朝河蘭 [683983771]

http://www.nikkei.com/article/DGXLZO98070770V00C16A3LDA000/

訪日スキーで脱「陸の孤島」　ゲレンデ新設　兵庫・神河町

兵庫県中心部の中山間地、神河町でスキー場の建設計画が持ち上がっている。国内のスキー人口は20年ほど前をピークに減少傾向に転じ、
新設はかなり珍しい。大阪や神戸、姫路からの近さを生かしてインバウンド（訪日外国人）需要を取り込み、小粒ながら集客力のあるスノーリゾートを目指す。これまで冬場の町を閉ざしてきた雪を観光資源に変える試みだ。

　計画中のスキー場は2016年度冬の開業を目指す。リフト２基のコンパクトな施設で、総事業費は８億円。雪になじみがない訪日客を狙う。

　「雪を見たのは初めて。冷たいけど最高にきれい」。２月24日、「峰山高原ホテル　リラクシア」を訪れた台湾人の林星秀さん（30）はマイナス４度の寒空の下、夕食の時間ぎりぎ
りまではしゃいだ。同ホテルは昨年12月からスキー場開業を見据えイベントを開催。中庭に食事やお酒が楽しめるかまくら風テントや雪遊びコーナーを用意した。今季、255人の台湾人観光客が宿泊した。

　峰山高原は1000メートル級の山に囲まれた景勝地だが、例年１メートル程度の積雪があり、冬は陸の孤島となっていた。４日時点でも日陰にはわずかに雪が残っているという。

　国土交通省によると13年のスキー人口（リフト輸送人数）は1992～95年のピーク時の３分の１程度に減少。苦しい運営を強いられるスキー場は多い。ただ、都市部に近い兵庫県内のスキー場の客数は増加傾向にあり、これに訪日客が加われば採算が取れるとみる。

　町の施設だが、運営は業界大手のマックアース（兵庫県養父市）に委ねる。同社はリラクシアも運営するほか、タイ・バンコクに雪のレジャ
ー施設を開設するなど外国人客を楽しませるノウハウも豊富だ。「手ぶらでスキーを体験してもらえるようレンタルを充実させる」（正垣努・リラクシア総支配人）方針だ。

　総事業費８億円は、償還額の８割が国の交付金で賄われる辺地債を財源とする。町の負担分もマックアースからの施設利用料を充て、「町民に負担はかけない」（山名宗悟町長）。
しかし、決して賛成一色ではない。７日から審議が本格化する町議会では、16年度予算案に計上した６億円を巡り「生活に密接することを優先すべきだ」などの慎重意見も出そうだ。

　一方、周囲の期待は大きい。お隣の姫路市は「姫路城プラスワン」をうたい、城と他の観光資源のセットで滞在時間の延長を目指しており、「『プラスワン』の有力なコンテンツになる」（シティプロモーション推進課）と関心を示す。

　兵庫県はホテルの冬のイベントに国の地方創生交付金を活用して1000万円を補助した。日帰り観光が多い県内では「姫路城から北に上がってもらえない。
神河町を魅力的な観光拠点にし、宿泊客を増やしたい」（中播磨県民センター）と広域観光の実現に期待する。神姫バスは大阪や姫路などから観光客を運ぶバスの運行を検討する。

　マックアースによると国内でのスキー場新設は17年ぶりで、その成否に「国も注目している」（山名町長）。小さな自治体の挑戦に多くの視線が注がれている。

　神河町は兵庫県で一番人口が少なく（１万1952人＝2016年１月末時点）、今の傾向だと60年に5135人まで減る。農林業は衰えを隠せず、頼みの綱は豊かな自然環境を生かした観光だ。雇用の場を創出すると同時に、訪れた人に良さを知ってもらい移住を増やす狙いもある。

　車で阪神間から１時間半、姫路からは１時間足らずの好立地で、年間66万人の観光客が訪れる。峰山高原は天体観測の適地でもあり、隣の砥峰高原は秋のススキの名所。映画「ノルウェイの森」や、大河ドラマ「平清盛」「軍師官兵衛」のロケ地としても知られる。

　ただ、観光客の９割が４～11月に同町を訪れる。現状のままでは19年度に観光客を100万人まで増やすという目標の達成は難しい。山名宗悟町長は「座して死を待つのではなく、生き残りを懸けてスキー場を計画した」と話す。