キチガイがよく乗っている車 [295369737]

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https://digital.asahi.com/articles/ASN325132N2GUHVA002.html

営業マン、上司の名前忘れても…「怒られない」が勇気に

現場へ！認知症当事者はいま

　仙台の自動車販売会社でトップ営業マンだった丹野智文（ともふみ）さん（46）は、39歳で認知症と診断され今月で7年になる。今、一人で講演に飛び回り300回を超えた。出会った当事者は300人に。この分野の先頭を走る一人だ。

　私が初めて会った6年前は、どこか心細げでオドオドしていたが、ぐっとたくましく変わった。
講演の目的はただ一つ。「目の前にいる不安な当事者一人に笑顔になってもらうこと」だ。

　それは丹野さん自身、診断後は「2年で寝たきり」と絶望の情報しかなく、「人生は終わった」と毎晩泣いていた時に、「認知症の人と家族の会」で、診断5年後でも元気で明るく生きる竹内裕（ゆたか）さん（70）に出会って、「この人のように生きたい」と思ったからだ。

　講演では、進む症状をありのままに語る。会社に行くと自分の席も上司の顔も名前もわからない。

　「でも、聞けば教えてくれるから何にも困らない」と笑って語る。最近は家族の顔もあれっと思う時がある。それを隠さない。病気を隠すのは「偏見が、本人の中にあるから」。一歩踏み出すと「人生は変わるよ」と伝えたい。

　講演を始める前、当時中2と小6だった娘たちに相談した。いじめられないかと心配だった。娘はさらっといった。「いいんじゃない？　パパは良いことしようとしてるんだから」。何だおびえていたのは自分だった。そんな葛藤や気づきをへて今の笑顔がある。

　当事者の家族や周りに一番伝えたいことは、「本人からできることを奪わないで」ということだ。本人の力を信じてほしい。

　昨年から勤め先の「ネッツトヨタ仙台」で、認知症に関わる活動（講演や自治体の委員など）を「仕事」として認めてもらい、昨年は125回講演に駆け回った。

　だが、認知症をめぐる不安がゼロになることはない。いつまで、何ができるのか。ふっと「考えないように動いているのかもしれないね」といった。だれにも人生の終わりがある。「今」は一度きりだ。でも、丹野さんの笑顔の奥にある「今」への切実さ切なさは、きっともっと深いに違いない。

　昨秋、待ち合わせの東京駅で会うとネットで講演会場を調べて案内してくれた。大事な話は忘れないようにメールで。記憶はなくても記録が残せる。フェイスブックの「友達」は5千人近くに。ネットを駆使して人とつながり発信する力も暮らしの工夫も進化した。

　こんな風に動けるのは「失敗しても怒られない環境」だからだ。

　丹野さんは今も失敗する。道に迷う。電車を間違える。

　「あきらめずに何度も挑戦するから、成功体験になる。僕が一人で行動するのを妻は、『心配するけど信じてる』といってくれた。それで勇気が出た」

　3年前、「希望なんてないよ。症状は進むしさ」と言っていた丹野さん。いま、当事者が笑顔に変わるのが「僕の希望」になった。失敗しながらたどり着く場で、出会い、語り、つながる。その一つ一つが「自信」になって丹野さんを支えている。