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https://digital.asahi.com/articles/ASN345VWYN32ULBJ009.html
「男女分けず」「男性だけ対象」医学研究それでいい？
薬や治療の効果を調べるとき、男女で効き方や副作用に違いが出る――。そんな性差（性の違い）に着目した研究が奨励されるようになっている。
科学研究はこれまで、臨床研究などを少しでも簡略化しようと、男性でだけ効果を確かめる場合が多かったが、近年の研究で、性差が無視できない場合があることが分かってきた。細胞レベルから性差を解明しようという「性差医学」にも注目が集まっている。
プランクトンのオス・メスを区別せずに統計を取ったため、海水中の二酸化炭素が海の生き物に与える影響が誤って解釈された。人間がロボットに触ったときに脈拍などがどう変わるか調べる実験で
手足と尻などでは男女や年齢などで反応が違うはずなのに一緒に分析されて本当のところがわからない……。
昨年11月、英科学誌ネイチャーは創刊150年記念号で「性やジェンダー（社会・文化的な性）を意識した分析が科学技術をよりよいものにする」との展望記事を掲載した。
執筆したのは、カナダ・モントリオール大の研究者ら。失敗例だけでなく、性差を考慮することで発見につながる可能性を挙げ、研究者や研究資金分配機関、大学などに改革を求めた。
記念号にこうした記事が掲載された背景には、生物学や医学、心理学といった科学研究の多くがオスや男性のみを対象にしたり、明確な違いがある生殖器などを除き性の区別をしないで行われてきた実情がある。
オスだけでなくメスでも実験しようとすると、動物の数を増やさないといけなくなる。月経周期など性周期も影響するため、分析が難しくなるためだ。
医学や薬学の分野ではさらに影響が大きい。薬によっては、おなかの子に先天異常がでる場合があるため、新しい薬を試す場合は、対象から妊娠の可能性がある女性を外すことが多かった。
この結果、男性だけのデータを基につくられた薬や治療法が、男女を問わず臨床応用されるのが当たり前になっていた。
効果・副作用、細胞レベルで差？
近年、抗うつ薬や高血圧薬など男女で効果や副作用が違う場合がある例が見つかっている。
科学誌ネイチャーは2013年、マウスを使った再生医療の基礎実験で、幹細胞の元の細胞がオスとメスで実験結果に大きな差が出ることを紹介。「細胞の性が大事」と題したこの論考は大きな反響を呼んだ。
こうした性差が出るのはなぜか。これまでは男性ホルモン、女性ホルモンというように性ホルモンの違いで説明されることが多かったが、もっと根本の細胞レベルで違いが生じているらしいこともわかってきた。
男性は多くのがんの発生率が高いことが知られており、その原因は喫煙率の高さと考えられてきたが、「原因の一部は性染色体にあるらしい」とする研究が17年、ネイチャー・ジェネティクスに掲載された。
性染色体はXとYの2種類あり、生まれてくる子の性別は、XYだと男性、XXだと女性になる。X染色体にはがんを抑制する遺伝子が含まれており、男性はXを1本持っているのに対し、女性では休んでいる部分もあるものの、Xを2本持っていることと関係しているようだ。
関節や皮膚などに慢性の炎症が起きる難病、全身性エリテマトーデス（SLE）も患者の大半は女性だが、その原因が2本のX染色体にあるらしいこともわかってきた。
九州大大学院医学研究院の諸橋憲一郎教授は「すべての細胞が性を持ち、肝臓でも骨格筋でも性差がある。『性差は性ホルモンに誘導される』と考える人が多いが、性染色体の影響も考慮しないといけない」と話す。
学会も発足、日本では遅れも
性差への関心の高まりで、日本でも04年に性差医学の研究会ができ、08年に日本性差医学・医療学会が発足した。
研究を支援する側の方針も変化している。米国立保健研究所（NIH）は15年、研究者が補助金を申請する場合、両方の性で実験する計画にするよう求め始めた。「
動物実験では性差が無視され、結果の理解が不十分に終わることが多い」のが理由という。カナダやドイツ、欧州委員会の研究資金分配機関も同様の方針を示している。
静岡県立大薬学部の黒川洵子教授は「細胞レベルの性差から全身を見ようという流れが世界的なブームだ。性ホルモンの分泌が少ない小児や胎児の病気の研究が進めばはっきりする」としつつ、「日本はこの分野では遅れている」と警鐘を鳴らす。
日本は、基礎的な分野で世界的な実績があり、臨床の現場でも多くのデータが集まっている一方、「その間をつなぐ研究がない」という。
「国際学会では圧倒的に女性が多いが、日本はそもそも女性研究者が少ない。遅れは日本の研究者の男女差にあるのではないか」と話す。

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