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福島県産品、購入ためらう10% 検査縮小に生産者は…

東京電力福島第一原発事故後、放射能の汚染や風評被害に苦しんできた福島県の農産物。影響が当初大きかった肉牛と米で今年、県は放射性物質検査の縮小に踏み切る。現場の不安も残る中、消費者や市場からの信頼を失わずに移行できるのか、転機の春を迎える。
【特集】東日本大震災9年被災地の今
「復興五輪で福島のすばらしい食を世界に発信する。今日はキックオフだ」
1月下旬、東京都中央区のホテルで、福島県産の食材をアピールする県主催のパーティーが開かれた。招かれた橋本聖子・五輪担当相は、流通業者や飲食店主らを前にそう宣言した。
福島県産の食材は、東京五輪の選手村の食堂で毎日使われる予定だ。県が組織委員会に要望し、認められた。原発事故で一時大きく信頼が落ちた福島の食材だが、県は「五輪こそ世界に安全性をアピールできる絶好のチャンス」と力を入れる。
地元では今年、事故後の影響が大きかった肉牛と米で放射性物質の検査が縮小される。これまで肉牛は全頭を、米も全量を検査してきた。だが、肉牛は全頭検査を始めた2011年8月以降
米も5年近く基準値超えが出ていない。これらの状況を踏まえ、肉牛は4月から、米も秋から大半の地域で一部を調べる抽出検査に移行する。
肉牛は事故から4カ月後の11年7月、当時の基準値（1キロあたり500ベクレル）を超えたものが見つかった。汚染された稲わらが東日本を中心に出回ったことで、基準値を超える肉牛が続出。全頭検査は37都道府県に広がった。
一方、米は12年産から全量全袋検査が導入された。きっかけは前年秋。当時の県知事が「安全宣言」をした直後、一部で基準値超えがわかり、福島米への不信感が広がったためだ。
信頼を取り戻す道が見えない中、すべてを測ることは、福島県の対策の「切り札」（県幹部）だった。消費者にもわかりやすく、市場での評価を少しずつ取り戻してきた。
その結果、米の価格はほぼ震災前の水準に回復。震災直後に全国平均の3割安まで落ち込んだ肉牛も、ようやく1割安まで戻った。
今後、米の抽出検査は1950年当時の行政区割り（約400市町村）ごとに年間数袋を抜き出して調べ、肉牛は各畜産農家ごとに1頭以上検査する。
消費者の反応、不安視する生産者も
安全・安心を支えてきた検査の方針転換に、現場には複雑な思いが交錯する。
「農家は安全、安心に気を配っている。おいしい牛肉だと自負している」
福島県大玉村で60頭ほどを育てる畜産農家の鈴木武典さん（37）は、検査の縮小に「（放射性物質は）何年も検出されていないし、問題ない」と話す。県の職員が年に1回は餌の管理のために立ち入り検査し、餌からも放射性物質が検出されないことを確認しているという。
一方で小野町の畜産業、長谷川栄伸さん（64）は「山林はほぼ除染していない。山際に近い牧場で育てれば基準超えの可能性がある」として、検査体制のあり方を検討する県の会議で慎重な意見を続けてきた。
福島県が昨年10月、首都圏を中心とした消費者約2600人を対象にアンケートすると、全頭検査の継続を求める意見が45・9%と最も多かった。最終的には県の結論に理解を示した長谷川さんだが
「事故直後は業者に取引を中止された。今回も消費者がどんな反応をするか。不安は常につきまとう」と漏らす。
県内の米農家の受け止めも様々だ。矢祭町の農業、鈴木正美さん（62）は販売先からの要請があれば自前で検査する方針だが、「震災から10年目の区切り」と冷静に受け止め、「全量全袋検査を続けること自体、マイナスのイメージにもつながりかねない」と話す。
ただし、委託も含めて水田90ヘクタールを耕作する「うねめ農場」（郡山市）の伊東敏浩さん（44）は、「ようやく福島の米が回復しつつある中で正直、不安はある」と話す。「仕方ないが、消費者側の不安をあおらないよう、県にしっかりと説明してほしい」
消費者庁が主に今年2月に実施した消費者調査では、放射性物質を理由に福島県産の購入をためらう人は10・7%に上った。最も多かった14年8月の19・6%と比べると減ったが、一定割合は残ったままだ。
消費者と直接向き合う流通業者の反応は敏感で、小売り大手イオンは「お客様の理解を得ることが重要。検査をやめるとまた風評が立つ可能性もある」（担当者）といい、店でどう扱うかを社内で議論している。
米は全体の平均価格こそ持ち直しつつあるものの、評価の中心は家庭用よりも業務用米で、事故前より取扱量が増えている。弁当や外食で使われる業務用米は産地を「国産」と表示すればいい例が多く
もともと味の良さでは定評のある福島県産米は人気だという。ただ、米の価格は地域によって差があるほか、特産のモモのように価格が戻っていない農産物もある。

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