ＭＡＬＩＣＥＭＩＺＥＲ　マリス・ミゼル [283086809]

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違いを尊び、世界を束ねたタクト　マリス・ヤンソンスさんを悼む

世界を抱くように両手を大きく広げるのびやかな指揮と、誰もを笑顔で受け入れる温かな人柄で多くの人々を魅了した指揮者、マリス・ヤンソンスさんが先月末、７６歳で亡くなった。

　２０１２年、バイエルン放送交響楽団との来日公演で奏でたベートーベンの交響曲は快い疾走感にあふれ、どこまでもおおらかだった。多少の傷を恐れることなく、個々の奏者の自主性を何より大切にしたいという首席指揮者の親心を垣間見た。

　しかし、自身は常に、各楽器群にすさまじい集中力で耳を澄ませていた。機嫌良くふるまいながら、突出したり埋没したりしている奏者を決して見逃さず、目と身ぶりで鋭く指示を送る。
そうしてあらゆるバランスが整えられた瞬間、暖かな風を受けてふわりと浮きあがる幸福感を奏者と聴衆が共有する。世界中のオーケストラと聴衆が、この魔法を待ち望んでいた。

　ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団とバイエルン放響、音楽ファンの人気を二分する名門の「父」を、心臓の病をなだめながら同時期に務めていたことも。時には「家族」である楽員の思いを担い、権力と闘うこともいとわなかった。５年前
取材で新しいコンサートホール建設をめぐるミュンヘン市との財政交渉について尋ねると、珍しく語気を強めた。「政治家は、芸術と娯楽を常に一緒くたに考える。物質社会のもと、心に栄養を与える芸術が軽んじられている。真の芸術を未来へと継承する責任が、私にはある」

　不屈の信念は複雑な境遇に培われたものでもあった。１９４３年、当時ナチスの占領下にあった旧ソ連・ラトビアで誕生。母はユダヤ人で、その家族はゲットーで殺害されていた。

　音楽への情熱だけを命綱に、旧ソ連と欧州の緊張関係が続く戦後を漂流した。旧ソ連で鬼軍曹と呼ばれたムラビンスキーの助手を務め、カラヤンに才能を認められたことによって西側での活動へと導かれてゆく。

　しかしその音楽は、圧倒的なカリスマだった２人とは異なる深化を遂げる。ひとりひとりに存分に己の歌を歌わせ、その先の調和に責任を持つ。指揮者とはそういうものであり、違いを尊ぶことが共生の本質なのだと演奏をもって世界に示した。

　野心やエゴとは無縁に、あらゆる世界の人々の心を、幸福な響きのもとに結び合わせてきた。そんな人の音楽がもう二度と聴けなくなってしまうということを、さまざまな壁の前に誰もが立ちすくんでいる今ほど惜しく、悔しく思うことはない。

ＭＡＬＩＣＥ ＭＩＺＥＲ マリス・ミゼル [283086809]

ＭＡＬＩＣＥＭＩＺＥＲ　マリス・ミゼル [283086809]