香山リカ『インターネットでは相手の顔が見えないのをいいことに軽率な差別表現どころか、悪意に満ちた差別語が飛び交っている。』 [111695279]

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香山リカのココロの万華鏡
悪意なくても差別表現　／東京
毎日新聞　2016年2月23日　地方版

　国会議員の発言が波紋を呼んでいる。毎日新聞の報道によると、「『今、米国は黒人が大統領になっている。黒人の血を引くね。これは奴隷ですよ』と述べた」ということだ。
議員は記者会見を開き「誤解を与えるような発言で大変申し訳ない」と陳謝したが、記者の囲み取材では「自分の良心において、人種差別的な発言はまったくない」「米国への尊敬の念がほとばしり出た」と語り、議員辞職を否定したそうだ。

　本人に悪意や差別意識がなかったなら許される話なのだろうか。「差別語・不快語」という本には、次のように書かれている。少しむずかしい言い回しだが、大切なことなので引用しておきたい。
「（差別表現か否かにおいて）重要なことは、表現主体（話者）の差別的意図の有無の問題ではなく、表現内容の差別性についての客観的評価（社会的文脈）で判断すべき問題ということです」

　それにならって考えると、議員の発言中、「奴隷であった黒人がいまでは大統領に」とまとめられる部分に大きな問題があることがわかってくる。本人はそれは「尊敬の念」のあらわれであり、差別意識はなかったと主張している。
しかし、そこには黒人を「奴隷で社会的地位も低い」というステレオタイプで見ようとする差別的な文脈が認められる。

　海外のメディアがこのニュースを否定的に取り上げているのを見ても、人種差別にデリケートな欧米の人たちは差別的な意味を感じ取っていることがわかる。
だとしたら、いくら本人が「差別の気持ちはない」と釈明したとしても、これは差別表現なのだ。

　そういう私も、診察室で悪気もなく、精神の障害を背負った人にうかつにやや差別的な言い回しを使ってしまうことがある。
ただ、診察室では相手の表情などがわかるので、すぐに「この言い方、まずかったね。ごめんなさい」と謝ることができる。
ところが、インターネットでは相手の顔が見えないのをいいことに軽率な差別表現どころか、悪意に満ちた差別語が飛び交っている。

　有権者の代表たる国会議員は、差別表現をなくす手本を示すべきであり、間違っても自らが率先してそんな表現を使うべきではない。
また、「悪意がないから差別表現ではない」などとさらなる誤りを流布するのもやめてもらいたい。差別表現はそれを言われた人を長く深く傷つけ苦しめる。これに関しては、慎重になってなりすぎることはない、と思っている。（精神科医）

http://mainichi.jp/articles/20160223/ddl/k13/070/143000c