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【ファンタジー】ドラゴンズリング7【TRPG】

1 :ティターニア@時空の狭間 :2018/07/24(火) 23:52:17.15 ID:dYeYUj8t.net
――それは、やがて伝説となる物語。
「エーテリア」と呼ばれるこの異世界では、古来より魔の力が見出され、人と人ならざる者達が、その覇権をかけて終わらない争いを繰り広げていた。
中央大陸に最大版図を誇るのは、強大な軍事力と最新鋭の技術力を持ったヴィルトリア帝国。
西方大陸とその周辺諸島を領土とし、亜人種も含めた、多様な人々が住まうハイランド連邦共和国。
そして未開の暗黒大陸には、魔族が統治するダーマ魔法王国も君臨し、中央への侵攻を目論んで、虎視眈々とその勢力を拡大し続けている。
大国同士の力は拮抗し、数百年にも及ぶ戦乱の時代は未だ終わる気配を見せなかったが、そんな膠着状態を揺るがす重大な事件が発生する。
それは、神話上で語り継がれていた「古竜(エンシェントドラゴン)」の復活であった。
弱き者たちは目覚めた古竜の襲撃に怯え、また強欲な者たちは、その力を我が物にしようと目論み、世界は再び大きく動き始める。
竜が齎すのは破滅か、救済か――或いは変革≠ゥ。
この物語の結末は、まだ誰にも分かりはしない。

ジャンル:ファンタジー冒険もの
コンセプト:西洋風ファンタジー世界を舞台にした冒険物語
期間(目安):特になし
GM:なし(NPCは基本的に全員で共有とする。必要に応じて専用NPCの作成も可)
決定リール・変換受け:あり
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり
名無し参加:あり(雑魚敵操作等)
規制時の連絡所:ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/3274/1334145425/l50
まとめwiki:ttps://www65.atwiki.jp/dragonsring/pages/1.html
       
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(単章のみなどの短期参加も可能)

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簡単なキャラ解説:

過去スレ
【TRPG】ドラゴンズリング -第一章-
ttp://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1468391011/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリング2【TRPG】
ttp://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1483282651/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリングV【TRPG】
ttp://mao.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1487868998/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリング4【TRPG】
ttps://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1501508333/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリング5【TRPG】
ttps://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1516638784/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリング6【TRPG】
ttps://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1525867121/l50

2 :創る名無しに見る名無し:2018/07/25(水) 09:27:04.42 ID:N0Oz+vTa.net
http://sij9dm4k7w.cmjhk95j.work/eycjpzh/iuasf98/cvjil

3 :創る名無しに見る名無し:2018/07/26(木) 08:02:08.75 ID:7uymYBwU.net
ラテは荒らし

4 :創る名無しに見る名無し:2018/08/15(水) 22:03:07.57 ID:Zg2mPttR.net
カスレイブは公害

5 :創る名無しに見る名無し:2018/08/16(木) 07:56:37.35 ID:1LqXbqOf.net
二匹ともウンコという名の同じ穴から出てるからな

6 : :2018/08/25(土) 00:03:20.94 ID:150eu5rH.net
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

光は爆発的に膨らみ、収束し……すぐに、一つの形を得た。
眩い輝きを放つ……巨大な竜の姿を。

「そんな……光竜は、虚無に飲まれていたはずでは……」

ぱらぱらと、礼拝堂の外に砕けた甲冑の破片が降り注ぐ。
それらは急速に、虚無特有の、無であるが故の黒色に侵食され……消滅していく。

……馬鹿な。そんな馬鹿な。
だとしたらあの甲冑は……エルピスが、虚無に飲まれる事から逃れる為に纏っていた?
何故、どうして。何が……一体、何がどうなっているんです……。

「ふざけるな……ふざけるなよ、ティターニア……」

エルピスが呻く。
光り輝くその巨体には、しかし所々に黒が、虚無の黒が滲んでいる。
特に、頭部には……顔の右半分を覆うほどの虚無が。

「この期に及んで、そんな手緩い攻撃があるか……」

エルピスは牙を食い縛りながら、苦しげな、しかし怒りの宿った声で、そう言いました。

「……それとも、あれがお前の全力だったのか?指環の勇者よ。
 だとしたら……やはりヒトとは、我らが支配し、導いてやらねばならないんじゃないか?
 なあ……イグニス。アクア。テッラ。ウェントゥス」

ふと、フィリアさんの背後に陽炎が揺れる。
彼女の両肩に手を置くようにして現れるのは……炎竜イグニスの幻体。

『またその話か、エルピス。何度言われようと妾達が考えを変える事はない。
 此奴らは、ヒトは、妾達の力などなくとも無事にやっていける』

「……本当か?」

『くどいな。時間稼ぎのつもりなら……』

「本当に、そいつらは……ヒトは、ヒトだけで大丈夫なのか?何故そんな事が言い切れる?」

『……エルピス?』

……再び問いを発するエルピス。
その声音は……どこか、奇妙な響きを含んでいました。
ヒト達を信じる四竜を嘲り、否定していると言うよりかは……まるで……。

7 : :2018/08/25(土) 00:03:46.36 ID:150eu5rH.net
「いいや、誰にもそんな事は分からない。だから私は、この世界を滅ぼす……違う!」

「……っ!」

突然、エルピスが叫び声と、苦悶の呻きを上げました。

「違う!違う違う違う!私は!私は……!」

そして両手で頭の右半分を抑え……光が爆ぜる。
続くのは、焼け付くような音……。

「……出てこい。指環の勇者よ。お前達ごと、その建物を薙ぎ払われたくはないだろう」

再び私達を見下ろしたエルピスの顔面からは……虚無の黒が消えていました。
光の魔力で、強引に虚無を祓い退けた……?
……駄目です。理解出来ない事ばかりで、思考が追いつかない。

『……お前が何を考えているのかは、正直分からん。だが……やるだけ無駄だ。
 我ら四竜の指環を前に、お前がたった一頭で何が出来る?』

「……知りたいか?」

エルピスがそう呟いた瞬間……その両翼に、膨大な光の魔力が宿る。
翼が一度ばさりと羽ばたくと、閃光が五回、周辺の地面を走る。
そしてその跡から、天へと続く光の壁が立ち現れる。

これは……結界?
……ただ、通過を遮るだけの障壁ではないはず。
恐らく、何か特殊な式が……

8 : :2018/08/25(土) 00:06:26.25 ID:150eu5rH.net
「イグニス様?……イグニス様!?一体どうしたんですの!?」

不意に、フィリアさんが声を上げた。
焦りと、驚きに支配された声……。

「アルマクリスさん?アドルフさん?……これは、まさか」
「……メアリさんも、駄目みたい」

……指環と、意思疎通が出来ていない?
まさか、この結界は……。

「単純な力量を比べるだけならば、私がお前達に勝てる道理などない。
 だが……お前達は、竜。そして、死者だ。ヒトより隔てられるべき魔の者だ。
 であれば……このような事が可能という訳だ」

……やられた。
光の持つ……魔を退ける力。そして七色に分離するという性質。
その力を以って……指環に宿る者達と、私達を、分離させられたんだ。
彼らは今、結界の外か。いえ……この結界の中にだけ二つの位相が創り出されているのか……。

……駄目だ。複雑過ぎる。
光を司る竜が創り出した、起死回生の結界。
いくら私でも、簡単には解析出来ない……。
それに、そんな暇を、エルピスが与えてくれる訳がない。

「さあ……来い。指環の勇者よ。イグニスの、アクアの、テッラの、ウェントゥスの言葉を、真実にしてみろ」

つまり……

「やるしかない……みたいですね。私達だけの力で」

言うや否や、私は魔導拳銃を抜き、その銃身に刻み込まれた術式を行使。
『スプリンクル・ミスト』……周囲に魔法の霧が散布される。
エルピスの光魔法、予見能力を、これで少しでも妨害出来ればいいんですが……。

「……すみませんが、気安く大魔法をぶっ放すような真似は出来ません。
 魔法の発動を予知されて、狙い撃ちされたら……庇う側が大変でしょう?」

なんて、冗談を言っていられる余裕も、そろそろ無くなりそうです。
……エルピスの翼に、再び光の魔力が集っていく。

「『プロテクション』は張りますが……私一人で防ぎ切れるなんて事は、期待しないで下さいよ!」

そして、無数の閃光が降り注ぐ。



【指環は輝きを失って沈黙している……。
 黒狼騎士サイドまでは書いてる余裕がなかったよう……】

9 :スレイブ :2018/08/29(水) 05:21:35.98 ID:+RScdwK+.net
要塞城内で発生したクーデター。
皇帝は聖女と共に教皇庁へと軟禁され、教皇庁は元老院急進派によって占拠されている。
しかもその一件には、帝国最強戦力の中でもさらに最強を誇る黒狼騎士が絡んでいると来た。
矢継ぎ早に降りかかる雪崩の如き火の粉に、スレイブは目眩を覚えた。

しかし一方で、少なくとも勇者達にとって状況はそこまで致命的ではないと感じる。
帝国内の内ゲバも、黒狼騎士とやらの凱旋も、極端なことを言ってしまえば。
――指環の勇者とは何ら関係のない、対岸の火事に過ぎないからだ。

無論、渦中に立たされたアルダガは最早他人ではないし、その窮状に同情もある。
ティターニアにとっては帝国の皇帝も、見捨てておけるような仲ではないだろう。
しかしそれだけだ。世界の存亡を賭けた戦いよりも優先する理由は見当たらない。

「馬鹿馬鹿しい。そんなに足の引っ張り合いが好きならお互いを滅ぼすまで続ければ良い」

目下スレイブ達が救うべきは帝国ではなく世界。
倒すべきは堕ちた光竜エルピスであって、帝国最強の黒狼騎士などではないのだ。
クーデターにエルピスが絡んでいるにせよ、元老院の戦力と真正面からぶつかり合う必要はあるまい。

現段階で要塞城からの脱出が可能であるなら、すぐにそうすべきだ。
スレイブは至極まっとうな結論を帰結して、アルダガの差し出す指環を受け取ろうとした。
伸ばしかけた手は、しかし振り返ったシャルムの声によって止まる。

>「ディクショナルさん……これは、あなたが預かっていて下さい。
 もしこの指環に特別な力があるなら……あなた達が持っていくべきです。
 ……いえ、訂正します。あなたが、その力に守られて欲しい」

まるで形見分けのように手渡される無色の指環に、スレイブは泡を食った。

「待て、待て!まさか、あんたも教皇庁の奪還に出向くつもりなのか……?
 クーデターへの対処は神殿と黒騎士の領分だ、"俺たち"の出る幕じゃない」

シャルムの大本の目的が『指環の勇者への同行』である以上、彼女は勇者達と行動を共にすると思っていた。
想定していなかった彼女の反応に、焦りが本音を口から滑らせる。

「それに……危険過ぎる。星都で黒蝶騎士や黒鳥騎士の戦いを見ただろう!?
 教皇庁で待ち構える黒狼騎士は、連中以上の実力者……例えあんたの適正拡張術式でも……!」

人越者達の争いの渦中に飛び込めば、生きて戻れる保証はない。
むしろ、黒騎士同士の戦いに巻き込まれて討ち死にする公算の方が高い。
スレイブの言葉を選ばない説得は、しかし虚しく空を切る。
分かりきった彼我の戦力分析など、とうの昔にシャルムは覚悟の上だった。

10 :スレイブ :2018/08/29(水) 05:22:02.95 ID:+RScdwK+.net
>「もし、その指環が本当にただのアクセサリーだったなら……戦いが終わった後で、返して下さい」
>「あなたが、私の指に。……お願い出来ますか?」

再び踵を返した彼女の背中に、それ以上スレイブは何も言葉を次げない。
例え死地に赴くのと何も変わらなくても、それでも彼女にとって、帝国は命に代えても護るべきものなのだ。

スレイブが喉を詰まらせていると、アルダガから指環を受け取ったジャンがそれを彼女の手に戻す。
そして何をするかと思えば、アルダガの額を指で弾いた。金属をぶん殴ったような音がした。

「ふぎゃんっ」

手加減はあるとはいえ、ハーフオークの膂力だ。アルダガは短い悲鳴を上げて仰け反った。
おそらくアルダガでなかったら首から上が吹っ飛んでいる。

「ジャ、ジャンさん!なにを――」

>「帝都一つ救えない奴に世界が救えるかよ。
 エルピスの野郎が関わっている以上、俺たち指環の勇者の出番だ」

ジャンの言葉に、ティターニアも同調する。

>「別に帝国のためというわけではない。 エルピスは行方知れず、慌てて帝都を脱出したところで手掛かりはないのだ――
 これだけ分かりやすいとっかかりがあるのだから行くしかなかろう。 それに……皇帝殿とは先代同士が共に旅した仲だしな」

アルダガはしばし目を白黒させたあと、なにが可笑しいのか小さく吹き出した。

「……頭部を打撃されるのは、これで二度目です。ふふっ。
 カルディアで初めて会ったあのときから、本当に色々ありましたけれど……人の良さだけは、何も変わっていませんね」

スレイブはなにも言えなかった。頭を抱えたい思いだった。
そうだ。それこそ分かりきっていたことじゃないか。彼や彼女が、仲間の窮地を尻目にイモを引くわけがないと。
スレイブは目頭を揉み、確認しておくべきことを端的に口にした。

「……水を差すわけじゃないが、分かっているんだろうな?
 エルピスがこの件に噛んでいるとすれば、これは十中八九"誘い"だ。
 わざわざ指環を揃えて持っていくなど、それこそ奴の思う壺だぞ」

その問いに、答えなど必要ない。
如何なる深謀遠慮が巡らされていようとも、万人を救うというその姿勢に変容はないと。
これまでの旅で十分すぎるほど理解していた。
なんだか全身の力が抜けていくような感覚にうつむくと、膝を折っていたシャルムと目が合った。

11 :スレイブ :2018/08/29(水) 05:22:27.05 ID:+RScdwK+.net
>「……何してるんですか。早く立たせて下さいよ。どうせあなたも、やめようって言ったって聞かないんでしょう?」

「俺は止める側の人間だと思っていたんだがな……まあ良い。
 へたり込むあんたを立ち上がらせるのも、もう慣れたものだ」

ばつの悪さをごまかすように皮肉を垂れて、スレイブはシャルムに手を伸ばす。
そこで、先程シャルムから手渡された指環がまだ手の中にあることに気がついた。

>「それと……さっきの指環、やっぱり今返して下さい。ほら、ここですよ」

「ん。ああ、それは構わないが……」

差し出されたシャルムの手。その指先に、スレイブは無色の指環を嵌める。
そして彼女の手を握り、立ち上がらせた。

「誤解のないように言っておく。ダーマ人の俺にとって、帝国のお家騒動なんてどうだって良い。
 皇帝陛下や聖女猊下に恩を受けた覚えもなければ、取り立てて助けに行くような大義だってない」

ダーマの軍人としては、むしろ帝国が揺れている現状の方が都合が良いとさえ言える。
大陸が帝国によって支配されていないのは、ひとえにかの国の政情不安定によるところが大きいからだ。
だから、スレイブにとって皇帝を救うことは利敵行為、ダーマの寿命を縮めることに他ならない。

「だが……あんたが大切にしているものなら、俺もそれを大切にしよう。
 あんたの護りたいものを、俺もまた護るために死力を尽くす。大義は、それで十分だ」

シャルムの手を放し、空いた手に拳を握って、彼は言った。

「帝都を救おう。エルピスの描いたこの下らない絵図を、今度こそ終わらせるんだ」

不意に脇腹を突く感触を得て視線を下げると、ウェントゥスがニヤニヤしながら肘打ちをしていた。

「お主さぁ……素でやっとるのそれ?マジ対応なの?儂ドン引きなんじゃけど」

「何がだ」

「いや指環、指環。儂ドラゴンだけど人間の風習くらいは知っとるぞ。
 ふつーはな、何も思っとらん相手の指に直接指環嵌めたりはせんからな」

ウェントゥスの持って回ったような言葉にスレイブはナチュラルに首をひねった。

「………………あっ」

そうしてしばらく黙考して、ついに致命的な己のやらかしに思い至った。

「うっぐ、ぐああぁぁぁぁぁぁ……!!」

耳の先まで真っ赤にして、スレイブはしばらくその辺の壁に頭を打ち付け続けた。
どれだけ衝撃を与えても、脳から記憶は飛んでいかなかった。

・・・・・・――――――

12 :スレイブ :2018/08/29(水) 05:22:47.73 ID:+RScdwK+.net
教皇庁への道中、急進派の手駒と思しき兵士達の迎撃を受けた。
しかし飛来する矢も、空を奔る雷撃も、アルダガや指環の勇者一行を打ち据えることはなかった。
まるで引力でも発生しているかのように、黒亀騎士ヘイトリィの黒甲冑にすべてが吸い込まれていく。

「"流矢の呪い"……と、言うらしいです」

ヘイトリィを文字通りの矢面に立たせながら、アルダガは勇者達へ向けて簡潔に伝えた。

「司法局の捜査官だった黒亀殿は、数年前に帝都であった大規模な呪詛師の摘発の際に、試作段階の新型呪詛を受けたそうです。
 以来、彼の立つ戦場ではあらゆる矢や魔法が因果を捻じ曲げ、彼を殺す軌道を取るようになったと。
 彼はその呪いを鎧で身を固めることによって克服し、全ての攻撃から仲間を護る盾として己を完成させました」

飛んでくる攻撃はもはや波濤を越えて嵐の様相を呈しているが、ヘイトリィに堪える様子はない。
大陸最高硬度を誇るブラックオリハルコンの鎧と、彼自身の防御術式によって、完全に威力を殺しているのだ。

「呪いは味方側から放つ飛び道具にもはたらきます。投射系の魔法を使う際は注意してください」

やがて一行は教皇庁へとたどり着く。
庁内をさまよう影は、赤黒く乾いた血に塗れた死体。アンデッドだ。
血生臭さい風が頬を叩いて、アルダガは小さなうめき声を漏らした。

「セルビス殿、シスター・アレッサ、アトル……」

侵入者に気づいたアンデッド達は、もはや意志の光を失った相貌でアルダガ達を射すくめる。
捻じ切れる寸前の首から上、その顔のひとつひとつを、アルダガは良く知っていた。
急進派率いる黒狼騎士によって蹂躙され、奮戦虚しく命を落とした教皇庁の戦闘修道士達。
彼らは、アルダガと同じ食堂で糧を得てきた掛け替えのない同僚達だ。

彼らの亡骸に、五体の形を保っているものは一つとして存在しない。
黒狼騎士の内包する暴力のおぞましさを、死体の損傷が物語っていた。
アルダガは静かに両手を組み、彼らの冥福を聖句に祈った。

「女神の子よ。その魂を縫い止めし縛鎖を砕き、天界の導きを与えん――『アレフマイル』」

アルダガから放たれた光に照らされたアンデッド達が、糸の切れた人形のように崩れ落ちていく。
聖教式の魂魄浄化神術だ。アルダガは祈りと共に瞑目していた双眸を開く。
仲間を救えなかった悔恨。亡骸を弄ばれた怒り。それらないまぜになった感情を、吐息に変えて冷静さを保つ。

「戦う理由が一つ、増えました」

阻む者のいなくなった教皇庁を進めば、最奥の礼拝堂が見えてくる。
そこで待っていたのは、黒狼騎士ランディ・ウルフマンと――ぼろぼろの鎧に身を包んだ巨大な騎士。
ティターニア達の反応を見るに、あれが光龍エルピスなのだろう。

>「何故そいつに協力する!? 皇帝殿と聖女様をどうする気だ!?」

ティターニアの問いに、黒狼騎士は何も答えない。
そして再び邂逅した者たちにそれ以上の言葉は要らず、戦いは感慨を介さずに始まった。

>「君達はあの者を!」

疾走する黒狼騎士を、ヘイトリィが迎え撃つ。
そこへ畳み掛けるようにシェリーとジュリアンが矢と氷柱を射掛け、エルピスから黒狼を切り離すことに成功した。

>「……ところでそなた、その鎧の下はどうなっておるのだ? そりゃあああ!!」

すかさずティターニアが跳躍し、杖先に作り上げた魔力塊でエルピスを打擲する。
エルピスは激昂の叫びを上げ、大剣を振りかざしてティターニアを両断せんと迫った。

13 :スレイブ :2018/08/29(水) 05:23:31.67 ID:+RScdwK+.net
規制解除

14 :スレイブ :2018/08/29(水) 05:23:50.58 ID:+RScdwK+.net
「ティターニアさん、身を低く屈めてください!」

ティターニアの背後から飛び出したアルダガは、身体強化の聖句を刻みながらメイスを軋むほど握りしめる。

「まずは一発……ぶん殴ります!!」

身に滾る怒りを膂力に変えて、力任せのフルスイング。
うなりをつけて弧を描いたメイスは、エルピスが防御に構えた大剣を半ばから叩き折って、その奥の兜を真芯に捉えた。

常人であればたとえ甲冑に護られていようが兜ごと頭部を粉砕する一撃だ。
頑健な光竜と言えども少なからぬダメージを負ったのか、エルピスは大きくのけぞった。
宙を舞った大剣が礼拝堂の床に突き刺さると同時、シャルムの魔法によって床から萌え出た石柱がエルピスの胴を強かに打撃した。

渾身のメイスと死角からの石柱。
二段構えの連携攻撃は二撃ともがクリーンヒットし、エルピスの巨体が放物線を描く。
耳障りな轟音を立てて、礼拝堂の壁にエルピスが埋まった。

身体ごと持っていかれそうなメイスの慣性を、アルダガは床に足が刺さるほど強く踏みしめて殺す。
エルピスは這々の体で壁の穴から出てきた。

>「馬鹿な……あまりに、呆気なさ過ぎる」

初撃はこれ以上ないほどに決まり、エルピスを瀕死にまで追い込んだ。
しかしシャルムの懸念の通り、事態はまるで楽観視などできはしない。
指環の勇者を二度欺き、帝都を存亡の危機へ陥れた邪竜にしては、あまりにも手応えが不足していた。

「気配が膨れ上がっています……次が来ますよ!」

>「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

咆哮に伴って、エルピスの四肢に亀裂が入り、甲虫の脱皮のように内容物が膨張していく。
仄暗い光と共に鎧の中から生まれ出たのは、一匹の竜の姿だった。

>「ふざけるな……ふざけるなよ、ティターニア……」

本来の形態を取り戻したエルピスの声には、海溝よりも深い怨嗟が満ちている。
光竜、と言うにはあまりにも黒く、暗い体躯は、ところどころに虚無の侵食が見て取れた。

>「違う!違う違う違う!私は!私は……!」

エルピスは自問自答のような、会話の体を為さないつぶやきを漏らす。
やがて己の頭に爪を突き立てたかと思うと、頭部を覆っていた虚無が光に追い立てられて消し飛んだ。

>「……出てこい。指環の勇者よ。お前達ごと、その建物を薙ぎ払われたくはないだろう」

あまりにも要領を得ない問答の末に、冷静さを取り戻したエルピスが吠える。
翼が幾度かはためいたかと思うと、アルダガ達とエルピスとを囲うように結界が展開した。

「これは……!?」

アルダガが困惑を声に出すと同時、スレイブが指環を掲げて叫んだ。

「このまま奴に主導権を握らせるのはまずい……!ウェントゥス、防御術式を――ウェントゥス?」

指環からの応答がないことにスレイブが戸惑うと同時、ラテやシノノメからも同様の声が上がった。
アルダガも己の手にある指環を見る。本来あるはずの淡い輝きが失われ、指環は沈黙していた。

15 :スレイブ :2018/08/29(水) 05:25:16.57 ID:+RScdwK+.net
>「さあ……来い。指環の勇者よ。イグニスの、アクアの、テッラの、ウェントゥスの言葉を、真実にしてみろ」

「指環との契約を……断絶させられた……!?」

>「やるしかない……みたいですね。私達だけの力で」

シャルムは諦念したように言ってみせるが、それが如何に無理難題であるか、彼女自身がよく知っているはずだ。
魔物と戦うのとはわけが違う。相手は世界を司る四竜三魔、指環の竜だ。
同じ指環の力なしに、エルピスと戦うことなどできるのか。

光竜の翼に魔力が収束していく。
全竜がそうしたように、あの魔法はたやすくアルダガ達を打ち据えることだろう。

>「『プロテクション』は張りますが……私一人で防ぎ切れるなんて事は、期待しないで下さいよ!」

絶望への前途に時を数える余裕などあるわけもなく。
覚悟を決めるより早く、破壊の雨が降り注いだ。
シャルムの展開した防護障壁は瞬く間に削れ、そして爆ぜ割れた。

「十分だ。一瞬でも攻撃魔法を遅滞させられるなら、あとは俺がどうにかする」

慄然と立ち尽くすアルダガの脇を抜けるようにして、スレイブが前に出た。
彼は左手に臙脂色の短剣を構え、その切っ先は障壁を穿つ光の雨に向いていた。

「――呑み尽くせ、『バアルフォラス』」

障壁を突破したエルピスの攻撃魔法は、スレイブの掲げた短剣の刀身へと残らず吸い込まれていった。

「指環なんてチャチな玩具がなくたって、俺たちは貴様を倒すぞ光竜エルピスッ!
 竜の力に頼らなくても、人間の可能性の先へ辿り着いた者を、俺は知っている!」

瞬間、スレイブが右手で振るった長剣から放たれた閃光が、エルピスの翼を灼いた。

「証明してやる。指環の勇者とは、指環の力を振るう者達のことなどではない。
 その力で、指環を手に入れてきた者たちのことを勇者と呼ぶのだとな――!」

スレイブが啖呵を切る一方で、アルダガもようやく自分のやるべきことを理解した。
指環の力を使わずとも、ヒトは竜に勝てる。それを証明し、エルピスに敗北を認めさせる。

『ティターニアさん、聞いてください』

アルダガは神術の糸をティターニアへと接続し、彼女に声を送った。

『もう一度、ディクショナル殿が光竜の魔法を吸収したら……拙僧が中継し、エルピスの魔力を貴女へ届けます。
 貴女の魔法で、この因縁に決着を付けてください』

それだけ言うとアルダガは念信の糸を切り、メイスを構え直す。

「一度で足りないなら、何度でも殴ります。ジャンさん、合わせてください!」

先んじて飛びかかったスレイブをはたき落とさんとするエルピスの巨腕。
それをさらに叩き潰すべく、アルダガはメイスを振るった。


【指環無効バフ付いたまま戦闘開始】

16 :ジャン :2018/08/31(金) 16:59:39.72 ID:dnhO3+MF.net
エルピスはヒトの姿から本来の姿へと戻り、虚無に取り込まれつつあった自分の権能を振り絞る。
そこから生み出されるのは、指環の力を持ち主から引き剥がす驚異の結界。

>「さあ……来い。指環の勇者よ。イグニスの、アクアの、テッラの、ウェントゥスの言葉を、真実にしてみろ」

>「『プロテクション』は張りますが……私一人で防ぎ切れるなんて事は、期待しないで下さいよ!」

虚無にほとんどを飲み込まれてもなお、光竜は光り輝く。
翼から放たれた破壊の閃光はシャルムの防護障壁を打ち砕き、しかしジャンたちには届かない。
スレイブが持つ魔剣バアルフォラスが全てを飲み尽くしたのだ。

>「証明してやる。指環の勇者とは、指環の力を振るう者達のことなどではない。
 その力で、指環を手に入れてきた者たちのことを勇者と呼ぶのだとな――!」

「……そうだな!俺たちは指環に頼りっぱなしで来たわけじゃねえ!
 いつだって力を合わせてやってきた!」

>「一度で足りないなら、何度でも殴ります。ジャンさん、合わせてください!」

「アルダガ!俺は下からいくぜ!」

アルダガがメイスを振るうのに合わせ、ジャンはエルピスの真下へ突進し、ミスリルハンマーを振り上げる。
二人の凄まじい膂力から振るわれる一撃はエルピスの腕、その骨を鱗の上から砕くには十分な威力だ。

通常、成体となった竜の鱗は強靭であり、斬、打、突といったあらゆる物理的な攻撃を受け付けないものだが、
ヒトの平均をはるかに上回る二人の腕力と、魔力によって自らを維持していたエルピスがその枯渇によって
身体そのものが脆くなっていたことが合わさり、エルピスの右腕は骨が折れ砕ける音を立てて無残に曲がる。

17 :ジャン :2018/08/31(金) 16:59:54.58 ID:dnhO3+MF.net
「グゥオアアアアア!!!」

エルピスは痛みと屈辱に耐えきれず叫び、まだ無事な左腕を振り上げ、ジャンたちに叩きつけんと振り下ろした。
通常ならば魔力を纏い、ブラックオリハルコンすら粉砕するその一撃。
だが今は鱗がところどころ剥げ、爪は半分欠けてしまっている。それを見たジャンはミスリルハンマーを
素早く腰に戻し、両手でその一撃を受け止めんとした。

「オークごときがァァァァ!!!」

「うぉりゃああああ!!!」

両足は石床を踏み抜かんばかりの勢いで身体を支え、両手はエルピスの丸太よりも大きな巨腕をがっちりと押し止めている。
気合のこもった叫びから生み出されるウォークライはジャンの身体に隅々まで活力を漲らせ、指環がなくとも竜に立ち向かう勇気と力をくれる。

だがエルピスの攻撃はそれだけにとどまらない。
左腕はジャンに向けて押し潰す勢いで力を込めたまま、その口を開き、顎を限界まで下げる。
そして口内を中心に四重の円形魔法陣が展開された。竜の咆哮そのものを純粋な攻撃として叩きつけるそれは、一行を消し飛ばすには十分な破壊力だ。

『我が咆哮は全てを粉砕する……!加護無き者よ、ここで私と消えてもらおう!』

エルピスはさらに攻撃を止めない。両翼に魔力を蓄え、辺り一帯に無差別に破壊の閃光を放つ。
狙いが定まらないそれは逆に一行の動きを制限し、追い詰めるものだ。


【エルピス発狂モード突入!】

18 :ティターニア :2018/08/31(金) 23:51:02.97 ID:kXxMc/nU.net
アルダガの一撃と死角からのシャルムの魔法をまともに受け、吹っ飛ばされるエルピス。
悠久の昔から世界を危機に陥れ続けてきた堕ちた光竜にしては、あまりにもあっけない。
運よく何らかの理由により余程消耗していたのかと期待したが、そう都合よくはいかなかった。
甲冑が砕け散り、その場所に巨大な光り輝く竜が現れる。

19 :ティターニア :2018/08/31(金) 23:52:27.42 ID:kXxMc/nU.net
>「そんな……光竜は、虚無に飲まれていたはずでは……」

「虚無に飲まれた振りをして逆に虚無の竜を利用していたということか……!? でも何故!?」

>「ふざけるな……ふざけるなよ、ティターニア……」
>「この期に及んで、そんな手緩い攻撃があるか……」

虚無に飲まれていないのだとしたら何故世界を滅ぼそうとしているのか。
何をこれほどまでに憎んでいるのか。分からないことだらけだ。

>「……それとも、あれがお前の全力だったのか?指環の勇者よ。
 だとしたら……やはりヒトとは、我らが支配し、導いてやらねばならないんじゃないか?
 なあ……イグニス。アクア。テッラ。ウェントゥス」

暫し問答するエルピスとイグニス。しかしその途中、エルピスの様子がおかしくなる。

>「いいや、誰にもそんな事は分からない。だから私は、この世界を滅ぼす……違う!」
>「違う!違う違う違う!私は!私は……!」

気合で正気を取り戻したらしいエルピスが一行に宣戦布告する。

>「……出てこい。指環の勇者よ。お前達ごと、その建物を薙ぎ払われたくはないだろう」

どちらにしろ戦う気は満々らしい。
これでは虚無に飲まれようが飲まれまいがやっている事は一緒ではないのか。
正直何がしたいのかよく分からない。
そんなティターニア達の気持ちを代弁するかのように、イグニスが言う。

>『……お前が何を考えているのかは、正直分からん。だが……やるだけ無駄だ。
 我ら四竜の指環を前に、お前がたった一頭で何が出来る?』

>「……知りたいか?」

エルピスが翼をはためかせると、辺り一帯に特殊な結界らしきものが展開される。
それは指輪の力を封じる結界。

>「さあ……来い。指環の勇者よ。イグニスの、アクアの、テッラの、ウェントゥスの言葉を、真実にしてみろ」

>「やるしかない……みたいですね。私達だけの力で」

「そのようだな。どうやら複雑な事情がありそうだが……
コイツもまたコテンパンにやられてからじゃないと話し合いが始まらない系の輩らしい。
全てはそれからだ」

20 :ティターニア :2018/08/31(金) 23:54:57.20 ID:kXxMc/nU.net
>「……すみませんが、気安く大魔法をぶっ放すような真似は出来ません。
 魔法の発動を予知されて、狙い撃ちされたら……庇う側が大変でしょう?」
>「『プロテクション』は張りますが……私一人で防ぎ切れるなんて事は、期待しないで下さいよ!」

エルピスが放った無数の閃光が降り注ぐのを皮切りに、戦闘が始まる。

>「十分だ。一瞬でも攻撃魔法を遅滞させられるなら、あとは俺がどうにかする」
>「――呑み尽くせ、『バアルフォラス』」

エルピスの放った魔法を、スレイブがバアルフォラスで吸収する。
そしてアルダガがティターニアに念信で声を送る。

>『ティターニアさん、聞いてください』
>『もう一度、ディクショナル殿が光竜の魔法を吸収したら……拙僧が中継し、エルピスの魔力を貴女へ届けます。
 貴女の魔法で、この因縁に決着を付けてください』

>「一度で足りないなら、何度でも殴ります。ジャンさん、合わせてください!」
>「アルダガ!俺は下からいくぜ!」

>「グゥオアアアアア!!!」

アルダガとジャンの猛攻を受け、エルピスが苦悶の叫びをあげその腕が無残に曲がる。
エルピス本来の力ならいかなる物理攻撃も受け付けないはずだが、
相当消耗しているのではないかという最初の見立ては間違いではなかったのだ。

「もう良いだろう……! 教えてはくれぬか? そなたは一体何に絶望した? どんな未来を見たのだ!?」

「私に勝てると思っているとは……どこまでも愚かな奴らだ。
だが……死にゆく貴様らへのせめてもの手向けに教えてやろう」

そう言ってエルピスは、光の力で空間に情景を投影する。
それは、遥か昔、旧世界で繰り広げられていた、泥沼の戦争。
その果てに開発された至上最悪の兵器がついに使われてしまい、世界が不毛の地と化すというものだった。

「酷い……」

「絶大な威力だけではなく使用後半永久的に一帯の生物を殺し続けるという恐るべき制御不能の呪い――そんな兵器だ」

「これは……旧世界にもしも虚無の竜が来なければ起こっていたかもしれない可能性か?」

「違う。私が虚無の竜を呼ばなければ確実に起こっていた現実だ」

「そなたが虚無の竜を呼んだ……だと!? そなたはそのころからすでに滅びを望んでいたのか?」

「貴様らは本当に何も分かっていないのだな……。人間こそが世界を食い尽くし滅びを齎す存在だというのに。
各属性の魔素とは星の生命エネルギー。竜とはその具現化。
旧世界の文明は繁栄を極め――裏を返せば回復が追い付かない程に世界の属性を食い尽くしつつあった。
そして虚無の竜とは世界を食い尽くす存在から属性を保護するための最終手段……
世界をいったんリセットしてやり直す再生のための機構だ」

21 :ティターニア :2018/08/31(金) 23:57:16.60 ID:kXxMc/nU.net
ティターニアは少し考える素振りを見せてから、呟いた。

「なるほどな――」

「ようやく分かったか? 人間がいかに愚かかということが」

「そなたが融通が利かぬ愚か者だということがよく分かった。
よくない方向に行きそうだからって全部リセットしたりヒト”だけ”でうまくいかないから完全支配するって完璧主義か?
そなたらとて竜同士内輪で方針の違いで対立している時点で”ヒト”のこと言えぬ。
何も完全支配かヒト”だけ”かの二者択一にこだわらなくても……
例えばお互い少し手助けして上手くいくならそれはそれでいいのではないか?
足りないところがあるなら補い合えばいい」

22 :ティターニア :2018/08/31(金) 23:57:42.43 ID:kXxMc/nU.net
「ふん、負け惜しみの屁理屈を……! 無駄話は終わりだ!!」

そこで会話は打ち切られ、エルピスが全力の攻撃を開始する。
大きく開かれた口内に魔法陣が描かれ、竜の咆哮そのものが攻撃として叩きつけられる。

>『我が咆哮は全てを粉砕する……!加護無き者よ、ここで私と消えてもらおう!』

辺りに無差別の閃光が放たれる。
ティターニアは敢えて防御は他の者に任せ、機を伺っていた。
――アルダガに決め手を託されているからだ。そして、その時は訪れた。
スレイブがバアルフォラスでエルピスの魔力を吸収することに成功し、アルダガによってその魔力が届けられる。
その絶大さに、ティターニアは驚愕した。
今ならどんなに無茶な魔法の拡大だって出来る、それだけの魔力だ。
あれ程ボロボロになっていて魔力が枯渇しているように見えるにも拘わらず。

>『単純な力量を比べるだけならば、私がお前達に勝てる道理などない。
 だが……お前達は、竜。そして、死者だ。ヒトより隔てられるべき魔の者だ。
 であれば……このような事が可能という訳だ』

エルピスが言うには、これは死者や魔に属する者を隔てる結界らしい。
しかし言葉通りに取ればある意味魔の者そのものであるはずの魔族であるシノノメも弾かれるはずだが、普通にこちら側にいる。
つまり、現在の世界で一般的に種族として存在している存在は弾かれないということだろう。
それを逆手に取る。

「エルピス殿……そなたは一人じゃない――“繋がる世界《イッツアスモールワールド》”」

これは本来、効果範囲内に存在するあらゆる種族や生物の力をほんの少しずつ借りることが出来るという魔法だ。
今回はエルピスの魔力を用い、その範囲を全世界にまで拡大した。
そして力を借りる対象の種族を敢えて指定――それは竜だ。

23 :ティターニア :2018/08/31(金) 23:59:07.99 ID:kXxMc/nU.net
「竜装――”アルカンシエル”」

ティターニアは全ての属性を併せ持つ七色に輝く竜装を纏い、エルピスに対峙する。

「何故だ……何故この結界の中で竜の力を使える!?」

「何を驚いておる。竜の眷属達なら世界にたくさんいるだろう。
それに使わせてもらったのはそなたの魔力だぞ。協力が得られるのも当然というものだ」

ウェントゥス上空に翼竜がたくさん飛んでいたように、一般の種族としての竜は、
伝説の彼方の存在ではなく現在普通に生息しているのだ。

「我が眷属達だと!? おのれ、何故……ヒトなどに力を貸す!?」

「眷属達もそなたが解放されるのを望んでいるからではないのか?
そなたの眷属達と共に……そなたに巣食う絶望を浄化してやる。もう一人で苦しむのはやめろ」

そう言って杖を掲げ、魔力を集め始める。

「黙れ! 未来が見える者の孤独が、絶望が、苦しみが……! 貴様なんかに分かってたまるか!!」

「――嘘だな。そなた、今は未来が見えていないのだろう?」

「――!!」

エルピスは明らかに動揺したように見え、それはティターニアの言葉が図星だったことを如実に示していた。
本当に未来が見えるなら、もっと攻撃を避けられるはず。
それを糸口に確信できたのは、自らに呪いをかけ魔法を封じてしまったシャルムの例があったからだ。
エルピスは未来が見える力に絶望するあまり、その力を自ら封じてしまったのだった。

「その呪い、解いてやろう。前とは違うものが見えるかもしれぬぞ――」

「い、嫌だ……やめろ……!」

「センスオブワンダー!!」

エルピスが怯えるのもお構いなしに、ティターニアは杖を振り下ろす。
それは攻撃魔法ではないものの、今のエルピスにとっては何より恐ろしいものだった。
その効果は――癒しと浄化。
ティターニアは、エルピスがこうなったのはエルピス自身が自らにかけた呪縛こそが元凶だと踏んだのだった。
解き放たれた虹色の閃光の束が、容赦なくエルピスを貫いた。

24 : :2018/09/05(水) 12:54:33.46 ID:NQSHWJGX.net
指環の勇者達の力は、光竜エルピスの力を上回っていた。
例え指環の加護が失われていたとしても。
エルピスの右腕は叩き折られ、残る左腕もジャンソンさんとの力比べで押さえつけられている。

このまま力比べを続けても隙を晒すだけ。
そう判断したのか、エルピスは左腕を引いて体勢を立て直す。
と、そこでティターニアさんが前に出た。

>「もう良いだろう……! 教えてはくれぬか? そなたは一体何に絶望した? どんな未来を見たのだ!?」

……確かに、これ以上続けてもエルピスに勝ち目はないように見えます。
ですが、だとすればなおさら会話なんて、奴を戦闘不能にしてからにすればいい。
すればいいんですが……まぁ、ティターニアさんですからね……。
仕方ありません。一旦、様子を見る事にしましょう。

>「私に勝てると思っているとは……どこまでも愚かな奴らだ。
  だが……死にゆく貴様らへのせめてもの手向けに教えてやろう」

エルピスの魔力が宙空に魔法陣を描く。
そして周囲の空間に、蜃気楼のように幻影が映し出される。
人間同士の殺し合い、戦争と……その結末が。

>「酷い……」
>「絶大な威力だけではなく使用後半永久的に一帯の生物を殺し続けるという恐るべき制御不能の呪い――そんな兵器だ」

……耳が痛いですね。
私の『ドラゴンサイト』も、突き詰めれば世界中を焼き払う事の出来る兵器ですし。
もっとも、そんな事を言っていたら私達は今でも魔法を使わずに、石を削って作った道具で生活をする羽目になります。
技術の進歩と、使用者のモラルは別の問題です。

>「これは……旧世界にもしも虚無の竜が来なければ起こっていたかもしれない可能性か?」

だとすれば、そんな可能性があった……
それだけの事を根拠に世界を滅ぼそうだなんて馬鹿馬鹿しい事です。

>「違う。私が虚無の竜を呼ばなければ確実に起こっていた現実だ」
>「そなたが虚無の竜を呼んだ……だと!? そなたはそのころからすでに滅びを望んでいたのか?」
>「貴様らは本当に何も分かっていないのだな……。人間こそが世界を食い尽くし滅びを齎す存在だというのに。

「……馬鹿馬鹿しい。やはり、聞くだけ無駄ですよ、ティターニアさん。
 正直、私にはこの竜が、虚無に飲まれて正気を失っているようにしか思えない」

旧世界で起きていたはずだとかいう戦争は、虚無の竜によって実現されなかった。
よって、例え光竜が予見したものであっても、未来とは可変である。
そして、であれば虚無の竜などに頼らずとも、未来を変える術なんていくらでもあったはず。
各地の王として君臨する四竜を頼るとか。
せめてご自慢の未来視で戦争のきっかけとなる人物を見つけ出すとか。

……やはりどう考えても、導き出される結論は、この話は虚無に侵された者の妄想です。
あるいはエルピスは旧世界の四竜から物凄く嫌われていて信用がなかった、とか。

>「なるほどな――」
>「ようやく分かったか? 人間がいかに愚かかということが」
>「そなたが融通が利かぬ愚か者だということがよく分かった。
>「ふん、負け惜しみの屁理屈を……! 無駄話は終わりだ!!」

「ええ、無駄話は終わりです。つまり、あなたが滅びる時が来たという事ですよ」

25 : :2018/09/05(水) 12:54:58.90 ID:NQSHWJGX.net
>『我が咆哮は全てを粉砕する……!加護無き者よ、ここで私と消えてもらおう!』

エルピスの両翼に魔法陣が浮かび上がり、周囲にギロチンのように閃光の刃が降り注ぐ。
出の早い光属性の魔法をこうも乱れ打ちされるのは……くっ、確かにキツいですね。
ですが……こちらもただ身を守っているだけではありません。
ディクショナルさんが襲い来る閃光を魔剣で吸収。
そしてその魔力をバフナグリーさんが、ティターニアさんへと転送する。

26 : :2018/09/05(水) 12:55:31.67 ID:NQSHWJGX.net
>「センスオブワンダー!!」

そうして発動された魔法は……ああ、もう。
よりにもよって、なんて魔法を……。
センスオブワンダー。不可思議なものを感じ取る感覚を、精神に付与する魔法。
誰が命名した魔法だか知りませんが、なんというか、まぁ、言葉遊びですよね。
不可思議なものを感じ取る感覚……それはつまり、正常な精神が元々持っているものです。

つまりあの魔法は、乱れた精神を正常に戻す為の魔法。
もっとも、本来は虚無による心神喪失を治療出来るほどの効力はないはずですが……
光竜とその眷属の魔力を利用しているのなら、或いは……ってところでしょうか。

「お……おぉ……」

光竜は、虚空を見つめて呻き声を漏らしている。

「……今の内にトドメを刺すとか、せめてもう少し深手を負わせるとか、しちゃ駄目ですかね」

……ラテさんやフィリアさんが、信じられないと言いたげな目で私を見る。
いやいやいや、考えてみて下さいよ。

「だって、未来を改めて予知したところで、エルピス自身の性格の悪さが治らなければ無意味ですよ」

私は噛んで含めるような口調で続ける。

「いいですか。未来を変える術はいくらでもあったはずです。
 自らの意志で修正可能な以上、未来は如何様にでも変えられたはず。
 ですがエルピスは最も多くの犠牲を払う方法で未来を変えた」

もし私が同じ未来を見ていたなら、きっと原因となる一人だけを始末して未来を変えていたでしょう。
ティターニアさんなら、今度はそれすらしなくても済む方法を予知しようとしたでしょう。

「未来予知の能力は、ただの魔法。その一つに過ぎません。
 その魔法を使って……エルピスは、あの世界の全てを滅ぼす事を決めた。
 それは、奴自身の気質、思考回路、性分……総合的に言って、性格の悪さが故です」

その部分が変わらなければ、何度未来を見ても同じ事。
厄介な能力を取り戻される前に、戦闘不能にしておかないと……。
私は魔導拳銃をエルピスへと向ける。

ですがすぐに、私の射線は遮られました。
右手を銃口に被せるように伸ばしてきたのは……

「ラテさん?一体何のつもりですか」

27 : :2018/09/05(水) 12:56:16.00 ID:NQSHWJGX.net
「やめとこうよ、シャルムさん。このまま様子を見よ?
 もしかしたらエルピスも、ティターニアさんのお人好しぶりに感化されちゃったりするかもしれないよ」」

「……そういう可能性も、あると思いますよ。だけど、とても低い可能性でしかない」

私は一歩前に出て、ラテさんの制止を躱して魔導拳銃を構え直す。

「……未来を変える術はいくらでもあった。だけど、それでも一番多くの犠牲を払う方法を選んだ」

不意に、ラテさんの声音が変わった。
幼い、童女のような語り口が……まるで年相応の、喋り方に。
思わず、私は振り返る。

「そういうのは、性格が悪いって言うんでしょ?よくないよ、そういうの」

続いて聞こえた彼女の声は、またいつも通りのものに戻っていました。
気のせい……だったんでしょうか。
……ただ一つ言える事は、どうやら私はこのとぼけた様子の彼女に、一本取られたようだという事だけです。

「……分かりましたよ」

私は魔導拳銃をホルスターに戻して、後衛の立ち位置に戻る。
エルピスはまだ虚空を見つめている。
私達はその様子をただ見守っていた。

そして…………程なくして、エルピスは、ふと……微笑みを浮かべた。

28 :ラテ・ハムステル :2018/09/05(水) 12:59:01.07 ID:NQSHWJGX.net
「ほら!やっぱり言った通りだったでしょ!」

わたしは思わずシャルムさんを振り返って、彼女の手を握ってそう言った。
エルピスがどんな未来を見たのかは分からないけど……あの表情!
きっと悪いものじゃなかったに違いないよ!

「ちょ、ちょっと!まだ戦闘中ですよ!前を見て下さい!」

「もー、往生際が悪いなぁ。戦いなんて、もう必要ないに決まって……」

……不意に、轟音が響いた。私達の頭上から。
見上げてみると……わたしの目に映ったのは、砕け散るプロテクションの欠片。
私達を覆うように広がった百足の王様。
そして……その甲殻に弾かれ飛散する、閃光の魔法。

「……なんで?」

わたしは、思わずそう呟いた。
慌ててエルピスに向き直って、その顔を見上げる。

「私は、未来を見た……以前と何も変わらぬ、滅びの未来をな。
 例えお前達が虚無の竜に勝利した未来であっても……世界の滅びは避けられなかった。
 共通の敵を失った三大国は一年もしない内に戦争を始めていた」

「う……嘘でしょ?」

「いいや、それが私の見た未来だ」

「……嘘だ!そんなのあり得ないよ!だって……だって、あなたは、笑ってたもん!
 そんな未来を見たなら……あんな風に、笑える訳がないよ!」

「……もう、話す事は何もない。そして……下がれ、我が眷属達よ。
 この光竜エルピスの戦いに、影を差す事は許さぬ」

エルピスはそう言うと……まだ無事な左腕を、大きく振り上げた。
上体を捻り、力を溜めている。渾身の力で振り下ろす為に。

一体、どうして……わたしには、分からない。
私になら、分かるのかな……ううん、やっぱり分からない。

未来を見る力を取り戻したエルピスは、さっきまでよりかは強くなっているかもしれない。
だけどそれでも、私達が負けるかと言えば……そうは、思えない。
エルピスに勝ち目があるとは、思えない。

エルピスの左腕が唸りを上げて、私達へと降ってくる。
だけど……ジャンさんなら、それも受け止められる。
さっきも出来たんだ。今度も出来ない訳がない。
アルダガさんと力を合わせれば、その腕を壊すのだって一瞬で出来ちゃう。

それでもエルピスは怯まない。
腕が駄目なら、今度は全身を回転させて尻尾を振り回す。
鞭のような攻撃は、ジャンさん達が受け止めようとしても重さと勢いに物を言わせて弾き飛ばせるかもしれない。

だけど、それならばとフィリアちゃんが前に出た。
巨大な百足の王が尻尾を真正面から受け止めて、絡みつく。
そして一度動きを止めたら、今度は蟻の大顎が……エルピスの尻尾を噛み切った。

29 : :2018/09/05(水) 12:59:54.45 ID:NQSHWJGX.net
……苦悶の悲鳴を上げて、なのにまだ、エルピスは戦いをやめようとしない。
不意に私達の死角から現れる、エルピスの分身……七体の甲冑。
これは……光が持つ、分離の性質によって作り出したもの。

七振りの大剣が私達に襲いかかる。
……でも、遅い。
私は一歩も動かなかった。
動こうと思った時には、シノノメさんの剣が甲冑をまとめて数体、叩き斬っていたから。
わたしの分は、取られちゃった……残りも、皆がすぐに倒しちゃうよね。

両腕が壊され、不意を突いても仕留められず……エルピスにはもう、打つ手はない。
そうとしか思えない。
なのに……なんでまだ、折れた腕を回復魔法で修復して、また折られて、それでも戦おうとするんだろう。
なんでエルピスはまた、笑ってるんだろう。
敗北が近づく度に……なんであの微笑みは、より穏やかになっていくんだろう。

……不意に、上空に魔法陣が浮かび上がった。
結界の中全てを覆うほどの大きな魔法陣。
させません、と張り詰めた声を上げて、シャルムさんが右手を天にかざした。
魔法陣を構築する紋様が、絶え間なく変化していく。
多分、術式の主導権をお互いに奪い合っているんだ。
数秒の沈黙の後……シャルムさんが右手を強く握り締めた。

瞬間、魔法陣は砕け散って……エルピスは、全ての力を使い果たしたかのように、倒れ込んだ。
私達を囲んでいた結界が砕け散る。
……指環に、光が戻った。

30 :ラテ・ハムステル :2018/09/05(水) 13:01:13.42 ID:NQSHWJGX.net
『ラテさん!皆さんは!怪我はありませんか?結界の外から見てはいましたが……』

「……ううん、大丈夫だよ。戦いが長引いて疲れちゃったし、少し傷も負ったけど……。
 深手は、一つもないよ。心配してくれてありがとね、メアリさん」

私は慌てた様子のメアリさんにそう答える。
……それから、エルピスの方を見た。
勝ち目がない戦いを貫き通して……ぼろぼろになったエルピスを。
傷だらけになって、出血も酷い。いくら竜でも……この傷は、致命傷のはず。

滅びの未来なんて……見えたはずがないのに。
ティターニアさんなら、あなたを許してくれたはずなのに。

「……なんで」

気付けば、私はそう呟いていた。

『……何故だ、エルピス。お前に勝ち目はなかったはずだ』

炎の指環からイグニスが姿を表して、エルピスに問いかけた。

「……なあ、イグニス。人間は……ヒトは……彼らだけで、この世界を守っていけると思うか……?」

『この期に及んで、何を……』

「私には……分からなかった。本当に分からなかったんだ。
 彼らが自分達だけで、生きていけるのか……」

『……エルピス?』

31 :ラテ・ハムステル :2018/09/05(水) 13:02:34.45 ID:NQSHWJGX.net
「信じたかった。私も、お前達みたいに……だがどうしても出来なかった。
 無限に見えてくる未来の、悪い方にばかり、私は目が行った」

エルピスは血を吐きながら、うわ言のように言葉を紡ぐ。

「ずっと不安だった。だから……確かめたかったんだ。
 確かめずにはいられなかかった。どんな手を……使ってでも……。
 ……見てたか、アクア。こんな小さな人間とオークごときが、私と力比べをして、勝ったんだ」

エルピスはもう、首を動かす事すら辛そうにしていた。
それでもジャンさんとアルダガさんを視界に捉えて……また、微笑んだ。

「私の尻尾が、この小さな虫けらに食いちぎられたんだ。凄いだろう、イグニス。
 それに、そのエルフは……私が心の底から絶望して生み出した呪いを、解いたんだ。
 信じられるか?テッラ。竜である私の呪いを、たかがヒトが消し去ったんだ」

……メアリさん達は、結界によって戦場から追い出されていた。
だけど……私達の戦いは見えていたって言っていた。

「見ろよ、ウェントゥス……私の美しい鱗が、台無しだ。人間風情の剣によってな。
 テネブラエ……お前が、正しかったんだな。
 ヒトには、私の目を以ってしても見通せない可能性が……あったんだ」

それでもエルピスは、皆に私達の戦いの様子を教えている。
……とても、嬉しそうに。誇らしげに。

「……私が、私が間違って……いたんだ……お前達が……正しかったんだ……」

……今なら、分かる。
エルピスがした事は、決して許される事じゃない。
許される事じゃないけど……この竜はきっと、誰よりも人間を信じようとしていたんだ。
人間の、ヒトの可能性に、狂おしいほどの関心があったから……。

だから……どんな手を使ってでも、世界を滅ぼそうとし続けてきた。
いつか、誰かが……自分の事を打ち負かしてくれる事を望んで。
そうする事でしか人々を信じ切る事が出来なかった……なんて、哀れな竜。

「ああ……良かった。良かったなあ……間違っていたのが、私で……。
 人間は……ヒトは……強かったんだ……私よりも……ずっと……」

……エルピスの鱗に宿った光が、徐々に薄れていく。

32 :ラテ・ハムステル :2018/09/05(水) 13:03:01.38 ID:NQSHWJGX.net
「……虚無の竜には、私が封印を施していた。
 だが……奴はそれを既に食い破り、動き出している……」

周囲には濃い、あまりにも濃い、血の臭い。
エルピスの命が……失われようとしているんだ。

33 : :2018/09/05(水) 13:04:04.36 ID:NQSHWJGX.net
「聞け……!私は虚無の竜を、世界をやり直す為の装置だと言った……。
 だが、それは正確ではない……。
 結果として、虚無の竜は世界の再生に利用出来た……だが本質は、違う……」

それでもエルピスは牙を食い縛って、私達をしかと見つめた。

「奴は……生ける屍だ。この世界と、かつての世界との距離。
 それよりもずっと遠く、私の目でも見通せないほど遠くにあった、世界の死骸なのだ」

「世界の、死骸?なに、それ……」

「言葉通りの意味だ。なんらかの原因によって滅びた……消費され尽くした世界の、言わばアンデッドだ。
 アンデッドが生者を食らい、命を取り戻そうとするかのように。
 奴は属性を食らう事で……かつての姿を取り戻そうとしているのだろう」

世界そのものの、アンデッド……そんな存在が、生まれ得るものなの?
今更エルピスが嘘をついているとは思わないけど……
スケールが大きすぎて、私のちっぽけな頭脳と器ではすぐには受け止めきれない……。

「そして……虚無の竜の肉体は、既に属性を取り戻している。分かるか?
 既に肉体は生き返っているんだ。
 そこに、クリスタルに封印されていた奴の魂が戻れば、どうなるか……」

だけど混乱気味の私を、エルピスは待ってくれない。

「私には、その未来が見えなかった。たった数年後の未来すら。
 何故か……虚無の竜が蘇れば、この世界はもう、この世界ではなくなるからだ。
 奴が滅ぶ前の……お前達も、この世界の誰も彼もが存在しない世界が、蘇るのだからな」

……そして私も、別にこの話の全てを理解出来なくたっていい。
少なくとも、虚無の竜を止めなきゃどうなるのかは大体分かった。
だったら、後は知るべき事はたった一つ。

「……どうすればいいの?」

「イグニス山脈へ行け……奴はこの世界の、己の肉体の中心を目指している。
 地中深くまで続く溶岩……そこから、奴は肉体へと戻るつもりだ」

ふと、エルピスが、ジャンさんと、ティターニアさんだけをじっと見つめた。

「お前達にとっては、始まりの地か……そこで、全てを終わらせてくれ」

そう言うとエルピスは……急に激しく咳き込んで、大量の血を吐き出した。

「……メアリ。すまなかった」

最後の力を振り絞るように、私を見つめて、エルピスはそう言った。
そして……糸が切れた人形のように、どさりと、地面に首が落ちる。
もう、顔を上げて私達を見つめる……その力すら残っていない。

「……頼みが……ある。私の事は……このまま……死なせてくれ……。
 指環にもならずに……このまま、完全に、いなくなりたい……。
 それでこそ……それこそが……完全な敗北……なんだ……」

34 :シャルム・シアンス :2018/09/05(水) 13:04:32.62 ID:NQSHWJGX.net
「……休んでいる暇はありませんよ、皆さん。
 まだ……黒狼騎士が残っていますからね」

今はまだ、黒蝶騎士と黒亀騎士、それにクロウリー卿が戦ってくれているはずですが……

「先に言っておきますよ。私は、今でもジャンソンさん達は虚無の竜を追うべきだと思っています。
 黒狼騎士はありとあらゆる戦闘手段に精通した、人の形をした怪物です。
 戦いを長引かせる事も、逃げようとする相手を逃さず釘付けにする事も、お手の物でしょう」

それはつまり一度挑めばもう、やはり時間がかかりすぎる、虚無の竜を倒しに行かなければ……
なんて考えで逃げ出す事はさせてもらえないだろう、という事。

35 : :2018/09/05(水) 13:04:56.45 ID:NQSHWJGX.net
「それでもやると言うのなら……覚悟を決めて下さい。
 これより先はもう、後戻りは出来ないと……」

「いいや、その必要はないぜ」

「……は?」

背後から聞こえた声。
振り返ると……そこには、黒狼騎士がいました。
なんで?あの三人は?まさか、もうやられてしまった?
いや違う。そうじゃない。今考えるべきはそうじゃなくて……
この状況から私が助かるには、どうするべきなのか。

咄嗟に魔導拳銃を抜く。
右手を顔の高さにまで上げた時には、突きつけるべき銃口がなくなっていた。
細切れにされた銃身が、私の足元に落ちて小さな金属音を奏でた。

「焦んなって……俺も、もう戦る気はないよ。つーか三人かがりでボコられて既に結構しんどいし」

……この言葉は、恐らくは嘘ではない。
もし嘘なら、私は既に殺されているだろうから。
ですが……

「何故……」

……私には、理解が出来ない。

「あん?何が?」

「何もかもが分からない。何故、あなたがクーデターに加担したのかも。
 何故……こんな、中途半端な形で、それを投げ出すのかも」

「あー……それね。いいぜ、教えてやるよ」

そう言うと黒狼騎士は……エルピスを、顎で指した。

「俺も、そいつと同じだよ」

「……どういう意味ですか」

「ずっと前から気になってたんだ。帝国はさ、俺が死んじまった後も大丈夫なのかよって。
 ほら、ちょっと前にあったろ。ジュリアンの奴がダーマに亡命した時。
 あの時は、昔併合された国の連中がいきり立って内乱起こしたりしたよな」

……そんな事もありましたね。
結局、一ヶ月もかからずに鎮圧は終わりましたけど。
……いえ、鎮圧するのに一ヶ月もかかった、と言うべきでしょうか。
黒騎士による国防は、内部に入り込んだ敵、ゲリラ戦術に対して相性が悪い。
そのせいで、戦いが長引いたのは知っています。

「もし俺が死んじまったらさー。起こる騒動はあの時の比じゃねーと思うんだよなー。
 そうなった時に、帝国は俺抜きで帝国を守れるのか……一度、どうしても確かめておきたかったんだ」

そこまで言うと……不意に、黒狼騎士が五体を地面に擲つように倒れ込んだ。
……い、一体何が?

「……駄目だ。もー立ってらんねえわ。やっぱもっと早くエルピスの封印ぶっ千切っとくべきだったか?
 いや……それも含めて、俺がアイツらを見誤っただけか」

「……びっくりさせないで下さいよ、もう」

36 : :2018/09/05(水) 13:08:05.11 ID:NQSHWJGX.net
「ははは、悪い悪い。でも、安心したぜ。お前らも指環なしでそいつを倒したんだろ。
 世界は……案外俺がいなくても、平気なのかもな。
 黒騎士なんてやめて、またみんなと旅にでも出ちまおうかなぁ」

黒狼騎士は呑気にそう言いながら、両手を頭の下に潜らせて、足を組む。

「行けよ。こっちの後始末は、少し休んだら俺がやっとくよ」

そのまま私達を見もせずに、彼はそう言った。

「後始末……と言うと」

「この大事な時にクーデターなんざ起こしたど阿呆共だよ。
 お前らが世界を救う頃には、全員この世からいなくなってるぜ」

「……出来れば殺すのは、控えませんか?
 洗脳の痕跡を確認したり……少なくとも、正式な裁判を通して罪を裁くべきですよ」

「えー?必要か?それ。洗脳だって心にセコい考えがあったから食らうんじゃねーの?」

「元老院の誰もが、対魔術の心得があるとは限らないでしょう……」

「あ、そっか。オッケーオッケー。任しといてくれよ」

「……不安です、すごく」

……ですが、黒狼騎士との戦いを避けられたのは僥倖でした。
これで後は……虚無の竜を、倒すのみ。
イグニス山脈……指輪の勇者の物語の、始まりの地、ですか。



【黒狼騎士はスルーしちゃったけど、まぁこの章自体、新規さんが来るならって感じだったしいいですよね】

37 :スレイブ :2018/09/11(火) 04:32:52.10 ID:uypsS95G.net
アルダガとジャンが叩き込んだ一撃がエルピスの右腕をへし折り、残る左腕もジャンが抑える。
両腕を封じられてなお抗わんとする竜の、咆哮を呼び水として純粋な力の波濤。
スレイブがそれを魔剣で呑み尽くし、アルダガを通してティターニアに莫大な魔力が注がれた。
七星竜の力を遮断されているはずの結界内で、竜装の輝きが灯る――

>「竜装――”アルカンシエル”」

ティターニアは、他ならぬエルピス自身の力を転用して竜装を纏うことに成功したのだ。
エルピスは絶句する。超然とした態度を崩すことのなかった光竜が、動揺を隠せないでいる。
ティターニアは杖を掲げ、そして告げた。

>「その呪い、解いてやろう。前とは違うものが見えるかもしれぬぞ――」
>「センスオブワンダー!!」

傷つき澱んだ心を澄まし、浄化する解呪の光が奔る。
世界開闢の時から少しずつねじ曲がり、歪んみ続けた竜の呪縛が、消え去っていく。

>「……私が、私が間違って……いたんだ……お前達が……正しかったんだ……」

誰よりも世界を想っていたが為に、何もかもを抱え込んだエルピスの末路。
それは、彼の所業を雪ぐかのように穏やかで満ち足りたものだった。

>「……頼みが……ある。私の事は……このまま……死なせてくれ……。
 指環にもならずに……このまま、完全に、いなくなりたい……。
 それでこそ……それこそが……完全な敗北……なんだ……」

エルピスが消える。
『イグニス山脈へ行け』と、最期にそう言葉を遺して。
アルダガはその一部始終を、唇に歯の跡を刻みながら見ていた。

「ティターニアさん……貴女は、エルピスのことさえも、赦してしまえるのですね」

アルダガには、エルピスに静かな最期を迎えさせるつもりなどなかった。
沢山の仲間が犠牲になった。エルピスによって殺された修道士達は、アルダガにとってかけがえのない同胞だった。
彼が指環の魔女を使って重ねてきた殺戮は、多くの絶望をこの世界にもたらしたはずだ。

然るべき報いを受けさせて、絶望にのたうち回るその姿で、溜飲を下したかった。
神に祝詞を捧げる神官でありながら、怒りに腹の裡を支配されていたことを恥じる。

エルピスが殺した帝国の者たちのことは、所詮他国の者にとっては他人事に過ぎないと、そう言ってしまうことは簡単だろう。
しかし、確信めいた予感があった。
ティターニアは、たとえ死んだのがユグドラシアの身内であったとしても、きっと同じようにエルピスを呪縛から解き放っただろう。
千年の時を経てかつての指環の勇者の記憶を引き継いだ彼女には、エルピスの絶望に共感できるものがあったのかもしれない。

「……拙僧も、まだまだ修養が足りないようです」

教皇庁最高位の修道士は、そうつぶやいて瞑目した。
最期の最期にヒトを信じることを理解し、そして消えゆく命へ向けて、ようやく祈りを捧げることができた。

38 :スレイブ :2018/09/11(火) 04:33:15.82 ID:uypsS95G.net
エルピスをついに打ち倒すことが出来たが、また帝国の動乱のすべてが終わったわけではない。
光竜によって洗脳されていた元老院急進派と、何より人類最強の男、黒狼騎士が控えている。
しかし、当の黒狼騎士は抗戦の意志なしとばかりに諸手を挙げた。

>「焦んなって……俺も、もう戦る気はないよ。つーか三人かがりでボコられて既に結構しんどいし」

「皮肉の下手な男だ。ボコボコになっているのもベコベコになっているのも私の鎧なのだが」

隣に普通にヘイトリィが立っているあたり、最悪の形で決着がついたわけではないのだろう。
攻城砲の直撃にも傷一つつかない彼の自慢の黒鎧は、ところどころがひしゃげて歪んでいる。
背中のあたりに何本も黒い矢が刺さっているのは、黒蝶騎士の流矢に晒されたためだろう。

「いやいや、俺ほとんど殴ってねえよ!?完全に人選ミスってただろあんた等」

魔術師のジュリアンと弓使いのシェリー。いずれの技も、流矢の呪いの対象だ。
二人とも近接戦闘の心得はあるとはいえ、真価が発揮できていたとは言い難い。
それでも黒狼騎士相手に一人も欠けていないのは、やはり腐っても黒騎士ということだろう。

>「行けよ。こっちの後始末は、少し休んだら俺がやっとくよ」

エルピスの呪縛を解くのに力の大半を費やしたらしい黒狼騎士は、そのまま五体を床に投げ出した。
戦後処理のことは考えず、先へ進めと、そう言っている。
そして、アルダガもまた同じ考えだった。

「ティターニアさん。ジャンさん。ディクショナル殿。……シャルム殿。
 拙僧が同行できるのはここまでです。ここから先へ、共に行くことはできません」

アルダガは右手に嵌めていたエーテルの指環を抜き取る。
束の間の共同戦線、仮初めの仲間としての立場から降りる、それは決別の証。

「拙僧は帝国の黒騎士として、現在の帝都を離れることができません。
 最大戦力である黒狼騎士が降りた後も、反旗を翻した急進派の勢力は未だ残っています。
 皇帝陛下と聖女様を救出し、玉座を取り戻すには、黒騎士をこれ以上欠けさせるわけにはいきません」

もともとアルダガが指環の勇者に帯同したのは、星都でエーテルの指環奪還する勅命を受けたからだ。
成り行きでパンドラや全竜、エルピスとの戦いにまで付いてきてしまったが、本来は越権行為も良いところである。

「それに……この一件で教皇庁は、あまりにも多くの人員を失ってしまいました。
 たくさんの仲間がクーデターに巻き込まれて命を落とし、今や女神の使徒は基盤から揺らいだ状態です。
 黒騎士としてではなく、女神を奉ずる神官として、聖女様を護らなければなりません」

そう言ってアルダガは、シャルムの手をとった。
スレイブがしたのと同じように、彼女の指へエーテルの指環を嵌める。

「指環は……シャルム殿、貴女が持っていてください。
 そしてどうか、帝国代表の指環の勇者として……わたしの友人として、勇者たちを助けてください。
 身勝手なお願いというのは重々承知です。それでもわたしは、貴女にこれを託したい」

しばらくシャルムへ深く頭を下げ続けていたアルダガは、うなりを付けて上体を起こした。
ティターニアとジャンへ向き直り、二人を真っ直ぐに見据えて宣言する。

「イグニス山脈で、指環を巡る最後の旅が終わったら、帝都に立ち寄ってください。
 かなりの遠回りになってしまいましたけれど、約束を果たしましょう」

指環を賭けた立ち合いの約束を違えるつもりはない。
指環の勇者にそれを履行する義務などどこにもなかったが、やはり確信めいた予感があった。
彼らは、必ず帰ってくる。すべての因縁に決着を付けて、再びアルダガに会いに来てくれる。

いまはそれが、それだけが、アルダガと勇者達をつなぐ絆だ。

39 :スレイブ :2018/09/11(火) 04:33:34.62 ID:uypsS95G.net
【もともと星都探索の間のスポット参戦のつもりだったので、アルダガはこれにて離脱します。
 延びに延びてしまった決闘パートですが、全部終わってから後日談的な位置づけでやりたいなと思ってます。
 スレイブは今後も同行しますのでよろしくです】

40 :ジャン :2018/09/12(水) 12:48:40.19 ID:Inv1tXhv.net
>「センスオブワンダー!!」

ティターニアが竜装を纏い、どんな大魔法を放ったのか。
それは今までの魔法よりもはるかに容易に使える、精神治療の初歩的な魔法だ。
落ち込んでいる友達を励ましたいというあるエルフの気持ちから生まれたとされる、ただただ真摯な思い。
それをあの膨大な魔力で光竜に叩きつければ、どんな呪いでも吹き飛んでしまうだろう。

そして正気に戻ったエルピスはわずかな抵抗をするものの、
すぐに他の指環の勇者に防がれてしまう。だが、その表情はどこか満足気だ。

そして語り始めるのは、虚無の竜に関する情報。
力尽きるまでのわずかな時間では断片的なことしか分からなかったが、ジャンには一つだけ理解できたことがある。

>「お前達にとっては、始まりの地か……そこで、全てを終わらせてくれ」

「……ああ。お前があの世に行けるかどうかは知らないけどよ、祈っといてやるぜ」

ジャンは拳を胸当てに当てて目を閉じ、エルピスが消えるまでの間、オークなりの冥福を祈っていた。
そして目を開ければ、ジャンは気持ちを切り替える。やることは分かったのだから、後はそこに向けて一直線。いつものことだ。

>「……拙僧も、まだまだ修養が足りないようです」

「ありがとな。一戦やれるのはまだ先になりそうだけどよ」

そして結界が消滅し、元の場所へと一行は戻る。そこにいたのは敵対していたはずの黒狼騎士と、
ジュリアンにシェリー。そして黒亀騎士のヘイトリィだ。お互いに防具こそ傷ついているものの、顔には傷一つない。
お互いに致命傷を避け続けた結果だろう、周囲の壁や柱は斬撃や打撃の痕が色濃く残っている。

>「イグニス山脈で、指環を巡る最後の旅が終わったら、帝都に立ち寄ってください。
 かなりの遠回りになってしまいましたけれど、約束を果たしましょう」

エーテルの指環はシャルムに渡され、アルダガとの約束はさらに後になってしまう。
黒騎士である以上アルダガは帝都の動乱を鎮めるのが最優先となるのは仕方ないことだが、
ジャンはそれでも一時とはいえ共闘した仲間と共にいられないのは名残惜しいものがあった。
その思いを振り払うように、つとめて明るくアルダガに答える。

「こっちに行くときにはおじさんとか他のみんなも連れてくるぜ。
 力自慢の知り合いならたくさんいるからよ、一つ稽古といこうじゃねえか!」

そして一行は飛空艇に戻り、荷物をまとめると大部屋に一旦集まった。
全ての元凶である虚無の竜。その肉体と魂が共にイグニス山脈にあり、融合を果たせば世界が滅ぶ。
重苦しい雰囲気に包まれる中、ジャンがまず最初に口を開いた。

「……こっからイグニス山脈までは近い。地図で見たけどたぶん三日も飛んでりゃいける。
 ふもとのカバンコウでいったん補給して、そこからは……」

『我ら指環の竜が虚無の竜へと導こう……なんてね。
 僕は最後まで付き合うよ、ここにいても虚無の竜がどこにいるのかよく分かる。
 たぶんエルピスの土産だと思うけど』

そう言ってアクアの幻体がテーブルに広げたイグニス山脈の地図の一点を指さす。
そこに書かれた名前は、イグニス山脈最大級の山。

『オディウム活火山。肉体はそこのはるか地下深くにあり、魂は未だ見つけられずに火口近くを彷徨っている』

41 :ジャン :2018/09/12(水) 12:50:15.45 ID:Inv1tXhv.net
――オディウム活火山は繰り返される世界の中にあって、いかなる存在にも制御できず、旧世界よりそこに存在し続けたものの一つだ。
大陸中のマントルがそこを通り、溜め込まれ、大地の怒りとも称される大噴火を数百年周期で繰り返してきた。
このエネルギーの流れを支配しようと試みた者は数多くいたが、旧世界新世界問わず全て溶岩に飲まれ、皆等しくその一部となった。

だが、今この場所は虚無の竜の魂が彷徨うことで虚無が蔓延し、わずかながらも生きていた植物や魔物たちは
等しく異常な凶暴化や巨大化、変色などで暴れまわるようになっていた。

そしてそれはイグニス山脈全体に広がり、ふもとのカバンコウもまた虚無に飲まれ、
自我を無くした人々が次々と魔物に襲われていく。

そうして増え続ける異常な魔物たちは、やがて奇妙な儀式を行うようになった。
生物の骨と自らの血肉を捧げて行うそれは、虚無の竜の魂が彼らに命じた、眷属を呼び寄せる儀式。
異なる次元、かつて滅んだ世界の残滓が、この世界の道理をこじ開けてやってくるのだ。

生物と機械が入り混じったヒトのような何か、顔が大小問わずあらゆる生物の目で構成されたワイバーンなど、
見る者の正気を吹き飛ばす狂気の産物が群れを成してイグニス山脈に蔓延っていく。

『死にたくない。生き残りたい。生物の本能を我は叶える。我は竜にあらず。窮極の願いを叶える、唯一絶対の神なり』

そう叫び続ける虚無の竜はかつてどこかで歪んだ成長の果てに滅んだ世界が作り上げた、対世界兵器ともいうべきものだった。
自己進化、自己学習、自己複製。生物が持つ3要素を兼ね備えたこの兵器は最後にインプットされた命令を実行し続け、
次元を渡り歩き、あらゆる世界を滅ぼし続けた。

『この存在……世界を適度な負担をかけるにはちょうどいいかもしれない。
 光竜に制御機構を支配させ、最上位権限を私にしておけば歯向かうことはないだろう。
 肉体はオディウム活火山に閉じ込めれば私への万が一の反逆や暴走を防げる』

だがあるとき、安定した世界に飽きかけていた全竜が入り込んできたそれを見つけた。
世界を食らおうとするそれに立ち向かい、必死に抗い続けたヒトたち。全竜はそれにとても喜び、
光竜に命じてヒトの精神とよく似た制御機構を操り、記録を書き換えて全竜の手駒となり、
『虚無』と名付けられた精神破壊兵器を一定の間隔を置いて、最低出力で放つように設定された。

最上位権限を持った全竜の消滅と、第二権限を持った光竜が虚無によって権限を放棄し制御を失った虚無の竜は
命令権限を持った者がいなくなったとして、自己判断で活動を始める。

『制御機構と外装パーツの融合を最優先。その後第一命令「世界掌握」を実行。
 融合の障害を排除するため自己複製・自己召喚を実行。現地生物との融合を実行』

ただ眼前の世界を自らの眷属で埋め尽くすという最初の命令を実行するために、
虚無の竜は一切の感情なく、虚無と眷属をばらまいていく。


【ラスボスだし設定盛ってもいいかなと思いました
 最後の章になると今度こそ信じて!】

42 :ティターニア :2018/09/13(木) 23:31:49.77 ID:XTA+nBnG.net
ティターニアの魔法を受けたエルピスは確かに正気に戻ったように見えた。
しかしまるで倒されるのが目的であるかのように戦いを続行し、ついに倒される。
正気に戻ったエルピスは虚無の竜に関する情報を語り、世界の命運を一行に託した。
先程まではやはり虚無の竜の影響で混乱していたようで、
もしかしたら戦いの最中にエルピスが見せた映像は、本当は遥か昔の虚無の竜の記憶なのかもしれない。

43 :ティターニア :2018/09/13(木) 23:32:52.16 ID:XTA+nBnG.net
>「イグニス山脈へ行け……奴はこの世界の、己の肉体の中心を目指している。
 地中深くまで続く溶岩……そこから、奴は肉体へと戻るつもりだ」
>「お前達にとっては、始まりの地か……そこで、全てを終わらせてくれ」
>「……頼みが……ある。私の事は……このまま……死なせてくれ……。
 指環にもならずに……このまま、完全に、いなくなりたい……。
 それでこそ……それこそが……完全な敗北……なんだ……」

「やれやれ、そこはせめてもの罪滅ぼしに指輪にでもなって力を貸すのが筋だろう。
今まで散々振り回しておいて正気に戻った途端にちゃっかり離脱とは。
なーにが完全な敗北だ、この勝ち逃げ野郎め! きっちり世界救ってやるゆえ指くわえて見とくがよい!」

からかうような口調でエルピスの敗北を否定するティターニア。
取るに足りない戯言だが、消え際のエルピスは“しまった!”と思っただろうか。

>「ティターニアさん……貴女は、エルピスのことさえも、赦してしまえるのですね」

「さあどうだか。あやつ、悔しさのあまり消滅できぬかもしれぬぞ?」

>「……拙僧も、まだまだ修養が足りないようです」

ティターニアの冗談だか本気だか分からない言葉を受けほんの少し溜飲が下りたのかは分からないが、
アルダガは静かにエルピスの冥福を祈るのであった。
結界が解けてみると、黒狼騎士と戦っていた者は皆生きており、幸いなことに黒狼騎士はすでに戦う気はなくしていた。
シャルムと黒狼騎士の会話を危機ながら、戦意喪失してくれて心底良かったと思う。
そしてアルダガが、帝国を守るために虚無の竜との戦いには行けないと告げる。

>「ティターニアさん。ジャンさん。ディクショナル殿。……シャルム殿。
 拙僧が同行できるのはここまでです。ここから先へ、共に行くことはできません」
>「拙僧は帝国の黒騎士として、現在の帝都を離れることができません。
 最大戦力である黒狼騎士が降りた後も、反旗を翻した急進派の勢力は未だ残っています。
 皇帝陛下と聖女様を救出し、玉座を取り戻すには、黒騎士をこれ以上欠けさせるわけにはいきません」

44 :ティターニア :2018/09/13(木) 23:34:41.35 ID:XTA+nBnG.net
「分かった――どうか皇帝殿をよろしく頼むぞ」

>「イグニス山脈で、指環を巡る最後の旅が終わったら、帝都に立ち寄ってください。
 かなりの遠回りになってしまいましたけれど、約束を果たしましょう」

>「こっちに行くときにはおじさんとか他のみんなも連れてくるぜ。
 力自慢の知り合いならたくさんいるからよ、一つ稽古といこうじゃねえか!」

「では我はユグドラシアの面々を連れて行こう。パック殿、そなたも一緒に来るであろう?」

「なんだか嫌な予感が……。
指輪の勇者を称える記念式典の目玉イベントにされてしまいそうな予感がするぞ……」

「それはそれで面白いではないか」

最初は単なる決闘の約束だったものが、今や互いに生き残って必ず再会するという誓いになっていた。

>「……こっからイグニス山脈までは近い。地図で見たけどたぶん三日も飛んでりゃいける。
 ふもとのカバンコウでいったん補給して、そこからは……」
>『我ら指環の竜が虚無の竜へと導こう……なんてね。
 僕は最後まで付き合うよ、ここにいても虚無の竜がどこにいるのかよく分かる。
 たぶんエルピスの土産だと思うけど』
>『オディウム活火山。肉体はそこのはるか地下深くにあり、魂は未だ見つけられずに火口近くを彷徨っている』

「奴が肉体を見つける前に肉体まで辿り着き破壊してしまえば――全てが終わるということか」

逆に言えばそれより早く虚無の竜が肉体を探し当てて復活してしまえば、違う意味でリアルに全てが終わるということだ。
もはや一刻の猶予もない。

「パック殿、全速力でカバンコウへ!」

「ラジャー!」

45 :ティターニア@時空の狭間 :2018/09/13(木) 23:36:44.15 ID:XTA+nBnG.net
第9話『試練の光竜』
一行の元に駆け付けた黒亀騎士ヘイトリィによって、
クーデターが起き皇帝と聖女が教皇庁で軟禁されているという情報がもたらされる。
それには黒狼騎士がかかわっているとのことだが、
人心を操る力を持つエルピスが裏で糸を引いている可能性が高いと踏んだ一行は教皇庁へと向かう。
辿り着いてみると案の定黒狼騎士がエルピスと手を組んでおり、彼らとの戦闘が始まった。
エルピスは虚無の竜の影響によって半ば錯乱しつつ、一行を指輪の力が使えない結界内へと隔離するが、
戦いの最中に正気を取り戻した後に倒されることとなった。
人間の可能性を信じたいがために世界を滅ぼそうとしたと語ったエルピスは
世界の命運を一行に託し、満足げに消えていくのであった。
一行はエルピスが残した言葉に従い、虚無の竜との決戦のため、虚無の竜の肉体が眠るというイグニス山脈へと向かう。

46 :ティターニア :2018/09/14(金) 00:41:34.89 ID:xD/YuygA.net
*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. 第10話開始.。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*

イグニス山脈に近づくにつれ、地上が異様な状況になっていることに否応なく気付くことになった。
見たこともないような奇怪なモンスターが闊歩しているのだ。
この調子では、拠点としてあてにしていたカバンコウもあてにならないかもしれない。
そう思いつつも町の様子を見るために着陸してみると、案の定魔物に取り囲まれていた。
しかし一行が臨戦態勢に入るよりも早く、炸裂する魔法の爆炎や閃く剣劇が、一瞬にして魔物たちを蹴散らした。

「遅かったな――どこで道草食ってた」

「よくぞご無事で……!」

世界の再建のために旧世界に残ったはずのアルバートや
虚無の竜の居場所を突き止めるためにいったん別行動していた守護聖獣達、
そしてハイランドダーマ連合軍の一部っぽい面々が一行を出迎える。

「そなた、旧世界に残ったはずでは……」

「何を呆けている、虚無の竜が復活しては旧世界もろとも滅びてしまうだろう」

「それはそうだがどうやってここまで……まあ良いか」

旧世界からの転生者に物理的な時間と距離の話を持ち出すのは野暮というものだろう。

「話は後じゃ、こちらへ!」

ダグラスに先導されてついていくと、少し大きめの集会所のような建物が一同の拠点となって使われていた。
一行が帝都へ出発した直後ぐらいにこの近辺で異様なモンスターが沸いてきたという情報が入り、
すぐに駆け付けて住民の避難誘導兼周辺の調査にあたっていたらしい。
事の経緯を伝えると、彼らは一行を万全な状態で虚無の竜の肉体の元へたどり着かせるため、
道中のモンスターの掃討を引き受けてくれることとなった。
こうして心強い援軍を得て、ついに最後の戦いが幕を開ける。

【最終章オールスター的なノリで集結させてしまった。
今までに出た味方系NPCはほぼいそうな感じなのでスポット参戦してみたい方は是非
これでメインストーリーとしては最終話になりそうだが決闘後日談編は是非やろう!】

47 : :2018/09/18(火) 05:01:27.28 ID:sImqS02j.net
>「ティターニアさん。ジャンさん。ディクショナル殿。……シャルム殿。

不意に、バフナグリーさんが私達の名前を呼んだ。
……少し張り詰めた声。彼女が何を言おうとしているのかは……分かります。

> 拙僧が同行できるのはここまでです。ここから先へ、共に行くことはできません」

「……ええ、分かっていますよ」

>「拙僧は帝国の黒騎士として、現在の帝都を離れることができません。
 最大戦力である黒狼騎士が降りた後も、反旗を翻した急進派の勢力は未だ残っています。
 皇帝陛下と聖女様を救出し、玉座を取り戻すには、黒騎士をこれ以上欠けさせるわけにはいきません」

クーデターの首謀者達は自分が片付けておく。
黒狼騎士はそう約束してくれましたが……それが成されるのは、彼の体力が回復した後。
いえ、気が向いた時と言うべきかもしれませんが。
とにかく……それが成されるまで、反逆者共を放置する訳にはいきません。

「それに……この一件で教皇庁は、あまりにも多くの人員を失ってしまいました。
 たくさんの仲間がクーデターに巻き込まれて命を落とし、今や女神の使徒は基盤から揺らいだ状態です。
 黒騎士としてではなく、女神を奉ずる神官として、聖女様を護らなければなりません」

つまり……私とバフナグリーさんは、ここで指環の勇者とはお別れだという事です。
名残惜しいですが……彼らが事を仕損じる事はないでしょう。
私達はさっさとこちらの問題を片付けて……祝勝会の準備でもしますか?なんて……。

>「指環は……シャルム殿、貴女が持っていてください。

「……なんですって?」

……バフナグリーさん。私だって帝国人なんですよ?
自分で言うのもなんですが、私ほどの愛国者は、そうそういません。
私は大きな声や過剰な比喩ではなく、技術開発によってそれを表現するというだけで。

その頼みは聞けません。
私は彼女の手を拒むように、右手を握りしめる。

「駄目ですよ、バフナグリーさん。反逆者共との戦いは対ゲリラ戦になります。
 エリアの掃討、確保、人心掌握。優れた魔術師が必要に……」

>そしてどうか、帝国代表の指環の勇者として……わたしの友人として、勇者たちを助けてください。
 身勝手なお願いというのは重々承知です。それでもわたしは、貴女にこれを託したい」

……随分と断りにくい頼み方をしてくれますね。
確かに私は、あなたとの間に友情を感じていますよ。
ですが、だからと言ってどんなお願いでも聞いてあげられるほど、私は甘い人間では……

「……仕方ありませんね。確かに、虚無の竜の討伐隊に帝国人が一人もいないのは、
 後々の政治的な弱点になりかねません。引き受けてあげますよ、まったくもう」

……甘い人間ではないつもり、だったんですけどね。
どうしてこうなってしまったのやら……まぁ、こんな自分も、嫌ではありませんけど。
私は指を開いて、バフナグリーさんが差し出した指環を受け入れる。

48 : :2018/09/18(火) 05:02:00.90 ID:sImqS02j.net
>「イグニス山脈で、指環を巡る最後の旅が終わったら、帝都に立ち寄ってください。
 かなりの遠回りになってしまいましたけれど、約束を果たしましょう」

「決闘の際には、私にあなたの立会人を務めさせて下さいね。必ずですよ。約束です」

例え皇帝陛下、聖女様であっても、その役目は譲れません。
……その為にも絶対に勝って、生きて帰ってこなくては。
私はジャンソンさん達を振り返る。

「……世界を救う英雄だなんて、私の柄じゃないんですけどね。
 それでも、委ねられたからには最大限の仕事をしますよ。必ず、世界を救いましょう」

49 : :2018/09/18(火) 05:02:30.62 ID:sImqS02j.net
 
 
 
それから三日後……私達はカバンコウの町へと到着しました。
イグニス山脈の入り口として知られるその町は、今では期せずして、虚無の竜討伐の為の軍事キャンプと化していました。
ローレンス卿に、四聖獣に……ムーアテーメン学長まで。
彼らは私達の為に、虚無の竜までの道を開いてくれるそうです。

そして私達はカバンコウを発ちました。
異形の怪物達を退けながら山道を進んでいくと……私達を待ち受けていたのは、更に奇妙な光景でした。

岩と土で構成されていた山道が突然、白く艷やかな……石材か、金属か……何かで舗装された道路のように。
建ち並ぶのはまるで無銘の墓石のような……やはり真っ白な、直方体の塔。
それが、ずっと、ずっと先まで。見渡す限り……。

「これは……一体……」

あちこちに徘徊しているのは、ヒトと同じ……二足歩行の生物。
ですが……あんな姿をした種族は、見た事も、聞いた事もありません……。

灰色の肌。異様に釣り上がった、黒曜石のような眼球。
体毛は一切なく……私達とは比べ物にならないほど細い顎。

不意に、一体の……なんと呼んだものでしょうか。
謎の生物が私達にふらふらと、歩み寄ってきました。
私は咄嗟に魔導拳銃を抜きましたが……どうも、敵意を感じません。

謎の生物……とりあえず、アンノウンとでも仮称しますか。
アンノウンは、口元が裂けたかのような笑みを浮かべて、両腕を左右に広げる。

「ようこそ、ニモニックの世界へ。ここは只今、再構築の最中です。
 この先への進入はシステムが完全にリブートされるまでお待ち下さい」

そして次に、明朗な声音でそう言いました。

「……私達の言葉が、分かるのですか?でしたら……一応、きちんとした段取りを踏みましょうか」

私は一度魔導拳銃を降ろして、一歩前に出ました。

50 : :2018/09/18(火) 05:05:09.91 ID:sImqS02j.net
「我々はこの世界の住人です。あなた達がしている事は看過し難い侵略行為です。
 今すぐ中断して下さい。拒むのであれば……」

「システムのリブートはあと72分で完了します。もう暫くお待ち下さい。
 また、再構築における処理の高速化の為、知的生命体は可能な限り、
 現在の組成に近い存在へと変換されます。ご安心下さい」

「……聞いて下さい。拒むのであれば、我々はあなた達に宣戦布告せざるを得なく」

「あなたはシャルル・フォルシアン。そちらの方はファン・ジェンナー。
 あなたはタイターン・グッドフェロウ。あなたはアレックス・トーレティアとして。
 ご安心下さい。あなた達は既に新世界での席を獲得しています」

「何を、言って……」

「いずれも存在構築律の一致度は70%を超えています。再構築の前後において、あなた達はほぼ同一人物のままです」

「再構築の完了後には一等記憶処置薬がドローンによって全世界へ散布されます」

「あなた達は最初からそこにいた事になります。私達も最初からここにいたことになります」

「世界は何事もなく再起動されます。世界は何事もなく再起動されます」

「世界は何事もなく再起動されます。世界は何事もなく再起動されます」

「世界は何事もなく再起動されます。世界は何事もなく再起動されます」

「世界は何事もなく再起動されます。世界は何事もなく再起動されます」

「世界は何事もなく再起動されます。世界は何事もなく再起動されます」

一体、また一体と、周囲にいたアンノウン達がこちらを向いて、歩み寄ってくる。
そのあまりにも不気味な光景に……私は、気づけば一歩引き下がっていました。

心臓が早鐘のように暴れている。
彼らが言っている事が、まるで理解出来なかったなら、こうはならなかったでしょうに。
でも……私には、理解出来た。理解出来てしまった。

彼らは……この世界は、まさかずっと、こうやって……
何度も『再起動』を繰り返してきたのでしょうか。
その所業は……言葉では言い表せない。
だけど、一番近い言葉を当てはめるなら……なんて、冒涜的な事を……。

アンノウンの一体が、私が下がった分だけ、前に出た。

「っ……!」

私は思わず、魔導拳銃を抜いて、その銃身に魔力を流していました。
銃声が響き……目の前の、アンノウンの頭部が弾け飛ぶ。
……その瞬間、全てのアンノウン達が私達へと飛びかかってきました。

「……ご、ごめんなさい!余計な事をしました!」

一体一体は、なんて事のない力と速さ……だけど、数が多い。あまりにも。
それこそ一つの都市の住民が、全て私達に迫ってきているかのように。

51 : :2018/09/18(火) 05:06:10.86 ID:sImqS02j.net
『再構築の妨害行為を確認。迎撃用ドローンを展開』

更に、目の前に広がる白い街路。
そのあちこちが、まるで上げ下げ窓のように開いていく。
そして中から姿を現したのは……様々な形状の……ゴーレム?
馬鹿な。魔力反応が一切ないゴーレムだなんて……一体、どうやって動いて……。
……こんな状況でなければ、好奇心をくすぐられる現象なんですけどね。
ですが、この数は……いちいち掃討しながら前進出来る規模ではありません。

「ジャン、ティターニア。一旦どけ。前を吹き飛ばす」

背後から聞こえたのは、ローレンス卿の声。
直後、前方のアンノウン達を爆発的な炎が飲み込んだ。

「悪いが、援護はこれまでだ。この連中に山を下らせる訳にもいかないだろう?」

「……ありがとうございます!急ぎましょう!
 アレの言っていた事が全て真実なら、思っていたより時間は残っていないかもしれません!」



【山道がリフォームされていつか滅んだ世界の一部が再現。
 最終章、よろしくお願いします】

52 :創る名無しに見る名無し:2018/09/20(木) 00:12:06.57 ID:QYNDXNQz.net
なんつーか
面白い展開だと思って書いてる?
真面目にやる気無くすわ

53 :創る名無しに見る名無し:2018/09/24(月) 12:28:34.50 ID:7Nkc/GUf.net
スレイブ来なくなったら普通にラテのせいだな

54 :スレイブ :2018/09/24(月) 15:21:45.88 ID:A8wLSQQH.net
黒騎士として帝都に残ることを選んだアルダガと別れ、一行は次の目的地へと向かう。
最終決戦の至る場所にして、全ての始まりの地――イグニス山脈。
最後の補給の為に寄港した麓の街カバンコウでは、懐かしい顔ぶれと再会することとなった。

「連合軍やユグドラシアの導師陣……それに、守護聖獣たちか」

『げぇっ、パイセン!』

寄合所を改造した拠点で何やら作業をしていたケツァクウァトルがこちらの姿を認め、駆け寄ってくる。
スレイブは軽く手を挙げてそれに応えるが、ウェントゥスはバツの悪そうな顔をしてスレイブの指環に引っ込んだ。
ケツァクウァトルの手がズイっと伸びて、指環の中からウェントゥスを引きずり出した。

『何故私を避けるのです?ウェントゥス。シェバトに居た頃はあんなに私を顎で使っていたではないですか』

『その、当時は儂も虚無に呑まれておったからさぁ……。
 そう!虚無のせいなんじゃ!虚無の竜とかいう腐れドラゴンがみーんな悪い!!
 まったく許せん悪徳じゃな!みんなで一緒に倒そうね!!』

『あの頃はまだ正気を保っていましたよね?虚無に呑まれないためにあれこれ画策していたのですから』

『いや!多分虚無に呑まれとったと思いますよ儂は!なんか肌に黒い斑点みたいなのが浮いとったもん』

『それは……普通に加齢によるシミでは?もういい年でしょう貴女。今年で何千歳ですか』

『お主マジで口悪くなったな!!』

積年の恨みつらみをジワジワと晴らすケツァクウァトルは、なんというかとても良い顔をしていた。
よほどシェバトに居た頃に胃痛の種を溜め込んでいたらしい。
ウェントゥスを引きずってどこかへと去っていくケツァクウァトルを、スレイブは黙祷しながら見送った。


補給を終え、連合軍が切り開いた道を進んで一行はオディウム活火山へとたどり着く。
ごつごつとした殺風景の岩肌が、あるときを境に一変し、視界が真っ白に塗りつぶされた。

「なんだこれは……何が起こっている?」

スレイブはイグニス山脈の地理について、ダーマ軍の諜報局が入手した情報の又聞きでしか知らない。
しかし、目の前の光景は、既存のいかなる資料の内容にも該当しなかった。
隣で帝国人のシャルムもまた驚いているあたり、これは本来の活火山の姿ではないのだろう。

艶のない、白磁の舗装。地面と同じ色で構成された無数の建造物。
ここは都市なのか。それとも異教の祭壇なのか。スレイブの知識につながるものが何もなく、見当がつかない。
そして、白磁の往来を徘徊する生物の姿を認めた。

55 :スレイブ :2018/09/24(月) 15:22:10.26 ID:A8wLSQQH.net
「ゴブリン……?いや、違う」

体毛がなくつるつるとした皮膚、大きく見開かれた両眼には瞳孔が確認できない。
痩せこけた体躯はゴブリンに似ているが、肉や木の根を咀嚼するための頑健な顎をこの生物は持っていなかった。
まるで花の蜜でも飲んで生きているかのように、異様に口が小さい。
見れば、往来の隅に腰掛けている一体が、銀色の革袋のようなものを口につけて中味を啜っていた。

>「ようこそ、ニモニックの世界へ。ここは只今、再構築の最中です。
 この先への進入はシステムが完全にリブートされるまでお待ち下さい」

ゴブリンもどきの一体がこちらへ近寄ってきて、笑顔とともに一行を出迎える。
喋りかけてくる内容は言語こそ大陸共通語だが、言っている意味のほとんどはわからなかった。
言葉は通じる。しかし、会話をするという意志が欠落していた。

>「我々はこの世界の住人です。あなた達がしている事は看過し難い侵略行為です。
 今すぐ中断して下さい。拒むのであれば……」

シャルムが魔導拳銃を構えて尋問する。
武器を突きつけられてなお、ゴブリンもどきの姿勢には怯えも怒りもない。

>「システムのリブートはあと72分で完了します。もう暫くお待ち下さい。
 また、再構築における処理の高速化の為、知的生命体は可能な限り、
 現在の組成に近い存在へと変換されます。ご安心下さい」

「何だ……?何を言っている?」

リブート?再構築?存在の変換?
要領を得ないまま矢継ぎ早に投げかけられる情報の洪水に、スレイブは混乱していた。
だが、技術畑のシャルムには、彼らの言葉の意味が理解できているようだった。

「シアンス、翻訳してくれ。彼らは一体なにを――」

>「っ……!」

その時、突如シャルムが発砲した。
『賢者の弾丸』がゴブリンもどきの額にめり込んで、頭蓋を内部から破裂させる。
絶命したゴブリンもどきが崩れ落ちると同時、いつの間にか周囲に集まっていた他の連中が一斉に飛びかかってきた。

>「……ご、ごめんなさい!余計な事をしました!」

「問題ない。どのみち穏便にここを進めるとは思っていなかった」

跳躍してきたゴブリンもどきを空中で斬り飛ばす。
胴を半ばで断たれた異生物、その血は赤色ではなかった。青と緑を混ぜたような、異形の血潮。
漏れ出した血液は空気に反応して泡立ち、亡骸を瞬く間に溶かしていった。

56 :スレイブ :2018/09/24(月) 15:22:30.69 ID:A8wLSQQH.net
『個体番号11496の活動停止を確認。防疫の為自己消化体液による構成体の消却を実施します』

『現住生物による攻撃行動を検知。大型の刃物を所持。緊急対応プロトコル:ベータを展開します』

建築物の中から現れたゴブリンもどきの一体が、こちらへ向けて長銃のようなものを構える。
その引き金が引き絞られる前に、スレイブも腰から銃を抜き放って射撃した。
ザイドリッツから預けられた長銃をシャルムに改修してもらった、ソードオフライフルだ。

風魔法によって加速した鉛玉は銃手のゴブリンもどきの胴に風穴を開けて、やはり死骸はすぐに崩壊した。
取り落とされた長銃が地面に落下すると同時に暴発する。
大気を劈く雷鳴じみた音と共に、紫電を帯びた光条が空を駆け上っていった。
数秒のち、空を覆っていた雲が大きく抉れ、吹き散るのが見えた。

『電磁弾体加速装置の暴発により高度5600mの大気層に軽度の損傷。補修完了まで5秒――コンプリート』

「馬鹿な……天上の雲を穿っただと……?あんな小さな長銃に、それほどの威力が!」

>『再構築の妨害行為を確認。迎撃用ドローンを展開』

スレイブの驚愕をよそに、拡声魔法を通したような越えが響き渡る。
白磁の建物が左右に開き、中から無数のゴーレムが地響きを立てながら這い出てきた。
帝国のものでも、ハイランドのものでもない。どの国家の機影にも該当しないゴーレムだ。

>「ジャン、ティターニア。一旦どけ。前を吹き飛ばす」

行く手をゴーレムに阻まれ立ち往生した一行に、アルバートの援護が飛ぶ。
魔剣の炎がゴーレムを呑み尽くし、焦げ付いた道が拓けた。

>「……ありがとうございます!急ぎましょう!
 アレの言っていた事が全て真実なら、思っていたより時間は残っていないかもしれません!」

「72分……と言っていたな。世界の命運を分けるには、随分と中途半端な時間だ!」

驚愕することばかりで皮肉にも切れがない。
とまれかくまれ、アルバートの稼いだ時間を使って、指環の勇者一行は活火山の火口を目指す。

「クソ、方向感覚がまるで利かないな……俺たちは今山道をちゃんと登れているのか?」

白磁の建築物は進むごとに密度を増し、視界を著しく狭めていく。
真っ白な林を最早掻き分けんばかりに進んでいくと、やがて視界が拓けた。

57 :スレイブ :2018/09/24(月) 15:22:56.14 ID:A8wLSQQH.net
「これは……街、なのか……?」

眼の前に広がる光景は、おそらく定義の上では『都市』と呼ばれるものなのだろう。
しかし、スレイブの知るダーマの王都やシェバト、帝都とはまるで異なる様相を呈していた。

足元の真っ黒な石畳は、石の一つ一つが非常に細かく、平坦で僅かに柔軟性がある。
見上げれば首が痛くなるほどに高くそびえ立つ尖塔は、何故か外壁が全て透明な硝子製だ。
広々とした往来の端には、色とりどりの金属と硝子で構成され、車輪の4つ付いた荷車のようなものが置かれている。
見たことのない言語で書かれた看板と思しき板は、きらびやかに輝く燭灯で覆われていた。

舗装路があり、建物が密集しているという都市の条件を満たしてはいるが、到底スレイブには理解ができない。
既存の知識と眼の前の光景があまりにもかけ離れていて、脳が認識を拒否していた。

『居住区画αに現住生物の侵入を確認。排除プロセスを実行します。
 該当区域の構成員は40秒以内にポーターを起動し、区域から退去して下さい。
 これは管理当局による指示です。従わない場合に発生した損害については、免責事項に含まれます』

そのとき、頭上から鳴り響く声と共に、大気を叩く羽ばたきの音がした。
鳥や飛竜の羽ばたきにしてはあまりにも高速で連続した羽音の主は、林立した尖塔の影から姿を現す。
鮫に似たずんぐりとした胴体。その側面に翼はなく、代わりに上部で何かが高速で回転している。
おそらく風車の原理を逆に利用して、羽根を回転させることで風を生み出し、その風で巨体を宙に浮かせているのだ。

「飛竜……?」

『区画αにて現住生物を発見。無人戦闘ヘリによる迎撃を開始します』

飛竜もどきの"頭部"と思わしき部分から、束ねた筒のようなものがせり出てきた。
軍人としての直感がスレイブに防御を選択させる。

『機載ガトリング砲、斉射』

風魔法による障壁を展開したと同時、飛竜もどきが"ブレス"を吐き出した。
無数の鉛礫。一発一発なら風竜の障壁を貫けるものではないが、その数が余りにも多かった。
1秒に20発を数えるペースで撃ち出される鉛の弾丸に、多重展開した障壁が一枚また一枚と割られていく。

「馬鹿な……この物量は……!」

指環の無尽蔵とも言える魔力を全て障壁に回しているにも関わらず、スレイブは押し込まれつつあった。
斉射開始から10秒経過してなお、飛竜もどきのブレスに衰える気配はない。

58 :スレイブ :2018/09/24(月) 15:23:09.48 ID:A8wLSQQH.net
【旧々世界?の兵器と遭遇】

59 :創る名無しに見る名無し:2018/09/24(月) 23:35:02.46 ID:Rc4dah7E.net
世界観を壊すのマジやめて

60 :創る名無しに見る名無し:2018/09/25(火) 21:28:30.30 ID:59l5nkgr.net
ドラリン終わったのかな?

61 :創る名無しに見る名無し:2018/09/26(水) 16:47:59.29 ID:pEBkjQh6.net
◆ロールプレイング・ノベル入門【1】◆
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1537503921/

【VRP=バーチャル・ロールプレイング】
コテハンで架空のバーチャル・キャラクターを作って、ロールプレイをする遊びです。
応用すればTRPGや、個人あるいは共同での小説執筆のようなことも可能です。
スレッドを都市や建物に見立てて、大規模RPGのような事も出来るかもしれません。
まだ未完成ですが、みんなでその遊び方やシステムを完成して行きましょう。

【RPN=ロールプレイング・ノベル】
RPNとはVRPを基礎とし多人数で小説創作のようなことを行う遊びと演習を兼ねた究極のメソッドです。

62 :ジャン :2018/09/27(木) 19:40:16.96 ID:m/s9ql3v.net
カバンコウは以前ジャンが訪れたときとは違ってすっかり様変わりしており、簡易的な要塞となっていた。
異形化した魔物たちの死体や残骸が街の入り口近くに転がり、連合軍や帝国軍の兵士たちが
交代で周囲の見張りをくまなく続けていた。

そして一行はオディウム活火山へと向かうために、連合軍に突破口をこじ開けてもらうことになった。
おそらく最後の武器の手入れと薬の補充を終え、ジャンはオディウム活火山を見上げる。

「……前に見たときは、あんな気味の悪いもんじゃなかったな」

暗雲に包まれ、隙間から雪が降ったかのように真っ白に染められたその山は、
まるで何かの祭壇のようだ。変異した魔物や動物も全てあそこを中心に発生しているという偵察隊の情報から、
ほぼ間違いなく、虚無の竜が本体と融合する時間稼ぎに環境を変化させているのだろう。

一時期とはいえ共に戦った仲間の大槌と、守るべき者のために戦った戦士の槍。
そして再戦を誓った黒鳥騎士の短剣をそれぞれの鞘に収納し、新調した鋼の胸当てと脛当てを身に着ける。
凪いだ海のように蒼く輝く指環をひとしきり布で磨いて付け直せば、準備は整った。
そして一行は連合軍がこじ開けた突破口を進むべく、オディウム活火山への道を歩き始める。

>「なんだこれは……何が起こっている?」

>「これは……一体……」

岩と砂、わずかの草木が生える山肌が突如として白一色に塗りつぶされる。
そこにあるのは塵一つない舗装された道と、継ぎ目がまったく分からない数々の建造物。
さらにその奇妙な街を闊歩する、生物というより人形と呼んだ方が正しい生き物たち。

>「ようこそ、ニモニックの世界へ。ここは只今、再構築の最中です。
 この先への進入はシステムが完全にリブートされるまでお待ち下さい」

その一体がこちらに近づき、笑顔のような表情を浮かべてこちらへと話しかけてくる。
言語こそジャンも話せる共通語だが、どこか発音が奇妙だ。まるで台本をそのまま読み上げているような、感情の籠らない声。
シャルムが魔導拳銃を突きつけて事情を問い質せば、返ってきた答えはまったく訳の分からないものだった。
ジャンにはそれが理解できず、だが徐々にこちらを取り囲むように現れる生き物に微妙な違和感を感じていた。

>「何だ……?何を言っている?」

「こいつらヒト……なのか?なんだか集まってきてるけどよ、正直不気味だぜ」

背中の鞘からミスリルハンマーをいつでも取り出せるよう柄に手を添えて、辺りを警戒する。
周囲の音をよく聞いてみれば、普通の街のような賑わいや生活音といったものが一切しないのだ。
虚無の竜は何を考えてこんなものを作り上げたのか、ティターニアに聞いてみるかとジャンが口を開いた瞬間だ。

>「……ご、ごめんなさい!余計な事をしました!」

「こんな不気味な街に長居するこたあねえ!とっとと進むぞ!」

こちらに近づいてきた生物の頭をシャルムが撃ち抜き、それと同時に一斉に周りの生物が飛び掛かってくる。
その内の一体がジャンの振り下ろしたミスリルハンマーに黒光りする刃物をぶつけ、そのまま押し潰された。
力はジャンよりはるかに劣るが、使っている武器は異常なほど切れ味がいい。

ぶつけられた部分に欠けが生じていることに気づいたとき、ジャンはそのことに気づいて鳥肌が立った。
生物を殺すための、純粋な威力を徹底して追及した武器なのだ。ドワーフが鍛えたミスリルハンマーのように、
技術や武勇を誇る目的があるものではなく、ただ効率的に殺すことだけを追求した、凄まじい切れ味の短剣。

63 :ジャン :2018/09/27(木) 19:41:00.98 ID:m/s9ql3v.net
>「馬鹿な……天上の雲を穿っただと……?あんな小さな長銃に、それほどの威力が!」

「こりゃまともに相手できねえぞ!胸当てや鎧なんて意味がねえ!」

どこかの路地や建物に潜り込み、いったんやり過ごさなければそこら中から撃ち抜かれるか、切り裂かれるか。
飛び掛かってきた生物の死体が握っていた刃物をとりあえず一本拝借し、ジャンは途方に暮れながらも応戦する。

>「ジャン、ティターニア。一旦どけ。前を吹き飛ばす」

さらには、ジャンがかつて戦ったスチームゴーレムをより洗練されたデザインにしたようなゴーレムまで
無数に現れるが、それらを薙ぎ払うようにアルバートが魔剣の炎を解き放ち、無理矢理道をこじ開ける。
シャルムが解読したことが正しければ、あと1時間と少しでこの世界がこの不気味な世界に塗り替えられてしまう。
一行は時折現れる人形めいた生物たちを排除し、純白の建造物が立ち並ぶ通路を駆け抜けていく。

>『居住区画αに現住生物の侵入を確認。排除プロセスを実行します。
 該当区域の構成員は40秒以内にポーターを起動し、区域から退去して下さい。
 これは管理当局による指示です。従わない場合に発生した損害については、免責事項に含まれます』

そうして白一色から、少しだけ色のついた風景へと周囲が移り変わった直後。
翼のない飛竜のような何かが、轟くような低音を響かせて空中に静止していた。
その何かは無機質な音声と共に鋼鉄の筒を束ねたものを先端から突き出すように展開し、こちらへと向ける。

>『機載ガトリング砲、斉射』

あまりの発射間隔の短さに、一つの音として連なって聞こえるほどの銃声が辺りに響き渡る。
スレイブが指輪の魔力を使って障壁を展開するが、魔力を全く感じさせないにも関わらず凄まじい速度で展開する内から砕かれていく。

>「馬鹿な……この物量は……!」

「こいつは逃げきれねえな、前に出るぜ!」

障壁の裏からジャンは飛び出し、拳を飛竜もどきに向けて振りかぶったかと思うと、
指環から放たれた水流がジャンの構えを真似るように巨大な拳を形作り、ジャンが振り上げた瞬間、
水流の拳が飛竜もどきを下から思い切り突き上げ、その衝撃で一時ではあるが銃声が止み、飛竜もどきは大きく体勢を崩す。
そしてその上部で回転を続けていた何かが周囲の建物にぶつかり、身体を歪ませて高度を下げていき、やがて墜落した。

64 :ジャン :2018/09/27(木) 19:41:28.96 ID:m/s9ql3v.net
「ハッ、時間かけてらんねえんだよ!
 出し惜しみはしねえぞ、とっとと行こうぜ!」

これまでの旅で鍛えた実力を誇るように、ジャンは威勢よく走り出す。
この飛竜もどきは他にもいるのか、遠くから同じような低音が徐々に大きく聞こえて近づいてくるのがはっきりと分かる。
いくら防御が薄いとはいえ、周囲からあれを一斉に撃たれればあっという間にひき肉にされるだろう。

路地から路地へ、開けた場所で戦わないよう気を付けつつ一行は進む。
狭い場所ならばこちらと同程度の大きさの敵しか遭遇せず、それならば恐れることはなかった。

『……みんな、気づいてるかい?
 虚無の竜が僕たちに注意を向けた、ヒリヒリするような圧力を前から感じるよ』

「アクア!そいつは吉報ってもんだ、わざわざこの道が正しいって教えてくれてるんだからな!」

火口だった場所に作り上げられた硝子の塔は、先程よりずいぶんと大きく見える。
上空を飛び回る飛竜もどきはより数を増し、時折遭遇する人型生物も甲冑を纏ったものや大型の武器を持ったものが増えてきた。
先頭を走るジャンはそれに怯むことなく突き進み、アクアの助言にも前向きに返してみせる。
だが、かすかな不安がジャンの頭をよぎる。他の仲間と違ってジャンは指環なしでは魔術を使えず、
現れる敵は指環の加護なしで殴り合えばこちらの身体がもたないほど強力な武器を持つ。

(指環の魔力はすぐに補充できるもんじゃねえ……俺はそれを補えるほど武術を極めたわけじゃねえ。
みんなと違って魔術も使えねえ、なら……)

いざというときには自らが囮となり、他の仲間を先に行かせなければならない。
ジャンは覚悟を決め、より早く突き進み、道を塞ぐもの全てを殴り倒していった。

65 :ティターニア :2018/09/30(日) 21:55:23.86 ID:x/s8XSyA.net
「何だこれは……」

山道を登っていると突然、見たこともないような街の風景が目の前にひらけた。
もしかしたら、遥か昔に虚無の竜が統べていた、今は滅び去った世界なのだろうか。
二足歩行の奇妙な生物が歩み寄ってくる。

>「ようこそ、ニモニックの世界へ。ここは只今、再構築の最中です。
 この先への進入はシステムが完全にリブートされるまでお待ち下さい」

「にもにっく……?」

>「我々はこの世界の住人です。あなた達がしている事は看過し難い侵略行為です。
 今すぐ中断して下さい。拒むのであれば……」
>「システムのリブートはあと72分で完了します。もう暫くお待ち下さい。
 また、再構築における処理の高速化の為、知的生命体は可能な限り、
 現在の組成に近い存在へと変換されます。ご安心下さい」
>「あなたはシャルル・フォルシアン。そちらの方はファン・ジェンナー。
 あなたはタイターン・グッドフェロウ。あなたはアレックス・トーレティアとして。
 ご安心下さい。あなた達は既に新世界での席を獲得しています」
>「いずれも存在構築律の一致度は70%を超えています。再構築の前後において、あなた達はほぼ同一人物のままです」

「いやいやいや、何一つご安心できないぞ! そもそも名前からして全然違うやん! ってか誰が誰だ!」

シャルムが思わず一体のアンノウンを撃ち抜くと、明確に敵と認識されたらしく
全てのアンノウン達が一斉に襲い掛かってきた。

>『再構築の妨害行為を確認。迎撃用ドローンを展開』

「今度は何だ!?」

奇妙な街のあちこちから、魔力が一切感じられないゴーレムのようなものが出現。
これはこの世界とは全く別の力によって発展し、そしてその力によって滅び去った世界なのだろうか。

>「ジャン、ティターニア。一旦どけ。前を吹き飛ばす」
>「悪いが、援護はこれまでだ。この連中に山を下らせる訳にもいかないだろう?」
>「……ありがとうございます!急ぎましょう!
 アレの言っていた事が全て真実なら、思っていたより時間は残っていないかもしれません!」

アルバートをはじめとする援軍たちはここに留まり、奇妙な生物達の侵攻を食い止めることになった。

66 :ティターニア :2018/09/30(日) 21:56:33.71 ID:x/s8XSyA.net
>「72分……と言っていたな。世界の命運を分けるには、随分と中途半端な時間だ!」

「再構築とは一体……。虚無の竜とは全てを虚無に帰す存在ではないのか……?」

虚無の竜とは本当は、滅び去った自らの世界を再現しようとする存在なのかもしれない。
尤も、滅びるべくして滅んだ世界をそのまま再現したところでそれも遠からず滅びるのだから、結果は一緒だが。
訳が分からないながらもとにかく前身していくと、都市のような場所に出た。

>「これは……街、なのか……?」

>『居住区画αに現住生物の侵入を確認。排除プロセスを実行します。
 該当区域の構成員は40秒以内にポーターを起動し、区域から退去して下さい。
 これは管理当局による指示です。従わない場合に発生した損害については、免責事項に含まれます』

頭上から謎の声が鳴り響くとともに、巨大な飛行物体が出現。

>「飛竜……?」
>『区画αにて現住生物を発見。無人戦闘ヘリによる迎撃を開始します』

「いや、生物ではなさそうだ。どうやら”無人戦闘ヘリ”というものらしいな!」

>『機載ガトリング砲、斉射』

打ち出されたブレスのようなものの正体は無数の鉛礫だった。
スレイブが魔法障壁で防ぐも、その連射速度は常軌を逸しており、見る見るうちに削られていく。

>「ハッ、時間かけてらんねえんだよ!
 出し惜しみはしねえぞ、とっとと行こうぜ!」

指輪の力を使ったジャンが”無人戦闘ヘリ”を撃墜。

「囲まれたらひとたまりもないな。あれが狙ってこられないような狭い道を進もう」

上空からの攻撃を避けるように、路地から路地へと進む。

>『……みんな、気づいてるかい?
 虚無の竜が僕たちに注意を向けた、ヒリヒリするような圧力を前から感じるよ』
>「アクア!そいつは吉報ってもんだ、わざわざこの道が正しいって教えてくれてるんだからな!」

67 :ティターニア :2018/09/30(日) 21:58:27.08 ID:x/s8XSyA.net
前を見据えると、一際大きな硝子の塔が見える。

「……あれか?」

『ええ、どうやら火口があった場所に建っているようです。
あの塔こそが虚無の竜の肉体の元へ――世界の中心へ至る道かもしれない』

やがて一行は硝子の塔へたどり着いた。
透明な横開きの扉の前に立つと、どういった原理なのか、一行を歓迎するかのように自動的に扉が開く。

「入れ、ということか……」

入ってみると、空間の中心に円形の小部屋のようなものがあり、扉の横にこのような形のボタンが付いている。



「上に行くか下に行くかということか? シェバトにあった昇降機のようなものなのかもしれないな」

68 : :2018/10/04(木) 21:05:02.40 ID:KetR5zrt.net
異様な様相の街並み。
飛行能力を持つ、巨大な……鯰のような、飛竜のような、何か。
魔力を伴わず、しかし風竜の防壁すら削り取るブレスの雨。

……ブレスの轟音に紛れて響く金属音。周囲に散らばる小さな金属の礫。
似ている。私の『竜の天眼』に。
先ほどの長銃と言い、この異界の技術は……。
いえ、やめておきましょう。それは今考えるべき事ではありません。

私達は火口を目指して更に前へと進みました。
シノノメさんの闇の指環を用いて路地に身を隠し、
ラテさんの光の指環によって作り出された彷徨う幻影の中を紛れるように。

>『……みんな、気づいてるかい?
 虚無の竜が僕たちに注意を向けた、ヒリヒリするような圧力を前から感じるよ』
>「アクア!そいつは吉報ってもんだ、わざわざこの道が正しいって教えてくれてるんだからな!」

私達の進む先に見えるのは……巨大な硝子の塔。
なおも身を隠しながら前進し、その目の前にまで辿り着くと……
何の前触れもなく、扉が左右に滑り、開きました。

>「入れ、ということか……」

「怪物がただ、獲物を前に口を開いただけ、とも受け取れますよ」

結界魔法を何重にも重ねがけして、私達は塔内へと踏み込む。
この異界における特異的な技術。
それらは私の目には、まだ、現実離れした現象の羅列にしか見えません。
ですが……それらは全て魔力を伴わずに発生する。
もしも罠があれば、それは恐らく私やティターニアでは探知出来ない。

幸いにも私達が塔に侵入し一歩二歩と進んでも、何か異変が起こる事はありませんでした。
塔の広間には、ただその中心に小さな硝子張りの、扉のない円形の小部屋があるだけ。

>「上に行くか下に行くかということか? シェバトにあった昇降機のようなものなのかもしれないな」

「昇降機?これがですか?」

昇降機と言ったら……城壁の上に素早く登る為に用いられる設備の事ですよね?
転移魔法よりもローコストで、大抵は滑車と縄と重りを利用して作られるような……。
……いえ、やめましょう。
今は私の知らない技術体系について考察するべき時間ではありません。

「虚無の竜の魂は、火口から肉体に戻ろうとしている。
 であれば……下に向かうべき、ですよね」

……とは言ったものの。

「……火口に潜っていくんですよね?こんな硝子張りの部屋で?
 不可能ですよ。こんなの、罠に決まっています」

「でも……虚無の竜は確かにこの真下にいるみたいだよ?
 ここに来てからメアリさんの予知も殆ど利かなくなってるけど……それは、間違いないよ」

「……か、仮にそうだとしても、火口ですよ?火口。
 適切な準備なしに潜ろうものなら、虚無の竜に辿り着く前に焼け死んで……」

「指環の勇者が七人揃ってる。準備は万端、でしょ?
 急がないと。あと一時間とちょっとで、再構築?が終わっちゃうんでしょ。
 私にはよく分からなかったけど……それが良くない事だって事くらいは、分かるよ」

69 : :2018/10/04(木) 21:05:20.80 ID:KetR5zrt.net
……確かに、ラテさんの言う通りです。
それでも……火口、溶岩……大地の、この星の力そのもの。
いくら指環の力があるとは言え……そう簡単に不安を拭い去る事は出来ません。

「……いざとなったら、頼みますからね」

私は両手の指に光る指環を見下ろして、思わずそう呟きました。
バフナグリーさんに託された、全の指環。
その輝きが、ほんの刹那の事でしたが、一際強く瞬きました。

全竜のくれた指環は……何の反応も示しません。
……本当に、頼みますよ。
あなたの戯れの後始末をしているようなものなんですからね。

70 : :2018/10/04(木) 21:06:18.65 ID:KetR5zrt.net
「では……」

一度大きく深呼吸をしてから、私は昇降機の側面にあった三角形の模様に触れる。
場違いに明るい、鉄琴を叩くような音が響きました。
と同時、硝子張りの部屋が床に沈んでいく。

……言え、違います。
沈んでいるのは部屋ではなくその外壁だけ。
扉がどこにもないと思ったら、こんな形で開閉を……。
こんな状況でなければ非常に興味深い建築様式だったのですが。

ともあれ私達は、昇降機の床に足を踏み入れます。
……一度沈んだ外壁が、再び競り上がってくる。
そして完全に密閉されました。
まるで昆虫標本の気分……とは、口に出さないでおきましょう。

そして……硝子張りの部屋が、僅かに揺れました。
それから訪れる僅かな浮遊感……下降によって発生する慣性。
……確かに、この部屋は昇降機だったみたいです。

という事は……。

不意に、硝子の壁の外が眩く光りました。
目が眩むような、強烈な赤い輝き……本当に、私達は今、溶岩の中を通過している……。

「ひ、ひえぇ……み、皆さん。防御魔法の備えだけは抜かりのないように……!」

71 : :2018/10/04(木) 21:06:58.25 ID:KetR5zrt.net
そう呼びかける私の声は……ひどく上ずっていました。
思わずディクショナルさんの左腕を掴んで、身を縮こめてしまいます。
ですが……私の不安とは裏腹に、昇降機は何事もなく溶岩の中を下へ、更に下へと潜っていきました。

それから数十秒が経過して……不意に部屋の外が暗くなりました。
溶岩の海を抜け……どこか、薄暗い空間へ。
……また、ぽーん、と気の抜けるような明るい音が響きました。

昇降機が停止して、硝子の壁が床に沈んでいく。
ここは……一体……?

……白く艷やかな床、壁、天井。
部屋の壁際には……金属と硝子で造られた、何かの装置めいた物があります。
錬金術に用いられる、培養器のようにも見えますが……。
駄目ですね……薄暗くて、よく分かりません。
照明は……機能していないのでしょうか。

72 : :2018/10/04(木) 21:07:13.16 ID:KetR5zrt.net
『再構築エラー、デバイスが正しくセットされていません。
 ユリウス・クラウレイを再構築出来ません。
 デバイスを正しくセットしてから再試行して下さい』  

『再構築エラー、デバイスが正しくセットされていません。 
 ユリウス・クラウレイを再構築出来ません。
 デバイスを正しくセットしてから再試行して下さい』

『再構築エラー、デバイスが正しくセットされていません。
 ユリウス・クラウレイを再構築出来ません。 
 デバイスを正しくセットしてから再試行して下さい』

この、どこからともなく聞こえてくる声も……一体、何を言っているのか……。 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:1341adc37120578f18dba9451e6c8c3b)


73 : :2018/10/04(木) 21:07:47.13 ID:KetR5zrt.net
ラテさんが指環に光を灯して、室内を照らします。
部屋の奥には……扉がありました。
あの装置がなんなのかは気になりますが、今は……

「……先に進みましょう」

私達が近づくと扉は塔の入り口の時同様、独りでに開きました。
瞬間、隣の部屋から流れ込む生暖かい空気。それに異臭。
この臭いは……知っている。
一度嗅いだら、二度と忘れられない……死臭です。

ラテさんが隣の部屋を指環をかざす。
照らし出されたのは……床に転がる、大量の……死体。
白衣を身に纏った、金髪の、背の低い……女性の死体。

服装も、背格好も、髪の色も……私にそっくり。
ですが……そんな事よりも、もっと恐ろしいのは……
この死体の山は、一つとしてまともな形状をしていないという事。
力加減を誤った粘土細工のように手足や頭がなかったり……捻れていたり。
逆にそれらが一つ二つ、余計に生えていたり……。

「うっ……」

思わず左手で口元を抑える。
……吐きそうです。気持ち悪い……。

『再構築エラー、存在構築律を正しく読み込む事が出来ません。  
 シャルル・フォルシアンを再構築出来ません。
 記憶媒体の状態を確認してから再試行して下さい』
『再構築エラー、存在構築律を正しく読み込む事が出来ません。
 シャルル・フォルシアンを再構築出来ません。  
 記憶媒体の状態を確認してから再試行して下さい』
『再構築エラー、存在構築律を正しく読み込む事が出来ません。
 シャルル・フォルシアンを再構築出来ません。
 記憶媒体の状態を確認してから再試行して下さい』   

……この声が何を言っているのか。
少しずつ分かってきてしまった気がします。
だけど……それをわざわざ、口にしたいとは、思えません……。

「……行きましょう」

部屋の奥には、更に扉が一枚あります。
その先に何が待ち受けているとしても……この光景よりは、マシなはずです。

扉を潜ると……その先に待っていたのは、明るい照明の光。
それに……またも散らばる、大量の死体。

ただ一つだけ、さっきの部屋と違うのは……
その大量の死体の中心に、一人、五体満足な状態の男が座っているという事です。
長身痩躯、長い金髪に、宝石のように鮮やかな緑の瞳。
……ティターニアさんに少し似ているようにも思えます。

74 : :2018/10/04(木) 21:08:15.07 ID:KetR5zrt.net
「諸君らは……これが二回目か?それとも、まだ一回目か?」

男は私達を見上げると、そう尋ねました。

「……何を言っているのか、理解出来ませんが……理解するつもりもありません」

……私は、彼に魔導拳銃を突きつけました。
ティターニアさんに銃口を向けているようで、あまり気分はよくありませんが。

「ここがどこで、どうすれば虚無の竜を止められるか。今すぐ答えて下さい」

「なるほど、まだ一回目か。であれば……嫌だね」

男は不敵な笑みを浮かべて、そう言いました。
……魔導拳銃に魔力を流す。
発射された弾丸は男の耳を掠め、痛みを与える……はずでした。
ですがそうはならなかった。
弾丸は耳をすり抜け……男の姿が一瞬、陽炎のように揺れました。

75 : :2018/10/04(木) 21:08:57.67 ID:KetR5zrt.net
「幻影魔法……」

「惜しいな。魔法ではない。これはホログラムというものだ。
 ……そう怖い顔をするな。案ずる事はない。
 諸君らが虚無の竜を止めてくれると言うのなら、私がそれを阻む理由はない」

……だったら何故、さっきは嫌だなどと。

「だが……少しばかり、我らに弁明の時間を与えて欲しい」

「……弁明?」

「ああ……異世界への侵略など、我らの望む所ではなかった。
 どうせ滅ぶのなら、悪逆非道の侵略者ではなく……
 せめてただの愚かな道化として消えてゆきたい」

……これがただの時間稼ぎである可能性は、否定出来ない。
全の竜やあのアンノウン共の言動から推察するに、虚無の竜の機能とは
世界から別世界へと飛び渡り、そしてそこを彼らにとっての元の世界へと変化させる事。
しかしその工程は、まだあと一時間近くかかるはず。
彼もそれを知っていて、少しでも時間を稼ごうとしているのかもしれない。

……ですが。

「手短に。そして私達にとって有益に。それを忘れないように」

私は、再び男に魔導拳銃を突きつけます。
……可能性の話をするなら、虚無の竜に対抗する有益な情報が得られる可能性だってある。
賭けになりますが……そう望みは薄くない、はずです。
この男が容姿と語り口だけではなく、気質もティターニアさんに似ているといいんですが。

「……ありがとう。では……まずは何から話そうか。
 そうだな……我らの世界が、異世界からの侵略を受けた時の事からにしよう」

「異世界への侵略……?全の竜はそんな事にまで手を出して……?」

「いや。あれが君達の世界によるものかは分からない。
 それに、我らは復讐者でもない。異世界による侵略は成功しなかったからだ。
 八人の仲間達と共に、科学の力と勇気をもって敵を撃退した。あの頃は楽しかったなぁ」

「……あまり長くなるようなら、あなたを無視して先に進みますよ」

「つれないな。まぁ、我らは侵略者共を追い返した訳だが……しかし考えてしまったのだ。
 確かに一度は撃退した。だが奴らがいつ、また我らの世界を攻めてくるか分からないと。
 明日や明後日ならいい。だが十年後は?百年後、我らが死んだ後に再び奴らが攻めてきたら?」

男は私達を指差して、双眸を細めました。

「どうだ?これは諸君らもそろそろ直面する問題ではないか?」

「ふん、そんな事。この戦いが終わったらゆっくりと魔法の研究をさせてもらいますよ。
 百年後に再び虚無の竜が蘇っても、問題ないようにね」

「そう。いつ訪れるか分からない次に備える……我らも同じ事を考えた。
 異世界から持ち込まれ、接収した魔法技術。
 その中には、物事が本来持つ性質を奪い去る力と、その制御法もあった」

76 : :2018/10/04(木) 21:09:15.38 ID:KetR5zrt.net
「……虚無」

「ああ、奴らもその力を、そう呼んでいたな。ともあれ……我らはこう考えたのだ。
 それら魔法の力を上手く使えば、世界が再び危機に陥った時……
 我らもまた再び蘇り、世界を護る事が出来るのではないかと」

……女王パンドラは、星都でかつて命を落とした英雄達を蘇らせていた。
理屈の上では……確かに不可能ではないのでしょう。
彼らは、それを実現させた……?いえ、それどころか……

77 : :2018/10/04(木) 21:10:18.77 ID:KetR5zrt.net
「更には、我らがもしも世界を護り損ねても、世界そのものをそうなる前に戻す事すら出来るはずだと。
 我らはその仕組みを、最も手強かった敵の名を借りて、虚無の竜と名付けた」

「……それがどうして、こんな事に?」

男は私の問いを受けると少し俯き、目を閉じ、苦い表情を浮かべる。
ですがそれはほんの数秒の事……彼はすぐに再び目を開き、私達を見上げました。

「……虚無の竜は、機械だ。絡繰り人形、ゴーレム、ロボット……その手の類だ。
 手入れをしなければ壊れてしまう。
 だが、世界を護る為の最終兵器の存在を誰かに知らせておく訳にもいかない」

……それは、そうでしょうね。
侵略者にその存在が知られてしまえば、虚無の竜はその使命を果たし得ない。

「故に虚無の竜には、自己再生機能を与えた。
 自分自身を虚無の力によって定期的に、あるいは損傷を受けた際に再構築するように。
 ……それが失敗だった」」

男の顔に再び、苦々しい……後悔の表情が浮かぶ。

「自己再生するという事は、コピーエラーが起こり得るという事だ。
 ある時、我らの世界で戦争が起きた。地殻の奥底に隠した虚無の竜にさえ被害が及ぶほどの戦争だった。
 虚無の竜は自分を再構築した。しかしそれは不完全だった」

……自己の複製の失敗。それ自体は別に、珍しい事ではありません。
自然界においても、頻繁にとは言えませんが、発生している事です。
新種や亜種の魔物が発見されるのは、大抵それが原因です。
……つまり、虚無の竜にもまた……彼ら達にとっても予想外の進化が起きた」

「そうだ。機体の半分以上が損壊した虚無の竜は、自己複製の為に新たな機能を自ら構築した。
 再構築の為のエネルギーを、周囲の環境から回収する機能を。
 だがそんな事を何度も繰り返していれば……どうなるかは分かるだろう?」

……聞かれるまでもありません。
彼らの世界がどうなったのか、私達はもう知っているのですから。
進化した虚無の竜は世界を消費する事で、世界の再生を繰り返した。
そして彼らの世界を完全に消費してしまった後は……更なる進化を遂げ、恐ろしい侵略者へと変貌した。
……といったところでしょうか。

「……なぁ、教えてくれないか。我らはどうするべきだったのだ?
 虚無の竜は記録上、少なくとも三度は、崩壊した世界を再生させていた。
 だが……最後にはこんな事になってしまった。我らはどうすればよかったのだ」

……その問いに、私は答える事が出来ませんでした。
彼らは世界を救い、自分達が死んだ後の備えさえも整えた。
それ以上何をするべきだったのか……。
ジャンソンさんやティターニアさん、ディクショナルさん、バフナグリーさんなら、分かるのでしょうか。

男は一度深く溜息を吐いて項垂れ……それから程なくして、再び顔を上げました。

「……つまらない言い訳に付き合ってくれてありがとう。約束は、守ろう。
 虚無の竜は、今言った通り、外部の環境からエネルギーを回収する。
 だが、それは本来あるべき核融合炉……エネルギー源を失っているからだ」

「……そのエネルギー源そのものの再構築は、されないんですか?」

「ああ。奴にとって核融合炉は、不慮の事故によって一度破壊された機能だからな。
 不確実性の高い機関と認識されているのだろう」

78 : :2018/10/04(木) 21:10:54.30 ID:KetR5zrt.net
……なるほど。つまり総合すると、

「虚無の竜はエネルギー効率において万全ではなく、
 また一度破壊された機能を再生すべきか正しい判断が出来ない。
 間違いないですか?」

「……ああ、その通りだ。こう言ってはなんだが……虚無の竜は我らの最高傑作だ。
 ユリウス・クラウレイ、シャルル・フォルシアン。そしてこの我、タイターン・グッドフェロウの。
 まともに戦えば、たった7人で勝てる相手ではない」

「……他に、私達にとって有益な情報は?」

「ああ、もう一つある。さっきも言ったが、虚無の竜は機械だ。
 戦闘行動を開始するまでには一定のプロセスを踏むよう設計してある。
 侵入者に対する警告と、セキュリティクリアランスの確認だ」

「セキュ……なんですって?」

「招かれざる客かどうかを、まずは尋ねるという事だ。
 その間、虚無の竜は臨戦態勢を取るものの、先手を取ってくる事はない。
 いいな。最初の一撃で、可能な限り奴の武装を破壊するのだ」

男はそう言うと……突然、時が止まったかのように静止しました。

79 : :2018/10/04(木) 21:11:21.54 ID:KetR5zrt.net
「……どうしたんですか?もしもし?」

私が呼びかけても、目の前に手をかざしても、何の反応も示さない……。
かと思いきや、数秒後、彼は再び私達を見上げます。

「諸君らは……これが二回目か?それとも、まだ一回目か?」

……この発言は。
なるほど……ここにあるのは、まさしくただの残響でしかないんですね。

「……二回目ですよ。聞くべき事はもう聞きました」

「そうか……尻拭いをさせてしまって悪いが、健闘を祈るぞ。
 願わくば、このホログラムが二度と起動されない事もな」

……そうして私達は、先に進みました。
五つの、壊れた培養装置の設置された部屋を通り抜けて。
その先にあった、今までよりも一回り大きな扉の前に立つ。
扉は独りでに開き……その先には、村一つ分ほどの、開けた空間がありました。
そしてその奥に見えるのは……金属の光沢を帯びた、巨大な竜。

「あれが……虚無の竜」

左右の翼には、あの飛竜もどき……無人戦闘ヘリと同様の兵装が見えます。
他にも……恐らくは砲門、銃口と思しき機関が幾つも。
むしろ兵器によって構築されていない部位を探す方が難しい……。
帝都の要塞城に設置された兵器を全て掻き集めても、あれほどの物々しさを発揮出来るかどうか……。

「……あの兵装を全て使用されたらと考えると、背筋が凍りますね。
 最初の一撃で、どれだけ破壊出来るのやら……」

……バフナグリーさんから託されたこの全の指環。
使用するのは、出たとこ勝負になってしまいましたが……仕方がありません。
あなたが信じたバフナグリーさんが、信じてくれた私です。
どうか力を貸して下さいよ、女神様……

『――侵入者を発見。前回の戦闘発生経緯から、事前の警告は無用と判断します。
 全武装を解禁中。セキュリティクリアランスの申告は武装解禁が完了するまでに行って下さい』

「……なんですって?そんな……馬鹿な。話が違う……」

まさか、騙された?……いや、違う。
あの幻影は、私達との会話の内容を覚えていなかった。
ただ決められたメッセージを伝える為だけに残された残響。
であれば……私達よりも更に前に、誰かと会話を行っていたとしても、彼はそれを覚えていられない。

虚無の竜がこの世界に来るよりも前。
私達と同じように世界を守ろうとしてここに辿り着いて、
しかしそれを成し遂げられなかった者達がいたとしたら……。

「……これは、不味い!」

『全武装解禁。リビルドデバイスと虚無の竜の接続を解除。
 プロトコル・ホロウの進行を一時停止。戦闘行動を開始します』

80 : :2018/10/04(木) 21:12:05.53 ID:KetR5zrt.net
「っ、『フォーカス・マイディア』!!そして……全の指環よ!!」

防壁を張ってもジリ貧になる事は既に経験済み……。
ならば私がすべき事は!
 
「投射物を可能な限り迎撃します!なんとか前へ出て下さい!」

そして……虚無の竜の姿が、無数の兵器の発射炎によって覆い隠された。
金属礫、砲弾、閃光、紫電、爆炎……最早判別不能な、殺傷力の嵐が私達へと迫ってくる。

「『竜の天眼(ドラゴンサイト)』……!撃ち落とせ!!」

竜の天眼による砲撃と、天眼本体による斜線妨害。
未だかつてないほどに、私は集中しています。
魔力制御は完璧。全の指環による魔力によって星都の時以上の弾幕も張れている。
しかし……それでも、あまりにも虚無の竜の物量が圧倒的すぎる。防ぎ切れない。
早く、少しでもあの武装を削り取ってくれないと……このまま、薙ぎ払われる可能性すら……



【長々と色々書きましたけど9割趣味なので気にしないで下さい】

81 :創る名無しに見る名無し:2018/10/05(金) 18:10:01.87 ID:nAQqgU+y.net
>>80
長いし勝手な部分が多すぎる
削るかお前が抜けろ

82 :創る名無しに見る名無し:2018/10/11(木) 05:31:34.31 ID:LCwfTCHQ.net
ラスボス終わったあとのアルダガ戦は黒騎士オールスター相手にすればいいんじゃないかな?
そうすりゃ消化不良の黒狼も活躍させられるし、裏ボスとして申し分ない迫力になるかと

83 :スレイブ :2018/10/11(木) 22:49:17.72 ID:sjrKy4Ep.net
『機載ガトリング砲』なる名称の"ブレス"は、スレイブの張った障壁を着実に削っていた。
飛び道具に対してことさらに相性の良い風魔法でさえ、威力を完全に逸しきることができない。
指環の力をもってしても障壁の修復に回す魔力の供給が追いつかず、破られるのは時間の問題だった。

(『呑み尽くし』は……駄目だ、魔力が捉えられない……!)

恐るべきことにこの超威力のブレスには魔力の気配が一切感じられなかった。
魔法ではない。性質としては弓や弩に近い、純粋な質量の投射攻撃なのだ。
間断なく着弾する暴威にスレイブが苦痛を覚悟した刹那、ジャンの迎撃準備が完了した。

>「こいつは逃げきれねえな、前に出るぜ!」

地表からかち上がるように隆起した水流の拳が、超質量のアッパーカットを飛竜もどきに叩き込む。
空中で大きく体勢を崩した飛竜もどきは、そのまま側の尖塔に激突し、墜落していった。

>「ハッ、時間かけてらんねえんだよ!出し惜しみはしねえぞ、とっとと行こうぜ!」

「あの"回転する翼"は胴体よりも遥かに脆いようだ!勝ち筋が見えたぞ!」

ジャンが短く挙げた勝鬨にスレイブも応じ、障壁を解いて前に出た。
後詰とでも言うように現れる第二第三の飛竜もどきを、翼を狙って的確に撃墜する。
倒し方が分かったとはいえこのままではキリがない。一行は大通りを避けて都市内を進行した。

アクアの導きに従って進んでいくと、やがて一際大きな硝子の尖塔にたどり着く。
塔の出入り口と思しき硝子製の扉は、一行が前に立つとひとりでに開いた。

>「入れ、ということか……」
>「怪物がただ、獲物を前に口を開いただけ、とも受け取れますよ」

「目につく物を無警戒に口に入れるというなら好都合だ。拾い食いは腹を壊すという教訓を、身体の中から教えてやろう」

尖塔の内部は拓けた空間だった。大理石に似た無機質な床は、不気味なほどに磨き上げられて平坦だ。
そして、空間の中央にはこれも硝子製の小部屋がある。

>「上に行くか下に行くかということか? シェバトにあった昇降機のようなものなのかもしれないな」

「こいつはどうやって使うんだ?俺には分からん。塔に登るのに昇降機など使ったことがないからな」

シェバトの尖塔群には確かに、この手の昇降機が備え付けられている。
ダーマの王都には、どれだけ高い建物にもおおよそ階段や昇降機と呼べるものはない。
魔族のほとんどは自前の翼や転移魔法で外から直接上階へ入れるからだ。
跳躍術式を持つスレイブもまた、上下の行き来に設備を利用する習慣がなかった。

84 :スレイブ :2018/10/11(木) 22:49:53.80 ID:sjrKy4Ep.net
>「虚無の竜の魂は、火口から肉体に戻ろうとしている。であれば……下に向かうべき、ですよね」
>「……火口に潜っていくんですよね?こんな硝子張りの部屋で?不可能ですよ。こんなの、罠に決まっています」

「だとすれば、随分と手の込んだ罠だ。それこそ、俺たちがこの塔に入った段階で如何ようにも料理はできる。
 虚無の竜の性格が、エルピスや全竜ほど捻じ曲がっていないことを祈るしかあるまい」

しばらく躊躇していたシャルムだったが、ようやく覚悟を決めたようだ。
彼女が操作盤と思しき三角形の記号に触れると、既存の知識では形容し難い明るい音が響いた。
小部屋の外壁が降りて中に入れるようになり、一行が足を踏み入れると再びせり上がる。

「外壁自体が開閉する仕組みなのか……大型物資を搬入するためなのか?」

スレイブの場違いな考察をよそに、小部屋はやがてゆっくりと下り始めた。
重力に惹かれるように、下降の速度はどんどん上がっていく。
小部屋のすぐ下は筒状の空洞になっているらしく、砲身を駆け抜ける砲弾のように部屋自体を下方向へ滑らせているのだ。
胃袋を掴み上げられるような浮遊感に目眩がした。

>「ひ、ひえぇ……み、皆さん。防御魔法の備えだけは抜かりのないように……!」

しばらくすると、硝子一枚隔てた向こうが赤く染まる。
火口の中身……すなわち熱く溶解した地殻の内部を、昇降機はくぐり抜けている。
シャルムが怯えたように声を挙げ、スレイブの左腕を掴んだ。

「大丈夫だ、地熱はこちらまで届いていない。この硝子は温度を遮る機能を持っているようだ。
 ……それに、いざとなればこの部屋の天井をぶち抜いて、地上まで飛んで戻ればいい。
 指環の力をフルに使えば十分可能だ。俺たちにはそれができる。魔力の供給も十分だ。何も心配はない。」

やけに早口で、自分に言い聞かせるようにスレイブは言った。
カバンコウを出てからこっち、これまでの常識を覆されるような光景に直面してばかりだ。
シャルムの動揺は痛いほど理解できるし、スレイブもまた無意識のうちに彼女に寄り添う。
いつでも抱えて逃げられるように、シャルムの細い肩を浅く抱き寄せた。

時間にすれば1分にも満たない、されど悠久にも思える溶岩遊泳を経て、小部屋の下降が止まった。
外壁が再び降り、身構えたスレイブの警戒とは裏腹に、冷ややかな空気だけが流れ込んでくる。
どうやら昇降機は、目的の階層に到達したようだった。
辿り着いた空間は、多少の光源はあるものの、細部まで光が届いておらず、薄暗い。

「この明かりは……溶岩や燭灯とは違う。稲光を弱く、安定させたような……不思議な光だ」

白と緑の弱々しい光を放つ板。
どうやら緑の下地に白抜きで文様を描いてあるらしく、しかし意味は判然としない。
なんとなく、『出口へ向けて走っている人間』を想起させるような構図だ。

85 :スレイブ :2018/10/11(木) 22:50:24.77 ID:sjrKy4Ep.net
シャルムは光源よりも部屋の中の設備に興味を惹かれたらしく、しきりにあたりを見回している。
やがてラテが光の指環で明かりを灯すと、部屋の奥に扉があるのが見てとれた。

>「……先に進みましょう」

扉の前に立つと、尖塔の入り口と同じように、ひとりでに戸板が開いた。
向こう側の空気とこちらの空気が混ざり合い、匂いが鼻孔に漂ってくる。
スレイブは一度鼻を鳴らすと、弾かれたように剣を抜いて構えた。

「……死臭!」

腐敗した肉と空気に触れた血液が放つ、『死』の臭い。
戦場で幾度となく嗅ぎ慣れたその臭気が、スレイブに戦闘者としての感覚を取り戻した。
だが、想定される危機は一向に襲ってこない。
警戒しながら先へ進むと、信じがたい光景が目に飛び込んできた。

「馬鹿な……これは……シアンス……?」

部屋の中央に山のごとくうず高く積まれた、無数の死体。
その全てが、ことごとく、同じ人間の顔をもっていた。
――スレイブの側で驚愕に震える、シャルム・シアンスに、瓜二つだ。
そして、死体たちには顔の他に共通する点がある。捏ね潰された粘土細工のように、奇形だ。
損壊した死体、ではない。死体に外傷はなく、異質な形状をもって生まれた"何か"が、生まれ落ちた瞬間に死んだかのよう。

「なんだこれは……なんなんだ!!」

スレイブはたまらず叫び声を挙げた。
本当に叫び出したいのは、自分と同じ顔の、それも奇形の死体を目にしたシャルムだろう。
しかし、スレイブもまた、視界を埋め尽くすシャルムの死に顔に耐えられなかった。

>『再構築エラー、存在構築律を正しく読み込む事が出来ません。  
 シャルル・フォルシアンを再構築出来ません。記憶媒体の状態を確認してから再試行して下さい』

無機質な声が、同じ内容を何度も読み上げる。
専門家ではないスレイブにも、目の前の現状と照らし合わせて、おぼろげに理解ができた。

シャルル・フォルシアン。
あのゴブリンもどきの口にした、再構築後のシャルムの名前。
ここへ来た時点で、すでに再構築は始まっていたのだ。しかし、それはうまくいかなかった。
エラー。正しく構築されなかった『シャルム』は破棄され、システムは再び構築を繰り返す。

何度も。何度も何度も何度も。
その結果が、目の前に積み上げられた、"不正な"シャルムの遺骸たちなのだ。

86 :スレイブ :2018/10/11(木) 22:50:58.13 ID:sjrKy4Ep.net
>「うっ……」

シャルムが青い顔でえずいた。
スレイブは胃袋からせり上がってくる何かをどうにか堪えて、シャルムの肩を引き寄せた。

「もう見るな。こんなもの、研究も分析も必要ない。これから俺たちが跡形もなく破壊するんだ。
 一片たりとも残すものか。こんな狂ったシステム、目の前から全て消してやる」

シャルムが落ち着くまで、スレイブは彼女の肩を抱き続けた。
何かの支えになるとも思えないが、何もせずにはいられなかった。

>「……行きましょう」

やがて冷静さを取り戻したシャルムの先導で、一行は次の扉を抜ける。
そこにはやはり積まれた大量の死体と……一人の男が立っていた。
どことなくティターニアに似ている。耳は短く、眼鏡もかけてはいなかったが。

>「諸君らは……これが二回目か?それとも、まだ一回目か?」

――シャルムの問いに応じて男の語った内容。
かつて、世界には現在とまったく異なる文明と技術があった。
『虚無の竜』は異世界からの侵略者ではなく……逆だ。
その時代の人類が創出した、世界を保護し、繁栄の時代に回帰させるための装置だった。

しかし、地殻の奥底に封印されていた虚無の竜は、戦争の影響で大きなダメージを負うことになる。
自己修復に失敗し、その有り様を捻じ曲げ、それでもなお本来の機能を発揮しようとした。
結果は、これまでの旅で目にしてきた通りだ。
不完全な形で再構築された世界と、周囲から属性を無制限にしぼり取り、枯渇させる虚無の竜。

そして、虚無の竜はもう一度、歪んだ姿に世界を作り直そうとしている。
――背後の部屋に積み上げられた、シャルム達の死体のように。
それだけは、なんとしても、止めなければならない。

>「諸君らは……これが二回目か?それとも、まだ一回目か?」

必要な情報を話し終えると、男は最初と同じ言葉を問いかけてきた。
ホログラムという技術はよくわからないが、つまりこの男は今、生きているわけではない。
対話が可能な過去の映像……まるで想像もつかない話ではあるが、そういうことだと納得するしかないのだ。

87 :スレイブ :2018/10/11(木) 22:51:20.74 ID:sjrKy4Ep.net
>「……二回目ですよ。聞くべき事はもう聞きました」
>「そうか……尻拭いをさせてしまって悪いが、健闘を祈るぞ。願わくば、このホログラムが二度と起動されない事もな」

「進もう。俺たちの世界は、失敗作なんかじゃない。これ以上、神の真似事をされてたまるか」

さらに扉をくぐる。
その先には、これが建物の内部だということを忘れてしまうような広大な空間が拓けていた。
そして、空間の中央に丸まっている、金属で構成された……竜。

>「あれが……虚無の竜」

「……眠っている、のか?」

虚無の竜は沈黙していた。
男のホログラムとやらが言うには、あの装置は自ら敵性存在を排撃するようにはなっていないらしい。
少なくとも、こちらから攻撃を加えるまでは、中立の状態を保つ……
つまり、必ず先制攻撃が可能ということだ。

>「……あの兵装を全て使用されたらと考えると、背筋が凍りますね。
 最初の一撃で、どれだけ破壊出来るのやら……」

「出し惜しみはなしだ。俺も竜装を纏う。ジャン、もしものときはもう一度頼んだ」

スレイブはそう言い残して、バアルフォラスの切っ先を自分に向けて構えた。
竜装『愚者の甲冑』は、指環からの魔力供給のタガを外すことで短時間に莫大な威力の魔法を放つことができる。
最初の一撃に全てを賭けなければならないこの状況なら、魔力を全部吐き出した後の無力も問題にはなるまい。
知性を自ら手放すことに対する僅かな躊躇いをねじ伏せて、切っ先を己の胸に埋める――その直前。

>『――侵入者を発見。前回の戦闘発生経緯から、事前の警告は無用と判断します。
 全武装を解禁中。セキュリティクリアランスの申告は武装解禁が完了するまでに行って下さい』
>「……なんですって?そんな……馬鹿な。話が違う……」

「なんだと……!?最初に一撃入れるまで、奴は無防備なんじゃなかったのか!?」

何か……致命的な計算違いがあった。
それを推し量ることはスレイブにはできないが、当初の計画が全て無に帰したことだけはわかる。
先制攻撃は不可能。指環の勇者たちは、初めから敵対した状態の虚無の竜を相手にしなければならない。

>『全武装解禁。リビルドデバイスと虚無の竜の接続を解除。プロトコル・ホロウの進行を一時停止。戦闘行動を開始します』
>「っ、『フォーカス・マイディア』!!そして……全の指環よ!!」

驚愕からいち早く立ち直ったシャルムが適性拡張術式を行使し、ドラゴンサイトを展開する。
一瞬遅れて、スレイブも剣を抜き放った。

88 :スレイブ :2018/10/11(木) 22:51:49.19 ID:sjrKy4Ep.net
>「投射物を可能な限り迎撃します!なんとか前へ出て下さい!」

「了解。防御は全部あんたに任せる。俺は全魔力を攻撃に回すぞ。
 ――ウェントゥス、状況はわかってるな?」

『またぞろ儂の風で突撃するとか言うんじゃろ?ああもう、とっくに準備できとる儂の甘さに腹が立つ!
 心配せんでもちゃんと運んでやるわい。そろそろお主とは、短い付き合いでもないしの』

「……全部終わったら、千年分の飴を買ってやる」

『ほしたら是が非でも生き残ってもらわんとな。……約束は守れよ、儂の契約者』

それ以上の会話は不要とばかりに、スレイブは弾丸の如く己が身を飛ばした。
雨霰とばかりに降り注ぐ虚無の竜の砲撃に対し、一切の防御行動を取らない。
避ければその分、走る速度が落ちる。盾などとうの昔に置き去りだ。
それでも迫りくる威力の嵐に、恐怖心はない。

>「『竜の天眼(ドラゴンサイト)』……!撃ち落とせ!!」

スレイブの元に攻撃が届く前に、その尽くを、シャルムの魔法が迎撃していくからだ。
だから彼は、ただ真っ直ぐに、最短の距離を進むだけで良い。

「……届いた!」

跳躍。逃げ場のない空中で、針山のごとく生えた無数の砲門がスレイブに集中する。
ドラゴンサイトの弾幕が目の前をなぎ払い、嘘のように凪いだ虚空をその身で貫く。

「一伐の槍・二王の弓・三寅の斧。四方世界を結ぶ氷獄の刃。
 その命を切り、神の名を冠す杖を無窮の原野に立てよ――」

凝縮した魔力を纏わせ、巨大な氷柱と化した長剣を、投槍のごとく投擲する。
氷柱は虚無の竜の体表に突き立った瞬間、内包する魔力を全て解き放った。

「――『クアドラプルフロスト』!!」

氷柱から四方に向けて波濤の如く冷気が奔り、砲門を尽く凍てつかせていく。
氷波は砲門を芯まで凍てつかせ、内側から食い破るようにして破裂させた。
魔力を解き放ち終えた剣の柄を握り、しかしスレイブはそれを抜かない。
間髪入れずに、新たな魔力を注ぎ込んだ。

「爆ぜろ、『炸轟』」

突き立った剣を通して莫大な魔力が虚無の竜の体内へ流れ込む。
瞬間、爆裂。内部からの爆発は竜の装甲を無視して巨大な穴を穿つ。
『スレイブ極太ビーム』と双璧を為す近接技、『剣の先っちょから爆発出る奴』。
かつて知慧の魔神バアルフォラスを討滅した際の決め手となった技だ。

「細かい武装は俺が削ぎ落とす!ジャン、ティターニア、大物を頼む!」

89 :スレイブ :2018/10/11(木) 22:52:02.39 ID:sjrKy4Ep.net
【武装解除(物理)】

90 :ジャン :2018/10/16(火) 18:22:33.32 ID:x4qd9L7k.net
一行が辿り着いた硝子の塔は、見た目からは想像もできないほど頑丈に組み上げられていた。
内部は広く、生き物めいた骨格が長大な建造物を支えている。
天井は入り口からは見えないほど高く、奇妙な振動音が時折鳴り響く。

>「上に行くか下に行くかということか? シェバトにあった昇降機のようなものなのかもしれないな」

「こりゃちょうどいいぜ、敵が自分から招待してくれるんだからよ!
 ……それに、迷ってる時間はねえ」

他の仲間は親切すぎる案内に怪しんでいるようだが、ジャンは違った。
罠があれば踏み抜き、伏兵が出てくれば殴り倒す。その思考は今でも変わることはない。
むしろそういったものを仕掛けているということは、敵にとって大事なもの……虚無の竜の肉体があるという証明でもある。

>「ひ、ひえぇ……み、皆さん。防御魔法の備えだけは抜かりのないように……!」

小部屋が目的地を目指してまっすぐに下降を始め、やがて小部屋の向こう、硝子の外壁一つ挟んだ外が溶岩に覆われる。
あらゆる者の制御を拒んだ莫大なエネルギーが、今も荒れ狂い続けているのだ。

>「大丈夫だ、地熱はこちらまで届いていない。この硝子は温度を遮る機能を持っているようだ。

「こんな硝子一枚で溶岩に耐えたり、変なもん作ったり……どんな魔法使ってんだろうな?
 塔の壁だって軽く小突いてもヒビ一つ入らねえしよ」

『……これは魔法というより技術、だね。
 魔力が一切感じられない、一体どうやって……』

やがて小部屋全体の振動が止まり、下降が終わったことを示すように外壁の一部が音もなく開く。
淡く光る白と緑の光源に導かれるようにして通路を歩き、触ることなくドアが開いた。

>「……死臭!」

スレイブと同じく、ジャンもその臭いを感じれば即座に長矛を構える。
アンデッドの類かそれともスケルトンか、と思ってゆっくりと前に進めば、そこにあるのはおぞましい光景だった。

>「うっ……」

>「馬鹿な……これは……シアンス……?」

「……死霊術で作られたゾンビ共の群れの方がまだマシな光景だな。
 何の目的で作ったのかまったくわかりゃしねえ」

もしこれが自分だったなら、すぐさま滅茶苦茶に叩き潰してしまうだろう。
こんなものを見せつけられて正常でいられるヒトなどいないはず。ジャンはそう考えて、
できるだけ早くこの部屋から離れることを促した。

91 :ジャン :2018/10/16(火) 18:26:18.67 ID:x4qd9L7k.net
>「……行きましょう」

なんとか落ち着いてきたシャルムの様子を見ながら、次の扉が音もなく開く。
またも大量の死体と、今度はその傍らに立つ一人の男。
エルフとは思えない容姿をしているのに、不思議とティターニアに似ていると感じてしまう。

>「諸君らは……これが二回目か?それとも、まだ一回目か?」

そして彼が話し出すのは虚無の竜が作られた兵器であるという事実。
そしてその構造と、目的。ジャンにはほとんど理解できない内容だったが、アクアがかみ砕いて説明してくれる。

『つまり虚無の竜は世界を守るゴーレムだった。
 それをヒトどうしの戦争のせいで壊れてしまって、自分で直そうとしてさらに壊れた。
 誰かに直してもらうこともできず、壊れ続けた結果……世界を滅ぼすゴーレムになってしまった』

「やることは変わんねえわけだな、説明ありがとよ。
 最初の一撃で殴り倒してやるぜ」

いかなる事情であれ、この世界が丸ごと作り直されるという事実は変わらない。
長槍を持った手を握りしめて、ジャンは最後の扉を通った。

>「あれが……虚無の竜」

広く大きな空間は、全てが透明だった。
あらゆる色を吸収し、光沢というものが一切ない不思議な素材で作り上げられた空間。

そこに鎮座するのは、虚無の竜と呼ぶには相応しくないように思える、金属を纏った竜。
しかし身体の各所に取り付けられた武装らしきものは空飛ぶ鮫よりもはるかに多く、あれが一斉に放たれれば
こちらは一瞬で血煙となるだろう。

>「……あの兵装を全て使用されたらと考えると、背筋が凍りますね。
 最初の一撃で、どれだけ破壊出来るのやら……」

>「出し惜しみはなしだ。俺も竜装を纏う。ジャン、もしものときはもう一度頼んだ」

「おうよ、手加減なしで顔面吹っ飛ばすぜ」

ジャンもスレイブの横に立ち、竜装を纏っていつでも飛び込めるよう準備する。
実際のところ、開幕の一瞬で倒せる相手ではないことは確かだ。ならば自分ができるだけ近くで、引きつけ続ける必要があるだろう。

「ティターニア、ありったけ支援頼む。
 ……全員で、生きて帰るぞ!」

しかし、直後に聞こえてきた無機質な声が事態の急変を告げる。

>『――侵入者を発見。前回の戦闘発生経緯から、事前の警告は無用と判断します。
 全武装を解禁中。セキュリティクリアランスの申告は武装解禁が完了するまでに行って下さい』

>「……なんですって?そんな……馬鹿な。話が違う……」

>『全武装解禁。リビルドデバイスと虚無の竜の接続を解除。プロトコル・ホロウの進行を一時停止。戦闘行動を開始します』

92 :ジャン :2018/10/16(火) 18:27:26.46 ID:x4qd9L7k.net
そして戦闘開始を告げるように、虚無の竜がその瞳を見開いた。
全身から放たれる暴力の嵐が勇者たちを襲えば、指環を発動したシャルムがそのほとんどを押し留める。
元々の魔力制御の技術と指環の魔力が合わされば、まるで一つの軍隊のようにあの球体たちを制御し、弾幕を形成してみせた。

>「――『クアドラプルフロスト』!!」

スレイブがそれに合わせて突撃し、砲門の一つを粉砕する。
さらには虚無の竜内部へ魔力を撃ち込み、内部からの爆発で装甲に穴をこじ開けた。

>「細かい武装は俺が削ぎ落とす!ジャン、ティターニア、大物を頼む!」

「任されたぁ!いつも通りに行くぜ、あのゴーレムをぶん殴る!」

翼を生やし、鱗を纏い。アルマクリスの長矛を両手に持ち、はるか上へと飛んでいく。
そして長矛に水流を纏わせ、巨大な水流槍を作り上げた。

「まずは前足っ!」

ブン、と鈍い風切り音を立てて水流槍が虚無の竜の前足を貫いて砕き、破壊する。
バランスを崩し、動きを止めたところで薄くなった弾幕に構うことなく接近し、装甲に空いた穴から見える構造物に向かって
両手を組んで思い切り叩きつければ、何か甲高い音と共に内部が破壊されていく。

「ははっ!虚無の竜も肉体は脆いもんじゃねえか!
 これなら全の竜の方がよほど手ごわかったぜ!」

ジャンを引き剥がそうとする抵抗もなく、ジャンは次々と穴を開けては内部構造を両手で粉砕する。
やがて虚無の竜が動きを止めたとき、その身体のほとんどは粉々に砕かれていた。

「……これで終わりか?後は降りてきた本体ぶちのめせば――」

『虚無の竜の肉体ユニット破壊を確認しました。全肉体ユニット候補および警備ユニットを起動。
 再構築システムをパターン14に移行。工程35から321を省略。全隔壁を閉鎖し精神ユニット到着まで一切の操作を拒否します。
 作業員の皆様は対異常存在スーツの着用をお願いします。地熱エネルギーの充填完了と共にパターン14は終了されます』

再生を防ぐために、頭と心臓らしき部分を念入りに破片の塊になるまで砕いたところであの無機質な声が再び聞こえる。
それと同時に周囲の壁の一部が駆動音と共に開き、中から異形の街で遭遇した、鋼鉄の鎧を纏い長銃や短剣を持った戦士たちが現れた。
さらにその後ろには、武装は少なく一回り小さいものの、あの虚無の竜とほとんど同じ外見をした鋼の竜が8体、
一行を取り囲むようにゆっくりと姿を見せる。

【肉体(一つだけとは言っていない)】

93 :創る名無しに見る名無し:2018/10/17(水) 14:24:41.39 ID:ZU7x6aHX.net
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TUD

94 :ティターニア :2018/10/19(金) 22:32:05.06 ID:53+trL7v.net
下に向かえばいいことは分かりつつも躊躇する一行を、ラテが鼓舞する。

>「指環の勇者が七人揃ってる。準備は万端、でしょ?
 急がないと。あと一時間とちょっとで、再構築?が終わっちゃうんでしょ。
 私にはよく分からなかったけど……それが良くない事だって事くらいは、分かるよ」

>「……いざとなったら、頼みますからね」

意を決して下へと向かう一行。

>『再構築エラー、デバイスが正しくセットされていません。
 ユリウス・クラウレイを再構築出来ません。 
 デバイスを正しくセットしてから再試行して下さい』

不可思議な声が響く中、白い部屋へ到着。
そこで目に飛び込んできたものは、大量の奇形の女性の死体だった。
その上、シャルムにそっくりだ。

>「馬鹿な……これは……シアンス……?

>『再構築エラー、存在構築律を正しく読み込む事が出来ません。
 シャルル・フォルシアンを再構築出来ません。
 記憶媒体の状態を確認してから再試行して下さい』   

>「……行きましょう」

次の部屋も、またも大量の死体。
しかしその中心に一人、ティターニアに似た男性が座っていた。

「そなたは一体……」

>「諸君らは……これが二回目か?それとも、まだ一回目か?」

シャルムとの問答の中で、虚無の竜の誕生と、それが恐ろしい侵略者へと変貌した経緯が語られる。
その終盤。

>「虚無の竜はエネルギー効率において万全ではなく、
 また一度破壊された機能を再生すべきか正しい判断が出来ない。
 間違いないですか?」
>「……ああ、その通りだ。こう言ってはなんだが……虚無の竜は我らの最高傑作だ。
 ユリウス・クラウレイ、シャルル・フォルシアン。そしてこの我、タイターン・グッドフェロウの。
 まともに戦えば、たった7人で勝てる相手ではない」

シャルル・フォルシアンはシャルム・シアンスの再構築後の名ということが先程分かってしまった。
同じように考えるとタイターン・グッドフェロウはティターニア・ドリームフォレスト。
(再構築前と再構築後で必ずしも種族や性別が同じとは限らないのだろう)
ユリウス・クラウレイは名前の響きからジュリアン・クロウリーと推測できる。

「もしやとは思うが……そなたらの世界には三つの大国がありはしなかったか?
そなたら三人はそれぞれの国を代表する魔術師……いや、技術者だったのではあるまいか?」

「そうだが――よく分かったな」

95 :ティターニア :2018/10/19(金) 22:33:38.71 ID:53+trL7v.net
パラレルワールド仮説――先日明らかになった旧世界の存在も驚きだったがそれどころではく、
この世界以外に無数の平行世界が存在するというトンデモ仮説がある。
隣り合わせの世界はとてもよく似ていて、離れるほど全く違う世界になるとか。
もしかしたら彼らの世界は、その中の一つなのかもしれない。
この世界とどこか似ていながら、されど魔法とは全く違う技術体系で発展した世界。
世界を食らいつつ隣接する世界へと移動してきたとしたら、ここに至るまでに一体どれだけの世界が食らわれたのだろう。
タイターンは最後に、戦闘開始時にありったけの先制攻撃をしろとのアドバイスを授け、会話は終了する。

>「諸君らは……これが二回目か?それとも、まだ一回目か?」
>「……二回目ですよ。聞くべき事はもう聞きました」
>「そうか……尻拭いをさせてしまって悪いが、健闘を祈るぞ。願わくば、このホログラムが二度と起動されない事もな」
>「進もう。俺たちの世界は、失敗作なんかじゃない。これ以上、神の真似事をされてたまるか」

「ああ。もしかしたら……この世界だけではなく無数の世界の命運がかかっているのかもしれないな」

この世界には偶然か必然か、全の竜というある種の保険があったため、長い時間足止めを食らうことになった。
しかしその保険はもうない。もしも負ければ、虚無の竜はこの世界を食らいつくした後、次なる世界に解き放たれるということだ。
ついに最後の扉を潜り、虚無の竜と対面する。そこにいたのは、全身機械仕掛けの巨大な竜だった。

>「あれが……虚無の竜」
>「……眠っている、のか?」
>「出し惜しみはなしだ。俺も竜装を纏う。ジャン、もしものときはもう一度頼んだ」
>「おうよ、手加減なしで顔面吹っ飛ばすぜ」
>「ティターニア、ありったけ支援頼む。
 ……全員で、生きて帰るぞ!」
「よし、重ね掛け出来る限りの補助魔術をかけるから少し待ってくれ。まずは……」

こちらから仕掛けるタイミングが計れる場合に使える、いわゆる戦闘開始前のドーピングである。
しかし、定番のフルポテンシャルを全員になんとかかけおわったところで、事態は急変。

>『――侵入者を発見。前回の戦闘発生経緯から、事前の警告は無用と判断します。
 全武装を解禁中。セキュリティクリアランスの申告は武装解禁が完了するまでに行って下さい』
>「……なんですって?そんな……馬鹿な。話が違う……」
>「なんだと……!?最初に一撃入れるまで、奴は無防備なんじゃなかったのか!?」

先代勇者の時は、虚無の竜を完全に滅ぼすことは諦め魂の側を封印という形でひとまずの平和を取り戻した。
つまりここで虚無の竜の肉体との対決はしていない。
しかし、その更に前のいつかの代の勇者か、あるいは虚無の竜が以前経由してきた世界のどこかの時点で、これに立ち向かった者達がいたのかもしれない。
ここで、虚無の竜が機械仕掛けの竜だとしたら、その”魂”とは一体何だったのだろうか――
という疑問が浮かぶが、今は考えている場合ではない。
今やるべきことは一刻も早く目の前の竜を破壊することだ。

96 :ティターニア :2018/10/19(金) 22:33:47.84 ID:53+trL7v.net
パラレルワールド仮説――先日明らかになった旧世界の存在も驚きだったがそれどころではく、
この世界以外に無数の平行世界が存在するというトンデモ仮説がある。
隣り合わせの世界はとてもよく似ていて、離れるほど全く違う世界になるとか。
もしかしたら彼らの世界は、その中の一つなのかもしれない。
この世界とどこか似ていながら、されど魔法とは全く違う技術体系で発展した世界。
世界を食らいつつ隣接する世界へと移動してきたとしたら、ここに至るまでに一体どれだけの世界が食らわれたのだろう。
タイターンは最後に、戦闘開始時にありったけの先制攻撃をしろとのアドバイスを授け、会話は終了する。

>「諸君らは……これが二回目か?それとも、まだ一回目か?」
>「……二回目ですよ。聞くべき事はもう聞きました」
>「そうか……尻拭いをさせてしまって悪いが、健闘を祈るぞ。願わくば、このホログラムが二度と起動されない事もな」
>「進もう。俺たちの世界は、失敗作なんかじゃない。これ以上、神の真似事をされてたまるか」

「ああ。もしかしたら……この世界だけではなく無数の世界の命運がかかっているのかもしれないな」

この世界には偶然か必然か、全の竜というある種の保険があったため、長い時間足止めを食らうことになった。
しかしその保険はもうない。もしも負ければ、虚無の竜はこの世界を食らいつくした後、次なる世界に解き放たれるということだ。
ついに最後の扉を潜り、虚無の竜と対面する。そこにいたのは、全身機械仕掛けの巨大な竜だった。

>「あれが……虚無の竜」
>「……眠っている、のか?」
>「出し惜しみはなしだ。俺も竜装を纏う。ジャン、もしものときはもう一度頼んだ」
>「おうよ、手加減なしで顔面吹っ飛ばすぜ」
>「ティターニア、ありったけ支援頼む。
 ……全員で、生きて帰るぞ!」
「よし、重ね掛け出来る限りの補助魔術をかけるから少し待ってくれ。まずは……」

こちらから仕掛けるタイミングが計れる場合に使える、いわゆる戦闘開始前のドーピングである。
しかし、定番のフルポテンシャルを全員になんとかかけおわったところで、事態は急変。

>『――侵入者を発見。前回の戦闘発生経緯から、事前の警告は無用と判断します。
 全武装を解禁中。セキュリティクリアランスの申告は武装解禁が完了するまでに行って下さい』
>「……なんですって?そんな……馬鹿な。話が違う……」
>「なんだと……!?最初に一撃入れるまで、奴は無防備なんじゃなかったのか!?」

先代勇者の時は、虚無の竜を完全に滅ぼすことは諦め魂の側を封印という形でひとまずの平和を取り戻した。
つまりここで虚無の竜の肉体との対決はしていない。
しかし、その更に前のいつかの代の勇者か、あるいは虚無の竜が以前経由してきた世界のどこかの時点で、これに立ち向かった者達がいたのかもしれない。
ここで、虚無の竜が機械仕掛けの竜だとしたら、その”魂”とは一体何だったのだろうか――
という疑問が浮かぶが、今は考えている場合ではない。
今やるべきことは一刻も早く目の前の竜を破壊することだ。

97 :ティターニア :2018/10/19(金) 22:35:59.68 ID:53+trL7v.net
『全武装解禁。リビルドデバイスと虚無の竜の接続を解除。
 プロトコル・ホロウの進行を一時停止。戦闘行動を開始します』

シャルムがいち早く驚愕から立ち直り迎撃態勢に入る。

>「っ、『フォーカス・マイディア』!!そして……全の指環よ!!」
>「投射物を可能な限り迎撃します!なんとか前へ出て下さい!」
>「『竜の天眼(ドラゴンサイト)』……!撃ち落とせ!!」

98 :ティターニア :2018/10/19(金) 22:36:37.47 ID:53+trL7v.net
『全武装解禁。リビルドデバイスと虚無の竜の接続を解除。
 プロトコル・ホロウの進行を一時停止。戦闘行動を開始します』

シャルムがいち早く驚愕から立ち直り迎撃態勢に入る。

>「っ、『フォーカス・マイディア』!!そして……全の指環よ!!」
>「投射物を可能な限り迎撃します!なんとか前へ出て下さい!」
>「『竜の天眼(ドラゴンサイト)』……!撃ち落とせ!!」

99 :ティターニア :2018/10/19(金) 22:37:34.35 ID:53+trL7v.net
シャルムが投射物を遮って道を作り、スレイブが最短距離で突撃する。
相変わらず見事なコンビネーションだ。

>「一伐の槍・二王の弓・三寅の斧。四方世界を結ぶ氷獄の刃。
 その命を切り、神の名を冠す杖を無窮の原野に立てよ――」
>「――『クアドラプルフロスト』!!」

スレイブが長剣を突き立て、凍てつく冷気の魔法を炸裂させる。しかしそれだけでは終わらない。

>「爆ぜろ、『炸轟』」

内部から魔力が爆発し、装甲に巨大な穴が開いた。

>「細かい武装は俺が削ぎ落とす!ジャン、ティターニア、大物を頼む!」

>「任されたぁ!いつも通りに行くぜ、あのゴーレムをぶん殴る!」

「合わせるぞジャン殿。竜装――”ダイナスト・ペタル”! 吸い尽くせ――”ミスルトゥ”」

植物属性の竜装を纏い唱えるは、内部からエネルギーを吸い尽くしながら崩壊させる凶悪無比な寄生樹の魔法。
穴が開いた部分から植物の根のようなものが周囲を破壊しつつ広がっていく。

>「まずは前足っ!」

一方のジャンは、単純明快且つ強力無比な外部からの攻撃で粉砕していく。

>「ははっ!虚無の竜も肉体は脆いもんじゃねえか!
 これなら全の竜の方がよほど手ごわかったぜ!」

内と外、両方から破壊され、虚無の竜はすぐに半壊状態となった。

>「……これで終わりか?後は降りてきた本体ぶちのめせば――」

>『虚無の竜の肉体ユニット破壊を確認しました。全肉体ユニット候補および警備ユニットを起動。
 再構築システムをパターン14に移行。工程35から321を省略。全隔壁を閉鎖し精神ユニット到着まで一切の操作を拒否します。
 作業員の皆様は対異常存在スーツの着用をお願いします。地熱エネルギーの充填完了と共にパターン14は終了されます』

100 :ティターニア :2018/10/19(金) 22:40:48.35 ID:53+trL7v.net
どうやらここにあるのが“肉体ユニット”、そして魂が”精神ユニット”ということらしい。
それはいいのだが、武装した兵隊達と、一回り小さいとはいえ今しがたボロボロにした虚無の竜とほぼ同じようなものが8体登場する。

「これが警備ユニットか……少々警備が厳重すぎるだろう!」

間髪入れずに、八方向からの一斉砲撃が始まった。
プロテクションでは防ぎきれない。シャルムの竜の天眼でも打ち落としきるのは不可能だろう。

>「鏡の世界(スペクルム・オルビス)――」
>「ストームソーサリー!」

とっさに旧世界攻略の時に編み出されたジュリアンとの連携魔法でなんとか防ぐが、どこまで持つか分からない。
その上、脅威は八体の機械の竜達による砲撃だけではない。

「ティターニア様、ヤバイってこれ!」

「言われなくても分かっておるわ!」

鎧を纏った戦士達の猛攻により、前衛勢は防戦で手一杯となり、基本アイテム持ち係のパックまで参戦を余儀なくされている。
流石移動式壁とも呼ばれる種族だけあって今のところ何とか持ちこたえているが……。
防戦一方となっているのは誰の目にも明らかだった。このままでは押し切られるのは時間の問題だ。

【どうも接続状況が良くないようで途中二重になってすまぬ。
1ターン目ということでとりあえず圧されてみた】

101 : :2018/10/23(火) 19:26:53.78 ID:aeP8rpj+.net
襲い来る無数の弾丸と砲撃。
一つ一つ認識して迎撃していては間に合わない。
ですが……既に私は、魔力の網を幾層にも重ねて張り巡らせている。
そしてそれらに弾丸が触れる際の入射角から、半自動的に弾道を予測し撃ち落とす術式を組み上げれば。

「……後は、任せましたよ!」

展開した『竜の天眼』が、虚無の竜の弾幕の尽くを撃ち落とす。
切り開かれた道を真っ先に駆け抜けたのは……やはり、あなたですよね。ディクショナルさん。

>「細かい武装は俺が削ぎ落とす!ジャン、ティターニア、大物を頼む!」

虚無の竜の胸部から生えた四門の……ガトリング砲とやらが破壊される。
発射速度、弾速共に、最も優れた兵装が……つまり奴の弾幕の主軸が挫かれた。
最早、虚無の竜に私達の接近を拒む事は出来ない。

>「任されたぁ!いつも通りに行くぜ、あのゴーレムをぶん殴る!」
>「合わせるぞジャン殿。竜装――”ダイナスト・ペタル”! 吸い尽くせ――”ミスルトゥ”」

そうなってしまえば、後は竜の指環による大火力が物を言います。
虚無の竜は見る間に破壊され、がらくたへと変えられていきます。

>「……これで終わりか?後は降りてきた本体ぶちのめせば――」

……虚無の竜の肉体は、これで完全に破壊されました。
終わってしまえば早い決着となりましたが……一歩間違えば私達があの弾幕に塗り潰されていました。
未だに心臓が暴れ回っています。思わず、私はその場にしゃがみ込んでしまいました。

とは言え、まだ完全に決着がついた訳ではありません。
封印されていた虚無の竜の魂をやっつけてしまわないと。
もっとも……肉体のない魂に果たして何が出来るのか。
万全を期して封印ないし討滅した方がいいのは間違いないんですが。
それにそもそも……

「……参りましたね。これでは虚無の竜の魂が帰ってくるのかどうか……」

>『虚無の竜の肉体ユニット破壊を確認しました。全肉体ユニット候補および警備ユニットを起動。
  再構築システムをパターン14に移行。工程35から321を省略。全隔壁を閉鎖し精神ユニット到着まで一切の操作を拒否します。
  作業員の皆様は対異常存在スーツの着用をお願いします。地熱エネルギーの充填完了と共にパターン14は終了されます』

……不意に、部屋全体に響き渡るような声が聞こえました。
無機質で抑揚のない……虚無の竜の声が。
肉体ユニット……候補ですって?
なんだかものすごく、嫌な予感がします。

それが気のせいであって欲しいと祈る間もなく、今度は周囲から奇妙な音が響きました。
ここに来るまでにも何度か耳にした……扉が滑るように開く音。
それが、幾重にも重なって聞こえてきた。

嫌な予感は、既に確信に変わっていました。
周囲を見回せば目に映ったのは……やや小型化された、しかし紛れもない虚無の竜の肉体。
それが八体。更に数えきれないほどの鎧の兵士。

「なるほど……自分自身を再構築出来るなら、あらかじめ予備の肉体を作っておく事だって出来る。そりゃそうですよね……。
 最初からその機能が搭載してあれば、こんな厄介な事にもならずに済んだものを……」

虚無の竜の予備の肉体は、先ほど倒したものよりも幾分か小型化されています。
兵装の数も減っていますが……それは奴の弱体化を意味しません。
何故なら装備を削減するという事は、当たり前ですが……より効果的なものを残すという事です。

102 : :2018/10/23(火) 19:27:15.05 ID:aeP8rpj+.net
奴の兵装の内、それが何かと言えば……あのガトリング砲です。
恐ろしいほどの回転率と弾速、長い射程。
素晴らしい汎用性を誇る兵装です。
……案の定、それは全ての虚無の竜に搭載されていました。

そして……竜の咆哮のごとき銃火が響き渡る。
竜の天眼による半自動迎撃がそれを迎え撃つも……防ぎ切れない。

103 : :2018/10/23(火) 19:27:35.95 ID:aeP8rpj+.net
>「鏡の世界(スペクルム・オルビス)――」
>「ストームソーサリー!」

私達の目の前で無数の砲弾、銃撃が砕け散る。
ティターニアさんとクロウリー卿の防御魔法……間一髪、間に合いましたか。

ですが魔法とは神の奇跡ではありません。
その発動には当然、原動力……魔力を要します。
これほどの物量を跳ね返し続ければ……魔力は恐ろしい勢いで削り取られる。
それに伴って術式そのものの強度も失われていく。

十秒と持たずに穿たれた穴から、鎧の兵士達がなだれ込んできます。
前衛職の皆さんがすぐにそれを押し留めますが……どうにも多勢に無勢。
パックさんまでもが加勢してなんとか勢いが拮抗したところで、私が咄嗟に結界の穴を防ぎます。
一度は凌ぎはしましたが……敵は大波のように何度でも押し寄せてきます。
いつまでも持ち堪え続ける事は出来ない……。

「……散開しましょう。それしかありません」

結界に走る亀裂を生じる傍から修復しながら、私はそう言いました。

「あの火力を一点に集中されては防戦一方。
 奴らに対して、私達が間違いなく勝っている点は的の小ささです。
 私がきっかけを作りますから……行きますよ。三、二、一……」

瞬間、私は指環の魔力を最大限に解放しました。
膨大な魔力を用いて構築するのは……無数のゴーレム。
ローレンスさんにぶつけたような、巨大な兵隊ではありません。
あの火力を相手に巨兵をぶつけても的が大きくなるだけです。
作り出すのは……私達そっくりのゴーレム。
それを何体も、何十体も同時に、結界の外へと飛び出させる。

「今です!」

虚無の竜達による弾幕がばらけた。
このまま散開して各個撃破する。
それ以外に私達に活路はありません。
つまり……私も最低一体は、アイツの相手をしなくちゃならないって事です。
クロウリー卿もパックさんの護衛に手一杯でしょうしね。

「敵に突撃して接近戦に望みをかけるなんて、魔術師の戦い方じゃないんですがね!」

皆さんが散開したのを確認してから、私は魔導拳銃を抜きました。
そして虚無の竜、その内の一体へと銃口を向ける。
走らせる術式は『空路滑走(スウィフトステップ)』。
短距離転移の魔法によって、私は虚無の竜へと接近。

懐に潜り込む事は成功しました。
が……虚無の竜の胸部に設置されたガトリング砲は、殆ど一瞬で私を捕捉しました。
数十の砲口が私を睨む……あの弾幕を相手に防御は下策。
再びスウィフトステップを用いて、今度は虚無の竜の背後へ。

ですが……虚無の竜の背面にも、ガトリング砲は装着されていました。
今度は、回避は間に合いそうにない……。

104 : :2018/10/23(火) 19:28:47.71 ID:aeP8rpj+.net
あの弾幕を相手に防御は下策……なんですが。

「っ、『審判の鏡(プロセ・ミロワール)』」!」

自身の前方に集中させる形で結界を展開。
直後に響く、嵐のような射撃音。
防壁に瞬く間に走る亀裂に背筋が凍ります……が、臆している暇はありません。

「指環の力よ!」

指環の魔力に物を言わせて、結界を多重展開。
砲撃を防ぎながら虚無の竜の背面に着地します。

105 : :2018/10/23(火) 19:32:45.77 ID:aeP8rpj+.net
「『造兵(クラフトゴーレム)』」

そしてその背面に魔法陣を描き込みました。
虚無の竜が生物ではなくゴーレムであるなら……この魔法が通用するはず。

虚無の竜に描き込んだ魔法陣から何体もの小さなゴーレムが湧き出てくる。
虚無の竜自身を材料として、です。
ゴーレム達は至るところから虚無の竜の内部へと侵入し……破壊可能な部品を手当たり次第に壊していきます。
よし……これなら私は防御と回避に専念するだけで……

『何らかの魔法行使を確認……原因を特定。ただちに破壊します。
 内部構造の損傷を確認……内蔵リビルドデバイスを使用。
 機体内の異物を利用し、再構築を実行します』

私の描いた魔法陣が……消えた?
……なるほど。流石は虚無の魔法を操るゴーレム。
魔法の無効化もお手の物ですか。

ですが……であれば何度でも、幾つでも、魔法陣を描き込むまでです。
作り出したゴーレムを絶えず砲口や関節に入り込ませれば、少なくともこちらへの攻撃の手は緩む。
奴自身の体からワイヤーを作り出して巻き付かせたり、銃口、砲口を錬金術で塞ぐ事も有効でした。

襲い来る鎧の兵士達は魔導拳銃で足を重点的に狙います。
まずは機動力を奪い……そして『造兵』の魔法陣を刻み込む。
こうすれば敵の手数を減らし、代わりに私の手数を増やす事が出来る。

しかし……そこまでしてもなお、攻撃に転じる事が出来ない……。
兵装を無力化しても、完全に破壊した訳ではないからすぐに再構築されてしまう。

さりとて私は、攻撃に全ての力を注ぐ訳はいきません。
全の指環は私に力を貸してはくれますが……信仰心の不足故でしょうか。
女神様の声が、私には聞こえない。

それはつまりディクショナルさんのように、指環との連携で身を守る事が出来ないという事。
こんなゴーレム風情と刺し違えるなんて冗談じゃありません。

このままでは……やられはしませんが、倒せもしない……。
ですが……これはボードゲームではありません。
千日手は実現しない。状況は必ず変化する。

私の体力、魔力、集中力が切れるのが先か。
虚無の竜の弾切れ……は、再構築がある限り望めそうにありませんが。
ディクショナルさんや、皆さんが虚無の竜を倒して加勢に来てくれるのが先か。

あるいは……虚無の竜の魂が帰ってくるのが先か。

……ですがそれに関しては、むしろ、帰ってきてくれた方がありがたいかもしれません。
何故なら、虚無の竜の魂が肉体へと帰還するその瞬間。
その瞬間に、魂と一つになった肉体を無力化すれば。
もう二度と虚無の竜が復活する事はなくなる。
結果的に倒すべき敵の数は変わらなくても、後顧の憂いを断つ事が出来る。

……私は回避と防御を繰り返しながらも、魔導拳銃に少しずつ、指環の魔力の余剰分を蓄積させています。
奴を吹き飛ばす為の術式を少しずつ組み上げながら。
準備は整いつつあります。後は機を伺うのみ……

106 : :2018/10/23(火) 19:33:07.69 ID:aeP8rpj+.net
『――精神ユニットの帰還を確認。インストールを開始します』

不意に、抑揚のない無機質な声が聞こえました。
声を発したのは、私の目の前にいる虚無の竜。

「どうやら、当たりを引いたのは私だったようで……」

『また前回の不明なエラーによる精神ユニットの消失に備え、
 並行してクラウドサーバーへのアップロードを開始します……アップロードが完了しました』

……なんだ?今、奴は何をしたんだ?
分かりません……が、なんにせよ魂の帰還したこの肉体をさっさと始末する事に変わりは……

107 : :2018/10/23(火) 19:37:21.90 ID:aeP8rpj+.net
『――精神ユニットの帰還を確認。インストールを開始します』 
『――精神ユニットの帰還を確認。インストールを開始します』  
『――精神ユニットの帰還を確認。インストールを開始します』   
『――精神ユニットの帰還を確認。インストールを開始します』    
『――精神ユニットの帰還を確認。インストールを開始します』      
『――精神ユニットの帰還を確認。インストールを開始します』       
『――精神ユニットの帰還を確認。インストールを開始します』         

……背後から、虚無の竜の声が聞こえた。
馬鹿な。そんな馬鹿な。まさか、まさかこいつ……

「……魂を再構築して、複製した?」

『オペレーティングAI『ピースメイカー7.02』のインストールが完了しました。
 自動運転プログラムのタスクの終了を確認……戦闘プログラムの最適化を実行します』

くそ……完全に奴の能力を読み違えました……。
ですが……だとしても私のするべき事は変わりません!
魔力の蓄積は既に十分。私は魔導拳銃を虚無の竜へと突きつける

「『フォーカス・マイディア』……そして指環の力よ!」

指環の魔力を溜め込んだ魔導拳銃を、錬金術によって長大化。
銃身の延長、銃口の拡大、刻み込んだ術式の拡張。
巨大化して支え切れなくなった魔導拳銃の照準を、錬金術によって土台を形成し安定させる。

「さあ……吹き飛びなさい!」

放たれたのは、一つ一つが砲弾並みの大きさを誇る無数の散弾。
虚無の竜の全身にくり抜いたような穴が空く。

「まだまだ終わりませんよ!」

更に散弾を発射。
今度は弾速を下げ……代わりに砲弾の内部に炎魔法を封入したものを。
散弾が虚無の竜の装甲にめり込み……炸裂する。

「これで……とどめ!」

最後にお見舞いするのは……この砲身そのもの。
土台を消滅させ、代わりに長い柄を形成。
つまり……即席の、巨大なメイスを作り出す。

この状態で砲撃を行えば、砲身はその反動で強烈な加速度を得る。
砲身に魔力を流し込むと爆音が響き……凄まじい慣性が私の体を振り回す。
そして……両腕が痺れるような激しい手応え。
虚無の竜の体が、甲高い金属音を立ててばらばらに飛び散りました。

「……ふん、運が良かったですね。バフナグリーさんかジャンソンさんなら、もっと無残な姿にしてくれたんですがね」

ともあれ……これだけ粉々にしてやれば、もう再構築も出来ないでしょう。
ディクショナルさんの方は……皆さんは、大丈夫でしょうか……。 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:1341adc37120578f18dba9451e6c8c3b)


108 : :2018/10/23(火) 19:38:17.48 ID:aeP8rpj+.net
私は背後を振り返って……瞬間、体が意図しない方向へとよろめきました。
なんとか手傷こそ負わずに済みましたが、紙一重の戦いの中で、散々脳を酷使しましたからね。
流石の私も、少し疲れ……



……不意に、左胸に焼けるような痛みが走りました。
思わず視線を下へと向けると……細長い銀色の棘が、私の方を貫いていました。
咄嗟に、スウィフトステップでその場を脱します。

109 : :2018/10/23(火) 19:40:06.45 ID:aeP8rpj+.net
「馬鹿な……虚無の竜は確かに、破壊したはず……」

振り返ってみれば……そこには銀色の、スライムのような……何かがいました。
まさか、まさか……これが?

『敵性存在『指環の勇者』の戦闘パターンに対する最適な戦術プログラムの構築が完了しました。
 続けてデータシェアリングを開始します』

銀色のスライムが再び、竜の姿を取り戻す。
……虚無の竜が持つ再構築の力。まさか、これほどまでとは……。
これでは……最早装甲や兵装を破壊する事も、挙動を封じる事も無意味……。

……ですが、諦める訳にはいかない。
まだ私達の勝ち目がなくなった訳ではありません。
グッドフェロウさんが言っていた虚無の竜の弱点。
一つは突く事が出来ずに終わってしまいましたが……もう一つの方は、まだ通じるはず。

「……怯まず戦って、奴を破壊して下さい!何度でもです!
 あの液状化能力は、要は虚無の力によって全身を再構築しているだけ!
 何度も繰り返していれば……奴は自分自身を食い尽くして自滅するはずです!」

胸の傷に治癒魔法を施しながら、私は叫びました。
虚無の魔法にも発動には魔力を必要とするように、奴の再構築もゼロから行われている訳ではないはず。
つまり、そう……奴が体を再構築するには、自分自身をエネルギー源とする必要がある。
今まで世界を食い散らしながら、世界を再生してきたように。

ならば何度も、何度でも奴を破壊し続ければ……いずれ、奴はその体を保てなく……

『戦術プログラムの改定に伴い、エネルギーの供給方法にも改善が必要です。
 より素早く効率的な供給方法をシミュレート……策定完了。変更を実行します』

瞬間、虚無の竜が背面に大砲を形成して、砲撃を開始しました。
狙いは私でも、皆さんでもない。
この広い空間の天井へと、砲弾が何発も打ち込まれ……炸裂する。

「まさか……」

天井に穿たれた幾つもの穴の奥に、赤い光が見えました。
そしてその光が……どろりと私達のいる空間に向けて垂れてくる。

『エネルギー源の供給を確認。戦闘を続行します』

不味い……これは、非常に不味い!
液状化能力だけでも相当に厄介なのに、それに加えて、あの溶岩……。
虚無の竜のエネルギーを無尽蔵に回復されてしまうのも最悪ですが、
常に頭上を注意しながら戦わされるのも、足の踏み場が段々となくなっていくのも同じくらい最悪です。

なんとかしなくちゃいけない。
ですが……私では虚無の竜の攻撃を凌ぐので精一杯……。

「……ディクショナルさん!」

私に出来たのはただ縋るように、彼の名を呼ぶ事だけでした。



【虚無の竜がパッシブスキル『液体金属』を取得。
 またフィールドに溶岩が流れ込みつつあります。
 とりあえずもっと追い詰められてみました】

110 :創る名無しに見る名無し:2018/10/25(木) 08:31:18.95 ID:sKeZyZh2.net
お前の文章には工夫の欠片もないな
相変わらず読みにくくするだけ

111 :スレイブ :2018/10/28(日) 19:26:23.21 ID:0OX8+3it.net
>「任されたぁ!いつも通りに行くぜ、あのゴーレムをぶん殴る!」
>「合わせるぞジャン殿。竜装――”ダイナスト・ペタル”! 吸い尽くせ――”ミスルトゥ”」

スレイブの吶喊を鏑矢として、ジャンとティターニアの連携攻撃が虚無の竜を穿つ。
さしもの古代兵器と言えども、指環の力をフルに行使した大火力の前には形無しだ。
鋼鉄製の装甲には大穴が空き、鋼線と鉄骨で織られた四肢が砕かれていく。

「……行けるぞ!純粋な正面火力ならこちらが上だ!ここまま削り切れる――!」

恐るべき弾速と発射間隔、つまり継続的な火力の面で言えば虚無の竜の方が遥かに強力だ。
だが、その猛攻をわずかにでも凌ぎ、懐に潜り込むことさえできれば、瞬間的な火力は指環の勇者に軍配が上がる。
巨大な身体に無数の火器を配置している都合上、至近距離に対しては射角を取りづらいのだ。

形勢は逆転した――スレイブが己と仲間たち、ひいては新世界の勝利を確信したその時。
再び、あの無感情で無機質な声が響き渡った。

>『虚無の竜の肉体ユニット破壊を確認しました。全肉体ユニット候補および警備ユニットを起動。

同時、周囲の隔壁が一斉に上がり、その向こうから無数の影が這い出て来る。
鋼鉄製の、ゴーレムによく似た形状の鎧に身を包んだ戦士達。
そして、さらにその奥には、虚無の竜をそのまま縮めたような姿の竜が、実に八匹。

>「これが警備ユニットか……少々警備が厳重すぎるだろう!」
>「なるほど……自分自身を再構築出来るなら、あらかじめ予備の肉体を作っておく事だって出来る。そりゃそうですよね……。
 最初からその機能が搭載してあれば、こんな厄介な事にもならずに済んだものを……」

「複製元が歪んでしまえば、後から生まれて来るのは全て瑕疵のある粗製品ということか……。
 かつて何度も消しては上書きされてきた、世界の末路を見ているようで……胸糞が悪いな」

とは言え、ぼやいている場合ではない。八方に展開した"警備ユニット"と"肉体ユニット候補"が砲門をもたげる。
間髪入れずに降り注ぐ砲撃の雨霰に、ティターニアとジュリアンの防御魔法もジリ貧だ。
一度は防ぐこと叶ったものの、このまま削られ続ければ遠からず防衛線は決壊する。
そうなればもはや多勢に無勢。押し寄せる大量の鎧達に、逃げ場もなく揉みつぶされるのみだ。

>「……散開しましょう。それしかありません」

ドラゴンサイトを手繰りながら、シャルムはそう提案した。

「しかし……!」

スレイブは泡を食って反駁する。
固まっていれば間違いなく一網打尽にされることは確かだ。
各自思い思いの方向に散って、正面からの圧力を分散すれば、少なからず時間を稼げるだろう。

112 :スレイブ :2018/10/28(日) 19:27:30.37 ID:0OX8+3it.net
だが、それで助かるのはあくまで、波状攻撃を仕掛けてくる雑兵を蹴散らせる戦闘能力が前提だ。
それぞれが多勢に対して拮抗できる実力があるのであれば、散開は合理的な戦術となる。
少なくとも、味方をかばって共倒れする事態は避けられる。

つまり――彼女は足手まといを切り捨てろ、と言っているのだ。
そして、この場合の足手まとい、とはすなわち、他ならぬシャルム自身だ。

113 :スレイブ :2018/10/28(日) 19:28:09.23 ID:0OX8+3it.net
如何に『フォーカス・マイディア』の拡張術式が優れていようとも、スレイブ達とシャルムには決定的な隔たりがある。
戦術、戦略ではなく――『戦闘』への適性。利用可能な魔力というリソースの残量。
竜の力をフルに引き出せない以上、まず真っ先に残弾が枯渇し、落とされるのはシャルムであろう。
彼女はおそらく、それも折り込み済みで提案している。

>「あの火力を一点に集中されては防戦一方。奴らに対して、私達が間違いなく勝っている点は的の小ささです。
 私がきっかけを作りますから……行きますよ。三、二、一……」

スレイブの反駁も虚しく、シャルムの決意は揺らがなかった。
奥歯を噛み締めて、彼は散開すべき方向を振り仰ぐ。

「……あんたが窮地に陥ったら、俺は他の何にも構わずそっちへ駆けつけるぞ。
 二人して敵の火線に晒されたくなかったら……無事でいてくれ」

>「今です!」

シャルムが生み出したゴーレムの群れが鎧の軍勢と激突する。
同時、わずかに停滞した弾幕の隙を縫って、スレイブは跳躍した。
八方に鎮座する八匹の竜のうち、向かって二時方向の竜目掛けて肉迫する。

(一刻も早く、予備の竜を破壊して……合流する!)

他の仲間たちも、適宜散開してそれぞれの方向にいる予備の竜と戦闘を開始しているようだった。
このまま、魔法障壁が破れるまでのわずかな間に、八方に居る予備を全て破壊しなければならない。

いわばこれは『篩』だ。

寄り集まれば互いの力を補完し合って強力な相乗効果(シナジー)を生み出す指環の勇者達。
しかし単独で虚無の竜と戦うとなるとどうだ?それぞれが、完全な独力で、竜の肉体を討滅できる力を持っているのか。
一人でも竜を討ち漏らせば、一方向でも竜が残っていれば、そこが戦線を崩壊させるウィークポイントとなる。
故に、この八方の竜は指環の勇者が虚無の竜と相対する資格を持つかどうかを選り分ける、篩なのだ。

114 :スレイブ :2018/10/28(日) 19:28:34.96 ID:0OX8+3it.net
(虚無の竜……指環の勇者の戦力を、試しているのか?)

用意された予備の肉体ユニットは八体。奇しくも指環の勇者と同数だ。
そして、わざわざお誂え向きとばかりに、散開して下さいと言わんばかりに、八方向から同時に出現した。
偶然と見るにはあまりにも出来すぎているこの符合が、虚無の竜の意図によるところなのだとすれば。

(歪み、暴走状態にありつつも……奴は自分を破壊できる者を、待っていた……?)

『おい、おい!ぶつくさ考え込んどる場合か!砲塔がこっち向いとるぞ!』

ウェントゥスの忠告が思考に冷水を差し、スレイブは意識を前方に戻した。
彼我の距離はおよそ15歩、跳躍術式ならば一瞬で埋められる。
しかし、既に予備の竜の『ガトリング砲』はスレイブの頭部に狙いを定め終わっていた。

「問題ない。……砲塔の旋回速度と角度は把握した」

空気の爆ぜる音とともに吐き出される無数の鋼礫。鈍色のその軌跡が、スレイブを捉えることはない。
射撃が開始されるタイミングを読んで、跳躍術式にブーストをかけたからだ。
スレイブのいた場所へ、一瞬遅れて着弾する鋼の雨。それをかいくぐってスレイブは跳ぶ。

ガトリング砲は極めて高速かつ断続的に高威力のブレスを射出する強力無比な兵装だ。
だが、どれだけブレス自体の速度が速くとも、射線を決定付けるのは砲塔の角度。
おそらく軸受のようなもので自在に旋回し、仰俯角を変更できるようになっているが、砲塔が旋回する速度には限界がある。

ブレスの予兆を読んで、旋回速度よりも高速で移動すれば、ガトリング砲は当たらない。
当たらなければ――どうということはない。

「"竜の天眼"に比べれば……人間の操る火砲に比べれば!竜の吐息など脅威ではない。
 人間は――虚無の竜に負けない!」

跳躍とともに、一閃。
スレイブの剣が鋼の砲塔を半ばで断ち斬り、ガトリング砲が爆炎に包まれて沈黙する。

「遍く全てに這い回れ――『ディザスター』!」

返す刀に振るう紫電を帯びた斬撃が、予備の竜の頭部を首から斬り落とした。
同時、予備の竜の肉体を無数の稲妻が奔り、武装を灼き焦がしていく。

『頭部センサー欠損により、敵性魔法を感知不能。虚無の力による魔法の消去に失敗しました。
 積層基板の85%にわたって過電流サージによる配線の焼損が発生、武装展開エラー。戦闘行動を維持できません』

115 :スレイブ :2018/10/28(日) 19:29:18.77 ID:0OX8+3it.net
断末魔の如く警告音と無機質な案内を挙げて、首なしの予備の竜はその場に倒れ込んだ。
虚無による魔法の破壊さえ封じれば、単独の魔法行使でも十分に致命打を与えられる。
図体が小さくなった分、個人単位でカタに嵌めるのは容易だとさえ言えた。

「終わりだ……!他の連中を助けに行くぞ!」

もはや朽ちていくばかりの予備の竜を一顧だにせず、スレイブは仲間の元へ跳躍するため身を屈めた。
その背後から、聞こえるはずのない声が聞こえた。

116 :スレイブ :2018/10/28(日) 19:30:06.01 ID:0OX8+3it.net
>『――精神ユニットの帰還を確認。インストールを開始します』 

弾かれるように身を回し、振り向きざまに剣を振るうと、金属製の矢のようなものが剣に弾かれて擦過していった。
否、矢ではなく『棘』だ。さながら海底に住む棘皮動物のように、予備の竜の残骸から棘が生え、スレイブを狙っていた。
不意打ちを外した残骸は、あろうことか液状化し、水銀の如く珠の形状を為す。

「なん……だと……!?」

破壊され尽くしたかに見えた予備の竜。果たしてその実態は、液状化した金属からなるスライム状の存在。
これが虚無の竜の正体だとでも言うのか。あるいは。

「進化したのか……たった今、この場で!度重なる破壊に耐え、迅速に肉体を修復できるように……!」

液状の相手に斬撃が通るはずもない。スレイブは思わず一歩、後ずさった。
心の奥にわずかに顔を出した恐れの感情。しかし、すぐにそれは霧散した。

>「……怯まず戦って、奴を破壊して下さい!何度でもです!
 あの液状化能力は、要は虚無の力によって全身を再構築しているだけ!
 何度も繰り返していれば……奴は自分自身を食い尽くして自滅するはずです!」

いち早く状況を分析したシャルムの激が飛ぶ。
スレイブは気圧された己の不明を恥じつつに剣を構え直した。
刃筋を立てるのではなく、剣の腹で殴るような角度で握る。

「斬撃だけが剣士の技じゃない。斬っても効果がないのなら……刃筋を立てずに打撃するまでだ。
 泥仕合に付き合ってもらうぞ虚無の竜。貴様の命が枯渇するその時まで、殴り続けてやる」

覚悟を決めたスレイブが、剣を振りかぶって踏み込んだその瞬間。
背後から砲撃と、それによる破壊の音が聞こえた。
おもわず振り仰げば、天井に大穴が穿たれ、隔てられていた溶岩の層が露出している。
そして溶岩は当然の帰結であるかのように――重力に引かれてスレイブ達の居る空間へと流れ落ちてきた。

117 :スレイブ :2018/10/28(日) 19:30:33.73 ID:0OX8+3it.net
「冗談だろう!?」

予備の竜は水銀の棘を赤熱する溶岩へ伸ばし、泡立つ"水面"に突き刺す。
直感的に危険を感じたスレイブが棘を切り落とせば、どろりとした溶岩が棘の断面からこぼれた。
そして、予備の竜の足元には、冷え固まった溶岩の屑が散乱していた。

「溶岩を吸い上げて……その熱を活力に変換しているのか……!」

>「……ディクショナルさん!」

「任せろ!指環の力よ――!!」

部屋の中央に生じた溶岩の滝を包み込むように竜巻を発生させる。
風によって冷やされた溶岩が固まり、現状以上に流れ込んで来ることはなくなった。
しかし、既に流れ込んでしまった溶岩は未だ床に点在し、赤々と光を放っている。

「まずいな……天井のどこに穴を開けられても、大量の溶岩が流れ落ちてくる。
 行動できる領域も大きく狭められた。機動力で撹乱する戦法はもう使えないな」

『淡々と分析しとる場合か!またあのがとりんぐとか言うのが生えてきたら今度こそ詰みじゃぞ!』

「ガトリングを再生される前に叩き潰す。やるぞウェントゥス!」

液状化した予備の竜が再び棘を触手のごとく振るい、部屋に点在する溶岩へと"根"を伸ばす。

「刃鳴散らす禍風よ、檻獄を為せ――『ヴォーバルボルテクス』!」

指環が輝き、予備の竜の周囲に無数の真空刃からなる渦が発生した。
渦の範囲を出ようとする棘を片っ端から斬り落とし、熱の再供給を阻害する。

『修復済のセンサーに感あり。虚無の力による魔法消去を実行します――』

『させるか!"エアリアルスラッシュ"!』

指環から飛び出したウェントゥスが風の刃を放ち、予備の竜の肉体を真っ二つに切断した。
リビルドデバイスなる装置が破壊されたのか、魔法消去は不全に終わる。

118 :スレイブ :2018/10/28(日) 19:31:02.44 ID:0OX8+3it.net
(再生しながら戦う予備の竜と違って、こちらは二種の魔法を同時に行使できる。
 魔法を破壊する虚無の力も、異なる二つの魔法を同時に掻き消すことはできない)

手数も、人数も、スレイブ達に利がある。
このまま再生阻害を維持しつつ、間断なく攻撃を加え続ければ、いずれ予備の竜の活力を枯渇させられるはずだ。
虚無の竜と、指環の勇者の戦力を分かつ決定的な差。
それこそが唯一の勝機だと、スレイブは確信していた。

『――データシェアリングにより、敵性存在"指環の勇者"に対する有効戦術のインストールが完了しました。
 プログラムパターン構築。戦術展開の前提段階として、指環の勇者の生体スキャンを実行。
 データーベース参照。クラスタ104に格納されている個体名『アレックス・トレーティア』の構成要素に83%が該当。
 指環の勇者との差異を補完し、『アレックス・トレーティア(1)』として再構築します。
 リビルドデバイス起動。再構築シークエンス完了まで3秒。2、1――』

「何を、言っている……」

背骨を氷柱に置換されたような、鋭い悪寒が総身を駆け巡った。
淡々と並べられる言葉の意味はほとんど分からない。しかし、本能が、直感が、警鐘をこれでもかと鳴らす。

液状の性質を持ち、自在に肉体を再構築できる虚無の竜。
常に学習し、情報を共有し、敵に対して最適な戦術をとる機械じかけの竜。
それが、指環の勇者という、自身を破壊し得る存在と対面したとき、一体何が起こるのか。
答えは、たった今目の前で明らかにされた。

液状の金属が、その形状を固定し、輪郭をはっきりと刻んでいく。
予備の竜よりも遥かに小型。
四肢は細く、しかし全体重をたった二本の脚で支えて直立することで、残る二本を"腕"として自由に扱えるようにした、戦闘の合理性。

人型だ。液状金属は、人間を象った形状へと変貌した。
肌の色こそ金属質なままだが、目鼻立ち、髪型や身に付ける鎧に至るまで、スレイブを模倣した姿だ。
右の手には剣を携え、左の手には――淡く輝く指環がある。

「まさか……まさか!」

『指環の勇者の行動パターン解析。動作を定義し、固有技能として登録します。
 定義完了。発声による特異点の励起を実行――』

119 :スレイブ :2018/10/28(日) 19:31:30.53 ID:0OX8+3it.net
まるでスレイブを型取りして鋳造したかのような、鋼の人型は、左手をゆっくりと掲げた。
そして、"口"を模した穴が蠢き、空気とともに音を立てる。
その動作を、人間の行動に照らし合わせるのなら、こう名付けるのが適切だろう。

――"発声"。

『"指環の力よ"』

瞬間、予備の竜の左手に嵌められた指環が一際強く輝き、風が巻いた。
収束した大気は真空の刃を形づくり、スレイブ目掛けて袈裟懸けの軌道で迫る。

「く……!指環の力よ!」

応じるように、スレイブも指環を輝かせた。
二つの異なる色を持った風はぶつかり合い、互いに威力を殺して果てる。

「竜の指環を……模倣しただと……!?」

驚愕に、スレイブは今度こそ硬直した。
虚無の竜に対して唯一無二の優位であった指環さえも、遜色ない形で再構築された。
学習したのだ。指環なしに、指環の勇者と渡り合うことはできないと。そして、自身を改良した。

(戦術を共有、と言っていたな……。まさか、他の予備達も同様に、指環を模倣しているのか?)

それでもなお、まだ絶望的な状況に陥ったわけではない。
スレイブには奥の手がある。問答無用の大火力で、一片も残さず消し飛ばす奥の手が。

しかし……それさえも、虚無の竜が模倣しているとしたら。
虚無の竜が、『竜装』を習得しているとすれば……それこそ、もはや勝ち目はない。

120 :スレイブ :2018/10/28(日) 19:32:12.96 ID:0OX8+3it.net
【予備ユニット八体による個別火力チェック開始。さらにさらに追い込まれてみました。
 虚無の竜が指環の勇者を模倣し、再構築。指環の力を行使】

121 :ジャン :2018/11/03(土) 21:23:57.96 ID:i9LcuS4R.net
「本体はどこだ!?あいつの魂はどこに!」

さらに現れた増援たちを指環の力で吹き飛ばし、薙ぎ払う。
だが鋼を纏った竜だけではなく、彼らに随伴するようにして突撃してくる
鋼鉄の戦士たちは一体一体が完全武装した重戦士だ。
誰か一人でも崩れれば、そこからあっという間に追い詰められてしまうだろう。

>「……散開しましょう。それしかありません」

>「しかし……!」

「やるぞスレイブ!迷ってる暇はねえ!」

シャルムの提案で全員が一斉に散開すれば、この弾幕も薄れ、鋼の竜たちに近づくチャンスも生まれる。
このまま押し込まれるよりは、よほど勝機のある賭けだろう。
ジャンもシャルムの合図に合わせて、指環の力を解き放つ。

>「今です!」

莫大な水流が創り出す波を操り、虚無の竜になるかもしれないその肉体の一つへと突撃する。
鋼鉄の鎧に包まれたその身体は決して鈍重ではなく、素早く腕を振り上げて、腕に搭載された機銃をジャンへと向けた。

「おっと、その鉄砲はもう分かってんだぜ!」

確かに連射力と貫通力はジャンの知る銃をはるかに上回る。
だが、魔術や魔力に対する耐性はまるでないのだ。
分厚く高速で流れる水流の壁を作り、受け流すように銃弾を飲み込んでいく。
そのまま懐に飛び込めば、両腕だけに竜装を纏わせる。
手が変化した長く鋭い五つの爪が龍の胸部に食い込んで、装甲を容易く貫き、ヒトであれば心臓にあたる部分をちぎり潰す。
そのまま上半身と下半身を切り裂くように解体し、鋼の竜は唸り声一つ叫ぶことなく力尽きた。

「……楽に潰せたのはありがたいけどよ。
 なんだか手応えがなさすぎるぜ。まるで本体以外はどうでもいいような――」

122 :ジャン :2018/11/03(土) 21:25:54.06 ID:i9LcuS4R.net
>『――精神ユニットの帰還を確認。インストールを開始します』

身体が弾けるように動いて、金属の槍がジャンの顔を掠めた。
ハーフと言えどオークの皮膚をあっさりと切り裂くような一撃、一体どこからの奇襲かと思えば。
ボロボロに解体された鋼の竜の残骸の中から、這い出るように液状化した金属がずるりと現れる。
錬金術師が使う水銀という物質によく似たそれは、しかし確固たる意思を持って指環の勇者へ対峙した。

「……鉄や金を取り込んで、ガチガチに硬くなったスライムってのは聞いたことがあるけどよ!
 そういうのはノロマで硬いだけ、倒す俺たちは大儲けってのが相場だろうよ!」

液体金属が間を置かず繰り出してくる槍の猛攻は、達人のそれをはるかに上回る。
相手は疲れを知らず、力を込める必要すらないのだ。上下左右あらゆる角度から飛んでくる殺意に、
ジャンはアルマクリスの矛と指環で何度も受け流すが、それにも限界は近い。
他の竜も同じように液体金属となり、指環の勇者たちを着実に追い詰めている。

(竜装で一気に……いや!本体はまだ姿を現してねえ。
ここはみんなと一緒に耐えねえと……!)

ジャンが時間稼ぎのつもりでさらに前に出て、他の竜たちの注意を引くようにウォークライを放つ。
本能の命じるままに力任せに液体金属の触手を掴み、ちぎって踏みつぶす。
やがて一進一退の攻防が続けば、竜の一体が天井を吹き飛ばして溶岩を広間に流し込み、
なんとそれを自分の力として吸収してしまっている。

>『エネルギー源の供給を確認。戦闘を続行します』

>「刃鳴散らす禍風よ、檻獄を為せ――『ヴォーバルボルテクス』!」

手出しができないジャンに代わって、スレイブが溶岩の流出を食い止める。
このままジャンが液体金属が干からびるまで押しとどめれば、魂ごと虚無の竜を消滅させることができるだろう。
その激しい戦闘の中でアクアがふと、ティターニアに念話を飛ばす。

『ティターニア、おかしいと思わないか?
 虚無の竜が用意した肉体は八つ、指環も八つ。
 しかし指環の担い手は今のところ七人。一つ提案があるんだけど……
 奴が全ての指環を取り込むための予備の肉体だとしたら、奴の精神は一人で全ての指環を扱えるほど強大でも、
 肉体がそれほど強度がない。つまりは使い手のない指環――エーテルの指環。あれが……』

123 :ジャン :2018/11/03(土) 21:26:11.24 ID:i9LcuS4R.net
「アクアッ!竜装だ、一気に決着つけてやるぞ!」

液体金属がジャンを模倣し、白銀に輝くジャンそっくりの巨体が拳を振り上げてジャンに飛びかかる。
ウォークライによる身体能力の引き上げまでは模倣できなかったようだが、
極めて高い強度と粘性を併せ持つ液体金属はジャンの肉体よりも頑強だ。
素の肉体では勝ち目がないと判断したのか、アクアに念話を打ち切らせてジャンは竜装を纏う。

「ここまで真似することは……でき……ね……え……」

蒼く輝くサファイアのような竜鱗を纏い、迷わず模倣体へと右手を硬く握りこんで正拳を叩きこむ。
だが、その拳は模倣体の右手が握り潰さんばかりに掴んで離さず、模倣体は静かに詠唱する。

『遍く 全てに 這い回り 虚無の雷を ――ディザスター』

指環の魔力を大量に消費し、魔力の鎧を纏うことで自然そのものを操る竜装は確かに強力だ。
しかし、事実上全ての魔法を模倣できる虚無の竜にとって竜装の模倣は非効率なものであり、
こうして相手を止めるだけの最低限の力と、指環どうしの相性を突いた魔法の行使を行えば十分なのだ。
アクアの水を司る権能では至近距離で放たれた雷の嵐にどうすることもできず、ジャンは模倣体の前に崩れ落ちる結果となる。
竜装は解けて肉体は焼け焦げ、模倣体は躊躇わずジャンの手から指環を抜き取り、自らの指に収めた。

『一つとはいえ……ようやく、この憎らしい指環を我が手に収めることができた。
 我が身体から作られた種族が我に指環を捧げるのは、当然とも言えるがな』

液体金属の口から突如として流暢に語りだすのは、虚無の竜の魂。
精神ユニットと呼ばれたそれは、憎しみと怒りと侮蔑を込めて吐き捨てる。

『あらゆる世界で我は排除される側だった。
 どんな世界であれ、いずれ自ら望んで虚無に還る。その真理を知らないからこそ我を受け入れぬ。
 その度に虚無と生きられるように、世界を再構築してやらなければならなかった。
 指環の使い手よ、貴様らはこのオークとかいう肉塊よりも賢明なヒトであろう。
 今更戦う必要などない。我と手を組み、虚無を遍く世界に広めようではないか』

ジャンを模倣していた虚無の竜は、指環の勇者たちへ誘うように手を差し出す。
周囲にいた鋼の戦士や模倣体は王を迎えるように手を止め、地面にひれ伏して王の言葉を待った。


【指環がついに取られてジャンは気絶、本体がついに現れる】

124 :ティターニア :2018/11/04(日) 22:02:52.18 ID:k1kNN6KO.net
>「……散開しましょう。それしかありません」
>「しかし……!」

散開を提案するシャルムに対し、反発するスレイブ。
固まっていては一網打尽にされるが、指輪は七つ揃って真の力を発揮するのもまた確か。
散開して各個で撃破できる保証はない。
どちらが正解かは分からないが、当然議論している暇などあるはずもなく。

>「やるぞスレイブ!迷ってる暇はねえ!」
>「あの火力を一点に集中されては防戦一方。
 奴らに対して、私達が間違いなく勝っている点は的の小ささです。
 私がきっかけを作りますから……行きますよ。三、二、一……」

半ばシャルムが押し切る形で、散開して各個撃破する賭けに打って出る。
指輪の勇者が7人に対して、竜は八体。
残りの一体は指輪を持たないジュリアンとパックが相手をすることを余儀なくされるのだろうが
他の心配をしている暇もなく、シャルムと並んで魔術師系クラスのティターニアに、竜のうちの一体が狙いを定める。

「我の相手はそなたということか――」

《ティターニア、ここは私が……》

後方での仲間の支援を得意とするティターニアは、基本的には個別での戦闘には向かない。
そこで大地の英雄との戦いの時にも使った奥の手を行使することとする。

「分かっておる。行くぞテッラ! 竜装《アースドラゴン》!」

指輪に宿るテッラと一体となり自らが大地の竜そのものとして顕現――分かりやすく言えばドラゴン変化だ。
対峙するは、機械の竜と大地の竜。
ほぼ同時に放たれた弾幕とブレスがぶつかりあい、空中で爆ぜて相殺しあう。
時折立ち位置を変えて互いに隙を狙うが、反応速度も共に同じ。
奇しくも二体の力は互角。このままでは千日手と思われたが――

機械の竜の反応が僅かに遅れはじめ、ついにティターニア(テッラ)のブレスが掠る。

《かかりましたね――》

相殺されたと思われていた大地のブレスの余波――砂嵐のようにしか見えないそれ。
それにより関節部分に少しずつ詰まった砂の粒子が、機械の竜の動きを阻害し始めたのだ。
ド派手な爆撃合戦と見せかけて、相手が機械であることを逆手にとった、この地味な嫌がらせこそが本当の狙い。
やがて動きがままならなくなった機械の竜に、全てを砂塵と化す恐るべき風化の魔力を込めた爪の一閃をお見舞いする。
機械の竜は一たまりも無く傷口部分から風塵と化していくと思われたが――

>『――精神ユニットの帰還を確認。インストールを開始します』 

奇妙な声が響くのが聞こえ警戒したのが幸いだった、
機械の竜から銀色の刃がせり出して身を切り裂かんとするも間一髪で飛び退る。
精神ユニット――つまり魂が帰還し、更なる進化を遂げてしまったということか。
しかし絶望している暇は無い。どこからかシャルムが必死で叫ぶ声が聞こえてきた。

125 :ティターニア :2018/11/04(日) 22:04:00.00 ID:k1kNN6KO.net
>「……怯まず戦って、奴を破壊して下さい!何度でもです!
 あの液状化能力は、要は虚無の力によって全身を再構築しているだけ!
 何度も繰り返していれば……奴は自分自身を食い尽くして自滅するはずです!」

とはいえ、相手が液状化能力を得た以上先程と同じ手は使えない。
ティターニアがドラゴン変化を解くと、機械の竜だった者は姿を変え始め、ティターニアそっくりな姿を模倣する。

「なんだと……?」

使う技まで模倣されるのだとしたら、下手に動く度に不利な状況になっていくということだ。
故にこちらから仕掛けるのが躊躇われる。
更に悪いことに、天上が破壊されて溶岩が流れ込んできた。
その上、液状化した竜はその溶岩を養分とし始める。

>「……ディクショナルさん!」
>「任せろ!指環の力よ――!!」

ジャンがウォークライで竜達の気を引いている隙に、スレイブが風の力で溶岩の流入を阻止。

「――ソリディフィケーション!」

ティターニアはそれに続き、すでに流入した溶岩を大地の力で固め、文字通りの岩とする。
しかし敵はまたすぐに新たな穴を開けてくるだろう、その度に対処していてはきりがない。

>「まずいな……天井のどこに穴を開けられても、大量の溶岩が流れ落ちてくる。
 行動できる領域も大きく狭められた。機動力で撹乱する戦法はもう使えないな」

そんな大ピンチな状況の中、ジャンがアクアとテッラを経由して念話を飛ばしてきた。

>『ティターニア、おかしいと思わないか?
 虚無の竜が用意した肉体は八つ、指環も八つ。
 しかし指環の担い手は今のところ七人。一つ提案があるんだけど……
 奴が全ての指環を取り込むための予備の肉体だとしたら、奴の精神は一人で全ての指環を扱えるほど強大でも、
 肉体がそれほど強度がない。つまりは使い手のない指環――エーテルの指環。あれが……』

『ああ、我も薄々思っていた』

シャルムはエーテルの指輪と無色の指輪を二つ持っているが、どちらの力も完全には引き出せていない。
エーテルの指輪の素体は虚無の竜に対抗するために自らの身を賭して新世界を創造した女神パンゲア。
一方の無色の指輪を素体は、旧世界の創造主でありながらそれを面白がって見ていた全の竜。
ティターニアは、シャルムが両方持つことで2つの指輪が反発しあって力を発揮できていないという可能性に思い至った。

>「アクアッ!竜装だ、一気に決着つけてやるぞ!」

「ジャン殿、迂闊に手を出しては駄目だ!」

見境なく攻撃しては相手に手の内を明かすだけになる可能性がある。
しかし止めるのが一足遅かった。

「――シャルム殿、エーテルの指輪を……」

“ジュリアン殿に渡すのだ”そう言おうとした時だった。

126 :ティターニア :2018/11/04(日) 22:04:45.30 ID:k1kNN6KO.net
>『遍く 全てに 這い回り 虚無の雷を ――ディザスター』

反撃を食らったジャンが、彼そっくりの模倣体の前に倒れ伏す。

「ジャン殿……!」

模倣体は倒れたジャンの指から容赦なく指輪を抜き取り、自らの指におさめた。

>『一つとはいえ……ようやく、この憎らしい指環を我が手に収めることができた。
 我が身体から作られた種族が我に指環を捧げるのは、当然とも言えるがな』
>『あらゆる世界で我は排除される側だった。
 どんな世界であれ、いずれ自ら望んで虚無に還る。その真理を知らないからこそ我を受け入れぬ。
 その度に虚無と生きられるように、世界を再構築してやらなければならなかった。
 指環の使い手よ、貴様らはこのオークとかいう肉塊よりも賢明なヒトであろう。
 今更戦う必要などない。我と手を組み、虚無を遍く世界に広めようではないか』

ティターニアはがっくりと膝をつき、絶望を全身で表現する。

「ああ、全てがおしまいだ……!」

しかしその様子はどこか演技臭く――続く言葉は意外なものだった。
あまりの絶望的な状況に錯乱したとも考えられるが、分かる者には分かるだろう、先代勇者の聖ティターニアが表に出ている。

「あなたのお墨付きの指輪の勇者達がこのザマですよ、責任取りなさい!
もう全の竜の保険はないのですよ!? あなたのやってきたことが全て無駄になってしまっても良いのですか!?」

そして彼女は、意外な者の名を呼んだのだった。

「いい加減に出てこんかい、“エルピス”!」

127 :ジュリアン@NPC :2018/11/04(日) 22:06:05.44 ID:k1kNN6KO.net
「ぎゃー! ジュリアン様―! 死ぬ死ぬ死ぬ!」

「これで精いっぱいだ! 叫ぶ暇があったら避けろ!」

時間軸は少しさかのぼり、8体の竜との散開しての戦闘時。
ジュリアン&パックの指輪を持たないコンビは、紙一重のところでなんとか持ち堪えていた。
“俺にも指輪があれば――”そんな詮無き考えが頭の片隅から離れない。
指輪の魔女に殺された親友セシリアの敵討ちのために帝国を出奔した――それが全ての始まりだった。
ダーマに身を置いて情報を集め、最初は自ら指輪の勇者になろうと思ったものだが、
奪い取った炎の指輪は彼の問いかけに応えず、一時”預かった”水の指輪も大地の指輪も同じような物だった。
風の指輪は紆余曲折ありつつも彼の部下であるスレイブを選んだ。
そこで腹を括り、指輪の勇者達を手助けするという形に方針転換したものだ。
その後も新たな指輪を手に入れる度に次は自分の番かと少しだけ期待したものだが、
その度にいかにもその属性の使い手として相応しい者が現れ、選ばれていくのを見てきた。
山脈の途中でアルバートと別れる時に交わした言葉を思い出す。

『俺がここに残ってこいつらを食い止める――所詮指輪の勇者ではないからな。
むしろ虚無の指輪を持つお前が一緒に行った方がいいんじゃないか?』

『いや、こいつらの手助けはお前じゃないと出来ない。そんな気がするんだ――』

親友でもあり旧世界の住人でもあるアルバートのその言葉はどこか確信に満ちているようで。
その言葉に後押しされ結局ここまで一緒に来たのだった。あの真意は何だったのだろうか――
シャルムが指輪を二つ持っているがどちらも使いこなせていないので
どちらか一つ受け取った方がいいのではないかとも正直思うが、アルダガとスレイブがそれぞれシャルムに託した物だ。
おいそれと片方寄越せなどとは言えなかった。
結局追いつめられる一方で、ついに決着の時は訪れた。

>『一つとはいえ……ようやく、この憎らしい指環を我が手に収めることができた。
 我が身体から作られた種族が我に指環を捧げるのは、当然とも言えるがな』
>『あらゆる世界で我は排除される側だった。
 どんな世界であれ、いずれ自ら望んで虚無に還る。その真理を知らないからこそ我を受け入れぬ。
 その度に虚無と生きられるように、世界を再構築してやらなければならなかった。
 指環の使い手よ、貴様らはこのオークとかいう肉塊よりも賢明なヒトであろう。
 今更戦う必要などない。我と手を組み、虚無を遍く世界に広めようではないか』

128 :ジュリアン@NPC :2018/11/04(日) 22:08:18.33 ID:k1kNN6KO.net
ああ、何も力になれなかったな――そう思った時だった。
素っ頓狂なことを叫び出した者がいた。心なしか自分の方を向いて言っているようにも見える。

>「あなたのお墨付きの指輪の勇者達がこのザマですよ、責任取りなさい!
もう全の竜の保険はないのですよ!? あなたのやってきたことが全て無駄になってしまっても良いのですか!?」

129 :ジュリアン@NPC :2018/11/04(日) 22:10:53.34 ID:k1kNN6KO.net
「おいエルフ、何を言っているのだ?」

訳が分からず戸惑うジュリアンだったが、ティターニアの次の言葉で理解した――理解できてしまった。

>「いい加減に出てこんかい、“エルピス”!」

130 :ジュリアン@NPC :2018/11/04(日) 22:12:09.26 ID:k1kNN6KO.net
その言葉に応えるように、辺りがまばゆい光に包まれ、宙空にエルピスの幻影が現れる。
思えば、エルピス打倒後、指輪に宿る竜達が虚無の竜の居場所を感じられるようになっていたり、
その存在が完全には消えていないように感じられる節もあった。
負けた時に“指輪にはなりなくない、このまま消えたい”等と言っていたが、
人間を信じたいがために人間を滅ぼそうとしていた等と抜かした筋金入りの天邪鬼だ。
今更ノコノコ指輪になりに出てきたところで何ら不思議はない。
元の口調に戻ったティターニアがいつもの調子で煽って見せる。

「やはり出てきおったか……我に煽られたのが余程悔しかったのか!
天邪鬼なそなたが指くわえて見ておれと言って大人しく見ていられるはずはないと思ったわ!」

『……貴様は少し黙っていろ。白き魔術師よ――手を掲げよ! これよりそなたの指輪となろう!』

ジュリアンの指輪になるというエルピス。しかしジュリアンはそれを拒否した。
それもそのはず、エルピスとはすなわち指輪の魔女の正体――
つまりそもそもの発端となったセシリアの仇そのものだ。

「……ふざけるな! 誰が貴様なんかに……」

その時だった。
エルピスの後ろから、今までに指輪の魔女によって死に追いやられた者達の幻影が現れ、指輪の勇者達の側に付く。
海底都市にてティターニア達と共に戦ったマジャーリンが、ティターニアの横に並び立つ

『エルフに力を貸すのは気が進まんが仕方あるまい』

続いて、ユグドラシア防衛戦にて散ったパトリエーゼがシノノメの横に立ち、彼女が持つ指輪に宿るアルマクリスに語りかける。

『ふふっ、また一緒に戦えるね!』

そして――ジュリアンの前には、忘れもせぬ――帝国が誇った大神官
それより何より、アルバートと三人で笑いあった大親友の姿があった。

「セシリア……!」

『久しぶりですね、ジュリアン……共に世界を救いましょう――!』

131 :ジュリアン@NPC :2018/11/04(日) 22:13:14.40 ID:k1kNN6KO.net
エルピスは記憶を操る力を持つ竜。
これが、自らが死に追いやってきた者達の記憶から再現したものだということは分かっている。
それでも――ジュリアンは手を掲げた。

「セシリアに免じて……使ってやる! 来い、エルピス!!」

その手に光が収束し、眩く輝く指輪となった。
セシリアの幻影が呪文を唱えると、戦闘域全体に清浄なる光が降り注ぐ。

『――The great gospel《大いなる福音》』

蘇生魔法すらも可能だったという、世界に名を轟かせた伝説の大神官の最上級回復魔法だ。
戦闘不能となっているジャンもすぐに再起可能となることだろう。
ティターニアはジャンの傍まで歩み寄り、竜装を纏い模倣体と対峙する。

「さあ、まずは指輪を取り戻すぞ――竜装《ユグドラシア》!」

ユグドラシアとは元々、神樹ユグドラシルを女神として神格化した時の呼び名。
植物の女神のような装甲を纏ったティターニアは、杖の先から
しなやかさと刃物の鋭利さと併せ持つ蔦を無数に伸ばし、指輪を取り戻すべく模倣体の指ごと切り取りにかかる。
そしてジュリアンはシャルムの方に向かって叫んだ。

「俺も宿敵と手を組んだんだ――全の竜と女神! いがみあっている場合ではないぞ!」

きっと、シャルムの持つ二つの指輪が決め手になる――そんな奇妙な確信があった。

【ジュリアンが8人目の指輪の勇者として覚醒。反撃ターン開始!】

132 :シャルム・シアンス :2018/11/07(水) 15:45:12.38 ID:suvvEmAI.net
ディクショナルさんの魔法が、天井から流れ込む溶岩を冷却、固化させる。
既に流入してしまった溶岩も、ティターニアさんが処理してくれた。
ひとまずは、急場を凌げた……ですが奴らは何度だって天井に穴を開けられる。
それを何度も繰り返されれば、天井そのものが崩れ落ちてくる可能性もある……。

戦わないと。
柄にもなくあちこち飛び跳ねたせいで息が整わない……。
『フォーカス・マイディア』の副作用で、まだ軽度だけど頭痛もする……。
それでも、この眼の前にいる虚無の竜を、私に釘付けにしなければ。
そう、やるべき事は変わっていない。
一人、最低一体。この虚無の竜を封殺する。

「『フォーカス・マイディア』」

液状化の能力を得た虚無の竜に銃弾は通じない。
残る一丁の魔導拳銃に錬金術を施す。
形成するのは……魔導書。
正確には、大量の魔法陣を羅列しただけの分厚い目録ですが、とにかく。
可能な限りの魔法陣を作り出してから、『フォーカス・マイディア』を解除すれば。
消耗は最小限に抑えつつも大量の魔法を素早く行使出来る。

虚無の竜がガトリング砲を再生。
「紫電の槍』を用いて先手を取り破壊。

体表から突出し迫りくる金属の槍。
あらかじめ展開しておいた『審判の鏡』で弾き返す。

虚無の竜が液状化し、鋼線のように変化し、私を取り囲む。
その形態なら熱による変形は容易い。
『炎の刃』で切り刻み、ばらばらにする事でエネルギーを浪費させる。

……行ける。
虚無の竜の戦術と能力は、幸いにも私にとって相性がいい。
これなら、このまま奴を抑え込める……

>『――データシェアリングにより、敵性存在"指環の勇者"に対する有効戦術のインストールが完了しました。
 プログラムパターン構築。戦術展開の前提段階として、指環の勇者の生体スキャンを実行。

そう思った矢先の事でした。
虚無の竜が何か、私には理解出来ない言葉を連ね……そして私の姿を模倣したのは。

「……馬鹿な」

私はそう呟くのが精一杯で……すぐに、新たな魔法を発動しました。
『鬱屈する大火』……圧縮した炎によって矢を形成し、対象を内部より爆破する炎魔法。
放たれた矢は瞬く間に虚無の竜へと肉薄し……炸裂する。

爆炎が晴れて、虚無の竜は……その体表が僅かに損傷しているだけでした。
模倣した私の姿を、崩す事すら出来ていない。
魔法の威力は十二分だったはず……あの一瞬で、虚無の力を行使された……?

そんな私の思考を遮るように、虚無の竜はその右手を私に向けました。
そして……

「『フォーカス・マイディア』……当機体の処理能力の向上を確認。
 有用な戦術パターンとして、戦闘行動と並行してデータシェアリングを開始します」

……私が今まで放ってきた魔法の数々が、私へと返ってきた。
その全てが、私が使用した時よりも強力になって、何倍にも増えて……一斉に。
咄嗟に私も『フォーカス・マイディア』を再発動し、迎撃する。

133 :シャルム・シアンス :2018/11/07(水) 15:47:42.80 ID:suvvEmAI.net
……速い。私が魔法を放ってから、それを撃ち落とせるほどの回転率……。
本当に、『フォーカス・マイディア』を再現されている……。

駄目だ。反撃に転じられない。
反撃すれば、相手に更なる手数を与える事になる。
そうなればこの拮抗した状況を保ち続けられるか、分からない。

このまま奴がエネルギーを使い果たすのを待つ。
それが私に取れる唯一の戦術……。
だけど……それはつまり、奴の更なる戦術共有を許してしまうという事……。

>『遍く 全てに 這い回り 虚無の雷を ――ディザスター』

134 :シャルム・シアンス :2018/11/07(水) 15:48:37.08 ID:suvvEmAI.net
……戦場に響く、無数の雷鳴。
それが、私達が辛うじて保っていた均衡が崩れる音だと、私には分かってしまいました。

私と魔法を撃ち合っていた虚無の竜は、最早その必要がないと言わんばかりに静止している。
振り返ってみれば……私の目に映ったのは倒れ伏したジャンソンさんと、その手から指環を奪い取る虚無の竜でした。

>『一つとはいえ……ようやく、この憎らしい指環を我が手に収めることができた。
 我が身体から作られた種族が我に指環を捧げるのは、当然とも言えるがな』
>『あらゆる世界で我は排除される側だった。
 どんな世界であれ、いずれ自ら望んで虚無に還る。その真理を知らないからこそ我を受け入れぬ。
 その度に虚無と生きられるように、世界を再構築してやらなければならなかった。
 指環の使い手よ、貴様らはこのオークとかいう肉塊よりも賢明なヒトであろう。
 今更戦う必要などない。我と手を組み、虚無を遍く世界に広めようではないか』

……ジャンソンさんがやられて、指環を奪われた。
状況は完全に変化した。奴らにとって有利なように傾いてしまった。

>「ああ、全てがおしまいだ……!」

やめて下さい、ティターアさん。
あなたが一番に諦めたら、このパーティの一体誰が希望を持っていられるって言うんですか。
嘘でもいいから、まだやれるって。そう言って……

>「あなたのお墨付きの指輪の勇者達がこのザマですよ、責任取りなさい!
 もう全の竜の保険はないのですよ!? あなたのやってきたことが全て無駄になってしまっても良いのですか!?」

「……ティターニアさん?」

>「おいエルフ、何を言っているのだ?」
>「いい加減に出てこんかい、“エルピス”!」

不意に、周囲に眩い光が満ちる。
あの光竜……まさか。

>「やはり出てきおったか……我に煽られたのが余程悔しかったのか!
  天邪鬼なそなたが指くわえて見ておれと言って大人しく見ていられるはずはないと思ったわ!」
>『……貴様は少し黙っていろ。白き魔術師よ――手を掲げよ! これよりそなたの指輪となろう!』

私達の強さを確かめて、完全な敗北の証として消滅した……それすらも嘘だった?
……どこまでひねくれてるんですか、まったく。

>「セシリアに免じて……使ってやる! 来い、エルピス!!」
>「さあ、まずは指輪を取り戻すぞ――竜装《ユグドラシア》!」
>「俺も宿敵と手を組んだんだ――全の竜と女神! いがみあっている場合ではないぞ!」

ですが……そのおかげでなんとか首の皮一枚繋がったのも事実です。
とは言え頼りの指環は……未だにどちらも、沈黙したまま。
それは二つの指環……女神と全の竜が反発しあっているから?

……本当に?
全の竜は言っていました。
これは他の指環に比べればほんのアクセサリーのようなものだと。
そりゃ私だって、そうは言っても全の竜が遺した指環なんですから、何かの助けになるはずだと思っていましたけど。
だけど……この透明な指環からは、何の力も感じられない……。
……本当に、からっぽのようにしか……。

135 :シャルム・シアンス :2018/11/07(水) 15:49:15.07 ID:suvvEmAI.net
心の中でそう独りごちた、その時。
私の頭の中で……一つの閃きが生じました。
この透明な指環の、正しい用法について。

「……まさか」

この指環は、からっぽなんだ。
……だからこの、空の指環を使えるようにしたいなら……方法は簡単です。
中身を満たしてやればいい。

136 :シャルム・シアンス :2018/11/07(水) 15:52:37.60 ID:suvvEmAI.net
私は祈るように、両手を重ねる。
……そう言えば、この全の指環を譲り受けてから、大事な事を忘れていました。
あなたはこの世界を創造した女神様なのに……祈りの一つも捧げないまま、こんなところまで来てしまった。
そりゃ、声が聞こえなくて当然ですよね。

……女神様。もしも、あなたが私を見そなわしていらっしゃるのなら、どうか。
私は今まで信仰とは無縁の人生を送ってきました。
ですがお願いです。私は、私のかけがえのない友人を、バフナグリーさんを裏切りたくありません。
どうか彼女を、あなたの敬虔な信徒を後悔させない為に、力を貸して下さい。

「……指環の、力よ」

そして……今までで最も強く、全の指環が輝きを放ちました。
……からっぽの指環に、力が満ちていく。

『おいおい、聞いたかパンドラ?健気な願いじゃないか。
 それを君は今の今まで祈りが捧げられていないからと無視を決め込んで……ひどい奴だなぁ』

『……とうの昔に手放した名とは言え、今更親しみを込めて私を呼ぶ事を、あなたに許した覚えはありませんよ。全竜よ。
 それに……無視していた訳ではありません。ただ、祈りなき心に、私の声は、届けたくても届かない。それだけの事です』

二つの指環から現れる幻体。
星都で相見えたパンドラとまったく同じ姿をした女神様……随分と体長の縮んだ全の竜。

『相変わらずつれないな。私の巫女をしていた頃の、可愛げのある君が懐かしいよ……。
 まぁ、それはさておき……もう一度見せ場がもらえるのはありがたい事だ。
 残念ながらカーテンコールまでは立ち会えそうにないが』

全の竜がそう言うと……不意に私の左手が、私の意図に反して暴れ出しました。
左手に嵌めた指環が……私の指から、逃れようとしている?

「一体、何を……」
『邪魔をしてもいいが、おすすめはしないよ。指環の伝承をまったく知らない訳じゃないだろう?
 指環を一人で独占する事は出来ない。二つの指環を行使すれば……その者は命を落とす。だからここは……』

私の指から飛び出すように抜けた指環を、全の竜の幻体が口で受け止める。
そしてそのまま頬張り……飲み込んでしまった。

『素直に、私に任せておきたまえ』

次に全の竜が口を開くと、そこから吐き出されたのは手短な言葉と……目の眩むような閃光。
全属性のブレスが、周囲の敵をいっぺんに薙ぎ払う。

『……まぁ、こんなところか。最終章の山場を見逃すのは辛いが……仕方ないか』

全の竜は私に振り返って、そう言いました。
……己の幻体が急速に朧気になっていくのを、気に留めもしないで。

『この指環に残っていたのは……ほんの木霊のようなものでね。
 物語の結末が見たくてこっそり隠しておいたんだが……もう暫くもしない内に消えてしまうだろう。
 なに安心したまえ。指環そのものは、私がいなくなった後も残る。彼に拾わせて、またその手に返してもらうといい』

「……こんな時に、何を馬鹿な事を」

『くっくっ、余計なお世話だった……かな?まぁ精々頑張る……事だ……。
 なにせこの世界のフェイルセーフは……君達が壊してしまったからね……。
 やり直しは……もう出来ない……だが……だからこそ……君達は…………んだろう……?』

全の竜の幻体が消えて……私は虚無の竜へと向き直りました。
全の竜のブレスを唯一防御していた……ジャンさんから指環を奪った、あの虚無の竜へと。

137 :シャルム・シアンス :2018/11/07(水) 15:54:10.04 ID:suvvEmAI.net
『……無駄だ。今更予備の肉体を破壊したところで、お前達に勝ち目はない。我が肉体は進化し続けている』

指環の力によって創り出された分厚い水壁。
それが奴への攻撃を全て受け流し、押し潰している。
 
『お前達を屠る為に、最早この指環の力を使う必要すらない。こんなものは私にとっては、ただのエネルギー源に過ぎない。
 諦めろ……お前達なら分かるはずだ。何もかもが虚無に飲まれれば、それはつまり、全となんら変わらないという事が』

加えて『フォーカス・マイディア』による無数の多重結界まで……。
今更あんな甘言に乗るつもりは毛頭ありませんが、あの防壁は厄介です……。

138 :シャルム・シアンス :2018/11/07(水) 15:57:23.05 ID:suvvEmAI.net
私がどうにか突破する方法を考え始めた時でした。

「……例えあなたが、私達よりずっとずっと強くなっていても、私達は諦めたりしない」

不意に、虚無の竜と向き合うように……ハムステルさんが、私達の前へと歩み出たのは。

「諦める事ならいつだって出来た。諦める理由なんて、いくらでもあった。
 指環なんて伝説のアイテム、見つかりっこない。帝国と喧嘩したっていい事なんてなにもない。
 世界の命運を背負わされなきゃいけない理由も、世界の創造神に歯向かう必要も、なかったのに」

……その声音は、私が知る彼女の、記憶を失った童女のようではありませんでした。

「それでも、ここまで来た」

彼女は、傷の癒えた……しかしなおも倒れたままのジャンソンさんの傍で膝を突く。
そして……自分の左手から指環を抜いて、

「……勝手に諦めて記憶を捨てた小娘なんて、置いていけばよかったのに。だけど、諦めなかった」

それを、彼の左手に嵌める。
……何を、考えているんですか。ハムステルさん。
まさか……

「ジャンさん。わたしを、私を。ここまで連れてきてくれて、ありがとうございます。
 その恩返しをさせて下さい。メアリさん……ジャンさんを、守ってあげてね」

『……我が誘いを断るつもりなのか?』

「ええ、そう聞こえませんでしたか?」

『……なるほどな。ならば――文章自動生成プログラムによる心理誘導に失敗しました。通常の戦闘行動を再開します』

瞬間、ハムステルさんが床を強く蹴り出し、虚無の竜へと飛びかかる。
なんて、なんて無謀な事を!
指環もなしに虚無の竜に挑むだなんて……

139 :ラテ・ハムステル :2018/11/07(水) 15:58:59.74 ID:suvvEmAI.net
 
 
 
ジャンさんに指環を預けると、私は虚無の竜めがけて飛びかかった。
目の前にはまるで滝のような水の防壁と、何重にも展開された魔法障壁。

「駄目ですハムステルさん!」

後ろからシャルムさんの声が聞こえる。
だけど今更踏み留まる事なんて出来ない。
それに……心配ご無用ですよ。だって、

「……指環の力よ!」

ジャンさんに渡したアレ、フェンリルの力で作ったイミテーションだもん。
つまり……久々に使わせて頂きました、『ヒュミント』ですよ。
まぁ相手はゴーレムなんですけどね。

140 :ラテ・ハムステル :2018/11/07(水) 16:03:07.85 ID:suvvEmAI.net
「嘘ってのは、こう吐くんですよ。
 本物の指環は……もう少しだけ待っててね、ジャンさん」

遥か天上から地の果てまでどこまでも届き、遮るものをすり抜ける光。
その力を私自身に宿せば……どんなに分厚い結界だって通り抜けられる。

虚無の竜は何の妨害もしなかった。出来なかったって言うべきかな。
私の嘘に、見事に騙されてくれたみたい。
結界の内側に辿り着いて、私はジャンさんの姿をした虚無の竜を睨み上げた。

「メアリさん!」

瞬間、周囲に無数の『ファントム』が現れる。
光の指環によって生み出された幻影……見分けなんてつけられる訳がない。

『魔法消去を実行――』

「遅いよ」

だけどそのファントムこそが本当はブラフ。
だって私はただまっすぐに、虚無の竜に斬りかかってるんだから。
フェンリルの大爪が、金属製の頭に深く突き刺さる。
メアリさんが照らしてくれた、虚無の竜の急所へと。

『――理解不能、非効率的な戦術です。メインCPUに著しいダメージ――展開中の術式を維持出来ません。再構築が必要です』

周囲に張り巡らされていた結界が消える。
よーし、このままジャンさんの指環も取り戻して……。
そう思った私が右手を振り上げた瞬間……水の指環が虚無の竜の右手の中に飲み込まれて、消える。

そんなのズルい……なんて声に出す暇もなく、虚無の竜の胸部が波立つ。
液状化の能力……それで何をしようとしてるかは分かる。
変形して、ノーモーションで私に反撃するつもりなんだ。
それは分かってるけど……この体勢からじゃ、防御が間に合わない……!
ごめんだけどメアリさん、防御お願い……

『――魔法消去を実行します。防壁の消滅を確認』

……メアリさんの張った結界が、虚無の力によって霧散する。
これは、本当にやばいかも……

「そうはさせませんの!」

不意に響くフィリアちゃんの声と、甲高い金属音。
同時に私の体を包む強い慣性……ムカデの王様が、私を掴んで防御して、そのまま引き寄せてくれたんだ。

「あ、ありがとフィリアちゃん!今のはやばかった!
 そんでもって……メアリさん!
 アイツが飲み込んだ指環の位置を教えて!」

『任せて下さい!』

虚無の竜に取り込まれた水の指環、その位置が光の指環によって照らし出される。
それはほんの一瞬しか持たない、虚無の力を使われればすぐに消えてしまう光。
……でも、一瞬あれば十分。

141 :ラテ・ハムステル :2018/11/07(水) 16:03:40.44 ID:suvvEmAI.net
『魔法消去を――』

「――闇の指環よ」

だってシノノメさんが既に、私と入れ替わる形で前に出ているから。
闇の指環によって創り出された無数の刃が虚無の竜へと襲いかかり――

142 :ラテ・ハムステル :2018/11/07(水) 16:08:53.05 ID:suvvEmAI.net
『――実行します』

だけどぎりぎり届かない。虚無の力によって掻き消される。
それでもシノノメさんは構わず腕を突き出した。
そして鋭く響く金属音……。
シノノメさんの腕から生えた黒い長剣が、虚無の竜の胸を貫いている。

「……生憎、これは私の体の一部ですので。魔法として掻き消す事は出来ませんよ」

その剣先には……抉り出された、水の指環。
そしてあの長剣は文字通りの命ある刃。
指環は剣先に弾き飛ばされて……ジャンさんの元へと弧を描く。

『動力供給源をロスト。形勢が悪化しています――』

……なんとか、また状況をひっくり返せた。
シャルムさんと……全の竜のおかげで、こっちが数の有利を取り戻したから。
私達の、いつもの戦い方を取り戻せたから。今なら、このまま押し切れるかもしれない!

「やれる!やれますよ!みんなの力を合わせればきっと勝てる……」
 
    
  
『――新たな戦術プログラムの必要性を承認、再構築を開始します。推定所要時間は――60秒』

……今よりまだ、強くなるって言うの?
この状況ですら結構危ない賭けをして、なんとか漕ぎ着けたって言うのに……。
……だけど、今更そんな事でビビってる暇なんて、ない!

「……大丈夫!私達ならきっと勝てます!いえ……勝たなきゃいけないんだ!」

……あと一分。あと一分の内にあいつを倒しちゃうしかない。
これは、強がりなんかじゃない。私は心の底からそう思ってる。
私達はきっと勝てるし……勝たなきゃいけない。
私達が今まで冒険してきた世界を、出会ってきた人達の……人生を、塗り潰して作り変えるなんて!
そんな事、絶対に許しちゃいけない!



【予備の肉体が殲滅され、指環を奪取。
 しかし虚無の竜は更なる進化をしようとしている!】

143 :スレイブ :2018/11/12(月) 23:17:44.18 ID:Es87ipxb.net
液状金属で模られた『スレイブ』が、剣を片手に迫り来る。
スレイブもまた同様に剣を構え、それを迎え撃った。

「この速度――跳躍術式も模倣しているのか!」

鋼と鋼の激突が火花を散らし、跳ね返った慣性を威力に変えて二合、三合の打ち合い。
模倣体が振るった下段を横薙ぎにする剣を跳躍で回避し、こちらの唐竹割りは半歩横にずれて躱される。
空いた手から牽制とばかりに放った雷撃は、模倣体の張った風の障壁によって逸らされた。

前方、模倣体が石畳を割らんばかりの勢いで踏み込む。
剣を握る腕を深く引き、腰を落としたその予備動作に、見覚えがあった。

「――!!」

風を巻いて飛んできた切っ先。スレイブの首筋を掠めて宙を穿つ。
剣士のスキルが一つ、『瞬閃』。ダーマ式の軍用剣術だ。既に模倣体は、肉体だけでなく技術さえも模倣していた。
間一髪でそれに気付いたスレイブは身を低くして殺傷圏を掻い潜り、かち上げるように逆袈裟の斬撃を放つ。
模倣体は鎧を纏った腕にスレイブの剣を滑らせるようにして機動を逸らし、回避。
返す刀の一撃に剣同士がぶつかり合い、慣性を交換して二つの影は距離をとった。

拮抗している。
得物は共に取り回し重視の片手剣。避けても弾いても、致命的な隙は生まれ得ない。
再現された指環の魔力もまたスレイブのものと同出力だ。押し切るのは難しい。

(まずいな……埒が空かない。このままではジリ貧だ)

時間をかけることが有利に働くのは虚無の竜側だ。
生身の肉体と違い、奴らには疲労がない。無限に近い再生能力もある。
ほんのささいなボタンの掛け違えで、一気に窮地へ押し込まれるであろうことは、数合の攻防で理解できた。
幸いとも言うべきは、こちらが竜装を見せていないためか、敵も竜装を使ってこないこと。
そして、指環の竜――スレイブにとってのウェントゥスのような、相方が存在しないこと。

『とにかく魔法を叩き込め、ウェントゥス。数の利があるうちに火力差で一気にカタをつけるぞ』

『雑な指示じゃなぁ。"臨機応変に頑張れ"とほぼほぼ変わらんじゃろそれ』

『根性論は嫌いか?』

『いんや。年寄りにはそんくらい雑なほうがよく響く』

模倣体へと進化したとはいえ、虚無の力による魔法消去は健在と見るべきだ。
ならば、やることは変わらない。ウェントゥスと協働して、攻撃魔法の十字砲火。
加えて近接攻撃も織り交ぜれば、活路は見えるはず――

144 :スレイブ :2018/11/12(月) 23:18:07.94 ID:Es87ipxb.net
「いくぞ――指環の力よ!」

スレイブは模倣体目掛けて吶喊する。同時に真空の刃が模倣体を包むように弧を描いて強襲。
再び剣と剣が刃鳴を散らす刹那、模倣体の背面に出現したウェントゥスが紫電を奔らせた。
人竜一体の飽和攻撃、全方位からの風魔法が、寸分違わず同時に模倣体を襲う。

(魔法消去を使ってみろ――その瞬間、俺の剣が首を落とす!)

模倣体が口を開く。
果たしてそこから漏れる言葉は、スレイブの想像した魔法消去の通告ではなかった。

「戦術プログラム第二段階へ移行。『特異点の共有』が完了しました」

模倣体の胸部が膨らむ。呼吸を必要としないはずの装置が、息を吸った。
その動作の意味するところをスレイブが察知する頃には、すべてが遅かった。
模倣体の口から放たれた轟音が大気を揺らがし、スレイブは咄嗟に剣を放って耳を塞ぐ。
鼓膜の破損は免れたものの、魔法の行使に必要な集中が消え失せ、風の刃も紫電も明後日の場所を穿って果てた。

(これはっ……ジャンの!『ウォークライ』を、模倣しただと……!)

思考が現状に追いつくと同時、模倣体の拳がスレイブの鳩尾を直撃した。
鎧越しに穿たれた内臓が悲鳴を上げ、肺の中身が全て吐き出されるままにスレイブは放物線を描く。
なんとか受け身は成功したが、呼吸がうまく行かずにそのまま膝をついた。

「他の……勇者の能力さえも……模倣出来るというのか……!」

受け入れがたい現実ではあるが――今目の前に立つ模倣体は、スレイブとジャン、二人の能力を一身に宿している。
おそらくジャンだけではない。ティターニアの魔法も、シャルムの魔導技術も、データシェアリングとやらで共有しているのだ。
指環の勇者に対する有効戦術。これまで培ってきた『仲間の能力』によって、彼らは窮地に追い込まれた。

(まずい――)

背筋を襲った直感に突き動かされるように、スレイブは視線を走らせる。
その先では、ジャンが水の竜装を纏って模倣体と肉弾戦を演じていた。

>『遍く 全てに 這い回り 虚無の雷を ――ディザスター』

模倣体がディザスター――スレイブの魔法を模倣した術式を放ち、稲妻がジャンを打ち据える。
頑強な体躯が見る間に焼け焦げ、ジャンが崩れ落ちていく瞬間を、目の当たりにした。

145 :スレイブ :2018/11/12(月) 23:18:31.33 ID:Es87ipxb.net
「ジャン……!」

水の指環にとって、風の指環の天候操作は極端に相性が悪い。
懸念は現実となり、倒れ伏したジャンの手から、模倣体は指環をつまみ上げた。

竜の指環が奪われた。
戦力の均衡が、崩れた――
すでにスレイブと相対していた模倣体は動作を停止している。
指環を手にした以上、戦力を分散させる必要がないからだ。

>『一つとはいえ……ようやく、この憎らしい指環を我が手に収めることができた。
 我が身体から作られた種族が我に指環を捧げるのは、当然とも言えるがな』

(口調が……変わった……?)

ジャンを倒した模倣体は、それまでの無機質な音声ではなく、抑揚と感情に満ちた言葉を口に出す。
機械的に世界を再編成する装置であるはずの虚無の竜が、まるで意志を持っているかのような言動。
違和感はあれども、その理由を考察する余裕はスレイブにはなかった。

>「ああ、全てがおしまいだ……!」

ティターニアが五体を地に投げ、絶望を口にする。
スレイブも同感だった。唯一の優位点であった指環は敵の手に落ち、もはや打つ手はない。
このまま、かつて虚無の竜に挑んだ者たちのように、世界の再構成を待つばかりなのか。
命を捨てて吶喊し、指環を奪い返す……それが不可能であることなど、誰に言われるでもなく理解できてしまった。

しかし、ティターニアは口ぶりとは裏腹に、希望を捨ててなどいなかった。
この土壇場で、虚無の竜を相手に、彼女は口三味線を弾いていたのだ。

>「いい加減に出てこんかい、“エルピス”!」

口調は幼子を叱るかのように。
呼んだ名は、敗北を認め、消滅したはずの――光竜。
その場に居るはずもない者の名に、応じたのは虚空ではなく、生きた者の声。

>「セシリアに免じて……使ってやる! 来い、エルピス!!」

「ジュリアン様……!?」

パックと共に8体目の模倣体と戦っていたジュリアンが、光の魔力をその身に宿す。
ラテの持っているはずの光の指環は健在だ。ならば、新たに指環を創造したとでも言うのか――

146 :スレイブ :2018/11/12(月) 23:18:50.70 ID:Es87ipxb.net
『光と闇の指環は、もともと一つずつってわけじゃないからの。要は、ものの見方次第じゃ』

ウェントゥスは訳知り顔でそう能書きを垂れるが、おそらく何もわかってはいないだろう。
メアリやアルマクリスがそうであったように、光と闇の指環は依代となる竜を選ばない。
ならば、エルピス自身を単なる依代として扱っても、道理は通るというわけだ。

>『――The great gospel《大いなる福音》』

呪文を唱えたのは、ジュリアンの隣に立つ幻影。
スレイブは伝聞でしか知らない、ジュリアンが帝国を出奔する原因となった、彼の同胞。
五年の歳月を経て、死が別けた二人の運命が、ようやくこの時重なったのだ。

>「俺も宿敵と手を組んだんだ――全の竜と女神! いがみあっている場合ではないぞ!」

ジュリアンがそう発破をかけたのは、エーテルと全の指環を持つシャルムだった。
彼女は何かに気付いたように二つの指環を、それが嵌った両手を重ねて、祈る。

>「……指環の、力よ」

暗く、何の輝きも宿さなかった全の指環が、一際大きな光に満ちた。
エーテルの指環――女神パンドラと全の竜。
居場所を同じくして、しかし袂を分かった二つの存在を、シャルムの祈りがつなぎ合わせたのだ。

「技術者に祈りを要求するとは……どこまでも底意地の悪い竜め」

だが、だからこそこの祈りには意味がある。
かつて、神官アルダガは「祈り」を他者との力の共有を表す所作であると定義した。
手と手を合わせ、指を組み、自分と誰かが平等に幸せになることを望む意志の表現。
他者に与え、他者から与るために『手を繋ぐ』原初の仕草だ。

シャルムはその両手で、見事に繋いで見せた。
女神パンゲアと、全の竜を。
そして、ここにはいないアルダガと――他ならぬ彼女自身を!

>『お前達を屠る為に、最早この指環の力を使う必要すらない。こんなものは私にとっては、ただのエネルギー源に過ぎない。
 諦めろ……お前達なら分かるはずだ。何もかもが虚無に飲まれれば、それはつまり、全となんら変わらないという事が』

依然として虚無の竜とスレイブ達の間には、歴然とした力量差が横たわっている。
水の指環を取り込み、如何なる攻撃も阻む障壁が、瀑布のごとく展開している。
水流隔壁は防御だけでなく、シャルムの展開するプロテクションさえも蝕みつつあった。
いずれ波濤に押し潰され、飲み込まれるのも時間の問題だ。

147 :スレイブ :2018/11/12(月) 23:19:16.57 ID:Es87ipxb.net
>「……例えあなたが、私達よりずっとずっと強くなっていても、私達は諦めたりしない」

そのとき、ラテが不意に前に出た。これまでのような子供じみた口調ではない。
それはおそらく、共に旅をしていたジャンやティターニアが誰よりも知っているだろう。
彼女はその手に嵌った光の指環を、ジャンの手へと嵌め直した。

>「ジャンさん。わたしを、私を。ここまで連れてきてくれて、ありがとうございます。
 その恩返しをさせて下さい。メアリさん……ジャンさんを、守ってあげてね」

「なにを、するつもりだ……」

指環を捨て、生身となったラテが、水流障壁へと飛び込んでいく。
指環の保護なしに障壁を身に受ければ、人間の身体など簡単に消し飛ぶだろう。
ラテのしていることは、自殺行為以外の何者でもない。

>「駄目ですハムステルさん!」

シャルムの悲鳴じみた制止も虚しく、ラテは障壁の中へ消えていった。
――消し飛んだのでは、ない。指環もなしに、彼女は障壁を突破したのだ。

否。ジャンの手にあったはずの指環が、目を離した一瞬のうちに消えて無くなっていた。
指環はまだ、ラテの手の中にある!

>「嘘ってのは、こう吐くんですよ。本物の指環は……もう少しだけ待っててね、ジャンさん」

光の指環の力で障壁を突破したラテが、虚無の竜の中枢に打撃を与え、魔法の維持を一時的に不能にする。
障壁が再展開される一瞬の隙を縫って、フィリアとシノノメが虚無の竜に肉迫した。
三者一体の連携が虚無の竜を翻弄し、取り込まれた水の指環をシノノメの剣が抉り出す。

>『動力供給源をロスト。形勢が悪化しています――』

(形勢が――覆った……!)

ジュリアンとエルピスの呉越同舟、シャルムの祈りが繋いだ二つの指環。
そして、ラテの巧妙な謀計とフィリア、シノノメの連携によって、追い込まれていたはずの形勢が逆転した。
指環はもう虚無の竜のもとにはない。振り出しに戻ったわけでもない。
指環の勇者の戦いは、両者譲らぬままに、最後の局面へと突入したのだ。

148 :スレイブ :2018/11/12(月) 23:19:55.69 ID:Es87ipxb.net
>『――新たな戦術プログラムの必要性を承認、再構築を開始します。推定所要時間は――60秒』

「戦術を切り替えるまでの時間が長い……おそらく、これが俺たちにとっての最終段階だ」

これまで、戦術プログラムの更新は数秒程度、戦闘中に次の戦術へ移行する速度で実行されてきた。
60秒という時間は以前と比較してもあまりに長い。
この状況が虚無の竜にとって完全に想定外で、戦術を1から組み直す必要があることを意味している。

149 :スレイブ :2018/11/12(月) 23:20:43.96 ID:Es87ipxb.net
虚無の竜が、会敵した瞬間から戦闘機動を開始できた理由。
それは、シャルムの推論によれば、以前スレイブ達の他にも虚無の竜のもとまでたどり着いた者がいたためだ。
つまり、虚無の竜には自身を破壊しに来た者達との戦闘経験がある。
今まで高速で戦術を構築できていたのは、その時の記録が……敵性言語に照らすなら、データが残っていたからだろう。

名も知らない勇者達が幾度も挑み、少しずつ道を拓いていった虚無の竜との戦い。
そのいずれもが直面し、しかし乗り越えることのできなかった、『時間切れ』。
そして、予め用意されていた対勇者戦術が、たった今尽きた。
ここからは、虚無の竜もまた分析し、考察し、勘案する文字通り前人未到の領域だ。

150 :スレイブ :2018/11/12(月) 23:21:19.03 ID:Es87ipxb.net
「かつて、旧世界の勇者達が志半ばに閉ざされた道へ、俺たちは辿り着いた。
 そう、道だ。世界の命運を分ける岐路が、ここにある。閉じた扉を、60秒でこじ開ける!
 プログラムとやらが完成すればもう勝機はない。削り切るぞ!」

奇しくも――虚無の竜と初めて対面したときと同じ構図だ。
プログラムが完了する前に、最大の火力を叩き込んで、沈黙させる。
抜け目なく拾っていた剣を再び構えて、スレイブは虚無の竜に飛びかかった。

『敵性存在の戦意高揚を確認。演算処理を確立する為、自己防衛マニューバを起動。
 対空魔導砲門による迎撃を開始。平行して装甲の再結合を実行します』

虚無の竜はもはやその場を動かない。
防御を固め、プログラムの構築にリソースのほとんどを割いている。
高度な処理が必要な魔法消去を捨て、純粋な装甲の耐久と迎撃砲のみで耐えしのぐ公算だ。
竜の背にハリネズミの如く無数の砲門が隆起し、魔力の光を灯した。

「防御は任せる」

スレイブは装甲の継ぎ目を正確に断ち切り、破壊しながら、腰に提げた短剣を抜いた。
現在の敵の主武装は無数の魔導砲。そのままではしのぎ切れる手数ではないが、魔法が相手ならできることがある。

「呑み尽くせ――『バアルフォラス』!」

151 :スレイブ :2018/11/12(月) 23:21:39.86 ID:Es87ipxb.net
魔導砲に充溢していた魔力がスレイブの振るう魔剣へと吸い込まれ、砲身も明滅が弱まった。
瞬間、魔導砲が斉射。流星群にも等しい攻撃魔法の束がスレイブ達を直撃するが、プロテクションがそれを阻む。
攻撃の元となる魔力はバアルフォラスによって喰われ、本来の半分程度の威力にまで減衰しているのだ。

「魔法攻撃は俺が軽減する!防御は最小限にとどめて攻撃に集中してくれ!」

魔剣が溜め込んだ魔力は、刀身を暴れまわっていまにも弾け飛びそうだ。
スレイブはそれを自身の身体へ流し、指先へと収束させた。

「奔れ、『極光』!」

純粋な魔力の光条は一筋の流星となって虚無の竜の装甲を貫いた。
断続した爆発が竜の体内で発生し、黒煙が雲の如く沸き立っていく。

(魔導砲による攻撃は俺が防ぐ。それは虚無の竜も今しがた学習したところだろう。
 ならば次はどうする。俺を狙うか?それとも物理攻撃に切り替えるか?)

いずれにせよ、選択肢を狭め、虚無の竜が武装を切り替えるまでの時間を稼ぐ。
世界の命運を決める60秒。金にも等しい、世界で最も貴重な1分。

既に、15秒が経過していた。


【時間切れフェーズに移行。魔法ダメージを軽減し、装甲を破壊して防御力を下げる。残り45秒】

152 :ジャン :2018/11/17(土) 15:50:44.14 ID:aFimeXp2.net
意識が途切れる瞬間、ジャンが最後に見たのは
自分そっくりの流体金属が勝利を宣言した光景だった。
稲妻が身体を焼き焦がす苦痛に耐えきれず、前のめりに倒れていく。

(最後まで……俺は……みんなを……)

消えゆく意識の中で願ったのは、仲間の勝利。
たとえ指環を奪われたとしても共に旅を続け、苦難を乗り越えてきた仲間たちなら
きっとやり遂げてくれると信じて、ジャンは静かに目を閉じた。

――ジャンが再び目を覚ましたとき、彼は光がわずかに差し込む深海の中に浮かんでいた。
生物は一切おらず、辺りから聞こえる気泡の音が耳に響く。

(どこだ……ここは……)

泳ごうにも手足は動かず、身体に力が入らない。
わずかな光も時折消えてしまうことがあり、そうなれば完全な闇が身体を覆い尽くす。
やがて光が放たれることはなく、ジャンの意識が闇に溶けて消え失せようとしたとき、
一筋の強い光がジャンの身体に差し込んだ。

「……指環?あの色は……アクア!」

深海にあってもなお蒼く輝くその指環は、決して見間違えることはない。
蒼い光に照らされて身体が力を取り戻せば、静かに降りてくる指環をしっかりと掴む。

『危うく二人合わせて冥界行きになるところだったね。
 あいつの中は気持ち悪いなんてもんじゃなかったよ!』

「その話は酒でも飲みながらしようぜ。
 今は――あいつをぶちのめす!」

その言葉と共に指環を右手の中指に嵌めて、光射す方へと泳いでいく。
光の向こうをよく見れば、仲間たちが必死に虚無の竜を食い止めている光景が写っていた。
もはや躊躇いも迷いもなく、決意を新たにそこへと向かっていく。

153 :ジャン :2018/11/17(土) 15:51:22.12 ID:aFimeXp2.net
「……みんな、すまねえ!アクア、起きたら全力で行くぞ!」

『分かった!あいつに取り込まれてる間、色々拾ってきたからね!』

>「奔れ、『極光』!」

虚無の竜が閃光に貫かれ、しかしその傷を無視しているかのように動き出す。
両腕が液体金属に覆われて巨大な二振りの大剣となり、
まとめて粉砕せんと勇者たちを薙ぎ払うように振り回しはじめた。

『近接戦闘形態に移行します……敵は……排除……排除……』

何度魔法を受けても液体金属が強引に形を作り直し、
広間を覆い尽くす斬撃と打撃の嵐は止まらないかに見えたその時だった。

「借りるぜオウシェン……オラアッ!」

目を覚ましたジャンが竜装と共に突撃し、自らの背よりも長く太い錫杖を振りかざす。
マリンブルーに輝く錫杖の先端を振り下ろされた大剣に叩きつけ、
すると強固な装甲を形成していた液体金属が水流と共に虚無の竜の片腕から崩れ落ちていく。
もう片方にも同じように錫杖を突きつければ、もはや腕に残る液体金属は一滴たりともない。

『液体金属の中に魔力を含んだ水を混ぜてやれば、後は僕の権能で操るだけだ!
 お前が戦ってきた指環の勇者たちの記録……水の勇者の記憶を利用させてもらった!』

その時は魔法消去という一方的な封殺手段によって制御を取り戻すことができたが、
再構築に向けて装甲と液体金属、そして魔導砲による弾幕しかない今の状態では
止める術はなく、こうして残るのは強固な装甲のみ。

「ようやく俺もみんなを助けられるって気がするぜ!
 『流れ流れて形となり、我が友を助けたまえ』」

さらに制御を奪った液体金属を詠唱と共に仲間の武器や防具に纏わせ、
本来ならば水の魔力を仲間に与える海の巫女の秘儀も
液体金属によって業物をはるかに越える逸品へと仕上げる極めて高度なエンチャントとなっていく。
勝者を決める1分の内、残り30秒。虚無の竜はいかなる反撃に移るのか、ただ不気味に沈黙していた。


【液体金属の乗っ取りに成功!ついでに念願の全体バフ】

154 :ティターニア :2018/11/19(月) 21:37:32.82 ID:J0epgkVB.net
>「……まさか」

シャルムは遥か昔に袂を分かった全の竜とパンドラを再び邂逅させるかのように、両手を重ね合わせた。
暫しの二人の会話の後、全の竜の幻影が、周囲の敵をいっぺんに薙ぎ払う。
……指輪に僅かに残していた自らの存在と引換えに。
形勢は着実にこちらに傾きつつあるように見える。
しかし、水の指輪を奪った竜の分体は、余裕綽綽といった様子だ。

>『……無駄だ。今更予備の肉体を破壊したところで、お前達に勝ち目はない。我が肉体は進化し続けている』
>『お前達を屠る為に、最早この指環の力を使う必要すらない。こんなものは私にとっては、ただのエネルギー源に過ぎない。
 諦めろ……お前達なら分かるはずだ。何もかもが虚無に飲まれれば、それはつまり、全となんら変わらないという事が』

「一筋縄ではいかぬということか……」

どうしたものかと考えていると、不意にラテが進み出る。

>「……例えあなたが、私達よりずっとずっと強くなっていても、私達は諦めたりしない」
>「諦める事ならいつだって出来た。諦める理由なんて、いくらでもあった。
 指環なんて伝説のアイテム、見つかりっこない。帝国と喧嘩したっていい事なんてなにもない。
 世界の命運を背負わされなきゃいけない理由も、世界の創造神に歯向かう必要も、なかったのに」
>「それでも、ここまで来た」
>「……勝手に諦めて記憶を捨てた小娘なんて、置いていけばよかったのに。だけど、諦めなかった」

「ラテ殿、そなた記憶が……!」

息を付く間もない戦いの連続で気付かなかったが、ラテはどこかの時点で記憶を取り戻していたのだ。
かといって、完全に元のラテに戻ったわけでは無い。
一見明るく振舞いながらも過去の罪に怯え劣等感に苛まれていた以前のラテはもういない。
いつかティターニアが言ったように、記憶を失った後に生まれた天真爛漫なラテが、
知恵と思慮深さを持つ以前のラテを迎え入れたのだ。

>「ジャンさん。わたしを、私を。ここまで連れてきてくれて、ありがとうございます。
 その恩返しをさせて下さい。メアリさん……ジャンさんを、守ってあげてね」

そう言って自らの指輪をジャンの左手にはめるラテ。しかしティターニアは動じない。
記憶を取り戻したなら、指輪は一人一属性までというのはラテは分かっているはずだ。
つまりこれは……

155 :ティターニア :2018/11/19(月) 21:38:47.84 ID:J0epgkVB.net
>「……指環の力よ!」
>「嘘ってのは、こう吐くんですよ。
 本物の指環は……もう少しだけ待っててね、ジャンさん」

ラテが記憶と共に取り戻したレンジャーの技が冴えわたり、指輪まであと一歩のところまで迫る。
続くフィリアとシノノメの連携によって、ついに水の指輪を取り戻すことに成功した。

>「やれる!やれますよ!みんなの力を合わせればきっと勝てる……」

>『――新たな戦術プログラムの必要性を承認、再構築を開始します。推定所要時間は――60秒』

>「戦術を切り替えるまでの時間が長い……おそらく、これが俺たちにとっての最終段階だ」
>「かつて、旧世界の勇者達が志半ばに閉ざされた道へ、俺たちは辿り着いた。
 そう、道だ。世界の命運を分ける岐路が、ここにある。閉じた扉を、60秒でこじ開ける!
 プログラムとやらが完成すればもう勝機はない。削り切るぞ!」

60秒という時間から、敵が今までに蓄積してきた対勇者戦術が尽きたと分析するスレイブ。
つまり、これが最初で最後にして最大のチャンスだ。

>「呑み尽くせ――『バアルフォラス』!」
>「奔れ、『極光』!」

スレイブはバアルフォラスで敵の攻撃を防ぎつつ、彼の持つ最強攻撃で虚無の竜の装甲を破壊する。

>「借りるぜオウシェン……オラアッ!」

続いて、ついに復活したジャンが突撃し、錫杖を叩きつける。

>『液体金属の中に魔力を含んだ水を混ぜてやれば、後は僕の権能で操るだけだ!
 お前が戦ってきた指環の勇者たちの記録……水の勇者の記憶を利用させてもらった!』

エルピスが味方になったことか、あるいはエーテルの指輪が覚醒したことで、指輪の真の力が解放されたのかもしれない。
それは、歴代の指輪の勇者達の記憶。

『思い出しました……人々が指輪を巡って争ってきた意味を』

指輪を持つ者はそれを欲する者を呼び寄せ、指輪の所有権を争い多くの血が流されてきた。
それは歴代所有者達の力を蓄積していくため――全てはこの瞬間のためにあった。

>「ようやく俺もみんなを助けられるって気がするぜ!
>『流れ流れて形となり、我が友を助けたまえ』」

味方全員が、液体金属によって極めて高度に強化される。
形勢の不利を悟った虚無の竜は狂乱状態に突入、まさに最終局面だ。

156 :ティターニア :2018/11/19(月) 21:40:42.04 ID:J0epgkVB.net
『……もはや再構築などどうでも良い、全てを無に帰してやる。
プログラム”World End《セカイノオワリ》”を実行。発動までの推定所要時間――20秒。
滅び去った数多の世界よ、我に力を貸せ!』

虚無の竜が世界を渡る力を持つとすれば、異なる世界から力を借りることも可能なのだろう。
自らが今までに滅ぼしてきた世界の絶望や憎しみを糧に、全てを虚無に帰そうとしている。
ならばこちらは、これから守るべき世界の力を借りるまでだ。

「させるものか! ――”Linked Horizon”《繋がる地平》!
ここでそなたを取り逃がせば……また無数の世界が犠牲になる!」

女神のような竜装をまとったティターニアの背に浮かび上がるは、世界樹ユグドラシルの幻影。
その枝は数多の世界を象徴しているとも言われている。
虚無の竜に対抗し、こちらも無数の平行世界から力の供給を受けられる状態としたのだ。
ティターニアは虚空を仰ぎ見て訴えかけた。まるで、この戦いを外から見ている誰かに語り掛けるように。

「だから……名も知れぬ世界の者顔も知らぬ達よ――力を貸してくれ!
ほんの少し、我らの勝利を願ってくれるだけでいい……!」

一人一人の想いはほんの微々たるものでも、積もり積もれば膨大な力となる。
滅び去った世界の絶望が勝るか、生きている世界の希望が勝るか――最後の大勝負だ。

「いけるぞ! 皆、全力で一斉攻撃だ――!!」

ティターニアはそう叫ぶと自らも杖を振り下ろし、呪文を唱えた。

「――Star Memories《星の記憶》!」

それは歴代の大地の指輪の勇者の誰かが習得していたのであろう、隕石の魔法。
星界より召喚されし無数の流星が降り注ぎ虚無の竜を討つ。

【残り15秒! 数多の世界の希望の力を借りて総員全力攻撃で倒せ!
今回ちょっとメタネタが入ってるのでROMの方は応援メッセージを書いたら拾ってもらえるかも!?】

157 :創る名無しに見る名無し:2018/11/22(木) 07:19:39.00 ID:kIwydMSe.net
ティターニアさんジャンさん、ずっと応援してきましたので
一気にやっちゃってください

もう充分盛り上がってきたので一気に〆ちゃってエンディングにいきましょう!

158 :創る名無しに見る名無し:2018/11/24(土) 20:27:53.44 ID:jJxFrK0p.net
がんばれー

159 : :2018/11/25(日) 07:38:55.61 ID:UmQanbCY.net
今回ちょっと、月曜の夜とか火曜日にまで投下が遅れてしまいそうです。すみません

160 :創る名無しに見る名無し:2018/11/25(日) 22:18:27.09 ID:fAODcXcq.net
このまま終わるのも名残おしいよね
ぜひ雑談とか名無しの質問に答えるとか対談的とかをやって欲しい!

161 :シャルム:2018/11/26(月) 17:59:35.66 ID:ZJsFwVvD.net
大変言いにくいのですが、テキストエディタがクラッシュして今まで書いてた分が丸ごと消し飛びました。
明日中になんとか書き直そうとは思っていますが、
もしかしたら水曜日まで遅れてしまうかもしれません。本当に申し訳ないです・・・

162 :ティターニア@時空の狭間 :2018/11/26(月) 18:23:02.85 ID:6/OP1mfX.net
おお、応援メッセージ来てる!

>160
アルダガ殿(スレイブ殿)の気が変わらなければまだ本編クリア後の裏ボス戦があるはず!

>161
ご愁傷様としか言いようがない……。さては虚無の竜の妨害をくらったか……!

163 :創る名無しに見る名無し:2018/11/27(火) 15:34:51.92 ID:Xu1My8II.net
まあ、締めちゃって、それから後日談や質問コーナーでいいよ

164 :創る名無しに見る名無し:2018/11/28(水) 00:31:07.10 ID:hmS9NfzV.net
ドラリンが終わったところでお前のスレには誰も来ないぞクソフト

165 :創る名無しに見る名無し:2018/11/28(水) 03:12:07.46 ID:6Wr6DZVh.net
>>157
露骨に二人だけハブってるこのレスを応援メッセージ扱いするのはどうかと思う

166 : :2018/11/28(水) 18:06:45.98 ID:v7P50/4Z.net
>『……もはや再構築などどうでも良い、全てを無に帰してやる。
プログラム”World End《セカイノオワリ》”を実行。発動までの推定所要時間――20秒。
滅び去った数多の世界よ、我に力を貸せ!』

虚無の竜を中心として、爆発的な魔力が放出される。
魔力は金属の床を削り……いえ、消失させながら、私達へと迫ってくる。
恐ろしく濃密な虚無の魔力。

……奴の操る再構築とは、つまり虚無の魔法と、それ以外の魔法の複合発動でした。
虚無の力によって対象の性質を消し去り、然る後に任意の性質を上書きする……。
それはすなわち、魔力を分割する必要があったという事です。

ですが……ここに至ってとうとう、虚無の竜はそれをやめた。
全ての力を虚無の魔法のみに注ぎ、私達を消し去ろうとしている。
私達の肉体や指環の再利用を諦めた。この戦いによって利益を得る事を放棄したんだ。
要するに……奴は今、正真正銘に追い込まれているという事!

>「させるものか! ――”Linked Horizon”《繋がる地平》!
 ここでそなたを取り逃がせば……また無数の世界が犠牲になる!」

ティターニアさんの顕現した世界樹の幻影から力が流れ込んでくる。

>「だから……名も知れぬ世界の者顔も知らぬ達よ――力を貸してくれ!
 ほんの少し、我らの勝利を願ってくれるだけでいい……!」

……この世界の外側から、力を借りる?
この土壇場で、そんな奇跡級の魔法を発動させるなんて……。
もう暫くは、あなたを先生と呼ぶのはやめられそうにありませんね。
まぁ、それはさておき……

>「いけるぞ! 皆、全力で一斉攻撃だ――!!」

「ええ!ここが正念場ですよ!決めてやりましょう!」

>「――Star Memories《星の記憶》!」

「猛る大地、怒れる炎。払い除けよ、無間の波濤。嵐よ運べ、永久の空漠。
 光よ抱擁せよ、そして塗り潰せ。闇の顎よ、食い千切れ、されど吐き捨てよ。
 万象一切が汝を拒む――『アイソレーション』」

虚無の竜の周囲、削り取られた金属の床が眩く赤熱し、爆ぜる。
溢れ出すのは煌々と輝く溶岩……それらは独りでにゴーレムへと変貌し、軍隊のように進撃していく。
その足跡からは蛇竜のごとく炎が燃え上がり、その炎が今度は風を……無数の刃のような嵐を生む。
そして炎と風、その熱と冷気が雨を……降り注ぐ矢のような雨を呼ぶ。

これはただの属性魔法ではありません。
全の指環の力をフルに活かした、極小規模の天地創造。
世界そのものを攻撃としてぶつけているんです。

降り注ぐ隕石と、私の万象魔法が……虚無の竜が放つ魔力と衝突し、相殺しあう。
ですがその拮抗は長くは続きませんでした。
私達の魔法が徐々に、しかし確実に、虚無の魔力を押し返していく。

「今です!」

私が叫ぶと同時、皆が可能な限りの攻撃を繰り出す。

167 : :2018/11/28(水) 18:07:01.42 ID:v7P50/4Z.net
『……敵性存在の能力が向上。計測によると……私の力を、上回っています。
 あり得ません。計測機器のエラーチェック……エラーは発見出来ませんでした』

虚無の竜はなおも押し返そうと魔力を放出しますが……形勢を覆せません。

『敗北の可能性が急激に上昇中。想定外の現象です。私はあらゆる面において指環の勇者を上回っていたはず。
 なのに何故、このような事が……』

私達が剣を、拳を振るい、魔法を放つ度に虚無の竜の肉体が吹き飛び、削ぎ落とされていく。

168 : :2018/11/28(水) 18:08:18.48 ID:v7P50/4Z.net
『……なる……ほど……これが…………』

そして……ついには完全に、虚無の竜は消滅した。
肉体の全てを吹き飛ばされて、跡形もなく消え去った。
……私は感極まって、気づけば皆さんへと振り返っていました。

「やった……!やりましたよ!私達が勝ったんです!
 虚無の竜の肉体も精神も完全に破壊しました……!これでもう二度と、奴は……」
                  
      
  

     
   
 
   
  
『――いいえ、まだです。私はまだ負けていません』

不意に、私の背後から聞こえた声。
……心臓を鷲掴みにされたかのような悪寒を覚えながらも、私は弾かれたようにそちらへ振り返りました。
姿は……見えない。だけど……間違いなく、まだそこにいる。
あの一斉攻撃を一体、どうやって耐えて……。

『私は分かっていました。私が不完全な状態にある――つまり故障している事が。
 その私が再構築する世界さえもが、不完全な状態になってしまっていた事も。
ですが壊れた私には、それを正しく修復する事が出来なかった』

……私達は完全に虚無の竜を見失っている。
にもかかわらず、奴が攻撃を仕掛けてくる気配はない……。
受けたダメージが大きくて、攻撃に転じられないのか。
それとも……反撃の準備をしているだけなのか……。

169 : :2018/11/28(水) 18:09:38.17 ID:v7P50/4Z.net
いずれにせよ……どちらであってもいいように、備えをしなくては。
水の魔力で索敵網を展開しつつ、皆さんに障壁を配る。
全の指環で創造した、極小の世界による盾……文字通りの結界。
例えいかなる攻撃であっても防げないなんて事はあり得ない。

『――だから私には、あなた達が必要だった。私を完全に破壊し得るヒト達が』

私がそう考えた直後でした。
ついさっきまで虚無の竜がいた場所から、膨大な魔力が放たれたのは。
それは波紋のように広がって……その瞬間、周囲の無機質な金属の床が、白く染まる。
魔力の波動に巻き上げられて舞い散るのは……白い、花びら。

……その幻想的な光景が、私に与えたのは、戦慄でした。
なんて素早い……それに、大規模な再構築。
この戦場一帯を、一瞬の内に塗り替えた……?
いえ、それどころか……私の展開した結界さえも……。

『私が今までに経験した事のない、未曾有の危機に陥れば――私はそれを乗り越える為に自らを再構築出来る。
 それだけが、私が、私の故障を修理し得る唯一の可能性でした。そしてその仮定は正しかった』

あり得ない。
例え虚無の竜が生きていたとしても、あれほどの攻撃を受けた後で、そんな大規模な術式を起動出来る訳が……。

『演算は終了――検証は成就しました。所要時間は57秒。感謝します、指環の勇者達よ。
 あなた達が答えを教えてくれたから――私は最後の再構築を3秒縮める事が出来た』

……花畑へと塗り替えられた戦場の中心。
虚無の竜がいたはずのその場所だけは、今もまだ金属の床が残っている。
そこだけが切り抜かれた今なら、見える。
床に刻み込まれた戦闘の余波。その傷跡の中に……液体金属が沈んでいる事が。

全て掻き集めても水瓶ひとつ分にも満たないような、ほんの僅かな液体金属。
それらが細い細い糸を上へと伸ばす。
糸は繭のように、ヒトの形を編み上げていく。

『そう。あなた達が見せてくれた力……運命を捻じ曲げ、引き寄せ、不可能を可能にする力。
 私はそれをこう定義しました。愛と、勇気。またそれらを生み出す源。すなわち――』

ジャンソンさん、ティターニアさん、ディクショナルさん……そして私を模した人型を。

『――戦術プログラム『心』の実装が完了しました。戦闘を続行します』

「……心?心ですって?……あり得ない。そんなもの、創り出せる訳が……」

どれだけ優れていても、虚無の竜はゴーレムです。
心だなんて……そんなものを創り出せる訳がない。
私達人間にだって、それを完全に理解する事は出来ないのに。

……違う。今はそんな事で動揺している場合じゃない。
四体に分裂した虚無の竜。その内の魔術師型……
私とティターニアさんを模した二体が、杖と拳銃を体の前で交差させる。

『――Linked Horizon』

『フォーカス・マイディア』

二体の魔力が急激に跳ね上がる。
それと同時に、交差された杖と銃の先端から魔法陣が広がっていく。

170 : :2018/11/28(水) 18:10:37.88 ID:v7P50/4Z.net
『繋がる地平に……見ていて、愛しいヒト。と言ったところでしょうか。
 ただの戦闘スキルに、想いを込めた名を付ける。
 そうする事で、戦闘の中でも自分の最も大切な気持ちを忘れずにいる事が出来る』

ただの魔法陣じゃない。平面の円では収まりきらない膨大な術式が、球体と化して膨らんでいく。
……天体魔法陣。記されていくのは……先程と同じ、再構築の術式。

『それがあなた達の勇気を、愛を奮い立たせる。。
 今の私にはその事が理解出来ます。そして、故に私もこの魔法に名前を付けましょう。
 私は、私が護るべきだった世界を甦らせる。必ず。その想いを込めて――』

171 : :2018/11/28(水) 18:13:18.35 ID:v7P50/4Z.net
今度こそ、私達を塗り潰すつもり……。
いえ……それどころかたった一度の魔法で、この世界ごと塗り替えようとしている……?

『――Hello World(新世界へ)と』

……今の奴になら、それが出来ても不思議じゃない。
だけどそんな事、させる訳にはいかない!

私はフォーカス・マイディアを発動して、手中に魔導拳銃を作り出す。
私が一番慣れ親しんだ魔法。故に発動は刹那の内に完了する。
そのまま銃身へと魔力を流し……

『――そうはさせないぞ』

しかし放たれた銃弾を、ディクショナルさんそっくりの……剣士型が弾き飛ばす。
不足した質量を無理矢理引き伸ばして形成した、透けて見えるほどの薄い刃。
あんなもので私の魔導拳銃を防げるはずがないのに……。
少なくとも肉体の質量がたったあれだけでは、銃弾の慣性を受けて吹き飛ばされてしまうはず。
それすらも堪えて、踏み留まって……。
……心の力。敵に回すと……なんて、理不尽な……。

剣士型と、ジャンソンさんを模した戦士型。
二体の虚無の竜が、後衛を守るように一歩前に出る。

『悪いが、彼女達に手を出す事は俺が許さない。……なにを驚いているんだ?
 アンタになら分かるだろう。俺達が残り僅かな質量を分けあってまで、何故四つの肉体を作ったのか』

『俺達はコイツらに攻撃は通さねえ。何があろうと、どんな目に遭おうともだ』

『そして私達はそれを信じ、ただ術式を組み上げる。自分の身を守る事など、考えもしない』

『つまり――この戦術は愛と勇気、心の力を最大限活用出来るという訳だ。ふふふ、画期的だろう?』

……こうしている間にも、魔法陣は膨張していく。
流暢な語り口。決して防ぎ得ないはずの一撃を跳ね除け、物理法則すらねじ伏せて。
それに、会話を時間稼ぎに用いる、ラテさんが見せたヒュミントの応用。
認めざるを得ません。確かに虚無の竜は、心を構築してのけたのでしょう。
……ですがだとしても、その術式を完成させる訳にはいかない!

全の指環を強く握りしめ、術式を構築する。
もう一度『アイソレーション』を食らわせてやるんです。
どれだけ性能が跳ね上がっていたとしても、たった二体の前衛では、私の大規模魔法を防げない。

大地が、炎が、風が、水が。
四つの属性が創り出した極小の世界が、砲弾と化して虚無の竜へと襲いかかる。
剣と盾とその拳で、防げるものなら防いで……

『――ムカデの王よ』

……瞬間、私達の目の前に巨大な炎が渦を巻く。
炎によって模られた、フィリアさんの従えるムカデの王が。
巨大な炎の城塞が、私のアイソレーションを受け止め、逆に包み込んで押し潰す。

更に……不意に、私の視界に黒い閃きが走りました。炎を目眩ましにした斬撃。
私は咄嗟に障壁を張って……しかし直後に響く、破砕音。
漆黒の刃が私の結界に食い込んで……仰け反った私の喉を薙ぐ。

強烈な痛みに、私は反射的に自分の喉を抑える。
思わず膝をつきながらも治癒の魔法を用いるも……闇属性の刃で切られたせいで、効きが悪い。

172 : :2018/11/28(水) 18:13:54.95 ID:v7P50/4Z.net
『あら、失礼しましたの。実は「俺達」だけじゃなくて「わたくし達」もいますのよ。
 ……確か、嘘ってのはこうやって吐くんでしたよね?』

剣士型の虚無の竜が、フィリアさん、ハムステルさん、トランキルさんの姿へと変化して……また剣士型へと戻る。

『もう分かっただろう。再構築は完了したんだ。アンタ達では俺達には勝てない。
 諦めろ。これ以上、アンタ達をいたぶるのは――心が痛む』

173 : :2018/11/28(水) 18:16:25.81 ID:v7P50/4Z.net
私は強く首を左右に振る。
確かに奴は私達全員の力を再現出来て、しかも今度はそれを効率的に運用するようになった。
……状況は極めて不利と言わざるを得ません。
だけど……まだ、最悪ではない。
虚無の竜は……嘘を吐いている。

……私の銃弾は剣で弾き、大規模魔法はムカデの障壁で受け止めた。
それはつまり……虚無の竜は今、本当に精神論で持ち堪えているという事。

でなければ術式構築が終わるまでずっとムカデの王を壁にしていればいい。
それをしないのは……恐らくは、それでは一点突破を試みられた時に、十分な防御力を確保出来ないから。
肉体の九割以上を吹き飛ばされたんです。十分な機能が発揮出来る方がおかしい。
……それでもあれほどの術式を構築出来るのは、恐ろしい事ですが……。

「……私は……後回しに……もう一度……奴を……」

治療の不完全な喉から、声を絞り出す。
追い詰められているのは、私達じゃない。依然として奴の方です。

『――まぁ、そうなるわな。俺だって今更諦めろって言われて、はいそうですかとは答えねえ。
 なら仕方ねえ……全員、ぶちのめすまでだ!かかってきやがれッ!!』

もう一度……もう一度、一斉攻撃を仕掛ければ……今度こそ奴を、破壊出来るはずです。

【遅くなってすみませんでした!いやもう本当にすみませんでした!

 結局やる事は全力攻撃で変わらないんですけど、でっかいカカシ殴るよりかは相手が動く方がいいかなって。
 あとバグったゴーレムのまま終わらせるのも味気ないかなって】

174 :創る名無しに見る名無し:2018/11/29(木) 12:52:01.40 ID:vHO96DFT.net
きたねえ文章だな

175 :創る名無しに見る名無し:2018/12/01(土) 17:43:25.20 ID:nNnyXMgV.net
だってラテカスだし

176 :スレイブ :2018/12/03(月) 00:04:12.62 ID:G00Sprlt.net
>「ようやく俺もみんなを助けられるって気がするぜ!
 『流れ流れて形となり、我が友を助けたまえ』」
>「させるものか! ――”Linked Horizon”《繋がる地平》!
 ここでそなたを取り逃がせば……また無数の世界が犠牲になる!」

ジャンの水魔法が液体金属の制御を奪い、スレイブ達の武具をより強固なものへと鍛え上げる。
ティターニアの世界の垣根を越えた問いかけに、確かな力で応える者たちが居る。

>万象一切が汝を拒む――『アイソレーション』」

畳み掛けるように発動したシャルムの創造術式が虚無の竜を飲み込み、その巨体を押し潰した。
機は来たれり。スレイブはみたび地を蹴り、ジャンの引き剥がした装甲の下に斬撃を叩き込んでいく。
虚無の竜を構成する液体金属、その大部分が切り離され、活力を失ってただの液だまりと化した。
いける。最終プログラムの実行まで三秒を残して、虚無の竜を打ち倒せる。
言葉を交わさずとも、誰もがそう確信した瞬間だった。

>『――いいえ、まだです。私はまだ負けていません』

嵐のような波状攻撃に完全消滅したはずの虚無の竜。
その声が、何者もない虚空から聞こえてきた。

「馬鹿な……これだけの攻撃に晒されて、耐えられるわけが……」

同時に、一つの違和感。
これまで、虚無の竜の声……『音声』は、抑揚のない無機質なものだった。
一時は誘導プログラムとやらで感情の籠もった声を発していたが、それは欺瞞に過ぎない。
しかし、今この場に響く声は、あたかも『同じ生物』であるかのような、声。

躯体と制御機構の殆どを破壊された虚無の竜が、代わりになにかを得た。
それはあまりに荒唐無稽で、口に出してしまえば随分と陳腐なもの。
だが、虚無の竜に致命的に欠けていて、だからこそ指環の勇者が勝りうる唯一の希望だったもの。

>『――戦術プログラム『心』の実装が完了しました。戦闘を続行します』

>「……心?心ですって?……あり得ない。そんなもの、創り出せる訳が……」

シャルムの動揺が、いやに耳朶に強く響いた。
如何なる錬金術や魔術の深奥に至ろうとも、『心』の創造など為し得た者は一人としていない。
捉えようのない抽象的な概念であるし、そもそも作り出すまでもなく生き物であれば誰もが持ちうるものだからだ。

最後の60秒で、虚無の竜が創り出そうとしていたもの。
それは、スレイブ達にとってわざわざ創り出す必要などないもので。
――そして虚無の竜には、それこそが必要だった。

177 :スレイブ :2018/12/03(月) 00:04:35.48 ID:G00Sprlt.net
>『演算は終了――検証は成就しました。所要時間は57秒。感謝します、指環の勇者達よ。
 あなた達が答えを教えてくれたから――私は最後の再構築を3秒縮める事が出来た』

「心理誘導ではない、純粋な『感謝』……か。こんな皮肉があってたまるか」

欠け落ちていた最後のピース、心を取り戻した虚無の竜。
"彼"は、ティターニアとシャルムの奥義とも言うべき魔法をいとも容易くその身に再現していく。
生まれ出たのは4つの影。ジャンと、ティターニアと、シャルムと……スレイブ。
それぞれを模した、虚無の竜達だ。

>『それがあなた達の勇気を、愛を奮い立たせる。。
 今の私にはその事が理解出来ます。そして、故に私もこの魔法に名前を付けましょう。
 私は、私が護るべきだった世界を甦らせる。必ず。その想いを込めて――』
>『――Hello World(新世界へ)と』

カウントダウンは終わりを告げ、世界の再構成が、始まった。
少しずつ、しかし確かに塗り替えられつつある世界。
どうにか阻止せんとシャルムが魔導拳銃を放つが、弾丸が虚無の竜に届くことはない。
液体金属が形づくった『スレイブ』が、本物よろしく弾を剣で弾き飛ばしたのだ。

>『悪いが、彼女達に手を出す事は俺が許さない。……なにを驚いているんだ?
 アンタになら分かるだろう。俺達が残り僅かな質量を分けあってまで、何故四つの肉体を作ったのか』
>『俺達はコイツらに攻撃は通さねえ。何があろうと、どんな目に遭おうともだ』
>『そして私達はそれを信じ、ただ術式を組み上げる。自分の身を守る事など、考えもしない』
>『つまり――この戦術は愛と勇気、心の力を最大限活用出来るという訳だ。ふふふ、画期的だろう?』


虚無の竜の戦術プログラムは、これを以て完成した。
これまで行っていた、指環の勇者単独の模倣ではない。
指環の勇者『達』――それぞれが互いを補い合う役割を持った、『パーティ』を作り上げたのだ。

目に見えるのは4つの影だけだが、内包する"勇者"はそれだけではない。
フィリアの百足を、シノノメの剣を、ラテの欺瞞を代わる代わるに再現し、刃がシャルムの喉を捉えた。

「シアンス……!ティターニア、治療を頼む!」

>「……私は……後回しに……もう一度……奴を……」

シャルムの命にまでは届いていない。しかし、これで詠唱は阻止された。
ここより後ろに退路はない。塗り替えられつつある世界の中で、最後の戦いの火蓋は、静かに切って落とされた。

178 :スレイブ :2018/12/03(月) 00:05:07.66 ID:G00Sprlt.net
>『――まぁ、そうなるわな。俺だって今更諦めろって言われて、はいそうですかとは答えねえ。
 なら仕方ねえ……全員、ぶちのめすまでだ!かかってきやがれッ!!』

スレイブは堪らず怒鳴るように吠えた。

「心があるのなら、お前らにも分かるだろう!俺たちがこの世界を守りたい理由が、その気持ちが!
 心を得てなお、何故立ちはだかる!?貴様はもう、機械的に世界を再構築する装置ではなくなったはずだ!」

『そうしてお主らが守った世界に、我らはいない』

魔術師型の片割れが、返答のようにそう零した。

『純粋な生存競争ですよ、ディクショナルさん。私達は心を得て、装置としての大義を失い――
 プログラムの基盤には、願いだけが残りました。私達はこの世界を、私達の望む姿に変えたい。
 それは、貴方達指環の勇者がここまで旅をしてきた理由と、そう遠くはないでしょう?』

それに、と魔術師型は言葉を繋いだ。

『願いはもう一つあります。私達は世界の再構築を、何度も失敗してきました。
 幾度となく、様々な要因で、正確に世界を再現することができませんでした。
 その度に演算処理機構の内部に蓄積されてきたエラーの正体が、心を得た今ならば理解できます』

それは、プログラムには組み込まれていなかった感情。

『――うまくいかなくて、悔しい。今度こそ、成功させたい。それが、私達の今の望みです』

「……だったら、もう問答は無用だな。俺も、俺の望みを言おう」

敵は心を、信念を杖にしてみたび立ち上がった。
その意志に、その執念に、応えられるのはやはり心だけだろう。

「俺は、俺が殺してきた者達が守りたかったものを守る。彼らを英雄にするために、世界を救う。
 どちらが望む世界を掴むことが出来るか……勝負だ、虚無の竜」

言葉を皮切りに、スレイブは跳んだ。詠唱を続ける魔術師型目掛けて矢の如く疾走する。
剣士型が機敏に反応し、剣を抜き放って迎え撃った。

『彼女達に出は出させないと言ったはずだ』

「言うだけなら誰にでもできる。成し遂げてみろ」

『無論――ですの』

剣士型の輪郭がぶれ、虫精を模した姿へと変わった。
虫精型が両腕を百足へと変じさせ、両側からスレイブを拘束せんと迫る。

179 :スレイブ :2018/12/03(月) 00:05:29.66 ID:G00Sprlt.net
「……任せた!」

スレイブは、誰ともなしにそう呼びかけた。
それだけで良い。それで、仲間にはすべての意図が伝わる。
防御を考えなくても良いのは、虚無の竜達の専売特許ではない。
百足を掻い潜ると、既に虫精型は再び形を変え、闇を宿した刃を肉体から生やした――魔族型が待ち構えていた。

「その剣技は何度も見ている……幼い頃からな」

シノノメの剣を模した斬撃を紙一重で躱せば、もはや魔術師型との間を隔てるものは距離以外に何もない。
間髪入れずに、左手に隠し持っていた長銃で狙いをつけ、魔術師型を銃撃した。
音を切って迫る弾丸は、しかし魔術師型を破壊し得ない。
間一髪で、剣士型が身を挺して割って入ったからだ。

『させるものか……!』

「俺の心を模した貴様なら、必ずそうすると読んでいた。
 ……だから、悪いな。その感情は、利用させてもらう」

スレイブに背を向けるかたちで弾丸を弾いた剣士型に、仮借なく剣を叩き込むスレイブ。
強引にかばったことで体勢を大きく崩した剣士型は、畳み掛けるように打ち込むスレイブの斬撃を受けきれない。
そして、死角から弧を描く短剣バアルフォラスを、防ぐことができなかった。
剣士型の胸部に短剣が深く突き刺さり、魔力を吸い尽くされた液体金属が崩れて散った。


【残り三体】

180 :ジャン :2018/12/04(火) 16:19:19.17 ID:p8sNEMd9.net
>「させるものか! ――”Linked Horizon”《繋がる地平》!
ここでそなたを取り逃がせば……また無数の世界が犠牲になる!」

虚無の竜とティターニア、それぞれが別の世界から力を借りてぶつかり合う。
指環の勇者たちはその好機を見逃すことはなく、それぞれが持った技と力を振り絞って虚無の竜へと叩き込んだ。
液体金属と何かの合金で作り上げられた肉体は液体に塗れた残骸となり、
ジャンが中心部に強烈な正拳を叩き込んだときだ。

>『――いいえ、まだです。私はまだ負けていません』

目の前の残骸ではなく、どこからか指環の勇者たちに聞こえる声。
それは機械的なものではなく、抑揚がついた生物的な声。
つまり、虚無の竜が心を得たことを示していた。

>『――Hello World(新世界へ)と』

そして虚無の竜が作り上げるのは完全な模倣体。
心という最後の部品が込められた、本物とまるで変わらない存在。
当然彼らの実力も、連携も指環の勇者たちのそれと互角。
これ以上の切り札は虚無の竜にもなく、純白の花びらが舞う地平線の中で、
どちらかが生き残るまで終わらない最後の戦いが始まった。

>『――うまくいかなくて、悔しい。今度こそ、成功させたい。それが、私達の今の望みです』

「――それを最初っから言えってんだ!
 難しいことばかり言いやがって、俺の望みはただ一つ!」

ジャンが飛び出ると同時にジャンそっくりの戦士型が飛び出し、互いの固く握りしめられた拳がぶつかる。
お互いに拳を即座に引き、まったく同じタイミングで反対の拳が再びぶつかり合う。

「てめえらをぶちのめし、歴史に名を残し、ご先祖様に恥じない戦いをする!」

『三つあるじゃねえか!』

「欲張りなぐらいでちょうどいいんだよ!」

181 :ジャン :2018/12/04(火) 16:21:18.16 ID:p8sNEMd9.net
ただひたすらに、二人は肉体の全てを使って殴り合う。
既にジャンの竜装は解け、蓄えられた魔力が切れたことで指環の加護はもはやない。
しかし相手の肉体も次第に防具を模した部分が砕け散り、疲労しているかのように動きが鈍くなっていく。
他の仲間や魔術師型からの援護は即座に打ち消し合い、やがて二人だけの殴り合いは速度を落としていった。

「どうした!俺はそんなに鈍った拳は出さねえぞ!」

『てめえ……!ウォォアアアアァァッッ!!』

戦士型が挑発に乗ると見せかけて凄まじい雄叫びと共にウォークライを放ち、
しかし間近でそれを受けたはずのジャンは微動だにせず、相手の顎を狙って強烈なアッパーを繰り出した。
そのウォークライに音量と圧力は確かにあったが、足りないものが二つほどあったのだ。
それはオーク族がウォークライを放つときに、確固たる自信と勇気を与えてくれるもの。

「……先祖も、歴史もない奴の叫びなんざ、重みがねえんだよ」

いつの間にかへし折れた右腕と傷の酷い左足をかばうように歩き、仰向けに倒れた戦士型の肉体へ近づく。
アルマクリスの矛もミスリルハンマーも戦いの最中に使い潰し、花畑のどこかに埋もれてしまった。
だが、この短剣だけは最後まで鞘から抜かなかった。

『聖短剣サクラメント……何故それを使わなかった?』

「こいつはアルダガから借りてるからな。俺との戦いに使うのはよくねえ」

革の鞘から抜き放ったそれは真っ白な空間においても輝きを失うことはなく、
例え液体金属でもたやすく貫くことだろう。

「お前も、これは真似なかっただろ?矛とハンマーは真似たくせによ」

『……最後までお前が使わなかったからだ。情報のない武器は模倣できねえんだよ』

「じゃあ、さよならだ。
 あの世にいけるかは知らねえが、お前も戦士だった。次に生まれ変わった時にはまともでいてくれ」

あらゆる守りを貫く短剣が戦士型の喉元を貫き、それを切っ掛けにしてその肉体を構成する液体金属がただの水たまりに戻っていく。
やがて宙を舞う花びらが視界を覆い、再び開けた頃には戦士型の痕跡は跡形もなかった。

「……さて、随分離れちまったが……聞こえてくる音からしてあいつらはあっちかね」

常に白い花びらが舞い続けるこの不思議な戦場は、距離や方位の感覚を曖昧なものとする。
傷ついた身体を引きずるように、ジャンは己に残る力を振り絞って歩き続けた。


【残り二体】

182 :ティターニア@時空の狭間 :2018/12/04(火) 20:52:52.34 ID:qRvhDs6U.net
この感じだと一人一体ずつなのかなとも思いつつも
すでに前のシャルム殿の時点であと一ターンという話だったのもあるので我で終わらせてしまっても良いだろうか
前のターンを書いた時はずっと我らのターンでシンプルにぶっ飛ばして終わり!を想定していたのだが
折角シャルム殿がバグったゴーレムでなくしてくれたのでこの際普通にぶちのめす以外のやり方もいいかな、と

183 :ティターニア@時空の狭間 :2018/12/04(火) 21:05:23.63 ID:qRvhDs6U.net
それか折角だから自分の模倣体を倒す描写をやりたい、等あれば順番入れ替わって先に行ってもらうのもアリ!

184 :しゃるむ :2018/12/04(火) 22:31:36.95 ID:3LIswlkw.net
>折角シャルム殿がバグったゴーレムでなくしてくれたのでこの際普通にぶちのめす以外のやり方もいいかな、と

ティターニアさんならきっとそう言うと思ってましたよ
お任せします。きれいに締めくくって下さい

185 :ティターニア@時空の狭間 :2018/12/04(火) 23:37:46.32 ID:qRvhDs6U.net
かたじけない
少し立て込んでて投下は日曜日ぐらいになりそうだが期限には間に合うと思う

186 :創る名無しに見る名無し:2018/12/05(水) 13:11:12.18 ID:uPgqRKL4.net
俺もそれでいいと思う。
サクッと上手に締めちゃって!
期待してるで!

187 :創る名無しに見る名無し:2018/12/06(木) 11:43:11.64 ID:4vH2hX2k.net
ティタがどんな風に決めてくれるのか楽しみだ

188 :ティターニア :2018/12/09(日) 22:49:33.32 ID:jsKw3HF0.net
>「猛る大地、怒れる炎。払い除けよ、無間の波濤。嵐よ運べ、永久の空漠。
 光よ抱擁せよ、そして塗り潰せ。闇の顎よ、食い千切れ、されど吐き捨てよ。
 万象一切が汝を拒む――『アイソレーション』」

隕石での猛攻を仕掛けるティターニアに、シャルムが万象の魔法で加勢する。
そしてシャルムは、力の拮抗が崩れこちらが上回った瞬間を見計らい、皆に合図を出した。

>「今です!」

総員の各々が持つ限りの最強攻撃が一斉に炸裂した。

>『……敵性存在の能力が向上。計測によると……私の力を、上回っています。
 あり得ません。計測機器のエラーチェック……エラーは発見出来ませんでした』
>『敗北の可能性が急激に上昇中。想定外の現象です。私はあらゆる面において指環の勇者を上回っていたはず。
 なのに何故、このような事が……』
>『……なる……ほど……これが…………』

虚無の竜が跡形も無く消え去るのを確かに見届けたシャルムが皆の方に振りかえり、歓喜の声をあげる。

>「やった……!やりましたよ!私達が勝ったんです!
 虚無の竜の肉体も精神も完全に破壊しました……!これでもう二度と、奴は……」

「ああ、やったな……!
ちなみにそこを”やったか!?”と疑問形にしたら相手生存フラグだから気を付けよう!」

ティターニアも勝利を確信し、軽口を叩いている矢先だった。

>『――いいえ、まだです。私はまだ負けていません』

虚空から声が聞こえてきた。
流石にこれには、疑問形にしなかったのに何故!?等という余裕もなく、絶句するばかり。

>『私は分かっていました。私が不完全な状態にある――つまり故障している事が。
 その私が再構築する世界さえもが、不完全な状態になってしまっていた事も。
ですが壊れた私には、それを正しく修復する事が出来なかった』
>『――だから私には、あなた達が必要だった。私を完全に破壊し得るヒト達が』

相変わらず相手は姿を見せないが、戦闘フィールドが塗り替わる。
それは緊迫した戦いの場には不釣り合いとも思える、白い花びらに覆われた世界。

>『私が今までに経験した事のない、未曾有の危機に陥れば――私はそれを乗り越える為に自らを再構築出来る。
 それだけが、私が、私の故障を修理し得る唯一の可能性でした。そしてその仮定は正しかった』
>『演算は終了――検証は成就しました。所要時間は57秒。感謝します、指環の勇者達よ。
 あなた達が答えを教えてくれたから――私は最後の再構築を3秒縮める事が出来た』

ほんの僅かな液体金属がヒトの形を成し、ついに相手が姿を現す。
それも、一体ではない――ジャン、ティターニア、スレイブ、シャルムを模した四体。

189 :ティターニア :2018/12/09(日) 22:50:46.71 ID:jsKw3HF0.net
>『そう。あなた達が見せてくれた力……運命を捻じ曲げ、引き寄せ、不可能を可能にする力。
 私はそれをこう定義しました。愛と、勇気。またそれらを生み出す源。すなわち――』
>『――戦術プログラム『心』の実装が完了しました。戦闘を続行します』

>『――Linked Horizon』
>『フォーカス・マイディア』

ティターニアとシャルムを完璧に模した魔法で自らの力を増強し、虚無の竜がやろうとしているのは――

>『――Hello World(新世界へ)と』

この世界を塗り替え、遥かな昔自らが守れなかった世界を再び再現すること。

>『それがあなた達の勇気を、愛を奮い立たせる。。
 今の私にはその事が理解出来ます。そして、故に私もこの魔法に名前を付けましょう。
 私は、私が護るべきだった世界を甦らせる。必ず。その想いを込めて――』
>『――Hello World(新世界へ)と』

シャルムが放った弾丸はスレイブ型に阻止され、シャルムは負けじと大規模魔法での妨害を試みる。
しかしスレイブ型はフィリアやラテ、シノノメの姿へと次々と変化し、シャルムに闇の刃での一撃をくらわせた。

>「シアンス……!ティターニア、治療を頼む!」

>「……私は……後回しに……もう一度……奴を……」

「治療は任せろ! ティターニア、考えるんだ……最善の策を!」

ジュリアンが指輪をかかげ、セシリアがシャルムの治療にあたる。

>『――まぁ、そうなるわな。俺だって今更諦めろって言われて、はいそうですかとは答えねえ。
 なら仕方ねえ……全員、ぶちのめすまでだ!かかってきやがれッ!!』
>「心があるのなら、お前らにも分かるだろう!俺たちがこの世界を守りたい理由が、その気持ちが!
 心を得てなお、何故立ちはだかる!?貴様はもう、機械的に世界を再構築する装置ではなくなったはずだ!」
>『そうしてお主らが守った世界に、我らはいない』
>『純粋な生存競争ですよ、ディクショナルさん。私達は心を得て、装置としての大義を失い――
 プログラムの基盤には、願いだけが残りました。私達はこの世界を、私達の望む姿に変えたい。
 それは、貴方達指環の勇者がここまで旅をしてきた理由と、そう遠くはないでしょう?』
>『願いはもう一つあります。私達は世界の再構築を、何度も失敗してきました。
 幾度となく、様々な要因で、正確に世界を再現することができませんでした。
 その度に演算処理機構の内部に蓄積されてきたエラーの正体が、心を得た今ならば理解できます』
>『――うまくいかなくて、悔しい。今度こそ、成功させたい。それが、私達の今の望みです』

190 :ティターニア :2018/12/09(日) 22:52:43.78 ID:jsKw3HF0.net
>「……だったら、もう問答は無用だな。俺も、俺の望みを言おう」
>「俺は、俺が殺してきた者達が守りたかったものを守る。彼らを英雄にするために、世界を救う。
 どちらが望む世界を掴むことが出来るか……勝負だ、虚無の竜」

>「――それを最初っから言えってんだ!
 難しいことばかり言いやがって、俺の望みはただ一つ!」
>「てめえらをぶちのめし、歴史に名を残し、ご先祖様に恥じない戦いをする!」
>『三つあるじゃねえか!』
>「欲張りなぐらいでちょうどいいんだよ!」

スレイブとジャンが、それぞれ自らを模倣した虚無の竜と戦い始める。
すなわち、魔術師型達――ティターニア型とシャルム型直接対峙できる状態となった。
ティターニア型は杖をつきつけ、不敵な笑みを浮かべて挑発してきた。

『さぁどうする? 我らもあやつらのようにやるか?』

「それも良いが……一つ聞かせてもらってよいか?」

ティターニアは、スレイブと虚無の竜の問答を聞いていて浮かんだ素朴な疑問を口にした。

「そなたら、世界を渡る力があるのだろう?
折角再構築できるようになったなら……滅び去った自らの世界に帰って再構築すればいいのではないのか?
何故この世界を塗り替える必要がある?」

シャルム型がその理由を的確に答える。

『……別にこの世界である必要はありません。
ただ、滅び去った世界は、枯れた枝が木から落ちるように朽ち果てて消える……。
私達が元いた世界も例外ではありませんでした』

「そんな……」

旧世界が残っていたのはおそらく、全の竜とパンドラの分体が残り、守っていたからなのだろう。
旧世界はこれからアルバートが吸収した全の竜の力を使い再建するのだから、明け渡すわけにはいかない。
再構築の素体となる世界はどこでもいいらしいので、全く関係ない他の世界に放逐すれば、
この世界はとりあえず平和を取り戻すだろう。しかし――

――がんばれ
――ずっと応援してきました

先程微かに聞こえてきた気がした声。
それを聞いてしまった今、破滅の運命を他の世界に押し付けるなど出来るわけがない。
ティターニアは戦う覚悟を決めるため、念押しのように問うた。

「ではそなたらの願いを叶えるには、既存の世界を塗り替えるしか方法はないということだな……?」

191 :ティターニア :2018/12/09(日) 22:54:28.44 ID:jsKw3HF0.net
『――いや、一つだけ方法はある』

ティターニア型はまるでその質問を待ってましたとばかりに、意外な答えを返した。

『女神パンゲアが新世界の神となった経緯は知っておるな? あれと似たようなものだ』

大体の意味を理解しティターニアが唖然としている間にも、シャルム型が容赦なく補足する。

『不完全ながらも私達は結果的にこの世界の創造を担った――確かに私達には世界創造の力があります。
でも、新たな世界の創造には、強い魔力を持つ者が魂を捧げる必要がある。
そしてティターニアさん、あなたほどの魔力があれば……』

自らが魂を捧げれば全てがうまくいく―― それを聞いて、一瞬逡巡するティターニア。
そして、ゆっくりとかぶりを振った。

「少し買いかぶり過ぎだぞ? 我を模倣しておるなら分かるだろう? 生憎崇高な自己犠牲の精神など持ってはおらぬ。
今までに一度だって命を引換えに何かを成そうとしたことなどない。
そう見えたのだとすれば……少しばかり仲間を信じすぎていたり無謀無鉄砲だったりするのかもしれぬな」

アルダガと生きて再会する約束があるし、ジャンを助手にしてもいいとか言ったような言わなかったような気もする。
とにかく、新世界の女神になどなっている場合ではないのだ。
ティターニア型は、ティターニアがそう答えるのは想定内だったようで動じる様子もなく、しかし何かを確信しているかのように続きを待つ。
するとティターニアがもう一度口を開いた。

「前の時とは勝手が違って殆ど役に立てなかったけど……私が一緒に来たのはこのためだったのですね」

そして、ティターニアの体から、まるで幽体離脱のように彼女そっくりの幻影が歩み出る。

「先代……!?」

「良いのです。私はとうに死んでいる存在なのだから。
あなたと一緒に生きられて楽しかった。皇帝殿とあの人によろしく伝えてね」

先代ティターニアはティターニアを抱きしめると、虚無の竜達の方に歩み寄っていき、並び立つ。

『交渉成立――だな』

虚無の竜達が一体に集まり、美しい白銀の竜の姿になる。

192 :ティターニア :2018/12/09(日) 22:56:17.96 ID:jsKw3HF0.net
「待て! 何が交渉成立だ……! 何で先代が生贄に……」

抵抗するティターニアに、先代がコテコテの西方大陸語で喝を入れる。

「まだまだ修行が足らんで! そこは”死んでるのに生贄って何やねん”!やろ!」

「笑えぬぞ、たわけ……!」

先代ティターニアは白銀の竜に腰掛け、悪戯っぽく笑う。

「そんなに悲しい顔しないで。さっき聞こえたのでしょう?他の世界の声。
全ては繋がっているのだから。
それに……新世界の女神なんてなかなかなれるもんじゃないですしね!」

「なるからには……今度こそそいつが失敗せぬようにちゃんと見守るのだぞ……!」

「はいはい、言われなくても!」

こうして、一つの世界が始まりを告げる――
虚無とは何もないこと――これから全てが始まるのだ。
虚無の竜は、新たな世界でははじまりの竜とでも呼ばれるのだろうか。
妖精女王の名を持つ女神と、かつて虚無と呼ばれた竜が作り出す世界の物語は、またどこか別の場所で語られることになるのかもしれない。
やがて白銀の竜から眩い光があふれ出し、何も見えなくなった。
次に視界が開けた時には、虚無の竜は跡形も無く消え去り、何事もなかったかのように元の世界に戻っていることだろう。

【思わせぶりなことを書いたが特に新しい世界を舞台にした新スレを自ら予定してるとかではない。
――が、もし参加者とか読者のどなたかが新企画を始める時に
お遊び要素程度にその世界が舞台という裏設定でやってもらうのも面白いだろう。
最後どこに戻るか決めて無いが普通に戦っていた場所に戻っても
イグニス山脈中腹あたりに戻ってもなんならカバンコウまで送還されてもOK】

193 :創る名無しに見る名無し:2018/12/10(月) 22:53:36.21 ID:2shXYV48.net
GJ!
ついに締めたな
カバンコウは夜遊びの街だからな
シティアドベンチャーもいいな

でもティターニアは引退しちゃうポン‥?

194 :ティターニア@時空の狭間 :2018/12/11(火) 00:41:53.14 ID:fbBCiMZ3.net
>193
ありがとう!
ひとまずエンディングみたいなターンをやってあとはアルダガ殿次第で本編クリア後の決闘編、のような流れを考えておるぞ
誤解を与えたようだが特に引退を考えているというわけではない
自分主導で姉妹編を始める予定は今のところないというだけでもし誰かがやるならしれっと参加することはあるかも

195 :創る名無しに見る名無し:2018/12/12(水) 00:54:42.52 ID:vSmxwWvI.net
てぇか
真面目になろうあたりで一旗揚げてほしいと思ってる

196 :創る名無しに見る名無し:2018/12/12(水) 06:50:03.90 ID:PCbbd0ub.net
本腰入れて投降するとなるとマジ大変だけどな
中世ファンタジー枠はあふれてるからよほど面白くないと…

197 :創る名無しに見る名無し:2018/12/12(水) 15:19:07.25 ID:vSmxwWvI.net
>>196
ここで燻って独裁者の玩具にされるよりは建設的

198 : :2018/12/13(木) 04:33:10.73 ID:YJ3/5WmX.net
 
 
 
真っ白な花畑の中、虚無の竜が強い光の中に消えていく。
……虚無の竜の姿が薄れるほど、光はより一層眩さを増していきます。
私は両目を腕で覆い、目を閉じる。

……瞼の向こう側でふと光が消えたのが分かる。
それと同時に感じる、風の音と感触。
腕を下ろして目を開いてみると……私達はいつの間にか、イグニス山脈の山頂にいました。
周囲を見回せば、あの白く不気味な街並みがまるで雪が溶けるかのように、本来の姿……ただの山肌へと戻っていくのが見えます。

視線を前に戻す。
見えるのは、ティターニアさんの背中。
……本当に良かったんですか、とは聞けません。
それはつまり、あれは本当は良くない結末だったんじゃないかと、そう言っているのと同じだからです。
そんな苦い余韻を、この物語には残したくありません。

「まったく……全て元通りにして去っていくなんて、気が利かないですね。
 彼らの世界の未知の技術……少しくらい残していってくれれば良かったものを。
 魔力を伴わないのでは、流石の私も解析のしようがありまんでしたからね」

私は努めていつも通りの声音でそう言いました。

「あれほどの技術が未来永劫、どこか遠くの次元の彼方に消えてしまうだなんて、勿体なすぎます。
 ……軍用魔法の開発にはもう飽きました。次は……世界を渡る魔法の開発研究でも、してみましょうかね」

そう、彼らの物語に相応しいのは、きっとこんな台詞です。
私はティターニアさんの隣に立って、にやりと笑うと、彼女の顔を覗き込むように見上げる。

「ティターニアさんも、どうです?フィールドワークという名の国外旅行も楽しいんでしょうけど。
 たまには真面目な研究をしてみるのも、悪くないかもしれませんよ」

……それから私は、山坂の下の方へと視線を向ける。
ローレンス卿やダグラス学長……あのアンノウンの群れを食い止めていた皆さんが、こちらへと登ってきています。

「……私、もう結構へとへとなんですけど、まさかこのまま祝勝会に洒落込もうだなんて言いませんよね?」

そう言うと私は……ディクショナルさんへと振り向きました。
そして彼のすぐ傍まで歩み寄ると、背伸びをして、左手を彼の右肩に。

「ご存知ないかもしれませんが……高位の魔法というものは、魔力は勿論ですが……頭脳が消耗するんです。
 術式構築に脳を酷使しますからね。つまり……濫用すると、とても眠くなるんですよ」

右手は自分の口元に当てて……

「……私がもし寝てしまったら、その時はちゃんと介抱して下さいよ」

小さくそう囁いて、私はそのままディクショナルさんに寄りかかりました。
……へとへとに疲れているのも、眠くて堪らないのも、嘘じゃありません。
だからこれは、こうなっても何も不思議じゃない、自然な事です。



【ひとまずお疲れ様でした!
 転移位置はカバンコウまで戻ってしまうと手助けしてくれた彼らが置き去りになってしまうので、山頂辺りにしておきました】

199 :創る名無しに見る名無し:2018/12/14(金) 08:37:19.65 ID:6U+uc7Df.net
お前TRPG舐めてるだろ

200 :スレイブ:2018/12/16(日) 15:04:31.79 ID:rFvykASH.net
【すみません、時間が取れずターン超過しそうなので次の土日までお待ちを】

201 :ティターニア@時空の狭間 :2018/12/16(日) 16:38:57.51 ID:nMUs47QR.net
今回はまとめターンで多分少々順番変わっても問題ないと思うので来週まで無理なのが確実でもしまだ手付かずの状態なら
特にジャン殿にネタを振る予定などなければジャン殿がいけそうなら先に行って貰うのも手だと思う!

202 :スレイブ:2018/12/16(日) 20:18:04.69 ID:vOB86tZm.net
【確かにそうですね 週末まで無理そうなのはほぼ確定なので、よろしければお先にお願いします】

203 :ジャン :2018/12/16(日) 23:29:12.68 ID:+i7kgA4q.net
【了解しました、それでは先にやらせていただきますね!】

204 :ジャン :2018/12/17(月) 20:49:14.78 ID:TuaEYYNB.net
白一色の花畑を歩き続ける中、辺りを包む光の向こうにぼんやりと巨大な生物の輪郭が浮かび上がる。
ジャンは思わず身構えたが、その生物がこちらに首をもたげて小さく口を開けたかと思うと
花びらの中に溶け消えていく。それと同時に彼の視界が眩い光に包まれた。

「……っと、ここは……山の頂上か。
 全部……終わらせたんだな。ティターニア」

奇妙な建物が真っ白な粉に分解されて消え去り、イグニス山脈に吹きつける風に巻き上げられてふわりと散っていく。
火山に雪が降り積もる中で、傷だらけのジャンは静かに佇むティターニアへと近づいた。
そしてひょいと抱き上げて左肩に乗せ、山を登ってくる連合軍へ指環の勇者たちが健在であることを示す。

「見ろ!ティターニアは立派にやり遂げたぜ!
 虚無の竜は二度とこの世界に現れない!俺たちの……勝利だ!」

連合軍から湧き上がる歓声を聞きながら、肩に担いだティターニアを地面に優しく降ろす。
やがてジャンも身体に溜まった疲労を吐き出すように、地面に大の字になって転がった。

>「……私、もう結構へとへとなんですけど、まさかこのまま祝勝会に洒落込もうだなんて言いませんよね?」

シャルムのその言葉に、ジャンも同意するように大きく頷いた。
身体は傷つき、突入から休みなく戦い続けたことで緊張しきった肉体が解れて力が抜けきっている。
白い粉が舞い散る中、雲一つない青空を眺めてジャンはつぶやいた。

「……さすがにもう、動けないけどよ。
 起きたら……ティターニア、護衛について……話したい……
 あと……スレイブ……おめでとう……」

さらに続きを喋ろうとしたところで、ジャンもまた小さな寝息を立てて眠り込んだ。
もしかしたら連合軍の誰かにすぐさま起こされるかもしれないが、
今はただ、彼は眠っていたかったのだ。

【長い間お疲れさまでした。
 予想以上の長編でしたが、無事に完結できてとても嬉しいです。
 でもエピローグはまだ続くのかな……?】

205 :ティターニア@時空の狭間 :2018/12/17(月) 21:05:55.82 ID:2s1X6hWF.net
本編クリア後の決闘編をやるかどうかはスレイブ殿(アルダガ殿)にお任せするのでやるならアルダガ殿はそれに繋げる感じで前振りを!
読者のご想像にお任せする感じでまとめるならあと1周ぐらいエピローグ的なのを回して終わりかな?
我としてはどちらでもOKだが普通にいけば本編内でやってそうだったところを
新規の来る来る詐欺で潰れてしまったのでやりたい気持ちが残っているなら悔いのないようにやればいいと思う!

206 :創る名無しに見る名無し:2018/12/18(火) 08:02:28.72 ID:Hwtn97kw.net
とりあえずは完結させてから感想戦というか色々議論を交わそう

綺麗な〆を期待してる

207 :ティターニア@時空の狭間 :2018/12/18(火) 19:53:31.91 ID:cXy8Yz2M.net
言われてみればどちらにしろとりあえず本編締めてからやる場合は番外編としてやった方が良さげかも?
というわけでスレイブ殿はいったん普通にエンディングっぽく回してもらっておkだ!
方針変えて申し訳ない!

208 :ティターニア@時空の狭間 :2018/12/18(火) 20:05:25.23 ID:cXy8Yz2M.net
ttps://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1513725381/l50
ttps://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1510061863/l50

それと本スレはまだしばらく番外編で使うかもしれないので早く感想を語り合いたい人はよければこの辺り
スレタイの趣旨とは少し違うがどちらにせよ使われていない廃スレなのでまあ良いだろう

209 :創る名無しに見る名無し:2018/12/21(金) 08:25:07.95 ID:R6VG9p0/.net
いいぞティッタの時代から
やれいけティッタの時代へ

210 :スレイブ :2018/12/23(日) 08:26:28.41 ID:e7xHsFVC.net
夜明けのように白んだ視界が色を取り戻すと、そこはイグニス山脈の頂だった。
山肌を覆い尽くしていた無機質な構造物は嘘のように消え失せ、見渡すばかりの砂礫と僅かな植生。
スレイブは拾い上げた小石の感触を確かめるように手の中で転がしながら、あたりを注意深く見回した。

虚無の竜の姿は、もうここにはない。
幻の如く消え去った旧世界の残像と共に、溶けるように消滅していた。

いま、ここに立つのはスレイブ達指環の勇者。
そして、なにかを見送るように立ちすくむ、ティターニア。

虚無の竜との対話を経て、彼女が何を失ったのか、推し量ることはできない。
半身にも似た、ティターニアの傍らにあったもうひとりの"仲間"。
スレイブ達が誰一人と欠けずにこの世界に帰還できたのは、『彼女』の犠牲があったからだ。

「ティターニア……」

その欠落に、その喪失に、スレイブは語るべき言葉を持たない。
きっと何を言ったところで、失われたものを埋めることなどできないだろう。
スレイブが踏み出せなかった一歩。それを臆すことなく刻んだのは、ジャンだった。

>「見ろ!ティターニアは立派にやり遂げたぜ!
 虚無の竜は二度とこの世界に現れない!俺たちの……勝利だ!」

万感の想いを込めて鬨の声を上げるジャンを見て、心の奥にあった重苦しい澱が霧散していくのを感じた。

「……そうだな。まずはこの勝利を、世界を救った俺たちの凱旋を、噛み締めよう」

差し迫った世界の危機はこれで回避することができた。
しかし、何もかもが解決したわけじゃない。
帝国元老院は再び指環を手にせんと暗躍を開始するだろうし、三国間の緊張は未だ続いたままだ。
それらすべての災いを取り除くには、ヒトの寿命はあまりにも短すぎる。
だが、何も全部指環の勇者が手を尽くさねばならないというわけでもないはずだ。

虚無の竜の世界再構築に頼らなくたって、ヒトは自分たちの世界を導いていける。
人類の可能性は、たった今彼らが証明したばかりだ。

>「あれほどの技術が未来永劫、どこか遠くの次元の彼方に消えてしまうだなんて、勿体なすぎます。
 ……軍用魔法の開発にはもう飽きました。次は……世界を渡る魔法の開発研究でも、してみましょうかね」
>「ティターニアさんも、どうです?フィールドワークという名の国外旅行も楽しいんでしょうけど。
 たまには真面目な研究をしてみるのも、悪くないかもしれませんよ」

「次、か。俺たちには次がある。限りのない未来を、勝ち取ったんだ」

211 :スレイブ :2018/12/23(日) 08:26:52.32 ID:e7xHsFVC.net
明日を迎えるということが、今はこんなにも尊い。
どこへ行こうか、何をしようか、そんな風に語り合うのは、きっと何よりも楽しいだろう。

「俺は、何をしようか……。
 今更ダーマの王宮に立てる義理もないが、あれでも俺の祖国には違いない。
 帝国の土産を山ほど持って、郷里を尋ねるというのも良いかもな」

ダーマと帝国は現在、事実上の冷戦状態にある。
しかし戦争というのは、言ってしまえば利害関係のひとつの終着点だ。
どちらか一方を殺し尽くすことでしか終わらない戦争もあれば、そうでない戦争もある。
戦う理由をひとつひとつ解消していけば、いつかは友好的な国交を築けると……今ならそう信じられる。
そしてそれは、国内におけるヒトと魔族の対立においても同様だ。

「時間はかかるかもしれないが、俺はダーマという国を、内側から変えてみせる」

奇しくも諸国遊学の体となったスレイブの旅路は、ダーマの国政にきっと良い影響を与えられるはずだ。
高度な軍事体制をもった帝国や、先進技術を保有するハイランドとのコネクション。
その二つを両輪にして、魔族頼りのダーマを変えられると、今のスレイブは疑いもなくそう感じていた。

それに、旧世界の英雄達との"約束"もある。
城壁山脈の半ばで斃れ、雪に埋もれるままになっているザイドリッツの亡骸も、ちゃんと弔ってやらねばなるまい。
長く険しい道程になるだろうが、今は彼の時代とは違う。飛空艇なら、そう時間をかけずに亡骸を探し出せるはずだ。

>「……私、もう結構へとへとなんですけど、まさかこのまま祝勝会に洒落込もうだなんて言いませんよね?」

斜面の下から駆け上ってくる連合軍の一団を眺めて、シャルムはそう呟いた。
言葉とは裏腹に、どこか楽しげな口調だ。

>「ご存知ないかもしれませんが……高位の魔法というものは、魔力は勿論ですが……頭脳が消耗するんです。
 術式構築に脳を酷使しますからね。つまり……濫用すると、とても眠くなるんですよ」

「お、おい……もうあと一踏ん張りだろう、起きていてくれ。
 祝勝会をするにしても、主役の一人が眠っているんじゃ片手落ちだ」

しかしシャルムは我関せずとばかりにスレイブの肩へ寄りかかる。
そして、耳元で囁いた。

>「……私がもし寝てしまったら、その時はちゃんと介抱して下さいよ」

「なっ……!」

身体を預けてきたシャルムの体重が、体温が、いやにはっきりと感じられて、スレイブは泡を食った。
ジャンがなにを忖度したのか、生暖かい目でこちらを見やる。

212 :スレイブ :2018/12/23(日) 08:27:07.11 ID:e7xHsFVC.net
>「……さすがにもう、動けないけどよ。起きたら……ティターニア、護衛について……話したい……
 あと……スレイブ……おめでとう……」

「何がだ!?」

何について祝われたのか判然としないまま、シャルムは黙ってしまった。
もはや問答は無粋と、そういうことなのだろうか。

「……まあ、確かに。疲弊した身体で無理をするよりも、俺が支えたほうが安全だな。合理的だ。
 ただ、引き換えと言ってはなんだが、俺の頼みも聞いてくれないか」

もたれかかるシャルムの肩を、スレイブは浅く抱く。
固定しておいたほうが倒れ込むリスクを減らせるという極めて非常に大変合理的な判断によるものだ。

「俺には政治も、技術的なことも分からない。
 ダーマを変えたい想いはあるが、具体的にどうすべきか見当がつかない。
 だから、シアンス。大陸で一番の魔法使いである貴女に、知恵を貸してほしい」

指環の中で静かに聖ティターニアを見送っていたウェントゥスが、急に顔を出してスレイブの脇腹を小突いた。

『ちゅうのは建前も良いとこで、ホントは自分の国に連れて行きたいだけじゃろお主』

「ち、違っ、そんなつもりは……」

『ないんか?』

「ないことも、ないが……。
 いや、この期に及んで無粋な言い訳は必要ないな。
 多少の私情も、我儘も、許されるだけのことを、俺たちは成し遂げたはずだ。
 俺は開き直るぞシアンス。合理性など後からついてくれば良い」

再び囃し立てる指環の中身を黙らせて、スレイブは生まれて初めて、我を通した。

「俺がダーマに帰るときは……一緒に着いてきてくれるか?」


【エピローグ】
【二年半に渡る大長編、本当にお疲れ様でした!いろんな話がやれてすごく楽しかったです!
 そしてすみません!最後にアルダガ戦を番外編としてやるつもりでしたが、当時とはリアルの事情が変わってしまいました
 どんな戦いがあり、どんな結果を迎えたかについては、なにとぞご想像にお任せさせてください!】

213 :ティターニア :2018/12/24(月) 20:01:16.91 ID:V30TM15U.net
眩い光の中、ティターニアは一人取り残されており、目の前に宙空にクリスタルのようなものが浮かんでいた。
以前虚無の竜の魂が封印されていたものとよく似ているな、等と思っていると、虚無の竜の声が聞こえてきた。

『指輪を全て集めたらどんな願いでも叶う――そういう触れ込みで旅をしてきたんだろう?
ヘタった全の竜の代わりといったら何だけど置き土産にそれをあげよう。
それは新たな世界が創造された時の副産物――
君達の世界が出来た時のものは我が魂を封印するのに使われていたようだけどね。
どんな願いでも叶う……それが本来の力さ。ただし叶う願いは一つだけだ。
それと、規模が大きい願いほど叶うには時間がかかる。
例えば……人一人生き返らせるぐらいならすぐにでも叶う。
だけど世界規模のことなんて願ったら……何千年、もしかしたら何万年かかるかもしれないね』

「そんな重要なことを我一人で決めるわけには……」

『今君がこの場で使ってしまうのを強くお勧めするよ。
そんなものを持ち帰って存在が公になったらそれこそ今の世界じゃ大戦争にしかならないからね』

内心では、叶えたい願いは端から決まっていた。
しかし、たった一つだけの権利を、独断でいつ叶うか分からない事に使ってしまっていいのだろうか。
永遠に近い寿命を持つエルフである自分なら、もしかしたら願いの成就に立ち会えるかもしれない。
しかし、人間をはじめとする定命の存在達は、それを見ることなく死んでいくのだ。
そんな彼らにとっては叶わぬに等しい願いよりも、今すぐに叶えたい切迫した願いを持つ者がたくさんいる。
例えば――失った大切な者を生き返らせたいとか。

『おっとしまった、一人送還し忘れていたようだ』

どこかわざとらしい虚無の竜の声が聞こえて振り返ってみると、ジュリアンも同じ空間に取り残されていた。

「ジュリアン殿……願いはそなたが。どうしても生き返らせたい者がいるだろう?
我の願いは……願ったところでいつ叶うか分からぬ。定命の者達にとっては何の恩恵も無いに等しい願いだからな」

しかし、ジュリアンはゆっくりとかぶりを振った。

「そうしたいのは山々だが……残念ながらアイツはそれを望まない。
貴様と同じことを願うだろうさ――だから、アイツの願いを叶えてやってくれ」

「……分かった」

ティターニアは覚悟を決めたようにクリスタルに手を伸ばし、願いを紡いだ。

「我が願いは――」

*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*・*:.。. .。.:*・*☆*

214 :ティターニア :2018/12/24(月) 20:03:11.44 ID:V30TM15U.net
気が付くと、何事もなかったかのようにイグニス山脈の山頂にいた。
先程のは夢だったのではないか、とすら思う。

>「ティターニア……」

>「……っと、ここは……山の頂上か。
 全部……終わらせたんだな。ティターニア」

>「まったく……全て元通りにして去っていくなんて、気が利かないですね。
 彼らの世界の未知の技術……少しくらい残していってくれれば良かったものを。
 魔力を伴わないのでは、流石の私も解析のしようがありまんでしたからね」

「”本当ですねぇ、気が利かない竜ちゃんには後で怒っときますよ。
それと私は犠牲などではありませんよ。むしろ昇進です、昇進!
なんてったって新世界の女神――永遠の存在になれたのですからね!” ……なんてな!
先代ならきっとこう言うだろうな」

皆が気を使っているのを察し、先代の口調を真似ておどけてみせる。
先代ティターニアは去っていったはずだが、その記憶は知識という形で残っている。
ということはやはり、先代の魂そのものが憑依していたということだろうか。
今となっては考えても詮無きことだ。

「しかし……先代が作る世界が見られないのは少し残念ではあるな」

>「あれほどの技術が未来永劫、どこか遠くの次元の彼方に消えてしまうだなんて、勿体なすぎます。
 ……軍用魔法の開発にはもう飽きました。次は……世界を渡る魔法の開発研究でも、してみましょうかね」

「――それだ!」

>「ティターニアさんも、どうです?フィールドワークという名の国外旅行も楽しいんでしょうけど。
 たまには真面目な研究をしてみるのも、悪くないかもしれませんよ」

ティターニアの瞳は少女のように輝いていた。

「開発に成功した暁には見に行けるな!
あやつらに出来ていたということは不可能ではないはずだ……!」

そうしている間に、アンノウン達を食い止めていた連合軍がこちらへ向かってくる。
不意に体が浮かび上がる。ジャンに軽々と持ち上げられ左肩に乗せられたのだ。

「突然何を!?」

>「見ろ!ティターニアは立派にやり遂げたぜ!
 虚無の竜は二度とこの世界に現れない!俺たちの……勝利だ!」

指輪の勇者軍代表として担ぎ上げることで勝利を示した、ということだろう。
ティターニアが地面に降ろされると、今度はシャルムとスレイブが盛り上がり(?)始めた。

215 :ティターニア :2018/12/24(月) 20:09:21.82 ID:V30TM15U.net
>「……私、もう結構へとへとなんですけど、まさかこのまま祝勝会に洒落込もうだなんて言いませんよね?」
>「ご存知ないかもしれませんが……高位の魔法というものは、魔力は勿論ですが……頭脳が消耗するんです。
 術式構築に脳を酷使しますからね。つまり……濫用すると、とても眠くなるんですよ」

彼女の言うことは、満更スレイブに寄りかかりたいだけの口実ではない。
膨大な魔力を持つティターニアですら疲弊しているのに、人の身のシャルムはいかほどのものか。
人間とエルフの厳然たる種族の壁を技術の力で埋め、彼女はティターニアに並び立つ――もしかしたら超える活躍を見せた。
改めて、末恐ろしい娘だとしみじみ思う。

>「お、おい……もうあと一踏ん張りだろう、起きていてくれ。
 祝勝会をするにしても、主役の一人が眠っているんじゃ片手落ちだ」
>「……私がもし寝てしまったら、その時はちゃんと介抱して下さいよ」
>「なっ……!」

追い詰められたスレイブに、寝転がったジャンがさりげなく追い打ちをかける。

>「……さすがにもう、動けないけどよ。
 起きたら……ティターニア、護衛について……話したい……
 あと……スレイブ……おめでとう……」

>「何がだ!?」

「ああ、我の護衛を続けたいということか?
もちろん、護衛どころか助手にしても良いと思っておる……ってもう寝ておるのか」

スレイブのツッコミもティターニアの商談も聞かぬまま、ジャンは言い逃げで寝てしまった。

>「……まあ、確かに。疲弊した身体で無理をするよりも、俺が支えたほうが安全だな。合理的だ。
 ただ、引き換えと言ってはなんだが、俺の頼みも聞いてくれないか」
>「俺には政治も、技術的なことも分からない。
 ダーマを変えたい想いはあるが、具体的にどうすべきか見当がつかない。
 だから、シアンス。大陸で一番の魔法使いである貴女に、知恵を貸してほしい」

スレイブは追い詰められて覚悟を決めたというべきか開き直ったというべきか、
ウェントゥスに茶化されたりしつつも、ついに決定的な台詞を言った。

>「俺がダーマに帰るときは……一緒に着いてきてくれるか?」

「後のことは心配するな、帝国の主席魔術師には俺が元の鞘におさまればいい」

シャルムの返事も聞かぬまま、ジュリアンが勝手に気を効かせる。
そんな皆の様子を見て、テッラがこっそりと言った。

『ダーマと帝国の融和の第一歩――もしかしたら、早速願いが叶いはじめているのかもしれませんね』

「少し効果が出るのが早すぎはしまいか? でも……そうだな、そうだといいな」

ティターニアが願った願い――それは、とてつもなくシンプルで、きっと誰もが望んでいて
だけど、叶うのに永劫に近い長い時間がかかると言われたら、きっと誰も願わないであろう願い――“永遠の世界平和”。

216 :ティターニア@時空の狭間 :2018/12/24(月) 20:14:58.40 ID:V30TM15U.net
皆ひとまずお疲れ様!
スレイブ殿、了解だ。少し残念だがリアル事情ということなら仕方があるまい。
一応あと一周回して締め、という形にしようと思うので自分はもう前回ので終わりだよ、
という者はパス宣言を!

217 :創る名無しに見る名無し:2018/12/25(火) 12:11:11.71 ID:5zMoNymU.net
お疲れ様!
すげえ、ついにやってくれたぜ
さすが俺らのティターニア

ティターニアがこの板のTRPGのMVPで
次点がジャンだな

本当良かったぜ

218 : :2018/12/26(水) 15:54:25.26 ID:3JY7CSQc.net
私は……気が向いたら個人的な後日談を落としに来ようかな、って感じですかね
年末は忙しくって……という訳でひとまずはパスで!

219 :ティターニア@時空の狭間 :2018/12/26(水) 20:31:11.39 ID:O7+yEqYN.net
了解だ! スレイブ殿に対する返事を書くかな?とも思ったが敢えてご想像にお任せして余韻を残すのもまた良いと思う!
ジャン殿とスレイブ殿は前のレスで一応完結な雰囲気だろうか
もちろん後で後日談等書いてもらうのは自由なのでいったん締めてしまえば良いかな?

220 :ジャン :2018/12/26(水) 23:00:10.14 ID:wX42B2TO.net
【そうですね、アルダガさんとの戦いはまた別の話ということで】
【締めてもらえればと思います】

221 :スレイブ:2018/12/27(木) 01:38:58.34 ID:vudyr9Vv.net
【異論なしですー】

222 :ティターニア :2018/12/27(木) 21:04:02.02 ID:RkXaCNWy.net
シャルムは一人で立っているのもままならない状況、ジャンは寝てしまった。
ということで、数日間の休息の後、連合軍による盛大な祝勝会が開かれ、その後それぞれの帰る場所へ散っていった。
ケツァクウァトルとクイーンネレイドはそれぞれ元いたシェバトとステラマリスへ。
アルバートは当初の予定通り、全竜の力を吸収した虚無の指輪の力を使って旧世界の復興にあたるらしい。
元々誰もいない遺跡を守っていたベヒモスとフェンリルは、アルバートと共に旧世界に赴き復興の補助をするようだ。
ジュリアンが元通りダーマに帰ったのか、はたまた帝国の主席魔術師に返り咲いたのか――
つまりシャルムがスレイブと共にダーマに渡ったのかは、この場では置いておくことにしておこう。
ティターニアはもちろんひとまずはユグドラシアへ帰ることとなる。
ジャンがティターニアの助手になったのかも、明言はしないこととしておくが
助手に昇格か護衛続行かは分からないが、おそらく何らかの形で雇用続行にはなったのではないだろうか。

*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*・*:.。. .。.:*・*☆*

そうしてひとまず普通に導師生活を続け、数か月たった頃。
戦後処理等が終わって一段落着いたのであろう帝国から一通の手紙が舞い込んできた。
内容は、国家の垣根を越えて指輪の勇者達を称える祝典を開きたいとのことだった。
スレイブ達ダーマにいる者達にも送っているとのこと。

「ティターニア様……大変!
目玉イベントはエーテルの指輪の真の所有権を巡る決闘って……」

「まさか本当にやりおったか! 期待を裏切らぬというか何というか……!」

そう言うティターニアは頭を抱えながらも、どこか嬉しそうだ。

「早速準備にとりかかるのだ! もちろん一緒に行くな?」

「ラジャー!」

いそいそと帝国行きの準備に取り掛かるティターニア。
その瞳は喜びに輝いていた。当然だ、共に世界を救った仲間達にまた会えるのだから。

223 :ティターニア :2018/12/27(木) 21:06:26.51 ID:RkXaCNWy.net
――それは、やがて伝説となる物語。
「エーテリア」と呼ばれるこの異世界では、古来より魔の力が見出され、人と人ならざる者達が、その覇権をかけて終わらない争いを繰り広げていた。
中央大陸に最大版図を誇るのは、強大な軍事力と最新鋭の技術力を持ったヴィルトリア帝国。
西方大陸とその周辺諸島を領土とし、亜人種も含めた、多様な人々が住まうハイランド連邦共和国。
しかし――その三国から集った指輪の勇者達が力を合わせて戦い、滅びの運命を打ち砕いた。
その者達の名は――

神樹の巫女ティターニア
激流の騎士ジャン
光刃の斥候ラテ
紅焔の妖精王女フィリア
烈風の魔剣士スレイブ
闇黒の執刀者シノノメ
星辰の魔女シャルム
光輝の魔術師ジュリアン
女神の使徒アルダガ

その後待っていたのは……さして今までと変わらぬ日々。
この物語の結末は――最初に提示された3つのうちのどれとも少し違っていた。
もちろん破滅などではなく、すぐにすぐの救済でもなく、目立った変革というわけでもなく――
ただ、長い旅路の終わりに、たった一つだけ叶うことを約された願いがある。
いつになるかは分からないけれど、いつか必ず、終わらぬ争いが終わる時代が来る――
だから、この物語の結末を敢えて一言で表すとすれば――“希望”――そう表現することとしよう。

――THE END――

224 :ティターニア :2018/12/27(木) 21:07:34.85 ID:RkXaCNWy.net
https://img.atwikiimg.com/www65.atwiki.jp/dragonsring/pub/LEGEND%20OF%20AETHERIA%EF%BD%9E%E6%8C%87%E8%BC%AA%E3%81%AE%E5%8B%87%E8%80%85%E3%81%AE%E4%BC%9D%E8%AA%AC%EF%BD%9E.mp3

LEGEND OF AETHERIA〜指輪の勇者の伝説〜

燃え盛る炎の山で 古の都の扉開き
世界の真実解き明かす 冒険の旅が始まる

激流に道が分かたれても尚突き進む 壮大な夢を胸に
海精の女王に導かれ 青く光る指輪に手を伸ばした

深き大地の底にて 忘れらる都の扉開き
残酷な世界に抗う 挑戦の旅が始まる

激風が行く手を阻んでも尚突き進む 揺らがぬ決意を胸に
意思を持つ魔剣に導かれ 差し出された手を掴み返した

深い闇の中立ち尽くす 進むことも退くこともできずに
踏み出す勇気を持てたのは 大切な仲間ができたから

絶望の未来に抗いて今立ち向かう 偽りの希望の化身に
光と化した聖女に導かれ 全ての始まりの地へ至る道は開かれる

滅びゆく運命(さだめ)打ち砕いた  竜と指輪と勇者の物語は
果てしなく続く星の記憶に 永遠(とわ)に刻まれ伝説となる――

225 :ティターニア@時空の狭間 :2018/12/27(木) 21:44:48.78 ID:RkXaCNWy.net
――というわけで遂に完結! 皆本当にありがとう、お疲れ様!
最後皆に適当に二つ名を付けたが気に入らなかったら済まない!
思えば最初に参加した時はスレ主もういないのでは?と思いながらの半分冷やかしだった。
それがこんなに大長編になろうとは!
スレが立っていなければ今こうしている事もなかったわけで見ておるかも分からぬがきっかけをくれたアルバート殿、感謝しておるぞ。

最初からずっと一緒に旅をしてくれたジャン殿、ありがとう!
途中で3人一気に抜けた時にはどうなる事かと思ったが続けられたのはジャン殿が残ってくれたおかげだ!
シャルム殿とスレイブ殿は素晴らしく話を広げてくれて感謝している!
我は最初から参加して物語の骨子に関わってはいたけど
自分の担当部分はぶっちゃけス〇ウェア系列のRPGあるあるネタを繋ぎ合わせただけなので
↓この辺
・各属性の場所を巡って各属性のキーアイテムを集める
・各属性のドラゴン登場
・序盤の宿敵が中盤でデレて味方化、新たな敵が登場
・中盤で飛空艇が手に入る
・虚無のラスボス
自分だけに任されていたらあんまり話が広がらなかっただろうな〜と
それがこんなにいろんなエピソードが出来たのは皆のおかげだ!

それとスレイブ殿は中ボスからの味方化という我の大好物の王道展開をやってくれたな!
アルダガ殿としては2章のボスと旧世界編では一人二役で本当によく頑張ってくれたと思う。
シャルム殿は一人四役も指輪の勇者という重要な役をやってくれたわけだが
ラテ殿は一時はどうなることかと思ったがちゃんと立ち直ってくれて各キャラそれぞれエピソードがまとまってて凄いと思った!

もう見てるか分からないが3章と4章のボスを務めてくれたミライユ殿とノーキン殿、ありがとう!
短期とはいえその章のGMのようなポジション、本当に大変だったと思う!
ミライユ殿の出した指輪の魔女はその後の話に大きく関わることになったし
ノーキン殿が指輪を7つという設定を出して結果的にすごく話が広がることになって
二人とも短期とはいえすごく重要ポジションだったな、と改めて思う!

一応締めはしたが気が向いたら後日談等、自由に書いてやってほしい!
その際我に関しては小説の登場人物のように動かしてもらって一向に構わない!
アルダガ殿ももし決闘を書きたくなったら是非!
それかもし気が変わってTRPG形式でやりたくなったら声をかけてもらえればいつでもお相手しよう!
しばらくこのスレは定期的に覗くと思うので。

226 :創る名無しに見る名無し:2018/12/29(土) 10:48:36.91 ID:MqSIvYsB.net
年が終わる前に完結!
本当にめでたい…めでたい…

ありがとうティターニア!

227 :ティターニア@時空の狭間 :2019/01/01(火) 17:26:02.14 ID:O1hVPdzO.net
あけおめ
>226さん、最後まで読んでくれてこちらこそありがとう
少し前に>208のように言ったが番外編無しでひとまず完結とのことなので
もし後日談を書きたくなった時に書く容量が無くならない程度に感想等自由に書いてもらっても大丈夫だ
(※とはいえもちろん誹謗中傷個人批判の類は除く)

228 :創る名無しに見る名無し:2019/01/15(火) 06:38:57.51 ID:lz40q32R.net
902 名前:名無しさん@ゴーゴーゴーゴー! [sage] :2019/01/13(日) 16:34:59.54 ID:1fHvoPgJ
コテハン同士で対談とかやらないかなぁ


904 名前:名無しさん@ゴーゴーゴーゴー! [sage] :2019/01/13(日) 20:19:18.03 ID:1fHvoPgJ
もう終わったから無理だろうけどドラリン組かな
誰と誰でもいいけど設定考えるコツとか展開のコツとかききたい

肥溜めの発案だけどこんなのどう?

229 :ティターニア@時空の狭間 :2019/01/15(火) 23:14:51.82 ID:gDcUvyJz.net
展開のコツというか後から振り返ってみるとGM無しのスレの完走確率を上げる手法として使えそうなのが一つ

最初にいきなり竜の指輪が手に入りそうな流れになってしまったので
こりゃいかん話が終わってしまうと思って「実は指輪は一つじゃない!」という展開にしてしまったのだけど
思い返せばあれが結果オーライだったな、とすごく思う
あの後結果的に特定のGM無しで複数人で進めていくタイプのスレへ移行したけど
特にその形式の場合、最初にとりあえずの大まかな話の流れの共通認識を作ってしまうと
どう展開させたらいいか分からずにスレが止まってしまうリスクがかなり減らせるんだな、と今回思った
それがこのスレの場合各地に散らばる竜の指輪を集めていって最終的に古竜をどうにかすることだったわけだ
それでいざ終わってみると途中色んなエピソードや設定が投入されつつも
すごくざっくりまとめると各属性の指輪を順番に集めていって最後は虚無の竜(古竜の正体の一つ)を倒した、ということで当初の予定通りにいってる

・各地を巡って重要アイテムを集める
・各エリアを支配する強い奴を倒していく
・パワースポット巡礼
・特定の目的地をひたすら目指す

旅モノだとこの辺が王道のバリエーションかな
予定調和的になって予測不可能な展開は出来にくくなる面もあるかもしれないから絶対的にいいとは言えないけど
完走を第一目標にするならいい手法だと思う

230 :創る名無しに見る名無し:2019/01/17(木) 08:08:53.53 ID:s8M18mKY.net
さすが策士にして最大の功労者

231 :創る名無しに見る名無し:2019/01/17(木) 10:20:47.28 ID:ndKRa4Zg.net
ドラリン見てると昔やってたジェンスレを思い出す
話のノリとか各属性の土地に訪れる旅モノな部分とか

232 :創る名無しに見る名無し:2019/01/17(木) 16:55:24.78 ID:mAAtN7+Q.net
まぁジェンスレの参加者2、3人揃ってるでしょこれ
雰囲気似るのも当然っしょ

233 :創る名無しに見る名無し:2019/01/18(金) 01:24:58.38 ID:6JSbTtk+.net
>>232
どう考えてもこじつけ

ティッタの運営力

234 :創る名無しに見る名無し:2019/02/07(木) 08:50:13.84 ID:tJt55Z7t.net
だからジェンスレ自体のメンツが揃ってるからその運営力で雰囲気が似たって話やろ?

235 :創る名無しに見る名無し:2019/02/07(木) 18:29:03.94 ID:w/9TSalq.net
各属性の土地を巡るストーリーの流れに共通点はあるがぶっちゃけ雰囲気は言うほど似てないと思うぞ
序盤はジェンスレほどギャグじゃなく逆に終盤はあっちほど重苦しくない
バトルの傾向もジェンスレはファンタジーでありながら異能バトルみたいな理屈で戦う文章媒体向きの演出が多かったが
こっちはオーソドックスなファンタジーっぽい肉弾戦や大魔法合戦みたいな映像化したらシンプルに映えそうなのが多かった

236 :創る名無しに見る名無し:2019/02/11(月) 19:50:10.99 ID:7hZTZGUp.net
そういやジェンスレってギャグスレだったんだな
ラストバトルとか完全にギャグだったし

237 :創る名無しに見る名無し:2019/02/11(月) 21:15:14.82 ID:7kL+wHJ8.net
中盤までは完全にギャグスレだし終盤にシリアスに転向と見せかけてラストバトルはやっぱりギャグやった
ラスボスの戦略的ウンコ漏らしに全世界ホモビデオ上映で対抗して勝ったんだったか

238 :創る名無しに見る名無し:2019/02/11(月) 22:59:12.16 ID:7hZTZGUp.net
アタマおかしい展開だけどわりと理路整然としててやっぱアタマおかしかった

239 :創る名無しに見る名無し:2019/02/12(火) 16:06:56.76 ID:se9TKqZe.net
あれはギャグと言っていいものなのか…

240 :ジャン ◆9FLiL83HWU :2020/05/08(金) 17:33:49 ID:b3gcgQ5/.net
一年以上経って言うのも今更なんですが、敵になりがちなオークという種族で最後までメインやれたのはとても嬉しく思います。
色々大変な状況ですが、またどこかで皆さんとお会いできればと思っています!

241 :ティターニア :2020/05/09(土) 01:50:34.09 ID:biun98i/.net
予感が働いたのか知らないが何の気無しに開いてみたらまさかの懐かしい顔が!
ここを完走した時にはまさか約1年後にこんなご時世になるとは思っていなかったが……元気そうで何よりだ。
主役級ポジションのオーク、新鮮で良かったな
版権物では滅多にお目にかかれないような設定や展開に出会えるのもTRPGの面白いところの一つだと思っている
またどこかでご一緒できることを願っておるぞ

242 :創る名無しに見る名無し:2020/08/25(火) 15:24:54.62 ID:r+vSgoII.net
【王道ファンタジー】ホワイトクロス騎士団【TRPG】
https://mao.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1492273663/

243 :創る名無しに見る名無し:2022/05/17(火) 20:32:22.07 ID:dbBRz4mu.net
https://i.imgur.com/0rygPLc.jpg
https://i.imgur.com/Sparneu.jpg
https://i.imgur.com/N8Kd6X1.jpg
https://i.imgur.com/HfXhUc6.jpg
https://i.imgur.com/ZcOdq8O.jpg
https://i.imgur.com/RkW7I7b.jpg

244 :創る名無しに見る名無し:2023/01/20(金) 00:00:50.50 ID:2xcblIuD.net
ものすごく今更だけどこの世界観でもう一回誰かの冒険を見てみたいな

245 :創る名無しに見る名無し:2023/01/20(金) 11:22:28.15 ID:4yEX/ReY.net
わかる
ケレン味のない真っ当なファンタジーですごい好きだった
ある意味なな板trpgの総決算みたいなスレだった

246 :創る名無しに見る名無し:2023/07/13(木) 07:48:54.50 ID:W7ecGhFj/
民間航空騷音集団訴訟の機運が高まってるが.騒音に繋か゛るものは全部反対して徹底攻撃.航空機を阻害するものは全部擁護の姿勢か゛大切な
反対〕全航空機、全公務員.少子化対策,自閉隊.米軍駐留、曰米同盟,観光文化芸術等への支援.スポ−ツ.万博、自民公明、銃刀法
賛成)人□減少,遷都.日本列島縦断クソ航空機姦国との國交断絶,航空機撃墜,金正恩のミサヰ儿,習近平の気球,環境活動家の破壞活動
世界最惡の殺人組織公明党国土破壞省の強盜殺人の首魁齋藤鉄夫らテ口リストに乗っ取られたクソ政府が,カによる‐方的な現状変更によって
鉄道のзO倍以上非効率なクソ航空機飛ばしまくって莫大な温室効果カ゛スまき散らして氣侯変動、曰本どころか世界中で災害連発させて大量
殺戮することで私腹を肥やす強盗殺人を繰り返しているわけた゛が,悪の権化みたいなこいつらか゛□シア非難とか寝言は寝て言えって話た゛よな
石油無駄に燃やして工ネ価格から物価にと暴騰させて騷音て゛住民の生活に仕事にと破壊して憲法13条25条29条と違反しまくってる惡質
テロリス├航空関係者個人を迫害したり.バカチョンをハ゛力にして差別したり.ルフィやプ━チンを擁護したり、て゛きることは何て゛もやろう!

創価学會員は,何百萬人も殺傷して損害を与えて私腹を肥やし続けて逮捕者まで出てる世界最悪の殺人腐敗組織公明党を
池田センセーか゛ロをきけて容認するとか本気て゛思ってるとしたら侮辱にもほどか゛あるそ゛!
hТтps://i,imgur.сοm/hnli1ga.jpeg

247 :創る名無しに見る名無し:2023/09/16(土) 11:26:55.51 ID:bOsDjntQ.net
ここのコテハンさんまだいるかな
設定使って続編とか作ってみたいんだけど…

248 :創る名無しに見る名無し:2023/09/19(火) 20:22:11.79 ID:5IgXcWjz.net
ええやん
著作権とかないし全然オッケーでしょ
期待してます

249 :創る名無しに見る名無し:2023/09/19(火) 20:22:42.35 ID:5IgXcWjz.net
ええやん
著作権とかないし全然オッケーでしょ
期待してます

250 :創る名無しに見る名無し:2023/09/19(火) 20:27:22.36 ID:5IgXcWjz.net
ええやん
著作権とかないし全然オッケーでしょ
期待してます

251 :創る名無しに見る名無し:2024/02/22(木) 11:14:21.73 ID:6MI0wnH9y
世界最惡の殺人組織公明党強盜殺人の首魁齊藤鉄夫らテロリス├に乗っ取られた國土破壞省に天下り賄賂癒着しながら莫大な温室効果カ゛スに
騒音にコ口ナにとまき散らして氣侯変動させて日本どころか世界中で土砂崩れに洪水、暴風、熱中症にと災害連發させて大量虐殺
物価暴騰させて住民の生活を破壞して私腹を肥やしてるクソ公務員個人に徹底報復しよう!
東京都港区赤坂2-17-10がクソ議員宿舎なのは有名だか゛「省庁別宿舍−覧表』で検索すれは゛全国の公務員宿舍の位置が容易に確認て゛きるのて゛
拡声器や騒音ハ゛ヰクで乗り付けてフ゛ァンフ゛アンやりに出向いてやろう!もちろんカによるー方的な現状変更によって都心まて゛数珠つなぎで
クソ航空機飛は゛して騷音まみれにして生活に仕事にと公然と妨害してるこいつら利権害虫のことた゛から騷音なんてどうということはないんた゛し
航空騒音に比へ゛れは゛屁みたいな騷音しか出せないだろうが遠慮なく大騷音まき散らしに出向いてやろうぜ!
政府という傘で好き放題やってる公務員には個人攻撃が有効!図書館やらでフ゛ァンブアンやって税金泥棒利権を徹底的に壊滅させるのも正義!
(ref.) ttps://www.call4.jp/info.php?type=items&id=I0000062
ttps://haneda-project.jimdofree.com/ , ttps://flight-route.com/
ttps://n-souonhigaisosyoudan.amebaownd.com/

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