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TRPG系実験室 2
- 1 :創る名無しに見る名無し:2018/09/07(金) 22:56:07.99 ID:c8v0uQxh.net
- TRPG関係であれば自由に使えるスレです
他の話で使用中であっても使えます。何企画同時進行になっても構いません
ここの企画から新スレとして独立するのも自由です
複数企画に参加する場合は企画ごとに別のトリップを使うことをお勧めします。
使用にあたっては混乱を避けるために名前欄の最初に【】でタイトルを付けてください
使用方法(例)
・超短編になりそうなTRPG
・始まるかも分からない実験的TRPG
・新スレを始めたいけどいきなり新スレ建てるのは敷居が高い場合
・SS投下(万が一誰かが乗ってきたらTRPG化するかも?)
・スレ原案だけ放置(誰かがその設定を使ってはじめるかも)
・キャラテンプレだけ放置(誰かに拾われるかも)
- 576 :ダヤン:2021/11/16(火) 01:28:04.19 ID:2l5sG1t3.net
- 二刀流なので、右に避けても左によけてもはさまれてしまう。
そこでジャンプして上に避ける。
着地ついでに蹴りを入れたが、致命的なダメージは無い様子。
それもそのはず、相手は蠍なので固い甲殻に覆われている。
重戦士なら構わず重量級の武器でガンガン叩くのであろうが、ダヤンはスカウト。
そこで、鋏の攻撃を避けながら攻撃後の隙を狙って、甲殻の隙間を狙って斬りつける。
迷彩ゆえに目視では分かりにくいが、脊椎動物でいえば関節――
体の曲がるようになっている部分がそれだ。
そうして攻防が暫く続いた。しかし、脅威なのは、鋏だけではない。
「尻尾に気を付けてください、猛毒です!」
グデーリアンの忠告のとおり、迷彩蠍は尻尾を大きくうねらせて突き刺そうとしてきた。
「にゃ!?」
間一髪で飛び退ると、目の前の床に尻尾の先が突き立てられた。
床の突き刺さった部分からしゅう…と音がして少し溶けている感じがする。
分かりやすく猛毒っぽい。
「にゃわわわわわ……」
ビビりまくっているダヤンだったが、迷彩蠍はそのままぐったりと動かなくなった。
幸いというべきか、断末魔の最後の一撃だったらしい。
「た、助かったにゃ……」
が、安心している場合ではない、グデーリアン達の見立てによると、最初の時点であと4匹はいたのだ。
通常の意味でも犠牲者を出すわけにはいかないのに加えて、
エールを救出してハイペリオンバスターで敵の親玉を倒すことを考えれば猶更、一人たりとも欠けさせるわけにはいかない。
それに、自分を救出するための道中で犠牲者が出たとなれば、エールはとても悲しむだろう。
「こうしちゃいられにゃい。みんにゃー、無事にゃ!?」
即刻、まだ戦っている者の加勢に向かう。
- 577 :エール :2021/11/20(土) 18:44:01.98 ID:G76et4zt.net
- ダヤンが迷彩蠍を倒すのを横目で確認して、ロンメルは考えを改める必要性を感じた。
想像以上に彼の実力を低く見積もっていたと。あの若さでここまで戦えるなら、十分な強さだ。
自分が同じ年齢だった頃にダヤンと同じくらい戦えたかと問われれば、正直微妙なところだ。
成長すればもっと優秀な冒険者になるだろう――ダヤンには無限の伸びしろがある。
そう考えながら、相対する迷彩蠍の鋏と尻尾の毒針による同時攻撃を躱す。
「……これで残り3匹だっ!」
サーベルを巧みに振るって節と節の間を狙い、迷彩蠍の鋏と尻尾を斬り飛ばす。
切断された部位が宙を舞い、攻撃能力を失ったところで顔らしき部位にとどめの突き。
素早く剣を引き抜けば紫色の毒々しい液体が噴き出し、迷彩蠍は風景に同化した身体を体液で染める。
ロンメルは体液で汚れないように後退すると、反転して仲間たちの方へ意識を向ける。
他の『砂漠の狐』の面々は残り3匹を相手に戦闘を繰り広げていた。
目には見えない相手に致命的な攻撃を与えられず、戦闘が長引いている様子。
冒険者達はひとかたまりになって応戦していて、
集団の一番外側にいる冒険者達は各々身を隠せるほどの大きな盾で攻撃を凌いでいる。
盾のサイズからいって迷彩蠍の鋏では挟みずらい。だいたいの攻撃が防げるというわけだ。
>「こうしちゃいられにゃい。みんにゃー、無事にゃ!?」
ちょうどダヤンが加勢にきてくれたので、冒険者の一人がそれに応じる。
構えていた大きな盾と迷彩蠍の鋏が擦れて独特の金属音を奏でた。
「全員無事さ!だけどちょっと防戦一方でな……!
俺達が引きつけておくからダヤンは背後に回って攻撃を頼むよ!」
幸運なことに残りの迷彩蠍は全て大きな盾の攻略に夢中だ。
この隙に背後から攻撃を加えることは難しくないだろう。
ちょうど自分を襲った個体を倒したロンメルもフォローに回るようだ。
背後から一撃で倒すため、そろりそろりと残りの迷彩蠍へと近寄っていく。
「よし……ダヤン君、せーので行くぞ……!」
ロンメルが声量を抑えてダヤンに声を掛ける。
迷彩蠍は奇襲されることにも気づかずに一心不乱に盾持ちに攻撃を加えている。
そして時は訪れた。背後から虚を衝く攻撃が迷彩蠍に迫る――!
――――――…………。
ファラオが纏う包帯が触手のようにエールの身体に伸びてくる。
だが動じることなく、ファラオを真正面から見据える。
「例え白かろうが、余が黒といえば黒なのだ。全ては余の意思が優越する。
それが『王』というものだ。エール……カノンが余の妃にならないという未来は『あり得ない』んだよ」
先程まで浮かべていた柔和な表情は消え失せ、殺気を孕んだものに変わっている。
これがファラオの本性なのだろうか。怖くないと言えば嘘だが心は不自然なほど落ち着いている。
銃士という戦闘職としての心構えを叩き込まれているおかげだろう。
「それでも……お姉ちゃんはファラオさんのものにはならないと思う。
お姉ちゃんは優しいけど……誰かを傷つける人も、束縛する人も好きじゃないんです」
- 578 :エール :2021/11/20(土) 18:48:03.74 ID:G76et4zt.net
- 「……なるほどな……だがそればかりは容赦して欲しいな。魔王様には永遠の命を与えてもらった恩がある。
だから無限迷宮を守る役割、それには余とて忠実だよ。冒険者達は排除すべき敵なんだ……」
「ファラオさん。もし……お姉ちゃんが告白を断ったらどうするんですか?」
「先程も言った通り、それはあり得ないよ。そのために君がいるのだから。
だがそれでも断ったとしたら……その時は……『力』で余のものにするしかない」
ファラオはふぅと一息ついて答えた。伸びてきた包帯が逆回しで戻っていく。
いったんは一触即発の雰囲気は落ち着きを取り戻した。思ったことを正直に口にしすぎてしまった。
だがおかげで分かったこともある。やはりファラオはカノンの気持ちなど考慮していない。
紳士ぶっているが、妹という人質を使えば自分の言う通り従うと考えている。それでも無理なら力ずくだ。
そういえば5階で戦ったスケルトンキングは、『闇の欠片』の影響で生前からかけ離れた人格をしていた。
ファラオもまたその欠片を所持している。手段を選ばない暴走した恋心も、欠片の精神汚染の影響かもしれない。
とにかく、カノンのためにもファラオの思い通りにはさせない。
5階では自分が原因でサイフォスを負傷させ、結果として冒険者協会の面々は総崩れとなった。
そしてこの6階ではあろうことか人質になってしまった。このままでは探しているカノンに迷惑をかけてしまう。
これ以上、足を引っ張るのは嫌だ。ダヤンもきっと心配しているだろう。
自力でここから脱出しなくては。奪われた魔導砲も回収する必要がある。
「……世話係、エールを客室まで案内しろ。私も『王の間』で休むことにする」
ファラオはそれだけ告げて部屋を去った。エールもまた世話係のマミー二体に連行される。
客室まで案内されると、すぐさまネグリジェを渡され暗に「今日はとっとと寝ろ」と言われる。
ベッドは天蓋のついたふかふかのベッドで、拠点の宿屋にあるベッドより明らかに高級だ。
「何カアレバスグ仰ッテクダサイ。対応シマスノデ」
エールはネグリジェを脇において、ベッドに腰かけて客室の入り口をちらりと見る。
やはりと言うべきか。世話係のマミー二体がガードを固めて立っている。
「あのぉ〜……マミーさん、私の隊服はないんですか?」
「エール様ノオ召シ物ハ洗濯中デス……ランドリールームニアリマス」
「……マミーさん、私の魔導砲は知りませんか?」
「エエト……アッ……ソノ手ニハ乗リマセンヨ……内緒デス!」
やっぱり引っ掛からなかったか。エールは内心で残念がったが引っ掛かる訳がない。
それにしてもこの客室にいても何も分からない。ならば出たとこ勝負だ。
意を決してマミーにこう話しかけた。
「マミーさん……私、お手洗いに行きたいなぁ。
この部屋って『お手洗い』ないですよね……!?」
こうして世話係マミー二体の案内のもと、お花摘みへと向かうこととなった。
もちろん本当にお手洗いがしたいわけではない。逃げ出す隙を探すための口実だ。
だがやはりと言うべきか、移動時には両脇を固めており容易に逃げ出せないようになっている。
- 579 :エール :2021/11/20(土) 18:52:12.58 ID:G76et4zt.net
- 加えてどこが出口かも分からない。もし世話係を倒して逃げてもですぐ捕まるのがオチだろう。
突破口を見出すことのできないままお手洗いに到着した時、マミーが突然驚いた。
「ヒェッ……ナンデコンナトコロニ……」
分かれ道になっている通路から歩いてくる『それ』にマミーは反応した。
真っ白な頭巾を被り、その下に二本の足を生やし、落書きみたいな二つの目をした謎の存在に。
不用意に近づいてくる上になにひとつ怖い感じがしないのでエールはペット感覚で頭をなでなでした。
「……見かけん顔だな。侵入者か」
しかも喋った。見かけによらないとても厳かな声で。
世話係マミー二体は白い頭巾に平伏した様子で震えつつこう答える。
「ファラオ様ノオ客人デス……侵入者デハアリマセン!」
「そうか……ここに多数の侵入者がやって来ている。気をつけるがいい」
白い頭巾はマミーにそう忠告すると立ち去っていった。それにしても気になるワードがある。
『多数の侵入者』と話していたが、もしやダヤンが助けに来てくれたのだろうか。
「さっきの人は何者なんですか……?魔物……?」
「ア……イエ……アノ御方ハ気マグレナ『神』デス」
「えっ……神様……?さっきの人が……?」
――――――…………。
ダヤンと『砂漠の狐』の一同は迷彩蠍を片付けると、エール救出の地道な探索を続けていた。
その結果、ピラミッドの1階にあたる場所にはいないことが判明した。
階段を登って2階へ行くと、開けた空間へ出る。そこで一同が遭遇したもの。それは――……。
「侵入者か。我の名はメジェド。『神』だ」
白い頭巾を被り、そこから二本の足を生やしたゆるキャラみたいな何かだった。
神と言い張っているが、しかし魔物とも言いずらい、可愛げのある見た目だ。
「なんだ……あれは……私も初めて見るな……」
謎の存在にロンメルも動揺する。このピラミッドの全貌を把握しているわけではないが、
少なくとも以前カノンと共にここに踏み入った時には遭遇しなかった。
「隊長、ダヤンさん、あの人からエールさんの『匂い』がしますわん!」
グデーリアンが告げた意外な事実。エールの居場所について何か知っている可能性がある。
だが話を聞くより早く、メジェドと名乗る白頭巾はこう宣言した。
「侵入者は排除する……ここは我の家だ。メジェドビームッ!!」
落書きみたいな二つの目が光を帯びるとそこから光線が放たれた。
ビームといっても原理が色々あるわけだが、はっきり言ってこれの原理は不明だ。
怪光線としか言いようがない。とりあえず浴びたらやばそうだ。避けるのが得策だろう。
【無事に迷彩蠍を倒し一同はピラミッドの2階へ】
【2階にて自称『神』のメジェドと遭遇。魔物じゃないかもしれない】
- 580 :エール :2021/11/21(日) 20:11:14.54 ID:MaLmoFTc.net
- >>577
【×優越する 〇優先される でした。失礼しました】
- 581 :ダヤン:2021/11/23(火) 20:20:11.27 ID:0gw1kxAZ.net
- >「全員無事さ!だけどちょっと防戦一方でな……!
俺達が引きつけておくからダヤンは背後に回って攻撃を頼むよ!」
冒険者達は隊列を組み、一番外側の列の者達は大きな盾で攻撃を防いでいた。
いつも一緒に戦っているだけあって、流石の連携だ。
ロンメルは、一匹見事に倒したようだ。
>「よし……ダヤン君、せーので行くぞ……!」
迷彩蠍達は、大きな盾意外眼中にない。不意打ちのチャンスだ。
ダヤンはロンメルと共に、迷彩蠍の背後目掛けて飛び出した。
一匹に狙いを定め、右手で右の鋏、左手で左の鋏の根元部分を狙う。
不意打ちだっただけあってうまく命中し、鋏での攻撃能力が無力化される。
「やった……にゃ!?」
隣の迷彩蠍の鋏が目の前に迫っていた。
が、ロンメルの白刃が閃き鋏が見事に切り飛ばされる。
一匹を瞬く間に無力化したらしく早くも二匹目に取り掛かったロンメルであった。
その手腕はなんとも鮮やかである。
「す、すごいにゃ……」
こうして、あれよあれよという間に迷彩蠍達は鋏を無力化されると、
他の冒険者達によって即刻仕留められた。
そして地道な探索を再開し、一階を踏破し、二階へと進む。
そこで、思わぬものに遭遇するのだった。
- 582 :ダヤン:2021/11/23(火) 20:21:47.26 ID:0gw1kxAZ.net
- >「侵入者か。我の名はメジェド。『神』だ」
「にゃ、にゃんですと……!?」
白い頭巾を被り、そこから二本の足を生やしたなんとも愛嬌のある姿。
誰か知ってる? という風に冒険者達の方を見るダヤン。
しかし、誰も知らないようだった。
>「なんだ……あれは……私も初めて見るな……」
>「隊長、ダヤンさん、あの人からエールさんの『匂い』がしますわん!」
「にゃんと!」
見たところ、マミーの仲間というわけでもなさそうだ。
ならば、話が通じるかも……なんてことはなかった。
>「侵入者は排除する……ここは我の家だ。メジェドビームッ!!」
「そんにゃあ!?」
メジェドと名乗る自称神は、問答無用でビームを撃ってきた。
一番前にいたダヤンとロンメルは、左右に飛びのいて避ける。
後ろにいた他の冒険者達も、なんとか避けるか大きな盾で防いだりして事なきを得たようだ。
あまり話が通じそうにないということは分かったが、それでも交渉の余地はありそうだ。
メシェドは“ここは我の家”と言ったが、ファラオも多分そう思っていそうだ。
ということは、ファラオとはどちらかといえばピラミッドの所有権?を巡って対立する関係なのでは? という推測が立つ。
「怪しい者じゃないにゃ。仲間が攫われたから助けに来たんだにゃ!
エールを知ってるにゃ!? 最近ファラオに攫われてきた女の子がいたらその子にゃ!」
怪しい者じゃないという者は大体怪しいと相場が決まっているのだが、
とりあえず直球でエールの情報を聞いてみた。
- 583 :エール :2021/11/26(金) 23:51:48.71 ID:Q6SmEsNR.net
- ロンメルはメジェドの両の瞳から放たれた光線を間一髪回避する。
後方にいた『砂漠の狐』の仲間達も裂けるようにして通路の両脇へと身を躱す。
>「怪しい者じゃないにゃ。仲間が攫われたから助けに来たんだにゃ!
>エールを知ってるにゃ!? 最近ファラオに攫われてきた女の子がいたらその子にゃ!」
光線を回避いたダヤンは白頭巾にそう言い放った。ロンメルとダヤンは同じことを考えていた。
本当に神なのかはさておきメジェドはエール救出に役立つ可能性があると。
先制攻撃されたことは水に流すとして、話し合えば協力してくれるかもしれない。
「エール……?あの少女のことか。
なるほど、お前達はただの侵入者ではないのか」
「無断で侵入した無礼を謝罪する。だが私達はこのピラミッドを荒らしにきたわけではない。
先程ダヤン君が言ったように、ファラオを倒して仲間を助けたいだけなんだ」
「ふむ……そういうことか。もっと早く言うがよい」
メジェドは厳かな声でそう言い放った。
結構簡単に納得してくれたようなのでロンメルは話を切り出す。
「……メジェド神、貴方がよければだが……。
私達にエール君の居場所を教えてはくれないだろうか」
「あの少女の?道案内だけなら構わぬが……私は貴様らを助けはせぬぞ。
『神』は不必要に手を差し伸べはしない。運命とは自らの手で切り開くものだからだ」
「助かるよ。それで構わない」
道案内だけでも十分すぎるほどだ。ロンメルは明るい声で返事をした。
何があるか分からない魔物の腹の中、探索が長引けば消耗しこちらの不利になる。
メジェドと出会えたのはまさしく天が味方してくれたとしか思えない。
「むむむ……メジェドマッピングッ!!」
白頭巾の両目が光ると宙に立体的な地図が投影された。
どうやらこのピラミッドのものらしい。赤いマーカーで現在地が示されている。
「件の少女は客室にいる。だがここへ辿り着くにはマミー達の厳重な警備を抜けねばならぬ。
貴様ら全員で向かった場合、正面衝突は避けられぬだろう。推定で敵は100を超える」
赤いマーカーから点線が伸びて通路を進み、北端の部屋で停止する。
その部屋で明滅する青いマーカーがエールを指しているのだろう。
「ちょっと待った。メジェド神、エール君の武器や所持品はどこにあるかは分かるか?」
「我は『神』だ。このピラミッドのことなら全て把握している。どうせ物置部屋だろう。
マミー共が冒険者や無辜の民から掠奪した、価値の低いものは大抵ここにある」
赤いマーカーから新たな点線が伸びると南端の部屋で停止する。
その部屋で今度は緑色のマーカーが明滅している。魔導砲をはじめとした所持品を指すのだろう。
- 584 :エール :2021/11/26(金) 23:56:36.16 ID:Q6SmEsNR.net
- ロンメルはそれを見て顎を撫でながら思案する。
エール自身と魔導砲が正反対の位置にあるのは単純に面倒だ。
どちらも回収しなくては例の作戦でファラオを倒すことができない。
そして――ここが肝心だが、全員で乗り込んで救出しに行くにはエールの警備が厳重すぎる。
どちらかというと盗賊とか忍者といった冒険者が魔物の目を掻い潜って救出に向かう方が効率が良い。
「……そういえばダヤン君。君は斥候(スカウト)型の冒険者だったね」
ロンメルはダヤンに視線を送る。
当初は戦力の分散を避けるため単独行動を控えろと言ったが、ここは柔軟に考えるべきだろう。
つまりこれからの作戦はこうだ。斥候の能力を持つダヤンが魔物の目を盗んでエールを救出する。
その間にロンメル達『砂漠の狐』は魔導砲を取りに行く、といった具合に。
「難易度の高い作戦だが……君にしか頼めないことだ。
メジェドと共にエール君を救出してくれ。『王の間』の前で合流しよう」
「話は済んだか。そろそろ行くぞ」
メジェドの催促をよそにロンメルは映されている立体の地図を頭に叩き込む。
そして記憶を終えるとロンメル達とダヤンは一度別れることになり、それぞれの道を進んでいく。
「……これからマミーの警備が厳重になってくる。気をつけろ。
何かあっても自分の力で対処することだ。我は何もしないし手伝わない」
メジェドはぼそりとダヤンに告げて通路を右に曲がった。
ダヤンもメジェドの道案内に従って進めば三体のマミーに遭遇するだろう。
三体とも通路の端っこでたむろしており、なんと煙草を吸っているではないか。
「ハァー……ヤッテランネーワマジデ……24時間交代ナシノ警備体制トカブラック過ギナイ……?」
「ショウガナイデショ……人質ガイナイト惚レタ女ガ来テクレナインダカラ……」
「ファラオ何考エテルンダロ……翼トカ生ヤシテル変ナ人ナンデショ……?」
お行儀の悪いことに吸い殻を平然と通路に落っことしながらだべっているようだ。
働きアリの2割は働かないアリというが、マミーにもサボりを実行する個体がいるらしい。
「ヒェッ……メジェド様ダ……仕事ニ戻ロウゼ……」
メジェドの存在に気づいたサボり魔マミー三体は慌てた様子で煙草を通路に落とす。
そしてぐりぐりっと踏み潰して火を消すと、担当の場所へと去ろうとする。
ダヤンの存在に気づく可能性があるのはその瞬間だ。
もし何の策も無くメジェドと共に歩いていればマミー達は仲間を呼び寄せるだろう。
そうなれば大量のマミーとの戦闘が始まることになる。それはダヤンが力尽きるまで続くだろう。
だが何か策を講じていればマミーは気づかずにスルーして事なきを得るに違いない。
とはいえマミーとて元人間。知能は生前と同様であり不自然なら探りを入れるだろう。
いずれにせよ――全てはダヤンの作戦次第ということになる。
【メジェドがエールの居場所まで案内してくれることに】
【ロンメル達『砂漠の狐』の面々は魔導砲を取りに行く】
- 585 :ダヤン:2021/12/01(水) 00:38:41.37 ID:iW7a3qXw.net
- >「エール……?あの少女のことか。
なるほど、お前達はただの侵入者ではないのか」
>「無断で侵入した無礼を謝罪する。だが私達はこのピラミッドを荒らしにきたわけではない。
先程ダヤン君が言ったように、ファラオを倒して仲間を助けたいだけなんだ」
>「ふむ……そういうことか。もっと早く言うがよい」
こっちが何か言う前にビーム撃ってきたじゃん!とダヤンは心の中でツッコんだ。
とはいえ、とりあえず戦闘続行は避けられそうで良かった。
>「……メジェド神、貴方がよければだが……。
私達にエール君の居場所を教えてはくれないだろうか」
>「あの少女の?道案内だけなら構わぬが……私は貴様らを助けはせぬぞ。
『神』は不必要に手を差し伸べはしない。運命とは自らの手で切り開くものだからだ」
>「助かるよ。それで構わない」
助けはせぬと言いながら、道案内だけでもかなりの手助けなので、
やはり少なくともファラオと一枚岩ではないのだろう。
が、ファラオと明確に敵対している立場ならもっと積極的に手助けしても良さそうでもある。
果たして彼(?)はこのピラミッドにおいてどういう立ち位置なのだろうか、気になるところだ。
>「むむむ……メジェドマッピングッ!!」
>「件の少女は客室にいる。だがここへ辿り着くにはマミー達の厳重な警備を抜けねばならぬ。
貴様ら全員で向かった場合、正面衝突は避けられぬだろう。推定で敵は100を超える」
「100……! まともに戦ったら流石に厳しそうにゃね……」
全員で突撃したところで数で惜し負けてしまう。ならばどうするか。
>「ちょっと待った。メジェド神、エール君の武器や所持品はどこにあるかは分かるか?」
>「我は『神』だ。このピラミッドのことなら全て把握している。どうせ物置部屋だろう。
マミー共が冒険者や無辜の民から掠奪した、価値の低いものは大抵ここにある」
>「……そういえばダヤン君。君は斥候(スカウト)型の冒険者だったね」
魔物の目をかいくぐってエールを救出するという重要任務がもちかけられる。
会って間もないが、ロンメルはダヤンの能力を高く買っているようだ。
>「難易度の高い作戦だが……君にしか頼めないことだ。
メジェドと共にエール君を救出してくれ。『王の間』の前で合流しよう」
「了解ですにゃ隊長! かにゃらずやエールを救出してみせましょうにゃ!」
ダヤンは、とても危険と思われる任務をあっさり引き受けた。
というのも、運よく勝算があるからだ。
このような状況で役立つ斥候の技能の一つに、変装というのがある。
単独行動している警備を適当に一人ボコって、その装備を引っぺがして拝借するのが定石だ。
幸い、今回の警備員の装備はすでに持っている。そう、マミーの包帯だ。
- 586 :ダヤン:2021/12/01(水) 00:40:49.65 ID:iW7a3qXw.net
- (ラッキーにゃ〜。やっぱりタダで拾えるものは貰っとくもんだにゃ〜)
時にはタダほど怖いものはない、というパターンもあるが(タダだからと拾ったら呪いのアイテムだったとか)
少なくとも今回は、タダのものは拾っておいて正解パターンだったようだ。
>「……これからマミーの警備が厳重になってくる。気をつけろ。
何かあっても自分の力で対処することだ。我は何もしないし手伝わない」
「……メジェドにゃんは普通に行っても大丈夫なんだにゃ……?
迷惑かけないように気を付けるにゃね」
メジェドはここの住人として市民権を得ているということだろうか。
そうだとしても、もし何かあったら”お前何怪しい奴を手引きしてんの!?”
みたいに困ったことになる可能性もある。
と、今は他人の心配をしている場合では無いのだが。
というわけで、ダヤンは変装技能を駆使してマミーの包帯で器用に全身をぐるぐる巻きにした。
これで見た目上は小柄なマミーそのものだ。耳は寝かせ、ちなみに尻尾は背中にくっつけてある。
通路を曲がると、早速マミーがたむろしていた。
>「ハァー……ヤッテランネーワマジデ……24時間交代ナシノ警備体制トカブラック過ギナイ……?」
>「ショウガナイデショ……人質ガイナイト惚レタ女ガ来テクレナインダカラ……」
>「ファラオ何考エテルンダロ……翼トカ生ヤシテル変ナ人ナンデショ……?」
タバコの吸い殻を平然とポイ捨てしており、火事にならないかとヒヤヒヤする。
マミー達はメジェドの姿に気付くと、慌てている様子だった。
>「ヒェッ……メジェド様ダ……仕事ニ戻ロウゼ……」
(”様”ってことは…… 一応敬われてるポジションなんだにゃ……!?)
持ち場に戻ろうとするマミーとすれ違う。緊張の一瞬だ。
もしも、『アレ、オ前、見ナイ顔ダナ……サテハ……』などと言われたら
『ソウナンデス、新人デス! ヨロシクオネガイシマス先輩!』
などとぎこちない標準語で返すだろう。
通常のマミー達はカタコトなので、ぎこちないぐらいで丁度いいのだ。
- 587 :エール :2021/12/05(日) 17:51:42.58 ID:xxCpkUZM.net
- メジェドはダヤンが如何にしてマミーの目を掻い潜るかと見守っていたが、
なんと先んじて手に入れていた包帯を使ってマミーに変装するという手段に打って出た。
猫耳も尻尾も畳んで誤魔化しており、外見上は小柄なマミーにしか見えないというわけである。
「悪くないアイデアだな。その調子でマミーの目を欺くのだ」
頻繁に警備のマミーと出会うが、彼らは気にした様子もなくスルーしている。
もし話しかけられてもダヤンはマミーに似たぎこちない標準語で対処していく。
時にはメジェドの姿に怯えてそもそも近寄ってこないのもダヤンの有利に働いた点だろう。
「……思っていたよりあっさり着いたな。ここに件の少女がいる。
だが気をつけることだ。見張りのマミーが二人いる……上手く言いくるめるのだ」
メジェドが視線を動かした先の部屋の前に、女性型のマミー二人が立っている。
二人のマミーはメジェドの存在に気づくと「ヒェッ……また現れた」と言って慄いている。
ダヤンに言いくるめられると二人のマミーはすんなり部屋へと通した。
するとダヤンは天蓋つきのベッドに座って足をプラプラさせているエールを見つけるだろう。
なぜか貴族が着てそうな豪奢なドレスに身を包んでいる。
「だ……」
ダヤン、何でそんな恰好してるの……?と思わず言い掛けてエールは口を噤んだ。
経緯はよく知らないが変装してここまで来てくれたのは一目瞭然だったので空気は読める。
「暇だろうから我がピラミッドを案内しよう。
客人をもてなすのは『神』の義務だ。来るがいい」
メジェドはそういって見張りのマミーを強引に納得させ、部屋から連れて行く。
そしてダヤンの活躍によって数々の監視の目を潜り抜け――。
『王の間』の近くまで到着するとメジェドがこう告げる。
「もう自由に喋っても構わぬぞ。周辺にマミーはいない」
するとエールはぷはぁ、と大きく息を吐きだすとダヤンの両肩を掴む。
そしてゆさゆさと揺らしながらこう捲し立て始めたのだった……。
「ダヤン、助けてくれてありがとう!でも私、武器も所持品も取り上げられちゃってるの……!
ファラオはお姉ちゃんを好きになったらしくて妃にするのが目的らしいんだけど……。
でもそんなことさせる訳にはいかないよ!お姉ちゃんはそんなこと望んでないもの!
私は……ファラオを倒す。ここで倒さないとまた拠点が襲われるだけだもん!
ダヤンは一人で来たの?もし他にも仲間がいるなら合流しなきゃ!」
「思ってたより長く喋ったな……」
メジェドは静かにそう呟くと、エールとダヤンはそれぞれ情報共有を行う。
エールはファラオの目的が姉のカノンを嫁にすることという事実を伝えた。
今まで拠点を襲っていたのは姉が6階に来るのを誘うためであり、
自分を人質にすればすんなり言う事を聞いて婚姻を結んでくれると考えているのだと。
- 588 :エール :2021/12/05(日) 17:53:46.07 ID:xxCpkUZM.net
- そうこうしているうちに『砂漠の狐』の面々も『王の間』の近くまでやって来る。
無事に合流を果たすとエールの所持品が入った道具袋と武器である魔導砲を渡してくれた。
「エール君が無事で良かったよ。しかし……いやすまない、君の隊服までは見つからなかった」
「大丈夫です!戦いが終わった後探せばいいだけですから!」
エールはハイヒールを脱ぎ捨てつつロンメルにそう返した。
石材のひんやりした感触が直に伝わってくる。
だが戦闘で動き難くなるよりはずっとましだ。
「よし……では準備は整った。これよりカースドファラオ討伐作戦を開始するぞ!」
ロンメルの声に応じて一同おーっとやる気を漲らせると『王の間』へと踏み入る。
荒涼とした石材で覆われた広い部屋の最も奥。そこに黄金の棺が鎮座している。
黄金の棺は厳かに90度立ち上がると、くぐもった声が響いていくる。
「……誰を討伐するって?ロンメル……貴様如きが余を倒せるなどと思いあがるな」
ロンメルからの答えはこうだ。サーベルを引き抜き、静かに戦闘態勢に入るのみ。
棺の奥でファラオがくっくっくっと笑いを零すのが聞こえてくる。
「面白い冗談だ。余には滑稽にしか見えないが?貴様を殺すなど造作もないんだが……。
その前にエール、君のことだ。いけない子だね全く……部屋から抜け出すなんていけない子だ」
「そうだよっ!私は銃士だもん……魔物は倒す!お姉ちゃんは貴方に渡さないっ!」
「……それが君の答えか。残念だよ。悪い子には……躾が必要だな」
ファラオがそう宣告すると、黄金の棺の扉が左右に勢いよく開け放たれた。
エールは一度この攻撃を見ている。この後包帯を伸ばしてきて、それに掴まってしまったのだ。
もしかしたら包帯以外の『何か』を出してくるのかもしれないが、ならば猶更何らかの方法で防御した方が良い。
「『盾持ち』は前に出ろ!全隊は防御態勢に入り、敵の攻撃に備えるのだ!!」
ロンメルがそう叫ぶと、迷彩蠍戦で大盾を持っていた冒険者達が前に飛び出して盾を構える。
身の丈ほどのサイズの盾だ。これでだいたいの攻撃は防げるはずである。
――直後、黄金の棺から何かが大量に飛んできて盾に激突する。
「た、隊長っ!なんですかこの衝撃はっ!?」
「うろたえるな!これは『投石』だっ!鉄の大盾なら防げる!!」
ファラオが潜む黄金の棺から放たれたもの。それは大量の『石』だ。
石が矢のようなスピードで飛来してきているのだ。
- 589 :エール :2021/12/05(日) 17:57:16.15 ID:xxCpkUZM.net
- 投石はもっとも原始的で効果的な遠距離攻撃である。
巨人ゴリアテが羊飼いの少年に倒された逸話の原因も、少年が投石器から放った石を額に受けたからだった。
ファラオが放つ大量の投石はその比ではない。食らえば骨を砕き肉は削げるだろう。
迂闊に大盾の外に飛び出しても待っているのは確実な『死』のみ。
「呪われし砂漠の王は少女もろとも貴様らを殺す気か……。遠慮がないな」
メジェドは盾の隅っこで三角座りしながら呑気に呟いた。
エールの救出は手助けしてくれたのだから、ビーム一発くらい撃ってくれないだろうか?
ロンメルは脳の片隅でそう考えたが、『手助けはしない』と言われているので期待はしないことにした。
「ふっ、メジェドか。ロンメル……そいつに頼るのは間違いだよ。
余が無限迷宮に来る以前から、稀にこのピラミッドを徘徊しているようだが……。
はっきり言って何の役にも立たん。どうでもいいから余が捨て置いているだけの存在だ」
ロンメルの心を見透かすようにファラオはくぐもった声を響かせる。
その隙に、ロンメルは小声でエールに『ハイペリオンバスター』の準備を指示した。
投石をなんとかしなければ反撃できないが、膠着状態の今こそ切り札を用意するチャンスでもある。
エールは大盾の背後で魔導砲を構えて魔力の充填を開始した。
そして、魔力を有する他の冒険者達も魔導砲から伸ばしたケーブルを掴んで共に魔力を充填する。
「それはこちらの台詞だ。呪われし砂漠の王よ。このピラミッドは元を正せば外の世界のもの。
魔王がこの迷宮に閉じ込めただけで我の所有物なのだ……断じて貴様のものではない」
メジェドはファラオにそう反論したがファラオからの返答は特にない。
本当にどうでもいい存在だと思われているようで、完全に無視された。
「お前達を全員殺す気はない。適度に生かしてやろう。カノンが来なければ意味がないからね。
エール、もし死んだとしてもマミーとして蘇生してあげるから気にしないでくれ……」
ファラオは何が来ても対処できるという余裕をもってそう言い放った。
『闇の欠片』を5個所有しておりパワーアップしている事実がまずひとつにあるだろう。
そして、ファラオの身を隠している黄金の棺――『防御外装棺』で自身を守っているのがふたつめの理由。
この棺は、カノンと戦った当時は本当にただの棺だったが、闇の欠片を得てある魔法が追加されている。
それはファラオをはじめとするあらゆる物質を四次元空間に収納する能力。いわゆる空間魔法だ。
この棺の中に隠れている限り、ファラオにあらゆる攻撃は届かない。
「っ……準備できるのは良いけど、今のままだとファラオにはどんな攻撃も通じない……!」
エールは魔力を充填しながらダヤンにそう言った。
何度もファラオと交戦している『砂漠の狐』も、一度は棺の中に入ったエールも状況は理解している。
だから『ハイペリオンバスター』を準備してはいるものの、どうやって攻撃を当てるかは悩んでいるのだ。
だが、長々と悩んでいる時間はない。投石の効き目が薄いと判断すればファラオも攻撃方法を切り替えてくるだろう。
その間に――何かしらの手段でファラオを棺から引きずり出す必要がある。
棺自体をぶっ壊すのも手だが、それに魔導砲を使えば今度はファラオ自体を倒せない。
冒険者達の次なる一手や如何に?
【ファラオと交戦開始。黄金の棺から大量の投石。大盾で防御するが膠着状態に】
【ファラオは棺の中の四次元空間に隠れており、引きずり出さなければどんな攻撃も無意味】
- 590 :エール :2021/12/11(土) 19:09:00.11 ID:o3QNRsAB.net
- これは本編とちょっと関係あることなんだけど……。
1エリアの広さについて……なんとなく考えていたことを文章にしてみるよ。
本編中の言及として4階の湖の広さが600平方キロメートル超だったよね。
仮に形状が四角形(そんなわけないけど)として20キロ×30キロくらいの大きさだね。
当時は100メートルのアスピドケロンが泳ぐくらいだから大きくしたいと思っていて……。
聖剣を守る魚だし迷宮産の魔物じゃないからちょっと強めにしとこぐらいの軽い気持ちで設定したんだけど……。
だから4階の湖も100メートルの魚が暮らせそうなイメージで琵琶湖と同じくらいのサイズにしたよ。
滋賀県の面積が4017平方キロメートル。でもこれをそのまま1エリアのサイズとするのはどうかなぁ。
そのままの広さだと陸地の面積がだいぶ広いよ……あたりまえだけど……。
あわわっ湖沼エリアなのに転移先しだいでほぼ陸地だけを探索するハメになるよっ。
ちょっとダウンサイズして……だいたい1000平方キロメートルぐらいが適正かな?(20キロ×50キロ)
参考までにイタリアのローマが1285平方キロメートルくらいみたいだから近いサイズだね。
東京23区が627.6平方キロメートル。23区は湖と同じくらいなんだね。
でもどれも行ったことないからよく分からない……。
中の人の地元ならイメージつきやすいかな。
で、面積調べたら約500平方キロメートルだったよ……。
あわわっインドアのせいか1エリアがめちゃくちゃ広大に感じるよっ!?
スレ開始当初の無限迷宮のビジュアルイメージは設定案(>>432)とおおよそ同じで
巨大な塔の中に同程度の広さの異空間が階層状に広がってる想定だったから……(実際は謎)
あわわっどのエリアも私の地元の倍くらいでかい。
どのぐらいの時間で探索できるかもちょっとだけ考えてみる。
不動産屋では80メートルが徒歩1分の計算らしいから1キロ歩いたら12分30秒。
10キロなら120分くらいだから2時間程度。50キロなら10時間程度?
あれっ……不思議なことに時間だけ読むとなんか狭く感じてきたよ……。
実際には地形や魔物の問題、休憩時間も含むから移動はもっと時間がかかるだろうけど。
それにこの広さでも拠点から遠く離れた位置に飛ばされたら野宿になりそう……。
とりあえず1エリアの平均的広さは約1000平方キロメートルって感じかなぁ。
もしかしたら、今後もっと面積の広いエリアが登場するかもだけどね!
だって1エリア探索するのに迷ったり休んだりしてもそんなに日数かからない面積だからね。
私が持ってる通り、踏破済みエリアは地図になってるからもっと短くなるよ。
地図ありなら次の階まで1日あれば十分なんじゃないかなぁ。
ザルすぎる計算だけど100階まで地図ありなら移動するのに最短で100日……?1年かからないんだね。
実際のところポータルの転移はランダムだからもっとかかるだろうけど。
本編中は順調に階を進めていたけれど、下の階にバックして時間がかかる可能性もあるからね……。
あと階が上がれば魔物も強くなる。強い魔物との戦闘を回避して移動しようとするともっと時間がかかる……?
忘れちゃいけないのがダヤンが無限迷宮生まれだってことね!
ということはこの迷宮、少なくとも魔王に創られて11年くらいは存在してるんだよね。
それだけ時間があったらさすがに100階くらいまでは攻略済みなのかなぁ……。
数字がインフレしまくって1億階まで目指そうぜ!みたいなことにならないといいけど……。
余談だけど開始当初に、私がエヴァーグリーンへ着くまで「何時間かかるのやら」って言及してたなぁ。
あわわっ深く考えてない象徴みたいな台詞……!「どれだけかかるのやら」でいいでしょ私〜!
これじゃあ崖上から数キロくらい離れたところにあるみたい……すごい遠い……。
た、たぶん冒険慣れしてないから軟弱なこと言っちゃっただけだよね。きっとそうだよ……!
私ってとんでもなく大雑把だね……。
設定とか考えるの苦手だし。うーん気をつけたい。
- 591 :ダヤン:2021/12/12(日) 21:05:56.10 ID:kF0lVykw.net
- 変装作戦は功を奏した。
もしもマミーの知覚が視覚以外を主としていたら、成立しない作戦であった。
変装が通用したということは、普通に視覚に頼っている部分が大きいのだろう。
それに、マミー達は結構ガチでメジェドにビビっているようだ。
そんな存在が多少怪しい者と連れ立っていたところで、そうそうツッコめないのかもしれない。
>「……思っていたよりあっさり着いたな。ここに件の少女がいる。
だが気をつけることだ。見張りのマミーが二人いる……上手く言いくるめるのだ」
とはいうものの、見張りのマミーはメジェドにやはりビビりまくっている。
「通シテクダサイ。メジェド様ガ例ノ少女ニ挨拶シタイノコトデス」
と適当にメジェドをダシにしてみると、触らぬ神に祟りなしとばかりに案の定すんなりと通してくれた。
そこにいたのは、豪奢なドレスに身を包み、天蓋つきのベッドに座っているエールだった。
こちらはこちらで“エール、にゃんでそんな格好してるの……?”状態であった。
このような状況を抜きにして絵面だけ見れば、プリンセス系ディ〇ニー映画の1シーンのような光景だ。
今まで隊服姿しか見ていなかったので、その破壊力は凄まじい。
(か、かわいいにゃ……!)
>「暇だろうから我がピラミッドを案内しよう。
客人をもてなすのは『神』の義務だ。来るがいい」
ダヤンがエールに見とれている間に、メジェドが話を進める。
手助けはしないと言いつつも、普通に手助けしている。
というかここまでの道中、神として恐れられているっぽいメジェドが一緒にいるだけでも
莫大な手助けだったので、今更だろう。
道中でも何人かのマミーと出くわしたものの、メジェドが連れているからと深追いはしてこなかった。
『王の間』の近くまで到着すると、もう喋って大丈夫だとメジェドが告げる。
いわゆる感動の再会シーンである。
>「ダヤン、助けてくれてありがとう!」
「エール……」
>「でも私、武器も所持品も取り上げられちゃってるの……!
ファラオはお姉ちゃんを好きになったらしくて妃にするのが目的らしいんだけど……。
でもそんなことさせる訳にはいかないよ!お姉ちゃんはそんなこと望んでないもの!
私は……ファラオを倒す。ここで倒さないとまた拠点が襲われるだけだもん!
ダヤンは一人で来たの?もし他にも仲間がいるなら合流しなきゃ!」
(情報量多ッ!! 妃にするのが目的!? 復讐じゃなくて!?)
>「思ってたより長く喋ったな……」
王道の感動の再会シーンとは少し違ったが、冷静に今の状況を考えると
まだ感動の再会シーンをしている場合ではないわけで。
二人は情報共有を行った。
- 592 :ダヤン:2021/12/12(日) 21:08:17.49 ID:kF0lVykw.net
- 「ロンメルさんがみんなを総動員してくれたにゃ……!
こっちもこのままファラオを討伐する作戦で来たにゃ。もうすぐみんなも来るはずにゃ」
噂をすれば、『砂漠の狐』の面々がやってきた。
無事に魔導砲などを取り返しすことが出来たようだ。
>「エール君が無事で良かったよ。しかし……いやすまない、君の隊服までは見つからなかった」
>「大丈夫です!戦いが終わった後探せばいいだけですから!」
(えっ、ということは少なくともこの戦いはお姫様風ドレスのまま……!?)
これは多分、別に「このままだと見た目的に可愛すぎて困る」などという意味ではなく
防御力的な面を心配しているのである。
>「よし……では準備は整った。これよりカースドファラオ討伐作戦を開始するぞ!」
ロンメルの音頭で、気合十分に王の間に突入した。
そこには黄金の棺が待ち構えていたのだった。
>「……誰を討伐するって?ロンメル……貴様如きが余を倒せるなどと思いあがるな」
ロンメルは無言で戦闘態勢に入る。
>「面白い冗談だ。余には滑稽にしか見えないが?貴様を殺すなど造作もないんだが……。
その前にエール、君のことだ。いけない子だね全く……部屋から抜け出すなんていけない子だ」
>「そうだよっ!私は銃士だもん……魔物は倒す!お姉ちゃんは貴方に渡さないっ!」
>「……それが君の答えか。残念だよ。悪い子には……躾が必要だな」
黄金の棺の扉が左右に開け放たれる。
「あ、何か出てくるにゃ……!」
>「『盾持ち』は前に出ろ!全隊は防御態勢に入り、敵の攻撃に備えるのだ!!」
出てきたのは包帯ではなく、大量の投石だった。
盾の防御部隊がいなかったらと思うと、ぞっとする。
>「呪われし砂漠の王は少女もろとも貴様らを殺す気か……。遠慮がないな」
と、盾の隅っこでちゃっかり盾の防御の恩恵に与っているメジェド。
「そんにゃ他人事みたいに……!」
- 593 :ダヤン:2021/12/12(日) 21:11:12.28 ID:kF0lVykw.net
- >「ふっ、メジェドか。ロンメル……そいつに頼るのは間違いだよ。
余が無限迷宮に来る以前から、稀にこのピラミッドを徘徊しているようだが……。
はっきり言って何の役にも立たん。どうでもいいから余が捨て置いているだけの存在だ」
>「それはこちらの台詞だ。呪われし砂漠の王よ。このピラミッドは元を正せば外の世界のもの。
魔王がこの迷宮に閉じ込めただけで我の所有物なのだ……断じて貴様のものではない」
二人はやはりピラミッドの所有権を巡って対立しているが、
お互いに取るに足りないと思っているのでお互いに放置している関係性だということが発覚した。
しかし道中で部下のマミー達は、メジェドの姿に結構ビビっている様子だった。
本当に捨て置いていて大丈夫なのだろうか。
二人のやり取りの間に、エールはハイペリオンバスターの準備を始める。
>「お前達を全員殺す気はない。適度に生かしてやろう。カノンが来なければ意味がないからね。
エール、もし死んだとしてもマミーとして蘇生してあげるから気にしないでくれ……」
盾の裏でハイペリオンバスターの充填が始まったのを知ってか知らずか、ファラオは余裕綽綽だ。
>「っ……準備できるのは良いけど、今のままだとファラオにはどんな攻撃も通じない……!」
棺から引きずり出すか棺を破壊するかしなければ、攻撃は通用しない。
引きずり出そうにも盾の後ろから出れば投石の餌食になるし、
破壊するのにハイペリオンバスターをつかってしまえばファラオ本体を倒す切り札が無くなる。
状況は八方ふさがりに思えた。
が、ファラオの投石は無尽蔵だが、こちらはいつかは盾が破壊されてしまうだろう。
このままではジリ貧。そうなる前にとにかく状況を動かさなければ。
ただ唯一幸いというべきなのが、盾の裏で即席の作戦会議が出来るような状況だ。
投石の音で話声は向こうまで聞こえないし、そもそもファラオは余裕綽綽なので、
こちらが何を企んでいようと多分そんなに興味がない。
ダヤンは冒険者達に声をかけた。
「魔力強化の魔法をかけられる人はいるにゃ? いたらオイラにかけてほしいにゃ。
もしかしたら少しだけアイツの動きを止められるかもしれないにゃ。
もしうまくいったら……その隙に棺の扉を閉めてほしいにゃ」
- 594 :ダヤン:2021/12/12(日) 21:13:12.10 ID:kF0lVykw.net
- 引きずり出さなければいけないのに閉めてどうするんだという感じだが。
作戦の下準備が終わると、ダヤンは一瞬だけ盾の横から身を乗り出してダガーを投擲した。
ダガーにかけられた聖属性強化の効果はまだ続いていることだろう。
放たれたダガーは、黄金の棺の中に飛び込……まずに地面に突き立った。
普通に外したように見える。
一瞬「ダメじゃん!」みたいな雰囲気が流れかけたが、にわかに投石が止まる――
ファラオの動きが止まったのだ。
これは最初から投擲による本体攻撃を狙ったわけではなく、【シャドウ・スティッチ】。
真っ暗だった1階とは違って、この辺りは照度こそ薄暗くはあるものの魔法照明で照らされている。
そのためうっすらではあるものの、影が出来ていたのだ。
(そういえば、この階の警備はマミーが担っているのに対して、1階で現れた敵はマミーではないモンスターだった。
マミーの知覚が視覚に重きを置いているのだとしたら、マミー的にも真っ暗は困るのかもしれない)
尤も、効果は持って数秒だろうが、その隙にダヤンは棺へと猛ダッシュして駆けつけた数名の冒険者達と共に棺の扉を閉める。
(魔力を持たない筋力特化系冒険者は、魔力の充填に参加出来ないので手が空いていたのだ)
ファラオにしてみれば数秒経ってシャドウスティッチの効果が切れれば
すぐに開けることが出来るので、だからどうしたという感じだが。
そこでダヤンはこんなことを叫んだ。
「みんな今にゃ! 封印の術式を……!」
本当は、ファラオを棺から引きずり出して倒す作戦に見せかけて、棺に閉じ込めて封印してしまおうという作戦だった――
というわけではない。
盾の裏で封印の術式なんてものは準備されていない。
少なくともこのメンバーではそんなことは出来ないし、このメンバーじゃなくても多分出来ない。
「“棺から引きずり出して倒す作戦に見せかけた、棺に閉じ込めて封印してしまおうという作戦”に見せかけて、自主的に出てきてもらおう作戦」
――長いので略して”北風と太陽作戦”とでも言おうか。いやちょっと違うか。
要するに禁止されるとやりたくなる的な人間心理(マミー心理?)を利用した、
「出られなくなると思うと焦って飛び出してきてくれたらいいな」という希望的観測に基づく作戦であった。
- 595 :ダヤンPL:2021/12/12(日) 21:59:24.17 ID:kF0lVykw.net
- >590
お待たせしたにゃー。
にゃにゃっ!? すごい考察! 面白いにゃ〜!
>各エリアの広さ
>1エリアの平均的広さは約1000平方キロメートルって感じかなぁ
そんな気がするにゃ
異空間だから階層によって広さが違うのも全然アリだし
たまにすごく広い階層や逆にすごく狭い階層があっても面白いかもしれないにゃね
余談だけどオイラの中の人の地元も約500平方キロメートルだったにゃ〜、
大体それぐらいの面積の市って多いのかにゃ?
>探索にかかる時間
綺麗に舗装された道は時速5キロでも登山の平均速度は時速1.5km前後らしいから
足場の状況によってはかなーり時間がかかるにゃね
だから1000平方キロメートルで狭すぎるってことは全然にゃいと思うにゃ
>ダンジョンの創設時期
オイラの勝手なイメージだと
「かつて存在した魔王が創ったという伝説のダンジョン」だから
勇者が魔王を倒したのがすでに伝説になってるような時代で、
今の時代の人から見れば無限迷宮はずっと昔からあるような存在で誰にもその始まりの真実は分からない……
ぐらいのかなり昔に出来てるイメージで迷宮生まれ設定にしたにゃ
でも例えば「実は最近出来た振興ダンジョンだけど迷宮に入った瞬間に自動的に記憶操作がかかる仕様で
迷宮内の人には伝説のダンジョンと思われてる!?」みたいな衝撃設定が投入されてもオイラは全然大丈夫にゃよ!
>それだけ時間があったらさすがに100階くらいまでは攻略済み?
この無限迷宮の面白いところはダンジョンでありながら中に拠点(町)が出来て人が生活してるところにゃよね〜。
普通のダンジョンと違っていちいち地上に戻らなくてよくて(地上に戻ろうと思っても戻れないんだけど)
拠点を足掛かりに次の階層に行けるから開拓していく意欲があればいくらでもいけそうにゃね。
ただ一定の階層に定住する人も多くてしかも階層が増えるほどモンスターが強くなっていくからある程度以上の階層は未開の地になってそうにゃ
果たしてどのぐらいの階層まで拠点が出来てるんだろうにゃ
>1億階まで目指そうぜ!
よく知らないけど昔の西洋のダンジョンRPGがそんなノリだったらしいにゃね
(流石に1億階は無いと思うけど)
そういえばポータルの転移先ってランダムだから……
うっかりとんでもない高階層に飛ばされる→速攻で超強いモンスターに襲われて終了
なんてことも時々起こってるのかにゃ? おっかいないにゃ〜!
- 596 :エール :2021/12/19(日) 23:45:07.25 ID:iQ22/EH6.net
- 石の驟雨が横殴りに降り注ぐ中、鉄の盾の内側で冒険者達はじっと息を潜めていた。
ロンメルは盾と盾のわずかな隙間から様子を覗いてじっと機を窺っている。
ハイペリオンバスターを命中させる作戦がないわけではない。
ファラオの黄金の棺は鉄壁の守りだが、その構造上どうしても弱点が生じる。
それは『攻撃時に必ず棺を開ける必要性がある』ということだ。
何らかの方法で棺を閉じた場合、ファラオは一切外部に干渉できなくなる。
つまり、棺を閉じられてしまうとロンメル達を殺すにはファラオ自身が外に出る必要が生じる。
そして外に出てきた瞬間に不意打ちでこちらの切り札を放てば倒せるかもしれないとロンメルは考えているのだ。
駆け引きが重要になるし、勘づかれて引きこもられると長期戦になるだろう。
作戦の成功率を上げる鍵は『ファラオを倒す切り札が知られていないこと』が前提だ。
その点に関しては上手くクリアされているが――肝心の閉じる隙が見当たらない。
あるいは成功率はより低いがこういう方法もある。
ファラオの攻撃手段のひとつとして包帯を伸ばして敵を拘束する技がある。
その包帯を逆手にとって綱引きのように引っ張り出してやるのだ。
マミーはアンデッドのためしぶといが身体能力は人間並み。
だがファラオに関しては『闇の欠片』があるのできっとその力で抵抗するだろう。
『砂漠の狐』のメンバーの腕力を総動員しても力負けする可能性が高い。
どちらにせよ、今はチャンスが巡ってこない。耐えるしかないのだ。
「メジェド様、この戦いの勝利を祈らせて欲しいですわん」
戦いとは概してそういうものだが、それでも不確定要素の多いこの戦いを憂いたのだろう。
グデーリアンは持っていた聖書を床に置き、隅っこに座る白頭巾に祈りを捧げる。
「神も多種多様だぞ。我はその書に記されている存在とは違うが、いいのか」
「構いませんわん。祈ることが大事なんですわん。僕にはそれしか出来ませんわん」
グデーリアンの役目はファラオを倒した後にその魂を冥界に送り帰すことだ。
でなければ倒しても高位のアンデッドであるファラオは肉体を再構築させ復活してしまう。
だからグデーリアンだけは魔力を持ちながらもエールの充填役からは外されている。
充填で魔力を使い果たしてしまったら最後の成仏を果たせなくなるためだ。
>「魔力強化の魔法をかけられる人はいるにゃ? いたらオイラにかけてほしいにゃ。
>もしかしたら少しだけアイツの動きを止められるかもしれないにゃ。
>もしうまくいったら……その隙に棺の扉を閉めてほしいにゃ」
膠着状態の中で何かを思いついたダヤンが作戦を提案してきた。ちょうどロンメルの考えと似ている。
ダヤンは更にその先の駆け引きをも考えているのだが、とにかく。乗らない手はない。
「うむ、早速やろう。グデーリアン……その魔法は使えるかな?」
「はい隊長!やるのは初めてですが、なんとかなりますわん。
ダヤンさん……お受け取りくださいですわん!」
グデーリアンが手を組んでダヤンに祈りを捧げはじめる。
すると、周囲にぽわわと温かい光が粉雪のように舞い降りた。
ダヤンは徐々に魔力の高ぶりを感じることだろう。魔力の強化が成功した証だ。
- 597 :エール :2021/12/19(日) 23:49:01.32 ID:iQ22/EH6.net
- 魔力を高めたダヤンが行ったのはダガーの投擲だった。
それも黄金の棺には当たらず、王の間の硬質な床に突き立っただけである。
「……これはまぁ……儚い抵抗だ。何がしたかったんだ?」
見下した様子でそう呟いたが、すぐさま異変に気づく。
棺内の四次元空間に収納している石礫をなぜか飛ばせなくなったのだ。
『防御外装棺』に付与している魔法の力が急停止した感じだ。
そして間髪を入れずダヤンと『砂漠の狐』の冒険者数名が飛び出し、棺の扉を閉じる。
ファラオはそこまで来てようやく相手の魔法の効力で棺が止まったのを理解した。
「さっきの投擲が原因か……まったく小賢しい魔法だ!
効果が何秒持続するのか知らんが『闇の欠片』の力を使えばこんなもの……!」
シャドウ・スティッチ――相手の影に刃を突き立て動きを封じる魔法。いわゆる影縫いだ。
今回の場合、棺にできた影にダガーを刺し『防御外装棺』の機能をも止めてしまったというわけだ。
便利な魔法ではあるが、対象の抵抗が勝てば拘束が外れるという特徴も持っている。
ファラオの言う通り『闇の欠片』5個の力を使いフルパワーで抵抗すれば拘束なんて簡単に外せる。
攻撃を再開するためダヤンの影縫いから抵抗をはじめた瞬間、不意打ちのような言葉が耳に飛び込む。
>「みんな今にゃ! 封印の術式を……!」
――封印!?ファラオは驚きのあまり天と地がひっくり返ったのかと思った。
熾天使のカノンの手で一度消滅した彼はアンデッドも完璧ではないことを理解している。
『浄化の力』のような悪しき存在を滅ぼす力の前には不死さえ無力だと知ってしまった。
カノンが持っている聖なる力に惚れる反面、ファラオは恐れも抱いているのだ。
もし彼女と再び戦うことになった時、単純に力が強いだけでは絶対に勝てないと。
だから編み出したのだ。彼女の力をも防ぐ鉄壁の守りである『防御外装棺』を。
『闇の欠片』5個のリソースを全てつぎ込んで高等な空間魔法を実現させたのはそういう背景がある。
しかし完璧な対策と自惚れる反面、封印されるなどという可能性は微塵も考えていなかった。
「ばっ……馬鹿なッ!貴様らにそんな真似できるはずがない!!」
閉じられた棺の中で思わず怒声を飛ばす。それは100%動揺によるものだったが、同時に違和感を覚えた。
本当に自分を封印できるとして、なぜその指示をロンメルではない冒険者が行ったのだ。
ギルドマスターでありながら常に自ら前線に出て戦う勇猛なあの男が、なぜ棺の閉じ込めに参加していない?
「そうだ……これは貴様らのハッタリだ!そうに違いない!
そこまでして余の攻撃を止めたかったのか!?それとも余を棺の外に――」
言葉を言い終えるより早く、隊列を組んだ大盾から人影が飛び出す。
四人。黒いローブを纏った『砂漠の狐』所属の魔法使い達だ。
絶妙なタイミングでエールの魔力充填が終わったらしい。
魔法使い四人は黄金の棺を中心にして四隅に立ち、杖を強く床に叩きつけると何かを刻みはじめた。
それが何かは一目瞭然だった。『魔法陣』だ。四人でひとつの魔法陣を描こうとしている。
本物の封印術式というわけではない。即興で考えたてんでデタラメな魔法陣だ。
残念だが完成したところで何の効力も発揮できないだろう。
ダヤンがブラフを使ってファラオを引きずり出そうとしているのは理解できたので、
手の空いている冒険者はそれに乗っかることにしたのだ。
- 598 :エール :2021/12/19(日) 23:55:36.05 ID:iQ22/EH6.net
- ファラオは『闇の欠片』5個の力で高等な空間魔法が使える。
ならばその魔法陣が偽物であることなどすぐ見抜けると思うかもしれない。
だが決してそうとも限らないのが魔法というものなのだ。
一般的に魔法とは、『魔力によって森羅万象を引き起こす力』だと説明されている。
魔力は万物に時折宿るとされる特殊なエネルギーだ。『想い』に反応してあらゆる現象や物質の素になる。
より詳しく魔法を説明するならば『想いに反応する性質を利用し、魔力を自在に操る技術』とも言えるだろう。
全ての魔法の発動条件は高度な知的生命体が有する『想い』の力。つまり想像力(イマジネーション)だ。
極端な話、どんな高等な魔法も想像するだけで使うことができる。必要なのはただそれだけだ。
ただし――ちょっと火を出すだけの簡単な魔法でも、相当な想像力と集中力が要求される。
いくら魔力があろうと常人の想像力では、一歩も動けないほど集中したところで何の魔法も使えないと言われている。
この『想像力』を養い、並みの魔法使いを育成するには厳しく長い修練を必要とする。
高等な魔法ほど要求される想像力は跳ね上がっていく。
そこで重要視されるのが想像力を補強する『理論化』という概念である。
漠然と『火を出す』と想像するのではなく、『魔力を燃料に周囲の酸素と摩擦で火を発生させる』と理屈をつける。
理屈をつけることでより具体的に想像力を働かせることができ、スムーズに魔力を操れるという方法だ。
この『理論化』は必ずしも物理法則通りでなくてもいい。自分が納得できる理論というのが条件だ。
そのため、魔法の理論はとても細分化している。なんなら理論は破綻していてもいい。
だが破綻した理論はその間違いに気づいた時、魔法が途端に発動しなくなるという欠陥も抱える。
魔法使い達はそれを避けるため日夜『理論化』の議論を繰り広げている。
そして、この理論化をさらに発展させたのが『術式』や『魔法陣』なのである。
必要量の魔力を消費するだけで勝手に魔力が変化する(=魔法が発動する)という画期的な発明だ。
この発明によって魔法使いのように長い修練を積まなくても、誰でも魔法が使えるようになった。
たとえば『術式』を刻むことで、魔力さえあれば誰でも攻撃魔法を投射できる武器がエールの魔導砲である。
長くなってしまったがようやく本題に入る。
この話を踏まえると、魔法を扱う者には二種類のタイプが生まれることになる。
それは『感覚派』と『理論派』だ。想像だけで何とかしてしまう者と、理屈を捏ね続ける者がいる。
――魔法とは必ずしも理論化されておらず、魔法使い達の感覚によるところも大きい。
感覚派であった場合、小難しい魔法の理論や知識など一切なくても魔法が使えてしまうのだ。
ファラオがどちらかといえば、彼は完全に『感覚派』だった。
アンデッドになる以前は多元世界で砂漠の国を統治していたがそれだけだ。
臣下には専門知識豊富な宮廷魔道士もいただろう。だがファラオ本人に魔法の知識は一切ない。
あくまで『闇の欠片』から得た魔力と、強化された想像力で魔法を行使しているだけなのだ。
だからダヤンの封印の術式という言葉にも動揺した。
実際に魔法陣なんて描かれ始めたら疑う余裕など無くなってくる。
それが真実かどうかなどファラオに知る術はないのだから。
- 599 :エール :2021/12/19(日) 23:59:37.37 ID:iQ22/EH6.net
- 魔法陣が構築されていく光景を目にしただけでも十分だが、ここで更に動揺が広がる。
思考が脱出しなければ――と傾きつつあった時に、いきなり黄金の棺がうつ伏せに倒れたのだ。
砂埃を巻き上げつつ、棺の扉を下にして倒れたことで抑えていた冒険者達が数歩後ろへと離れる。
これなら手で扉を閉めるより楽にファラオを閉じ込められる。
「な……何も見えん。何も見えんぞ……!誰だ!余の棺を後ろから倒したのはぁ!!」
「ああ……それって前からしか視界を確保できてなかったのか?知らなかったよ。
だが君を閉じ込めるなら『これだな』と考えていた。どうかな、これから封印される気分は?」
それはファラオのよく知る声だった。
倒れた棺に片足を乗せて、サーベルを持った手をだらんと下げる。
人知れず背後から回り込んで棺を蹴り倒したのはまさしくその人物だった。
「きっ……貴様ぁぁぁぁぁ!!ロンメルぅぅぅぅぅぅっ!!!!」
「うむ、私が無策で挑むと思うかね。倒すってわけじゃないが……君にはお似合いの最期だ。
よく知らんがカノン君を思い通りにはさせない。ここで永遠の孤独を味わいたまえ!」
「余は……余は……カノンを愛して……!」
「すまない、声が小さくてよく聞こえない」
サーベルの切っ先でコンコンと棺の背を叩いて煽る。
閉じ込め、知識不足を逆手にとって動揺させ、最後には怒らせる。
ダヤン達の作戦によってファラオは極度の動揺で棺からの脱出を決意した。
それは見下していたロンメルへの怒りも加わった衝動的なものだった。
「舐め……るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
怒号と共に棺が爆ぜるように飛び上がった。
ロンメルは素早く横へ飛び退くと、棺が床に落ちて扉が勢いよく開く。
タキシードに身を包んだ褐色肌の美形が、怒りを漲らせた形相で姿を現す。
その衣服の下からざわざわと不気味に包帯を伸ばして、鞭のように無造作に振るった。
風が巻き起こったかと思うと、床に大きな亀裂が走り周囲の冒険者やロンメルが木の葉のように吹き飛ぶ。
「ぐうっ……!なんという力だ……まさに荒れ狂う暴風……!」
「ああそうだロンメル!これが今の余の力だ!そっちのクソ猫が封印の合図を出した奴か!?
余を怒らせるとどうなるか教えてやるぞ!五体をズタズタに引き裂いて念入りに殺してやるッ!!」
怒り狂った様子でロンメルとダヤンに接近しようとして――大盾の隊列が左右に開いた。
ファラオは反射的にそちらに視線を向けると、そこには魔導砲を構えたドレス姿のエールがいた。
「ファラオさん……私達の勝ち……だよ!」
「あ……エール……何を言ってるんだ……?」
呆けたような顔でその様子を眺めていると、ファラオはようやく自分が騙されたことに気づいた。
射線上に味方はいない。エールは迷わずトリガーを引き、砲口に煌々と灯る光が放たれる。
膨大な光の奔流は回避も許さずファラオを瞬く間に飲み込んだ。
- 600 :エール :2021/12/20(月) 00:02:40.07 ID:pKs3dbnp.net
- 勝負は一瞬だった。浄化の力によって不死の肉体は消滅し魂も洗い清められた。
無垢になった魂はどこかへと運ばれていくように流れていくのを感じていた。
どこに辿り着くのかは分からないが、それは安息の世界に違いないだろうと思った。
だが、ある時から何かが呼ぶ声が聞こえてくる。甘い誘いのように語り掛けてくる。
未練はないかと。もし未練があれば不死の肉体と更なる力を与えてやろうと。
未練。魂は最期に見た光景を思い出す。魔物にすら慈愛を向ける、優しさに満ちたあの顔を。
許されるならあの女性ともう一度会いたい。会ってちゃんと話してみたいと思った。
なぜ自分を救ってくれたのか。魔物の自分をなぜ安らかな世界へと導いてくれたのかと。
そう思った途端、何かの力に引っ張られて魂は下降をはじめた。引き戻される。どこかへ。
戻りたくない。せっかく魂を洗われたのに。もうあの何も満たされない生き地獄を味わいたくない。
気がついたら景色は暗転して真っ暗闇になっていた。意識だけが残っていた状態じゃない。実体がある。
光を求めて前を進むと、扉になっていたようだ。左右に開く。それは使い慣れた自身の棺だった。
「おお。興味本位で聞き齧った死霊術を試してみたんだが……いや本当に成功するとはな!」
喜色ばんだ声で迎えてくれたのは一人の大男だった。
かといって筋骨隆々というわけではなく、体型はスマートな方だ。
鷲鼻で、青い魔導衣を身に纏っているところから魔法使いだと分かる。
「……貴様か?余を迷宮に引き戻したのは。何者だ?
余計な真似を……本当に余計な真似をしてくれたな……余はもう疲れたというのに」
「疲れた?いやいや、何か未練があったんだろう?未練が何も無ければ跳ね除けられたと思うがね。
まぁ……優れた死霊術師は強制的に連れてこれるらしいが、私の専門は死霊術じゃないんでね」
「知るか……!詐欺師染みたことを抜かすな魔法使い。
貴様は人の心につけ込んで魂を弄んだんだ。それは許し難い卑劣な行為だ……!」
死霊術によってアンデッドとして舞い戻った元砂漠の王は容赦なく大男をなじった。
すると大男は少しだけ悲しそうな顔をして頭を下げた。
「それはすまんな。だがそう言わないでくれ……私も人間だから批判されると傷つくよ。
アンデッドになるような奴なら別にいいかと思ったんだがね。あ、私は七賢者のアグリッパだ。よろしく」
「七賢者……?貴様があの。この無限迷宮の主に仕えることになったという……魔法使いか」
「その通り。でもあんまり言いふらすなよ。目立つのは好きじゃない」
アグリッパと名乗った大男は懐から5個の黒っぽい欠片を取り出した。
闇色と言えばいいか。微かに発光している――それは魔王の力の残滓。『闇の欠片』だ。
「さぁて約束を履行するとしよう。不死の肉体と更なる力を与えると言っただろ。
お前の未練は知らんがアンデッドになった時点で精神は徐々に歪む。こいつで更に精神は変容する。
個体によっちゃあ1個で暴走する奴もいるが……お前はどうなるかな。そのデータを取らせてもらうとしよう」
元砂漠の王は抵抗しようとしたが無意味だった。
アグリッパは有無を言わさず不死の肉体に5個の欠片を投げ入れる。
水面に石を投げ入れた時のように、それは彼の身体深くへと沈んでいった……。
- 601 :エール :2021/12/20(月) 00:06:35.57 ID:pKs3dbnp.net
- 皆の想いを乗せたハイペリオンバスターがファラオの肉体を微粒子レベルで消し飛ばしていく。
いや、これは最早ただの荷電粒子砲ではない。最強の合体技、その名もユナイト・ハイペリオンバスターだ。
リソースをつぎ込んで生み出した防御外装棺から外に出たことで、ファラオの能力は限定されている。
それでも体内に眠る『闇の欠片』5個はまだ力を発揮できる。その気になれば、即席の魔法障壁くらい張れるだろう。
だがそうはしなかった。なんだか急に、七賢者の手で復活した時のことを思い出していたのだ。
(そうだ……余は……もう……疲れていた。満足していたのに。
ふと頭を過ったカノンに会いたくて……感謝したくて。なのに……!)
手がボロボロと灼き消えていく。頭が。胴が。やがて足が。
心のどこかでそれでいいと思っている自分がいる。そして気づいたのだ。
魔導砲を構えるエールの姿が、あの時のカノンの姿に重なって見えていたことに。
「ふっ……ああ……だからか……思い……出した……のは……!」
流砂よりなお細かくなってファラオの肉体は完全に吹き飛んでしまった。
荷電粒子砲の奔流が収まると、からん、ころん、と、5個の『闇の欠片』が床に落下していく。
欠片は物理手段では破壊できない。五聖剣並みの『浄化』の力があれば消滅させられるが、今そんな力はない。
そして戦いはまだ終わりではない。ファラオは高位のアンデッドだ。
『死』という概念がないため、肉体が無くなろうといずれ復活してしまう。
微粒子となって周囲に散ったファラオの肉体だったものがにわかに集まっていく。
本心では生に執着などないのに死ねない。ファラオにとってその不死性はまさしく呪いだった。
「ファラオ……もういいんだ。安らかに眠りたまえ」
ロンメルは目を細めてその光景を眺めていた。
盾持ち冒険者達の背後からグデーリアンがやって来ると十字を切ってしゃがみ込む。
そうして手を組んで祈りを捧げた。霧のようなそれは、光の粒となって静かに消えていく。
グデーリアンの最後の役目。エクソシズムによって魂は天へと還ったのだ。
「……終わりましたわん。ファラオは無事に昇天したと思いますわん」
グデーリアンがそう告げると『砂漠の狐』の間に勝利の喜びが徐々に浸透していく。
お互いに声を掛け合って肩を叩いたり、男同士で抱擁したり、形はそれぞれだったが。
「見事なり。偉大なる太陽神の末裔とも言われた、呪われし砂漠の王をよく解き放ったな。
このメジェドも『神』の端くれとして貴様らの勝利を讃えよう。これはオマケだ、メジェドフラッシュ!」
メジェドの目から閃光が迸ると落ちていた『闇の欠片』が跡形も無く消滅した。
そして『王の間』の中央までてくてく歩くとダヤン達にこう告げた。
「実を言うと我は砂漠の王を心配していたのだ。『神』ゆえに手を出す気は無かったがな。
それゆえ我もついつい仏心を出してしまったかもしれん。まぁ奴は太陽神の末裔ゆえに我を侮っていたが。
ともかくこれで無事に解決だ……そろそろ夜明けゆえ、用が済んだなら少女の服を回収してもう出ていけ……では」
メジェドが大気に溶けていくように消えていく。そして完全にいなくなってしまった。
なにはともあれ、戦いは無事に終わった。冒険者達の完全勝利だ。
【ダヤンの作戦に乗っかる形でファラオを棺の外に出すことに成功】
【ハイペリオンバスターを直撃させた後にファラオを昇天させて戦いに勝利する】
- 602 :エール :2021/12/20(月) 00:24:09.01 ID:pKs3dbnp.net
- 危なかった……ギリギリセーフだね……。もう駄目かと思ったけどなんとかなったよ。
>>595
私のざっくりした考えを補足してくれてありがとう!
もっと色々細かく返したかったけれど……時間の関係で簡単に。
……伝説って?ああ!……ごめんなさい言いたかっただけなの。
その……伝説のダンジョンってところは深く触れる気が無かったから忘れちゃってた……。
誰が創ったかってところは「おおっと……危ない危ない……魔王だった」ってかろうじて記憶してたけど!
ダヤンのおかげで首の皮一枚繋がったぁ。気をつけていきたい。
- 603 :ダヤン:2021/12/25(土) 00:03:07.26 ID:2blBGcPU.net
- >「ばっ……馬鹿なッ!貴様らにそんな真似できるはずがない!!」
>「そうだ……これは貴様らのハッタリだ!そうに違いない!
そこまでして余の攻撃を止めたかったのか!?それとも余を棺の外に――」
ファラオはかなり焦りながらも、ダヤンの作戦に思い至ったようだ。
(バレてるにゃ!? やっぱりそう簡単にはいかないにゃ……!?)
が、その時ナイスなタイミングで魔法使い達が出てきてくれて、それっぽい魔法陣を描き始めた。
即席の簡単な作戦伝達で、とっさに4人がかりのこの連携。
やはり、砂漠の狐は単に一人一人の戦闘力が高いだけの集団ではないということだろう。
更に、ロンメルが後ろに回り込んで棺を倒す。
ダヤンは他の冒険者達と共に後ろに飛び退った。
>「な……何も見えん。何も見えんぞ……!誰だ!余の棺を後ろから倒したのはぁ!!」
(ロンメルにゃん、ニャイス……!)
ファラオがなんか間抜けな絵面になっている。
例えるなら、頑強な鎧を纏ったはいいものの転んで身動き取れないのと似たような感じだ。
まあ、普段ならそう簡単には倒されないのだろうが
動揺している上に、前から扉を閉めている者達に気を取られていたためだろう。
>「きっ……貴様ぁぁぁぁぁ!!ロンメルぅぅぅぅぅぅっ!!!!」
>「うむ、私が無策で挑むと思うかね。倒すってわけじゃないが……君にはお似合いの最期だ。
よく知らんがカノン君を思い通りにはさせない。ここで永遠の孤独を味わいたまえ!」
もはや封印することが前提であるかのように煽るロンメル。
ここまで来ればファラオが出てくるのは時間の問題だろう。
>「余は……余は……カノンを愛して……!」
>「すまない、声が小さくてよく聞こえない」
>「舐め……るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
棺が爆ぜるように飛び上がり、中から褐色肌の美男子が現れた。
微笑でも浮かべればさぞかし甘いマスクであろうが、今は激しく怒りを滾らせている。
その衣服の下から、鞭のような包帯が縦横無尽に振るわれる。
「うにゃあああああああ!?」
足元に亀裂が走って慌てて飛び退いたダヤンは、そのまま暴風で吹っ飛ばされた。
これは半分はハイペリオンバスターの軌道を確保するためにわざとだ。
まあ半分は素で吹っ飛ばされたのもあるのだが。
- 604 :ダヤン:2021/12/25(土) 00:06:05.17 ID:2blBGcPU.net
- >「ぐうっ……!なんという力だ……まさに荒れ狂う暴風……!」
ロンメルもまた、ファラオの力に慄いてる感を出しつつ、自然にハイペリオンバスターの射線から外れる。
>「ああそうだロンメル!これが今の余の力だ!そっちのクソ猫が封印の合図を出した奴か!?
余を怒らせるとどうなるか教えてやるぞ!五体をズタズタに引き裂いて念入りに殺してやるッ!!」
怒り狂ったファラオが憎き二人に襲い掛かろうとしたところで、大盾の隊列が左右に開く。
その先にいるのは、もちろん魔導砲を構えたエールだ。
>「ファラオさん……私達の勝ち……だよ!」
>「あ……エール……何を言ってるんだ……?」
神々しさすら感じる光の奔流が、ファラオの体を消し飛ばしていく。
それを放つエールはドレス姿、普通に考えれば戦いの場にそぐわない格好だが、
今この時ばかりはその服装も相まって気高き戦乙女のように見えた。
(エール、綺麗だにゃ……)
場違いなことを思うダヤンだが、無理もないのかもしれない。
エールは、魔物の心すら掴んだ姉のカノンとよく似ているのだから。
光の奔流を受けながら、ファラオは意味ありげなことを呟いた。
>「ふっ……ああ……だからか……思い……出した……のは……!」
「何を思い出したんだにゃ……!?」
ダヤンが問いかけるも、答えが返ってくるはずもない。
次の瞬間には、ファラオの肉体は粉々に消し飛んでいた。
しかしまだ気は抜けない。粉々の粒子がにわかに集まってくる。
ダヤンは後ろに控えているグデーリアンに声をかけた。
「グデーリにゃん……!」
グデーリアンには先ほど強化魔法をかけてもらったが、
ダヤンの拘束魔法が短い時間にせよ闇の欠片を5個も持つ魔物に効いたことを考えると、かなり強力な強化魔法をかけてくれたのだと思われる。
この最後にして最大の重要な役目に影響がなければいいのだが……。
意味はないと分かりつつも、ダヤンも手を組んで共に祈った。
>「……終わりましたわん。ファラオは無事に昇天したと思いますわん」
結果的に、ダヤンの心配は杞憂だったようだ。
集まりつつあった粒子は、光の粒となって消えていく。本当に今度こそ、終わったのだ。
勝利の喜びが皆に浸透していく中で、ダヤンはエールにひしっと抱き着いた。
- 605 :ダヤン:2021/12/25(土) 00:07:33.25 ID:2blBGcPU.net
- 「エール……無事で良かった、良かったにゃ……! それに……すっごくかっこよかったにゃ!」
そこでどことなく出番を見計らっているかのようなメジェドの視線を感じ、はっとしたように離れる。
メジェドはこんなことを言う。
>「見事なり。偉大なる太陽神の末裔とも言われた、呪われし砂漠の王をよく解き放ったな。」
「どういうことにゃ……? ところであれ、どうしようにゃ……」
そう、まだ闇の欠片をどうするかという問題が残っている。
破壊するのは難しいし、放置して誰かが拾って精神汚染を受けたら大変だ。
かといって持っていくのも物騒過ぎる。
そんなことを考えていると……
>「このメジェドも『神』の端くれとして貴様らの勝利を讃えよう。これはオマケだ、メジェドフラッシュ!」
懸念材料だった闇の欠片を、謎のフラッシュで消してくれた。
>「実を言うと我は砂漠の王を心配していたのだ。『神』ゆえに手を出す気は無かったがな。
それゆえ我もついつい仏心を出してしまったかもしれん。まぁ奴は太陽神の末裔ゆえに我を侮っていたが」
「そうだったんだにゃ!?」
>「ともかくこれで無事に解決だ……そろそろ夜明けゆえ、用が済んだなら少女の服を回収してもう出ていけ……では」
「お世話になりましたにゃ……!」
メジェドは大気に溶けていくかのように姿を消した。
見た目こそゆるキャラだが、その力を鑑みると、やはり神なのだろう。
「とりあえず隊服を回収するにゃ」
エールによると、部下のマミーが隊服はランドリールームにあると言っていたという。
そこに、部下のマミーが入ってきた。騒がしいので様子を見に来たらしい。
「ファラオ様、騒ガシイデスガドウサレマシタ……ナンテコトダ!」
「あ……ファラオ様は昇天したにゃ。ところでランドリールームってどこにゃ?」
普通に聞いてみた。
彼らはファラオに雇われているという何ともサラリーマン的なノリで人を襲っていた様子だったので、
ファラオ亡き今となっては、特に襲い掛かってくる理由もないと思われる。
ところで、ファラオの配下だったマミー達はどうなるのだろうか。
主の昇天と共に昇天するのか、新たな人生ならぬマミー生(?)を歩み始めるのかは分からないが、
とにかくブラックな労働環境から解き放たれることは確かだろう。
- 606 :ダヤンPL:2021/12/25(土) 00:31:43.85 ID:2blBGcPU.net
- メリークリスマスにゃ☆
>602
今のところ参加者2人だけでそんなに間延びもしないし
もし多少遅れても気長に待ってるから大丈夫にゃよ!
- 607 :エール :2021/12/29(水) 13:37:28.44 ID:k+mw2J9r.net
- 全員のファインプレーが重なって無事に呪われし砂漠の王、カースドファラオを冥界へ送り返せた。
勝利を実感した途端、魔力切れもあってエールは全身の力が抜けていくのを感じた。
眼前の『王の間』の壁には大穴が穿たれている。20人分の魔力で撃つとあれほどの威力になるのか。
『複数人の魔力で魔導砲を撃てば絶対凄い威力になる』と冗談で話す銃士は少なくない。
しかし、そんな実用性皆無のアイデアを二度も試す銃士もそういないだろう。
――それにしてもファラオがどうやって『闇の欠片』を所持して再び蘇ったのかは謎のままだ。
4階の時もそうだった。湖に欠片を落とした怪しい人物の正体は未だに不明である。
やはり背後には七賢者なる集団が関わっているのだろうか。
>「エール……無事で良かった、良かったにゃ……! それに……すっごくかっこよかったにゃ!」
一息ついているとダヤンが急に抱き着いてきた。
まだ子供ゆえか。とはいえ突然のスキンシップに驚きを隠せない。
エールはそれほど心配をかけてしまったのだろうと思った。
囚われの身と言っても風呂に入って豪勢な食事を振る舞われただけだが……。
「心配させてごめんね、でも大丈夫だよ。
狙いが外れなくてよかった……緊張しちゃった」
メジェドの視線に気づいたダヤンは気恥ずかしくなったのか素早く離れる。
白頭巾の瞳から閃光が放たれると、落ちていた5個の『闇の欠片』が消滅する。
服を探してさっさと帰れと言い残すと、メジェドは大気に溶けるようにいなくなった。
>「とりあえず隊服を回収するにゃ」
「お世話係のマミーさんがランドリールームにあるって言ってたよ。
どこにその部屋があるんだろう……服が乾いてるといいんだけどなぁ……」
そんな話をしているうちにファラオの配下らしきマミーがやって来た。
広いとはいえ室内で特大の荷電粒子砲をぶっ放したのだ。騒ぎがばれてしまったのだろう。
>「ファラオ様、騒ガシイデスガドウサレマシタ……ナンテコトダ!」
激しい戦闘の痕ともぬけの殻となった黄金の棺を見て、マミーは愕然とした。
ダヤンは妙なところで肝が据わってるのかマミーに平然と質問を投げかける。
>「あ……ファラオ様は昇天したにゃ。ところでランドリールームってどこにゃ?」
マミーは怒りで身体を震わせた。
確かにマミーの上位種であるファラオは天に還り、彼らを統率する者は消えた。
だが、全ての迷宮産魔物は無限迷宮が発する「担当の階を守れ」という命令に逆らえない。
よってこれからは上司不在のストレスフリーな労働環境の中、各々が独自の判断で人間を襲うのだろう。
「馬鹿ニシテルノカ……!獣人如キガ調子ニ乗ルナ!
今日ノトコロハ見逃スケド……今度会ッタラ覚悟シテオケ……!」
マミーは人間だった頃と遜色ない知能を有している。
単体で挑んでもファラオを倒した冒険者達には敵わない事を理解している。
これが迷彩蠍なら問答無用で襲ってきただろうが、マミーは捨て台詞を残して逃げた。
- 608 :エール :2021/12/29(水) 13:41:09.48 ID:k+mw2J9r.net
- ロンメルがグデーリアンを連れてエールとダヤンの下にやって来る。
暴風のような衝撃波を浴びたロンメル達だが運良く大怪我はしていないらしい。
5階における『闇の欠片』持ちとの戦いに比べれば、負傷者が少ないのは誇っていい戦果だ。
攻撃的だった骸の王(スケルトンキング)と違って、呪われし砂漠の王(カースドファラオ)が防御特化だったおかげもあるだろう。
「服の回収ならグデーリアンが適任だ。優れた嗅覚ですぐに見つけられるはずだよ。
メジェド神のおかげでこのピラミッドの構造も概ね把握しているからね。問題ないだろう」
「エールさん、お任せくださいですわん。必ずや見つけ出しますわん!」
何だか重大な任務のような言い回しにエールは少し面白さを感じた。
さいわいな事にピラミッドの中を探すとすぐに洗濯室は見つかったのだ。
洗濯された隊服はちゃんと乾いていたが、その場で着替えるのは恥ずかしいのでブーツだけ履く。
そうしてピラミッドに用も無くなり一同は帰途に着くことになった。
6階の拠点を守るという依頼が1日で終わったのは意外だが、それでも休みなしの丸1日戦い漬けだ。
エールとダヤンはロンメルに勧められて宿屋でゆっくり休んだ方が良いと言われた。
宿代は『砂漠の狐』の奢りである。疲労が蓄積されていたのだろう。エールは泥のように眠った。
――深い眠りに落ちて、エールは幼い頃の夢を見た。
故郷は北方大陸にある小さな村で一年のほとんどが雪で覆われている。
春から徐々に雪が解けて、短い夏が訪れる。あれはそんな時期だった。
夜に何か物音がして目を覚ますと姉のカノンがいた。
両親の言いつけを破ってなぜ夜遅くに自分の部屋にいるのか聞こうとしたが、
カノンは人差し指を立てて静かに「しーっ」と言って、エールを連れて家を出た。
家から程近い丘の上で、夜空のキャンバスに煌めく星の海を見る。
エールは目を輝かせて「凄い」としきりに言いながら飛んだり跳ねたりした。
二人は丘の草原に寝そべるときらきらの夜空をずっと眺めていた。
「お姉ちゃん、あのお星さまはなに?」
「北極星さ。彷徨える旅人の道標になってくれるんだよ」
エールはいつもカノンと一緒だった。
村に同年代の子が少なかったのでカノンの行く所にずっと着いていった。
両親は農家で、春から秋まで農業を営んで冬は出稼ぎに行く。
そして故郷の冬はとても長かった。だから両親と過ごす時間は短い。
「ありがとうお姉ちゃん。一緒にお星さまが見たいって言ったこと……覚えててくれて」
カノンは何も言わずにエールの方に顔を向けて微笑んだ。
そして語りはじめる。その内容はエールにとって衝撃的なことだった。
「エール、私は銃士になるよ。12歳なら入隊の訓練を受けられるからね」
何も言えなかった。少し前、出稼ぎに出ていた父が村に帰る途中、魔物に襲われて腕を負傷した。
怪我が祟って今年はまともに農作業ができず生活に困窮していたところだったのだ。
カノンが銃士隊に志願すれば口減らしになる。そして入隊訓練中は手当も支給されるのだ。
訓練を終えて正式な銃士になれば、それなりの給料が約束されている。
- 609 :エール :2021/12/29(水) 13:45:09.71 ID:k+mw2J9r.net
- 行かないでほしい。そう思ったけれども、すでにそんな我儘を素直に言える年齢ではなかった。
カノンの現実的な選択を受け入れるしかなかった。代わりに黙ってカノンの手を握りしめ続ける。
いつも自分の手を引いてくれた姉がいなくなる。その事実が、エールを不安で押し潰す。
「エール、北極星を探すんだよ。寂しくなった時、進むべき道が分からない時……。
そんな時は……あの星が教えてくれる。エールの未来を導いてくれるよ」
カノンはそう言い残して幼いエールの下を去る。
姉の後ろ姿に手を伸ばそうと思った瞬間、目が覚めてしまった。
ベッドを抜け出すと部屋の窓から外を覗く。
無限迷宮の夜は暗い。月に似た衛星が空に浮かんでいるだけだ。
北極星なんてないけれど、姉と再会できれば故郷で平和に暮らせるはず。
それが自分にとっての道標だと信じて漆黒の夜空を見上げた。
朝になっていつもの隊服に着替えると朝食を摂るべく食堂まで降りる。
得意の早食いによって超速で食べ終えた頃、ロンメルが何かの袋を持ってやってくる。
「おはよう。エール君、ダヤン君、疲労は癒えたかい?改めて礼が言いたくて来たんだ。
……カースドファラオの討伐を手伝ってくれてありがとう。君達がいなければ絶対に倒せなかった」
ロンメルが頭を下げるとエールは慌てた様子で椅子から立ち上がった。
結果的に倒せはしたがファラオに捕まったり足を引っ張ってもいるわけで。
丁寧に感謝されるほどのことはしていない。
「隊長、顔を上げてください。私はそんな……何も……大したことなんて」
「謙遜はいらないよ。君達がファラオを不死の呪縛から解き放ったんだ。
私は奴と何度も交戦したから分かるが……奴は迷宮の力で魔物としてずっと囚われていたんだ。
カノン君が一度はその魂を浄化したが、誰かの手で舞い戻ってきた……その犯人は私にも分からないが」
言葉を一度切って、ロンメルは話を続ける。
「それでも今度こそ安息の世界へと還れたはずだ。もう誰にも邪魔されないことを願うよ。
あと……これは私達『砂漠の狐』からのささやかな報酬だ。受け取ってほしい」
ロンメルが手渡してくれた袋を開けてみると、中には金貨が入っていた。
『メロ』だ。この無限迷宮内でのみ流通している専用の通貨である。
数えると1万メロもある。今までの報酬額はせいぜい2000メロだったのに。
「後で冒険者協会からちゃんと報酬が出るだろうが、サイフォス達はまだ療養中だろうからね。
協会の支払いは少し遅くなるだろう。拠点ひとつ救ったことを考えれば少額だが路銀の足しにしてくれ」
「あ、ありがとうございます……いいのかな……こんなに貰っちゃって……」
実を言うと旅の資金が底を尽きかけていたので嬉しい臨時収入である。
なにせ、2階の依頼で2000メロを貰ったきり何の金策もしていない。
エールは空っぽの革袋に5000メロ分の金貨を入れるとダヤンに手渡した。
仲間同士でも報酬はきちんと山分けしておくべきだ。
- 610 :エール :2021/12/29(水) 13:51:23.76 ID:k+mw2J9r.net
- 砂の町サンドローズの防衛が1日で終わって休息に1日費やした。
アスクレピオスは冒険者協会の人達を治すのに7日かかると言っていたので、
ポータルストーンをサイフォスに返すまで後5日間の猶予がある。その間に何をするべきか。
言うまでもなく9階へ転移してカノンを探すべきである。
時間が経つほど気まぐれな姉が他の階へ移動する可能性が高くなるからだ。
「あ、あの……!私こそ隊長と一緒に戦えて光栄でした。
ファラオさんに捕まった時、ダヤンと一緒に助けに来てくれて嬉しかったです」
「うむ、冒険者は助け合いだよ。これはカノン君がファラオ討伐に協力してくれた時の言葉だがね。
もしカノン君と会うことがあれば……『砂漠の狐』一同が感謝していたと伝えてほしい」
「もちろんです!私はお姉ちゃんを探してこの迷宮に来たんです。
情報屋さんが言うには9階にいたって。今もいるといいんですけど……」
「きっと会えるさ。もし何かあれば6階に来たまえ。私に出来ることがあれば協力するよ」
いよいよロンメルとも別れる時が来た。
エールは魔導砲を背負うと宿屋を出てポータルストーンを取り出す。
すると酒場からどたどた『砂漠の狐』の面々がやって来てエールとダヤンを取り囲む。
「もう行ってしまうんですかわん!?寂しいですわん!」
グデーリアンをはじめとした冒険者達の熱い見送りにエールはなんだか照れくさくなった。
右も左も分からない初心者ではあるけれど、今は自分も立派な冒険者になれた気がした。
「皆さん……ありがとうございますっ!失礼しました!」
ポータルストーンが起動して足下に転移の魔法陣が浮かぶ。
行先は目的地たる9階。二人は新たなステージへと足を踏み入れる。
――――――…………。
浮遊感と共に景色が一瞬で変わり、緩やかに地面に着地する。
目の前には快晴の空の下、市壁に囲まれた大きな町がずっと広がっている。
町の奥ほどなだらかに標高が高くなっていて一番高い所に壮麗な城が聳え立っている。
「す、凄い……ここが9階の城下町エリアなんだ……!」
他の階とは比べ物にならないほど巨大な拠点にエールは圧倒された。
なにせ9階の拠点は町でなく『国』なのだ。地図で確認すると調和の国アクシズと言うらしい。
地上の中央大陸から流れ着いたとある王家の落胤がこの9階を開拓したのが始まりなのだそうだ。
拠点の外には農村が点在しておりアクシズの食料生産を担っている。もちろん魔物もいる。
エールは田舎者なので都会に怖気づきそうになったが、ここにカノンがいるなら頑張って探さねば。
城下町の門を潜ると衛兵らしき人が挨拶してくれた。エールは頭を下げて挨拶を返す。
しかし困った。9階へ行けばすぐ会えると思っていたのに、あまりに広いからすぐに見つからなさそうだ。
冒険者の定番といえば宿屋か酒場だが、それだって今までの拠点と違い何件もあるだろう。
「お姉ちゃん、どこにいるんだろう……」
エールは若干おろおろした様子で賑やかな城下町の中を進んでいく。
【6階の拠点で一日休んでいよいよ9階の城下町エリアに到着する】
【今回は戦闘とかあんまり無いかも……そんな感じでよろしくね】
- 611 :エール :2021/12/29(水) 14:22:03.57 ID:k+mw2J9r.net
- この投下が今年最後になるのかな?ようやくここまで来れたよ。長いようで短かったなぁ。
……あ!まだ終わりじゃないよ!ターニングポイントなだけだよ!まだ拾えてない要素がたくさんあるもん!
ちなみにスルーした階層だけど、3階は洞窟エリアだよ。拠点は岩屋の町ローリングストーン。
生息してる魔物も一応考えてはいたけど、話作りに使えるネタが思い浮かばなくて飛ばしちゃった……。
7階と8階には関しては完全に空白かな。案はいくつかあったけどしっくり来るのがなくて……。
これからどうなっていくのか……私にも分からないからドキドキするよ。
もし読んでくれている人がいたら最後までお付き合い頂ければ幸いです。ではよいお年を!
- 612 :ダヤン:2022/01/05(水) 01:37:34.90 ID:pdgl6Syx.net
- >「馬鹿ニシテルノカ……!獣人如キガ調子ニ乗ルナ!
今日ノトコロハ見逃スケド……今度会ッタラ覚悟シテオケ……!」
ファラオ支配下での彼らはあまり働きたくなさそうな感じではあったが、普通に怒られた。
どうやら迷宮産の魔物というものは、上位魔物の支配下という命令系統と並行して
全ての魔物各々に「担当の階を守れ」という命令が組み込まれているらしい。
しかしマミーに人間並みの知能があることが幸いし、分かりやすい捨て台詞を残しつつ一目散に逃げて行った。
もしも他のマミーに出くわしても、ファラオを倒した一行を襲ってくることはないだろう。
「ありゃりゃ、教えてくれそうににゃいね……」
>「服の回収ならグデーリアンが適任だ。優れた嗅覚ですぐに見つけられるはずだよ。
メジェド神のおかげでこのピラミッドの構造も概ね把握しているからね。問題ないだろう」
>「エールさん、お任せくださいですわん。必ずや見つけ出しますわん!」
グデーリアンの嗅覚が冴えわたり、隊服はすぐに見つかり、帰途につくことになった。
街に帰ると、『砂漠の狐』が宿をとってくれ、そこで休むことになった。
物音がして目を覚ますと、エールが窓から空を見上げている。
起き上がって、トコトコとエールの隣に行く。
「あれは疑似衛星にゃね。地上には本物があるんにゃよね。
見てみたいにゃ、きっと綺麗なんだろうにゃ〜」
次の日、エールと共に食堂で朝食をとる。エールはやたら早食いだ。
「にゃはは、そんにゃに急いで食べなくていいにゃよ〜。もう魔物は襲撃してこないんにゃから」
そんな平和な会話をしていると、ロンメルがやってきた。
>「おはよう。エール君、ダヤン君、疲労は癒えたかい?改めて礼が言いたくて来たんだ。
……カースドファラオの討伐を手伝ってくれてありがとう。君達がいなければ絶対に倒せなかった」
「こちらこそありがとうございましたにゃ! 大変助けてもらいましたにゃ!」
エールはダヤン以上に恐縮しているようで。
>「隊長、顔を上げてください。私はそんな……何も……大したことなんて」
>「謙遜はいらないよ。君達がファラオを不死の呪縛から解き放ったんだ。
私は奴と何度も交戦したから分かるが……奴は迷宮の力で魔物としてずっと囚われていたんだ。
カノン君が一度はその魂を浄化したが、誰かの手で舞い戻ってきた……その犯人は私にも分からないが」
>「それでも今度こそ安息の世界へと還れたはずだ。もう誰にも邪魔されないことを願うよ。
あと……これは私達『砂漠の狐』からのささやかな報酬だ。受け取ってほしい」
ロンメルが手渡してくれた袋の中には、なんと1万メロもあった。全然ささやかじゃない!
- 613 :ダヤン:2022/01/05(水) 01:39:34.23 ID:pdgl6Syx.net
- >「後で冒険者協会からちゃんと報酬が出るだろうが、サイフォス達はまだ療養中だろうからね。
協会の支払いは少し遅くなるだろう。拠点ひとつ救ったことを考えれば少額だが路銀の足しにしてくれ」
>「あ、ありがとうございます……いいのかな……こんなに貰っちゃって……」
「ありがたく有意義に使わせてもらいますにゃ……!」
エールが、半分の5000メロ渡してくれた。
ポータルストーンをサイフォスに返すまでにまだ時間があるので、9階に行ってカノンを探すこととなった。
>「きっと会えるさ。もし何かあれば6階に来たまえ。私に出来ることがあれば協力するよ」
>「もう行ってしまうんですかわん!?寂しいですわん!」
「グデーリにゃん、君って本当にすごい術士だにゃ」
グデーリアンの手を握って上下にぶんぶんするダヤン。
「ロンメルにゃん、グデーリにゃん、みんにゃ……ありがとにゃ!」
>「皆さん……ありがとうございますっ!失礼しました!」
ポータルストーンが発動し、二人はいよいよ9階へ赴く。
>「す、凄い……ここが9階の城下町エリアなんだ……!」
気付けば、目の前にはさっきまでとは全く違う景色が広がっていた。
調和の国アクシズというらしく、エリアの広さも今までとは段違いに広いのだろう。
>「お姉ちゃん、どこにいるんだろう……」
今までのようなエリアなら、拠点は街一つでそこに主要な宿屋兼酒場が一つという感じであり、
少し情報収集すればすぐに見つかりそうだが、ここではそうはいかない。
「とりあえず聞き込みしてみるにゃ」
というわけで目についた店に入って主にマスター等に聞き込みしてみることとする。
が、何件か入ってみても特に情報は得られない。
カノンはある程度名の通った冒険者とはいえ、これだけ街が大きくなると難しいのだろう。
そんな中、道端に座っている人が声をかけてきた。
- 614 :ダヤン:2022/01/05(水) 01:41:37.05 ID:pdgl6Syx.net
- 「お二人さん、似顔絵どうだい?」
観光地でよくありがちな似顔絵書きのようだ。
「生憎観光というわけじゃにゃく人探しで急いでるので……
……にゃにゃ? もしかして目の前にいなくても特徴を聞けば書けるにゃ?」
「もちろんだよ。特徴を詳しく教えてくれればね」
「書いて貰おうにゃ。きっと捜索に役に立つにゃ!」
ダヤンはエールに無茶振りした。
捜索のためといいつつも、どんなものが出来るのかと期待して目をキラキラさせているようだ。
良く知っている人でも、顔の特徴を口で説明するというのはかなり難しいものである。
が、もしも実物に近いものが出来れば、少しは捜索に役立つのも事実だろう。
- 615 :ダヤンPL:2022/01/05(水) 01:57:05.44 ID:pdgl6Syx.net
- あけましておめでとうにゃ! 今年もよろしくにゃ〜!
ついに城下町エリアにゃね! 3階も設定が存在するとは……!
1F:草原 2F:森林 3階:洞窟 4階:湖畔 5階:墓場 6階:砂漠 9階:城下町
まだ出てなくてRPGにありそうなフィールドといえば……山岳とか湿地とか!?
……う〜ん、そうだとしたら歩くの大変そうだから飛ばしてラッキーにゃね!
- 616 :エール :2022/01/06(木) 21:01:13.23 ID:f5w4/hr0.net
- いざ9階に着いたのはいいが、広すぎてどこを探せばいいのか分からない。
ダヤンと共に酒場や宿屋の店主に聞き込みしてみたが、全て空振りに終わってしまった。
途方に暮れた様子で歩いていると、露天商のごとく道端に座っていた画家に声を掛けられる。
>「お二人さん、似顔絵どうだい?」
画家はイーゼルに置かれたキャンバスの横からひょいっと顔を覗かせていた。
陳列している作品を見ながら、迷宮内で画家として生計を立てるのは大変そうだとエールは思った。
この観光業めいた似顔絵描きも日銭を稼ぐ手段のひとつなのだろう。
9階の拠点は単位が『国』なのでひょっとしてサロンでも開かれていたりするのだろうか。
サロンとは国が民衆向けに開く展覧会のことで、出展されると国が絵を買い取ってくれる。
その影響力は計り知れず、サロンで評価されれば画家として名声を得ることができるそうだ。
もっとも、ここでは無限迷宮という閉じた世界の名声でしかないだろうが。
>「生憎観光というわけじゃにゃく人探しで急いでるので……
>……にゃにゃ? もしかして目の前にいなくても特徴を聞けば書けるにゃ?」
ダヤンは何かを思いついたらしい。エールもなんとなく理解した。
たしかにカノンの似顔絵を何処かに張っておけば探すのも楽かもしれない。
>「書いて貰おうにゃ。きっと捜索に役に立つにゃ!」
「え、えぇ〜。大丈夫かなぁ……ちゃんと伝えられるか不安だよ」
そうしてエールは拙い言葉で姉の特徴を話しはじめる。
大人っぽくてややつり目で、鼻筋が通っていて、綺麗な銀灰色の長髪をしている。
あとその人物は自分のお姉ちゃんでよく似ていると言われる、と話した。
「……完成だよ。こんな感じでどうかな?」
画家が出来上がった鉛筆画の似顔絵を見せると、それをまじまじと見つめる。
結構似ている気がする。姉妹で顔立ちが似ていたのが決め手か。
また、画風が写実的だったのも良かった。
もしデフォルメしているタイプの似顔絵だったら姉探しに使い難い。
なんだか犯人の捜査染みてきた気もするがこれもカノンを見つけるためである。
「お値段200メロになります」
高いのか安いのかよく分からないものの、とにかく200メロ支払って似顔絵を受け取る。
エールの残金4800メロ。後はこの似顔絵を掲示板にでも張り付けておけばいい。
掲示板は酒場や宿屋などに置いてある。冒険者なら何らかの情報を期待して目を通すことも多い。
「よしっ。後は見つけてくれた人に報酬を渡すことにしようよ。
1000メロくらいでいいかなぁ。連絡先は宿屋にしておくとして……」
お金があれば人は動く。
能動的に探してくれる人が増えれば見つかる可能性もアップだ。
- 617 :エール :2022/01/06(木) 21:04:33.51 ID:f5w4/hr0.net
- まずは手頃な宿屋を見つけて部屋を借りることにした。
『夜明けの鐘亭』という宿だ。ここを姉探しの拠点とする。
格安なので数日間は余裕で滞在できるだろう。
次に、とある酒場の掲示板に似顔絵が描かれた紙を張らせてもらった。
紙には『姉を探しています。見つけた方には1000メロの報酬あり。連絡は夜明けの鐘亭まで』と書いた。
小さくカノンの名前もつけ加えると、酒場のマスターが不意に話しかけてくる。
「探しているお姉さんってのは、あの熾天使のカノンさんのことかい?妹さんがいたんだねぇ」
小太りの店主がテーブルを拭きながら、のんびりした様子で言った。
まだ朝なので忙しい昼食の時間には早い。店主も暇だったのだろう。
「お姉ちゃんのことを知ってるんですか?」
「ちょっと前まで一人でうちに来てたよ。最近は見なくなったねぇ。
風の吹くまま、気の向くままって感じの人だから、別の階層へ行ったのかもねぇ」
「そうなんですかぁ……」
エールはがっくりした様子で酒場を出ていった。
どれだけ手を尽くして城下町を探しても、この階にいないなら意味がない。
いやいや、まだ9階にいる可能性だってゼロじゃない。そうやって自分を鼓舞した。
準備は整えた。後は地道な聞き込みを続けるのみだ。宿屋や酒場以外にも探すべき場所はあるはず。
そんなことを考えながら大通りを歩いていると、一人の少女が目に映る。
いかにも町娘といった服装の少女で、艶のあるミディアムショートの黒髪に幼さの残る顔立ちをしている。
エールと同じくらいの年齢だろう。おろおろした様子で、大通りを横切るように何かを探している。
すると急ぎの馬車が走ってきた。城下町エリアは広い。
馬車ぐらい走っているだろう。少女は慌てた様子で道の端に退避する。
――安心したのも束の間。馬車は水溜まりを踏み、激しい水しぶきが少女を襲う。
洗いたての服は飛び跳ねた泥水でぐしょぐしょに汚れ、妖精のように柔和な顔が嘆きに沈んでいく。
少女は身体を震わせ、何かの限界を迎えたらしくその場にしゃがみこんだ。
「う、うぅ……だめ……私なんて……私なんて……」
最後には俯きぽろぽろと涙を零しはじめる。
不幸の一瞬を目撃してしまったエールはスルーできずに少女へ駆け寄った。
どうせ当てのない聞き込みをするだけだったので、お節介を焼く方が有益だ。
「大丈夫……?立てる?」
エールはハンカチを取り出して顔に跳ねた泥水を拭った。
服は多量の泥水を吸っており、少々拭いたぐらいでは汚れが落ちそうにない。
「えぐ……そ……その……知り合いとはぐれて迷子になってしまい……。
持ってきたお金もどこかに落としてしまい……うぅ……うぇぇぇ〜〜ん……」
少女は一生懸命な様子で状況を語ると本格的に心が決壊したらしい。
人目もはばからず全力で泣きはじめた。エールは少女を抱いてよしよしと背中をさする。
- 618 :エール :2022/01/06(木) 21:09:37.33 ID:f5w4/hr0.net
- 少女もまたエールと同じように人を探していたのだ。
落としたお金はともかく、服と迷子くらいはなんとかしてあげられるかもしれない。
「……落ち着いた?私はエールだよ。こっちの子は仲間のダヤン。
私達は冒険者で……人を探してこの階まで来たの。貴女の名前は?」
エールは新しいハンカチを取り出して少女に渡すと、涙で濡れた頬を拭った。
泣くだけ泣いたら落ち着きを取り戻したのか、少女はたどたどしく喋りはじめる。
「私の名前はルシア……です。あ、あの……ありがとうございます……。
もう大丈夫です……私……もういきます。きっと……知り合いの人が心配しています」
「あっ……待って。全然大丈夫じゃないよっ。
迷子のうえにお金も無くして服も汚れちゃってるんだよっ!ピンチは続いてるよ……!」
エールは真剣味を帯びた声でそう言うと、ルシアは両手で服の裾をぎゅっと握った。
迷惑をかけまいと咄嗟に話したものの、正論を言われて何も返せなくなってしまったのだ。
「まずは服をなんとかしなきゃだね。
さっき通った道に仕立て屋さんがあったからそこで服を買おう!」
エールもこの階に来て間もない身分だが、迷子の少女よりはマシだ。
ルシアと名乗った少女は俯いたまま小さな声で呟く。
「あ……あの……でも私、お金が……」
「えへへ。いいよいいよ!私のおごりだよっ!気にしないで!」
そうして少女と共に仕立て屋へ行くと、似た服があったのでそれを購入する。
お値段500メロ。エールの残金はこれで4300メロとなったのだった。
そうこうしていると昼を迎えたので、エール達は昼食を摂ることにした。
いつもの選択肢は酒場か宿屋しかないが、この城下町には数多くの飲食店が存在する。
上流階級の人間が出入りするようなレストランから、うさんくさい露店まで様々だ。
エールは通りがかりに発見した小洒落ているカフェに入った。
「ルシアはいくつなの?知り合いの人と何処ではぐれたかは分かる?」
注文した料理が運ばれてくるまでの間、エールはルシアの話を聞くことにした。
知り合いの人物もきっと迷子のルシアを探しているだろうが、見つけるには情報が必要だ。
この城下町、広い上に路地が入り組んだ所も多い。闇雲に探し回ったところで簡単には見つからないだろう。
「16歳です。えっと……その、はぐれた場所は分かりません。人混みに流されてしまって……。
知り合いは……男の人でシュタインって言います。一緒にサーカスを見に来たんです」
今日9階に来たエールは知らなかったことだが、丁度この階でサーカスが開かれるらしい。
ルシアいわく、冒険者協会傘下のギルドが主催だ。冒険者の中には芸の一つや二つ身に着けている者も多い。
盗賊が披露する百発百中のナイフ投げ。魔物使いが相棒の魔物を巧みに操って火の輪潜りを成功させるなど。
そういう一芸を身に着けた冒険者の集まりが、主催のギルド『シルク・ド・エトワール』なのだ。
彼らは各階の拠点で芸を披露して路銀を稼ぎつつ、低階層を転々としているらしい。
そして、今日はちょうど9階で公演が開かれる日だったのだ。
「サーカスかぁ……私も見たことないなぁ」
田舎の村に住んでいたエールには縁のない話だ。
ちょっと見てみたい気がしていると、注文した料理が運ばれてきた。
【似顔絵の作成に成功。酒場の掲示板に張る。迷子の少女ルシアと出会う】
- 619 :エール :2022/01/06(木) 21:25:37.84 ID:f5w4/hr0.net
- >>615
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますね!えへへ!
ところで相談だけど、今回登場したルシアと今後登場する予定のお姉ちゃん(カノン)は専用NPCにしたいの。
前者は後で共有NPCとして解放できると思うけれど……。
今後のシナリオを大きく左右するキャラ(のはず)だからいったん様子見させてほしいんだ。
いいかな……?
- 620 :ダヤン:2022/01/08(土) 23:36:57.83 ID:gkyZkg3D.net
- >「え、えぇ〜。大丈夫かなぁ……ちゃんと伝えられるか不安だよ」
エールはたどたどしくながらも姉の特徴を伝え始め、程なくして似顔絵が完成した。
>「……完成だよ。こんな感じでどうかな?」
エールによく似た美人の似顔絵が出来上がっていた。
もしも特徴を極端に誇張してコミカルに描くタイプの似顔絵だったら微妙な空気になったかもしれないが、
幸いそうではなく、鉛筆画ながらも写実的で本格的な絵柄だ。
エールによると、結構実物に近いそうだ。
「うわぁ、すごいにゃあ!」
>「お値段200メロになります」
200メロを払って似顔絵を受け取るエール。ダヤンは半分の100メロをエールに渡した。
「ここは半分持つにゃ。お姉ちゃんの顔、実物より一足早く見てみたかったんにゃよね〜」
>「よしっ。後は見つけてくれた人に報酬を渡すことにしようよ。
1000メロくらいでいいかなぁ。連絡先は宿屋にしておくとして……」
格安の宿を見繕ってカノン探しの拠点とする。
そして客足が多そうな酒場の掲示板に、似顔絵を掲示した。
特徴を伝えて似顔絵を描いてもらうところからして犯人捜しっぽかったが……
「にゃんか何かに似てるにゃ……」
似顔絵が掲示板に貼ってあるという状況。
姉を探していますと書いてあるのでもちろん近くで見れば普通の人探しだと分かるのだが、
ぱっと見、遠目に見ると賞金首っぽい感じになってしまった。
が、それが目を引くので功を奏したのかもしれない。早速酒場のマスターが話しかけてきた。
>「探しているお姉さんってのは、あの熾天使のカノンさんのことかい?妹さんがいたんだねぇ」
>「お姉ちゃんのことを知ってるんですか?」
>「ちょっと前まで一人でうちに来てたよ。最近は見なくなったねぇ。
風の吹くまま、気の向くままって感じの人だから、別の階層へ行ったのかもねぇ」
>「そうなんですかぁ……」
有力な情報が手に入るかと思いきや、最近は見なくなったとのことでエールはがっかりした様子だ。
「まだ分かんないにゃよ……!
この拠点の宿を移しただけかもしれにゃいし……!」
そんなことを言っていると、馬車が水たまりを踏み、水しぶきが少女に直撃した。
- 621 :ダヤン:2022/01/08(土) 23:38:06.35 ID:gkyZkg3D.net
- >「う、うぅ……だめ……私なんて……私なんて……」
「にゃにゃ!?」
確かに不幸だけどオーバーリアクション過ぎじゃあ!?
いやでもお気に入りの服なのかも……などと思っている間に、気付けばエールは少女に駆け寄って声をかけていた。
>「大丈夫……?立てる?」
>「えぐ……そ……その……知り合いとはぐれて迷子になってしまい……。
持ってきたお金もどこかに落としてしまい……うぅ……うぇぇぇ〜〜ん……」
ただでさえ踏んだり蹴ったりな状況に馬車の泥はねが駄目押しとなったということだろう。
まさに泣きっ面に蜂というやつだ。
>「……落ち着いた?私はエールだよ。こっちの子は仲間のダヤン。
私達は冒険者で……人を探してこの階まで来たの。貴女の名前は?」
>「私の名前はルシア……です。あ、あの……ありがとうございます……。
もう大丈夫です……私……もういきます。きっと……知り合いの人が心配しています」
ルシアと名乗った少女は立ち去ろうとするが、ここで引き下がるエールではない。
>「あっ……待って。全然大丈夫じゃないよっ。
迷子のうえにお金も無くして服も汚れちゃってるんだよっ!ピンチは続いてるよ……!」
「知り合いの人の居場所の当てもないんにゃよね?
オイラ達も丁度人探しをしてるから一緒に探した方がきっと早いにゃ」
>「あ……あの……でも私、お金が……」
>「えへへ。いいよいいよ!私のおごりだよっ!気にしないで!」
ルシアに服を買ってあげるエール。
昼食を摂ることになり、お洒落なカフェに入る。
先ほどの服はエールのおごりだったので、ダヤンは今度は自分とばかりに立候補した。
「ここはオイラのおごりにゃ〜」
料理が運ばれてくるのを待つ間、早速情報収集を開始する。
>「ルシアはいくつなの?知り合いの人と何処ではぐれたかは分かる?」
>「16歳です。えっと……その、はぐれた場所は分かりません。人混みに流されてしまって……。
知り合いは……男の人でシュタインって言います。一緒にサーカスを見に来たんです」
>「サーカスかぁ……私も見たことないなぁ」
エールがちょっとサーカスを見てみたいオーラを出している。
ダヤンも同感だが、今はそれどころではない。
シュタインというらしいルシアの連れを探す手段を考えねば。
そうこうしている間に、料理が運ばれてきた。
- 622 :ダヤン:2022/01/08(土) 23:39:42.66 ID:gkyZkg3D.net
- 「網焼きニワトリスホットサンドと城ノワールでございまーす」
「でかっ!」
想像していたよりかなり立派なサイズの料理が運ばれてきた。
お洒落な喫茶店というのは料理も可愛らしいサイズの場合が多いが、ここではそんなことはなかった。
「そうなんですよ〜。巷ではよく逆詐欺とか言われます」
ちなみに店名を見てみると、ライスフィールド・カフェ。
拠点の周囲に点在している農村から食材を仕入れているそうだ。
「にゃはは、いいことにゃ。随分にぎわってるみたいにゃ」
「今日はサーカスがあるみたいですからね」
「サーカスは定期的に来るんだにゃ?」
「いえ、各階を点々としていてそんなにしょっちゅうは来ないみたいですよ〜」
「そうにゃんだ、情報ありがとにゃー」
良心的なサイズの料理は、皆でシェアして美味しくいただくことにした。
それはいいとして、ルシアの連れを探す糸口はみつかりそうにない。
そんな中、ダヤンはこんなことを言いだした。
「ルシアにゃん、予定通りサーカスを見に行くのはどうにゃ?」
これは別に、単にサーカスを見てみたいからではない。
「シュタインにゃんも来るかもしれないにゃ」
探すあてがないのなら、闇雲に探すよりも
最初から行く予定だった場所に行った方が、落ちあえる確率は高い。
そう考えたのだった。
「人気のイベントならもしかしたらエールのお姉ちゃんも見に来るかもしれにゃいしね」
当初から行く予定の場所だったシュタインが来る確率は割と高い、
人がたくさん集まるイベントならもしかしたらカノンも来るかもしれない、
ついでにサーカスが見れる、という一石二鳥ならぬ三鳥が狙える作戦だった!
- 623 :ダヤンPL:2022/01/08(土) 23:44:23.02 ID:gkyZkg3D.net
- >619
もちろんOKにゃよ!
むしろGMなし形式なのにほぼリードしてもらってるコバンザメ状態で逆に申し訳ないんだにゃ〜
お姉ちゃんが出てくるの楽しみだにゃ!
- 624 :エール :2022/01/10(月) 22:41:03.73 ID:bv8kkCon.net
- 運ばれてきた料理はなんとも立派な量だった。ダヤンも思わず「でかっ!」とリアクション。
店員いわく、洒落た雰囲気に反したガッツリした料理から逆詐欺と言われるらしい。
なんと懐に優しい店だろうか。
>「ルシアにゃん、予定通りサーカスを見に行くのはどうにゃ?」
三人で料理を平らげたあたりでダヤンはそう提案してきた。
エールとルシアは食後の紅茶を飲みながら話を聞く。
>「シュタインにゃんも来るかもしれないにゃ」
「たしかに。はぐれたらまず目的地を目指すかも。
他のどこかを当てもなく探すよりは合流できる可能性が高そうだよ」
そう言ってアールグレイの芳香を楽しみながら紅茶を飲み干す。
ルシアはストレートで紅茶を飲むエールにそれとない大人っぽさを感じた。
自分の紅茶といえば砂糖も牛乳もたっぷり入れて、とっくにミルクティーになっている。
>「人気のイベントならもしかしたらエールのお姉ちゃんも見に来るかもしれにゃいしね」
「そうだったらいいけど……でもそればかりは分からないかな。
お姉ちゃん気まぐれだもん。気分が乗らないから行かないとか平気であるよ」
カノンのことはさておき、ルシアの知り合いは見つけられるかもしれない。
支払いをダヤンに任せて店を出るとピエロの扮装をした人がビラを配っていた。
「10番区の広場で楽しいサーカスの公演が始まるヨー。
子供も大人もご年配の方も、気軽にみんなよっといでなんだヨー」
年少の子に風船をあげたりしながら、ピエロが宣伝を繰り返している。
場所が分からなかったのでちょうどいい。エールは脳裏で9階の地図を思い出す。
このアクシズは標高のもっとも高い王城を1番区として、標高が下がるごとに2番、3番と区切っていく。
1〜3番区あたりまではアクシズを統治する王族、貴族の居住区となっているらしい。
そして10番区は標高が最も低いこの城下町の入り口。冒険者が頻繁に出入りする区域だ。
飲食店や宿屋、武器屋などが軒を連ねる。つまりエール達の今いる場所こそが10番区なのだ。
「広場でやってるんだ。よーし二人とも、サーカスまでレッツラゴーだよ!」
そして少し歩いた後、サーカスが公演される広場まで到着する。
広場には赤と白の縞模様の天幕があり、人々は行列をつくって中へ入っていく。
なるほど盛況だ。そしてとてつもない人混みである。チケットを売るピエロも大変そうだ。
「これじゃあ探すのも一苦労だね……とりあえずチケット買おっか」
チケットを買わねば話にならない。
販売しているピエロの前にも長蛇の列ができている。
待つこと一時間、ようやく三人分のチケットを購入することができた。
- 625 :エール :2022/01/10(月) 22:43:22.13 ID:bv8kkCon.net
- チケットの買う間もルシアはしきりに周囲を探していたが、知り合いは見つからないようだ。
この人混みでは探すどころではない。そう簡単に見つかるわけがないのだ。
だが良いこともあって、一時間もあれば雑談ぐらいする。ルシアとの仲も多少は解れてきた。
「想像以上に人が多いね……ここは切り替えてサーカスを楽しもうよ!ねっ!」
「すみません……エールさん、ダヤンさん。ご迷惑をお掛けしてしまって」
「えへへっ、エールでいいよ。私達同い年なんだよ」
そうしてサーカスの天幕の中に入っていくとチケットに書かれた席に座る。
しばらくすると公演が始まり、サーカスの団長が照明を浴びて天幕の中心に立つ。
「皆さんお待ちかねェェェッ!我らが『シルク・ド・エトワール』の公演を開始させて頂きますゥッ!
夜空に煌めく星のような迫力のエンターテイメントをぜひ!ぜひ!最後まで刮目くださいィィィッ!!」
小太りの団長はそう言ってパチン!と指を鳴らすと煙と共に消えてしまった。
どのようなタネがあるのか――あるいは手品ではなく本当に魔法なのか、判別はつかない。
そして演目が静かに開始された。まずはジャグリングのようだ。
「うわっうわっ。あんなに沢山大丈夫なのっ!?観てよダヤン、ルシア。凄いよ!」
次は手品師のマジックショー、魔物使いの火の輪潜り、空中ブランコに道化師のコミカルな大道芸。
どこかよそよそしかったルシアも次第に演者達の最高のパフォーマンスに心を奪われていく。
そしてエールは、最初から最後までうるさいぐらい高揚していた。
「えへへ〜。どの演目も凄かったね。すっかり楽しんじゃったよ」
「はいっ、とても楽しかったです。空中ブランコにはドキドキしました!」
エールが無邪気にはしゃぎまくったおかげ(?)かもしれない。
ルシアも二人に遠慮することなくサーカスを楽しむことができたようだ。
ただ、肝心の知り合いが見つかることは無かった。
広場を中心に探し回ったのだが、見つからないまま疑似太陽が沈む時間を迎えてしまう。
人混みもすっかり減って日が暮れる中を三人はとぼとぼ歩いた。
「……ごめんルシア、力になれなくて。どこにいるんだろうね……」
「あ……いえっ……いいんです。運が悪かったんだと思います……」
そんな話をしていると、金髪を腰ほどまでに伸ばした、灰色の魔導衣の男が目に映った。
いかにも魔法使いのような出で立ちの優男である。ゆっくりとエール達の方へ歩いてくる。
ルシアはその顔を見た途端、驚いた様子でわずかに男へ近寄ってこう言った。
「シュタイン……!今まで……どこにいたんですか?」
その男こそはぐれてしまった知り合いだったのだ。
シュタインはルシアの前で跪いてこう言った。
「姫様、大変申し訳ございませんでした。
よもや人混みに流されてしまうとは……このシュタイン一生の不覚です。
広場に来てからの一部始終は把握しております。いつでも合流は出来たのですが……!」
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