明治天皇の爆殺を企てたとして社会主義者らが弾圧された１９１０（明治４３）年の大逆事件で、懲役の実刑判
決を受けた旧屋代町（現千曲市屋代）出身の新村善兵衛（１８８１〜１９２０年）が獄中で書いた文章の写しが残
っていたことが６日、分かった。
埴科郡坂城町の郷土史家が３０年以上前、町内の新村家ゆかりの民家にあった原本を複写し、保管していた。
その後、原本は行方が分からなくなっている。
大逆事件に詳しい専門家は、この文章の存在が明らかになるのは初めてとし、「獄中での心情を知る貴重な資料」
としている。
善兵衛は、爆弾の材料を細かく砕く薬研（やげん）を調達し、天皇爆殺計画の実行役として処刑された弟の忠雄
（１８８７年〜１９１１年）の仲間に送ったとして、爆発物取締罰則違反の罪で懲役８年の実刑判決を受けた。
１９１５（大正４）年７月に千葉監獄を仮出獄。５年後の２０年に死亡した。
獄中記は、さかき歴史同好会前会長の大橋幸文さん（８２）＝坂城町＝が１９８１（昭和５６）年、善兵衛の姉が嫁
いだ元坂城町長宅で見つけ、複写した。
２０１３年に千曲市内で開かれた大逆事件関連の講演会に出席した際、記録を保管していることを思い出し、知人
を通じて昨年秋ごろ、大逆事件研究者で群馬県立女子大非常勤講師の石山幸弘さん（６８）に解読を依頼した。
石山さんによると、獄中記録の写しはＢ４判３１枚で、内容などから善兵衛の手記と確認。
記された日付などから、１９１５年５月初めから１カ月余の間に書かれたという。
「自己否定」「今日此頃（このごろ）」など１６の題目別に獄中生活の悲惨さや家族らへの思いなどが記されている。
文字総数は２万４千字程度という。
「獄苦」と題した文章では、「ありし昔の家族団欒（だんらん）の夢に胸も張り裂く想に暮れるのである。
ああ監獄ハ厭（いと）はしき人生悲劇の劇場である」と書いた。
「夢」と題した文章では、「忠雄忠雄と叫んで流せるだけ涙をだしたらば、此（こ）の胸中の鬱結（うっけつ）は幾分
滅しようと思ふて居る」などと苦しい胸の内を書いている。
http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20160407/KT160406FTI090002000.php
忠雄は地元の実業補習学校で英語を中心に学び、渡米の予定があったが、中止になったことを後悔する記述も
あった。
石山さんは
「弟が商学などのために渡米していたら大逆事件に関わらなかったと考え、自分を責めていたとみられる」
とする。
獄中記の複写には、検閲の跡がなかった。
石山さんは、善兵衛が獄中でひそかに書き、「本人が持ち出したものなのではないか」と推測する。
一方、「大逆事件の真実をあきらかにする会」事務局長の山泉進・明治大教授は「暗殺計画に全く関与していないの
に無実を主張する記述などがない」と指摘。
獄中記には「自分はこの獄中に生まれたものと思い、一切社會（しゃかい）を忘れ去る」と境遇を受け入れようとする記
述もあり、「当時の政府が獄中の善兵衛に内面的な反省を厳しく求めた可能性がある」としている。
大橋さんが保管している新村善兵衛の獄中記録の写し
http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/news-image/IP160404TAN000330000.jpg
野良の民が市民になる過程の話でもあるな