1.ヴァニラ・アイスをぶっ飛ばす。
2.花京院に違和感。
3.煙突(ジョルノ)が気に喰わない
4.穴だらけ(フーゴ)と行動

【パンナコッタ・フーゴ】
[スタンド]:『パープル・ヘイズ・ディストーション』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』終了時点
[状態]:右足首にダメージ、体力消耗(中)、やや困惑
[装備]:DIOの投げたナイフ1本
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、DIOの投げたナイフ×5、
[思考・状況]
基本行動方針:"ジョジョ"の夢と未来を受け継ぐ。
1.先の襲撃&追撃に引き続き警戒。
2.利用はお互い様、ムーロロと協力して情報を集め、ジョルノやブチャラティチームの仲間を探す(ウォッチタワーが二枚とも消えたため今の所はムーロロには連絡できません)
3.ヴォルペと襲撃してきた男(ヴァニラ)を倒す(ヴォルペ優先)
4.ひとまず犬(イギー)とともに行動
5.教会に戻りジョナサンと合流する
6.アバッキオ!?こんなはやく死ぬとは予想外だ。
7.ムーロロの身に何か起こったのか?
【備考】
『オール・アロング・ウォッチタワー』のハートのAとハートの2はムーロロの元に帰り、消えました。

【備考】
※サン・ジョルジョ・マジョーレ教会から南東方向にイギーVSヴァニラ、フーゴVSヴォルペの戦闘跡があります。

260 :代理:2014/06/11(水) 09:23:22.93 ID:q97fT70N.net
782 :トリニティ・ブラッド −リライト−  ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 01:15:59 ID:RvLBe2q6



【D−2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会 地上/一日目 午後】

【『ジョジョ』ファミリー】

【ジョナサン・ジョースター】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:怪人ドゥービー撃破後、ダイアーVSディオの直前
[状態]:全身ダメージ(小程度に回復)、貧血(ほぼ回復)、疲労(小)、
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:力を持たない人々を守りつつ、主催者を打倒。
1.ジョルノと一緒にいる。……絶対に彼を一人にしない
2.ディオ……。
3.先の敵に警戒。まだ襲ってくる可能性もあるんだから。
4.フーゴやナランチャたちと合流したい
5.知り合いも過去や未来から来てるかも?
6.仲間の捜索、屍生人、吸血鬼の打倒。
7.ジョルノ……どうしたんだ……?
[備考]
※DIOからDIOとジョースター家の因縁の話を聞かされました。具体的にどんなこと聞かされDIOがどこまで話したのかは不明です。(後の書き手様にお任せします。)

【ジョルノ・ジョバァーナ】
[スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』
[時間軸]:JC63巻ラスト、第五部終了直後
[状態]:体力消耗(大)、精神疲労(大)、腹部損傷・出血(G・E&波紋で回復中)
[装備]:閃光弾×3
[道具]:基本支給品一式、エイジャの赤石、不明支給品1〜2(確認済み/ブラックモア) 地下地図、トランシーバー二つ、ミスタのブーツの切れ端とメモ
[思考・状況]
基本的思考:主催者を打倒し『夢』を叶える。
1.???
[参考]
※時間軸の違いに気付きましたが、まだ誰にも話していません。
※ミキタカの知り合いについて名前、容姿、スタンド能力を聞きました。
※DIOがジョナサンに話したDIOとジョースター家の因縁の話を一部始終聞きました。具体的にどんなことを話しどこまで聞いていたかは不明です。(後の書き手様にお任せします)
※149話「それでも明日を探せ」にて飛ばした蠅がミスタが死亡したことによりジョルノの元へと帰ってきました。


【F・F】
[スタンド]:『フー・ファイターズ』
[時間軸]:農場で徐倫たちと対峙する以前
[状態]:髪の毛を下ろしている
[装備]:体内にF・Fの首輪
[道具]:基本支給品×2(水ボトルなし)、ランダム支給品2〜4(徐倫/F・F)
[思考・状況]
基本行動方針:存在していたい(?)
混乱
1.『あたし』は、DIOを許してはならない……?
2.もっと『空条徐倫』を知りたい。
3.敵対する者は殺す?
[備考]
※何故F・Fが教会に入れたのか(ジョンガリ・Aに狙撃されなかったのか?)の理由については後の書き手様にお任せします。

261 :代理:2014/06/11(水) 09:24:02.29 ID:q97fT70N.net
783 :トリニティ・ブラッド ?リライト?  ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 01:17:43 ID:RvLBe2q6






「ジョジョを連れて逃げたか……ふん、ジョースターと引き合うとはやはりこのDIOの息子、か」

「まあそう問題ではない、やつらはまたこのDIOの元へとやってくるだろう、やつらのジョースターの血が、くだらん正義感が、このDIOの存在を許しはしないからな」

「……やはりそうでなくてはな、わざわざ呼び寄せる必要などない、やつらは必ずこのDIOに立ち向かってくる……我が野望の前に立ち塞がってくる」

「……ああ、そうだ……!」

「我が野望の路上に転がる石クズどもよ……」

「我が天国への階段に立ち塞がる塵どもよ……!」

「貴様らの血肉をもって、我が永遠の、そして天国への足掛けとしてやるッ!」

「さあ、来い………!」



「『ジョースター』ッ!!」






【D?2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会 地下/一日目 午後】

【DIO】
[時間軸]:JC27巻 承太郎の磁石のブラフに引っ掛かり、心臓をぶちぬかれかけた瞬間。
[スタンド]:『世界(ザ・ワールド)』
[状態]:全身ダメージ(大)疲労(大)
[装備]:シュトロハイムの足を断ち切った斧、携帯電話、ミスタの拳銃(0/6)
[道具]:基本支給品、スポーツ・マックスの首輪、麻薬チームの資料、地下地図、石仮面、リンプ・ビズキットのDISC、スポーツ・マックスの記憶DISC、予備弾薬18発『ジョースター家とそのルーツ』『オール・アロン グ・ウォッチタワー』のジョーカー
[思考・状況]
基本行動方針:『天国』に向かう方法について考える。
1.ジョジョ(ジョナサン)の血を吸って、身体を完全に馴染ませる。
2.承太郎、カーズらをこの手で始末する。
3.蓮見琢馬を会う。こちらは純粋な興味から。
4.セッコ、ヴォルペとも一度合流しておきたい。
[備考]
※携帯電話にヴォルペからの留守電が入ってます。どのような内容なのかは後の書き手様にお任せします。
※ジョンガリ・Aと情報交換を行いました。
※ジョンガリ・Aのランダム支給品の詳細はDIOに確認してもらいました。物によってはDIOに献上しているかもしれませんし、DIOもジョンガリ・Aに支給品を渡してる可能性があります。

【備考】
※サン・ジョルジョ・マジョーレ教会が崩壊しかかってます。次に何らかの衝撃があれば倒壊するかもしれません。



      ★

   ☆☆☆☆☆ ☆
   ☆

262 :代理:2014/06/11(水) 09:24:53.50 ID:q97fT70N.net
784 : ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 01:22:09 ID:RvLBe2q6
誤字脱字、矛盾の指摘等ありましたらよろしくお願いいたします。

……余談ですが、仮投下時との大きな変更点として話を二分割し、それぞれに副題をつけさせていただきました。
それぞれ『BUMP OF CHICKEN』の曲『カルマ』、『ASIAN KUNG-FU GENERATION』の曲『リライト』が元ネタとなっておりますが、この作品のイメージソングにもなっていますので、合わせて見ていただくと拙作をより楽しめる……かもしれません

ここまでお付き合いくださり本当にありがとうございました。

────
申し訳ありません。したらばの本スレ転載用スレにて不注意によりトリップキーをさらしてしまいました。次に書き込みをするときは別のトリップで書き込みいたします。
ご迷惑おかけして申し訳ありません。

787 : ◆3hHHDZx0vE:2014/06/10(火) 21:39:23 ID:RvLBe2q6
転載中失礼します。◆Khpn0VA8kAです。
どうも書き込み中に不具合で投下終了宣言の部分が何故かトリップキーに変換されてしまったみたいです。今後の書き込みやWiki収録時はこちらのトリップを使用します。
お騒がせしてすみませんでした。

263 :創る名無しに見る名無し:2014/06/13(金) 22:12:47.40 ID:rFOJnaOz.net
テスト

264 : ◆3hHHDZx0vE :2014/06/13(金) 22:40:47.82 ID:rFOJnaOz.net
ああよかった、書き込めた
どうも◆Khpn0VA8kAです。今度からこちらのトリップを使用いたします。
まずは代理投下ありがとうございます。長いのに丸々まかせてしって……本当にお疲れ様でした。支援してくださった方もありがとうございます。

>ミッドナイト・バーサーカー
投下乙です。育朗覚悟完了したか…彼には色々と救われてほしいけど、どうなることか
そしてここにきての遺体登場、ディエゴもまた引力に引かれ始めましたが…大波乱の予感しかしませんね。

さて、改めまして拙作の誤字脱字、指摘や感想等ありましたらよろしくお願いします。

265 :創る名無しに見る名無し:2014/06/14(土) 14:06:17.10 ID:TXICYPtI.net
投下乙!!
どこもかしこも面白いことになっててワクワクが止まらない……

ミッドナイト・バーサーカー
元人間ながら全く違う怪物同士の戦い、そして裏ではディエゴとルーシーもまた大変なことに……
しかし育朗はどこまで遭遇運が無いんだ……

確認しておきますが、聖人の遺体って支給OKでしたっけ?
一応原作通りの使われ方をしてますし、吉良もバイツァ発現するかもしれないってところでこんな突っ込みいれるのは野暮かもしれませんが。

後、最後ディエゴの首筋に星型のあざができてますが、遺体の力で「世界」を得たからジョースターの一員になるっていうのはちょっと違うんじゃないでしょうか?
解釈違いだったらすみません。


トリニティ・ブラッド
知っているけど知らない人……ジョナサン、ジョルノ、そしてDIOの奇妙すぎる組み合わせの遭遇にハラハラしっぱなしでした。
さらに外では原作における因縁の組み合わせで戦闘開始してますし、教会内に徐倫(F・F)も来て、さらにさらに残るジョジョたちも向かってて……
いろいろな意味で続きが楽しみすぎる話でした。
したらばの支援絵もGJ!!

266 : ◆3hHHDZx0vE :2014/06/15(日) 23:10:24.92 ID:OPq1z0Ph.net
ご感想ありがとうございます!
支援絵や早くも続きが仮投下されていたりで私もドキドキしてます。

それから横やり失礼、遺体によるスタンド能力付加は禁止ですが、支給自体は特に禁止されていなかったと思います。
あとディエゴの件に関しましても、これは私見ですがディエゴが遺体により存在がDIOに近づいたことで間接的な要因で痣が出てきたのではないでしょうか?
原作でもウェザーが緑色の赤ちゃんと融合したプッチと共鳴して星形の痣が浮かび上がってましたし、同じことがディエゴとDIOの間に起こっても不思議ではないと思います。まああくまで個人的な意見ですので参考までに

いろんな場所でいろんなフラグが立ちつつあってワクワクしますね。続きが本当に楽しみです。

267 :創る名無しに見る名無し:2014/06/16(月) 21:16:34.91 ID:qKibGXEb.net
因縁と希望を背負う集い星

承太郎たち3人が、感覚を頼りに西へ歩き出して暫く。
「康一は置いてったの、怒るかもしれねえなぁ」
「ま、なるようにしかならねえよ…皆もわかってくれるって」

ジョセフと仗助がそんな会話をしつつ歩きながら承太郎の傷を癒している中、真ん中を歩いていた承太郎は不意に歩みを止めた。

「少し先に行っててくれないか」
傷自体は塞がっている。ただ、まだ違和感や痛みを除ききるまでには至っていないだろう。
「どうしたんスか?」
「野暮用だ」
問う仗助に、承太郎は少し後ろの角にある民家を指差した。
「ひょっとして、そこらで出来ねえ方?緊張感があるんだか、ねえんだか…待ってるから、早く済ませて来いよ」

ジョセフの軽口に見送られた承太郎はその角を曲がると、暫く歩いてから唐突に声を投げた。

「花京院、いるんだろう?」

付かず離れずの距離で3人を尾行していた花京院はひとつミスを犯した。
見つかりたくないあまり、見失いたくないあまりに自分の目と地面に這わせたハイエロファントの感覚、両方を使って3人を追っていたのだ。

我が家が炎に包まれてしまうなどという真似をされて神経が過敏になっていた承太郎は、追ってくる僅かな気配に気付き…それが花京院とハイエロファントグリーンのものだと識別していた。

どうする?
花京院は躊躇した。同行している二人は、角の向こう…承太郎の十数メートル先で立ち止まっている。
この距離なら。
「…承太郎、本当に君なのかい?」

花京院は、承太郎の視線の先にあった壁の影から出ていく事を選んだ。既に承太郎の背後…やって来たの方の道には、ハイエロファントの触脚を忍ばせるように張り巡らしている。
後は仲間のふりをして、隠れたままのハイエロファントグリーン本体からエメラルドスプラッシュを放ち、それをかわした隙に足を触脚で絡めとって体制を崩す。
空条承太郎のスタンドがどんな能力を持っていようと、本体の足を封じてしまえば…そして仲間が気づいても残りの脚で承太郎との間に壁を作り、牽制している間に止めを刺すことが出来る筈だ。

花京院は、前へ一歩踏み出す。

だが、結果として目論見は外れた。
二十数年のブランク…そして旅の中でも途中離脱があったとはいえ、承太郎は花京院と伊達に一緒に過ごしていたわけではない。
それも他の人間ならともかく、仗助あたりなら『親友』と照れもなく呼べただろう存在の気配に沸いた殺気を、承太郎はエメラルドスプラッシュが放たれる直前に感じ取っていた。

「エメラルドスプラッシュ!」

268 :創る名無しに見る名無し:2014/06/16(月) 21:19:12.35 ID:QzNxuYOw.net


269 :創る名無しに見る名無し:2014/06/16(月) 21:24:20.37 ID:qKibGXEb.net
承太郎はエメラルドスプラッシュをかわす事はしなかった。その代わりにスタープラチナを瞬時に現すと、そのスタンドの指でやってくる礫の数個を素早く弾いていく。
「な…」
計算しつくされたようにスプラッシュ同士が玉突き衝突して弾道が逸れる。驚愕した花京院は、ただでさえ避けなかった事で遠くなった触脚を動かすのが一瞬、遅れた。

『スタープラチナ・ザ・ワールド』
承太郎は一気に花京院との距離を詰めた。
攻撃を仕掛けて来たという事は、どんな理由であれこの男が正気ではないと言う事だ。ただ…花京院典明と言う人間は、操られはしても狂ってしまうような質ではないとあの旅の日々が告げる。
もしそれが思い違いならこのままぶちのめすだけだ…そう結論付けて、スタープラチナは花京院の額に触れた。
幸いと呼べるのだろう、見つけた蜘蛛のようなそれを感慨にふける間もなく一気に引き抜く。相手が止まっているうちであれば、手元さえ狂わなければ何も問題はない。
その時、承太郎の片手は無意識に花京院の腹に触れていた。

その手が離れた瞬間、時は動き出す。

次に花京院が見たのは、目前にいる承太郎。そしてその傍らのスタンドが持つ、蜘蛛のようなものが日光に灰になっていく様子だった。

花京院の脳裏に、DIOの姿が蘇る。
『恐れる事はないんだよ、友達になろう』

恐怖に押し潰され、額に何かを埋め込まれて忠誠を『誓わされた』者。
挙げ句の果てに、誰かによって殺しあいを強要されるようなこんな中にいつの間にか放り込まれてまでその存在に執着し、誰かを殺して…ずっと独りで。

「…どうして、私を助けた…?」
ぐるぐると回る思考。花京院にとっては屈辱としか言えない記憶の中、その言葉は無意識に零れたものだった。

承太郎は平静に告げた。
「その質問は『二回目』だ、花京院。俺はあの時、答えをはぐらかした。だが、敢えて今回は言う。お前には『この地球に匹敵するほどデカい借り』がある」
「…なんだと?」

借り。自分が覚えていないからには、別の…または未来の『花京院典明』なのだろう。旅に同行していればそういう事もあったはずではあるが、ここまで言うとは一体何があった?
「俺を襲う気が失せたなら、付いてくるな。俺達は、これからDIOとケリを付けにいく」

その承太郎の言葉に、花京院は半ば反射的に口を開いた。
「…待ってくれ。私も同行する」
「…何故だ?」

思考を整理するように、承太郎に答える。
「私はDIOに恐怖し、肉の芽を植え付けられた。あんな屈辱はかつてない。このままでは私の気持ちがおさまらない」

承太郎は一言だけ尋ねた。
「何があっても、後悔しないか?」
花京院の耳に届いたその言葉には奇妙な存在感があった。だが、それでも引くつもりはない。

「わけのわからないまま、こんな場所に放り込まれて一矢も報いられないなら、私は死ぬより重い後悔を残すだろう」
「やれやれ、だ」

承太郎は、ちらりと自分の片手を見やった。
何故さっき花京院の腹に触れたのか…考える間もなく答えは降ってきた。確かめたかったのだ。
なくしたと思ったもの。今ここにあるもの。

そのまま手を握りしめて、そっと下ろした。

270 :因縁と希望を背負う集い星 ◆3yIMKUdiwo :2014/06/16(月) 21:29:53.63 ID:qKibGXEb.net
何か違和感を覚えて承太郎を追ってきた仗助は、花京院とやりとりをしている承太郎の背中を見つめていた。そこにある雰囲気が僅かに変わっている…すぐに無機質に溶けてしまったが、それは確かに杜王町で感じたあの雰囲気だ。

仗助は花京院に歩み寄り、声を掛けた。
「なら、一緒に行きましょう。ただ…覚悟してくださいね」
仗助の困ったような笑顔に何故かじわり、と花京院の中の何かが溶けていく。誰かに打算なく心を開ける少年が、眩しい。

空条承太郎。
あんな眼をしていながら、傍らにこんなに輝く少年がいる。それは一見してすぐ、自分とDIOのように無理矢理作られたものではないと解った。どうして、この少年はこの男の側にいるのだろう。

付いていけばそれもわかる。もう、ひとりはたくさんだ。

「やれやれ…見ていたか」
承太郎が仗助の気配に振り向く。仗助の後ろには、ジョセフが顔を覗かせていた。

「…おい、そいつも連れてくのか?早く行かねえと、あっちが待ちくたびれちまうぞ」

ジョセフの言葉に、四人は走り出す。そして目的の場所が近づくにつれ、承太郎はその感覚がひとつでない事に気づいた。

DIOとよく似た、だが『白い』もう二つ。
「…ジョルノ…?ジョナサン…?」
口に出して呟く。
前者を割り出せたのは存在を知っているからであり、スタート前に『見せられた』からだ。後者はそうとしか考えられなかった。

「じいちゃんが、いるのか?」
ジョセフの問いに、承太郎は頷いた。
「ああ、皮肉にも、DIOの息子…いや、ジョナサンの息子ともいうべきか…と、一緒だ」

***

「そうですか…トリッシュ、フーゴ、ナランチャ…三人は無事で…貴方と」
「だから、僕は君がジョルノだと言う事がすぐにわかった。これが君を名前で呼んだ理由だ」

ジョナサンがこれまでの自分の事をかいつまんでジョルノに告げると、ジョルノは笑みを返した。
「仲間の動向が聞けたのは僕にとって願ってもない事です。もう帰ってこない仲間もいるけれど…僕は必ず、彼らと再会します」

時空を越えて集っている事は既に承知だ。両方が生きていれば、また会える。

ジョナサンは入り口の方を見た。視界の端に誰かいるが、一度ジョルノに視線を戻す。
「そういえば、フーゴは…一緒に来たのだけど…入ってこないな」
「これだけ僕らが引き合ったんです。フーゴの敵もいるのかもしれませんね…フーゴ、どうか無事で…」
フーゴはスタンド能力からしても、味方からある程度距離を置いて戦おうとするだろう。今は、各々自分の為すべき事をしよう。

その前に、少しだけ。ジョルノは視線を落として眼を閉じた。
仲間の無事と、死者への手向けを。

ジョナサンはもう一度入り口の方を見て問いかけた。
「ところで、君は誰なんだい?見た所、敵ではなさそうだけど…?」
F・Fは答えようとして、言葉に詰まる。
どう答えるべきなのか。

「…あたしは…」
言いながら、F・Fは二人を眺めるように横に動くと視線を切る。左肩にある星は髪の毛で隠れていた。
「少し落ち着く時間が必要かな?大丈夫、君に僕らと戦う意志がないのなら、僕らは敵じゃない」

271 :創る名無しに見る名無し:2014/06/16(月) 21:32:39.80 ID:DHc5TUjY.net
4

272 :創る名無しに見る名無し:2014/06/16(月) 21:32:51.82 ID:adZ5TqEx.net
しえん

273 :因縁と希望を背負う集い星 ◆3yIMKUdiwo :2014/06/16(月) 21:38:35.75 ID:qKibGXEb.net
***

ジョンガリには、不幸としか言えない出来事があった。
イギーとヴァニラ・アイスの戦闘、その余波が鐘楼塔へも被害をもたらしていたのだ。砂はジョンガリの足元にも降り積もったし、確認のために動かそうとしたエレベーターは音ひとつ立てる気配がない。
暫く後に様子を探ろうとマンハッタン・トランスファーを下ろした所、既に教会の屋根は滅茶苦茶で、ぶち抜かれたも良い所だと言う事が解った。おまけに、鐘楼塔の壁も所々抉れている。

そんな確認をしていた時、その下でヴォルペと…ジョナサン・ジョースターに同行してきた知らない男がやり取りを始めていた。

ヴォルペには許可が出ているが、この知らない男は撃つべきか?
そう思って銃口を向けていた所、男はヴォルペと戦闘体勢に入り、教会の入口から離れていく。

放っておこう。中へ入るつもりが無いのなら、わざわざ狙撃手がいると教えてやることもない。

ジョンガリは銃口を別の角度へと変えた。ヴォルペの同行者であるF・Fが入り口へと進んでいたからだ。

間違いなく教会に入るつもりだと確信し、弾を放つ。

因縁の相手、空条徐倫。
だが肩を貫通しても怯む事もなく、次の弾を撃ち込んでも、マンハッタン・トランスファーで角度を変えて撃ち込んでも倒れる事はなかった。

…何故だ?
注意深く探ったジョンガリはF・Fが中へ入っていく瞬間に理解した。
そもそもこのライフルはシングルアクション。再装填の時間が必要な間に、一発肩に貰った徐倫(F・F)は身体の至る所…特に急所と呼べる場所を空洞化していた。恐らくはスタンド能力…故に弾は突き抜けていってしまったのだ。
しかし何故放送で死亡を告げられた空条徐倫がここに?いや、それを考える時ではない。

ジョンガリはウォッチタワーを掴む。主から咎められるのは承知だ…それでも報告しなければ。

それが数分前。
「くっ…」
そしてジョンガリ・Aは今、唇を噛み締めている。
空条承太郎。

射殺してしまいたいのはやまやまだったが、DIOが許可した中には『空条承太郎とその同行者』が含まれていた。

主は生きている。恐らく自分の手で決着をつけたいのだ。
ならば手を出すまい…命令の無視、それは主を侮辱することだ。やってはならぬ事だ。

***

承太郎はそんなジョンガリ・Aを物陰からスタープラチナの眼で見つめていた。
娘を刑務所にぶちこんだ男。
「…厄介なのが、いやがる。ジョンガリ・A…視力は低下しているらしいが…元軍人、20メートルの風の中でも仕事をこなしたという…何か、ふわふわ浮かんでいるな。あれが奴のスタンドか?」

花京院は腕を組んだ。
「…視力がない?あれで?しかも台風並の風の中でも標的を外さない?…となると、あのスタンドは状況判断をしているのか…または、弾丸に何か出来るのか…或いは両方か…」
承太郎は僅かに眉を潜めた。
「あれで?花京院、お前はあいつを知っているのか」
「ああ…スタンドの気配が同じだ…あの時は他に注意を引き付けてやり過ごしたが…」

花京院は十分注意しながら射線に出てみた。300メートル以上先から撃ってこれるのだから、ここなら射程内だ。
「丸見えなのに撃ってこない…どうやら、DIOは私達に入ってこいと言っているようだ」

承太郎は前を見つめた。
「なら、突っ切るぞ。屋根はボロボロ、くり貫かれたような跡…多量の砂…近くで戦闘が起こっているのは明らかだ」
恐らくヴァニラ・アイスとイギーがいるのだろうと目星をつけている。イギーの方は別の『砂使い』の可能性もあるが、ここでDIOが待っているならヴァニラ・アイスは間違いないだろう。

274 :創る名無しに見る名無し:2014/06/16(月) 21:44:21.27 ID:DHc5TUjY.net


275 :因縁と希望を背負う集い星 ◆3yIMKUdiwo :2014/06/16(月) 21:45:14.90 ID:qKibGXEb.net
承太郎にとってジョンガリを放置していくのは断腸の思いだったが、状況が良くなかった。
塔は目視で60メートルぐらいありそうだ。こちらは拳銃は持っているが、相手スタンドの素性が不明…これは不用意に撃つ(またはスタープラチナで弾く)べきではない。例え時を止めたとしても弾丸は途中で止まり、相手に弾丸を認識する時間はあるからだ。
花京院のいう通り弾丸にまで何かを及ぼすスタンドだとしたら、無駄玉どころかおかわりを貰う可能性すらある。無論登って行くなど論外。
今はDIOが先だと判断し、走り抜ける。

***

花京院に続いてジョセフはその中へと踏み込んだ。中にいたのは、3人。

そのうち、よく似た人影に声を掛ける。
「やっほー、じいちゃん。色々説明したいとこなんだけどさ、あんまり時間ねえんだよな。どこまで知ってる?」
「じいちゃん…そういう君は、その人と殺された筈じゃ…?」

ジョナサンはジョセフの後ろにいる承太郎の方をちらりと見ながら呟いた。目の前の男は爆破された男と瓜二つ、あっちの男は服は違うが、そっくりだ。
「殺されたはずの俺は孫のジョセフだ、おじいちゃん。それと後ろのは俺の孫の、空条承太郎。で…これは俺の息子の東方仗助」

ジョセフは隣の仗助を指差しながら、目を見開いて絶句しているジョナサンに苦笑した。
「いや、腑に落ちないのはわかるのよ?実際、俺もそうだし…でも、じいちゃんも感じてるはず。俺は嘘ついてないって、わかるだろ?」
そう、DIOが語った事は嘘ではないのだ。それはジョナサンも良く解っている。恐らく自分とジョルノのように、引かれあってここまで来たのだろう。

その時にふと、思った。
子孫が本当にいるのだとしたら…DIOから行方を聞く事の出来なかった人物、即ちここに飛ばされなかったエリナはどうなったのか?
「そうか…君が僕の孫だと言うなら聞きたい事がある。エリナは、長生きしているかい?…幸せかい?」
ジョセフは複雑な顔をした。
「エリナばあちゃんなら、まだ生きてるぜ。色々あったけど…きっと幸せだ…でも」

ジョセフはジョナサンに頭を下げた。
「…ごめん、おじいちゃん。俺はこっちのエリナと一緒にいた…エリナは俺を庇って…波紋じゃ、助けられなかった」
ジョナサンは暫く絶句していたが、静かに告げた。
「そうか…ジョセフ、エリナはいつだってそういう誇り高い、強い人だ…そうだろう?僕だって悔しくないと言ったら嘘だけれど、エリナ自身が選んだ道なら…見届けてくれてありがとう。君が生きているだけでも僕は嬉しい」
「おじいちゃん…」

ジョナサンとジョセフ、二人がそんな会話を交わしている中、仗助はジョルノに歩みよった。
「大丈夫か?」
「はい…ちょっと腹をぶち抜かれました。大体血管や臓器は自力でなんとかしたんですが…まだうまく繋がっていない場所があるようで…」
ジョナサンはジョセフとの会話を止めて、仗助を制そうとした。
「今、波紋で治療をしているんだ。動かしては…」

仗助はジョルノの出血を見ながらひとりごちた。
「おいおい、そりゃちょっととか言える怪我じゃねえだろ。波紋じゃあ、失った血までは戻んねえだろうし。あ…でも、そうだな。中がなんとか出来てるなら、出血を止めてやるだけの方がいいか」

仗助はクレイジーダイヤモンドを出し、ジョルノの腹に手を当てる。元々出血は少なくなっていたが、一瞬のうちに消えてしまった。
「すごい…」
ジョルノは素直に驚く。
「全部『戻す』と身体がわけわかんなくなるからな…後は自力で大丈夫か?」
「ええ、ありがとうございます、東方さん」

勿論会話は聞こえていたのだろう。そう呼んだジョルノに仗助は首を振った。
「仗助でいいぜ。その代わり、ジョルノって呼ばせてもらうからな」

276 :創る名無しに見る名無し:2014/06/16(月) 21:49:28.50 ID:DHc5TUjY.net
 し

277 :因縁と希望を背負う集い星 ◆3yIMKUdiwo :2014/06/16(月) 21:51:07.20 ID:qKibGXEb.net
***

そして時は少し遡る。
ジョセフたち四人が会話を交わし始めた頃。

「…!」
承太郎とF・Fの視線が合う。

ジョルノとジョナサンを通して朧気に感じていた存在が現れた事で、F・Fの脳裏には強烈なフラッシュバックが襲っていた。

『あたしは星を見ていたい…父に会うまで』

そうだ、徐倫は。
ずっと焦がれていたではないか。
『おまえの事はずっと、大切に思っていた』
『スタープラチナのDISC!圧倒的な力…あたしの父…空条承太郎はこれで再生できるッ!!』
『あたしはこの『厳正懲罰隔離房』で!!やるべき目的があるッ!』
次々に浮かぶ徐倫の記憶の中、一番最後に見えたのは。
『おかしい…あんたの負傷…応急処置はしたのに…治したはずなのに…その右腕に』
他でもない、F・F自身の言葉。
右腕に浮かぶ、『JOLYNE』の文字。
そして、父親を理解した徐倫の表情と感情。

F・Fは改めて思い知った。
ああ、これが感じる、という事なのか。思い出、という奴なのか。
そして徐倫が父親を理解したように、F・Fも理解する。
―そうか、思い出を作る事が、生きる事なのだ―

その証拠にこの殺しあいに放り込まれてしまった後からは、混乱しつつも全部覚えている。それなのに、その前には何もない。ディスクを守っていた、生きたかった、ただそれだけだ。
「徐倫…」
仲間になれるかも知れなかった存在の名前を呼びながら、F・Fは我知らず、泣いていた。

「F・F…?」
承太郎はF・Fに歩み寄りながらも困惑していた。もう感じるはずのない星の伊吹が、僅かにある。
いまだ徐倫の圧倒的な思いが流れ込んでいるF・Fは、途切れ途切れに喋り始めた。言わずにはいられなかったと言った方が良いだろう。

「そう、あたしは…F・F。でもね、父さん。あたしは空条徐倫でもあるの。徐倫を全部、覚えている。徐倫はずっと、貴方に会いたかった。でも…あたしは…徐倫を知らなかった。その時はただ生きていたかった。だから、鳥と戦っていて、水に入ってきた徐倫を敵だと思った…」

思わぬ告白に承太郎の頭が、胸が、ズキンと痛む。
『間違った人だっているかもしれないじゃないですか』
川尻しのぶの言葉。時間軸の違いが生み出す悲しみ。
知らなかったとはいえ、領域(テリトリー)を犯した徐倫。
海洋学者である承太郎は勿論、それがどんな意味を持つのか痛いほど知っている。恐らく徐倫はF・Fによって『喰われて』しまったのだろう。
それをさせた鳥―ペット・ショップには既に引導を渡して来た。もう、それ以上を求める事は出来ない。

278 :因縁と希望を背負う集い星 ◆3yIMKUdiwo :2014/06/16(月) 21:58:34.50 ID:qKibGXEb.net
だが、目の前にいる存在が全てを知っていると言うのなら、その口から聞かなければならない事があった。
「そうか…ひとつ、聞いてもいいか。徐倫はここへ来て何を感じていた?」
F・Fは答える。その表情は悲しみと歯痒さに満ちていた。
「怒っていた。殺しあいに乗った悪に。父親を助けられなかった、自分自身に。後悔していた、父親に、想いを伝えられなかった事を」
「…やれやれ、だ」

徐倫と自分、不器用な所が似てしまったものだ。承太郎は口を開いた。今は亡き娘のために。
「もう遅いのかもしれない、俺の、自己満足かもしれない。だが…『徐倫』。お前の事はずっと、大切に思っていた」

F・Fは苦笑した。
「大丈夫、『徐倫』はそれ、きちんと聞いたわ…ディスクを盗られた時、『貴方』は同じ事を言ったから」
「なら、いい。返事など必要ない。解っていてくれればそれで十分だ」
承太郎は帽子を下げた。

「…ありがとう、父さん」
暫くしてぽつりと告げたF・Fの中には異変が起きていた。
二つが平等に混ざりあったと言うよりは、F・Fという知性の器に徐倫が寄り添ってくれたと言う方が正確だろう。だから、この思考もF・Fのものだ。空条徐倫は温かい、F・Fはそう感じる。まるで日溜まりと一緒にいるような、奇妙な感覚があった。

「承太郎、と呼んでくれないか。お前を責めたいわけじゃない…ここにいるのは娘を死なせてしまった、ただの男だ。その俺が父親と呼ばれる事は、徐倫にもお前にも失礼だ」

F・Fは承太郎に右手を差し出した。
「なら、あたしもF・Fのままでいい。徐倫のために。改めて宜しく、承太郎」

二人はその手を握りあった。

***

「なんというか…とんでもないな」
花京院は唸った。話に首を突っ込める雰囲気ではなかった上、怪我人がいるのではと一息つくまで入り口を警戒していたのだが、今の所異常はない。
そして今、ジョルノと話の終わった仗助と情報交換(正しいあの旅の顛末など)をし、ここにいるのは全部「ジョースター」に纏わる人間だと知らされたばかりだ。
「そんだけ『しでかして』くれたんでしょうよ。数えて下さい。じいちゃん辺りでも怪しい武勇伝しか残んねえのに、4代前の事なんて普通はわかりゃしませんよ…それが、こうですから」
「ちょっと蚊帳の外の気分だが…私…いや、僕にも出来る事をさせて貰う」

花京院が言うと、仗助は真剣な顔で告げた。
「絶対、死なねえで下さい。俺、承太郎さんにあんたが二回死ぬの見せたくねえ」

花京院は腕を組んだ。
「君もいるし、僕も努力するよ。しかし承太郎がいるとはいえ、DIOのスタンド能力がよりにもよって『時を止める』とは、厄介だな」
仗助は花京院に釣られて腕を組み、難しい顔をして唸っている。
「うーん…時を連続して止める事は出来ない、ってのがDIOにも当てはまるなら…例えば、止めたすぐ後に花京院さんの触脚が絡めば、DIOは振り回すか、こらえなきゃなんねえわけですよね?」
「振り回す前に、千切られそうな気もするが…ん?君は、ジョセフさんは波紋とスタンドでDIOとやりあったと言ったな?ならば…」

花京院はある事を思いついていた。

279 :創る名無しに見る名無し:2014/06/16(月) 22:05:20.50 ID:DHc5TUjY.net


280 :因縁と希望を背負う集い星 ◆3yIMKUdiwo :2014/06/16(月) 22:21:05.33 ID:qKibGXEb.net
***

そして暫くしてジョルノが落ち着いた所で、七人は円座を組んだ。

「初めまして、というには奇妙ですね、空条さん、ジョースターさん」
「…全くだ。お互い初対面が殺される現場とはな、ジョルノ」
無表情の承太郎に対し、ジョセフは失笑していた。
「ったく、趣味が悪いったらねえぜ。クソッタレが…ま、こんなことでもなきゃ、こうやって顔を付き合わせる事なんかなかっただろうけどな」

そんなやりとりから始まった作戦会議めいたもの。まず、ジョルノはデイパックからエイジャの赤石を取り出した。
「これだけの人間がいるなら…誰かこれの使い道を知りませんか?所謂ハズレの支給品の可能性もあるんですが…なぜ宝石が支給されているのかずっと引っ掛かっていて」

その赤い宝石を見て、ジョセフは破顔する。
「スゲー!そいつがありゃ、波紋使いは柱の男さえ倒せるんだぜ!承太郎の足手まといにならなくてすむじゃねえの!いや、寧ろ…俺らは何もできないと思ってるはずのあいつに、引導渡せるじゃねえか!」
「使い道を知っているんですね?では、これはジョナサンさんかジョセフさんに」

エイジャの赤石をジョセフに渡しながら、ジョルノは承太郎に告げる。
「空条さん。貴方がDIOを止める術を持っているのは知っています。DIOを倒しましょう…彼はどす黒い、吐き気を催す邪悪だ。許しておく事は出来ない。僕の事なら心配はありません。
寧ろ、貴方に感謝したいぐらいだ…何故なら、僕はDIOと対峙して…貴方がDIOを倒さなければ僕は生まれていなかったと確信したからです」

言い切ったジョルノのその潔い顔を見ながら、承太郎は何かが軽くなっていく感覚を覚えた。
本来の時間軸では決してまみえなかったジョルノとDIO。それ故にその事実を知ってから、ずっと承太郎はわだかまりを心の隅に残したまま生きてきたのだ。

そう、ディオ・ブランドー自身に自覚がなかったとしても、『父親』を殺したという事実を。

それにも答えが出た。
「…ああ、ケリを付けるぜ。奴には『貸しているものが多すぎる』からな」

それから互いの知らない分の能力を説明しあい、花京院が思い付いた事…即ち波紋使いが他のスタンド使いの身体に波紋を流せば、DIOは手を出しにくいのではないかと告げると、ジョルノは頷きながら指示をした。
「では、僕はジョナサンさんとF・Fさんと一緒に。ジョセフさんは仗助さんと花京院さんと一緒にいてください。
この組み合わせなら花京院さんのいう通り、ジョナサンさんとジョセフさんが他の人の身体かスタンドに波紋を流せます。
そうすればDIOもやすやすと腹をぶち抜いたりはできないでしょうし、後ろからでも援護が出来ます。空条さん、貴方は」

281 :因縁と希望を背負う集い星 ◆3yIMKUdiwo :2014/06/16(月) 22:28:52.48 ID:qKibGXEb.net
ジョナサン、ジョセフ、F・F、仗助が頷き合う中、承太郎は重みを持った言葉で告げる。
「あいつと直接やりあわせてもらう」
そして、花京院は確かめるように口に出した。
「…じゃあ、おとなしく援護に回らせて貰うよ。エメラルドスプラッシュや波紋を流した触脚なら、踏み込まなくても届くからね」

そして、花京院は敵の増援が来る可能性も口にした。
「塔にいたジョンガリ・Aはもちろん…ここには戦闘が行われた跡がある。片がついたら戻ってくるかもしれない。誰か、この惨状に心辺りは?」

ジョルノは口を開いた。
「…僕が降りていってから、戦闘になったようです…僕は、タルカスさんと、犬と一緒にここへ来ましたが…少なくともタルカスさんの方は…」
首を振ったジョルノを見ながら、ジョナサンは確かめるように尋ねた。
「…タルカス…?彼は、日光の下を?」
「はい。何か?」
「いや、いいんだ…僕は彼が屍生人になってから出会ったのだから」
ジョナサンはそう呟くと、唇を噛み締めた。ジョルノと共に来たというなら、彼はきっと『騎士』だったのだろう。
続いて、承太郎がジョルノに問いかける。
「一緒に来た犬…それは黒に、白い鼻筋の通ったボストンテリアか?」

ジョルノは頷いた。
「そうですが…」
「やはり、この砂はあいつのせいか。イギー…犬のナリをしているが、砂を使うスタンド使いだ。生意気で頭の回る奴だが、性格的にDIOに付くとは思えん。
とすると、DIOの手下として…ヴァニラ・アイス…そして、F・Fをさらった奴が、近くにいるだろうな。
ヴァニラ・アイスは空間を削る奴だ。削る前に頭を出すから、そこを叩くしかない。巻き込まれたら何も残らん。DIOが優勢なら近くにいても仕掛けてこないだろうが、DIOに何かあれば危険だ。
こいつをさらった奴に関しては、素性は知れないが近距離の身体強化タイプだ…一緒に来たんだろう?あいつがどこへ行ったか、心当たりは?」

承太郎はF・Fの方を見る。F・Fは首を振った。
「あいつ…あたしをおいてけぼりで、始めちゃったのよ。誰だかはあたしもわからない。記憶にはない…でも、気をつけて」
一同は頷く。

その時、承太郎は隣にいた仗助に押し付けるようにして拳銃を渡した。
「増援の事もある…気休めだが隠し持っておけ。DIOの奴でも頭をぶち抜けば、一瞬動きを止める事ができるかもしれない」
「…承太郎さん」

仗助は承太郎の眼を見た。
「引き金を引くことを躊躇うな。俺はやられるつもりはないが、周りが巻き込まれた時…救えるのはお前とジョルノだけだ。そして、お前は自分を治せない」

その眼に悲しみは変わらず宿っているが、何処か今までと違う気がする。
決して悪を許したわけではないのだろう。けれど、承太郎の中で決定的なものが変わりつつある。
そうでなければこんな事はしないはずだ。

「承太郎さん…皆で、背負います。ぶちのめしましょう。あんたは、いつだって『希望』と共にあるべきだ」

殺しあいに乗ってはいけない。
だが、この因縁だけは断たねばならない。

―彼らが思い思いに立ち上がるまで、あと数刻―

282 :創る名無しに見る名無し:2014/06/16(月) 22:30:42.32 ID:/nYFpE3y.net
しえん

283 :創る名無しに見る名無し:2014/06/16(月) 22:35:40.74 ID:qKibGXEb.net
【D−2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会 地上/一日目 午後】

【チーム『JOJO』+α】

【ジョナサン・ジョースター】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:怪人ドゥービー撃破後、ダイアーVSディオの直前
[状態]:貧血(ほぼ回復)、疲労(小)、痛みと違和感
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:力を持たない人々を守りつつ、主催者を打倒。
1.ジョルノ…だけじゃない…こんなに子孫が…誰も、死なせない。決着をつけよう。
2.ディオ……。
3.敵増援に警戒。
4.フーゴやナランチャたちと合流したい。
5.仲間の捜索。
[備考]
※DIOからDIOとジョースター家の因縁の話を聞かされました。具体的にどんなこと聞かされDIOがどこまで話したのかは不明です。(後の書き手様にお任せします。)
※仗助によってダメージを治癒されました。

【ジョセフ・ジョースター】
[能力]:波紋
[時間軸]:ニューヨークでスージーQとの結婚を報告しようとした直前
[状態]:健康
[装備]:ブリキのヨーヨー
[道具]:首輪、基本支給品×3(うち1つは水ボトルなし)不明支給品4〜7(確認済み/アダムス、ジョセフ、エリナ)エイジャの赤石

[思考・状況]
基本行動方針:チームで行動
1.DIOを倒す。
2.悲しみを乗り越える、乗り越えてみせる。
[備考]
支給品を確認し、水ボトルの1本をF・Fに譲りました。

【空条承太郎】
[時間軸]:六部。面会室にて徐倫と対面する直前。
[スタンド]:『星の白金(スタープラチナ)』
[状態]:痛み(小)と違和感、疲労(小)
[装備]:ライター、カイロ警察の拳銃の予備弾薬6発
[道具]:基本支給品、スティーリー・ダンの首輪、ランダム支給品3〜5(承太郎+犬好きの子供+織笠花恵/確認済)
[思考・状況] 基本行動方針:バトルロワイアルの破壊。危険人物の一掃排除。
0.…。
1.DIOを倒す、全てはそれからだ。
[備考]
カイロ警察の拳銃を仗助に渡しました。予備弾薬は念のため持ったままです。

284 :因縁と希望を背負う集い星 ◆3yIMKUdiwo :2014/06/16(月) 22:37:28.48 ID:qKibGXEb.net
【東方仗助】
[スタンド]:『クレイジー・ダイヤモンド』
[時間軸]:JC47巻、第4部終了後
[状態]:疲労(小)
[装備]:カイロ警察の拳銃(6/6)
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る気はない。このゲームをぶっ潰す!
1.増援に警戒しながらDIOを倒す。
2. 承太郎さん…
3. 第四放送までには一度空条邸に戻る。
[備考]
クレイジー・ダイヤモンドには制限がかかっています。
接触、即治療完了と言う形でなく、触れれば傷は塞がるけど完全に治すには仗助が触れ続けないといけません。
足や腕はすぐつながるけど、すぐに動かせるわけでもなく最初は痛みとつっかえを感じます。時間をおけば違和感はなくなります。
骨折等も治りますが、痛みますし、違和感を感じます。ですが"凄み"でどうともなります。
また疲労と痛みは回復しません。治療スピードは仗助の気合次第で変わります。

【ジョルノ・ジョバァーナ】
[スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』
[時間軸]:JC63巻ラスト、第五部終了直後
[状態]:体力消耗(中)、精神疲労(大)
[装備]:閃光弾×3
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜2(確認済み/ブラックモア) 地下地図、トランシーバー二つ、ミスタのブーツの切れ端とメモ
[思考・状況]
基本的思考:主催者を打倒し『夢』を叶える。
1.増援に警戒しながらDIOを倒し、仲間と合流する。
[参考]
※DIOがジョナサンに話したDIOとジョースター家の因縁の話を一部始終聞きました。具体的にどんなことを話しどこまで聞いていたかは不明です。(後の書き手様にお任せします)
※149話「それでも明日を探せ」にて飛ばした蠅がミスタが死亡したことによりジョルノの元へと帰ってきました。


【F・F】
[スタンド]:『フー・ファイターズ』
[時間軸]:農場で徐倫たちと対峙する以前
[状態]:髪の毛を下ろしている
[装備]:体内にF・Fの首輪
[道具]:基本支給品×2(水ボトルは1)、ランダム支給品2〜4(徐倫/F・F/確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:存在していたい
1.やっと…解った…
2.DIOを許してはならない。
3.徐倫…承太郎…
[備考]
狙撃された右肩は自身のプランクトンで埋めました。ランダム支給品を確認しました。

【花京院典明】
[スタンド]:『ハイエロファント・グリーン』
[時間軸]:JC13巻 学校で承太郎を襲撃する前
[状態]:痛みと違和感
[装備]:ナイフ×3
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:DIOに受けた屈辱を晴らす。
1.敵の増援を警戒しながら、ジョースターの血統と共にDIOを倒す。
2.これが…仲間か。
[備考]
仗助の話を聞いている間に、仗助に腹部の傷を治療されました。

285 :因縁と希望を背負う集い星 ◆3yIMKUdiwo :2014/06/16(月) 22:47:00.46 ID:qKibGXEb.net
【D-4 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会 鐘楼 / 1日目 午後】

【ジョンガリ・A】
[スタンド]:『マンハッタン・トランスファー』
[時間軸]:SO2巻 1発目の狙撃直後
[状態]:肉体ダメージ(小〜中)
[装備]:ジョンガリ・Aのライフル(25/40)
[道具]:基本支給品、『オール・アロング・ウォッチタワー』 のダイヤのA
ミスタの拳銃(6/6)予備弾薬12発、ランダム支給品1(確認済み/タルカスのもの)

[思考・状況]
基本的思考:DIO様のためになる行動をとる。
1.教会入り口を見張り、侵入者を狙撃する。
2.何故、空条徐倫が…?

[備考]
※DIOからミスタの拳銃及び予備弾薬を受け取り、装填しました。

※鐘楼塔を昇降するためのエレベーターはヴァニラ・アイスとイギーの戦闘の余波のため、止まってしまっています(具体的にどうなっているかは他の書き手さんにお任せします)。

286 : ◆3yIMKUdiwo :2014/06/16(月) 22:53:39.69 ID:qKibGXEb.net
トリップ付け損ねたりしてしまいましたが、>>267より投下しました。これにて完了です。
気づいた点、矛盾、誤字脱字などあればお知らせください。

287 : ◆3yIMKUdiwo :2014/06/16(月) 23:36:21.96 ID:qKibGXEb.net
あ…読み返したら花京院とF・Fがちゃんと自己紹介してないですね。wiki収録の時、何処かに入れておきます。

288 :創る名無しに見る名無し:2014/06/17(火) 01:43:46.00 ID:AFfs3tm0.net
投下乙!
バ…バカな…か…簡単すぎる…あっけなさすぎる………
花京院も空条親子も今までの葛藤はなんだったんだと思うくらいにあっさり解決とは……血統の力ってスゲー!
でもここまでとんとん拍子すぎると次の話で反動が不安になったりして……待ってる相手も相手だし。

誤字ですが状態表、ジョンガリのいる教会の鐘楼がD-4になってます。
あと国語の教師じゃありませんが、最後の立ち上がるまで、あと数刻という文。
数刻とは数時間、つまり最低二時間という意味なので不適切だと思います。
お前らいつまでDIO様を待たせる気なのかとw
あと時間帯、見返したら星環は〜で空条邸に向かう途中ですでに3時でした。
そのあといろいろあったのを考えると、そろそろ夕方にしたほうがいいんじゃないでしょうか。

289 :創る名無しに見る名無し:2014/06/17(火) 10:30:54.53 ID:14msX6h9.net
>>288
御指摘ありがとうございます。時刻、場所、最後の締め等修正しておきます。
いや、本当…使い慣れない言葉を調べずに使うもんじゃないです、申し訳ない。DIO様自分で襲撃の御時間になってしまいますねw


ここからは余談。
今回は相手が相手なのでジョースターズ+花京院にはなるべく心残りがないようにして次の方にお渡ししたいという思いからのSSです。
花京院VSジョンガリは随分迷ったのですが、ジョニィもアナスイも来るかもしれないので敢えて戦闘にしませんでした。

本文に記した通り花京院は今回肉体的には承太郎、精神的には仗助に助けられてます。F・Fも川尻しのぶの言葉がなければ…
ただどちらも承太郎のキーとも言える人物なので、ここで否定的にしてしまうとそれこそ承太郎が壊れかねなく、DIOと戦ってる場合じゃねえ!という状態になります。
それは避けたかったのと…やっぱりジョルノと承太郎の邂逅があるのだから、原作では結論の出なかった部分の決着をと思い、こういう流れにさせて頂きました。

書き手として、また読み手として、続きを楽しみにお待ちしております。

290 : ◆3yIMKUdiwo :2014/06/17(火) 10:37:13.26 ID:14msX6h9.net
しかもトリ忘れていた…>>289は自分です。

291 :創る名無しに見る名無し:2014/06/21(土) 07:03:19.62 ID:2OGz/uqB.net
保守

292 :創る名無しに見る名無し:2014/06/23(月) 02:28:30.72 ID:FEd50uvi.net
羊水が腐った出来損ないの馬鹿女オタが蔓延るのがパロロワスレ
有名書き手()に媚を売る内輪の腐ったコンテンツが好きだからなあ生理痛は
子すら産めない屑は一生バトロワ妄想でも続けて不満解消と現実逃避続けてろ

293 :創る名無しに見る名無し:2014/06/23(月) 23:46:29.66 ID:a6uqZFHV.net
>>292
何を言っているのかわからない…
イかれているのか…?この状況で…

294 :創る名無しに見る名無し:2014/06/24(火) 05:19:41.85 ID:DAKIqFbQ.net
>>293
現実で嫌な目にあって現実逃避してるんだってば
察してあげて、そんで触らないであげて

295 :創る名無しに見る名無し:2014/06/25(水) 17:38:50.46 ID:mjQSEQfT.net
生き残りのうち、自分から仕掛けそうな敵サイドが両手いるかいないかの現状…やっぱりDIOと柱の男達あたりが要警戒かな。
吉良は矢に貫かれてるけど、ルール的に能力付加されないはずだしブラック・サバスから逃げ切るか、倒すのか。

296 : ◆q87COxM1gc :2014/06/25(水) 22:35:48.96 ID:XQhBb1Ag.net
イギー、パンナコッタ・フーゴ、カンノーロ・ムーロロ、マッシモ・ヴォルペ、ヴァニラ・アイス
本投下を開始します。

297 :獣の咆哮 ◆q87COxM1gc :2014/06/25(水) 22:37:28.97 ID:XQhBb1Ag.net
「なるほど、砂で本物そっくりの人形を作り出せるのか…」

 ううん、と唸りながら、フーゴは砂を使う犬の能力を見定めていた。
 すでに自分の力は、射程距離を含めて話している。だが、生憎犬の方は言葉が喋れないので、見せてもらうしかない。
「射程距離は広そうだな。だが、あの突然現れる男にどうやって対処していたんだ…?」
「ワン」
 そう一声鳴くと、犬はパラパラと砂を舞い上がらせた。
「なるほど…。奴は移動する時に空間を飲み込むのか。だから、こうやって砂をまいておけば、移動していく方向が分かる。
そういうわけだな?」
「ワン」
「そうか…」
 フーゴが一人で喋る姿はかなり間抜けな図だが、一つ一つ確認しなければ一緒に戦うこともできない。
 一通り犬のスタンドの力が分かった所で、フーゴは思考を巡らせる。
(このスタンドは、かなり使える。ぼくのパープル・ヘイズとも相性がよさそうだ。
 砂であれば、ウイルスに感染することもない。
 うまく使えれば、戦略の幅が大きく広がるぞ…)

 フーゴがそう考えた時。

298 :獣の咆哮 ◆q87COxM1gc :2014/06/25(水) 22:39:33.09 ID:XQhBb1Ag.net
「ワオンッ!」

 犬が鋭く吠え、イギ、と特徴的な唸り声を上げる。
 この賢い犬が、無暗に吠えるわけがない。だとしたら、理由は一つ。
 誰かが、そばに来たのだ。
 フーゴは素早く犬が吠えかかっている方を向き、自身のスタンドを出現させた。
「誰だ!!」
 その声に反応したのか、暗い裏路地の向こうから、一つの影が姿を現す。

『おいおい、フーゴ。お前、いつの間に犬と会話できるようになったんだ―――?』

「…ムーロロ?」
 人にしては小さく、そして薄っぺらいそれは、一枚のトランプだった。


──────────── ──── ── ─ 


 ち、とムーロロは心の中で舌打ちをした。
 思った以上に犬の鼻がよく、偵察するだけのつもりが、フーゴに見つかってしまったのだ。
 おそらく、彼のことだ。きっと次にこう聞くのだろう。『今まで何をしていたんだ』、と。
「今まで、何をしていたんだ」
 予想通りの問いに、ムーロロは嘆息する。
『こっちも色々あったんだよ…』
 言葉を濁しつつ、ムーロロは考える。
 この話題をうまく利用できないか。この、頭でっかちのフーゴをうまく騙せないか―――。

「どうした、何か言ったらどうだ」
 近くに敵のいる状態で気の立っているフーゴは、苛立ちを隠しもせずムーロロを問い詰める。
 そんな彼に向かって、ムーロロは言う。

『お前―――オレ達の側につかないか?』

299 :獣の咆哮 ◆q87COxM1gc :2014/06/25(水) 22:49:38.73 ID:XQhBb1Ag.net
「…何?」
 フーゴは眉をひそめた。敵意をむき出し、スタンドをいつでも出せるよう、身構える。
『待て待て、焦るな。何も、オレはジョルノ様を裏切ろうってわけじゃあないんだ。
 ジョルノ様はもういない。だったら、オレ達がやるのはたった一つだ。
 力を合わせて、主催者を倒す。
 そうだろう?』
「ああ、そうだ。そのつもりでずっと戦ってきた。だが、」
『名簿に名前があるから、ジョルノ様が生きている?やめろよ、そんな無意味な希望は捨てちまえ。
 いいか、ジョルノ様は、いないんだ。オレだってずっと探してたさ。だが、どこにもいない。この〈オール・アロング・ウォッチタワー〉をもってしても、ジョルノ様の居場所を突き止めることはできなかった。その意味は、分かるな?』
「そんな…いや、しかし…」
 もちろん、この話は嘘だ。ムーロロはジョルノが生きていると知っているし、彼の居場所も知っている。
 そして、彼がDIOと敵対していることも。
 フーゴの様子を窺うと、わずかな希望を打ち砕かれ、彼は項垂れているようだった。
 いい調子だ、とムーロロは思った。
 ぐるる、と唸り声をあげて犬が反応を示しているが、そんなことはどうでもいい。たかが犬だ。フーゴとて、本当に犬と会話ができるわけがない。
『オレは、あるお方について行くと決めた。この人なら大丈夫だと思った…。オレの命を懸けられると思った…。
 ただ、問題がある」
「…何だ」
『このお方には、敵がいる。
 お前とずっと一緒にいた、ジョナサン・ジョースターだ』
「…なんだって?」
『いいか、落ち着いてよく聞けよ…。
 さっきの二人、マッシモ・ヴォルペとヴァニラ・アイスはオレ達の仲間だ。お前とヴォルペが、因縁の相手だってのは分かってる。同じように、ジョナサンとDIO様も、どうしても互いに許せない相手なんだ。
 分かるだろう?ヴォルペのほうは、DIO様に忠誠を誓っているからどうにかなる。
 だが、ジョナサンはだめだ』
 フーゴは黙ったまま、ムーロロの話を聞いている。
『いいか、何もお前に、ジョナサンを殺せと言っているわけじゃあない。
 お前はこのまま、サン・ジョルジョ・マジョーレ教会に近づかず、ヴァニラ・アイスと合流するだけでいい。
 大丈夫だ、ヴォルペはお前に手を出さない。まあ、顔を合わせるのは嫌がるだろうから、会うこともないだろうがな…』
 次々と新しい情報を出し、ムーロロはフーゴの思考を奪っていく。
 頭の中をムーロロの言葉で満たし、他のことを考えられなくしていく。

「………」

 沈黙が落ちる。
 フーゴは何を考えているか分からない瞳でじっ、とトランプのカードを見つめた。
 ムーロロの言葉は毒のようにフーゴの全身を巡り、じわじわと彼の思考を覆っていく。
 そして、毒が全身を回りきった時。
 ははっ、とフーゴは吹き出すように息を吐き、軽薄な笑みを浮かべた。
「そうか、よく分かったよ、ムーロロ。確かに、会って間もないジョナサンに命を懸けられるほど、ぼくはいい人間じゃあない。そこまでお人好しじゃあない。ぼくは、彼がどんな音楽が好みかも知らないんだからな。
 ――――なあ、ムーロロ。



 これが答えだッ!!」

300 :獣の咆哮 ◆q87COxM1gc :2014/06/25(水) 22:53:37.99 ID:XQhBb1Ag.net
『ブッシャアアアアアアアアアアアア!!』



 パープル・ヘイズ。
 フーゴの分身と言うべきスタンドが、トランプに迫る。
 油断していた薄っぺらな体は、簡単に捕まってしまった。
 ぐしゃ、とパープル・ヘイズがトランプを潰す。だが、破ったり、ウイルスに感染させたりはしない。
 そのまま、フーゴは言葉を続ける。
「なあ、ムーロロ。貴様、ジョジョに会ったことがないだろう…?」
 ゆっくりと、パープル・ヘイズの両手がトランプを真っ二つに引き裂いていく。
「マッシモ・ヴォルペは、殺さなくてはならない。ジョジョはそう言った。お前が、その言葉を守らないはずがない。
 それに、会っていたら、そんなことをお前が言えるはずないんだ。自分にだけ都合のいいような、恥知らずなことを…」

『……』
 誤算だった。
 一体何を読み違えていたのか、ムーロロには分からない。
 はっきりしているのは、フーゴと自分との間の亀裂は、もう二度と修復できないということだけだ。
 二人の立場ははっきり分かれた。裏切り者と、そうでない者に。
 体を引き裂かれながら、なおもトランプは話を続ける。


『フーゴ。一つ、良い事を教えてやろう。

 ジョルノ・ジョバァーナは生きている。

 だが、彼は我々の敵だ。あの二人を倒さなければ、いずるェ―――』


 ばり、とトランプが真っ二つに引き裂かれる。

 そこで、ムーロロとフーゴをつなぐ回線は断ち切られた。


──────────── ──── ── ─ 


 亀の中にある、居心地のよい部屋で、一人の男が目を閉じている。
 カンノーロ・ムーロロ。
 彼は、フーゴを仲間に引き入れようと思ってあんなことを言ったのではない。無防備のまま彼をマッシモ・ヴォルペやヴァニラ・アイスに引き合わせようとしただけだ。だから、彼らが戦うことは変わらない。
 むしろ厄介なパープル・ヘイズをマッシモ達の元に引きつけられたのだから、足止めは成功したと言っても良いだろう。だが。

 なぜか、妙に「負けた」という気分になってしまった。

 フーゴは、自分と同類だと思っていた。
 他人のことなどどうでもよく、自分の身を守るためなら仲間でも裏切る。
 そういう男だと思っていた。実際、一度は仲間を裏切っている。
 だが、今の彼は違う。
 自分より下だと思い、見下していた相手が、自分よりはるか高みにいる。そんな感覚に、ムーロロは陥っていた。
 ジョルノ・ジョバァーナ。
 おそらく、フーゴが変わったきっかけは彼だろう。そして、フーゴの言葉通りなら、ジョルノに会った自分もまた、変わったのだろう。それこそ、誰かのために命を懸けるような男に。
 それを、羨ましいとは思わない。むしろ、自分から命を捨てる馬鹿な道だと笑ってしまう。


 だが、胸にぽっかりと空いた穴だけは、何をどうやっても、埋まりそうになかった。

301 :獣の咆哮 ◆q87COxM1gc :2014/06/25(水) 22:54:42.91 ID:XQhBb1Ag.net
【亀の中 /  一日目 夕方】

【カンノーロ・ムーロロ】
[スタンド]:『オール・アロング・ウォッチタワー』(手元には半分のみ)
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』開始以前、第5部終了以降。
[状態]:健康
[装備]:トランプセット
[道具]:基本支給品、ココ・ジャンボ、無数の紙、図画工作セット、
    川尻家のコーヒーメーカーセット、地下地図、不明支給品(5〜15)
[思考・状況]
基本行動方針:DIOに従い、自分が有利になるよう動く。
1.琢馬を監視しつつ、DIOと手下たちのネットワークを管理する。
2.スタンドを用いた情報収集を続ける。
[参考]
※現在、亀の中に残っているカードはスペード、クラブのみの計26枚です。
会場内の探索とDIOの手下たちへの連絡員はハートとダイヤのみで行っています。
それゆえに探索能力はこれまでの半分程に落ちています。

※ムーロロに課されたDIOの命令は、蓮見琢馬の監視と、DIOと手下たちの連絡員を行うことです。
同時にスクアーロとお互いを見張り合っています。

302 :創る名無しに見る名無し:2014/06/25(水) 22:54:43.85 ID:/SLeliw7.net


303 :獣の咆哮 ◆q87COxM1gc :2014/06/25(水) 22:55:42.22 ID:XQhBb1Ag.net
◆ ◆ ◆



「はああ―――…」

 フーゴは、ゆっくりと息を吐いた。
 彼は、久しぶりに“キレて”いた。
 どうしても許せなかったのだ。半年前の自分と同じようなことを言う、ムーロロが。
 自分に都合の良いことだけを並べ立て、どの道が正しいのか頭でっかちに考え、そこに理念も信条も存在しない。
 そんな彼の言葉が、許せなかった。
 自分のことだけを考えていれば、きっと向こうにつくのが正しい道なのだろう。
 だが、ジョルノは言ったではないか。あの時、やっと半歩を踏み出した時に。
『星のようにわずかな光明でも、それを頼りに苦難を歩んでいかなければならない』と。
 ならば、歩み続けなければならない。光を目指し、自分の信じた道を。
 そう。
 ムーロロは、重要なことも最後に残していった。

 ジョルノ・ジョバァーナは、生きている。

 ――――やっと。やっと、光を見出せた。
 彼が生きているだけで、それは何ものにも代えられない光明となる。
 だとしたら、自分がやるべきことはただ一つ。
 彼の敵を撃破すること。
 そして、自分の因縁に決着をつけることだ。

 決意を込めて顔をあげたフーゴの目に、こちらを睨みつけるようにして見ている犬の姿が映る。
 まずい。
 反射的にフーゴは思った。
 この犬にとって、フーゴの因縁やジョルノの敵のことなど、どうでもいいのだ。
 だが今、フーゴがムーロロと決別したせいで、この犬も巻き込まれてしまった。ヴァニラ・アイスという敵一人を倒すだけでよかったはずが、さらに大きな戦いに身を投じることになってしまったのだ。
 怒り狂って当然である。

 ゆらり、と犬の前で砂が立ち上った。
 攻撃されるのか、と身構えるフーゴの前で、砂が文字の形を取る。
 そこには、汚い字でこう書かれていた。

 “イギー”

「…それが、お前の名前なのか?」
「ワン」
 一声吠え、イギーはにやりと笑う。「てめえ、なかなかやるじゃあねーか」とでも言うように。
 何だろう。名前を教えるぐらいには認められた、ということなのだろうか。犬に。
 はあ、とフーゴは深く息を吐いた。取りあえず、この犬から攻撃されることはないだろう。
 フーゴは辺りを注意深く見回した。
「まずは、ここから移動しよう。おそらく、ムーロロがぼく達の居場所を―――」


 ガオンッ!!

304 :獣の咆哮 ◆q87COxM1gc :2014/06/25(水) 22:56:46.76 ID:XQhBb1Ag.net
「!!」

 聞き覚えのある、嫌な音がした。振り向くと、路地の壁が消失していた。
 イギーが砂を巻き上げる。
 砂によって、飲み込まれていく空間の軌道が浮かび上がる。それはまっすぐ路地を進み、フーゴ達の所へ迫ってくる。
「まずいッ!!」
 イギーとフーゴは反対側へ走り出したが、丸く浮かび上がった球は、壁と地面を削りながらどんどん近付いてくる。
 このままでは追いつかれる。
 しかし次の瞬間、フーゴの体は浮かび上がっていた。
「何ッ!?」
 驚きでとっさにスタンドを出そうとしたが、その正体を見てすぐに力を抜く。
 イギーの砂が、フーゴの体をつかんでいた。浮かんだフーゴのすぐ下を、ヴァニラ・アイスが通過する。

 一人と一匹は、そのまま屋根の上に着地した。そのまま息を潜めて、下の様子をこっそり窺う。
 ヴァニラ・アイスは、イギーとフーゴの姿を探して暗黒空間から出てきた。
 しかし、二人の姿が見えず、血も飛び散っていない様子を確認すると、すぐに移動をし始めた。
 攻撃をするか否か迷ったが、イギーが悔しそうに見送っていたので、フーゴも諦めた。おそらくイギーは、同じように不意打ちをして反撃でもされたのだろう。
 あの強力なスタンド使いに、策もなく挑むのは危険だ。

 ヴァニラ・アイスの姿が消えて、フーゴはほっと息を吐いた。
(あの男…ヴァニラ・アイスと言ったか。あいつの能力は強力過ぎる。
 マッシモと同時に相手にできるものじゃあないぞ…。
 ぼくのパープル・ヘイズも、攻撃を仕掛ける間合いまで入っていたらやられてしまう。かといって、この犬の攻撃には決定打が欠ける…)

 しばらく考えた後、フーゴはイギーに視線を向けた。


「なぁ、イギー…」

305 :創る名無しに見る名無し:2014/06/25(水) 22:58:04.96 ID:/SLeliw7.net


306 :創る名無しに見る名無し:2014/06/25(水) 23:32:24.70 ID:aM7v16dM.net
しえんんん

307 :代理:2014/06/25(水) 23:59:55.78 ID:/SLeliw7.net
788 : ◆q87COxM1gc:2014/06/25(水) 23:01:40 ID:yhRZKQnM
本スレに転載をお願いします。

789 :獣の咆哮 ◆q87COxM1gc:2014/06/25(水) 23:02:58 ID:yhRZKQnM

◆ ◆ ◆


 ぱらぱらぱら、と砂が降り注いでいる。
 それは、一人でさ迷う男の上にも、同じように。

「パンナコッタ・フーゴ…」

 そう虚ろな瞳で呟く男の名は、マッシモ・ヴォルペ。
 フーゴを見失ってから、彼はずっと一人で仇を探し続けていた。

(壁を削り取ったスタンド使いと、砂を操るスタンド使い…。
 壁を削ったのは、DIOの話で聞いた「この世界の空間から姿をまったく消す」スタンドを持つ、ヴァニラ・アイスだろう。
 フーゴは、ヴァニラ・アイスと敵対していた、砂を操るスタンド使いと一緒にいるのか…?)

 砂が降っているのはあまりに広範囲で、その砂を目印にフーゴ達を見つけ出すことはできない。
 だが、奴らがこのエリアにいることだけは確実だ。
 ヴォルペは注意深く、視覚と聴覚を強化して居場所を探る。
 そして。

 カツ、と。
 音がした。
 頭上から。

 ぐるん、と物凄い勢いでヴォルペは音のした方を見上げ、強化した肉体で一気に屋根まで跳びあがる。どぉん、という衝撃と共に着地し、彼はそこにフーゴとイギーの姿を見つけた。
「見つけたぞ、フーゴ…」
「くそッ」
 彼らは見つかったことに驚きを隠せないようだったが、すぐにスタンドを出した。
 そして、ヴォルペが彼らに向かって一歩を踏み出した時――――

 ガボンッと、ヴォルペのいた足場が崩れた。

 ヴォルペは、自身のスタンドを踏みつけて、再び屋根の上に戻ってきた。あまりに強く蹴りだしたため、スタンドの腕がめき、と嫌な音を立てる。もちろんそれはヴォルペにも反映されるのだが、彼の〈マニック・デプレッション〉の能力によって、その傷はすぐに治ってしまう。
 穴から抜け出したヴォルペを、フーゴとイギーが待ち受ける。おそらく、先ほどの驚愕は演技だったのだろう。最初から、こうする予定だったのだ。
 ヴォルペは、フーゴだけに視線と殺意を向ける。
 両者が激突する、まさにその瞬間――――

「ワンッ!!」

 犬が叫んだ。見れば、降り続く砂が妙な所で途切れている。球を描くように。そして、それはだんだんこちらに近づいてくる。
 ヴォルペは、その現象を知っていた。

 ガオンッ!!

 「それ」は屋根を消失させた後、動きを止めた。そして、現れたスタンドの口の中から、ヴァニラ・アイスが顔をのぞかせる。おそらく、ヴォルペ達が戦う音に引き寄せられたのだろう。
 ヴァニラ・アイスを見るや否や、イギーとフーゴは屋根から飛び降りた。そして、そのまま逃走を開始する。まるで、最初から彼が現れたら逃走すると決めていたかのように。

308 :代理:2014/06/26(木) 00:01:23.29 ID:Tjqumged.net
790 :獣の咆哮 ◆q87COxM1gc:2014/06/25(水) 23:03:55 ID:yhRZKQnM

「………」

 マッシモは、そんな二人を追いかけもせず、じっと観察した後、再び自分が落ちた穴に目を移した。
 その中には、砂に埋もれるようにしてカプセルのようなものが転がっていた。
 彼らは、ヴァニラ・アイスの開けた穴を砂でコーティングし、パープル・ヘイズのカプセルを中に仕込んでおいたのだった。
 それを見つめていたヴォルペは、ゆらり、と体重を移動させると、強く屋根を蹴り地面に降り立った。

 そして、二人を追いかけようと暗黒空間に潜り始めたヴァニラ・アイスに。
 二度も自分の邪魔をした、彼に向って。

「おい、ヴァニラ・アイス…」

 声を、かけた。


◆◆◆


「はぁー、はぁー…」

 壁に手をつき、フーゴは大きく呼吸を繰り返す。
 足のダメージは強く残っており、走るたびに痛む。
 だが、立ち止っているわけにはいかない。こうしている間にも、マッシモ・ヴォルペとヴァニラ・アイスはフーゴとイギーを探しているのだ。加えて、フーゴの息は上がっているのに対し、追いかけるヴォルペの呼吸に乱れはない。
 彼はダメージも全てそのスタンドで強制的に治してしまうので、両者の機動力は開くばかりだ。
 次に追いつかれたら、その時が最後となるだろう。
「ワン!」
 イギーが吠え、フーゴが手をついている壁に向かって低く唸る。
 なんだ、と思う間もなく。

 ドゴオッ!!

 その壁が、吹っ飛ぶように破壊される。
「う、うおおおおおッ!!」
 壊された壁の破片が、散弾銃のようにフーゴの体に迫る。
 慌ててスタンドで防ぐが、全ては打ち落とせない。どすどすどす、と重い衝撃が体を貫く。
 フーゴの体は吹っ飛ばされ、通りの真ん中に転がった。
 なんとか顔を上げたフーゴの視線の先に、マッシモ・ヴォルペがいた。
「う、うう…」
 フーゴは立ち上がれず、手で体を支えながらずるずると後ずさる。そして、イギーの方をちらっと見た。
 イギーはマッシモ・ヴォルペに向かって戦闘態勢を取る。しかし、すぐにぎょっとして目を見開いた。
 ヴォルペの後方に、ヴァニラ・アイスのスタンド、〈クリーム〉がその姿を現していた。ヴァニラ・アイスはそのスタンドの口の中に入り込み、フーゴ達の方を見ていた。
 イギーは血を流すフーゴとヴァニラ・アイスを交互に見て、結局フーゴを見捨ててさっさと走り出してしまった。
 ヴァニラ・アイスは、その逃げた犬の方を追いかける。砂によって自身の移動先を知らせる、厄介な犬の方を。

 残ったフーゴは、ガタガタ震えながら、ゆっくりと近づいてくるマッシモ・ヴォルペを見た。

309 :代理:2014/06/26(木) 00:04:06.69 ID:Tjqumged.net
791 :獣の咆哮 ◆q87COxM1gc:2014/06/25(水) 23:04:58 ID:yhRZKQnM

「ち、ちがうんだ…。全て、ジョルノに命令されたことなんだ…ッ!」
 それは、いかにも哀れな姿だった。策も何もなく、ただただ生にしがみつく、みっともない男の叫びだった。
 ヴォルペはその声を無視し、距離を詰めていく。そして、フーゴのスタンドの射程範囲ぎりぎりの所で、足を止めた。
「や、やめてくれ…こないでくれ…」
 そうやって、ひたすら命乞いをする相手に。
 ヴォルペは、怒りも憐みの感情も浮かべなかった。ただ、湖面にひろがる波紋のように、静かに口を開く。

「…考えなかったのか。

 お前たちが手を組んだように、俺達も手を組んだと」

 ぴくり、とフーゴの表情に変化が現れる。
「次の作戦は何だ?あの犬はおとりだろう?砂でできた人形か何かだ。
 そうやって分断させた所を二人で叩く。なるほど、良い考えだ。
 俺も、同じことを考えた…」
 びりり、と肌が焼けつきそうな殺気が辺りに充満する。
「マッシモ…!!」
 フーゴはもう、哀れっぽい顔をしていない。ダメージが残っているのか膝立ちのままで、それでもヴォルペを強く睨みつけ、スタンドを出す。
 その拳のカプセルが、一つ減っていた。
 フーゴのことだ、おそらくまた何かの罠に使ったのだろう。だが、そのスタンドの射程範囲内にヴォルペは入らない。
 焦るように、フーゴは拳を握る。

 そんな彼のそばに、ヴァニラ・アイスのスタンド、〈クリーム〉が迫っていた。

 砂塵は降り注ぎ続けているが、フーゴは目の前の相手に集中していて気付かない。
 イギーも、イギーのスタンドも、姿を現さない。今さら出てきたところで、砂を集める時間も余裕もない。

 その様子を見て、ヴォルペは笑った。狂気の混じった、甲高い笑い声だった。
「お前を殺せないのは残念だが!!代わりにジョルノもナランチャもトリッシュも俺が殺してやる!!お前がやったのと同じように、お前の大事なものを全て壊してやる!!」

 フーゴの瞳に、漆黒の炎が燃え上がる。

「マッシモォォォォォォォォォッ!!」



「―――ああ、その顔が見たかったんだ」



  ガ  オ  ンッ!!

310 :代理:2014/06/26(木) 00:05:25.97 ID:Tjqumged.net
792 :獣の咆哮 ◆q87COxM1gc:2014/06/25(水) 23:06:15 ID:XQ6N4WmI




 一陣の風が吹いたのち。

 何もない空間から、一人の男が姿を現す。
 ヴァニラ・アイス。DIOの腹心の部下だ。

 早くDIOの元へと戻らなければならないのに、消さなければならない敵が増え、彼は声をかけてきたマッシモ・ヴォルペと手を組んだ。

 彼は犬を追いかけた振りをし、すぐに引き返して、マッシモ・ヴォルペと対峙していたフーゴを背後から襲ったのだ。
 簡単な作業だった。そこに、卑怯だの、汚い手だのといった感情は、一切ない。
 そして暗黒空間から出て、始末したフーゴを目で確認した時。
 彼は、驚愕で目を見開いた。

 消えていたのは、マッシモ・ヴォルペの下半身の方だった。

「バカな…!!」
 その動揺から回復する前に、ビチャ、と何かが彼の頬に跳んだ。
 その液体は赤く、粘ついていた。
 なんだ、と思う間もなく、その液体が跳ねた場所を中心に肌が崩れていく。水泡ができ、それがすぐに裂け、激痛がヴァニラ・アイスを襲う。
 それは紛れもなく、パープル・ヘイズのウイルスに感染したのと同じ症状だった。
(バカな!!奴のスタンドは射程距離外のはずッ!!)
 視線を巡らせた先には、砂でできたボールがあった。それは割れていて、中は空洞で、その中から赤いものがこぼれ出ていた。

(まさか――感染した誰かの肉体の一部を、密閉した砂の中に詰めて――)

 彼がまともに思考できたのはそこまでだった。
 激痛と、体が崩れさるという恐怖に、彼はスタンドを発動させ、無暗やたらにそこら中を駆け巡り始めた。
 ウイルスに侵されたせいで、崩れていく体とともにその球体もどんどん小さくなっていく。だが、そんなことに構っている余裕はなかった。
 そこにあるのは、忠誠心などではなく、ただDIOの役に立てないまま死ぬという、恐怖だけであった。

 ヴァニラ・アイスはミスを犯した。
 もし彼がいつものように、容赦なく無慈悲に、暗黒空間に全てを飲み込んでいれば、こんなことにはならなかっただろう。
 だが、彼は考えてしまった。
 DIO様に褒められたい、と。
 だから初めは、タルカスとイギーを『取るに足りない』と、見逃した。
 だからマッシモ・ヴォルペと手を組み、『手っ取り早く』敵を葬る道を選んだ。
 それこそが、破滅への道だと知らず。


『DIO様アアアアアアアアアアアアアアアア!!』


 暗黒空間の中で、誰一人聞くことのない世界の中で、叫び声をあげながら。
 ヴァニラ・アイスは、自身が今までそうやってきた相手と同じように、何も残さず消えていった。





──────────── ──── ── ─

311 :代理:2014/06/26(木) 00:06:39.99 ID:Tjqumged.net
793 :獣の咆哮 ◆q87COxM1gc:2014/06/25(水) 23:07:08 ID:yhRZKQnM
 ………時は、少しだけ遡る。



「マッシモォォォォォォォォォッ!!」



「―――ああ、その顔が見たかったんだ」



(今だッ!)

 フーゴとマッシモ・ヴォルペの様子を窺っていたイギーは、タイミングを見計らって、彼らの場所を地面ごと一気に移動させた。
 ちょうど、フーゴがいた場所にマッシモ・ヴォルペが来るように。
 そう。
 フーゴとマッシモ・ヴォルペが立っていた場所には、すでにイギーの用意した砂が敷き詰められていたのだ。
 マッシモ・ヴォルペの下半身が消えるのを確認したイギーは、隠れていた砂の中から飛び出し、ヴァニラ・アイスに向け砂のボールを投げる。それは途中で破裂し、中身だけがヴァニラ・アイスにかかった。そして―――。

(へッ!どーだ、喰らいやがれッ!!)

 フーゴのスタンドから飛び出したカプセルは、そのままであれば射程外に出ると消えてしまう。
 カプセルを割ってウイルスを出しても、日に当たれば消えてしまうし、そのうち共食いを始めるだろう。
 なら、どうするか。
 答えは簡単だ。
 タルカスの死体を使えばいい。
 ヴァニラ・アイスがどうでもいいと、取るに足りないと、そう思って放っておいた男を使えばいい。
 ウイルスに侵された死体の一部を砂のボールに詰め、外に漏れないようにして敵にぶつける。
 原理は簡単だ。だが、絶大な効果があった。
「フン」
 考えたのは全てフーゴだ。だが、動いたのはほとんどイギーだった。
 タルカスを運んだのも、地面を動かしたのも。
「………」
 タルカスは。
 使った死体が、別の誰かのものだったら―――例えば、スミレのものだったら―――きっと怒り狂ったに違いない。
 だが。それが、自分の体だったなら。
『おお、よくやったッ!イヌ公よッ!!』
 きっとそう言って、笑っただろう。そして、あの大きな手で、イギーの体を撫でただろう。

(ま、たとえ文句を言われよーと、オレには関係ねェからな。聞きゃしねーぜ、おっさん)

 そう思って、イギーがヴァニラ・アイスに視線を戻した時。
 彼の姿は、すでにどこにもなかった。死体もなかった。
 ヴァニラ・アイスは、最後の力を振り絞って、スタンドを発動させていた。
(な、なんだとォ!?)
 慌てて、止ませていた砂を舞い上がらせる。
 全てを飲み込む球体は不規則に動き回りながら、フーゴのいる方に近づいていた。
「ワンッ!」
 警告を発し、イギーはフーゴの姿を視界に収める。


 そこで彼は、再び驚愕に包まれた。



◆◆◆

312 :代理:2014/06/26(木) 00:07:08.36 ID:Tjqumged.net
794 :獣の咆哮 ◆q87COxM1gc:2014/06/25(水) 23:12:45 ID:yhRZKQnM

(上手くいった、か―――?)

 身を起こしたフーゴの視界に入ったのは、仰向けに倒れているマッシモ・ヴォルペの姿だった。
 手はだらりと垂れ下がり、目は閉じている。その下半身はヴァニラ・アイスの攻撃によって消え去り、この世のどこにも存在していなかった。
 死んでいる、そう思って、フーゴが油断した時だった。

 ヴォルペの目が、ばかっと開いた。

「なッ!?パープル・ヘイ…ッ!!」
 マッシモ・ヴォルペは腕だけで自身の体を支え、フーゴに飛びかかった。そして、現れたパープル・ヘイズの拳に、自分から当たりにいった。
「し、しま、」
 気付いたときには、もう遅い。
 ウイルスに感染したマッシモ・ヴォルペが、そのままがしぃっ、とフーゴの腕をつかんだ。
 下半身を失くした人間とは思えないほどの力で、ぎりぎりぎりぎり、とフーゴの腕にしがみつく。
「う、うおお…ッ」
 フーゴの右腕がウイルスに感染し、破壊されていく。
 とっさのことで威力を調節できなかったため、ウイルスが全身を回るまでには時間がある。だが、共食いを始めるには弱すぎる。
 相討ちする気か、と思いヴォルペを見たフーゴは、ぎょっとした。

 感染し、破壊された皮膚が治癒し、また破壊され―――そんなことを繰り返している。

(ま、まさか―――感染することを予想し、すでに手を打っていたというのか!?)
 フーゴとヴォルペの目が合う。ヴォルペの瞳は真っ暗で、光というものがなかった。そこには未来も希望もなかった。
 マッシモ・ヴォルペの体は、いつかはウイルスに負け、崩壊するだろう。
 だが、それまでフーゴの体は持たない。フーゴが死んだあと、ヴォルペはウイルスをまき散らしながらジョルノやナランチャを探し回るに違いない。
 そのために無関係の人間が死のうが、ウイルスがエリア中に広がろうが、ヴォルペに取ってはどうでもいいのだ。

 フーゴを絶望の中で殺す。

 そのためだけに、マッシモ・ヴォルペは動いている。

(ヴォルペを攻撃しても感染したウイルスはどうにもならない。
 スタンド攻撃も、悪戯に感染を広げるだけだ。
 どうする、どうする――――!!)

「ワンッ!!」
 イギーの鋭い声が脳内に響いた。
 覚束ない足取りで声のした方を向くと、ずいぶんと小さくなったヴァニラ・アイスのスタンドが、フーゴ達の所へ近寄ってきていた。ぐるぐると、無秩序に暴れまわるそれに向かって――――





 フーゴは、大きく一歩を踏み出した。





──────────── ──── ── ─

313 :創る名無しに見る名無し:2014/06/26(木) 18:11:32.06 ID:WZvNVm3c.net
しえん

314 :代理:2014/06/26(木) 18:54:51.72 ID:Tjqumged.net
795 :獣の咆哮 ◆q87COxM1gc:2014/06/25(水) 23:13:43 ID:yhRZKQnM

 まず見えたのは、暗闇だった。



 目を開けているのか、閉じているのか。
 それすらも分からない。

 マッシモ・ヴォルペは、暗闇の中に一人で立っていた。

 フーゴはどうなっただろう。
 殺せただろうか。分からない。
 分からない。何も分からない。
 何も――――

「マッシモ…」

 少女の声が聞こえた。
「あ…」
 懐かしい声だった。
「ああ…」
 もう二度と聞くことは叶わないと思っていた声だった。
「アンジェリカ…」
 暗闇の先に、アンジェリカがいた。コカキがいた。ビットリオがいた。
 彼らは笑っていた。笑って、ヴォルペが来るのを待っていた。
 今の今まで、忘れていた。アンジェリカの名を。顔を。声を。コカキを。ビットリオを。
 そうだ、彼らがいれば何もいらなかった。
 彼らが、何より大事だった。
 なぜ、そんな大切なことを忘れていたのだろう?



「待ってたわ。マッシモ。ほら、笑って?せっかく、みんなが揃ったんだから―――」
「…ああ、そうだな…」



 ウイルスに侵されながら。そのおぞましい苦痛に曝されながら。
 マッシモ・ヴォルペは、笑って彼らの元へ旅立っていった。




──────────── ──── ── ─

315 :代理:2014/06/26(木) 18:56:10.28 ID:Tjqumged.net
796 :獣の咆哮 ◆q87COxM1gc:2014/06/25(水) 23:14:51 ID:yhRZKQnM

 空が、見えていた。

 どこまでも抜けるような、青い空だ。
 落ちてきてしまいそうなくらい、近い。
 その空に手を伸ばそうとして、気付いた。

 右腕がない。

「ぐッ、ううう…!!」
 途端に激痛に襲われ、フーゴは身を捩りながら呻いた。
 ぎりぎりと歯を食いしばり、地面に爪を立てる。
 傷口に手をやると、そこはなぜかざらざらとした感触がした。
 見れば、傷口を砂が覆っていた。それが血を止め、フーゴの命をぎりぎりの所でこの世にとどめていた。
 顔を横に向けると、ドロドロに溶けた塊が転がっていた。
 マッシモ・ヴォルペは、今度こそ死んでいた。わずかに残っていた顔の半分はウイルスによってぐずぐずに溶け、原型も残らないほどの肉塊になっていた。
「……終わった…」
 フーゴは呟き、目を閉じた。
 そこには、歓喜も喝采もなかった。
 怒りも悲しみもなかった。
 ただ、やり遂げたという安堵だけがあった。
 フーゴは下を向いて、そこでようやく自分の体全てを視界に収める。
 ヴァニラ・アイスの『クリーム』は、ウイルスとマッシモ・ヴォルペを削り取るついでに、フーゴの右腕と脇腹と、左足の肉も抉っていた。

(ああ―――、これは、死ぬな…)

 それはどう考えても、覆せないことだった。
 こんな場所でこんな大怪我を負って、生きていられるわけがない。
 だが、それでもフーゴの心に焦りも悲哀もなかった。
 ようやく。
 ブチャラティやアバッキオに、追いつけた気がする。
 一歩を、踏み出せた気がするのだ。

(そう、よくやった…。ぼくは、やったんだ…。
 強敵を二人とも葬った。
 もう一度同じことをしろと言われても、絶対にできない。
 もう、いいだろう?休んだって、いいだろう…?)

 しかし、そう思っているのに、なぜか体の方は言うことを聞いてくれない。
 勝手に手が前に出て、どこかに行こうとしている。
 どこに行こうとしているのか。それは、考えるまでもなくフーゴの中にあった。

(ブチャラティが、二度も命を懸けて守ったトリッシュ。彼女を、守らなくてはならない。
 勇気と覚悟がなくて、死なせてしまったナランチャ。今度は、決して死なせはしない。
 自分に光を与えてくれた、ジョルノ。彼と共に、歩んでいきたい。
 ミスタは、運のいい男だ。きっとどこかで生き延びているだろう。

 ぼくは―――彼らに、会いたい)

「う、うう…」
 手を伸ばせば、その先に彼らがいる気がした。
 けれどもそれは幻影で、左手が掴めたのは砂だけで。
 フーゴは立ち上がろうと、腕に力を入れてもがく。

 だが、とうとうそれにも限界が来て、大きく体が傾いた。


──────────── ──── ── ─

316 :代理:2014/06/26(木) 18:56:45.71 ID:Tjqumged.net
797 :獣の咆哮 ◆q87COxM1gc:2014/06/25(水) 23:16:16 ID:yhRZKQnM

 こいつはもうだめだ、とイギーは思った。
 右腕は肩から先がなく、左足も大きく抉れている。イギーが砂で傷口を固めているものの、戦うことはおろか、立ち上がることすらできはしない。
 フーゴ自身も、それを分かっているはずだ。
 だが、なぜかフーゴは歩みを止めない。
 この場で静かに傷を癒そうだとか、仲間が通りかかるのを待とうだとか、そんなことは欠片も考えていないようだ。
 動かないはずの足を動かし、残った腕で立ち上がろうとしている。

「ナ……、ト…ッシュ、ジョ…ルノ…」

 うわごとのように呟かれた名の中の一人を、イギーは知っていた。
 ジョルノ・ジョバァーナ。
 つい先ほどまで行動を共にしていた相手だ。サン・ジョルジョ・マジョーレ教会で別れたきり、会っていない。
 今、生きているのかも分からない。
 がくり、とフーゴの体が大きく傾ぐ。
 イギーは、さっとフーゴの体を支えた。砂をフーゴの元に集め、ゆっくりと持ち上げる。まともに動けない彼に代わり、イギーの操る砂がフーゴの足となる。

「…おまえ…?」

 フン、とイギーは鼻を鳴らした。
 フーゴがもう役に立たないのは明らかだった。イギーがフーゴと一緒にいる理由はもうない。
 だが。
 フーゴを見捨てて行く理由もまた、なかった。


(別に、テメーのためとかじゃあねェからな。ただ、一応共闘した相手だ。ちょっとくらい、手伝ってやるぜ…)




 二匹の獣が荒野をゆく。
 その先に道は見えず、どこに辿り着くのかも分からない。
 だが、歩みを止めることなく彼らは進む。
 その先にある、わずかな光を目指して。

317 :代理:2014/06/26(木) 18:57:11.21 ID:Tjqumged.net
798 :獣の咆哮 ◆q87COxM1gc:2014/06/25(水) 23:17:05 ID:yhRZKQnM

【マッシモ・ヴォルペ  死亡】
【ヴァニラ・アイス  死亡】

【残り 37人】


【D-3 街中 /  一日目 夕方】

【どう猛な野獣タッグ】

【イギー】
[時間軸]:JC23巻 ダービー戦前
[スタンド]:『ザ・フール』
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:ここから脱出する。
1.とりあえず、サン・ジョルジョ・マジョーレ教会に向かう。
2.花京院に違和感。
3.煙突(ジョルノ)が気に喰わない
4.穴だらけ(フーゴ)と行動

【パンナコッタ・フーゴ】
[スタンド]:『パープル・ヘイズ・ディストーション』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』終了時点
[状態]:右腕消失。脇腹・左足負傷。(砂で止血中)
[装備]:DIOの投げたナイフ1本
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、DIOの投げたナイフ×5、
[思考・状況]
基本行動方針:"ジョジョ"の夢と未来を受け継ぐ。
1.仲間に会いたい。
2.ムーロロは許せない。
3.ひとまず犬(イギー)とともに行動
4.教会に戻りジョナサンと合流する
5.アバッキオ!?こんなはやく死ぬとは予想外だ。

【備考】
※サン・ジョルジョ・マジョーレ教会から南東方向にイギーVSヴァニラ、フーゴVSヴォルペの戦闘跡があります。

799 : ◆q87COxM1gc:2014/06/25(水) 23:23:05 ID:yhRZKQnM
以上で投下終了です。
ご指摘、矛盾などがありましたら、よろしくお願いします。


≫789から↑まで、どなたか代理投下をよろしくお願い致します。

318 : ◆q87COxM1gc :2014/06/26(木) 21:49:50.05 ID:5gpzSgmG.net
代理投下してくださった方、支援してくださった方、本当にありがとうございます。

ヴァニラ・アイスとマッシモ・ヴォルペの二人は、タダでは死なないと思い、最期に大きく動かせました。
おかげでヴォルペの死にざまは凄まじく、フーゴは痛手を負いましたが。

時刻が夕方になり、他の参加者の動向も気になるところですが、この作品ではほとんど触れないようにしました。
ムーロロも登場していますが、彼と行動をともにしている二人については後の書き手さんにお任せします。

彼らの向かうサン・ジョルジョ・マジョーレ教会で、ジョジョチームがどう動くのか、楽しみです。

ここまでありがとうございました。

319 :創る名無しに見る名無し:2014/06/26(木) 22:04:55.83 ID:jfzjrSGe.net
投下&代理投下乙です
いやー原作再現対決でどっちが勝つのかハラハラしながら読んでた、ぶっちゃけフーゴこれ死ぬんじゃないかと思ってた
ヴォルペの死因は恥パと同じになったけど笑って逝った分まだ救われたかな…
イギーが最初から最後まで「らしい」カッコよさで良かった、タルカスの死体を使った戦略とか最後のフーゴに手を貸すところとかすごく好き。


今後果たして無事に教会にたどり着けるのか、この先どうなっていくのか楽しみです。

320 :創る名無しに見る名無し:2014/06/30(月) 20:07:58.81 ID:XqNLV8Zo.net
すでにリタイアしたタルカスとともにヴァニラを討つ!
燃える展開ですな
続きが気になる

321 :創る名無しに見る名無し:2014/07/14(月) 11:25:38.59 ID:CMNFF0co.net
3日前にこのロワを知って、寝る間も惜しんで読み続けてやっと追いついた
wikiで一気読みしたから進行について分かってないけど、書き手のみなさん頑張ってください!
タルカスの無念が報われて、思わす感動で泣いちゃったぜ

322 :創る名無しに見る名無し:2014/07/15(火) 00:56:44.07 ID:kBUecOzn.net
月報です
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
171話(+5) 37/150 (-4) 24.7 (-2.6)

323 :創る名無しに見る名無し:2014/07/27(日) 15:09:18.15 ID:9Q2MYI+o.net
捕手

324 : ◆yxYaCUyrzc :2014/08/02(土) 23:00:09.41 ID:XyC7xBF/.net
本投下開始いたします

325 :無粋 その1 ◆yxYaCUyrzc :2014/08/02(土) 23:02:06.37 ID:XyC7xBF/.net
ん……?珍しいね、君らの方から『あんたの話を聞きたい』と俺に言ってくるのは。
よしよし。せっかくだから良い話を持って来よう、座ってちょっと待っ――

え?何もう聞きたいところ決まってるの?
前置きもいらない?
さっさと聞かせろ?

……なんだかなあ。君らも分かってるようで何も分かってない。
まあ、そういうリクエストなら仕方ない。始めようか――


***


DIOを探して、文字通り路頭に迷っていたセッコがこちらを発見してきたことは幸運だった、としか言いようがない。
先程のチョコラータ、ホル・ホース殺害の件を見るに直接『やあ、コンニチワ』と接触して刺激を与えるようなリスクは避けたかったのだから。
チラチラと視界に入るか入らないかのところを何往復もするのは骨が折れたが……

「ッ!なんだテメェ!俺の事ジビカしようとしてたなッ!」
……ジビカ?……耳鼻科か?……ああ、ビコウ(尾行)って言いたかったんだな、と理解するのは目の前に座っているガキの方が早かった。どうでもいいことだが。
この一言をどれだけ待ったか。しかしそんな愚痴を誰にこぼしても仕方ないのでとりあえず返事をする。

「ス、スマネェ!あんたの事を探してたんダヨ!気を悪くしないでクレッ」
この答えはウソ。俺は、自分以上にこのセッコが頭の切れる人間などではないと思っている。正直言って小バカにしている。

「ハァ?なんで俺がお前に探されなきゃあならねーんだ!敵かッ!?」
「おっ落ち着ケッテ!俺はDIO様からあんたを、セッコという男を探すようにと仕事をもらったんダ!」
これもウソ。俺にとって情報以上に大切なものなど何もない。情報のためならクソ野郎相手に腰を低くしたって全然心など痛まないし、だいたいDIOに『様』をつけるほど敬意など感じたことはないのだ。
……と、言い過ぎた。仕事を頼まれたこと自体は本当だし、自分の本質を見抜かれたという点では『この人にゃあ敵わない』と思っている。

326 :無粋 その2 ◆yxYaCUyrzc :2014/08/02(土) 23:04:23.56 ID:XyC7xBF/.net
「DIOが!?ホントかそれッ?今DIOはどこにいるんだ?俺怒られないかなァ〜〜」
カードをつまみ上げながらセッコが顔を歪める。そう、今こいつはDIOに怒られないことだけを優先に動いている。
となれば次の台詞も決まってくる。

「落ち着けよセッコ。DIOはお前の事怒ってないし、どうも『取り込み中』みたいなんだ。とにかく歩こうゼ」
徐々に口調もタメ口に近づける。立場はどちらが上かをハッキリとさせなきゃあならない。俺が『下』ではないがな。

「取り込み中、ってどういう事だよォ」

――歩きながらセッコに事情をかいつまんで説明する。
とは言えコイツの頭でどのくらい理解できるかも分からないし、だからと言って『ホントは内緒なんだけどよぉ』と重要なワードを漏らす気もない。
とりあえず、
『DIOは古い知り合いと会って昔の話をしてる』
『だから今お前が会うことはできないし、そっちの方がむしろ怒られる』
『お前がなかなか帰ってこないことは怒ってないけど、代わりにお前が見たことややったことを教えてやれよ(俺の能力で知ってはいるが)』
程度のことを説明してやった。

そして――

「とりあえず“俺”と合流しないか?俺ってのは本体の事ダケド……」
「あ、ああその方がDIOにも会える気がするッ!」
「もちろん俺もDIO様の事情を酌んで今は少し離れてるんだがな――お前はそのまま『東』に歩き続けてればいい。
 大体の方向は俺が誘導してやるよ、カード離してくれ」
「おうっ、頼んだぜ!」


***


『亀』をデイパックの中に仕舞い込んでいる以上、俺にはその中でどんな会話が行われているかわからない。
無論、聞く気もない。俺には俺のやるべきことがある。会話の内容なんかはその後にゆっくりと聞けばいいだけの話だ。

歩き続けることにも苦労はなかった。『疲れたから歩くの代わってくれよー』という事など考えすらしなかった。
これは目の前を先導する何枚かのカードが貢献しているという事はよく理解している。
敵に――というよりもすべての参加者に遭遇することなく、且つ、最短最速で疲労が少ないルートを選出しているのだろう。

327 :無粋 その3 ◆yxYaCUyrzc :2014/08/02(土) 23:06:24.68 ID:XyC7xBF/.net
「なァ――」
呼び掛けられる。
しかし無視。今に始まった事じゃあない。

「まァだダンマリかよ。イイコト教えてやっから聞けよォ」
声の主は右手の刀、アヌビス神。
何だかんだで長い付き合いになってしまったが、だからと言って仲良しこよしという間柄でもない。
ゆえに無視。


「俺ってばホラ、スタンドだろ?だからスタンド同士の会話にも参加できるわけなんだけどよォ」
この話題も何度か出てきた。動物と話せるだとかそういう話題が。

「それで今トランプ野郎の声をチョロッと聞いちゃったんだけどよォ」
「……」
「今あいつら――」
「……黙ってろ、放り捨てて行ってもいいんだ、俺はな。」

無視してても話し続けるのでピシャリと話を遮る。
そして捨てるという単語に異常なまでに反応を示す刀。

「ヒッ、そ、そそそれは勘弁してくれよ!ほら俺ってDIO様が気に入ってくれたスタンド刀でもあるんだぜ!?それを捨てたら――」
「捨てたらなんだ、俺は俺だ。DIOから仕事をもらいはしたが、お前を持って歩き続けろとは一言も言われなかったぞ」
「げ、ま、マジかよ!でも俺がいなければさっきの二人だって切れなかったんだしソレをおま――
 まっ、待って振りかぶらないで!ごめんなさいイィ〜!」


……ふう、とため息をついて右手を下げる。
確かに先の棺桶の中にいた二人。あれを殺す際に役立ったとはいえ、こんなやかましいなら最初に虹村形兆あたりに押し付けていくんだった。

ともあれ、こうなってしまったのもは仕方ない。もう一度だけ、二度と喋るなと念を押し、俺は再びカードの後をついて歩き出す。


***


ドアノブに手が触れた際のわずかな金属音だけでプロシュートは意識を覚醒させた。身体を起こして来訪者を待つ。
ゆっくりと開いた扉からおずおずと千帆が顔をのぞかせる。
「あの――プロシュートさん?」

328 :無粋 その4 ◆yxYaCUyrzc :2014/08/02(土) 23:08:46.31 ID:XyC7xBF/.net
「何かあったか?」
本来なら『アラ起こしちゃった?』とか『今起きたところだよ』とかいうやり取りがあるのだろう。
しかしその“本来”とはあくまで平凡な日常の中を指す言葉だ。ここには不適切。挨拶もそこそこ――どころか、全くなしにいきなり本題に入るプロシュート。
一方で千帆は一応とは言っても挨拶だけはしておく。

「え、ええ。あ――あの、おはようございます。
 それで……今私たちの家を誰かが覗いてたみたいで。リビングの窓から」
ただ起こされただけだと思っていたピクリとプロシュートが眉を持ち上げる。もちろんそれを見逃す千帆ではない。
「ごっごめんなさい!本当は捕まえたりとかその、そういう事まで気が回ればよかったんですけど私まったく気が付かなくて――」
「いや、覗いてた『みたい』と気付いただけで十分だ。捕まえるのは別の話になる。
 それで、その覗いてた……みたいな、そいつはどんな奴だった?大きさ。形。色。数……」
謝罪を遮るように自分の考えを述べ、そのまま千帆に疑問をぶつけた。

「えっ、えと……直接その覗いてたものそれ自体は見えなかったんです。ごめんなさい……
 でもそんなに大きくなかった感じもします。人が頭だけちょっとだして覗いていたような――その、なんだか小人のような……
 数も多くは無くて、むしろ一人だけみたいに感じました」

しどろもどろしながら千帆が答えを返す。
その中の『小人』という単語にプロシュートはピクリと反応した――今度は表情に現さなかったが。
その反応が、思い当たる相手を想像したのか、それともかつてのチームメイトを連想させたのか、そんな事は千帆にはわからないし、反応したことにさえ気付いていなかったもしれない。

――そう、プロシュートは千帆に対して『スタンド』の説明を一切行っていない。
もちろん、先ほどの鼠との戦闘やらジョニィ・ジョースターとの会話やらで、『どうも自分の知らない超常現象があるのだろう』くらいには千帆も察している。
だがそれ以上の事は千帆には必要ではない。そう判断されたのだ。ゆえにプロシュートは何も語らず、千帆も何も聞かなかった。

数瞬でそんな思考に整理をつけるプロシュート。千帆に言葉を挟ませる前に口を開いた。

「なら――そうだな。出発するか。
 迎え撃つにせよ逃亡するにせよ、見つかった場所にいつまでも引きこもってる訳にゃあいかないからな」
「はっ、はい!」

返事がすぐに帰ってきたことにプロシュートは少しだけ安堵する。ここでグズるような奴ではないとは前々から思っていたが、改めて確信できるに越した事はない。
カツカツと歩みを進め――もちろんこの時点で“ガス”を消しながら――千帆の脇をすり抜けてリビングへ出る。


カサッ


「あっあのすみません私いろいろ考え事しててメモとかその――」
「構わねえさ、考察なり何なりしろっつったのは俺だからな。
 ……先に出てる。ちゃっちゃと準備して追ってきな」
「ハッハイッ!」

329 :創る名無しに見る名無し:2014/08/02(土) 23:08:58.37 ID:0H7KNN6u.net
支援

330 :無粋 その5 ◆yxYaCUyrzc :2014/08/02(土) 23:13:00.90 ID:XyC7xBF/.net
床を埋め尽くさんばかりの紙束には特に関心を示さなかった。
小説家志望だと言っていたし、その観察眼と素人ながらの鋭さは十分知っている。

散らかった紙を踏みつけないように気を遣いながらサッと玄関先まで出るプロシュート。
後ろではガサガサと紙をかき集め、時折トントンとそれらを整理する音が聞こえる。

ここで振り返って紙の回収を手伝うのはなんだか味気ない。
『マンモーナ』にはさっさと保護者離れしてもらいたいものだし、振り返ってしまえば自分自身がその辺のナンパ道路や仲よしクラブで屯してる連中と同様になってしまう気がしたのだ。

次第に音が『カサカサ』から『ゴソゴソ』になってきた。カバンに物を詰め込んでいるのだろう。
ちらりと腕時計に目をやる。千帆がノックしてきてから5、いや8分は経過しているか。
これが自分一人なら用意もそこそこにさっさと家を飛び出していただろうに。
少し甘ちゃんがうつっちまったのは間違いないようだな、などと小さくため息交じりの笑いをこぼす。


千帆の用意が終わったのだろう。物音が静かになっていき、やがて完全な無音となった。
これでやっと出発か。地図は頭に叩き込んではいるがどちらに向かうのが『正解』なのか――


……まだ千帆が歩み寄ってこない。今までの感じなら早歩きで追いついてきていたものを。
それともなんだ?化粧直しにトイレでも行ったか?こういう時に女は不便なものだなどと思いながら頭を軽く掻く。


――からん


「――って、お前いつまで待たせるんだ。誰かにのぞかれたのはお前だろうッ
 しかも今の音、明らかにペンが落ちる音だったなァ?この期に及んで小説でも……」


少々時を含んだ声で呼びながら振り返る。


千帆がいない。

331 :創る名無しに見る名無し:2014/08/02(土) 23:13:30.61 ID:0H7KNN6u.net
支援

332 :無粋 その6 ◆yxYaCUyrzc :2014/08/02(土) 23:14:34.28 ID:XyC7xBF/.net
「――おい」


確かにペンは落ちていた。
しかしその隣には口の空いたままのカバン。
そして歩いてきた廊下の先に――

そう、さっき自分が千帆を置いて歩いてきたその廊下の突き当たりにはッ!


酸で溶かしたようにグズグズに穴の開いた壁と、何者かがそこに着水でもしたかのような波紋が広がっているではないかッ!


「て」

ギャングに入って――特に暗殺を生業とするようになってからは感情を大きく表現することが少なくなったと自覚している。
しかし、今このときは自分の頭の中にある一本の弦がぷっちんと切れた音がハッキリと聞こえてきた。
それはこの追跡者に対してか、それにまんまと捕まった千帆に対してか、それらに気付かなかった己自身に対してか――


「テメェエェェッッ!」


駆けだすプロシュート。敵が開けていった穴に突っ込み、勢いよく家を飛び出した。


***


「おッおッ、女だ!」
興奮するのはプロシュートの怒りを買った男、セッコ。
とはいえ、何も気絶した女子高生にナニをするとかいうつもりで興奮しているのではない。
……いや、その方がある意味では健全なのかもしれない。

「女の死体を弄るのは初めてだし!こ、コーイッテンでもっとイイモノつくれねぇかなぁ!?
 そしたらきっとDIOも褒めてくれるはず!」
そう。セッコは自分のオブジェのグレードアップのためだけに双葉千帆を拉致したのである。

333 :創る名無しに見る名無し:2014/08/02(土) 23:15:05.94 ID:0H7KNN6u.net
支援

334 :無粋 その7 ◆yxYaCUyrzc :2014/08/02(土) 23:16:15.14 ID:XyC7xBF/.net
「オイオイ、だったら今殺すなよ。DIOは血も欲しがってるんだろ?鮮度だよ鮮度。
 たしかにこの女に関しては何も言われてないけど、お前が勝手に判断して殺しちまって後でDIOに怒られるのもイヤだろう?」
「おっおっ、オウよ!だから殺してねぇって!」
「丁重に扱っておけよォ〜」
セッコの衝動を抑えるのは数枚のトランプカード。知らないうちに枚数が増えたことすらセッコは気に留めない。
それほどまでに興奮していた。

しかしこの状況。それはそれでリスクがある。

セッコのスタンド『オアシス』はそもそも『地中を泳ぐことが出来る能力』ではない。
能力の本質は物質の“泥化”にある。地面を泥水のようにするところまでが能力で、その中を泳ぐのはあくまでも本体、という解釈だ。

つまり――今この場で『オアシス』を発動してしまうとせっかく手に持っているこの“材料”までも泥と化してしまうのだ。ついでにトランプも。
だから地上を歩くか走るかして移動せざるを得なくなる。
セッコの身体能力は決して低いものではないが、それでも興奮状態で、かつ数十キロの重りを持ったような現状では大したスピードは望めない。


ゆえに――トランプの次の台詞は自然とこういうものになる。


「オイ、あのヤロー、この女と一緒にいたヤツだぜ!追ってきた!」

振り返るセッコ。その視線の先には鬼、どころか阿修羅のごとき面相で立ちはだかる男が一人。

「テメェ……人の妹分になにしてくれてんだ」


***

335 :創る名無しに見る名無し:2014/08/02(土) 23:16:53.07 ID:0H7KNN6u.net
支援

336 :創る名無しに見る名無し:2014/08/02(土) 23:19:50.95 ID:iR2ehxCc.net
支援

337 :代理:2014/08/02(土) 23:21:27.81 ID:iR2ehxCc.net
801 :無粋 その8 ◆yxYaCUyrzc:2014/08/02(土) 23:19:53 ID:M9PaPkdA
「オ、オイ!アイツだ!あの黒いスーツ!アレがオマエの相棒を殺したヤツ、プロシュートだ!」
「でもなんか別の奴とニラミあってるぜ?どうすんだよ!?」

トランプががなり立てる。
言われなくてもわかってる。

俺の目の前に移ってる光景。

手前には土気色したウェットスーツの人物。
背中しか見えないが体格から言って男だろう。そして小脇に抱えているのは生きているのか死んでいるのかもわからない少女。

その背中越しに見える――つまりその男と対峙しているのが俺が探し求めていた相手、プロシュートという訳だ。

つまり俺は完全に最後の登場人物という訳なのだが……だが。そんなことは重要な問題ではない。

俺にとって唯一にして最大の問題。

それはつまり“このウェットスーツ野郎がプロシュートと戦闘を始めてしまう事”だ。
復讐は自分の手で果たさなければならない。そうでなければ意味がない。


握りこんだアヌビス神が思わず痛がるほどに右手に力が入る。肩にかけていたデイパックを地面にたたき落とす。
二人の男はまだにらみ合い。その静寂を破るように腹の奥底から声を絞り出した。


「おまえ……人の獲物になにしてくれてんだ」


***

338 :創る名無しに見る名無し:2014/08/02(土) 23:21:43.94 ID:WQ3VR5wD.net
支援

339 :創る名無しに見る名無し:2014/08/02(土) 23:22:08.36 ID:0H7KNN6u.net
支援

340 :代理:2014/08/02(土) 23:22:12.55 ID:iR2ehxCc.net
802 :無粋 その9 ◆yxYaCUyrzc:2014/08/02(土) 23:20:38 ID:M9PaPkdA
目の前の男の視線は、そのボルサリーノ帽に隠れて読み取ることはできなかった。
時折見せる口元も碌に動かない。

テーブルを挟んで向かい側。戦うでもなく、必要以上の情報交換をするわけでもなく、かといって雑談するわけでもなく。
早々に手持無沙汰になった俺は(表情を隠すという意味もあったが)テーブルに置いてあった庭の本を読んでいた。


時折、一言二言、ムーロロが電話の中継局のような会話のやり取りをするが、その意味は今すぐに理解する必要はない。耳に入っていればよかった。


落ち着いた部屋の中とは言え、それはあくまで『亀』である。
つまり亀が動けば部屋も動くし、亀が転べば部屋の中もてんやわんやになる。
今いる場所が電車の中や車の中ならまだ大した影響はないのだろうが……如何せん運搬しているのが徒歩の人間、そして時折走ったり止まったり。
――となればその揺れも部屋に響いてくる。
乗り物酔いをするタイプではないし、最初のうちこそ戸惑ったが十分もすれば慣れてきて、揺れの具合から外の状況を推測するくらいのことはできるようになった。


そして……

一瞬の浮遊感と、直後に尻に受けた衝撃、どさりという音にはさすがに舌を噛みそうになった。
もちろん『どうした!なにがあった!』だのわめき散らして混乱するようなそぶりは見せなかったし、この状態が『デイパックが落とされた』という事もすぐに理解できる。

視線を上げれば、同様に状況を観察したムーロロの目線とかち合った。
お互いに小さく頷いて、亀から出てしまわない様に注意を払いつつ、天井を覗き込む。


「おまえ……人の獲物になにしてくれてんだ」
そういう声が届いてきた。
声の主はもちろんスクアーロ。

つまり――これはどういうことなのか。再びソファに腰を落として状況を推測する。ムーロロも同様だった。

と言っても、この状況と今の台詞で容易に想像はつく。推測するほど難しいことは何一つない。

『人の獲物』とはスクアーロが復讐を果たしたいと言っているプロシュートとかいう男の事である。
『なにしてくれてんだ』とはつまり、別の何者かが『人の獲物』を自分の許可なく弄っているという事。
そしてスクアーロがいきなり攻撃を仕掛けていないという事は、未だ直接的な戦闘が始まる前の――名乗り口上の最中、と言ったところか。
天井の宝石越しに小さく見えたのは何やらダイバースーツのような格好の人物。これが『別の何者か』に当たるという訳だ。

ふう、と状況の整理が終わって息をつく、そんな俺を見てムーロロがニヤリと笑ったような気がした。
『おうおうお坊ちゃん、推理は終わったかい?』なんて言いそうな癪に障る表情だった。
視線をそらしソファに体重を預けて息をつく。

341 :代理:2014/08/02(土) 23:23:53.30 ID:iR2ehxCc.net
803 :無粋 その10 ◆yxYaCUyrzc:2014/08/02(土) 23:21:07 ID:M9PaPkdA
……

…………なんだ?


何か胸にしこりが残るような、そんな気がしてならない。


『庭』の本を手に取りムーロロとの間に壁を一枚作る。


本の存在によって、情報は活きる。


手元に『本』を呼び出した。
一番新しいページ、たった今見たものが記載されている場所だ。

【あたかもエレベーターが落ちたかのような落下の感覚を味わって地面に落ちてしまった。
 慌てるそぶりを見せないように気を付けながらムーロロと一緒に天井の宝石を覗き込んだ。
 そこに見えたのは怒りの表情を浮かべるスクアーロ、空気全体が震えているようだ。

 視線の先にはつぎはぎのダイバースーツ。

 そして、細い脚】

ここだ。ここに違和感があったのだ。
よく『本』を読み返す。

【細い脚が二本、一人分、どうやら人質か何かとしてダイバースーツがとらえたようである。
 履いているのは紺色のハイソックスと飾り気のないローファー
 この靴に俺は見覚えがあった】

――ドクン

【靴のサイズ、お父さんといっしょだ。
 彼女はそう言った。
 つまらんことに、気づくやつだ】

――ドクン

【俺はそう返した。
 その時に玄関先に並べて置いたあの靴だ。
 あの靴の持ち主だ】

――ドクン

【人質になっているのは、双葉千帆だ】

342 :代理:2014/08/02(土) 23:25:22.90 ID:iR2ehxCc.net
過去を読み返しながらさらに推測が進み、それらも律儀に文字となって『本』に刻まれ続ける。
鼓動が速くなるのを抑えきれなかった。
ムーロロのことなど気にせず亀から飛び出してやりたい気持ちに襲われた。

だが、そんな真似を今する訳にはいかない。

しかし、必ずやらねばならない……

口に出すことなく、心の中だけで小さく呟く。その言葉は、『本』の一番新しいページの一行目に刻まれた。

「貴様ら……人の『妹』に何をしてくれているんだい?」


***

804 :無粋 その11 ◆yxYaCUyrzc:2014/08/02(土) 23:22:50 ID:M9PaPkdA
カンノーロ・ムーロロはこの状況を一番理解している人物だと言って差し支えないだろう。


それもそのはず、仕掛け人は彼自身なのだから。

セッコをプロシュートのもとに向かわせる。
スクアーロも同様。ただし“他の参加者”に遭遇しないように――かつスクアーロ自身に悟られない程度に――迂回するルートを取らせる。
あとは勝手に各々が遭遇しあい、戦闘をし、命を散らせていく、という訳だ。

プロシュートが死ねばそれはそれでよし、スクアーロが死んでもそれはそれでよし、セッコが死んでもそれはそれでよし。
いずれにしても三人のうち一人は確実に死に、一人は確実に戦闘不能の状況に陥るだろう。

しかし――ムーロロは何も『これで参加者どもが減って万々歳だぜグフフ』と下種な笑みを浮かべるためにこうした訳ではない。
そういう感情は持ち合わせていない、というとムーロロがロボットか何かかのように聞こえてしまうので語弊があるが。

ムーロロは『DIOの指示を聞き』『スクアーロの目的達成を手助けし』『うろついてるセッコを回収し』という自分の任務と、
そしていつ何時も忘れることがない本能『己自身が生き残ること』を天秤にかけた。
たったそれだけの話なのである。

343 :代理:2014/08/02(土) 23:25:57.89 ID:iR2ehxCc.net
ムーロロは自覚している。
“そうさ、俺はDIOに指摘されたとおりの恥知らずだ”と。
しかし一方で“これが俺の人生哲学、モンクあっか!”とも感じている。
DIOのカリスマに魅せられ、そして対峙しても自分の能力で敵わないと感じていても自分の生き方を捻じ曲げることはできなかったのだ。


しかし。


しかしムーロロにも盲点があった。
目の前で庭の本を読みふける高校生。
この男が……いや、この男“までも”この三者の対峙に大きくかかわる存在であることを知らなかった。


にらみ合う三人。
見上げる二人。
気を失っている一人。

六人の思いが小さな小さな螺旋を描いて回り始める。
この螺旋がどれほどの渦になるのか、天をも巻き込む竜巻となるのか。

それはまだ誰も知ることはない。


***

805 :無粋 その12・状態表 ◆yxYaCUyrzc:2014/08/02(土) 23:23:22 ID:M9PaPkdA
で……そこからなんだけどさ――

え?
もういいの?
ってアレ?もう行っちゃうの?お茶飲んでけば?

……あーあ。聞くだけ聞いて行っちゃったよ。全く皆愛想のないっていうか……

これじゃあ今回の話に出てきた奴らと同じじゃあないか。

だがわかってるんだろう?
そういう“無粋な連中”に降りかかる結末がどんなものなのかはね――

344 :創る名無しに見る名無し:2014/08/02(土) 23:26:35.78 ID:0H7KNN6u.net
支援

345 :代理:2014/08/02(土) 23:27:32.41 ID:iR2ehxCc.net
【D-6 路上/1日目 午後】

【プロシュート】
[スタンド]:『グレイトフル・デッド』
[時間軸]:ネアポリス駅に張り込んでいた時
[状態]:ダメージ・疲労はほぼ全回復、激怒
[装備]:ベレッタM92(15/15、予備弾薬 30/60)
[道具]:基本支給品(水×3)、双眼鏡、応急処置セット、簡易治療器具
[思考・状況]
基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還
0.目の前の男(セッコ)をブチのめす。『妹分』を救出する
  (双葉千帆がついて来るのはかまわないが助ける気はない。と思っていたのに、という自分にやや戸惑い)
1.その奥の男(スクアーロ)は何者か不明、保留
2.この世界について、少しでも情報が欲しい
3.残された暗殺チームの誇りを持ってターゲットは絶対に殺害する

【双葉千帆】
[スタンド]:なし
[時間軸]:大神照彦を包丁で刺す直前
[状態]:気絶
[装備]:万年筆、スミスアンドウエスンM19・357マグナム(6/6)、予備弾薬(18/24)
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:ノンフィクションではなく、小説を書く
0.気絶中、思考・行動不能
1.プロシュートと共に行動
2.川尻しのぶに会い、早人の最期を伝える
3.琢馬兄さんに会いたい。けれど、もしも会えたときどうすればいいのかわからない
4.露伴の分まで、小説が書きたい
【備考】
千帆のことを観察していた相手の正体は『ウォッチタワー』でした。千帆だけでなくプロシュートの事もある程度観察していたようです。
千帆の持っていた道具(基本支給品、露伴の手紙、救急用医療品、多量のメモ用紙、小説の原案メモ)がD−7民家に放置されています。

806 :無粋 状態表 ◆yxYaCUyrzc:2014/08/02(土) 23:24:26 ID:M9PaPkdA
【セッコ】
[スタンド]:『オアシス』
[時間軸]:ローマでジョルノたちと戦う前
[状態]:健康、血まみれ、興奮状態(大)
[装備]:カメラ(大破して使えない)、双葉千帆をわきに抱えている
[道具]:死体写真(シュガー、エンポリオ、重ちー、ポコ)
[思考・状況]
基本行動方針:DIOと共に行動する
1.なんだコイツ、追ってきたのか?
2.とりあえずDIOを探し、一度合流する。怒っていないらしくて安心
3.人間をたくさん喰いたい。何かを創ってみたい。とにかく色々試したい。新しく女という材料も手に入れたことだし
2.吉良吉影をブッ殺す
【備考】
『食人』、『死骸によるオプジェの制作』という行為を覚え、喜びを感じました。

346 :代理:2014/08/02(土) 23:27:58.70 ID:iR2ehxCc.net
【スクアーロ】
[スタンド]:『クラッシュ』
[時間軸]:ブチャラティチーム襲撃前
[状態]:健康、激怒
[装備]:アヌビス神
[道具]:基本支給品一式、ココ・ジャンボ(中にムーロロと琢馬)、『オール・アロング・ウォッチタワー』 のハートのJ
[思考・状況]
基本行動方針:プロシュートをぶっ殺した、と言い切れるまで戦う
0.目の前の相手をブチのめす。プロシュート、次はお前だ
1.とりあえずDIOの手下として行動する
2.ムーロロが妙な気を起こした場合、始末する
3.復讐を果たしたあと、DIOに従い続けるかは未定


【亀の中】

【蓮見琢馬】
[スタンド]:『記憶を本に記録するスタンド能力』
[時間軸]:千帆の書いた小説を図書館で読んでいた途中
[状態]:健康、激怒
[装備]:自動拳銃、『庭』の本
[道具]:基本支給品×2(食料1、水ボトル半分消費)、双葉家の包丁、承太郎のタバコ(17/20)&ライター、SPWの杖、不明支給品2〜3(リサリサ1/照彦1or2:確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:他人に頼ることなく生き残る。千帆に会って、『決着』をつける
0.探していた双葉千帆をついに発見。しかし、この状況、どういう事なんだい?え?
1.千帆に対する感情は複雑だが、誰かに殺されることは望まない
2.ムーロロに従い、待機。隙があれば始末する?スクアーロの存在も厄介
3.ムーロロの黒幕というDIOを警戒
【備考】
参戦時期の関係上、琢馬のスタンドには未だ名前がありません。
琢馬はホール内で岸辺露伴、トニオ・トラサルディー、虹村形兆、ウィルソン・フィリップスの顔を確認しました。
また、その他の名前を知らない周囲の人物の顔も全て記憶しているため、出会ったら思い出すと思われます。
また杜王町に滞在したことがある者や著名人ならば、直接接触したことが無くとも琢馬が知っている可能性はあります。
ミスタ、ミキタカから彼らの仲間の情報を聞き出しました。
拳銃はポコロコに支給された「紙化された拳銃」です。ミスタの手を経て、琢馬が所持しています。

----
代理投下終了です

347 :代理:2014/08/02(土) 23:32:43.02 ID:0H7KNN6u.net
807 : 無粋 状態表 ◆yxYaCUyrzc 2014/08/02(土) 23:25:20 ID:M9PaPkdA
【カンノーロ・ムーロロ】
[スタンド]:『オール・アロング・ウォッチタワー』(手元には半分のみ)
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』開始以前、第5部終了以降
[状態]:健康
[装備]:トランプセット
[道具]:基本支給品、ココ・ジャンボ、無数の紙、図画工作セット、川尻家のコーヒーメーカーセット、地下地図、不明支給品(5〜15)
[思考・状況]
基本行動方針:DIOに従い、自分が有利になるよう動く
0.自分の思いがいていた現状に満足。でも心は動かない
1.琢馬を監視しつつ、DIOと手下たちのネットワークを管理する
2.スタンドを用いた情報収集を続ける
3.コイツそんなに庭の本気に入ったのかよー(棒読み)
【備考】
現在、亀の中に残っているカードはスペード、クラブのみの計26枚です。
会場内の探索とDIOの手下たちへの連絡員はハートとダイヤのみで行っています。
それゆえに探索能力はこれまでの半分程に落ちています。
※ムーロロに課されたDIOの命令は、蓮見琢馬の監視と、DIOと手下たちの連絡員を行うことです。
同時にスクアーロとお互いを見張り合っています。



***
以上で投下完了です。久しぶりの執筆はなかなか手こずりましたw

空気と化しているキャラの消化と各種フラグ立て。戦闘シーンはどうなることやら。
だってみんな俺の話聞かないで帰っちゃうんだもーん(棒)

私としてはかなり珍しく、仮投下せずにいきなり本投下で誤字脱字や話の矛盾があるかもしれません。
(特に時系列。誰も関わらずにこんな時間経過してていいのでしょうか・・・)
何かありましたらご指摘ください。それでは。

以上、このスレの>>801からこのレスまで本スレに転載をお願いいたしますorz
----
失礼しました
これで本当に代理投下終了です

348 :創る名無しに見る名無し:2014/08/03(日) 00:21:52.21 ID:1Jm2hVsV.net
投下乙です
一人の女を巡ってギャング達の抗争が起きそう・・・!
千帆ちゃんも(全く悪くないけど)罪な人ですな

349 :創る名無しに見る名無し:2014/08/03(日) 21:46:05.47 ID:cCREICUs.net
投下乙!
ついに邂逅するスクアーロとプロシュート、千帆と琢馬、そこに混じる不穏因子のムーロロとセッコ、誰がどうなってもおかしくない!…ムーロロ以外は
時間経過については特に気にすることはないと思います。まあちょいメメタァなこと言っちゃうと他のパートの時間がグイグイ進んじゃってるんでw

それにしても外伝小説組の引力パネェ(シーラEとビットリオ、フーゴとヴォルペ、今回の千帆と琢馬)

350 :創る名無しに見る名無し:2014/08/04(月) 21:11:56.79 ID:fFy2Jwhh.net
投下乙!
たしかに引力ぱねぇなw

351 :無粋 ◆yxYaCUyrzc :2014/08/08(金) 12:50:05.70 ID:iqrGH1Ep.net
代理投下、そして感想ありがとうございます。
ただ今wiki収録完了しました。
若干の表現の修正と、ムーロロの『獣の咆哮』でのフーゴとの決別についての思考の描写を少々追加しました。
(内容やストーリーに変更はありません)
収録箇所で不足等ありましたらご連絡ください。

そして(自分で言いうのもなんですが)戦闘フラグ立てましたのでこれでまたジョジョロワが活性化すると良いですね!

352 :創る名無しに見る名無し:2014/08/19(火) 21:38:30.12 ID:sND+w/cT.net
保守。というか過疎すぎやしないか?完結できるのか不安になってくる

353 :創る名無しに見る名無し:2014/08/24(日) 05:29:04.09 ID:yOel5lw8.net
ジョジョの奇妙な冒険が好きな喪ジョ9
http://kanae.2ch.net/test/read.cgi/wmotenai/1401120098/
ジョジョの奇妙な同人33
http://kanae.2ch.net/test/read.cgi/doujin/1405342058/
ジョジョの奇妙な化粧板
http://wc2014.2ch.net/test/read.cgi/female/1234613003/

354 :創る名無しに見る名無し:2014/08/24(日) 11:27:29.17 ID:YPGJjZCW.net
新作投下待ってます!

355 :創る名無しに見る名無し:2014/09/08(月) 03:09:55.68 ID:0aSQHTT6.net
初めてきたけど、セッコかわいいなあ
まさかDIO様に従っているとは

DIO様が生きてくれてるこの幸せ
…何だかヴァニラが上の方でやられている気がする…辛い

基本行動方針というのも面白いですね

356 :創る名無しに見る名無し:2014/09/10(水) 12:54:28.65 ID:sxWaL5Ds.net
ようこそ、ジョジョロワの世界へ

357 :創る名無しに見る名無し:2014/09/15(月) 07:59:40.97 ID:p8Qp13YZ.net
月報です
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
173話(+1) 37/150 (-0) 24.7 (-0.0)

358 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 00:35:51.27 ID:E5j3fgBd.net
DIO、ディエゴ・ブランドー、ルーシー・スティール、プロシュート、双葉千帆、カンノーロ・ムーロロ、蓮見琢馬、スクアーロ、セッコ
LvAk1Ki9I.氏のご許可を頂きましたので、先に投下させていただきます。

359 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 00:40:43.87 ID:E5j3fgBd.net
「そんな身体じゃ辛いだろう。こいつに乗った方が楽だと思うがな」
「結構よ……あなたの気遣いなんて不快なだけだわ」
「言うねえ。だがそうやってチンタラ歩いてたんじゃいつ背後の敵に追いつかれるかわかったもんじゃないぜ。
 行く先を邪魔しようって訳じゃないんだ。『聖女』様の護衛くらいさせてくれないか」

言うなりディエゴはルーシーを抱え上げ恐竜に乗せる。実際のところルーシーにもほとんど体力は残っていなかったようで、
特に抵抗もなく乗せられると恐竜はなるたけ揺らさないように、しかし確実に速度を速め進んでゆく。
ルーシーの懐胎を確認後、二人は既に2時間近く地下をさまよい続けていた。途中目を覚ましたルーシーが恐竜から降りたため
距離的にはさほど進んだわけではないが、目的地がわかっているかの様に進むルーシーを見て、ディエゴは思考を巡らせる。

(そうと決めつけるにはまだ早いのかもしれんが……スティーブン・スティールとその背後にいる大統領は
 遺体を使って何かを企んでいる。恐らく頭部と眼球以外の部位も支給品あるいは何らかの形で会場内のどこかにあるだろう)

SBRレースは遺体を集めるために開催されたものだった。しかしあれ程大がかりかつ多数の犠牲者を出してまで集めた遺体を
今回わざわざ殺し合いの舞台を用意した上でばら撒いた理由については現時点で全く見当がつかない。

(優勝者への褒美がどんな願いでも叶う、というのも遺体のパワーを手に入れることとイコールなら、もしかしたらあながちウソとも
 言えんのかもな。まあ優勝したとたん背後からズドン! ってのが関の山だろうが)

一方ルーシーもただ闇雲に進んでいる訳ではなかった。内なる遺体からの『声』に導かれ、従っている。

(フィラデルフィアの時と同じ……。いいえ、思えばいつもこうだったわ。夫を助けようといくら努力しても結局は捕えられ、
 利用されるばかり。無力な私はただ流れに身を任せ、誰かに助けられてばかりだった……
 でも! 必ずチャンスは巡ってくるはず。ディエゴ・ブランドーを出し抜くチャンスは!)

マンハッタン・トリニティ教会で生首を手にディエゴを待ち受けると決めた時の気持ちを再び思いだす。
幸せになる為に、その為なら人の道を外れた所業もやり遂げてみせると誓ったあの時を。
ディエゴに捕らわれ、遺体を取り込んで……色々あったせいで気弱になりかけていたのかもしれない。
自身を奮い立たせるとディエゴに指示を送る。疲労は大きいが精神的にはすっかり気丈さを取り戻した。

「次の分かれ道を左へ、その後まっすぐ進んで頂戴」
「仰せのままに」

途中戦闘があったとおぼしき崩落した個所もあったが、脇道やがれきの隙間を縫いながらひたすら進みつづけ、
やがて突き当りからどこかの建物の地下室に辿り着いた。
どうやら教会の納骨堂のようだ。位置的にもサン・ジョルジョ・マジョーレ教会だろう。
無機物と死者だけのはずの空間で、冷ややかな空気に混じる生の証――――血の臭いがここでも戦闘があったことを示していた。
ぽつりぽつりと灯るロウソクの明かりを頼りに足音を響かせながら慎重に進む。人の気配は感じられないが……


「妊婦に恐竜とは、また変わった組み合わせだな。まったく、人と人とが引き合う引力とは面白いものだ」

360 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 00:42:47.01 ID:E5j3fgBd.net
***


いつから居たのか――――気付かなかった。
ルーシーを乗せた恐竜を後ろに下がらせると柱の影から声の主を伺う。

「そんなに警戒しなくてもいいさ……さしあたって君たちに危害を加えるつもりはない。お互い自己紹介とでもいこうじゃあないか」

10メートルほど先に背の高い男の姿が見えた。顔はこの薄明りでは見えないが、シルエットに見覚えはない。声にも聞き覚えはない。
だが、妙に穏やかで甘く、安らぎさえ感じる声だ。常人ならばそのまま油断して近づいてしまったかもしれないだろう。
だが、そんな甘さはこのディエゴには通じない。
社会的弱者だった母を、幼い自分を利用し踏みにじるようなクズ共を踏み越え社会の頂点に立ってやると決めた時から
一体どれ程の悪人と渡り合ってきたことだろう。優しさの裏には打算が、甘さの奥底にはどす黒い嘘と欲望がある。
自分を上から見下ろす者に手を伸ばしては引き裂き、奪ってきたディエゴは殆ど本能で男の本性を見抜いていた。

(こいつは! 俺を"見下ろし"  俺から"奪おうとしている"!!)

「スケアリー・モンスター! やれっ!恐竜どもよ!!」





「まぁそうカッカするなって、私は君のことを知りたいと思っているんだ。
 実は今友人も部下もみな出払っててね……話し相手になってくれると嬉しいんだが」

声はディエゴの耳元から聞こえてきた。

(な……何がおこった? コイツは確かに俺の前にいたはず……)

「もちろん、君も一緒に」
「あ……ああ……うう……」

デイエゴが振り返るとさらに後方、ルーシーを腕に収めた男の全身がようやく露わになる。
どこか自分に似た顔を持つこの男に……ディエゴは既視感や親しみよりも先に、嫌悪を感じた。


***

361 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 00:46:20.66 ID:E5j3fgBd.net
千帆の五感の内最初に戻ったのは聴覚だった。
音の羅列が勝手に耳に入ってくる。

(こ、コーイッテンでもっとイイモノつくれねぇかなぁ!? )
(だったら今殺すなよ。DIOは血も欲しがってるんだろ?)
(テメェ……人の妹分になにしてくれてんだ)

次に戻ったのは触覚。どうやら何者かの腕に抱えられているらしい。
しきりに髪や頬をいじくってくる刺激のおかげでぼんやりとだが徐々に思考も戻ってきた。
たしか荷物を整理しおえてカバンの口を閉じようとしたら急に"床下から伸びてきた腕"に捕えられ、そのまま自分ごと
壁に向かって突進して――――そこまで考えて、自分が気を失っていたことに気付いた。

残りの感覚も全て目覚め、そろそろと薄目を開けるとプロシュートの顔が視界に入ってきた。最初に見た時と同じような、
目つきだけで人を殺せそうな形相をしている。一瞬だけこちらに視線を向けて意識が戻っていることを確認すると、
今度は遠くを睨み付ける。
そしてセッコの足元で何やら手足の生えた薄っぺらい物――――トランプが素早く動くのも今度こそ視界にとらえた。

「プロシュート……見つけたぜ、ティッツアの仇!」

さらり、と刃物を抜く音と共に真後ろから聞こえたのはやはり聞き覚えのない声だが、
とにかくプロシュートを殺そうとしている事はハッキリしている。

「あ? いきなり出てきやがってなんだコイツら? あとはDIOんトコ帰るだけだッつーのに訳わかんね〜なあ〜〜
 あ〜そういや甘いのも全然食ってね〜な。イイのがつくれたらDIOは褒めてくれるよな〜もしかしたらご褒美くれっかな?
 3個? いや5個とか? ひっひ!」

何の脈絡もない興奮気味な独り言にどう反応したらいいのかわからなかったが、とにかくこの全身スーツの男はプロシュートととも
刀の男とも面識がないらしい。一通り状況の把握はできたが、身動きの取れない千帆にはそれ以上どうする事もできない。
頼みの銃はポケットにしまってあるが、この状態では取り出せそうにもない。せめてスーツ男を刺激しないように
気絶したふりを続けるが、文字通りお荷物になってしまった自分が情けなくて、無意識に千帆の顔が歪んでゆく。

(生き残るために戦うって言ったのに……このまま何もできずに殺されて終わるの?)

諦めさえよぎった千帆の頭の中に唐突に、声が響いた。



『作品の主人公はこの状況でいったいどんな行動が可能だろうか?』

362 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 00:53:02.82 ID:E5j3fgBd.net
***



『一人は味方で二人はそれぞれ別の敵。主人公は敵の内一人に捕えられてしまい、自分を中心にそれぞれにらみ合った
 三すくみの状態だ。更にそれぞれ武器や超能力が使えるが、主人公だけは何の力もない。この状況で、主人公にできることは?』

・味方が助けてくれるのを信じてじっと動かない。
・必死に抵抗を試みる。
・恐怖で何もできず、ただ震えている。あるいはパニックを起こす。
・突如何らかの能力に目覚め、敵を倒してしまう。


咄嗟に考えついたパターンとその結果を頭の中で何通りもシュミレーションしてみるがどうにも上手くいかない。
もともと戦闘を主体としたアクション小説は千帆の分野ではないのだ。
千帆が書いているものはもっと人と人が対話し、触れ合いながら心の距離を測っていくような恋愛小説だったり
夢あふれる児童向けファンタジーなのだから。

(発想を変えなきゃ。私の小説の主人公はそもそも戦ったりしないもの。主人公に、私にできるのは……)

思考のスピードを上げる。
自分を捕えた全身スーツの男。どうやらこの男の自分に対する扱いは一般的に男が女にするものではないような気がする。
むしろ虫やカエルを手にした男の子が、どうやってコイツで遊んでやろうかとワクワクしながら撫でまわす感覚が一番近いと
言えるだろう。そんな、原始的かつ純真な残酷さを千帆はセッコに対して見い出した。
しかし、逆に考えればその子供のような性格は上手くすれば利用できるのでは?

(そういえば私の事を何かを作るための材料だって言ってた。イイのができたらDIOにご褒美を貰えるかもって……)

作品。ご褒美。甘いもの。DIOに従う残酷で純真な男。情報を余さず考察することでついに千帆は一つの仮説に辿り着く。
そして賭けに出る事にした。できるだけ刺激しないように、けれど対等以上になるように。優しい笑顔で語りかける。

「あの、甘いの……好きなんですよね?」
「うおっ起きた。ってか何でオレが甘いの好きだって知ってんだよ?」

興奮状態のセッコは案の定自分で言った事だと気付かない。

「私、持ってます。チョコレートとかじゃないけど……角砂糖ならたくさんありました。糖分は貴重なので近くに隠したんですけど」
「角砂糖!?」

角砂糖と聞いて目に喜色が浮かぶ。どうやら当たりを引いたようだ。

「みみみ3つ? 3つよりたくさんか? 投げてくれんのか?」
「たくさんですよ。それにそこにいるスーツの人は私より上手く投げられます」
「うへーっ! お、オレ5個でも口でキャッチできるんだぜーっ!!」
「それは凄い特技ですね。よかったら作品と一緒にその技をDIOさんにも見せてあげましょうよ。あ、でも先にこの状況を
 何とかしないといけないですよね。後ろの武器を持った人が私達を殺そうとしているから……もし倒してくれるなら、
 後で角砂糖を持ってきてあげます」
「お前DIOのことも知ってんのかよ! 作品もだけどオレの特技もDIOなら褒めてくれるよなぁ〜〜絶対ィイ!
 ようし、じゃあアイツすぐぶっ殺してくるからここで待ってろよお前……え〜と? 」
「双葉千帆です。あなたは?」
「セッコ」
「じゃあここは任せましたよセッコさん」
「りょーウかーいチホっ!!」

千帆を解放すると勢いをつけて地中に飛び込むセッコ。
こうして三つ巴からセッコ対スクアーロに構図が変わった。否、千帆が変えたのだ。

363 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 00:57:19.09 ID:E5j3fgBd.net
現時点でセッコはDIOを『自分に色々教えてくれて褒めてくれる、一番大好きなヤツ』と認識している。
ただしそれはイコール『DIO以外の者には全く興味が無い』という訳ではない。程度こそあれ自分にとって心地よい物を
提供してくれる人物にはそれなりに好意的になる。すなわち自分に目的を与え、評価し、褒めてくれる人物だ。

千帆はまずご褒美という単語からDIOという人物とセッコの関係性を考察した。恐らくDIOはセッコに命令ないし目的を与え、
セッコはそれを素直に遂行することで褒美を受け取り喜ぶ。一見不可解で異常な関係のようだが、無邪気な猛獣とその飼い主。
あるいは調教師とでも置き換えれば問題ない。
そこでまず角砂糖という具体的な褒美を鼻先に用意してセッコの興味を引き、乗ってきたところでDIOの名を出した。
信頼している人物の名をいきなり出された(と思っている)セッコは千帆をDIOの知り合い、あるいはDIOに同調している者とでも
位置づけたのだろう。千帆自身にはカリスマや圧倒的な力こそ無いが、少なくとも名前を聞いておこうという位にはセッコに
興味を持たれたのだ。ここまでくればもう千帆の言葉を疑うことはない。
自分たちの邪魔をする敵がいるのだと口にするだけでセッコは『自主的に』敵を排除しに行ってくれる。
全くの偶然だが、セッコがこの舞台に飛ばされてからまだ一度も角砂糖を口にしていない事も後押ししていた。
こうして運をも味方につけ、一時的にではあるが千帆はセッコを掌握することに成功したのだ。



***



琢馬は内心苛立っていた。

「はいDIO様、何でしょうか……はい、はい……」

戦いは既に始まっているらしく、音こそ聞こえてくるが直接状況を確認できないもどかしさに加え、状況を把握できる能力を持つ
ムーロロはまたDIOから通信が入ったらしくこっちには目もくれない。
千帆が殺されるのだけは阻止したいが、いざ戦うとなっても絡め手の通用しない純粋な戦闘向けのスタンドに対抗できる自信は無い。
よしんば助け出せたとしてもその後が問題だ。自分に興味を持っているというDIOから逃げ切れるだろうか。
だがそれでも、千帆だけは……
決断を迫られた琢馬の耳が異変を感じた。ムーロロの声が段々低くなり、歯切れの悪そうな口調に変わってゆく。
通信が終わったら今度は急いで外の様子を探らせている。小さくチッ、っと舌打ちしたのが刻まれたのを確認すると一旦本を仕舞い
何かあったのか、と問いかけた。

364 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 01:02:55.86 ID:E5j3fgBd.net
ムーロロは内心焦っていた。

セッコとスクアーロ、二人に気付かれぬようトランプを引っ込めたところにDIOからの通信だ。
指令を聞き終えてから急いで外を確認すると、状況はムーロロにも意外な方向に展開していた。
何かあったのか、と問われてはじめて自分が舌打ちをしたことに気付き、ばつが悪そうに琢馬に説明する。

「DIOからセッコを探して回収、のち至急帰還するようにとの命令だ。だがどういう訳かスクアーロは復讐相手を放っぽって
 たまたま居合わせたセッコとドンパチやりはじめた。ひどい偶然もあったもんだぜ。さてどうしたもんか……」

半分は嘘だ。DIOからの命令の内容自体は本当だが、セッコとスクアーロを前情報なしに出会わせたのは自分なのだから。
三人の内誰が死んでも問題はなかったが、このままプロシュートに逃げられ誰も死ななかった場合、まずい事になる。
もちろんスクアーロの事だ。
仮に仲裁に成功し二人と合流したとして、ムーロロにここまで誘導されてきた事をスクアーロの前でセッコが口にしたらどうなるか。
自分の仇討ちを邪魔されたと知ったら形ばかりの協力関係も崩れてしまうだろう。タイミングによってはDIOからの信頼にも
響きかねないし、最悪スクアーロに襲われる危険もある。ここで誰かが死ななくては大きな火種を抱えてしまうだろう……

セッコが死ねば口封じができるがDIOの命令を遂行できず不興を買うかもしれない。
プロシュートが死ねばスクアーロは満足する。セッコがしゃべる前に別れても問題ない。
スクアーロが死ねばDIOの命令は遂行できる。プロシュートは放置しても問題ない。さてどうしたもんか……
そんな自分の心中を図ってか、琢馬が一瞬ニヤリと笑ったような気がした。 気がしただけだし、実際には二人とも無表情なのだが。

「ムーロロ、取引をしたい」
「……条件次第だがな」

非常に気に入らない展開ではあるが、ムーロロは琢馬の土俵に上がることにした。

365 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 01:09:53.88 ID:E5j3fgBd.net
***


(やってくれたな……!)

まさか口先の駆け引きだけで敵を味方にしてしまうとは。それもセッコという異常者を相手にこの状況でやってのけた
千帆の胆力にプロシュートは内心舌を巻く。
戦う力が皆無に加えて芯こそあれど根っこは甘ちゃんかつ夢見る少女だと思ってばかりいたのに、蓋を開けてみれば
不意打ちで捕えられてもパニックを起こさず、あまつさえ敵を観察、分析し言葉のみで自分に都合よく動くよう誘導する。
冷静さや思考力、判断力に加えてある種の非情さや冷酷さも無ければできない行動だ。
どうみても平凡な人生しか送ってこなかっただろう少女が一体何故?と思うと同時に、彼女が連れ去られたことに
激高しておきながら助け出す算段が未だ整っていなかった自分を恥じる。これではまるで立場が逆だ。
だが以前危機的状況な事に変わりはない。ひとまず無駄な思考を頭の隅に追いやるとセッコ達から距離を取り、気になっていた件を確認する。

「プロシュートさん! 私……」
「よくやった千帆。このまま急いで撤退したいところだが、ここは慎重にいかなきゃならねぇ。なにせ『五人目』が近くに
 潜んでやがるかもしれねえからな」
「はい。気が付いたら消えてましたけど、あのトランプはセッコさんに私の事を殺すなと指示していました。仲間なのは間違いないと
 思います、私達が逃げたと知ったらすぐ追いかけてくるかも」
「だろうな。セッコ、DIO、トランプのスタンド使いと合わせて最低でも三人以上のチームだ。偵察能力のある奴に目を付けられた以上
 無暗に逃げ回るのは危険だが、とにかく準備はするぞ。俺はバイクを持ってくる。お前も荷物を持ったらここで待ってろ、セッコの
 視界から消えたら怪しまれるからな」

プロシュートに続いて千帆も素早く民家に入ると、コーヒーを入れる際に見つけていた角砂糖の袋を取り出しカバンに詰める。
セッコに嘘は言っていない。もし自分たちを追ってきたらこれを使って宥めるつもりだ。
最後に床に落ちていた万年筆を拾い上げたとき、不遜な漫画家の顔が浮かぶ。
今となっては彼がこの舞台でどう行動し、どのような最期を遂げたのかを知っているのは千帆だけとなってしまった。
何となく身に着けておきたくなって、彼からの手紙もポケットにしまいこむ。


(露伴先生、ありがとうございます……)


「オイ、双葉千帆!」
「えっ?」
「こっちダ、コッチ!」

366 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 07:32:31.64 ID:E5j3fgBd.net
***


ムーロロとの取引が成立し亀の外に出た琢馬はまずスクアーロとセッコの戦いを避け、近くの通りに移動した。
そのまま待機しているとトランプに先導された千帆がやって来る。最後に見たのと同じ格好で、どこもケガはしていないようだ。
最悪の事態が回避されたことに安堵すると同時に、自分がこんなにも千帆に執着していたのかと驚きもした。
千帆も大体同じような心境なのだろう。表情から安堵と戸惑いが感じられる。
第一声は何がいいか、思考が浮かんでは消えてゆくが結局口にしたのは極めて事務的な言葉だけだった。

「俺は向こうで戦っているヤツの仲間と行動を共にしている。ひとまずお前の安全は保障されるよう話を付けたから一緒に来い」
「一緒に……でも、プロシュートさんが」
「悪いがお前だけだ。こっちに火の粉が飛んでくる前に行くぞ」

強引に腕を引っ張ったので千帆のバッグが地面に落ちたが、構わず足を進める。
が、きっかり10歩目を踏んだ時、炸裂音と共に足元が小さく爆ぜた。

「必死こいてナンパ中のところ水を差して悪ぃが、そのまま動くな。質問に答えてもらおうか」

振り向くとバイクにまたがった男が硝煙を上げる銃を構えていた。
距離はおよそ6メートル。『本』の射程にはまるきり足りないが、ミスタの時と同じように付け入る隙があるかもしれない。
とりあえず銃を降ろしてもらうためにも琢馬は先に自分の立場を表明した。

「プロシュートだな、俺は蓮見琢馬。誤解の無いように一応言っておこう、千帆から聞いてるかもしれんが俺たちは兄妹だ。
 今まで妹を保護してくれて感謝する。今後の事だが、あいにく俺の同行者は……この近くにいるんだが、あんたと行動することを
 望んでいない。礼代わりにここは俺がとりなしておくから、このまま――――」

喋りながら念の為隠し持ってきた銃を確認しようと自然を装って右手を動かしかけたところ、プロシュートは無言で二発目の弾丸を
撃ちこんできた。一瞬の冷たさの後に指先に燃え盛る様な痛みが襲ってきて、苦痛のあまり喉から押し出されるような声が漏れる。

「俺は手を動かせとは言っていない、口だけ動かしてりゃいいんだ。 いいか? 質問は二つある。
 『お前はトランプのスタンド使いか?』 『お前の同行者がトランプのスタンド使いなのか?』
 ひとつの質問には一言で答えろ。答えなければ三秒ごとに一発づつ弾丸を撃ち込む。デートに行きたきゃとっとと答えな」
「プロシュートさん!」

367 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 07:35:02.59 ID:E5j3fgBd.net
すみません。続きは今夜投下します。

368 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 20:21:28.96 ID:E5j3fgBd.net
千帆が抗議の声を上げるが、プロシュートが本気だと解っているのだろう、射線にまでは割り込んでこない。
この男はスクアーロと同類だと琢馬は理解した。スタンドがどうのこうのではなく、殺人にも拷問にも一切の躊躇がない人間に
対して琢馬はただの弱者でしかないのだ。小細工も考える隙も与えられない今、琢馬は素直に従うしかないと判断した。

「一つ目の答えはノーだ。二つ目は……イエス」
「なるほど。じゃあ最後の質問だ。千帆、お前はこいつと行くのか?」

琢馬の方を向いたままプロシュートは千帆に問いかける。

「俺は今ここにいる全員を相手にするつもりはない。さっき言った通り撤退させてもらう。俺と行くかこいつと行くか、
 自分の行き先は自分で決めろ」
「…………」

千帆はただ無言で立ち尽くしていた。
数秒の沈黙の後にそうか、と一言だけつぶやくとプロシュートは琢馬の横をすりぬけ、走り去っていった。


***


「千帆」

呼びかけても返事はない。

「早く来い、千帆。あまり待たせるな」
「先ぱ……に、いさん」
「……全部知っているんだな、父親から聞いたのか」

千帆が無言でうなずく。
想定はしていたが、千帆と自分にはほぼ時間差は無かったようだ。自分が図書館に行くまでの間に父親から真実を
聞かされたのだとしたら、丁度辻褄も合う。

「……私……」

血の気の無い顔でこちらを見つめてくる。
何故そんな顔をする。まさか俺がお前を殺すとでも疑っているのか?
いやわかってる。恋人だと思っていた男が実の兄で、父親に復讐するために自分に近づいたのだと知ってしまったのだ。
真実を知った自分にも危害を加えないか警戒するのは当然の反応じゃないか。
それでもお前はここにいる。あの男より俺を選んだのだから。話したいことも山ほどあるだろうが、邪魔が入らないところで
決着を付けるくらいの時間はあるさ。ああわかってる、全ては俺が仕組んだ事だ。だからもう見せるな。
お前の目は―――俺の―――を――――――――


そう、その時琢馬は確かに動揺していた。だから迫ってきたエンジン音を自分でも馬鹿げたことに、迫り来る運命の音だと思ったのだ。
『お前に未来などあるものか』と嘯きながら呪われた血の運命が背後から手を伸ばしてきたのだと。
だから琢馬は振り返る。運命などに追いつかれてたまるものか、自分はこれから未来へと進むのだから!


「っぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」


運命の輪はバイクの車輪だった。プロシュートが猛スピードで突っ込んできたのだ!


「「  千帆!!  」」


琢馬とプロシュート、同時に手が差し出される。
千帆は手を伸ばし――――

369 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 20:23:38.23 ID:E5j3fgBd.net
***


一方、スクアーロとセッコの戦いも続いていた。

地中から首を出したセッコが遠距離から高速で噴き出した泥が矢となってスクアーロを襲う。
大半はアヌビス神の刀で叩き落されてはいるが何本かはスクアーロの体をかすめ、少しづつだがダメージを負わせていく。
だが直接攻撃を仕掛けて決着をつけたくとも、アヌビス神が真っ二つに切り裂こうと待ち構えているため容易には近づけない。
スクアーロも同様だ。自身のスタンド『クラッシュ』を喉元に食い込ませたいところだが、泥は移動手段として認識されない為
当たりを付けた地面をアヌビス神でモグラ叩きの様に切り裂くことしかできない。それでもパターンを繰り返すうちにセッコの動きを
予測して何発か当てることはできた。
この互いに決め手を欠いたままの膠着状態を崩したのも、また千帆だった。

「あ―――っっ!! チホ――――!!!」
「っつ、プロシュートの野郎!!」

バイクの音に気付いて顔を向けると、丁度プロシュートが女と逃げるところだった。
セッコは悲鳴を上げてスクアーロとの戦いを放り出すとすぐさまバイクを追って通りの角を曲がり消えていく。
スクアーロは呆然とその光景を見送るとやがて力の限りアヌビス神を地面に叩きつけた。
最悪だ。せっかく見つけた仇には逃げられ、自分は無駄に傷を負った。
いつの間にかスペードのエースが一枚足元に寄ってきて、ムーロロが声をかけてくる。

「まぁ落ち着けよスクアーロ、確かに奴らは逃げちまったが行き先はわかってるさ。また追えばいい。それよりDIOから
 緊急の指令が入ったんだ。とりあえずこっちに戻ってこいよ」

人の気も知らず何を呑気な事を。だが引き続きこいつのサポートが必要なのも事実。浮かんだ悪態をぐっとこらえると
荷物の方へと戻る。いつの間にかバッグから抜け出していた亀の傍に琢馬が俯いて立っていた。右手から大量に出血している。
あちらにも事情があるようだが、声を掛けてやるような仲でもない。
無視して亀を拾おうとしたスクアーロの目に、甲羅を覆うようにして紙が貼ってあるのが見えた。
『古本を破いたようなページ』の文字の羅列が目に入った瞬間――――

「ゴホッ……が……あ!?」

急に激しい悪寒と頭痛、筋肉痛がスクアーロを襲った。体中を激しい高熱で包まれ意識が朦朧としてくる。
精神力だけで何とか立ち続けようとするも、あまりに急激な体調の変化に体がついて行かず、ついに咳き込みながら膝をつくと
地面に倒れ込んだ。眼前にトランプがやって来る。

「まぁお互い契約はきっちり果たしたからな。哀れ復讐相手に返り討ちにあったとしても、俺のあずかり知らぬところよ」
「千帆があいつと一緒に行動するならお前は今始末しておかなけりゃならない。復讐の為なら無関係な人間も見境なく
 殺せるお前は危険だ」

370 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 20:35:36.03 ID:E5j3fgBd.net
スペードのエースは不運と死の象徴。嵌められたのだと気付いた時には既に手遅れだった。
琢馬がアヌビス神を拾い上げると無造作に背中を一突きする。心臓を貫かれ、間もなくスクアーロは絶命した。





【スクアーロ  死亡】
【残り 36人】


***


「終わったか。こっちも連れ戻してきたぜ」

スクアーロの死亡を確認後、紙を剥がすとムーロロが亀から出てきた。遅れてセッコが騒々しくわめきながらやって来る。

「うおっ、おっ、チ、チホが逃げちまったじゃあねーかクソ!! 角砂糖くれるって言ったのに許せねーぜあの嘘つき女!殺す!
 殺すコロス殺す!!」
「おーいセッコよ、これでも食って一息つかねーか」

ムーロロが琢馬の持つ千帆のバッグを奪うと中から白い塊を取り出しひとつ投げる。
地団太を踏んでそこら中を殴りまわっていたセッコが反射的にぴょんと跳躍し、見事に口でキャッチした。

「あり? これ角砂糖じゃねーかよ!!」
「俺が双葉千帆から預かっといたんだぜ。お前がいつまでもスクアーロを倒せないもんだから先に行くってよ。それでもちゃんと
 角砂糖用意してくれたし良い子じゃねーか。どうせ殺す予定じゃなかったんだし、もう放っといてもいいんじゃねーか?」
「うああ、おっうおっ、おお――ッ!」
「何、もっとか? お前ひょっとして角砂糖くれれば誰でもいいのかよ……」

ひとしきり角砂糖を投げて遊んでやるとセッコは実に大人しくなってくれた。
ムーロロがなだめすかしてくれた効果で、ひとまずセッコの中で千帆は良い奴という事にもなったようだ。もっともあの頭で
きちんと記憶し続けられるかどうかは非常に疑わしいが。

「しかしお前の能力はよくわからんな。『雑誌』の一ページを目に入れただけで行動不能になるとか。どうなってんだ?」
「俺の能力は取引に入っていない。余計な詮索はよせ」
「へいへい。んじゃ改めて一緒に来てもらうぜ。取引不成立とか言うなよ『お兄ちゃん』?」
「言わない。取引は完了した」

こちらに放り投げられたバッグを拾うと、びっしりと書き込まれた紙が数枚こぼれ落ちた。

『ムーロロにとって不要な人物の始末に協力する代わりに、千帆の確保に協力してもらう』
これが二人の間で交わされた取引だった。
ムーロロとスクアーロが共にDIOの命令に従うだけの、ドライな関係だとは最初から分かっていた。
DIOに従う理由も単に生き残る為で忠義心などない。ならば殺せるときに殺すチャンスがあれば乗って来るだろうと琢馬は踏んだ。
琢馬としては誰でも良かったが、やむを得ず千帆との関係を明かしたことで結局ムーロロはスクアーロを指名し、その上
千帆も一緒にDIOの元に連れて行くことを要求してきた。どのみちムーロロの追跡から逃れることは難しかったため、これを了承。
庭の本から破ったページの上から『本』のページを工作セットに入っていたセロテープでくっつけて亀の甲羅に貼り付ける。
後はムーロロがスクアーロを亀まで誘導してくれれば勝手に倒れてくれるという算段だ。
自分の能力の本質を知られる危険を冒しはしたが、まだ『本』自体は見られていないし、『記憶』を武器にしている事もバレてはいない様だ。

371 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 20:42:28.04 ID:E5j3fgBd.net
琢馬は、紙束を読みもせず見つめていた。
小説というよりも走り書きのメモにはところどころ水滴が乾いた皺があり、どんな顔で書いたのか容易に想像がつく。
こんな所でも千帆は書いている。この先も書き続けるに違いない。
それ程に千帆にとって小説を書くという行為は支えであり、書き続ける限りきっとこの困難の中でも前を向いて歩んでいくのだろう。
自分には復讐がそれだ。いや、それ『だった』。
人生と共にあった目標を失った今、会って決着を付けることで何かが変わるかもしれないと思い探し求めた妹は
しかし自分との会話を拒み、自分を置いて去っていった。
あの瞬間感じた安堵と後悔が徐々に琢馬を苛んでゆく。原因は『本』など見なくてもわかる、自分こそが逃げたのだ。

永遠の別れと思ってペンダントをかけてやったあの時、彼女に自分の復讐に生きた人生全てを読ませたいと思った。
記憶や感情を植え付ける前と後ででどう変わるのか、その時はただの想像だったが、
自分の行いとその意味を知ったごく普通の少女は図らずも想像通り、いや想像を超えて変わってしまっていた。
折れそうなほど細い体と愛らしい顔立ちはそのままに、どこまでも深い闇を、いや深淵を抱えてしまった彼女の
冬の夜空の様に暗く澄み切った瞳に見つめられた琢馬は恐怖し、もっと伸ばせたはずの手を止めてしまったのだ。

元の世界での織笠花恵の殺害は復讐の過程でしかなかった。
この世界で老人やエリザベス、スクアーロを殺害し、ミスタやミキタカを襲ったことも自分が生き残るための手段でしかなく、
そこには罪悪感も無ければ達成感もなかった。
だが千帆にしてきた事は、その結果千帆を変えてしまった事は、



――――――――罪だ。


なぜか自宅に貼ってあるポストカードに印刷されていた緑色の草原の情景が脳裏に浮かび、消える。
いつか行きたいと思っていたあの場所が、今の琢馬には決して辿り着くことのできない楽園のように思えた。

372 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 20:49:25.28 ID:E5j3fgBd.net
***


「ここ……スペイン広場、ですよね。階段もあるし。テレビで見たことあります」
「観光地としちゃ定番中の定番だからな。 するとここはB-5、いやC−5か。結構北に来ちまったな」

噴水の脇にバイクを置いて、階段を中央付近まで上がる。普段は観光客で埋め尽くされている空間に今は二人きりだ。
これが二時間映画のカップルならジェラートでも食べるとこだが、あいにくそんな場合ではない。そもそもヘップバーンの時代と違って現在この場所は飲食禁止なのだから。
敵を振り切ってここまで逃げてきたはいいが、トランプのスタンド使いがいる限り再び追ってこないとも限らない。かといって闇雲に
バイクを走らせて燃料と精神力を消耗させるのも得策ではない。丁度襲撃に対応しやすい開けた空間でもあった為、二人は休憩を
取ることにした。プロシュートは警戒を続けながらも踊り場に腰を下ろして一息つく。

「お前の荷物……置いてきちまったな」
「はい。でも大事なものは持ってきましたから……」

千帆は万年筆を握りしめたまま俯いている。そのまま何となく居心地の悪い沈黙が続いた。

なぜ俺の手を取った、とは聞かない。
きっと本人にもわからないだろうし、わざわざ今の千帆の心を乱してやる事もないからだ。
それに――――『なぜ、戻ってきたんですか』と聞かれたくもなかった。理由はプロシュート自身にもわからないし、
深く考えたくもなかったから。

「たぶん、怖かったんです」

ぽつりと千帆の口が動く。

「もしかしたら兄さんが、私の知らない人になってるんじゃないかって。真実を知る以前の私と今の私がまったく
 違ってしまったように……それが怖くて、無意識に考える事から逃げてました」

千帆から聞き出したのは家族を含む知人の名前数名と簡単な関係性くらいだ。
兄だという蓮見琢馬の名を口にした時に苗字の違いから、ありふれている程度に訳ありの関係だとは思っていたが、
やはり何かあったようだ。

「やっと会えたのに、結局何の覚悟もできてなくて、何も話せなくて……プロシュートさんを逃げ場にしちゃいました。
 兄さんは手を―――っ、伸ばしてくれたのに!」
「言ったはずだ。逃げが間違いだっていうのは『間違い』だってな」

悲しみと悔しさを滲ませる千帆にプロシュートもまた静かに口を開く。

「お前の兄貴と過去のお前にどういう事情があったか知らんが、お前も聞いてただろう。
 少なくとも奴の同行者であるトランプ野郎はあのセッコと行動を共にしている。DIOとかいう奴とも繋がっているはずだ。
 もしあのままついて行ったとしてもお前の命がどこまで保証されるかはわからん。そんなつもりじゃなかっただろうが、
 確実に自分の身を守ることを最優先とすればお前がとった行動は間違いじゃねえ」
「……」
「何よりお前には小説を書くって目標があるんだろ」

はっとした千帆と目が合う。

373 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 20:54:56.07 ID:E5j3fgBd.net
「いいか千帆、目先の出来事に囚われて目的を見失うな。
 物事には優先順位をつけろ、何が何でも成し遂げたいことがあるなら尚更だ。どの道切り捨てることのできないお前だしな。
 殺したくない、けど死にたくないなら逃げたって良いんだ。逃げて、また機会を待てばいい」

任務のため、仲間のため、自分のため。優先したものはその時々だったが、プロシュートは時に色々なものを切り捨てる事で今まで生き延びてきた。
だが千帆はそうじゃない。むしろ切り捨てる事をしないからこそ開ける道があるのではないか。
結果論でも、誰も殺すことなく危機を乗り切るという自分にできない事をやってのけた千帆を見て、そう思い始めていた。

「ついでに言っとくと、お前がセッコを味方につけなけりゃ俺一人でさっきの戦闘を切り抜けることは難しかった。
 所詮は周り中から愛されて何不自由なく暮らしてきたお嬢さんだと、お前のことをずいぶん過小評価していた。悪かったな」
「なんかそう褒められると恥ずかしいんですけど……でも、私はプロシュートさんが思ってるほどきれいな人間じゃないですよ」
「そりゃ人間だからな。生きてれば何かしらの罪くらい犯すだろう」
「……ここに連れてこられたのは父を殺そうと決めて包丁を手に取った時でした。私には優しい父でしたが、兄さんにとっては
 自分の人生を根こそぎ狂わせた悪魔だったんです。きっと真実を知った私に殺させるまでが兄さんの復讐だったんでしょうけど、
 何より私自身が父を許せなかった。覆しようのない殺意を持ったんです。未遂でしたけど、精神的には私は殺人者です。
 あと、琢馬兄さん……兄さん、だけど……恋人だったんです。私のすべてを捧げた大事な男性だったんです」


親友に恋した相手をこっそり打ち明ける様に、はにかんだ笑顔で千帆は罪を告白した。


「千帆…………」

衝撃だった。
カトリック・キリスト教の総本山をいただくイタリアに生まれ育ったプロシュートは自身の信仰心はともかく、
それがどれ程の重罪かは十分承知している。
裏社会に生き、神をも恐れぬ所業を散々見てきたからこそ、平和な国に生まれた千帆の罪はたとえば二、三日家出をしただとか
家族や友人とケンカして傷つけただとかいった千帆らしい、ささやかで愛に満ちた罪なんだろうと思ってしまった。そう思いたかったのかもしれない。

しかしそれでもやはりこちらを向いた千帆の瞳は変わらず、いや、より一層輝いている。
殺し合いという舞台の上で自身の運命を弄ばれながら、それでも決然として前を向く。なぜスタンドも持たない無力な少女から
こんなにも美しく凄絶な凄味を感じたのか。なぜ同じように神に背く罪を犯しながら自分と千帆は違うのか。
自然に、ごく自然にプロシュートは心で理解した。
罪を犯し、罪を受け入れ、罪を背負う。その一方で他者の罪すら受け入れ、許し、慈愛を注ぐ。自分を汚し堕としめた男ですら
苦しみながらも受け入れようとする。確かそういう聖女がいたような気がする。

374 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 20:59:10.88 ID:E5j3fgBd.net
恥ずかしいのか早足で階段を駆け下りる千帆に上からプロシュートが呼びかける。

「『覚悟』を決めたぜ」
「?」
「お前はお前の行きたい所へ行け、俺はお前と共に行く。もう隠し事もなしだ。スタンドについても教えてやるし、もちろん
 敵に遭遇したら一緒に戦う。見捨てたりはしねぇ。俺の勘が、お前について行くのが最善だと言ってるからな」

千帆を追い越して階段を降りる。すれ違う千帆の顔は実にぽかんとしたものだったが、すぐにはっきりとした声が降ってきた。

「私、もっと人に会いたいです。このゲームを壊そうと頑張ってる人、殺人を楽しんでる人、とにかく生き残りたい人、
 色んな人と話をして、まとめて、小説にします。ここで起こったことが誰の記憶から消えてしまっても、小説という形で残るように―――
 やっぱり私にはこれしかないですから。
 そして、その過程でもしまた兄さんと会えたなら、その時はちゃんと話します。兄さんがどんな人であっても、たとえ敵になったとしても
 話せる相手から逃げる事だけはもう絶対にしません」
「そう決めたんならそれでいい。もしお前がやっぱりビビって一歩を踏み出せなくなっちまったら、俺がお前の背中を
 蹴り飛ばしてやるさ。何ならまた兄貴の手でも足でも弾ぶち込んで、逃げられねぇ様にしてやってもいいぜ」

最後の言い方がツボに入ったらしく、ぷっと吹き出す千帆につられてプロシュートも口を開けて笑った。
こんな表情をしたのはもういつ振りになるだろうか。


千帆が『持っているヤツ』な限りそばに置いておこうと思っていた。
『持っていないヤツ』になった時は切り捨てればいいと。
だが、それすらもうプロシュートには出来ない。二人は今、本当の意味で『仲間』になったのだから。


「行こうぜ、千帆」

プロシュートが差し出した手にぎこちなく千帆の手が重なる。
もしもその場に観客がいたとすれば、
信仰心を持った者が見たのなら、その一瞬について後にこう語ったかもしれない。




『まるで聖女の祝福を受ける戦士の様にも見えた』とーーーー

375 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/24(水) 21:02:43.22 ID:E5j3fgBd.net
【C-5 スペイン広場/1日目 夕方】

【プロシュート】
[スタンド]:『グレイトフル・デッド』
[時間軸]:ネアポリス駅に張り込んでいた時
[状態]:ダメージ・疲労はほぼ全回復、覚悟完了。
[装備]:ベレッタM92(13/15、予備弾薬 30/60)
[道具]:基本支給品(水×3)、双眼鏡、応急処置セット、簡易治療器具
[思考・状況]
基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還
0. 双葉千帆と共に行動する。
1.とりあえず千帆の希望通り人を探す。
2.この世界について、少しでも情報が欲しい
3.残された暗殺チームの誇りを持ってターゲットは絶対に殺害する
※千帆にスタンドの知識と自分の情報(パッショーネ、護衛、暗殺チームの人間について)道すがら話す予定です。

【双葉千帆】
[スタンド]:なし
[時間軸]:大神照彦を包丁で刺す直前
[状態]:健康、強い決意
[装備]:万年筆、スミスアンドウエスンM19・357マグナム(6/6)、予備弾薬(18/24)
[道具]:露伴の手紙
[思考・状況]
基本行動方針:ノンフィクションではなく、小説を書く
1.プロシュートと共に行動。人と会って話をしたい
2.川尻しのぶに会い、早人の最期を伝える
3.次に琢馬兄さんに会えたらちゃんと話をする
4.露伴の分まで、小説を書く

376 :創る名無しに見る名無し:2014/09/24(水) 22:41:38.03 ID:EgqFOO/p.net
支援

377 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/25(木) 00:31:33.71 ID:h2lgfJue.net
***

ジョルノとの会談に使ったのとは別の小部屋でDIOが椅子に腰かけている。
少し離れてディエゴとルーシーもそれぞれ距離を置いて座っている。
ルーシーの呼吸は安定している。腹の大きさから臨月くらいだろうが、生まれる気配はまだ無い。

「遺体の部位は全部で十。内二つ、右眼球と頭部がここにある」
「ああ、こいつを取り込んでいる間は自分のスタンドの他に発現する能力がある」
「未知なる能力か……ムーロロが戻ってきたら私も試してみる事にするよ。先程の報告ではさっそく支給品をいくつか開けたところ
 脊椎、右腕が出てきたそうだ。銃で撃たれた者がいたんだが、右腕が彼に取り込まれた途端に千切れかけの指が二本完治した。
 これはいわゆる奇跡という部類に入る。君の言う通り『聖なる』遺体だな」
「そんなに支給品をため込んでるヤツがいたとはな。良い手駒をお持ちのようだ」
「どうも。君たちと手を組めたことも嬉しく思っているよ」
「言っておくがこれはビジネスだ。遺体を全て揃えるまでのな。その後は好きにさせてもらう」
「お好きに」

ブラフォードを置いてきた今、ロクに動けないルーシーを抱えたままDIOと敵対するのは非常に危険だとディエゴは判断した。
ジョニィやジャイロといったレース参加者がいる以上、再び争奪戦が始まる前にDIOの部下を使って遺体を集めるのが先決と
一時手を組むことにしたのだ。内心腹の底までDIOへの嫌悪で一杯ではあるが、その感情をぐっと押し込んだまま損得だけで
動ける程度にはディエゴはクレバーな思考ができる男なのだ。

一方DIOは思索にふける。

(聖なる遺体……このDIOが天国へと向かうための新たなパーツかもしれん。興味が沸いてきた。
 このルーシーという女もな)

遺体を『懐胎したかのように』取り込んだルーシーに、DIOはより強い興味を示した。
母親、エリナ・ペンドルトン、空条ホリィ。
いつでも自身の人生を邪魔してきた聖なる女がまたひとり増えた。
だが今回は少し違う。ディエゴから聞いたルーシー・『スティール』の名と、主催者との婚姻関係も多少面白いとは思ったが、
それ以上に彼女の目に母親やエリナと同じ輝きと混じって決定的な異質さを感じ取ったからだ。

378 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/25(木) 00:32:08.97 ID:h2lgfJue.net
(聖女……聖なる者として信仰を受ける女の事だ。
 最も有名な聖女である神の子の母マリアは純潔を守ったまま出産したことから、「清らかさ」の象徴といわれている。
 しかし、一説には娼婦であり、罪を犯したと言われるマグダラのマリアもまた神の子の復活を目撃した聖女だ。
 聖女の条件とは何か。純潔であることか? 処女懐胎をはじめ奇跡を起こすことか?いや違う。)

「ミセス、体調はどうかね」
「あなたたちさえいなければいつだって最高よ」
「いいね、実にいい。本当はこのまま側に置いておきたいところだが、私はこの後来客があるかもしれん。
 そうなったらこの崩れかけた教会は君には少しばかり危険だ。もう間もなくだろうが、部下が戻りしだいトンネルを掘って
 近くのわが屋敷に移動してもらうことになるだろう。聖女に納骨堂は失礼だからな。寝心地の良いベッドで出産に備えたまえ」
「聖女だなんて言わないで頂戴。後悔なんてしてないけど私は罪を犯したわ、おぞましく深い……罪よ」
「いいや君は聖女だ。人類はすべからく原罪を背負っている。罪の有無は君から聖者の資格を奪いはしない。
 それに罪は深ければ深いほど……このDIOにふさわしい」

(聖なるもの、聖女とは、『導くもの』なのかもしれない。困難な運命に立ち向かう者に進むべき道を指し示す。
 この罪深い少女はきっと自分を天国へと導き、押し上げてくれるだろう。)
(全てそろった遺体は所有者に『吉良なるもの』だけを集める……最終的に私の元に遺体が集まった時がチャンスよ。
 必ず幸福になってみせる……!)

DIOの手がルーシーの頬をゆっくりと滑ってゆく。
おぞましいその手を払う代わりにルーシーはDIOを真っ直ぐに見つめ返す。
その様子をディエゴは観客にでもなった様に冷めた目で見ていた。
信仰心など持ち合わせていないが、見るヤツが見たらこう言うだろうなと想像する。

『まるで神の祝福を受ける聖女の様にも見えた』と――――

379 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/25(木) 00:32:35.73 ID:h2lgfJue.net
【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会 地下/1日目 夕方】

【DIO】
[時間軸]:JC27巻 承太郎の磁石のブラフに引っ掛かり、心臓をぶちぬかれかけた瞬間。
[スタンド]:『世界(ザ・ワールド)』
[状態]:全身ダメージ(中)疲労(小)
[装備]:シュトロハイムの足を断ち切った斧、携帯電話、ミスタの拳銃(0/6)
[道具]:基本支給品、スポーツ・マックスの首輪、麻薬チームの資料、地下地図、石仮面、リンプ・ビズキットのDISC、スポーツ・マックスの記憶DISC、予備弾薬18発『ジョースター家とそのルーツ』『オール・アロング・ウォッチタワー』のジョーカー
[思考・状況]
基本行動方針:『天国』に向かう方法について考える。
1.ムーロロらと合流、遺体を集める。集めた後ディエゴをどうするかは保留
2.遺体とルーシーを使って天国へ向かう方法の考察をする
3.ジョジョ(ジョナサン)の血を吸って、身体を完全に馴染ませる。
4.承太郎、カーズらをこの手で始末する。
[備考]
※携帯電話にヴォルペからの留守電が入ってます。どのような内容なのかは後の書き手様にお任せします。
※ジョンガリ・Aのランダム支給品の詳細はDIOに確認してもらいました。物によってはDIOに献上しているかもしれませんし、DIOもジョンガリ・Aに支給品を渡してる可能性があります。
※サン・ジョルジョ・マジョーレ教会が崩壊しかかってます。次に何らかの衝撃があれば倒壊するかもしれません。
※ディエゴから遺体の情報とSBRレース、スティーブン・スティールについて情報を得ました。
※セッコ達と合流次第ルーシーをDIOの館に移動させるつもりですが、同行させるメンバーやDIO自身が移動するかは未定です。

【ルーシー・スティール】
[時間軸]:SBRレースゴール地点のトリニティ教会でディエゴを待っていたところ
[状態]:処女懐胎、疲労【中】
[装備]:遺体の頭部
[道具]:基本支給品、形見のエメラルド
[思考・状況]
基本行動方針:スティーブンに会う、会いたい
0.遺体が集まるのを待つ
1.DIO、ディエゴを出し抜く

【ディエゴ・ブランドー】
[スタンド]:『スケアリー・モンスターズ』+?
[時間軸]:大統領を追って線路に落ち真っ二つになった後
[状態]:健康
[装備]:遺体の左目、地下地図
[道具]:基本支給品×4(一食消費)鉈、ディオのマント、ジャイロの鉄球
    ベアリングの弾、アメリカン・クラッカー×2
    ランダム支給品0〜3(ディエゴ:0〜1/確認済み、ンドゥ―ル:0〜1、ウェカピポ:0〜1)
[思考・状況]
基本的思考:『基本世界』に帰る
0.遺体が揃うまでDIOと協力。その後は状況次第
1.なぜかわからんが、DIOには心底嫌悪を感じる
2.ルーシーから情報を聞き出す。たとえ拷問してでも
※DIOから部下についての情報を聞きました。ブラフォード、大統領の事は話していません。

380 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/25(木) 00:36:10.96 ID:h2lgfJue.net
【 ??(DIOの元に移動中) /1日目 夕方】

【蓮見琢馬】
[スタンド]:『記憶を本に記録するスタンド能力』
[時間軸]:千帆の書いた小説を図書館で読んでいた途中
[状態]:健康、精神的動揺(大)
[装備]:遺体の右手、自動拳銃、アヌビス神
[道具]:基本支給品×3(食料1、水ボトル半分消費)、双葉家の包丁、承太郎のタバコ(17/20)&ライター、SPWの杖、不明支給品2〜3(リサリサ1/照彦1or2:確認済み) 救急用医療品、多量のメモ用紙、小説の原案メモ
[思考・状況]
基本行動方針:他人に頼ることなく生き残る。
0.千帆……
1.自分の罪にどう向き合えばいいのかわからない。
2.ムーロロ、セッコとDIOの元に向かう。隙があれば始末する?
3.ムーロロの黒幕というDIOを警戒
【備考】
参戦時期の関係上、琢馬のスタンドには未だ名前がありません。
琢馬はホール内で岸辺露伴、トニオ・トラサルディー、虹村形兆、ウィルソン・フィリップスの顔を確認しました。
また、その他の名前を知らない周囲の人物の顔も全て記憶しているため、出会ったら思い出すと思われます。
また杜王町に滞在したことがある者や著名人ならば、直接接触したことが無くとも琢馬が知っている可能性はあります。
ミスタ、ミキタカから彼らの仲間の情報を聞き出しました。
拳銃はポコロコに支給された「紙化された拳銃」です。ミスタの手を経て、琢馬が所持しています。
※スタンドに『銃で撃たれた記憶』が追加されました。右手の指が二本千切れかけ、大量に出血します。何かを持っていても確実に取り落とします。
 琢馬自身の傷は遺体を取り込んだことにより完治しています。

【カンノーロ・ムーロロ】
[スタンド]:『オール・アロング・ウォッチタワー』(手元には半分のみ)
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』開始以前、第5部終了以降
[状態]:健康
[装備]:トランプセット
[道具]:基本支給品、ココ・ジャンボ、無数の紙、図画工作セット、川尻家のコーヒーメーカーセット、地下地図、遺体の脊椎、角砂糖、
     不明支給品(3〜13、うち数個は確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:DIOに従い、自分が有利になるよう動く
0.スクアーロを始末でき、自分に損がなかったことに満足。
1.セッコ、琢馬と共に急いでDIOの元に戻る。
2.千帆とプロシュートはとりあえず放置。状況により監視を再開するかも
3.琢馬を監視しつつ、DIOと手下たちのネットワークを管理する
【備考】
現在、亀の中に残っているカードはスペード、クラブのみの計26枚です。
会場内の探索とDIOの手下たちへの連絡員はハートとダイヤのみで行っています。
それゆえに探索能力はこれまでの半分程に落ちています。
※遺体の右腕はペッシ、脊椎はペット・ショップの不明支給品でした。脊椎は今のところ誰にも取り込まれていません。

【セッコ】
[スタンド]:『オアシス』
[時間軸]:ローマでジョルノたちと戦う前
[状態]:健康、血まみれ、興奮状態(小)
[装備]:カメラ(大破して使えない)
[道具]:死体写真(シュガー、エンポリオ、重ちー、ポコ)
[思考・状況]
基本行動方針:DIOと共に行動する
0.角砂糖うめえ
1.ムーロロ、琢馬と共に急いでDIOの元に戻る。
2.人間をたくさん喰いたい。何かを創ってみたい。とにかく色々試したい。新しい死体が欲しい。
3.吉良吉影をブッ殺す

【備考】
『食人』、『死骸によるオプジェの制作』という行為を覚え、喜びを感じました。
千帆の事は角砂糖をくれた良いヤツという認識です。ですがセッコなのですぐ忘れるかもしれません。

381 :されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL. :2014/09/25(木) 00:37:17.30 ID:h2lgfJue.net
勢いで投下→規制→解除されたと思ったら朝だったorz そしてしたらばの転載スレに依頼しましたが、規制解除されたので自分で投下。
長々と占拠してしまいすみません。

仮投下からの修正は二点です。
・時間帯を午後→夕方に
・角砂糖をムーロロの所持品に追加
角砂糖は完全に失念しておりました。ご指摘ありがとうございます。

リレー小説も掲示板に投稿するのも批評を頂くのも全て初めてでしたが、どれも素晴らしく楽しかったです!
wikiの編集もたぶん時間かかるでしょうから、ご指摘等があればお願いします。

382 :創る名無しに見る名無し:2014/09/30(火) 22:03:37.10 ID:24wwmmZM.net
遅くなったが投下乙。
プロシュートが完全に兄貴だなあ。琢馬の立つ瀬がない・・・のか?
そしてブレないのはムーロロ、とある意味でセッコ。ついに手に入れた角砂糖がどうなることやらw

とても新人とは思えない細かい書き込みに一気読みと、読んだ後の「はぁ・・・感」がたまりませんでした。
キャラの今後にも、そして氏の今後にも期待できる作品でした。

383 : ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 01:03:58.46 ID:9O/IGBoB.net
改めて投下乙です。
一般人枠でありながら成長を見せた千帆と、それに驚く兄貴達がいいですね。
そんな中プロシュートに触れられもせず退場したスクアーロに合掌……
一方ディエゴたちもサン・ジョルジョ・マジョーレに辿り着き、この後ここで一体
何が起こるやらとても楽しみになりました。

それでは、遅れたとかいうレベルではないですが
カーズ、宮本輝之輔
投下開始します。

384 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 01:10:45.49 ID:9O/IGBoB.net
―――走って、走って、走り続ける。
聞こえてきた放送も碌に頭に入れず、途中にあった遺跡も素通りし、ただひたすらに地下を逃げ続ける。
長時間の運動に慣れていない足が鈍痛を訴えるも、半ば引きずるように前へと進む。
これ以上は走れないという自身の限界に到達した辺りでようやく、宮本輝之輔は足を止めた―――

(ガ………ハァァ………グッ………)

『紙』の中から水を取り出し一気に呷ろうとするが、思うように飲み込めず半分ほど零してしまう。
同時に限界を向かえた脚も体を支えていられなくなり、ガクリと地面に両膝をついた。

(フゥー………フゥ………)

数分ほど経ってようやく落ち着きを取り戻すと、周りを見回し耳を澄ます―――誰もいないし、何も聞こえない。
追っ手が迫っていないことを信じながら息を潜めつつ、乱れた呼吸を整える。
だが、安堵できるほど状況が好転していないことも理解していた。

(……いない、よな………?)

もう一度後ろを振り返り、注意深く観察する。
地下が薄暗いとはいえ誰かを見逃すほどでは無いが、それはあくまで相手が『目に見える』場合だ。
先ほどまで彼を捕まえていた男―――ワムウは透明になることが出来る以上、油断はできない。

(………………万が一ヤツがぼくを殺しに追って来たとしても、一言ぐらいはかける………と思うが)

彼は黙ってその腕を振り下ろすような相手ではない―――そういう意味で宮本はワムウを『信用』していた。
それでも、会いたくないのに変わりはないが。

(放送はほとんど聞き流してしまったけど……ワムウも、噴上や仗助達の名前も呼ばれなかったように思う………
 である以上、あいつらがぼくを追ってくる可能性は十二分に存在する……さしあたっては)

時計を取り出し、現在時刻が昼頃であるのを確認する。
柱の男は太陽の下には出られない―――ワムウも陽のあたる場所に出ようとはしなかったし、自分さえ地上に出れば彼との遭遇は避けられるだろう。

(出口は、どこだ………?)

だが、辺りを見回しても上がれそうな場所―――階段や梯子といったものは全く見つからない。
しかも無我夢中に逃げたため自分が今どこにいるのかすらわからないというおまけ付きだ。
宮本は自分の記憶を思い返し、逃げる途中に通過した地上と繋がる遺跡を思い浮かべるが………

(ダメだ、後戻りは『賢い行い』ではない……あいつらがぼくを追ってきていて、鉢合わせるかも………)

論理的に、というよりは恐怖に駆られてその案を却下し、前方を眺める。
目の前にあるのは満足な明かりすら存在せず、どこまで続いているかもわからない道が一本だけ。

(落ち着け、出口は必ずある………慎重に、慎重に行こう………)

一刻も早く地上に出たいという気持ちはあるが、遭遇に備えて体力は回復させておかなければならない。
決断した宮本は自分に言い聞かせつつ再び歩き出した………未だに痛む足を引きずりつつ、ゆっくりと。

数歩ごとに後ろを振り返り、時折立ち止まって前方のその先に誰もいないことを確認し………
確実に歩を進めてはいたものの、その速度はまさに牛歩といってよかった。

385 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 01:18:34.47 ID:9O/IGBoB.net
#


………悪いことは重なるもので。
歩き始めてから一時間近く経っても宮本は地下から脱出できていなかった。

(………くそっ)

進む先は一本道だが歩けど歩けど出口は見当たらず、宮本は軽く舌打ちする。
ひょっとしたらこの先は行き止まりであり、結局出られずに引き返す羽目になるのではないか。
あるいは既に何者かのスタンド攻撃を受けており、進んだと思ったらいつのまにか戻っていて、同じ道を何度も歩いているのではないか。

(そんなはずが無い……ッ! よく思い出せ……確か…)

ネガティブ思考を必死に振り払い、理由を考えなおす。
方位磁石で確認するに、自分がいるのは東西にほぼ真っ直ぐ続く一本道。
ホテルで見せてもらった地下地図のメモと照らし合わせると―――

(A-5からA-7のどこか、だろうな……さっきワムウと通った道を逆戻りってワケか)

地図の中に納得できる場所を見つけ、僅かに落ち着きを取り戻す。
だが、不安が全て取り除かれたわけでもなかった。

(逆に考えろ、これはラッキーなんだ……噴上は『におい』で追跡が可能な能力者………
 あいつが来ないということは、ぼくは『逃げ切った』ってことじゃあないか………)

無理やりそう思いつつ、さらにしばらくして。
なおも歩き続ける宮本の耳に微かな物音が飛び込んできた。

―――ぺらり

(………?)

注意深く耳を澄ませる。
しばらくして、再び音は聞こえてきた。

―――ぺらり

(紙………いや、本のページをめくる音、か?)

―――ぺらり

音と音の間隔はやや不規則ながら短すぎず、長すぎず。
それはまさに『誰かが本を読んでいる程の』間隔であった。

(誰かが………いる!?)

音の発生源を注意深く探ると自分の前方、ゆるく曲がるカーブの先からその音は聞こえてきていた。
だが、それと同時に宮本は違和感を覚えて思考する。

(注意深く考えろ、選択を誤ったら………)

386 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 01:25:29.28 ID:9O/IGBoB.net
宮本は音を立てないように辺りを観察する………先にいる誰かと接触するべきか、立ち去るべきか判断するために。
すぐに、彼は違和感の正体に気付いた。
多少目が慣れたとはいえ、ここは地下―――当然、常に薄暗い。
だが音が聞こえてくる先は………少なくとも、宮本自身が本を読めるほど明るいようには見えなかった。

(そうだ………曲がり角の先から『明かりが漏れてきていない』………!!
 それならこの先にいる誰かは、明かりも無しにどうやって『本を読むことが出来る』っていうんだ!?)

理由が全く思いつかないわけではない。

例えば、点字の本を読んでいるとか。
または、暗視ゴーグルか何かを装着しているとか。
あるいは、ページをめくっているだけで、内容など見ていないとか。

………だが、今の状況でそんな希望的観測など出来るわけがなかった。

(この暗さでも、本を読めるだけの視力を持つ奴………まさか、ワムウッ!?)

導き出された結論は最悪のもの。
よしんば違ったとしても、この先にいる誰かが『人外』の可能性は非常に高い。
いち早く判断した宮本は今来た道を戻るべく音を立てないように体の向きを変え―――


                     「どこへ行く、人間」


―――一歩も踏み出さないうちに呼び止められた。
宮本の背中に冷や汗が伝い、痛みが引いたはずの足は震え始める。
彼は今、自分が『人間』と呼ばれたことで理解していた―――声の主はまたしても『怪物』であると。

「………………」

逃げても無駄だと悟った宮本は再び振り返り、声がした方へと進む。
諦めたわけでもなく、覚悟を決めたわけでもなく………ただ、行かねば殺されるという『恐怖』に駆られて。
ゆるやかな角の先、宮本の目に飛び込んできたのは悪い意味で誰かに似た格好の大男だった。

(まさか、こいつがワムウの言っていた………)

相手はまさにワムウに『似ている』男。
そのとき宮本は思い出した―――残る柱の一族は、たった二人というワムウの言葉を。

(………やるしかない)

どうにかせねば殺される―――瞬時に理解し、自分が優位に立てるチャンスは今しかないと判断する。
精一杯の虚勢で平静を装いつつ、相手に向かい口を開き………

「………カーズ」
「ほう………きさまもまた、このカーズを知っているか」

387 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 01:32:58.38 ID:9O/IGBoB.net
………会話で先手を取ろうとするも、失敗。
相手の正体は予想通りだったものの、おそらく彼は自分を一方的に知る人物と既に遭遇した後。
結局、最初の一手ではアドバンテージを得られなかった。
だがその程度の事態は想定済み………宮本は静かに言葉を続ける。

「………忠告しておくが、ぼくと戦う気ならやめておいたほうがいい」
「ふむ?」

宮本の次なる一手は、ハッタリ。
ワムウがそうであったように、彼らはおそらく『スタンド』に関する知識は持っていない。
どこかで聞く機会があったとしても、まさか自分の能力が詳細に知らされている可能性などまず存在しない。
それらを踏まえ、宮本は自分でも驚くぐらいに大胆な発言を開始した。

「あえて説明するなら、お前たちが持っている支給品を紙に閉じたのはぼくの能力………ぼくは主催者側の人間だ」
「………………」

心臓が破裂寸前なほど激しく鳴っているのがよくわかる。
だがひたすらそれを押し隠し、近くに転がる一抱え以上もある岩を『エニグマ』でファイルし、紙にしてみせる。
続いて、折りたたまれた紙におもむろに指をかけ………

「そしてこのようにやぶいてしまえば、岩も簡単にバラバラにできる。
 ………岩だけじゃなく、生物も例外ではない」

ビリビリにやぶかれた紙から岩の欠片が零れ落ちてくる。
相手に驚いた様子は見られなかったが、その口からほう、という呟きが漏れ出たのを宮本は確かに聞いた。
………まだ相手の『恐怖のサイン』を見つけたわけではなく、完全にブラフである。
だが、支給品の紙に何故か自分の能力が使われているのはまぎれもない事実。
この『賭け』に勝算は十分あると宮本は睨んでいた。

―――果たして、相手は再び手の中の本に視線を戻し、言った。

「フン……まあよい。先へ進みたいなら勝手に行けばよかろう」
「………………」
(成功……した……?)

まさかの『通行許可』が出されたことに顔には出さずとも驚く。
とはいえ、喜び勇んで素通りしようなどとはさすがに思わない。
宮本が黙ったまま動かず、用心深く思考しているとカーズは再び声をかけてきた。

「どうした、行かぬのか? それともきさまのほうこそ、このカーズとの戦闘を望むか?」
「いや………」
(間違っても怖気づくような相手じゃあないはずだけど、何らかのリスクを避けたのかもしれない……
 それに相手はワムウと同じ怪物………身体能力も同等ならそれこそ一瞬でぼくを殺してしまえる……
 なのに襲ってこないのは、本当に通ってもいいっていうこと………だよな?)

自分なりに結論を出すと、あくまで無表情を貫き通しながら宮本はカーズの前を横切って奥へと進む。
内心は今にも後ろから奇襲を受けるのではないかとビクつきながら、ありったけの精神力で体に震えが出ないように歩く。
十歩ほど進み、彼が勝利を確信しかけた………その時。


                  『おめ〜 すでにはいってたな……禁止エリア…だ…』


―――宮本の『首輪』から『声』が発せられた。

388 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 01:41:39.25 ID:9O/IGBoB.net
「………!!!!?」

反射的に体を引き、勢い余って尻餅をつく。
その体制のまま後ずさりし、数秒たった時点でようやく『声』が止まっていたことに気付いた。
冷や汗を流しつつ首輪を確かめる宮本に後ろから声がかけられる―――とても愉快そうに。

「ほう、足を踏み入れても即座に命を奪われるというわけではないのか………なるほどなァ〜〜」
「あ、お、お前ッ………! 知ってて………」

禁止エリア―――『声』の内容的にそれで確定だろう。
そして今の言葉からすると、よりにもよって自分は『実験台』にされたのだ………!
慌てて顔を相手の方に向けると、カーズはニヤニヤ笑いながら口を開いた。

「ンン〜? このカーズは『先に進みたければ勝手に行け』と言ったまでよ。
 そもそも、禁止エリアがわからんのはきさま自身の責任ではないのか?
 放送を聞き逃したのか、それとも自分の位置すらわかっておらぬのかは知らんがなァ〜〜?」
「グッ………」

宮本は何も言い返せなかった。
この場において非があるのは、放送をしっかり聞いていなかった自分なのだから。
立場は一瞬にして逆転………いや、元から自分の方が圧倒的に下だったのだろう。

「どれ、こちらも試してみるとするか………」

一方カーズはこともなげにそう呟くと本をしまい、自分も禁止エリアへ足を踏み出してゆく。
その脚にあわや蹴られそうになった宮本が身をかわすのに目もくれず、エリアの境界と思われる場所をカーズが越えた途端………


        『カーズ様が! おおおおおカーズ様がアアアーッ!! 禁止エリアにはいった―――ッ!!』


彼の首輪から宮本のとは違うメッセージがやけに大きな声で響く。
カーズは首輪の音声による禁止エリアへの侵入を聞いて方向転換、同じように音がやむのを確認する。
………そして宮本へと近づき、声をかけてきた。

「さて……きさまが本当に主催者の手下か単なるハッタリか、そんなことはどっちでもよい………
 ここへ来たからには、少々このカーズに付き合ってもらおうではないか」
「誰が―――」
「ンン〜? それとも、このカーズの手で地獄に落ちるのが望みとあらば、すぐにでも叶えてやろうかアア〜〜?」
「………………」

ワムウの方がまだマシだった―――心底そう思える。
目の前の男、カーズは間違いなくワムウと同等以上の力を持っているようだが、二人には決定的な違いがあった。
それは人を傷つけることに『何も感じない』ワムウに対し、カーズは『愉悦を覚える』という点。
いざとなれば一息で命を奪ってしまえるだろうに、どうすれば相手が困るか、苦痛を感じるか……そのようなところを陰湿に攻めてくる。

(まちがいない………これでまちがいない、『柱の男カーズ』…『この男』は………)


                              (『性格が悪い』)

389 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 01:50:30.68 ID:9O/IGBoB.net
趣味は人間観察、特に『恐怖』を観察するのが好きな自分と『同じタイプ』だからこそわかる。
このような者が『恐怖』するとすれば『自分より上に立たれる』か『未知のものに遭遇する』ぐらいだということが。
だが口先で上に立つのは失敗し、スタンドを見せても精々驚く程度。
他の方法における勝ち目などありえそうにない………ではどうするのかというと。

(つまり、ぼくが生き残るために今すぐやるべきことはッ………! 表面上だけでも『恭順』する……それしかないんだ……)

相手は何やら自分に用がありそうな点を利用………付け入る隙を狙うと言えば聞こえはいいが、実際はおとなしく従うという情けない方法。
それでも、命には代えられないと宮本は先ほどの発言に対して渋々返答する。
すると………

「………ぼくに何をしろっていうんだ?」
「フフフ…きさまにやってもらうこととは……これよ」
「……? まさか………首輪ッ!?」

宮本は仰天する―――自分達に付けられているのとまぎれもなく同じ首輪がその手に乗せられているのを見て。
ただし、本来首輪を装着している参加者の姿は無く首輪「だけ」。
元の持ち主がどうなったのか………想像して再び宮本の背中に冷たいものが走る。
だが、その程度の驚きなどほんの序章に過ぎなかった。

「………よく見ていろ」

ゴクリと唾を飲み込んだ宮本の前でカーズは首輪を軽く上へと放り投げる。
続いてその腕からバリバリと音を立てて『刃』を出し―――


―――首輪目掛け、ためらいなく振り下ろしたッ!


(えっ…………?)

その瞬間、宮本の頭は真っ白になった。
参加者の首を吹っ飛ばした首輪……それが今、目の前の男によって無理やり破壊されようとしている。

(そんなこと………すれば………)

やけにスローに感じられる世界の中で、宮本は何も出来ず呆然と立ち尽くす。
彼の目の前で、首輪は闇の中で光り輝く刃により真っ二つに切断され―――





                   反射的に、宮本は両目をつぶり―――





                  ―――パン、と乾いた音があたりに響いた。

390 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 01:58:24.17 ID:9O/IGBoB.net
「あ………」

生きている。
目を開けると自分も、カーズも傷ひとつない。
首輪の爆発は想像していたような規模ではなく、ずっと小さなもの。
真っ二つになって地面へ落下した首輪はそれきり、何の反応も示さなかった。

カーズは落ち着いた手つきで首輪を拾い上げると、切り裂かれた断面を下にして軽く振る。
すると、切断面の中に見える空洞より細かい金属片がぱらぱらと零れ落ちてきた。

(………爆発は、首輪の中身が弾けとんだ………だけ?)

先ほど何が起きたのかを再確認していると、カーズが宮本に壊れた首輪を差し出してくる。

「多少頑丈ではあるようだが、このカーズにとっては子供騙しよ。
 だが主催者もそこまでマヌケではないらしい………この通り、破壊すると中身が弾けとぶというわけだ………
 さて、人間………残った破片ですらこのカーズには未知のものが混じっているため理解し切れんのだが………どう見る?」
「ど……どう見るって………」

そこでようやく、宮本は自分の意見が求められていることに気付いた。
未知のもの………すなわちカーズは中身の『機械』がよくわからないから、人間である宮本の意見を聞きたいのだと。
不運続きの宮本だが、この場においてはまだ運があったというべきだろう。
もしカーズがもう少し後の時代―――人間の文化をよく知った後から連れて来られたならば、彼は禁止エリアの実験だけで『用済み』だったのだから。

(首輪を調べる? ぼくが? ………でも、断ったらたぶん―――)

―――殺される。エンジン音だけ聞いてブルドーザーだと認識できるようにわかる。
仕方なく宮本が首輪を受け取るとカーズは再びデイパックに手を突っ込み、今度は既に壊れている首輪を取り出す………それも二つ。
首輪自体の大きさは宮本の持つそれと微妙に異なるものの、振って出てきた破片から見てどうやら中身は同じようだった。

「大きさは参加者によってまちまちだが、仕組みはどれも変わらぬらしい………
 それ以上のことはきさま次第だが………何やら、思うところがあるようだな?」
「ああ………」

カーズ本人は信用できないが、首輪の解除に協力するのは宮本としてもやぶさかではない。
安全面に関しても首輪に直接手を出したカーズが無事である以上、観察して考える程度ならばと開き直る。
むしろ首輪を何個も持っているカーズの方が危険度は上であるため、彼に逆らいたくなかった。

(外側の金属は……よくわからない。破片は結構量があるけど……爆薬の残りカスらしきものを除けば、ほとんど金属片か………
 よく考えろ、どこかに『謎』を残しておかないとぼくは『用済み』になる……かといって、嘘はリスクが大きい………)

懐中電灯で照らしながらこねくりまわし、中を覗き込み、欠片に目を近づける。
その一方で、自分を生かしてもらえるように情報をどう制限するか考えるのも忘れない。
ひとしきりの調査と思考が済んだ後、宮本は慎重に意見を述べ始めた。

「位置確認のセンサーや声を出すスピーカー、それに爆薬と点火用の装置。最低限これだけは入っていそうだけど………
 誰かのスタンドで代用している部分もあるかもしれない………このスペースならよっぽど小型化しないと入りきらないからな………
 少なくとも、ぼくの時代の科学技術だけでこれと同じ物は作れない………と思う」
「……それで終わりか?」
「いや……機械の種類よりもっと重要な問題がある………この首輪の中身には『爆薬が少なすぎる』ッ!」

391 :創る名無しに見る名無し:2014/10/01(水) 02:46:13.92 ID:rQ8XapEP.net
支援

392 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 11:02:39.20 ID:9O/IGBoB.net
カーズの手で壊された首輪を一目見たときから、宮本はおかしな点に気付いていた。
それは自分達が傷ひとつないことと、切断部分を除き首輪自体の形状が変化していないこと。
すなわち首輪を壊した際の爆発は『殺傷力がなく』『首輪そのものは吹っ飛ばなかった』という点。

「首輪の仕組みを調べられると困るから、無理に壊すと中身が自動的に爆発する………それはわかる。
 だけど、外側すら壊れない程度の爆発しか起きないのはどう考えても妙だ………
 これっぽっちしか爆薬が無いなら………最初に実演した、参加者の首をふっ飛ばしたあれはなんだったんだ?」
「………………」
「残った中身は単なる機械の破片みたいだし、切断面を見てもこれ以上の空洞は無さそうだ……
 ……断言できる。この首輪だけじゃあ『参加者を始末できない』ッ!!」

結局、情報の制限はしなかった―――首輪は想像以上に謎が多すぎたのだから。
話を聞き終えると、カーズは静かに目を閉じる。
宮本は知らない………目の前にいる存在が単に性格が悪いだけの男ではなく『天才』であることを。
彼の頭の中でどのような思考がめぐらされているのか、また自分の意見がどのように使われているのか宮本には想像すらつかなかった。
時間にしてわずか数秒後、カーズはゆっくりと目を開き喋り始める。

「………よく聞け。このカーズはたったいま、きさまの疑問を説明できる『仮説』を三つほど思いついた………
 一つ目は首輪そのものが爆発するようになっており、爆破は別の場所………おそらくは主催者側が任意で行うというもの。
 二つ目はこの首輪の持ち主が命を落とした時点で、首輪の何らかの………スタンドが関わる爆発機能が失われたというもの。
 そして三つ目は………そもそも最初に首が吹っ飛んだ人間達の首輪は、われらに付いているのとは全くの別物というものだ」

宮本自身では数十分考えて、やっと出せるかどうかという考えをすらすらと述べるカーズに内心舌を巻く。
彼の言う『仮説』が正しいかどうかはともかく、その頭の回転速度は相当なものだと認めざるを得なかった。

(こいつ、本当に何なんだ………? けど今は『首輪』のほうが重要か……)

一見ワムウと同じ肉体派の怪物と思いきや、脳筋どころかむしろ頭脳派といっても過言ではないことに驚きを隠せない。
だがひとまずは置いておき、気になった点―――最後の説について聞き返す。

「別物って…………まさか、首輪が爆発して死ぬなんてのは主催者のハッタリだっていうのか!?」
「あくまで可能性のひとつよ。だが―――」

やや結論を焦る宮本をたしなめつつ、一呼吸おくとカーズは言った。
聞きようによっては『希望』になり得る言葉を。

「―――今言ったどれかが正しければ、首輪をはずすことができるやもしれん………それにはもう一手間が必要だが」
「ほ、本当なのかッ!? ………一手間っていうのは?」
「無論、首輪破壊時における参加者の生死の違いを確かめることよ………」

その言葉の意味を宮本は一瞬では理解しきれなかった。
順に考えていくとカーズの言葉からして、彼は既に死体と化した参加者の首輪を外してきたということ。
ならば、生きている人間から首輪だけを外そうとするとどうなるのかを確かめる必要があるのだと。

となれば、その『生きている人間』として一番手っ取り早いのは『自分』―――

「――――――ッ!!!?」

気付いた宮本は反射的に距離をとり……カーズはそれを見てつまらなさそうに言葉を続けた。

393 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 11:26:49.39 ID:9O/IGBoB.net
「フン、そう警戒せずともきさまを実験台にしたりなどせぬ。
 きさまには別に『伝言』をやってもらうのだからな………」
「実験台にしない……? どの口がそれを言う………ッ!」

先ほど受けた仕打ちは勿論、相手の口ぶりからしてまだ何か自分に強要するつもりらしい。
となれば文句の一つも出てくるのは当然であったが、言われたカーズはどこ吹く風で呟いた。

「フムウ………では、生きたまま首輪を壊される役目のほうを選ぶか?
 我が輝彩滑刀ならば痛みすら感じさせず一瞬で切り裂くなど容易なことよ」
「え、遠慮しておく……そもそも首輪がハッタリだと決まったわけじゃあない………」

言外に『反抗するなら殺す』と脅されれば宮本にはどうしようもない。
現在の自分は相手の気まぐれか何かで生かされているに過ぎないのだから。
尻すぼみになった言葉を了承と勝手に捉えたのか、カーズは話を元に戻した。

「では、参加者どもに伝えるがよい………『第四放送時、会場の中央に来た者は首輪をはずしてやる』とな………
 相手の素性や人数は一切問わん、きさまが連れて来たくない者には声をかけんでも構わんぞ」
「………………!?」
(なッ……その『伝言』! いくらなんでもシンプルすぎるッ………! 信用できるほどの中身がないだろうがッ!)

先ほど見せた頭脳はどこに行ったのかと疑うくらいの簡素な内容に宮本は愕然とする。
特に不安を感じるのは他の参加者に信じてもらえるのかという点―――なにせ『どうやって首輪をはずすか』に一切触れていないのだから。
心の中で密かに憤るが……怒りを露にするわけにもいかず、ひとまず聞き返した。

「………伝言はわかったが、誰も来なかったらどうする気なんだ?
 はっきり言って、こんな怪しい誘いに乗るのはどう考えても『賢い行い』じゃあない」
「そのような奴らは勝手に殺し合いを続け、命を落としていくだけのこと………
 リスクを恐れ、脱出の可能性を自ら捨てる者にはどの道未来など無かろう」

ワムウはどうなんだ、と宮本は言い返そうとしてやめた。
彼らの正確な関係がわかっていない以上、下手に首を突っ込むべきではない。
それよりも、彼はカーズの言葉に『希望』を見出していた。
誰も来なくて構わないのなら自分も指定の場所に行く必要はない、すなわち自分は解放されるということなのだから。

(そうだ……首輪にしたってわざわざこんな怪物に頼る必要なんて、これっぽっちも存在しない………
 一旦従う振りをして、二度と会わないようにするのが『賢い行い』だ)


―――だが、宮本の目にそんな微かな希望の光が宿ったのをカーズは見逃さなかった。

「ふむ……きさまは今こう考えているな…『このまま逃げてしまおう』と………
 こちらとしても黙っていなくなられると、ちょっぴり困ったことになる………
 そうならぬよう、きさまに『儀式』をほどこしておくとしようか」
「………『儀式』? これ以上何を――ッ!!?」

カーズはいきなりその腕を宮本の胸にズボォと突っ込み、引き抜いたッ!
何が起こったのかわからない宮本が慌てて手をやるも、そこには傷ひとつない……
だが、一見何も無いというのが逆に不安ッ!!

394 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 11:37:25.65 ID:9O/IGBoB.net
「お、お前ッ! いま何をしたッ!!」
「なに、チョイときさまの心臓の動脈にリングを埋め込ませてもらっただけよ………『毒薬入り』のな」
「………ッ!!!?」

宮本は再び胸元に手をやるが、体の内部までは手を伸ばせぬため何の意味もなさない。
そんな彼を眺めつつカーズは言葉を続けた。

「そのリングは名づけて『死の結婚指輪』………元々我らの使っていた物だが、どうやら主催者がこの殺し合い用に作り変えた支給品らしい………
 およそ半日後にリングの外殻は溶け出して毒が体内にまわり、命を落とす………助かる方法はただひとつ、リングに対応した解毒剤を飲むことのみよ」

にわかには信じ難いことを平然と言ってのける。
勿論当事者の宮本にとってはシビれもあこがれもせず、ただ相手に問いただすのみ。

「げっ、解毒剤は………」
「欲しければ先ほどの伝言を参加者どもに伝え、きさま自身も指定した時間に会場の中心へと来るがよい………
 言っておくが、手術などで無理に取り出そうとすればあっという間に毒が流れ出す仕組みになっておる」
「……そ………んな!」
「なにをそんなに慌てておる? 毒といってもリングが溶け出すまではきさまの体に影響など一切及ぼさぬ………
 きさまが俺の言伝てを果たしさえすれば、何も問題など無い上に首輪も外せるかもしれん………悪いことなど何一つ無かろう?」

カーズの表情はどう見ても本気のそれではない。
相手はこちらが逆らえないことも、言いたいことも全て理解した上で自分を小馬鹿にしているのは明白だった。

「………………くそッ!」
(まただ………またしても、ぼくは誰かの手の上だ………これ以上の『最悪』なんて無いと思っていたのに………)

心の中で悲しみと怒りが爆発寸前までにもなるが結局どうしようもなく、宮本は悪態をつきつつ頷くしかなかった。
まずは現在時刻とタイムリミットを確認するべく、時計を取り出す。

「第四放送は確か、今夜12時………」
「時間が足りんということは無かろう? 暇ならば、きさまのやりたいことでもやっているがよい」
「………………えっ?」

それはカーズにしてみれば何気ない一言だったかもしれない。
しかし、その言葉は妙に深く宮本の胸へと突き刺さった。

(やりたいこと………ぼくが………?)

この殺し合いが始まってから、そのようなことは考えすらしなかった。
そんな余裕が無かったというのもあるが、ただ『死にたくない』という一心で行動し………いや、それすら違う。
思えば最初から自分で行動を決定し、進んだ場面など無い。


              ―――ただ他人の意志と行動に流され、そうでなければ逃げ隠れしていただけだ。


「ほう……その顔は知っているぞ………
 両手両足を失い、胸に穴が開いて死を待つばかりの人間と同じような表情だ………
 進退窮まりどうしていいかわからない、だが死にたくも無い……そんな人間のな………
 五体満足、しかもスタンド能力まで健在の者がそのような顔をするとはなァ〜〜〜?」

395 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 11:48:03.74 ID:9O/IGBoB.net
「………………」

カーズの皮肉も宮本の頭には入っていかず、沈黙が訪れる。
ただ虚ろな灰色を示すその目からは、先ほど宿った光は既に消え失せていた。
数分が経過したころだろうか………宮本は遂に了承の言葉を返し、立ち上がる。
―――ただし、ひどくやる気の感じられない声で。

「第四放送時に、会場の中央だったな………いいよ、やってやる」

信用したわけではない、というか今でもカーズを信じるなど狂気の沙汰だと思っているほどである。
しかし、彼には縋るものが全く無く………目の前に一本しかない『道』を歩かざるを得ないのだ。
カーズも彼の投げやりに近い口調を妙に思ったようだが、同時に深く気にするほどではないと考えているようだった。

「物分りが良いのか、ただのやけくそかは知らんがまあよい………
 ……そうそう、きさまがワムウという男に出会ったならば、このカーズの名と指輪のことを伝えるがよい。
 我らの間で指輪は再戦を望む儀式ゆえ、少なくともあやつに黙って殺されることはなくなるはずだ……
 きさまの場合再"戦"にはならんだろうが、指輪も本来の物と異なる以上細かいことはよかろう」
「ああ、それはどうも………」

相手の言葉にかなりいいかげんな返事をしつつ、ふらふらと歩き出す宮本。
……カーズの言うとおり、理由はどうあれ自分はカーズと別れた後、再度会わなければ命に関わる。
そうなるようにした張本人に一片たりとも良い感情など湧くはずも無かった。

そして宮本が歩き出した直後、彼の後ろでカーズもまた立ち上がり同じ方向へと進み出す。
同行するつもりかと思いきや、カーズはあっさり彼を追い抜いていった。
その背中に向かい、宮本は声をかける。

「………おまえは、どこへ行くんだ?」
「知れたこと………先ほどの仮説を確かめるため、参加者を生かしたまま首輪を破壊してみるのよ………
 さしあたっては、太陽が落ちる前に地下に残る吸血鬼や人間どもを探すといった所か………」

―――生きた参加者の首輪を無理やりはずそうとすると、どうなるか。
宮本は今までそのような事態に遭遇したことは無かったが、例え知っていたとしてもカーズには話さなかっただろう。
カーズが試行する過程で他の参加者………例えば仗助達を殺害しようが、逆に返り討ちに遭おうが自分に損は無い。
それに極端な話、結果がどちらでも―――解除に成功しようが、爆発して誰かが命を落とそうが構わなかった。


              何故ならば、この会場内に宮本の『味方』など一人も存在しないのだから。


先を行くカーズは振り返りも立ち止まりもしなかったが、一度だけ言った。

「きさまが何を考えているかなど知ったことではないが、死にたくないのならば進むしかあるまい?
 このカーズの言葉、ゆめゆめ忘れぬことだな………『エニグマの少年』」
「………ああ」
(『だが断る』とでも言えれば、少しはスカッとしたかもな………『あいつら』だったら、言えるんだろうか)

宮本は今、軽く絶望していた。
前方から顔を背け、まとまらぬ思考のままゆっくりと歩く。
その手の中にはカーズから渡されたままの壊れた首輪がひとつ―――自分達が首輪の解除に一歩踏み出した唯一の証。

396 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 11:58:22.62 ID:9O/IGBoB.net
(………………どうすればいいんだ)

話す最中に『恐怖のサイン』を見つけられないかと相手を観察してはみたのだが、やはり無駄だった。
カーズは自分の力と頭脳に絶対的な自信があるのか『恐怖』は勿論『不安』すら見せようとしないのだから。

―――結局何故自分はすぐ殺されずに済んだのか。
―――さっきまで奴が読んでいたのは何の本だったのか。
―――何故カーズが自分のスタンド名まで知っていたのか。

頭の中はどうでもいいことで溢れ、これから何処に向かいどうすべきなのか………先のことは、何一つ思い浮かばない。
宮本はほとんど『考えるのをやめていた』。

「やりたいこと………ぼくは―――」

第三者が見れば無防備極まりない姿であったが彼の前にはカーズ、後ろは禁止エリアにより実質行き止まりの一本道。
遭遇する誰かなど存在するわけも無く、ただただ歩き続けるだけでも危険は無かった。
そのうちカーズの後ろ姿も見えなくなり、さらに時間が経過してほとんど無意識のうちに遺跡から地上へと出たとき。


                        「―――『自由』になりたい」


宮本の口からはそんな言葉が出ていた。
その言葉を聞いた者は誰もおらず………それが意味の無い呟きなのか、確固たる意志の元で発せられた決意の言葉なのかは、彼自身にしかわからなかった。

ただ、これだけは言える。
彼がカーズの指示通りに動くのか、それとも他の方法を探してカーズを出し抜こうとするのか。
どちらを選ぶのかは少なくとも宮本の『自由』だろう。


【A-5 ピッツベルリナ山 神殿遺跡(地上) / 1日目 午後】

【宮本輝之輔】
[能力]:『エニグマ』
[時間軸]:仗助に本にされる直前
[状態]:恐怖、やや放心ぎみ、左耳たぶ欠損、心臓動脈に死の結婚指輪
[装備]:コルト・パイソン
[道具]:重ちーのウイスキー、壊れた首輪(SPW)
[思考・状況]
基本行動方針:???
0.???
1.カーズの指示に従う? カーズを出し抜く方法を考える?
2.体内にある『死の結婚指輪』をどうにかしたい

※この後どこに向かうかは次の書き手さんにお任せします。
※第二放送をしっかり聞いていません。覚えているのは152話『新・戦闘潮流』で見た知り合い(ワムウ、仗助、噴上ら)が呼ばれなかったことぐらいです。
※カーズから『第四放送時、会場の中央に来た者は首輪をはずしてやる』という伝言を受けました。
※死の結婚指輪を埋め込まれました。タイムリミットは2日目 黎明頃です。

397 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 12:10:05.59 ID:9O/IGBoB.net
#


「………………フン、あんな虫けらごときがどこまでやれるやら」

平然と呟く。
聞こえるはずが無いし、聞こえたとしても何も問題など無い。
先ほど出会った少年はカーズの中でそれほどちっぽけな存在でしかなかった。

主催者側の人間という戯言など最初から信じていなかった。
あの少年は『何も知らない』―――首輪を破壊して見せたときの反応からしても間違いないだろう。
いまや生かさず殺さず、使い捨ての『駒』というのがカーズにとっての少年―――名前すら知らない少年。
カーズは自分の知りたいことを聞いただけで、情報交換すらしていないのだから。

では何故カーズは少年のスタンドを『エニグマ』と言い当てられたのか?
その答えは先ほど彼が読んでいた一冊の本にあった。

(それにしても、このカーズともあろうものが迂闊であった………これほど有用なものを見逃していたとは………)

誰が想像できようか。
本の名は『スタンド大辞典』―――参加者全員のスタンド能力が記されているものであったことを。
天才といわれたカーズが乱戦による傷を癒すため、動かずにいた間にその内容を全て覚えきってしまったことを。

数千年以上『自信』を積み重ね『恐怖』など存在しないカーズにとって『エニグマ』は『謎』でもなんでもなく、単なる無力なスタンド。
だからこそ少年を脅しつけ、『駒』にするほうが自分にとって有用になると考えたのだった。
もし少年のスタンドが万が一にでも自分を倒しうる可能性を持っていたならば、カーズはためらい無く首輪を切り裂いていただろう。

そう、宮本の『殺されないためにあえてスタンドを明かす』という策は成功していたのである。
………彼が意図したのとは真逆の理由であったが。

(ヤツは地上を行くか………追うことはできんが指輪ははずせぬ、指定場所には必ずやってくるだろう………
 それまで生きていられれば、だがな)

後ろにあった少年の気配は先ほど離れていった……遺跡から地上に出たのだろうと判断する。
先程暗闇の中で見た少年の目はほとんど死んでいる、だがちょっぴり生きている程度の生気しか感じられないものだった。
だが少年と話すうちにカーズは確かに見た………自由を手にしたいという意志の片鱗が、目の奥に宿っているのを。
しかしだからといって、少年に期待しているわけでは全くなかった―――彼には『あらゆる恐怖を克服する』といったような先に進む意志が欠如していたのだから。

(最初見たときはそこらのドブねずみのほうが、よっぽどいい目をするのではないかと思ったが……場合によっては化けるやもしれん。
 とはいえ、くれてやれる命は精々半日………それで変われなければ文字通り虫けらのように殺されるのが関の山であろう………
 大して頭が回るとも思えんし、果たして首輪の解除などという甘い言葉で寄ってくるマヌケが何人見つかることやら………)

そもそも首輪の解除という話自体、参加者を釣る餌に過ぎない。
先ほどの乱戦後、誰かの攻撃か落石が命中でもしたのか………理由は不明だが、持っていた首輪が壊れているのを見て思いついた策略。
勿論、自分に限れば首輪の解除がどうでもいいというわけではないが。

カーズが簡単な『伝言』だけを命じ、助言すら碌に行わなかったのはそのためである。
戦闘に入る前だろうが殺される直前だろうが、少年が参加者に話せばいいだけならしくじる可能性は皆無。
その後少年がどうなろうと知ったことではない―――自分は伝言の結果、ノコノコとやってきた参加者を奇襲するだけだ。

398 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 12:21:32.85 ID:9O/IGBoB.net
「しかし、その前にやらねばならんことがある………」

このまま隠れていれば参加者は再び出会い、争い、勝手にその数を減らしてゆくだろう。
だがやはり、自分に屈辱を与えた者たちを許しておくわけには行かなかった。
頂点に立つものはひとり、自分以外に存在してはいけないのだから。

「待っておれ、吸血鬼に人間どもよ……このカーズが受けた屈辱、必ず味わわせてやる………
 スタンドとかいう妙な力にはもう、遅れはとらぬぞ………」

傷はほぼ完璧に癒えたし、相手の手の内も読めた。
太陽こそ沈んでいないものの、自分が敗北するなど万に一つも考えられない。

一見無表情に見える顔、その目の奥に静かな怒りを潜ませつつ、カーズは進んでいった―――


【A-4 南東(地下) / 1日目 午後】

【カーズ】
[能力]:『光の流法』
[時間軸]:二千年の眠りから目覚めた直後
[状態]:身体ダメージ(ほぼ完治)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×5、サヴェジガーデン一匹、首輪(由花子)
    ランダム支給品1〜5(アクセル・RO:1〜2/カーズ+由花子+億泰:0〜1)
    工具用品一式、コンビニ強盗のアーミーナイフ、地下地図、壊れた首輪×2(J・ガイル、億泰)
    スタンド大辞典
[思考・状況]
基本行動方針:柱の男と合流し、殺し合いの舞台から帰還。究極の生命となる。
0.参加者(特に承太郎、DIO、吉良)を探す。場合によっては首輪の破壊を試みる。
1.柱の男と合流。
2.エイジャの赤石の行方について調べる。
3.自分に屈辱を味わせたものたちを許しはしない。
4.第四放送時に会場の中央に赴き、集まった参加者を皆殺しにする。


※スタンド大辞典を読破しました。
 参加者が参戦時点で使用できるスタンドは名前、能力、外見(ビジョン)全てが頭の中に入っています。
 現時点の生き残りでスタンドと本体が一致しているのはティム、承太郎、DIO、吉良、宮本です。
※死の結婚指輪の解毒剤を持っているかどうかは不明です。
 (そもそも『解毒剤は自分が持っている』、『指示に従えば渡す』などとは一言も言っていません)

399 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 13:23:29.76 ID:9O/IGBoB.net
首輪の解析結果について
1.首輪は破壊『可』能。ただし壊すと内部で爆発が起こり、内部構造は『隠滅』される。
2.1の爆発で首輪そのもの(外殻)は壊れない(周囲への殺傷能力はほぼ皆無)→禁止エリア違反などによる参加者の始末は別の方法?
3.1、2は死者から外した首輪の場合であり、生存者の首輪についてはこの限りではない可能性がある。


【備考】
・生きている参加者の首輪を攻撃した場合は、攻撃された参加者の首が吹き飛びます(165話『BLOOD PROUD』参照)
・死の結婚指輪がカーズ、エシディシ、ワムウのうち誰の物かは次回以降の書き手さんにお任せします。
 ちなみにカーズは誰の指輪か知っています。


【支給品】

死の結婚指輪(第二部)
元は山岸由花子の支給品。

柱の男が誰かと再試合を望むとき、相手が逃げたままでいられないように埋め込む「儀式」のリング。
リングの中には毒薬が入っており、外殻が溶け出す33日以内に埋め込んだ張本人を倒して解毒剤を入手しなければ助からない。
手術などで取り出すのは(人間の外科医学では)不可能。
毒の種類はひとりひとり違うので複数埋め込まれたら全員の解毒剤を飲む必要がある。

ロワでは33日だと長すぎるため、外殻が溶け出すのは12時間後になっている。


スタンド大辞典(現実)
元は虹村億泰の支給品。

ジョジョロワ3rd参加者が参戦時点で持つスタンドの名前、能力、外見(ビジョン)が書かれている本。
ただし本体名は一切記されていないため、誰がどのスタンドを持っているかはわからない。
イメージとしてはコミックスの合間にあるスタンド紹介のページから本体名だけ消した感じ。

400 :窮鼠猫を噛めず ◆LvAk1Ki9I. :2014/10/01(水) 15:33:36.57 ID:9O/IGBoB.net
以上で投下終了です。
本投下が1ヶ月以上遅れたことでご迷惑をおかけした事をお詫び申し上げます。

仮投下からは指摘にあったカーズの備考について追加したくらいで大きな変更はありません。

首輪に関して自分なりの案は一応ありますが、一人が一話で全部決めてしまうのも……
ということで仮投下スレ>>883氏の言うように、まだどうとでもなる程度の考察にしたつもりです。

>ジョジョベラーのアレ
大元のネタとしてはYESです。勿論アレほど詳しくはありませんが。
読む人の中には持っていない方もいると思われるため、説明文にはコミックス云々としてあります。

それでは誤字脱字、その他ご意見などありましたらよろしくお願いいたします。

401 :創る名無しに見る名無し:2014/10/06(月) 22:11:36.11 ID:Cs30udm2.net
遅くなったが投下乙。
宮本は頭いいんだか悪いんだかホント難しい立ち位置だなあw
そしてブレないカーズ様は流石です。
結婚指輪の設定も問題なさそうですし、首輪の推測もどれも理にかなってる。
確かに一人で突っ走るにはちょっと、かもですがみんなで議論しながら首輪の謎に迫りたいものですねぇ。

402 :創る名無しに見る名無し:2014/10/12(日) 20:43:19.37 ID:nVW3uIDI.net
とんでもなく出遅れたけど投下乙です。

・されど聖なるものは罪と踊る
4・5部組は主にキャラの心境が、教会側は遺体という新要素追加による立ち位置がそれぞれ新しい展開を迎えていてこれから彼らがどうなっていくのかとドキドキしました。
ムーロロ達はDIOの所に向かっているが果たしてどうなる?個人的には女の子組(千帆・ルーシー)を応援したい

・窮鼠猫を噛めず
カーズ様ここでスタンド知識を……!スタンド持ちには痛いこの知識面強化、そして宮本は変わらず翻弄されるままだなあ
首輪の謎にもせまりつつありなんとなく終盤の入口に差し掛かっているような気がします。

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