「ナビタスクリニック」のイメージ [399485271]

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https://digital.asahi.com/articles/ASN4R4HKYN4QUCFI001.html

大家族のようなクリニック　食でつながり、食を支える

在宅栄養専門管理栄養士・安田和代さん
　これまで6回、管理栄養士として患者さんの「食支援」に関わった事例を紹介してきました。こうした活動も、クリニックみんなで取り組んでいるからできています。私が所属する総合在宅医療クリニックには、12職種、40人以上のスタッフがいます。約250人の患者さんの訪問診療を行い、年約120人の方々を看取（みと）っています。
市橋亮一院長は「薬を飲まなくても生きていけるけど、食べることがなければ生きていけない」と、早くから患者への食支援に着目しています。その中で管理栄養士と歯科衛生士、言語聴覚士で食支援チームをつくって「食楽（しょくらく）支援」をしてきました。
食楽支援とは、患者さんには最期まで食を楽しんでもらい、ご家族やヘルパーさんには楽に食を支えて頂きたい、という思いで続けている取り組みです。
食べるため・生きるための「摂食嚥下機能の維持・回復」と、看取り期における「きずなとしての食支援」という二つの柱があります。食は、生きるための栄養補給としての役割だけでなく
人生を豊かにする喜び・楽しみ、さらに家族や友人、地域など人と人とをつなぐものでもあります。そうしたつながりを「きずなとしての食支援」と呼んでいます。
クリニックには、広いキッチンがあり大きな冷蔵庫も備わっています。スタッフが作った昼ごはんを1階のリビングでみんなで食べています。患者さんのご家族から野菜などが届くこともあり、季節の食材をおいしく頂いています。
職種に関係なく、医師も看護師も事務職も料理を楽しんでいます。食事をしながら、患者さんの情報交換もしています。
手作り料理を囲んで、クリニックみんなが大家族のようです。
メニューは、1週間分をざっくり決めて貼り出してあります。毎朝、出勤したスタッフで手が空いた人からそのメニューを見て調理に取りかかります。次々にスタッフがキッチンに集まってきて
作業を分担しながら5～6人であっという間に30人分ほどの昼ごはんを作ります。気がつくと研修の方も一緒に調理に混じっていたりします。
料理の得意な医師が「シェフ」に変身することもあります。カレーや麺類は人気メニューですし、リクエストメニューを入れたりもします。スタッフが学会や研修会で出かけると、お土産には地方のおいしい物を買ってくるので、全国各地の味を楽しんでいます。
昼過ぎには「まだ訪問から帰ってきていないのは誰？」とそのスタッフの分を取り置きしながら、同時に、忙しすぎて昼ごはんを抜いていないかなども気にかけています。
一人暮らしの若いスタッフは、どうしてもコンビニ弁当を食べる機会が多くなりますが、クリニックで手作り昼ごはんをしっかり食べることで身体も心も元気になります。スタッフみんなが食の大切さを実感しているので、それが患者さんにも伝わります。
近隣の訪問看護ステーションの看護師さんが、独居の患者さんを誘ってクリニックに昼ごはんを食べに来られることもあります。閉じこもりがちになってしまう患者さんも
みんなと一緒に食事をすることで笑顔がみられます。また月に1回の子ども食堂では、患者さんのご遺族がボランティアでお手伝いをしてくださいます。
キッチンではご遺族同士がお互いの体験や思いを語り合い、そのひとときがご遺族のグリーフケアにもなっているようです。こうしたつながりを大切にしています。
最近は新型コロナウイルスの感染予防のため、クリニックのみんなで食べる昼ごはんも、子ども食堂も中止しています。毎日みんながバラバラに食事をしていると、改めて食がつないでいてくれたきずなの大切さを感じます。
患者さんやご家族、地域の方々と、皆が分け隔てなく食を通じてつながり合う。今後も、そういうお手伝いをしていければと思います。