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https://digital.asahi.com/articles/ASN5Z4F1JN5VUTIL059.html

謎の珍魚アカナマダ、富山湾で次々　胃から判明した特徴

深海にすむ珍魚「アカナマダ」が富山湾で漁船に引き揚げられた。赤い背びれが特徴で、肛門（こうもん）からスミを噴く。いったいどんな魚なのか。
　ホタルイカ漁も終わりに近づいた5月15日未明、富山県射水（いみず）市の漁船「新徳丸」が引き揚げた定置網に見慣れない魚が入っていた。頭が突き出た特徴のある顔。背びれを波打つように動かし
1メートル前後の銀色の魚体が水しぶきを上げている。網を引き揚げた菅沼タクさん（24）はこの時期よく入るサケガシラだろうと思ったが、魚に詳しい後輩の漁師はアカナマダと推測。珍しい魚ならばと、魚津水族館に引き取りを求めた。
アカナマダは沖合の中層（深さ200メートルから1千メートルの層）に生息するといわれるが、捕獲例は少なく、生態はよくわかっていない。水族館の木村知晴飼育研究係員によると、刺し身はヒラメのような歯ごたえのある白身で、癖がなくあっさりした味わいという。
　水族館に残る記録では、富山県内では1988年に魚津市の片貝川河口に打ち上げられて以降、30年以上見られなかった。それが昨年は、2月から4月にかけて8匹が相次いで釣り上げられたり、網に入ったりした。
　通常は水温差などですぐに死んでしまう。だが昨年、水族館に運び込まれた8匹の中に1匹だけ、1時間ほど生きていた個体があった。水槽を泳ぎ回りながら数回、大量のスミを肛門（こうもん）から噴出。16トンが入った大型水槽の水は、瞬く間に10センチ先しか見えなくなった。
　水族館に展示されているアカナマダの標本の脇には、このスミでしたためた「令和」の書が添えられている。筆を執った水族館職員によると「原液のままでサラサラと書きやすい墨」だったという。
　なぜ、富山湾で捕獲されたのか。水族館の木村さんは「岸から急に深くなる富山湾では、中層に生息する魚も定置網に入り込む可能性がある」と分析する。
　「遊泳能力が高くなく、海面に向かう流れに乗ると深海に戻れないのだろう」とみるのは、海洋研究開発機構の藤原義弘・上席研究員（海洋生物学）だ。深海生物はエネルギーをセーブするため、動きを止めてエサを待ち受けるものが多いという。
　捕獲されたことで、わかってきたことがある。胃からイカやカタクチイワシに交じって、薬やビデオの包装フィルムなどが出てきたのだ。エサを触角やにおいで探しているのではなく、大きな目で探しているから間違って食べるのではないかとみられている。
　深海の近代的な研究が始まったのは、1872年とされる。様々な発見があったが、「日本周辺にある深海の9割以上は誰も見ていない」と藤原さん。未知だからこそ、そこにすむ生物の生態がわかると驚きは大きい。
　光が届かない深海では、地球内部から湧き出す化学物質をエネルギー源とする生態系があることもわかってきた。ほかにも、ひたすらじっとして海流に乗るエサを待ち受けるオオクチボヤ、海底のクジラの骨に根を張り
有機物を吸収するホネクイハナムシなどがいる。光るつりざおを頭に持つチョウチンアンコウは、オスがメスのイボほどの大きさしかなく、メスの皮膚にかみつき、血管をつなげて、メスからのエネルギーで生きている。
　「生物のしたたかさや進化の巧みさが次々とわかってくる。それが深海の魅力です」と藤原さんは話す。

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