インド旅行に行こうと思うんだが、気をつける事とか楽しみ方を教えろ [429877192]

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スパイスカレーの達人の心、見透かしたのは紅茶の達人

カレーと紅茶。どちらもスパイスを使うことで味わいが広がる、親和性の高い食品です。今のスパイスカレーブームのはるか前から、スパイスを駆使したカレーを紹介してきたカレー研究家の水野仁輔（じんすけ）さんが、日本でも指折りの紅茶研究家で今年２月に急逝した磯淵猛さんから受けたひと言には、道を究めようとする専門家同士だからこそ通じ合う思いがありました。

一番大切、なのに
　社会人２年目だった１９９９年、仲間と出張料理集団「東京カリ～番長」を立ち上げた。学生時代からの趣味の延長だったが、公園で凝ったスパイスカレーを囲んで楽しむ若者たちのイベントは注目された。

　人の輪が広がり、副業禁止だった当時の勤務先も活動を容認してくれた。これまでに出したカレーやスパイスの本は５０冊を超す。今やカレー界では一目置かれる存在だが「先生」と呼ばれるのは居心地が悪い。「僕なんて、まだまだ」

　謙虚でいたいと思うとき、忘れられない人がいる。今年２月、事故のため６７歳で急逝した紅茶研究家の磯淵猛さんだ。商社マンから転身し、キリンの「午後の紅茶」のアドバイザーなども務めた人だ。

　４年前、スパイス研究の仲間と行くインド旅行を前に、神奈川県藤沢市にある磯淵さんの紅茶専門店を訪ねた。旅のテーマに定めた紅茶について学ぶためだ。事前の勉強で、インド・ダージリン地方で春先に摘む「ファースト・フラッシュ」が最高の紅茶だと思い込んでいた。

　ところが、磯淵さんは言った。

　「紅茶を楽しむ上で、鑑定士になってはいけません。ダージリンのファーストがいいとか人はよく言うけれど、それは紅茶のある一面を見ているに過ぎない」

　見透かされ、ほおを打たれた気がした。カレーやスパイスにも無限の味わいと好みがある。奥深さに魅せられている身として、どれが最高かなんて決められない。「僕がカレーでは一番大切にしていたことなのに、決めつけて評価してたんです」

「いい年こいて」と言われたい
　気づきは自分の生き方にも通じる。長年、会社勤めと二足のわらじを履いた活動には称賛も批判もあったが、他人の評価なんて勝手なものだ。「これまで出会った中で、素敵な人ほど謙虚で他人の批判や批評なんてしない。僕も、その余裕があるなら自分を突き詰めることに時間を使いたいと思っています」

　３年前、会社を辞めて独立した。そのタイミングで、１回のカレー作りで使い切れる少量のレシピ付きスパイスセットを定期的に送る通信販売を始めた。

　普通なら秘密のスパイスの分量をグラム単位まで公開すると「商売にならないのでは」と心配する声もあがった。だが分量がわかればそれを土台に、ユーザー自身の工夫で自分だけの「１００点」の皿ができるかもしれない。商売より、その方が面白いし、スパイスの魅力を知ってもらう上で意味があると思っている。

　第一人者になるより、組織を率いるより、「いい年こいて、まだ自分のやりたいカレーのことばかりやってんのか」と言われたい。好奇心が原動力だ。まだまだ世界を旅してあらゆるカレーに出会いたい。死ぬまでに、「カレーとは何か」という大きな問いに自分なりの答えを出したいと思っている。（権敬淑）

　１９７４年生まれ、静岡県出身。カレー専門の出張料理人。「ＡＩＲ　ＳＰＩＣＥ」代表、「カレーの学校」主催。著書に「スパイスカレーを作る」「水野仁輔のスパイスレッスン」「カレーの教科書」など。