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https://digital.asahi.com/articles/DA3S14373343.html

難聴とわかって気づいたこと　日常の壁、寄り添う気持ちあれば

取材した後、日常に潜む危険に敏感になった。

　「聞こえの支え」というテーマで補聴器や聴覚に障害のある人たちを取材し、昨年１２月下旬にこの面の連載記事にした。その過程で私も右耳が「中等度難聴」であることがわかった。普通の会話が聞きづらいレベルだ。「自分も難聴だった」という当事者意識が芽生え、日常で「聞こえの壁」を感じることが多くなったのだ。

　例えば、狭い坂道を若者が自転車に乗り、急スピードで下りてくる。その先をおばあさんが手押し車につかまりながら歩いている。若者は耳にイヤホンをして音楽を聴き、周囲に気を配っていない。おばあさんは、耳が聞こえづらいのか、自転車に気づいていないようだ。もし、ぶつかったら……。心配でたまらなくなった。

　歩道の段差や、道をふさぐ放置自転車。恥ずかしい話だが、当事者意識を持つようになってから、日常に潜むリスクに気づく機会が増えたと思う。

　取材した聴覚に障害のある人は、静かな場所で補聴器をして、相手の唇の動きを読んで、話を理解していた。「自転車やクルマが後ろから来てもわからない」。マスクをして話すと、話が伝わらないことを知った。

　年をとれば、だれもが「加齢性難聴」になる可能性がある。８０歳の感覚を疑似体験できる東京ガスの新宿ショールームを取材し、高齢者の聞こえを再現する耳栓、白内障の視野に近づけるメガネ、重りを入れたベストなどをつけて、階段を上り下りした。

　周囲の声は聞きづらく、よく見えない。年を重ねると、これほど生活で不自由さや負担を感じるようになるのか――。高齢者のみなさんの気持ちが少しは理解できるようになった、と思う。

　１９９４年から続く疑似体験は、高齢者に寄り添う家づくりのため、建築を学ぶ学生がよく利用するという。当事者の視点に立とうとする姿勢に胸を打たれた。

　そんな優しさが広がる社会であって欲しい。「聞こえの壁」を取り除くカギは、当事者でなくとも、相手を思いやる想像力と優しさにかかっていると思う。

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