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https://mainichi.jp/articles/20200725/k00/00m/040/016000c

「気付いたら増えていた」民家に「骨と皮」の猫238匹　「福祉的支援も必要」　北海道

札幌市の一軒家で３月、２３８匹もの猫が劣悪な環境で飼育されているのが見つかり、動物愛護団体などに保護された。飼い主が不妊手術や去勢手術を怠ったのが原因だった。６月に不妊・去勢手術の義務化などを盛り込んだ改正動物愛護管理法が施行されたが、こうした「多頭飼育崩壊」に陥る飼い主の中には困窮や精神疾患などの問題を抱えているケースも多い。専門家は「福祉的な支援も必要」と指摘する。【末永麻裕】

　「いつから餌を食べていないのか、と思うような骨と皮の状態の猫が多く、とても見ていられなかった」。動物愛護団体のＮＰＯ法人「ニャン友ねっとわーく北海道」（札幌市）の勝田珠美代表は、市動物管理センターの職員らと共に２３８匹の猫が見つかった一軒家に入った時の状況を振り返る。

　センターなどによると、２００匹を超える多頭飼育が発覚したのは、一軒家を借りていた５０代の夫婦と３０代の息子が家賃を滞納していたため、大家が訪れたのがきっかけだった。夫婦らは猫を残して３月末に退去。猫はふん尿などの異臭が漂う１階と２階の部屋にひしめき合い、猫の骨も大量に見つかった。

　夫婦は市の聞き取りに「不妊手術や去勢手術はしておらず、気付いた頃には対処できないほど増えていた」と話したという。同ＮＰＯが保護した７１匹のほとんどが雌で、妊娠していた。

　最終的にほぼすべての猫の飼い主が見つかったものの、最初にいったん引き取ったセンターの引き取り料（１匹当たり２１００円、計約５０万円）は大家が負担。不妊・去勢手術代や病院代、餌代は市小動物獣医師会や愛護団体が賄うなど、周囲の経済的な負担や労力は大きかった。

　ペットの多頭飼育は全国的な問題だ。環境省が２０１９年１０月に都道府県や政令、中核市１２５自治体に実施したアンケートでは、２頭以上動物を飼っている世帯について複数の近隣住民から寄せられた苦情は、１８年度は２０６４件。このうち１０頭以上の飼育が３割超だった。

　各自治体が具体的な内容を把握している多頭飼育の３６８事例を環境省が分析したところ、飼い主の約３割が７０代以上で、認知症などで判断力が低下している飼い主も少なくなかった。不妊・去勢手術には１匹当たり１万～数万円の費用がかかるが、半数超の飼い主が生活に困窮していた。

　猫は年に２～３度の繁殖期があり、一度に５匹前後産む。約４割の飼い主が、野良猫を飼い始めたのがきっかけで多頭飼育に陥っていたことも分かった。

　日本動物福祉協会（東京）の調査員で獣医師の町屋奈（ない）さんは「多頭飼育の背景には貧困や高齢化、精神疾患などの問題もあり、自治体は福祉や警察とも連携して早期発見し、早期対応することが重要。英国のように一時的に犬や猫を緊急保護したり、多頭飼育を繰り返す飼い主には飼育禁止命令を出したりできるような法律も考えるべきだ」と指摘する。

「過剰繁殖」防止へ、進む法規制
　多頭飼育崩壊を防ぐための法規制も進みつつある。２０１９年６月に成立し、今年６月から段階的に施行された改正動物愛護管理法は、「過剰繁殖」で適正な飼育が困難になると予想される場合は不妊・去勢手術をするよう飼い主に義務付けた。また、「著しく適正を欠いた状態で飼育し衰弱させる」ことも含む動物虐待への罰則も強化された。

　保護活動に関わる人たちからは「不妊・去勢が義務付けられたことで強く指導できるようになった」と一定の抑止効果を期待する声が上がる。福岡県古賀市で猫カフェを営む行政書士の服部薫さん（３７）は、店の前に繰り返し猫を遺棄され、そのたびに保護してきた。防犯カメラの映像から捨てた人が判明したケースもあったといい「遺棄も犯罪として事件化されることを知ってほしい」と訴える。