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ロスト・スペラー 12

1 :創る名無しに見る名無し:2015/09/17(木) 19:54:10.42 ID:K+Pc126m.net
今から500年前まで、魔法とは一部の魔法使いだけの物であった。
その事を憂いた『偉大なる魔導師<グランド・マージ>』は、誰でも簡単に魔法が扱えるよう、
『共通魔法<コモン・スペル>』を創り出した。
それは魔法を科学する事。魔法を種類・威力・用途毎に体系付けて細分化し、『呪文<スペル>』を唱える、
或いは描く事で使用可能にする、画期的な発明。
グランド・マージは一生を懸けて、世界中の魔法に呪文を与えるという膨大な作業を成し遂げた。
その偉業に感銘を受けた多くの魔導師が、共通魔法を世界中に広め、現在の魔法文明社会がある。

『失われた呪文<ロスト・スペル>』とは、魔法科学が発展して行く過程で失われてしまった呪文を言う。
世界を滅ぼす程の威力を持つ魔法、自然界の法則を乱す虞のある魔法……。
それ等は『禁呪<フォビドゥン・スペル>』として、過去の『魔法大戦<スクランブル・オーバー>』以降、封印された。
大戦の跡地には、禁呪クラスの『失われた呪文』が、数多の魔法使いと共に眠っている。
忌まわしき戦いの記憶を封じた西の果てを、人々は『禁断の地』と名付けた。


ロスト・スペラー(lost speller):@失われた呪文を知る者。A失われた呪文の研究者。
B(俗)現在では使われなくなった呪文を愛用する、懐古趣味の者。偏屈者。

389 :創る名無しに見る名無し:2016/01/16(土) 19:36:18.15 ID:MGMRLibn.net
ある日の夕方、ラントロックは独りティナーの街を彷徨きながら、今日の「宿」を探していた。
街角で道行く人を物色していた彼は、不意に横合いから声を掛けられる。

 「君、そんな所で何をしている?」

大人の男の声に、ラントロックは身を竦めて振り返った。
男はラントロックの顔を認めて、笑顔を見せる。

 「ラント!
  ラントロック・アイスロンだよな?」

覚えが無かったラントロックは、馴れ馴れしい態度の男を警戒した。

 「違う、俺はアイスロンじゃない……」

 「……違うのか?」

 「俺はバーティフューラー・トロウィヤウィッチ・ラントロック。
  アンタは?」

男の正体は不明だが、纏わり付かれたくないと、彼は魅了を試みる。
妖しい輝きを持つ瞳の、不可思議な魔力から逃れられた者は――結構多い。
父に、母に、義姉に……。
効かない者には効かないのだ
ラントロックは男と見詰め合っている内に、段々自信が無くなって来た。

390 :創る名無しに見る名無し:2016/01/16(土) 19:38:20.72 ID:MGMRLibn.net
男の瞳は青く、自信に満ちている。
年齢は30〜40才台。
背丈は1身より高く、未成熟なラントロックと比較して、実に堂々とした佇まい。
ラントロックが弱気になると、男は急に顔を綻ばせる。

 「やっぱり、ラントじゃないか!
  俺はコバルトゥス、――コバルトゥス・ギーダフィ。
  君とは会った事があるんだけどな。
  未だ小さい頃だったから、忘れちゃったかな?
  こんな所で何を?
  お父さんは?」

 「関係無いだろ」

ラントロックは外方を向いて吐き捨てるも、コバルトゥスと名乗った男は離れようとしなかった。

 「関係無い事は無いさ。
  知り合いの子が街中で1人立ち尽くしているのに。
  迷子になったとか?」

心配するコバルトゥスが鬱陶しく、ラントロックは目を合わせない儘に答える。

 「……何時までも親の世話にはならない」

コバルトゥスは目を瞬かせ、真顔で問い掛けた。

 「黙って親元を離れたんじゃないだろうな?
  ラント……今、何歳(いくつ)だ?
  15にもなってないだろう。
  その年齢(とし)で独立しようってのか?」

 「もう1人で暮らせてるんだ。
  他人に心配される筋合いは無い」

彼は真剣だったが、ラントロックは強気に突っ撥ねた。

391 :創る名無しに見る名無し:2016/01/17(日) 17:43:01.17 ID:OodUmn1G.net
コバルトゥスは益々驚き、ラントロックを問い詰める。

 「1人で、どうやって?
  金も物も要るだろうに」

 「煩いな。
  こうやってだよ」

苛立ちを募らせたラントロックは、偶々近くを歩いていた女性に声を掛けた。

 「済みません、お姉さん」

彼は強引に手を引いて女性を止めると、瞳を覗き込む。

 「今晩、泊めて欲しいんですけど」

 「えっ、何……?
  貴方誰?
  そんな事、急に――……あ、あぁ、うん、良いよ」

行き成りの事に、女性は大いに戸惑ったが、暫くラントロックと目を合わせていると、
瞳から意志の輝きが失せて行き、やがて力無く頷く。
コバルトゥスは驚愕して、ラントロックを女性から引き離す。

 「止めろ、そんな事に能力(ちから)を使うな」

そして、女性の前で指を鳴らし、魔力の流れを断ち切った。
正気に返った彼女は、困惑してコバルトゥスに問い掛ける。

 「あ、あの、私……?」

 「ああ、済みません、この子が変な事を言って」

コバルトゥスはラントロックを押さえ付け、女性に愛想笑いした。
そこで彼女は、ラントロックが「泊めて欲しい」と頼んで来た事を思い出す。

 「あ、あぁ……。
  はい、失礼します」

女性は気味悪がって、足早に去って行った。

392 :創る名無しに見る名無し:2016/01/17(日) 17:46:02.86 ID:OodUmn1G.net
ラントロックは不満気にコバルトゥスを睨む。

 「邪魔すんなよ、小父さん」

コバルトゥスはラントロックを睨み返した後、不敵な笑みを浮かべて言った。

 「魔法を使うのは卑怯だろう」

 「俺はバーティフューラーの一族だ。
  魅了の魔法使いが、魅了の魔法を使って、何が悪いんだよ」

小生意気なラントロックを、コバルトゥスは鼻で笑う。

 「何を偉そうに。
  大方魅了の魔法が無けりゃ、女を落とせる自信が無いんだろう。
  魔法で女を操るなんざ、無粋過ぎる、下卑た野郎のする事だ。
  良いか、女を落とすってのは……。
  今から手本を見せてやる」

そう宣言すると、彼は街行く女性を物色し始めた。
ある女性に狙いを定めたコバルトゥスは、ラントロックを置いて、口説きに行く。
コバルトゥスに声を掛けられた女性は、初め戸惑っていたが、何度かの遣り取りの後、
彼に肩を抱かれて、ラントロックの元まで連れて来られた。
コバルトゥスは得意気に、ラントロックに言う。

 「俺も若い頃は、1人で方々を旅した物さ。
  お前とは年季が違う」

女性はラントロックを指して、コバルトゥスに尋ねた。

 「この子、誰?
  息子さん?」

年齢的に、親子でも不思議は無いのだが、コバルトゥスは笑って否定する。

 「ハハハ、冗談は止してくれ。
  そうだな、『後輩』って所かなー。
  序でだから、こいつも泊めてやってくれないか?
  嫌なら無理にとは言わないけど、独り置いてくのは可哀想だ」

 「んーー、別に良いけど?」

女性は少し悩む素振りを見せた後、快諾した。
ラントロックは言葉を失い、立ち尽くす。
彼は常識破りな性格のコバルトゥスに呆れるのではなく、寧ろ感心していた。

393 :創る名無しに見る名無し:2016/01/17(日) 17:49:51.12 ID:OodUmn1G.net
コバルトゥスが口説いた女性は、B&Bのオーナーだった。
彼女はコバルトゥスとラントロックを、自分が経営する宿泊施設に案内する。
単なる客として扱われているのではと、ラントロックは疑ったが、コバルトゥスと彼女の間で、
金銭を遣り取りする様子は無い。
しかし、どうも初対面にしては、お互いに馴れている。
ラントロックはコバルトゥスに尋ねる。

 「小父さん、もしかして、あの人と知り合いだったの?」

 「ああ、そうだよ。
  今頃気付いたのか」

彼が浅り種を明かしたので、ラントロックは驚いた。

 「口説くとか関係無いじゃん」

 「馬鹿だな。
  最初から知り合いの人間なんて居ない。
  知り合う為には、先ず口説かないと行けないだろう」

コバルトゥスの言い訳に、ラントロックは狡いと思う物の、嫌悪感は抱かない。
逆に、その捉え所の無い、飄々とした態度を羨ましく思っていた。
ラントロックは今までコバルトゥスの様な男と会った事が無かった。

 「旅には宿が要る。
  だから、あちこちで知り合いを作っておくんだ。
  俺は一度会った女の顔は忘れない」

 「……小父さん、俺を連れ戻すんじゃないの?」

 「出て行ったからには、理由があるんだろう?
  無理に連れ戻したって、又出て行くだけじゃないか」

ラントロックは自分に理解を示してくれる、大人の男の存在が嬉しかった。

394 :創る名無しに見る名無し:2016/01/18(月) 20:42:26.86 ID:9q/5fRaq.net
その後、ラントロックはとバルトゥスは、1つの部屋に通された。

 「相部屋か……」

コバルトゥスが不満気に零すと、オーナーは胸の前で両腕を組み、溜め息を吐く。

 「只で泊めて貰う分際で、贅沢言えると思ってるの?」

 「そうだけどさ、彼は年頃だから」

コバルトゥスはラントロックを指して言ったが、オーナーは取り合わない。

 「嫌なら良いのよ?」

オーナーは2人を見て、反応を待つ。
ラントロックは相部屋を受け入れた。

 「僕は構いませんよ」

 「はい、決まり」

オーナーは部屋の鍵をコバルトゥスに預けると、その場を去る。
本当に口説いたのかなと、ラントロックは疑いの眼差しで、コバルトゥスを見詰めた。
彼の視線に気付いたコバルトゥスは、笑って誤魔化した。

 「……好き嫌いでは、どうにもならない事があるんだ。
  金にルーズな女は信用ならないから、この位で良いんだよ」

そう嘯いて、コバルトゥスは部屋で寛ぎ始める。

395 :創る名無しに見る名無し:2016/01/18(月) 20:45:43.64 ID:9q/5fRaq.net
暫くして、コバルトゥスは自らラントロックに尋ねた。

 「ラント、どうして独立しようなんて思ったんだ?
  何か嫌な事でもあったのか」

ラントロックは答える前に、コバルトゥスに尋ね返す。

 「小父さんは、何者なのさ。
  親父の知り合い?」

コバルトゥスは素直に答えた。

 「そうだな、君の親父さんには世話になった」

 「俺、小父さんの事、全然知らないんだけど。
  それって『公平<フェア>』じゃないよね。
  何してるの?
  普段の生活とか、仕事とか」

 「言わなかったか?
  各地を旅していると。
  俺は精霊魔法使いで、風来の冒険者」

 「冒険者!?
  精霊魔法使い!?」

聞き慣れない2つの単語に、ラントロックは驚嘆と好奇心の混じった、頓狂な声を上げる。

 「声が大きい。
  一応、精霊魔法使いって事は秘密なんだ」

コバルトゥスに注意され、ラントロックは慌てて口を塞いだ。

396 :創る名無しに見る名無し:2016/01/18(月) 20:51:18.11 ID:9q/5fRaq.net
共通魔法は精霊魔法の亜種の様な物だが、共通魔法使いは精霊の存在を認めず、
精霊魔法使いは共通魔法社会と、一定の距離を置いている。
そうした裏事情を知らないラントロックは、共通魔法以外の魔法は、一様に外道魔法だと思っていた。
彼はコバルトゥスに対して、微かな同属意識を持つ。

 「小父さん、外道魔法使い?」

 「外道と言えば、外道かな。
  共通魔法を学ぶ気は無いし。
  それより、俺の質問には答えてくれない?」

コバルトゥスの物言いに、ラントロックは何の事だと目を丸くしたが、先に彼が問い掛けた内容を、
思い出して俯いた。

 「どうして独立しようと思った?
  言いたくないか?」

コバルトゥスが改めて尋ねると、ラントロックは小声で答える。

 「……嫌だったんだ。
  親父の下で暮らすのが」

 「そりゃ又どうして?
  そんなに悪い親じゃないだろう?」

 「親父の所じゃ、何でも親父の物なんだ。
  俺は親父の物じゃない」

 「反抗期か?」

コバルトゥスの言う通り、ラントロックの父親への対抗心は、反抗期の一言で片付くのだが、
それをラントロックは嫌った。
自分の心の働きが、誰にでもある単なる成長過程の生理現象に過ぎないと、認めたくなかったのだ。
ラントロックは何も答えず、不貞寝する。

397 :創る名無しに見る名無し:2016/01/18(月) 21:01:27.00 ID:9q/5fRaq.net
だが、コバルトゥスは尚も、彼に話し掛けるのを止めなかった。

 「お父さん、心配するぞ」

魔法で人を魅了し続けていれば、何れ魔導師会に目を付けられるが、ラントロックは事態を、
甘く見ていた。

 「知らないよ。
  俺は俺で、やって行ける。
  小父さんだって、若い頃は1人で旅してたって――」

 「俺には精霊魔法使いの使命があったからな。
  それに……親元で暮らせる物なら、暮らしていたかったさ」

 「追い出されたの?」

ラントロックが小馬鹿にした様に尋ねると、コバルトゥスは真顔で答えた。

 「俺の両親は早死にした」

ラントロックは気不味くなり、沈黙する。
コバルトゥスは静かな声で、彼を諭した。

 「親は大事にしろよ。
  後悔しない様にな」

暫く間を置いて、ラントロックはコバルトゥスに告白した。

 「……母さんは死んだ」

 「知っている」

コバルトゥスは短く答えた。
諄く言わない分、深い含蓄がある様に、ラントロックには思われる。
コバルトゥスはラントロックの父と知り合いなのだから、同じ様に彼の母の事を知っていても、
不思議は無い。
父とは違うコバルトゥスに対して、ラントロックは一方的なシンパシーを感じていた。
自分と彼には共通点が多く、解り合えると思った。

398 :創る名無しに見る名無し:2016/01/19(火) 20:12:33.78 ID:vb+uDNSX.net
コバルトゥスの前で、ラントロックは父を腐す。

 「親父は薄情なんだ。
  母さんが死んでも泣かなかった」

 「そうなのか……」

 「魅了の魔法も『使うな』って。
  母さんの魔法なのに」

ラントロックの言動の端々から、母への愛執が感じられる。
それをコバルトゥスは窘めもせず、只聞いていた。

 「小父さんも解るでしょ?
  自分の魔法を使うなって言われたら……」

 「そうだな……。
  自分の魔法だからな……」

実の所、コバルトゥスはラントロックの話を聞いている内に、別の事を考え始めていた。
それは両親を失くした彼を引き取った、剣の師でもあるゲントレンの事。
精霊魔法使いのコバルトゥスは己の使命を果たす為に、何時か旅立つのだろうと、
ゲントレンは理解しており、万一の時には魔法が使えずとも戦える様にと、剣技を教えた。
その甲斐あって、コバルトゥスは短剣術を身に付けたが……、

 (ゲンさん、実の親じゃないけど……。
  俺も結構な不孝者だったな……)

修行の日々に厭きて出奔した事を、今頃になって彼は悪いと思った。

399 :創る名無しに見る名無し:2016/01/19(火) 20:14:16.09 ID:vb+uDNSX.net
又少し間を置いて、コバルトゥスはラントロックに尋ねた。

 「お父さん、お母さんの話は分かった。
  それで、お姉さんは?」

ラントロックは虚を衝かれて、目が点になる。

 「お姉さん……?」

 「姉が居るだろう?
  お姉さんの事は、どう思ってるんだ?」

 「いや、義姉さんは……別に……」

視線を逸らした彼は、明らかに動揺していた。
父親に対抗心を抱く理由の一つに、姉の存在があった事は否定出来ないのだ。
分かり易い反応に、コバルトゥスは察した。

 「『別に』か……。
  フーム」

その場では深く追及せず、彼は意味深に唸る。
ラントロックは内心を隠す様に、コバルトゥスに背を向けた。
コバルトゥスの方も、それ以上は話を続けない。

 (中々複雑そうだな)

彼は知らん振りして、その後は「家族の話」には一切触れなかった。

400 :創る名無しに見る名無し:2016/01/19(火) 20:15:25.71 ID:vb+uDNSX.net
翌朝、ラントロックとコバルトゥスは共にB&Bを出て別れる。
別れ際に、コバルトゥスはラントロックに声を掛けた。

 「俺は行くけど、大丈夫か?
  悪い奴等には気を付けろよ、ラント。
  家族を悲しませるんじゃないぞ」

 「……分かってるよ」

忠告には倦んざりしながらも、ラントロックは引き止められない事が意外だった。

 「じゃあな、ラント。
  元気でな」

コバルトゥスは片手を額に添え、軽い敬礼の仕草をする。
自分も何か言わなければと、ラントロックは懸命に台詞を考えた。

 「小父さんも気を付けて、お元気で」

 「ははは、有り難う」

彼の不器用な気遣いが可笑しくて、コバルトゥスは爽やかな笑顔で応える。
ラントロックは据わりの悪さを感じながらも、不快な気分ではなく、どこか寂しく思っていた。
――ラントロックの姿が見えなくなった後で、コバルトゥスは真顔に戻る。

 (さて、どうした物かな?
  俺は先輩みたいに、人の架け橋になれるだろうか……)

内心では、どうやって父子の仲を取り持とうかと、思案していた。

401 :創る名無しに見る名無し:2016/01/20(水) 19:31:07.94 ID:y8VgrW6Y.net
楽園島


カターナ地方の小島フィルダースにて


カターナ地方周辺小島群から、更に南に行った所に、共通魔法社会とは隔絶した島がある。
その名はフィルダース島。
島民の人口は約700。
年中気温は高目だが、荒天が少なく、絶えず穏やかな風が吹く、過ごし易い気候。
天然の果物が豊富で、どれも手の届く所にあり、取り放題。
近海には魚も多く、釣りをすれば入れ食い状態。
喉が渇けば清らかな川の水を飲み、腹が減れば、その辺の物を取って食べる。
特に懸命に働かなくても生きて行ける、通称は楽園島。
共通魔法社会に影響されず、独自の文化を持っている島は珍しくないが、その殆どは、
幾らか近代的な思想や文明が持ち込まれている。
しかし、フィルダース島だけは「全く」影響を受けなかった。

402 :創る名無しに見る名無し:2016/01/20(水) 19:36:57.78 ID:y8VgrW6Y.net
フィルダース島民は言語を持たず、身振り手振りのみで遣り取りをする。
島民の性格は怠惰であり、熱情が無く、1日の大半を寝て過ごす。
島民は他の多くの地域で行われている、農耕や牧畜をしない。
鍛冶や狩猟もしない。
大陸や周辺小島群との交易もしない。
大きく葉を広げる樹木の下で暮らす為、家を持たないので、大工も要らない。
日常生活には不便が多いが、近代文明を取り入れようとする気配も無い。
島の集落は殆どが河口付近にあり、島の中心部には誰も住まない。
それは「不便だから」との事らしいので、閉口するより他に無い。
進化や進歩と言った物は、フィルダース島民には無縁なのだ。
何も彼も偏に、島には天敵も天災も無いが故。
正に楽園。
だが、外から島を訪問した人間は、余りに何も無い生活に耐えられず、島を離れると言う。
この島は文化保護の名目で、有らゆる物の持ち込みが制限されているのだ。
それでも偶に、楽園での生活が気に入って、永住する者が現れる。
文明社会に疲れたら、楽園島に行ってみよう。
嘘か真か、ここには現代人が忘れて久しい、本物の「豊かさ」があると言う……。

403 :創る名無しに見る名無し:2016/01/20(水) 19:48:23.73 ID:y8VgrW6Y.net
古代魔法研究所に所属している、魔導師サティ・クゥワーヴァと、彼女の護衛兼監視役の、
執行者ジラ・アルベラ・レバルトは、小型船に乗ってフィルダース島へ向かう所だった。
海には凶悪な生物が多数棲息しており、滅多に船は出せないのだが、この時は偶々運が良かった。
カターナ地方周辺の海棲生物は、縄張りを周期的に変更する習性があり、これによって、
異種或いは同種間の不必要な衝突を避けている。
その隙間を縫って航行する事で、危険と言われている海域へも出掛けられるのだ。
周期が突然変わる事もあるので、絶対に安全と言う訳ではないのだが……。
お負けに航行期間が限られているので、楽園島に滞在出来るのは数日だけ。
今回は3日間。
一度時期を逃すと、何月も滞在する破目になる。
それでも楽園島に行きたがる者は絶えない。
しかし、楽園島に行けるのは、一度に10人程度。
多数の希望者にも拘らず、魔導師会が規制を掛けている。
これも文化保護が理由と言う。
サティは研究の名目で、ジラと共に特別な許可を受けて、フィルダース島行きの船に乗っていた。
彼女は展望室の椅子の上で、島での注意事項が書かれた小冊子を熱心に読み込んでいる。

 「サティ、そろそろ島に着くよ」

 「……ええ、はい」

ジラが声を掛けると、サティは振り向きもせず、生返事をする。
彼女は呆れて問い掛けた。

 「何回読めば気が済むの?」

 「島で無礼を働く事になっては行けませんから。
  ジラさんは内容を全部記憶しているのですか?」

 「してないけど、私は船酔いしたくないから。
  サティは平気――みたいだね」

サティは船上でも、何時も通り浮遊している。
船体の揺れに合わせて、波間に浮かぶ様に、微かに上下しながら。
これも酔いそうな物だが、サティは慣れているのか、澄ました顔。
船に乗らなくても、飛んで島に行けるのではと、ジラは感心するやら呆れるやら。

404 :創る名無しに見る名無し:2016/01/21(木) 19:27:39.07 ID:ibfDhBG0.net
船が島に着くと、2人は直ぐに上陸した。
日差しは強い物の、穏やかな風が絶えず吹いているので、暑過ぎると言う事は無い。
極一般的にイメージされる、南国の島その物。
そこらで疎らに島民の姿が見られる。
島民と擦れ違う時は、無言で会釈。
誰も彼も裸に近い格好をしているので、サティとジラは目の遣り場に困った。
中には、どこも全く隠そうともしない者もある。
島民の様子を見ている内に、この島は実は無人島なのではと、サティとジラは思い始めた。
島民は人語を話さないし、他のコミュニケーションも必要最小限しか取らない。
彼女達と共に船で来た、他の訪問客が話し掛けても、首を傾げるだけ。
見た目が人に似ているに過ぎない、別の生き物ではないかと……。
何故、そんな事を思うのだろうか?
文化が違うから?
サティは溜め息を吐く。

 「この島では、人から話を聞く事は出来なさそうですね……。
  集団の『長』と言う概念も持たない様ですし……。
  島の人々は一体何の為に生きているんでしょう?」

その疑問は余りに失礼ではと、ジラが咎めた。

 「そこまで言わなくても。
  普通の人は、普通に生きるだけで、色々大変なのに」

 「そうでしょうか?
  少なくとも、この島では……」

サティが全て言わずとも、ジラには彼女の考えが伝わった。
この島では誰も生きるのに苦労しているとは思えない。

405 :創る名無しに見る名無し:2016/01/21(木) 19:31:07.70 ID:ibfDhBG0.net
サティは港で船長に島の話を聞く事にした。
他に、真面に島の話が出来る人は、居ないと思ったのだ。

 「船長、お話を伺っても宜しいでしょうか?」

サティの問い掛けに、船長は姿勢を正して応じる。

 「何でしょう、魔導師さん」

 「この島の事を、教えて欲しいのですが……」

 「私の知っている範囲で良ければ、お答えします」

快諾した船長に、サティは早速問い掛けた。

 「有り難う御座います。
  では先ず……、船長は何時から、この島への航路を担当しているのですか?」

 「今年で3年目になります」

 「意外に最近ですね」

立派な髭を蓄えた、50代前後の船長の風貌から、結構な実績がある物と彼女は予想していたが、
どうやら違う様子。
船長は少し顔を顰めた。

 「前任の船長の船が海獣に襲われて沈んだので、仕方無く私が後任を引き受けたのです。
  前任の船長とは知り合いだったので」

 「それは……失礼しました。
  お悔やみ申し上げます」

サティが謝ると、船長は一層不快そうな顔をする。

 「死んだ訳ではないのですが……」

 「す、済みません」

早合点だったとサティは赤面した。

406 :創る名無しに見る名無し:2016/01/21(木) 19:35:50.98 ID:ibfDhBG0.net
船長は小さく笑うと、遠い目をして零す。

 「いや、死んだも同然か……。
  貴女の言う通り、たった3年ですから、この島の事には、そんなに詳しい訳じゃありません。
  だけど――……」

 「だけど?」

 「この島を、私は好きになれそうに無い……。
  嫌な所ですよ」

彼は態々言い直した。
サティが理由を問う前に、船長は背を向けて、船に戻ってしまう。
意味深な態度に、サティが首を傾げていると、話を聞いていた乗組員が、彼女に声を掛ける。

 「魔導師さん、前任の船長は、この島に住んでるんです」

サティは吃驚して、尋ねた。

 「海に投げ出されて、流れ着いたのですか?」

 「多分、そうなんでしょう。
  運良く……と言って良いのかは分かりませんが……」

素直に喜べない事情でもあるのかと、訝る彼女を見て、乗組員は苦笑いした。

 「お解りでしょう。
  『この島の住民になる』って事が、どう言う意味か……」

サティは愕然として、目を瞬かせる。
乗組員は俯いた。

 「1人だけ生き残って……。
  お喋り野郎は嫌われますかね」

そう最後に呟いて、彼は船長の後を追う様に去って行く。

407 :創る名無しに見る名無し:2016/01/22(金) 20:23:26.60 ID:6iG/XIGg.net
後で、サティは再び船長に話を聞きに行ったが、結局大した事は分からなかった。
徒に時だけが過ぎて、夕方を迎える。
フィルダース島に滞在する期間は3日。
3日経たなければ、唯一大陸に帰る事は出来ない。
しかし、ここは楽園島。
誰も家を持たないので、当然宿も無い。
船員達は船で眠れるが、乗客は適当な木陰を見付けて、そこで休むのだ。
丸で原始生活――否、原始人でも未だ家を建てる等して、文明的な生活をするだろう。
やや高目の気温は夜も然程変わらず、島民は衣服を必要としない。
寝ている間に人を襲う動物や虫も居ない。
サティとジラは他の乗客達と同じく、落ち着かない気分で、星空の下、一夜を過ごした。
翌朝、サティは明るさを感じて、目を覚ます。
未だ辺りは薄暗く、空の片側だけ淡い赤に明るんでいる、薄明の時間帯。
島民も他の訪問者達も、今は夢の中なのか、人っ子一人出歩いていない。
小腹が空いたと思ってサティが辺りを見ると、少し離れた所に『野苺<ワイルド・ベリー>』が目に入る。
1つ摘まんで食べると、仄かな甘味と程好い酸味が、口の中に広がる。
何気無く視線を上に遣ると、『桃<ファルー>』の仲間の木が小さな実を付けていた。
こちらも、よく熟れていて甘い。
傍の小川を流れる冷水は澄んで清く、煮沸消毒せずとも害は無い。
夢でも見ているのかと、サティは自分を疑った。
余りに都合が好くて、気味が悪かった。

 (だからこそ、楽園島なのか……)

これが幻覚でなければ良いがと、サティは独り膝を抱えて、昇る太陽を見届けた。

408 :創る名無しに見る名無し:2016/01/22(金) 20:26:44.51 ID:6iG/XIGg.net
サティから遅れる事、数角……。
南東の時が近くなって漸く、ジラが目を覚ます。
彼女は大きな伸びをした後、サティに挨拶した。

 「んーー、お早う、サティ」

 「お早う御座います、ジラさん。
  随分遅い目覚めですね」

呆れた風に言うサティを余所に、ジラは欠伸をして、寝惚け眼で乱れた髪を弄る。

 「何故だか、よく眠れちゃって」

彼女は目覚ましに、小川で顔を洗いに行った。
サティの元に戻って来たジラは、徐に魔導師のローブを脱ぎ始める。
下には服を着ているのだが、サティは吃驚した。

 「な、何をしているんですか、ジラさん!」

 「いや、暑いからさ……。
  島に居る間はローブ着なくても良いかなって。
  周りも皆、薄着だし」

ジラは辺りを歩いている人々に目を遣った。
島民だけでなく、サティやジラと共に来た訪問者達も、軽装で彷徨いている。

 「身分を明らかにする為に、公務中の魔導師は『制服』の着用を義務付けられています。
  私の護衛は仕事ではないのですか?」

 「良いじゃない、固い事言わないで」

平気で薄着になるジラに、グラマー地方民のサティは閉口した。

409 :創る名無しに見る名無し:2016/01/22(金) 20:33:53.39 ID:6iG/XIGg.net
その辺で取った果物を、腕に抱えて食べながら、ジラは大きな溜め息を吐く。

 「はぁ……、腑抜けになっちゃいそう」

 「もう十分腑抜けていますよ」

 「あはは、確かに。
  楽園島ねー。
  永住するとなると退屈だろうけど、偶の息抜きには丁度良いかな」

呑気なジラの横で、サティは神妙な面持ち。

 「どうしたの、サティ?
  お腹空いた?
  食べる?」

ジラが桃の実を差し出しながら尋ねた所、サティは柔(やんわ)りと受け取りを拒否して、
逆に尋ね返した。

 「ジラさんは、おかしいと思いませんか?」

 「何が?」

 「この島には子供が居ません。
  人口約700の孤島ですよ?
  これは異常です」

島民の平均寿命が70歳前後だとして、0〜70歳まで各年齢10人弱、島に住んでいる計算。
多少の偏りや差異はあるにしても、少なくとも100人は子供が居る筈。

 「家の中に――って、この島には家が無いか……。
  実は限界集落?」

サティの指摘で、ジラも不審に思った。
全く子供の姿が見えない理由とは?

410 :創る名無しに見る名無し:2016/01/23(土) 19:40:55.61 ID:EHn/oG0s.net
子供が居ない他に、もう1つサティは気付いた事がある。

 「それと、この島の人達……人種が違います。
  単一の民族ではなく、どうやら外からの人が――」

ジラは頷く。

 「あー、それは思った。
  結構、島の外から移住する人が多いみたい?
  カターナ地方だけじゃなくて、他の地方からも」

彼女の考えを、サティは否定した。

 「そうではありません。
  この島は多分、移民だけの島」

 「飛躍し過ぎじゃない?
  若い人は島が退屈で出て行っただけとか……」

 「言葉も喋れないのに、月に数回しか来ない船に乗って島から出て?
  とても真面な社会生活が送れるとは思えません」

ジラは沈黙する。
では、この島の人達は単に日々を安楽に過ごしていると言うのか……。
仕事をしている所か、趣味に没頭している様子も無い。
食事と睡眠だけをして、他には何もせず?
サティはジラに言う。

 「船長が、この島を『嫌な所』だと言った意味、私には解ります」

眩い日差しと、穏やかな風、心地の好い空気とは裏腹に、不気味な物が潜んでいる。
それをサティは強く感じていた。

411 :創る名無しに見る名無し:2016/01/23(土) 19:44:13.06 ID:EHn/oG0s.net
この不気味な物の根源を突き止めようと、サティは考えた。
フィルダース島は自然に恵まれた豊かな土地ながら、余りに不自然。
勝手に育ち、撓わに実る果樹には、害虫が付かない。
人に集る、鬱陶しい蝿や蚊が存在しないと言うのも、異常だ。
魔力の流れに、特に変わった所は無いが、それは人が住んでいる河口付近だけの話。
島の中央の森は調べていない。
サティはジラに呼び掛けた。

 「島の森を調べたいと思います。
  ジラさん、付いて来て下さい」

所が、ジラは明から様に嫌な顔をする。

 「ええー、森の中に入るの?
  虫とか出そう……」

 「魔導師のローブを着ていれば、大丈夫でしょう。
  正か、そんな軽装で行く気ではありませんよね?」

ジラの服装はカミシアに、レギンスのみ。
靴も脱いで裸足だ。
彼女は自身の魔法色素で薄く紫掛かった、美しい黒髪を掻き上げ、気怠そうに言う。

 「ローブ着たら暑いし……。
  それにさ、『小冊子<パンフレット>』に書いてあったじゃない」

 「何が?」

 「共通魔法は使うなって。
  この島には、大陸の文明を持ち込んだら駄目なのよ。
  常識や思想もね」

ジラは溜め息を吐いて、側に生えているルブリカの木に撓垂れ掛かった。

412 :創る名無しに見る名無し:2016/01/23(土) 19:48:48.22 ID:EHn/oG0s.net
やる気の無い彼女に、サティは苛立って告げた。

 「私は独りでも行きますよ!」

 「そう向きにならないで。
  急がなくても良いじゃない。
  午後からにしようよ」

ジラまで島の影響で無気力になったのかと、サティは危機感を覚えた。
もう何を言っても無駄だと見限り、彼女は独り島の森へ侵入する。
小冊子には、「港や集落から余り離れないで下さい」とも書いてあったのだが、この期に及んで、
観光客向けの注意を守る積もりは無かった。
サティが森に踏み入ると、急に悪寒が走る。
彼女は身震いして、一旦足を止めた。

 (やはり何かある……)

サティは確信して、注意深く森を進む。
少し歩くと、頭上に架かっている枝から、小さな蛇が何匹も降って来た。
気配を察知したサティは、素早く後退する。
蛇は毒々しい配色をしており、一見しただけで毒持ちを疑う。
それはサティの行く手を塞ぐ様に、その場を動かない。

 (この蛇は一体?)

蛇如きに魔法を使うのも何だと思い、サティは仕方無く、回り道をする事にした。

413 :創る名無しに見る名無し:2016/01/24(日) 20:19:49.59 ID:ZcWNrJJ1.net
彼女が他に通れそうな所を見付けて、進もうとすると、今度は黒い雨粒の様な物が降って来る。
慌てて避けた後、落ち着いて確認してみると、それは小さな蛭だった。

 (吸血蛭……。
  こいつ等は何を餌に……?)

蛭が南国の孤島に棲息している事自体は、何ら不思議でも不自然でもないが、
この島には人間以外の哺乳類は疎か、鳥類さえ見掛けない。
明らかにサティを感知して降って来たのだから、地上の動物の血を吸って生きている筈だが、
人間は森に近付かない。
詰まり、人間以外に蛭が吸血する動物が、森に棲息していると言う事になる。
蛭も他の動物も、森から出ないのか?
何故?
人間を恐れているから?

 (作為的な物を感じる……)

この調子では、どこでも同じ事が起こるだろうと予想し、サティは魔法を使う決意をした。
彼女は『球状防壁<スフィア・バリアー>』を張って、蛭が肌に接触しない様に前進する。
森の深く深くへ行くに連れて、バリアーに次々と小虫が集り始める。
蛭ばかりではなく、虻や蚋まで。
その数たるや、バリアーを覆い尽くす程だ。
サティは度々バリアーに電気を流し、纏めて虫を片付けた。

414 :創る名無しに見る名無し:2016/01/24(日) 20:25:56.75 ID:ZcWNrJJ1.net
島の中心部は小さな山になっている。
迷ってしまいそうな程、鬱蒼と茂る木々の間を抜けて、サティは山の頂上に着いた。
山頂は禿頭の様に、不自然に木が少なく、開けている。
そこで彼女は1匹の白毛の猿と出会(でくわ)した。
白猿は巨大なルブリカの木の枝に座って、サティを見下ろしている。

 「悪魔の子よ、神域を汚すでない」

人語を喋った猿に、サティは驚く。

 「人の言葉が話せる……。
  霊獣か?」

 「その様な物と一緒にするな。
  私は人の弟」

猿の尊大な物言いに、サティは眉を顰めた。

 「お前が、この島を管理しているのか?」

 「如何にも」

 「人を無気力にして……。
  一体何の為に!」

 「この島は人の目指した楽園である。
  無限の命こそ無い物の、人は穏やかに暮らせる」

 「楽園?
  神様気取りか!」

サティが怒鳴り付けると、猿は小さく首を横に振った。

415 :創る名無しに見る名無し:2016/01/24(日) 20:28:01.62 ID:ZcWNrJJ1.net
この白猿は、そこらの霊獣、妖獣とは異なる。
邪気や敵意が感じられない。
しかし、サティに対して余り良い感情を抱いていない事は確か。

 「ここは楽園島。
  現世に疲れた者が、迷い込む所。
  招かれざる者よ、往(い)ね」

 「私の問いに答えろ!
  人を無気力にして、何の積もりだと訊いている!」

サティは魔法資質で白猿を威圧した。
弱小な獣では、竦み上がって動けなくなる程の気迫。
所が、この猿は全く意に介さない。

 「落ち着き給え。
  能力で脅し掛けるのが、君の正当な方法か?」

猿に正論で返されて、サティは歯噛みした。

 「……私の問いに答えろ」

彼女は威圧を解き、再度問い掛ける。
猿は頷いて、静かに答えた。

 「この島は楽園である。
  現世に疲れた者が、迷い込む所」

大人しく矛を収めたのに、答は同じ言葉。
サティは激昂して、再び威圧する。

 「好い加減にしろ!
  こんな所が楽園だと?」

416 :創る名無しに見る名無し:2016/01/25(月) 19:04:33.38 ID:8My76m48.net
それにも拘らず、白猿は尚も冷静だった。

 「楽園だとも。
  この島には苦痛も悩みも無い」

 「それで、『生きている』と言えるのか!」

 「では、問おう。
  人は何の為に生きる?」

 「明日を、より良く生きる為だ!」

迷い無くサティは言い切るサティに、白猿は感嘆の息を吐くも、問いは止めない。

 「では、再び問おう。
  君の世界は、より良くなっているか?
  文明が進歩して、利便性を極めて、今日の君は、昨日の君より、よく生きているか?
  10年後、20年後の君は、今より良く生きているかな?」

 「未来の事は分からない。
  だが、希望はある!」

 「では、往ぬるが良い。
  この島は生存競争に疲れた者達の楽園だ。
  生き急ぐ事も無く、人は静かに死へと向かう。
  安楽の国」

 「巫山戯るな!
  生きる意志を無くして、死を待つばかりでは、動物以下だ!
  この島の人々を解放しろ!」

サティが強い口調で迫ると、猿は悲しそうな顔をした。

417 :創る名無しに見る名無し:2016/01/25(月) 19:07:28.25 ID:8My76m48.net
猿の口から出たのは、意外な言葉。

 「君は何と残酷な事を言うのだ……。
  生きる事に疲れた者達に、鞭打つ様な真似を」

 「それでも人は生きなければならない!」

 「何故、放っておけぬ?
  今も昔も、人の世で生きると言う事は、他者を蹴落とし、勝ち上がる事だ。
  誰もが理想を掴む事は出来ない。
  故に、人の世は野心や野望が強く、無慈悲な者程、伸さ張る様になっている。
  希望と言えば聞こえは良いが、裏を返せば、強欲、俗悪の事。
  安心し給え、欲の強い者は、この地には住めぬ様になっている」

サティは島民の暮らしを思い返した。
淡々と日々を過ごすし、本当に「生きているだけ」の人々。

 「……強欲な者は、この島では飽き足りないと」

 「よく解っているではないか。
  寝食さえ儘ならぬ者が、世に幾らでも居ると言うのに、他者の何千何万倍もの富を集め、
  贅の限りを尽くしても、未だ飽き足りぬ者が居る。
  そんな人間にとっては、この島は退屈だろう。
  ここでは誰も殺さなくて良い、誰からも奪わなくて良い」

誰を害する事も無く、誰から害される事も無く、平穏に暮らす。
それは確かに理想なのだろうが、サティは認められなかった。

 「そして、何も成さず死ぬと言うのか!
  安楽死と何が違う!」

 「何も違わぬ。
  積極的に死ぬか、消極的に生きるか、その位だな」

白猿は溜め息を吐く。
丸で猿自身も、人間社会に疲れているかの様に。

418 :創る名無しに見る名無し:2016/01/25(月) 19:17:02.26 ID:8My76m48.net
サティは不可解に思い、改めて問い掛けた。

 「お前の正体は何なのだ?」

 「私は人の弟。
  人より後に創られた存在。
  君達が『動物』と呼ぶ生き物」

 「どこで、そんな知識を得た?」

 「『天より授かった』と言えば、信じて貰えるかな?」

サティは無言で猿を睨む。
全く信じていない様子の彼女に、猿は言う。

 「……どう思ってくれようと勝手だが、この島は旧暦から私の管理地。
  魔導師会も手を出さぬと約束してくれた。
  それに、君は誤解しているが、私は人の精神を弄ったりしていない。
  島民は皆、自ら望んで島に滞在している」

 「服を着ないのも、言葉を失ったのも、望んだ事だと?」

出任せではないかとサティは疑った。
「人の意志」を重んじる魔導師会なら、この島の存在自体を許さない筈だと、彼女は考える。
神に祈る事を止めて、前に進む決意をしたのが、現人類なのだ。
神の奇跡や救済に頼らず、人の意志で生きて行くと、強く立ち上がった。
それこそが魔法大戦。

 「この島は嘗て聖君が目指した、楽園の雛形なのだ。
  飢えも不安も無ければ、争いは起こり様が無い。
  島民の暮らしを見ただろう。
  皆、不幸だったか?」

 「そんな事は聞いていない!
  魔導師会が手を出さないと約束しただと?
  本当なら、どんな理由で?」

 「この島は戒めであると同時に、自らの姿を映す鏡でもある。
  ここが楽園に見えると言う事は、現世は地獄なのだろう。
  君には、どう見えている?」

猿の問い掛けに、サティは暫し沈黙した。
競争社会では、必ず勝者と敗者が生まれる。
魔導師会が目指す世界から、零れ落ちた人々の事を、今までサティは考えなかった。
成功を掴む人が居る一方で、何も成せずに落ちて行く人も居る。
身分制度は形を変えて残り、やはり富める者と貧しい者を生み出す。
サティ自身は成功者と言えるだろうが……。

419 :創る名無しに見る名無し:2016/01/26(火) 19:52:40.98 ID:pHf+62Y1.net
猿は続けて語り掛ける。

 「私が島の管理を放棄しても、島民は君の様に『幸せ』にはなれぬ。
  帰る場所を失くして、辿り着いた者達なのだから。
  生きるだけでも苦労するだろう」

 「それでも――」

 「『無為に生きるだけの生き方よりは増し』かな?
  本当に、そうなのだろうか?
  拝金主義に呑まれ、只管に富を追い求める事が?
  他者から蹴落とされない様に、役職や権威に縋り付く事が?
  自らを殺して、世の為人の為と言いながら、働く為に働く事が?
  安い金で扱き使われ、貧しい日々を耐えて凌ぐ事が?
  それこそ、『生きる為に生きている』のではないか」

超然とした猿の態度に、これを言い負かす事は出来ないと悟ったサティは、口を噤んだ。
一部ではあるが、そうした人々が存在するのは事実。
彼女には社会を大きく変える様な力は無い。
言葉も失った島民は、島を出ては生きて行けない。
そうジラに言ったのは、サティ自身だった。

 「今一度問おう。
  この島……君には、どう見える?」

サティは白猿が島を「鏡」だと言った意味を理解した。
人間社会が幸せなら、この島に永住しようと考える人は少なくなるのだ。
明日への希望に満ちた人にとっては、退屈で不便な小島に過ぎないのだから。
逆に、明日に不安や絶望を感じている人には、この島が楽園に思える……。

 「……少なくとも、『人間』が住む所ではない」

苦々しくサティは断じた。
自分が今生きている世界は、他の誰かにとって不幸な物であると、認めたくはなかったが、
認めざるを得なかった。

420 :創る名無しに見る名無し:2016/01/26(火) 19:55:54.79 ID:pHf+62Y1.net
「戒め」とは、人間社会に対する「戒め」である。
この島に憧れを持つ人が増えるならば、人間社会は悪い方向へ進んでいる。
必要な事は、弱者や敗者を叱咤し、鞭打つのではなく、より魅力的で良い社会へと変える事。
一時の勝利を得る為に、穏やかで優しい人々を殺してはならない。
楽園島を「人間が住む所ではない」と言い切ったサティに、白猿は肯く。

 「そう思うならば、早々に立ち去るべきだ」

 「言われずとも、明日には発つ」

 「人間を辞めたくなったら、又来ると良い」

 「もう二度と来る事は無いだろう。
  ……失礼した」

サティは冷たく言い放つと、白猿に背を向けた。
島の現状が好ましいとは思えなかったが、魔導師会が「保護」を決めて規制している以上、
自分勝手な行動は取れない。

 「それが良い。
  真面な人間は、こんな所には関わらぬ方が……」

白猿は苦笑してサティを見送る。
行きと同じく、森の中を歩いて帰るサティだったが、今度は虫が出なかった。
しかし、彼女は完全に白猿を信用していた訳ではなく、翌日に島を出るまで、
不測の事態を警戒し続けた。
浜辺に戻って来たサティを、魔導師のローブを着たジラが出迎える。

 「サティ、独りで勝手に行かないでよ」

 「ジラさん……大丈夫ですか?」

この島は人間の社会や生活に絶望している者の楽園。
無気力に見えたジラは、島の人間と同化するかも知れないと、サティは危機感を抱いていた。

421 :創る名無しに見る名無し:2016/01/26(火) 19:57:51.77 ID:pHf+62Y1.net
そんな事等、全く知らないジラは、眉を顰める。

 「何……?
  何の話?
  独りで森に入った貴女を、探しに行く所だったんだけど。
  貴女こそ大丈夫?」

サティは安堵の息を吐いた。

 「大丈夫そうですね」

 「私は貴女の事を聞いてるんだけど?」

 「あぁ、私の事は御心配無く」

 「それで、森の中に何かあった?
  古代の遺跡とか」

 「何も無かったですよ。
  只、森の中は虫が沢山居るので、迂闊に入らない方が良いですね……」

 「だから私、言ったじゃない。
  虫が出そうだって」

 「はぁ、そうでしたね……」

サティは怪しい白猿の事は伏せて、ジラに話を合わせた。
白猿の存在を明かしても、無用な混乱を招くだけだと思ったのだ。

422 :創る名無しに見る名無し:2016/01/26(火) 19:59:51.33 ID:pHf+62Y1.net
サティは島を発つまで、島民達の暮らしを静かに観察した。
楽園、フィルダース島……。
島民達は原始的な生活に満足して、争い合ったり、奪い合ったり、傷付け合ったりしない。
木陰で呆っと座っていたり、砂浜で肌を焼いたり、海で泳いだり、散歩をしたり、気が向いた時に、
それぞれ思い思いの事をする。
基本的に単独行動だが、集団から付かず離れずの微妙な距離を保つ。
誰も彼も気が抜けた様に、穏やかで大人しく、争いが起こらない。
擦れ違い様には会釈をし、見知らぬ人でも困った顔をしていると、無言で食べ物を差し出す。
拒否されると少し悄気て、自分で食べる。
裸ん坊だが、皆々良い人で――サティは物悲しくなった。
ここには現代人が忘れて久しい、本物の「豊かさ」があると言う。
だが、その正体は元々普通に社会生活を営んでいたのに、競争社会から落ち零れた者達なのだ。
楽園とは悲しき敗者達の島。
勝者には決して辿り着けない境地。
どちらが天国で、どちらが地獄なのか……。
島を発つ時になって、船上から物憂気な顔で島を見詰めるサティを、ジラは揶揄した。

 「もう少し『楽園』に滞在していたかった?」

サティは静かに首を横に振る。

 「いいえ、もう十分です。
  私達は人間の世界で生きて行かなければならないのですから」

あれだけ恐ろしかった島が、今は美しく見えていた。
幸いにも、帰りの船に乗り損ねた者は居ない……否、1人増えている。
船員の格好で紛れていた「増分」に、サティは気付いた。
話を聞くと、数月近く島民として暮らしていたが、虚しさに耐え切れなくなったと言う。
服は船員に借りたらしい。
人とは業の深い生き物である。

423 :創る名無しに見る名無し:2016/01/27(水) 19:14:46.48 ID:CdkNavHq.net
ラントロック誕生!


禁断の地にて


ある秋の深夜、禁断の地の村外れにある魔法使いの家で、新しい命が生まれようとしていた。
もう直ぐ父親となるワーロックは、どうか無事に我が子が生まれる様にと願いながら、
息む妻カローディアの手を取って、励まし続ける。

 「頑張れ、頑張れ」

言うだけで意味があるのかと、彼は内心効果を疑問に思っていたが、他に出来る事は無い。
狭い村の事、助産行為が出来る人間は限られている。
一時的に分娩室へと変わった寝室の中には、妊婦のカローディアと、夫のワーロックと、
カローディアの実妹で既に出産を経験しているルミーナ、そして助産経験豊富な村の産婆ベルベ、
以上4人だけ。
ワーロックは出産予定日を前以って知らされていながら、夜中にカローディアが突然産気付いたので、
慌てて義妹のルミーナを頼り、そのルミーナはベルベを呼んだ。
そして、ベルベの指示でワーロックとルミーナは準備を進め、後は生まれて来るのを待つだけと言う、
この状況である。

424 :創る名無しに見る名無し:2016/01/27(水) 19:19:58.62 ID:CdkNavHq.net
ベルベは夫婦に聞こえる様に、出産の様子を大声で実況する。

 「ほーら、頭が出て来たよ!
  お母さん頑張って!
  もう少し、もう少し!
  1、2、はい息んで!
  1、2、はい!」

彼女の号令に合わせて、カローディアは懸命に息む。

 「はぁっ、はぁっ、ン゛ン゛ン゛……。
  フゥー、はぁっ、はぁっ、ン゛ン゛ン゛……」

息を荒くし、辛そうに顔を顰める妻を見て、彼女の顔の汗を拭うワーロックも、
自然に呼吸を合わていた。

 「はっ、はっ、フーー。
  はっ、はっ、フーー」

その内に、ポンと赤子が飛び出して、オギャーと大きな産声を上げる。

 「おー、おー、出て来たー」

赤子を取り上げたベルベは、一際大きな声で無事に産まれた事を報せた。
出産の苦しみを耐え抜いたカローディアは安堵して、大きな息を吐く。
文字通り真っ赤な子を、ベルベは毛布に包みながら、早口で言う。

 「はー、生まれた、生まれた。
  元気な男の子だよ。
  魔法使いの子でも、赤ん坊は赤ん坊、何も変わらないね」

彼女は濡れた赤子の体を軽く拭いた後、臍の緒を鋏で切り落とすと、呆然としているワーロックに、
赤子を押し付けた。

 「お父さん、お母さんに見せてやりなさい」

 「は、はぁ」

 「呆っとしてないで、確り持ちな!
  あんたの子だよ!」

ワーロックはカローディアの手を放して、我が子を受け取った。
彼は真面真面と、赤子の顔を見詰めて、自分と類似した所が無いか探す。
濃い黒髪はワーロックの影響が強いだろう。
カローディアからの遺伝ならば、幾らか髪色が薄くなる。
しかし、生まれたばかりで目が開いておらず、しかも泣き通しだったので、他の特徴は、
よく分からなかった。

425 :創る名無しに見る名無し:2016/01/27(水) 19:24:00.83 ID:CdkNavHq.net
これが自分達の子なのかと、ワーロックは生命の神秘を前に、何とも不思議な気持ちで、
赤子を抱えた儘、カローディアの前に屈み込んだ。

 「カリー、私達の子だ!」

カローディアは薄目を開けて、赤子の頬を人差し指で撫でると、安心した様に微笑む。
生まれた子はカローディアの希望で「美しさを表し」、ワーロックの希望で「ロックの名を含む」、
ラント(輝きの)ロックと決まった。
2人にとっては、正に幸福の絶頂。
しかし、これが同時に苦悩の始まりでもあったとは、知る由も無かった……。
最初の異変は、誰も気付かない小さな所から始まっていた。
産後のカローディアの体調回復が捗々しくない……。
それは普通の産褥病の様に思われたが違った。
バーティフューラーの一族の運命は、カローディアにも静かに忍び寄っていたのである。
そうとも知らず、ある程度カローディアの体調が回復した時点で、ワーロックは再び旅商に出掛け、
家を留守にする事が多くなった

426 :創る名無しに見る名無し:2016/01/28(木) 02:29:52.04 ID:sUPOct2j.net
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/natsudora/1392245588/172
        ↑  ↑  ↑  ↑  ↑

427 :創る名無しに見る名無し:2016/01/28(木) 19:23:47.19 ID:WGXUAupU.net
ラントロック4歳


長男ラントロックの誕生から、4年。
そろそろ我等が息子ラントロックも、家の周りから離れて、村の子供達と遊ばせるべき年頃だと、
ワーロックとカローディアは考えていた。
だが、ラントロックは母親の元から離れたがらなかった。
ワーロックが外に出ようと誘っても、全く効果が無い。
家を空け勝ちなワーロックではなく、何時も傍に居てくれるカローディアに、ラントロックは懐いていた。
これは夫婦にとっては不都合だった。
カローディアは未だ魅了の魔法使いの能力を具えているので、村に出掛ける訳には行かない。
そこでワーロックとカローディアは、リベラにラントロックを外に連れ出す様に依頼した。
ラントロックの「親しみ」の序列は、一に母、二に義姉であり、ワーロックは実の父親ながら、
家庭内では最下位だった。

428 :創る名無しに見る名無し:2016/01/28(木) 19:25:54.00 ID:WGXUAupU.net
養娘であるリベラは、家庭内で役割を持つ事に拘った。
平時はカローディアの家事を手伝い、ワーロックと共に旅に出る時は商いを手伝い、
よく養父と義母を真似て助けた。
彼女のラントロックに対する態度は、「第二の母」であった。
ラントロックをよく守り、そして、彼の規範になろうとした。
今回のワーロックとカローディアの依頼は、リベラにとっては嬉しい物だった。
2人はリベラを家族として、ラントロックの姉として、認めているのだ。
外出を愚図って嫌がるラントロックを、リベラは優しく抱き締めて囁いた。

 「大丈夫、お姉ちゃんが付いてるから。
  怖くないよ」

ラントロックは「第二の母」を信頼し、泣き止んだ。
ワーロックとカローディアも、忠実忠実しいリベラを信頼しており、特に問題となる事は無いだろうと、
安心していた。

429 :創る名無しに見る名無し:2016/01/28(木) 19:30:08.75 ID:WGXUAupU.net
村の子供達は初めて見る「魔法使いの子」ラントロックに、興味津々だった。

 「リベラ、その子は?」

 「私の弟。
  ラントロック」

 「へー、余りラビゾーと似てないね。
  お母さん似なのかな」

見知らぬ人を前に、ラントロックはリベラの陰に隠れる。
その様子を見た村の女の子達は、面白がってラントロックに群がった。

 「可愛いね」

 「喋れる?
  今日は、ラントロック。
  私はイバーラ」

 「あ、あたし、キスミ。
  宜しく」

わいわいと押し掛ける女の子達に、ラントロックは吃驚して気圧される。
リベラは慌ててラントロックを保護した。

 「一遍に話し掛けないで。
  落ち着いてよ。
  ラント、怖がってる」

しかし、彼女達は聞く耳を持たない。

430 :創る名無しに見る名無し:2016/01/29(金) 20:20:24.11 ID:bpyoP+41.net
 「私も弟が欲しいなー」

 「お菓子食べる?」

 「頬っ辺、触っても良い?」

姦しくラントロックに集る女の子達に、リベラは不気味な物を感じた。
彼女はラントロックを抱いて、女の子達から引き離す。

 「どうしたの?
  皆、何か変だよ!」

女の子達は揃って、不満気に剥れた。

 「良いじゃない、構わせてくれたって」

 「そうそう」

 「悪い事は何にもしないよぉ」

一方で男の子達は、女の子達の突飛な行動に、呆気に取られるばかり。

431 :創る名無しに見る名無し:2016/01/29(金) 20:25:02.65 ID:bpyoP+41.net
怯えて自らに獅噛み付くラントロックに、リベラは保護者の精神を発揮した。
彼女は村の女の子達に、嘘を吐く。

 「ラント、少し具合が悪いみたい。
  今日は帰らせるね」

リベラはラントロックの手を引き、早足で家路に就いた。

 「あ、待ってよ、リベラ!」

所が、女の子達はリベラを追い掛ける。
何事かと、その後を男の子達も付いて行く。
結局全員揃って、村外れの家の前まで来てしまった。

 「お養父さん、お義母さん!」

リベラが切迫した声で呼ぶので、ワーロックとカローディアは揃って出迎える。

 「一体どうした?
  皆、揃って……」

事情を問うワーロックに、リベラは蒼い顔で言う。

 「皆、おかしいの!
  ラントに何か……」

村の女の子が我も我もと、ラントを抱えたリベラを取り囲んでいる様に、ワーロックも蒼褪めた。

 「魅了の魔法か!?」

432 :創る名無しに見る名無し:2016/01/29(金) 20:30:06.33 ID:bpyoP+41.net
彼の絶望たるや、天地が返る程の衝撃。
バーティフューラーの一族、トロウィヤウィッチの宿命は、男児のラントロックが生まれた事で、
断ち切られた筈だった。
しかし、その能力は受け継がれていたのだ。
愕然として立ち呆けるワーロックの後ろから、無言でカローディアが進み出る。
彼女の登場で、村の子供達の動きが止まった。
誰も彼も視線はカローディアに釘付けになっている。
リベラもラントロックも、唯1人ワーロックを除いて。
カローディアはリベラからラントロックの手を取ると、静かに家の中へと戻った。
パタンと戸が閉まる音で、皆々我に返る。

 「……なぁ、おい、帰ろうぜ」

男の子達の呼び掛けで、女の子達は先程までラントロックに執心していた事に対し、
不可解さを感じながら、村へと戻って行った。
リベラは未だ立ち尽くしているワーロックを気遣い、その場に残った。
少しの間を置いて、ワーロックは深い溜め息を吐く。

 「どうした物か……。
  困った事になったな……」

気弱に零すワーロックと共に、リベラは家の中に入った。

433 :創る名無しに見る名無し:2016/01/29(金) 20:32:03.95 ID:bpyoP+41.net
ワーロックとカローディアは、ラントロックとリベラを部屋に追い遣って、台所で夫婦会議を始める。

 「ラントに魅了の能力が受け継がれていたなんて……。
  カリー、君は気付いていたのか?」

ラントロックが魅了の魔法を使った事にも、大きな動揺を表さなかった妻に、ワーロックは問う。
カローディアは小さく頷いた。

 「確証があった訳じゃないけど……」

魔法資質が低いばかりに、それまで大事にも無関心で、呑気に過ごしていた事を、
ワーロックは後悔した。

 「ラントもトロウィヤウィッチの宿命からは逃れられないのか……」

深刻な面持ちで呟く彼に、カローディアは言う。

 「それは……未だ判らない。
  アタシの能力と、あの子の能力は違う気がする。
  確かに、アタシの魔法なんだけど……。
  御免なさい、上手く言えない」

それは高い魔法資質を持つ者の感覚なのか、それとも母子間に通じる特別な感覚なのか、
どちらにせよワーロックには解らない。

434 :創る名無しに見る名無し:2016/01/29(金) 20:33:36.57 ID:bpyoP+41.net
不安がるワーロックに、何とか真実を伝えようと、カローディアは誠意を尽くした。

 「アタシと母さんの時は、お互いに通じ合う物があったって言うか……。
  ラントには、それが無くて……。
  だから、ラントは自分に欠けた何かを、アタシに求めている様な目をする。
  そんな感じがするの……」

それでも今一つ伝わらず、ワーロックは難しい顔をする。
自然に受け継がれる筈の物を、無理に断ち切ったのが悪かったのだろうかと、
彼は沈んだ気分になった。
そんなワーロックを、カローディアは元気付ける。

 「多分、大丈夫。
  そう信じよう?」

ワーロックは小さく頷き、話を変えた。

 「ともかく、能力の制御が出来る様になるまで、ラントは村の子達とは遊ばせられない……」

 「その事なら任せて。
  能力の加減、アタシなら教えられる」

 「頼む、君にしか出来ない。
  僕も可能な限り協力するから」

夫婦は手を取り合い、今後の教育方針を固めた。
――突如発覚したラントロックの魅了の能力。
それは平和だった家族の間に、小さな歪(ひずみ)を齎す。
10年後、その小さな歪は大きく表出する。
「家族」に降り掛かる大きな試練として。


――逆襲の外道魔法使い編に続く

435 :創る名無しに見る名無し:2016/01/29(金) 20:42:12.62 ID:bpyoP+41.net
このスレは、ここで終わります。
次スレで会いましょう。

436 :創る名無しに見る名無し:2016/02/01(月) 19:00:52.22 ID:McEgaHmd.net
桐光学園中学校女子部を受験希望する子の保護者です。

先輩生徒の問題ですが、出身校は稲城市立向陽台小学校の女子。

検索したら

稲城市立向陽台小学校について教えて下さい。 - 教えて!Goo

今現在もご家庭で桐光学園中学校女子にあらざる

問題を抱えてるようです。

お父さんとの不適切な関係の画像を公開の異常者一家。

★検索ワード「 稲城市立向陽台小学校評判Y子 」★

転校を希望します。

437 :リリナ:2016/02/01(月) 22:25:40.72 ID:CgPPho7e.net
はずゅいデス〜

http://piy.pw/qEDQ4

438 :創る名無しに見る名無し:2016/02/03(水) 10:04:34.15 ID:2IRUTj7Q.net
 
お世話になります。
私、責任者の加茂と申します。以後、宜しくお願い致します。
http://homepage2.nifty.com/e-d-a/scurl/ays.html
 
 http://homepage2.nifty.com/e-d-a/scurl/SW-pos.html
 http://homepage2.nifty.com/e-d-a/scurl/SW-sp.html
 http://homepage2.nifty.com/e-d-a/scurl/SW-BB8.html
 
浪速建設様の見解と致しましては、メールによる対応に関しましては
受付しないということで、当初より返信を行っていないようで、今後につい
てもメールや書面での対応は致しかねるというお答えでした。
 http://www.o-naniwa.com/
このように現在まで6通のメールを送られたとのことですが、結果一度も
返信がないとう状況になっています。
 
 http://homepage2.nifty.com/e-d-a/scurl/ia-1-3.html
 http://homepage2.nifty.com/e-d-a/scurl/ia-2-1.html
 http://homepage2.nifty.com/e-d-a/scurl/ia-3-1.html
 
私どものほうでも現在までのメール履歴は随時削除を致しております
ので実際に11通のメールを頂戴しているか不明なところであります。
 
●クリスタル通り122号室入居者
●浪速建設 女事務員 南野 東条  ●アパマンショップ八尾店 加茂正樹
 
!!!!!!!!!!!!!!!

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