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のみ込めたみたらし団子　嚥下障害の妻に好物を

脳梗塞（こうそく）の後遺症で嚥下障害があった女性Fさん（享年84）のケースです。普段は寝たきりで、認知症のため会話がうまく成り立たない状況でした。私は、「こいつが喜ぶものを食わせたい」と頑張る90代のご主人の思いを支えようと関わりました。

　Fさんとの出会いは、2016年2月でした。Fさんは、訪問看護師（訪看）と私とで、見せる顔が違っていました。訪看が尿バルーンを交換しようとすると、いやがって抵抗されるので、対応に難渋することもありました。でも私が口周りの筋力を鍛える嚥下体操をするときは、うれしそうにやってくれました。
順番も覚え、先取りして体操するほどでした。おそらく彼女にとって私は「痛いことをしない人」と認識されていたのでしょう。

　デイサービスでは、ペースト食ととろみつきのお茶を出されていました。ペースト食は、認知症の方には食事と認識しづらいようで、口に入れても、プーッと噴き出していました。でも自宅では、おにぎりを食べているというのです。
そこで私は、50グラムの小さめのおにぎりを3個出してもらうよう、デイサービスの事業所にお願いしました。すると、手づかみでおいしそうに食べていました。ご主人も、満足そうでした。

　自宅での食事は、ご主人がコンビニで買ったお総菜を出していました。私は「こんにゃくやシイタケは口の中で溶けないから、やめた方がいい」「カボチャは小さく切って出してね」などと助言しました。

　ところがある日、訪問してみるとびっくりしました。フランクフルトをおいしそうに口にほおばっているではありませんか。また別のときは、串に刺さったみたらし団子を食べていました。一瞬止めようかと思いましたが
様子を見守ることにしました。いずれもFさんの好物で、ご主人が食べさせてあげたかったのです。すると歯がないのに、もぐもぐして、上手にのみ込んだのです。危ないと思った串も、器用に扱っていました。

　ある日、焼きそばを出したとき、こんなことがありました。このころでは、Fさんは自分で箸やフォークを使うことが難しくなっていましたが、私がフォークで焼きそばをくるくると巻き上げるのを見て、自分でフォークを使い出したのです。それを見たご主人が「認知症が進んでも、まだまだできることがあるんやなー」と、とてもうれしそうなお顔をされていました。

　Fさんとの関わりの中で最も気をつけていたのは、他の医療スタッフやご家族との「リスクの共有」でした。彼女の好きなものを食べさせるということは、誤嚥や窒息の危険もあります。「Fさんの好きなものを食べさせたい」というご主人の思いと、起こり得るリスクを共有し、方針を決めておく必要がありました。

　18年3月の明け方。いつもベッド柵をガタガタ鳴らす音が響くのですが、しばらくして聞こえなくなりました。ご主人が見に行くと、静かに息を引き取っていました。ご主人に支えられ、最後まで好きなものを食べることができた人生だったのではないか、と思います。

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