東京新聞2014年8月17日 朝刊
触れるとなまめかしい声を上げるダイコン。東京都新宿区の会社員市原えつこさん（２６）が手掛けたアート作品「セクハラ・インターフェース」だ。
「エロ」で笑いを狙う作品で、世間に知られると批判も出た。そんなとき、都議会では女性蔑視のやじが飛び出し、同様に性表現に取り組む芸術家が逮捕される事件も起きた。
セクハラはあふれているのに、表現活動にはなぜか目くじらを立てる。矛盾した世の中への疑問を、市原さんはダイコンの声で問い掛ける。 （加藤裕治）
セクハライブとうたった２０１０年のイベントで作品を初披露した。ダイコンに刺した電極で人が触れた時の電圧変化を感知し、声を上げる仕組み。
多くの人は笑い、歓声を上げたが、はにかんだような表情を浮かべた人もいた。
アイデアは大学３年生のころに生まれた。愛知県で神社を巡った時、男性器をかたどった神宝を見て、「現代社会で隠されているものが堂々と飾られていた。驚き、おもしろいと思った」。
性表現におおらかな古来の日本文化を感じた。この土着的なイメージを利用し、性に関してやたらと規制が多い現代のいびつさを笑い飛ばす。それが作品に込めた思いだ。
大学では「メディアアート」に取り組んでいた。ビデオやコンピューターといった技術を取り入れる芸術分野で、セクハラ・インターフェースもその作品。
「セクシュアル・ハラスメント（性的な嫌がらせ）という言葉をセクハラと言い換える緊張感のない、間延びした日本の『エロ』を表現してみたい」
という市原さんの考えをもとに、大学の先輩・後輩と協力して作り上げた。
作品はインターネットのニュースで取り上げられて話題になり、テレビやラジオの番組、イベントに出演した。
それに伴い、「わいせつ」とネットでの中継がカットされたり、イベントへの出入りが禁止されたりした。楽しむ人と同じだけ、批判する人も増えた。
「逆風も追い風もやたらと強い」。そう感じている時、都議会や国会で「結婚した方がいいんじゃないか」などのやじが女性議員に浴びせられた。
直後には、市原さんの知人で漫画家のろくでなし子さんが逮捕された。
３Ｄプリンターに入力すると自身の女性器を再現できる情報（３Ｄデータ）を提供したことがわいせつとされたが、ろくでなし子さんは「私の体はわいせつではない」と反論した。
そんな人たちに代表される社会が、作品の中に意図していないわいせつの意味を見つけ、罰則で縛る。
権力を持つ人たちが意に沿わない物事を排除しようとする姿勢に疑問を感じた。「容認し続けると、いずれ戦前のような表現、思想の統制につながるのではないか」。
ろくでなし子さんの釈放を求めるネット上の署名に協力した。
市原さんは問う。「本当は一番エロそうなおじさんたちが、素知らぬ顔で表現活動を規制するのは、社会の奇妙なひずみではないでしょうか」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/images/PK2014081702100043_size0.jpg
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2014081702000105.html
男だけじゃ子孫残せないんだから仕方ないやろ…