日本の教育に飛び級制度がないのはなんで？ [533895477]

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実験校の上をいく超・実験校が生まれ　小学校で「飛び級」を実施、朝会と級長制度を無くして…

満州での先進的な教育研究・実験校だった満洲教育専門学校（教専）附属小（奉天）。本の多読・速読、討論、自由研究、グループワークを取り入れた斬新な授業で宮武城吉（しろきち）が児童の国語力アップに成功したのは前回書いた通りである。
宮武の受け持ちクラス（５０人）の児童は、後に東大、京大、満洲医大、旅順工科大学などへ進学、戦後は、日銀総裁（三重野康）▽芥川賞作家（安部公房）▽大学教授▽医師▽弁護士などとなった。
総じて内地よりも教育レベルが高かった満州の中でも、驚異的な成果と言っていい。

宮武は、中学（旧制）進学率が１０％前後の時代に、クラス全員の中学進学を目標に掲げていた。とにかく向学心のある児童には課題を与え、発想力を育み、どんどん伸ばす。
さらには家庭の了解を得て、小学生の三重野や安部に英語やドイツ語を教えるといった英才教育まで施している。
宮武だけではない。教専出の教師は満州各地の学校に赴任し、古い因習にとらわれないユニークな教育を実践していた。

藤田康夫（やすお＝９１）は、炭鉱の街・撫順の永安小学校、撫順中学（旧制）で教専出身の教師と出合う。「小学生なのに（方程式を使う）代数のような授業をやる。おかげで数学が好きになりました」
藤田は旅順高校（同）から京都帝国大学工学部土木工学科へ進み、戦後は河川工学専門の技術官僚として要職を歴任した。

昭和５（１９３０）年にはほぼ全員を教専出身教師で固めた“スーパー実験校”というべき「奉天加茂小学校」が誕生する。教専出身の教師が１人、２人赴任しただけでは学校全体の中に埋もれてしまい「理想の教育」を実現できないというのが理由だった。
教専の同窓会編「満洲忘（ぼう）じがたし」に同小の元児童の回想が出ている。
《教室にしても５、６人が組になって座るだ円形のテーブルが配置されるといった斬新な構え》
《ドッジボールと野球ぐらいしか知らない子供たちにラグビーを教え、新しいリズムのデンマーク体操や跳び箱を使っての回転技》
《ほとんどの授業が先生自ら選び作った教材…》

このほか、優秀な児童の「飛び級」を小学校で実施。軍隊的教育の臭いがする「朝会」を廃止。級長・副級長制度も無くした。ただ書方（かきかた）科で「毛筆習字は時代遅れ」と廃止したのには父母から抗議が殺到した。
学校側は「これからは鉛筆やペンの時代。タイプ技術も普及している」と説明したが、なかなか納得してくれなかったという。

もうひとつの保々の教育方針は徹底した「現地適応主義」であった。
満州に育った子供たちは、いずれ満州に骨を埋める覚悟で、日本の満州経営を支える人材になってもらわねばならない。そのためには郷土愛を育む教育が必要だ。
中国語教育に力を入れ、それまで内地と同じ教材を使っておこなっていた教育内容（内地延長主義）の全面見直しに乗り出す。
保々が渡満した翌年の大正１１（１９２２）年には満鉄と関東庁（日本の租借地・関東州の統治機関）が共同出資して、満州の学校が使う教科書や副教材をつくる「南満洲教育会教科書編集部」ができる。そこへ内地から若き俊英たちが集まってきた。
「コタンの口笛」などで知られる児童文学者の石森延男もそのひとり。石森は香川師範時代の宮武の恩師にあたり、満州で理想の教育を追い求めた人物である。
作曲家で、満州唱歌や村岡らと一緒に満州国国歌を作った園山民平（みんぺい）も教科書編集部のスタッフだった。
彼らは現場の教師が満州独自の教材を求めていることを聞く。何しろ満州っ子は内地では当たり前の、田植えや稲刈り、さらさら流れる小川や泳ぐメダカもまず見たことがない。こうした風俗や自然が描かれた教材を使っても理解ができないし、楽しめない。

だが、保々や宮武らが目指した理想の教育、満州独自の教育はわずか約１０年間で幕を下ろしてしまう。
“カネ食い虫”といわれた教専は、経営母体の満鉄の財政緊縮策によって、昭和８（１９３３）年の卒業生（７期生）を最後に閉校となった。１０年間に送り出した卒業生は２３１人。生みの親だった保々も、これに先立つ５年に満鉄を事実上追われる形で、内地へと戻っている。
さらに、１２年、鉄道付属地の行政権が満鉄から満州国へ委譲されると同時に、学校経営も、教師の身分も満鉄から離れた。独自教材を作った南満洲教育会教科書編集部は満州国日本大使館教務部などと合同し、その名も「在満日本教育会」と変わってしまう。
教材は再び、内地と変わらぬものとなり、軍国色の強い内容となってゆく。
http://www.sankei.com/premium/news/160515/prm1605150018-n4.html