産経「国民の不満を海外に向けさせ、失政から目をそむけさせる。その後に残るのは荒廃した国だけだ。そう、アメリカのことだ」 [533895477]

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ポピュリズムに潜む「刹那主義」　北朝鮮に対する強面政策にも感じる気配　社会学者・関西大学東京センター長・竹内洋

今月行われたフランス大統領選挙では、マクロン氏がポピュリズムとされる国民戦線のルペン氏を大差で退けた。イギリスの欧州連合（ＥＵ）離脱、トランプ氏のアメリカ大統領当選と続いたポピュリズムのドミノ現象が止まったかのように見える。
しかし、マクロン氏が当選したのは、既成政党が反ルペンで糾合したところが大きい。ルペン氏にしたら、それ見たことか、既成政党は保守であれ左派であれ、既得権者の政党であることがはっきりしたと、これを反撃材料にするだろう。
決選投票の棄権は２５・４％で、白票・無効票も１１・５％。大統領選の第１回投票ではポピュリストといわれる候補者の得票率は、左右合わせて４０％もあったのである。ポピュリズムの波がついえた選挙結果とはいえない。

ポピュリズムは「大衆迎合主義」と訳されるが、これだけでポピュリズムの特徴を知るには不十分である。内外の研究者によるポピュリズムの定義を最大公約数的に紹介しておこう。
議会をはじめとした代議制民主主義が既得権者のものになっており、庶民は蚊帳の外だと不満を煽（あお）る。庶民の不満や憤怒は既得権者への憎悪と攻撃に向けて動員される。
一方で、格差や犯罪の社会問題の元凶を移民などの単一の原因に求め、不満のはけ口にすることも行われる。指導者は直接民衆に語りかけ、カリスマ的指導者としてふるまう。
このようなポピュリズムの台頭を、民主主義の「影」の部分が生み出すものとするところは多くの論者に共通である。しかし、その診断となると２派にわかれる。

ポピュリズムを、民主主義の望ましくない変異体だとしつつ、現行の民主主義では満たされない民衆の不満や怒りであり、「鏡」として考慮すべきだというものである。これを診断Ｉとする。
ポピュリズムを支持する「大衆の原像」を既成政党がすくいあげるというものである。これについては異論は少なく、頷（うなず）けるものだろう。

診断ＩＩは、自分たちが想定する民衆以外に対しては憎悪をこめ排除するところにポピュリズムの本質があるから、ポピュリストは政権獲得後には独裁体制を目指すことになるというものである。
よって全体主義に繋（つな）がるポピュリズムの芽を早めに摘んでおかないと、民主主義が破壊されるとする。
では、アメリカ大統領に就任したトランプ氏に独裁の可能性があるだろうか。トランプ氏の指令による特定国の人の入国拒否が裁判所によって却下されたように、三権分立など多くの制度が定着しているアメリカで診断ＩＩの可能性が大きいとはいいにくいだろう。
もちろんトランプ氏は民主主義の制度にさまざまな介入を試みようとするだろう。しかし、簡単に民主主義の制度が壊れてしまうとは考えにくい。強行すれば、政権の崩壊にもなるからである。

何をしたいかではなく、何をすれば歓呼喝采を受けるかという逆立ちが透けて見える。トランプ氏の意向や政策が予測不能な所以（ゆえん）である。確かに交渉ごとには強く、計算高さを発揮するが、短期的計算である。
喝采を狙った短期解決主義である。トランプ流では喝采を得られるようなことを見つけ、それを決断や政策として打ち出す。一触即発となりかねない北朝鮮に対する強面（こわもて）政策にもそんな気配を拭いきれないところがある。
無数の人々の喝采の中で自己確証するポピュリストの人間像が浮かんでくる。そうした興奮を追い求める歓呼喝采が習い性になってしまっている。そこから見えてくるのは、情熱と判断力を駆使して「堅い板に、じわっじわっと穴をあけていく」（マックス・ウェーバー）政治作法や政治家像とは対極的な手法と心性である。
歓呼喝采主義も機会主義もポピュリズムの特色であるが、さらに深掘りすれば、「あとは野となれ山となれ」になりかねない、陽気で能動的なニヒリズムである「今主義」「刹那主義」が浮かび上がってくる。これこそが現代のポピュリズムの厄介なところではないかと思うのである。
http://www.sankei.com/column/news/170523/clm1705230004-n1.html